バリ島.吉川孝昭のギャラリー内


第1作 男はつらいよ

1973年8月4日封切り








6月28日『松村達雄おいちゃん』名場面集

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二つの孤独の出会い

どのような俳優さんも一生の内で、『役に出会う』ことが一度か二度はある。この人でないとこの役は、務まらない。
この人以外には考えもつかない。というような決定的な出会いがあるものだ。渥美さんや倍賞さんなどもこの映画に
よって『役に出会った』と言えよう。そして、もうひとり確実にこの長いシリーズの中で、まるで水を得た魚のように生き生き
輝いて、完全に役を自分のものにしていたのが浅丘ルリ子さんである。この3人はどんなことがあっても誰も代役ができ
ない。もうこの3人以外誰も思い浮かばない。私にとって「男はつらいよ」は寅次郎の物語であり、さくらの物語であり、そし
て、リリーの物語である。



                         


リリーは決していわゆる岡惚れのマドンナではない。寅にとって生涯を通して深い絆のあった最愛の人だ。絶対に誰にも
分かってもらえないような、たとえ妹のさくらでさえ分からないような寂しさや辛さも境遇の似ているリリーとなら分かり合
える。慰めあえるし、笑いあえる。寅にとってリリーは最強の同士でもあるのだ。

リリーが「ハイビスカスの花」に出た後、15年間もの沈黙があった。私はその15年間、毎年毎年ずっとリリーのことを待ち
続けた。この物語は基本的には1話完結なので、もうずっとリリーは出てこないかもしれないことは百も承知で、それでも
次回のマドンナが発表される度に、ドキドキしながら浅丘ルリ子さんの4度目の登場を待った。そして遂に1995年「紅の花」
で浅丘さんはスクリーンに再度登場した。この時ほど嬉しかったことはない。
そして今、私は勝手にリリーの5度目の登場を夢見ている。私の頭の中では満男と泉の結婚式に何らかの形でリリーが
関わることになるのだ。

山田監督は当時、朝間義隆さんの提案で気軽に、受身的に浅丘さんに会ったらしい。山田監督が彼女と話をしているうちに
だんだんこの女優さんを使って、もっといい企画の物語が作れる、と思い、その時のアイデアをいったん白紙に戻して、彼女
から出てくるイメージを暖め、遂にリリーという魅力的なキャラクターを産みだした。ということだ。山田監督が渥美さんという人に
会っているうちに寅さんという人間像やその周りの人間関係までイメージが湧き出てきたように、浅丘ルリ子さんという女優さん
は山田監督をして、リリーという魅力的なキャラクターをイメージに浮かべさせたのだろう。それほどにも凄い役者さんである。
ちなみに『リリー松岡』というネーミングは初期の作品「いいかげん馬鹿」の歌手「サリー松丘」の発展バージョンであろう。

さて、前置きが長くなったが、この第11作「寅次郎忘れな草」は寅とリリーが初めて出会う映画である。リリーには寅と同じ臭い
の孤独があり、同じフーテンが持つ自由な空気もある。それゆえに二人はすぐにお互い惹かれあうのだ。しかし、リリーの孤独は
底のない深いものであるのに対して、寅は、生い立ちの境遇やフーテンゆえの辛さはリリーと似ているものの、絆の強い「さくら」や
「とらや」を持っている分、リリーよりは底の浅い孤独になっている。だから寅はいつまでも旅を続けることが出来るのだし、疲れた
らとらやに戻ってもくるのである。この孤独の深さの違いを埋めるためには、なによりも人生をかけた長い時間が必要だったのだろ
う。そして、リリーはこの後、2度も結婚し、短いながらもリリーにとっての心の置き場所を自分なりに作っていくのである。

話はまたもや現在に近づいてしまったが、ともあれ、この「忘れな草」は遠い北の大地で二つの孤独が運命的に出会い、東京で
再会し、ほんの少しの蜜月の時を味わいながらも、この孤独の深さの違いに耐え切れずに別れていく話だ。お互いが未来での再会
の予感を強烈に感じながら。寅のあのセリフ「言って見りゃぁ、リリーもオレと同じ旅人よ」がいやに身にしみた。

リリーと寅が網走の橋の袂で出会って、お互い短いひと時を過ごし、別れるまでのシーンはこのシリーズの屈指の名場面であるば
かりか日本映画の屈指の名場面にもなりうる美しい叙情的なシーンだ。山本直純さんが作られた最高のテーマ曲のひとつである
『リリーのテーマ』がなんともいえないもの悲しさを出していた。その他、ピアノ騒動で傷心の寅が北海道の原野を放浪するシーンや、
リリーの歌うシーン、リリーのとらやでの団欒、牧場で倒れる寅、などなど、盛り上がる箇所もふんだんにあり、エンターテイメントという
意味でもかなり質の高いものになり得ている。なんといっても題名の「忘れな草」がいい!ポスターの文句も気に入っている。
「ほら、逢ってる時は何とも思わねえけど、別れた後で妙に思い出す人がいますね。…そういう女でしたよ、あれは。」

私のベストの中でも当然上位に入る名作である。

なにはともあれ、私の「男はつらいよ」依存症の病巣の中枢にリリー4部作は太い根をおろしているのだ。その根は今もなお成長している。



                       




■第11作「寅次郎忘れな草」ロケ地解明

全国ロケ地:作品別に整理






今回も夢から始まる。時代劇である。

貧しい農家の娘「おさく」は借金が返せなくてヤクザの親分に連れて行かれそうになっている。
吉田義男さん扮する父親が別れを惜しんで泣いている。


さくら = おさく ^^; 
さくら = チェリー(15作)

短絡的なネーミング^^;




タコの親分「さ、いつまでそうやってたってキリがねえ。夜道は長げえんだ。さ、娘」
ひろ吉「おさくさん!」
おさく「ひろ吉さん!」


博=ひろ吉 ┐(´-`)┌


ひろ吉「許してくれ!この3日間足を棒にして集めた銭がたったのこれだけ。おらぁ、甲斐性のねえ男だ


タコ親分「さあさあさあ、行くんだ、行くんだ!

その時、部屋の中に『チャリーン』と小判が数枚投げ入れられる。

タコ親分「あ、小判だ…小判!

みんな外に出て、寅を見る。

おさく「もし、あなたは…、あんちゃん!

父親「おさく!

ペペペンペンペン

寅「何かのお間違いじゃございませんでしょうか。
 あっしはこの柴又村には何のかかわりもねえ旅烏でございますよ


父親「これはこれは失礼を申し上げました。おさく、他人の空似だ!

寅「

父親「旅の衆、わしらにはちょうどおめえ様と同じ年恰好の寅次郎と言う、ヤクザな倅がございましてな

ペペペン…

父親「御政道に逆らって追われる身となり、家を出たっきり行方知れず

ペペペン…

父親「今はどこでどうしておることやら…ハハハ、ゴホゴホゴホ!!

ペペペンペペン…

寅「さっきの話は残らず陰で聞かしていただきやした。
 御政道が悪いばかりに弱いものいじめをする奴が後を絶たねえようで…



タコ親分「言いやがったな!この野郎!

源公手下「親分やっちまいましょう!

寅「ジタバタ言わねえで、足場のいいところへ出ろ!

源公手下「よおし!いい度胸だ!

チャンチャンバラバラ、簡単にみんな寅にやっつけられる。

にわとりが前を『コケッコー』と横切る。

でもタコ親分は腹を拳骨で打たれただけなので、
あとで復活してしまうがその辺のところは
どうなっているんでしょうか?(^^;)



寅「おさくさんとやら、いずれ御政道が改まりゃ、
 晴れてあんちゃんと笑顔で会える日がきっとまいりますよ



おさく「はい


父親「私どももきっとそれを信じております

寅「それじゃ、ごめんなすって」とさんど笠をかぶり、ささっと走り去る。

父親、感極まって「寅!!←吉田義男さん「間」が絶妙!
音楽盛り上がって。
寅、振り向いて笑いながら「お天道様はお見通しだぜ!」と、笑顔がアップになる。


                      


いよ!大統領!

日本一!

寅次郎!

いよ!後家殺し!!←なぜか大阪弁(^^;)



北関東あたりの田舎の小さな神社の社でうたた寝


雨が降ってきた。
雨が顔を濡らし、起きてしまう。少し肌寒い。雷もなっている。
困った顔の寅、ふと見ると床下に番傘が置いてある。
喜んだ寅、ポン!と柱に打ちつけはたいて、



寅「月様、雨が…。春雨じゃ!…

バサッ!と傘を開くと、ボロボロ。


                       


寅「濡れていくか…。あーあー…、

と、背広を手で閉じ、天を見上げて辛い目をする。



『月様雨が… 』『春雨じゃ、濡れて行こう』
行友李風(ゆきともりふう)作の戯曲「月形半平太」の主人公月形平兵太
維新前夜の京。開国論者月形平兵太の死闘を祇園情緒たっぷりに
描く娯楽時代劇
舞妓梅松とのからみで『月様雨が… 』『春雨じゃ、濡れて行こう』の台詞は有名。
寅はこのセリフを真似ていた。
モデルは尊皇派の論客で土佐勤王党だった
武市半平太(たけちはんぺいた)。




タイトル

「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」 「男」は赤文字、 「はつらいよ」は白文字、 「寅次郎忘れな草」は青文字
バックはお馴染み江戸川土手。


                           



  口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
 帝釈天で産湯をつかい姓は車、名は寅次郎、
 人呼んでフーテンの寅と発します。



   ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前の喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


   ♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら こんな苦労も
   こんな苦労も掛けまいに 掛けまいに♪





今回は『矢切の渡し』に乗って千葉方面から柴又へ戻ってくる寅。

第1作で2回、第11作、第13作、第38作、第42作、と
合計6回、寅は『矢切の渡し』に映画の中で乗っている。




今回のミニコントは江戸川土手で中高生くらいの若者グループにカメラを撮ってくれと
頼まれた寅が、「後ろ下がって、もうちょっと後ろ…」とか
言ってるうちに若者達が土手で転がって、寅が上から笑いながら写真を撮る。という話だった。





                     





とらや


源ちゃん、とらやであくび。

おばちゃん、「はい、おあがんなさい

御前様が寅の父親の27回忌の法事で来て、とらやで話をしている。


御前様「ほう、燕が…


おいちゃん「おー、あ、そういえば伊勢屋の蔵の燕が帰ってきたそうですよ。
     去年、巣を取っ払っちまおうと思って
     たんだけど、残しておいてよかったって、おやじがそんなこと言ってたよ


御前様「ほー、そらよかった

おいちゃん「しかし、不思議なもんだねー、
    ちゃんと自分の巣を覚えてるんだから…


一同、寅のことをなんとなく思い出す。

御前様「とらやさんの四角い顔の燕はどうしてるかな?
   今年は帰らんのかな


さくら「さあ、自分の巣を忘れちゃったんじゃないでしょうか

そう言えば、第9作「柴又慕情」の最初のシーンでも、さくらが題経寺の
山門のところの燕の巣を見て、もし来年帰ってきて自分の巣がなかったら
可哀想だから残してやって欲しいと御前様に言っていた。
兄思いのさくらだな〜。



御前様「今日は父親の27回忌なんだが…

おいちゃん「とんでもないですよ!あの親不孝者がそんなこと覚えてるわけないですから、ハハハ!

中村はやと君さくらの膝にだっこ。

おばちゃん「この前帰ってきたのはいつだったっけね

博「去年の秋ですよ。今度は随分長いなあ…

おいちゃん「全く、いつまでこんなことくり返してのかねー

御前様「ご苦労だね、みなさん

一同「ハハハ!

遅れてきたタコ社長も加わって。


御前様「それではぼつぼつ」と読経を始める。

お経はなぜか「日蓮宗である題経寺」では読誦しないはずの
般若心経
(^^;)

↓御前様が読誦された部分。


 ぶっせつ ま か はんにゃは ら  み た しんぎょう
仏説摩訶般若波羅蜜多心経

かん  じ  ざい  ぼ  さつ   ぎょう じん はん にゃ  はら みっ  た  じ   しょう けん ご うん かい くう

観自在菩薩。行深般若波羅蜜多時。照見五蘊皆空。
 ど  いっ  さい  く  やく   しゃ  り  し     しき ふ い くう     くう  ふ  い  しき     しき そく ぜ くう
度一切苦厄。舎利子。色不異空。空不異色。色即是空。
 くう そく ぜ  しき   じゅ  そう ぎょう しき  やく  ぶ  にょ  ぜ     しゃ り し    ぜ しょ ほう  くう そう
空即是色。受想行識亦復如是。舎利子。是諸法空相。
 ふ  しょう ふ  めつ   ふ  く   ふ じょう    ふ ぞう ふ げん   ぜ こ くう ちゅう
不生不滅。不垢不浄。不増不減。是故空中。
 む  しき  む  じゅ そう ぎょう しき  む げん に び  ぜっ  しん  い 
無色 無受想行識。無眼耳鼻舌身意。


↑このあたりで御前様が寅の悪戯に対し「こら!何が可笑しい!!」と怒るので映画では読経はここで終わり。
笠智衆さん、さすがに本場のお坊さんの家出身だけあって、読誦がうまい!


意味:観音さまが修行によって深い智慧を完成した時、物体や精神には実体がなく空であると悟り、
すべての苦悩や災厄から抜け出すことができた。
舎利子(お釈迦さまの弟子)よ、物体は実体のないものであり、
実体がないのが物体である。つまり、物体の本質は実体がないということであり、
実体のないものこそが物体なのだ。これは、感覚や意識といった精神的なことも同じである。
舎利子よ、すべての現象には実体がないのだから、生じることも滅することもない。
汚いとかきれいということもない。増えたり減ったりすることもない。物体もなく、
精神や感覚もない、目に映る世界もなければ、意識に映る世界もない。…



読経の続く中とらやに寅が帰ってくる。


団子食べてる源ちゃんに、後ろから忍び寄り、「
ワッ」と驚かそうと手を広げた時に読経が耳に入る。

寅、「
ハッ!」と、暖簾をくぐり、一同を見て、

寅「
さくら!

寅「あー!とうとうおいちゃん逝っちまいやがったか!知らなかったよー」と座って手を合わせる。

寅「勘弁してくれよ、おいちゃーん!

ふと見ると、おいちゃんが寅の方を見て座っている。


寅、指差して「
あんた…??

寅「
いや、おばちゃん…お?と指を差す。

寅、目の前のさくらにさくらは達者だよなと指を差す。

博「
い、いや、今日はですね…

寅「
博は元気だろと指差す。

寅「
じゃあ、誰なんだ…。
 あー!裏のタコがとうとう逝ったか!


社長「
アワワ!

寅「
あ、そうかそうか、まだ生きてたか

寅「
じゃあ、誰が死んだ。んー?えー!じゃあ、
このオレか!?
冗談じゃねえやい。

オレは達者だぜ、この通り!



おいちゃん「バカ!おまえの親父だ!


寅「
親父?

さくら「
そうよ、今日はお父ちゃんの27回忌よ
←さくらは父親のことを「お父ちゃん」と呼んでいたのだ。

寅「なーんだ、へへ…、親父の法事か、チェ!くだらねえな!ハハハ」とだれる。

おいちゃん「
なにがくだらねえだ!自分の親父の法事も知らねえで、どこをほっつき歩いてたんだ!

第4作「新男はつらいよ」でおいちゃんおばちゃんが寅の父親の命日を忘れていたのをどうしてくれる(▼▼)


おばちゃん「
そうだよ。たった一人っきりの息子だっていうのに…

寅「
いちいち、そんなこと覚えてられるかよ


                   


御前様「これ、寅

寅「
あ、御前様

御前様「
いいところへ帰ってきた。これも死んだ仏が呼んだに違いない

と横に座らせ、
読誦を最初からやり直す。

寅、暇をもてあまし、さくらのほうを見てにっこり。

さくらも、寅が久しぶりに帰ってきたので、にこりと微笑む。




    




私はこの時のさくらの表情が大好きだ!久しぶりに会えた兄の笑顔に
顔がほころんだのだ。



    





また暇持て余して

寅、後ろのおいちゃんに
酒飲んだろ?鼻のところ赤いじゃねえかよと小声でからかう。

また暇持て余して
鼻の穴に紙突っ込んで、木魚を叩く御前様の真似をする。
さくら思わず笑う。


おいちゃん「
シー!

寅、今度は紙を鼻と口の間に挟んで口をとんがらせる。

おばちゃん、止めようとするが、

寅「
何言ってやがんだい」と行儀が最悪。

遂に
御前様が木魚を叩く棒で寅の頭を叩いて、また読誦。

寅「あ痛っ!!」

一同、つい「ハハハ!」と笑う。満男も大笑い。

寅、怒って、拳骨で御前様の頭を殴るふりをし、

御前様の頭の上に
をそっと乗せる。
頭に乗っかった紙を口で「ふーふー」と吹いて遊ぶ。御前様気づかない。

一同、たまらず「
ハハハ!!」と大笑い。
御前様「こら!!なにが可笑しい!」と大怒り。
←まだ頭に紙が乗っかっている。

おいちゃん、寅を押す。


寅、床柱に頭「ゴチ!」っと打ち付けて

寅「
あ痛てて!!痛いよー!!おいちゃん!

みんな止めに入って大騒ぎ。
御前様「
こら!やめんか!!!
←まだ頭に紙が乗ったままになっている。(^^;)
                         
 

                   






とらや 

茶の間でもめている。

寅「じゃあ、法事がめちゃめちゃになったのは全部オレが悪いっていうのか

おいちゃん「あたりめえじゃねえか

寅「ケッ!笑わせやがら!へッ!こいつは驚いた。
 
驚き桃の木山椒の木だよ!笑ったのはそっちじゃねえか!


寅が良く使う『つけたし言葉』のひとつ。会話に勢いをつけて強調したい時に使う。
「驚き桃の木山椒の木」以外でも結構毛だらけ猫灰だらけ
蟻が十(とお)なら 芋虫 二十(はたち)など口上にも何度も出てくる。

ちなみに、驚き桃の木山椒の木のあとは、
「ブリキに たぬきに 洗濯機 猪木に えのきに ケンタッキー」と
最近では来るみたいである。


博「兄さん、そんな言い方はありませんよ

寅「なんだよ博、お前このやろう、真っ赤になってうつむいて笑ってやがって、オレは見たんだぞ!

博「それは兄さんが笑わせるからですよ

寅、博の頭を押しながら「可笑しくなかったら笑わなきゃいいだろ!てめえは

おばちゃん「だから何であんな時に笑わせるんだって言ってるんだよ!

寅「何で笑ったんだって言ってるんだよ!

このどうどうめぐりが繰り返されて、おまえのツラが面白いからだと、脱線して続いていく。
あげくの果てにおいちゃんと寅で押し合い、足の取り合いのドタバタ。

さくら、遂に怒って立ち上がり、「帰ろ」と満男と博にうながす。

さくら「おばちゃん、おやすみ

寅「さくら…帰るのか?

おいちゃん「ゆっくりしていったっていいじゃねえか

さくら「隣近所の迷惑も考えていい加減にしてね。おいちゃんもお兄ちゃんも

と、さっさと帰ってしまう。

寅「

ちなみにさくらがあの法事の時一番笑ってたぞ(^^;)


おばちゃん「さくらちゃん、怒っちゃったよ。私知らないからね

おいちゃん「みんなおまえのせいだぞ!

寅「何?何で俺が悪いんだ!

おいちゃん「だからおまえが笑わせたからだと言ってるんだよ

寅「だから笑ったりしなきゃいいでしょ、って言ってんだよ

おいちゃん「くどいねー、おまえも、お前が笑わせたからだといってるんだ!」

寅「くどいねー、お前も、笑ったのはおまえだよ、おまえが笑わなきゃいいんじゃねえか」

おばちゃん「いいかげんにおしよ!」と、サントリーの角瓶を持っていってしまう。

寅「おばちゃん、酒くれよ!酒を!

おばちゃん「無いよ!

寅「今、持ってったじゃないか、そっちへ!

おばちゃん「しりません!!


翌日、ルンビーニ幼稚園 


御前様がニコニコ笑って立っている。

園児みんなで「園長先生さようなら

タテ列作って一人一人と先生が「さようなら」

さくら、満男を連れてとらやに戻る途中、とある一軒家のからピアノの音が聞こえてくる。


柴又の「城戸音楽教室」

城戸音楽教室、〒125-0052 東京都葛飾区柴又6丁目20-11

後日城戸さんにインタビュー成功!

なんと、山田組は突然撮影当日にやって来て
生徒さんと一緒に演奏してほしいとお願いしたそうです。
あの塀に絡んだバラの花も山田組の造花だそうです^^



バイエル8番


さくら、しばらくうらやましそうに聴き入る。

さくら「満男、ピアノよ、いいねー





          






とらやに戻ってきて、

満男「ただいまー

おばちゃん「あ、おかえりー

博、台所で昼ごはんを食べている。

さくら、博のところへ来て、

さくら「はぁー…」と、ため息。

博「…。なんだい、ため息なんかついて…?

さくら「せめて、ピアノが置けるくらいの家に住みたいと、思ってさ…

博「

おばちゃん「あんたたちのアパートじゃ入り口が無理かねえ…

さくら「入り口もなにも、置く場所が無いわよあんな大きなもの

おばちゃん「それもそうだね

博「家主もピアノは困るって言うんですよ


おばちゃん「床が抜けちゃうからかい?←ヾ(・ε・。)ォィォィ 出ました!おばちゃんの天然ボケ


博、ちょっと笑って「いや、音がうるさいからでしょう

さくら「うるさい大家さんだもんねー…


寅、鼻歌歌いながら階段下りてくる。

♪わかあれた、わかあれた、あの日かぁーらーのー…♪



あなたの灯
作詞 山口洋子・作曲 平尾昌晃

唄 五木ひろし

山のむこうに またたく灯 あなたの灯 
帰っておいでと はるか遠く
優しく うつむいたわたしを 見守るように 
ああ もう雪が降る 
肩に髪に はらはら 
この指先の 冷たさは 
別れた 別れた あの日からの 
哀しみか


五木ひろしの初期のヒット曲、長い間苦しい下積み生活を経験し、その後ようやく
「よこはまたそがれ」が大ヒットした五木ひろしはこの曲でも存在感を見せ、
徐々にスター街道を歩いていくことになる。
山口、平尾コンビはいつも五木ひろしを全面的に応援し、いろんな名曲を世に出していった。
この後の、網走でのバイの時もこの曲が流れていた。


寅、茶の間に上がって、

寅「
おばちゃん、めしめしめし!あー、腹すいた
と、言いながら、おいちゃんかおばちゃんの老眼鏡かけて遊んでいる。

さくらを見て、

寅「
なんだい、えー?ふくれっツラしやがって、夫婦喧嘩でもしたのか?

満男の絵本ひこうきとふね」を見ている。

そういえば、第10作「夢枕」でお千代さんの夫のことを聞く時も寅、満男の「めばえ」を読んでいたなあ…。

おばちゃん「さくらちゃん、ピアノ欲しいんだってさ。寅さん、あんたなんとかしてやったらどうだい?

寅「ピアノ…?なんだいさくらピアノが欲しいのか?

さくら「満男に習わせたいの…

博「満男は男の子だからな…

さくら「男の子だから習わせたいのよふーーん わかったようなわからないような(;^_^A

おばちゃん「ピアノはさくらちゃんの小さい時からの夢だからねえー

寅「なんだい、おまえ、ピアノくらい買ってやれよー

博、少し驚いて「そんな簡単にはいきませんよ

寅「どーしてよ。朝から晩まで労働してんだろ、
 ピアノの一台くらい買ってやれよ、おまえ、ちぇ、ダメな奴だなー




博「僕たちが貧しいのはなにも僕たちのせいじゃありませんよ


↑この博の言葉にはある種のイデオロギーが入っているが、それにしてもちょっと極端だな…。
でもこれだけはいえる。ピアノを買えないことは別に恥ずかしいことでも何でもない。ただ買えない、
ということであって、そのことに意味なんか無い。

まあ、自分のこのささやかな人生に誇りをもてればそれで全て良しなんだろう。


寅「なんだい、他人のせいか、
 じゃ、誰が悪いんだ、裏のタコのせいか?


博「そんなことじゃないんですよ。なんというか、我々労働者は今の日本の現状では…

博、そんなことを言っても自分の稼ぎが悪いことの言い訳にはならないんだよ・・……(-。-) ボソッ


寅「分かった、分かった、お前の話は難しいんだよ。
  ともかくさ、昼のひなかっからね、夫婦がこんなところでもって喧嘩してんじゃないよ。
  みっともなくてしょうがないよ、ったく



寅、パッと立って「よし!おばちゃん、ちょっと行ってくらぁ!

おばちゃん「なにが『よし』よ、ピアノでも買って来る気かねえ


博、食事が終って工場へ行こうとする。

さくら「今日も残業?

博「そうだな、丸三スーパーの急ぎのチラシがあるから、8時…、9時だな

さくら「朝から晩まで働いて…

博「ピアノひとつも買ってやれないのかい?…だめだねえ…」と工場へ。


さくら、少し微笑みながら、それでもそれなりに幸せそうな顔をする。

この短い会話の中に博とさくらの繋がりの強さを垣間見た思いがした。



京成電鉄が通る音。


満男「ガタンゴトン!ガタンゴトン!」




今回、とらやの冷蔵庫は雪印
茶めし 100円
おでん 100円
コーラ 60円
ジュース 50円
サイダー 50円

一折 300円

客用の電話は今回は「黒電話」



寅が走って戻ってくる。


おい!買ってきた買ってきた買ってきた!


さくら「なにを?

寅「もちろんピアノをだよ!え!

おもちゃの赤いピアノ入れ物の箱をテーブルに置く。

カンガルーの絵が描いてあり、鍵盤に音符がデザインされている。

寅「な、これでいいんだろ!え!

さくら呆然とおもちゃのピアノを見て、「うん」



                       


寅、ニコニコで、

寅「もう、おまえ夫婦喧嘩するなよ。
 あんちゃんにはちょっと痛かったけどね、
 普段さ、お前たち夫婦には何かと迷惑かけてるからさ、
 せめてお礼にという気持ちよ!



さくら、おばちゃん、どうしていいか分からないままピアノを見つめる。

寅「赤いの、赤いの!と、ピアノのほこりを口で「フーフー」吹いてほこりを払う。

確かに寅は間が抜けているし、滑稽だけれど、
妹思いの愛情たっぷりの赤いピアノだぞ!さくら!


さくら、なんとかふりしぼるように・・・・

さくら「お兄ちゃん、どうもありがとう

寅「いいよいいよおまえ!あれだぞ、
  何かお兄ちゃんにお返ししようなんてそんな気使うことないんだぞ、
  オレたちは身内なんだから!



とポン!とさくらの肩を叩く。

寅「なあ、おばちゃん」

おばちゃん、「ハハ…」とうなづく。

満男、ピアノをいじっている。

寅「あのー、オレのど渇いちゃった。何か冷たいもの持って来てくれよ。あー、あー」

と上機嫌。

さくら、寅の後姿を見て、どう言っていいか分からないまま黙る。



満男、鍵盤を叩く『ポン!


さくらも、鍵盤を叩く『ポン!






とらや 夜

満男風呂上りにさくらにテンカフを全身につけてもらっている。

博、ピアノを持って眺めている。

おいちゃん「そうなんだよ、あの野郎、ピアノっていやあ、
     おもちゃしか浮かばねえんだから。だからさー、ここんところは
     あいつのツラを立てて、恥じをかかせないようにな



博「ええ、分かりました


おいちゃん「まかり間違っても本物の話するんじゃねえぞ。な


寅、下りて来る。


おいちゃん「来た来た!


おばちゃん「博さん、ちゃんとお礼言っとくれよ


寅、鼻歌歌いながら「博、今日一日労働ご苦労様でした。


博「兄さん、思いもかけぬ立派なピアノをいただきましてありがとうございました。

おいちゃん「だけど高かっただろう、これは


寅「なーに、博たちの喜ぶ顔を見りゃ、安いもんだよ。」ニコニコ上機嫌。

寅「おっ、何だ、いい匂いさせて、おばちゃんだめだよそんあことしちゃ、
 また高いもんについちゃうじゃないか


博、寅にビール注ぐ。


おばちゃん「大丈夫だよ。気持ちだけだから

おいちゃん「寅の散財に比べりゃしれてるよ


寅「そうかい、2級酒でいいんだよ。
 あと
刺身煮物と、
 
なんかちょっと酢の物がありゃ



これじゃ、催促してるよ、寅



おばちゃん「あ、お刺身言うの忘れちゃった。魚屋に電話しなくちゃ


寅「いいよ、刺身なかったらいいよ


おばちゃん、電話し始める。
寅「いいよいいよおばちゃん、
 安いもんでいいよ安いもんで。
タコでいいよ、タコで。な


タコ社長、裏からやって来て「え?なんか呼んだ?


寅「タコ来た。ちょっと上がれよ。話があるんだ


社長「なんだよ?
寅「おい、社長、おまえ、博に安月給しか払わねえからな、オレはお陰で大散財しちゃったよ

社長「どうして?

寅「いや、ここへ来たらよ、夫婦でもってよ、ピアノ買う、買わないで喧嘩してんだよ。
  オレゃ、見かねてピアノ買っちゃった



社長「ピアノ!!?

寅「痛かったよ、これは、な!

社長「ど、どこにどこに!?


博、赤いおもちゃのピアノ持って「これですよ


寅「おまえ、目に入らないのか、これが


満男、キャキャ笑う。


社長「なーんだおもちゃか、あ、ビックリした、オレまた本物のピアノ
  かと思っちゃったよ。寅さんにな、本物のピアノが買えるわけねえ…



博、タコにやめろやめろ、と手で合図。


おいちゃん「えー?上等上等!
   本物とちっとも変わりゃしねえじゃねえか!




おいちゃん見え見えのお世辞だよそれって。(^^;)


博「もともと欲しかったのはおもちゃの方ですよ

博も見え見えのお世辞だよ。


寅、さすがに気づいて、イライラし始める。

おばちゃんの電話「もしもし、門前町のとらやですけど、
      うん、何かお刺身ある?え?
タコだけ?
      いいわ、タコでも、3人前ね




題経寺の鐘。『ゴ〜ン』


寅「さくら、・・・・・

 おまえ本物のピアノが欲しかったのか?
 あの講堂なんかにあるでっかいやつか?





さくら「実はそうだったの…。



『ゴ〜ン』



さくら「でもね、あんなものとても買えないし、おもちゃのピアノでも凄く嬉しかったのよ。
   だって私たちおもちゃのピアノでも買えなかったんですもの




博「そうですよ、僕たちは単に夢を語り合っていただけなんですよ


寅、ピアノを素早く足で小突く。『ビヤ〜ン!』


寅「れめえら労働者がピアノを買えるわけ無いじゃないか


さくら「だからいいのよ、もう諦めたんだから…


寅「諦めたー・・・・?


さくら「うん


寅「へぇー…、いいか、ピアノなんてものは広いお屋敷の芝生に
白い犬が転がってるような、そういう家の娘が、レースの垂れ
下がった応接間でポロンポロンと上品に弾くもんだよ、

お前たちの部屋、なんだ、お前、あそこにピアノが入るのか!?
あの入り口!!え!
棺桶だってお前タテにしなきゃ入らないよ!
チッ!ケッ!笑わせるんじゃないよ!まったくお前!





まあ傷ついた腹いせにひどいことを言ってしまった寅だが、第26作「かもめ歌」でも

棺桶のことを言っていた。

それにしても寅って
どうして家のこと言う時にいつも
棺桶が入るかを気にするのかなあ?(^^;)





                       




博「ひどいことを言うな兄さんは…博、怒りと悲しみで声が震えている。


寅「何!!

言ってはいけないことを言ってしまった寅でした。


博「僕たちにだってねピアノを欲しがる権利はあるんだ

寅「屁理屈言うんじゃないんだよお前!


寅「稼ぎが悪いから結局欲しくたって買えないってことなんだろ!


この発言を聞いて気にするタコ社長。←社長、分かるよ、その気持ち(^^;)


おいちゃん「寅!なんてこと言いやがるんでい!

寅「何が悪いんだい

おいちゃん「悪いよ!

寅「何!

おいちゃん「今のおめえが悪いんだよ


おばちゃん「あんまりだよ今の言い方あんまりだよ…←またまたすぐに泣いてしまうおばちゃんでした。

寅「うるさい!めそめそめそめそ泣くない!
 オレァ嘘言ってんじゃねえんだい!


さくら、たまりかねて「お兄ちゃん…!

寅「なんだ!?
おいちゃん、たまりかねて「出てってくれ!

寅、「…もういっぺん言ってみろ!!!


おいちゃん「出てけって言ってるんだ!!!


寅、一瞬目を迷わせて、立ち上がる。

ピアノが倒れる「ビシャン〜!



寅、二階へ。

博、足が一本外れたピアノを手に取る
↑このシーンは気持ちが踏みにじられた寅の心が、とれたピアノの足に
表現されていて、観ていて切なくなる。




踏み切りの音


寅、階段を下り、すぐ出て行く。
さくら動揺し、おいちゃんを一瞬見る。

店先まで追いかけて、

さくら、「お兄ちゃん!何も出て行かなくたって


寅「さくらお前本物のピアノが欲しかったら
 なぜはっきりそれを言ってくれなかったんだい



さくら「


寅「せめて俺がおもちゃのピアノを買ってきたときに
 『私はおもちゃじゃなくて、本物のピアノが欲しかったのよ』って
 言ってくれりゃオレァこんな恥かかなくても良かったじゃないか


←おいちゃん達の方をチラッと見ながら


さくら珍しく、「そうじゃないのよそうじゃないのよ!」と真剣に強く否定

寅「いいんだよいいんだよ!


さくら「あたし達本当におもちゃのピアノでも嬉しかったのよ


寅「俺はね、もうガキ扱いはごめんだよ!


立ち去る寅。




                       




さくら小さくお兄ちゃん…!と、寅を追いかけて行く。







おいちゃん「ん〜〜チッ


社長「ごめんよ俺が余計なこと言ったから


おいちゃん「当たり前だよお前はいつだって変な時に飛び込んできやがって変なことばっかり言いやがんだよ

おばちゃん、「社長が悪いわけじゃないわよ。ねえー」と社長を慰める。


博「あーあ、なんか広い所へでも行きたいなァ」と言いながら横になる。


社長「今度の日曜さ、江戸川でゴルフやろうよ


博「いやあ、僕の行きたいのはもっと広ーい所ですよ。どこまでもどこまでも、ずーっと
地平線のつながってるような例えば北海道かな…行きたいなァ



やはり博も寅とは違った意味で深く傷ついていたのだろう。
雄大な自然は人の傷ついた心を洗ってくれる。

博の父親は岡山だが、北海大学の教授をしていた関係で、博は北海道が
生まれ故郷。小樽の小学校へ通っていた。


さくら帰ってくる。

社長、心配そう。




おいちゃん「どうだった?

さくら腰を下ろして「行っちゃった…」と寂しそう。

満男、無邪気にピアノを持ってさくらのところへいく。







このシーン、シナリオ第2稿段階では、
あのピアノ騒動の時の寅のきつい発言

寅「へぇー…、いいか、ピアノなんてものは広いお屋敷の芝生に
白い犬が転がってるような、そういう家の娘が、レースの垂れ
下がった応接間でポロンポロンと上品に弾くもんだよ、
お前たちの部屋、なんだ、お前、あそこにピアノが入るのか!?
あの入り口!!え!棺桶だってお前タテにしなきゃ入らないよ!
チッ!ケッ!笑わせるんじゃないよ!まったくお前!」

はない。

だいたいの決定稿と思われる「ちくま書房」のシナリオではすでに↑の
きついセリフは書かれてある。


山田監督は、当初、この第11作の「ピアノ騒動」では、
第9作「柴又慕情」の喧嘩のようなキツイやり取りを考えていなかったと思う。

しかし、そのあと現場であの「修羅場」を作り上げていった…。

やはり寅にあそこまでのセリフを言わせることで、寅の言うに言えない悔しさも、
さくらたちの厳しい現実も、身内ゆえの甘えも見事に表現していくのだ。

そして、あのキツイ喧嘩があることによってその後の寅の淋しい旅の姿、
そしてリリーとの出会いが生きてくる。

あの「ピアノ騒動」は後に第19作で「こいのぼり騒動」としてアレンジされて
再登場する。


その2年後に作られた向田さんの『寺内貫太郎一家2』でも
この話が登場する。

きんばあちゃん(当時悠木千帆さん)が、
小さいころからの憧れだったピアノが欲しいと駄々をこねるのだ。

これは、実は息子の貫太郎の愛情を確かめるためのもの。
貫太郎は最初はあまりにも突拍子がないので相手にしなかったのだが、
母親であるきんさんを喜ばせてやろうと貫太郎は本物のグランドピアノを
思い切って買ってしまうが、孫たちはきんさんがおもちゃのピアノを
欲しがっていることを察して、おもちゃのほうを買ってくる。
そして家の前でドデカイ本物とちっちゃなおもちゃが鉢合わせするという物語。

もちろんきんばあちゃんは、おもちゃのピアノでいいと照れ笑いしながら
本物を返品するが、息子である貫太郎の自分への気持ちに涙する…
という話でだった。

『寅次郎忘れな草』が1973年で
『寺内貫太郎一家2』が1975年。

向田さんがこの映画に影響を受けているのが嬉しかった。

向田邦子さんは「男はつらいよ 」を見ていたのだ。

両方の大ファンである僕にとってはなんだか幸せな気持ちになれて
ニヤニヤしてしまった。



追加修正  2014年3月5日


私のHPをご覧いただいている横浜在住のMSさんからの本日のお便りで
この「ピアノ騒動」はなんと「忘れな草」の前にオリジナルがあるということだった。

以下MSさんから私へのお便りの一部(当該箇所)を抜粋します↓


実は、向田邦子さんが
『寺内貫太郎一家』より前に手がけた『パパと呼ばないで』にも、
そっくりそのまま、このピアノ騒動が出てきています。

『パパと呼ばないで』11話「ネコふんじゃった」という回です。

ピアノがほしいと言うチー坊(杉田かおる)に、パパ(石立鉄男)が
おもちゃのピアノを買ってきてやったが、チー坊がほしかったのは、
おもちゃではなく、本物だった・・・と、まさに、「ピアノ騒動」と
同じ内容です。

この『パパと呼ばないで』11話のオンエアは、1972年の12月だそうです。

ということは、『寺内」より早いのはもちろん、『忘れな草』より早いわけで、
実際に影響を与えたかどうかはわかりませんが、世に出たのは、実は3つの
ピアノ騒動の中で、この『パパと呼ばないで』が一番最初だったということになる
かと思います。

『パパと呼ばないで』は、DVDにもなっており、向田さんの傑作として、
素晴しい作品です。
もしよかったら、ぜひ本編をご確認くださいませ。


ちなみに、パパ(石立鉄男)とチー坊(杉田かおる)が下宿する家のおばさんが
三崎千恵子さんです。

『男はつらいよ/口笛をふく寅次郎』で、杉田かおるがとらやを訪問したときは、
久々におばちゃんと共演かと思わせつつ、しかし、ついにおばちゃんと杉田かおるが
同じ画面におさまることはなく、残念な限りでした。



以上MSさんからのお便りによる驚きの新事実でした。


つまり、 まとめると
「パパと呼ばないで(72年)」→「忘れな草(73年)」→「寺内貫太郎一家2(75年)」
となるのである。









さて物語にもどろう。







北海道の原野を旅する寅

女満別町住吉付近から網走湖方向 
 


「シエラザード」が美しく流れる。 
        
リムスキーコルサコフ 交響組曲「シエラザード第3楽章「若き王子と王女」



アラビアンナイトのストーリーに題材をとって,R.コルサコフの見事なまでの
管弦楽法が表出した作品。

王妃の浮気で世の中全ての女を憎むようになったササン朝ペルシャのシャハリヤール王。
王妃を娶っては斬首するという恐怖の大王になってしまう。そこに自ら嫁入りしたシエラザード。
毎晩のように面白い話を王に聞かせ佳境になった所で終える。王はその続きが聴きたくて
彼女を斬首せず一日延ばしにした結果千夜一夜が経ちとうとうシャハリヤール王は改心して
彼女と幸せにくらすようになる。

北海道の雄大な風景と寅の孤独がこの名曲によって私たちの胸に染み込んで来る。


原野の一本道を旅する寅。
自由気ままそうでもあるがどこか寂しそうでもある。


私の寅さん仲間である越後の滝沢農園の滝沢さんによってこの風景は少し解明されている。



                       






雄大な道東の湿原。

美幌峠



草原で花をいじりつつ寝転がっている寅
やはり、ゆったりとくつろいでいるが孤独が付きまとっている。



       
                     







網走市嘉多山の風景


風にゆれる花々。



網走市天都山より撮影された夕陽風景

牧場の夕暮れ。



網走行きの夜汽車の中。

おもちゃのピアノ買うお金もギリギリの人がよく東京から
北海道の果て網走まで行けるなあ。
このことはシリーズを通していつも感じてきた疑問だ。(^^;)
ひょっとして、途中でバイをしながら、食いつないでようやく網走まで
来たのかな?それだったら、まあ、分からないでもない。






寅の後方の座席で窓の外を見てハンカチを取り出し涙ぐむ女。
寅、それに気づいて、その様子を見る。



                 


なにか訳ありなのか…。と考え、女(リリー)を見つめる寅。


                 



やがて寅も襟を立て眠りについていく。



この時の寅のリリーを見る目は温かい。
そして自分と同じ悲しみと孤独をこの女も抱えているのだと、
一瞬の内に察知した眼でもあった。



リリーと寅の運命がこうして始まっていく。
  



朝. 網走駅


アナウンス「網走ー、網走でございます。網走の次の連絡の列車ご案内いたします。
斜里(シャリ)、斜里、川湯、弟子屈(テシカガ)、釧路方面、釧路行き急行『知床』お乗りの方は8時23分の発車まで
時間がございます。待合室でお待ち願います。…」



改札を出たリリー、迎えの男に案内されてタクシーに乗りこんでいく。
寅、後ろからその様子を見るともなく眺めている。

網走神社
前でバイをする寅。レコードを売っている。

五木ひろしのあなたの灯を流している。

あなたの灯
作詞 山口洋子・作曲 平尾昌晃

唄 五木ひろし

山のむこうに またたく灯 あなたの灯 
帰っておいでと はるか遠く
優しく うつむいたわたしを 見守るように 
ああ もう雪が降る 
肩に髪に はらはら 
この指先の 冷たさは 
別れた 別れた あの日からの 
哀しみか

寅「よう、奥さんおいでおいでレコードだよ。レコード持って行きなよ。」客素通り。
横のレコード店のご主人に「おたくはいいね、おい、そうやって店張って、えー…」

この店(エイコ−デンキ)のご主人を演じていたのは山田組小道具スタッフ
(消えもの担当)の露木さんだと思うんだがどうだろう。凄く似てる。この後、柴又の「備後屋」を演じ続ける。


しかし、寅もよくレコード店の横で同じようなもの売れるなぁ〜、まあ、確かに相乗効果で売れ易いとは思うが、
普通は店の人嫌がるよなあ…。


寅、船員家族を見つけて、「あ、船員さん船員さん、お手にとって見てやってください。ね、
神田は音響堂というね、有名なレコード店がわずか30万円の税金で、
投げ出した品物。え、札幌は一流デパートでもってね、1枚500円する品物。
今日は協定違反
2枚で100円w(( ̄ ̄0 ̄ ̄))w安すぎる!


                       


露木さん、ビクターの犬の人形の横でハタキをかけながらニヤニヤ寅のことを見ている。

家族連れ買わないで行ってしまう。

寅「お父さん!家族連れ!

全然売れないので、腰を下ろして、ガクッ!と首を落とす。

寅「あぁ 〜…


場所を変えて売ってみるが、誰も来ていない。
ぼーっと橋の上にもたれかかって河口を見ている。



                        





後ろから、女の声




リリー「さっぱり売れないじゃないか




寅、ふと声のほうを見る。



リリーが橋にもたれて赤い包みをいじりながら人懐っこく寅の方を見て微笑んでいる。


                        




寅「フッ。…不景気だからな…お互い様じゃねえか?」と微笑む。

リリー「フフフ」と笑ってレコードを見に来る。

寅「何の商売してんだい?

リリー「私?歌うたってんの

寅「ふうーん


                        




リリー、レコードを探しながら

リリー「私もレコード出したことあるんだけどね、ここにあるかな?
   …あるわけないね


寅「え?ハハハ!

リリー「フフフ



←リリーが唯一出したレコード「夜明けのリリー」。寅さん記念館で撮影。



リリィ松岡 夜明のリリィ

あの娘はリリィ
リリィのバラード
レッツゴーリリー

ララバイレコード

45 ステレオ







寅とリリー、ぴったり息が合っている。短い出会いですぐにお互いの波長が
合うのを察知した感じで見ていて気持ちがいい。



網走港

船着き場付近を歩いていくリリーと寅。



リリーがちょっとよろけそうになるのを寅が支えてやる。←ちょっとした仕草ややり取りがとてもいい感じ。


寅、歩きながら

寅「故郷(くに)はどこなんだい?

リリー「故郷(くに)?そうねえ…ないね、私…

寅「へえー…

リリー「生まれたのは東京らしいけどね、
   中学生の頃からホラ、家飛び出しちゃって、
   フーテンみたいになってたから…


寅、「へへーッ、ちょっとしたオレだね。流れ流れの渡り鳥

リリー「♪ながれぇ〜、ながれのぉ、わたーりどりーぃ〜か♪


美空ひばりの「越後獅子の歌」の節まわしで歌っている。
本歌は「♪流れ流れの越後獅子」である。


波止場に腰を下ろし、帰ってきた船を見るリリー。

寅は後ろで立って見ている。
カメラは手前の船のスクリューから覗くように二人を小さく撮っている。
美しい映像だ。



                       


リリー、船に手を振りながら「おーい!、おかえりー!!人懐っこいリリーでした。

船の汽笛『ポーッ!ポッポー!!船の方も人懐っこい(^^)

寅も座って、「どうしたい、ゆんべは泣いてたじゃないか…

リリー、振り向いてちょっと驚き、恥ずかしそうに、「あらいやだ見てたのー?




                       



寅「うん…なにかつらいことでもあるのか?

りりー「ううん、別に…、ただ、なんとなく泣いちゃったの…

寅「なんとなく?

赤い包みを開けてタバコを取り出すリリー。

リリー「うん…。兄さんなんかそんなことないかな…。夜汽車に乗ってさ、外見てるだろ、
   そうすっと、何もない真っ暗な畑なんかにひとつポツンと灯りがついてて、
  『あー、こういうところにも人が住んでるんだろうなぁー…』、そう思ったら
  なんだか急に悲しくなっちゃって、涙が出そうになる時ってないかい?


マッチを擦る。

寅「うん…」とうなずいて。

寅「こんなちっちゃな灯りが、こう…遠くの方へスーッと遠ざかって行ってなぁー…
 あの灯りの下は茶の間かな、もうおそいから子供達は寝ちまって、父ちゃんと
 母ちゃんがふたぁりで、湿気た煎餅でも食いながら紡績工場に働きに行った娘の
 ことを話してるんだ、心配して…。ふっ…、暗い外見てそんなことを考えてると汽笛が
 ボーっと聞こえてよ。なんだか、ふっ!…っと、涙が出ちまうなんて、
 そんなこたぁあるなあ…分かるよ…




こういう時の寅の想像力って尋常じゃないって気がする。
目の前に情景がまざまざと浮かんでくる。


船を見つめるリリー。
船が出て行く。 ポンポンポン.…


寅「お父ちゃんのお出かけか…

さっき、レコードのバイの時に見かけた例の家族が手を振って見送っている。


子供達「お父ちゃん、バイバイ!

ボー!!

子供達『バイバイ!お土産買ってきててねー!!」っと母親と一緒に手を振り続ける。





リリーのテーマ美しく流れる。



数あるマドンナのテーマの中で最も美しく、哀しい曲だ。
この曲は第15作「相合い傘」でも使われている。
第25作「ハイビスカスの花」では新しい曲が使われている。

リリー、目にうっすら涙を浮かべてそのようすを見ている。




リリーねえ…




寅「うん?


                        


リリー「私達みたいみたいな生活ってさ、普通の人とは違うのよね。

  それもいいほうに違うんじゃなくて、
  なんてのかな…、あってもなくてもどうでもいいみたいな…
  つまりさ…
アブクみたいなもんだね…



リリー悲しい顔して、膝にあごを置く。

リリーは自分のこのような放浪暮らしに相当心が疲れているのか、
メランコリックな気分に支配されている。定住に対する強い憧れがあるようだ。



寅、こっくり深くうなづいて

寅「うん、アブクだよ…。それも上等なアブクじゃねえやな。
 風呂の中でこいた屁じゃないけども
 背中の方へ回ってパチン!だい


リリー、うつむきながら、「クク…ヒッ、ヒック」と笑ってしまう。

寅、笑いながら、「え?可笑しいか!?←そりゃ可笑しいに決まってるよ寅。

リリー、笑いながら「面白いね、お兄さん

寅、ニカッとして「へへへ!!


                        


この寅のユーモアと楽天性が人生を通して
リリーの心を温めていくことになるのである。







リリー、ハッと、気づいて、「今何時?」と寅の腕時計を見る。

寅、笑いながら「ん?

リリー「そろそろ商売にかかんなくちゃ…」と立ち上がる。

歌を歌うことを商売と言い切るリリー。そこに悲しみのニュアンスがある。
しかし、たとえどんなステージだろうが歌でお金が稼げる嬉しさも少しだが感じる。



寅「行くのかい?

リリー「うん…

リリー「じゃあ、また、どっかで会おう

寅「ああ、日本のどっかでな!

リリー「うん、じゃあね

寅「うん!!
リリー、ふと足を止めて振り向いて「兄さん。…兄さん何て名前?




寅、ハッ、っとして少し照れて、でもちょっと粋に



え?…オレか!
オレは、葛飾柴又の
車寅次郎って言うんだよ




この時の渥美さんの粋な笑顔は最高にカッコイイ!


                         




リリー「車寅次郎…。じゃ、寅さん…



寅「うん



リリー「フフ…、いい名前だね!フフ…と走って行く。




                         




寅夕闇迫る頃、海岸にカバンを置いて寅が立っている。


向こうに見える「帽子岩」


寅、しんみりとアブクか…


寅もリリーの言葉に考えるところがあったようである。



人生の辛酸をなめてきた二人はウマが合うからと言って
ベタベタくっついて馴れ合うことはしないのである。
この別れ際の鮮やかさはさすがだった。








網走のキャバレー

ウインドに『今週のゴールデンショーご案内
ヌードダンサー『ローズ.モンロー』
テイチク専属『リリー松岡』

バックミュージックにピアノ.サックス2人.ダブルベース.ドラム.

リリーが赤いドレスを着て「港が見える丘」をしっとりと歌っている。


「♪あなたと二人で来たー丘ーは
 港が見える丘ー、
 色あせた桜唯一つ
 淋しく咲いていたー、
 船の汽ぃ笛ー咽び泣ぁーけばぁー
 チラリホラリと花片、
 あなたぁと私に降りかぁかるぅー
 春の午後でしたー…♪」

 
後ろのバンドの間奏が入っていく。


作詞・作曲 東 辰三 (作詞家の山上路夫の父)
唄    平野 愛子

1947年(昭和22年)

 あなたと二人で来た丘は
 港が見える丘
 色あせた桜唯一つ
 淋しく咲いていた

 船の汽笛咽び泣けば
 チラリホラリと花片
 あなたと私に降りかかる
 春の午後でした

2.
 あなたと別れたあの夜は
 港が暗い夜
 青白い灯り唯一つ
 桜を照らしてた
 船の汽笛消えて行けば
 チラリホラリと花片
 涙の雫にきらめいた
 霧の夜でした

3.
 あなたを想うてくる丘は
 港がみえる丘
 葉桜ソヨロ訪れる
 しお風 浜の風
 船の汽笛遠く聞いて
 うつらとろりと見る夢
 あなたの口許あの笑顔
 淡い夢でした


浅丘ルリ子さんは女優さんだが歌も上手いなあ…。何ともいえない哀愁がある。
横浜にある『港の見える丘公園』はこの歌のヒットの後でこの歌にちなんでつけられた名前。



酔っ払った客達が歌の1番を歌い終わったリリーにパチパチと適当な拍手。
あまり真面目に聞いていない感じ。
ホステスさんを呼ぶアナウンスの音。




それでもリリーは、また歌っていく…

                          







東京葛飾柴又  雨の柴又

江戸川矢切の渡し

帝釈天。




とらや

おばちゃんとさくら、お茶を飲んでる。

おばちゃん「よく降るね…

さくら「おいちゃん遅いね

おばちゃん「ん、寄り合いの帰りにパチンコにでもよってんだろ。
     『
雨の日はねパチンコの出がいい』なんて
     馬鹿じゃないかね本当に。



「ボーン…」午後一時の鐘が鳴る。

さくら「さてと…満男迎えに行に行って来るか。


雨の中郵便屋さんとらやの前で止まって

郵便屋「車さん、速達ですよ

おばちゃん「速達

さくら、受け取って「おばちゃん、北海道からよ。網走市卯原内(うばらない) 栗原久宗


おばちゃん「知らないよ、そんな人…。ちょっと読んでよ、私、目だめだからさ

さくら、封筒を手で開ける。


                       


栗原さんの声で


拝啓、突然お便り申し上げます。
私、北海道の表記の土地で農業をやっております者です。
実は先日、お宅のご親戚の車寅次郎さんという方がお見えになって
仕事を手伝いたいとおっしゃるのです





寅、栗原さんの家で、



寅「考えてみますと、
 私たちの生活は泡みてえな
アブクみてえなもんじゃねえかと。
 決してまともな暮らしじゃありません。

 こちらのこーゆー生活こそまともな暮らしじゃねえか、
 そう思って職安を訪ねて、こちらを紹介していただいたと、こういうような訳なんです。

 慣れない仕事ですからたいしたことはできませんけども、体が丈夫なだけが私取り柄ですから。え。
 あっ、報酬なんてものは、決してそういうものは要りませんから、ただ飯だけ食わしていただければ
 それで十分です。

…あっ、これはどーも奥さん、ほんとに申しわけございません




職安は一般的にはその自治体の行政機関ですので、
雇用主に対しての責任があるので、旅人には紹介しないはずだけどなあ・・・。




栗原さんの声


栗原「
一番草の時期で猫の手も借りたいくらいですから、
  私共も喜んで手伝っていただくことにしたのです


↑これって猫の手も借りたいので寅の手を借りた
 っていうギャグでしょうか(^^;)



寅って確かに気持ちだけ先走って、あとでめちゃくちゃなことになるけれども、
それでも、とりあえず生活を改めてやりなおそうと思うだけ私なんかよりずっと
立派だ。なかなか大人になると自分を新しくしようと務めないものだ。






回想シーン



栗原牧場  早朝。


『モー―』と牛の声


軽快に男はつらいよの音楽が流れ



寅がやる気満々で朝の空気を吸い


牧童 車寅次郎

書かれた札を嬉しそうに
指差して手を広げて気合を入れている。



                    


その横に
栗原久宗、 妻 紀子 、美由紀 と書かれた札が見える。

牛乳缶を中学生くらいの娘さんとホースで洗うが
慣れない仕事ゆえ、倒してしまう寅。

みんなと一緒に楽しそうに牧草地で牛を追っている寅。





栗原さんの声

ところがです1日目機嫌よく働いておられましたが、
2日目となるとガックリとお疲れになった様子で、




牧草地のトラクターの横でヘナヘナになっている寅


牛の糞や汚れた草の掃除を鼻の穴にちり紙を詰め込んで
その上からさらにタオルを顔に巻きつけて
いるが強烈な臭いに
フラフラになって倒れそうになり、栗原さんに助けられている。
NGKの黄色い帽子

↑この時の寅の格好はさすがに涙が出るくらい大笑いしました。(^^)


                        



栗原さんの声3日目にはとうとう熱を出してしまわれました




栗原さんたちに抱えられながら家に入ってくる寅。




栗原「しっかりして、すぐ、布団を敷いてやれ


寅「あー、あー〜…

音楽 ファンファンファン〜…


栗原「それから、すぐ医者を呼ぶんだ


奥さん「はい


ファンファンファン〜…



2階で寝ている寅、なにかうわごとを言っている。



娘さんが階段のところで寅を心配そうに見ている。




栗原の声

軽い日射病で、熱もたいしたことはないのですが、うわごとに、
おじさん…、おばさん…、それにさくらさんという方の名前
しきりに呼ばれますので、

余りにお気の毒になり御一報いたします次第です。
何しろ辺鄙な土地、その上忙しい次期ですので
行き届いたお手当てをすることができないことを
大変申しわけなく存じております。
まずは、右、お知らせまでしたためました






さくらのアパート

博、手紙を読み終わって、

博「
う〜ん…、なんだかよくわからないけれど
 この人が迷惑していることは事実らしいな
だな┐(´-`)┌


さくら「
…うん…


満男、寅からもらったおもちゃのピアノをペンペン音を鳴らして遊んでいる。


クレヨンでいっぱいピアノに落書きしてある。


博「しょうがないじゃないか…。行ってやるより



さくら、無言で、お茶を飲む。


博は優しいね。こういうこと言われるとホッとする。
それにしても毎度のことながら、凄いお金と労力をかけて寅を迎えに行く
ことになるさくらでした。
第7作奮闘篇の時もさくらは「青森県西津軽郡鯵ヶ沢」まで寅を探しに行ったが、
今回はそれより遥かに遠く、たぶん、夜行で青森まで行った後、青函連絡船に
乗って、函館に渡り、そこから汽車を乗り継いでようやく北の果て、網走に行くのだから
大変だ。おまけにそのあと、寅と一緒に逆戻りの行程をしなければならないのだから…。
寅は確かに疲れ果てているが、重病人ではないのだから、普通の人ならば、迎えには
行かないで、お金を送って、手紙や電話で戻ってくるように促すのがせきのやまだろう。
さくらは観音様マリア様だ。




G線上のアリアが流れる。

この「G線上のアリア」と呼ばれる曲は、
バッハの管弦楽組曲第3番の第2楽章エア
バイオリン奏者のA.ウィルヘルミがバイオリン独奏曲に編曲したもの。

バイオリンには4本の弦があり、それぞれE線、A線、D線、G線と呼ばれている。
このうちG線のみで弾くように編曲したので「G線上のアリア」の曲名がついた。
オペラのアリアのような美しい旋律を持った器楽曲なので『アリア』。




蒸気機関車が北海道の原野を走る。

さくら、少し長旅で疲れた表情でボーっとしている。

髪を櫛で整えている。

車内アナウンス「まもなく終着駅網走でございます…」




砂ほこりの中を軽四トラックの助手席に乗っているさくら。


栗原牧場への道:網走市嘉多山

網走市卯原内 栗原牧場


なかなか厳しい環境のようである。


ようやく栗原さんの家に着く。



栗原「これはこれは。母さん!車さんの妹さんだ!。どうも遠いところわざわざご苦労様でした

さくら、頭をさげながら「このたびは兄がいろいろ大変ご迷惑をおかけいたしまして…

奥さん「とんでもない、何のお世話もできませんで

栗原「なんせ、こんな田舎なもんですから

さくら「それで…

栗原「あ、お兄さんはすっかり元気になられまして。どこ、行かれたかな…

奥さん「足慣らしに散歩してくるとかで、ついさっき表へ…。牧草畑のほうじゃないかね




どこまでもどこまでも続く畑。


その向こうの牧草地でピンクの麦藁帽子を被って放心状態の寅。



遠くでカッコーが『カッコー、カッコー』と鳴いている。



さくらたちがやって来る。

遠くにその姿を見つける寅。

寅、ハッ、とする。

寅、思わず「さくらぁ〜!!

さくら、遠くから手を振る。



                          




寅、ふらふら歩きながら遠くのさくらに向かって

寅「大変なんだぞー、お前、朝4時に起きてよー…、
  まだ星が出てるんだぞー!

  それからずーっと働きづめに働いてよ、
  晩飯を食おうとする時はもうフラフラで、食い終わると、もうパタン
  だよ!凄いとこなんだぞ!オレァ、ひどい目にあっちゃったんだよ



寅、ヘナヘナへナとまた座り込む。


ファンファンファン〜〜…


さくらたち寅の手をとって引っ張りあげる。


ファンファンファン〜〜…


もう心身ともに限界の寅でした。(^^;)



東京 葛飾柴又


とらや 2階 寅の部屋


2階で布団を敷いたままボーッと座って放心している寅


参道『
竹や〜さおだけっ、竹や〜…

さくら、満男ととらやへ戻る。

博、昼ご飯食べている。

満男「
ただいまー

おばちゃん「
おかえんなちゃい←おばちゃんってほんと子煩悩。

さくら「
ねえ、どう?お兄ちゃん今日は

おばちゃん「
だいぶいいようだよ。朝ごはんもちゃんと食べたし

さくら「
そう、よかったわ

おばちゃん「
おととい、あんたに担がれるして帰ってきた時は、入院しなきゃダメだと
     思ったけどねー


そういえば、第25作ハイビスカスの花でも沖縄から飲まず食わずで柴又まで
たどり着いた寅が、行き倒れになってしまって、とらやに担ぎ込まれてました。(^^;)



さくら「
でもさ、酪農って本当に大変な仕事だもんねー

博「
兄さんが参るわけだよ。朝4時起きなんだろw( ̄Д ̄;)wワオッ!!

さくら、頷きながら、

さくら「
疲れたから今日は休みにするってわけにはいかないんですもんね。
   だってそうでしょ、牛には盆も正月もないんだもんね


おばちゃん「
そーだよねー。私達なんか遊んでいるようなもんだねそれから思うと
←おばちゃん表現がストレートでいいなあ。

さくら「
ね、お土産ちゃんと渡してくれた?

博「
うん、喜んでたよ

さくら「
そう





店先に「来来軒」店員の女の子が立っている。


めぐみ「
あのー、こんにちは

さくら「
あー、めぐみちゃん、いらっしゃい

めぐみ「
あのー…いつもすいませんけど…

博「
あー、水原君ね、ちょっと待ってて

おばちゃん「
ささ、おかけなさい

めぐみ「
はい、どうもありがとう」青森弁で。


清掃車の(もしくは商店街の)音楽が流れる。


おばちゃん「あんたも青森県?

めぐみ、うなづく。

おばちゃん「
そう、それじゃ、水原君とは話が合うわねー

めぐみ、照れながら、下を向く。


江戸屋小猫扮する水原君裏から店に来て、帽子を取って、店先へ。


ご存知江戸屋猫八さんの息子さん。
この親子の鈴虫の泣き声は絶品だ。


めぐみ「
どーも、すいません」と、ふたりで外へ行く。

おばちゃん「
いーねー、若い人たちは


ふたり、参道 
川千家の前を歩きながら
水原「
タコって言うんだ、あだ名

めぐみ、源ちゃんを見て「
こんにちは

源ちゃん、白いアイスクリーム(中に黒小豆?)を食べながら、ボーッとふたりを見ている。

めぐみ「
タコ?

水原「
うん

めぐみ「
フフフ!



社長、とらやのあがりかまち定位置に座っっている。



さくら「
社長さんも心配ですね

社長「
そうなんだよ、変に騒ぎ立てしてね、ぶち壊しちゃってさ、水原君が故郷に帰るなんて
   言い出したら、パー!だもんねー。オレはね、腫れ物に触る気持ちだよ


博「
だってあのふたりうまくいってるじゃないですか

タコ「
そうかい?

おばちゃん「
博さん、思い出すでしょう、さくらちゃんと恋愛していた頃のこと


さくらは、博とたった一度のデートもしないで結婚を決めてしまってる。
二人だけの恋愛期間があったとしたら結婚を決めてしまったあと結婚までの短い「婚約」期間のみだ。
博とさくらは恋人期間はほぼなかったと考えて良いだろう。



博「
何言うんですか、ハハハ…

と、たばこをくわえてながら茶の間に上がる。

社長「
あの頃は純情だったね博さんも

博「
いまはそんなにスレッカラシですか

社長「
そういうわけじゃないけどね

さくら、博にお湯のポットをおばちゃんに渡すように指示。演出が細かい^^;


社長「
寅さんが出てきてめちゃくちゃにしちゃってさ

おばちゃん「
そーだったねー

社長「
てめえら職工ふぜいにさくらが嫁にやれるか!なんてね。ハハハ!

さくら「
ちょっと聞こえるわよ、お兄ちゃんに

社長、2階を見ながら「
いたのかい?すっかり忘れてたよ。あんまり大人しいんで。
         あれからずっと
反省してるのか



寅、2階から階段下を覗いてムッっとする。

下から声が聞こえてくる。

博「
そうらしいですね

社長「
今度こそ生まれ変わるかね

さくら「
そうねー…

寅、いよいよ怒って部屋に引っ込む。


別に寅は悪いことやずるいことやふざけたことををしたわけではない。
確かに考えが甘かったし、
さくらたちに多大な迷惑はかけたが、
真面目に働こうとして結果的に実力が無くてああなってしまった部分もある。
むしろ今度こそ頑張ろうとしたんだなあ、と、
努力を少しは認めないと寅の立つ瀬が無いと思うんだが…。

何しろ
職安に自分からすすんで行ったんだもんなあ…。

それはそうと職安ってああいう「旅人」でも紹介してもらえるのかね〜。
住民票や保険証とかいらないのかな・・・・。



とらやの向かいの江戸屋の店先になんとリリーがいる。

おいちゃん、
パチンコから帰ってきて、リリーに見とれている。


おいちゃん「
いい女だなぁーと見ていて戸のところでつまずく。

おいちゃん「
おい!おまえの好きなヨーカン取って来たぞ。さあ、飯だ飯だ。

どうした2階の居候は?
おばちゃん「
どっちが居候かわかりゃしないよ

さくら「
ねえ

社長「
だんだん似てきたな、寅さんに」と笑う。

おいちゃん「
ばか

さくら「
血が繋がってんだもんね

社長「
上手い上手い

おいちゃん、さくらをヨーカンで叩こうとする。


一同、ハハハ


寅、階段を早足で下りて来る。
カバンを持って旅支度をしている。


みんな驚く。

さくら、とまどいながら「
お兄ちゃん…どこ行くの?

寅「
長い間世話になったな

おばちゃん「
何言うんだよ、寅ちゃん

寅、怒りながら

寅「
居候の身分でよ、あんまり長居したんじゃ迷惑なんじゃねえか

おいちゃん「
なんだい、聞こえたのかい、冗談だよありゃ


寅「
おいちゃん、恥ずかしくねーか。え!昼のひなかっからパチンコ玉弾いてよ!
 オレはな、おいちゃんみてえな人間がオレの身内だというだけで
 北海道の
開拓部落の人たちに顔向けができねえんだよ。
 あの人たちにゃ、パチンコ屋はねえ、飲み屋だってねえよ。
 隣の家へちょいと行くんだって1キロも2キロも遠いところなんだ。
 あの人たちはそんな厳しい自然と闘っているんだ!



                    


博「兄さん、おじさんだってたまに行くだけなんですから


寅、博をにらんで

寅「
おまえはなんだー!労働者の代表みたいな顔して、
 偉そうにお説教ばかり言ってるが、
 昼間から大口開いてケタケタケタケタ笑って、
 そんなに笑えるようなことがあるのか。

 あの北海道の開拓部落の人たちはなー、
 笑ってる暇なんかないんだぞー、
 飯食うんだってお前達みたいに
 ぶっ座ってのうのうと食ってるんじゃないんだ!
 突っ立ったままインスタントラーメンをすすって、

 タバコ1本吸えば午後の仕事よ。

お天道様は見ているぜー!
おい、おまえたち、
バチが当たるぞバチが!


おばちゃんとタコ社長『ビクッ』っと反応。(^^;)

『お天道様は見ているぜー』のセリフは冒頭OPの夢の部分から繋がる。



寅「
オレは行くぜー!もういっぺん北海道行って、自分を鍛え直してくる
また行くのかよヽ(´〜`; ォィォィ

と、店まで出て、

寅「
あー!腐れたこの暮らし。!
 ああー!見るのもつらい!
 全ては汚い!!




と出て行く。


みんな、
唖然としている。


寅、ふと参道で立ち止まって、後ろを振り返る。

さくらたち、居間でその様子を見ていて、え?何だろう?という顔。


京成電鉄の電車の音『チンチンチン…ピーッ』


寅「
おい!!


カメラはずっと茶の間からの視線を維持。



リリー「
兄さん…と、近寄ってくる。

寅「
何してんだ!おまえ、こんな所で!え!?

リリー「


寅「
ドサまわりから帰ってきたのか、そうかそうか



寅が『ドサまわり』といっても刺が無いのは、この仕事の苦しさや哀しさを
知り尽くしてるからなんだろうな…。ほんと言葉は生き物だ。何を言うかも大事だが
誰が言うかも大事だ。


リリー、ずっと寅を見続ける。


寅「
ハハハ…!なんだい!なにぼんやりしてんだよ。
 しっかりしろよ、おい!



リリー「
夢じゃないかね…


寅「
何言ってんだい、へへへ!



                     




リリー、感無量で「
あー!!寅さん!抱きつく。


網走ではひと時の出会いがあり、あっさり別かれたように
みえたが、やはり、寂しいリリーの胸の中で寅の面影が
ずっと生き続けていたに違いない。そうでないと人は
こんなにも再会を喜ばない。
リリーの寂しさを分かってくれるのは
この人なのだと、リリーはもう分かっているのだ。




リリーの手には『柴又土産』がぶらさがっている。


リリー「
どうしてたのー!?

抱きつかれたまま、ハッとする寅。中からとらやのみんなが見ているからである。

リリー「
どうしてこんなとこにいるのー!?

寅「
いや、ここほら、オレの故郷(ふるさと)だから…


リリー「
えー!!じゃあ、この近くに寅さんの家があるの!?


寅「
あ、あ、あるよ…。ちょっと寄るか?

リリー「
うん!連れてって!どっち!?」と言いながら寅の腕を組む。

「え!?…あっち」と柴又駅方面を向く。←目の前にあるって(^^;)


リリー「
行こう!

寅「
うん…

リリー
寅の手を引っ張っていく。

寅、とらやを気にしながらひっぱられて歩いていく



源ちゃん、唖然と参道で見ている。


とらやのみんなも唖然として一連のやり取りを茶の間から見ている。


江戸家のご主人も道に出て見ている。
御前様のお使いの途中の源ちゃんもぼーっと彼らが行った方角を見ている。
とらやのみんなずっと身を乗り出していった方角を見ている。

後ろのタコ社長がこけてみんなドミノ倒しでこける。

リリーの行動ってさすがにちょっと大胆だなあ。堅気が見るとドギマギするよ。(^^;)

第15作相合い傘でもリリーは柴又中寅と腕組んで歩いたので、街中の噂に
なってしまい、御前様までドギマギしていた。



社長「
おい!見たか、おい!

おいちゃん「
見た見たお前!

博「
さくら、誰だ、誰なんだ?←博も興味深々

さくら「
知らないわよ、そんなこと…知らないよねえ〜〜〜( ̄∇ ̄;)ハッハッハ

おばちゃん、胸押さえて『ぜえぜえぜえ…』

←おばちゃん冷静さを失ってる(^^;)



おいちゃん「
どうしたんだよ、おい、気をしっかり持てよ


博とさくら、おばちゃんの背中をさする。


おばちゃん『
コホコホ、ゼイゼイ





寅、店に一人で飛び込んでくる。


寅、おどおどしながら

寅「
これにはねー、いろいろと訳ありなんだからさ…、
 あの…後でもってゆっくり話すからさ…
 ちょっとしたことでもって驚くな!いいか!


実はたいした訳はないと思うんだが…
時間的にもちょっとしか会ってない(^^;)



さくらたち、頷く。
寅また急いで走って行く。源ちゃんあたふたとよける。


とらやのみんなどういうことかよくわからないまま顔を見合っている。


寅「
アハッ!ここだここだここだ!
 なんだ似たような店ばっかだから間違えちゃった
よ。


                     


リリー「
やーねえ自分の家間違えるなんて


                     


寅二カーっと笑って「
そうだね。ハハハ・・・・ただいま。」おいちゃんたちを見て笑いがひく。

寅「なんだい!?みんな変な顔して。
おいちゃんなんかおどろいてんのか?

と言いながら
寅、おいちゃんたちにウインク
おいちゃん「
おらあおどろろろかねえ!
おらあおどろろろろかねえ!


寅「
このね口をフガフガさせてるもうろく爺ィ
俺のおじきでね。

こっちで
浴衣着てはれぼったくなってんの
俺のおばちゃん

まえっツラで口ぱかっと開けてんのが妹のさくら
(さくらハッとして口をかたく閉める。)
その向こうでサルガニ合戦の臼みてェな顎
してんのがのが亭主だ。
(博、びくっと驚く。)
その向こうは見た通りタコ!ね!

こちら俺の友達の
レコード歌手のリリーさん」寅ニッコリ笑う


リリー「
どうぞよろしく

とらや一同「ど・・どうも。」と頭を下げる。

寅「
なにしてんだよ。さくら。お客さんだよ!お客さん!

とらや一同「
あ・・!どうぞどうぞ。

リリー、寅に『
あたしいいかしら?』と言いたそう。

寅、はっきりと「
いいのいいのいいの!

寅「
ほら開けて開けて!どんどん上がってどんどん上がって!


寅聞いてきたさくらに「これにはよ、いろいろわけ有りなんだよ…


リリー「
寅さん


おばちゃん、寅に「
上がって上がって!ほら。



とらや、茶の間

おばちゃん「
さあどうぞ」とお芋の煮ッころがしを山盛り持ってくる。

←おばちゃん凄い量だよ(^^;)キップがいいね-。

さくら「
何にも無くって。

リリー「
うわあすごい。←リリー嬉しそう。

リリー、おでん?を食べながら「
これも美味しい!

おばちゃん「そんなもんでよければいくらでもありますよ←そりゃ売りもんだからいくらでもあるよ。

寅「
口ばっかり使ってないで手ェ使ってどんどん持ってきな持ってきな

さくら「
リリーさんは家を空ける事が多いんですか?

寅なんでそんな事を聞くんだよと顔をしかめる。

リリー「そうねえ・・一年のうち半分は旅かしらねえ


                     


さくら「
たいへんですねえ」と小さく言う。

おばちゃん「
でもいろんなところへ旅行ができていいじゃありませんか?

寅「
チッ!ハア〜素人はこれだからなあまともに相手に出来ねえよなったく

おばちゃん「
あらどうして?

寅「
仕事だよ。
 俺たちはね
観光の旅行してるわけじゃないんだから
 まともな宿だって泊まりゃあしないんだよ。なあリリー


リリー笑っている。

おいちゃん、しみじみ「
やっぱりつらいことやなんかあるんでしょうね


寅「
当たり前じゃねえかよ!
タバコ
横っくわえにしてな
パチンコ弾いてる極道者に何がわかるんだい!


おいちゃんたまにパチンコ行っただけでここまで言われるかってくらい言われている。

おばちゃん「
でも好きな歌が歌えるんでしょう?

寅「
くだらない質問するんじゃないよ何もわかんないくせに!疲れるだろ?リリー

リリー「フフッ…


寅「
ええ…?ハハハハ


流浪の旅の辛さは寅とリリーにしか分かり合えないものであり、
定住者のとらやの人々とは住む世界が違うのだろう。
もちろん、定住者には定住者の倦怠や閉塞感があるが、
この場面ではそこまで追求しない。

ただ、例のピアノ騒動の際、博が「どこか広いところへ行きたいなー…」と
放浪への憧れを吐露してはいる。




リリーの目線が寅の後ろへ向く


寅「
何?


リリー「
あら綺麗な庭ねえ


おいちゃん「
いやあいつも散らかしっぱなしで…


寅「
みて見る?ハハ


リリー「
うん


リリーが縁側に立った途端に寅の顔が真顔になり、『ワケ有リ話』を始める寅。


寅「
北海道の網走って所でよ、あの女とばったりと会った…



リリー庭の方で・・・



リリー「
寅さん?

寅「
あいよ!…そしたらよ…

リリー「
この紫色の可愛いの何て名前?

寅「
タンポポでしょめちゃくちゃ( ̄∇ ̄;)

さくら「
何言ってるのよ。忘れな草よ。

寅「そうそう忘れな草だってよ。

リリー「
へえ〜これが忘れな草かあ。ふう〜ん」 


                     



寅「それで網走でよ…


庭からリリー


リリー「
寅さん

寅「
はいよ

リリー「
この下駄借りるわね

寅「
下駄ね、はいはい

さくら「
どうぞ


寅「…
下駄はいてよ…、じゃねえや
網走の波止場でよほんの一時お互い身の上話をして
あばよと言ってわかれた。ただそれだけの事よ



おいちゃん「なあ〜んだいその程度かい


寅「
当たり前じゃねえか!俺たちにおかしな関係が有るわけ無いじゃねえかよ!
 そうだろう?さくら、お前分かったろう。え?



さくら少し納得。

庭先でリリーが例の網走の波止場で少し口ずさんでいた「
越後獅子の唄」の2番を歌ってる。



リリー「
♪今日も今日とて、親方さぁんに、芸がまずいと、叱られてぇ〜

寅「歌うたってるよ


リリー、工場から出てきたタコ社長と会う


社長「
先ほどはどうも・・・


リリー「
ここ社長さんの工場?


社長「
ええ…狭苦しいところでね。

近々ビルにしたいとは思ってるんですけね…」

いつも思ってるだけの社長さんでした。

リリー、社長の肩のほこりをとってやる。


リリー「
大変ねえ

社長、ニカニカ笑いながら肩の事を喜ぶ。

リリー「
♪撥で打たれてぇ〜空見上げればぁ〜

                     


リリーってほんと人懐っこいと言うか、おおらかな気質だね。


越後獅子の唄
作詞 西条 八十
作曲 万城目 正
唄 美空 ひばり
    昭和26年

(1) 笛にうかれて 逆立ちすれば
山が見えます ふるさとの
わたしゃ孤児(みなしご)街道ぐらし
ながれながれの 越後獅子

(2) 今日も今日とて 親方さんに
芸がまずいと 叱られて
撥(ばち)でぶたれて 空見あげれば
泣いているよな 昼の月

(3) うつや太鼓の 音さえ悲し
雁が啼(な)く啼く 城下町
暮れて恋しい 宿屋の灯
遠く眺めて ひと踊り

(4) ところ変れど 変らぬものは
人の情の 袖時雨(しぐれ)
ぬれて涙で おさらばさらば
花に消えゆく 旅の獅子




夕方



とらや店先 参道


おばちゃん「
ほんとになんのおかまいもしませんで…ほんとにもう

リリー「
どうもすっかりご馳走になってしまいまして

さくら「
どうぞまたおでかけください


さくら「
満男、挨拶しなさい


寅「
またこいよ


リリー「
うん」と、

ハンドバックから5000円札か1万札を取り出して、

リリー「
ぼうや、飴でも買ってもらいなさい

とリリー、満男にお札を握らせる。

もし寅ならさしずめ500円札ってとこだろう。


おばちゃん「
あら!そんなことされては困ります


さくら「
だめです!リリーさん


リリー「
いいのよお土産もなにも持って来ないで来ちゃったからさ…

こういうストレートな行為は堅気じゃなかなかさばけないね。


と揉めてると、さすがにこういうことには慣れている寅が割り込んできて、



                     


寅「さくら、いいんだよ遠慮せずもらっておく物だよこういう物は」

寅「
どうもありがとう!

リリー「
坊やバイバイ

と、去り際満男の頬にキスをする。


                   


満男のほっぺに大きな口紅の跡。
中村はやと君、一生の思い出となりました!(^^)

                     


みんな笑う。


これも歴代のマドンナは絶対しないことだ。堅気っぽくないって言えばそれまでなんだけど
やることがとにかくあっけらかんとしている。
おおらかでいいねー。
何やっても様になるっていうか、カッコイイんだよね。寅もリリーも。




とらや一同「さようなら」と見送る。


夕焼に染まる江戸川の土手をリリーが歌を歌いながら帰って行く。
ほんとに歌が好きなんだな-。寅たちのお陰でしみじみと気持ちを
リフレッシュしたリリーでした。



               



とらや 茶の間



寅「
言って見りゃリリーも俺とおなじ旅人さ
 見知らぬ土地を旅してる間にゃ、
 そりゃあ人には言えねえ苦労もあるよ。

たとえば、夜汽車の中。
少しばかりの客はみんな寝てしまって
なぜかおれひとりだけいつまでたっても寝られねえ。
真っ暗な窓ガラスにほっぺたくっつけてじーっとそと見てるとね、
遠く灯りがぽつんぽつん…。
あ〜あ、あんなところにも人が暮らしているか…。
汽車の汽笛が「ボ〜〜ピー…」そんな時、そんな時よ…。
だだ分けも無く悲しくなって涙がぽろぽろぽろぽろこぼれてきやがるのよ。
なあ、おいちゃんだって
そんな時あるだろ?


おいちゃん「
ん〜。ススがよく目に入ってくるからな。
     しかし近頃はたいがい電気機関車


寅「
だまってろよ!おいちゃん!
 今そんな程度の低い話をしてる時じゃないだろ?え?おい博



博「ええ分かります。
 特に北海道で夜汽車なんか乗ってるとそんな気持ちになりますね



寅「
そうだよ。ほら、大の男にしてこうなんだよ、な。
 リリーは女だよ。女の一人旅がどんなにつらいものか、
 おばちゃんこれ分かるだろ?


おばちゃん「
そうだね。第一ねえ、
    御不浄
が困っちゃうんだよ、女はぁ。男だったらさ…

出ました!おばちゃんの天然ボケ!!上手いねぇー!!

生まれてからこの方『定住』しかしていないおいちゃん、おばちゃんには寅がどんなに
説明しても分かってもらえない壁があるのだろう。このことは第8作「寅次郎恋歌」の
中でもりんどうの花の話をし、普通の生活の大切さを訴える寅に対して、
普通の生活しかしてこなかったおいちゃん、おばちゃんは場違いな反応を
するばかりだった。そういう意味では、おいちゃんもおばちゃんも幸せな人生を
当たり前のように歩んできたともいえる。


寅「あ〜やだやだ
 これだから苦労のしてない人間と話すのはいやなんだよ。
 え?リリーという女がね、どんなつらい暮らしをしているか、

 つまり、おばちゃんのような、その、

 中流階級家庭の婦人
には分からないの!



                           


おばちゃん「私たち中流家庭かね?

寅「
そうだよ!

おいちゃん「
そらちょっと違うんじゃなねえか?

寅「
じゃあなんだよ!?

社長「
こんばんはー

おばちゃん「
あ、いらっしゃい

寅「
おい見ろ、上流階級の人間がきたよ

社長「
オレが?

寅「
そうだよ

社長「
上流階級?

寅「
そうそう

社長「
どうして?

寅「
おまえ社長だろ?社長は上流階級だよ

社長「
そうかねえ?

寅「
そうさ

社長「
そんな風に思ったことは無かったけどねえ

寅「
上流は自分で気がつかないの

おいちゃん「じゃあ寅はなに階級だい?」

寅「え?おれか?おれは…
中流…ぐらいのとこか?なあ博?」

博「
は・・・中流・・・じゃあないでしょう・・・

社長「そうだよ、中流階級てのはね
 カラーテレビとかステレオとかそういうの
 持ってなきゃいけないんじゃないの?


↑この発言は時代を感じます。(^^;)

寅「
そう言う物は持ってないよな」


おいちゃん
なーに言ってんだい。四角いカバンしか持ってねえじゃないか。
    なにが入っているかしらねえけどさ


寅「なんだよ

博「
ちょっと待ってください。
 物を持ってるからえらいとか言うの考え方は
 ちょっと違うんじゃないですかねえ?



寅「
そ!その通り!


博「
大きな屋敷や広い土地持ってたって
 くだらない人間はいっぱいいるし、
 なにも持ってなくてもすばらしい人間は・・・と言うより、
 財産なんか持ってない人にこそ
 本当に立派な人がいるんじゃないんですかねえ?



これは思いきった発言だ。普通は「財産を持っていなくても立派な人はいる」と
いう方向に持っていくところをもう1歩踏み込んで「財産なんか持っていない人にこそ…」
と言い切る。この意見には賛否両論あると思うが私はあえて博の意見に賛成だ。
この現代の資本主義万歳の競争社会で人として優しさやいたわりを持ちつづける
ことは自分に照らしてみても至難の技である。現代のこの社会の中で生き生きと快活に
経済活動ができている人よりもこの社会のひずみに悩み、引き裂かれている人のほうが
私はいとおしく思う。立派かどうか分からないが、すくなくともそういう人のほうが好きだ。
自分もそうだからだ。



寅「いいことを言うなあ。オレこういう言葉好きよ


さくら「
お兄ちゃんはさ、
  カラーテレビもステレオも持ってないけど、
  その代わり、誰にも無いすばらしいもの持ってるもんね?



寅「
なんだよ、え?あっ!お前俺のカバン調べたろ!


さくら「違うわよ。形のあるものじゃないのよ。

寅「
なんだよ?みたいなものか?


さくら「
ちがうわよ。つまり…、
 愛よ。人を愛する気持ち



社長そ!それはいっぱい持ってる!←間髪を入れず反応する社長(^^;)

寅「なんだバカヤロどうしてお前に分かるんだよ

社長「
ほんとだよ

寅「
バカヤロ

博「
さくらの言うとおりですよ
 それはどんなに高いお金を出しても買えないものですよ


寅、照れながら「分かったようなこと言うなよお前」


おいちゃん「
そうかそんな高いものを寅は持ってるか、
   だったらささしずめ寅は上流階級か?



さくら「ヤダァ〜!ハハハハ…


寅「
上流階級?オレが?
 ほお!お互いが気がつかねえな!おい!ハハハ!




                       


寅「そうかねえ。上流階級ね
この僕が
ハイ!
では今夜はこの辺で
お開きと言うことにして。
それじゃあお休み



一同「
おやすみなさい




題経寺の鐘『ゴ〜ン』




寅「
ぁ…鐘の音か。
 
貧しい人たちが安らかに眠りにつくんだろうなあ…。


寅「
♪わーらーべーは見ぃーたぁり、
 野中のバーラ・・・清らに咲ける…♪


と2階へ上がっていく。


一同、シーン…



おいちゃん「
ばっかだねえ…と深々とため息。

それにしても寅、『野ばら』なんて歌えるんだな…。





野ばら

ウェルナー 作曲
近藤朔風 訳詞


童は見たり 野中のばら
清らに咲ける その色愛でつ
あかずながむ
紅におう 野中のばら

手折りて行かん 野中のばら
手折らば手折れ 思い出ぐさに
君を刺さん
紅におう 野中のばら

童は折りぬ 野中のばら
手折りてあわれ 清らの色香
永遠にあせぬ
紅におう 野中のばら




キャバレーがひしめき合っているある細い道を歩くりリー。
(男がホースの水撒きをしている。)



勤めてるキャバレー
で歌の打ち合わせをしているリリー。


バックのバンド「テンポは?

リリー「
ラリリ、ラララララァー、ラリー♪…夜来香(イエライシャン)のメロディを口ずさむ。

吹奏楽器の音あわせが騒がしく鳴り始めて。

バック「
ワンツースリーフォー…

夜来香の前奏が演奏される。

歌い始めるリリー。


リリー「
♪あわれ春風に〜、嘆くうぐいすよ〜
   月に切なくも匂う夜来香、この香りよ〜♪


途中でスポットライトが当たる。

掃除のおばさんがちゃんと聴き入っている!(こういう場面っていいなあ…)


リリーのこの時のステージ衣装はなかなか可愛い!!


「夜来香」 は、中国人と称して映画界のスターとなった李香蘭こと山口淑子の代表的ヒット曲。
1940年(1938年とするものもある)吹き込み。作詞・作曲は、
当時の上海で新進作曲家のナンバーワンと言われた黎錦光(筆名・金玉谷)。

日本語バージョン(佐伯孝夫作詞)は、戦後の1950年に山口淑子本人が吹き込んだ。
テレサ・テンを始め多くの歌手がカバーしている。
なんとも美しい名曲である。



夜来香(イエライシャン)

日本語作詞 佐 伯 孝 夫
作詞・作曲 黎    錦 元
    (Lee Ching Kwang)
唄     李   香 蘭
     (山口  淑子)

あわれ春風に 嘆くうぐいすよ
月に切なくも 匂う夜来香 この香りよ

長き夜の泪 唄ううぐいすよ
恋の夢消えて 残る夜来香 この夜来香

夜来香 白い花 夜来香 恋の花
ああ胸いたく 唄かなし

あわれ春風に 嘆くうぐいすよ
つきぬ想い出の 花は夜来香 恋の夜来香

あわれ春風に 嘆くうぐいすよ
つきぬ想い出の 花は夜来香 恋の夜来香
夜来香 夜来香 夜来香




                       



とらやの裏庭

とらや裏の工場の板戸から数人の職工が出て。
将棋を始める。




とらや茶の間


寅、
満男の黄色い帽子をかぶりながら、足の爪を切ってる。

夫婦連れの客「
ごめんください、ちょっとお団子ください

寅「
おばちゃん、おばちゃん、おばちゃああーん!!
 留守留守。団子だったら隣でも売ってるよ。


客、憮然として「
行こう…

寅「
うん」と、

全く気にしてない。

←これじゃいつかとらやは潰れてしまうよ、
まったく困ったもんだ。(^^;)



裏で工員が騒いでる。

寅「
うるせえなあ

裏。職工たちが将棋盤を見ながら

工員A「オ−ッ!」

職員B「ちょっと待った!」


茶の間

寅「
こら!静かにしろよ。人の屋敷内だぞ。
 なんだい。こっちは考え事してんだ
←してないしてない ヾ(^^;)




リリー、店の入り口にやって来て 

リリー寅さん

寅、気がつく。


リリーのテーマ流れる。

寅「リリー!


リリー、おどけてウィンク。
寅、顔全体でウインク。


リリー
また来ちゃった


寅「
よく来たな!入れ入れよ


リリーは網走での出会いの時と同じ白のスラックスを履いているところがリアル!
リリー、椅子に座りながら寅の黄色い帽子を見て

リリー「
かわいい!寅さん


寅「
えっへへ。座んなよ。ラムネでも飲むか…。
 あっ、リリーはビールだな。よし、じゃ、ビール持ってくる!



リリー、嬉しそうに寅を見上げている。

この時の寅とリリーはほんとにいい雰囲気だ

                        


リリー「おじさんたちは?

寅「
うーんその辺にいるんじゃないか?

リリー「
じゃあ寅さん店番

寅「
まあね←よく言うよ。ぜんぜんやる気ないくせに(^^;)



めぐみ「
ごめんください

リリー「
お客さんよ

寅「
えっ?めずらしいね。….よお、来々軒のおねえちゃんなんだい?
←めぐみちゃんの就職先分かる!
すぐ近くの中華料理屋だった!


めぐみ「
こんにちは

寅「
なんだい団子か?

めぐみ「
いいえ。あのう・・・すみませんけど、工場の水原君呼んでください

寅「工場の水原君か?よし。」

寅、暖簾越しに裏庭に向かって、「
おい労働者諸君の中に工場の水原君おるか?

水原「
はい

寅「
おうおう二枚目!かわいい恋人が待ってるぞ,早く


水原君立ちすくみ、同僚を振り返り戸惑っている。

寅、戻って

寅「
恋人すぐ来るからね。待ってろ


めぐみ、急に泣き出してしまい、その場を立ち去る。


                      



水原君、めぐみちゃんを追いかけようとするが、立ち止まり、


水原
あんまりだすっぺ!
  僕だじまだそんな関係で無いってば!



寅、驚いて「なに言ってやがる

博たち驚いてやって来る。「
兄さん!兄さん

寅「
どうしたんだ一体?

博「
なんでデリカシーの欠けたこと言ってくれたんですか!

寅「
なにデリカシカケタって?


博「
つまり無神経だってゆうことですよ。
 今ねあの2人は密かに愛し合ってるんです。
 あんなこと大声で言ったりしたら何もかもぶち壊しじゃあないですか!



寅「
なんだよ分かるかよおめえ!」と言い返す。

博「
もうちょっと気を遣ってもらいたいなあ

寅「
おっ?なんだ気を使えって?え?オレは親切に…



リリー「
ちょっと弟さん、


博や社長たち、リリーリーを見て「あっ…」とリリーが来ていることに気づく。

リリー「追っかけていったほうがいいんじゃないの?あの二人

博「
はあ…そうですね。じゃあ行こう。


博たち参道を走って行く。


寅「
なんだかわかんねえやさっぱり。おいリリー、冷えたビールでも飲もう。飲もう飲もう

リリー、博たちを見送りながら「うまくやんなよー!」と手を振り、うなずく。

リリーは苦労人で繊細だから
今何をすればいいのかすぐ分かるところがさすがだね。





江戸川土手


自転車に乗ったさくらが博たちを見つける。


みんな水原君に口々になにか言おうとしている。


博「
確かに兄貴のやったことはデリカシー欠いてる。
 弟として申し訳無いと思ってる。
 しかし君たちの友情が
 あんな一言ぐらいで簡単に壊れてしまうのな物なら
 そんな友情なんか最初からない方がいいんだ。そうだろ?みんな



工員一同「意義ナシ!
←工員たち博の影響大だな…(^^;)

博「
むしろこの際水原君は
 自分の気持ちをはっきりとみんなに言うべきじゃないだろうか?。
 そう、いいチャンスだとは思わないか?



工員一同「
そうだよ

博「
水原君どうだ?

水原君すこし、めぐみの方を見て立ち上がる。


工員A「
おい!


水原振り返りズームイン!←ストレートで分かりやすい素朴な高羽さんのカメラワーク


水原「僕…めぐみちゃんが好きだ!


めぐみ、一瞬間があって、「わっ」と手で覆って泣き出して走る。


               


工員A「オイッ!!」と工員Bを突き飛ばす。

水原君、工員Bと取っ組み合う。

工員B「やるかア!」




夜 とらや


裏の工場で宴会をやっている。




工員たちギター演奏で歌っている。


♪幸せならめぐみちゃん♪ホイホイ!
幸せならめぐみちゃん♪ホイホイ!ハハハ!…♪




しあわせなら手をたたこう
スペイン民謡/作詞 きむら りひと/編曲 前田憲男


この「幸せなら手をたたこう」は

第9作「柴又慕情」
の金沢の宿で寅と登が宿の
仲居さんたちと酒を飲みながらふざけるシーンでも使われていた。あの時は

幸せなら態度で示そうよホラッみんなでキスしよう!!♪とやっていました(^^;)






とらや茶の間


さくら「
そしたら水原君が土手の上にスッと立ち上がってね、
  空を見上げて大きな声で、『僕、めぐみちゃんが好きなんだ!』



リリー「
みんなのいるところで?


さくら「
そうなのよー


おいちゃん「
それで宴会やってるのか


寅「暇なんだよ暇なんだよ←寅だけ醒めているのが妙にリアリティがあるなぁ(^^;)



リリー「
ねえ?それで?

さくら「
めぐみちゃんびっくりしちゃってしばらくポカーンとしてたけどさ、
   そのうち、
ワアーッと泣き出しちゃったのよ!


リリー「あらあ〜←リリーは興味津々

さくら「
あたし最初何が起こったのかと思ってね、びっくりしちゃって

おいちゃん「
いいねえ今の若いもんは…」と釣り竿を磨いてる。

リリー「
みんなのいる前であの坊やが『僕めぐみちゃんが好きだ!』って言ったの?

さくら「
そうなのよ

リリー「
そしたらその女の子が泣き出しちゃったの?

さくら「
大きな声でねえ

リリー「へーえ!いいなあー!

寅「君は労働者を管理しとるかね?管理しとるか?管理…


と、竿の先をタコの鼻ッ先に突き刺す寅。
寅ってこの手の話って、こういう反応なんだよな。
タコ社長の迷惑そうな顔が印象的。



               



リリー「いいな…いいねえ…ねえ?寅さん←リリーはすっかりこの純情物語に参っている(^^)


寅「何が?そうかい?つまらないじゃないか。
 
ボグスキだバカじゃねえのか!チッ



寅ってこういう素人臭い若者の話って照れるっていうか、
馴染まないんだよね。

自分も本当は結構純情だからよけいに照れるのかも…




リリー「
いいじゃないの寅さんも一役買ったんだもの


社長「
そうだよ博さんも言ってたよ。後でね、寅さんも飲みにきてくれって


寅「
よく言うよお前!なんだよあいつさっき口とんがらしやがって
 『もうちょっと気を使ってください兄さん』上等だよお前。


博の口真似は寅のお得意芸(第15作のメロン騒動でも口真似してた)


寅「
博のやつが俺にこれぽっちでも気を使ったことがあるか?なあ、おばちゃん?


社長、あっけにとられて口ポカン…


おばちゃん「
そらないよ寅ちゃん!

寅「
何?

おばちゃん「
あたしたちはね、いつだってであんたに気を使ってるよ。ねえ社長さん?

社長「
そうだとも。はたで見ててね涙が出るほど気を使ってるよ。
 
寅さんが恋をするたびにさ



寅「
なんだよこの野郎!
 恋をするたんびってそれじゃ

 俺が一年中恋してるみたいじゃねえか!



さくら「な−にいってんのよ、お兄ちゃん


ガヤガヤと一同応戦する。




寅、リリーの方をチラチラ見て小声で




寅「
友達が来てるんでしょ今日…。
もう少し気を使ったらどうなんだよ。…何?



リリー笑いをこらえながらもヒックヒック笑っている。


寅「リリー何が可笑しいんだよお前」

リリー「寅さんてそんなにしょっちゅう恋してるの?


寅「いやいや。バカ野郎!ほらあ。
 ウソウソウソウソ!いや、前さあ一度か二度ね、
 そんなことがあったって事よ。な、なあおいちゃん、なぁ?


おいちゃん「
そうそうそう10年も20年も昔の事だから忘れちまうさ


寅「そ!ナシ!ナシ!
と手を広げて無駄なアピール



リリー「
ねえねえさくらさん


寅、びくびくしながら「
そそそそ

リリー「
寅さんが恋した人ってどんな人だったの?ねえ教えて。


寅「さくら、しゃべったらたじゃじゃおきませんよ。
分かってますか?
←なぜか「です、ます」調になって口ごもりながらの
ブツブツ言う寅はかわいい!
この辺の渥美さん最高!


リリー「
いいじゃないの一つや二つ話してくれたって。ねえいいでしょう?


寅「
いやあそんな何人もいるわけじゃないんだからさあ←今までに10人はいるぞ!!

リリー「
あっ、じゃあ一人でいいから。ね、おしえてよ

寅「
いやさあ、古い話だしね。
  
さくらだって今、『言ってみな』って言われたら思い出すのつらいでしょう



リリー「
覚えてるでしょう一人くらい

寅「
覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない

さくら「
そおねえ…あたしもよく覚えてないけど、
   しいて言えば…


寅「
覚えてない

寅「お千代坊
でしょバカだなあー、
あれは
単なる幼なじみじゃないバカだなぁ。ねえ、おいちゃん

←さくらまだ何も言ってないぞ。「人名」と「失恋の解説つき」で墓穴掘ってる寅でした。
でもさくら、図星だったみたい。

おいちゃん「
んんジャー小説家のお嬢さん。なんて言ったっけ。

寅「歌子ちゃん
あれはダメ!あれは年が離れてる。」

おばちゃん「
それじゃほら喫茶店の貴子さん

寅「あ、貴子さん…いたっけなあ。

  どうしてるかねえ…
その前は?


貴子さんは今でも喫茶店ロークをしているのだろうか?結構シリーズの後半まで実際
この喫茶店は営業していた。
寅の口ぶりからして、お千代さんも貴子さんももう早々と引っ越してしまったのかもしれない。

それにしてもみんなちゃんと順番に言っているのが面白い。寅も自主的に参加してるし(^^;)

                 


さくら「花子ちゃんよ。」

さくら「
あの子どうしてるかしらねえ?

おばちゃん「
津軽の子だったねえ

さくら「
そう



おいちゃん「
ほら、幼稚園に綺麗な先生が居たじゃねえか


おばちゃん「そうそう
秋子先生」←ほんとは『春子先生』


寅「
豆腐屋のせっちゃんあれはいつ頃だっけなあ


もう完全に自爆している寅でした。


さくら「あの人のほうが先じゃない


寅「
あんときゃ暑かったなあ・・・

↑このセリフ、第48作でも沖縄で再会したリリーとの思い出を
語るシーンでも寅は口に出していた。
なんでもないセリフなんだけど妙に頭に残っている。


おいちゃん「散歩先生の娘さんねえ…」

社長「
伊勢の旅館の若奥さん←社長も結構覚えてるね!

おばちゃん「
御前様のお嬢さん

さくら
どうしてるかしらねえ


 
ここで気になるのは第6作「純情篇」の
マドンナ、「夕子さん」が抜けていることだ。
あの時寅は、
恋の病でメロメロになるくらい惚れていた。
これはやっぱり
彼女が「人妻」だったから今回の
話の中に登場しなかったのかなあ…

どなたかそれ以外のご意見の方
あればメールください。


ちなみにあの時のスケベ医者がここに今出ている2代目おいちゃんの
松村達雄さんだ。

題経寺の鐘「ゴーン」

寅「
いやーぁ、お互いに年をとるわけだなあー


「ゴーン」



一同ゲラゲラ笑い転げる


さくら「
イヤネエ!


リリーだけ笑わないで、じっと考えている…


一同、リリーを見て、「



リリー「
いいなあ…寅さんって、いいねえー…


どうしてよ?別にいいことなんかねえよ。ぶっちゃけた話いつもふられっ放しなんだから


リリー「
いいじゃない!何百万べんも惚れて、
  何百万べんもふられて見たいわ



↑リリーの激しい気性が出ていて怖いくらいだ



おいちゃん「
またまたまた、あなたみたいな綺麗な人だったら
     惚れた人の一人や二人いたでしょう。なあ



リリー「
そうじゃないの、惚れられたいんじゃないのよ、惚れたいの

  そりゃ…あいろんな男と付き合ってきたわよ。
 でもね…心から惚れたことなんか一度もないのよ。

 一生に一度でいい…、一人の男に、死ぬほど惚れて惚れて惚れ抜いて
 みたいわ。振られたっていいの。振られて首つって死んだってあたし
 それでも満足よ。……。ごめんね変なこと言っちゃって…



この時のリリーは物凄く真剣だった。リリーは心底『恋』をしたいのだ。
このセリフは、ズーンと私の心に染み入りました。



さくら「
そんなことないわよ。とてもよく分かるわよ。ね、おいちゃん


おいちゃん「あー分かる分かる


寅も納得している。


社長「俺も一生に一度そんな思いがしてみたいなあ。
 あんな工場なんかほっぽっちゃって、
 好きな女と手に手をとってさ、世界の果てまで
 逃げ出してえなあ


タコ社長の見果てぬ夢でございます(^^;)


さくら、びっくりして社長を見る。

寅「
なんだ?おい。みなさん聞きました?カーーァッ!!。
 そんなこといっちゃうかねこのタコ!。ははあ…なんだい、
 お前そんな女いるの?


タコ社長「
そらあ昔は、いましたよ。

あっ!知ってる、乾物屋の!煮干しババアだ!←誰のことや?

タコ社長「
違う違う違う

寅「
赤くなった赤くなった!おい!

そういえば、奮闘篇でおばちゃんがタコ社長が水商売の女の人に入れ込んで
おかみさんを泣かしていた。って寅に言ってたなあ…。



おいちゃん「
さあ次はリリーさんの番だぞ。え?
    その激しい恋の話の一つや二つ聞かして下さいよ


リリー「
だからそんな恋したことないのよ。

さくら「
でも初恋の人っているでしょう。

寅「
下らないこと聞くなよ←やっぱりこういうウブな話って照れてしまう寅でした。

リリー「
初恋ねえそんなことあったかしらねえろくな男いなかったから

寅「
そうそうそう…

寅「
煮干君タコさんとタコ社長にボソボソしゃべっている。



リリー「
私の初恋の人…

リリー「寅さんじゃないかしらね。

一同「


寅「リリーしゃん、そらあ悪い冗談だよ。
俺は、遊び人ながら分かるよ。でもこのやの住人
はみんな堅気だから真にうけちゃう。
ヒヒヒ!ヒヒヒヒ!フッへへヒャハハハハハッ!!

完全に舞い上がって、社長を押しのけ土間に歩いて行き、
寅「おっ、労働者諸君!今夜は飲み、大いに語りたまえ!酒は、社長さんからの提供です!
社長「なんだー?」と裏へ走って行く。


                  



一同ちょっと笑って


おいちゃん「バッカだねえ…






リリー、二階の寅の部屋をさくらに案内されて



リリー「
うわあいい部屋ねえ、ここで寝ていいの?


リリー「
きれいな布団。あー気持ちいい!」といきなり服のまま!!布団に入る。←ストレートな人だよほんと。

さくら「
洋服がしわになるわよ。これ寝巻ね

リリー「
この布団いい匂いするわ

さくら「
洗ったばかりだから、、糊がゴワゴワしてるでしょ

リリー「
あー糊の匂い」っとねながら匂いをかぐ。

『糊』の匂いは温かい家庭の匂いだ。
こういう手間を掛ける家事って、
リリーの幼少期にはなかったのかもしれない。



リリー「
今夜はぐっすり眠れそう←リリーよかったね。分かる気がするよ、その気持ち


『リリーのテーマ』流れる


リリー「
ねえ、さくらさん

さくら「
何?

リリー「
あたしみたいな女、変に見えるでしょ


さくら「
どうして?


リリー「
だって普通の人じゃないもん。厚化粧して、
   キャバレーなんかで酔っ払い相手に、聞いてもくれない歌、歌って
   お酒飲んで、タバコすって、夜更けにアパートに帰って、
   昼頃まで寝て、そんなこと繰り返してんだもんね…



さくら「
今日はゆっくりと休むといいわ

と黄色い花を挿した花瓶をランプの横に置く。


 
←こういう言葉って嬉しいね。



                        




リリー「
ありがとう

さくら「
これお水ね

リリー「
うん


さくら「
それから何かあったらね、
  となりにお兄ちゃんが寝てるから
声を出して呼ぶといいわ

リリー「
まあ!となりに、寅さん寝てるの?
  呼んででみようかな?…寅さん!!



寅、となりの荷物部屋から「
はいよ!

リリー嬉しそうに「
んー!心強い!



さくら「
じゃ、おやすみなさい

リリー「
おやすみなさい


さくら、なにげなく、リリーのスリッパを整えて、下がっていく。



リリー「
寅さん!?

寅「
はいよ!

リリー「
泥棒がはいったら、追っ払ってちょうだい!

寅「
そんなときは、ぶっ殺してやる!

リリー「
嬉しい!
寅、部屋の隅のバット持って「
うむ!よーし、タアア−!!



おばちゃん、下で聞いてて

おばちゃん「
今夜は徹夜だね寅ちゃん」とあきれる。



博、満男、さくらも、ふたりが喋るたびにあっち向いたり、こっちむいたり。


リリー「
寅さん

寅「
はいよ

リリー「
きれいなお月さま

博、おばちゃん、さくらたちも裏庭から見える月を見る。

リリー「寅さん

寅「
はいよ・・・←そうとう眠そうな声(^^;)

リリー「
恋をしたいなぁ…寅さん聞いている?

寅「
聞いてるよ…←眠る寸前

リリー「
燃えるような恋をしたい。…寅さん!聞いてる?


寅「
( u _ u ) クゥゥゥ。o◯



寅、寝たみたい…


おばちゃんの予想大外れー!寅って布団に入ったらすぐ寝てしまうんだよね(^^;)


このテンポいいねえ。短い言葉でのやりとり。ある意味名場面だよこれって。
その翌日のリリーのとらやでの様子をぐずぐず長引かせて見せないで、思い切って、
ポン!と栗原さんの話題に飛んでいる。これだと観てるほうも飽きが来ないね。





北海道 網走 

北海道の栗原さんの家に小包を届ける郵便屋さんのバイクが走ってる。




栗原さんからの手紙の文章




北海道にも新緑の燃える初夏が訪れました。
私たち家族ともに、元気で、
牛飼いの仕事に精出しております。
さて先日は、思いもかけぬ。贈り物いただき、お礼の申しようもありません。
心のこもった、品々に、私たち夫婦も、娘も、大喜びでございます。

(参考書や靴下、シャツなどを取り出し家族で喜んでいる。)

ご滞在中十分のをもてなしも出来ずと心を痛めて、おりましたのに、
こんなことをしていただいて、すっかり恐縮しております。
本当にありがとうございました。
私も、相変わらず貧しい。牛飼いにすぎませんが、
心だけは豊かに、生きていきたいと、念じております。
それではくれぐれも、御身大切に、お兄様に、どうかよろしくお伝えください。





                    





おばちゃん読み終えて、手紙を拝んでさくらに手紙を渡し


おばちゃん「
どうもありがとう。忙しい中で書いたんだろうね。
     さくらちゃん本当にいいことしたよ



手紙を拝むところがおばちゃんだねー。いいねー。この感覚



寅、2階から下へ向かって 「さくらー」



さくら、下から「
なあにー

寅の声「
愚かって漢字はどうやって書くんだ?

さくら「
愚か?

寅の声「
うん

寅に声「
愚かなる妹って書くだろう?、あれの愚か


さくら「何してんだろう…」






二階に上がるさくら。


寅「
おいさくらー

さくら「
はい。どうしたの?」 と寅の横まで来て

さくら「
何してるの?

寅「
北海道の栗原さんに返事書いてるんだよ。

さくら「
どうして愚かなる妹なんて書くのよ?

寅「
愚かじゃないか

さくら、手紙を見ようとする。


寅「
なんだよ

さくら「
ちょっと見せて


寅「
見るなよ。読んでやりるよ


拝啓、愚かなる妹が、つまらねえものをお送りしたそうですが、どうせロクなものじゃないでしょう』 
すごい文章(^^;) でも寅ってほんとは美しい文章も書くんだよね。



寅「
ま、ここまで書いたな

さくら「
それから先は?

寅「
そうだな、私こと北海道より帰ってきてからは、
 あの厳しい開拓部落の生活を忘れないように、日々反省の日を過ごしております。
 だが!根が、愚かなため、
 こういう…
中流..家庭の暮らしをしていると、
 ついつい気持ちが緩んでしまいます。それを深くお詫びします

 
どうだこれでいいだろう?

さくら「
イヤネエそんな手紙ないでしょう?

寅「
ないでしょうって?どうやって書いたらいいんだよ、おまえ…

さくら「
例えばさ、お元気のご様子なによりと存じますとか?


寅「
すかしてやがる。だったらお前書けよ


と、寝転んでしまう。


さくら「
しょうがないわねぇと紙に向かうさくら。


寅「
なあ、さくら…、

 隣のオレの寝ていた部屋よ。
 しばらくの間、リリーのやつ置いてやっちゃいけねえかな?


さくら「どうして?

寅「
うん、別に、どうってことないけどさ、
 あの女にもね、人並みの家庭の味、味合わせて
 やりてえと、そー思ってよ。



さくら「
そうね…。こないだの晩とても喜んでたもんね




寅「うん…うん…」と頷いた後、
じっとリリーのことを考える寅

さくら、ふと、そんな寅の横顔を見る。



↑何気ないシーンだが心がちょっと温かくなる。このようなシーンを
垣間見れることが男はつらいよの隠れた醍醐味だ。



江戸川土手

手紙を源ちゃんに読んで聞かせる寅



寅「
あの北海道の広々とした風景が今でも懐かしく目に浮かびます。
 折があれば、是非もう一度お伺いしたいものと、
 いつも妹と話しております。それではどうかお体を大切に、
 奥様、お嬢様にくれぐれもよろしく。

 車寅次郎拝
。」



寅「
どうだ?お前にも書けるか?


源ちゃん「
兄貴、字も、上手でんなあ←源ちゃん、そんなものさくらが書いたってバレバレだぞ!気づけよな(^^;)

寅「
お前もな少しは勉強しろよヾ(・ε・。)ォィォィ

源ちゃん「
はい

寅、封筒を
舌で舐めて閉じ

寅「
それからこれ、ポストに出しとけ。落とすなよ

源ちゃん「


寅、口笛を吹いて土手を歩いていく。

源ちゃん「あ!」っとよろめいて手紙を川に落とす!!
↑ひえ〜、さくらがせっかく書いたのに… (><;)


寅「
はい、行こう、早く




                             


  
寅手紙が落ちたことに気づかず、源ちゃんそのまま隠す。←源ちゃん言わないんだ。

まあ、もっともあの手紙を栗原さんが受け取らなかったとしても、
別に栗原さんに対しては失礼はないと思う。さくらが送った品物の
お礼として送られてきた栗原さんからの手紙に対するそのまた返事は、
ある意味くどいかもしれないからだ。手伝ってあげたさくらは
ちょっと可哀想だったかも。



柴又4丁目 線路脇


さくらたちのアパート



さくらミシンを踏んでいる。



さくら「
私思うんだけどさ、
  リリーさんっていつまでも今の生活に甘んじて人じゃないと、思うわ。
  あの人賢い人よ。
  そのうちきっと自分の力で幸せをつかむじゃないかな。
  そんな気がするわ。
  お兄ちゃんはかわいそうなかわいそうだ
  俺が何とかしてやらなきゃなんて言ってるけどね





博、満男を寝かせながら、


博「
そうだなかわいそうなのは
           兄さんの方かもしれないな。今回もまた…





うすうすこれから起こることが予測できるさくらと博でした。




寅、『浅草雷門前』で啖呵バイ




サンダル、スリッパをまとめて売っている寅


寅「
七つ長野の善光寺。八つ谷中の奥寺で、竹の柱に茅の屋根
 手鍋下げても、あたしゃいとやせぬ。ね!信州信濃の新蕎麦よりも
 あたしゃあなたのそばがいい。


 まかった数字が七つ、これあわせて!さあいくら!

 腹を切ったつもり、はい500円で行こう500円!!



                


源ちゃん「これください←サクラ (源ちゃんサクラ多いなあ)

寅「
おっこちらのお兄さん、いい買い物したね。あー調子に乗ってそんな商売しちゃったなあ

客「
これくださいな

寅「
お母さんもいくの?

寅「
どう、よし、こうなったらやけのやンパチ日焼けのなすび色が黒くて
 食いつきたいが、あたしゃいれば、で歯が立たないよ。
 自殺したつもり!500円!はい持ってって持ってってさあどうぞ!
 はい500円!500円!ね!






昼下がりの五反田 新開地 飲み屋街

西五反田1丁目9番地付近

東急池上線の五反田駅と国鉄の線路、
そして目黒川にも囲まれた三角地帯。
  


この五反田ロケ地の情報は熱烈な寅さんファンであるTさんから2010年5月11日に提供されました。
このあたりは昭和60年の再開発ですべて小奇麗にさらわれ、今はもうないそうだ。
詳しいことは↓に記しました。




寂れた歓楽街を歩くリリー

またもや五木ひろしの『あなたの灯』が路地から流れてくる



リリーが複雑な顔で歩いている。

岡本質店 (大田区大森)


国電の駅のそば、


リリーの母親アパート2階の窓から顔を出して咳をしながら

清子(きよこ)今すぐ行くからね。


←リリーの本名(ファーストネーム)が分かる!!
で、リリーは芸名が『リリー松岡』なので本名は
『松岡清子(まつおかきよこ)』で決まりだ!!


清子って地味な名前、一見リリーに合わないように思えるが実は
心が清らかな
リリーにはぴったりの名前だ!




                             



                         当時の五反田新開地 飲み屋街、

                    



母親「
あー…痛い(歯痛) あんたんとこ 3んべんも電話したんだよー。
  いつも留守ばっかりでさー。あー痛…、歯が痛くてねー。
  腫れちゃったんだよ。で、持って来てくれたのかい?



リリー、ブスッとしながら母親の顔を見ないでハンドバックから2、3万円出して渡す。


母親「
どうもありがとう。助かるよ。物入りでねー近頃は…。
  酒は上がるし、便所は壊れるし、
  歯医者は高いしさぁ。
  そうだ。お前この間そこの
サクラメントで歌ってただろう。
  どうして寄ってくれないのさ。池田さんって不動産会社の社長さんだけどね。
  リリー松岡って私の娘だって言ったら、わざわざ見に行ってくれてさとっても褒めてたよ。
  帰りにたぶん寄ってくれるだろうって
  随分待っててくれたんだけどね。どうして寄ってくれなかったの?



リリー「
お店で私の名前なんか出さないでって言っただろう

母親「
だって親子なんだからいいだろう?

リリー「
親のつもりなの、それでも。はっきり言って、
  私あんたなんか大嫌いよ!
  いなくなればいいと思ってんの



母親「
…なんてこと、そんな…。
  私だってね!あんたに言えないようなつらい事情だってあるんだよ!
  なんだい!バカ!


と言いながら泣き崩れてしゃがむ。


リリー、行ってしまう。

母親、リリーの背中に向かって「バカ!!



リリーがこれだけきついことを言ってしまうということは
よほどつらい幼少期があったんだろう。
母親の愛情をほとんどもらえなかったことをうらみ続けているんだろうな…。



何ともやるせないシーンだが、リリーはなんだかんだと言いながらも
母親に会いに来ているのがちょっと救い。
第48作でもほんの少しだけこの母親と触れ合うシーンがあったな…。
(母親役の役者さんは別の人に変わってたけど。)

そういえば寅も第2作「続男はつらいよ」や第7作「奮闘篇」で
産みの母親であるお菊さんと大喧嘩していた…。
あの喧嘩も観ていて辛かったー。(TT)
寅もリリーも母親には恵まれなかったんだな…。




追加事項 20010年5月11日付。

新事実判明!


昔、私はリリーの母親が住む街は「蒲田」と思っていた…。
っていうか2010年5月11日の昨夜までは思っていた。


電柱の質屋さんの住所(大森)やいろんな人々の意見を総合して判断すると
蒲田付近だと思い込んでいたのだが、なんと新事実がわかったのだ。
と、言っても自力でわかったわけではない(^^;)ゞ
昨夜、熱烈な寅ファンである文京区に住むTさんからメールをいただき、
リリーの母親のアパートがピンポイントで判明したのだった。

なんとなんと蒲田よりももうちょっと北の
『国鉄五反田駅』の目黒川沿いだったのだ。
そこで私もあらためてそれを確かめるべく、地図や航空写真を見てみた。
場所は東急池上線の五反田駅とJRの線路、そして目黒川の3つに挟まれた三角地帯だった。
このエリアは昔から五反田新開地と呼ばれていたらしく、歓楽街.飲み屋街だったそうだ。


ただ残念ながら再開発の波の中でこのあたりのエリアはすべて取り壊され、
現在は下の航空写真のように目黒川沿いの飲み屋街は小奇麗な遊歩道になっているのである。
そしてあの、リリーが歩いていた飲み屋街はご覧の通り
↓ホテルロイヤルオーク五反田に変わっている。




そこで伝家の宝刀
『昭和38年の航空写真』を使って同じエリアを見てみる。
そうすると、リリーの母親の住んでいたあの『五反田新開地飲み屋街』がしっかり写っている。

赤矢印
は映画の中のリリーの進路


ダメ押しで、Tさんが紹介してくださった中村さんという方が運営されているサイトに
あったまさにあのエリアの写真を紹介してみよう。2枚ほど拝借(すみません)。


この写真は、リリーが歩く新開地飲み屋街にあった『ドリーム』という店が写っている貴重な写真(昭和60年撮影)。
その下の画像は、映画本編でリリーが歩く西五反田1丁目。電柱の住所がかろうじて読めるような感じ。
この映像に『ドリーム』の青い看板ががまさに写っている。







そしてこの写真↓はましくリリーの母親が住んでいたアパートの隣の中華料理屋さん。
つまりこの隣(JR側の方)が母親のアパートだと言うことだ。
映画では中華料理屋だとはわからないが軒先で同じだとわかる。





上の写真と下の画像を見比べていただければわかるが、平和軒の軒先のテント模様と、
真向かいの家の縦のストライプの丸いテント(写真左端ギリギリで写っている)が映画の中でも写っている。

もちろん映画ではカメラの位置は上の写真とは逆である。
つまり映画では国鉄ではなく東急池上線が写っている。
当然中華料理屋さんの軒先は映画では左側に映っている。

これで、100%間違いなく、Tさんが言われるように、リリーの母親のアパートは
五反田新開地、中華料理屋『平和軒』隣(国鉄鉄橋寄り)の目黒川沿いのアパートの2階だ。
上の写真↑では道が折れ曲がっているのでアパートは見えない。

下の映画と上の写真は撮っている位置が逆。

      

母親の向こうに見える東急池上線『五反田駅』



つまり、リリーは、下の地図(昭和38年の航空写真)の赤い矢印線↓のように
東急池上線の高架下あたりから、五木ひろしの歌が流れる中、『ドリーム』の前を通り。
アーチ型の『新開地』看板のかかる飲み屋街のメインストリートを
100メートルほど東に歩いてきて、道の右にある目黒川沿いの母親のアパートの下に着き、
二階の部屋にいる母親に声をかけ、
ちょっと国鉄鉄橋よりでお金を渡し、母親と別れたあと、国鉄のガードをくぐって帰っていったのだ。

母親のアパートの住所は
品川区東五反田1丁目9番地




今回五反田だと教えてくださったTさんの凄いところは、
それを自らの目で確かめるべく、自分でも五反田に行かれ、詳細な調査をされていることだ。
都市開発後なので跡形もなかったらしいが、道からの電車の見え方は同じだったとおっしゃっていた。



話は本編に戻って


葛飾柴又


深夜のとらや


港が見える丘の歌を歌うリリーの歌声が参道から聞こえてくる。

リリー「
♪あなたと二人できた丘は港が見える丘ァ〜色あせた…かなり酔ってる

リリー、外から「
寅さんいる!?あたしよ来ちゃった。誰か-


寅二階で酒を飲んだ後ウトウトしていたが、リリーの声に目が醒める。


リリーガラス戸を叩く


リリー「
寅さん起きてー!寅さん!

おばちゃん起きてきて「
どなたですか。

リリー「
私、リリーよ。寅さんに会いにきたの。開けて。



寅下りて来る。

おばちゃん「どうしよう?

リリー「
寅さん?

寅「
あいよ。一人か?おい

リリー「
こんばんは、すいませんこんな夜遅く。

寅、ガラス戸を開けて酔ったリリーを支える

リリー「
私今日はチョッとよってますけどね。いいでしょ。よったって。

寅「
あーいいよいいよ。おっ座れ座れ、誰も悪く言っちゃいねえからな

おばちゃん「
上がってもらったら?


寅「
いいよいいよ。おばちゃんそこ閉めて


リリー「
ねえ。寅さん一緒に飲も。
   あたしちょっとつまらないのよ。
   いっしょに飲んで騒ごう。騒ごう!


寅「
よしよし。わかったわかった。わかった。
 じゃ今オレ酒持って来るからな。うん。
 じゃビール,おとなしく待ってんだぞ


リリー「
待ってる待ってる

リリー「
ねえ寅さん

寅「
あいよ

リリー「
あたし旅に出たくなっちゃったんだ

寅「
んん

リリー「
どっか遠ーいとこ。一緒に行かない?

寅「
そうだな俺もそろそろ旅に出ようかと思ってたんだい。一緒に行くか

リリー「
んん〜。何もかも嫌になっちゃった〜←仕事だけでなく、実の母親のことも悩みになっている。

寅「
ん、ま、まあ一杯飲みなよ

リリー「
今日もさ、キャバレーで歌うたってたのよ。
  誰も聞いてない歌をさ。いいけどね、聴いてくれなくたって。
  どうせ私の歌なんか下手くそだから。…でもね、
  邪魔すること無いじゃないか!
  あの酔っ払いめ。やな奴



寅「
そうか歌ってる時に酔っ払いに絡まれたか


リリー「
だから私パーンとひっぱたいてやったのよ

寅「
おーおー

リリー「
そしたらマネージャーのヤツが…

寅「
リリーよ、やなことは忘れてさ、俺と飲もう。な

リリー「
寅さん

寅「
んー?

リリー「
旅に出よう

寅「
んん、出よう出よう←本気でいってない。

リリー「
本当に?

寅「
ほんとほんと←その場しのぎ

リリー「
じゃ今すぐ行こう今!

寅「
えっ

リリー「
今行こう

寅「
いや、今すぐたってさ、今何時だと思ってんだよ

リリー「
いいじゃない行こうよ行こ

寅「
いや、それにさ夜汽車もありゃしないからって、ね?

リリー「
行きたあーーーーたい!

寅「
座って、リリーよ、な!今日はほら、静かに二人で飲もうな、ほら早く、ね

リリー「
何だ…嘘…

寅「
え?




汽笛「ピュゥゥゥゥ――…」



リリー「
そうか…寅さんには
 こんないいうちがあるんだもんね。
 あたしと違うもんね。幸せでしょ?



このリリーの発言は二人の孤独の深さの差を見事に表していた。
寅にとってはとても痛い発言。


寅「
何言ってるんだよお前?

リリー「
あたしゃーみなし子ー街道暮らしー流れ―流れのー♪(越後獅子の歌)
リリーの『心』を歌っているのを寅は理解できない。


寅「
おいリリー静かにしろよ。
昼間みんな働いてな、疲れて寝てるんだから。
ここは堅気の家なんだぜ。さ、


と、酒を勧めるがリリーが振り払う。

リリー「
あたし帰る。


リリー立ち上がり入り口のガラス戸へ。


リリー「
どうせあたしのような女が
 来るようなとこじゃないんだろここは!



寅「
バカヤロウ…だれもそんなこと言ってねえじゃないか




                         





リリー、目にいっぱい涙を貯めて



リリー「
寅さんなんにも聞いてくれないじゃないか…。
 嫌いだよ!




リリー戸をあけて

深夜の参道を走って行く。




おばちゃん「
ちょっと!止めなくていいのかい?


寅、
ちょっと迷うが、「…かまわねえよ!

と、ガラス戸を荒く閉める

結局寅は、リリーの孤独を共感してやることができなかった。
心が崩れ落ちる直前になんとかとらやにたどり着いたリリーの
ギリギリの追い詰められた心を寅は受け止めることが
できなかった。「ここは堅気の家だ」という寅のお説教は
そのことを皮肉にも物語っていた。

この二人の孤独の深さの違いはリリーにとって、自分の孤独を
より一層強調してしまう結果になってしまったようだ。
なんとも切ない話だ。

寅の孤独はとらやがある限り、深刻ではない薄っぺらいものだが
リリーの孤独は深く絶対的なものなのだ。






さくらのアパート



さくら、アパートの電話でおばちゃんと話をしている。




さくら「
そう…りりーさん泣きながら出て行っちゃたの


おばちゃん「
そう大きな声でさ、門前町のみんなが聞いてたに違いないよ。
     女の人のあんな酔っ払いなんてあたしゃ始めて見たよ



この作品から、ようやくさくらたちも自分の部屋に電話を引いた!
これでとらやとの通信も簡単になったね!

色はオーソドックスに黒


おばちゃんには生い立ちの複雑なリリーの孤独はほとんど
共感できないのかもしれない。自分の近所での立場しか
この時点では考えていないことが上の発言でわかる。




さくら「
お兄ちゃん、どうしてる?出かけた?どこへ?











総武線 錦糸町駅 北口付近

手前に長崎橋



赤い長崎橋が映る。

その近くを人に道を聞いて寅が歩いていく。


ハーモニカによる『リリーのテーマ』が切なく流れる。


薄暗く、狭いリリーのアパートの階段を寅が上がる。

薄暗いアパートの廊下。

ドアをノックする寅。

向こうから子供が上げって来る。

さらにノックする。

そしてドアを開ける。

紙の表札で『松岡』

慌しく引っ越していったことが小物の散らかりようで分かる。
そして、リリーの分身である残された『もの』たちが哀しげに
部屋に散らばっている。



赤い傘
フランス人形
楽譜
レオナルドダビンチの『モナリザ』のポスター
『旅』の字がついてる壁掛けレター入れ。
赤いポール椅子
電球
スタンドの笠
雑誌


フランス人形は子供心を残しているリリー。
「モナリザ」は『美』を愛するリリーの感性。
「旅」の字がついている壁掛けレター入れは
旅から旅の生活を肯定しているリリーの心。
楽譜は彼女のアイデンティティ。





                      





住人A「
何か御用でしょうか?

寅「
ああ、ここの女どこ行ったんだい?

住人A「
さあ?今朝方なんだか急にバタバタ引っ越していきましたけど?

寅「
なんかあったのか?

住人A「
んー、よく知らないんだけど大家さんと喧嘩でもしたんじゃないですか?
   電気代かなんかのことで


寅「
あんた、この女と親しかったのか?


住人A「
いいえ!」っとさっと消える。


列車が遠くを通っている。

襖にタレントのポスター。


リリーが立ち去った部屋で、ただただ立ち尽くす寅でした。


夜の上野駅


信越線北陸線周り福井行き急行「越前号」15番線です。
20時44分発 前橋行急行…


さくら寅のいる地下の食堂にカバン持ってくる。
食堂でラーメンを食べている寅。


渥美さんって「食べるシーン」撮られるのあまり好きじゃなかったみたいだけど、
ラーメンやそばなどの麺類は結構OKだったみたい。
第1作のラストも、第2作も、今回もラーメンをすすっている。
このラーメンも松竹消えもの担当の露木さんが作ったのだろうか…



さくら「
何時の汽車?

寅「
ん、9時15分よ。

さくら
じゃあ、もう何分もないじゃない…

と自分の腕時計を見てそのあと店の時計を探すために周囲をみわたす。


さくら「
今度はどっちの方に行くの?

寅「
そうよな、暑くなったから北の方でも行くか…

このまえ網走に行って来たばかり(^^;)




                   





さくら、うなずきながら

さくら「
どっかでリリーさんに会えるといいね…

やっぱり優しいね、さくらは…

寅、ラーメンのスープすすりながら

寅「
うん…

寅「
さくら、もし.。もしもだよ。俺のいないときにリリーがとらやへ訪ねて来るような
 ことがあったら、俺のいた部屋に下宿させてやってくれよ。

 家賃なんか取るなよ。まああいつは遠慮するかもしれねえけどよ、
 俺がそんなことに気い使うなって言ったっていってくれよ。
 リリーは可哀想な女なんだ。わかったか?


さくら、頷いて「
わかった

ちょっと前、とらやの2階でもさくらに同じようなことを言っていた。繰り返しさくらに
伝えるくらい、寅はリリーのことがほんと心配なんだな…


寅「
おめえも悪かったな忙しいところ。博と仲良くやるんだぞ。え

あ、と言いながら腹巻から財布を取り出して

寅「チビによ、飴玉のひとつも…。ふ、500円か…、切符買ったからなくなっちゃったよ


さくらその財布を寅から奪う。


寅「え?何?


さくら、1枚1枚丁寧にお札を広げながら
3枚ほど(5000円札含めて7000円か?)財布に入れる。

さくら、泣きながら

お金もう少し持ってくればよかったね…


お札を1枚1枚丁寧に広げるさくらに胸が熱くなるね。
こういう隠れた名場面こそがこのシリーズを支えてる。  

          






入道雲 とらや


みんみんみーん かき氷がりがり(いちご)


めぐみちゃんが水原君を待っている。


さくら「あー暑い暑い。あら、水原君待ってるの?

めぐみ「ええ

後ろから満男三輪車に乗って入ってくる。


さくら「おばちゃん、リリーさんのはがき見せて


おばちゃん「あー、そこにあるよ



満男 店内を三輪車をこいで裏の方へ行く




風鈴の絵が印刷されているはがき


寅さんお元気ですか、いつかは本当にごめんなさい
あれからしばらくして私とうとう歌手をやめてしまいました。

今では小さなお店のおかみさんです。
近所に来たら寄って下さい。
とらやの皆さんにくれぐれもよろしくね。  リリー




たぶんあれから2ヶ月くらいで結婚したんだろうな…速攻だ!
もっとも昔から知り合って言い寄られていたのだろうね。








千葉県松戸市京成電鉄「五香駅」前の
五香センター 付近を日傘を差して歩くさくら。



清寿司


「清寿司」ロケ地は撮影当事の割烹料理「おふみ」だったのです。






同じアングルでピンポイント到達!










開店間もない寿司屋『清寿司』


花輪が4つほど立ててある。




さくら暖簾をくぐって入る。
リリーが亭主と一緒にカウンターに入っている。
客たちの笑い声が聞こえる



客の一人はなんと加島潤(かじまじゅん)さん
第23作「翔んでる寅次郎」披露宴会場の司会者や
第26作で柴又でセブンイレブンを経営していたタコ社長の知人。



主、さくらを見て、ニコッと笑って「あ、いらっしゃい、どうぞ」



さくら、リリーを見る。


リリーも気づき、さくらを見て驚く。




リリー「あら-…!、よく来てくれたわね…
  こんなとこまで、どうぞ」




リリー、亭主に


リリー「ちょっと柴又のさくらさんよ!

亭主「あ!…どうも

亭主「デヘ!人なつっこく照れ笑い。

さくら「はじめまして





毒蝮三太夫が亭主を演じている。
実に笑顔がいい。
毒蝮三太夫を見るたびに「ウルトラマン」の
アラシ隊員
を思い出すのは私だけ
でしょうか?(^^;)ゝ
二瓶正也 (ニヘイマサヤ)さん扮する
イデ隊員もいましたねー!
あのコンビ面白かったなあ…。


            


リリー「ごめんなさいね。
  私何度も何度も電話しようと思ったり、
  訪ねていこうと思ったんだけど、つい.…



さくら「いいのよそんなこと


リリー「ね、座って。暑かったでしょう。何か冷たいものね


客「タコ」


亭主「へっ」


さくら「素敵なお店ね


リリー「借金だらけでどうなることやら



寅と別れたあとに結婚を決めて、
そのあと亭主が店を改装もしくは
新装してオープンした、ということは
物凄い行動力だ。早すぎ!



リーンリーン


リリー「
はい清寿司(きよずし)です。あ、佐藤さん。銀行裏の。
  はい、ちらし5人前。はい毎度ありがとうございます。


店の名前はリリーの本名『清子』からとって『清寿司』。
このことでもいかに亭主がリリーに惚れているかよく分かる(^^)


にこっと笑いながら

亭主「お噂は清子から伺っております


リリー、電話を切って「ちらし5人前

亭主「あいよ

客「奥さんはきれいなひとだがね

客B「機嫌いいのは亭主だけさ」とからかっている。

リリー「で…どうしてる?寅さん

さくら「あれから旅に出てね、それっきり


リリー「そう、やっぱり旅をしてんのか、会いたいなあ寅さんに



                    



客「ビール

亭主「清子、こちらさんビール

亭主さくらの方を見てニコッと笑う

リリー、客にビールを渡しながら


リリー「ねえ、さくらさん、あたしほんとはね、
  この人より寅さんのほうが好きだったの




亭主、気弱そうに「またそれ言う…


リリー「だってほんとだもん




客大笑い


たとえそれが本当だったとしても、現在そのことを
リリーが亭主の前でさくらに言えるほど
リリーにとってこの亭主は身近な存在なのだろう。
青春期より心のよりどころを持たないリリーにとって所帯を持つと
いうことは絶対必要なことだったに違いない。
ここが寅との違いだ。

そういう意味では、寅が所帯を持たないのはいろいろな理由が
あるにせよ、
「とらや」や「さくら」の存在に彼の心が安住して
しまって真剣に所帯を持つ欲求にかられないという側面も
あるのかもしれない。でも、私はそれが悪いことだとは思えない。
こういうことは、どちらが幸せかなんてことは誰にも分からないのだ。



出前届けに行きながらさくらにニコッと笑って


亭主「どうぞごゆっくり後で美味しいもの作りますから


客の頭をぺちっと叩いて出て行く←さっき大笑いしたからか?


客「あいた!ちくしょやったなー。まともやほんまにっと笑っている。






リリーのテーマ

リーン


リリー「はい清寿司です。
  2丁目4の2といいますと電報局の…。ええあります。
  岡本さん、、、まだちょっと不慣れなものですから…
  ええ、あ、その角を右に曲がって、最初の路地を左。
  にぎりの上が…ごめんなさい



さくら、幸せそうなリリーを見て微笑みながらも
兄のことを思い少し寂しげ。

こういう時の倍賞さんの微妙な演技は他の
追従を許さないくらい上手い。








葛飾柴又 とらや



さくらがもらってきたにぎり寿司の折り詰めをみんなで食べている。


さくらは白玉にあんこのかかった甘いものを珍しく食べている。

さくらリリーさんがね今でも
 お兄ちゃんの方が好きだって



へぇー、そんなこと言ったのかと笑いながら驚いている

さくら「どーせ、冗談なんだろうけどさと笑ってる←ちょっと冷静さを残してはいる。


↑こういう時のさくらってほんと「親ばか」いや、「妹ばか」だねー。
でもそういうところがなんとも観ていて温かい。




おいちゃん「しかし聞かせてやりたかったな、そのセリフ。寅の奴によ


一同納得して「ハハハ」









北海道網走の牧草地を歩いている寅


栗原牧場



カッコーが鳴く草原

栗原さんの娘さん、寅に気づく「お母さん!!ほら!

奥さんあら、どーも!

寅「いや、ハハハ」と手を上げる。

寅「また来ちゃいましたよ。お嬢ちゃん、元気だった?

奥さん「どうもどうもー!

寅「え、奥さんも元気ですか

奥さん「ええ!



娘さん、走って丘の向こうで草を集めている父親に知らせに行く。



娘「お父さん!お父さん!と花を摘んだ手を振って父親を呼ぶ。


奥さん「よく来てくれましたねー!お家のみなさんは?



寅「あいつら、しょうがありませんよ!
中流の暮らしにだらけきっていますから
←まだ言ってる(^^;)


奥さん、笑いながら「家行ってお茶でも飲みましょう

寅「とんでもない、お茶だなんて、これから労働です労働です!



と奥さんの麦藁帽子を奪って自分が被り、
自分の帽子を母親に被せる。




奥さん笑う。

寅「ご主人は?あ、あちらですね!さあ!働きましょう!


母親、寅の帽子を被りながら笑っている。←これ笑える(^^;)



寅「さあ!働きましょう!


娘さん「お父さーん!おじさん!

寅、丘の下から「こんにちはー!!」と手を上げる。

父親も手を上げて答える。

寅「また来ましたよー!

父親「よく来てくれましたね」と帽子をとる。

寅「ええ!はい、帽子を被って!」と牧草用の鋤を奪い取る。

父親「何をするんですか?

寅「労働です。労働です!と、

はっ!ほっ!はっ!ほ!っと体操しだす。




父親「ハハハ!また、疲れるからおよしなさいよ、ハハハ←言えてる(^^;)



一、二、三、シッ 」と体操を続ける。


音楽大きく盛り上がって


娘さん大笑いで屈みこむ。父親も大笑い。



向こうには広々とした大地が広がっている。




なんとも明るいラストだ



                   



寅はあれだけ迷惑かけたのに栗原さん一家に再度歓迎されたようだ。

寅の明るくてストレートな気質も栗原さん一家に好かれる要因だが
陰でさくらのお礼の数々の品物(小包)が彼らの心を和ませているのを見逃してはいけない(^^)





終わり



キャスト

渥美清 (車寅次郎)
倍賞千恵子 (さくら)
浅丘ルリ子 (リリー(松岡清子))

松村達雄 (車竜造)
三崎千恵子 (車つね)
前田吟 (諏訪博)
中村はやと (諏訪満男)
太宰久雄 (タコ社長)
佐藤蛾次郎 (源公)
笠智衆 (御前様)
吉田義夫 (吾作)
織本順吉 (栗原)
中沢敦子 (栗原の妻)
成田みるえ (栗原の娘)
江戸家小猫 (水原)
北原ひろみ (めぐみ)
毒蝮三太夫 (石田良吉)


スタッフ

監督 : 山田洋次
製作 : 島津清
原作 : 山田洋次
脚本 : 山田洋次 / 宮崎晃 / 朝間義隆
企画 : 高島幸夫 / 小林俊一
撮影 : 高羽哲夫
音楽 : 山本直純
美術 : 佐藤公信
編集 : 石井巌
録音 : 中村寛
スクリプター : 堺兼一
助監督 : 五十嵐敬司
照明 : 青木好文


公開日 1973年(昭和48年)8月4日
上映時間 99分
動員数 239万5000人
配収 9億1000万円




今回の更新は2004年11月10日でした。(2018年5月に少し改訂しました。)

次回は第12作『私の寅さん』です。
だいたい2004年11月18日頃の予定です




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