バリ島.吉川孝昭のギャラリー内
第17作 男はつらいよ
1976年7月24日封切り
我が心の『寅次郎夕焼け小焼け』 ― 私の人生を支えたもの ―
スマートで弾けた脚本と演出、安定感抜群の109分。これぞエンターテイメント!
「夕焼け小焼け」は、今までに私がこのシリーズで最もたくさんの回数を見た映画である。そのほんとうの理由は自分でもよく分からないのだが
映画というものが持っている全ての面白みが偏ることなく絶妙のバランスで詰め込まれているからかもしれない。私にとっての作品としての
評価という意味では、第1作や第8作、第15作のほうが高いのだがこの第17作はなぜか見た後に満腹感を感じられるのだ。物語の振幅が
大きいからかもかもしれない。また、この頃になると、脚本や演出がこなれてきてスマートでギクシャクしないものになっているので、そのような、
ゆったりとした安定感が心地よいのかもしれない。総合的な完成度が高い気品のある作品と言ってもよいと思う。
とにかく実に「見易い映画」「楽しめる映画」なのである。第1作「男はつらいよ」を見ていると、楽しめるというよりは、あまりにも懐かしく、美しく、
そして初々しい荒削りな魅力に溢れている。第8作「寅次郎恋歌」も楽しめると言う言葉は似合わない。人生の奥深さと、人間の世の哀しさ、
旅の孤独、が見事に描かれた長編大作だ。それゆえに立て続けに見るときついものがある。第15作「寅次郎相合い傘」は美しく切ない、ふたりの
恋の物語で、心が震える最高傑作だ。楽しい場面もたくさんあるし、「放浪者の栄光」の物語でもあるが、やはり「切ない恋の物語」でもある。
それに対して、この第17作「夕焼け小焼け」はとにかくすんなり安心して楽しめるのだ。つぎつぎに物語が展開していってあれよあれよと
いう間にクライマックスへ。そして最後に感動が待っている。落ち込んだ時、この作品を見たら元気が出る。悲しくて仕方がない時この作品を
見ると、明日も生きていこうと、そう思えるのである。
私は30代の終わり、精神的にも肉体的にも非常に苦しい時期があった。限界ギリギリと言う感じだった。あの数年、とにかく暇を見つけては
この第17作を繰り返し見たものだ。とにかく笑える。とにかくはなやぐ。それでいてなんともいえない気品と重みがある。そしてなんといっても
最後に感動する。起承転結。絶妙の安定感がそこにある。「物語」がそこにしっかり存在するのだ。
この「夕焼け小焼け」を見るたびに思うことは、ここにいたって本当にこのシリーズは熟してきたな。ということである。泥臭さがもうかなり消え、
スマートになってきている。だから安心して違和感なく見ることができるのである。気持ちが苦しい時はあまり泥臭いパワフルなものもダメだし、
あまり軽く予定調和的に作ったものもダメなのだ。「若々しく輝きながらもスマートな成熟がもう始まっている」というなんともいえない頼り甲斐の
ある気持ちよさが「夕焼け小焼け」にはあるのだ。
岡田嘉子さんの眼 ― 人生のふたつの後悔 ―
この映画には宇野重吉さんの初恋の人、志乃役で往年のスター、岡田嘉子さんが出演している。彼女の体から出るあのオーラはいったい
なんだろう。人の歩めない道をあえて歩んで来たものだけが持ちうる優しくも強い眼光。凛とした姿かたち。今日の今日までいろんな役者さんの
演技を見てきたがあのようなオーラは、あとにも先にもあの龍野での岡田嘉子さんだけだった。青観役をみごとに演じきった宇野さんとともに心底
感服した。
岡田嘉子さんは戦前にソ連へ亡命し、戦中戦後の数々の苦しい体験を経て、日本へ一時帰国している時にこの映画に出演されたのだが、
かの地での厳しい環境の中での体験があの姿かたちになって、見る私たちを圧倒したのであろう。日本で役者のことだけを考えて安穏としている
たくさんの俳優さんと生き様が違うのである。あの優しさの奥にある眼の力は普通じゃない。何かを視、体験してきた眼だ。
愛人と手を取って南樺太の国境線を越え、亡命したが、運悪くスターリンの大粛清の最中だったこともあり、愛人は銃殺、岡田さんも10年もの間
厳しい収容所で強制労働を強いられた。10年間の収容所生活から解放された岡田さんはモスクワ放送のアナウンサーになって後に滝口慎太郎氏
と結婚,彼の死後、1972年に滝口氏の遺骨とともに、宇野重吉さんらが出迎える中、実に34年ぶりの帰国を果たす。この「夕焼け小焼け」に
出演した当時、岡田さんは一切そのことを人にもスタッフにも言わなかったためこの衝撃の事実がわかったのはその後、ソ連に戻ってからだという。
「私、近頃よくこう思うの。人生に後悔はつきものなんじゃないかしらって。
ああすればよかったなあ…という後悔と、
もうひとつは、
どうしてあんなことしてしまったのだろう…、という後悔…」
この言葉は、あとから考えると、岡田さんの人生そのものであり、岡田さん以外の人には言えないセリフだったと今でも確信している。
あの眼光を持ったまま、岡田さんは14年後に日本を去り、ソ連に戻り、かの地で独り寂しく永眠された。
ソ連に戻る際、友人の杉村春子さんが「日本の方が暖かいのに」となんとか止めようとしたが、岡田さんは寂しそうに笑い、「東京のあわただしい
空気より、静かなモスクワの方が肌に合うんですよ。それに私を愛してくれた2人の男が眠っている国だし」と杉村さんに言ったそうだ。
多磨霊園にある墓碑には「悔いなき命をおしみなく」という自筆が刻まれている。
私がインドネシアでの生活に悩み、苦しんでいた30代後半、ひょっとしたら…、この「夕焼け小焼け」の岡田さんの深い眼光とあの凛としたお姿、
あのセリフを見聴きするために何度もこの作品を見ていたのかもしれない、と今、これを書いていてふと思った。そうかもしれない…。
私は岡田嘉子さんに救われたのかもしれない…。役者は人生が出る、生き様が出る。渥美さんや、岡田さん、宇野さん、笠さんを見ていると
そう思う。撮影現場で一生懸命体当たりの演技をしてもしょうがないのだ。そんな甘い物ではない。勝負すべきは日々の孤独の中での生き様
なのだから。
志乃さん宅のお手伝いさんの役でなんと第7作「奮闘篇」のマドンナである榊原るみさんがノンクレジットで友情出演していたが、志乃さんの
静かな生活に溶け込んだ清楚な実にいい演技だった。
宇野重吉さんという存在
池ノ内青観を演じた宇野さんの存在感も凄まじいものがあった。何から何まで宇野さんは「池ノ内青観」そのものだった。あの人の
姿かたちにも、独特の「怖さ」「厳しさ」が滲み出ている。たった一言で人生を感じさせることができる人。それが宇野さんだ。おそらく宇野さんも
岡田さんや、渥美さん同様にただですまない厳しい人生を送ってきたのであろう。最晩年の彼の生き様を思い出してはそう感じている。
山田太一さん脚本の名作「ながらえば」でテレビドラマの歴史に残る笠さんとの真剣勝負の演技を私たちに見せてくれた宇野さん。
笠さんと渡り合えるのはもう後にも先にもあの時代宇野さんしかいなかったのである。
宇野さん扮する青観がラスト付近で目を細めてふと呟くあの言葉「そう…寅次郎君は旅か…」は忘れられないセリフだ。この一言でこのシリーズ
のイメージをすべて言い表していた。見事な姿かたちだった。また、龍野での寺尾聡さんとの親子共演もなかなか印象深い。
いずれにしても宇野重吉と岡田嘉子というふたりの優れた感覚の人間によって演じられた龍野のあの静かな夜の会話は、この作品に最高の
気品を与えているばかりでなく、あのシーンの存在が、この長いシリーズ全体のイメージをも高めているほどの強烈なインパクトを持っていた。
「夕焼け小焼け」の奥深い懐がここにあるのだ。
美しい播州龍野と弾けるぼたん
この作品では播州龍野がしっとりと実に美しく描写されている。そんな古い町並みの中で溌剌と健気に生きる芸者ぼたん。
このコントラストが実にたまらない。太地喜和子さんの当たり役である。お互い裏街道を歩く者どおし、出会いから寅との
相性は抜群だ。太地さんはほんとうに大輪の真っ赤な牡丹の花そのものだった。失意のどん底で、寅の熱い気持ちに打たれ、
とらやで人目もはばからず号泣するぼたん。そしてラストに「絶対に譲らへん、一千万円積まれても譲らへん!一生宝もんにするんや!」
と宣言するぼたん。あれらの太地さんの顔を私は忘れない。あの人は役者そのものだった。彼女もただではすまない俳優だったのでは
ないだろうか。それにしてもどうしてあんなに早く逝ってしまったのだろう…。
突きつけられる庶民の無力さと切なさ、…そして優しさ ― 救われるということ ―
この長いシリーズではいわゆる「悪者」というような人物はほとんど出てこない。みんなどこかしら人間臭さを残した憎めない連中ばかりだ。
しかしこの第17作にはこのシリーズで唯一といっていい「悪い奴」が登場する。
ぼたんの虎の子の200万円を騙し取った鬼頭という男だ。そのことでとらやの面々はずいぶん親身になって手伝おうとするが、すったもんだ
の果て、結局泣き寝入りという厳しい結末が待っている。どんなにさくらたちの心が清らかでも、どんなにタコ社長が奮闘しても、寅が怒って
怒鳴り込もうとしても、どうすることもできない厳しい現実がそこにはあったのだ。この金銭的損害と悪者征伐に関してはこの作品は容赦なく
救いを遮断させている。現実の社会はこのような不条理な出来事や悪意に満ちた事件で溢れているからだ。
この時の寅は本当に心底怒る。マドンナのためにこんなに本気になって怒った寅はこの17作をおいて他に無い。その心にぼたんは救われ
号泣するのである。
人は、最後の最後はお金でなく人の心に救われる。綺麗ごとでなくほんとうにそうなのだ。人生で涙が枯れ尽くすまで、とことんまで辛酸を
なめた人ならそれはみんな実感として知っていることだ。
この作品はほんとうに無力で惨めながらも励まし合いながら寄り添いながら生きていく人の世の切なさと温もり、そして気高さをラストで
謳いあげて終わっていく。こんな美しく、ほろ苦く、そしてリアルな感動に打ち震えるラストはこのシリーズでもめったにない。
第2作「続男はつらいよ」のラスト、第8作「寅次郎恋歌」のラスト。第25作「寅次郎ハイビスカスの花」のラスト。そしてこの第17作「寅次郎
夕焼け小焼け」のラストが全48作の中で私の選ぶ感動のラストシーンベスト4だ。
シリーズ最高のナンセンスホラー ジョーズの夢 ― 野ウサギの走りにも似た山田演出 ―
この作品の出だしの夢はホラーである。「白鯨」と「ジョーズ」を混ぜたような夢。ギリギリの笑いを追求している。ある意味怖い演出だ。
源ちゃんの下半身は笑えるとしても、さくらの足が2本取れた!っていうのは、えげつない。しかし、このえげつなさが、当時の山田組の
運動神経とパワーなのだ。野ウサギの走りにも似た、強いバネとエネルギッシュな反射神経なのだ。賛否両論はあれども、このジョーズの
夢に当時のスタッフたちのエネルギーを感じたのは私だけであろうか。そして、そのえげつない夢から覚めた後の釣れた親指ほどの小魚
との落差と噛みつきの軽妙な演出は見事だった。ザッツ.エンターテイメント!
この作品の翌年にいよいよ「幸福の黄色いハンカチ」が完成する。
■第17作「寅次郎夕焼け小焼け」全ロケ地解明
全国寅さんロケ地:作品別に整理
今回も夢から
どんよりとした深い海
不気味なBGM
寅のナレーション
寅「この広い海のどこかにあいつがいる。」
「平和な海水浴場を一瞬にして地獄へと化した
あの憎い…人食いザメが!どこかにいる。」
かもめが鳴いている。
「港を出てすでに1週間。
車船長の顔にあせりの色も深い。」
サングラスをかけ、口ひげを生やしている寅
「憎い人食いザメ。」
サングラスをはずして、遠くを見る寅。
なぜかボートのポールになぜか『とらやの店の旗』(^^;)
「おいちゃん、おばちゃん、そしてさくらの
息子満男を飲みこみ」
さくら「満男〜」なぜかさくら、いつもの格好
(あのピンクの麦藁帽子は第1作をはじめ、何作品かで使われている)
寅「さらには三日前、かの原公の下半身(しもはんしん)を
食いちぎった悪魔のような奴。
うわわっ、山田監督の演出とは思えない〜(><;)
蛾次郎さん、ごくろうさんです(^^)
佐藤蛾次郎さんていったい(TT)
寅は「悪魔」って言ってるけど、まあ、サメに言わせれば
餌探して黙々と食事してるだけなんだけどね(^^;)
しかし源ちゃん3日間そのままの状態かよ。
あまりにも可哀想〜(TT)
しかもいつもの格好のまま。
だいたいサメ退治に満男連れて来るなよ。
タコ社長と博は同船しなかったようだな。助かったな…(^^)
海が舞台だからタコ社長ネタがあっても面白かった
と思う私は不謹慎でしょうか(^^;)ゝ
さくら、嗚咽
寅「さあ、出て来い人食いザメ!
このオレと一騎討ちだ。
どこにいるんだ人食いザメ!」
夕焼けの空
寅「ついに燃料も尽きた…。
飲み水もなく、食料も無い。
今、車船長を支えるものは、
ただ、鬼のような執念だけであった」
針に肉片を差し込んで海に掘り込む車船長。
さくらが無残な源ちゃんの死体のそばで泣いている。
さくら怖くないのか…(^^;)
さくら「お兄ちゃん、何か聞こえるよ。
ああ、おいちゃんとおばちゃんの声だ…」
寅「さくら!さく…お前気を確かに持つんだよ」
さくら「聞こえる…聞こえる…」うう…さくら〜…(TT)
寅「さくら!しっかりしろ!いいか。
もうおじちゃんもおばちゃんも
この世の中にはいないんだよ!」
さくら「ウソよ、だって聞こえたもんん」
船の側面に『Tiger2』の文字
不気味にサメが前を通る(ドラの音)
(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
寅「ああ、お前がとうとう狂ってしまったァ!!」
さくら「あ!おいちゃあ〜ん!!おばちゃあ〜ん!!」
サメがさくらを襲う
さくら「アアーア!!」
寅「さくら!」
さくらの足だけ手に残る。
うわわわー!山田監督ゥ〜っ!ΣΣ(|||▽||| ) )))
車船長しばらく残った両足を持ったまま???。
この『間』がギャグですね(^^;)
寅「ウワァー!!」と足を放り投げる。
そんな…さくら…あんまりだあああ…(@@;)
山田監督に一体何が…何を思ってここまで…(^^;)
???
竿がきしむ「ギギギ…」
サメが針にかかる
リールがどんどん引きずり込まれる。
寅「ムン!く!来やがったな〜ッ」
竿が更にしなる「キキキキ!」
寅「だはっ!ぐ…くっチッ…グ、グゥ!ちきしょう!
出て来い人食いザメ!フゥ!!!」
サメ「ガォー!!!」と大口を開けて襲ってくる。
寅「ウワァー!!」
おいおい、猛獣じゃないんだから、
サメはそんな声出さないよ ヾ(^^;)
寅「ワァ!!ウワァ!!アァー…!」
とある田舎の漁港
たつの市御津町岩見1370 付近
いきなり夢のあとが龍野ってのもねえ・・・
ロケの都合なので許してあげてください^^;
夢を見てうなされている寅
釣りをしているらしい。
子供「おっちゃん、」
寅、ちょっと目がさめる。
子供A「おっちゃん!」
子供A「ひいとるで」関西地方かな?
寅「おっ」とようやく起きて、「よしよしよし」と竿を上げる寅。
小さな魚が釣れる。
子供B「や、ちっちゃいな」
寅「あーこんな小ちゃいの」
と、あくびをしながら針からはずそうとする寅
あーああ〜…
寅「はわわ…あたたたっ!噛みつきやがった」
子供たち手伝ってやる。
寅「ちょっと!これっ。気をつけろ!」
夢との落差で大笑い(^^)
タイトル
男(赤)はつらいよ(黄)
寅次郎夕焼小焼け(白)
映倫18752
バックの映像はお馴染み江戸川土手、そして一面の白つめ草。
口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。
今作品はいつもの歌の2番の代わりに、
歌の3番が挿入されている。私はこの3番の歌詞が大好きだ。
♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前の喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪
♪あても無いのにあるよな素振り それじゃあ行くぜと風の中
止めに来るかとあと振り返りゃ 誰も来ないで汽車が来る
男の人生一人旅 泣くな嘆くな
泣くな嘆くな影法師 影法師♪
江戸川土手
寅が子供たちのチャンバラに入りこみ、勢い余って一方的に勝つ。
それに怒った大人が文句を寅に言い、あげくの果てに大喧嘩。
寅はチャンバラが大好き第15作「相合い傘」でも題経寺の境内で大暴れ。
近くにいた統一劇場の人たちが気づいて止めに入るが、巻き込まれて、大乱闘。
警察官も巻き込んでめちゃくちゃ。
というミニコント。
おっと、今回もブルドックソースがスポンサーに!
ちょっとしたエピソード
この「夕焼け小焼け」では、大船セットで使った寅の『みやげ物』を、寅が柴又に戻ってくるこの江戸川土手のロケ時に
なんと露木さんたち小道具さんが大船に忘れて来てしまったらしい。(露木さんへのインタビューによる)
ロケが始まってしまうので今から大船のセットに取りに帰る時間も無く、
もう最後どうしょうもなくて渥美さんに相談したら、
「わかったわかった大丈夫」って安心させてくれて、
本番では渥美さんは、手に持ったかばんに背広をひっかけて、
みやげ物を持つ手が背広に隠れて見えないようにしてくれたらしい。
本当に渥美さんの人柄と懐がわかる実にいい話だった。
露木さんは、インタビューで、どの作品の時のエピソードかは仰らなかったが、おそらくこの
第17作「夕焼け小焼け」だと思う。
画像@↓ 江戸川土手を歩く寅次郎。この時は背広の下にお土産があるような動きをしている。
しかし、実際はお土産はない。
画像A↓ その直後、背広をぬいで、スッとかばんの上にかぶせてしまうので
完全にお土産が隠れる形になり、観客はあの背広の下にお土産があると思い込む。
画像A↓ かばんを置く時も背広をかけたままなので、この下にお土産があると観客は思い込んだまま。
画像B↓ その後、ようやくお土産が届いて、途中のシーンだけ撮り直した。その際お土産をわざと見せて
不自然さをカバーした。しかし、背広を肩に羽織ったまま撮影したので前後のつながりは
かえって不自然になってしまった。前後シーンに比べて時間が経過しているので影の長さが若干違う。
このことによって時間差で撮られたらしいことが推理できる。
この時間差の撮り直しについての名推理は「男はつらいよ」の熱烈なファンである『寅福さん』から
助言をいただきました。ありがとうございます。
と、まあ、こういうことだろうと思われる。なかなかドラマだなあ〜。
(注意) あ、これら全てはあくまでもすべて『推理』ですから。確定ではありませんから(((^^;)
物語をはじめよう。
とらや
おいちゃん「はい」
客「ごちそうさま」
おいちゃん「ありがとうございました」
テーブルに尾頭付きのタイや赤飯などが炊いてある。
紙に『入学 おめでとう、 満男くん』
社長「おばちゃん〜!」
おばちゃん「はーい」
社長「今日入学式だって?」
おばちゃん「そうなのよ」
社長「いやー俺うっかりしててさ、
今朝博さんに聞いて慌ててね、
買って来たんだけど、ま、ほんのお祝いに」
と祝いの品物を渡す。
おばちゃん「あら、どうもすみませんねえ。
ちょっと、あ、あんたこれ社長から」
おいちゃん「あーこりゃどうも」
社長「あ、どうせろくなもんじゃないんだけどね」と、照れる。
おいちゃん「ま、一服して行けよ」
珍しくキャメラの高羽さんズームでタコ社長に迫っていく。
おばちゃん「もうそろそろ帰ってくる頃だから」
社長「おう、満男君が一年生か早いもんだね、
オギャ-オギャーと泣いてたのがついこないだ
のような気がするけどね」
おばちゃん「本当にねえ」
おいちゃん「こっちも年取るわけだ」
と社長にライターでタバコの火を点けてやる。
マッチでないところが時代の変化を感じるなあ…。
社長「フ-ッ…、寅さんからなんか言ってきたかい?」
おばちゃん「なにを?」
社長「ん?いやあ入学おめでとうとかなんとかさ」
おいちゃん「ク、ハハ〜!!」
おばちゃん「あはははは」
おいちゃん「覚えてるわけねえだろ、あのバカ」
おばちゃん「あれでもおじさんなんだけどねえ」
社長「フフフ…」
おばちゃん、店先にいる寅を見つけ
おばちゃん「ちょっと、あんた!」
入学式帰りの母子を見て寅が
店先の参道で
指折り勘定して、
…パン!と膝を叩いて
店に入ってくる。
寅「あ!」とおばちゃんを指差して、
寅「おばちゃん!」
渥美さんのこの一連のリズムいいねえ〜!上手い!
寅「あのー、ひょっとしたら
満男は小学校…じゃねえのか?」
おばちゃん「うん、そうだよ」
寅「そうか…やっぱり満男はもう小学生か
月日がたつのは早いもんだなァ…」
寅「よお!社長、おいちゃんしばらくだなあ」
社長「お帰り」
おいちゃん「今噂してたとこなんだよ〜」
寅「ああそうかい。みんな達者で何よりだ。な。満男やさくらはどうしたの?」
おばちゃん「もうそろそろ学校から帰る時分だけど」
寅「あっちょうどいいや!おいちゃん、あの、
祝儀袋があったら一枚出してくんねえか」
おいちゃん「何すんだい?」
寅「えっ?満男に入学祝ちょっと包んでやろうと思って」
おいちゃん、サ―ッと満面の笑顔に変化(^^)
タコ社長、感激。
おばちゃん「とらちゃんどうもありがとう。
ちゃんと覚えてくれてたんだねえ、
さくらちゃんが聞いたらどんなに喜ぶか」うるうる。
おいちゃん「はい」と祝儀袋と硯をわたす。
寅「なあに、オレもたまには伯父さんのまねごとぐらい
してあやらなくっちゃ、ねえっ!
そのかわりたいしたことしてやれないよ。
なにしろ懐が旅先だから、あはは!」
おいちゃん「気持ち気持ち!その気持ちが何よりだよ」
社長「本当本当!いやー寅さんも成長したもんだよ」
寅「えーっ、皆さんにそう言われちゃうと…、
まさか五百円と言うわけにもいかねえか!ハハハ!」
一同「ハハハハハ!」
おばちゃん「いいんだよいくらだって」
社長「あっ!あ、帰ってきた」
さくらが店先で保護者と挨拶。
保護者「よろしくお願いします。ごめん下さい」
さくら「ただいま」
はっと寅に気づいて
さくら「お兄ちゃん!」
寅「よお、よっ!さくら、元気だったかお前」
さくら「うん」
寅「うん」
おばちゃん、にこにこ笑顔で
おばちゃん「あのね、寅ちゃんがね、満男の入学式のこと、ちゃんと
覚えててくれてね。そいでねえ、……?」
さくら、微妙に悲しげな様子。
おばちゃん「どうしたんだよ、バカに元気が無いじゃないか」
さくら「お兄ちゃん…私悔しい」とうるうるして座る。どうした??(−−)
寅「どうしたんだい?」
おいちゃん「何があったんだ、え?」
おばちゃん「どうしたの?」
寅「言ってみろよ早く」
さくら「入学式が終わって教室に入って
それぞれの席に着いてね、
先生が一人一人の名前呼び上げるでしょう」
社長「みんなが『ハイッ!ハイッ!』っと返事するわけだ」
と社長、満男の手を持って挙げる。
さくら「そう、そいで満男の所にきたらね、
先生が『諏訪満男君』って言って、満男の顔ちょっと見て、
『あら、君、寅さんの甥御さんね』ってそう言ったら、みんなが
ドーッと笑ったの」
社長「カハハハハハ!」
こういうところが微妙に身内じゃないんだよなあ…社長って(−−)
おばちゃん「何が可笑しいんだい!」
おいちゃん、社長を見てブスッと怒る。
社長、そっと寅を見る。
寅「その受持ちはなんて名前なんだ」
さくら「名前…聞いてどうするの?」
寅「校長の所行って掛け合ってやるんだ!
受け持ちかえろって!
冗談じゃねえ、そんな教師がいるから
ロクな日本人ができねえんだ!
ふざけやがって!名前言え!はやく!
さくら「先生はちっとも悪くないわよ。
ただ『寅さんの甥御さん?』って
聞いただけなんだもん」
それは違うぞさくら。まず、先生が悪い。
おばちゃん「そうだよ!笑ったほうが悪いんだよ」
寅「笑ったのはガキどもか!親か!」
さくら「両方よみんなであたしの方見て笑ったわ」
寅「…」
……
寅「チキショウ!!まったく…。お前もよくそんなこと言われて
黙って帰ってきたな!言ってやれ!
手前どもの息子はな、
こんな環境の悪い学校では育てられません!早速転校の
手続きをとってもっと上等な学校に入れますって!満男!
お前ももう明日っからあんな学校行くな、いいか、
このおじちゃんがな、きっといいとこ探してきてやる!
学習院とか慶応大学とかさくら、ああいう所に上がるってのは
金幾らぐらいかかるんだ?…」
と、自分の腹巻から財布を取り出そうとする。これだもんな〜(− −;)
社長ニヤニヤ笑っている。
さくら「お兄ちゃん、みんなだって悪気があって笑ったんじゃないのよ」
寅「バカヤロウ!悪気があるからみんな笑うんじゃないか!」
ある意味寅の感覚も分かる。先生もなぜわざわざ満男の時に限って
自分が直接面識も無いし、実は噂でしか知らない、偉人でもなんでもない
寅の名前を出したのか。その先生の深層心理を考えると、いろいろ問題点が
出てくる。先生も親や子供たちも寅に対して同じ気持ちなのは間違い無い。
先生に悪気は全く無いのは分かるが、先生の立場や場の原理を考えると
軽率な発言だったと言える。寅の名前を出したらみんなが笑うことはわかって
いたはず。そして満男や保護者のさくらは傷つく。寅は町の人気者、功労者って
訳じゃないからね。その笑いの中には何割かのからかいの意味が入るものだ。
柴又の人が寅のことをどう思っているかは過去の作品を見ていけば一目瞭然。
社長、ニヤニヤ笑いつづけている。
このタコ社長はその辺のところ見ぬいている。
寅「タコ!てめえさっき笑ってたな!」
社長「あ!いやいや、ごめんごめん!いや、
あれは悪かった悪かった!ごめんごめん!」とぺこぺこ
社長「でもさ、例えば先生が『諏訪満男さん、あら総理大臣の
甥御さん?』こう言って誰かが笑うか?笑わねえだろ?ところが、
『あら、あなた寅さんの甥御さん?』こう言うとさ、
みんなつい、笑っちゃうんだよ!
カハハハハ!!」
寅「アハハハ…!!」
社長「いや、笑われる方が悪いよな」
寅「そうそう、悪い悪いこの野郎!」
と社長に墨を塗りたくる。あちゃ〜太宰さん今回も…(ノ_< ;)
社長「あっ!」
おいちゃん「あ!寅!よせっ!こらっ!」
さくら「お兄ちゃん」
おばちゃん「およし」
寅「てめえ表へ出ろ!」
さくら「お兄ちゃん!何てことするの!」
おいちゃん「やめろバカ!」
おばちゃん「やめてよ」と、社長を止める。
社長「やるかっ!」
寅「てめえ!」と言って『おたま』を振りかざす。
おいちゃん「やめろって」
満男「やめろよーっ」満男可哀想(TT)
寅「てめえ!」さくら寅を羽交い締め
おばちゃん「もう!今日は満男の入学式なのよ!
バカ!ウエエエエー…ゥェー…クゥ〜ズズッ」と
おばちゃん必殺チャルメラ泣き 「チャルメラ」の由来は第28作参照
寅、少し我に帰る。
寅「おいちゃん!おめえも悔しかねえか!」
おいちゃん「悔しいよ!、そりゃオレだって悔しいよ!
しかしな、寅、落ちついて考えてみろ、
みんなが笑うってことはだよ、今までお前が
笑われるようなことをしてきたからなんだ。
だから悪いのはお前だ。そこんとこをよーく考えて」
寅「オレがなにしたってんだよ!オレ今帰ってきた
ばっかりじゃねえか!そうだろおばちゃん、えっ?
そしたら満男の入学式だって言うからさ、
せめて伯父貴の真似事でもしてみてえって思って
祝儀袋もらって中に金入れて渡そうと思って
待ってたんじゃねえか!
それがどうしてこういう事になっちゃうんだよ!え!
一体オレが何悪い事したって言うんだよ!」
寅は悪いことはしていない。昔も今も。
さくら「お兄ちゃん、とにかく分かったから、」
寅「うるせえな!なんでエ!だいたいてめえが
メソメソメソメソ泣きながら帰ってくるから
こういう事になるんだよ!」
おばちゃん「そんなひどい事言って」
寅「タァーッ!ったく、くそ面白くも何ともねえや!
まったく!!おりゃあ、どっか行って飲んでやらあ!」
と、店先に飛び出していく。
『おたま』をテーブルに放り投げる。
キャン!キャラララーン…
やっぱり今回もおいちゃんついつい寅に愚痴ってしまった。
第16作「葛飾立志篇」でもそうだったけれど何かあるたびに寅は
おいちゃんに説教される。これは寅にとってはつらいことだ。
無条件で寅を迎い入れることの難しさを感じざるを得ない。
とらやの人々は堅気なのだ。日常を地道に生きている。どうしてもフーテンの
寅の気質とはズレが生じる。このズレがちょっとしたハプニングの際に表に
出てしまうのだろう。身内だからこそ、つい出てしまうグチ。
抑圧は回帰するのだから。ある意味寅は世間的には欠点だらけの男。
それは寅が一番わかっていること。だから寅にとっては身を切られるように
痛い。しかし寅は悪い事をしたり嘘をついたりする男ではない。
テーマ曲が悲しげに流れる。
おばちゃん「とにかくお赤飯食べようよね、さくらちゃん」
おいちゃん「満男、尾頭付きだぞ」沈んだ声で…
さくら「ごめんなさいね。ね、一緒に上がって食べてってください。」
おばちゃん「おめでとう満男ちゃん」手を挙げる満男(^^;)
おばちゃん、やっぱりまた泣いてしまう。
満男、冷静に祝儀袋の中身を偵察!さすが(^^)
寅が書いた「祝 寅」の文字が悲しい…
冷静さを失わない満男でした
源ちゃん題経寺の鐘を打つ。 ゴォ〜ゥン…
夜 とらや 茶の間
博「しかし総理大臣を引き合いに出されちゃ
いくら兄さんだってかわいそうだよ」
おいちゃん「オレたちもいけねえんだ。
ついカーっとしちまってぇ…」
おいちゃんって、寅に愚痴を言った後に
いつもしまったと思ってるんだけどね…。
おばちゃん「せっかく半年ぶりに帰って来ってのに
お茶の一杯も飲ませないで
帰しちまうなんてかわいそうに」
電話 リリリーン リリリーン!
さくら「はいとらやです。…お兄ちゃん!?」
おいちゃん「どこだ今?」
さくら「ねえ、今どこ?どこにいるの?」
上野の飲み屋の赤電話
前のパチンコ屋から『軍艦マーチ』が流れている。
寅「上野だよ上野」
さくら「上野?」
寅「これから汽車に乗るんだよ。それでね、
そこへあのカバン忘れてきちゃったんだよ、
カバンを。おう、 だからお前源公に言ってな、
カバン駅まで届けるようにそう言ってくれよ。
悪いけどさ急いでだぞ。
…後悔してる?誰が?」
さくら「あたしたち皆よ。 本当よ。
お兄ちゃんはね、うそをついたり人をだましたりした事なんか
一度だってないんだもの誰にも
後ろ指さされることないのよ。
博さんもね、今ここにいるんだけど、…言ってたわよ。
『総理大臣がえらくてお兄ちゃんがえらくない
なんて誰が決めたんだって同じ人間じゃないか』
って、だからお願い、ねっ帰ってきて」
おばちゃん「あの、お芋の煮っころがし作っとくから」
腹のへった子供か寅は(^^;)
さくら「おばちゃんが今言ってるわ。
おいしいお芋の煮っころがしと何?」さくらまで寅を子供扱い(^^;)
おばちゃん「がんもどき、がんもどき」
出ました寅の2大好物が揃い踏み!!
さくら「がんもどきの煮たの作っておくからって。
だからお願い帰ってきてお兄ちゃん」
だから…て、食いもんで釣ってどうするさくら(^^;)
さくらの指に『指輪』。さくらの首に『真珠のネックレス』。
入学式の服のまま、夜までいるのがさくららしい。それにしても
さくらの外出着はどの作品を見ても仕立てが実にいい。
自分で作っていると言う設定だからかも。
寅「そうかァ…まあ、お前がそんなに言うならァ!
オレもういっぺん帰るか、うん、でもすぐ帰んないぞ、
いや酒飲んでんだよ、うん、バカ野郎、んなこと
心配しなくたってそれぐらいの金持ってるよ。
うんうん、うん。ああ、あ はいはい」(電話を置く)
寅「へへへ、おい、姐ちゃん」
寅はみんなに心配されて上機嫌。やっぱり、なんだかんだ言っても、
みんなの待つとらやに帰りたいものね。よかったね。
女店員「ハイヨ!」
お!こんなところに「かがりさん」の女友達が!
コメディタッチの演技で有名な「西川ひかる」さん。
上手いねえ演技のテンポが。
寅「熱いの一杯くれや」
女店員「はいィ!熱カン一丁ねェ!」
青観、のそのそっと店を出ようとする。
女店員「ちょっとお客さん?お客さん、勘定は?」
青観「あー、僕は本郷の池ノ内だ。
明日家の者をよこす。」なんだか偉そうだな(^^;)
女店員「ちょっとおじさんよ!」と青観を店に戻して
女店員「何よあんた、その横柄なくちのきき方は!エェッ!?
池ノ内だか池ノ外だか知らないけどね、
ウチは現金払いなんだよ」
青観「金は持たん」
女中「金は持たァん!?ちょっとおじさんここにいるのよあんた!
いるのよちゃんと!110番!110番!」
店の人たちひそひそと相談。
寅「姐ちゃん、ちょっと座んなよ」
女中「何ですかァ」
寅「いいから、姐ちゃん故郷はどこだい?」
女中「北海道です」
寅「そうかい故郷じゃあの年格好の
父っつあんが鍬かついでよ
娘のお前えのこと心配しながら働いてんじゃねえのか
父っつあんが無一文を承知でこの店に酒を
飲みに来るって言うのもそらあ言うに言えねえ事情が
あるんだお互いに貧乏人同士じゃねえかええっ?
もう少しいたわりあっちゃどうだい?」
青観「そうだそうだ」
女中「なにを」
女中「ウチだって商売でやってんですからねっ!」
寅「よしわかった、俺が払う。
金払やあもんくねえんだろ。いくらだ」
女中「そうですかァ…?じゃあお宅が1200円、
こっち…串何本だっけ?」
おばちゃん「10本」
女中「10本、1600円合わせて2800円ですけど」安いね〜
寅千円札3枚出して。
寅「釣りはいらねえよ」
寅「おう、父っつあん、出よう な!おい おう、
気分変えて他の店で飲みなおしだい、なっ、はい行こっ」
女中「どうもありがとうございました」
青観、『フン!ざまあみろい』と言う顔で店を出ていく。
おばちゃん「はい、ありがとうございました」
寅「おうおうおう行こ行こ行こ、
おうおうほらっ!礼しないでいいんだよ!」
店の壁に『忘れ物』の貼り紙とともに折りたたみのこうもり傘が掛けてある。
悪い店ではないらしい。
この青観のキャラ設定は、絵バカの世間知らずっていうことになっているのかも
しれないが、古今東西、画壇の最高峰にのし上がる時、絵の内容がいい
なんてだけではまず不可能。世の中を渡っていく優れたバランス感覚や
駆け引き上手な政治力が絶対条件。だから青観のような人は絵描きには
いることはいるが、変人の売れない絵描きになってしまう。知る人ぞ知る。
ということはあっても、この設定のような日本画の最高峰なんてことには
ならない。このへんがリアルじゃないが、映画なので何でもありと言うことで
まあ、いいでしょう(^^;)
深夜 とらや
ドンドンドン!
寅「おばちゃん!」
おばちゃん「寅ちゃんだよ…」と寝床から出てくる。
寅「大変です!」ドンドンドン
寅「おばちゃん大変なことです。
寅帰ってきました。おう」
おばちゃん「寅ちゃん」
寅「おうアハハハ」
おばちゃん「おそかったねえあんた、さんざん待ってたんだよ」
寅「ああ、そう、とっつあん!さんざん待ったってよ!
待ってたってよ! エンコラショと!ああ、アハハハハ!
あ〜あ、おう、おばちゃんこの爺ィ無一文で
泊まるところないからね。今晩家にとめてやってくれやナッ!」
おばちゃん「どうしよう」
おいちゃん「誰だ一体こりゃあ」
寅「エッ?知らない知らない知らない!わしゃ知らないぞ」
寅「おばちゃん!あの〜、2階の俺の布団のひいてある
とこへこの爺ィ寝かしてやってくれよ」
寅「俺はこっちの階段で寝るから」
おいちゃん「どうなってんだこらあ!」
おばちゃん「ちょっと寅ちゃん」
寅「♪富士のたかねえーに降るゆーきも〜…かあ!」
と荷物部屋にフラフラになりながら上がっていく。
懐かしい『お座敷小唄』この歌はこのあと龍野でも面白おかしく出てくる。
お座敷小唄
昭和39年
陸奥明 作曲
和田弘とマヒナ・スターズ/松尾和子
富士の高嶺に 降る雪も
京都先斗町に 降る雪も
雪に変りは ないじゃなし
とけて流れりゃ 皆同じ
この歌詞の中で「雪に変わりはないじゃなし」は実は「雪に変わりはあるじゃなし」もしくは
「雪に変わりはないじゃない」というのが正しい日本語だが、ちょっときどった言い方にしたいために
「ない」を「なし」と使ってしまったようだ。それで遊び言葉風になってしまい、意味が逆に取られがちだが、
ここではあくまで「雪に変わりはないじゃない」のアレンジ版として考えるのが自然。
おばちゃん「おじいさんあんた家で誰か心配してるひとが
いるんじゃないのかい?」
ヨロケてぶっ倒れる青観
おばちゃん「あらららら!チョッと!
おじいさんちょっと大丈夫?」
青観「あー、よおーし、それじゃ寝るぞ。」
酒臭い息におばちゃん、もろ嫌がる。
部屋はどこだあっちか?」
おばちゃん「ルンペン拾ってきたんだよ」
おいちゃん「きたねえなまったくンー…!しょうがねえ泊めてやれェ!」
おいちゃん優しいね。なかなか許可しないよ普通は(^^)
おばちゃん「あーあ!そっちは庭だよォ!こっちこっちこっちですよ!
この上あがってちょうだい。あらあら土足で嫌んなっちゃうなあ。
本当にもう落っこちないでよ。 気をつけて気をつけて。
ああッ!そんな所でオシッコしちゃだめだよ!下おりて下おりて!」
おいちゃん、もろ嫌がっている。
寅、荷物部屋から声
寅「おいちゃん!2階から
ションベンしていいかしら」
おいちゃん「バカ!!ダメだ!!」
おいちゃん、相当嫌がっている(〜〜;)
翌日 昼 とらや
近所の人「じゃ、ごくろうさん」
寄り合いからとらやに帰ってきて
おいちゃん「あ、頼んだよ」
おいちゃん「おい、帰ったか二階のジジィ」
おばちゃん「まあだ寝てんのよッ!」
おいちゃん「まだァ…」
社長「厚かましい野郎だねえ!見ず知らずの家に来てさ。
よおく今ごろまで寝ていられるもんだなあ」
おばちゃん「ねえ、あたしゃなんだか心配なんだよ」
おいちゃん「なにが」
おばちゃん「ほら、よくあんだろ年寄りが酒のみ過ぎて布団に
入ったらそのままポックリそのままあの世へ
逝っちゃったって」
社長「ありうるよこないだもあったんだから」
おいちゃん「おい、様子見て来い」
おばちゃん「やだよ気持ち悪い」
おいちゃん「バカ!そんなこと言ってる場合か!」
社長「行った方がいいよ」
青観の声「ポンポン〈と、手を打つ〉誰か、誰かッ」
おいちゃんと社長、呆れて目を観合わせる。
おばちゃん「あーよかった生きてたよ」
とらや二階
おばちゃん「起きたのおじさん、よく眠れたかい?」
青観「なんの工場だか知らんが朝から煩くてかなわんな」
おばちゃん「贅沢言うんじゃないよ!よそのうちへ来て。
お風呂場で顔洗いなその間にね、朝のご飯
作っといてあげるから」
青観「その前に茶をもらいたい梅干を添えてな」
おばちゃん「ええっ?」
青観「あ、それから風呂だ、うんううん、風呂は沸いとるか」
おばちゃん「まあまったく!」
青観「あーッあ〜ッ」
一階
おばちゃん「あのクソジジイ!」糞をしない爺はいない(^^)
おいちゃん「何だい、どうした」
おばちゃん「お腹すかして帰すのも可哀想だと思ってね、
朝ご飯の支度してやるって言ったらね、」
おいちゃん「うん」
おばちゃん「その前に風呂に入りたいだって!」
おいちゃん「風呂!」
おばちゃん「どうする!?」一応迷うところがおばちゃんお人好し(^^)
おいちゃん「どうするったってお前そんなもん沸かすことなんかねえ!」
社長「おばちゃん、年寄りだと思って甘やかすことないんだよ。
つけ上がってずうずうしくなるばっかりなんだから」
おばちゃん「ほんとうにッ!」
社長「よしッ!オレが言ってやるよ!なんだふざけやがって
とらや二階
社長「あのね!言いたくもないけどね…!!」
青観「プ〜ゥゥゥゥ〜〜!プゥン!」屁(^^;)
うわわっ (**;)=))))))))
宇野さん、最後の「プウン!」でお尻をプルルン
と震わせるところが名人芸。奥が深い(^^;)。
青観「はあっ!」
社長「!!!!」鼻、口を押さえて眼がぐるぐる。
青観「君、布団かたずけてくれ」
社長「エッ?」
青観「布団!」
社長「へえへえ…? ウァヘェ!」
凄まじい臭いに社長目がペケ。
社長も言うこと聞くからお人好し(^^;)
一階へ降りてきて
青観「風呂は沸いたか?」
おばちゃん「今言って今沸くわけないでしょ!」
新聞逆さまだぞ(^^;)
青観「じゃ、急いで沸かせ」
おばちゃん「分かったよ、沸かすよ!」おばちゃんネギカモ 優しい(^^)
おいちゃん、怒って新聞読むフリして知らん顔。
新聞が逆さまだよ、おいちゃんヾ(^^;)
青観「は、おはよ。」
おいちゃん「!」怒り心頭!噴火(▼▼メ)
おいちゃん「ドタタッ!」
青観「危ないよ」
出た!第14作に次ぐ、久しぶりの
下條おいちゃんの転びギャグ!
ドッ! ドタタ!
起き上がって、怒りながら店ではたきを
使ってほこりをはらってる。
パタパタパパッタ!
さくらと満男小学校から帰ってくる。
満男「ただいまーっ!」
おいちゃん「お帰り」
パタパタパタ!
さくら、おいちゃんのはたき姿を見て、
「あら、どうしたの珍しく働いてんのね」1本〜!技あり(^^)
博、工場から来て、
博「満男帰ってたのか」
満男「うん、ただ今」
博「今日はなんの勉強したんだ」
満男「うんとね算数とね、算数とねなんかの勉強」
おいおい、満男。入学式の次の日はオリエンテーションで
まだまだ授業なんかしないぞ。
青観「息子か」
さくら「…はい」
博「!」
青観「おお、いい子だ。君が父親か」
博「あ、はい」
青観「ふうん、よく似ている」
青観「お茶」
さくら「はい、…!???」
博、小声で「誰だ??」
社長「チキショメ!あほう!」と社長が上から降りて裏へ走っていく。
博「社長」
庭でおばちゃんが風呂を沸かしている。
博「おばさん誰ですかあれ」
おばちゃん「ゴホッ!クスン…知らないよ、あたしゃ!
寅ちゃんに聞いてよ!あーったく頭に来る頭にィ!」
博「兄さんどこですか?」
おばちゃん「早くから商売に出かけちまったよ」
西新井大師 お大師さんの縁日
總持寺(そうじじ)は、
東京都足立区西新井一丁目にある真言宗豊山派の寺で、
西新井大師(にしあらいだいし)の通称で広く知られる。
花火が上がり、大賑わい
サルのおもちゃ「ア!キャッチャ!チャカチャカ!アキャ!…」
源ちゃん「兄貴、寝てばっかりやったら商売なりまへんがな」
寅「フッ!ハーッ〜フエイ…。二日酔いは頭痛ェや、
なあ…、大師の縁日だからって無理に来ることは
なかったよ。お前も来てやれ」
源ちゃん「はい」
源ちゃん「あ!さあさあ!かわいいかわいいお猿ちゃんだよォ!
さあどうでうすかあ!まけときますよ」
夕闇迫る 柴又 とらや
おばちゃん「朝ご飯食べたら出ていくかと思ったら、
そうじゃないんだよ!ここんとこに黙って座って、
あたしたちが働くのをね、ジィーっと見てんだよ、
やな目つきでさ!」
博「あの目つきは普通じゃないな。妙に鋭いと言うか…」
社長「そうそう」
おいちゃん「犯人の目だなありゃあ」犯人って…(^^;)
おばちゃん「ひょっとしたらスリかなんかの
親分じゃないかい全国指名手配で
逃げ回ってんだよきっと」
おばちゃんの想像力って…。おばちゃん目が怖い。
そうとうあのジジイを嫌ってるな(^^;)
社長「ハッハー」
寅「ま、いいからいいからさ、それでどうしたい」
さくら「あたしが買い物から帰ってきたらね」
寅「おお」
さくら「『君枕出してくれないか』ってそう言ってね、
座敷で寝てグーグーねちゃったの」
さくら、イチゴのヘタを取っている。
寅「ほほほほほー!やるねえジイさん、ええ、それでどうした」
さくら「5時ごろだったかしらノコノコ起きてきて、
またあたし捕まえて『君、ここは一体どこだい』…こうよ」
倍賞さん、青観の口真似笑える(^^)渥美さんも笑っている(〜〜)
君、ここはどこだい
寅「てめえのいる所もわかんないの」
さくら「ちょっとおかしいんじゃない」
おばちゃん手でクルクルパーする(^^;)
博「で、何て答えたんだい」
さくら「うん、『葛飾柴又の帝釈天の参道ですよ』って
そう言ったら『ほお。じゃあうなぎが
美味いところだ夕食はうなぎいいな』だって」
社長「カハーッ!ひどいもんだねえ!」唾が博まで届く(^^;)
おばちゃん「まったくずうずうしいったらありゃしないよ」
博「で、どうしたんだ?」
さくら「おいちゃんに叱られちゃったの。ねっ」
ここからは
― おいちゃんのアリア ―
おいちゃん「だから言ってやったんだよ。
うなぎなんてモンはな、
我々額に汗して働いてる人間たちが
月に一度か二月に一度、
なんかこう…おめでたいことでもあった時に
『さっ、今日は一つうなぎでも食べようか』って
大騒ぎして食うモンなんだ
さくら「うん」と、イチゴを机におく。
おいちゃん「『お前さんみたいに一日中何んにもしねえで
ゴロゴロゴロゴロしてる人間が
うなぎなんか食ったらバチがあたるぞっ!』
そう言ったらな、あのオヤジ、
『オ、それもそうだな』
立ち上がってプゥ〜っと出てっちまった。
フンッ!それっきりだい…」
下條おいちゃんの見事な『アリア』でした。
さくら「お礼も言わないのよ」
博「お世話になりましたとか、
ありがとうございましたとか…」
さくら「ううん」
おばちゃん「なんにもただプイっと出ていっただけ」
社長「泥棒だよ泥棒!」
おいちゃん「おれはな、寅」
寅「うん」
おいちゃん「お前が連れてきた客だと思ってお前の顔を
立てて我慢してきたんだぞ」
おばちゃん「そうだよ」
おいちゃん「そうじゃなかたら二つ三つぶん殴ってやったとこだよ」
おばちゃん「あたしだってね蹴飛ばしてやりたかったよ」
社長「蹴飛ばしてやりゃよかったんだよ」
さくら「いったい、どこで…」
寅「いや、いや、分かった分かった皆の気持ちは
よーく分かった迷惑かけてすまなかった」
寅「しかしな、おいちゃん、あのジイさんの
立場になってみろよ、えっ?
どうせ貧しい借家住まいだよ。
せがれと嫁と孫が二、三人、こんなせまっ苦しいとこに
暮らしてたんじゃおまえ、年寄りは肩身の狭い思いをするぜ、
ええっ?
夜中にふと目がさめる。
隣でもってせがれ夫婦の寝物語。
そりゃ聞きたくなくたって聞こえてきちゃうもの、ええっ」
寅「『ねえパパ、あたし今日友達と会ったの。
うらやましかったわあ!
お舅さん死んだんだって』」
おいちゃんドキ!
『うちのおじいちゃんいつまで
生きてんのかしら嫌になっちゃう!』
『でもなあママそんな事言ったって
お前脳溢血かになってヨイヨイなって
おしめか何かあてがっていつまでも垂れ流しに
なってたらかえって困っちゃうじゃないか』」
『そりゃそうねえ、うちのおじいちゃんも
ポックリ行くとは限らないし』
『アーア…、パパ、寝ましょうか』
『うん、そうしよう』
『スタンド消して』
『うん、プチュ』(^^;)
プチュ
寅「これは地獄ですよ!年寄りにとって!
ええ?せめて一日このうちから逃げ出して
意地悪な嫁のいないところでぐっっすり寝てみたい。
この気持ちはよぉーく分かるなあ。
タコッお前人事じゃないぞ。
お前だってすぐアーなっちゃうよ。
お前んところのあのできの悪い息子がだ、
お前の将来どれだけ優しくしてくれる
と思ってる。ええ?甘いよ」
久しぶりに話に出てきたタコ社長の息子。
おそらくこの場合は長男のことを言っているのであろう。
第6作「純情篇」を見ているかぎりは
長男、長女、次男、次女の計4人の子供がいる。
シリーズ後半で出てきたのは長女の「あけみ」のみ。
あとの3人は話題にすら出てこない。
社長「そう言われりゃそうだなあ..」
寅「まあ、夕べは良い功徳をしてやったってことになるわけだい、なっ。
あのじいちゃんもどっかで感謝してるよ、え、おばちゃん」
寅もよくそこまで勝手に物語を作るねえ。
結局はまったくの大はずれだったが、
青観の家がなんとなく居心地が実際
悪そうなのは共通していたね。
『プチュ』は最高(^^)
おばちゃん「そうだねえ」
一同、納得している。
柱時計が7時の時報を打つ
青観、酔って、歌いながら店先から入ってくる
青観「♪幼い〜わたしが〜、ときたあ!
むーねこーがあ〜し〜、てかあ」
森昌子の名曲「先生」は
このあと本編後編でもぼたんが歩く上の界隈の商店街BGMでも使われる。
どうやら宣伝を義務付けられてるらしい。
青観「酒飲んだら家かえるのが
面倒になって。また世話になるからな
タコ社長の頭を手の平で触ってグリグリ(^^;)
グリグリ
青観「おかみさん夕飯はいらんよ。
うなぎ食ってきたからガハハハーッ!!」
青観「♪しぇんしぇーい、しぇんしぇーい、
オレは待ってるぜー、だ」
と這うように階段を上がっていく青観
このジイさん、森昌子の「先生」と
石原裕次郎の「俺は待ってるぜ」
をまぜて勝手にアレンジして歌ってる(^^;)
昭和47年
阿久 悠 作詞
遠藤 実 作曲
歌 森昌子(デビュー曲)
淡い初恋 消えた日は
雨がしとしと 降っていた
傘にかくれて 桟橋で
ひとり見つめて 泣いていた
幼い私が 胸こがし
慕いつづけた ひとの名は
先生 先生 それは先生
一同 ポカァーン(^^;)
寅だけ、面白がってニヤニヤ笑っている。
寅「あ、誰か来た、はいはいなんでしょう、
はいはいなんでしょう?」
魚甚「あの魚甚ですが今のオジさんの勘定お願いしたいんですが・BR>
寅「ええッ」
おばちゃん「はッはい、ご苦労様」
請求書をおばちゃんさくらに渡す。さくら、金額見て、ちょっとびっくり。
おいちゃん「畜生!もう我慢できねえ」と立ち上がろうとする。
寅「、いいからやー、おいちゃん今日のとこは
オレが代わって払っておくからさ、ね」
おばちゃん「だってあんた」
寅「いいよ明日オレからよく言っとくから、
兄さん、どうもご苦労さん。ちょっとかしてみな…、
えっなん…おほほ、うなぎと酒でもって600円か
勉強したな」
さくら「6千円よ…」
寅「そうだよ…!…??」
さくら「6千円」
寅「ウソだいお前・・・・・
請求書もう一度見て、
寅「なんだよぉ…」
百円下に落として コロコロ…
コインを目で追う寅。
寅「百円これ…ん〜、嫌だなあもお…」とほほだね寅(^^;)
ついとらやの人たちの手前いい格好をした寅だが、
この出費は痛かったねえ。今日の稼ぎは全てパー。
二階のクソジジイはいったいどこまで厚かましいのやら。
こりゃ先が思いやられるぞ。さすがの寅も困った〜。
翌日 とらや
↑
おっと、この画像で見る限りやっぱりとらやは完全な総2階作りだ。
ということは2階には部屋が最低6部屋ほどあるということになってしまうが、
普段は2部屋くらいしか映らないぞ。第1作と第4作でもう一部屋映ったから
計3部屋は確認できているがこの参道沿いの2部屋が謎??
おっと、話を戻して…
とらや 二階
寅「別にここを出て行けって言ってるんじゃないんだよ
お前が一文無しの年寄りだってことはみんな承知してるんだから、
いや、今までどおり泊めてもやるし、飯も食わしてやるけどもさ
よその店いってこうやってうなぎなんか食ってきてね、
その勘定をこの家の者に払わしたりしちゃいけないんだよ。
遠慮ってもんがあるだろう。宿屋じゃないんだから」
青観「!!…宿屋じゃない?なんだここ宿屋じゃないのか」
見りゃ分かりそうなもんだ。草団子って旗に書いてあるのになあ。(^^;)
寅「ええ?お前ここ宿屋だと思ってたの?」
青観「うん」
寅「ハハハ、こりゃ驚いたなァ…宿屋のわけないじゃないか
こんなうす汚ねえ家がそうだろう?ここはな、オレの叔父きと
叔母と二人で経営してるケチな団子屋だよ」
青観「そうか…ハハ、どうりで愛想が悪いと思った特にあのおかみさん」
おばちゃん「あのクソジジイ!」って怒ってたもんなあ…(^^;)
寅「当ったり前だよ本当の事言うと頭にきてたんだぞみんな」
青観「そりゃそうだろ、こりゃ失礼したな。
う〜んこりゃなんとかしなくちゃ」
寅「うん、いやいいよ、なっ、別に礼をよこせとか、そう言うこと
言ってんじゃないんだから。ただ帰る時さ、
ちょっとお世話様になりました挨拶一言いって、なっ。
家へ帰ってからほら、意地の悪い嫁に小遣いもらって、
菓子折りのひとつ買ってここへ送りゃもうこの店のものは
大感激なんだから」
青観「ううん、そういう分けにはいかんよ。困ったなこりゃあ」
寅「タハハハ、いまさら慌てたってしょうがねえじゃないか」
青観「じゃあな、こうしよう、すまんがな、紙と筆、持ってきてくれ」
寅「ええっ?なにすんだよ?」
青観「何だっていいから。そうだ、色紙があったらなおその方が都合がいい」
寅「そんなもんあるわけないじゃないかよ」
青観「ふん、なきゃいい。とにかくたのむ」
寅「なんだか面倒なジジイだね、お前も」
と、寅、下へ下りて行く。
青観「そうか…、宿屋じゃなかったのか」
とモンペを穿く。
とらや一階
おばちゃんが雑巾掛けをしている。
寅下りてきて
寅「おばちゃん」
おばちゃん「ええ?」
寅「紙くれ紙」
おばちゃん「便所の紙ぐらい自分で持ってったらいいでしょう」
寅「便所の紙じゃないよ、ほら絵を描くさ、紙と筆ちょっと貸しくれよ」
おばちゃん「そこら辺にあるでしょッ」
寅「う〜ん…愛想の無いおかみだこと」
この言い方笑いました(^^)
とらや 二階
満男のらくがき帳。ヒーロー物の表紙
青観「ひどい筆だね、こりゃ」とかみかみする。
かみかみ
寅「いいよ、人の家へ来ていちいちそう文句言うんじゃないよ。
そこに書きなよ早く、なに書くの?手紙か?絵か?」
青観「う〜ん、ちょっとだまっとれ」
寅「横柄なジジイだなあ〜、年寄りはもうちょっと可愛げがないといけないぞ。
いつも家帰ってそんなふうなのか?ハァ…嫁さんのほうに同情しちゃうな、オレ、
ええっ?」
青観、真剣な表情で、神経を集中させ、『宝珠』を描き、サインを入れる。
寅「なんだいこれ?玉ねぎか?」
青観「いや、玉ねぎじゃない。これは宝珠と言ってな、縁起物だ」
寅「ふーん!」
青観「すまんがなこれを神田の大雅堂って古本屋にもってってくれないか」
寅「神田の大雅堂?」
青観「ふん、神保町の交差点の近くだからすぐわかる。」
寅「そんなところもってってどうするんだよ」
青観「うん、そこにな、目玉のギョロギョロっとした
海坊主みたいなオヤジがいるから、
そいつにこいつを渡してな、『これでいくらか融通願いたい』っと、
そう言ってくれりゃいい。
ま、ケチなオヤジだからたいしたことはしないだろうが・・・、
うん、でもいくらかにはなる」
寅「えー?冗談じゃないよォ!なんだいこれぇ〜…、
こんなもん持っていけないよタカリじゃないんだからオレ」
青観「いや、決してこれはそう言う性質のものじゃないんだから、
無駄足はさせない。たのむよ…なっ、このとおり」
自分の名前(名声)で買わせようとするわけだから、
あまりいい性質の売り方とは思えない。
寅「ったく…うーん、神田明神の方はオレ縁日でさ、近くに行くけどね」
青観「ちょうどいいや、ついでに寄ってくれりゃいい」
寅「神田の大雅堂?困ったな、おい」
青観「たのむよ」
青観さん、自分の絵を大雅堂の主人が見て気に入るかどうか
まだ分からないのに「無駄足はさせない」って言ってしまう。
つまり、すでに売れることを確信してしまっている。
これって自分の名前(名声)で、人が買うことを想定しているってことだ。
つまりよく言われる耳(名前、肩書き)で買うパターン。
もちろん商売人さんは売れればいいわけで、耳で買うことも
やぶさかではないが、絵描きさん自らがその行為をさせるようなことを
してはならない。それは絵を描く人としては退廃だ。
絵というものを愛していない行為だ。かりにも日本画の最高峰と言われるような
本物の画人なのであるならば、自分の名声を利用して、耳で買わせるような
ことをせず、こういう場合は、絵とは関係無しに、足を使って、一般の方々と
同じように、自分が自宅に帰って、かかった費用を多くもなく少なくもなく封筒に
入れて礼状と粗品と一緒にとらやに届けさせるのが筋だと思う。
まあ、映画だから面白くするためには水戸黄門的ギャップが必要なのでしょう。
神田 神保町1丁目1番地 靖国通り
大雅堂
この店のショーウインドウには北斎の赤富士(たぶん複製)が飾ってある。↓
実はこの店はあの浮世絵などの古美術で有名な『大屋書房』である。
この映画でもショーウインドウに北斎の赤富士が見える。
現在の『大屋書房』↓
映画では左端のガラスに『大雅堂』のレタリングが施してあった。
寅の歩く向こうに見える『八木書房』『東陽堂書店』や『村山書店』も今も健在。
もっとも、映画ではほとんど看板の字は解読できないのだが、そこは第六感を
フルに働かせてネットで調べていったのだ。
外壁も映画当時と一緒。↓
実は…、私はこの大雅堂は神田神保町2丁目5番地『古賀書店』だと思っていた。
向こうには山陽堂書店の看板が見える。映画では『○陽堂書店』としか読めないので
すっかり『山陽堂書店』だと思っていた。↓の写真で見ると映画の大雅堂と表がよく似ている。
しかし、実際は1丁目の『東洋堂書店』だったのだ。なによりも外壁が違う。
ちなみに古賀書店は本来は音楽専門書店。戦前から続く老舗書店だ。
建物も絵にしたくなるくらい渋い。
この建物には映画本専門店で有名な矢口書店も横に入っている。
さて物語に戻ろう。
古本買入 英米文学 理工数学
大雅堂 店内
寅、店内に入ってからも見せるかどうか迷っている様子。
寅「ドフ、ドフトフ、エフスキー… カラマゾフの兄弟」(^^;)
店主、ちょっと気になって
店主「なにかお探しかな?」
もうこの時点で大滝さん、変に面白い(^^)
寅「いや、あの探しもんじゃないんだけどね、
ちょっとあんたに見てもらいたいもんがあって、うん」
店主「ほう、どんな」
寅「うんあのー、ウチの2階にね何だか変なジジイがいてね、
これが変な絵みたいなの描いてさ、でえ…、神田の大雅堂ってとこに、
これ持ってけ、で、そこにあの眼のギョロとした海坊主みたいな
おやじが…あ、いや、オレが言ってんじゃないんだよ。そのジジイが
言ってんだけどさ、まーいくらか工面してくれるからね、ま、行けって言うからね。
まあノコノコやってきたんだけども」
店主「何ていう方?」
寅「あ、…名前は聞かなかったなあ」
寅って名前ずっと聞かないんだよなあ。マドンナの時もこういうことよくある。
店主「絵というとどんな種類かな色紙とか短冊とか」
寅「いや、なんか子供が描くような画用紙にサラサラッと書いたような
もんなんだけどね。…まあ、今回はいいわ、また来るからさ」
店主「まあまあまあ、待ちなさい。せっかくここまできたんだから
一応見せなさい」偉そうだな、このオヤジ(−−)
寅「そうかい、なんだかお見せするほどの
もんじゃないんだけどねえ、まあ出すかぁ」
店主「絵描きもピンからキリまでいてな、中には食えなくて贋物を
専門にするものも近頃だいぶいるらしいが、ほら、見せて……
店主「!!カハハハハ!」
寅「なに?」
店主「フフフフフ…青観…。人もあろうに青観の名を騙るとは。
いいかね、青観とは日本画の最高峰だよ。
それも色紙の類を一切描かないので有名な先生だ!
贋物を描くならあんた…フフフ、それくらいのことを知ってないと…」
店主「…待てよ…おかしいな…これは…、
…あんた、これどどどこで?」上手い!
この表情が出来る人は大滝さんだけ。
寅「いや、だからオレの2階のじいさ…や、よせよおい冗談じゃないよ。
オレ別に悪いことしてんじゃないんだからさちょっとかいしてくれよ。
オレ…か、帰るから、よお」
寅、絵を店主から奪い返そうとする。
店主、寅の手をスッとかわして、絵を持ったまますっと奥に。
普通の人は、つい、寅に一応渡してしまいがちになるが、
さすが大雅堂の海坊主オヤジは違うねえ、長年の動物的カンで、
飛び込んできた獲物は逃がさない!そのことが、あの身のかわしに
如実に出ていた。チャンスは絶対逃がさないんだねえ(^^)
店主「吉田、ちょっと」
吉田さん、青観のサインを確認。真筆と断定。
この店はこの目の利く吉田さんで持ってるなこりゃ。
こういう人って意外に少ない。この点も彼を雇っている
店主は商売上手。
店主「あんたこれ売るんだね?いくら?え?いくら?」
おいおい、そんな焦っちゃって、
買いたがってるのバレてるぞ、ご主人さん ヾ( ̄o ̄;)
寅「そうねえ、いくらって…」
店主「断っておくけどそんな高い金は出せないよ、
落書きのようなもんなんだから。
いくら?早く言いなさい」
『早く言いなさいって』、いよいよバレてるよ ヾ(^^;)
寅「それじゃあ電車賃使ってきたことだし…」
と指を一本。(もちろん千円)
店主「そりゃ高い。いくらなんでもそんな高い金出せないよ」
寅「負けるよオ、オレもちょっと高いんじゃなえかなと思ったんだ」
店主「これでどうだ?これなら買う」と手をパーで5本。
寅「半分か…?」(五百円)
店主「じゃ、もう一本色つけようこれだな、これ、
これで決まったな、いういだろう」ともう一本!
寅「まー、まーしょうがねえな」(六百円)
六百円で手を打つ寅の感覚もある意味、
世俗を超越していて凄い(^^;)
店主「吉田、6万円の領収書いて!」
店主さんいやに必死だね ( ̄  ̄ )
吉田さん「はい」
寅、ギョッとして
寅「おじさん、今何て言った?6万円!?」
と、目を白黒
6万円!?
店主「気に入らないか?
えっ?
よし、じゃあもう一本色つけよう、」
あ、寅ラッキー、店主の妙な早とちりで1万円得しちゃったよ(^^)
手で7本の指立てて
店主「これで決まり、
吉田7万円だ、7万円!」
この店主の焦りようから考えて10万円でも買ったね。
寅は相場がよく分からないのでこうなってしまったが…。粘りまくれば
15万円でも買ったかもしれない。
画用紙に落書き程度だとしても、色紙の類を一切書かない日本画の巨匠、青観の絵
は熱烈なコレクターの中では名声と希少価値のダブルで、高値がつく。
ましてや、落書きのわりには『サイン』がしてあるので、信用度は高い。
このサインの有無が大事。青観もそこのところはしっかり押さえてサインしていた。
それゆえ耳で買う人もいるだろう。そうなると当時の物価でさえ市場で競り合うと
末端価格は最低30万円以上はするだろう。オヤジはかなり儲けたね。
それにしても、この大雅堂のオヤジは大滝秀治さんしか
できないはまり役。もう演技とはとうてい思えなかった(^^;)
見事の一言。この夕焼け小焼けの隠れた名シーンだ。
大滝さんってこういう役やらせたら右に出るものは誰もいない
柴又参道
、
お札が入った腹巻を気にしながら、
源ちゃんを突き飛ばして走る寅
寅「どけっ!」
とらや
寅「さくらッ!さくらっ!ちょっとこいさくら、お前驚くなよ。」
驚いてるのはあんただよ(−−;)
とピラピラピラっと札束を目の前でちらつかせる。
それじゃ犯罪者の行為だよ(^^;)。
ピラピラピラ
さくら「お兄ちゃん、すぐ返してらっしゃい!
だめよそんな何してもいいけど
悪い事だけはしないで!」
悪いことだけはしないで、ってさくらァ〜(^^;)
でも、そうなるよな。寅のこの超妖しい行動見たら
誰だってね…。とは言うものの、
さくらの先入観も相当のもの。
盗んだって決め付けてるもんなあ(ーー;)
まあ、ああいう見せ方するとそうとられがちだけどね。
確信をもって盗んだって決め付けるさくら(^^;)
寅「バカ野郎!オレの話をしまいまで聞けって言うんだよ、
いいか、この金はな2階のじいさんがあのちょろちょろって描いた絵あるだろ
あれもってったら7万円で売れちゃったんだよ、お前」
さくら「嘘よ!」信じないだろうね(^^;)
寅「お前は信じないだろうけど落ち着けって。いいか、あのじいさんはな
日本でも有名な絵描きなんだって」
さくら「ええ?」
寅「んだよ、名前はね……あれ?堀の内じゃねえやい…池ノ内」
さくら「青観?」
寅「そうそうそう!その青観だよ!」
さくら「あらー、どっかでみた顔だと思ったら…、そうよ、池ノ内青観よ」
寅「なんだ、おまえ知ってんの!?」
さくら「うん、写真でよく見るわよ。あらぁ…、あの人…」
寅、パチッ!
寅「さくらぁ!、
おまえ、もう暮らしの心配なんか
するこたあないよ、え!」
と、7万円をさくらの手にぺチッと握らせて
「博のヤツは裏の工場辞めさせちまえ!
おいちゃん、おまえも団子なんか
作るの止めろ!」なにもそこまで…(^^;)
「明日からな、家中そろって面白楽しく
ホカホカホカホカ暮らすんだよ。え!
蒲焼だろうとてんぷらだろうと食いたいもん
どんどん食っちゃうだ!」そこで食い気にいくか(^^;)
それでもし金が無くなったら、
2階のジジイの尻引っ叩いて、
ね、ちょろちょろと描かせりゃ7万円だよ、
フヘヘヘ!ヒヒヒ!」と飛び跳ねて喜んでいる。
凄い発想だね〜、それじゃ爺さん猿回しの猿だよ。┐(-。ー;)┌
青観がつい、やってしまった、「絵を耳で買わせる」軽率な行為が、このように、ただでさえ
低い寅の労働意欲をますます低下させるのだ。あ〜罪な男だ。
さくら「お兄ちゃん…」
この世の極楽の顔
寅「あ!おばちゃん、ジジイどうしてるぅ?」
おばちゃん、掃除道具持ちながら
おばちゃん「ようやく帰ってくれたよ、やれやれだ!」
寅「帰ったあー!??」
おばちゃん「あんたによろしく言ってたよ」
寅「バカやロー!!何で帰したんだよー!!」
表に飛び出て
寅「7万円!」
露骨…。金額言いながら走っていくなよな(^^;)
あっち向いて、向こう向いて、
寅「おい!おい!」と、走っていく。
おばちゃんも店先まで出て
おばちゃん「無理だよ!追っかけたってぇ!
もう2時間も前なんだよ!」
さくら「池ノ内青観…」 さくら呆然
夜 本郷 青観の屋敷
表札 池ノ内 寓
引き戸を開けて青観が戻ってくる
今作品も、岡本茉利さんが
お手伝いさん役で登場!!
お手伝いさん、上がり口に来て「お帰りなさいまし」
お手伝いさん「奥様、先生がお帰りでございます」
妻玄関にやって来る
青観「二晩も家を空けて、大変失礼しました」と二階へ上がっていく
妻「うーん、またそんな格好でぇ。何処行ってらっしたの?」
黙って上がっていく
青観さん、家では居心地悪そう…
われらのアイドル岡本茉利さん登場作品一覧!
寅次郎恋歌………鮮烈なデビュー!大空小百合
葛飾立志篇………ラストでの西伊豆の連絡船ガイド
さん
寅次郎夕焼け小焼け……… 池ノ内青観家のお手伝い
さん
寅次郎純情詩集………夢の中でカスバの女性&大空小百合
寅次郎と殿様………大洲での料理屋の店員(出前)ほんの一瞬だけ
寅次郎頑張れ!………夢でとらやのお手伝いさん&大空小百合
寅次郎わが道をゆく………留吉の元彼女(春子)
「あんた何くれた!?」
翔んでる寅次郎………寅に便秘薬を渡した看護婦さん
寅次郎春の夢 ………大空小百合 「ミーバタフライ!ミーバタフライ!」
とらや
雑誌のグラビアを見ているさくらたち
青観の特集
ズームアップ
『日本画壇の孤高 池ノ内青観 』
次のページ
稲穂の中に佇む青観
横のページにナショナル(National)のエアコンの宣伝
139,000円
さくら「どうしてウチなんかに泊まったんだろう?そんな偉い芸術家が…」
おばちゃん「二晩もねえ…」
おいちゃん「まあ、いろいろと家には居らねねえ事情が
あったんじゃないのかあ?なあ、博さん」
博「そうですねえ…、案外家庭的には不幸なのかもしれないなあ、こういう人は…」
タコ社長「だってさ、金持ちなんだろう?」出た〜!!(^^)
博「金持ちだって貧乏人だっておんなじですよそう言うことは…」
社長「そ、そうかな…?」と首をひねっている。
お金があっても、離婚したり、倦怠感を抱いてしまう人々の
存在を信じられないタコ社長。人の幸せに関することでは
お金で買えるものは実は意外に少ないことに気づいていない。
寅は横に寝転んで目をつぶっている。
おばちゃん「そんな偉い人に、私もなんて口きいちゃったんだろうねえー、
今思い出しても顔から火が出るよ…」
絵が描けるというだけで別に偉いわけではないんだが…。
『そんな偉い人でも、あんなふうに人に迷惑を平気でかけるんだねえ』
って言うふうに考えられないのが悲しいところ。
おいちゃん「そういやあ、オレなんか説教たれちゃったもんなあ、あの先生にィ…」
さくら「私ィ、満男のお守りさせちゃったあ」
博「え」
さくら「おじさん、ちょっと満男と遊んでてぇーなんて…」
博、笑いながら「バカだなあ〜」
さくら「だって、そんな偉い先生なんかにとっても見えなかったんだもん」
おばちゃん「ルンペンみたいな格好しちゃってねえ」
さくら「ねえ」
寅「ちっ!黙って聞いてりゃなあ、ち、人のなりふりに
とやかく言える身分かあ?
いいか、人間をなあ、顔や身なりで区別をするから
こういうことになるんだよ」
こういうこと…って、別に自分の家に帰っただけなんだけどね(^^;)
おばちゃん「悪かったよ」おばちゃんお人好し(^^)
寅「おばちゃんいけないんだよ!あのじいさんをもっと親切に扱ってやったら
この家が気に入って一生ここにいようって言ったかもしれないんだよ
そしたら一枚ちょろちょろって描いて7万円じゃないかよ」
もう寅って、そればっか(^^;)
おばちゃん「そうは言うけどさあんただって連れてきた時に
一文無しの貧乏ジジイだってそう言ったじゃなの」
寅「あのなり見りゃ誰だってそう思うよおまえ」
一同「アハハ」
さくら「ハハハなに言ってん…」
博「兄さん今人間を身なりで区別しちゃいけないってそう言いましたよォ…」
寅「馬鹿野郎だねえお前、理屈を言っちゃいけないって
言ってんだよ理屈を。この家にきた幸せを皆逃がしちゃったって
そう言ってんだよ」幸せって(^^;)
さくら「お兄ちゃん過ぎたことなんだから止めて。ねっ」
社長「はあ……俺も働くのやになっちゃった、そうだろう?
あのじいさんちょこちょこっと描いて七万円。
そんだけの金を稼ぐにはオレたちはどんだけ
働かなきゃなんねえか」
分かる分かる社長の気持ち(- -)
しかし、指で丸作るのちょっと下品…。
おいちゃん「しょうがねえやそりゃ生まれた星が違うんだから」
なるほどね。おいちゃん年の功だね。
社長「そうかねえ」
社長、なんだか悔しそう…。
おばちゃん「ソースもとって」ブルドックソース
満男「お母さん、描いてもらったの」
さくら「あ!上手な絵ね、誰に描いてもらったの?」
気づけよな、さくらヽ( ̄▽ ̄;)
満男「おじいちゃん」
さくら「えっ?2階に居たおじいちゃん!」
満男「うん」
社長「ちょ、ちょっと見せて」
寅「おっ!なにすんだよ」と社長の絵を取り上げる。
社長「見たっていいだろう」と寅がもっている絵を取り返そうとする。
社長「あっ」と絵が真っ二つ!(><;)
さくら「あらっ」
寅「お前がやったんだぞ」
社長「違うよ、寅さんが乱暴に引っ張ったんじゃないか」
寅「お前が先に…あっ!」
とまたまた破れてしまう!Σ( ̄ロ ̄lll)
寅「お前が先に破いたんじゃないかよ!これはウチのもんなんだぞ
どうするんだよ!この件に関する責任は!!」
社長「わかったよ弁償すりゃいいんだろう」
寅「ケーッ!よく言うよ、お前これいくらだと思ってんだい?
7万円だぞ!お前弁償出来んのか!」
社長「馬鹿にしやがって工場を売ってでも払ってやるよ!」
オーバーやの〜(^^;)
寅「工場?どこにあんだい?
あれが工場か?よく見ろお前、
あれが七万円で売れるのか!
ただでもらったっていらねえやい!!
この野郎!」
と社長の首を無理やり手で工場に向ける
あんまりだよ、その言い方は (-_-;)
社長「なにすんだい!この野郎!チキショウ!」
寅「テメエやりやがったな!」
二人とも大暴れをし始める。
さくら「ねえ!お兄ちゃん」
博「兄さん止めてくださいよ」
おいちゃん「寅!寅!今のはお前が悪いぞ」
博「そうですよ、あんなこと言ったら社長が可哀想ですよ」
社長「ウエエ…ウー…」と泣く。
さくら「お兄ちゃん謝んなさい、謝んなさいってば」
社長「コンチキショウ!
コンチキショウ・・コンチキショウ!!」
と絵をちぎってバラバラに破いてる。
社長にしてみたら真面目にコツコツ働いて
7万円稼いでいるのに、こんな紙に
落書きしただけで7万円もらえることが、
人を小馬鹿にしているようで許せないんだろう。
いやもう、分かる気がする。
寅、帽子を被り、カバンを持って土間に出る
さくら「何処へ行くの?ねえ」
寅「この家で揉め事があるときは
いつも悪いのはこのオレだよ」
さくら「…」
寅「でもなあ、さくら、オレはいつも
こう思って帰って来るんだ。
今度帰ったら、今度帰ったら
きっとみんなと仲良くらそうって、
あんちゃんいつもそう思って…」表に出て行く。
さくら「お兄ちゃん…」
寅、行ってしまう。
さくら、表に出て、
さくら「お兄ちゃーん」
いつまでも寅の背中を追っている。
社長「博さん、すまんかった…」
博「いいんですよ」博、優しいね。
ちなみに、あの絵は破いていなくてもこの前のようには7万円ですぐに
売れないと思う。なぜならば青観のサインがしていないからだ。
前の絵(縁起ものの宝珠の絵)はサイン入りだから鑑定士も真筆と
すぐわかるが、この動物を描いた絵は、『線』だけが頼りだから、
よほどの目利きでないと鑑定に時間がかかる。紙は子供の画用紙だし…。
複数の鑑定士の意見を聞くことも少なくない。
(まあ、今回のような場合には最終的には真筆ということになるが)
もっとも、大雅堂の番頭さんである吉田さんは目利きだから、青観の線の特徴を
すぐに分かると思うが、サインがしていない分、買い叩かれて、5万円
くらいでしか売れないかも…。実際彼らが売りなおす時も上記の
理由で、絵の本質と関係なく、なかなか買い手が見つからないかも。
馬鹿馬鹿しいことだがこれが現実だ。
青観の屋敷近く、
さくらが歩いている。
外車が通る。
青観の屋敷 玄関
さくら「本当は兄がお伺いしないといけないんですが
ちょっと遠くに出かけておりまして、私が代わりに」
妻「でもねえ、これお宅にお礼として差し上げたんじゃないかしら」
さくら「いえ、そんなお礼をいただくほどの御もてなしはしておりません。
ましてこんな大金ですので、きっと何かのお間違いじゃないかと。
どうぞお気を悪くなさらないでお納めくださいまし」
こういうところが、さくらは実にきちんとしている。
全額すぐに返すなんてなかなかできないよ。
人はお金には弱いからね。
妻「さいでございますか。じゃあ一応お預かりして、主人が帰りましたら伝えます。」
さくら「ご旅行中ですか」
妻「ええ播州の龍野と言う町にね。仕事で」
さくら「はあ、そうですか」
さくら「お帰りになりましたらよろしくお伝えくださいませ
これつまらない物ですが」
妻「まあ、ごていねいに恐れ入ります」
さくら「どうも失礼いたしました」
妻「ご苦労様」
妻「とし子さんお帰りですよ」
自分の夫が二晩もとらやの世話になったこと、
ほんとうに分かってるのだろうか、この奥さんは…。
ひと言でも、そのことについてさくらに
きちんとにお礼を言ったのだろうか?
お手伝いさん「はーい」
さくら「失礼致しました」
お手伝いさんの名前が分かった!『とし子』
それにしても、高級住宅街の中のでかい邸宅だ。
第29作での寅が加納作次郎に言った言葉をアレンジすれば
「絵を売っただけじゃ、こんな家には住めねえよな、
なにやったんだジイさん」ってことになる。
絵というものの価格のヒズミは凄いもので、
絵の出来不出来などの本質に関係なく、
高名な画家は滑稽なくらいにバカ高く、
無名の画家は可哀想なくらいに安い。
播州龍野
しっとりとした昔ながらの情緒が残る町
自動車の後部座席に乗っている青観。
課長「播州もすっかり変わりましてなあ。昔ながらの農家などほとんど
見かけなくなりました。せやけど龍野の町だけは昔とほとんど
変わっておりませんです、はい。先生のコマイ頃の建物もそっくり
そのままと存じます、はい。」
係員居眠り ウトウト
寅が道の真ん中を歩いている。
車、クラクション
ビッビー!
課長「何やあの男」
青観、寅を見て驚く
車が止まって、
課長「もう一回鳴らして」
ビッビー!!
寅、歩いて戻ってきて
寅「なんだこの野郎、人のケツからブーブーブーブー」
寅、青観に気づいて
寅「あ、おじさん」
青観「よお」
出た!お馴染み天文学的確率の偶然、ありえねえ!
寅「何やってんだこんなとこで」
青観「君こそ何してんだ?」
寅「オレは商売だよ」
寅「おじさん…あっ、おじさんなんて言っちゃいけなえんだ、
あんた有名な人なんだってね、日本でも」
青観「へへ、その節は世話になったね」
寅「いやいやいや、あ、あの絵な、神田にもってったらさ、
驚いたの何のってさ」
青観、照れる。
課長「あのーもしおよろしければご一緒にどうぞ」
寅「あ、そうかい」
青観「ん、乗れよ」
寅「よしよし、じゃご厄介になっちゃおうかな、えへへへ、こらいいや。
じゃ、運転士さんまっすぐずっと行ってくれ、へへ」
運転士「へ」
課長、置いてけぼりをくらって、
後ろから寅のカバン持ちながら走って追いかけてくる。(><;)
桜井センリさんって、こういう役って実に似合う!
いつもは柴又参道の店の主人なんかやってる。
桜井さんのはまり役はこの課長役と第20作の神父さん役!
寅「おい、いいのか、おい、あのおじいさん置いてきちゃってよ
なんか駆けてるぞ、一生懸命、え?ほら」
皆気づけよな(−−;)
係長「えらいこっちゃ」
前の座席に寺尾聡さん、
後ろの座席に宇野重吉さん。
実現した父子共演。
このちょっと前に作られた同胞という映画では
下條おいちゃんと下條アトムさんの親子共演もあった。
車が急に止まる。
課長、車に当たる(^^;)
課長「あちゃ〜」
課長「バカッ!アホだれ!本当にもうぼけっとしよって」
課長「どこに目つけてんのや」
係長「すんません」
寅「そら怒るよな…、そら怒っちゃうよ、ねっ」
この寅の言い方が妙に面白い(^^)
青観「フフ」ニコニコ
ラストシーンと同じ時間に撮影したな(^^;)
龍野市役所
課長「市長いる?」
役員「はい」
課長「あ〜、行って行って行って」
課長「どうもご窮屈さまでした…おい君、ご案内して、…どうも」
寅「オレも降りんの?」
課長「あ、どうぞどうぞ本当にどうもお疲れ様でした」
龍野市役所の市長室 応接間
市長「龍野の市長でございます。
このたびはどうもはるばるお越しいただきましてどうもありがとうございます。
あのーお写真ではいつも拝見してるんでございますが、
お目にかかれまして光栄でございます」
寅、隣のソファーに座らされて
寅「いいよ、いいのか? なんかオレここにいることはねえんじゃないのか〜〜?」
青観「君、」
寅「え?」
青観「こちら、車寅次郎君です」
って言われてもなあ、困っちゃうよね、市長さん(^^;)
市長「あ、これはこれは。車先生でいらっしゃいますか」
大空小百合ちゃんかあんたは(^^;)
寅「いや・・・そんな」
市長「龍野の市長でございます、ご苦労様でございます。」
寅「あ、こりゃ市長さん、ご丁寧なご挨拶どうも
うちの年寄りがお世話様になりまして」
おいおい、いつから身内になったんだ(^^;)
市長「い、いや、とんでもない」
寅「なにしろ頑固もんですからね。
どちらに行きましてもご迷惑ばかりおかけいたしましてへへへ」
よく言うよ、まったく ┐(~ー~;)┌
助役「助役でございます」
課長「ご挨拶がおくれました。観光課の佐藤でございます。どうぞよろしく」
寅「あ、ご丁寧にどうも」
課長、係員をさして、
課長「係の脇田でございます、名刺ない?、名刺」
名刺を探す係員
寅「オレはこのへんでいいんじゃないかな。今はなっ、今はいいんじゃないかな」
市長「お疲れ様です。あの風呂にでもね」
寅「そうね、え」
課長「ではお宿のほうへご案内いたします」
寅「そうします・・・それじゃどうもありがとうございました」
いつまでも名刺を探す係員
課長「名刺はもういいんだよッ」と係員に。
市長「のちほどまたお目にかかります」
寅「そうね…あー先生よ。オレ先行くよ」
青観、三木露風の「赤とんぼ」の歌詞を見ている。
市長「あ、これはどうも失礼致しました、
あの、のちほどまたお目にかかります」
夜 梅玉旅館
立派な伝統のある店構え
宴会の準備が出来、芸者さんたちも集まっている。
市長「高いところから大変失礼ではありますが、一言ご挨拶を申し上げます。
この度、我が郷土の産んだ芸術家、池ノ内青観先生をお迎えするにあたって、
私、龍野市民を代表して心から歓迎の意を表したいと思います。
いまさら私がくどくど申し上げるまでもなく、池ノ内先生は日本画壇の
第一人者であり、その名声は遠くアメリカ、ヨーロッパにも及んでおります。」長々…くどくど
寅、あくび。
青観「オレは途中に失敬するからあとは適当にやっといてくれ」
寅「だめだよそんな…、オレこんなとこ性に合わねえしさ、
こんなとこで酒飲んだって美味くもいなんともないもん」
青観「ん…そう言うなよ、ん…くたびれてるんだ、頼むよ」
寅「ち、こんなとこ来るんじゃなかったなあ…オレ」
市長「麗しき鶏籠山(けいろうざん)、
清らかなる揖保川(いぼがわ)と共に、
この度先生は龍野市政25周年記念文化事業へのご協力を
快くご承諾くださいまして、ここに、三木露風先生が
赤とんぼに歌われた龍野の古き麗しき風景が先生の
芸術によりまして長く歴史に残されることになりましたことは
市民の一人として深くご同慶に耐えません」さらになお長々くどくど.。。(- -;)
超暇そうに料理をもて遊んでいる寅
寅、サトイモを畳に転がらせてしまう。
コロコロ… あちょ(( ̄ ̄0 ̄ ̄;))
ぼたん気づいて笑っている。
寅も、ぼたんに気づいて「二カッ!」と照れ笑い。
市長「さて、戦後の日本の経済的繁栄によって日本人は
豊かな富をうることができましたが、同時に、またその行き過ぎが、
数々の不幸をもたらしたのであります」くどくど…長々(〜〜)
箸でサトイモを刺そうとするが、失敗して
コロコロ…(|||_|||)ガビ〜〜ン
座敷の真ん中まで転がる。
ぼたん、また口を押さえて笑っている。
寅、そ〜っと真ん中まで歩いて
サトイモを追いかける。((((((((((; ̄ー ̄)_/…。。。。
市長、それ見て、プレッシャーを感じてる。
市長「え…、そのひとつは…公害の問題であります。
え…だがしかし、私が特に力説したいのは単なる大気汚染、海洋汚染だけを
公害と考えてはならない。えー…我々が最も恐るべきものは
みんな、サトイモの行方を
ひたすら注目。( ;→_→)
ジィ――…
な、なんとタコ社長の奥さん(水木涼子さん)が
こんなところで仲居さんのバイトをしている!!???
あちょー!はるばる柴又から…。(^^;)
タコ社長の奥さんが!(青い着物の女性)
箸で何度もサトイモを刺そうとするが、
コロコロと転がって失敗(^^;)
一同、箸の動きに合わせて顔も動く。
市長「…ならないことは、心の公害であります。
んん…、ええ…、えええ…、えええええ…
市長、寅に翻弄されて、タジタジ…、言葉が出てこない。(^^;)
市長「心の公害こそ、おー…、最も憎むべきであります。えー、
これは私が市長就任以来常に主張し続けているところでございますが」
ようやく箸に刺さって、照れながら戻り、
笑いながらぼたんに見せる寅。
市長「我が龍野市の古く麗しき人情風俗をこのような害毒から
守りつつ…えー…いかにして近代都市に
いー脱皮するかという、えー…これを両立させるには
真に困難なる課題にいかに取り組むべきか…」くどくど長々…
寅、ぼたんに三味線を弾く真似。
寅、あくび
寅、聞いていて眠くてヨダレを出す真似。
寅、市長を見て怒って手でぺケ。
宴会
三味線と太鼓と踊りで大いに盛り上がっている。
端唄の『奴さん』
芸者役で光映子さんもいる。
♪いつも〜、やっこさんはァ〜、タカばしょり〜、
アリャセ、コリャセ、
ヨイトナ、
キタサ、
♪ソレモショ〜カイ〜ナ〜エ〜
ハァ〜マダマダ
一同「ワー、パチパチ!」
寅、ヤッコ踊りした芸者さんに
寅「よ!ネエチャン!一緒に一杯やろう」と、呼び寄せる。
ぼたん「姐さん、飲もうな!ね!」
客「よ!いい女!へへ」
課長と寅なにやら面白い話で盛り上がっている。
一同「ハハハ」
ぼたんも、はしやいでいる。
端唄(俗曲)「奴さん」
エー奴さんどちら行く ハアコリャコリャ
旦那お迎えに さても寒いのに供揃い
端唄
江戸中期から末期にかけて江戸市中で流行した三味線小曲。
「春雨」「夕暮れ」「梅にも春」「香に迷う」「我がもの」等が代表曲。
端唄を土台として小唄や歌沢が生まれた。
俗曲
端唄との区分は不明瞭。確固たる定義はないが、酒がともなう宴席、又は寄席芸の
音曲に類するもの。「都々逸」「さのさ」「奴さん」「御座付三下り」「深川」「かっぽれ」等、
江戸・明治の大衆のにおいが強くしみ込んでいる。
一段落して 深夜
ほとんどの客が帰って
寅とぼたんと係長と課長とが残っている。
ぼたん「♪雪に変わりがあるじゃあなし〜
とけて流れりゃみな同じ〜」酔っ払っている
ほんとはオリジナルは「雪に変わりがないじゃなし〜」なんだけれどね。
文法的にそれじゃおかしいから「あるじゃなし」って変えて歌うようになったみたいだ。
山田監督のシナリオでは「あるじゃなし」になっている。
寅、係長に
寅「おいおい、兄さん、おまえ飯ばっかり食ってないでさ、
なんか、ちょっと歌えよ、ちょっと」
係員、ご飯パクパク
ぼたん「ねえねえ、」
寅「うん?」
ぼたん「知っとる?」
寅「なにが?」
ぼたん「この人の先祖ね、ここのお殿さんよ」脇坂藩主さんの子孫さんか?
寅「あはは、そうかァ、そう、チョンマゲ似合うよ、こりゃあ、ハハハ」
ぼたん「ハハハ」
係員「お姐さん、ソース」
ぼたん「そんで、課長さんの先祖ね、足軽ぅ〜、ハハハ!」
寅「ウハ八ハハ」
ぼたん「だからね、世が世なら課長さんがこの人の家来や、
なあハハハ!」
課長、ぼたんを止めようとする。
山田監督のシナリオでは課長が
自ら「世が世ならわしゃこいつの家来で、ヘヘヘ」としゃべる。
もちろん本編の方が笑える。
寅「いいじゃない!民主主義の世の中だよ!
うん、民主主義、ね、」
ぼたん「♪とけて流れりゃ」
寅「♪みーなおーなじ!パン!パカパパンパ」
二人で「♪ン、パン!パカパパンパ」
ぼたん「キャハハ」
課長「先に帰るから」と係長に耳打ち
寅「よーし、楽しい楽しい、
今晩盛り上がって夜明かしだよ!な、ぼたん!」
ぼたん「よし、飲も飲も」
課長「あの〜、あの〜私、明日の勤めもありますさかいに、
これで、どうぞごゆっくり」
寅「『さかいにって』家来よ、よ、よ、『さかい』じゃないよ、ちょっと、」
寅「ちょ、ちょっと、ちょっと歌って…なっちょ、ちょっと」
課長「いや」
ばたん「そうそう、せやせや」
寅「ちょっと…へへへ」
課長、観念して。
手拍子を自分でとりながら
課長「オホン…♪とぉけてなあがれりゃ
みぃぃなお〜〜なじぃ〜……?」
朗々と歌う(^^;)
一瞬の空白ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ
ぼたん「プー!!キャハハハ、
アハハハハ!ヒー!ハハハハ!」
寅もぼたんの方向いて笑っている。
係の脇田、ふき出して転げ廻る
係員「プー!!カハッ!カハハ!
ガハッ!ゴホン、ゴホホ…」
この人課長のこと『上司』だと思っていない。
よっぱらってた役人も起き上がって「???」
課長、シュン…(TT)
キャハハハハ!
課長いい味出してるね〜(^^)
明日からどうなることやら…。
翌早朝 龍野橋 アポロ美粧院そば橋詰
朝日を受けて輝く揖保川のせせらぎ。
鶏籠山のもと、龍野高校の中間服を来た高校生たちが通学の自転車を走らせている。
店を開け始める人々
梅玉旅館の自室で眠りこけている寅
廊下から課長の声
課長「先生、車先生…」
障子を開けて
課長「お早うございます」寝癖が残っている。
係の脇田も来て眠たそう
課長「先生、先生!」
寅、ようやく目を開けて
寅「ん、」
課長「迎えの車が参っております。
昨日お話いたしましたように、
今日は市内の名所を見ていただくことに
なっております」
寅「ん〜…、オレはちょっと、そういうのはいいよ。
大先生に行ってもらってくれよ」
課長「それが…大先生はお体の具合が悪いから車先生に
行ってもらえと、こうおっしゃるものですから…」
課長まで「大先生」って言うことはないと思うが(^^;)
寅「車先生…」
寅「車先生もちょっと体の具合悪いなあ…、
頼むよ〜、」自分で車先生と言うのが面白い(^^;)
課長「先生〜、.。」
寅「ハイ、お休み…」
と言って宿のハンテンを頭に被る。
車が山崎街道を走っている。
(実は山崎街道ではない)
龍野町 「門の外」の道
結局、寅、無理やり車に乗せられ、
ほとんど眠っている状態(^^;)
課長「この通りが、忠臣蔵で有名な山崎街道です。
このへんは昔とほとんど一緒ですなあ」
課長「あ!これ、この建物は、昔青観先生もお描きになっていますさかいに
お気に召しているんじゃないでしょうか」
寅、ほとんど意識朦朧で聞いてない ヾ(ーー
)
寅「そうだな…」と超適当に相槌。(^^;)
課長「君、大橋の袂に行って」
車が揖保川に架かる大橋(龍野橋)の袂に着く。
課長、車から出て説明を始める。
課長「先生、ここから見た鶏籠山がいちば〜〜ん美しい言われております」
係りの脇田「ふーん」
課長「私どもとしてはですね、」
振り返ると脇田が横にいて大あくび。
課長「あれ?」
車に駆け寄り、ドアを開け、寝ている寅を起す。
課長「先生」
寅「んん??」
課長「私どもとしてはですね、この鶏籠山をぜひ、青観先生に描いていただきたいと
希望しておりますが、」
寅、あくびをしながら
寅「うん、いいだろ…あああ〜あ」
ほとんどどうでもいい状態、
こんな所連れ回されてある意味寅が可哀想(^^;)
青観の絵と寅は何の関係もないって、課長さん。
課長「それでは次、三木露風先生の生家に参ります」
突き当たりが裁判所で、左が小学校です。
青観先生もここの卒業〜〜〜はあああ」と課長まであくび。
課長「失礼…」
龍野公園
車が龍野公園に止まって、運転手が外に出て背伸びする。
運転手、車の中を見ている。
中では3人とも居眠り(^^;)昨晩あれだけ騒げばそうなるよね。
蕎麦屋(揖保そうめん屋)
3人でそうめんを食べている。
おそらく龍野名産の『揖保の糸 そうめん』だ。
私の親も大阪なので揖保そうめんは、しょっちゅう食べた記憶がある。
店員「ありがとうございましたァ〜」
課長「こんなとこで何でございますが、他でもございません。
大先生に描いていただく絵のお礼ちゅうか、お値段ちゅうか、
どれくらいの予算を見とけばよろしいのでしょうか。
財政部長もえろう心配しておりますさかいに」
寅「んー…、高いよー…」(^^;)
課長「そりゃもちろん、日本最高峰のお方やさかい」
寅「オレもね、絵のことはよくわかんないんだけどさ、なんかこう画用紙のはんぺらに
ちょろちょろって落書きして、1枚いくらだと思う?」
課長「…」
寅「7万円だよ…」
課長「7万円…」
寅、頷く
課長「落書きで…?」
課長、深刻な顔
課長さん、追い討ちをかけるようだけど、寅が言った7万円はお客さんが
買うときの値段じゃない。絵を中間業者に売る時の裏の値段。末端価格は落書きでも
20〜30万円ほどになるだろう。日本で一番画料の高い画家の絵なら、ごく普通の絵の
大きさの、本画を買おうとするとおそらく当時でさえ300万〜500万程度はするだろう。この場合、
画家に直接お礼する、ということで画廊などの末端価格より少し安くても大丈夫だとは思うが。
脇田「課長、もう1杯くうてもかまへんか?」
課長「よく食うね君はァ、いいよ」
脇田がらっと顔が明るくなって
脇田「おねえさん、そうめんもう1杯」
はーい
ぼたんが店に入ってくる。
課長「ご存知のように地方財政はきわめて困窮しておりまして
…もちろん…市といたしましても…」
寅、ぼたんに気づいて
寅「おほい、ぼたん」
ぼたん「いやー、寅さん、今ごはん?」
三味線で『ぼたんのテーマ』が流れる。
寅「うん、来い来い、こっち来て食え、こっち来て食え、え、おいおい」
ぼたん「偉い先生いるの?」
寅「え、いないいない、そんなつまんない者いない」
ぼたん「あーよかった!」
寅「うんうん」
ぼたん、課長に、「どーも」と笑顔
寅とぼたん、顔を見合わせて、
同時にカハハハ!と大笑い。
昨日の宴会を思い出したんだろう。
おそらく課長のあの歌(^^;)
ぼたん「もういや!アハハハハ!ねー、ハハハ!」と笑い転げている。
寅「ハハハ」とぼたんを見て笑い、脇田を見て笑う。
課長、下見てシュン…。
ぼたんの家のそば
車がぼたんの家の近くで止まり、
ぼたんが車から降りてくる。
ぼたん「課長さん、ご馳走さまァ〜」
課長「あ〜」
寅「じゃ、ぼたんよ、今夜待ってるぞ」
ぼたん「綺麗にしていくさかいねえ〜、ハハハ!」
課長「6時、6時やでえ〜」
ぼたん「フフフ」と言いながら路地を走っていく。
龍野の古い家並みが続く道
青観、自分の母校の小学校を見ている。
武家屋敷跡(今は聖ヨセフ 龍野教会というカトリック教会)を
見て廻っている青観。
純和風のカトリック教会なんてカッコいいね。
藩主脇坂公の屋敷がそのままカトリック教会になっている。
志乃の自宅
古い趣のある屋敷の中を覗きこんでいる青観
門から入って玄関に行く。
2枚の板に書かれた文字が見える。茶道と華道の先生か?
青観「ごめんください」
お手伝いさん(弟子)「はーい」
お手伝いさん玄関に座ってお辞儀
来客にいきなり正座して応対するなんて礼儀正しい〜!
いまどき絶対いないよ、こんなお手伝いさん。
な、なんと彼女は、第7作のマドンナ、
花子ちゃんを演じた榊原るみさん!!
ノンクレジットで友情出演!!
青観「お志乃さん、ご在宅ですか」
お手伝いさん「はい」
青観「池ノ内と申しますが」
お手伝いさん「はい」
お手伝いさん「先生、池ノ内様とおっしゃる方がみえてますけど」。
志乃「はい」
この、戸惑いのない「はい」は、まるで青観が訪ねて来ることが
うすうす予感できていたようだった。
この志乃さんは何十年も青観に会っていないにもかかわらず、
青観の気持ちが見えているのかもしれない。
私は、この「はい」に青観と志乃さんの運命的な繋がりの深さを感じ、
彼女の隠された情念をも感じてしまった。
しばらくして、志乃が現れる。
顔が華やいで、懐かしさを隠しきれない志乃。
志乃、上がり口に座る。
青観「わかりますか…」
志乃「和夫さんでしょう?」
青観「ええ」
青観の本名は「和夫」なんだ…。
志乃「お見えになっとることは聞いとりました。
どうぞ」
青観「あ、じゃ…」
と入り、靴を脱ぐ。
志乃、立ち上がり、障子に少し隠れて青観を待っている。
やがて時間が経ち…
夕陽に照らされて美しく流れる揖保川と鶏籠山
赤とんぼのメロディがゆったりと流れる。
しっとりと落ち着いた龍野の夕暮れ時
芸者さんが古い町並の中をお座敷に急いでいく。
一方こちらは
梅玉旅館 座敷
寅「ハハハ!」
芸者たち、課長を囃したてている。
いやがる課長
ぼたん「あかんあかん、課長さん踊らなあかん」
芸者A「オハコどっしゃろ」
ぼたん「踊りも上手いんよ、この課長さん」へえ〜(^^;)
芸者B「ほんま上手いんよ」
寅「あ、課長、踊りもやる!?じゃ、それ見よ!見よ!」と気軽〜に指差す。
寅「はー、よしよし」と拍手
ぼたん「待ってました」拍手
寅「期待に答え!」
課長、立ち上がって芸者と一緒に準備
課長、立ち止まって、
課長「ぼたん、笑うな今日は」
おいおい、宴会芸なんだから、
笑わせてなんぼだよ。課長さん ヽ(´〜`;
ぼたん「ハハハ!」
寅「もう、おまえ笑ってるじゃないかよ!えー」
ぼたん「フフフ!」
寅、課長の方に向かって
寅「なあ!」
ぼたん、お酌しながら
ぼたん「なあ、寅さん…」
寅「あいな あいな」面白い返事(^^;)
割り箸でお猪口をつまんでぼたんに酒をついでもらっている。
遊び人だねえ、寅って(^^;)
ぼたん「もう明日帰んのん?」
寅「ん、?んん」
ぼたん「やめとき、市役所の車でさ、みんなで
湯郷(ゆのごう)温泉行こうな、楽しいよ」
岡山県の「湯郷温泉」は、有名な美作三湯(みまさかさんとう)
(湯郷、湯原、奥津)の一つで、その昔円仁法師がこの地にて
鷺が足の傷を癒すのを見て発見したと言われる別名・「鷺の湯」としても
全国に知られる古湯であり名湯である。
寅、よく食べてばかりいる、係の脇田に
紙の箸置きを箸で摘まんで投げつける。
寅「楽し、楽し、行こ行こ行こ!んー!」
ぼたん「口先ばっかし!」
寅はこういうときは、口先で上手にさばくんだよね。
遊び人としては格好いいが、時々誤解も招く。
第11作「忘れな草」で、リリーが泥酔したあの夜、
一緒に旅に出ようと言った彼女に、口先で行こう行こう、と言った寅。
この、その場の遊び言葉のようなとりあえずOK作戦に、リリーは怒っていた。
ぼたんはさすがに職業がら、寅の言葉遊びを「口ばっかし」と
すぐ見抜いている。
脇田、寅が投げた紙を、箸で摘まんで投げ返す。
ぼたん「ほんまは、東京の奥さん恋しいんやろ」
寅「ばかやろう!そんなもんいるかいオレに!」いないよな確かに(^^;)
ナスのてんぷらも脇田に投げつける。
ぼたん「うそや」と言いながら酒を飲む。
寅「ほんとだよおまえ。これだけは、ほんとに」ほんとほんと(^^)
ぼたん「うそうそ」
ぼたん、芸者さんたちが戻ってきたのに気づいて、
ぼたん「あ!待ってました色男!」
寅「よお、待ってました!」
拍手
芸者「おまちどおさんでした」
芸者「おまちどうさま〜」
寅「よお、待ってました」
三味線が入る。
寅「オッ」
課長「♪あたしぃの〜ラバさ〜ん〜
両手の人差し指を頬に…
びょえ〜〜〜〜!!!
\((( ̄( ̄( ̄▽ ̄;) ̄) ̄)))/
あたし〜の〜ラバさ〜ん〜
酋長の娘ェー
寅もゲラゲラ笑っている。
酋長の〜娘〜
色は黒いがァ…」
顔を前後にカクカク
桜井センリさんていったい…ヽ(( ̄▽ ̄;)
脇田、後ろ振り向いて噴出す。
カクカク
ぼたん「アハハハ!!」
寅「歌えっ!もう一回やれよ!歌おう歌おう」
ぼたん「タメさん、お願い」
寅、お碗で音頭を取る。 チチ、チン、チ…
一同「♪あたしのラバさん〜
酋長の娘ェー色は黒いがァ…」
脇田、ゴロゴロ転がって笑っている。
みんな大笑い
「酋長の娘」
石田一松 作詞・作曲
(1930年、昭和5年)
1930年に「うぐいす芸者」といわれた
新橋喜代三(中山嘉子)の歌でポリドールからレコードが発売。
@わたしのラバさん 酋長の娘
色は黒いが 南洋じゃ美人
A赤道直下 マーシャル群島
ヤシの木陰で テクテク踊る
B踊れ踊れ どぶろくのんで
明日は嬉しい 首の祭り
C踊れ踊れ 踊らぬものに
誰がお嫁に 行くものか
D昨日浜で見た 酋長の娘
今日はバナナの 木陰で眠る
ラバさんとは「lover」、つまり恋人の意味
『色は黒いが南洋じゃ美人』はちょっと
アレなんで、映画では途中で切られている。
志乃の自宅
あれから、随分長い時間が経っているので、
おそらく、軽い食事が出されて、その後と思われる。
お手伝いさん「先生、お先に失礼します」
志乃「あ、ご苦労さん」
お茶の用意をしている志乃。
青観「僕の絵をたまには見ますか」
志乃「へえ、
去年京都で個展をなさいました時
観に行きました」
お茶を出す。
青観「…そうですか」
青観「確かあの中にも、
あなたを描いた絵があったはずだが…」
志乃「へえ、気がついておりました」
下を向いて、少し頬を赤らめ照れる。
青観「……」
青観は、志乃さんを想いながら1枚の絵を描いたのだ。
もう何十年も会っていなくても、その想いは絵に託されている。
これ以上の愛の告白はあるだろうか。
その絵を見れば、絵描きがどのような思いで、その絵を
描いたかが分かる。
志乃さんは、その絵を京都で見た時、
きっと救われた思いがしたのではないだろうか。
どこからか、琴の音が聴こえてくる。
庭を眺めながら…
青観「…静かだな」
志乃「でもねえ、
あんまり静かなんも、
一人暮らしには寂しゅうて、フフ…」
志乃さんは独りを通してきたんだ…
青観「お志乃さん」
と志乃の方へ座りなおす。
志乃「へ?」
青観「申し訳ない…」
と、頭を下げる。
志乃「どないして?」
青観「僕は、あなたの人生に責任がある」
志乃、少し微笑んで
志乃「和夫さん、
昔とちっとも変わらしまへんな、
その言い方」
青観「いや、しかし…
僕は後悔してるんだ」
その言葉に対し、僅かに志乃の目の力がきつくなる。
青観のその言葉にシリアスな目をする志乃。緊張感のあるカット
志乃「…じゃあ、仮にですよ、
あなたがもう一つの生き方をなすっとったら、
ちっとも後悔しなかったと
言きれますか?」
青観「……」
志乃「私、このごろよく思うの、
人生には後悔はつきものなんじゃなかしらって、
あーすりゃよかったなあ、
という後悔と、
もう一つは…、
…どうしてあんなことしてしまったんだろう…、
という後悔…」
青観を静かに見つめる志乃
青観「……」
下を向いて、涙を潤ませている青観。
ふたり、だまって庭を見る。
志乃、もう一度青観をそっと見つめ、
場をずらし、横でお茶の用意をする。
青観は黙って庭を見ている。
静かに流れていく時間
ふたりには、いったいどのような
青春の物語があったのだろうか、
青観の一元的な人生の考え方を瞬時に見抜き、
相対的に言い換えて彼の迷いを救った志乃。
しかし、それは青観の人生の業をも同時に
言い当ててしまう、諸刃の剣でもあった。
ある意味優しさと厳しさが同居した、彼女の人生を
全て統合したエネルギーの強い言葉だった。
彼女は結婚をせず、静かに故郷で暮らしている…。
彼女は自分の人生に腹をくくっている。背筋がピンと
伸びているのだ。青観は彼女のその生きざまに、
心底救われた夜だったのかもしれない。
しかし…、彼女はほんとうに自分の人生に
迷いがないのだろうか…。
ともあれ、私は、第17作のこの志乃さんの言葉によって蘇生し、
この十数年間を生き延びてきた気がする。
役者はその演技に生き様が出る。これは私の確信だが、
そのことを見事に私の目の前に突きつけてくれたのが
第15作「相合い傘」の時の寅のアリアを語る渥美さんの
姿かたちであり、そしてこの第17作「夕焼け小焼け」で人生の
二つの後悔を語る岡田さんのあのお姿だ。
役者とは、この世界の成り立ちを
その姿そのもので語ることが出来る芸術家なのだと
いまさらながらに思い知らされた。
それにしても「私の〜ラバさーん」と青観と志乃の静かな夜のコントラストは
実に上手かった。桜井センリさん、ご苦労様です(^^;)
追記2023年5月
2023年5月 播州龍野にて
K新聞記者のNさんのご紹介で、
青観が訪ねた志乃さんの家に実際にお住まいだった方にお電話でお話を伺うことができました。
青観の初恋の女性である志乃さんの家は、お屋敷が並ぶ下霞城の龍野公園のすぐ下手にありますが
1976年当時お住まいだった斎藤さん(84歳)を紹介していただきお話が聞けました。
彼女のお母さんは大山さんとおっしゃいましてお花やお茶をたしなむ文化人だったようです。
(大山さんと言う方がお住まいだったことは10年ほど前に私の取材ですでに判明していました。)
彼女が36〜37歳頃の1976年に山田組スタッフがまず使わせてほしいと来られて
撮影当日は山田監督などが玄関先に来られ1時間半くらい撮影されて帰られたようです。
ロケ自体は玄関先とあがりかまちでの撮影だけゆえに時間も長くかからなかったもようです。
宇野重吉、岡田喜子、榊原るみさんたちだけは
スタッフたちの準備が終わるまで家の中の座敷で待機していたそうです。
ものすごいギャラリーで家の裏庭やカメラに映らない場所には何十人という近所の人たちが
集まってきていたそうです。
山田監督とはあまり会えなかったそうで
撮影中は家の後ろの方でみんなで声を出さないように静かにしていたのだそうです
色紙など持っていなかったのでサインをもらう機会を失ったことがとても残念だとおっしゃっていました
下霞城というお屋敷の多い地区で古い土塀があって古い格子戸があったのが選ばれた理由だそうです
現在はもちろんお住まいはもう更地になり
青空駐車場になっています。
お屋敷の前の基礎の石垣や大きな石だけが残っています。
翌朝、梅玉旅館前
係長「ハァ…」と車によっかかってる。
たて看板 歓迎 池の内青観 車 寅次郎 両先生
旅館の人々素人さん。(たぶん実際の方たち)
課長「すんません急いでください、あまり時間がないさかいに」
旅館の従業員 「どうもありがとうございました…あ、どうも」
寅「はア〜…どうもありがとう、どうもご苦労さん」
ぼたん「寅さぁーーぁ〜〜〜あん!!」凄い服(^^;)
三味線 ぺぺぺぺぺぺ、ペポペポペポ
ぼたん「ハハハ…」
寅「よお、なんだ、ぼたんお前来てくれてたのか」
ぼたん「朝寝坊してしもて、慌てて飛んできたんや」
寅「そうか」
ぼたん「これ、お土産、夕べ寅さんが好きやゆうてた、あれです」
課長「おい、」と、焦っている。
寅「あ、すまねえな!」
課長「汽車の時間がないさかいに、急いでください」
ぼたん「乗って、乗って、またおいでね」
寅「ああ」
ドアが閉まる。
寅、ぼたんを眩しく見つめ…。
寅「おう、ぼたん」
ぼたん「うん!?」
寅「いずれそのうち所帯持とうな」よく言うよ(^^;)
ぼたん「ぷふふっ!ほんま?」
寅「おお」
ぼたん「嘘でも嬉しいわァ!」
寅「そうかい、エヘヘヘ…」
ぼたん「フフ!ウフフフフ、あてにせんと
待っとっからねー」
と、豪快に車を追いかけ両手を振り続ける。
寅「あ!あばよ―ッ!」
車が道を曲がる。
寅「なかなかキップのいい子だねえ、え?課長さん」
課長「はいー、あれが龍野芸者の代表です」
課長さんいいこと言うねえ(^^)
寅「はあ〜なるほどねえ」
係長「ハァハァハー…」
課長「君ー、あくびばっかりするんじゃないよ」
寅から、「所帯を持とう」と目の前で言われたマドンナは、
この第17作の「ぼたん」と第25作の「リリー」だけ。
ぼたんの時は冗談めかして、半分本気、半分言葉遊びの
気分だが、リリーの時は、本音がつい口から出たと言う感じだった。
同じように見えても寅の心の緊張感がかなり違う2つの名場面だ。
車はスピードを出して走っていく。
青観、前方を見て顔色が変わる。
志乃が見送りに道に出ている。
志乃は車が通り過ぎる瞬間に後部座席の青観を見る。
志乃はここで青観を見つけ、必死でその姿を追う
志乃を見つめたまま小さく頭をさげる。
画像の偶然で青観の横に志乃が寄り添うような…
なんとも穏やかないい顔。
志乃はひたすら
青観を見つめながら頭を下げる。
見る見る志乃の姿が遠ざかっていく。
もう見えなくなるその刹那
志乃、手をそっと上げ、小さくふる。
まるで青春の日の少女のように…
↓この画像の瞬間志乃さんの手がそっとふられる。
青観は確かにその行為を認識できる位置に
あったことがこの下の画像で分かる。
志乃さんがそっとふった手は青観に確かに届いたのだ。
この小さな画像では分かりにくいがこの時正に志乃は手をふった。
青観は確かにそれを認識できている。
スピードを出して走る車の窓から
小さくなっていく志乃の姿を
いつまでも見つめ続ける青観。
遠く離れて行く車をいつまでも
背伸びをして見送る志乃。
近所の人が挨拶をする。
志乃それに答える。
そしてまた、遠くを見つめ、
車が小さく消えていった先を見送る志乃
もう車はほとんど見えない。それでも志乃さんは見送る。
志乃さんはいったい何時間あの場所で青観を待っていたのであろうか…。
こんなひそやかで美しく昇華された愛の交流のシーンは
このシリーズで、この場面を置いて他にない。
昨晩、あんなに気丈夫に青観に自分の
人生観を語った志乃さん。
しかし、それでも、もう一目、もう一目でいいから
彼のあの姿を、彼のあの表情を、あの目を、
胸に焼き付けたかったのであろう。
もう2度と会うことはない二人なのかもしれない。
青春の哀しい思い出が長い歳月を経た後にほんの一瞬
彼女の前に蘇り、初夏の風とともに過ぎ去っていった。
志乃さんにとって、昨日と今朝の出来事は一生の出来事
だったのかもしれない。
彼女の人生もいつの日か終わり、
青観の人生も終わりを告げる。
それでも彼が渾身の想いで彼女を描いた絵は残る。
青春の想いの全てを込めて描いたその絵は
何百年も残っていくのだ。
ここにこのふたりの救いがあると思いたい。
そのことは、
人生の全てを絵に賭けてしまった孤独な青観の、
生きた確かな証であり、
そこに絵を描く人間としての冥利がある。
題経寺
さくら「一日中ボンン〜ヤリしてるんです。帰ってきて2、3日は旅の疲れでも
出たんだろうって大して気にもしていなかったんですけど、
来る日もくる日もそうなんですよォ」グチグチグチ(^^;)
御前様「いかん、いかん」
御前様十八番のセリフは「いかん」と「こまった〜」
さくら「おばちゃんが一生懸命作ってくれたおかずにも手をつけないで、
『龍野ではなー』って言い出すんです。
龍野ってのは青観先生にお供していた町の名前ですけどね、
兄の話を聞くと、そこの旅館では毎日すばらしいご馳走が出て、
しかも、毎晩芸者さんが来てたらしいんです。」グチグチグチ(^^;)
御前様「いかん!そらぁいかん!」こればっか(^^;)
さくら「あたしが心配しているのはひょっとしたらその芸者さんの
誰かを好きになったんじゃないかって…
いえ毎度のことですからもうなれっこ何ですけどねえ…
あら、満男だ…ごめんなさい、つまんないグチをお聞かせして
失礼します。…満男ー、こら」と走っていく。
満男「母さんただいまあー」
御前様「芸者かぁ…いかん」
とらや 茶の間
おばちゃん「寅ちゃん、寅ちゃん、ご飯だよ」
おいちゃん「へえ、へ、また龍野の話聞かされんのか」
社長「よっぽどいい思いしたんだろうな龍野じゃ
…あーできたできた」とカップめんを食う。
おいちゃん「なに食ってんだ?」
不思議そうに覗き込んでるおいちゃんの様子が笑えます。
おいちゃん、カップめん見たことないんだねえ〜(^^)
社長「オレの昼飯だよ」
龍野との対比に見事に一役買っているタコ社長でした(^^;)
寅「あ、あーあ、ん…」
おばちゃん「とらちゃん、おからが美味しく出来たからね、たくさん食べておくれ」
寅「へえ、え、おからってのはウサギの餌じゃなかったの?」
(ノ_< ;)うわっ、寅、凄いこと言うね、そりゃないよ。
おばちゃん「まあ、ひどい!
あんたが好きだと思って一生懸命」(▼ ▼メ)
寅はおからが好きだということを発見!
寅「へへへへ…ごめん、ごめん!あー知らない間に
贅沢が身に着いちゃって、そうここは龍野じゃなかったっけ」
おいちゃん「柴又のとらやだよ」
寅「柴又の貧しい団子屋じゃおからだってご馳走だよなあ」
とおかずを箸でぐねぐねまわす。(ーー ;)…納豆かな?
寅、ちょっと頬杖を付いて…遠くを見つめて思い出すように、
寅「あーあ…、しかし龍野じゃなあ…」
おばちゃん「またはじまった」
社長カップめんをすすってる。(^^;)
寅のアリア
三味線 ペンペンペン…と鳴り始める。
寅「夕飯前にひとっぷろ浴びる.
糊のきいた浴衣姿で座敷に戻る。
食膳には瀬戸内海の新鮮な
魚の生き作りだよ。ねえ。
小鉢に向こう付け、
蓋のものに椀のもの。
このへんに茶碗蒸が
出てたり出なかったり。
出たり出なかったり
酒は灘の生一本だよ。
品のいい中年の女性が、
『先生、今晩どないしはります?』
うーんん…、もうバカ騒ぎは飽きたねえ…
2、3人呼んでもらおうか
『はい、承知しました。』
パンパン…(手を打つ)
これからどうする?社長」
社長「知らねえよ…」カップめんをズズーッ。この対比なあ…(^^;)
寅「バカ野郎!ちゃんと人の言うこと聞けよおまえ、
こっちは一生懸命話てんのに。いいか
じゃあ、もういっぺん話してやらァ。」
聞きたくないって ヾ(^^;)
姐さんがポンポーンと手を打つ。
襖がスッと開いて
年のころなら二十七、八。
綺麗えぇーな芸者。
三つ指を突いて、
ちょっとしゃがれっ声でね」
ぼたん「こんにちは」
と、ぼたんの声
寅「よお、ぼたん、
お前なんかあったね。
めっぽう
綺麗…」
三味線 ペンペンペンペンペンペンペンペン!!!
天井をキョロキョロ見渡す。そんなとこにいないよ(^^;)
寅「いま、誰かがなんか言ったか?」
ぼたん「寅さん!!」
とらや御一同さん、店に来たぼたんを見る。
ジィ――…
寅「……」
寅「はあっ!」
寅「はああっ!」
寅「あははは!はッ!!ぼたァ〜ん!」
と、店の方へ走っていく寅。
スクリーン左から右へ走り抜ける寅が面白い。
おいちゃんたちポカンと店の方を見ている。
三味線軽快に ぼたんのテーマ
ぼたん「あーよかった!」
寅「うん!」とぼたんの肩をしっかり掴む。((゜O゜;)オオ!
寅に再び会いに来たいい年をした大人のマドンナに
寅が自分から積極的に触れるなんて寅にしては
ちょっと珍しい行動。リリーを除いては稀。
もっとも、マドンナから寅に触れたがるのはゴマンとあるが(^^;)
それだけ、リリー同様『同志的な気持ち』が強く出ているのかも
しれない。いわゆる、高嶺の花ではなくて、同じような人生の
悲しみと喜びを持つ仲間なのであろう。
ぼたん「せっかく来ておらへんかったら
どないしようかと思ってたんよ」
電話でアポ取れよな事前に(^^;)
寅「オラァちゃんといるよ、
おまえ、へへへ…。
そうか、
ところでなんだ今日は」
何と言うそっけない言い方(^^;)
ぼたん「あ、ご挨拶ややわあ、
私と所帯持つって約束したやないの」
寅「あ!、そうか、
オレそのこところっと忘れてたよ」
頭カキカキ (;⌒▽⌒)ゞ
ぼたん「他に好きな人でも出来たんやろう!
この薄情モン!!」
ぼたんも堅気の店でよく言うよほんと(^^;)
寅の袖をツネるぼたん。
寅「いていていていて…
痛いなぁ〜もお、ヘヘヘ」
寅は、リリーともよくこの手の駆け引きをする。
玄人には通用しても堅気にはちょっとドギマギする会話。
社長「てえへんだ!」
真に受けて工場へ知らせに行く。
こりゃ社長忙しくなるぞ〜(−−;)
唖然…
ビビッてまごまごしているおいちゃん、
おばちゃんたちに向かって
寅「おい、なにそんな所でぼけっと見てんだよ!え?
こっちきてあいさつしねえかい、えっ?
オレが深く言い交わした仲のぼたんだよ」
よおおく言うよ〜(^^;)
ぼたん「あ、フフフ。おじゃまします、
ぼたんです、どうぞよろしゅう」
おいちゃん「こちらこそ」ペコドギドキ(^^;)
おばちゃん「あ、は、はじめまして」ペコドギマギ(^^;)
寅「ほら、ぼたんだよ〜」
おばちゃん「は、あの…」真に受けて言葉が出ない。
おいちゃん「あの、つまりッ」
おばちゃん「あんまり」
おいちゃん「これが…」
おばちゃん「突然なんで」
おいちゃん「あれで…へ」
それじゃあ、なぁ〜んもわからんって(^^;)
寅「なにをフガフガフガフガ言ってんだよ、まったくぅ」
さくら、満男と一緒に帰ってくる。
寅「おっ、さくら、帰ってきたか、
いつかオレ話したろ、ぼたんだよ」
さくら「え〜〜!?」
ぼたん「いややわあ、寅さん、」と寅を手で押して
ぼたん「独りもんなんてうそばっかし言うて、
こんなかわいらしい奥さんが
いてはるやないの」
見りゃ分かるだろうに、普通間違わんってヾ(^^;)
さくら、驚いてお口ポカン (゜〇゜;)
寅「ええーっ!」と半分笑いながら
いや!違う違う違う!
これオレの妹だよ!」
さくらも首ふりふり(^^;)
さくらを寅の奥さんと本気で
間違えたマドンナはこのぼたんだけ(^^;)
ぼたん「また!そんなこと言ってごまかして」
ぼたんっていったいどんな人生味わってきたんだ(^^;)
寅「あれエエ!?お前本当だよ」
「あれエエ!?」の部分も半分笑っている。
ぼたん、さくらにお辞儀をして
ぼたん「ぼたんでございます。どうも始めまして…」
さくら「あの私、あの…」(^^;)
博や工員たちドドッと店にやってきて、
博「兄さん…」
寅「オッ博、ぼたん、これ、ぼたん、なっ」
ぼたん「よろしく」
博「どうも」
寅「これはね…」とさくらを指差すが、
博、寅が言い終わる前に、真顔で寅に向かって
博「まさか…冗談じゃないでしょうね」
博やの〜〜〜(^^;)
満男、ニコニコ笑ってる。
寅「何が?」
博「この方と所帯を持つっていうこと」
あちゃ(ノ_< ;)
寅「おまえふざけんじゃないよおまえ!!冗…」
ぼたん、さくらを見て「あ!!」
ぼたん「嘘嘘!そんなこと言うたら
奥さんに申し訳ございません」
空気読めよ、ぼたんヾ(^^;)
寅「奥さんじゃないって!!
こいつはね、こいつの…」
さくら「なん…あたくし…」
さくら小声でぼたんに
さくら「あの、私の兄なんです…」
工員たち入ってきて「寅さん!!」
寅「え!!?」
工員A「おめでとうございます!」
工員たち全員で
工員たち「おめでとうございまあ〜〜す!」
工員B「早く赤ちゃん生んでください!」
タコに完全に洗脳され終わってるね、工員君たち(^^;)
寅、切れて
寅「うるせえ!」
博をくるっと回して
お前がこういうのを
連れてくるからこういうことになるんだよ!」
博をバン!と押して、
博「えっ?ちょっと!」博ひっくり返って、ドン!
博「あ〜あ〜!」と倒れる。
工員たち「博さんになにを…」
工員たちタジタジ
寅「テメエらとっとと工場行って働け職工!!」
出た〜〜〜!!名セリフ\(( ̄▽ ̄;))/
働け職工!
この、誤解がどんどんエスカレートしていくあたりの
テンポの良さは見ていてほんと気持ちがいい。
渥美さんがあっち行ったりこっち行ったり実に爽快に
動きまくっている。ぼたんとさくらの絡みとの同時進行も
相まってごちゃ混ぜの面白みに溢れていた。
また、博の真面目くさった顔と寅の困りきった表情の対比も
いやに愉快だった。
それにしても、ぼたんはなぜ訪ねてきたのか?
こりゃ、なんだかひと騒動ありそうだ。
とらや 茶の間
一同大笑い
さくら「そりゃ、悪いわよお兄ちゃんがァー、誰だってビックリするわよねえ」
おばちゃん「他の人ならいざ知らず、寅ちゃんが所帯持つなんて言い出すんだもん。」
おいちゃん「オレなんかびっくりして心臓止まりそうになっちゃったよ」
一同「ハハハ」
ぼたん「ごめんなさい、私があかんの、変な冗談言うたりして」
寅「いや、謝ることなんかないんだよォ〜、
この洒落の通じない連中とさ、
明け暮れ一緒にいるオレの気苦労も分かるだろう」
さくら「洒落だなんて〜」くそまじめ(^^;)
博、笑いながらも
博「兄さん、言っていい冗談と、悪い冗談があるんですよ」超くそまじめ(^^;)
さくら「ねえ」
ぼたん、下を向いて笑っている。
寅「おまえもクソ真面目な顔してそういうこと言うんじゃないよォ、
何が楽しくて生きてんだい、えー、」
ぼたん、ニコニコ
寅「この二人は夫婦だからね、
夜なんかどんな話してんの?退屈じゃないかおまえ」
ぼたん「悪いわ、こんなえー旦那さんつかまえて」と寅を押す。
ぼたん「ね、さくらさん、お幸せやろ」
さくら、笑いながら博を見る。
寅「何だおまえ、こんな男好きなの?」
博「いやあ〜…」
と、さくらの顔色を伺って苦笑い(^^;)
ぼたん「ステキやわあ、誠実で思いやりがあって」
博「そ、そんなことありませんよ…」照れ照れ(^^;)
寅、目を細めて、しげしげと博を眺めている。(^^;)
博、照れ続けている。
さくら、クスクス笑っている。
ぼたん「さ、おひとついかが?」
と、博に酒をお酌するぼたん。
博「はあ…」
と言いながらチラッとさくらを見る(^^;)
寅、博を見て、ニヤついて
寅「赤くなってる…」
博、一層緊張する。
チラッ
一同「ハハハ」
ぼたん「ウチの妹にもこないな人と一緒にさせてあげたいわァー」
さくら、博をからかうような目で見ながら笑っている。
さくら「T LOVE YOU、…フフフ」とおばちゃんと笑う。
嘘みたいだが、さくらは本当に呟くように、
冗談めかして言っている。
それ聞いて、おばちゃんも笑っている。
さくらも言うねえ(^^)
おいちゃん「妹さんがいらっしゃるんですかー」とぼたんに酒を注ぐ。
ぼたん「へえ、大学に通ってる弟と3人で暮らしてます」
さくら「ご両親は?」
ぼたん「私が中学の時死にましてん」とお酒を飲む。
一同ハッとする。
ぼたん「それで、芸者になってしもたん、フフフ」
一同、頷く
ぼたん、博を見ながら
ぼたん「そやなかったら、私かて、
こないな真面目な人と今ごろは
幸せになっとーわよォー」とそのあと寅を見る。
↓ さくらの表情に注目!
寅「そりゃだめだ」
ぼたん「なんで?」
寅「おまえだったら3日で飽きちゃうよ。
こりゃ、退屈な男だからねえ〜」
博「そんなことありませんよ」
一同 シ〜〜〜ン
寅「!…」寅、唖然…(- -;)
ぼたん「…」
博、また気を使って
さくらをチラッと見てしまう。
チラッ
さくら、博の発言に敏感に反応して
さくら「あら、それどういう意味〜!?」と笑う。
48作中さくらが、博に、冗談ぽく、ちょっとだけ
やきもちを焼くシーンがここ。もっとも第14作の時も綺麗な
看護婦さんに会えなくなると、寂しがっていた博の背中を、
笑いながら手でバシッと叩く場面はあった。
一同 大爆笑
おばちゃん、笑いながらさくらの肩を押して、
さくらは博のほうへ倒れる。
博、タジタジ
博「そう言う意味じゃないんですよ」
社長、満男と一緒にやって来て、
満男、リボンシトロンジュース持って高速エスパー、宇宙エース…
かなんかのかっこうしている。
しかし、寅友たちと考察を重ねた結果ヘルメットのアンテナの先のぽっちりが
『マグマ大使のガム』君が一番近かったです。
でも、正規のものではなく、もちろんガム君のバッタもんでした(⌒∇⌒)
可愛い(^^)
下の方がマグマ大使のガム。
アンテナのぽっちりがポイント
社長「ぼたんちゃんいる?」
寅「何だ?タコ」
社長「いや〜今ね、工員たちと
宴会やってんだけどさ、
え、ちょっと、顔出して
くんねえかな」
ぼたん「あら?お座敷?」
一同、「…」
社長「いや〜みんな田舎者だろ?
芸者さん見たことねえんだよ、
ちょっと来てくれねえかな、頼む!」
柴又にたくさんいるじゃないか(^^;)第6作で社長も工員も
つるんで、とらやの座敷で芸者さん数人呼んで大宴会していた
ことを社長は忘れている。
寅「おい、何だお前の言い草は、えーっ!?、そら、ぼたんは芸者だぞ、
だけど今日はウチの客なんだからお前!」
さくら「そうよ〜」
ぼたん「いいから、いいから」
さくら「お疲れでしょう?」
寅「ここの家には際限がない…」
ぼたん「寅さん行こう、なっ行こう、行こ、行こ」
寅「行くのお?おっ」
社長「寅さんも行こ」
ぼたん「すいません」
さくら「ごめんなさいね」
博「すませんね」
寅「人が飲んでるところをよ」
ぼたん「ほな、ちょっと行って来ます」
おばちゃん「いってらっしゃい」
寅「どっちにしろつまんねえとこだぞ」
ぼたん「ええっ?」
社長「そんなこと言わないでよお」
社長「頭気をつけて」
ぼたんたち、裏の工場へ。
おばちゃん「芸者さんも苦労が多いんだろうねえ」
博「帰ろうか」
おいちゃん「そうだなあ」
博「満男、帰るぞ」
工場でどっと沸く
博「早くかたずけなさい」
さくら、ぼたんのそのような人生が
気にかかっている表情。
翌日 上野二丁目界隈
ぼたんが歓楽街を歩いてる
サロン バージン
ホステス大募集
日収最低 10000円 サロン クライマックス
ぼたんの上から何か落ちてくる
鬼頭の店を探しているぼたん。
看板
客引やデートクラブの女性の勧誘や
や脅迫っをうけたときは…連絡してください後日にな…
れます。その場で連絡して…に協力してください
上野…
浴室バス・トイレ・カラー…
ローリングベット・冷・
上野二丁目5番地…
どこからともなく森昌子の歌声
本編2回目
「♪それは先生〜」
寅のバイ 柴又駅前
おもちゃ
サンデーくん (くまさんドラマー)
ひかり号
コサカ・フルーツが映った!ということは
この日の啖呵バイはなんと柴又駅前!!
近すぎ〜!
十字堂
寅「この近くは墨田区の麒麟堂という大きなおもちゃ問屋が、
なんと驚くまいか僅か60万円の税金で、投げ出したシナモン
です!ね!本来ならこんなお安いお値段でお願いできる
もんじゃないが、こっちにも差し迫った事情があります!
バシ!ね!
浅野匠頭じゃないが腹切ったつもりだ!ね!どう!
こんないいものが1500円!
はい、ダメか、ほい、バシ!1000円だ1000円!
誰も持ってかない、よーし!バシ!800円!!
500円!かー!今日は貧乏人の行列だ!よーし!
バシッ!!300円だ!持ってけ!」
客「買った!!」
源ちゃん、品物を渡す
寅「カー、300円なあー!タダみたいなもんだよ!」
喫茶店 ニュープリンス(ビルの1,2階が喫茶店)
2階の喫茶店。
窓からぼたんが見える。
ぼたん、疲れた表情で、座ってメニューを
虚ろに眺めてタバコを吸っている。
夕闇迫る 柴又参道
豆腐屋のラッパ
高木屋の前を疲れた表情でぼたんが通っていく。
とらや 茶の間
日本酒の瓶を持ってきて、座っている。
社長「ほん〜の気持ちなんだって、とっても楽しかったんだから、ハハハ」
寅「よかった、そりゃ、よかった、うん」
おいちゃん「おかえり」
さくら「おかえりなさい」
寅「お!おかえり」
ぼたんが帰ってきたようである。
社長「おかえんなさい」
ぼたん「ただいま」
おばちゃん「おかえり」
寅「どこ行ってたんだい?」
ぼたん「ん、ええ人んとこ」
寅「フフフ、ハハハ、冗談上手いね!」
皆ニコニコ
社長「ぼたんちゃん、夕べはほんとにありがとう、
これお礼にと思ってね」
ぼたん「あらあ」
寅「今日はな、とらやでもって盛大に
盛り上がっちゃおう、ってことになったんだよな、」
皆頷く
寅「どんどんどん、ビール抜いてさ、上がんなよ!上がんな!さささ」
ぼたん「どっこいしょ」と座敷に上がる。
さくら、草履をそろえてやる。
ぼたん「あ、すいません」
さくら「どうしたの?疲れたような顔して」
ぼたん「はー、一日中、あっちゃこっちゃ歩き回って、
ちょっとしんどおて、あー、真っ黒なってしもて」
と足袋をハンカチではたく。
寅「なんだ、あっちゃこっちゃってどこ行ってたの?」
ぼたん「え、…お金のこと」
寅「なーんだ、んな、困ってんだったら早く言えよ」と腹巻からサイフを出す。
露骨やの〜。(^^;)
寅「いくらだ?」と指を舌で濡らして数えようとする
ぼたん「二百万円…」
さくらたち、唖然とする…
寅、ぼたんを見つめて、戸惑う。
一同シーン
寅「????」
寅、首をかしげてサイフの中をもう一度確認
わかんないだねえ寅には、
二百万円という金額のイメージが…(^^;)
???
ちょっと考えて、下を向いてしまう。
さくら「そんなに借りてどうするの?」
ぼたん「借りるんやないの、人に貸したん…」
ぴょえ〜〜〜〜!!!( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)
社長「ほー」とつい声を出してしまう。
社長は銭金の事は異常に敏感だもんなあ(^^;)
一同、ぼたんをまじまじと見てしまう。
ぼたん「2年程前にな、ええ儲け話がある言うて、
お客さんに言われて、つい、貸してしもたら、
それっきりになってしもて…」
社長、すぐにわかった様子で、下を向く。
ぼたんも最初、甘いお金儲け話に判断力が
鈍ってしまってちょっと軽率だったんだね。
このへんが、ちょっと哀しいところ。
ぼたん「フ…、で、その人が東京にいるいうことが
分かって、少しでも返してもらおう思て、
やって来たんや…」
さくら「で…、その人に会えたの?」
ぼたん「んん〜、それがなかなか…。
あ、いかん、
すんません、ちょっと電話お借りします」
おばちゃん、さくら「あ、どうぞ」
ぼたん、電話口でおいちゃんに
ぼたん「すいません」
おいちゃん「どうぞ…」
ぼたん、名刺の電話話番号を見ている。
茶の間の方で、小声で
寅「おい、さくら、おまえ、二百万円って
見たことあるか?」
さくら、苦笑いしながら
さくら「あるわけないでしょ」
寅「二百万円って言うとさ、下から積んだら
富士山の高さくらいまでいっちゃうのかな、高さ、」
富士山って…いくらなんでもめちゃくちゃな発想やな(^^;)
でも、一円玉で積み上げたら結構いくぞ。
一円=約1、4mm×2,000,000円
合計2、800メートル
富士山の中腹くらいまでは行く…。
博「1万円札200枚だから、こんなもんでしょ…」
指で数センチ(^^;)
寅「こんなもん?お前見たことあんの?」
そういう問題か?
博「ありませんけど」
寅「ないのに何で分かるんだよお前」
子供かあんたは(^^;)
と博を小突く。
さくら「シーッ」
ぼたん「もしもし鬼頭さんのお宅ですか?
あっ、鬼頭さんですか、は、あたしあの、龍野のぼたんです。
お久しぶりです。へえ、私今、東京来てますのん。
へえ、私ね、今日上野の店行ったんよ。
そしたらゴルフに行ってなさるとかで…、
へえ私ずっと待ってましたん。で、明日ね、どないしても
お会いしたいんやけど…。
あ、ああはは…、あのね、
もしもし、あなたね、そう言うけど、私かて
暇な体やないんですえ、
相変わらず、
芸者して働いてるんですよ。
嘘や!嘘!あんた嘘言うて
私を騙して!
一文無しが、なんでゴルフなんか
できるんですか!!
もしもし…もしもし!」
重苦しい空気が流れる。
一同、下を向いて黙っている
静かに流れるぼたんのテーマ
電話を切ったぼたん、
無理に笑い顔をしてテーブルにつく。
ぼたん「ごめんなさい、おっきい声だしてしもて」
さくら「悪い人なの?」さくら、そのまんまな発言(^^;)。
ぼたん「フフ…私みたいな目におうた人たくさんおるんや、フ…」
さくら、頷く
ぼたん「幽霊会社作って、大勢の人からお金集めて、
その会社倒産させて…、フフ、ドロンしたわけ。
フフ、私、あほやから、会社が潰れて貧乏してるんなら
しかたがないって思ってたけど、
ぼたん「ぜんぜんそうやないの。今日行ったとこかて
上野の大きいキャバレーやし、
その他にもバーとか中華料理店持ってて、
そいでいて会社が潰れたから一文無しや言うの。
フフ…そんなあほな話ってある!?
そんなことで泣き寝入りできると思う!?」
寅「……」
みんな、どう言っていいか分からなくて下を向くばかり
寅、ずっと恐い顔で下を向いている。
ぼたん「はあー、ごめんなさい!お食事んとこ…。
は、寅さん!気分変えてパッと飲もか!」
と無理やり笑う。
寅「うん、」と小さく頷く
ぼたん「フフ、私ちょっと着替えてくるわ」
と立ち上がって2階へ。
さくら、寅の顔を見て、どうしていいか
分からなくて沈んでいる。
おばちゃん「世の中には酷い男がいるもんだねえ」
おいちゃん「わけありだと思ってたよ…」
社長「今、思い出したんだけどね、オレの友達にね、
そういうのにひっかかったヤツがいるよ」
何かを考えている寅
寅、ドン!と机を叩いて、立ち上がり、
寅「オレ行ってくる!」
さくら「どこへ?…」
寅「決まってるじゃねえか、そいつのとこよ!」
博「ちょ、ちょっと待ってください」
と、止めて
博「行ってどうするんですか!?」
寅「簡単だよ!横っ面ふたつみっつぶっ
飛ばしてやら!チクショウ」
社長「そりゃいかん、そんなことしちゃいかん」
寅、博に止められながら
寅「じゃ、どうしたらいいんだよ」
博「兄さん!とにかく座ってくださいよ」と寅を座らせる。
博「いいですか、いいですか、
敵はそうとうしたたかですよ。
引っ叩いたりしたら、相手の思うツボですよ」
寅「じゃ!警察へ突き出そうじゃねえか!
え!出るとこ出て、法の裁きで裁いてもらうんだよ!!」
さくら「お兄ちゃん…」
寅「そうすりゃ、200万円。ぼたんのとこポーンと帰ってくらあ!」
おいちゃんもいきり立って、
おいちゃん「そ、そ、警察がいい!警察!」
おばちゃん「警察に電話しよう!110番!」
博「ちょっと待ってくださいよ〜!!
…そう簡単にはいかないんですよ」と寅に静かに話す。
寅「どうして簡単にいかねえんだ!!?」
さくら「…」
寅「いいかあ!若い芸者が血の滲むような思いで
騙し取りやがって、てめえはでかい家に住んでだ、
ゴルフかなんかやりやがって!それでも金は返さない、
こんな筋が通らない話ってあるか!
法律ってもんがあるだろう法律ってもんが!!」
社長「いや、その法律ってヤツがクセモンなんでね、
寅さんは素人で何にもわかんないだろうけどさ」
博「そうですよ」
寅「てめえら、なにガタガタガタガタ
言ってやんだ。
ぼたんが可哀想だと思わねえのか
よっし!やっぱりオレ行ってくるよ」
さくら「お兄ちゃん、おっきな声ださないでよ」
博「兄さん」
おいちゃん「な、寅、」
寅「ああ?」
おいちゃん「お前の気持ちはよ〜く分かるけどさ、
しかしなあ、こりゃあ、銭金のことだ、な、
ここは一つそう言う事によくなれてる誰かに
頼んで…
そうだ、社長がいい、社長に頼もう、さくら」
さくら「ああ、そうねえ、お兄ちゃん、そうして、それが一番いいわ」
博「事は複雑だからなあ兄さんのように
純粋で気持ちがまっすぐな人
にはちょっと…」
寅「分かってるよ!早い話が
バカで手が早いって言いてえんだろ!」
博「いえいえいえ、そんな…」図星 ヾ(^^;)
おいちゃんも、必死で手で否定のポーズ(^^;)
さくら「お兄ちゃん」
社長「寅さん、できるだけやってみるから、なっ」
偉いね社長、すぐさま引き受けるなんて。
さくら「お願いします」
おいちゃん「それでな、
社長じゃどうにもならなくなった時に、
いよいよお前が出て行くと、
なっ寅、これでどうだい?」
おいちゃんも気使うね(^^;)
寅「よしっ社長、お前、明日の晩方までにな、
200万円耳そろえてもってこいよ!
もし持ってこなかったら、タダじゃすまさねえねえぞ!」
社長「わかったよ…」
社長、凄い役仰せつかったねえ。
こりゃたいへんだぞ ヾ(- -;)
階段からぼたんが下りてくる。
おばちゃん「あ」
ぼたん「はっ、お待ちどう様、」
おばちゃん「いいえ」
ぼたん「さっ!寅さん、のもっ!ねっ!」
寅「そうか、よしよし、飲も!!」
寅「よっ、こい」
おいちゃん「どうぞどうぞ」
寅「ヘッへヘヘ…」
さくら「満男ご飯よ」
ぼたん「よいっしょっ」
寅「今ねえ」
ぼたん「んっ?」
寅「ちょっと話してたんだけどさ、」
ぼたん「ん」
寅「あの金の話だけど…」
ぼたん「あっ!もう、今夜はその話ヤメッ!
ねっ、パッとじよ、パッと!ねえ〜フフフ…」
寅「そうか?よしっ!じゃパッとやろうなっ!おい社長
お前何ふくれっつらしてんだい裏行って、
あの労働者みんな連れて来い!」
社長「おう」
寅「今晩ぜんぶで、ぱーっと飲もう!なっ!」
さくら「やだわあははは」
社長「おうおう」
寅「おばちゃん、ビールビールビール」
おばちゃん「はいよ」
寅「なにもたもたしてんだい」
ぼたん「フフ」
寅「なっ」
おいちゃん「はい」
寅「はいはい」
ぼたん「あらちょっと、あたしお酌しなきゃ」
さくら「いいのいいの」
社長、工員を呼びに工場へ戻りながら
社長「えらい役引き受けちゃったなあこりゃあ」
分かる分かる、社長。おいちゃんや寅は
理解できないかもしれないけど
がんばればできることと、できないことが
この世にはあるんだよね…。
朝日印刷 657−3168
翌日 赤坂
坂の上の住宅街
(赤坂七丁目と八丁目との間を南北に伸びる新坂)
赤坂7丁目4−18付近 新坂
ぼたんと社長の前を外車が横切る
小松犬猫病院
現在の新坂、ブロック塀が同じ
『新 坂』 の標識
『新坂』を上っていくぼたんと社長。
この坂が開かれたのは古く元禄十二年(一六九九)である。しんさかとも発音する。
ピアノの音がどこからか聞こえてくる。
新坂を左折してすぐの
高級マンション前
社長「は〜、本当にこんなところに住んでるのかい?」
現在のマンション。ほぼ形は一緒。
マンションの受付
ぼたん「あ、ちょっとうかがいますけど…
こちらに鬼頭さんって方おいでですか?」
管理人「鬼頭さん?」でた!佐山俊二さん(初代備後屋)
ぼたん「へえ」
管理人「あのーご主人ですか?それとも奥様ですか?」
ぼたん「あの、ご主人の方ですけど」
管理人「あー、30分ぐらい前にお出かけになりましたよ」
ぼたん、しまった!という顔。
社長「うーん…じゃ、奥様にチョッとだけ」
社長「お名前は?」
ぼたん「龍野の藤村です」ぼたんの名前は藤村。
管理人「藤村!?」
ぼたん「へえ」
管理人「あー駄目です、おいでになっても
お通ししないように言われてますから」
社長「しかし君、非常に大切な用があるんだけどな」
管理人「だめです、硬く言われてますから。
駄目です、絶対に駄目です!」
ピンポーン…
管理人「あ、行ってらっしゃい」
外人「オウ、ハロー」
管理人「バイバーイ」と言っったあと窓を閉めてしまう。
江戸川土手
スコットランド民謡「Comin' thro' the Rye」が流れる。
日本語名「ライ麦畑で出逢ったら」
作詞は「蛍の光」で有名なロバート.バーンズ(Robert
Burns/1759-96)
「故郷の空」で日本中に広まった。
相合い傘の札幌郊外のシーンでも使われた。
土手に寝そべって時間を気にしている。
ぼたんのことが気がかりで焦っている寅
寅「あ〜…」
源ちゃん「兄貴ィー!」
寅「オウ!」
源ちゃん「おみくじ引いてきましたで」
寅「よし!」
源ちゃん「あ!」と転びそうになる。
寅「凶!?なんだいこりゃあ!
金運なし
貸した金は返らず…
バカヤロウ!よりによって
どうしてこんなもん引いてくんだよ」
あちゃ〜〜〜!!! (((><;)
源ちゃん「わい正直に引いてきたんやけど」
んだんだ。不精だね、寅も。
自分で引けよなおみくじくらい(^^;)
寅「だから手前は気がきかねえってんだよ!
お前の頭にこれ、結んでやるからなァこの野郎!」
と。髪の毛におみくじをくくりつける。
松の枝か源ちゃんは ヾ(-_-;)
源ちゃん「あっいたた!イッテー」
蛾次郎さん…(TT)
さくら「おにいちゃーんなにしてんの?」と土手を自転車で来る。
寅「よお、オウ!」と、こける。
寅「あのなあ社長たちよおうまくやってるかなあ、
オレいてもたってもいられねえんだよ」
さくら「大丈夫よ社長さんだって苦労してるんだもの」
寅「今からでも行ってみるか」
さくら「行く先も分からないのに?
上手くいくように帝釈様にお祈りするしかないわよ」
さくらも、時々おばちゃんみたいなこというねえ(- - )
寅「ん、だなあ」
源ちゃん「あ、あッ!う・・・」
と滑りながら土手を登る。さくらがその様子を心配そうに見ている。
蛾次郎さん、このあと題経寺で
さらに水難の試練が待ってます…(^^;)
赤坂 繁華街
外堀通り近く
港区赤坂3丁目6番地 付近
「天津飯店」への道を聞いているぼたん
社長「なんだって?」
ぼたん「ここ真っ直ぐ行って右やて」
中華レストラン「天津飯店」
ショパン ワルツ第1番「華麗なる大円舞曲」が流れている。
ぼたん足袋の上から手をやって痛がっている。
ぼたん「あ、いたっー・・・はは、すれてしもて・・・
こんな格好してくるんやなかった」
社長「だいぶ歩いたからなあ・・・大変だねえ」
ぼたん「いいえ、社長さんこそ、お忙しいのに
本当にありがとうございます」
社長「気を使うなって…しかし遅いな、
いつもは2時に来るって言ってたんだけどな」
鬼頭がカウンターに顔を見せる。
鬼頭「よッ」とカウンターに挨拶。
店員に事情を話されて、ちょっと不機嫌になる鬼頭。
鬼頭、平静を装って
鬼頭「よおっ!しばらく!元気?」
ぼたん「おかげさまで」
鬼頭「よくここが分かったねえ」
ぼたん「へえ、私かて出てくるからには調べてきたよって」
社長「私こういうものですけども」
名刺を渡す
社長「この娘の知り合いで」
鬼頭「ああ、付き添いですか、
そりゃまあご苦労様、まあどうぞ」
座って
鬼頭「で、ご用件は?」何がご用件はだ!(▼▼メ)
ぼたん「・・・!!!」
社長が持っている封筒から「債券」を取り出し、
鬼頭の前に突きつける。
ぼたん「ちょっと…これ返してください!」
鬼頭「この会社つぶれたんだよ、だから私は一文無しだ、
うそじゃない、調べてもらっていいよ」
ぼたん「そうかてあんた!こんな大きい店持って、
大きいマンションにすんでんやないのッ!」
鬼頭「店は弟のだし、家は家内の物だよ、私の物なんか
なんにもない。まあ会社がつぶれてあんたには
気の毒な事をしたがねえ。私だって被害者なんだよ。
電話でも言ったようにね、あんたが私を
信用して金を出した。…それが間違いだとしか
言いようがないねえ…」
(▼▼メ)このヤロよくもしゃあしゃあと!!
ぼたん「ー!!くっ」と口を鬼頭を睨み、口をかみしめる。
鬼頭、ぼたんを冷ややかに見ている。
横から、ボーイが、来客を伝える。
ボーイ「○○の社長さんがお見えです」
鬼頭「ああ、ちょっと待っててもらって」
ライターでタバコに火を点けながら、
鬼頭「ふー…、社長さん、どうでしょうなあ、
事情はそういうことですがねえ」
社長「私も経営者の端くれですから
大体事情は飲み込めます。
しかしねえ、ぼたんさんが二百万の
金をどんな思いをして貯めたか。
それをなくしたことがどんなに
つらい事か。
そこんところを一つ
十分考えてやってくれませんか。
あなたには財産はない。
百歩譲ってそれは認めましょう!
しかし、貴方の奥さんはかなりの
財産をお持ちでしょう?
百万や二百万のお金を
融通する事が今のあなたには
全く出来ないとは
どーしても思えないないんです。」
鬼頭「女房や弟がいくら財産を持とうと
あなた方には関係ないでしょう」
(▼▼メ)このヤロどこまでシラを切るんだ!!
社長「しかしあなたねえ、こんな大きな…!!!」
鬼頭「とにかくねえ、この店でそういう話は迷惑だなあ」
ぼたん「…私、裁判所に訴えたる!」
鬼頭「あーどうぞどうぞ」
ぼたん「…!!」
鬼頭「私もねこんな所でごちゃごちゃ話されるより
そのほうがよっぽどいいんだ」
(▼▼メ)この〜〜!!
客と従業員がこちらを向く。
ぼたん「…」
あまりの悔しさに呆然と鬼頭を見ているぼたん。
とらや
寅「おい、さくら」
さくら「え?」
寅「ぼたんまだ帰ってきてないの?」
さくら、満男の浴衣縫っている。
さくら「お兄ちゃんがイライラしてお店出たり入ったり
したってしょうがないでしょう。お茶でも飲みなさいよ
今入れてあげるから」
寅「バカヤロウ、こちだってほっちゃって
お茶なんか飲んでられるかい!
あ、おまえちょっと駅まで様子見てこいよ」
さくら「大きな声ださないでよお客さんいるんだから」
寅「ったくタコの野郎どこウロウロしてやがんだ、この野郎」
客「お団子おいくら」 谷よしのさん登場!
寅「二百万円!」世界一高い団子だよそれじゃ(^^;)
客「……」
おばちゃん「どうもすいません」
客「なんですかあの人」まったく…(^^;)
おばちゃん「陽気のせいで」陽気って… ヾ(^^;)
客「おいくらですか?」
おばちゃん「五百万円です」
Σ(|||▽||| )がぴょ〜ん!!
寅が出した団子一皿世界一の
記録(二百万円)を、たった5秒で
塗り替えたおばちゃん(^^;)
さすがいい味出してるなあ。最高!
さくら「!!!」 ( ̄◇ ̄;)と目を白黒
おばちゃん「あ!いえッ!あの、五百円です。」
谷よしのさん、団子一皿で
破産するとこだったね。
暴力バー、ならぬ暴力団子屋だと
思ったんでは??(^^)
さくら、ほっとする。
おばちゃん「すいません」
今回のとらやのおしながき
草団子 100円
焼き団子 100円
こがねもち 100円
おでん 200円
ところてん 150円
みつまめ 200円
あんみつ 200円
サイダー 100円
ラムネ 100円
ジュース 100円
氷
イチゴ 150円
メロン 150円
冷蔵庫の中身 『雪印』
雪印 牛乳 コーヒー味 いちご味
缶ジュース メロン味 グレープ味
ピーチゼリー オレンジゼリー プリン コーヒーゼリー
紙パックのりんご牛乳 イチゴ牛乳 小パック
牛乳パック 500mlパック 1リットルパック
題経寺
山門の下を歩いてる寅。
寅「は〜…」
寅が門を抜けたとたんに水がかかってくる!
ジャア、ジャジャッ!
寅「誰だこのヤロウ!水ブッカッ…!」
御前様「あ、寅か、すまんすまん」
寅「御前様だって勘弁できねえよ、
二百万円だ、弁償二百万円」
それじゃチンピラのカツアゲだよ寅 ヾ(-_-;)
御前様「え?」
寅「二百万円」
もう何が何でも二百万円(^^;)
御前様「へへっ!悪い冗談をいうなよ」とホースを寅の方へ向ける。
寅「じょ、冗談じゃないよ!二百万円だよ!」
御前様「アハハハハ…」
源ちゃん、参道から走ってきて
源ちゃん「兄貴ー!!」と参道を走ってくる。
寅、はっと見る。
源ちゃん「タコと芸者帰ってきたで」ビニールのジュースを飲んでいる。
他に言いようないのか源ちゃん(^^;)
寅「!!」
寅「どうだった?」
源ちゃん「パーとちゃうか、
タコ泣いてたさかい」
寅、顔色が変わり
寅「どけっ!」
源ちゃんよろける。
源ちゃん「ああ!」
といいながら思いっきり御前様のホースの水にかかる。
御前様、ホースをどけようとしない!
またもや蛾次郎さんって…(TT)
文字通り体当たりの演技!
蛾次郎さんに敬意を表して再現してみました!
↓
NGを出すと蛾次郎さんが
何度もぬれて可哀想なので、
笠さん、必死で狙いをつけてました(^^)
とらや
おばちゃん「ありがとうございました」
寅が走って帰ってくる。
社長「寅さん!」
そのまま土間から茶の間に押しかける
社長「申し訳ない!!この通りだ!」
頭を下げる。
寅「だから言ったじゃないかよッ!この野郎!
どうせこういうことになると思ったんだい!畜生!」
と、社長に掴みかかる寅。
さくら、引き離して
さくら「お兄ちゃん!やめなさい!社長さんだって
一生懸命やってくれたんだから」
社長「寅さん、殴れよ、俺を殴って気がすむなら殴れよ」
寅「よおし、てめえ殴ってやろうじゃねえか!」
ぼたん「ちょっと寅さんお願い!ねっ!
やめて、ねっ!寅さんお願い!」と必死で止める。
寅、さくらに向かって
寅「大体お前がな!あんちゃんのこと、行くななんて
止めるからこういう事になるんだい!
なんでこんな役立たずやったんだ」
さくら「じゃあ、お兄ちゃん、自分が行ったら
何とかなったって言うの?
お兄ちゃん、本気で社長さん
より役の立つ人間と思ってるの?」
さくらしか言えない言葉だねえ……。
社長は親身になって、
一生懸命やってくれてたぞ寅
社長「オレだってなどんなにかあいつを
殴りたかったかわかんないよ!」うんうん(−−)
ぼたん「すんませんみなさんにご迷惑かけてしもて」
寅「一体どうなってんだい!!
二人で行ってェ!」
ぼたん「つまりな、あの人の店もマンションも自動車も
みな奥さんや兄弟の名義になっとって裁判に
持ち込んでも駄目らしいの…」
さくら「奥様の物も?」
ぼたん「…」悔しそうに頷く
社長「法律じゃそういうことになってるんだよ」
ぼたん「そやから、出るところに出よの一点張りよ。
裁判に持ち込んでも絶対負けんこと知っとんのね」
社長「知ってる 知ってる」
さくら「だってあなたが一生懸命ためたお金じゃないの」
さくら…悔しいけどそういう次元じゃないんだよ(ーー;)
ぼたん、首を振る。
ぼたん「そんなこと通用する相手やないの。
…鬼や」
もし、万が一、裁判で勝っても、二百万円だと裁判費用とトントンになってしまう。
このへんも、鬼頭は実に巧妙。こういう場合は一人一人が別々に闘っても駄目。
過去の被害者も含めた全ての被害者の人たちが組織を作って完全に一致団結して、
優秀でやる気のあるこういう計画倒産詐欺に詳しい弁護士を探し、その当時の状況、
発言を最大限思い出し、書きとめ、少しでも証拠になる物や人を集め、それと平行して
現在の鬼頭の生活ぶりを徹底的に長い期間に渡り、プライバシーの侵害にならない
ギリギリを狙ってひそかに調査し、別件の悪事が見つかれば、それもしっかり調査し、
できれば世論を見方につけるようなことも考え、全員で人生をかけて訴訟を起こさ
ないと始まらない。
おばちゃん「まあ……なんてひどい」
おいちゃん「そいつだけじゃねえ、そう言うのは
いっぱいいるんだよ。
頭のいいやつはな、
そうやって、貧乏人を足蹴にやって、
法律の網の目をくぐって手前だけ
上手い汁吸ってやがんだ!なあ社長」
ほんとほんと(−−)
思いつめた目で何かを考えている寅
社長「俺もそれを言いてえんだよ」
寅、スクッと立つ。
おいちゃん「どうした?」
寅、階段を駆け上がって行く。
さくら「どうしたのお兄ちゃん」
寅、下りてきて
寅「いいか、さくら、明日の朝、
車寅次郎はあんたの兄さんかと
訪ねるかも知れねえ。
そしたらおまえは、
確かにそういう兄はおりましたが8年前に
きっぱり縁を切りました。
今は兄でもなけりゃ妹でもありません。
そう言うんだぞ。
そうしねえと、満男が
犯罪人の甥になっちまうからなあ…いいな!」
さくら「お兄ちゃん、何のことだかさっぱりわかんないわ」
寅「おいちゃん、おばちゃん、
長い間世話になったなあ。
オレは行くぜ」
おいちゃん「ど、どこへ行くんだ!?」
寅「 決まってるじゃないか!
ぼたんをひどい目にあわした男の所だ!
ヤロウ、二度と表歩けねえようにしてやる!
裁判所が向こうの肩持つんだったら、
オレが代わりにやっつけてやる!
言っていることとやろうとしていることは、
社会的にはメチャクチャかもしれないが、
私には筋が通っていると思えた。
最後はぼたんの気持ちにどう答えてやるかだ。
どう人の気持ちに寄り添えるかだ。
結果や分析の問題でなく、人としての気持ちの問題だ。
寅、ふと、優しい顔になってぼたんを見つめ
寅「ぼたん、
きっと仇はとってやるからな。
あばよ!」
さくら「お兄ちゃん」
おばちゃん「どうする!?ねえ」
さくら「だって、行く先も聞かないでどこ行くつもりだろう」
あちゃ(><;)
おばちゃん「あら、本当だ、 バカだねえ」 ほんとに…┐(-。ー;)┌
参道
寅スッタスッタと行くが、途中で行く先を
聞かなかった事に気がつき、ツッと止まる。
寅、『しまった』という表情で
とらやの方を振り返る。
とらや
おいちゃん「ほっとけよ、また戻ってくるさ。…」
おいちゃん、ぼたんを見てはっとする。
泣いているぼたん
さくらも気がつく。
さくら「ごめんなさいね、騒々しくって」
ぼたん、首を振る。
おいちゃん「バカな男でねえ…」
ぼたん、もう一度首を強く振る。
ぼたんのテーマが静かにゆっくりと流れる
ぼたん「さくらさん」
さくら「ん…」
ぼたん「私…幸せや…。
とっても幸せ…。
もう二百万円なんかいらん…。
はう…うう…ううう
私……、生まれてはじめてや…、
男の人のあんな気持ち知ったん。
さくらさん、…
うっ……
…私、嬉しい!
うっ、ううう…ぐううう…」
寅の気持ちに打たれ泣きじゃくるぼたん。
ぼたんの号泣に圧倒され、
どうしていいかわからないさくら。
そして、また深く考え込んでしまう。
おいちゃんもまた、
泣きじゃくるぼたんを呆然と見ながら
どうすることもできず辛い気持ちに
沈んでいくのだった…。
号泣するぼたんのまわりで、なすすべもなく
ただただ考え込むさくらたち。
一緒に涙を流す社長。
人は結局、最後の最後はお金ではなく、人の心に救われる。
ぼたんは二百万円を失ったが、社長の深い情けを感じ、
寅の強い気持ちに打たれ、人の世の機微の深さを垣間見る事が
出来たのだろう。
こんなちっぽけな自分のために体を張って闘おうとしてくれる男が
ここにいる。そのことにぼたんは心底救われ、至福の涙を流す
のだった。
ぼたんの騙されたお金は戻らないし、悪者も法的に処罰されない
ことは見ていてとても悔しく辛いが、
一緒に、汗を流してくれた社長、共に悩み考えてくれたとらやの
人々、そしてなによりも、一歩踏み込んで、体を張って闘おうと
してくれた寅の心によってぼたんの辛く悔しい心は感動へと昇華
されていったのだろう。
この一連の場面は無力な庶民の姿を赤裸々に浮き彫りに
すると同時に、それでもいたわりあい、寄り添い、励ましあって
生きていく人の世の温もりと気高さを見事に謳いあげている出色の
名場面だ。
私はこのぼたんの涙を忘れない。
戻ってきた寅が店先にチラッと顔を見せる
寅チラチラ中の様子をうかがって、うろうろしながら困っている。
この時の渥美さんのパントマイム最高!
おいちゃんが発見!
おいちゃん「さくら、寅呼んで来い」
さくら「え?いた?」
おいちゃん「今引っ込んだ」パンダか(^^;)
おいちゃん「家に入れなくて困っているんだろ、行って来い」
帝釈天参道
走って参道を追いかけるさくら。
さくら、源ちゃんを見つけて
さくら「源ちゃん、お兄ちゃん見なかった?」
源ちゃん「今のバス乗って行きました」
さくら「どこへ?」
源ちゃん「さあ…」
さくら「バカねえ、どこへ行く気なんだろう?」
金町へ行くバスに乗った寅。
青観の住む本郷に行くなら京成本線でしょう・・・
本郷 池内青観邸 犬が吠えている。
青観玄関に出てきて
青観「いやあ、ハハッしばらくだなあ」
寅「ああ、」
青観「上がれよ」
寅「おりゃあ、ここでいいや」
青観「ええ」
寅「あのー・・・先生にちょっと頼みがあってきたんだけども
聞いてくれるかなあ」
青観「何だい?」
寅「絵を描いてくんねえかなあ絵!それもあの、
こないだんみたいんじゃなくてねえ、こういう、
でっかい紙に、あのいや、色使ったりしたりしてさ、
あの丁寧に描いたやつを。
あ、あ…つうことはさあ、こないだ龍野行った時に、あの、
ぼたんって芸者がいたろ?先生忘れちゃったかなあ、
こいつがね、大事に貯めた金をさ、悪い奴に
騙し取られちゃったんだよお
困っちゃってなあ、なんとか助けてやろうと思ったけどさあ、
俺には何んにもしてやれねえもんなあ
青観「…」
青観、頷いている
「それでね、先生に一発絵を描いてもらって、これ
叩き売っちゃう!」
青観「うん?」
寅「この前チョロチョロっと描いたやつだって7万円
だからな、こんなでっかい絵でもってよお丁寧に
描くんだから、これ高く売れるよ、
オレそれぼたんに持たして帰してやりてえんだ、な、
先生チョロチョロっと描いてきてくれ、
なっ、オレここでちょっと待ってるから」
青観「いやあ」
寅「ここで待ってる。」
青観「そいつは出来ないよ、気の毒だが」
寅「そんな事言うなよ先生、なっ?」
青観「はー」
寅「俺も最初っからさ、無理な頼みだってこと
わかってて、ねっ?分かっててお願いに来たんだからさ」
青観「ん……」
寅「先生ひとつ、ねっ、頼むよ、なんとか、ねっ」
青観「まあ、まあまあ、困ったなあ、う〜ん、つまりね、」
寅「うん」
青観「僕が絵を描くという事は、
こりゃね、こりゃ僕の仕事なんだ、
金を稼ぐためのもんじゃない、うん」
寅「そんな固いこと言わないでさあ」
青観「金が要るんだったらはっきり言いなさい、
少しなら何とかするよ」
寅「いや、そう言う分けにはいかねえよ」
青観「うん?」
寅「だって俺はゆすりたかりじゃねえんだからさ」
寅「現金で受け取るっててわけには行かないでしょう、
ねえ頼むよ、ねっ、チョロチョロっと描いてよ、
チョロチョロっとさ」
青観「う〜ん、君ねえ、絵描きが絵を描くってことは
真剣勝負なんだよ、チョロチョロっとかけるか」
寅「何言ってるんだい家きた時
チョロチョロっと描いたじゃないか!」
青観「いや、あれは」
寅「右から左に七万円だよいい商売だなあと思ったよ、
絵を描いて金稼いで何が悪いんだ?
高い金でもってうっぱらうからこういう
どでかい屋敷に住んでんだろう!?」
青観「うっぱらうとは何だ?僕はいっぺんだって
今まで自分の絵をうっぱらったことはないよ」
青観「いいか、え?僕の絵が売れるという事は…」
寅「描かないのか!!」
青観「…断る」
寅「結構だよ!」
寅「結構けだらけ猫灰だらけだい!」
寅「チキショウ!これだけ言っておくけどな
初めて上野の焼き鳥屋で会った時にこんな
大金持ちだとは思わなかったよ!」
寅「ヘン!いずれ身寄り便りのねえ宿無しの
爺さんだと思って可哀想だと思って
一晩泊めてやろうと思ってオレのうちに
連れて行ったんじゃなか!」
寅「もしあのままずっといてえって言うんだったら、
多少迷惑を辛抱しても1ヶ月でも2ヶ月でも
泊めてやってもいいとおりゃ思ったんだ!
…本当にそう思ったんだい!」
寅「それをなんだよ!働き者の芸者が、
大事に貯めた金騙し取られて、」
寅「悲しい思いしているって言うのに
てめえこれっポッチも同情してねえじゃねえか!
寅「手前みたいな奴こっちから付き合い断らい!
二度と手前の面なんざ見たかねえよ!」
寅「邪魔したな!この野郎!」
寅が去った後も動かず何かを思っている青観
時計。 キンコンカンコーン コンキンカンコーン キンキンカンコーン
奥さん「だあれ?おおきな声出して、やあね」
しょぼしょぼと2階へ上がっていく青観
結局寅はとらやで啖呵を切ったものの、場所も知らなかったせいもあって
鬼頭の家に怒鳴り込みに行く方向にはいかず、青観に絵を頼みに
行ってしまった。悪く言うと、「チョロチョロっと色を付けた絵を描いて
もらってぼたんに持たせたい」という安易な発想は結果オーライの
逃げのやり方といえなくもない。こういうやり方は本来の寅の気質どおり、
実に彼らしい行動だが、さっきぼたんに言ったカッコいい発言の流れから
するとお粗末だとも言えなくもない。そして、それほどまでにぼたんのことを
なんとかしてやりたかったのだろう。
しかし、それとは別に寅の最後の青観に対する啖呵は、めちゃくちゃな理屈
とは言え、よくよく考えると、青観が分かっていても見て見ぬふりをしてきた
画壇世界の裏の仕組みとからくりを寅が、暴いてしまったともいえる。
実際、純粋に絵一筋に歩む絵馬鹿ではあのような高級住宅街の邸宅には
住めないし、日本最高峰なんていう権威も備わらないものである。これは、
絵だけに限らずどの分野でも同じだとは思う。
寅はあの上野の焼き鳥屋の夜。青観の心に寄り添い、人として面倒をみたのだ。
この夜、青観は寅に寄り添う前に自分の絵のことだけを思ってしまった。
絵を生涯の仕事とした人間としては当然のことだが寅にはそれは関係ない。
寅の人生は人と共に歩む人生なのだ。
とらや
源ちゃん「オーライ!ここここ!タクシー来ました!」
ぼたん「どうもありがとうございます、ほな私」
おばちゃん「まあ、そうですか」
おいちゃん「ああ、お持ちしましょう」
おばちゃん「2、3日ゆっくりしてってくれればいいのに」
さくら「そうねえ」
ぼたん「いろいろありがとうございました、
このご恩は一生忘れません」
おばちゃん「まあ、なにをそんなあ」
ぼたん「寅さんに会えんで本当に残念やけど」
おいちゃん「どこいったんだいあのバカ本当に」
おばちゃん「ねえ」
ぼたん「さくらさん」
さくら「何?」
ぼたん「あのなあ、寅さん好きな人おるん?」
さくら「…あ、いや」
ぼたん「おるんやろ」
さくら「…」
ぼたん「フッ、その人に私から
よろしゅう言うといて、フッ、ク〜!」
さくら「あの…」
ぼたん「ほな、さいなら」
ぼたん「坊やありがとう」
源ちゃんっていつまでも坊やって呼ばれるタイプ。
リリーにも呼ばれていたし、ぼたんにも呼ばれていたし、
綾さんの家のばあやさんにも呼ばれていた。源ちゃんの持つ
「童心」が人々にそう呼ばせるのかもしれない。
おばちゃん「あの」
おいちゃん「お構いもしないで」
ぼたん「どうもありがとうございました」
電話が鳴る
おばちゃん「あ、いい、私いく」
おいちゃん「今度はゆっくりしていってください」
ぼたん「ほな、へえ、ごきげんよう」
さくら「お気をつけて」
ぼたん「ありがとうございました」
おばちゃん「はいはい、とらやです。
ええッ!寅ちゃんかい!?
ちょっと!さくらちゃん!」
さくら「さようなら〜…え?」
おばちゃん「ちょ、リボンちゃん!
ぼたんちゃん呼んで!」でた〜〜!!(^^)/
リリーの時もメリーさん、ジュリーさんって言ってたぞ
横文字カタカナに弱いおばちゃんでした。
さくら「何?何?」
おばちゃん「寅ちゃんからよ!」
さくら「もう間に合わないわよ!」
おばちゃん「ちょっと待って!」
おばちゃん「ちょっとお!」
おいちゃん「運転手さん!運転手さん!」
おばちゃん「ぼたんさーん!」
寅、受話器から声「もしもし!おばちゃん!もしもしーっ!」
上野駅 広小路口
旅の専門店 旅行センター
「19時8分…○○行き…」
さくらと源ちゃん寅の待つ食堂を探している
さくら「ちょっと、源ちゃん、こっちから行こう、こっちから」と言うが、
源ちゃん「こっち」とさくらの言う方向とは別の方向を指す。
源ちゃんは、寅の行動を良く知っている。
二人の歩いていく向こうに、画家猪熊弦一郎の壁画「自由」1951年が見える。
現在の上野駅壁画「自由」
上野駅構内 食堂
ひとり、ラーメンをすすっている寅
電車の騒音 ビュウ〜…ゴトンゴトン…ウゥー
さくら食堂に入ってくる。
食堂の時計は午後8時5分あたりをさしている。
アナウンス 7号線…でございます…列車…前方にお入りください…間もなく○○行き…
14時10分発常磐線側青森行急行十和田行き…発車いたします…間もなく、20番線から
…間もなく、10番線から20時…発、常磐線から○○です。特急208号、発車いたします
…常磐線から
さくら「お兄ちゃん」
寅「おう、さくらこんな遅く悪かったな、
あ、源公一緒に来てくれたのかそりゃよかった」
さくら「ぼたんさんくれぐれもよろしく言ってたわよ」
寅「うん、今ごろは汽車の中かか…」
さくら「泊まってくようにさんざん勧めたんだけどね、
どうしても今日中に帰るって
明日からまた、仕事なんだって…」
寅「ん…芸者家業も楽じゃないよな」
源ちゃん、割り箸で遊んでいる
寅「おう源公、ラーメンでも食って来い」
源ちゃん「あ、すません」
サイフ渡され源ちゃん食券買いに行く
さくら「お金あるの」
寅「バカにするなよおまえ…いい年してそこまで
妹に迷惑かけられねえよ。ヘヘヘ」
とラーメンをすする。
さくら「ねえ、いったいどこいってたの?」
イスの背もたれに体を持たれかけさせて
寅「どこ行ってたっていいじゃねえかよ。
どーせ、ろくなとこじゃねえや」
しかも当たり前ながら青観に断られてしまい、
どうしょうもない絶望感が今寅の心を支配している。
寅「さ、汽車の時間だ。うちのもんによろしく
言ってくれよ。な。
満男にな、先生の言う事よく聞いて、
勉強しろって言うんだぞ、ん」
さくら、寅の顔を見ないで
さくら「今度いつ帰るの?」
寅「うん…そうだな、
まあ、お天道様にでも聞いてくれよ」
さくら、立って
さくらは寅の顔を見ない
さくら「お兄ちゃん」
寅「ええ。。。」
さくら「ぼたんさんね…」
寅「ぼたんがどうしたの…?」
さくら「好きなんじゃないかしら、
お兄ちゃんのこと…」
寅、ちょっと下を向き、
何かを考える。
しかし、パッと元の表情に戻り
寅「おまえな,そんな顔して
冗談言うもんじゃないぞ…」
さくら「でもね、お兄ちゃん…」
寅、背中を見せて歩いていく。
源ちゃんからサイフを受け取り、
何か一言告げて出て行く
さくら、目で寅の後姿を追い、
そして、やるせない思いで
やがて下を向く。
入道雲 蝉しぐれ 夏真っ盛り
とらや
お馴染みおばちゃんのカキ氷姿!
シャカシャカシャカシャカ
おいちゃん、さくらに背中にお灸をしてもらっている。
おいちゃん「アチチ、熱いじゃねえか、ヤケドするじゃねえか」
さくら「熱い熱い言わないでよ、ただでさえ暑いんだから」
おばちゃん「お待ちどうさま、はい、どーぞ。どーぞ」
と、カキ氷をお客に二つ置く。
青観が店先に立っている
さくら、青観を見て、びっくりする。
さくら「おいちゃん…」
おいちゃん「え?」
さくら「あ…」
おばちゃん「あのー…」
青観「青観です」
おばちゃん「あ、そうそう、青観先生…。あら、どうしましょ」
おいちゃん、下着をはおりながら、さくら共々歩いてきて
おいちゃん「これはこれは、」
さくら「どうも、その節は大変失礼いたしました」とお辞儀。
おいちゃん「ちっとも存じませんでしたもんですから」と深々とお辞儀。
おばちゃん「お許しくださいまし」別に当然のことを言っただけやろヾ(・ε・。)ォィォィ
と3人とも深々とお辞儀(^^;)
どちらかというと恐縮し、礼をしなくてはならないのは
青観のほうなんだけどなあ…。
分かってますか青観さん(^^;)
青観「いやいや…」
青観「あの、寅次郎君いますか…」
おいちゃん「あのバカがまた失礼なことでも…?」
さくらも心配そうな顔
おろおろ
おばちゃん「ろくな教育も受けておりませんので
どうぞお許しくださいまし」
おばちゃん、なにもそこまで…ヾ(-_-;)
また3人で深々とお辞儀(^^;)
それじゃ、水戸黄門だって…。ヾ(^o^;)
青観「いや、そんなこっちゃないんだが…」
青観「留守ですか…?」
おいちゃん「へえ」
さくら「実は先月末旅にでまして、それっきり…」
青観「ん…」
おいちゃん「どんな御用でございましょうか?」
青観「いやいや、たいしたことじゃないんだが」
遠くを見るような目で
青観「そうか…」
青観「寅次郎君は旅か…」
羨ましいような懐かしいような青観の表情。
そして、少し寂しくもある…。
青観「じゃ、失礼。」
と店を出て行く
おばちゃん「あ、あの、お茶を…」
おばちゃん、さくらに、「ちょっと…」
と手で追いかけるように催促する。
柴又参道
柴又屋(とらやの位置)の隣の立花屋が映り、そのまた隣のあさだやが見える。
あさだやの看板に「Fanta、コカコーラ」
その隣に永井神仏具店
柴又屋の路地を入ったところにキングトルコ
大関 とらや
さくら、青観を追う。
セット撮影では2メートルの距離だったはずが、
参道ロケに切り替わった時点で10メートルに!
さくら追いつくのに大変。
さくら「先生」
さくら「龍野では兄が大変ご迷惑をおかけして
申し訳ありませんでした」
青観「えー、いやいや、かえって助かりましたよ」
さくら「そんな」
青観「フフ…」
青観「あなたでしたか、いつぞや金を返しにみえたのは」
さくら「はい、その節はほんとに失礼致しました」
青観、感慨深げに笑っている。
さくらのあの行為は立派だった。当たり前のことを
当たり前のように粛々と行うことのなんと難しい事か。
青観の奥さん、ちょっとはさくらを見習えよな(^^;)
さくら「あの…、わざわざお越しいただいて…
どんなご用だったんでしょうか」
青観「…んん…、ま、歩きながら話しましょ…」
さくら「はい…」
青観「お店の方はいいんですか?」
さくら「ええ、暇で暇で困ってるくらいなんです」
青観「ハハハ…」
青観「江戸川はどっち…?」と質問。
さくら、題経寺の方を手で指して
さくら「こっちです」
青観「あ…」
青観、右の方を指差して
青観「こっちが東か…」青観さんそっちは厳密に言うと南東ですよ。
さくら「いえ、こっちです。」と、左を指す。
オイオイさくらそっちは厳密に言うと北北西だぞ。
どっちかと言うと逆だよ。ヾ(^^;)
さくら「ですから東京はこっちです」と、後ろを指差す。
それは大体合っている。
地図で見ると参道から題経寺がほぼ北東
青観「ん…」
さくら、近所の人に「こんにちはァ」
ちなみに、この面白いやり取りは、その昔、
小津安二郎監督が映画「晩春」の中で
演出したパターンだ。山田監督は覚えていたんだね。
青観が呟いた「そう…寅次郎君は旅か…」は
このシリーズの全てを一言で言いあらわした見事な言葉だった。
宇野重吉さんのなんともいえない、あの遠くを見つめる目は、
この映画を見ている私たちの目でもある。
定住者は放浪者に憧れ、放浪者は定住者に憧れる。
しかし、定住者は放浪者の孤独を知らないし、
放浪者は定住者の倦怠を知らない。
両者は永遠に交わることはないのである。
青観は江戸川はどっちだとさくらに聞いた。
このことはラストでの寅の発言に絡む実に上手い伏線に
なっている。
播州 龍野 入道雲
あのしっとりとした龍野のテーマ曲が流れている。
揖保川で遊ぶ子供たち 後ろに鶏籠山が見える。
揖保川に架かる龍野橋を寅が暑そうに歩いていく。
橋でアイスキャンディー屋
寅、ちょっと戻って
寅「1本くんねえかい」
キャンデー屋、チョコレート味のアイスキャンディーを渡す。
寅、耳の裏と帽子の間に挟んだ100円玉を取り出し、
スッと渡して、キャンディーを受け取り、
釣りは要らないっていう仕草
寅「美味い」って呟いて
さっとカバンを持ち歩いていく。
こういう時の寅って、実にカッコいい。
さりげない仕草が堂に入っている。
こればっかりは渥美さんしかできない
見事な立ち振る舞いだった。こういうところが
この映画の懐の深さにもなっている。
氷屋がノコギリで氷を切っている
寅がアイスキャンディーを持ちながら暑そうに歩いていく。
ぼたんの家の路地
ひぐらしがカナカナと鳴いているなか、
ぼたんの家の路地にたどり着く寅。
ちょうど、折りしも、ぼたんが下駄を川の水で
洗いに外に出たところに出くわす。
キャンデーを捨てて、そっと足音を忍ばせてぼたんに近寄る寅
そっと忍び寄り
左を見て
右を見て
背中を突付こうとする寅
背中を指で軽く突付く。
ツン、
振り返るぼたん
ぼたん「……」
遠くで『金魚〜え〜、金魚〜』
寅、あらぬほうを見て、知らん顔
そのあと、ぼたんを見て、手で敬礼
寅「オス!」
ぼたん「いや〜…、寅さんやないの…」
寅「ニカッ」と笑う
三味線が ペンペンペンペンペンペンペンペン
ぼたん、上から下まで見て、
ぼたん「なんでえ…?」と感動している。
寅「決まってるじゃねえかよ。」
寅「おまえさんと所帯を持とうと思って
やって来たんだよ。」
寅「イッヒヒヒ」
ぼたん「……」
ぼたん、大きく表情が動き
ぼたん「ちょっと!ちょっと入って!」
寅「…!!」
寅「なんだよ、なん…」
ぼたん「いいから、ちょっと、はよ!!」
寅「…!!」
と、手をひぱって家の中へ連れて行く。
ぼたんの家の中
寅「なんだ、あいた!」
ダダダダ!っと
廊下を走って部屋に入る。
寅「なんだよおい、え?」
ぼたん「はよ!上がって!」
ぼたん「…!!」
ぼたん「見て!!分かる!?」
ぼたんのテーマが流れて
ぼたん「青観先生の絵や!」
壁に掛かった額装された真っ赤なぼたんの花の本画
寅「……!!」
ぼたん「ついこないだ送ってくれたんよ」
ぼたん「私、びっくりしてしもうて、
添えてあった手紙にはな…、
龍野でいろいろお世話になったから、
君に上げると、それしか書いてへんのんよ」
釘付けになってじっと絵を見ている寅。
ぼたん「でね、私市長にこの絵を見せたん、
そしたら市長さんもびっくりしはって、
200万円だすからこの絵を譲ってくれ言わはったん」
ぼたん「けど私譲らへん!絶対譲らへん!」
ぼたん「1000万円積まれても譲らへん!」
ぼたん「一生宝もんにするんや!
けどなんで…??」
寅「ぼたん!」
ぼたん、振り返って「??」
寅「ちょっと来い!」と家を飛び出す。
細い路地をめちゃくちゃに走る寅
ぼたん「どこ行くん!?」
寅「ぼたん!」
と迷路のような路地を走っていく寅
外の黒板
夏休みのくらし
一、安全なくらし
正しく自転車に乗る。
交通ルールを守ろう。
二、健康なくらし
早寝早起きをする。
10時まで外に出ない
三、一日一善
自分に合ったものを進んでしょう。
四、毎日するもの
かんじ、にっき、
必ずするもの
復習、読書
寅、少し大きな道に出て
空を見上げる寅
寅「ぼたんよお!!」
ぼたん「なんや、どないしたん!?」
ひぐらし カナカナカナ
遠くで風鈴屋
ぼたん走りながら
ぼたん「えー!!??」
ようやくぼたん追いついて
寅「おい!東京どっちだ!東京!」
ぼたん「えー?東京?」
寅「東京!!」
ぼたん「えー、こっちやろか?」
寅「こっち、こっちか?」
ぼたん「あ、ちょっと待って…こっちや、」
寅「え、なんだ」
ぼたん「あ、ちゃうちゃう、え〜〜っと」
寅「どっちなんだよ!はやくしろよ、おい!」
ぼたん考え込んでいる
寅「どっちなんだよ」
ぼたん「やっぱりこっちや!」と手をパン!と打つ。
寅「こっちか」と静かに頭を下げる。
ぼたん、寅の前を歩いて、
ぼたん「寅さんどないしたん???」
寅「人の前に立つなよ!」とぼたんを払いのける。
ぼたんよろけて
ぼたん「ァ…、ほんまにもう…」
寅、醤油の樽に上り、
パンパン!と、かしわ手を打って、両手を合わせ
寅「ハイ…」と目をつぶる。
カナカナカナカナカナカナ…
寅「先生…、勘弁してくれよ。
オレがいつか言ったことは悪かった…、
水に流してくれ…、
この通りだ…」
と頭をもう一度下げて両手を合わせる。
テーマ曲ゆっくり盛り上がっていく。
寅「先生、ありがとう。
ほんとうにありがとう」
手を合わせ、目を閉じゆっくりと頭を下げる寅
醤油の大樽を異動させている従業員たち
ぼたん「ちょっとちょっと、東京はこっちやったね」と指差す。
従業員役でスタッフの露木さんが出演(後の備後屋)
従業員A「東京?こっちやろ?」と逆の方向を指差す。(^^;)
ぼたん「え!?」
従業員A「なあ、東京こっちやな」
従業員B「そや、こっちや」
カメラ、道とそのまわりの町をゆっくり俯瞰していく。
ぼたん「寅さん寅さん!東京こっちやて!」
寅「おめえ、こっちだって…」
従業員A「こっち」
寅、頭を下げて
寅「どうも」と逆を向いて
また、手を合わせて拝み始める寅
従業員C「おい、東京はこっちやで」とまた、今度は逆の方角を指差す。
寅「え!どっちなんだよ!」
従業員たち口々に逆を言い合っている。
追記 2008年10月
ぼたんと露木さん、
どちらが東京方向かは2008年10月の『寅福さん』の考察で、ほぼ明らかになった。
『寅福さん』は、私のサイト制作でもしばしばお世話になっている熱烈な寅さんファンの方で、
ご自分のブログでもパワフルな『寅福ワールド』を展開されている。(リンクのページ参照)
彼によると揖保川は寅たちが立っていた場所の南を流れている、ということ。
それゆえ、ぼたんが指し示し、寅が樽の上に乗って手を合わせていた方向は地図的には
川を下(南)としたら右方向、つまりどちらかというとだいたい東に向かって
手を合わせていたのだ。
スクリーンではちょうど画面の上のほうに川が流れているが、
地図的にだけ考えればカメラの写し方が地図とは逆だったというわけだ。
で、露木さんの指し示す方向はどちらかというと逆(^^;)。
寅は最初の方角でまずまず正しかったのだ。
寅、樽から降りて、
寅「おめえたちからかってるんじゃねえのか!!え!」
と駆け寄る。
ぼたん、寅に突き飛ばされて
ぼたん「いつっ!」
寅と従業員たちのドタバタが俯瞰映像でどんどん小さくなっていく
赤とんぼ荘からのカメラ、古い蔵のある町並全体と揖保川を写していく
今、龍野は夏真盛りである。
音楽最高潮に達し、終の字幕
青観は絵を描いた。
絵描きにとって絵を描くことは仕事だと言って、
寅の頼みをにべもなく断った青観。
絵を描くというのはある意味とてもエゴイスティックな行為だ。
寅は、そのことを瞬時に見破り、啖呵を切る。
やがて、時が流れ、青観は寅のその言葉を心で受け止め、
「絵描き」としてでなく「人間」として寅に答えたのであろう。
絵を描くなんて行為は最後のギリギリでは人にとって2次的な行為である。
最後は人は人に寄り添い、人と共に歩むのである。
青観は最後の最後に寅の気持ちを新たな気持ちで受け止めたのであろう。
そしてその気持ちを知った寅もまた、新たな気持ちで東京に向かって手を
合わせ、青観の心意気に感謝したのだった。
寅が龍野で遠く東京を想って祈っている正にその時、青観はさくらと共に
江戸川の風に吹かれ、遠く寅次郎を想っていたのではないだろうか。
なんだかふとそんな気がするのである。
終
出演
渥美清 (車寅次郎)
倍賞千恵子 (諏訪さくら)
太地喜和子 (ぼたん)
大滝秀治 (大雅堂主人)
桜井センリ (観光課長)
寺尾聰 (脇田係員)
下絛正巳 (車竜造)
三崎千恵子 (車つね)
前田吟 (諏訪博)
中村はやと(諏訪満男)
太宰久雄 (タコ社長)
佐藤蛾次郎 (源公)
笠智衆(御前様)
岡田嘉子 (志乃)
宇野重吉 (池ノ内青観)
スタッフ
監督: 山田洋次
製作: 島津清
企画: 高島幸夫 、小林俊一
原作: 山田洋次
脚本: 山田洋次 朝間義隆
撮影: 高羽哲夫
美術: 佐藤公信
編集: 石井巌
録音 : 中村寛
照明: 青木好文
スクリプター: 長谷川宗平
音楽: 山本直純
助監督: 五十嵐敬司
1976年(昭和51年)7月24日
上映時間 109分
動員数 168万5000人
配収 9億1000万円
今回の更新は11月22日でした。
今回で「寅次郎夕焼け小焼け」は完結です。
次回はこのシリーズで最も清らかで哀しい物語、
第18作「寅次郎純情詩集」です。
第1回更新は12月4日ごろの予定です。