バリ島.吉川孝昭のギャラリー内
第19作 男はつらいよ
1977年8月6日封切り
アラカンさんと渥美さん、奇跡の競演 ザッツエンターテイメント
この第19作「寅次郎と殿様」は渥美さんはまだまだ若く、実によく動き回ってくれる。特にこの作品では目の輝きが強い。
ちょっとしたギャグも目が覚めるように鮮やかだ。
そしてもちろん、この作品はなんといってもアラカンさんこと嵐寛寿郎さんと渥美さんの共演である。
世紀のスーパースターのアラカンさんの可笑しみと純情がこの作品のメインだ。
アラカンさんを『心の師』と尊敬してやまない渥美さんにとってこの競演はどんなに嬉しかったか。
渥美さんの少年時代、青年時代はこのアラカンさんの映画と共に歩んだといっても過言ではないのだ。
アラカンさんと共演している時の渥美さんは実に目が輝き、嬉しそうだったし楽しそうだった。
浮世離れした二人がかもし出す御伽噺。そして超現実主義の執事である三木のり平さん。
こののり平さんが上手すぎるくらい上手い。あのアクはのり平さんならでは。
しっとりとした伊予大洲の町で繰り広げられるヤンチャな最高の3人の絡みである。
見事なザッツエンターテイメント。
とにかくアラカンさんは何を演じても絵になる。
甘露じゃの〜っとラムネを飲むアラカンさん。三木のり平さん相手に刀振りかざして大立ち回りを演ずるアラカンさん。
手品使いのような格好でとらやに訪ねてくるアラカンさん。リヤカーでとらやに連れてこられるアラカンさん。
さくらのことを「ムスメ!聞いておりますか!」と呼び捨てにするアラカンさん。鞠子さんと二人、涙をハラハラと流すアラカンさん。
そして、風吹く夕暮れの江戸川土手を鞠子さんと二人して歩いていくアラカンさんの後姿。
特に私が好きなシーンはラムネを不思議そうに眺めながら中のビー玉をコロコロと転がして喜んでいるあの目だ。
アラカンさんは少年の目をしたスーパースターなのだ。
人生で遅すぎることはない和解の時
今回のマドンナ堤鞠子さんは、そんなアラカンさん演じる伊予大洲の殿様(藤堂家)の一族の末の息子さん(藤堂克彦)と恋愛結婚をした。
鞠子さん自体はそのようなことを若くして亡くなった夫から少しだけ聞かされていただけで、別段なにも心をかけることもなくつつましく
二人して東京で生きていた。しかし、殿様の方は、身分が違うと考えたのか結婚時に猛反対し、勘当し、息子の生前はこの夫婦と一度も
会わなかったのだ。そのせいで、鞠子さんは、全く藤堂一族のことを知らずに今日まできてしまった。殿様はこの若い夫婦の結婚に
反対したまま、彼女の夫である息子は亡くなってしまったのだ。そのことを殿様は後悔して、人目会って鞠子さんに謝りたいと願い、寅に
彼女を探してくれるように頼む。そしてその願いが奇跡的にかなってふたりはとらやで初めて対面する。
殿様「一目お会いした時から、わたしにはよく分かりました。
あなたがそばにいてくださって、克彦はどんなにしあわせ…」泣き続ける殿様
鞠子「お父様、あたくしもね、...あたくしも幸せでしたよ」と涙を流す。
短い言葉の中にお互いの心のふれ合いが急速に広がりお互い感慨の涙を流すのであった。
もっと早くこの二人が出会っていたら…と思ったのは私だけではないだろう。
夕暮れの中、江戸川土手を歩いて去っていく二人の姿は、
なんとも美しく人生に『遅すぎる』ということなどないのだと私に教えてくれた
印象深いシーンだった。視覚的にもこのシリーズ出色の美しいカットだったと言えよう。
この場面こそがこの作品のクライマックスであることは疑う余地が無い。
人間の出会いを通して、人生での懺悔と和解のチャンスはいつでもどこでもあることを殿様も
鞠子さんも、そして見ている私たちも思い知ったのだった。
ただ、この第19作はアラカンさんと寅の色を崩したくないために、マドンナと寅の緊張感が弱い。
真野響子さんは若くとても美しいが、ちょっと渥美さんとの空気が違いすぎる。
ここが惜しい。実に惜しい。
ちなみに「鞠子」と言う名前は第15作「寅次郎相合い傘」で早乙女愛さんが先に使っている。
もちろんパパの娘さん役。また、堤という苗字はタコ社長の第6作「純情篇」での苗字だ。
冴え渡るダブル騒動
またこの第19作は序盤に大笑いネタ「こいのぼり」「犬のトラ」騒動がある。
季節を絶妙に捉え広がりを持たせながらこれでもかと騒動に巻き込んでいく。
山田渥美コンビのテンポのいいコント作りはすでに名人芸の域に達している。
そのあと、アラカンさんが手品使いの格好で登場してからもさらに笑いの連続である。
柴又に再び寅が戻ってからもアラカンさんとの絡みで三度四度笑いの渦が沸き起こるのである。
特に鞠子さんを寅が探す場面はこのシリーズでも最高級の抱腹絶倒ギャグだ!
美しい鞠子のテーマ曲
この第19作の鞠子のテーマがなかなか優しく美しい。このテーマ曲は第35作「恋愛塾」の若菜のテーマとして
アレンジされることになる。
十作台最後の作品、物語も芝居もギャグも冴えに冴えた佳作である。
マドンナとの繋がりが成功していれば間違いなく私はベスト24に入れただろう。
それほどにも渥美さんは表情も動きもこの作品では抜群である。
■第19作「寅次郎と殿様」全ロケ地解明
全国寅さんロケ地:作品別に整理
それでは本編をどうぞ。
松竹富士山
今回も夢から
もちろん本編の夢は寅の鞍馬天狗!!
時代劇 江戸幕末 京都
寅の活弁
徳川三百年、太平の夢ようやく破れ、
倒幕の志士相次いで集う京洛の地に、
忽然と現われし、熱血の士あり。
その名を鞍馬天狗。
鞍馬天狗が「国民」の前に姿を現したのは、関東大震災の翌年、
大正ロマン華やかな大衆文化の時代。
鞍馬天狗は大衆の支持をうけ続け、すべてのマスメディアで登場し、
まさに「国民」的ヒーローとして活躍した。
『鞍馬天狗』シリーズは戦後の高度成長期のただ中の1965年まで、
四十二年の長きにわたって書き継がれ、全四十七作品が誕生している。
舞台は幕末維新期、
天狗は倒幕派の志士である。
鞍馬天狗は反権力を貫き、体制を変革しようとする
最先端の個人主義者・自由主義者だった。
按摩(座頭)の笛の音。
橋の向こうから杉作役の中村はやと君が走ってくる。
杉作「おじちゃーん!」
鞍馬天狗(寅)「おお!」
杉作「天狗のおじちゃーん」
鞍馬天狗、杉作を抱きしめ
鞍馬天狗「杉作、よかった…。
どんなにおじさんは心配していたかしれないんだよ」
杉作「うん」
さくら、紫の頭巾をかぶりながら、提灯を持ち鞍馬天狗に近寄る。
鞍馬天狗「どなたかは存ぜぬが、杉作の危ういところをお助けくださって
礼を言いますぞ」
さくら、鞍馬天狗を見ながら、静かにお辞儀。
鞍馬天狗「ではこれで…」
さくらは寅を見て長年探していた兄だとピンと来る。
さくら「もし、…」
鞍馬天狗「なにか」
さくら「もしやあなたは、江戸は葛飾柴又の生まれではございませんか?」
寅「え?そういうそなたは?」
さくら「妹のさくらでございます」
寅「さくら…」
さくら「兄上様、お会いしとうございました」と泣く。
寅「さくら」
山岳党の一味、按摩(座頭)に扮して聞き耳を立てている。←タコ社長(太宰さん)
にやっと目を開けるタコ社長。
さくら「お許しくださいまし、
それとは知らずに兄上様はもう、山岳党の罠に」
山岳党は京都の秘密結社。
鞍馬天狗「なに!?」
振り向くと、橋の向こうから大勢の山岳党の輩が歩いてくる。
さくら「早くお逃げください、あとは私が…」
鞍馬天狗「さくら、杉作をしっかり抱いていなさい」
さくら「はい!」
ボス「フフフフ!鞍馬天狗、今夜こそ、君には死んでもらうぞォ」
夢の悪役でお馴染み吉田義夫さん。
吉田義夫さんの整理箱
第8作 「寅次郎恋歌」 四国 雨の日の 坂東鶴八郎座長
ラストでも甲州路で再会
第9作 「柴又慕情」 夢のシーン 昭和 悪徳借金取り
第10作 「寅次郎夢枕」 夢のシーン 昭和初期 地元の高利貸しの親分
第11作 「寅次郎忘れな草」 夢のシーン 江戸後期 柴又村の寅の父親
第12作 「私の寅さん」 夢のシーン 大正 柴又村 悪人の、だあ様
第13作 「寅次郎恋やつれ」 寅の横に座る電車の乗客
第15作 「寅次郎相合い傘」 夢のシーン 奴隷船の奴隷商人のボス
第16作 「葛飾立志篇」 夢のシーン 西部劇の中、悪人ガンマン
第18作 「寅次郎純情詩集」 夢のシーン 北アフリカにアラビアのトランスを
捕まえに来た男。
A信州別所温泉での坂東鶴八郎座長
『不如帰』の武夫役
第20作「寅次郎頑張れ!」 夢のシーン 大金持ちになったとらやの執事
Aラストで寅と軽四トラックで再会する坂東鶴八郎座長
『ああ無常 レ.ミゼラブル』のジャン.バルジャン役
第22作「噂の寅次郎」 夢のシーン 江戸時代 目の悪いさくらの親父さん。
第24作「寅次郎春の夢」 京都での坂東鶴八郎座長 『蝶々夫人』のピンカートン役
第26作「寅次郎かもめ歌」 夢のシーン 天狗のタタリと偽ってさくらをせしめようとたくらむ悪人
鞍馬天狗「わたくしもあなたを斬るでしょう。
それがお互いの宿命というものです」
上條さん「生意気なことを言いやがる!」
源ちゃん「かめへん!いてまえー!!」
と一同刀を抜く。
いきなり斬りかかって行った一人がやられる。
「うわあああ」
寅「諸君、来たまえ。
ここが地獄の門です」
鞍馬天狗ってこういう言い回しなんだろうな(^^;)
軽快な音楽に乗り、チャンバラがくりひろげられる。
寅の活弁
東山三十六峰、草木も眠る丑三つ時、
たちまち起こる剣劇の響き、
次々にやられていく山岳党の輩。
「やられたー」
時々頭巾が顔にかぶさり目が隠れる鞍馬天狗。ちょいギャグです。
山伏風の大男役の上條恒彦さん、槍を橋の欄干に
突き刺してしまって、
そのまま欄干ごと引っこ抜き、自分の頭に当たって倒れていく。自滅(TT)
上條さん友情出演なのでノンクレジットです。
源ちゃん鎖鎌を持ちながら
源ちゃん「くそお…」
鎌を飛ばそうとして、自分の首に絡まりつき 自爆…バカ(TT)
源ちゃん「しまったー…」
またもや鞍馬天狗の頭巾が顔にかかって
必死で取り外しては闘い続ける。続ちょいギャグです。
タコ社長の座頭、
気合とともに射合い抜き。
しかし…
タコ「間違えて自分切っちゃった…」と、同じく自爆… ほんとバカ(TT)
鞍馬天狗、タコの頭小突いて
鞍馬天狗「バカめ!!」ほんと(^^)
タコ「あ〜〜〜」と倒れる。
音楽、突然シリアスに流れ始め、
鞍馬天狗「さくら…、杉作は無事か」
さくら「大丈夫よ」
さくら、鞍馬天狗の足からモモヒキが見えているのを見て
さくら「それより、どうしたのお兄ちゃん、モモヒキなんかはいて」
鞍馬天狗情けない顔で
鞍馬天狗「ちょっと風邪ひいてんだよ」としょぼくれる。
その直後、顔が一変し、
鞍馬天狗「来い!!」と刀を構える。
緊張するさくら。
山岳党ボス「おおお!!」
太鼓が速く鳴り響く。
お互い一太刀で胴切りを狙い、
ボスの切っ先は、払うように下から弧を描くが、
間合いが遠く切先が僅かに鞍馬天狗に及ばない、
半呼吸後に、間合いを詰め、
踏み込み、片手胴でボスの胴を斬る鞍馬天狗。
勝負あり!
寅「杉作!馬を呼べ馬を!」
駆ける馬(何かのフィルムからの転用だね)
穴が開いたモモヒキ。
馬に乗っている最中にいよいよ頭巾の前がずり落ちて、
寅「さくら!」
さくら「え!?」
寅「目が見えない!目が見えない!」
さくら「え!?」
寅「眼が見えない!目が見えないぞ!…」
さくら「え!?なに!?」
寅「眼が見えない!目が見えない、さくらァ!…」
国鉄(JR)予讃線 下灘駅
通称「海線」にある双海町(ふたみ)の下灘駅(しもなだ)
ホームのベンチで寝ている寅
寅の腕を叩く駅員さん。
駅員「お客さん。お客さん」
寅、「ん、んん…」と呻きながら、はっと目を開き、駅員を見る。
駅員「上り(のぼり)が来ますよ」
寅「え??」
駅員「上り(のぼり)が来ますよ」と、指を刺す。
起き上がって両手を広げて伸びをする寅。
背広を肩に掛け、かばんを持って海の見えるホームを歩いていく寅。
ホームをゆっくり歩く寅と駅に入ってくる汽車を
高台からカメラが望遠で撮っている。
ホームから国道を挟んですぐ伊予灘の海が広がっているので
ホームからは広い海を眺めることができる。
駅のホームのベンチで、うなされている寅。
(このベンチは青春18きっぷのコマーシャルでお馴染み)
【1998年・冬】
『駅に着いた列車から、高校生の私が降りてきた。』
【1999年・冬】
『思わず降りてしまう、という経験をしたことがありますか。』
【2000年・冬】
『前略、僕は日本のどこかにいます。』
タイトル 男はつらいよ 寅次郎と殿様
口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。
今作品も17作、18作同様、♪あてもないのに〜と、3番も歌う。
♪どおせおいらはヤクザな兄貴
わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前の喜ぶような
偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪
♪あても無いのにあるよな素振り
それじゃあ行くぜと風の中
止めに来るかとあと振り返りゃ
誰も来ないで汽車が来る
男の人生一人旅 泣くな嘆くな
泣くな嘆くな影法師 影法師♪
東京 柴又 江戸川土手
寅がひさしぶりに柴又へ帰ってきた。
向こうのほうに鯉のぼりが泳いでいる。
五月初旬なんだね。
お馴染みオープニングコントの王様津嘉山正種さんがコントの中心。
モデルを使った写真家の役。
江戸川河畔で、津嘉山さんがモデルさんを使って、写真を撮っている。
通りかかった寅が、コロッと落ちたフィルムを全部ビロ〜ンと取り出して
一笑いした後、危険を察知してさっさと去っていく(^^;)。
怒ったカメラマンたちがお互いに当たって、大喧嘩。というコント。
とらや 庭
五月の風に泳ぐ本物のこいのぼり。
満男とさくら「♪屋根より高い鯉の〜ぼ〜り〜」
やねより たかい こひのぼり
おおきい まごいは おとうさん
ちいさい ひごひは こどもたち
おもしろさうに およいでる
歌によると、
緋鯉などの残りの2匹も子供たちであって、お母さんではない(^^;)
端午の節句は男子の節句だからね。
お母さんは吹流し??(TT)
博が大きな本物のこいのぼりを買ってとらやの庭でみんなで揚げている。
満男は大喜び。さくらの足元で犬のトラが遊んでいる。
さくら「あー、泳いだ泳いだ」
満男「♪大きい真鯉はおとうーさーんー」
さくら「おいちゃん、おばちゃん、来てご覧、鯉のぼり揚がったわよ」
おいちゃんたち庭にやって来て
おいちゃん「どれどれ、あー見事見事」
おばちゃん「あらあ、よかったねえ、満男ちゃん」
空高く泳ぐ鯉のぼり
おばちゃん「学校行ったらさ、家にはね、
こんな大きな鯉のぼりがあるってえばってやんな」
アパートも自分の家だし、とらやも自分の家、満男君いいねえ〜(^^)
犬のトラを抱っこするさくら。
満男「うん!」
博「満男の家じゃありませんよ、残念ながら」
おばちゃん「え、フフフ…」
さくら「そーよー、アパートじゃ鯉のぼり揚げられないかえら
おばちゃんち借りたんじゃないのよ。ねー、そんなに
威張れないわよ…こら、こら」
厳密に言えば、ここはもともと寅やさくらの家であって
おいちゃんおばちゃんは別の家に住んでいた。
だからさくら、「自分の家」って言ってもいいんだよ。
トラはさくらに懐いていて、さくらの頬をペロペロなめる。
(トラっていったい…(^^;))
おいちゃん「威張れるほどの庭でもねえな、俺んちもォ…」
おばちゃん「ほんとだねえ…、これじゃあ鯉のぼりも可哀想だねえ」
さくら、頬のポチの唾液を手で拭いている(^^;)
さくらお客さんが「ごめんください」と、店にやってきたので
さくら「はいはい」と、店に行く。
トラは勝手に茶の間に上がって遊んでいる。
さくら「こら!おいちゃん、トラがまた上に上がってる」スタッフが餌置いたからだよな、トラ(^^;)
おいちゃん「えー…、トラ!しょうがネエヤツだなおまえは…下へ行ってろ」
と、下へ置く。
なんだか可愛いねトラのおなかって(^^)
おばちゃん「ねえ、ポチにしょうよお〜、
寅ちゃんが帰ってきたら怒るよぉ〜」そら怒る(^^)
おいちゃん「下行ってろ、ほら」
博「誰がつけたんですかトラなんて」
おばちゃん「源ちゃんだよ、決まってるじゃないか。」だろうね(−−)
おいちゃん「あいつが拾ってきた犬をなんで家で飼わなきゃならねえんだ」
おばちゃん「だってしょうがないじゃないか家にばっかり来るんだもの」
誰かが最初に餌付けしちゃったんだね。
博、トラを持ち上げながら
博「トラ、おまえな、ポチという名前に変えるからな。
いいか、トラじゃないぞ、ポチだぞ、ん」
この後数時間後に博はこの犬を「トラ」とまだ呼んでます(−−;)
おいちゃん思い出したように…
おいちゃん「そういやそろそろ帰ってくる時分だなあ…」
おばちゃん「ポチかい…」(ノ_-;)ハア…
おいちゃん「そ?」
おばちゃん「あ、違った、寅ちゃんかい?」間違うか、それ ヾ(^^;)
おいちゃん「んん…」
博「そうだなあ…もう五月だなあ…」
おいちゃん、タバコをくわえてライターで火をつけながら
この頃はもうライターなんだねえ…(−−)
おいちゃん「なんにも言わないけど、心配してんじゃねえのかさくら」
みんな、店先で掃除をするさくらの後姿を見ている。
みんな、ちょっと心配している。
おばちゃん「なんてったってたった一人の兄妹だからねえ…」
そんな時、必ずといっていいくらい寅は帰ってくるのだ。
さくら、題経寺方面を見て、急に顔色が明るくなる。
さくら「おばちゃん、お兄ちゃん帰って来た」
おばちゃん「え!!」
とらやを見ないように
ひょうひょうと知らぬ顔で駆けて行こうとする寅。
この渥美さんのとぼけた芝居は絶品だ。
なんせとらやの本当の跡取りがいつまでもふらふらしているのだから
毎度入りにくいのは当たり前かも。
さくら「お兄ちゃん、家はここよ!」
寅、わざとらしく振り向いて、照れ笑いをしながら
寅「あははは、そうかー、
あんまり長い間留守にしちゃってたんでね、忘れちゃったよ」
みんな「はははは!」
本当なら、このとらやで7代目主人となって
働かなくてはならない自分の立場を考えると、
ヤクザなこの身の上では入りづらくなるのは当たり前なのかもしれない。
寅「よ!おいちゃんおばちゃん、達者でいるか?」
おばちゃん「元気だよ、おかえり」
おいちゃん「今噂してたんだ」
寅「あ、そうかい、んー」
博「兄さん、おかえりなさい」
寅「よよ、博、どうだ工場のほうは相変わらず低賃金か?」
いいねえ〜このキツさ加減が(^^)
博「はい」
おいちゃん「あー、よかったよかった。さくら、お茶でも入れろ。
みんなで柏餅でも食べるか、え」
おいちゃんほっとしている。
やっぱり、旅先でなんかあったんじゃないかって思っちゃうんだよね。
寅も若くはないからね。
さくら「そうね」
寅「あ、満男いるか?」
さくら「いるわよ」
寅「ちょっと呼べ、お土産買ってきた」
さくら「あらー」
おいちゃん「へえー」
寅ニコニコ顔でかばん開け始める。
さくら手招きして
さくら「満男、ちょっとおいで、伯父さんがお土産だって」
おばちゃん「よかったねー」
博「いつも、気を使ってもらってすいません」
寅「いやいや、汽車の窓から見たらね、
鯉のぼりがすーっと上がってさ、
そうだ、オレも伯父さんの真似事を
ひとつさせてもらおうかなと思ってな」
みんな興味津々。
寅、かばんを開ける。
さくら、満男に
さくら「ねえ、なんだろうね」
寅、かばんからおもちゃの小さな鯉のぼりを
取り出して、泳がせながら
寅「ほら、これよ、たいして高いもんじゃないんだ」そらそうだ(^^;)
一同真っ青
第11作「忘れな草での」ピアノ事件のレンジ版だね。おもちゃVS本物
寅「本来なら、こんな立派なこいのぼり、本物買ってこようと
思ったんだけどよ、ま、それはいずれ寅おじさんが
大金持ちになってから、はいよ、ん」と、満男に渡す。
満男「こんな小さいの?」(((((  ̄ ̄ ̄ ̄ ▽  ̄ ̄ ̄ ̄ ;)
もうすでに10倍以上大きいホンモノ持ってるからね(^^;)
さくら「何言ってんの!お礼言いなさい」
中村はやとくんマジで笑ってます。
変だよねえ〜、大人たちの芝居って(^^)
博は、いち早く庭に行く。
おばちゃん「ほんとこんな立派なのちょうだいしちゃって」
おばちゃん…強調しすぎ(TT)
さくら「ありがとう」
寅「なに、礼を言われるほどのこたあねえよ、なあ、博」
博は、いち早く、庭のほうに行って、本物を片付け始めている。
寅「おい、博どうした?」
さくら「あ、ほら今日工場が忙しいんじゃないかしら」うそ(^^;)
とらやのお品書きが見える。
茶めし 150
くづもち 150
あんみつ 200
みつ豆 200
ソーダ水 100
サイダー 100
ラムネ 100
ジュース 100
今回冷蔵庫は雪印
博、庭で必死で鯉のぼりを下ろしている。
満男、寅からもらったおもちゃの鯉のぼりを博に見せている。
満男「ねえねえ、お父さん…」
とらや 店
寅「あーあ、貧乏暇なしってやつね」
さくら「そうそう」
寅「よし、社長にちょっと挨拶にしてこよう、うん」
と、工場へ行きかけるが…
おいちゃん必死で追いかけてきて
おいちゃん「寅」
寅「ん」
おいちゃん「社長、出かけたんじゃないかな」
おばちゃん「そうそう、税務署へ行くってそう言ってた」また税務署かよありえないって(−−;)
なんとか庭へ行かせないようにする二人だった。
おいちゃん、話題を変えて
おいちゃん「こっち上がって柏餅でも食べよう。つね、お茶持ってこい」
おばちゃん「あ、はいはい」
さくら、チラチラ庭を見ている。
おいちゃん「さ、寅」
と、二人して茶の間へ。
茶の間
寅「はーあ、あ」と腰を下ろし、
寅「どうだいおいちゃん」
おいちゃん「ん?」
寅「庭のツツジは?」脚本では「さつき」
と、庭のほうを振り返ろうとする寅。( ̄□ ̄;)!!
おいちゃん、間髪を入れず
おいちゃん「咲かない咲かない!
今年はダメだ」と必死。(TT)
寅「ほー…」
さくら「なにしろ、ほら、日当たりが悪いでしょ」さくらまで…(TT)
おいちゃん「あーあ、風通しも悪いしなー、見たってしょうがない!」
と、強調しまくる。
おばちゃん「本当に狭い庭だからね、さっきもそう言ってたんだよ、
『あれじゃ、鯉のぼりが可哀相だって…」
あああ…((((( T ▽ T ;)
ダメだダメだ、やっぱりおばちゃんだ…┐(-。ー;)┌
おいちゃん、手でダメだし。
さくら、寅を凝視。
おばちゃん「は…!!!!…いけない」
寅「なんかおかしいな…、
おばちゃん今なんて言ったんだい」
こういう勘だけは超鋭い寅。
と、薄ら笑いを浮かべながらも疑いの目
庭から、博の声
博「満男邪魔だ!あっち行ってなさい!」
あ〜あ〜あ、そんな大きな声出すと、寅じゃなくても振り返るよ(^^;)
一同真っ青
寅「…」
遂に庭を振り返る寅。
博「邪魔だって!」
。
寅の耳ダンボ
満男「ねえ、揚げてよー」だよね〜(^^;)
寅、ずっと見ている。
博「明日は揚げてあげるから、今日は我慢しなさい」
博、明日揚げたら明日バレルよ(−−;)
台所にまだ寅がいると思い、台所を遠目で見る博。
いきなり寅が茶の間から覗いているのを発見し、背筋が硬直する。
鬼のように怖く冷静な目で博を睨んでいる寅。
あわわわわわ…この目は鬼だ…Σ(|||▽|||
)
一同、絶体絶命のピンチ。
おいちゃん目をつぶって下を向く。
そんなときに限ってやっぱりこの人、
お約束のタコ社長が庭に登場。
社長「どうしたんだい、
せっかく揚げたのに、雨でもきそうかい」
社長「満男ちゃん、どうしたの?このちっちゃいの」と寅のお土産を指す。
ダメ押し…(TT)
満男の声「たいやきィ〜」…うますぎ…座布団3枚((((TT)
ダメダメ押し…(TT)
一同目を見開いて固まる。
寅、鬼の顔 ((((((TT)
たいやき〜〜〜〜
社長「ハハハハ!上手い上手い、
ハハハ!たい焼きかあー!」
寅むすっと、柏餅を手にとる。
社長、たい焼きを、
いや、鯉のぼりを手で振りながら台所に入ってきて、
社長「さくらさん、たい焼きだって、ハハ…」
一同、真っ青
さくら、必死で何かを社長に言おうとするが…
社長「お、寅さんおかえり!しばらくだったねえ。
見たかい?庭のこいのぼり。いくらしたと思う?」
社長、指を4本出す(4万円か)
ああいうの相場いくらするんだろうね。
鯉の大きさに比例するのかな…。
結構大きかったので4万円はお買い得だったのかも。
さくら「社長さん…」
寅、限界が近い。かなりブスウ〜…
社長「なんだい、どうかしたの?」察してくれよ社長(−−;)
博、畳んだ鯉のぼりを持ってきて、
博「毎年五月になると、満男が買ってくれ、買ってくれってせがみましてね、
庭のある家に引っ越したら買ってやると我慢させてきたんですけど、そうは言っても
いつアパートを出られるか分からないし、思い切って買ってやったんですよ」
さくら「でもね、買ってから後悔してたのよ、
もっとちっちゃいのにすればよかったって…」
寅、シラケた顔をして
寅「結構だよ、おまえたちの言い訳なんか聞きたかないよ。
どうせ腹の中じゃ、
おもちゃしか買ってこれなかったオレのことを
バカにしてるんだろ」
さくら「ちがうわよ、そんなこと誰も考えてやしないわよ」
寅「だったら、なぜオレがトランク開けてこいのぼり出した時に
スウ〜っとおまえ言ってくれなかったんだ?え?
『あら、お兄ちゃんせっかくだけども、
私たち昨日、思い切ってバーゲンセールで、
本物のこいのぼりを買ってきたのよ。ほら見て御覧なさい』
おまえにそう言われりゃオレが、
『どれどれ、あー、こりやあ立派なこいのぼりだ。そうか、
じゃあ、こんなおもちゃみたいなものはとってもいらねえや、
なあ、よし、うらの社長ところのハナッタレガキに
くれてやるか、ほらよ』
こう冗談で済んだでしょ」
済まない済まない絶対済まない ヾ(−−;)
心からバーゲンセールと決め付ける寅でした(^^;)
この第19作の時点ではまだまだ社長に「息子」がいることになっている。
さくら、下を向いて沈んでいる。
博「言おうと思ったんですよ、ですけどねー…」
寅「悪くて言えなかったんだろ」
さくら「そうよ、お兄ちゃんの気持ちを傷つけちゃいけないと思ったの」
寅「そうかいそうかい
貧乏な伯父さんが安物のおもちゃみたいな
鯉のぼりを買ってきた、
本物のこいのぼりを見せちゃ
あいつが僻むから、隠しちゃえ!隠しちゃえ!」
それじゃ第15作のメロン騒動だよ ヾ(ーー;)
見え透いたお世辞使いやがって、えー。
お前たちはオレを哀れんでるのかぁ?
それほどおまえたちは大金持ちかぁ!ケ!
田へしたもんだよかえるのションベン、
見上げたもんだよ、屋根屋のふんどしだい!」
きつううう〜〜〜〜(−−;)
おばちゃんチャルメラ泣き(第28作参照)しながら
おばちゃん「あんまりだよ、
そんなに言わなくたっていいじゃないかぁ…うううう」
第11作「わすれな草」の『ピアノ騒動』を思い出したよ。
社長「お互い貧乏人なんだから、
いがみあうのはよそうよ、な」
寅、呆れたように社長を見て
寅「へえ〜、どこをつつくとおまえそんなセリフがでるんだ?
え?オレが貧乏なのは
オレのせいだよ、
博が貧乏なのは
経営者のおまえのせいだぞ!」真実(^^;)
寅って凄いこというなあ…。ある意味正しい。
こういう演出が山田監督の懐の深さだ。
社長、何か言いたげだが
「ぁ…」とたじたじ…。
博、チラッと社長を見る。
なかなかシビアな場面だ。
博も寅と同じことを考えてるんだね、心の隅では。
博の社長を見る目に注目(TT)
寅「へ!なにが社長だこのやろう、
あんな凸凹工場潰してなあ、
どっか僻地へこせ!」これは脚本にはないセリフ
キツイ…(TT)
社長あまりのキツサについに泣いてしまう(^^;)
おいちゃん「寅…」
さくら「せっかく半年ぶりに帰ってきたのに…
そんなこと言わなくたって…」
さくらも泣いてしまう。
寅。スッと立ち上がる。
さくら、また旅立ってしまうかと恐れながら
さくら「どこいくの?」
寅、雪駄履きながら
寅「え?二階行ってちょっと休んでくるよ」おっと…
ほっ…旅立つパターンでなくてよかった…。
と、この時はそう思ったのだが…甘かった…。
メインテーマが静かに流れる。
寅、博を見て
寅「それ、揚げてやりゃあいいじゃねえか。
せっかく買ってきたんだ…」
寅、ぎりぎりではまだ冷静さを保っているんだね。
博、こいのぼりを買ってきたことを後悔する。
博「買うんじゃなかったな…、こんなことなるんじゃな」
夕方 題経寺の鐘の音
参道を豆腐屋のラッパが鳴る。
パープー
さくら出てきて
さくら「お豆腐屋さーん」
豆腐屋「はい」
夕方 とらや 二階
二階で寅がぼんやり庭の鯉のぼりを見ている。
豆腐屋のらっぱの音 パープー
寅のちょっとした後悔がそこはかとなく演出されていていいシーンだ。
下でさくらの声
さくら「おばちゃん、お豆腐、やっこでよかった?」
おばちゃんの声
おばちゃん「ああ、さくらちゃん、お芋見てよ」
いい演出だねェ、このさりげなさはありそうでない。
絶妙の間と声だね。このようななんでもない演出が秀逸。
う〜んこれぞ山田映画だねえ。
寅「はー…」と小さくため息をついて…
下にゆっくり下りて来る。
台所
さくら、芋の煮っ転がしの味見をして
さくら「もういいじゃない」
おばちゃん「そうかい」
おばちゃん、犬のトラに餌を与えようとする。
おばちゃん「トラ!ご飯だよ!トラ!」
懲りないねえおばちゃん(−−;)
さくら、またまた真っ青になって二階を見上げると、
ちょうど下りてきたばかりの寅と目が合う。
寅、不満たっぷりの顔で
寅「おばちゃん、どうでもいいけどさあ、
犬の名を呼ぶようにしてオレのこと呼ぶなよ。…」
おばちゃん、あわてて
おばちゃん「ごめんよ、あんまり親しいもんだから
つい呼び捨てにしちまって、
悪気はなかったんだから勘弁しておくれよね。」
凄い言い訳(^^;)
寅「いいんだよ、別にオレは怒ってるわけじゃねえんだから。
ただいきなりなもんだからね」
おばちゃん「ハハ…悪かったよ」と愛想笑い。
犬の寅が台所に入ってこようとするのを、おばちゃんが
微妙に後ずさりして餌を隠しながらもやる。
うーん細かい演出(^^)
犬のトラ君もなかなかスタッフからの指示通り。聞き分けがいいぞ。
さくら、なんとか挽回しようとして
さくら「お兄ちゃん、今日はご馳走よ。
お芋の煮っ転がしとガンモドキの煮たの」
寅は昔からこればっか…
寅「あー、ん…」と、少し平常心。
おいちゃんニコニコしながら
おいちゃん「おい、美味そうだろ、鯉の洗い」わざわざ…(〜〜;)
寅、ビク!
寅「鯉?フ…、なんだか嫌味みたいだな…」
おいちゃん「違う違う、丸甚のオヤジが
江戸川で釣れたってさっき持ってきてくれたんだよ」
寅「…」
おいちゃん、カチンときて
おいちゃん「嫌ならやめろよ」と、お膳から片付けようとする。
寅、止めて
寅「いいんだよいいんだよ、
別にオレは怒ってるわけじゃないんだからさ。
ただ、さっきの今だろ…」
おいちゃんふくれっ面
おばちゃん「さ、ご飯にしよう」
さくら「満男ー、おいで」
満男茶の間にやって来てきて
満男「♪屋根より高いこいのぼお〜り〜」
Σ(|||▽||| )
おいちゃんおばちゃん「うわー」っていう顔
おばちゃん「あ、ほかの歌にしよう、ほかの歌にね」かえってその発言嫌味(TT)
寅「いいんだよ、何の歌歌ったって」まだギリギリ冷静(((^^;)
おいちゃん「いやでも、もうご飯だから」
さくら「さあ、食べましょう」
いち早く芋の煮っ転がしを食べる満男。
寅「博はどうしたんだ博は」
さくら「もう…、帰ってくるでしょ」
寅「だったら待っててやれよー。亭主だろ、おまえのー」
さくら「うん…」
博の声「お疲れ様ー」
振り返るさくら。
博、工場の階段で
博「お疲れ様ぁー…パチンコか、フフ」
工員「はい、へへ」
さくら「あ、帰ってきた」
寅「おまえたちのためにああやって真っ黒けになって働いてるんだから
えー、大事にしてやれよさくら」
さくら「はい」
庭で博の大声
博の声「トラ!」
寅「はい…」反応するよネエ(^^;)
博の声「なんだこんなところに糞してぇ!!」
出た〜〜〜〜ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ
寅、つい自分の股を見る(^^;)
最高の演出!山田演出に座布団三枚!
博怒りながら戻ってくる。
博「何べん言ったらわかるんだよ、トラのやつは!」
博、寅を見てガーンと青ざめる。( ̄□||||!!
寅「博、オレがいつ庭で糞をした?」オイオイ…ゞ( ̄∇ ̄;
博「ち、違います!」そら違うわな(〜〜;)
寅「第一な、いくら親戚でも、
おまえとオレとは血の繋がらない他人だぞ、え!
そのおまえにオレは呼び捨てになんかされたくねえな」
博「冗談じゃない、兄さんのこと呼び捨てにするもんですか。
あ、あの犬ですよ。あの犬トラって言う…」
博、さっき「今日からポチだぞ」って自分で言ってたろ┐(-。ー;)┌
寅「……」
周りを見渡して睨みつける。
庭で犬の鳴き声 ワンワン
おばちゃん、超わざとらしく寅から目線をそらして
おばちゃん「あら、同じ名前だね、
私ちっとも気がつかなかったわ」
確実に逆効果 ヾ(^^;)
さくら、寅を見ながら困っている。
おいちゃん「でも、おまえ犬のほうはカタカナだろう」
意味ねええー ヾ(^^;)
おばちゃん「あ、そうねえ、寅ちゃん漢字だものねえ」
悪あがき…ヾ(^^;)
おいちゃん「そうそう、と.ら.じ.ろ.う…」
もう地雷踏んでるって…ヾ(ーー;)
と無意味にお膳に指で字を書く。
寅「ヘタな芝居見たかねえよ!」
びびり顔が引きつるおばちゃん。
時が一瞬止まる。
おばちゃんひきつっているね(^^;)
寅「わかったよ、オレと同じ名前を犬につけて
トッゥリャ!トゥラ!
ぶったたいたり、蹴っ飛ばしたりしてたんだろ!」
完全な被害妄想((((^^;)
さくら「お兄ちゃん違うのよ」
寅「なにィ!」
さくら「寅ってつけたのは私たちじゃないのよ」
さくらいろいろ言い訳。
寅「誰だ!どこのどいつなんだ!そいつは」源ちゃん源ちゃん(^^)
さくら「誰だかわかんないのよ」源ちゃんをかばうさくらでした。
さくら「お寺で…うろうろしてるのをね、
誰からともなくトラトラって呼び出してね、
そのうちなんとなく家で
飼わなくちゃいけなくなっちゃったのよ」
おいちゃん「もう捨てちゃえその犬」
おばちゃん「そうだよね。そんな犬かわいがらなくたって、
ウチには寅ちゃんという犬が…、
…いえ、人間がいるんだもんね…」
おばちゃんって…Σ(|||▽||| )
と、下を向きシュンとなる。
おいちゃん「そ〜うそう」と、言って寅をチラッと見る。
チラッ…
→
普通この場面では絶ッ…対間違わないよおばちゃんん(TT)
寅「……」
寅、おばちゃんを睨む目が超怖い。
寅「…おばちゃん、
おばちゃん「はい…」と小さくなっている。
寅「今なんて言ったんだい?えー、
よっぽど人をバカにしてなきゃ
言えないぞそのセリフは」正しい(^^;)
一同沈んでしまう。
おばちゃん「どうしてだい…」たじたじ…((((−−;)
寅、ぶすっ
今日はおばちゃんのボケ
「鯉のぼり」「トラ」「犬」の3連チャン大活躍。
タコ社長に並ぶ勢いだ。(^^;)
さくら「ねえ、もういいかげんにして、ご飯食べない?
おつゆが冷めちゃうから、ね」
寅、ぶすー。。。
そこへ、お約束のタコ社長やっぱり登場(((((((( ̄▽ ̄;)!!
ああ…万事休す
チ〜〜〜ン…な〜む…(T人T)
社長「トラ!いるかい?
トラ!トラトラァ!
魚の頭持ってきてやったぞぉ!」
博、ガクッとこけてしまう。
めったにない前田吟さんのギャグ。
寅、プッツン切れて、
猛然と台所に下りていく、
おいちゃん咄嗟に止めるが間に合わない。
寅、社長を押しのけて
おばちゃん「ちょ…」
寅「てめえまでオレのことバカにしやがるのか!このヤロウ!」
押された社長、怒って
社長「なにしゃがんだよ!」
タコ社長、なぜ寅が怒っているのか分からないまま
とりあえず体が反応して応戦(^^;)
寅野菜やジャガイモを投げまくる。
社長、なべの蓋を盾にして受ける。
凄まじいまでの大喧嘩になってしまう。
博「社長やめてください!」
さくら「お兄ちゃん!」
みんな「やめて」と叫んでいる。
寅「ちきしょー!」
シリーズ中でもかなり激しい喧嘩。っちうか、
寅が一方的に野菜を投げて攻撃していた。
最後は何もあたってもいないのに
なべの蓋がパーンと後ろに吹っ飛ぶ。念力じゃ!( ̄▽ ̄;)!!
釣り糸作戦成功
寅「ちきしょう!このやろー!!
バカ!タコ!てめえまでこのオレのこと
バカにすんのか!!」
ここは、前と寅のセリフがダブっているね。
おいちゃん「やめろ寅!お前が悪い!
」
ひょえ???なぜ(OO;)
寅、おいちゃんを睨みつけて
寅「なにい!?
どうしてオレが悪いんだ!!」うん(−−)
おいちゃん「悔しかったらな、もっと尊敬される人間になれ、
そうすりゃ誰もあの犬にトラなんて名前つけやしねえ。
それをなんだ。いい年をして、嫁ももらわねえで
フラフラフラフラしてりゃ、
まるで野良犬じゃねえか」
さくら「!!」
おいちゃん…言いすぎ…(−−;)
さくら、その厳しい言葉に驚き、おいちゃんを見る。
いつも心配している身内しかいえない切ない言葉でもある。
寅、悔しくて悲しくて…
寅「…、そうか…、
それを言っちゃおしまいよ」
さくら「…」
寅「オレは出て行くぜ。さくら、あの犬っころに
せいぜいうまい餌でも食わしてやってくれ」
かばんを持って外へ出て行く寅。
かばん二階に持って上がってなかったんだね。
さくら追いかけて店先へ
なぜか犬のトラもついてくる。
店先で犬のトラをなでている寅。
さくら「お兄ちゃん…」
さくら「お兄ちゃん…満男にお土産まで持って帰って来てくれたのに,
こんなことになっちゃって…」
寅「今度の節句にもし帰ってくるようなことあったら、
こんなでっかい鯨みてえな鯉のぼり勝ってくるよ」
メインテーマが緩やかに流れる。
出て行く寅。
なすすべもなく見送るさくら。
トラをだっこしているさくら。
ああ…今回も一泊もしなかったね寅のヤツ…。
おばちゃんしくしく泣きながら
おばちゃん「だからポチに変えた方がいいって
言ったんじゃないか、うううう」
今日からポチにするって、
昼間博が宣言していただろ、
忘れたねおばちゃん。そして当の博君も。
転げているジャガイモを博に手渡しするおばちゃん。
今回もまたまた寅は悪くない。
寅の普段のいい加減な言動やフーテン気質を
苦々しく思いながらも抑圧していたおいちゃんの
深層心理が回帰したのだった。
第16作「葛飾立志篇」でもおいちゃんのこの手の発言があった。
身内と言うのは自分ごとのように心配し、愛し、執着するがゆえに、
時として他人なら絶対言わないようなとても残酷なことを言うものだ。
瀬戸内海 連絡船
穏やかにこの作品のテーマ曲が流れる
寅と一緒にお遍路さんたちが連絡船に乗っている。
近くでお遍路さんたちが世間話。
遍路さん「今度な、天台宗の和尚さんと一緒におまいりに行きます」
伊予の小さな港町で連絡線から降りる寅。
丘の上の神社 海の祭り
私は本編をアップした後もこの啖呵バイの場所が分からなくて弱っていたが、
昨日(7月14日)、4年来の深いお付き合いをさせていただいている
三重県にお住まいのK.Nさんからの貴重なロケ地情報が入った。
この啖呵バイをしている神社が
『愛媛県松山市の興居島の厳島神社』だということがわかられたのだ。
K.Nさんは、以前松山市周辺を写真撮影でご旅行されたことがあるため、
土地勘が働き、効率よく探されたとのこと。
そのあとなんと長距離電話で現地の役場で確かめていただき確実なものと
なったらしい。このロケ地探しの顛末は
7月16日アップの『寅次郎な日々367』で紹介します
興居島(ごごしま)
愛媛県松山市の興居島の厳島神社
啖呵バイ
今回、寅が売るのは『長靴』
寅「赤い赤いは何見て分かる。
赤いもの見て迷わぬものは
木仏、金仏、石仏、
千里旅する汽車でさえ、
赤い旗見てちょいと止まるっていうじゃないか。
さ!最新は最後のマケじまい、
赤い靴から、白い靴、黒い靴から、黄色い靴、
色とりどり全部負けちゃおう!ね!どう
物の始まりが一ならば、
国の始まりが大和の国、
島の始まりが淡路島、
泥棒の始まりが石川の五右衛門なら、
助平の始まりが小平の義雄と!
さあ、どうだ!ね!
今日はうんとマケちゃうよ!ね!
本来ならば高いものだけどそんな高いこと言わない。
さー!四つマケちゃおう!
いったいこんな片田舎で長靴なんてかさばるバイネタ、
誰がどうやって寅に渡したんだ!???
それを言っちゃあおしめえよってか…(^^;)
花火が上がっている。
厳島神社の下 興居(ごご)島 泊港
港に大漁旗を掲げた漁船が何隻も停泊し、日章旗も掲げている。
興居島 泊港
倉庫 【共撰】 柑橘の共同撰別倉庫
★小平義雄
昭和21年。のべ10人に及ぶ婦女暴行殺人を犯した。
当時世間は震撼した。「男はつらいよ」で寅が切る啖呵バイに
使われていることからも社会に与えた影響の大きさが窺える。
小平は昭和24年10月5朝9時49分、宮城刑務所で死刑となった。
執行直前には饅頭を3つ食い、念仏を唱えていたという。
愛媛 伊予大洲
肘川の見える小高い丘の墓地
大洲の亡き夫の墓参りを終えて
明治の町並みが残る町の『お花はん通り』を歩く鞠子さん。
昭和41年のNHK朝のテレビドラマ「おはなはん」のロケが
行われたことからこの名前がついた。
もちろん「お花はん」のヒロインは考古学を研究する筧礼子さん!
主題歌を歌うは諏訪さくらさん!
鞠子のテーマが流れる。
肱川河畔
夕闇迫る肱川河畔で鵜飼舟を見ている鞠子さん。
日本三大鵜飼のひとつ
肘川河畔 伊洲屋旅館
帳場の電話に出る寅
寅「はいはい、こちら伊洲屋(いずや)旅館でございます。
女将「すんません」
寅「はいはい、はい京都の玉木さん?」
女将さん「今夜は鵜飼(うがい)に出かけてなさるけんど」
寅「今夜は『うがい』で…でかけてま…す。はい、はい」
電話切って。
寅「またあとで、電話するってさ」
女将「まあ、悪いねえ、気安く使うてからに」
寅「いいよ」
って笑いながら、館内の電話回線を上に上げる。
寅は不思議がって女将にこう言うのである。
寅「『うがい』か…。しかし変わってるね、その客は、えー、
わざわざ『うがい』しに表に出かけて行くなんてさ。
そこの洗面所の奥でもってガラガラってやればいいじゃねえか、ねえ」
寅ギャグ出ましたヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ
女将さん「その『うがい』じゃのうて、ほら川に舟浮かべて…」
寅曰く「あーあーあー!浦島太郎みたいな格好して、
アヒルの首にあのゴムテープくっつけて
この引っ張ってるやつか」
女将さん「ハハハ!」
寅「あれだろ」
女将さん「ハハハ、アヒルじゃのうて、鵜という鳥ぞな」
寅「あ、ウって鳥か、あれは」
女将さん「アハハ、アハ!」大うけ(^^)
寅「あ、なるほど、大きな魚飲み込むから
つっかえて『ウー!!』って言ってるわけだ」
一生バカ言ってろよ、…ったく ┐(- ー;)┌
女将さん「ハハハ」と笑いが止まらない。
とまあ、こういうバカなギャグ。
ところで、「男はつらいよ」が取り持つ縁で
親しくなった神奈川県に住む友人のT.Y氏と
先日メールのやり取りをしている中で
彼が教えてくれたのだが、鵜には、河鵜、海鵜、姫鵜と3種類あり、
鵜飼の鵜というのは川鵜ではなく、多くは海鵜を使うらしいのだ。
一番体が大きい海鵜が大きな魚を飲み込みやすいからということらしい。
ここからちょっと脱線。
先日の「寅次郎な日々」にも書いたが、
実は、本編よりずっと前の
脚本第2稿の段階では「鵜飼」と「うがい」を間違えるのはなんとさくらなのである。
つまり寅がとらやにいるさくらに伊洲屋旅館から電話するのである。
しかし、さくらが「鵜飼」のことを聞き間違えるのも無理はないのだ。
それは伊予では鵜飼(うかい)のことを「うがい」とも発音するために
余計に混乱してしまうからなのだ。
脚本第2稿ではこうである↓。
伊洲屋旅館 帳場
寅さくらに電話をかけている。
寅「この間のこと謝っといてくれよ。オレもつまんねえことにこだわってさ」
とらや 店
さくら「いいのよ、そんなこと。気にしてないわよ、誰も。
ねえ今どこなの?遠い所?オオズ?オオズってどこ?」
伊洲屋旅館 帳場
寅「伊予の大洲だよ、四国だ、四国。
いい所だぞ、おまえ。
宿の前に川が流れててな、
座敷から鵜飼見ながら一杯やろうってとこさ。
え?鵜飼だよ、鵜飼」
とらや
さくら「『うがい』?どうしたの、風邪でもひいたの?」
伊洲屋旅館 帳場
寅「バカ!その『うがい』じゃねえんだよ、
ほら、浦島太郎みたいな格好して、アヒル泳がしてるのがあるだろう。
あれよ。―おい、電話代高いから切るぞ。分かった分かったそのうち帰る」
受話器を置いてため息をつく。
寅「まったく物を知らない女だなあ…」
女将「あんた、アヒルじゃのうて、鵜という鳥ぞな」
寅「あ、鵜って鳥か、あれは。
あ、なるほど、大きな魚飲み込むからつっかえて『ウー!!』って言ってるわけだ」
女将さん「ハハハ!」
そのあといろいろあって―。
夜、殿様の屋敷から再度今度はさくらのアパートに電話している寅。
その時もさくらはまだ分かっていないらしく
さくらのアパート
さくら「何言ってんのか分かんないわよ、
『うがい』だの『トノサマ』だのって…」
と、首をかしげているのである。
ひょっとしたらさくらは根本的に「鵜飼」を知らないのかもしれない…。
もちろんあんな特殊なもの知らなくたってちっとも恥ずかしくはないのだが、
ちょっと意外だったことも確かだった。
結局、山田監督は現場で試行錯誤の後に、
やはり寅が鵜飼ギャグの『ボケ』を一気に全部引き受けたほうが面白いと思ったのである。
こうして本編ではさくらに鵜飼ギャグでのボケの役は回らなかったというわけだ。
ちなみに伊予の肱川鵜飼は日本三大鵜飼のひとつ。
さて、長く脱線してしまった。
物語に戻りましょう…。
そんなバカ話を寅がしているところへ…
同じ旅館に泊まっている鞠子さんが墓参りから帰ってきた。
鞠子「ただいま」
女将さん、鞠子さんに
女将「お客さん」
鞠子さん「はい」
女将「お食事はお風呂の後になさるかな?」
鞠子さん「はい、そうします」
と、二階へ上がっていく。
どことなく元気がない。
寅、階段のほうを見て
寅「ありゃ、一人旅かい?」
女将「ええ、男の人ならええけんど、女の、それも若い娘さんの一人は
なんか、気になってなあ…」
寅「ん…」
寅「さっき、川っぷちでちょっと見かけたけどなあ…」
女将「ほう」
寅「ありゃあ、なんかわけありだなあ…」
女将「はあー」と頷いている。
寅「女将さん、せいぜい優しくしてやんなよ」
女将「はいはい」と頷く。
実は脚本の第2稿では、寅が小船に載せてもらうシーンや、
河畔で鞠子さんとすれ違うシーンがあるのだ。
寅「さて、じゃ、オレも飯にするか」
と、立ち上がる。
女将さん、谷よしのさんを呼ぶ。
谷よしのさんは今回は「おふみさん」という女中さん役。
第27作「浪花の恋の寅次郎」のマドンナと同じ名前(^^)
おふみさん「はーい!」
女将さん「車さん、お食事よ」
馴染み客にしては、寅さんと言わないで、車さんと言う女将さん。
親しき仲にも礼儀ありって感じなのかな。
おふみさん「へえ」
おふみさん廊下に出てきて
おふみさん「お客さん、鮎は別料金になりますけどどうしますか?」
寅「そうだね、せっかくだからもらうか」
おふみさん「へえ」
寅「あ、女将」
女将「はい」
寅「あの娘にも鮎を一皿やってくんねえか。オレからだって言って」
女将「…はい」
寅「旅先じゃ、なんでもねえ親切でも心にしみるもんだからよ。頼むぜ」
女将「ありがとございます」と、お辞儀。
女将さんおふみさんに
女将「萩の間にも鮎をつけてな」
おふみさんの声「へえ」
萩の間
おふみさんが夕食時、萩の間の鞠子さんに鮎とお吸い物を持ってくる。
蛙の鳴き声が遠くから聞こえる。
おふみさん「失礼します」
と、ふすまを開けて
鞠子さん「はい」時刻表を書き写している
おふみさん「お待ちどうさん」
鞠子さん「すみません」
鮎の塩焼きをお膳に置いて、
おふみさん「この鮎はお隣のお客さんが召しあってくれと言われまして」
鞠子さんは「あらー…、どなた?」と戸惑いながら聞く。
谷さん「寅さん言うて、年に一度くらいはみえる方です」
谷さんが、「寅さん」というセリフを言った
記念すべき最初で最後のシーン。
鞠子さん「どうしよう…」
なんの脈絡もなくいきなりだもんなあ…ちょっとねえ…(^^;)
カメラは窓の外から隣の寅の部屋に移動していく。
寅、耳がダンボになって声を聞いている。
鞠子さん「ちょっとお礼に行ってくるわ…。こっちのお部屋?」勇気あるね(^^;)
おふみさん「へえ、そうです」
寅、急いでお膳の前に座り、なにげにお酒を杯に注ぐ。嬉し恥ずかしで緊張するね寅(^^;)
鞠子「ごめんください」
寅「…はい!」と、キップよくパーンとしゃべる。
寅「どうぞ」
と窓のほうを向いたまま。
鞠子さんふすまを開けて
鞠子さん「失礼します」
寅「あ、さ、どうぞ、お入いんなさい」
鞠子さん「はい」
と言って、部屋の中に少しだけ入る。
鞠子さん「あのー今女中さんに伺ったんですが、
知らない方にあんなことしていただいて…わたくし…」ほんと。
と、戸惑っている。
寅、ちょっと照れながら
寅「いやいいんだよいいんだよ。
さっき、玄関で見かけたらね、
なんだかお疲れのようだったから
名物の鮎でも食べて精つけてもらおうと思ってね。
遠慮するこたあねえんだよ、食べなよ」
と、さらりと言う。
鞠子さん、ちょっとリラックスして
鞠子さん「そうですか、ご親切にありがとうございます」
寅、笑いながら頷く。
寅「どっから来なすったね」
鞠子さん「東京です」
寅「オレも東京だよ。へー、東京のどこ?」
鞠子さん「堀切です」
寅「菖蒲園の?」
京成の「堀切菖蒲園」駅だね。
大川弥太郎のアパートがある「京成関屋」の隣の駅。
そこから下って「高砂駅」で乗り換えたら柴又。
鞠子さん「ええ、あそこのすぐ近くの団地に…」青戸団地
寅「ああ、じゃあオレんところの近くだ。
オレ京成でずーっと下ってきてね、
柴又という駅で降りて」
鞠子さん「はい」
寅「ずっとまっすぐ行くと帝釈天っていうのが」
鞠子さん「ええ!行ったことあります。
参道があって、お団子屋さんがずらーっと並んでて」
寅「フフ、オレんとこ団子屋だよ」決まったね、ストライク(^^)
鞠子さん、表情が柔らかくなって
鞠子さん「えー」
寅「とらやってんだ。
オレ、寅次郎ってんだけど、
また行くようなことあったら寄んなよ。
オレに聞いたって、な。
まあ、もうろくじじいと歯抜けばばあで、
ろくな挨拶もできねえ連中だけど、気はいいからさ」
鞠子さん「ありがとうございます、
今度きっと寄らせていただきます」
寅「うん」
鞠子さん「じゃあ、失礼いたします」
寅「うん元気出してな」
鞠子さん「はい」と言ってふすまを閉める。
寅、思うことあって帳場に電話をする。
寅「おう、オレだけどね、
あの、ここの名物の川魚の佃煮ってあったろう。
あれをな、隣の娘さんに土産に
持たせてやりてえんだけどさ、ん、
いや、適当にみつくろってやってくれ、
うん、じゃあ頼んだぜ、ん」
電話を置いて寅「よし…っと」と言う顔。
満足気に酒を注ぐ寅。
蛙の鳴き声。
それにしても過剰とも思える親切は、どうしたことだろうか。
確かに少し沈んでいる娘さんは気になるところだが…。
マドンナが美人だからと言ってしまえばそれまでだが、
そういうところが寅のいいところかもしれない。
人の悲しみや淋しさを察知する人生の玄人なのだろう。
鞠子さんが隣の部屋に戻った後、
窓の外を蛍が舞っている。
寅、ハッと気づいて、
壁向こうの鞠子さんにそっと呼びかける。
寅「娘さん、外見てごらん…。蛍だよ」
鞠子の声「あらあ、ほんと…」
窓にすわり蛍を追いかける寅。
涼しい風を受けながら、しみじみ蛍を眺める寅だった。
なんでもないような、
それでいて心が柔らかくなるような
そういうちょっとした出会いがあったのだ。
寅は色恋がらみの下心だけで
いつも動いているわけではない。
やっぱり人の心というものを知っているのだ。
翌朝 朝霧にけぶる肘川
小学生たちが古い町並みの中を登校していく。
伊予大洲駅
国鉄 予讃本線(よさんほんせん)
現在は予讃線。
予讃線(よさんせん)は、
瀬戸内海と宇和海に沿って香川県高松駅から愛媛県松山駅を経て、
愛媛県宇和島駅に至る四国旅客鉄道(JR四国)の鉄道路線(幹線)。
向井原〜内子間、新谷〜伊予大洲間の支線を持つ。
ごろう 五郎駅
いよ ひらの 伊予平野駅
予讃線 松山行きのディーゼルが止まっている。
出発を告げる汽車のベルが鳴る。
アナウンス「次の停車駅は五郎五郎でございます」
東京へ戻る堤鞠子さんだった。
窓から外を見ながら物思いにふけっている。
あの寅とのささやかな一期一会と
夜空に飛び交う蛍を思い出しているのかもしれない。
大洲城址
肘川を見下ろす眺めのいい場所
宿からの伝表を見ながら財布の中を確かめている寅。
宿で鞠子さんに鮎(600円)&お土産の佃煮(1500円)をご馳走したり、
お土産を持たせたりと散在したので
財布の中身がスッカラカンになって困ってしまう寅だった。
寅「鮎の塩焼き六百円!?
そんな高いんだったら最初から言えやいいんだ。
上手くもなんともありゃしない」ぶつぶつぶつ
とぶつぶつ。
寅「あ!佃煮千五百円!…、あの女将も気が利かないなあ、
もっと安いものにしてくれりゃあいいのに…
金がいくらあったって足りない…」ぶつぶつぶつ
小銭が財布の中から地面に転がり落ちる。
寅「あ。あー、五百円一枚か…」
しかし、山田監督って五百円好きだねえ(^^;)
寅「まいったなあ…こりゃあ。あと小銭ばかりだよ…」
と、かばんの上に財布と五百円札を置いて、小銭を拾う寅。
その時不運にも一陣の風。
三味線の音
ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺン
お札はひらひら飛んでしまう。
寅「あああああ!!おい!あ…」
そのまま石垣の下へ。
寅「あ、チクショウ!」と走って降りていく。
走って追いかけて下っていく寅。
石垣の下で500円札を持って歩いている老人(殿様)とすれ違う。
出ました名優 嵐寛寿郎さん!
寅「お!おじいちゃんよ!」
殿様「ん?」
寅「ひょっとしたらその金拾ったんじゃないのか」
殿様「天から降ってきたんじゃ」正しい(^^;)
寅「オレんだよ、オレ上でな銭勘定してたら、
風が吹いてきて、パーッと飛ばされちゃったんだ。
どうもありがとう、うん」
と、五百円札を殿様の手から取り上げる寅。
寅「あ、そうだ、お礼にご馳走しよう、な」
と、茶店のおばあちゃんに
寅「おばあちゃんよ、そのラムネくれよ、な、2本」
フジカラーの箱
ラムネの旗
おばあちゃん「はい」
おばあちゃん、ポン!とビー玉を落とす。
寅「はいごくろうさん」
寅は礼を言い、金もないのに
お礼にラムネを奢ってやるのだった。
殿様「いやいや、左様な高価なものを」安い安い ヾ(^^;)
脚本では一本60円。
おばあちゃん、もうひとつ ポン!
寅「いいんだい、いいんだい
拾ったら礼するのは決まりだよ」いい言葉だね。
寅「ん!。さ、飲みな」と、ラムネのビンをカチンと当てて乾杯。
ビー玉がコロコロと鳴る。
殿様のテーマが流れる。
寅、一口飲んで
寅「あー、うめ。どうだおじいちゃんうめえか?」
殿様「んー、なかなか甘露じゃのお〜」
カンロって…(^^)
寅「甘露?フフ、おじいちゃん面白いこというなあ
昔の殿様みたいな口きくじゃねえか」寅鋭いね。
殿様、子供のようにラムネをコロコロ転がしている。
なんか面白いよねえアラカンさんって(^^;)
寅「アンパンでも食うか?」金なくなるって ヾ(^^;)
アンパン食べる?って聞くと
『麦秋』の杉村春子さんと原節子さん思い出しちゃった(^^;)
寅「よう、おばあちゃんよ、
そのアンパンくれや、いくらだ」
殿様、不思議そうにビー玉を見ながらまた一口飲む。
うまいと無声音で言っている殿様
脚本第2稿ではアンパンは遠慮する殿様。
本編ではしっかり二つももらっている(^^;)
大洲城の周りを歩く二人。
町の人が丁寧に挨拶する
おじさん「こんにちは」
寅「あ、こんにちは、精が出るね」
寅、すたすた歩く殿様に追いつきながら
寅「ねえ、おじいちゃん、この町の人っていうのは
みんな行儀いいねえ。こら、殿様がよっぽどしつけが
厳しかったんだよな、」
おばあちゃん、お辞儀。
寅「こんにちは」
寅「な、ほら、しつけがよかったんだよ」
鵜飼料理承ります
分かれ道で
寅「えーっと、それじゃおじいちゃん、オレこれでな」
と、スタスタ街のほうへ歩き始める。
殿様「あーこれこれ」
寅、戻って
寅「フフフ、なんだよおじいちゃん」
殿様「このような高価なものをいただいたゆえ、
お返しに粗餐(そさん)を差し上げたい」
寅「なんだいソサンて?」わからんよねえ(^^;)
殿様「粗末な食事と言う意味です」
寅「はあー…たくあんに茶漬けかなんかか?」
兵頭食堂
手打ちうどん
定食
中華そば
コカコーラ
司法書士 杉江安雄 事務所
サルビア
殿様「ついてきなさい」
と、スタスタ歩いていく。
寅「おいおい、ちょっと待ってよ」
寺尾聡さん扮するおまわりさんとすれ違う。
おまわりさん、殿様に敬礼。
寅をじろじろ見て不思議がる。
おまわりさん「…」
寅「あ、ごくろうさん」と敬礼。
寅、追いつきながら
寅「よ、おじいちゃん、ちょっと待ちなよ、よ」
寅歩きながら
寅「ごちそうになるのはいいけどよ、あとで意地の悪い嫁さんに
怒られても知らねえぞ、おい」
殿様「嫁はおらん」
寅「一人暮らしか…うん、そりゃ淋しいなあ…」
大洲城三之丸南隅櫓の敷地内
殿様城の中へ自宅へ入っていく。
ロケは加藤家
殿様の家は、江戸時代、大洲を治めた旧大洲藩主『加藤家』の住宅で、
大洲城三之丸南隅櫓の敷地内に建つ。
桁行12m、梁間9mで木造二階建、寄棟造。
玄関は南面に切妻造で突出。
この作品では殿様は加藤ではなく藤堂。
この、藤堂の名前はおそらく江戸初期、大洲城を建てた、
あの名武将藤堂高虎の苗字から取ったものだろう。
寅「よ、おう、おじいちゃん、どこ行くんだよ、
おじいちゃん、ダメだよ、
そんな人の家入ってったら怒られるぞ、よお!」
おまわりさん、自転車で後ろからついてきて、不振な顔をする。
寅、気まずくなり
とりあえず殿様についていく。
寅「おじいちゃん!よお!」
殿様の屋敷
切妻造で突出した殿様の屋敷 玄関
殿様「吉田!」
執事の吉田が玄関に出てくる。
出ました三木のり平さん!
吉田「はい!お帰りなさいませ」
殿様「ご来客じゃ、ご案内しなさい」
吉田「はい」
吉田、ぞうりを整えながら、寅をじろじろ見て、
驚いた顔をする。
もう、のり平さんの顔見ただけで、
一癖も二癖もあるのがわかる。
存在だけで芝居になっている凄さ…。
吉田「どうぞ、お上がりください」
寅「いいのかい入って」
吉田「はい、どうぞどうぞ」
応接間
吉田「どうぞ」
後ろからビビッてついてくる寅
寅「よお、あれ誰だい、この家の主人か?」
吉田「あなたご存じないんですか」
寅「うん、知らないんだよ」
吉田「こりゃ驚いた、
あのお方は伊予大洲五万石、
藩祖宗康様より十六代目の当主、
藤堂久宗様、世が世であれば、
大洲の殿様であらせられますぞ」
寅「殿様!ほお〜〜〜、そうかァ、
頭にチョンマゲでも乗っけて
出てくりゃわかんだけどな。へえ〜〜〜」
寅の友達で頭にチョンマゲしてる男がいるらしい。
第38作「知床慕情」参照(^^;)
吉田不思議そうに
吉田「あなた、どういうご用件でいらっしたんですか?」確かに(^^;)
寅「オレ、用件?そんなものないよ。
あのー、城の下でもってさ、
じいちゃんと会ったんだよ。
で、オレがラムネおごってやったらね、
『お礼にソサンを進ぜたい』、
なーんて言うからさ、
オレのこのこついて来ちゃったい、フフ」
吉田「あのですね」
寅「え」
吉田「お殿様は世間知らずなんで
時々そういうことがあるんですよ。
お引取り願いませんか、すいませんけど」
とニコニコ愛想笑いをしながら玄関を指し示す。
寅、カチンと来て
寅「…帰れ?」
吉田、ぎょっとする。
寅「あ、いいよー、
別にこんな堅苦しいとこいたって
面白くもなんともねえんだからさー、
だけどなんだい、そっちで呼びつけといてよー」と、ごねる(^^;)
吉田そわそわ立ち上がり、
寅になんと千円札を掴ませようとする。
吉田「あの、これでひとつおビールでも」
寅、パッと手から札を離して
寅「なんだいこりゃ!
おりゃ、ゆすりたかりじゃねえんだぞ!」ごねたからだよ(−−;)
吉田「大きな声を出さないで」
と愛想笑いを繰り返しながら千円札をまたもや渡そうとする吉田。
ちょっと嫌なヤツ(−−;)
寅「なんだい!」
そこへ、殿様が入ってきて
殿様「吉田!」
吉田、起立して
吉田「はい!」
殿様「昼食の支度をしなさい」
吉田「かしこまりました」なんでいこいつ…(−−)
吉田、寅をチラッと見ながら後ずさりして出て行く。
寅「おい、オレいちゃまずいんだろ?」
吉田、殿様が横にいるのでコロッと意見が変わって
吉田「なにをおっしゃいます、
ごゆっくりあそばして、ただいますぐにお食事を」
ほー…裏表のある人間だね(−−;)
と、すごすごと戸を閉めて出て行く。
寅「何言ってんだろうね、あいつ」だよね(^^;)
同じように廊下に出て行く寅。
寅「おい、おい、どうなんだよ、残るのか、帰るのか」
吉田「あの、それじゃ、
昼ごはんを食べたらすぐ帰ってくださいよ。すぐですよ」
と、そそくさ歩いていく。
メインテーマがテンポよく流れる。
装飾 小道具の露木幸次(ゆきゆぐ)さん、
今回は大洲の仕出し弁当屋
自転車乗って屋敷の勝手口へやってくる。
戸の中からなんと大空小百合ちゃんで御馴染み岡本茉利さんが
同じくなにか料理を届けて表に出てくる。今回はスーパーちょい役。
岡本さん「あ、こんにちはー」
露木さん「ん、こんちは」
ちょっと岡本さんの出演作を振り返ってみよう。
岡本茉利さんの整理箱
第8作 「寅次郎恋歌」 四国 雨の日の 坂東鶴八郎一座の花形 大空小百合
ラストでも甲州路で再会
第16作「葛飾立志篇」 ラストでの西伊豆の連絡船ガイド さん
第17作「寅次郎夕焼け小焼け」 池ノ内青観の家のお手伝いさん(とし子さん)
第18作「寅次郎純情詩集」 夢のシーン 北アフリカのカスバの女性
A信州別所温泉での坂東鶴八郎一座大空小百合
『不如帰』の浪子役
第19作「寅次郎と殿様」 大洲城での料理屋の店員(出前) ほんの一瞬だけ(^^;)
第20作「寅次郎頑張れ!」 夢のシーン 大金持ちになったとらやのお手伝いさん(なかなか可愛い)
Aラストで寅と軽四トラックで再会する坂東鶴八郎一座 大空小百合
『ああ無常 レ.ミゼラブル』のコゼット役
第21作「寅次郎わが道をゆく」 肥後の田の原温泉に住む留吉の元彼女(春子) 「あんた何くれた!?」
第23作「翔んでる寅次郎」 寅に便秘薬と水を渡した日下部医院の看護婦さん
第24作「寅次郎春の夢」 京都での坂東鶴八郎一座大空小百合『蝶々夫人』
の蝶々夫人役
「ミーバタフライ!ミーバタフライ!」
夕暮れ時
鐘の音 ゴーン
殿様の屋敷内
寅、吉田の言ったことすっかり忘れて
厚かましく風呂まで入ってしまっている。
おまけに長距離電話で
柴又のさくらのアパートに遊び電話している始末。
廊下の電話口
寅、股と言う字のついたタオルを頭に乗せながら
寅「さくら、どこにいると思う。フフ、わからねえ?
フフフ、わからねえだろうね、へへ。
いいか驚くなよ、殿様のお屋敷。トノサマ」
さくらのアパート
さくら電話に出ながら
さくら「トノサマ??どこの??」
さくら「オオズ??オオズってどこ??、四国??
何言ってっか分からないわよ」
わかんないのは「トノサマ」というところだけだろさくら。
あ、さくらは大洲って知らないんだよね。
大洲 殿様の屋敷内 電話口
カメラは上から寅を映している。
寅「わからねえだろうね、
おまえにはいくら説明したって、…んー?
でっかいお屋敷だよ、んー、
オレ今風呂入った、んー、
えー、風呂だってね、
おまえのアパートよりずっとでかいぞ」
アパートと風呂比べるなよ。実も蓋もないぞ…(^^;)
寅「あー、手ぬぐいが五本あんだよ、
なんだか分かるか?、え」
それなあ、
顔と 胴と 手と 股と、
それだけあんだよ、うん。
オレ間違えてさ、
股で顔ふいちゃったよ、
股で、ハハハ!!」
今も「股」を頭に乗せている... (^~;)
吉田、怒ってやって来て
吉田「あんた」
寅びっくりして壁に頭ぶつける
寅「イテ、なんだ、なんだよおめえ」
吉田「困りますよ、昼ごはん食べたらすぐ帰るって約束だったでしょう」
寅「だって殿様が引きとめるんだものしょうがないじゃないか」
寅よ、頼むから電話切ってからもめてくれ(−−;)
吉田「ですから、そこんところをうまくやっていただかないと、
仕事があるとかなんとか言って」
さくらのアパート
電話の向こうのもめているやり取りを
複雑な気持ちで聞いているさくら。
濃い水色の受話器カバー。
寅の声「わかったよ、じゃあ、夕飯食ったらすぐ帰ってやるよォ」
吉田の声「今度こそ本当ですよ」
寅の声「さくら、そういうわけだ、じゃあまたなー!ガチャ」
さくら「ん、。。。もしもし、も…」
さくら「…」
不安げな表情。
博たちは夕食を食べている。
博「四国だって?」
さくら「うん」
夕飯を終えた満男
満男「ごちそうさまー」
さくら「はい」
さくら、ため息をついて
さくら「何してんだろ…」ほんとにねえ(^^;)
大洲 殿様の屋敷 居間
カメラは天井から3人を撮っている。
食事が終わって
寅がお茶を飲んでいる。
寅「あー…」と、満足気
寅「いやあー、ハハハ、なんだかこりゃあ、
晩飯までご馳走になっちゃって、
申し訳なかったね」
殿様「いやいや苦しゅうない。
わしもいろいろ面白い話を聞かせて
もらって愉快であったぞ」
寅「そうかい、フフフ、」
吉田に向って
寅「じゃあ、吉田さん、オレそろそろ」
吉田「あ、さようでございますか、
お忙しいお体お引止めいたしまして
申し訳ございませんでした」
寅「うん、いやいや、忙しい体じゃないから」おいおい ヾ(^^;)
吉田「でもなにか、ご予定がおありとか」
寅「ご予定はないよー」
吉田「でも、奥様がご心配でございましょう」と愛想笑い。
吉田も懸命に追い出しにかかる。
寅、眠い顔して
寅「いないいないそんなものは、うわ〜あああ、あ」
と、これ見よがしにあくび(^^;)
寅「なんだか、こりゃ、眠くなってきちゃったなァ〜…」
殿様「吉田!」
吉田「はい、お車のご用意を」先走りすぎ(^^;)
殿様「バカモノ!!」
寅、目が眠っている。
殿様「お泊りになる。寝間の用意をいたせ」
吉田「…はい、かしこまりました」
と立ち上がって、立ち去りながら
吉田「ったく…ちっ」と、ぶつぶつ。
寅「殿様、なんだかすっかりいい気持ちに酔っ払っちまったな
ちょっとこう、横になっていいかい?」
殿様「苦しゅうない、楽にいたせ」
寅「いたしちゃおう、ね、へへへへ」
と横になって、肘をつく。
殿様「寅次郎君」
寅「はいよ」
殿様「確か、東京と聞いたが、ひとつものを尋ねてもよろしいか?」
寅「苦しゅうないよ。ハハ、それはそっちの言いぐさだな。
なんだい言ってみな」
殿様「鞠子という女を知らんかね?」
寅「マリ子???、うーん、知らないな、聞いたこともないな」
殿様「さようかぁ…。もはや東京にはおらんのかのお…」
東京にはマリ子さんはゴマンと... (^^;)
寅「おらんのじゃないの…、なんだ、おばあちゃんか?」
殿様「確か二十五か六…」
歳を聞いてすくっと起き上がり、 ゲンキン(^^;)
寅「捜したらいるかもしれないよ、
何してるんだいその子?」
殿様「末の息子の嫁じゃ」
また急に興味無くなって寝転んでしまう寅だった。
これだよ露骨…(^^;)
寅「他人のカカアか…。
だったら末の息子に聞きゃあわかるじゃん」
殿様「その息子は一昨年の秋死にました。
生きておればかれこれ三十…」
寅、後家さんだと知ったらまた勢いづいて起き上がり
起きたり寝たり忙しいねえ寅(^^;)
寅「ほう…後家さんかァ、死んだ倅の嫁で、行方不明…、
うん…、こりゃあ、わけありだなあ…」
殿様「私はその結婚に反対だった。
どうしても結婚するなら勘当すると申した」
寅「ところが一緒になっちゃったんだろう」
頷く殿様
寅「身分の違う娘と。
相手は喫茶店の女給か近くの工場の女工だ。
偉かったね、あんたの息子は、オレ感心しちゃうよ。
親父に何か言われてヘイヘイと引き下がるようじゃ男として終わりだよ。
第一民主主義だから今は」
相変わらず女性の職業を勝手に決め付ける寅でした(^^;)
殿様「あれは嫌いじゃ」あれ=民主主義(^^;)
寅「あんたが嫌いでもしょうがないんだよ、
息子は好きだったかもしれないんだから。
で、あれかい、
今になってその息子の嫁のマリ子って女に
会ってみたいと、そういうことなんだな」
殿様「老い先短いわが身を思うにつけ、
心に浮かぶはそのことばかり…、
一度会いたい。
会って一晩ゆっくり息子の思い出話などを…ううう」
と、絶句し、ハンカチを取り出して涙を拭く。
寅「よお、殿さんよ、泣くなよ、え」
頷く殿様。
寅「大丈夫だよ、
オレ今度東京行ったらな、
きっと探し出して会わせてやるから」
おいおいマリ子さんは東京にゴマンといるってば ヾ(^^;)
殿様、寅のほうをあらためて向いて
殿様「さようか」
寅「え、大丈夫大丈夫、きっと会わせてやるから」
おいおいおい無理だって ヾ(^^;)
マリ子の漢字とか、結婚前の苗字とか聞いておけよな寅。
彼女の苗字は殿様の長男がたぶん知ってると思う。
ひょっとしたらNTT(電信電話公社)で番号わかるかも。
殿様、感極まり
殿様「うう…ありがとう、かたじけない」と深々とお辞儀。
寅もつられてお辞儀しながら
寅「いえ、どういたしまして、ま、ま、ま」
そこへ吉田がやって来て、
吉田「お寝間の用意ができました」
殿様「吉田」
吉田「はい」
殿様「寅次郎君がの…」
吉田「あ、お帰りでございますか、
それはそれは残念なことでございます」決めつけ(^^;)
と近くまでやって来る。
吉田「お気をつけあそばして、お帰りはこちらでございます」
と、微笑みながら手で廊下を指し示す。
殿様「たわけィ!!!」うわッ((((((−−;)
吉田「わしの客とみれば片端から追い返さんとする
おのれの魂胆、もはや勘弁あいならん!!」
吉田、頭を下げながら
吉田「お許しくださいませ。みな、お殿様の身を案じてのこと」
殿様、激情して、立ち上がり、
殿様「黙れ!黙れ!黙りおろう!!」
と、飾ってあった日本刀の脇差を鞘から抜き、
吉田につきつけようとする。
アラカンさん、刀持たせたらやっぱり渋い!
渋い!速い!
びっくりした寅、お尻を畳みにつけてひっくり返りそうになる。
目をひんむいて脅える吉田
吉田「は、はああああああ」
寅「ほ、ほんとかお殿さん、よしなよ、よしなよ」
殿様「それになおれィ!!」と刀で場所を指し示す。
吉田、寅の背中に回って背中を押しながら、
吉田「お、おお、御とりなしくださいませ」
寅、殿様のお腹に顔がぶつかりながら、腕にしがみついて
寅「ちょっと、やめなよ、やめ、やめ、やめなさい」
ちょっとふらついて危ない(^^)
殿様「離されィ、」
寅「やめなさい」
殿様「離されィ!」
吉田の元に足を踏み込もうとする殿様を、
寅は後ろから羽交い絞めで止め、
よく見ると、足腰の渥美さん、
アラカンさんをちょっと前に押してやる感じで
フォローして後ろに回り、羽交い絞め。
寅「殿!殿中でござるぞォー!!」
忠臣蔵の見すぎだよ(^^;)
吉田、腰が抜けかかっている。
殿様「武士の情け!
お放しくだされい!!!」
寅「しかし殿!!」
殿様、それでもツツツと吉田に斬りかかろうとする。
吉田、お尻を畳みに付けたまま、尺取虫のように
廊下まで逃げ去る。
吉田「お出合いめされー!!!お出合いめされー!!」
と、お尻を床に付けたまま逃げていく。
殿様「御離しくだされ〜!」
寅「殿中でござるぞ〜〜〜〜」
殿様「おのれ吉田ァー!!!」
吉田「お出合いめされー!!
殿ご乱心でござるぞォー!!」
誰に言ってるんだろ(((((^^;)
ひょろっと立ち上がり、ため息をつきながら
吉田「宮仕えはつらいね…」とすごすご立ち去っていく。
部屋ではまだ殿様が盛り上がっている(^^;)
殿様お声「おのれ(吉良)上野介ェー!!」
おいおい関係ないぞ完全に浅野内匠頭になりきってる ヾ(^^;)
寅の声「殿中でござるぞォ!!」
世間知らずで未だに殿様気質の殿様と、
老獪な執事吉田。絶妙なバランスですね(^^;)
例の、元禄14年3月14日(1701年4月21日)、
江戸城内松の廊下で、赤穂藩主浅野内匠頭が
吉良上野介に突然斬り掛かる(松の廊下事件)の
再現をこの時殿様は吉田に向ってしたわけだ。
あの事件は事件が東山天皇の勅使を饗応する直前だったので、
将軍・徳川綱吉は殊のほか激怒し、勅使饗応役であった浅野内匠頭に即日切腹を、
赤穂藩にはお取りつぶしの断を下した。
一方の相手の吉良上野介に対しては、手向かいしなかったため何のおとがめもなし。
まあ当然と言えば当然で、
いろいろ事前に姑息な意地悪が吉良からあったにせよ一方的に斬りつける
というのは浅野内匠頭のキャラクターにそもそも問題があったとしか言いようがない。
この裁きを片手落ちと考えた家老の大石内蔵助以下の赤穂藩の藩士たちは激怒。
無抵抗で城を明け渡すも、吉良上野介に対して密かに仇討ちを計画し、
元禄15年12月14日(1703年1月30日)、
大石以下47人の赤穂浪士が吉良邸に侵入、
吉良を討ち取って主君の仇討を果たした。
柴又 題経寺 ニ天門前
後ろのほうにチラッと喫茶店ロークのピンクの文字が見える。
まだまだ健在!
さくらが、満男のランドセルを見つける。
あああ、どこでもここでも
夢でもみんなチャンバラ〜(^^)
本堂への渡り廊下
源ちゃん「えい!やー!」
満男「えい!やー!!」
源ちゃん「やられたー…」
御前様やって来て、怒り心頭
御前様「こらああ!!」
源ちゃんのお尻を斬りつけている満男
源ちゃん、見つかったので急におとなしくなっている。
満男はおかまいなしに切りつけている。
満男「えい!やー!」
御前様カンカンに怒ってやって来て
御前様「なんだおまえたちはこんなところで!」
で、源ちゃんいきなり、
姑息にも廊下の手すりを雑巾で拭くふり バレバレやでえ〜 ヾ(−−;)
満男勢い余って御前様の頭を刀でポカッ!!
御前様「あいた!」
さくら、びっくり!
下の境内から走ってきて
ランドセル落としながら叫ぶ
さくら「満男ー!!」
満男逃げていく。
さくら「ほんとにもうー!しょうがないわねえ!」
と、源ちゃんを睨みながら追いかけて行く。
さくらは分かっているんだね、源ちゃんが諸悪の根源だということを。
だから源ちゃんを睨むところがなかなか細かい演出(^^;)
源ちゃん、満男指差しながらヒヒヒ笑い 小悪魔〜(〜〜;)
それにしても笠さん、
ちゃんと中村はやとくんが叩きやすいように
一瞬頭を止めてあげたように見えるのは
私だけだろうか(^^;)
帝釈天参道
満男とらやに戻されながら
満男「ねえ、アイス買ってェー!」
さくら、さっきのことがあるので怒りながら、
満男を振り払うようにオーバーアクションで、
さくら「だめだったら!あんたなんか大嫌いよ」
とらや 店
さくらぷんぷん怒って入ってくる。
さくら「ほんとにいやになっちゃう」
おばちゃん水撒き。
おばちゃん「どうしたんだい?」
さくら「満男ったら本堂でチャンバラなんかして、御前様に叱られてんのよォ」
と、かなりご機嫌ななめ。
おばちゃん、怒りながら
おばちゃん「源ちゃんだよ、そういう悪いこと教えんの、
今度酷い目にあわせてやるから。」
図星★(^^;)さすが
で、満男のほうはまったく反省せずに、さくらのエプロンの紐を解いて、
ススッと台所へ行ってしまう。
悪戯なガキだねえ(^^;)
この『必殺エプロン外し』は現場で決めたものなのだろう。
決定稿にも書かれていないからだ。
この悪戯はなかなか面白かった。
お母さんにこういう悪戯ってこの年頃の男の子やるんだよね(^^;)
このように第19作「寅次郎と殿様」の満男は結構ヤンチャだ。
本編では↑のように本堂の渡り廊下で
源ちゃんとチャンバラごっこをして御前様に叱られるばかりか、
その御前様の頭をなんとおもちゃの刀でパコッと叩いてしまうのである。
このシリーズで御前様にそんな無謀な罰当たりなことしたのは満男だけ(^^;)
ここでまたちょっと脱線
ところで、このギャグのシーン、実は脚本の決定稿では本編どおりなのであるが、
『第2稿』の時点まで戻ると、まったく違うエピソードになっている。
第2稿をそのまま書き写してみよう↓
さくらが満男のランドセルを題経寺ニ天門の前で見つけるところまでは本編と一緒。
境内から聞こえる太鼓の音と、
子供がお題目(南無妙法蓮華経)を唱える音。
さくらいぶかしげに山門の中を覗き込む。
山門の裏側に満男と源公が立ち、団扇太鼓を叩きながら南無妙法蓮華経を唱えている。
二人の前に怖い顔をした御前様が立っている。
遠巻きにして見物している子供たちニ、三人。
さくら「どうも申しわけありません。またこの子がなにかやったんですか」
御前様「源と二人で本堂の裏で小便をしてました」
さくら「まあ!どうも申しわけありません。満男なんでそんなことするの」
御前様「近頃だんだん寅に似てきたねえ。
血続きだからやむを得んが。
―満男君は帰ってよろしい」
満男、太鼓を放り出し、さくらの傍へ駆け寄る。
さくら「満男、ごめんなさい、って言うの」
「ごめんなさい」と叫びながら駆け出していく満男。
一礼してさくらもあとを追う。
御前様「源!!お前は、あと百回!」
泣きべそをかきながらお題目をまた唱え始める源公。
と、まあ凄いことをする満男なのだ。
これはこれで面白いし、御前様が寅と血続きだからキャラが似てきたと言っているのも笑える。
満男が逃げた後、源ちゃんが残されて半泣きでお題目を唱えるのも見たかった(^^;)
まあ、この脚本が没になったのは、二人で立ちションはさすがにえげつないと思ったのか、
神聖なお題目を「罰」で唱えさせるのは御前様らしくないと思ったのか、真相はよく分からない。
本編で満男が御前様の頭をポカッと叩くのもうやはり笑えるので本編でOKである。
そういえば第17作「夕焼け小焼け」で御前様が源ちゃんにホースの水かけまくるスーパーギャグがあるが、
あの時の笠さんは、必死で蛾次郎さんに当たるように集中して狙っていた。
私は、何度も蛾次郎さんが撮り直ししなくていいように、笠さんはがんばって一発で決めてあげたのだと思っている。
笠さんは優しいのだ。
さて物語に戻ろう。
なんと、店先に背広に蝶ネクタイをした殿様がすくっと立っている。
寅を訪ねてきたのだ。
おそらく鞠子さんが見つかったかどうかを聞きにきたのだろう。
三味線の音色で 殿様のテーマ
おばちゃん「なんだろう?」
さくら「変なおじいさんねえ」
おばちゃん「手品使いじゃないかい?」
これ笑いました。見える見える。 座布団ニ枚(^^;)
さくらも笑っている(^^;)
殿様は中をキョロキョロしている。
さくら「え?フフ?」
さくら殿様に向って
さくら「おじいさん、なんか御用?」
殿様、ステッキを突きながら店に入ってきて、
殿様「卒爾(そつじ)ながらちとものを伺いたい」
そつじながら【卒爾ながら】 (連語)
人に声をかけたり、物を尋ねたりするときに言う語。突然で失礼だが。―
さくら「はい」
殿様「寅次郎殿はご在宅ですか?」
おばちゃん「あのね、おじいちゃん
寅ちゃんまだ旅から帰ってこないんだけど
おじいちゃん、寅ちゃんの知り合いなの?」
殿様「はい、左様!」
おばちゃん、びっくりのけぞって、
そして深くお辞儀。
おばちゃん上手いリアクションです。職人芸!
おばちゃん「は、どうぞ、今お茶でも」
殿様「寅次郎君はいつごろお帰りになりましょうか!?」
おいちゃん「なんだいあれ?」だよね(^^;)
おばちゃん「まるで時代劇みたいなおじいさん」そうなんですよ(^^;)
おいちゃん「寅のやつは、いったん旅に出ると、
糸の切れた凧みたいに
いつ戻ってくるかわかんないんだよ」
と言ってやる。
上手いなあ〜、おいちゃん、
まさしく寅は『糸の切れた凧』だよ。
殿様「左様か…」シュン…
おばちゃん「気の毒にねえ、おじいちゃんどっから来たの」
殿様「伊予の大洲」
おいちゃん「伊予…、?伊予と言うと四国だ」
おばちゃん「まあ…はるばる四国から」
さくら「そういえば、ほら先月の末、お兄ちゃん大洲って所から電話してきたじゃない。
あの時の知り合いじゃないかしら」
おいちゃん「まさか金でも借りたんじゃないだろな、
この年寄りに…」
さくら、はぁー…とため息。
おばちゃん『ぞ〜〜〜っ』と殿様を見る。 ちゃうちゃうヾ(^^;)
もっとも、第27作「浪花の恋の寅次郎」では、
大阪の「新世界ホテル」から
宿のオヤジが寅が貯めた宿代をほんとうに取りに来ていた。
殿様、立ち上がって
殿様「では、ご無礼いたしました」
と、帽子を脱ぐ。
おばちゃん「いいんですよ」
さくら「疲れたでしょう、遠くから」と、お茶を置く。
おいちゃん「まあ、畳の上でゆっくりしていきな。」
さくら「そうね」
おいちゃん「え、ひょっとしたら寅のヤツ…」
殿様手で制して
殿様「お控えなされい!」 その言葉遣いと音量なあ… ヾ(^^;)
殿様「皆様方のご親切まことにありがとうございます」
さくら「いえ」
殿様「しかし、ちと、人を待たせております。
これにて退散いたします」
と、その時、なんと寅が店先まで帰ってくる。
と、同時に、さくらたち、店先で寅を見つける。
さくら目を大きく開けて、口あんぐり。
おばちゃんに無声音で「お兄ちゃん…」
殿様「寅次郎君がご帰還になりましたら…」
さくら、店先にいる寅を見つけびっくりしている。
殿様、さくらを指差し
殿様「娘!」ひょえ!((((^^;)
さくら「はい」
殿様、さくらを指差し
殿様「聞いておりますか!」いいねえ〜!(^^)
さくら「あ、…あの…」
おいちゃん「帰りました」と店先の寅を指差す。
おばちゃんもつられて指差す。 いいねえ〜このボケ(^^;)
さくら「ええ」と照れ笑い。
殿様「どこにいますか?」
振り向く殿様
おいちゃん「ほら!」
源ちゃんの背負った荷物の後ろに隠れてダメ出ししている寅。
例のごとく店に入りづらいんだろうね。
さくら「お兄ちゃん」
寅照れながら「よ!」
さくら、殿様を手で指し示す。
寅、店の中に踏み込んで、殿様に焦点が合う
寅「よ!殿様!」
殿様「寅次郎君んん!」と近寄り手を固く握る。
寅「ん!」
殿様「鞠子は見つかりましたか!?」
探してない探してない(^^;)
情報提供少なすぎ…。マリ子だけじゃなあ…。
寅「マリ子って?誰だい、それ」な、これだよ(−−;)
殿様「わしの息子の嫁ですよ」
寅「はあはあはあー、例の!、
うん!―え!??」
寅、さくらをチラッと見て
寅「なんだ、それで殿様、ここに来たのか?」
殿様「三日もすれば見つかると君は言った」と寅を指差す。
殿様の知能子供以下か?「マリ子」だけでは無理だってば。 ヾ(^^;)
殿様「あれからもう十日経ちますよォ!!」と、すさまじい気迫で迫る。
寅「んー…、あ、マリ子さんねえー、ん…、」
寅はそんなことすっかり忘れていたが、
見栄を張って見つけているふりをついしてしまう。
寅「一生懸命探してるんだよ。もう見つかる。
意外と手間がかかちゃって、うん
あの、見つかるんじゃないかな、こうなったら、うん」
うわ、適当〜。その場しのぎ。嘘八百(^^;)
殿様、怖い目つきでにじり寄り
殿様「しかと左様か!?」
寅「しかとさよう、しかとさよう、うん、へへ」
と腕を叩いてやる。
殿様の長男は間違いなく鞠子さんのフルネーム知ってるはず。
どうしてそれを寅に言ってやらないんだ。
そして長男は末の息子の葬式の当日か、前後におそらく会っているのだから、
間違いなく旧住所も聞いているはず。
そこに訪ねていけば新しい鞠子さんの住所のヒントが分かると思うんだが…。
寅は苗字も住所も何にも知らないんだから無理だよ。
せめて漢字くらい教えてやってほしい… ヾ(^^;)
ちなみに「鞠子」と言う名前は第15作「寅次郎相合い傘」で早乙女愛さんが先に使っている。
もちろん船越パパの娘さんで兵頭鞠子さん役。
さくら「お兄ちゃん」
寅「え?」
さくら「どなた?このおじいさん」
寅「あ、このおじいいちゃんなあ、
………!!」
さくら「うん」
寅、急に殿様だったことを思い出して、
あらためて殿様を見つめる寅。
真顔になった寅は、
寅「…」
水戸黄門のスケさんカクさん調で、
寅「さがれ!」
みんな ビクッ!!
寅「おじいちゃんとはなにごとだ!!!」
寅、半歩下がって こういうちょっとしたところが憎い演出(^^)
寅「無礼者!」
みんな一歩後ろずさり。
寅、手で指し示しながら
寅「畏れ多くもこの方をなんと心得る!
伊予は大洲五万石の城主
藤堂久宗様であらせられるぞ!!」
吉田が言ったたった一回のフルネーム、
寅よく覚えてたね(^^;)
みんなびびる。
寅、指でみんなを指図しながら、
寅「頭が高い!
団子あきんど頭が高い!
プアアア!!タアー!!」
団子あきんどは笑いました(^^)
この水戸黄門パターンは第29作の加納作次郎の紹介時に、
弟子の近藤が寅に使っていた。
こけそうになるおいちゃん。
寅の大声も手伝ってすっかりみんな恐縮する。
殿様「もうよい」
寅「はい」
みんな頭を下げる。
タコ社長、間が悪く、
ヘルメット被って店にやってくる。
社長「よう、寅さん」
寅「社長、頭が高い!」
社長「は!」
社長とりあえずビビッて、ヘルメットを脱ぐ。
みんなでとりあえず深々とお辞儀〜。
殿様「大洲の藤堂であります」
寅「ハァハハアー」寅って過剰演出(−−;)
一同またとりあえず深く頭を下げる(^^;)
殿様「年寄りの切ない願い事叶えていただけますよう、
ご家族の皆様方、どうかよろしくおたの申します」
と、帽子を取り、お辞儀。
それだったらもっと情報やれってば ヾ(^^;)
寅、頭を下げながらもどこかで茶化しているので
↑のような茶目っ気のある顔になっている(^^;)
殿様「では」
寅も一緒に茶目っ気顔で頷く。
しょうがないやつだ(−−;)
と、店先へ出て行く。
寅「なんだいもう帰っちゃうのかい?」
殿様「はい、田園調布に長男がおります。そこへ戻ります」
第23作「翔んでる寅次郎」ではひとみさんの田園調布の住所を
田園地帯のお嬢さんって言っていた。
おばちゃん「あら、お駕篭(かご)か何かで」
おばちゃんこれはさすがに確信犯的なギャグ。わざとだね(^^;)
さくら、おばちゃんをたしなめる。
おばちゃん、さくらを見る。
殿様「いいえ、孫の自動車で帰ります、―御免」まじめに応えてやる殿様(^^;)
とらや 店先
寅「そうかい、今晩泊まってもらおうと思ったけどそうもいかないかい。
おい、源公、
『下にー、下にー』、早く早く、露払い露払い」これまた確信犯的ギャグ(^^;)
見送る源ちゃん「下にィ〜!下にィ〜。
下にィ〜!下にィ〜」
源ちゃんは本気か?(^^;)
そんなことやっても変人扱いされるだけだってば ヾ(^^;)
高木屋さんの前で孫の車に乗り込みながら
殿様「寅次郎君、吉報を待っていますよ」
寅「大丈夫大丈夫、
2、3日したらきっと見つかるからよ」100パーセント無理(−−)
寅「お孫さんかい」
孫「ええ」
寅「ごくろうさん」
殿様「これが倅の電話番号です。待っておりまするぞ」
寅、名刺受け取って、
寅「うん、うん」
さくら「失礼いたします」
殿様「頼みますよ」
寅「わかったわかった」
多摩57 た 33−00
スバル.レオーネ1600ハードトップGFT
SEEC-T 53年度 排気ガス規制適合車
1977年(昭和53年度のビッグマイナーチェンジ)
富士重工(スバル)は、後処理装置を使わない排気ガス対策システムSEEC-Tが
高い評価を受けて販売も好調だったが、排気量のわりにボディサイズが小さくなったことや、
デザイン的にも古さが目立ったことから、この際、従来のデザインをベースにプレスラインを一新、
同時にサイズアップを果たすことになった。
内装もFF車の居住性の良さをアピールするべくデザインを全面変更し、
また、メカニズムでは従来のSEEC-Tをさらに改良してレオーネに搭載。
“53年排気ガス規制1番乗り”を大々的にアピールすることによってシェアの奪還を目指したらしい。
こうして日本初の全車53年度排気ガス規制適合を達成した。
立ち去った車を見送る寅とさくら、そして一応源ちゃん。
重い荷物を担いで、露払いをしたので、
疲れてしまい地べたに尻餅をついてしまう源ちゃん。
大和家さん
すぐに見つかるわけもないのに
殿様の真剣なまなざしに、
つい見栄を張ってしまった寅。
殿様が立ち去った直後、
急に襲ってきた虚脱感にさいなまれ、
深くため息をつき、肩を落とし、
しょぼくれて下を向きとらやへ戻っていく寅だった。
ああ…寅はいったいどのようにして
鞠子さんを探すのであろうか、
男寅次郎の運命やいかに。
ここで前半の終わりとさせていただきます。
さて後半です。↓
とらや 茶の間
ゴーン
寅「まいったなあ…、本気にするとは思わなかったんだよ。
オレはお愛想のつもりで言ったんだよね、すぐ探しますからって。
世間知らずだから真に受けちゃったなあ…」
さくら「お兄ちゃんいったいどうする気?」メロンを切って持ってくる。
これは兵頭パパのくれたような『マスクメロン』ではないようだ(^^;)
寅「…」
おいちゃん「謝っちゃったらどうだい。
ありゃ口からでまかせです、マリ子さんは簡単には
見つかりませんって」
寅「そうはいかないよォ、相手はお殿様だもん、
オレはお手打ちになっちゃうかもしれねえな。
『よくもわしを騙したな!』
お手うち首切りギャグ(^^;)
スパーッ!
と、手で首を切る真似。
スポーッ!!
枕に首を乗せる。
こういうミニコントやらせると渥美さんは上手すぎ(^^;)
寅「鈴が森の三尺高い木の上で…、雨の日なんか嫌だなぁ…
ポシャポシャポシャポシャ首だけでさぁ…、
カラスに目玉なんか突かれちゃって、あと穴ぼこだらけになっちゃって…」
社長「クフフフフ」風呂から出たのかタオルを頭に乗せている。
鈴ヶ森刑場(すずがもりけいじょう)
江戸時代の刑場。現在の東京都品川区南大井。
さくら、しきりに髪の毛の油を針につけながら針仕事をしている。
う〜ん、こういう演出がいいんだよなあ〜!
社長「フフフ、寅さんの首は四角いから座りがいいだろうね、クフフフフ」
寅、枕をつかんで投げそうになりながら
寅「なんだこのヤロウ!人が真剣に悩んでんのに、ちゃんと考えろてめえも!」
一方博は知らん顔で黙々と夕飯を食べている。
寅「博よォ、どうなんだい、おまえ」
博「ナンセンス」
寅「……??…なんでしょう?」座布団一枚(^^;)
寅「聞いてなかったのかオレの話?よう、どういうつもりなんだよ」
博「世の中にはもっと困ってる老人がたくさんいるんですよ」
寅「なにが言いたいんだよ」
博「どうして殿様だからって言ってそんな大騒ぎするんですか?
江戸時代じゃないんですよ今は。民主主義の時代です」
寅「民主主義っちゅうのは殿様嫌いなの」
博「好き嫌いの問題じゃありません。歴史の流れです」
寅「理屈じゃないんだよおまえ、
そういう好き嫌いって言うのはさ。
え、オレウナギ大嫌いだろ。
お前ウナギ大好きじゃない。
それ理屈で説明できる?それも歴史の流れかそれもぉ〜」
寅、第18作、第25作でウナギを食べてるのはどうしてくれるんだ。
それも歴史の流れが変わったってことか?(^^;)
博「…」
さくら「お兄ちゃんやめなさい」
寅、力なく寝転がってしまう。
寅「あ〜あ…」
博は、殿様だから寅が騒いでいると思っているのだろうが、
寅はそんな男ではない。
寅は、博以上に実はそういう『権威』では動かない男なのだ。
一人の老人が息子の嫁さんに一目会いたがっている。
そこに人の世の情けがあるわけだ。
困った、怒られる、なんてさわいではいるが、
実は『人助け』の気持ちが大部分を占めているのである。
社長「おばちゃん」
おばちゃん「ん」
社長「その…マリ子さんって人、殿様の一人息子の嫁さんかい?」
おばちゃん「末っ子だって、さっきほら、長男の家へ泊まりに行くって
おっしゃってたじゃない」
社長、そうだったって顔で頷く。
おいちゃん「しかしあの調子じゃ長男の嫁さんもたいへんだろ」
おばちゃん「そうだねえ」
さくら「その息子さんを一番可愛がって、
ゆくゆくは一緒に暮らそうって思ってたんだって」
社長、頷く。
さくら「そうでしょ、お兄ちゃん」
寝転びながら
寅「そうだよ」
寅、寝転びながら、足を動かして表現
さくら「ところが、その人に好きな女の人ができて、それが気に入らなくて…」
おばちゃん「勘当だって」
社長「身分違いか?」
おばちゃん「古いねえ〜」
社長「そしたら息子が死んじゃったんだ!」
おばちゃん「そう」
おばちゃん、さくらのほうをむいて
おばちゃん「ね」
いいね、このあたりの『間』。演出が実に繊細(^^)
頷くさくら。
さくら「お嫁さんのマリ子さん残してねェ」縫い物の糸を歯で切るさくら。
相変わらず細かい演出。
社長「へえ〜〜」
社長「それじゃあ、マリ子さんという人と殿様は…
今まで逢ったことも見たこともないってことなのか、寅さん」
寅、あい変わらず寝転がりながら
寅「そうそう」
博「言ってみれば、赤の他人だもんなあ…」
おいちゃん「おまけに向こうじゃ殿様のこと恨んでいるかもしれないし、
会ったってどうってことないんじゃないのかあ?寅」
寅「おいちゃん」
寅、起き上がり、
寅「どうしてそんな冷たいこと言うんだよ」
おいちゃん「どうして?」
寅「例えばだよ」
寅、おいちゃんの前にやって来て
寅「いいかい、これは例え話だよ。
オレが所帯を持とうとする女が見つかる」
おいちゃん「うん」
寅「しかし、身分違いだというんでおいちゃんたちは反対するよ」
とらやに身分は無い(^^;)
おいちゃん「しやしないよ、フフ」
寅「例え話だと言ったでしょ」
おいちゃん「ん、そうかそうか、ん、それで?」
寅「しかし、オレはその女と一緒になっちゃう。民主主義だから」
おばちゃん「もちろんだよぉ〜、一緒になればいいじゃない」
寅「しかしな、おばちゃん」
おばちゃん「ん?」
寅「オレととらやはそれっきり喧嘩別れだよ。
どこか遠くの町で所帯を持つ。5年6年暮らすうちに、
ある日突然電報が来る」
おばちゃん「あら、なんだって?」
寅「トラ ジロウ ヤマイニテ シス。
… 侘しい葬式だ。
変わり果てた姿で白木の棺に入って帰ってくるオレ。
『寅ちゃん、こんな姿になってしまって…』
おばちゃん、その時は泣いてくれるだろ?」
なにもそこまで…((^^;)
おばちゃん「もちろんだとも」と、すでに半泣き(^^;)
さくら、冷静〜におばちゃんを見る(^^;)
寅「一周忌、三回忌は瞬く間に過ぎ、
それにつけても思い出すのはオレの嫁さんのこと。
せめて一目会いたい。
会って、両手を突いて礼を言いたい。
寅次郎の奴がお世話になりました。
あなたのような美しい、やさしい人が
おそばにいてくれたからこそ、
寅の奴の晩年はどれほど幸せであったことか…。
なあ、おばちゃんこの気持ちも分かるだろう?」
おばちゃん「分かるとも…」もう完全に物語に入り込んで本泣き(^^;)
さくら、もう一度おばちゃんを見て、しら〜〜〜(^^;)
さくらのこの冷ややかな目を見てください((((^^;)
寅「ん、それが分かれば、今の殿様の気持ちも分かる」
みんな頷く。
社長「なるほどねえ…」
とは言うものの、
寅は、どうして鞠子さんを探していいか分からないでほとほと困ってしまう。
寅「さー…明日っから、そのマリ子って人を
探さなきゃならないんだ、みんなで」
と威嚇しながら顔をぐるり(^^;)
さくらと博、『みんなで』に大きく反応、ビビル(((^^;)
寅「さあ、こりゃえらいことだよォ〜」
あんただけだよえらいことなのは ヾ(^^;)
さくらたち顔を見合わせておろおろ。
寅「あ、そうだ、社長」
社長「ん」
寅「おまえさ、顔が広いんだから、明日手伝ってくれよな」
と、とらやの人数を数えている寅。
満男のほうまで向いて数えようとする。
満男小学生なんだけどなあ…((^^;)
社長「うん」と言ってからすぐに我に帰り、
社長「オレ明日忙しいんだダメだ!」
寅「おまえ、そう冷たいこと言うんじゃないよ」
寅「オレが今度の長旅でおんなに疲れているか、
わかんないだろ、おまえたち」
みんな「…」
寅「オレは寝るよ。おやすみ」
と立ち上がり土間に下りる。
おばちゃんぼそぼそと
おばちゃん「おやすみなさい…」
階段を上がっていく寅
寅「あ〜あー、大変だなあ…どうするかなあ…、
一軒一軒訪ね歩くか東京。え?
『バンバン、マリ子さんですか?』うわ〜〜」
と、シュミレーション。
そうとう探すことを億劫がっている寅だった。
おばちゃん心配そうにおいちゃんに
おばちゃん「東京中に家って何軒ぐらいあるんだろう?」
おいちゃん「そりゃおめえ、何万軒じゃねえか?」おいちゃんて…(TT)
博、笑いながら
博「フフフ、冗談じゃありませんよ、
100万、いや2…300万はあるんじゃないかな」
おばちゃん「ふんん〜〜ん」
おいちゃん「ほんとかあ〜〜〜あ」
この映画の年昭和52年度 430万世帯
平成19年度 600万世帯
平成19年度
総数 12 339 259 人
男 6 130 991 人
女 6 208 268 人
区部 8 318 841 人
市部 3 931 755 人
町村部 88 663 人
さくら「一日百軒歩いたとして…何日くらいかかるかしらね」
おばちゃん「何ヶ月じゃないかい?」
300万÷100軒=3万日
普通に計算しろよおばちゃん(TT)
博「一年に3万6千だとして…、
フフ…だいたい…百年だなあ…」
おばちゃん「ひゃくねん!!?」
おいちゃん目をパチクリ。
おいちゃん「はああ〜〜〜〜」
さくらまで
さくら「ええー」
おばちゃん「ちょっと社長さん、手伝ってよほんとに」
社長「いやだよオレ、忙しいんだよオレ」
と逃げていく。
頼むから、まじめに殿様の長男さんに
鞠子さんのフルネームと漢字、
旧住所聞けってば(^^;)
一挙に新住所までわかるかも。
それともまだ引っ越してないかもよ。
少なくとも今のフルネームはわかるはず、
電電公社で聞けば、電話があるかもしれない。
翌日 田園調布 住宅街
藤堂家自宅(長男宅)
待ちわびている殿様
お手伝いさんの声「奥様、お車が参りました」
嫁さん「はーい」
嫁さん「おじいちゃま、私同窓会に行ってまいります。
お昼は好きなものを女中に言ってください」
殿様、耳をかざして頷く。
嫁さん、息子たちのゴルフ道具を見て
嫁さん「だらしないわね、後で片付けしといてね」
山田監督って、こういう中産家庭の空虚な感じを出すのが以外に上手い。
とらやの面々との比較の対象になることが多い。
帝釈天参道
さくらが喫茶店ローク方面から自転車で参道にやってくる。
さくら「こんにちは」と近所の人に挨拶。
自転車止めてふと二天門の貼紙を振り返り見る。
『尋ね人 マリ子さん
発見の方はとらやに御連絡下さい。
薄謝をていします』
おいおい、やっぱり漢字知らないんだね。
せめて『鞠子』という漢字や苗字くらい
殿様の長男から聞いておけよな寅(−−;)
寅が源ちゃんを連れて参道の店を回っている。
『煎餅の金子家』で聞いて
寅「どうもありがとう」
源ちゃんに
寅「いたか?」いるわけない(−−;)
源ちゃん「いてへん」そらそうやろ(−−;)
寅「あー、次いこ」
もう相当疲れている。
寅たち、『てんぷらの大和家』に来て
寅「おい大和家、あのーおめえ、マリ子って女知らねえか?」
大和家「ウチにいるよ」
寅「!!年はいくつだよ!?」と、キョロキョロ
大和家「七十五六かな、オレのおばあちゃんだよ」
おいおいおいヾ((((^^;)
寅「バカ、そんなこと聞いてねえや」
源ちゃん、後ろでソーダ味の水色アイスキャンディを
食べてるだけで役立ってないぞ。
寅「おい、次いこ」
寅ぜいぜいもの
彼らの後ろにパーマ屋「アイリス」の屋根が見える。
まだ残っているんだねえ…。
お千代さんはまだいるのだろうか。
あのままいくと、
実は次は高木屋(お持ち帰りのほうの高木屋)なのだが、
なぜか寅たちはとらやの真向かいの江戸家に来るのだ。
店の位置関係がバラバラ(^^;)
寅、江戸家のおかみさんに
寅「おたく、マリ子さんって娘さんいない?」
おかみさん「いないよ」
寅「いない…」
寅「次だ…」
源ちゃんあっという間に
ソーダ味の水色アイスキャンディから
グレープ味の紫色アイスキャンディに変わっている!
この早変わりパターンは第9作「柴又慕情」ラストで
歌子ちゃんの夫が食べるアイスキャンディの色が早変わりしていた
のと同じだ。目にも留まらぬ早食いで、
すぐさまもう一本ということなのかも ちゃうちゃう ヾ(^^;)
意識が朦朧となりながら、
真向かいの「とらや」
つまり自分の家にやってくる寅。
寅「おばさん!
お宅にマリ子って女の子いないかね」とぜいぜい言っている。
源ちゃん気づいて、
「ここは自分の家でっせ」というような手招き…。
おばちゃん情けない顔で
おばちゃん「バカだね、自分のウチじゃないか!」
寅「ハハ、何だオレんちか、は、ずっと駆けて来たんでさ、
もう目がかすんじゃって、何も見えなくって、ハハハ、」
おばちゃん「いやだねもう…」
寅、源ちゃんに
寅「おい、次!はあ、はあ」
と、またもや同じ金子屋と大和家、高木屋のほうへ走っていく。
このあたり古典落語だね。『崇徳院』だったっけ?
さくら自転車でやって来て
さくら「どうしたのお兄ちゃん汗かいて」
おばちゃん「探してんだよマリ子さんて人」
さくら「えー!?」
おいちゃん「とりあえず柴又から始めるんだってよ」
おばちゃん「無精だね〜考えることが」とあきれ返っている。
なぜか面白いおばちゃんのセリフでした(^^)
田園調布
藤堂家
お嫁さん「もしもし、こちら田園調布の藤堂と申しますが、
ただいま父と変わりますから、少々お待ちあそばせ」
殿様電話口へ
お嫁さん「おじいちゃま」と受話器を渡す。
殿様「ああ」
殿様「ああ、もしもし、寅次郎君はおりますか!?んー!?」
待ち焦がれて、もうかなり周りが見えなくなっている感じ。
この長男の嫁さん、
たぶん鞠子さんのフルネーム知ってる気がするんだけどなあ…。
隠してるのかな…。
とらや 電話口
おいちゃん「いいえ、まだ戻っておりませんが…、何か…。
あ、マリ子さんのことですか、
それなら今朝早くから一生懸命探しておりますが、はい」
藤堂家
殿様「では、久宗が吉報をお待ちしておりますと、そのようにお伝え願います」
おいちゃん「はい、かしこまりましてございます。はい、恐れ入ります、はい」
まともな情報も寅に与えないで、
鞠子さんが大東京ですぐに見つかると思うほうがおかしいよ ┐(-。ー;)┌
おいちゃん受話器置いて
おばちゃん「殿様?」
おいちゃん「うん…」
と絶望的な気持ちで首を振る。
おばちゃん「あら」
そこへふらふらになって源ちゃんに肩を支えられて
あちこちにぶつかりながら倒れこむように帰ってくる寅。
おばちゃん「あ、あああ、あら、あら」
おばちゃん「おかえり、疲れただろう〜ん」
寅「はあ…、」
源ちゃんもダウン
寅、目がペケになりながら、
寅「最初の50軒目までは何とか数えてたけれど、
それから先はもう…、
目は霞むし、もうふらふらだよ…」
おばちゃん「おふ、お風呂が沸いてるからお入り」
寅、よろけてこけそうになる。
おばちゃん「あら、大丈夫かい」
寅、階段に倒れて手すりにつかまりながら
寅「いや…それより先に、ちょっとでもいいから寝かせてくれよ」
おばちゃん「ん」
這いずるように階段を上がりながら
寅「あれだねおばちゃん」
おばちゃん「ん?」
寅「東京中探すのには…4日や5日じゃ、無理だねえ…」
這うように階段を上がって、ガタガタガタずり落ちてしまう寅。
おばちゃん「あああああ…」
源ちゃん「大丈夫ですか」源ちゃん寅を起こそうとするが
寅「ここで寝るここで寝る…ここで寝るよ、おーいここで寝る」
と、全身を弛緩している。
寅、ヘロヘロ
みんな困った顔
翌日 帝釈天 参道
さくらが自転車で江戸川土手を急いで漕いで来る。
題経寺を曲がる
題経寺貼り紙『無断貼り紙を禁ず 題経寺 山主』そらそうだ…((((^^;)
今度はさくらが気づかないところがこれまた細かい演出(^^)
とらや 店
さくら、自転車を止め店に入ってくる。
寅は上がり口で沈んでいる。
どうやらひっそりと殿様に隠れて旅に出るようである。
さくら「旅に出るんだって?」
寅「…」
さくら「…どうして?」
寅、植木鉢の植物を手でいじりながら
寅「…」
さくら「だって、…まだマリ子さんのことだって見つかってないのに」
おばちゃん、寅の背広を持ちながら
おばちゃん「見つかりそうもないから出て行くって言うんだよ」
寅「もともとオレが心にもねえデタラメ言ってあの年寄り騙したから
こういうことになったんだよ」
さくら「…」
寅「今更ごめんなさいって謝ってしまうわけにもいかねえしさ、…
オレは逃げ出すよ…」
寅「おいちゃん」
おいちゃん「ん?」
寅「お殿様から電話があったらこう言っとくれ、
『畏れ多くもお殿様に嘘をつくような不届き者は勘当しました。
もう甥でもなければ叔父でもありません、
見つけ次第お手打ちにしてください』と、そう言っておくれ」
おばちゃん、背広を渡しながら
おばちゃん「なんだか気の毒みたいだねえ…」
おいちゃん「悪気があったわけじゃないのになあ…」
社長「寅さん、オレ明日一日休んで手伝うからさ、
どうだい、もう少し居ちゃ」
寅「社長よォ、博が今朝も言ってたけども、
東京中の家を一軒一軒探し回ったら
百年から二百年経っちゃうぞォ…、
え、その頃殿様は死んじまうもの、殿様どころじゃないよ、
オレだってお前だって死んでいなくなっちゃう」
社長「そういやそうだけどさ…」
だから、鞠子さんの旧制フルネームと
旧住所を殿様の長男に聞けってば ヾ(^^;)
この1977年当たりだと、
ほとんどの家が電話を持っているので、鞠子さんも
旧姓のフルネームさえ分かれば
電話番号が分かるまでに1日くらいしかかからないと
思うんだけどなあ…。
寅はそんな頭の回転していないだろうが、
常識的な博やさくらがバカ正直に寅の発想に付き合っている
のは非現実的だ。
寅「ま、今度はそう早くは帰ってこれねえだろうけれども、
みんな達者にな、どっかの空でオレが
お手打ちになったって聞いたらよ、
線香の一本もあげてくれや」
おばちゃんメソメソしながら
おばちゃん「バカなこと言って」
寅が店を出ようとすると
さくらが追いかけて
さくら「お兄ちゃん」
寅「ん?」
さくら「…他人(ひと)の嫁さんの心配もいいけどね、
自分のお嫁さんのお嫁さんのことも考えてね」
寅「ん…なあ〜…、
オレもそろそろいい年だし、
もうこの事は諦めたほうがいいんじゃないかな」
と出て行こうとする。
さくら「何言ってんのよ」
社長「そうだよ、まだ若いんだ、これからチャンスがあるよ!」
寅「そうだなあ…人間の運命なんてわからないもんなあ…」
社長「わかんないわかんない」
寅「オレだってよ、いつかどっかでいい女に
巡り合うかもしれねえもんなあ。例えばの話さ、
この敷地またいだ所でいい女にばったり会って、
その女と所帯持っちゃうかもしれねえ、な」
さくら「そうよ」
寅「ま、そういったようなことを信じて
生きて行こうじゃないか、はあ〜あ.…」と元気がない。
さくら「早く帰ってね」
寅「うん」
寅「うん」
しょぼしょぼ出て行く寅。
まさにその時
鞠子さんの声が参道から
鞠子「あらああ!」
寅、はっと気づいて
寅「よう!」指差して
寅「大洲の宿の!」
鞠子「あー!いらしたんですか!」
さくらたち、なんだか分からずおろおろ(^^;)
寅「今、オレ戻ってきたんだよ!」
出た〜お馴染みの嘘(〜〜)
鞠子「その節はいろいろとありがとうございました。
お土産までいただいてしまって
あの翌朝お礼に伺おうと思ったんですけど、
でもよかったあ!お会いできてぇ!」
寅、目を輝かせながら
寅「運命だなあ〜!」
鞠子「ほんと!わかんないもんねえ〜」
鞠子さんもうタメ口きいていますね(^^;)
寅「う〜ん」
とらや一同顔を見合わせ????
寅「さ、入んなよ、ここオレんちだ。さささ、ね」
と、入ってくる。
これは実は第11作「忘れな草」での、
リリーとの再会とそっくりの演出。
もっともオリジナルの方はもっと過激だったが(^^;)
みんなポケエ〜…
寅「おい、何ボンヤリっとしてんだよ、お茶。
おばちゃん団子出して団子団子」
おばちゃん「はい…」
さくら「お兄ちゃん、どなた?」
寅「これ、オレの妹。うん。
それで後ろにいるのは旅先で話したでしょ。
もうろくジジイ。それで歯抜けババア。
で、これが裏のタコ社長だよ。フフフフ」
寅「こちら、…あれ??
オレあんたの名前知らねえんだ。
あんたなんて言うんだい?」
鞠子「堤鞠子です」
寅「ツツミ マリ子さん」ニコ〜。
鞠子「突然お邪魔しまして。
大洲ではお兄様にすっかりお世話になってしまって、
一度はご挨拶をと、思っていたんですけど…」
寅「まあ、その辺で、ねいいだろ。
いいお名前だ。
ツツミ マリ子さん。
……!!」
鞠子さんをしげしげ眺め、寅そっと社長につぶやく
寅「社長…、偶然だねえ、フフ」このしぐさと表情(^^;)
思わず笑いがこみ上げる寅。この顔なあ↓(^^;)
鞠子「?」
社長も笑って
社長「この人がそうだったりして、ハハハ!」
寅「カハハハ!!」
一同大笑い
おいちゃん「そうかもなハハハハ」
鞠子「????」
鞠子さん笑いながら
鞠子「どうしたんですか?」
さくら「あのね、ウチでマリ子さんという名前の方
探していたもんだから
ちょっとびっくりしちゃって、フフフ」
おばちゃん「驚いちゃったぁ〜」
さくら「さあ、どうぞ」
さくら「まり子さん大洲にお住まいですか?」
寅「違うよぉ」
鞠子「私は東京です。あのー、
大洲には死んだ主人のお墓があるものですから…」
社長、口をあんぐり
鞠子「それでたまたまお兄様と…」
寅「…」
おいちゃん「え?それじゃあ死んだご主人が大洲の方ですか?」
鞠子「はい、そうですけど…」
さくら、お口あんぐり、おいちゃんと顔を見合わせる。
寅「…、え?」と椅子に座り込む。
寅「ご亭主は大洲の人かい?」
鞠子「ええ、どうかしました?」
鞠子のテーマ流れる。
寅「ご亭主の…名前は
何て言うんだい?」
鞠子「藤堂…克彦と言いますけど…」
と、寅を見てさくらを見る。
寅「。。。!!!!」
一同「…」
寅、声が若干震えながら
寅「もしかしてご亭主の
お父っつあんってのは
大洲のお殿様?」
鞠子「ええ…、そんなふうに聞いてますけど…」
と、周りの顔を見ている。
鞠子「どうして…?」
おいちゃん、緊張で目をみひらいたまま
寅、緊張が高まって…
音楽高まり
寅の目が輝き、立ち上がり
寅「やったぞ!見つかった!!
さくら!見つかったよ!」と鞠子さんを指差す
さくら「よかったわー!」
おばちゃん、おいちゃんの腕ををつかみ
おばちゃん「あんたー!!」
みんな喜び興奮している。
寅「さくら。殿様に電話しろ!」
鞠子「どうしたんですか!?」だよなあ(^^;)
寅「わけはあとで、わけはあとで話しますから!
わけはあとで話しますから」
と鞠子さんを茶の間に上げる。
おいちゃん、入ってきたお客に
おいちゃん「お客さん、今取り込んでいるから、
あとあと!あとで!」
社長もお客を説得。
鞠子さんクエスチョン100個でまくり((((^^;)
ちなみに『堤』という姓は、
第6作「純情編」のタコ社長の苗字だ。
あの作品に限っては『堤梅太郎』って言ったのだ。
その後、設定上『桂梅太郎』に変わる。
帝釈天参道
川千家の前を走っていく寅
寅「源公ォー!」
題経寺 ニ天門
寅「源公!」と走ってくる。
境内で御前様に呼び止められる。
御前様「こら」
寅、戻ってきて
寅「あ、これは御前様、ご無沙汰しまして、お変わりなく」
御前様箒で落ち葉を掃きながら
御前様「なあんだ、騒々しい〜」
寅「あのー…、源公みたら言っていただけませんか、
今ここに殿様がタクシーで着くんですよ、顔を見次第すぐに
とらやにお連れするようにと、
とらやでみんな待ってますから、お願いします大至急!え」
御前様「寅」
寅「なんですか」
御前様「今…誰が来ると言ったかなあ…」
寅「え?」
寅「とのさま…。伊予大洲五万石の殿…、
いいや、オレが直接言うよ!」
寅、本殿のほうへ走っていく
寅走りながら。
寅「源公ー!」
御前様、いぶかしげに寅の後姿を眺めながら
御前様「なぁにをバカなこと言うとる。
い〜い年をしてチャンバラごっこなどしょってぇ〜」
だそうです(^^;)
でもある意味当たっている。
あのおじいさんを今でも本当の殿様扱いしているのは
確かに時代錯誤なのだから。
とらや 茶の間
鞠子「そう…私こんなことになるんだったら来るんじゃなかったわ…」
さくら「どうして…?」
鞠子「だって、今更死んだ主人のお父さんに会ったって…」
さくら「鞠子さん、今でもお父さんのこと恨んでるの?」
鞠子「…うううん、別に…」
さくら「だったらいいじゃないの、
そりゃあ、あなたの気持ちは分かるような気がするけど…、
でも…わざわざ四国から出てらっしゃるくらい、
あなたに会いたがってるんだもの」
鞠子「でも…、会って何て言うの私…」
さくら「…」
遠くから寅の声
寅「おばちゃん!殿様来たぞ!」
おばちゃんの声
おばちゃん「あ、そうかい」
鞠子「あ…私困ったわ…」
さくら「…」
帝釈天参道
タクシーを降りた殿様をなぜか源ちゃんが引くリヤカーで
「下に下に〜」っと言いながら連れてくる。
源ちゃん「下にィー、下にィ〜」
タクシーを降りずにそのままとらやの前まで来れば
いいだけの話なんだが ヾ(^^;)
しかし、寅もとらやさん一同も、こんなに苦労して、
人に親切にしてやるなんて観音様だね(^^;)
とらやに到着した殿様
とらや 店先
寅「あー、ご苦労ご苦労ご苦労」
おばちゃん、あわててこけそうになる。
おいちゃん「バカ、あわてんじゃないよ」
と、言いながらも自分もあたふた。
リヤカーが止まり、殿様が降りようとする。
おばちゃん「殿様、お早いお着きでございます」何言ってんだか(−−;)
源ちゃんおもいっきりこける。 蛾次郎さんさりげなく一発ギャグ(^^;)
寅「なにやってんだおまえは」
殿様、おばちゃんに手助けしてもらいながら、降りて
殿様「寅次郎君」
寅「はい」
殿様「どこにいます、鞠子は」
寅、仏間を手で指し
寅「奥にいるよ、ね」
寅は急いで案内しようとする。
少し立ち止まる殿様。
殿様「…」
寅「どうした、おいで」
殿様、自分の気持ちを落ち着かせるように
おもむろに帽子を脱いで、おばちゃんに渡し、
服装を整えて、一呼吸。
いい演出だ。
殿様、茶の間をスッと指差し、
進んでいく。
こういう立ち振る舞いはアラカンさんの独壇場。
鞠子さん、緊張して座りなおす。
おいちゃんの声「どうぞ」
おばちゃんの声「ようこそ」
仏間に入る殿様
寅「殿様、この人が鞠子さんだよ、え、殿」
殿様、鞠子さんを見つめる。
寅「東京中散々探しちゃったよ、なあ、おいちゃん」
うそうそ柴又だけ ヾ(^^;)
おいちゃん「そうそう、見つかってよかった」
鞠子さんは、下を向いたまま殿様を見ることが出来ない。
ぶち間の入り口にゆっくりと正座をする殿様。
さくら「あら、あのどうぞお上がりになってください」
寅「こっちだよ、奥に殿さん」
さくら「ねえ」
寅「うん」
厳粛な空気が漂い、恐縮している鞠子さん。
殿様「克彦の父です…」
殿様と目を合わせずお辞儀する鞠子さん。
鞠子「…」
ようやく緊張しながらも一瞬、
チラッと殿様を見る鞠子さん。
長い沈黙
殿様「鞠子さん」
なんとも優しい声
鞠子「はい」と顔を上げる鞠子さん。
殿様「克彦が大変お世話になりました。
ありがとうございました」
と、静かに深く頭を下げる。
鞠子さん、驚いたように殿様を見つめ、頭を下げる。
涙を流す殿様。
めがねを取り涙をハンカチで拭く。
寅もさくらも顔を見合わせてその様子を見ながら緊張している。
鞠子さんも、そっと殿様を見て、
そしてまた下を向く。
そしてもう一度殿様を見つめる。
殿様「一目お会いした時から、
わたくしにはよく分かりました。
殿様「あなたがそばにいてくださって、
克彦はどんなに幸せだっ……」
とハンカチで顔を覆い、涙を抑えながらも泣いてしまう。
みんなもなんだか感無量になっていく。
鞠子のテーマが静かに流れる。
鞠子さん、目にいっぱい涙を貯めながらそっと顔を上げ、
鞠子「お父様…、
殿様「うう」嗚咽とともに返事をする殿様
鞠子「わたくしもね、
わたくしも…
幸せでしたよ…」と泣いてしまう。
この言葉に鞠子さんの克彦さんとの日々が
全て凝縮されていた。
ほんとうに幸せだったんだね、二人とも…。
寅も感無量になり、泣いてしまう。
さくらのハンカチを借り、
背中を向けて肩を震わせている寅。
みんなももらい泣き。
遂に鞠子さんも殿様も嗚咽し、
とめどもなく涙を流していくのだった。
さくらも、しんみりしながら、
殿様に座布団を勧める。
朝日印刷 工場内
働く工員たち6人。
中村君が博を呼ぶ
さくらが窓で待っている。
博、窓まで行って
博「なんだい」
さくら「あのね、殿様が来たの」
さくら、工員にちょっと挨拶(演出細かい)
博「へえー、で、どうだったご対面のほうは?」
さくら「今ね…」と向こうを振り返り
ニコニコ笑いながら
さくら「ちょっと来てごらん、ちょっと」と博を手招きする。
とらや 庭
この時のさくらのなんとも明るい顔が印象的。
工場の塀から覗くさくら。
さくらの覗き見、なんとも珍しいシーン
こんなさくらのシーンは珍しい。
普通はこういう覗きは
工員やタコ社長の十八番(^^;)
縁側で話す殿様と鞠子さんの声
鞠子さんの声「青砥という駅の近くの団地です」
殿様の声「遠いのですか」
鞠子さんの声「ここから電車で15分くらいかしら」
おばちゃんの声「そうですね」
鞠子さん「フフ」
殿様のテーマが流れる。
殿様「近いですね」
鞠子さん「そうなんですよ」
博が微笑みながらずっと覗いている。
(さくらの左手の薬指に結婚指輪)
おばちゃん「お殿様は東京は初めてでいらっしゃいますか?」
鞠子「いえ、若い時度々いらしたことがあるんですって」
おばちゃん「あ、やっぱり、参勤交代で」確信犯的ギャグ
そんな歴史用語よく知ってるね、おばちゃん(^^)
殿様「あー、さようさよう。
東海道五十三次、下にぃ〜、下にぃ〜」
鞠子「フフフフフ!」
おばちゃん「??何が可笑しいの?」
鞠子「だって冗談ですよ、フフフフ」
おばちゃん「あら、まあ、いやですわ」
信じてるわけないよおばちゃんが。
いくらなんでも無理がある(^^;)
鞠子「参勤交代だなんて、フフフ!」
おばちゃん「お殿様、お人が悪い、
フフフ、いやですよフフフ」
みんな大笑い。
江戸川土手 夕焼け
江戸川土手で別れを告げる二人。
夕焼けの中、江戸川土手を歩く殿様と鞠子さん。
輝くように光る彼らの背中。
見送る寅とさくら。
奇跡としか言いようのないダイナミックな大地と空。
この長いシリーズの中でも
最も美しいシーンのひとつであることは
疑う余地が無い。
殿様のテーマ
わざわざ歩いて金町から電車に乗るんだね、二人は(^^;)
風景重視のお約束事。
高まる殿様のテーマ
殿様は鞠子さんに会い、心から昔の過ちを謝ることが出来た。
これは殿様の人生の救いであり、
鞠子さんの人生の救いでもあった。
寅は二人の人生に大きな手助けをしたのだ。
人生での懺悔と和解のチャンスはいつでもどこでもある。
そして遅すぎるということは決してないのだ。
このことを今、殿様も鞠子さんも、
そしてこれを見ている私たちも知ったのだった。
京成青砥近く
青戸団地
青戸団地案内図
日本住宅公団東京支所葛飾事務所
あてもなく、きょろきょろ鞠子さんの居場所を探す寅。
ニューハワイのポスター
京成電車が走る。
超偶然に寅を見つける買い物帰りの鞠子さん。
とらやでの再会といい、この二人は運がいい。
鞠子「あらあ」
寅、わざとらしく
寅「よお、なんだい、
あんたこんなとこに住んでいたのか」
よく言うよ(−−;)
鞠子「寅さんどうしてまた?」
寅「うん…、この近くまで仕事できたからね、
ついでに散歩してんだ。…偶然だなあ〜」 舌抜かれるデ(−−;)
鞠子「ほんと、私びっくりしたぁ〜」
寅「うん」
鞠子「フフフ」
寅「あ、これお土産…」
と、偶然会った鞠子さんに、
用意してあったお土産のバナナを渡す。バカ(((^^;)
鞠子さん、クスクス笑い始める。
寅「何笑ってんだよ」と照れ笑い。
鞠子「だって偶然会ったのにお土産だ何て、フフフ」
あの〜…、後ろで近所の母子が待ってますよ鞠子さん ヾ(^^;)
鞠子「フフフフ」
寅「へへへ」と照れ笑い
待っている母娘、
子供しびれ切らして母親を催促する。
母親頷いて
母「堤さん、お先にィ」
鞠子「あ、ごめんなさい」
子供、寅を見ている。
鞠子「ね、家寄っていかない?」おお!(^^)
寅、またもやわざとらしく時計を見ながら
寅「オレちょっと忙しいし」
鞠子さん間髪入れず
鞠子「いいじゃないお茶の一杯ぐらい」
と、案内するのだった。
寅の思うツボ〜♪
鞠子さん歩きながら
鞠子「どうやって来たの?」
寅「うん、駅降りてからね、すぐ交番で聞いたんだ、
そしたら、こっちきたら、その掲示板があるって言うからね…」
と二人楽しそうに歩いていく。
とらや 参道
イースタンハイヤーの外車が止まっている。
寅さんファンの高橋龍一さんからの情報で
シボレー・カプリス3代目
だとわかりました。
高橋龍一さんのメールでのお言葉を掲載します。↓
1977〜90年に製造された三代目シボレー・カプリスだと思います。
カプリスは毎年のようにマイナーチェンジでフロントグリルのデザインが変わりますが、
劇中に出てくるグリルのデザインは1977年型だけのようです
とらや 店
とらやの机に名刺
『通商産業本省…局 局長 藤堂宗通』
宗通「なにしろ昔気質(むかしかたぎ)で、
思い込んだらテコでも動かない
ところがありまして、
鞠子に会わないうちは死ねないと、
口癖のように申しておりましたが、
このたびようやく念願が果たせまして、
喜んで大洲へ帰りました。
本当にありがとうございまいた」
長男さん、それだったら
最初からもっと寅に情報与えてやれよな。
おいちゃんおばちゃんさくら、深く頭を下げて
おばちゃん「とんでもございません」
机の上にはお土産の「高級フルーツ」盛り合わせが置いてある。
満男「ねえ、バアバ、フルーツ…」
おばちゃん「後でやるから向こういってなさい」
満男の友達も2人いる。
★満男はおばちゃんのことを『バアバ』って呼んでいるんだね。
おいちゃん「失礼しました」
おばちゃん「お恥ずかしい…」
宗通「ええ…なお、鞠子のことですが、
弟が死にました時に私どもとしては
十分なことはしておいたつもりです」
やはり、葬式の時かその直後に手渡しか、郵送で何か渡してるんだね。
と、いうことは鞠子さんたちの旧住所や電話を知っていたはず。
この長男さん、これ以上関わりたくないから、
わざと殿様に鞠子さんの情報を隠していたんだろうね…。なんてやろうだ。
宗通「はっきり申し上げて籍を離れましたし、
今では他人の間柄にあります。
ご承知のように、父はあの通りもうろくしておりますから
お宅で何を申し上げたか存じませんが、
今更藤堂家との関係でとやかく、ということがありますと
迷惑と申しますか…、
まあ、その辺はお察しいただきたいと
思います。フフフ…」
他に言いようがないのかね。
殿様の誠実さを受け継がなかったんだね、この息子は。
利己主義的なものを強く感じる。
おいちゃん「はい」と深々と頭を下げる。
おいちゃんは当事者じゃないんだから
別に頭下げなくていいんだよ(−−)
宗通「ところで…」と言って懐から紙包みを取り出し、机に置き、
宗通「私が直に鞠子に会うわけにもまいりませんので、
お宅からこれをお渡しいただいて、
今申したような私の気持ちをお伝え願えませんでしょうか」
さくら「…あの…でも、そんな」と紙包みを宗通に戻そうとするが
宗通「あ、いいえ、どうか私どもの立場も考えていただいて
お預かりください」
長男さん、どうしてあんたの立場を
とらやのみんなが考える必要があるんだ?
とらやの人たちは殿様を助けてあげた恩人なんだよ。
いやな役させるなよ、ったく非常識なヤツ。
自分で鞠子さんに会って直接話しして渡せよ。(−−メ)
第17作の『鬼頭』第42作の『泉ちゃんの佐賀の叔父さん』
そしてこの第19作の『殿様の長男』この3人は嫌い。
満男、紙袋指差して
満男「これ誰のォ〜…」普段食べていないものは欲しいんだよね(^^)
さくら「向こう行ってなさいって言ったでしょう、もう」
宗通「坊ちゃんですか?」
さくら「は、はい」
宗通「ほう…可愛いですねえ、フフフ」
宗通、腕時計を見て
宗通「それじゃあ、お忙しいところお邪魔いたしました」
おばちゃん「あら、お団子でも…」
宗通、立ち上がって
宗通「いえ、もうお構いなく、」
おばちゃん「そうですかぁ」
お辞儀をし、宗通立ち去っていく。
おいおいおい、
こんなやっかいな意味合いのお金預かるなよ。ヾ(−−;)
脚本第2稿では、帰り際に
「あ、そうそう、寅次郎さんと仰る方に
くれぐれもよろしくお伝えください」と言わせている。
本編ではカット。
夜 とらや 茶の間
机には、パパイヤ、アボガド、マンゴ、メロンなどの
亜熱帯、熱帯系のフルーツが置かれている。
博、おいちゃん、さくらが手切れ金の入った紙包みをもてあましている。
おばちゃん、パパイヤを切って、さらに乗せ
おばちゃん「はい、社長、パパイヤ」
社長「はい、ありがと」
くんくん匂って、
社長「な、なんて言ったっけ?」
おばちゃん「パパイヤ」
パパイヤもいろいろあって、この丸い形の小さなパパイヤは主に
フィリピン産のパパイヤ。
私の住むバリ島のパパイヤはもっと大きく細長い。
バナナ同様もうそこらじゅうにパパイヤの木は生える。
パパイヤを食べて種を捨てると結構高い確率で敷地内に生えてくるのだ。
パパイヤは生長が早いので、木というよりも草に近いのかもしれない。
そういう特徴はバナナなどに似ている。
それゆえ、日本では輸入品ゆえに数百円と高いパパイヤも
バリでは1キログラムもある大きなものでも70円ほどで買える。
日本でも沖縄や八重山などの亜熱帯では栽培している。
社長まずそうに食べる。
社長「…」
おいちゃん「おい、どうするこれ?」
さくら「送り返すしかないわよ、こんなもの鞠子さん、受け取るわけないでしょう」
っていうか、そもそも預かるなよ、そんなお金 ヾ(−−;)
社長、その話題とは関係なく
社長「臭いなあ…こんなもん美味いのかい??」
おばちゃん「やだよォ、高いんだよ、それ」輸入品だから高いだけ、現地では安い(^^;)
博、紙袋を持ちながら
博「言ってみれば手切れ金か…」と重さを確かめてバサッとお膳に置く。
さくら「そうよ、考えれば考えるほど腹が立ってくるわ」
宗通がいる時に気づけってば(−−;)
おばちゃん「住所が分かってんだから、為替にして送り返しなよ」
さくら「うん、そうする」
社長「いくら入ってんの?」
出ました。下世話な社長の趣味炸裂(^^;)
だいたい厚み的には50万円〜100万円くらいか。
さくら「しらない」
社長「ちょっと」と、手をのばして紙袋を持とうとする。
おいおいおいおいヾ(−−;)
博、すかさず紙袋を遠ざける。
間一髪セーフ。
社長、上半身をつんのめらせる。
おばちゃん「卑しいね社長は」と背中を押す。
社長「何が卑しいんだ、卑しくないじゃないかそんなもの、ねえ〜」
と、居直っている。
博のお茶を飲む博の湯飲みから湯気が出ている。
一応本当にお茶が入っているんだね。
遠くから寅の歌う声
寅「♪てんてんてんまり てんてまり〜
♪紀州の殿様お国入り〜」
『まりと殿様』の歌は1番から5番までありる。
『まりと殿様』
てんてんてんまり てんてまり
てんてんまりの 手がそれて
どこからどこまでとんでった
かききねをこえて屋根こえて
おもてのとおりにとんでった
とんでった
おもての行列 なんじゃいな
紀州の殿様 お国入り
きんもんさきばこ 共ぞろい
おかごのそばには ひげやっこ
やりをふりふり やっこらさの
やっこらさ
おばちゃん「あら、帰ってきた」
おいちゃん「金のこと話すか」
さくら「だめよ、そんなことしたら
お兄ちゃん怒っちゃうわよ。隠して」
それじゃメロン騒動だよ。
パパイヤ騒動未遂(^^;)
みんなあわてて、紙包みや果物を隠す。
果物がぽろぽろ落ちる。
一杯機嫌で台所に顔を出す寅。
一同「お帰りなさい…」
寅「苦しゅうない、そのまま、そのまま」
おばちゃん「遅かったね」
さくら「お兄ちゃん、ごはんは?」
寅「駅前で軽く一杯やってきたよ、ついでに飯も食ってきたからよ、
お茶でも入れてやってくれないか」
寅、茶の間に上がり、『福』の団扇で扇ぎながら
寅「…、なんだい、お愛想がありませんね」
さくら「あら、どうして?」
寅「えー、お兄ちゃんが外から帰ってきたんだよ、
どこへ行ってたのくらい聞いてもいいでしょ」
さくらポットのお湯を急須に注ぎながら
さくら「お兄ちゃんどこへ行って来たの?」
寅「うん、まあ、あちこちブラブラさ」
さくら「あちこちってどこ?」
寅「どこだっていいじゃないの、オレが自分の好きなところに行くんだもの、
オレの勝手だろ」
みんなククク笑って
さくら「だってお兄ちゃんが聞けって行ったから聞いたんじゃないの」
カメラはここから寅のほうへスライド&ズームしていく。
高羽さんにしては珍しいことをしている。
寅「お愛想がないっていうの。聞き方ってものがあるでしょう。ね、
『馬鹿に嬉しそうね、ね、どっかいい所に行ってたんでしょ、どこ?』
そう聞けばさ、オレだって『うんちょっと鞠子さんのところにな』
とこうスーっと…あ、いけね、言っちゃった、フフフ」
さくら「え、お兄ちゃん鞠子さんのところに行ってたの?」
寅「悪いかい?」
さくら「悪く無いけど…厚かましくない?」
さくら、どちらかというともともと厚かましいのは
殿様や鞠子さんの方だよ。
寅が二人を会わせるのにどれだけ苦労したか(^^;)
おいちゃん「おまえ、そういう時は手ぶらで行くんじゃないぞ」
寅に散々御世話になった鞠子さんも手ぶらでとらやに来たぞ(^^;)
寅、畳に落ちてるパパイヤをスッと手に取りながら、
寅「わかってるよ、おいちゃん、子供じゃないんだから、
駅前の八百屋で六百五十円!バナナ、バーン!!」
博とさくら、寅が持っているパパイヤを見て顔が真っ青(((@@;)
おばちゃん「無理したねえ…」
寅「無理しちゃったよ!こっちは」
寅、パパイヤを放り投げて遊んでいる。
みんなドキドキ。
寅「なんだこりゃあ〜…、おばちゃん、」
おばちゃん「うん?」
寅「今年のヘチマは小さいね」(((^^;)
おばちゃん「あの…うらなりだろ」適当(^^;)
と畳の下に隠す。
さくら「そうね…」
博「兄さん」
寅「ん」
博「どうでした、鞠子さんの住まいは」
博興味深々
寅「ん」
さくら「ねえ、上に上がったの?」
鞠子さんも殿様もとらやの茶の間に上がってる件はどうしてくれる。
でもまあ、女性の一人暮らしだからちょっと複雑か…。
寅「うん、公団住宅の2DKよ、
女の一人暮らしってのはなかなかいいもんだねえ。
きちんと片付いてなぁ。
なんとなくいい匂いがしてさ。ん。
あれは死んだ亭主が読んだんだろうね。
難しい本がビシッと、ん。
その本箱の上にね、亡くなったご亭主の写真が飾ってあるんだ。
さくら、これが殿様そっくり。
あれをこう、わか〜〜〜くしたっていう感じだな」
と、顔を長〜くして表現(^^;)
さくら「へえー…、じゃあ美男子ね」
寅「どうして?」
おばちゃん「だって殿様いい男だもんね」
さくら「んん」
寅「へー、長ければいい男か、ふーん、うなぎは美男子か」
と、寝転んでしまう。
おいちゃん「なるほどねェ…そうやってご亭主の写真を飾って…、
そういう人なんだなあの人は」
さくら「ん」
一同頷く
おいちゃん、まだそんなに亡くなってから年月が経ってないから
まだまだ死んだ亭主の写真飾る人多いよ。別に珍しくはない ヾ(^^;)
おばちゃん「お父さんに勘当されても一緒になったくらいだもの、
よっぽど愛し合ってたんだよ二人とも」
さくら「ん、そうね…」
博「でもあの人だってまだ若いんだし…」若い若い(^^)
おいちゃん「そうそう、いつかまたいい人見つけて再婚しなくちゃ」
おいちゃんライターでタバコに火をつける。
寅、寝転びながら、『再婚』という言葉に表情が緩む。
おばちゃんの声「ほんとだねえ」
さくら「でも難しいでしょうねェ…」
寅寝転びながら、
さくらの『難しい』という言葉に表情を曇らせる。
博「なにが?」
さくら「かりによ、いい人が鞠子さんの前に現れたとしても、
亡くなったご主人のことぷっつり忘れられるかしら」
博「それは時間が解決するだろう」
ちょっと安心顔の寅。
さくら「でも再婚して何年も経ってよ、
なんかの拍子でふと死んだ人の
こと思い出したら、きっと辛いわよォ〜」
社長「第一男のほうがたまんないよ。
『あ、こいつ今亭主のことを思い出してるな』なんて、
そう考えたら気が狂いそうになるよ。
なあ、博さん」
博「そうでしょうけどね」
寅、起き上がって
寅「ダメな男たちだねえ…」
社長「どうして?」
わわ、いきなりテレビの上の
だるま、こけし、薬のビンの位置が変わってる…((((^^;)
寅「いいか、男の気持ちってものはな、
そういうもんじゃぁないんだよ。うん。
むしろこっちから察してやらなけりゃいけない。
『おまえ、そろそろ亡くなったご亭主の命日じゃないかい』
『あら、ご存知だったんですの?』
『黙っていてもおまえの素振りをみてればなんでも分かるよ。
構わない。さ、お行き。
今朝、郵便局からお金を下ろしてきました。
(腹巻からお金を取り出す真似をして)
これは大洲までの汽車賃と弁当代。
これはお寺へのお布施。これは少しだけれど、
亡くなったご亭主に花でも差し上げておくれ。
オレからだと言ってね』
『あなた、ごめんなさい』
『ばかだねえ、なにも泣くことはないじゃないか。
さ、お行き』
これが男の気持ちなんだよ」
いるかなあ…?そんな仏様みたいな人(−−)
寅、社長を見て
寅「分かるか?」
博を見て
寅「え」
さくら「そんな人と結婚できたら幸せでしょうね」
寅、満面笑みニッコニコで
寅「そういうこと。うん、フフフ」
一同納得している。
寅「さて、じゃあこの辺でオレはお開きとするか。お休み」
一同「おやすみなさい」
土間に下りて
寅「♪妻は夫をいたわりつ、
夫は妻をしたいつつううう〜、頃は六月中の頃〜」
と二階へ上がっていく寅。
浪曲の「壷坂霊験記」
の中の有名なくだり「妻は夫を労わりつ、夫は妻に慕いつつーー」
「壷坂霊験記」の仲の良い夫婦の夫は病気がもとで
目が見えなくなり苦難の人生。最後はハッピーエンド。
博「自分のこと言ってるんですね」
おいちゃん「うん」と深く頷く。
さくらお膳の下からお金の入った紙袋を出す。
博、果物を出す。
社長「オレにはできないなあ…。
おばちゃん「なにが?」
社長「例えばオレの女房に死んだ亭主がいたとして
命日に花かなんか持って墓参りに行く。
あ、ちきしょう!
考えただけで、血圧が上がっちゃうよぉ!」
今もとっても好きなんだね、奥さんが…(^^)
さくらたち「フフフ」
遠くから奥さんの声「お父ちゃん!」
奥さん役は水木涼子さん。
でもこの声は別人だね(^^;)
社長「おー!」
奥さんの声「早くお風呂入ってよ!
片付かなくて困っちゃうんだよ!」
社長「うるせえ女だな、お休み」と裏へ行く。
一同「おやすみなさい」
奥さんの声「お父ちゃん!」
社長「おう!あんまりでっかい声出すなよ!」
おばちゃん「愛してるんね、あれでも…」
愛してるってガラじゃないよヾ(^^;)
おいちゃん「なあにが愛してるだ…、ったく」
と、他人事ながら照れるおいちゃん。
さくら「フフフ」
と、おいちゃんを見ているおばちゃんと
照れているおいちゃんの顔を見て笑う。
このさくらの表情は見事な演出。
数日後 題経寺 境内
吉田が本殿でお参りをしている。
隣に日傘を持ち水商売らしい女性。
吉田「じゃあおまえ、ちょっとその辺見物してなよ、
すぐ戻ってくるから」
女「すぐよォ」
吉田、源ちゃんの所に近寄り
吉田「あの、ちょっと伺いますが、とらやさんってどこですか」
源ちゃん水まきながら
源ちゃん「これずーッっと行って左側」
吉田「あ、どうも」
吉田、女性に向って
吉田「じゃぁ、こずえ」
女「すぐよー」
源ちゃん、こずえに愛想笑い。
とりあえず、こずえも愛想笑い。
とらや 店
吉田「ごめんください」
博だけがいる。
食パンを食べながら本を読んでいる博、
誰も他にいないので店に出て行く。
博「いらっしゃい」
吉田「あのう…車寅次郎さんのお宅はこちらですか」
博「はい、そうですが」
吉田「ご在宅ですか」
博、二階のさくらに声をかける。
博「さくら、兄さんどこへ行った」
さくらの声「商売に行ったわよ」
博「お客さんなんだけどなあ…」
吉田「大洲の吉田と申します」
博、下りて来たさくらに
博「大洲の吉田さん…変なオヤジ」おいおいおいヾ(^^;)
さくら店に出てくる。
吉田「これはこれは妹さんですか、
お噂はかながね聞いております。
私、藤堂家の執事をしております吉田と申します」
と、頭を下げる。
頭を下げながら
博「大洲から来られたんですか」
吉田「はい、この度は大変殿様が御世話になりまして
ありがとうございました。
おかげさまで大変なお喜びようで、
ぜひお前にお礼に伺ってくるようにと命ぜられましたんで、
わたくし参りましたもので」
さくら「まあわざわざ恐れ入ります」
吉田「これはつまらないものですが大洲の名産でございます。
お受け取りくださいまし」
さくら「まあ、こんなご丁寧なことしていただいて」
博「申し訳ありません」
吉田、大きな封筒を取り出して
吉田「それからこれは殿様からのお手紙でございますが、
寅次郎様にどうかお渡しくださいませ」
吉田「それじゃわたくしこれで」
かばんに「大東京」と書かれた地図ガイドブック。
さくら「あら、そんな」
博「お茶でも」
吉田「いいえ、連れを待たせておりますから」
さくら「あら、お連れ様が?どちらに?」
吉田「いえ、そのへんに…」
さきほどのこずえという女性が店を覗き込んでいる。
さくら「ではお連れの方もご一緒にお団子でも」
吉田ブルブル首を振って
吉田「いいえおかまいなく、フフフ」
こずえ店先にやって来て
こずえ「パパん、まだあ〜」あちゃ〜〜〜 ((((((^^;)
吉田、ギョッとして振り返る。
吉田「あ、…なんだおまえか。
お父さんね、すぐおいとまするから
おとなしく待ってるんですよ」
こずえ「え??」
吉田照れながら
吉田「娘でございます」うそ丸出し(^^;)
さくらたち「…」
吉田「ろくに躾も行き届きませんで、
お恥ずかしゅうございますんで」
こずえ、クスクス笑いながら歩いていく。
吉田「ではあの寅次郎さんに吉田から
くれぐれもよろしくとお伝えくださいますように」
吉田あわてながら
吉田「じゃこれでどうも」
ペコペコ頭を下げてうしろずさりで外に出る。
ちょっとつまづいて、こけそうになる。
吉田「こずえちゃん、おとなしくしていたかい」
こずえ「ばかね、なにがこずえちゃんよォ」
吉田「バカ、なんで来るんだ」とすたこら逃げていく。
ついでに遊びに来たんだね、このお人。
吉田こずえの機嫌取りながら二人して去っていく。
さくらたち店先から二人を眺めている。
清掃局の車の音楽。
こずえ「なによ」
吉田追いかけながら
吉田「だからさ、あんなとこに来ることないだろ」
こずえ「なによ、えらそうに!」とおかんむり。
吉田タジタジ。
こずえ「いーや、いーや」
三木のり平さんって、こういうぶざまな役やっても
なぜか存在感があるんだよね。
このこずえさん役は田中世津子さん。
宿の女中さんなどでお馴染み。、
第24作「春の夢」や第43作「寅次郎の休日」で
小島三児さんと夫婦役をしていたあの方だ。
最後の第48作「紅の花」でもオープニングで
岡山県美作滝尾(みまさかたきお)駅(JR因美線)で
駅員の娘さんをしていた。寅にキップを売るあの方。
題経寺の鐘
夜 とらや 茶の間
お膳にぶどうがたくさん置いてある。
お土産はぶどうだったのかな?
食後みんなで集まって、
博が寅に殿様からの手紙を読んでやる。
博「拝啓、車寅次郎殿
見上ぐれば梅雨空の合間にポツポツと青空が見える季節に相成候
大洲に戻りて早旬日(じゅんじつ)を数うれど、
貴家(きか)にて鞠子に愛し日のこと、昨日のごとく
思い返され、…」
寅「なんだなんだなんだっての結局よ」
博「まあ、要するに鞠子さんのことで
御世話になりましたということですね」
寅「ああ、礼状か、それで終わりだなその手紙は」
博「いや、これからです。 ― 陳者(のぶれば)」
博よく読めたな『陳者(のぶれば)』を。普通無理(^^;)
寅「なんだそれ?」
おいちゃん「これから用件に入るってことだよ」
寅「どんな用件?」
おいちゃん「だからそれをこれから読むんじゃないか」
博「陳者(のぶれば)
寅次郎殿にお願いの儀、之有り候えば、…、
兄さんにお願いがあるそうですよ」
寅「お願い?冗談じゃないよまた人探しか?
フフ、こっちはおめえ、
50軒歩き回っちゃって目回っちゃったよ」
博「一つ、大洲に戻りしより、
心優しき鞠子の面影胸裏を去らず、
大洲の屋敷に鞠子を招き、父と呼び、娘と
答えて暮らすことあたうれば、
先短き年寄りの幸せ、これ過ぐるものなしと、存じ候」
さくら「つまり…鞠子さんと大洲で暮らしたいっていうこと?」
博「それを兄さんの口から話してほしいと、そういうことですねえ」
寅「うん、それはいいんじゃない。
あそこだったらさ、空気はいいし、
水はきれいだしさ、屋敷が広いから
鞠子さん伸び伸び暮らせるよ、
うん、田舎だから退屈するかも知れないけどね。
でもああいうとこはな、
メガネかけて小理屈並べて
女を騙すあの手の男がいないから
いいんです、うん。
じゃあ、オレ、これ返事してやるわ」
博「ああ、待って下さい。
二つ目のお願いというのがあるんです」
寅「なんだ二つ目って?」
博「一つ、鞠子、克彦を喪いて、
早三年、残る生涯を克彦の思い出に浸りて
送るべきにあらず、
むしろ新しき伴侶を得、明るく楽しき家庭を築いて…」
寅「なんだいなんだい、分かんないよ、意味」
博「鞠子さんの再婚のことについて書いてあるんですねえ…」
一同緊張。
寅、急に不機嫌になり、後ろを向く。
寅「誰だ相手は?誰、相手…」
博もさくらも黙っている。
さくら「読んだら」
博、寅に気を使いながら
博「じゃあ読みます。
…すなわち私の友人にて
最も人格高潔、清廉潔白なる人物、
車寅次郎君こそ、
鞠子の生涯の伴侶にもっともふさわしき…、
あれェ???」
寅、博の横にへばりついて手紙を凝視している。(^^;)
さくら、びっくりして唖然。
博、わが目を疑いながら、寅を見て、手紙を見る。
博「変だなあ…」変って…なにもそこまで ゞ( ̄∇ ̄;)
さくら、自分の目で確かめるべく読み返す。
そんなに寅が結婚することを恐がらなくても…(^^;)
おいちゃん、ぱっとさくらの持ってる手紙をとって
おいちゃん「なにかの間違いじゃねえのか?」と再度黙読し始める。
おいちゃん「『車寅次郎君こそ鞠子の生涯の伴侶に…』」
寅、おいちゃんから手紙を取って、
両手で広げて持ちながら、声を震わせ、(((^^;)
寅「これはどういう意味なんだ…??」
さくら「あのね、お兄ちゃん、
大変なことが書いてあるのよ…。
お兄ちゃんさえよければ、
将来鞠子さんと一緒になってほしいって…」
さくらも浮ついてるなあ…
さくら、ちょっとニュアンスが違うぞ。
あくまでも殿様が、外野の立場としての勝手な希望であって、
当事者の鞠子さんの気持ちは置いといての話だから、
かなり片手落ちの殿様からだけの話なんだぞさくら。
みんな沈黙して下を向く。
寅、手を震わせながら、
手紙を積んである座布団の上に丁寧に広げ、
端を座布団の下に巻きつける。
意味不明の行動、体が若干震えている。
↑この意味不明の行動声だして笑いました笑いました(^^;)
でも気持ち分かるなあ〜。
寅「あの…大洲まで速達…一番早いの、
どれくらい時間かかるかなあ…」
鞠子さんの気持ちそっちのけでもうすっかりその気(^^;)
博困った顔
さくら「そ、そんなに急いで返事出さなくてもいいんじゃないの?」と焦る。
おいおい!、さくら、それより
肝心の鞠子さんの気持ち何も聞いてないぞ ヾ(^^;)
博「も、もっとゆっくりと考えて…」
っていうか!、やっぱりまずは鞠子さんの気持ちが…(( ヾ(^^;)
寅「え…、だけど殿様年取ってるから
イライラして待つんじゃないかなあ…」
だから!殿様じゃなくて鞠子さんの気持ちが第一…((( ゞ( ̄∇ ̄;)
おいちゃん「落ち着け落ち着け」おいちゃんも落ち着け ヾ(^^)
寅「落ち着け?」
寅「…しかし、急にこんなこと言われたら困っちゃうよなあ〜…、
何しろ殿様は世間知らずなんだもん」
そわそわ、わくわく(^^;)
一同 シーン…
寅、極度の妄想と緊張で
寅「なんだか、ちょっとくたびれちゃった、
少し上で寝るわ…」
と手紙を長いまま手で持って
土間に下りて、二階に上がっていく。
そこへちょうどおばちゃんが、
何も知らずに同窓会から上機嫌で帰ってきた。
おばちゃん「ただいま」
さくら「おかえんなさい」
おばちゃん「あ〜くたびれた」
寅ふわふわな気分になりながら
寅「あーおかえり、おばちゃん、おかえり、楽しかったかい」
おばちゃん「同級生がみんなおばあちゃんになっちゃってさ、孫の話ばっかり。
寅ちゃんも早く結婚して子供産んどくれよ」と上機嫌。
凄いタイミングです(^^;)
さくら敏感に反応、真っ青(^^;)
寅、夢遊病者のように二階に上がりながら
寅「まだそこまでは
考えられねえなあ〜…」
上手い!座布団一枚。
頭がすっかり出来上がってます┐(~ー~;)┌
おばちゃん「そうかい、フフフ」
★おばちゃん、今日は最高におめかししていました。
翌日 大船1丁目
寅は鎌倉市大船駅前でぬいぐるみのバイ
キャバレーHONG KONG横
小岩、南小岩という説があったが、松竹さんのトリックで
実はここは撮影所のそば大船駅前だったのだ。
納涼大会 水元公園の貼紙 ← 松竹さんのトリック
大船1丁目
「あじたろう」さんの横、
みずほ銀行の一番あじたろうさん寄り。
もうすっかり四国に引っ越すつもりで
バイをしているのが笑える(^^;)
寅「さあて、東京の皆さん、
お譲ちゃんにお坊ちゃんこんにちは、
長い間お世話さまになりました。
私、このたび故ありまして四国の田舎に引っ込むことになりました。
永い間のご愛顧にお応えいたしまして本日はめちゃくちゃの
大安売り、
バン!!
儲けはいらない、帰りの電車賃だけいただければ
それでけっこう、ね、お嬢さん、手に取って見てちょうだい。
どう、角は一流デパートの赤木屋、黒木屋 白木屋さんで、
紅白粉つけたお姉ちゃんにくださいよちょうだいよとお願いしたら
2千や3千はくだらない品物だが、
今日はそれだけくださいとは言わない
なぜならば、これが東京での最後の商売ね。
金は要らない。ん!
私は大金持ちの養子になる。
客「ハハハ」
寅「今笑ったやつ帰れ、よし!
こうなったらやけのやんぱち日焼けのなすび!」
看板に
サヨナラ東京 大バーゲン
東京港 晴海
東京晴海海員会館
公社晴海 3丁目住宅
区立晴海住宅
晴海5丁目交差点
左が映画当時の晴海5丁目交差点。 右が現在の晴海5丁目交差点。
バスを降りて『東洋埠頭倉庫』のほうへ向かうさくら。
バス停の横は、大塚倉庫(大塚製薬の倉庫)
晴海運河
運河脇にある鞠子さんの会社(現在は東洋埠頭倉庫)
赤丸をつけたところに鞠子さんが立っていた。
現在は橋の建設に伴って建物が縮小されたのかもしれない。
出入りする大型トラック。
日傘を差してさくらが歩いている。
さくらの背後に
東京国際見本市会場の東館(通称 ガメラ館)が見える)
★さくらはお出かけの時は必ず日傘をさす。
鞠子「荒井さーん、忘れ物」
さくらが鞠子さんに会いに来たのだ。
二階の通路からさくらに気づき驚く鞠子さん。
走って下に降りてくる。
おっとさくらもアポなしで会いに来た!
もしいなかったらどうするんださくら。
頼むからアポしろよ。
鞠子「あらあ、嬉しい、先日はどうも」
さくら「こんにちは」
鞠子「どうして?私に何か?」
さくら「うん、ちょっとご相談があって…。電話でと思ったんだけど、
兄がそれじゃ失礼だからどうしても行け行けっていうのよ」
鞠子「あら、どんなこと?」
さくら「今お仕事中でしょ、お昼休みの時間まで待つわ」
鞠子「あ、ちょうどよかった、今日は早番でお昼までなの。
もう仕事すんじゃったからこのへんで待ってて」
と事務所のほうに駆け出す鞠子さん。
見つめているさくら。
夕方 とらや 店
寅が小岩でのバイから帰ってくる。
寅「おいちゃん」
おいちゃん「おかえり」
寅「さくらのヤツは、鞠子さんに会ってくれたのかなあ…」
台所のほうから声
鞠子さんの声「おかえりなさい」
寅、はっとする。
台所から身をかがめて寅を見る鞠子さん。
寅、鞠子さんと目が合って、表情が輝く。
寅、台所に小走りに向って
しかし、さくらが結婚のことを鞠子さんに話したかどうか知りたくて
若干ドキドキしながら
寅「なんだ、来てたのか…」
鞠子「ええ、ちょっとだけのつもりで伺ったら、晩ごはんまでごちそうに
なることになっちゃって」
寅「それはよかった〜。
鞠子さん来てるんだったら、なんかお土産買ってくるんだった」
鞠子さん、豆の筋を取るお手伝いを、さくらの了承も無く、
なぜか切り上げて、寅と一緒に茶の間に上がる。
ちょっと不自然な演出かな…。
鞠子「寅さん、この前はありがとうございました。
お土産までいただいちゃって」
寅「いや、あの…悪かったね、
なんか上がり込んじゃって、迷惑かけたんじゃねえかな」
鞠子「ううん、そんなことないわよ。とってもうれしかった」
寅「…」
鞠子「それに今日はすいませんでした。
私のことでわざわざさくらさんに来ていただいて」
寅「さくら、なんか用だったの?お前」
よく言うよ。わざとらしい┐('〜`;)┌
さくら「ほら、殿様の手紙のこと」
寅、お茶を受け取りながら
寅「あ、あれか」なにがあれかだ、ったく(−−;)
お茶を飲むふりして、
密かに指を二本突き出しながら
寅「二つとも聞いたの?」((((^^;)
鞠子「??」
さくら、寅に気を使いながら、早口で
さくら「ううん、ひとつだけ」
と、控えめにちょこっと指一本指し示す。
寅「一つ…」と指一本に減らし指し示す。
鞠子「フフ…なあに?」ねえ〜(^^;)
さくら「さっきの話、お兄ちゃん、
鞠子さんはね、大洲で暮らすのは
少し考えさせてほしいって」
当たり前、夫はもう亡くなってるんだから(^^;)
寅「そらそのほうがいいよ、うん。
ゆっくり考えて返事したほうがいいよ」
鞠子「ええ」
鞠子さんのような状況にある人が、
住んだことも無い今は亡き夫の故郷に行き、
そこで一度しか有ったことの無い義理の父親と住み始めるなんて
ありえないことだ。
殿様は考えることがある意味自己本位。
鞠子さんは考える余地はなにもないだろう。
彼岸やお盆、命日などの墓参りの時に大洲の殿様宅に必ず立ち寄り、
宿泊していくのが最もいい関係だと思う。
寅「まあ、あの爺様と顔つき合わせて暮らすのも考えものだし、
ゆっくり、考えたほうがいいんんじゃないの、フフ、」
考える余地ないって、ありえないよそんなこと。
鞠子「私…話そうかな…」
鞠子「結局、私の結論は決まってるようなもんだから、
言ったほうがいいのよ」
寅「はい!」無声音(^^;)
寅、微妙に勘違い(^^;)
鞠子「でも、なんだか恥ずかしいなあ…」
寅「いいんじゃない、なにしゃべっても…。
あの連中邪魔かな?」
頭の中妄想でパンパンの寅。
鞠子「ううん、いてもらったほうがいいの」
鞠子「じゃあ、思い切って寅さんに話しちゃうけど」
寅「……」
鞠子「いつか…大洲で寅さんに会ったでしょう。
とっても優しい気持ちに触れて、
私、胸の中が温ぁかくなったような気がして…、
その時とっても素直に、
『そうだ、私結婚しよう』と、
決心ができたの…」
寅「誰と…?」沈む目(TT)
鞠子「今、会社で一緒に働いている人」
鞠子のテーマがゆっくり流れる。
寅「…」
鞠子「もちろん、今年とか来年だとか
いうんじゃないけれども、
彼は、私の気持ちの整理のできるところまで
待つって言ってくれてるの」
さくら、悲しい顔になっていく。
…が、なんとか気を取り直して
さくら「よかったわねえ。あなたが幸せになることを
亡くなったご主人だってきっと願ってらっしゃるわよ」
鞠子「ありがとう。それは主人の生まれた静かな町で
お義父様と一緒に暮らす生活にも
とっても魅力はあるけれど、
でも私は若いんだし、
どんな人生がこれから広がるかも分からないし、
たとえ苦労が多くてもそんなふうな生き方を選ぶべきだって、
そんな風に思うのよ」
当然です(−−)
さくら強く頷いている。
鞠子「だからね、寅さん、
義父(ちち)には申し訳ないんだけど、断ってくださる?」
寅「うん、いいよ」
と言いながらも、沈んでいく心を隠せない寅だった。
おいちゃん、その場の空気を和らげようと、
おいちゃん「さ、寅、話がついたところで一杯やるか」
おばちゃん「さくらちゃん、お料理運んでおくれ」
鞠子「さくらさん、さっき妙なこと仰ったでしょう」
鞠子「ひとつとか、ふたつとか…」
さくら「…」
鞠子「他に話でもあったの?」
さくら「うん、あのう…」と口ごもる。
寅「いや、それは、
別にたいしたことないんじゃないの…」
と、バレるのを恐がる寅。
鞠子「フフ、気になるわ、どういうこと?」
寅「ううん」と、ちょっと笑いながら首を振る。
さくら「つまり…、鞠子さんに二つ用件があって、
あとの一つは縁談なの」
嘘が言えないんだね、さくらは。
鞠子「フフ、そうなの」
寅は下を向いている。
おばちゃん、向こうでシリアスな顔して
鞠子さんを見ている。
さくら「お義父様の知りあいの方で、
とってもいい方らしいんだけど、
でも今のお話ならお断りするより仕方ないわ。
ねえ、お兄ちゃん」
寅、放心状態で、ずっと沈んでいる。
さくら「ね、お兄ちゃん」
寅、はっと顔を上げて
寅「え…、うん、そうしよう。な。
ま、そらあ、
相手の男はがっかりするだろうけれど
しょうがないやね」
寅…(TT)
鞠子さん、なんだか寅の様子がおかしいので
戸惑いながら聞いている。
寅「さてと…」
鞠子さんがいて、みんなで食事をするにもかかわらず
フラフラ歩いて土間へいく。
さくらのテーマが流れる。
悲しげな顔で寅を見るおばちゃん。
さくら「お兄ちゃん、御飯は?」
寅「ん」
おばちゃん「おなかすいただろ」優しいねおばちゃん(TT)
寅「なんだか疲れちゃって、飯も食いたかねえや…、
二階でちょっと横になるよ…」
ああ…(TT)
ガタッっと階段を踏み外し、
這うように階段を上がっていく寅。
今作品では、頻繁に這うように階段を上る寅でした。
さくら、悲しい顔で寅を見上げている。
鞠子「どうしたんだろう…寅さん、
急に元気なくなっってしまって…」
さくら、下を向いて耐えている。
おいちゃん、鞠子さんに気を使わせないように、
おいちゃん「あいつはね、見かけはこう、
頑丈そうに見えるけど案外そうじゃないんですよ。
すぐ疲れるんだよー、
なあ、ツネ」
おばちゃん「そうなんですよ。
さくらちゃん、先にご飯食べちゃおう」
さくら、店先に向って
さくら「満男ー」
おばちゃん「あ、満男工場にいるよ」
さくら、庭に出て行って
さくら「満男ー、ごはんよー」
満男の声「はーい」
そして、庭で一人たたずみ、
二階の兄を想い、悲しみにくれるのだった。
兄がどんなに望みの無い恋愛を毎回続けても
この、たった一人の身内である妹は、
その度ごとに、
いつも兄の得恋を心から願っているのだ。
寅同様、さくらもいつも本気なのだ。
とらや 店
この夜、失意の寅が淋しく柴又駅から旅立った後、
さくらは、丁寧に鞠子さんの気持ちを殿様に電話で伝えるのだった。
大洲 殿様の屋敷
電話口
殿様が電話に出ている。
さくらの声「お義父さまのお気持ちはとっても嬉しいし」
殿様「はい!」
さくらの声「また、大洲の町で暮らしたいのはやまやまだけど、そんなわけで、
お言葉に従えないのはほんとに心苦しいと…、
もしもし?聞こえてますか?」
殿様「はい!!」悲しみの背中(TT)
柴又 とらや
電話口
さくら「あのー、殿様どうぞお気を落としになりませんように」
殿様の声「はい」
さくら「それからこの電話、
本来ならば兄がおかけしなければいけないんですが、
実は、急な仕事で慌しく旅に出てしまいましたので、
わたくしが代わりにかけております」
大洲 殿様の屋敷
殿様「はい」
悲しみの表情
さくらの声「どうか殿様、いつまでもお元気で長生をなさいますよう
わたくしどもお祈りしております」
殿様「はい」
柴又 とらや
さくら「もしもし、もしもし?もしもし」
殿様の声「はい」
さくら「それでは、わたくし、これで失礼いたします。
ごめんくださいませ」
と、電話口で深々と礼。
たとえ、人が見ていなくても、
電話口で深々とお辞儀をしながら、挨拶を述べると
なぜか人の心が受話器の向こうに伝わるんだよね。
不思議だけれど、ほんとうのこと。
受話器を置いて、沈んでいるさくら。
おいちゃん、おばちゃん、タコ社長、博がそばで聞いている。
さくらの服装が、同じなので、
この電話も同じ日の夜にかけたものだと分かる。
つまり鞠子さんが食事をして帰ったあと、
傷心の寅はすぐに旅立ち、その直後にさくらが
大洲に電話したのであろう。
社長「殿様の夢も、寅さんの夢も、
一瞬にしてパーになったわけか…」
手でパーのしぐさ
突然激しい雷雨
博「酷い降りになってきたなぁ、そろそろ帰るか」
さくら「うん」
おいちゃん「帰るか…」
おばちゃん「あ、これ」
おばちゃん。傘を渡して
さくら「うん」
さくら「そうそう、社長さん、お兄さんがよろしく言ってた」
社長「ありがとよ。
寅さん…別れ際になんか言ってたかい?」
おいちゃん「博と仲良くやれだろ。決まってんだあいつのセリフは…」
さくらは、寅を柴又駅まで送ったんだね。
さくら「それとね…鞠子さんのこと、心配してた…」
博「なんて?」
さくら「駅のホームで柱にもたれながらね、
『あの人と結婚する男は、
死んだ亭主のことでやきもちなんか
焼かねえだろうな…、』
なんて…」
博「大丈夫だよ、そんな人じゃないからこそ、
鞠子さん結婚する気になったんじゃないか」
おばちゃん「そうだよぉ」
さくら「うん、私もそう言ったのよ。そしたらね、…」
メインテーマが静かに流れる。
目にうっすら涙が滲んでくるさくら
さくら「ちょうどそこへ電車が入ってきたんだけどね。
お兄ちゃんその電車に乗りながら
『でも、ほんとにそんな男っているのかな』って…、
とても信じられないような顔でね
…はう...うううう」
と、こみ上げてくる涙。
遂に堰を切ったように下を向き泣きじゃくるさくらだった。
泣いてしまうおばちゃん。
失意のうちに旅立っていった寅の悲しく淋しい心を想い
涙がとめどもなく流れ、嗚咽してしまうさくらだった。
博「行くか…」
さくら「おやすみなさい…」
おばちゃん「おやすみ…」
満男のTシャツ『DENVER27』 アメフトのことかな?
3人でそっと帰っていくさくらたち。
鳴り響く雷
残されたおばちゃんたちも心が沈んで行く。
泣いてしまうおばちゃん。
兄の悲しい恋の行方を、もう何度も見てきたさくら。
ふと口から出た寅のその一言にこめられた
鞠子さんに対する想いが、
悲しくさくらの胸に染みていった。
なんとも繋がりの深い兄と妹。
兄の報われることのない恋は、
そのままさくらの深い悲しみなのだ。
真夏 入道雲 ひまわり せみの声 高校野球中継
伊予 大洲城址
よろず屋
たばこ出張販売所
氷
寅は再び大洲に立ち寄り、淋しい殿様にを慰めようとしたのだが、
殿様にいつまでも引き止められてがんじがらめに幽閉されている寅。
遂にさくらに電話し、SOSを発信している。
赤電話
高校野球実況「ラストバッターはピッチャー…」
寅「もしもし、あ、おばちゃん〜、
うん、酷い目に遭ってんだよお、え〜、
このくそ暑いのによォ、
大洲の町で囚われの身だよォ〜(TT)」
寅、扇子で扇ぎながら
寅「えー!?、大洲、四国の大洲だよ!」
柴又 とらや 店
電話口
おばちゃん「えー?あんた暑い時だから
北の方にばっかり行ってると思ってたのに、
ちょッ…、さくらちゃん!」
と、店先で水をまいているさくらを呼ぶ。
おばちゃん「大変だよ、寅ちゃん大洲にいるんだって」
さくら「え〜!!」
さくら驚いて、電話口へ、
おばちゃん、おいちゃんに
おばちゃん「大洲行ってんだって」
驚いてるおいちゃん。
さくら「もしもし、どうして大洲になんかいるの〜?」
大洲城址
寅「あ、おまえかぁ、…え、、
決まってるじゃねえかよ、
可哀想な殿様慰めようって寄ったらよ、
そのままずるずるよ」
店から聞こえてくる高校野球実況
コカコーラの看板
さくら「まぁたそんなご迷惑かけて、
『おじゃましました』ってすぐ帰ってらっしゃい」
寅「バカヤロウ!!、殿様がオレのことを離さないんだよ。
オレだって逃げるに逃げられないんだよ。
吉田のとっつぁんが四六時中オレのこと監視してるんだから。
高校野球実況「きわどいカーブ、ワンツー…」
寅「昨日だって、やっとの思いで、松山まで逃げたんだぞ、
そしたら、港でもって吉田のヤツが待ってやんの、
まいったよ、オレはもう…」
遠くから吉田の気配
寅「あ…、もう来た…」
吉田がキョロキョロ探している。
寅「さくら、おまえがな、迎えに来てくれないと
オレは一生ここで暮らすことになるかもしれねえぞ、
頼むよ、すぐ来てくれ、あばよ」
もう辟易って顔。
高校野球実況「センター前!三塁から一人ホームイン!二人目も三塁を回る、
止まりました!三塁に止まりました」
受話器置いて、十円玉かき集め、逃げようとしたら、
吉田がすでに前に立っていて、ニカッと笑う。
吉田「あなたお屋敷にお帰り下さい、
お殿様がお呼びです」
寅「やだよ。オレは東京帰るんだい」とスタコラ去っていく。
吉田「またそんなことをおっしゃってぇ〜、
ねえ、お願いでございます。
お殿様はあなたがおそばにいらっしゃると
ことのほかご機嫌麗しく」と追いかける。
寅「言っとくけどなあ、おい、
オレはここの殿様の家来じゃねえんだよ!」
吉田「それはよくわかっております。
あ、そうだ。いいこと思いついた。
今夜宇和島で花火がございます。
大洲美人を車に積み込みましてワッと繰り込み」
殿様のどこにそんな贅沢できる金があるんだいったい?
固定資産税払わなくていいのかい。
大洲城址近くに駐車場か何かの不労所得があるのかな?
それともどこかの財団の役職でもして報酬を受けているのか?
もしくは資産を売って暮らしているのか?
寅「大洲美人、もう結構、
どおせ『お駒』か『とんぼ』だろ、
ツラ見るのも暑苦しい!」
吉田「そんなことおっしゃらずにお願いでございます」
寅「どいてくれっていってんだよ!おまえは!」
と、払いのけて逃げていく寅。
アイスクリン売りの自転車。
小さな子供たちが買っている。
吉田、追いかけながら
吉田「ねえ、ちょいと、ちょいと」
寺尾聡さん扮するお巡りさんやって来る
お巡りさん「こんにちは」と敬礼
吉田、お巡りさんに
吉田「なにぼやぼやしてんだ。早く、早く、追っかけろ」
と、催促。
わけ分からないあま、お巡りさんも追いかける。
寅の前に自転車を止め
お巡りさん「寅さん寅さん、呼んでますよォ」
寅怒って
寅「交通妨害するな!!」
と自転車を押し倒す。
お巡りさん「あ!!」
と自転車ごと倒れるお巡りさん。
吉田、お巡りさんの自転車の後ろに乗り寅を追いかける。
うわッ、お巡りさんの二人乗り!!
吉田「早く早く、早くできないのかよ」
お巡りさん「寅さん、寅さん」と追いかけていく。
またまた説得してもそれを振り切り歩いていく寅。
なんだかんだ言っても、
寅は殿様の心根が好きなんだね。
逃げながらも付き合っているのが寅らしくて面白い。
そばではグラウンドで少年サッカーに励む子供たちの姿。
夏真っ盛りの大洲城址である。
メインテーマ盛り上がっていく。
寅はこの暑いさなか、北へ行かず、
なんとあの大洲に戻ってきた。
寅は、人の世の情けが肌でわかっている男。
自分がどんなに孤独で、淋しくて悲しくても、
同じように淋しい思いをしている殿様の気持ちを
思いやれる懐があるのだ。
こんな果てしなく優しい心を持った寅の姿を思うにつけ、
この男の気質を、幼少期に最初に育んだであろう
さくらのお母さんが、いかに優しく慈悲深い人であったか。
そのことを私はいつも想像し、思いをめぐらす。
誰も言わないが、この長い48話の物語は、
ある意味、さくらのお母さんが育んだ愛情物語でもあるのだ。
終
出演
渥美清 (車寅次郎)
倍賞千恵子 (諏訪さくら)
真野響子 (堤鞠子)
下絛正巳 (車竜造)
三崎千恵子 (車つね)
前田吟 (諏訪博)
中村はやと (諏訪満男)
太宰久雄 (タコ社長)
佐藤蛾次郎 (源公)
吉田義夫 (天狗党のボス)
岡本茉利 (大洲の店員)
谷よしの (宿の女中)
斎藤美和 (宿の女将)
寺尾聡 (大洲の巡査)
笠智衆 (御前様)
三木のり平 (執事の吉田)
嵐寛寿郎 (藤堂久宗)
スタッフ
監督: 山田洋次
製作: 名島徹
企画: 高島幸夫 、小林俊一
原作: 山田洋次
脚本: 山田洋次 朝間義隆
撮影: 高羽哲夫
美術: 出川三男
編集: 石井巌
録音 : 中村寛 松本隆司
照明: 青木好文
スクリプター: 長谷川宗平
音楽: 山本直純
助監督: 五十嵐敬司
製作進行 : 玉生久宗
制作補 : 峰順一
公開日 1977年(昭和52年)8月6日
上映時間 99分
動員数 140万2000人
配収 8億2000万円
これで第19作「寅次郎と殿様」は完結しました。
次回は第20作「寅次郎頑張れ!」です。
この作品の渥美さんもまだまだ若く元気で飛び跳ねます!
おそらく第20作の『前篇』アップは11月初旬になると思います。