バリ島.吉川孝昭のギャラリー内
第20作 男はつらいよ
1977年12月24日封切り
寅遂に現役を引退か!?『恋のコーチ』バージョン 良介の歴史的発言の意味するもの
コーチ兼任の現役を貫くまだまだ元気な渥美さん 「できるか青年!」
この第20作「寅次郎頑張れ!」は、若い男女の恋を寅が取り持つ「応援歌」を物語の中心に据えた最初の作品である。
第1作、第10作、第14作、と寅が人の恋を応援することはあったが、今回は、その「応援」がメインになりそうな勢いだ。
博やタコ社長の言葉を借りると「現役の時はダメだったがコーチになると上手くいくことがある」そうだ。
しかし渥美さんはこの頃はまだまだ若く溌剌としている。コーチに専念するにはあまりにもまだ元気だ。
やはり、その直後、しっかり現役復帰も果たしている(^^;)
とにかく渥美さんがやんちゃに動いてくれるので実にこの作品はテンポが良い。
特に、平戸でワット君のお姉さんである藤子さんに惚れた寅が、彼女の経営する雑貨土産物屋の仕入れから
早朝帰って来る場面で、さっそうと自転車に乗る姿が映し出されるのだが、
その時の渥美さんの自転車の乗り方とその表情、そして歌う「憧れのハワイ航路」
それがもうなんとも爽やかで、格好いいのだ。ハンドルを一切持たないで細いブレーキの部分だけ持って
威勢良く歌を歌いながら漕ぐ渥美さん。もう惚れ惚れする!
第5作「望郷篇」にも「月の法善寺横町」をぶらぶら自転車に乗りながら歌う渥美さんがいたが、
今回は実に爽快でスピーデイな映像である。
もうこの短い映像と渥美さんの歌声だけでも本編を見る価値が十分にある。
ワット君の優しさと幸子ちゃんの純情
助演の大竹しのぶさんが最高に初々しくかわいい。これに異論を挟む人はまずいまい。
しかし、この作品の場合、寅はこの福村幸子ちゃんに恋愛感情が全く無い。
純粋に良介との恋愛を応援し、時には茶化すのである。
相手役の中村雅俊扮するこの2階に下宿する若者『ワット君』(島田良介)はとにかく性格が良い。
純情で、自分に誠実で人に情け深く、そして意外に頭がいい。
特にこの作品のメインである、良介が姉の藤子さんにとらやの2階で忠告する会話は圧巻である。
このシリーズで、恋愛においては毎回若干ピエロ的な恋愛をする寅。
さくらはそんな寅を心配するが、誰もマドンナの穢れなき残酷さについては言及してこなかった。
唯一第一作でおばちゃんが冬子さんの身勝手さを少しぼやくが、それとて当のマドンナにその声は
伝わるはずもないし、それを本人に伝えるのはもちろん寅の本意でもない。
しかし、やはり冬子さん、志津さん、節子さんなどに代表されるような、寅をさんざんかまうくせに、
男性としてこれっぽっちも見れないようなマドンナは
冷静に考えるとゾッとするほど残酷だし、鈍感だとも思ってしまう。どんなに寅の優しさがわかっていてもだ。
今回の藤子さんもこのシリーズのマドンナの中でも抜きん出て心の清らかな人だったが、
自分が愛されていることには鈍感であった。
やはり第6作の夕子さんのように、敏感に自分が愛されていることを自覚し、
寅に断りのアプローチできる大人の感覚が大事なのではないだろうか。
ましてやこの作品の場合、藤子さんはバツイチである。離婚の時に苦い人生経験もあったらしい。
二十歳やそこらのおぼこ娘ではないのだ。
このような、女性の持っている『確認バイアス』的なご都合主義を、見事にえぐり出したのが良介なのである。
寅を男性と思えずに結果的にふるマドンナに対して私が悶々と思い続けていたわだかまりを
良介は正にズバッと言い表してくれたのだ。
「寅さんは本当に心の温かいいい人」…自分に尽くしてくれる寅に対してこれですませてはいけないのだ。
この良介の歴史的ともいえる発言によって、私は心を落ち着けさせることが出来、
この先のシリーズもなんとか寅の恋を見続けるることができたことをここに告白しておく。
わざわざこれのカットを作られた山田監督も、そういうお気持ちだったかもしれない。
とらやをぶっ飛ばした下宿人
歴代のとらや2階に下宿した男女はみんな寅が旅から帰ってからひと騒動起こすのだが、
良介はあまりにもユニーク。なぜならとらやの2階を爆発させてふっ飛ばしてしまったからだ。
全くすごいことをやらかす下宿人。
よっぽど受けたのか、この二階ぶっ飛ばしエピソードは第23作「翔ん出る寅次郎」の夢でも
アレンジ版が作られているし、第40作「寅次郎サラダ記念日」でもワット君のその話題が出てくる。
良介は第10作「寅次郎夢枕」の岡倉先生やの第24作「春の夢」のマイケルともいい勝負の
変わり者下宿人だといえるだろう。
脇役の演技が光る第20作
また平戸での船長と神父役を演じた石井均さんと桜井センリさんは見事な掛け合いと確かな演技で、
平戸の人情を表現し、物語の中に膨らみを醸し出していた。私は第20作といえば実はあのお二人を思い出すのだ。
そして、この作品では第16作「葛飾立志編」でいい味を醸し出していた米倉斉加年さん扮する
長万部出身の轟巡査(後に青山巡査)が再出演。パトカーを伴っての久しぶりのとらや入り。
全力疾走とハイテンポは見もの!凄いの一言!
源ちゃんと一緒にサル捕獲作戦ギャグなども入って、大笑い。
そして最後に雪の日の真面目で純朴な轟巡査さんにちょっと感動もするのである。
それにしても、あの幸子のテーマ曲のなんと美しいこと。
そう、この作品は最後に幸子のテーマをバックに、
とらやに深々と雪が降る味わい深い情景が見られるのがなんとも嬉しい。
ラストにおまけが待っている。坂東鶴八郎一座との再会だ。
一座と合流した寅が車の荷台に乗って颯爽と正月の空の下町に向かっていくところで終わるのである。
これはもちろん第8作「寅次郎恋歌」のラストのアレンジ版であることは言うまでもない。
第8作のあの感動とはスケールが違う小さなものであるが、
私たちに、あの「恋歌」の大いなるクライマックスを懐かしく思い出させてくれるものでもあるのだ。
またその直前、さくらのアパート前で繰り広げられる静かなさくらと寅の別れの演出がなんとも味わい深い。
数ある寅とさくらの別れの中でもしみじみと心が落ち着く懐かしさとさわやかさをこの別れには感じる。
この美しくも哀しいクライマックスを見るために私はこの「寅次郎頑張れ!」を見ているのかもしれないと、
今自覚し始めた次第である。
■第20作「寅次郎頑張れ!」全ロケ地解明
全国寅さんロケ地:作品別に整理
それでは本編完全版をどうぞ
松竹富士山
今回も夢から
(実は脚本第2稿の時点ではこの夢のシーンは出来上がっていない
決定稿を掲載している「立風書房」の脚本では夢のシーンが入っている)
成金の夢
ある日寅が目を覚ますと、なぜか洋式の豪華なベッドで寝ていた。
そして優しい声でお手伝いさんが起こすのである。
岡本茉利さんがお手伝いさん役
お手伝いさん「おはようございます、
お目覚めでございますか?」
寅「え?」
お手伝いさん「若奥さまはじめ、みなさま、
さいぜんからお待ちでございます」
寅、思わず頷いてしまう。
お手伝いさん「ただいま、お呼びしてまいります」
岡本さんなかなか可愛い(^^)
テーブルには、
とらやのおいちゃんおばちゃんさくら博の集合写真
題経寺の写真
帽子
下のじゅうたんを敷き詰めた床にはカバンと雪駄。
お手伝いさんの声「若奥さまァ」
さくらの声「はい」
お手伝いさんの声「お兄様がお目覚めでございます」
さくらの声「あらそう」
きれいに着飾ったさくらがぶどうを持って入ってくる。
なぜにぶどうを?(^^;)
さくら「お兄ちゃんおはよう、よく眠れた?」
。
寅「さくら、この部屋はいったい…」
さくら「お兄ちゃんの部屋よ」
博入ってきて
博「ヤア兄さん、しばらく」
博もいかにも経営者風の格好。
タコ社長の声「寅さん帰ったって?」
さくら「ええ」
博、ぶどうをひとつほおばる。
社長「いよー、寅さん、よく帰ってきたなあ〜」
と、葉巻をくゆらせている。
社長も成金経営者の格好。
おばちゃん、おいちゃん、満男が入ってきて
おばちゃん「まあ寅ちゃんお帰り」
いかにものふわふわガウンとギラギラ指輪
おいちゃんもガウンを着ながら、
なぜか口ひげを生やし、パイプを持ちながら
おいちゃん「いつもおまえの噂をしてたんだよー」
満男、学習院初等科のような詰め襟制服を着て
満男「おじさん、おかえりなさい」とお辞儀。
博「兄さん、気に入りましたかこの部屋」
寅「いったい…、おまえたちはどうして…?」
さくら「長い間の苦労が実って私たち、
今はもうお金持ちなのよ」
さ、さくらしゃん、
そ、そんなダイレクトな表現を ゞ(^^;)
寅「…!!」
さくら「社長さんもすっかり成功なさって」
社長「ハハハハハ」
さくら「博さんは副社長なの」
社長と博、いつから目が悪くなったんだい(^^;)
目が悪くなったからめがねをかけるんですよ、本来は。
博、メガネに手をやりながら
博「本社ビルもとうとう完成しましてね」と窓の方を見る。
社長「寅さん、見てくれ」
と、カーテンのスイッチを押すとカーテンが自動で開く。
♪ピロロロ〜〜ン
『朝日印刷』と屋上に看板の出たビルが見える。
社長「苦労したよ、ここまで来るには」
寅「…!!」
寅「それじゃ!とらやの家は
どうなっちゃったんだ?」と聞くと、
みんな「ハハハハ」と大笑いしながら
おいちゃん「あんな汚い家はとっくの昔にぶち壊してしまったよ」
寅「え?... オレあの家が好きだったんだ」
さくら「そんな古いこと言ってお兄ちゃん、フフ」
ああ…夢とはいえ、さくらまで…(TT)
みんな「ハハハハハハ」
その時食堂のドアが開き、
執事とお手伝いさんが「気をつけ」をしている。
執事はご存じ吉田義夫さん。
■ 吉田義夫さんの整理箱
第8作 「寅次郎恋歌」 四国 雨の日の 坂東鶴八郎座長
ラストでも甲州路で再会
第9作 「柴又慕情」 夢のシーン 昭和 悪徳借金取り
第10作 「寅次郎夢枕」 夢のシーン 昭和初期 地元の高利貸しの親分
第11作 「寅次郎忘れな草」 夢のシーン 江戸後期 柴又村の寅の父親
第12作 「私の寅さん」 夢のシーン 大正 柴又村 悪人の、だあ様
第13作 「寅次郎恋やつれ」 寅の横に座る電車の乗客
第15作 「寅次郎相合い傘」 夢のシーン 奴隷船の奴隷商人のボス
第16作 「葛飾立志篇」 夢のシーン 西部劇の中、悪人ガンマン
第18作 「寅次郎純情詩集」 夢のシーン 北アフリカにアラビアのトランスを
捕まえに来た男。
A信州別所温泉での坂東鶴八郎座長
『不如帰』の武夫役
第20作「寅次郎頑張れ!」 夢のシーン 大金持ちになったとらやの執事
Aラストで寅と軽四トラックで再会する坂東鶴八郎座長
『ああ無常 レ.ミゼラブル』のジャン.バルジャン役
第22作「噂の寅次郎」 夢のシーン 江戸時代 目の悪いさくらの親父さん。
第24作「寅次郎春の夢」 京都での坂東鶴八郎座長 『蝶々夫人』のピンカートン役
第26作「寅次郎かもめ歌」 夢のシーン 天狗のタタリと偽ってさくらをせしめようとたくらむ悪人
■ 岡本茉利さんの整理箱
第8作 「寅次郎恋歌」 四国 雨の日の 坂東鶴八郎一座の花形 大空小百合
ラストでも甲州路で再会
第16作「葛飾立志篇」 ラストでの西伊豆の連絡船ガイド さん
第17作「寅次郎夕焼け小焼け」 池ノ内青観の家のお手伝いさん(とし子さん)
第18作「寅次郎純情詩集」 夢のシーン 北アフリカのカスバの女性
A信州別所温泉での坂東鶴八郎一座大空小百合
『不如帰』の浪子役
第19作「寅次郎と殿様」 大洲城での料理屋の店員(出前) ほんの一瞬だけ(^^;)
第20作「寅次郎頑張れ!」 夢のシーン 大金持ちになったとらやのお手伝いさん(なかなか可愛い)
Aラストで寅と軽四トラックで再会する坂東鶴八郎一座 大空小百合
『ああ無常 レ.ミゼラブル』のコゼット役
第21作「寅次郎わが道をゆく」 肥後の田の原温泉に住む留吉の元彼女(春子) 「あんた何くれた!?」
第23作「翔んでる寅次郎」 寅に便秘薬と水を渡した日下部医院の看護婦さん
第24作「寅次郎春の夢」 京都での坂東鶴八郎一座大空小百合『蝶々夫人』
の蝶々夫人役
「ミーバタフライ!ミーバタフライ!」
執事とお手伝いさんが寝室のドアを開けると
その向こうで
寅「どうなんだよ! えぇっ! あのヤロウが出て行くのか、
それともオレが出て行くのかよ!どっちかハッキリしろよ!」
さくら「お兄ちゃんわかってよ」
寅 「わかってない!」
博「さくらからも聞いたでしょ?」
寅 「聞いてない!」
さくら 「さっき言ったでしょ?」
寅 「言ってない!」
駄々っ子かあんたは ヾ(^^;)
寅が怒りまくっているので、
台所で黙々と夕飯を食べている満男君(TT)
博「良介君は、付き合ってみるととてもいいヤツなんですよ。
うちの裏のアパートにいて、満男をとても可愛がってくれましてね、
あいつもよく懐いて…
そういうことでウチにしょっちゅう遊びに来てたんですが、
あいつのいた部屋というのがあんまり酷くて…」
さくら「北向きの3畳間なのよ」
博「それでまあ、次のアパートが見つかるまでの間だけでもと思って…
おじさんに頼んで下宿させてやったんですよ」
寅「…」
おばちゃん「気立てはいいし、素直だし、とってもいい子なんだよ」
寅「よし!わかった!オレが出て行くよ」と御膳を叩く。
おいちゃん露骨にいやな顔
おいちゃん「また、そういうことを言う」
寅「だってそうだろう、おめえたちがあの若造のことを
そんなに気に入ってんだったらいいよ、
この家の養子にすりゃいいんだ」
寅、根っころがって
寅「ああ!あたしゃ出て行きますよ」
と、子供みたいにすねている(^^;)。
さくら「お兄ちゃん、どうしてそうひねくれるの、へんよ、少し」
メインテーマが静かに流れる。
寅、根っころがりながらさくらを見て
寅「さくら、おまえにはわからないのか…、え?」
寅、うつ伏せになって
寅「たとえば、オレは旅をしている…、
秋の日はつるべ落としよ。
遠くの寺でゴーンと鐘の音が聞こえる。
そんな時に、あーあ、今ごろとらやじゃ
みんなどうしてるんだろうな…。
さくらや博は元気か、
ひょっとしたらおいちゃんは
持病の喘息が出てるるんじゃないか…。
(おいちゃんがアップで映る)
おばちゃんはまた、腰が冷えてるんじゃねえか。
(おばちゃんが映る)
そう思うと、もう、矢も盾もたまらなくなってよ」
寅、ガバッと起き上がって
寅「飛ぶようにして一目散に帰ってきた。
帝釈天の参道だ。
寺の山門
土産屋の家並み
ここだけは昔とひとつも変わっちゃいねえや。
は!とらやだ。ここはオレのうちよ!
『よー!ただいま!』
『間に合ってます。押し売りはお断りです』 」(^^;)
みんな「…」
寅「その時のオレの情け無い気持ち
おめえたちにわかるかぁ…」
寅、おいちゃんを見て
寅「え、おいちゃん」
おいちゃん「わかるさ、そりゃわかる、気の毒だと思うよ。
しかしなあ…、押し売りに間違われるような甥っ子を
持ったこっちの気持ちだって少しは察してくれよぉ…」
鋭い指摘!座布団一枚(^^)
さくら、ちょっと驚きながらも
さくら「ええ…」と、小さく頷く。
寅、周りを眺めながら、怒りがふつふつと沸いてきて、
お膳をバン!と叩いて
寅「オレは出て行く!
そういう言葉が出たらもうおしまいだ!
なんでいチキショウ!」
と立ち上がる。
おいちゃん「おい、寅」
さくら「ねえ」
寅の発言からおいちゃんの持病が「喘息」であることがわかる。
おばちゃんは「冷え性」
おいちゃんは、もともと心臓に持病を抱えている。
第1作、第21作「わが道をゆく」参照。
土間に下りて出て行こうとするが、
それより早く良介がニ階から降りてきて、
良介「さきほどはすいませんでした。反省してます」と、
リュックと毛布などの家財道具一式背中に担いでお辞儀。
さくら「ねえ、どこ行くの?」
良介「お兄さん帰ってきちゃったから、オレ出て行きます。
長い間お世話になりました。
良介「これ今月の部屋代です。ここに置いておきます」
と封筒を置いていく。
寅が帰って来て、自分から出て行くところも偉いが、
部屋代置いていくところがもっと偉いね。
私はこの時点で良介が気に入った。
満男の鼻をつまんで
良介「よお、 さよなら 」
と、出て行く。
満男「どこ行くのー?」
さくら「ねえワット君、今夜行くとこあるの?」
良介「大丈夫です」
と、駅のほうへ歩いて行く。
寅「…」
さくら「出てったわよ」
寅「…」
さくら「これで満足なの?」
寅「…」
おいちゃん「かわいそうなこと、しちゃったな」
タコ社長、間が悪く、大笑いでやってきて
社長「寅さん、フフフ!おかしかったねえ〜!今日は」
と、寅の腕を叩いて
税務署行っておまえが押し売りに間違われた話したらさ、
受けちゃってさー!」
寅「受けたかねェ」
社長「ああ!みんな大笑いよ!
おかげで税金負けてもらっちゃったよ、ハハハ!」
普通負けるか税金??むちゃくちゃなギャグ(((^^;)
切れた寅は、いきなり社長の首を絞め始める。
寅「!!!」
社長「あう!あああああ!!!いたたたた!!」
と、庭に逃げていく社長
追いかける寅。
博止めに走る
博の声「やめてくださいよ!」
おばちゃん「わ、あらららら」
さくら顔を覆って恐がる。
さくら「ちょっとやめてよお兄ちゃん!!」
社長の声「ああああ!」
寅戻ってきて社長の上着を上がり口にたたきつける。
寅「コノヤロ!!」
寅は、帽子を持って外に行こうとする。
おばちゃん「ちょっと!どこ行くのよ!」
寅「これから、気の利いたとこ行って一杯飲んでくらぁ!」
と、出て行く。
寅「帰んないかもしれねえぞ!」
庭で社長のうめき声
とらや 庭
社長が物干しに吊るされている。
さくらとおばちゃん駆けつける。
社長「うお!いててて」
博がはずそうとしている。
博「じっとしててください」
社長「うわあああ!!!手が手がいたたたあ!!」
さくら「どうしたらいいの!」
とあたふた。
このようにプッツン切れた寅はタコ社長を物干しに
宙ぶらりんに吊るして出て行く(TT)
あり得ないよこりゃ(^^;)
柴又駅前 パチンコ屋
店内に流れる音楽はこの作品の隠れたテーマ音楽
『憧れのハワイ航路』
「♪晴あ〜〜れた空ァ〜〜、そ〜〜よぐかぜ〜〜〜、
港〜 出船の〜 ドラの音愉し〜
別れ〜テープを〜 笑〜顔で切れば
の〜ぞ〜み〜はてない は〜るかな潮〜路〜
あ〜あ〜〜 憧れ〜〜のハワイ〜〜航路〜〜」
【作詞】石本 美由起
【作曲】江口 夜詩
晴れた空 そよぐ風
港
出船の ドラの音愉し
別れテープを 笑顔で切れば
希望はてない 遥かな潮路
ああ 憧れのハワイ航路
波の背を バラ色に
染めて真赤な 夕陽が沈む
一人デッキで ウクレレ弾けば
歌もなつかし あのアロハオエ
ああ 憧れのハワイ航路
とこ夏の 黄金月
夜のキャビンの 小窓を照らす
夢も通うよ あのホノルルの
椰子の並木路 ホワイトホテル
ああ 憧れのハワイ航路
「ただいま百番台…予定でございます。多数お持ち帰りでございます。。。」
良介がパチンコをしながら
アパートマンション情報を読んでいる。
遠くで寅の声。
寅「よー!この機械こわれてんじゃねえのかァ!」
と玉がゼロに。
昔の指で弾くやり方の台。
なんと隣は杉山とく子さん!
チョイ役セリフ無し!!贅沢だねえ〜〜〜!!
杉山さんタバコくわえてバンバン玉を溜め込んで弾いている。
「二百十五番台4千円、…まことにありがとうございます、ありがとうございます」
寅、そーっと転がっている玉を盗ろうとするが、 おいおいヾ(^^;)
さすがに百戦錬磨の杉山さんにキッと睨まれ、指からもぎ取られる。
寅「ちッ」
寅「あーあ、面白くもなんともありゃしねえな!」
その時
良介が、寅の背後から玉をたっぷり入れてやる。
寅振り向いて
寅「なんだ、おめーかァ」
良介「そこ入んないでしょう」
と、横に座って
良介「ここの4本釘の左から2番目を狙って打ちゃいいんですけど」
寅「ここか」
良介「あー…あんまりよくないな…、この台は…」
音楽2番が流れる。
『♪波の背を バラ色に
染めて真赤な 夕陽が沈む
一人デッキで ウクレレ弾けば
歌もなつかし あのアロハオエ
ああ 憧れのハワイ航路
寅「おまえワットという名前か」
良介「ええ」
寅「おかしな名前だな、どういう字書くんだおまえ」
良介「いやあ、本名じゃないんですよ、
オレ電気会社に勤めているもんだから
博さんやさくらさんがそんなあだ名をつけちゃったんですよ。
オレ…島田良介って言います」
パチンコ玉がチューリップに入って
良介「あ!入った入った!!」
寅「入った!入った!入った入った入った入った入った!!」
杉山とく子さん、横でギロリと睨む。
杉山さんうまいね、この『間』(^^)
寅「おまえ、今夜泊まるとこねえのか」
良介「いや、友達のところへね、
さっき行ったらまだ帰ってなかったから」
またまた玉が入って
チーンジャラジャラジャラ
チーンジャラジャラジャラ
二人して「入った入った入った!!」
杉山とく子さん、寅の台を見て敵対心を見せる。
寅「おー!!また入った!
おー!!また入った!!入った入った、
どうだババア!!」
チーンジャラジャラジャラ
チーンジャラジャラジャラ
とらや 店
深夜、寅と良介の歌声が参道から聞こえてくる。
寅かなり酔っ払っている。
『憧れのハワイ航路』を歌っている。
寅「♪晴れた空 そよぐ風
港 出船のオ〜〜ウイック…、おいおい」
とらや 店
と、ふらふらで店のテーブルにうつぶせになり
寅「おばちゃん」
おばちゃん「ん」
寅「このヤロウと、このヤロウとずっと一緒に飲んでた、今まで」
おばちゃん良介を見て
おばちゃん「どこでどうして?」
良介「いや、パチンコ屋で一緒になりましてね。
それじゃオレこれで」
と出て行こうとする。
おばちゃん「あら、あ、ちょっと」と止めようとする。
寅「え?、何だおーい、待て、帰るのかおまえ」
良介「ええ」
寅「バカー!!、お前ここへ泊まっていけよ!
いいよ、オレが許すから。
オレはここの跡取りなんだから。
そのオレが許すって言うんだから、
誰も文句言わないよ。
おまえずっとここに居ろよ、ここに居ろよおまえは」
良介「どうしよう」
おばちゃん「いいよ、この男がいいって言ったんだから」
と、良介の腕をひっぱって奥へ送る。
おいちゃん「気の変わらないうちに早くいって、休みなさい」
おばちゃん「うん、お休み」
良介「じゃあ寅さん、お休みなさい」
寅「あーお休み」
テーブルにバタって倒れながら
寅「お前、オレのとこ、あそこで寝ろよ、な」と、ぐでんぐでん。
良介「はい」
寅「はあ〜〜〜、ここで寝らあ…」と、うつぶせ。
寅「あ〜あ…」と、寝てしまう。
なんだかんだ言っても寅はやっぱり優しいね。
翌朝 柴又 電信柱
電信柱に上って仕事をする良介
良介「いや〜、しかしほんとこれ、傾いてんじゃないかな」
工具が上がってきて
良介「ほい」と受け取り
上にいる技師に渡す。
良介「おい!マサ!腕金頼む」
マサの声「よっしゃ」
【腕金】とは、電柱から横に突き出して設置する金属、その他の. 支持物。
翌朝 題経寺 山門
御前様はさくらにその騒動のことをこう言っていた。
御前様「しかし、その青年を責めるわけにはいかんよ。
なにしろあの男を見て、押し売りだと思うのは
むしろ正常な感覚だろうからな」そら言える(^^;)
さくら「ええ…、私たちもそう言ってるんですよ」
御前様「それで二人はお宅に居るのかな」
さくら「はい。とりあえずとらやのニ階で暮らしてますけど…」
御前様「いずれそのうち一騒ぎおこさずにはすまんじゃろ、そのぶんじゃあ…」
さくら「いやですわ、御前様、フフ」
御前様「ハアア、ハアア、ハアア」と例の御前様笑い。
満男がその横で源ちゃんをサルの物まねをさせて遊んでいる。
満男「えい!えい!」と、ほうきで源ちゃんを叩いている 満男って…(TT)
源ちゃん「フホ!フホ!フホ!」と、猿のまね(^^;)
さくら気づいて、
さくら「ちょっと!!」っと、叱って、満男を叩く。
さくら「何してるの!」
満男横に逃げて隠れる。
源ちゃんさくらの前でも猿の格好続けている バカ(((^^;)
さくら、呆然。
とりあえず源ちゃんを縛っている紐を解く。
御前様「こうら!!バカもんが!!」
源ちゃん、すっと立ち上がって、
いきなりほうきでそそくさ掃除するふり。
この豹変が笑える((^^;)
さくら源ちゃんの紐を解く。
とらや 茶の間
ようやく昼近くになって起きて来た寅。
寅「あーあー、よく寝たよく寝た」
と荷物部屋から下りてくる。
寅「おばちゃん、めしめし、めしにしてくれ」
おばちゃん「大きな声出して、お客さんいるんだよ」
いつも思うんだが、店にお客さんが多い場合、
普通茶の間の障子閉めるよな。
寅、座って、新聞を手に持ち
寅「どうした?青年は朝飯すんだか」
おばちゃん「なに言ってんだよ、朝早く起きて仕事に出かけたよ。
堅気の人はね、日曜日以外は昼頃まで寝てやしないよ」
寅「ほー、朝っぱらからお説教ですか、結構ですね、
結構毛だらけ猫灰だらけ、お尻の周りはクソだらけだァ!!」
と、外に出て行こうとする。
おばちゃん「寅ちゃん、ごはん食べんじゃないのかい?」
寅「結構です」
店先でくるっと店内に向きなおし、子供のような声で
寅「どこかその辺の、
可愛い娘さんにいる雰囲気のいい店で
食事してきます!はい!」
と言って外へ出て行く。
お客さんクスクス笑っている。
そらおもしろいよね〜、あのおじさん(^^;)
駅に向かって歩いてきた寅が、えびす家を通過し、
寅、えびす家の前を歩いて駅のほうへ行く。 現在の同じ場所↓
寅歩きながら
寅「かと言って若い娘の作る料理にうまいものなんかねえしなあ…」
おいしいごはんの黄色い旗 このあたりに米屋がある。
ふと目に留まった小奇麗な食堂
「 お食事 ふるさと亭 」
寅「まあ、ここにするか」
モデルになったのは『かなん亭』
現在の『かなん亭』↓
第36作「柴又より愛をこめて」でも「かなん亭」は映る。
第41作「心の旅路」でもラスト付近で映る。店は現在のように一部リニューアル
と、入っていく。
「ふるさと亭」
柴又7丁目 5つ角
そこは、実は良介が密かに惚れている幸子ちゃんが
勤める店だったのである。
『秋田県人会柴又支部』の看板 細かい…(^^)
寅「ごめんよー」
幸子ちゃんの声「いらっしゃい!」
店内のテレビからテレビ番組『ベルトクイズQ&Q』が1分半流れ続ける。
押坂忍司会者の声
寅、幸子ちゃんの感じをすぐ気に入って
寅「この店はいつ頃始めたの?」
幸子「去年の暮です」
寅「へー、いい店じゃないか」
幸子「ありがとうございます」と、お辞儀。
寅「なあ」
店員さんの少年が出前に出かける。
幸子「のぶちゃん、わかってるべ、行くとこ」
のぶちゃん「はい」
幸子「なんにしましょう」
寅「ん、ビールの一本でももらうか、
それとも昼間っから働いている労働者諸君に悪いか、フフ」
幸子「フフフ」
寅「ま、いいや、勘弁してもらって一本、な」
幸子「はい」
と、奥に引っ込む。
寅、良介を見つけて
寅「おう!青年!」
良介、ちょっとバツが悪そうに
良介「あ、どうも」
寅「何だい、おまえここで飯食ってたのかいつも」
良介「ええ、時々ですけど」
寅「へェー」
幸子ちゃん、ビール持って来て
幸子「お待ちどうさま」
寅「あ、ありがとう」
寅「お姉ちゃんはいつごろからここで働いてんの?」
幸子「半年前からです」
栓を抜いて、ポケットに入れて、
と、コップにビールを注ぐ。
寅「仕事はきつくないかい?」
幸子「ええ、まだそんなに」
寅「ふーん、経営者いじめないか?」
調理場から叔父さんが覗いている(^^;)
寅も振り返り目が合う。
寅「なんか意地悪そうな面してるぞ、ありゃ」
幸子ちゃん大笑いして
幸子「私の叔父さんなんです」
寅、「え」と照れ笑い。
幸子「よく似てるって言われるんですよ」似てない似てない(^^;)
寅「へえー」
湯沢凧絵がかかっている。
秋田県湯沢市の湯沢凧絵は、その昔佐竹藩が
他藩との輪番で京都の禁裡御門固めに上没した時、
これに従った市内上 ・ 下町(現在の内町) ・ 御囲地町の土族達の中で
絵筆の立った人たちが当時都で売出されていた武者絵の版画を
寸暇を惜しんで書き写し、持ち帰ったのが現在湯沢に
伝わる凧絵の始まりと言われている。
元禄時代以来の長い伝統を持つ。
黒板の文字
あじの塩焼き 三〇〇
かつをの煮付 二五〇
たらこ 二八○
しらすおろし 一二〇
ほうれん草のおひたし 一○○
納豆 一○○
煮豆 一○○
うづら 一○○
白菜のお新香 一○○
塩こぶ 六○
冷奴 一五○
きんぴら 一ニ○
良介が好きな冷奴は当時としては意外に高い150円。
1977年では冷奴は普通は100円くらいのはず。
たらこが280円というのもちょっと高いか…。
きんぴらは今日は売り切れたんだね。
寅「へへへ」
と笑いながら、良介のおかずをつまむ寅。
寅「いい娘だな、おい青年」
良介「ああ、そうすか…」
と、もくもくと食べている。
調理場で幸子ちゃんと叔父さんが何か話して、
叔父さんがまた寅を覗いている。
幸子ちゃんの笑い声
おそらく先ほどの寅の言葉を伝えてたんだろな(^^;)
寅「…、なんだおまえ、
あの娘見てなにも感じねえのか」
良介「…」
寅「食い気だけかよ、貧しい青年だね。
もしオレがおまえの年だったらな、
絶対あの娘に惚れてるぞおまえ、えー」
と良介のたらこも取って
寅「生まれは信州あたりかね?」
良介「いえ、秋田です」
寅、ちょっと驚いて
寅「秋田…ほぉ〜…」
ちょっと振り返りながら
寅「年は十八九か…」
良介「いえ、もう二十歳です…」
寅「ほお…」
このシリーズでは珍しく渥美さんが
次々に食べ物を口に運んでいる。
幸子のテーマが静かに流れる。
良介「小ちゃい時にお父さんが亡くなりましてね。
お母さんと弟が田舎にいるんです。
その弟に学費を送りながら、
自分は速記の学校に通って
夜遅くまで勉強しているんです」
良介を見て
寅「…」
良介「名前を幸子って言いましてね。
さいわいってういう字なんですよ」
と手のひらに指で書く。
寅、全てを察知してニヤついている。
良介「いや、あの…、ちょっと聞いたんです」
寅、ニヤニヤしながら、
おもむろに後ろを振り返り
寅「このヤロウ〜!惚れてるな」
良介、タジタジして
良介「え、違いますよ」
おかずをもう一品寅に差し出して
良介「どうぞ」とごまかす。
寅に見透かされて
やみくもに御飯に味噌汁をかけて
ネコまんまにしてかき込む。
さくらのアパート こいわ荘 夜
京成電鉄の音
寅からの電話に出ているさくら
さくら「あ、そう…、へー…、うん」
カメラはアパートの外から撮っている。
満男がドアを開け空の牛乳瓶を二本、洗濯機の上に置く。
博が寝転がって本を読んでいる。
電話の前にいろいろな家の電話番号が書かれてある。
さくら「はい、あ、そう…」
満男「お母さん、ごはん」
さくら「明日ゆっくり聞くわよ、これからごはんなのよ、
うん、はい、じゃあね」
さくら、博のところに行き
さくら「お兄ちゃんだけどね、ワット君に恋人がいるっていうのよ」
博「へえー」
さくら「『どうせ片想いだからオレがなんとかしてやらなくちゃ』って…」
博「ふーん…、そらま、恋人くらいいるだろうけど、
兄さん、下手に口出しなんかしてだめにしなければいいがなあ」
さくら「ほんとねー、
自分のことさえうまくいかない人がねえ」
厳しいねえ…さくらも(^^;)
コーヒーのサイフォンが見える。
レギュラーにこだわっているんだね。
さくら満男に
さくら「はい、ごはんよ」
博「はりきってたか兄さん」
さくら「うん、興奮してたわよ」
博、電気釜をテーブルに運びながら
博「そりゃまずいな…」
ところで…
博のいつものお気に入りジャンパーが椅子にかかっている。
冬はいつもこのイエローオーカー地に
襟と手首とが茶色で胸にも茶色の線が入ったジャンパーだ。
↓
これは第3作「フーテンの寅」から着始めてなんと
第26作「かもめ歌」まで冬作品に延々と登場し続けたジャンパーだ。
よっぽど気に入ってたんだねこのジャンパー。
それでは博のジャンパー人生を画像で振り返ってみよう(^^)
第1作は色は似ているが種類が違うジャンパーだ。
第3作「フーテンの寅」 第6作「純情編」
第10作「夢枕」 第12作「私の寅さん」
第14作「子守唄」 第16作「葛飾立志編」
第18作「純情詩集」 第20作「頑張れ!」
第22作「噂の寅次郎」 第24作「春の夢」 第26作「かもめ歌」
雨の日 『ふるさと亭』 夜
ピンク電話
市外電話の時は遠慮なくお申し付けください
幸子のテーマが流れる。
年配の男女が何か話し合って笑ったりしている。
なかなかリアルな演技だ。
ワンタンメン
ワンタン
とろろそば
何でもあるんだね。
良介が来ている。
カツ丼を持ってくる幸子ちゃん。
幸子「おまちどうさま」
仕事の勉強をしていた良介。
幸子「勉強?」
良介「え?…うん」
良介を見ている幸子ちゃん。
一日中働いているので、白い作業衣が少し汚れている。
こういう演出はとても繊細。
幸子ちゃん、ドアのところまで行って、
幸子「あー…いっぱい降ってきた…」
幸子「お客さん傘持ってるの?」
良介「いや」
幸子「じゃあ、私の貸したげる。二つ持ってるから」
と奥に行く。
途中振り返り
幸子「かまわねえ?、女もんでも」
良介、恥ずかしそうに食べている。
目は合わさない。
良介「ああ…」
幸子、嬉しそうに調理場に入る。
叔父さん「幸子」
幸子「ん?」
叔父さん「今日は雨だし、あと、閉めとけ」
幸子「そだね」
叔父さん、鼻歌を歌いだす。
幸子「叔父さん、騒音禁止」
ちなみにこの叔父さん、プロの声楽家さんです(^^;)
幸子ちゃん調理場から良介を見て微笑む。
良介も調理場の幸子ちゃんを見て笑顔。
幸子ちゃん、傘を取りに階段を上がっていく。
『幸子ちゃんのおじさんは一体誰なんだろう?』
第20作「寅次郎頑張れ!」を最初に見た時の感想が実はこれだった。
★幸子ちゃんと良介の初々しい輝き。
★寅の『憧れのハワイ航路』
★そして幸子ちゃんのおじさんのキャラ。
この3つが私にとってのこの作品の裏の魅力。
あの朴訥さ、あの東北弁、あの照れた顔、あの声の渋さ。
ワット君も吹っ飛ばされる怪力(^^)
そしてなぜか声が良く響き、歌が異常に上手い!
シューベルトの『菩提樹』を朗々と歌う。
お名前は築地文夫さん
彼の独特の雰囲気は絶対、プロの役者さんでは
出せないリアリティ。
実は、なんと彼は昔、芸大を卒業し、洗足学園音楽大名誉教授も務める
プロの声楽家である。それがご縁があって山田組と仲良くなり
幸子ちゃんの叔父さん役を監督がお願いしたのだ。
ど〜おりで歌が上手いはずだ。
ど〜おりで演技の『気』が他の人と違うはずだ。
この笑顔がたまりません
でも役者さんじゃないから、
これ1回特別出演しただけで終わりなんだな、と思っていたら、
なんと第35作「寅次郎恋愛塾」でも出演されているではないか!
やっぱり第20作と同じ秋田県人。
民夫のお父さん役だ。ここでも寅を民夫の先生と
間違えたりいい味を出していた。
この作品では歌は歌ってくれなかった。残念…。
時々役者としてももうちょっと出て欲しかったなあ…。
第35作にて、「これにて一見落着?」
物語を進めよう。
翌日 帝釈天参道
参道のちょうどとらやの上辺りにに「キングトルコ」の看板(^^;)
金子屋 煎餅
天ぷら大和家
電柱に木屋老舗
木屋の横で例のサルがいる。
なんと源ちゃんがネクタイを締めて
派手な服を着た彼女と腕を組んで
参道を歩いているではないか!
前代未聞、天変地異、これはぶったまげ。↓
彼女、源ちゃんの腹巻がかっこ悪いと
彼女「それ閉めなよ」とスーツを閉めさせる。
源ちゃん「へへ」
源ちゃん彼女の赤紫スカーフを指さし
源ちゃん「○○ちゃんカッコイイな」
彼女「フフフ」
木屋さんの猿が「キーキー」鳴いている。
源ちゃんにもそういう青春の一時期があったんだねえ…。
その後彼女とはどうなったんだろう?
とらや 二階
良介が幸子ちゃんに思い焦がれて、ため息をついている。
あの雨の日に貸してくれた赤い傘も手すりに干してある。
これも憎い演出。
ラジカセデッキ
紙には「サチコ さちこ 幸子…」と連発で書いてある。
相当ほれてるバイ((((^^;)
満男が『電線音頭』を歌いながら遊びに上がってきて、
満男「♪でんせんにすずめがあ、三羽とまってた。それを…」
良介「う〜〜〜ん、ちょ、うるさい!!今考えごとしてんだからよー」
ワット君が電線にいつもとまってるので、
満男が茶化して『電線音頭』を歌っているのだろう。
電線音頭は…
そもそも、電線音頭は『ドカンと一発60分』
(テレビ朝日1975年10月から1976年3月)の中で
桂三枝と小松政夫によって歌われていた。
「桂三枝の電線音頭」としてレコードも発売された。
大ブレークしたのは
1976年から1978年ごろのTV番組
「みごろ!たべごろ!笑いごろ!」「みごろゴロゴロ大放送!!」
の中で、小松政夫や伊東四郎(もしくは桂三枝)が歌い、
番組ゲストや電線マンがその歌にあわせてコタツの上で踊ったことによる。
歌詞
チュチュンがチュン チュチュンがチュン
電線に雀が三羽止まってた
それ を猟師が鉄砲で撃ってさ 煮てさ、焼いてさ、食ってさ
アヨイヨイヨイヨイ オットットットッ
アヨイヨイヨイヨイ オットットットッ
この歌詞の一部は、
あの有名な熊本の手毬歌「あんたがたどこさ」から
取っていることは一目瞭然。
あんたがたどこさ
肥後さ 肥後どこさ
熊本さ 熊本どこさ せんばさ
せんば山には狸がおってさ
それを猟師が鉄砲で撃ってさ 煮てさ 焼いてさ 食ってさ
それを木の葉でちょいと隠(かぶ)せ
物語に戻ろう。
便箋の文字を見ながら
満男「サチコサチコサチコ…サチコってだあれ??」ねえ(^^;)
良介焦って紙を取り上げる。
これじゃ第10作「夢枕」の岡倉先生だよ(^^;)
「お千代さん、お千代さん…」ってレポートに書いていた。
良介「誰でもいいんだよ」
満男、良介の上に乗りヤンチャを行う。
満男「電線マン死ねェー!!」
良介「離せ、こら!」
とらや 茶の間
さくらと博は休日なので久しぶりに映画に出かけようとしている。
さくらは満男のおやつのお菓子を食べながら、残りをおばちゃんに託す。
博「じゃあ、満男お願いします」
おいちゃん「ああ、ワット君が遊んでくれるよ」
さくら「おばちゃん、これ満男のおやつね」
おばちゃん「あいよ」
寅が新聞を眺めている。
パンダの記事。
寅「おや、ご夫婦お二人で珍しい、どちらへ?」
おばちゃん「映画だって」
寅「はあー、結構だね、いいご身分だこと」嫌なやつ(ーー)
博「いいでしょ、たまには」
さくら「いやな言い方するわねえ、もう」
おいちゃん「はやく行っちゃえ」
おばちゃん「およしよ、出がけにィ」
寅「出がけですか、はー」と新聞をまた見始める。
博、店に誰か来ているのに気づく。
寅も気づいて
寅「よー!!」
幸子ちゃんが店先にいるのだ。
幸子「あら」
寅、にっこにこ
幸子「お客さんの家、ここだったんですか」
寅「そうよ、なんだい、店休みか?」
幸子「いいえ、買い物のついでに
おやつのおだんご買いに来たんです」
寅「あーそうか、よく来たな」
寅振り返って
寅「おい、さくら、博、ちょっとこっち来い」
さくら、ニコニコして出てくる。
寅「ほら、この人だよ、例の、二階の青年がよく食堂行ってる…」
と、連続目配せでさくらに知らせる。
さくら、あ!っと思い、
さくら「あー、どっかでお会いしたと思ってたわ」
会ってないんじゃないの?
さくらにしては珍しく口からでまかせかも… ヾ(^^;)
おばちゃん「この娘さん」とニッコニコ。
さくら博に合図、
博さっそく、階段下まで行って
博「ワット君!!」
良介の声「はーい」
博「ちょっと下りてこいよ」
良介「はーい」
寅「おい、おばちゃんおばちゃん、ほら、お茶入れてお茶入れて」
と、手をパンパン
おばちゃん「あいよ」
寅、家族を紹介。
寅「あれ、オレのおばちゃんだ」
寅「これ妹」
幸子ちゃんお辞儀。
さくらお辞儀。
寅「妹の亭主」
幸子ちゃんお辞儀
博お辞儀
寅「これはおいちゃんだ」
幸子ちゃんお辞儀。
おいちゃんお辞儀。
寅「こんなところがオレの身内よ、うん」
幸子「あ、あの、私福村幸子といいます。はじめまして」
おいちゃん「えー、あんたが」とにこにこ。
さくら「かけなさい」
寅「座んなよ、なあ」
と、椅子をすすめる。
なにげない家族紹介のシーンだが、
なかなか隠れた名場面だ。
冷蔵庫サッポロビール
良介と満男で『電線音頭』を合唱しながら下りて来る。
良介と満男「鉄砲で撃ってさ、あ、煮てさ、焼いてさ、食ってさ、
よいよいよいよい、おっとっとっと!」
良介「お!!」
良介、幸子ちゃんを見て驚き怯え、暖簾を外してしまう。
良介「あいた…」
みんな「ハハハハハ!」
幸子「あらあ!お家ここだったの!」
寅「そうなんだよ、うん、フフ」
幸子「じゃあ、弟さんですか?」
寅「弟!?ハハハ」
良介「いや…」と近づいてくる。
さくら「違う…フフフ」
さくら笑いながら違うよという意思表示。
寅「下宿人だよ、屋敷が広いからさ、
部屋がいっぱいあるんだよ」
良介、ぬぼーっと立っている。
寅「なんか口きけよおまえ!」
良介、幸子ちゃんに
良介「オスッ」
さくら「とにかくかけなさい」
博「しっかりしろ」
さくら、良介がなぜかずっと持っているのれんを離させる。
座っても黙っている良介に
寅「おい、はやくなんかしゃべれよ、
楽しい会話しろ、会話」
良介「いや。。。会話って…」
寅「あるだろう、趣味はなんですかとか、
お好きな食べ物はとか、それをいう…」
良介「いや、趣味ったって
オレパチンコするくらいのことしか…」
あんたの趣味じゃないってば…ゞ(^^;)
寅、良介の口真似し、口尖らせながら
寅「オレにそう言ったってしょうがねえじゃねえか、
バカヤロウ〜」
良介「…」
寅「なんだよ…」
幸子ちゃん、ちょっとテレながら、助け舟。
幸子「た、食べ物はカツ丼が好きだねえ…」
良介「うん、んとそれから…冷奴とか…」
素朴な会話。ある意味会話ってこれでいいんだと思う。
寅、そっくりかえって
寅「んあああ…、ショボタレタ会話だなあ、
会話はダメかァ?
よし、じゃあ、若い者通しだ、な、
帝釈天の方ちょっと散歩して来い、ちょっと」
幸子、ぱっと表情が華やいで
幸子「私、今行こうと思ってたんです!」
寅「思ってたか!うん」
寅「よし、青年、おまえちょっと送ってけ、な」
幸子「あ、い、いいわよ」
寅「いいんだよ、遠慮することはない、
おい青年、な、おまえ、ちょっと送ってけ」
幸子「あ!そうだ!」
寅「え?」
幸子「おばさん、おだんご」
良介「あ、おばさん、お団子」
さくら「用意しとくから、帰りに寄んなさい」
寅「そうだな、よし、そうと決まったら青年、
一緒に行け、はやく」
良介「あ、そうだ!」
と、急にガバっと立ち上がる。
物が落ちて
寅「なんだよおまえ」
良介「カサ、返さなくっちゃ」
と、椅子を倒しながらバタバタ駆け足で二階へ上がっていく。
しかしなぜか階段の上の方で良介の駆け足が失速!!
ゆっくりゆっくり上がりだす。
なぜ!!??急いでいないのか?
それとも演技ミス?
寅「おいおいおい」
おばちゃん「あらら」
さくら「なんてまあ、フフフ」
おいちゃん、暖簾を直す。
さくら幸子ちゃんに
さくら「故郷は秋田なんですって?」
幸子「はい」
おばちゃん、お茶を出しながら
おばちゃん「こんないい娘さんを東京に出して
お母さん心配していなさるだろうねえ」
みんな「ねえ」
おいちゃん「気をつけなさいよ、東京には悪い人間が多いから」
あわてて下りようとした良介、思いっきり階段の途中でこけて
良介「あ!!!」
ガタンドタドタ
寅「どうした?」
博「あわてんなよ」
さくら「大丈夫?」
良介、下駄を履いた足を引きずりながら
良介「カサ…カサ…」
幸子「どうも」
寅「なんだよ、おまえ…、よし、早く二人で行け、な」
幸子「じゃあ行ってきます」
良介「それじゃ、行ってきます」
足を痛がる良介
良介「あああ…」
幸子「痛いの?」
良介「平気平気」
幸子「血が出てる…」
良介「大丈夫」
寅「これから世話が焼けるぞあの二人は」
寅、見送りながらニヤついて妙に目を輝かせている。
寅がこういう積極性を見せるときは、
なにか大きなトラブルの前触れ、危ない兆候だ。
■第20作「寅次郎頑張れ!」のお品書き。
下克上がおこり、冷蔵庫は今回からは サッポロビール
この作品では仁義なき値上げ決行!
あんみつ仁義なき値上げ
くずもちも仁義なき値上げ
とらやのあんみつは第2作と比べて4倍に値上がりしている。
ただし、この極道値上げのせいで、あと長い年月値上げは控えることになる。
お品書きの紙も同じものが長年使われていく。
豆大福登場
浮き沈みが激しかった黄金餅はこの後長い間、
スターティングメンバーからはずされる(TT)
三色だんご200
焼きだんご150
草だんご150
くず餅 250
磯乙女 200
ジュース200
ラムネ150
ミルクコーヒー200
あんみつ280
お赤飯 200
豆大福 150
ところてん150
ミルクコーヒーが遂に始まる。
題経寺の鐘 ゴーン
とらや 夜 茶の間
映画から帰ったさくらが『ジョーズ』か何かの再現を社長にしている。
お土産のケーキ
満男「違うよ、こっちだよ!」
おばちゃん「あ、はいはいはい」
おばちゃん「さくらちゃん、ひとつやるわよ」
と、ケーキを取り出す。
さくら「しょうがないわねェ」夕食前らしい(^^;)
博「まあ、いいよな、今日はちゃんと留守番したから」
満男、そそくさと仏間にケーキを持っていく。
なぜ、茶の間で食べないの満男?
答え:このあとワット君がそこにすわるからです(^^;))
おいちゃん「今食べたらご飯食べられないぞォー」
さくらまたもや社長に、ジョーズが口を開けているところを再現
さくら「びっくりしちゃって…」
博、ケーキの箱を縛っていたひもを丸めている。
そこへ良介が口笛を吹きながら帰ってくる。
なんとも機嫌がいい。
さくら「フフ、ごはんは?」
良介「ええ」
博「そりゃ食べてきたよ、いつものところでな」
さくら「あ、そうか、例の」
おいちゃん「こっち上がってお土産のお菓子でも食べないか」
良介「はい」
と言ってケーキの箱を覗く。
良介「わァーすごい!いただこうかな」
さくら「お茶入れるわね」紅茶のティパックを出す。
おばちゃん「どれがいい?」
良介「これ」と箱の真ん中を指差す。
良介は真ん中を指差す。
おっと、おばちゃん良介が指さしたケーキと違う
端っこのものを良介に与えてるぞ!
真ん中のほうは取りにくいんだろうね。
おばちゃんの手は端のケーキを取る。
博「なんだか嬉しそうじゃないか、いいことでもあるのか?」
良介「え?フフフ」
と含み笑い。
寅が荷物部屋から下りてくる。
寅「よ!帰ったか恋愛青年」そのまんま(^^;)
良介「ええ、お陰さまでいろいろ話しなんかしたりして」
さくら台所で
さくら「あ、ほんとう、よかったわねえ」
みんなにっこにこ。
良介、おもむろにハイライトを取り出しながら
確か、博もお気に入りはハイライト
良介「あのー、それで…」
寅「うんそれで?それでどうした」
良介「今度の日曜…
その…デートの約束したんです」
みんな「おー」
寅「おー上出来だよ、お前にしちゃ上出来だ」と、にっこにこ。
良介「ありがとうございます」
とタバコをくわえる。
寅「で、どうする?」
良介「え?」
寅「いや、デート…、
これからどんなふうにするか
頭からこう、順序だててさ、ちょっと教えてくれ」
良介「いや、そんなことまだ…」
さくら「あら、まだどこ行くかも決めてないの?」
さくら、良介にコーヒーを出す。
良介「ええ…」
博、良介に火を差し出しながら
博「まあ二人でお茶でも飲んでさ」
おいちゃん「そうそう」
おばちゃん「なんたってね、アベックは喫茶店だもんね」
おばちゃん、凄い固定観念… ゞ(^^;)
良介「ええ、それはオレも考えてます」
さくら「そう」
寅「そこまでは誰でも考えてるんだよ、バカ
それから先きっちゃってんでどうするかが問題じゃないか」
博「話をすればいいんじゃないですか、いろいろと」
寅「話はしない!」なんやなんや ゞ(^^;)
寅「テーブルの上にコーヒーがある…。
静かな音楽。
黙って聴く。
彼女は言うな…。
おいくつ?
そしたらおまえなんて答える?」
良介「二十五」
寅「バカ!砂糖の数だよ!」
第18作「純情詩集」では寅が、
綾さんの質問に対して同じように答えていた(^^;)
みんなクスクス
良介「あ、そうか、じゃあ、二つ」
寅「いや、それが違う。
『僕…いいです。
甘いの嫌いだから』
こういう言葉に女は弱いんだよ。
なあ、甘いもんなんかドンドン食う奴は
体に締りが亡くなっちゃうんだよ。
見てみろ、おい、
社長やおばちゃんがいい見本!」
おばちゃんたちブスウ
おばちゃん「大きなお世話だよ」
社長「おれだって若いころは締まってたんだよ」
寅「うるさいな、黙って聞け!」
良介「その先はどうするんすか?」
寅「決まってるじゃないか映画を観るんだよ。
ただし、洋画はダメだぞ。
考えてももろおまえ、カッコのいい男がスーッとした
足して次から次へ出てくるんだよ。
そうだろ、終わって電気がパッとつく。
しみじみお前の顔観て
『カァ〜…ひどい顔してるなあ…』
っていうことになっちゃうんだよ」
みんなクスクス。
良介、すねながら
良介「じゃあ、日本の映画を観ますよ」
寅「それだからってなんでもいいわけじゃないぞ」
寅「やくざもの、ギャング映画、これだめ、
見た後心が寒々としてね、
恋だの愛だのっていう雰囲気にならないんだ。
悲恋もの、これもダメだな、
あれはは寒々しい気持ちになってね、
もう早く家に、悲し〜い気持ちになって
早く家に帰っちゃおうって気持ちになっちゃう」
良介「じゃあなに見りゃいいんですか」
寅「決まってるじゃねえか、
可笑しい映画!!フフ、」
と満面の笑顔。
寅「二人でさ、腹抱えて転げまわって笑ってさ、
『あー〜可笑しかった。
あんまり笑ったんで私おなかすいちゃったわ』
『そう、じゃあなんか食べに行こうか』
やっぱり食事はレストランがいいなあ。
ケチケチしないでデザートも取ってやれよ。
今の若い子はよく食うからねえ〜!」
さくらにこにこ聞いている。
寅「あの、ガラスの器に入った、
ほれ、あれ、何って言ったい?」
さくら「え?」
寅「え、アイスクリームを、」
さくら「なに?」
寅「こう、ねじりウンコみたいに
山盛りにしたやつ…」
ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ 出たアア…。
みんな「うわー」
さくら「きたないわねえ!いやねえ、もう〜」
みんな嫌がるわ、そっぽをむくわ。
寅「あれなんか、
一口でぺロッと食べちゃってさ、
あ〜〜、あー美味しかった。
私おなか一杯食べちゃった」
それで二人は人影の少ない公園に行く。
澄んだ秋空、さわやかな風、
『あ、…あんなところに花が…』
『え?どこに…』
『ほら、ほら、そこに』」
良介は指差した方をきょろきょろ。
寅「おい!こら!ここが大事なんだよ。
差出したおまえの手に娘の頬が触れる。
娘が振り返る。
いいか。ここで目をそらしちゃいけないぞ。
ジーッと娘の目を見る。
おまえが好きなんだよという思いを込めて
娘の目を見る。
そこでおまえの気持ちが通じる。
そこだよ!そこで最後のセリフを言う。
『アイ ラブ ユウ…』
できるか、青年!」
おまえこそ、できたためしがあるのか寅 ヾ(−−;)
良介「あ。。。できるかな、そんなこと」
知り合って間もない初デートで
絶対そこまでいきなり言う必要ないよ ヾ(^^;)
寅「やれよ青年!
おまえだったらきっとできる!」
絶対無責任!この発言は (((ーー;)
良介「はあ〜〜、自信ないなあ…」当たり前(^^;)
と、立ち上がろうとする。
寅「それさえ、うまくできれば、
あと、結婚式だとか、結納だとか、
そういう面倒くさいことは一切オレが引き受ける」
妄想妄想 早い早い ヾ(^^;)
誰か止めろよ寅の妄想&暴言。
満男、ケーキ食べ終わってさくらのところへ皿を持ってくる。
もう一つ欲しいとねだっているが、
さくらは食事前なのでダメだと注意しているもよう。
おいちゃん、はしょっている寅を止めるしぐさ。
良介、超プレッシャーがかかって
気持ちが沈んで二階に上がっていく。
寅「ふうー」とニコニコ顔。
おばちゃん「ケーキ食べないの?」
良介「ええ…」
二階に行ってしまう。
ちなみに、テレビの熊の彫刻が良介の帰ってきた時と
その後とではずれている。
さくら「あんな無責任なこと言って、
知らないわよ私」
寅「なんだい、オレの言ったこと間違ってるか?」
いずれそうなるにしても、
物事には順序というものが…(−−)
さくら良介のケーキを箱の中に戻す。
繊細な演出。
タコ社長「いやいや、
さすが寅さんだよ、名コーチだよ」
どこが?寅は、はしょりすぎだよ、
結果を急ぎすぎ(−−;)
寅「そうだろ」
おいちゃん「経験豊富だからな」
でもそれら全部失敗(TT)
社長「アハハ、うまいうまい!」
寅「まあ、いいでしょう。
今夜のところはこれでお開きということで、ね、
それじゃお休み」
みんな「おやすみなさい」
おいおい、寅夕飯食べて無いぞ。
誰も不思議がらないのはなぜ?
このように会話に夢中になったり、
逆に意気消沈したりした時、寅は何も食べずに
すぐに寝てしまう。7時であろうが8時であろうが
寝てしまうのである。
それで朝は遅くまでだらだら寝ているので、
10時間以上は毎日寝ているのかもしれない。
階段の下で
寅「今度の日曜日か、
早く来ないかな、楽しみだなあ…フフフ」
楽しんでますねえ〜(^^;)
そして日曜日
堀切橋を京成電車が渡って行く。
良介と幸子ちゃんが京成電鉄で上野までデート
鉄橋を渡る京成電鉄の3000形 通称『赤電』
車内で立っている良介と幸子ちゃん。
二人とも緊張している。
映画を観に上野に行くのだ。
一方とらやでは
とらや 店
朝日印刷社員一同が客。
日曜日の朝日印刷の草野球の後、とらやでくつろいでいる。
みんなで寅の話題で大笑い。
ドラえもんポケットエプロンをして食べ物を持ってくるさくら
さくら「ねえ、どうしたの?なに笑ってるの」と、
タコ社長「いや、寅さんがね、
遂に現役を引退して
コーチに就任した
って話してたんだよ」
博「現役の時はダメでも、
コーチになったら
よくなったってことも
ありますからねえ」
上手い!座布団2枚(^^)
みんな大爆笑
社長、博を指さして
社長「面白い!」
このように寅ネタを酒の肴にして大賑わい。
脚本第ニ稿ではこのギャグは博ではなく、
社長が、茶の間で言う設定になっている。
さくら台所に戻ってきて
さくら「かわいそうに、酒の肴にされちゃって」
おばちゃん「いまごろどうしてるだろうね、ワット君」
さくら「映画観てるんじゃない、
お兄ちゃんのコーチどおりに」やばいなあ…(−−;)
おばちゃん「アベックで映画か、いいねえ〜」しみじみ(^^;)
このシーン、同じく脚本第2稿では
アサヒ印刷は河川敷で野球をやっているシーンが入り、
その応援をしながら博とさくらが良介のデートについて
「今映画観てる頃よ」なんて
話しているのである。
一方、立ち風書房の決定稿の脚本では本編どおり。
上野 映画館
山田監督演出?のオリジナルホラー映画
を観ている二人。
おいおい、なぜそんなものを…
喜劇観るんじゃないのか ヾ(^^;)
寝巻きを着た女の人が寝床になにか置いてあると感じ、
布団をバッとめくる。
そこには人間の生首が
女「キャアー!!!!」
幸子ちゃん、恐怖で目をつぶる。
女恐怖で慄きながら窓際に張り付く。
窓に、幽霊が飛び出してくる。
(これは恐い(TT))
幸子ちゃん「うわー、キャー」
幸子ちゃん、限界で良介の方に
うつぶせになり顔をふせる。
良介「…」
まさか、これが狙いじゃないだろうな良介(((^^;)
…んなわけないか(^^)
半狂乱の男が女を切っていく。
血が飛び散る。
再度切る。
山田監督好きだなあホラー映画作るの。
こういうところにしっかり凝るんだよね監督さん。
う〜ん、なかなか観れるレベル。
山田洋次さんはなにをやらせても
平均以上行くんだねやっぱり。
それともこれだけは助監督さんの作品なのかな…。
しかし、おもいっきり、寅の助言外してるなァ…。
コメディとホラーと間違うか普通((((^^;)
上野 食堂
そのあと、こじゃれたレストランに行かず、
混んでいる食堂でラーメン。
これも寅の助言聞かず(TT)
おまけにラーメン食べようとしたら
店員さんに思いっきり水入りコップをこぼされる良介(TT)。
きたないフキンで服を拭かれてしまう(TT)
良介「汚いよ、それ、もういいよ」
店員「すいません」
幸子「水でしょ、大丈夫よ」
と、ハンカチを差し出す。
良介「平気だよ、食えよ」
幸子「じゃあ、いただきます」
ハンカチを返す良介。
受け取る幸子ちゃん
良介も食べようとしてコショウをふると、
フタとれてコショウドバーっと全部出ました。
どんぶりに山盛りのコショー。
。。。。あああああああ(((TT)
第47作「拝啓車寅次郎様」で、
長浜の菜穂ちゃんのお兄さんも食事中同じことしてました(^^;)
となりで見ていた子供たちもびっくらこいてたよ(^^;)
幸子ちゃん気丈夫に
幸子「上だけ取ったら、上だけ」(((TT)
二人でコホコホコホ
あああああ良介最最悪(TT)
寅が易のバイをしている。
鎌倉市大船1丁目7−5
今から13年ほど前までは私は
この啖呵売ロケ地が金町だと思っていた。
金町 北口 喫茶室 ルノアール 前
東金町1丁目42
と長年思っていたが、
2013年5月に「男はつらいよ」のファンで私のサイトも
よくごらんいただいている昔大船近くに住まわれていた鈴木さんと言う方が
ご自分の少年期にあの第一勧銀とルノワールのありかたを覚えていらっしゃった。
さっそくあらゆる方向から検証してみるとなんとなんとこの場所は大船だったのだ。
第19作のあの寅の啖呵バイと同じパターン!!
そしてなんと同じような場所。
あの19作と20作の啖呵バイはなんと同じ筋で
たった50メートルほどしか離れていなかったのだ!
鎌倉市大船1丁目7−5
寅が啖呵バイ 易断 易本
寅が売っているのは『神宮館高島暦』
中身は以下の内容。
その年の年略暦、方位吉凶解説、月別暦、本命星別運勢指針。
ルノアールの横の耳鼻咽喉科のあり方が当時も今も同じ。↓
そして、なんと今もルノアールはビルの2階にある
後ろの幕のイラストの顔にいろいろ文字
天中 天庭 司宮 中正 印堂
寅「この世に生を受けた男と女、
みんなその目に見えない糸で結ばれています。
たとえどんなに愛し合っている男と女でも、
この糸が繋がっていない限り
決して結ばれることは無い。
そこに人間の悲劇がある。ね、
今日は暖かい日曜日、
何百組何千組のアベックが手に手を取って
いそいそと歩いているが、
果たしてこの中の何組が運命の糸によって
結ばれているであろうか。
さて私が手に取り出したるこの書物、
この本を見ることによって
絶望する人もいるかもしれないが…、
(カップルの女性の方が立ち止まろうとしたが
男のほうが「行こうよ」と連れて行く)
今のお客ね、あれ、絶対に結ばれない、
わかるんだから顔観れば、
相に出ている。
人が話している時に「行こうよ」こりゃダメ!」
お客たち「フフフ」
寅「ちょっと手に持って、ね」
上野 不忍池 ほとり
ボートが並んでいる。
幸子のテーマが静かに流れる
二人でボート乗り場の横を歩いている。
幸子ちゃん良介の横でジャンプして
幸子「背が高いね」
中村雅俊さんは183センチ。
ジャンプ(^^)
良介「うん」
幸子「私のお父ちゃんも良介さんくらい大きかったよ」
良介、幸子のちゃんの隣に立つ。
幸子「肩幅なんかもこーんなにあって、
まるで相撲取りみてえだった」
良介「いつ、死んだんだ?」
幸子「小学校に…入った年」
幸子「学校からの帰り、私が行くと、お父ちゃん痩せた手で私の手を取って
『おう幸子、来たかア』そう言うの、
その手が行くたんびにだんだん細くなっていくのが悲しくってね…」
良介「お父ちゃん…、好きだったのか?」
幸子「うん。だから死んだ後も、なんかっていえば泣いてばかりいたの」
また歩き出して
幸子「そしたらね、おばあちゃんが
『そっだなに泣いてばっかりいると、
人から嫌われてしまうで、
ほいだば、父親のねえ子なんだから、
みんなからめんこがられるようにならねばだめだ。
悲しいことがあってもがまんして笑ってれ、
そうすればめんこがられるようになるから』
そう言われてから私…泣くのやめたの」
いい話だねえ…。
池の向こう側に『東天紅』上野本店が見える。
不忍池のほとりのベンチ
良介がお菓子と飲み物を走って買ってくる。
ポテトチップス
雪印の乳製品
大きいの買ってきたね(^^;)
良介「食えよ」食べきれないよ((^^;)
と飲み物とお菓子渡しながら幸子ちゃんの横に座る。
幸子ちゃん「こんなに」と笑っている。
幸子「今日お金沢山使わせちゃってごめんね」
良介小さく首をふる。
幸子ちゃん雪印の乳製品が入った
紙コップのフタの開け方を考えていると
良介が手伝う。
紙コップを振って、ふたを開ける。
フタを捨てる。
良介、そのフタを道端に捨てちゃいけません(−−)
幸子ちゃんに紙コップ渡す。
微笑んでその飲み物を飲む幸子ちゃん。
良介、ポテトチップスを食べながら
良介「あのなあ…」
幸子「ん?」
良介「ちょっと、言いにくいんだけど…」
幸子、小さく頷く
良介「幸っちゃん、 オレな…」
と言ってまた横を向く良介。
幸子のテーマゆったりと流れる。
なかなか言い出せない。
幸子ちゃんも緊張して横を向いてしまう。
幸子ちゃん、ひょっとして
良介の告白ではないかと思い、
緊張してしまう。
良介「オレ…」
幸子「…」
良介「…」
幸子「…」
良介「オレ金なくなっちまったんだよ。
帰りの電車賃貸してくれるか」
と超早口でしゃべる。
ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ あちゃあああ。
幸子ちゃん、唖然。ああ…(TT)
幸子「うん…、いいよ…
幸子「はぁ…」
ちょっと淋しげな、
でもちょっとほっとしたような、
虚脱感が広がっていく幸子ちゃんでした(TT)
良介「どうもありがとう」
微笑みながら首をふる幸子ちゃん。
ポテトチップスを差し出す良介。
何枚か取って、食べる幸子ちゃん。
寅が教えた「アイ ラブ ユウ」からは
程遠い良介の失態だった。
デートでお金を借りたりして、
確かにブザマな良介だが、
最初のデートでいきなり愛を告白する男も
ちょっと繊細さに欠ける気がする。
物事にはそのタイミングがあり、
気をせいては相手が見えなくなるので、
本当はこの時はこれでいいのだと思う。
夜 とらや 茶の間
夕食の時間。
寅が寝転んで考えごとをしている。
おばちゃんがお膳に鍋を置く。
博「鍋ですか」
おいちゃん「ああ、そろそろ鍋の季節になったなかあ」
味ポン
おいちゃん「よいしょっと」
寅「おいちゃん」
おいちゃん「ん?」
寅起き上がって
寅「やっぱり、オレが仲人やらなきゃだめか」
妄想妄想(^^;)
おいちゃん「仲人?」
博「誰のですか?」ねえ(^^;)
寅「あの恋愛青年のよ、
これから先のことも
いろいろ考えてやらなきゃだめだろう」
おいちゃん「仲人は夫婦でやるものだぞ」ねえ(^^;)
ちなみに、このあと、第23作「飛翔んでる寅次郎」では
寅はさくらと仲人をしていた。あんなこと普通はありえないが、
博が広い心を持っていたので実現したのだろう。
おばちゃん「そうよー」
寅「そうか…、オレ女房いなかったなぁ」ああ…(TT)
くすくす笑う博。
寅「急いで結婚するか」バカ(−−)
おいちゃんと博「え」
さくら「あら、そんな人がいるの?」
さくらってこれだよな。いつも寅の言うことを信じてしまう。
寅「いや別にいやしないよ、
まあ誰でもいいから探してきて、
とりあえず一緒になって、
仲人が澄んだら別れるんだよ」
一生言ってろよ(−−)
みんな唖然。
寅「そういうのだめかね」
おいちゃん、呆れて「なにを…かー」
博「それはだめですよ」
寅「ダメか、…じゃあねえ…」
その時…
良介沈んで帰ってくる。
寅「あ!、帰ってきた!」
良介「ただいま…」
博「お帰り」
さくら「お帰りなさい」
おばちゃん「お帰りなさい」
寅「よ、青年、うまくいったか?」
良介「ダメでした…」
ああいうのって、ダメとは言わないだろ(ーー)
おばちゃん「ま、とにかくお上がりなさいよ」
寅、土間までやって来て
良介を上がり口に座らせて
寅「おまえ、オレが言ったとおり
ちゃんとやったんだろ?」
良介「ええ、やりました」
寅「うん」
寅「映画を見て、
美味しいもん食べて、
二人で散歩したな」
良介力なく頷いて
良介「ええ、だいたいその通り…」
ホラー映画観て、
ラーメンにコショウぶちまけていた(TT)
寅「うん、で、花の話なんかもしたのか」
そんなところまで真似しなくてもいいだろが(^^;)
良介「なかなか咲いてなかったんですけど、
散々歩き回ってようやく見つけまして」
寅「うん」
良介再現して、指さし
良介「『ほら、あそこに花が』って言いますと 」
寅もつられて指の示した方を見る(^^;)
良介「彼女が『どこ』って、オレが『ほらあそこ』」
良介下を向いてしまう。
寅「いいじゃねえか、それで?」
良介「そしたら彼女がプーっと笑い出して
『バカねあれチリ紙じゃない』って…こうです」
このパターンは後に第30作「花も嵐も」で
三郎青年が蛍子ちゃんに言うギャグで再現。
博やおいちゃんたち「ハハハハ」
良介「笑わないで下さい!」超真剣
みんなシーン。
寅「それでどうした」寅は真剣
良介「仕方ないから『アハハ』って笑いました」
博耐え切れずに、小さく笑ってしまう。ちょいちょいヾ(^^;)
良介、また博の方を見る((((^^;)
寅「それで」真剣
良介「それで終わりです…」
寅「…終わりです??」
寅「じゃ、おまえ、愛してるとか、結婚してくれとか、
その類のことは、い、言えなかったのか」
良介「…ええ」
寅「ち、なんだぁ…、ち、ダメな男だなあ…」
おまえが言えたためしがあるのか寅 ┐(-。ー;)┌
良介立ち上がって、
良介「どうもすいませんでした」とお辞儀をして
しょぼくれて階段を上がっていく。
さくら「ワット君、そんながっかりすることはないわよ、
幸子ちゃんだってきっと楽しかったと思うわよ」
さくらだけとても真っ当な感覚(^^)
おばちゃん「ねえ、元気出しなさいよ」
寅、がっくり。
上にも書いたがだいたいが一回目のデートで
いきなり『愛してる』は言わなくていいだろう。
ましてや「結婚してほしい」は早すぎ。
お互いがまだ理解し切れていないはず。
寅は他人事のくせに妄想を抱いて、
気持ちがバカみたいに急いているのだ。
こういうやつの助言を聞くとろくなことにはならない。
所詮寅の助言は遊びの域を出ない。
何度もいろんな話をしてお互いに
分かり合えてからでも遅くない。
良介には極めて普通の
うまくいったデートだったと思うのだが…。
とらや 二階
良介が沈んで寝転がる。
下でさくらたちの話声が聞こえてくる。
さくらの声「初めてのデートじゃない、
そんなことまで言えやしないわよ」
おばちゃんの声「そうよ」
良介「チキショウ!!」とグーで畳を叩く。
寅の声「男じゃないとわかんないんだよ、
あれだけのいい子だぞ」
良介「ううー!!」と泣いている。
良介は二階に上がって落ち込みまくり、
そのまま何日も寝込んでしまう。
数日後帝釈天 参道
木屋さん前
大和家てんぷら
サルがへたっている。
サルに対する貼り紙
「このサルは腹をこわしてますから
エサをやらないでください」
木屋の自転車が通る。
遠くに「キングトルコ」 こんなのもあったんだね。
猿がへこんで寝ている。
ワット君とシンクロ
第12作「私の寅さん」で高崎山の猿と寅をシンクロさせていた。
あのパターン。
とらや 二階
で、サル同様
死んだように臥せっている良介。
さくらが上がってくる。
さくら「ワット君」
良介、弱弱しい声で
良介「…はい」
さくら「うどん作ったけど食べてみない?」
この作品のさくらはよくうどんを作る。
冒頭で「きつねうどん」を食べていた。
良介「あ…、すいません…そこに置いとってください」
さくら、布団の近くに置く。
さくら「食べなきゃだめよ、元気でないから」
良介「はい…」
さくら、立ち上がって廊下の外を見る。
工員たちが良介の部屋の廊下辺りを見てニヤついている。
さくら「なあに?どうしたの?」
中村君「いやなんでもないす」
工員A「なんでもないす」
笑いながら窓を閉める。
さくら「え…?」
さくら「…!」
さくら手すりに何か貼ってあるのに気づく。
『この男は失恋中につき
みだりに声をかけないでください。寅』
┐(-。ー;)┌ 結局こうだよ寅って…。
これも木屋さんのサルの貼り紙とシンクロ↑
とらやの包装紙の裏に書かれてあるところが憎い演出。
さくら「しょうがないわねェ…」
と、良介にみえないように隠して丸め、下に下りていく。
見事な倍賞さんの紙を隠す動き。
ふるさと亭 夜
幸子ちゃんが弟からの電話を受けている。
どうやら秋田のお母さんが急病で入院したようだ。
幸子「母ちゃん、大丈夫だか」
叔父さんが心配そうに聞いている。
幸子「ほんとうに大丈夫だか?
それでおめえ、今病院から電話してるなんだか?
ひば、姉さんすぐけえるから、母さんのことちゃんとみてれ。
病院はどこだ?ん、わかった、したらば。
わからねえことあったら、八森のおばさんに電話しえ、いいか、へば」
秋田名物八森ハタハタ、男鹿で男鹿ブリコの八森
字幕では八戸となっているが、脚本の第2稿も決定稿も八森なので、
字幕が誤り。
受話器置いて
幸子「おじさん」
叔父さん「ん」
幸子「母さんが胃潰瘍で倒れて、今夜中に手術せねばならねえと」
叔父さん「んだか」
頷く幸子ちゃん。
おじさん「すぐ帰れ」
おじさん「今から仕度すれば、9時の急行さ、間に合うでねえか」
夜の上野発秋田行きは当時は
寝台急行 「天の川」
幸子「んだども、ひば、店のほうは」
おじさん「したなことはいいから」
おじさん、階段下に行って長女を呼んで
おじさん「とし子!とし子!母ちゃん呼んで来い!母ちゃん」
赤い服来たマンガ本を持った女の子が母親を厨房の奥の部屋に呼びに行く。
店からお客である工場の中村君たちが幸子ちゃんを呼ぶ。
工員A「お姉ちゃん、ちょっと」
幸子「はい」
工員A「お酒ちょうだい」
中村君「オレ、たらこくれる?」
幸子「ただいま」
とは言うものの、気がせいている幸子ちゃん。
入り口のドアが開いて客が入ってくる。
幸子「いらっしゃい」
なんとそこに良介が立っている。
なんと間が悪い…。
幸子ちゃん、少し顔が明るくなって
幸子「こないだはどうもありがとう」
良介、いつになく目が真剣…というか、
追いつめられている。
良介「さっちゃん」
幸子「え…」
良介「さっちゃん、
ヶ…、ケッ…、ケッ…
オレと結婚してくれ!」
隣で聞いていた中村君、良介を見て唖然。(^^;)
↓
幸子ちゃん、お母さんのことと良介の言葉で、
頭が真っ白になり、
ワナワナ震えながら
幸子「こ、こいたな時に、
なしてしたなこと 言うの!
ううう…バカ!」
と、気が動転して泣きながら奥に引っ込んでしまう。
良介「さっちゃん!!」
良介、必死で奥に追いかけようとするが、
良介「さっちゃん!!」
幸子ちゃんの叔父さんが
店に出てきて壁になり阻む。
叔父さん「やめろ!やめろ!やめろ!」
跳ね飛ばされる良介。
テーブルのものが落ちる。
叔父さん「頭大丈夫かおめえ?」
凄い怪力(((^^;)
叔父さん、奥に引っ込んで
叔父さん「幸子!幸子、はやく支度しろ」
少年が台所から見ている。
怖がらずに手伝ってやれよ少年さん…(−−)
中村君たちテーブルから落ちた備品を拾ってやる。
良介は幸子ちゃんのこの時の苦境を知らないので、
自分がふられたと思ってしまう。
こうしてついに絶望感に襲われる良介だった。
それにしてもなんとも間が悪い男(TT)
ふるさと亭 今日の黒板
カニコロッケ
アジのひらき
アジフライ
サンマ塩焼き
塩ジャケ
等々
とらや 二階
脚本第2稿では、
このあと、良介の「ふるさと亭」からの帰宅シーンで
台所で寅と良介の長い会話があるが、
本編では良介はすでに二階へ行ってしまい、
遺書を書いているシーンで
下から寅の声がわずかに聞こえてくる
という設定に代わっている。
絶望し、自殺を図ろうとする良介。
なんと紙テープで目張り…。
障子や襖の全ての隙間にテープを張っている。
とらや 一階
寅が商売から帰ってくる。
みんな「おかえりなさい」
寅「どうした、二階の失恋青年少しは元気になったか」
このまえまで呼び名が『恋愛青年』だったのに…(TT)
おばちゃん「シーッ!!」
みんなで大声を出さないように促す。
おばちゃん、小声で
おばちゃん「さっき店にいたらねェ、
ボーーッっと入ってきて、『お帰り』って言ってもね、
返事もしないでスー〜〜っと
二階へ行っちゃったんだよ」
『スー〜〜ッと』でみんな二階を見る(^^;)
さくら「真っ青な顔で…」
おいちゃん「なんとかならないかね、かわいそうに…」
寅「けェ〜、あきらめの悪いヤロウだね」
博「随分冷たい言い方だなぁ、
兄さんだって責任があるんですよォ」
寅、茶の間に座って
寅「そらあしょうがないよ、
あいつは恋愛には向かないんだよ」
博「恋愛に向き不向きがありますかねえ」
寅「そらありますよ」
おいちゃん、間髪入れず
おいちゃん「お前向いてるのか」
座布団2枚!(^^;)
社長間髪いれず大笑い
社長「ハハハハ!!」
博もクスクス
寅「なんだいおいちゃん、人が仕事から帰ってきて、
どうしてすぐいやな気持ちにさせるんだ!!」
満男、仏間から聞いている。
工場の方から奥さんの声
奥さん「父ちゃーん、お風呂入っとくれよー」
今回も前作品同様谷よしのさんの声ではない。
社長「あいよー」
と走っていく。
寅ぶつぶつと小声で
寅「風呂でも何でも行きやがれ」
とらや 二階
憔悴しきった顔でタバコを吸っている良介。
博や寅の声が下から小さく聞こえている。
博の声「とにかくあんなに惚れてるんですから、
何とか一緒にさせてやりたいんですがねえ」
寅の声「そりゃあね、好きな女と添い遂げられリャぁ、
こんな幸せはないよ。
しかし、そうはいかないのが世の中なんだよ、ねえ」
ガスの栓を開ける良介
シューーーー
寅の声「みんな我慢して暮らしてるんだから、
男だって女だって、
だからね、あいつだけがいい思いしょうたって
それは無理なの!」
良介、机(冬はこたつ)に向かって便箋を開ける。
寅の声「な、だからさ、この際スパッとあきらめて、
他に生きがいを見つけんの、生きがいを」
遺書を書いているらしく、
一枚目は書き損じて丸めて捨てる。
寅の声「パチンコとかさ、競輪とかいろいろあるじゃないの」 おいおいおい ヾ(^^;)
下から聞こえるこの寅の声の内容は、
脚本第2稿では、
台所で良介に直接寅が言っている。
柱時計の音
良介「今度生まれる時は…」
便箋に書き始める。
『 遺書
長い間お世話になりました。今度生まれるときは…』
涙を浮かべながら、続く文章を考える。
ここでタバコを一服 オイオイオイオイオイ((((((−−;)
タバコを口にくわえ…
マッチを擦るが、何度やってもなかなか火がつかない。
繰り返しマッチをする。
博の声がまた下から聞こえてくる。
博の声「まだ決め付けるのは早いですよ」
とらや 茶の間
さくら、博の夕食を運びながら、
さくら「そうよー、お互いが好意を持ってれば、
結局いつかは結ばれるのよ。
何もはたから口出すことないわよ」と、半分怒っている。
そのとおり(−−)
寅の分まで夕飯をよそっている。
寅「あー、そうですかね。
それじゃ、オレが世話やかなかったら、
おまえと博は一緒になれなかったんじゃないですか」
結果的に寅がかき回したおかげで
時期的に早く結ばれたとは言えるが、
あの時はあきらかにさくらと博の邪魔をしていた。
博は失恋したと思い、
危うく博は出て行くところだったんだぞ。
さくらの足が遅かったら、
博は上野行きの電車に乗っていた。
博「そうですかねえ」と味噌汁を飲む。
脚本第2稿では、この「そうですかね」は、
さくらが「そうかしら」と言っている。
寅「『そうですかねえ…』、
はあ〜あー…、空しいねえ…、
いくら人に尽くしても報われないか…」
昔も今もあんた邪魔してるだけやってば ヾ(ーー;)
寅「あー〜〜…」と腕を組む
突然爆発音
ガガガーン!!!
寅、びっくりして目が白黒
ドカーーーン!!!
二階が一瞬で炎と煙に包まれ
窓から熱風が飛び出し
建具全てが吹っ飛ぶ。
さくら おばちゃん「きゃあああああああ!!」
バリーン!!!
わわわわ((((((((((((((((((|||▽||| )
寅「!!!」
博「誰だ!どうしたんだ!!」
寅「なんだどうした!!」
みんな わあああああああ!!
博「慌てるな!!」
さくら「きゃああ〜〜〜」
そんなわめいているより満男満男(^^;)
良介「わあああああ…」っと呻きながら
二階から良介がドッドドッドドドと落ちてくる。
顔は真っ黒。
あんたっていったい…( ̄ー ̄;)
良介「参ったなあ…」とりあえず無事生きてたようだ。
ほんとはあれだけ部屋中火だらけで
火が窓まで勢いよく噴出してるってことは
良介はもうちょっと大怪我(大やけど)してると
思うけどなあ…
博「ワット君!奥に逃げて!」
タコ社長、手提げ金庫を持ちながら
パンツ姿でわめき散らしている。
それってあまりにも露骨…ヾ(ーー ;)
社長「どうした!え?
爆弾でも落ちたか!!??」
爆弾って…、でもわけわからんよな確かに…(^^;)
ちなみに脚本第2稿では、社長のセリフは
『ジェット機が落ちたか』である(((^^;)
木材がバタンバタン落ちてくる。
社長逃げ帰る。
さくら「満男!」さくら満男を早く気づけって ゞ(^^;)
で、またもやサイレン鳴らしてパトカーがとらやに。
今回2回目の参上。
この騒動の後、
良介はいたたまれなくなり、
結局故郷の平戸に帰ってしまった。
一方、煽っていた寅も後を追うようにして
逃げて行ったのだった。
それからさらに数日たって
題経寺 境内
落ち葉を履きながら御前様がさくらと話している。
御前様「あんたもいつまでも苦労の種が耐えないねェ」
さくら「…」
御前様「それで、その、失恋した青年は?どうしとるのかな」
さくら「はい、幸い火傷はたいしたことんかったんですけど…、
さすがにいたたまれなかったんだと思います。
警察の取調べがあった晩に、田舎に帰りました」
御前様「ほー…」
さくら「…」
御前様「で、寅は?」
さくら、ちょっと微笑んで
さくら「ええ…」
しゃがんで焚き火にあたりながら
さくら「兄のほうも後を追うようにして…」
御前様「…」
さくら「なんと言っても責任があるんですから」
御前様もしゃがんで火に当たりながら
御前様「そうか、寅も逃げたか…」
さくら、落ち葉の固まりに
火が燃えるように息を吹きかけている。
はるか向こうで警察や消防団、源ちゃんが猿を追いかけている。
轟巡査(青山巡査)が張り切っている。
消防団「ほらあそこにいる」
源ちゃん「屋根から下りてくる!ほれ」
轟巡査「あ!!あそこだ!!」
と網を持って捕獲しようとしている。
轟巡査「行け!完全に包囲しろ!」
さくら、立ち上がりその様子を見ている。
さくら「どうしたんですか?」
御前様「鶴屋さんの猿が逃げたらしくてな…」本当は木屋さん。
さくら、ちょっと微笑んで
さくら「まあ」
轟巡査、ニ天門の中に猿を見つける。
轟巡査「いた!」
轟巡査「待て!コノヤロ」
と、そろりそろりと近づいていく。
轟巡査「くそー!!」と網をかぶせて飛びかかる。
猿は「キキキキ!!」と轟巡査の顔を引っかいたもよう。
轟巡査「イタタタ!やられたー!!」
源ちゃんつっこむ
猿「キキキー!!」
源ちゃんも顔を引っかかれて倒れこむ。パントマイム
轟巡査「油断するな!慎重にかかれー!!」
参道の木屋さん前の貼り紙
貼り紙「サルが逃げました。
見つけた方は御一報ください。薄謝を呈します」
この場合のサルは良介だけでなく寅も入る。
第19作の「鞠子さん」探しと同じ内容の貼り紙。
轟(青山)巡査と源ちゃんのサル生け捕りコントはなかなか上手い。
良介や寅とこのサルをかけているのが面白い。
この手の貼り紙は第19作「寅次郎と殿様」の
鞠子さん探しの時も山門で使われていた。
長崎 平戸島
平戸大橋がこの年1977年4月に完成したてだが、
やはりあえて連絡船に乗っている寅。
本編には出てこないが、予告編では平戸大橋が映る。
↓
寅にはこだわりがあるのだ。
島は船で渡るもの。
もちろん寅は、あんな状態で
逃げ帰った良介のことが気になって訪ねてきたのだ。
平戸島 浜尾神社
長崎県平戸市太助町128番
連絡線か、もしくは平戸大橋で平戸に渡り、
平戸港からバスで
国道153号線を北上、太助町『浜尾神社』でバイ
ゴム手袋をバイ
神社の祭礼
寅「さ、どう、ほら、手にとって見てちょうだい、
これだけの手袋、え。
どこにあるこれだけのもの、見てよほらほら、ね、
気に入ったやつがあったらどんどん負けちゃおう。
さあ!浅野内匠頭じゃないけど、今日はね、
腹切ったつもりで負けちゃう、
はい!物の始まりが一ならば、
国の始まりが大和の国、島の始まりは淡路島、
泥棒の始まりが石川五右衛門なら、ね、
助べえの始まりはこのおじさんときたよ!」
客「ハハハ」
客たち挨拶している。
寅「さあ!続いた数字がニだ、ね。
兄さん寄ってらっしゃいは吉原のカブ、仁吉が通る
東海道、憎まれ小僧が世にはばかる!
どう!ほら、ね!
続いて負けちゃおう、ほら、三つ、
三三六法で引け目が無い。産で死んだが三島のおせん、
おせんばかりがおなごじゃないよ、
京都は極楽寺坂の門前で三日三晩小野小町が
野垂れ死んだのは…、これ!さあどう!
鳥居に「浜尾神社」と彫ってある。
そしてバイのあと、なぜか、また平戸港に戻り、
このあともう一度連絡線に乗って本土に渡り、
そしてまた平戸に再びやって来ている。
寅は本土の平戸口と平戸を行き来しているのか??
これではじつにややこしい旅をしていることになる。
まあ、しかし、
あの『浜尾神社』が
長崎本土にある神社の設定(映画のお約束)だと思えば
極めて単純に、
本土でのバイを終って平戸に船で渡ったって
考えることが出来る。
スタッフ的にはそういうお約束ということらしい…。
本土、平戸口から平戸への連絡船
石井均さんが連絡船の船長役。
これがまあ実にいい味出している。
寅、船長室に入ってきて
寅「よお」
軽く頷く船長、タバコくわえて操舵輪を動かしている。
寅「船長よ、あんた平戸の人間かい?」
船長「そうたい」
寅「じゃあ、あの、こういう人間知らねえかなぁ、
名前は忘れちゃったんだけどねえ、
ズーっと東京行ってて、最近帰ってきたんだよ、
こう、背ばっかり高くってさ、
なんだか気のきかねえ面したヤツなんだけどな」
船長「ああ良介じゃろ」
寅「そうそう!良介!今そいつどこにいる?」
船長「ボーっとして、毎日釣りばかりしとるたい。
おおかた、東京で失恋でもしたっちゃろう」
寅「へえー…、あんた目が高いねえ」
船長、双眼鏡で岸を見て
船長「いつもあのへんにおるとじゃが…」
寅「へー…」
船長「あー、おったおった」
海岸
釣りをしている良介。
失意の表情がまだ消えきっていない空白の日々…。
連絡線が良介を呼ぶようにけたたましく鳴り響く。
プオープオープオー
寅、船から叫ぶ。
船の名前 『弘光』
寅「おーい!失恋青年!
お前まだ生きてたのかあああー!」
その「失恋青年」って言い方やめれってば ヾ(−−;)
良介、はっとして船を見る。
良介「寅さん…」
良介も叫ぶ。
良介「どうしたんですかあー、いったいー!!?」
寅「決まってるじゃないかよー!
お前のことが心配だからはるばる東京から
やって来たんだよーーぅ!!」
なんだかんだ言っても寅は優しい。
こんなわざわざ平戸まで誰が来る?
平戸港に入っていく連絡線。
船着場
平戸みやげ
牛蒡餅
牛蒡餅(ごぼうもち)
江戸時代寛永二十年(一六四三)の『料理物語』にすでに文献にある。
名称の由来は、昔は黒砂糖のみを使用し、長いままを茶席で亭主が客席にあわせて、
切って供していたもので、色合い形状が牛蒡に似ていたからだと伝えられているらしい。
無料案内所
フジカラー
日本貨物急送のトラック
平戸フェリー
良介自転車を押しながら
良介「ゆっくりしてってくださいよ。せっかく来たんだから」
寅「いやあもう帰る。
おまえの元気な姿を見りゃもう用事すんだようなもんだ」
寅「しかしまあ、つまんない島だねえ〜、
面白くもなんともありゃしまいよ」
おいおいおいおいヾ(^^;)
良介「魚は旨いですよ、せめて晩飯くらいは」
寅「いや結構、それよりよ、
おまえも早く元気になって東京へ来い、東京へ、え?
こんな所で一日中魚釣ってたら
おまえ、ろくなことないぞ、じゃあな」
良介「どこ行くんですかこれから?」
寅「あの船乗りゃあ、どっかいくじゃねねか。
親父とおふくろによろしくな」
良介笑いながら
良介「寅さん、オレ、親父もお袋もいないんだ」
寅「ほうー…、じゃおまえ誰と暮らしてんだ?」
良介「姉さんさ」
寅「姉さん?…まあ、その姉さん夫婦に
よろしく言ってくれや、じゃあな!」
良介また笑って
良介「いやあ、
姉さんには亭主なんかいないよ」
寅、はっとして、急に良介に寄って来て、
寅「ほうー〜〜〜〜、
じゃあ独りもんか?」
良介「オレ、姉さんと二人暮しなんだ」
寅「ほう〜〜〜、んんん」
で、いつものように
急に態度が激変。┐('〜`;)┌
寅「なんだか喉も渇いたてきたな…んん」
良介「ん、じゃあお茶でも飲んでいきませんか」
寅「行きましょ
良介「ええ」
そそくさと家に向かう。
家への道
しゃあしゃあとお茶を飲みにぴったりくっついて行く寅だった。
このへんのチェックはいつもながら厳しい寅だった。
あの船着場から、
良介の家(松浦資料館階段下)までは
歩いてほんの15分程度。
ブリジストン自転車 坂本自転車店
水晶米の店
大内商店 現在は油屋商店
3−3696
寅、良介の肩に手をやりながら
寅「それじゃ、つまりあれだ、
弟の面倒を見るために、
姉さんは嫁に行きそびれたと…、
こういうわけだな、な」
良介「いや、結婚したんです一度」
寅「ほう…」
良介「でも一年ほどで別れちゃって…」
寅「性格の不一致か」どこで覚えたそんな言葉(^^;)
良介「いやあ…もっといやな事情があったみたいだけど…」
あっさり言うねえ良介君(^^;)
寅「…」
良介「まだ若いんだから好きな人が出来たら
再婚すればいい、と思うんだけど」
寅「そうそうそう、そりゃそう」と何度も頷く(^^;)
良介「なかなか頑固だからなあ…姉貴も…」
結婚してもいいって人がまだ出来ないんだよ。縁だからね(−−)
角を曲がって
向こうにお姉さんの姿が見える。
神父さんらしき人と話をしている。
良介「あ、いたいた」
良介「あれです」
寅、遠くから藤子さんを眺める。
スナック じゅん
貸し自転車。
森田鉄工所 現在は大きな「アクロス平戸」という大きな電気屋になっている。
松浦史料博物館石段の前にある
藤子さんの経営するお土産屋兼貸し自転車屋さん
名前は『御館 (おたち) 』
この「おたち」は、実際にある店。
御気楽にお立ち寄りください。
松浦氏の宝物を展示するこの資料館は、360年前に築かれた高い石垣の上に、
白壁の長い塀をめぐらした建物である。もとは、この建物を「鶴ヶ峰」と呼んでいた。
廃藩置県後は、旧藩主の邸宅となっていた。現在の建物は、明治26年に建てられた。
昭和30年には、松浦氏代々の所蔵品を置く財団法人が設立され、約3万点
を展示する博物館となった。展示品としては、狩野探幽などの絵画、武具
類、戦利品、陶磁器、美術品、オランダ船の船首飾りなどがある。
寅「おい」
良介「え」
寅「お前んところ魚旨いっていったな」
良介「ええ、旨いっすよ」
と、自転車を漕いで家に帰っていく。
寅、独り言のように
寅「何かオレ腹すいちゃった」
良介向こうのほうで
良介「お姉ちゃん!お客さん!」
フジカラー
自転車を拭きながら
藤子「ああ、お帰り、どなた?」
良介「ほら、前に話しちゃろが、柴又の寅さん」
カメラ、グーンとズームになって
良介「ほら」
藤子「あの方が…」と会釈。
良介「うん」
遠くから
寅も静かに会釈。
寅、もう『できあがった目』で
ふらああと近づいていくのでした。
ロックオン完了!
現役復帰! ゞ( ̄∇ ̄;)
教会の鐘の音
柴又 とらや 庭
大工さんが二人ほどでとらやの二階を直している。
庭で鉋(かんな)をかける大工さん
ペプシ
リボンシュトロン
さくら台所からやって来て
さくら「大工さん、お茶が入りましたよ」
大工さんの近藤さんが鉋(かんな)がけしている。
近藤さん「はい」
さくら、階段下から上を見上げて
さくら「お茶にしませんかぁー」
二階で釘を打つ音。
社長、やって来て
社長「あー、とうとう大工さん入ったね」
さくら「ええ」
社長「どうしたい、火災保険のほう、うまくいったかね」
おいちゃん「なかなか…、ボヤは分が悪いよ」
ボヤじゃ、まずダメだね(−−)
火災保険もボヤ扱いなのでほとんど下りない様だ。
自腹を切る覚悟のおいちゃん。
寅もこの騒動に絡んでいるので自分たちにも負い目があるのだろうが、
本来、それはそれ、これはこれ、なんだが、
良介や向こうの家族に請求しないところがさすがだねえ。
こういうところで人間の器がわかる。
今時の日本人なら自分から相手にはっきりと払ってほしいって
言うんだろうなあ。
また逆に、良介やお姉さんは、とらやさんが何も言わなくても
修理費の大部分を払うのが筋と言うものだ。
っていうか払わなくてはならない。
おいちゃんが、何も言わないことをいいことに、甘えてはいけない。
この物語ではそのあたりがない。
後にお姉さんが謝りに来ただけだ。
省略してるだけかもしれないがどうもそんなふうにも見えない。
爆発時の映像や大工さんの木材を見ている限りでは
大きな柱はそのまま使えるとしても、建具は全部取り替えだし、
大工さんの扱っていた材木(杉板)は廊下あたりに
使うのかもしれない。
ということは二階がかなり傷んだということだ。
材木は見た感じ大きいのが無いが、新築ではないので
時間のかかるやっかいな仕事だ。
これは、当時の物価でどんなに安く見積もっても人件費がかさばりそうだ。
二人大工さんが来ているので建具も入れると全部で最低30万円ほどは
かかるだろう。
社長「いっそ全部焼いちまったほうがね、
割りきりがいいんだよ」
おいちゃん「ああ〜」と、タバコを吸う。
社長「あ〜あ〜、ついでにおれの工場も
ぶっ飛ばしてくれればよかったなあ!
そうすりゃねえ、
オレも諦めがついたかもしれねえや、ヘヘへヘ」
と乾いた笑い(TT)
なんて凄いこと言っている。でも一理あるかな…。
さくら「いやなこと言わないでよ〜」
社長「ハハハ」と、タバコを吸う。
ほんとにまあ、このシリーズの男たちは、いつもいつも
よくタバコ吸うねえ〜。
寅を見習えよ。
タバコ吸うのはいいんだが、茶の間で吸わないで
庭かどこかで吸えばいいのに…。
頼むから受動喫煙の害を考えてほしい。
もうひっきりなしだよ(^^;)
え?それじゃ物語の『間』が取れないって?
そりゃそうだ(^^)
おばちゃん、大工さんの近藤さんを呼び
おばちゃん「近藤さん」
おばちゃん「ついでにこれちょっとやってもらえないかしら」
と、風呂のふたを持ってくる。
チェックしている近藤さん。
階段を下りてくるもう一人の大工さん。
さくら「どうそ」
店の外でお客さんの声
お客「ごめんください」
さくら「はーい」
店を覗くさくら。
さくら「あら」
なんとお客さんは幸子ちゃんだった。
幸子「こんにちは」と入ってくる。
さくら「まあ、幸子さんじゃないの」
幸子「あの、私、田舎に帰ってたもんだから、
これ、みなさんで食べてもらおうと思って…」
この笑顔的には、良介のことはなにも知らないんだね((−−;)
さくら「あ、まあ」
と包みを受け取る。
さくら「おばちゃん、おいちゃん、これ、秋田のお土産ですって」
おばちゃんたち店に出てきて
おばちゃん「まあ、すみませんねえ。田舎に帰ってたの?」
幸子「母が急に手術することになったものですから」
さくら「あらあ、…それで?」
幸子「ええ、とっても経過がよくて、
これならもう心配ないだろうって、お医者さんも」
みんなほっと安心。
おばちゃん「そう、よかったわねえ」
おばちゃん、お土産の匂いをかいで
おばちゃん「うん、いい匂い」
匂いが包みの外へ漏れるものってなんだろうか???
「いぶりがっこ」というたくあんの燻製。
「きりたんぽ」
「おばこもち」クルミが入った甘い餅。
「金満」焼いたお菓子
「稲庭うどん」
「はたはた寿司」
おばちゃん「今お茶入れるから」
台所で大工さんたちがお菓子とお茶を食べている。
幸子「あの、それから…、
これ、良介さんにあげてください」
さくらもおいちゃんも唖然。
さくら「…」
幸子「…?」
さくら「あなた、何も聞いてないの?」
さくら、誰に聞くんだよ、誰もいないよ。
幸子「…何がですか?」
さくら「良介さん、田舎に帰ったのよ…。
長崎県の…、
なんて言ったっけ?」
おいちゃんに聞く。
おいちゃん、低い声で
おいちゃん「平戸」
幸子ちゃん、目に涙がにじんでくる。
幸子「…どうしてですか?」
さくら「……あの…、実はねえ…」
おいちゃん、ちょっと暗い顔。
さくら「私たち、良介さんとあなたの間に
何かあったんじゃないかと思っていたんだけれど、
…違うの?」
おいちゃんおばちゃんさくら幸子ちゃんの表情を見ている。
幸子のテーマが流れる。
幸子ちゃん、あの夜のことを思い出している。
さくら「とにかくおかけなさい」
と、二人して座る。
さくら「何か思い当たることある?」と優しく聞く。
幸子ちゃん、深く頷く。
幸子涙をこぼしながら大きく頷く。
幸子「でも…、うう…あん時は私…、」
さくら「うん」
ハンカチを渡すさくら
幸子「あん時は…うう…あん時は私…」
涙で言葉にならない幸子ちゃんだった。
幸子のテーマ大きく高まっていく
お母さんの急病のことで気が動転していたことを、
不器用さゆえにさくらにすぐに伝えられなくて
泣いてしまう幸子ちゃん。
彼女の素朴で温かな心を感じた。
幸子ちゃんの一番きれいな心がにじみ出た
清らかなシーンだった。
私はこのシーンがとても好き。
お客さんが店先に
おいちゃん「あ、いらっしゃい」
おばちゃん、お茶を置き、
飲むように優しく勧めている。
頷く幸子ちゃん。
さくらたちはその後、
幸子ちゃんの本当の気持ちを聞いて、
良介がふられていなかったことを知り、
安心したのだった。
さくらのアパート
サントリーオールドの小瓶
風呂の用意 洗面器タオル
博「待てよー、確かあいつに聞いてメモってたはずなんだけどなあ…」
と手帳の住所録を探している。
さくら「ないいー?」
博「島田良介、島田良介、島田良介だろ…
島田良介、あ!!あったあった!」
さくら「あった!?」
博「『09502』これだよ!」
さくら「あーよかった、何時今?」
博「ん?8時過ぎだ、すぐしろ」
さくら「うん」
博大喜びで
博「喜ぶぞ、あいつ」
さくら、青い電話カバーの電話を
使ってダイヤルを回している。
さくら「ワット君喜んですぐ飛んでくるんじゃないかしら」
満男誰からカメラから見えないところであちこちのスタッフと目が合ってる感じ。
勉強しているふりしなさいって小さな声で言われているような満男の目。そして
、また勉強しだす。
博「今度は兄さんもいないし、うまくいくさ」真実(^^)
タバコを吸う
さくら「ほんとねえ、みんなお兄ちゃんのせいだもんねえ」
みんなではないだろう、どう考えても(−−)
ちなみに、脚本第2稿↓ではこの時のさくらと博の会話はこうである。
内職のミシンを踏んでいるさくら。
博「しかし、兄さんも名コーチじゃなかったわけだな」
さくら「当たり前よ、元々コーチの資格なんかありゃしないのよ。あ、8時過ぎた電話しなきゃ」
博「どこに?」
さくら「平戸。ワット君に幸子さんのこと知らせてあげようと思って」
と、メモを広げる。
博「あいつ、喜んで飛んでくんじゃないか」
さくら、ダイヤルを回し始める。
博「コーチか…、ちょっと寂しいなあ。まだ兄さんは現役で活躍すべきじゃないか」
さくら苦笑している。
以上、脚本第2稿でした。
ダイヤルを10回すさくら。
満男「この字なんて書くの?」
博「んー?」
と漢字を教えている。
電話はまるで市内電話のようにすぐつながる。
さくら「あ、もしもし」
寅の声「はいはい、こちら島田でございます」
さくら「…????」
さくら、寅の声だとすぐわかるが、イマイチ信じられないで
さくら「あの…、私…東京の葛飾の諏訪と申しますが…」
寅「なんだ、さくら、おめえか」
さくら「えー??お兄ちゃんなの!!?」
博、向こうでびっくりして
博「ええー!!!???」
とバランスを崩してひっくり返る。
満男「ハハハ!!」と大笑い。
寅の声「どうしてオレがここにいるのわかったの?」
さくら「ねえ!いったいどうして
そんなとこにいるの〜!?」
そらそーだ(^^;)
寅「お見舞いだよ、失恋青年のお見舞い、え」
良介と藤子さん夕食を取りながら笑っている。
寅「いいとこだよ、おまえ、ここは、ああ、
魚は旨いし、景色はいいし、人情は厚いし、うん、
今な、…姉さんと代わる」
昼間波止場で言ってたことと真反対(^^;)
「姉さんと代わる」の部分は
トーンをちょっと低くして小声で。
さくらのアパート
さくら「え?お姉さんって誰のお姉さんのこと?」
良介の家に電話しているんだからわかるだろう。
つい最近丁寧な手紙を良介のお姉さんから
貰ったのですぐピンとくるはず、
これはさすがに脚本ミスかな…。
さくら「ちょっと待ってよ!!」
さくら「…はい、ええ、
私さくらですけど…、
あらー…良介さんのお姉さんですか。
どうもはじめまして…。
あ!あのー、
先日はどうもご丁寧なお手紙をいただきまして」
そんなことより
はやく良介に代わってもらえってば ゞ(−−;)
平戸 良介の家
藤子「いいえとんでもございません、
もうほんとうにいろいろご迷惑をおかけいたしました」
ほんと弟の良介が二階をぶっ飛ばしたんだから
藤子さん(もしくは良介自身)が
マジでとらや二階の修理代出してあげないとね…。
誠意は口だけじゃだめなんだよ。
テレビの上のだるまとその前の人形の位置関係がさっきと違う。
藤子「またこんたびは、こげんな所にまで
お兄様にわざわざおいでいただきまして
もう、なんとお礼を申してよいやら…。
まあ、なにをおっしゃいます。
いいえ、とんでもございません」
↑で、さくらはおそらく
『兄がそちら様に何かご迷惑をおかけしているんじゃないでしょうか』
とでも言ったのだろう。
電話中に船長が訪ねてくる。
船長「こんばんは」
寅「あ、昼間はどうも」
船長「あんたさっきの」
寅「ええ」
寅「今日はもう仕事終わり?
まあ一杯いこう」」
一方藤子さんは電話中
藤子「はい、じゃあ今夜はこれで失礼ばいたします。
どうぞみなさまによろしくお伝えくださいませ」
あ〜あ〜、良介とさくら話してないよまだ!
切っちゃダメだああ(TT)
さくらのアパート
さくら「はい、わかりました、それではどうも」
あああああ、切ったら良介は知らないままだぞ〜〜〜(TT)
さくら「はあ…」
急に寅が出て、そのあとお姉さんが出て、
さくらは気が動転してしまったんだろうね。
たまたま、良介は気分の落ち込みが弱まり、
元気になりつつあったが、
もし今でもかなり落ち込んでいたら、
一日も早く失恋していなかったことを
伝えてやらないといけないんだけどなあ…。
良介と直接話すまで
電話を絶対に切っちゃいけなかったのに…。
このように、さくらが相手に電話したら
寅が出たっていうのは
これは第8作「寅次郎恋歌」のアレンジ版だ。
後に同じく電話で寅とは知らずに
博がしゃべるパターンも登場する。
第32作「口笛を吹く寅次郎」だ。
平戸港 幸橋(オランダ橋)近く 早朝
幸橋(オランダ橋)
平戸市役所前の鏡川に架かる橋
はるか昔、元禄15年(1702年)、平戸港がオランダ貿易で栄えた頃に
平戸藩主雄香公が平戸の石工達に造らせたものである。
平戸がオランダとの貿易港として栄えた頃の石造り技術を継承したものとして
重要な遺構であり、国の重要文化財の指定を受けている。
。
婚礼仕度 貸衣装
自転車をこいで食品の買い付けから帰ってくる寅が
幸橋のそばを過ぎ、市役所を過ぎていく。
しかし藤子さんの店があるのは
松浦資料博物館の前だから本当は
逆方向に漕いでいることになるのだが…、
ま、いいかこれも映画のお約束ごと(^^;)
船が停泊している 『第十八平戸口丸』
寅「♪別ァ〜れテープを〜、
笑顔で切れば〜、とくらああ〜、
夢もぉ〜なつかあしい〜、
あのアロハオエ〜、
ああああ〜憧れぇ〜の、
ハワイ〜、航路ぉ〜」
ハンドルを持たないで、
ブレーキ部分を持つ、粋な寅。
私も少年時代よくやりました。ハンドルを持つのは野暮なんですね(^^)
こんな元気な渥美さんをこのころの作品は
見ることが出来るのだ。
作品の良し悪しうんぬんもあるが、
なにより渥美さんが溌剌として歌を歌って
自転車をこいで…。
もうそれだけでお腹がいっぱいになる。満足満足。
恋のコーチから現役に見事返り咲いた寅。
今のところうまく行っているようだが、
さてさてこの先どうなりますことでしょうか。
朝早くから別人のように懸命に働く寅、
お姉さんに気に入られたくて一生懸命なのだ。
湾を越え、山の上に平戸城が見える。
おたち 店の前
寅が戻ってくる。
渥美さん珍しく長靴をはいている。
この長いシリーズで寅が長靴を履いたシーンは7回
ちょっと下に簡単に紹介してみる↓
★まず第5作「望郷篇」、節子さんの住む、浦安の豆腐屋さん『三十七屋』で
働く寅の定番が長靴姿。
全シリーズで最も長靴が目立ち、たくさん映った作品。
額に汗して働く時、寅は気合を入れる意味も込めて長靴を履く。
『自転車に長靴』はよく似合うのだ。
★次に、寅が、あぶくのような人生を脱却するべく、しっかり労働を考えた第11作「忘れな草」で、
網走の牧場で牧童として働く時に長靴を履いていた。
これは当たり前といえば当たり前。牧場の労働で長靴をはかない人はいないだろう。
しかし、これは、気合を入れた寅のその格好とその実力が見事に反比例した顛末だった。
★次は第18作「純情詩集」でのラスト、新潟の六日町の小学校に雅子先生を訪ねる寅。
さすがにこれだけ山深く、そして雪が降り積もっていると長靴を履く。
そしてやっぱり長靴を履いても転んでいた。
★次は、今作品、第20作「寅次郎頑張れ!」で、平戸の藤子さんのお土産屋さんで働く寅。
朝一番の仕入れは上の写真↑のように長靴だ。
これはほとんどの人が覚えていないかもしれないが、
よくよく考えると、汗をかいて労働している時の寅はやはり長靴を履く。
今回はマドンナパワーでなんと朝5時半に起きていた。
★次もほとんどの人が気づかないかもしれないが、第35作「恋愛塾」で、
鹿角市(かづのし)尾去沢(おさりざわ)にある水晶山スキー場のリフトに乗る寅だが、
乗る前は雪駄履きなのだが、乗ったらいきなり長靴履いていた。
このシーンは結構長く映るので、気づいた人もチラホラいそうな気もする。
★次は第37作「幸福の青い鳥」で、美保さんが勤めた上海軒の出前をしゃあしゃあとする寅。
とらやの前をのっしのっしと歩いていた時、長靴を履いていた。
上にも書いたように、寅は汗を流す労働をする時、長靴を履くのだ。
このシーンの長靴に気づいていた人はかなりのマニアだろう。
★最後は第38作「知床慕情」、知床で順吉の仕事である牛のお産を白衣を一応着て手伝う寅。
これはいかにも長靴を履いていないと出来ない仕事なので気づいた人も多いとは思う。
これもやはりしっかり汗をかく労働。もっとも寅はあまり役立っていなかった気がするが(^^;)
以上7回である。
物語に戻ろう。
寅が乗った自転車が「おたち」の前で止まる。
寅「ただいまー」
藤子「ごくろうさま」
寅「へい、よいしょっと」
「おたち」の暖簾
寅「お姉さん」
藤子「はい」
寅「安いスルメがあったんで入れときましたよ」
寅「これ」
藤子「まあ、すみません」
寅「よいしょっと」
レンタサイクルの人たち
客「いってきまーす」
藤子「あ、いってらっしゃい」
おたち「御館」について
この地は戦国以前、水軍として名を馳せた松浦党の本拠地。
松浦家26代鎮信(しげのぶ)は1599(慶長4)年、
亀岡に「日の岳城」を築いた。
しかし徳川家康は、豊臣秀吉と親交が深かった松浦家を疑い、
鎮信はその疑いを払うために「日の岳城」を泣く泣く焼却。
こうして平戸6万1千7百石を守った。
松浦家は以来約90年間をこの丘の上の「御館(おたち)」で過ごし、
その間、御館(現在の松浦史料博物館)が藩主の私邸として使われた。
松浦家30代棟(たかし)となって幕府の許可のもと、
1704(宝永1)年、「平戸城」の再築を開始、
1718(享保3)年、完成した。これが平戸城(亀岡城)。
本丸、二の丸、三の丸外郭により構成され、
日の岳の輪郭が利用されている。
1871(明治4)年、廃藩置県により廃城、
建物は現存する北虎口門・狸櫓を残して取り壊された。
その後、1962(昭和37)年、
本丸に三重五階の模擬天守などが復興されている。
おたち 店内
煮干いりこのダンボール。
店に平戸凧『 鬼洋蝶 おにようちょう 』が飾ってある。
平戸藩主第五代渡辺綱の鬼退治の様子が描かれている。、
武者の頭部につけた「藤カヅラ」に風が当たるとうなりを生じるので、
鬼がうなって飛び上がるようだと、この名が付いたそうだ。
もともとは兜をつけた武士の顔が表を向いていたが、
江戸時代に庶民の子供が武士の顔で遊んではいけないと、
裏に絵を描いた凧が登場。現在ではの図柄があります。
鬼洋蝶とは、鬼を退治するという意味の「よう懲」の当て字らしい。
似たような凧が近隣の島々にもある。
寅「おう、船長、お前とこの水夫がな、
客が来たから臨時便出してくえれってよ」
船長「ふーん、朝っぱらから客か、珍しかァ」
寅「へへ、ぼやいてないで働け働け、
オレだって朝早くから働いているんだぞ、えー」
と、伝票を伝票指しに差し込む寅。
電話 リリーン。
寅「はいはい 島田です。
えー?なんだおまえかあ、こんな忙しいときに
かけてくるやつあるかバカ、あとあと」
さくら、すぐに良介に代わるように言えよ。
神父さんが歩いてくる。
藤子「おはようござんす」
神父「おはよう」と微笑む神父さん。
藤子「お出かけですか」
頷きながら微笑む神父さん。
大きくあくびをして店から出てでかけようとする船長さん。
神父「船長さん、向こうへ行きたいんだが、船の便はありますかな」
船長「ああ、ちょうどよか、今出航するとこですたい」
船長「あー、お藤しゃん、ごちそうさん」
藤子「気ィーつけて」
船長「はい」
寅、スッと表に出てきて
寅「よ、船長出航か?」
船長「はい」
寅「安全なる航海祈るぞ」
船長「はいはい」
寅「無事に死なずに港にたどり着けよ」
船長呆れている。
藤子「まあ、フフフ」
レンタサイクルのお客さん
客「すいません」
藤子「あ、いらっしゃい」
客「自転車貸してください」
船長と神父さん歩きながら
神父「誰ですか?」と指を指す。
船長「惚れとるバイね」
神父「は?」
船長「お藤さんに惚れとるとぉ」
神父「あたくしがァ…?」え(^^;)??
船長「…???」
神父「と、とんでもない、なんてことを!」
船長「お、…ちょ、ちょ、ちょっと、
神父さん!あんたも惚れとっと?」
意外な展開(^^;)
神父さん、恥ずかしがって逃げていく。
船長「うわあああ!ハハハ」と、ニヤついて追いかけていく。
船長「ちょっと、あんた!」
十字路(止まれ)で、
二人同時に右見て左見て、渡っていく。
上手い!ご両人!
この右左見渡すギャグはラスト付近で藤子さんと神父さん
バージョンもあるので本編でお楽しみください。
船長「うわ、うわ」と、大喜び(^^;)
しかし、脚本第2稿の段階では、
なんと神父さんは藤子さんに惚れてはいないのである。
第2稿では以下のとおり↓
船長「惚れとるバイ」
神父「当分退屈せんですみそうですな」
船長「あんたも人の悪るかねえ、神父のくせに」
神父さんが初心な、
本編のほうがいいねこの場合は。
とらや 茶の間
みんなで焼き栗を食べている。
さくら「夕方もういっぺん電話してみたんだけどね、
またお兄ちゃんが出てきて、うるさい、何べんも電話するなって、
また切られちゃった。どーもお店番してるらしいのねえ」
おいちゃん「ん…、」
博「お姉さんが土産物屋をやってるとか言ってたな」
さくら「うん」
社長「その人美人なのかい?」
さくら「電話ではとっても素敵そうな感じの人だったわ」
おばちゃん「ほら、ワット君だってさ、よく見ると、こう、
目鼻立ちがいいじゃないのよ。
きっと美人だよ、そのお姉さん」
おいちゃん「とにかく、寅がワット君を訪ねていったら、
あそこに美人のお姉さんがいた。
でー、例によって一目惚れして、
その店を手伝うことになった」
さくら頷く。
おいちゃん「ここまでは間違いないかァ」
第5作「望郷編」の節子さんの時と似てるね。
ここで、社長の『栗が歯に挟まりギャグ』(^^;)
社長、栗が歯に挟まって、大口開けて指を突っ込む。
なかなか取れない。
みんな嫌がりながらも見ている。
ようやく栗が取れて
おいちゃん嫌がる。
さくらも睨んでいる。
博「まあ、それはそれとして、とにかくワット君に伝えてやんなくちゃ、
さっちゃんの気持ちを。もう一度電話してやれよ、な」
ほんと、一刻も早く知らせないと可哀想だ。場合によっては
人生が狂ってしまうかもしれない時だってあるのだから。
さくら「また、お兄ちゃん出てくるわよォ」と嫌がる。
「ふるさと亭」に行って幸子ちゃんを連れて来て
手伝ってもらうっていう手があるけどね。
博「しょうがないじゃないか、そんなこと言ったって」
おばちゃん「いつも電話のそばにいるわけじゃないだろ。
ちょっとかけてやんなよー」
さくら「あー、やれやれ」と電話口へ
社長「なるほど、寅さん再び現役復帰か!
やっぱりこうこなくっちゃな!
ああ面白くなってきたぞ!」
と、相変わらず、寅の色恋沙汰を
娯楽にしている社長でした(^^;)
おいちゃん「なんてこと言うんだおまえは〜」
おばちゃん「ほんとだよ、他人事だからそんな口がきけるんだよ」
と睨む
社長「…」
みんな呆れる。
さくらダイヤル回している。
社長がタオルで口を拭く
おいちゃん「不潔だよ!おまえ」と取り上げる。
博「しっ!!」
さくら受話器に耳を当てる
向こうで寅の声「はいはい、島田でございます」ああ…(TT)
さくら、すぐにガチャンと切る。
さくら「またお兄ちゃん出てきた」
平戸 日曜日のミサ
聖フランシスコザビエル記念聖堂
(正式には平戸カトリック教会)が映る。
1931 (昭和6)年に建てられたカトリック教会で、
平戸カトリック教会が正式名称。
1550(天文19)年平戸を訪れたフランシスコ・ザビエルを記念して
立像が建てられ、これを機に教会の名称も
聖フランシスコ・ザビエル記念聖堂と改められたそうだ。
鐘の音
パイプオルガン
瑞雲時近くの小道 御部屋の坂
遠くに光明寺と聖フランシスコ.ザビエル記念聖堂が見える。
瑞雲寺前の坂で、坂の上を見上げると、石畳と白壁、
そして寺院に重なる聖フランシスコ・ザビエル記念聖堂の尖塔。
上方に正宗寺、手前に光明寺、その下に端雲寺、
3つの寺院と教会の尖塔という組み合わせは
観光ポスターにもよく使われる光景で平戸を代表する景色となっている。
手前から曹洞宗瑞雲寺、浄土真宗光明寺、
カトリック平戸教会(聖フランシスコ・ザビエル記念聖堂)が軒を並べている。
いかにも日本的な宗教が混ざった世界。
日本にキリスト教をもたらした
宣教師フランシスコ・ザビエルが平戸を訪れたのは1550年。
以来、この島はオランダや英国の南蛮船が行き交う日本初の海外貿易港となり、
日本が鎖国政策を取るまで西洋文化がこの地に与えた影響は計りしれない。
藤子「今日は教会に一緒に来てもろうて、どうもありがとう」
寅「いえいえ、とんでもないですよ」
寅「しかし、日曜の朝、教会でお祈りするってのは、
なんか気持ちがすっきりしていいですね」
藤子「じゃあ今度の日曜日も一緒に来てくださる?」
寅「え、いいですよ」
藤子「そんなら、それまでこの島におってくださるとですね」
藤子さん、寅、誤解しちゃうよ、そんなこと言ったら
寅「ええ、オレ、どうせ暇ですから」
藤子「ああ、よかった」
寅「しかし…そう長くお邪魔したんじゃご迷惑じゃないですか」
藤子「どうして?そんなことなかとよ」
寅「はあ…」
藤子さんは寅が一生懸命手伝ってくれ、
良介のケアもしてくれてとても助かるようだった。
藤子「私はね、寅さん、口下手で…
思うとることが、上手く伝えられんばってん…、
寅さんが来てくれたことがどんなに感謝しているか…。
これも神様のお引き合わせよ、きっと…」
そういうこと言うと
ますます深い誤解を招きますよ藤子さん。ヾ(−−;)
寅「わたくしもなんだかそんなような気が…」
と、案の定舞い上がる寅だった。
寅、ちょっとこけそうになって
藤子「大丈夫?」
と、気遣う藤子さん
近所のおばさんたち見ている(^^;)
藤子のテーマが流れる。
藤子「ほんとにどうしようかとおもうたですよ。
ひょっこり帰ってきて、青〜か顔して
一日中部屋に閉じこもりっきりで、
なんか聞こう思ても、返事もしてくれんとですよ」
寅、腕を組みながら大きく頷く。
藤子「私にしてみりゃあ、たった一人の弟だから、
何でも打ち明けて相談してほしい…
そう思うとっとに…
なんか情けのうして…」
と、歩いていく。
このシーンでの会話、
実は、脚本第2稿では、
なんと良介は
「高校の時も同級生のお姉さんに
失恋したと思い込んで『睡眠薬』飲んで大騒ぎに
なったことがある」
と藤子さんが言っている。
寅「いえ、その気持ちはよくわかります。
私にもたった一人だけ妹がおりますから」
藤子「でもね」
寅「はい」
藤子「それが寅さんになら何でも話すし、
寅さんの言うことならとっても素直に聞くし
もう見違えること元気になって」
寅「いいえ、私は性格的になんでもしゃべりやすいほうですから、
ええ、いや、しゃべりやすいたって、
どうせろくなことしゃべれませんけどね」
照れる寅
藤子「そんなことなかです。
ほんとに寅さんが来てくださって
よかったとです」
寅「…」
藤子「もう私じゃだめなのねえ…
高校生のころまでは、お姉ちゃんお姉ちゃんって言うてもう
やかましかぐらいそばに引っ付いて歩いてたばってん…。
もう私のしてやれることはなんもなかとです」
寅「いや、あいつだってお姉ちゃんの気持ちは
ちゃんとわかってますよ」
藤子「そうかしら」
寅「ええ」
藤子さん、そばの石垣を見て…
藤子「松浦草…」
急に藤子さんが止まったので
寅は彼女にぶつかりそうになる。
寅「は?」
藤子「ほら、あそこに咲いてる」
さっきと違う方向に行ってますよ藤子さん(^^;)
松浦資料博物館入り口の看板
松浦草 オキザリス・ボーウィ(Oxalis bowiei)
カタバミ科カタバミ属の球根植物
オキザリス・ボーウィ(Oxalis bowiei)
セイヨウカタバミ(西洋片喰)
オキザリス・ボーウィ(Oxalis bowiei) は、カタバミ科カタバミ属の球根植物で、
(半)耐寒性の多年草です。オキザリス(Oxalis)には、種類がありますが、葉色が緑で、
花色が桃色の、このオキザリス・ボーウィ(Oxalis bowiei)が一般的。
一般名:オキザリス・ボーウィ(Oxalis bowiei)
学名:Oxalis bowiei
別名:セイヨウカタバミ(西洋片喰)
科属名:カタバミ科カタバミ属(オキザリス属)
原産地:南アフリカ
草丈:15〜30cm 花径:2〜4cm 花色:桃 開花期:10〜翌年5月
藤子「ほら、こんなに」
藤子「ねえ」
寅、一生懸命一緒に見ようとしている。
藤子「かわいい〜」
寅「あ、これ、とりましょうか」
藤子「ええ」
おいおいおい、とらないで咲かせておいてやれよ ヾ(^^;)
藤子さんの背中越しなので照れながら何とか手を伸ばしている。
ただただこの行為が嬉しい寅だった(^^)
遠くから良介の声
良介「寅さーん!!」
びっくりした寅と藤子さん、
寅「あああ」とこけそうになる。
寅はほんとにこけてしまう。
寅「あいたっ!!あああ」
良介「何してんだこんなところで」
良介、下駄で飛ぶように走ってきて
良介「今、さくらさんから電話があってね!」
ああ、…ようやく電話成功したんだね(TT)
寅「いいからほっといてくれ、電話なんか!どうとでも!」
良介「違うんだよ違うんだよ」
寅まだこけている
お尻が痛い(^^;)
藤子「だいじょうぶ?」と起こそうとする。
寅「ええ」
良介「オレ、…はあ、、。
失恋してなかったんだ!
はあ、はあ」
寅「ほんとか…」とまじまじと良介を見つめる寅
藤子さんも顔がほころぶ。
良介「だからオレ明日の朝東京行く。
お姉ちゃんよか!?」
藤子「よかよ」
良介「寅さん、お姉ちゃんと二人で留守番頼む!
よか?よか?」
寅「よか」夢のよう…(^^;)
良介、喜びはしゃいで家に戻っていく。
寅「おおお、危ないぞ!おい」
観光客の女の子たち「きゃあ」とよける。
夕闇迫る平戸湾
おたち 茶の間
寅は、手を洗いながら歌を歌っている。
寅「夢も〜なつかあしい〜、あーのアロハオエ〜、かあ…」
汽笛が聞こえる
寅は明日から藤子さんと二人っきりだと
思っているので嬉しくてしょうがない。
寅「あー…、明日からお姉さんと二人っきりかァ…」
と至福の顔。
寅のアリア
寅「なんだか参ったなあ〜、フフフ。
差し向かいで御飯を食べる。
お互いに意識しているから言葉は少ない。
『静かな、夜ですね』
『そうですわね』
また沈黙が流れる。
たまりかねて姉さんが
『あの…私休ませていただきます』
『あ、どうぞ』
『おやすみなさい』
丁寧に挨拶してそこを出て行く。
ひたひたひたひたひた…、廊下を歩く足音。
お姉さんは風邪をひいているから軽く咳をしている。
『コホンコホンコホン』
オレは横になって、ここで静かにそれを聞いている」
寅、ふと、我に帰って…
寅「まずいな…、いくら広い屋敷とはいえ、
同じ屋根の下、世間が黙っているわけがない。
まして、こんなちっちゃな島だ。
噂は島中にパッと広がる。
『おい、聞いたかい?
寅のやつがお藤さんと怪しいらしいぜ』
『へえ〜…』
こんな噂を聞いてオレは黙ってここにいられない。
『お姉さん、長い間お世話様になりました
あっしはこれで失礼いたします』
『あら、寅さんも行っちゃうの?』
『はい』
『あなた、世間の噂に負けたのね…、
私は平気なのに』
色っぽい眼の渥美さん((^^;)
チ、フフフ、そんなこと言われたらオレ、
(タオルをバシッ!!)たまんねえなあ!!フフフ!」
もう行きつくところまで行っている
このうえなく至福の寅の妄想でした。┐(~ー~;)┌
なんと良介がじっとその姿を土間から見ている。
はちゃちゃちゃΣ(|||▽||| )
寅、顔が豹変して
寅「なんだ、おまえそこにいたのか?」
良介「ええ、今帰ってきたんです」
寅「帰ってきたのならあいさつしろよ、
泥棒みたいにつった立ってないで」
切符を買って時刻表持っている。
脚本第2稿には、
この長い寅のアリアはなんと一行もない!
現場で作り上げていったのだろう。
渥美さんの芝居の真髄が
垣間見られる臨場感のあるアリアだった。
寅「あのな、オレいろいろ考えたんだけどよ、
明日っからやっぱり…、この近くの宿屋に泊まるよ。
それで店へ来て、
一日仕事を手伝って夕方には帰ると。
そのほうがおまえも安心でしょう
良介「どうしてそんなことするんですか?」
寅「鈍いねおまえも,
考えても見ろよ。
いい年した男と女が一つ家でもって
寝起きしててみなよ、
世間が黙っていると思うかい」
良介「ああ、その心配だったら要りませんよ。
お姉さんオレと一緒に東京行くことになったんだ」
寅「え?」
良介「寅さん、すまんけど
しばらく留守番してくれますか?
戸締りと火の用心だけすれば、
あとはどーってことなかです」
寅「おい!」
良介「え?」
寅「恩を仇で返すってことあるけどもな、
こんな寂しい無人島にたった一人オレを
残しておまえ平気なのか?
おまえはそういう人間か!えー!」
無人島って…(^^;)一応この島3万人以上いるんですけど…。
藤子さんの声
「ただいま」
寅豹変
寅「あ、おかえんなさい」と、にっこにこ。
藤子「あー、くたびれた。なんせ当然やけん。
あ、良介、寅さんに話してくれた?」
良介「うん、今話してったとこたい」
寅「え、何、何の話」
良介「寅さんに留守番を頼む話」
寅「あーあ、あ、あ、あ、その話ね」(^^;)
藤子「あのー、
あつかましかお願いなんですけどねー…、
良介がどうしても幸子さんという人に
会うてほしかって言うとです。
もちろん私も会うてみたかし…
それに、とらやさんにも
一度お詫びに伺わんといけんし、
それやこれやで急に思いたったんですけど、
いかがやろか…」
寅「え、いってらっしゃい、平気ですよ、
留守番はわたくしが引き受けますから、心配なく」
と、言ってしまう。
藤子「あー、うれしかあ、…よかったね」と良介に微笑む。
美容院行ってきたんだね。
寅「君、明日の朝、早いんでしょ」
良介「ええ 7時の船です」
寅「あ、そう、じゃあ今夜は早く寝なくちゃね」と、にっこにこ
良介「ええ…」
寅「お休み、フフ」
あきれ返った良介、
二階に上がりながら寅を見てつぶやくように、
良介「惚れとるばい…」(^^;)
翌朝 平戸港
平戸口行き
二人が出て行く船を淋しく見送る寅。
船上で手を振る良介と藤子さん。
手を振り、十字を切る神父さん。
汽笛
神父「お二人の航海の安全を祈って…。
寅さんもお寂しいですね、当分…」
寅、ジロッと睨んで機嫌が悪い。
神父「…じゃ…」
神父さんは、船を見送った後の寅が機嫌が悪いのを察知して、
向こうへ遠ざかりながら…
神父「惚れとるばい…」(^^;)
見事な山田演出。
『惚れとるばい』最高のタイミングです。
平戸サービスステーション
共同石油
柴又 ふるさと亭
閉店間際時間
客は一人だけ。
暇そうに本をめくっている幸子ちゃん
叔父さん「幸子、幸子、暖簾入れとけ」
幸子「はい」
叔父さん言いわれ、暖簾をしまおうとする幸子。
ガラスの向こうに良介がいる。
幸子のテーマが流れる。
驚く幸子。動けないでずっと良介を見ている。
良介「オス」
年末年始
十二月二十七日まで営業
二十八日〜一月五日まで休み
十二月の定休日
四日 十八日
良介、戸を開けて入ってくる。
そしてテーブルに座る。
幸子、表情が柔らかくなり、笑って
幸子「はー、…びっくりした」
良介「明日からまた、ここで飯食うからな」
幸子「…うん」
良介「…カツ丼」
幸子「卵のかかったのね」
良介「それに…」
幸子「冷奴?」
良介「そう」
幸子、幸せそうに笑う。
幸子「叔父さん、カツ丼いっちょ」
叔父さん「なんだ、今日はおしめえだぞ」
幸子「あのお客さんだけ作ってけれ」
と、はしゃいでいる。
厨房に入って
幸子「いいべえ」
幸子「六ちゃん、冷奴出して」
六ちゃん「はい」
叔父さん、厨房からのぞいて良介を見る。
叔父さん「また、あれか」
叔父さん「だば、卵出して」
良介、くすくす笑っている。
心から安堵した様子。
とらや 茶の間
大きなまだ生きている伊勢エビを
お土産にもらっておおはしゃぎのみんな。
お姉さんそれよりも二階の修理費全額出してやってください。
保険が下りないみたいです…(TT)
さくら「うわ!!生きてる!」尋常じゃない大声((^^;)
おいちゃん「おー、これは凄い」
満男「ザリガニ」
さくら「いやあねぇ、伊勢エビよぉ!フフ」
おばちゃん「まあ、高価なものをありがとうございます」
さくら「ザリガニですって、フフ」
藤子「5時半に起きて寅さんが
魚市場で買うてきてくださったとです」
おばちゃん「5時半!!?」
おいちゃん「寅が…?」
おばちゃん「あ、朝のですか?」上手い!座布団一枚(^^;)
藤子のテーマが流れる。
藤子「ええ。寅さんはいつも6時には起きて、
お店ば掃除して、ついでに表の道まできれいにして、
もう、ほんとによう働いてくださるとですよぉ」
おいちゃん「へえ…寅がねえ」
第5作「望郷編」の豆腐屋さんを思い出すよ、このパターンって。
藤子「あのぉ〜、小学校から大学を出るまで
ずっと新聞配達ば、しとんなさったとですねえ〜。」
大嘘つき ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ
おいちゃん「は、はあ〜〜」と驚く。
藤子「そいで、早起きの習慣がついたとか」
信じるかァ〜?、それゞ( ̄∇ ̄;)
このパターンの寅の法螺は、
第18作「寅次郎純情詩集」でも綾さんが信じていた。
とらや一同、大笑い。
さくら「嘘ですよ〜、そんなあ」
藤子「??」
さくら「ウチにいる時はいつも昼ごろまで寝てるんですよ」
藤子「違うとォ〜??」
さくら「ええ、フフフ」
藤子「じゃあ悪かったやろか、
私、毎朝寅さんに、魚市場の買出しを
お願いしとったです」
ハハハ
おばちゃん「悪いことなんかありゃしませんよ、
いい薬ですよ、ねえ。フフフ」
後ろにシクラメンの鉢植え。
博やってきて
さくら「あの、主人です」
博「始めまして、博です」
藤子「こんたびは…」とお辞儀
博「遠いところ…」
満男いきなり伊勢エビを見せる。
博「うわああ!びっくりしたあ」
おばちゃんもつられて「うわっ」
博「なんだザリガニじゃないかあ!」
さすが血続きの父と息子(^^;)
満男「エビだよ〜」
さくら「ハハハ、バカねえ、
親子そろって何言ってんのぉ〜」
博「え?」
さくら笑いながら
さくら「いただいたの、お土産に、伊勢海老」
博「あ、イ、伊勢海老ですか、どうも」と、お辞儀。
みんなまたまた大笑い。
平戸 おたち 夜
電話が鳴る
神父さんが寅と留守番している。
神父「はい、島田です。は? あ、藤子さん、
ええ、わたくしです。
無事東京にお着きですか。
そりゃあようございました。
あ、寅さんですか、
さきほどまでお酒飲んでおりましたが
今は休んでらっしゃいます」
酔った後、座布団を枕にして寝ている寅。
神父「はい、はい、明日お伝えします。
はい、いいええどういたしまして、
はい、おやすみなさい」
受話器を置いて
寅に毛布をかけてやる神父さん。
そして、数日後、
江戸川土手
さくらと藤子さんが江戸川土手で散歩
藤子さん、ホームシックにかかっている。
藤子「私、もうそろそろ平戸に帰らんば」
さくら「あらあ、いいじゃありませんか、
せっかくいらっしたんですから、
もう少しゆっくりなさってったら?」
藤子「どうもありがとう、ばってん、
私、なんか平戸が懐かしゅうなって、
やっぱし、私って田舎の人間たいね」
さくら「いいところなんでしょうね平戸って」
藤子「水と空気とお魚だけはね」
藤子「寅さん、どうしとんなさるかしら…、
私帰らんばいけん…。
寅さんに叱られてしまうけん、
いつまでも一人で留守番ばさせとったら…」
さくら「…」
さくら、土手の遠くを見て
さくら「???…あら…」
さくら「ああああ!お兄ちゃんだわ!!」
Σ(|||▽||| )
テーマ曲盛り上がって
なんと杖を突いてふらふらになって
歩いてきた寅がそこにいた。
藤子「寅さーん!!」と走り寄る。
寅「お姉さァ〜〜あああん」と言って倒れてしまう。
さくら「どうしたのよお兄ちゃん!!」
トレーニング中の青年たち助けに入る。
とらや 店
とらやまで寅を抱えてきてくれる。
優しいね。
さくら「おばちゃん!たいへん」
おばちゃん「なんだい?」
さくら「お兄ちゃんがね、
昨日の朝平戸を出てから
ずー〜〜っと飲まず食わずで
上野まで来て、あとはお金がないから
歩いてきたんだって」
おばちゃん「ええええ?」
上野から柴又は歩いたら遠いぞぉ〜。
第25作「ハイビスカスの花」は
このカットのアレンジ。
さくら「ここです!すいません」
青年たちに宙に浮かされて
寅空中で足を動かしている
わっしょいわっしょい
おばちゃん「あら」
寅「だいじょぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ…」
おばちゃん「大丈夫かい」
と、店で立ったはいいが、すぐによろけて倒れこむ。
みんな「あああああ」
さくらとおばちゃん青年たちにお礼を言う。
藤子「寅さん!大丈夫?しっかりすっとよ」
寅「はあはあ、大丈夫ですよ、お姉さん、あの…
若い二人たちはうまくいきましたかね」
藤子「ええ、おかげさんで」
寅ほっとして、ガクッと頭を下げ
寅「よかった〜〜」
寅ぜえぜえ
寅「このウチのものは、親切にしましたか???」と、疑いの目
藤子「ええ!とっても!」
寅「なんの連絡もないもんだから、どうしたかなあ、と思って」
寅「いてもたってもいられなくて、飛び出してきちゃった」
藤子「どうもすいましぇん」
寅「いいえ」
寅「お腹すいたなあ…」
客の食べ残しを口に入れようとする…。
みんなで止める。
おばちゃん「そんなもん、食べかけだって」
寅「一個だけ一個だけ」他人の食べ残し(^^;)
おばちゃん「食べかけですよ」
寅「おばちゃん、何か食べさせてくれよォ」
おばちゃん「あいよあいよ」
寅、意識朦朧
藤子「あ、寅さん」
さくら「大丈夫お兄ちゃん」
惜しい!寅はとらやの団子を食べなかったが、
このシーンはほんと惜しい!
第36作「柴又より愛をこめて」でももうちょとで食べたのに
二十四の瞳騒動でパー。
ちなみに脚本第2稿では、この寅が飲まず食わずで
倒れるというシツエーションはなんと書かれていない。
現場で作り直している。
題経寺 鐘の音
本日は閉店致しました。
とらや 台所
仏間と茶の間をつなげて宴会場にしている。
黒板の文字
磯乙女30箱
赤飯30箱
木村様
草だんご20箱
焼きだんご20箱
大人数のタコとわかめの酢の物料理を作っているおばちゃんとさくら。
ソースを手にして舌でなめて味見。 芸が細かい
博「おばさん、兄さん大変だったそうですね」
おばちゃん「うん」
寅腕を組んで
寅「博!」
博「あ、おかえりなさい」
寅「今もおいちゃんたちのことをオレは怒ってたんだ。
なんだい、あの若い二人のおまえ結納の相談も
おまえできてないそうじゃないか。
だからね、おまえたちにまかせきれないってオレは言ってんだよ」
おいちゃん「だからさ、まだ先が長いってばァ」
寅「なにい!?」
博「そうですよ、結納なんて形式はどうでもいいじゃありませんか」
寅「そうか、おまえ、そういう考えか、えー、
人生で一番大事な結婚に対して
おまえそういういい加減な考え持ってるのか。
あ、いいよ、オレそういうのだったら付き合いきれない、オレは降りるよ」
おいちゃん社長「いやいや、まあ、それは」
藤子「あ、寅さん、まあそうおっしゃらんと、
そんことはあらためて相談しますけん
今晩はこんくらいで」
寅「そうですか、そいじゃ、まあ、あとでゆっくり」ちょと苦笑い。
おいちゃん「そうそうそう」
社長も「な、な、な、」
寅、社長を睨む。
寅は、何をそんなに急いでいるんだろう?
二人は仲良くなってからそんなに間もないというのに…。
おいちゃん「今夜はめでたいパーティなんだからな」
前のガラス戸を開ける音がする。
おいちゃん「あ、来た来た」
良介、幸子ちゃん、叔父さん、
店の戸を開けて入って来る。
良介「ただいま」
幸子ちゃん「おばんです」
おばちゃん「いらっしゃい」
叔父さん「どうも、お招きいただきまして」
おばちゃん「まあようこそ、さあ、どうぞどうぞこちらへ」
さくら「あ、どうもいらっしゃい」と、お辞儀。
お土産をおばちゃんに渡す叔父さん
おばちゃん「まあ、どうもすいません」と恐縮。
満男良介に抱きつく
満男「電線マン!!ヤー!!」
幸子ちゃん寅を見て驚く
幸子「あらー!!」
良介「あ!!」
寅ニコニコ笑いながら
寅「生きてたか」
良介「寅さん!どうしてここへ!?」
寅「決まってるじゃないか、お前が元気絵やってるかどうか確かめに来たんだよ。
さ、上がれ上がれ」
寅「お!ご主人こりゃどうもいらっしゃい、ささこちらへ」
叔父さん「どうも幸子がいろいろと」
藤子さんにお辞儀。
藤子さんもお辞儀。
寅「いいえ、とんでもないとんでもない」
社長「ささどうぞ、ささ、どうぞどうぞ」
この叔父さんは、脚本第2稿によると、
脱サラしてあの食堂を始めたらしくて、
まだ慣れないで大変のようだ。
寅「さくら、酒はもう…回ってるな。それじゃビールを皆様の前に配って、
一応じゃあ乾杯の準備と行こうじゃないか」
社長名刺を叔父さんに渡す。
おいちゃん、ビールを良介に注ぎながら
おいちゃん「ワット君、仕事のほうどうだった」
良介「ええ、今日社長に会って謝ってきました」
脚本第2稿では会社の名前は『柴又電工』となっている。
おいちゃん「んん」
良介「明日からまた働きます」
寅「ほー」
藤子さんほっとして
藤子「よかったねえ」
良介「あ、姉ちゃん、一人で平戸に帰れっと?」」
藤子「うん、…それがねえ…、
寅さんが一緒に帰ってくださるって言うとよぉ」
寅「フフフ」と、照れ笑い。
良介「ええ??」
藤子「なんか申し訳のうして…」
そういう問題じゃないんだが(−−;)
寅「いや、いいんですよ。オレは
はじめっからそのつもりだったしね、
それにあのー、神父さんや船長さんにも
買い物頼まれてるから、え」
往復運賃だけでもものすごい費用だ。
良介「いや、寅さん、それじゃああんまり」
寅「いいんだいいんだよ」
藤子さん、なぜいい年をした中年独身男の寅が
いったん東京に戻ってたあとさらに再度平戸に赴くなんて
そんな尋常じゃない親切をするか考えてください。
もう答えは一つしかありませんよ(TT)
敬虔なクリスチャンゆえ、心が清らかだとしても、
一方で、一度苦い離婚経験がある藤子さんが、
そういう男女の機微を分からないわけないと思うのだが
どうだろうか…。
石油ストーブがあるがついていない。
年末なのにストーブつけないのは寒いぞ。
寅「みんなでコップ持ったか」
寅「おい博、乾杯の音頭をとれ」
博「僕がですか」
寅「いいよ、なんかおめでたいことちょっと言え」
博「ええ、それじゃ、兄さんが無事に平戸から帰ってこれたことを…」
寅「バカ!誰がオレの話をしろっていった。
今日はこの若い二人のお祝いだろ!」
みんな「ハハハ」
さくら「ちょっとおばちゃん」とおばちゃんを呼ぶ。
博「それじゃまあ、良介君と幸子ちゃんの輝かしい未来を祈って乾杯」
叔父さん「あのう、ちょっと」
みんな黙る。
叔父さん「このたびは幸子のことで、寅さんはじめ、
とらやのみなさまにたいへんお世話になりました。
心からお礼をこめて乾杯させていただきます」
脚本第2稿では叔父さんではなく、
良介本人が乾杯の前に↓のようにみんなに言う。
良介「あのう、ちょっと待ってください。
今度のことでオレと姉ちゃんは
寅さんをはじめ、とらやのみなさんに
どれだけ感謝しているかわかりません。
心からお礼の気持ちを込めて乾杯させてください」
みんな恐縮
おいちゃん「これはまあ、ご丁寧に」
みんなお辞儀。
社長「ついでに中小企業の発展を祈ってカンパーイ!!」
みんな大笑い
満男も大笑い。
寅「お前の工場なんかどうなったっていいんだよ!!」
社長「ハハハ!」
寅「さ、さ、乾杯、乾杯」
みんなも「乾杯ー!!」
寅、藤子さんと乾杯
寅一口飲んで
寅「プハー!」
みんなで拍手
寅「よかったよかった」
その後はみんなで大騒ぎ。
社長の歌 花笠音頭
社長「めでためでた〜の〜、若松さあまあああよ〜
枝も ちょいちょい
栄え〜〜て葉も茂〜〜る
ハア!ヤッショマカショ ショイショイ
オレが在所(おくに)に〜〜
来てみてしゃんせ〜
米〜〜の〜〜
なる木がおじぎする
ハァ ヤッショマカショ」
花笠音頭
揃ろた揃ろたよ 笠踊り揃ろた
秋の チョイチョイ
出穂よりまだ揃ろた
ハァ ヤッショマカショ
花の山形 紅葉の天童
雪を チョイチョイ
ながむる尾花沢
ハァ ヤッショマカショ
おらが在所ヘ 来てみてしゃんせ
米の チョイチョイ
なる木がおじぎする
ハァ ヤッショマカショ
目出度目出度の 若松様よ
枝も チョイチョイ
栄えて葉も茂る
ハァ ヤッショマカショ
このように盛り上がっている社長だが、
脚本第2稿では、さくらは社長を宴会に呼ぶかどうか
迷っておいちゃんに相談している。
ちなみにこの花笠音頭は、
第3作「フーテンの寅」でもとらやの座敷で歌われていた。
また、第7作「奮闘編」でも満開のさくらの下で社長たちが宴会を行って
いる時にも歌われていた。
フォトアルバム
おばちゃん、箸でリズムを取っている(^^;)
おっと、テレビの上の置物が左にずれている!↓
→
良介、藤子さんのそばに来て
良介「お姉ちゃん、話があるとばい」
藤子「なんね…?」
満男口真似
満男「お姉ちゃん話があるとばい」
藤子「フフ」
満男、良介に抱きつく。
寅、意識朦朧で寝ている。
飲まず食わずで柴又までたどり着いたので旅疲れだね。
良介と藤子さん、二人して二階に上がって行く。
とらや ニ階
さくらが布団を敷いている。
なんと毎日敷き布団のカバー取り替えてるんだろうか?
宿屋並みだ。
布団の下にはマットレス。
さくら「あら、もうお休みになるの?」
藤子「いいえ、この子が話があると言うとです」
遠慮して一階に下りようとするさくら。
良介「さくらさんもおってください。そのほうがよか」
藤子「なんの話ね、はよう言わんね」
良介「お姉ちゃん、
寅さんと結婚する気があっとね?」
藤子「…!!」
さくら「…!!!」さくらのこの怯えた表情!
藤子「…な、なんば言うとね…あんた」
愕然とする藤子さん。
さくら、どうしていいか分からないで、
藤子さんを見ながら顔が青くなっている。
良介「もし、お姉ちゃんにその気の無かなら、
寅さん平戸に来るの、断らないけん」正しい(−−)
藤子「あんたの言うとること、
さっぱりわからんけど…」…(−−;)
愛されていることに気づかないのは
謙遜でも美徳でもないのだよ藤子さん。
さくら、後ろで下を向いて、怯えている。
良介「なんでそげんこつ分からんかのぉ」
藤子「…」
良介「ええか、お姉ちゃん…。
寅さんお姉ちゃんに惚れとるばい」
あの態度見リャ誰でもわかるよね(−−)
さくら、どうしていいか分からなくて
目をつぶってしまう。
藤子さん頭が真っ白になる。
良介タバコをくわえる。
後ろの倍賞さんの演技は見ごたえがある。
藤子さん、良介の言うことが
ようやく理解でき呆然となる。
とらや 茶の間
下では宴会で盛り上がっている中、
転寝している寅が映る。
博「待ってました!!」
寅、起きる。
寅「おばちゃん、藤子さんどこ行ったんだよ」
おばちゃん「あー、良介さんと二階へ行ったよ」
おばちゃんこの会話ではワット君とは言わないんだね。
寅「えー、なんだい、これからだってんのに、
ちょっとオレ呼んでくっか」
おばちゃん「え?」
寅「呼んでくるよ」
叔父さん「私が学生時代によく歌った歌を」
幸子「叔父さん、やめれえ」
叔父さん照れている。
脚本第2稿では叔父さんはこの歌の思い出をこう語っている↓
叔父さん「私が大学生の時に失恋をしまして、その時夜な夜なこの歌を
歌っては涙をこぼしたものです。アハハハハ」
実際この『冬の旅』は失恋した青年の旅物語である。
おいちゃん「いいんだよー、今日はお祝いだから」
幸子ちゃん「でもね、声が大きいので…」
おいちゃんも社長も「どうぞ」とすすめる。
博「さあ、ご主人やってください」
社長「やりましょう」
叔父さん「それでは」とすくっと立つ。
幸子「叔父さん…」と恥ずかしい&不満そう。
叔父さん「シューベルトの「冬の旅」から」
みんな「♪あらよっと、あらよっと、こりゃやっと、こりゃやっと」
ちゃうってばそれヾ(^^;)
叔父さん「♪いず〜〜みにそい〜〜〜て〜〜〜、」
手拍子やめて
おいちゃん「たいしたもんだぞこりゃあ」と正座。
社長「ステレオだよ、ステレオ!」意味わからねえ〜((^^;)
たぶんステレオで聴くレコードのように
ハイレベルという意味なのだろう。
脚本第2稿では寅が「ステレオ」と言っている。
おいちゃん「でかい声出すんじゃない!」
博「続けてください!」
叔父さんの声「♪しげ〜〜〜る菩提樹〜〜〜」
菩提樹を歌う。実に上手い!
この方、最初のほうで書いたように役者ではなく本物の声楽家の
『築地文夫さん』(洗足学園大学名誉教授)なのだから当然上手。
寅、ふらつきながら階段を二階へ上がっていく。
幸子ちゃん心配そうに階段下までついてくる。
幸子「大丈夫ですか?」
寅「大丈夫、大丈夫」と幸子ちゃんを制す。
ふらふら二階へ上がっていく。
叔父さんの歌声「♪慕ひゆきて〜は〜、美(うま)し夢みつ、
幹には彫(ゑ)りぬ、ゆかし言葉、
嬉悲(うれしかなし)に、訪(と)ひしそのかげ」
良介のシリアスな声が聞こえてきて、
寅「…」
寅は歩みを止め、聞き耳を立てる。
良介「オレが寅さんやったらな!
オレが寅さんやったら、
絶対お姉ちゃんを許さん。
好きでもなかとに好いとる顔されて、
うまく利用されとるじゃなかか」
藤子「やめんね!
そげん乱暴か口ばきいて…、
寅さんはね…、
あんたの考えてるより
もっともっと心のきれいか人よ。」
人を好きになることは心がきれいだからだよ藤子さん。
良介「いくらきれいかてん、寅さん男たい」うん(−−)
藤子「あんた、…さくらさんの前で…
そげん…そげん口ばきいて…」と泣いてしまう。
さくら「ごめんなさいね、
いやな思いさせちゃって」
なんで謝るの?いやな思いはしてないだろ。
良介「オレは寅さんが悪いとは言ってませんよ」
ぜんぜん悪くない。
さくら「迷惑をかけたのは兄ですもの」迷惑??
さくら、今回寅は、
とらやを壊して迷惑をかけられた良介の見舞いに遠く出向き、
迷惑どころか良介に対しても藤子さんに対しても
精神的にも労働力としても大いに役立ち、心から感謝されてましたよ。
だいたい人を好きになることは「迷惑」ではない。
藤子さん泣き続けてる。
良介下を向いて沈んでいる。
さくら「藤子さん、
何も気になさることないのよ」
優しいね、さくら。そう言うしかないよね…。
さくら、ようやく冷静になって
さくら「仮に…私の兄がお姉さんを好きだとしても、
今のような気持ちを知ったら、
それで十分満足するはずよ。
兄ってそういう人間なんですよ…」
藤子さん救われたね…。
さくらの言ったとおり、
寅はそういう気持ちに救われるところがあるが、
やはりマドンナが自分のことを
好きになってほしいのはあたりまえ。
ほんとはさくらがそれを一番知っているのだ。
小さく階段がきしむ音がする。
さくら、階段から人の気配と音がして上から覗くと
寅がゆっくり下りていくのが見える。
叔父さんの歌声「♪今日も過ぎりぬ、
暗き小夜なか、眞闇に立ちて、
眼(まなこ)とづれば
寅、上がり口に座って考え込む。
寅「…」
♪枝はそよぎて、語るごとし、
幸子ちゃんに、
寅「叔父さん歌うまいね」
幸子「大学の時、コーラス部にいたのが自慢で、
酔っ払うとすぐに歌うんです」
寅「ふううん…これなんて歌?」
幸子「シューベルトの冬の旅の中の『菩提樹』」
寅「冬の旅か…」
♪来よいとしとも、ここに幸あり
ここに幸あり。
みんな拍手
人知れず庭に出て行く寅。
さくらも下りてくる。
そして、庭にたたずんでいる寅を見つける。
幸子「良介さんたちなにしてるんですか?」
さくら「あ、今、下りてくる」と、笑顔。
そっと兄の背中を見ながら、
その悲しみを思っている。
そして、やがて妹も同じ悲しみの中に
沈んでいくのだった。
この長いシリーズの中で良介のような
冷静かつ相対的な発言があったことは、
私には救いだった。
言い換えるなら、
この良介の発言は
このシリーズを見続ける上で
私には絶対に必要だった。
そういう意味ではこのシーンを
見てから先、私はとても心が
安定したことを今でも覚えている。
★しかし、『脚本第2稿』では、
実はこのシーンは全然違うのである。
藤子さんには、なんと、東京の療養所で
入院暮らしをする
『堺信吉』という恋人がいたのだ。
良介が五島から藤子さんと一緒に
柴又へ戻ってくる展開が後半にあるが、
実は、藤子さんは、あの上京は、
とらやへのお詫びと挨拶だけでなく、
個人的に別の用事があったのだ。
つまり本当は婚約者に2年ぶりに
会いに行ったのだった。
改定稿(第2稿)のその部分を
そのまま書きました。↓
東京 療養所
枯葉の落ちるベンチに腰を下ろしている藤子。
病棟に続く道から着物を着た中年の男、
堺信吉が急ぎ足にやってくる。
藤子気づいて立ち上がる。
信吉「やあ」
人のよさそうな笑顔を浮かべ、藤子をうながして座らせる。
信吉「びっくりした。突然で」
藤子「私見違えたわ。あんまり元気そうになってるんで」
信吉「この間会った時から5キロ増えたよ」
藤子「そう」
しげしげと信吉の姿を見る。
信吉「君は少し痩せたんじゃないか」
藤子「そうかしら」
ふと笑おうとする藤子の眼から涙があふれる。
慌ててハンカチを取り出す藤子。
その手元をじっと見る信吉。
二人の背中にひとしきり枯葉が散る。
と、まあ、こういうわけです。
あの藤子さんに長年の恋人がいたとはこれは驚きだ。
それゆえ、↓の、とらやでの宴会でも
まったく違う展開になっていくのである。
これも同じく、
改定稿(第2稿)のその部分をそのまま書きました。↓
とらや 夜
寅「あ、あ、なんでもいいから乾杯だ。乾杯」
幸子「寅さん」
寅「なんだい?」
幸子「その前にもう一つだけ。良介さんのお姉さんの結婚をお祝いして、乾杯」
ギョっとなる寅。
藤子、顔を真っ赤に染める。
藤子「まあ、良介、あんた話したの?おしゃべりねえ、男のくせに」
頭をかいて幸子をつつく良介。
茫然としているさくらたちとらやの面々。
幸せ亭の主人「ほう、お姉さんが結婚なさるんですか、これはこれは」
藤子、恥ずかしそうに答える。
藤子「いえ、まだハッキリ決まったことじゃ。その人はまだ病院に入ってまして、
来年の春あたり退院できるんじゃないかと。もしそうなったらということですから。
―本当に嫌ねえ、こんなところで。良介のバカ」
さくら、一同を励ますように、あえて声をかける。
さくら「ますますおめでたいことになってきたわね。それじゃなにもかも含めて乾杯!」
寅「…」
と、いうわけだ。
第2稿の脚本はこんなにも違っていたのである。
しかし、この脚本のまま演出してしまうと、藤子さんは、
本編よりさらに寅の気持ちに対して鈍感な女性になってしまう。
婚約者がいながら、いい年をした中年の独身男に給料も払わず
住み込みで親身に手伝ってもらうなんて非常識だからだ。
それじゃ、まるで浦安の三七十屋(豆腐店)の節子さんだ。
そしてマドンナだけではなく、この第2稿の段階では
もうひとつ重要な欠落が生じる。
それは良介の洞察力のことだ。
本編では、この最後の宴会の時、
良介は姉の藤子をとらやの二階に呼んで、
寅のことを利用してはいけない、寅はお姉さんに惚れているので、
結婚を考えないのなら、自分の店を手伝わせてはいけないと、
本質的な説教をする。
このシーンは良介の面目躍如なシーンで、
第20作で私がとても好きなシーンなのだが、
第2稿脚本は↑のごとき内容であるから、
当然この二階での忠告シーンは存在しない。
それどころか脚本第2稿では、↑のように、
良介は寅の藤子さんを思う気持ちを理解しきれず、
平気で寅の目の前で藤子さんの婚約者の
話題をしているのである。
これでは姉弟二人とも感覚が鈍感な人になってしまう。
山田監督は第2稿を書き上げてからそのことに気づき、
現場で再考し、良介の感性をより磨かれたものに変え、
彼の感覚の中に魂を吹き入れ、
かつ、藤子さんの感覚をより寅に寄り添わせたのであろう。
藤子さんに恋人がいないのであれば、
ものごとは微妙になるので、
藤子さんの心の片隅に寅が入り込む隙間ができるのである。
実際藤子さんは寅のことを人として信頼を置き、
好感を持っていたことは確かなので、
たとえ寅がふられても、婚約者がいる場合とは
かなり意味が違ってくるのだ。
また、良介に寅の心の奥を語らせることによって、
良介に、恋する大人の男としての資格も与えている。
このようにこのとらやの二階の良介の藤子さんに対する説教は、
第20作にとどまらず、このシリーズ全体の奥行きの有無にかかわる
重要な意味を持つのである。
普通独身の中年男が、親切で人がいいからだけで
わざわざ遠い平戸で長い間、
そしてこれからも店を手伝うことは有り得ない。
ましてやいったん東京に帰った後に再度平戸に戻るなんて、
日本中どこを探してもいない。ボランティアにもほどがある。
確かに寅は比較的そのような男女の感情を人に感じさせないような
カラッとした、ある意味中性的なキャラだが、
それにしても限度というものがある。
敬虔なカトリック信者であり、
いまだに無垢で清らかな心を持っている藤子さんだとしてもなお、
この鈍感さんは普通では考えられないことだ。
ましてや一度結婚、離婚経験があるのだから人の機微はわかるはず。
このシリーズではかつて寅の一人相撲的な
滑稽さや悲劇性を強調するために、
この手の愛されることに鈍感なマドンナの設定が多かった。
そしてそのことが映画にテンポを与えていたことも事実だし、
そういう展開が寅の特徴だということもわかってはいる。
つまり物語のメリハリのための『お決まりごと』なのだろう。
それを言ちゃあおしめえよ。なのだ。
しかし、このシリーズは、この時点で第20作を超え、
やはりそのようなありがちな演出の時期はもう過ぎたのだ。
今や寅は、ブザマさから開放され、もう少し報われなければならない。
だから山田監督は、この第20作で、あえて脚本に大幅にメスを入れ、
今まで触れることの無かったマドンナに潜む無意識の残酷さに触れ、
マドンナに直接それを知らしめる強い展開にしていった。
お決まりごとをぶち破り、それぞれ登場人物たちにもう一度カツを入れ、
深みを与えた山田監督のこの決断は正しかったと言えるし、山田監督が
本来持っている裏の面の厳しさが露出してきたともいえる。
これによって第20作は若さあふれる新しい風の向こうにしっかりとした核が
存在する奥行きと重量感のある作品になり得たのである。
良介よ、よくぞ言ってくれた。
上品で心優しい藤子さんには悪いが、私は胸がスーッとした。
特に上にも書いたとおり、初期の寅は、節子さんに代表されるように
どんなに尽くしていつもいつも惚れていることすら分かってもらえないで
あんまりも惨めだったからね。
でも藤子さんは、良介にそのことを聞いて愕然として涙を流す人でもある。
自分の心を一瞬にして分析する優れた能力がある人だと言うことも分かる。
あの彼女の懺悔の涙が第20作の真の要だ。
ところで、なぜさくらをあのつらい場に居させる必要があったのだろうか。
一見物語の流れとして不自然に見えるあの場でのさくらの存在は、
寅を深く愛するものとしての私たち観客同様にさくらも救われる必要が
あったからではないだろうか。
つまり、私たちが悶々と悩んでいた以上に、さくらこそそのことで悩み悲しんでいたのだ。
そのさくらの今までの長い長い苦悩を救うためにも、
山田監督はあの修羅場にあえて彼女を立ち合わせたのかもしれない。
また、さくらと同じ理由で寅にもあの良介の言葉を聞かせたのかもしれない。
そして最後は、さくらのあの言葉によって藤子さんの心は救われ、良介の心も救われ、
階段で人知れずひそかに聞いている寅も救われたのだ。
菩提樹について
オーストリアの作曲家フランツ.シューベルトによる
1827年の歌曲集「冬の旅」の第5曲が『菩提樹』 。
歌は2部に分かれ、24の歌曲からなる。
歌曲集「冬の旅」は、1823年に作曲された『 美しき水車小屋の娘』と同じく、
ドイツの詩人ヴィルヘルム・ミュラーの詩集によるもの。
「菩提樹」の本来の詩は、失恋をした若者が冬の旅に出る。
その道中で若者を誘う安らぎの象徴が菩提樹であり、
同時に不安の暗示のような存在としても歌われる。
シューベルトも死の一年前であったからミュラーのこの哀しい詩に
自分を投影し、インスピレーションを沸き起こさせたのだろう。
ホ長調の甘い旋律は後に多くの人の心を捉えた。
一方この有名な近藤朔風の訳による「菩提樹」(1909/明治42年)は
直訳ではなく、近藤氏の心が独自に入っている。
近藤氏は35歳で早世してしまったが
「菩提樹」「ローレライ」「野薔薇」などの普遍的な名訳をしたことで知られている。
なんとも透明感と安らぎのある歌だ。
1.
泉にそひて、繁る菩提樹、慕ひ往きては、
美(うま)し夢みつ、幹には彫(ゑ)りぬ、ゆかし言葉、
嬉悲(うれしかなし)に、訪(と)ひしそのかげ。
2.
今日も過ぎりぬ、暗き小夜なか、眞闇に立ちて、
眼(まなこ)とづれば、枝は戦(そよ)ぎて、語るごとし、
来(こ)よいとし侶(とも)、こゝに幸あり。
3.
面をかすめて、吹く風寒く、笠は飛べども、
棄てゝ急ぎぬ、遙(はるか)離(さか)りて、佇まへば、
なほも聴こゆる、こゝに幸あり。
翌早朝 さくらのアパート こいわ荘
今回第4作は『江戸川荘』
第5作「望郷編」では『コーポ江戸川』
今回は『こいわ荘』
柴又4丁目6番26号
さくら玄関の戸を開けて
階段を下りてくる。
アパートの大家らしき女性、道を掃いている。
この人が第11作でピアノを置くのを嫌がってた人か…。
大家「おはようございます」
さくら「おはようございます」
線路沿いの看板。
看板
見習いホステスさん、大募集
永久保障
15000円以上確実。
アルバイト時差出勤可
初心者は指導
託児マンション有り。
マイクロバス送迎
新小岩 ローヤル
さくら、線路脇に立っている寅に気づくき、走っていく。
寅、気づいて
寅「あ、すまねえな」
さくら、少し微笑みながら寅に封筒を渡す。
寅「なにしろ、平戸から東京までは遠くってよ、
すっかりサイフの底はたいちゃったよ」
寅、中身を見て驚いて
寅「こんなに要らねえよ」 3、4万円入ってるって感じかな。
この言葉はなかなかえらい。普通言えないよ。
さくら「いいのよ、ボーナスもらったばっかりだから」
寅「へえー、裏の社長そんなもん出したのか?」
さくら「フフ。。」
寅「すぐ返すからな」
相変わらず、おごられ上手、めったに返したことないくせに(^^;)
寅「はあーんーん、
なんだかめっきり冷えてきやがったなァ」
救急車のサイレンの音
さくら「もうすぐお正月よ」
寅「うん…」
この渥美さんの「うん…」には
心底しびれました。かっこいいです。
さくら「ねえ、たまにはウチにいない?
みんなで集まってお雑煮食べて…、ね」
寅「冗談言っちゃいけねえよ。
正月はこっちの稼ぎ時だい。
オレなあ、
今年は新潟の弥彦に行ってみようと思うんだ」
さくら「うん」
昨晩のことを知っているさくらは、寅の旅立つ気持ちがわかるのだ。
メインテーマがクラリネットで静かに流れる。
寅「人が出るぞぉ〜!
金なんかじゃんじゃんじゃんじゃん儲かっちゃってよ、
腹巻なんか、こんなになっちゃうよ。ハハハ」
さくら「フフフ」
寅「今年は不景気だから、とりわけ人が出らァ…
さくら「そうね」
寅「でもよ不景気だから金が儲かるなんて言ってたら
裏の社長に叱られるか」
そういうことも考えられるんだね寅って…。
さくら「…」
寅「じゃあ行くぜ、
あ、藤子さんによろしく言ってくれよ。
なんだか寝てるようだったから
挨拶しねえで来ちゃった。な」
と、背中を見せて去っていく。
さくら、ちょっと追いかけて
さくら「なんて言えばいいの?藤子さんに」
寅「…、ん…、まあ…、
なんか適当に言っといてくれよ、な」
メインテーマが大きくスクリーンに広がっていく。
線路沿いをゆっくり去っていく寅。
電車が通る。
いつまでも見送るさくら。
昨晩のことをひそかに知っているさくらは、
この寅の時のつらく淋しい気持ちを
痛いほどわかっていたのだろう。
この別れのシーンも
さりげないけどじみじみいいねえ…。
名シーンのひとつだ。
正月 平戸
門松
おたち 前
日章旗がかかっている。
おみやげ おたち
晴れ着姿の女の子2人
「あけましておめでとうございます」
藤子「まあ綺麗かねえ〜」
藤子さん走りながら、前を歩く神父さんに、
藤子「おはようござんす」
神父「おはよう」
『とまれ』で、やはり右を見て左を見て
神父「何事ですか、駆け出したりして」
藤子「良介が東京から帰ってくるとです」
神父「じゃあ、恋人も一緒?」
藤子「ええ」嬉しそう。
神父「私も拝見しましょう」
藤子さんに続いて神父さんも競歩にかわる。
大内商店
子供たち、神父さんに
「おめでとうございます」
神父「おめでとう」
次の子も
「おめでとうございます」
神父「おめでとう」
またまた
「おめでとうございます」
神父「おめでとう」
と次々と立ち止まってはきちんと挨拶しているうちに
だんだん藤子さんと離れていく
最後は走り出す神父さんであった。
神父さんはこのように子供たちに年賀の挨拶をされるが、
急ぎながらもきちんと一人一人に
立ち止まって「おめでとう」と言っていた。人柄が出るね。
私は、こういう演出が好き。
平戸瀬戸
船長さんの船
大漁旗がはためいている。
橙が乗った鏡餅
遠く平戸城が見える。
幸子「あの天守閣に登れるの?」
良介「ああ!あそこから見る景色は最高だよ、
玄界灘から東シナ海までずーっと見えるんだ」
いやあ、いい映像だねえ〜(^^)
良介「あ、そろそろ港が近づいてきたぞ」
良介双眼鏡を船長から借りて
良介「あ、いたいた!」
幸子「誰が?」
良介「お姉ちゃん、あ、神父さんも来とる、
あ、二人とも手を振っとるわ!」と、手を振る。
幸子「あ、貸して貸して」と双眼鏡を覗く。
船長、満足そうに…
船長「こら、よか、おなごば見つけたばいねぇ」
良介「え??なんて」エンジン音で聞こえにくい。
船長「よかおなごば見つけたばい、
おまえにしちゃ上出来!ハハハ!」
と、ぐるぐる舵を切る。
ほんとほんと良介にはもったいないくらいだ。
平戸瀬戸を背景に
平戸城の天守閣から見た海辺の「見奏櫓」
幸子ちゃんの年賀状のナレーション
幸子のテーマが流れる。
幸子の声「あけましておめでとうございます。
生まれて初めて九州に来ました。
お正月だというのにまるで
春のような暖かさで、
秋田生まれの私はびっくりしています」
柴又 とらや 茶の間
博と満男がカルタをしている。
最初は満男が取った。
満男は一生懸命探すが、文字を読んでいた博が札を取っている。
さくらが幸子ちゃんからの
年賀ハガキを読んでいる。
幸子のテーマが流れ続けている。
幸子の声「船長さんとか、神父さんとか
とても面白い人たちに囲まれて
毎日を楽しく過ごしております」
障子の向こうはなんと雪景色。
参道も雪が降り積もっている。
長万部に帰省していた青山(轟)巡査が
柴又に戻ってきてみんなに挨拶。
これもさりげなくいいシーンだ。
轟巡査「あけましておめでとうございます」
おばちゃん「まあ、おまわりさん、おめでとうございます。」
轟巡査おいちゃんにも
轟巡査「おめでとうございます」
おいちゃん「はい、おめでとうございます」
おばちゃん「お正月お見えになりませんでしたね」
轟巡査「はい、田舎のほうに帰っていました」
おばちゃん「どちらですか?」
轟巡査「はい、北海道の長万部です」
おばちゃん「まあ…」
脚本では巡査さんは
「新年早々空き巣が増えております。ご注意ください」と言っている。
幸子のテーマが流れ続いている。
幸子の声「ところで寅さんはどうしていますか?
みんなで噂しています。
今ここに寅さんがいたら
どんなに楽しいでしょうね」
とらや 雪の庭
さくらが障子を開けて庭の雪景色を眺めている。
庭で雪いじりをして遊んでいる満男。
満男、さくらに雪をぶつける。
さくら、「こらっ」て言いながらも笑っている。
このとらやの庭の雪景色はシリーズ全体でもとても印象深く、
切ない『幸子のテーマ』と相まっていつまでも脳裏に焼きついている。
鳥のいない鳥かごが縁側に置かれている。
とある田舎 真っ青な日本晴れ
長崎県 佐世保 柚木町 民家
国道53号線沿い 柚木町三組公民館近く。
日章旗
寅、田舎の農家の片隅を借りて昼食をとった後外に出る。
寅「ごちそうさんよ」
田舎道を柿を2つ持ちながら歩いている寅。
子育て地蔵様の頭の上にその柿を乗せる。
奉納子育て地蔵尊の旗
スピーカーががなりながら旅芸人の軽トラが近づいてくる。
トラックのほうを見る寅。
第8作「寅次郎恋歌」のラストの演出と全く一緒。
向こうから軽四トラックの宣伝カーの大きな声が聞こえてくる。
音楽はジョルジュ・ビゼー作曲『カルメンCarmen』の中の『闘牛士の歌』
スピーカー「皆様 毎度ごひいきにあずかっております。
坂東鶴八郎一座が新春公演にやって参りました。
座員一同初春の装いも新たに
外題も改めまして、ビクトォール.ユーゴー原作、
『あゞ無情』、『あゞ無情』
三幕八場、その他、歌謡ショー、
お色気コント等、合い揃えまして…」
なんだ演目は『カルメン』ではないのか(^^;)
それにしても小百合ちゃん『お色気コント』は辛かろうに…。
ナンバーPレート 70−06
御当地参上
坂東鶴八郎一座 大公演
噫無常(ああむじょう)
総演技人出演
座長の胸に和太鼓と拍子木
荷台に乗っている大空小百合ちゃんが寅を見てすぐに
小百合「まあ!先生!車先生!」
車が急ブレーキをかけて止まる。
このように走っている車の中からも、
すぐに寅のことを思い出し「車先生!」と叫ぶ小百合ちゃん。
これこそが大空小百合ちゃんなのだ。第18作「純情詩集」もしかり。
第37作「幸福の青い鳥」では彼女は
寅のことをなかなか思い出せなかったが、
あれはあり得ませんよ、山田監督さん。
どんな時でも小百合ちゃんの記憶力は抜群で、
そしてなにより恩を忘れない人なのだから。
寅「よお!あんたたちかあ!ハハハ!」
座長「やあやあ車先生!これは異な所で」
寅「座長さん、その後みんな達者だったかね」
座長「はい、いつぞやの教えをかたく守りまして、
日夜芸道に精進いたしております」
第8作、第18作で座長と寅は一期一会の出会いをしている。
寅「そりゃよかった〜」
小百合「先生、これからどちらへ?」
寅「うん、町まで…」
メインテーマが流れ始める
寅「あ、そうかこれに乗せてってもらおうか」
小百合「どうぞぉ!」
座員「はい、お荷物を」
寅「ありがとう」
寅、車の荷台に「あいよ」と上がる。
座員「先生、
寅「ん」
座員「今夜お暇でしたら、私たちのお芝居を」
寅「そうよなあ、他にすることもないし、
じゃあ、今夜芝居でも楽しませてもらうか!」
小百合「わあー!嬉しい」
座長頭を下げる。
座長「娘、今夜は気の抜けない舞台だぞ」
小百合「分かってるわ、おとっつあん」
寅「まあ、硬いこと言わないで、軽く行こう軽く」
座員「運転手さんお願い」
一同ハハハ
メインテーマ最高に高まって
軽トラがまた動き出す。
小百合ちゃん、ピンクの日傘を外に向けて開き、
開いた後にそっと寅にさしてやる。
寅たちを乗せた軽四トラックは正月の青空の下、
田舎道を遠ざかっていく。
これは言うまでもなく
第8作「寅次郎恋歌」ラストからのアレンジだ。
あの美しい八ヶ岳が北に見え、
雄大な甲斐駒ケ岳が目の前にそびえる
風が強い日の小百合ちゃんと寅を思い出す。
→
→
この第20作のラストは、残念ながら
第8作のダイナミックな大団円からはほど遠いが、
誰もが味わうことが出来る手の届くささやかな幸せがある。
坂東鶴八郎一座との楽しい日々が今から待っていると思えば、
藤子さんにふられた恋の痛手も、師走の寂しさも和らぎ、
心はあの真っ青な空のように晴れ々するのである。
終
出演
渥美清 (車寅次郎)
倍賞千恵子 (諏訪さくら)
中村雅俊 (島田良介)
藤村志保 (島田藤子)
大竹しのぶ (福村幸子)
下絛正巳 (車竜造)
三崎千恵子 (車つね)
前田吟 (諏訪博)
中村はやと (諏訪満男)
太宰久雄 (タコ社長)
佐藤蛾次郎 (源公)
米倉斉加年 (巡査)
桜井センリ (神父)
石井均 (船長)
吉田義夫 (坂東鶴八郎一座座長)
岡本茉利 (大空小百合)
笠智衆 (御前様)
スタッフ
監督: 山田洋次
製作: 島津清
企画: 高島幸夫 、小林俊一
原作: 山田洋次
脚本: 山田洋次 朝間義隆
撮影: 高羽哲夫
美術: 出川三男
編集: 石井巌
録音 : 中村寛 松本隆司
照明: 青木好文
スクリプター: 長谷川宗平
音楽: 山本直純
助監督: 五十嵐敬司
製作進行 : 玉生久宗
制作補 : 峰順一
公開日 1977年(昭和52年)12月24日
上映時間 95分
動員数 188万1000人
配収 8億2000万円
これで第20作「寅次郎頑張れ!」は完結しました。
次回は第21作「寅次郎わが道をゆく」です。
渥美さんと武田鉄矢さんの掛け合いが絶妙です。
第21作の『前篇』アップは1月初旬頃になると思います。
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