『寅次郎な日々』バックナンバー
引き裂かれる心 恋のキューピットの本音 花も嵐も踏み越える寅次郎
第30作「花も嵐も寅次郎」は華やかである。あのジュリーこと沢田研二さんとあの田中裕子さんが
共演されているのだから凄い。話題性抜群だ。
おふたりがこの共演を境に急激に恋仲になり、不倫になってしまってすったもんだの後で数年後に結婚されたのは
みなさんご承知の通り。なぜジュリーかというと、あのジュリーアンドリュースのファンだったからだとか。
ちなみに私もジュリーアンドリュースが大好きでサウンドオブミュージックは30回は映画館で観た。
それにしても田中裕子さんのあのぞくぞくする不思議な魅力はナンだろう。
私はもし自分が人生でたった一度映画監督をすることができたら、そして主役の女優さんを
起用するとしたら、夏目雅子さんか田中裕子さんしか頭に浮かばない。
そして彼女たちに合わせた物語を私は作るだろう。
このお二人は共にその体の中に二つの相反する魅力を兼ね備えられている。
清楚さと妖艶さである。いかにも清楚という方はたくさんいるし、いかにも男好きする感じの方も
枚挙にいとまがない。しかし、このお二人は見た目は清楚で中性的でさえあるが、心の中に
燃え盛る炎を感じる。押さえきれないような激しい情を感じるのだ。そしてその立ち姿に「華」がある。
CALLING、天性の女優さんだ。私にとって田中裕子さんといえば、この翌年に出演したあの三村晴彦監督の
「天城越え」である。あの映画を見た人は、彼女の中にある怖いくらいの純情と魔性の両方に震えたと思う。
近年でも「いつか読書する日」や「火火」でも静かな生活の奥底に燃え盛る炎を見事に演じられていた。
特に「いつか読書する日」の田中さんは心の奥の奥に誰にも見られないように情念を隠し持つ人を演じていた。
もう彼女以外誰もあの役はできない。いや、彼女のための映画だと言い切っていいと思う。
この第30作でも蛍子さんの友人のゆかりさんが寅に、「ほら、へんな色気があるでしょう、この人」って言っている。
やはり山田監督もその魅力を強く感じていたのだろう。監督はそれから14年後、第49作「寅次郎花へんろ」で、
おそらく寅の最後になるであろうマドンナとして田中さんを再度起用したのだ。
結局それは夢と終わってしまったが…。ああ…しっとりとした魅力の田中裕子さんと渥美さんの絡みを見たかった。
ああ…残念、無念。
さて、今回は、自分の恋愛をひた隠しにして、物語の中盤から三郎青年と蛍子さんを結ばせるためにひたすら奮闘する寅。
山田監督は寅にシラノ.ド.ベルジュラックのごとく、我が想いを隠し、ひたすら若い二人の恋を援護射撃させるのだ。
そして遂に三郎青年は谷津遊園の大観覧車の中で彼女に告白しキスをする。
そして、彼らの恋が成就したことを知った寅は、やはり淋しげに旅に出てしまうのだった。
最後に、寅がさくらに言った言葉こそがこの物語の本当のメインである。
寅「さくら…」
さくら「なあに」
寅「やっぱり二枚目はいいなあ…、ちょっぴり妬けるぜ…」
その言葉を聞いて呆然と寅を見つめるさくら。
やはり、寅は年の差も考えず、心の奥底で蛍子さんのことが好きだったのだ。
夕暮れ迫る店先でのこのさくらと寅の表情がなんとも切なく美しかった。
この二人の表情がこの映画のメイン。
これがあるからこの映画はやめられない。
■第30作「花も嵐も寅次郎」全ロケ地解明
全国寅さんロケ地:作品別に整理
今回も夢から
ブルックリンの下町で幅をきかすスケコマシのジュリー、美しいさくらに目をつけるが、
さくらは鼻であしらう。
怒るジュリーだったが、
そこへブルックリンの寅が戻ってくる。
脚本では『ジゴロの寅』(^^;)
ジュリーはナイフを取り出して構えるが…
寅「色男、そんな腰つきでオレが刺せるか」
修羅場を数多くくぐってきたその目で睨まれたジュリーは貫禄負けをしてしまう。
ジュリー「悔しいけど、貫禄負けじゃ」とナイフを壁に投げて、逃げていく。
ここからなぜかお馴染みSKD松竹歌劇団の「桜咲く国」が歌われ始め
なぜか神父の御前様、やとらやの面々、社長、源ちゃんなどが階段で寅を招いている。
いつのまにか労働者のラフな格好に変身した寅が、みんなの中で笑っている。
脚本ではまばゆいばかりのタキシードに雪駄履き(^^;)
かつて、ブルックリンに平和が蘇った。希望と幸せに満ちた朝の光が今しも燦燦と、
ふりそそごうとしている。
夢から覚めて
小さな寺で転寝している寅。
起きてあくびをする寅。
そこへおばあちゃんがやって来て、寺の鈴を鳴らそうとするが、上手く鳴らない。
そこで、寅が手伝うのだが、思いっきり振りすぎて鈴がおっこちてしまうというシンプルギャグ。
鈴を背広で隠す姿がおかしい(^^)
寅とおばあちゃん二人で大笑い。
寅「神様どうもすみませんでした」と笑いながら逃げていく。
仏様じゃないのかい(^^;)
(脚本ではこの鈴落としギャグは無い)
タイトル
「男はつらいよ 花も嵐も寅次郎」
口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。
♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪
♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
目方で男が売れるなら こんな苦労も
こんな苦労もかけまいに かけまいに♪
江戸川土手に立つ寅。
またもや帰ってきたのだ。
測量士に扮したアパッチけん(中本賢)と光石研のコンビによるミニギャグ。
頼んで測量士の望遠鏡を覗かせてもらって喜ぶ寅。
この二人は第36作「柴又より愛をこめて」でも本編の中で活躍していた。
アパッチさんも光石研さんも立派にこの映画の中期の常連さん。
残念ながら当時はさほどセリフとかもらってない。
第25作「ハイビスカス」ではOPで白糸の滝の近くの茶屋でカップルが蕎麦食べて
長椅子でひっくりかって、寅とコント(^^;)
第26作「かもめ歌」は葛飾高校の定時制の生徒ですみれちゃんと同じクラスの吉田。
松村達雄さんに
「おい吉田!おまえいつも駅の便所で汚いク○の仕方してんじゃないか!?」
ってからかわれてたあのアンちゃん(^^;)
この第30作あたりからアパッチけん(今は中本賢)さんと光石研さんのお笑いコンビ
って形でギャグをかます。第30作OPのコントでは二人で測量技師。
二人で大げんか。
(光石さんは遠くからしか映ってない )
で、ついに第36作「柴又より愛を込めて」ではこの二人かなり目立っている。
この36作ではではセリフかなりもらっていきなり出世。
二人は式根島の真知子先生の教え子役で、同窓会やったり、寅とかなり会話したり、
最後は浜名湖 館山寺港で遊覧船のお客さん誘導係り&船長かなんかをしていた。
アパッチさんはゲン
光石さんはオサム(ポン)
ちょうどこの頃作られた「キネマの天地」でもスタッフ役で2人とも出演。
主役の田中健さんがわがまま言うもんで、みんなで喧嘩。
アパッチさん(今は中本賢さん)は皆さんご存知
あのハマちゃんの隣人の釣り船の人(^^)
で、コントに話しを無しを戻すと
向こうの草むらににいちゃつくカップルがいるのである。
もう一人の測量士は、遊んでいる同僚に怒って、測量棒で頭を叩く。
叩かれた男は、逆上し大喧嘩。
一方例のカップルの方も結局大喧嘩している。
寅は、知らん顔で笑いながらいつものようにスタコラ歩いていく。
本編
歌が終って、本編に入ると
なんと参道をいきなり花売りの谷よしのさんが歩いてくるではないか!
谷さん、最初で最後の本編トップランナー!
さくら、自転車でとらやにやって来て、おばちゃんに袋包みを見せる。
さくら「おばちゃん、これなんだと思う?わっ!」と広げる。
おばちゃん「あら!松茸!どうしたの!?」
さくら「御前様にいただいたの、到来もののおすそ分けですって」
みんなで松茸の話題で大騒ぎ&匂いかぎまくり。
社長「あ!松茸!ほんもんだよこれ」と鼻をつけて匂う なにもそこまで… ヾ(^^;)
おばちゃん「鼻をくっつけないでよ汚い」
国によっては松茸が採れても、匂いが嫌であまり食べない国民もいる。
私も松茸より、張りのある肉厚なシイタケのほうが香りも味も好きである。
社長「いいじゃないか減るもんじゃなし」
おいちゃん「減るぞ、そんなに吸ったら」おいちゃんっていったい…(^^;)
寅がいたら、一緒に松茸料理が食べられるのに…と淋しそうなおばちゃん。
さくらも「どうしてるんだろ…」と心配している。
谷よしのさん、お彼岸の花売りでとらやの店先に再度登場。
谷さん「お彼岸のお花いかがですか」
おばちゃん「あ、買っちゃったわ、さっき」
谷さん「あ、じゃまたお願いします」
その時、前の江戸家の桃枝が派手な服着てやって来る。
渥美さんと仲のいい朝丘雪路さんがチョイ役で出演。
おいちゃんは、結婚と離婚を繰り返す、この江戸家の娘のことを気に入らない様子。
桃枝、店に入って来て
桃枝「あ、そうだ、寅ちゃん!寅ちゃんどうしてんのよー
寅のことを『寅ちゃん』と呼んだのは、
冬子さん、夏子さん、花子ちゃん、千代さん、そして…桃枝さん(^^)。
さくら「ええ、元気だと思いますけど、フフ」
桃枝「あいかわらず一人もん?」
さくら「ええ、フフ」
桃枝「いいわね気楽で私も一人になりたい、フフフ」
なんて冗談を言っていると、寅が参道に現れる。
桃枝「寅ちゃーん!!」と両手でバンザイ。
さくらたち「…!!」
寅、やって来て
寅「あー、おお!おほっほ、なんだ桃枝じゃないか!」
桃枝「いやあ!フフフ!今噂してたとこよォー!」
と、寅の手を握って馴れ馴れしくじゃれる桃枝。
寅「なんだおまえ、しばらく見ないうちに
ずいぶん色っぽくなっちゃったじゃねえか、ハハハ」
桃枝「調子のいいこと言っちゃって、フフフ」
寅「いや、ほんとう、フフフ」
社長、台所から覗いて
社長「もう惚れちゃったのかい?早いねェ〜今度は」
それ聞いて、心配顔のさくら。
で、ふたりが過激にいちゃついているところへ、怒った旦那がやって来て、
桃枝は当然旦那のところへ…。で、ハイさよなら。
社長「もう、ふられちゃったのかぁ、こりゃまた早いねえ〜」座布団2枚(^^;)
さくら、これまた心配そう…。
寅、我に帰って入りにくそうに入ってくる。
寅「ヘヘへ、亭主がいやがる、まいったよ。
よ、さくら元気か」
さくら、ちょっと沈みながら
さくら「おかえり」
おいちゃんは、桃枝といちゃついていた寅が情けなくて内心かなり怒っている。
寅「何か気にいらねえことでもあるのか?」と、ふてくされながらもとりあえず二階へ。
夕方 とらや 茶の間
みんなで松茸ご飯を食べようとするが…。
おいちゃんは、昼間の事で機嫌が悪い。
で、寅も連鎖反応で機嫌が悪くなる。
そこへ例のごとく社長がやって来る。
社長「いい匂いだねえ、松茸の茶碗蒸し」
寅「あー、来た来た、意地の汚いのが、松茸しまっとけ」
と、やっぱり機嫌が悪い。
松茸ご飯をかき回しながら
寅「なんだい、松茸なんか入ってないじゃないか」と不満そう。
満男、自分の茶碗に松茸見つけて
満男「これが松茸だね」と一切れ混ぜる。
さくら「そうそう」
寅、満男に
寅「あ、いい女!いい女だ」子供に言う言葉かよ ヾ(ーー;)
満男つい店先を見る。 子供だもんね(^^;)
関係ないおばちゃんや博まで見てしまっている(^^;)
で、素早く満男の松茸を奪い取ってしまう。
満男「あ!ずるい!返してよォー!」
寅「卑しいマネするんじゃない!おまえはぁ」あんたやあんたやヾ(−−;)
さくら「お願いやめてよー」
おばちゃん「一人に、一きりずつちゃんと入れたんだから!よく探してごらんよ」
おいおいおい、たくさんもらってたじゃないかおばちゃん一人5切れは入るはず。
茶碗に一切れとは究極の少なさですね(TT)
そして怒りが溜まっていたおいちゃんが爆発する。
おいちゃん、めがねを取って
おいちゃん「じゃあ、言わせてもらうけどな、いったいなんだ今日のざまは、
久しぶりで帰ってきたかと思いや、オレたちに挨拶もしねえで、あの向かいの
ふしだらな娘といちゃいちゃいちゃ!あれが、いい大人のすることか」
寅は幼馴染に挨拶しただけと言うが、おばちゃんもおいちゃんも納得していない。
おばちゃん「挨拶だったらね、文句なんか言わないよ!」
寅「なんだよおばちゃんまで」
おいちゃん「もっと言え!もっと!」(^^;)
おばちゃん「大きな声だして、手を握り合って、おまえのことが忘れられなくてなぁ〜、
なんて、あたしゃね、恥ずかしくて顔から火が出たよ!」と、そっぽを向く。
寅「ヤボだなあ…、冗談を言ってんの冗談を」
博も丸く治めようと寅に賛同するが、あのタコが…(TT)
社長「冗談か?冗談じゃないだろ。本気で惚れてたんだろ寅さん、へへへ」
と、混じりけのない本質をからかいの目で言う憎い社長。
で、もちろん二人は大喧嘩。
茶碗蒸しぶちまげ。めちゃくちゃ。
おいちゃん遂に
おいちゃん「寅!出てってくれ!」
一同シーン。
さくら、おろおろ。
寅「おいちゃん、出て行けって言うのか、そうか…、
それを言っちゃあ〜おしまいだよ」
おばちゃんメソメソ…
寅、怒って二階へ駆け上がり、下りて来て本当に出ていこうとするが、
意外にもさくらは寅を止めようとしない。
寅「さくら、止めるなって言ってんだろ!」言って無い言ってない(−−;)
さくら「…」下を向いたまま黙っている。
寅、悔しくて、もって帰ってきたお土産を乱暴に茶の間に置いて、
本当に旅立ってしまう。
寅が旅立ったあと、そっとお土産を手で持って涙ぐみ、
いつまでも外を見ているのだった。
おいちゃん「さくら、なんで止めねえんだ。おまえが止めてくれると思ったからオレは…」
さくら「だって、おいちゃん『出て行け』だなんて言うんだもん、ウウウ…」
と手を覆って泣き崩れる。
後悔の念に駆られ、下を向いてしまうおいちゃん。
九州 別府 鶴見岳
別府温泉奥の鶴見岳のハングライダー
湯布院の町全体を見下ろす展望台・狭霧台近くの小高い丘から飛び立つ。
ハンググライダーやパラグライダーの競技大会の飛行基地になる鶴見岳。
頂上のハングライダー基地から、空へ向かってハングライダーが飛び立っている。
志高湖 湖畔
下の公園でパンを食べながら、不思議そうにハングライダーを見ている寅。
寅、ハングライダーの人たちに
寅「兄さんよ、寒いのに空飛んで大変だな、フフフ」最高のギャグ!座布団2枚!
豊後臼杵(うすき)
大林信彦監督の「なごり雪」の舞台
国宝 臼杵磨崖仏
臼杵磨崖仏(うすきまがいぶつ)は、大分県臼杵市深田にある4群60余体の磨崖仏。
「臼杵石仏(うすきせきぶつ)」の名で知られている。
1995年(平成7年)には国宝に指定された(指定対象は59躯)。
磨崖仏としては日本最初、彫刻としては九州初の国宝指定である。
満月寺境内にある石塔 日吉塔のそばを一人歩いていく寅。
臼杵磨崖仏のすぐ近くにある宝篋印塔(ほうきょういんとう)宝筐印(ホウキョウイン)塔(日吉塔):重要文化財、鎌倉時代後期
宝篋印塔の名は、内部に『宝篋印陀羅尼』を納めたことに由来する。
『宝篋印陀羅尼』とは、一切如来の全身舎利の功徳を集めた呪であって、
四十句からなる。これを誦すれば、地獄の先祖に極楽に至り、百病・貧窮の者も救われるという。
臼杵(うすき) 福良天神
望月
望月バス停でポンシュウに拾われて、車で福良天神へ。
鏡や色紙額、などの道具を売るバイ。
寅「さあ、ねえ、赤い赤いは何見てわたる、
赤いもの見て迷わぬものは、木仏、金仏、石仏、
千里旅する汽車でさえ、赤いもの見てちょいと停まるというやつだ。
さあ!続いた数字がふたっつだ、ふたっつ。
はい!日光結構東照宮、憎まれ小僧が世にはばかる、ね!
日揮の弾正はお芝居の上の憎まれ役てなどう!」
ポンシュウ「菜っ葉の肥やしで掛け肥ばかりかァ!」言うねえポンシュウも(^^)
寅「掛け声ばかりで結構です。結構ね、ケッコウ毛だらけ
猫灰だらけ、お尻の周りは糞だらけってのはどう、お母さん、ハハハ」
湯平温泉
街を眺める一本松公園からの撮影
花合野川沿いの温泉
湯平温泉に車で来た三郎青年。周りを感慨深げに見ている。
中の湯付近
一方、旅行に来て宿を決めかねている蛍子とゆかり
蛍子とゆかり、格好良い二枚目の三郎青年が『湯平荘』を尋ねているのを遠くで聞いて、耳がダンボ
ゆかり「決めた湯平荘」そのまんまでんなぁ〜(^^;)
二人で、クスクス笑いながら、そっと後を追ってゆく。
湯平荘 (外のロケ白雲荘)
部屋の床の間に母親のお骨を置いて、感慨にふけっている。
蛍子たちも、三郎青年の後をつけて泊まりに入ってくる。
そして、それとは別ルートで寅も。
寅「おーい、誰もいないのかー、えー、この家のものは死に絶えたか?」
このギャグは、遠く、第5作「望郷篇」でとらやにやって来たさくらがかましたギャグ(^^)
オヤジが出てくる。
寅「お、ホホホ、オヤジ生きてたか、えー、心配してたんだよー、
この家潰れちゃったんじゃないかと思ってさ。経営者の頭古いから」
オヤジ「オレが新婚旅行で来るまでやめるなってのは誰だ」
寅「へへ、そんなことも言ったっけな」
オヤジ「連れてきたのか嫁さん」
寅「候補者が多いからな、選ぶのに手間食ってんだよ」うまいうまい(^^)
いいやり取りだねえ〜。
このあと蛍子とゆかりが風呂に入っている超ささやかなサービスシーンが入る。(^^;)
で、しばらくして…
三郎青年がオヤジの部屋にやって来て、
自分の母親がこの旅館に勤めていたはずだと聞く。
オヤジは母親の『ふみさん』のことを今でもはっきり覚えているらしく、とても懐かしがっていた。
しかし母親のフミさんは病気で先日亡くなってしまったのだった。
オヤジ、三郎青年がふみさんのお骨と一緒に来ていることに驚き、
拝みに行こうとするが、
寅がこの部屋で供養してやろうと提案。
こうなると寅の独壇場だ。
葬式関連の行事には目が無いのだ。
第2作、第5作参照(^^;)
たまたま居合わせた蛍子さんたちも巻き込んで、立派な供養がいとなまれた。
しかし、寅は焼香台の火種の方を抓んでしまい、熱いので放り投げる。
それがたまたま坊さんの襟元に入ってしまい。
坊さんの服をみんなで脱がせる羽目に(TT)
殿山泰司さんのおとぼけとハシャギが笑えるコミカルなシーン。
オヤジ役の内田朝雄さんがまた渋い。
翌日、
久大本線の「湯平駅(ゆのひら駅)」
『ゆのひら駅』で蛍子たちと一緒に汽車を待つことに。
昨日の火傷のキズを包帯で巻いてくれる蛍子に感謝する寅
蛍子たちはデパートで勤めているらしい。
寅「あれも大変だよな。一日中つったってなくちゃなんねえし、
客に愛想よくしなきゃなんねえしな」
頷く蛍子
寅「あれ見たり、これ見たりして、なかなか決まらない客にさ、
『ねえ、おばさん、いい加減にしてくんない、
何着たってあんた似合わないんだからさ』とも言えないしな、こりゃ、ハハハ」((((^^;)
ゆかりげらげら笑って大受け。
寅、蛍子さんに
寅「恋人はいねえのか?」
蛍子、ゆかりを指差して、
蛍子さん「この人はいる」
ゆかり「一匹だけ」
寅「へへへ!」
寅、蛍子の方を向いて
寅「姉ちゃんは?」
蛍子さん「私はもてないもん…」
ゆかり「また、そんなこと言ってェ、結構ファンがいるのよ、ほら、
変な色気があるでしょ、この子」
寅、まじまじ蛍子さんを眺める。
蛍子さん「どうしてそういうこと言うの〜」
ゆかり「理想が高いのよ、私なんかと違って」
蛍子さん「そういうんじゃないわよ。好きになった人が理想の人なの」なるほどね( ̄ー ̄)
ゆかり「だからそれが理想が高いっていうのよ、フフ」
蛍子さん「もう〜」
寅よくわかんなくて
寅「なんだその、理想っていうの?」
ゆかり「理想というのはね、お金持ちで、背が高くて、スマートで、ハンサムで」
カメラを二人に向けて『カシャ』
寅「フハハハ、全然オレ当てはまんないや、ハハハ」と呆れている。
一応自分に照らし合わせてるから厚かましいし、面白い。
杵築 養徳寺
三郎青年がお母さんの供養をしている。
お母さんは 『島田ふみ』さん。
母親に最後のお別れを言う島田三郎青年。
三郎「お母ちゃん…、オレ帰るぞ、お盆にまた来るからな。
さみしないな、大丈夫やな、生まれたとこへまた帰ってきたんやものな」と涙ぐんでいる。
母一人子一人で寄り添うように生きてきた二人なのだろう。
ブルーバードで帰っていく三郎青年。
志保屋の坂
途中、『志保屋の坂』で観光している蛍子さんに出会う。
向こうに見えるのが『酢屋の坂』
三郎青年車を止めて、ここぞとばかりに蛍子を誘うが、
なんとゆかりと寅があとからぞろぞろついて来て
三郎青年の思惑はスコーンと外れるのでした(TT)
ヨハンシュトラウス二世の 『春の声』が勢いよく流れる。
大分 アフリカンサファリ
動物達を車の中から見てはしゃぐ4人。
広大な安心院高原にある自然動物園115万平方メートルの敷地に70種類、
1300もの動物や鳥達が放し飼いになっており、規模はアジア最大級である。
ジャングルバスが園内を走っており、動物達の自然の姿を観察できる。
城島後楽園遊園地(城島高原ファミリーパーク)
この映画公開時に1982年 城島高原ファミリーパークに名称変更。
この後、1992年 城島後楽園ゆうえんちに名称変更。全面リニューアル。
ここでも、乗り物に乗ってはしゃぐ4人。
で、散々遊んで…夕方。
別府港 ホーバーフェリーのりば
別れを惜しむ4人。
蛍子さんたちは、別府から大分空港まで乗って、飛行機で帰るのだろう。
第12作「私の寅さん」でもさくらたちの九州旅行の時もこのホーバーフェリーに乗っていた。
スタッフさんたち好きなんだねえこの乗り物が。
湯の平温泉の紙袋を持っているゆかりたち。
寅「じゃ、ほら、行け」
ゆかり「ほんとに楽しかった」
頷く寅
ゆかり「三郎さん、運転気をつけてね」
蛍子さん「いろいろありがとう」
寅ニコニコで
寅「あばよ」
二人、乗り込もうとする。
蛍子、戻ってきて
蛍子さん「寅さん」
寅「うん」
蛍子さん「東京帰ってきたら教えて、柴又行きたい」
寅、ニッコニコ
寅「そうだな、早く行け」
蛍子さん「うん」
三郎青年、ススッと前に進む。
寅と肩が当たり寅がくるりと回ってしまう。
これは第一作で、さくらの結婚式の時の博と寅のパターン。
蛍子さんを追いかけ
三郎青年「蛍子さん」
蛍子さん、振り返り
蛍子さん「はい」
三郎青年「ぼ…ぼくとつきおうてくれませんか…」おいおいおいヾ(^^;)
蛍子さん「…急にそんなこと言われても…さよなら…」だよねえ(((^^;)
去っていくホーバーフェリー
三郎青年「あーあ…行ってしもうた」
寅「ハハハ、行ってしまった、ハハハ」
三郎青年ブスッとして
三郎青年「なんですか?」
寅「おまえ、惚れたな」
三郎青年「惚れて悪いんですか」
蛍子のテーマが流れる
寅「あれが惚れた相手に言うセリフかよ。
『ワシとつきおうて下さい』ヶッ!可笑しい、可笑しいよ、おまえ、え、
それじゃチンピラの押し売りだよそれじゃ」
確かに唐突。発作的。あれじゃ女性はまず引いちゃうよ(^^;)
三郎青年、怒って
三郎青年「じゃあ、どう言えばいいんですか?」
寅「恋の雰囲気、そっとそばに寄るだろ、ね、
『お嬢さん、東京へ帰ったらもういっぺん顔が見たな僕…』こう言やいいじゃないか、フフ」
三郎青年「はあー…、そんなふうに言うんですか…」おいおい信じるなよこの男をヾ(−−;)
寅「そうよ。ま、せいぜい苦労しな、な、あばよ」
と別れようとするが、寅になんとか恋の相談に乗って欲しい三郎青年は、
車で一緒に帰るように勧めるのだった。
車が苦手な寅は嫌がったが、結局押し切られて同乗して東京へ。
柴又 帝釈天参道
さくらとおばちゃんが紙袋を持って帰ってくる。
大丸デパートのバーゲンセールに行ってきたらしい。
そんな時三郎青年の車が参道に乗り込んできて停まる。
中から寅と三郎青年がフラフラになって降りてくる。
さくら「お兄ちゃん!」
へナへナ座り込む寅。
寅「なにしろさ、大分県から車に乗りっぱなしだからな、
飲まず食わずで、うーん、ああ…
まだ体が揺れてるよ…」
三郎青年、寅のカバンを持ちながら、フラフラになって店に入ってくる。
椅子に座りそこねてこけてしまう。
おいちゃん「なんでまた飲まず食わずだったんだ?」
寅「フフフ、いや、これがさ、持ってるとふんだんだよね、オレはね」
おいちゃん「うん」
寅「だからまあ、楽しくあっちこっち見物しながら帰ってこようと思ったら、
ガソリン代しか残ってねえって言うだろ、チェ」
と、言う訳で二人ともフラフラになって二階に眠りに上がって行く。
題経寺 境内
博から寅が運転手つきの車で戻ってきた事を聞いた御前様は独り言で
「悪いことでもしたか…、
いやあ…、それほどの頭はないだろ…」
これは笑いました(^^)
夜 とらや 茶の間
みんなで大笑いしている。
寅は三郎青年を金持ちの息子だと思い、三郎青年は逆に寅を金持ちだと思ったらしい。
三郎青年「お金に困ってるような顔してないし」
みんな「ハハハ!」
三郎青年「仕事はなんですか、って訊ねたら、『遊び人よ』、そう、答えられたから、
あ、これはたぶん親の遺産かなんかで、ぶらぶら遊んでる人やないかと思って」
みんな「ハハハハ」
そして三郎青年は、このようなとらやの雰囲気を羨ましがるのだった。生まれてからずっと母親と二人暮しで
淋しい思いをしてきたらしい。
一方、おばちゃんもおいちゃんも、三郎青年がお骨を持って実家でお祈りをし、法事をしたことを親孝行だと羨ましがる。
寅、なんとなく気まずくなって寝転ぶ寅だった。
ひとしきりおしゃべりしたところで
三郎青年は寅にある質問をする。
三郎青年「寅さん、聞いていいですか?」
寅「なにを?」
三郎青年「…あの、さくらさんとご主人は、つまりどんなふうにして…」
寅「ま、ひっついたか、って言うんだろ?」
三郎青年「ええ」
さくら照れながら
さくら「どうしてそんなこと?」
三郎青年「お会いした時から気になって…」わかるわかる(^^)
寅「一目惚れだよ、これがさくらを見てボーっとなっちゃったんだ。そうだろ博」
博、照れながら
博「え…そんな」と照れる。
寅「ハハハ」
満男「僕知ってるよ」と三日月目でニヤニヤ。
三郎青年「え…」
博「こら黙ってろ」
満男三郎青年の横に立って満男
満男「父さん、工場の寮にいて、
その部屋から母さんの部屋が丸見えだったんだって」
ガビ〜ンΣ(|||▽||| )
満男っていったい…(TT)
二人ともタジタジ。
博「こら!」
さくら「どうしてそんなこと!言うの!っとにィ」と柿を投げつけようとするが、
三郎青年を見て躊躇し、柿を持ち替え、手を満男に向かって振る。
この見事な演出。上手い!
柿を投げつけようとするが
やめて、持ち変える。
寅「毎晩毎晩、寝巻きに着替えているのをね、胸を熱くして見てたんだよ」おいおいおいヾ(^^;)
さくら「やめなさいよ、バカバカしい、フフ」
博「そんなとこ見てやしませんよ」
みんな「フフフ」
【証拠フィルム】@
博「僕の部屋からさくらさんの部屋の窓が見えるんだ。
朝…、目を覚まして見ているとね、
あなたがカーテンを開けてあくびをしたり、
布団を片付けたり…。
日曜日なんか楽しそうに歌を歌ったり。
冬の夜、本を読みながら泣いてたり、
…あの…工場に来てから
3年間、毎朝あなたに会えるのが楽しみで、
考えてみれば
それだけが楽しみでこの3年間を…。
さくら「……」
と、いうことで、
見えてたんですね〜、やっぱり。そして覗いてたんですね〜、さりげなぁく(^^;)
罪となる事実!
で、物語に戻って
そんなさくらたちのなれそめを聞いて三郎青年は「いいなぁ…」と、羨ましがる。
寅は三郎青年の恋をみんなにバラそうとするが、三郎青年は恥ずかしがって帰っていく。
帰り際にそっと
三郎青年「それから…例の話ですけど…」
寅「あの子だろ」と、小指を出して。
寅「まかせしとけよ」と言い。
このことはシークレットにすることをパントマイムで承諾する。
三郎青年「お願いします」
寅「うん」
三郎青年が帰った後
二階へ上がり、また寝ようとする寅に
さくら「ねえ、お兄ちゃん何の約束をしたの?まかせとけって…」
寅、二階に上りながら
寅、活動写真の弁士の口調で、
寅「空飛ぶ鳥にもネグラあり」
さくら「え?」
寅「哀れ母を失った三郎青年の
運命やいかに。
そのカギを握る人、
それは誰あろう車寅次郎先生でありました」
さくら二階へ向かって
さくら「ねえ」
寅二階で
寅「ねえと言っても、車先生は去っていくのでありました」
さくら「どういうことだろ?」
おばちゃん笑いを我慢してます。
ここでおばちゃんが鼻の穴を膨らませて笑いを密かにがまんしている。
博「何か起きるなこれは」
おいちゃん「え?」おいちゃん怖がっている(^^;)
上のシーンでおばちゃんが鼻を膨らませて笑いを微妙に我慢しているのは
その直前に渥美さんのアドリブで倍賞さんが思いっきり笑ってしまって
NGを出したからだ。このNGは第30作の予告編集に入っている。
二階で活ベン調の寅の声がまだ聞こえる。
寅の声「『三郎さん、ごめんなさい…。
わたくしが好きなのは、寅さんなの』ああ、三郎青年よどこへゆく。
それはあまりにも淋しい人生航路では、あった」
寅の声を聞いて、何か考えているさくらだった。
この冗談とも取れる寅のオチャラけたセリフは実は本音。
ここに寅の業があり、寅の喜びもあり、悲しみもある。
上に書いた予告編に挿入されているNGになった場面↓を紹介しましょう。
さくら、上にあがっていった寅に向かって
さくら「ねえ」
寅「『ねえ』と言うさくらの声も
むなしく闇に消えて
いったのでありました」
我慢できなくて、顔がフニュッとなる。
三崎さんもそれを見て顔が崩れる。
倍賞さんついに噴出してしまう。
三崎さんも限界を超える
笑いながら目が垂れて、口に手を当てる
倍賞さん「ごめんなさ〜い」(^^)
三崎さんも、もう大笑い。
「ぷっ!」
もう完全にスタッフ全員で大笑い(だと思う)
チャンチャン。
「ごめんなさ〜い」
で、物語に戻って、
都心 大丸デパート
上司の指導の下、接客の練習をして勤務につく蛍子たち。
一方 千葉習志野の谷津遊園内の動物園
チンパンジーの世話をする三郎青年。
谷津遊園も京成電鉄。
1925年、千葉県習志野市谷津の早くから海水浴場として賑わっていた谷津海岸の土地を埋め立てて娯楽施設に転用、
京成電鉄谷津遊園として一時代を築いた。
小さな動物園も中にあり、三郎青年はその施設で働いている。
遊園地よりもバラ園が有名。
当時の谷津遊園のプールは『海水プール』
京成電鉄自身の経営悪化と東京ディズニーランドへの経営参画計画により、
遊園地は黒字経営であったがこの作品が公開された1982年12月をもって閉園した。
閉園時の従業員のうち、多くは東京ディズニーランドに異動している。
バラ園は『谷津バラ園』として習志野市が運営している。
夕方 柴又 帝釈天参道
蛍子は先日の大分でのスナップ写真を寅の家族に渡そうと柴又へやって来る。
郵送しないで直接来たのは、ひょっとして寅が帰っているかもという淡い期待があったからだろう。
しかし、相変わらず、アポなし。
とらや 店
あいにく寅は商売に出かけていたが、さくらたちから寅が帰ってきていることを聞いた蛍子は
もう一度来る事を約束してとらやを後にするのだった。
さくら「またいらっしゃいよ、前もって電話して」おお!さくら遂にアポの催促。
,
蛍子さん「はい、そうします」
それを見ていた暇な社長は
社長「いよいよ本命登場だ。えらいことだぞこりゃあ」と工場へ知らせに行くのだった。
千葉 船橋 蛍子さんの自宅
浪人生らしき弟の食事を作る蛍子さん。
蛍子さんが『ぼく』と弟君のことを呼んでいるのがどうも気にかかる。
二十歳近い青年を『僕』と呼ぶ時って、どのような関係なのだろう。
弟君はただの受験生というよりは精神的に問題を抱えているのかもしれない。
ちなみに、行儀の悪い弟君が見ているテレビはなんと山田監督の
『吹けば飛ぶよな男だが』のなべおさみさんと佐藤蛾次郎さんのギャグの部分。
蛾次郎さんが女装して、男から金を巻き上げ、サブ役のなべおさみさんと逃げていくシーン。
この作品は『男はつらいよ』とキャラの設定や物語的に似た部分があり、
男はつらいよがこの映画の影響を受けていることは明白である。
東京 大丸デパート
蛍子さんが働いている。
お客さんにスカーフを勧めている。
年配のお客さんなので、どちらかというと地味なものでなくあでやかな方が似合うのに、
地味な馴染む方を勧めてしまっている。スカーフは馴染ませると一層老けてしまうのだ。
しかしさすがお客さん。自分で似合う方を選んでいた。
蛍子さんも「そういえばそうですね」と納得。
仕事の後
繁華街の蛍子さん馴染みのスナック
寅がビールを飲みながら蛍子さんを待っている。
オフコースの「眠れぬ夜」の演奏がBGMで流れている。
蛍子さんやって来て
蛍子さん「寅さん、会いたかったァ〜」
寅「んー、電話して悪かったな」
蛍子さん「ううん、嬉しかったァ〜」
寅「そうか、ほら…、売り場でよ、オレみたいな男が声かけてね、
部長や主任に見つかったりすると、
具合悪いんじゃないかって、いろいろ考えたのよ…」
寅は、当初の目的の三郎青年のことを話し始める。
蛍子さん「あの人、どういう人?」
寅「そうだなあ…、ま、一言で言えば変わりもんだろうね。
オレたち常識人から見れば」(^^;)
これは第15作「相合い傘」でパパのことをリリーに伝える寅のセリフのアレンジ。
蛍子さん「そうだねえ…」
寅「うん」
蛍子さん「だってェ、妙にすましてるなあ…と思うと、急につきおうてくださいだなんて
叫んじゃったりするんだもん、フフ」
寅「そうそう、フフ、大分で、あの、別れる時な」
蛍子さん「うん、フフフ」
寅「可笑しかったね、ハハハ」
蛍子さん「どういうつもりなんだろ…フフフ、きっとさ、
つき合っている女の子なんかいっぱいいるだろうにね」
寅「あ、それはいないんじゃないのかな。ということは口下手で、内気な方だから」
蛍子さん「恋人はいないの?」
寅「うん、…恋人はいるな」
蛍子さん「あ、そう…」
寅「ん。だけど、片想いだけどね」
蛍子さん「片想いなの?」
寅「ん」
蛍子、興味深々で
蛍子さん「ねえ…どういう人なんだろう?その、片想いされてる人って」
寅「知りたいか?」
蛍子、ちょっと笑って
蛍子さん「うん…」
寅「蛍子ちゃんだよ」
蛍子さん、寅を見る。
寅、頷く。
寅「あいつ惚れてるんだよ、あんたに」
蛍子さん「…!うそォー!、まーた、そんないい加減なこと言って寅さんはァー」と、戸惑っている。
寅「ほんとだよー、な、…ちょっとつき合ってみるか」
蛍子さん「…」
寅「いや、大丈夫大丈夫。あいつはね、いきなり襲ったり、噛み付いたり、
そういうことはしないからさ。それはオレが保障する。他になんの取り得もないけれども」
蛍子さん、小声で
蛍子さん「ダメ…断る…」と下を向く。
寅「どうして?」
蛍子さん「だってェ…」
寅「嫌いか?」
蛍子さん「あんまり二枚目だもの…」
出たああああヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ
寅「…???」
寅、しばし考え
寅「そういうもんかなあ…」
蛍子さん「わかるでしょう、そういう気持ちィ〜」
寅「ん…」と短く何度か頷く。
蛍子、はっと我に返って
蛍子さん「ね、寅さん、それ言いにきたのわざわざ」
寅「いや違うよ、オレ今日は蛍子ちゃんと飲みてえなって思って来たんじゃねえか」
蛍子さん「ほんと?」
寅「ほんとだよ」
蛍子さん「フフ…」
で、二人は乾杯して盛り上がる。
一方三郎青年はその頃とらやで寅を待っていた。
寅が蛍子さんに自分の気持ちを伝えてくれたかどうか知りたいのだ。
これは第1作での寅を待つ博の気持ちのアレンジ版。
夜更け とらや
寅、酔っ払って帰ってくる。
参道で、寅の声
寅の声「ああ、三郎青年の運命は、風前のともしびだった…」
三郎青年、立ち上がる。
寅「おお!三郎青年来てたか!」
おばちゃん「会ってくれましたか?」
寅「誰に?」おいおいおいヾ(ーー;)
三郎青年「蛍子さんですよ」
寅「おう!会った会った会った!」
三郎青年「で…どうでした?」
寅「ん、オレ、いつも思うんだけどさ、一日の仕事が終って家路に
急ぐ娘ってのはいいもんだねえ…。こう、疲れがほんのり体に出ててな、
髪の毛なんかほつれちゃってさ、
あら!寅さん会いたかったワー、じゃ再会を祝して、ハイ、カチン!
あー美味しい…、なんて、あれはイケル口だなあの子は」
と、どんどん脱線していく寅を三郎青年が制して、
三郎青年「寅さん」
寅「え?」
三郎青年「すいませんけど、結論だけ言うてもらえますか」
寅「じゃあ、言ってやるよ。そのかわり覚悟出来てるな」
三郎青年「はい。早く言ってください」と真剣そのもの。
寅、早口で、
寅「ことわられました」
三郎青年、目を見開いて、愕然。
寅「諦めなよ、気の毒だけど…」
三郎青年「理由はなんですか?」
寅「理由?理由聞きたいのか?」
三郎青年「はい」
寅「おまえがあんまり二枚目だから」
三郎青年「…!」
三郎青年「寅さん、男は顔ですか?」座布団2枚(^^;)
寅「そうじゃないの?」
三郎青年「そんなバカな!」
おばちゃん「なんだかしらないけどおやめよ。
寅ちゃんに人の顔のことなんか言えるわけないだろ」
寅「おばちゃんは黙ってろよ、男通しの話なんだ」
三郎青年「寅さん、寅さんは恋をしたことありますか?」
おいちゃん、おばちゃんギョッとして振り向く。
寅「おい、こら、おまえ誰に聞いてるんだ、『恋をしたことがありますか』
よく言うよおまえ。オレから恋を取ってしまったら何が残るんだ。
三度三度飯を食って屁をこいて糞をたれる機械。つまりは造糞機だよ。
な、おいちゃん」
おいちゃん、ダメだこりゃのりアクション。
三郎青年、すくっと立ち上がり、
三郎青年「寅さんに頼んだのが間違いでした。さよなら」
寅「そうだよ、はじめから自分でくどきゃよかったんだよおまえ。惚れたのはてめえだろ」
三郎青年振り返って
三郎青年「それができないから頼んだんじゃないですか。そんなことができるくらいやったら…、
寅さんと同じように、女の人の前で気楽に話が出来るんやったら、なにも頼んだりは…」
泣きそうな顔で出て行く三郎青年だった。
寅は、めんどくさがりながらも、なんとかしてやらないととも思うのだった。
数日後
寅に呼ばれて柴又へ向かう蛍子さん。
柴又 とらや
三郎青年は、すでにとらやに来ている。
寅、二階から下りて来て
三郎青年と打ち合わせを始める。
蛍子さんがもうすぐここへやって来るから、
三郎青年はそれとは関係なく偶然とらやに来たことにして、そこから話を進めていくことに。
おばちゃん曰く「早い話が、『騙まし討ちのお見合い』だね。
昔はそういうのよくあったのかな(^^;)
三郎青年「あの…、江戸川へ行ってどんな話しをすればいいんでしょう…」
寅「え?疲れるなおまえも、そこまでオレがコーチしなきゃいけないのか」
寅「ほら、な、ひろーい景色だろ、土手にタンポポが、ポコ、…ポコ。
二人で土手に腰掛ける」
三郎青年座ろうとする。
寅「ああっとほら気をつけて!犬のウンコがあるじゃないか、こういう上にベタッ!と座ったら
一環の終わりだぞ、」なんちゅうディテール(^^;)
と、なんだかんだとどうでもいいいことを伝授するんだなこの男は(^^;)
寅「『僕も、あの雲といっしょに知らない国に行ってしまいたい』
『三郎さん、どうしてそんな寂しいことおっしゃるの?』
『蛍子さんのいるこの東京に、一緒に住むのが辛いんだ』
『せめて、遠い北国へでも行ってしまったら、
この辛さを忘れることができるかもしれない』
『三郎さん、ほんとのことを教えて』
『蛍子さん、僕はあなたを愛しています』
なんてことは間違っても口に出しちゃいけないぞ。
口で言わない。目で言う」ダメだダメだ┐(-。ー;)┌
それじゃ、第1作の博へのコーチと同じだよ。トホホ(ーー;)
三郎青年「目ですか」
寅「そうだよ。蛍子さんのことをジーッと見つめる。
蛍子さん、僕はほんとうにあなたのことを愛してますと、心で言うんだ」
神妙に頷く三郎青年。
寅はそこでリハーサル開始
寅「オレを蛍子さんだと思え。いいな」
頷く三郎青年。
寅、三郎青年を見つめ
寅「三郎さん…」
三郎青年「蛍子さん…」
寅「あら…」変に上手い寅の声色((((^^;)
三郎青年我慢できなくて噴出してしまう。
寅「ブァ!なんだコノヤロ、笑いごとじゃないぞ」
みんな大笑い。
ただし、『脚本』ではこの寅と三郎青年のミニコントはない。
そこへ蛍子さんがやってくる。
みんなに挨拶。
蛍子さん、三郎青年に気づく
蛍子さん「あら…」
寅「え?」と振り返る。
三郎青年「こんにちは」
蛍子さん「あの…、私、先日はどうも…」
三郎青年「…あの…」
寅が割り箸の束持ちながらさりげなく三郎青年に寄って来て
寅「僕こそ失礼しました」とささやく。カンニング(^^;)
三郎青年「僕こそ失礼しました」と、にこっと笑顔。
みんな微妙に緊張している。
蛍子さん、思わず笑って
蛍子さん「ハ!…、びっくりした、フフフ」
さくら「ねえ」
蛍子さん「寅さん何にも言わないんだもん」
みんな、とにかくスマイル(^^;)
寅、何を思ったか突然
寅「あ、じゃあ、このへんで、若い者通し江戸川へでも散歩に行って…」
さくら、寅が予定を飛ばしたので戸惑ってしまう。
寅「違ったかな…なんだったっけさくら」と小声でカンニング。
さくら「三郎さんがどうしてここにいるか説明しなきゃいけないんでしょ」
寅「あ、そうか…、こいつなんだけどね、蛍子ちゃんがここへ来ると聞いたらね、
喜んで来ちまいあがんの、ヘヘへ…あ、違った…ええっと、なだったっけなあ…」
さくら、クスクス笑いながら下を向く。
寅「あ、そーだ、偶然だよ!偶然こいつが来ちゃったんでね、
よくまあ偶然だなと思って…
ほんとにびっくりした偶然だよなあ!」
蛍子さん、顔が緩み、笑いをこらえている。
寅「こんな偶然あるかしら…」
さくら、笑いながら
さくら「お兄ちゃん…もうみんなバレちゃってるわよー、フフフ」
蛍子さん、笑っちゃっている。
おいちゃんもクスクス下を向いている。
寅、蛍子さんに向かって
寅「ほんとか?そんなことないと思う…え??」
蛍子さん遂に大笑い。
蛍子さん「何が始まったかと思った、フフフハハハ」と笑いが止まらない。
寅「思っちゃった、ハハハ」
三郎青年も笑っている。
タコ社長、裏から出て来て
社長「なんだ、賑やかじゃないか」
寅「なんだいタコ偶然だな、またこんなとこ出てきて」
みんな大爆笑。
郵便屋さん、手紙持ってくる。
寅「よ!郵政省偶然だな、ごくろうさん」おいおい ヾ(^^;)
手紙受け取って
寅「おいちゃん!偶然に手紙来たぞほら、ハハハハ」
みんな大笑い。
江戸川土手
江戸川土手に座り、話をする三郎青年と蛍子さん。
話が弾まない二人(^^;)
源ちゃんが犬の散歩させながら、背後から見ている。
蛍子さんは三郎青年にどうして私とつき合いたいか聞くが、
三郎青年は要領を得ないでモジモジしてしまう。
あげく、みかんを全部土手下に落としてしまうのだった。
蛍子さん「みかんが…落ちた」
三郎青年「蛍子さん!」
蛍子さん「はい!」
いきなり
三郎青年「あの白い雲と!」と指を指す空
蛍子さん「どこ…」
源ちゃん、後ろで興味津々で観察。
犬が源ちゃんを引っ張っていく。
ほんのちょと薄く空に浮かんでいる雲(TT)
三郎青年「あ…あれです」(^^;)
三郎青年「あの白い雲と一緒に、つまり…旅をどこか…行けたら」
蛍子さん「旅行のこと?」(^^;)
三郎青年、ちょっと意味が違うって思いながらも
三郎青年「ええ、そう…」
蛍子さん「旅行好きなの?」
三郎青年「ええ、とても」おいおいおい ヾ(^^;)
蛍子さん「私も好き」
寅のシュミレーション、『三郎さん、どうしてそんな寂しいことおっしゃるの?』
は見事に外れました。チャンチャン(^^;)
三郎青年、ほっとして
三郎青年「あ、そう」
野球の練習をしている青年たちが三郎青年に落ちたみかんを持ってきてくれる。
最後の一個はキャッチボールのパターンで戻してくれる。
まあ、とにかく結果オーライの三郎青年だった(^^)
この江戸川土手の会話、『脚本』改定稿では二人で、寅のことをしゃべったり、湯平荘での
法事で大笑いした事を回想したりしてしみじみとしたシーンとなっている。
で、年月はみるみる経っていくが…、
その後、三郎青年と蛍子さんの仲はどんどん進展して行ったかというと実はそうでもなかったのだ。
そして家では、両親に結婚の事をいろいろ探られて、寅が恋人じゃないのかとまで探られて困ってしまう蛍子さん。
悩みを抱えてしまっている蛍子さんに寅は電話をかけ、
寅「遊びに来るか?ん、よし!じゃすぐ来い!待ってるから」と誘う。
声が沈んでいた蛍子さんのことを心配して、いろいろ気を回す寅。
そして、いてもたってもいられず柴又駅まで迎えに行く寅だった。
柴又駅ホーム
ホームを降りてくる蛍子さん。
寅の声「おい!蛍子ちゃん!」
改札の外で手を振る寅。
蛍子のテーマが流れる。
蛍子さん「寅さん!」と走って改札を抜けてくる。
蛍子さん「迎えに来てくれたの?」
寅「ん、あんまり遅いんで心配になって迎えに来ちゃった」
蛍子さん、感極まって寅の腕にしがみついて甘える。
蛍子さん「ありがとう!」
寅「みんな待ってるぞ、よく来たな」
とらやの面々も大変だねえ、寅の気まぐれにいつも付き合わされて…(^^;)
参道を歩いている御前様と源ちゃん。
腕を組んだ寅と蛍子さんが歩いてくる。
これは第15作「相合い傘」の名場面↓から拝借パターン(^^)
寅「あ、御前様、どうもご無沙汰いたしまして…」と、蛍子さんの手を背中に隠す。
御前様、憮然として、
御前様「おまえはどうしておる」今、手を握り合っております(((^^;)
寅「はい、毎日深く反省しております」んなもん、してないしてない ┐(- ー;)┌
寅「源ちゃんお元気ですか」ニッコニコ
源ちゃん、蛍子さんを見ている(^^;)
ススっと手を繋ぎながら、二人の前を通り過ぎていく寅。
御前様「なにも反省しとらん。困ったもんだ。あ〜〜〜〜…困った…」と、歩いていく。
源ちゃん、振り向きながら、例のヒヒヒ笑いで受けている。
とらや 茶の間
食事をしているみんな。
社長「ほらほら、急に工場辞めるって言い出したりして、ハハハ」
三郎青年の時と同様またもや博とさくらのなれそめをしゃべってるなこりゃ(^^;)
寅「そうそう!そうだよ、そこの土間に突っ立ってね。
『さくらさん、どうぞ幸せになってください』」
博「そんなこと言いませんよー」出た〜、博の嘘 !ちゃんと言いました(^^)
寅「言った言ったよ、おまえ」んだ(^^)
さくら「やめてよもう、フフフ」
【証拠フィルム】A
第1作「男はつらいよ」
博「僕は出て行きますけど、さくらさん幸せになってください」
さくら「…!!」
博「さよなら」
博、走っていく。
やっぱり言ってますねえ〜博君(^^)
で、物語に戻って、
蛍子さん、笑いながら
蛍子さん「それでどうしたの?」
寅「それからね…どうしたんだっけ、
あ、おまえすぐあとバタバタバタバタ慌てて追いかけてっってね、
『博さん!』なんて
みったねえの〜。(みっともないの〜)」でもこれも本当のこと(^^)
さくら「憎たらしいわね、もう!ねえ」
蛍子さん、下を向いて、笑っている。
おばちゃん「なんの話だい?」
社長「さくらさんと博さんのラブロマンスだよ」
今回はさくらと博が話の種になりまくり。
みんな「ははは」
さくら「あー、恥ずかしい」そらそーだ(^^)
おいちゃん「まあ、当たりめえの顔して一緒に暮らしているけど、
夫婦にはそれぞれいろんな話があるからねえ」
さくらお茶漬け食べてます(^^)
蛍子さん「ね、おじさんとおばさんはどんなことがあったんですか?」
おいちゃん「え!いやいや、わしなんか…」
と逃げていく。
みんな大笑い。
おいちゃんとおばちゃんのラブロマンス『雨の駒形橋物語』は
みなさま第32作「口笛を吹く寅次郎」でゆっくり堪能してください。
食事が終って、縁側で話をする蛍子さんと寅。
縁側には、おばちゃんの漬ける白菜がズラーッと並んでいる。
寅「三郎青年と会ってんのか?」
蛍子さん「うん」と元気なく頷く。
寅「うまくいってんのか?」
蛍子さん「…私ね」
寅「うん」
蛍子さん「迷ってるの」
寅「…何が?」
蛍子さん「何考えてんのか分かんないの三郎さん…。
二人でいてもチンパンジーの話しかしないでしょ。
それもすぐ途切れてしまって…
喫茶店でお水ばかり飲んで黙って座ってると、私なんかとっても辛くて…、
もう早く一人になりたいななんて思ったりして…、ほら…」
寅「え?」
蛍子さん「こんなふうに寅さんとだったら、なんだって話せるでしょ?」
寅「…」
蛍子さん「寅さんだったら何時間一緒にいたって、退屈なんかしないでしょう」
退屈しなけりゃいいってもんじゃないだろ(−−)
寅「…」
蛍子さん「…三郎さんとはそうじゃないのよ…」
寅「蛍子ちゃん、分かってやれよ。
あいつがしゃべれねえってのはな、
あんたに惚れてるからなんだよ」
蛍子さん「…」
メインテーマがゆっくりと流れていく。
寅「今度あの子に会ったらこんな話しよう、あんな話もしよう、そう思ってね、
家出るんだ。いざその子の前に座ると全部忘れちゃうんだね。
で、バーカみたいに黙りこくってんだよ。
そんなてめえの姿が情けなくって、こう…涙がこぼれそうになるんだよ。な。
女に惚れてる男の気持ちって、そんなもんなんだぞ」
蛍子さん「わかってる…、わかってんのよ三郎さんの気持ち痛いほど。
だけど私十九や二十歳の娘じゃないでしょう、結婚ってもっと現実的な問題なの」
寅「ん…、なんだかオレよくわかれねえけどさ、
何がいったい気にいらねえんだ?え?」
蛍子さん「だから…、お互いにとって一番大事なことをちゃんと話し合えないで、これから先
ちゃんとやっていけるのかどうかとっても不安なの」
寅「それじゃあ…蛍子ちゃん三郎青年のこと嫌いなのか?」
おいおいおいおいなんでそうなるんだヾ(ーー;)
蛍子さん「違うのよ…好きなの、好きだから悩んでるんじゃないのォ」と寅に迫っていく。
寅、ブスッとして
蛍子さん「わかってよー」
寅「だったら何も悩むことはねえじゃねえかァ、お互いに惚れあってんだったら幸せだろう?
何も言うことないじゃないか、なあ…違うのかさくら」
さくら「そんな簡単なことじゃないのよ、結婚は」
寅「…」
さくら「お兄ちゃんにはわからないわよ経験がないから…」
寅、ビクッとして、まごついてしまう。
立場なくして傷つき、怒って二階へ行こうとする。
さくら「お兄ちゃん…」
寅「ああ…オレにはわかんねえよ、頭悪いからな」
おばちゃん「どうしたんだい寅ちゃん」
寅「オレにはわかんないんだってよ」
と、二階へ上がってしまう。
蛍子さん縁側で涙をためて泣いてしまう。
おいちゃん「どうしたんだい…。
なんの話か知らないけど寅のいうことなんか気にすることありませんよ」
おばちゃん「そうだよ、人にお説教できるような立派なことは何一つしてやしないくせに」
おばちゃんちょっとずれてるよ。それじゃ寅の悪口言ってるだけ(^^;)
さくら「ごめんなさいね、お役にたてなくて」
蛍子さん「寅さんに叱られた…」
と、少し照れる。
さくら「迷う時期なのよきっと。ほら、これで一生が決まってしまうっていう、
ちょっぴり淋しいような気持ちがするでしょ。
私にも覚えがある」
蛍子さん「さくらさんでも?」
さくら「うん。女は誰でもそうじゃない?おばちゃんどうだった?結婚する時」
おばちゃん「あたしゃ見合いだからさ。あんなカマキリみたいな男と一緒になるのかと
思ったら悲しくって悲しくって泣いてばっかりいたわよ」
おいちゃん「バカ、それはこっちの言い分だい」
第32作ではおいちゃんとおばちゃんは恋愛結婚したことになっているが、おそらく
見合いから入って恋愛感情が高ぶっていったということなんだろう。
さくらと蛍子さん笑っている。
さくらは、結婚直前に女性が陥りやすい「マリッジブルー」「ウェディングブルー」「エンゲージブルー」
のことを言いたいんだろう。つまり生涯の伴侶がこの男性で本当にいいのか不安…。ということ。
しかし、実は蛍子さんは、そのもう少し手前で悩んでいる。
つまり、三郎青年の本心というか結婚の決意というか、現実の中で将来の自分たちの生活を
真剣に考えているのか、そしてそれ以前にほんとうに自分のことが心底好きなのかどうか、
まずその基本のあたりで悩んでいるのだ。そのへんがさくらの分析の甘いところ。
っていうか、その違いを見定められないのは『脚本』が甘いとも言える。
とりあえず蛍子さんはさくらに話を合わせてもいた。
『不安』という気持ちという点では一緒だからだろう。
しかし、この物語、三郎青年と蛍子さんの恋の進行がほとんど描かれてないな…。
このへんがどうも浅いなあ…。
谷津遊園
チンパンジー舎の外で蛍子さんが待っている。
三郎青年見つけてびっくりする。
ちょっとはにかんで照れる蛍子さん。
この表情がとっても素敵でした。
三郎青年「あー、びっくりしたなあ」
蛍子さんのところへ駆け寄って
三郎青年「どうしたのいったい」
蛍子さん「今日休みだから、寅さん所へ行ってね、帰りに足伸ばしたの」
蛍子さんの家は千葉の船橋、習志野の谷津遊園とはそんなに離れていない。
三郎青年「そうか、ちょっと待ってて」
三郎青年は大事な話があるらしい。
園内を歩きながら
三郎青年「何度も電話しようと思ったんだけれども、しにくくて…」
蛍子さん「どんなこと?」
三郎青年「蛍子さんも話があるんだろ?それ先に」
蛍子さん「三郎さんのほうが先に話してよ」
三郎青年「うん…」
三郎青年は蛍子さんを大観覧車に案内する。
係りの桜井センリさんが暇そうにしている。
三郎青年「オヤジさん頼む」と拝みこむ。
桜井さん、振り向いて蛍子さんを見る。
桜井さん「めずらしいね、あんたにしちゃ」
観覧車のドアを開けて
桜井さん「さあどうぞ」
二人入る。
向かい合わせに座った二人に
桜井さん「並んで座りなさいよせっかくだから」
三郎青年を蛍子さんの隣に座らせる。
桜井さん「ごゆっくり」
この桜井さんの芝居は上手かった。
今でも思い出すたびに、しみじみいい芝居だと思う。
ゴンドラの中
三郎青年、真剣な顔して
三郎青年「べべのことなんやけど…」
蛍子さん「…え?」
三郎青年「あ、僕が育ててるメスのチンパンジーの名前」
蛍子さん、ちょっと拍子抜けした感じで
蛍子さん「ああ…」
三郎青年「近頃なつかなくてね…」
下を向いてしまう蛍子さん。
三郎青年「こないだも腕のとこ噛まれたりなんかして」
蛍子さん、ちょっと笑って、また動物の話題か…と、淋しそうに
蛍子さん「たいへんね」と言ってあらぬほうを向いてしまう。
三郎青年「訳を考えてみたんやけど…結局…、僕のほうが、愛情を感じなくなってしまったんや」
蛍子さん、とりあえず
蛍子さん「ふーん」と適当に頷く。
三郎青年「いつごろからこんなふうになったかというと、
つまり…、蛍子さんにおうてからなんや」
はっとする蛍子さん。
蛍子さん「…」
三郎青年「それまではべべのこと、動物というよりもまるで自分の子供のように思ってたんやけど、
蛍子さんにおうてからは、もうただの動物でしかないんや…」
蛍子さん、三郎青年のほうをゆっくり向く。
三郎青年「だから…」
蛍子さん「だから何?」
と真剣な眼差しになる。
三郎青年遠くを見ながら
三郎青年「結婚してくれないかなぁ…」
蛍子さん、呆然としてその言葉を聞いている。
蛍子さん「…」
蛍子のテーマが流れる。
三郎青年「それが僕の用事なんや」
蛍子さん「私を…好きなの?」
三郎青年振り向き、蛍子さんを見つめ、頷く。
蛍子さん「口で言って…」
三郎青年、蛍子さんを見つめ
三郎青年「好きや…」
二人キスをする。
高まる蛍子のテーマ
ゆっくり大きく回る大観覧車。
三郎青年の肩に顔をうずめる蛍子さん。
三郎青年「蛍子さんの用事は?」
蛍子さん「もういいの」
三郎青年「大事なこととちゃう?」
蛍子さん「うん。でももういい…」
蛍子さんの肩を抱きしめる三郎青年。
観覧車がゆっくり回っていく。
バラ園のバラが赤く咲いている。
柴又 とらや 店
蛍子さんからの電話で、二人が結婚の約束をしたことを聞いて、ほっとしているさくら。
二人とも今から家に来るという。蛍子さんは昼に来て、またもう一度来るのだね。
さくら「え、今から家に、どうぞどうぞ。大歓迎よ」
さくらは寅に報告しようと二階へ向かって
さくら「お兄ちゃん」
寅の声「おう」
と言いながら寅がカバンを持って下りてくる。
さくら「どうしたの?カバンなんか持って」
寅「んー…、旅に出るのよ」
さくらやおばちゃん唖然。
寅「ほら、長く居すぎたからな」
おばちゃん「さくらちゃん」
さくら、寅に何か言おうとする。
寅「さくら、三郎青年のこと慰めてやってくれ。オレの力不足で持って
蛍子ちゃんとの仲ちょっとうまくいかなかったけども、あいつは二枚目だから、
そのうちきっといい女がまた…」
さくら、笑いながら手を振って
さくら「そうじゃないのよお兄ちゃん」
寅もちょっと笑って
寅「ええー…?」
さくら「今ね」
寅「うん」
さくら「蛍子さんから電話があって、あれから二人で会って、いろいろ話して、
結婚の約束したんだって」
寅、表情を少し変え、驚いている様子。
さくら「今二人でそのことを報告にここに来るって、そう言って来たのよ、ねえ」
おいちゃんも「うん」と頷く。
寅喜ぶよりもどちらかというと沈んでしまう。
寅「なんだぁ…オレはまたてっきり、三郎青年はふられたのかと思ってたよ」
さくら、ちょっと笑いながら
さくら「ええ?」
寅「心配することなんかなかったんだオレなんかが…、へえー...な…」
と、がっくりしたような様子で、旅に出ようと店を出る寅。
さくら「お兄ちゃん、どこ行くの?ねえ、
旅に出るのはやめて、待っててあげなくちゃ!二人が来るのを」
と、寅の腕を掴むさくら。
寅「三郎青年がめでたく結ばれたとありゃあ、いっそのことオレは用無しじゃねか」
さくら「そんなこと…」
メインテーマが静かに流れ始める。
寅「おまえな、オレに代わって三郎青年におめでとうって言ってやってくれ、な」
寅「おいちゃんおばちゃん、達者で暮らせよ」
おいちゃん「待ててやれねえのか…」
おばちゃん「ねえ…」
寅、小さく頷いて
寅「こっちにも商売があるからな」
店先に出て
止まる寅。
振り返り
寅「さくら…」
さくら「なあに…?」
ちょっと薄笑いを浮かべながら、それでも悲しみの目をして
寅「やっぱり、二枚目はいいなあ…。ちょっぴり妬けるぜ」
さくら、胸を衝かれ、戸惑いながら寅を見る。
悲しみの中薄笑いを浮かべる寅。
寅「フフ…」
と参道を歩いてゆく。
さくら「お兄ちゃん」
と、後姿を目で追うさくら。
おいちゃん、ドキッとして、
おいちゃん「おい、今なんて言ったんだあいつ」
さくら、首を小さく振り兄の背中を追いかけている。
晩秋の風に肩をすくめるさくら。
やっぱり好きだったんだね寅。
どうして相変わらずあんな若い子に惚れてしまうんだろうね、寅って。
人に与えるばかりの人生を歩む寅を見るにつけ悲しくなってくるよ…(TT)
正月 とらや
お客で満員のとらや
新年の挨拶に来ている蛍子さんがも店を手伝っている。
三郎青年は動物園なので正月も勤務。
おばちゃん曰く
おばちゃん「がっかりしちゃったよ〜、せっかくいい着物着て待ってんのに」
おいちゃん「おまえがいい着物着たってしょうがないじゃないかぁ」
おばちゃん「だって会いたいじゃないか、いい男にィ。
いつもひどいのばっかり見ているからね」 オイオイオイ、でも座布団2枚 (^^;)
相変わらず二枚目にはめっぽう弱いおばちゃんでした(−−)
社長大笑いしながら
社長「言うねェ、おばちゃんも」
おいちゃん「やけ酒だこりゃ」
博と社長「ハハハハ」と大笑い。
さくら「なにゲタゲタ笑ってんの、女に働かせといてェ」
電話が鳴る。
さくら「はいとらやですー。あらあ、お兄ちゃん?
おめでとう。うん、元気よ。いまどこ?九州?
あのね、今蛍子さんが来てるの。ちょっと声だけでも聞かせてあげて。
蛍子さん、はやくはやく、お兄ちゃん」
蛍子さん、驚いて電話を受け取る。
さくら「九州から」
必ず最初のロケ地に近いところへ最後も、わざわざ戻るんだよね。
中期以降のお約束事。
このへんは見てみないふりをずっと続けなくてはいけないのかも…(^^;)
蛍子さん「もしもし、寅さん、どうして黙って出て行っちゃったの、
私、話したいこといっぱいあったのに…どうして…」
寅はあなたに惚れてたんだよ、蛍子さん…(TT)
蛍子のテーマが静かに流れる。
涙が浮かんでいく蛍子さん。
蛍子さん「…うん…、仲良くやってる」
大分 鉄輪温泉
黄色い電話ボックスから電話をしている寅。
寅「ああ、そうかそうか。まあ、これからいろいろあるだろうけどもな、
なんてたって、お互いに惚れあってることが一番だから」
蛍子さん「うん、ねえ寅さん、いつ帰ってくるの?私会いたい…」
寅が蛍子さんのこと密かに思っていたなんて夢にも思っていないんだろうね(−−)
寅「あ、帰る帰る、うん、そのうち帰るから、な、そこに三郎青年はいる…、いないのか。
ん、じゃあな、オレからってよろしく言ってくれ。
ん?どうしたおい、泣いてるのか?…あ…」
電話が切れてしまう。
ポケットを急いで探るが小銭はもう無い。
寅「切れちまったかぁ…」と受話器を下ろし、
寅「まあ、いいや。うまくいってんだから…な…」とハンカチで鼻をすする寅。
電話ボックスを出て鉄輪温泉の町を歩いていく寅だった。
『ヤング温泉娯楽センター』では大衆演劇のお披露目御挨拶が行われている。
大分 鉄輪温泉
日本1位そして世界2位の湧出量を誇る別府市の別府八湯の温泉群。
その中でも最も多く温泉源が集中するのが鉄輪(かんなわ)温泉。
その歴史も古く、鎌倉時代一遍上人が念仏行脚の途、鉄輪の地を訪れ、
猛り狂う地獄地帯を鎮め、湯治場を開いたのが鉄輪温泉の始まりとされている。
温泉山 永福時 近く
寅の啖呵バイ 正月の縁起のいい飾り物をバイ
寅「さあ、鉄輪温泉にご滞在のみなさま、新年明けましておめでとうございます。
ね、おじいちゃん、どお、ほら!こう景気のいいもの!ね!
メインテーマが流れ始める。
寅「角は一流デパートで紅白粉つけたおねえちゃんに、
下さいちょうだいでお願いしますと千円や二千円は
くだらない品物。今日はそれだけくださいとはいいません!
どう、四百から参りましょう。ね!
四ッ谷赤坂麹町チャラチャラ流れる御茶ノ水、
粋な姐ちゃん立ちションベン!白く咲いたが梅の花!
湯気の向こうの梅の花がスクリーンに映る。
寅「四角四面は豆腐屋の娘、色は白いが水臭い!ね!」
湧出量日本一を誇る鉄輪温泉の湯気があちらこちらで威勢良く立ち込めている。
終
封切り日 1982年12月28日
上映時間 106分
動員数 228万2000人
配収 15億4000万円