バリ島.吉川孝昭のギャラリー内
第29作 男はつらいよ
1982年8月7日封切り
清楚と情念の共存 白く輝く月光の魅力 露出した寅次郎のもうひとつの限界
この長いシリーズで、かがりさんほど清楚な美しさに溢れた女性はそうそういない。他のマドンナにないなんともいえない『美』だ。
しかし、そんな彼女だが、夫には死に別れてしまうわ、恋人の陶芸家には裏切られるわで、可哀想な運命にさらされて
いるのである。そんなかがりさんのことを寅は気にするようになっていく。失意のまま故郷の丹後、伊根に帰ってしまった
かがりさんを、寅は遠く峠を越え会いに行き、そっとこう言うのである。
「誰を怨むってわけにはいかないんだよなこういうことは。そりゃ、こっちが惚れてる分、向こうもこっちに惚れてくれりゃぁ、
世の中に失恋なんていうのはなくなっちゃうからな。そうはいかないんだよ」
静かに頷くかがりさん。
その夜、かがりさんはわざわざ丹後まで自分に会いに来てくれた心優しい寅に身を任せたくなる。そうでなくても彼女に
とっては、寅が赤い鼻緒の下駄をくれた時から、気になっていた人なのだ。彼女のその夜の変化に寅もさすがに気づく。
緊張感がスクリーンに漂う空前絶後のシリアスな場面である。このシリーズの最初で最後の『危ういシーン』である。
第27作でも似たようなシーンがあるが、あの時のふみさんは泥酔して寝てしまう。第44作でも同じように似たような
場面が出てくるが、あれは聖子さんは半分『おちゃらけ情念』、しかしこの第29作は、『しらふの情念』がスクリーンを
支配している。
緊張感漂う夜のシーン
かがりさんは二人っきりになった時から寅を強く意識している。寅は冗談一つ言えなくて、緊張感が続く。寅は逃げの一手で
早々とあてがわれた部屋で、布団に入るが、かがりさんは、それでも寅の寝ている部屋に入ってくる。窓を閉め、電気を消し、
寅の横で彼を待つ。寅は寝たふりをして、それに応えようとしない。かがりさんは、寅が寝たふりをしていることを女性の
動物的カンで察知している。それでも寅は目を開けない。座って待つかがりさん。遂に動かない寅を諦め、かがりさんは
そっと部屋を出て行く。
彼女の清楚な雰囲気からは、想像できないような女性の情念が音もなくほとばしるのを私は息を飲んで見ていた。
月光の青白い光の中に燃えるような情念を隠し持つかがりさんの心。山田監督と高羽さんは、かがりさんの足首を
映し続けることによって、彼女の隠された気持ちを見事に表現していた。
この作品のかがりさんは、しらふである。お互い独身で、かがりさんを密かに気に入っている寅にとっては
嫌がる理由はほとんどなにもない。住所不定であろうが収入が不安定であろうが、生涯の伴侶としての『決意』と『覚悟』
さえすればいいだけである。一緒に住むということは基本的には『この女性と死ぬまで共に人生を歩もう』という気持ち
だけである。しかし、寅はそれがどうしてもできない…。
このシーンによって寅の限界が以前よりかなり露出してしまったのだ。このような怖気づく安全パイな寅はある意味私に
とってはほっともしたが、心の奥ではやはり切なく哀しくもあった。
翌朝、寅がタヌキ寝入りをしていたことをうすうす見抜いていたかがりさんは、ちょっとそっけない受け答えをして
応対する。それでも、いざ別れの時になると、女性としての情念が再燃し、別れを惜しむ彼女がそこにいた。
寅は昨晩の絶望感が癒えぬまま、それこそ逃げるように柴又へ帰っていくのだった。とにかく伊根での寅は笑わないのである。
今度という今度は寅は大きなダメージを受けたに違いない。柴又にたどり着き寝込んでしまう寅。これはいわゆる
『恋の病』でなく、もっと深い寅の挫折感をともなう絶望のような波が寅を飲み込んでいったのではないだろうか。山田監督は
リリーやふみさんの時にはあやふやで終わらせた女性に対する寅の『性』の問題を、この第29作によってさらに深く追求して
しまったのだった。
終始笑わない寅
そして、遂に柴又にまで追いかけてくるかがりさん。私は彼女の消えることのない激しく燃える内なる情念にまたもや
息を呑んでしまった。限界を遥かに通り越してしまった寅。最後はもっともやってはならないことをしてしまったのだ。
つまり、満男をつれてかがりさんとデートをしてしまった。性的な問題はともかく、今回は白昼に普通に男女がデート
するという事すらできない寅だった。こうなると物語は急速にしらけて行く。しかし、そうでもしないと、この情念の物語
は終わりがなくなってしまうともいえる。ま、どおせ、寅が一人で会いに行ってもかがりさんの手も握れなかった
ことは明白なわけだし、私に言わせれば、それはそれでそういうプラトニックな愛し方があってもいいと実は思っている。
性的なことを抜きにしては愛が語れないというのも、なんだかつまらないし、ロマンチックじゃない。そんなものにこだわり
続けると、時として潤いが無くなり、貧困な感覚だけが残ってしまうからだ。
しかし、それでも鎌倉へはあえて寅を一人で行かせ、もう少し緊張感が続く演出にして欲しかった、とちょっと思ってもいる。
「私が会いたいなあと思った寅さんは、もっとやさしくて、楽しくて風に吹かれるタンポポの種みたいに自由で気ままで…。
…あれは旅先の寅さんやったんやねえ。今は家にいるんやもんねえ。あんな優しい人たちに大事にされて…」
このかがりさんの言葉は、第11作「忘れな草」でいみじくもリリーが泣きながら訴えた言葉と重なっていく。
寅はかがりさんと別れた後、電車に乗りながら、かがりさんを受け止める覚悟ができない自分に、涙を流して
しまうのである。上にも書いたが、本当はかがりさんを幸せにする『自信』が無いのではない。かがりさんと死ぬまで
人生を共に歩む『覚悟』がないのである。やはりいつもながら結局は寅自身の問題だ。わがままで風来坊な気質は、
死ぬまで寅に付きまとう宿命なのだ。
幼い満男はそれを見ていた。寅の心の奥の奥を垣間見てしまったのだ。
この時、寅と満男の一生涯の二人だけの糸が繋がる。この瞬間から満男の青春の黎明期がはじまり、
さくらとは別枠で、満男は年を追うごとに個人的に寅の影響を次第に受けていくのである。ある意味、
この作品ほど寅が可哀想に思えた作品は少ない。別れ際に小雨の中を駅の方に駆けていくカラ元気の寅を
今でも忘れられない。
物作りに生きる加納作次郎の気概
加納作次郎は自分が焼き物を焼くことを『働く』と言う。自分の職業を『焼き物師』と言う。
焼き物を作るということを作次郎はこう言う。
「土に触ってるうちに自然に形が生まれてくるんや、こんな形にしょうかァ、あんな色にしょうかァ、とか頭で
考えてるのとは違うんや。自然に生まれてくるのを待つのや、なあ。けど、その『自然』がなかなか難しい」
「『こんなええもん作りたい』、とかな、『人に褒められよう』てなあほなこと考えてるうちは、ろくなもん、フ…、
でけんわ。作るでない、掘りだすんや。土の中には美しいい…もんがいてなあ、出してくれえ〜…はよ出して
くれえ言うて泣いてんねん」
イタリアルネサンスの巨匠『ミケランジェロ』の言葉を彷彿させるような作次郎の真実の言葉。若干自己陶酔気味
なのを差し引いても『その自然がなかなか難しい…』という言葉の中に物作りに携わる人々の苦悩と気概が
凝縮されている。
『自然に生まれてくる』ということは、ただ単に普通の生活をしていればいいということではない。
やはり土をいじり、こね、焼く。土と火の日々。この繰り返しを謙虚な心を持ちながら日々黙々と続けていると、
ふと偶然、なにかのタイミングで、味わい深いこの世のものとは思えない美しいものができることもあるのだ。
しかし、作次郎も生身の人間。そうは言うものの、骨董の物欲もあれば、お金も欲しい。口で言っていることと
実際の人生は微妙にずれるのである。そんな生々しい作次郎に寅はこう言う。
「何やって儲けた、おじいちゃん。茶碗焼いただけではこれだけの家は建たねえもんな、なんか陰でこっそり
悪い事しちゃったりして…フフフ。まあいいや。ね、いろいろあるからな、お互いに言いたくねえことは。フフ…」」
この言葉を無視せず、深く受け止める作次郎。そもそも最初の出会いの時も「神馬堂」での寅の何気ない言葉の
端々に作次郎は何かお互いに通ずるものを感じたのであろう。下駄の鼻緒を直してくれただけで、人はあそこまで
親しくはならないのである。そういえば、第13作歌子ちゃんのお父さんの高見さんも寅の言葉をしっかり受け止めて
いた。池ノ内青観も最後の最後は寅の心に寄り添っていた。ここに彼らの作家としての『本物』がある。人生の全てを
物作りに賭けてしまった人間の強いエゴと深い悲しみ、喜び、そして気概をこの第29作でも山田監督は私たちに見せて
くれたのだ。
愛情があるゆえに、失恋をしてしまったかがりさんに言ってはならない言葉を浴びせて傷つけてしまった作次郎。
自分自身も自分の言葉に傷つき、再起を期して、寅がかつて言ったように風のままにふらりと旅に出るのである。
私が一番気に入っている作次郎の言葉がある。
別れ際、寅に自分の「心持ち」として気に入っている『打薬窯変三彩碗』をあげるのだが、
寅が帰った後、弟子がその行為を非難したときの言葉、
「ええがなええがな…いずれは割れるもんや、焼きもんは」
それにしても、片岡仁左衛門さんのオーラはただ者じゃない。あの品格はさすがだった。
ちなみにタコ社長んちの茶碗類はプラスチックなので絶対割れないそうだ。とほほ(^^;)
■第29作「寅次郎あじさいの恋」全ロケ地解明
全国寅さんロケ地:作品別に整理
本編
松竹富士山
今回も夢から始まる。
昔話風(今昔物語風)
寅のナレーション
今は昔、信濃の国に貧しい農夫の一家があった。
朝には星を,夕べには月をいただいて働いたが
暮らしはちっとも楽に何ねえ。
だども一家はこれっぱかりも文句を言わず、
毎日懸命に働いておった。
ある日、一人の旅人がやって来た」
今回の夢は『ストップモーション』多用で
紙芝居風にしている。
寅「もし、ごめんくせいませ」
博「へいへい」
寅「あの、わしは、善光寺に行く旅の者じゃが
道に迷うて、難儀しております。
一夜の宿をお願いしてえが、
いかがなもんでごぜえやしょう」
さくら「汚ねえところでございますが、さあ」
寅「これはまあ、ご親切な方たちで、
ありがてゃァ〜ありがてゃァ〜」
寅のナレーション
「なが〜い旅に疲れた年寄りに、ヒエの飯を
食わせるわけにはいかねえと、
優しい女房はお弔いのためにしまっておいた、
大切なお米を使うてしもうた。」
さくら山盛りの白飯を持っていく。
寅「せっかくのお志ありがたくいただきやす。
さくらたち、我慢して遠くから見ている。
寅「ハーフッ、がはッ、美味そうじゃァ」
寅が食べようとしたその刹那
「・・・クウ・・・」
寅「???」
寅、さくらたちににこっと笑って
めざしを食べようとすると
「クルルル」
寅「!?」
箸に持っためざしを疑う寅 おいおいちゃうやろが ヽ(´〜`;)
満男の腹「キュルルル」
博の腹「グウ!」
さくらの腹「グウ・・」
満男の腹「キュルルル」
寅「!!」気づく寅
寅、家族の前に茶碗を差し出して、
それぞれの音を確かめる寅。
寅、再度確認(^^;)
博の腹「グウゥ〜」
さくらの腹「ギュウ・・・」
満男の腹「キュルルゥ」
さくらの腹「ギュウゥ」
それぞれの音に個性があることが
なかなか凝ったところ(^^)
満男のお腹の音は可愛い(^^)
寅が茶碗を3人の前で今度は逆回転で
ぐるぐる回したら
一斉に「グウゥゥゥギュウゥキュルル」んなアホな…(^^;)
寅「ぼうや、おまえは、
今夜の『まま』はもう食べたのか?」
満男「いいや、まだ食べとらん」正直(^^)
さくら「あ!」と満男の口をふさぐ。
博、パコ!と満男の頭を叩く。
満男「あ!いて!エエエェ〜ン」
さくら、よしよしと満男にフォロー
寅「ああ、いかん、いかん。
わしほどの者がとんでんもないことを。
うん〜・・そうであったのか、
お前様方も口にせぬこのままを
見ず知らずの旅人にありがたや、
ありがたや、
どのようにしてこの
お礼を・・・うん!!
そうじゃ〜!」
張り替えたばかりの襖に墨で絵を描いていく寅。
博「あ!旅のお方、なにするだ!」
さくら「やめてくだせえ、まあ、
張り替えたばかしの
ふすまに、そんな落書きを!」
この時メガネをかけた日本画の絵描きさんの
横顔がチラッと映る(^^;)
↓
寅のナレーション
とっておきの米を食われた上に
新しいふすままで汚されて、
あわれ夫婦は泣き寝入り」
博、頭がクルクルパーだとさくらに言っている(^^;)
寅「さて、一夜が開けると」
アニメのスズメがチュンチュンと部屋の中を飛んでいる。
さくら「あー?おやおや、なんのさわぎだと
思ったらすずめが家の中に。
よしよし、いま開けてやるだ。
はあ〜」と、あくび。
さくら「おや?」
襖に描かれたはずのスズメがいなくなっている。
博「あは〜、はあ〜」起きた博。
さくら「おとう、おとうちょっと来てみなせえ」
博「お?」
さくら「夕べ描いたすずめがいねえだ」
博「どうしたことだこりゃあ」
なんと飛んでいたスズメが襖に戻って
絵の中にもう一度納まる!!
さくらと博「はあ〜…!!」
ふすまが開き、寅が出てくる。
自動開閉式ふすまで寅が手を離しても動いている!
宇宙人か(^^;)
博「へえ!何にも知らねえでとんだ失礼を」
と二人ともひれ伏している。
さくら「さぞや名のある絵描き様で
ごぜえましょう」
宇宙人宇宙人(^^;)
博「どうぞ、どうぞお名前を」
寅「いやいや、名のある者などではございません。
わしはただ、旅の下手な絵描きでございます、
えらいお世話になりました」
さくらと博「はあ!」
寅「ありがとうございます、
ありがとうございます」
寅が礼を言って去っていく。
みんなでバイバイしている。
寅のナレーション
この評判を聞いて見物が後をたたず、
夫婦は小さな宿をつくり、『すずめのお宿』と名をづけて
一生裕福に暮らしたそうな、めでたし、めでたし」
ホロロロ!…ポリリリッ!
タイトル
男(赤)はつらいよ(黄) 寅次郎あじさいの恋 (白)映倫110817
口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。
新緑の信州、木崎湖と残雪の後立山
♪どおせおいらはヤクザな兄貴
わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前の喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪
北アルプス『後立山』をバックにクレジット
「かがり いしだあゆみ」
木崎湖畔にたたずむ寅を
バックにクレジット
「渥美清」
おいおい、あのいつもの夢から覚める場面がないぞ。
あれは寅の夢ではないのかな?
ちなみに脚本のほうでは、寅は土産物屋の座敷で夢から覚める。ってことになっている。
木崎湖畔でハガキを書いている寅。
ポッカコーヒーの自動販売機
牛乳を半分飲んでいる。
ゆったりと静かにテーマ曲が流れ続けている。
寅「おじさーん、『なつかしい』っていう字、
どう描いたっけ?」
油絵を描いているおじさん。
おじさん「懐かしい?」
寅「うん」
おじさん「りっしん偏に、なべ冠書いて…」
寅「りっしん偏ってなんだい??」
おじさん「ちょんちょんを書いて真ん中に棒引っ張る」
寅「へへへ」と手でダメだしをして。
寅「ちょっと、おじさんこっち来て書いて、ね」
おじさん「…ああ」
寅「すまないねえ、お絵かきの途中で」
おじさん「いやいや」
寅「はい」とペンを渡す。
と、座って
寅「なつかしき…ね」
おじさん「懐かしき…」
寅「あ、それからね、『とらやの皆様』」
おじさん「とらやは…ひらがなかな?」
寅「え…?そうそうひらがなひらがな。うん」
寅「このとらやというのはね、
オレのおいちゃんとおばちゃんが
細々とやってるケチな団子屋よ。あー」
頷くおじさん。
寅「忙しい時にはね、近場に住んでる姪っ子が
手伝いに来るんだ。ん」
寅、立ち上がり、
寅「これの名前が、さくらと言って、
たったひとりのオレの妹だい、うん」
おじさん「ほー、どこなんだ、君のふるさとは…?」
寅「えー…、
東京は、葛飾柴又…。
江戸川のほとりよォ」
いいねえ〜!この二人の空気!このおじさん
ただもんじゃないよ。誰だろう…。
あの俳優さんは劇団民藝の名脇役である田口精一さん。
木崎湖の午後の美しい光と涼やかな風
♪奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪
白馬三山をバックに
清流姫川にかかる大出つり橋。
昔、学生時代に3泊くらいで青木湖や木崎湖に友人たちと絵を
描きに行った思い出がある。あのおじさんのように絵を描き、
ちょうど映画のような涼しい風も毎日吹いていた。
だから個人的には私にはあのオープニングは懐かしくて
たまらない風景なのだ。
柴又 帝釈天参道
新緑の頃
爽やかな風が吹く中、さくらとおばちゃんが
摘んだヨモギをたくさん持って歩いてくる。
この風景が大好きだ。なにげないのだけど、
さくらたちが柴又に住んでいる臨場感を感じることができる
木崎湖畔の風といい、帝釈天参道の風といい、
頬に風を感じられるこの作品のオープニングは個人的には
大好きである。
さくら「あら、御前様」
御前様「おー、ヨモギ摘みかな」
おばさん「いいお天気になりまして」
御前様、ニコニコ彼女たちを見送る。
源ちゃん観光客の女の子たちをボーっと眺めている。
御前様、源ちゃんの頭をバコッと叩いて、
御前様「こら!」
源ちゃん「あいた!」
御前様「バカ!」
源ちゃん「あ」
とついていく。
源ちゃんも人の子だし、もういい大人だし、
修行僧でもないので女の子に興味を持つのは
自然で、無理もないんだけどね(^^;)
数ある柴又参道ロケの中でも第15作「寅次郎相合い傘」と
ならんでこのさくらたちのヨモギ摘みから帰るシーンは爽やかな
新緑の風を感じられて大好きだ。
確か三崎さんのインタビューによると、実際に矢切の渡しに
乗って二人で千葉県側まで摘みに行くというロケがされたそうだ。
本編ではその映像は採用されず、セリフの中のみで出てくる。
映像で見たかった〜!
とらや 店
さくら「ただいまあ〜」
おばちゃん「あ〜いい気持ちだった」
さくら「おいちゃん」
おいちゃん「あ?」
さくら「もうこっち岸には生えてないからね、
渡し舟で千葉県まで行ってきたのよォ」
おいちゃん「へえ〜昔はこの辺の田んぼの
へりでいくらでも取れたもんだけどなあ」
社長、店先にやって来る。
社長「おばちゃん、」
おばちゃん「はい」
社長「すいますせんね、塩、塩。お塩」
おばちゃん「やだねえ、社長は不祝儀の
帰りは自分んちの玄関からお入りよ」
食塩、パッパパッパと顔にかける。
社長「ごめんごめん、あっ」塩が口に入ってしまう。
さくら「あら、お葬式帰りなの?」
社長「ああ」
おいちゃん「だれが死んだんだ?」
社長「いやあ、俺の同業者の親父なんだけどね、
もう八十いくつだから大往生何だけど、
しかし、驚いたねええー」
さくら「何が驚いたの?」
社長「妾の子供ってのがね、二人葬式に
現れてさ、跡取りは何にも知らなかった
らしいんだよ。だからもう大騒ぎだよ、
葬式めちゃくちゃ。」
おいちゃん「へっええ〜」
社長「その死んだ親父ってのがやり手やり手
だったんだけど、女のほうも相当だった
らしいんだねえ、泣いてたよせがれ、可哀想に」
おいちゃん「しかし、経営不振で首くくって
死んだなんて話より
女狂いのほうがまだいいよ。派手で」
社長「そらそうだ」
さくら「おばちゃん聞いた?今の言いぐさ」
おばちゃん「聞いた」
社長「あ、そうだ女狂いで思い出したけど、
寅さんどうしてる?」
おばちゃん「やな人だねえ、何もそんな時に
寅ちゃんのことを思い出すことないだろう」
おいちゃん「女狂いって言うんじゃないの
あいつの場合は。なあさくら」
さくら「そうねえ、女狂いはひどいわよ」
社長「じゃあ、なんて言うんだ?ああ言うの」
おいちゃん「つまり、その…、恋よ…」
うわっち!ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ
自分でも言ってることが恥ずかしくて
ポロポロ草団子を箱からこぼすおいちゃん(^^;)
堅物下條さんならではのギャグ。いいねえ〜。
ポロポロポロポロ
社長「ク、プップフフ、恋だって、
いい年して、ギャハハ…、ハハハ!」
後の床の間に
『鯉(こい【恋】)』の掛け軸(^^)
社長、アゴはずれるで(ーー)
博「社長」
社長「アハハハハ」笑いすぎ〜(−−)
博「社長」
社長「ハハ…ハ、ハイ、はい、はい。」
博「銀行から何度も電話がありましたよ」
社長「あ、そうか、こうしちゃいられなかったんだ、
アッイタ、ごめんごめん
あ、他に変わったことない?無い?ああそう」
博「さくら、コーヒー入れてくれないかな」
自宅では最近はレギュラーなんだけど、
とらやではまだインスタント&クリープを使うさくら。
さくら「はい」
おいちゃん「なんだ社長近頃冠婚葬祭ばかり
出歩いてるじゃねえか
大丈夫なのか経営の方は」
さくら「その分だけ博さんに負担がかかるんだって」
博「まあ、仕方が無いさ、技術革新の時代だからなあ、
ついていけないんだよ、社長は」
おばちゃん「大変なんだねえ」
さくら「本当にどうしたのかしら」
博「何が?」
さくら「お兄ちゃん、いつもだったら
そろそろ帰ってくるころなんだけどね」
郵便屋さん「とらやさ〜ん 郵便です」
おばちゃん「あ、ご苦労さん」
満男帰ってきて
満男「ただいま〜」
さくら「満男、その郵便持ってきて」
満男「わあ!絵葉書〜、誰だあ?
『信州にて寅次郎…』 おじさんからだよ」
絵葉書の写真 :栂池自然園
白馬三山と芽吹きの始まったダケカンバを背景に、
水芭蕉の群生が白い輝きを放つ風景。
さくら「あら、へえ、めずらしいことがあるものねえ、
え?どうしたんだろうこの字」
博「え?兄さんの字じゃないなあ」
おいちゃん「間違ってきたんじゃなえのか」
さくら「宛名がちゃんと家だもの」
おいちゃん「じゃあ、誰かがあいつの名前を騙(かた)って…
騙ったってしょうがねえかあいつの名前なんか」
んだんだ(^^;)
さくら「字の上手な人に書いてもらったのよ」
おばちゃん「その人、女の人じゃないだろうねえ、まさか」
さくら「え?」
博「え!ちょ、ちょっと、いや、男文字です」
おばちゃん「ああ、よかった」よかったって…(^^;)
おいちゃん「脅かすなよ、びっくりするじゃないか」
そんなに嫌がらないでよね、寅が恋をすることを(^^;)
おばちゃん「なんて書いてあるんだい、ふふふ」
さくら「えー、『懐かしきとらやの皆様、』
本当に立派な字だわ
『お変わりありませんか
私こと相も変わらず、浮き草暮らし、
これから京都の葵祭りに行きます。
元気だからご安心ください、
信州にて寅次郎』」
おばちゃん「これから京都じゃ当分は
帰らないかもしれないねえ」
おいちゃん「そうかも知れねえな」
客「おだんごくださーい」
おばちゃん「はい、いらっしゃい」
博「残雪の北アルプスから
新緑の京都か…。
いいなあ君の兄さんは」
ほんとほんと。よくお金が続くよな(^^)
満男バットとグローブを持って、
満男「行ってきま〜す」
おいちゃん「はい」
京都 葵祭り
雅(みやび)な雅楽が流れる。
下鴨神社に向かって、ゆったりと牛車や行列が歩んでいく。
そのあとは行列は上賀茂神社へ向かう。
葵祭(あおいまつり)は京都市の賀茂神社、
すなわち賀茂御祖神社(下鴨神社)と賀茂別雷神社(上賀茂神社)で
行われる祭りである。
5月15日に平安衣装を身にまとった人々が牛車とともに京都御所から下鴨神社を経て
上賀茂神社まで行列する路頭の儀(ろとうのぎ)がとり行われる。
昔から京都で「祭り」と言うと、この『葵祭』を指すことが多い。
祇園祭、時代祭とともに京都三大祭りの一つ。
昔は、賀茂祭と言われていたが、葵祭と呼ばれるようになったのは、
江戸時代の1694年(元禄7)に祭が再興されてのち、当日の内裏宸殿の御簾をはじめ、
牛車(御所車)、勅使、供奉者の衣冠、牛馬にいたるまで、すべて葵の葉で飾るように
なって、この名があるとされる。
葵祭の起源は、今から1400年前、欽明天皇(在位539〜571)の頃に凶作が続いたため、
賀茂皇大神の崇敬者であったト部伊吉若日子を勅使として、4月中酉の日に馬に鈴をつけ、
人に猪頭をかぶらせてこれを走らせ、祭礼を行ったところ、風雨はやみ、五穀は豊に
実り、国民も安泰になったという。
明治17年旧儀に再興され、祭日も5月15日と定められた。
さまざまな前儀が行われるが、中でも流鏑馬神事(やぶさめしんじ)が有名。
これは下鴨神社の境内で馬を走らせながら3つの的を射抜くというもの。
京都市左京区下鴨宮河町付近
下鴨神社の南
賀茂川(鴨川)の東詰 『府立鴨川公園』近く
もともと鴨氏という豪族が住んでいたので、鴨という地名がつき、
鴨川となった。(京都市歴史資料館)。
正式には現在は源流から下流まですべて鴨川であるが、
江戸時代は高野川合流点(下鴨神社のあたり)から上流を賀茂川、
下流を加茂川と使い分けた。「賀茂」「加茂」「鴨」と、その字を変えることで、
どの場所を流れているのか分かりやすくしていたと考えられている。
現在でも、高野川の合流点より上流は
通例賀茂川と表記される。(加茂川と表記されることもある。)
石碑『その昔 ここら千鳥の名所かな』
寅、啖呵バイ 『ピッタリコン』(瞬間接着剤)
ポンシュウ、近くでラムネを売っている。
寅「さあ、葵見物のお客さん、これはね、
お年寄りには何よりのお土産ですよ、
どお、ほら、おじいちゃんの壊れちゃったメガネ。ね、
それからおばあちゃんの茶碗!」
能書き: 物を大切にしましょう
古くなったもの。こわれてしまったもの…。
寅「何だって、ピッタリとくっつく万能の接着剤だ、
ねっ!どうほら」
わたアメを食べる子供 あさりちゃん
寅「おい、兄弟よ、お前んところの
若い衆に片付けさしといてくれや」
ポンシュウ「おう、ご苦労さん」
寅「だめだ今日は」
ポンシュウ「アハハハ」
寅「あ〜」
今日はお手上げの寅次郎でした。
そりゃそうだ。葵祭りと『ピッタリコン』は
合わないよねえ。
こういう日は、ポンシュウの扱っていた
ラムネが合うよ。
でも、寅は食べ物飲み物は
扱わない上級のテキヤさんなので
これも仕方がない。
賀茂川(鴨川)の流れ。
加納作次郎、賀茂川をゆったりと眺めてる。
立ち上がり、歩こうとすると下駄の緒が切れる。
寅が前を通りかかり、
寅「おい、おいじいさん、どうした?
鼻緒切れちゃったか、え?
おい、貸してみな…、ほれほれ。
え、チビた下駄履いているな、おい、え〜?
買ってもらえないのか?息子の嫁に、
作次郎「……」
しょうがないな、これ直してやろう、おい、
ちょっとちょっと、ここへ、ほいほい、(と座らせて)
さてェ、
(ピッビィ〜イッと腹巻から出した
手ぬぐいを歯で思いっきり引き裂いて)
なあ、
芝居だったらこういう時、
かわいいきれいな娘さんがスッと現れて、
『あら、ご不自由でしょう、
あたくしにお手伝いさして下さい』
とか言ってな!へへっ、
桃色のハンカチを取り出して、
かわいい口元でピッと裂いたりするんだけどよ、
へへっ、このオレじゃどうしようもねえな、
アハハハ、よし!ぺっ(唾つけて)!でも、まあ、
じいさんも色気の方も卒業したんだろう、え?
作次郎、ニカァ〜と笑う。
ヘヘへヘへ…よしと!
ほら、出来たよ、足上げてえ!、ん!
はいはい、はっほっ、
おっおっおいっ!はい、出来たよ、ハイ!」
と手ぬぐいで足をはたいてやる。
優しいね、粋だね〜、寅の本領だね。
これは、隠れた名場面。
渥美さん見事な手さばき、見事なテンポ。活きのいい会話、
渥美さんの独壇場。もう惚れ惚れしてしまう。今これだけの
動きができる人は日本の役者にはいない。
ただ、実際はあんなに手早く直せないし、
キレの長さもあれじゃ長すぎるかな(^^;)
作次郎「えらい世話になってしもうて、」
寅「なあに、困ったときはお互いよ、」
寅「どうだい、疲れてるんじゃないか」
作次郎「大丈夫」
寅「そうかい」
作次郎「大丈夫どす」
寅「どっかその辺で休んでいくか」
焼餅(やきもち)の店
上賀茂の『神馬堂』
北区上賀茂御薗口町4
やきもちは葵餅とも言う。
この店は上賀茂神社近く。作次郎さん足が悪そうだけど
かなり歩いたんだなあ…。
やきもち(あおいもち)神馬堂 明治五年開業
店名は、上賀茂神社の神馬小屋に由来。
やきもちは、たっぷりの粒餡を餅で包み、
鉄板で焼いたもの。店先ではご主人が餅を毎日焼き続けている。
上賀茂神社へ向かう為に御薗橋を渡って
2筋目を左に折れて約80m行った左側(北区上賀茂御薗口町4)
明治5年創業の老舗。名物菓子 「やきもち」が有名なお店。柔らかい餅で
小豆の粒あんをやさしく包んだシンプルな焼き餅だが、
焼きたての香ばしさは絶品。1個120円くらい。
この【やきもち】のみを販売しているお店。
生粋の京都の人なら大体の方はみんな知っている。
作り置きはせず、その日に出来たやきもちが売り切れた時点でお店は閉まるそうだ。
店員「おこしやす〜」
寅「これ、もうひとつどうだい?うまいよ
そうかじいさんの若いころは
もっとよかったか葵祭りも」
頷く作次郎
寅「じいさんは若いころは何やってたんだい?」
作次郎「わし?」
寅「うん」
作次郎「わたしは焼物師や」
寅「ほう、うん、じゃこうした茶碗焼いてたんだ」
作次郎頷く。
寅「へ〜えそりゃ大変な仕事だね、
ありゃ薪割ったり泥こねたりなァ…、
でももう今は楽隠居だ、な」
寅は島根の温泉津の絹代さんのところでいろいろ
見てきたからね、窯場は。
作次郎「今でも働いてます」
寅「その年で?」
作次郎うなづく
寅「なんだい、倅、楽さしてくんねえのかおい、
困ったもんだな」
作次郎「いや、そんなことではないねん
なあんて言ったらええかいな、これ…。
なかなかええ茶碗がやけんのでな、
この年になっても」
寅「ん〜偉い!!その向上心がいつまでも若々しく
年をとらねえんだなあ。家のあの年寄りに聞かして
やりてえよ、今の言葉。
いや、団子屋の職人やってんだけどね、
全然その向上心てのがないんだから、う〜ん。
年々団子作るのがまずくなってくる味が!
情けない!ったく、
おう、おかみさん
ごちそうさま おいくらだい?」
寅、実はとらやの団子食べたことありません。いいかげん(^^;)
店のおかみ「400円になります」
作次郎「あ、いかんいかん、ちょっとちょっと、あのここ私が」
寅「いいんだ、いいんだ、じいさん
今日はいい話を聞いたからな、いいよ。
400円?おっ釣りはいらねえよ、全部とっていきな」
寅「じいさんよ、いつまでも達者にな、
いい焼物を作ってくれよ」
丸石自転車の看板
寅、立ち去ろうとする。
作次郎「あ、ちょっとちょっと」
寅「え?何だい?」
作次郎「あんた今日これからなんか予定でもおすのか」
寅「いや、別にこれから宿に帰ってひとっ風呂浴びて
まあ、仲間と安酒飲んで寝るだけだい」
作次郎「あ、さよか、あ〜ほんならな、
今日まあいろいろ親切にしてもろうたお礼にな
冷たいビールでもあげたいんやけどちょっと
つきおうてんか」
寅「あ、気持ちだけいただいとくよ、
まあ、そんな銭があったら
孫に飴玉の一つも買ってやんな、じゃあな」
作次郎「いやいやな、じきそこや、うん」
寅「おい!じいさんよ、よけいな気を
使わなくていいんだからさ、な」
作次郎「いや、私な、あんたともう少し話がしたい」
寅「オホホホホ」と照れる。
御池通り やや下がる 角 木屋町 上大阪町
細い路地にある老舗のお茶屋さんに
入っていこうとする作次郎。
三条鴨川近くのお茶屋さん もしくは
当事までこのあたりに多かった『席貸屋』さん。
『たまや』さん、『だいちか』さん…
このお茶屋さんは三条近くの木屋町か先斗町あたりかな?
四条大橋から見た鴨川の『川床』が映っていたので、どちらにしても祇園では
ないだろう。
上賀茂神社近くの焼餅の神馬堂からは
あの作次郎の足ではどう考えても「じきそこ」ではないぞ。
寅「おい!どこ行くんだよ!!
なんか勘違いしてんじゃないのかおい!
こういう店は高いんだからよせって言うんだよ!
さっきオレが言ったろ
橋のたもとの焼き鳥屋みたいなところで…」
おかみさん「いやア、先生、お久しぶりどす今日は
またどないしはったんどす?」
作次郎「ビール飲ましてくれへんか」
おかみさん「ささ、どうぞどうぞ あの、…お連れさんどすか?」
作次郎「ああ、そうえ」
おかみさん「あの…どうぞどうぞ〜」」
四条大橋から見た鴨川の『川床』
実際の御茶屋さんは『木屋町』
お茶屋の座敷
どこからか歌声
「♪祇園恋しや、だらありいの帯よ〜」
祇園小唄
長田幹彦作詞・佐々紅華作曲
月はおぼろに東山
霞(かす)む夜毎(よごと)のかがり火に
夢もいざよう紅桜
しのぶ思いを振袖(ふりそで)に
祇園恋しや だらりの帯よ
もう二人ともそうとう酔っ払っている。
作次郎「土に触ってるうちにィ、
自然に形が生まれてくるのや」
寅「ン…」
作次郎「こんな形にしようかあ〜、あんな色にしようか〜
ってな事、こりゃ頭で考えているのとは違うんや。
自然に生まれてくるのを待つのや、ナ、
けどその自然がなかなか難しい…」
寅「そう、難しい難しい」ふらふら泥酔(^^;)
作次郎「オイオイ!」と酒を催促。
芸者さんA「いや、先生、もう、おやめやす」
作次郎「まあええ、大丈夫や、注いだらええのや」
作次郎「あのなア」
寅バッタリ…KO
芸者さんB「いや」と寅にビックリ
作次郎「こんなええもん作りたいとかな、
人に褒められよ〜ッ
ってあほな事考えてるうちは、
はっ!ロクなもんはでけんわ、ん〜」
芸者さんにゆっくり起こされる寅。
芸者さんA「そうやねえ〜」芸者さん適当〜(^^;)
作次郎「作るでない!これ、掘り出すのや!!あー…」
寅、目をほとんど瞑りながら
寅「ん、掘り出しもんだから」うまい!
ほとんど意識無し、これまた適当〜ええかげんどすなあ(^^;)
芸者さんA「ふふふ」
作次郎「美しい〜いモンがいてなあ、
出してくれ〜、はよ出してくれ〜言うて、
泣いてんねん…ウン」
涙ぐむ作次郎 おいおいゞ( ̄∇ ̄;)
またもや、芸者さんの膝にゆっくりと
もたれかかり寝てしまう寅。
芸者さんA「先生」
作次郎「な、なあ寅次郎はん…なんや?寅次郎はん?」
寅は寝てしまいました(^^;)
芸者さんA「おにいさん」
芸者さんB「おにいさん」
寅「ウン…」 芸者さんの膝で完全に熟睡しました┐(~ー~;)┌
作次郎「寅はんどこ行った?どど、なっ」
芸者さんA「先生、もうよしやす」
作次郎「大丈夫!大丈夫、大丈夫」
次の日 朝
大原女の花売り
「花いりまへんか〜花いりまへんか〜」
今時普通あんまり売りに来ませんけどね(^^;)
加納作次郎 自宅 東山区五条坂
京都市東山区五条坂鐘鋳町569
五条坂にある河井寛次郎記念館
の2階部屋や庭、仕事場、玄関近く、表、などがロケ地に使われている。
1階は大船のセット。
ふすまが開く
寅の服を木箱に入れて持ってきたかがり。
かがり「おはようございます
隣に洗面所がございますから」
寅「ふあい…」寝ぼけている(@@;)
寅「どこの旅館に泊まったんだろうなあ…、
あれから一杯飲んで……ああ、」
花ァいりまへんか〜花ァいりまへんか〜花ァいりまへんか〜
この2階で寅が起きる部屋も体操するシーンも全てロケ。
河井寛次郎記念館の2階の和室と板間を拝借している。
(もちろん一階の部屋は大船のセット)
たぶん記念館の和室に
寅の布団引いたんだろうなあ。贅沢(^^;)
概ね、当時の日本民芸協会の人々が携わった屋敷は日本中どこでも
みんなこういうパターンで構成されている。
記念館2階 寅が足を投げ出していたテーブル
→
寅、襖開けて大あくび。板間に歩いていって、
寅「あ〜あ、あ!あーあ、アハ…」
足をテーブルに投げ出して体操。(^^;)
寅「へえーえ」
2階の窓から下の仕事場を眺める寅。
作次郎 仕事場
近藤「先生、この作品でいいんすか?」
「違うよ、。。。。」
かがり「近藤さん、近藤さん、」
近藤「はい」
かがり「創芸社の尾形さんがお見えですけど」
現在の河井寛次郎邸
近藤「越倉」
「はい」
近藤「後のことはそっちやれ」
「はい」
一階の部屋
近藤「あ、お早うございます」
尾形「あ、朝っぱらからお邪魔しまして
色校正が出来ましたんでお持ちしました、
2、3日中に、目を通していただければ。
近藤「は」
尾形さん、寅のカバン手に取りながら
尾形「珍しいカバンですね、先生がどっかで
お求めになったんですかあ?」
この方、『園田裕久さん』は、遥かなる山の呼び声で草競馬場にて
高倉健さんを追っていた刑事さん!
近藤「違います!汚い!汚い」
一階は大船セットながら、このセットはもちろん
実際の河井寛次郎邸の一階の部屋を参考に作ってある。
かがり「近藤さん、ちょっとお豆腐屋さんまで」
近藤「はい」
婆さん「かがりはん、お金持ったか?」
かがり「はい」
このお婆ちゃん、第32作で備中高梁の諏訪家を
時々風を通して管理してくれている近所のお婆ちゃんです。
玄関の戸が開く チリンチリ〜ン…
札:仕事中に見学お断りしております 加納
表札 加納作次郎
かがり「おはようございます」
主婦たち「お早うございます」
河井寛次郎記念館の前でロケ。
河井寛次郎記念館正面を出て行くかがりさん。
いつもは前に記念館の看板が架かっている。
尾形「じゃ、明後日お電話しますから」
近藤「はい」
尾形「先生にどうぞよろしく」
近藤「はい、ご苦労様でした」
尾形「失礼します」
近藤大あくび
近藤「はアァ〜〜!」
寅も大あくびしながら同時に階段箪笥を下りてくる。
寅「ああ!アア〜アー、アアあー」
近藤ビックリする。
近藤「お早うございます」
寅「よっ!番頭さん」
近藤「は?…私ですか?」
寅「うん、あの…ここの宿銭だけどな、
オレあいにく持ち合わせがねえんだよ」
近藤「はあ」
寅「だから素泊まりって事でもって
負けてくんねえかな、ナ、これ気持ちチップだから」
と千円札を差し出す。
近藤「いけません、いけません」
寅「いや、いいんだよ遠慮すんなよ、恥ずかしがらないで」
近藤「いけません、」
寅「いいから、すこしなんだから」
近藤「か、勘違いです、ここは旅館じゃありません」
寅「…ここ旅館じゃないの?」
第17作「夕焼け小焼け」の
池ノ内青観のセリフだよそれじゃ(^^;)
「宿屋じゃない??ここ宿屋じゃないのか」
近藤「加納先生のお宅です」
寅「なんだいカノ先生って」
近藤「あなた知らないんですか加納先生を!」
寅「知らない知らないよ、何言ってんだ」
作次郎が入ってくる。
寅「よお、じいさんお早う!オレ心配しちゃったよ」
作次郎「もう起きたんか、フフフ」
近藤「じいさんとは何だ!じいさんとは!
このお方をなんと心得る!日本を代表する陶芸家
加納作次郎先生ですぞ!無礼者!控えよ!」
作次郎は、焼き物作りがとびっきり上手いだけで、
別にいわゆる偉いお方というわけではないんだけどねェ(^^;)
作次郎「アッハハハ、おかしな男やろ」
寅「面白いなあ 水戸黄門みたい」
寅って、ほとんどテレビは見ないのに
さすがに水戸黄門は知ってるんだねェ…
作次郎「フフフフ、つまらんこと言うてんと、」
近藤「はい」
作次郎「あんた、コーヒーでも入れといなはれ、フフ」
近藤「はい」
作次郎「テレビィの見すぎや、アハハハ」
近藤「コ、コーヒー コーヒー」
婆さん「これ、静かにおしやす」
寅「そうか〜、ここがじいさんの家かァ、 はあ!
オドロキ 桃の木 山椒の木だ、う〜ん。
最初あった時は、下駄も買えねえ貧乏な
じいさんかと思ったけどよ。
そのうち立派な料亭に引っ張り込まれて、
先生先生なんて言われてるからよ、
こりゃひょっとしたら小金でも貯めてる
かなとも思ったけども
(歩いてきょろきょろ部屋を見渡しながら)
へ〜大したもんだ、ねえ。
寅が良く使う『つけたし言葉』のひとつ。この言葉は第11作でも出てくる。
会話に勢いをつけて強調したい時に使う。
「驚き桃の木山椒の木」以外でも「結構毛だらけ猫灰だらけ」
「蟻が十(とお)なら 芋虫 二十(はたち)」など口上にも何度も出てくる。
ちなみに、驚き桃の木山椒の木のあとは、
「ブリキに たぬきに 洗濯機 猪木に えのきに ケンタッキー」と
最近では来るみたいである。
作次郎、ニコニコ
何やって儲けた?
おじいちゃん。
意外な寅の言葉に唖然とする作次郎
寅、座りなおして、
寅「あー…、茶碗焼いただけで
これだけの家は建たねえもんなあ、」
んだんだ(−−)
なんか陰でこっそり
悪いことなんかしちゃって」
作次郎「……」複雑な顔になる。
寅「ま いいや ねっ いろいろあるからな、
お互いに、
言いたくねえことは、フッ。
(手で膝をパチン)
さて と」
作次郎「ま、ええやないか」
寅「あ、また来ら。
おう、番頭さんよ世話になったな。
また顔出しするから。
じゃあばよ」
作次郎、苦い顔をして
作次郎「キツイこと言いよる」
手伝いのお婆さんその言葉聞きながら
婆さん「フ、フフ…ほんまでんな」とクスクス笑って行く。
お婆さんも言うねえ(^^)
作次郎、ばあさんを睨んで、
作次郎「なにがおかしいんや、あのババア」
作次郎さん関西人やねえ、上手いなあこの感覚。
寅の言葉に、何かを感じた作次郎。
有名になるにつれ陶芸の世界のからくり(法外な末端価格)に
見て見ぬふりをしてきたことも事実だろう。清貧を貫いて
いるようにはどう考えても見えないからである。
まあ、作次郎の場合はくれるものはもらっとこやないか的考え
なのだろう。別に悪くは無いが、寅のような感覚の男からは、
茶碗一つが少なくても何十万円以上もするなんてことは
考えられないことなのであろう。
茶碗には茶碗の値段がある。というのが寅の感覚なのだ。
物の値段というものはいくら有名でも、ほどほどというものが
あってしかるべきなのだ。
私の携わっている絵画の世界もそうだが、知名度がかなり高くなると
異常ともいえる高値がついてしまうのがこの手の世界なのである。
一生懸命いい茶碗を焼いても一万円の人もあれば同時代ですでに
その数十倍以上の値がつく人もある。茶碗の価値とは必ずしも一致しない。
しかし、作次郎が名も無き寅の言葉を受け止め、何かを感じたとすれば、
それは彼の才能である。多くの有名作家はそんなこと部外者に言われても、
なにも感じないばかりか、鼻で笑うだけだろう。
敏感な感受性と問題意識を持てるのはある意味作次郎の能力である。
寅は、河井寛次郎記念館(作次郎邸)を出て、
前の道を南下、「渋谷通りの方へ歩いていく」
京都府京都市東山区鐘鋳町396 付近
自宅近くの道
八坂洋裁学院
子供は赤信号 注意 ?
生徒募集 ヤマハ京都センター
若い芽を伸ばす 世界に明日がある
豆腐を買って歩いてくるかがりと出合う寅
寅「よう、いろいろ世話になったなねえちゃん」
かがり「もうお帰りどすか?」
寅「ああ」
かがり「今、朝ごはんの支度できますけど」
寅「ああ、それで豆腐買いに行ってくれたのかい
そりゃ悪かったなあ」
かがりのテーマが流れる ギターで
寅「いやね、夕べやりすぎちゃって、へへへ、具合が
また、今度来たときごちそうになるよ、うん、あばよ」
寅「あ、えーっと、オレ今何所にいるんだっけ?」
かがり「ここは五条坂いう所ですけど」
寅「五条、あ、こっちが四条でこっちが
七条って事になるわけか
はは、京都は道がわかりやすくていいよな じゃ」
背広を肩に羽織り、粋に東に歩いていく寅。
東大路通りの方角
かがりのテーマ、アンダルシア風にジャジャアン!と鳴る。
寅、しばらく歩いて振り向き手を振るが、
かがりは立ち去った後。
五月の風…。
東にしばらく歩けば清水寺、
南はすぐに京都国立博物館。
西へずっと行けば五条大橋。
角の店の細いスリガラスをよ〜く見ると、
スタッフ(マイクの係り)さんが
長い時間長いマイクを上に掲げて映っている!
夜 旅館美福
東寺と京都タワーが見えるので七条付近か。
御休憩 内湯あり 56−449
ポンシュウ「おねえさん!冷たいビール!」
ポンシュウ「ほいしょ、ほいしょ、」
と売れ残りの下駄を持って2階へ上がってくる。
寅「お疲れさん!」
ポンシュウ「ハ」
寅「どうだい景気は」
ポンシュウ「だめだめ三隣亡。こんなに売れ残っちゃった」
と大量の下駄を持ち帰ってくる。
ポンシュウ、昨日は『ラムネ』売ってて、
調子よさそうだったのにね。
三隣亡(さんりんぼう)
三隣亡とは迷信による暦上の悪しき日。
棟上げなど建築に関することの凶日とされている。私の住むバリ島でも
建築や事始に向いていない日が暦で決められているが、三隣亡の場合は
かなり迷信的な要素が強い。
その字面から、この日に建築事を行うと、三軒隣まで亡ぼすという迷信がある。
そのため、ほとんどの工務店はこの日は休みにするらしい。
しかし昔の暦には「三輪宝」と書かれており、屋立て好し、蔵立て好しなどと書かれ、
かえって建築には良い日だったようだ。迷信なのは分かっていても、気が引っ張られる
ので、つまりもう情報を知ってしまっているので、あえてその日を避ける大工さんが
多いのである。どこかで信じてしまっているのかもしれない。
旅館のおばさん「あ、お酒まだやったね ごめんね」
葵祭りの日のあたりだから忙しそう。
寅、お酒なんか注文して
お金なかったんじゃなかったのかい?
この旅館のおばちゃんはなんと柴又の『八百満のおかみさん』。
そういえば彼女は那覇の病院にも入院してたっけ。
寅「あ」
ポンシュウ「早くしてや」
おばさん「はいはい」
ポンシュウ「あ、ねえさん」
ねえさん「なあに …ああどうぞ」
遠くで列車の音
旅館の湯飲みを眺めながら、ぼんやり
作次郎やかがりのことをふと思い出す寅。
こういうタメのある演出、私は好きです。
翌日
作次郎仕事場 朝
仕事をしている作次郎。
メガネに土が着いているのがリアル。
『手ろくろ』を見事に使い茶碗を形作っている作次郎。
一階の居間
寅が入ってくる。
かがり「あ」
寅「よう いるかい?」
かがり「今、先生お仕事中ですけど…」
寅「いいんだいいんだ こないだほら、
じいさんにご馳走になっちまったからね、
なにかお礼をと思ったんだけど、
不景気なもんで、へ、
商売物で間に合わせちゃったよ
へ、でもいいもん選んできたからな。
これじいさんにやってよ、
一応会津桐ってことになってるからな。
(少し照れながら)
寅「それから、これ、…あんたに。
鼻緒が派手だったら取り替えてくれや、なっ。」
寅「それから一番安いの番頭さん、
これ婆さんにやってくれや」
寅「どうだい、やっぱりちょっと、派手か?」
寅、大皿の上に下駄乗せるか?普通。
一般常識欠如…(−−;)
それに会津桐って本物はちょっと高いぞ、
それらの下駄ポンシュウから横取りしたんだろ、
ひょっとして贋物かも…(^^;)
かがり「いいえ」
寅「そうかい、そりゃよかった」
寅「おねえさんくに(故郷)はどこだい」
かがり「あ、私 丹後です」
寅「おお、丹後縮緬の」
寅「へーえいい所だよねえ、
たまには帰るの?」
かがり「月に一ぺんぐらい」
寅「へーえ…。誰がいるんだい?」
かがり「母親と…」
寅「ほう、高校行ってる弟とか妹とか、生意気盛りの」
かがり「私の娘が…」ちょっと言いにくそうなかがりさん。
寅「それじゃあ…、ご亭主は?」
かがり「五年前病気で…」
山田監督ってマドンナの夫よく死なすよなあ…(^^;)
それにしてもかがりさん、全体にちょっと暗い…
寅「あー…、そりゃあ、いけねえ事聞いちまって…」
と、頭を下げる。
かがり「ほんならこれ、ちょうだいします」
寅「しかし、親子が離れ離れになっていたんじゃ…
寂しいだろうお互いに」
かがり「時々電話で話しするから…、
ほな、先生呼んできます」
寅「あ、いいよいいよ仕事の途中だからさ、」
寅は、かがりさんに会いに来たので
加納先生のことは、どーでもいいみたい(^^;)
かがり「けど、一応都合を」
庭に出るかがりさん。
かがりのテーマがしっとりと流れる。
かがり、庭に出て、
さっきの寅のことを思い出し、
下駄を見つめながら、ちょっと微笑む。
寅の気持ちが嬉しいかがりさんでした。
(かがりさん笑いましたね。ほっとするよ)
近藤「えっ!いらっしゃるって言っちゃったんですか!」
と親指立てる。
かがり「いかんかったかしら」
近藤「まずいよそりゃあ」
近藤「よし!それじゃあこの僕が撃退してやる!ちょとどいて!」
一階居間に入ってくる近藤
寅「よお!昨日はどうも失礼したな」
近藤「ン!ンン!
せっかくお出でいただいたんですけども、
先生はあいにく来客中でございまして」
寅「いいんだいいんだいいんだ」
電球の傘を超高速スピードで回す寅。
近藤「あああ!!」
と必死で回転を止める近藤さん(^^;)
寅「今日はよ、
あんたと話をしに来たんだ
こっちきなよ、こっちきなよ」
寅「いまさ、あの、ここを出てった
ねえちゃんいるだろ、
あれここの女中さんなの?」
近藤「かがりさんですか?」
寅「あ、かがりさんて言うの」
と、徳利を横回転させる寅。
近藤「あ!」とまたもや必死で止める近藤。
寅、いくらなんでもそこまでするか。人の家だぞ(−−;)
寅「あ、そうか」
近藤、寅が手に取った茶碗をすばやく奪い取る。
寅「あ、何だよお前」
寅「あれ、どういう人?」
近藤「どういうと言いますと?」
寅「なんだかちょっと変わってるじゃないか、
普通の女と比べると」
近藤「多少は変わってるかもしれませんけれども…、
あなたほどじゃあ、ありません」
寅「ほお、何だおれそんなに変わってるかい?」
近藤「変わってますよ」
寅「へえ、人のこと言えないんじゃないの
相当変わってるよ番頭さんも」
近藤「ご注意しときますけども
私は番頭じゃありません」
寅「あ、書生か」
近藤「弟子と言っていただきます」
寅「あ、弟子。 何年やってんの」
近藤さん、指折り数えて…
近藤「は…!」
寅「え…?」
近藤「もう12年になる…」
あちょ(@@)
寅「えーっ!12年も長い間修行してるのか、
かー大したもんだなあー…」
近藤「はい、この道は厳しいもんですから…じゅ、12年か…」
独立して出て行くタイミングを失ったんだね…。こういう状況は作次郎にも
問題がある。近藤さんにとって居心地が変にいいのだろう。どんなにまだ
半人前で未熟だと思っていても、師匠の元を出て行かないと壁を破れない
時がある。結局は物作りは一人でやるしかないのだ。
寅「見込み無いんじゃないか?」
近藤「はあ」
寅「諦めるんだったら早い方がいいよ」
近藤「ありがとうございます」
寅「な」
近藤「はい」
寅「人間他にいくらだって生きる道はあるんだから」
近藤さんついつい頷く。
近藤「…!大きなお世話です」
近藤「12年か…くうう…」
と、悩みながら外に出て行ってしまう。
寅「おいおい」
近藤「はア〜〜」
寅「本当に心配して言ってやったんだからさ
怒るなよお前。 まったくなあ…
へへへ、オレの言うとおりだろ、
おばちゃん、え?エヘヘヘ」
おばあちゃん、クスッと笑ってしまう。
玄関先で声
女子大学生「ごめんくださあ〜い!」
寅「はいよ」
寅、玄関まで行って、
寅「何だい」
学生A「あのお、私たち東京から来た学生なんですけれども、
加納作次郎先生のお仕事場を拝見できないでしょうか」
お!ふみさんの弟英男君の彼女!
後にはレギュラーで工場のゆかりちゃん。&スタンダード証券受付嬢。
マキノ佐代子さんです。
おいおい寅 ヾ(--;)
学生A「いいんですかあ!?」
表の札読んでよね、学生のみなさん(−−;)
【札:仕事中に見学お断りしております 加納】
寅「うん」
学生B「ヤッター」
学生A「うれしい〜!!ごめんください」
学生B「ちょっとゆっこさん!」
学生「よろしくおねがいしま〜す」
学生B「わあ、アンチックぽおい」(^^;)
あ、ショートカットの娘さんは、
小柳邦男君の妹さんの京子ちゃん!
ちょっと痩せたね戸川京子ちゃん…。
学生C「うそオー、ねえ、ちょっときてごらん」
学生B「いいわあねえ、こういうの」
学生A「どうなってんだこれ??」
学生C「何この階段!」
庭をかがりと歩く作次郎
作次郎「ん?なんや」
学生F「ちょっと、撮るわよ撮るわよ」
学生A「OK」
寅、インスタントカメラ持ちながら
寅「よし、並んで並んでここ押しゃいんだなこれか?
フラッシュ ピカッ!
オオ〜!!びっくりした」
学生たち「やだもお〜」
学生たち「大丈夫?」
作次郎部屋に入ってくる。
学生たちカメラに夢中になって気づかない。
寅「大丈夫かこれで あいよ ヨッ!」
学生F「あ!ダメもう一回撮って」
寅「そうか、誰撮る?」
学生たち騒ぐ「あーわたしわたし!」
作次郎、学生たちを見て????
寅「ああ!先生来た、先生来た」
学生E「あ、こんにちは、」
学生F「おじゃましてます」
寅「さて、皆さんこの方が有名な、
かの、加納作次郎先生、ね!」
学生「ワァ…!」
寅「さ!一緒に写真撮っちゃおう!
一緒に写真撮っちゃおう」
学生たち「キャー!」
寅「しーッ!静かにしろ!
静かに!静かに!静かに!」
学生たち「はい」
作次郎言われるままにイスに座る。
寅「はい、はい、先生の前にいいかい?
ほらほらそら!
はい!周り囲んでね!
にっこり!かわいく!
はい、フフ、いきますよオ!」
寅、作次郎の表情見て、
寅「ダメだよ先生そんなウンコ食べたみたいな
顔してたんじゃさ
出たあ〜!!強烈な寅ギャグ ┐(-。ー;)┌
ねえ、もうちょっと愛嬌出して!
にっこり笑って
先生、歯ァー出して歯ァー出して
歯ァー出して!歯ァ出して!
ハイィ!よく出来ましたッ!!
作次郎言われたままに笑う。お人好し〜(^^)
よし!今度はサイン書いてもらうからな!」
学生たち「ええ!ウソー!!キャアア〜」
かがり台所でそれらの様子を
見てくすくす笑ってる。
いろいろ、過去がありそうなかがりさんの人生だが、
寅が時々訪ねてきて明るさが蘇っていったのかもしれない。
この美しいかがりさんにこの後寅が照準を合わされ
『ロックオン』されることになろうとは誰が予測しただろうか。
ああ、寅次郎の運命やいかに…
柴又 とらや 雨
店先でおばちゃん客引き
おばちゃん「いかがですか、柴又名物草団子、どうぞいかかですか
お団子今できたてですよ、どうぞ」
茶の間
さくら「えーっと、あ、これが、おいちゃん。
これが、おばちゃん」
と、自分の絵付けした湯のみをお膳に置くさくら。
おいちゃん「へえー、これさくらほんとにおまえが焼いたのか?」
さくら「そうよー、たいしたもんでしょ」
おいちゃん「ほー…」
博昼食のラーメンを食べながら
博「先生がだいぶ手を入れたんだろう?」
さくら「でも絵付けは全部私よ」
確かに絵付けの植物には
なかなかいい線が入っていたんだなこれが。
おいちゃん「おい、つね、ちょっとこれ、来てみろよ」
社長「月謝いくら?あそこの教室」
いつも絶対金のこと聞くよなあ社長って ヾ(〜〜;)
さくら「月4千円」
社長、『高いな』って顔。
社長さん、今時月4千円は高くないっすよ。たぶん材料費込みだろうし。
普通最低5千円はするよ。
おばちゃん、店から茶の間に戻ってきて
おばちゃん「あらまあ、これだけできれば高くないよ」
博「ちょっとした加納作次郎だなあ」
さくら「あらうれしい、私好きなの加納作次郎」
適当〜なんだなこれが(^^;)
後にさくらが加納作次郎に実は対して興味のないことが
わかるエピソードが1つ。そして加納作次郎の作品を
理解していないことがわかるエピソードも1つあった。
またそれはその時に。
おいちゃん「有名な人か、それ」
さくら「うん、人間国宝よ」
おいちゃん「ほおー」
おばちゃん「高いんだってねえ、そういう人のものは…」
相変わらず社長同様、値段が高いことにとても関心がある
おばちゃんでした(^^;)
社長「我々はプラスチックで我慢するんだねえ。
なんてたって割ァれないからねえ。
オレとこなんか皿から茶碗までプラスチックだよ。
ちょっと味気ないけどねえ、動物園みたいで」
さすが社長、何から何までプラスチックとは恐れ入りました(^^;)
人の価値観だからべつにプラスチックであろうが加納作次郎であろうが
そんなことどっちでもいいとは思う。
こだわりがないっていうことは精神衛生上いいことも多いからね。
ちなみにプラスチックの食器は実は傷がいっぱいつく。
時には微妙に欠けたりヒビが入ったりもする。
だから意外にもそんなに長持ちしない。買う時は若干瀬戸物より安いが
最近は安い瀬戸物がどこにでもあるので実はそんなに変わらない。
ただし、プラスチックは軽い。だから持ち運びや洗う時に楽。
ちなみにタコは動物園にいるのか?? あ、餌か…
工員の声「社長!」
社長「おう」
工員「税務署から電話ですよ」
社長「お邪魔さま。 あ〜あ、いやだいやだ」
ハンカチを頭にかけて裏の工場へ
おいちゃん「プラスチックの皿かァ…」
一同シーン
さくら「たいへんなのね、社長さんの生活も…」
っていうか、そこの部分にこだわっていないだけだよ、社長夫妻は。
お金があっても平気で狭い借家住まいの人もいれば、貧乏なのに
ローン組んで一軒家建てる人もいる。
人の趣味と価値観の問題。さくらがプラスチックの食器を日々の
暮らしで使う時に感じるであろう惨めさの感覚は、おそらく社長夫妻
にはないと思われる。そのかわり、社長は、『工員』でなく『社長』で
あることにこだわる。博はそこはさほどこだわっていない。
人それぞれのネックがあるだけだ。
それにしても税務署はそんなにいつもいつも電話などかけてこない。
まあギャグですねこれも(^^)
電話 リリリーン
さくら出る
さくら「はい とらやです。
あら!お兄ちゃん!?」
おいちゃんびっくり、寝転がっていた足バタバタ
「つまり…恋よ」に次ぐ下條おいちゃんミニギャグ(^^;)
さくら「今どこにいるの?京都?
まだ京都にいるのお?」
電話の寅(声)
寅「昨日から雨でなァ」
さくら「うん」
電話の寅(声)
寅「くさっちゃうよ。そっちはどうだ?」
さくら「うん、こっちも雨よ。
そいで、お兄ちゃん、いったい何してるの?京都で」
電話の寅(声)
寅「茶碗焼いたりしてんだよ」
さくら「茶碗?」
電話の寅(声)
寅「うん、
だいぶ上手くなったぞ、
こないだ先生にほめられたい。
そっちはみんな元気か?」
寅の焼いた茶碗見てみたい…。
さくら「うん、元気だけど…」
電話の寅(声)
寅「うん、それならいいや、
電話代高いからもう切るぞ、あばよ」
さくら「もしもし お兄ちゃん」
ガチャ
さくら「はあ…切っちゃった
いつだってこうなのよ。
用件だけ言ってガチャンと切っちゃうんだから」
別に用件すら無いみたい。声聞きたかっただけ(^^;)
おいちゃん「京都で何してんだい?」
さくら「茶碗焼いてんだって」
博「茶碗?」
おばちゃん「なんで寅ちゃんが茶碗なんか焼いてるんだろう?」
さくら「知らない」だよね(^^;)
博「ひょっとしたら…、食うに困って窯場で
働いてんじゃないのかなあ?
京都は窯場が多いから」
今までの寅の行動パターンではそうじゃないだろ博。
食うに困ったからって地道な労働なんかするタマじゃないよ寅は。
寅がひとっ所に長居する時は決まって……(^^;)
おいちゃん「泥運びでもしてんのかなあ?」
博「まあ、そんなとこでしょう。 さてと、仕事だ」
さくら「ごくろうさま」
博、雨の中小走りにほっほと工場へ。
おばちゃん「しょうがないねえ。ウチへ帰ってくりゃいいのに、
ねえ、さくらちゃん」
銭金を中心に「物語」を決めつけるとらや御一同様でした(^^;)
甘いねえ、寅の『長逗留』はあくまでもいつの日も「女」が中心。
さくら「うん、でもとにかく、元気な声出してたから。
私、満男に傘持ってって来る」
おばちゃん「ああ」
おいちゃん「いつまでも妹に心配かけやがって」とつぶやく。
おいちゃん大丈夫だって。さくらって寅のこと心配するのある意味趣味だから(^^)
さくらレインコート着て、傘さして外に行く。
小津安二郎監督のカメラアングル
江戸家さんに
さくら「よく降りますねえ」
江戸家のおかみさん「ほんとにねえ」
京都
作次郎の屋敷
鐘 ゴーン
昔、内弟子だった蒲原が久しぶりに来ている。
おばあちゃん「かがりはん、これでええな」
かがり「あ、おばあちゃん」
作次郎の湯のみを置き間違ってたことを指摘。
おばあちゃん「あはは、頭ぼけたあー、フフ」
このハルさんというおばあちゃん役の方は、
第32作「口笛を吹く寅次郎」でも留守時の博の実家を世話する人の役で
いい味だしていました。
おばあちゃん「お越しい〜」
蒲原「あ、おばあちゃん、しばらくです。お元気ですか」
お辞儀するふたり
おばあちゃん「まあ、蒲原はんもすっかり出世をしやして、
おめでとうございます。こないなもな
新聞にあんたの写真が出とって、」
近藤「そうそう、三越の個展」
おばあちゃん「ほんまよろしゅうおしたな、御立派になられて、」
蒲原「どうも…」
蒲原、作次郎に気を使いスッと話題を避けるように、その場を離れる。
このへんの行動に世渡り上手な蒲原の片鱗がうかがわれる。
おばあちゃん、近藤にそっと近づいて
おばあちゃん「あのな、近藤はんもしっかりせんと」きつ…(−−;)
近藤「……」近藤さん…(TT)
作次郎「そっちへ行こうかあ」
蒲原、作次郎の体を支えながら歩くのを補助する。
作次郎「あ、東京の暮らしに慣れたか?」
蒲原「ハハ、落ちつかない街ですね。ま、それなりの刺激はありますけど」
台所で
おばあちゃん「かがりはん、小皿これでええ?」
作次郎かがりを遠く呼んで
作次郎「かがりさん」
かがり「はい」
作次郎「あんたもはやくこっちおいなはれ、そこのことはハルさんに
頼んで、こっちおいなはれ」
かがり「今行きます」
作次郎「あの、今日はゆっくりしてはれんにゃろ?」
蒲原「えー、それが…」
作次郎「いかんのか?」
蒲原「は…」
蒲原「8時にホテルに人が来まして、ちょっと打ち合わせが
あるものですから…」
最初から長居する気ないみたいだね。
作次郎「忙しいなあ…売れっ子は…」うわっ、皮肉 (((^^;)
蒲原「あは… 」と頭を下げる。
かがりさん、料理運んでくる。
近藤「僕がやります」
かがり「ありがとう。
蒲原さん、これ、先生の、最近の」
と、作次郎の湯のみを見せる。
蒲原「ほお〜…」
蒲原しげしげと眺めながら、
蒲原「は…こんな色が出せたらなァ…」
湯のみを見つめ続ける蒲原。
かがりも一緒に湯のみを見ている。
作次郎「焼きもんは土と火や。ま、結局そこやな」と頷く。
蒲原「実は今度、美濃に仕事場を作ることにしました。
やっぱりいい土が手近にありませんと…」
かがりさん、蒲原のジャケットの肩についたゴミをさりげなく取ってやる。
作次郎「んー、そらえらいわ、ん。けど、かかりが大変やで」
蒲原「は…。私のところに勉強にきていた娘さんがいまして…。
名古屋の方なんですけど、その人の実家で、土地を提供
してくれるというもんんですから…」
作次郎「ふうーん、そら結構な話や…なあ…」
蒲原「…」
作次郎「で…その娘はんと、あんた…との関係は?」
蒲原、かがりの方を気にして
蒲原「え…そのことなんですけど…、その娘さんと…結婚…
することに…」
作次郎「!……へええ〜…」作次郎ワナワナ(((^^;)
近藤驚き、かがりを見る。
かがり台所から蒲原を見て唖然。
作次郎「かがりさん、かがりさん!、ちょっと」
かがり蒲原の近くへ
作次郎「あんた、知ってたんか?今の話」
かがり「いいえ…」と小さく首を振る。
作次郎「あんたそれでええのんか?」
かがり「…はい。
蒲原さんがそれで
お幸せにならはるんやったら…、もちろん」おいおいヾ(- -;)
蒲原「…」かがりを見つめ続けている。
作次郎「へええェ〜…」(▼▼メ)
いよいよプッツン切れそうになってそっぽを向く作次郎。
近藤「あの〜…、か、蒲原さんはかがりさんと
結婚するわけじゃなかったんですか?
僕はてっきりそう思ってたんです…」
蒲原「ちょっと待ってくれ。
先生、この問題については、まず、先生のお許しを得て、
それから、かがりさんに話そうと思ってました。
確かに僕は、かがりさんは素敵な人だと思っています。
その気持ちは今も変わりありません。
もちろん結婚について真剣に考えたこともあります。
ただ…」
作次郎「もうええがな、
おまえが誰と結婚しようと、おまえの勝手やろ」ブス…
蒲原「…」
おばあちゃん「かがりはん、お燗ついたえ」
かがり「私のことやったら気にせんといて。
気持ちようわかってるさかい…」なんでそうくるねん(−−;)
蒲原、涙を流している。
蒲原「は……」
蒲原演技上手いな…(−−)
作次郎「8時にホテルに人が来るねやろ」とプイ
針のむしろだね(^^;)
作次郎は結果だけ伝えに来た蒲原を見ぬいている。
かがり「けど…今お食事の仕度…」
蒲原「いえ、僕、帰ります…」ほおおォ…お逃げおすかァァ…(−−)
泣きながら席を立って、
蒲原「失礼しました」
と、泣きながら帰っていく。
近藤追いかけながら
近藤「謝ったほうがいいんじゃないですか、蒲原さん」
かがり「…」
作次郎「…」
かがり、作次郎に
かがり「ご心配かけてすいませんでした」なんで??
かがり深深とお辞儀。
作次郎、不機嫌そうに席を立ち、階段箪笥を上がっていく。
本来ご心配かけさせる原因は心変わりした蒲原にあるのでであって
かがりさんが謝る筋合いのものではない。
こういうところが逆に作次郎にとってはムシズが走るのだろう。
なんでも謝ればいいってもんじゃないのだ。
自分さえ謝れば丸くおさまるものではない。自分の気持ちを相手に伝えることができないのなら、
こういう場合は沈黙を守らねばならない。意味もなく謝ることは相手(作次郎)に対して逆に失礼である。
かがりさんは幼少期からの苦労で、とりあえずの謝り癖がついているのだろう。
ま、要するに蒲原は自分の陶芸家としての成功への道を選択したわけだ。別にかがりさんが
彼の子供を宿しているわけでもないし、結納をかわしていたわけでもないので蒲原が責められる
べきことでもない。恋人に他に好きな人ができてかがりさんへの気持ちが冷めたと考えても
そう間違いではないだろう。見ているこっちとしては悔しいが、男女の問題はあくまでも当人たちの
問題なのだ。決して善悪や倫理の問題ではないし、早いもの勝ちでもない。それでもかがりさんは
諦めるのがあまりにも早くちょっと理解不能。
寅の泊まっている宿
寅「もしもーし、よ、近藤さん、ん、オレ、オレ、寅だよ。
ん、夕飯食ったかい?いや、まだだったらさ、たまには
二人でゆっくり、酒でも飲もうと思って、うん。
なに?なんかあったの?」
羽振りがいいね。バイが成功したのかな今日は。
近藤「今、ダメなんですよ。先生がとても機嫌が悪くて、
今かがりさんが呼ばれて怒られてる最中なんですよ
さあ…よくわかんないけど…、後で報告しますから、はい、はい」
近藤さん、「怒られてる」んじゃないんだよ、こういうのって。かがりさんこれで
ええのかほんまに?ってことなんだ。あくまでも、かがりさんの人生にかかわる
彼女自身の問題。
近藤、下から二階の作次郎の部屋を見ようとして頭を天井に ガコッ!
二階の作次郎の部屋
作次郎「何で私に謝らんならんのや、え?
これはあんたの事違うか?え!?
かがりさんが幸せになれるかなれんかと
いう問題と違うんかいな!
あんたほんんまに蒲原を好きやのか?」
かがり「(はい)」と口の動き。
作次郎「それやったら何であの男の首玉に
しがみついてでも一緒にならへなんだんや。
人に気ィば〜っかり使うてるあんたを見ているとな、
あたしゃ時々腹立ってくる時があるねん」
作次郎「人間というもんはな、ここぞと言う時には
全身のエネルギーを込めてぶつかって
行かんとあかんのや!ああ!
命をかけてぶつからんとあかへんねん!
そ、それがでけへんようなら、とてもやないけど
あんた幸せにはなられへんわ!」
と怒り心頭してそっぽを向く作次郎。
そもそも野心家で世渡り上手な蒲原と何事も控えめで諦めがちなかがりとでは
いずれは破綻が来ることは目に見えている。蒲原に今必要なのは実質的に
自分をしっかりと後押ししてくれるパートナーなのだろう。
心や気遣いの問題では乗り越えられないものも現実社会にはある。
そういう生き方は確かにあるのだ。特に物作りの人生にはそういうことは実によくあること。
第17作の池ノ内青観と志乃さんもひょっとしてそのような人生の別れだったのかもしれない。
かがりさんのことを気に入っている作次郎は何事にも諦めがちなかがりさんに歯軋りをし、
あのようにきついことを言っていたが、まあ、かがりさんにはかがりさんの気質に合った
パートナーがいずれゆっくりと流れる時間の中で見つかるような気がする。とにかくなには
ともあれ、今一番ショックを受けて悲しんでいるのはかがりさん本人だ。作次郎はそのことに
配慮がいっていない。結局は作次郎は自分の気持ちが納まらないだけなのである。
翌日、寅が花を持って作次郎を訪ねる
おばあちゃんが床を拭いている。
寅「おばあちゃんおはよう」
おばあちゃん「へえ、おはようさん」
寅「かがりさんいるかい?」
おばあちゃん「いてしまへん!」
と、投げ捨てるように言う。
寅「…お使いか?」
おばあちゃん「丹後に帰らはりました」
おばあちゃん「もう戻らんやろなあ…」
寅「帰ったあ?」
国鉄宮津線(現在の北近畿タンゴ鉄道(KTR))
汽車(急行)の中
宮津に向って走る汽車に乗って故郷に帰っていくかがり。
窓から見える海岸の景色をぼんやり見ているかがり。
JR京都駅→(山陰線)→JR福知山駅→((現在の北近畿タンゴ鉄道)KTR宮福線)
→KTR宮津駅→(丹後海陸交通バスの路線バス)→伊根町 (京都駅から約3時間30分)
JR京都駅→(山陰線)→JR綾部駅→(舞鶴線)→
JR西舞鶴駅→(KTR宮津線)→KTR宮津駅→
(丹後海陸交通バスの路線バス)→伊根町 (京都駅から約3時間30分)
のどちらかをかがりさんは使ったのだろう。時々は京都から宮津直行の汽車もありそうだ。
注)当時はまだ国鉄なので呼び名は若干上記とは異なります。
海岸線を汽車が走っているので宮津線を使ったのかもしれない。
寅「ふう〜ん…可愛そうになァ、そうだろう、
早い話がさ、かがりさんは男にふられたんだよ。
慰めてやるのが本当じゃないか、なんで叱ったんだよ?」
作次郎「う〜ん。ちょっと言いすぎた思って後悔してんねん」
寅「チェッ、困ったもんだね年寄りってのは、
全然女の気持ちなんてのは分かっちゃいねえんだから」
近藤、うなずく。
寅「そう思うかコンちゃんも」コンちゃんって(^^;)
近藤「ええ」
寅「うん、なあ。まあしょうがねえや、
でももう過ぎたことだもんな。
…さてと」
近藤「あ、あのう」
寅「ああ、実はなオレもそろそろ旅に
出なきゃならねえんだ。
それで、別れに来たのよ」
作次郎「なんや、あんたも行くのか」
寅「うん、ま、気が向いたらまた顔出すからよ、
じいさんも、元気出して、いい仕事しろよ、な」
近藤「あ、どちらへいらっしゃるんですか」
寅「んなことオレにも分からねえや。
風の吹くまま気の向くままってやつだよ。
道の真中でよ、こうやって指にツバキつけるだろ、
で、こうやって出すわけだよ。
ふっと風が吹いてきたなって方へ一緒につられて
フワフワフワフワ〜っと行っちゃうわけだ」
近藤も寅も風の吹きすぎた方向を見ている。
いいねえ…。第42作「ぼくの伯父さん」での寿子さんのセリフじゃないが
「私もそんな旅がしたかあ〜」だねえ。もちろん「現実の旅は」は厳しい、侘しい、淋しい、
お金無いの連続でもあるのだが…。
作次郎「その風、丹後の方へ向いて吹かんやろか…」
寅「うん?そりゃどう言う意味だい?」
作次郎「いや、もし丹後の方に足が向いたら、
かがりさんに会うてやってくれへんやろうか」
寅「うん、まあ、風に相談して決めるよ、な」
近藤「お願いします」
寅「おう」
「おう」って、丹後伊根は同じ京都でも結構遠いよお(^^;)
だいたい住所なんか聞いてるの?
作次郎「あ〜、ちょっと」
寅「ええ?」
作次郎「寅次郎はんにはいろいろ世話になったし
あんたに何ぞお礼をと思うててんけどな」
作次郎棚から茶碗を取り出す。
寅「いらない、いらない、そんな物はいらないよ」
作次郎「これはな、これは私わりに気に入ってる茶碗やねん、
ま、この茶碗で茶でも飲んで、
あての事思い出してくれへんか」
と、気に入っている『打薬窯変三彩碗』を差し出す。
寅「いいんだよ、じいさん、オレはずっと旅暮らしだろ、
で、しょっちゅう旅館の茶碗で事足りてるから、なっ」
作次郎「いやいやこれは私の心持ちや、な、な、もし」
いいねえ「心持ち」なんて言えないよ、なかなか。
寅「まあ、そう言うんだったら、じゃあ」
と手荒く受け取る。
作次郎「あ」
寅「遠慮なくもらうか、な、おし」
作次郎あせって
作次郎「近藤、箱を」
寅「箱なんかいらねえ、邪魔になるから」
カッコイイねえ寅のこういうセリフ。
確かに旅暮らしなもんで…(^^;)
作次郎「けど、割れるといかんよってにな」
寅「うん、割れたって大丈夫だよ、
オレな商売もんのいい接着剤持ってんだよ、
これ!瀬戸物だってなんだってピシ―ッと」
と、バイネタの瞬間接着剤『ピッタリコン』を取り出す寅。だめだこりゃ(−−;)
寅「あ、そうだこれちょっとわッかいてくっ付けて見よう」ひえ(00;)
作次郎「いや、やらんでええ!」
寅「え?やらんでいいか?そうか、
はあ、よく効くんだよこれ、うん、まあ、もらってか
こんちゃん、いろいろ世話になったな」
人が気持ちでくれた当人にとっては大事な物を
たとえ100円の雑器でも当人の目の前でわざと
割ろうとするのは極めて非常識。寅のこういう行為は変人の域。
まあ、だからその、ギャグですね、この場面は。
近藤「あ、ええ」
寅「じいさんもよ、達者で長生きしてくれ」
作次郎「ああ、おおきに、おおきに」
寅「あばよ、それじゃ、あんたもよ、
一生懸命修行して早いとこ一人前になんな、
なっ!じゃ、あばよ」
半人前でも、とにかく作次郎のところを出て、
一人で世間を歩けばそのうち一人前になれる。
近藤「ありがとうございます」
と三彩碗を近藤さんの胸にポコポコっと当てて遊ぶ寅。
やっぱこの人に高価な茶碗やっても無駄and危険(^^;)
近藤「先生!あんな大切な作品やってしまって、
あれ、神戸のビビビビ美術館が
カッ..買いたいって言ってた」(^^;)
近藤の唾が作次郎の顔を直撃 きちゃない(><)
作次郎「ええがな、ええがな、もう、
いずれは割れるもんや焼き物は」
さすが焼き物師、加納作次郎だね。焼き物は焼き物以上のものではない、
ということを冷静に離れたところで見れているのだ。物作りに執着する余り、
自分の作品を神様のように崇める作家もいるが、焼き物は焼き物。用の美。
茶碗はいつもお茶を入れてこそ茶碗。割れもするし、欠けもする。生活の中で
使って割れるのならそれもよし。ということなのだろう。
五条坂の道
かがりのテーマ アンダルシア風
京都の町を寅が鼻歌を歌いながら
茶碗を手遊びしてほおり投げながら歩いていく。
おいおいほんまに割れるで。
こういう人に割れものを絶ッ対あげちゃいけません。ヾ(^^;)
かがりのテーマ
自転車の出前の男がものめずらしく止まって寅を見る。
『うな浜』のおかもち。
背中を見せて歩いていく寅
丹後半島
寅を乗せたバスが
カマヤ海岸の断崖絶壁をクラクションを鳴らしながら走って行く。
TANGO KAIRIKU KOTSU BUS
丹後海陸交通バス(たんごかいりくこうつう)
丹後海陸交通株式会社(たんごかいりくこうつう)は、
丹後半島周辺地域で路線バス・船舶・ケーブルカーおよびリフトを運営している会社。
阪急電鉄の系列会社である。。
広告 …ユニット セキツイ ハイム
伊根町日出 付近
八坂神社のそば
バス停で降りる寅
歩いて北上していく。
途中おばあちゃんに道を聞く。
寅「こんにちは、…ってとこはどこ?」
ばあちゃん「あっち、真っ直ぐいったとこ」
かがりさんの実家 正法寺への上がり口付近海沿い。
(講談社の寅さんDVDマガジンは、かがりさんの実家Aがまったく違う位置になっているので注意)
機織の音 丹後ちりめんの生地作り
寅「ごめんよ、ここは、あの、かがりさんの…お宅かね?」
かがりのおかあさん出てきて
おかあさん「はい、そうです」
寅「あ、オレは、京都の加納先生のところでかがりさんと知り合った
ものだけれども、かがりさんいるかね?」
おかああさん「それは…わざわざ、こんな遠いところに」
子供の和代、離れ近くで遊んでいる。
おかあさん「和代、かあちゃんおる?」
和代「おるゥ!」
おかあさん離れに入って、
おかあさん「かがりィー、かがりー、お客さんだよー」
かがり「はい」
と言って下りてくる。
汽笛の音 プォーッ
ポンポンポンポン
かがり、寅を見て立ち尽くす。
かがり「寅さん…」
寅「よお、へへへ…」
かがり「なんで?」だよな、確かに(^^;)
寅「んー、風に吹かれて、ふらふらしてるうちによ、
宮津まできちゃった、ハハ、どうせここまで
来たんだったら、かがりさんの顔見ようてんで、
まあ、ちょっと足伸ばしたってわけよ、
なんでい、元気そうじゃねええか」うそうそ、来たくて来たんだよ(^^;)
寅、その話無理があるよ(^^;)
かがり、胸に手を当てて
かがり「いやあ、あー、びっくりした」
寅「へへ、おどかしちゃって悪かったな、
急に思い立ったからよ、ん」うそうそ、急にじゃないだろ(^^;)
寅、和代を見て
寅「ありゃ、娘さんか?」
頷くかがり。
かがりのテーマ、しっとりと流れる。
寅、和代のそばまで行って
寅「おう、おい、ほら、お土産お土産」
と、和代にお土産を渡し、顔をなでる。
にこっと笑う和代。
寅とかがり、海の近くで話をする。
この海の近くの場所はさきほどの実家とはまったく違う場所。
なんと二つの場所で撮影しているのだ。
寅、海を眺めながら
寅「ほうー、こりゃ、かがりさんの
故郷はいいとこだなあ」
かがり「宮津から船で来はったん?」
かがりさん、船はそう頻繁にでてないだろう。普通はバスでしょ。
寅「ヘヘ、それがドジなことになってなあ、
いや、宮津へ行こうと思ったんだけどね、
間違えて山陰線ってやつ乗っちゃったんだよ」
かがり「え…?」
だから豊岡からさ、バス乗り継いで、山越えたわけだ。
これがまあ時間がかかったなあ〜、んで、こんな凄い
ガケップチ行くんだろう、まあ恐いの恐くねえのって、
だけど凄いとこにいるなあかがりさんもって
思ったんだよ実は」
「凄いところにいるなァー」のセリフは第18作「純情詩集」のラストで
雪深い越後六日町で働く雅子先生に寅が思わず言った言葉。
おそらく寅は福知山を通過してそのまま豊岡まで行ってしまったのだろう。
その後『丹後バス』『丹後海陸交通バス』で豊岡から国道178号線をたどって
丹後半島をぐ〜るりと回ってきたか、途中で乗り継いで内陸の山越えをして
経ヶ岬を経由してカマヤ断崖を経てきたのであろう。
いずれにしてもバスだけで2時間以上かかる効率の悪い来方。
普通は、京都駅から山陰線で福知山駅、そこで北近畿タンゴ鉄道(KTR)宮福線に
乗り換えてKTR宮津駅、宮津から「丹後海陸交通バス」を利用して国道178号線を
北上して伊根町日出まで約1時間で着く。天橋立からだと伊根町日出までは約50分で着く。
「経ヶ岬」「蒲入」「伊根役場前」のいずれかを利用すれば大丈夫。京都駅から伊根日出まで
全行程約3時間半で着くはずだ。
かがり「いやあー、たいへんやったねえ」
寅「うん。でもまあ、よかったよ。フフ、
いや、あんたがね、身投げした死体がさ、崖の途中に、
こうひっかかって、その細い手足が風に吹かれて
こうふらふらしてるんんじゃねえかなと思ってさ、ヘヘヘ…」
そういえば第7作「奮闘編」で、さくらも津軽で寅の自殺を考え、
その身を案じていたなあ。
ふらふら…
かがり「すいません心配かけて」
寅「いやいや、フフ…」
かがりのテーマ
と背広をひょいっとたくし上げて、粋に
すっと座る寅。
こういう何気ない仕草が、実に絵になるのが渥美さんだ。
かがりも近くにしゃがむ。
いしだあゆみさんは
このロケ初期にバイクで大きな怪我をしているので
伊根のロケシーンは全てびっこをひいている。
ほとんどのシーンでそのことはわかってしまう。
ところでこのかがりさんと寅が海に向かってしゃべっているシーン。
実はここはかがりさんの家の前の海ではないのだ。
どのあたりかというと伊根湾を挟んでなんとはるかに向こう岸なのだ。
赤丸がかがりさんの実家。
黄緑丸が寅とかがりさんが話をしていた実家付近の裏。
映画を見ているほとんどの人は↓の二つのシーンは
カメラの流れからして同じ場所かごく近くだと思っていただろう。
左がかがりさんの家から海を見たところ。湾の西地区 右の写真はかがろさんと寅が話しているところ。湾の東地区
ちょうど第42作「ぼくの伯父さん」の佐賀の寿子さん宅の玄関と裏庭ロケが
何十キロも離れていたように、このかがりさんの家の玄関ロケと家裏付近のロケは
ひとつの大きな湾を挟んだこちらと向こうだったわけだ。
この歴史的事実はどの本にもどのサイトにも」載っていなかった。
これを発見されたのは私の寅友であり最強のロケ地めぐりの達人である
京都市在住の「寅増さん」である。
2012年11月に、伊根の地元の方々と共に発見されたのだ。
地元の方はさすがに画像や写真を見せると役場関係で判る方がいらっしゃったそうだ。
まず西側のエリアだけ考えて、時間の流れで言うと↓の地図になる。
まず寅の乗った丹後海陸交通バスが伊根に入ってくる。
(カメラは平田バス停付近)
平田のバス停でバスを降りて、タバコ屋を通過。
おばさんに道を聞く。(実際は平田バス停とはぜんぜん違う場所)
地蔵の横を歩く寅次郎。
かがりさんの実家到着。
宿泊した後の朝の情景。八坂神社斜め横の丘。(平田バス停真上)
グーグル地図のアップでもう少し判りやすく紹介しよう↓
上の地図にもある「正法寺」入り口近く
がかがりさんの実家Aだ。↓
ちなみに講談社のDVDマガジンのこの29作ロケ地図は、
かがりさんの実家Aの位置およびほとんどの場所が
かなり違っているので注意。
ここの地区を請け負った下請けの人が手を抜いたのかも・・
そして今回寅増さんが地元の方と一緒に新発見されたかがりさんの実家付近の裏手は
海を挟んだ向こう。湾の東。ここになる↓。あの最後の別れの桟橋もこの付近。↓
桟橋で別れる直前のシーン、朝の湾の眺めは桟橋からずっと上がった慈眼寺から撮影された。
赤丸がかがりさんの実家。
黄緑丸が寅とかがりさんが話をしていた実家付近の裏手。
赤丸の囲みがかがりさんの実家付近の裏
グーグルの地図ではその隣の家(伊根町亀島968)しか住所が出なかった。
住所は伊根町亀島968から970付近。
物語の流れでまとめてみた。
1. 寅を乗せた丹後海陸交通バスが伊根湾の西の集落に入っていく。
2. 寅を乗せたバスは平田バス停に止まる。
3. 寅はおばあちゃんに道を聞く。
4. お地蔵さんのところを曲がって行く寅。
5. 途中機を織る音がして、ちょっと窓を道から覗き見る寅。
6. かがりさんの実家(白数氏宅)に着く寅。
7. 敷地のはずれで寅がしゃがんでかがりさんと語らう。
8. 翌早朝、寅が起きる前の風景。
9. 起きてかがりさんと気まずい会話。
10.午前の伊根湾が映る。
11.波止場での別れ。連絡線に乗り込む寅。
12. 物語の終盤:かがりさんの家が再び映る。
13. 漁協の魚加工場で働くかがりさん。
14.自宅の裏で洗濯物を洗濯機に入れているかがりさん。
海の向こうを見て寅を想っている。
話は戻って
寅とかがりがあの話をしている。
かがりのテーマ
かもめの鳴き声
静かに光る伊根の海が映る。
洗濯物を獲りこむ近所の女性。遠くに二人…。
寅まくっていた背広の裾をふわっと下に落として…、
いやあほんと渥美さんカッコイイなァ…。
真似したくてもできない…。↓
寅「まあ、オレも詳しく聞いたわけじゃねえけどさ、
あのほら…何とか言う、じいさんの弟子が、
あんたのことをソデにして、他の女と一緒になったと…、
つまりこういうわけだろ?」
かがり、寅を見て、かすかに頷く。
寅「誰を恨むってわけには
いかなねえんだよね、こういうことは。」
いいこと言うなあ…(TT)
寅「そりゃ、こっちが惚れてるぶん、向こうもこっちに
惚れてくれりゃあ、世の中に失恋なんてのは
なくなっちゃうからな、そうはいかないだよ…」
実感やのう〜(TT)
かがり「寅さん」
寅「え?」
かがり「もういいの、すんでしもたことは、くよくよ考えへんタチ
やから。フフ…見かけによらず、フフ…」
寅「フフ、漁師の娘だからな」
かがり「漁師の家で育ったんやけど、ほんまの親とは
ちィちゃい時別れて、そんでここにもらわれてきたん」
寅「へえ〜…」
かがり「生まれたんは若狭のほう」
寅「そうか…、かがりさんずいぶん苦労してきたんんだなあ…」
かがり「苦労が身について、臆病になってしもたんやねえ、
なにごとにつけ。
先生にそういうて叱られたん。」
寅「え?」
かがり「あとのこと考えず、体ごとぶつかっていかなあかん。
人生には何遍かそういうことが必要やって…」
寅「きぇ〜、えらっそうに、調子のいいこと言ってあのじいさん、
かがりさんにちょっと惚れてるんじゃねえのかい?」
かがり、驚き
かがり「あは、あほなこと言うて、フフ」
寅「へへ、ほんとだよ、フフ…」
遠くで連絡船の汽笛
プープー、プゥーー
寅「さて…、今度の船は何時になんだい?」
と、時計見る寅。
かがり、船を指差して
かがり「あれが最終便なんやけど」
寅「ええ!!
なんでそれ初めに
言ってくれねえんだよ?」
と慌てふためく寅。
寅「ちょ、ちょっと」
と船を呼び止めようと泊めてある
近くのボートの舳先に乗りこもうとする寅
かがり「いや…」
ボートから大声で
寅「おーい!おーい!船頭さああん!船頭さああん!」
船頭さんって…(^^;)
かがり、ちょっと笑っている。
寅、おろおろして
寅「困ったなあ、バス!バスはどこ?出るかい?バス」
かがり、首を振る。
寅「ないの?」
かがり、頷く。
寅「じゃ、困ったなあ、タクシー呼んでもらえるかな、タクシー」
かがり「5000円近こうかかるよ宮津まで」
もっとかかるだろう。
寅「5000円?」
と札入れを出してチェックする。
寅「まいったなあ〜」
5000円もなかったらどっちにしても宮津であろうが
どこにも泊まれないぞ。船賃だけでも1200円くらいはかかるだろう。
ポンシュウもいないのでたかれないし、
この状況ありえねえ〜。
これまたいつもどおり現実離れしたお約束の設定。
かがり、にこやかに
かがり「うちに泊まりはったらどうどす?
そないして、ね」
第15作「相合い傘」で、さくらが行くあての無いリリーを
気遣い、自分のアパートに泊まるように誘う電話での
あの会話を思い出したよ。
そそくさと寅のカバンを持って離れに入っていくかがり。
かがり「どうぞ」
ロックオン完了
寅、緊張で顔がツッパッている。(〜〜;)
寅はこういう時には変に動物的カンが働くのだ。
こうして寅の長い長い一夜が始まっていく。
ああ寅次郎青年の運命やいかに…。
かがりの家の居間
和代がおばあちゃんにパジャマを着せてもらっている。
かがり「和代、ランドセルやなんかこっち持ってきた?」
和代「どうして?」
ばあちゃん「ん、今夜はおばあちゃんの部屋に寝るんやで。
お客さんが泊まるんやから。」
かがり「ええわ、ほんならあとでね、
かあさんがこっち持ってきとくから。」
ばあちゃん「え」
寅「悪いね、いきなり押しかけて」
おばあちゃん「なああん」
杉山とく子さんってほんと演技が自然。上手いねえ〜。
和代のパジャマ着させて
おばあちゃん「さ、お客さんに、お休みなさい言うて」
和代「お休みなさい」
寅、口に食べ物入れながら
寅「ほやすみはさい…はい、ん」
しゃべるの食べてからにしろって ヾ(^^;)
入り口の戸が開いて、
はるちゃん「こんばんは」
かがり「はるちゃん来た」
寅「あ、こんばんは」
はるちゃん、寅に礼
この「はるちゃん」役の俳優さんは確か、第35作「恋愛塾」で、
秋田の民夫の実家で若菜さんに民夫のことを
話しをしていた「おさむ」という青年だと思う。
はるちゃん「おばあちゃん迎えに来た」
かがり「ごくろうさん」
おばあちゃん「はいはい、いよっと…」
寅「お、これから出るの?」
おばあちゃん「ん、姪が今夜あたりお産でな」
寅「ほー…」
おばあちゃん「どんな具合かね」
はるちゃん「明け方くらいやって」
寅「あ、そりゃ大変だね」
おばあちゃん「ほんなら、ごゆっくりと」
寅「あ、気をつけてね、え、」
おばあちゃん「じゃ、かがり」
と出て行く。
かがり「すみ子によろしくね」
おばあちゃん「ん」
車が出て行く音。
お調子を持ってくるかがり。
寅「かえって取り込みのところ悪かったね」
かがり「ううん、四番目のお産やから気楽よ」
と言いながら、子供の寝ている部屋の襖を閉める。
寅「ほお〜…」
酒を飲む寅。
僅かに緊張感が走る。
かがりも座ってコップを寅の前に差し出す。
寅「お、ん、こりゃ気がつかなかったな」
と、かがりに酒を注ぐ寅。
寅「結構いけるくちなんじゃねえか」
かがり「亭主に死に別れてから覚えたの」
と酒を飲む。
寅「京都じゃ飲まなかったんだろ」
かがり飲みながら
かがり「台所でこっそり飲んでた、フフ…」と微笑む。
寅「へええ…」
と意外そうな寅。
かがり「けどおいしないねえ、…一人で飲んでも」ほんとほんと(−−)
寅「んん…オレも、旅先の宿で一人で飲む時やあ、こんな徳利
二三本ですぐ酔っ払っちまうよ」
かがり「それからどうすんの?」
寅「んん、ま、すぐごろんと寝ちまうさ。
で、次の朝、なんだか枕元の方で
カラコロカラコロ女の下駄の音が聞こえてなあ…、
つー、あれ、オレは今どこにいるんだろうな、
なんて思ったりして…へへへ」
第8作「寅次郎恋歌」での貴子さんとの
最後の夜の会話を思い出したよ。
ほとんどあれの焼き直し。
ちなみに第8作はこうである。↓
寅「しかたねえから、行き当たりばったりの飲み屋で
無愛想な娘相手に一杯ひっかけましてね、
駅前のあきんど宿かなんかの薄いせんべえ布団にくるまって
寝るとしまさぁ…。なかなか寝つかれねえ耳に
夜汽車の汽笛がポ―っと聞こえてきましてね、
朝、カラコロ下駄の音で、目が覚めて、
あれっ?オレは今一体どこにいるんだろう…。
あー、ここは四国の高知か…。
かがり「そういえば、初めておうた時…」
寅「…どうした?」
かがり「フフフ…姉ちゃんオレどこにいるんだろうなあ…、
変な人やなあ…、と思たんよお」
と、寅をじっと見つめる。行動が若干大胆になっているかがり。
もちろん寅は敏感に察知している。
寅「タァ、そんなこと言ったかなあ、ハハハ」
かがり、寅のほうに少ォし寄り添って
かがり「飲まない?」やっぱ積極的(^^)
寅、ちょっと緊張して
寅「ん」
かがり、寅に酒を注ぐ。
寅、酒を注ぐかがりを見つめる。
寅の目は笑っていない。
緊張が二人の間を走る。
シリアスな寅の目
寅が、大きな理由もなく、このような目でマドンナを
見つめるのはシリーズではじめて。リリーに対しては
こういう目はしない。
かがりは、相変わらず寅の方にちょっと寄り添うように座り、
下を向いている。京都時代のかがりとはかなり違うなあ…。
遠くで船の汽笛。
カメラは上から二人を小さく撮っている。
寅「……」
かがり「……」
黙ってしまう二人。
こういう緊張はすべてシリーズ初の状況。
緊張に耐えれなくて少し眠くなる感じの寅。
緊張の糸をほぐすように
かがり「これ食べて」
寅「ああ」
と、二人とも苦笑い。
和代、隣の部屋から
和代「おかあさん…」(^^;)あちょ…
緊張の糸が切れかがりも寅もスッと血が引く。
かがり、小さな声で
かがり「ごめん」意味深…(^^;)
立ち上がって、襖を開けて
かがり「まだ起きてるの?はよ寝なさい」
和代布団の中から
和代の声「だって暑いんだもの」
かがり、布団の中に一緒に入る。
かがり(無声音)「ね、明日また学校でしょ」
和代の声「給食のお金用意してくれた?」
かがり(無声音)「お金ちゃんと用意してあるから
心配せんと、はよ寝なさい、ね」
寅、添い寝しているかがりを見ている。
布団の中から妖しく見えるかがりの脚を見てしまう寅。
このような寅の視線もシリーズ中はじめて。
和代「一緒に寝てェ」
かがり(無声音)「すぐ寝るから、はよ寝なさい、ね。
お母さんすぐ寝るから…」
いろいろ考えて極度に緊張してしまう寅。
遂に立ち上がろうとして、体がこわばり大きな音をたててしまう。
かがり、ハッと起き上がって
かがり(無声音)「どうしたの?」
寅「急に眠くなっちゃったんで、横にならせてもらうよ」
かがり「そう…、お布団…私の部屋にひいてあるけど…」
ふたりっきりの時間が突如終わってしまって
少し不満そうな表情で部屋に案内するかがり。
寅「どうも、酒に弱くなったのか、
ちょっと飲むとすぐ眠くなって
いけねえや、ハハ…」
若干無愛想になるかがり。
戸を開けて離れに行く寅とかがり。
かがり、階段から上を指差し、
かがり「二階の奥やから…」
寅「あ、この奥、はい…」
かがり、ちょっとぶっきらぼうに
かがり「お休みなさい」と言い、出て行く。
寅、かがりの変化に気づき、
情けなくかがりの後姿を見る。
四十をかなり過ぎているにも関わらず、
女性とのこのような静かな係わり合いさえも
緊張してしまって耐えられない寅。
あまりにも逃げるタイミングが早すぎる。
情けないというよりも、悲しみすら感じてしまう。
かがりのテーマが流れる。
二階に上がっていく寅
ゆっくり布団の敷いてある部屋に入り、
敷布団に腰を下ろし、少し考え込みながら
となりの薄暗い和代の勉強部屋を遠く見る寅。
遠くで船のエンジン音が聞こえる。
窓の向こうは海。
ゆっくり布団を被って寝る寅。
寅「はァ、あ」
と深くため息をつき、天井を虚ろに見る寅。
二人っきりの時間を自ら止めてしまったことを
後悔しているのかもしれない。
目はつぶらず、さっきまでのかがりとの緊張感のあった
空気を思い出している。
二人っきりの部屋で女性と酒を飲むことすら
できない寅。どうしていつもこうなんだろう…。
居間で食事の後片付けをするかがり。
コップに残ったお酒を飲み干している。 リアル…。
波打ち際、寄せてはかえす波が月光に白く光っている。
いつまでも寝付かれない寅。
やはり心が静まっていないのであろう。
なにかを今も考えている寅。
離れの戸が開く。
気づく寅。
階段を上がるかがり。きしむ階段の音
首を起こして緊張する寅。
カメラはズームで寅の表情を追う。
かがりが和代の部屋に入って
母屋で寝ている和代のために
ランドセルを取っている音。
思わず寅は寝たふりをする。
かがり、寅の寝ている部屋の前で止まり、
かがり「ん……寅さん…」
寅、顔を横にして寝たふり。
かがり「もう寝たの?…」
和代のランドセルのカバンの鈴が僅かに鳴る。
かがりのテーマが静かに流れる。
静かに襖が開く。
ランドセルの鈴が鳴る。
寅をじっと見るかがり。
窓が開いている。
かがり「あ、…開けっ放し…」
と部屋にそっと入り奥の窓を閉める。
寅の横に座り
かがり(無声音)「電気つけたまま…」
寅の顔はかがりの方を向いている。
かがり、スタンドをそっと消そうとする。
寅寝言のように
寅「う、あー寒い…」
と寝返りを打ち、かがりから顔を背ける。
かがり、少し驚くが、そのままスタンドの灯りを消す。
嘘のイビキをかく寅。
そのまま座り、寅の布団を静かにゆっくり直すかがり。
直し終わっても暗闇の中座り続けるかがり。
嘘のイビキを小さくかき続ける寅。
緊張しながら何かを待つかがり。
顔をそむけたまま嘘寝を続ける寅。
時間が経っていく…
嘘寝のまま目を開けようとしない寅に、耐え切れず
腰を上げ立ち上がるかがり。
部屋を出て行くかがりの白い脚首が明かりに照らされて
妖しく光っている。
ゆっくりゆっくり襖を閉めるかがり。
鈴の音…
階段のきしむ音
嘘寝を続ける寅
階段を下りていくかがりの足音…
目を開ける寅
むくっと上半身を起こし、何かを考える寅。
寅「はあー……」とシリアスな顔でため息。
目は遠くを彷徨い、複雑に一連の行動を考えている。
寅にもう少し寄り添いたいかがりの深い孤独と性、
そしてそれに応えることができない不甲斐ない自分への絶望。
目はゆっくり下を向いていく。
この夜の寅の表情はとてもシリアスで、眼光が鋭い。
かつて第28作「紙風船」で、光枝さんと別れた直後の
彼女を見つめる寅の本気の目。あの時の怖い目に似た
この夜の寅の目。すべてにおいて限界なのだ。
まぎれもなくこれは寅のもう一つの素顔だった。
翌朝 晴れ。 きらきら輝く伊根の海
船の汽笛
スズメの鳴き声
離れの二階で窓を開け遠くを眺める寅。
和代「いってきますゥ!」と学校に登校する。
かがりの声「和代ー!」
と給食袋を持って和代を追いかける。
ちょうど寅が離れから出てくる。
寅「あ、おはようございます!」と努めて明るくお辞儀。
かがり「おはようございます」
寅「はい」
かがり、和代に給食袋を渡しながら
かがり「これ忘れたらあかんやろ、はい、いっといで」
寅「あ、これから学校か…」
和代歩きながら
和代「行ってきますゥ」
照れ笑いをかがりにおくる寅。
かがりは寅を見ない。
寅「夕べはぐっすり寝ちゃって…、へへ…」
言わなくてもいい余計な発言…。
う〜む寅、無理があるなあ…それって、
うすうすバレてるよ。
かがり新しい歯ブラシとタオルを蛇口に置いて、
かがり「歯ブラシ…」
やっぱり足が悪そう・・・
ちょっとそっけなく
かがり「今、ごはんの用意してきます」
そんなかがりの後姿をずっと見つめる寅。
蛇口をひねる寅。
もう一度、部屋の中のかがりを見続ける。
この朝のギクシャクから察するに、やはりかがりは、
寅が昨晩寝たふりをしていたことを女のカンで、
うすうす知っているのは間違いない。
そして寅もかがりに見破られていたことをやはりどこかで
気づいているのかもしれない。
お互いカンのいい二人なのだ。
伊根の入り江
とんびの鳴き声
ピーーヒョロロロ…
宮津行きの連絡船が泊まっている。
旅支度を終え、船のそばにたたずむ寅と
横にいるかがり。
かがりは下を向き、メランコリックになっている。
看板『ひかりは西へ。DISCOVER JAPAN』
近所の人が船に乗る。
かがり「おばさん、どこへ?」
おばさん「ちょっと宮津まで」
軽く頭を下げる寅。
笑わない寅
看板『亀島荘 釣り 遊船 ご休息 2−0308』
出発の時間が迫っている。
かがりの横顔をシリアスに見つめる寅。
下を向いて何かを思っているかがり。
見つめ続ける寅。
別れに際して、マドンナに対してのこういうシリアスな寅の顔は
他の物語では記憶にない。
船員寅に向かって
船員「お客さん、出ますよ」
寅少しかがりに微笑んで、
寅「じゃ、かがりさん…、世話になったな…」
怪我した足が悪そうないしだあゆみさん。
船の方に歩いていく寅。
追うかがり。
かがり、よろけて橋の欄干に座り、
すがるような声で
かがり「寅さん…」
寅「え…?」
寅、戻ってかがりの元に近寄る。
かがり、寅をすがるように見つめて
かがり「もう、会えないのね…」
こんな言葉を言ってしまうなんて
かがりさん、よっぽど嬉しかったんだねえ…、
寅がこんなところまで訪ねてきてくれて。
かがりのテーマが流れる ギター演奏
寅、彼女の目の強さに圧倒されながら、
寅「いや…、ほら…風がな…、風がまた丹後の
方に吹いてくることもあらあな…」
と微笑む。
かがり、うつろな目で首を振る。
じっとかがりを見つめる寅。
汽笛の音
プゥー!
寅、船を見て、急いで乗船していく。
かがり、寅を見る。
動き出す船からかがりを見る寅。
寅を見つめ、そして下を向いてしまうかがり。
寅「元気でな!」
汽笛 プゥーー!!
船にはためく日章旗
遠ざかる船から寅を見ているかがりが小さく見える。
マンドリンによるかがりのテーマ
音楽は静かに高まりそして悲しく伊根の海に響いていく。
真面目な顔で手を振る寅。
遠く小さくなってしまったかがりを見つめる寅。
いつまでも寅を見続けるかがり。
汽笛の音
キラキラ光る伊根の海
プォーー!!
私の寅友の京都市の寅増さん(増田さん)のロケ地めぐりの際のこぼれ話によると
この時は遊覧船を山田組が貸しきったので、普通の航路では行かないような
方角に行ったそうだ。
つまり「宮津」とは間逆の方向に進んで行ったらしい。
柴又 帝釈天参道
風鈴屋の屋台 涼やかな風鈴の音
高木屋老舗の看板
川千家の看板
柴又7−6
御前様と源ちゃんが歩いている。
源ちゃんは大きなお見舞いの果物を
重そうに抱えている。
果物には『御見舞 題経寺』の字
とらや 店
手書きポスター
お中元 御贈答用に
手焼き 塩煎餅
銘菓 こがね餅
名代 和菓子折詰
各種受け賜ります。とらや
許可、飲食営業
御前様「ごめん」
おばちゃん「おや、御前様」
御前様「寅が病気になって帰って来たというのはほんとうですか?」
おばちゃん「まあ、御前様のお耳にまで入ったんですか…」
おいちゃん「こりゃどうも…」
御前様「意識はあんのかな?」(^^;)意識って…。
おばちゃん「はい…?」
おいちゃん「え、いやいや、意識はございます。
多少朦朧としておりますが…」
御前様「ん、ん、いつだってあれは朦朧としとる」
上手い!御前様に座布団一枚(^^;)
うしろの源ちゃんイヒヒ笑い。
おいちゃん「おそれいります」
おばちゃん「久しぶりに帰ってきたと思ったら、
ぱったり寝込んじまって
丸一日なんにも食べてないんですからねえ〜」
おいちゃん「医者に見せたんですけど、
さっぱり原因がわからねえっていうんですよ」
御前様「ほー…、医者にも原因が分からんか?」
おばちゃん「はい…」
こういう時の寅は例のあれだってば、
みなさん、はやく学習してくれよまったく。
町内の人たちの方がよく分かってるよ。
御前様「ん……」
さくら寅に重湯を与え、階段を下りてくる。
おばちゃん、暖簾をあげてさくらを呼ぶ。
おばちゃん「さくらちゃん」
さくら「え?」
おばちゃん「御前様がお見舞いに来てくださったんだよ」
さくら「まあー、わざわざおそれいります」
御前様「命に別状がなくてなにより」命って…(^^;)
さくら「ありがとうございます」
おいちゃん「どうだ、寅の様子は?」
さくら「うん、ようやく重湯飲んでくれた」
おいちゃん「そうかー」
おばちゃん「なんか言ってたかい?」
さくら「悲しそうな声で、『オレはだめな男だなあ』…なんて」
御前様「そんなことは前からわかってます」
またまた上手い!御前様に座布団二枚(^^)
さくら「あ…」
おいちゃん「ま、今頃気がついたということでございましょう」
さくら「そ、そうですね…」
御前様「少し遅すぎじゃないですか」
御前様、お見舞いの品を源ちゃんに出させる。
御前様「源、それを」
源ちゃん、神妙にお見舞いの果物の詰め合わせを見せる。
おばちゃん「まああ…どうしましょうこんな立派な物…」
さくら「ねえ…」
御前様駄目押しで
御前様「これは、気持ちだけだが、私から」
と、お見舞金の袋を取り出してテーブルに置く。
一同「ありがとうございます」「恐れ入ります」
と恐縮。
源ちゃんもすかさず紫の腹巻の中を探る。
ひじが御前様に当たって御前様よろける。
源ちゃん「これ…、気持ちだけだが私から」
と、なんと!お見舞いの袋を取り出す。
ちょっとくしゃくしゃ(^^;)
袋にはちゃんと『お見舞 源吉』と書いてある。
源ちゃんの本名源吉と正式に決定!
御前様、自分のお株を源ちゃんに真似され、憮然としている。
そのような些細なことで心を乱しているとは
修行が足りませんよ、御前様。源ちゃんは寅のことを
気遣っているのだからむしろ褒めてやらねば(^^)
御前様 ブス…
一同唖然…
さくら「まあー、源ちゃんまで、
どうもありがとう。きっと喜ぶわ」
源ちゃん、さくらに感謝され大いに照れる。
御前様「では、お大事に」
おいちゃん「これはこれは」
一同深々とお辞儀。
おばちゃん「あの、お茶もいれませんで」
御前様「そいじゃ」
と日傘を差して帰っていく。
さくら「ありがとうございました」
おいちゃん「どうも」
おばちゃん「ありがたいかただねえ…」
参道を歩く御前様と源ちゃん。
御前様歩きながら
御前様「医者にも分からんか…」
川千家の前を備後屋がサングラスをかけて自転車で
通り過ぎる。
柴又7−6
備後屋「♪お医者さまでーも、
草津のー湯でも、どっこいしょ〜っと」
と、通り過ぎて、
御前様ようやくピンと来て、とらやのほうを振り向く。
ズームになって
御前様「♪惚れた病〜は…こおーら…」
御前様大きく頷いて、全てを悟る。
御前様「はー…」
備後屋、遠くですでに近所の連中と寅の恋の病の噂かな(^^;)
いちいち歌ってみて気づく御前様ってやっぱり真正直で面白い人。
柴又の連中はみんなすでに噂してんだね、たぶん。
気づいてなかったのはさくらたちと御前様だけかも…(^^;)
源ちゃんが気づいていなかったのはどうしたことだろう。
寅のことはなんでもすぐわかるはずなのに…。
それにしても寅の「オレはだめな男だなあ…」は
彼の恋愛に関する絶望の自覚が垣間見れる
なんともやるせない言葉だった。
夕暮れ時 題経寺の鐘
ゴ〜ン ゴ〜ン
とらや 台所
おばちゃんが寅のために料理を皿に盛っている。
タコ社長やって来て
社長「ねね、さくらさん、寅さん恋の病だって?」
さくら「誰がそんなこと言ったの?」
社長「柴又中の評判だよォ、
寅さんが病気するのはそれしかないって」
みんな鋭いね。昔の、第6作「純情篇」、第12作「私の寅さん」
あたりの時の重〜い恋の病で柴又の皆さんは完全に学習されたようです。
ちなみに時々寅は本当の病気もする。胃痙攣で入院したり、
盲腸で手術したり、便秘で病院行ったり、行き倒れで意識を失ったり、
等々結構大変な人なのだ。救急車には3回も乗っている。
さくら「いやね、身内の心配も知らないで」
おばちゃん「さくらちゃん、できたよ、寅ちゃんの注文のごはん」
さくら「すいません、わがままばっかり言って」
おばちゃん「これでいいんだろ
蕗の煮付けと
白身のお魚と
大根おろしと
梅干」
失恋のメニュー
蕗は筍と一緒に炊いてある。
大根おろしにはしらすがちりばめてある。
社長「失恋のメニューか…、なるほどね」
さくらお盆を持って二階へ上がろうとする。
満男店からやって来て
満男「母さんお客さん、お勘定だって」
社長残った梅干をつまもうとして、おばちゃん
「なにすんの」といやがりさっと流しに持って行ってしまう。
さくら「あ、じゃ満男、これ、おじさんところへ
持てってちょうだい。
病気なんだから、
『おじさん、病気いかがですか?』って言うのよ」
満男お盆を持ちながら
満男「え〜〜…」としぶしぶ二階へ上がっていく。
おばちゃん、お茶か水がないと喉が詰まるよ。
さくら、店へ
さくらの声「あ、ありがとうございました」
社長「いいねえ、寅さんはみんなに優しくしてもらって…」
おいちゃん居間に座る。
社長、鍋を開けて
社長「肉じゃがだ!」
おばちゃん、いち早く鍋を避難させて(^^;)
おばちゃん「あんた、食べさせてもらってないの?」
とらやでうなぎやマツタケ、パパイヤなど
普段食べていないものをもらい、何とか栄養補給して、
生き延びているタコ社長でした(^^;)
とらや 二階
満男足で襖を開ける。
薄暗い部屋の中へ入る。
寅が目をつぶって布団に入っている。
カラスの泣き声
カアカアカア
満男、お盆を置いて、正座して、
満男「おじさん、具合いかかですか?」
暗くゆっくりかがりのテーマが流れる。
そっと顔を満男に向ける寅。
気味悪がって下へ戻ろうとする満男。
寅「満男…」
満男、すぐにまた正座して
満男「はい」
かがりのテーマ マンドリンが物悲しく入っていく。
寅「おまえも、いずれ、恋をするんだな…、
あーあ…可哀想に…」
満男「……」
また、天上を向き、
寅の頭の中で伊根でのかがりさんの面影が鮮やかに↓蘇っている(^^;)
寅「あーあああ…丹後かあ…」
と、両手を胸の上に上げ、布団にバタッっと倒す。
満男、恐ろしくなって、部屋を出て、
急いで階段を駆け下りてくる。
満男「あー、気味悪い」確かに(^^;)
さくら「どうしたの?」
満男「僕の顔をジーっと見てね、
『おまえもいつかは恋をするんだろうな、
可哀想に』だって」
さくら「恋?…」
満男、気を紛らわそうとボールを投げるマネ。
社長「な、絶対恋の病だよ」
満男「オレ、恋なんかしないよ」
するんだなこれが。とびっきりでっかい恋を(^^)
と居間に上がっていく。
社長、クスクス笑いながら
社長「フフ…、するする、
寅さんの血引いてんだもの」正解(^^)
みんな嫌がっている。
社長「フフフ、ハハハ」
おいちゃん「社長、少し黙ってろおまえ、ちっ」
博「おじさん、他になにか言ってなかったか?」
さくら肉じゃがを大皿に乗せて持ってくる。
満男「『タンゴか』…だって」
さくら「なんのこと、それ?」
満男、首をかしげて
満男「知らない」
博「お前に向かってタンゴか、って言ったのか?」
満男「ううん、こうやって…」
と座敷に仰向けに寝転がる満男。
満男「天上向いて、『タンゴかああああ〜…』... だって」
上手いねえ吉岡君〜、ホラーだよ…(^^;)
さくら「なんだろう?タンゴって…」
おいちゃん「だんご、じゃないのか?」おいおいゞ( ̄∇ ̄;)
満男「ううん、タンゴって言ったよ」
博「端午の節句のタンゴ…」そうくるか(^^;)
さくら「アルゼンチンタンゴのタンゴかしら…」
そうなるよな普通は(^^;)
社長「わかった!ダンスホールの女とできたんだよ!
一緒に踊ったんだよタンゴ」あ〜あ…(−−;)
おいちゃん「バカア!あいつがダンスなんか
踊るわけねえじゃないか」んだんだ。
とみんなで大笑い。
おばちゃん「四角い顔でさあ」それは関係ない(^^;)
社長「わかんないよー、オレだって踊ったもん、若い頃は」
おばちゃん「ほんとかァーい?」
社長「信用しないの?」信じない信じない(^^;)
タンゴのメロディが流れる。
社長「♪チャンカチャカァ〜〜ン、
チャカチャンチャンチャンカチャン〜」
アルゼンチンタンゴのつもりで
狂ったようにおばちゃんに抱きつき踊り出すタコ社長。
おばちゃん「なにすんの!いやだ!」もっともだ(TT)
一同大笑い。
おいちゃん「バカバカしい、よせよ〜ハハハ」
博、階段の寅に気づきさくらに手で合図。
おいちゃんもさくらも気づき青ざめる。
寅の足音『タン!!』
スクリーンに流れるタンゴの区切りと寅の階段を
踏み込む足の音が見事に一致。この編集は見事!
一同 シーン
博「おかえりなさい…」
さくら「お兄ちゃんなあに?」
寅怒りで顔をブスーっとしている。
寅「すこーし静かにしていただけませんか?
楽しい会話をなさるのも結構ですが、
二階に病人が寝ているということを
心の隅にとめておいてもらいたい」
寅、怒りで鼻息がスーハーっと荒い。
おばちゃん「悪かったよ、気がつかないで」
怒りながら、寅、階段を這うように上っていく。
おばちゃん(無声音)「あんたがバカなことするからだよ!」ひそひそ
社長(無声音)「悪気があってやったわけじゃないよー」ひそひそ
さくら(やや無声音)「じゃ、社長さんに失礼してごはんにしよ」ひそひそ
博(やや無声音)「やっぱり兄さんあれですね、…」ひそひそ
おいちゃん(無声音)「えー…?」ひそひそ
と博の顔に耳を近づける。
博(無声音)「顔色が悪い」ひそひそ
おいちゃん(やや無声音)「たいしたことねえだろ」ひそひそ
満男、またまた下りて来た寅に気づいて
満男(無声音)「母さん…おじさんがいるよ」ひそひそ
と階段下を指差す。
一同一斉に寅を見る。
寅、腰に手をあて、ジーーっと一同を見ている。
このポーズは笑いました(^^;)
おばちゃん(やや無声音)「どうかしたのかい?」もういいってば(^^;)
寅「静かにしてくれとは言いましたよ。
しかしそんなひそひそひそ声でしゃべられたんじゃね、
まるでオレは凶悪犯人じゃないか」
おばちゃん「じゃあ、どうすりゃいいんだい?」
寅「いつもの通りにしてくれりゃいいんだよ。
ただね、その『ハハハハハ!!』
っていうバカ笑い。
それを少し押さえてくれって言ってるんだよ」
『ハハハ!!』っていう…
さくら「わかったわよ、いつもの通りにするわよ」
寅「まったくデリカシーがないんだから…バカ…」
と、またまた這うように階段を上がっていく寅。
さくら、少し呆れながら
第11作では『デリカシー』という言葉を知らなかった寅。
この作品ではこの言葉をすっかり自分のものにしている(^^;)
さくら「さあごはんにしよ。満男、コップ」
博、寅がもらってきた作次郎の三彩碗を手に持って
眺めながら。
博「これいい茶碗だなあ…。
へええ、さくらが焼いたのか?」
寅、忘れたり、割ったりせずに一応柴又まで
持って帰って来たんだね。なかなか目が利く( ̄  ̄
)
さくら「違うわよ、お兄ちゃんのお土産」
博「なんだ…」と急に興味が失せて後の棚に置く。
おいちゃん「駅前のみやげ物屋かなんかで
買ってきたんじゃないのか?」
焼き物にさほど興味があるわけではない博が
自分の目と感覚を使って興味を持ったのに、加納作次郎のファンと
言っていたさくらは興味なし。さくらも見る眼がない…(TT)
しかし実際にこの映画で使った例の三彩碗も実はいい加減なできの
茶碗だった。まあ、もっとも、本当にいいものなら、寅が歩きながら手遊びで
放り投げたり、後に落としそうになったり…というような演技は怖くてできない
のでこれで仕方ないか…(^^;)
おいちゃんが自分でビールを注いでいるのを止めて
博が注いでやる。
さくら「そういえば、お土産といえば
もうひとつ何かくれたわね」
さくらみやげ物を開けて驚く。
丹後名手せんべい 弥栄町スイス村
京都府京丹後市弥栄町野中の弥栄町スイス村丹後半島森林公園で
販売しているせんべいでしょうか。
丹後半島の中央部に位置するスイス村。
標高600m前後の高原にあるキャンプ村は、夏でも涼しく、
快適なキャンプが満喫できる。
周辺はクヌギやブナなどの広葉樹に囲まれた自然環境にあり、
野鳥や小動物の種類も多い。
寅はこの山の中のスイス村でバスを降りたとも思えないのだが…。
それとも乗り換えたのかな??
宮津あたりの駅でもスイス村の煎餅が売っているのかもしれない。
さくら「あ、わかった!」
博「なにが?」
さくら「丹後ちりめんの丹後よー」
おいちゃん「あ、丹後の国かあ」
博「あ、つまり兄さん丹後に行ってたのかァ」
おばちゃん「丹後の国ねえ」
社長「読めた!!」
博「京都から丹後に旅をして…」
満男「丹後ってどこ?」
おばちゃん「ねえ何で丹後なの?」
博「それはですねえ」
社長「さくらさん、海へ行ったんだよ」
社長「ねえ、博さん、相手はねえ」
満男「丹後ってどこ?」
博「黙ってなさい、ちょっと」
社長「丹後美人なんだよ!」
おいちゃん「興奮するなよ」
このあたり↑みんな同時に発言して
ガヤガヤ賑やかしです(^^;)
社長興奮して「あっ!」転ぶ。
みんなで「あーあーあー!」
寅プッツン切れて二階から
寅の声「うるせえよ!
いいかげんにしろ!」だよな(^^;)
と屑篭を放り投げ、
篭が階段を転がってくる。
一同屑篭を見る。
シーン…
社長「はー驚いた…」
さくら「元気になった証拠よ。
あんなおっきな声出して」
もともと体はどっこも悪くない(^^;)
おいちゃん「そうだなあ…」
翌朝 さくらの家の外
さくら急いで表に出て鍵をかけ、自転車に乗る。
犬をあやす近所のおばさんに、
さくら「おはようございます」
おばさん「おはようございます」
江戸川土手を自転車で走る。
とらや 店
さくら、急いで自転車を停める。
とらや 台所
おいちゃん「いつまでも泣くな」
おばちゃん「だって悔しいじゃないか」
博「まあまあ病人なんですから」ちゃうちゃう(^^;)
おばちゃん「病人なんかじゃないよあんな奴」そうそう(^^)
と洗濯物をハンカチ代わりにエンエン泣いている。
さくら「どうしたの?何があったの?」
おいちゃん「つねが洗濯してたらな、
寅の奴、洗濯機の音がうるさくて
眠れねえなんてぬかしやがんだよ」
さくら「まあひどい…ごめんねおばちゃん」
おばちゃん「ひっくひっく、だからね、ヒック、
わたしゃ、そう言ってやったんだよ
『博さんたちは真っ黒になって働いてるのに、
あんたは恋煩いなんかで寝込んじまって、
バチがあたるよってってね、エエン…ヒック」」
おいちゃん「そしたらあいつ怒っちまってな、あのバカ」
博「『恋煩い』がきいたんだよ」
おばちゃん「だってホントのことじゃないか!」
博「わかってます、わかってます」
寅、階段を急いで下りてくる。
寅「さくら、止めるな、止めるな!」
出た!久しぶり。寅の「止めるな、さくら」
さくら「お兄ちゃん落ち着いて」と止める。
博「兄さん、おばさんも
つい口がすべっただけですから」
寅「博、オレは夕べからのことを言ってるんだよ」
博「わかってます」
寅「身内が熱を出して二階で寝てるんだ、可哀想にとか、
気の毒にとか言って…」
おばちゃんも怒ってますよ〜(^^;)
おばちゃん、プンっとアゴを突き出し
洗濯物持って向こうへ
ツツツツツ…と行ってしまう。
このおばちゃんの演技最高!
さくら、おばちゃんの方を見ている。
寅「…心配するのが
思いやりってものじゃないのか、おまえ」
博「わかってますけど…」
工場から社長の声
社長の声「博さん、電話だよ」
博「さくら、頼むぞ。
兄さん、あとで」
と急いで工場へ戻る。
寅「博!話の途中だぞ、おまえ!」
おいちゃん「まあまあ、みんな忙しいんだから、な」
おいちゃん見切ってるねえ(^^;)
寅「…」
怒りが頂点に達して、さくらの手を振り払い。
寅「よし、わかった。もうどんなことがあっても
オレはここへは帰ってこないからな」
すぐ戻るよ〜〜(^^)
さくら「お兄ちゃん…」
寅「おまえたちのような
心の冷たい人間の住む家には!」
と急いで表に行こうとする。
さくら、寅をよけようとして後にふらついて、
どうしていいか分からず動揺する。
おいちゃん「あーあ、行っちゃったよ」
店先から声
かがりの友人「お団子ください」
さくらのれんをくぐって寅を見て???
さくら店へ。
寅、店の中で外を見て呆然と立っている。
さくら出て行かないで立ち尽くす寅を
二度ほど不思議に見ながら??
とりあえず、団子の箱を包もうとする。
友人「お宅…とらやさんって言うんでしょ?」
さくら「はい」
友人「ハ、この人ね、丹後から来たんだけど、お宅の
誰かと知り合いなんだって、ね」
さくら、かがりの方を見、そして
驚いて寅を見る。
かがり、寅のほうを見てゆっくりお辞儀。
寅、目を見開きながらスクリーンから
はみ出すようにゆっくりお辞儀を返す。
友人「ね、この人?」
かがり、静かに頷く。
友人、寅に向かって「お宅覚えてる?」
寅、腰が抜ける感じでイスに座り込む。
ポヨ〜〜〜ン。
寅「は、はい…そういえば…」
ボーゼン…大丈夫か寅 ゞ( ̄∇ ̄;)
おいちゃんおばちゃん
台所から怪訝な顔で観察している。
友人「あ、よかった」
さくら「おばちゃん、こちら丹後から
お見えになったんですって」
おばちゃん「あら、丹後から?」
おばちゃん、寅をちらっと見て
おばちゃん「まあ、遠いところから、
さあ、どうぞおかけになって」
友人「そうですか、じゃあ、ちょっとだけ
へっええ〜東京にもこう言うお店が
あるんですねえ」
おばちゃん「はあ」
友人「わたもねえ、丹後にも居たんですよ、
東京に出てきて10年にもなるんだけど」
西川ひかるさん、この方、松竹新喜劇にいたことあるんだよね。
第17作「夕焼け小焼け」でも上野の焼き鳥屋で働く北海道出身の
おばさんを見事に演じていた。とにかくこの人の演技はキップが良くて
上手い。さすが藤山寛美さんに鍛えられただけある。
むかあ〜し確かNHKのお笑いオンステージで、
てんぷく笑劇場かなんかのレギュラーだったんだよな。
寅、緊張のあまり突っ立ってしまう。
寅の一連の不調はすべてこのかがりさんという
女性が原因ですよさくら。
ここで今回のお品書きがしっかり映る。
草団子 150
大福餅 150
焼き団子 150
豆大福 150
三色団子 200
ところてん 150
磯乙女 200
お赤飯 200
くず餅 250
あんみつ 280
第2作ではあんみつ70円だった…。
13年間で物価は上がり、
とらやのあんみつは4倍に値上がりしている。
友人「でも初めてここに来たの、」
さくら、寅にも座るように催促。
寅、言われるままに座る。
友人「かがりが行きたい行きたいって言うもんだから」
おばちゃん「かがりさんですか…。 いま、お茶を」
かがり小さく頷く。
友人「すいません おかまいなく…。
さくら、心配そうに二人を見ている。
友人「ちょっと、何緊張してんのよ。」
かがり「その節は」ギクシャク(^^;)
寅「今日(きょう)は…」ギクシャク(^^;)
かがり「その節はいろいろと」ギクシャク(^^;)
寅「こちらこそ本当に」ギクシャク(^^;)
おばちゃん、おいちゃんに遂にマドンナが
やって来たことを知らせる。
おいちゃん困った顔。
友人「プ!クク!フハハハ、なんやの、あんた、
小学生のお見合いじゃあるまいし、
ンフフフフ。
この人ね」
さくら「ええ」
友人「あたしと違ってちょっと上品でしょ、
だからね、京都の有名な陶芸の家で
働いてたんですよ」
さくら「はー…」
友人「とっても気に入られて」
さくら「そうですか」
友人「ねえ、名前何つったっけ?」
かがり「加納作次ろ…」
寅「加納作次郎」
同時でした(^^;)
加納作次郎…
あっと思い、お互い顔を見合わせて、
すぐ下を向いてしまう。
友人「そ、そうそうウフフフフ」
さくら「陶芸の勉強してらしたんですか」
かがり「いいえ、女中です」
さくら「…」
さくら「お兄ちゃんもそこのお宅に居たの?」
寅「いいえ、…。はい…え?…チョットの間」
と、言ってまた下を向く。
この顔、この間。いいなあ(^^;)渥美さん上手いねえ〜。
チョットの間
加納作次郎と言われても、
別段興味を示さないさくらって…。
ほんとうにさくらは加納作次郎の
ファンなのだろうか。寅の持ってきた
三彩碗には眼もくれないし…。
あの雨の日の「あらうれしい、私好きなの加納作次郎」
という発言はなんだったんだ〜(TT)
友人「なあんだ、二人はそこで知り合ったの?」
おばちゃん「いま、お団子持ってまいりますから」
友人「あのすいません」
さくら「あの、いかがですか、奥の部屋でゆっくりなされたら」
友人「ありがとうございます、
あたしたち今からお芝居見に行くことに。
かがり、もう行かなくっちゃ。
ねえ?
それともあんたゆっくりして行く?」
かがり「あたしも一緒に行く」
おばちゃん「あら、せっかくおいでになったのに…」
さくら「当分いらっしゃるんですか?東京には」
かがり「たぶん一週間くらい」
さくら「はあ」
この直後突如、かがりが座りながらススッと
寅に近づき、かがりの手が寅の手の下に!
なんと『手紙』を寅の手の下に滑り込ませた!
下を向き紙を見て、
動揺してかがりの方を見る。
!!!
完全に石になってコチコチに固まっている寅。
友人「なにしろ突然出てくるんですよ。
あたしら一人もんだから
気楽なんですけどね、アハハハハ」
寅、頭の中真っ白。
ポペポペポペ、ポポペ〜ポヨヨン〜
友人「どうもおじゃまいたしました」
おばちゃん「なんのお構いもしませんで」
友人「すみません」
かがり「ほな、失礼します」
さくら「お兄ちゃん、なにかお話しなくていいの?」
寅「へ、お、お話ししなくて、いいっすよ」
友人「はあ、だけどよかったあ、お会いできて、フフフ」
寅「そうですね」
友人「じゃあ、失礼します、どうもおじゃましました」
おいちゃん「おい、だんごお渡ししてないんじゃないか?」
おばちゃん「あ、そうか」
さくら「ちょっと」
と道に出て叫ぶ。
友人「はい」
さくら「あの、肝心のお団子」肝心ではない(^^;)
友人「あ、アハハ、いっけな〜い、
ばかねあたしって。
えーっと、千円でしたね、」
さくら「いいえ、結構ですから」
友人「いいえ、とんでもないもう、どうも」
おばちゃん「いいんです」
友人「いいえ、すいませんどうも」と千円を払う。
おばちゃん「すいません、どうも」
かがり「さようなら」
おばちゃん「またどうぞ」
さくら「とうとう来ちゃったわねえ」実感だねえ〜(−−)
おばちゃん「でも、綺麗な人じゃないか」
さくら「だから心配なんじゃない」
おいちゃん別のお客さんに「いらっしゃい」
おばちゃん「あ」と、遠くからかがりたちに挨拶。
さくらも手をふる。
そのころ寅は…
寅、台所でそっと『つけ文』を開く。
ジャァ〜ン!シンバル(^^;)
かがりの声と文字
『鎌倉のあじさい寺で
日曜の午後一時、待っています』
おいちゃん「ありがとうございました」
さくら「あら、お兄ちゃんは?」
おいちゃん「あれ?今までそこにいたんだ」
さくら「お兄ちゃん?」
寅、さくらに夢遊病者のように台所から店に来て。
テーマ曲がコミカルなタッチで流れる。
ズユーン・・・ボヨ〜ン、
テーマ曲
♪ピーピポ、ピピーパポ、〜♪
さくら「どうかしたの?青い顔して…」
寅「落ち着けよ」あんただろそれは?(^^;)
さくら「え?」と、あとずさり…
寅「鎌倉どっち!?」
さくら「鎌倉?」
寅「鎌倉どっちィ!?」もう頭の中ぐるんぐるん(@@)
おばちゃん「鎌倉…幕府の鎌倉かい?」
いい味だねえ〜おばちゃん(^^)
そうそう頼朝公の作られた鎌倉幕府の鎌倉だ。
柴又の近く、さくらたちの家の南にあるにある
「葛飾区鎌倉町」のことではないよ(^^;)
寅「知らないよそんなこと!」
さくら「どうしてそんなこと聞くの?」
寅「これに出てる」
さくら「何これ?」
寅「イイノォ!鎌倉どっちなんだよォ!!」
大声を出して手紙をさっと隠す寅。
さくらまたまたびっくり (><)
さくら、とりあえずおいちゃんおばちゃんに
さくら「ねえ、どっち?」
おいちゃん「こっち…かな?」と、てきとお〜に帝釈天の方角を指す。
おいおいそっちは東だよ。ゞ( ̄∇ ̄;)
寅、その方向へそのまま直進しようとして、机につまずく。
さくら「ああ!」
おばちゃん「そっちじゃないよ、こっちだよ西の方だから」
大体合ってるかな(^^)
寅「コッチ…」
と、店を出ようとする。
さくら「西ならこっちでしょ」と裏の工場の方を指差す。
おいおい、さくら、そっちは南じゃないのか?ゞ( ̄∇ ̄;)
寅「どっちだい!早くしろよ!」
と、裏の工場へ直進(^^;)
さくら「ちょっと、お兄ちゃんちょっと待って」
おばちゃん「歩いていくのかい?遠いんだよ!」
そういう問題ではないぞ、ここまでくると(^^;)
台所のイスを倒し、ひたすら直進。
おいちゃん「おい!しっかりしろ!」
さくら「あ!お兄ちゃん!」
寅、ひたすら直進。
おばちゃん「あ〜!あらあらあら洗濯もん」
裏の工場
寅、ふらふらと工場の中を歩いていく。
工員も唖然…この方は後に渥美さんの付き人になる篠原さん。
中村君「誰??」
タコ社長、口あんぐり。
博「兄さん!」
裏から出て行く寅。
博「おかしいな…、ちょっと、お前たちも頼む!」
工員「はやく!」
中村君「あ!機械止めなきゃ」と慌てる。
社長「捕まえろ捕まえろ!とうとう頭にきたぞ」まったく(^^;)
第36作「柴又より愛をこめて」でも恋の病から
プッツン切れて、夢遊病者のように式根島に
行こうとした寅に備後屋と麒麟堂が同じこと言ってた。
朝日印刷の外の道
太陽のマーク 『コロナ堂』の看板
(この店は柴又ではなくなんと大船駅前にあるのだ!)
洗濯物を頭に引っ掛けて、眼が宙に浮いたまま
外の道を歩き続ける寅。
十字路を軽トラックが通過、急ブレーキ。
博「危ない!」確かに(^^;)
このあたりからコミカルにフィルム早回し。
工場の裏から道にぞろぞろ工員やさくらたちが飛び出してくる。
はじめて見た工場の裏の道。
しかし本当はこれは大船ロケ!
現在のデニーズ大船店前、市立大船保育園近く。
鎌倉市大船2丁目10番地
(この衝撃的な新事実は、2009年6月、
寅友である寅福さんの驚異的なフィールドワークにより解明されました。
6月27日の寅福さんのブログに詳細な説明とお写真が記されています。)
↓鎌倉市立大船保育園近く、
黄色い丸が工員達がわらわらと寅を追いかけて飛び出してきた場所。
寅はその近くの横断歩道で車に挽かれそうになる。
すぐ近くにはデニーズ大船店がある。
カメラは航空写真↓の赤い矢印の方向に撮っている。
寅が車にひかれそうなこのシーンは航空写真↓では青い矢印の方向。
軽トラックの運転手怒って降りてくる。
寅、運転手を突き飛ばす。
博、止めに入って、
博「すみません」
工員たちも突き飛ばされて倒れる。
中村君、運転手を止めようとしてはねのけられて転がる。
工員たちはさくらと一緒に寅を押さえつけようとするが
寅にメチャクチャにされてしまう。
転んだ中村君は寅と関係なく運転手と喧嘩(^^;)
あ〜〜〜、めちゃくちゃやー…。
実際の朝日印刷内のロケは大船撮影所の近くの三誠印刷をずっと
お借りして撮影していたのだが、三誠印刷は現在の鎌倉女子大図書館の
すぐ南徒歩1分なので、↑の寅が車とぶつかりそうになるあの横断歩道
(あそこは現在はデニーズ大船店の前あたり)からだと徒歩10分くらい、
つまり、それなりに朝日印刷との土地の縁はあると見ていいのかもしれない(^^;)
「鎌倉どっち?」と言いながらふらふら道に出て
南下していった寅だったが、実はあの時点で寅はすでに鎌倉市にいて、
いわゆる『鎌倉』はもう目と鼻の先だった!!という皮肉があるわけだ(^^;)
そしてなんとなんとあのままずっと南下し続けると
丘越え町越えして5km.ほどでなんと鎌倉大仏、
そしてあの由比ガ浜にたどり着く!
そうなのだ。
あのかがりさんが後に寅と待ち合わせすることになる『成就院』に自然とたどり着くのだ。
寅の歩く方向は間違っていなかった。
こう考えていくとなんだか不思議な気分になってくる。((((^^;)
あの伊根の夜、かがりさんと二人きりになるとほとんど何も話せず、
何もできなかった男が、盲目的にあじさい寺に行って今更なにを
話すのだろうか。
こういう時、寅はいつも冷静さを失う。気持ちだけは
精一杯彼女のことを想っているのだが、体が硬直して
心についていかないんだね。
結局、刹那的にマドンナのことを助けたり、励ましたりは
できるのだがギリギリでその先の大人の恋愛はやはり
できないのかもしれない。いい悪いではなく、そういう人生
なのだろう。
寅が「鎌倉どっち」と言って夢遊病者のように柴又界隈を
彷徨う姿は、滑稽で、観客にとっては大笑いなんだろうが、
私にとっては、どうすることもできない寅の悲しみの人生が
露出して、涙が出るくらいやりきれなかった。
ちなみに鎌倉には「あじさい寺」で親しまれている寺がいくつかある。
最も大勢の人が見に行くのが北鎌倉の明月院。そして有名な
長谷寺。そしてもうひとつ美しい由比ガ浜を望める成就院。
「成就院」とはその名の通り恋愛が成就する場所。弘法大師ゆかりの
縁結びの神が祭られていると言う。
かがりさんはこの、恋が実る成就院を選んだ。
っていうか、この物語では「あじさい寺」=「成就院」となっている。
私は学生時代鎌倉にある神奈川県立近代美術館によく通ったが、
成就院は行ったことがない。
いつの日か行ってみたいと思い続けてもう随分歳月が経ってしまった。
とらや茶の間
豆腐屋 パープー
おいちゃん、おばちゃん、
さくらが疲れた顔で物思いにふけっている。
寅、そうとう派手に暴れたんだね…。
裏の工場から博の声
博の声「あ、あ、わかった、ごくろうさん」
博茶の間に戻ってくる。
おばちゃん「おかえり」
博二階を見上げて
博「どうだい?兄さんの様子は?」
さくら「さっきお医者さんが鎮静剤
打ったから今寝てる。」
注射嫌いの寅がよく我慢したなあ〜。
普通は気絶でもしない限り注射は打たせないはず。
『注射するくらいなら即死を望みます』って
第40作「サラダ記念日」で言ってたもんな(^^;)
博「はあー、今日はびっくりしたなあ〜」ほんと(^^;)
おいちゃん「フフ…」
おばちゃん「せっかく元気になって、この分じゃ恋の病も
治ったかなあ〜って
ほっとしたところだったのにねー」
嘘嘘、おばちゃん怒ってましたよ、寅と喧嘩して(^^)
おいちゃん「病気ぶり返しちゃったんだよ」
おばちゃん「あたしゃ怨むよ〜、あの人、
かがりさんとか言ったっけ…」
博「いやあ、その人に責任はありませんよ」んだ。
おいちゃん「しかし、きれーな人なんだぞ」
理由になってないって(^^;)
博「美しいのはその人の罪じゃありませんからね」
またまたでました。博の名言
しかし時としては罪になることもあるんだよ博。
美人はその人の気持ちとは関係なく結果的に残酷
になってしまうこともあるんだ。
さくら「そうよ、だれも怨むわけには
いかないわよね。…はいお茶」
と博にお茶を出す。
博「それにしても、なんで鎌倉なんだ?
京都とか丹後ならわかるけど」
豆腐屋 パープー
おいちゃん「昔の侍なら『いざ鎌倉』ってこともあるけどなあ…」
それって…発想がおばちゃんとおんなじ(^^;)
おばちゃん「どういうことなんだい、さくらちゃん」
さくら「実はねえ、さっきそれ問い詰めたら、
鎌倉でデートする約束したらしいの」
おいちゃん「いつ約束したんだ?」
さくら「今日よ」
おばちゃん「かがりさんが来た時かい?」
さくら「そうよ」
おいちゃん「そんな話ぜんぜんでなかったじゃねえか、
二人とも黙ったっきりで」
さくら「お兄ちゃん、こっそり手紙受け取ったらしいの。
それにね、『今度の日曜日鎌倉のあじさい寺って
とこでお会いしましょう』ってメモがしてあったんだって」
おばちゃん「じゃあ、付け文もらっちゃったのかい、寅ちゃんが」
博、その表現に思わず笑う。
おいちゃん「あいつが渡すんならわかるけどな」
それが一番あり得ないことなんだよ、おいちゃん。
寅にはそういう付け文の甲斐性はない。せいぜい当たり障りのない
年賀状くらい。デートの申し込みなんて死んでも無理。
しかし、これが逆に他人の恋を手伝うとなれば、デートの約束も
千代さんとの亀戸天神の時のようにいきなり平気になる。
博「こういうケースは初めてだなあ…
どう考えりゃいいのかな」んだな( ̄  ̄)
満男店に帰ってくる。
カバンの中にそろばんが
入っているので『そろばん塾』の帰りか。
満男「ただいま」
さくら「おかえり」
おばちゃん「おかえり」
満男「あー、おなかすいた」
さくら、はっとして
さくら「どうしようおばちゃん、
大騒ぎでごはん作ってないわ」
おばちゃん「どんぶりでも取ろう」
と、おばちゃん電話しに行く。
寅、二階からドドドドと下りてきて、
寅「さくら、今日、な、何曜日だ?」
さくら「今日?…木曜日よ」
寅「金曜じゃねえのか?
オレ一晩ぐっすりと寝たんだぞおまえ」
さくら「なあに言ってんのよおまえ、
二時間ほど寝ただけよ〜」
寅「ほんとか?」
さくら「うそ言ったってしょうがないでしょう」
寅「満男、明日は何曜日になるんだ?」
満男「金曜」そりゃそうだ(^^;)
寅「その次の日は?」
満男「土曜」当然だ(^^;)
寅「…、日曜はいつだよ、日曜は!?」
満男「土曜の次だよ」当たり前(^^;)
寅「ち…、なんとか日曜がもうちょっと
早くくり上がるようにおまえの学校の
先生に都合してもらえないのか?」おいおい(ーー;)
満男、笑いながら
満男「できるわけないよ〜」できたら凄い(^^;)
博「兄さん無理ですよ、地球を
早く回すわけにはいかないんですから」
わからないってば、寅にそんなの言ったって
ゞ( ̄∇ ̄;)
寅「理屈を言うんじゃないよ、大事な時に!」
と、満男の頭を思いっきり張り倒すΣ(≧ ≦)
満男こけながら
満男「イテ!!」
渥美さん吉岡君を思いっきり叩くんだもんなあ(TT)
でもさすが渥美さん、こういうギャグは手をゆるめず、
思いっきりやるんだよね。蛾次郎さんとのコントの時も
渥美さんのキレは凄い。
曜日を早く進ませろ(第14作「子守唄」)とか時間を早めに
進ませろとか、早めに鐘を撞けとか(第24作「寅次郎春の夢」)
寅は時々マドンナがらみのことで地球を早く回そうとする。
社長「なんだい、電気もつけないでどーしたんだよ?」
と社長が暗い台所に入ってくる。
寅「なんだよ、他人の家にずかずかと!」
さくら「お兄ちゃん失礼よ!今日は社長さんに
ずいぶん迷惑かけたのよ」
社長「オレはね、身内だと思って心配してんだよ。
今日昼の事件で、こいつが
柴又中の笑い者になっているのを、
オレはどんなに心を痛めたことか」
寅、いきなり社長の服掴んで引っ張り、突っぱねる。
寅「えらそうな口ききやがって、な」
さくら「お兄ちゃん!」
社長「痛い!痛いなこの野郎!」
と、寅を押し返す。
寅「よーし!この野郎!!」
と、丸めた新聞をテーブルに叩きつけて
寅「おもしれえ!やったろじゃねえか!ちきしょう!」
さくら「博さん、ねえー」
と困っている。
博「なんだ、鎮静剤
効いてないじゃないか」
時間が過ぎて効果切れました┐(´-`)┌
寅、博の方に向かって野菜を投げつけて
寅「うるせえな、この野郎!」
おいちゃん「医者に行ってな、あの、
馬の注射器借りて、ケツにブスーーっと
ぶち込んでやれ!」死ぬってば ヾ(^o^;)
満男、後でやっちゃえやっちゃえというポーズで応援。
わかるよ満男、さっき寅に思いっきり殴られたからねえ〜( ̄― ̄)
寅「言ったなジジイ!」
おいちゃん「なんだ」
寅「てめえのケツにこの
ニンジンぶち込んでやる!」
これも違う意味で死ぬかも ゞ((( ̄∇ ̄;)
と、ニンジンを握り締め殴りかかろうとする。
さくら「お兄ちゃん、やめて!」
博「やめ、やめてください」
一同必死で止める。
社長、背広を寅に被せてつっかかって行く。
寅、矛先変えて
寅「タコォ!!てめえ!!」
と、ふたりとも庭に出て行く。
おいちゃん「おい!」
博「社長も!」
さくら「お兄ちゃんやめて!」
おいちゃん茶の間の窓から
おいちゃん「がんばれ社長!!」
おばちゃん「あ!おやめよ」
満男、庭を覗きながら、嬉々として
手をぐるぐる回してやっちまえ!のポーズ。
わかるよわかるよ吉岡君、いや満男(TT)
おいちゃんも手でファィティングポーズして
おいちゃん「けっとばせ!」 ち、ちょっと…ゞ( ̄∇ ̄;)
満男とおいちゃん、寅への恨み今こそ…って感じ(^^;)
みんな今日は寅に大変なめに遭ったんだね〜、
いつもよりみんな好戦的。
しかし、この一家っていったい…(^^;)
庭ではガチャン、バタンと激しい音となじり合いの声
社長の声「アタ!イテー!!」
日曜日 朝
さくらの家の前
子供たちが釣りに行くところが映る。
博が鉢巻をして玄関の照明の掃除をしている。
隣のお嬢さん出かけるために道に出てくる。
お嬢さん「日曜大工ですか?」
博「いやあ」
と照れ笑い。
お嬢さん「珍しい〜」
さくら自転車で戻ってくる。
お嬢さん「おはようございます」
さくら「おはようございます」
遠くで、道に出ていたベビーカーを道の端によけてやるお嬢さん。
さくら、自転車を家の前に止める。
博「どうした、兄さん無事に出かけたか、鎌倉に」
さくら、自転車を家のそばに担いでずらしながら
さくら「はー、行くには行ったんだけどねえ…」
博「どうした?」
さくら「いざ、行くという時になったら、
私について来いっていうの」
ひえ〜〜〜、それじゃ幼稚園児のお出かけだよぉ (≧▼≦;)
博「デートするってのに?」
さくら「心細くなったらしいのね」
そういう問題ではない(−−)
さくら「気持ちは分かるけど…」
分からない分からない(ーー;)
博「それで…」
さくら「お見合いじゃあるまいし、
付き添いなんていやだ、って言ったら、
『じゃあ満男ついて来い』だって」
おいおい…さくら、まじ…?(゜O゜;)
博「なんだって?で、どうした?」
さくら「可哀想にあの子、友達との釣りの
約束すっぽかして連れて行かれちゃったわよ。
プラモデル買ってやるとかなんとか言われてさ」
博「なーんだ、じゃあ、満男が護衛か」
と照明のフタを脚立に乗って取り付ける。
あーあ、どうして満男が連れて行かれるのを
黙ってみていたんださくら。
さくらあ〜頼むよ〜。さくらのミスだよこれは(TT)
これじゃ、面白くもなんともないよ。
…ったく自立していない男だね、寅って(−−)
さくら「時々電話で報告しなさいって言っといたけどね。…
どうなんのかしら、これから。お兄ちゃんとあの人…」
満男がついてってどうにかなるわけないじゃん(TT)
これはやっぱ大人のさくらが悪いね。満男は子供だから伯父さんに
説得されれば最後は、言うことを聞いてしまう。
満男なんか一緒に連れてって、これじゃもうどーにもならないって
ほんと(−−)
なによりも、招かれざる者として思われる満男が一番可哀想だよ。
こういうのはがんばって寅は一人で行くか、
それとも全く行かないかだと思う。
いざ鎌倉
国鉄横須賀線が鎌倉に向かっている。
途中、この電車は北鎌倉で円覚寺の敷地の中を通る。
スクリーンでは踏み切りの向こうに円覚寺への石段が見える。
↓
鎌倉
寅と満男、鶴岡八幡宮の
鳥居の前を歩いている。
満男はSFジャイアンツの帽子を被っている。
寅「どうだ満男、え、これ鎌倉だ。
いいとこだろう。
一辺おじちゃんおまえのこと
連れて来てやろうと思ったんだ。
歴史の勉強なるからな」
満男にとってこの日は歴史の勉強には
ならなかったが、結果的には恋の勉強には
なったかもしれない…。
浮かぬ顔でいやいや寅の背広を持って
トボトボ歩く満男。
このあとおそらくは
江ノ電に乗って極楽寺で降り、徒歩で成就院へ。
真言宗大覚寺派普明山法立寺 成就院 (真言宗)
鎌倉三十三観音第21番。
成就院
色とりどりのあじさいでいっぱいの階段を登りながら、
寅「満男、腹すいたか?な、
もう少したったらなんかうまいもん食わしてやるからな」
しょぼくれた表情の満男。
寅「なにがいい?ラーメンか?おでんか?え?」
寅たちが歩いている108段ある参道の両脇に咲く見事なあじさい。
般若心経の文字数と同じ262株のあじさいがスクリーン一杯に広がる。
高台の立地のためアジサイの向こうに由比ガ浜が見える。
縁結びの御利益でも有名で、良縁を願う女性の姿も多く見かける。
建立は1219年、北条泰時によるものである。
寅、階段の途中で座っているかがりを遠くから見つける。
マンドリンによる かがりのテーマ
かがりも気づく。
かがり立ち上がって微笑む。
寅、その姿を見て緊張する。
寅、手を上げて
寅「よ、だいぶ待たしたんじゃねえか?」
と言ったとたんちょっとつまずく。
かがり、表情が輝き、微笑んで走って下りて来る。
寅もそれに答えるように微笑んで駆け上がっていく。
近くに来てもお互いずっと微笑んでいる。
後ろを通り過ぎる観光客をよけてやる寅。
かがり「ごめんなさい、あんなことしてしもうて」
寅「え、なに?」
かがり「手紙…」
寅「あー、フフフ…」
かがり「あれ以外に方法がなくて」
寅、ちょっと照れながら微笑んでいる。
かがり「でもよかった…、
寅さん怒って来てくれないんじゃないかと思ってた」
寅「オレ?怒ってないよ、大丈夫大丈夫、あー」
かがり「そう、フフフ」
あの手紙の後、どれだけさくらたちや工員たちが
大変だったか知る由もないかがりさんでした(^^;)
かがり、満男に気づいて
かがり「……」
寅「んー?…あー、これ、
オレの妹、ほら、このあいだ来た時
店にいたでしょう、あれの倅だよ、
満男って言ってね、フフフ。
今日オレが鎌倉行くって言ったらさ、
どーしてもついて行くって、
しょうがねえガキだな。
なんでついて来たんだ?
こんなとこへ〜」
ひでえええ〜おのれええぇ!(▼皿▼メ)
満男、もの凄くふくれて
満男「僕行きたいなんていわないだろー!」まったく当然の主張(TT)
寅「口応えするなといったんだ、おじさんにい!」理不尽(TT)
満男がこれじゃあんまりにも可哀想。
この状況は満男もかがりさんも涙涙だよ(TT)
寅は第8作「恋歌」でも、第12作「私の寅さん」でも、
第14作「子守唄」でもさくらのせいにしてマドンナに
会いに行っている。これは寅の悪い癖。笑いのための
ギャグなんだけど、私はこの手のギャグは昔から苦手。
かがり、ちょっと淋しげな顔をする。
満男「だって…」
寅「いいから!」満男…(TT)
一瞬下を向いてしまうかがり。ああ。。。(TT)
寅「ほら、ちゃんとあいさつしなさい」
満男「こんにちは」
と深々と挨拶。
背後には遠く青い由比ガ浜が見える。
かがり「はじめまして、おじさんにはお世話になってます」
寅「さ、じゃ、行くか、うん」
寅はニコニコ。
かがり、満男を見てにこっと笑う。
黒板令子さんと
黒板純君
吉岡秀隆さんには実際のご両親以外に、
実はあと二組両親がいる。
ご存知『諏訪 博、さくら 』と
ドラマ『北の国から』の 『黒板 五郎、令子』だ。
で、「男はつらいよ」
でも五郎さんや令子さんと
共演しているのだ。
この鎌倉のシーンで今年死んだはずのお母さんの
黒板令子さんとあじさい寺で、再会している(^^;)
ちなみにお父さんの黒板五郎さんとは第48作「寅次郎紅の花」
で奄美大島で再会している。
かがり「お母さんそっくりやね」
寅「えー、へへ、頭はオレに似て
中空っぽだよな、ハハハ」
と満男の頭を押す。
またまた ひでええ〜 (▼▼メ)
満男、寅を見てブス〜〜(TT)
今回の満男…って。
稲村ヶ崎公園前近く
七里ガ浜と江ノ島の見える
134号ぞいのレストランで食事
レストラン Restaurant Main (現在のSun Dish)
満男赤電話からさくらに電話。
満男「ねえ、母さん…、オレ退屈しちゃった〜…、
一人で帰っちゃダメ?」ほんとほんと。
さくらの家
電話
さくら「ダメよお、おじさんがあんなに頼んだんでしょう?
最後まで一緒にいてあげなさい。ね。」
なぜなんださくら…なぜそこまで???
今ならまだ昼だから満男は一人で帰れるのに…。
博、日曜大工で棚かなにかを作っている。
かなづちの音 トントントン
さくら「ねえ…今ふたりはどうしてるの?」
満男受話器を持ったままテーブルの方を覗いて
満男「さっきから黙って座ってるよ」
満男「あんまり口きかないよ」
満男「伯父さん僕とばっかりしゃべるし…」
満男「ここ?ガーン!豪華なレストラン!海岸の」
寅たちのテーブル
かがりさん→コーヒー
寅→オレンジジュース なぜ?
満男→フルーツパフェ
沈黙が続く二人。
かがり「…時間まだ大丈夫?寅さん」
寅「え?大丈夫大丈夫、
まだ来たばっかりじゃねえか」
と笑う。
かがり「そう」と微笑む。
満男戻ってくる。
寅「電話したんだろ、ん?」
満男頷く。
近くの客「お水下さい」
外国人のバックパッカー、満男に当たってしまって
外国人「オー、ゴメンナサイ…」
寅「なんだか落ち着かない席だな…、席変えるか、ん」
かがり「そうやね」
寅「おい兄さん!勘定してくれねえか」
かがり、すくっと立って、伝票を自分で持っていこうとする。
寅「あ、いいんだいいんだ、これオレが払うからさ」
かがり「いいの、私が誘ったんやから」
とスタスタ払いに行ってしまう。
寅「いや…い…」
寅、戸惑って、メニューを広げて
寅「満男、おまえいくらの食ったんだ、
これ、いくらんだよ?」
満男「これ母さんから預かってきた」
と五千円札を渡す。
寅「え?さくらから?」
満男「使いなさいって」
寅、札を眺めながら
寅「あのやろ、いつまでも
人のことガキ扱いしやがって
こんなもん」
と言いながら、すばやく腹巻の中に入れ、
メニューを閉じて、知らん顔になって
小声で
寅「行こ行こ」上手い(^^;)
満男「…」
寅、デートの時くらいまともに金持ってきてくれよ。
ましてや、まえまえから分かってるんだから。
あんなにエキサイトしてたんだからそれくらい頼むよ…(^^;)
寅がジュース半分以上残したのはわかるが、
満男は小学生のくせに、パフェをかなり残しているのは?
江ノ電が江ノ島方向に七里ガ浜沿いを走っている。
江ノ島電鉄
江ノ島電鉄株式会社(えのしまでんてつ)は、神奈川県に鉄道路線(江ノ島電鉄線)を
有する小田急グループの鉄道会社。
本社は神奈川県藤沢市。江ノ電(えのでん)と略称される。
鉄道事業のほか路線バス事業(江ノ電バス)、不動産業、旅行業も行う。
そして3人は江ノ島に渡る。
江ノ島神社参道
観光客で賑わう参道
おみやげ物屋さんを覗く満男。
寅、手をパチパチ叩きながら
寅「満男、お母ちゃんにお土産か?ん?」
寅、かがりに挨拶して、
満男に付き合うため店の中に。
寅「団子買うなよおめえ、え、
ウチに売るほどあるんだから」
っていうか、売るためにあるんだけど(^^;)
かがり、少し淋しそう…
さくらの家
電話
さくら「じゃあ、ごはんどうしたの?」
さくら「うな丼を?」
さくら「そいじゃあ、おじさんたち今どうしてる?」
さくら「へえー…。ね、ちょっと待ってね」
さくら「まだ江ノ島にいるんだって。
ふたりはお酒飲んでるらしいわよ。
ねえ、どうしよう…」
博「やっぱりまずかったなあ、満男つけてやるのは。
大人なんだぞ、兄さんもかがりさんも。
甘いんだよ、君が…」んだ(−−)
さくら「一人で帰ってきなさいって言おうかしら…」
博「うーん…」
さくら「でも、遅くなるし…困ったなあ」
さくら、もう一度受話器に向かって
さくら「もしもしィー…、もし、…」
さくら「あら、切っちゃったわ、嫌な子ね…」
さくら、ため息を小さくついて、思案している。
満男、赤電話から10円玉を取り出している。
片手にはさっき買ったばかりの亀が(^^)
子供のこういう買い物ってリアル〜ゥ。
持って帰るときのストレスとか考えないんだよね。
参道にはハワイアン風「蛍の光」(^^;)
が流れている。
そろそろどこもかも閉店か。
夕闇迫る 江ノ島亭
江ノ島随一の眺めを誇る店 江の島亭
遠く茅ケ崎方面が見える。
ふたりで、海を眺めている。
波の音
蛍の光
寅、かがりの悲しそうな顔をそっと見て、
店の方を向きなおす。
かがりも向きなおす。
かがり「寅さんに会うたら、話したいことが
山ほどあると思ってたんやけど…、
いざ会うてみたらなんにも話されへん…」
と涙ぐんでしまうかがり。
寅、シリアスな気持ちになって
寅「悪かったな…」
ちらっと表の方を見て
寅「もし…よかったら、
あいつだけ一人先に
帰してもいいんだけども…」
寅にとってはとても思い切った発言!
寅は寅で今日の自分の中途半端な
会い方に、反省をしているのであろう。
かがり、首を横に振って、微笑みながら
かがり「そんなことやないの…。
今日寅さん、なんか違う人みたいやから」
寅「そうかなあ…、
オレはいつもとおんなじつもりだけども」
かがり「私が会いたいなあ、と思っていた寅さんは、
もっと優しくて、楽しくて、風に吹かれる
タンポポの種みたいに、自由で気ままで…。
フフフ…、せやけど、
あれは旅先の寅さんやったんやね」
寅は下を向いてしまう。
かがり「今は家にいるんやもんね。
あんな優しい人たちに大事にされて…」
寅、何か言おうとするが、結局何も言えない…
かがりさんの言葉「もっと優しくて…」は、
わざわざ鎌倉までやって来た寅に対して失礼だと思う…(^^;)
緊張してるんだよ寅は。かがりさんにロックオンされていることを
あの夜自覚してしまったからね。
「あんな優しい人たちに大事にされて…」は
第11作「忘れな草」で酒に酔ってとらやを訪ね、
暴れた時のリリーの言葉のアレンジ。
孤独なんだねかがりさん…。
かがりさんは夫に先立たれ、最近も失恋したばかりで
ダメージがきつそうだが、娘や母親と仲むつまじく
暮らしているのでリリーのような絶対的な孤独からは免れている。
江ノ電の音
寅、無言でかがりを見る。
かがり、少し気を紛らわすように、
海の方をもう一度見て、
かがり「もう海が真っ暗やね…」
かがり「満男君そろそろ帰らんと
お母さん心配しはるわ」
寅「ん、そうだな。まだ酒が残ってるから、
もうちょっと飲まねえか」
テーブルの方に歩いていく寅。
かがりのテーマがゆっくりと流れる。 ギター
寅をぼんやり悲しげに眺める孤独なかがり。
この時のかがりさんの表情には胸が痛んだ。
満男、江ノ島亭に戻ってくる。
ここからは大船セット
寅「おい、なに持ってんだ?」
満男「カメ」
とビニール袋を開けて見せる。
寅「薄気味悪いなあ〜、
そんなもの捨てちまえ捨てちまえ、もてって」
満男「400円もしたんだよォ〜」
キャッシャーのそばにいる
江ノ島亭の女店主は谷よしのさん!
他の釣り客に
女主人「ありがとうございました」
寅たち、テーブルについて
寅「お前知らないだろう。このカメな、助けて、
海に戻してやるだろう。
そうするとおまえ、これが引き返してきて
恩返しだって竜宮城へ
連れてってくれるんだぞ、ねえ〜」
と、かがりに相槌を求める。
満男「こいつが〜!?」
と笑いながら寅の前に亀を突き出す。
寅「バカ!噛みつくぞお前!」
それは第27作「浪花の恋の寅次郎」における対馬の海岸での寅でしょ。
あの時寅は対馬で浦島太郎の夢を見て、眼が覚めた後、カメを助けて
やったのにそのカメに指を噛まれていた(^^;)
確か、「アイテテテ、噛み付きやがったこの恩知らず」なじっていたっけ。
あの夢では源ちゃんが下画像のようにカメになっていた。
↓
かがり「あのね、満男君、浦島太郎って
私の田舎の丹後の人やの」
満男「ほんとにいたの浦島太郎って!?」
かがり「いたんじゃない?
浦島神社ってあるもの、家の近くに」
浦嶋神社(宇良神社)京都府与謝郡伊根町本庄浜191 のことだね。
宇良神社とは延喜式神名帳での名前。一般には浦島神社、浦島大明神などと呼ばれる。
浦島伝説の中では最も古いとされる丹後国風土記逸文ゆかりの地域にある神社。
浦島太郎こと『浦嶋子』を祭ってある。
社伝では天長2年(825年)に創建。丹後半島の西側の網野でも住吉の水の江の島子として
『万葉集』などに記載されている。このほかにも浦島伝説に基づく神社が天橋立の近くにある。
浦島伝説は、古く「日本書記」、「万葉集」、「風土記」、「お伽草子」、などにのせられている。
丹後の3ヶ所以外にも、日本国内に数多くあり、海外にもよく似た話が残っているようだ。
玉手箱や乙姫、浦島太郎ゆかりの品物なども他の地方の神社にも結構飾ってある。
寅「へえ〜〜」
満男も『へえ〜』って顔している。
かがり「玉手箱かて飾ってあるし」
玉手箱って…(^^;)
満男、ずっと『へえ〜』って顔
かがり、寅のコップに酒を注ぐ。
障子には花火大会のポスター
寅「へえ〜…、おかしいなあ」
満男、頷く。
寅「だってあの、竜宮城ってのはさ、
水の中にあるわけでしょう?ってことは
浦島太郎ってのは…、息しなかったのかな、
ずっと鼻詰まってたのかな、これ??」
お話しだってばゞ( ̄∇ ̄;)
満男真面目に聞いている(^^;)
満男「だってしゃべったり、
ごちそう食べたり、してたんでしょう?」
寅「潜りが上手かったのかな」おいおい ゞ(^^;)
かがり「フフ…」
寅「それにしても大変だね、
ずっと犬っかきしてるなんてね、くたびれちゃう」
まじめに想像してるんだね寅って(^^;)
満男「ハハハ」
かがり「フフフ、ね、そういえば可笑しいね」
一同 笑っている。
谷よしのさん扮する江ノ島亭の女主人が近づいて来て、
女主人「お客さん」
寅「え」
女主人「すいません、もう看板なんですけどー…」
谷さん、今回は若干垢抜けた店主さん。
やっぱりあの江ノ島の江ノ島亭だからねえ(^^)
寅「ああい、ごちそうさま、じゃあ勘定してくるから」
寅、キャッシャーの方に行く。
女主人「1680円です」
サザエ3つとお銚子3本とおかずの鉢で
そんなに安いわけないって(^^;)
かがり「ごめんね満男君、おそうまでつき合わせて」
寅が満男を無理やり連れてきたのが悪いんです。
満男「ううん」
かがり「今度丹後の方に遊びにおいで」
満男、小さく頷く。
かがり「こんな大きい海ガメもいるし、海もきれいよ」
寅、戻ってきて
寅「はあー…、じゃあ行こうかァ」
かがりと満男頷いて立ち上がる。
女主人の声「ありがとうございました」
かがりの声「ごちそうさまでした」
とらや 夜
寅たちを待つ一同
柱時計が8回時を打つ 8時PM
おばちゃん時計を見上げて
おばちゃん「おそいねえ、寅ちゃんたち」
おばちゃんインスタントコーヒーを作っている。
博「満男が一緒だからなあ…、
ふたりだけだったら、泊まってくる
こともあるだろうけど…」ないない(^^;)
おいちゃん「寅がそんなことできるわけねえじゃねえか、フ」
やっぱりおいちゃん見切ってるねえ( ̄― ̄)
おばちゃん「そうだよ、そんな甲斐性がありゃ、
とっくに身をかためてるよ」んだ。
ほっとしていいのやら悲しんでいいのやら…
電話が鳴る
リーン、リーン
さくら「満男だわ」
さくら「もしもし満男!!え!?…、
あら、ごめんなさい、かがりさん?」
あちゃ〜…ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ
おばちゃんたち意外な顔。
さくら「兄ですか…?いえ、まだ帰りませんけど、
一緒じゃないんですか?
で…、今どちらに?東京駅?」
東京駅 ホーム 黄色電話
雑音が飛び交っているホーム
かがり「今日はすっかり寅さんに
お世話になってしまいまして、
それに満男君までつきおうて下さって、
すみませんでした。
寅さんがお帰りになったら、
こんなふうにお伝えください。
『まだ東京には2,3日いるって
言いましたけど、今夜の新幹線で京都まで帰ります』
…はい、今からなら最後の大阪行きに間に合います。
私…、寅さんに、とても迷惑かけたような気がします。
くれぐれもお詫びしとおいてください…。
(新幹線の出発のベルが鳴り続けている)
それじゃあの、ベルが鳴ってますので、…はい、それじゃ」
受話器を置いて、急いで駆けて行くかがり。
今から、京都に戻って、宮津まで行っても、深夜になる。
この時間は伊根までの交通機関はない。
今夜中に無理やり丹後の伊根に戻るには
タクシーしかないと思うんだが…。
とらや 電話口
さくら、受話器を持ちながら
さくら「……」
博「なんだって?」
さくら、受話器を下ろしながら
さくら「お兄ちゃんとはとっくに別れたんだって…」
博「……」
さくら、考え込んでいる。
さくら「………」
おばちゃん「あー、じゃあなにしてんだろう?」
一同考え込んでいる。
遠くで寅の声
寅の声「よお、越後屋、遅くまでごくろうさん」
越後屋「あー」
寅入ってきて、
寅「おう、すっかり遅くなっちゃって、心配かけたな」
あまりさくらのほうを見ない寅、重い空気。
さくら「おかえりなさい」
満男「ただいま」
とらや 台所
おばちゃん「お酒飲んでたのかい?」
寅「うん、駅前でな、景気づけに一杯やってた。な、満男」
満男、軽く頷く。
寅、すぐ階段を上がっていく。
おばちゃんとさくら階段を見ている。
博、満男の頭をさわって
博「ごくろうさん」
満男、下を向いて沈んでいる。
おいちゃん「疲れたろう」
満男、おばちゃんにお土産
おばちゃん「さざえ?ありがとう」
さくら「ねえ、かがりさんとはどこで別れたの?」
満男「品川…」
さくら、満男の様子に気づき、覗き込みながら、
さくら「どうしたの?満男。ん?」
と、さくらは満男の顎を手でそっと持ち上げる。
さくら「なに悲しそうな顔してるの?…」
満男「おじさんと喧嘩したのか?」
満男、首を振る。
さくら「じゃあなに?」
博、ビニール袋の中の満男が買ったカメを見ている。
満男「おねえさんと別れたあと、
おじさん電車の中で涙こぼしてたの…」
さくら「……」
博、二階を見て考えている。
満男「言っちゃいけない、って言ったけどね…」
さくら「……」
満男「それでこれ買ってくれたんだ」
とプラモデルの箱を見せる。
さくら、悲しげな顔で何かを考えている。
雷が鳴り出す。
それにしても今回の吉岡秀隆君は大きな役だった。
なかなか難しいデリケートな役割を見事にこなしていた。
あの「はるかなる山の呼び声」を思い出してしまった。
間が悪いタコ社長、
鼻歌を歌いながら台所へやってくる。
社長「どうした?寅さん帰って来たか?」
おばちゃん、手でダメだし。
博「帰ってきましたよ」
社長「クク…、上手くいったのかね?
それとも失恋しちゃったかな?」空気読めよ(ーー)
博「社長、黙っててくれませんか」
社長「どうして?」神経あるのか社長(−−)
さくら、沈んでいる。
二階から寅が下りてくる。
カバンを持っている。
寅、社長を見て、
寅「よう、社長」
社長「お帰り。楽しかったかい?」
寅、旅支度してるだろうが社長〜…(-。−;)
寅「あー、楽しかったよ」(TT)
社長「へえー、ど…」
おばちゃんが社長の服を掴んで止める。
さくら「お兄ちゃん、どこ行くの?」
寅「これから旅にでるのよ。
そろそろ暑くなるからな。
涼しい風の吹く北国へ旅に出ようと思って…。
山形、秋田、津軽…、夏祭りももうすぐだ。
みんな達者でな。
満男、今日はありがと」
さすがの社長も静かになる。
すっと、店の方へ出て行く寅。
追いかけるさくら。
雷が鳴る。
とらや 店の出口
さくら「お兄ちゃん、あのね」
寅「あ、そうだ。明日か、明後日ごろ…、
あの、例のかがりさんから電話が
あるかもしれねえんんだ。
そしたら、おいらは旅に出たと
伝えてくれねえか、な」
と出て行こうとする。
さくら「そのことだけど、…さっき、
かがりさんから電話があったの」
寅「電話があった?」
さくら「東京駅からだけどね。
今夜の新幹線で帰るって…。
お兄ちゃんにお詫びしてくださいって
そんなふうに言ってたけど」
メインテーマが静かに流れる。
寅「そうか…、帰っちまったのか」
と、出て行く寅。
さくら「ねえ、お兄ちゃん」
寅、振り返って
寅「なんだ?」
さくら「ほんとはかがりさん…、
お兄ちゃんを好きだったんじゃないの?」
寅「……、あんな美人で、しかも賢い人が、
オレみたいなヤクザの能無しの男をおめえ、
どうこう思うわけねえじゃねえか。
おまえ、頭おかしいんじゃねんのかあ」
と、すっと背中を向け道に出る。
寅「お、パラパラっとやってきやがったな、
よおし、ひとっ走りだァ」
と、背広を首まで覆い、走っていく。
寅のカラ元気、悲しいねえ…(TT)
さくら、道まで出て、小さく
さくら「お兄ちゃん…」
みんな外を見ている。
さくら、強く雨が降ってきた空を見上げる。
しだいに本降りになっていく雨。
このさくらと寅の会話は物語のメインのひとつとも言える重要なカットだが、
それでは、なぜさくらは、かがりさんが寅のことを本気で
好きだったんじゃないかと思えたのだろうか…?
わざわざ丹後から出てきて、とらやで緊張し、付け文(デートの約束)を
したからか?
それとも電話でかがりさんと話してピンとくるものがあったのか?
そもそもさくらとかがりさんはほんの数分しか会っていない。
さくらは臨場感を持ってかがりさんという人をほとんど
体験していないのである。
実は、第17作「夕焼け小焼け」の時もさくらは上野の食堂で寅に
今回と同じことを言うが、あの物語ではぼたんとさくらは数日間
一緒に住んでぼたんの気持ちも苦労も辛さも切実に分り、最後
寅の気持ちに感動するぼたんの号泣を横で見て、かつ、
別れ際のぼたんのセリフ「寅さん、好きな人おるん?」で、
さくらなりの確信があったことは見ている私たちにもひしひしと
伝わってきた。それゆえ第17作のさくらの言葉「ぼたんさん、
お兄ちゃんのこと好きなんじゃないかしら」は、さくらの心からの
実感として私たちの心に染み入るのである。
このあたりの必然性の有無はもちろん作品の質にも深く影響している。
さくらとかがりさんの物語がほとんどない今回は、さくらのこのシーンの
洞察力は、一般の人の域を出ておらず、さくらのオリジナリティが弱い。
まあ、積極的なかがりさんの行動を常識的に判断しての発言だと
考えると別段無理はない発言なのだが、「物語」と言うものは、無理が
なければそれだけでいいというものではない。そのへんが難しいところ。
ほんとうは、かがりさんの気持ちは、寅以外では、
鎌倉で何時間か一緒に過ごした満男の方がまだ臨場感を持って
少し分かっていたのではないかな…。
満男が寅の涙を見てしまったその時、満男の少年前期が終わり、
ひとつ大人に近づいたのだと思う。恋というものの辛さ切なさを垣間見た
満男は、その10年後、自分の切実な恋の中で同じ意味を持つ涙を
流すことになる。
盛夏 入道雲 蝉の声
とらや 台所
氷を割っているおばちゃん。
夏だねえ〜。家庭用冷蔵庫の
四角い氷じゃないところがとらやさん。
涼しげ。
社長が氷が入ったジュース飲んでいる。
満男、店にいるお客さんを見て
満男「だあれ?」
おばちゃん「寅ちゃんが京都でお世話になった人だって」
さくら、おしぼりをすすめている。
お辞儀をする近藤。
社長「何しに来たの?」
おばちゃん「寅ちゃんが借金でもしたんじゃないかい?」
と言いながら、冷たいお茶と和菓子を運んで行く。
社長「ありうるありうる」
それじゃ第27作「浪花の恋の寅次郎」
の新世界ホテルのオヤジだよヽ(´o`)
社長「ぼうや、灰皿ないか?」
満男、灰皿を探す。
とらや 店
おばちゃん「寅がご迷惑おかけしたんでしょう」
さくら「どうぞ」
と和菓子を出す。
近藤さん凄い趣味のネクタイ(^^;)
近藤、帽子を取って
近藤「あのー…実は、今日参りましたのは他でもありません」
さくら、うちわを扇いでやりながら頷く。
近藤「折り入ってお願いがございまして」
さくら「はい…、なんでしょうか」
近藤、んん、と咳をし、
近藤「この秋、加納先生の作品展が三越で
催されることになりまして、その際、
車さんご所有の『打薬窯変三彩碗』を
ぜひっとも、展示したいと、主催者側からの
希望なので、なんとか期間中、拝借
願えればと、存じまして」
このシリーズはデパートと言えば三越。
どの作品でもいつも三越(^^;)
かがりさんを振った男も三越で個展。
近藤、おいちゃんを見る。
おいちゃん、ニタニタ、ヘラヘラ笑ってごまかす。
なんのことやら、パッパラパ〜〜(^^;)
近藤、さくらの方を見て
近藤「いかがでしょう?」
さくら「と、申しますと…つまりぃ…」
近藤「ですから車さんご所有の『打薬窯変三彩碗』を
作品展のために、拝借したいと」
おばちゃん「車さんと言いますとォー…??」だよな(^^;)
おばちゃんにとって寅は「寅」「寅ちゃん」「寅さん」だけ。
「車さん」ではないのだ。
近藤「もちろん、車寅次郎さんですよ」そらそうだ(^^;)
おいちゃん「アレがなにをご所有なんで???」
近藤「んん〜もうー…」と苛立ち、
近藤「何べんも言ってますけど、
加納先生の作品の三彩碗をお借りしたいんです」
おばちゃん「なんですか?
その『サンサイなんとか』ての??」
なんとかって…(^^;)
さくら、ちょっと思い出し始めている。
しだいに顔が蒼ざめる。
近藤「んん…」
と呆れている。
さくら「ひょっとしたら…」顔真っ青、口は輪ゴム ( ̄o ̄;)
近藤「は?」
さくら「お兄ちゃんが京都から
持ってきたお茶碗のことじゃないかしら…」
近藤、大きく頷く。
さくら「そうよ!あのお茶碗よ!
おばちゃんどこにある?」
おばちゃん、マゴマゴして
おばちゃん「どこって、満男知らない?」適当〜(^^;)
と、とりあえず近場の満男にふる。
満男、平〜然と
満男「社長さんが灰皿に使ってるよ」だって(^^;)
おばちゃん「へー!!」
さくら「へええー!!!」
近藤びびって
近藤「灰皿!?どこ!!」
おばちゃん「あそこ…」あそこって…(^^;)
と台所を指差す。
近藤「どこー!!!」
声裏返ってる(^^;)
近藤「はー!!」
おいちゃんを押しのけて、こけそうになる、
さくら「あー!」
近藤「どこ!」
近藤、目が飛び出して、
台所へ吹っ飛んで行く。
台所
近藤暖簾を上げて、茶碗を見る。
近藤「ああー!!」
と嘆いて 、社長を睨む、
社長反射的にビクつく。
近藤「せ、先生の作品を!!そ…あ!」
と台所へ飛び込もうとして勢い余って、暖簾も
一緒に取り外してしまう。
ε=ε=ε=ε=(◎◎;)
そのまた勢いでテーブルに暖簾と体をぶつけ、
テーブルの茶碗がくるくる回り、下に…
近藤「あっ、あああああー!!!」Σ(|||▽||| )
と茶碗に向かってダイビング!!
このタイミングでは完全に間に合いません(^^;)
さくらたち、上から見て、目が白黒。
さくら大急ぎで近寄って
さくら「大丈夫ですか?」(゜〇゜;)
どっちが?人間?茶碗?
もちろん茶碗に決まってるだろ、ってか(^^;)
近藤テーブルの横の地面に
寝転んだまま、茶碗を持ち上げ、
近藤「大丈夫でした…」
何度見たって完全に割れてる
タイミングだってば、ありえねえ〜(^^;)
さくら「はあああ…」
さくら、目の色を変えて
近藤からそお〜っと
茶碗を両手で受け取り、
近藤のことなどかまわず、
恐る恐る茶の間のテーブルに置く。
近藤、目がバッテンになりながらも
社長とおいちゃんに支えられながら
ようやく起き上がる。
さくら「はあー!」
と胸をなでおろしながら
さくら「いやーねー、なんにも気がつかないで」
さくら、あらためてシゲシゲと三彩碗を見つめ
さくら「へえ〜、これが本物の
加納作次郎なのぉー…へええー…」
と今更ながらに変に感心している。(^^;)
さくら、名前で(左脳で)見るなってば、
今までずーっと茶の間に置いてありましたよ。
博以外は全く誰も興味持ってなかったけど…。
社長「何があったんだよ?」
近藤、社長にいきりたって
近藤「あなた、なんてことするんですか!
あの、灰皿にタバコを捨てるなんて、
あ、間違えた。あの茶碗に!」
満男が灰皿代わりにあの茶碗を見つけちゃったのかな(^^;)
おいちゃん、さっと仲に入って、
おいちゃん「まあ、あの、これはもう教養のない男ですから…」
あんたもな(^^;)
社長「なにが教養のない男だよ!!」
とおいちゃんを押し倒す社長。
おばちゃん「あ、ちょっと」
さくら「社長さん…」
近藤怒って
近藤「芸術作品になんてことをする!」
と社長のネクタイをぐいぐい引っ張りまわし怒り狂う。
社長顔真っ赤(TT)
茶碗を灰皿代わりに使うのも悪いが、
そこまで作品を崇めるのもある意味滑稽。
ほんとうの焼き物師なら茶碗のことを、どこかの
評論家のように『芸術作品』などとは絶対に言わない。
そういう浮ついた表現はしないはずだ。
そこのところが近藤さんは物作りに携わる人としての
意識が低い。
寅にあげたのがそもそも間違いだね(^^;)
みんな止めに入って、大騒ぎ。
スクリーンから声が聞こえなくなり…
『さくらのテーマ』がゆったりと流れて
テーブルの上に満男の夏休みの宿題と
一緒に封筒に入ったかがりの手紙。
車寅次郎様
かがりの文章
かがりの声で
「寅さん、この間はごめんなさい。
私はとても恥ずかしいことを
してしまいましたけど、寅さんならきっと
許してくださると思います。
今は夏休みで、私も機織の合間に、
手伝いに駆り出され、忙しい毎日です。
民宿の手伝いに出かけるかがり。
漁港でも楽しくきびきびと働いている。
母も娘も元気で手伝ってくれています。
寅さんは今どこかしら?
相変わらず旅の空かしら。
丹後の方には向いてませんか?
今度、寅さんがきたら、
この間のような間に合わせではなく、
美味しい魚の料理を腕を振るっておなか一杯
食べさせてあげたいと思います。
寅さんの楽しい話を聞きながら…」
海の方を見て寅を思い出しているかがり。
かがりさんの最後の海を眺めるこの表情を見て
なんだかほっとしたよ。
滋賀県 彦根城 近く
『埋木舎(うもれぎのや)』のそば
旧池田屋敷長屋門(池田斧介の屋敷だった)
中から加納作次郎が出てくる。
藩士録によると池田氏は、殿様御用使、
江戸詰百八十石の井伊家家老で、
この旧池田屋敷長屋門は、当時の
下級・中級武士の生活をうかがい知るための
貴重な資料になっている。
加納作次郎が創芸社の尾形を伴って旅をしているのだ。
城の中濠脇の小道を歩く二人。
井伊直中の14男である井伊直弼は養子の先もなく庶子の十七歳から三十二歳まで十五年間、
三百俵の捨扶持で世捨て人のような生活を送りながら、学問、武芸、禅、茶道などの修行に打ち込んだ。
その屋敷が埋木舎(うもれぎのや)である。作次郎が出てきた池田屋敷のすぐ近く。
『世の中をよそに見つつも埋もれ木の埋れておらむ心なき身は』
埋木舎とは直弼自身が、花咲かぬ埋もれ木にたとえて、
逆境に安住の心を求めて名付けたもので、彦根藩士ならば大体三百石取りの住宅である。
彦根城 表門近くの道
彦根古城は荘厳で、琵琶湖八景の一つ。
初代藩主・井伊直政の嫡子・直継と二代目藩主・直孝によって、
約20年の歳月をかけて築城され、1622年に完成した。
お堀の周りを歩く作次郎。
うるさいくらいの蝉の声
美しい天守閣が遠くに見える。
尾形「あれが天守閣です」 いいでしょう。国宝ですよ(^^)
名園「玄宮園」の看板。
四代藩主・直興によって造営された池泉回遊式の大名庭園で、
中国唐時代の玄宗皇帝の離宮になぞらえて臨池閣や鳳翔台などの建物が造られている。
作次郎「あー、あれやな」
尾形「ええ、歩いていってもいいんですけど、距離があるからなあ」
作次郎「さよか」
遠くで寅の啖呵バイ
作次郎目ざとく気づく。
寅の声「お父さんお父さんちょっとこっち来て」
寅が瀬戸物売っているのが見える。
寅「こっちきてちょっと見てよ、ほら。
こっち来てちょっと見てください。ねえどう、
古いお城の見物から帰って来た観光客の皆さん!
どう、この取り出しました…」
作次郎「……」 目が懐かしさで溢れている。
作次郎「君」
尾形「は」
作次郎「すまんけど…、ちょっと先行ってくれへんか?
私、会いたい人がいるのでな」
尾形「はい、じゃあ、大手門の方に車まわしときますから」
作次郎「頼みますわ」
作次郎寅の方へ歩いていく。
『琵琶湖八景 彦根の古城』の石碑
表門橋の脇
寅の横ではポスターを水張りしたボードを売っている。
私が中学生の頃買って持っていた
ジェームスディ―ンのポスターがある!!
となりのおじさん「安くしとくよ、へへへ」
寅、扇子で扇ぎながら瀬戸物の啖呵バイ。。
看板に手書きでこう書いてある。
『ここに並べた品々は、いづれ劣らぬ由緒ある貴重品ばかりです。
我が家にも家宝をと、お考えの皆様、
今がチャンスです。手にとってじっくりお確かめください』
寅「正真正銘のこれが九谷焼きだよ、
これ以外にないよぉ、だめかい?
気に入らない?よし、じゃあこれどうだ。
お母さん触ってみなこの肌触り、ね。
そんじょそこら辺にある安物の瀬戸物屋の
瀬戸物とわけが違う。
神田は六法堂というところの社長が、
妾との手切れ金で、泣きの涙で投げ出した
品物だよ!さもなかったらオレなんか手に入るわけがない、ね!
聞いて驚くな人間国宝加納作次郎の作品だ」嘘八百(^^;)
客たち「ほ〜〜〜」見りゃ分かるだろうに、嘘嘘(^^;)
デパートでお願いしたら10万や5万はくだらない品物だが、
今日は私、それだけくださいとは言わない。
旅先で金に忙しい。ね!よし!
こうなったら、2万!…、1万5千円、
あ〜〜!やけくそ、1万でどうだ!」
デパートでは5万って言ってるけど、
人間国宝加納作次郎の作品は残念ながらそんなに
安くはないだろう。デパートで5万では買えないよ、さすがに。
「金に忙しい」とはなかなかいいねえ。
そっと見ていた作次郎、後の方から
作次郎「買うた!」お茶目(^^)
寅「おお!お父さんいい買い物をし……あれ?」
作次郎「1万円は高おうないか?もう一声」
「買った」の声の後に、
しつこく値切るのは関西人やねえ〜(^^;)
寅、笑いながら
寅「ハハハハ…、
ッハハ参ったなあ…ッハハハ!」
と照れまくる。
寅「ハッハハハ、、おばちゃん、商売終わり、
今日は商売終わり、ね、
知り合いと会ったから、
どうもありがとう、どうも、ハハハ。
…じいさん、
冷たいビールでも飲むか?」
作次郎二カーッと笑って
作次郎「ええなあ、
寅「うん」
寅、となりのバイ仲間に
寅「兄弟、ちょっとあと頼むぜ!」
仲間「おう」
寅「ん、」
寅、扇子扇いで、歩きながら
寅「なんだってまたじいさん、
またこんなとこにいるんだよ?」
作次郎「あんたの影響でな」
寅「うん」
「風のままに、旅行をしてるんや、フフ」
寅「ヘヘヘ、オレもじいさんの影響でね、
瀬戸物なんか商いしてるだけど、
さっぱり売れねえな」
カメラは彦根城月見台から
佐和口多聞櫓と馬屋、を映していく。
その近くをゆっくり歩いていく寅と作次郎。
そのまた向こうに彦根東高校、NTT電波塔。
そして彦根の町と遠く湖東三山のある山々、
その向こうに遠く鈴鹿山脈を映し出ししていく。
加納作次郎は寅の生き様に影響を受け、
もう一度柔らかな自分を作ろうと、
風のままに旅に出たのだった。
あの歳で人に影響を受けることを
怖れない人間国宝加納作次郎。
さすがだね。
いまだに現役の匂いバシバシだ。
ラストのあり方としては、
第17作「夕焼け小焼け」のラストでぼたんに
会いに行ったように寅がもう一度伊根の
かがりさんに会いに行くかと、見る私たちに思わせて、
実は彦根で作次郎と再会という展開。
私はかがりさんと再会するラストより、
作次郎と再会するこのラストが清々しくて好きだ。
ふたりは冷たいビールを飲みながら、
かがりさんのことを話すのだろうか。
そして酔った作次郎はまたいつかのように
焼き物のことを話すのだろうか(^^;)
それにしても最後に映った
あのかがりさんには正直ほっとした。
寅との別れ方が辛そうだったので、
心配してしまったが、かがりさんが以前
言っていたように、
「見かけによらず、すんでしもたことは、
くよくよ考えない気質」なのだろう。
時が経ち、彼女は寅との思い出を
緩やかに昇華することができたのだ。
そのような彼女の横顔、 そのような夏の風だった。
終
出演
渥美清 (車寅次郎)
倍賞千恵子 (諏訪さくら)
いしだあゆみ (かがり)
下絛正巳 (車竜造)
三崎千恵子 (車つね)
前田吟 (諏訪博)
吉岡秀隆(諏訪満夫)
太宰久雄 (社長)
佐藤蛾次郎 (源ちゃん)
笠智衆 (御前様)
柄本明(近藤)
杉山とく子 (かがりの母親)
津嘉山正種 (蒲原)
関敬六 (テキヤ仲間)
片岡仁左衛門 (加納作次郎)
スタッフ
監督 : 山田洋次
製作 : 島津清 /佐生哲雄
原作 : 山田洋次
脚本 : 山田洋次 / 朝間義隆
企画 : 高島幸夫 / 小林俊一
撮影 : 高羽哲夫
音楽 : 山本直純
美術 : 出川三男
編集 : 石井巌
録音 : 鈴木功 / 松本隆司
スチール : 長谷川宗平
助監督 : 五十嵐敬司
照明 : 青木好文
公開日 1982年(昭和57年)8月7日
上映時間 110分
動員数 139万3000人
配収 10億1000万円
今回で第29作「あじさいの恋」は完結です。
次回は第32作「口笛を吹く寅次郎」です。
ベストカップルとの評判の高いあの朋子さんと
寅の恋は見ものです。そして美しい高梁の町。
なによりも弾けた笑いとテンポ。
山田監督停滞期の中での突出した傑作と
言い切っていいでしょう。
おそらく12月11日頃には第1回を更新できると
思います。
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