第39作「寅次郎物語」 超簡単ダイジェスト版
寅次郎の面目躍如 ゴッドファーザー寅のロードムービー
仏様が寅の姿を借りて子供を助けられた物語
私がこの物語の中で忘れられないシーンがある。
それはマドンナとの絡みでもなく、秀吉との絡みでもない。
安ホテルのお膳の上で般若の政の位牌に向かってつぶやくあのシーンだ。
女房を殴り、家庭を顧みず破壊的な人生を送った般若の政…。
寅「釈善政か…、フン、何が『善』だい、フフフ…、悪いことばっかりしやがって、
どーせ今頃は地獄の針の山かなんかでもってケツかなんか刺されて『イテテテテ』
なんて言ってんだろう。フ…。
どんな人間でも取り得がある。悲しまれ惜しまれ死ぬんだよ。
おまえが死んだって、悲しんだのはおめえ...サラ金の取立て人だけだったっていうじゃねえか、
ったくもう…情けねえな…。
たった一度の人生を、どうしてそう粗末にしちまうんだ。え?
おまえは何のために生きてきたんだ?
なに?てめえのこと棚にあげてる?? あたりめえじゃないか、そうしなきゃ、こんなこと言えるかい」
般若の政の人生は、そっくりそのまま実は寅の人生でもあるのだ。寅は自分に向かってしゃべっている。
そして今これを書いている私自身も寅の言葉を借りて辺境の地に棲む自分のどうしょうもない無為な人生を
吐露しているのかもしれない。
それにしても寅は優しい。秀吉を連れて母親を探す長い旅にでてやるなんて、さくらもおばちゃんもしない。
確かに児童相談所の人がさくらに言っていたように秀吉を行政に任せることは正論だが、
人が人に連れ添ってあげる人の世の情けは何にもまして大切だ。
寅のやったことは間違ってはいない。危なっかしいが、あれで正解だと思う。
この子の命が助かるのなら女断ちます。
これは、秀吉の回復を祈って隆子さんが立てた神様仏様への誓い。
寅の願いと隆子さんお願掛け、そして松村おいちゃん医者(耳鼻科(^^;))
の奮闘もあって秀吉の高熱は下がる。
そのことをきっかけに隆子さんは心に泉が湧き、蘇生していく。
隆子さん自分の人生を見つめなおし始める。
隆子「あーよかった、助かった…。そう思った時に、あの子の命だけじゃのうて、自分の命まで
取り返したような…。胸の奥から冷たくて、きれえな水が、音をたてて溢れてくるような…、
そんな幸せな気持ちがしてね…、フフ…」
淡路島で生まれ、各地を転々とセールスをして生きてきた隆子さん。
小さな車に乗って八木、五条、橋本…そんな旅がずっと続く…。
今までの旅から旅の孤独な人生を嘆き悲しむ。
「私粗末にしてしまったのね、大事な人生なのに…」
と泣きくずれる隆子さん。
寅は「大丈夫だよ、まだ若いんだし、な、これからいいこといっぱい待ってるよ、な…」
「そうね、…生きててよかった…。そう思えるようなことがね」
と泣き続ける隆子さん。
ほんとうは、秀吉くらいの子供がいたはずなのに…、
独りで子供を産むことを覚悟できなかった隆子さんの深い悲しみは寅に理解できたのだろうか…。
このように、彼女にはこのシリーズのどのマドンナにもない、取り返しのつかない
悲しい過去があるのだ。そして、それを聞く寅にも、そして秀吉の父親般若の政にも
同じように取り返しのつかない過去と人生がある。
そしてこれを書いている私の無為な絵描き人生にも…。
ともあれ、あの徹夜の看病の翌朝、隆子さんは人生の中で秀吉と共にもう一度蘇生したのは間違いない。
人間は何のために生きるのか
隆子さんの言葉
『…生きててよかった…。』
は、ラストでもう一度満男に対する寅の言葉として出てくる。
隆子さんから寅へ、そして寅から満男へ、最後は私たちへと言葉は受け継がれていく。
ちなみに寅は、伊勢二見ヶ浦でお気楽ポンシュウに同じ質問をしてみる。
ポンシュウ「なんのためかなあ???」
寅「ダメだダメだダメだ。いいいい、おまえの頭だから考えなくていい」…だね(^^;)
しかし、それもつかの間、やはり別れの日は来る。
寅や秀吉と別れたあとの大和上市駅ホームに残る隆子さんの表情には孤独の陰が色濃く宿っていた。
あの顔は寅がマドンナとホームで別れた直後に見せる正にあの孤独だ。これはほんとうに辛いものだ。
旅人の辛さは独りでいる時の孤独にあるのではない。そんなものは慣れる。やはり人との別れの直後の
辛さこそが耐え難い試練なのだ。私も旅人の端くれ、この辛さがただものでないことは熟知している。
しかし、この耐え難い辛い別れだけが旅を奥深くし、人間を鍛え、焼きを入れることも自明である。
そして旅人は次の新たな出会いに向かってまた歩み始めるしかない。
この「寅次郎物語」は、御前様がいみじくもおっしゃったように
仏様が寅の姿を借りて淋しい秀吉を助けられた物語である。
御前様は、こうも言う。
「仏様は愚者を愛しておられます。もしかしたら、私のような中途半端な
坊主よりも寅の方をお好きじゃないかと、そう思うことがありますよ、さくらさん」
ひたすら愛を与えることだけを生きがいとして、愚かだが無欲に生涯を貫いていく
孤独な寅の真骨頂がこの言葉に集約されていた。
さすが御前様は人間を見ている。
その言葉ををさくらから聞いた寅は
「冗談じゃねえや、仏に好かれたっていい迷惑だい」
いいねえ〜、寅って。ポーンと弾けてるんだよな。
これだからこの映画は止められないんだ。
ちなみに御前様は源ちゃんのことを『あれは愚者以前です、困ったァ〜』っとギャグで嘆いていたが、
しかしそうは言っても御前様は源ちゃんこそ仏様にとても愛されている人間だと見ぬいてもいるのである。
■第39作「寅次郎物語」全ロケ地解明
全国寅さんロケ地:作品別に整理
それでは第39作「寅次郎物語」ダイジェスト版をどうぞ。
まずは夢から。
寅の少年期の柴又。雪の夜
寅のナレーション
寅の声「さくら、どういうもんかなあ…、近頃オレは子供のころの夢を見るんだ。
それも決まって、あのさむーい雪の夜のことさ…。」
おそらく昭和30年くらいの柴又かな。。。
とらやの横の立花屋さんの看板が見える。
なんとこの夢には一度も動画で出演したことがないさくらのお母さん、
つまり寅の育ての母親が登場する。
寅の中学生の頃、雪の夜、
万引きか何かで父親に殴られているのを母親が身を呈して
止めているのである。
寅のナレーション
寅「オレを育ててくれた優しいおふくろが必死に叫ぶ。
『寅次郎謝んな、おまえが悪いんだよ』」
最初は障子の影が映っているだけなんだが、
その後、少年寅次郎が表で木に縛られているのを
見かねて母親が助けようと障子を開ける、
その一瞬、彼女の顔が見える。
私は前々から、このさくらの母親こそが
寅の人格形成に大きく影響したと思っているので
動画で見れたのはなんだかちょっと嬉しかった。
父親との関係が最悪になり、
寅は家を出ていくことを決意。
寅のナレーション「考えてみりゃ、あれが最初の家出さ」
雪が積もった江戸川土手 早朝
無声映画風に スクリーン上にセリフが出る。
セーラー服を来た幼いさくらが泣いて追いかけてくる。
さくらの字幕「お兄ちゃーん」
さくらの字幕「お兄ちゃん、行っちゃいや」
寅の字幕「さくら泣くんじゃねえ」
寅の字幕「お兄ちゃんは今にきっと偉い人間になって帰ってくるからな」
と、江戸川土手を去っていく寅。
寅のナレーション
寅「情けねえ話しよ。考えてみりゃ、今でもあの時と同じようなことをやってるんだ」
さくらの声「お兄ちゃーん!!」
幼少期の寅や家族たちを映像で
垣間見ることができる数少ない貴重なシーン。
ここから現実↓
場面変わって田舎の小さな駅の待合室で寝ている寅。
茨城県 常総市 中妻駅
茨城県常総市中妻町にある関東鉄道常総線の駅
小さな女の子の声(声は幼少期のさくらのまま)
女の子「お兄ちゃーん!!お兄ちゃーん!!お母ちゃんが呼んでるよー!!」
これは、第18作「純情詩集」のオープニングと同じパターン。
伸びをして女の子の頭をなぜる寅。
中妻駅隣の三妻駅ホームに電車が入ってくる。
タイトル イン
男はつらいよ 寅次郎物語
追記 2024年3月 ちびとらさんの報告で
電車が入ってくるホームシーンは新発見
電車が入ってくるホームは中妻駅のお隣の【三妻駅】のホーム。
関東鉄道常総線に乗り、水海道駅で下車して
板橋のお不動さんまでゆっくり歩いている寅。
途中小貝川を渡っていく。
ポンシュウたちの車に拾われて板橋不動尊へ。
清安山願成寺不動院
大同三年(八〇八)に弘法大師空海が開山
いやあこのお寺の本堂、楼門、三重塔は関東でも随一。
一日も早く国の重要文化財の引認定をうけるべきもの。
そんな立派な不動尊の縁日の日
寅たちはバイもそこそこに楼門の横で酒盛り((^^;)
この一連のシーン、お寺の立派さとテキヤたちのイキイキした姿が印象的で
いつまでも印象に残ったものだ。
「山田洋次」のクレジットは三重塔をバックに!
ここから東京葛飾です(^^)
葛飾区 東京都立 葛飾高校 校庭
満男の通う「葛飾高校」が映る。
しかし、実は「葛飾高校」というのは現在葛飾区にない。
満男の高校のロケは葛飾区亀有にある「葛飾野高校」だった。
このロケ地探しは
すみれちゃんの高校と満男の高校は違う学校だった!
2010年6月28日
寅次郎な日々 その445
に詳しく書いてある。
そして第26作のすみれちゃんが通う「葛飾高校」もロケ地は定時制を持つ
「南葛飾高校(なんかつ)」だったのだ。(これは寅友の寅福さんが発見された)
第39作では正門を出た後、
さくらは満男と別れてお花茶屋駅から京成電鉄に乗り柴又へ帰ったのだろう。
どうやら三者面談で満男が大学を行かないかもしれないと先生に告げたのだ。
さくらびっくりで、悩んでしまう。
さくら「どうして黙ってんのよこんな大事なこと。母さん恥ずかしかったわ先生の前で」
満男「…」
おまけに満男はさくらと一緒に帰ることを嫌がるお年頃(^^;)
さくら寂しそうに一人で京成線で帰っていく。
とらや 店
あけみが手伝ってくれている。
今回も結構あけみが出てくる。
さくらが満男のことでぼやくと、おばちゃんは優しい満男を
そんな受験戦争に巻き込むなんて酷いことしなくていいって適当なことを言い出す。
柴又駅前
一方あとから柴又に戻ってきた満男は
『大洋ホエールズ』のキャップを被った少年と知り合う。
缶ジュースを開けてやった満男に少年がいきなり
少年「兄ちゃん、寅さん知ってる?」
満男飲んでいたジュースをブハッ!!と顔にかけてしまう(((^^;)
満男「びっくりした〜〜〜!!」
満男「寅さんて車寅次郎か?」
少年は昔「佐藤政吉」あてに寅から来た年賀ハガキを見せる。
満男「あー!このキタネエ字!」すぐわかる(^^;)
〒963-01 福島県郡山市安積町午庭(本当は牛庭)
とらや 店
満男と一緒にとらやに来た少年はさくらの質問に
お母さんはいない。
お父さんは死んだと言うのだった。
死んだお父さんが亡くなる前に「オレが死んだら寅さんのところへ行け」
と常々言っていたらしい。
あけみ、ハガキを見ながら
あけみ「君、佐藤君って言うの?」
頷く少年。
あけみ「佐藤なんっていうの?」
少年「ひでよし」
あけみ「え、どんな字書くの?」
少年「豊臣秀吉の秀吉」
あけみ、ついつい吹いてしまう。
あけみ「すっごい名前!フフ」タブーをはねのけて付けたんだね。
秀吉は疲れているらしいのでみんなで居間の方へ案内する。
満男、あけみに
満男「あんな時笑うもんじゃないよ」
あけみ「わかってるわよ、なに偉そうな口聞いて」
家に帰ろうとする満男を源ちゃんたちのグループが呼び止め、
裏ビデオを観ようと誘う。
満男は自分の人生&進路で頭がいっぱいなのか無視して歩いていく。
自我の目覚めの時期だからねえ
源ちゃん「満男、…なんやあいつすかしやがって」
出川さん「まだ早いって…ハハハ」。
みんな「ハハハ」
秋深き西日が背中に当たって孤独な満男だった。
源ちゃんグループの一人
「抱かれたくない男N0・1」の出川哲朗さんもこのあたりの作品では
チョイ役で連続出演。
出川哲朗さんは、第37作、38作、第39作、第40作、第41作と5作品連続出演。
またこのころ「キネマの天地」にもチョイ役で出演。
露出が最も高かったのはこの第39作で秀吉の出発のシーン。
かなり長い間出ていた。
全ての作品で鉢巻しているから分かりやすい。
当時はまだよろっと痩せていた。
とらや 茶の間
夕飯のハンバーグを食べている秀吉。
タコ社長やって来て秀吉に興味津々。
さくらのミニギャグ
さくら、タコの煮物秀吉に持ってきて
さくら「タコ食べる?嫌い?」ちょうどタコ社長が横に映っている。
大筋を掴みみんなに分かりやすく伝える博。
つまり、母親は逃げてしまって、父子家庭だったが、その父親も病気で
死んでしまった。死ぬ前にオレが死んだら寅さんを頼れ、と言い残していた。
博の推測では郡山の施設に入っていて黙って東京に来てしまったのではないか。
おばちゃんは自分の考えをおそるおそるさくらに言う
おばちゃん「さくらちゃん、今まで黙ってたんだけど、
とっても気になることがあるんだよ」
さくら「なに?」
おばちゃん「あの子…ほんとうは…寅ちゃんの息子じゃないかしら…」 願望願望ゞ(^^;)
みんな拍子抜けて「ハハハ」
おいちゃん「そんな甲斐性があるか、あの男に」そのとおり(^^)
これは、同じくおいちゃんが第29作「あじさいの恋」でも言っていた(^^;)
ちなみに、おばちゃんの『寅の子供願望』は
第14作「子守唄」、第16作「葛飾立志編」でも
ふつふつと湧き出ていた。子どもが欲しいというか孫が欲しいというか、
おばちゃんにはついに子どもが出来なかったからね…。
まあでもおばちゃんに子どもができなかったからこそ
この物語のバランス均衡がとれているんだけどね。
社長「ありうるよ!そういうことは」
みんな「?」
社長「見てご覧よ、目のあたりとか、顎の張り具合とか」
みんな秀吉を見る。
社長「そうかー!ついにとらやさんにも跡継ぎができたか!よかったじゃないか!」なぜそうなる…(^^;)
博「そんなこと、決まっちゃいませんよ」決まってないって言うより間違い ゞ(^^;)
社長「似てるよ」
おいちゃん「似てりゃ親子か」
社長「そりゃそーだろ」
おいちゃん「じゃあおまえはタコそっくりだから、このタコおまえの倅か??」
と、箸で小タコを持ち上げる。
座布団2枚(^^;)
で、警察に知らせることはおばちゃんが猛反対したので
警察や児童福祉関係への連絡は数日様子を見ようということに。
秀吉のリュックには父親の位牌が入っていておばちゃんの涙を誘っていた。
位牌を抱いて冥府魔道の旅を続ける秀吉だったのだ。
そして秀吉を捨てた母親の写真も2枚持っていて、意外に優しそうな堅気の美人だった。
「う〜ん」とみんな意外な顔で写真を見ていた。
なにやらいろいろ辛い事情がありそうだ・・・
さくら「お兄ちゃん…会ったことあるのかしらこの人に」
博「どうかね…」
翌朝、
柴又に戻ってきた寅。
江戸川土手
さっそく江戸川土手で備後屋親子に悪態をつく。
寅「なんだい、これ、おまえの子供か?」
備後屋「そうだよ」
寅「わあ!可哀想に…、将来見えたようなもんだ」
怒った備後屋、自転車下りて石を投げつける。
備後屋「チキショウ!くやしかったら作ってみろってんだ!
コノヤロー!ふられてばかりいやがって!」
息子も一緒に石を投げる。
とらや 店
寅 とらやに戻ってきて
秀吉に会うなりあけみの子供と
勘違いしてしまうが…
寅「あれ?どっかで見た顔だなあ…」
秀吉をまじまじ見て
寅「坊や、家どこだ…?」
秀吉、あけみに隠れながら
秀吉「郡山」
寅「秀吉…か、おまえ」
頷く秀吉
寅「そうかあ、やっぱり秀吉かあ」
寅「おじちゃんのこと覚えてるだろう」
首を振る秀吉。
とにかくこの秀吉くん、全篇通してほとんどセリフらしいセリフが
ありません(^^;)ゞ
寅「あ、オヤジもいっしょか」
しかしオヤジが死んでしまい、
母親もその前に蒸発してしまったらしいことを知った寅はショックを受けてうなだれてしまう。
とらや 茶の間
寅があとで言うぶんには
父親というのは背中に般若の刺青を入れている男で「般若の政」と呼ばれてた男だったらしい。
飲む打つ買うの三道楽で、奥さんのおふでさんはずいぶん苦労し、泣かされ続けたらしい。
寅「子どもが生まれたということで、祝いを持って出かけてったんだ。
極道者が、それでも嬉しそうな顔して、名付け親になってくれって言うんでな、
よし、ここは一番バーンって張りこんでやれっていうんで、付けた名前が秀吉よ!」
あ〜あ、寅が付けた名前だったんだねえ(ーー;)
母親は、気立てが良くて、
苦労しているからよく気が付き、涙もろくて、その上色っぽいそうだ(^^;)
酒を飲んだらおふでさんに暴力をふるってたらしい。今で言うDVだ。
そして、寅の予想通り彼女は意を決して出てしまったということになる。
寅は彼女の写真を手で持ちながら
寅「寝ても覚めても想うのは息子のことばかり、
おふでさん、すぐ会わしてやるからな。
しばらくの辛抱だ」
蛇の道は蛇。
さっそく小岩のポンシュウのところへ情報収集をしに駆けていく寅だった。
そして夜。
寅はおふでさんんが和歌山にいることをつきとめる。
その夜は社長と寅と博で焼き鳥屋で酒を呑む。
さくらのアパート
満男は完全に『青年期』特有の自我の芽生えと苦悩が始まっている。
昔から『疾風怒涛の青年期』とはよく言ったものだ。
大学進学に疑問を投げかけて、親とも意見の合わない満男を観て
父親の博はこう言うのだ。↓
博「秀吉くんに比べればうちの満男なんか幸せなんだけどなあ…。
いや…、なにが幸せかそれが問題か…」
このシリーズの大きなテーマをポロリと口にした博だった。
翌朝 帝釈天参道
翌朝 みんなに見送られて寅と秀吉は母親を探す旅に出かけるのだった。
(有)朝日印刷のライトバン 足立45 ち 20−26
トヨタ カローラ ライトバン
今回の朝日印刷は有限会社。
作品によって株式会社になったり有限会社になったりする。
怖い会社((((^^;)
みんな餞別などを渡して、励ましている。
出川哲郎さんも餞別を渡す。
千代さんの美容院アイリスが見える。
ピンク屋根もなくなってシャッターは降りたまま(TT)
このシーンベタなギャグ2つ。
■車が出発して秀吉だけが残されるミニギャグ。
■源ちゃんがあけみに足を踏まれるミニギャグ。う〜〜〜痛そう…(/_<。)
そのあと児童福祉相談所の人にこってり絞られるさくらだった。(統一劇場の団員さん)
母親探しはこちらでするので勝手にそういうことするな、と言うことらしい。
子供の面倒を見れない母親も多いとのこと。
確かに蒸発したあと違う男と暮らしている母親がいるのはよくあること。
たとえば、第33作「夜霧にむせぶ」で根暗男がいたが、あの逃げた奥さんは、違う男と
一緒にその男の赤ん坊を背負いながら新天地で幸せそうに暮らしていた。
ま、児童福祉相談所の方はガチガチの正論を言うが、
これだけは言える。寅はテキヤ仲間たちに聞いて母親の居場所を
その日のうちにつきとめることができたが、児童福祉相談所のスタッフさんたちには、
そのネットワークはまずないだろう。
その夜
大阪 天王寺駅前 派出所
とっくに和歌山に着いていなくてはならない時刻に
大阪天王寺駅の派出所から電話。
どうやら子供の誘拐犯に間違われて足止めをくったようだ。
おまわりさんはご存知、イッセー尾形さん。
前作第38作で入院したおいちゃんの主治医さんをしていた人。
さくらに電話して裏は取れたみたいで安心していた。
結局この天王寺地区の宿に泊まる羽目に。
しかしこの天王寺駅から徒歩圏の「新世界ホテル」になぜ泊まらないんだろう。
あそこなら第27作「浪花の恋」でも出てきたように、気兼ねなく泊まれるだろう。
寅はおまわりさんに宿を探させるが注文がうるさい(^^;)
おまわりさん「ビジネスでよろしおまんな」
寅「あ、ダメ、オレベッドってダメ、それから小さな風呂、腰掛けうんち、
あれ、全部ダメなんだよ。狭くってもいいから、畳の敷いた宿頼むよー」
おまわりさん「日本旅館ですな」
寅「うん、あ、ひとつだけ贅沢言わせてもらうとね」
おまわりさん「なに〜〜」
寅「女中さんがな、夜の十時頃になると、『うちパートやさかいこれで帰る』
ああいうところはやめてほしい。
オレ寝る前に、熱燗でキューっと一杯やりたいの、うん、
おかずなんか、これはもうイカの塩辛でいい。
寝衣の上に色っぽい羽織りなんかちょっとひっかけて、
女中さんが、お盆片手にスーっと入ってくる。
『お待ちどうさま』『いやいいんだよ。こんな遅く悪いねえ』
『いいのよ、どうせ私宵っぱりだから、さあ、おひとついかが?』
『うん、じゃあもらおうか』『おまえもどうだい一杯』
『あーそう、うれしい、じゃあいただいちゃおうかしら』
フフフ
そんなふうな感じで、一泊千円くらいの旅館ないかねおまわりさん」
おまわりさん「フハハハハハハ」と不気味に高笑い。
おまわりさん「日本の現状把握しとらんのとちゃうかあんた、
フハハハハハハ!!あーあ」
背中で分かりづらいが、
一緒になって笑っている渥美さん(^^;)
天王寺 安宿
で、形だけ畳であとは全部裏目のうらぶれた宿に結局泊まる。
パートの正司敏江さんが、いい味を出していた。
ヤクザもんであった秀吉の父親『般若の政』の位牌を
テーブルの上に置き、カップ酒を供え、
寅「釈善政か…、フン、
何が『善』だい、フフフ…、
悪いことばっかりしやがって、
どーせ今頃は地獄の針の山かなんかでもって
ケツかなんか刺されて『イテテテテ』
なんて言ってんだろう。フ…。
どんな人間でも取り得があって、
悲しまれ惜しまれ死ぬんだよ。
おまえが死んだって、悲しんだのはおめえ...
サラ金の取立て人だけだったっていうじゃねえか、
ったくなあ…情けねえな…。
たった一度の人生を、どうしてそう粗末にしちまうんだ。え?
おまえは何のために生きてきたんだ?
なに?てめえのこと棚にあげてる??
あたりめえじゃないか、そうしなきゃ、こんなこと言えるかい」
般若の政へのボヤキは、すなわち、寅自身への懺悔に他ならないのだ。
寅は常に自分の無為な人生に後悔している。
しかし、後悔しない人生など古今東西どこにもないのも自明である。
救急車の音
翌日 和歌山へ JR 阪和線 電車
この年からJRになった。
熊取 和泉砂川あたりを走っている。
眠っている寅の手からおふでさんの写真がぽとりと落ちて
秀吉が拾って腹巻に入れる。
寅は寝ぼけながら起きて、またその写真手で持ち、そしてまた寝る。
このなにげない静かなやりとりにこのシリーズの粋がある。
和歌山駅前に到着
で、さっそく寅は人に聞いて
『和歌の浦』に行く。
若の浦に 潮満ち来れば 潟をなみ 葦辺をさして 鶴鳴き渡る
山部赤人
当時宇宙回転風呂で有名だった『北村荘グランドホテル』に務めていたらしいが
残念ながらここも辞めてしまって、
今は奈良県の吉野の旅館で働いているそうだ(ーー;)
寅「お客同士の揉め事があってな、それで居づらくなったらしいや。
しょうがねえや、おまえの母ちゃん美人だからな」
なるほどね。
その後、このホテルは倒産し、廃業した。
かつてはこのまるい浴槽がおそらく回転したのだろう…
倒産後長い年月廃墟となっていたようだ。↓
今度は『JR和歌山線』に乗って
奈良『吉野』へもうひと踏ん張り!
寅次郎と秀吉の旅は続くのであった。ふう〜〜〜〜
和歌山駅から奈良の吉野口駅まで約2時間。
吉野口で近鉄吉野線に乗り換えて吉野まで約30分、
その後ケーブルカーと徒歩、合計3時間半くらいである。
吉野川橋梁
吉野川流れる吉野町の街中が映る。
町の小さな化粧品店でビューティアドバイザーとして廻って、
カウンセリングをしながら商品セールスをしてる隆子さん。
スポンサーは花王ソフィーナ(基礎化粧品(ローション&クリーム))
夕方、仕事を終え、吉野の山を隆子さんの軽四が登っていく。
『銅の鳥居』の前を上がっていく。
この鳥居は「かねのとりい」と読む。
重要文化財で奈良の大仏の銅の残りでつくったと言われている。
「発心門」ともいわれます。
正平3(1348)年に高師直の兵火で焼失したあと、室町時代に再建された。
山上ヶ岳までの間に発心・修行・等覚・妙覚の四門があり、これが最初の門。
日本三鳥居(大阪四天王寺の石の鳥居、安芸の宮島の朱色の両部鳥居と共に)の1つ
八木屋 翠山荘
正面横の小さなスペースに無理やり車を停める。
おいおい隆子さん、
その玄関横のスペースは車の停めるスペースじゃないだろ。
そんな玄関横の目立つところに車止めるなよ、大きな駐車場がすぐ前の坂下にある。
疲れた顔で翠山荘にチェックインする隆子さん。
どうやら恋人と二人で来る約束だったらしいのだが彼は来ないらしい。
二人部屋に一人で泊まるので2割増と旅館のオヤジの笹野高史さんは告げる。
オット登場しました谷よしのさん、
今回はこの後も登場かなりセリフが多い!
谷さんの役の名前をスミさん(澄みさん?)と言うらしい。
隆子さんは『梅の間』
谷さん「いらっしゃいませ」「はい」「どうぞ」
その直後 寅がフラフラになって
杖をついて飛び込んでくる。
なんとオヤジによると、
おふでさんはまたもや辞めてどこかへ行ってしまったらしい。
ああああちゃ〜〜〜またか…<( ̄口 ̄||)>!!!
秀吉がちょっと元気が無い。
理由はおふでさんへの嫉妬らしい…。
なんかいろいろ巻き込まれやすい受身的なタチなのかもしれんね(ーー)
ガックリ倒れこむ寅。
『萩の間』にとりあえず宿泊
谷さんやってきてちょっと疲れて顔色が悪い秀吉に
谷さん「おやおや、大丈夫?ん」と2階へ連れていっていた。
夜 隆子さんの部屋
隆子さんの部屋には花王ソフィーナの箱が置いてあるので
寅と同じく売れて初めてお金がもらえるのかもしれない。
きびしいね…。
寅は隣の部屋で秀吉の容態が思わしくないのであたふたしている。
どうしたのかと谷よしのさんに聞く隆子さん。
谷さん「子供さんが具合悪いrしいんですよ。男親やな…」と出て行く。
テレビでは吉本新喜劇がかかっていて、
「誰がカバやねん!」の原哲男さんがでていた。
深夜 寅の部屋
夜中になっても容態がよくならない秀吉のことが怖くなりさくらに電話する寅。
さくらは、今すぐ医者に見せることを勧める。
おろおろする寅。
寅「だから生き物飼うのいやなんだよオレ」 生き物飼うって…((((^^;)
宿のオヤジにタクシーを呼ばせる。
隣の部屋の隆子さんが廊下に出てきて
隆子さん「大丈夫私が面倒みるから、お父さんはよ行きなさい」
寅、驚きながらも
寅「そうかい、どうもご親切にありがとう、すいません」
この時点で、隆子さんは心の優しい気丈夫な人だと分かる。
普通見ず知らずの人に、なかなかここまでしないからね。
タクシー飛ばして病院に駆けつける寅。
菊田病院にたどり着く寅。
ドンドンガラス戸を叩いて、医者を呼ぶ。
中から眠そうな目をして出てきたのは2代目おいちゃんの松村達雄さんだった。
専門外の耳鼻科医&すでに引退隠居したじいさん医者の松村さん。
寅はとにかく大声で頼み込む。
医者「わしゃ耳鼻科だぞ」
寅「そんなことかまわねえって!」かまうかまう ゞ(^^;)
診察室をかき回し、無理やりタクシーに押し込み旅館へ。
松村さん「こらー!」と止めるが寅は聞きやしない。
宿では秀吉が高熱でぜいぜいしている。
思っていたよりひどい状態だったので松村さんは仰天、必死になる。
隆子さん寅に
隆子さん「一緒に暮らしていてどうして気がつかんの、こんな酷くなるまで」
寅「いや、昼間ピンピンしてたんだよ」
隆子「呆れた、それでも親なの!」
寅「親じゃないんだなこれが…」
松村さん「夫婦喧嘩なんかしとる場合か!バカ!!」
松村さんは今夜が勝負と言い切る。
松村さん「父さん!あんたもういっぺんわしの家に行ってな、
この紙をばあさんに見せて薬もろうてきてくれ」
と、メモの走り書きを渡す。
寅「は」
松村さん「お母さん、部屋暖めなさい」
隆子「はい」
松村さん「それから、ご主人」
オヤジ「へい」
松村さん「コーヒー持ってきてくれ、インスタントでいい」
オヤジ「コーヒーが効くんですか、こういう場合は」
松村さん「ヴァカ!!わしが飲むんじゃ」ギャグです(^^)
寅も便乗して「常識だよ、バカ!」寅も思ってたくせに((^^;)
寅はもう一度外に行こうとする。
隆子「あ、お父さん」
寅「はい」
隆子「帳場に寄ってタオル何枚か届けるように言うて」
寅「うん!母さん!あと、頼んだぜ!」母さんじゃないだろが ヾ(^^;)
松村さんの言うぶんには
松村さん「薬が効いて、明日の朝熱が下がれば安心なんじゃが」
ストーブを付けている隆子さん。
松村さん「お母さん、お尻出しなさい」
隆子さん「はい?お尻?」と自分のおしりを触る隆子さん。
そう聞こえるよね〜、隆子さん(^^;)
松村さん「あんたのお尻じゃない、子供のお尻じゃい」
隆子さん、顔を手で覆う。
これは第25作「ハビスカスの花」の沖縄の病院でのギャグのアレンジ。
松村さん「なんちゅう母親じゃろうなあ〜」あんたの言い方も悪いって ゞ(^^;)
秀吉を横にさせて、自分におしりを向ける隆子さん。
松村さん「あんたが尻見たってしょうがない
また逆に秀吉を転がす隆子さん。
松村さん「坊や、がんばれよ!おじいちゃんも一生懸命手当するさかいな」
隆子さん「しっかりするのよ、大丈夫やもんね」
荒い息の秀吉。
注射のアンプル液を開けようとして
なかなかうまく行かない松村さんのミニギャグ(^^)
そしていろいろ治療があって…
何時間か過ぎ、 夜明け
ストーブが付いている暗い部屋。
秀吉小さな声で
秀吉「おじさん、おじさん」
隆子さんガバッと起きて
隆子さん「なんか言った?」
秀吉「喉乾いた」
隆子さん、秀吉の顔のそばまで近づいて
隆子さん「喉乾いたの?」
頷く秀吉。
隆子さん、秀吉のおでこや顔を触って
隆子さん「いやあ〜。。。熱が下がってる!
頑張ったね坊や!もう大丈夫よ。助かったのよ」
と強く抱きしめる隆子さん。
隆子のテーマが流れる
寅を起こす隆子さん。
スタンドのライトをつけて
隆子さん「お父さん、ねえ起きて!」と手をとって泣笑する隆子さん
寅「…ダメか…」
隆子さん「違う!フフフ熱が熱が下がったのよ!」
どうして隆子さんが秀吉にこうまで感情移入してしまうのかは
この夜に分かる。
隆子さんは、飲み物を自販機で買うために
まだ夜が明けきらない外に駆けていく。
柴又 とらや
珍しく、工場の中村くんとゆかりちゃんが
博のおごりでお昼ごはんを食べている。
さくら店にやってきて、寅からの電話を待っている。
みんな秀吉のことが気になっている。
博に言われて翠山荘に電話するさくら。
寅の部屋に繋いでもらったのだが電話に出たのは隆子さんだった。
隆子さんの声「もしもし」
え?って感じで、びっくりするさくら( ̄ロ ̄|||)?
さくら「あのー…私…車寅次郎の身内の者ですが…」
隆子さんの声「あら、はい。お待ちください。お父さん〜」
さくら、ふたたびびっくり煤i( ̄ロ ̄|||)??
混乱し、電話口の博を見る。
寅の声「はい、はい、なんでしょうか?」
さくら「あの、あ、私、さくらよ」と言いながらも混乱している。
寅は笑いながら、安心した声で秀吉が回復したことを伝える。
秀吉が隆子さんになにか言っている。
寅電話を中断して
寅「母さん、なんか呼んでるよ」
さくら、またもやびっくり煤i((( ̄ロ ̄|||)???
簡単に礼を言って切ってしまう寅。
さくらは、秀吉が回復したことは喜ぶのだが…。
そのあと、「父さん&母さん」をずっと考え込んでいる。
博「どうしたさくら?」
さくら混乱してしまっている。
さくら「でも…お兄ちゃん電話の途中で『母さん』って呼んだわ。
そしたら女の人の声で「はい」て返事があたけど…」
博「それこそ空耳だよ。しっかりしろ」
さくら「そうね」と一旦は納得するが…。
さくら「うそ〜〜〜〜」これは倍賞さんの素の言い方(^^;)
さくら「言ったわよ、確かに」
この第39作では、とらやの職人さん↓がスクリーン上によく映っている。
そしてこの作品ではとらやはずっと忙しく繁盛していた。
実際はこのような職人さんが一日中いないと、団子屋は出来ないはずなんだ。
おいちゃんとおばちゃんがちょいと朝に作るだけではあれだけの品書きは無理。
もう一度確かめるために今度は博が電話かける。
で、もう一度
吉野 八木屋 翠山荘
旅館のオヤジが
暁伸・ミスハワイ師匠の漫才を見ている。
浪漫リズム(ロマンリズム)漫才の天才。
『これは素敵な チョイといかす。一節聴いたら ドンピシャリ〜♪』で始まるテーマソングで有名だった。
ミスハワイ師匠はど派手なムームーに金髪パーマのカツラで、ヘチマ型のギロをこすり上げ、
「行け!」、「いい声で歌わんかい!」と、
伸をけしかけながら舞台狭しと立ち回り、
甲高い声で「アーイーヤー」(ハワイ語で「さあ、行くぞ」の意味)を連発。
「アーイーヤー」は伸師匠が体調を崩し声が出なくなり間を繋ぐために突発的に生まれたフレーズらしい。
恰幅の良いハワイが腰を振りつつ右往左往すれば、伸がその容姿を
「♪立てばポスト(旧式)で、座ればだるま…」と扱き下ろしながら、
やおら「奥さん、明日も雨でンな」等と客いじりに移る、ペーソス溢れる芸風で一世を風靡。
オチは伸師匠が「寝ぐらへ帰るダンプカー…」で締めた。
電話がかかる
オヤジ「はい、翠山荘です。あ、車さん、ついさっき、買い物に行くとか言うて
出かけられましたけど、奥さんと二人で。…あ、よろしいですか、いえいえ、はいどうも」
電話切ってから。
オヤジ「あ、…奥さんやなかったか。まあええわ、似たようなもんや」
頭をブラシで刺激(TT)
呆然としている博。
さくら「そうしたの?いなかったの?」
博、頭がグルグルになりながら
博「奥さんと出かけてるって…。
確かそう聞こえたなあ…空耳かな」
ビヨヨヨ〜〜〜〜〜ン(〜〜;)
博がギャグに参加するのは、この長いシリーズでも極めて珍しい。
隆子のテーマが流れる
すっかり紅葉の吉野
金峯山寺仁王門の前
階段の上で隆子さんの買い物を待っている寅。
門前の和菓子屋『萬松堂』で秀吉のために買い物をする隆子さん。
寅も隆子さんもまだ名乗り合っていないことに気づき笑う。
寅「オレね、東京は葛飾柴又の車寅次郎ってんだ」
隆子さん「立派な名前」
寅「そうかねえ」
隆子「私淡路島で生まれて、
あと四国やら関西やらいろんなところで育ったの。
高井隆子と申します」
寅「隆子ちゃんか」
寅「ちょっとなんか呼びにくいなあ」
隆子「フフ」
寅「母さんでいいだろう」
隆子「そうね、寅さんでも父さんでも似たようなもんやしね、フフ」
寅「ハハハ」
仁王門をぬけて参道を蔵王堂へとゆっくり歩いてゆく。
山伏の一団とすれ違い驚く寅。
金峯山寺 蔵王堂
修験道の本山。その本堂がここ。
本堂(蔵王堂) 仁王門 ともにもちろん国宝。
お祈りをしている隆子さん。
寅「長い間何拝んでたんだい?」
隆子さん「お礼言ったのよ、坊やの命が助かったから。
五百円玉張りこんでしもうた」
それを聞いて、急に恐縮した寅は
寅「そういえば礼も言ってなかったな。ありがとう」と頭を下げるのであった。
隆子さん「あ…」
寅「赤の他人のオレ達にこんなにまでしてくれて…」
隆子さん「あ、だって、父さんだって坊やと赤の他人なんでしょ」
違うよ隆子さん、
寅は秀吉のゴッドファーザーんだよ。
名付け親であり後見人。知ってる?
赤の他人とはかなり違う関係。
寅「うん、でもよー…母さんは…たまたま隣の部屋に泊まっただけで
こんな騒ぎに巻き込まれちまって悪かったな」
隆子さんは昨日のことを告白するのだった。
どうやら男の人と二人で泊まる予定が断られたらしい。
それで自暴自棄になって旅館の窓から下に飛び降りてしまおうか…。
なんて思ってたらしい。
隆子さん「今は本当にあの男が来なくてよかった…。そう思ってるの。
だって…、もしあいつが来てたら、父さんたちが隣の部屋で何してようと関係なく
くだらない時間を過ごしてたに違いないもんねえ」
寅「そういうもんかねえ…」
秀吉がチアノーゼ状態になり一番苦しかった時に、
隆子さんは手を合わせ続けて全ての神様と仏様に願をかけたそうだ。
隆子さん「『この子の命が助かったら、私、酒でもタバコでも
男でも断ちますから』…そうお祈りしとったの」
寅、驚いて
寅「はは〜、偶然だなあ、オレもねえ、
女断ちますからって、そうお祈りしてたんだよ」
隆子さん、吹き出して大笑い。
隆子さんの「男断ち」と寅の「女断ち」は一緒じゃない。
寅は最初から女性を断っているからだ。
どんなにその女性のことを思ってもその女性を自分の
恋人や伴侶にしようとしないなんてある意味極めて禁欲的だ。
隆子のテーマが流れる。
ふたりは蔵王堂の縁に腰掛けて、
あらためて秀吉の病気の回復を喜ぶのだった。
隆子さん「お祈りが通じたかもしれんねえ…」
隆子さん「ほら、明け方、あの子が喉乾いたあ…、っていうたでしょう」
頷く寅。
隆子さん「唇見たら、赤い色が差してて、
『あー、よかった、助かった…。そうおもうた時、
あの子の命だけじゃなくて自分の命まで取り返したような…。
胸の奥から、冷たくて、きれーな水が音を立てて溢れてくるような、
フフ…そんな幸せな気持ちがしてね」
と涙ぐんでしまう。
隆子さんの今回のできごとに対するモチベーションは高い。
寅はおそらくこの時点で、隆子さんの人生に多くの悲しみが
あったことを悟っていたに違いない。
その言葉をしっかり受け止め、
般若の政の代わりに丁寧に礼を言う寅だった。
そこへ
宿のオヤジが秀吉がお腹すいたらしいと呼びに来る。
隆子さんは葛湯を作ってあげるらしい。
それと朗報。
オヤジがおふでさんの居場所を突き止めてくれたのだ。
どうやら三重県の伊勢志摩に今いるらしい。
寅は喜ぶが、隆子さんの顔にほんの一瞬影がよぎる。
縁が遠くなっていくのが淋しいのかもしれない。
その夜 寅の部屋
布団を敷いてだべっている寅。
秋の虫が鳴いている
寅はおふでさんが本当に喜んでくれるかどうか自信がなくなっちゃったらしい。
寅「ひょっとしたら金持ちの後妻になって先妻の子がいて、
おまけに自分が赤ちゃん産んでたりなんかして
そうなったらこら、どうするおい…」と、弱気になる。
妄想がはじまってますよ(( ヾ(^^;)
寅「はるばる訪ねていって迷惑な顔されるんだったらさ、
いっそのこと、ここから柴又へ引き上げたほうがいいんだよ、なあ。」ええ…(00;)
寅「もちろん、おまえの母さんも一緒さ」
あ、あ!…結局はそっちの理由ですか(((^^;)
ってか、おいおいおい昨晩の女断ちの願はどうした ヾ(^^;)
寅「おまえ、となりの母さん好きだろ?な」 それはあんたやろ ヾ(^^;)
寅「な、一晩中寝ないで、おまえのことを看病してくれたんだからあの人は」
妄想が始まりますよ〜〜〜
メインテーマが静かに流れる。
寅「あーあ…、おまえと母さんを連れて柴又へ帰る。
さくらが聞くな『お兄ちゃん、どうしたの?』
『うん、オレもいろいろ考えたけれども秀吉はオレの息子にすることにしたよ』
『ああそう、よかったわね』『でも‥その後ろにいる美しい人は誰?』
なーんて聞かれたらオレなんて答えたらいいかな?
え、な、おい、え、おい、よ、ほれ、…。
なんだよ寝たのか…」
一生言ってろよ ヾ(−−;)
その時部屋の襖が開いて隆子さんが入ってくる。
寅「ん?」
ちょっと酔っている。
お銚子とコップ持ってやって来て
隆子さん、秀吉を覗き込んで
隆子さん「寝たの?坊や」
寅「ん、フフ、なんでい、まだ起きてたのか」
隆子さん「宵っぱりなの私」
秀吉の寝相を直す寅
隆子さん「父さんみたいな人もおるんやねえ…」
寅「え、いやあ、オレみたいなバカもそう滅多にいやあしねえや」
隆子さん「おらんよお、いくら友達とはいえ、
他人の子供つれて、お母さん捜し歩いたりして…フフ」
寅「んー、ま、これは、渡世人の付き合いっていうか、しょうがねえや」さらっと言うのがいいねえ。
隆子さん「でも明日お別れやねえ…」淋しそうな隆子さん。
寅「ん」
ちょっと酔っていて
お銚子を倒してしまう隆子さん、寅が拾って、コップに注いでやる。
寅「母さん、これからどうするんだい」
隆子さん「…小さな車に乗って…、八木、五条、橋本…、
そんな旅がずーっと続くの…」
寅「んん…母さんも旅人(たびにん)なんだなあ…」
隆子さん、そっと寅の方にもたれるようにして
隆子さん「いつか父さんに会いたくなる時が来るやろなあ…」
別れたくないんだね。
寅「オレは一年中旅暮らしだから、いつだって会えるよ」
隆子さん「ほんと?」
寅「ああ、ほんとうさ」
隆子さん「じゃあ、その時まで男断ちして待ってよ」
寅「ああ、オレも女断ちして待ってるよ」粋だねえ〜。
二人して笑い合うが、
隆子のテーマが柔らかく流れる。
隆子さんの声はやがて嗚咽に変わっていく。
寅「どうした?」
隆子さん、泣きながら
隆子さん「私、粗末にしてしまったのね、
大事な人生なのに…」
と俯せになって泣き続ける。
寅、そっとカーディガンをかけてやる。
寅「大丈夫だよ、まだ若いんだし、な、
これからいいこといっぱい待ってるよ、な」
うなずく隆子さん
泣きながら
隆子さん「そうね…、『生きててよかった…』、
そう思えるようなことがね、ううう…」
隆子さんはそう言って立ち上がり…
秀吉の布団に入っていく。
隆子さん「ここに寝てもいいでしょ」
秀吉にくっついて
隆子さん「あ、フフ、ぬくい〜〜、フフ」
寅、隆子さんを見ている。
隆子さん「私にもこれくらいの子供がおったんよォ…。
可哀想に堕ろしてしもうたけど…」
そうだったのか…。
それで昨日からの行動が納得できた。
隆子さん、寅の方を振り向いて
隆子さん「父さん、ここに寝てぇ」
第15作「相合い傘」のリリー思い出しました(^^;)
寅、ビビる(((((^^;)
寅「え」
隆子さん「ねえ」
寅「あ。そうしましょうか…」と、ギクシャクしながら布団に入る。
顔のころに隆子さんの手が。( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)
はっと顔を上げる寅。
ちょっと手を横にやって
寅「はああ、は、はあああ…」
とワケの分からない擬音を出して上を向く。
一拍あって―
隆子さん「あ???あれえ?」どうしたどうした。
寅「は!??」
隆子さん起き上がって
秀吉の布団を剥ぎ取る
隆子さん「なんか温いもんが!」
隆子さん「あ、!!いやあ!!」
寅「やったな!!」
秀吉の噴水のようなションベンがもろ寅の口にΣ(|||▽||| )
寅「ぷはあ!!きたねえ!飲んじゃったよゴクッと!ブハ!
あーしょっぺえ!しょっぺえ〜!」 ワッ…バカ…(ノ_-;)
ご愁傷さま チ〜〜〜ン(TT)
翌朝 大和上市駅 ホーム
なぜか 翠山荘の近くにある吉野駅からは出発せず
かなり遠い大和上市駅から出発
いろいろロケの際の事情があるんだろうね…。
電車に乗って窓から別れを惜しんでいる3人。
隆子さん「さよなら。体に気をつけてね」
と秀吉の顔を触っている。
寅、秀吉に、
寅「礼を言え」
秀吉「母さん、どうもありがとう」
本当に秀吉くん数少ない台詞の一つです((^^;)
淋しそうにほほえむ隆子さん。
寅「母さんもよ、今度会う時は、
もっと幸せになってるんだぞ。な」
寅が言うと、嫌味がないね。
寅にしか言えないいい言葉だねえ…。
微笑みながらうなずく隆子さん。
笛がなって、エンジンが動き出す。
隆子さんに一瞬悲しみの表情が現われる。
動き出す電車。『急行 あべの橋」6053
秀吉「バイバーイ」
寅「母さんも元気でな!」
隆子さん「さようならー!!」
秀吉「バイバーイ!!」
隆子さん「バイバーイ!!」と大きく手を振り続ける。
電車が遠くに去っても
秀吉の声「バイバーイ!!」
隆子さん「バイバーイ!!」
悲しみのBGMが流れる。
一人残される隆子さん。
強烈な孤独が隆子さんを襲う。
淋しく駅を出て、
一人軽四に乗り込み、去っていく。
寅たちを乗せた列車は―
大和上市駅ーかしはら神宮前ー大和八木駅ー鵜方ー志摩神明 約3時間半
『近鉄志摩線』の特急が走っていく。
こうして寅と秀吉は志摩神明まで辿りつくのだが、
伊勢志摩
登茂山から見た英虞湾
なぜか最後の最後がなんと船!で、英虞湾を入り、賢島まで行くのだ。
ここの湾にはもちろん各島々を結ぶ小さな連絡船で着いたと思われる。
何らかの理由で志摩神明に行かずに、違う島に行ってしまい、
そこから連絡船に乗ったのだろう…。無理があるなあ〜〜〜(^^;)ゞ
船長さんはお馴染み『すまけいさん』
前作「知床慕情」につぎ、2作品連続船の船長役。
同じようにへたな歌をうたう(^^;)
船長「♪飲み過ぎたのは〜〜〜、あなたのせいよ〜〜〜」
『男と女のラブゲーム』
賢島に上陸
松井真珠店
三重県志摩市阿児町神明733の4
寅は、松井真珠店の女将さんである河内桃子さんから
おふでさんが病気で入院し、
今はこの店の別邸で静かに暮らしていることを知らされる。
女将さんはおふでさんが秀吉のことをいつも気にして
それが原因で病気になってしまったことを知っている様子だった。
めちゃくちゃな車の運転をするすまけいさんに
運転させて三人はおふでさんが静養する別邸へ。
河内桃子さんの抑えた確かな芝居はよかった〜。
海のそばの 松井家の 別邸
うわッ、かなり朽ちているな…。
普段人が住んでいないとこうなるんだね。
寅「あ〜。これはいいとこだ」
すぐにおふでさんを呼びに行く女将さん。
寅「おふでさんはやつれてるかい?」
船長「手術したあとはこんなにやせとったけど、この頃はもう、すっかり」
ちょっと安心する寅。
寅「そうか、そらよかった…」
家の中で女将さんの声「ほんまや〜、嘘なんか言うわけないでしょ」
寅小さな声で秀吉に
寅「母ちゃんだぞ」
入り口のほうを見ている秀吉。
半信半疑で走って入り口から出てくるおふでさん。
おふでさん「…!!寅さん…」
寅、にこっと微笑む。
寅「息子を連れてきたよ」
秀吉を見つめるおふでさん。
寅「さ、行け」
と、秀吉を送り出すが、秀吉はそこに止まったまま。
おふでさんを見つめる秀吉。
寅「秀、思い出したろ、母ちゃんだぞ」
オラ「行け」とさらに一歩押し出す。
何歩かゆっくり進んでいく秀吉。
緊張感のある音楽
ふでと秀吉のテーマ大きく流れる。
秀吉に駆け寄り、
秀吉を掴み、ひざをつくおふでさん。
秀吉を見つめるおふでさん。
秀吉「お母ちゃん」
想いが吹き出すように秀吉にしがみつき嗚咽するおふでさん。
おふでさん「ううううう…ごめんね…
ごめんね…うううううう」
次第に泣き崩れていくおふでさんだった。
彼女の後悔も懺悔も全て涙と共に吹き出していくのだった。
目をうるませて静かに見守っている寅と船長。
放心状態で見ている女将さん。
おふでさん、ハンカチで涙を拭きながら
おふでさん「寅さん、いったいどういうわけ?…」
寅「般若の政はな、‥死んだよ」
おふでさん「え…」と寅の顔を見る。
寅「この子をオレに頼むと言い残して」
おふでさん、何かを思い出すような目。
寅「ま、思い出したくもねえような男だろうけれども、
あいつも仏になっちまったんだ。
勘弁してやってくんな」
おふでさん、また嗚咽している。
おふでさん、立ち上がり
おふでさん「ありがとうございます。
とんでもない御迷惑かけてしまって」
寅「礼を言われるほどのことはねえよ。
名付け親としてあたりめえのことをしただけだ。
なあ秀吉」
寅にまとわりついている秀吉。
数時間の後…
寅からの電話
寅は、さくらにことの顛末を電話している。
喜び安心するとらやの面々。
寅はこのあとすぐ帰るとさくらに伝える。
賢島 松井真珠店及び連絡船乗り場付近
女将さんが今夜おふでさんと夕飯を食べ、
宿泊もしてもらうと決めているのに
寅は振り切る思いで、それらを断り、
この地を去ろうとする。
寅「奥さん、どうぞ、おふでさんとあの子のことを
よろしくお願いします。それでは失礼します」
とお辞儀をし、船に乗ろうとする。
秀吉は寅と離れたくない。
急いで船まで駆けてくる。
秀吉「おじさん!おじさんどこ行くの!?」
寅「おじさんはな、これから柴又へ帰って、
秀吉が母ちゃんと会えたってことを
みんなに話してやるんだ」
秀吉「オレも一緒に帰る」
寅しゃがんで
寅「なに言ってんだ、お前はここに残るんだろ」
秀吉「いやだ!おじさんと一緒に帰る!」
寅、真剣な目になって、立ち上がる。
船長「どうだい、せめて一晩泊まっていったら…」
寅「頼むから口出さねえでくれ」寅の決意は固い。
メインテーマが静かに流れる。
寅「いいか秀よーく聞くんだぞ、おじさんはな、
おまえのあのろくでなしのオヤジの仲間なんだ。
いい年をして、おっかさんの世話もみねえ、
子供の面倒も見ねえ、
…そんな粗末な男におまえなりてえか?」
秀吉は悲しみで泣き始めている。
寅「なりたくないだろ秀。
だったらな、このおじちゃんおことなんかとっとと忘れて
あの母ちゃんと二人で幸せになるんだ。
わかったな、わかったら早く行け!」
秀吉は嗚咽しながら
秀吉「おじさんと一緒がいい‥ううう」
寅はきつい目をして
寅「これだけ言ってもわかんねえのか。おじさん怒るぞ」
寅「行け!これで涙拭いてっっさと行け」とハンカチを渡す。
泣き泣きよろよろ戻っていく秀吉。
女将さんの胸でエンエン泣いている。
女将さん「寅さん…それじゃあ…」
と、あまりの仕打ちに悲しんでいる。
お辞儀をして、船に乗り込む寅。
船の名前 いそぶえ
寅「船長行こ」
船長「なんちゅうことや…」
船が岸を離れていく。
秀吉は、思い切って防波堤の方へ走る。
桟橋を走り寅を追いかけてくる。
船長「寅さん!ほら!」
別れのテーマ曲(ふでと秀吉のテーマ)が流れる
秀吉泣きながら走り続ける。
秀吉「おじさん!!」
言葉とは裏腹に身を乗り出して秀吉を見ている寅。
秀吉「おじさーん、行っちゃダメ!!」
秀吉「おじさーん!!おじさーん!!」
ハンカチを地面に投げつける秀吉。
遠ざかっていく船
船長「ええのか行ってしもて」
寅「かまわねえ、どんどん行け」
船長「せつないことやなあ」と、うるうる。
秀吉、ハンカチを拾って、また泣いている。
もう二度と秀吉のもとには戻ってこない寅だった。
東京 柴又 題経寺
御前様「よかった。本当によかった。
仏様が寅の姿を借りてその子を助けられたのでしょうなあ」
さくら「まあ、もったいない、
兄のような愚かな人間が仏様だなんて、
バチが当たりますよ御前様」
ちゃうちゃう、さくら。
寅そのものがずっと仏様なのではない。
仏様が秀吉を母親に会わせるために
一時的に寅の姿を借りて旅をしただけ。
よく理解して欲しい。
寅は無欲なので仏様が中に入りやすいということ。
御前様「いや、そんなことはない」
御前様「仏様は愚者を愛しておられます。
もしかしたら、私のような中途半端な
坊主よりも寅の方をお好きじゃないかと、
そう思うことがありますよ、さくらさん」
さくら、恐縮して
さくら「おそれいります」
源ちゃん、境内の葉っぱで焼き芋焼いて食べている。
源ちゃん「コホコホ」
ニコッと笑ってさくらにも勧める。
ウマそうに食べている源ちゃん。
御前様「あれは…愚者以前です。困った〜〜」
笑っているさくら。
ひたすら愛を与えることだけを生きがいとして、
愚かだが無欲に生涯を貫いていく孤独な寅の真骨頂が
この言葉に集約されていた。
無欲という意味では寅はお坊さんたちよりよっぽど無欲。
さすが御前様は人間を見ている。
それにしても、
あのまま児童相談所に秀吉を持って行っていったとしたら
伊勢志摩の母親まで情報をたどっていくことができただろうか…。
行政というのは確かなことを粛々とやってくれるが、
一人の子供の為に何日も何べんも粘り続けて探してはくれない気がする。
決して家族のように一歩も二歩も踏み込むようなことはしないんだよなあ。
とらや 二階
とらやに帰って来たさくらは、寅のお昼ごはんを持って二階に上がる。
御前様が褒めていたことを伝える。
寅は秀吉との別れがこたえたようである。
やや疲れた表情をしている。
あけみとおばちゃんが「からみ餅」の話題を一階でしている。
大根おろしに醤油をかけて焼き餅につけてパクリと食べる。
さくら「お兄ちゃんはね、仏様に愛されてるんだって」
寅「フフフ、冗談じゃねえや、
仏に好かれたっていい迷惑だい。
今度お参りしたら言っとけ、
そっちはその気でも、こっちは愛しちゃいねえよーって」
いいねえ寅のこの感覚って。
仏様ごときでは、シッポ振って喜ばないところが自由人だ。
さくら「フフフ、いいの、そんなこと言って」
と、お茶をいれる。
この時、二階廊下の開かずの仕切戸が初めて見える。
向こうは荷物部屋。その間に小さな物置部屋。
これはとても貴重な映像。↓
さくら「もう師走よ。早いわねえ、一年経つのって」
寅、意を決したように
寅「さて、ぼちぼち旅に出るか」
と、立ち上がる。
せっかく持ってきたお昼ごはんも、
今入れたばかりのお茶も飲まないのか…。
漬物用の白菜が干してある。
さくら、びっくりして
さくら「もう行っちゃうの?」
寅「病気でもねえのに、」
ハンテンを粋に肘だけでポーンと脱いで―
こういう立ちふるまいがいいねえ、渥美さんは。
寅「フラフラ遊んでたんじゃ、
お天道様に申し訳ねえからな」
吊るしてあった背広を着る寅。
さくら「くたびれてるみたい。働いて大丈夫?」
秀吉と無理やり別れたのがきつかったのかも…
寅「働く?」
頷くさくら。
寅「フ…、何言ってんだおめえは。
働くって言うのはな、博みてえに、女房のため、子供のため、
額に汗して真っ黒になって働く人達のこと言うんだよ。
オレたちは口からでまかせ、インチキ臭いものを売ってよ、
客も承知でそれに金払う、そんなところでおまんまいただいてんだよ」
さくら「…」
かばんを閉じて、廊下に出る。
さくら「お兄ちゃん…、それが分かっていながら…」
寅「それが渡世人のつれえところよ…」
と、下りていく。
さくら、寅の財布をお膳で見つける。
さくら「あら」とすぐつかんで渡しにいこうとするが、
ふと立ち止まって…。
寅の財布の中を見て、自分の財布を開け、
一万円札を出して、
寅の財布に入れてあげるのだった。
おいちゃんと、おばちゃんに目配せをして出て行く寅。
おいちゃんもおばちゃんも止めるが
寅「また近いうち寄るから」と出て行こうとする寅。
さくら二階から下りて、奥から走ってきて
さくら「お兄ちゃん、忘れ物」と財布を渡す。
寅「おお!なんでい、
命より大切なもの忘れるところだった、ハハハ」
ちょうど満男が帰って来て、
さくらは満男に駅まで送らせる。
おいちゃんとおばちゃんに目で別れを交わして、
すっと去っていく寅。
渥美さん、なんてテンポがいいだ。カッコいい。
【このシーンの不具合について】
ところで、このシーン↓で、なんと、
満男が約10秒以上とらやの左横でスタンバイしているのが
この本編でスクリーンに映ってしまっている。
体(腕)とかばん↓が映ったまま10秒以上スタンバイ。
その後にさくらが寅に財布を渡すシーンでは、ズームが使われるため、角度が変わり、
最後はスタンバイしている顔まで映ってしまっているのだ。
「予告編」でスタンバイシーンが映っているのは何度か目にしたが、
本編で、しかもレギュラーの満男が、スタンバイしているのが映っているのは
極めて珍しい。
今までも何度か「予告編」などではこういうスタンバイの
姿がちらっと見えたことがあったが、
「本編」で、それもレギュラーの満男がとらやの横で
立ち止まっているのはえ?なんだろ?って異様だった。
顔も見えてしまっている↓
最初はミスだって思わずに「え?満男そこでなにやってんだ?」
って真剣に悩んでしまった。
寅伯父さんに気を遣って会う前から離れて待ってるとか??
でも、満男があそこでずっと止まっている話の運びのわけないし…。
あそこで10秒以上もぼんやり止まる理由がまずない。
だいたい満男はあのあと寅に気づかずとらやを素通りしようとするのだから。
ただ、観客はスクリーン右の寅とさくらの芝居をひたすら見ているから
左のガラス戸の向こうの満男の顔までは見ない。
私もなんども観ているのに、今日の今日までまったく気づかなかった。
(ちなみにさくらはほとんど満男を見ないまま満男を発見している)
そしてタイミングを見計らって吉岡くんは店の前まで動き出す。
とにかく正式な「本編」でこんなことははじめてだった。
びっくりした〜。
映画と違ってDVDなどでは何度も見るので
こういう発見がしばしば起こりうる。
ファンにとってはお宝映像で嬉しい限りだが、
当時のスタッフさん達にとっては
うわっ、ついにわかっちゃったな…。って感じかもしれない(^^;)
物語に戻って…
手を振るさくら。
柴又駅前
アイルランド民謡 ロンドンデリーの歌 (ダニーボーイ)
駅前で、参考書でも買えと3千円ほど満男にやる寅。
さくらがお札を増やしているので
寅「あれ?ちょっと増えてんのか?んなことないか」万札が増えてるよ ヾ(^^;)
満男は駅での別れ際に寅に
自分の悩みを投げかけるのだった。
満男「伯父さん…」
寅「なんだ」
満男「人間てさ」
寅「人間どーした」(^^;)
満男「人間は、何のために生きてるのかな?」
寅「……んな、おまえ〜」と満男をジロジロ見ながら
寅「難しいこと聞くなあ、えー」
寅、ちょっと考えながら
寅「んー…、なんて言うかなあ…、
ほら、『あー生まれてきてよかったな…』って
思うことがなんべんかあるじゃねえか、ねえ、
寅「そのために人間生きてんじゃないのか」
それ、隆子さんの言葉だったね。
満男「ふーん…」と寅の言ったことを考えている。
寅「そのうち、おまえにもそういう時が来るよ。な…」
寅、にこっと笑って、満男の肩を叩き
寅「ま、頑張れ、な」
そして、言うなり、すっと駅の方へ歩いて行く寅だった。
一人残された満男は…
師走の喧騒の中、淋しく参道を帰っていく。
正月 とらや 店
隆子さんがなんととらやに遊びに来ている。
若い女性が2人ほど手伝いに来ている。
これは珍しい状況。
まあこの作品は、とらやがとても繁盛している。
小さな電気ストーブだけつけて、庭の窓も開けっ放し。
これはこの季節寒いだろうなあ〜〜〜(^^;)
みんな、草団子やおでんを出してもてなしている。
忙しい時に来てしまって恐縮している。
隆子さん「でも安心した、あの坊やがお母さんに会えて」
と、ふでさんからの年賀状を見ている隆子さん。
なるほど、秀吉のことも心配で、
隆子さんはわざわざ関西から柴又へ来たんだね。
隆子さん「今ごろどこにいるのかなあ…父さん」伊勢の二見浦におります(^^;)
博もさくらも驚く。
隆子さん「あ、フフ、いけない、寅さんやった。
私、いっつも『父さん』って呼んでたものだから、フフフ」
さくら「じゃあお兄ちゃんが『母さん』って呼んでた人は…」
隆子さん「私なんです…」
さくら「‥!どうして?」だよねえ(^^;)
隆子さん「私は坊やのお父さんだと思って
『父さん』って呼んでたんですよ。
そしたらねえ、」
さくら「ええ」
隆子さん「寅さんたら、
私のこと母さんだなんて、フフフ」
博とさくら、ようやく事の真相がわかって大笑い。
タコ社長が入って来て
社長「お美しい方ですね…」と、ワケがわからないこといきなり言っている始末。
おばちゃん、隆子さんに社長を紹介、
おばちゃん「この人ね、博さんの務めている工場の社長のタコ。
あ、間違えちゃった」
おばちゃん「あれ?あんたなんて名前だっけ?」とボケる(^^;)
設定的には『桂梅太郎』
ただし、映画の中で呼ばれたのは『堤梅太郎』(第6作)
みんな大笑い。
社長「ひどいねえ〜」と漫才している。
さくらのテーマが流れる中
おふでさんのナレーション。
おふでさんからの年賀状
文字が映る。
おふでさんの声「あけましておめでとうございます。
寅さんをはじめ、みなさんのお陰で
秀吉と二人、幸せな正月を迎えることが出来ます。
つらいことはいろいろありましたが、
今、生きていてよかったと心から思っております。
正月元旦 賢島にて
ふで 秀吉
伊勢 二見浦
またもや、同じ場所の伊勢で正月の縁起物をバイしている寅。
毎回毎回本編で一度出てきた土地と同じエリアに
ラストでわざわざ寅が旅費使って舞い戻ってくるなんてありえないって。
もう全48作中ほとんどの作品で本編中のロケとラストのロケが重なっている。
もちろんロケの都合と予算の都合で同じ土地になるのは百も承知なのだが…(^^;)
私も大阪時代、小学校高学年の修学旅行で、伊勢志摩に行った。
これはその時の集合写真。夫婦岩が同じ構図(^^)
さて私はこの中のどれでしょう(^^)↓
え?わかるわけないってヾ(^^;)
夫婦岩の海を見ながら満男の問いかけを
今も自分に問うている寅だった。
一応、ポンシュウにも聞いてみる寅だったが
ポンシュウは皆目わからないようだった((^^;)
そして!なんと、超偶然、というか、お約束(^^;)というか…
おふでさんと秀吉、そして船長の3人で
お伊勢さんの初詣に歩いているのを見つける
すぐに岩陰に隠れる寅たち。
ポンシュウたちも一緒に隠れて、
ポンシュウ「なんで隠れんだよ」
寅「オレたちのような人間がな、声をかけちゃ迷惑なんだ。
それくらいのことわかんないのか、バカヤロウ」
楽しそうに歩いていく3人。
秀吉がおもちゃと風船を持っている。
船長、風船を持ってあげて、手から離れそうになる『芸』をする。
この芸は絶品。
大笑いしているおふでさん。幸せそうな笑顔。
二見興玉神社と 龍宮社の間に架かる赤い契(ちぎり)橋を渡っていく3人。
【二見シーパラダイス】の水族館に行くのかな…
寅遠くで見守りながら、
しみじみ…
寅「そうか…、船長が秀のてて親か、
いいだろう、あいつだったらいいだろう」
船長独身だったのか…(^^;)
バイに戻る寅。
寅「さあ!ヤケのヤンパチ日焼けのナスビ、
色が黒くて食いつきたいが、
あたしゃ入れ歯で歯が立たないよ!
どう!四百!四百円!どう!え!
四谷赤坂麹町チャラチャラ流れるお茶の水、
粋な姐ちゃん立ちションベン!さあ!
白く咲いたがユリの花、四角四面は豆腐屋の娘、
色は白いが水くさいときた!」
伊勢の海が映って
終
|