バリ島.吉川孝昭のギャラリー内
第15作 男はつらいよ
1975年8月2日封切り
物語の勝利. ― 渡り鳥たちの栄光 ―
神様の気まぐれ
山田監督の映画に限らず、人が人生をかけて何かを制作する場合、時として傑作が生まれる。
しかし傑作と呼ばれるものにもいろいろな種類がある。
まず、作者のもっとも言いたいことが最初に出たみずみずしい処女作の良さを伴う大傑作。これが第1作「男はつらいよ」である。
その次に、さらにテーマを深く掘り下げた力強い重量感がある力作とよんでいい大傑作。これが第8作「寅次郎恋歌」であろう。
そして、この2つはおおよそどの作家にも人生で1度は与えられているものである。しかし、いくら脚本や監督やスタッフがよくても
実際に演じるのは役者さんである。役者さんがその役に「出会う」ことがなければ、真に一流の作品は出来ないのだとも思う。
特にこのシリーズの場合は「マドンナ」の魅力が大きな比重を占める。
そして、神様は時として気まぐれ的に、ふっと、脚本、演出、スタッフ、キャストなど全てのタイミングを合わされるときがある。
監督やスタッフの人生での高揚の時期、出演者たちの人生での高揚の時期、それらが見事に一致する時がごくまれにある。
これは人生の中で全ての作家に必ず与えられるものでもなく、残念ながら意識的な努力でなんとかなるものでもない。
そういうときの作品は、傑作絵画のようにリズム感、テンポが抜群で、人物たちがその中で見事に自分の色を輝かせて、
しかもお互いの色が闘うことなく響きあい、すばらしいハーモニーを作り上げている。タイミングの偶然が重なり合うということは
確かにあるのだ。ある日「ポン」とこの地上に生まれ出る。そんな感覚。一気に出来る。そして、そのレベルでの2作品目はなかなか難しい。
たとえば私の感覚的には黒澤明の「七人の侍」小津安二郎の「東京物語」、新藤兼人の「裸の島」、野村芳太郎の「砂の器」、などが浮かぶ。
重なる4人の絶頂期
おそらく山田洋次監督の中で言えば「幸福の黄色いハンカチ」になるのだろうが、山田監督には実はもうひとつ「別枠」があるのだ。それが
「男はつらいよ」シリーズである。2種類の違った種類の映画たちをほぼ同時にどちらも同じ比重で、同じ気持ちで!作ることが出来ると言う
類まれな、ある意味変わった才能の持ち主である山田監督は、それゆえにこの「男はつらいよ」シリーズの中でも神様の気まぐれに遭遇し、
「寅次郎相合い傘」を生み出したのである。なんとも幸福な方だ。
ちなみに、この「相合い傘」が1975年封切り。「幸福の黄色いハンカチ」が1977年封切りである。
全てはタイミングの妙だ。「寅次郎相合い傘」はそのような奇跡の作品。このような作品には穴がほとんどない。最初から最後まで一気に
観させるテンポと軽やかさ、そして背後に流れる豊穣な叙情感。本当の傑作は「重々しくない」といのが私の持論だ。実に柔らかい
ふくよかな味わいがある。絵画も同じである。いわゆる力作というのは結構重々しいが、本当の傑作は「軽快なハーモニー」とでも
言うべきものが絵の隅々にまで溢れ、全てのカットに無駄な動きやギクシャクしたものがなく、観る者を優しく包んでくれるのである。
名作「忘れな草」を作り終えた山田監督は、浅丘ルリ子の水を得た魚のごとき最高の演技を見て、このリリーというキャラクターを
もっと生き生きしたものに、もっと人間として成長させて掘り下げたものにできる、と確信し、続編を書き始める。
アイデアはどんどん湧き出てくる。山田洋次44歳.
そしてこの頃、偶然にもちょうど渥美清、倍賞千恵子、浅丘ルリ子の人生の高揚期が訪れてくるのである。役者は年齢を重ねれば、
それはそれでその年齢しか出せない味が出てくるものだ。笠さんを見ているとそのことが良く分かる。しかし、それとは
別にやはりその役者のパワーが最も外に向けて発せられる高揚期というものはあるのだとも思う。
渥美清47歳.倍賞千恵子34歳.浅丘ルリ子35歳.
この作品は寅とリリーと同じくらいさくらが素晴らしい。倍賞さんが、このシリーズ中で最も生き生きとした表情でスクリーンの
なかで華やいでいた。内面の充実が、絶妙な演出とともに見事に光を放っていた。
そういうわけで、最初から最期まで作者側の「説明的な意図」というものを感じさせないで観終えることができる。
映画でしか味わえないエンターテイメント。ダイナミックな空間の広がり。軽妙なテンポ。それらが見事に決まっていた。
最高のオープニング.カギを握るさくら
すでに出だしから感覚が冴え渡っている。まず、ドラの音、そのあとの凝りに凝った夢の演出。このシリーズ最高の活劇「海賊タイガー」。
そしてタイトル。歌の中での映像の主人公はなんといつもの寅でなく今回は「自転車に乗るさくら」!。さくらが江戸川土手を通り、
しばらくたたずみ、遠くを見ながら兄のことを思い出し、そしてまた漕いでいく。題経寺の前を通ってとらやに行くまでの道のりのなかで、
涼しげなショットとともにさくらの表情も生き生きと映しだされる。途中、題経寺の大木の茂みが風にフワっと揺れた時、『リリー.浅丘ルリ子』と
クレジットが出る。風の中でリリーのクレジット。もう最高である。もうこの部分だけで胸が高まるのは私だけではないはずだ。
そして、境内で御前様や昼寝をしている源ちゃんが映し出される。夢もオープニングの歌の映像もシリーズ中もっとも冴えたものの
ひとつであることは間違いない。
このように、出だしから、だれたところが無い感覚的な演出だ。もうここまで見ただけでもこの作品はただものではないことがすぐ分かる。
そしてこの歌の部分の映像によってこの作品では「さくら」が物語のカギを握っていることが暗示される。
渡り鳥たちの栄光 -そして数々の名場面-
寅とリリーの相性は「忘れな草」の下地があるのでいきなり抜群である。寅はリリーとだったら大喧嘩でもなんでも出来る。
人生で唯一のそして最愛の人。そのリリーが最初の歌が終わってたった3分でいきなりとらやに訪ねてきた。もう物語は
ターボエンジンがかかり始めている。速い速い。どうしても堅気の地味な生活が続かず、夫と別れてしまったらしい。
下世話な話、これでリリーはフリーになり、寅との物語が再開されていく種は最初この場面で蒔かれたのである。
さくらも、リリーの離婚を聞き、いったんショックを受けるが、別れ際に、「また来るわね」と言うリリーに、
さくらは「今度はお兄ちゃんと一緒にね」と言うのである。ほんの5分前にリリーから離婚のことを聞いたばかりだというのに、
この積極性はどうしたことだろうか。さくらの心の奥にある寅とリリーへの思いにまた大きな火がついた瞬間だったと言える。
(このさくらについた火はこの物語の後半で大きく燃え上がることになる)
そして柴又でのさくらとの別れの直後の函館での寅との再会、パパも含めた3人の放浪の旅。彼らの人生での最も高揚した日々が
北海道を舞台に繰り広げられる。数々の名場面の誕生。見事なロードムービー。まさに「流れ流れの渡り鳥」たちの栄光なのだ。
そして小樽で、自立した生き方をめざすリリーとそれが理解できない寅との大喧嘩があり、お互い傷ついて別れた直後の、とらやでの
劇的な再会!そしてとらやでの蜜月の日々。寅の一世一代のこのシリーズ最高のアリア。さくらとの厚い友情の夜。、可笑しくも
哀しい「メロン騒動」。そしてあの雨の日の相合い傘…。あの時の『リリーのテーマ』は生涯忘れられない。兄を思うさくらのリリーへの
切なる願いとリリーの承諾。その直後の寅の混乱と急な別れ。雨の中、2階での寅とさくらの会話。そしてラストへ…。ほとんど息つく
暇もなくスクリーンに見入っているうちに映画は「キャバレー未完成」のギャグで終わるのである。まるでこのリリーと寅の恋物語が
まだ未完成で、このあとも続いていくことを暗示するかのように。
『物語』で見せていく醍醐味
この第15作には大きな悲劇や重みはない。誰も死なないし、大きな暴力も、裸も、殺しもしない。結婚式もないし、事故による大怪我も無い。
主人公が刑務所から出てきたり、警察から逃げ回ったりもしない。解決しがたい理不尽な大問題も出てこない。想像しえない大事件にも巻き込
まれない。外国へ行ったりもしない。超大物スターのゲストが出ているわけでもない。それなのにこれだけの感動が味わえるのである。
正真正銘、『物語の冴え』で最後までぐいぐい観客を引っ張っていくのである。
ここに私が映画と言うものに求めてやまない「物語の勝利」、「生活の勝利」がある。
「相合い傘」は、よい脚本とよい演出、そしてスタッフとキャストが冴えてタイミングが合えば、過激な出来事や悲劇抜きで傑作足りえると
いうことを、私に知らしめてくれた貴重な作品だった。
さくらとリリーの物語
先ほども書いたが、まず、さくらとリリーが最初にとらやで会う。忘れな草のラストからつながっている二人の友情が深まる予感を強烈に感じる。
リリーと寅の相性と同じくらいさくらとリリーは抜群に相性がいい。さくらとの相性で言えばリリーは全く他のマドンナの追随を許さない。
第48作のさくらのセリフ「リリーさんしかいないのよ!」を待つまでもなく、第11作「忘れな草」からすでに一目瞭然である。
ここがこのリリーシリーズを日本映画屈指の傑作にしている懐なのである。この作品はさくらとリリーの友情の物語が時には背後から、
時には表からと、しっかりと支えているので安心して登場人物たちが生き生きスクリーンで躍動し得ているのである。
物語の後半、リリーが事情があって自分のアパートに泊まれない時、リリーは思い切ってさくらに電話する。寅にではない、さくらに電話する
ところが見事な脚本である。さくらは強くリリーに自分たちのアパートに泊まることを勧める。さくらの「ねえ、そうして」はまさに絶品。
さくらは一瞬にしてリリーの現在の孤立を察知したのだ。この場合博の承諾は入ってこない。さくらは、自分だけの確信を持ってリリーを
家に招くのである。あとにも先にもさくらのあの狭いアパートに泊まったマドンナはリリーだけである。
『麦秋』から『相合い傘』へのバトン
そして、その2人の友情の先にあのさくらの「お兄ちゃんの奥さんになってくれたら…」がくる。
もちろん、さくらがマドンナに兄との結婚を直訴するのもリリーだけである。
この直訴の場面は小津安二郎の最高傑作のひとつ「麦秋」の影響が非常に色濃いシーンで、このシーンを見ていると「麦秋」で、
たみが紀子に息子との結婚を直訴したあの夜のシーンが見事に蘇るのである。あの時の杉村春子の嬉しそうな顔ときたらなかった。
この2つの場面の共通点についてはまた本編で明らかにしていこうと思う。
対極に運命付けられる者としての存在感
また、この物語のもうひとつのカギを握っている兵頭謙次郎(パパ)を演じる船越英二さんは、飄々としているが、実にバランスが取れていて、
寅とリリーの対極に運命づけられている者、つまり『定住者』としての滑稽さと哀愁を十二分に表現していた。なんともいえない柔らかな
演技。絶妙の間。この方も本物の役者である。
そして、寅もリリーも久しぶりの再会であるにもかかわらず、このパパを絶対排除しない!これがこの二人のおおらかさであり優しさなのだ。
リリーも寅も「出会い」を大切にする。放浪者の気質であり、絶対条件とでも言えるだろう。
その昔、「なつかしき風来坊」で、衛生局防疫課の課長補佐で、謙次郎に似た侘びしくも哀しいサラリーマンが出てきたが、山田監督に
とっては、この手の人物と型破りな放浪者との組み合わせは十八番だ。
謙次郎のあの優しき目は、さくらにも向けられ、ラストで「さくらさんは優しい言い方をなさいますね…」と言わしめるのである。
『懐かしさ』という助走
この第15作を語る時に忘れてはならないのはこの作品の成功の下でしっかり支えている第11作「寅次郎忘れな草」の存在だ。
「忘れな草」は放浪の宿命を背負った2つの孤独が北の大地で出会い、つかの間の蜜月のあと、お互いの孤独の深さの違いによって
別れていく物語であった。この物語を観客は今も懐かしく、そして切なく覚えているに違いない。
「相合い傘」の物語は、この名作「忘れな草」からの懐かしさと切なさという助走つきで、いきなりターボ加速していくのである。
■第15作「寅次郎相合傘」全ロケ地解明
全国寅さんロケ地:作品別に整理
いつものように松竹富士山の出だし。
今回はテーマ曲でなく、意表をつく大きなドラの音。(夢の内容にちなんで)
今回も夢から
ひらめくドクロの旗。 アニメーション制作:龍太郎
『海賊船悪魔号』
ドーン、ドーン、ドンドン、ドーン!(ミュージカル風)
「♪おいらは海賊、荒くれ男~。
七つの海を股にかけ~、
沈めた船が五万艘!。
エイ!ヤア!エイヤア、オー!」
手前はバック宙返りを見事に決めた手下
手下どもが、大砲を磨いたり、それぞれの仕事をしている。
(今回も統一劇場のみなさん)
手下のひとり、バク宙(バック宙返り)1回転の荒業を披露。
♪おいらが親方、モテモテ男~。
七つの海を股にかけ~、
奪った女が五万人!」
5万人って、大ぼらもいいとこな歌やなァ~(^^;)
タイガーは右目と左足が不自由
タイガー、源ちゃんに酒を持ってこさせ、フッと受け取って飲み干した後、
むしゃくしゃして、グラスを『ガチャーン』と思いっきり叩きつける。
「エイ!ヤア!エイヤアオー!」
米倉.手下「キャプテン、また荒れていなさる」
と片目の顔。パイプを持ち、肩に鳥。
待ってました米倉斉加年さん!
上条.手下「20年前に別かれた妹さんのことが忘れられねえに
ちげえねえ…おいたわしや」と胸に鎖を掛けている。
待ってました上條恒彦さん!
「子守唄に続き2作品連続出演」
米倉.手下「お姿はあのように荒々しくとも、
心の優しいお方よ」と頷く。
とパイプを手にして言うので、上條.手下の顔に当たりそうになり、よける。
上條.手下もその言葉に納得。
米倉さんの肩の鳥が動いていたのでこの鳥は
ひょっとして本物だな。
この二人は友情出演なので、なんと配役名にクレジット無し!
第16作「葛飾立志篇」でも同じく夢のシーンで二人とも友情出演。
上條さんと米倉さん。友情出演
一方こちらは奴隷船(望遠鏡で)
甲板上から悲鳴が上がっている。
ジャック(博)が、ムチで叩かれている。
大勢の統一劇場扮する奴隷たちが悲鳴をあげている。
おいちゃん、おばちゃんが恐がって見え隠れしている。
満男「パパ~!」
中村君なぜかちょっと笑っている。
面白いよね、中村君。みんな変な格好してるんだものね(^^)
しかし、なぜおいちゃん、おばちゃん、
満男が一緒に奴隷船に乗っている?
そもそも奴隷として役に立つのか?
満男は子供だから将来があるが、
この2人は??(^^;)おばちゃんは、
子守りや料理が出来ると思うけど、
おいちゃんは団子と盆栽くらいしか
できないぞ。
社長.手下「奴隷の分際で、この俺にたてをつくとどういうようになるか見てろ!」
ムチでジャック(博)をたたきまくる。
奴隷たち、騒ぎまくっている。
チェリー(さくら)甲板に出て、逃げようとする。
チェリー「助けて!助けて、ジャック!」
後ろから奴隷商人のボスが手を掴んで部屋へ持っていく。
奴隷商人「助けてほしけりゃわしの話を聞くんだな」
チェリーの耳にさしてあるハイビスカスが
まだ枯れていないので、昨日か、今日、故郷の島から
連れてこられてきた感じ。(ほんとは造花だってヾ(^^;))
ボスの部屋
大きな地球儀やクリス(刀)が置いてある。
奴隷商人「このアマ!手を焼かしやがって!いいか、
ワシの言うことを聞けば、食い物をやる、おお、
きれいなおべべもやる、大きな屋敷だってくれてやるぞ!
ええ?どうだ?」
チェリー「お前の言うことを聞くくらいだったら奴隷で
いたほうがましだわ!プッ!!」と唾をかける。
お~!倍賞さんに唾をかけさせるなんて
山田監督思い切った演出。
シリーズ中後にも先にもたった一度の倍賞さんの唾吐き
奴隷商人「何しやがんでい!」とチェリーの頬をシバク!
奴隷商人「このアマァ!」
チェリー「キャア!」
奴隷商人、上着を脱ごうとするが、その時、大きな音が!
大砲の音ドガーン! ドガーン!
奴隷商人「なんだ!?どうしたんだ?」
それにしても吉田義夫さん、
実にこの悪役が似合っていた。絶品
いやあ~、この雰囲気絶品です。
社長「大変だ!タイガーが!海賊タイガーが現れた!ワァ~~!」
っと倒れこんでしまう。
主題歌のイントロ チャ―ン!チャラリラリラリラ~、リールールールー
奴隷商人「タイガー…!」
タイガー「そうか。…貴様であったのか!
奴隷の売り買いをしてあこぎな銭儲けをしていた男は!」
どこから声出してるんだ?(^^;)
奴隷商人「タイガー様、どうかお許しくださいませこの船に
積んだ金銀財宝、奴隷、女みんな差し上げます!
お願いでございます!どうか命だけは!」
ハッと奴隷商人目をむいて怯える。
タイガーが放った銃声が響き渡る。
奴隷商人「ああ!ぁ…。」
背中に貫通した弾丸の痕。
倒れこむ奴隷商人。
拳銃の煙を口で「フー…」っと吹く
タイガーが情け容赦なく撃ったように見えるが、
この手の悪いやつは、いったん許してやっても
必ず、すぐ裏切り、あとあと厄介なことになるので、
最初に元を断つのである。
深い人生経験から来ているタイガーの決断と行動に感服。
タイガー「娘さん。ケガはなかったかね」
チェリー「はい、ありがとうございました」
タイガー「もう大丈夫だ。君たちは奴隷ではない自由の身となったのだ」
チェリー「まあ」
タイガー「それぞれの故郷に帰るが良い」
外から歓声が聞こえてくる。
タイガー「娘さんお前のふるさとはどこだ?」
チェリー「はい、カツシカ島でございます。」
倍賞さん、こういう格好も
なかなか似合うね。
倍賞さん、派手な格好も似合うね。
タイガー「カツシカ島…!」
チェリー「あの、キャプテンはカツシカ島をご存知ですか?」
タイガー「カツシカ島…」
ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第2楽章が流れる。
アントニーン・ドヴォルザークは、チェコの「国民楽派」を代表する作曲家。
彼の作品のなかで、最も有名なものが、この交響曲第9番「新世界より」。
第2楽章の主要主題は「家路」という名の歌曲に編曲されてたいへん有名に
なったもの。イングリシュ・ホルンの響きが美しい。
この夢のシーンで使われている意味は、後に歌曲になった「家路」から考える
方が自然。つまり、カツシカ島への望郷の意味を込めているのであろう。
タイガー「一日何遍もその名前をあの空に向かって
呼んだことだろうか…。私が住んでいたころの葛飾島はね、
水清く空澄み渡り四季の花々が美しく咲き乱れ、
人々は仲むつまじく平和に楽しく暮らしていた島だったんだよ」
ハイビスカスが咲く島の割には四季の花々が咲き乱れ…ということは
カツシカ島は熱帯ではなく奄美大島のような亜熱帯に属する島だな。
そして服装から考えると季節は夏。
後ろから階段を下りてくる男
チェリー「ジャック!あなた生きてたのね」
ジャック「チェリー!無事だったのかい!?」
チェリー「うん」
チェリー「ミツオ!」←おっとこれは日本名のまま。
ミツオ「ママ~!」
そこへ、おいちゃんおばちゃんが来る。
おばちゃん「チェリー」
チェリー「おばちゃん」
おいちゃん「ああ!タイガー様!」
タイガー「そう言うお前達は!俺のおいちゃんとおばちゃん!」
おいちゃん「おお!そういうお前は!」
おばちゃん「20年前に島を飛び出したあたし達の!」
タイガー「うん!!」
ミュージカル風にならないで旅芸人ぽいベタな演技に
なってしまうおばちゃん。
しかし、その格好なんとかならんか(^^;)
タイガー「それじゃお前は
捜し求めていた妹のチェリーか!」
チェリー「お兄ちゃん?お兄ちゃんだったのね…」
椅子にもたれてハラハラと泣く。
タイガー「そうだよ…チェリー」
袖からハンカチを取り出し目を押さえる。
タイガーはチェリーを捜し求めていたって…、
チェリーはずっと生まれた時から「カツシカ島」に
住んでるんだよ。探す必要もないくらい、
会うのは実は簡単なのに???。
まあ、寅の夢だからね。何でもあり。
甲板上
社長、つるされてる
社長「おーい助けてくれ!イタッ!助けてくれ!」
そのうち、タコの干物になっちゃうぞ(^^;)
源ちゃん望遠鏡を覗いている。
源ちゃん「おーい!カツシカ島が見えたぞー!」
カツシカ島見えるの早すぎ!
さっき助けたばっか。でも夢だから…(^^;)
一同カツシカ島を見ようと、寄ってくる。
男「右舷前進に!」
女「シバマタの港が見える!」そのまんまの名前。
タイガー「よーし!全員帆を揚げェーい!」
上条手下「帆をあげー」
手下「主かあーじ!」
って、さっき望遠鏡で見た限りでは
もう帆は最初から揚がってるよ。ヾ(^^;)
一同、タイガーの方に向けて尊敬の念を
込めて手を伸ばしていく。(これまたミュージカル風)
工場の中村君もいるではないか!(@0@)
最後にさくらと寅の幸せそうな顔が
アップになって、赤く、「THE END」
ところで、この船は奴隷船の方なんだが。
もともと自分たちのいた、
海賊船の方はどこいった?
2隻で運転しないとおかしいぞ…。
辻褄の合わないところはすべて『所詮寅の夢ですから』で
片付けられそう(^^;)
映画館 場内
映画が終わって、場内が明るくなっていく。
眠っていた寅、ようやく目が覚める。
アナウンス「ありがとうございました。ありがとうございました。
お忘れ物ないよう、お帰りください。なお、場内の
お煙草は各局のお達しにより固くお断り申し上げます。」
寅、ロビーに出てくる。
壁にポスター
★シンドバット黄金の航海
★サンタマリア特命隊
★ゴールド~地底大爆破~
シンドバッド 黄金の航海(1973) アメリカ The Golden Voyage of Sinbad
昔、「アルゴ探検隊」で素晴らしい特殊視覚技術を見せてくれた
天才ハリーハウゼンが、この映画でも匠の技を存分に披露。
顔に負ったやけどのために仮面をつけたアラビアの領主を
応援するため、シンドバッド(ジョン・フィリップ・ロー)は
国を救う力を授けられるという伝説の島へ向かう。しかし、
彼らの後を悪の魔術師が追いかけていく。
ハリーハウゼンによる人形アニメの技法を駆使した
特殊技術“ダイナメーション”が冴えわたる冒険ファンタジー映画の
シンドバットシリーズ第2作。小さな人間こうもりや怪鳥、6本腕の仏像、
半人半馬のケンタウロスなど、息つく暇も無い。
ヒロインのキャロライン・マンローのボディもかなり話題になった(^^;)
サンタマリア特命隊(1972) アメリカ The Wrath of God
ロバートミッチャム主演。 武力革命が猛威を振う1920年代のメキシコを舞台に、
罪のない住民のために立ち上がった3人の男の活躍を描く。
ゴールド ~地底大爆破~ (1974) イギリス Gold
『007シリーズ』のロジャー・ムーア主演、
世界最大金鉱、地下3200メートルからの大脱出劇。
南アフリカの大金鉱を舞台に、国際シンジケートの陰謀と戦う男の活躍を描く。
寅「おばちゃん、面白かったよ」
この一言が映画人にとってどれほど栄養になるか。
でもまあ、ほんとは寝てたんだけどね…(^^;)
受付のおばちゃん「あ、よかったねぇ」素人のおばちゃん、いい味だねえ~(^^)
寅「どうもありがと」
こういう、なにげないやり取りがこの映画の隠れた魅力。
寅、映画館から出てくる。
看板 豪華洋画超大作 上映中
宣伝の旗: 海賊船悪魔号
ハリウッド空前の超大作←ハリウッドって ヾ(^^;)
夢のシーンのために旗やポスターまで作る懲りよう。
ポスターに旗。全てこの夢のため。
向こうで花をリアカーで売ってる。
寅、土木工事の前を通り過ぎる。
工事現場のおじさんの後姿が大きく映って(^^;)
タイトル
江戸川をバックにして。
男(赤)はつらいよ(黄)
寅次郎相合い傘(白) 映倫18428(白)
口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。
♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前の喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪
♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
目方で男が売れるなら こんな苦労も
こんな苦労もかけまいに かけまいに♪
なんと、今回は歌の間、コントも無いし寅も出ない。
歌の間の主人公は『さくら』
「さくら」の日常を大事に撮っている。
さくらが鉄橋近くの江戸川土手で自転車を走らせている。
(アパートから満男の幼稚園に向かうところ。)
子供たちがグループで自転車をこいでいる。
さくらは安全のためいったん止まる。
自転車を止めたあと、しばし遠くを見ながら兄のことを思っている。
この横顔を見ながら名曲「さくらのバラード」を思い出してしまうのは私だけだろうか。
近くで子供たちが野球をしている若者たちを見学している。
その向こうの土手をさくらが自転車で過ぎて行く。
土手を走るさくらの自転車が小さく見える
矢切の渡しに風が吹いている。
『浅丘ルリ子 リリー』のクレジットが
初夏の風に大きくゆれる題経寺の樹と共に出てくる。
これを見た時、はやくも目が潤んできた。
懐かしいリリーに会えるんだと…。
感無量!リリーが帰ってきた
ルンビーニ幼稚園で満男を引き取った後
貴子さんの経営する喫茶店ロークを曲がって
題経寺の山門前を他のお母さんたちと通るさくら。
話をしているので自転車から降りて手で押している。
小さな子供たちが水だめの入れ物に落書きしては消している。
さくら、子供たちに「落書きしちゃだめよ」もしくは
「ちゃんと消しておくのよ」かなにか笑いながら
言っている感じで通り過ぎていく。
題経寺の前のチョークによる落書き↓
相合い傘で みちこ .のぶお
バカ ねじりうんこマーク。
明るい日差しと風の中、御前様が
近所のおばあちゃんと挨拶をしている。
源ちゃんが、掃除を休んで、上着をその辺にかけて、
日陰になっている境内のベンチで午後の昼寝を
している。実に気持ちよさそう。
そこへカップルが座ろうとそばまで行くが、
驚いてそのまま避けていく(^^;)
さくらがとらやの横の煎餅の立花屋のおばちゃんと
自転車を押しながら挨拶。口の動きから
「こんにちは。暑いですねえ」と言っているのが分かる。
おばちゃん、頷きながらハタキで煎餅のビンをたたいている。
じつに明るく、輝いたさくらの表情!このシーンも大好きだ。
題経寺の門を前に『山田洋次』のクレジット。完璧な構図
それにしてもさくらはストライプのブラウスが好きなんだね。
ちょくちょく何種類かのたてしまストライプを着ている。
とらや 茶の間
テレビでエリザベス女王夫妻のパレードが映っている。
アナウンサー「えーオープンカーにですね、お堀端の方にえー女王陛下、
センターラインの方にエディンバラ公…」
エリザベス2世(1926年4月21日生まれ)
(Elizabeth II、正式には Elizabeth Alexandra
Mary - )は、
グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国の女王
(在位、1952年2月6日 - )である。
イギリス連邦元首。イギリス国教会の長。ジョージ6世と王妃エリザベスの長女。
夫君はギリシャ王子であったエディンバラ公フィリップ。
アン、チャールズ、アンドリュー、エドワードの3男1女を儲ける。
これは懐かしいフィルムだ。
おばちゃん「お若いねえ。あたしといくつも違わないんだよこれで」
と煎餅を食べる。
三崎千恵子さん 1919(大正9)年9月5日生まれ。当時56歳
エリザベス女王 1926年4月21日生まれ。当時49歳
おばちゃん、ちょっと違うぞ。7歳の違いは
「いくつも違わない」とは言えないな~。
せめて2歳か3歳までだね。
この場合はタコ社長に自分が若いと言いたいだけ(^^;)
社長「へえ、本当」 7歳も違うぞ!騙されるな社長(^^)
おばちゃん「ちょっとあんた見てごらんよ」
おいちゃん「おう」
おばちゃん「あ、お笑いになった」
アナウンサー「えー両陛下がお乗りになりましたオープンカー、お見えになりました」
おばちゃん「ずいぶんお疲れになるだろうねえ」
おいちゃんヨモギをざるに移してる
おばちゃん「さっきからずーっと立ちっぱなしなんだよ。」
社長「でもねえおばちゃん」
おばちゃん「うん?」
社長「こうやってニコニコしてておまんまが頂けんならね
俺だって辛抱するぜ、立ちっぱなしぐらいのことは」
いつも金のことに置き換えてなんでも考えるタコ社長でした(^^;)
でも分かる気がしないでもない。
おばちゃん「まあ失礼だよこの人はこうやってねニコニコお笑いになってたって
あたし達には分かんない様な苦労がおありになさるに違いないんだよ」
おばちゃんもあいかわらず権威に弱いところが垣間見られる(^^;)
社長「そうかねえ」
社長、靴下が破けて指が見えているのを
見つけて、出ている足の親指に黒ペンで
黒く塗りつぶしてる。
ぴょえ~、凄い発想。参りましたm(_ _)m
社長の足に黒ペンを塗る荒技
おいちゃん「旦那さん養子だってな」
社長「ほー養子なるほどねえ」
おばちゃん「おとなしそうで、ちょいと、うちの博さんに似てないかい?」
社長「じゃあさくらさんは女王様か?ガハハハハハ!!」
おばちゃん「アハハハハ!」
店先からさくらが自転車を置いて、入ってくる。
満男「ただいまー」
おばちゃん「はい、おかえりー」
さくら「どうしたの?」
おばちゃん「うん?」
満男「おばちゃんおやつは?」
おばちゃん「あいよ」
さくら「何笑ってんの?」とおいちゃんと社長を見る。
おいちゃん「つねがなエリザベス女王の
旦那さんは博さんに似ているってさ」
おいちゃんたまには「つね」って言うんだね。
さくら「ばかねえ」と呆れる。
満男、茶の間に上がってくる。
社長「ハハハ!坊やはプリンスだな」
さくら「あらこのプリンス鼻垂らして」と追いかける。
満男逃げていく。
さくら「ちょっとおいであ、ちょっと、こら!プリンス!」
社長「ハハハ」
おいちゃん「そういやあ、うちにももう一人プリンスがいたなあ」
とヨモギの葉っぱをちぎりながら思い出す。
おばちゃん「本当だ」
社長「いたいた!四角い顔のプリンス!」
おばちゃん「でも今度はずいぶん遅いねさくらちゃん」
さくら「何してんだろ今ごろ」
社長「あのプリンスにもそろそろお后を見つけて
差し上げなくちゃいけねえな。養子でもいいからさ」
博「社長!」
社長「ハイッ!」
博「銀行から電話ですよ」
社長「すまんすまん」
博、おいちゃんに「どうしました?しょんぼりした顔して」
おいちゃん「いやね、寅の噂してたんだよ」
やっぱり寂しいんだね。見なきゃ見ないで(^^)
博「そうか今度はいつもと違って帰りが遅いなあ」
さくら「そうねえ…どうしたんだろう?」
博「うん」
おばちゃん「あれ?お客さんかしら」
さくら「あ。あたし出るわ」
サンダル履きながら
さくら「いらっしゃい」
と、さくら、暖簾をくぐって店先を見る。
リリーが店先に立っている。
さくらの顔が、急に華やいで、
さくら「ぁあらっ!まあ珍しい!」
と両手をたたいて凄く嬉しそうにはしゃぎ声を出す。
(懐かしくてたまらないのだ)
よっぽど再会が嬉しいのだろう こんなに嬉しそうなさくらの表情は珍しい
リリー「こんちは」
さくら「ちょっと!おいちゃんおばちゃんね、早く!」
実にいい顔で迎えるさくら
おいちゃん「あ!!いやー、これはこれは」と驚く。
おばちゃん「あ~ら、まあ!メリーさん」
出た~~!!おばちゃん十八番!
さくら、口にハンカチあてて「やだァ!」大笑い。
リリー「フフフ」
おばちゃん「え?あ、じゃないジュリーさん」
あちょ~~!2連発!(^0^;)/
ジュリーは三郎青年だよ。なんてね。
そういえば第17作「夕焼け小焼け」
の『ぼたん』の時もあわてて
『リボンちゃん』って言ってたね(^^;)
おばちゃんのおおぼけに笑い転げるさくら。
さくら「何言ってんのよリリーさんじゃないのよ」
リリー、ゲラゲラ笑っている。
おばちゃん「あーそうそう、フフフ」あ、そうそうじゃないだろが ヾ(^^;)
リリー「突然お邪魔して」
おいちゃん「さあさあどうぞどうぞ」
さくら「どうぞどうぞ」と椅子を勧める。
おいちゃん、おばちゃんに「おい、お茶お茶」
おばちゃん「あ、はいはいはい」
さくら「はー!よく来てくださったわねー」
リリー「なんだか急にここが懐かしく
なってきちゃってね」
さくら「そう!あれからずっと元気だった?」
リリー「うん」
さくら「お店のほう、相変わらず?」
おいちゃん「そうそう何か食べ物屋さんでしたね」
リリー、何か、言いたげ。
博「お寿司屋さんですよ」
おいちゃん「ああ、そうか、お寿司屋さんの女将さんでしたかぁ-」
リリー、やっぱり何か、言いたげ。
博「景気はどうですか?」
おいちゃん「近頃は良くないでしょう」
おばちゃん、お茶置きながら「赤ちゃんまだですか?リリーさん」
リリー「あのねえ」
さくら「うん」
リリー「あたし別れちゃったの」
一同「…!」
さくら、まだ、言ってることが、すぐに飲み込めないで
まだ顔がにこやかなまま。
さくらはリリーの言ったことが飲み込めていない ようやく呑み込めていき、顔がシリアスになる
リリー「結局堅気の商売には向かないのよ、あたしみたいな女は」
さくら「とっても、…いいご主人だと思ったけど」
リリー「そう。あたしが悪いのよ。あの人には、気の毒なことをしちゃった」
さくら、下を向いて「…」まだ頭が整理されていない状態なんだろう。
一同も沈黙。
リリー「寅さんは?」
さくら、ちょっと顔が明るくなって
さくら「ああ、お兄ちゃん?今さっきもね、噂してたんだけど、
去年の秋頃帰ってきて…それっきり」
リリー「そお」
さくら、照れ笑い。
博「兄さんがいたら、大喜びしてたでしょうねえ」
それは100パーセント言える!(^^)
おいちゃん「そうだなあ~、よくリリーさんの
話してたもんなァ」
リリー、嬉しそうな笑い。
リリー「…ハハハ、私も会いたかったんだけど
でも多分そんなことじゃないかと
思ってたんだ」まあ、普通はいないよね。
寅は1年に4回ほど帰ってくる。まず、半年に1回帰ってきて、
そのあと何か騒動があって1日くらいで出て行って、
また数週間くらいですぐ帰ってくる。
帰ってきたあとは長くて1ヶ月ほど滞在。
これを年に2サイクル繰り返す。
だから実質は長くても年に2ヶ月ほどしかとらやにいない。
よっぽど運が良くないと会えないのだ。
リリー、お茶を飲んで…
リリー「さ、それじゃ私」
おばちゃん「あら、そんな」
さくら「いいじゃないの、ちょっとゆっくりしていけば」
おばちゃん「ご飯でも一緒に。つね、台所でちょっと…」
リリー「ありがとう。でも今旅の途中なのよ。
これから汽車乗るの」
おばちゃん「あらあ」
リリー「おマンマ食べなきゃいけないしね。
また昔みたいに下手な歌、歌って歩いてんの」
リリーがこのセリフを言った時、照れも
入っているとは言え、意外に嬉しそう
だった。ひょっとして、結局リリーは
また歌を歌いたくて一人になったの
かもしれない。
リリー「じゃあ、みなさん、さいなら」
おばちゃん「そお」
おいちゃん「じゃまたお寄りください」
リリー「ええ」
白いカバンを持ってとらやをスッととらやを後にするリリー。
おばちゃん「まあお構いもしませんで」
さくら「ね、ちょっとリリーさん」と追いかけていく。
リリーは、いつも立ち去り方が
寅と似ている。ぐだぐだ名残を惜しまない。
さっと思いを切るのだ。
放浪者の常で、人懐っこいが、
別れ際も心得ている。
このへんが格好いい。
でもなぜか右のほうへ行っちゃったけど…。
普通左だろ?
おいちゃん「寿司屋の女将で辛抱できなかったのかねえ」
おばちゃん「赤ちゃんまだですかァ何て
言っちまって悪かったかねえ…」と悩んでしまう。
悩むおばちゃん…
博「その一言は傷つけましたよ。りリーさんを」
おばちゃん「ええ?…本当?ハァ…」
おいちゃん、ちょと困った顔でタバコにマッチで火を点ける。
博、おばちゃんに、そんな言い方は無いよ。
誰だって、離婚してないと思っているから、いろいろ聞くんだよね。
結果的にリリーを傷つけることになってしまっただけで、おばちゃんが
悪いわけではない。それでも、言ってしまったおばちゃんは悩んで
しまうのはしょうがないとしても、博が追い討ちをかけることはないと
思うんだが…。
こういうときは、「しょうがないですよ。事情を知らなかったんだし、
リリーさんもその辺は分かってますよ。」って言ってやれよな。
帝釈天参道をリリーとさくらが歩いてる。
リリーはとらやから出たら後ろの髪の毛若干短くなっちゃった。
髪形も前髪のセットがちょっと違う。
これだからセットとロケのつなぎは難しい
倍賞さんは全く一緒の髪型。
さくら「ねえ、これからどこいくの?」
リリー「北の方。冬の内は九州とか四国とか
暖かい所歩いてたんだけどね。そうね…」
夫と別れてからだいぶ経つんだね…
リリー「これからは、岩手、青森、それから北海道。
そうだ!ひょっとしたらどっかで寅さんと会えるかもしれないわね」
さくら「ああ、そうね。会ったらよろしく言ってね」
リリー「うん」
さくら、止まって。
さくら「それじゃお元気でね」
リリー「さよなら。 そのうちまた来るわね」
さくら「お兄ちゃんと一緒にね」
リリー「うん」とハンドバックをふって別れる。
リリーが夫と別れたことに驚いてちょっとショックを受けて
しまったさくらだが、それからたった5分後、
この「お兄ちゃんと一緒にね」の発言が口から出る。
このさくらのセリフや表情からすると、この時点ではもう、
すっかりリリーの元夫のことは頭から消えて、
寅とリリーの未来を考えているようだった。
やっぱり、兄とリリーの仲が深まることを願っているんだね。
源ちゃん、山門前で箒を持って掃除している。
リリー源ちゃんを見て「坊や元気?」
と言いながら通り過ぎていく。
源ちゃんお辞儀。
リリーも寅と同じように四角いカバンを持って歩いている。
寅は茶色いカバン
リリーは白いカバン
近所の主婦赤ちゃんを抱きながら、さくらに挨拶をする
主婦「こんにちは」
さくら「こんにちは」
山田監督、いつもながらやっぱり、なにかを挿入するね。
絶対するんだなこれが。『リリーをいつまでも見送るさくら』
っていう、余韻をぶっち切るご近所さんの「こんにちは」。
この神経質なまでのリアリティの追求は山田監督の全作品を貫いている。
ところで、今から彼女どこへ行く気なんだろう。
ロークの方へ歩いて行くってことは…?
これから東北に行くのなら上野駅。そうなると
最短時間はやはり京成柴又駅からだろうに。
方向が逆だが…。国鉄金町まで歩くってのは
遠すぎる。それともバスか?あっちにバス停は
ないよな。ひょっとしてタクシーかな?
どなたか分かる人いますか?
それとも少しだけ時間があるので江戸川土手で
しばし風に吹かれてから柴又駅に向かうのかな…。
それにしても、一人行く後姿が良く似合うリリー。
寂しさを風で吹き飛ばしているようだ。寅と同じ。
でもひょっとして、とらやに寅がいたら、この時、二人で一緒に
旅に出て行ったかもしれない。リリーは、もしかしてそれを
心のどこかで期待して旅の途中にとらやに来てみたのかも…。
リリーの隣に寅がいたら
絵になったろうなぁ…。
青森市。青函連絡船の見える港町
青函連絡船の汽笛「ボ~!」
祭りの笛太鼓
青森県青森市安方にある神社
善知鳥神社(うとう神社) 縁日
寅がバイをしている。(易の本を売っている)
寅「天に起動がある如く人それぞれに運命と言うものがあります!
いいですか!とかく、子の干支の方は終晩年が色情的関係に
おいて良くないな、ネ!
羊の女は角にも立たすな丙午(ひのえうま)の女は
家にも入れるな。蛇の女は執念深い。」
あ、奥さん大変変失礼ですがあなたは
九紫火星をお持ちですね、いや!きっとそうです!
大変この方は聡明頭のいい人だが一つ欠点は
しばしば勝気なために夫と口げんか争いが絶えない!
そうでしょう、ね。
あ、子供は向こう行って見世物じゃないから、ネ。」
港が夕日に染まる。
かもめが飛び、 汽笛 ブゥォ~
青い船体の『摩周丸』が
堂々と青森港に入港してくる。
青森と函館の間113.0kmを結んでいた青函連絡船は、
1908年(明治41年)3月7日に比羅夫丸の就航以来、
80年間の歴史を津軽海峡に刻んできた。
そして、88年(昭和63年)3月13日、
青函トンネルの開業により青函連絡船は全船廃止・廃船に
なったが現在「摩周丸」は函館駅近くの
「函館市青函連絡船記念館摩周丸」として見学可。
八甲田丸と同様、係留船である。
廃船スクラップ、もしくは外国に売られて、その後
行方不明となった船が多い中で救われた方だ。
寅、カバンを持って旅館へ向かう。
後ろに見えるのが摩周丸
雑貨屋の看板『みなと』
店の裏に昔よくあった菱形広告看板 コカコーラ キンチョール 金鳥
青森駅駐車場の立て看板 許可なく通行禁止 青森駅長
福屋旅館の立て看板 入り口
旅館
ラジオがかかっている。
ラジオの声「…次に船舶の報告では北海道東方海上に
北緯45度東経151度では南の風…」
旅館の従業員「あ、寅さんおかえりなさい」
寅「おう」
上にあがって
寅「お姉ちゃん」
従業員「はい」
寅「二階の俺の連れさ、まだ居るのかい」
従業員「いるよ。今朝から部屋の中に入ったきりどこさも出かけねえよ」
寅「ケェー…」
従業員「何だべあの人」
寅「いや何だか知らねえけどよ変なのと連れになっちゃって
俺も弱っちゃったんだよ」
従業員「あれ」
ラジオの声「…関東東方海上…」
二階に上がってくる。
寅「あ~あァ…」と障子を開ける。
暗い部屋のテーブルに男が乗って、つま先立ちをしている。
寅「あ~!!おいッ!早まっちゃいけねえ!」と腰を持つ。
寅「えっ?命を粗末にするんじゃんえったら!
死んで花実が咲くものか!って言うじゃねえか!
おいこら、」
大変だね~寅も
謙次郎「ち、違うんです」
寅「何ィ!?」
謙次郎「蛍光灯のひもが切れたんで繋げてたとこなんです」
寅、謙次郎を思いっきり投げ飛ばす。
健次郎「あ、いてて…た」
寅「バカァ!そのことを早く言えよお前!
ハアァー…ビックリしちゃったなオレ」
健次郎「どうもすいませんでした。」と頭を下げる。
健次郎「商売の方は、今日、寅さんいかがだったでしょうか」
寅「人の心配は要らないんだよ!
手前ェの心配だけしてりゃ良いじゃねえか、え?
今朝もほら俺がでかけに言ったろうかみさんとこへ
帰れって、どうして帰んないんだよお前」
健次郎「はい」
寅「え?せめて電話だけしたのか電話だけ」
健次郎「何べんもかけようと思ったんですが」
寅「おー」
健次郎「なんと言うか…照れくさいというか」
寅「そんなこと言ってる場合じゃないだろお前。
一家の亭主がだよ。ある朝ぷいと出たっきり、
お前一週間も行方不明じゃさ
家の者が心配でいてもたってもいられねえだろう。
あ、ひょっとしたら一家心中してるかも知れねえぞ、おい」
健次郎「いやあそんなことは有り得ないでしょう」
寅「えェ?それじゃお前ん家の家族はそんなに心が冷たいの?」
健次郎「はい。ある意味ではそう言っても
差し支えないと思います」
そんなことないぞ。家族はパパのこと凄く心配してるよ。
寅「へえ…」と言いかけた所へ健次郎が近寄ってくる。
健次郎「実際僕はこの数日間」
寅「ウン」
健次郎「あなたと旅をしながら」
寅「ウン」
健次郎「人間の愛情と言うものが」
寅「ん」と目をしかめる。
健次郎「本来どのように暖かくて」
寅「ア~~!!」
健次郎「優しいものであるかという事を…」
寅「分かった分かった分かった。
お前さんのその屁理屈を
聞いてるとね頭の芯がズーンと重くなっちゃうんだよオレ!
ビールでも飲もうよォ…もお」
寅、階段の所まで行って「おい姉ちゃん!ビール持ってきてくれビール!」
従業員「はーい」
柴又 とらや
博「満男帰ろうか」
おばちゃん夕飯の支度をしながら
おばちゃん「やっぱり帰るのかい?」
おいちゃん新聞を見ながら
おいちゃん「飯食っていきゃいいじゃねえか、え?」
博「今晩は家でサークルの集まりがありますから」
おいちゃん「なんだい、サークルって?」
電話が鳴る 「リ―ンリーン」
博「ええ、近所で働いてる連中が集まって読書会みたいなことを」
と言いいながら満男に幼稚園の黄色い帽子をかぶせる。
おいちゃん「ほお~」
さくら、立ったまま電話を取って
さくら「はい。とらやです。……」
さくら「…!お兄ちゃん!?…」
おいちゃん、びっくりして振り向く。
さくら、さっと、下に座って、
「うん、みんな元気よ」
一同電話口に集まってくる。
いいねえ、寅が久しぶりに電話してくるたびに
みんな電話口に集まってくれるなんて
寅、もうそれだけで幸せだよ。ほんとに。
リリーが羨ましがるのはこういうとこなんだよね。
おばちゃん「寅ちゃんかい?」
さくら「お兄ちゃんどうしてるのぉ?」
おいちゃん、さくらの頭の近くで「今どこだ?」
さくら「え?遠いとこ?」
みんな寅のことが心配なんだね。
寅、忙しく宿の赤電話から十円玉を入れてる。
寅「長距離だからね用件だけ手早く言うぞ、え?
紙と鉛筆出せ、紙と鉛筆、うん。
いいか?東京416-6589だそこのね兵頭って家に
電話してご亭主は俺と一緒に旅をしているから
安心してくれとえーそう言うんだよ
な!いいか?うん。お、お前、お前達も元気でいるんだろ!?」
さくら「もしもし。もしもしあのねえ、この人どういう人なの!?
え?十円玉が無い?」
おいちゃん「おい、十円玉十円玉!」
おばちゃん、自分の財布の中を探し始める。
★夫婦で『ぼけ』をやるご両人(^^;)
さくら「どっから電話しているのよ」
おいちゃん「ああ十円玉!」
この十円玉ギャグはその後の作品にも出てくる。
おばちゃん「あるよ!十円玉!」
博「違います必要なのは向こうですから。」
★博も『つっこみ』大変だね~。(^^;)
さくら「もしもし?あー切れちゃった。」
博「何だよ何があったんだよ」
さくら「何がなんだかさっぱり分かんないの」
おばちゃん「とにかく元気なんだろ寅ちゃんは」
こういうおばちゃんのセリフがいいねえ~(^^)
さくら「うん元気は元気なんだけど」メモの内容 416 6589 ヒョウドウ
さくらメモを見ながら「誰だろうこれヒョウドウ…」
兵頭謙次郎の家
電話帳や手帳が机の上に散らばってる
ねずみ色のプッシュ電話
電話が鳴る
奥さん「はい、兵頭でございます。え?車様?
はあ…え!!宅が宅が御宅のお兄様とご一緒なのですか!
ちょっとお待ちくださいませ。内藤さん!大変。ちょっとちょっと」
と、かなり取り乱している。
内藤「ハイッ」
奥さん「もしもし大変失礼しましたそれで宅は今どこに?」
さくら「それがつい聞き漏らしてしまいましてええ兄は旅行先で、
…ええ出張と申しますかは…なんと申しますか」
奥さん「行き先はどちらでございますかなぜお分かりに
ならないのでございますか?ああ、電話では何でございます
お伺いしてお話を恐れいたしますがあなた様のご住所を!
あ、ちょっと内藤さんお願いします」
内藤「はいはい、もしもし電話変わりましたあなた様のご住所とお電話番号を」
鞠子「どうしたの?」
奥さん「は!鞠(マリ)ちゃん!パパが見つかったのよ!」
鞠子「ええ!?どこにいたの!?」
この鞠子さんはあの、早乙女愛さんです。
『愛と誠』の愛役で出てました。
内藤電話で「…はい…はい」と書き写している
津軽海峡
青函連絡船(十和田丸)の中
カモメが鳴いている。
寅、普通船室から出てくる。健次郎を探している。
二階のデッキで健次郎が風に当たってる。
デッキの手すりに付いてる救命浮き輪に TOWADA MARU TOKYO
汽笛 ボォ~~~
寅たちが乗っていた連絡線は私も1984年に乗ったことのある
2代目十和田丸である。
この船も1988年の全船廃止に伴って
横浜~神戸を結ぶ客船「ジャパニーズドリーム」と
なったが会社が倒産後、フィリピンにて
カジノ船「フィリピンドリーム」へ。・・・・・現在は閉館中とか?
栄枯盛衰だなあ…。
寅階段で上のデッキまで帽子を押さえながら上がってくる。
マジで強風で飛んじゃうんだねえ。
寅「どっか行く時は一言断っていけよ。
自殺したんじゃないかと思って心配しちゃうじゃないか」
健次郎「大丈夫ですよ寅さん」
寅「え?」
健次郎「僕は死にやしませんよ
僕は死ぬために旅に出たんじゃなくて
自由を求めて旅に出たんですから」
寅「分かった分かった分かった分かった」
寅「な、パパ、下行っておマンマ食おう。な、早く行こう。うん」
健次郎「そうですね」
あっ寅さん!こんな近くに。」
カモメが近くを飛んでいる。
健次郎「いいですねえ…鳥は自由で」
パパさん。鳥はあれはあれで、
空飛んでいる時も、
いろいろ大変なんですよ、本当は…(^^;)
だから、寅もこれはこれでその代償を
払いながら大変な人生を歩んでいる
んだけどなあ…。
自由の旅がそのまま日常になって
しまった男の侘しさと辛さを
パパは遂に知ることはないだろうな…。
柴又参道 とらや前
とらやの前に運転手つきの兵頭の黒塗りの車が
停まってる。
ナンバー 品川 55-21
結構金持ちなんだな、パパって…。
あの気質でよく出世したなあ…。
さくら、自転車で前を通り、とらやで止まる。
この時、お千代坊のパーマ店のロケに使われた
『パーマ アイリス』と屋根のの赤い看板がはっきりと
見える。しょっちゅう見えるあのアイリスの赤い屋根。
そらそうだ。なんせとらやの斜め前にあるんだもんね(^^;)
お千代さん、たまには団子買いに来てよ。
兵頭さんの奥さんが和服の訪問着で座っているのを見て、
さくら急いで仏間へ行く。
さくら「どうも遅くなりまして」
おばちゃん、上流階級らしき奥様に気が動転している。(^^;)
おばちゃん「アッ、さくらさん、お上がりあそばせ」
↑キターーーァ!おばちゃん
あそばせギャグ!!舌噛むよ、おばちゃん(^^;)
さくら、エプロンを急いではずして座る。
おいちゃん「妹のさくらでございます」
おばちゃん「みっともない格好をしておりまして…」
みっともない格好なんかしてないしてない(^^;)
さくら「どうも昨晩はお電話で失礼しました。」
奥さん、少し後ろに体をずらして
奥さん「兵頭の家内でございます」深々とお辞儀
奥さん「この度はお兄様に主人が大変お世話になりました」お辞儀
さくら「いえ、とんでもございません」お辞儀
奥さん「実は先週の月曜日、いつものように家を出たんでございますが、
お昼頃会社から連絡がございまして、出勤していないことが分かりまして
大騒ぎになりまして…、わたくしの口からこんなこと申し上げるのはなんなんで
ございますが、主人はいたって気の小さい人で、仕事上の手落ちだとか、女性関係
なんてのは全く無い人でございます。その点は、社長さんも、重役さんも、保障して
下さってるのですが、じゃ、あなぜこういうことになったのか、ということになりますと
本当に見当もつかないで、途方に暮れておりました時に、夕べのお電話…。…
生きて…生きていることが分かって、どんなに、ホッと…したことか…」
いや~~、よくしゃべる奥さんだ(^^;)
パパのことはとても心配していて、いい奥さんだが、
彼の日常の閉塞感は感じ取れていないのかもしれない。
『波長』がパパとずれている気がしないでもない。
パパの奥さん、結構美人です。
社長「あー、腹減った。団子くれ!」
おばちゃん「シッ!」
おいちゃん「カッ!」
台所に来た野良猫か社長は(^^;)
おばちゃん「お恥ずかしい…」と照れ笑い。
社長っていつも、こういう扱い。とほほ
奥さん「それで、奥様、」奥様って、誰のことじゃ?(^^;)
おばちゃん「あ、は、はい」おばちゃんが「奥様」
奥さん「先ほどのこと…」
おばちゃん「あの、さくらちゃん、寅次郎の
出張先はどこでしょう?」はれ~(- -;)
さくら「え?」と笑ってしまう。
「出張先」って言われて、さくら、つい、笑ってしまう。
おいちゃん、小声で「おい、寅の居場所だよ…どこって」
『出張先』→『居場所』
とらやの辞書に『出張先』という言葉はない(^^;)
さくら「居場所って…」
奥さん「もし、ご存じなければ、
課長さんなり、部長さんなり、
上役の方に聞いていただければ
分かると存じますが…」
奥さん、寅が会社の下っ端だって決め付けてる(^^;)
さくら「上役…?」
おいちゃん「あ、あいつの会社…
何株式会社って言ったっけ?」
あちゃ~、おいちゃんまで…(><;)
おいちゃん、おばちゃん、さくらが来るまで、
こりゃ、そうとうハッタリかましてたな。
見栄張ってもしょうがないよ(^^;)
奥さん「なにか、セールスのほうをおやりになってあそばしてるとか」
さくら「んん…、まあ…」
社長「おばちゃん」
おばちゃん「はい」
社長「お客さんだよ」
おばちゃん「はいはいはい。ごめんあそばせませ。」
出た~!おばちゃん。
あそばせ砲、第2弾!(^^;)/
さくら「あの…会社と申しましても、
あるのかないのか分からないような…」
さくらまで、泥沼に入っていっている…。
会社なんか最初から無い。個人で物売ってる。って普通に言えよな。
奥さん「まあ、ご謙遜。
まさか道端で叩き売りを
おやりあそばしてるわけじゃ、
ございませんでしょ」
いや~、おやりあそばしてるんですわ、
それが(^^;)
おいちゃん「ま、似たり寄ったりじゃないでしょうか…」
ようやく、おいちゃん、真実が混ざった発言。
奥さん「冗談をおっしゃらないで真面目に
お答えくださいませ。お願いします。」キッパリ!
と頭を下げて、ハンカチで鼻を抑える。
この言い方をされたら、冗談ではありません、とは
死んでもいえないな(^^;)
でもさくら、寅やパパがどこにいるかも分からないんだから、
話が進展しようがないよな。
寅からの連絡待ちしかないよ、この場合。
函館港 汽笛が鳴る 「ブォ~~~」
船を見送る家族が映る。
謙次郎「長い航海に旅立つ父親。
別れを惜しむ子供たち。
悲しみを胸に秘めて手を振る妻…。
みんなそうやって生きてるんだなあ」
アンパンを持ちながら。
パパは、この家族の絆が現れている
心温まる風景を見て
しみじみと気持ちが潤っている。
それは、どこかで自分もそのような
状況にあり、ギリギリでは満ち足りて
いるからであろう。
しかし、「忘れな草」でのリリーは
同じ光景を見て、哀しみ、涙するのである。
青春期から自分とは縁の無いもの。
強烈な憧れがあるにもかかわらず、
自分の因果な放浪の気質ゆえに彼女には
持つことも出来ない遠い存在なのだ…。
寅「おい、パパ」
謙次郎「はい」
寅「のんきなこと言ってる場合じゃねえぞ、おい。
二人の金合わしたってこれだけなんだよ。
今夜の宿銭にも足りないんだよ」
謙次郎「いいじゃありませんか」
寅「ど、どうしてよ」
謙次郎「いよいよとなれば駅のベンチだって寝られますよ。
あ、そうだ、それがいい。
ロマンチックですよ~それも」
と、アンパンをかじる。
寅「ケェッ、パパだけロマンチックにしなさいよ」
やってられねえな、まったく ┐(~。~;)┌
函館港 夜景
汽笛 ボーー…
屋台のおじさんが排水を海に捨ててる。
屋台でラーメンを食べてる謙次郎。寅はうつぶせになり寝ている。
ラーメン屋のおじさんはお馴染み大杉侃二朗さん!
谷よしのさん同様、もうどこでもちょこっと出てくる。
第8作「寅次郎恋歌」ではさくらが歌う『母さんの歌』を
聴いていた酔っ払い。普段は柴又界隈の人。
この人は「純情詩集」では坂東鶴八郎一座の座員
としてあの知る人ぞ知る『お掃除芸』を披露!
第3作「フーテンの寅」でもラーメン屋のオヤジ役。
あの、お掃除芸の大杉侃二朗(かんじろう)さん
謙次郎ラーメンを食べながら「ねえおじさん」
屋台のオヤジ「あ?」
謙次郎「この店何時までしてんの?」
オヤジ「2時、3時だい」
謙次郎「ほお~それから家へ帰って風呂へ入って一杯やって寝るのは明け方だねえ」
おじさん「ああ」
謙次郎「大変だなあみんなそんなそうやって生活してんだなあ」
なんでもかんでも、見るもの聞くものが
新鮮な謙次郎パパでした。
都はるみ 「恋と涙の渡り鳥」が流れている。
早く逢いたいからよ
急いで 急いで 来たんだよ
忘れずに あ あん あん いるかしら
指切りした人 いるかしら
ちょいと一輪 小さな花を
髪に飾って
恋と涙の 渡り鳥
リリーが謙次郎の横に座る。
リリー「おじさんさん、ラーメンちょうだい」
オヤジ「はい」
謙次郎「あ、どうもすいません」と荷物をどかす。
リリー「火かして」
謙次郎「はいはい」
リリー、少し頭を下げて、礼の意思表示。
謙次郎ライターをしまいながら
謙次郎「お仕事の帰りですか、大変ですねえこんな遅くまで」
リリー、それに答えるでもなく、
前を向いてぼんやりタバコを吹かしている。
リリーはいつもタバコを吹かす時、必ず、
人のいないほうへ向いて吹かす。
おいちゃんや博にも見習って欲しい。特にタコ社長。
寅、ちょっと起きかけて「う~ん?」
自分に何か言われたと思って起きる。
謙次郎「え?いや、は」
リリー、寅の「う~ん?」の声で、
ほんのチラッと寅の方を見るような見ないような…。
寅ぼーっとリリーを見る。
リリー、なんとなく寅のあの姿かたちが
視野の隅に入って、はっと振り返る。
動物的カンが働いたようだ。
二人ともよく見ようと顔を覗くように見る。
寅の目はしっかりとリリーに焦点が合った
寅もハッとし、顔を覗き込もうと体をずらす。
謙次郎「?」と寅に顔をあわせ、「???」
寅とリリー謙次郎の背中越しに、お互いを見ようとする。
寅、また、前へ乗り出して「…!リリー!」
謙次郎、寅を見る。
リリー「…!」
目を大きく見開いて
リリー「寅さん…!…寅さんじゃないのォォ!!」
リリーの顔がスクリーンから下へはみ出し、
リリーの突然の心の動きが見事に表現されていた。
寅「うん」
寅はリリーの手をしっかり握る
リリー「あんた本当に寅さんなのねえ!」
寅「当たり前じゃねえかよ。
お前どこ行ってたんだい!?」
リリー「いろいろあったんだあ~。」
間髪いれず頷く寅
リリー「私、あんたに会いたくて
柴又まで行ったのよお!!」
いろいろあったんだあ~
寅「柴又行ったぁ!」
リリー「うん」
寅、満面の笑みで
寅「俺いなかった!」
リリー「そうよぉ!どこ行ってたのよ一体!」
寅「うん、ヘヘへ」
パパ、間で座ってどんぶり持ちながらおろおろ。
リリーは、寅だと分かった瞬間、
すばやく寅の手を握ろうと手を伸ばす。
そして寅もほぼ同時にそれよりもっと早く、
リリーが握ろうとした手を外からしっかり握っている!
謙次郎「あの…ちょっとすいません。」
と二人が握り合う手の上を越えてどんぶりを置く。
リリー、ちょっと我に帰り、寅の手からすっとすり抜け、
酒を2人分注文をする。
謙次郎「お邪魔なようですので私はこれで…」
リリーも寅も嬉しくて、パパの言葉が耳に入っていない(^^;)
二人のあまりにも親しげな関係を見て、気を使って立ち去ろうとするパパ。
そういう感覚は持っている人なんだね。パパは鈍感ではないようだ。
リリー「お酒」とオヤジに二人分という仕草。
寅「あ、二つね俺にも」
謙次郎「本当に長い間いろいろお世話になって…」
リリー「この人あんたの連れ?」とパパを指差す。
寅「うん、そうなんだよ」
間髪いれずに、迷いなく
リリー「一緒に飲みましょ一緒に!」
寅「おー!よしよしよし、座れ座れ座れ」
寅もリリーも会って、一言目に
「久しぶり」だなんて
他人行儀なことは言わない。
寅は「お前、どこ行ってたんだい」
リリーも「どこ行ってたのよ一体」だ。
この言葉は夫婦や親子、兄妹たちの
再会場面で交わされる言葉で、
いつも相手のことを会っていない時にも
思い続けていないと出てこない言葉。
運命共同体の意識なしには絶対
出てこない言葉である。
友人同士が久しぶりに会った時には
まずこんな風には言わない。
お互いに恋人以上の
深い縁で結ばれているのだろう。
不思議なものだ。そして山田監督の
深い洞察力に基づかれた見事な演出だ。
寅「あ、この女な…、二年程前に
俺といろいろわけありの女よ」
と、謙次郎に紹介。
紹介の仕方があっさりしてていいねえ。
「わけあり」 ただそれだけで、
なにか全てを語っているように
思えてくるから面白い。
リリー「もう二年なるかしらねえ~」
寅「そうよー。去年、おととしの夏だもの」
リリー「そうだったねええ~…」と思い出すように。
寅「う~ん」
リリー「あんたあれから何してたのよぉ~!?」
と、寅の手を握って揺さぶる。
寅「えー?…俺か?
……恋をしていたのよ」
恋をしていたのよ
リリー「ヒィーー!よく言うよぉ!ハハハハ!」
ヒィ――!
寅「エヘへへへへ!ハハハ!」
パパも後ろで実に楽しそう。
よくゆうよォ― エヘへへへ!
このシーンを見ると、必ず
第25作「ハイビスカスの花」のラスト、
「兄さんこそ、なにしてるのさ、こんなところで」
「おれゃ、おめえ…、リリーの夢を見てたのよ」
を思い出す。この二つは寅とリリーの
名セリフの双璧だ。
何世紀にも渡って人々のこころに残り、
語り継がれていくだろう。そしてこれらの
名場面をリアルタイムで観ることが出来た
幸運に、ただただ感謝。
寅「よーし一杯飲むかおい!」
リリー「おじさんじゃんじゃん出して!」
おじさん「はいはい」
寅「よし!今夜はパーッと行こうおい!」
謙次郎「いきましょういきましょうハハハハ!」
汽笛 ヴォー…
この1975年、函館での再会の夜の場面を、
後に1995年第48作「紅の花」の中で
20年の歳月を経て、寅とリリーは
ふたりして回想してゆく。
観客はみんな20年前にもどり、
この時のあの顔、あの声が
あざやかに蘇っていたことだろう。
リリー「2回目に会ったのはどこだった?」
寅「忘れたのかよ、リリー。同じ北海道は函館だよ。
夜更けに港の近くの屋台でオレはラーメン食ってたんだ。
遠くで、青函連絡船の汽笛がボ~~ッと鳴ってなあ。
そこへ、ひょっこり、リリー、おまえが顔を出したんだよ」
リリー「そうだったねー…、あんたの懐かしい声が
聞こえて、まさかと思って、ひょいと見たら…」
寅「オレのこの顔が」
リリー「フフ、そう。懐かしいこの顔がニコニコ笑ってたの。
嬉しかったなー…、あの時…」
懐かしいこの顔がニコニコ笑ってたの 嬉しかったなあー…あの時…
リリーは寅にようやく会えた。
にもかかわらず、謙次郎の存在を歓迎する。
ここにこの映画の魅力の大きなヒントが
隠されている。
人間に対する愛情が独占的でないのだ。
これは寅だけの特徴でなく、
リリーも兼ね備えている。
人と人との交わりを大切にする
放浪者の特徴と言っていいかもしれない。
謙次郎も、当然自分だけ排除されると
思っていたら、自分の存在が
歓迎されたことで人の世の機微を
またひとつ学んだのである。
さびしい魂を抱えるものは
同じ魂を持つものを絶対に
排除しないのであろう。
函館の旅館 2階の廊下
パジャマで歯磨きをしているパパ
あんな薄いカバンのどこにパジャマや着替えが入ってるんだ?
谷よしのさん扮する
宿の人、ちょっと怒って階段を上がってくる。
谷よしのさん、そういえば、第9作「柴又慕情」でも金沢弁で、騒がしいって文句言ってる宿の人
やってたな…。この人は花売りと宿の人がなぜか絶品。
リリーのはしゃぐ声が廊下に聞こえてくる。
《リリー、何年ぶりかで
心の窓180度開放~!》
\((( ̄( ̄( ̄▽ ̄) ̄) ̄)))/
リリー「うそうそうそ!そんなことな~~い!!」
寅「ほんとにほんとなんだ!」
リリー「うそだ~!!」
リリー、相当はしゃいでいる。凄い声。
もう完全に子供状態!O(≧▽≦)O
宿の人、激しくノック、トントン!トントン!(▼▼メ)
全国どこでも出てくる谷よしのさん。今回は函館
寅「は~い」低い波長で。←こういうニュアンスの声出す時あるんだね。
旅館の人「いいかげんにして下さい!遅いんだから!」Σ(`□´/)/
寅「はいよ」
と、寅、リリーに顔で促す
リリー「ねね、それからどうしたの?
その看護婦さんとは、うまくいったの?
前作、「寅次郎子守唄」の京子さんのことだね。
まさか、寅は全く相手にされず、彼女は髭中顔だらけの青年と
結婚しました。とは言えないだろうな(^^;)
寅「そら、バッチリいったよ」どこがやねん ヾ( ̄o ̄;)
リリー「バッチリってどういう風によ」ほら来た(^^;)
寅「い、いやいや…続きは明日!」この話から当然逃げる寅。
リリー「いやいやいや、今今、もう少しもう少し」
寅「眠いから眠いから」言いたくないこともあるよね(^^;)
リリーは寅といつまでも話がしたいのだ。
リリー、寅を揺さぶり、話を引き出そうとする。
寅「明日また…」
リリー「私、眠くないよ全然!」
寅「眠いから寝る…」
寅布団に入って
寅「リリー、寝ろ寝ろ、お前も寝ろ、寝ろ」
リリー「う~ん、もう少し、起きよ~!!」
谷よしのさん、怒ってまた来るぞ(^^;)
寅「明日ね、明日明日明日」
パパ、歯磨き終わって、入ってくる。寅の布団の上を踏んでしまう。
寅「痛い痛い!痛い!パパ踏むなよ!痛いなあ~!おまえ」
謙次郎「ごめんなさい」
寅「う~~ん」
リリー、スタンドを消す。←お、意外に素直。
枕もとに札幌ビール(やっぱり北海道だからね~!)
お銚子4本。パパの枕もとにタバコ(セブンスター系)とライター。
哀愁のあるアコーディオンが流れていく。
リリーのテーマのアレンジ版
リリー「う~ん、つまんないよ」
リリー「寅さん…」
寅「ええ…」
リリー「私冷え性なのすごく。夏でも足が冷た~いんだ」
寅、布団の中から、「下、行って、湯タンポつがしてもらえ」
リリー「温めさしてェ]と甘えながら寅の布団に足を入れる。
!! ヒャッコイ、ヒャッコイ、ヒャッコイ
寅「あ、あ、あ、だめだ。ヒャッコイ、ヒャッコイ、ヒャッコイ、
そんなつっこんじゃだめだよ、おまえ」
リリー「けち」
リリー「じゃあいいよ、パパに温めてもらうから」
とパパの布団に、足を突っ込む。
謙次郎「そんなあ…」(◎_◎;)
「うわぁ、温かいわ、パパの足。気持ちいい~!」
謙次郎「寅さん…、寅さん!」
寅、寝ながら「パパ…、温めてやれ…」
謙次郎「ヒ、イイィ…」
パパ、緊張しながら、枕に頭を下ろす。
リリー、パパの布団に寄り添いながら、子供のように目をつぶり
リリー「気持ちいい…」
パパ、唾を呑み込みながら、仰向けで緊張している。
パパ、今夜は当然眠れそうにないねえ (〃^o^)=3
普段独りでいる時は気を張っているリリーも、このメンバーだと
気心が知れて心が芯から休まるのだろう。
リリーは、親に恵まれなかった分、実は甘えん坊。
リリー、今夜は久しぶりにぐっすり眠れるね。
パパのキャラクターだからこそ安眠できるんだけどね。
函館本線
車内
パパが、うとうと居眠りをしている。
つまみ、サッポロビール、セブンスター、が窓際に。
まあ、昨夜リリーにあんなにくっつかれちゃあ、
寝れないよな。普通は(^^;)
リリー「ちょっとちょっと」
寅つまようじをくわえながら「うん?」
リリー「気になってたんだけどさ。この人と寅さんとどういう関係?」
寅「…これ?スーッ、えーっとねえ…あ!
こいつと初めてあったのはね八戸の駅なんだよ。
ホームでもってボケ-って面して突っ立ってやんの」
リリーつまみを食べながら寅の話を聞いてる。(つまみの位置が違うぞ)
寅「『おいこら、お前自殺でもする気か?』って俺声かけてやったんだよ。
それからずっと俺についてきやがんの。」
リリー笑う「フフ…」
寅「だいぶ変わり者だよ、オレたち常識人に比べると」
リリー「ハハ…寅さん常識あるの?」と笑いながらつまみに手を出す
寅「あるよ、おめえ、大常識だよおまえ」
リリー「キャハハハハ!」
寅「おめえ無いんじゃないの?」
リリー「あるよォ~キャハハハ…」
パパの横で布団に足入れて平気で寝てしまうリリーも、
寅のことを、悪く言えないぞ。
どっちもどっちの困った人たち ┐(-。ー;)┌
ちなみに、寅の「おまえ無いんじゃないの?」は本当の口の動きは
「お前と一緒だな」である。これでも面白いと思う。
寅「へへへへ」
謙次郎、起きて「ハハ…ハハハハ…」と寝ぼけながら釣られて笑う
寅「ホホホホホ…笑ってやんの」
リリー「ハハハハ」
寅「ウワハハハハ!」
リリー「アハー、あたしお腹すいちゃった~!」
寅「あ~?」
寅さんなんか食べよう!」
寅腕時計を見て「うーんそうだなあ…」と時計を見ながら。
寅「長万部で降りてカニでも食うか」
リリー「カニ!」
寅「うん!」
リリー「いいわねえ、パパ、お金有る?さっきの宿代の残り」
寅「ちょっと、出してみろ、出してみろ」
昨晩は屋台の飲み代で寅もパパも残金使い果たしたので、
リリーが宿代出したんだね。宿でもお銚子とビール
飲んでいた。そしてこの汽車代もリリー持ち。
もちろんカニ代もたぶんリリー持ち。
そのリリーのお金も底をついてきた。
計画性も何もあったもんじゃないね。
ま、そうだからこそ楽しいのだ。今を生きる。
謙次郎「あ、はい。しかし、カニなんか食べてしまうと今夜の宿代が…」
寅「いいじゃないか銭がなかったら、
三人そろって駅のベンチで寝たっていいよ」
謙次郎満面の笑み!「そうですね!そうしましょう」
寅「だいぶ変わってるだろへへへへへ」
リリー「ハハハハ」
アナウンス「お疲れ様ございました。まもなく長万部に到着でございます…。お出口は右側です」
夕日に染まる小樽の近くの海岸
蘭島海岸 (もしくは 塩谷海岸) 積丹半島のつけ根
寅たち夕日をバックに波打ち際で遊んでいる。
映画では出てこないが夕日の左向こうには
積丹半島の山々が見える。
ハーモニカによる故郷の廃家(はいか)が流れる。
作曲:W.S. Hays 作詞:犬童球渓
第7作「奮闘篇」で花子ちゃんが、江戸川土手で歌っていた曲。
寅が拾った海草を振りまく。
逃げるリリー。笑うパパ。
寅「ホ~レ~」
リリー「イヤァ~」
走るリリー
(ハイヒールを手に持って)
リリー「キャハハハ!」
石を海に投げる寅。
寅「トォ~」
寅「パパ!投げろ!」
パパも石を投げる。
謙次郎「よいしょっ」
波打ち際をキャッキャッ走り回るリリー。
リリーの体が夕陽に包まれ光り輝く。
彼ら、生涯最高の日々…
この塩谷海岸は、鶴岡雅義と東京ロマンチカが
歌ったあの名曲「小樽のひとよ」にも出てくる、
夕日の美しさで名高い『塩谷の浜辺』である。
「小樽のひとよ」は三条正人のファルセットと、鶴岡雅義が弾く
レキント・ギターの澄んだ音色が時代を超えて
今でも私の胸に感動をおこさせるなんとも素敵な曲だ。
早朝の 函館本線 『蘭島駅(らんしまえき) 』
蘭島駅は塩谷駅の隣の駅
蘭島はアイヌ語「ラノシマクナイ」の下を略したもの。
語源は、「ラン・オシマ・ナイ」(下り坂の後の川)の意味。
明治末は「忍路駅」と言った。「ウ・シ・ョロ」(湾)の意味。
鶏の鳴き声
遠くに蘭島海岸からの日本海が見え、船が行き来している。
左上に日本海が見える。
駅 小樽へ向かう女子高生たちが駅へ向かう。
寅、駅舎の外の広場に出て、歩いてやってきた女子高生たちに
寅「ハァーァ…おはよう!さいなら!」
女子高生たち、笑って、駅の中に入っていく。
リリー、水道で顔を洗っている。
寅「ハーァ、久しぶりに駅のベンチで寝たら体痛くて。
布団じゃなきゃダメだなこりゃ」鉢巻している。
リリー「フ…」タオルで顔を拭いてる。
寅「ウホィ!ッヨッガァハァ…!ヨ!ハア…」と
腕を広げた後、屈伸の体操している。
リリー「フフ…」と手を洗って、ブラシで髪をブラッシングをしている。
パパ、出てきて「おはようございます」
リリー「おはよう」
謙次郎「よく寝られましたか、リリーさん」
とパジャマ姿!のパパ、歯ブラシを口に突っ込んで歯を磨く。
林間学校の生徒みたいな気持ちなのかもしれない(^^;)
パパにとっては『駅寝』もハレなのだろう。
背広やワイシャツを脱いで、きちんとパジャマを着て
寝てしまう行為は、日常の心を残したまま旅を続けていると
いうことでもある。
『決心を伴わない放浪』のぎこちない、滑稽な姿がそこにある。
そんな格好で駅の待合室に朝の始発過ぎても寝てたら、
駅員さんに注意されるよ普通は(^^;)宿屋じゃないんだから。
リリー「ふう~ん…」と笑っている。
寅「ガハハハ!パパ!短靴(タングツ)はいて
寝てやがる!ガハハ!」
謙次郎「フフフ…」と笑いながら歯をしっかり磨いている。
リリーも笑っている。
高校生たち、後ろの方で物珍しそうにジロジロ見ている。
この駅に関しては5年以上前にいろいろな寅さんマニアの方たちとああでもない、
こうでもないと喧々諤々しながらも、遠くに見える島や海の見え方から推測して
函館本線の駅『塩谷駅』だということに決定した。
当時は昔の函館本線駅舎写真がネット上でどこも紹介されていなかったのだ。
あれから5年経った2010年10月初旬、当時この駅舎を一緒に考察したAさんからメールがあり、
ちょうど旅の雑誌に同じ函館本線の駅舎が紹介されていて、
その中に塩谷駅の隣の『蘭島駅』も数行文字で紹介されていたそうだ。
そして、その駅の関係者の方が『相合い傘』の撮影をこの駅で見ていたと証言されていたのだ。
驚いた私は、さっそく車で近所の本屋に行ってその雑誌を買ってみた。
簡単に紹介されているだけなので当時の写真などはその雑誌には貼りつけていなかったが、
確かに当時のロケを知る人の証言が書かれてあったのだ。
事実を確かめるために再度5年ぶりにネットで函館本線の駅舎を調べると
5年前にはなかったサイトが誕生していて、
当時の『塩谷駅』や『蘭島駅』がモノクロ写真ながら出ている。
そしてじっくりと確かめさせてもらった。
↓が昔の蘭島駅 駅舎
↓が昔の塩屋駅 駅舎
確かに二つの駅舎は似ているが、
映画に登場するのは御覧の通り『蘭島駅』だったのだ。
と、いうことは、あの夕日の海岸は『塩谷海岸』ではなく『蘭島海岸』(蘭島海水浴場)の
可能性が高い。
しかし残念ながら海岸には、なんのとっかかりもないので、不明だが、蘭島駅の近くだろうから
『蘭島海岸』の可能性が最も高い。
駅舎からの海の見え方は隣駅のせいか、『塩谷駅』も実によく似た風景だ。
いずれにしても、真実に一歩近づいたことは喜ばしいことなのだ。
ちなみにこの『蘭島駅』ホームは、近年、映画「NANA」のロケにも使われたそうだ。
札幌 大通り公園
3人でバイをしている。(万年筆)
バイの主役はなんと寅ではなく、パパ!
寅とリリーは『サクラ』
寅「あ、そうかい…、それじゃ、その火事になって
その万年筆工場っての、潰れてしまった
ってわけだね」おいおい(^^;)
謙次郎 頷く
寅「可哀想になあ…」
リリー「あなた、買ってさしあげたら?
坊やも欲しがってたじゃないの」坊やって誰や?(ノ゜ο゜)ノ
寅「そうねえ…。これ1本いかほど?」
謙次郎「…せせ、千円いただければ…」上手い!(^^)
リリー「安い…」
寅「え?そんな安くっていいの?しかし、これ、あの、ほら、
水をかぶっただけで、火には全然あぶられていないんでしょう?」
パパ、頷く
寅「安いもんだなあ…」
リリー「あ、よく書けるわ~」リリーっていったい…(^^;)
寅「ママ、嬢やにも1本買ってあげたら。
英語のお勉強しているから」嬢やもおるんかい?(/^□^)/
リリー「そうねえ」そうねえって…(^^;)
『ママ』『嬢やにも』って言われて、ほんの一瞬、
どう言おうか迷っていたりりーでした(^^;)
リリー「女物ございますぅ?」リリー笑ってるよ ヾ(´▽`;)
謙次郎「は、はい」と言って万年筆を渡す
謙次郎「ありがとうございます」
寅「安いねえ!千円は。安いねえ~しかし」
ヘルメット姿の男の人1本買う (ノ≧∇≦)やった…!
帽子を取って頭を下げるパパ。
謙次郎「あ、ありがとうございます」
パパはこの手の商売の才能あるのかも…。
「泣きの兵頭」って言われたりして(^^)
OL連れ「何があったんですか?」
寅「いや、会社が潰れて、万年筆を退職金代わりに
売ってるんですよ。お買い得ですよ、安いですよ、え~」
リリー、千円札をパパに渡す。
謙次郎「おそれいいます…」と受け取る。
OLたちさっそくしゃがんで見始める
ヘルメット姿の男、千円札を渡す。
パパ、頭を下げて礼。
寅「いや~、僕ももっとお金があったら
欲しいなあ…いくらでも」
いくらでも買ってどうするんだ? ヾ(^^;)
それにしても、いつバイネタ、持ってきたんだ??(^^;)
噴水で、なにげに軟派している若者たちが見える。(^^;)おいおい
田舎の牧場の1本道
荷馬車の上に揺られている3人。
白い花が一面に咲いている。
3人とも大笑い
鳩笛による スコットランド民謡「Comin' thro'
the Rye」が流れる。
日本語名「ライ麦畑で出逢ったら」
作詞は「蛍の光」で有名なロバート.バーンズ(Robert
Burns/1759-96)
日本にも明治期に入ってきて風紀上、歌詞を全く変えて「故郷の空」で日本中に広まった。
戦後は元の詞を結構忠実にそのまま訳した「誰かと誰かが」が流行る。
私の世代では、そのまたアレンジ版のドリフタ-ズによる歌も子供の頃流行ったなあ…。
8時だよ全員集合!
リリー「だってさ、パパがしょんぼりしてると、
ほんと可哀想ぽくなっちゃうよね!」
寅「ほんとなあ、素人は恐いよ!え」
謙次郎「いや、ほんとは汗びっしょり
だったんです、ハハハハ!」
荷馬車が揺れて「ワーッ」と3人とも大はしゃぎ。
3人の笑い声は続く。景色はいいし、懐もちょっと温かくなって、
安堵して、最高の気分!
この笑顔はいつまでも私たちの記憶に
刻まれていくことだろう。
謙次郎「ママだっていうんだもの」
リリー「突然なんでびっくりしちゃったわよ、私がママなの。フフフ
寅「まったくねえ、家の嬢やに買っていこ、なんて」
謙次郎「英語!」
リリー「英語のお勉強ね、ハハハ」
寅「まったくなあ、今考えると、汗かいちゃうな、ハハハ」
荷馬車また揺れて
寅「うわっ!!」
謙次郎「あ!あぶないハハハ」
3人とも大笑い。
3人のバカ騒ぎに目もくれず、もくもくと、荷馬車を、
操る農家のおじさん、ごくろうさんです(^^;)
この荷馬車の揺れが3人の気持ちの高揚を見事に表していた。
遠くに山々が見える。
実にのどかな風景
こうして、渡り鳥たちの
栄光の日々は最高潮に達していった。
鳩笛の最後にギターの『ジャーン』
札幌で稼いだ後、汽車ですぐに小樽へは向かわず、
こうして田舎道を寄り道してたんだね。それも、農家の人の
プライベートな荷馬車に乗せてもらっているということは、そうとう
田舎だぞ。汽車は近くにないなこりゃ。
ということは、この日はどこかへ泊まって、
小樽へは翌日に行ったのかな…。
小樽
蒸気機関車が遠くを走っている。 「ピ~!」
鄙びた小樽運河をポンポン船が行く 「ポンポンポン」
江戸時代にはニシンの漁場。・明治時代には資材運搬港として栄え、
かつては町の中に運河が引き込まれた運河の街、倉庫の街でもあり、
今もその一部が保存されている。
又運河ができることにより、小樽は西海岸の中心港となり、
物資調達の重要な中継地になる。本州各地から船で運ばれてくる物資は
「仲士」によつてハシケで岸まで運ばれ、これらの倉庫群に入れられた。
この映画が作られた1975年当時の小樽は現在とは違い、かなり鄙びた古臭い、
運河の街だったようだ。
よく言えば、観光の大波が来る直前の静けさを漂わせていたとも言える。
今はこの運河沿いは、みやげ物、レストラン、街燈、そして観光客の波である。
1975年撮影当時は鄙びた運河
ポンポンポン.。。
マンドリンによるリリーのテーマ.(アレンジ版)が流れる。
運河の橋の上 北の端にある 北浜橋の真ん中
謙次郎「小樽……ここが小樽かあ…」
しみじみと感慨深げに運河を見ている。
小樽ではパパが主役なので、パパ改め謙次郎(^^;)
謙次郎、寅のところに駆け寄って
謙次郎「寅さん、僕は30年間、夢に見た街ですよ…」
30年間とは、ただ事じゃないぞ、こりゃ。
寅「そんなにいいかね、この古臭え街が…」
リリー、タバコをふかしながら、謙次郎の方を振り向く。
2005年現在の小樽運河
謙次郎「あ、いや…この街には僕の
初恋の人がいるんです…」
寅、ほお~っというようなおどけた顔をして、リリーを見る。
謙次郎「学生時代東京で知り合った人ですけどね、
小樽の人だったんですよ、その人は…」
寅「そんなに惚れてたの…」
謙次郎「ひょっとしたら、僕が生涯で
一番愛した人かもしれませんねえ」
寅「愛しただって…ククク」
リリー「ク~ククク」
と二人して下を向いて笑いをこらえている。
おいおい、悪いよ、笑っちゃ。
「愛しただって、ククク…」
謙次郎「考えてみれば、僕はこの街に来たくて
旅に出たのかもしれないなあ…」
これはますます、ただ事ではないぞ…
【後日、追伸】
2008年8月10日 寅次郎な日々 その370より抜粋。
ところで、どこで撮影されたかだが…
この橋の場所はなかなか特定が厄介だった。
小樽運河でロケしたのは当たり前なのだが、この運河、結構橋が多いのだ。
運河南から「浅草橋」、「中央橋」、「竜宮橋」、「北浜橋」である。
それでもこの作品ではあのロケ地で運河の端が映ることから、全長1200メートルほどの運河の
どちらかの端っこでロケしたであろうことが推測できる。
ちなみに、
数年前に出版された「寅さん完全最終本」なる本にはこのロケ地が「竜宮橋」と書かれてあって、
いろいろ紹介されているが竜宮橋は実は運河の一番端の橋ではない。
出版物なので訂正がきかないのが気の毒だ。
運河が向こうで終わっているのでロケは一番端にある橋である。
この時点で二つに絞られる。端が見えると言うことは…、
つまり南の端の「浅草橋」でロケた」したのか、
それとも北の端の「北浜橋」でロケしたのかだ。
しかし、南の「浅草橋」から見た風景だとすると、余市方面にあの有名なレンガ倉庫群が間近に見えるはずである。
もちろん1975年当時よりずっと前からあの倉庫群はあったのだから。
(もっとも今はみんな中だけリニューアルされて飲食店に変わってしまったが。)
ちなみに第22作「噂の寅次郎」のラストでは早苗さんが故郷の小樽へ帰ったということで、
観光スポットとして有名な南側の「浅草橋」からの冬ロケが行われた。(もちろん風景だけ)
第22作「噂の寅次郎」での「浅草橋」ロケ 余市方面を望む 現在、観光名所になった「浅草橋」より余市方面を望む。 →
これでまず、第15作は一番北の「北浜橋」でロケしたことが推測された。
そいかし、物的証拠がないと、ギリギリではこれも「推測」でしかないのだ。
そこで「ストリートビュー」に登場してもらった。
そうすると証拠が出てくる出てくる。当時と激変していると思われた運河北側(北運河)でも、
まだまだ同じ建造物は結構あったのだ。
ここにその一部を紹介しよう。
「北浜橋」から見た北側が特に見た目はもう違う街かと思うくらい激変していた。特にあの巨大な工場(缶詰工場)はなんだ…。↓
→
しかし上の巨大な工場の後ろに赤レンガの倉庫が見える。あの煉瓦は当時もあった。あのまま。
後で調べると硝子工芸のギャラリーのようなものになっていた。赤丸参照
一方、橋から眺めた南側もかなり雰囲気が変わっていたが、
左岸に見える缶詰工場本社のあり方が当時のままの部分が見受けられた。
特に一、二階部分や、煙突など…。
兵頭パパの背中向こうに当時のビルの一部が見える。
→
それと、橋の欄干の質感や形が同じ。
それと、当時から橋の欄干の真ん中が凸字型になっていて、河を眺めることが出来ていたところも、今も同じ。
橋の真ん中が凸型になっているのがわかる↓。 よく見れば橋の欄干の形が当時と一緒。
そしてダメ押しは寅たちの背中向う岸に見える何軒かのトタン屋根煉瓦倉庫が今も保存されていることだ。
現在は、なにやらいろんな店に改装されているようだった。↓
→
これで決定だ。
この第15作「寅次郎相合い傘」でのロケは
小樽運河の一番北にある「北浜橋」の
中央付近でロケされたものだったのだ。
それにしても山田監督はこのしっとりとした古い町が好きなのだ。
テレビドラマ「遥かなるわが町」も小樽が舞台だし、博のお父さんも小樽の大学で勤めていたことがある。
ちなみに、第15作「寅次郎相合い傘」が制作された1975年はちょうど、小樽市と運河保存運動の市民グループが
もめていたころだった。
小樽市は、当時、無用の長物と化していた小樽運河を埋め立て、道路として整備する方針を打ち出したが、
これに対し運河の保存運動が全国規模で高まっていったのである。
1973年(昭和48年)に「小樽運河を守る会」が発足され、
この映画が封切られた2年後の1977年(昭和52年)に「小樽臨港線整備促進期成会」がそれぞれ発足され、
運河埋め立てに対する関心が高まり、全国規模で署名運動が行われた。
それで小樽市も1979年(昭和54年)に運河の全面埋め立ての計画を撤回し、
運河の水面幅を40mの半分である20mを残すという妥協案を提案し、
1983年(昭和58年)に着工してしまったのだった。
工事開始してから3年後の1986年(昭和61年)に現在の小樽運河が完成し、
運河に沿ってガス灯や遊歩道が整備された。運河の全長は1140m。
小樽運河北側の整備が始まったのは1989年(平成元年)で、水面幅をかつての運河と同じ40mとされ、
全長は470mの整備が行われ、翌年の1990年(平成2年)に完成した。
だから、あのロケが行われた「北浜橋」のあたりは「北運河」にあたるので、川幅はロケ当時と同じくらい広い。
小樽は市街が傾斜地まで展開しており、「坂の街」とも呼ばれている。
『外人坂』近くの急な石段
小樽市相生町5−33
この坂はあの小樽聖公会のある外人坂ではない!
このことは私の寅友の埼玉の加藤さんが疑問を呈してくれました。
どうも違うぞって・・・。
加藤さんは実際に小樽へ行かれたのですが、そのことに気づいたのは
旅行から戻ってからだったということです。
それで、私はそれを聞いた後、家で調べた結果↓
その南にある入船町から上がって
水天宮にいたる細い坂だったことがわかった。
地図参照↓
最初①(南)のしもてから
えっちら上がってきます。
で、途中で
②の外人坂(西)の上の方(幅広階段)から再スタート
人に家のこと聞いて
さらに上がります。
まあどっちにしても
一番上は「水天宮」^^
坂の手前は入船町になるのですが、
ここから先の坂は、相生町になります。
(水天宮も住所は相生町ですね)
矢印はカメラの方向です。
で、カメラは切り替わって
山田組のトリック!
途中からここはあの有名な「外人坂」
西の外人坂から、水天宮に至る急な石段を上っている3人
今度は右下に『小樽聖公会』の赤い屋根が見える。
小樽市東雲町付近。
水天宮の丘から海側の堺町へ降りる、石階段のある急坂があり、坂の途中にドイツ人カール・コフ氏が
永く住んでいたことから「外人坂」の名が付いた。
カール氏はハンブルグ生まれで、1917(大正6)年に
来樽して以来、1949(昭和24)年までの32年間小樽に住み、北海道の木材を輸出する業務に携わっていた。
仕事柄市民との関わりも深く、いつしかカール氏の住む家の前の坂は「外人坂」と呼ばれるようになった
その頂上に水天宮神社がある。
150年ほど前に、水と食料生産の神様をまつるために創建された。
このような急斜面に家を作るなんて、大変なことだ。特に物資の運搬はどうするのだろうか?
冬、積雪期にはどうするのだろうか?眺めは抜群だと思うが…。
初恋の人の家を探している謙次郎。
リリー「パパ、その女の人に会ってどうしようというのさ!?」
寅「あれかァ~?もういっぺん縁り戻して今のカミさんと手切って
一緒になろって考えなんだろ?」
謙次郎「フフ…違いますよぉ、彼女はもうとうに結婚しているし、
子供だっているはずです。
僕はただ彼女の幸せな姿をちょっと
垣間見るだけでいいんですよ。」
寅「なんだそれだけ出来たのか?え!?あ~、くたびれたなあ~」
寅だって、時々、マドンナのその後の人生を垣間見に
行くことあるくせに(^^;)似たようなもんだよ。
謙次郎、家を探しながら
謙次郎「やっぱりこっちの方だなあ…」と階段を上がっていく。
ところで、どうして、彼は彼女の『結婚後の住所』を
知っているのだろう?彼女の結婚の時、一度だけそれを
知らせる手紙が来たのかもしれない。
近所の人が上がってくる。
謙次郎「あ、あのう…ちょっとお尋ねしますけども」
近所の人「はい」
、この辺に堀田さんって家ありませんでしょうか?」
近所の人「ああ、堀田さんでしたらここでしたけど、もう引っ越しましたよ」
謙次郎「あ、そうですかァ…、いつ頃…?」
近所の人「おととしだったかしら、ご主人が亡くなってね、
この家を売って緑町のほうで喫茶店やって
らっしゃいますよ。たしかァ…ポケットって言ったかしら」
謙次郎「そうですか…、ありがとうございました」
近所の人「あ、いいえ」
謙次郎「寅さん…」
寅「聞いてたよ」
寅、親指突き出して「オヤジ死んだんだってなあ」
謙次郎「どうしましょうか!?」
寅「行ってやれ、行ってやれよ!」
謙次郎、静かに頷いて「…そうですねえ」
心なしか表情が明るい(^^;)
寅「うん。オレたちゃよ、くたびれちゃったから、
1時間後に波止場で待ってら。
現地点から1,5キロ先の緑町の軽食喫茶ポケット
(市立図書館の近く)を探して、波止場に戻る時間も差し引いたら
話す時間正味20分もないぞ寅。せめて1時間半くらいにしてやれよ。
謙次郎「ハイ!」
寅「うん」
寅「パパ!吉報待ってるぞ!」
謙次郎「はーい!」とあたふたと階段を下りていく」
リリー「いい年して甘ったれだね、男なんて」
寅「ん?どうしてよ?」
リリー「だってそうじゃないかァ…。
30年前の男が現れて、
どうのこうの言ったって
女にしてみりゃ迷惑な話だよ。
陰気なおじさんのツラ見て
がっかりするだけじゃないの?」
寅「はっ~あ~、おまえも夢のない女だねェ」
リリー「夢じゃ、食えないからね」
渥美さんのおどけた顔に浅丘さん吹いてしまう。
寅、驚いてリリーにおどけた顔をする。
リリー「プップ!ッ!」と噴出す。
渥美さん、浅丘さんを笑わせました!いいねえ!この『間』。
寅がここまでリラックスできるマドンナはいないな他には。
もちろんこの部分は脚本にはない。
寅たちの下手に見える小樽市東雲町の
小樽聖公会(OTARU ANGLICAN CHURCH )は
明治40(1907)年 木造1階建 の教会 。
小樽聖公会の最初の会堂は、明治28年他の場所に建設されたが、
その後焼失し、同40年この地に再建された。
水天宮の丘の中腹、急な石段の脇に小樽の町を見下ろすように建ち、
木造下見板(したみいた)張り、切妻屋根(きりづまやね)に鐘撞堂(かねつきどう)を
のせた小さな建物。軒(のき)のレース飾り、星形模様のバラ窓、
やや幅広の尖頭(せんとう)アーチ窓などが特徴。
内部は正面祭壇がある簡素な矩形(くけい)平面となっている。
ちなみにパパが道を聞くシーンと寅とリリーがあとでしゃべるシーンとでは
全然この小樽聖公会の鐘撞堂の影の長さが違う。相当の時間差で撮影が行われたのかもしれない。
小樽市緑町1丁目あたり。
シェル石油、原田歯科医院の手前に喫茶店ポケットはある。
軽食喫茶 ポケット
店内
謙次郎、中に入ってくる。
店内は高校生で賑やか。
高校がそばにあるのかもしれない。
コーラスの歌声がラジオから流れている。
信子、遠くから「いらっしゃいませ」
帽子を脱いで、前の方を向いた時、カウンターの中の
信子を見つけ、ドキリとする。
(信子の名前は脚本による)
30年ぶりの再会だった.
三十年ぶりに見た初恋の人の姿であった。
彼女は入ってきた謙次郎に、
全く気づいていないような、
しかし、そのようなふりをしてるような…。
女子高生A「これも素敵ね見て」
B「綺麗だね欲しいね」
A「いいねえ~」
A「おばさん、私行く」
信子「あ、そっ?」
女子高生Aトレイに水を乗せて運んでくる。
A「何にいたしますか」←信子を手伝ってあげてる感じ。
謙次郎「コーヒー下さい」
黒板にメニュー。
MENU
ナポリタン.
ミートソース
チャーハン
ミックスサンド
ハムサンドイッチ
モーニングサービス
甲子園の野球の対戦表が書いてある。
『甲子園.栄光への道』
SLの大きな写真が奥に貼ってある。
コーヒーはサイフォン式
女子高生A「コーヒーですって」
信子「ありがとう」
客男子高生A「おばさーん新しいマガジン無いの?」
信子「まだ来てないわ」
B「おい、ちょっと貸せよ」と少年マガジンを取って、巻頭ページあたりを
めくっている。
女子高生B「ねえねえねえ、あたしのジュースは~?」
信子「ごめんごめん今出すからちょっと待って」
高校生の下校時刻らしく、忙しそう。
Bマガジンを戻しながら「お前まだこんな下らないの読んでんのかよ」
A「なんだよ!!」
息子、奥の部屋から野球のユニホーム姿で出てくる。
この奥が自宅になっているらしい。
息子「母さん野球しに行ってくるよ」
信子「あんた勉強しないでいいの?」
息子「後でするよッ」
信子「勉強しないで野球ばっかりして」
出て行く息子さんを深い感慨とともに見送る謙次郎。
彼女の息子さんを感慨深げに見る謙次郎
ちなみにガラスドアの花模様シールが外からと内からでは個数がかなり違っている(^^;)困った~。
喫茶店の活気や、息子さんの
育ち方を見ている限りは 今の環境は
父親のいない寂しさや生活の苦しさはもちろんあるが、
息子さんにとってはそんなに悪くない環境であることがわかる。
A「ヒデちゃん、今何年?」←息子さんの名前
信子「中1」
男子B「じゃあ、まだ間に合うよ」
A「おばさんタケオの言うことなんか信用できないよ」
息子さんは中学1年生?ってことかな。
信子「お待ちどうさま」
と、やはり、謙次郎の方を見ないで
コーヒーとミルクピッチャーを置く。
そして、コーヒーカップの向きを整える。
思い切って信子を見る謙次郎。信子は目を合わせない。
謙次郎は、思い切って信子を見るが、
信子はやはりそのまま向こうへ行ってしまう。
新しく入ってきた客C「こんちは~」
信子、にこっと笑って
信子「いらっしゃーい」
声だけですぐにこやかな表情を作れるところを見ると
常連なのであろう。
常連が来た時にやっと見せた柔らかな表情「いらしゃーい」
客C「あ~はらへったなあ~ママ」
信子は客たちからママと呼ばれている。
謙次郎コーヒーを口にする。
客C「チャーハンできる?」
店長「できるわよ」
謙次郎、急にいたたまれなくなり、
謙次郎「あの…お金ここに置きますから」
と、代金をテーブルに置き、大急ぎで店を出て行こうとドアの方へ向かう。
信子「あら…」
謙次郎は自分が信子に30年間抱いていた
イメージとのギャップと、そして、信子が自分を
覚えていなかったのではないかと思う失望感で、
いっぱいになってしまったのであろう。
店から出た謙次郎。
迷いながらも歩いていく。
しかし、すぐ、立ち止る。
カバンを忘れたことに気づいたのである。
緑町一丁目5-5
軽食喫茶 ポケット(看板 コカコーラ提供) AM.10:00~PM.10:00
隣の店の窓
ガラスに広告がつるしてある。
防寒靴 皮・ゴム靴 修理
屋根の上にノコギリの目立ての看板。
とぎもの
目立
鞄ハンドバック 修理
ためらいながらも、
店に戻ろうとして振り向く。
信子店から謙次郎の鞄を持って出て来て、
目で謙次郎を探す。
そして、はじめて謙次郎を見て微笑む。
信子はこの時初めて謙次郎と目を合わせ微笑む
びくっとする謙次郎。
謙次郎、信子に近づき、鞄を受け取りながら
「あ、どうもすいません」
と、すぐに立ち去ろうとする。
信子「謙次郎さんでしょう?」
哀しげな、テーマ曲が流れる。
謙次郎さんでしょう?
謙次郎「ええ」
謙次郎「あのうお分かりですか?」
信子うなづいて「お店に入ってらっした時、
すぐわかりました」
謙次郎うなずく
信子「あなた、昔とちっともかわらないのねえ…」
謙次郎「そうですか、僕はまた、
覚えてないんじゃないかと思って。ヘヘヘ…」
謙次郎、ハッとして
謙次郎「いえ、出張でこっちに来たもんですから、
ちょっとお寄りしただけなんです」
信子、ほんの少し、うなづく。
謙次郎「あのう…お元気そうで何よりです」
信子「あの…」
謙次郎「は?」
信子「もう一度お入りになりません?」
謙次郎「い、いえ。僕、汽車の時間なんかあるもんですから」
信子「……」
謙次郎「あのう…どうぞ、お幸せに…」
信子「……」下を向いたまま小さく頷く。
謙次郎「じゃ、僕、これで、…どうも…」
足早に去っていく謙次郎。
謙次郎に、もう一言何かを言おうとするが、
やめ、その後姿を追いすがるような目で
いつまでも見つめている信子。
アコーディオンの響き
実は、信子は店に入ってきた謙次郎を、
彼が彼女を見つけるより早く気づいていたのだった。
30年ぶりなのに何の迷いもなく、すぐ彼だと分かる。
そして、なにも言わないで、気づかぬふりをする。
その後店を出て行くまで目もあわせない。
気楽に再会できない。
それだけいつも彼のことが心のどこかに
あったのかもしれない。
だからこそ声をかけられなかった。
その昔、心の中で彼を思っていた自分。
でも、いつの間にか変わってしまった自分。
気づかぬふりをせざるをえない自分がいる。
彼女の置かれている厳しい現実と
過去の懐かしい思い出のはざ間で、
料理やコーヒーを作りながら
心の奥底でその間迷い続けていたのだろうか…。
もしそうだとしたら、これは切ない話だ。
それでも、最後は、ほんのひと時、
昔の思い出に浸りたい気持ちを遂に隠せなかった。
会わない方がいいのは百も承知で、
それでも過去の思い出に引きずられて会ってしまった男女の悲劇。
一番大切にしていた青春の美しい思い出が崩れていったのだ。
謙次郎は、自分の身勝手な思い込みへの反省と無力さを感じて、
いたたまれず、その場を去ればすむけれど、
彼女は、この厳しい現実の中で明日も生きていかなければならない。
しかし、出張とはいえ、謙次郎が、遠く東京から
自分に会いに来てくれた。(本当は出張ではない)
その事実だけは、彼女の人生の慰めになったかもしれない。
女手ひとつで忙しくはあるが、店はそれなりに順調そうだったし、
息子も普通に育っているように見えるので、がんばっていけると思う。
そしてあの別れのシーン。
あのシーン、岩崎加根子さんの表情は複雑で、
ちょっと辛くて、寂しそう…。
『追いすがるような強い視線』が切なく、やるせなかった。
ただ、30年前の彼女が、悲しみの中で一瞬蘇るような、
心の封印がほんの一瞬解けてしまったような表情が
もう少しだけあれば…。
これで生涯二度とお互いもう会うことはないと、
はっきり分かっているのだから。
ちなみに、 山田監督の脚本では、
「あなた、ちっとも変わらないのねえ」
『信子の目に涙がにじむ』
とある。
そして別れの最後にも、
『謙次郎の後姿をボンヤリ見つめる信子の
眼に新たな涙が湧いてくる』
と2度涙を滲ませている。
この脚本を読んだ時私は確信した。
やはり信子も謙次郎のことがその昔好きだったのだと。
小樽港 第三埠頭。
夕暮れ時の波止場
寅「しかし…向こうも亭主と別れた後の話かなんかぁ、
したかったんじゃなねえのかな。
それをすぐ、ハイチャイじゃ、つれねえんじゃねえの?」
謙次郎「いえ、それでいいんです。それで」
ポンポンポン.…
謙次郎「仮にそんな話があったとしても、今の僕に何が出来る?…」
謙次郎「僕って男は…、僕って男は、たった一人の女性すら
幸せにしてやることもできないダメな男なんだ…」
と帽子でハナをすする。
リリー「キザったらしいね、言うことが」
謙次郎、振り向いて、立ち上がり、
意外そうな顔をして、
謙次郎「どうしてです?」
謙次郎は自分の傲慢さに気づいていない。
寅も、座りながら振り向く。
リリー「幸せにしてやる?大きなお世話だ。
女が幸せになるには
男の力を借りなきゃいけないとでも
思ってるのかい?笑わせないでよ」
寅「でもよぉ、女の幸せは男しだいだって
いうんじゃないのか?」
リリー「へえ~、初耳だね、あたし今までに一度だって
そんな風に考えたこと無いね。
もし、あんたがたがそんなふうに思ってるんだとしたら、
それは男の思い上がりってもんだよ」
寅「へえ~…、おまえもなんだか
可愛みのない女だな、おい」
リリー、ムカッときて、近寄ってくる。
リリー「女がどうして可愛くなくちゃ、
いけないんだい。
寅さん、あんたそんなふうだから、
年がら年中、女に振られてばっかり
いるんだよォ」
と背中を向ける。
寅「おい!リリー、おまえ、
言っていいことと悪いことあんだぞー」
リリー「だって、ほんとだろ?」
と少し微笑みながら寅の方へ振り向く。
謙次郎、おろおろ
寅「じゃあ、オレも言ってやるよ。
なんだおめえ、寿司屋の亭主と
別れてやったなんて
体裁のいいこと言ってェ。
ほんとは、テメェ、捨てられたんだろう」
リリー、動きが急に止まって、振り向く。
一瞬その場が凍りつく。
リリー、振り向いたまま絶句。
謙次郎、寅を止めようとする
リリー、悲しみに震え出す。
リリー「……」
謙次郎、リリーの方へ歩み寄り、寅の方も見ておろおろ
絶望の顔で寅を見るリリー
リリー、悲しい顔で、
リリー「寅さん…、あんたまで、そんなことを…。
あんただけは,そんなふうに考えないと
思っていたんだけどね…」
目に涙が一杯溜まっている。
やがて頬につたってゆく。
目の動きで、言ってはならないことを言ってしまった寅の後悔の気持ちが伝わる
悲しくて悔しくてリりーの頬を涙がつたう
寅、リリーを見つめている。
リリー、強い目で寅をにらんでいる。
謙次郎、リリーのところへ歩み寄って
謙次郎「ごめんなさい!僕のために、こんなことになっ…!」
リリー「うるさい!!」
リリー「私帰る。さいなら」
早足で行ってしまうリリー。
謙次郎「リリーさん!」
謙次郎寅の方を振り向き、りりーの鞄を持ち上げる。
謙次郎「寅さん!どうしましょ!?」
寅「バカ、持ってってやれよ!!」とどなる。
持ってってやれよ!
謙次郎、頷いて、すぐに追いかける。
謙次郎「リリーさん!」
と遠くのリリーを追いかけて走っていく
遠くで汽車の汽笛
寅、リリーの後姿を見ている。
下を向き、自分が言ってしまった言葉の罪が
ようやく実感できてきた表情。
カモメが鳴いている
ポンポンポン.。。。
座って、ぼんやり海を見ている寅
旅の終わりは突然やって来た。
謙次郎は謙次郎の理由で。
リリーと寅は背負った運命の重さの違いで。
リリーの、歌を愛するがゆえの、そして
自分ひとりで立って歩き続けたいがゆえの、
定住からの決別と孤独の闘いの日々を、
巷の色恋の顛末に、すりかえて茶化してしまった寅。
自分の日々の闘いの寂しさ辛さを、
たとえ誰も分かってくれなくても
この世で、寅が分かってくれていると
心底信じていたリリー。
今、リリーはまぎれもなくこの世で独りぼっちなのだ。
そのことを、リリーが去ってしまった今、
ようやく強烈に感じはじめた寅。
ついさっきまで、あの声、あの瞳を持っていたリリーは
寅の横で笑っていたというのに…。
波止場に独りたたずむ寅の背中は、
いつになく小さく痛々しかった。
とらや
屋根の看板
帝釈天御用達
本家 とらや老舗
女子高生で店がごった返している。
さくら入って来て
さくら「あらあら大変ねおばちゃん」
おばちゃん「いいとこ来てくれたわ」
おいちゃん、愛想よく、女子高生を接客。
女子高生「おじさん、大きい方」といって団子の箱を返す。
おいちゃん「あ、はいはい」
おいちゃん、たいへ~ん(^^;)
電話が鳴る
おばちゃん、レジから「ちょっと、あんたちょっと」
さくら電話を取って「はい、とらやです…。まあ、先日はどうも失礼致しました」
さくら「え!ご主人がお帰りになったんですか」
女子高生「お茶お茶」
おいちゃん、女子高生を笑わせながら
こまめ~、にお茶のおかわりをしてやる。(^^;)
兵頭謙次郎の家
奥さん「ええ、夕べ遅くひょっこりと」
奥で謙次郎が足のつめを切っている。
娘のマリ子は犬と遊んでいる。
奥さん「いろいろとご心配をお掛け致しまして…ちょっとパパ呼んで…ええ。」
と謙次郎を娘に呼ばせる。
マリ子「パパ」
柱時計が時刻を打つ
奥さん「ありがとうございます。はい」
娘「お電話。早く」
向こうで息子がゴルフパッドを握って練習。
マリ子「あら、ジョニー」と犬のことを呼ぶ。
奥さん「あ、あの、ちょっとお待ちあそばせ」
パパ「兵頭でございます。どうもこのたびは
ご迷惑をお掛け致しまして…恐れ入ります」
とらや さくらの電話
さくら「いえ、ご無事で何よりでしたわ…あのーそれで兄とは…小樽で?
あの何処へ行くと言ってましたでしょうか……はあ…、
そうですか…ハ、いえ。あたしどもは毎度の事ですから…はい。
それじゃ失礼いたします。…いいえ」
電話切って
さくら「兵頭さんのご主人帰ってきたって」
おばちゃん「あら」
おいちゃん「そうか、そりゃよかった」
おばちゃん「奥様ホッとなさっただろうねえ」
おいちゃん「はーよかったよかった」と座ってタバコを手に取る。
おいちゃんタバコの箱を開けながら「それで、寅どうした?」
さくら「それがね…、小樽で別れたっきりだって」
おいちゃん「小樽?」とタバコにマッチで火を点ける。
おばちゃん「小樽って、北海道かい?」
さくら「うん」
おばちゃん「まあ…ずいぶん遠い所にいるんだねえ」
店先の参道に寅がいる。
おいちゃん「一緒に帰ってくりゃいいのに、あのバカ」と火を消す。
さくら「ねえ」一緒におばちゃんも「ねえ…」
清掃車のオルゴール。
おばちゃん「私たちがこんなに心配しているのにわかんないのかねえ」
おいちゃん「はー…うん…」
3人ともしんみり下を向いて寅のことを想っている。
みんな、背中を向いているので寅には気づかない。
寅「…」
おいちゃん「そういや、リリーさんも北の方に
行くって言ってたんだろ」
さくら「うん…」
寅、ビクッ と反応
さくら「ひょっとしたらどっかで会ってるかも知れないわね」
その発言を聞いて、ドドッ!っとさくらの
ところに駆け寄ってくる寅
寅「おい!リリー来たのか…!」
さくら「うん…」つい、寅に気づかず、下を向いたまま返事をしてしまう。
寅「うん!」
寅「いついつ!?いつ!…いつ!!」
さくら「ええーっと…せせ、先月の始め頃だったかしら」
寅「きのうやおとといじゃねえのか…」
さくら「うううんん」
↑倍賞さんのこの小刻みな首の振り方、愛嬌がありました(^^)
寅「チッ、何だよ…ガックリさせやがらァ」
さくら、おいちゃんと顔見合わせて、
ようやく我に帰り、立ち上がりながら両手をあげて
さくら「…!お兄ちゃん!!」遅いって ヽ(^^;)
さくらの、カン高い大声に、
おいちゃんおばちゃん椅子から宙に浮く!!」
このタイミングのズレがたまりません(^^)
特におばちゃんのスーパーボールのような
ぶっ飛び方は、さすが年季が入ってる!
ハ!おにいちゃん!! おいちゃんおばちゃん飛ぶッ!!
寅「オイオイ!脅かすなよおまえ!!!」あんたでしょそれはヾ(^o^;)
さくら「こっちがビックリするじゃないのよ!」
寅「何言ってるんだよオメ~.・・・!」
おいちゃん「お帰り、よく帰ってきたな~」
おいちゃん「心配してたんだよ、あんたのこと」
寅「ありがとう、おばちゃんたちも達者だったか?」
おばちゃん「ああ」もうすでに涙ぐんでいるおばちゃん。
寅「ウン」
さくらも頷きながら安心顔。
さくら「ね、お兄ちゃん」
寅「うん?」
さくら「リリーさんが来たのよ」
寅「知ってるよ…函館でな、ばったり会ったんだよ」
おいちゃん「やっぱり…」
やっぱりって、普通会わないぞ。天文学的数字だからね(^^;)
寅「それがな、さくら…」
さくら「うん」
寅「オレ、リリーの奴に…ひでェこと
言っちゃったんだよぉ…」
リリーが少し見えるよ、寅
さくら「どんなこと?」
寅「うーん…ちょっと口に出しちゃ言えねえようなことよ
あいつ大きな目に、いっぱい涙浮かべて、
よっぽど悔しかったんだろうなあ」
さくら、リリーが前にいることに気づいて目が唖然。
おいちゃんや、おばちゃんもさくらに
目で合図されてリリーに気づく。
寅「は~あ、もし…ここにリリーがね、現れたら、
オラァ、この土間に、手ぇついてでも謝りたいよ。」
さくら、リリーのことを寅に知らせようとする。
さくら「ねえ、」と寅の袖に手を当てる。
寅、さくらに、お構いなしに反省の弁を続ける。
寅、おばちゃんの手から手ぬぐいを取って、
寅「でもねえ、あいつはきっと勘弁しちゃくれねえよ」
寅手ぬぐいをぐるぐる捻りながら
寅「オラァ本当ひでえこと言ったんだもん…」
リリー「寅さん…」
寅、ビクッとして、捻っていた手ぬぐいがすっぽ抜ける。
寅さん…
寅「あれはリリーの声…、まさかそんな…」
あれはリリーの声…、 まさかそんな
リリー「寅さん、私よ」
寅、振り返る。
手から手ぬぐいが落ちる。
リリー微笑む。
寅「…!リリー」
「…!リリー」
リリー「寅さん!」
夢中で寅に駆け寄るリリー
寅さん!
リリーのテーマが流れる
マンドリンから入り、ギター、オーケストラへと膨らんでいく。
寅に抱きつくリリー。
リリー「ごめんねこないだ、私も言い過ぎたんだぁ!」
寅「悪いのはオレのほうじゃなえかよ。オレはもうおまえに
一生勘弁してもらえねえと思ったんだぜ」
リリー「バカねえ、私そんな女じゃないよ」
寅「うん、そうなんだよ。
おめえそんな女じゃねえんだ、
そんな女じゃねえと
オラァよく分かってんだよ」
リリー「こんにちは」と照れながら一同にあいさつ。
さくら「いらっしゃい」
寅「お、さくら、分かったろ?
こういう訳なんだよへへへ…」
分からんて、なあ~んにも ヾ(´ー`;)
さくら後ろで手を組んで
さくら「うん、なんだかよくわかんないけど、
とにかく良かったわね」
さすが、さくら。熟練の技。訳聞かずに結果オ~ライ(^^)
寅「おい、なんだよボケーっと
見せもんじゃねえんだよ
オレたちは!ええ!?」
おばちゃん、ビックリして、おいちゃんの方へ飛ぶ。
おいちゃん「ク!」と痛がる。☆ー(>。☆)
おばちゃん、今回も体重を利用したギャグを飛ばしてました(´ー`)
寅「早く早く!オラオラ!オラ!お茶お茶お茶!
いや!ビールビール!ビールに切り替えよう!
さ!さ!ほら、リリー、
上がって上がって!ね!
パア-ッと盛り上がろうじゃねえかよ、これ!」
店先に客
寅、店先に歩いていって
寅「え!?
寅「何?団子?
今日は団子はないなあー!!
またあした!ね!」
体反転させて
「さ!パーッとやろう!パーッと!」
ε=ε=(*~▽~)
客「??」で首かしげて行ってしまう。
出ました!お馴染み「団子はないよギャグ」
なにかとらやで立て込んでいる時、
もしくは寅がやる気がない時に
しばしば、客が犠牲になり、あしらわれる。
「柴又慕情」「忘れな草」などでも出てくる。
この団子を買いそびれたセリフなしの
作業員風の人は誰でしょう?
なかなかひょうひょう、おろおろとしたいい雰囲気でした。
スタッフさんかな?やっぱり。
寅とリリーは、またもや劇的に再会を果たした。
あの函館の夜の二人の最初の言葉
「寅さん…寅さんじゃないの!」「リリー!」は
二人の懐かしさでいっぱいの気持ちが見事に
表現されていたセリフだったが、
このとらやでの再会におけるセリフ、「リリー」と「寅さん!」は
また違った味わいがあった。
お互い小樽で深く傷つけ、傷つき、絶望と孤独を
潜り抜けたあとの、寅の「リリー」と、リリーの「寅さん!」。
お互いの心の鐘が今度こそより深く強く共鳴した瞬間だった。
夜。とらや
朝日印刷の2階で工員たちが
とらやの茶の間を覗いている
茶の間から社長のソーラン節が聞こえてくる。
社長「♪ソーラン、ソーラン、ソーラン」
一同「ハイハイ」
社長「ニシン来たとてカモメが騒ぐう~、
銀のうろこで、手がはいじゃくる
ヤサエ~ エンヤァサーノ ドッコイショ ア~!
ドッコイショ ドッコイショ か」替え歌気味??
さくら、あまりのひどい声に
笑いながらも耳をふさぐ。(TT)
寅、その歌と同時にパパに電話している。
寅「おう!パパか、どうしてる?え?あのさ、
かみさんと娘さん喜んでるだろう?え?フフ、
こっちか?大宴会よ、盛り上がってよお!
そっちはどうだい!?うん、あ、そうか、よしよし、
また、電話するから、うん、な。
かみさんによろしくな、うん、じゃ、あばよ!」
パパも寅とリリーが再会し、仲直りできてホッとしているだろうね。
なんせ、自分のことがきっかけでああなっちゃったんだからね。
社長の歌がようやく終わって ほっε- (^、^A)
一同拍手
寅、電話から戻って
寅「どうしたどうしたどうした、え!?
パーッっともっと盛り上げよう!
寅「よし!」
社長「いこうか!」
寅「博が今度は歌います!」
博、ビクッ! (ノ_< ;)アチャ
一同拍手
リリー「待ってました~」
寅「よーし、歌え~!」
社長「お~!」
さくら、恥ずかしくて、お盆で半分顔を隠す。
リリー、もう一度「よ!待ってました!博さん!」
寅、リリーにニカッと笑う。いいねえ~(^^)
博、頷いて「じゃあ兄さんとリリーさんの再会を祝して…、
いっちょやるか!!」
と、博、目をつぶり上を向いて決意表明(^^;)
寅「よおー!!」
一同拍手
博「悲しい酒…」
寅「お!!待ってました!」
博「ひィ!!~~とお~~り~~」
それじゃ悲鳴だよ ゞ( ̄∇ ̄;) 『♪』マークだせないよ。
寅、ビックリして耳ふせる。
社長、大口開けて大笑い
さくらおばちゃんの背中に笑いながら隠れる。
リリーさくらを見て笑っている。
おいちゃん、笑いながら下向いて首をふる。
↑これらのことが同時に進行しました(^^;)
博「♪さ~かぁ~ばでえ~、
の~むさあ~けぇ~は~…」
寅とリリー顔を見合わせて微笑む
社長「ひばり顔負け!!」違う意味で(^^;)
寅「うん!!」と拍子をとっている。
リリーやおいちゃん、笑う
さくら、ずっと照れている。**(/▽/)**
いいねえ~。さくらのこの表情(@⌒ο⌒@)
博「♪わあ~かあ~れ、
なあ~み~だあ~の、
あ~あじが~す~る~」
寅も、リリーも、少し一緒に歌っている。
寅「よぉ!」
博「…」次が一瞬出てこない
リリーすかさず「のぉん~で」と手伝う。
博も思い出して「♪~んで~すぅてたぁい、
おおもかぁ~げ~を~~、」
♪す~てた~~い おも~か~げ~を~
とらやの茶の間で博と寅とリリーが歌っている。
ただそれだけのことなのに、胸が熱くなってくるのは
どうしたわけだろう…。
さくら、リリーも歌っているのに気づいて、
寅に人差し指で「シー」っと知らせる。
寅も分かって、人差し指で『シッ』のポーズ。
指揮だけをする。
この寅の指揮がなんとも楽しそうで上手い!
ここからリリー独唱
「♪の~めぇ~ばぁ、ぐ~らぁ~すううに、
まあ~たぁ、うぅ~~かぁ~ぶぅ~~~」
寅「ハイ!!上手いなああああ!!」
指揮者の最後の決め!のポーズ!
ハイ!! !!
一同大拍手! (*>▽<)ノノ゛☆
おいちゃん「はあー!よかったー!」
おばちゃん「リリーさんは、いい声だねぇ~!」
リリー、おもいっきり手を左右に振って照れながら否定する。
寅「そら、あたりまえだよ。本職だもんなあ!」
おいちゃん「社長はひどい声だなあ!ありゃとても
人間の声じゃないなあ」
社長目をひんむいて「なあにを」
寅「人間だと思ってたの?タコじゃないか」
一同「ハハハ!」
満男も「ハハハ!」(^^)
社長、頭に手をやって大笑い。
満男、リリーの横にピッタリ座っている。なついてるねえ~。(^^)
寅「知ってる?これタコ」
リリー「知ってる。聞いた聞いた」誰が言ったんだ(^^;)
社長「ハハハ!いや、は~!」
満男もまた「ハハハ」(^^)
一同ハハハハ
柱時計が8回「ボーン、ボーン、…」と打つ。
さくら「リリーさん、疲れたんじゃない?」
寅「もうそろそろ、お開きにしよう。なあ、リリー」
おいちゃん、博、柱時計を見る。
リリー「そうねえ、じゃあ、休ましてもらおうかなあ…」
寅、う~んと手を広げて、楽しかったという雰囲気。
リリー「楽しかった~」
さくら、頷く。
リリー「私、こんなに楽しく
ご飯食べたの、何年ぶり」
夫との夕飯は楽しくなかったのかい?リリーさん(^^;)
さくら「そう…」と微笑む。
おいちゃん「そうですか~」と微笑む。
寅「あしたの晩もやろう!」
リリー「やろう!!」リリーって宴会好き(^^)
一同笑っている。
リリー「じゃ、みなさん、お休みなさい」
一同「お休みなさい」
寅、おいちゃんたちに「じゃ、さいなら、お休みなさい」
と言ってリリーのすぐあとに立ち上がる
リリー「お先に~」
おいちゃん「はい~」
寅「リリー…」
と言いながら土間に下りて、階段の下に来る。
リリー、階段を上ろうとして
リリー「うん?」
寅、腰に手を当て「何か、不自由なものないかい?」
リリー、手すりに頬を近づけ甘えるように
リリー「ないわ…」
寅、リリーのすぐ隣まで寄り添って
寅「足が冷たくないのかい?」
リリー「冷たい…」
寅「じゃあ、オレが温めてやろうか?
いつものように」
ひゃっこいひゃっこい、って嫌がってたくせに…(^^;)
リリー「そうして」
と階段を上っていく。
寅、照れ笑いしながら「フフフフ…」
夢気分で、寅「あ~あ、しょんべんでもしてこよ。
ほら、どけてぇ」
と、おばちゃんを手で蹴散らす。
題経寺の鐘「ゴ~ン」
寅、悲しい酒の鼻歌。
おばちゃん「どうしよう…」どうしょうって…(^^;)
おいちゃん「…!」
首を横に強く振って一緒に寝させるべからず
の意思表示(^^;)
おいちゃん相変わらず固いねえ…(^^)
それとも、おいちゃん『オラ知らねえぞ』と言う意味?
題経寺の鐘「ゴ~ン」
博「ふ~ん…ま、今夜ゆっくり寝てあした考えましょう」
何を?…(^^;)
堅気の人たちには冗談は通用しませんから(^^;)
寅って、こういう『言葉遊びのシュミレーション』が好き。
ほんとうにマドンナが近寄ってきたら、
タジタジ逃げてしまうのがオチ。
悲しい酒 1966年 (昭和41年)
歌 美空ひばり
作詞 石本美由紀 作曲 古賀政男
ひとり酒場で飲む酒は
別れ涙の味がする
飲んで棄てたい面影が
飲めばグラスにまた浮かぶ
(セリフ)ああ別れたあとの心残りよ
未練なのねあの人の面影
淋しさを忘れるために飲んでいるのに
酒は今夜も私を悲しくさせる
酒よどうしてどうして
あの人をあきらめたらいいの
あきらめたらいいの
酒よこころがあるならば
胸の悩みを消してくれ
酔えば悲しくなる酒を
飲んで泣くのも恋のため
一人ぼっちが好きだよと
言った心の裏で泣く
好きで添えない人の世を
泣いて怨んで夜が更ける
次の日
工場の機械の音
2階のリリー
布団の中。でもすでに目覚めている。
階下から寅とおばちゃんの声だけが小さく聞こえてくる。
寅「おばちゃん、あの、リリーまだ寝てるのか?」
おばちゃん「疲れてるんだよきっと」
声だけ小さくぎりぎり聞こえてくる
寅「なんだよこれ?え?
パンなんか焼いてどうすんだよ。
リリーはオレと同じだぞ。
朝飯は納豆と味噌汁だよ」
おばちゃん、小さく声だけ「あら、そお?わざわざ買ってきたのにィ」
嬉しそうに寅の言葉を聴いているリリー。
とても幸せそう…。安らぎの時。
忘れな草でも、とらやの2階で寝るリリーの安らぎが
表現されていたが、ここでは、もう一歩進んで、
リリーに聞こえないであろうところで、
寅がリリーのことを想っていることが、
実はリリーに密かに知れる。という、
心の間接的なやりとりが繊細に表現されている。
リリーが、寅の自分への愛情をちらっと垣間見た
ひとときだったのだ。
リリーにとってこれは、面と向かわない分、
逆に至福の瞬間だと言えよう。
見事な山田演出の冴えだ。
寅、声だけ「おい、職工!なんだよ朝っぱらから
ガタガタガタガタ機械回しやがって!」
ここから庭の寅へ。
寅「まだ家は客人が眠ってるんだよ!ええ!!
タコに言って機械止めろよ!このやろ!たく」
寅「非常識なやろうだい!
人の迷惑考えた事あんのか!?一遍でも」←寅もな(^^;)
と、言いながら、風呂の薪を燃やしている。
風呂の外からの風景が見れる珍しいカット。
二階 リリーの部屋
おばちゃん「お目覚めですか?」
リリー「ハイッ」
おばちゃん「あのね寅ちゃんがねどうしてもリリーさんに入ってもらうんだって
お風呂立ててんだけど」
リリー「朝風呂!!」
おばちゃん「うん」
リリー「わあうれしい!私入る!」
一階の風呂で湯加減をみる寅
寅「は~おばちゃん!もういいか?
♪へえ~へ…♪!!ハァ!!!
アチッ!!アツ~~!!」
朝風呂といえば思い出す第17作の池ノ内青観(^^;)
昼。 さくら、とらやの店先から入ってくる。
いつリリー朝風呂入ったんだろう…。
朝風呂のシーン見てない…。くそ ( ̄、 ̄)
さくら「あら、お出かけ?」
リリー「ううん、買い物今夜あたし餃子作るの。さくらさん好き?」
さくら「うん、大好き。」
ちなみに、さくらは実はうなぎが嫌い(^^)
」
リリー「あー良かった。君は?」と満男に聞く
満男「好き。」(^^)かわいい
満男は「忘れな草」で大きなキスマークを
頬につけられてから、もうリリーひと筋ですハイ^^
第48作「紅の花」で奄美で再会するリリーと満男。
人生だなあ…( ̄▽ ̄)
寅、口笛を吹きながら自分の部屋から降りてくる。
寅「おう、さくら、来てたのか」
さくら「うん」
リリー、満男のほっぺをつついている。
寅「うん、おう、リリー行こうか」
さくら「いってらっしゃい」
寅「うん~!」
リリー、寅と腕を組む (@◇@;)
さくら、ビックリ!
寅もビックリ!(^^;)
寅、あたふたして、
自分の腕を見てから、
さくらを見る。
さくら、唖然…
前の江戸屋の人たちも目が釘づけ!
帝釈天参道
御前様と、花束を持った源ちゃんが道から出てくる。
寅「あ、御前様、お久しぶりでございます」
御前様「イッ!!」っとビックリ。
寅「どうもご挨拶にも伺いませんで」
リリー「こんにちは」
寅「オッ源ちゃん、いずれはそのうちな、」
御前様、『世も末』と言う感じで
数珠を持って拝む。(^^;)
交差点で寅がリリーをエスコートしている。
寅「ハイハイ!!ハイッ!ハイッ!」と交通整理
リリー「誰あれ?」
寅「寺の坊主」
リリー「違うわよもう一人の方よ」
寅「猿の惑星」
源ちゃんていったい…(TT)
リリー、オープニングのあたりで
「坊や、元気?」って山門のところで
源ちゃんに挨拶してたくせに~。
近くの人たちが寅たちを見て手招きをして
参道に集まって来る。
寅「オイッス!」
とらや
さくらが店先を掃いている。
御前様急ぎ足で「さくらさん」
源ちゃんが花束をもってくる。
さくら「あ、こん…!?」
御前様「ちょいとちょと、だ、誰だねあれは」
さくら「誰のことでしょう?」
御前様「寅がこうやってこう腕を組んでぃ…この…」
御前様の腕組の『再現』変に生々しい^^;
さくら「ああ!あの人リリーさんと言いまして…」
御前様「リリー!アメリカ人か!?」出た~!
おいちゃん「いえ、日本人です。」おいちゃん最高!
さくら「ハ…」
御前様「すると寅とどうゆうご関係の
ご婦人かな?」
おいちゃん「いえ、ご関係と言うほど
上等なもんじゃございませんが」
御前様「ま、いずれにしろ昼ひなか
女人(にょにん)と腕を組んで
歩くとはこら、困ったもんだ!」
後ろで御前様を指差してクスクス笑いをする源ちゃん。
さくら、源ちゃんを見て???
おいちゃん「申し訳ございません」と頭を下げる。
ずっとクスクス笑いをする源ちゃん。
さくらもつられて微笑んでいる。
源ちゃん、御前様に叩かれて
パコッ!Σ(>д<)
さくら「!!」(゜O゜;
御前様「青少年に及ぼす影響も大きい」
おいちゃん「はい」
御前様「困ったァ…実に困ったァ…」
さくら「すいません」
御前様「困ったァ…」と手を合わせる。
商店街 八百満
寅とリリーが買い物籠を下げて買い物。
リリー「ニラと白菜とひねショウガ、後はいらないか」
寅「お肉はァ?」
リリー「ここは八百屋よ」
寅「あそっか」
八百満のおかみ「ハイ、おつり!」
リリー「ありがと」
おかみ「まいどありがとうございます」
リリー、すぐ寅の腕を組む。
寅、組まれることに慣れてきた感じで、
寅「次はお肉屋さん♪ハ…」
こりゃ目立つな~、柴又では^^;
寅たち遠ざかる。
客A おなじみ 秩父晴子さん 「ちょ、ちょっと誰え、あれ?」
おかみ後藤泰子さん 小指を立て「これだよ」
おかみさん、気持ちは分かるけど、表現が…^^;
客A「あ、そう~」
客B、戸川美子さん 鋭い視線で「堅気じゃないね…」
セリフのある役で、
左から戸川美子さん。
一人置いて、
後藤泰子さん。
右端は秩父晴子さん。
谷よしのさんや水木涼子さんや光映子さんに次ぐ、
大部屋の重鎮さんたち。
演技力はピカイチ。
このシリーズでもちょくちょく登場されます。
夕暮れ時 題経寺の鐘
カアカア…
『ゴ~ン』
寅や茶の間
博、餃子を食べている。
博「うまい。リリーさん、見かけによらないなあ…」
おいちゃん、おばちゃん、元気がない
博「どうしたんですか。御前様に叱られたくらいのことで」
おいちゃん「そればっかりじゃないんだよ。なにしろおまえ、町中の噂なんだからな」
タコ社長入ってくる。
社長「さくらさん」
噂の出元登場!
おいちゃん、いやな顔をする。
社長「町中で、寅さんの噂でもって、持ちきりだよ」
社長、忙しそうだね~…(- -)
社長、階段の上見て
社長「いるのかい?」
さくら「ううん」
社長「ああ…よかったよ。どこいったの?」
さくら「リリーさん、送ってった」
社長「腕組んでか。アハハハ!」
おばちゃん「何が可笑しいのよ。あんた冷やかしにきたの」図星★
社長「違う違う、お見舞いだよ。みなさんご心配だと思って」
うそうそ、冷やかし冷やかし ヾ(- -;)
さくら「心配なんかしてませんよ」
社長「あら?どうして?」
さくら「おにいちゃんが、恋をするの、
なにも今回がはじめてじゃないでしょ」
社長「いや、恋なんてそんな
なまやさしいもんじゃないね。悪いけど」
おばちゃん「じゃ、なんなのよ」
社長「だからさ……できてんだよ…」下品…(--;)
おばちゃん「恋するのと、できてんのと、どう違うのよ」
社長「そりゃあ…ずいぶん違うんじゃないか?」
こんなことを思ってる社長が言いふらす。
さくら「あのね、社長さん、お兄ちゃんとリリーさんが腕組んで歩いてただけで
そんなふうに言うのちょっとひどいんじゃない」
社長「オレが言うんじゃない。みんなが言ってるんだよ」
博、ごはん食べながら
博「そんなこと考える人は気持ちが卑しいんですよ」
おいちゃん「そうそう、卑しいぞおまえ」
おばちゃん「あんたんとことうちはね。親類付き合いしてんでしょ。
だったら、どうして寅ちゃんかばってくんないのよ」
社長「いや、オレ、かばってるよお~」うそ(^^;)
おいちゃん「うそつけ、おまえが言いふらしてんだろ」
タコ、源ちゃん、八百満…その他大勢が噂を一斉放射(^^;)
社長「そんなひどいよ!そんなことするわけないじゃないか。
みんなもっと酷いこと言ってんだぞ、悪いけど」
もっと酷いことを引合いにして、逃げるタコ(^^;)。
一同「・・・」
博「どんなこと言ってるんですか?」
社長「つまり…、んん…その…、え、んん、
怒っちゃいけないよ。オレが言ったんじゃないんだから」
おいちゃん「なんだよ」
社長「だからさ…ほんとに怒っちゃいけねえよ」
さくら、後ろで真剣に聞いている
おいちゃん「早く言えよ」
社長「寅さんはリリーさんの…
つまり…ヒモだって…」
おいちゃん、立ち上がって「この!タコ!」
社長「オレじゃないよ」
おいちゃん「なんてこと、おまえは!」
社長「みんなが言ってるんだって…、怒らないって
約束だったじゃないか。お、お休みなさい!」
と裏へ逃げていく。
一同、がっくり…
さくら、震えながら
さくら「ひどいこと言うわねぇ…」
おばちゃん「なんて…」
さくら「それじゃ、あんまりお兄ちゃん可哀想じゃない…」
と涙を流す。
おばちゃん、涙を潤ませながら立ち上がる。
満男、博に、後ろから抱きつく
博、店先の方を見て
博「あ、兄さんですよ」
寅が、ちょっと落ち込んで入ってくる
おばちゃん「おかえり」
さくら「おかえりなさい」何事もなかったかのように。
寅、ケーキの箱をさくらに渡して
寅「リリーが、みんなで食ってくれってよ」
さくら「あら…」
上がり口に腰を下ろし、
寅「はあぁー……」とため息をついて、下を向く。
さくら、寅をみて、何かあった、と感じる。
少し覗き込むしぐさ
博「どうかしたんですか兄さん?」
寅「うん…」とおいちゃん達のほうへ向きなおし
寅「今な…、リリーのことを送って、キャバレーの
楽屋口まで行ってきたんだよ」
博「ええ.。」
寅、頷いて
寅「驚いたよ博…」
博「どうしたんですか…」
寅「いやぁ…、ゴールデン歌麿なんて
いうからさ、オレはどんな立派な
店かと思ったんだよ」
凄い名前(^^;)
さくら「うん」
寅「なに…この店より、ちっちゃいんだからさ…」
さくら、少し驚き、ちょっと上を見ながら広さを想像している
寅「ホステスなんてもんじゃないよ!ババアァばっっかり!」
おばちゃん「まあ……」(^^;)
寅「ひどいな~…ァァァ」
と下を向く。
寅「リリーに、あんなとこで歌わせちゃいけないよ。
オらァ、なんんだかさ、可哀想で…。
しまいにゃ涙が出てきたよ」
渥美さんの背広の着方がこの時↑だけ変わる。腕を通している。
その後、また羽織るだけにもどる。
博「そうですかァ…そんなところで歌っているんですか…」
おいちゃん「苦労してるんだなあ…、あの人も…」
寅「あ~あ……。
オレにふんだんに銭があったらなあ…」
さくら「お金があったら…どうするの?」
寅「 リリーの夢をかなえてやるのよ 」
寅「たとえば、どっか、一流劇場」
さくら「うん」
寅「な!」
寅「歌舞伎座とか、 国際劇場とか、
そんなとこを一日中借り切ってよ、
寅「あいつに…、好きなだけ歌を
歌わしてやりてえのよ」
さくら「そんなにできたら、
リリーさん喜ぶだろうね!」
寅「んんん…!」
さくら、茶の間に座る。
寅「ベルが鳴る」
場内がスー…ッと暗くなるなぁ」
寅「皆様、たいへん長らくをば、
お待たせをばいたしました」
寅「ただ今より、歌姫、
リリー松岡ショウの開幕ではあります!」
寅「静かに緞帳が上がるよ… 」
さくら、嬉しそうに笑う。
寅、立ちあがり
寅「スポットライトがパーッ!と当たってね」
寅「そこへまっっちろけなドレスを着たリリーが
スッ・・と立ってる」
おばちゃんも上がり口に腰掛ける。
寅「ありゃあ、いい女だよォ~、え~」
寅「ありゃそれでなくたってほら容子がいいしさ」
おばちゃん「うん」
寅「目だってパチーッとしてるから、
派手るんですよ。ねぇ!」
おばちゃんたち頷きながら「うんうん、フフ…」
寅「客席はザワザワザワザワ
ザワザワザワザワってしてさ」
ザワザワザワザワ…
寅「綺麗ねえ…」
寅「いい女だなあ…」
さくら、おいちゃんたちと「フフフ…」と笑いあっている。
寅「あ!リリー!!」
寅「待ってました! (パン!)
日本一!」
寅「やがてリリーの歌がはじまる…」
寅「♪ひ~とぉ~りぃ、
さかぁばでぇ~~~……、
ひ~とぉ~りぃ さかぁばでぇ~~~
~……
♪のお~むぅ~
さぁ~けえ~はあ~~~…」
のお~~ むぅ
さあ~けぇ~
はあ~~~~~……
寅「ねぇぇ…」
ねええ…
寅「客席はシィー…ンと水を打ったようだよ」
寅「みんな聴き入ってるからなあ……」
……
寅「お客は泣いてますよぉ~…」
メインテーマがゆっくり入る。 ー クラリネット ー
寅「リリーの歌は悲しいもんねぇ……」
寅「……」
……
やがて歌が終わる…」
…
寅「花束!」
寅「テープ!」
寅「紙吹雪!」
寅「ワァ―ッッ!と割れるような拍手喝采だよ」
寅「あいつはきっと泣くな…」
…
寅「あの大きな目に、
涙がいっっぱい溜まってよ…」
…
寅「……」
…
…
寅、堪えきれず後ろを向き…そして座る。
寅「いくら気の強いあいつだって、
きっと泣くよ…」
ハンカチを取り出して…
おばちゃん、前掛けで目を押さえて泣いている。
寅「ハハ……、なんだか話がしめっぽく
なっちゃったな、おい」
博「いや、とてもいい話でしたよ」
おいちゃん「あ~あ、よかったァ~」
さくら、下を向いて
さくら「……」
寅「そうかい?」
おばちゃん「ほんと、泣けちゃったよぉ~」
寅「夢のような話だよな…」
寅「さ、…今夜はこの辺でお開きってことにするか」
立ち上がって
寅「お休み」
口々に「お休み」
さくら「おやすみなさい」
寅、階段上りかけて
寅「あ、その、リリーのケーキよ。
みんなで食べてやってくんねえか…。な」
と上がっていく。
さくら「リリーさんに聞かせて
あげたかったなあ~…、今の話」
おばちゃん「ねえ…」
おいちゃんも鼻水をすすっている。
おいちゃん、ゆっくりお茶を飲む。
さくら、リリーのケーキのヒモを解き始める。
柱時計が時を打つ
その昔、世阿弥が『風姿花伝』の序で
「ことば卑しからずして、すがた幽玄ならん」と
いうことを芸の達人としていたが、
『真(まこと)の花は、咲く道理も、散る道理も、
人のままなるべし。』とは渥美さんそのものだなと思った。
「花を知る」「秘すれば花」を体得した稀有の役者だと思う。
見事な抑揚。口跡の良さ。
そしてそれらを遥かに凌駕する
渥美さんのその姿。有り方。
何事も大切なのは姿なのだろう。
姿はその人そのものをあらわす。
渥美さんが何に感動し、何を憎んできたか。
何をしようとし、何をしようとしなかったか。
彼の生きざまが全てなのだと、今更ながらに
人間関係の葛藤をも含めたその傷だらけの
壮絶な役者人生を思い、戦慄さえ覚えた。
あれだけの姿。
ただで済むわけはないのだ。
今から、何十年後になるだろうか…。
恐ろしいほど地味で控えめなこのシリーズの、
真の価値が世界中の人たちによって認められ、
そしてなによりも渇望される時が来るかもしれない。
そして、その時、渥美さんの一世一代のこのアリアを聴き、
人々は、人が人を想う柔らかな気持ちをもう一度知る。
また一から歩み始めることはできるのだと。
それは、映画の勝利。物語の勝利。
そんな日がほんとうに来るのではないかと、
このアリアを見ながら思っていた。
人が人を想う。 ただほんとうにそれだけ。
それだけのことがこの世界の全てなのだろう。
他には何ひとつ大事なものはない。
そんなことに気づかせてくれるアリアだった。
かつて、このアリアによって私の人生は変わった。
人の人生を丸ごと変えてしまう力をこのアリアは持っていた。
あとにもさきにも、東にも西にも、こんな切ないアリアは
世界のどこにもない。
題経寺 山門付近 寺から太鼓の音
謙次郎の姿がある。
柴又までメロンを持って会いに来たのだ。
境内で子供たちのチャンバラの掛け声「ヤイヤイヤイヤーィ…」
源ちゃんが頬被りをして子供たちから逃げまくっている。
寅も子供たちを追いかけて相手をしている。
寅「トォー!曲者!待てェ~」
と縄を投げつけ、走っていく。
この縄の投げ方が上手いんだなこれが(^^)
源ちゃんハタキを相手に子供を切ろうとする。
源ちゃん「オラオラオラオラ!」
源ちゃんついに寅に切られる
源ちゃん「ウワー!」
子供たちが寅へ立ち向かう「ヤーヤーヤー!」
寅メッタ切りにする「ザバッザバッザバップシュッ!チキショウ!」
着物姿のおばさんは誰?変に目立ってる(^^;)
皆倒れる。
寅「ファ!デエェェ~ィ!」と仁王立ちして見得を切る。
よ!大統領!日本一!後家殺し!って感じ(^^)
帝釈様の境内で寅や源ちゃんにかまってもらえて子供たちは幸せそう(^^)
こんな寅のような人が許される優しい気配のする街に私も住んでみたい。
テエェーィ!
寅気が付いて「パパー!」と駆け寄っていく。
謙次郎「寅さん」
寅「来たか!」
謙次郎「ハイ!」
寅「ハハハハうんうん」
謙次郎も寅も大喜び
あの北海道の日々が蘇るね ( ̄ー ̄)
とらや 茶の間
さくらと謙次郎が挨拶をしている。
謙次郎「はじめてお目にかかります…あたくし兵頭謙次郎と申します」と名刺を渡す。
さくら、恐縮して頭を下げている。
謙次郎「お噂はかねがねお兄様から伺っております」
寅「いや」と手を振る。
さくら「あ、どうも」と頭を下げる。
謙次郎「あ、このたびはお兄様にすっかりお世話になりまして」
寅「いいえ」
謙次郎「なんともお礼の申しようがございません」
さくら「いいえ、あのご無事で何よりでした」
謙次郎「は、恐れ入ります。先日はまた、家内がお邪魔いたしまして
なにかとご迷惑をおかけいたしました」
と頭を下げ合う。
さくら「は、いいえ」
謙次郎「ぶしつけな女でございますから何かとお気に
触ったんではないかと存じますけども…」
寅「うん、うん分かった分かったおい、パパ、パパ」
謙次郎「はい」
寅「それじゃ何時までたっても終わらないよ。
え?だらだらと。ほれ座れ座れ」
さくら「どうぞ」
謙次郎「それじゃ失礼致しまして」
おばちゃん茶を出す「どうぞ」
寅「どうぞ、どうぞ、どうぞ、どうぞ」
おばちゃん「先ほどは結構なものを」
寅「ハハハ」
謙次郎「いいえ、つまらないもので」
おばちゃん「メロン頂いちゃったんだよ」(*◎∇◎*)
おばちゃんの、『メロン』と言う時の顔。ただものじゃない気配。
よほど貴重なんだろうな、とらやでは(^^;)
殺気すら感じるおばちゃんのメロンへのあくなき執着。
この心が後に問題を起こすことになろうとは…。
メロンに対して強い執着が垣間見られるおばちゃんの表情
さくら「あらぁ…」さくらも恐縮
謙次郎「近頃はメロンも味が落ちましてねえ」
寅「何が味が落ちましてだおい。忘れたのか」
さくらハンカチを額にあて聞いている。
寅「銭がなくてよ、駅の売店でお天道様がずーっと当たってカチカチ
になったようなアンパンうまいうまいって食ったじゃねえか」
謙次郎「あああのアンパン」
寅「うん」
謙次郎「あれは美味しゅうございましたねえ」
寅「なーに言ってやんだい二個も三個もかあ?」
ああいう状況の食べ物ってなんでも美味いよね。
謙次郎「ああ、そうでした食べました食べました。」
寅「あ!そうそうパジャマパジャマ」
謙次郎「ああ!あの時の」
寅「パジャマでしょ!エヘへへ!」
さくら「どうしたのよ」
寅「いや、こいつとね」
さくら「うん」
寅「リリーと3人でさ宿銭がなくなっちゃったんで
駅のベンチで寝ようってことになってさ
あたし洋服のまま寝るのはやだって一人だけ
パジャマに着替えてベンチに寝てんだよこの人」
さくら「アハハ」
寅「おかしな人だよ全く」
寅「あ!万年ペン万年ペン!」
謙次郎「そう!札幌で」
寅「うんやったねえ万年筆工場が潰れました。
この人は失業者ね!買ってください。
これが偽もんだと思えないんでドンピシャリ!
万年筆が飛ぶように売れるんだから」
謙次郎「寅さんがサクラになって」
さくら「ヤダワァ」
寅「リリーがね、オレの女房みたいに
ここにぴったりくっ付いてさね、あなた、
この万年筆坊やに買いましょうか。
うまくいったなあ!え?アハハハハ!
またやろうまたやろう!え?」
謙次郎「楽しかったですねえ」
寅「今度は何売るか!アハハ…」
謙次郎下を向いて、さめざめ.。。
沈黙が流れる
おいちゃん、やってきて「なんだか楽しそうなお話ですなあ、アハハ…?」
さくら、ウルウルしている謙次郎に気づいて、おいちゃんの袖をつかむ。
寅「…?なんだい?どうしたの?」
謙次郎「ハハ、どうも失礼しました。
僕はね、近頃、寅さん。あなたが羨ましくてねえ…。
家じゃ家族の者がみんな白い目で見ますし、
会社へ行けば役職を取られてすることは有りませんし、
全くなんのために生きてんだかこれから先どんな楽しみが
あるんだか。一体僕の人生は何なのか、
そんなことを考えますとね寅さん、
僕はあなたが羨ましくてね」
パパ、会社に関しては身から出た錆だよ。これは
自由を愛したら、こういう羽目になる(^^;)
寅「分かる分かる分かる分かるパパの気持ちよーくは
分かるけどもさ、あのーそっちとオレとをほら立場を
とっかえるってわけにはいかないんだから辛抱しろよ。
よく言うじゃないの。あのー上を見たらキリがない。
ね、おばちゃん」
謙次郎の人生と寅の人生のいいとこ取りは
できないのだと思う。寅のことが羨ましいのなら寅が
背負っているリスクを同じように謙次郎も背負わなくては
ならないのだ。
おばちゃん「うんそうね」
寅「うん」
謙次郎「分かってます」
「僕も定年まであと7年ですから。
そうなったら寅さんのように、
思いっきり僕も旅に出ます」
おばちゃん「まあ…、そりゃようございますねえー」
おいちゃん「定年のある方は羨ましいですよ…。なあ、寅」
ほんとほんと(^^;)
寅「うんん!そうだよ。そうなんだよ。
オレ、定年なんてないもんね。
そっちどこで手に入れたんだ?え?
あ、あれは区役所行くのか?」
さくら「ばかね!もう、お兄ちゃん」
おいちゃん「なんにも分かっちゃいないんだ、こいつは」
おばちゃん「ああいうものはね、手に入れるもんじゃないの」
寅「じゃ、口に入れるんですか」くだらねえ~(--;)
おばちゃん「違うよ!」
さくらたち「フフフ」
寅「鼻に入れるんですか」悪乗り(ー -;)
おばちゃん、お茶のカン振り上げて
おばちゃん「もう!」
時々、こうしておばちゃんをからかっては喜ぶ寅でした。(^^)
お茶のカンを振り上げて「もう!」
さくらたち、大笑い。
さくら、笑いながら「もう、はずかしい」
謙次郎「みなさん、」
寅「え?」
謙次郎「面白い方がたですね」と笑う
寅「そうそうそう」
おばちゃん、照れ笑い。
寅「常識はずれだから、みんな」
さくら「何言ってんのよ、ねえ」
みんな笑い
店先で
客「ごめんください…」
寅「はいはいはい!お客さんお客さんオラオラ!お店お店お店」
おいちゃん立ち上がろうとして
さくらの頭に頭ごっつんこ!
倍賞さんに体を張ったギャグまでさせてベタな笑いの
追い討ちをかけさせる山田演出!いいねえ!
ゴツ!
さくら目をつぶって「いたいなもう…」痛たそー(TT)
寅「何やってんだよ」
間髪を入れずに突っ込む寅。
渥美さんのキビキビしたセンスが光っていた。
おばちゃん「まあ、ほんとに…ハハハ」
謙次郎もみんなも大笑い
謙次郎は自分のわがままで、しでかした蒸発劇の
結果を受け入れなくてはいけないことは頭では
分かっていても、気を許している寅にはつい愚痴をこぼして
甘えてしまうのだ。心優しき甘えん坊。船越さんの当たり役だ。
夕暮れの江戸川土手
寅とさくら、が謙次郎を見送っている。団子のお土産
謙次郎「どうぞもう、このへんで。ほんとにどうもいろいろありがとうございました」
さくら「いいえまたどうぞお出かけください」
謙次郎「はい」
寅「今度よ、かみさんと一緒に来いよ、な」
謙次郎「はい」
謙次郎「あの~さくらさんちょっと…」
謙次郎、さくらの耳元で
謙次郎「寅さんとリリーさん、いつ結婚なさるんですか」
さくら「え!?」
寅、耳ダンボで聞いていて
寅「おい馬鹿なこと言うなよおまえ、シラケルなあまったく」
謙次郎「いいえあの式のときはぜひ僕を呼んで頂きたく思いまして」
寅「分かった分かった分かった」照れながらも実に嬉しそう
謙次郎「何があっても駆けつけますから」
寅「ん、うん、帰れ帰れ帰れ」
謙次郎「さくらさん、お願いしますね」
さくら「あ、はい」
寅「帰れ帰れ、ヒッヒッヒッ」
謙次郎「じゃ、これで失礼します」
寅「うんうん、ヒッヒッヒッヒッヒッヒッ」
さくら、寅を見ている。
さくら「失礼します」
謙次郎「本当に、呼んでくださいね」と土手を歩いていく。
さくら「はい」
寅「うんうんうんヒッヒッヒッあばよ」
寅「まったく素人は付き合いきれねえよなハハハ…ヒッヒッ」
謙次郎「さよなら~」
寅「うーん」
寅「おい、いこいこ、いこ。おい」
さくら、お辞儀をしている。
新小岩付近の商店街 …新小岩一丁目 24
リリーが自動販売機でタバコを買っている。
八百屋でスイカを出している『高級 すいか』
ほぼ位置はわかってはいたが、確実に抑えてはいなかったのを
2017年6月に寅友の【寅福さん】がピンポイントで詰めてくださった。
左隣のアパートが今も残る大きな物証。
青色はリリーが買っていた「伊藤タバコ店」
黄色がリリーの友人のアパート(四角いマンション)。
私が2014年初登頂した場所。
黄緑は左隣のアパート。
水色は正面に見えているアパート。二階への階段も2017年の今も残る。
1978年ゼンリン住宅地図
友人のアパート
オレンジの傘が干してある。
リリー、ドアを開ける
リリー「ただいま」
部屋に男がいる
女友達「おかえり」
リリー「来たの?」
女友達「うん電話でもしてくれりゃいいのにさ…」
リリー「あたしすぐ出かけるから」
女友達「わるいね」
リリー、首を振る。
女友達「今夜、行くとこあるの?」
リリー「大丈夫よ」
雪印牛乳 SNOW MILK 500mlパック
リリー、男に「こんにちは、」
さくらのアパート
さくら、家計簿をそろばんを使ってつけている。
博、満男と寝る準備。パジャマを着させている。
電話 リーン
さくら「はい、諏訪です
まあ、リリーさん!こんばんは。……なに?」
博も意外な顔で『どうしたんだろう』とさくらを見る。
さくら「どうしたの?遠慮なく言ってよ。なにか困ったことでも?
…そう…、ん、それじゃ家にこない?ねえ、いらっしゃいよ。
たまには家だって…もちろん狭いけど…、でもいいでしょ。」
さくら懇願するように「ねえ、そうして。」
さくら「これから、バスに乗るの?あのね、
それじゃ、柴又3丁目で降りて。
私迎えに行くから。いいのよ。大歓迎よ。
ほんとよ。それじゃ、あとでね」
博「リリーさん、どうしたんだ?」
さくら「あのね。今夜泊まるところがないんだって、可哀想に」
博「友達と喧嘩でもしたのか?」
さくら「詳しいこと何も言わないの。
よっぽど気兼ねして電話したに違いないわ。
私迎えに行ってくる今から」
博「うん」
さくら「博さんお酒あったかしら」心配りが細かいね。
博「ああ」
博、「お客さんだって。ほらはい寝よ、ほら」と満男をうながす。
短い電話の中で、すぐに自分のアパートに、
来ることを勧めるさくら。
なんの迷いもなく、博への相談もなく「ねえ、そうして」と
まるで、懇願するようにリリーに話しかけるさくら。
リリーに対する厚い友情の念が表現されていると共に、
相談する必要もないくらい信頼感で結ばれている
博とさくらの絆もさりげなく表現されていた。
このさくらの短いセリフ「ねえ、そうして」は心に染み通った。
柴又3丁目 バス停
『柴又郵便局前』の道向こうで待つさくら。
京成電鉄のバスが来る ブゥ~…ドッドドド…
バス 金町駅 ワンマン ナンバー 10-00 バスナンバー 8110 一般乗含
さくら「よく来てくれたわねー」とリリーのかばんを持ってやる。
リリー「ごめんねー」
さくら「こっちよ」
酔っ払いA「ごくろ!!」
酔っ払いB「うおっとっとっ」
バスドアが閉まる プシューッガタン! ブッ ブゥ~…
広告 『免許証お持ちですか 公認京成自動車学校 さあ青だ いやもう一度右左』
リリー「迷惑じゃなかった?」
さくら「そんなことないって。その代わり雑魚寝よ」
寅が第26作で言ってた。『潜水艦みたいなアパート』だって(^^;)
酔っ払いA「ネーッちゃん!えへっ!つきあってチョーダイヨ!」と後ろからからんでくる。
さくら、気にする。
リリー「ほっときなさい。バスの中でしつこいったらありゃしない」
酔っ払いB「オメー錦糸町のハーレムで歌ってたろ」
凄い名前やな(^^;)『ゴールデン歌麿』といい勝負。
酔っ払いA「そー、下手な歌だ」
酔っ払いB「おい、よーお二人さんよ~、いいじゃねえか」
と、なんとさくらに抱きついてくる。Σ(|||▽|||
)
さくら、ビックリ仰天プラス恐怖心で目を見開く。
リリー、体当たりで男とさくらを引き離して
リリー「なにすんのよぉ!バシッ!!」
(*▼▼)=◯)`ν°)
強烈なビンタ一発で、男はのけぞってしまい、呆然としている。
さすがというか、凄いというか…、やっぱりリリーは修羅場をくぐってるなあ…
足早に、男たちから離れていく二人。
男たちもそれ以上は追ってこない様子。
路地を曲がって
リリー「嫌だったでしょう」
さくら「あービックリした」
リリー「ごめんね」
さくら「い…ハハ…」と首を振る。
リリー「フフ」
さくら、ようやく平常心に戻り、リリーと笑いあう。
さくらはほんとうに優しい。フーテンの兄を持つさくらにとって
リリーの辛さや孤独は痛いほど分かるのだろう。
また、彼女自身も幼少期から両親兄弟に死なれ苦労してきたので
人の悲しみや寂しさが分かるのだろう。
このあと、リリーとさくらは雑魚寝をしながら夜のほんのひと時、
どんなひそひそ話をしたのだろうか…。
さくらが博をいつごろ好きになっていったかなんて、リリーは聞きそうだなあ。
さくらは、照れながらリリーに誰にも言っていないほんとうのことを
洩らしたりしたのかもしれない。
そして、リリーは自分のちょっとした青春の思い出なんかも話したかもしれない。
中学生の頃から家出をして放浪を続けてきたりリーの寂しい心を、
寅にさえ言えない部分を、女性どうしならではの気持ちでさくらは聞いて
あげたのでは…。さくらの目にちょっと涙が浮かんで…。そしてリリーの目にも…。
二人の友情が大きく深まった夜だったような気がしている。
翌日 帝釈天参道
柴又 高木屋 老舗が映る。
柴又名物 草だんご
その隣に大和屋。その向こうにとらや。
とらや 台所
おばちゃんがメロンを冷蔵庫から出している。
冷蔵庫の中に卵約15個
おばちゃん「うーん!い~い匂い」
さくら「あら!メロン切るの?」
おばちゃん「うん、リリーさん来たからちょうどいいだろ」
さくら「うわーっ、何年ぶりかしら」
と匂いをかぐ。そんなに嬉しいのか(^^;)
おばちゃん「何言ってるのよ去年私が病気した時もらったじゃないの」
そうだったんだ~。おばちゃん、メロン貰うような病気したんだ。
知らなかった。第13作にも、第14作にも、
その気配が何も出てこないので、去年、病気したとしたら、
寅が初夏に絹代さんのことで帰ってくるちょっと前か、
晩秋に博が手を工場の機械に巻き込まれるちょっと前あたりに
寝込むような病気したんだね。たぶん。
映画ではとて~も元気そうだったから、全然気づかなかったよ(^^;)
さくら「あ、そっか、フフ」
おばちゃん「フフ」
客「すいません」
さくら「はい」
客「お勘定お願いします」
高級マスクメロン参考資料(2005年度)
高知産 |
1玉 |
特 選 |
10,000円 |
秀 品 |
5,000円 |
優 品 | 3,000円 |
良 品 | 2,000円 |
全国的に有名な静岡産 最高級
マスクメロンクラウン印 1玉6,825円 (税込)
送料込 クラウン印 1玉約1.3kg
マスクメロンの名の由来は、ムスク=香る、だということ。
網目の模様(ネット)のマスクをかぶったメロンだからではないらしい。
知らなかった…。
だから本来は「香り」も楽しむものらしい。
その香りを出す「アールスヘリボリット種」は、一定の温度・湿度にした温室の中で
1本に1個のマスクメロンを作るため全栄養が注れる。
最近のお客の志向は、果肉が甘い事に力点が置かれているので、
マスクメロンに比べ値段が圧倒的に安く、香りが弱く、しかし、思いっきり甘い
ハネージュメロンなどが大量に出回っている。
しかし、それはそれでみんなが食べれるメロンができたということで喜ばしくはある。
形をマスクメロンに似せた改良品種もあるらしく、いろいろなバリエーションが楽しめるように
なってきたらしい。
超高級品としては、静岡県袋井市と磐田市で作られるマスクメロンが有名で、
最高等級の富士8.5Kで2万円近くするらしい。ほよ~。誰が買うねん(^^;)
ちなみに、ここバリ島では、マスクメロンは高級果物でもなんでもなく、1玉(中)でなんと約120円程度!
もちろん最高級マスクメロンであるはずはなく、日本でいう、せいぜい一番下っ端の並のマスクメロンなのだが、
それでもまあ、結構美味い。香りは日本の高級マスクメロンの方がダントツあるかな。
謙次郎が持ってきたマスクメロンは、箱のあり方や大きさからして今の値段でいうと、
1玉4000円~5000円クラスのものと思われる。
↑いや、しかし高いね(^^;)
小津安二郎監督の「麦秋」に出てくる、
とてつもなく高いあの『ショートケーキ』を思い出した。
おばちゃん「えーっと何人だったけな」
おばちゃん「わたしと」やっぱ自分を最初に数えるか(- ー)
おばちゃん「さくらちゃんと博さんとリリーさんと」
満男「ボク!」満男!偉いぞ!よく言った。
ここははっきり言わなければいけない!修羅場だ!
おいちゃん、自分を指差して無言の要請。
おばちゃん「たべんの?」「たべんの」はないだろおばちゃん┐(-。ー;)┌
いやー、自分が食べるのに夫が食べない可能性が
あると思いたいおばちゃん!
おいちゃん「うん!」強い自己主張
おばちゃん「6等分だね。ちょうどいいわ」偶数だと切りやすい。
ここでおばちゃん、『ちょうどいいわ』の一言で
思考停止。
数えるのを〆切った!!弱肉強食!
おいちゃん「おいおいおい!」
おばちゃん「ええ?」
おいちゃん「喧嘩しないように公平に切れよ」
おいちゃんも『公平』に切れと
言っただけで寅の事は忘れている。
おばちゃん「それが難しいんだよ」
おばちゃん、分かるよその気持ち(^^;)
リリーが裏の工場から戻ってくる
リリー「それじゃ博さん部長さんってとこ?フフフフ」
博「ハハハ」
おばちゃん「フフフ」
リリー「あっらあ凄い。メロン」
おばちゃん「兵頭さんからいただいたんです」
リリー「さすがパパ」
博「さ、どうぞ」
と、リリーを、茶の間に上がらせる。
おいちゃん「工場見てきたんですか」
リリー「ええ」
おいちゃん「小さくてビックリしたでしょう」
リリー「そんなことないわ、あたしの父さんの働いてた
工場なんてもっともっと小さかったのよ」
おいちゃん「ほお~」
さくら「おいちゃんリリーさんのお父さんもね、印刷工だったんだって」
博「それにしても活字や機械の事に詳しいんですね」
リリー、満男のお絵かき一緒になって手伝ってあげながら、
リリー「お昼に父さんの弁当持って行ってね、
よく工場で遊んでたんだ。
鉛って体に悪いでしょう。
だから活字を触ると…父さん怒ってねえェ」
博「お父さん文選だったんですか?」
リリー「植字も印刷もなにもかもやってたわよ。
何しろちっちゃい工場だからつめの先博さんみたいに黒くなって」
と指で博の手を指す。
博「ハ…」
リリー「だから博さんに会ったときすぐに分かった。
あっ、この人は、印刷工場で働いてるなって」
おいちゃん、感心している。
博「まいったなあ。もっと良く洗えば落ちるんですけどねえ」
おいちゃん「そうですか~じゃリリーさんのお父さんは
博さんの先輩ってわけですね」
リリー、ずっとクレヨンを塗ってあげている。
リリー「フフ…」
哀しい幼少期と青春期を持つリリーにも
しばしの間、安定した日々はあったんだね。
母親運には恵まれなかったが、
父親と二人で暮らしているその生活の中に
幼き日の松岡清子ちゃんの安らぎの時は
確かにあったのだと、そう思えるエピソードだった。
リリーのあの優しさの原点のようなものを垣間見た
気がしてなんだか少し幸せな気分になれた。
メロンさま登場~
さくら「ハイッ!お待ちどうさま」キター!
おいちゃん「あ!来た来た、んーハハハ」
さくら「はい」
おいちゃん「どうぞ」
リリー「ワアいい匂い」メロンは匂いが命
おばちゃん「はいどうぞ」
おいちゃん「はい、満男」
さくら「ちょうど食べごろね」
博「なんだか俺のちっちゃいんじゃなかぁ~」
おっと、博、先制攻撃(^^;)
一同「ハハハ」
おばちゃん、『またそんなこと言って~』的ポーズ。
おいちゃん「はー喧嘩なしだ」
おいちゃん「さ、どうぞ」
一同「いただきまーす」
満男がすでに食べ始めている。
次に博、リリー、おばちゃん、おいちゃん、と口に入れていく。
リリー「う~ん美味しい~フフフ」
博「は~ウマイ」
さくら「そ?」と微笑みながら、自分も一口食べる。
これで全員口をつけました。
博、間髪をいれず、2口目、3口目
博は、相当好きなんだなあ。(^^)
店先で寅がいる。
寅「相変わらずバカか?」と参道で与太話。
男「ああ、寅さんどうだい、商売の方」
おばちゃん、寅に気づいて、真っ青。
おばちゃん「あらいけない!
寅ちゃんの分忘れちゃった!」
||||||||||||||(* ̄ロ ̄)ガーン||||||||||||||||
さくら「…!!」
さくら「勘定に入れなかったの?」と超真面目顔
おばちゃん「うっかりしちゃって…どうしよう…」
さくら「どうしようって…」
おいちゃんも博も慌てている。
リリー、全くの平常心(^^;)さすがだね。
こういう時のとりあえずの解決方法はあるにはある。
まず、メロンを台所へすぐ持っていき、メロンを半分に
それぞれ切って、小さいサイズで一人2個食べたことにする。
寅の部分はさくらか誰かのメロンの口をつけていない部分
を切って作る!寅に対して全く悪気はないのだし、
清潔感は保たれるのだからこれで良し!
どの家庭でも実によくある修正法。
しかしこの場合、寅は店までもう来てしまっているので
その時間は当然ながらない。
博「隠しましょう」間違った方へ行ってるぞ博(^^;)
おいちゃん「どこへ~?」ほんとだよ(^^;)
博曰くテーブルの下…
寅が、台所の土間に入ってくる。
さくら「あ!ああ…お、お帰りなさい。あ…」
と、メロンの言い訳をしようとするが…。
寅「おい、リリー」
リリー「こんちは」
寅「ゆうべさくらん所に泊まったんだって?
なんでこっち来ねえんだよ」
リリー「遠慮したのよ。あんまりしょっちゅうだからさ」
寅「なんだよ~、水くさいこと言うなよ。
あんな狭い所じゃ寝られなかったろう」
確かに、潜水艦だもんなあ(^^;)
さくらとおばちゃん、真顔でメロンのことで
ひそひそ打ち合わせ。
リリー「そんなことないわよ」
寅、博の隣のいつもの場所まで歩いて座って
寅「いつも言ってるじゃねえかさー、
ここを自分のうちと思って来いってさ!えー」
リリー「どうもありがとう」
寅「う~んま、そりゃいいや、な!
メロン美味しいかい?」わっ(><;)
さくら「ウン」
寅「よし、じゃ、お兄ちゃんも一つもらおうか。
じゃ、出してくれオレのナッ」キター!
さくら「あ、お兄ちゃん。これ一口しか食べてないから」
あ~、この解決方法じゃ、寅が傷つくよ、さくら(_ _;)
おばちゃん「あの、あたしのを…」食べかけ(^^;)戦線離脱!台所へ
博「あ、僕のをどうぞ」食べかけ(^^;)
おいちゃん「これ食べろよな、」食べかけ(^^;)
ぞくぞくと寅の前へ食べかけメロン
が差し出される。
寅「……」
さくら、下を向いて「……」
寅、さくらの方へちょっと座りなおして
寅「わけを聞こうじゃねえかよ」
寅「どうしてみんなのツバキの付いた
汚ねえ食いカスを、オレが食わなくちゃ
ならねえんだい?」
さくら「…」
寅「オレのはどうしたの…、オレのオ!?」
声がわなわな震えている(^^;)
さくら「あ、あたしが悪かったの。お兄ちゃんのこと勘定に
入れるの忘れちゃったの」
おばちゃん「違うよ!あのね、あたしが悪かったんだよ」
おいちゃん「俺も気が付かなかったんだよ」
リリー、向こうへ行って満男にメロンを食べさせてあげる
おばちゃん「ごめんよ」
博「僕もうっかりして…」と最後に言う
一見、おばちゃんのミス。しかし誰も寅の分、
残してあるかと訊ねなかったので、似たり寄ったり(^^;)
寅「いいんだよ…いいんだよ。どうせ俺はね…。
この家じゃ勘定にゃ入れてもらえねえ人間だからな」
さくら「そんなこと言ってないじゃない…」
寅「しかしなこのメロンは誰のとこへ
来たもんだと思うんだ!?
旅先では一方ならないお世話になりましたと、
あのパパがオレのところへよこしたメロンなんだぞ」
さくら頷きながら「そうよ…」
寅「本来ならばこのオレがだ、
『さ、みんなそろそろ食べごろだろう、
美味しくいただこうじゃないか』
『あら寅ちゃん、すまないわねえ、
あたし達もご相伴に
あずかっていいの?』おばちゃんの口真似
『もちろんだとも~』
『すいませんねえ兄さん、
それじゃ頂きます』博の口真似
『すみまさんねえ兄さん…』
寅「そうやって皆がオレに感謝をして
いただくもんなんだろう。
それをなんだいオレに断りもなしに
寅「あいつのいないうちにみんなで
食っちゃお食っちゃお食っちゃお。
どおせ、あいつなんかメロンの味なんか
わかりゃしないんだ。
ナスのふたつもあてがっときゃいい。
そうしようそうしよう。ナスって…(^^;)
寅「みんなでもって食おうとした時に
オレがパタパタって帰ってきたんで
てめえら大慌てに慌てたろ!
なんだおまえ、テメエ皿この下に隠したな、
今出したろ!そっから!」
博「い、いや…、あれは、あれはですね…」
寅「あれは、なんなんだい!」
さくら「お兄ちゃん、いい加減にしてよ…。
勘定に入れなかったことは
謝るから、ね。ごめんなさい。」
寅、正座して、(^^;)
寅「さくら、いいか、
オレはたったひとりのお前の兄ちゃんだぞ。
寅「その兄ちゃんを勘定に入れなかった、
ごめんなさいで済むと思ってんのか。
おまえ、そんなに心の冷たい女か!」
さくら「何よ、メロン一切れくらいのことで…
みっともないわねもう」
寅「何を!?」
おいちゃん、バン!とお膳を叩いて
おいちゃん「つね!メロンいくらだ」切れました(^^;)
リリー、おいちゃんの方を見る。
寅「おまえ、オレの言ってんのはな、」
と、さくらの手をはじく。
さくら、少し、たじたじ。
満男、自分の分、平気な顔でどんどん食べている(^^)
子供は得だねェ~。
おいちゃん、お札を手で持って
おいちゃん「寅、おまえ、そんなにメロンが
食いたかったらな、
一切れとはいわねえ、
これで買ってきてェ、頭から
ガリガリガリガリまるごとか、かじれ!」リスか(^^;)
と寅に向かってお札をばら撒く。
ひろしとさくらお札を片付ける
寅「バカヤロ!俺の言ってるのは
メロン一切れのこと
言ってるんじゃないんだよ!
この家の人間の心のあり方に
ついてオレは言るんだ!」
おいちゃん「なあにを!一人前なこと
言いやがって、おまえ!」
と雑誌を寅に投げる。
さくら「おいちゃん、お客さんもいるのに…」
寅「うあー!チキショウ!」
さくら「お兄ちゃん、やめて」
博「兄さんやめてくださいよ」と寅の体をつかんで止める。
寅「よおし!!」
おばちゃん「んもう~~~!!!メロンなんか
貰うんじゃなかったよ~!!うえええん、
うえええええん」
とチャルメラ泣き。(^^;)
チャルメラ泣きに関しては第28作「紙風船」を見てください(^^)
一同動きが止まる
博「何だか情けないなあ…」
寅、睨んで
寅「養子は黙ってろ!」養子じゃないんですけど…(^^;)
満男平気な顔
リリー「寅さん、あんたちょっと大人気ないわよ…」
寅「ほー、なんだ身内ばっかりかと思ったら、
ひとりお他人様がいたんだな」
リリー「なにいってんだい、さっきこの家は
自分のうちだと思えって、そう言っただろ」
上手い!さすがリリー!(^^)
寅「おまえ、いったい何が言いたいんだよ」
リリー「言ってもいいのかい?」
寅「言ってみりゃいいじゃないか…」
すでにたじたじ(^^;)
リリー「じゃあ、言うけどねえ、
冗談じゃないってんだよ、
オレのことを勘定に入れなかったの、
心が冷てえだの、そんな文句を
言える筋合いかい?
ろくでなしのあんたをこんなに
大事にしてくれる家が
どこにあるかってんだ、
私、羨ましくて涙が出ちゃうよ。
ほんとほんと(- ー)
本来ならね、いつもご心配
おかけしております、
(おいちゃん、つい「いえ…」と頭を下げる)
どうぞメロンをお召し上がりください、
私は要りませんから、
私の分もどうぞと、
こういうのがほんとだろ!
甘ったれるのもいい加減に
しやがれってんだ!」
決まった~~~~!!。一本!それまで!!(^^)/
一同「…」
寅「…!かあ~~…、憎たらしい口ききやがって…
これでも女でしょうか!?」
と博の肩をつかむ。
リリー「男でなくて悪かったね」
いいねえ!さすが!
寅「たいしたもんだよ!」と博の肩を突き放す。
博、前につんのめる。
寅「なんだい!テメエのツラなんか
二度と見たかねえや!」
さくら寅を止めようとする
寅「いいよ、オレはこれからね、
うんと楽しいところ行って、美味しい酒飲んで
パーっと遊んでやるから、…バカヤロウ!!」
と土間に下りる。
さくら「お兄ちゃん…」
寅「メロンなんか食いたかないよォ~!
てやんでい」子供か(^^;)
でも、寅、ちょっと可哀想かな…
と走って出て行ってしまう。
リリー「みなさんごめんなさい…。
私、つい頭に血がのぼっちゃって…」
さくら「あ、いいのよ。たまにはあれくらいのこと
言ってやらなくっちゃ。ね、おいちゃん」
おいちゃん「ほんとのこと言うとね、
わたしゃスーーッとしたんですよォ」
出た!本音!(^^)
さくらおいちゃんを見る。
おばちゃん、すっかり泣き止んで
おばちゃん「あたしも」
便乗で、また出た!本音!
さくら、おばちゃんの方を振り返る。
博「僕も気持ちよかったなあ…。
い、一度あ、ああいうことを
言ってやりたかった」
博は特にそうだろうなあ…うんうん( ̄  ̄)
と照れて満男の頭をなでる。
さくらたち、ホッとしながら笑いあう
おいちゃんも笑いながら、さくらの肩を叩く。
リリー、ホッとした顔で
リリー「ほんとォ?」
ちょっと、考え込んで
リリー「でも寅さん大丈夫かしらどこいっちゃったんだろ…」
さくら「大丈夫よ。そのうち帰ってくるでしょ」犬か…(^^;)
おばちゃん、確信めいた微笑で
おばちゃん「カバンがありますから」
ツボを押さえて、しっかりチェックしている
とらやの面々。さすが。
寅のことを分かってるんだね。
リリー、カバンの方を見る。
ちょっと安心。
さくら「さ!メロン食べましょ」
さくらさすが!強い!号令一番仕切りなおし。
寅のこともなんのその。食べる気満々(^^)
一同、リリーの啖呵に救われ、落ち着きと、
なによりも食欲が戻ってきたようだ(^^;)
「さ!メロン食べましょ」さくらの号令が発せられてまた再開
一同ニコニコ
さくら「あ、これ、おいちゃんのよ」さすがに…(^^;)
おいちゃん「え?」
博「ケンカなし、ケンカなし」
おいちゃん「なあに、ハハハ」
リリー、自分の分を満男にやる。
満男2個目だぞ~!
博「あ、どうもすいません」
さくら「ちょっと、自分のあげなさいよ」
博、間髪をいれず「自分のやれよ」博の飽くなきメロンへの執念!
さくら、笑って「あ、」と満男の前に自分のメロンを置く。
あ。。
博はガツガツ食ってどうしてさくらだけ…(TT)
博、それは超ワガママやぞ~
(ノ▼皿▼)ノ ~┻━┻ (/o\) オトーサンヤメテー!!
リリー「いいのよいいのよ」
さくら「いいんですいいんです。はいこれ、満男、ほら」
リリー、満男にメロン食べさせている。さすが苦労人だね。
満男はますますこれでリリーの大ファン (^O^)
さくら「こっち食べなさい、ほら、ほら」(TT)
博、黙々と食べている。
博おまえ~~!(▼皿▼#)
満男だけ、これじゃ2個半になるぞ~!
一人勝ち~甘やかされてるな~(^^;)
おばちゃんも、おいちゃんも
下向いて黙々と食べている~!
さくらだけさっきのたった一口かよ~。
あんまりだあああ(TT)
さくら、たったの一口で満男にあけわたす羽目に…
メロン戦闘結果
寅 =ゼロ (▼▼メ)
さくら =たった一口 残りは満男のお腹に (ノ_σ)
リリー =1切れの半分くらい。 残りは満男のお腹に (^^;)ゝ
おいちゃん =お札ばら撒きを乗り越え、
1切れ全部たいらげました。♪(* ̄ー ̄)v
おばちゃん =チャルメラ号泣を乗り越え、
1切れ全部たいらげました。♪(* ̄ー ̄)v
博 =さくらとの攻防に競り勝ち
1切れ全部たいらげました。♪(* ̄ー ̄)v
満男 = 全くの平常心と援護射撃により堂々の約2切れ半。
一人っ子気質構築 ヾ(●⌒∇⌒●)ノ
夕闇迫る題経寺 鐘撞き堂
源ちゃんが走って入り口まで来る。
源ちゃん「兄貴~、ラーメンお待ちどおさん」
寅「遅いんだよ、おまえ。なんだい、
これ、チャーシューメン買ってこいって…
いいよいいよそれで、シューマイ貰って来い、
シューマイ貰って来い。」
さっき、『うんと楽しいところ行って、美味しい酒飲んで
パーっと遊んでやるから』、って言ってた寅だが、
こんなところでラーメンすすってるなんて、
なんだかいとおしくなってくるね。こういうところが
いいんだよな寅って。
源ちゃん「へい」と戻る。
注文先は第12作でちらっと出てきた近所の
中華料理屋の「上海軒」か?
寅、ラーメンすする。
空で雷
寅「降ってきたなあ…」
それにしても、不思議なのは、どうしておばちゃんもさくらも寅の不在時にメロンを冷蔵庫から出して
切ろうとしたのか?である。リリーが来たからちょうどいい、っておばちゃんは言っていたが、
リリーは夜もいることが分かっているのだから、夕方寅が帰ってからでも間に合うはずである。
このメロンは寅関係の友人からもらったのであるから、当然、寅と一緒に食べたいはず。
おばちゃんの病気見舞いにもらったメロンをおばちゃんの不在時にみんなが食べるようなもんである。
やはり、不自然さは残る。うっかりものの、おばちゃんがそのことに気がつかなくても、さくらは
気がつくはずだ。とはいえ、まあ、しかし、どこの家でもこういうミスは実によくあるものだ。なんとなく
分かってはいてもついやってしまう。
ましてや、1年のほとんどをとらやにいない寅であるし、ヤクザで身勝手なフーテンだから、忘れられても
当然しかたがない。しかし、逆に言うと、いかにもありがちだからこそ、負い目のある寅にとっては、
勘定に入れてもらえないのは、この場合やはり辛い仕打ちなのである。
たかだかメロン一切れぐらいでグダグダ言ってしまうのも分かる気がする。
それでもあの、リリーの啖呵によって、実は救われたのはとらやの面々ばかりではなく、
言われた当の寅自身だったのであろう。
『いくら寅が謙次郎から貰った物であったとしても、日ごろから心配をかけ、迷惑をかけているとらやの
人たちに自分からすすんで差し上げることが当然ではないか、甘えるな。』と言い放ったリリー。裏を返せば、
とらやの人々の寅への愛情の深さを寅の心に定着させてやり、かつ、寅が食べれないことを正当化して
やったわけだ。それも愛情に溢れたその姿とその声で。
つまり、今、このままの状態でいいんだ。と、寅に言ってやったようなものだ。
一見、皆の前で大恥をかいたようにみえる寅だが、寅の立場が実は痛いほど分かるリリーだからこその、
寅の寂しく折れそうな心を強い言葉でしっかり包み、支えながら叱咤した心に染み入る温もりのある啖呵だった。
寅はリリーによって救われたのだ。この可笑しくも哀しいメロン騒動もまた、シリーズ屈指の名場面のひとつ
であろう。
この長いシリーズで数々のマドンナが登場し、物語の花を咲かせる。
どのマドンナも寅に心配してもらったり、親切にしてもらって、とても幸せそうだった。
しかし逆に、彼女たちが、寅のことを親身になって、心配し、行動した場面は実は驚くほど少ない。
みんな、寅から愛情や親切を『受け取る』ことはあっても『与える』ことはほとんどなかったのである。
ある意味、これは、考えようによっては傲慢なことでもある。
しかし、第2作「続男はつらいよ」の夏子さんと、このリリーだけは寅の人生の孤独を感じ取り、
そしてそれを行動で示したのである。この後、第48作のリリーにいたっては、母性さえ感じた。
さくらやおばちゃんが延々と受け持ってきたこの『母なる存在』を託せる人は、寅の悲しみが分かる
同じ放浪の宿命を持ったリリー以外にはいないのである。
リリーの寅への数々の言葉は、時には恋人の愛の告白であり、時には同士の叱咤であり、
時には家族に甘える子供の声であり、そして、時には母の子守唄なのかもしれない。
そんなリリーがやっぱりいとおしい。
とらや
雨が降っている
さくら、タッパーに詰めた惣菜を持ちながら
さくら「おばちゃん…」
おばちゃん「ん?」
さくら「雨よ」
おばちゃん「あら、ほんとだ」
さくら、タッパーをビニールに包む。
おばちゃん「今夜泊まってったら?」と暖簾をくぐって顔を出す。
さくら「そうもいかないわよ」
さくら「傘貸してェ」
おばちゃん「そうかい?」
満男は電話の横でらくがき。
今回のとらやのお品書き
茶めし 150円
おでん 150円
赤飯 150円
あんみつ 150円
磯おとめ 100円
草だんご 100円
くず餅 100円
こがね餅 70円
焼きだんご 100円
第2作ではあんみつ70円。第13作ではこの作品と同じ150円。
第7作では焼きだんごは60円
第9作では磯乙女50円 茶飯100円 焼き団子50円
アイスクリーム50円 赤飯100円
黄金餅50円 あんみつ100円となっている。
第7作で焼きだんごは上記のように60円に値上がりしたが、
第9作で、なぜかまた50円になった。さすがに第15作では
物価高で100円。「焼きだんご」にとらやの商売上の苦悩が垣間見れる(^^;)
今回の冷蔵庫は『雪印』
寅、背広を頭から被り、小走りで戻ってくる。
寅、水滴を払っている。
さくら「あー、おかえんなさい」
寅「帰ってきたんじゃねえよ、バカ」
さくら「そおお?」
寅「おい」
さくら「え?」
寅「あれ、どうしたんだ、あれ?」
さくら「あれって?」店の旗を片付け始める。
寅「決まってるじゃねえか。いたろう、なんだか
うすら生意気な女が。あれなんてんだい?」
さくら「リリーさん?」旗を置く
寅「んん~、そんなような名前だったかな。
どこいったい?」
さくら「仕事に行った。9時ごろ帰るって」
寅「へえ~~~っ」どっから声だしてるんだ(^^;)
寅、外を見ながら
寅「雨降ってるなあ…」
さくら「そうねえ…」
寅「濡れるな。」
さくら、ちょっと微笑んで、
さくら「大丈夫、私傘借りていくから」
寅「おまえじゃないよ!バカ!」身も蓋もない(^^;)
さくら、ピンときたようすで、
さくら「あ、リリーさんのこと?」
寅「なに!?」
濡れた服をハンカチで拭きながら
さくら「あ、なんだ、そうか、お兄ちゃん、
リリーさんのこと心配でわざわざ来たの?」
寅「心配じゃないよ、バカァ!」
さくら、少し微笑みながら水滴を払っている。
寅「ただオレはねえ!、あいつが駅から
帰ってくる途中でよ、雨なんかに遭って
風邪でもひいてみろ、おまえ、え?、
肺炎起こしてみろ、こんなにカリカリに
痩せてるんだから、死んじゃうぞ」おいおい ヾ(^^;)
さくら、おばちゃんと顔見合いながらにこにこ。
おばちゃんも、番傘を持ってそばに来る。
寅「ましてや、あいつは身寄り頼りがねえんだし、
ひょっとしてこのとらやから
葬式を出すようなことになったら、
面倒だからオレは言ってんの、先もって!!」だだっこか(^^;)
おばちゃん、呆れ顔。
さくら、大きく頷いて、
さくら「わかっった」といいつつ番傘を寅に差し出しながら
寅「どうしていちいち説明しなきゃわからないんだ」と小声でブツブツ
さくら「じゃあ、お兄ちゃんほら、迎えに行ったげて」
さくら、番傘1本だけ渡す。2本じゃないところが心憎い配慮(^^)
でも実はおばちゃんが1本だけ持ってきたので、おばちゃんの心配りかも。
寅「なんで、どうして、オレが行くんだよ…、おまえ行けよおまえ」
さくら「だって私、もう帰るんだもん」上手い!職人芸(^^)
寅「おまえ行けよ~」
さくら「ほらお願いよ、迎えに行ってあげて」さくらも大変だね~(^^;)
さくら「ほら…」と傘を渡す。
寅「そうかあ…、いやになっちゃうな。
オレ雨降り嫌いなんだよな」
寅「あーあ、帰ってくるんじゃなかったい」見え見えすぎるって ヾ(^^;)
番傘をパチッと開く。
前にかがみながら「う~~っ!」
と言いつつ駅の方へ歩いていく。
この渥美さんの前かがみのポーズ、上手いねえ!
さくら、おばちゃんと見合って微笑んでいる。
おばちゃん、『ほんとにねえ』って言うような顔(^^;)
満男「早く帰ろうよ~」とさくらに抱きついていく。
さくら、口に手をあてておばちゃんとこっそり笑っている。
こころの深いところで繋がっている寅とリリー。
少々の喧嘩があってもすぐに相手の心を
心配するんだね。リリーがぬれてしまうことを
さくらは気づかなくても寅は気づく。
ここが寅の苦労しているところ。
つまり、このへんが、人生の素人じゃないところ。
リリーの寂しさをいつもどこかで考えている寅でした。
夜の柴又駅前
まだ雨がかなり降っている。
大きな川千家の看板
電車が到着して客がぞろぞろ改札から出てくる。
どの客も傘を開いて差していく。
数人の女の人が傘を持って、家族を待っている。
リリーも改札から出てくるが傘を持っていないので
しょんぼりし、途方に暮れた表情。
リリー、なんとなく、向こうの方の人影に焦点が合う。
薄暗い中で寅が向こうを向きながら
番傘を差して立っている。
リリーのテーマが流れ始める。
(マンドリンによる)
寅、チラッとリリーを見て、
ぎこちなく、すぐまた知らん顔して
むこうを向く。
胸がいっぱいになりながら
寅を見つめ続けるリリー。
そして、満面の笑み
寅、むこうを向いたまま、番傘をくるくる回している。
気持ちを高ぶらせながら
寅の方に勢いよく駆け出して行くリリー。
リリー「きゃあーっ、はあっ」
っと寅に甘えてくっついてくる。
寅「んん…」
寅、照れと緊張で顔をこわばらせながら、少し歩き出す。
リリー、雨を避けるため、スカートを左手で少し上げながら、
きらきらした目で寅の顔を見つめて
リリー「迎えにきてくれたの?」
寅「バカヤロウ~、散歩だよ」
リリー「フフフ!」
リリー「フフッ!雨の中傘さして散歩してんの?
寅「悪いかい」
リリー「ぬれるじゃない」
寅「ぬれて悪いかよ」
リリー「風邪ひくじゃない?」
寅「風邪ひいて悪いかい」
リリー「だって寅さんが風邪ひいて
寝込んだら…私つまんないもん」
寅のぬれた番傘を持つ手が映って、
リリーもその手に触れるように一緒に傘を持つ。
夜の参道を相合い傘で歩いていくふたり。
リリーのテーマが切なく流れていく。
リリーのテーマが流れる中、リリーをチラッと見る寅のあの表情と
あの後ろ姿を何度も見たくて、 そしてリリーが寅を見つけた
時のあのなんともいえない幸せそうな柔らかい表情が
見たくて、
私は延々とこの長いシリーズを見ているのかもしれない。
リリーのあの表情の奥の奥に、幼き日、印刷工場へ
父を迎えに行って父親にまとわりついてじゃれている
松岡清子 ちゃんの姿もちらっと見えたのは私だけだろうか。
翌日
錦糸町 映画街の入口の路地
啖呵バイ
ビルの谷間 パチンコワールド
寅のバイの声
寅「角(かあどお)は一流デパートは、帽子のとらやさんで
お願いしてみなよ、え?
高いとこじゃ1万円っていうよ。ね。
今日はそれだけ下さない。安くしちゃうよ!どう。6000円で。
アハハハ!お母さん慌てちゃいけない。慌てる乞食は
もらいが少ない。どう、お父さんの帽子もサービス!ね!
お父さんお母さんお揃いで!ね!(バシッ!!)
どうせだったら二人の間にできた可愛いチョロマツちゃんの
分まで、ね!3つだ、ほら。
三三六ポで引け目がない、産で死んだが三島のおせん。
どう、こりゃね。輸出もんだから、3つだったら高いとこで
1万5千円。これだけくださいとは言わない。
なぜかと言うと今日は貧乏人の行列だから。
お父さん腹切ったつもり!!(バシッ!)
ね!5千円。どう3千円、よーし!
1500円だもってけ泥棒ヤロウ!さあどうだ!」
いきなり10分の1に値段がおちたのは凄い。(^^;)
江戸川土手
子供たちが虫取りをしたり、カップルが散歩している。
満男もタモを持って虫取りをしている。
さくらと博、ヨモギを手に持っている。
博「すぐ喧嘩するけどすぐ仲直りするってのは
本当に仲がいい証拠じゃないのか?
そりゃああの二人の喧嘩は夫婦喧嘩みたいなものだよ」
博、相変わらず鋭い洞察力!この言葉は人の世の真理だね。
さくら「そいじゃあ…、お兄ちゃんとリリーさんが
結婚したら、どうなると思う?」
博のほうを見ないで言ってみるさくら。
博「え?ハハハッハハ…」
さくら、博のほうを見て
さくら「真面目な話よぉ~。…うまくいくとおもうなあ」
博、真面目に聞く。
さくら「だってさ、リリーさんならお兄ちゃんのこと、
ちゃんとコントロールできるだろうし…」
博「そうか…、なんていたって、リリーさん、
苦労してきた人だからなあ…」
満男「まて~まてまて~」
博、向こうにいる満男に「ダメだ!満男」
と立って、さくらの方を振り返り
博「案外うまくいくんじゃないのかなあ」
さくら、スクット立って「ねえ!」
博、満男の方へ走っていく
博「網が壊れちゃうでしょう。お父さんにかしなさい。満男ほら」
網を振り回している満男。
あの日、謙次郎がふと江戸川土手で
口走った、「結婚」という言葉も、
さくらのこの発想のきっかけに
なったのかもしれない。
たとえみんなに笑われたって
さくらは本気なのだ。
とらや
おいちゃんが「はい、」と草団子の折詰を客に渡す。
店へさくらと博、満男が帰ってくる。
おいちゃん「あ、いいとこへきた。リリーさんがアパートが見つかったから
そっちへいくって言うんだよ~…」
リリーは苦労人だねえ。甘え続けることができないんだね。
さくら「あらァ」
おいちゃん「寅も帰ってないしなぁ…、とにかく晩飯食べてもらおうと
思って、今支度させてんだ」
茶の間
リリーがトランクに服を入れている
さくら「ねえ、どうして?いいじゃないのここにいたら」
博「遠慮は要らないんですよ」
リリー「そうしたいけどキリがないしねえ」
リリー「う~んでもお風呂付のアパートがあってね
凄く安いの。その代わり今すぐ入ってくれって言うのよ。
小岩だからまたちょくちょく寄せてもらうわ」
さくら「そお~残念ねえ…」とズボンのポケットからハンカチを出す。
博「兄さんが聞いたらがっかりするだろうなあ」
さくら「うん…」
リリー「しないわよ。目障りなのがいなくなって
せいせいするんじゃない」
さくら「フフ…」少しなにか考えている。
何か考えているさくら
向こうでおいちゃんが客に「ありがとうございました」
おいちゃん空模様を見て「ああ、一雨来そうだぞこりゃ」
おばちゃん「あら、そうかい?」
さくら、リリーのほうを見て、なにか言いたげ。
おばちゃん「あ、これ博さん」とお茶を出す。
さくら「…言っちゃおうかなあ…」
博「何を?」
さくら「さっきの事」
博「ハ、よせよ、笑われちゃうよ」
さくら「え?」
リリー「なあに?なんのこと?」
さくら「いや、今ねえ、土手で博さんと話してたんだけど…」
博お茶を飲んで、「…!やめろって」
リリー「話してよ」
さくら「うん…これ冗談よ…」
リリー「うん」
リリー「あのねえ…」
さくら「…いやぁ…なんだか言いにくいなあ…」
博「やめろやめろぉ」
さくら頷きながら
さくら「やめようか」
リリー「変ねえー、そんなのないわよお、失礼よ」んだんだ。
と、カバンを持って立ち、向こうに置きに行く。
さくら「それもそうねえ」
リリー、戻ってきて座りなおし、聞く体制。
さくら「…実はねえ…これぇ…あの、
ほんとに冗談だから、怒っちゃやーよ」
リリー「分かったから、早く言って」
おばちゃん「本当だよ早く言いなさいよこっちまで
イライラしちゃうじゃないのよ」
リリー「ねえおばさん」
おばちゃん「ん~~ん!…」
さくら「じゃ言うけどね、
さくら「… リリーさんがね、」
お兄ちゃんの奥さんになってくれたら
どんなに素敵だろうなあって」
さくら「…」
さくら「ねえ…、冗談よ。これ本当に冗談よ」
心配そうにリリーの表情をうかがうさくら。
さくら「…!」
リリー「…」
思いつめた表情。
さくら「…」
どうしていいか分からなくておろおろしはじめる。
博「はっ、気にしないで下さい。夢みたいなことを
二人で話していただけですから…」
リリー「いいわよ」
さくら「えっ?」
リリー「私みたいな女で…よかったら」
さくら「あの、いいって…」
さくら「まさかお兄ちゃんの奥さんに
なってもいいってことじゃ…」
リリーさくらを見つめ、そしてそっとうつむいて
リリー「そう…」
さくら「…!」
博「本当ですか!?」
りりー、博のほうを見る。
さくら、呆然とし、ある種虚脱感の表情。
事の重大さに頭がついていっていない。
あまりの嬉しさに呆然とするさくら
博「…ハッ」
ようやく、喜びが訪れ、博に向かって
表情を大きく崩す。
さくら「は…どうしよう博さん!」
さくら「おばちゃん聞いた!!?」
おばちゃん「ちょっとッ!!アンタ!!!」
48作中一番興奮しているおばちゃん(^^;)
おいちゃん「落ち着けバカ!みっともないぞ!」バシッとたたく。
おいちゃんも落ち着いて落ち着いて(^^;)
リリー「……」
リリー、自分の言った言葉の重みに
耐えている真剣な表情。
おいちゃん「もう少しで寅が帰ってくるから
…はっ!!帰ってきた!!」
寅「よっ、とらやの皆様今日一日労働
ご苦労さまでございましたッ」
緊張して、座りなおすリリー。
さくらはこの時点で冷静さを失っている
さくら「お兄ちゃん大変よ」
寅「なんだ大変って?」
さくら「リリーさんがね」
寅「リリーがどうかしたのか?(リリーに)何だ?」
さくら「違うのよ、リリーさんがね、結婚してもいいって」
寅「結婚?…誰と?」
さくら「お兄ちゃんとよ!」
寅「オレとお…?」
さくら「リリーさんがね、お兄ちゃんと結婚しても
いいって言ってくれたのよ。よかったわねえ」
と言って、振り返りながら嬉々としてリリーを
見つめるさくらの目はある意味怖かった。
兄の幸せを思う強い心が、さくらの行動や発言をせきたて、
先走らせてしまっている。タイミングもなにもあったもんじゃない。
まるで、小さな子供のように周りが見えていない。
こんなに先走ると、時として、結ばれるものも離れてしまう。
寅もリリーもなかなかそのテンポの速いリズムについて
いけなくなってしまうはず…。
しかしなによりも、そんなさくらの心がいとおしくもある。
この時のさくらの表情は恐いくらい盲目的だった。
リリー「……」
足を抱え、緊張して下を向いて黙っている。
寅「フ…、何言ってんだお前、真面目な顔して、ええ?
あんちゃんのことからかおうってのかあ」
と、チラチラ、リリーを見ながら信じようとしない。
さくら「からかってるんじゃないわよ!お兄ちゃん」
寅「おい、リリーお前も悪い冗談やめろよ、え?
まわりはほら素人だから、え?みんな
真に受けちゃってるじゃねえかよ」
さくら「お兄ちゃん、…」
博「兄さんあの…」
寅「いいから、ちょっと博お前は黙ってろ」
振幅の激しい倍賞さんの表情がこの場面に凄みさえ出していた。
寅「おい、リリー」
リリー「……」
緊張した表情。
リリー「なに?」
この時、いったんは緊張が崩れてちょっと笑ってしまうリリー
寅「いいから、ちょっとこっち来いよ」
寅の近くへ歩いていくリリー。
寅、小さなか細い声で、
寅「お前本当に、じょ..冗談なんだろ?…え?…」
リリーのテーマがゆっくり流れる。
逃げ腰の寅に対してそれでも
もう一度正面から対峙し、
寅を見つめるリリーの表情。
リリーの最後の賭け。
寅の、戸惑いの表情を見て、
最後は、諦めて、顔を緩めていくリリー…
リリー「……」
寅「えっ?」
もう、僅かに笑ってしまって緊張感は消えていった…。
リリー「そう、冗談に決まってるじゃない」
そう答えざるを得ない。
寅、ちょっと笑って、静かに
寅「そうだろう…」
寅さくらの方を見て
寅「ほら、見ろ冗談じゃないか」
と、子供のようにがっくり。なんだか寂しそうな寅
さくら「でもねお兄ちゃん、そ…」
リリー「…」
リリー「そいじゃあたし」
寅「お、どこ、どこ行くんだい?」
リリー「帰るの」
リリー「皆さん、お世話になりました。バイバイ」
と、寅に向かって手を振る。
風と雷 ヒュゥ~…ゴロゴロ…
怒りを隠しているかのように、足早に去っていくリリー。
寅「…」
呆然と見送る寅たち…
さくら「お兄ちゃん…リリーさん嘘付いたのよ!」
寅「いや、どんな…」と小声でつぶやく。
さくら「リリーさんはね、本気で
お兄ちゃんと結婚するって言ったのよ」
さくら「冗談なんかじゃないのよ」
博「追いかけていくべきですよ。
そしてもう一度リリーさんを」
急に厳しい眼をして、何かを考えている寅。
さくら「ねえ、そうしたら?」
博「たぶんあの駅の方ですよ」
さくら「どうしたのよ、お兄ちゃん!!」
と、激しく寅の腕を揺すって訴えるさくら。
遠雷が鳴る。
寅、押し黙ったまま、二階の部屋へ。
雷の音 ゴロゴロゴロ…
雨が降り出す ザザザァー…
さくらと博、リリーの去った方を見て
さくら、二階の部屋へ急いで上がって行く。
2階荷物部屋
暗闇の中で座っている寅。
さくら、部屋の電球のスイッチを入れる パチ
さくら、座って
さくら「どうしたの?どうして追いかけていかないの?
お兄ちゃんは、お兄ちゃんはリリーさんのことが
好きなんでしょう?」
諦めないさくら
寅「もうよせよ、さくら」
さくら、意外で少し驚く。
メインテーマがゆっくり流れる。
寅「あいつは、頭のいい、気性の強い
しっかりした女なんだい。
俺みてえなバカとくっついて
幸せになれるわけがねえだろ」
下を向くさくら。
落雷 ピシャーン!ゴゴゴ…
寅のこの眼はリリーと自分の性を見抜いていた
停電
電球を見上げるさくら。
雷の音 ピシャーン…ゴロゴロ…
ガラス窓に雨があたっている ザー…
沈黙の時が流れる。
寅「あいつも俺とおなじ渡り鳥よ。
腹すかせてさ、羽けがしてさ、
しばらくこの家に休んだまでの事だ」
寅「いずれまた、パッと羽ばたいてあの青い空へ…。
な、さくら、そう言うことだろう」
さくら「…そうかしら」
雨がふり続いている。
最後まで諦めないさくらの心が痛々しくも美しかった。
その昔、さくらは、柴又駅に向かった失意の博を、走りに走って、追いかけ、
そして追いつき、幸せを自分の手で掴んだことを思い出すにつけ、
「どうしたの?どうして追いかけていかないの?」の言葉は彼女の最後の
悲痛の叫びにさえ聞こえた。
そして、さくらの、最後のそれでも諦めないセリフ
「そうかしら…」を聞いたとき、寅の遠い未来に向かって差し込む細い光が
はっきり見えたような気がした。
『鍵』はやはりさくらが握っているのだ。
さくらはただものじゃない。
あの別れのあと、リリーは雨に濡れただろうなあ…。
あの亀戸天神でのお千代さんの時と同様に、「そう、冗談に決まってるじゃない」
とリリーに言わせてしまった寅。今回も繰り返された寅の『得恋的失恋』。
恋が実る寸前に常に逃げていくという極めて特異な行為をこのあとも続けていく寅。
この行為の真相は、一般的には、寅が結婚に自信がなく、それゆえ、マドンナに
気を使って旅に出るのだ。ということになっている。確かにその要素もないわけでは
ない。実際、寅自身の表層意識も先ほどのセリフ「オレみたいなバカとくっついて
幸せになれるわけがない」に表されているように、自分のだらしなさに、その意識の
大半がおよんでいる。しかし、そんな優しさや弱さだけではこの今後も繰り返される
ことになる『得恋的失恋』という、奇妙な現象は説明しきれないと思う。
『さくら』という存在がシスターコンプレックスになっているので、結婚まで
踏み切れないということもほんの少しあるにはあるが、やはりこれもその要因の中の
ごく小さな一つにしか過ぎないと思う。その意味での脆弱さは寅にはあまり
感じられない。この要素を拡大解釈するのは現実から離れていく危険性がある。
以前にも書いたが、「結婚」というのは立派な人間だからできるわけではない。
どんなにだらしないと自分で思っている人間でも、一人の人を愛し、人生を共にすること
は出来る。そもそも、どんな人も大して立派でなんかない。みんな欠点だらけで、そ
の日常はくだらないことばかり考えている。実際寅とおなじ穴のムジナのテキヤ仲間
のほとんどは平気で結婚している。寅は私に言わせれば、そのテキヤ仲間たち
よりも無欲で心優しい人である。つまり、結婚という行為は「資格」や「人格」が
必要なのではなく「覚悟」や「決意」こそが必要なのであろう。
寅が自分で言う「オレみたいなバカ」であろうが、「ヤクザ」な男であろうが、その愛する
人と人生を共にしようと決意し、覚悟さえすれば、結婚はできるし、その後、お互いが
幸せになることは十分にありうるのである。しかし、寅はその「覚悟」を持とうとしない
のだ。これはマドンナに対する「優しさ」とも「シスターコンプレックス」とも別の領域の
話である。
寅は、自分がマドンナに役立っている、慕われている、という
モラトリアムな状態、
恋の成就の一歩手前の『蜜月状態』が誰よりも一番好きなのだと思う。
美しい夢を見ていられるうちが至福ということなのだろう。
いざ、相思相愛とか結婚とかという話になると、急に『逃げ出したく』なる。
結婚後の実生活というのはある意味厳しい現実が待ち構えているし、
社会的な責任のようなものも自然に増えて、背負い込むものも多くなり、
しがらみが生まれ始める。そういう現実は寅は是が非でも避けたいのでは
ないだろうか。
つまり、だらしない自分やマドンナのことを考えて身を引く『優しさ』の裏返しの
領域に結局は自分のことしか考えられない『自己本位でわがままなフーテン』の
の業が存在する。この業こそが、寅自身を青春期から悩ませている根源であり、
寅の悲しみの本質でもある。
『心優しきエゴイスト』 これが寅の本質であり、運命的に相反する2つの心に
引き裂かれた存在なのである。それは、役者である渥美清さんの壮絶な
人生と見事に重ね合わせることもでき、私には実に感慨深いものがある。
そして、リリー。
確かにリリーは、寅と同じ渡り鳥だ。いくら寅のことが、好きで、
一時的に寅と所帯を持ちたいと真剣に思っても、やはり、そのうち
放浪者としての気ままな性がまた、顔を出す。『業』というものが支配する世界は
確かにあるのだ。さくらには、それが分からない。だからこそさくらは執拗に寅に
食い下がるのだ。本人のリリーすら、自分の本質が見えていない部分もある。
しかし、同じ業を持つ寅には分かるのであろう。
あいつも俺とおなじ渡り鳥よ。
腹すかせてさ、羽けがしてさ、
しばらくこの家に休んだまでの事だ。
いずれまたパッと羽ばたいてあの青い空へ、
な、さくら、そう言う事だろう。
この部分の寅の洞察力は間違っていない。
このふたりが『定住』というものを自然に考え始めるのはこれからさらに5年後の
暑い南国の夏を経て、それからさらに15年の歳月が必要であった。
そしてまたさらに歳月が流れ、相合い傘から実に25年以上たった現在、
おそらく寅はリリーとの縁を今こそ遠く紅の花咲く島でゆっくり深めていって
いるようにも思える。
ところで、さくらがリリーに寅のことで
「お兄ちゃんの奥さんになってくれたら…」と
直訴したあの場面は、小津安二郎監督の名作「麦秋」(1951年)で、
矢部たみが間宮紀子に自分の息子である謙吉のお嫁さんに
なって欲しいと頼むあの場面に大きな影響を受けている。
あの、紀子が、たみの問いかけによって、自分でも気づかなかった
自分の本心に気づき、瞬時に結婚を快諾したあのなんとも爽やかなカットは
小津映画の中でも出色のできで、とても後味のいい印象深いものだった。
特にたみ役の杉村春子さんの喜びようはまさに小津演出の粋だった。
その最たるものがあの承諾の直後のセリフ、
「紀子さん、パン食べない? アンパン」
いきなり出てくるアンパン。このセリフは、たみの隠しきれない喜びを
見事に表現し得た日本映画史上に残る名場面だと言えよう。
以下に「麦秋」と「相合い傘」の共通点を具体的に書いてみよう。
①
『麦秋』
たみが、「紀子さん、怒らないでね」って言った後、
たみ「あんたのような方に謙吉のお嫁さんになっていただけたらどんなにいいだろうなんて、
そんなこと考えたりしてね。
ごめんなさい。こりゃあたしが自分だけで考えてた夢みたいな話。怒っちゃ駄目よ」
『相合い傘』
さくら「これ…ほんとに冗談だから怒っちゃやーよ。」
さくら「リリーさんがね、お兄ちゃんの奥さんになってくれたらどんなに素適だろうな…。
ねえ、冗談よ、これ。ほんとに冗談よ。」
博「ハハ…気にしないで下さい夢みたいなことをふたりで話しただけですから。」
②
『麦秋』
紀子「あたしでよかったら・・・」
たみ「ほんと!?」
紀子「ええ」
中略
たみ「もう少し待ってよ、もう帰って来るわよ謙吉」
『相合い傘』
リリー「いいわよ…」
さくら「え?」
リリー「あたしみたいな女で…よかったら」
さくら「あの…いいって…
まさか、お兄ちゃんの奥さんになってもいいってこと?
リリー「そう…」
博「ほんとですか!?」
さくら「どうしょう、博さん!」
中略
おいちゃん「落ち着けバカみっともないぞ、もうすぐ寅が帰ってくるから…」
③
『麦秋』
紀子が帰ったあと謙吉帰ってきて
たみ「ねえお前、紀子さんが来てくれるって! ねえ、うちへ来てくれるってさ!」中略
謙吉「どこへ?」
たみ「うちへだよ!」
謙吉「何しに?」
たみ「何しにじゃないよ! お前んとこへだよ! お嫁さんにだよ!」
謙吉「嫁に?」
たみ「そうだよ、嬉しいじゃないか! よかったねえ」
謙吉「…」
『相合い傘』
さくら「お兄ちゃん、リリーさんがね、」
寅「リリーがどうかしたのか?なんだ?」
さくら「リリーさんが結婚してもいいって」
寅「結婚? 誰と?」
さくら「お兄ちゃんとよ!」
寅「オレと?」
さくら「リリーさんがねお兄ちゃんと結婚してもいいって
言ってくれたのよ。よかったわね…」(目を潤ませて)
寅「…」
小津監督の傑作「麦秋」のあの名場面が
山田監督の傑作「寅次郎相合い傘」のあの場面に見えない糸で
繋がっていく。感慨もひとしおだ。山田監督が「麦秋」にいかに大きな
影響を受けていたかがはっきり分かる演出だった。
ちなみに、「麦秋」では紀子と謙吉はお互い結婚を決意するが
「相合い傘」では上記のように得恋的失恋で終わるのである。
ところで、山田監督実はあの「麦秋」のシーン大好きで、この「相合い傘」の
2年前の1973年、テレビドラマTBSのテレビドラマ「遥かなるわが町」の中で
ほとんどオリジナルのまま完全に『入れ子形式』であのシーンを採用している。
まったく同じと言っていいくらいだ。
(もちろん当時、著作権の交渉済みだし、最後に「『麦秋』より」って
テロップで紹介していたのはいうまでもない)
ただし、「アンパン」が「ご飯」になってはいたが(^^;)
また「釣りバカ日誌15」でもやはり「麦秋」のあのシーンを入れていた。
さて、脱線が長くなってしまった。物語に戻ろう…。
そして、夏
柴又参道
氷の旗 風鈴が鳴っている
おばちゃん、スイカを切っている
いつものように端を切ってから割っている。
切る音 ザッ、キッキッピキキッ!ザキッ!パカッ
茶の間で謙次郎が座っている。
謙次郎「傷の癒えた美しい渡り鳥は、
ある日ふただび青い空へ…。
なるほどねえ…寅さん詩人ですねえ…」
さくら「フフ…」と照れる。
おいちゃん「フフ、恐れ入ります…」この発言妙に面白い(^^;)
おいちゃん、超旧式の扇風機を直そうとして壊している。
おいおい ヾ(^^;)
さくら「でもね、おいちゃん、私たち
悪いことしたんじゃないかしら?」
引き金的には「私たち」じゃなくて、「私」だろう、さくら(^^;)
おいちゃん「どうして?」
さくら「なんていうのかなあ…。無理やり結婚の話を
持ち出したことで、かえって…ふたりの仲を
引き裂いたような気がして」
おいちゃん、静かにうなずく
謙次郎「仲を裂いたって…?」
さくら「ですから、リリーさんと兄は、
本当に仲のいい…
友達だったんじゃないかって
…フフ…そんなふうに」
自分を納得させるように呟いたこのさくらの言葉は心にしみました。
謙次郎「…なるほどねえ…」とうなずく
謙次郎「さくらさんは優しい言い方をなさいますねえ…」
おいちゃん「フフフ…」
さくら、下を向いて照れる
謙次郎の眼差しが優しくさくらを包み込んでいる。
さくら、謙次郎のためにうちわで扇ぎ続けている。
謙次郎「どうぞ、もう、なんですから…」
社長、ちょっとだけ新しめの扇風機を持ってくる。
社長「おばちゃん、これでえ…いいかな」
おばちゃん「あー、どうもありがと、(おいちゃんに)ちょっとどけて」
さくら「どうもすいません」
おいちゃん「社長、ほら、こちらはいつか話したあの、兵頭さん」
社長「は!はー!、これはこれは、私…こういうもんでございます」名刺交換
謙次郎「あー、そうですか」
社長「お噂はかねがね寅さんから」
謙次郎「あ、どうも。ぉ恥ずかしゅうございます」
謙次郎「わたくし、兵頭と申します」
社長「は、よろしくお願いします」
謙次郎「社長さんでいらっしゃいますか」
社長「いやいや」
おいちゃん「社長なんてそんな、タコ、タコと申します」
謙次郎「あ、タコさんでいらっしゃいますか」
社長「え、いやいやハハ…」
おいちゃん「ささ、どうぞおかけになって」
社長「どうぞどうぞ」
謙次郎「タコと呼ぶ…」
社長「いえいえ」
さくら、「フフフ!」
おいちゃん「カハハ!」
さくらの考えは合っているが、同時にちょっと外れてもいる。
寅とリリーは、本当に仲のいい友達であり、絆の深い
同士であり、そして何よりもそれ以上に最愛の恋人だったのだ。
ただ、愛していることと人生を共にすることは別だと
いうことなのであろう。しかしもし、そうだとしたら、
それはなんてやるせない耐え難い恋なんだろう。
北海道
函館市日ノ浜町、日ノ浜海岸
青い空、青い海、かもめが鳴く カァ、キャア… カァ…
波の音 ザザ…ザァーザバーン
寅、波打ち際にしゃがみこんでいる
ぼんやり海を見ながらこの初夏のことを想っている。
立ち上がって海を眺める寅。
レモンの缶ジュース。
カバンを持って歩き始める。
後ろでバスが止まっている。
観光客の声「アハハ…」
派手な格好をした金髪の女たちが行き交う
女A「ハア、早く早く…ハア、」
ベッティー「暑い!おばさん大丈夫?」
向こうで寅が歩いている
ベッティー「アレェ、寅さーん!」
バスからの雑音「早く乗ってエ~ョ!!ちょっとォ~」
キャッシィー「アレエ!何やってんだそんなとこで!!」
トラ「ヨォ!函館のキャバレーの!
キャッシィーと…ハハ…ベッティーかァ!!」
凄い名前(^^;)寅もよく覚えてるねえ~。リリー顔負けのド派手さ。
あの時、宿に泊まる金もなかったのにどうやってキャバレー行ったんだ??
ロゴ CABARET MIKANSEI (キャバレー未完成)
ゴールデン歌麿、ハーレム、と並んでまたまた凄い名前(^^;)
本当は…
この『キャバレー未完成』は
函館の繁華街・大門地区に実際に当時あった大きなキャバレー。
寅「ヨォ、なんだ今日はおそろいでよ?」
ベッティー「従業員の慰安旅行だよ」
寅「オイス!」
ベッティー「これから温泉に行くんだこれから」
寅「へえ~」
ベッティー「寅さんも行くが?」
キャッシィー「行くべ!行くべ!」
女B「おれ、おれ、いくべ、いくべ」
寅「よし、じゃ、イッチョお供するかおい」
光映子さんと戸川美子さん。
戸川さんは変装がうまくてまったく戸川さんだとわからない。
なので、戸川美子さんは八百屋のお客さんでも出演していたので
今作品2回目の登場(;^_^A。
ベッティー「ワァ~~決まった決まった~」
女C「寅さんここよ」
寅「オイス」
寅「オイス」
寅「従業員の皆様、
毎晩のお勤めご苦労さんです」
一同「ワー!」
寅「これより出発します!発車オーライ!」
『キャバレー未完成スペシャル マリー北山ショー』の文字
車のクラクション ブー!!
走り始めたバスのドアを閉める寅。
遠く向こうに見える恵山(えさん)を背景にマイクロバスが走っていく。
寅とリリーの物語はまだ未完である。
さくらのあまりにも熱き思いによって、確かにふたりは足早に
別れることとなってしまったが、人生を長い目で見たときに
あの、さくらのリリーへの直訴は、彼らの心にいつまでも残り続け、
実にいい後押しになっていくのではないだろうか。
私は、さくらのあの熱き思いをふたりがしっかり受けとめる日が
いつか必ず来ると本気で思っている。
私は諦めない。
終
出演
渥美清 (車寅次郎)
倍賞千恵子 (諏訪さくら)
浅丘ルリ子(リリー.松岡清子)
船越英二 (兵頭謙次郎)
下絛正巳 (車竜造)
三崎千恵子 (車つね)
前田吟 (諏訪博)
中村はやと(諏訪満男)
太宰久雄 (社長)
佐藤蛾次郎 (源公)
岩崎加根子 (信子)
久里千春 (君子)
早乙女愛 (鞠子)
谷よしの (函館の仲居)
宇佐美ゆふ (青森の仲居)
村上記代 (小樽の主婦)
光映子 (キャバレーの女)
戸川美子(キャバレーの女)
笠智衆(御前様)
友情出演
米倉斉加年 (海賊)
上條恒彦 (海賊)
協力:統一劇場
スタッフ
監督: 山田洋次
製作: 島津清
企画: 高島幸夫 、小林俊一
原作: 山田洋次
脚本: 山田洋次 朝間義隆
撮影: 高羽哲夫
美術: 佐藤公信
編集: 石井巌
録音 : 中村寛
照明: 青木好文
スクリプター: 長谷川宗平
音楽: 山本直純
助監督: 五十嵐敬司
90分
動員数 200万人
配収 9億円
今回の更新は6月24日でした。
今回で「寅次郎相合い傘」は完結しました。
次回は正調男はつらいよとして、熱烈な寅さんファンたちから
根強い人気のある名作第16作「葛飾立志篇」です。
次回更新は7月3日頃です。