バリ島.吉川孝昭のギャラリー内
第45作 男はつらいよ
1993年12月26日封切り
まろやかな瞳と涼しげな背中 『髪結いの亭主』物語 寅と蝶子さん
寅と蝶子さんは宮崎県串間市 石波海岸の南、幸島(こうじま)の浜で『港が見える丘』をデュエットする。
その時の様子がとても素敵なのである。このフィット感はなかなか他のマドンナにはないものだ。
リリーはもちろんだが、この蝶子さん、第10作の千代さん、第32作の朋子さんくらいだ。
だいたい男女が自然に歌を口ずさむなんてよっぽど波長が合わないとできないことである。
もうこのころの渥美さんは、激しいチャキチャキの芝居はしないし、できない。しかしその分、落ち着いた、
存在感のある渋みがでてきている。その渥美さんの渋さと、風吹ジュンさんのまろやかさが絶妙のハーモニーを
醸し出している。物語自体は、渥美さんがあまり動けないため、若干淡白な物語になっているが、風吹ジュンさんの
味わい深さにしびれました。
風吹ジュンさんは、ちょうどこのころから雰囲気が変わった。若い頃のやんちゃで茶目っ気のある感じから、
まろやかで涼しげな大人になったのだ。私生活での大きな変化が影響しているのかもしれない。私はこの頃から
風吹ジュンさんの大ファンになってしまった。
また、この第45作は満男と泉ちゃんの東京駅での悲しい別れのシーンがある作品でもある。
そして忘れちゃならないのが、笠智衆さんの最後の出演作でもあるのだ。この3つの要素で、
最後の最後滑り込み『21世紀希望枠』でベストに入れたのである。
鐘の音を待つ蝶子さん
蝶子「わたしは蝶子 蝶々の蝶」
寅「あ〜きれいな名前だねえ 花から花へ蜜を求めて舞い遊ぶ蝶々か・・・」
蝶子「今じゃしおれた花にしがみ付くようにこん街にべったり張り付いとるとよ」
寅と蝶子さんは堀川運河を眺めながら堀川橋でたたずむ。このふたりの背中がまた絶品なのだ。
ふたりとも人生の修羅場の傷がぼんやり見えるが、その先にある静けさの領域にすでに入っているので
実に絵になるのだ。
お互い短い言葉のやり取りの後、蝶子さんは寅の髪の毛をそっと触るのである。
寅「静かな町だね」
蝶子「どこ行くの?これから〜」
寅「さあ〜どこ行こうかな」
蝶子「散髪していかんね?」
寅「え?」
蝶子「うん、だいぶのびちょるがね」
寅「そうかい」
蝶子さんはまろやかな人である。いきなり髪の毛を触っても様になる涼やかさがある。
寅の持っている気質とそこが似ている。寅が髭を剃ってもらっている時の至福は何ものにも
変えがたい貴重な時間だったに違いない。
そして蝶子さんは出会いを待っている。
いつか、もう一度あの店の鐘がチリンとなってあの男性が店に来てくれて
「オレと一緒に暮らさんか」とまた言ってくれたら一緒に暮らそうと本気で思っている不思議な女性。
あの風吹ジュンさんのにこやかな笑顔を見たらああ、この人ならそういうこともあるかもな、と思ってしまうから
不思議だ。そして寅がそこに現れた。蝶子さんと寅の短く淡い物語が始まるのである。
満男と泉ちゃん 東京駅物語
蝶子さんから鐘を鳴らして素敵な男性が入ってくるのを待っていると聞いた泉ちゃんは
「男の人を待っているなんていや、幸せが男の人だなんて考え方も嫌い。幸せは自分でつかむの」
って、強い目を輝かせて満男に言っていた。
しかし、そのように自立の意識を匂わせていた泉ちゃんだったが、お母さんの病気のこともあり、名古屋で
彼女の面倒を見ながら一緒に暮らす事を選ぶ。心が引き裂かれてしまっているのである。そんな彼女の
行動を哀しく思った満男が「犠牲」という言葉を使ってしまったゆえに彼女は深く傷ついたことは私には想像できる
のである。
二人は第44作「寅次郎の告白」で、山陰本線でお互い手を握り、愛情を確認しあっているのだが、満男のほうは、
まだ両親の庇護のもとにある学生、かたや泉ちゃんは、高校の時からずっと人生の荒波に揉まれている。
この運命の差が、満男の行動をぎこちないものにさせ、ギリギリで泉ちゃんの人生に踏み込めないのである。
泉ちゃんも、自分のために満男の人生を狂わせてはいけないと思い悩んでいったのであろう。人生の歯車が
上手くかみ合っていないのだ。満男にはこれ以上の進展は今は望めないだろう。劣等感を超えて満男が
泉ちゃんに寄り添えるまでには「歳月」が必要なのである。満男にはどうしても「焼き」が不足している。
この先は満男の成長を待つより仕方がないのかもしれない。恋は好きという理由だけでだらだら飼い馴らしては
いけないのだ。そのことを本能的に感づいている満男と泉ちゃんはある意味とても素敵だったし、
さすが寅の甥っ子だとも思うが、何もできなくたって本当はそばにいて欲しい泉ちゃんの抑圧された心は
見抜けていない。しかし、だからこそこの恋は美しい透明感に彩られてもいる。
迷惑をかけまいと満男には直接告げずに東京を離れる泉ちゃんだったが、授業をさぼって、遠く八王子から
東京駅まで飛んできた満男の姿を見て、自制していた心が弾けてしまい、最後の想いを込めて涙をためながら
満男にキスをする。キスが二人の終わりを意味してしまうという悲しい恋の結末に耐え切れない満男。ガラスの向こうで
何かを伝えようとする泉ちゃん。満男には聞き取れない。繰り返し聞く満男。非情にも新幹線はスピードを上げる。
満男は愚直なまでにいつまでも泉ちゃんを乗せた新幹線を追いかけるのだった。
満男の背中を追い続ける高羽さんのカメラワークが心に残る満男シリーズ最高の名場面だといっていいだろう。
最終第48作「紅の花」でも満男と泉ちゃんの名場面はたくさん出てくるが、私はこの第45作の別れの東京駅が
一番好きである。どうすることもできない若すぎる二人の張り裂けそうな気持ちが痛いほど分かるのだ。
鐘と共に旅立つ蝶子さんのフットワーク
一方の蝶子さんは、寅が去ってしまった後、もう一度例の男の人が鐘をチリンと鳴らして現れて、
本当に二人して博多へ行き結婚してしまったのだ。
動物的勘をフルに使った蝶子さんは、見境がなく行動したように見えてもギリギリでは人を見る目は冷静だったと思う。
そして、なんだか今は幸せな暮らしをしているような気がする。もちろん、蝶子さんは、寅のことを憎からず思ってはいたが、
寅の方は例のごとく逃げ腰になるからどうしょうもない。
それでも蝶子さんは失恋の痛手に耐えながらも、フットワークは忘れていなかったわけである。ただの『待つ女』ではないのだ。
彼女はほんとうに風のように爽やかで涼やかな人だ。あの魅力は他のマドンナじゃ出せませんよ〜(^^)
寅と二人で歌う「港が見える丘」シーンなどの息の合い方はリリーや、朋子さんと比べてもまったく遜色はない。
このシリーズ屈指の名場面だ。彼女は私の個人的な『マドンナベスト5』にもしっかり入り込んでくるのだ。
御前様最後の夢 『髪結いの亭主』である寅に思いを馳せる御前様
また、この第45作は笠智衆さん最後の出演となった作品でもある。
御前様は、今回もまた、寅の恋の行方を、秘密諜報部員である源ちゃんから
聞き出し、御機嫌をうかがいにきたさくらにこう言うのである。
御前様「髪結いの亭主なら、寅にも勤まると思いませんかさくらさん。
ふたりが結ばれたら門前町に小さな店を持たせて、週に一度
その綺麗なおかみさんの手で私の頭を剃ってもらうんです」
さくら「まあ…夢見たい…」
と、遠くを見るさくら。
御前様は、やんちゃでチャランポランだが無欲で少年の心を今も持つ優しい寅のことが大好きだったのだ。
御前様の夢をまたもやかなえられなかった寅。それでも御前様は諦めず、今日もまた寅を待っている。
■第45作「寅次郎の青春」全ロケ地解明
全国寅さんロケ地:作品別に整理
本編
松竹富士山
今回は夢から
昔の『活動写真』風
ゴ〜ン・・・
旗 正二位 稲荷大・・・
活動写真の弁士(活弁)が物語を語っている。
弁士「花の上野は不忍池のほとり・・・」
弁士「夜桜を楽しむ酔客の歌声もようやく途絶えた夜明け
文学博士車寅次郎はいつものように自宅の書斎で
シェイクスピア翻訳のペンを走らせているのでございました」
表札 『 車 寓 』
尺八の音が流れる。
第17作「夕焼け小焼け」でも「池ノ内 寓」と書かれてあったが、この『寓』というのは、
隠居した風流な家、静かに暮らす家、というような意味で、ちょっとした文化人などがよく使った表札。
シェイキスピヤ ハムレット 車 寅次郎
活動写真の弁士次郎譯
王、ポターニヤス入る 登場 ハムレット「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題。
弁士「う〜ん、いかん!筆が走りすぎた」
万年筆をポン!ポン!!
呉服屋伊勢屋前
弁士「と、そのころ 日本橋の呉服屋伊勢屋の一人娘 泉は
明日の祝言を嫌って家出をしたのでございました。」
源ちゃんが曳く人力車に乗る泉ちゃん。
ヴェルディ作曲
オペラ「ラ・トラヴィアータ(椿姫) La traviata」前奏曲が流れる
アレクサンドル・デュマ・フィス原作『椿姫』をヴェルディがオペラ化した作品。
イタリアオペラ最大の作曲家ヴェルディの代表作であるばかりでなく、
イタリアオペラの中でも最も人気の高い傑作。
18世紀初頭パリ。社交界の華とうたわれた美しい高級娼婦ヴィオレッタと青年アルフレードの純愛。
主人公のヴィオレッタは、娼婦である自分は本当の恋愛などに縁はないと思っていたが、
アルフレードの純粋な愛の前に遂にヴィオレッタは社交界を離れ、パリ郊外の家でアルフレードと静かに
幸せに暮らし始めた。しかし、アルフレードの留守中に、彼の父が訪ね、ヴィオレッタの娼婦という過去が、娘(アルフレードの妹)の
縁談に差し障りとなるので、息子と別れるよう彼女に迫る。ヴィオレッタは自分の真実の愛を必死で訴えるが、
受け入れられず、悲しみの中で別れることを決意。家を出ていく。別れの置き手紙を読んだ何もしらないアルフレードは、
彼女の裏切りに激怒し、彼女を侮辱してしまう。
数ヶ月後、ヴィオレッタは結核におかされてしまい、今や死を目前にしています。そこへアルフレードが駆け込んで真の愛を確認しあい、
彼女に許しを請う。二人はまたいっしょに暮らすことを誓うが、時はすでに遅く、ヴィオレッタは過ぎ去った幸せな日々を思い出しながら、
息を引き取っていった。
ヴェルディの「椿姫」の前作である「リゴレット」は、第16作「葛飾立志篇」で
田所教授が第三幕の「女心の歌」を頻繁に歌っていた。
弁士「と、申しますのも何を隠そう、車博士の甥の満男と泉は
相思相愛の仲であったのでございます」
弁士(満男)「泉さん、泣くんじゃない 勇気を出すんだ」
弁士(泉)「はい」
弁士「が、かねてから、娘の様子を訝しく思っていた強欲な父親は、
腕利きの用心棒を大勢見張らせていたのでございました」
提灯に『伊勢屋」
車寅次郎の家 玄関
ドンドンドン と表の戸を叩く満男。
弁士(満男)「伯父さん、開けて下さい 開けて下さい」
弁士(寅)「誰だ?そこにいるのは?」
弁士(満男)「僕です 甥の満男です」
弁士(寅)「何?満男? どうしたんだ?こんな遅くに。
お?誰か後ろにいるな?」
弁士(満男)「伯父さん、この娘は伊勢屋の一人娘の」
弁士(泉)「泉と申します」
シューマン作曲 子供の情景 作品15op.-7 トロイメライが流れる。
シューマンの『トロイメライ』は、全13曲の小曲からなる《子供の情景 作品15》に含まれ、その7曲目
弁士(寅)「う〜ん、なんと言う美しい娘だ そうか、
お前が思い焦がれていると言うのはこの娘か」
弁士(満男)「伯父さん、実は僕たち」
弁士(寅)「話は後で聞く 中に入りなさい さあ、さあさあ」
弁士(寅)「パンパン、婆や、2階に布団を敷いて差し上げなさい
さあさ、いいから二人は二階へ上がってあ〜遠慮なんかいらない」
弁士「お嬢様、追っ手に見つかった」
弁士(泉)「え?本当?まあ、どうしましょう わたし怖い」
源ちゃん、跳ばされる。
弁士(寅)「この伯父さんに任せなさい 大丈夫いささかの心得はある」
弁士(満男)「伯父さん!」
弁士(泉)「お気をつけあそばせ」
弁士「なんと この車博士は文武両道に秀でた達人。
いかにも自信ありげにと外へと出て行ったのでございました」
弁士(用心棒)「ジジイ!待て!こんな所へしゃしゃり出て!」
寅、相手の手首をひねって倒す。
弁士(用心棒)「こ、こいつなかなか出来るぞ!」
弁士(用心棒)「待て、このオレが相手をする」
弁士(用心棒)「参るぞ!」
泉「おじさま!」
満男「伯父さん!」
寅「講道館八段 車寅次郎」八段になるまで大変な修行だぞ。無理無理ヾ(^^;)
用心棒A「たあ〜〜」
弁士(寅)「でえい!」
弁士(寅)「ワハハハハ、口ほどにも無い奴らめ!ん〜〜」
満男「伯父さ〜ん」
弁士(寅)「でえ〜いだあ〜〜」
満男「伯父さ〜ん」
この満男の声がポンシュウに変わっていく。
これは、第5作「望郷篇」の冒頭の夢さくらの「お客さん」の声が
谷よしのさんの「お客さん」の声に変わっていくパターンのアレンジだ。
宮崎 青島 鬼の洗濯岩
ポンシュウ「おじさーん」
寅「んあ?あー・・・」
ビロウ樹の根元で目が覚める寅。
青島にはビロウ樹が3000本あり、鬼の洗濯岩
といわれる波状岩で囲まれている。
ポンシュウ「おじさーんよお、おじさーん、これおじさんのじゃねえのかい?」
おじさん「どうもすみません」
ポンシュウ「ヘヘへへ、無くしちゃうぞ おい」
寅「あ〜あ、夢か あーあ」
タイトル
男はつらいよ 寅次郎の青春 映倫
口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。
♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前の喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪
♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
目方で男が売れるなら こんな苦労も
こんな苦労もかけまいに かけまいに♪
鬼の洗濯板
赤塚真人さん扮する警察官がやってきて、寅たちに許可書を取らずに店を出しているので
即刻立ち退きを命じる。
寅たちは、他の店も出しているではないかと言うが、
警官は、あの店たちは許可書をすでに取っていると説明。
ポンシュウが警察にワイロを渡そうとする。
警官も手が勝手にポケットへ行くが、途中で気がつき怒る。
寅、それを見て、店を撤収させる。
青島神社でバイをする寅とポンシュウが映り、
警官に止められた後、
宮崎青島の洗濯岩の弥生橋の上で、バスガイドに見とれ、
スーパーボール(映画の中ではガッツボール)を
こぼしてしまう寅&警官たち。
島の南中央にある青島神社は ひこほほでみのみこと(山幸彦)、
后の豊玉姫命、塩椎神(塩椎老翁)を祀る神社。
ひこほほでみのみことは山幸彦として親しまれており、
「海幸彦 山幸彦」の神話はここ青島海岸が舞台となっている。
江戸川土手 朝
博と満男がジョギングしている。
満男「ハアハア、お父さん、おい、ちょっとスピード落とせよ」
博、家の前でへばっている満男に、
博「体がなまってるんだよ 基礎体力が無いんじゃないか?お前。
基礎学力もだけど」
ここで少しさくらたちの家のことについて書いておきましょう。
【諏訪家の建売住宅の推移】
実はさくらたちの住んでいる一軒家は映画での設定はもちろん一度も引越ししていないが、
【第26作〜第40作】【第41作〜第42作】【第43作〜第45作】【第46作〜第48作】
の4回も実際は引っ越している。正確に言えば引っ越してはいないが、ロケに使わせてくれた家が
電車の高架の計画に引っかかったり、隣の空き地が工事が始まったり、で数作作っては
新しい家を見つけるということをしなければならなかったようである。
1番目の家
第26作から第40作までずっと使われた右から2番目の青い屋根小さな茶色い壁の建売住宅。
現在の北総鉄道『新柴又駅』の近く。当時畑があった土手寄りに5件作られた家の右から2番目の
小さな家だった。結局この家は鉄道高架の工事が始まる直前の第40作まで使われ続けた。
2番目の家
第41作から第42作までは東金町の土手の真下。屋根の色は青だが、
家の壁の色が違うので分かった人も多いと思う。
この家は画像で見て分かるとおり台所が左右今までと逆。
それゆえ内部のセットもいままでと左右逆にしていた。
この隣の空き地に家が建つことになり工事が始まったので
第43作からは別の家をロケハンスタッフは探すことになる。
3番目の家
第43作から第45作までの家、江戸川下流、北小岩の土手の真下。
屋根の色は違うが、壁は同じく白いので前作までの家と同じだと思っていた人も多いと思う。
台所は初代の家と同じ位置に戻った。
ここも事情があり、第46作から家を変わらざるを得なくなった。
4番目の家
第46作から第48作までの家。前作までの家よりもう一回り大きい立派な家。
外からの見た目は同じく土手のそばで、壁の色も玄関も前作とかなり似ているので
これはさすがに分からなかった人が多いようだ。台所も同じ位置。
しかし大きさの違いは歴然としているのでさすがに分かるかな(^^;)
さて、物語に戻りましょう(^^)
満男「うるさいなあ 朝からぶつぶつ」
博「明日から毎日つきあえ 徹底的に鍛えなおしてやる」
玄関にモディリアニ「ジプシーの女」の複製が飾ってある。
台所
さくら「どうしたの?」
博「帝釈天まで行ったら、息切れしてさ タクシーで帰ろうなんて
ぬかしやがるんだよ あのヤロウ」
北海道 3.5牛乳
さくら「ダメねえ」
満男、着替えてカバンを整理する。
通学定期 12-7 が落ちる。
泉ちゃんの写真が定期入れの中に入っている。
満男「父さん、今日月曜日?」
博「決まってるだろう?」
満男「うん、と言う事はあした火曜日か」
博「何言ってんだよ」
満男「あーっ…てことはあした、泉ちゃんの店休みだ」何か言いたげ(^^;)
さくら「は、それで?」うまい(^^)
満男「いや、あのこないだ電話したらね、
寮の食事はあんまりおいしくないなんて言ってたし」
さくら「だから?」うまいうまい(^^)
満男「今夜 家へ呼んでもいいでしょうか?」
さくら「フフフ、いいですよ」
博「もう何ヶ月になるかな東京出てきてから」
満男「う〜んと、4月からだから、もうそろそろ半年だよ」
さくら「そうか〜。じゃ、今日は泉ちゃんの
好きなグラタンでも作るかな」ちょっと格好よく言う(^^)
満男「お願いしまーす」
さくら「うん」
満男「じゃ、父さん」
博「うん?」
満男「僕行ってまいります」
博「うん」
さくら「ねえ、帰りは?」
満男「うん?オレ迎えに行くけど、
たぶん7時くらいになるんじゃないかな」
さくら「はい」
満男「じゃ、行って来ます」
さくら「はい、行ってらっしゃい」
博「まったく 泉ちゃんが来るときだけ愛想振りまきやがって」
さくら「それでも、家へ連れてくるだけマシじゃない?」
さくら「普通は外で二人きりで会いたがるものよ」そらそうだ、当たり前(^^;)
博「金が無いからだろう?」
さくら「それもあるかもしれないけど、
ほら、泉ちゃんは母子家庭でしょう?」
博のトレーナー Prince
さくら「お母さんは家で料理つくるような人じゃないらしいし
だから家庭の味を味あわせてあげたいって
気持ちがあるのよ満男には」
博「うん」
そういうところが優しいね、満男は。
泉ちゃんになにが必要かを知っている。
八王子市 『城東大学』キャンパス
八王子には実際、帝京大学や拓殖大学のキャンパスなど多数ある。
第47作で満男が「城東大学経済学部経営学科」と言っていた。
満男「うーす!」
よっちん「おい、欧州経済史 休講」
満男「うそ〜」
友達「ご苦労さん」
満男「またかよ」
そうそうよくあるよね〜、休講って(^^)
ちなみに第47作「拝啓車寅次郎」によると、
満男は経済学部経営学科だ。
柴又 帝釈天参道
さくら、歩きながら
さくら「源ちゃんお早う 御前様元気?」
源ちゃん「へえ」
源ちゃんの買い物かごに『題経寺』
とらや 店
客「おいくら」
三平ちゃん「はい、えーっと1000と30円になります」
客「じゃ、ちょうどね」
三平ちゃん「はい、ありがとうございました」
さくら「ありがとうございました」
客「ご馳走様でした〜」
さくら「三平ちゃん?」
三平ちゃん「はい」
さくら「公民館に届けてくれた?」
三平ちゃん「さっきね、車で取りに来てくれました60箱も」
さくら「じゃ、よかった」
おばちゃん「あ、よかった」
さくら「おはよう」
さくら「あら、お月見なのね今夜は」
おばちゃん「家でご飯食べよう」
おばちゃん「なんにか美味しいもの作るから」
さくら「あら、困った」
おばちゃん「どうして?」
さくら「今夜泉ちゃんが遊びに来るのよ。満男のガールフレンドの」
おばちゃん「じゃあ、家でにぎやかに食べればいいじゃない?」
さくら「う〜ん、でも満男が家で食べるって決めちゃってるし」
おばちゃん「あの子さっぱり家に来ないけど 嫌なのかね、家へ来るのが」
さくら「そんな事ないわよ」
おいちゃん「しょうがねえよ、お前年寄り夫婦の顔見ながら食べたってうまかねえんだろ
満男にしたって泉ちゃんにしたって」…おいちゃん(TT)
おばちゃん「かわいくないね〜あ、三平ちゃん、今晩家でご飯食べないかい?」
三平ちゃん「あ」
おばちゃん「お月見だし」
三平ちゃん「すんません今晩友達と約束が」
さくら「ガールフレンド?」さくらって結構こういうこと言うよねえ(^^)
三平ちゃん「いやあ・・・」
社長やって来て
社長「いやあ〜やれやれ う〜ん、ん、」
おばちゃん「社長、たまには家でご飯食べないかい?」おばちゃんそこまで…(TT)
社長「ダメダメ 今夜税務署と飲むんだから」敵なのに…呉越同舟
さくら「いいじゃないの、おいちゃんと差し向かいで仲良く食べれば」
おばちゃん「あんなオヤジの顔見ながら食べたっておいしくなんかないよ〜」
おいちゃん「ばか、こっちのセリフだい」
社長「アハハ」
おばちゃん「あ〜あ、こんな時に寅ちゃんがいてくれたらねえ〜、
あの子は優しいから『いいよ おばちゃん つきあうよ』
な〜んて言ってくれっかもしれないねえ〜」
ある意味そうだが、ある意味甘いね。泉ちゃんのところへ行っちゃうかも(^^)
社長「と言って懐かしがってる内が花だよ フハハハ・・・はいいらっしゃ〜い」
ほんとほんと(^^;)
表参道
泉ちゃんの勤めるレコード(CD)店
カワイ ミュージックショップ 青山
渋谷区神宮前5−1
満男が泉ちゃんに会いにやってくる。
現在の同じ店。名前が変わって「カワイ表参道(KAWAI OMOTESANDO」ピアノ専門店&スクール
追加事項 2010年3月 記す
実はこの店のピンポイントの場所と当時の名前は、お馴染み敬愛する寅友の
寅福さんが2010年3月に現地調査によって見つけられたものなのだ。
「表参道」までは当時の資料に書いてあるのだが、そのあとがわからなかった。
寅福さんはその少し前にも満男が勤める「光陽商事」を見事に見つけられた方だ。
泉ちゃんの店の詳しい内容は
寅福さんのサイト『男はつらいよ 飛耳長目録』をご覧ください。
現在のお店一階はピアノ販売専門の『カワイ表参道(KAWAI OMOTE SANNDO)』
になっている。
高校時代、泉ちゃんは楽器店に勤めたかったので
もしずっと勤めていれば彼女はどんなに喜んだことだろう。
HPは↓
http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
店内
嵐のカーニバル 1988
胸騒ぎだぜ青い稲妻
二人の恋を引き裂くように
つりあわないと禁じられても
愛して愛されていた
飛び交う雨にずぶ濡れのまま
かきいだくのさ二人のメモリー
燃えた分だけ派手に決めるゼ
今夜がラストのsea side
誓うさ5千万回生まれ変わっても
きっときっときっと
お前に出会ってみせる
誰にもハンパな恋と
呼ばせやしないさ
涙は吹っ飛ばせハリケーン
baby baby 嵐のカーニバル
HILLBILLYBOPSの歌は後半でも蝶子さんの弟の竜介が歌う場面で出てくる。
店内のポスター
徳永英明 希望のベストアルバムの貼り紙。
これは当然だ。満男シリーズを歌っている人だからね。タイアップ(^^)
ZARD NEW ALBUM 『HOLD ME』 のポスター。
ZARDの3枚目のアルバムであり、ZARDの躍進のきっかけとなった作品集
満男、カウンターにいる泉ちゃんの近くまでやって来る。
泉ちゃん気づいて、ちょっと微笑む。
満男「すみません」
泉「はい」
満男「あの〜モーツァルトなんか探してるんですけど」うそ八百(^^;)
泉「はい」
店長の後を通って、満男に近づき、
モーツアルトの売り場に案内する泉ちゃん。
ちょうど店内からタイミングよく
モーツアルトの『フィガロの結婚』序曲が流れてくる♪(^^)
泉「モーツァルトと言ってもいろいろありますけど
管弦楽とかオペラとかピアノとか アハ・・」
満男「ねえねえ、今夜家こないか?
母さんごちそう作って待ってるって」
泉「うん」
満男「いつもの時間に裏で待ってる」
泉ちゃん頷いて、
泉「どうぞ、このへんがクラシックですから」とカウンターに戻っていく。
満男「あ、そうですか」
満男、歌劇『フィガロの結婚Le Nozze di Figaro ウィーン交響楽団』
を取り出して
満男「フィガロの結婚・・・結婚かあ〜」と、にやつく。
寅だよ、それじゃああ…(^^;)
歌劇 フィガロの結婚 ウィーン交響楽団 ・・・Le Nozze di Figaro
モーツァルト三大オペラ「フィガロの結婚」、「ドン・ジョヴァンニ」、「コジ・ファン・トゥッテ」のひとつ
Le Nozze di Figaro
作曲者:モーツアルト
作曲年:1785〜86年
台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ
初演:1786年5月 ウィーン ブルク劇場
諏訪家 夜
仕事を終えて博が自転車で帰ってくる。
家の中から3人の声が外に小さく聞こえてくる。
満男の声「アハハ・・・」
さくらの声「そう言えばねピーマンも嫌いなのよ」
泉の声「本当に?」
満男の声「嘘だよ嘘絶対に嘘」
満男の声「昔から食べてたんだからピーマンは」
さくらの声「嘘よ何言ってんのよ」
満男の声「幼い頃から丸かじりで食べてたんだから」
さくらの声「よく言うわよ」
満男の声「アハハ」
第43作「寅次郎の休日」では、
サラダからピーマンを全て抜き取っていたくせに(^^;)
それに子供の好き嫌いは潜在的に親の影響もある。
博、玄関から入ってくる。
博「ただいま〜」
さくら「おかえんなさい」
博「いや、いらっしゃい」
泉「おじゃましてます。」
満男「ご飯済んだの?」
博「ああ、得意先と一緒にな」
さくら「ねえ、これすんだの?」
満男「うん」
泉「ビールいかがですか?」
博「泉ちゃんのお酌か、じゃ一杯だけ」
さくら「はい、これお父さん」
博「おいしかったかい?晩ごはん」
泉「もうお腹いっぱい フ、」
泉「おばさん本当に料理上手よねえ
今度教えてもらお、グラタンの作り方」
さくらちょっと照れる。
さくら「お腹すくんだって、ほら、一日中立ちっぱなしでしょう?」
博「どう?仕事だいぶなれた?」
泉「う〜ん、すごい数のCDでしょう?タイトル覚えるのが大変」
満男「いろんな客がくるんだろう?へんなやつとか。」
泉ちゃん、何かを思い出してクスクス笑い出す。
泉「フフ・・・」
満男「???どうしたの?」
泉「こないだね、面白いおじさんが来たの」
満男「うんうん」
泉「『よお、よお、お姉ちゃん、
オレ好きな歌あんだけどよ探してくんねえか』って言うから
なんて歌ですかって聞いたら歌手もタイトルも知らないって言うの」
満男「はは」
博「え〜」
さくら「あら」
泉「それじゃ探しようがありがありませんって
言ったら『じゃオレ歌ってみっからよ』って
いきなり歌いだしたの ♪今じゃ〜 さびぃれてエー・・・
♪オンボロロ、オンボロボローロ』」
博「♪オンボロロ、オンボロボローロ」博も一緒に歌う
泉「それが上手なのよ、あたし感心して聞いてたら
その人二番まで歌っちゃって」
一同「アハハ・・」
さくら「なんていう歌?」
博「北原ミレイ 石狩晩歌」
石狩挽歌
なかにし 礼 作詞 浜 圭介 作曲
海猫(ごめ)が鳴くから ニシンが来ると
赤い筒袖(つっぽ)の ヤン衆がさわぐ
雪に埋もれた番屋の隅でわたしゃ夜通し 飯を炊く
あれからニシンは どこへ行ったやら
破れた網は 問い刺し網か
今じゃ浜辺でオンボロロ オンボロロー
沖を通るは 笠戸丸
わたしゃ涙で にしん曇りの空を見る
燃えろ篝火 朝里の浜に
海は銀色 にしんの色よ
ソーラン節に頬そめながら
わたしゃ大漁の網を曳く
あれからニシンは どこへ行ったやら
今じゃさびれてオンボロロ オンボロロー
かわらぬものは古代文字
わたしゃ涙で 娘ざかりの夢を見る
泉「そ。でね、あたしもようやく分かって『はい、これです』って渡したら
その人5千円札出して『お釣りはいらねえよ』だって。
あたし慌てて追っかけてったの」
一同「アハハハハ」
満男「いるんだねえ〜おじさんみたいのが」
さくら「本当ねえ」
泉「おじさんて?寅さんのこと?」
満男「そうだよ」
泉「わあ〜なつかしい〜」
博「そう言えばずいぶん帰らないなあ、兄さん」
さくら「そうねえ」
泉「会いたいなあ〜今どこにいるんだろう?」
満男「どっかの田舎の呑み屋で歌ってんじゃないの?
オンボロぼろぼろ・・・ぼろぼろ・・だっけ?」
さくら「あ、いいのよ 座ってなさいよ」
と泉が茶碗を持ってくるのを制する。
泉「いえ」
満男「いいよ、後で俺がやるから」うそ八百(−−)
博「調子のるんじゃない」
泉「…じゃあ、あたし、そろそろ」
さくら「あら?もう帰るの?」
と、満男の方も見るさくら。
満男びくびく必死で首を振って、いやがる(^^;)
泉「寮の門限があるから」
さくら「私が電話してあげるから泊まっていきなさいよォ」
満男おろおろ必死で頷いて肯定する(^^;)
泉「でもこないだもおじゃましちゃったし・・・」
さくら「いいのよ遠慮しないで」
博「そのつもりでいたんだろう、ウチも」
満男泣きそうな顔で必死で頷いてまたもやアピール(^^;)
さくら「うん ね、そうなさい。まだお茶も飲んでないんだし。
それとも明日用事でもあるの?」
さくらは、こういう時は躊躇せず押しまくるのだ。
優しいね。歌子ちゃんの時も、リリーの時もそうだった。
満男「無いだろう?」
泉「別にお洗濯したり、ママに電話したり、そんな事だけど・・」と、小さく答える。
満男「だったらいいじゃないか、おふくろもああ言ってんだし」
不安げな満男(^^;)
泉「…」
泉「じゃあ、そうしよっかな」と微笑む泉ちゃん。
満男の顔が急に輝き喜んで
満男「よし!オレ布団敷いてくる」
博「じゃ、お風呂の用意してくるからね」
パパさん、あなたまで…(^^;)
さくら「あらあら、よく働く事」と笑っている。
泉「すみません」
さくら「いいのよ」
さくら「名古屋のママ元気?」
泉「景気が悪くてお客さんが来ないなんて、ぐちばっかり言ってます」
さくら「電話してあげなさいよ」
泉「はい」
名古屋
ママが働いてるクラブ『礼』
電話が鳴る トルルルル・・・トルルルル・・・
ママ「はい、クラブ『礼』でございます」礼子さんだから『礼』
ママ「なんだ、泉か ん?体?うーん、
あんまり良くないけど休むわけにもいかないしね。
えー?満男君の家にいるの?今夜泊まる?
あら〜ねえ、ちょっと満男くんのお母さん
呼んでお礼言うから。
ほれ、ホーク、ボリューム下げてもしもし、奥さまですか?
まあ、いつもいつも泉がお世話になっております名古屋で
働けばいいのにね、どーしても東京へ出たいだなんて、
そちら様にまでご迷惑おかけして、どうぞよろしくお願いします。
そうなんですよ 奥さま聞いてください。
もうこの不景気でね痛めつけられておりますの。
あら、ちょっとお待ちください。
(客が数人入って来る)
いらっしゃい あら珍しい さあどうぞどうぞさあ、
どうぞほら、ジーナ。あんたのパパ来たわよ」
第43作「寅次郎の休日」でも礼子さんとさくらは電話で話をしていた。
ジーナ「あーらお久しぶり〜」
ママ「ほら、コート取ってちゃんと んも〜気が利かないんだから
あのコたちは〜そこ置いときなさい」
諏訪家 ニ階の泉ちゃんの泊まる部屋
(寅のためにとってある部屋)
結局寅はこの部屋に第34作「寅次郎真実一路」で
一泊しただけだった。
満男 泉ちゃんの布団を敷きながら
満男「オンボロ ぼろぼろ・・・」
泉ちゃん、さくらにパジャマ貸してもらって入ってくる。
これは第43作「寅次郎の休日」でさくらに買ってもらった
あのピンクのパジャマだねきっと。でも第43作は上が白。
今回は上下ともピンク。
泉ちゃん、パジャマを持って部屋の前にやってくる。
満男「ママに電話した?」
泉「うん」
泉「満男さんによろしくって」
満男「うん こんな時間に働いてるんだ泉ちゃんのママは」
泉ちゃん、畳の上に座って、足を辛そうに手で揉む。
泉「痛いの。一日中立ちっぱなしだから」
満男、そんな泉ちゃんを見てドキドキしながらも心配になる。
満男「つらいか?仕事?」
泉「懐かしい…、高校のブラバンでフルート吹いてたころが」
満男「ウン・・・」
泉「しのぶ覚えてる?木村しのぶ」
満男「泉ちゃんの親友だろ?スネアドラムたたいてた」
ちなみに満男の楽器は大きな「スーザフォン」
泉「あの子結婚するんだって」
満男「ええ?誰と?」
泉「高3のとき九州旅行の時知り合った人でね宮崎の人だって」
満男「ワァ〜じゃあ結婚第一号だろ〜」
泉「フ、うん」
泉「どうしてもあたしに結婚式に来て欲しいって切符送ってきたから行くの」
満男「どこまで?」
泉「宮崎 初めて取るの有給休暇いいでしょう?」
満男「へえ〜いいなあ〜宮崎かー…」
イヤリングをとっている泉ちゃんの大人びたその後ろ姿を
見ながら胸がキュンとなる満男でした。
さくら、下から声「泉ちゃん、お風呂どうぞ〜」
泉「は〜い」
満男「オレも行こうかな〜」
泉「だめよ〜先輩が来たら困るわよあの子」
満男「どうして?」
泉「知らないの?しのぶ先輩の事好きだったのよ」
と、いたずらっぽく満男を見つめる泉ちゃん。
満男「嘘だよ、それ、何かの間違いだよそれ ウワ・・・」
動揺して階段から落ちる満男。
ドスン ドスン・・・
満男「いってェ・・・いてててて」
さくら「何やってんの〜」
泉「フフ・・・」
満男「いてェ 落ちた」
さくら「もう・・・泉ちゃんが来てて落ち着かないからよ」
満男「うるさいな もう」
泉ちゃん服のまま布団に寝転んで放心する。
泉「はあ・・・おんぼろろ・・・おんぼろ、ぼろろー・・・か」
宮崎県日南市 油津(あぶらつ)
堀川運河と堀川橋
もともとは江戸時代、主に飫肥杉を運ぶために作られた運河。
堀川開削の工事は、1686年(貞享3年)の春の完成まで、
およそ二年四ヶ月の期間を要した。
堀川橋は1903年(明治36年)に完成。通称を「乙姫橋」
堀川橋は1999年(平成11年)に文化庁の有形文化財にも登録。
船の音 トトトトト・・・
蝶子さんの床屋さん
チリリーン
床屋のドアを開ける。
こども「バイバイーイ」
蝶子さん「バイバーイ」
チリリーン・・
表示 2時までお昼休み
蝶子「こんにちは」
自転車の人「こんにちは」
蝶子「こんにちは いい天気ね〜う〜ん」
堀川橋すぐそば。
喫茶 『いづや』 お食事
蝶子「あーあ!どっかにええ男でもおらんじゃろか〜
沖縄でん北海道でんついていくっちゃけんど、そんな男がおったら」
寅「おねえさん その男・・・このオレじゃダメかな?」
蝶子「聞こえたですか〜」
寅「フフフ そんな大きな声だしゃ
表通り歩いてたって聞こえるよ お、ごちそうさま」
蝶子さん、照れる。
店のおかみ「はい」
寅「そちらのおねえさんの分も取っといてくれ」
蝶子「ダメよそんなぁ!」
喫茶店いづや
KIRIN
ホットコーヒー 300円
アイスコーヒー 300円
紅 茶 300円
ホットミルク 300円
寅「まあ、いいさ、ちょいとだけいい男ぶらしてくれよ。
ん…じゃあな」
船が飫肥杉を運んでいる。
「弁甲材」を筏に組んで堀川運河を曳く「弁甲流し」
江戸時代、伊東氏が飫肥藩財政の中心として飫肥杉による林業振興を進めるようになると、
油津港は木材の積出港として活気を取り戻すことになった。そして1686年(貞享3年)、
広渡川河口部と油津港とを繋ぐ堀川運河の開削が完了すると切り出された木材の港への搬出の効率は
飛躍的に向上、油津港から「千石船」に積まれて送り出される「弁甲材」は藩財政に大きな富を
もたらすことになった。
寅、堀川橋の上で
寅「あれえ?まだ5千円残ってると
思ったんだけど まい…ったな、こりゃ」
蝶子さん、後を通っていく。
寅と目が合って、
蝶子「さっきはごちそうさまあ…」
寅「ああ もう昼休み終わったのかい?」
蝶子「うん」と、寅の方に歩み寄る。
寅「ん」
堀川橋から堀川運河(油津運河)を眺めるふたり。
寅「静かな町だね」
『飫肥杉』を運ぶ船が堀川橋を渡っていく。
(なぜかつい数分前と全く同じ船。まあいいとしましょう(^^;))
飫肥杉は油分が多く腐りにくい。400年の歴史があるブランド。
渥美さんは、このロケ時に
そばにいた阿部助監督にこう言ったそうだ。
「この河をずっと眺めて少年が育った時と、
そうでない時とでは彼の人生は違うだろうねー」
そういうことをふと感じさせるような風情のある運河だった。
蝶子「どこ行くの?これから〜」
寅「さあ〜どこ行こうかな」
蝶子「散髪していかんね?」
寅「え?」
蝶子「うん、だいぶのびちょるがね」
寅「そうかい」
蝶子「あそこよ」
蝶子の店
カゴのカナリアが鳴いている。
モーツァルト クラリネット五重奏曲 イ長調
K.581 第二楽章
が赤いカセットデッキから流れている。
モーッアルトのころはクラリネットという楽器はまだ出始めで、ようやくオーケストラの仲間入りを
し始めたという時期だった。モーツァルトはその音の魅力に即座に気付き、友人のクラリネット奏者
シュタードラーの為にこのクラリネット五重奏曲を完成させ高音部から低音部まで幅広く使うことによって
その特性を余すことなく引き出し一貫して叙情的に仕上がっている。クラリネットがもつ素朴な音色の
温かさと、魅力を最大限に発揮させながら、弦楽アンサンブルと見事に調和した世界を作りだしていった作品。
これぞ室内楽の極み、ともいえる名曲だ。
蝶子さんにシャンプーをしてもらってる寅。
この洗髪のシーンは、お馴染み助監督の五十嵐敬司さんの吹き替え。
彼の著書によると、何度もテストをして辛かったそうだが、風吹ジュンさんに髪の毛をずっと
洗ってもらって吹き替え冥利につきるとのことでした(^^;)
蝶子「たおします」
イスをそっと倒す。
カナリアの声
髭をそるためのタオルをあてる。
寅、ちらっと泡立て作業をする蝶子さんの足を見てしまう。
寅、ドキッとして、そしてまた目をつぶる。
カセットデッキからは相変わらず優しく
『モーツアルト クラリネット五重奏』第2楽章が流れている。
蝶子さん、寅の顔に体を寄せて髭剃りナイフで髭を剃っていく。
微笑む蝶子さん…。
南国の午後の風に揺れるカーテン。
弟の竜介、低気圧が来るので仕事が
延期になって家に戻ってきた。
竜介「雨かア??」
家のドアを開ける竜介
蝶子「あれ〜?沖縄いくとじゃなかったね〜?」
竜介「低気圧がきちょっかい、引き返してきた。
2〜3日はダメだなこりゃは〜ら減った〜」
と、家に戻ってくる。
寅「なんだい、いるじゃないか、いい男が」
蝶子「弟よ。15も年下の」
寅「あ、弟か」
蝶子「うん」
寅「お〜」
蝶子「ちんさい貨物船の船乗りよ」
寅「へえ〜マドロスか」
蝶子「うん」
寅「そらまた粋な仕事してるな おい」
ラジオ「変わって天気予報です。え、まずは・・・県全域に・・・
宮崎県の平野部にも波浪警報が・・・熊本県の天草には波浪注意報
えー長崎県の・・・その他の海域は4メートルの見通しです・・・
鹿児島県です。奄美は曇りですが・・・は曇り時々晴れ鹿児島は曇りで・・・」
蝶子「ウフフフ・・・お待ちどうさま〜」
と鏡でチェックさせる。
寅「うん?あーどうもごくろうさん」
自分の髪を鏡で見て、
寅「どうもありがとうねー
はい、釣りはいらねえよ とっときな」サイフから札を取り出し、
2千円払う寅。
さすがに今時床屋さんは最低3千円はするだろう。
蝶子「ああ…、」
寅「うん」
蝶子「…ありがとうございます」
蝶子さん、さっきコーヒーおごって貰った&自分が散髪を誘ったので、
すぐにOK(^^;)
入り口のガラス戸から外を見る寅。
寅「いえいえ」
寅「さーて お?雨か?」
ピチョピチョと雨が落ちる。
遠雷。
やがて本降りに…。
寅「う〜ん、まいったな」
蝶子「急がんとでしょ?雨宿りしていけば?」
かなりの豪雨になっていく。
竜介「ねえちゃん」
蝶子「うん」
竜介「当分止まんでこの雨」
蝶子「あー船乗りがあんげいっちょるよ。
あきらめてゆっくりしていったら?」
寅「そうだね それじゃあその椅子でもお借りして…」
蝶子「竜介、あたし晩ごはんの買いもんしてくるから。
さあさ、どうぞ」
ドアを開けて
蝶子「 ウア!すごい雨・・」
と、外に飛び出していく蝶子さん。
チリン チチン・・・
ゴロゴロゴロ・・・
豪雨の中スカートのすそをまくりながら
急いで走っていく蝶子さん。
皆さんご承知の隠れ名シーンです、はい(^^;)
蝶子さんの居間
食事を終えて…。
竜介がギターをゆったり爪弾いている。
スコットランド民謡『アニー.ローリー(Aninie Laurie)』を奏でている。
17世紀のスコットランドに実在した貴族の娘アニーローリーへの愛を、ウィリアム・ダグラスが歌ったもの。
蝶子「よう降るねえ」
寅「ああ」
寅「南国の雨か....」いいねえ、この言葉…( ̄ー ̄)
寅のお茶を持つ手が右手からパッと左手へ((((^^;)
寅「あーすっかり御馳走になっちゃったね。
さてと・・・、
今から汽車ってわけにもいかねえな。
おねえさん、どっか手ごろな宿ねえかね?」
蝶子「フフ・・・」
寅「フ・・」
蝶子「フフフ・・・」
寅「なに笑ってんだい?」
蝶子「ん?さっきお金もらう時財布の中身
みてしもうたが、空っぽだったじゃがね」
寅「見たのか?」
蝶子「ウフフ」
寅「ふふ、実はね、このトランクの中に
札束がビッシリ入ってるんだよ
重くってしょうがない」
またまたいいねえ〜この感覚。
蝶子「アハハハハ」
寅「ヘヘへへ」
蝶子「まあ、遠慮せんで泊まっていきんさいよ。
ねえ、あん子の部屋ば広いから
一緒に寝ればいいがねえ、竜介?」
竜介、頭を縦に振る。
寅「じゃあ、まあ、お言葉に甘えてそうさしてもらうか」
蝶子「そうしな」
寅「うん、へへ あ、兄さん。
オレはまだ氏素性も申し上げてなかったな。
オレは、東京は葛飾柴又の車寅次郎という者だ」
蝶子「わたしは蝶子。 蝶々の蝶。」
寅「あ〜、きれいな名前だねえ、
花から花へ蜜を求めて舞い遊ぶ蝶々か・・・」
蝶子「今じゃ、しおれた花にしがみ付くように
こん町にべったり張り付いとるとよ」
いやはやこれは詩人だねえ〜(^^)
寅目が輝いて、
寅「あ〜うまい事言うねえ〜」ほんとほんと
蝶子「さ、のもお」
寅「よし!こうなったら腰すえてやるか!な!おい、
兄ちゃんあの〜今風の歌をな何か派手にパーッとやってくれ。な、」
ギターで『For the boys・・・』を演奏し始める竜介。
竜介「♪蒼い三日月 非常階段 くたびれた冬」
寅「くたびれたってよ」
竜介「♪静けさの音 爪先立ちに進む足取り
明日がどこか分からないけれど」
『For the boys・・・』
作詞:谷穂チロル 作曲:久保田 さちお
歌 永瀬正敏
蒼い三日月 非常階段
くたびれた服 静けさの音
つま先立ちに 進む 足どり
明日が どこか わからないけど
乗れないリズム 古いマニュアル
反比例する 僕たちの時間
ちょっと変わった
コミックスの様な
危ない話に のってみたくなる
※夢見る頃を過ぎた
僕たちまるで地図のない
裸の D-N-A
落としたピアス 気まぐれな風
消えた街鐙 背の高いビル
伸ばした指に たったひとつの
確かなものは 君のぬくもりさ
(※くり返し)
夢見る頃を過ぎて
夢見る頃を過ぎて Ah
夢見る頃を過ぎても
飛行機が霧島屋久国立公園の上を飛んでいく。
泉ちゃんを乗せた全日空機のカメラは
霧島屋久国立公園の北、えびの高原付近から
南東を映し出している。
画像手前一番左が甑岳、
手前の丸い池が六観音池、
その右に白紫池、
中ほどの大きな山が韓国岳(からくにだけ)、
その右のくぼみの中に大浪池がある。
そのむこうに中岳、新燃岳、獅子戸岳が見える。
そして遥か彼方に聳え立つのが霊峰高千穂峰。
泉ちゃんがしのぶちゃんの結婚式に出席するために
宮崎に向かっているのである。
結婚式の祝婚の嫁取り歌が流れる。
嫁取り歌(ごぜむけ唄)
これは宮崎県の『嫁取り歌』のひとつで、
『長持ち唄』と呼ばれている。(高崎町)
●婚礼の席を彩る民謡
婚礼の席を華やかに彩る「嫁取り唄」は県内各地に歌い伝えられているが、
中でも霧島山ろくの「ごぜむけ唄」は、独自の歌唱形式を持つ、
風土色ゆたかな民謡である。ごぜむけとは、方言の「御前迎え」の意で、
花婿側が飾り馬を仕立てて花嫁を迎えに行く、古くからの風習を指す。
その進行に伴って歌われる一連の唄(うた)が「ごぜむけ唄」で、
「馬方節」「嫁女の唄」「長持唄」などとも呼ばれている。
もろたもろたよ よか嫁もろた よか嫁見るなら はよ出ておじゃれ
祝い唄に続いて、座くずし唄がにぎやかに歌い踊られ、場が盛り上がってお開きとなる。
「♪もろたあ〜たあ〜よ〜お〜〜ほおおお・・・」
アナウンス
ポォン・・・「飛行機は徐々に高度を下げております。ゆれる事もございますので座席ベルトをお締め下さい」
「♪もろた〜たあよなあ〜」
霧島屋久国立公園は、鹿児島県及び宮崎県にまたがる火山郡の霧島地域と
桜島を中心とする錦江湾地域、南方海上に位置する屋久島地域に分かれる。
霧島地域は最高峰の韓国岳、新燃岳、高千穂峰等20数座の火山が
集まった山々で、大浪池、御池などの火口湖を有している。植生も豊かで、
山頂付近のミヤマキリシマ群落から、高度を下げるにつれミズナラ、ブナ等の
落葉広葉樹林、さらにモミ、ツガ等の常緑針葉樹林に覆われている。
また、えびの高原のノカイドウ群落は天然記念物。
1939年(昭和9年)に日本初の国立公園に指定された。1964年には新たに広範囲に
組み替えられて今の霧島屋久国立公園となった。
着陸
キイィィーーン・・・ギギギ!!
ANA 全日空
飛行場 MIYAZAKI
「♪よかあ〜よ〜め、もろたよ〜〜」
宮崎都城 山之口麓地区 前田家
いわゆる薩摩の直轄地.
内城に対して外城(とじょう)と言う。
【麓】という
直々命令の派遣で「郷士(普段農業、有事は武士)たちが
移り住んで直接本家の薩摩に仕えた。
地頭仮屋(役所)をまず置いて
国境警備や関所業務もおこなった。
この家はその16代目当主 前田さん。
そして泉ちゃんの親友の木村しのぶさんの嫁ぎ先だ。
宮崎民謡 『安久節(ヤッサ節)』を歌い踊る披露宴の客たち。
御息女(おごじょ)こらこら 簪が落ちた 持たぬ簪ゃ オハラ落ちはせぬ
囃(はや)し、
♪ヤッサヤッサでこん(大根)のヤッサ
切らずにのそかい一刀両断、気持よさ !
ヤッサヤッサ、ヨサッサヨイトサ
泉ちゃん、静かに座っている。
おばあさん「どっからおじゃったか?」
泉「東京からです」
しのぶ、着物姿で、泉の前に寄ってきて
しのぶ「泉、よく来てくれたね」
泉「幸せになってね」
しのぶ「…うん」感無量で目を潤ませている。
泉ちゃん 日南交通のバスに乗っている。 窓に遠く飫肥杉が見える。
日南の小京都 飫肥(おび)
飫肥城址 大手門
この復活した大手門は飫肥杉を使用し釘を一切使用せず作られているらしい。
門をくぐると資料館、松尾の丸がある。
伊東氏 飫肥藩5万1千石の城下町。
日南の小京都と言われる美しい町。
この城は、島津氏と伊東氏で長い争いが続いたが、天正15年、豊臣秀吉の九州征伐後、
その功により、伊東祐兵が秀吉より飫肥57,000石を与えられ日向に戻ることとなった。
関が原では九州で唯一の東軍に参加。それゆえ、以後、伊東氏は明治初期まで14代も続いた
観光客「あ、おじさん、これ押してください」
寅「おお え? おお、 何だい?これ押せばすぐ写るんだな?」
観光客「うん」
寅「よってよってよって はい、いいかい? ほ〜ら撮った ヘヘへへ」
観光客「すみません 有難うございました」
寅「はい、あばよ」
一同「有難うございました〜」
寅「はい」
泉ちゃん、寅を見つけて呆然と見つめている。
寅「何だお嬢ちゃん、一人で観光か?
え?ああ、ボーイフレンドと車で
一緒に来たんだ うん それじゃな へへ」
泉「私を忘れたの?」
寅「え〜っと ど、どなたでしたっけねえ〜
あ!思い出した!満男のガールフレンド な!フフフ
清水ちゃんだよ。ん…小川ちゃんだ。
泉ちゃん泉ちゃん」それじゃおばちゃんだよ ヾ(^^;)
泉「ひどいおじちゃま」
と、石段を走って駆け上がって寅に抱きつく泉ちゃんくる。
寅「いやあ〜ごめんごめん。
あんまり美人になったんでな、見違えちゃったい」
第44作「寅次郎の告白」でも鳥取、倉吉の白壁土蔵群であった時は
すぐに『泉ちゃん』と言えたのに
この第45作では間違えまくり。泉ちゃん可哀想…。
ちなみにおばちゃんはリリーのことを「ジュリーさん」「メリーさん」
ぼたんのことを「リボンちゃん」とのたまう。
泉「ねえ、どうしてこんな所にいるの?」
寅「わかんねえんだ、アハハハハ」
いいねえ〜、この感覚(^^) このセリフ見事な脚本です。
泉「フフフフフ」
寅「そうだ、お茶でも飲みにいこうか」
泉「下に茶店があった」
寅「よし!よし!行こう行こう なっ」
泉「うれしい おじちゃまに会えて」
寅「そうか」
蝶子さん、二人を見て、
蝶子「寅さん、帰りはこっちじゃが…」
寅「え?あ・・忘れてた・・・」 まじかよヾ(^^;)
蝶子「お知り合いね?」
寅「う、うん そうなんだ
あのー・・泉ちゃんと言ってあの〜甥っ子の」
泉「おじちゃま」
寅「え?」
泉「あたしの事ならいいのよ それじゃ」
と気を使って石段を一人下りて行く。
寅「いや、あの、ちょ、ちょっと」引き裂かれた心持になる寅。
蝶子「寅さん どうぞそのお嬢さんと。
私は家に帰ってるから」
ちょっと怒ってる感じ。
寅「ちょ、ちょっと待ってよ・・・」アタフタ ヾ(・・;)(;・・)〃
泉「さようなら〜」
寅「泉ちゃん、そんな ア!!イタ!イタタ!
あいた・・・あー痛え・・
あいたあいたたた・・・ウア〜イツッ・・」
蝶子「あー!」
寅「あ、折れた・・・折れた・・あ!痛い!」
泉「どうしたの?」
寅「あは!あはは!あは!」目がペケ
蝶子「大丈夫ね?」
寅「あ!いたい!いたい!」
泉「痛い?」
寅「いたい…」
泉ちゃん、ほんの少し足に触れる。
ボキキ!
寅「ア!あーっ!」
泉「ごめんなさい」
寅「今・・・今折れたかもしれない・・・」
蝶子「ええ・・」
寅「ボキーって音したから」
泉「あ、大変 救急車」
蝶子「あ、お願い、こん向こうに電話があるかい」
泉「あ、はい」
寅「ア、ア・・・あ、あたた・・・」
お巡りさんが通りかかる。
蝶子「あ、こっちへ・・・あ!加藤さん!」
警察「あ、どうしました?」
蝶子「けが人です」
警察「大丈夫ですか?」
蝶子「ええ、今電話で救急車おねがいしましたけど・・」
警察「私からも呼んで見ましょう・・九〇(キュウマル)地区から
本署へ えー・・・飫肥城にてけが人発見。
救急車お願いしたい 了解 至急お願いしたい」
寅にとっては、第2作「続男はつらいよ」、第22作「噂の寅次郎」、
に続き3回目の救急車でした(TT)
柴又 とらや
満男薪を割る
満男「ハ・・・クソ!」ガッ ころん・・・
博「どうしたんだ?お前」
満男「アルバイト 時給1000円」
博「金とってやってんのか?」
満男「冗談だよ冗談 ボランティアです・・」
博「まったく・・」
満男「おりゃ〜〜 ドウ・・ あっイッ・・・ッテ」
博「兄さんからハガキが来たんですって?」
おばちゃん「生きてたんだよあの男」
博「あ、すみません なあんだ、宮崎にいるのか。
『前略 みんな元気か 宮崎はいい所だ。温泉の少ないのが玉にキズだが
魚は美味いし女は綺麗だ、あばよ。 車寅次郎』・・・なんだこれ?」
おばちゃん「ねえ〜腹が立つじゃないか、
私たちがこんなに心配してんのに」
おいちゃん「気が向いた時にふら〜っと帰ってきて えらそうな口きいて」
おばちゃん「あの男の事なんかもう考えるのよそ」
おいちゃん「死んだと思えばいいんだ あんなやつ」
おばちゃん「そ!」
博「ひどい事になったな」
自分の居所を一応知らせたわけだから、
そんなに怒らなくてもいいとも思うが(^^;)
電話が鳴る チリリリリリーン!
三平ちゃん「はい、くるまやです ハイ・・・ちょっとお待ちください。
宮崎県から泉さん言う人から電話です」
博「泉ちゃん?」
博「そうか、そう言えばあの子も宮崎いってるんだな」
満男、空中を飛ぶように電話口に走り、
満男「俺が出る!!! もしもし!
泉ちゃん!???オレだよオレオレ」
おばちゃん「あ、びっくりした・・」確かにおばちゃん意味分からんよねえ( ̄ー ̄;)
満男「うん、 あの、どうしたの?え?大変な事?」
泉「手短に言うわね、おじちゃまが足をケガして
病院に運ばれたの」
竜介がテレフォンカードを渡す。
泉「あ、すみません。
私、今その病院にいるの」
満男「ちょ、ちょっと待って、
大変だよ 伯父さんが大怪我して入院したって!」
おばちゃん「ええ!命は大丈夫かい!?」
満男「さあア・・・危ないんじゃないかな?」適当なこと言うんじゃない(−−)
満男「もしもし、命はどうなの? じゃあ、まだ生きてるんだな
とにかくさ、オレすぐそっち行くよ」
泉「満男さんが?そりゃあ、来てくれれば助かるけど・・」
竜介「これ病院の住所」
泉「うん でも大丈夫なの?大学の方は」
満男「平気平気!すぐ行くからさ、
病院の名前教えてくれる?県立…、県立日南病院…日の南。
それだけ分かればいい。
おじさんの事オレが行くまでよろしく頼むな うん、それじゃ」
三平ちゃん、騒動を見ている。
満男「父さん、金貸してくれる?おれ宮崎行くからさ、」
博「ちょ、ちょっと待てよケガの原因は何なんだよ」
満男「そんな事向こうで聞くよ 一刻も早くオレが行かなくっちゃ」
おばちゃん「ああ、命大丈夫なんだろうね」
博「お前そのかっこで行くのか?」
満男「喪服なんか向こうで借りるよ!」おいおい、あのな…ヾ(^^;)
おばちゃん「ええ!!」
博「バカ!そうじゃないよ そんな薄汚いかっこで
行くのかって聞いてるんだよ」
満男「かっこなんかどうだっていいんだよ。
おじさんが今大変なんだから」頭の中は泉ちゃんのことでいっぱい(^^;)
博「落ち着けよ、何興奮してるんだよ!
いいか、今からじゃ宮崎行きの最終便に間に合うかどうか
分からないんだぞ! まず時刻表だよ。
あ、三平ちゃん、どっかに時刻表ないかな?」
満男「時刻表 時刻表!」
三平ちゃん「えっと…向かいに有ると思います。
江戸屋さん、大変ですよ、寅さん大怪我しはったんですよ、
時刻表あります?」
備後屋「よし!ニュースだ! 麒麟堂さん!聞いたか?
寅さん大怪我したんだってよ」
麒麟堂「死んだのか!?」
備後屋「いやあ、今夜あたりがヤマじゃねえか?」おまえらな…(^^;)
おしゃべり二人組の麒麟堂と備後屋、これから柴又じゅうに噂流しますよ〜。
ゴ〜ン・・・
とらや 店先
おいちゃん「とにかくね、詳しいニュースが入りましたらお知らせしますから
今夜の所はこれでお引取り願いませんか?」
ざわざわみんな帰る。
三平ちゃん「どうもおさがわせしました・・おやすみなさい」
博「やれやれ」
さくら「ケガってどの程度なのかしら?やっぱり骨は折れたのかしら?」
博「そう言う状況がさっぱり分からないんだよ。
何しろ、満男だけが興奮して騒ぎ立てて
そりゃまあ、あいつが伯父さんを心配する気持ちは
分かるけどさ・・待てよ・・・。
問題は伯父さんじゃないんだよ。泉ちゃんなんだよ!
あいつ、本当は泉ちゃんに会いに行きたかったんじゃないのか?」
今頃気づく方がトロすぎ。
100パーセント泉ちゃんのみ。それ以外何がある ヾ(-。−;)
さくら「どうりで…、さっきスーパーに
ズボンとシャツ買いに行ったのよあの子、本当にまあ・・」
博「なんだ目的は泉ちゃんだったのか〜ッチ!あのヤロウ〜」
全日空の飛行機 機内
満男がウキウキイヤホンを聞いてる。
ちょっと浮ついてるなあ。とらのことな〜んにも心配してないねこりゃ。
ちょっとは寅のこと心配せえや ゞ( ̄∇ ̄;)
音もれが激しい・トリリー・・・トチチチ〜・・・ドドチチー!・・・
スチュワーデスさん、苦笑い。
横の中年女性が、目で睨みかける。
満男気づかず、スッと音量を上げる。
飛行機の音 キイイイイィーー・・・キュオオ〜!ズガガ! 着陸 全日空
飛行場 MIYAZAKI
徳永英明さんの『夢を信じて』が流れる。
作詞: 篠原仁志 作曲: 徳永英明
いくつの街を 越えてゆくのだろう
明日へと続く この道は
行くあてもない 迷い子のようさ
人ごみにたたずむ 君はいま
恋することさえ 恐れてた昨日に
なくした涙を さがしてる
※夢を信じて
生きてゆけばいいさと
君は叫んだだろう
明日へ走れ 破れた翼を
胸に 抱きしめて※
自分の空を 越えてゆくのだろう
さよならに怯えず 君はいま
傷ついたことに 疲れはてた胸を
凍える 両手に 温めて
心のままに 生きてゆけばいいさと
君は 笑っただろう
明日へ走れ 破れた翼を
胸に 抱きしめて
(※くりかえし)
満男、宮崎交通のバス.区間急行『空港.日南』に乗っている。
♪いくつの街を 越えてゆくのだろう
明日へと続く この道は
どこまでも続くシュロ並木。
日南の海を満男を乗せたバスは
南バイパスを日南市に向かってひた走る。
居眠りしている満男。
満男の後の座席はおそらく渥美さんの付き人の篠原さん。
宮崎空港
渋滞に巻き込まれた後、
車(ホンダ CABRIOLET ホンダシティ ガブリオレ)
で飛行場に来る竜介と泉。
竜介「オレここで待ってるから」
泉「うん」走っていく。
♪行くあてもない 迷い子のようさ
人ごみにたたずむ 君はいま
恋することさえ 恐れてた昨日に
なくした涙を さがしてる
空港・日南
宮崎22 か・876
宮崎57 ふ95-30 ホンダ CABRIOLET 4(車検平成4年まで)
堀切峠 宮崎交通
客「うわ、まぶし〜」
竜介の車、満男のバスに追いつく。
♪夢を信じて生きてゆけばいいさと
君は叫んだだろう
明日へ走れ 破れた翼を
胸に 抱きしめて※
鬼の洗濯岩で有名な堀切峠を過ぎていく。
泉ちゃん、バスに乗り込んできて
泉「すみません、諏訪満男さんいませんか〜?
あ、いた!表に出て」
満男寝ぼけている。
満男「はいはい、」
フェニックスレストラン近くに停まっているバス。
宮崎交通
満男「あ〜びっくりした〜、ぐっすり眠っちゃったんで」
泉「え? ごめんね、渋滞で遅れてしまって ようやく追い付いたの」
満男「あ、そうだ、ねえ、伯父さんどお?」
泉「大丈夫、骨も折れてないし、じん帯も異常ないし
湿布でもすればすぐ治るって今朝退院したの」
満男「何だよな、そんな事じゃないかと思ってたんだよ」
泉「悪かったわ、私が大げさな電話したから」
満男「ああ、いいんだよ どうせあの伯父さんが
大騒ぎしたんだろ ちょっとしたケガくらいの
事で あ〜心配させやがってチクショー は〜あ、」うそ。心配してません(━_━)
泉「ごめんね、本当に」
満男「あ、何言ってんだよ、あのねオレ一度来たかったんだよ、
この宮崎ってとこに」
プッ!プッ!
満男「いやあ〜綺麗な海だな〜、
んー あー 泉ちゃん、そこで食べない?オレ腹っ・・・」
不穏な効果音 (ギター〜)
車道で竜介が泉ちゃんに話しかけている。
竜介「ここはあんまり長く停められないから」
泉「あ、そっか 先輩、この車に乗って 早く」
車でバイパスを走りながら
泉「あ、もうスピード出さないでよ さっき怖かった」
竜介「あんたり、足ふんばっちょったもんね」
泉「え??」
竜介「ああ、いや、あの両足を踏ん張っておられましたもんね」
泉「アハ、アハハうん・・・」
満男、泉ちゃんと竜介が
仲良くしゃべっているのを見ながらブスッ…。
泉「あ、この人ね、竜介さんと言っておじちゃまが
お世話になってる家のおばさんの弟さん」
竜介「ご苦労さん」
泉「竜さんたちのお母さんは、いつ頃亡くなったの?」
竜介「オレがコンマイ時にな」
泉「じゃあ、おねえさんは母親がわりだったわけだ。
高校の時悪かったんだってねえ竜さん」
と、泉ちゃん竜介のサングラスをふざけてかける。
竜介「そげなこと話たんね、ねえちゃん!
まっこちしょうもない事しゃべりがー!」
泉「ウフフ」
空港から国道220号線を車で約一時間で日南市街地 油津の街
満男、後部座敷でず〜〜っと不機嫌(▼▼;)
油津 堀川橋(乙姫橋)そば
吾平津神社(乙姫神社) 秋の例大祭 & 油津みなとまつり
元々は「乙姫大明神」といい、1881年(明治14年)に「吾平津神社」と改名されたものだが、
地元では今でも「乙姫神社」、あるいは単に「乙姫さん」と通称している。
堀川橋は通称を「乙姫橋」とも言うが、その名もこの神社に由来する。
吾平津神社はその名が示すように吾平津姫を祀り、
天照皇大神、武甕槌命、天児屋根命、木花咲耶姫、経津主命、倉稲魂命を併せて祀っている。
大勢の見物人で賑わっている。
獅子舞 奉納 吾平津神
第五 章福丸 表丸
竜介「毎年やってんの。あそこから降りれるよ」
泉「おじちゃま、満男さん来たわよ」
寅「一人か?よお!ご苦労」
と、蝶子さんの家のニ階窓から橋にいる満男に向かって手を振る。
柴又 とらや
電話口
さくら「じゃあ、お医者さんは普通に歩いても
構わないって言ってるのね?じゃあ、
大丈夫なのね!?大したこと無かったのね!?
あーよかった〜。
それで、あんた今どこから電話かけてんの?
床屋さん!?なんで頭なんか刈ってるのこんな時に?」
満男「違うよ頭刈ってるんじゃないよ。
おじさんが世話になってんの、ここに」
さくら「どう言うわけで?」
満男「とにかく元気なんだからいいだろう?もう切るよ」
さくら「ねえ、いつ帰るの?」
満男「またそんな事後で相談して電話するよ じゃあね」ガチャ
満男「ハー…」
満男、泉ちゃんと竜介のことで機嫌がかなり悪い。
寅「どした?疲れたのか?」
満男「来るんじゃなかったよ。そんな軽いケガなら…」
寅「悪いけどオレが頼んだんじゃねえからな」
満男「オヤジやおふくろが興奮して、今すぐにでも行けって
大騒ぎするから、しかたなく来たんだよオレ・・」うそばっか(−−;)
寅「いいじゃねえか、お前、泉ちゃんもいるんだしさ、
あの白い砂浜で楽しく遊んでこい うん?」
満男「オレは学生なんだぞ!今日だって
大事なゼミさぼってきたんだ。おじさんと一緒にしないでくれよ」
伯父さんと一緒だね、思考回路は(^^;)
寅「お前なんかおかしいんじゃねえのか?変な目つきして」鋭いね、寅。
満男「オレ帰る!飛行機まだ間に合うし」
蝶子さん外から帰ってくる。
蝶子「ただいま〜 あら!来なさったね〜」
寅「ご主人の蝶子さんだよ」
蝶子「こんにちはー よお来なさったねえ、こんな田舎に」
寅「おい、ちゃんと礼言えよ 世話になってんだから」
満男「どうも、伯父がご迷惑おかけしてます・・」
蝶子「いいえ、弟の運転、乱暴だったでしょう?」
頷く満男(^^;)
後に蝶子さんも結構乱暴な運転をすることが分かるのだが…。
寅「買い物かい?」
蝶子「ぎょうさん買って来てしまった〜」
蝶子「今夜は大勢でしょ〜、うれしいわア、賑やかで〜」
寅「すまないねえ、面倒かけて」
蝶子「いいえ〜」
寅、満男に座れと指示。
蝶子「泉ちゃんは?」
寅「あ、お祭り見物に行ったよ。さっきあんたの弟と一緒に」
蝶子「あんたも行って来たら?」満男に。
満男「結構です。興味ないんですよ僕あんまりそういうの」
蝶子「あら〜」
寅「なんだ、これ、疲れてるらしいんだよ」
蝶子「ああ、 あ朝が早かったかいね〜」
寅、思いっきり満男へお菓子を投げる。
チチリーン・・・
竜介の結婚相手のユミが来る。
ユミ「こんにちは〜」
蝶子「ユミちゃん来たつね〜竜はお祭りいっちょるが」
ユミ「あ、じゃ私も行ってきま〜す」
チリリーン・・・
蝶子「今の子ね、」
寅「うん」
蝶子「弟の恋人よ」
寅「いたのか?」
蝶子「来年結婚すっとよ。
隣町の漁師の娘さんだけどね〜、かわいい子でしょ〜、」
満男、急に顔色が変わり、目に生気が蘇る。この気質は寅そのもの。
満男「あ、、、伯父さん?」
寅「え?」
満男「お、お祭り見に行ってもいいかな?」ゲンキンな奴(−−;)
寅「いいけど…?」
満男「おばさん、今夜ここ泊めさしてもらってもいいですか?」
蝶子「もちろんそのつもりよ」
満男「じゃあ、行ってきます。ヘヘ…いい町ですね、ここ・・・」
ニッコニコヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄)ノ
ったく…、寅の血だねえ〜┐('〜`;)┌
蝶子「かわっちょるね」ほんとにねえ(^^;)
寅「ああ、親が甘やかしたからねえ、
もう、困りもんだよ。今からじゃ治りゃしない」
蝶子「ふう〜ん・・・」と頷く。
ハッピに商店街の名前が入っている スナック・・・ まつのや
子どもたち、ワッショイ ワッショイ
ハッピの文字 ・・・崎稲荷大明神 河宗・・・
泉、満男に手を振る。
「油津港まつり」
油津港は夏に開催される「油津港まつり」の会場となるところでもある。
「油津港まつり」は毎年七月下旬に開催され、
昼間は堀川運河での「弁甲流し」や魚のつかみどり大会、
弁甲競漕などが行われ、夜には花火大会が盛大に催されて
近隣からの人出で賑わう。
明らかにこのみなと祭りは夏に行われるもの。
渥美さんの体調から考えてロケは秋の一度限り。
秋の11月に行われる『吾平津神社秋の例大祭』
と夏の港まつりの再現を秋にもしてくれたのかもしれない。
堀川橋
満男ニッコニコでやって来る。
泉「家に電話した?」
満男「したした」ニコニコ(^^;)
泉「安心してた?」
満男「してたしてた」ウキウキ(^^;)
泉「この人ね、竜介さんのいいなずけだって」
満男「知ってる知ってる」ニコニコ(^^;)
竜介のハッピ
港まつり 油津漁業協同組合
竜介「ユミっちゅう名前だ」
ユミお辞儀。
ユミ「こんにちは」
満男「こんにちは〜」
竜介「ユミ、こっちば前け」
ユミ「うん、左が前」
竜介「っよし! オレかついで来るから」
タバコをユミにわたす。
マグロの神輿を担ぐ竜介。
昭和初期この油津港の水揚げは
マグロが毎年豊漁で、全国にその名を知られていた。
ワッショイ ワッショイ
夜、竜介が海岸でコンサートを行っている。
祝 油津みなとまつり
Live in Aburatsu
船乗りである竜介は低気圧で船が欠航したから戻ってきたが、予定通りだと、
この祭りにもコンサートにも参加していなかったということになってしまう。
竜介「♪I don't hold youさよなら
とっておきの Baby you
I don't hold you さよなら
忘れないよ Baby face
空に投げるぜクラクション一つ
君にファイナル 君にビシバシ純情
ヒルバリー バップス
ビシバシ純情
作詞谷穂ちろる 馬飼野康司
やけっぱちでアクセル踏んだ
手遅れだと分かってるけど
君を乗せた電車を追いかけて
海岸線をなぞるように
夏がフェイド.アウトする。
サイド.シートに切なさ置いたまま
だけどカーラジオから
いきなりあのメロディが
飛び出すなんてできすぎてるぜ
それならついでさ最後にLOVE伝えさせてくれ
I dont hold you さよなら
とっておきの Baby you
I don't hold you さよなら
忘れないよ Baby face
真昼の陽射し傾く前に
飛ばせハイウェィ飛ばせビシバシ純情
ありったけのボリューム上げる
二人過ごした季節のBGM
言いそびれたハートをのせながら
そうさハンドル切ったら見えたよ。
レールの彼方に走る影が
二度と戻らない後姿に
せめてLOVE届けたいけど
I dont hold you さよなら
とっておきの Baby you
I don't hold you さよなら
忘れないよ Baby face
空に投げるぜクラクション一つ
君にファイナル 君にビシバシ純情
I dont hold you さよなら
とっておきの Baby you
I don't hold you さよなら
忘れないよ Baby face
本当は君を抱きしめたかった
君にファイナル 君にビシバシ純情
満男「寒くなってきたなあ〜」
蝶子「そろそろ帰ろうかねえ〜いいんじゃない、、こん位つきあえばね」
泉「あたし、もうすこしいる」
蝶子「そお〜?」
竜介「 ♪I dont hold you さよなら
とっておきの Baby you
I don't hold you さよなら
忘れないよ Baby face」
カズちゃん「こんばんは〜」
蝶子「あ、カズちゃん〜」
満男「パターンなんだよな〜乗れないよ ちっとも
魚くさいな〜合わないよ、音楽と魚のにおいは」蝶子さんに悪いぞ ヾ(^^;)
泉「いいじゃない、みんな楽しんでるんだから
つまらなかったら先に帰ってたら?」
満男「いや、そんなつもりで言ったわけじゃないんだけどな・・・」
竜介「♪本当は君を抱きしめたかった
君にファイナル 君にビシバシ純情」
ヒュー!!
竜介「サンキュー!」
みんな拍手
満男、嫌々手をたたく。
竜介「今日は、俺らのステージを見に、
と、と、東京から駆けつけてくれたカップルがいます!
及川泉さんと諏訪満男君!! イエー!!」
蝶子「やんめない!バカ!!」と、舞台に向かって叫ぶ。
竜介「ワン、ツー!」
蝶子「いつまでやっちょっとやろか・・・あん子あした早いとよ、出航が、…もう」
再び 『For the boys・・・』
竜介「♪蒼い三日月 非常階段
くたびれた服 静けさの音」
ドラムはYAMAHA
堀川橋
若者が車に文句を言う。
若者「なんじゃこりゃ〜!!バカヤロー!」
蝶子さんの家 寅たちの部屋
満男帰ってくる。
満男「あ〜ビール飲まされちゃった〜」
寅「女たちはどうした?」
満男「へったクソな歌聴いてるよ〜、
あんなのとっても付き合いきれねえ」
コップの焼酎を水と思って一気飲み。
寅「おいおい、焼酎だぞそれ」
満男「おえ!ごへほへ!」ゴホゴホ
寅「バカだなおめ〜」
満男「あ〜びっくりした〜水かと思った、
いややや・・・えー・・・へー・・・はあ」
寅「おい、」
満男「何?」
寅「どうなってんだ?泉ちゃんとお前は?
もう婚約したのか?」
満男「まだだよ」
寅「ん・・・でも二人で、約束はしたんだろう?」
満男、首を横にふる。
寅「立ち入った事を聞くようだけども、
接吻はしたのか?」 確かに立ち入ってるなあ…ゞ( ̄∇ ̄;)
満男「まだ、してないよ、そんな事。
妙な想像するのやめてくれよ〜」
寅「じゃ、ま、暗闇で手を握る程度か?」
と、満男の背中を、つーっと箸でなでる。
満男「してない」
ほんとうは、第44作「寅次郎の告白」で山陰線の列車の中、
満男は泉ちゃんの手に自分の手を重ね、泉ちゃんもそれに応えていた。
満男はデリケートだからそんなことは人には言わないのである。
寅「なんだい?それじゃあ、お前、
泉ちゃんのこと愛してないのか?」
満男「今の僕の気持ちを、『愛してる』
なんてそんな簡単な言葉で言えるもんか」
寅「あーダメだ それじゃあ愛してないのと同じだよ」
満男「どうして〜?」
寅「思ってるだけで何もしないんじゃな、
愛してないのと同じなんだよ。
お前の気持ちを相手に通じさせなきゃ
愛してんなら態度で示せよ!」えらっそうに(−−;)
第13作「寅次郎恋やつれ」でも、温泉津の絹代さんのことで、手さえ握っていない寅に
とらや御一統さんは失望していたっけなあ(^^;)
満男「どうすればいいんだよ」
寅「そら、お前、たまに、愛してますよとか、
抱きしめてやったりとか、そんなのしろよ、
おめえ、この意気地なし、何にもできねえんだろおめえーは、たく」
完全に自分のことは棚に上げているね┐('〜`;)┌
満男「よく言うよ、人のことだと思って 自分はどうなんだよ」
寅「オレがどうしたっつうんだい」
満男「どうなってんだ?あの色っぽい床屋のおばさんとの間は
立ち入った事を聞くけどね、キスぐらいしたの?」
寅「このヤロウ!!テメエよ伯父さんに
よくそんな口がきけるな!
自慢じゃねえけど、オリゃあ、
指一本だって触れちゃいねえぞ!このオレは!」
満男「プー!伯父さん、威張る事じゃないだろ?
意気地が無いだけじゃねえか」ピンポン(^^)
寅「この、おめえ、生意気な事やって、
もお!がまんならねえぞ、チキショウ!」
と、布団の上で足技に持ち込み、満男を痛めつける。
満男「いてえ!いていて いってー」
チチチリーン・・・
蝶子「ただいまー」
寅「帰ってきた帰ってきた…ね、ねろ、ねろ」
二人で急いで布団に入る。
寝たふりしなくても大丈夫だって、
満男が帰ってからたった5分で帰ってきたんだから(^^)
満男「あ、いて〜」
寅「っすーいてえ〜」と、足を押さえる。
おいおい満男布団では外用のズボン脱げよな ヾ(^^;))
チッチッチリーン・・・
泉「懐かしー、この鐘 小さい時わたしの家にもあった」
蝶子「その鐘をね、チリーン、って鳴らして、
いろーんな男の人が入ってきてまた、
チリーンって鳴らして出て行くの」
泉「いろいろって?」
蝶子「おじいちゃんから子供までいろーんな男たち。
もお〜五年か六年も前の事だけど、中年の男ん人が、
あんベルチリーンと鳴らして入ってきて、
その椅子に座ったつよ。
なーんも言わんから、私もだまーって髪の毛
切っちょったら、突然なんちゅったと思う?」
泉「ア、さあ?」
蝶子「オレと一緒に暮らさんかって」
泉「え・・・?おばさん、どうしたの?」
蝶子「んん?なーんてこたえていいか
分からんないから、黙ってたの」
蝶子のテーマが男性スキャットと共にしっとりと流れる。
蝶子「そんまんま、散髪おえて、
お金払って、…そん人ね、『気にすんなよ』って、
そう言って、またチリーンて鳴らして、
は・・・出てってしまったの」
泉「それからどうしたの?」
蝶子「私ね、もしこん次、そん男の人が来て、
また同じ事言ったら、
『一緒になってもいいよ』って
そうこたえようって思うようになって来たの。
可笑しいやろう?フフ…」
泉「来たの?その人」
蝶子「来んかった」
泉「……」
泉「……きっと寂しかったのね、その男の人」
蝶子「うん、そうかも知れんね」
泉「今ごろ何してるんだろう?」
蝶子「さあ・・・」
カーテンを閉める。シャー
チリリーン・・・
蝶子「寝ようかね、泉ちゃん。」
泉「はい」
電気を消す。
人と人とは『ウマ』というものがある。
それ相応の年になれば、人の世の機微も分かってくる。
それと比例して、お互いの相性は長く付き合わなくても、
インスピレーションで分かるものだ。
蝶子さんの話は一見突拍子もない話に感じられるかも
しれないが、お互いの感覚が鋭敏であればそういうことは、
あるかもしれないと私もこの歳になればそう思うこともある。
翌早朝 朝霧の堀川運河
汽笛 プウ〜プウ〜
竜介「ア、あ〜あ・・・」とあくび。
川岸まで石段を降りていく。
小さな船がやってくる。 ブウ・・ウウウ・・・
蝶子「おじさーん、おはよう・・・いつもすまんね〜」
おじさん「おはよー」
蝶子「フフフ・・奥さん、大丈夫ね?」
おじさん「ええ、おかげさんでー」
蝶子「急に冷えてきたかいね〜気をつけんとー」
おじさん「あーありがと」
蝶子「あ〜、しっかりせんね〜」
布団に入ったまま、
寅、外の様子を見るためにガラス戸をあける。
満男はまだ寝ている。
蝶子「夕べ、グデングデンになって帰って来たっちよ〜こん子は〜」
おじさん「ふふ」
蝶子「今度いつかえっとね〜」
竜介「いちいち聞くなそげな事〜寂しいじゃろ、オレがおらんと」
蝶子「ばあ〜かァ、せいせいしちょるはあんたがおらんと〜、」
竜介「お客さんら、みんな今日帰るの?」アクビ。
蝶子「う〜ん、若い二人は今日帰るっちゅっとったけど。
寅さんはどうすっかねぇ、
まだおるんじゃないかねぇ〜」
竜介、頷く。
寅「……」
船が出て行く。
竜介「姉ちゃん」
蝶子「なんね」
竜介「いっそ、一緒になったらどうね〜?あの寅さんと。
男は顔じゃねえっちゃかいな」
蝶子「…こん…バカタレがあ!」と小石を投げる。
竜介「痛いがね〜!本当にあたったぞ〜」
遠ざかっていく船。
窓をそっと閉め、虚空を見つめ…、
潮時が近づいていることを
静かに悟り始める寅だった。
竜介が出発し、満男たちも帰ってゆくという。
この屋根の下、二人っきりで蝶子さんと
暮らせる甲斐性も覚悟もあるはずもない。
実ることのない哀しい恋の中でしか息づくことができない
寅にとっては、今回もまた、恋のつぼみが今開こうとする
正にその時に、ひっそり旅立たねばならないのであろうか…。
宮崎県串間市 石波海岸の南
幸島(こうじま)の浜
二人の背中と白い日傘。
その向こうの幸島(こうじま)がすぐ前に見える波打ち際で
戯れる満男と泉ちゃんを眺めている寅と蝶子さん。
泉「夕べ早く寝ちゃったのね満男さん」
満男「いや、焼酎飲んだらさ、眠くなっちゃって
泉ちゃん遅かったの?」
泉「おばさんにいろんな話聞いてたの」
満男「へえ〜どんな話?」
泉「ほら、お店のドアにチリ〜ンと言う鐘がついてるでしょう?」
満男「うん、あの鐘がどうかしたの?」
泉「あの鐘がちりんと鳴ってドアが開いて
いつか素敵な男の人が現れるのを待ってるんだってあのおばさん」
満男「へえ〜ロマンチックだなあ〜」
泉「満男さんは女の人にそんな風に待ってて欲しい?」
満男「え?」
泉「私はそうは思わない。
幸せが来るのを待つのなんていや。
第一、幸せが男の人だなんて考え方も嫌い。
幸せは自分で掴むの。
それがどんな物かはわからないけど・・・
あ、これが幸せだ、って言うものを私の手でつかむの。
待つなんていや」
と、満男を見つめる泉ちゃん。
タジタジと下を向いてしまう満男。
満男「・・・」
このように自立を志す発言をしていた泉ちゃんだったが、
第48作「紅の花」では母親のために自分を殺してしまうのだった。
靴が波で流されかけている。
泉「あ!私の靴!」
満男「あ〜あ、あー、あーあーあー」
泉「フフ・・・あ!あー」
満男「靴下までぬれちゃったよ〜」
泉「あー どうしよ〜」
キャッキャはしゃぐ若い二人。
蝶子さんの日傘が光って...
蝶子「♪あなたと二人で来た丘〜は、」
寅、蝶子さんの歌声にピクッと反応し、
寅も口ずさみ始め、一緒にデュエット
蝶子「♪港が見える丘〜」
寅「♪港が見える丘〜」
お互い目を見て微笑みながら歌っていく。
蝶子「♪色あせた桜ただひとつ寂しく咲いていた〜」
寅「♪色あせた桜ただひとつ寂しく咲いていた〜」
寅の涼しい目。
蝶子さんの可愛い日傘。
肌色のカーディガン
作詞・作曲 東 辰三 (作詞家の山上路夫の父)
唄 平野 愛子
1947年(昭和22年)
1
あなたと二人で来た丘は
港が見える丘
色あせた桜唯一つ
淋しく咲いていた
船の汽笛咽び泣けば
チラリホラリと花片
あなたと私に降りかかる
春の午後でした
2.
あなたと別れたあの夜は
港が暗い夜
青白い灯り唯一つ
桜を照らしてた
船の汽笛消えて行けば
チラリホラリと花片
涙の雫にきらめいた
霧の夜でした
3.
あなたを想うてくる丘は
港がみえる丘
葉桜ソヨロ訪れる
しお風 浜の風
船の汽笛遠く聞いて
うつらとろりと見る夢
あなたの口許あの笑顔
淡い夢でした
満男たち、走って寅たちのほうにやって来る。
満男「おじさん!オレたちそろそろ行かなくちゃ。
ほら、飛行機の時間もあるし」
寅、ちらっと蝶子さんを見て...
寅「あ、そうか、よおし!じゃ、
オレも一緒に帰るか」あちょ…マジ(−−;)
蝶子さん、驚いた顔で寅を見つめる。
蝶子「・・・…」
寅「お蝶さん、一晩のつもりが
こんなに長い間お世話になってお礼の言葉もねえ
蝶子「かえっとね!?」
寅「なんとか歩けるようになったしな。
それに...、オレは故郷へず〜っと帰ってねえんだよ。
なんだかこいつらに聞いたら親代わりのじじいが
病気で死にそうだし、おまけにババアも入院してるって言うんで。
そうだな?満男?
まあ、しょうがねえや、見舞いがてらこれから一緒に帰る事にしたよ。
こっちにいてえって気持ちは、やまやまなんだけどねえ、
ま、長い間本当に世話になっちゃって、このお礼はきっとさしてもらうからね」
うそばっか…(−−)
ショックを隠しきれないで、呆然と下を向いている蝶子さん。
蝶子「なんだ、かえっとね?
だったらなんでもっとはよう言わんとね?
朝ごはん食べてる時とか?」
寅「うん・・おれもなんだかちょっと言いにくくってなあ〜」
蝶子「どうして!?」
寅「ほら、みんな帰っちゃうと
あんた一人っきりになっちゃうだろう?
なんだか気の毒で」
蝶子「あ、そうね、同情してくれたつね?どうもありがとう。
蝶子「あん店であたし一人で暮らすんじゃ、さぞ寂しいだろう
そう思ったつね?
私がそんな可哀想な女に見える?
蝶子さんワナワナしながら片付け始める。
寅「…」
蝶子「大きなお世話よ。
一文無しのあんたが今晩どこに帰るんだろうって
同情してあげたのは私の方よ、
帰んなさい!
勝手に帰ればいいわ!
私は手間がはぶけて清々するわ!」
蝶子さんそそくさ片付けて急いで車に乗り込んでいく。
みかん数個置いてけぼり(^^;)
蝶子「さいなら!!」
バタン!車のドアを閉めてエンジンをかける。
ホンダ フルオープンカー カブリオレ CABRIOLET
寅「あのぉ…お蝶さ…」
キキキーッ!
おろおろする寅
急発進ターボ加速
ブーン!!
寅「君はね、僕を誤解、アタ、イタタタタ!
誤解してんじゃないか!?ね?アイタ…ッツ
まったく何だい?急に怒り出して、
何言ってんだか分かりゃしねえよ、本当にー。」
蝶子さんの車は矢のように立ち去る。
寅「オレ何か悪い事言ったか?泉ちゃん」
泉「おじちゃま気が付かないの?」
寅「あ?」
泉「愛してるのよ」
寅「誰を?」
泉「おじちゃまをよ」
寅「誰が?」
泉「あのおばさんがよ」
寅「バカな事言ってんじゃないよ」
泉「裏切られたような思いをしたのよおばさんは。
だからおじちゃまはここに残るべきよ、
ねえ満男さん」
寅「ええ?」
満男「違う、伯父さんは帰るべきだ」
泉「どうして?」
満男「おじさんがここに残ったら、
もっと大きな悲劇が待ち受けるだけだ」
泉「どう言う事?」
満男「そりゃ、最初はいいよ、
伯父さんは人を笑わせるのがうまいし、
楽しい人だから、
あのおばさんも幸せかもしんない。
ちょっと喜ぶ寅
満男「けど、伯父さんは楽しいだけで、
奥行きが無いから一年もすれば結局飽きてしまう。
伯父さんは良く知ってんだ。だから、
帰ることを選択したんだ。
ね?そうでしょう?伯父さん」
寅「んん、それは正しいかもしれない…」
満男「仕方ないよ、バス停が向こうにあるから、急いでいこう」
寅「仕方ない、はー…」と、ヨタヨタふらつく寅。
泉「あ、大丈夫?」
寅「大丈夫かもしれない…」(^^;)
泉「元気出して、おじちゃま」
寅「ううん、うん」
満男の言ったことに寅はとりあえず同意していたが、実は私に言わせれば
寅は奥行きが結構ある人間である。人生の機微を知り尽くし、人の気持ちを
掬い取れる人生の達人である。もちろん堅気の暮らしをする覚悟もないし、
根気もない。いわゆるチャランポランなフーテン気質なので、今回も恋の
成就寸前でマドンナから逃げてしまったというお粗末なのである。
満男はあと一歩、完全には寅を理解し切れていない。
奥行きが足らないのは満男であって実は寅ではない。
蝶子のテーマがギター演奏で静かに流れる。
蝶子さんの車が遠くからこちらに向かって戻ってくる。
キキーッ!
蝶子「乗んなさいよ」
蝶子さんみんなを乗せて運転しながら
蝶子「今から行けば、2時の便に十分間に合うが、
飛行場まで送るけど、仕事があるから私は見送りはしません。
気をつけて帰んなさいよ。」
みんな頷く。
寅「はい…」
蝶子「それから、寅さん」
寅「え?」
蝶子「さっきお礼がどうのこうの言うちょいったけど、
そんなもんはいらんよ。
あんたたちが来ただけで私はそれなりに、
楽しかったんだから、分かったね」
寅「はい…分かりました…」
蝶子さんの車、カブリオレ(CABRIOLET)とはフランス語から由来する
一頭立て二輪馬車の意味で、ヨーロッパの軽快な乗り物
であったもの。
現在はオープンカーの2度或は4座の軽快なクルマにこの名称がつけられる。
フ ランス、イタリア、ドイツ車に多いが、アメリカではコンバーティブル、
イギリスではドロップ ヘッドといわれている。1984年当時で140万円ほど。
なんだか蝶子さんが可哀想だった…。
昔、寅友の寅増さんと探しましたここ↓↓
★超マニアックロケ地
蝶子さんがUターンして来る贄波神社(にえなみじんじゃ)そばの道
https://goo.gl/maps/GoDJtV69ZQFq5GYh6
車(ホンダ フルオープンカー カブリオレ CABRIOLET)が止まった場所↓
https://goo.gl/maps/UP9dTJV3UQw4ZoSt9
超マニアックロケ地 築島が見える空港まで送る蝶子さんの車窓
https://goo.gl/maps/Jn8Pm98MJRRWjq5M6
マニアックロケ地 車窓
https://goo.gl/maps/CPNm356wH3wemmqF9
柴又参道
源ちゃん、座椅子を運んでいる。
麒麟堂が声をかけてくる。
おっちゃん「源ちゃん、なんだこれ」
源ちゃん「御前様の座椅子。寅に貸すんや」
おっちゃん「帰ってくんのか?あいつ?」
源ちゃん「ああ」
おっちゃん「おい」
備後屋「あ?」
おっちゃん「後で見物に行こう」
備後屋「忙しくなるぞこりゃ」
とらや 茶の間
おばちゃん「まあ、御苦労さん あらあら、ま」
源ちゃん、のれんをひっかける。
おいちゃん「そんな立派なものいいのか?あ、そこ、そこおいてくれ」
源ちゃん「いつまで使うててもかまわんて」
おいちゃん「あーもうしわけないな〜」
おばちゃん「それなら楽だよ足投げ出して座っても」
おいちゃん「う〜ん」
社長「おばちゃん」
おばちゃん「はい?」
社長「これ寅さんに使ってもらってくれよ」
と、簡易トイレ便座を持ってくる。
おばちゃん「なんだい?それ」
社長「腰掛けてウンコすんの」
おばちゃん「え?」
社長「足が悪いとしゃがめないだろ?」
おばちゃん「あ、便利なもんがあるんだね〜」
社長「死んだ婆さん使ってたんだけどね うちはもう要らないからさ」
おばちゃん「あ、」
社長「げんちゃん、これ便所の前に置いといてくれよ」
源ちゃん「…い」
社長「大丈夫だよ消毒してあるんだからほら」
源ちゃん「きっちゃない…」もの凄くいやいや持っていく(^^;)
社長、大丈夫と言ってる割には自分も手を匂う。(^^;)
さくら「おいちゃん、私心配になってきたんだけど
お兄ちゃんこの階段上り下りできるかしら」
おいちゃん「そこまで考えてなかったな〜」
おばちゃん「無理だったらあたしたちが二階上がって
寅ちゃん座敷で寝かしたらいいだろう?」
おいちゃん「ああ」
さくら「悪いわ〜」
おばちゃん「それより何を食べさしたらいいかと思ってねえ〜
足の骨を早く治すためには」
社長「カルシウムじゃないの?」と、きっちゃない手で肉を持つ。
おばちゃん「あ、そっか 三平ちゃん、
カルシウムってどんな食べ物に入ってんだい?」
三平ちゃん「ミルクとかチーズとか」
社長「あ、そりゃダメだ。チーズなんか食べないよ、寅さんは」
おばちゃん「んー」
三平ちゃん「後は小魚とかー」
おばちゃん「あ、そうか、丸干し食べさせりゃいいんだ、朝晩。そうしよ
あとは、ちりめんじゃこ」
それ以外で、豆類、豆腐、納豆、ひじき、ゴマ、小松菜などもカルシウムが豊富な
食べやすく馴染み深い食べ物だ。
さくら「ごめんね、お兄ちゃんが迷惑かけて。
本当は…ウチで引き取ればいいんだけど」
おいちゃん「かまわないよ こっちの方が広いんだから」かまわないよって…今更(^^;)
さくらは「ウチで引き取れば…」と、かしこまったことを言っていたが、今更という気がしないでもない。
第1作からずっと毎回柴又に帰ってくるたびに寅は『とらや』に帰ってきているのである。
そしてそのたびにおいちゃんやおばちゃんたちが迷惑をこうむりながらも世話をやいてきた。
恋煩いで寝込んだり、行き倒れになったり、喧嘩で暴れたり、どんな時でも場所は『とらや』だった。
第34作で、さくらの家に泊まったという例外を除いては、今までの寅の全ての喜怒哀楽の物語は
すべてこの『とらや』でおこっている。
だいたいが『本来はこの店の跡継ぎ』と寅はおいちゃんやさくらにしょっちゅう言われてもいる。
確かに年老いたおいちゃんたちには寅の面倒は負担だが、本来この家は寅やさくらが引き継ぐべき
家だということは結構大事なことでもあるのだ。寅はケガをしながらも本来の住居である『とらや』に住んで、
おいちゃんおばちゃんの負担軽減のために、妹であるさくらが足しげく寅のケガの面倒を見にとらやに
毎日通うのが最も自然だと思う。
社長「でもさ、明日っから来る日も来る日も寅さんがそこに
デーンと座って文句ばっかり言うのかと思うと、うんざりじゃない?」
おいちゃん「そうか 来る日も来る日もか〜」
社長「半年ぐらいかかるぞ下手すりゃ」
それじゃ複雑骨折ですよ。寅は捻挫ですよ、ただの ヾ(^^;)
源ちゃん「わしが毎日散歩に連れて行きますわ
御前様の車椅子借りて」
源ちゃんがとらやの茶の間でで〜んと座っている姿は初めてだ。いつもは店か、上がり口か
台所かにしかいない源ちゃんがついに茶の間に上がり座った。う〜んなんだか感慨が深い…(^^)
おいちゃん「そりゃ助かるわ〜」
源ちゃん「ふふ」
おばちゃん「できたら、朝と夕方と2回がいいんだけど」
犬の散歩=寅の散歩^^;
おばちゃんたちの寅に対する犬扱いは、古くは第19作「寅次郎と殿様」の犬のトラ騒動に始まり、
第38作でもあけみと一緒に寅を犬扱い。そして今回も犬の散歩扱い。とほ。
社長「閉じ込めておくとね、皮膚病になっちゃうんだよ」
寅=犬^^;
おばちゃん「本当!?」
社長「見ただろ?家のポチ。毛が抜けちゃってさ、」
おばちゃん「寅ちゃんとあの汚いポチと一緒にしないでよ」
おばちゃんもムジナだって… ヾ(^^;)
社長「いや、そんなつもりじゃなかったんだよ」
おばちゃん「もう!」
犬の声 キャン!キャン!
社長「うるさいぞお前は」
さくら「三平ちゃん、お兄ちゃんまだ?」
三平ちゃんの他に、麒麟堂と備後屋も参道に出て見ている。
麒麟堂「まだ」
朝日印刷 工場
社長「博さん、分かったよ、」
博「何がですか?」
社長「寅さんをダメにしたのはさくらさん達なんだよ、」
博「何でです?」
社長「甘やかし過ぎ、保護過剰、あれじゃーダメになる。ウン、」
中村「社長の娘と同じだね」
久しぶりに話題に出てきました。あけみです(^^;)
博「ハハハハ」
ゆかり「人の事は言えませんよ」んだ(^^)
社長「何であいつの事を持ち出すんだせっかく忘れてたのに!」
博「まあ、まあまあまあ」
社長「大体ね、博さんがいけないんだよ、甘やかし過ぎだよ、こいつら」
博「分かりました、分かってます、分かってます」
三平ちゃん「博さん、寅さん帰ってきはりましたよ」
博「ええ?帰ってきた?じゃ、社長、失礼」
社長「お、お、…」
ゆかり「私もいこ」
社長「ちょ、…」社長も行きたい(^^;)
中村「オレもいこ〜 おお、ワーマ、頼むぞ」
社長「おい、仕事中だぞ まったくもお」
外国人労働者のワーマがインクをこねている。
社長「ユウ、真面目二働ク、OK?」
ワーマ「OK」
社長「ウオー」
もちろん、社長も走って見に行く(^^;)
ワーマ、首をかしげている。ったく意味分からんよねえ(^^;)
帝釈天参道 とらや前
満男が肩を貸し、寅がまつば杖をついて歩いてくる。
さくら「お兄ちゃん!」と手を上げる。
さくら「おかえんなさい!」」
寅、笑って「よ!」
とらや 店
とらやに入ろうとする寅。
麒麟堂「たいへんだったねえ」
寅頷きながら、さくらに腕を抱えられて店に入っていく。
冷蔵庫キリンKILIN
麒麟堂「傷むのかい?、今でも」
博「兄さんお久しぶりです」
社長「おかえり」
おばちゃん「どんなに心配したことかァ、ウウウゥ」と泣いてしまう。
大袈裟…。ただの捻挫なんですけど(^^;)
寅、みんなに頭を下げる。
参道の人々もお辞儀。
寅「本来ならば、黄昏時、人目を忍んで裏口から、そっと入ってくるところを
おいちゃんたちに見つかって
『おまえのようなヤクザなやつはうちの者ではない。とっとと出て行け』
そう言われても一言も文句の言えない立場のオレが、
かくも盛大なる心優しい歓迎をいただきまして、ありがとうございます」
たいそうやのォ〜…┐('〜`;)┌
寅、お辞儀
一同お辞儀
寅「おいちゃん、おばちゃん、裏の工員諸君、そして柴又の御一統さん、
長い間ご無沙汰いたしました。ただいま車寅次郎、恥ずかしい姿で、
帰ってまいりました」とお辞儀。
ただ捻挫しただけで、別に恥ずかしくはないよ(^^;)
源ちゃん、拍手。
一同拍手。
麒麟堂「立派な挨拶だよ〜」
さくら「ありがとうございます」
寅「え〜振り返りますれば〜私〜」
お調子者…(^^;)
さくら「お兄ちゃん話はそれ位にして…」
博「もう十分です」
寅「もうちょっと・・・」
おいちゃん「どうもどうもいずれ改めてお礼にうかがいますけど
今日のところはこれでお引取り願えませんか?」
おいちゃん、参道の人たちは興味本位で寅の姿を見に来ただけで、
御前様を除いては別にお礼をされるようなこと全くしてませんよ。ただの野次馬(^^;)
麒麟堂「お大事に」
おばちゃん「ありがとうございます」
麒麟堂「寅さ〜ん、お大事に〜」
さくら「はい、どーもー」
寅は旅先で足を捻挫しただけで、なにも恥ずかしいことはしていない。
それゆえ別にとらやの人たちに怒られる筋合いはない。
ケガなんかより普段の寅のヤンチャな行動のほうがよっぽど迷惑(^^;)
満男が泉ちゃんと会いたいだけの理由で宮崎に寅をわざわざ迎えに行ったことは
すでにみんな知っているし、本来、怪我人姿は恥ずかしい姿でもなんでもない。
博もおばちゃんもおいちゃんも過去にみんなしっかり病気や怪我をしている。
おばちゃんは一見大きな病気をしていないように見えるが第15作「寅次郎相合い傘」で病気で入院して
その時お見舞いにメロンを貰ったってさくらに言っていたね。タコ社長も痔で手術している。
長いレギュラー陣でいたって健康でケガなしなのはさくらと源ちゃん。でもさくらは満男が家出した時は
顔色が悪くて体調がイマイチだったので、終始いたって健康なのは源ちゃんのみ。ほんとうの蛾次郎さんは
第8作クランクイン直前に大きな交通事故にあっている。
帝釈天参道
麒麟堂たち歩きながら
麒麟堂「まあ三日ももたねえなあ」
源ちゃん「そのうち大喧嘩や、ヒヒヒ」当たり(^^)
備後屋「出てけー!、それを言っちゃあおしめえよ」
3人とも「ハハハ!!」
やっぱりこいつら寅のケガを酒の肴がわりに楽しんでるな(−−)
麒麟堂店のほうに振り返って
麒麟堂「あ?オレんちここだった」
源ちゃん、指差して大笑い。
江戸川土手 夕暮れ
満男が土手に座って考え事をしている。(泉ちゃんのことかな)
ドヴォルザーク:交響曲第9番《新世界より》第2楽章が流れる。
日本では「家路」の名で有名。
第15作「寅次郎相合い傘」の夢のシーンでもこの曲は使われた。
博、工場から帰ってくる。
博「遅くなりました」
おばちゃん「ごくろうさま」
博「社長」
社長「うん」
さくら「社長さんもどうぞ」
社長「うん、ありがとう」
博「兄さん、いろいろ大変だったようですね、宮崎では…」
寅、照れてうなずく。
さくら「あら、誰に聞いたの?」
博「満男だよ」
さくら「あらあ…」
おばちゃん「私たち何も聞いてないよ」
さくら「うん…」
博「さっき、工場に来て話してくれたんですよ」
さくら「そう…」
おいちゃん座って
おいちゃん「なんの話したんだ?」
博「抽象的な話だけですけどね、兄さんが宮崎でお世話になった、
えーっと…床屋さんですか?」
さくら「あの子が電話をくれた時床屋さんにいるって言ったのは
そこのことなのね」
博「うん、そこのおかみさんが帰るときとっても引き止めてくれたんだけど
兄さんが無理に別れてきたんで、その人の気持ちを傷つけてしまったとか…」
おいちゃん、それを聞いて微妙に怒っている。
寅、なんとかごまかそうと言う顔。
博「まあ、そんなとこですよね」
さくら「まあ…」
寅「博、あいつのしゃべったのはそれだけか?」
博「ええ、それだけです」
寅、安心した顔で
寅「あいつも成長したな…」
博「あ、それから」
寅「え?」
博「兄さんが帰ってきたことは、正しい選択だった…。
何かそのようなことも」
寅「フフ…」と小さくうなずく。
おばちゃん「洗濯なんかしてたのかい?宮崎県で」
おばちゃん、その『ボケ』はあんまりだよ。普通そこは間違わんって ヾ(^^;)
寅「へへへ、してたよ。鬼の洗濯岩ってのがあるからな。
こんなでっかいのが」上手い上手い(^^;)
社長「いったい、なにがあったんだい?その床屋のおかみさんと」
寅「ん?…チッ、フツ、想像に任せるよ」とそっぽを向く。
社長「……、なるほど。あ、そういうことか、フフフ、ハハハ」
勝手にふられたと思い、ニヤつく社長。
寅「何に想像してるんだよ ええ?
どうせその面じゃろくな事想像してねえんだろ!
このタコ!!」
さくら「やめて!せっかく一年ぶりで帰ってきたんじゃない
楽しく話ししましょ?」
社長「オレだってそう思うよ」
さくら「すんだ事だしね 何もかも」さくら意味深やなあ…(^^;)
寅「そうだよ!済んだ事だよ・・・」同意するとこが面白い。
さくら「ふ・・・」
博「満男は?」
さくら「あ、友達の所にノート借りに行った」今回そうとうさぼったからなあ…(^^;)
博「ああ、」
おばちゃん「社長さん、ビール飲む?」
社長「ええ?いいよ、いいよ いいんだって よ、」
博「兄さん、旅先で満男と泉ちゃん観察して、
どう思いました?冷静な第三者として」
寅「んん・・・まだまだ一山二山あるな、」
博「まだまだですか・・・」
さくら「あの子とっても好きなのよ泉ちゃんのことが」
泉「そんなことは分かってるよ、」
博「兄さん あいつの力になってやって下さい」
さくら「見てると可哀想になってきちゃうのよ」
寅「安心しろよいつか必ず泉ちゃんが満男の愛情を
受け入れる日がやってくるから
その後はこの伯父さんが引き受ける。」
寅の予言は結構当たる(^^;)
さくら「引き受けるって・・・どんな事するの?」
寅「例えばだよ、
木枯らしがピューピューと鳴る冬の夜
突然、格子戸がドンドンドンと鳴る!
『伯父さん!開けてください!』それじゃ青島での夢のまんまだよ(^^;)
オレは戸を開けるな。
『なんだ、満男じゃないかどうしたんだこんな遅く!
うん?誰だ後ろにいるのは?泉ちゃんか・・・』
『伯父さん!僕たち!何も言うな・・・分かっているよ
お前たちは一緒になりたいのにわからずやの両親が
中を裂こうとしているんだ。大丈夫だこの伯父さんが話をつけてやる。
安心しな。さ、ともかく、二階へ上がんなさい、な。
(パン パン)、ねえや!
二人にね、お布団をひいて差し上げなさい一組でいいよ、うん。
あ、木綿はダメだ。絹の上等なやつをおね、
それと枕元に水差しと、え〜タバコぼん、スタンドが無い?
うん、じゃ僕が書斎でいつも使ってるあのスタンド持ってってあげなさい。
そそ、僕は今晩スタンド無しで仕事しよう・・・
まだ翻訳の仕事が少し残ってるし・・・』」意味ねえ〜ゞ( ̄∇ ̄;)
博「んんー」
みんな完全にどっちらけて、食事の用意をし始める。
寅「まー…」
おいちゃん「は〜バカバカしい」ほんとにねえ(^^;)
おばちゃん「さくらちゃん、ご飯にしよう」
博「早く食べて早く帰って早く寝よう」
寅「なんだよ、おい、おい!オレの話まだ終わってないんだよ。」
おいちゃん「聞きたくないんだよ、もお〜」
おばちゃん「ご飯食べたら二階の部屋にお布団ひいてありますからね。
絹布団じゃなくて悪いけど」うわッ((((^^;)
おいちゃん「スタンドが無かったら俺の書斎のを持っていきなさい」あちょ(((^^;)
寅「そうか、オレはな、痛い体を引きずるようにして
この柴又までやっと帰ってきたんだぞ?
それなのにみんなでよってたかって
オレのことバカにしようって言うのか?」
みんなをバカにしてるのはあんただよゞ( ̄∇ ̄;)
さくら「私たちが真面目に相談してるのにあんまりいい加減じゃないの。
もし満男が失恋でもしたらどうしてくれんの?」
満男の失恋と寅のバカ話は何の関係もない。
それゆえ責任は取らなくて良い。
寅「はっきり言うけどな、一度や二度失恋したほうが
いいんだよ 失恋して人間は成長するんだい」
博「お言葉を返すようですけどね、兄さん、
失恋して成長するんなら兄さんなんか今ごろ
博士か大臣になってる筈なんじゃないんですか?」
博、人間の精神の成長と社会的な地位の獲得とはあまり関係ないよ。
それは博が一番知っているはず(−−)
社長「アハハ!うまいうまい!エヘヘヘへ・・・」
寅「ちきしょ!」
さくら「お兄ちゃんやめて」
博「ちょっと、やめて・・・」
寅「なんでい!タコ!」
社長「やりやがったな!このヤロウ!チクショウ!」
寅「おもしれえ!てめえ!表へ出ろ!チキショウ!」
社長「あああ!出てやろうじゃねえか!
出てやろうじゃねえか!!なにさ!やるか!?イタ痛た〜!」
おばちゃん「あぶないじゃないの!」
寅「そんなもん持ちやがって
テメエこれでどうしようってんだ!え?
どうしよってんだい!?チクショウこのヤロウ!」
みんな寅の足を凝視する。
寅「ええ??? ん?」
寅「え あ? いててて・・・あいてててて・・・
オレこっちの足痛かったんだ・・・」痛くないないだろが(^^;)
博「兄さん」
寅「え?」
博「ケガをしたのは右足の方じゃないんですか?」(^^;)
寅「ああ、そうか・・・アベコベなっちゃった。ハハハ
あれ?
いつの間にかこれ治っちゃったなあ…」
さくら、博 シラ〜…
寅「ねえ?おばちゃん?こういうものってのは、
わりあい早く治るもんだね?
いやオレもっと何か悪くなっちゃうんじゃないかと
思って、うん、フフフ」
おばちゃん「よかったねえ」
寅「よかったよかった、フフフ」
おばちゃん「おめでとう」
寅「そうかァ、オレまた明日っから力強く大地を
踏んで生きていけるんだな」
おばちゃん「うん」ちょっと嬉しいのと情けないのが入り混じって泣いている。
寅「うん、フフフ、よかったよかった ハハハ、そっか」
メインテーマが軽快に流れる。
寅「ああ、良かったねえ〜」と、スタコラ階段を上がって行く。
一同「……」
社長「まあ、良かったじゃない?」
おばちゃん、ちらばった物を片付ける。
松葉杖がパタン…と倒れる。
とらやの台所は近年は電子レンジ&2ドア冷蔵庫なんだね。
この第45作のタコ社長と寅の喧嘩は晩年の中では激しい方。これ以降の数作では
もうここまでの喧嘩は渥美さんも太宰さんも体力的にできなくなった。
題経寺 参門 近く
三平ちゃんが題経寺から自転車で戻ってくる。
三平ちゃん「♪今じゃ〜さびれて〜 あ、こんにちは」石狩挽歌
男性「風邪治った?」
三平ちゃん「ええ 治りました〜どうも」へえ〜、三平ちゃんも病気するんだね(^^)
御前様の自宅縁側
笠智衆さん、最後の出演。
源ちゃん、髭剃りのクリームを作っている。
御前様の頭にぬりぬり…
御前様「そうそう…、社長さんの話では…、
寅は、床屋さんの美しいおかみに
恋をしているそうじゃなあ〜」
さくら「やだわ〜、社長さんそんなお喋りしたんですか〜?」
御前様「髪結いの亭主なら
寅にも務まると思いませんか?さくらさん」
さくら「どうでしょうか〜」
御前様「二人が結ばれたら…、
門前町に小さな店を持たせて、
週に一度、その綺麗なおかみさんの手で
私の頭を剃ってもらうんです」
さくら「まあ…夢みたい」
御前様「美しい人に頭を剃ってもらうのはいいものです」
御前様「この男と来たら、下手くそだし、手は汚いし」
源ちゃん怒って剃刀で背後から空中バッテン切り(^^;)
御前様「おまけに、時々、殺意を感じる」図星(^^;)
源ちゃん、はっとして剃刀を折りたたむ(^^;)
さくらクスクス笑っている。
御前様「私はいつか、この男に殺されるでしょう…。
南無妙法蓮華経ォ〜オ」
源ちゃん、後で手を合わせてお祈り(^^;)
さくら「フッ、フフフハハハ」
御前様「おかしいですか?」
さくら「はい、フフフ」
御前様「そうですか」
さくら「アッハハッハハハ」と、仰向け&うつ伏せになり笑いまくるヾ(≧∇≦)〃
御前様「んー」
なんともいえない御前様のおとぼけ。これは上手いですねえ。
笠さんは、こういうとぼけた味がとても上手で、
小津さんの映画でもしばしばボケをかましていた。
かなりコメディアンの才能がある。それも一流の(^^)
もうこのころは笠さんは、かなりお体が弱っていて大変そうだったが、
このなんともいえない味は最後の最後まで健在だった。
フーテンでやんちゃだが、無欲で正直な寅。
そんな寅が大好きだった御前様。
柴又の門前町に床屋を出させてやり、
寅のおかみさんに毎週髭を剃ってもらう日々を
今日も御前様は信じて待っている。
国立名古屋病院
不穏な音楽が流れる。
ママ「あ、泉?あ、ママ 大変なのよ今病院にいるんだけどね
明日心臓のカテーテル検査って言うのしないといけないんだって
手術なのよ んん、今日中に帰ってきてくれないかしら、
勤めがある事ぐらい分かって言ってんじゃないの〜。
吉村さん?お姑さんが病気なんで田舎に帰るって。
佐賀のおばちゃん?あの嫌なおじさんが出してくれるわけないでしょう?
ねえ、お願いだからあんた来て〜
家の中もほったらかしなのよ〜ママねえ、とても困ってるの〜、お願い来て
あっそ、あんたまで私を見捨てるの、じゃ、もういい!頼まないから!」
あの佐賀の寿子(ひさこ)さんの旦那は
第42作でも分かるように本当に心が狭いので無理無理 ヾ(−−;)
泉ちゃんの勤める 音楽CDショップ
泉ちゃん、受話器を見たまま、すこし考えている。
次世代音楽大全集
泉ちゃん、店長のところへ近づく。
店長「何?」
泉「明日からしばらく休みたいんです。」
店長「こないだ有給休暇とったばかりだろう?」
泉「名古屋の母が入院したんです。」
店長「君ね、僕の女房は今熱出して寝込んでるんだ
赤ん坊は隣の人にお金を出して預けてるんだよ?
だれだってそれぐらいの事情は持ってるんだ。
母さんが入院したぐらいで休まれたんじゃこの会社やっていけないよ。
仕事って言うのは、厳しいんだ!
考え違いしてはいないか、君は!」
泉「母はとっても困ってるんです、
あたしが行かなくちゃいけないんです」
店長「ともかく、月末なんだからね、来月にしてくれよ やっといて」
店長「佐々木君、
佐々木「はい」
店長「イントロツーの在庫どこ?」
佐々木「今年の2番目の引き出しの中です。」
店長「だめだよ、こっちに置いといてくれなきゃ」
佐々木「すみません」
この店長、言っていることはもちろん正しいんだが、言い方がヒステリック。
人の上に立つタイプではないね。心にゆるみがないとこうなる。
悲しみで耐え切れなくてしゃがんでしまう、泉ちゃん。心配なんだねママのことが…。
徳永英明さんの『夢を信じて』が流れる。
♪自分の空を 越えてゆくのだろう
さよならに怯えず 君はいま
傷ついたことに 疲れはてた胸を
凍える 両手に 温めて…
八王子 城東大学 キャンパス
校内放送「経済学部三年生の諏訪満男さん、経済学部三年生の諏訪満男さん」
よっちん「おい、お前のことじゃないか、あのアナウンス」
校内放送「緊急のお電話が入っています至急学生課までおいでください。経済学部…」
学生課
さくら「あ、お母さんよ。今さっきね、
泉ちゃんから電話があって
ママが手術するんで、今日中に名古屋に帰るんだって
入院がどれぐらい長くなるか分かんないんで、
会社辞めちゃったんだって」
満男「やめた?何も辞めなくたっていいじゃないか
事情話して休みもらえばいいだろう?」
無理に休み貰おうと再度申し出て、事実上辞めさせられたのかもしれないね…。
あのヒステリックな店長ならしかねない。経営が苦しくて長期的な展望で店員を育てる余裕が
無いのかもしれない。
さくら「お母さんに言われたってわかんないわよそんな事。
ただとってもあんたに会いたがってたから
お母さん電話したのよ。学生課にたのんで」
満男「どこに行けば会えんだよ」
さくら「東京駅」
満男「東京駅?何時?何時のに乗るって言ってた?」
さくら「4時ごろの新幹線だって」
満男「4時ごろ?」
さくら「そう、今からなら間に合うかもしれないから
とにかく行ってあげなさい。
無駄足だっていいじゃないの
泉ちゃん泣いてたわよかわいそうに」
満男の声「分かったそうする」
さくら「行く?会えるといいわねえ じゃあね」
走って行く満男。
よっちん「おい、おい?講義でないのか?」
走りに走り、急いでバスに乗る満男。
KEIOバス 110
まだ携帯電話が無い時代なんだねえ。
ある意味携帯があったらこんなに満男は
急がなくてもいいのかもしれないし、
泉ちゃんとも移動中にもっと話ができたのかもしれないし、
すべての物事はもう少しはスムーズに運ぶのだろう。
しかし、携帯が無いからこそ生まれる『物語』の味わいと美しさもある。
だからこそ養われる人間の胆力や想像力や待ち続ける力というものもある。
現代の人々はそのような『物語』の成立を
奪われてしまっているのかもしれない。
八王子駅から東京駅まで中央線を使い必死で駆けつける満男
アナウンス「終点の東京です。2番線は快速の高尾行きとなります」
JR東京駅
新幹線ホーム
「ひかり 23号 16:07 博多行き。電車は前から1号車2号車…一番後ろが16号車です。グリーン車…」
泉ちゃんが座っている車内 「自由席は1号車から5号車まで、指定席は6号車から16号車までです」
窓からホームにいる満男を見つける泉ちゃん。
満男のいるホームへ走っていく。
なぜか「こだま 新大阪行き」から出てくる。
泉「満男さん!」
満男の手を取って喜ぶ泉ちゃん。
泉「来てくれたの?」
頷く満男
泉「授業は?大丈夫なの?」
満男「そんなもん、どうだっていいんだよ。
ママ、入院だって?」
泉「…うん」
満男「治ったら、また東京戻ってくるんだろ?」
泉ちゃん、首を横に振る。
満男「…」
乗客の邪魔にならないところへ泉ちゃんを誘導する満男。
満男「なぜ戻って来れないの?」
泉「そんな簡単には治らないのよ。
…それに…ママはね、
結局私がそばにいなければだめな人なの…。
だから私、名古屋で新しく仕事見つけて一緒に暮らす」
満男「どうしてそんな!…」
泉「…」
満男「それじゃ、泉ちゃんはママの犠牲じゃないか…。
どうかしてるよ君のおふくろは…」
苦渋の決断なんだから、一緒にいたいだけでそういうこと言っちゃいけないよ満男(−−)
泉「満男さんは恵まれた家に育ったから
そんなふうに言うけど、
私は違うの。私が行くしかないの。
だって他に誰もいないんだもん」
二人とも沈黙。
「16番線のひかり電車はまもなく発車いたします。…」
満男「一電車遅らせないか」
泉ちゃん、首を振り、
泉「6時までに病院に行くって言っちゃったから...」
「ひかりの128号まもなく発車いたします...」
満男「そうか...」と頷く。
泉「来てくれてありがとう」
満男「じゃあ、もう当分会えないの?」
泉「...」下を向く。
泉「ごめんね...」
満男「オレ、結局なんの役にも立てなくて、
泉ちゃんの周りを
うろうろしてるだけのマヌケだったな...」
満男は自分のことが少しは見えている。
目をつぶり苦悩している泉ちゃん。
出発のベル プルルルルル...
満男「泉ちゃん、乗れよ」
満男が新幹線の方に行こうとしても、泉ちゃんは動こうとしない。
「プルルルルル...ご乗車の方はお急ぎください」
満男、戻って
満男「どうしたの?」
満男を見つめ、哀しい目で抱きつく。
満男は、とっさに泉ちゃんを抱きしめる。
そっと満男にキス。
泉「......」
満男「......」
想いを振り切るように…
泉「さよなら」
乗車口に走っていく泉ちゃん。
満男、必死で追いかける。
「ドア付近の方ご注意ください。ドアが閉まります」
こだま 新大阪行き
ドアが閉まる。
徳永英明さんの「最後の言い訳」が流れる。
閉まったドアのガラス越しに何かを言う泉ちゃん。
泉「ハガキ下さいね...」
と口の動きから読み取れるような…。
満男はわからない。
満男必死で「なに!?何て言ったの?」
それでも満男は頷く。
走り出した電車を追いかける満男。
満男を見つめ、ドアに手を当てる泉ちゃん。
スピードを増した電車にあわせて懸命に走る満男。
走り去る電車。
呆然と見送る満男。
痛々しい背中がアップになっていく。
耐えられない現実の中でただ立ち尽くす満男。
絶望が押し寄せ下を向いてしまう。
高羽さんの想いと集中力が伝わる渾身の映像美だった。
深い悲しみの中、心を残したままホームを歩く満男。
バレーボールをパスし合う若者たち。
掃除の女性たち3人が話している。
四番線にこだま222号がまいります・・・
別れは突然やって来た。
授業をさぼって、遠く八王子から東京駅まで飛んできた
満男の姿を見て、自制していた心が弾けてしまい、
最後の想いを込めて涙をためながら満男にキスをする泉ちゃん。
キスが二人の終わりを意味してしまうという悲しい恋の結末に
耐え切れず絶望を感じる満男。
この恋が成就することは今は難しいと寅でなくても思えてくる。
やはり満男は若すぎる。
これ以上の進展のためには満男の精神的な成長が必要なのである。
泉ちゃんは家庭が不安定で、かつ社会に飛び出した後も辛酸をなめているが、
満男には泉ちゃんの背負った悲しみがギリギリでは実感できていない。
別れの際に泉ちゃんのママをなじることからもそのことが容易に分かる。
ただ美しい人に憧れ、会いたがり、いつもそばにいるだけでは本当の恋は
成就しないのである。人に寄り添うというのはそういうことではない。
満男が泉ちゃんに真に寄り添うためには歳月が必要なことは大人なら
誰でも分かることだ。
そのことを若いながらも本能的にどこかで感づいている満男と泉ちゃんは、
ある意味聡明でとても素敵だったし、さすが寅の甥っ子だとも思うが、
何もできなくたって本当はそばにいて欲しい泉ちゃんの抑圧された心は
満男は見抜けていない。そして見抜けていないからこそ美しいのだとも思う。
だからこそこの恋は涼やかな透明感に彩られてもいるのだろう。
この別離は二人にとっては必然であり、かつ、必要な試練だったと思う。
そういう意味でもこのシーンは晩期、満男シリーズのひとつのクライマックス
であることは間違いない。
ちなみにロケの新幹線は下のように継ぎはぎになっていた(^^;)
最初:掲示板『ひかり23号博多行き』。
途中&発車直前:『こだま大阪行き』。
音声のみの時:『ひかり128号』。
最後動き出したら:『ひかり広島行き』。
最後の言い訳
歌手:徳永英明 作詞:麻生圭子 作曲:徳永英明.
寝たふりがこんなに つらいことだとは
今落ちた滴は 涙だね
そして君が出て行く 夜明けを待って
暗闇が怖い君のことだから
※いちばん大事なものが いちばん遠くへいくよ
こんなに覚えた君の すべてが思い出になる※
誰からも 君なら 好かれる と思う
心配はいらない 寂しいよ
無理に僕のためだと さよならの理由
思ってる君だからせつなくて
△いちばん近くにいても いちばん判り合えない
こんなに愛した僕の すべてが言い訳になる△
(※くり返し)
すべてが思い出に
(△くり返し)
いちばん大事なものが いちばん遠くへいくよ
いちばん近くにいても いちばん判り合えない
いちばん大事なものが いちばん遠くへいくよ
柴又 とらや
近所の家路に着く人に
さくら「お帰んなさい」
草だんご 小六〇〇円 中八〇〇円 大一〇〇〇円 各種詰合わせいたします。
さくら、満男を遠くに見つけて、
さくら「あ、帰ってきた。」
寅「帰ってきたか それじゃ。 じゃ博
社長によろしく言ってくれ」
博「やっぱり行きますか」
寅「ああ」
おばちゃん「ねえ〜」
満男帰ってくる。
さくら「遅かったじゃない、伯父さん待ってたのよ。
あんたの顔見てから出かけるって」
満男「伯父さんもう旅出ちゃうの?」
寅「ああこの度は、足の怪我でみっともねえとこ見せちゃってさ、
ハハ、まあ、宵闇にまぎれてこっそり引き揚げようって寸法さ」
さくら「そんな事気にしてないのに」
寅「じゃ、おいちゃん おばちゃん 達者でな」
おばちゃん「あんたの怪我治しに草津の温泉にでも
行こうと思ってたのにねえ」もうすっかり治ってました(^^;)
寅「そりゃこっちのセリフだよオラァ必ず金を貯めて
おじちゃんとおばちゃんを温泉に連れて行くからな」
おいちゃん「それ聞いただけで体が暖まって来たよ」
寅「ありがとう」
おばちゃん「別れる時はどうして心が通い合うんだろうねえ
会う時は喧嘩ばっかりして…」メソメソ
別れる時に、人の心が美しいのは、どこかでもう一生会えないかも
しれないと思うゆえに、お互いの無駄な欲や期待が、すっと取れるから
だねきっと(^^)
さくら「満男、駅まで送って行きなさい」
寅「あ、すまねえな。それじゃ、さくら」
さくら「元気でね、お兄ちゃん」
寅「じゃあな」
手を上げて別れを告げる寅。
歩いていく寅。
さくら「満男、これ伯父さんに渡して」
お金の入った封筒を渡すさくら。
さくらさすがだねえ…感動…( ̄ー ̄)
博「さくら送って行かないのか」
さくら「満男が何か話したいんじゃない?
泉ちゃんに会ってきたんだもの」
今回の寅とさくらの最後の別れは、さりげないながらも
いつにもまして静かな緊張感があったように感じられる。
山田監督に、これが最後かもしれないという意識が
あったのは間違いない。
第42作からこのような『最後』の意識は毎作品に見られる。
渥美さんの体調がただごとではないことが
こういうシナリオや演出を見てもうかがい知れるのである。
満男「伯父さん、泉ちゃん名古屋帰っちゃったよ」
寅「ほお...、ってことはおまえふられたってことか」ふられたわけではない(ーー)
満男「ふー...そおかもしれないけど...でも、
オレは伯父さんみたいに簡単に諦めないよ」言うねえ( ̄ー ̄)
寅「ほおー...」
満男「何年先かわかんないけど、オレが大人になって、
もう一度泉ちゃんに出合った時、
新しい物語がまた始まるんだ」
寅「そりゃ結構毛だらけ猫灰だらけだな、
でもちょっと困っちゃったなあ...オレな...」実もフタもない言い方(^^;)
と財布を見ながら弱っている。
満男「どうしたの?」
寅「えー、悪いけどおまえ1万円ばかり貸してくれねえか」
満男「あ、それだったらねえ、さっき母さんから預かってるよ」
と、お金の入った封筒を渡す。
寅受け取りながら
寅「なんだい、オレまたあいつに借りができちゃったなあ...」
ポンと封筒叩いて
寅「いつになったら返せるか」
柴又駅に電車が入ってくる。
駅の改札口
寅「満男、今回おまえに迷惑かけたな」
満男、首を振り
満男「そんなことないよ、オレちっとも迷惑なんかに思ってないよ」
寅「そうか」と何度も頷く。
寅、雪駄を鳴らしながら歩いていく。
満男「伯父さん!」
寅、振り返り
寅「ん?」
満男「ほんとはオレ、このまま伯父さんと
一緒に旅に出たい気持ちなんだよ」
と泣きそうになっている。
寅「バカ野郎...、
おまえには勉強があるじゃないか、しっかりしろ」
と、また歩いて、スッと電車に乗り込んでいく寅。
遂にこみ上げてくるものがあり涙を拭く満男。
寅が乗った電車を見つめ、泣いている満男。
渥美さんの改札からホームへ行く後姿にはしびれた。
いやはやなんとも渋い。旅を日常としてしまった男の背中とは
ああ言うものなのだろう。こういう渥美さんの立ち振る舞いを
垣間見るだけでも晩年の作品は十分見ごたえがあり、価値がある。
正月 元旦
さくらの家
満男、下に下りてきて
満男「父さん、行くよ」と外へ。(ジョギングをするのだ。)
博「お、おう...はあ...」
と、こたつから出て行く。
さくら「お正月くらい休んだら?」
博「一日でも休んだら体が鈍るって言うんだよ。
もともとオレが言い出した
ことだからしょうがないんだけどな」
さくら「なんであんなまじめになっちゃったんだろう。気持ち悪い」
満男はダメで未熟な自分を鍛えようともがいているんだよさくら。
私には涙が出るほど分かるよ、その気持ち( ̄ー ̄)
博「あいつなりに努力してんだろう...。
伯父さんの影響から抜け出そうと」
外に出て
準備体操
満男「よし、行くぞ」
博「ちょ、ちょっと待てよ、おい」たじたじ
とあたふた追いかけて走っていく博。
さくら「ほら、ファイト」
後から声がかかる
ゆかり「おめでとうございます」
中村君「おめでとうございます」
さくら「あらあ、まあみなさんお揃いで」
ゆかり「お正月早々ジョギングですかあ」
中村君「へええ、がんばるなあ」
さくら「すぐ帰るわよ、さ、どうぞ」
ゆかり「はい」と上がって行く。
さくら、ワーマを見る。
ワーマ「オメドトゥゴザイマス」
さくら「はい、おめでとうございます。さ、どうぞ」
ワーマ「はい」
江戸川土手
走っている満男
博「おい、スピード落とせ」と、ぜいぜいもの。
博「年の差を考えろ、年の差を」
満男のナレーション
満男「泉ちゃん、明けましておめでとう。
こないだもらった手紙で、ママがすっかり元気になったことを知り、
両親共々喜んでいます」
走り続ける満男
お手軽な電話でなく、手紙でやり取りしているところがいいねえ。
言葉というものの力を、そして筆跡というもののリアリティを信じている。
若いながらも言葉が『物語』を作ることを知っているのかもしれない。
会話は消えていくけれど、文字は残るからね。
満男「君は元気ですか?新しい職場には慣れましたか?
何か今、困っていることはありませんか?
泉ちゃんは人の助けに甘えるような人ではないことは
よく知っているけれど、
どうか君の幸せをいつも思っているドジな人間がいることを
時々思い出してください。
僕の両親がくれぐれもよろしくと言っています。
そして、たぶん、どこか遠い空の伯父さんも..。
正月元旦 満男」
岐阜 下呂温泉
飛騨木曽川国定公園
阿多野川に架かる白鷺橋
【林羅山の銅像:猿と遊ぶ羅山】前で笛太鼓にあわせて獅子舞が踊っている。
下呂温泉は草津温泉、有馬温泉に並んで全国の三名泉のひとつ。
これは江戸時代初めの儒学者・林羅山が紀行漢詩集で下呂を三名泉と歌ったからという。
町の中央に流れる益田川(飛騨川)の橋の上に銅像を建てている。
湯之島橋
ホテル下呂館そば、飛騨川に流れ込む阿多野川に架かる先ほどの白鷺橋の
もうひとつ飛騨川に近い橋『湯之島橋』の上でバイをする寅たち。
「湯之島橋」は当時平成2年5月に完成したばかりの新しい橋。
すぐ横には飛騨川に掛かる大きな赤い下呂大橋が見える。
ポンシュウ「今年の運勢はいかがですか?
さ、いらっしゃいいらっしゃい」
寅「さて、お正月をこの温泉町でお過ごしの皆様、
新年、明けましておめでとうございます。
どうぞ、みなさまにもよいお年でありますように」
と、カップルにカバンを見せる寅
看板には「高級バック 牛皮バック」
寅「さて、ここに取りい出したるこのバック、
角は一流デパートでお願いしますと
3000円から4000円くだらない品物です。
神田は六方堂という有名な老舗が、
今回のバブル崩壊で泣きの涙で投げ出した
品物です。さ、お手にとって見てやってください」
なんと竜介とユミが新婚旅行で下呂温泉に来ている。
『ホテル下呂館』方面から湯之島橋に歩いて来た竜介
寅の啖呵バイを聞いて、聞き覚えのある声だと、きょろきょろ。
ユミ「どうしたの?」
寅「はい、手にとって見てやって、ね。
でもなんといってもいいのはこれよ。ね。
お値段見てやってほら、見えないようだったら
この老眼鏡で見て、天眼鏡でみりゃよけいいから。
ハイ!新婚さん、どう?お家で待ってるお姑さんに、
このお土産買っていきなさい買ってやんなさい。喜ぶから、ね」
竜介寅をジッと見ている。
寅、竜介をまじまじ見て…
寅「あれえ!おまえマドロス青年じゃねえか。
なにしてんだこんな所で」
竜介「あい...、オレたち新婚旅行で...ほらあ、
正月くらいしか休めんから」
寅「そうかあ、とうとう結婚したかァ〜。
へーえ。そらまあおめでとう」
竜介「はああ〜、びっくりしたあァ〜」
寅「んー」
竜介「なんらあ、こげな所で商売しとったんねえ」
寅「フフフ」
竜介「いっつも、あんたのこと噂しちょったんよォ。姉ちゃんと」
寅「ほお、、フフ」
寅「おい、ポンシュウ、これの姉ちゃんてな、
ちょっと色っぽい女がいてよ、オレいろいろとあってな」
ポンシュウ「てめえ、ふられたんか、ヘヘ」
寅「バカヤロウもてたんだい、大もてだよなあ、
ヘヘヘ。ところで、姉ちゃん相変わらず
一人で寂しそうにしてるか?」
竜介「それがなあ、寅さん...」
寅「なんだ?」
竜介「姉ちゃんな、突然結婚したんだ」
寅「え...?」
ポンシュウ「ホレみろ、やっぱりふられたんじゃねえか」当たり〜(^^)
寅、竜介をベンチに座らせて
寅「誰だ相手は?」
竜介「うにゃあ、ようは知らんのやけど、
お客さんでぇ、前にいっぺん
店に来たことがあるらしいちゃわ。
簡単に話が決まって、
店たたんで博多に行ってしもうた。
何考えチョッとか姉ちゃん。
オレはよ、寅さんと結婚するかと思とったですよ。
違うたすね」
寅「え?ああ、
一応オレもそのつもりだったんだけどな...」とタジタジ。
うそつけ、いつものようにスゴスゴ退散したくせに。
ほんと口だけのヤツ ┐(´ー`;)┌
橋の袂に「くすりや、湯之島」
寅「ポンシュウ」
ポンシュウ「おう」
寅「ちょっと店見てくれ」
ポンシュウ「あ、いいよ」
寅「おまえ、コーヒーちょっと飲みに行こうか。時間あるか?」
竜介「いくらでも」おいおい新婚旅行じゃないの新婦さん可哀想だよ ヾ(^^;)
寅「おう、じゃあ行こう
」
竜介、ユミを見て
竜介「ユミ」
ユミ「はい」はいって…邪魔が入ったのに…(TT)
寅「ユミ、来い」おいおい ヾ(^^;)
ユミ「はい」可哀想…(^^;)
寅「どういう男なんだそいつは、えー??
ひょっとしたらおまえの姉ちゃん騙されてんのかもしれねえぞ。」
竜介「いやあ、オレもそれが心配ヤットよ」
寅「そういうことは世間にいっぱいあるんだよ」
歩いて長い下呂大橋を渡っていく3人。
メインテーマが高まっていく。
芸者さんたちとすれ違ってポーッとなる竜介。
飛騨川と下呂大橋が映り、
手前北側を、JR高山本線の特急『ひだ号』が
名古屋に向かって走っている。
カメラは下呂温泉を遠く映して。
この高山線をもう少し富山の方に行くと、
私の日本でのアトリエがある越中八尾駅に着く。
なんと蝶子さんは、もう一度例の男の人が鐘をチリンと鳴らして
現れて、予告どおり本当に二人して結婚してしまったのだ。
傍目には焦って見境がなく行動したように見えても、
動物的勘をフルに使った蝶子さんは、ギリギリでは人を見る目は
冷静だったと思う。そして、なんだか今は博多で幸せな暮らしを
しているような気がする。
もちろん、蝶子さんは、寅のことを憎からず思ってはいたが、
寅の方は例のごとくいざという時には逃げ腰になるからどうしょうもない。
それでも蝶子さんはその失恋の痛手に耐えながらも、フットワークは
忘れていなかったわけである。人にはわからない運命の繋がりというのは
やはりこの世界にはあるもなんだなあ、と思わされたひとつの奇跡だった。
終
出演
渥美清 (車寅次郎)
倍賞千恵子 (諏訪さくら)
風吹ジュン (蝶子)
永瀬正敏 (竜介)
下絛正巳 (車竜造)
三崎千恵子 (車つね)
前田吟 (諏訪博)
太宰久雄 (社長)
佐藤蛾次郎 (源ちゃん)
関敬六 (ポンシュウ)
夏木マリ (礼子)
吉岡秀隆 (諏訪満男)
後藤久美子 (泉)
笠智衆 (御前様)
スタッフ
監督 : 山田洋次
製作 : 中川滋弘
原作 : 山田洋次
プロデューサー:島津清 深澤宏
脚本 : 山田洋次 / 朝間義隆
企画 : 小林俊一
撮影 : 高羽哲夫 /花田三史
音楽 : 山本直純
美術 : 出川三男
編集 : 石井巌
録音 : 鈴木功
スチール : 金田正
助監督 : 阿部勉
照明 : 青木好文
公開日 1992年(平成4年)12月26日
上映時間 101分
動員数 207万人
配収 15億円
今回2007年5月11日で
第45作「寅次郎の青春」は完結です。
次回は、
第48作「寅次郎紅の花」です。
寅にリリー。満男に泉。そして博にさくら。
15年ぶりに花が咲いたリリーと寅の恋の物語を中心に
大河が海に帰っていくように、この長い長い物語も
この作品をもって完結するのです。
次回のアップはだいたい5月27日頃です。