バリ島.吉川孝昭のギャラリー内
第16作 男はつらいよ
1975年12月27日封切り
忘れ得ぬ、もうひとりのマドンナ ― 雪の夜の出会い ―
叙情性と笑いのハーモニー ― 通が薦める 正調『男はつらいよ』の代表格 ―
「男はつらいよ」という映画は、面白くエネルギッシュな部分がメインを占める映画であるが、もう一方でなんともいえない
しっとりと落ち着いた品の有る映画でもある。
この後者の要素を中心に置いた作品はおおむね冬に封切られたものが多い。特に十作台の作品に傑作が多い。第10作「寅次郎夢枕」
や第12作「私の寅さん」、第14作の「寅次郎子守唄」がそうであり、第16作の「葛飾立志篇」や第18作「寅次郎純情詩集」もそうである。
特に「葛飾立志篇」は、最初から最後まで叙情性が豊かで心が潤う。そしてそれ以上に大いに笑わせてくれるのがこの作品である。
つまり、実に緩急のバランスが取れているのだ。
序盤からから「西部劇の夢」でしっとりと心を潤し、直後にワクワクハラハラし、いきなり本編の「お父さんなのね」のくだりで爆笑の渦である。
とくにおばちゃんのリアクションが出色。そしてお雪さんの話に人生を感じ、寒河江の風景に美しい日本を見る。
そして後半の学問を志すくだりの面白さと言ったら絶品である。田所教授との絡みもユーモアたっぷりで飽きさせない。
相合い傘で絶頂期を迎えたこのシリーズは第16作、第17作、第18作とその高揚感を持続したまま、ポンポンポンと傑作を連発していく。
映画としての人気は第15作「相合い傘」と第17作「夕焼け小焼け」が飛びぬけているが、なかなかどうして、この第16作も作品としての
格調では全く負けていない。その地味で落ち着いた趣ゆえにこのシリーズを知り尽くしている熱烈なファンたちからは絶大な支持を勝ち得て
いるのだ。そういう意味では『味のあるしっとりとした通好みの作品』とも言えよう。
そして、この第16作は、なによりもマドンナの礼子さんがとらやに下宿するのでマドンナとの縁もそうとう深い。これこそが正調「男はつらいよ」
なのだ。礼子さん自体は、寅に対してだけに限らず恋愛という感情とはかけ離れた人生に身をおきたいと思っている学究肌の
人だったことは「恋の物語」としては若干淡白だったかもしれないがマドンナの交流の幅が寅だけにとどまらず、とらやの人たちにも深く及ぶ
ことは、マドンナ下宿パターンの大きな魅力である。その点においても「男はつらいよ」の息の長いファンたちにはこの作品はこたえられない
魅力になっているのだ。
簡潔な寅の愛情論の完成
この作品では寅次郎が「愛情」というものをどうとらえているかが、彼の言葉によってはじめて簡潔に示される。
その萌芽は第10作「夢枕」ですでに寅自身によって語られているが、それが寄り結実し、洗練されたのが
このセリフだ。
「あー、いい女だな、と思う。
その次には話をしたいなあ…、と思う。ね。
その次にはもうちょっと長くそばにいたいなあ…、と思う。
そのうち、こう、なんか気分がやわらかーくなってさ、
あーもうこの人を幸せにしたいなあ…って思う。
この人のためだったら命なんかいらない、
もうオレ、死んじゃってもいい、そう思うよ。
それが愛ってもんじゃないかい」
この一見稚拙だが、人間の愛情の本質を言い得た言葉に田所教授は感服して涙を流すのである。
この言葉をごく自然に言える寅も感覚的だが、その言葉に深く感動できる田所教授もまた優れた感覚の持ち主であろう。
この場面は恋愛を人生の糧として生き続ける寅の面目躍如の名シーンだった。
山田監督のラブレター
この「葛飾立志篇」には第14作同様、愛の告白の場面がある。言葉ではなく文字である。田所教授がマドンナの礼子さんに
手紙を渡すのである。この原稿用紙に書かれた手紙の内容に私は胸を打たれる。文字は山田監督による直筆。
おそらくこれは山田監督が愛する女性を想定し田所教授の名前を借りて書いた恋文だったのだろう。
その美しさは第14作「子守唄」の弥太郎の告白と双璧。特に今回は、なんとも心洗われる大人の愛の表現である。
あんな格調高い美しいラブレターをもらったらそれだけでその女性は、その文字、その筆圧を生涯忘れないだろう。
救われるということの重み ― 忘れ得ぬ記憶 .幸せを願い続けた16年 ―
もうひとつ、この「葛飾立志篇」は数あるこのシリーズの中でも私にとって格別の思いを持って見るシーンが存在する。
それは寅が十数年にわたって思い続けた女性が登場する場面だ。寅はリリーや歌子だけを例外として、その他の女性たちとは
ほぼ、一期一会の関係にある。ひとつの物語が終わった後もその人に何年もの間思いを馳せるなんて芸当はしないのが寅だ。
しかし、この「葛飾立志篇」でリリー以外に、もう一人、なんと十数年もの間、そのマドンナの幸せを願い続けたという事実がわかる。
その人の名はお雪さん。寅がまだ、20年ぶりに柴又へ帰還する前の話だ。彼はその頃山形県の寒河江という町を無一文で
彷徨っていた。何をやっても上手く行かない日々が続き、もうどうしようもなくなっていたどん底の時代にお雪さんに出会ったのだ。
寒さで震え、ハラペコの寅にどんぶりいっぱいの飯と湯気のたった豚汁とお新香をそっと出してくれたのだった。
「困っている時はお互い様ですからね」と言ってくれたその真心に寅は救われ、無我夢中でかき込みながらぽろぽろと涙を
こぼしてしまう。
いろいろなファンの人たちがこのシリーズのマドンナの話をしたり書いたりしているが、このお雪さんの話題に触れられることは
ほとんどない。実際にお雪さん本人がスクリーンに登場するわけでなく、娘の最上順子の話と、寅のアリアでの回想だけで
登場してくる人物だからだ。しかし、私にはいつもこのお雪さんが頭の隅から離れない。寅の琴線に深く触れ、心の中に深く入り
込んだマドンナはリリー以外では、このお雪さんではないだろうか。そうでないと、十数年に渡って毎年手紙とお金を送り続けること
などしないだろう。よっぽど寅は彼女に助けられたあの日のことが忘れられなかったのだろう。私にはその気持ちがわかる。
自分のどん底時代に助けてくれた人は生涯忘れないものだ。
「その名の通り、雪のような白い肌のそりゃぁきれいな人だった。」
そう言った時の寅のなんとも穏やかな顔は私の知っている渥美さんの表情の中でもとびっきりの透明感があった。
あの表情を見たくて今日も「葛飾立志篇」を見るのだ。
名曲「さくらのバラード」から始まるオープニング
まずいつものように夢からはじまるが、なんといきなりさくらがろうろうと歌いだす。
あの山本直純作曲、山田洋次作詞、名曲「さくらのバラード」が聴ける唯一の場面である。西部劇風の替え歌にしてあるが
倍賞さんの兄を想う、哀しくも美しい歌声を堪能できる。もうこのシーンだけでもこの作品を見る価値は十二分にあるのだ。
■第16作「葛飾立志編」全ロケ地解明
全国寅さんロケ地:作品別に整理
今回も夢から
西部、テキサスの荒野を馬に乗ったガンマンが走って来る。
変な親子サボテン。
酒場の中
歌と演奏が始まる
ギター ♪ジャーンジャ、ジャンジャン、
ジャーンジャ、ジャンジャン、ジャンジャ…ジャンジャン…
さすが音楽家でもある上條恒彦さん!ギター弾きも様になってる。
今回も第15作同様友情出演。
一緒に演奏している源ちゃんゆっくりチェリーを見上げる。
メキシカンハットを被っているのでテキサスの南、メキシコ
から流れてきたのかもしれない。
カッコよく背中を向けてチェリー登場!
振り返りながら歌い始める。
チェリ〜〜〜!!カッコいい〜 (≧∇≦)
チェリー「♪テキサスに風が吹くぅ〜
駅馬車も今日は休み
兄の〜いない
西部〜の町…」
上條さんもその美しい姿と歌声に首をふりながら聴き惚れている。
看板 SALOON
WANTED $10000 TIGER KID
さくら「♪どこへ行ってしまったの〜
今ごろ何してるの…
いつも〜、みんな…
待っているのよ…」
米倉ガンマンの目に涙。
米倉さん今回もガンマンで登場
プラス「轟巡査さん」でも登場!
源ちゃんも演奏しながらボロボロ泣いている。
チェリー「♪そこは晴れぇているかしら
それとも冷たい雨かしら…
遠く一人旅に出た
私の〜…おにいちゃーん…」
カードに興じている紳士もガンマンたちも
みんな涙を流して聴き入っている。
寒いのか、倍賞さんの歌を歌う息が白い…
さくら「♪どこかの草原で〜…」
タコ「やめろいその湿っぽい歌!
葬式じゃあ〜ねえんだ!」
もっと歌を聴きたかったのに、このタコ!!(▼▼メ)
タコ、チェリーのもとに寄って
タコ「だあ様がお呼びだよ、ほら、あっちへ行け、ほら!」
タコ、源ちゃん見て、源ちゃんの髪の毛を引っ張りながら
タコ「ほら、弾けよほら、おまえ弾けよほら、
弾くんだよ!弾けってんだよ!ハハハハハ!」
チェリー、悔しそうにボスを見る。
チェリー、近づいていって、
チェリー「なんだい!?」
ボス「いつからここへ?」
チェリー「夕べからだよ」
ボス「名前は?」
チェリー「名前なんか聞いてなにするんだい!?」
と肩へストールをかけなおし、そっぽを向くチェリー
ボス「フフフフフ!知ってるぞー!
1万ドルの懸賞金つきのお尋ね者
人殺しのタイガーキッドはこいつの兄貴だ!」
と指を刺す。
吉田義夫さん、似合うねえこういう悪役。
前回第15作も奴隷商人役。
女給「えええ〜!」
ボス「ハハハ!」
チェリー、皆に向かって
チェリー「 みんな、聞いとくれ!あたしのあんちゃんは
人殺しなんかしてないよ!真犯人は他にいるんだよ!
それはこの男だよ!」
とボスを指差す。
タコ「ハハハ!!」
ボス「ほー、そうかそうか、おい、かわいがってやれ!」
タコ、チェリーに近づく。
米倉ガンマン拳銃を抜こうとするが、
それより早く、ボスの拳銃が米倉ガンマンの拳銃を撃ち、
米倉ガンマンの拳銃は床に落ちてしまう。
ボス「ハハハ!」
その時、一人の男がバーに入って来た。
ボスの顔色が真っ青になる。
客「タイガーキッドだ…」
タイガー、カウンターに手を置き、無言。
小さなウイスキーグラスがカウンターを滑っていく。
お〜〜っ!!渋い!(ノ゜ο゜)ノ
音楽が流れる。
タバコをくわえたタイガー。
お〜!渥美さんがタバコを吸っている!!
ボス「来やがったな…」
チェリー、兄の顔を見て、喜びの表情
タイガー、カウンターから歩き、ボスと対峙する。
女たち「キャーッ」と逃げる。
ボスもタイガーに近寄り、対決の意思表示。
タイガー「お前にもチャンスをやる。抜きたい時に抜け」
ボス「…」
ボス、拳銃をすばやく抜いて撃つ!
タイガーほぼ同時に身をかわしている。
普通弾の方が速いって(^^;)
後ろの米倉ガンマンに当たる。
米倉ガンマン「うわー」
とばっちりだ。可哀想…合掌(TT)
ボス、次々に連射
タイガーになかなか当たらない。
さっきの米倉ガンマンの拳銃を打ち抜いた
時の腕とだいぶ違うぞ。(^^;)
カウンターの黒人青年が素早くライフルをタイガーに渡す。
顔に黒いろ塗ってる。おいおい(^^;)色は違えど彼は
あの、江戸川合唱団(第14作)の青年だ!
タイガー、すばやく狙いを
定めてボスを撃つ。
ボス倒れる。
2発目でタコも撃たれる。
2階に駆け上がった手下も撃たれる。
タイガー自分の拳銃に持ち替えて
手下を2人撃つ。
ランプが割れ、ウイスキーが割れる。
手下2人また撃たれる
チェリー、震えながら階段の手すりに
しがみついている。
ボスとタコが床に倒れている。
ひえ〜、そうとう殺しちゃったよ。
せっかくチェリーが「人殺しなんかじゃないよ」って
言ってたのにィ〜…。(/≧◇≦\)
タイガー、ゆっくりと立ち上がり、拳銃を仕舞う。
タイガー、チェリーを見つめる。
チェリー、少し怯えながら、タイガーの方を見る。
チェリー「お兄ちゃん…」
タイガーも歩み寄る。
チェリー「きっと会えると思ってたわ。
生きてさえいればきっと会える、そう思って
つらい旅をしてきたのよ。
さあ、帰りましょう。懐かしいバージニアへ。
おいちゃんもおばちゃんも髪を真っ白にして待ってるのよ」
音楽が流れる。
バージニアって…、シバマタじゃないの?(^^;)
テキサスから東海岸近くのバージニアは結構遠い
チェリー、タイガーの腕を掴む。
タイガー、下を向いて、それを振りほどき、
タイガー「お前さんの探しているその男は
何年も前に牢屋で死んだよ。
たった一人の妹の身を案じながら…」
チェリー、呆然としながら
チェリー「うそよ…。うそ!私がお兄ちゃんの、
その特徴のある四角い顔を
忘れるわけがないじゃない!」倍賞さんのセリフにしては露骨(^^;)
タイガー「他人のそらまめよ」他人の空似だよ ヾ(- -;)
チェリー「じゃあ、あなたはいったい誰だって言うの?」
タイガー「親もねえ、兄妹もねえ、人殺しのお尋ね者よ!」と言うやいなや
素早く振り向いて2階の
生き残りの手下を撃つ!!
手下「うっ!うわーっ」と下に落ち、下にいた
生き残りの手下にぶつかり二人とも倒れる。
自分の拳銃が床で暴発。
手下「くっ」ガクッ。
見ていたガンマンたち
ガンマンA「後ろにも目が有る…」と慄く。(^^;)
強い!タイガーは百戦錬磨と見た。
勝つための全てを知り尽くしている。
チェリー、顔を手で覆って怯えている。
タイガー、カツカツカツと歩いて店を出て行く。
ドアを開ける時、立ち止まり、独り言のように
タイガー「バージニアか…」
残されたチェリー号泣しながら
チェリー「お兄ちゃんの嘘つき!」
と、仲間の女給の胸で泣きじゃくる。
第14作「子守唄」の江戸川合唱団だった方々が
いっぱい出演してました。
統一劇場の人たちお疲れ様〜!(^^)
タイガー、馬にまたがり、再び荒野へ立ち去っていく。
孤独やの〜おお、タイガー…( ̄  ̄)
残されたチェリーはこの先どうなるんだ…。辛く孤独な旅を独り
続けてきてようやくめぐり会えたというのに…。切なすぎ…(TT)
サボテンのチビが笑える。
『さくらのバラード』
山田洋次 作詞 山本直純 作曲
倍賞千恵子 歌
江戸川に雨が降る
渡し舟も今日は休み
兄のいない静かな町
どこに行ってしまったの
今頃何してるの
いつもみんな待っているのよ
そこは晴れているかしら
それとも冷たい雨かしら
遠くひとり旅に出た
私のお兄ちゃん
どこかの街角で見かけた人はいませんか
ひとり旅の私のお兄ちゃん
さくらのセリフ
『いつもそうなのよ いつも
さくら、しあわせに暮らせよって
もう帰らないって
あの時言ったけど…』
そこは晴れているかしら
それとも冷たい雨かしら
遠くひとり旅に出た
私のお兄ちゃん
どこかのお祭りで見かけた人はいませんか
ひとり旅の私のお兄ちゃん
この名曲は第12作「私の寅さん」で、メロディーはすでに
使われていたが倍賞さんの歌声としてはこれが最初で最後。
ついにオリジナルバージョンは本編では登場せず。
わずかにサントラCDに入っているのみ。
この曲はもっと世に出るべき!
それにしても、この曲の倍賞さんのセリフの部分では
いつも胸が締め付けられる。
どこかの田舎道
寒河江市 中郷 付近?
荷馬車 風車
荷馬車で夢を見ている寅
いい寝顔だ。
馬をひいている馬子さんが民謡を歌っている
馬子さん「♪小諸出て見ろ 浅間の山に〜けさも煙が…」
この民謡は「小諸馬子唄」というそうだ。
そしてなんとこの馬子さん、あの備後屋で御馴染みの
小道具係りの露木さんなのだ。
「男はつらいよ」を幼少期よりこよなく愛し、
今も深く研究されている映画評論家のT.Sさんの情報を使わせて頂きました。
小諸馬子唄
夢から現実への流れが実に上手い。
素晴らしい演出の冴えだ。
寅「ふぁ〜…、あ!」と伸び。
カバンが転がり落ちる。
カバンを拾い後を追いかける寅
タイトル
江戸川をバックにして。
男(赤)はつらいよ(黄)
葛飾立志篇(白) 映倫18673
口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。
♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前の喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪
♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
目方で男が売れるなら こんな苦労も
こんな苦労もかけまいに かけまいに♪
久しぶりに柴又へ帰ってきて、江戸川土手を
草むらをゆっくり歩く寅。
野球のボールが飛んできて、カバンで避ける寅。
跳ね返って草むらの人に当たる。
女の人しかいないと思って、気楽に謝っていた寅。
ドデカイ男が出てきて、寅タジタジというギャグ。
題経寺の石に蝋石で寅の似顔絵のらくがき『トラのバカ』
帝釈天参道
高木屋前付近
高木屋の前を歩く女子高生たち。
警察官が自転車で通る。ベル「チリリリーン」
順子「おまわりさん、ね、おまわりさん!」
警察官、自転車を止める。
順子「あのーとらやさんって何処でしょうか」
轟巡査「とらやさん?来たばかりなもんでね、
今聞いてあげるからね」
轟巡査「失礼します、とらやさんって何処でしょうか?」
と、店内で割り箸を詰めているさくらに聞く
さくら「うちですけど」
道の向こうに源ちゃんがいる。
轟巡査「あ、お宅ですか、あ、は!
書いてある!ここです」
小津安二郎風のカメラアングル
ついて来た同僚A「順子分かった?」
順子「ここ」
女学生B「あの〜帝釈天はあっちですか?」
轟巡査「ええ、あ。一緒に行こうか?」
女学生B「じゃ、お寺で待ってるね」
順子「分かった」
順子「あっち?」
轟巡査「修学旅行?どこの」
源ちゃん、興味津々
順子「ごめんぐださい」
さくら「はい」
おばちゃん「いらっしゃい」
順子「あのーすいませんあのこちらに
車の寅次郎さんって人
おりませんでしょうか?」
おばちゃん「寅ちゃん?」
順子「はい」
おばちゃん「あの、今ちょっといないんだけど」
順子「いつ帰りますか?」
おばちゃん「さあ…旅へで出るもんだからねいつ帰ってくるかちょっと…」
順子「そうですか…」
さくら「おかけなさい」
順子「はいどうもすいません」
おばちゃん「今お茶上げるからね」
順子「あ、どうもすいません」
さくら「あなたどこから来たの?」
順子「山形県の寒河江です。
ちょうど修学旅行で出てきたもんですから」
さくら「そう」
さくら「あたし寅次郎の妹なんだけど兄にどんな用なの?」
順子「それじゃ、私のことお兄さんから
何か聞いてませんか?
私、最上順子って言います。」
さくら「最上さん?」
寒河江は、その昔、最上一族が支配していた。
あのあたりには『最上』姓が多いのかもしれない。
順子「はい」
さくら「さあ」
おばちゃん「あんた寅ちゃんのことよく知ってんの?」
順子「いえあの、顔はみた事無いんですけどでも
毎年お正月になるとうちの母に必ず手紙くれるんです」
これは、そうとうだよ。寅が何年にも渡って
手紙を出し続けるなんて普通絶対無い。
かなりの縁だね。
おばちゃん「あら…」
順子「そしてその中に娘さんの学費の足しにって
必ずお金が入ってるんです」
さくら「お金?」
順子「ええ」
おいちゃん、店に出てきて
おいちゃん「そいつは人違いなんじゃねえか
あいつが金なんか送るわけねえもん」
おばちゃん「そうだねえ」
さくら「失礼だけどお金はたくさん?」
順子「いいえ、大抵五百円ですけど…」
おばちゃん「やっぱり寅ちゃんかねえ…」
と、500円に反応し、間髪入れず断定するおばちゃん。
さすが見切ってるねぇ、おばちゃん(^^;)
おいちゃん「うんー」おいちゃんも『500円』で納得(^^;)
おいちゃん「で、おじょうちゃん、寅とあんたのおっ母さんとは
どういう関係なんだい?」
順子「実は、そのことなんですけど…、」
寅、店先でとらやの中を覗いている。
さくら、寅に気づく。
さくら、嬉しそうな顔。
おばちゃん「あら!」
寅、照れくさくて、くるっと回って右に行って、
荷物を背負った通行人のおじさんについて今度は左へ行く。
順子「つまり…」
おいちゃん「噂をすれば影…」
さくら「ねえ、順子さんって言ったわね」
順子「はい」
さくら「兄が帰ってきたわ」
順子、店先を見て
順子「ほんと?」
清掃車の音楽
寅、そっとかがみながら店を覗く。
一同と目が合う。
寅、背中を向けておろおろしながら立っている。
さっきの轟巡査やって来て
巡査「なにか、探し物ですか?」
寅「ん…とらやって店どこかなあ…って思って…」
巡査、後ろを見て「ここですよ」
寅「あーっ、こんな近いとこにあったのか。
ハハハごくろうさん、ここだったら知ってるわ」
毎回これだもんなあ…、入りにくいんだねえ(´−`;)
順子、じっと寅を見つめている。
寅「よう!おいちゃんおばちゃん!
さくらも達者か?ん?」
一同「…」
寅笑いながら「どうした?」
寅、順子を見て、
寅「なんだいこの子は?」
寅、順子を見ながら、突然『はっ』とする。
さくら「お兄ちゃん、この子ね、…」
寅「ちょっと、待て…、ちょと待てよぉ…」
と、順子の顔を見て何か思い出している。
順子「あの、私」
寅「あ!ちょちょ待て…、
思い出すよ…ちょと待てな…」
沈黙
寅、はっとして
寅「あー…、お雪さんだあ…」
順子のテーマ(雪のテーマ)が流れる。
順子「お父さんなの?…」
寅、にこっと笑いながら、つい頷く。
その直後、我に帰り、怪訝な顔をする寅
一同 呆然と寅を見ながら体が動かない ( ̄。 ̄;)。
順子、感極まって、涙ぐんでいる。
店先で客
客「こんにちは、お団子下さいな」
おばちゃん、お盆を振り上げて店先に飛んでいき、
おばちゃん「すいません!いまちょっと取り込んでいますから!」
と店のガラス戸を閉める。
おばちゃん、寅の方を向いてわなわな。
客「!…????」
おばちゃん「あの、後にしてください」
客を大事にしない店だねえ相変わらず(^^;)
おばちゃん、寅を見て真っ青になっている。
さくら「ねえ!今何て言った!?お父さんって言ったの?」
順子うなずいて泣きながら
順子「今この人が言った、雪、は
私の母なんです。」
さくら、口を開けて驚く。(|||▽ )
寅、びびりながらたどたどしく
寅「オレは、知らないな……オレは…」( ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄;
おいちゃん、目を見開きワナワナ…
おばちゃん「はうーっ!!!…」ちょ…ちょっと ヽ( ̄Д ̄ヽ)
っと手を押さえながら小走りで
おいちゃんの所へ駆け寄る。
寅「オレは知らないな…」
おばちゃん「なんてことだい!…」と慄く。
おばちゃん、頭の中ほぼ仕上がりました( ̄  ̄)
おいちゃん「落ち着け!みんな落ち着け!」
おいちゃんが一番落ち着け ヾ(- -;)
寅、おばちゃんに
寅「いや…落ち着きなよ…落ち着きなよ」
さくら「ね、お兄ちゃん、正直にありのままを言うのよ」
さくらのこの言い方もなぜか笑える(^^;)
と順子の方を見ながら傍らに座って
さくら「お雪さんという人を知ったのはいつなの?」
寅「え?そりゃ16、7年…」
おいちゃん「お嬢ちゃんいくつだ?」
順子「十七です…」
おばちゃん「間違いない…!!」
おばちゃん完全に決めました(^^;)/
寅、上を向いて数を勘定している(^^;)
おいちゃん「おまえ、おぼえがあんだろ!?」
寅「おぼえって?なに?」
おばちゃん「悪い男だよ!とぼけたりして!」
おばちゃん、何があっても考えが変わりません (~ヘ~;)
寅「何言ってんだよ…??」
「ちょっと、おばちゃん黙っててよ。
お兄ちゃんとそのお雪との間柄は
子供ができてもおかしくない間柄だったの?」
寅「…?間柄だったのか??」
おばちゃん「あー!じれったい!」
おばちゃん、潜在意識で願望が入っているぞ。ヾ(^^;)
おいちゃん「お前お雪さんとできてたんだろ!!」
寅「バカヤロウ!!なんて事言うんだい!」バン!
寅「おりゃあ指一本ふれたことねえや!」
おいちゃん「指一本ふれねえでなんで
子供ができるんだ!」受胎告知か。
おいちゃんも、ついに決め付けました ゞ( ̄∇ ̄;)
寅「だからおかしいって言ってるんだよ!
おりゃあ忘れもしねえ
お雪さんはないつだって
赤ん坊をちゃんと背中に負ぶって
手を真っ赤にして働いてた人なんだぞ」
さくら「赤ん坊がいたの?」
寅「そうだよ、可愛い女の子がひとりいたよ」
さくら「なんで早くそのことを言わないの!
じゃその赤ん坊がこの子よ」
さくら、生地獄から生還 (´▽`)
寅「…あの時の赤ん坊か!
どうりで、お雪さんそっくりだ」
さくら「順子さんお気の毒だけど、
あなたの勘違いかもしれないわね」
おいちゃん「こいつは馬鹿だけど
嘘をつかねえ男だから」
これはおいちゃんの名言。
なかなか言えないよこういう言葉。
おばちゃん「そうなのよ」
順子「はい…よくわかりました…どうもすいませんでした」
寅「いいえ」
おばちゃん「あやまることなんか無いのに」
さくら「お母さんにここに来ること話したの?」
順子「いいえ」
さくら「じゃ黙って来たの?」
順子「……」
順子「あの…
おじさん…、
母は去年…死にました」
と言って下を向く順子。
寅「……」
順子を見つめる寅
にこやかな表情がわずかに透明になっていく。
渥美さんの静かな芝居が絶品だった。
警察官が『私の青い鳥』を歌って走り去る
轟巡査「♪よこそここへクッククック〜私の青い鳥…」
さくらたち、どう言っていいか
分からなくて沈黙が続く。
順子「あのーこれつまんないもんなんですけど…
それじゃあいろいろお世話になりました。失礼します」
寅「よ!ちょ、ちょっと待て!ほら、なんだよ、
おばちゃんなんかほら!ほら、ちょっと!」
寅、なんとかしてやりたくて、
なんでもいいから何か言おうとしている。
おばちゃん「じゃ、お団子でも」
寅「ちが…!なんかもっと贅沢な物をさ!なんか!」
おいちゃん「にぎりはどうだいにぎり」
寅「え?いや、もっと豪華なもんだよ!」
おばちゃん「え?え?あ、じゃ、オムライスオムライス」
おいちゃん「あ、そうだ!うなぎうなぎ」
寅「うなぎ」
おいちゃん「うなぎ好きかね!」
寅「な、何でもいいや、全部まとめてとれ!
電話電話!電話しろ電話!」
おいちゃん「電話」
寅「いーいいや!おいちゃんおいちゃん
俺がひとっ走り言ったほうが早い!」
寅「さくら!捕まえて!つかまえてろ!
逃がすな!逃がすな!よおし」猿じゃないんだから(^^;)
何にもできないが、何とかしてやりたい寅の
優しい気持ちが、痛いほど伝わる温かいシーンだ。
こういう時の寅は一番生き生きしている。
さくら「う、うん」
さくら順子を座らせる
順子「あ、すいません」
おいちゃんジージージ…
おばちゃん「あ、あのね、今ね支度しますからねえ」
順子「はい」
さくら「待っててねご馳走来るから待っててね。
食べてらっしゃい」
順子「はいどうも」
順子「は!やだ、あの、友達があのお寺で待ってるんです。だから、やっぱり」
さくら「あ、分かった分かったわたし呼んであげる」
順子「すいません」
寅戻ってきて「何と何頼むんだ?」
さくら「お寿司とてんぷらでしょ」
二人走っていく。
おいちゃん、電話で
おいちゃん「あ、もしもしうなぎやさん?あの、うなぎの上をねぇ…」
おばちゃん、台所から「私、うなぎ嫌いだよ!」
おばちゃんが食べんじゃないよ(^^;)
おいちゃん「おまえのことなんか聞いてない!」
順子、クスクス笑っている。
おいちゃん「ハハ…こっちの話で…うなぎの…」
おばちゃん「さくらちゃんも嫌いよ!」しつこい(^^;)
おいちゃん「うるさいなおまえ〜!。とらやですがね。
うなぎの上を…一、二、三、四つ」
順子、ずっと笑っている。
順子ちゃん、面白いよねえ、この老夫婦(^^)
ようこそここへ クック クック
わたしの青い鳥
恋をした心にとまります
そよ風吹いて クック クック
便りがとどけられ
誰よりもしあわせ感じます
どうぞ行かないで
このままずっと
わたしのこの胸で
しあわせ歌っていてね
クック クック クッククック
青い鳥
夕方、江戸川土手
順子「お世話になりました」
さくら「また、遊びにきてね」
順子「はい。さようなら」
寅「あ、ねえちゃん、ちょっと…」
寅、さくらに「おまえによ、これやろうと思って
少し貯めといたんだけど、まあ、事情が事情だしな…」
財布の中からお札を何枚か取り出す。
さくら、頷く。
寅、順子に「これな、帰りの汽車の中で、
友達とキャラメルでも買って食べな」
順子「いやー、あの、でも…」と恐縮する。
寅「いいっていいって」
順子「こんなたくさん、あの…私…」
さくら、駆け寄って、
さくら「もらっときなさい、
兄はお金持ちなんだから、」
さくら名言だよそれって。さすがだね( ̄ー ̄)
寅「そう」
さくら「ね…」
順子「そうですか…、じゃあ、遠慮なくいただきます」
寅、頷く
順子「ありがとうございました」
順子、歩いて振り返り
順子「さよなら」
友人たちも「さよなら」「さよなら」
4人とも『とらやのお土産』貰って帰っていった。
とらやの人たちはほんと優しいね。
寅「困ったことがあったらいつでも来るんだぞ!」
順子「はーい」
寅「うん!」と手をあげる。
去っていく順子たち。
寅「がんばるんだぞ!」と叫ぶ
順子、手を振りながら
順子「はーい!」
寅とさくら、手を振る。
寅、ちょっとさくらを見て、順子の生活を心配する表情。
それにしても順子の友達3人は偉い!
順子一人だったら、心細いので、付き合ってやったんだね。
修学旅行中の貴重な自由行動の時間をこうして彼女のために
使ってくれるなんて順子は幸せだね。なんとなく寒河江で彼女は
みんなに大事にされているのではないかって思えた。
ちなみにあそこから歩いて国鉄金町駅に行くのは時間のロスだと思う。
やはりここは柴又駅から京成上野だろ。せっかく貴重な修学旅行の
自由行動の時間なのだから。
「それを言っちゃあおしめえよ!」チャンチャン(^^)
夕闇迫る、題経寺。
源ちゃんが鐘を撞いている。
「ゴーン」
とらや 茶の間
みんなで集まっている。
博「山形県か…、美人の産地ですね」
子守唄のマドンナ、京子さんも山形の米沢。
おばちゃん「かわいい娘だったねえ」
おいちゃん「ほんとに可愛かった…」
社長「オレも一目見たかったなあ〜」
博「お母さんも美人だったんですか?」
社長「ねえ、寅さん、ちょっとぉ、話してくれよ、
どんな具合だったんだい、その人とは」
寅、柱にもたれかかって、思い出している表情。
寅「うん…。
オレが始めてお雪さんに会ったのは…
忘れもしねえ、雪の降ってる晩だった…」
社長「なるほど…」
お雪さんのテーマ(順子のテーマ)が流れる。
おばちゃん頷く。
寅「おらあ、寒河江(さがえ)という町を
無一文で歩いていたんだ。
もう何をやっても
うまくいかねえ時でなあ…、
おばちゃん「へっ…えぇ……」
寅「腹はすいてくるし、手足は凍えてくるし、
もう矢も盾もたまらなくなって、
…駅前の食堂に飛び込んだんだ。
そこがお雪さんの店よ」
おばちゃん、頷く
寅「背中にちっちゃな赤ん坊しょって
働いていたっけ。
寅「オレは手に持ってるカバンと
腕時計を出して…、
『これでなんか食わしてくれぃ』って
そう言ったんだ。
そうしたらお雪さんが…、
『いいんですよ、
困っている時は、お互いですからね』
…どんぶりに山盛りの飯と、
湯気の立った豚汁と、お新香を
そっと置いてってくれたっけ…。
オレはもう…無我夢中で
その飯をかき込んでるうちに……、
なんだかポロポロポロポロポロポロ…
涙がこぼれて仕方がなかったよ。
その時オレには…あのお雪さんが
観音様に見えたよ。
その名の通り、
雪のように白い肌の、
そらあきれいな人だったぁ…」
この時の渥美さんの遠くを見つめる目は印象的だった
社長「観音様だよなあ…その人は」と目を潤ませている。
おいちゃん「んん」と深く頷く。
おばちゃん「ん…」
一同 深く感じている。
人は一生の中で精根尽き果て、倒れることが何度かある。
寅じゃないけれど、『もう、何をやってもうまくいかない時』と
いうのは確かにあるのだ。そんな時、ふと、凍えている自分の
手を包み込むように抱き起こしてくれた人がいたとすれば
ほんとうにどれだけ嬉しいものだろう。そしてこの人のことを
一生忘れないでいたい。そう思う。これは、味わった人
しか分からない。寅がお雪さんを『観音様』と表現した気持ち
は私にはよく分かる。愛情を与えることだけを人生の中で
まるで『修行』のように背負わされている寅だが、この、
雪の夜の出来事は、幼き日に夢に見た母の手の温もり
だったのかもしれない。この寅のアリアの中でのみ語られる
お雪さんではあるが、だからこそ私には想像力を刺激されて
いつまでも心に残るのである。
寅は十六年間にも渡ってお雪さんに毎年500円を添えて手紙を
送り続けて来た。寅の生涯で、リリーは特別として、十六年間
手紙を出し続け、その幸せを願い続けた人が果たして他に
いるだろうか。これは凄いできごとなのだ。
博「その時…、旦那さんはもういなかったのか?」
さくら「うん、あの子ぜんぜん記憶がないんだって…」
おばちゃん「なんか…、よっぽど、悲しい事情が
あったんだよ。娘にも言えないような」
おいちゃん、頷く。
社長「よくあるんだよ、そういうことは…」
寅、皆のところに座る。
さくら「でもお兄ちゃん、偉いわねえ…」
さくら、博に向かって
さくら「毎年欠かさず手紙あげてたんだって」
博「へえ…」
おばちゃん「お金まで入れてねえ…」
おいちゃん、寅を見て頷いている。
電車の警笛
寅「ん…、まあな…。
それが人の道ってもんだろう」
おいちゃん、何度も頷く。
社長「なるほどねえ〜、その手紙の主、
車寅次郎こそ、私の父親に違いない。
16年間ず〜っとそう思い続けてきた瞼の父に、
はるばる山形県から、この柴又まで会いに来た。
『この人が、あんたの探していた男だよ』
言われて、指差された方を見る!」
寅、頷いて聞いている。
博「そこに、兄さんがいたわけか」
社長「は〜、似ても似つかぬ四角い顔してさ〜」
満男、真四角の額を顔に当てて
向こうではしゃいでいる。
グッドタイミング満男!(^^;)
中村はやと君のギャグ冴えまくり!
おいちゃん「がっかりしただろうなあ…」 がっかりって… ヾ(^o^;
おばちゃん「なんてったって傷つきやすい年頃だからねえ〜…」
そこまで言うかおばちゃん ヾ(-_- )
寅、ブスッとして「…」
おばちゃん「今ごろ、汽車の中で泣いてんじゃないかい?」
しつこいぞ、おばちゃん(−−;)
おいちゃん「んん…」
博「でも、結果は違ったからよかったんでしょう?」
博まで…そんなこと( ̄△ ̄;)
おいちゃん「あ、そうか!ほっとしたわけか」
言いたい放題( ̄ー ̄; )
社長「そうそう!不幸中の幸いだよな!」
幸い、とまで…┐(-。ー;)┌
一同 ハハハ
さくらだけ、寅の方を見て、ちょっと複雑な表情。
おばちゃん「私、間違えちゃった、ハハハ」
一同、さらに大きな声で馬鹿笑い
おばちゃん、「笑っちゃ悪いよねえ〜!ハハハ」
と言いつつ、おばちゃんまだ笑ってるよ ヾ(^^;)。
寅、「……」
一同、ようやく寅の怒りに気づき、シ〜ン…。
寅「ヤイ!!!、四角いのが可笑しいか!?、
正方形がそんなに可笑しいか!?
エ!!今どんな時だと思ってるんだ。
あの娘のことを話し合って
お互いに涙を流さなきゃ
ならないんじゃねえのかぁ?
それをなんだい、歯全部むき出しやがって、
ゲタゲタゲタゲタ!!
入れ歯だったら、落っこちるぞぉ!
おまえたちはみんな悪魔かあ!!
さくら「お兄ちゃん、ごめんなさい、今のはみんな悪かったわ」
おいちゃん「悪かった悪かった」
博「すいませんでした」
一同、謝る。
社長「寅さん、ごめんよ、
四角い顔ってのは言いすぎだった」
もう全部言いすぎなんだよ社長 ┐(-。ー;)┌
寅、カチン!ときて、
寅「てめえに人の顔とやかく言えるか!
この野郎!家へ行って、鏡見て来い!
鏡の奥にな、青むくれしたタコが
ビックリしてら!そいつがてめえよ!
どうだ、悔しいか?
悔しかったら、
ねじり鉢巻してタコ踊りでも
踊ってごらんなさいてんだ!
ざまあ見ろぃ!」
凄い啖呵だねえ〜。
タコ踊りを踊る渥美さん
社長「チクショウ!」と寅を後ろからつついて倒す。
寅、お膳に『ドン!!』と頭をぶつける。 (☆。x)
寅「おまえ、こいつ!
痛いな!この野郎!」と社長の頭をたたく。
社長「やるかあ!!」と背広を脱ぐ。
寅と社長取っ組み合い。
さくら「お兄ちゃん!」
博「やめてください!社長も〜!」
さくら「せっかく16年前のきれいな思い出話を
しているじゃない。ねえ〜」
おいちゃん「でもなあ…、その16年間を、
こいつはぁ、惚れちゃあふられ、惚れちゃあふられ」
あ〜あ、おいちゃん関係ないこと言っちゃった。
それとこれとは別問題だよ。それじゃ寅が可哀想。
おばちゃん「飽きもせずね」
おばちゃんまで…
寅「好きでふられてるんじゃねえよぉ!」
おいちゃん「寅、よーく考えてみろ。
まともに結婚してたら今ごろあれくらいの
娘がいてもおかしくない年頃なんだぞ」
またまた、話が愚痴っぽくなってきたぞ、おいちゃん。
おばちゃん「あんな可愛い孫がいたらねえ…」
とおいちゃんの方を向いてつぶやく。
寅「冗談言っちゃいけないよー、
お二人さんの子種の無いのを
こっちのせいにされてたまるかい!!」
凄いなこの一言…。凄まじい…。 )゜0゜(
こんなキツイ啖呵、シリーズ中ダントツ一番だ…。
おいちゃん「もういっぺん言ってみろ!!」と寅を指さす。
社長「今のはよくないぞ!!」と指をさす。
そこまで寅を怒らした主犯は、アンタだよ社長。(ー ー ;)
何も怒ったりしないで、寅を見ているおばちゃんが可哀想…
さくら「謝んなさい」
寅、社長に、「えらそうに!」
と立ち上がって社長に向かっていく。
さくら「お兄ちゃんよくないわよ。
ねえ、よくないわよ」
博「兄さん!」
寅「てめえ!このやろう!!」と動きをやめて
寅、おいちゃんの方を見て
寅「おいちゃん、オレだってそう思わねえことはねえよ。
あんな可愛い子がオレの娘だったらなっって…」
寅、カバンと帽子持って
寅「でも、しょうがないじゃないか!」
メインテーマが流れる。
寅、みやげ物を投げるようにさくらに渡して出て行く。
さくら、追いかける。
さくら「お兄ちゃん」
寅、店から出て行こうとして
さくら、腕を掴む。
寅「やめろよ」
さくら「お兄ちゃん」
さくら、自分の財布開けてお札を取り出して…
さくら「お金ないんでしょ…」
そうだった…。夕方江戸川土手で、
順子ちゃんに全財産あげてしまったもんな…
さくら「また帰ってきてね」と寅を見る。
寅、さくらを見て、おいちゃんたちを見て出て行く。
さくら、寅の背中を目で追って、
そして下を向く。
いつも、心のどこかで、おいちゃんも、おばちゃんも
ヤクザなフーテンである寅のことを心配し、時には
不満に思っている。そして、なにか事あるたびにそれを、
つい表に出してしまい、そのことで常々負い目を
感じている寅を結果的に追い詰めてしまうことがある。
心から愛すればこその執着であり、忠告なのだが、
そこに人間関係の悲劇が生まれもするのだろう。
あのドタバタの騒ぎの中でも寅の財布にお金がないことを
決して忘れないさくら。
兄妹の絆とはほんといいものだ、とつくづく思った。
山形県 かみのやま温泉
下大湯公衆浴場前の通り
丸善 土産物屋 森永牛乳 コカ・コーラ たばこ 湯の町って感じ。
突き当たりに「湯の上観音」が納められている
最上三十三観音 第十番札所観音寺への石段が見える。
画面左手前の張り紙に「祭礼.湯の上観音」の文字が
僅かに読み取れる
↓
最上三十三観音 第十番札所
上の山観音(湯の上観音) 水岸山 観音寺の祭礼。
遠く彼方に蔵王の山並み
観音寺境内
観音堂近くで啖呵バイをする寅
「湯殿山」と彫った石(総奥之院であった湯殿山神仰を今に伝えている)
この石碑があるばかりに、どの本にもこのバイの場所を「湯殿山」、「湯殿山神社」
と間違って書いてある。
三山の峰々に、古代の人々は神々が宿っていると信じていた。
ちなみに月山・湯殿山・羽黒山を三山というようになるのは
室町時代末期から、と考えられている。それ以前は羽黒山・月山・葉山を
三山とし、『湯殿山』は「総奥之院」としていた。その信仰は東北一円はもとより
関東にまでおよび、各地に湯殿山の『石碑』が残され、
往時の信仰の厚さ信者の多さを物語っているのだ。
それで『湯殿山の石碑』が『かみのやま温泉の水岸山 観音寺』にもあるのである。
上山(かみのやま)温泉街のある十日町通りからちょっと西に入った
下大湯公衆浴場の裏手、石段を登った小高いところに観音堂がある。
むかしこのあたりは水辺であったので寺号は水岸山と称し、
門前の下大湯はかつて同寺で管理していたことから『湯の上観音』
ともいう。天仁二年(1109年)の開山
祭りのお囃子が聞こえてくる
啖呵バイ
旅行、スポーツカバンを売っている。
寅「さあ、ねえ、ほらこれ見てちょうだい
本皮使用、本皮使用ですよ」
赤ちゃんを負ぶって、お地蔵様に手を合わせている主婦。
現在の観音堂付近。映画ではこのあたりで寅が啖呵バイをしていた。
寅「雨にも負けず風にもめげず、何処へ持っていっっても
長持ちのする物、ねっ、はい!これ見てごらん
どう、ね。ハイ、ハイ女学生の皆さんちょっとこっちいらっしゃい
ちょっとこっちいらっしゃい。
これ見てちょうだい、どう、ハイ!ほら中学生、高校生の皆さん
みんなこっちいらっしゃいどう!
これ手に持って見てね!どう!
みなさんもう修学旅行はもうしましたか?」
女子高校生A「まだです」
寅「まだしない!来年はきっとします!」(^^;)
女子高生の後ろに信者で賑わう観音堂が見える。 現在の観音堂
寅「さあて、取り出だしたりますこのカバン、ね!
角は一流デパート赤木屋黒木屋白木屋さんで
紅白粉つけたおねえちゃんにくださいちょうだい
でお願いしますと、ほら、8千から9千はくだらない品物、今日は
それだけ下さいとは申しません!
なぜかと言うと、わたくしは、山形県人が大好き!ね!
今だから言いましょう!わたくしのお母さんは山形県の出身、
そして、わたくしの女房と妾が恥ずかしながら山形県人、どう、ね!
こうなったら大サービス!
ものの始まりが一ならば、国の始まりは大和の国、島の始まりは淡路島、
泥棒の始まりは石川の五右衛門なら!」
題経寺
源ちゃんヨヨーをしている。
おもちゃをいろいろ売っている店
グレート マジンガー(シール)
警視庁 亀有警察署 帝釈天前派出所
標語
『交番 暴力を見たら知ったら勇気リンリン110番』(^^;)
タワシ 60円 水汲みの金柄杓 250円 (刑務所内作業で作成の物か…)
さくら、満男の幼稚園帰りに、ちょうど、前を通った時、
轟巡査がボタン付けをしているのを見る。
さくら「やりましょうか?フフ…」
警官繕い物をしている。「は、…結構です」と恐縮。
さくら「おまわりさんお独り?」
警官「はい」
さくら「じゃあ、ご不自由ねえ。何かお困り名ことが
あったらおっしゃってくださいね」
警官「ありがとうございます」
轟巡査さん、新しい赴任先で、心細い思いをしている時に
こういうこと言ってもらうとなんとも嬉しいよね。
さくら「それじゃ」
看板 亀有警察署警戒…
とらや
茶の間
御前様とおいちゃんが話している。
おいちゃん「ああ、そうですか」
さくら「こんにちは〜…ああ、御前様 こんにちは」
御前様「いや、いいお日和で」
さくら「満男、こんにちは、は?」
満男「こんちは」
御前様「やあ」
おいちゃん「ほら、こないだ話した御前様の親戚の方が」
さくら「ええ、2階を借りたいとかいう…」
御前様頷く
おいちゃん「うん、見えてんだよ」
さくら「へえ…」
礼子さんのハンドバックが
座布団の横に置いてある。
御前様「今までいた所が自動車が
うるさくて勉強ができないと言うんでね」
さくら「ええ」
御前様「それじゃ私のとこへ来なさいと言うたんだが…、線香の匂いが大嫌い
などと、生意気なことを言いやがって」
一同「フフフ…」
おいちゃん「しかし、こんな汚いとこが気に入っていただけますかしら」
御前様「いやいや、お宅なら、一番安心、何と言ってもまだ娘だからな」
おいちゃん「なんせ客商売なもんですから…」
おばちゃんと礼子さん笑って階段を下りてくる。
礼子さん「フフフ」
おばちゃん「あ、さくらさん、来てんのかい?」
おばちゃん、礼子さんに向かって
おばちゃん「あの、先ほどお話しました、姪のさくらです」
礼子「あー、どうも。筧礼子です。このたびはご無理なお願いを申しまして」
と座敷に座って頭を下げる。
『礼子』さんは、後に泉ちゃんのママの名前(第43作のマドンナ)にもなってしまう。
つまり同じ名前のマドンナが登場してしまうのだ。
実は、こういうことはこのシリーズでは決して珍しくないのだ。
山田監督はマドンナのネーミングに無頓着なので下↓のような
凄いダブリがおこってしまう。
さて、みなさん誰が誰だかお分かりになるでしょうか?
物語にもどりましょう。
さくら「あ、いいえ。あんなお部屋でお役に立つんなら」
礼子「あ、とんでもない。とってもいいお部屋よおじさま」
満男、おばちゃんにみかんを貰って食べ始める。
御前様「そうか、気に入ったか」
礼子「ええ」
御前様「そうか、それはよかった」
御前様「じゃ、竜造さん、そういうことでお願いできるかな」
おいちゃん「ええ、もう…」
おばちゃん「さくら、こちらさんね、大学の先生なんだよ」
礼子「違いますよ、まだ助手ですよ」
さくら「あの…何を研究なさってるんですか?」
礼子「考古学です」
おいちゃん「ほう…」
御前様「なにしろ変わりもんでねぇ、将来学者になって、
ノーベル賞を貰いたいそうだ」
御前様のギャグでした(^^;)
変わりもんといえば、理論物理学の素粒子論研究の
岡倉先生も御前様の親戚だった(^^;)
礼子「まあ、おじさま!」と笑いながら御前様の袖を掴む。
『おじさま』ということは…冬子さんと礼子さんは従姉妹だね(^^)
おばちゃん、お膳にみかんを置いて
おばちゃん「まあ、そういう人に来ていただいて、光栄ですわあ」
おばちゃんって、相変わらず...(^^;)
礼子、苦笑しながら
礼子「あの、ほんとに置いていただいてよろしいんですか?」
おいちゃん「どうぞどうぞ」
おばちゃん「えー、どうぞ」
御前様「そりゃあ、安心だ。みんないい人ばかりだから」
礼子「どうか、よろしくお願いします」
一同「こちらこそ」
御前様「あとは、このさくらさんのご主人の博さん。裏の印刷工場に
勤めているが、この人もいい人だ」
一同「フフフ…」
御前様「それで、みんなだったね」
さくらとおいちゃん、寅のことを思い出して「…」
御前様「他にいたかな…?」
一同もじもじ。
おいちゃん「あの…、変なのがもう一匹…」
御前様「あ!!トラがいたか!」発音が「虎」ですよ(^^;)
御前様、普通気づきますよ、
もっとず〜っと前の段階で(^^;)
礼子「あら…虎飼ってらっしゃるの!?」
そんなわけないだろが礼子さん!ヾ( ̄o ̄;)
御前様「うん…」うん、って...(^^;)
さくら、御前様を見て笑う。
おいちゃん「いやいやいや人間なんですよ」
みんなで笑う
さくら「あの…わたくしの兄なんですけど…」
礼子「あ、そう〜!」
さくら「でも、めったに帰ってこないんです」
おばちゃん「そうねえ、ついこないだ帰ったばかりだし…」
さくら「そうね」
おいちゃん「でも…突然帰ってくることだってあるぞ」
そういう時にこそ、寅はひょこっと帰ってくるんだなあ。
一同「…」
御前様「しかし、困ったぁ…」
礼子「え?」
おばちゃん「いえ、悪い男じゃないんですよ」そうそう(^^;)
おいちゃん「見かけはよくないんですけどね」そうそう(^^;)
おばちゃん「目の前にいますとね、つい、こう腹が立ったり」うんうん(^^;)
おいちゃん「いなきゃいないで気になるしなぁ…」そうなんだよね(^^;)
おばちゃん「困ったねえ」ほんとにねえ(−−)
礼子、御前様に「どういう方なの?」
御前様「ま、会えばわかる…」
さすが御前様、名言!うん、会えば分かる!
しかし、困ったなあ…」
御前様、気づくのが遅すぎですよ。普通、独身のきれいな娘さんは、
とらやには紹介しないのが柴又界隈の子供でもわかる常識のはず。
岡倉先生止まりですよ。
最上川 大江町の渡し舟
深沢の渡船場
寅を乗せて舟がゆく。
寅、お雪さんとの思い出に
耽りながら舟に揺られている。
板の立て札と船頭さんを呼ぶための鐘
『お願い 鐘を鳴らして舟頭さんを呼んでください。
むやみに鳴らさないで下さい。 大江町』
寒河江に入る寅。
美しい秋景色
遠くに見える雪をいただいた山々。
お雪さん(順子)のテーマが静かに流れる。
墓地から遠く彼方に見える寒河江川と蔵王の山並み
お雪さんの墓に菊の花を差し、線香を立てている。
下を向いていろいろ思い出に耽っている寅。
水桶を『慈恩寺』から借りて持ってきている。
本堂を上がっていくと墓地がある。
慈恩寺の和尚、寅がお雪さんの墓参りに来たと聞いて、墓にやってくる。
和尚「失礼だが、お雪さんのお身内の方かな…」
寅「いいえ、ちょいとした知り合いのもんでございます」
いいねえこの言い方。控えめで。
和尚「ほう…。どちらから」
寅「はい。東京から参りました」
和尚「ほう、それはまた遠いところからわざわざよく来てくださった」
和尚「お名前は?」
寅「車寅次郎と申します」
和尚「お雪さん、東京から車さんって方がお見えになったよ」
和尚、墓の周りを掃除しながら、
和尚「仏、ほっとけといってね、ついほったらかしてすまんね」
この、『仏ほっとけ』のギャグはこの後もなんどか出てくる定番。
鳥の鳴き声
落ち葉を取りながら
和尚「久しぶりにお経をあげようかね…」
手を合わせて
和尚「あなたもご一緒に」
寅「はい」
懺悔(仏教ではさんげと読む)
和尚「我昔所造諸悪業
(がしゃくしょぞう しょあくごう)
皆由無始貪瞋痴
(かいゆうむし とんじんち)
従身口意之所生
(じゅうしんくい ししょうしょう)
一切我今皆懴悔
(いっさいがこん かいさんげ)
『我昔所造諸悪業・皆由無始貪瞋痴・
従身語意之所生・一切我今皆懺悔
仏に過去現在の一切の悪業行為(欲ばり・怒り・愚痴)を
悔い改めることを誓う文。
慈恩寺の前の道をふたり歩きながら、
和尚「お雪さんは騙されたんでしょうなぁ。いや、土地の者じゃない。
東京から来てなにか商売のようなものをやってる男でした。
少しばかり容子がいいのを鼻にかけて、いろいろと女出入りの噂の
絶えない男だった。お雪さんも随分尽くしたようだったが、
男にしてみりゃ所詮遊びごと。お雪さんに子供ができたのを
知って、慌てて行方をくらました。ま、そんなことでした。」
寅「お雪さんは、その後もその男の子とをずーっと想って
暮らしたんでしょうかね?」
和尚「いやいや、あの人は利口な人だから、年をとるにつれてだんだん
分かってきたようです。よく寺に来て話してました。
私に少しでも学問があれば、男の不実を見抜けたものを、学問がない
ばかりに一生の悔いを残してしまった。
…可哀想な人でした。」
慈恩寺、『華蔵院』石段の下で別れる。
和尚「ご苦労様でした。道中ご無事で」
寅、階段を上る和尚を呼びとめ
寅「和尚さん、」
和尚振り返る
寅「私には、お雪さんの気持ちがよーく分かります」
和尚「さようかな」
寅「はい。私も学問ないから…今まで悲しいことや、辛い思いを
どれだけしたか分かりません。
ほんとうに、私のようにバカな男はどうしようもないですよ」
和尚「いや、それは違う。
己の愚かしさに気がついた人間は
愚かとは言いません」
和尚、寅を指差し、
和尚「あなたは、もう利口な人だ」
寅、「はぁ…」と頷く。
和尚、石段をまた降りながら
和尚「己を知る。これが何よりも大事な
ことです。己を知ってこそ、他人も知り、
世界も知ることができるというわけです。
あなたも学問なさるといい。四十の手習いと言ってな。
学問を始めるのに早い遅いはない。ね。」
『子曰く、朝に道を聞けば夕に死すとも可なり』
和尚寅を拝んで、また石段を上がってゆく。
寅「和尚さん」
和尚、振り返る。
寅「今のお言葉、もういっぺん聞かせて
いただけませんでしょうか」
和尚『子曰く、朝に道を聞けば夕に死すとも可なり』
石段を登りながら
和尚「物事の道理を知るということができれば
いつ死んでも構わない。学問の道はそれほど遠く…
険しいというわけです」
その姿が小さく消えてゆく。
寅「……」
和尚が消えていった彼方に向かって深くお辞儀をして…
静かに去っていく寅。
メインテーマがゆっくり流れる。
寅、ゆっくり慈恩寺の仁王門の前を通り、国道26号線を行く。
白岩地区
夕暮れの道を寂しく歩いていく。
鐘の音「ゴーン」
下校時の女子高生たち。
慈恩寺は天平18年(746年)、聖武天皇の勅令でインド僧婆羅門僧正が開基したと
伝えられる東北を代表する寺院。特に優れた仏像が多くある現在の本堂は
元和4年(1618)山形城主最上義光の再建とされる。本堂は国の重要文化財の指定を
中の数多くの仏像群と共にも受け、市指定文化財の薬師堂や、三重の塔(同指定)も近くにある。
ここで、奉納される舞楽も、国指定の重要無形民族文化財。
舞楽も、国指定の重要無形民族文化財。東北有数の巨刹としてまた霊場として
人々に尊崇されている
孔子が著した『論語』は、今から約2500年前、春秋の末期に書かれた。
「朝、道(事物当然の理)を聞いたら、修学の目的を達したわけだから、
その夕には死んでもいい。」という、求道への熱情の吐露を語っている。
柴又、帝釈天参道
立花屋ととらやが映る。
とらやの店の街灯の柱に本来の『柴又屋』の看板。
スタッフもこの辺は取り外さないようだ。
満男が電話に出ている。
今回しつこく出てくるスポンサーのブルドックソースが
テーブルにまたまた置かれている。
とらやのメニューで、ブルドックソースが
使われる食べ物はなんだろう?
たこ焼きやお好み焼き、焼きソバは
とらやにはない。おでんか?...??
満男「うん、そうだよ。...わかる〜。いるぅ〜。うん」
さくら、チラッと見ている。
と受話器を置いて、さくらのところへ行く。
多分、『満男か?』うん、そうだよ。
『オレが誰か分かるかい?』 わかる〜。
『さくら(お母さん)いるか?』いるぅ〜。
『ちょっと呼んで来てくれねえかい』うん。
という寅の声が満男には聞こえていたのだろう。
満男「おかあさん電話〜」
おばちゃんとさくら、布団の打ち直しをしている。
現在、打ち直しすることにより、目減りした分を
補充する『足し綿』を真新しい綿で行っているところ。
自分の家でする人はとても珍しくなってきている。
さくら「誰から?」
満男「とらさんから」
さくら「え?」
と電話口へ
満男、綿の上へダイビング!
満男「え〜い!」(;゜〇゜)
おばちゃん「満男おまえ、そんなところへ
乗っちゃダメ!あ、あーあ」
満男、綿を引っ剥がして遊んでいる。
おばちゃん可哀想(TT)
さくら「お兄ちゃん!?、うん、元気よぉー」
さくら、座りながら
さくら「どうしてるのよぉ〜、こないだのこと、みんな
気にしてるのよぉ。え?学問?誰がするの?え?お兄ちゃんが??」
ん…そりゃとってもいいことだけど…。
今どこにいるの?東京!?東京のどこ!?柴又ぁ!?」
駅前の喫茶店の中 赤電話
明神会の建物が窓から見える。
店内は大船のセット撮影だが、元になった喫茶店は、コサカフルーツの二階にある【YAMAYA】
壁の棚には ジャズを中心としたレコードジャケット
(寅さん仲間で金町在住のNAKAGAWA YUKIさんはじめ、彼のお仲間のジャズがお好きな音楽家の方々がFBで教えて下さいました)
■ポールチェンバースの「Bass on top」
■マイルス・デイビス の「マイルス イン ザ スカイ」
■Dexter GordonのThe Power Of Power
■LES ROIS DU JAZZ
BGMはクラシック
ヴィヴァルディ 作曲
リコーダーとファゴットのためのソナタRV.86第1楽章&第2楽章
寅「駅前のキッチャテンよ。何してるって…一人でコーシー飲んで
考えごとしてるんだよ。オレもいろいろ反省しなきゃいけない
しさ。…うん、わかったわかった、すぐ帰るよ。だからな、
店へすっと自然な形で入れるように、おまえ雰囲気作っとけよ、
な、うん…」
と頷きながら切る。うんと頷いて席に戻る。
斜め向かいの席に礼子が座って本を読んでいる。
寅、礼子を見るでもなく見ている。
壁に
「モーニングセット
コーヒーか紅茶
ハンバーガー 450円
ハムトースト+コーヒー
サンドイッチ+コーヒー
トースト+たまご+ミルク
250円
(AM9:00〜AM12:00)
寅「姉ちゃんは、本が好きかい?」
礼子、寅を見る。
寅「その本、面白いかい?
礼子「いえ…、あんまり…」
寅、頷きながら、
寅「読みつけないからだな。
初めは誰でもみんなそうなんだ」
よく言うよ〜寅、読んだことないくせに┐(-。ー;)┌
礼子、少し、微笑む
寅「勉強のつもりで読んでみると、
だんだん面白くなってくるよ」
漫画しか読んだことないのに、まったくねえ〜 ('〜`;)
礼子「…」
寅「この近所の店員さん?」
礼子「いえ、あの…勤めなんです」
寅「あ、工場か…ん…残業なんかもあるんだろ?」
礼子、ちょっと苦笑して、めがねをはずす。
寅「そう、しかし、同じ年頃の同僚が流行歌手の噂なんかして
キャアキャア騒いでいるのに、こうやって難しい本を読んで勉強してるんだ。
偉いなあ。。。」
と頷く。
寅、ウエートレスに
寅「おねえさん」
ウエイトレス「はい」
寅「こちらにコーヒーのお変わり差し上げて」
礼子「いえ、私、そんな…」
寅「コーシーに払うお金があるんだったら、
そのお金で本を買ってください。」
礼子の伝票を持っていこうとする。
礼子「まあ!まあ、困ります」
寅「まあ、いいでしょう、まあ、いいでしょう」
相変わらずカッコつけるね寅って、しょうがないね(^^;)
礼子「あの、その、とんでもない」
二人、帝釈天参道を歩きながら
高木屋の前 電柱に『柴又7−6』
寅「ねえちゃんはなんのために勉強してるんだい?」
礼子「さあ…」
寅「考えて見たことあねえかい?」
礼子「そうですね…つまり……」
寅「己を知るためよ」
礼子、表情が、明るくなって
礼子「そうねー!ほんとにそうだわ」
越後屋とすれ違って
寅「ヨォ越後屋相変わらずバカか!?己を知れよ!」
かあ〜〜、これだもんなあ(-。−;)
礼子、さっきの寅の言葉を考えている。
なぜか、また高木屋の前を
通っているぞ!おいおい(^^;)
とらや
さくらが店先から、寅と礼子を見つける。
さくら「ねえ、おばちゃん…」と奥へ。
」
寅と礼子、とらやの前で止まって。
礼子「じゃあ、私の家ここですから」
寅「あそう、ん」 あんたの家もここだよ寅 ヾ( ̄o ̄;)
礼子「どうも、いろいろありがとうございました」
寅「ま、一生懸命勉強してよ」
礼子「はい」
寅「じゃあね、」と帝釈天の方へ歩いていってしまう。
礼子笑いながら「さよなら」
さくら、おいちゃん、おばちゃん、で
呆然とその様子を見ている。
礼子「ただいま」
さくら「礼子さん、今の人ね.。」
礼子「え、」
さくら「あの...」
礼子「あー、一緒だった人?面白い方なの〜」
さくら、ちょっと笑いながら
さくら「それがねえ、私の兄なんです」
礼子「え!?」
さくら、道へ出て、寅が戻ってくるのを見て笑っている。
寅、戻ってきて
寅「もしもし、さくら、オレ、通り過ぎちゃったよ。ハハ、ハ」
気づくのが遅いよ(−−)
礼子、驚いて「…」
寅「ねえちゃん、あんた勘違いしてんじゃねえか。
ここ、オレんちだよ。」
さくら「違うのおにいちゃん」
おばちゃん「違うの寅ちゃん」おばちゃん真似っこ(^^)
「オレさ、今、キッチャテンでね、
このねえちゃんに話しかけられてな」
寅の方からしつこく話かけたんだろが(^^;)
寅にはこういう悪いくせがある。自分は落ち度がない
って言うニュアンスで他人に伝えてしまうのだ。
さくら、おばちゃん同時に
さくら「あのね、2階に下宿してらっしゃるの」
おばちゃん「下宿してらっしゃるの」おばちゃん、また真似っこ(^^)
なぜか、おばちゃんが、さくらの真似してるのが面白い
寅「え?誰が?」
さくら「このかたが…」
と手を示すさくら。
おばちゃんも同じように手を示す。(^^;0
礼子「まあ!お兄様!?」
寅「はい!」無声音で(^^;)
「はい!」
礼子「まあ、どうも失礼しました。ちっとも存じませんで」
寅、ニカーッ!!っと笑う。
二カーッ!!
おいちゃん「あの…、この男といったいどこで?」
礼子「ええ、喫茶店でお会いしてね、
いろいろご親切に教えていただいたのよ」
おいちゃん「うわーっ!」分かる分かる(^^;)
おいちゃん「うわーっ!」
おばちゃん「は〜、お恥ずかしい…」
さくら「教えて??」
さくら「なんか失礼なことでも言ったんじゃないかしら?」
おばちゃん「ねえ…」
礼子「コーヒーまでご馳走になっちゃって」
おいちゃん「はあーっ!」
相当お世話しちゃったみたいです(^▽^;)
おばちゃん「うわ〜」
寅のことを知りつくしているおいちゃん、おばちゃん、恥かしそうです(^^;)
礼子「本当にありがとうございました。じゃあ、またのちほど」
一同「どうも」
2階へ上がっていく。
寅、後を目でずっと追っている。
寅、もう完全に「できあがっている」様子。
さくら「お兄ちゃん...」
さくら、もうすでに覚っている顔(-_-;)
寅、フフ…とにやついて
「お兄様だってよ…」
ついに始まりました。。。
ニカッと笑って、表に出て行く。
とらや2階の礼子の部屋
2階に上がった礼子座って、本を取り出す。
寅のこと思い出して、「フフフ…」と笑う。
今回のとらやのお品書きは「相合い傘」の時と全く同じものを使用。
茶めし 150円
おでん 150円
赤飯 150円
あんみつ 150円
磯おとめ 100円
草だんご 100円
くず餅 100円
こがね餅 70円
焼きだんご 100円
今回も冷蔵庫は『雪印』
今回の今回のスポンサーである
『ブルドッグソース』は、いたる場面で出まくり!(^^;)
題経寺がシルエットになって
夕陽が落ちていく柴又。
カラスの鳴き声
題経寺の鐘 「ゴーン」
とらや 茶の間
寅「コウコ学??」
博を見て、さくらを見て
寅「コウコ学ってなんだい?親孝行の学問か?」
さくら「孝行じゃないの」
寅「え?」
さくら「考古」
寅「コウコ」
さくら「うん、つまり古い時代の学問よ」
あげ足をとらせてもらうと、
『古い時代を研究する学問』が正しい。
寅「古いって言うとあれか、カチカチ山とか桃太郎の、
そういうことのこと?」
寅って頭の中幼児か(^^;)
博「違いますよ、何千年も前の昔のことを、
地面をほじくり返して調べるんですよ」
寅「あー、よく昔の金持ちが
埋めたっていう千両箱を、
え?あの人、女のくせに
そんなことやってんの?」
おいちゃんも同じように聞いている(^^;)
この件に関してはおいちゃんも同じレベル。
さくら「そうじゃないのよ」
寅「なんだよぉ〜」
さくら「大昔の人が、使ったね、こういうお茶碗の
かけらとか石のやじりとか、そういうもの
探すのよ」
さくらやじりのポーズ!(^^)
おいちゃんも分からないので、ず〜っと聞いている。
寅「そんなもん探してどうするんだい?」
さくら「研究するのよ」
寅「研究してなにになんだよ?それが」
見事に本質的な質問!素朴な疑問が、時として
物事の本質に迫ることがある、という見本(^^)
さくら「知らないわよ、そこまで」と、素っ気ない。
さくら、そこのところが最も大事なんだよ!
そこを考えていかないと。
寅のためにも、さくら自身のためにも。
寅「なんだよ」
おばちゃん「わかんない男だねえ〜、
そういやって偉い学者の
先生たちがいろいろ研究して
くださってるからこそ
私たちがこうやって平和に
暮らしていられんじゃないの」平和って…(^^;)
と身振り手振りで説得
おばちゃんそれじゃ思考停止パターンだよ(^^;)
やみくもに自分の思い込みに寅を
引きずり込もうとするおばちゃん。
相変わらず権威に弱い(^^;)。
おばちゃんのアクションは必見!
またまた、ブルドッグソースが階段のしたの机に。
今回はとらや全体ソース漬け(^^;)
博「フフ,…」
寅「へええーっ、おっしゃいますねえ!
それじゃなんですか
おばちゃんは、日々平和に
お暮らしですか?」
なるほど、そっちに持ってくるか(^^;)
おいちゃん、伝票写しながら
おいちゃん「あー、平和だよ」
おいちゃん、おばちゃんに助け舟(^^)
寅「ほほ〜」
おいちゃん「おまえがいなきゃな」でた〜!(>▽<)
寅「オレがいなきゃって!どうして!」
博「兄さん!」
寅「そういうこと言うんだよ!」
とお菓子を投げる。
寅「今そういう話してるときじゃないじゃないか」
博「平和に平和に」
さくら「すぐこうなっちゃうんだから」
寅「すぐ、こうってたって、おばちゃんが…、」
礼子が降りてくる
寅、にこっと笑って
寅「おや、なんですか?」(^^;)
豹変する寅。
礼子「フフ...、失礼します。今月のお部屋代ですけど、」
おばちゃん「わざわざ」と恐縮。
礼子「お兄様がいらっしゃると賑やかですね」
賑やかを超えて、いつもひと騒動です(^^;)
一同照れる
礼子「何の話?」
博「兄さんにね、学問はなんのためにするか、って
質問されて困ってたところなんです」
さすが博、さくらじゃ、対処しきれない
寅の質問の本質を把握している。
こういう問題意識が持てるかどうかで、
人生をより深く掘り下げられるかどうか
決まってくる。
礼子「あらあ」
しっかり反応できている。さすが礼子さん。
寅「いやあ、くだらない話ですよ」
さくら「どうぞ、お茶でもいかがですか」
おばちゃん「どうぞ」
おいちゃん「どうぞ、お上がりになって」
礼子「そうですか、じゃあ、ちょっと失礼します」とめがねを取って居間に上がる。
寅、お菓子をすすめる。
礼子「私もね、お昼、お兄様に
『あなたは何のために勉強してるのですか』って
聞かれて、はっとしちゃったの」
さくら「いやだわ〜」
おばちゃん、台所で、「は〜」ってため息。
博「はー、凄いことを言うな、兄さんは」
博は寅のその言葉をしっかり受け止めて考えている。
もちろん、寅は所詮、慈恩寺の和尚さんの受け売りだから、
その質問の意味すらよく分かっていないのかもしれないが。
そこが可笑しくも哀しい…( ̄  ̄)
寅「そうかな...」
礼子「でもね、それは私にとっては、
あなたは何のために生きてるのか
っていうのと同じことでしょ」
さくら「で、なんておっしゃったの?」
礼子「私、返事に困って考えてたの...」
さくら、頷く
礼子「そしたらお兄様がスパーっと
おっしゃったのよ。
『己を知るためでしょ』って...。
私、あっ!っと思ったわ」
寅「いや...そんなふうに言われても...」と照れまくる。
礼子さん、寅は半分以上受け売りなんだよ(^^;)
さくら、笑っている。
タコ社長の歌声
社長「♪わたしバカよねぇー!、
とくりゃあ!オバカさんよねえー!!!」
寅「は〜、無教育な声ですねえ」露骨に嫌がる。
社長現れて
社長「よ!寅さんお帰り、先生こんばんはあー」
礼子「また、先生っだなんて...」
社長、一杯飲んだ顔
社長「今日はねえ、もうようやくねえ、手形がひとつ落とせたんでね、
お祝いにね、一杯やっちゃったんだよ、へへ」
おばちゃん「ちょっと、今ね、高尚な話してんだから、社長黙っててよ」
社長「なになに?ど、どんな話?」
寅「学問をしないとな、おまえみたいな男になっちゃうって話してんだよ」
社長「え?」
おばちゃん「あのね...」って言いながら耳打ちしてかいつまんで話している
おいちゃん「寅、その、己を知るってのは
いったいどういうことだい?」
おいちゃん鋭い質問!
寅「えー、だ、だからよぉ、」と言いつつ、博に向かって
寅「おい、博、おまえちょっと
おいちゃんに分かり易く説明してやれ、え」
いつものように博に助け舟を求める寅 ┐(~ー~;)┌
博「難しい質問だなあ...」
寅「だから分かり易くさ、」
博「つまり、自分はなぜこの世に生きてるのか」
寅「ん」
おいちゃん「うん」
博「つまり、人間存在の根本について考えるっていうか...」
寅「根本についてか...んん...
正しいかもしれないな...」
社長「そんなこと考えてなにか役にたつのかい?」
博「もちろんですよ!そういうことを考えない人間は、
本能のままに生きてしまうってのか、早い話が、
お金儲けのためにだけ一生を
送ってしまったりするんですからねえ」
一同、頷く。
寅「いやだねえ〜〜」
おいちゃん、深く頷く。
社長「それで、悪いのかい?」
確かに社長はそうだよなあ〜 ┐(-。ー;)┌
一同、苦笑
寅、ムスッとして
寅「ダメな男だなあ〜、いいか、社長、え、
『しい、のたまわは、
あした道を聞こうと思ったら、
ゆんべに死んじまった。』
って、いうくらいのもんだぞ」
ヽ(  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ∇  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ; )ノ????
一同????
社長「なんだそれ!?」
この社長の「なんだそれ!?」は
最高のニュアンス&イントネーションだった(^^)
寅「なんだ、わかんないのか?つまりだ、
明日行くから明日聞けばいいと思って
いたところがほら、ゆんべ死んじゃった。って」
凄んごい解釈(^^;) ついにボロが出たよ〜〜!
寅、慈照寺の和尚さんのいうこと
ちゃんと聞いてなかったのかい?
さくらも博もようやく何を言ってるのかわかる。
博、礼子にそっと「子曰く」と言う。
礼子、それを聞いて、納得して、含み笑い。
おばちゃん「どうして、死んじゃったの?」おばちゃんヾ(^o^;)
寅「交通事故だよ!」わ!!(>▽<;)
おばちゃん「まあ!」おばちゃん …ヾ(- -;)
博たち笑いをこらえている。
おばちゃん「気の毒にねえ〜」
いいねえ〜おばちゃんって(^^)
とらやの良心だよ。
礼子、おばちゃんを見ながら笑いをこらえている。
社長「オレこの間、凄いの見ちゃったよ、
四ツ木の交差点でね、
出会い頭に『バーン!!』って、
かあ!もう!血だらけ!」
初め葛飾の「四ツ木」が出てきた^^
こうなるともう笑うしかないです(^^;)
かあ、もう!血だらけ!
おいちゃんもおばちゃんもビビッテ恐がる。
寅「うるさいなタコは黙ってろおまえは!」
さくら「それじゃ、お兄ちゃんは、
つまりー、己を知るために勉強したいの?」
寅、腕を組んで「そうなんだよ...」
寅「オレは、この年になるまで、なにひとつ己について
考えて見たことはなかったんだ。本当に、恥かしいよ」
博「これから兄さんは、考えるんですか」
寅、真顔で「ああ、バッチリ!考えるよ」
礼子「大事よ、考えるって。
ほら、『人間は考える葦だ』って言うでしょ」
寅「え...?誰がそんなこと言ったの?」
礼子「西洋の偉い哲学者」
寅「へえー、偉い人は足で考えるのかい。
オレは頭で考えるのかとばかり思ってたよ」
おばちゃん「頭でしょう〜???」
またまた、おばちゃん …ヾ(- -;)
おいちゃんも社長も、おばちゃんと同意見らしい(^^;)
寅「頭だろおまえー」
博「笑いながら「違いますよ。ほら、川っぷちに
よく生えてる葦。もののたとえですよ」
寅、パン!と手をたたき
寅「あ!その葦か!?なんだ、オレはまた
この足で考えるのかと思っちゃった」
寅、自分の足をもってペチペチたたく。(^^;)
寅「なあ!ハハハ」
おいちゃん「オレも思ったよ」 おいちゃん …ヾ(- -;)
と、おばちゃんに言って笑ってる。
さくら、満男が仏間で寝かかっているので、
毛布をかけてやっている。
こういうところの演出がいいねえ。
寅「え!笑い事じゃないぞタコ!
だとしたらおめえ、タコなんか
一番頭がいいわけだよ。
8本あるんだから足が!」
一同大笑い。
言われた当のタコ社長も大笑い(^^;)
おばちゃん「ほんとだ!ハハハ!」
寅「ねえ!」と礼子に向かって笑う。
一同大笑い
礼子、笑いながら
礼子「じゃあムカデなんてもっと頭がいい、何てことになるわね」
礼子さんも言うねえ〜(^^;)
おいちゃん、大うけ!
一同またまた大笑い
寅「そうだよ!いや、オレはいつもそれに感心してるんだよ。
だってありゃ、少なく見積もっったって、
百本はあるぜ、それが順序良くスススス、前行くだろ」
礼子、大笑い
寅「オレなんかたった2本だからね足が」
寅「それだっていっぱい飲んだら
絡まって転んじゃうからさ!」
社長「ほんとほんと!ハハハ!」
寅「なあ!」
一同、笑いが止まらない。
礼子、うつ伏せになるほど笑っている
寅「オレがムカデだったらね、おそらく一歩も歩けないな」
博「ハハハハ…」
寅「いや古いくず毛糸じゃないけどもさ、
あっちこっち全部絡まっちゃってね」
社長「アハハハハ…」
寅「こっちからまっちゃったから
こっち一生懸命取ろうとしているうちにさ、
こっち固結びになっちゃうじゃない?えっ」
一同「ハハハハハ!」
寅「この固結びがなかなか取れないんだヨッ!
なんて言ってるうちに
こっちが関節炎になって、
あ〜リュウマチで痛いなあって、
一生懸命あっちこっち汗かいて
全部とって、ほっとして、
あ〜もうほどく心配ないなんて、
一生おわっちゃいやがんの」
\((( ̄( ̄( ̄▽ ̄) ̄) ̄)))/
寅ワールド全開〜!!
もう笑い転げる礼子さん
一同「アハハハハ!」
寅「アハハハハ」
礼子「ハハハハ」
寅、礼子が大笑いしているのを見てとても幸福顔。
寅「ハハハハ…あ〜笑ったねしかしね、
う〜んま、旅をして疲れたし、そろそろこの辺で
お開きにして寝かしてもらおうか」
おばちゃん「ふとん敷いてあるよ」
寅「うん」
寅「は〜あ…」
寅「それじゃ、お休み、うん」
と言いながら、立って荷物部屋へ
歩くが、すぐよろけてしまう。
おばちゃん「あ、」
寅「あ!はは!もうもつれちゃった」
一同「ア!アハハハハ!」
おばちゃん「アハハハハ!あ!」
とごろんと礼子さんの横に倒れそうになる。
満男、奥の仏間から眠そうに起きてくる
みんな笑いすぎでヘトヘト(^^;)
さくら、満男に「あらあらあら、起きちゃったの?」
これだけ騒がれちゃ寝れないよね満男
さくら、博に「帰ろうか?」
博「帰ろ、帰ろ」
さくら、笑いながら「はーっ」
やっぱり、マドンナが下宿していると安定感がある。明日も、明後日も、
とらやの人たちと一緒に生活しているので、家族の一員のようになって、
見ているこっちも安心。時々他のマドンナがとらやに数時間だけ訪ねて
くるが、夕方には帰ろうとするのでせわしいのだ。中には歌子ちゃんや、
リリーやぼたんのように数泊するマドンナもいるが、やはりそれ以上は
なかなか泊まれないから帰っていく。マドンナが家賃を払って住むと、
見ているこちらもゆったりと会話を味わえるから不思議だ。半分運命共同体に
なるから嬉しいのかもしれない。しかし、それも寅が失恋して旅立つまでの
幸福にしか過ぎないのだが…。
『あなたがたは、何を見に荒野に出てきたのか。風に揺らぐ葦であるか。』
マタイによる福音書 第11章7節
数学者、物理学者、宗教学者として、 17世紀のフランスで一際輝きを
放った大思想家であり、なによりも彼自身、敬虔なキリスト教信者で
あったパスカル【1623-1662】はこの聖書の一節を、意識し、
その対比として、そして、それを乗り越えるものとしての人間を
彼の著書『パンセ』の中で見事に展開している。
「人間は一本の葦にすぎない。自然のなかで最も弱いものである。
だが、それは考える葦である。」 パンセ347
宇宙によって人間が征服されようとしても、それでも人間はそれより尊い。
なぜなら、人間は自分が悲惨であることを知り、自分の悲惨を
知るゆえに偉大である。また、人間は、いつか必ず死ぬということを知り、
宇宙が人間より優越することを知っている。
我々の尊厳のすべては、この思考のうちにある。
人間の思考は宇宙の広がりを持ち、宇宙の深さを持つ、と。
彼は生物としての人間の弱さと対比して、思考する存在としての
人間の価値を説いている。
言い換えれば、人間の思考の中にある無限の宇宙空間を表現し、
それらと現実の宇宙は等価値だと言っているのであろう。
自分が死すべき存在だということを知り、弱い存在だということを
知っていくことが、この宇宙と同化し、体は滅ぶとも、永遠の魂を
獲得できる道なのだ、と彼は気づいたのである。
慈恩寺の和尚さんからの受け売り言葉を借りれば
「己を知るということ」が、この世界を知り、この宇宙と同化すること
であり、たとえ自分の生の終わる日が来たとしても、その精神により、
宇宙と同じ永遠の魂を獲得するのだ、と。
もちろん寅次郎は、そんなことは何も分かってはいないし、まじめに学問を
する気も、実はあるはずもない。しかし、私にはなぜか、頭に学問を
詰め込んで、むやみに忙しく、それ故に絡まった糸のようになり、
生命体として弱い存在になっている現代の常識人たちよりも、
なににもとらわれない、わがままだが無欲なフーテンの方がこの宇宙と
結局は同化できるのではないか、と本気で思っている。
パスカルと私は似ているようで少し違うことを考えているのかもしれない。
私が欲するのは学問の力ではなく、寅次郎が持っているような、極めて
単純ではあるが覚醒した感覚である。
私は寅次郎の道を選ぶ。
東京大学 弥生キャンパス(農学部正門付近)近くの歩道
朝、大学の考古学研究室に通う礼子の姿
東京大学 『農学部正門』を通って
弥生キャンパスに入っていく礼子
文学部歴史文化学科考古学研究室はすぐ隣の本郷キャンパスの方だと思うが、
なぜ弥生キャンパスに礼子は入っていったのだろうか。
あそこは農学部のはず。
まあ、弥生キャンパスの方からでも通れることは通れるだろう。
ちなみに、この東大キャンパスには『弥生門』という門もあり、その近くで
礼子が研究している考古学関係である弥生土器が発見された。
このシーンに出てくる1937年に建設された弥生キャンパスの玄関口『農学部正門』の設計者は、
建築学専攻の第14第総長でもあり、東大キャンパスの設計の中心者でもあった内田祥三氏
とらや 茶の間
東京和生菓子商工協同組合の板
寅、どてら姿で昼間に荷物部屋から起きてきて
寅「あ〜あ〜、あー!!よく寝たよく寝たー、んー、
朝飯食って、ごろっと横になったら、またぐっすり寝ちゃったぁ〜」
おいちゃん、呆れ顔で寅を見ている。
寅「はは、おばちゃん、はやく昼飯にしてくれよ、
飯食ったらまた寝るからよ、な」 それじゃパンダだよ ヾ(- -;)
おばちゃん、箒持ってやって来て「お天道様のバチが当たるよ本当に」
寅「う〜ん?」
おばちゃん「少しはね、礼子さん見習ったらどうなんだい?
ゆんべは一時ごろまで勉強して今朝はもう7時に起きて大学言っちゃったよ」
おいちゃん「おまえ今日から心入れ替えて
学問するんじゃなかったのか?」
寅「う〜んそんなような予定だったなあ」やっぱりやる気なし(-_-;)
轟巡査「ごめんください」
おばちゃん「はい」
おばちゃん「あ、ご苦労様」
轟巡査「住民調査に上がりました」
おばちゃん「あ、」
轟巡査「お宅は車竜造さんにつねさんですね」
おばちゃん「はい」
轟巡査「他には?」
おばちゃん「あ、あそこにおりますのが寅次郎ともうしまして」
轟巡査「同居人ですか?」
おばちゃん「同居人といいますか居候といいますか…」
おばちゃん、露骨だねえ…。
普通に「同居人です」って言えばいいのに。
寅、轟巡査にガンをつけている。
轟巡査「所帯主とのご関係は?」
おばちゃん「甥ですけどご存知でしょあの家によく来るさくらの」
轟巡査「…さくらさん?…」
と大きくおばちゃんに向かって手を降る。
おばちゃんからだの重心が許す限りの反り身!!(^^;)
轟巡査「アア!!よく存じて降ります。あの、若くてお美しいご婦人。あの方の
ご兄弟でいらっしゃいますか。どうも失礼しました」と敬礼。
寅、手をふる。
轟巡査「では現在3人ですね」
おばちゃん「あ、大事な人忘れてました2階に下宿人がいるんですけど…」
轟巡査「お名前は?」
おばちゃん「筧礼子(かけいれいこ)と」
轟巡査用紙に書き込む
おばちゃん「大学の研究室に行ってるんですけど」
轟巡査「大学の研究室?アア!よく存じております」
おばちゃん、轟巡査の手を見切る!!
轟巡査「あのご聡明そうなご婦人」
轟巡査さん、礼子さんに「美しい」は、つけないの?
寅、鼻を触りながら轟巡査の方を見ている。
轟巡査「いつぞや、私がパトロールをしておりましたら、向こうから
あの方が歩いていらっしゃいました。メガネをかけて
少しうつむきかげんで…わたくしが『こんにちは』と声を
かけましたら、 あの方ははっとして、
『あら、ごめんなさい、気がつかなくて、
つい考え事をしていたものですから』
と、こうです。学問をした方は違うなあ…。と、思いました。
以上、4人ですね」
おいおい、意味わかんないぞ(^^;)
おばちゃん「はい」
轟巡査「ではどうも失礼しました」
寅、聞いていて、あくびをしている。
さくらのアパート
電話が鳴る。電話カバー『緑色』
『リーン リーン』
ブルドックソースまた映った!
黄色いクラシックカーのポスター
さくら「はい、諏訪です。あー、おばちゃん、何よ。
…お兄ちゃんと喧嘩した?どうして?」
とらや
電話口でおばちゃんがまくし立てている。
源ちゃん、お寺のお使い。
何と源ちゃんサングラスかけてる!(▼_▼)
おばちゃん「あのね、学問する人はみんなメガネかけてるかい?
そうだろう、かけてない人だっているだろう?
…そりゃあねえ、色眼鏡はオシャレな人がかけたり
するけどさぁー」
源ちゃん、自分のことだと思って喜ぶ。
源ちゃん「エヘへへ」と頭を書きながら、だんごを運ぶ。
おばちゃん、源ちゃんを見て
おばちゃん「あ、ごくろうさま」
源ちゃん、サングラスのまま題経寺へ。
おばちゃん「ほんとにわかんない男なんだよ〜!」
さくらのアパート
さくら「一体何のこと言ってんのー?…お兄ちゃんが…?
だってお兄ちゃん目なんか悪くないじゃない。」
柴又商店街 メガネ、時計宝石店
果物屋「コサカフルーツ」のそば、ちょうど駅前広場の横あたり。
自動ドアが開いて、寅が店から出てくる。
ニコニコ笑って、メガネを意識して触っている。
わずかに下を向いてすまして歩いていく。
自動ドア閉まって、中から、店の主人が
寅を見て首をかしげている。
横の葛飾電気で音楽カセットを見ていた八百満の
おかみさんが、寅のメガネ姿を見て驚きまくって、
他のお客さんにぶつかりながら走っていく。
第31作「旅と女と寅次郎」で、寅が東芝ウォーキー
を代金を払わずに持っていくあの葛飾電気である。
このおかみさん、このあと数日後にくだものの詰め合わせを
なぜか、とらやに学問を始める祝いだと届ける。
レコード店『郷ひろみのポスター』
走る八百満のおかみ、人間スピーカー!
帝釈天参道
川魚料理 川千家の看板が乱立(^^;)
寅がメガネをかけたまま本を抱えて歩いている。
轟巡査とすれ違う
轟巡査「あ、さきほどはどうも」
寅「あ、ごめんなさい、つい、気がつきませんでした。
考え事をしていたもんですから…」
た〜っ!その声。これだもんなあ┐(-。ー;)┌
と、メガネを触りながら、そそと去っていく寅。
轟巡査、思わずギョッと振り返り、ハレホレハレという
感じで、自転車ごと転ぶ。(^^;)
題経寺 境内
源ちゃんが、おみくじの紙を取り外している。
寅やってきて
寅「こら」と言って、源ちゃんの頭をつついて、
メガネを意識しながらくるっと体を回転させ、
寅「どう、…源公君、フフ…」と、メガネを触る。
源公に『君』をつけるのが面白かった。それを言うなら
源吉君だと思うが、源吉とは一度も言われていないので
こうなってしまう。
源ちゃん「あ!メガネ!」
源ちゃんもとらやで「サングラス」かけてたぞ ヾ(ーー
)
寅「なんだおまえ、人の顔指差して…え?」」
御前様やって来て
御前様「おー、寅じゃないか」
寅「あ、…これは御前様、つい気がつきませんで、
考え事をしていました」こればっか(^^;)
御前様「ほー、考え事をしていた、おまえが」
寅「はい」
御前様「何を考えていたんだね?」
寅「己について考えていました」またまたこればっか(−−;)
御前様「ほー己について」
寅「はい」
源ちゃん、寅を指差して、大笑い。
寅、源ちゃんを睨む。
御前様「そら、大事なことだ」
源ちゃん、クスクス
源ちゃんは、寅と同じ穴のムジナなので、さすがに
御前様と違って寅のことをすぐ見破っている。
寅「バカヤロウ…」とブツブツ。
御前様、源ちゃんに箒を持たす。
御前様「ちょっと庫裡へ来なさい」
寅「クリに…」
御前様「久しぶりに茶でも飲みながらゆっくり話をしよう」
寅「は、」
御前様にはニコニコ、
源ちゃんにはブツブツ文句を言っている。
寅「お前の顔おかしいんだよ…」御前様にわからないように源ちゃんに文句。
源ちゃん大笑い
御前様「昔中国に…」
寅「はい…」
御前様「達磨禅師という…お坊さんがいてな…」
寅「だるまジェンシという……だるまジェンシ!!」
笠さんの訛りを上手く真似する渥美さん(^^;)
と源ちゃんを思いっきり蹴飛ばす (*ー"ー)ノ☆)゜ロ゜)ノ
源ちゃん「アタ!」
「だるまジエンシ!!」
御前様「己について…」
寅「なるほどなるほど」
御前様「考えをいたすこと9年!」と手を広げる。
寅「キュウネン!」と手を同じく広げる。
御前様「世に言うところの…」 ← この後に続く言葉は「面壁九年」であろう。
と、ふたりとも奥に消えていく。
達磨大師(達磨禅師)(5〜6世紀頃)は南インドの香至国の第3皇子といわれている。
小さいときから仏心が篤く、27祖の般若多羅について仏教を修得し、法灯を継ぎ、そして中国へ広めるために
海路を広州へと渡り、仏教に力を入れている梁の武帝に召されて、仏法についての問答をした。
けれども達磨の『空』を示した簡潔な言葉と武帝の功徳を期待する現世的な心の間に大きな溝があり、
結局達磨は失望した。”機熟せず”と達磨はさらに揚子江を渡って洛陽の東方、嵩山少林寺に向かう。
このとき河を渡る姿が「葦葉渡航図」として絵にも描かれている。嵩山は中国五嶽の一つで、山腹にある洞窟に
座って、有名な「面壁九年」の修行を行う。
御前様が寅に「己について考えること九年!」というのは、この「面壁九年」の逸話からきている。
御前様が「世にいうところの…」の後に続いたであろう言葉は「面壁九年」だと思う。
ただ、寅には馬の耳に念仏だっただろうが。…。後世、数々の絵にも描かれているように、この壁に向かって
ひたすら九年坐禅を続けたとされていたという逸話は、これは彼の「壁観」を誤解してできた伝説である。
「壁観」は達磨の宗旨の特徴をなしており、『壁となって観ること』即ち『壁のように動ぜぬ境地で真理を観ずる禅』の
ことだと言われている。後世の人々はそのことを分かりやすく庶民に伝えるために伝説を作ったのであろう。
この「壁観」の教えは後の中国禅において、六祖慧能(638〜713)の言葉とされる坐禅の定義などに
継承されている。達磨大師の教えはのちに日本にも渡り、禅宗の開祖となって広められた。
雪舟が描いた面壁九年の様子
とらや 台所の土間
豆腐屋さんのラッパ パ〜〜〜プゥ〜〜
おいちゃん「そうか…それじゃあ今ごろ町中の噂だなあ」
八百満のおかみさんが噂を撒き散らし、タコと源ちゃんが
仕上げる。まさか轟巡査さんも…。
おばちゃん「メガネをかけりゃ利口に
見えるってもんでもないのにねえ」
さくら「でも本人はそのつもりよ」
寅には「行動する」ことといえば、
そんなことしか思いつかないのだ。
まさか、本当に学問するわけに
はいかないだろうし…(^^;)
社長「ところがさ、ハタから見りゃ『あたしはバカでございます』と
言って歩いてるようなもんだからな」とブルドックソースの検閲中!
当たってるけど、普通さくらたちの前で言うかあ〜!?社長(−−;)
おばちゃん「まあ、ひどいことを!何言ってるのヨ!!」
パカッ!とブルドックソースのフタが落ちる。
さくら、寂しそうな顔(TT)
おいちゃん、怒って睨んでいる。
社長「そんなお前恐い顔するなよ。い、いや、何も悪気はねえんだからさ、
ん!な…じゃオレ伝票書かないといけなえから!」
おいちゃん「つね、あんなやつは二度と家へ入れるな」
おばちゃん「ほんとだよ」
おいちゃん「ったくな!」
客「すいません〜」
おばちゃん、不機嫌に
おばちゃん「ハイ!」
店で、おばちゃん普通にちょっと戻って
おばちゃん「ありがとうございました。260円…あ、460円です」
題経寺 境内
夕暮れ 題経寺の鐘「ゴーン」
子供たち境内の石にチョークでらくがきしている。
子供A「おまえさん、何書いてんの?」
子供B「うん、オレ寅さんのメガネ描いてる」
子供B「今までに1回も聞いたことたことない。生まれて始めて見た」
子供A。「トラのバアア…カ」 はぁ〜(−−;)
つくづく寅って『柴又の名物男』なんだなあ〜。
博「いいですか、勉強して目が悪くなって、
その結果、メガネをかけるんですよ。
メガネをかけたからといってね、
勉強したことにはなりませんよぉ」正論(−−)
寅「気分だって言ってんの、気分から
入るんだからさ、ねー!、
新しい褌をすれば体中だって
キリッ!とするじゃないかぁ」
博「今は、褌の話をしてるんじゃありませんよ、
メガネの話をしてるんですよ」
寅「おまえもわかんないね、たとえ話を言ってんだよ、
おまえだって、なんか新しいことしようとする時にさ、
新しい褌したら、その気持ちになるじゃないか〜」
博「僕はパンツですよ」 おいおい博、寅のペースにはまってるぞ。
寅「そうか、お前はパンツか、おまえみたいな
パンツ野郎とは話し合いにならないよ」
博「パンツをはいてどこが悪いんですか」
おいおい博、どんどん寅の世界に迷い込んでるぞ。 ヾ(-_-;)
満男、笑っている。(^^)
寅「あんなものはきやがって、フラフラフラフラ…」
おいちゃん「やめろよ!もう!くだらない!」確かにくだらない(^^;)
さくら、泣いている。
おいちゃん「…見ろ、さくら泣いてるじゃないか…」
さくら「いいのよ、もう、お兄ちゃんの
言うことなんか信用しないから」
寅「どうしておまえ、そういうこと言うんだよ。
オレ、真剣なんだよおまえ、それでわざわざ
こうやって帰ってきたんだから」
おばちゃん「本気で勉強する気だったらば
そろばん塾なんかどうだい?」
おいちゃん「松田先生が英語の塾開いてるけど、
英語なんかいいんじゃないか?」
おいおい、それじゃ、子供の塾通いだよ(^^;)
さくら、寅のこと怒って、向こうを向いている。
寅「俺がしたい勉強はそんなもんじゃないよおー!」
おいちゃん「じゃ、なにを勉強したいんだ?」とメガネをはずす。
寅「だから、夕べちゃんと話したじゃないか!
己を知る学問をしたいってェ」もうここまでくれば合言葉だね(^^;)
おいちゃん「だから、どういう勉強をするんだよー?」
寅「それが分からないから、メガネを
とりあえずかけてみたんでしょ?」
さくら、「じゃ、メガネかけて一日中
ふらふらしてればいいじゃないでしょ」と、そっぽを向く。
寅「メガネはやめたの!目からはずしたの!!」
博「まあまあまあ、じゃあ、こうしましょう。己を知るっていっても
一晩勉強して…あ、分かったいいていうわけにはいきませんから、
まず、社会、経済、世界情勢。まあ、こういった常識的な問題を
週何日か日にちを決めて僕が家庭教師をしましょう」
おい、博、寅の目的はそこにないぞ。
おいちゃん「うん!それがいいそれがいい」
おばちゃん「そうだね」
寅「冗談じゃないよ、んな、面白くないよお〜!
もう、それでなくたっておまえ退屈な男なんだからさあ、
ずーっと、サシでなんかいたらオレはもう、あくびしたり、
屁ェしたりしちゃうよ。失礼だけど、そんなあ」
博、ちょっと傷ついて、下を向く。
さくら「だから、ね、勉強なんてやめちゃいなさい」
寅「勉強はするの!ただ、先生があんたの
夫じゃ、いやだっ…て言ってるの。失礼だけど、ね」
キツイな寅、デリカシーがないぞ (ー ー )
博、傷ついてまた下を向く。
寅「こう、話を聞いてて、
やさしく分かりやすく、ね、
はっと気がついたら、
このへんに学問が
しみこんじゃってるような人がさあ…。
いないもんかしら…」
とにこーっと笑っている。
だんだん、ボロが見えてきた。
博も、なんとなく目的が分かってきて
ばかばかしい顔で苦笑い。
礼子さんの声
礼子「ただいま」
寅、待ってました!("▽"*)、と
言う感じで『にこっ!』と笑う。
おばちゃん「おかえりなさい」
一同「おかえりなさい」
礼子「遅くなってすみません」
礼子「あのー…、さくらさん」
さくら「はい」
寅「はい」 おいおい、あんたは『寅さん』(^^;)
礼子「今ね、叔父に呼ばれて題経寺に行って来たんだけど…、
寅さん、勉強したいんですって?」
寅「えへへ…」
さくら「なんだかバカげてるんですけどねえ…」と笑ってしまう。
おばちゃん「ほんとにねえ…」
礼子「それでねえ、叔父が、寅さん一人で
勉強するのは大変だから、私に教えて
あげなさいって言うのよ」
御前様ってほんとうに優しい…。こういうことはなかなか
できないよ。なんせ、生徒が寅だからね。
『待ってました!』(@∇@*)と言わんばかりに、
寅、いきなり正座をして、身構える。
一同沈黙
さくら「でも、そんな、礼子さんご迷惑よ」
おばちゃん「そうですよ」
礼子「そんなことないわ、私でお役に
立つことがあれば喜んで。」
優しいね礼子さん。(TT)
礼子「それに私、社会科の教員免許持ってるから、
歴史くらいだったらご一緒に勉強できると思うの」
その手の免許、寅の前ではなんの役にも立たないけどね(^^;)
寅「は〜〜、ボク、歴史好きだな」ニコニコ
博「そうだな、歴史なんかいいなあ〜」
博、ちゃうって、寅の目的はそこにないんだってば ヽ(´〜`;
寅「いいね!」ニコニコ
はぁ〜〜〜。 ┐(-。ー;)┌
さくら「どうする…。お兄ちゃんお願いする?」
あ〜、これで決まりました!(−−;)
寅「うん、そうね、妹のおまえが
そんなに言うんだったら、引き受けるか?」
また、寅の悪いくせが出た。人を出しに使って、
自分がいい子になるんだよな。
特に、ほとんどさくらが犠牲者(TT)
一同、動揺している
おばちゃん「厚かましい…」
おいちゃん「ほんとに、よろしいんですか?」
さくら「ねえ…」
礼子「じゃあ、日にち決めちゃいましょうか?」
と手帳を開ける。
礼子「私は月、火が忙しいから、…」
おばちゃん「忙しいのにすいません」
礼子「水曜日なんかどうですか?」
寅「へ?」と言って、キョロキョロし、メガネをかけて
寅「おいちゃん」
おいちゃん「え…・」
寅「オレ、あの、水曜日は
どういうふうになってた??」
とぺらぺらおいちゃんの帳簿をめくる。
おいちゃん「どういうふうって…」このおいちゃんの反応笑える(^^)
博「帳簿なんか見たってェー」と、取り上げる。
さくら「お兄ちゃん、いつだって暇じゃない」さくら、ビシッ!
おいちゃん「フフフ」
博、寅のメガネをはずす。
さくら「そちらに合わせますから」
おいちゃん「よろしくお願いいたします」
さくらたち「すいません」
博「お願いします」
礼子「フフ、いいえ、じゃあ、水曜日と言うことで」
寅、深く頭を下げて、微笑む。
おばちゃん「すいません」
礼子、立ち上がって、2階に上がっていく。
寅、追いかけて
寅「先生!」
礼子「はい?」
寅「あのー、水曜日、オレ何時から体開けときゃいいのかな?」
礼子「あ、そうね…、しち…7時半ごろなんかどお?」
寅「7時30分、はい」
礼子「フフ…じゃ」
と、上がっていく。
さくら、にこっとしながらも、ちょと不安げ。
寅「よし、オレもいよいよここに
学びのペンを持つかあ〜」
裏の工場に向かって歩いていって
寅「おい、労働者諸君!
君らもハンマーを捨て、
ペンを取れ!
聞こえているのか!」
みんな印刷工だからハンマー持ってないぞ(^^;)
一同、唖然。
さくら「はずかし…」
おいちゃん「ま、よかったじゃないか」
おいちゃん、「違う意味」でよかったんだけど…
博「一応はね…」
満男「ボクも勉強する!」
一同「フフ…」
おいちゃん「おー、えらいえらい」
さくらも笑っている。
博「そうだそうだ、な!勉強勉強」
帝釈天参道
派出所の前をさくらが歩いていく。
さくら「こんにちは」
カメラは派出所の中から、さくらを写していく。
轟巡査「あー、奥さん!」
轟巡査、外に飛び出し、さくらに向かって
さくら「はい」
轟巡査「さきほど、お聞きしたのですが、寅さんが
今日から勉強をおはじめになるとか」
さくら「あら、そんなこと誰から…」と、照れてしまう。
轟巡査「実にすばらしいことです、あのお年で」
さくら、照れて下を向く。
轟巡査「この物語は私に勇気と希望を与えてくれました」
あとで、失意と絶望にかわらなきゃいいけど…(^^;)
轟巡査「これは、ささやかながら、私の感謝の印です」
ノート一束を買い物籠に突っ込む。
さくら「困りますそんな」
後ろに備後屋こと露木さんが顔をかしげている。
轟巡査「いえ、どうか」
さくら「あの本当に困ります」
轟巡査「いえどうぞ、どうぞ」
さくら「あの、ほんとに」
轟巡査「いえいえ」
轟巡査よっぽど感動したんだね。困った〜…。
とらや
すでに、いろいろな祝いの品物が届いている。
おいちゃん、色紙を見ながら
おいちゃん「よわったなあ」
さくら、入ってきて「こまっちゃったあ〜」
おばちゃん「どうしたんだい?」
さくら「いえ、おまわりさんがねこれお兄ちゃんの勉強のお祝いだって」
おいちゃん「…」
おばちゃん「御前様からね、お祝いにって
万年筆とそれからありがたいお言葉」
と言って色紙を指差す。
博、パンを食べながら
博「し、のたまわく…」
と言ってさくらに見せる。
『子、曰く、朝に道を聞かば、
夕べに死すとも可なり 』
おばちゃん「それからね、これ、八百満のおかみさんからの果物」
あの、第一発見者の八百満のおかみさんが!?。
結構いい人なんだねえ。
しかし、その反面、第8作「恋歌」で、自分の息子に
『勉強しないと寅さんみたいになっちゃうよ!』って
奥で叱ってるのを、さくらに聞かれていたことを
私は覚えている(^^;)
寅って『改悛』したり『結婚を決意』した時に
近所の面々に祝いの品ものをもらっている。
そういう意味では結構好かれているのかな...。
第13作で源ちゃんがくれた夫婦の湯呑みなんかは
今、どこにあるのだろうか?
さくら「やあねえ」
おいちゃん「なんだかあれだな、できの悪いせがれが
小学校に入学する時のような気分だな」
博「ハハ!ハハハ」
さくら「お兄ちゃん、どこへ行ったの?」
おばちゃん「江戸川の方へね、お勉強前のお散歩だって」
さくら、情けなそうな顔
一同「はー...」
江戸川土手
寅「はー…勉強か〜、まいったなあ〜」
本当は、したくないんだねえ勉強。
寒河江での反省は、その時は本物だったんだが、
やぱり、長続きしないんだね…。
源ちゃん「ずらかって金町のハワイでも
行きまひょか」(^^;)
寅と源ちゃんって、普段どこ行ってんだ??
寅「バカ野郎そんなのできるかい。
礼子先生オレに勉強教えてくれるって
言ってんじゃねえか。
そんなことしたらあの人の顔つぶすことになるだろ」
寅「そこが渡世人のつれえところよ」
寅「は〜考えただけで肩凝ってきちゃった。
おい、ちょっともめ、もめ、もめ」
源ちゃん「へえ」と肩をもむ。
寅「はーあ、な〜…」
土手の道を散歩の犬が通る
源ちゃんのそばに来る。
寅、犬に気づかないで、
寅「何だかおまえもちょっと犬くさくなったなあ〜」
源ちゃん、振り返って犬に気づく。
とらや 夜
さくらが、ロールケーキを切っている。
なんと、ペーパードリップで
レギュラーコーヒー!を入れている。
とらやにそもそもレギュラーコーヒーを飲む習慣なんかあったっけ??
歌子ちゃんのときに寅が恐ろしく苦いインスタントコーヒー作っていたが、
いつからレギュラー派になったんだ?
おいちゃん、満男に勉強を教えている。
社長が威勢のいい声で「どうした!?勉強は始まったか?」
おばちゃん「シーッ!今やってんのよ」
おいちゃんが鉛筆でクイクイと二階を指す
社長「やってる?」実に嬉しそう。好きだねえ社長も(^^;)
社長紙袋からウイスキーを出して
「スーッ、これな、勉強終わったら寅さんに飲んでもらおうと思って」
さくら「あらどうもすいません」
おばちゃん「あら、悪いわねえ」
しかし、たかだか勉強するくらいで
みんな過保護気味(^^;)
社長「張り切って行ったか?」
さくら「それがね大変なのよ。
いざ勉強の時間になったらね。
『独身女性の部屋に一人で入ったら悪いんじゃねえか』
社長「ウハハハッ!」
さくら「さくらお前も来いって、
私、しょうがないから一緒についていったよ」苦労するね(^^;)
社長「ウハハハハ…!!」
おばちゃん「手間がかかるよ」
さくら「さてと…お茶の時間」( ̄- ̄;)いたれりつくせり
社長「大変だなあ」
さくら「う〜ん」
おいちゃん「えー、何時までつ続くかなあ」とおばちゃんと笑いあう。
社長「続くよ、失恋するまではな。
プーッ!!フフフヒヒヒ…」
おばちゃん、まあ、と睨む。
おいちゃん「…」
とらや 2階 礼子の部屋
礼子が寅に教えている。
さくら、お茶のお盆を持ちながら、そっと覗く。
鉢巻して、ひたすら我慢して聞いている寅。(^^;)
礼子さん「弥生時代の日本の生活文化については
分からない事ってとっても多いの…と言うより
分からないことだらけね私たちがやっている考古学も
そういうことを研究する学問なんだけど
寅さん邪馬台国って知ってるでしょ?」
寅「忘れちゃったのかもしれないね」
いいリアクションだね(^^)
礼子「う〜ん、弥生時代の終わりつまり3世紀頃に
日本にあったといわれる幻の国のことなの」
さくら「お邪魔します」
寅「ハイッ!!あ、ご苦労さん」
さくら「コーヒーどうぞ」
礼子「どうもすいません」
寅、百科事典のような資料をどかす
さくら「どうぞ続けて」
礼子「え、」
寅「どうぞお召し上がりください」
礼子「中国の魏志倭人伝と言う本にね」
寅、ロールケーキ思いっきり食べようとして…
寅「は…」と間が悪いので
ロールケーキを口から皿に戻す。(><;)
さくら「あとにしなさいよ。」小声で
寅「…」
礼子「女王卑弥呼の支配する邪馬台の国の事が
詳しく書かれてあるんだけど、」
さくら「ちゃんと聞いて…」小声で
礼子「 もちろん日本にもそのころについてかかれた本に
日本書紀とか古事記とかがあるんだけど、でも、
それはあとになって朝廷によって書かれたものだから
歴史的にはあまり正確とはいえないのね」
寅、よそ見、さくらにちょっかい出す。
礼子「三世紀頃の日本には邪馬台国みたいな
小さな国がいっぱいあったんだけど」
さくら「行くわね」小声
寅「行っちゃうのか」小声
さくら「がんばって」小声
礼子「それがもっと強い文化の…その文化をもった国に
従えられていったのね。それが今の奈良県のあたりで
強い勢力をもっていた大和朝廷。
その大和朝廷が中心となってできた国家が…」
寅きょろきょろ下を向いている。限界が近づいているようす。
礼子「日本の国の始まりだって言うの」
寅、ハッと反応
寅「あ…、国の始まり知ってる!大和の国」
礼子「そ!その大和の国」と喜ぶ。
寅、ようやく接点を見つけて、目が輝く。 ε=(´▽`)
寅「島の始まりは淡路島」
礼子「え?」
寅「泥棒の始まり石川の五右衛門」
助平の始まり小平の義雄」
礼子「ああ…なんか聞いたような名前ね」
礼子さん、聞いたような名前って…小平義雄って歴史上の人物じゃなくて
戦争直後の大量殺人犯の名前だよ(−−;)
寅「ねっ、二!仁木の弾正お芝居の上での
憎まれ役、知ってる!?」
礼子「さあ知らない」
寅「先代萩に出てくる敵役」
礼子「はあ」
寅「三!三三六歩(法)で引け目が無い。
(産)三で死んだか三島のおせん
おせんばかりが女子じゃないよ。
かの有名な小野小町が京都の極楽寺坂の門前で
三日三晩飲まず食わずで死んだのが三十三!!」
礼子「は…なあにそれ」
寅「これね」
礼子「うん」
寅「縁日で俺たちが使う口上」
礼子「ああそうなの」
寅「まだあるよ。四谷赤坂麹町、
チャラチャラ流れる御茶ノ水、
粋な姐ちゃん立ちションベン!…ア…!」
礼子「ウフフフフ…」
寅「エヘへ面白い?」
礼子「うん、面白いウフフ…」
寅「もっと教えてやろうか?」
礼子「フフ・・教えて…ハハハ」
あ〜〜、ここからは完全に寅が主導権を握って
笑わせまくるっていう感じ。礼子さん、もう寅ワールドに
入っちゃった。(^^;)
ここでちょっと横道にそれる。
寅と礼子さんが勉強しているシーンで出てきた話の
解説をごく簡単ではあるがしてみる。
★島の始まりは淡路島
古事記や日本書紀の神話によれば、日本の国を創った「イザナギ」
「イザナミ」が最初
に産んだ島が淡路島だとされている。
★石川五右衛門(いしかわ ごえもん
:永禄11年(1568年)頃 - 安土桃山時代に活躍した盗賊である。
出生地は伊賀国・河内国・丹後国・遠江国(現・浜松市)などの諸説がある。
「豊臣秀吉譜」(寛永19年)等の限られた記録によると、あまりの悪逆非道ぶりのために
三条河原で釜煎の刑に処せられたとされている。
大きな鉄釜による風呂が五右衛門風呂と
呼ばれるのはこれに由来する。盗賊の彼が人気を博した理由は、浄瑠璃や歌舞伎の演題としてとりあげられ、
これらの創作の中で次第に義賊として扱われるようになったこと、また権力者豊臣秀吉の命を狙うという筋書きが
庶民の心を捉えたことにもよるであろう。歌舞伎『楼門五三桐(さんもんごさんのきり)』の京都南禅寺でする見得の科白
「絶景かな、絶景かな、春の眺めは値千金とは小せえ、ちいせえ」と、
「石川や 浜の真砂は 尽きるとも 世に盗人の 種は尽きまじ(辞世の句とされている)」が有名である。
★小平義雄
昭和21年。のべ10人に及ぶ婦女暴行殺人を犯した。
当時世間は震撼した。「男はつらいよ」で寅が切る啖呵バイに使われていることからも
社会に与えた影響の大きさが窺える。小平は昭和24年10月5朝9時49分、宮城刑務所で死刑となった。
執行直前には饅頭を3つ食い、念仏を唱えていたという。
★伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)伊達騒動
歌舞伎で、実際に起こった伊達藩のお家騒動を基に脚色された時代物。
家を乗っ取ろうと企む仁木弾正(にっきだんじょう)一派から
幼い主君を守る乳母政岡の活躍を中心に描いている。
★『三三六歩(法)で引け目がない』
おいちょかぶの『三三六法見ずに引け』から来ている言葉遊び。一般的には一か八かやるしかない!っていう時に
使われたようだ。
★三島のおせん
歌舞伎で演ぜられる「おせん」の物語は鎌倉時代に設定され、
北条時政に滅ぼされた伊藤祐清の子庄六(病持ち)と許嫁のお仙が母と共に三島の宿外れに暮らす家に、
仇の北条時政が宿泊。主家の恨みを晴らそうとするお仙は逆に時政の計略にはまり自害する。
病が回復した庄六は北条の追討を誓う、という筋立てのもの。
美女のあだ討ちの悲劇は大衆に人気の演目だったらしく、この「おせん」の物語が評判を呼び広く知られた。
役者絵に描かれたり、寅のバイの際の口上に使われた。
★小野小町
小野小町は平安の女流歌人・小野小町は、六歌仙の一人三十六歌仙の一人。
36才まで宮中に仕えた後、深草少将に惚れられるが、疱瘡を患っていた小町は100日も有れば、
顔も治り元の美人に戻れると思い1日1株毎日、高土手に芍薬(しゃくやく)を植えて百株にしたら
あなたの御心にそいましょうと言う。
少将は少々あせりながらも100株目の満願成就の日に秋雨が降り続いたあとの橋で橋ごと流され死んでしまう。
小町は深い悲しみに暮れ、供養の地蔵菩薩を向野寺に安置し、芍薬には99首の歌を捧げた。後に92才まで
長生きしたと伝えられている。
多くの謎を秘めた女性であり、老後の生活や死亡の場所などについても全国的に実に多くの伝承が分布している。
彼女は晩年に各地を流浪した後、「吾れ死なば 焼くな埋めな 野にさらせ 痩せたる犬の 腹肥やせ」の辞世を
残し死骸は野晒しになっていたという。寅が33歳で彼女がのたれ死んだと言っているのも、それだけその生涯の
ほとんどが伝説の霧の中に隠れてしまっているせいなのであろう。
「花の色は うつりにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに」
★邪馬台国.《 畿内説と九州説 》
邪馬台国の存在した三世紀、つまり弥生時代後期の日本の国家は、もし九州説をとれば、九州だけの国家と解されるし、
邪馬台国が大和にあったとすれば、大和を中心に九州を含む西日本全体を卑弥呼を女王とする邪馬台国という国が
支配していたことになる。従って、邪馬台国がどこにあったかを明らかにすることは、日本の古代史上の決定的な問題。
それゆえに、これまでこの問題について多くの論者が、『魏志倭人伝』を中心的な資料として重視し、論陣を張ってきた。
北九州説の言い分: ●当時の大陸文化は北九州を素通りして畿内に行くわけはない。常識的に考えてまず北九州。
●吉野ヶ里、原の辻、吉武高木などの巨大建築物があったとされる遺跡の発見。
●倭人伝の方角的に『南』であって、『東』とは書いていない。
●邪馬台国の台の字は壱の字の間違いである。
●「ヤマト」と読ませるために大和説の学者らが壱の字に似た字を当てたものである。
言語的立場からすれば、倭人伝の固有名詞の音韻を畿内に求めることはきわめて難しい
大和(畿内)説の言い分: ●池上曽根遺跡などから神殿や大井戸発見。
● 「ヤマト」は元々大和地方の呼び方。
● 魏志倭人伝、「戸数七万戸」規模当然存在。
● 直径150mの巨大墓ある。
● 倭人伝の表記通りの距離のところは九州を通り越して海の上。
不彌国までは完全に九州北部であり、距離に問題はあるがかなり正確に記されているのに、
邪馬台国となると、そこから水行20日で投馬国さらに水行10日と陸行1ヶ月とあやふやに
なっている。どう考えても北九州にこだわると無理がある。倭人伝の『南』は『東』の間違い。
ともあれ、『邪馬台国』の存在を真面目に研究している学者よりも、おらが村の古墳こそが『邪馬台国』、的な
「村おこし」に使われて、マスコミもそれを煽ることが多い。立場やしがらみを越えた地道で中立的な研究こそ、
今後、求められる方向だろう。
ちょっときりがないので、このへんで物語りに戻ろう。
とらや 一階
上から二人の笑い声が聞こえてくる
おばちゃん「また笑ってる。真面目に勉強していんのかねー。」
一同上を向いている。
みかん社長に渡す。
博「礼子さんも苦労しているんでしょう。
兄さん相手の勉強じゃ」
博のタバコは、『ハイライト』あの水色は、昭和の味だ…。
社長「しかし、なんだか羨ましいな寅さんが
オレも若い頃勉強したかったんだ」とみかんの皮をむいている
さくら「本当?」
社長、今からでも本当は遅くないんだけどなあ…。
社長「本当だよ。ところがね、本読んでると親父のやつが
ものすごく怒りやがってね。『本なんか読んでるやつは
なんかろくな奴にならねえ!』そういう時代だったなあ竜造さん」
竜造「あー、オレもよく言われたよ。『だんごやに
学問なんかいるかー』っって」
さくら「へえ〜」
おばちゃん「さくらちゃんだって博さんだって
大学へ行きたかったんだよね」
ほんとは、今日からでも勉強はできる。学校なんか行かなくたって、
その気さえあれば。今しない人は、したくない人。人は心底感じれば
その日から変わることが出来る。
社長「みんなおんなじだよな」
さくら「ほら、満男もちゃんと勉強するんでしょ」
時計の鐘が8時を知らせる ボーン…ボーン…
おいちゃん「お、あれ、もうそろそろ勉強する終わるころだぞ」
おばちゃん「あ、もう降りてくるね」
おいちゃん「お茶のしたくして」
さくら「おばちゃんお湯沸いてる?」
おばちゃん「沸いてる沸いてる」
さくら満男に「ここもう一回書いて勉強しなさい」
おばちゃん「来た来た来た来た!」超早口(^^;)
またまた出た、階段下のブルドックソース!
寅、笑いながら階段を下りてくる
階段上で声だけ
「へへっ疲れたでしょう」
礼子「ええ、出来がいいからフフ」
寅「分かった、上手く行ったな先生」
礼子「アハハ…」
寅「はー終わった終わった終わった、ハハハ」
おばちゃん「終わったのかい?」
寅「ええ終わった終わった終わった」
社長「いやあご苦労さん」
寅「へ〜え、」と礼子から借りた本をポンと叩く。
おばちゃん「まー先生どうもすいません」
社長「先生どうもご苦労様です」
さくら「ありがとうございました」
社長「今日はご苦労様でした。さあどうぞ」
おいちゃん「へえ〜え」
博「おじさんコップ」ウイスキーを持って。
おいちゃん「うん」
寅、みかんでお手玉しながら
寅「へえ・・ミカンでも食べますかっ」と陽気にひとり言。
博「兄さん勉強はどうでした?」
博「面白いねえ、っう〜ん」
さくら「大変だったでしょう」
礼子「寅さんにいろいろ教えていただいちゃって」
社長「ホ〜」
礼子「ねっ先生っ!」
寅、ミカンでお手玉して遊びながら、
二カーッ!!と笑って
寅「いいえ」
さくら「フフ…何教えたのお兄ちゃん?」
寅「フフ…学問ですよねっ、校長先生」
礼子「フフフ…」
さくら「ねっ何?ねっ何?」
メインテーマテンポよく流れて
礼子「もう脱線のしっぱなしで、フフフ!!」
寅「ヘヘへ!!!」と笑いながらみかんのお手玉。
社長「何」
おばちゃん「何」と笑っている。
礼子、さくらに耳打ち「あのね、フフフ、……って言うの、フフフ!」
社長、礼子の話を聞いてウハハハ!
さくら「お兄ちゃん!フフ…」
礼子、笑い転げている
さくら「フフフ、何?」とよく分からないなりに笑っている。
とらやの庭が映り、
礼子の笑い声が茶の間から聞こえている。
さくらの声
笑いながら「お兄ちゃんそんなこと言っちゃったの?」と笑っている。
ブルドックソースのケースが置いてある。
起死回生!よかったね寅、明るく勉強が終わって。
寅には、お決まりのお勉強は向かないのかも。
そんなことより、マドンナと四方山話している方が
幸せに決まっている。
縄文遺跡の発掘現場
田所と礼子たちグループが歩いている
礼子「張り出し部分がはっきり残ってますね」
田所「ほら床が焼けてるだろう」
礼子「は…」
田所「火事だねきっと」
遺跡に降り立って、
この映像から見ると、きれいに張り出し部分の下から甕の口が見えているのが分かる。
これを『埋甕』の理由については諸説入り乱れている。
↓
田所、土器の破片をとって「縄文中期の終末だね」
礼子「そお」
田所「張り出し部分に瓶があるのは埼玉県でも掘った」
礼子が土器を刷毛で拭いている。
礼子「ハイガイって知ってる?」
学生「ええ」
礼子「ほらキズつけた跡」
助手「はあ」
礼子「縄文早期の終りね」
学生「ああ、そうですか」
縄文時代の始まりは日本列島で初めて土器が
つくられた紀元前約13,000年前で、その終わりは弥生時代が
始まる紀元前2世紀ころと考えれている。
この約1万年間は土器の変化(流行)を手がかりにして、
一般的には草創期 早期 前期 (中期)後期 晩期に大別される。
近年は縄文前期でさえ、簡単な稲作が行われていたことがあきらかになり、
この時代の常識も刻々と塗り替えられつつある。
この田所教授たちの会話場面にも出てくるように前期を代表する土器は
貝殻条痕文土器 である。
この場面で礼子さんが言ってる「ハイガイ」「傷つけた後」とは、上に書いた縄文早期〜前期に
かけて土器製作時に行われた痕跡の一種。
表面に放射肋(タテスジ)の発達したハイガイなどの二枚貝外面の放射状凹凸線となる腹縁を
土器面に押し付けながら整形した浅い平行線痕跡.貝殻文のことである。
器面をなでて平滑に仕上げる際に生じた条痕から付けられた名称で、詳しくは「二枚貝条痕」とも呼ぶ。
この頃の模様の中では最も普遍的な調整痕の一つ。
ちなみに、ハイガイは、関東の海岸ではほぼ縄文時代早期・前期にしか
棲息したことのない暖海性の貝である。
そして後期になると 磨消縄文 と呼ばれる文様をもつ土器文化が本州の大部分に展開する。
この土器は口縁部や胴部に箸のような工具で渦巻き文や入り組み文を描き、
その区画線内に縄文を施し他の部分は磨り消したものである。
田所教授が言っていた「張り出し口に埋められた甕」は住居の張り出した入り口に
埋められた埋甕(うめがめ)のことである。
この理甕の理由には、胎盤(たいばん)収納説・小児骨収納説・貯蔵説などがある。
帝釈天参道 雨が降っている
えびすやさん付近
子供たちが傘をさして歩いていく。
順子のテーマ、ピアノで優しく、静かに流れていく。
とらや
茶の間への上がり口で順子からの手紙を読む寅とさくら。
封筒の裏の住所を寅が見ている。
さくらは、手紙を読んでいる。
順子手紙「寅さんお元気ですか…。こないだお墓参りに行ったら
和尚さんに寅さんがお見えになった事を聞き
ビックリしました。お会いできなかった事が残念です。
和尚さんは寅さんが学問をする心の
持ち主だととても褒めてました。
私も寅さんに負けずに勉強しなくてはと思います。
封筒の裏
『山形県西村山郡寒河江 東根
最上 順子
表を返して
東京都葛飾区柴又七ー七ー四 とらや方
車 寅次郎 様
母が死んでから経済的な問題で苦労する事も
ありますけど親戚や先生それに友達に応援して
もらっていますからご安心ください」
山形 寒河江
順子のテーマ、バイオリンによって
テンポよく流れていく。
順子、晩秋の空気の中、
自転車にのって友達と挨拶
順子「おはよ」
柴又に来た、例の仲良し友達3人と挨拶。
あの柴又での友人3人がそのまま出演している。
順子「あっ」こけそうになる。
友達「この前ねここで転んじゃったんだよ」
笑っている順子。
順子手紙「それからお願いが一つあります。
寅さんと家族の皆さんの写真を送ってください」
みんなで縁側で写真を撮ろうとしている。
タコ社長、満男に写真に写る心得を言っている。
さくら、博の頭にタオルが巻きつけてあるのを見て取らせる。
博、頭のタオル取る。
おばちゃん、博の髪を整えてやる。
社長がとらやの庭でカメラの自動シャッターを押す『ジー…』
おばちゃん、すまして写ろうとしている(^^;)
みんな緊張
順子「こないだご親切にしていただいた皆さんのことが
とても忘れられないのです。
いつかもう一度お会いしたいと思います」
寅がそっと、メガネをかけてしまい、
気づいたさくらが、はずそうとし、ドタバタの間に
シャッターが下り、社長嘆く。
社長「アーもう !! 何やってんだよ!」
この集合写真の場面はほのぼのとして実にいいシーンだ。
順子「寅さん…、今度山形県の方へ来た時は、
きっと私の所へきてください。
そして私の母が若かった頃の話を聞かして下さい。
きっときっとですよ。
寒河江の 順子の家
雪の蔵王が見える自分の部屋
一生懸命英語の勉強をしている順子。
かわいいハンテン
それでは寒さに向かって皆様お体をどうか大切に。
さようなら」
この帝釈天の雨の風景から順子の手紙の終わりまでの
2分間のささやかな物語が私は大好きだ。
このようなシーンが作れるのは山田監督だけだ。
雨上がりのきらきら輝く水の玉のような澄んだ2分間だった。
順子のテーマが最初優しく、やがて軽やかに、そしてまた最後に優しく
流れていく。葛飾立志篇といえばこの2分間がどうしても
思い起こされてしまうのだ。どうしてこんな、なんでもない
シーンにこんなにも胸が熱くなるのだろう。このあたりに私が
このシリーズに強烈に惹かれる理由が隠されている気がする。
私も、順子ちゃん同様、寅の口から、お雪さんの若いころの話を、
長い間じっくりと聞きたい。寅が16年間手紙を出し続けたお雪さんの
ことをもっと知りたいと切に思う。
お雪さんの話は、『男はつらいよ.番外編』として、成り立つくらいの
物語が裏に隠されている気がする。これは私の動物的カン。
寅の人生を変えてしまうくらいのささやかだが温かいふれあいが
いろいろあったのだと思う。
柴又 帝釈天参道
帝釈天 祝 七五三
田所教授あたりを見渡す
轟巡査が小学生たちに説明している
看板 若い君を待っている…ただいま警視庁警察官を…近くの警察派出所にお聞…
轟巡査「いいね、こう言う髭のあるおじさんね、
見たらちゃんとお母さんに言うんだぞ」
田所「君」
轟巡査「え?」
田所「ねずみ屋さんはどこかね」
轟巡査「…ねずみ屋?」
田所「うさぎ屋さんいや、熊屋さんいや、
もっと強そうな名前だったぞ…。
ああ、とらやさん」
轟巡査ジロジロと掲示板の
指名手配の顔写真と見比べる。(^^;)
田所「とらや」
小学生「とらやさんあっちー」
小学生「真っ直ぐ行けばあるよー!」
小学生「変なおじさん」
小学生「髭おじさん」
小学生一同「ヘヘヘ…」
とらや
七五三で大賑わい
ポスター(手書き)
七五三
鳥の子餅
お赤飯
板に団子折詰め
小 二〇〇円
中 三〇〇円
大 五〇〇円
千歳飴
七五三のお客さん帰る。
おばちゃん「はい、さようなら」
おばちゃん「あ、忘れ物ですよ」
親御さん「あんたのじゃない?取りに言ってらっしゃい早く戻ってきて」
おばちゃん「へー…え」
寅「はーあ…あ!朝っからずーっと読書してたら
腹空いちゃったよ。おばちゃん」
おばちゃん「はい?」
寅「飯のしたくしてくれ」
おばちゃん「あーあ、はいは、いよ忙しいんだよこっちは今」
店先に田所教授が立っている。
寅「なんだこりゃ。
おいおい!ようおじさん、フフ。
どうしたいいまどき珍しいかっこしてるじゃねえか。
えっ、シベリアからの引き揚げ者か」
シベリヤって…いつのこっちゃ(^^;)
田所「あ〜君が寅さんか」
寅「何?ずいぶん気安く言うじゃねえか、
おい誰から聞いたんだオレのことを」
田所「筧(かけい)…君からだよ」
寅「カケ君?カケイ君…しらねえなそんな名前は」
田所「僕の…弟子なんだがねえ」
寅「弟子?…ああ!おじさん植木屋かー」
田所「いや、植木屋じゃあない」
寅「じゃあなんの商売やってんのそんあ洋服ドロだらけにして」
田所「いや、これは〜、土をほじくり返したりするもんでね」とパンパン叩く
寅「ふ〜ん、シャベルやスコップで」
田所「あ?うん」とたばこの火をうつす。
寅「ふーん、しかし楽じゃねえだろう、その年で」
田所「うーん、楽じゃないけどね」
寅「なあ〜」
田所「スーッ」
寅「身寄りは無いのかい?」
田所「うん…身寄りは無い。一人もんだい」
寅「うーん…う〜んなるほどなあ」
さくら、とらやにやって来る。
さくら「おばちゃん」
おばちゃん「あ、来てくれたの」
さくら「忙しかったでしょう」七五三だからね。
おばちゃん「う〜ん」
さくら、田所教授に気づいて、
さくら「だれ?」
おばちゃん「気の毒な人なんだよ」(^^;)
寅「一人もんでな、誰も身寄りが無くて道路工事やってんだって」
おばちゃん「かわいそうに」
さくら「ま〜あ」
寅「う〜ん」
寅「おじさん、あんた腹空いてんじゃないのか」
田所「う〜んまあ空いてはいるが」
寅「そうだろう、おばちゃんなんかちょっと作って食わしてやれや」
おばちゃん「冷たいご飯しかないけど」
寅「何でもいい何でもいいなんかちょっと食わしてやれ」
さくら「おじさん家になんか用なの?」
田所「へーえ〜、まいったなあ…」
礼子「ただいま」
田所「お〜う」
礼子「あーら先生!まあよくいらしたわねえ」
寅「先生??」
田所、礼子に説明するよう促す。
礼子「あ、あの、ご紹介するわ、いや、さくらさん、
いつもお話しているでしょ。私の素敵な先生よ」
さくら「本当?」ポカン
田所「マイッタァ〜!」
礼子、ポカン?
茶の間
一同「アハハハハ…」
さくら「腹減ってるから飯食わしてやれって」
田所教授、おいちゃんに名刺渡している。
礼子「アハハハハ!」
寅「だってしょうがねえやあ。そらさ大学教授なんてのはね、
立派な服着てくると思ってるから」
さくら「お兄ちゃんちゃんと謝んなさいってば」
おいおい、寅は親切にしようとしたのであって、
失礼な事はしてないよ。謝る必要はないとは
思うけど ヾ(^^;)
礼子「いいのよ先生が悪いのよ、そんな格好してくるから」
田所「家で着替えてくりゃよかったか葬式用の背広に」
寅「プハハ!」
礼子「それしか持ってないの」
寅「可笑しいねおい」
礼子「本当に困っちゃんうの地方なんか行くでしょう。
だーれも信用しないの大学教授だって事」
寅「ほほほ…」
おばちゃん「礼子さん失礼ですよそんな事言っちゃあ…さくら」
さくら笑いながら「どうぞ」
礼子「あ、すいません先生この家のお団子よ」
田所「おー」
田所「これは美味そうだな〜、ぴっぽっぽっ」とタバコの火を移す。
寅「ようよっ、先生よオレさっきから気になってたんだけどな。
ちょっとタバコの吸いすぎじゃねえか」
さくら「そうねえ」
おばちゃん「本当によくお吸いになりますねええ、お体に毒ですよ」
寅「なあ〜」
さくら「コホッコホッ」(TT)
礼子「何度も禁煙なさいって言うんですけどねェ」
さくら「ダメなんですか」
田所「五年程前に一度やめたんですよ。
そしたらね、一時間も経たないうちに
呼吸困難になりましてねえ、
病院に担ぎ込まれました」
さくら「あらあ〜」
礼子「フフフ…」
田所教授タバコを吸って吐いて、
即座にみたらし団子を送り込む!
寅「礼子さん相当かわってるねこちら」
礼子「変わってる変わってる」
田所「うーん美味い」
と団子を食べたらすぐにいいながらタバコを
吸い終わったと思ったら同時にお茶も飲む
よってお茶碗からボコボコと煙が立ち込める。
こりゃ、重症のニコチン中毒だね。┐('〜`;)┌
一同 ぽか〜んと見ている。
寅「は〜、よよ、おい!ちょっとその…団子食うのと、
タバコ吸う別々にしたらどうだい?行動をさ、え?
そのうち間違えて、タバコ食って団子吸っちゃうぞ」
さくら「本当にね」
寅「しょうがねえな燻しちゃって、ねえ、
本当に考古学やってんの?」
礼子「は、そうよ」
寅「は〜…で、ね、この道じゃ
少し偉い方なの?この人さ、え?」
さくら「ちょっとお兄ちゃん」
礼子「さあ、どうかしら」
田所「チッ…ま、一流じゃねえか〜」
さくら「アハハ」
礼子「アハハ」
寅「はあ〜自分の口からそう言う事言っちゃうかねえ。
とてもそう言う雰囲気じゃないけどなあ」
日本は謙遜の国だからねえ(^^;)
さくら「お兄ちゃん服装は関係ないでしょ仕事には」
田所「そのとおり頭の中身だよ問題はァ」
寅「ほー…じゃ何でも知ってるの?」
礼子「知らない事無いのよこの先生なんでも聞いて御覧なさい」
寅「本当?よし、おもしれえ。じゃあオレ聞いちゃおう。あのねえ、
前っからオレ聞きたかったんだけどさ屁の事、
おならの事を英語でなんて言うんだい?」
田所「ファート -F・A・R・T-」
寅「知ってるねえよしっ!じゃあドイツ語は!?」
田所「フルッツ」
礼子「フランス語は?」
田所「ルペ、
イタリア語ではスコレジャー
ギリシャ語ではポルリィー
ラテン語ではぺジター
中国語ではピー(屁)
朝鮮語ではパングー
どうだ、参ったかー!」
中国語の「ピー」の発音がいやにリアル(^^;)
寅「まいったあ〜…!田へしたもんだよ
蛙のションベン」
田所「見上げたもんだよ屋根屋の褌
ってなもんだろう!ハッハッハッハ…」
と言いながらタバコの灰をこぼす
寅「知ってるねえ〜!」
礼子、灰を拭いて上げてる。
礼子「あらあら灰落としちゃって」
寅「いや〜えー」
さくら「あ、あらあら」
礼子「あぶない…」と拭いている。
礼子さん、教授に世話をすぐに焼きすぎだね。
距離が保たれていない感じ。
寅「あ〜あ〜」
寅「しかしよお、こんな物知りの先生が
いい年して嫁さんもいねえんだろうなあ」
それは関係ないよ寅(^^;)
おいちゃん「あれ、まだお独りですかあ」
田所「あ、あーあ」
寅「あれかね、女房食わしていけないの?まだ」
さくら「お兄ちゃんそんな失礼な」
寅「あ、死に別れたの?」
礼子「ずーっとお独りよ」
寅「ずっとお独り?…女嫌いなの?」
あんたもずっとお独りだろ、寅(^^;)
おいちゃん「バカッ!いろいろとお考えがあってのことだよ」
寅「お考えが?」
田所「いや、僕が結婚をしない理由はそのー…」
マッチでタバコに火を点ける。
礼子「先生は独身主義なのよ」
寅「独身主義?」
田所「いやちがう、そうじゃないよ。
つまり…つまりなんですよ。
愛の問題。男と女の愛情の問題は…
実に難しくて…
まだ、け、研究し…し尽くしておらんのですよ」
寅「研究しちゃうのかい?
もっと簡単な事だろう」
田所「簡単?」
寅「常識だよー!」
田所「じゃあ君、説明してみろ!」
寅「いいかい?
あーいい女だなあ…、
と思う、
その次には、
話がしたいなあ…、
と思う、
ね。
その次には
もうちょっと長くそばにいたいなあ…、
と思う、
そのうちこう、
なんか気分が柔らか〜くなってさ、
うしろのおばちゃんの表情がなかなか味わい深い(^^)
あーもう
この人を幸せにしたいなあ… 、
と思う、
もう、この人のためだったら
命なんかいらない、
もうオレ死んじゃってもいい!
そう思う、
それが愛ってもんじゃないかい?」
田所「……なるほどねえ… 」
田所「君は僕の師だよ!!」
寅「なんだいシって?」
田所「先生ってことさ」
寅「先生?そんなのおかしいや…ねえ」
田所感極まって、涙が…
田所「……」
おいちゃんたち心配そうに見る
寅「どうしたの」
田所、目が潤んでいる
田所「ズーッ…」
涙ぐむ
寅「どうしたの?」
田所「ズーッ…」
礼子のテーマが優しく流れる。
寅が語る短いこの『アリア』の中に、人が人を想うということの
すべての意味が見事に凝縮されていた。しかも簡潔で、
臨場感のある言葉でだ。
たった一度の人生をすべて「恋すること」だけに賭けた男の面目躍如が
ここにある。「恋とは、その人を幸せにしたいと思う心」そう語った
寅次郎の言葉は、田所教授だけでなく、私の心にも死ぬその日まで
忘れないようなクサビを打ち込んだのだった。
このシーンは、渥美さんでなくてはあの品格はでなかったであろう。
後ろで座って妙に嬉しそうな顔をしていたおばちゃんの穏やかな表情も忘れがたい。
寅と田所教授は立場は全く違えど共通点がある。
それは人間を見る目に偏見がなく水平だということ。
そして、美しいもの、純粋なるものに強いロマンと憧れを持っているということだ。
寅の言葉に感動し、涙を滲ませる田所教授。それほどまでにも礼子さんに
たいして想いがつのっているのだろう。今、田所教授も寅も正にその言葉の
当事者そのものなのだ。
寅も、動物的カンで、田所教授と自分が意外にもわかりあえることを見抜いている。
そうでないと「恋愛の奥義」を伝えるなんてことはしないはずだ。
寅が恋愛についてのアリアを語る時は、自分がリラックスして気分がいい時なのだ。
この作品のラストの場面を見るとわかるのだが、寅と田所教授はウマが合うのである。
江戸川土手 夕方
礼子のテーマが優しく流れる中。
田所と礼子が歩いてくる。
礼子「はい、これ」とだんごのお土産を渡す。
田所「ありがとう」
礼子「分かりますか?まっすぐ行くと鉄橋にぶつかりますから」
礼子、田所のリュックを直している。
うーん、ちょっと世話を焼きすぎだなあ…。
田所「あー分かってる分かってる。どうもありがとう!」
礼子「………」
礼子「先生ー!」
田所教授のところに駆け寄る礼子。
礼子「わざわざ、こんなところまで来て、
なにか御用だったんじゃないんですか?」
田所「うんー…、用と言えば用だが、たいしたこっちゃない!
田所「つまり、要するに、この僕は、
寅さんの弟子だと!
こういういうことだ。
師によろしく!!」
といって、手をあげて、颯爽と、そしてひょうひょうと立ち去る。
田所教授、歩きながら、手を振って
ヴェルディ(Giuseppe Verdi G)の歌劇『リゴレット』第三幕の「女心の歌」を歌い出す。
田所「♪風の中の、
羽根のように、
いつも変わる、
女心、
涙流し、
笑顔浮かべ」
この場面で流れている礼子のテーマもこのシリーズの名曲である。
この頃の山本直純さんはまこと冴えていた。
この田所教授はちょっと孤独そうだった。
しかし、自分の信じた道を歩んでいる人の
持っている孤高の輝きのようなものが
表現されていて、見ていてああいう生き様もいいなと思った。
小林桂樹さんのキップのいい演技が光っていた。
さくらのアパート
テーブルにまたもやブルドッグソース。
さくら、田所教授の真似
さくら「短くなったタバコをね、こうやって火付けるの。
それで、タバコを吸いながら、お団子食べて、
煙も一緒に飲んじゃうのよ」
おっ、さくら、真似とは言え、タバコを吸う格好を
しているなんて珍しい!
博「ハハハ」
さくら「灰が洋服にポロポロポロポロ落ちてね、
それを礼子さんがこうやって…」
博のハンテンを手で叩くさくら。
さくら「はらってやったり、注意してやったり、
まるで娘みたいに面倒みんのよ〜。
ほんとうに変わった人、フフフ…」
博「しかし、分かる気がするなあ、ひとつのことに
打ち込む人ってのはそういうとこがあるんじゃないのかなねえ、
もっとも兄さんみたいになんにも打ち込まないのも困ったもんだけどなあ…」
そういえば第17作の池ノ内青観もそういうところあったなあ…
さくら「フフ…」
博「満男、もう寝ろ」
満男「ハイ!」(^^)
博「お、今日はいい子だなあ」
さくら満男の布団をかけながら
さくら「でもね、ほんとは私ちょっと心配してたの…」
博「なにが?」
さくら、コタツに入りなおして
さくら「礼子さん、いつも田所先生の話するでしょ…、
だから、ひょっとしたら、素敵な独身の大学教授で、
礼子さん、その人のこと好きなんじゃないかって…、
フフ…、でもぜんぜんそんなんじゃないってことが
わかって…、ホッとしたわけ」
つい無意識に本音が出るさくらでした(^^;)
と、お茶の葉っぱをカンから出している。
博「ホッとしたって、どういう意味だい?」
さくら「え?」
博「兄さんが、失恋しないでもすんだって意味かい?」
さくら「うん…、そりゃまあ、いずれ失恋するんだろうけどね」
博「やっぱり君は兄さん思いだよ」
さくら「そうかなあ…」
博「そうだよ」
さくら、ポットにお湯が無いので、ヤカンに水を入れ始める。
さくらは兄が失恋すると分かっていても、いつも一部の望みをかけて
その得恋を願っている。この一途に兄の幸せを願う姿は最後の第48作
まで変わることはなかった。
江戸川土手 野球広場
『朝日印刷チーム』対『考古学チーム』
ブラバン曲「旧友」
バッター、タコ社長
ピッチャー、田所教授、守備に気合を入れて呼びかける。
守備の面々「おー!!」
博「社長頑張って〜!」とネクストバッターのベンチから
社長「ドンマイ、ドンマイ、まかせといてェ〜!」意味わかんねえ(^^;)
さくらたちベンチで口々に応援
満男ユニホーム姿!カンジュース飲んでいる。
さくら、ヘルメット被っている(^^)
寅、いつもどおりの格好で見ている。
なぜか、谷よしのさんや八百満の
おかみさんなども応援している。
プラカード(看板)に
『“gogo” 野球は
朝日タコーズ、印刷は朝日印刷 』
なんでコマーシャルが入っているんだ!?スタッフ悪乗り?
さくら「社長さん、がんばって〜!」
かたや考古学チーム
看板は若干小さくて地味『必勝 考古学チーム』
子供連れの数人(大人3人子供3人)が応援。
みんな「先生〜!がんばって〜!!」
後ろにスコアボードがあり、源ちゃんが点数を
書いている。
源ちゃんこけそうになっている。(^^;)
田所教授投げました!
社長打った!
ショートへの内野安打。
礼子もセカンド守備ではしゃいでいる。
さくらたち、大喜び。
寅も機嫌がいい。ニコニコ
次のバッター博
一同「博さん頼むよ〜!」「がんばって〜!」
博「行きますよ、社長!」
第1球高めの球を見逃す。
アンパイヤ審判「ストライク〜!」
博「え〜!!こんな高かったのに!、ベースでも外れてますよ」
判定に文句言うなんていかにも博らしい(^^;)
なんとアンパイヤは轟巡査。
仕事はどうした?今日は非番か?
轟巡査「入っている!」ボールだよ(^^;)
ピッチャーの田所教授息巻いて、
田所「ストライクだよ、ストライクだ、絶対だ!」
社長、リードをとる
社長「リー、リー、リー、」
牽制球
バックバック
社長、大慌てで戻る。
寅、立って応援している。めずらし(^^)
博、高めのボールを打つ。
ライトの方へ転がっていく。
「礼子さん礼子さん!」
タコ社長、走ってるんだけど前に進んでないぞ… ゞ( ̄∇ ̄;)
ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=(;@ @)
球がセカンドベースに帰ってきて、完全にセーフのはずの
社長が、なぜか!?一塁に戻り始める。なぜ!?
そしてなぜか博が二塁の近くまで走ってきている!!。
博も野球知らないのか!??
だめだよ博、社長が二塁にいるんだから、
一塁にとまってないと、へたすると
両方アウトになっちゃうよ!ヽ(´o`;
ああ!ああ、社長〜、一塁には博がいるから
もどったってだめだよ。
みんなルールが分かってないぞ(^^;)
案の定社長アウト(TT)
考古学チームもなんかめちゃくちゃ。
みんな野球を知らないでやっている(^^)
ベンチでさくら「だめだなあ〜、社長さん」
たぶんさくらもルールを知らないでぼやいている。
寅「なあにやってやがんだ、なあ」
こう言ってはいるがもちろん、寅は野球そのものに
全く興味もなにもないと思う(^^;)
さくら「ああ〜」
谷よしのさんや八百満のおかみさんたち、「だめだな〜」
って言いながらタコ社長がルールが
分かってないことを、話して笑っている(^^)
寅「なあ、さくら、正月早々よ、
寒い風に吹かれて
商売するのも楽じゃねえからな〜」
さくら「だから?」
寅「うん、今年はいっそうのこと、
とらやで…、
店の手伝いでもしてるか!」
さくら「そうしなさいよ!
お兄ちゃん!それがいいわ〜!!」
さくら、目を爛々と輝かせてもうニコニコ。
やっぱり、寅がいるを正月一度くらいは
味わいたいよね、さくら。
もう25年くらい味わっていないからなあ…(^^)
寅、立って「あ、タコ!おまえアウト!ごくろうさん」
寅、さっきの話の続きをする。
「へへ、…そうするか!」
さくら、目を輝かせて頷く。
寅「なっ」
二人とも至福の時。
この短い会話のシーンは、野球の開放感と、
ふたりの幸福感の両方に満ち溢れていた。
さくらのヘルメット姿が可愛い〜!
さくらにとって、正月に寅がとらやに居てくれるのは夢なのだ。
幼いころに離れ離れになってしまったさくらと寅。
新しいハレの日を一度くらいは一緒に迎えたいと思うのは
当たり前のことなのだろう。
さくら「社長さんごくろうさま」 パチパチ
寅「ごくろうさん」
社長、スタコラ照れながら戻ってくる。
おっと、!?
なぜか博がセカンドランナーでいる。
社長がアウトになった時点で博は一塁に戻ったはず??
盗塁でもしたか?それとも社長がアウトになったあと、
隙を見てススッと二塁まで行ったのかも。
なんせ、考古学チームも相当野球を知らないのでなんでも
ありなのだろう。
工員打ってセカンドゴロ
礼子さん取るがセカンド内野安打。
博は相当二塁でのリードが大きかったから
礼子さんがもたもたしているあいだにひょっとして
ホームに生還した模様。
と、いうことは4対4の同点に
追いついた、ということになる。
さくら「セーフセーフ!」
さくら、思いっきり手を広げて喜ぶ。
さくらって、結構応援派手!
そういえば、第14作「子守唄」でも
江戸川土手で、博、満男と野球をしている時、
カッコいいフォームでピッチャーをしていたね。
本当はなかなかの運動神経だと私は確信している。
とらや
本日臨時休業の紙
中村君、ウイスキーを2箱買ってくる。
みんなで打ち上げの宴会を開いている。
社長「では〜、次、田所博士!お願いします!」
一同「おお〜!!」
パチパチパチ
田所「うわ、は〜!」
さくら、台所でおばちゃんと
料理の盛り付け、中村君、ウイスキー置く。
さくら「どうもありがとう」
寅、礼子さんの横で白い野球帽被って、
工員にビールをついでやっている。
田所「ご指名を受けまして!
朝日印刷チームの優勝を祝い!
我らが考古学チームの復習を誓って!
ベートーベン作曲!『ゾラン.ジンク』
どうでもいいが、社長のチームが勝ったみたいだ(^^)
寅「お!さすがインテリ!」
社長「ゲイジュツ ゲイジュツ」と皆を静かにさせる。
田所「せ〜の〜」
田所「♪ヤーレン、ソーラン、
ソーランソーラン
ソーランソーラン」
一同 爆笑
おいちゃんも大笑い。
一同「ハイハイ!」
田所「♪ニシン来たかと
カモメに問えば〜、
あたしゃ立つ鳥、え、
波に聞け、チョィ!
♪ヤサ、エン、エンヤ〜、
サーアのどっこいしょ、」
みんなで「あー、どっこいしょお〜!
どっこいしょ!!」
田所教授の自宅付近。夜
田所教授酔っている。付き添っている礼子。
田所教授ヴェルディの『リゴレット』の中の「女心の歌」を
原語?で大声を張り上げて歌っている。
礼子「先生、やめなさい、大きな声で」
田所の部屋
田所歌いながらベットに転がる。
礼子「相変わらず、汚いのね」と部屋を見る。
田所寝転がりながら
田所教授「筧君!ありがとう…」
礼子「先生…、大丈夫?」
田所「大丈夫大丈夫〜!」
礼子、布団を掛けてやる。
やっぱり、世話を焼きすぎだよ、礼子さん。
田所「早く帰んなさい!いいからいいから!」
礼子「そう…、じゃ、帰るわよ」
田所「あ!そうだ、ちょっと!ちょちょっと待ってくれ!」
田所、なんとか起き上がって、テーブルの上の手紙を取る。
田所「…これ」
と、手紙を渡す。
礼子「なあに?これ?」
田所「いいから!いいから!」
と押すように礼子を部屋の外に追いやる。
田所「お休み、どうもありがとう!」
と押しまくって、ドアを閉める。
田所、ベットにひっくりかえる。
礼子、表の引き戸を閉めて出て行く。
救急車の音が遠くで鳴っている。
礼子、明るい街灯の下でさきほどの封筒を開ける
礼子のテーマが美しく流れる
原稿用紙に書かれた詩が出てくる。
ひとり静かにもの思いにふける時
私はこれまでの生活を思い浮かべる
あゝ どんなにか多くを求めて
失敗を重ねて来たことか
苦い経験 無駄に費やした時間ばかりが
思い出され
私の胸は悲しみに閉ざされ
涙が溢れてくる
だがそのような時
君のことを想えば
おゝ 愛する君よ
私の心は慰められ
悲しみは消えてしまうのだ
礼子 君
田所
この詩の文字は山田監督の直筆だと言われている。
美しく格調の高い詩だ。
一生に一度の自分の想いをこの短い詩に託した田所。
このような手紙を貰って嬉しくない女性はこの世に
ひとりもいないと断言できる。
これは間違いなく山田監督の気持ちでもあるのだ。
山田監督は誰のことを想ってこの詩を書いたのだろうか…。
礼子のテーマが流れる中
悩みながら江戸川土手を歩く礼子
礼子は田所教授のことをどう思っているのだろうか…。
師として尊敬している事は十分かるが、もし、
男性として惹かれていないのであれば、あそこまで
世話をやいては、かえって向こうに期待を抱かせる事に
なると思うんだがどうだろう…。
とらや 茶の間
寅「使いの神は出雲の浜辺に下り着いた。波打ち際に…」
さくら、満男に靴下はかせている。
石油ストーブが置いてある。
礼子「ただいま」
一同「おかえりなさい」
寅「今晩お勉強だからね、オレ、今これ予習していた」
おっ、結構やる気あるのかな(^^)
寅「大国主の…」
礼子「…寅さん」
寅「はい」
礼子「悪いけど、今日ちょっと都合が悪いの….
2,3日延ばしてもらっていいかしら?」
寅「いや…、オレの方はいいけど…うん」と頷く。
礼子「じゃ、すいません」
元気なく階段を上っていく。
一同「…」
おいちゃん「何だか元気が無いな」
寅「な、なんなんだ?どうした、なんなんだ?」
さくら「どっか、具合でも悪いんじゃないかしら?」
寅「え?」
おいちゃん「ん…」
寅「んな、風の吹いてる日に野球なんかやるからだよ」
おいちゃん、さくら「…」
寅「あの髭の奴が誘うからいけねえんだよ」
寅、ため息
寅「なあんだ、勉強一緒に出来ると思うから
こうやって待ってたんじゃない。だったら…
オレ、いくらだってすることあんだよ、暇じゃない
んだから、いやになっちゃうなあ〜」あんたは暇だよ(^^;)
っと、そそくさと片付けて、立ち去って荷物部屋へ向かう。階段上りながら
寅「明日の朝、もう、起きないからね、
オレ、もう寝てるからね」
約束守ってもらえなかった子供がすねてるみたいだ(^^;)
上がり口に宣伝手書きポスター
お客様
例年のとおり
ちんもち承ります。
お祝い餅のご注文は当店にご用命願います。
ご注文は25日までに。
お餅納品は二十八日までです。
なるべくお早めにご注文願います。
翌日 金町すずらん通り
歳末福引大売出し 12/6→12/29
商店街のスピーカー「みなさま、お正月の洋服、オーバーは…」
寅、バイをしている。
なんと黒の詰襟学生服姿!早稲田の角帽?
筆箱(黒、赤)、三菱鉛筆、ノートなどを売っている。
じゃんけん大会 毎、日曜
寅「大都会の片隅に、コツコツと勉学に勤しむ私たち
苦学生に取りまして片時も忘れられないのはふるさとのことで
ございます。上と下の瞼をやんわり閉じますと、思い起こすのは
ふるさとに残してきた優しいお母さんの顔。
(学生手帳を胸からチラチラ取り出して(^^;))
全くよく言うよ。40をとうに過ぎてるのに…┐('〜`;)┌
寅「ほら!お母さん!これが卒業証書だよ一刻も早く母親の喜ぶ顔を見たい!
しかし、皆様もご承知の通り、私はこのとおり、苦学生であります。
(学生手帳、チラリ)
生活に追われるあまり勉強も思うに任せません。
去年の三月、わずか1冊の参考書が買えないばっかりに、
とうとう卒業試験に落ちてしまいました。」
寅「あ、お母さん、どうもお買い上げくださいまして、ありがとうございます」
ラッキ〜〜売れた!\((( ̄( ̄( ̄▽ ̄) ̄) ̄)))/
サクラ役の源ちゃんも勢いで、近寄って買うふりをする。
寅「あ、学生さん、あなたも!あ〜…、どちらです」
源ちゃん「東大法学部です」と照れる。
そりゃ照れるよなあ〜源ちゃん( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ー ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)嘘80000だよ。
寅「そう!法学部!じゃあ、同士だ!がんばろう!」と握手。
客が買おうとして
寅「200円です」すかさず、『にこっ』。上手い!(^^;)
歳末はこの手のバイが成功しがちだね、確かに。
柴又参道
年の暮れで賑わっている。
スピーカーから『ジングルベル』が流れている。
お土産を買ってとらやに急ぐ寅
とらや
暮れで餅の製造と注文で大忙しの様子。
凄く活気がある。
さくら電話応対
さくら「のし餅2sが2枚、鏡が大が1枚、小が5枚ですね。
はい、どうもありがとうございました。」
この手の専門用語は第6作「純情篇」でも
夕子さんが暮れの手伝いで専門用語を連発していた。
寅、戻ってきて
寅「よお!みんな働いてるね!暮れらしくていいな!」
寅「職人さんごくろうさん」
職人「あ、おかえりなさい」
このあたりのシーン大好きだ。暮れの勢いが感じられて
見ているこっちまで大晦日が近いんだなあ〜、なんて
思ってウキウキしてしまう。
寅「おう、礼子さんいるか?」
さくら「いるわよ」
寅「商売して、儲かったんでよ。元気つけてもらおうと
思って買ってきたよ。
さくら「そう」
寅「ん!」
寅、2階へ上がっていく。
満男、お米で遊んでいる。顔がお餅の粉で真っ白(^^)
さくら「だめだっていってるでしょ!」
満男「ヘヘヘ!」かわいい!!
2階に上がって来た寅
階段下でさくらの声
さくら「町田さーあん、そっち蒸かし空いてる〜!?」
職人さん「あいよ〜!」
寅「礼子先生」
礼子「寅さん?どうぞ」
寅「あ、勉強中、お邪魔だけど、これ、食べてもらおうと思って」
礼子「あら、なあに、それ?」
寅「ん、ハチミツと果物だけどね、ここんとこ元気ねえようだから
これ食って精つけてもらおうと思って。じゃ!」
礼子「寅さん…」
寅、立ち去ろうとして
寅「え?」
礼子「私…元気が無いように見えた?」
寅「んん…、なんかこう…熱があるんじゃねえのかなあ?」
礼子「…、寅さんに言っちゃおうかな…」
寅「なに?」
礼子「…」
寅「なんでも言ってごらんよ」
礼子「実はね…、私ね…、結婚申し込まれたの…」
寅「…ええ?…」
信じられないような顔で口をモゴモゴさせる。
礼子のテーマ、静かにクラリネットで流れる。
礼子「私、今まで結婚のことなど考えたことが無かったの。
ずっと考古学の勉強を、わき目もふらず歩いてきて、
それで十分満足だったし、これからも一生続けていくことに
なんの疑問も持ってなかったんだけれども、
それが、いざ結婚ってことがおきてみると、根本からぐらついてしまって、
なぜこうかしら、私が女だからかしら…、それとも…私がだめな人間なのかな…
メガネをはずして
礼子「私…なんでこんなことになってしまったのかしら…」
両手で顔を覆って、泣いてしまう。
寅「オレにゃあ難しいことはよく分からないけどね、
あんた幸せになってくれりゃあいいと思っているよ」
いい言葉だね…。
礼子「うん、ありがとう」とハンカチで目を押さえる
生涯の仕事の事と結婚が両立しないとは、本当は思えない。
そんな事言い出したら、学問を研究している女性は結婚できなく
なってしまう、問題は「結婚」の形態にあると思う。
この場合夫婦ともに考古学を研究しているわけだから、お互いに
十分理解できるはず、いわゆる夫の世話をやく「奥さん」にならずに
共同生活者である「パートナー」になればいい。一緒に同居している
パートナーだと思えば、案外上手く行くとは思うんだが…。
もちろん、それ以前に田所博士を礼子さんが好きかどうかが
一番重要な要素だということは間違いない。
寅、果物の包みをそっと持つ。
寅「じゃ、オレ、これで」
社長「あ〜あ、やだやだどうしてこう金ずまりなんだろうねえ、
おりゃあもう死んだほうがマシだよ」と声が聞えてくる。
一階 台所
さくら、餅を梱包しながら「暮れは社長さんも大変ねえ」
社長「本当だよ寅さんみたいになあ恋愛ばっかりで
一生暮らしたらどんなに楽しいだろうなあ」
寅が下りてくる
社長「しかし、あいつもそろそろ振られる時分…」
さくら、目で社長に『後ろにいるわよ』と伝える。
社長「!!…」と立ち上がる
社長「アッ!!ごめん!ごめんよ」と工場のほうへ逃げる
さくら、感ずく
おいちゃん餅を見て「これで全部だね2キロ分、」
おいちゃん「あ、あいよ」
おいちゃん「このウスは蒸けが甘いなこらあ、どおも」
おばちゃん「肌が粗いね」
客「こんにちは」
おばちゃん「はいいらっしゃい」
客「あの、家の餅入ってますか?」
おばちゃん「出来てるよちょっと待ってね」
客「はい」
さくら、二階に上がる
おばちゃん「がんもとさんの、…これこれこれ、はい」
荷物部屋で、カバンに服を詰めている寅
さくらその様子を見て驚く
寅、さくらに気づいて、
寅「みんな忙しいのに手伝わなくて悪いけどよ、オレ、旅行くよ」
さくら、座って
さくら「なにがあったの?」
寅「礼子さん、結婚するんだってよ…」
さくら、驚いて
さくら「誰と?」
寅「さあ…」
寅「あの人が結婚すんだから、オレたちが口も
きけねえような頭のいい秀才じゃねえかな」
さくら「…」
寅「これ、礼子さんに返してくれ」と本を渡す。『日本の歴史.国のはじまり』
寅「どうもありがとう、って」
さくら「お兄ちゃん、礼子さんの口から聞いたの結婚のこと?」
寅「あまりめえだよ。あの人はずっとそのことで悩んでたんだよ…」
さくら「悩んでたって、どんなふうに?」
寅「そのことなんだけどよ」
さくら「うん」
寅「あの人は、オレにいろいろ説明してくれたんだけど、
何だかオレにはさっぱりわからねえんだ〜。
こっちに学問があったらなあ…
上手い答えをしてやれたんだけど…。
学問がないってことは悔しいよ!」
そんなの学問と関係ないよ寅。
外では宣伝カーのマイクが鳴っている。
寅「なんかしてやろうとしたって、
どうしょうもないもんな〜」
さくら「そんなことないわ」
寅、ノートを丸めて外を見ている。
さくら「学問なんかできなくたって、
いくらだってしてあげることはあるわ。
寅「ないよ!」
とノートをさくらに渡す。
寅「俺のできることはハチミツと果物でも
買っていくのが関の山だい…」
それで十分だと思うんだけどなあ…。
パッチパッチとカバンのフタを閉める。
さくら、ノートをめくってみる。
「日本の国のはじまり」
とだけ書いてあって、
下のほうに昔の戦闘機の漫画が描いてある。
なぜかこのノートは寅のいろんな気持ちが
そこはかとなく出ていて切なかった。
町内の皆様、こちらは柴又商店…ただいま連合会では…大売り出し…での…でございます。
一等…、2等電気掃除機、3等電気毛布以下、十二等まで空クジ無しで皆様にお楽しみいただいております。
どうか皆様歳末のお買い物は地元連合会の…
宣伝車 『歳末大売り出し 年に一度の皆様方への御奉仕 柴又商店街』
とらや一階の電話口
礼子「お忙しいところすいません」
おばちゃん「いいえいえ」
礼子「後でお店手伝いますから」
おばちゃん「そんなとんでもない」
礼子「もしもし〜」
田所「筧君」
おばちゃん「露木さんと頃へ急いでよ」
田所「いつぞやの晩はどうも失礼」
礼子「いえお手紙どうもありがとうございました」
田所「ああ」
礼子「わたし、先生のお気持ちを聞いてとても嬉しくて」
田所「いや、そんなことはどうでもいい。僕はは君にむしろ、
とんでもないことをしてしてしまったんでないかと…ただ、
僕のあのーへたくそな詩は僕の気持ちを」
礼子「ええ」
田所「正直に」
礼子「ええ、あのーお気持ちは良くわかります。
あたしあの晩から一生懸命考えました」
田所「ううん、それで?」
おいちゃん「おーい町田さんにお茶でも入れて」
おばちゃん「はいはい、町田さん、いつでも切りのいいときにいってくださいね、お茶にしますから」
礼子「先生」
田所「うん」
礼子「すいません」
礼子のテーマ曲が流れる
田所「つまり…ダメなんだな」
礼子「あ、はい…」
田所「じゃあ、僕のプロポーズを受け入れられないっちゅう…」
礼子「どうもすいません」
田所「いやあ、いや、いいんだよ、
君があやまることはないよ、いや、
あやまるのは僕のほうだい……。
つらい思いをさせてすまなかったな」
礼子「いいえ」
田所「いや、もともと常識を欠いたことなんだから
こんな事だったらなーあんな手紙書くんじゃなかった
いや、いやしかし、それじゃあ僕の気持ちはすまないし
いや、言うことが矛盾してるなだから僕はね」
礼子「ええ、先生の言うことはよく分かりますでも、
今お店がとても忙しいものですから」
田所「ああ、そうか、悪かった悪かった、
またいつかの機会に」
田所「ズーッ。。。。旅にでも行くかァ…」
田所教授の発言「つらい思いさせてすまなかったな…」は
心に染み入った。この人は、人の気持ちがわかる人だ。
本当に礼子さんを心から愛しているのが
このいたわりの言葉にあらわれていた。
おばちゃん「満男ダメだよ、米いたずらしちゃあ」
おばちゃん「あ、さくらちゃん、蒸篭のお米仕込んでおくれよ
さくら「礼子さん」
礼子「はい?」
さくら「お兄ちゃん旅に出るんですって」
礼子「ええ?」
寅が上から下りてくる
礼子「寅さん旅に?」
寅「うーん、俺たちの家業はね暮れから
正月にかけてかき入れだから」
★さくら、おいちゃん、に『ふられた』と目で微妙に合図
寅「ああ、勉強が中途半端で残念だけど、
オレ旅先でまた一所懸命勉強するから」
★さくら、おばちゃん、に『ふられた』と目で微妙に合図
礼子「でもどうしてそんなに突然」
寅「ううん、言おう言おうと思ってたんだけどな、」
とさくらに目を配る。
さくら返事をする。
このあたりの目だけで物語らせるさくらの演出は
山田監督ならではの世界。実に味わい深い。
寅「言おう言おうと思ったんだけどななんか、
言いそびれちゃって…じゃ」
寅「おいちゃん、おばちゃん」
テーマ曲が流れる
寅「それじゃ、体大事にしてな」
おばちゃん「本当に行っちゃうのかい?」
おいちゃん「たまには正月ぐらい家で過ごしゃいいのにええ?」
おばちゃん「そうだよ」
寅「ありがとうよ、でも、そう出来ねえって事は、
おばちゃんたちが一番知ってるじゃねえか」
寅「博のやつによろしくな」
礼子「寅さん、一体どこへ行くの?」
寅「うん…南のほうだな北国はどうも寒くっていけねえよ,
何しろこっちは着たきりスズメだからハハハ….
いいよいいよいよ、送んなくていい
送んないくて。
ああ、あのーほら、
なんつたっけ髭達磨の面白い先生、
奴さんとねいっぺんサシで飲みてえと
思ったんだけど・・ま、よろしく言ってよ。
礼子先生、お勉強どうもありがとう」
寅「あばよ」
すっと出て行く。
いつも寅って、旅に出る時の去り際が鮮やか。
こういう演出がこの映画の凄み。
礼子「ねえ、寅さん一体どうしたのかしら」
さくら「いつもこうなのあんまり、
気にしないで私達は慣れっこだけど」
礼子「だけどね、さっきお話した時は
これっポッチも言ってなかったのよ」
さくら「そう」
礼子「なにか、あたし、気に触るような事言ったかしら」
礼子さんも、さすがにカンがいい。
自分に原因があることを察知している。
おばちゃん「は、あなたのせいじゃないんですよ」
おいちゃん「そうそう・・は、一服するか、おい、お茶でも入れろ」
おばちゃん「ね、さくらさん本当に私のせいじゃないのね」
さくら「お兄ちゃんから聞いたんだけど礼子さん結婚なさるんですってね」
礼子「ええ?寅さんそんなこと言ってた?」
さくら「本当に気にしないでね、兄は独り者でしょう、
だからまもなく結婚する人のそばにいたんじゃ
迷惑になると思ったんじゃないかしら。
兄ってそういうところがあるのよ」
礼子「どうしてそんなこと…そんなことちっともないのに、
だいちね、あたし、結婚しないの。
それはその問題で悩んではいたけど、やめたの」
さくら「本当?」
おいちゃん「バカだなあいつ、カン違いしやがったんだ」
礼子「ええ?」
おばちゃん「さくらちゃん、今からでも間に
合うんじゃないかい?早く行って」
おいちゃん「おい、行って!」
参道を駅に向かって走りに走るさくら。
第1作で博を追いかけ、走りに走ったさくらを思い出す。
さくら「バカねもう」
走るさくら
駅の改札にたどり着くが、ちょうど電車が行ってしまったところ。
向こうから轟巡査が帰ってくる
巡査「あ、今お兄様をお見送りした
ところです。なにかご用で?」
さくら「いえ、いいんです…。ちょっと
忘れ物をでも、いいんです」
巡査「そうですか、寅さんも暮れでお忙しそうですね」
さくら「あ、はい」
巡査「じゃ、」
さくら、いつまでも、諦めきれないでたたずんでいる。
源ちゃん「あの、いきまひょか」
頷くさくら。
ふたり、とぼとぼと参道に向かう。
なにげない残されたこの二人の後姿も、
寂しいさくらの心を思うと印象深いものがある。
旅立つ人の寂しさよりも、残された人の
寂しさはそれは辛いものだ。
正月 帝釈天参道
巡査「右を歩いて右を歩いてください、みなさん、
右側を歩いて、押さないで押さないで」
さくら「300円いただきます」
客「はい、ごちそうさまでした」
さくら「はい、どうもありがとうございました」
巡査「…この子のお母さんはいませんか?迷子です」
さくら「大変ですねえ」
巡査「あ、明けましておめでとうございます」と、敬礼。
さくら「今年もどうぞよろしくお願いします」
巡査「この子のお母さんはいませんか?…
この子のお母さんはいませんか?」と歩いていく。
博「迷子だってさ」と言いながらいろはカルタを拾っている
社長「とらやさんの迷子はどうしているかねえ」
礼子「え?」
社長「ほら、四角い顔の」
礼子「ああ、ウフフフ…」
おいちゃん「はい、社長」
博「毎年正月になるとね今年こそは兄さんの
相手を見つけなきゃって話になるんですよ」
おいちゃん「う〜んそんなこと言いながらもう、
何年になるかなあさくら」
さくら「そうねえ、この子が生まれる前からだから」
おばちゃん「そうそう、田所先生もお一人でしたね、
お正月どうしていらっしゃるかしら」
礼子「さあ、なんだか、旅行に出かけたとか」
おばちゃん「あら、うちにでもいらして下さればいいのに」
社長「そうだ、今年は寅さんのほう諦めて、
あの博士先生の方の嫁さん探さなくっちゃ、なあ、おばちゃん」
おばちゃん「あんな偉い人のお嫁さん
この近所なんかにいやしないよ、ね、礼子さん」
礼子「あ、…」
社長「そうかなあタバコ屋のお花さんどうだい?
あの人高等教育受けてるぞ」
おばちゃん「ダメだよお花さん面食いだから」
おいちゃん「どうしてどうしてあの先生だって
捨てたもんじゃないぞねえ」
社長「なあ」
博「髭そってね」
社長「ちゃんと背広着替えてな」
博「風呂に入って」 ヾ(ーー )ォィオイオイ
おばちゃん「歯磨いてね」 ( ̄△ ̄;)言いたい放題
さくら「失礼よねえ、礼子さん」
礼子、首を振って笑う。
おいちゃんが田所のヘビースモーカーぶりを社長に言っている
寅の年賀状を見る礼子
明けましておめでとうございます。
礼子先生にはその後お変わりなくお過ごしでしょうか。
旧年中は思い起こせば恥かしき事の数々、
今はただ、後悔と反省の日々を過ごしつつ
遥か遠い旅の空から貴女(あなた)様の
幸せをお祈りしております。
末筆ながら、私の愚かなる妹さくらをはじめ、
無教育なとらやの家族一同のことをくれぐれも
お引き立ての程、よろしくお願い申し上げます。
旅先にて
車 寅次郎
今回寅の年賀状が漢字を多用しているのは
田所教授と旅をしているから、
教えてもらったのかもしれない。
なお、映像で見る限りは年賀状の文章の
中で『無教育』ではなく『無教養』と
なっている。無教育の方がインパクトが
あって面白いと判断して、あとで、
声を入れるときに変えたのかもしれない。
この文章はスタッフの露木さんの字。
あの毎回特別出演してくれる備後屋さんだ。
西伊豆・ 静岡 沼津市西浦 足保
(三津浜と大瀬崎の中間にある西浦地区)
足保公民館そば 天神社前
寅と田所教授が旅をしている。
第24作「春の夢」ラストでも同じこの港とこの神社が使われている。
後ろの建物で同じ場所だと言うことがわかる!この建物が共通していることを
発見したのは、現地ロケめぐりをおこなった寅友の「ちびとら」さんだ。
2012年の11月末にこの2つのラストの共通のビルを発見された。
寅「おーい、もうちょっとゆっくり歩けよォ、
もう、先を急ぐ旅じゃねえんだからさァ、
年寄りは年寄りらしくのんびり歩いたらどうなんだい」
田所「君と歩いていると、僕は休んでばかりいないといかん」
寅「チッ」
田所「少し、体の鍛えようが足りんのじゃないのか?
ぼくより10も若いんだろう!」
寅「また、お説教か?そこが大学教授の悪い癖なんだよ。
だから、女に振られるんだぞ、おまえ」
田所「その話は言うなって言ってんだろう」と、おろおろ。
寅「赤くなりやがった。ハハハハ、
よう!誰なんだい、教えてくれよ、
タバコ屋のババアか?」
田所「そんなんじゃねえ!」
寅「ん、じゃあ、あの、三味線のおっしょさん、
いい年こいて真っ白に白粉塗った奴」
田所「バカ言え、オレの愛した人はベアトリーチェのごとく、
麗しく、賢く、気立てのいい人だ」
寅「だから誰なんだよ教えてくれよ」
田所「それは言えん!」
寅「誰なんだってさァ〜」
田所「うるさい!」
寅「そんな、お怒りにならないでお兄さま」
と田所の肩に手を乗せ女言葉でじゃれる寅
ベアトリーチェ
ダンテの『神曲』に登場する愛の象徴。
ベアトリーチェは、ダンテが幼少のころ出会い、心惹かれた実在の
少女の名である。しかし、のちに成人した時に再会したダンテは、
その繊細で臆病な気質ゆえにすれ違いがあり、彼女を傷つけてしまい、、
その後ベアトリーチェは24歳で夭逝してしまう。ダンテはそれを知ってひどく
嘆き悲しみ、彼女のことをうたった詩文『新生』をまとめた。
ベアトリーチェは愛を象徴する存在として神聖化され、神学の象徴ともあると
考えられている。また、あくまでもダンテのイメージであり、実在はしなかったとも
言われている。
田所「ええい!」と振りほどいて速歩きで船着場へ。
寅追いかけながら、
寅「お髭のお兄さま、わたし好きよ!」
田所小走りになって逃げる。
振袖姿の娘さんたちそれを聞いて笑っている。
寅、娘さんたちのほうを見て二カッと笑いながら
田所を追いかける。
この二人は、凸凹コンビ。実にウマが合う感じ。
楽しい旅が待っている気がする。
船着場
船の観光案内嬢さん、が叫んでいる。
あの大空小百合ちゃんを
演じている岡本茉莉さん!
私は、この人の大ファン!
寅次郎の夢のシーンでも何度も登場する。
本編でもちょっとした役でちょくちょく出てくる。
大空小百合役や夢のシーン以外でも
青観のお手伝いさん役、
看護婦さん役、
留吉の元彼女役、
船の観光案内嬢役、
出前を運ぶ店員役、などなどである。
ゆっくりメインテーマが流れて
案内嬢さん「船が出ますよ〜!お乗りになるんですかぁー?」
田所「あーい、乗るぞおー!」
寅「ハハハ、先生!おーう!」
寅乗り込みながら
寅「おう、ネエちゃん、乗ってくよ」
案内嬢さん「はい、どうぞ」
船の汽笛「プォ〜〜ッ」
『初荷』
船の正月用の松を使ったお飾りものと
世界の国旗のミニ旗たちが
富士山をバックに翻っている。
霊峰 富士山がくっきり見える。手前は愛鷹山
シリーズ中もっとも大きく美しく富士山が
見えるのがこのシーン。
第8作「恋歌」のラストの富士山と共に
忘れがたい富士の姿だ。
トントントン…
メインテーマが大きく流れていく。
船、旋回したあと、まっすぐそびえたつ
真白き霊峰富士に向かって進んでいく。
見送るお母さんと赤ちゃん。
雄大な富士山の懐に向かって
船はどこまでも進んでいく。
正月元旦快晴である。
結局、勘違いした寅は、旅に出てしまい、今回もさくらと寅は
正月を一緒に過ごす事が出来なかった。特に今回は誤解だっただけに
悔やまれる。このようにして寅はそれぞれの作品の中で、主に失恋を
その理由として旅立ってしまい、結局48作品の中で、一度も正月を
とらやで迎えることがなかった。不運と言えば不運だが、もともと
正月なんて日々を、とらやでぬくぬく過ごすことは寅の美学が許さない
のかもしれない。そういう、ストイックなところも彼にはあるのだ。
誇り高き孤高と自由。
たとえその先にどんな惨めな行く末が待っているとしても、
寅は覚悟している。それは田所教授も同じ。わが道を行くのである。
この作品のラストが爽やかなのは、富士山の美しさだけではない。
あの向こうに新しい一期一会の出会いが待っているからなのだ。
終
出演
渥美清 (車寅次郎)
倍賞千恵子 (諏訪さくら)
樫山文枝 (筧礼子)
桜田淳子 (最上順子)
下絛正巳 (車竜造)
三崎千恵子 (車つね)
前田吟 (諏訪博)
中村はやと(諏訪満男)
太宰久雄 (社長)
佐藤蛾次郎 (源公)
笠智衆(御前様)
米倉斉加年 (轟巡査)
大滝秀治 (寒河江の住職)
小林桂樹 (田所教授)
後藤泰子 (八百満のおかみ)
谷よしの (主婦)
戸川美子 (主婦)
吉田義夫 (西部劇のボス)
スタッフ
監督: 山田洋次
製作: 島津清
企画: 高島幸夫 、小林俊一
原作: 山田洋次
脚本: 山田洋次 朝間義隆
撮影: 高羽哲夫
美術: 佐藤公信
編集: 石井巌
録音 : 中村寛
照明: 青木好文
スクリプター: 長谷川宗平
音楽: 山本直純
助監督: 五十嵐敬司
1975年(昭和50年)12月27日
上映時間 100分
動員数 213万1000人
配収 11億5000万円
今回8月14日で「葛飾立志篇」は完結しました。
このあと日本に一時帰国いたします。しばらくは仕事が
忙しく次回第17作「寅次郎夕焼け小焼け」は9月11日頃が
第1回目の更新になります。気長にお待ちください。
「夕焼け小焼け」は全48作品の中で私が一番繰り返し見た作品。
この作品もまた、じっくり腰をすえて取り組みたい。お楽しみに。
★姓がダブっている(設定も含む)
坪内
高井
富永
江上
島崎
★名前がダブっている
貴子 隆子
礼子 礼子
藤子 ふじ子
圭子 蛍子
真知子 真知子
それ以外
マドンナ(もしくはそれに順ずるサブマドンナ)+それ以外の女性
絹代 絹代
めぐみ めぐみ
ひとみ 瞳
京子 京子
春子 春子(設定)
鞠子 鞠子(設定)
ふみ フミ(設定)
★番外篇
マドンナではないがちょっと存在感のある役
信子と信子(設定)
以上、とりあえず思いつくのはこのへんまで。