バリ島.吉川孝昭のギャラリー内
第27作 男はつらいよ
1981年8月8日封切り
出逢ってしまった切なさと悲しみ ふみさんの涙のわけを辿る長い旅
浜田ふみ、ことふみさんは、車寅次郎と瀬戸内の小島で出会い、大阪で再会し、ふたりとも恋をし、そしてやぶれ…。
ふみさんは瀬戸内の小島で寅と話をしながら、とても優しい目をして寅を見つめる。ふみさんは寅の名を聞き、
寅も彼女の名を聞く。そしてそのあとふみさんが日傘を持ちながら寅を見送るシーンがあるが、ゆったりと長く、
どこまでも寅を見送っている。この長いシーンはとてもふたりの波長が合っているのである。あれは運命的な
出会いをした女性の輝きだったと私は思うのだ。
まるで網走の波止場での寅とリリーの出会いのようだった。多くを語らなくても分かり合えるものをお互いが持っている。
なにも大きなエピソードがなくても、ほとんど会っている時間が短くても、人は運命の出逢いをする。
この見事なフィット感は、リリー以外にはお千代さん、光枝さん、朋子さんくらいである。ぼたんの時とは若干ズレがある。
寅は初対面の日ぼたんには恋まで行かなかったが、ふみさんとはごく短い時間の中で男女の出会いになっている。
つまり、寅はリリー同様運命の出逢いをしてしまったのだ。
そしてこれまたリリーの時と同じで、だからと言ってベタベタその小島に滞在しないところがいつものよくある寅とは
違う『本物の恋』の証拠なのだ。
ここが普通の男女と真逆なところ。もう一度の運命のいたずら、運命の赤い糸に賭けるのだ。寅の『本気』というのは
やはりつくづく粋だと思った。
そして大阪で二人は再会し、いろいろな物語を育んでいく。そして例の如く寅は逃げる。
ふみさんは、いろいろあった後に寅に結婚のことを告げにとらやにやって来る。この状況は、第36作「柴又より愛をこめて」の
真知子さん、と少し似ている。真知子さんの場合は、寅への恋心はさほどない。しかし、ふみさんは前述のように、私的に言えば、
瀬戸内の小島の出会いで、もうすでに恋を予感しているのだ。そして大阪での物語の中でその恋は深くなっていった。
しかし、寅は例の如くふみさんからすごすご逃げていとらやに帰って来た。
もちろん、ふみさんも堅気ではないので、寅といわゆる所帯をもてるとはハナから思っていなかったであろう。
しかし人が人を好きになるということはそれとはまた別なことである。
それにしても、どうしてふみさんは、結婚の報告を寅にしたいと思ったのだろうか。ふみさんが寅のことを恩人、友人と、思って
いるのなら、当然遠い対馬に行ってしまうので挨拶や報告に来るであろう。しかし、ふみさんは寅のことが好きだったのだ。
だから、第36作の真知子さんとは状況や心理が違うのである。
それではなぜ…?
ふみさんは、自分の青春を賭けて、もう一度寅に会いに来たのではないだろうか。寅は自分のことを友人としか思っていない、と
彼女は勘違いしている。だから自分の心を封じ込めれば寅に会いにいけると思ったのではないだろうか。なんとしても今一度
会いたかった。しかし、実際は寅もふみさんに恋をしていたので、結果的に寅は深く傷ついてしまうのだった。
ふみさんはそのことには気づかないままとらやを後にする。
自分は、好きだった寅に、結婚の報告という隠れ蓑を使って最後の別れを言いに来たのだとしたら、それはあまりにも切ない。
そして、ラスト。
ふみさんは、この物語の最後に対馬まではるばる会いに来た寅を強く見つめ涙を見せる。
普通に考えると弟を一緒に親身になって探してくれ、励まし、寄り添ってくれた恩人の寅が遠くこんなところまで会いに
来てくれたことに対する感動の涙だと思うのだが、私には、上で長々述べてきたようにそれだけではないような気がして
いるのである。
やはり、ポイントは、意外に大阪での物語もさることながら、あの瀬戸内の小島でのささやかで短い出会いの時間にある。
あのほんの1時間ほどのなんの事件性もないただの静かな時間がとても意味を持っている。
男女がお互いを好きになるのに本来大きな事件や悲劇などのエピソードは要らない。
離れ離れになった弟を親身に探してくれたからといって心から深く感謝はしても人は人に恋はしない。
つまり、全ての物語が始まる前にふみさんは、あの瀬戸内の出逢いの時点で対馬での最後の涙の水脈をすでに
持ってしまっているような気がしてならない。
しかし、これはあくまでも私のカンであって、なんの確証もない。まあ、それほどにも私には、あの瀬戸内での最後の
ふたりの会話と表情が素敵で爽やかだったのだ。
あの時のふみさんの目は運命の恋にたった今出逢った女性の目だった。
だからこそ、ラストであの一途な目で寅を見つめ涙を流すのである。
ほとばしる大阪芸人たちのバイタリティ
この作品は二人の恋物語の背後で大阪の芸人さんがしっかり、強烈なアクを出し、この作品独特の空気を作り
出している。笑福亭松鶴師匠と初音礼子さんのやり取り、芦屋雁之助さんと初音礼子さんのやり取りは、
大阪そのものであり、よくぞここまでベタベタに大阪を演出してくださったと驚いている。当時の新世界や
じゃんじゃん横丁のあたりにはあのような遊び人たちが生息し、闊歩していたのだ。もっとアクを出してくれても
よかったのに…。あ、それじゃ寅さんじゃなくなっちゃうか(^^;)
吉岡秀隆君登場!
それと、この作品から吉岡秀隆君が初登場する!なんて自然な演技。あれはいわゆる子役の演技ではない。完全に
俳優の演技だった。『CALLING』と言う英語があるが、渥美さんや倍賞さんはもちろんだが、この小さな少年の演技
にも私は彼の『天職』は俳優なのだと感じてしまった。「遥かなる山の呼び声」の武志君は、まぐれではなかったのだ!
また、それ以外では、ふみさんの弟の彼女を演じたマキノ佐代子さんの初々しい演技も印象深い。
彼女はこの後第31作から『工場のゆかりちゃん』としてレギュラー出演する
また、柴又へ舞い戻ってきた寅の変貌ととらやの面々の大阪弁ギャグはみのがしてはならないだろう
私自身が幼稚園から高校まで生駒山の見える大阪市鶴見区で暮らしたこともあって、この作品の空気は妙に懐かしく
いとおしく、あの暑い夏の日差しの中、何度も映画館で観た記憶がある。当時、下宿していた東京豊島区千早町の
銭湯に貼ってあったポスターの、ふみさんの透き通るような美しい横顔のアップが、1981年当時まだ20歳になったか
ならないかの学生だった私にはあまりにも眩しかったことを今も覚えている。
■第27作「浪花の恋の寅次郎」全ロケ地解明
全国寅さんロケ地:作品別に整理
松竹富士山
今回も夢から
竜宮城 水槽丸出し(^^;)
熱帯魚が泳いでいる。
浦島太郎のハミングが聴こえてくる。
寅のナレーション
「昔々、浦島寅次郎は、助けた亀に連れられて竜宮城を訪れ、
夢のように楽しい日々を過ごしたのでありました」
SKDの皆様ごくろうさまです(^^)
タコ社長がタコのぬいぐるみをかぶっている。
そのまんまギャグ(^^;)
源ちゃん亀もいる。
彼が浦島寅次郎に陸で助けられたのだろう。
寅「楽しさのあまり、思わぬ長居をいたしました。
故郷葛飾柴又村では、わたくしの肉親が
帰りを待って案じております。
乙姫様、これでおいとまいたします」
乙姫様「どうしても、行っておしまいになるの?」
マドンナが夢に出演!
28作、33作などもマドンナが夢に登場。
タコも泣いている。(^^;)
太宰さんご苦労様です(TT)
寅「別れの悲しみは私とて同じこと」
乙姫様「初めてお会いしたその日から
いつかその日が来るのを覚悟しておりました。
もはや、お引止めはいたしません。
これ、亀吉」
源ちゃん亀「へい」
乙姫様「あれを…」
源ちゃん亀「へい」
乙姫様「思い出のよすがに玉手箱を…」
柴又村 海岸
寅のナレーション
「乙姫様に玉手箱をいただいた浦島寅次郎は、
再び亀の背に乗って故郷に
帰ってまいりましたが…」
「なんと驚いたことに、あの懐かしい柴又村は
跡形もなく荒れ果てた野原があるのみでした」
一軒の貧しい民家を見つけ、
寅「ものをお尋ねいたします。
このあたりにとらやという団子屋は
ありませんでしたでしょうか」
さくらの孫「寅の方を振り向く。」
寅「さくら…」
駆け寄って
寅「さくら!オレだよ!」
さくらの孫「「あなたはどなたですか?」
寅「なにを言ってんだ、おまえの兄さんだよ!」
さくらの孫「「いいえ、私には兄なんかおりませんけど」
夫「誰だ?この男は?」
さくらの孫「「私のあんちゃんだって言うのよ」
夫「頭おかしいんじゃねえか?」
源ちゃん亀、干した魚介類を食べている。
演出が細かい!(^^;)
寅「博!博だろ?オレだ、寅次郎だよ」
さくらの孫「「そういえば…、おばあちゃんのお兄さんに
そんな名前の人がいたわ…」
寅「その寅次郎はオレだよ!」
夫「バカこくでねえ!その人だったら
50年前に神隠しにあっただ、
今生きてたら80の老人だべ。
こたら奴にかかずりあってねえで
さ、めしだめしだ!」
戸をバシッ!と閉めてしまう。
尺八の哀しい音色が流れる。
寅のナレーション
「竜宮城で過ごした、夢のような数日が
実は十数年の長い年月であった
浦島寅次郎は、悲しみのあまり、
さめざめと泣くのでありました」
おいおい50年前だから『十数年』じゃなくて
『数十年』だろうが??
カラス カアーカアー
寅「乙姫様…、私は心の底より
あなたのことをお慕い申しておりました」
寅、手に持っている玉手箱を見て
寅「あ、そうだ…、この玉手箱には、
いったい何が入っているのだ?」
寅次郎、紐を解いてフタを開ける。
ピョ、ヨヨ〜〜〜ン!
白い煙がモアモアモア。。。。と立ち昇る。
寅「ややああ…」
一緒に横にいた源ちゃん亀、煙をかぶって
源ちゃん亀「ゴッホゴホゴホッホ…」
源ちゃん亀、手で煙を扇ぐ。
頭もアゴ髭も真っ白になり、老亀に変わってしまう。
ビビッテ寅を睨む源ちゃん亀。
源ちゃん亀「あれ…??ウエエエエエ」
おっと、意外な展開!!(( ̄ ̄0 ̄ ̄;))
!!!!!
寅「あああ!…」
源ちゃん亀「助けてくれえ…、
お前の代わりに
オジンなってしもたんじゃああ、
助けてくれ…タスケ…」
鬼気迫る顔。演技とは思えないリアリティ
蛾次郎さん…、凄すぎ…(_ _;)
長崎県 対馬 和多都美(わだつみ)神社 (海神神社)
長崎県対馬市豊玉町
対馬の豊玉姫命(とよたまひめのみこと)を
奉っている海神神社(わだつみじんじゃ)
ベンチでうなされている寅。
寅「ウ…、ウァ…」
寅がなぜかいきなりすでに遥か海の向こう
対馬にいる!?
まだオープニングだぞぉ!
いきなりラストの場所になるなよぉ…。
起きる寅
寅「あー、…夢か…はあ…」
海辺で子供たちが亀で遊んでいる。
寅「こら!坊主!駄目だよそんな、弱いもの
いじめしちゃあ、そんな、可哀相に
まだ子供の亀じゃないか」
子供「オレんとばや!」対馬弁ですね(^^)
と、子供が寅から亀を奪い取る。
寅「オレんとばや?よし、じゃ、おっちゃんが
その亀買ってやる。な、どうだ、これ、銭やる」
子供、寅から渡されたお札を見ている。
寅「ほう、っとっとととー、ととととととーっ、ととととととーっ」
鳩か(^^;)
寅「いいかおまえ、もう、二度とこの人間の住む
ところへなんか帰ってくるんじゃないぞ、ほら、よし、はい」
亀、指を噛む。
寅「あいたたた!あいっ!
噛み付きやがったこの恩知らず!
あいたあ!あいたたあ!あいたあ!チキショウ!」
乙姫様との出会いを狙ったのだろうが
現実は厳しいねえ寅(^^;)
なんとかふり解いて亀を飛ばす寅でした。
タイトル
いつもより少しゆっくりめの音楽
男(赤)はつらいよ(黄)浪花の寅次郎(白)映倫110451
口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。
♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前の喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪
♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
目方で男が売れるなら こんな苦労も
こんな苦労もかけまいに かけまいに♪
江戸川土手を歩く寅。
サイクリングの3人連れのコント。
ちょっとした誤解から三角関係になってしまい、
失恋した方の男が自転車で江戸川に自ら突っ込み、
あとの二人の男女も助けようとして3人とも川に落ちる。
寅はそれを見ながらなにか叫んでいる。
題経寺 山門
スズキのスクーターが止まっている。
荷台に買い物かごとマスカット色のヘルメット。
源ちゃん「バイクや…」
源ちゃん、スクーターに興味持っていじりまくっている。
ブレーキ。
クラクション『プッ!』
プレート『葛飾区 あ.4493』
境内でさくら御前様に挨拶して別れる。
さくら「こんにちは」
と言いながら玄海ツツジとお重の空を前のカゴに入れる。
源ちゃん「これ、買うたん?」
さくら「うん、ウチが遠くなったからねえ」
と、さくらノーヘルメット!でエンジンかけて参道を走っていった。
家からとらやまでヘルメット被らないつもりか!?
青山巡査に止められるぞ!注意一秒怪我一生。
源ちゃん「えーなあー…」
マジで源ちゃん羨ましそう…。
もう乗りたくてしょうがないって顔(^^;)
とらや 店
客「おいくらですか?」
おばちゃん「はい、1600円になります。」
客「はい、どうも〜ごちそうさまでした」
おいちゃん「ありがとうございました」
おばちゃん「ありがとうございました」
さくら、バイクを停めて、
さくら「おばちゃん、お寺からお重もらってきた」
おばちゃん「ああ、ご苦労さん」
さくら「これね、御前様が仏様にあげて下さいって。
玄海ツツジだって」
玄海つつじ
落葉樹で樹高1〜2mつつじの中で最も早く咲き、花が大きく、
葉は割りと少なめ。 花期は3月下旬から4月初め迄。
北九州地方で多く見られる。
今回のロケ地対馬のシンボルが『玄海つつじ』だということ。
現在対馬市の市の花にも指定されている。
おばちゃん「ああ〜…いい色だねえ、もうツツジの季節かねえ」
さくら「早いものねえ、ついこないださくらが散ったと思ったのに」
おばちゃん「ほら、社長、きれいでしょう」
社長「春も秋もねえよこっちは、へえぇ…」
さくら「どうかしたの、社長さん」
おいちゃん「だいぶ深刻らしいんだよ工場の経営が」
社長「とうとう来るものが来たって感じだよ、さくらさん」
おいちゃん「もう工場閉鎖しちゃおうなんて言い出すから
そんな弱気出すな!って今叱ってた
とこなんだよ」
おばちゃん「博さんから何も聞いてないかい?」
さくら「なんにも、…そんな深刻なの?」
社長「博さんは大丈夫だよ、オレの工場潰れたって、
引く手あまただから、よそ行った方が
月給高くなるんじゃないか?アハ!アハハ…ハ」
そんなことは第1作からわかっているよ社長 ┐(-。ー;)┌
さくら「嫌なこと言わないでよ、しっかりして社長さん」
おばちゃん「あんたの肩にはね、大勢の従業員と、
その家族たちの生活がかかってるんだよ」
おいちゃん「そうだぞ、え〜、」
社長「ありがとう!ありがとう、ありがとう、ありがとッ・・・!
ッツ〜ゥ・・・。ま、ひとガンバリしてくるよ・・・一件あてに
している所が有るから、あそこいきゃあなんとか」
おいちゃん「頑張れよ、え」
芸者たちのはしゃぎ声が聞こえる。
「アハハハ、あこが駅だからこう行って渡った所
がほら、今ここでしょ」
おばちゃん「芸者だね」
社長「うん、久しく縁がねえなァ・・・」あってどうする(−−;)
芸者A「ちょっとあのいい男に聞いてみるよ、チョイト、兄さん!」
寅の声「アイよ!なんだい姐さん!」
芸者A「ちょっと」
芸者B「川千家さんて知らない?」
すぐ斜め向こうだよ。
寅「ああ、知ってるよ、
この道真っ直ぐ行って、それ左側だい」
芸者だち「ああ!やっぱりね、ありがとう〜〜!」
寅「遠出の宴会かい?今夜は外はさぞかし
賑やかだろうなァ、まあ、お稼ぎなさい、
アハハ、アハ、
ン…しばらくだな」
さくら「お帰りなさいお兄ちゃん」
寅「おう、おいちゃん、おばちゃん、達者か?」
おばちゃん「お前も元気だったかい?」
寅「うん、元気だったよ、よッ、社長、いたか」
社長「おかえり」
寅、クスクス笑いながら、社長を手招き。
社長「なんだよ、なにが可笑しいんだよ」
寅「オレなあ、こないだおまえの夢見たよ」
社長「へえ〜、たまにはオレのこと思い出して
くれんのかい?」
寅「オレがな、竜宮城にいったんだ」
社長「へえ〜」
寅「きれいな乙姫様がいてなあ」
社長「ほう」
寅「鯛や平目がヒラヒラ踊ってんだよ、
こんな立派なご馳走だ!」
社長「ほお!」
寅「おー、そしたらね、そこにタコがいるの。なぜか!
社長、お前なんだよそのタコが。
オレビックリしちゃってさあ
あれえ!社長何でこんな所にいるんだよ、
お前、裏の工場潰れちゃったのかって
オレそういったらさ、いや、お前がさ、
その目から涙ポロポロこぼしてねえオレに
真っ黒なスミをブァッと吹っかけやがんじゃないの、
オレ目ぇさましてもさ、おかしくっておかしくっていつまでも
一人で笑ってたよ、うん。
お前本当に裏の工場潰れちゃったんじゃないのか、
おい。え?」
社長、かなりムカついて、
社長「はあ、やだやだ、どけえ!」と寅を押す。
寅「何しやがんだこのタコ!」
と、寅は社長を突き飛ばす。
社長、花売り行商のおばさんにぶち当たって戻ってくる。
社長「オレの苦労も知らないで!」
さくら「あ!社長さんごめんなさい」
寅「なんだ、こいつ、陽気の加減で頭具合おかしく
なったんじゃねえのか?ねえ!」
さくら「違うのよお兄ちゃん、ここんところね、
工場の経営が苦しくて、社長さん辛いのよ」
社長「こっちはな、毎晩首くくる夢見てんだぞ!
それをなんだ!竜宮城で乙姫様にあった夢なんか
見やがって!」
毎晩首くくってちゃ、いくら夢でも大変だぞ、凄い夢の連続だ(^^;)
おばちゃん「そうだよ」
寅「おや?妙な事を言うじゃねえか、
誰が竜宮城の夢なんか見たいんだよ、
オレがウトウトっとしたら向こうから
勝手にパッと映ったんじゃねえか
オレのせいじゃねえや!
何だこの野郎墨汁なんかプーっと吹きやがって」
社長「あ〜、ヤダヤダ!!」
おばちゃん「およしよ、もお〜昼日中からなんだい
大の大人がみっともない!」
おいちゃん「社長、機嫌直して金策へ行ってこいよ、え?」
おばちゃん「なんだねえ、鼻水が出てるよ、」
さくら「え?あ、はいハンカチ」と、さくらのハンカチを貸す。優しいね(^^)
おばちゃん「気をつけてね」
さくら「ごめんなさいね社長さん」
おいちゃん「ったくもう」
寅「なんだい、人がせっかく帰ってきたって
言うのによくそ面白くもねえ、ほれ」とお土産を渡す。
さくら「上に上がってお茶でも飲む?それとも
二階で一休みする?」
寅、ちょっと、社長のことが気になって、考えている。
社長がトボトボ参道を歩いていく。背中が哀しい…。
社長、いつものバイクどうした!?
経営難で売ったのか??
あ…あれじゃ売ってもただ同然か…(--;)
要するに遠出の時は使わないのね(^^;)ゞ
なぜか歩きの社長でした。
夕方 源ちゃんが鐘を撞いている。 ゴォ〜ン…
工場 夕方
博「どうした?社長見つかったか?」
中村君「協和印刷にも来てねえってよお〜、向こうのおやっさんも心配してくれて
二、三あたってくれたんだけどさあ」
博「そうか、おかしいなあ…。
まあいいや。今日はおしまい!」
博「あ、お疲れさ〜ん」
工員たち「お疲れ〜」
とらや 二階
寅が、ねっころがっている。
下でさくらの声が聞こえる。
さくら「どうした?社長さん帰ってきた?」
博「いや、まだ」
さくら「まだあ?」
寅、それを聞いて、むくっと起きる。
さくら「どうしたんだろ?」
とらや 茶の間
博「こころ当たりはだいたい電話したんだけれど、
どこにもいないんだよ」
おいちゃん伝票整理しながら
おいちゃん「どっかでビールでも飲んでるんじゃないのかァ」
博、茶の間に上がって、
博「社長の行く飲み屋なんて数が
知れてますからねえ、あたってみたんだけど…」
おばちゃん「うちを出たのは2時ごろだったっけ?」
おいちゃん「今何時だ?」
一同時計を見る。
さくら「そんなに深刻なの?近頃」
博「こないだ、不渡り手形をつかまされて…、
ま、額はたいしたことないんだけど、
だいぶ参ってたんだァ…」
不渡り手形つかまされると、
人間不信にもなるから2重のダメージなんだよなあ(−−;)
さくら「…」
おばちゃん「その矢先に、寅ちゃんにあんなこと
言われたんじゃ、涙もこぼしたくなるよね、
可哀相に」
博「何て言ったんですか?兄さん」
おばちゃん「竜宮城の乙姫様に会いに行ったら、
社長とおんなじ顔したタコが
踊りを踊ってる夢を見たんだって」
博「ふー、困ったもんだなあ」
まあ、夢ですからねえ(^^;)
おいちゃん「たったひとつの言葉が、人間を死に追いやる
ことだってあるんだからなあ」
おいちゃん、階段の方を見て驚く。
寅が薄暗〜い階段の下で、どよんと立っている。
おいちゃん「あれ、寅、おまえ、そこにいたのかあ…」
救急車の音が鳴り響く。
凄いタイミングで救急車の音(^^;)
第22作「噂の寅次郎」も前半は同じ社長の金策話題、
同じギャグ、同じ効果音だ。お暇な方は比べてください。
博「あ、おかえりなさい」
寅「警察届けたか!?」
おいちゃんたち苦笑してしまう。
おばちゃん「さあ、ごはんにしよ」
寅、真顔で、パーっと店先へ走っていく。
さくら「お兄ちゃん?どこ行くの?ごはんよ」
寅、戻ってきて、
寅「えー!?、おまえたちはよくそうやって
メシなんか食ってられるな、おい。
今頃社長は…、」
列車の警笛 ピ〜〜〜〜!!
寅「そうだ、江戸川だ!」
と、走っていく。
寅の声が遠くで聞こえる
寅「源公!提灯もってこい!提灯!」
さくら、心配そうに寅を見送る。
夕闇迫る 江戸川土手 矢切の渡し付近
パトカーの音 ウ〜〜〜ウ、ウ〜〜〜
またそんな効果音を…(^^;)
寅と源ちゃん、提灯かざしながら
寅「社長はやまるなよ!」
源ちゃん「社長さん!」
寅「社長ー!、あ、源公おまえな、矢切の渡しで
向こう岸渡り、対岸をずっと下って、東京湾で
落ち合おう!早く行け!」
源ちゃん「へい!」
犬の鳴き声。
2人走って行く。
おいおい、この時刻、『矢切の渡し』はもうやってないって(^^;)
寅「社長〜!社長〜!」
とらや 茶の間
満男がおいちゃんの腰揉んでいる。
吉岡秀隆君初登場!
柱時計が鳴っている。
おいちゃん「満男」
満男「ん?」
おいちゃん「何時だ?」
満男、上を見て
満男「11時」
おばちゃん、ぼそっと
おばちゃん「どうしたんだろ…」
さくら、編み物をしている。
遠くで、博の声
博「はい、分かりました」
博、とらやに入ってきて、
博「帰ってきました、社長」
さくら「何してたって?」
博「なんか浦安の友達とこ行ったら、
先払いでいい仕事くれたんで、
ほっとして、その人と一緒に
酒飲んでいたらしいですよ」
おいちゃん「なああんだー」
満男も安心して、布団にゴロゴロ転がる。
この演出いいねえ。満男の『なーんだ』という気持ちがよく出ていた。
おばちゃん「いやーねー」
さくら「お酒飲んでただって」
と言いながら、毛糸を巻いている。
博「今もみんなでとっちめたところさあ」
博「あ、来た来た」
社長、頭をかきながら、スゴスゴ入ってくる。
社長「はあー、申し訳ない。
心配かけちゃったんだってな。この通り」
さくら「どーして電話しないのー?」
社長「分かってる分かってる。
いや、オレもさ、金の見通しがついたら、
ホッとしちゃってさ、つい、久ぶりに酒を、フフフ」
おいちゃん「バカヤロ!おまえが酒くらってる間に、
こっちはおまえの葬式の
心配までしてたんだぞぉー!」
社長「へ?」
おばちゃん「そーだよ」
博「社長は太ってるから、棺桶も
並みじゃ駄目だろうなんてね」
凄いギャグ言うなあ博も(^^;)
この博のギャグも第22作で寅が葬式の
シュミレーションで使ったもの。
社長「ほんとか、おい」
さくら、笑いながら
さくら「うそよ、そんなこと言わないわよ」
社長「脅かすなよ、ハハハ」
一同 笑う
社長、汗を拭きながら
社長「ほんとに、申し訳なかった、どうも」
社長、さくらから借りたハンカチだと気づいて、ハンカチを眺めている。
社長「借りたハンカチだ…」
激しく店の戸を開ける音
寅の声
寅「おい!さくら!」
さくら「あ、お兄ちゃん今頃帰ってきた」
寅と源ちゃん題経寺の提灯持って
ヘトヘトで、半分倒れそうになりながら
寅「社長から連絡あったか!?」
と台所に入ってくる。
横に立っている社長に気づかず、
寅「なんだよ、みんなあ、よくこん…なことして
落ち着いてられるなあ、おい、ったくう
これ、とんでもないことだぞ!ほんとに!」
源ちゃん店からそっと社長を見ている。
博、源ちゃんに帰っていいよと合図。
くるっと横を向いて
寅「社長、しかるべきところにちゃんと手を打って、…。
??どうしてこんなところに
社長がいるか?おかしいじゃねえか。
そういうこと、おかしいって、みんな…」
寅、あっけに取られながら、社長の顔をまじまじ眺めて
寅「ん…、ここにいるのぉ?」
社長「いますよぉ」
寅「はあ〜…、おまえ生きてたのか、おい」
と疲れ果ててへなへな座り込む。
社長「生きてますよぉ、冗談じゃねえよ、
そう簡単に死にやしねえよ、このオレや」
おいちゃん「なに、えらっそうに、フフフ」
さくら、寅に近づいて
さくら「お金の目安がついたからね、
一安心してお酒飲んでたんだって」
おばちゃん「電話もしないで」
社長「友達が誘ってくれたんだよ、
くよくよしないで酒でも飲もうって」
社長、含み笑いして
社長「ふ…、それがな、寅さん、気分のいいバーでな、
オレ、もてちゃった、フフヘヘへ」
寅、いきなりタコ社長の鼻に
手の平をこすり付けてグリグリする。
社長「あいた、あいたた、いててててえ!!」
さくら「お兄ちゃん、やめて!」
博「兄さん!やめてくださいよ」
と止めにはいる。
寅「なんだこのやろ!酒なんか飲みやがって!」
社長「オレが酒飲んで悪いか!?」
寅「あたりめえだ!てめえら江戸川の水でも飲んでろ!」
社長「なんだと!クッ!!」
っと寅に掴みかかる社長。
一同 「あああ!」
さくら「お兄ちゃん!」
博「待ってください!」
博、止めながら
博「兄さん、今の言い方ちょっとひどいですよ」
さくら「そうよ、無事で帰ってきたんだから、
『社長よかったな、心配してたんだぞ』
ってどうして素直に言ってあげられないの」
寅「…」
寅、上がり口に座って
寅「そうかいそうかい、オレが悪かったよ、
オレや早とちりでおっちょこちょいだからな…、
オレはてっきり、社長は、江戸川に身を投げて、
土座衛門になったもんだと思ってな、
あの江戸川をどんどんどんどん月明かりを
たよりに下っていったんだい、篠崎水門まで行くと、
社長、おまえとおんなじ姿の白いもんが
ポッカリ浮かんでるんだ」
社長「え?」
寅「オラ、竹竿でもってな、つっついてみたんだ」
と、竹竿で突っつく仕草。
寅「そしたらおめえ、
腹にガスの溜まった子豚の死骸だったの」
一同 聞き入っている。
寅「それから今井押切、どんどん下がって江戸川大橋だ」
列車の警笛 ピ〜〜〜ッ!
寅「あそこまで行くと、川幅がグーっと広くなるんだ。
向こう岸の浦安の灯が心細く
チラホラチラホラ見えるんだ…。
暗ーい川の面を見ていると、
『そうだ、この底の方で今頃社長は…、
ポッ!ポッ!…
ボラの餌になってるのかなあと思うと、
なんだかオレは悲しい気持ちになってなあ。
『社長ー!社長さあああん!』
しゃちょうさあああん!
グスン、お前の名前を呼んでるうちに涙が
ポロポロポロポロとこぼれてきてなあ…、グスン…。
『そうだ!オレの言葉のせいで社長は死んだんだ!』」
寅、くるっと逆向いて、手を合わせて、
寅「『だったらオレも死のう!南無阿弥陀仏、
寅、題経寺の檀家だから『南無妙法蓮華経』だろ(^^;)
江戸川へ身を投げようとする
このオレを、源公が袖をつかまえて、
『兄貴!早まっちゃいけねえ!』
『いいからてめえ離せ!』
『早まっちゃいけねえ!』
『いいからてめえ離せ!』
『くっくっくくくくくく……』」
くくくくく…
おばちゃん、身を乗り出して
おばちゃん「それでどうなった!?」
おいおい講談じゃないんだから ヾ(ーー )
倍賞さんスゲーアップ
寅「ドボーン!とそのままオレゃな、……」
寅、我に帰って、
寅「んっは…、そうなったらオレはここにいねえんだな」
おばちゃん「ほんとだ、はあー、よかった…」ととりあえず安心(^^;)
メインテーマがゆっくり流れる。
寅「ほんとに、無事でよかった…」
と、2階にゆっくり上がっていく。
寅「はああ…はああ…」
博、しばらく2階を見たあと、
博「さてと、さくら、俺たちは帰ろうか」
さくら「うん、お兄ちゃんお腹空いてると思うから
何か食べさせてあげて」
おばちゃん「あ、あいよ」
社長「迷惑かけちゃったなあ今日は。
いや、オレが飲みたいって
言ったんじゃないんだよ、友達がさそってさ」
おいちゃん「分かった分かったくどいよお前は」
この一連の騒動は先ほども書いたように
第22作「噂の寅次郎」の社長の酒飲み騒動を
かなり再現、もしくは模写したと言ってもいいだろう。
結構物語の運びが似ている。お暇な時に
両方をじっくり比べて見てください(^^)
篠崎水門(江戸川水門)
は江戸川大橋のそのすぐ下流、『旧江戸川』の入り口付近。
押切 今井橋あたりは確かその『旧江戸川』沿い。
そっちの川の方もちょっと先の今井橋の辺りまで探したんだね。
江戸川大橋はまた本流に戻ってさっきの篠崎水門の近く、
江戸川に架かる大きな橋。
だから、ちょっと寅の言う順序はおかしいが、
まああの辺り一体を闇雲に行ったり来たりして探したってことだな。
【篠崎水門】
俗に「篠崎水門」とよばれているが、
正式には「江戸川水門」または「江戸川閘門」
なお「篠崎水門の桜」として知られる桜樹が数多くあって、
4月上旬は花見客で賑わう桜の名所でもある。
次の日 さくらの家の前
近所の人A「おはようございます」
近所の人B「はい、いってらっしゃい」
玄関のドアの上
諏訪 博
さくら
満男
の表札
家の中のダイニング
電話のベルが鳴る。
さくらが満男に給食の封筒を渡す。
満男朝食を取っている。
食パン レタスのサラダ 牛乳
レギュラーコーヒー!
さくら「あ、おばちゃん?お早う
え?お兄ちゃん出て行っちゃった? いつ?」
とらや 電話口
おばちゃん「今朝早くご飯ぐらい食べて行ったらって
言ったんだけどね、汽車の時間が
あるからなんて言って。
でねえ、別れ際にこんな事言うんだよ
『社長は幸せだよ〜』なんて
私がどうしてって聞いたらね、
『心配してくれる人が大勢いるからなあ』だって」
さくらの家
さくら「あ…そお。そんなこと言ってた。」
おばちゃんの声「うん、考えてみたらねえ、
寅ちゃんが旅先で行方不明になったって
誰も心配してくれる人なんかいないもんねえ
それを思ったらなんだか哀れになっちゃってねえ…。
あ、はいはい、お客さんだから、また後でね」
さくら「うん」
満男、忙しく階段を下りてくる。
満男「いってきま〜す!」
さくら、給食費に気づいて
さくら「満男、ほら、給食費!」
満男「あ、そうだ。 いってきま〜す」
さくら「はい、はい。」
この翌朝のふたりの電話のシーンもやはり
第22作のアレンジ版だ。
第22作では寅は布団をきちんとたたんで
『書き置き』をして出て行った。
瀬戸内海
寅が小さな連絡船に乗っている。
広島県 大崎下島 豊町 大長
遠くから寅の啖呵バイの声が聞こえる
『アッパッパ』を売っている
寅「なけなしの涙で投げ出した品物だよ、全部、ね!」
近所のおばちゃんたち
おばちゃんA「安いものね」
寅「心斎橋から天王寺の一流のデパートで
紅白粉をつけたおねえちゃんに
ください、ちょうだいでお願いしたらこれ、
2千が3千下らない品物だよ
だけど、そう言う事情だから、
今日はそれだけ下さいとは申しません!
ね!浅野匠頭けど、腹切ったつもりだ!
もうヤケクソ!ヤケのヤンパチ日焼けのナスビ、
色が黒くて食いつきたいが、あたしゃ入歯で
よう歯が立たんちゅう奴だよこれ!ね!
さあどうだ、さあ、どうだ見てみてよ一度、
ね、はいはい、はい、ほら、どうだ、
アハハ、ほらほら、あらって」
おばさんたち、ゲラゲラ笑っている。
どこからこれだけの服(昔こういう服をアッパッパと言ったらしい)を
持って来たんだろう??
アッパッパ
夏に婦人が着るゆったりとした簡単ワンピース。関西地方で言い始めた俗語。
「簡易 服」や「清涼服」などとも呼ばれた。値段が安く、気軽にどこにでも
着ていけるのがう け、たちまち全国に普及した。戦中からすでに流行。
服装はいわゆる「ムームー」とほぼ同じ。
語源は「UP A PARTS」。
車の持ち主「おじさん、はずしてや」
車にひもが掛かってる(^^;)
寅「え?あ、すまねえ、すまねえ、
ちょ、ちょっと、ちょっと待ってなちょっと、な、はずすから
あ〜よいしょ、はい、どうも、あ、わるいね、
母さんちょっと向こうまとめてくれねえか、それうん」
おばちゃんたち「あ、はいはい」
寅「お、下にひきずんなよ」
おばちゃんたち「はいはい」
寅「ひきずんなよ!」
大具放見青果株式会社
TEL2006 2251 大具放見青果株式会社 2006 2251
↑この数字は住所。
豊浜町・小野浦
寅が見晴らしのいいところでアンパン食べている。
雪印牛乳も飲んでいる。
この場面、映画『故郷』の松下さん思い出した。
あの時、松下さんも、一人で海の見える丘で
パンを食べて『浜千鳥』を歌いだすのだ…。
小学校の校庭で野球をしている。
寅がその野球の様子を見ている。
牛乳のビンにSNOWと印刷してある。
牛乳を飲む。
ふみがお墓への階段を登っているのを発見する寅。
目がいきなりハート気味な寅(^^;)
寅、会釈。
ふみも軽く会釈。
あまりの美しさに寅、つまづきそうになる。
思わずお地蔵さんに手をかける。
汽笛ボ〜〜
ふみ、お墓の前で菊の花を挿して、線香を焚く。
余った線香とマッチを墓石から取る。
寅「お身内の方ですか」
ふみ「はい」
寅「旅のものですが、通りすがったのも
何かのご縁、お線香の
一本でも上げさせてくれますか」
ふみ「はい、ありがとうございます」
寅「南無阿弥陀仏…
こんなお美しいおかみさんを残して、
先立たれたご主人は、さぞかしお心残り
だったでしょうねえ…お気の毒です」
すげえ、決め付け(^^;)宗派も決めつけ(^^;)
ふみ「ふふ、」
寅「え?何か?」
ふみ「うち、主人はいません、
これはね、おばあちゃん」
寅「あ、おばあちゃん!…おばあちゃん、南無阿弥陀仏…」
ふみ「ふ、ウフフ・・・」
野球をしている少年たちの横を通る。
ふみ「両親とは訳があって小さいときに分かれたんです。
だからウチはおばあちゃんに育てられたの」
寅「へえ〜じゃあ、あんたそのおばあちゃんと
一緒に暮らしていたのか」
ふみ「ううん、ウチは大阪で働いてるの、
だからおばあちゃんに何べんも大阪で
一緒に暮らそうってゆうたんだけど、
どうしてもこの島を離れるのは嫌だゆうて、」
松阪慶子さん、大阪弁ちょっと苦手そう(^^;)
寅「そうだろうなあ年寄りにとっちゃ
自分の生まれ育ったところが
一番いいんだろうな、この島いいところだしね」
ふみ「ああ、おばあちゃん」と上がってくるおばあちゃんに挨拶。
おばあちゃん「こないだはお帰りになりまして」
ふみ「どうも有り難う、お体悪いのに」
細い坂を下りながら
寅「大阪で何やってんの?工場勤めだろ。」
ふみ「ううん」
寅「うそだい…じゃあOL」
この時にはさすがにもう第1作のように
BG(ビジネスガール)とは言わないようだ。
寅「え?あ!郵便局、郵便局勤めてる…」
照れて首を振るふみ。
豊浜 船着場
船のそばで、ふたりたたずみながら
寅「当分はまだこの島にいるかい?」
ふみ「おってもしょうがないよ、初七日もすんだし、
2、3日うちにはまた大阪にもどんなきゃ」
寅「大阪に戻るか…」
ふみ「お兄さんこれからどうするの?」
寅「う〜ん?へへっ、風の吹くまま気の向くままよ!」
ふみ「自由でいいねえ、魚みたいに…」
と、水面を泳ぐ魚を見るふみ。
船長「船出しますよ」
寅「おう、」
寅「じゃあな」
と背中を向けて去っていく寅。
ふみ「お兄さん、」
と駆け寄るふみ。
寅「え?」
ふみ「名前なんて言うの?」
寅「あ、そうそう、オレな、
東京は葛飾柴又の
車寅次郎って言うんだ。
人は寅と呼ぶよ」
ふみ「寅さんね」
寅「そう、えへへへ、
…娘さん、
あんたの名前なんて言うんだい?」
ふみのテーマがギター演奏で美しく流れる。
ふみ「浜田ふみ」
寅、口の中でそっと「ふみ」と言ってみて…
寅「おお、じゃ、おふみさんか」
ふみ「フフ…」
寅「ああ…」と納得。
寅、うんうんと頷いて、
寅「じゃぁな」
寅を見つめるふみ。
光がまぶしい…
寅「幸せにやれよ、なッ」
一見普通の会話だが、この一連の船着場での
やり取りは、普通の娘さんじゃ絶対できない粋な会話だ。
船がゆっくり離れていく。
ふみのテーマが流れ続ける。
寅は何度か手を振るが、
ふみさんは微笑んで寅を見つめながら歩くだけで
なかなか手は振らない。
この胆の据わりかたはただ者じゃない。
震えがくるほど素敵だ。
このシーンでふみさんがただの娘さんじゃないことが分かる。
静かだが、凄い演出だ。私はこの演出に心底感動した。
見事な玄人どうしの粋な別れのシーンだ。
そして、しだいに姿が遠ざかり
寅が3度目の手を振ったのに
に応えて、ふみも日傘を振りだす。
そして今度はふみが日傘をずっと振り続ける。
今度はそれに小さく手を振り、応える寅。
そうやって、その姿が小さくなっても
二人とも手を振り続けるのだった。
一期一会と言う言葉があるが、この港での
短い会話と別れのシーンは、一見何ごとも
ないように見えるが、正に一期一会のしなやかな
カッコいい粋なやり取りだった。
私はこの時のふみさんがとても好きだ。
ただ清楚で美しいだけでなく、やはりどこか人生の
修羅場をくぐって来た落ち着きと貫禄が漂っているのだ。
大阪市 浪速区
通天閣そば 新世界
賑わう通天閣南本通り入り口付近
ずぼらや本店前
恵美須東3丁目の路地
喜助「ふあ〜…」
都はるみの『大阪しぐれ』が流れている。
大阪しぐれ 都はるみ
昭和55年
吉岡 治 作詞
市川昭介 作曲
ひとりで 生きてくなんて
できないと
泣いてすがれば ネオンが
ネオンがしみる
北の新地は おもいでばかり
雨もよう
夢も濡れます ああ大阪しぐれ
ひとつや ふたつじゃないの
ふるきずは
噂 並木の 堂島
堂島すずめ
こんなわたしで いいならあげる
なにもかも
抱いてください ああ大阪しぐれ
しあわせ それとも今は
不しあわせ
酔ってあなたは 曾根崎
曾根崎あたり
つくし足りない わたしが悪い
あのひとを
雨よ帰して ああ大阪しぐれ
クラブ おはる
近くを蝶々が飛んでいる。
この蝶々のシーンはいいカットだった。
スタッフさんよく撮ってくれました。
新世界の大衆演劇のメッカ
『朝日座』のポスター
人の声「…どうやった?」
オカマの声「おーマキやろ?うん、元気や。」
新世界ホテル
恵美須東1丁目か3丁目の路地の近くか、
もしくは『新世界市場』のそば。
入り口付近で
オヤジ「こらァ、んなとこで立ちションベンすな!
ウチのロビーに流れ込むがな。」
ガラス戸を開けてオヤジ帰ってくる。
オヤジ「あ、は、お母ちゃん、おはよ。
いや、トミやんに誘われてな、
麻雀しててん、うん。
気がついたらな、電車なかってん。
タクシーで帰ろう思うたけど、
たこうつくし、いっそのこと
トミやんのとこに泊まってしもてん」ウソバレバレ(__;)
おかみさん「嘘つきは泥棒の始まりやと、ちーちゃい時から言うて
あるけどなー、けどな、泥棒にならんかっただけまし
やったなァ、
ああ、ちょっと勘定貰ってきて。」
初音礼子さんさすが!
大阪の『おかん』を見事に表現してました。
なかなかこの真似はできませんよ(´ー`)
午前9時27分を指している。
オヤジ「うわァ、一週間も貯めよって、誰や?」
それもバレテルッテヾ(- -;)
おかみさん「お前の友達の顔の四角い男や」
と手で四角を作るお茶目なおかみさん(^^)
オヤジ「寅やんか。ん、しょうがないやっちゃなあー。
よーし、今日こそ(パチ!)取替えたる!
もし払わん言うたら、もう、警察や!」
階段の手すりに指ぶつけて
オヤジ「あ!いたッ。あ〜いた〜」
と上がっていく。
おかみさん「口だけ偉そうに あのガキャ、」
初音さん、上手い!上手すぎ!( ̄▽ ̄)
おっさん「あんたの育てようが悪いネン」出た!真実(^^;)
おかみさん、掃除機かけながら、ムカッ!(▼▼メ)
おかみさん「おっさん、足」掃除の邪魔
おっさん「わかる」
おかみさん「足!」
おっさん「わかる!これ!どぐされしやがんな!」
もう大阪そのものの単純ギャグです(^^)
ちなみに『どぐされ』はかなり口汚い言い方で、よく言えば
「荒っぽい」「ひどい」「めちゃくちゃ」「ハチャメチャ」「どうでもいいような」
悪く言えば「人で無し」「極悪」「人の道に外れる」「三流以下」
「腐った…」と怖い意味にもなる…。
2階の寅の部屋
オヤジ「寅やん、お目覚めでっかー。」
寅「あ、はあ〜〜」
オヤジ「すんまへん、これ、お願いしまっさ
なんせ、ウチのおかん、あのクソババがうるそうてなあ、
ウチは一応前払いって言うことになってるやろ?
寅やんには一日分しかもろうてへんしな。」請求書を渡す。
このオヤジ、人のせいにするタイプだな┐(-。ー;)┌
寅「う〜ん、オレが来て一週間になんのか」
オヤジ「は〜早いもんでんな〜月日の経つのは、
つい昨日の事みたいにおもうてたけど」
寅「う〜ん、オレはもう一ヶ月ぐらいたったかと
思ってたよ、まだ一週間か…、
へえ〜、月日の経つのは遅いもんだなあ」
このパターンは第14作「寅次郎子守唄」で、
京子さんたちのコーラスに参加する日を待ち望んでいる寅と、
手形に追い立てられているタコ社長との月日の感じ方が真逆
だと言うことでおこる喧嘩シーンに使われていた。
オヤジ「そらまあ、東京と大阪の考え方の違いはあるわなあ、
ほな、たのんまっせえ」
オヤジ、下りていく。
寅「はあ〜、」
(紙クチャクチャとまるめて)おりょ(@@;)
寅「よいしょ!」
(コロコロ…ポヨョョ〜ン)」アチョー(><;)
屋根を転がり、トユにポトン。
トユにはすでに丸められた請求書の屍が
何個も溜まっている(^^;)
随分貯めはりましたね(^^;)
下でのんきな声がする。
オヤジ「お母ちゃん、朝飯まだやねん なんぞあらへんかあ?」
【大阪通天閣】
今の通天閣は昭和31(1956)に再建された2代目。
新世界の誕生のきっかけは、その9年前に開催された第5回内国勧業博覧会から始まる。
明治時代中期、パリとニューヨークを足して2で割った街を大阪に作ろうと構想されたのが『新世界』。
核となる遊園地は、ニューヨークにあるアミューズメントパークにならって「ルナパーク」と名づけられた。
明治45(1912)年、パリとニューヨークの境界にあたる街の中央に作られたのが、街全体のランドマークと
なるエッフェル塔式の高塔「通天閣」。初代の塔の高さは245尺7寸(約75m)。初代通天閣は残念ながら
昭和18年(1943)に火災に会う。
【東面の大時計】
文字盤の直径5.5m、長針の長さ3.2m、針の重さは1本30kg 日本一の大きさ。
【通天閣の大きさ】
高さは、避雷針の先端まで103m。展望台は地上91m。海抜4m。
ちなみに大阪城は海抜30m、高さ54m。
地上から展望台までの階段503段。内補助塔のらせん階段が106段。上まで600円
2階までは丸いエレベーターがある。
展望台に設置された名物「ビリケンさん」は、賭け事、合格、縁談など願い事なら
何でもOKというオールマイティーな神様
展望台からは、大阪ドームなどの名所を含む市街が見渡せるばかりか、はては
生駒山や六甲方面までもが一望できる。
『浪花の恋の寅次郎.新世界オリジナルマップ』↓
大阪石切神社 参道
正式名:石切劔箭神社(いしきりつるぎやじんじや)
通称:石切さん どんな岩も切る刀と何でも貫く矢がご神体
『できもの取り』の神様、&何でもありの神様。
所在地 : 大阪府東大阪市東石切町3-3-34
交通 : 近鉄電車で鶴橋から20分ほど近鉄奈良線「石切駅」より
徒歩5分
石切参道商店街
生駒山のふもとに位置する近鉄奈良線石切駅。
石切商店街は、同駅から石切劒箭神社までの参道に軒を連ねている。
石切神社につづく石切参道商店街は、通称「占い通り」と呼ばれるように、
赤と黒を基調にした看板を掲げる「占い部屋」が多く見られ、占い方法も
ありとあらゆる種類が揃っている。また、占いだけではなく、漢方薬でも有名。
そのほかにもお茶屋や漬け物屋、和菓子屋など、歴史を感じさせる、
いろいろな店が立ち並んでいる。沿道には石切不動妙王、石切大仏などがある。
年間80万人余の参拝者の大半がお百度参りをするといい、
本殿の正面にお百度石が据えられ、一般参拝者は両脇から参る。
そういう意味でもちょっと珍しい神社だ。
店の呼び込みの声
「どうぞお入り、休んでお帰り、おうどんなっと、丼もんなっと…」
大阪商人の布売りのバイ
布売り「まだあるでしょ、まだあるでしょ、
ここまでが世間相場の千円ね。はい。
これからがおまけ。一尺まけてもおまけなら
2尺まけてもおまけね、奥さん。
もうちょっとまけましょか、このくらい、
もうちょっと、ずーっとこれだけまけよう、
これで千円、どうですか」
隣で寅が『水中花』の啖呵バイ
寅「四谷赤坂麹町、ちゃらちゃら流れる御茶ノ水、
粋な姐ちゃん立ちションベン、ねえ!
四角四面は豆腐屋の娘、色は白いが水臭いだ、ね」
寅、隣の布屋を横目で見ながら
寅「あー、あー、おい、ちょ、ちょっと、見て、ね。
見るだけはタダだからさ、
ちょっと寄って見てってよ、ねえ、
どう、おばちゃーん、
ちょっと寄ってこうてんかあ〜、
やすうしとくでえ〜、おばちゃーん、
こうてんかあ、どや、ぼうや、えーー、」
寅もギャグで大阪弁使うんだねえ(^^;)
寅、ため息を深くついて
寅「あーあ、大阪はだめだなあこらあ、
東京に帰るか…」
大阪で物を売るのはそら難しいよお〜(^^;)
バイネタ 『水中花』
愛の『水中花』
今回のゲストマドンナである松坂慶子さんの
ヒット曲「愛の水中花」にちなんだもの。
ちょっと楽屋落ちの感じもしないでもないが…(^^;)
能書き
愛の水に花開く水中花を皆様にお譲りしたく
はるばる関東は東京よりなにわの都に
やってまいりました。
隣の布売り
「じゃあこんだけまけちまおう、
これで千円!どうですか買いますか」
はす向かいの
干支占い(運勢)の露天
芸者さんAの声「あ、これこれこれこれ!ちょっとおっちゃん、なんぼや」
店主「100円だ、よう当たりまっせ」
芸者A「姐さん、引いてみいひん?」正司花江さん
芸者B「アホくさ、なにを占うねんな?」正司照江さん
芸者A「決まってるがな、ええ男に逢えるかどうかやがな」
ふみ「フフフ」
芸者A「ねえ、ちょうだい」
店主「へ、なに年でっか?」
芸者B「この子タヌキや」
でた!お馴染み、かしまし娘のタヌキギャグ!(^^)
店主「冗談ばっかりゆうて」
ふみ「まあ、お姐さん、そんなもん当たる?…」
芸者A「酉年、5月」
店主「へい、わかりました」
芸者A「さ、どうなってるかなあ…、心配心配、恋愛…、あ!」
とこけそうになる。
ふみ「やあ!」と腕をつかむ
芸者A「恋愛、あかんねんて…」
芸者B「ハハ!それよう当たってるやんか」
芸者A「ふん、あ、あんたかって引いてみいなあ」
ふみ「うち、おそろしいわ、悪い気がでたら」
店主「何年ですか?」
ふみ、あれこれ言っている。
芸者A「お産は軽し、おしりは重し」なんやそれ(^^;)
芸者B「フフフ」
寅、なにげなくふみたちを見ている。
ん?という感じで、ふみを見る。
…!
ふみ、紙を広げて喜ぶ。
ふみ「いやーうれし、
待ち人今すぐ逢えるて!」
芸者A「おめでとうさん」
寅、身を乗り出して、ふみを見る。
芸者A「そのへん見まわしてみいな、
ええ人いてるかもわかれへんで」
野球帽のおじいさん通る。
芸者B「あ、あのおっちゃんちゃうか」
ふみ「いやん」
芸者A「あんなんが持ってんねやで」財産のことです(^^;)
芸者B「ほんまやなあ」鋭い!(^^)
ふたりで「ハハハ」
大阪では、ああいう普通のカッコしたおっさんが
たっぷりお金を持っていることが多い。
ふみ、ふと、寅と目が合う。
ふみ、はっとして、近づいてくる。
ふみ「兄さん…いつかの!?」
寅、頷きながら、
寅「おふみさん、って言ったな」
メインテーマが軽快に流れる。
ふみ、タタタと駆け寄り、手を握り、
ふみ「寅さんやね、確か!」
寅「そうよ」
ふみ「うわああ!」
寅「ヘヘへ」
ふみ寅の手を持って振る。
ふみ「いや!ねえ、お姐さん、
占い当たったわ!うち、この人に
会いたい会いたい思てたんよー!」
と、手をグイっと引っ張って歩いていく。
み「まるで夢見たい!」
寅「ほんとだなあ」
と、寅も興奮ぎみ。
ふみ「いやあ嬉しいー!!」
寅「フフフ」
バスガイドがツアー客を大勢連れて二人の間を通っていく。
お客にかき消されて、見えなくなるふみ。
寅も客たちにかき回されて、目が回ってしまい、
客の最後尾からついて行く。
ふみは『会いたい会いたい』と、2回繰り返した。
これは、よほど会いたかったのであろう。
フィーリングがぴったり合うことを瀬戸内で
自覚していた二人はやはり案の定
『石切さん』のお導きで運命の再会を
果たしたのだった。
石切参道商店街
ある茶店
店員さん「どうぞ、お入りやしておくれやすー、
石切さん名物の草団子どうですかー」
それって、なんかとらやさんみたいだなあ(^^;)
寅たち4人が、ビールを飲んでいる。
みんなで大笑い。
芸者A「呆れた、この子、娘さんやて、
『ハイ』言うたの」
ふみ「うち、困ったなあって思ったんだけどね、
もう船が出るときでしょう、いまさら
ちゃいます、うち芸者ですとも言われへんしい!」
芸者A「フフフ、厚かましい!」
芸者B「だまそう思たんやろ!」
ふみ「お姐さん違うのよ」
芸者B「こんな顔しててな」
芸者A「なあ」
寅「いや、ほらほらほら、その時はね、
化粧してなかったんだよ。
で、髪の毛ひっ詰めてたの、で、
オレはてっきりOLか郵便局員かなと、
そう思って」
ふみたち「いやー!!フフ!」
寅「それで、娘さん、っと、ハハハ」
芸者たち「ウワー、ハハハ」
芸者A「ほんまに得やこの子、
うちらなんかいくら地味なカッコしたかて
すぐ水商売てバレてしまうさかいな」
芸者B「『さようでございます』言うててもなあー!!ハハハ!」
ふみたち「キャハッハハ!!」
寅「いや、そうじゃないよー、
オレは姐さん方はじめて見た時に、
『あ、これは芦屋の奥様方かな』とそう思ったもん」
一同「キャー!!」
芸者A「よう言うわー!」
芸者B大笑いしながら芸者Aをペチ!
芸者A「いた、」
芸者B「いやや」
ふみ、寅にビールをついで上げる。
芸者B「そやけど、ほんとに、
お宅さん綺麗な言葉ですなあ〜、
もううちさっきからうっとりして聞いてましてんでええ。
やっぱり男はんは東京弁やなああ〜」
芸者A「そらあ、東おとこに京おんなって言うさかいなあ〜」
寅「大阪の女もなかなかいいぜえ」よう言うわ(−−;)
芸者たち「フフフ」
芸者A「お兄さん」
寅「え」
芸者A「お世辞言わはったかって、
なんとうあか抜けてますなあ〜」
寅「フフフ」
芸者A「ねえ!山下りて、どこぞええとこ
遊びにいかへん?」
寅「行こうか!行こ!行こ!」
芸者B「おばちゃん、ちょっとお勘定!」
店員「へい」
ふみ「お姐さん、ここはウチに払わして!」
芸者A「せや、ここはあんたが持たんと、
ええ人に会えたんやもん」
ふみ、立って、勘定を払いに行く。
寅「おーっとっと、おふみちゃん、
それはいけねえよ。
これで勘定してくんな」
と、札入れをさっとなにげに渡す寅。
出ましたお馴染み『財布ギャグ』(^^)/
ふみ「いやあ」
寅「いいから、持ってきな」
ふみ「へえ、おおきに」
寅「ん」
芸者A「うわああ、カッコええわああ」
カッコだけカッコだけ ゞ( ̄∇ ̄;)
寅「フフフ」
中身確かめろよな寅(−−)
ふみ、レジまで行って
ふみ「すんまへん、なんぼ?」
店員「へえ、おおきに、4千300円です」
ふみ、寅の財布の中身見て、
あ、っという顔をして、すぐに
ふみ「へえ」
と、言いながら、自分の財布を出して、
1万円を渡す。
店主「へえ、1万円お預かりします」
ふみ、自分の赤い財布を一旦ハンドバックの
中に入れる。寅の蛇革の札入れをしっかり
出して両手で見ている。
この人間の機微。演出がいいですね。
座敷では芸者たちが寅に
「どうもごちそう様です」
寅「いいえ、とんでもない」
店員「ありがとうございました、5千700円のお返しです」
ふみ、胸元に、寅の札入れを差し込んで、
お釣りを手で受け取り、
もう一度自分の財布を取り出しておつりを
そっと自分の財布に入れる。
寅のメンツを壊さないように、
そしてお姐さんたちにも
わからないようにしているんだね。
ほんと決めの細かい演出だ。
芸者A「おあいそ済んだ?」
ふみ「へえ」
芸者A「ごちそう様でした」
寅「行こ行こう」
寅はノーテンキだね。
普通分かるよ、おおよその自分の所持金くらい(^^;)
第21作「寅次郎わが道をゆく」でも、あの留吉にも
こんなことやって、やっぱり留吉が自腹切っていた(TT)
大阪 新世界
夜の通天閣の遠景が映る。
お馴染み『日立ルームエアコン』のネオン
星影のワルツが流れる。
新世界市場の看板
星影のワルツ
昭和43年
作曲:遠藤 実
作詞:白鳥園子
歌 :千 昌夫
別れることは つらいけど
仕方がないんだ 君のため
別れに星影の ワルツをうたおう…
冷たい心じゃ ないんだよ
冷たい心じゃ ないんだよ
今でも好きだ 死ぬ程に
一緒になれる 倖せを
二人で夢見た ほほえんだ
別れに星影の ワルツをうたおう…
あんなに愛した 仲なのに
あんなに愛した 仲なのに
涙がにじむ 夜の窓
さよならなんて どうしても
いえないだろうな 泣くだろうな
別れに星影の ワルツをうたおう…
遠くで祈ろう 倖せを
遠くで祈ろう 倖せを
今夜も星が 降るようだ
新世界ホテル
ラジオ「一行は近畿大学山岳部4年生石上コウゾウさんら…一行が目指す山は…」
松鶴師匠扮する、遊び人のおっさんがボケェっと座っている。
このおっさん、いつもこのロビーで寝てんのかいな?
寅、酔っぱらって星影のワルツを歌いながら帰ってくる。
寅「♪別れに星影のワルツを歌おう〜とくりゃ!ハハ!
ん、なんだ、何見てんだこの兄公!
いつまで夜遊びしてんだてめえは!
はやく寝ろ!ハハ!寝ろ、ハハハ」
帳場で、宿のオヤジがその声を聞く。
オヤジ「寅やんやな、宿賃も払わんと
酒くらいやがって、今晩は払ろてもらうで」
ガラス戸が開いて、
ふみが走って入ってくる。
ふみ「今晩は、番頭はん、車はんのお帰りでっせ」
寅「ハハ、笑ったなこりゃ」
寅、ふみに助けられながら入ってくる。
寅「おう、ポンポコ狸、ハハハ!これ、
このウチのオヤジだよ」
ふみ「いやあ、お父さんですか、
いつも寅さんがお世話なってます」
オヤジ、ニタついて
オヤジ「う、…い、いいえ」 瞬殺!目がハート( ̄∇ ̄)
ふみ、寅の肩にかけていた背広をすっと脱がせる。
なるほどね…(−−)
寅、上がって、
寅「どうだい、ちょっと汚い部屋だけど、上がっていくか?」
ふみ「姐さんたちが、タクシーで待ってるから」
寅「そうか、じゃ、引きとめねえ」
ふみ「ほな」
寅「おう」
ふみ「お父さん、寅さんよろしゅうお願いいたします」
オヤジ「え、へへ」
寅「いろいろとありがとう」
ふみ、戸のところで、胸に挟んでいた
札入れを思い出して、
振り返り
ふみ「あ、そや!これ、お財布!」
と戻ってくる。
見送りに言ったオヤジも一緒に戻ってくる(^^;)
寅「おおお、そうか、ん、なんでい、
こんなもんで足りたのか?」
ここまで自分の持ち金に
無頓着だとスガスガしいよ(^^)
今日の分ぜ〜んぶ、ふみさんが出したんだね、
間違いないよ、4人分高くついたなあ…(TT)
ふみ「へえ、じゅうぶん」
寅「うん」
と言いながら札入れの中から数千円を出す。
オヤジも中身を覗いている。
寅「あ、おふみちゃん、ちょっと」とお金を手渡す。
ふみ「何これ?」
寅「少ないけどタクシー代の足しにしてくれ」
あ〜これだもんなあ(^^;)
ただ、大阪人で、こういうことやる人少ないですね。
笑福亭松鶴師匠扮する『おっさん』驚いて
口の中で「うわ…」
うわっ…
ふみ、寅の札入れをぶん取って、
手渡されたお金を、挿む。
そして、すぐに寅に戻す。
ふみ「寅さん、うちは芸者やさかい、
お客はんからチップもらうことぐらいあるわよ。
ほんでも寅さんはお客やないの、友達よ。
友達どうしでチップなんておかしいんと違う?」
寅もオヤジもうなずいて
寅「そりゃそうだ」
ふみ「二度とこんなことしたら、もうつき合わんから」
寅「わかったよ、おいらが悪かった」
ふみ、少し照れて、下を向き、
ふみ「ほな…お休み」
マンドリンの静かな曲が流れる。
入り口の戸のところで止まり、優しく笑って
ふみ「今日は、楽しかった」
寅「そうかい」
ふみ、頷きながら、戸を閉める。
寅、軽く手を上げて別れる。
寅「はあー」
オヤジ、いつまでもボーっとふみの後姿を見送っている。
完全に2人とも目がハート×100 (* ̄▽ ̄*)( ̄▽ ̄*)
寅ニヤついて
寅「どうした?ん?」わざとらしい質問(^^)
オヤジ「寅やん」
寅、階段を上がろうとして
寅「ん?」
オヤジ「芸者やな、あの子」
寅「そうよ」
オヤジ「ごっつう、綺麗な子やなあ〜、
寅やんとは、どういうつき合い?」
寅「聞きたいか?」
オヤジ「そりゃ、聞きたいがな」とニヤついている。
罠にはまってるで、おやっさんヾ(-_-;)
寅「じゃ、酒のしたくして、二階持ってこい」
オヤジ「は、はいはい」これはオヤジのおごりやな(^^;)
寅「早くな」まだ飲むのかよ(^^;)
オヤジ「お母ちゃん!酒のしたくや!」だめだこりゃ、┐(-。ー;)┌
寅からは金取れないな、このタイプは。
寅、階段を上がりながら、
寅「♪別れに星影のワルツを歌おう」
寅勝手に歌の音符を、自分の好みの雰囲気に変えて歌っている(^^;)
松鶴師匠扮するおっさん、酒のグラス持ちながら
おっさん「わても聞かせてもらお」と上がっていく。
この雰囲気なあ…、新世界にはこういうなにやってんのか
よくわからないおっさんいましたね、確かに。
このおっさんが棲息できる隙間がこの街にはある。
これがここの良さだね。これがアジアの証明 ( ̄ー ̄;
)
壁には新世界の「朝日座」の演劇ポスター
通天閣のネオンを背景に、
寅の手紙のナレーションが聞こえる。
寅の手紙のナレーション
「さくら、元気か。オレは今大阪で暮らしている。
東京 葛飾柴又 雨
とらやの台所
みんなで寅の手紙を読んでいる。
寅の手紙のナレーション
「住み着いてみりゃ、大阪はいいところだ。
人情は厚いし、食べ物は美味い。
この土地はオレの性に合っているらしい」
おいちゃん、さくらに手紙を渡す。
さくら「はあー、ねー、ずっと大阪にいたのよ」
おいちゃん「大阪と寅か…、
あんまり相性よくねえみたいだけどなあ」んだんだ(^^;)
おばちゃん「いつか大阪なんかだいっ嫌いだって
言ってたよお、『おまへん』だとか『そやさかい』
なんて言葉聞くとジンマシンがでるって」
さくら「関西の料理は薄味で食べた気がしないなんてね」
とは言うものの、第1作奈良、 第2作京都、
第3作三重、第8作岡山、第17作兵庫、
第24作和歌山、…等々けっこうな割合で
『関西圏』で活動している寅です(^^;)
おばちゃん、頷く。
おいちゃん「その寅がなんで大阪をそんなに
気にいったんだい??」
★おばちゃん、はっと気づいて、さくらの腕を持つ Σ( ̄ロ ̄|||)
★さくらもほぼ同時に気づいている (; ̄▽ ̄)
★おいちゃんも、ほぼ同時にあっと気づく (* ̄○ ̄)
みなさん、さすが『寅プロ』。今までのデーターが、
走馬灯のように頭を駆け巡って、
全てを理解されました(^^;)
立っているタコ社長得意げに、
社長「言っていいかい?」
おいちゃん「は?」
と見上げる。
おばちゃんとさくらも見上げる。
社長「原因はオレに言わせりゃ簡単だよ、
ほらあ、あ…」
おいちゃん「言ううう〜〜なって!!
分かってんだから」そうそう(^^;)
ほらあ…
社長「ち、…さて、銀行行ってくるか、雨の中を」
と言って、ヘルメットを被って、カッパを着て店の前に行く。
おばちゃん「それからなんて書いてあったんだっけ」
さくら「ん、『オレが今いるところは、
東京で言えば、浅草みたいな賑やかなところだ、
とても便利だが、いつまでもホテル住まいは
高くつくので、そのうち安い下宿を見つけるつもりだ』」
社長、ヘルメットをつけて、バイクに乗り
社長「浪花の恋か、いいなあ、ちくしょー」っと走っていく。
寅の手紙のナレーション
「明日は弁当持ってお寺参りに行く。
朝早いから今日はこれで寝る。
おいちゃん、おばちゃん、
裏のタコにもよろしく言ってくれ、
兄より」
さくら封筒の中に手紙をしまう。
いつものことながらちょっと心配してしまうさくらだった。
ふみのテーマが軽快に流れる。
奈良 生駒山中腹
生駒駅発 宝山寺駅行き
近鉄生駒ケーブルカー
奈良県生駒市門前町
宝山寺 近鉄生駒駅が最寄り駅。
真言律宗 生駒山「宝山寺」
1678年に湛海律師によって開かれた寺院である。
生駒聖天とも呼ばれる。
1918年には日本最初のケーブルカー、
生駒鋼索鉄道(現、近鉄生駒鋼索線)が
敷設されるほどだった。歓喜天を祭り、現在でも年間300万人の
参拝客を集めるとされる。
寅とふみ、「宝山寺駅」で下車、
料理旅館や土産物店が並ぶ坂と石段の聖天通りを過ぎ、
杉木立に灯籠が並ぶ石段の参道を上がり、
鳥居をくぐって山門を入ると、江戸時代よりの商売繁盛の
生駒聖天さんで知られている真言律宗生駒山「宝山寺」
何でもありの現世利益を求める参拝客で賑わう。
絵馬堂にかけられたたくさんの絵馬には、何でも書いてある。
山頂の開山堂を目指して石段を上がり、山頂からの
眺めは抜群で、河内平野が一望できる。
寅「どうだい?景色のいいところでもって、
弁当でも食おうよ」歩くの嫌いな寅(^^)
ふみ「まだ着いたばっかりやないの」
寅「これ登るのか!?うわあ〜」坂道もっと嫌いな寅(^^)
ふみ、笑いながら、寅の背中を持つ。
石段を上りながら、フーフー言っている二人。
ふみ「いや、こんな山の上に
大昔どうやってお寺建てたんやろ」
ふみのほうがフーフー言っている(^^;)
寅「オレの故郷にだって
こういうお寺あるよ。帝釈天」
ふみ、寅の腕を組んで、登っていく。
寅「これより小さいけどな、
その参道にさ、店がずーっと並んでて
団子屋があるんだよ。
その中の一番古い団子屋がオレの家だ」
ふみ「いやあ、そんな古いん…」
寅「ああ」
ふみ「ふうん、いつ頃建てたん?」
寅「あーあれはね、奈良時代かな、きっと」
このパターンは第38作「知床慕情」でも出てくる。その時は
りん子さんに鎌倉時代だって言ってた。
『弁慶が団子食ってる写真あるよ』って言ってたらしい。
茶の間にその時の証拠写真が飾ってあった(^^;)
ふみ「…?」
寅「そこに古びた夫婦がいるんだけど、
あの二人も奈良時代から
いるんじゃねえかな、きっと」ひでえ(^^;)
ふみ「ふふふ、また嘘言うてぇ」そらそうだ(^^)
家族連れの女性がふみを呼び止める。
女性「すみません奥さん」
ふみ「はい?や、うち?」
嬉しそうなふみ。
女性「ちょっとシャッター押してもらえませんやろか」
ふみ「はいはい」
女性「お願いします」
ふみ、寅の方を向いてニコーと笑う。
男性「すんませんね」
ふみ「ここ押せばよろしいん?」
女性「はい」
ふみ「へえ」
男の子と女の子とお父さんお母さん。
ふみ「お嬢ちゃん、おいくつ?」
男性「まだよう言いませんねん」
カシャ
ふみ「もう一枚撮りましょか」
女性「お願いします」
男性「お宅はお子さんまだですか」
ふみ「はい、まだです」ふみさん、『ごっこ』してます(^^;)
カシャ
寅、そのセリフ聞きながら照れまくり。
男性「おおきに」
普通は、寅とふみのカップルは
『夫婦』には見えないけどなあ…(^^;)
宝山寺 境内
絵馬堂
絵馬に二人とも何か書いている。
『妹さくらとその一家がしあわせになりますように
寅次郎 』
ふみ「へえ、寅さん妹おんの?」
寅「うん、さっき話した団子屋で働いてんだよ」
たぶん給料はもらってないと思うけどね。現金は貰わないけど、
料理を食べさせたり、銀行の担保に土地を預けてやったり、
持ちつ持たれつだね。
ふみ「ねえ、妹って可愛い?」
寅「べーつにぃ〜、
何だか姑みたいに文句ばっかり
言ってるよ、ヘヘへ」
寅「ふみちゃん、何書いたんだい」
ふみ「ん?寅さんにええお嫁さんが来ますようにって」
寅「うそだ〜ぇ、うそだよー、
そんなこと書くわけないよ、フフ、
でも、ちょ、ちょっと見せてやってくれる?」
ふみ「あかん、いや、いやー」と隠そうとする
寅「ちょっと、見せてよ」
と、さっと取ってしまう。
寅「ハハハ」
寅、絵馬を眺め、はっとする。
『弟が幸せになりますように。
ふみ』
ゴーン
寅「弟がいたの?」
ふみ「うん」
寅「へー、両親が早く亡くなって、
おばあちゃんがこの間死んで、
一人っきりになったって
そう言ってたじゃねえか」
ふみ「母さんが家を出る時、
ちいちゃい弟連れてったんよ」
ふみ、絵馬を棚に奉納しながら、
ふみ「まだ、五つか六つやったけどねえ…昔のことよ」
いろんな事情が複雑に重なっていそうだね…。
寅「ふうん…」
ゴーン
寅「弟がいたのか…」
参道の食堂
食堂で、ビールを飲みながら、
ふみが作ってきたおかずを食べている。
ふみ「このお芋食べてぇ」
寅「うん」
ふみ「夕べ一晩かけてウチが煮たんよー」
寅「ん、これだろ、食べてる食べてる、ん、
こりゃ、手数かかってたいへんだっただろう、
こういうの作るのな…」
ふみ「そうよ」
寅「醤油ねえかな、ちょっと…」
ふみ「フフ…」
寅「え?」
ふみ「やっぱり」
寅「ん」
ふみ「味が薄いんやねえ、関東の人には…」
寅「いや、そうじゃないんだよ、オレは貧乏人
のガキだからねえ、辛くないとおかず食っている
っていう気がしないんだよね」
ドバアーっと醤油をかけてしまって
寅「あーあ、ハハ、かかりすぎちゃったよ」
味付け台無し!醤油飲んでろほんとに…(TT)
ふみ、苦笑い
ふみ「あー、フフフ」
寅「あー…」
店員「はい、いらしゃいませどうぞ」
客「ここでええやん。こんにちは」
客「いらっしゃいませ」
客「僕ビール」
寅、ビール注ぎながら
寅「そいじゃあ、おふみさん、
おふくろさんの手料理の味
ってな、知らないわけだ?」
ふみ「台所で働いてるの、見たことも無いよな
母ちゃんやったからね。
ほんと言うと、母ちゃんと別れるより、
弟と別れる方がよっぽど辛かったわ」
寅「へえー…、可愛い子だったんだろうね」
ふみさん、白いジャケット脱いで、
ふみ「色が白うてね、
女の子みたいに気が優しゅうて、
ウチ、いっつも抱いて寝てたんよ」
寅「ふうん、今どうしてるんだい、その弟は?」
ふみ「大阪で働いてるらしいの。…もう二十四やもんね、
ひょっとするとお嫁さんがおるかもしれんね」
寅「…!じゃあ、ずっと会ってねえのか?
小さい時、別れたっきり」
ふみ「そうよ」
寅「どうして会わねえんだ」
ふみ「おうたってしょうないやない。
こっちは懐かしいとおもたかって弟は
うちの顔なんかろくに覚えてへんのよ、
おまけに芸者なんかしてるんやもんね、
嫌な顔されるのがおちよ」
ふみ、ちょっと淋しそうに笑って、ビールを持って
ふみ「はい」と注ごうとする。
寅、真剣な顔になって
寅「いや、ちょ、ちょ、ちょっと待てよ」
メインテーマがゆっくり流れる。
寅「五つか六つの時に別れたんだろ」
ふみ「うん」
寅「じゃあ、覚えてるよ、弟は忘れやしないよ。
よーく覚えてるよ。
毎晩抱いて寝てくれた姉ちゃんのことをさぁ。
オレだってガキの時分にウチ出て長い間
フーテン暮らししてたよ、
だけど、片時だって肉親のことは忘れなかったよ。
会ってやれよ。こんな広い世の中にたった二人っきりの
姉弟じゃねえか、会いたくねえわけはねえよ、な」
ふみ、考えている。
ふみ「そうかね、そんなもんかね…」
寅「住所分かってんだろ」
ふみ「うん…、働いている運送会社の名前はね」
とハンドバックから赤い手帳を取り出してめくる。
寅「オレ、一緒に行ってやるよ」
腕時計を見て
寅「まだ昼だから」
ふみ「え?今日?」
寅「あたりめえだよ、思い立ったらすぐ行こう!
はやく!ほら!」
第2作「続男はつらいよ」のあの時の散歩先生と同じ。
散歩先生は京都で寅に産みの母親に会うことを
強く勧めた。この気持ちを寅はしっかり受け継ぎ、今、
ふみさんに伝えている。
寅もさくらに20年間会わなかった
苦い過去があるのだ。
道路 「神戸、九条方面」
タクシーが大阪港に向かって走っていく。
大阪城や大阪市体育館が窓から見えている。
コンパクトを取り出して、
ふみが化粧を拭き取っている。
ふみ「ちょっと見てこの頭…水商売に見えへんかしら…」
寅「大丈夫だよ、これだったら誰が見たってさ、銀行員か
さもなかったらデパートの女店員で、大丈夫だよ」
ふみ「せやけどなあ…もうちょっと地味な服着て
くるんやったなあ…こんなことなるんやったら」
寅「いいんじゃないか…、これで」
ふみ、イヤリングを外す。
寅、あなたもそのダボシャツ、腹巻、お守り、雪駄、
の格好でいいのか ヾ(ーー )
安治川河口をオレンジの環状線が走っている。
大阪市港区波除6丁目付近
山下運輸の大きなトラックがゆっくり走っている。
タクシーの運転手が道を聞きに外に行く。
萩尾タクシー(個人)
ふみも寅も外へ出る。
寅「このへんらしいな」
ふみ「ねえ、寅さん、なんて言おう弟の顔見たら…」
寅「え?、ちっちゃい時なんて呼んでたの?」
ふみ「英男って名前やけどね、『ひで』って呼んでたんよ」
寅「じゃあ、『ひで』、でいいじゃねえか」
ふみ「いやん、そおかて、もう二十四の大人よぉ」
寅「かまやしないよー、オレだってウチに帰りゃあ、
寅とか寅ちゃん、って言われてんだから」
ふみ「そうかなあ、ウチもそないしょーかなあ」
寅、歩いて来るタクシーの運転手に
寅「おう、どうだー!?」
運転手戻ってきて
運転手「そのネキですわ」
寅「なんだいネキって?」
運転手「ネキって、その近く言うことですわ」
寅「近くだって、ネキっていうんだって」とふみに言う。
寅、ふみさんは分かってるってゞ( ̄∇ ̄;)
この場合そのネキというのは向こうに見える
第2阪神国道(国道43号線)が通る
『安治川大橋』の『すぐ近く』。ということ。
『安治川大橋』近くの倉庫群の道を走るタクシー。
工場の近くでロケを見てる人々いっぱい(^^;)
西部陸送 島田商会 安治川生コン
運転手「あ、あそこですわ」と指差す。
このシーンで5秒ほどバックミラーに白いキャップを被った
山田監督の顔が映りつづける。お宝映像。
↓
第18作「寅次郎純情詩集」で、柴又駅での電車のガラス窓に映る
山田監督とともに、このバックミラーの山田監督は印象深い
運転手「あ、あっこですわ。あの大きい倉庫、山下運輸や、
もう、ごっちゃごちゃしたとこやなあ、んまあー」
山下運輸株式会社のトラックが走る。
タクシーが止まって、二人降りる。
お手洗いから出てきた男性。
チャックを上げている。 コンさんご苦労様です(^^;)
寅「あの人に聞いてみるか」
寅、頭下げて
寅「社長さん」決めるなってヾ(ーー )
主任「私?」
寅、頷く。
主任「社長ちゃいまっせ」
と手を洗う。
寅「じゃあ、課長さん」また決めるなってヾ(ーー )
主任「私、あの、運転主任ですけど」
寅「あー、主任さんですか」
主任「はい。なんか御用でっか」
寅「はい、えー、実はあのー、こちらの会社に」
主任「はい」
寅、ふみのほうを振り返って、
寅「上の方の名前なんてったっけ?」
ふみ「水上(みなかみ)っていうの確か」
ふみさん、確かって…(^^;)お母さんが後に
再婚したってことかな。
ややこしや〜。やっぱり複雑な経緯がありそうだ…。
寅「あのー、水上英男という男おりませんでしょうか?」
主任さん、ドキッとして、
主任「えー…、水上君?」
寅「ええ、その水上です」
ふみも後ろでうなづく。
主任「失礼ですが、どういうご関係ですか?」
寅「あ、こりゃどうも、どうも失礼しました。
この人は水上君の姉さんなんです」
ふみ、お辞儀をする。
寅「と、言ってもちょっと事情がありましてね。
長い間会ってなかったもんですから…、
ま、久しぶりに顔が見てえと思って、
訪ねてきたってわけなんです」
とお辞儀する。
主任「あ、…そうですかあ…、水上君にお姉さんが
いらしゃったんですかぁ…」
ふみ「あのー、今、おりますでしょうか」
主任、なんと言っていいか分からない顔している。
主任「あのー、ここではなんですから、
ちょっと中へどうぞ」
ふみ、タクシーに
ふみ「すいません、ちょっと待っててください」
ふみ、寅にくっつくように腕を持ってついて行く。
山下運輸の看板
『明るい心に安全運転』
『みんなの笑顔で生きがいのある職場』
『山下運輸株式会社』
大阪市港区波除六丁目
正確にはあのあたりは
波除六丁目2−9あたり。
階段を上がる3人。
向こうに国道43号線が走る安治川大橋が見える。
壁のポスター
『このままでいいのか!』
『今闘わずにいつ立ち上がる』
これって組合のポスターでしょうか(^^;)
2階事務所
吉田、ソファーに寝ている。
主任「おい!吉田君」
吉田「ええ?……」と眠そうに上半身を起こす。
主任「こちらの女の方、水上君のお姉さんやて」
ふみ、事務所に入ってお辞儀。
主任「どうぞ。どうぞ。…どうぞ」
黒板に各自の今日の予定が書いてある。
六月十八日
車両番号三四六五 峯村
車両番号三一四〇 吉田
車両番号八九五一 森
車両番号一八八四 芳野
車両番号 九八五 佐藤
車両番号 九六三 近藤
車両番号三四六四 中村
車両番号 四?五 高田
女性の事務員、少しふみを見て怯えた様子。
吉田、どう言っていいか分からない顔で
寅たちを見ている。
寅「どうしたい?あ、そうか、英男君は
もうこの会社辞めちゃって、
いないんだろ?ね」
主任「いいえ、そうじゃないんですわ…」
寅「んん」
主任「あの、実はですねえ…」
一同沈黙
主任「まあまあどうぞおかけください」
3人とも座る。
主任「お姉さん」
ふみ「はい」
主任「水上君は…、
もうこの世にいないんです」
寅とふみ「……」
主任「つい最近なんです、えー、
先月の…あれ何日やった?」
吉田「二十四日や、給料日の前」
主任「急に、こう胸が苦しいちゅうてね、
ここで休んでる時に言われたんです。
それで、車に乗せて、市立病院に連れてったんです。
えーっと、冠動脈…」
吉田「心不全」
主任「そう言う心臓の病気でね、すぐに手術せな
いかん、ちゅうて、ようさーんその血液もいる
ちゅうんでね、会社の大方の連中みな
集めまして、病院へ詰めたんですけどんね。
大変難しい手術で…、結局…
そのままちゅうことなりました…」
ふみ「……」
ふみ、ただ呆然と主任を見ている。
寅、下を向いている。
電話がリリリリリンと鳴る。
向こうで女子事務員が小声で応対する。
「もしもし山下運輸です…」
主任「あの…、手術室に入られる前に、みんなでぇ、
『がんばれよー』ちゅて言いましたら、
『ありがとう、ありがとう』
ちゅて、ひとりひとりに丁寧に礼をゆうて…、
それが最後の言葉でした。
いやぁ…なんと申し上げていいやら、
お姉さんがおいでやったんですかあ…、
水上君生きてましたら喜んだろうにねえ…」
主任、部屋の角に置いてある遺影を指して
主任「…ああ、あれが英男くんです。
口数の少ない、いい男でしたぁ」
英男君の遺影と一輪のピンクのバラの花
緑の帽子『MINAKAMI』
遺影を見つめるふみ
従業員のみんな2階へ上がって来る。
吉田「おい、おいちょっと!おい!」
従業員「え?」
吉田「この女の人な、英男の姉さんや」
主任「こちらがご主人」
寅「いや…、ちょいとした身内だ」
主任「あ、どうも…」と恐縮。
ふみ、急に身を乗り出して
ふみ「なんでウチにゆうてくれなかったんです?
なんで!?
ウチの弟やのに、
なんでウチに一言ゆうてくれなかったんです!?」
寅「おふみちゃん、そりゃしかたがねえんだよ、な、
ここにいる人たちゃ、誰も姉さんがいるなんてこと
知らなかったんだから…そうだろ、な。」
ふみ「……」
主任「私たちの調べが足らんかったんです」
寅「葬式はどうしたんだ?」
主任「一日会社休みにして、
私たちの手でさせていただきました
この部屋片付けて祭壇こさえて、
見かけは、貧しくとも心のこもった
お葬式やったと思っております」
寅もふみも下を向いている。
主任「お骨は若狭からお見えの叔母さんちゅうかたが
持って行かはりました」
ふみ、泣きながら立ち上がり窓のほうへ行く。
リリーのテーマ(11作、15作)の
アレンジバージョンが流れる。
外を見ながら
涙がとめどもなくこぼれ落ちるふみ。
安治川河口を小さな遊覧船が走っていく。
手を振る子供。
寅、立ち上がり
寅「どうもみなさん、英男が大変お世話になりました。
ありがとうございました」
と、深々とお辞儀をする。
従業員一同恐縮してお辞儀。
寅、もう一度深々とお辞儀。
従業員たちも、もう一度深々とお辞儀。
安治川大橋の橋向こう。
此花区春日出一丁目 英男君のアパート『松風荘』
川向こうに関西電力春日出発電所の煙突が見える。
『空室有り』
前に国道43号線の高架
一番手前の端が英男君の部屋
階段で子供たちが口げんか
お母さん「やめときぃ」
寅とふみが座敷に座っている。
吉田、窓の雨戸を開けると光が差す。
吉田「やっとこさ、荷物整理したとこです」
ふみ、まわりを見ている。
小さな机に赤い花が生けられている。
前にお猪口。
ふみ「この部屋にどれくらい住んでたんですか、弟は?」
吉田「ちょうど2年です。一人もんのくせに部屋きちーん
と片付けて。僕ら酒飲んで、ここへ来て散らかしては、
えらい怒られたもんですわ」
寅「こっちの方はいけた口なのかい、この人の弟は」
とお猪口のしぐさ。
吉田「いえ!酒もやらへん真面目な奴でした。僕らとちごて」
ふみ「小さい時からあまりふざけたり
せえへん子やったけど、
そういうとこって大人になっても
変わらへんのね」
寅「そうだなあ…、オレみたいにガキの頃から
悪いことばっかりしてる奴は、どうせ大人に
なったってろくな人間になるわけねえんだけれど」
寅、立ち上がって窓の方を見ながら
寅「そんなオレがこうやって生きていて、
真面目で将来性のある人間が
早死にをする。うまくいかねえな世の中は…」
吉田「まったくですなあ」
壁の絵を見つめるふみ
ふみ、壁に貼ってある絵を見つめている。
『一本の傘を差すお姉さんとと子供の絵』だろうか。
英男君の心がこの絵に表されているのかもしれない。
もしそうだとしたら、英男君の大事にしていた
心の中をふみさんは垣間見ることができたの
かもしれない。
吉田、バルサ材の模型飛行機をふみの前に置く。
吉田「英男君、これ作るの趣味でしてん」
ふみ「これ、あの子が作ったんですか…」
吉田「ええ」
ふみ「これを…」と飛行機を手に持って見つめる。
アパートの前に自転車が止まり、
若い女性がこちらにやって来る。
信子「おばちゃん、こんにちは」
アパートのおばちゃん洗濯物干しながら
おばちゃん「元気になったかぁ!?」
↑このアパートのおばちゃんの「元気なったかァ!?」
という言葉の波長は、とても心地よいものだった。
浪花の人情の懐をひしひしと感じました。
信子「うん」
寅、下でのやり取りを窓から覗いている。
信子、階段を急いで上がってくる。
吉田流しで顔を洗いながら、
吉田「あ、来たか…」
と、ドアのところへ出向く。
信子、息を切らして入り口に立つ。
吉田「仕事、大丈夫やったかな、抜け出して」
信子「うん」
吉田「そうか、入り」
信子、ふみを見てちょこっとお辞儀。
ふみ、信子をみてちょこっとお辞儀。
信子、流しでコップに水を入れて飲む。
吉田「英男君の友達で信子ちゃんって言いますねん、
この近所で働いてるもんやさかい、今ちょっと、
電話しましたんや」
吉田「信ちゃん、この方が英男君のお姉さんや。
で、こちらがご主人」
吉田君、「ご主人」じゃないよ。事務所での会話覚えてろよな ゞ( ̄∇ ̄;)
寅、びくっとして
寅「いや、オレはちょいとした身内よ」
吉田「あ、そや、親戚の方や」
信子、座って
信子「こんにちは」とお辞儀。
ふみもお辞儀。
寅、信子の前にかがんで
寅「お姉ちゃん、もしかしたら
恋人だったんじゃねえか?」
信子「少し、微笑んで下を向く」
吉田「実は…、この秋に
結婚する約束しとったんですわ」
寅、小さく頷いて、
寅「……、それじゃあんたが
一番悲しい思いしちゃったなあ」
信子「あんまり急やったから、
どないしていいかわからんと、
泣いてばっかりいました」
寅、小さく頷く。
ふみ「…どうもありがとう。
いろいろお世話になったんやね、きっと」
信子、少し微笑んで、
信子「あ。…いいえ、」
信子「あ、吉田さんお茶も入れんで」
吉田「そやな、あ、急須あったかな?」
信子、立ち上がって、
信子「ウチがする」
お茶の缶開けて、
信子「あー、お茶ッ葉が無いわ。
下のおばちゃんにもろてくるわ」
吉田「そやな」
と急いで、外に出ようとして、
ドアのところで止まる信子。
ふみのほう、振り向いて
信子「ウチ、英男さんから
聞いてました、お姉さんのこと」
ふみ「え…」と驚き、
ふみ、身を乗り出して
ふみ「…なんて言うてた?」
信子「お母さんみたに、懐かしい人や、…
とっても会いたがってました」
目を潤ませて外へ出て行く信子。
信子の姿を目で追いかけるふみ。
第16作(お雪さん)順子のテーマが
緩やかに流れる。
階段の上で遂に泣いてしまう信子。
階段を下りて
信子「おばちゃーん!すんまへん」
寅、窓の方を見ている。
ふみ「……」
吉田は薬缶に水を入れて火をつけている。
ふみ「寅さん」
寅「ん?」
ふみ「お茶飲んだら帰ろ…、
ウチ辛い、この部屋にいるの」
寅「そうだなそうするか」
ふみ「今晩大事な座敷もあるし」
寅「なんだい、今夜ぐらい休めねえのか?」
ふみ「休めんの…、ウチ、芸者やさかいな」
英男君の町、オリジナルマップ(龍太郎作)
2010年12月30日訂正事項
昨日、大阪市の熱烈な寅さんファンであるKさんからメールをいただき、
正確にはやや北東の黄緑の印ををつけたあたりだと教えていただきました。
上のイラストはもう動かせませんが、航空写真で↓のように訂正いたします。
中学校の敷地の真横だったわけですね。
【4】の場所と思っていたら黄緑印の場所だった。
英男君は信子ちゃんにはお姉さんのことを話していたのだ。
自分を毎晩抱いて寝てくれたお母さんのように温かく懐かしい人。
会いたい会いたいと思い続けてきた十数年だったのであろう。
職場の名前を知っているふみさんは、踏ん切りさえつけば会いに
行くことができたはずだが、弟の人生の邪魔をしたくないばかりに、
今日の今日まで会いにいけなかった。自分のようなものが会うと
かえって迷惑なのではないかと思っていたのだ。
勇気を出して、もっと早くに会いに行けば話もできたし、
英男君の運命も変わったかもしれない。
悔やんでも悔やみきれないやるせなさがふみの心に残っていった。
ふみは遂に本当にこの世の中で一人ぼっちになってしまったのだ。
英男君のアパートには彼が作ったバルサ材で作った飛行機と、
水彩で描かれたと思われる絵が残されていた。
小さく映るだけだが、ふみさんがじっと見ていた。
よく見ると絵の中には人が二人いる。
一人はお姉さんのような若い女性。
もう一人はまだ子供のような少年。
少年は人形かぬいぐるみの様なものを抱いているようにも見える。
雨が降っているのだろうか。お姉さんが少年に水色の傘を
差しかけてあげている。
たった二人っきりの姉弟、ふみさんと英男君。
英男君は寅が言うように
毎晩抱いて寝てくれたお姉さんのことを忘れた日はなかっただろう。
あの絵はひょっとして彼が描いたものじゃないだろうか。
もしそうだとしたら、ふみさんの宝物だと思うのだが…。
ふみに持っていてもらいたい。
あの絵はあの後どうなったんだろうか…。
今は、信子ちゃんが持っているのだろうか…。
私は、後日、信子ちゃんが対馬のふみさんの自宅へ額をつけて
送ってあげたような気がするのだが、どうだろうか。
信子ちゃん役の、マキノ佐代子さんは、この後第31作「旅と女と寅次郎」から
「工場のゆかりちゃん」としてレギュラー出演する。第29作「寅次郎あじさいの恋」では
加納作次郎の工房に見学に来た東京からの女子大生の役でも出演。
第34作「寅次郎真実一路」では工場のゆかりちゃんなのに、同時に「スタンダード証券」
の受付のお姉さんとしても出演。あの、映画一族のマキノさんたちの親戚でもある。
この、信子役は、短いながらも、とても重要な役で、なんとも初々しい清らかな演技が
印象的だった。工場のゆかりちゃんは、あれはあれでいい!
1981年(昭和56年)は第27作「浪花の恋の寅次郎」ともう一つ「泥の河」が公開されている。
この「泥の河」は私にとって少年期の思い出そのものなのだ。
あの「泥の河」の舞台はこの英男君のいた安治川河口付近だ。
大阪市の中ノ島がある西の端、つまり
今のリーガロイヤルのあるあたり。
小説にも映画にも描かれているように
堂島川と土佐堀川がひとつになって
安治川と名を変えて大阪湾の一角に流れていくあたり。
そして、あそこから安治川河口へ歩いてわずか30分(1km.)くらいで
寅たちが道を聞いていたあの大阪環状線が走る鉄橋に当たる。
そしてそこにふみさんの弟さんである水上英男君が勤めていた「山下運輸」がある。
大阪市港区波除6丁目。
そして英男君が住んでいた「松風荘」はその安治川大橋を渡ってすぐ。
同じ年に公開された二つの映画。
あの姉妹二人…。
ふみさんと英男君
そして「泥の河」の
銀子ちゃんときっちゃん
全く関係の無い二組が何故か私の中で離れられないイメージを作っていく。
そして実は、
今度は『泥の河』の舞台になったところを川上に歩いてのぼっていくと
有名な中ノ島公会堂がすぐあり、もうちょっと堂島川沿いをぶらぶら歩いていくと
片町という下町の工場地帯にたどり着くのだが、
その片町という町は僕が幼稚園(5歳)から小学校3年生(9歳)まで
(昭和40年代前半あたりまで)を過ごした町なのだ。
あのあたりは下町で「泥の河」の設定である昭和31年の香りも
まだまだ残していた。
主人公たちのぶちゃんやきっちゃんの年齢が9歳くらい。
私もその年齢にあの辺りにいたのだ。
「縁」というものはやはりこの世にあるのだ。
夜 みなみ 道頓堀界隈
グリコの大きなネオン
道頓堀 から心斎橋筋
『宗右衛門町通り』
ふみが難波方面から道頓堀の橋を渡って
心斎橋筋から宗右衛門町通りを歩いていく。
角にあるのは懐かしい『戎橋劇場』
絶賛上映中 コンペティション ジャズシンガー
7月18日より プライベートレッスン テ ン
7月29日より オーメン マルポホランドラン
8月8日より 殺しのドレス スフィンクス
道頓堀行進曲が流れる。
昭和3年
内海一郎 歌
日比繁次郎 作詞
塩尻精八 作曲
赤い灯青い灯 道頓堀の
川面にあつまる恋の灯に
なんでカフェーが忘らりょか
酔うてくだまきゃ あばずれ女
澄ました顔すりゃカフェーの女王
道頓堀が忘らりょか
好きなあの人もう来る時分
ナフキンたたもよ唄いましょうよ
あゝなつかしの道頓堀よ
私はこの歌を聴くと胸が締め付けられるように
切なくなる。この歌は大阪そのものだ。
宗右衛門町通りを東に急ぐふみ
カメラは車に乗って撮影
日進ビル
サロン.D 浅丘
サウナマッサージ
スナック エスカレ
鳥八珍 やきとり
がんこ寿司
宗右衛門町 田舎そば
星影のワルツが流れてくる。
♪別れに星影のワルツを歌おう、冷たい心じゃ…
ふみ、人をよけながら
ふみ「ごめんあさいね」
らくさん
中央軒
板前さんの格好をした誠、道に出てきて
誠「ふみさん!」
ふみ「こんばんは」
誠「何べんも電話したんだ。相談があって」
ふみ「ごめんねー、
朝から出かけてたんよ、また今度」
誠「うん」
ふみの誠さんに対する対応はごく普通。
この時の短いやり取りの感触では
決して『恋人』ではない。
映画のロケを見るために向こうの方でものすごい人だかり。
ふみ、老舗の料亭に入っていく。
ふみ、戸を開けて、
ふみ「お母さんおおきに」
って言うんだね。なるほど。
料亭座敷
客たちがふみやいつかの芸者たちと歓談している。
客A「年に3回行きよんねん3回ハハハハハ」
客B「違いますがな、美術館に壷観に行ってましたんや」
芸者B「いやあ、なんの壷でっしゃろ?」
芸者C「いやあ!」
ふみ、お酌している。
客A「壷に3回行きよんねん3回」
客B「違いますって、もう」
芸者A「こないだ病院行ってはったもんな」
芸者B「あー、どないしょ、私課長さんからのビール
飲んでしもたわ」
客A「病院行きよんねん、病院」
ふみ、向かいの芸者Aに
ふみ「お姐さん」
と、合図し、席を立つ。
ふみ、廊下に出て、走っていく。
芸者A「ちょっと、ちょっとあんた、どこ行くの?」
ふみ「お姐さん、すんまへんウチ気分悪いさかい
帰らしてもらいます」
と拝むようにお辞儀をし、小走りで帰ってしまう。
廊下で料亭の女将と会い、
ふみ「お母さん、すいません」]
女将「どないしたん?」
女将「ちょっと、蝶子はん?」と、追いかけて行く。
第45作のマドンナ「蝶子さん」の名前が
すでにここで使われていた。
遠くで三味線の音。
通天閣の夜景 深夜
新世界ホテル 寅の部屋
ドアが開いて、
オヤジ「寅やん…寅やん!」
寅、布団を被っている。
寅「なんだ、こんな夜中にうるせえな!」
オヤジ「起きてえな、寅やん。あの子が来てるがな、
ほれ、いつかの芸妓はん」
寅スクッと起きて
寅「おふみちゃんか?」
オヤジ、頷いて
オヤジ「えらい酒に酔っぱらってはるでえ」
寅「ちょっと、布団上げてくれ」
オヤジ「へえへ」
ふみ部屋の前まで来ている。
オヤジ、気づいて、
オヤジ「あ、どうぞお入り」
ふみ「へぇ…」
暗いところで布団を片付けている二人。
寅「おふみちゃん、今電気つけるからな、うん
ちょっと、待っててくれよ」
寅、電気をつけようとして、オヤジと頭をぶつける。
ゴツ!!
寅「あ痛っ!!」
オヤジ「あ!!アドウー!」
ふみ「いやん!!大丈夫?」
寅「痛てえなあ〜」
オヤジ「あた〜ああ」
電気ついて
ふみ「寝てたん?」
寅、痛みを堪えながら、
寅「いや、横になってただけだ」
ふみ「は〜、…お父さん、お酒くれへん?」
オヤジ「へぇへぇ、ただいま…」
と、おでこ押さえつつ、外に出て行く。
ふみ、「は〜…」と、深くため息をつく。
寅「今、座敷の帰りか?」
ふみ、かなり酔っている。
寅の腕を叩いて、
ふみ「今日はいろいろありがとう寅さん…」
寅「い、いや、いいんだいいんだ、な」
寅、自分が飲んだお銚子を片付けだす。
ふみ「せっかく弟と会えると思って楽しみに
行ったのにねえ、
あんなことになってしもうて…」
寅「もう、その話はいいよ、な。辛くなるばっかりだい。
それよりよ、酒でも飲んでパッと陽気になろう、な」
寅、いくらなんでも陽気にはなれないだろう、さすがに。
ふみ「けどねえ、うち安心したの。
ヒデは身寄り頼りもなくて、一人で寂しゅう暮らして
たんやにかと思てたんやけどね。
ぎょうさん仲間の人がおってくれて、
みんなで心配してくれて、
それに恋人までおったんやもんね」
と、寅の手を掴んで納得しようとするふみ。
寅「そうだよ。あんな可愛い子に惚れられてよ」
ふみ「うん」
寅「弟はほんとに幸せもんだったんだよ、な、そう思いな」
と、ふみの手を彼女のひざに置く。
ふみ「でもあの子可哀想やねえ…、
恋人に死なれて…、これからどないするんやろ…」
寅「いや、おふみちゃん、そりゃあ心配いらないよ」
ふみ「なんでぇ?」
寅「そら、今は悲しいだろうけどさ、ね、
月日が経ちゃあ、どんどん
忘れていくもんなんだよ」
ふみ「……」
寅「忘れるってのは、
ほんとうにいいことだなぁ…」
この言葉、心にズーンと沁み入るなあ〜( ̄ー ̄)
ふみ「………」
寅「一年か二年か経ちゃ、あの娘もきっと
新しい恋人ができて幸せになれるよ」
ふみ「…せやろか…、忘れられるやろか…」
寅「忘れられるよぉ!体験したオレが言ってるんだから
間違いありゃしないよ」
寅、ニカっと笑う。
ふみも同時に
ふみ「フフフ」
ふみ、寅の手を握り、
ふみ「寅さんも体験者?」
寅「いや、オレ、ほら、頭悪いから、
すぐ忘れちゃうんだよ!へヘヘヘ、エ〜エッ」
ふみ、吹き出しそうになって、大笑い。
寅は半年に一度ほど連続体験してきました。
そうとう忘れ方が激しいですね(^^;)
寅「酒が遅いな」
と、ドアのところまで行って、ドアを開け
寅「おーい、おっちゃん、酒まだか?」
オヤジ下から声
オヤジ「へーイ、ただいま」
ふみ、暑いので窓の方へ行って
窓を開け腰掛ける。
ふみ「今夜は暑い」
寅「んー?あー、明日はひと雨来るか」
ふみ「星が出てるよ」と指差す。
寅「ん、じゃあ天気になるだろう」適当やなあ(^^;)
ふみ「ひとーつ、ふたーつ、みっつ」
と、星を数える。
ふみ「♪わかれ〜るこぉぉ〜と〜は、
辛い〜け〜ど〜、
しかたぁ〜がぁないんんだ、君の……」
ふみ「……」
ふみの目にみるみる涙が溜まる。
ふみ「うち泣きたい…」
寅「ぇ…」
ふみ「寅さん泣いてもええ?」
寅「え…」
と、小さく驚く寅。
『リリーのテーマ』のアレンジバージョンが流れる。
ふみ、寅の胸にもたれかかり、そして膝に頭を乗せ、
うつ伏せで号泣する。
ふみ「なんで、なんで、
めぐり逢わせ、悪いんやろか、うちは…、
ウウウ、ウウウ!」
寅「……」
寅「…泣きな、な、いくらでも
気のすむまで泣いたら
いいんだよ、な」
ふみ「ウウウ、ウッ、ウ…」と泣き続ける。
オヤジドアを開けて
オヤジ「お待っとうはん、
あいにく冷蔵庫の中が、…!!」
オヤジ二人の様子見て仰天(^^;)
オヤジ「うわあぁ、すいません、
何も見てまへん」見てないと言えない言葉だね(^^;)
と、目をつぶりながら後ろずさりでドアを閉める。
階段を踏み外す音
オヤジ「うああああああ!」ドタドタタ!(_ _;)
一階のロビー
下まで転げ落ちて、片一方の
スリッパだけ後から落ちてくる。
オヤジ「痛あ!あーいたあ!は」
オヤジ、おでこを擦りむいて、手の指に血がつく。
血に気づいて
オヤジ「は!血ぃや!!お母ちゃん!
血ぃ出てるわ!!血ぃ!」
こりゃあきまへん┐('〜`;)┌
おかみさんやって来る。
オヤジ「血ぃ出てんねや、ほれ、ほれ」
典型的な大阪のアホボンオヤジ ( ̄o  ̄;)
芦屋雁之助さん超十八番!上手すぎ!
おかみさん「情けないガキやなあええ年こいて、
大きい声だしてからに、さ、
メンソ塗ったるさかい、こっちおいで、
ささささ、見せてみ」
『あんたの育てようが悪いんや』、ってこのことですね。
トホホ親子(^^)ま、これはこれで、こういう人生だね。
しかし、上手いな初音さんってほんと。
この二人の掛け合いは熟練の職人技。
現代の名工に選出したい(^^)
と座敷に連れて行く。
オヤジ「ホレホレ…」
おかみさん「どれどれ」
おかみさん、パチッイイ!っと叩いて
これはかなり痛い(^^;)
おかみさん「なんやこんなもんぐらい!」
オヤジ「アイ、アイタッアアア!!」
おかみさん「ほんまになんやのぉ」
と水屋の中を開けてメンソレータムを探す、
2階の寅の部屋
ふみが、寅の膝で寝かかっている。
かなりきつそうに寝返りを打つ。
寅「おい、大丈夫か?」
ふみ、寝言のように
ふみ「寅さぁん、ウチねむい、
今夜ここに泊めてぇ…」
と、つぶやく。
メインテーマがゆっくり静かに流れる。
寅「え…、あ、いいよ、
こんなうす汚いとこでよかったら
ぐっすり寝たらいいよ」
ふみ「おおきに」
寅、ふみの頭が重い。
かなり我慢するが限界が来る。
ふみの体越しに座布団を枕代わりに
取ろうとする、
寅の体がふみに触れて、
ふみ「なあにぃ?」
寅、ビビッて、やめ、
机の向こうにある座布団に手が掛かる。
寅、その座布団を諦め、
後ろにある座布団を引っ張り出して
膝の代わりに、ふみの頭に座布団を乗せてやる。
ふみ、少し意識が蘇って
ふみ「寅さん…」
寅「え?ここにいるよ。大丈夫だよ」
膝の痛みで足を引きずりながら、
布団の場所まで行き、
掛け布団を取ってきて、
ふみに掛け布団をそっとかけてやる。
寅、窓を閉めて、
電気を消す。
ふみ、もう一度寝言のように
ふみ「寅さん…」
寅そっと外に出て行く。
ふみ、寝言
ふみ「は〜…」
1階の台所
ラジオ『ニュースに続いて天気予報、今日の近畿地方は神戸を除く
各地で今年の最高気温を記録しました。明日は日本海北部を低気圧が東に進み…』
オヤジ、氷をタオルに入れて額に縛っている。
おおげさやなあ(^^;)
オヤジ痛そうに
オヤジ「あああ〜…」
寅、台所に入ってきて、
酒を持ち、コップに注ぐ。
寅「今夜…、おまえの布団で寝るからな…」
オヤジ、寅の方を向き
オヤジ「…?」
寅「おまえ、おっかさんのオッパイでも握って寝ろ」
握ってって…(^^;)
オヤジ「なーんで自分の部屋で寝えへんねん?」
寅「あの子が寝てるのよ」酒を飲む
オヤジ「へええ……、あんたはワテの部屋で…」
寅、黙って酒を飲み、おかずを食べている。
オヤジ、寅を見て
オヤジ「へええ…」
と首をかしげて出て行く。
新世界 夜明け近く
新世界市場のそばの空
新世界ホテル1階ロビー
ふみが、階段をそっと降りてくる。
松鶴師匠扮する謎のおっさんがソファーで
寝てうつらうつら居眠り。あくびをしている。
ふみ、草履を履いて、そっと引き戸を開けて出て行く。
おっさん「せっしょや…」とニヤつきながら寝言。
『せっしょや』とはこの場合、男や女が
異性につれなくされた時の返し文句、
というニュアンス。
自転車を停めて牛乳屋さんが配達をしている。
ふみ、天王寺の方へ歩いていく。
天王寺動物園入り口近く
雨が少し降ったのか道が濡れている。
タクシーが早朝帰りの客を待っている。
ふみ、先頭のタクシーに乗って行く。
ふみの声が流れる。
寅の部屋
寅が置き手紙を読んでいる。
ふみの置手紙 広告の裏に書いてある。
『夕べはごめんなさい。
ウチがこの部屋に泊まるのが迷惑だったら
そう言ってくれればタクシー拾って帰ったのに。
これからどうして生きていくかひとりで考えていきます。
寅さん、お幸せに。
さようなら ふみ 』
実際の文章はこう
『寅さん 夕べはごめんなさい。
私がこの部屋に泊まるのが御迷惑だったなら
そう言ってくれれば、タクシーを拾って帰ったのに。
これからどうして生きていくか、一人で考えていきます。
寅さん お幸せに。 さようなら ふみ 』
窓を見る寅
外で「雪山賛歌」(愛しのクレメンタイン)のオルゴール
が流れている。清掃車かも。
ふと、立ち上がって、ドアを開け
階段上からかがんで下を見て、
寅「おっさん!」
オヤジ「へえー」
寅「引き揚げるから、勘定してくれ」
あー、また逃げるのかい寅…。
ふみさんは人の中で揉まれて来た大阪みなみの
売れっ子芸者さん。
その彼女が悲しみの底にいるとは言え、深夜寅の
部屋にやって来て、泊めて欲しいと言う。全てを覚悟して、
能動的に寅のところへ行ったはず。
だからこそ、「私がこの部屋に泊まるのが迷惑だったらそう
言ってくれれば…」と、置手紙を書いたのである。
寅は、この夜のふみさんの気持ちをやはりギリギリでは
受け入れることができなかったと言えよう。
結局寅は、この期に及んでも、逃げの行動しかできない
のである。この行動を、寅の優しさ、と捉えることもできる。
ふみさんの人生に責任が取れそうもない寅が、理性を持って
部屋を後にした、と考えても良いのかもしれない。
ましてや、あの夜、ふみさんは弟のことで参っていたから、
なおさら、そっとしてあげたかったのであろう。
しかし、ふみさんの気持ち的には肩透かしを食った淋しさ、
つまり、寅に自分が思われていなかったと分かった落胆は
とても辛いものであったろうことは想像に難くない。
もちろん、それはふみさんの誤解で、寅はふみさんに
惚れてはいたが、例によってプラトニックなものなので、
時としてそのことに女性は傷つき、寅を誤解する。
通天閣本通りを歩く二人
遠くに洋服の『マルトミ』の看板
カメラは高い位置から二人を撮っている。
おそらく通天閣からかな(^^)
オヤジ歩きながら
オヤジ「そやけど、もし寅やんがおらんように
なった後でもしあの子が訪ねてきたら、わてどない
言うたらええねん」
寅「訪ねちゃこねえよ」
オヤジ「そんなことはわからへんがな」
寅「いや、来ねえ!もし来たとしたら、そのときゃ、
あの男は東京へ帰ったとそう言ってくれれりゃいいんだ」
オヤジ「なんでやねん、なんでそない逃げるようにして
帰らないかんねん」
寅「男ってものはな、引き際が肝心よ…」
オヤジ「わかりまへんなあ、そない格好ばっかりつけてたら
おなごはんはものにならんでぇ、そら、ちょっとぐらい
格好悪うても、アホやなあと言われても、とことん
付きまとって地獄の底まで追っかけてぐらいの根性が
なかったらあきまへん、この道は」
寅、地下道への道の前で止まり、
寅「ありがとうよ、いいこと教えてくれて」と、にっこり笑う。
寅、もろ口だけ。ほとんど聞く耳持たなかったりして(^^;)
両者の『恋愛感』には養老孟司さんが言うところの
『バカの壁』がそびえ立っていて、交わることはないようだ。
オヤジからかばん受け取って、少し歩く。
向こうに『浪速警察署』が見える。
寅、階段のところでまた止まって
寅「じゃあおっさん」
オヤジ「もうお別れか…」
寅「世話になったな」
と、階段を下りてゆく。
オヤジ、寅の背中を名残惜しげに追っている。
寅、振り返って
寅「あ、勘定の残りは必ず送るからな」
うそばっかり、どうせまたさくらが…(−−;)
オヤジ「大阪に来たらまた顔出してや」
寅、踊り場で、もう一度振り返って、
寅「かあちゃんと仲良くやれよ」と言ってすっと消える。
オヤジ、独り言をつぶやく
オヤジ「あーあ、淋しなるなあ、あの男がおらんようになると」
ほんとほんと(−−)
ちなみに、第39作「寅次郎物語」では天王寺駅前まで秀吉と来ながら、この縁の深い「新世界ホテル」に
宿泊しようとしないのは何故だろう?見ず知らずの宿に泊まっていた。
もっともそのころはもうすでに潰れて倒産していた可能性はあるが(^^;)
オヤジ通天閣の方に戻っていく。
近所の人と挨拶
近所の人「おはようさん、おまえとこどやこの頃」
オヤジ「あきまへんな」
近所の人「しっかりやらなあかんで、泣き言ばかりゆうてんと」
オヤジ、ほかの人にも手で挨拶して、トボトボ帰って行く。
新世界ホテルのオヤジの助言とは、ある意味正反対の寅の生き様。
女性を大事にし、引き際を考える寅。それは一見男の美学に見える
かも分からないが、第48作「寅次郎紅の花」でリリーが啖呵を切る
ように、実は寅のこの手の行動は、寅に気がある女性にとっては
決してカッコいいわけではなく、臆病でエゴイスティックな行動でしか
過ぎないとも言える。
しかし、『覚悟』というものを持てない寅は、こういうふうにしか
生きれない人間なのである。
前々から思い、そして繰り返し書いてもきたことだが、恋愛や結婚と
いうものは人格者や堅気がするものではない。遊び人だって、テキヤ
だって病人だって、関係なくするのだ。カラスの常だって、ポンシュウだって
結婚していた。
つまり、恋愛や結婚には『資格』はいらない。寅がよく「オレみたいなヤツと
結婚したって…」と、自分にいかにも資格が無いように言っているが、
実は、資格がないのではなく『覚悟』がないのである。やっぱりめんどくさい
どろどろしたことが嫌いだし、束縛されるのが嫌いなのだ。いつまでも旅を
していたいフーテン的な気持ちがどこかにあるのだろう。
私たちにとっては歯がゆいが、いい悪いの問題では決してないとも思う。
そのような風のように生きている寅だからこそ与えることができる幸せの
かたちがあるのだろう。
寅には寅の独特の人生がある。ただそれだけだ。
寅は常に美しい幻影を追いかける哀しいロマンチストだと
言ってもいいと思う。
私はそんな寅が好きだ。
【新情報追加】(2006年8月16日アップ)
私の寅仲間である大阪の鶴田さんが、2006年の今年初夏、これらの大阪ロケ地を巡って来られた。
鶴田さんは相当の寅さんマニアで、バイクに乗って風を切りながら情熱的にロケ地巡りをされている。
今回その時のお写真をメールに添付して送ってくださったので、ここに紹介させていただきます。
映画のカメラアングルを頭にしっかり入れられて行われた撮影はお見事の一言だ。
(ちなみにお名前とお写真掲載のご許可は得ています)
@ 2006年 大阪石切神社 参道
寅「おふみさん、って言ったな」
メインテーマが軽快に流れる。
ふみ、タタタと駆け寄り、手を握り、
ふみ「寅さんやね、確か!」
寅「そうよ」
2006年初夏
←
A 2006年生駒山 宝山寺駅近く
寅「どうだい?景色のいいところでもって、
弁当でも食おうよ」歩くの嫌いな寅(^^)
ふみ「まだ着いたばっかりやないの」
寅「これ登るのか!?うわあ〜」
2006年初夏
←
B 2006年 生駒山宝山寺への石段
ふみ「もう一枚撮りましょか」
女性「お願いします」
男性「お宅はお子さんまだですか」
ふみ「はい、まだです」(^^;)
カシャ
寅、そのセリフ聞きながら照れまくり。
2006年初夏
←
C 2006年 宝山寺 境内 絵馬堂
絵馬に二人とも何か書いている。
寅「ふみちゃん、何書いたんだい」
ふみ「ん?寅さんにええお嫁さんが来ますようにって」
寅「うそだ〜ぇ、うそだよー、
そんなこと書くわけないよ、フフ、
でも、ちょ、ちょっと見せてやってくれる?」
ふみ「あかん、いや、いやー」と隠そうとする
寅「ちょっと、見せてよ」
と、さっと取ってしまう。
寅「ハハハ」
寅、絵馬を眺め、はっとする。
『弟が幸せになりますように。
ふみ』
ゴーン
寅「弟がいたの?」
ふみ「うん」
2006年初夏
←
D 2006年大阪市港区波除6丁目 山下運輸付近
寅「社長さん」
主任「私?」
寅、頷く。
主任「社長ちゃいまっせ」
と手を洗う。
寅「じゃあ、課長さん」
主任「私、あの、運転主任ですけど」
寅「あー、主任さんですか」
主任「はい。なんか御用でっか」
2006年初夏 今は山下運輸は大正区に移っているが、当時のお手洗いは健在!
←
E 2006年天王寺動物園入り口近く
タクシーが早朝帰りの客を待っている。
失意のふみ、先頭のタクシーに乗って行く。
←
F 2006年通天閣本通り 地下通路入り口
寅「じゃあおっさん」
オヤジ「もうお別れか…」
寅「世話になったな」
と、階段を下りてゆく。
オヤジ、寅の背中を名残惜しげに追っている。
寅、振り返って
寅「あ、勘定の残りは必ず送るからな」
オヤジ「大阪に来たらまた顔出してや」
2006年初夏
←
オヤジ、独り言をつぶやく。
オヤジ「あーあ、淋しなるなあ、あの男がおらんようになると」
オヤジ通天閣の方に戻っていく。
2006年初夏
←
2006年 通天閣本通り
近所の人と挨拶
近所の人「おはようさん、おまえとこどやこの頃」
オヤジ「あきまへんな」
近所の人「しっかりやらなあかんで、泣き言ばかりゆうてんと」
オヤジ、ほかの人にも手で挨拶して、トボトボ帰って行く。
2006年初夏
←
以上、2006年初夏の鶴田さんの取材写真を紹介しました。これらを見て思ったのは
25年と言う歳月を経ても意外にこれらの風景はそんなにも変わっていないと言うことだった。
当時の面影が結構残っているのは嬉しいものである。
特に山下運輸のお手洗いが残っていたのは驚き桃の木山椒の木だ。
山下運輸は引っ越してしまったがああいうものは引き継がれていくんですねえ(^^)
鶴田さんの熱き想いに敬服しますと同時に、ご好意に深く感謝いたします。ありがとうございました。
柴又帝釈天 参道
源ちゃん、顔に布被って
とらやに向かっている。いきなりギャグ?(^^;)
すれ違う自転車の男
男「なにやってんだ、バカ!」実もフタもないことを…
源ちゃん「エレファントマン!」
やっぱり…当時子供たちがやってました。
あの映画知っている人にとっては
源ちゃんの遊びちょっとあぶない…ヾ(- -;)
とらや 店
客「ごちそうさま」
さくら「ありがとうございました」
源ちゃん、店の前までやって来て、
顔に被せていた布をとって、客を驚かせる。
客「ハハハハ」と笑っている。
さくら「あら、源ちゃん、取りに来てくれたの?」
源「へえ」さくらには『エレファントマン』しないんだね(^^;)
さくら「ごくろうさま」
さくら「おばちゃーん、お寺のおだんごできたー?」
おばちゃん台所から出てきて
おばちゃん「はいはい、20箱でよかったんだね。」
さくら「そーよ」
おばちゃん「暑いねー、今日は、よいっしょ、はー」
さくら、風呂敷にどんどんつめていく。
おばちゃん「もう梅雨も上がんのかしら」
さくら「九州や対馬の方ではもう梅雨は上がったって言ってたわ」
おばちゃん「ふーん、ほんと」
さくら「ハイ、ご苦労様」
源ちゃん「なんぼでっしゃろ」
さくら「え?」
源ちゃん「なんぼですか?」
さくら、はっとして
さくら「あ、あああ、お金のことね。8千円」
400円×20箱
源ちゃん、頷いて、財布からお金を取り出そうとしている。
さくら「源ちゃん大阪弁だから分かりにくくて」
おばちゃん「こっち来てから随分になるのに、
いつまでも抜けないんだね源ちゃんの訛りは」
大阪弁は『訛り』とは言わない。
大阪は西の都であるからこれはこれで、
『訛り』といわれると嫌がる人が多い。
大阪の人にとっては大阪が日本の中心だからだ。
東京の人には意外にそういう中心意識はない。
さくら、1万円渡されて
さくら「へ、おおきに」とお茶目に首を傾けるさくら。
おばちゃん「フフフ」
さくらお釣り取りに行く。
おいちゃん出てきて
おいちゃん「大阪といやあ、寅の奴どうしてるかなあ…」
おばちゃん「ほんとだ、随分になるねえ、
いつか手紙が来てっから」
あの幸福そうな手紙がとらや着いた頃にはすでに寅はふみさんと
別れているのだ。うそのような本当の話。宝山寺へのお参りの
前の晩にさくらたちへ手紙を書き、宝山寺参りの当日、ふみさんは
弟の会社へ行き、その夜に寅の部屋に来る。そして翌昼には寅は
新世界を後にするのだ。早い早い。
おばちゃんの発言から考えると、梅雨がもうそろそろ明けるって言ってたし、
2週間くらい経っているのかもしれない。
東京へ帰る汽車賃捻出するためにどこかでバイをしていたのかも。
さくら「下宿探すなんて言ってたけど、どうなったのかしら?」
おいちゃん「あいつがひとっところに
そう長くいるわけねえけどなあ」と、タバコ取り出す。
おいちゃんはいつも寅の本質をよく見てるよなあ。
さくら「はい、おつり」
おばちゃん「御前様によろしくね」
源ちゃん「へ」
さくら「ごくろうさま」とレジのフタを閉める。
源ちゃん、ビクッとして駅の方角を
振り向いてシゲシゲ見る。
さくら、源ちゃんを見て「???」
源ちゃん「兄貴!」
さくら、その源ちゃんの声を聞いて道に飛び出す。
さくら「ほんとだ!」
さくら「お兄ちゃんよ」とおいちゃんたちに。
おばちゃん「あら!」
おいちゃん「噂をすれば影だ」
さくら「おかえんなさい、お兄ちゃん」
おいちゃん「いやあ」
おばちゃん「おかえり」
おいちゃん「よく帰ったな」
寅、ニコニコ、と笑いながらもちょっと『気』が違う。
さくらとおばちゃんを左右に見ながら
寅「どや、みんな
変わりあらへんか?」
大阪弁のイントネーションボロボロ(^^;)
さくら「え??」
おいちゃん「????」
メインテーマがポヨヨ〜〜〜ンと流れる。
寅「どないしたんやさくら?」
さくら「ん…、元気よ」
寅「おばん、神経痛のほうどないや?」
おばちゃん「ん!んん、なんとかね」
寅「さよか」
寅深くため息をついて
寅「あーあ、しんど!…、ふあああ」
さくら「どうしたの?」
寅「長旅で疲れてしもうた…」
おばちゃん「じゃ、ちょっと2階で休んだらどうだい?」
さくら「そうね、お布団引いてあげる」
寅「ほんならそうしてもらいまっさ」
さくら、寅のお土産を見ている。
寅「あ」
とお土産手に持って
寅「おじん、これな、大阪の
『おこぶさん』やで、食べてんか」
と台所へ
おいちゃん「おおきに」およよ(@@;)
さくら、おいちゃんの言葉を聞いてびっくり。
寅とさくら2階へ上がっていく。
おばちゃん「なんだか様子が
おかしいねえ…旅の疲れかしら」
おいちゃん「いやー!それだけじゃねえぞお」
客、店先で、「おだんご下さい」
おばちゃん「はい、おいでやす」出たアア!おばちゃんの得意業
おいちゃん「!!」
おいちゃん、そんなおどろかんでもよろし。
あんたもさっき「おおきに」てゆうてましがな ヾ(^^;)
今回のとらやのお品書きは
お赤飯 200
豆大福150
大福餅150
ところてん150
あんみつ280
三色だんご200
焼きだんご150
草だんご150
くず餅250
磯乙女200
ジュース150
ラムネ150
ミルクコーヒー200
今回の冷蔵庫は『とらや』の文字。
『冷たいビールジュースラムネ』の貼り紙
ポスター
夏 氷蝉 入道雲 ○○ 白玉 風鈴? 団扇
暑中お見舞い申し上げます。
とらや
ちなみに1969年制作の第2作「続男はつらいよ」
ではお品書きは下のようになっている↓
レモン、イチゴ.メロンかき氷50円.
あんみつ70円.クリームソーダ70円.
ソーダー水50.アイスクリーム30円
サイダー50円.クリームあんみつ80円.
12年間で物価は上がり、
つまり飲み物は3倍に値上がり。
あんみつは4倍に値上がりしている。
ちなみに、寅は大阪弁を使っているが、
新世界ホテルを出てから2週間ほどの間、
ずっと寅はこんな調子で暮らし、
啖呵バイも『こうてんかあ〜、やすしとくでえ」って
言っていたのかなあ?
柴又 夕暮れ
題経寺の鐘
とらや 茶の間
寅は後ろをむいたまま、ボケ〜〜〜。
博が心配そうに見ている。
ゴ〜〜〜〜ン
寅「フンーン、四天王寺の鐘の音かァ…」
おいちゃん「四天王寺…?」
博「大阪にあるんじゃないですか」
さくら「ほんとうに食べないのね」
と、味噌汁を片付けだす。
四天王寺
「金光明四天王大護国寺」(こんこうみょうしてんのうだいごこくのてら)
四天王寺は、飛鳥時代、聖徳太子により、推古天皇元年(593)に建立。
『日本書紀』によると、物部守屋と蘇我馬子の合戦の折り、
崇仏派の蘇我氏についた聖徳太子が形勢の不利を打開するために、
自ら四天王像を彫り 、勝利の暁には四天王を安置する寺院を建立する
ことを誓願し、勝利の後その誓いを果すために建立。
日本最古の官立寺院でもある四天王寺は、当初、仏法修行の道場
である敬田院、 寄りのない者や年老いた者を収容する悲田院、
病者に薬を施す施薬院、病気の者を収容し癒す療病院の四箇院を構え、
庶民救済の中心地となっていた。
度重なる焼失に会ったことでも有名。最近では大阪大空襲で焼失。
現在の建物は1963年に完成したもの。
既存の仏教の諸宗派にはこだわらない全仏教的な立場から、
1946年に「和宗総本山」として独立宣言を出している。
寅が滞在していた新世界はこの四天王寺からすぐ近く。
歩いて行ける距離。「天王寺」の駅名もこの四天王寺から貰っている。
おばちゃん「少し食べると元気になるのに、
せっかくお芋も煮たのに…」
さくら「味が辛すぎるんだっておばちゃん」
博「大阪暮らしが長くて薄味になれちゃったんでしょう」
おばちゃん「じゃあ、玉子でも焼こうかァ?ね」
と、芋を冷蔵庫に入れる。
おばちゃん、ラップかけないと味が落ちるよ(^^;)
寅「いいよいいよ
おふみちゃん、…ありがとう」
一同、ビックリ!
おばちゃん小さな声でさくらに
おばちゃん「おふみちゃんって…」手には卵。
みんなどう言っていいか分からない。
タコ社長入って来る。
社長「こんばんはー」
おばちゃん「あ、こんばんは」
社長「よ!寅さん、おかえり、随分長かったな大阪、
どや、なんぞおもろいことおまったか?」
どうも社長のは大阪弁に聞こえないな〜(^^;)
博「実は、今度は長滞在に
なるかもしれないって、兄さん手紙に
書いてたから、みんなでなにか
あったのかなって心配してたんですよ」
さくら「ん、そう」
寅「ああ、そんなこと、書いたっけかなあァ…」
さくら「ほらあ、下宿に移るかもしれないって
書いてたじゃない、どうだったの、そのことは?」
寅「ああ、それは…、おふみちゃんが
そうしたほうがいいって言ってくれたんだ…」
さくら「へえ…、お、おふみさん、…が、
そう言ったの?」さくら上手い!(^^;)
寅「うん、芸者は金で苦労してるからなあ…」
さくら「そうね」知らないのに知ってるふり(^^;)
博「きれいな人でしたか?」
寅、僅かに顔が緩み、微妙にニタつく。
はあ〜…ダメだこりゃε〜( ̄、 ̄;)
社長「誰のことだい?」
おばちゃん「おふみさんって人」
社長「誰だいおふみさんって?」
さくら「芸者さん」
社長「どこの!?」
おいちゃん「なんにも知らないんだから
黙ってろよ!おまえは」
この話の腰を折っていく社長のパターンは
第13作「寅次郎恋やつれ」の温泉津の話題で
使われていた。
博「気にしないで下さい兄さん」
寅「いい女か?って聞いてるのか?」
博「ええ…」
寅「フ…。もしここへスゥーっと
現われたらな、タコは腰抜かすよ」
さくら「へぇぇー、そんなにきれいなの?」
寅「抜けるような白い肌。
それが嬉しい時なんかパーッと
桜色に染まるんだよ。
寅「悲しい時は透き通るような青白い色。
黒いほつれ毛がふたすじみすじ、
寅「黒い瞳に涙を一杯貯めて、
『寅さん、ウチ、
あんたの膝で泣いてもえええ?』」
一同「…!!!!」
寅「はああぁー…」
一同、下を向いている。
寅「可哀想だったなあ…、
あん時のおふみさんは…。」
満男興味津々でニコニコ。
さくら「で、…どうなったの?」
寅「……」
博「兄さんがいろいろと力に
なって上げたんでしょ?」
寅「気持ちだけはあるんだ」
さくら頷く。
寅「でも、いくら気持ちだけあったって、
何してやりゃあいいのかわからねえんだよ。
金はねえしなあ…、ましてや、頭でも良けりゃァ、
何か気の利いた言葉のひとつも
かけてやれるものを…、それもできやしねえ」
寅、腹巻から、例の広告の裏に書いたふみさんの
書き置きの紙を取り出し、広げる。
大事に腹巻にしまってあったんだね(^^;)
寅「そんなおいらにあいそをつかして、
あの子は行っちまったのさ…」
みんな、紙の文字を眼で追っている。
寅「『これからどうして生きていくのか、
一人で考えていきます。
寅さん、お幸せに…』
フ、そう行ってね…」
柱時計 ボーンボーンボーン…
寅「まあ、いまさらそんなこと言ったって、…
こら愚痴になるだけだからさ、ね、
今夜はこのあたりでお開きってことにしょうか」
さくら「…そうね」
寅「うん」
寅「ごちそうさん」食べてないよ(^^;)
さくら「はい、お粗末様」
博「はい」
寅「でも、考えてみりゃァ、
オレは幸せもんだよなあ、
こうやって温かい家族に
迎えられてよ。おいちゃん、おおきに」と深々と礼。
おいちゃん「とんでもない」
寅「お茶の間のみなさん、おやすみやす」
おやすみやす
一同口々に「おやすみなさい」
寅「はあー、しんど」
と階段を上がっていく。
一同沈黙。
博「ま、…ふられたことには間違いないな」
ふられたんじゃないんだけどね(^^;)
たいていふられるんじゃなくて、逃げてるんですわ。
社長「へ!?じゃあ今回は
お目にかかれないの?美人に?」
博「そういうことですね。」
意識を変えて
博「満男、帰るぞ」
社長がっくりして立ち上がり
社長「なーんだい、つまんないの」
満男「『おやすみやす』って大阪弁でしょ」
博「そうだぞ」
江戸川土手
寅と源ちゃんが川面を見ている。
下では野球の練習
源ちゃん、草履を修理しだす。
寅「源公」
源ちゃん「へえ」
寅「おまえ、大阪生まれだったな」
源ちゃん「へえ」
寅「お袋の顔覚えてんのか?」
源ちゃん「覚えてへん。おかんワイのこと
産んですぐ男と逃げたさかい」
寅「そうか…、悲しいこと
思い出させちゃって悪かったなあ…」
寅、土手に体を寄りかからせて
寅「はあ…」
源ちゃん、スッと立って、昔のことを思い出したのか、
悔しい顔をし、涙ぐむ。
その刹那、源ちゃん足を滑らせて
源ちゃん「あー!!う!」
寅の足を踏む。
寅「いたたたた」
源ちゃん「あ、すいません」
寅「痛いな!てめは」
と、源ちゃんの頭を押す。
源ちゃん「あう!」
寅、雪駄を叩いて、
寅「バカ野郎」
しんみりさせて、ストンとこかす。
相変わらずただじゃすまない山田演出でした(^^;)
謎の男源ちゃんの生い立ちの物語が少し垣間見れた
シーンだった。
題経寺山門前
題経寺山門前で水をまいている御前様。
ルンビーニ幼稚園の園児二人
園児たち「御前様 さようなら」
御前様「はい、さようなら」
さくら、スクーター乗ってきて、前で止まり、
さくら「こんにちは」
出た!マスカット色のヘルメット!ヽ(*⌒∇⌒*)ノ
御前様「あー、どうかな、寅の具合は?」
さくら「おかげさまで、なんとか」
御前様「やはり旅の疲れかな?」
さくら「ええ、それもありますけど、
どちらかと言うと、精神的なこと…、
いーえ!精神なんてほどのことじゃ
ないですけど」
御前様「ほー…、やはり大阪の芸者に
失恋したのがこたえたのかな」
さくら「あら、御前様そんなことまで
ご存知だったんですか?」
御前様「それぐらいのことが分からないで
題経寺の住職が務まりますか」
さくら「恐れ入ります」
ホースの水をまきながら、
御前様「ハアーァ!、ハアーァ!、
ハアーァ!、ハアーァ!」
このシリーズ一番の御前様笑い(^^)
隠密源ちゃんか隠密タコ社長のどちらかが
知らせたんだな。
さくら「フフフフ…」
さくらこれは笑うしかないね。やっぱり可笑しいよ(^^)
とまたマスカット色のヘルメットを着ける。
かわいい〜♪(^^)
帝釈天参道
ふみが柴又駅からやって来る。
うなぎの『たなかや』の前、横断歩道を渡って歩いていく。
とらや 台所
おばちゃんが忙しいそうに草だんごを詰めている。
谷よしのさん登場!!
今回は入り口で立って草だんごを待っているお客さん役。
谷さん「まだああ?」
おばちゃん「すいません、お待たせして、今すぐできますから」
あんこを折に詰める。
おばちゃん「あー忙し」
タコ社長やって来て
社長「なんだい、おばちゃん一人なのかい?」
おばちゃん「今日はねえ、魚釣りに行っちゃったんだよぉ」
社長「あーあー、さくらさんは?」
おばちゃん「PTAが済んだらすぐ顔出すっていうんだけどね」
社長「ん」
おばちゃん「こんなときに限って忙しいんだから」
社長「んん」
おばちゃん「あー、どっこいしょっと」
と、急いで折を包みに行く。
寅は暇だけど何の手伝いもしないんだよなああ。
土手で寝転んでいます(^^;)
食べていた客「おいくらですか?」 大人2人、子供2人。
おばちゃん「はいはい、えーっと…、
♪おでん〜とお、
茶飯ーぃと、ジュースで
1750円になります」
歌うようなテンポでリズムをつけるおばちゃん。
年季の入った演出です(^^)
谷さん「まだですかあ?」イラチの谷さん(^^;)
おばちゃん「はいただいま!」と谷さんに駆け寄る。
それと同時に店の客、2千円を出す。
客「はい」
おばちゃん受け取って
おばちゃん「あ、お釣り今差し上げますから」
おばちゃん、谷さんに
おばちゃん「えーっと、お団子2つで千円になります」
谷さん、受け取って帰っていく。
おばちゃん今度は店の客にお釣りを渡す。
おばちゃん「ありがとうございました」
おばちゃん「250円のお返し」
客「ごちそうさま」
おばちゃん「どうもありがとうごじました」
社長、台所の上がり口に座って
耳垢を掃除しようとしている。
おばちゃん、戻ってきて
おばちゃん「あー!やれやれ、これで一息」
社長「気の毒みたいだな、オレ手伝おうか?」
おばちゃん「あんたがお店出たら
お客さんみんな逃げちゃうよ」
社長、苦笑い。
おばちゃん「さてと、濃いお茶でも飲んでと」
疲れが取れるビタミンC
よたよた茶の間に上がっていこうとする、その刹那
ふみ「ごめんください」
ふみさん、やって来ました大阪からアポ無しで。
どのマドンナにも言えることだけどアポ無しで来ちゃって、もし
寅がいなかったらどうするの?
隆子さん、葉子さん、典子さんのように
「寅不在時の訪問」になっちゃう時もある。
おばちゃん「はーい、また来た、
今日はどうしちゃったんだろ、まあ、忙しこと」
おばちゃん、小走りで
おばちゃん「いらっしゃーい」
社長、半分呆れている。
清掃車のメロディが流れている。
おばちゃん「なんにいたしましょう?」
ふみ「あのー、こちらとらやさんですね?」
おばちゃん「はいそうですけど」
ふみ「寅さんいてはりますでしょうか?」
おばちゃん、びっくりして
おばちゃん「あ、はい、いてはりますけど…、
あの、さっき散歩に行くといって出かけましたが」
普通は寅は旅に出かけてるからまず、いないよ。
ほんとラッキーな人だ。
社長、台所からのれんを上げて見ている。
ふみ「いやああ、そうですかあ!
うち、浜田ふみと申します。
大阪で寅さんに大変お世話になりましてえ」
おばちゃん「はああああ!あの芸者さん!?」
いきなり言いますおばちゃん(^^;)
ふみ「はい!」
おばちゃん「あら、ごめんなさい悪いこと言っちゃって…」と反省。
ふみ「いいええ!」
おばちゃん「あの、寅、もうおっつけ戻ってくるでしょうから、
とにかくおかけになって、さあ、どうぞ、どうぞ」
と、イスを勧める。
おばちゃん「あの、今、お茶でも入れますから」
ふみ「おおきに」
社長、台所で、気合を入れながら(^^;)
社長「遂に来たね!ベッピンが、
大変だぞこれは!博さんに教えてやろ」
と、まずは工場に知らせに行く。
社長ひまだねえええ〜 ┐(-。ー;)┌
電車の音
客「ごめんください〜」
おばちゃん「はいはい」
おばちゃん「ちょっと待ってください」
ふみ、すぐに機転を利かせて、立ち上がり、
自分の荷物をよけ、
ふみ「おいでやす、なにしましょ?」
客「草だんご二皿ください」
ふみ「はい、ただいま」
ふみ、お皿などをテーブルから片付けて持ってくる。
ふみ「おばさん、草だんご二皿ですって」
おばちゃん「あーら、まあどうしましょ」
野球帰りの関敬六チームが笑いながら入って来る。
ふみ「あ、おいでやす、どうぞ」
ふみ、機転を利かせて
ふみ「いや、恐れ入ります、お席お詰め願います」
敬六さん「あ、どうもすいません」
友人「すいませんどうも」
敬六さん「あー、美人だなあ!」言うかいきなり(−−;)
友人「またまたーハハハ」
敬六さん「姉さん、ここの店員さん?」
ふみ「へえ、そうです」
敬六「まず、ビールにしょうか」
ふみ「へえ」
友人A「それからおでんとね」
友人B「ところてんとだんご」
ふみ、レジのカウンターからメモ用紙持ってきて
ふみ「すいません、いっぺんに言われてもわからへん。
幹事さん、まとめておくれやす」
敬六「いいよ」
友人A「オレ、おでんね」
ビールを取り出すふみ。
裏から博を連れて社長が戻ってくる。
社長「ほら、あの人あの人」
博、暖簾の下から見ている。
おばちゃんを押しのけて見ようとする社長に
おばちゃん「ちょっとー、見物に来たのかい?
工場暇なの?そんなにあんたんとこ」
工員たちも全員押し寄せてくる。
社長、裏へ追い払いながら
社長「なんだい、今忙しいんだよ、
よおお、暇じゃないんだから…」
あんたはどうなんだ ヾ(−−)
ふみ「おでんふたつに…、い…、
いやこれなんていう字??」
敬六「いそおとめ(磯乙女)」
ふみ「フフ!」
敬六「読めない??」
ふみ「読まれへん、フフ!」
敬六さんたち「ハッハハハ!」
さくら、やって来て、ビックリ(@@)
さくら「!!????」
????
さくら「いらしゃいませ…」
さくら、ふみを見てちょっと戸惑いながら奥へ。
ふみ「あとは…、ところてんと赤飯ですね」
敬六さん「あ、」
ふみ「おビールどうぞ」
敬六さん「おおきに」瞬く間に大阪弁伝染しました(^^;)
一同「ハハハハ!」
一同「乾杯!」
さくら、台所に来て、
さくら「おばちゃん」
おばちゃん「あ、さくらちゃん」
さくら「誰?あの人?」
おばちゃん「あのね、大阪の芸者さん」
さくら「じゃあ、お兄ちゃんの?」
社長「そうよ、恋人よ」
と、小指を突き出す。
下品だねえ〜相変わらず(−−;)
ふみ台所に戻ってくる。
ふみ「おばさん、おでん2つと
磯乙女ところてん、とりあえず」
おっと赤飯は!?忘れてる??
ふみまた店に行こうとする。
おばちゃん「あ、あの!寅の妹の」
ふみ「やー、さくらさん」
寅の絵馬に書いてあったもんね(^^)
さくら「はい、はじめまして」とお辞儀。
ふみもお辞儀。
おばちゃん「あの、これは、夫の博です」
とタコ社長を紹介(@@;)
社長も、そのまま挨拶 ちゃうちゃう ヾ(ーー )
ふみ「ひゃー、はじめま…」
おいおい、ふみさん、
タコ見て分からんか??ゞ( ̄∇ ̄;)
博、横から
博「違います、僕です」そらそうだε〜( ̄、 ̄;)
ふみ「!!」
一同 爆笑
ふみ「フフフ」
さくら「手伝ってもらってたのー?」
おばちゃん「だって私しかいないんだもん」
敬六さん「ちょっとお姉さん!」
ふみ「はい!」
さくら「ご挨拶はあとで」
さくら、お辞儀をして恐縮する。
ふみ、店のほうへ
おばちゃん「さくらちゃん、これ頼むよ」とオーダーの紙を渡す。
さくら「はい」
さくら、ふみさん赤飯の注文紙に書いてある??
店でふみさんと客たち
客「おでん追加」
母と少年店に来る。
ふみ「おいでやす、あちらへどうぞ」
おばちゃん「いっらしゃいまし」
忙しくて寅なんか捜しに行ってられないよね、これじゃ。
夜 工場の2階
看板
各種印刷一般
朝日印刷所
TEL(657)3168
いつも思うんだがこの朝日印刷の看板だれが見るんだろう?
位置的に、道に面していないのでとらやの住人しか見ないのでは?
工員たち、みんなでふみさんを覗いている。
工員A「見えたか?」
工員B「あそこ」
工員「ピュ〜〜」と口笛。
茶の間
博「ふみさんがいたから客が増えたんですよ」
ふみ笑って
ふみ「いや、フフフ」
おばちゃん「ほんと」
おいちゃん「そうだよ」
釣りから帰ってきて釣竿を拭いている。
さくら「じゃあ今日は、ふみさんのおかげで
儲けさせていただいたわけねえ」
ふみ「うそですよ〜、そんな」
ふみ、ビールを持って、
ふみ「どうぞ」と博にお酌。
ふみさん、今日はプライベートな時間なんだから
そんなことしなくてもいいんだよほんとは(^^;)
もちろん博は嬉しそうだけど…。
博、緊張して硬くなりながら
博「すみません」と注いで貰っている。
さくらも、おいちゃんも、満男も
興味を持ってその情景を見ている わかるわかる(^^)
博「しかし、兄さん遅いな」
さくら「どこ行ったんだろう」
おばちゃん「ブラブラしてくるって出てったんだから、
仕事じゃないんだけどねえ」
おいちゃん「いつだってブラブラしてるじゃねえか
断る事はねえよ何も」上手い上手い(^^)
博「ハハハハ」
おばちゃん「ほらこれ、おみやげ」
さくら「対馬からよ」
博「対馬って九州の向こうの?」
さくら「知り合いの方がいらっしゃるんですって」
満男「ここでしょ?対馬って」
ふみ「そう」
博「海のにおいだ」
おばちゃん「本当に泊まってらっしゃればいいのに」
ふみ「ありがとうございます」
さくら「もう宿とってしまったんだって」
おばちゃん「あらあ、もったいない」
さくら「ねえ」
おいちゃん「まあ、おすすめするほどの
うちじゃありませんがねえ」
ふみ「いや」
おいちゃん「もう、古臭くて」
おばちゃん「汚くしてるから」
ふみ「くふッ」
さくら「どうしたの?」
ふみ「え、アハ、あれいつだったかしら寅さんが
この家の事とっても古いって言うから
ウチがいつごろ建てたん?って聞いたら」
さくら「うん、お兄ちゃん何て言った?」
ふみ「奈良時代だって」
おばちゃん「え〜?」
博「アハハ」
おいちゃん「いい加減な男だな」
おばちゃん「口からでまかせに言うんだから」
満男「本当!?」満男って…(^^;)
博「違うよバカだなあ」
さくら「ちょっとちょっとお兄ちゃん帰って来た」
寅「♪別れ〜にぃ星影のワルツを歌おうかァ〜おーい、
源公!お前二日酔いで鐘を撞くの忘れたら
承知しねえぞ!この野郎、たのむぞ」
おいちゃん「ビックリするぞあいつ」
さくら「ねえ、ちょっと隠れてたら」
出たアアア!さくらあああ、お茶目!!
\(o ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄▽ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄o)/
第46作「寅次郎の縁談」でも葉子さんを隠れさせて、
満男を驚かせていたが、あれもたぶん
さくらの提案。こういうところが最高にいいね、さくらって。
ふみ「え?」
さくらのこのお茶目な顔見てください(^^)
博「それがいい」博まで(^^;)
さくら「そこの後ろ」
博「そこの陰陰」
ふみ「え」
おいちゃんたち手でもっと
襖の端の陰に隠れさせる。
みんなお膳を整え、
ふみが座っていたところを寅の席とする。
ハンドバックをお膳の下に隠したり大変(^^;)
寅「とらやの貧しき皆さん本日はご苦労様でした」
おばちゃん「はは、ご機嫌だねえ、
待ってたのよ、ご飯食べないで」
寅「源公がよ、どうしても奢るって言うからね。
あいつの顔立てて、一杯飲んでたんだよ」
源ちゃん、自分の生い立ちのことでちょっと
気にかけてくれた寅の気持ちが嬉しかったのかもしれないね。
一同「ふーん」
寅「いや、遅くなってすまねえ」
寅「あ、ここでいいのか?」
さくら「うん」
寅「あー、よし!」
ふみのそばを通る寅。
あ〜あ、と座りながら、帽子を満男の頭に乗っける。
みんなにやにや
寅「酒はいいなあ、くさくさした気分が
パーッとすっ飛んじゃったい」
博「そらよかったですね」
ふみ、襖からちょっと手が出る。
満男、ちょっと後ろを振り向く。
寅、満男につられて、ちょっと振り向く。
寅「ん???」
何もいないので、元に戻って
寅「フフフ」
寅「なんだ、なんか楽しい事でもあったか?」
さくら「んん、別にいつものとおりよ」
と博の方を見て微妙に笑う。
寅「んー、いつものとおりの
貧しい夕食が終わったわけだ」
さくら「うん」
寅「そうですか」
寅「なっ」
満男のほうを見て、ビールを飲み始める寅。
後ろからパッとふみが寅の目を手で隠す。
さくらたち声を出さずに笑う。
寅「ほらー!暑いんだから
そういうことするんじゃないんだよ満男!」
と、ふみの両手を持ちながら、
寅「まったくお前は不精だね、
そこへぶっ座ったままどうして後ろへ来て…??」
満男、ひじをお膳に着きながら寅を見ている。
寅、自分が持ったふみの手を見て
寅「???」
???
手を離して、満男の手を見て、
後ろのおいちゃんを見て、
親指で勘定し、
満男、おばちゃん、さくら、博、と
指で勘定し、
最後自分を勘定し、
指で、ペケマークを作り、びびる。
寅「誰かしら????」無声音(^^;)
さくら「いい人」 同じく無声音(^^)
寅「いい人????ヒヒヒヒ!」
寅「だれ…?」
と、振り返りざまにふみが顔を目の前に出す。
寅「は!!!!」
と寅お尻ごと飛ぶ。
ふみのテーマが流れる。
寅「な、なんだい!おふみちゃん来てたのかァ!」
さくら、大笑いして下を向いている。
ふみ「寅さん!しばらくゥー!!」
一同「ヤダもう!ハハハハ!!」
寅「いつ?いつ来たんだ?」
さくら「お昼過ぎよ」
ふみ「すっかりごちそうになってたんよー」
寅「なんでオレに知らせなかったんだよー」
さくら「だってどこ行ってたかわからないじゃない」
寅「バカヤろう!オレはずっと土手に行ってたよおめえ」
第32作「口笛を吹く寅次郎」では、さくらは江戸川土手に
いる寅に自転車で知らせに行っていた。今回は店が
大忙しでそんな余裕無しってことかな。
博、笑いながら
博「まあまあ、会えたんだからいいじゃありませんか」
おいちゃん、笑いながら後ろから肩を叩いて、
おいちゃん「怒るなよそんなにおまえ、フフ」
一同「フフフ」
寅「何しにきたんだい…フフ」
ふみ、おどけて
ふみ「寅さんに会いに来たんよー」
寅大いに照れまくって
寅「へへ、うそだよお〜、フフ、
そんなことあるわけねえよ」くねくね(^^)
ふみ、寅を見つめながら微笑んでいる。
寅「あ、そうだ、金持ちの客に付いて、
東京見物に来たんだろ」
ふみ「フフ…」と笑いながら首をふる。
さくら、台所から
さくら「お兄ちゃん、ふみさんはね、
芸者さんやめたんですって」
寅「やめた??」
ふみ、静かに頷く。
寅、真面目な顔になって
寅「そうか…」
ふみ「あれからいろいろ考えてね」
寅「そのほうがいいよ、
お前芸者には向いてないもんな」
ふみ「そ、それでねぇ…」
と、下を向く。
ふみ「大阪、引き払うことにしたの」
寅「わかった!就職で東京に来たんだろ」
ふみ「……」
寅「大丈夫だよ!おふみちゃんだったら
ぜったいどこだって通用するんだから」
寅、乗り乗りで
寅「あ、博!おまえな、早速仕事の心配してやれ」
ふみ、寅を見て何か言いたげ。
寅「あ、おまえのみすぼらしい工場じゃだめだぞ!
もっと立派なビルヂングのOLでなきゃ、な」
ふみ「……」
寅「おばちゃん、とりあえず2階に
居てもらおうじゃないか。オレはこっちの
物置部屋でいいから、うん」
こういう時の寅は人生で最も至福の時間。
おばちゃん「ああ、私たちはよおござんすよ」とにこにこ顔。
さくら戸惑いながら
さくら「ふみさん、本当に東京で暮らすの?」
ふみ、静かに首を振る。
ふみ「…いいえ」と下を向く
寅「…!?」
寅「じゃあ、どこへ住むんだい?」
ふみ「反対のほう…、対馬…」
寅「つしま…?どこなんだそりゃ?」
満男、地図を指差しながら、
満男「長崎県だよ、
玄界灘と朝鮮海峡の間にある島、ほら…」
寅、地図を覗き込んで
寅「……」
おいちゃん、自分の席に戻ってくる。
おいちゃん「なんでそんな遠いとこ行くんですか?」
さくら「ねえ」
博「対馬に仕事でも?」
ふみ、首を振る。
さくら「たとえば、お店持つとか…」
おばちゃん「ねえ」
ふみ「ええ」と小さく言って
ふみ「実はウチ…」
おいちゃん「ほう」
さくら「うん」
みんな注目
ふみ「結婚するんです」
一同凍る。
寅、真剣な目でふみとは違うほうを向く。
満男は寅を見ている。
寅を見る満男
博、おばちゃん、おいちゃん、
さくらもみんな寅を見ている。
沈黙が続く
博、我に帰って
博「満男!向こうで勉強してなさい!」
おいちゃん、満男の頭を押して、
あっちいってろと合図。
満男「いてえなあ」
とふてくされて、仏間に行き、座りながら
満男「ケッコンするんです」と物真似(@@;)
おいちゃん、カッ!と怒った顔(^^;)
ここで満男にこのギャグを言わせるとは、凄い切れ味。
肉を切らして骨を断つ山田演出の醍醐味。
吉岡秀隆君、初出演で相当な演技してます(^^)
ケッコンするんです
ふみ、なぜか言いにくそうに
ふみ「対馬から大阪に、板前の修業に
来ている人がいてね、
今度島に帰って小さなお寿司屋さん
開くことになったんです。
ふみ「その人、前からウチのこと思うててくれて、
…ウチみたいな女でも奥さんにしてくれるって、
そない言うんよ寅さん。」
寅「え……」と我に帰る。
さくら、寅を見て「……」
寅「…ん」
ふみ「でもねえ…、長い間芸者してたから
朝早く起きて掃除したり、水仕事したり、
そんな事できる自信さっぱりないんだけどね」
寅「大丈夫だよ、おまえだったら
きっといいおかみさんになれるよ。
料理の味付けだって美味かったじゃないか。
関西風のよ」
さくら「そうよ、今日ねお店の仕事手伝って
もらったんだけどね、私たちよりよっぽど
お客さんの扱いが上手なのよ、お兄ちゃん」
おばちゃん「そうそう」
寅「へえ、そうかい、そりゃよかったなあ」
おばちゃん「あんたみたいなお嫁さんが来てくれたら、
ウチなんか大助かりですよお」
寅「ほんとにそうだよ、フフ…」
ふみ「どうもありがとう」
博「あのー、いい方なんでしょう?相手の人も」
寅「決まってるよ!おまえそんな…」
ふみ「もう…真面目なだけでね…、
冗談一つ言わない男、寅さんみたいに
楽しい人やないの」
と、寅のほうを見るふみ。
寅「な、へへへ、楽しいって…」
おいちゃん「楽しけりゃいいってもんじゃ
ありませんよ男は」
寅「そらそうだ」きっぱり(TT)
博「大事なことは、人生を力強く
生きることです。
兄さんみたいな人は、それが
ないんですよ」
ひでええ…そこまで言い切るなよな博(−−;)
寅「ん、ないない」
ふみ、苦笑い。
寅、消え入りそうな声で
寅「あるもんか…」(TT)
一同シーン。
ふみ、寅の顔を見て、気を使う。
いくら、ふみさんを勇気付けようとした発言とはいえ、
おいちゃんの言葉はまだいいとして、博の発言はキツ過ぎ。
そういう博はそんなことを言い切れるくらい立派なのか、
みんな似たり寄ったりじゃないのか?
さくら「ふみさん、おめでとう」
寅「いいえ」
と言ってしまって下を向く。
もうあからさまに落ち込んでいる。
おばちゃん「よかったですねえ」
ふみ、少し緊張している。
もう、露骨に下を向いている寅。
寅も、そんなに露骨にショックが隠せないんだったら、
ここぞという時に逃げるなよな。
いくらでもチャンスはあったのに、と声を大にして
言い続けたい。やはりもともと心が二つに
引き裂かれてるんだね。
ふみ、寅の方を向いてちょっと心配そう
おいちゃん「寅」
寅「え」
おいちゃん「ふみさんのために乾杯するか」
おいちゃんは年の功だね。こういう発言はさすが。
寅「あ、そうだな」
さくら「あ、そうね」
おばちゃん「おビール持ってこよう」
電話 リリリーンリリリーン
さくら、ふみさんにコップ渡して、電話口へ
さくら「はい」
さくら「はい、とらやです」
寅「それじゃ、おめでとう」
と一同乾杯
ふみ「ありがとうございます」
さくら「ふみさんですか?あ、いらっしゃいます」
さくら「ふみさん、電話」
ふみ「…?」
さくら「マコトさんって方」
寅小声でさくらに
寅「マコトさん…」
ふみ「ア…、ごめんなさい」と恐縮
そろそろっと立ち上がり電話の方へ。
一同気まずい空気
満男、身を乗り出してニヤつきながら
満男「マコトさんて誰?」
満男も好きだねえ。伯父さんの血かね〜(^^;)
博「うるさい!むこうで勉強してろ!」
ふみ、電話口で
ふみ「はい、もう宿に戻ったん?
ウチもそろそろ失礼するから…大丈夫
道分かる…ウチこっちでごちそうなったから、
なんかそっちで食べてて」
ふみさん、まことさんにとらやの
電話番号を教えたんだ。ふーん(−−)
寅、スクッと立ち上がって
不機嫌に、庭の方へ歩いていく。
限界なんだね…(−−)
さくら、寅の背中を追い、庭の方を見る。
雷が鳴っている。
とらや前 参道
大雨 雷
赤いタクシーが停まっている。
タクシー 私鉄 178 380円 LPG車
ふみ「じゃ、失礼します」
おいちゃん「あいにくの雨になっちまったね」
博「凄い雨になっちゃったな」
さくら、傘を差してやる。
おばちゃん、お土産を渡す。
ふみ「おおきに…どうもありがとうございました」
さくら「さ、ぬれるから急いで」
おばちゃん「気をつけてね」
博「足元に気をつけて」
後部座席に急いで乗ったふみ。
窓を開けて
遠く、寅を見て
ふみ「寅さん、さいなら」
一同寅を見る。
寅、ちょっとみんなの目を気にして
寅「元気でな…」
その後も博の方をチラッと元気なく見る寅
ふみ「みなさん、さいなら」
さくら「失礼します」
おいちゃん「気をつけて」
おばちゃん「お大事にネ」
博「お幸せに」
さくら「お幸せに」
みんな心は寅のことで精一杯。
博、すぐに寅の方を見るが、
寅はもう2階に行ってしまっている。
おばちゃん「やれやれ、行っちゃった」わかるわかる(−−)
さくら「お兄ちゃんは?」
博「2階上がってった」
おいちゃん「今夜は可哀想だったな、
見ちゃおれなかったよ、オレは…」
タコ社長、やって来て
社長「あー、ひでェ降りだ、
あれ?大阪のお姉さん帰っちゃったの雨の中」
さくら「うん」
と言って、すぐに2階へ上がっていく。
テーブルのジュースのビンが倒れ
雷の音が一層激しく鳴り響く。
社長「うわ!」と耳をふさぎ、しゃがむ。
とらや 2階
さくら、寅の部屋へ上がってくる。
寅は暗い部屋のなかで黙って座っている。
さくら「凄い雨ねえ…」
寅、黙って窓の方を見ている。
さくら「ふみさん、よかったね、
タクシー捕まえられて」
寅「わざわざ来ることはなかったんだよ、
こんなとこまで…」
さくら「どうして?」
寅「ハガキ一本出しゃすむことじゃねえか」
メインテーマがゆっくり流れる。
さくら「そんなこと言っちゃ可哀想よ、
わざわざそれを言いに来た
ふみさんの気持ちにもなってごらんなさい」
さくら、ふみさんのその『気持ち』って
どんな気持ちなんだ?
寅「こっちの気持ちにもなってくれって言うんだよ。
こんな惨めな気分にさせられてよ…」
さくら「…はあ…お兄ちゃん…
よっぽど好きだったのね、あの人が…」
雨の音…。
雷が鳴り、寅の横顔が光る。
下を向き小さくため息をつく寅。
このシーンは、第15作「寅次郎相合い傘」の雷雨のとらや2階に
状況設定が非常に似ている。あきらかにあの作品を意識しているのは
間違いない。しかし、似ているが、似て非なるものとはこのことだと思った。
さくらの発言と寅の発言が噛み合ってないのだ。
二人は違うことを言っている。
さくらの言葉「わざわざそれを言いに来たふみさんの気持ち」ってどんな
気持ちなのか、私はさくらの説明を聞きたい。
まあとにかく、大阪のふみさんととらやのふみさんは
どうも噛み合わせが悪すぎるのである。
この一連のふみさんの行動は大きく分けて
以下の4つのパターンに大別できる。
@ふみさんは寅が彼女に惚れていることを知らずにいる。
そして自分は寅のことを友人、恩人としてとても感謝している
だけだとしたら…。
(感情的には歌子ちゃん、絹代さんのパターン)
ふみさんが寅のことをもともと友人、恩人としか全く思っていなくて、
お世話になったお礼と結婚の報告を兼ねてニコニコとらやに
やってきたのだったらさくらの言うことは間違っている。
要するに初期の頃に多かった寅の一人相撲ですむ話だ。
豆腐屋の節ちゃん、歌子ちゃん、などが寅の気持ちを知らずに結婚の
報告を嬉しそうにしている。歌子ちゃんのようにただ単に嬉し涙を流しながら
「寅さんは恩人よ!」の世界だ。
さくらが言うような「わざわざそれを言いに来た」のでなく、恩人の寅に
喜んで報告をしに来たことになる。だから「ふみさんの気持ちになってやる」
必要はないはず。ふみさんは苦渋の選択をしたわけではないのだから。
Aふみさんは寅が彼女に惚れているのを知っていて、
かつ、自分は寅に友人恩人以上の気持ちは
持っていないとしたら…。(感情的には夕子さんやりつ子さんのパターン)
もし、ふみさんが寅の気持ちを知っていたとしたら、
そして自分は恋愛感情がなく、友人、恩人としか思っていなかったと
したらこれは残酷なことを承知でやってしまっていることになる。
そしてこれならさくらのあの言葉「わざわざそれを言いに来た
ふみさんの気持ちになってごらんなさい」は意味が通る!
寅が傷つくであろうことを承知で、お世話になったけじめのために
来てしまっているのだから。ある意味ふみさんは針のムシロ状態である。
さくらはふみさんがこの心の状態でとらやに来ただと思ったのだろうか?
とらやでのふみさんの演出的にはこのAのようにも感じられる。
しかしそれではあの大阪の夜はなんだったのか?
自分がとても弟のことでお世話になったからといって、
寅の気持ちを知っているくせに、自分がいい人だと自分で思いたいだけの
ために、それはそれ、恩は恩と切り離してとらやまでお礼の挨拶に来ることは、
一見恩を忘れぬいい人のように見えるが、本当はその行為は完全な
自己満足の世界で、そこには寅の心を本当に思いやる気持ちがない。
そんなものけじめでもなんでもない。そっと離れて、時間が少したってから
それこそ丁寧な手紙を心を込めて出す方が寅は傷つかない。
もしこのAのパターンだとするとさくらはなぜ「そんなこと言っちゃ可哀想よ」
って言ったのか?可哀想なのは寅じゃないのか?
Bふみさんはかつては寅にほんの一時期恋愛感情があった。
寅にその気がないと思った彼女は、しばらくはショックだったが、
しかし、今は心がマコトさんの方にしっかり傾いている。
寅への気持ちは、今はもうほとんど友人、恩人に変化して
来ているとしたら…。(蝶子さんなど)
もし、ふみさんは寅のことをかつて好きだったが、
寅は自分のことを友人としか思っていなかったと、
誤解して、自分の想いを振り切り、その後マコトさんとのことを
考え始めた時に寅への恋愛感情は消えていって、
今は寅のことを友人、恩人だとしか思っていないのなら、
彼女のとらや訪問の辻褄は合う。
自分がとらやに訪ねていっても寅は自分のことを仲の良い友人としか
考えていないので、傷つかないだろうし、喜んでくれるくらいだ。と考える。
このパターンなら一歩踏み込んで結婚の報告をしても、逆に寅は喜んで
くれる、と考えるのが普通だろう。自分は結婚しようと思うほどに、もう
すっかり立ち直っているので安心してちょうだい。ってことになる。あの
夜自分をふった寅へ、元気になったところをみせつけてやりたい女性の
意地のようなものもあるのかもしれない。
しかし、それではなぜ「結婚するんです」という時の一連のふみさんの
表情が若干こわばっているのか?あの緊張感はどのような気持ちから
来ているのか?なぜ言いにくそうに言うのか?
寅は自分のことを女性としては好きではないに違いないと思っているなら、
どうして寅に気を使うような言い方をするのか?
だいたい普通、恋愛感情がなくなった場合は、もう少し明るく
「結婚するんです」って言うだろう。表情がちょっとこわばることもなくなる。
あの夜のことがあったにもかかわらず、それでもふみさんはやみくもな
自信で、寅が自分のことをまだ惚れていると思っているなら、そしてふみさん
の方はすっかり恋愛感情は消えてしまったとしたらBとAを合体したような
精神状態になる。
しかし、さくらの「わざわざそれを言いに来た…」がこのパターンだと
しっくりこない。でもそんなに合わなくもないか。
Cふみさんは表面的には寅への恋愛感情が消えたと思っている。
だからこそマコトさんとの結婚を決意した。
しかし心の隅に恋愛感情がまだ残っていて、
そのことと恩人であることが混ざり合い、行動がギクシャクし、
一貫性が保てなくなっている。
いわゆる心(表層意識と潜在意識)がどこかで引き裂かれている
状態だとしたら…。(第48作の泉ちゃんなど)
もし、まだ今でも寅のことをどこかで忘れられないのだとしたら、
どうして結婚のことをとらや一同の前で言ってしまうのか、
ギリギリでまだ迷っているなら普通は第48作で泉ちゃんが満男に
取った態度のように二人っきりの時にそれとなく気持ちを確かめようと
するのではないのだろうか。
あれは完全に結婚を決めてから、とらやに来ていると私は断定できる。
これは間違いない。そうだとすると、やはりこの物語の冒頭に書いたように、
そうとう表の心では寅への想いをすでに整理して、友人、恩人として思おうと
している自分がいる。自分自身も、その心が自分の全てだと思い込んでいる
のだが、心の底の片隅にまだ、ほんの少し忘れられない面影が澱のように
残っていて、その心が結婚報告とお礼という形を取って、会いに来させた、
ということになる。自分はもう大丈夫!と思いたいし、人にもアピールしたい
ので、マコトさんにも寅との思い出を隠さず話をし、とらやの電話番号も教えた。
なにももう隠す必要はないのだと自分に言い聞かせるように…。
しかし、それでもいざ、結婚の話をする時にはどうしても心が
微妙に出てしまい、若干こわばってしまうのかもしれない。
もし、そうだとしたら、ふみさんも、寅も、マコトさんも可哀想だ。
特にふみさんの精神が引き裂かれてしまっている。
これならさくらのあの「わざわざそれを言いに来たふみさんの
気持ちにもなってごらんなさい」はぴったり辻褄が合う。
しかしもしそうだとしたらふみさんの心は悲しい…。
私はこのCが正解だと長年思っている。
しかし…、しかしだ。もう一度あの結婚のことを話そうとするふみさんや
話した後のふみさんの態度を見てみると、
顔がこわばってはいるが、結構冷静で、意外に迷いはない。
第48作での本当の心を抑えていた泉ちゃんの複雑な顔とは
演出的には『全く異質のもの』に見えてしまう。どう見ても寅を試している
ようには見えないし、寅に結婚なんかやめろよ、と、言って欲しそうにも
到底思えないし、見えない。
もし、まだ、気持ちがあるのに、そんな『余裕のあるふり』をしているのだと
したら、このふみさんの気持ちの奥底は暗い嵐が吹いていることに
なってしまう。これは演出的にもかなり複雑だ。山田監督の気質的に
そこまでの複雑さは嫌うと思う。
私はすでに最初に意見を書いたように、対馬でのラストの涙を考えると
Cではないかと思っているのだが、ほんとうは
以上のようにまだはっきりとは分からないのである。
ほんとうにCなのだろうか…?
しつこいようだが、あの「結婚するんです」と言った時のこわばりながらも
迷いの無い姿はなんなのだろうか?黙りながらもあの『余裕』は
なんなのだろうか?まあ、泉ちゃんが満男を想う心より、ふみさんが
寅を想う心の方が想い方が浅かった、と言ってしまえば
それで解決するという人も多いかもしれない。
リリーと寅のような出会いではなかったと。
要するに『ちょっとある時惚れたこともあったんだけどね、今はすっかり
仲のいい友達』って感じ??(^^;)
泉ちゃんと満男にはいろいろな歴史があるといえばある。
つまりBなのだけどほんのちょっとCが混じっている。
だからこわばる。でももうほとんどBなので、それなりの余裕がある。
まあ結局のところこんな感じでとらえる人が圧倒的に多いかもしれない。
でも…それじゃ、ラストの涙は…?
今までの感謝と遠路はるばるの感動の気持ちが大部分の涙??
第18作の雅子先生だったらあの純情詩集のラストの笑顔は100パーセント
まじりっけなしの感謝と感動なんだけどなあ…。
やっぱりふみさんはそこは違うと思いたいし…たぶん違うし…。
で、結論としては、
★ふみさんの場合は
まだちょっとCなのだけれどBの要素も
日々のマコトさんを交えた生活の中でどんどん
芽生えて来ている。その現在進行形の時にマコト
さんの都合で一緒に東京にやって来て、ふみさん
はとらやに来ちゃったってことかな。
以上、これが現在の私の結論である。
明日はまた違う気持ちかもしれない。
番外篇として、私の友人はこう言った。
『女性というものは時として「不可解、不可思議、意味不明」な行動を
取る生き物だからこういうことがおこるのだと…。後で思い出してもどうして
あんなことしたのか分からないらしい…』
これもある意味正解かな…?。つまり意味不明。
さらにもうひとつ、超番外編
別の友人のこれまた説得力のある発言。
『大阪にいるときは物語的に華やぐので二人ともルンルン恋人気分!
マドンナも寅の部屋に深夜来てもたれかかってドキドキ気分!
でも、マドンナにはもういっちょう恒例のとらや訪問もして欲しい〜!
で、ちょっとくらい辻褄が合わなくても、全部入れて盛り上がっちゃおう!!
つまり「ルンルン」「ドキドキ」「とらやでナゴナゴ」を無条件で押し込んだ
っていう脚本だった。物語上の必然性はとことんまでは考えていない。
つまり、『あれはあれ、それはそれ、これはこれ』(^^;)』
この制作側の気持ちを垣間見たような意見もそれなりに説得力が
ちょっとはあるなあ…。
夏真っ盛り 入道雲 蝉の声
とらや 店の中
おばちゃんが例のごとくかき氷をガシャガシャ回している。
新世界ホテルのオヤジが来ている。
おばちゃん「あの、どうぞ、子供だましみたいなもんですけど」
オヤジ「おかみさん、どうぞ構わんといておくれなはれや」
おばちゃん「じゃあ、これ、ちょうだいして参ります」
おいちゃん「どうぞ」と氷を勧める。
タコ社長、台所で
社長「誰あれ?」
おばちゃん「寅ちゃんが泊まってた大阪の旅館のオヤジさん」
社長「何しに来たんだ?」
おばちゃん「溜まってた勘定をね、
残り取りに来たの、いやになっちゃう」
社長、苦笑いしながら暖簾越しにのぞく。
さくら、茶の間から封筒に入れたお金を持ってくる。
さくら、店に下りてきて
さくら「お待たせしました、ちょうど入っておりますから
お調べになってください」
やっぱりさくらが払う羽目に…(TT)
オヤジ「いいえ、とんでもない。あ、ほな、領収書」
カバンからすぐ取り出して
オヤジ「これ」
さくら「あ」
さくら、座って
さくら「ほんとすみませんでしたご迷惑をおかけしまして」
オヤジ「いただいていきます」と封筒を持って拝む
オヤジ「こんなことしとうないんですけどねえ、なんせうちのおふくろが
うるそうて、まるでオニババですわ」
また人のせいにしている。経営者としては不適格(−−)
社長店に出てきてオヤジと挨拶。ラムネを冷蔵庫から出して飲む。
オヤジ「それに比べたらこちらのお方は
実際ええお方ばっかりで、
寅やンからねえ、毎日のように聞いとりましてん。
おいちゃんおばちゃん確かさくらさん」
さくら「はい」
オヤジ「あ、まだ知ってます。裏の工場の社長はん、
あだ名がタコやそうで、タコそっくりのお方が
いてはるそうでんなあ」
おいちゃん「そこにおります」
オヤジ「ハハ…」振り返って、飛びのく
オヤジ「どうもして礼いたしましたほんまに」
ペコペコ
社長「ほんとに失礼だ!!」
おいちゃん「むきになるなっておまえ〜」
さくら大笑い。
オヤジ「そんなつもりやなかったんですけどね」
風鈴屋の屋台が通る。
茶の間ではおばちゃんが
ふみさんからの手紙を見ている。
金魚蜂 金魚
ふみのテーマ ギター演奏でしっとりと流れる。
ふみの声
「暑い日が続いていますが、
さくら様はじめ皆様にはお変わりありませんか。
その折は突然おじゃましたのにもかかわらず、
優しい御もてなしをいただき、
ほんとうにありがとうございました。
長崎県 対馬
遠望
長崎県対馬市厳原(いずはら)町
厳原 (いずはら)
牛 地鶏 赤坂ミート
ふみの声
「対馬の暮らしにもようやく慣れて、
元気に寿司屋のおかみさんを務めています」
海八のワゴン車
日立電気屋
對馬醤油
ふみ、すのこに水をかけている。
ふみ近所の人に
ふみ「あ、こんにちは」
寿し処 海八 (鳥八という食堂でロケ)
対馬市厳原町国分
ふみの声
「住み着いてみれば人情は細やかで、
風景は美しく、どことなく故郷の島にも似て、
親しみのわく土地です」
海八のワゴンが戻ってくる。 『え..15』
ふみ「おかえり」
マコト「今日はええ魚やでえ」
ふみの声
「ところで寅さんは今どちらでしょうか。
あいかわらず、旅の暮らしでしょうか。
もし電話でもされることがあったら、
どうか、どうかふみが元気にしておりますと、
お伝えくださいませ。お願いいたします。
ご主人様によろしく。
さくら 様 ふみ」
ふみ、車の中の真鯛を持って、喜んでいる。
ふみ「ひゃーほんまおっきいわ〜」
とあわび貝を見ている。
マコト店の中で電話
マコト「ちょっと待って、今聞いてくるわ」
マコト外に出てきて
マコト「ふみ、」
ふみ「ん?」
マコト「おふくろから電話でなあ」
ふみ「ふん」
マコト「家のほうにあんた訪ねてお客さんが来てるがな」
ふみ「お客さん?」
マコト「ん」
ふみ「は、誰やろな?」
マコト「車さんちゅう人やて」
ふみ、驚いて
ふみ「車さん!?」
マコト「ああ、だれやァ、知ってる人かァ?」
ふみ「寅さんよ!ほら、
いつも話してる寅さんよ!」
と店の中に走っていく。
マコト、ポカ〜〜ン
ふみを乗せたワゴン車、急いで実家へ向かう。
ふみのテーマがテンポよく流れている。
海沿いの道を
赤い万関橋を渡る。
長崎県対馬市峰町 青梅
青海(おうみ)の里
勇壮な段々畠が今も残る青海(おうみ)地区。
かってこの地区では寺に拝み墓、海岸に埋め墓を
持つという両墓制の風習があったという。
『寿司処 海八』のある厳原 (いずはら)から市峰町青梅
まではそうとう遠い。これは大変(^^;)
走って走って実家に着く。
車のドアを開け、ふみが満面の笑顔で飛び出す。
ふみ「寅さん!」
寅、門に座ってバテている。
ふみを見て、笑顔が戻って
寅「よお!元気そうだなあ!」
ふみ「わあー、来てくれたのー!
こんなとこまでえ!」
寅「遠いとこだなあ、おい、えー、
船着場からずっと歩いてきちゃったよ、
ハハハ、」
頷いて微笑んでいるふみ
メインテーマ静かに流れ始める。
寅「まあ、暑いの暑くねえの」
ふみ「うん」
寅「死にそうだよ、
半分死んじゃったよ、もう」
ふみ、感動しながら笑っている。
寅「ハハハ」
ふみ「フフ…」
ふみこみ上げてくるものがある。
ふみ「よく来てくれた…」
寅を見つめてみるみる涙が潤んで
全ての思い出が蘇り、
寅を見つめ…
泣きながら下を向く。
寅「うん、ん」
ふみ、寅に寄り添って泣き続けている。
寅、立っているマコトを見て
寅「よお」
マコト、お辞儀をする。
寅「あ、ご主人だね、」
マコト「はっ」
寅「あの、マコトさんとか…」
と立ち上がる。
寅「ね」
とふみに。
ふみ、寅から離れ、今度はマコトに寄り添う。
寅「私、車寅次郎と申します…」
マコト「いや、挨拶は後で、
『上がってもらって』、さ、どうぞ!」
とカバンと背広を持ち寅を早速案内するマコト。
マコト「とりあえず奥に、どうぞ!」
寅、笑いながら中に入ろうとして、
足をつまずいてこけそうになる。
寅「アイタ!アイタタ」
ふみも一緒にこけそうになって
ふみ「キャ〜、フフフ」
3人で笑いながら母屋に入っていく姿が小さく映り
青海(おうみ)の里の遠望が映って
ふみにとって寅は弟との最後の縁を取り結んでくれた恩人。
寅がいなかったら弟が亡くなったことさえ知らずに過ごしていた。
どん底に突き落とされたあの日、寅はふみのそばで慰め続けてくれた。
彼女の生涯で最も悲しい日に寅が寄り添い、一緒にいた。
そんな思い出深い寅が遥か対馬まで自分を訪ねて来てくれたのだ。
自分自身に封印していた寅へのもう一つの気持ちがどっとあふれ出て、
マコトがいる前で、寅の胸近くに顔をうずめ泣いてしまうふみ。
寅への万感の想いを込めたふみの最後の涙。
寅はそんなふみの気持ちをまるで知らないかのように
マコトに集中し、微笑みかける。
寅「よう!」
寅「あ、ご主人だね」
マコト「はっ」
寅「あの、…確かマコトさんとか…」
寅とマコトのコミュ二ケーションが始まって、ふみは我に帰り、
立ち上がってマコトの腕を掴む。
このあと寅はしばしマコトやふみと歓談し、懐かしみ、励ましあい、
夕方の船で帰っていったのかもしれない。
ふみは、もう、あのような目も、あのような涙も、そして、もう寅に身を
寄り添うこともなく、爽やかに、またいつの日か東京での再会を誓って
船に乗って行く寅をマコトと一緒にいつまでも見送ったに違いない。
ふみのあの涙は、青春の最後の涙だったのかもしれない。
終
出演
渥美清 (車寅次郎)
倍賞千恵子 (諏訪さくら)
松坂慶子 (浜田ふみ)
下絛正巳 (車竜造)
三崎千恵子 (車つね)
前田吟 (諏訪博)
吉岡秀隆(諏訪満夫)
太宰久雄 (社長)
佐藤蛾次郎 (源ちゃん)
笠智衆 (御前様)
芦屋雁之助 (喜介)
初音礼子 (かね)
正司照江 (芸者)
正司花江 (芸者)
大村崑 (運転主任)
冷泉公裕 (吉田)
マキノ佐代子 (信子)
関敬六 (とらやの客)
スタッフ
監督 : 山田洋次
製作 : 島津清 /佐生哲雄
原作 : 山田洋次
脚本 : 山田洋次 / 朝間義隆
企画 : 高島幸夫 / 小林俊一
撮影 : 高羽哲夫
音楽 : 山本直純
美術 : 出川三男
編集 : 石井巌
録音 : 鈴木功 / 松本隆司
スチール : 長谷川宗平
助監督 : 五十嵐敬司
照明 : 青木好文
公開日 1981年(昭和56年)8月8日
上映時間 104分
動員数 182万1000人
配収 13億2000万円
今回で第27作「浪花の恋の寅次郎」は完結です。
次回は哀しくつらい恋の物語、美しいかがりさん登場の
第29作「寅次郎あじさいの恋」です。
次回第1回更新はだいたい7月13日ごろです。
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