お気楽コラム 【 寅次郎な日々 】 バックナンバー
第37作「幸福の青い鳥」 今回はちょっと長めのダイジェスト版
2010年5月27日 寅次郎な日々 その440
この文書には本編のネタバレが含まれます。お気をつけ下さい。
健吾を追いかける美保の姿 人生を変えるさくらの言葉
この作品ではこのシリーズのもう一人のヒロイン知る人ぞ知る
大空小百合ちゃんが再出演するのである。
しかし、再出演と言っても、実はみんなの知るあの大空さゆりちゃんではなかったのである。
父親を長い患いの末亡くした後、筑豊の住宅で独り芸者をしてひっそりと暮らしていた美保さん。
彼女は少女の頃、「大空小百合」の名前で旅役者をしていた。
寅がその昔、ひいきにした坂東鶴八郎(この第37作では中村菊之丞)一座の花形だったのだ。
座長の坂東鶴八郎は実の父親。その大空小百合ちゃんと9年ぶりに筑豊の寂れた町で再会する。
車先生! 寅さん?
→
あの「車先生」と寅を呼んでいた可愛い娘が、今は「寅さん」と呼ぶ大人の女性になったのである。
かつて熱烈な大空小百合ファン(岡本茉利さんファン)だった私としては、そのキャラの変わり様に
それはないよと、この時ばかりは平気で過去の登場人物をいじってしまう山田監督を恨めしく思った。
私はただの一ファンなので、何をされても文句を言える筋合いではないが、
この大空さゆりちゃんだけは安易に「いじって」ほしくなかった。
寅は彼女と再会してこう言うのである。
寅「失礼だけど座長さんの娘さんかい?」
小百合「はい…」
寅「ということは、もしかして、大空小百合って芸名で、可愛い声で歌歌ってたんじゃねえか?」
小百合「そうですけど…」
寅「それじゃあ、オレのこと覚えてねえかなあ…、
おまえのおとっさんとよくねえ酒なんか飲んだりしたことあるんだよ…」
小百合「寅さん…」
寅「うん、よく思い出したなあおまえ、そうよ、その寅さんよ」
これが「幸福の青い鳥」での運命の再会シーンなのであるが、
やはりここは第8作、第18作、第20作あたりの思い出をもう少し大事に
してほしかった。観客は結構覚えているものである。
もちろんこの映画のファンならあの岡本茉利さん演ずる大空小百合ちゃんは
絶対に忘れられない純真なマドンナの象徴だったはず。
もちろん山田監督は、お名前拝借とばかりに、
人物設定やキャラを少し変えて現代の物語に合うようにしてあるのだろうが、
大空小百合という芸名と昔の雨の日のエピソードがそのままなので、
やはり観客にとっては、決定的にあの大空小百合ちゃんなのである。
だから、あの昔の大空小百合ちゃんがいくら大人になったとしても
恩のある寅のことを「寅さん」なんて絶対に言わない。
必ず彼女は「車先生」と言うはず。
言葉ももっと丁寧である。それは役者をとうにやめた今も同じのはず。
第8作当時、おそらく17、8歳くらいだった。当時もう子供ではない。
第8作で2度、第18作で1度、第20作で1度、しっかり会って、芝居を見物し、
またもや長い時間共に話をしている。
第20作で、最後に寅に出会ってから9年の歳月が流れたことになるが、
その程度で何度も縁があった寅のことを忘れるわけがない。
大空小百合ちゃんはスピードが出ている車の荷台の上からでも、
すぐ寅だと気づく記憶力とカンのいい娘さんなのである。
だいたい9年くらいで、この寅という男は何も変わっちゃいない。
山田監督にしてみれば、さほど細かい事まで観客は覚えていないだろうと、
気楽な気持ちでサブのキャストだった大空小百合ちゃんを使い、
ちょっとアレンジして再会場面を設定されたのかもしれないが、
私たち大空小百合ちゃんファンからしてみれば、ここは、こだわりたいのである。
だから、この「幸福の青い鳥」の再会の場面は、私なら独断と偏見で
こう演出したいところだ。
寅「失礼だけど座長さんの娘さんかい?」
小百合「はい…」
寅「ということは、もしかして…」
小百合、はっと気づいて、
小百合「…先生!車先生!」
寅「うん!大空小百合ちゃんだね…。よく覚えていてくれたな」
小百合「お懐かしいです、先生!」
寅「もうその先生ってのは、やめてくんな、寅さんでいいよ」
小百合「はい、寅…先生」
寅「ハハハ、寅さんだよ」
小百合「はい、寅…さん」
寅「そうよ!」
小百合「はい!」
これなら、観客は懐かしいあの日々を思い出すことが出来るのである。
大空小百合ちゃんとの一期一会の日々は、このシリーズの中で大事にしたい
どこまでも懐かしい思い出である。これは多くの人の偽らざる気持ちであろう。
とは言うものの、
時の流れとはひょっとして
そういうものかもな…と、静かに思いかえしもした。
ちなみに志穂美悦子さんには私は実際にお目にかかったことがある。
学生時代椿山荘でバイトしていた頃、友人の披露宴に来られたのだ。
それは美しい方で、映画で観ているよりもずっと素敵だった。
間に合った美保さん 走る柴又参道
もう誰もいなくなって心が淋しい美保さんは
東京に出てきて寅に一目会って、もう一度話をし、筑豊に帰ろうと
していたのだが、寅やさくらたちの応援で、柴又の中華食堂「上海軒」で働きながら
とらやの2階で生活するようになる。
「寅さん、いつもこうやって大勢でご飯食べるの?」美保さんは嬉しそうである。
彼女はさくらにそっと言う「みんなの待つ家に帰ってくるのは嬉しい…」と。
小さい頃から小学校を50回も転校し、父親が亡くなってからの孤独な人生は
もう辛くてしかたがなかったのだろう。矢も盾もいられなくなりとらやへ来てしまったのだ。
そんな美保さんは、ふとした縁で親しくなった、画家を志す青年健吾に惹かれていく。
しかしお互いすれ違いが重なり、意地を張ってしまう。
健吾はとらやの店で別れの言葉を告げて柴又駅に走り去っていくのだ。
しかし、本当は美保さんも健吾もお互い相思相愛。
この流れはあの第1作「男はつらいよ」のさくらに想いを告げ、立ち去って
行く博の姿に重なるシーンだ。
そして美保さんは、ギリギリで健吾を全力疾走で追いかける。
それは、まるであの第1作で博を追いかけ柴又駅に走るあの日のさくらのようだった。
そのきっかけになったのは寅の言葉とさくらの優しさ。
寅「話は後で聞く、さ、すぐ追っかけて行きな」
美保「でも…」
寅「おまえはあの男が好きだし、あいつはおまえに惚れてるよ。
オレから見りゃよぉくわかるんだ」
そして、さくらは自分の体験を踏まえて真剣な顔でこう言うのである。
さくら「お兄ちゃんのいう通りよ。もしほんとにこのまま別れ別れになったらどうするつもり?」
さくら、はっと気づいて、サイフを取り出し、小銭を美保さんの手のひらに渡し、
さくら「これ、おつり。渡してあげて、…さ、」と美保さんを優しく押し出す。
全力で走っていく美保。
美保さんが行ってしまった後、下を向き淋しい気持ちを隠せない寅。
さくらが美保さんにおつりを渡す時の顔は優しくきらきら輝いてほんと素敵だった。
私はこの時のさくらが大好きである。
私はあのようなさくらを見ては毎回さび付いた垢だらけの心を洗っているのだ。
やはりさくらは人の人生を変える力を持っている。
かつて
出て行った博と走り追いかけるさくらがいた。
そして今、
出て行った健吾と走り追いかける美保さんの姿。
17年の歳月を経てまた柴又駅ホームで新しいふたりのドラマが始まるのである。
博に追いついたさくら 健吾に追いついた美保
悲しい別れのドラマが圧倒的に多いこの柴又駅ホームの物語の中で、数少ない恋の成就
は、あの第1作と、この第37作だけである。やはり感慨は深い。
それにしても美保さんは偉い。寅に会う前に、何度もとらやに電話して寅がいるかどうかを
確かめている。何の連絡もなしに突然訪ねてくる多くのマドンナたちより、よっぽどきちんとしている。
さすがあの礼儀正しく真っ直ぐな気性の坂東鶴八郎(中村菊之丞)座長の娘さん『大空小百合ちゃん』である。
才能の有無に悩みぬく健吾の魂
オレなんかクズなんだよ!才能のひとっかけらもないクズなんだよ!
6度も7度も公募展に落ちてそう叫んでしまう健吾。
彼は自分の才能の有無を疑い、落ち込み、絵を描くことをやめようとさえ思う。
そんな健吾を励ます美保さん。
この若き画家の卵を見るにつけ、いつも自分のことを思ってしまう。
私も自分の才能を常に疑い、時には自信を持ち、時には今もなお、
才能なんてないんじゃないかと恐れている。
私も健吾もみんな絵描きは死ぬまで悩みぬくのである。
それはある意味当たり前である。
クライアントのニーズに答えて描くのでなく、自分の感覚のみを使って好き勝手に描きまくるのであるから
世間の評価やニーズと乖離することは実に頻繁に起こりうるできごとなのである。
一歩間違えば常に世間的にも自分的にも「クズ」になる危険性が待ち構えている。
私など今までの生涯の大半は「クズ」として生きてきた。
それに耐えて耐えぬいて自分を生涯貫くことができるなら、その人は紛れもなく絵描きなのである。
芯の強い優しさと自己を貫く頑固一徹さを持った九州男児健吾と
それらを全て理解できる同じ感覚を持つ筑豊出身の美保さんは、
このシリーズでのまさにダイヤモンドカップルだった。
すでにテレビドラマ『親子ゲーム』で知り合って交際していた二人が、より一層親密になるきっかけになった
映画であることも忘れてはならないのである。
これは第30作の田中裕子さんと沢田研二さんのパターンとほぼ同じである。
志穂美さんはこのあと長渕さんと結婚、芸能界を引退してしまうので
映画としてはなんとこの「幸福の青い鳥」が最後の出演作品。
なにかと批判の多いこの作品だが、
このカップルのその後の進展を考えるとちょっと嬉しい。
■第37作「幸福の青い鳥」全ロケ地解明
全国寅さんロケ地:作品別に整理
それでは『ちょっと長めのダイジェスト版』をどうぞお楽しみください。
松竹富士山
夢のシーン
「幸福の象徴」である青い鳥を追い求めて、
旅を続けている寅やさくらたち。
実は脚本第2稿までは
寅が蒸気機関車の機関士になってお嫁さんをもらい活躍する話だった。
決定稿ではこのモーリス・メーテルリンク作の童話劇「青い鳥」のアレンジ話に落ち着く。
フレデリック・フランソワ・ショパン のピアノソナタ第2番(変ロ短調 作品35)が流れる。
第3楽章
第3楽章に有名な葬送行進曲が用いられていることから
「葬送」または「葬送行進曲つき」の副題でよく知られるピアノソナタ。
寅やさくらたちは『青い鳥』を見つけに、もうかなり長い日々、山深く入り込んでいるが、
どうしても見つからずにいる。
メンバーは寅、さくら、博、源ちゃん、満男。
さくらは半泣きであきらめムードが漂ってきた。博に泣きすがり柴又に帰りたがるさくら。
さくら「考えてみれば幸せを呼ぶ青い鳥なんているわけないわよね、
バカだった私、ウウウ…」
みんなバテバテで憔悴しきっている。
寅「どうしたみんな元気を出せ、もうすぐ青い鳥が見つかるぞ!」
その時、青い鳥がやってきて、寅はついに捕まえることができたのだ。
鳥かごに青白く光るその鳥を入れたその時、
突如、音楽が明るくなる。
エドヴァルド・ハーゲルップ・グリーグ作曲の
組曲ペール・ギュント 第1組曲 作品46 第1曲 朝
が聴こえてくる。
そしてその向こうにはなんと桃源郷が広がっていた。
どうも凄まじく古い桃源郷のイメージ((^^;)
桃源郷に向かう寅に、
電車の車掌さんが追いかけてきて切符を拝見しようとする。
夢と現実がごちゃまぜ(〜〜;)
このような夢のなかに現実が入り込んでくるのは
第5作「望郷篇」の夢でもあった。
あの時は夢のなかのさくらが「お客さん」と言って、宿の女中役の
谷よしのさんにバトンタッチされ、谷さんが「お客さん」と言って寅を起こすのだ。
イッセー尾形さん扮する車掌さんに乗越代を払う寅。
釣りは「ほんの気持だ取っといてくれ」と言ってしつこく迫る寅。
困ったイッセーさん、逃げていくが、それでも執念深く追いかける寅。
ドアの向こうに逃げ込むイッセーさん。
是が非でも開けようとドアを横にひっぱる寅。
笑う乗客。
夢、追う人。
旅、追う人。
のポスター
タイトルイン
男はつらいよ 幸福の青い鳥
山口県 萩市
萩市城址公園の萩時代祭がクライマックスを迎えている。
大勢の人の手で大名行列が繰り広げられている最中。
どうでもいいが、腕時計してる人多すぎ。
それじゃ江戸時代にならないよ〜。
公園横の 平安橋
バイをする寅とポンシュウたち。
寅はスニーカーを売っている。
『若者よ、ソウルをめざせ』
ふれあいを食卓におくる
松月堂パン 坂倉しんみせ
山口県 萩市 平安古町東区の食料品店。
バイが終わってカバンを持って帰ろうとする寅。
カバンが当たって新堀川に落ちかけるポンシュウ。
平安橋は萩城三の丸の3つの総門(北・中・平安古)の一つ、
平安古総門の外堀に架けられた石橋で、萩城三の丸から城下町へ通じる道路でった。
昔は、中ノ総門や北ノ総門前にも橋があったが、現存するのは平安橋だけとなった。
平安古に通じているということから“平安橋”と呼ばれる玄武岩で造られた橋は、
吊り桁、定着桁を備えたゲルバー桁橋の構造を持った無橋脚の珍しい橋。
新堀川沿いを寅とポンシュウが笑いながら
仲良く西へと歩いて行くところでタイトルが終わる。
柴又題経寺 二天門前
上海軒の親父さん(桜井センリさん)が出前をしている。
とらや 台所
さくらがやってくる。
工場の外では工員のトシオが
父親が経営する老舗のクリーニング屋を継ぐかどうか博と相談している。
とらや 台所
相談の後、台所で博はさくらに言う。
博「この工場にしがみついていることが、トシオにとってほんとに幸せかどうか」
そう言うあんたはどうなんだ博。なぜ独立しないんだ??
さくら「トシオさんが辞めても困らないの?」
博「一昨年、オフセットの機械を入れた時点で一人は余剰人員なんだよ。
だから社長としては辞めてほしいところなんだけど、言い出せないんだ。気が弱くて」
さくらしみじみ
さくら「余剰人員ねえ…」
あけみがやってきて急に明るくなったとらや。
寅の話題で盛り上がる。
おいちゃん曰く、余剰人員=寅((^^;)
そこへ電話
あけみが電話に出て
あけみ「キャー!!寅さん!!」
みんなあけみの絶叫に驚いている。
下関の長府 忌宮神社 内の
公衆電話から電話している寅。
電話の向こうで絶叫が聞こえたので、びびって硬直している(^^;)
さくらに代わって
さくら「うん、私、どうしたのよーお兄ちゃん、
一年間もご無沙汰よー、もう顔も忘れちゃったわー、フフフ」
そうそう、この年86年は『キネマの天地』が入っているので
1年の空白が空いたんだったね。
あけみ「私焼き付いている」とおどける。
そうだったねえ〜〜。
前作第36作では寅に大変なお世話になったね、あけみ。
今どこにいる?と聞くさくらに
寅「長州だよ、長州、ん、へへ、そら帰りてえと思うけどよ、
こっから江戸は遠いからなあ、え?恋愛?
冗談言っちゃいけないよおまえ、
こっちは地道に働いてるんだよ。
じゃ、これで切るからな、あばよ」
遙か関門海峡を挟んで九州を望む
下関市 赤間神宮
壇ノ浦の戦いで入水した安徳天皇の遺体は赤間関(下関)・紅石山麓の阿弥陀寺境内に埋葬された。
建久2年(1191年)、勅命により御陵に御影堂が建立され、
建礼門院ゆかりの尼を奉仕させたのが始まりである。以後、勅願寺として崇敬を受けたそうだ。
寅とポンシュウはその赤間神社でバイをしている。
寅は『鳥の笛』を売っている。
今回は2回のバイともにタイトルにちなんで『鳥の笛』
ポンシュウはなんとコンピューター占い。
で、寅もコンピューター占いをやってみる。
ポンシュウ曰く、寅は『寅年』
そして生年月日を記入。
出てきた紙には
『南の方角に素晴らしい出会いが待っている』と書いてあった。
で、とりあえずポンシュウと離れて一人南、つまり九州に上陸する寅だった。
門司の桟橋
テキ屋仲間のキュウシュウと出会う。
寅「おい、キュウシュウ!」
キュウシュウ「なんなー、寅あにいじゃなかねえ!珍しかねえ、どこへ行くと」
寅「九州よ」
キュウシュウ「そらここが九州たい、フフフ」
寅「おまえらどこ行くんだ?」
キュウシュウ「本州よ、フフフ」
なんちゅう会話だ(^^;)
寅「ほー、オレとお前はお風呂のおならだ」
キュウシュウ「なんな??」
寅「前と後ろに泣き(鳴き)別れ、フフフ」
キュウシュウたち「ハハハ!!」と爆笑。
すっ。。。とお互い別れる。
玄人衆はこのへんの立ち去り方が実に清々しい。
ぐずぐず立ち話などしないのだ。
山田監督はこういう演出が実に上手い。
福岡 JR勝野駅そば 遠賀川上流にかかる沈下橋。
増水時にはもぐってしまう橋。
黒田節のアレンジバージョンがコミカルに流れる。
寅が渡ろうとしたら、馬が向こうからやって来て、タジタジ戻る寅。
公開前の宣伝スチールではこの橋の袂で健吾と出会っているシーンがある。
当初はそういう設定なのかな。
と、いうことは、長渕さん、この橋までロケに来たのかな?
飯塚の町に入って来る寅。
「嘉穂劇場」の宣伝車が走っていく。
寅が行く向こうに飯塚のボタ山が見える。
旧穂波町平恒にある住友忠隈炭鉱のボタ山
ボタとは、簡単に言えば石炭の残りかすのこと。
これを山のように積み上げていったものをボタ山と言う。
嘉穂劇場(かほげきじょう)
福岡県飯塚市にある古い形の劇場。
木造二階建て、入母屋造りで間口15間(27b)、奥行き23間(42b)、定員1,400人、
マス席は一箱6人詰めの席が70余、
桟敷は一階が三段、二階が二段、向こう桟敷は四段。
廻り舞台は直径が約16bもある大きなもの。奈落もある。
建物自体も国の登録有形文化財。
特定非営利活動法人によって運営されている。
初代理事長は伊藤栄子。2代目理事長(現職)は伊藤英昭。
1931年(昭和6年)、当時の嘉穂郡飯塚町で伊藤隆により設置される。
前身は1921年(大正10年)に大阪・中座を模して建てられた木造3階建ての「株式会社中座」
1928年(昭和3年)に焼失し、翌年に再建されるも1930年(昭和5年)の台風で倒壊。
観客は当時筑豊地域の中心産業であった石炭炭鉱の労働者とその家族が中心。
大衆演劇や有名歌手の公演などで賑わった。
しかし石炭産業の衰退もあって、1962年(昭和37年)には延べ266日であった公演数は、
1970年代には10〜15日に落ち込む。
しかし、1979年(昭和54年)から毎年9月に九州演劇協会による「全国座長大会」が開催されるようになり復活。
2003年(平成15年)7月19日の大雨により、 劇場は全て浸水したことは記憶に新しい。
ほとんど全てが使用不能になる被害を受ける。
九州演劇協会会長・玄海竜二より連絡を受けた津川雅彦らが芸能人仲間に呼びかけ、
中村玉緒、明石家さんま、中村勘九郎(現・18代中村勘三郎)ら大物が駆け付けた復旧チャリティイベントが行われ、
イベントに先立ち飯塚市中心商店街で「お練り」も行われた。
このイベントでは、田村正和や木村拓哉らの私物がチャリティオークションにかけられ、
東京でも滅多に無い豪華なイベントとして話題となった。
上記水害の後、約1年かけて復旧工事が行われ、
翌年9月に復興し、開場より伊藤家の家族経営により営業を続けてきた唯一の民営の芝居小屋であったが、
復旧に際して公的資金の支援を受ける必要があったことから、
特定非営利活動法人(NPO)化された。
現在は養子の伊藤英昭夫妻が中心となって運営にあたっている。
嘉穂劇場を見て懐かしがる寅。
浅香布美代ショーが86年の10月16日(日)に行われたようだ。
嘉穂劇場の中に入っていくと、
そこは昭和の歴史を全て物語っているような独特の世界が広がっていた。
すまけいさん扮する裏方のおじさんが
座布団をゆっくり片付けている。
寅「炭鉱が盛んだった頃、オレもよくここへ来たもんだよ。
そのころはこの中人がびっしりでな、大変な景気だった…」
と、感慨深げに劇場内を見渡している。
おじさん「あんころはなあ…」
寅「あー、そうだ、オレは前この小屋で
東京の歌舞伎を観たことあったっけなあ。
高麗屋。あら、いつだったっけ?」
おじさん「昭和38年3月10日」
今の松本幸四郎さんのお父さんの代だねえ、きっと。
寅「はあー、好きだねえ、フフフ。
勧進帳、よかったなあー」
高麗屋の屋号を持つのはご存知、
代々の松本幸四郎一家。定紋は四つ花菱。
寅は、「おじさん、おじさん」と声で呼びかけながら
花道の縁にしゃがんで、
雪駄をつかんで『勧進帳』弁慶の幕切れ、
『飛び六方』の場面での
見事なセッタの『ツケ打ち』をうち鳴らす。
それに応えるように、
クライマックスの『飛び六方』を演じるおじさん。
寅「よお!」バタッ!!
寅「とお!!」バタッ!!
おじさん、弁慶になりきって見得を切っていく。
六方を踏み始める。
足で タン!!
寅、雪駄を打ち鳴らし続ける。
バタッ!!
タタ!!タタ!!タタ!!タタ!!
タタタタタタタタタタ!!!
おじさん、ダイナミックに六方を踏んで
花道をこちらに迫ってくる。
寅「いやあ!!」タタ!!
大見得が完全に決まり、
目をひんむいて、型を維持するおじさん
寅「ちょーおおおあ!!
高麗屋!!!」
寅大喜びで
寅「ひゃあ、キャハハハハ」と大きく拍手
寅「上手いねえ!!」
おじさん「へへ」
寅「おじさん、元役者やってたんじゃないかい?」
おじさんテレながら謙遜。
寅「やってたんだよー、ハハハハ」
おじさん「フフフ、わかるー、フフフ」
六方は身体全体を大きく動かして様式的に美しく歩いて見せる演技を言う。
飛び六方は、宙を飛ぶようにして踏む六方のこと。『六方を踏む』と言う。
感情の高まりなどを表現するために、
演技の途中で一瞬ポーズをつくって静止することを『見得』と言う。
いろんなことわざの語源になっていることは周知のこと。
特に今回のような 「荒事(あらごと)」の役では、より効果的に見せるために、
直前に大きく首を振ったり、足を大きく踏み出したり、手を大きく広げたりする動作を行う。
多くの場合、「見得」の瞬間には「バッタリ」という「ツケ」が打たれる。
寅が打ったのもその『ツケ』
おじさんが寅のツケにあわせて最後に六方を踏むが、
これらは「幕切(まくぎれ)」の「大見得(おおみえ)」と言う。
「ツケ」が細かく打たれた後に、大きく打ち上げられて、
主役を中心にして主だった人物が同時に「見得」をするため、
「打上げの見得(うちあげのみえ)」ともいわれる。
すっかり、気分がよくなった寅は、そのおじさんから
昔贔屓にしていた中村菊之丞のことを尋ねる。
寅「確か筑豊の出だって聞いたんだけどな」
おじさん「知っとお。直方(のうがた)の生まれたい」
寅「あ、そうかい、で、今その座長どうしてる?」
おじさん「死んだ」
寅「…、いつ?」
おじさん「今年夏」
寅「死んだのか…」
おじさん「葬式に人の集まらんでほんに寂しかった〜…」
このおじさんは参列したんだね。
こうして寅は、線香をあげようと座長の家を訪ねる。
この座長の名は「中村菊之丞」となっているが
あの第8作、第18作、第20作、第24作で
登場した『坂東鶴八郎一座』のことだろう。
田川近く 炭鉱住宅
福岡県宮若市宮田鶴田 貝島大之浦炭鉱住宅
炭坑節が寂しく流れる。
かなりの家が廃墟になっている。
わずかにまだ住んでいる家がちらほら残っている感じ。
座長の家を探している寅。
現在のほぼ同じ場所↓
寅はそこでバイクに乗って買い物から戻ってきた座長の娘美保に出会う。
彼女はずいぶんスポーティな雰囲気。
ヘルメットを脱いで、怪訝な顔で寅を見る美保。
美保「なんか用事?」
監督さん、やっぱり大空小百合ちゃんはこういう言い方はしないよ。
寅「失礼だけど、座長さんの娘さんかい?」
美保「はい」
寅「ということはもしかして『大空小百合』っていう芸名で、
かわいい声で歌歌ってったんじゃねえか?」
こうして再現を書いていると
このエピソードはやはり使っちゃいけなかったって思う。
こういうのは大事にしなくちゃ。
この時点で監督やスタッフだけの大空小百合ちゃんでなく、
観客の心のなかに棲みついているわけだからね。
美保、微妙に怖がって
美保「そうですけど…」
寅、にこにこ顔で
寅「そうかい、それじゃオレのこと覚えてねえかなあ…。
おまえのおとっさんとねよく酒なんか飲んだりしたことがあるんだよ。
ううん、フフフ」
美保、ちょっと思い出した顔で
美保「寅さん…」
寅「うん」
美保表情が柔らかくなっていく。
寅「よく思い出したな、おい」
美保「…」目が輝いてくる。
寅「そうよー、その寅さんよー、へへ」
寅「それにしても、ずいぶん大きくなったなあ…、ええ」
照れる美保さん。
寅が最後に会ったのは第20作のラスト。
(第24作はマイケルだけが会っている)
あの第20作時点でどう考えても大空小百合ちゃんは
二十歳は超えていたと思う。
だからもう彼女は本当は大きくなりようがない。
だから別人だと思えばいいのだが、
大空小百合という名前を使われてしまったからには
ファンたちはそう割り切れるものでもないのである。
美保の家
仏壇に参る寅。
美保さんの口から『仏ほっとけ』ギャグが出る。
古い時代の父親に育てられたので覚えたんだね。
もう何度も出てきたこのギャグを
若い女性の口から発せられるのはなんだかおかしい。
第8作の最初の出会い、あの雨の日に小百合ちゃんに宿まで送ってもらっった
思い出などを話す寅。
第8作では四国という設定だったが、あれは実は神奈川の三浦半島でのロケだった。
そのことを利用して『伊豆の下田』で出会ったという楽屋落ちにすり変わっていた。
父親が病気になってから長引いてしまって
看病でかなり疲れて精神的に参って早く死んで欲しいとまで思ってしまったようだった。
そんなことを聞いて寅は
寅「苦労したんだなあ…、あんたも」と優しく言ってやるのだった」
美保「疲れました…正直言うて…」
さっき寅に美保に家を教えてくれたおばさんが
りんご持ってきた。
あ、このおばさん役者さんなんだね。大船でも出演しているんだ。
地元のエキストラさんと勘違いした(^^;)
おばさんの前掛け『源氏 力正宗』
「源氏焼酎」は静岡県大仁町(現・伊豆の国市)で東洋醸造が作っていた焼酎の銘柄。
「力正宗」は姉妹品の合成酒。同社は平成4(1992)年に旭化成さんと合併。
旭化成は平成14(2002)年、低アルコール事業をアサヒビールに譲渡。
「源氏」はアサヒビールの甲類焼酎・ホワイトリカーのブランドとして現存している。
その後、美保がコンパニオン(芸者さんのようなもの)としてよく出向く旅館「かどや」を
紹介され、そこへ一晩泊まる寅だった。
田川の旅館 かどや
着物姿の美保が団体客相手に『炭坑節』を歌って踊っている。
それを別の部屋(竹の間)から聴いている寅。
同じコンパニオン仲間に全作品であけみを雇っていた下田のママが出てくる。
彼女は田中利花さん。
この作品のロケの地元福岡の出身。
だから福岡方言はネイティブ。
彼女はかなりの作品に出演。チョイ役の常連さん。
田中利花さんは当時は田中リカさんと名乗っていた。
1980年「ヘアー」(ディオンヌ役)で舞台活動を開始。
映画俳優からミュージカルまで幅広く活動中。
個性的な雰囲気と、コミカルなキャラクターに定評がある。
また、舞台と並行してシンガーとしても音楽活動も行っている。
翌朝 田川を出る寅。
田川 井田(いた)駅
美保さんがバイクで駆けつける。
香典返しを持ってきたのだ。
若いのに義理堅い。
ホームから三井田川炭鉱の竪坑櫓と2本の煉瓦煙突が駅から見える。
ホームに駆け上がって香典返しを渡す美保さん。
美保のテーマが流れる
美保「どこ行くと?これから」
寅「そうだなあ…まあ、風に吹かれてフラフラと東京の方へ向かうか」
寅、あんた九州でバイしたのかい?(((^^;)
美保「東京ね」
寅「うん、フフ」
美保「あ、ウチもついていきたか、このまま汽車に乗って…」
寅「何かオレにできることあるかい?」
寅を見る美保。
寅「と言っても、たいしたことできねえけどよ。
欲しいものねえのか?」
美保「そうやねえ…。青い鳥」
例のメーテルリンクの童話のこと。
寅「鳥??」
寅は不思議に思いながらも、バイネタの残りの鳥の笛を
カバンから出して美保さんにやる。
なんでカバンにそんな売れ残り物ものを…(^^;)
美保さんは吹いてみて
美保「嬉しか、フフフ」
日田彦山線の田川井田折り返し、
筑豊線経由小倉行が入ってくる。
まがりかね駅
ほしい駅
美保「気いつけて帰って」
寅「…、もしな、姉ちゃん東京へ出てくるようなことがあったら、
葛飾柴又、帝釈天のとらやという店へ寄りな。
もしオレがいなくてもオレの身内がきっとおまえのことを親切にしてくれるから」
美保「うん」と心を込めて頷く。
ああこの優しい言葉を歌子ちゃん、花子、すみれちゃんをはじめ、
寅はどれだけのマドンナたちに伝えてきたことか…。
そのたびにとらやの面々は彼女たちの世話を焼き、それはもう大変だった。
寅「な」
頷く美保。
寅「幸せになるんだぞ」
ドアが閉まる。
汽車が出て行く。
寅をいつまでも見送る美保。
誰もいなくなったホームで笛を吹く美保。
柴又 江戸川土手
ガールフレンドチャコちゃんから満男に来た手紙を読んでアドバイスしているあけみ。
手紙の内容↓
ハーイ ミツオ君 のってる?。
いつも元気いっぱいのチャコでーす。
こないだのバスケの試合に満男君が来てくれて
もう感激!
でも舞い上がっちゃってシュート3回もはずしちゃって
チャコはずかし!
来週の日曜、3中と試合があるの。
ミツオ君ぜったいぜったい来てね!
今度こそ、ロングシュートぜったい決めてみせるから!
中略
じゃあまたね
チャコより
ああ。。。なんという手紙(^^;)
自転車乗ったさくらに見つかるがなんとか話題を変えてごまかす二人だった。
柴又 とらや 店
さくらが店にやってくると
工場のトシオの父親がトシオを待っている。
おばちゃんがさくらのことを
「諏訪の家内でございます」と紹介。
こういう「諏訪の家内」という紹介をされたのは
このシリーズでこのシーンのみ。
なかなか新鮮な感覚になるから不思議。
どうやら故郷のクリーニング店を継ぐことになった気配。
トシオ共々もう一度煮詰めた話をしあうようだ。
タコ社長はトシオの退職金のことで悩んでいる。
どこまでもどこまでも蟻地獄のように
現実のドロドロから逃れられない社長だった(TT)
おいちゃん曰く「不意景気な男だなまったく」ほんと(^^;)
この調子じゃ第32作で博が投資したオフセット購入代金、
いったいいつ戻せるんだろうね。無理かも…。
そんな時寅からの絵葉書が届く
『 拝啓
とらやのみなさま、お幸せですか。
長の御無沙汰しておりますが
近々柴又に舞い戻りますゆえ
よろしくお願いします。
車寅次郎 』
これはあきらかに美保さんが連絡してきた時の
準備だと見ていいだろう。
こいうところは寅って実にマメだ。
東京都葛飾区東『新小岩駅』南口
映画と同じ場所の現在。↓
南口から南西へ向かう路地入口。
新小岩1丁目43番地
昔はパチンコ屋があった場所がゲーム&漫画喫茶になっていた。
『時宝堂』はもうそこにはなかった…。
韓国料理の店が集まっている歓楽街。
新小岩南口 『一番街』
美保はなんと早くも東京にやって来ている。
田川ではよほど閉塞感があったんだね。
まるで歌子ちゃんだ。
食堂でラーメンを食べていた様子。
食堂からとらやに電話する美保さん。
もちろん寅はいない。
食堂に忘れ物をしそうになった美保さんに店の中にいた健吾が声をかける。
慣れない土地で知り合いもいなくて緊張し、美保さんは疲れがピークに達している。
ここが最初の出会い。
駅近くを新小岩駅バスが通っていく。
電柱に『杉山医院』 新小岩の南にある病院
南口から北口へ渡るガード下でチンピラに絡まれそうになっているところを
またもや自転車で通りかかった健吾に助けられる。
ステーキレストランうちだ 03-(897 現在は3697)-0147
かなり体調が悪い美保さんは、勧められるままにこわごわ健吾の部屋へ。
そこは「創美社」という看板屋の2階部屋だった。
実際に創美社というのは新小岩の駅から荒川を渡って徒歩20分くらいの
場所に存在する
新小岩駅から北西へ歩いて20分ほど
中川沿い 平和橋のたもと。
葛飾区四つ木2丁目5番地
創美社 2階 屋根裏部屋
どうやら健吾は画家を目指しながら、看板屋で働いている様子だった。
しかし看板屋で働いている&絵の具代をけちっているので
絵が微妙に薄っぺらくなってしまっている悲しい健吾(TT)
健吾は美保が筑豊の出だと聞いて親近感を抱く。
健吾は鹿児島なのだ。
健吾「九州か…、帰ってねえなあ…」
まあ、下心は当然あるにせよ(^^;)
なんだかんだと言いながら、美保に優しくしてくれる健吾だった。
ライトを付けて自分の描いた絵を見て嘆いている健吾。
創美社 2階 健吾の部屋
翌昼
『お世話になりました 美保』と書いてとりあえず部屋を出て行く美保さん。
この『新小岩駅前』や『創美社』の場所がわかるまでの軌跡は、
私のサイトに載っています。↓
http://www.yoshikawatakaaki.com/lang-jap/torajironahibi.htm#439
かつて『創美社』ロケがあったところの現在。
柴又 江戸川土手
そんな時、寅が柴又に舞い戻ってくる。
柴又 とらや 店
満男がガールフレンドたちととらやの前を歩いていく。
女の子たちの履いている靴がロケでは黒の革靴だったのが、
大船セットでは白いスニーカー。
これはミスですね(^^;)
で、寅はとらやに帰ってきたが…。
妙に沈んでいる。
みんなで心配するが寅は首をふるだけ。
たった一言
寅「青い鳥を探し求めてな…」
あ〜あ‥、あんな若い子に惚れちゃったんだね。
自分の年そろそろ考えろって(ーー;)
おばちゃんから昨日から2回も女性から電話があったと聞くやいなや
急にテーブルを叩いて
寅「なんでそんなことを早く言わないんだよ!!」
みんな唖然。
寅「誰だ!誰からだ!名前はなんて言うんだよ!」
寅はあせり怒り心頭でわめきまくり、
寅「あ、オレがいないからもっとひどいこと言いやがったな。
『あのバカは二度とここへ帰って来ないよ、
電話なんかしないでおくれ』
ガチャン!プツン、」
おばちゃん「そんなこと、私が言うわけないでしょバカ!」と怒る。
バンバンおばちゃんに悪態をつく寅。
あげくにおいちゃんに出て行けと言われ
寅「それを言っちゃおしいめえよ」と、捨てぜりふを吐いて出て行く。
なぜか自分のカバンでなく、満男のカバンを持っていく バカ…(((^^;)
その刹那。
お約束のパターン(^^)
美保さんがとらやにやって来る。
寅気づかずに
寅「いらっしゃい、お客さんだぞ!」と出ていこうとするが
ふと立ち止まり、振り返り
美保さんを見る。
美保のテーマが流れる
寅「おまえ!」
美保さん、ようやく会えてほっとした表情で
美保「寅さん」
さくらたち驚きのあまりよろける。
おいちゃん尻もち(^^;)
寅「来たのかー」
美保「よかった会えてー」
ほんとほんと無茶だよ、いきなり会いに来るのはは(^^;)
寅「ちょうど今な、おいちゃんおばちゃんと
お前の話してたんだよー。おいでおいでおいで」
と、美保さんの手をとって店に再び入ってくる。
このようにとらやを出て行く刹那、マドンナに再会し、
上機嫌で舞い戻るってパターンは
このシリーズの最も代表的なギャグで、
枚挙に暇がないほど多くの作品で採用されている。
寅はそれぞれメンバーを美保さんに紹介
寅「ひとの悪口なんか絶対言わない、みんないい人でしょう」
と、180度態度人格破綻者のごとく意見を変えて上機嫌 ε-(ーдー;)
美保さんお辞儀をして
美保「はじめまして美保といいます」
さくら「あー、あなたが電話くださった方?」
美保「なんべんもすいません」
いえいえ、突然押しかける泉ちゃんや泉ママ、歌子ちゃんたちよりまとも。
事前にアポとるのはとてもまっとうな行動です。
どうやら、一週間ほど前に東京に出てきて独力で
仕事を探していたらしいが、なかなか見つからない様子。
それで寅を頼って来たわけだ。
寅は、美保さんを二階に住まわせて欲しいといきなりおいちゃんに頼む。
寅「あ、当分使わせてもらおうか、おいちゃんいいかな?」
おいちゃん「いいとも」 テレビ番組の見すぎ(((〜〜;)
なんだかんだとはしゃぐ寅を、やれやれと半ば呆れて
いつものように受身で承諾していくとらやの面々(TT)
とらや 茶の間
みんなが集まるとらや。
小学校を50回も変った美保さんに驚く面々。
みんなで美保さんの就職を考えるが、なかなかいい考えが浮かばない。
そこへ、上海軒のおやじさんが出前でやって来て、従業員を探していることを告げる。
美保さんは中華料理屋で働いていた経験があるので一発承諾。
あっという間に上海軒で働くことに決定!。
というわけで、なんともあっけなく就職も決まったのでみんなで乾杯。
テーブルが狭いせいか。満男だけ台所で食事(TT)
詰めりゃなんとかみんなで座れるんだけどなあ…。
こういう感覚私にはわかりません。
カメラ(撮影)や構図の都合なんだろうけど…。
いきなりこんなにお世話になり感激した美保さんは
深々とお辞儀をし、あらためてしみじみお礼を言うのだった。
ほんと、ちょっと寅が立ち寄って仏壇に手を合わせただけの縁だからねえ…。
美保「みなさん…、どうもありがとう。
私はほんとは、寅さんが生まれた家を見たら
すぐ九州帰ろうと思とったんです」
寅が生まれたのはお菊さんが当時住んでいた借家だと思うが、
美保さんはそんな事情知らない。
まあ固いことは言わないで進みましょう。
美保のテーマが静かに流れる
美保「それがこんなことになるなんて…、
ほんとに夢のごと…ほんとに夢のごと」と泣いてしまう。
美保「寅さん…、来てよかった…」
なんども頷く寅。
数日後 柴又駅前 上海軒
さっそく、数日後に上海軒で勤めはじめる美保さん。
豚骨味のラーメンも作れる腕前なので主人も奥さんも大満足。
そこへ備後屋たちが食べにやってきて…。
美保さん(寅の恋人という認識)を見て大騒ぎ。
「抱かれたくない男N0・1」の出川哲朗さんも
この時参道を宣伝カーのように声を出してかけめぐっていた。
「寅さんの恋人が上海軒に!」
と、みんなはしゃぎまくる。
出川哲朗さんは第37作、38作、第39作、第40作、第41作と5作品連続出演。
第37作では
「ニュースだ!ニュース!上海軒に寅さんの恋人がいるぞ〜!」のセリフあり。
またこのころ「キネマの天地」にもチョイ役で出演。
露出が最も高かったのは第39作で秀吉の出発のシーン。かなり長い間出ていた。
全ての作品で鉢巻しているから分かりやすい。当時はまだ痩せていた(^^;)
それを聞いた源ちゃんも、店々に吹聴。
勢い余って寅のいるとらやにも入ってくる源ちゃんだった。
源ちゃん「兄貴、寅の恋人がな…はっ!。。。まちごうた」
と口を抑える源ちゃん バカ(^^;)
ムッとする寅。
おかげで上海軒は長蛇の列。「そば」もすぐ売り切れ。
その夜 とらや 茶の間
寅はみんなを集めて、『誤解のないように』と、言って
寅「あの子にたいして一点のやましさもない」と断言。嘘八百(ーー)
結婚相手を探してやりたいと話が早い。
で、みんなに相手を相談。
いきなり結婚話だもんなあ…
みんなは近所の青年たちをそれぞれ薦めるが
寅は、そういう手近ですませてしまおうという
『イージーな物の考え方』はやめろと嫌がる。
寅は結構英語を使う。いつ覚えたんだ??(^^;)
寅は寿司職人と結婚させたいと思っている。
寅の寿司の『好物』がこのアリアでわかる。
寅「オレな、その二人に店出させるよ」みんな呆れて笑う。
寅「もちろん間口二間のちーさな店だ。でも、ネタはとびきり上等。
女将は美人で愛想がいい。
こりゃ繁盛するよ、おばちゃん、フフフ」
おばちゃん「もちろんだよー、フフフ」
寅「旅からの帰りにちょっと店に顔を出すか。
『あら、寅さんお帰りなさい。さささ、どうぞ』」
メインテーマがクラリネットでしっとりと流れる。
寅「 オレは奥の椅子にスッと座るな。
温かいお手拭き、酒、黙っていてもオレの好きなものがスッと出る。
うに、いくら、海老のおどり。気分がいいからオレはついつい酒が過ぎてしまう。
『あら、いけないわ、これ以上飲ませたらさくらさんに叱られてしまう』」
寅の好きな寿司ネタ決定。
うに いくら えびのおどり
みんなクスクス笑っている。
寅「『そうか、それじゃおあいそ』
『とんでもない、寅さんからそんなものはいただけません』」
みんな、クスクス。
寅「あの子に抱かれるようにして表に出る。
あー、夜空いっぱいの星だ」
この「夜空いっぱいの星だ」は第18作でのアリアのアレンジ。
寅「『おまえ今は幸せかい?』『寅さんのおかげで』『でも』『でも?』
『あの人真面目一方で冗談が通じないの』」
そこでオレは優しく諭してやるなあ。
『いいか、人間誰しも欠点というものがあるんだよ、わかるね』
『わかるね』『はい』」
しかしだんだんエスカレートしてきて…。
寅「やがて十月十日、玉のような赤ちゃんが生まれる『オギャー!』
おいちゃんいよいよ呆れている。
『こんにちは赤ちゃん』のBGM
寅構わずに
寅「博、オレ名付け親、フフ、どんな名前がいい?」
博「太郎でも次郎でもいいんじゃないですか」
寅「あ、太郎か、ああー、案外そういう平凡な名前がいいかもしれねえな」
さすがに寅もこのままどこまでもしゃべれないのでお開きになる。
寅、二階荷物部屋に上がる直前、立ち止まり、にさくらに
寅「父親の名前はさ、寅次郎だから…はっ…」
みんな顔色が変わる。
寅「あ…ハハ…オレの子供じゃなかった、フフフ
あーこりゃ恥ずかしいこと言っちゃった。。。フフフ」
と照れて二階(荷物部屋)へ上がっていく寅だった」
博「惚れてるのとほとんど紙一重だな…」
ちゃうちゃう、きちんと寅はしっかり惚れてるんですヾ(^^;)
寅はご機嫌で
二階から『こんにちは赤ちゃん』を口ずさむ歌声が聴こえてくる。
寅の声「♪こんにちは赤ちゃん。
わたーしーがーママよー。パパパパパパパパパパン」
これは、梓みちよさんが昭和38年に歌って100万枚売り上げた歌。
こんにちは赤ちゃん」
作詞:永六輔
作詞:中村八大
こんにちは赤ちゃん
あなたの笑顔
こんにちは赤ちゃん あなたの泣き声
その小さな手 つぶらな瞳
はじめまして わたしがママよ
こんにちは赤ちゃん あなたの生命
こんにちは赤ちゃん
あなたの未来に
この幸せが パパの希望(のぞみ)よ
はじめまして わたしがママよ
ふたりだけの 愛のしるし
すこやかに美しく
育てといのる
こんにちは赤ちゃん お願いがあるの
こんにちは赤ちゃん ときどきはパパと
ほらふたりだけの
静かな夜を
つくってほしいの おやすみなさい
おねがい赤ちゃん
おやすみ赤ちゃん わたしがママよ
その後、美保さんが仕事から戻ってきて、みんながいる家に戻ることの
幸せをさくらに吐露するのだった。
一方その頃健吾は
創美社から公募展に絵を出品するべく100号Fの絵を運んでいた。
創美社の社長はまただめじゃないかと心配している。
上野公園内 都立美術館
第22回東陽展 86 11月25日ー12月1日
意気揚々と搬入する健吾。
ほんとうはこの手の公募展というのは大きな絵を複数出品しないと、力を信用してくれないのが常。
健吾は内容が抽象系なので1枚出品ではなかなか厳しいかもしれない。
寅は美保のいる上海軒に顔を出す。
美保はちょうどお昼ごはんを食べている。
店内からはBGM
長渕剛の『俺たちのキャスティングミス』が流れている。
♪Far Away Far Away From me
俺たちのキャスティング ミス
Far Away Far Away From me
電話はかけないで
俺たちのキャスティングミス
長渕剛
作詞作曲 長渕剛
お前は身を起こして もつれた髪を
二.三度静かに振り動かした
額際から二つに別れた黒髪を
肩に流して微笑んだ
Dance Dance Dance Again
凍りついた俺の白いベッドで
俺はお前ののど元に口唇を這わせ
お前は俺の胸に指を熱く這わせたけれど
♪Far Away Far Away From me
俺たちのキャスティング ミス
Far Away Far Away From me
電話はかけないで
俺たちが描いていた一夜のドラマが
砂丘の砂の中 うもれてゆく
お前の気の病いと透きとおるほどの静脈が
俺の魂狂わせた
Dance Dance Dance Again
悲惨なほどに 心焦がした現実で
青く痛んだLove Story 最後の(セリフ)を吐いた
「たのむから私と一緒に呼吸をしてくれる?」
♪Far Away Far Away From me
俺たちのキャスティング ミス
Far Away Far Away From me
電話はかけないで
美保さんは初めて出る給料で寅にプレゼントしたいと提案するが
寅ははぐらかして
寅「まあせっかくそう言ってくれるんだ。
青い鳥でも買ってもらおうか、へへへ」
美保さんは出前もしていると知って寅は手伝ってやろうと思う。
一方、とらやでは
とらや 店
ヨシオがいよいよお父さんの店を継ぐことになり、
涙を浮かべながら出ていくのだった。
中村くんと博は見送りに行ったのだがゆかりちゃんだけは涙を流している。
どうやらヨシオはゆかりちゃんに好意をもっていたらしい。
でも、ゆかりちゃんには別に恋人がいたようなのだ。
複雑な思いで工場に駆けていくゆかりちゃんだった。
おいちゃん「そういうロマンスがあったのか…」としみじみ。
おばちゃん「ほんとね」
そこへ、なんと上海軒の制服着て、長靴はいて、のっしのっしと
出前を運んでいる姿が店の前に現れたではないか。
悠然と通り過ぎていく寅。
おばちゃん「あら!!」
おいちゃん「!!!」
おばちゃん切れまくって
おばちゃん「あの男一度だってうちの団子配達したことあるかい!!?」
おいちゃん「頭痛くなってきたよ、オレは」
と、フラフラになって茶の間に戻っていく。
おばちゃん「もう!!」と怒り心頭。
さくらの家
さくらが言うには、あの後おいちゃんとおばちゃんにさんざん叱られて、
明日から心入れ替えて美保さんのお婿さんを真面目に探すことになったらしい。
サントリー角瓶
一方
何日か経って健吾は公募展に今年も落選してしまったようだ(TT)
健吾を慰めようと健吾がいつもいる公園にでかける美保さん。
創美社から中川沿いに上流に少し行った公園
葛飾区東立石1丁目22番地
ハーモニカを吹いている健吾。
美保さん近づいてきて
美保「この間はどうもありがとう」
と病気を看病してくれたお礼を言い、近況を伝える美保さん。
しかし展覧会に落選してしまったことで自分のことをクズだと言ってしまう健吾。
健吾「オレなんかクズなんだよ、才能の一かけらもないクズなんだよ」
美保のテーマが流れる
現在の公園
美保「クズねえ…」
美保さん昔を思い出すように
美保「うちもよう言われたわ。おまえなんかクズだって…。
『おまえごたバカは悩むことを知らんとじゃ』
フフ…よく父親にね」
健吾「親父、何やってんだ」
美保「もう死んでしもうたけど、旅役者の座長だったの」
健吾「ということは、あれ?舞台立ってたの?」
美保「うん。フフフ、こんなちっちゃい時からね。
『とと様の名前は阿波の十郎兵衛と申します〜、フフ…って』
歌も歌ったのよ『♪りんご〜の花びらがァ〜〜』フフフ、
私、トンボもきれるとよ。
不景気の時はヘルスセンターでストリップみたいなことまでやらされたとよ。
フフフ、恥ずかしかったー」
ストリップショウの真似しておどける健吾。
健吾「♪タンタカタンタンタンタンター、♪
タンタカタンタンタンタンター、
お客さんお客さん、
踊り子さんのお肌には触れないようにお願いします」おいおいヾ(^^;)
美保「やっとらんてそんなことフフフ」
健吾「またー、やったんだろ」
美保「フフフ」
ちょっと心がほんわかしてくる健吾だった。
一方寅は源ちゃんを引き連れて
葛飾区役所に結婚相談をしに行くのだった。
葛飾区役所
入り口のドアのとこで超べたな『あなたの声をお聞かせください』
ギャグを2人してかまして「わー〜」って箱に向かってささやいていた。
これは超古典とも言えるギャグ。変に懐かしかった(^^;)
【区民相談コーナー.結婚相談室】を紹介される寅と源ちゃん。
婚姻届が無料だとわかると5枚ももらってしまう怪しい奴らだった((((^^;)
受付のお姉さんクスクス。
で、笹野高史さん演じる近藤相談員
寅は美保さんについて相談に来たのだが、いつのまにか
自分の好みのタイプをペラペラしゃべりだす(^^;)
寅「オレなんかどっちかっていうと静かな女がいいねえ。
オレこう見えてもね、おしゃべりなんだよ。だからね、
相手の女もおしゃべりだとさ、こりゃ一日ピーピーピーピー
しゃっべたたら家の中うるさいしなあ、近所迷惑だから、フフフ、
年の頃なら三十五六から四十だなあ‥。うん、
器量なんかなんだっていいよ、と言いたいところだけど、
これは毎日見るものだから、ねえ。
丸ぽちゃが好きなんだよ。
朝なんかぱっと目がさめるだろ、で、にっこり笑って、フフ」
源ちゃん「八重歯八重歯、フフ」
寅「お前知ってるなねえ!フフフ!」
この発言により、
渥美さんが第32作の朋子さんが趣味なことがバレる(^^)
挙句の果てはお土産を受け取れ、受け取らないで、大げんか(((^^;)
近藤さん、。ついに部屋から逃げてしまった。
一方美保さんと健吾は創美社の部屋に戻って健吾の絵を見ている。
創美社 2階 健吾の部屋
ジャコメッティの彫刻のポスターとイタリア名作デッサン展のポスター。
特にあのイタリア名作デッサン展の方は名品が揃うウフィツィ美術館所蔵だったので
20数年経った今でも覚えているくらい
感動した。確かブリジストン美術館で開催したものだったと思う。
鹿児島で絵の才能をみんなに認められて大学や公募展に失敗、
ずっとこのかた今日まで多くの挫折感を味わっているのだ。
そんなことをぽつぽつ美保さんに話す健吾。
ひとりになりたくなくて、さみしくて、辛くて
美保さんを抱こうとする健吾に
やけにならないで欲しいと訴え、
涙を浮かべながら帰っていく美保さん。
美保のテーマが悲しく流れる。
柴又 題経寺 境内
御前様の誕生日に町衆が祝いの纏を舞っている。
とらやの面々御前様に挨拶。
とらや 店
寅はこの前の反省から店番し、後片付けしている。
題経寺から帰ってきたさくらは、
寅のあまりにも下手なその仕事っぷりに笑っている。
慣れない手つきで店番して、皿を片付けている寅。
そんな時、健吾が参道を美保を探してうろうろキョロキョロし、
とらやにふらっと入って来る。
とりあえず、『団子とビール』というへんな取り合わせを注文する健吾。
じっと見ている寅。
寅「人を探してるのか」鋭い第六感(^^;)
健吾「はい…」
寅「もちろん若い娘だな」
健吾、団子を食べながら
健吾「は。。。まあ…」
健吾「たった一言『ごめん』ってあやまいたいんだけど、
なーんかこのまんまだと、一生悔いが残りそうで…」
健吾、寅を見て笑いながら
健吾「フフフ、なんかオレ全部話しちゃったみたいだね」
と、団子を箸で串刺しにする。
寅「いいじゃないか、まあ飲め飲め、フフフ」
美保さんとのことを寅に話す健吾
健吾「なんかこのへんの中華料理屋で働いてるとか言ってたなあ…。
一ヶ月くらい前九州から出てきたとこまでは知ってる」
寅もさくらも内心驚いて
「…」
さくら「その人の…名前は?」
健吾「姓の方は知らないんだけど、
名前は美保っていうんです」
さくら、寅「…」
美保さんがとらやに来てから一ヶ月以上も立っているんだね。
その時美保さんが寅が注文したチャーハンの出前を持ってくる。
ドキッとして健吾を見る美保さん。
喜ぶ健吾。
寅「お前の話してたのはこの子のことか…」
笑顔で頷く健吾。
健吾「この間は悪かったな、ごめん」と謝る。
美保さんは、緊張してなんと言っていいかわからなくて
ついよそよそしくしてしまう。
失望していく健吾。
美保「なんで来たの…」と小さな声。
健吾「そんな言い方、ねえじゃないかよ。
オレ一言詫びを入れに来ただけなんだぞ」
美保「…」
健吾「それをなんだい、今の態度、…オレそんなに悪いことしたかな。
自然な関係じゃないかよ。いやなら来なきゃよかったんだ」
美保「だから、こないだそげん言うたでしょうが」
健吾「…、あ、そう、嫌いなんだなオレが」
美保「女の気持ちのわからん人は好かん」と横を向いてしまう。
健吾、何か言いたげだが、…
健吾「じゃ…もうおしまいなんだな…」とつい言ってしまう。
健吾「わかった…」
と言って美保さんの肩を掴み、こちらを向かせ、
健吾「二度と来ねえよ!!
そのうち…一流の画家になって見返してやるからな
その時後悔したって知らねえぞ」
ポケットから千円を取り出して、
テーブルの上にシワを伸ばしてしっかり置く。
深々と寅とさくらにお辞儀をして
健吾「お邪魔しました」
最後に美保を見て
勢い良く逃げるように駅に向かって走り去っていく。
あとを追うように店の前まで進む美穂さん。
突然の失恋にうつむいている寅。
どうしたらいいのか戸惑っているさくら。
美保さん、お辞儀をしながら
美保「ごめんなさい」と謝る。
さくら「そんな謝ることなんかないのよ」そらそうだ。
お世話になっているとらやさんでいざこざを起こしてしまって
寅に対しても恥ずかしくて、ちょっと泣いてしまう美保さん。
さくら「ねえ、お兄ちゃん」
寅頷いて「うん」
寅、微笑みながら
寅「早く言ってくれりゃあよかったのにな。
好きな男がいるんならいるって」
寅、それは無茶だよ。
どうして、そんな自分でもわかりづらい
微妙な感情を人に言えようか。
美保さん、首を振りながら寅のところへ近づき
しゃがんで
美保「そんな関係じゃないの。
九州から出てきて、寅さんおらんしね、
どうしていいかわからん時…」
寅、美保さんの方に手をやり
寅「話は後で聞く、さ、すぐ追っかけていきな」
第22作「噂の寅次郎」での早苗さんへの最後の言葉のアレンジ版。
美保「あ、でも…」
寅「おまえは、あの男が好きだし、
あいつはおまえに惚れてるよ。
オレから見りゃよぉくわかるんだ」
美保「…」
そして、さくらは自分の体験を踏まえて
真剣な顔で美保の横でこう言うのである。
さくら「お兄ちゃんのいう通りよ。
もしほんとにこのまま別れ別れになったらどうするつもり?」
さくら、はっと気づいて、サイフを取り出し、
小銭を美保さんの手のひらに渡し、
さくら「これ、おつり。 渡してあげて、」と美保さんの肩を押すさくら。
さくら「…さ、」と美保さんを優しく再度押し出す。
この時のさくらの表情は明るく強く、
さながら第1作の博を駅まで追いかけるあの力強さを
自ら再現しているような眼だった。
決意したように、
一転全力で参道を駅に向かって走っていく美保さん。
見送っているさくら。
美保さんが行ってしまった後、
暗い表情で下を向き淋しい気持ちを隠せない寅。
とぼとぼ二階に上がっていく寅。
さくらがその様子を見ている。
午後の柴又駅 ホーム
美保のテーマが優しく流れる。
傷心の健吾が悲しそうな目で電車を待っている。
しばらくして
美保さんが向こうから現れる。
美保さんに気づく健吾。
美保さん健吾を見つめ、
美保「おつり」
と、手の平を出し、微笑む美保さん。
ちょっと微笑んでお釣りを見、美保さんを見る健吾。
健吾素早く美保さんを引き寄せ
手を繋いで、そのまま自分ジャケットのポケットに
彼女の手を入れる。
そして照れて口笛を吹く。
電車が入ってくる。
そっと健吾の腕を持つ美保さん。
とらや 二階 荷物部屋
夕方、暗い部屋で美保さんたちの
婚姻届を書いている寅。
ちょっと早すぎるって(((ゞ(^^;)
さくら、上がってきて、婚姻届を見て驚く。
メインテーマが静かに流れる。
裏の保証人の覧に車寅次郎と書いてある。
寅「保証人ていうのがよ、二人いるんだってよ。
だからもう一人はおまえがなってやってくれよ。
それが一番安心だよ」
さくら、寅の悲しい表情を見ながら静かに頷く。
さくら「わかった」
さくら「美保ちゃん、喜ぶわよきっと」
保証人の欄がアップになって
車寅次郎
葛飾区柴又七丁目
本籍 同じ
印鑑が『寅』の字(おそらく指輪の印か?)
しかし婚姻届を見つめるさくらの顔には悲しみの色が。
何気ない顔で、夕飯のために下りて行く寅だった。
正月 江戸川土手
満男がガールフレンド立ちと歩いている。
あけみが自転車ですれ違って挨拶しても
満男は冷たい。
あけみ、怒り心頭
あけみ「ただじゃおかないからね!!
一生足引っ張ってやる!」このセリフ大笑いしました(^^;)
さくらの家 台所
美保さんと健吾が遊びに来ている。
さくら「エンゲージリング!?まあ素敵」あれから婚約したんだね(^^)
さくら区切り方、違うだろ。エンゲージ リングだよ。
【さてここでクイズです】
さくらたちのアパートや一軒家に訪ねてきた寅の愛するマドンナは
美保さんも含めて何人いるでしょうか?(^^)
あ、全然難しくないですね。なんのひっかけもありません。
答え↓
まずは歌子ちゃん。
そしてリリー。
そしてこの美保さん。
まずは3人。
あ、ちなみに泉ちゃんは満男の愛するマドンナです
寅は愛していません(((^^;)
そして実はもう一人いるんですよ。わかりますか。
それは第5作の節子さんです。
ラストでさくらのアパートに訪ねてきてました。
で、答えは4人です。
物語に戻ります。
健吾が結婚したら絵を諦めて看板屋だけをすると約束したらしいが、
美保さんは、そういう我慢をして欲しくないようだった。
美保「なんだか気の毒で…だって、
あの人の夢なんだもの。絵描きになるのは」
さくら「フフ、大丈夫よ。健吾さんは簡単に
自分の夢を捨てたりするような人じゃないわよ」
美保「じゃ、口だけかな」
さくら「そうよ」
美保「フフフ」
「ジンマ」というあだ名を暴露してしまう美保さん。
さくら二階の健吾に茶の間から呼びかける
さくら「ジンマさーん」まあ、なんともお茶目なさくらさん(^^)
みんな大笑い。
健吾は二階の満男の部屋でハーモニカを吹いていた。
椅子にはかつてすみれちゃんが奥尻島できていた緑のハンテンがかかっている。
このハンテンはもともと第24作でさくらが着ていたもの。
第34作では寅が着ていた。
そのハーモニカの音色と寅の年賀状が重なっていく。
新年明けましておめでとうございます。
健吾様、美保様におかせられましては
平和な正月をお迎えのことと存じます。
お二人のご幸福を心よりお祈り申し上げます。
小生、相も変わらず、青い鳥を求めての旅暮らしでございます。
正月元旦 車寅次郎 拝
そのころ寅は…
芦ノ湖の遊覧船(海賊船)乗り場付近
鳥の笛を売っている寅。
同年に公開された「キネマの天地」
で主役の小春役をした有森也実と父親役の渥美清とご対面。
友人役の一人にお笑い芸人のエドはるみがいる。
顔はわかりづらいがエドさんなのである。
エドさんは「キネマの天地」でもチョイ役で出演。
この第37作でもチョイ役をしていた出川さんも
同年の「キネマの天地」でチョイ役。
なんとセリフあり!
寅「これを吹くと幸せになる青い鳥いかが?」
小春「うそ〜〜、普通のおもちゃでしょ」と吹いてみる。
寅「あー、吹いた。吹いたからあんた幸せになっちゃうよ」
小春「だって、おじさんだって今吹いてたじゃない」そらそーだ(^^;)
寅「だから幸せだろう」
小春「どんなふうに?」
寅「こんなきれいなお姉ちゃんがそばに来てくれたじゃない。
幸せだ、ハハハ」
小春「フフフ!!ユニークゥ!!」
寅「へへへ、ね」
小春、友達を呼んで
小春「この人ユニーク!!フフフ」
娘さんの中で白いコートを着ているのがエドはるみさん。
寅、娘3人に
寅「おめえたちがユニークだよ!フフフ」
みんなでキャッキャ騒いでいる。
寅「さあ!もうこうなったらね、どんどんまけちゃう!
やけのヤンパチ、日焼けのナスビ色が黒くて食いつきたいが、
あたしゃ入れ歯で歯が立たないよときた!!」
海賊船が停泊している。
向こうにはくっきり富士山が見える。
カメラ芦ノ湖を箱根峠の高台から映していく。
手前に小さく遊覧船乗り場、湖の向こうに聳える箱根の駒ケ岳。
小さく遊覧船が遠ざかっていく。
終わり
6月は『第39作寅次郎物語』超簡単ダイジェスト版と
『第24作寅次郎春の夢』本編完全番完結編をアップします。
気長にお待ちください。