バリ島.吉川孝昭のギャラリー内
第48作 男はつらいよ
1995年12月23日封切り
待ち続けた15年の歳月 二つの運命の赤い糸
寅にリリー、満男に泉
私が人生の最初に映画館でお金を出して「男はつらいよ」を観たのは大阪から東京へ出て、一人暮らしを始めたその年だった。
その作品が1980年夏公開の第25作「寅次郎ハイビスカスの花」だったのだ。青春期真っ只中で寅とリリーの物語をはじめて観た日から、
このカップルの結びつきの強さに惹かれて、ただひたすら彼らの赤い糸の源流を辿るように「忘れな草」を観、「相合い傘」を観た。
そして次は、『寅次郎ハイビスカスの花』以降の二人の物語が気になってきてしょうがなかったのだ。それ以後なんと15年もの間私は
毎年待ち続けた。マドンナの発表があるたびに今度こそリリーであることを願いながらも、それこそ祈るような気持ちで待っていた。
この気持ちは私だけでなかったはずだ。おそらくは山田組にとっても本当に待ち焦がれた最愛のマドンナだったのだと思う。
しかし山田監督が四たびリリーを呼ぶにはどうしても15年という気の遠くなるような歳月が必要だったのであろう。
しがらみの多いこの世の中ではタイミングというものが合わないとなかなか巡り会わないのだ。分かっていてもできないことはある。
一番そうしたいはずなのにできないことは、この世界には山ほど存在する。
浅丘ルリ子さんは、この15年という歳月をインタビューでこう語っている。
「ほんとに15年経ったんですよねえ〜。
「このお話があったときに、なんか3本目のハイビスカスで終わっておきたいなって思いと、あー、嬉しい、ほんとは私待ってたの!
と言う思いと両方だったんですが、でも…、お互いにみんな15年歳をとっているわけですから、それなりの寅さんや
さくらさんやとらやのみなさんや、そして…リリーさんが、15年経ってどうなったんだろうっていう…、そういうあたしたちが
あってもいいんじゃないかなっていうことで、あの…お引き受けさせていただいたんですけれども、
あー、この組に帰ってきたんだ、っていう気がして凄く嬉しかったです」
そして私にとってリリーが帰ってきただけでなく、なんと諦めていた泉ちゃんまでが物語に帰ってきたのである。
寅はリリーのことをこう言う
「オレとこの女は生まれたときから
運命の赤い糸で結ばれているんだよ、なあリリー」
リリーは言う
「飲もう、寅さん」
寅にリリー
満男に泉
この素晴らしきベストカップルたち。
こんな幸福なことはなかった。私は今この文章を書いていて、つくづく映画評論家でなくてよかったと思っている。
私にとってこの第48作はとうてい独立した一作品とは思えないし、思いたくない。倍賞さんがいつもおっしゃっていたように、
長い長い一つの映画のラストがこの第48作「紅の花」なのである。この作品の後ろには47作品の重みがある。
その重み無しでこの作品を語ることはなんとナンセンスなことかとつくづく思う。今やこの作品をスクリーンで観るお客さんは
寅とリリーの数々の思い出を懐かしく思い出しながら今を楽しんでいるに違いないのである。
浅丘さんの「あー嬉しい!本当は私待っていたの!」は真実の言葉だった。
浅丘さんは待っていた。私には分かるのだ。彼女の気持ちは15年間ずっとスタンバイしていた。
最後の作品が浅丘ルリ子さんで、リリーで本当によかった。救われたと、心から、そしてしみじみそう思う。
浅丘さんは、山田監督の取り組みを間近で見て、相変わらずのエネルギーって言ってたけど、あの作品で、
浅丘さんこそが、物語にそしてスタッフキャストたちに息吹を与えていたエネルギーの源だったような気がするのは
私だけだろうか。
寅の歴史的な告白
寅は以前、第25作「寅次郎ハイビスカスの花」でリリーにプロポーズのようなことを夢心地につぶやいている。
「リリー、オレと所帯持つか…」
結局、覚悟も決意もないままの発言だったために冗談にしてしまうリリーと寅。
それ以前も、それ以後も、そのようなつぶやきさえ誰にも言えなかった寅。
しかし、遂に、この第48作「寅次郎紅の花」で寅は歴史的な告白をする。
柴又で寅と喧嘩したリリー。それでもさくらの必死の説得によって寅は、リリーを送る。
タクシーのところまでだと思っていたリリーの横に乗り込んできた寅。
リリーは驚き、寅に尋ねる。
リリー「ねえ、寅さん、どこまで送っていただけるんですか?」
寅「男が女を送るって場合にはな、その女の玄関まで送るってことよ」
リリー「ほんと?あたしのウチまで来てくれるの?」
寅、前を向いたまま座っている。
リリー「運転手さん、金町じゃなく、あたしのウチまで行って」
そう言って、寅の肩に静かに顔を埋めるリリーだった。
幸せそうなリリー。
寅は反応せず、ひたすら前を向いている。
寅のこの発言、
「男が女を送るって場合にはな。その女の玄関まで送るってことよ」は間違いなく一世一代の寅の告白である。
それも夢心地や勢いで言ってしまった発言ではない。言った後も、瞬き一つせず、寅は前を直視している。
彼は決意している。彼女と人生を共にすることを。
このあとまだまだ紆余曲折はあるだろうが、寅はある決意と覚悟をこの場面でしたのである。
寅の、あの一言を私は15年間待っていたのだ。あの一言を聞きたいがために、私は永くこの映画を
見続けてきたのだろう。そして遂に、山田監督は、観る人が待ち望んでいた寅の素面の告白を用意してくれた。
もうこの場面があれば何も要らない。私の待ち続けた15年間はこうして報われ、私の静かで辛い持久戦も
終わりを告げたのだった。
この長い長いシリーズで、私が人目も気にせず泣き続けてしまったのは、第15作「寅次郎相合い傘」でのリリーを切なく想う
寅のアリアの場面と、この第48作「寅次郎紅の花」での、寅とリリーが最後に交わすこの会話の場面であった。
私の人生は何かを確実に約束されたのである。
第二の故郷の誕生 リリー渾身の啖呵
寅にとっても、遂にこの作品で柴又のとらや以外に遂に第2の故郷が誕生したのである。
その場所とは、奄美大島加計呂麻島 諸鈍長浜
その最後の決断が上に書いた寅の告白だ。
しかし、そのきっかけとなったのはもう少し前に遡らねばならないだろう。
自分の独善的な美学と自信のなさが寅の中に長年にわたって女性に対してある種の壁を作らせていたが、
それを破壊したのは加計呂麻島の自宅でのリリーの一世一代の啖呵だった。
寅の敵前逃亡…。一番古くは第8作「寅次郎恋歌」にそのきざしがすでに見られ、第10作「寅次郎夢枕」で決定的になる。
この時山田監督には2つの道が残されていたと思う。一つは、かつてのファンを失望させながらも、このまま寅を進化させ、
得恋的失恋の達人に仕立て上げていくか、それとも寅がふられなくなったこの時点でシリーズをやめてしまうかである。
しかし、スッテンコロリンと無様に転ばない寅なんて面白くないと言うディ−プなファンの方々のその先を寅は走りに走り続け、
はるか彼方まで駆け抜けていったのだった。そして『リリー』という最愛の人との出会いに恵まれ、パワフルでやんちゃな
フーテン野郎から、優しさが表に出たヒーローに脱皮した寅は、こうして多くの日本人に支持されていった。
そしてそのために必然的に何度も繰り返され露出する、奥深い底なしの優しさの中に隠された強烈なエゴ。
実は寅自身はそのエゴにさほど気づいていないという設定のまま、作品は毎年次々に作り続けられていった。。
そして最後の、第48作、奄美でのリリーの啖呵によって寅の全貌が初めて明らかになるのだ。
山田監督が、初めて明かした、寅の表と裏。
皮肉にもこのリリーの赤裸々な訴えが、このシリーズの最後の言霊になってしまった。
最後になったのはとても残念だが、ある意味間に合ってよかったとも言える。
物語的にはこうである。
満男が泉ちゃんの結婚式を壊してしまったことに対して、奄美のリリーの部屋で説教をたれる寅。
そこには相変わらず、寅の例の独りよがりの独善と身勝手な美学が入っていた。まったくいつものお決まり文句。
その言い古された口調と内容を聞いて遂にリリーが切れるのである。
リリー「バカバカしくて聞いちゃいられないよ。
それがカッコいいと思ってんだろあんたは。
だけどねえ、女から見ると滑稽なだけなんだよ。
カッコなんて悪くてもいいから、男の気持ちをちゃんと伝えて欲しいんだよ女は。
だいたい、男と女の間っていうのは、どこかみっともないもんなんだ。
後で考えてみると、顔から火が出るような恥かしいことだってたくさんあるさ。
でも愛するってことはそういうことなんだろう。きれいごとなんかじゃないんだろ。
満男君のやったことは間違ってなんかいないよ。」
寅「ちょっと待てよ、オレの言ってることはな、男は引き際が肝心だってこと言ってんの。
それが悪いのか?」
リリー「悪いよ、バカにしか見えないよそんなのは。
自分じゃカッコいいつもりだろうけど、要するに卑怯なの、気が小さいの、
体裁ばかり考えているエゴイストで、口ほどにも無い臆病者で、つっころばして、
ぐにゃちんで、とんちきちんのおたんこなすだってんだよー!」
この長いシリーズの中で、さくらや博、おいちゃんおばちゃん、社長、満男、御前様、マドンナたちがそれぞれ、寅を批評してきた。
おいちゃんや、おばちゃんは、フーテン、甲斐性なし、根気無し、遊び人、等々。
さくらは「兄はそういう人」つまりギリギリでは自分では役不足だと悟って逃げてしまう…と。
しかし、こそのような批判はある意味寅の表の欠点だ。そんな欠点は寅も表層意識で前々から分かっているのだ。
そのような表面の欠点を言われても、かえって粋がったり、自己陶酔すらするくらい、その手の批判には強い寅なのだ。
そして遂に一度も真正面から触れられることのなかった寅の闇の部分に初めて真っ向からメスを入れたのが、シリーズ最後の
作品になってしまった第48作でのリリーの啖呵だった。
これによって満男はようやく寅をほぼ理解することが出来たし、私たち観客も寅の全貌を初めてイメージすることが出来たのである。
愛すべき心優しき楽天家の寅。
そしてその陰に潜む『卑怯、体裁主義、エゴイスト、臆病、』の領域を把握していくと、意外にも、今までより一層寅がいとおしく、
可愛くなってくるから不思議だ。寅もやっぱり臆病で自分のことが一番可愛い生身の人間だと実感できるからかもしれない。
そしてリリーが語ると、それがたとえキツイ啖呵でも「愛の告白」に聴こえるからこの作品は奥深い。
そのリリーの告白とも言える心の叫びが頭にトラウマのように残った寅は、紆余曲折の末、柴又からもう一度二人で
遠く奄美大島加計呂麻島に戻るのである。そしてその決断と覚悟の始まりの言葉が、あの
「男が女を送るっていう場合はな、その女の家の玄関まで送るっていうことよ」である。
まさに『その時歴史は変わった』だ。
そうは言うものの、もちろんそのあとしばらくして案の定寅はプィっと旅に出てしまうのだが…。
しかし、もう寅は「戻るべき場所」を持ったのだ。それは柴又ではない。柴又は「懐かしい故郷」だが、
「奄美」は自分の居場所であり、今生きていることの証の場所だ。現在から未来へ繋がるリアリティのある場所。
それがリリーの住む奄美大島加計呂麻島諸鈍長浜である。
寅と一緒に奄美に帰ったリリーは、正月にさくらたちに手紙を送る。
あけましておめでとうございます。
みなさんどんなお正月をお過ごしですか。
さて寅さんのことですが、
一週間前、例によってお酒の上でちょっとした口げんか
をした翌朝、置手紙をしていなくなってしまいました。
あの厄介なひとがいなくなって、ほっとしたりもしましたが、
こうして独りで手紙を書いていると、ちょっぴり淋しくもあります。
またいつか、ひょっこり帰ってきてくれるかもしれません。
もっとも、その日まで私がこの島に暮らし続けちゃってるか
わかりませんけどね。
もしかしてこの次寅さんに会うのは北海道の流氷が浮かぶ
港町かもしれません。
寅さんにお会いになったら、どうかよろしくお伝えくださいね。
奄美の浜辺にて リリー
それでも、やはり寅は奄美大島でも正月を待たずに、年末に旅立っていった。
しかし、それでこそ寅とも言える。
リリーは手紙に『訪ねてくれるかも』と書かずに、『帰ってきてくれるかも』と書いていた。
ここにリリーの確信がはっきりうかがえる。
寅はもう自分のもとからは離れないだろう。
また必ず『帰ってくる』
リリーは寅をいつまでも待っているのだ。
それは、さくらが兄を待つ気持ちとは違う。
リリーは共に歩むものとして寅を待つのだ。
そして寅はまた奄美に帰ってくる。
彼女は長旅で疲れた寅の顔を見て微笑んでこう言うのだ。
「おかえり、寅さん」
もう一つの運命の赤い糸 満男と泉ちゃん
寅とリリーの物語以外でもこの第48作はこの長い物語の終結のシーンを見ることが出来る。
泉ちゃんが2年間のブランクを経て戻ってきたのだ。いきなり戻ってきたので、おいおいその間二人は会うことも電話することも
なかったのかい?と疑いたくなるが、まあ、その辺は私としては、第46作と第47作は『別枠』特別編として見ている。
それゆえ私的には第45作の次が第48作である。それでもちょっとこの二人の恋の経過にはつじつまが合わないところがあるが、
そこは目をつぶろうと思う。最後を強烈に予感した山田監督がなんとか泉ちゃんを復活させてくれたのだと思う。
そのことに感謝あるのみである。
数年ぶりに会いに来た泉ちゃん。結婚が身近に迫った彼女は、初恋の人である満男の気持ちをもう一度最後に確かめに来たのだ。
未だ自信のない満男は、彼女の結婚を祝福するふりをしてしまう。結局悩みながらも泉ちゃんは見合いの相手と結婚することに。
しかし、こともあろうに結婚式当日、式の行列に割って入って式をぶっ潰してしまった満男。
その無謀な行動のわけを確かめたくて泉ちゃんは、奄美大島加計呂麻島の浜辺にやって来る。
泉ちゃんに迫られ、遂に愛を告白する満男。それを聞いた泉ちゃんの弾んだ笑顔。そして二人に駆け寄るリリー。
この人たちの笑顔を見るためにこの長いシリーズを見てきたのだと言っても過言ではないシリーズ屈指の名場面だ。
ただ、この一連の騒動には一つ問題が残る。それは泉ちゃんと新郎のけじめである。
この問題には満男は入り込んではいけないと思う。あくまでも泉ちゃんと新郎の問題。
寅の行動は喜劇ゆえに何でも笑って許されるお約束事があるが、満男と泉ちゃんがそれをやっては洒落にならない。
この問題に泉ちゃんがけじめをつけない限り、満男と泉ちゃんの明日の幸せはないだろう。
さくらと博 その新たな門出
そして私には実は、忘れられないもうひとつの静かなシーンがある。
正月にさくらと博がリリーへの手紙を書いた後、二人で浅草に映画を見に行くのである。
満男はすでに泉ちゃんと結婚を前提につき合い始め、今日も名古屋の熱田神宮に二人して初詣をしている。
寅ももう若くはない。これからは先ほど書いたように奄美に定着したリリーとの縁が一層深くなっていくであろう。
ひょっとして旅に疲れたら柴又でなく、時には奄美に戻って行くのかもしれない。
もうこれからは長い長いさくらと博のたった二人だけの黄昏が始まるのだろう。この先の人生こそ彼らにとって
大切な時間となっていくだろう。
そしてこれを見ている私はもうあの二人には会えないのだ。このことは寅とリリーに会えないくらいに、実は
私には辛いことだと今では自覚できる。自分でも不思議だが、私は車寅次郎の人生を追ってきたつもりだった。
毎作品フーテンの寅に会うためにこのシリーズを見てきた。だが、ひょっとして、実はその背後で寡黙に生きるさくらと博をこそ
見続けていたかったのかもしれない。
あの1996年正月の午後、もう見ることのない最後の彼らの背中が午後の日差しの中で遠く小さくなっていった。
この第48作「寅次郎紅の花」で最も涙を流してしまったのは上に書いたタクシーの中での最後の寅とリリーの会話だが、
意外にも、もっとも切なくしみじみと今でもふと思い出してしまうのが、ほんとうになにげない一つの日常の一コマ…。
それは、あのラスト近く、浅草へ正月映画を見に行くさくらと博の小さくなっていく何でもない背中なのである。
なぜあの何でもないシーンがこんなにも頭から離れないのか、このわけを探っていくのが今後の私の課題でもありそうだ。
■第48作「寅次郎紅の花」全ロケ地解明
全国寅さんロケ地:作品別に整理
それでは始めましょう。
本編
CG製作の松竹富士山
柔らかな青空
チチチチ・・・
どこかでモズが鳴いている。
岡山 美作滝尾(みまさかたきお)駅 (JR因美線)
岡山県津山市堀坂
女性が自転車を漕いで弁当を届けに来る。
娘「おしずさ〜ん こんにちは〜」
おしず「こんにちは〜」
委託駅員さん、部屋で新聞を開いて読んでいる。
駅員「尋ね人か・・・どう言うわけがあるんじゃろうな〜、
こう言う人らには・・・」
娘「なんと書いとん?」
おっちゃん「え〜っと。
『寅 みんな心配しています連絡して下さい。 さくら』
家出したんじゃな」
娘「何が原因なんじゃろうね?おとっちゃん」
夫婦じゃなくて彼女は娘なんだね(^^;)
ちなみに監督の脚本でも娘となっている。
おっちゃん「きまっとるがな女じゃ…
女作ってウチ出たんじゃ」
決まってない決まってない ヾ(^^;)
娘「嫌じゃね〜!」決めつけるなって ヾ(^^;)
おっちゃん「しょうがない奴じゃ〜どうせ」
もう動かしがたいくらいに決め付けてます(^^;)
さくらが載せた尋ね人の横にある宣伝↓
青い海と南の島に生きる動植物を訪ねる
西表島、石垣島、黒島、竹富島を巡り、海と島々の豊かな自然を探ります。
瀬田信哉、元環境庁審議官が同行し、各島在住の自然、動植物、文化、民俗の
専門家が案内します。
とき:11月23日(木)から26日(日)の3泊4日
ところ:沖縄八重山諸島
定員:三十名
十六万九千円
問い合わせ:朝日カルチャーセンター事業部
企画主催:朝日カルチャーセンター東京
旅行主催:日本通運東京旅行支店
後援:朝日新聞
約17万円はバカ高…
コンコン・・・
娘「は〜い」
寅「飯かい?」
その『しょうがない奴』が笑って顔覗かせています(^^;)
娘「どちらまで?」
寅「勝山までいくらだい?」
娘「490円です」
寅「じゃ、2枚」
娘「はい」
寅「うん」
娘「まだ30分ほどまたにゃいけませんで」
寅「あ〜暇はいっぱいあるから。はいよ」
娘「はい」
寅「どうもありがと」
娘「は〜い」
改札横の壁に『津山祭り』のポスター。
寅たちは今度この津山祭りでバイをするのだ。
実に味のある作り方をしてある鄙びた駅。
ポンシュウ「あ、トンボだ」
娘「尋ね人か みんな心配しています ふーん」
寅、トンボの目を回そうとして指をぐるぐる回して捕まえようとする。
駅員の目はその手に合わせて動いていく。
今、まさに捕まえようとして逃げられてしまう。
寅「…!…逃げちゃった、フフ」
男はつらいよ 寅次郎紅の花 映倫 1144465
バックの映像はそのまま美作滝尾駅 ホーム
口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。
♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前の喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪
間奏が長く入る。
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪
最後の渥美清さんのクレジット
最後の倍賞千恵子さんのクレジット
勝山 出雲街道 町並み保存地区
因美線で美作滝尾駅から勝山まで来た寅とポンシュウ。
出雲街道沿いに歩いていると御前酒で有名な『辻本店』が目に入る。
御前酒 辻本店
酒の試飲コーナーを見つけ、これ幸いと入る寅たち。
板にこう書いてある。
試飲歓迎
どうぞお試しください あまり飲み過ぎないように
寅は一応酒の風味を味わうが、ポンシュウは
意地汚く次々に飲みまくる。
ポンシュウ、遂につまみをカウンターに出して悦に入る。
寅「汚いねえ」と店員にポンシュウの行いを言う。
店員、ポンシュウが全銘柄を試飲するのではと気をもむ。
案の定、酒の試飲で飲み過ぎ、酩酊してしまった寅とポンシュウ。
忘れた寅のカバンを持って追いかける女性店員。
旭川に架かる橋でポンシュウ、フラフラになる。
店員が心配そうに見ている。
クランクイン直前に亡くなられた
高羽哲夫さんのクレジット
津山
秋の津山祭りでバイをする寅
大隅、徳守、高野神社の秋祭り。それぞれの町の20台の華やかなだんじりが町を練り歩く。
だんじりには鳳龍臺、翔龍臺、飛龍臺、雙龍龍臺、麒麟臺、紅葉臺などの名前がついている。
津山 中之町の作州城東屋敷の近く(保存地区)
祭りのだんじりが通って行く。
無許可の消火器もどきをバイ。1本3千円!
日本防災協会 認定品 (ウソ丸出し、そんなもの売るなよ。マジヤバイ…((((^^;))
地元の消防団の人たちに問い詰められてごまかすのに躍起になる寅たち。
満男がこの作品で泉ちゃんの乗った車を妨害する町、上之町は、このすぐ上手、徒歩圏。
町の入り口にある大橋を渡る町のだんじり。
柴又 題経寺
さくらが山門から手を合わせお祈りをしている。
若いカップルが写真を撮ろうとしている。
青年「すいません、シャッター押してもらえますか?」
源ちゃん引き受ける。
源ちゃん観光客のカメラを覗きながらちょっと後ろずさり。
友達の良夫に足を出されてこかされる。
第47作「拝啓車寅次郎様」でもこの良夫君は出てくる。
帝釈天境内の菊花展のポスター
良夫「グフフフ!!」
源ちゃん「ワシャ何しとんねん!!お前は!」
青年「カメラ!カメラ!」
さくら、思わず笑ってしまう。
散歩の子犬見て
さくら「あらレムちゃんお散歩?涼しくなってよかったわね〜」
と、とらやに向かって歩いていくさくら。
とらや 店
江戸屋「お早うございま〜す」
さくら「お早うございま〜す」
かよちゃん「お早うございま〜す」化粧を店でなおしてるかよちゃん(^^;)
さくら「あ、三平ちゃん、」
三平ちゃん「はい」
さくら「川千家さん届けてくれた?」
三平ちゃん「さっき、番頭さんが取りに来ました」
さくら「よかった」
茶の間
さくら「涼しくなったわね、おばちゃん」
おばちゃん「うん」
おいちゃん「うん」
さくら「暑さ寒さも彼岸までか・・・」
おばちゃん「ね、ちょっと上がってよ」
おいちゃん「ちょっと」
さくら「何?」
おいちゃん「こいつがな〜もう一回新聞広告出そうかって言うから
オレはよせって言ったんだよだいたい新聞なんか読みゃしないよ寅〜」
見ない見ない生涯で一度も見ない(^^;)
さくら「しかもこんな小ちゃくじゃね〜」
と、天眼鏡で文字を見るさくら。
おばちゃん「でもさ〜一月の半ばだよ〜このビスケット送ってくれたの
それ以来ナシのつぶてなんだよ?」
おいちゃん「もうやめろその心配は〜
あいつにもしもの事があったら神戸の市役所が教えてくれてるよ」
おばちゃん「だけどさ、身元の分かるもの何にも持ってないんだよあの男」
さくら「おばちゃん、便りが無いのが無事の知らせって言うでしょう?」
おいちゃん「そうそう」
さくら「大丈夫よ…きっと、どこかで元気にしてるわよお兄ちゃん」
とは、言うものの、さくらもちょっと滅入っている…。
テレビ番組が始まる。
『大震災その後 ボランティア元年』
おばちゃん「ちゃんと見なくちゃ」
おいちゃん「ボランティアか、爪の垢でも煎じてのみゃいいんだ寅も」
さくら「ねえ〜、」
テレビ「1月17日に起きた阪神淡路大震災から8ヶ月神戸や
阪神間は復興への確かな道を歩んでいます。」
家屋が崩れてしまう映像。
さくら「あ、ああ」
おばちゃん「ひどいわねえ〜」
さくら「ひどいわねえ〜」
テレビ「死者5500人以上負傷者4万人家屋の損害40万戸と
言う未曾有の被害をもたらした大地震は周辺に大きなショックを与えました。」
おばちゃん「あらあら、あのお年より、」
寅「どうもありがとう」
おいちゃん「あ?」
さくら「あら?」
画面の中の寅
寅「気をつけてな、大丈夫か?」
おばちゃん「この男!」おばちゃんテレビに指を指す。
テレビ「特に神戸市長田区は火災などが原因で」
おばちゃん「もしかして…」
さくら「似てたけど・・・」
テレビ「古い文化住宅や商店街…」
おいちゃん「いるわきゃないだろう、こんな所に〜」
さくら「ねえ?」
さくら「あ〜驚いた〜」
テレビ「・・壊滅的なダメージを受けました。」
おばちゃん「でもぉ…カバン持ってたでしょう?さくらちゃん」
おいちゃん「カバンくらい誰だって持ってるよ。」
おばちゃん「でもいつもの四角いんだよ?」
おいちゃん「四角いの顔だろお前」座布団一枚(^^;)
さくら、それ聞いてちょっと笑っている。
テレビ「・・が破壊、焼失し、水道や電気など生活基盤がほとんど麻痺し、
多くの住民が生活の場を失い、避難所やテント村での生活を余儀なくされています、」
被災者を見舞う村山首相の横、…寅の帽子が画面の端に映る。
村山首相「頑張ってくださいね。寒い中だから気をつけて」
被災者のおばさんたちが「今日だけやったらダメよ。住所とかないからね」
「約束守ってくれるかどうか」「守ってもらわなあかんわ、なあ」と
一時期だけ見舞えばいいというもんじゃないことを口々に訴えている。
寅の帽子が画面の隅に映る。
さくら「ちょ、ちょっと、この帽子!」
おいちゃん「お?」
寅「オレからもよ、総理によ〜く頼んであるから、な
みんなしっかり頑張ってくれ。頼むよ。
村ちゃん、よ、村ちゃん、行こうか?」おいおいおい… ゞ(^^;)
第81代 村山富市内閣総理大臣を『村ちゃん』って…。
テレビ「しかしこのような状況の中で、さまざまな人たちが全国各地から
神戸に駆けつけ、ボランティアとして活躍し、復興に協力してきました」
おいちゃんとさくら、そ〜っと顔を見合って、
またテレビの画面の方へ。
テレビ「この年平成7年は、ボランティア元年とも言われているのです。」
寅が、ボランティアの腕章「ボランティアすたあと長田町」をして
ボランティアで炊き出しを配っている。
おばちゃん「あらやだ、また映った」
さくら、テレビの画面に指をずっと指しっぱなし。
もう下ろしていいんだよさくら ヾ(^^;)
おいちゃん「働いてるよあいつ」座布団一枚(^^;)
テレビ「こんにちは。えー、今回は未曾有の大災害となりました阪神大震災で…」
さくら、呆然としている。
博が工場からタコ社長と一緒に入ってくる。
かよちゃん「こんにちは〜」
博「こんにちは」
おばちゃん「博さん!大変、寅ちゃんがね!」別に今更大変ではない ゞ(^^;)
博「え?!」
さくら「ボランティアしてたの!」
おいちゃん「今テレビに映ったんだよ!」
博「誰が!」よく聞いてろよ(−−)
さくら「お兄ちゃんがよ!」
博「兄さんがどうしたって?」よく聞いてろよ(−−)
さくら「ボランティアについて考えるって言う番組を見てたらね、」
おいちゃん「神戸に居るんだ神戸」落ち着け落ち着け ゞ(^^;)
博「神戸?」
さくら「違うのよおいちゃん、あれはね、2月か3月に映したの。」
おばちゃん「だって映ってたじゃないかよ、あの四角い顔が!」
おばちゃんも落ち着け落ち着け ゞ(^^;)
さくら「だからずっと前に映した物をさっき放映したのぉ〜」
『録画』というものの概念が希薄な老夫婦でした。
いつものニュースだと思ってしまうんだよね。
博「ちょ、ちょっと待ってつまり神戸の被災地の映像に、
兄さんの四角い顔が映ってたと言うことなのか?」
こんな時にも、顔の特徴を修飾するのを忘れない博って…(^^;)
さくら「そう…」
おばちゃん「生きてたんだよ」
さくら「あー…、びっくりした〜はあ〜」
社長「何?寅さんどうしたの?」博と一緒に同じ条件で聞いてたろが(−−)
おいちゃん「お前黙ってろ!」
博「もう一度整理さしてください、ボランティアについて
考えると言う番組をみんなで見ていたら兄さんが映ってた」
さくら「うん」
博「その映像は今年の2月か3月頃の物だった」
さくら「そうそう」
博「という事は、兄さんは旅先の神戸で震災にあったんだ」
さくら「そう…」
三平ちゃん台所にやって来て
三平ちゃん「あの〜若奥さん」
さくら「ん?」
三平ちゃん「寅さんを訪ねて神戸からお客さん来てますけど?」
さくら「神戸から?」
今回の冷蔵庫のスポンサーは『キリン』
とらや 店
さくら「あ、こんにちは」
石倉「こんにちは お仕事中お邪魔します。」
さくら「私妹ですが兄に何か御用でも」
石倉「ほんならさくらですか?」
さくら「はい」
石倉「いや〜あの〜お噂はお兄さんからよく伺ってます。」
さくら「あ、」
石倉「わし〜神戸の長田区でパン屋やっとるもんです。
東京にちょっと用事がありましたもんで、
帝釈さんお参りかねてちょっとご挨拶にと思いまして。
あの〜…お兄さんお出かけですか?」
さくら「ええ、あの〜、ずっと旅に出たきりでェ…」
石倉「あの〜ずっとと申しますと・・・」
さくら「とにかくお掛けください。」
かよちゃん「どうぞ」
石倉「どうもすみません」
かよちゃん「おにもつ」
さくら「かよちゃん、お茶」
かよちゃん「はい」
さくら「あの〜もしかして、兄が皆さんにご迷惑でも」条件反射だねさくら(TT)
石倉「と、とんでもないですよ 迷惑なんて、
僕ら被災者はずいぶんお世話になりました。
いろんな品物の配給なんてあるんですね。
そう言う時に…、『ばあさんが先だよ!』なんてね、
大きい声で整理していただいたりね、」
さくら「はい」
石倉「実はね、市役所へ皆でかけあいに行ったんです。その時に先頭きってね、
『市長!対処遅いんだよ四角四面じゃ物事進まねえんだよ』
だなんてね、フフフ、自分が四角いの棚に上げましてね、フフフ、
まあ〜大活躍でしたね〜。いつもでも居て欲しい、頼もしい人でしたね〜。
あんな事さえなけりゃなああ〜」
さくら「あの事と申しますと?」
石倉「実は被災者の中に芸者あがりのご婦人の方がおられましてね〜。
これが色が抜けるように白い綺麗ぇ〜なお方でしたんですわ〜。
ほら〜綺麗でした!この方へ寅さんがえらい親切にされましてね」
おおお、知られざるもう一人のマドンナがいた!
第27作「浪花の恋の寅次郎」のふみさんのような人かな…。
さくら、沈んだ顔になる。
博「その先は仰らなくてもだいたい見当が
つくような気がいたします。」あああ…(TT)
石倉「あ、そうですか?」
さくら「その人の事が原因で兄は神戸を離れたんですね?」
石倉「ようお分かりですな〜…。
さすが妹さんですわ。
もちろん、わしらも一生懸命引き止めたんですよ。
引き止めたんですよ…、ところが…、わし忙しい体だから
いつまでもボランティアやってる訳にはいかねえんだ〜、
言うてスーッと…そんなふうに言われてスーっと…」
さくら「やっぱり、ご迷惑をおかけしたんですね、兄は」
なんか言えば迷惑迷惑って…そんな迷惑以上に今回は特に
寅は大いに役に立ったんだよさくら。
分かってやってくれよ、今回ばかりは ゞ(^^;)
石倉「いいえ、とんでもないです。
あの〜、先月からなんとかお店再開できまして、
これ〜わしと女房が焼いたクッキーですねん。
みなさんで食べてもらおう思うて」
さくら「まあ、ありがとうございます」
博「さくら、奥に上がってゆっくりしてもらったら」
さくら「うん」
石倉「いえ、あの・・・連れがお寺で待ってますから」
さくら「でもちょっとだけでも」
博「そうそう」
石倉「わし〜これから上野で買い物して〜
今日中に神戸にもどらにゃなりませんねん。これで」
さくら「そうですか」
石倉「寅さん、帰ってきはったらァ、よろしゅうおっしゃって下さい」
さくら「はい」
石倉「長田区の、パン屋の、石倉、言うてもろたら分かります。
皆さん失礼します〜」
おいちゃん「お気をつけて」
さくら「まあ、なんとお礼をもうしあげれたらいいか」
三平ちゃん「奥さん、これおみやげ」と素早く団子の箱を渡す。
帝釈天参道
さくら石倉さんを呼び止めて、
さくら「あの〜すみません」
石倉さん振り向く。
さくら追いついて、
さくら「これ、柴又名物の草団子です
どうぞ皆さんで召し上がって下さい」
石倉「ああ、そうですか 遠慮なく頂戴します」
参道を歩いていく石倉さん。
さくら「がんばってくださいね!」
石倉さん、振り向いて、
石倉「はい、一から出直しですが、がんばります!」
さくらの家
『がんばってます神戸 菅原市場商店街』
ISHIKURA BAKERY
震災前、長田区の菅原商店街はアーケードの両側に、三十四店が営業していた。
震災後は多くの店が廃業に追い込まれた。
この菅原市場は、ラストシーンのロケが敢行された所。
その後、菅原市場は一部の店主や店子らがスーパーを立てて、“味彩館SUGAWARA”として
生まれ変わった。
手作りクッキーの香りをかぐ博。
さくら「おいしそう」
とレギュラーコーヒーを作っている。
博「うん」
玄関で満男の声
満男「ただいま」かなり疲れている様子。
さくら「おかえり」
さくら「疲れた?」
博「おい、兄さん神戸にいたんだぞ」
満男「うん、今お店に寄ったらおばちゃんが話してくれたよ
ボランティアで活躍してたんだって?おじさん」
博「ボランティアって言葉が当てはまるかどうか知らないけど
なんて言うのかな、つまり、兄さんみたいな
既成の秩序、もしくは価値観とは関係の無い言ってみれば
めちゃくちゃな人がだよ、ああ言う非常事態には意外な力を発揮する。
まあ、そう言う事になるのかな?」
なにもそんな小難しく言わなくたって… ゞ(^^;)
満男「なんだよぉ、全然わかんねえよ」
博「ようするに、皆さんのお役に立ったと言う事だよ」
満男「はあァ〜…、あん時オレもボランティア休暇もらって神戸に行けばよかったな。
そしたらおじさんに会えたかもしれないのに」
二階に上がって行こうとする満男
さくら「満男、さっき女の人から電話があったわよ、野田さん・・・とか」
満男「あああ、分かった分かった」なんとなく投げやりな返事。
さくら「あんた、電話しなくていいの?」
満男「いいんだよ〜」全くやる気なし。
博「なんだよ、その女の子」
さくら「近頃付き合ってる人じゃない?」
さくら「他にも何人もいるみたい」
博「何を考えてるんだ一体!そろそろ結婚問題について、
真剣に考えなきゃいけない年なんだぞ!」
さくら「結局、泉ちゃんのことが好きなんじゃない?」
近江長浜の菜穂ちゃんのことはどうするんだい?と、
つっこみたくなるのは私だけでしょうか(^^;)
博「今でもか?」
さくら「言ってみれば初恋の人でしょう?
その人の事がどうしても忘れられないのよ。
…そう言う不器用な子なのよ満男は」
満男の不器用さが歯がゆくもあり、いじらしくもあるさくらだった。
博「だったら、ちゃーんと自分の気持ちを
伝えればいいじゃないか」
さくら「それができればね〜。
こないだ、あたし思い切って聞いてみたのよ。
泉ちゃんの事どう思ってるの?って」
博「あいつ、なんていってた?」
さくら「ちょっとそっぽ向いてね、
『あ〜、あの女とは終わったよ』だって」
距離が遠くなって、お互いの遠慮も手伝って
疎遠気味になっているんだねきっと。
博「ダメだ、そんな事言ってるんじゃ」
いくらなんでも泉ちゃんのことを『あの女』とは言わないだろ満男は。
まあ、ちょっとギャグの要素が入ってるのかな?
考え込むさくら。
東京駅 新幹線ホーム
車内アナウンス「東京です。ご乗車ありがとうございました。お忘れ物、落し物、無いよう、もう一度お確かめ下さい。
構内アナウンス「え〜ご乗車お疲れ様でしたー、終点の東京でございま〜す…」
泉ちゃんがホームに降り立ち、最寄の出口を探す。
満男の勤め先 『光陽商事』
浅草6丁目
社員「黒いほう」
満男が黒い靴を持ってくる。
社員「あ、ちょっと面倒だね」
社員B「ここがポイントなんだよ かわいいよ、」
女性社員「諏訪君」
満男「はい」
女性社員「隅に置けないわねえ〜」
満男「何が?」
女性社員「面会よ、可愛い〜娘(こ)」
満男「ちょっと失礼します。」
満男「いるわけないでしょう?」
満男「おばさんすぐからかうんだから〜
女性社員「なんでー?」
階段を下りていって、目を見開いて驚く満男。
泉ちゃんに気づいて、思わず動きが止まる。
泉ちゃん、階段の満男に気づいて、笑顔で微笑む。
後藤久美子さん、相当日に焼けてるなあ〜(^^;)
満男「泉ちゃん!」と、走って駆け寄る。
泉「こんにちは」
満男「どうしたの?一体?」
泉「満男さんにね、会いたくなったの」
満男「フ…うそつけ!」
満男、おばさんの視線を背中で感じる。
満男「なんで電話くれないんだ?前もって」
泉「ごめんね、急に思い立って新幹線にのちゃったの」
ちょっとなにかありげな表情…。
アポ無しは泉ちゃんの得意技。もうず〜っとアポ無し。
よっちんと岡部がそのおかげでどれだけ迷惑を…(TT)
満男「名古屋から?」
泉「うん」
満男「ちょっと表で話そうか」
泉、おばさんの視線を背中で感じる。(^^;)
満男「いいんだよ、いいんだよ、今ぜんぜん忙しくないんだから」
二人外に出て歩いて行く。
満男「このへん大した喫茶店ないんだけどなあ」
泉「いいの?仕事中なんでしょ?」
満男「うん平気平気」おいおい満男いいのかよ ゞ(^^;)
泉「うん」
ところで、この満男の勤める『光陽商事』は第47作と第48作を見る限り、
浅草界隈にあることはわかっている。
屋上から浅草寺の本堂、そしてその向こうに五重の塔が見えるので
浅草寺の北あたりくらい…。と適当に思っていたが、
2010年1月、
究極の「男はつらいよ」ファンであり、
私のリンクコーナーにも紹介させていただいている『男はつらいよ』飛耳長目録
を運営されている寅福さんが遂にピンポイントで『光陽商事』の場所を発見された。
なんと『光陽商事』はその当時、実際にその場所に存在したのだ。
その場所とは、
東京都台東区浅草6丁目9番地。
馬道交差点近くだったのだ。
具体的な内容と発見時の臨場感は、寅福さんのサイト
『男はつらいよ』飛耳長目録、1月19日の日記
をご覧ください。
ちなみに、その後『光陽商事』は浅草2丁目35番地に引っ越した模様。
朝日印刷
工場内
タコ社長「博さん…、博さぁーん」
中村君「こっちこっち」
社長、コードレス電話を持ちながら中村君を押しのけて博さんに電話を渡す。
中村君不満げ(^^;)
社長「博さん、さくらさんから電話」
博「はい。もしもし…」音がうるさいので写植の部屋のドアを開けて話をする博。
ゆかりちゃんが仕事をしている。
博「もしもし、え?泉ちゃんが?今夜ウチに?」
柴又 商店街
八百屋の横から電話をしているさくら
特売日 10月20日
羽衣こまつな 千葉桃太郎トマト 大根150円 バナナ一ふさ150円
さくら「突然状況してきたんだって。さあ…、
どんな用なのかそれは分からないんだけど…、
とにかく、今夜泊まるっていうから、
なにか美味しいもの作ってあげようと思って。
博さん、早めに帰れる?」
博「万難を排して夕飯までには帰るよ。大丈夫何とかする。じゃあな」
第18作「純情詩集」の綾のサブテーマが流れる
夜の帝釈天参道を自転車で走っていく博。
園田神仏具店(神仏彫刻)
さくらの家
博が、買ってきたシャンパンをたどたどしい手つきで開けようとしている。
さくらや泉ちゃん、満男が笑いながらもハラハラして見ている。
泉ちゃん、博から蓋のカバーのプラスチックを受け取り、
さくらがそれをまた受け取り自分のエプロンのポケットに入れる。
満男「大丈夫か、父さん…、なんか頼りない手つきだな…
ほんとにシャンパン開けたことあるの」
博「シャンパンなんかしょっちゅう飲んでるよ」こわごわ(^^;)
満男「逆じゃん」と、手を伸ばす。
博、満男の手をペシッ!
ようやく留め金をはずして、椅子に座り
博「ゆっくり抜くんだよ、こうして…」
満男「オレが…」
いきなり栓がポン!と真上に弾けて
ビンから勢いよく泡があふれ出る。
みんな「ワアー!!」
博椅子からずれ落ちる。
満男は椅子から転がり落ちる。
さくらも満男につられて床にこけて。
あんたら家族3人でこけてどうすんだよ ゞ(^^;)
さくら「ちょっとなに、やだもうフフフ」
満男「びっくりしたあ」
泉ちゃんさくらを助ける。
シャンパンが口からどんどん出てきて
博「コップコップコップ!」
満男「ああああ」
満男グラスを1つ置く。
泉ちゃグラスをパッと2つ置く。
さくら、ふきんをテーブルに置き、
さくら「あ、はいはいはいはいはい、あら、やだもう」
博「こぼれちゃったよ」
さくらの手に花瓶の花が当たり、
花瓶が倒れてみんな大慌て。
みんあ「あー!」
さくら「あ、ちょっと待って」
ガヤガヤ、楽しそう。
時間が過ぎて。。。
ステーキを食べている泉ちゃん。
泉「美味しい」
赤ワインをさくらに注いでいる博。
卓上には今回のスポンサー麒麟ビール。
さくら「泉ちゃん、もう一切れどぉう?」
満男「食べなよ」
泉「うん、食べたいけどぉ…我慢する。
まだバラ寿司があるんでしょ?」
泉ちゃんもお気に入りなんだね、
さくらスペシャルのバラ寿司が(^^)
さくら「じゃあ出そうか?」
満男「そうしろよ」
席を立って台所へ行くさくら。
泉ちゃんも食べた皿を運んで手伝う。
泉ちゃん、バラ寿司を見て
泉「わああ、おいしそう〜」
さくら「ねえ、そこの甕取ってくれる」
泉「はい」
さくら「たくさんかけて、もう豪華にカーっとかけて」
紅生姜が甕の中に入ってるのかな?
泉「はい、フフ」
満男、目がハートで眺めている。
博、満男をつついて
博「きれいになったな」
満男「フフフ、そーかなあ」と言いながらまた泉ちゃんを見て、
満男「化粧のせいじゃないの?単純に」
博「そういうことじゃないよ、バカ。いるんだよ、恋人が。
いないわけないじゃないか」
満男、血の気がスッと引いて、泉ちゃんを見つめて目が悲しみ色に変わる。
博、しばし考えて…
博「しかし、恋人がいたら、
満男なんかに会いに来るはずがないよなあ…」
豆腐屋の節っちゃんじゃあるまいし、そら、そうだ(^^)
満男、小さく頷く。
博、首をかしげながら
博「やっぱりいないのかなあ…」
満男、希望の表情がよみがえり、泉ちゃんを見る。
満男「父さん、飲まないか」と赤ワインを注ぐ。
博「おう」
そんなに泉ちゃんのことが今でも好きなら、
どうしてもっと普段から手紙や電話でコンタクトとっておかないんだ満男。
泉「はい、おまちどうさまぁ〜、フフ、
おばさんご自慢のバラ寿司です」
泉ちゃんにしては、お茶目な演出。
具沢山の寿司桶の中身をみんなに見せて
テーブルに置く(^^)
満男「あー、来た来た来た」
博「こいつが美味いんだ、フフ」
満男「すばらしい!」と拍手
時間が経って…
泉ちゃんのサブテーマがゆったりと流れている。
満男、こっくりこっくりうたた寝をしている。
博「おい、満男」
満男「ん」
博「起きろ」
満男「…起きてる」
泉ちゃん外を眺め
泉「おばさん」
さくら「うん」
泉「ほら、お月様。まんまる」
さくら「あ、もしかして今夜十五夜じゃないかしら?」
十五夜:中秋の名月
現在で言う9月ごろから10月ごろまでの中の満月
泉「散歩してこようかな…、江戸川堤」
さくら、すばやく満男の肩を叩き起こす。
さくら「自転車で行ったら。2台あるし」
泉「うん」
泉ちゃん立ち上がって
泉「満男さん、
満男「はい」
泉「夜のサイクリングに行かない?
月がとってもきれいだから」
満男「うん、行こ行こ」まだ少し寝ぼけている。
博「おい、ちゃんとエスコートするんだぞ」
満男「わかってますよ」
さくら「満男」と、さいふからお金出して渡す。
満男「すいません」
さくら「気をつけてね」
満男「行ってきます」
博「はい」
家の外
住所 41−38
泉ちゃん、自転車を指差し
泉「これ?」
満男「そう、お袋のママチャリ」
満男横から自転車を取り出し
満男「これは親父の」
満男「こっちこっちこっち」
漕ぎ始める満男
満男「足短えなコレ」(^^;)
泉「フフフ!」泉ちゃんに大受け(^^;)
家の中
博「泉ちゃん、何の用だ?なんとなく遊びに来たんじゃないんだろ?」
さくら「もちろんそうよ〜、相談があるんじゃないのぉ、満男に」
博「なんの相談だ?」
さくら「それが問題よ。お酒に酔ってる場合じゃないのよ、本当は…」
博「…」
さくらは、泉ちゃんの抱えている問題が、
満男にとっても深刻な問題になるのではと、
母親の勘で察知している。さくらのスーパー第六感は
鋭いのだ。泉ちゃんの態度の奥になにか不穏なものを
感じているのだろう。
夜のファミレス
満男「うんまい、酔い醒ましの水。
ほら、飲んだ後で急に運動をすると酔いが回んの。
学生の頃よくやったけどな、運動場走ったりして。
泉ちゃん何飲む?お腹すかない? あ、今食ったか・・・」
泉「満男さん、私の話聞いてくれる?」
満男「うんいいよ、何の話?」
満男「鉄板焼きカルビビビンバ…」
泉「私ね…」
満男「うん」
泉「結婚しようかと思ってるの」
満男「…!」
ショックで顔がゆがむ満男。
メニューで顔を隠して
満男「へえぇぇ・・・ いたのか、恋人」
独り言のように
満男「若鶏のから揚げ・・・」あああ…満男(TT)
泉「見合いしたの、この夏」
満男「へえぇぇ・・・気に入ったんだ、その人が」
泉「んー…、真面目な人。お医者さんのたまごでね、
今はレジデントって言って病院で勉強中なんだけど
一人前になったら故郷に戻ってお父さんの継ぐんだって。
岡山県の津山の人」
満男「ああ、津山ね、知ってるよ、
オレ、セールスで行った事あるから・・・いいとこですよ、
近くで温泉があってそこ泊まったんだ。
露天風呂に入ったら混浴だったりしてさ、まいっちゃったよ」
泉「露天風呂の事なんてどうでもいいの」
と、満男の読んでいるメニューを倒し、
泉「私が話してるのはね、結婚の事なのよ」
満男「ハ、良かったじゃん。いい人に巡り逢えて。」
震えながらタバコを吸いだす満男。
泉「つまりね、返事をする前に、
満男さんにちゃんと話しておきたかったの」
短い言葉に心を託して満男に投げかけるが…
満男「そんな、気なんか、つ、使わなくたっていいのに、
オレはオレで適当でやってんだからさ、 ボ、ゴホ!ゴホ…
ちょっと、おねえさん、灰皿無いよ」
ただ結婚の報告に来たのだと、
思ってしまった満男は、
泉ちゃんに自分の気持ちを悟られまいと
演技をするのだった。
満男の反応の鈍さに失望してしまう泉ちゃん。
最後の最後で踏みとどまっていた自分の本心が、
急速に萎んでいく泉ちゃんだった。
絶望感が泉ちゃんを包んでいく。
満男の灰皿要求に対して、
店員「すいません、禁煙なんですよ」
満男「あ、そっか」
満男、非常識なことに、席を立って、
観賞植物にタバコを捨てる。気が動転しているのでメチャクチャ。
ひでええ〜満男ぉ(−−;)
満男「あの、おねえさん、トイレどこ?」
店員「そこ行って右になります。」
観賞植物の中の吸殻をを気にする店員
トイレに入ったとたん、洗面台の前で下を
向いて急速に落ち込んでしまう満男。
満男「フッ、ぶざまなツラ・・・チクショオ!!」と顔を洗う。
満男「アアアアアア!!」
お互いの遠慮があったのか、おそらくはここ数年間は、
この二人は会っていない。
もし、満男にも泉ちゃんにも、相手を想う心が強くあるのなら、
ベタベタつき合うことはしないまでも、もっとコンタクトを継続的に
根気よく取り合うはずだ。
このあたりが物語的にどうしても不自然なところ。
第46作、第47作の物語に泉ちゃんを登場させなかった歪が
若干出てしまってもいる。
まあ、あえてこじつければ、泉ちゃんに結婚話を打ち明けて初めて
自分の本当の心に満男自身が気づいたということか…。
何事につけても未だ自信のない満男は、見合い相手の
大きな病院の跡継ぎと、自分を比べて、咄嗟に後ろに
引いてしまったのかもしれない。
一方の泉ちゃんにも、同じようなことが言える。
泉ちゃんは高校生の時からずっと満男に助けられてきた歴史があるので、
満男と交際を続けるのは相当遠慮があったと思われる。
満男の学生生活、満男の就職…などにお荷物になってはいけないと、
常に一歩引いてしまっていたのかもしれない。
しかし今回、彼女にしては珍しく、
見合いとその後の結婚を強引に勧めた母親には黙って、発作的に
自分の本心に従って、最後の賭けに出るべくわざわざ東京にまで
やって来たのだが、結局、満男の反応の鈍さに失望し、絶望し、
自分たちの数々の歴史は、すっかり過去のものになってしまっていた…と、
誤解したのかもしれない。
私たち第3者から見ると泉ちゃんが満男に愛されているのは明白なのだが、
泉ちゃんにはそれが確信にまで至らないのである。
しかしそれにしても泉ちゃんは話の切り出し方がヘタである。
母親に強く勧められて見合いはしたが、本心はどこかで結婚したくない自分が
いることを満男にしっかりと言わないといけなかったはず…。
あの言い方じゃ、もうすでに自分は結婚を決めてしまって、事後報告に
来ているだけ、と満男に取られてもしょうがない。
だから、私には満男が泉ちゃんに強く出れなかった気持ちが分かる。
翌日 柴又駅
さくら「今朝、満男から聞いたんだけど、
泉ちゃん結婚するんですって?」
さくら「とってもいい縁談なんですってねえ、
お母さん安心なさったでしょ?」
泉「はい…母のためでもあるんです」それが大部分だろ。
苦労し続けてきた母親の気持ちを楽にさせてやりたいと思っているのだろうし、
母親も例の男性と再婚するのかもしれない。
このような泉ちゃんの行動は、ある意味母親が無理やり泉ちゃんに
長年かけてきた催眠術によるもの。
自分の本当の気持ちを自分で押さえつけてしまっていることにもっと敏感に
ならないと人生の破局がやって来るぞ泉ちゃん。
そしてその破局の時に必ず母親を恨むようになるだろう。
さくら「高校時代から苦労のしづめだったものねえ、
あなたも 幸せになるのよ」
さくらは大人だねえ…悲しいくらいに。
泉「はい」
さくら、ふと、寂しい表情を浮かべて、遠くを見つめ…
さくら「満男は振られちゃったのねえ、
…ダメねえ」
さくらは、満男の変わりに告白してあげているのかもしれない。
母親の深い優しさと健気さが表出された悲しい言葉だった。
さくらの思わぬ言葉に動揺する泉ちゃん。
さくらの言葉を聞いて、心がもう一度動揺してしまう泉ちゃんだった。
さくらはそのように言ってくれるが、満男の気持ちは不透明のまま。
そしてなにより当の泉ちゃん自身の心も奥底に押さえつけたまま。
歯車は第45作のあの東京駅の別れ以降、未だ噛み合っていない。
お互い人生の早過ぎる時期に巡り逢ってしまったとも言えるかも
しれない。恋をすることと結婚することは違うのだ。
とにかく、こうなってしまっては、もう少し大きなきっかけがないと、
この二人の歯車が噛み合うことは難しいのかもしれない。
泉「……」
さくら「これ、お土産」
泉「ありがとうございます」
さくら「お母さんにくれぐれもよろしく言ってね」
泉「はい」
電車が来る
東京駅 新幹線の中
アナウンス 新大阪行きが発車いします ドアが閉まります。 ご注意下さい。 トルルルル・・・
トヒューン・・・
沈んでいる泉ちゃん
動き出す新幹線。
徳永英明さんの『君と僕の声で』が流れる。
♪生まれたばかりの歌が
心をなだめてくれる。
憂鬱な泉ちゃんの表情
♪遥かな空の向こうまでも
どうすることもできない悲しみの中にいる。
♪想いは届くだろうか。
光陽商事で働く満男
新幹線の中
「新幹線をご利用くださいましてありがとうございます。
この電車はひかり号新大阪行きです。
途中停車駅は新横浜、名古屋、米原、京都…
窓をうつろな目で眺めて
満男のことを今も考えている泉ちゃん。
♪狂った軌跡を描く
高校生の時から母と娘で苦労し、自分の本心や欲望を押さえつけることに
慣らされてしまった泉ちゃんだが、いざ結婚が身近に迫ると、
潜在意識の中で抑圧が回帰してくるのも事実だった。
しかし、その抑圧を打破するきっかけはもう今やどこにもない。
母親がかけた催眠術を解くことは一人ではできないのだ。
靴を車に積み込む満男
♪時代に何を求める
一方…
純白のウエディングドレスを試着する泉ちゃん。
♪僕らの夢と希望だけが
未来を変えていくから
ママ「うわー、泉ィ…」と喜ぶママ。
靴屋さんに靴を卸し、陳列をする満男。
♪誰かが声を枯らして走りだせば
あざ笑うものがいる
靴から靴へ シーンの転換。
真っ白なハイヒールを履く泉ちゃん。
♪だけどお前も本当は心の中で
泉ちゃん店員に
泉「ぴったりです」
♪憂い満ちているなら
配達の車の中で休憩する満男たち。
やはり泉ちゃんのことを考えてしまっている。
缶コーヒーをもらって
同僚「諏訪、飲むか?」
満男「サンキュー」
同僚、出始めの携帯電話で電話をかける。
♪君と僕の声で
すべてが全ては始まるから
深夜 酔っ払って江戸川土手を歩く満男。
♪だけどお前も本当は心の中で
転んでしまって
満男「いて!あー、ちくしょう!バカヤロー!!」と枝を投げる。
♪憂い満ちているなら
君と僕の声で…
枝がカップルにあたり
女「ワ!なにすんだてめえ!」
男も起き上がって
女「あいつだ。あの男だよ」
男くさむらから歩いてやってくる。
満男「イチャイチャしてんじゃねえよバーカ」
男、ズボンがずれ落ち、こけてしまう。 おいおい((((^^;)
満男「ハハハ!ざまあ見ろ」
男、殴りかかってくる。
満男ふりほどいて、男をこかし、
満男「バカヤロー、ヤベエヤベ」
と一目散に逃げていく満男。
男「待てよ!」とズボンを上げながら満男を追いかけ走っていく。
女「やっちまえ!バーロー!」とスカートのホックを閉じている。
数日後 雨の柴又
とらや 店
三平ちゃん外を見ている。
江戸家の娘さん「よく降るねえ」
頷く三平ちゃん。
電話 リーン リーン
かよちゃんが取る。
かよ「はーい、くるまやです。
はあ!?天気ですかあ?柴又は昨日から雨ですけど…」
鹿児島 雨
桜島と錦江湾が見える観光船乗り場前の食堂
両棒餅 (じゃんぼもち)『中川家』(創業130年)
鹿児島発 桜島行 駐車場 P
立山じゃんぼ屋 いか焼き
菅原神社の旗
寅「あ、そうか、じゃあ全国的に雨なんだな。
あーくさくさするねえ。
桜島なんか煙っちゃってるよ」
かよちゃんの声「おたく、誰ですか?」
寅「え?あ、こりゃ失礼。オレャ寅だ。寅」
かよちゃんの声「どこのトラですか?」
出たアア、今回もかよちゃんは寅のことを覚えていません。
第46作でも寅を怒らせ、第47作でも寅を客に間違え団子を注文させていた。
絶対にこの7代目とらやの跡継ぎを絶対覚えようとしないかよちゃんだった。
寅「なにい?さくら呼べ。ちょっとさくらを呼べよ」
かよ「まだ来てません」
寅「だったらウチのもんだったら誰でもいいから呼びなよ」
かよ「誰もいません」
寅「死んじまったのかみんな」
かよ「生きてます」
寅「生きてる?そら結構だ。
じゃあ帰ってきたら言っとくれ。
オレはね、長い間ご無沙汰してるけど、
無事過ごしているからご安心下さいって、
そう言ってくれよ、え」
ガチャ!っと突然切ってしまう。
寅「ったく気のきかない店員だな…」
寅、コードレス電話のお尻を見て、
コードがないことに気づき
寅「お姉さん、これ、線繋がってんのかい?」
おいおい、さっきまで平気で話してたろが ゞ(^^;)
ポンシュウが「オハラ節」を歌っている。
ポンシュウ「花は霧島 煙草は国分 燃えて上がるはオハラハー桜島
ハ ヨイヨイ ヨイヤサット…」
このシーンがこのシリーズのラストポンシュウだった。
もし今でも、「男はつらいよ」が続いているとすれば、さくらは寅に携帯電話を
持たせているのだろうか?(電話代はお金はさくら持ち)もちろん寅は使い方を
覚えられなくて、ポンシュウあたりに売ってしまっているかも(^^;)
とらや 店
さくらが傘を差して店に入ってくる。
傘のしずくを払い、傘立てに入れる。
冷蔵庫はキリン
おみやげには柴又名物草だんごをどうぞ。
かよ「あ、若奥さん、今、トラって言う人から
変な電話があったんですよお〜。
さくら呼べぇーとか言っちゃってぇ」
さくら「どこにいるって?」
かよちゃん、たじたじ下がりながら
かよ「え??あのー、何も言ってなかったんですけど…それは…」
おいおい、寅は『桜島』って言ってたろ(−−)
さくら「なんだ生きてたのか…、損した、心配して…」
さくら、テーブルに座って
さくら「あーあ、せめてこんな時にでも
ウチにいてくれたらいいのに…」と顔色が悪い。
三平「若奥さん、どうしたんですか、顔色悪いけど…」
さくら「満男がね…、いなくなっちゃったのよ。
一昨日の晩から、帰ってこないの…」
三平ちゃんとかよちゃんも首をかしげて、理由を知らない様子。
博が雨の中工場から走ってくる。
ネクタイ背広姿。
博「あ、さくらいたか。満男の会社に行って来る。
専務さんが会いたいって言っていたから」
さくら「ん、そのほうがいいわ」
と、ネクタイを直す。
三平「大変ですね」
博「ん、まったくいい年をして、
親にこんな心配かけやがって」と傘を差して駆けて行く。
岡山 津山
津山国際ホテル
泉ちゃんのママ(礼子さん)が
部屋で出かける準備をしている。
テーブルにはプレゼントなどが置いてある。
電話 プルルルルル プルルルル
礼子「はい、…はい、あ、できましたか、
はい、すぐ参ります、どうもありがとう、はい」
草履を履いて、ベットを少し直して出てゆく。
着付室
コンコン とノック。
泉「どうぞ」
ドアを開ける礼子さん。
立ち尽くしてしまう礼子さん。
美容師「お母様が見えましたよ」
美容師B「おめでとうございます」
涙を潤ませながら泉ちゃんの横に座り
礼子「本当はここにパパもいなけりゃ
いけないのにね…、ごめんね…」と、涙を流す。
この場合のパパは、もちろん日田にいる本当のお父さんの一男さんのこと。
あとで、寅の話によると、礼子さんは再婚するらしい。
さすがに再婚相手と思われる『津嘉山正種』さんは来ないみたいだね。
城の石垣の周りを走るタクシー
泉ちゃん礼子さんが乗っている。
助手席に世話役。
笹野高志さんが演じたこの役は、監督の脚本によると
『新郎の兄』になっているが、さすがに
年齢的にちょっと無理があると思うのでここでは
叔父さんであり世話役ということにしておく。
世話役「お母さん」
礼子「はい」
世話役「津山というとこはな、十万石の城下町の時から
貧乏じゃのにプライドばぁ高い言うて
言われたもんじゃあ、フフ」
礼子「フフフ」
世話役「実際わしら普段はお互い悪口言うたり、喧嘩したり、
角突き合わしてつきおうとるけど、東京や大阪行ったら
津山の悪口は絶対言いやせん、とことんかばいます。そいーが、
わしら津山人の気質じゃなあ、ハハハハ。
なあ運転手さん、そういうとこあるじゃろう」
美しい泉ちゃんの横顔が映る。
津山市瓜生原(うりゅうばら)
新郎の実家 立派な旧家
ロケ地 瓜生原・目瀬家
嫁取り唄(長持ち唄)
「♪ ああ〜あ、今日はなあ〜、
日もぉ〜よ〜ぉしぃ〜、ああ〜あ、天気もよぉぉーし…」
祝言を寿ぐ『長持ち唄 』が尺八の伴奏で謡われている。
♪ハアー 今日はァァーィ 日もよーし
天気もー よォーォォし
ハアー 結びィーィー 合せてェーェーェー
縁となるがエー
ハアー 蝶よォーィ 花よーとォーォォ
育てたァーァァァ 娘ェー
ハアー 今日はァァーィ 晴れてェェーのー
ハアー お嫁入りだヨー
仲人を先頭に、花嫁の箪笥や長持ちを担ぐ人たちが、
道中杖で荷物を支えておいて唄った。
門の前で一目花嫁さんを見ようと集まってくる人々。
礼子「ありがとうございます、よろしくお願いいたします」
みんなに愛想を振りまいている礼子さん。
写真を撮っている親戚の人
礼子「よろしくお願いいたします」
新郎「もう何枚撮ってんだ
バシャバシャバシャバシャと」と飽き飽きしている様子。
この新郎役の前田淳さんは、なんと博役の前田吟さんの息子さん!
『たそがれ清兵衛』 『隠し剣鬼の爪』 『武士の一分』などにも出演されている。
礼子さん、笑顔を振りまいている。
礼子「お顔写してくださいね」
世話役「ばあちゃん来るよ!」
礼子「あ、おばあちゃんお見えました」
新郎「ばあちゃんまできたのかよ〜」
おばあちゃん「みんなの前で大きな声して聞くな言うて…」
このおばあちゃんはご近所の方。
キャラが面白いので出演してもらったそうだ。
親戚の青年「ばあちゃん、ほら、笑って」
あ、ポンシュウの舎弟のサブ君だ。
もしくは映画『息子』のとうもろこし君(^^;)
そうです。彼の名は『渡部夏樹さん』
おばあちゃん「はい」
世話役「もうええ、もうええな、ほらリサちゃんもうええよ。
あの、式の時間来とるけん、お母さん、」
礼子「はい」
と、みんなでハイヤーに乗るために庭を出て行く。
門の外
世話役「花嫁さん通るで、開けて…」
みんなで拍手
泉ちゃん立ち止まって、小さくお辞儀。
泉ちゃん花嫁専用のハイヤーに乗り込む。
世話役「おい、まこと!おまえとこ車4人、OKじゃな!よっしゃ」
世話役「お母さんの車はこちら」
礼子「はい、じゃあよろしくお願いします。じゃあね」
新郎も泉ちゃんの隣に乗り込み、
扇子を扇ぎながら実に幸福そうな顔。
運転手役はお馴染み、渥美さんの付き人の「篠原さん」
世話役、助手席に座って、
発車。
世話役「運転手さん、頼むで今日は」
世話役「なあ泉さん」と振り向きながら
世話役「なにしろ古い町やけえ、
わけのわからんしきたりがいっぱいあってなあ、
特にこういうめでたい時やぁ、言うちゃいけんこと、
食べちゃいけん食いもん。いやうるそうてうるそうて」
世話役振り向いて
世話役「こういうの知っとりんさるか?
花嫁さんを乗せた車はどんなことがあっても
バックできのじゃあ。『戻るう』ゆうて、1センチでも
バックしたら大ごとなんじゃぁ。
頼むでぇ!運転手さん!」1センチとは凄いなあ…
運転手「はい」運転手さんプレッシャーだね(^^;)
世話役、にこっと笑う。
城の周りを走る車
世話役「この辺は昔とちぃっとも変わらんなぁ、
運転手さん。侍がお供に槍持たせて
お城にかよおたんじゃろ、この狭い道を」
武家屋敷町は城を中心にして要所に配置。
山下、田町、上之町、椿高下、御北(北町)、城代町、南新座などがそれにあたる。
上之町地区
細い道の向こうに対向車が止まっている。
世話役「おえんのぉ、あの車、あんなとこ停めおってぇ〜」
対向車、構わず近づいてくる。
世話役「おおおお、どんどん来よるで」
間近に迫ってくる対向車。
世話役「おおおおおおお、おおおおおおお、お!」
世話役ドアを開けて降りる。
世話役「んん、まったくもう〜…」
車に近づこうとして、「うわっちゃ」と
道脇の用水路に足がはまってしまう。
世話役、草履が脱げてしまうがそのまま歩いていく。
(その直後の場面では草履を履いていました。
ま、硬いことはいわないで見逃しましょう(^^;))
世話役車に近づいて
世話役「花嫁さんの乗っとる車じゃけん、すまんけどー、
あんたの方が下がってくれんじゃろか?」
誘導するために後ろに行って、
世話役「はい、オーライオーライ、はい、オーライ、
オーライオーライ…。おーい!???」
男は泉ちゃんのほうをまっすぐ見たまま動かない。
世話役さん、車のガラス窓に顔を寄せて
世話役「ちょっと兄さん、聞いとるんか?」
なんと運転しているのは満男!
世話役「ん?なんや…」
拳で、ガラスをコンコンコン!
世話役「ちょっと!」
コンコンコン!
世話役「ちょっと!!」
不穏な音楽
世話役じっと睨むが
満男は前の泉ちゃんの車を見ている。
世話役「なんやなあ」
コンコン!!
世話役「ちょっとおお!!」
コンコン!!
世話役「お兄さぁん!!!」と激しくなっていく。
親戚の青年シビレを切らして後ろの車から降りてくる。
青年「おじさん、どねぇしたん!?」
世話役「知ぃらん顔しとるんじゃがぁー」と困っている。
青年「なんだぁ、こいつ!」
世話役「ちょっと、あんた、窓開けてくれんか!」
コンコンコン!
青年「おい!開けんかこりゃあ!」
満男は泉ちゃんのほうを凝視したまま、
微動だに動こうとしない。
世話役「ロックはずしてくれんか!?」
青年「おい!こら!」
世話役「なにやっとんじゃ!バカ!!」
急に発進する満男の車! 『わ 47−35』
世話役「おおおお!!」とあわてて石垣の塀にへばりつく世話役。
青年たちも用水路に突っ込みずぶぬれ。
花嫁の運転手「止まれ」の合図を出すが…
満男の車は泉ちゃんを乗せた車に
くっつきエンジンをふかして後ろに押していく。
唖然とする世話役
あああ…3メートル以上バックした…(−−;)
1センチでも『戻るう』ゆうて縁起が悪いあのパターンだ…。
花嫁の車が『戻るう』ってことに
なってしまったので世話役真っ青
みんな「あぶないあぶない」
車のクラクション プップー!プップー
青年「なにしとるんじゃこりゃあ!」
みんな「なにやってる!」
泉ちゃん、前の車の青年が満男だと気づき、
身をわずかに前に乗り出し、驚いている。
驚いてはいるが、なぜだか動揺はしていない様子…。
満男と自分の二人の世界に瞬時に入り込んでいる気がする。
抑圧し、押し殺していた心が満男の爆発的な攻撃により
表面に出始めているのかもしれない。
満男、くっついた車の中でハンドルを
持ちながら泉ちゃんを強く見つめ続けている。
静かに満男を見つめている泉ちゃん。
明らかに、普通の花嫁さんのとるであろうリアクションから
そうとう外れている。普通はこのような突然のハプニングが
おこった場合、新郎と何かをしゃべるはず。
青年たち開けろ開けろと叫び続けている。
礼子さん、泉ちゃんの横のドアを開けて
礼子「泉、満男君よ!あの子」と半分無声音で。
礼子さん、驚愕の目で
礼子「いったい何考えてんだろう」確かに…(^^;)
森の伯父さん「おい新吉!!ちょっと来い!!」かなり怒った声
世話役「はい!」
前を焦りながら世話役の人が通る。
世話役「ちょっとごめんなさい、ちょっとごめんなさい」と仲人に報告しにいく。
新郎、憮然とした表情で泉ちゃんを見て、
新郎「知っっとるん?、あの男…」
眉間にしわを寄せ泉ちゃんを睨んでいる新郎。
彼なりにこの二人の視線の強さに何かを感じたようである。
泉ちゃん、それには答えず、わずかに目線を下ろす。
この期に及んでも動揺していない泉ちゃん。
親戚「どうした?」
青年「ロックしとる!」
親戚「そんなはずないじゃろ」
突然、ロックをはずしドアから外に出て来る満男
青年ドアに押されて用水路にまたもやはまる。さぶ君〜(TT)
満男、泉ちゃんの車のフロントガラスに顔をくっつけて叫ぶ。
満男「泉ちゃん!泉ちゃん!」
と手でフロントガラスをバンバンバンと叩く。
青年が満男を車から離そうと抱え込むが、
満男は必死で振りほどいて、肘で押す。
満男「結婚なんかやめろよ!
結婚すんなよ!!」
とバンバンバンとフロントガラスを叩き続ける。
黙ったまま満男をひたすら見つめている泉ちゃん。
ドンドンガラスを叩く満男を青年たち必死で離し、
満男を壁に押し付ける。
例の青年標識にピコッとおでこをぶつける(^^;)
青年たち、このヤロー!!っと満男を壁に抑え続ける。
世話役、走って戻って来て
世話役「おーい!おーい!森の伯父さんがみんなに言うてくれと。
式も披露宴も今日は中止!!とりやめじゃ!ええな!!」
新郎に向かっても
世話役「中止じゃ!」
メインテーマが流れる
新郎、急いで後ろの車の自分の身内に報告に行く。
どうして新郎は、泉ちゃんの横に戻って彼女に報告しないのか?
世話役、怒り心頭で満男のところへ走ってきて、
草履で満男の頭をパコン!!と殴る。
みんな世話役を止める。
上之町が俯瞰で映し出されていく。
柴又 さくらの家 夜
電話 リリリリりリ…、リリリリりリ…
さくらたち、ちょうど帰ってきたばかり。
博「電話だ」
あわてて電話にでるさくら。
さくら「もしもし…はいそうですが。
あ、泉ちゃんのお母さん、
この度はおめでとうございます。
…もしもし、もしもし…」
津山国際ホテルの部屋
真っ青な顔をして電話をする礼子さん。
礼子「いったい、満男さんは私どもになんの恨みがあって
あんなことをなすったんですか?
泉は満男さんに対してはちゃんと誠意を尽くしたはずですよ。
今度の結婚のことだってそちらに伺ってきちんと
お話したそうじゃありませんかぁ…」
誠意を尽くしたって…。
泉ちゃんは事後報告のために満男に会いに行ったんじゃないよ礼子さん。
かなり、取り乱している礼子さん。
さくら「ちょっとお待ち下さい。あの、
何のお話だかさっぱり分かりませんが…。
満男が何をしたんでしょう。満男が何かご迷惑でも…」
礼子「あの子は、泉の幸せをめちゃくちゃにしたんですよ!
いったい何の権利があって…」
さくらの声が受話器から聞こえてくる。
さくらの声「もしもし、いったい何があったんですか?もしもし…」
悲しみのあまり受話器を置いてしまうママ。
なんと、泉ちゃんは、帰り支度を一人でしている。
礼子「どこへ行くの?」
泉「名古屋に帰る。今から名古屋に帰れば
夜行バスがあるからっていうから」
礼子「なに言ってるの?明日、向こうに謝りに行くのよ。
その上でいろいろ相談してみようって、
さっき森さんもおっしゃってたじゃない」
悪いのはこの時点では、ストーカーまがいの行動を取った満男。
満男の行動から察して、いかにも昔何かこの二人はあったなって
感じだったけれど、とりあえず、この時点では泉ちゃんは、
諦めきれない元彼に付きまとわれているただの被害者なのだ。
礼子さんの言う「相手に謝る」という発想自体、この結婚がどこか歪んだ、
対等でないものだということが露出している。
泉「そんなこと無駄よ、ママ」
礼子「努力もしないで、どうしてそんなことわかんの!?」
泉「もうそんなことしたくないの。
悪いけど、悪いけどママが行って
お詫びしてちょうだい。お願い」
一見メチャクチャな発言に聞こえるが、
これこそが泉ちゃんが母親の催眠術から脱し、
本当の意味で一人で歩き始めた最初の産声だとも言える。
泉ちゃんの人生はここから始まるのだ。
満男の暴挙によって泉ちゃんは永い眠りから目覚めたと言える。
礼子「ね、待ってよ泉、ね!」
泉「お願い!」とママをはらって強い調子で出て行く。
礼子「泉!!」
部屋の床に座って、頭が真っ白になり呆然とするママ。
そして頭を抱えてしまう。
エレベーターが下りていく
どうしていいかわからない混乱の中で
エレベーターの表示板を眺め、
やがて下を向く泉ちゃんだった。
この問題の後始末を礼子さんに丸投げした泉ちゃん。
この態度で、彼女の結婚自体が最初から最後まで母親のコントロールの
元で行われたことが観ている我々に明白になったのだ。
母親との関係は、これがきっかけで自立を始めた泉ちゃんが改善の方向に
向かわせるだろうが、新郎に対する後始末は、当事者である泉ちゃんと新郎の
問題でもあるわけだから、後日けじめをどこかでつけなくてはならないのは
間違いない。
この映画は喜劇映画だから何が起こっても笑ってすませれるのだが、
実はそれは限られた人々、例えば寅や社長やポンシュウや源ちゃんであって
泉ちゃんやさくらなどは彼らとは時空が違い、物語の中で無茶ができないのである。
奄美大島
奄美大島 古仁屋港
三線の音
当時高校生だった『元ちとせ』さんの
島歌が流れている。
リリー「じゃ来たらとっといてね」
店の人「はい、分かりました」
海上タクシー でいご丸 加計呂麻 生間港行き
『でいご丸』は現在も健在で、
船の中にはロケ当時の写真も貼ってあるそうだ。
古仁屋・生間間 2500円
古仁屋発7時30分、17時15分、
18時(この便は日曜日運休)、
生間発7時15分、
17時30分の『定期便』有り。定期便は一人250円。
プーップ〜
船長「加計呂麻行きいちゅるど〜」
リリー「船長まって〜」
リリー「ありがとう」
船長「買いもんかい?リリーさん」
リリー「そう」
リリー「ほいっ、」
加計呂麻に向かって大島海峡を走る船。
船員「どうがしちんや?
(どうした?)」
船長「あんなおにせか気になってや〜
(あそこにおる若者が気になってな)」
沈んだ表情で満男が乗っている。
船長「まさか自殺ったちするおもりんば
(まさか自殺はせんと思うが)」
船員「まがのはからんがらやあ!
(近頃の若者は何考えてるんだか)」
船長「外人なってじゃ、あったや〜
(外人だよあいつら)」
最大搭載人員9人 でいご丸
それを聞きながら、満男の暗い表情を遠くから気にかけるリリー。
加計呂麻島 生間(いけんま)港の設定
しかし、実際のロケは中心部の『瀬相港』
鹿児島県大島郡瀬戸内町
実は、リリーの家、諸鈍に行くには生間港がダントツ近いが、
映画のロケ地的には島中央部の『瀬相港』なのかな…
接岸するでいご丸
女学生「こんにちは〜」
マサオ「こにちは」
リリーを迎えて
マサオ「おかえりなさい」
リリー、下船しながら
リリー「船長ありがとう」
満男も船賃を払って降りる。
船長「あ」
船員「東京のちゅうかやあ〜?(東京のもんか?)」
船長「ああ、らしいぞ(そうだろ)」
マサオのワゴン車に乗ったリリー、
ハイビスカス ようこそ WEL(L) COME TO 奄美
KAKEROMA
KARAOKE SNACK
何個かのプロパンガス
リリー「ずいぶん待った?」
マサオ「いいえ」
マサオ「このポンコツダメかなあ〜。
ブルル…ルル…ブルルルッル
マサオ「あ!かかりました!リリーさん」
看板 ゆっくり走ろう加計呂麻
満男の前で車が止まる。
リリー「ちょっと、どこまで行くの?お兄さん」
満男「別に決めてないですけど」
リリー「観光に来たの?」
満男「はい、一応…」
リリー「ちょっと乗んなさい」
満男「…、すいません」消え入りそうな声。
ここからしばらくは沖永良部島 ロケ
沖永良部島 国頭
ウシュウミ&シューミチの浜
海 断崖
墓地群が道沿いに見える。
リリー「ねえねえ、島のお墓よ」
リリー「太平洋よ この沖をね、鯨が通る事があるの」
満男「僕、ここで降ります。どうもありがとうございました。」
リリー「待ってなくていいの?」
満男「いえ、大丈夫です。さようなら」
とぼとぼと荒れ狂う海の断崖へ向かう満男
引き返すリリー。
車を近くに止め見ている。
自殺を思いとどまるよう促す柱 『早まるな考え直せ もう一度』
奄美での満男のテーマが流れる。
満男、下へ飛び降りる。
リリー「ああ!!死なないでよ!死なないでよ!」
と、必死で走って絶壁まで行く。
なんと、立ちションベンをしている満男 出たァ〜!!
リリー「もお!何なの!」
満男「きたねえ!きたねえ、
顔にかかっちゃった、きたねえ・・・どうも・・・」うわっ((((((((((;−−)
リリー「何もこんな所でおしっこなんかすること無いでしょう!馬鹿!」
満男「あ、いけねいんですか?ここ?」
リリー「飛び込んで死んじゃったかと思ったじゃないの!
もおおぉ・・・もぉ・・・びっくりしたア〜〜」
満男「どうも、すいませんでした。
あの、僕自殺しそうに見えましたか?」
リリー「当たり前よ、船の中からずっと気になってたのよ、
あんたの事 人に心配させんのもいい加減にしなさいよ」
マサオ「バカァ!」
リリー「ちょっと、来なさい!」
満男「どこにですか?」
リリー「いつまでもこんな所にいるんじゃないの」
マサオ「行けえ!」
スリ浜
レストラン マリンブルー カケロマ
カレーを食べている満男
リリー「お腹すいてたの?」
満男「実を言いますと、夕べから何も食べてないんです」
リリー「もう一つとってあげようか?」
満男「もう、十分です」
リリー「マーちゃん、これで払ってきて」
満男「あ、いや、僕の分は」
リリー「いいの、いいの」
満男「あ」
リリー「あんた今夜どこへ泊まるの?」
満男「どこかホテル探して・・・」
リリー「これでホテル代払えるつもり?」
と財布の中身を見る。
満男「どこでも寝れますよ、暖かいし。」
リリー「はあ、困った子ねえ しょうがないから私の家に来る?」
満男「そんな、知らない人の家に泊まるなんて」
リリー「ほっといて身投げでもされたら後味わるいじゃないか
あ〜あ、変なのと係わり合いになっちゃったね。
おいで」
と、手招き。
於斉(おさい)地区のガジュマルの大木のそばを通っていく。
諸鈍長浜の海岸
デイゴの並木
ちょうどこれをアップする2007年6月初旬の今はデイゴの赤い花が咲いているらしい。
「紅の花」というのは普通はハイビスカスかもしれないが、この作品では『デイゴ』の花だと言える。
なんせリリーの家の前に並木道があるわけだから。
車を降りて浜を眺める満男。
リリー「こっちこっち」
満男、リリーに追いついて、
満男「あの〜、おねえさんは島の人ですか?」
リリー「流れもんよ。
昔からこの島が好きでね、
いつかこういう所に住んでみたいなって
思ってたんだけれど、
年寄りと結婚したら、
3年ぐらいでポコッと死んでしまってね、
少しばかり遺産が入ったもんだから、
あそこの空き家を買ったの」
そうなんだ…、
リリーはもう一度結婚したんだ…。
惚れたハレタの結婚というより寄り添う感じで
一緒に住んだんだろうね…。
波乱万丈の人生だね…( ̄_ ̄)
満男「じゃあ、おねえさんは一人で暮らしているんですか?」
リリー「そ、でも一月前から居候いるけどね、
あんたみたいに文無しなの。
遠慮はいらないのよ、気楽な人だから。
寅さーん、 ただいまー」
満男「!!」
寅「へぁ〜い、おかえり〜」
パパイヤを持ちながらしゃがんでいた寅が突然立ち上がる。
満男、当然ニョキッと出てきた寅を見て、
思わず後ろに引く。
そして信じられない顔で寅を見ている。
寅「あ、こんちは・・・」
満男「!!!!」
メインテーマが静かに流れる。
寅「…ぉ、お前だれだっけ??」
満男「誰じゃないよ、
オレだよ、伯父さん!!」
と石垣に胸まで飛び乗る。
寅「ああ、満男か!」
満男「会いたかったんだ、
どうしてたんだよ、こんなとこで」それはおまえだろ ヾ(^^;)
寅「お前こそなにしてんだよ、こんなとこで」ほんとほんと(^^)
満男「死のうと思ったんだぞ、崖から飛び降りてェ!」
ギリギリでそこまでは思ってないだろ…。
適当なこと言うんじゃないぞ、ほんとに。
ま、緊張していた心がほぐれて甘えてんだけどね(−−)
寅「ほほぉ〜」
リリー、呆気に取られて満男を見ている。
リリー「寅さん、もしかしてこの子…」
寅「そうだよ オレの甥っ子、さくらの息子だよ」
リリー「じゃ、満男君?」
寅「ん!」
リリー「やだァ!どっかで見たような顔だと思ったのよ!」
お尻ぺん
寅「ほら、リリーだよ、リリー!」
満男、ようやく思い出し、目を白黒させている。
リリー「大きくなってこの子!もおお!フフフ・・・」
と、きつく抱きしめられる。リリーには、
この抱きしめ癖があるんだよね!
忘れな草でも、相合い傘でも、ハイビスカスでも、
目いっぱい寅に飛びついて抱きしめていた。
このあと、柴又でさくらにもする(^^)
リリー「私が訪ねていった時あなたまだ小学生だったのよ!
行こ行こ!入って入って」
ちなみにリリーが第11作「忘れな草」でとらやを訪ねていった時
満男はまだ幼稚園も行っていない。第15作「相合い傘」でようやく
幼稚園の年長組。第25作「ハイビスカスの花」でようやく小学校高学年あたり。
寅「ウフフフフ、アハハ」
マサオ「落花生買ったぞ〜」寅が好物らしい。
夜 リリーの家
リリー「意外と早熟だったのね〜」
満男「嘘ですよ〜」
寅「とぼけてんの、とぼけてんの、とぼけて」
満男「本当に覚えてないよそんなこと〜」
寅「嘘つけ、このやろ〜」
寅「飯食う時だってお前はな、
リリーの横にべったりくっ付いて離れなかったんだぞ、」
特にメロン騒動の時はリリーからおすそ分けたくさんもらってました(^^)
リリー「かわいかったんだから〜」
満男「まいったなあもおお〜〜」
寅「風呂も一緒に入ったんじゃないか?リリー、
なあ?ポコチンまで一緒に洗ってもらいやがって」
おいおい、あのなあ〜 ヾ(^^;)
リリー「そうそう」 リ、リリーしゃん…ゞ( ̄∇ ̄;)
マサオ、台所から見ている。
満男「嘘ですよ、そんな事しませんよお」
リリー「へへへ、お風呂屋にあんたと
一緒に入ったのは本当よ」
満男「……」覚えていないのかも…
いつ一緒にお風呂屋に行ったんだ?可能性があるとしたら、
第15作『相合い傘』の時かな?何泊かしたからね。
あの餃子を作った日の夕方かもしれないな。
もしくはメロン騒動の直後の仕事に行く前かな?それとも…
忘れられないリリーと満男の思い出は、
★「忘れな草」でリリーにほっぺにキスをされ、大金をもらっていた。
★「相合い傘」で、お絵かきを一緒にしていた。
★メロンをたんまりリリーからもらっていた。
などなど、なかなか縁は深いのだ。
寅「覚えてないのか、そんな大事な事まで、頭悪いなぁ〜」
満男「それじゃあ、言わしてもらいますけどね、
オレが頭が悪いんじゃなくて、
伯父さんが恋した人が多すぎるんだよ」
リリー「あら!?そんなたくさんいるの?」
満男「いますよお」(^^;)
いるいるものすごい数。
今回も震災直後の神戸で美しい元芸者さんに熱い恋をしてたんだよな寅(^^;)
ちなみに第11作「忘れな草」で、リリーはとらやのみんなから
それまでの寅の恋の遍歴をちゃんと聞いていた…。
あの時は冬子さんから千代さんまでをずらあ〜っと
並べていたね。第6作の夕子さんだけ人妻ゆえに誰も
話さなかったけどね。
寅「い、いるわけないだろ〜、
誰の事いってんだお前は」
寅「ねえ…」と、リリーにお愛想
満男「ん、例えばさ、ほら、
一緒に鎌倉行った人いるじゃないか、」
あの時は満男大変な目に会ったよなあ〜…(TT)
ま、プラモデル買ってもらったからいいか。
リリー「……」
寅「え?」
満男「わざわざ丹後の方から出てきて」
寅「あ、かがりさんか この人は特別です。気の毒な人で」
思い出すなあ〜、あの伊根の夜の月明かり( ̄ー ̄)
『白くなく、紫でなくうす紅の、寅に哀しきあじさいの花』
リリー「……」
満男「大分で知り合ったって言う若い人。デパートの店員して」
寅「あ…、蛍子ちゃんね、蛍って書いて、
これは2枚目と結婚して幸せに暮らしてますよ」
あの蛍子ちゃん、なんともいえない色気がたまりません(^^;)ゞ
リリー、ちょっと不信感の目で小さく頷いている。
満男「岡山県のお寺の娘さん、弟が坊主が嫌で
跡継ぎが無くて苦労していた人」
リリー「ほらほら、いくらでも出てくる」シロアリみたいなこと言ってる(^^;)
寅「再婚したよ、とっくの昔に」
朋子さん、再婚したんだねえ…。
寅に手紙をくれたのかも…。
朋子さんとはとても悲しい別れがあったから
心配してたけど、今は幸せなのかもしれない。
朋子さんと寅ってほんとにお似合いの二人だったのにね(^^)
満男「小諸の女のお医者さん」 真知子さん(^^)
寅「何年も前の話じゃないかお前」
この話題の中では一番新しいマドンナだぞ寅。
真知子先生は、あの時くれた寅のハンカチ(手ぬぐい)を今でも
大切に思い出として持っているんだろうな…。
『旅立ってゆくのはいつも男にてカッコよすぎる背中見ている』
満男「あ!そうだ」
寅「え?」
満男「ほら、北海道で知り合ったっていう
売れない歌手で、伯父さんとは
全然似合わない、華やかな人」
寅「それがリリーだよ、バカだな、お前」
満男「あ…、そっか…」 おいおい頭大丈夫か満男 ヾ(^^;)
リリーと面と向かって話をしてるんだからさすがに少しはリリーのことを
思い出しているはず、こういうふうには間違わないだろう。
いくらギャグだって言ったって、ちょっとここの部分の脚本には
無理があるなあ(^^;)
リリー「えへへへ 、私も一応数のうち?」
一人で4作品も稼いでいますよ(^^)
寅「どうだい?
リリーが一番いい女だろ?」
リリー「いいですよ〜、
取って付けたようなおせじなんか言わなくたって」
満男「最初に会ったのはどこなんですか?」
寅「北海道は網走よ。
覚えてるか?リリー」
リリーのテーマ アレンジ版がマンドリン演奏で流れる。
船の汽笛 ブオー
リリー「覚えてるよ。
橋の上であんたはレコードなんか売ってたんだ」
寅「うん そこへお前がやって来てさ、
兄さん売れるの?なんて聞いたんだっけ?」
リリーのたった一つのシングルレコード『夜明けのリリィ .リリィ松岡』が
置いてある。「ハイビスカスの花」の頃のリリーの写真や寄せ書き色紙も。
あの運命の出会いを振り返ってみよう。
昭和48年 夏 第11作「寅次郎忘れな草」
網走でレコードを売る寅
リリー「さっぱり売れないじゃないか」
寅、ふと声のほうを見る。
リリーが橋にもたれて赤い包みをいじりながら人懐っこく寅の方を見て微笑んでいる。
寅「フッ。…不景気だからな…お互い様じゃねえか?」と微笑む。
リリー「フフフ」と笑ってレコードを見に来る。
寅「何の商売してんだい?」
リリー「私?歌うたってんの」
寅「ふうーん」
リリー、レコードを探しながら
リリー「私もレコード出したことあるんだけどね、ここにあるかな?…あるわけないね」
寅「え?ハハハ!」
リリー「フフフ」
二人港を歩きながら
寅「故郷(くに)はどこなんだい?」
リリー「くに?そうねえ…ないね、私…」
寅「へえー…」
リリー「生まれたのは東京らしいけどね、中学生の頃からホラ、家飛び出しちゃって、
フーテンみたいになってたから…」
寅、「へへーッ、ちょっとしたオレだね。流れ流れの渡り鳥か」
リリー「♪ながれぇ〜、ながれのぉ、わたーりどりーぃ〜か♪」
波止場に腰を下ろし、帰ってきた船を見るリリー。
寅も座って、「どうしたい、ゆんべは泣いてたじゃないか…」
リリー、振り向いてちょっと驚き、恥ずかしそうに
りりー「あらいやだ見てたのー?」
寅「うん…なにかつらいことでもあるのか?」
りりー「ううん、別に…、ただ、なんとなく泣いちゃったの…」
寅「なんとなく?」
赤い包みを開けてタバコを取り出すリリー。
リリー「うん…。兄さんなんかそんなことないかな…。夜汽車に乗ってさ、外見てるだろ、
そうすっと、何もない真っ暗な畑なんかにひとつポツンと灯りがついてて、
『あー、こういうところにも人が住んでるんだろうなぁー…』、そう思ったら
なんだか急に悲しくなっちゃって、涙が出そうになる時ってないかい?」
マッチを擦る。
寅「うん…」とうなずいて。
寅「こんなちっちゃな灯りが、こう…遠くの方へスーッと遠ざかって行ってなぁー…
あの灯りの下は茶の間かな、もうおそいから子供達は寝ちまって、父ちゃんと
母ちゃんがふたぁりで、湿気た煎餅でも食いながら紡績工場に働きに行った娘の
ことを話してるんだ、心配して…。ふっ…、暗い外見てそんなことを考えてると汽笛が
ボーっと聞こえてよ。なんだか、ふっ!…っと、涙が出ちまうなんて、
そんなこたぁあるなあ…分かるよ…」
船を見つめるリリー。船が出て行く。 ポンポンポン.…
寅「お父ちゃんのお出かけか…」
さっき、レコードのバイの時に見かけた例の家族が手を振って見送っている。
子供達「お父ちゃん、バイバイ!」
子供達『バイバイ!お土産買ってきててねー!!」っと母親と一緒に手を振り続ける。
リリーのテーマ美しく流れる。
リリー、目にうっすら涙を浮かべてそのようすを見ている。
リリー「ねえ…」
寅「うん?」
リリー「私達みたいみたいな生活ってさ、普通の人とは違うのよね。
それもいいほうに違うんじゃなくて、なんてのかな…、
あってもなくてもどうでもいいみたいな…、
つまりさ…アブクみたいなもんだね…」
寅、こっくり深くうなづいて、
寅「うん、アブクだよ…。それも上等なアブクじゃねえやな。
風呂の中でこいた屁じゃないけども背中の方へ回ってパチン!だい」
リリー、うつむきながら、「クク…ヒッ、ヒック」と笑ってしまう。
寅、笑いながら、「え?可笑しいか!?」
リリー、笑いながら「面白いね、お兄さん」
寅、ニカッとして「へへへ!!」
リリー、ハッと、気づいて、「今何時?」と寅の腕時計を見る。
寅、笑いながら「ん?」
リリー「そろそろ商売にかかんなくちゃ…」と立ち上がる。
寅「行くのかい?」
リリー「うん…」
リリー「じゃあ、また、どっかで会おう」
寅「ああ、日本のどっかでな!」
リリー「うん、じゃあね」
寅「うん!!」
リリー、ふと足を止めて振り向いて
リリー「兄さん。…兄さん何て名前?」
寅、ハッ、っとして少し照れて、でもちょっと粋に
寅「え?…オレか!オレは葛飾柴又の車寅次郎って言うんだよ」
リリー「車寅次郎…。じゃ、寅さん…」
寅「うん」
リリー「フフ…、いい名前だね!フフ…」と走って行く。
寅夕闇迫る頃、海岸にカバンを置いて寅が立っている。
寅、しんみりと「アブクか…」
以上第11作「寅次郎忘れな草」での運命の出会いのシーンでした。
リリーのテーマ アレンジ版が
マンドリン演奏でずっと流れ続けている。
リリー「二回目に会ったのはどこだった?」
寅「忘れたのかよ〜リリー 同じ北海道は函館だよぉ」
寅「夜更けに港の近くの屋台でオラァ ラーメン食ってたんだ。
遠くで青函連絡船の汽笛がボーーって鳴ってなあ。
そこへひょっこりリリーお前が顔出したんだよぉ」
リリー「そうだったねえ。
あんたの懐かしい声が聞こえて
まさかと思ってひょいと見たら…」
寅「オレのこの顔が」
リリー「ウフフ、そう、
懐かしいこの顔がニコニコ笑ってたの」
と両手で寅の顔を包むように触る。
この二人が顔を近づけるカットは珠玉だね。私たちの宝物だ。
リリー「嬉しかったなあ…あん時」
第15作「寅次郎相合い傘」の運命の名シーンを振り返ってみましょう。
【函館での運命の再開】
函館港 夜景
汽笛 ボーー…
屋台でラーメンを食べてる謙次郎。寅はうつぶせになり寝ている。
リリーが謙次郎の横に座る。
リリー「おじさん、ラーメンちょうだい」
リリー「火かして」
謙次郎「はいはい」
リリー、少し頭を下げて、礼の意思表示。
謙次郎「お仕事の帰りですか、大変ですねえこんな遅くまで」
リリー、それに答えるでもなく、前を向いてぼんやりタバコを吹かしている。
寅、ちょっと起きかけて「う〜ん?」自分に何か言われたと思って起きる。
リリー、寅の「う〜ん?」の声で、ほんのチラッと寅の方を見るような見ないような…。
寅ぼーっとリリーを見る。
寅、また、前へ乗り出して「…!リリー!」
リリー「…!」
目を大きく見開いて
リリー「寅さん…!…寅さんじゃないのォォ!!」
寅「うん」
リリー「あんた本当に寅さんなのねえ!」
寅「当たり前じゃねえかよ。お前どこ行ってたんだい!?」
リリー「いろいろあったんだあ〜。」
間髪いれず頷く寅
リリー「私、あんたに会いたくて柴又まで行ったのよお!!」
寅「柴又行ったぁ!」
リリー「うん」
寅、満面の笑みで
寅「俺いなかった!」
リリー「そうよぉ!どこ行ってたのよ一体!」
寅「うん、ヘヘへ」
リリーは、寅だと分かった瞬間、すばやく寅の手を握ろうと手を伸ばす。
そして寅もほぼ同時にそれよりもっと早く、リリーが握ろうとした手を外からしっかり握っている!
謙次郎「あの…ちょっとすいません。お邪魔なようですので私はこれで…」
リリーも寅も嬉しくて、パパの言葉が耳に入っていない(^^;)
謙次郎「本当に長い間いろいろお世話になって…」
リリー「この人あんたの連れ?」とパパを指差す。
寅「うん、そうなんだよ」
間髪いれずに、迷いなく
リリー「一緒に飲みましょ一緒に!」
寅「おー!よしよしよし、座れ座れ座れ」
寅「あ、この女な…、二年程前に俺といろいろわけありの女よ」と、謙次郎に紹介。
リリー「もう二年なるかしらねえ〜」
寅「そうよー。去年、おととしの夏だもの」
リリー「そうだったねええ〜…」と思い出すように。
寅「う〜ん」
リリー「あんたあれから何してたのよぉ〜!?」と、寅の手を握って揺さぶる。
寅「えー?…俺か?……恋をしていたのよ」
リリー「ヒィーー!よく言うよぉ!ハハハハ!」
寅「エヘへへへへ!ハハハ!」
パパも後ろで実に楽しそう。
寅「よーし一杯飲むかおい!」
リリー「おじさんじゃんじゃん出して!」
おじさん「はいはい」
寅「よし!今夜はパーッと行こうおい!」
謙次郎「いきましょういきましょうハハハハ!」
夕日に染まる 塩谷海岸。 積丹半島のつけ根
寅たち夕日をバックに波打ち際で遊んでいる。
ハーモニカによる故郷の廃家(はいか)が流れる。
第7作「奮闘篇」で花子ちゃんが、江戸川土手で歌っていた曲。
寅が拾った海草を振りまく。逃げるリリー。笑うパパ。
寅「ホ〜レ〜」
リリー「イヤァ〜」走るリリー(ハイヒールを手に持って)
リリー「キャハハハ!」
石を海に投げる寅。寅「トォ〜」
波打ち際をキャッキャッ走り回るリリー。
リリーの体が夕陽に包まれ光り輝く。
【リリーを想う寅のアリア】
とらや 茶の間
寅「あ〜あ……。オレにふんだんに銭があったらなあ…」
さくら「お金があったら…どうするの?」
寅「リリーの夢をかなえてやるのよ。たとえば、どっか、一流劇場」
さくら「うん」
寅「な! 歌舞伎座とか、 国際劇場とか、そんなとこを一日中借り切ってよ、
寅「あいつに…、好きなだけ歌を歌わしてやりてえのよ」
さくら「そんなにできたら、リリーさん喜ぶだろうね!」
寅「んんん…!」
さくら、茶の間に座る。
寅「ベルが鳴る。 場内がスー…ッと暗くなるなぁ
皆様、たいへん長らくをば、お待たせをばいたしました。
ただ今より、歌姫、リリー松岡ショウの開幕ではあります!」
静かに緞帳が上がるよ… 」
さくら、嬉しそうに笑う。
寅、立ちあがり
寅「スポットライトがパーッ!と当たってね」
寅「そこへまっっちろけなドレスを着たリリーがスッ・・と立ってる」
おばちゃんも上がり口に腰掛ける。
寅「ありゃあ、いい女だよォ〜、え〜。ありゃそれでなくたってほら容子がいいしさ」
おばちゃん「うん」
寅「目だってパチーッとしてるから、派手るんですよ。ねぇ!」
おばちゃんたち頷きながら「うんうん、フフ…」
寅「客席はザワザワザワザワザワザワザワザワってしてさ」
綺麗ねえ…。 いい女だなあ…」
さくら、おいちゃんたちと「フフフ…」と笑いあっている。
寅「あ!リリー!! 待ってました! (パン!)日本一!」
寅「やがてリリーの歌がはじまる…」
寅「♪ひ〜とぉ〜りぃ、さかぁばでぇ〜〜〜……、
のお〜むぅ〜さぁ〜けえ〜はあ〜〜〜…」
寅「ねぇぇ…。
客席はシィー…ンと水を打ったようだよみんな聴き入ってるからなあ……。
お客は泣いてますよぉ〜…」
メインテーマがゆっくり入る。 ー クラリネット ー
寅「リリーの歌は悲しいもんねぇ……」
寅「……」
寅「やがて歌が終わる…。
花束! テープ! 紙吹雪!
ワァ―ッッ!と割れるような拍手喝采だよ」
寅「あいつはきっと泣くな…。
あの大きな目に、涙がいっっぱい溜まってよ…」
寅「……」
寅、堪えきれず、後ろを向き…そして座る。
寅「いくら気の強いあいつだって、きっと泣くよ…」
ハンカチを取り出す寅。
みんな気持ちがいっぱいになり下を向く。
おばちゃん、前掛けで目を押さえて泣いている。
【雨の相合い傘】
夜の柴又駅前
まだ雨がかなり降っている。
電車が到着して客がぞろぞろ改札から出てくる。どの客も傘を開いて差していく。
リリーも改札から出てくるが傘を持っていないのでしょんぼりし、途方に暮れた表情。
リリー、なんとなく、向こうの方の人影に焦点が合う。
薄暗い中で寅が向こうを向きながら番傘を差して立っている。
リリーのテーマが流れ始める。 (マンドリンによる)
寅、チラッとリリーを見て、ぎこちなく、すぐまた知らん顔してむこうを向く。
胸がいっぱいになりながら寅を見つめ続けるリリー。
そして、満面の笑み
寅、むこうを向いたまま、番傘をくるくる回している。
気持ちを高ぶらせながら寅の方に勢いよく駆け出して行くリリー。
リリー「きゃあーっ、はあっ」っと寅に甘えてくっついてくる。
寅「んん…」
寅、照れと緊張で顔をこわばらせながら、少し歩き出す。
リリー、雨を避けるため、スカートを左手で少し上げながら、
きらきらした目で寅の顔を見つめて
リリー「迎えにきてくれたの?」
寅「バカヤロウ〜、散歩だよ」
リリー「フフッ!雨の中傘さして散歩してんの?」
寅「悪いかい」
リリー「ぬれるじゃない」
寅「ぬれて悪いかよ」
リリー「風邪ひくじゃない?」
寅「風邪ひいて悪いかい」
リリー「だって寅さんが風邪ひいて寝込んだら…私つまんないもん」
寅のぬれた番傘を持つ手が映って、リリーもその手に触れるように一緒に傘を持つ。
夜の参道を相合い傘で歩いていくふたり。
リリーのテーマが切なく流れていく。
以上第15作「寅次郎相合い傘」での名シーンでした。
寅「そうだ、もういっぺんどっかで会ってるな」
寅、忘れるなよあの灼熱の夏を(^^;)
リリー「沖縄よぉ。
あんた何度も何度も病院に
見舞いに来てくれたじゃない」
寅「そうか〜…」
寅「…あんときゃ暑かったなあ〜」
リリー「ウフフフ」
昭和55年夏 第25作「寅次郎ハイビスカスの花」の名シーンを振り返ってみましょう。
【リリーのために駆けつける寅の奮闘】
たがみ病院 リリーの病室
窓から見えるリリー、眼を閉じている。
廊下から、パタパタと雪駄の音が近づいて来る。
寅の声「リリー! リリー!」
リリー「……!!」
その声にハッとするリリー。
信じられない顔で息をのんで、その声を聞いているリリー。
リリー「……」
寅の声「あ、すいません、看護婦さん、あの、松岡リリーはまだ生きてますか?」
看護婦「ええ」
寅「生きてますか、あ〜!よかった。あの、部屋、部屋どこでしょう?」
看護婦「こちらです」
おばあちゃんとリリーを間違えた寅は、指差された方向を振り返る。
はっとする寅。
なんともいえない顔で寅を見ているリリー。
その顔を見つめる顔が和らぐ寅。
寅「リリー」
リリー「フフ…」
あわててその傍に駆け寄る。
寅「何だい…」かわいい声(^^)
寅「お前ここにいたのか。あ〜、よかった。ハハ、オレ今、しわくちゃのババアとお前と間違えちゃってよ」
リリー「フフフ」
寅「お前、昔と一つもかわらねえ。安心したよ」
リリー、その細い腕を差し出し、手を握ろうとする。寅も迷うことなくしっかり両手で握る。
リリー「寅さん…」
寅「うん」
リリー「来てくれたのね」
寅「ああ、お前の手紙見てまっすぐ飛んできたんだけどね、何しろお前、遠いからなあ、
時間がかかっちゃって、遅くなったけど、勘弁してくれなあ…」
リリー、感極まって
リリー「私、うれしい」
と、泣き出しながら寅にしがみつく。
寅「よしよし、寂しかったんだろう、一人ぼっちでな。
もうオレがついてるから大丈夫だ、え。
泣くな、おい、泣くんじゃないよ、みっともないから、な、」
寅「あ!、そうだおみやげがあるんだい。うん」
寅、カバンを開けながら
寅「おばちゃんがね、フフ、リリーにさ、この川魚の佃煮を作って、食わしてやってくれって。へへへへ」
リリー「わあ」
寅「これ、さくらから、浴衣着ろってよ。
リリー「……」
これはね、あのおいちゃんと博が
トランジスターラジオだって。
リリー「……」
うん、え〜っとアハハハ、裏のタコがくれたよ、いくらも入っちゃいねえだろ。え?」
リリー「は〜、嬉しいなあ、お見舞いもらったの初めて」
寅「ああ、そうか、うん、お、まだあるぞえ、これ御前様。御前様もくれたよ」
寅「これは何だ、さくらなんでも入れるからなあ、これエプロン…あ、オレのフンドシだ、アハハハ」
あわててフンドシをしまい込む寅、
たがみ病院 夕焼け空
カラスが鳴き、蜩がカナカナカナと鳴いている。
赤い夕陽の差し込む病室の一隅で、ベッドに寝たリリーに夕食を食べさせてやっている寅。
枕もとにはお土産のトランジスタラジオがセットしてある。
リリーのテーマがゆったりと流れる。
寅「お、あーん、て、あーん、て」
寅「どうだ、うまいか」
リリー「まず〜い」
寅「まずい?まずくたってがまんして食わなきゃダメだよ、
なあ。そうじゃダメなんだほら、もう一サジ。
あーんて、そうそうそう。な、知念先生が言ってたろ、
この病気は心の持ち方が大事なんだ、生きようと思うことが大切なんだって、な。
あ、ほれ。おばちゃんの作った佃煮、これ食ってみろこれうまいぞ」
っと、箸を口に持っていってやる寅。
寅「うまいだろ?」
リリー、箸を持つ寅の手を握って
リリー「おいしい」
寅「な、…おし、茶、飲むか」
リリー「うん」
微笑んで寅を見つめるリリー。
寅「うん」
その光景を眺めている同室者達。
寅、深々とため息をつき、
リリーを優しい目で見つめて。
寅「あーあ…、…お前も、沖縄まで来て、病気してよ、…
どんな苦労したんだ、ん?」
リリー「フフ…」
何も答えないで、微笑みながら
寅の袖を指でいじって遊ぶリリー。
寅「……」
リリー、ふと上を向き、眼を閉じる。
寅「……」
寅「あんまり語してると病気にさわるか、なっ」
リリー「寅さん」
寅「えー、なんだ?」
リリー「こうやって眼つぶって寝てしまうでしょう、」
寅「うん」
リリー「そして明日の朝眼がさめたら、寅さんが
こうやって御飯食べさせてくれたの、 みんな夢だったりして」
寅「バカだねえ、お前。だったら自分の体つねってみろ、痛えから」
リリー「じゃ、つねってみて」
寅「え?ど、どこらあたりよ?」
リリー「どこでもいいから」
寅「う〜ん、どういうところつねってみるかなあ、ここか?」
リリー「痛い!!」
寅「ヘヘへ……痛えだろう、エヘヘヘへ痛えか」
【寅の初めての告白】
寅「あーあ、暑い一日が終って、夜になると、
ス―――ッッ…と涼しい風が吹いてなあ…。
遠くで波の音がザワザワザワザワ…」
リリー「ほら…、
庭に一杯咲いたハイビスカスの花に、月の光が差して、いい匂いがして…」
寅「ん…。昼間の疲れで、ウトウトしてると…、
お母さんの唄う、沖縄の哀しい唄が聞えて来てなあ」
リリー、懐かしい『白浜節』を静かに口ずさむ。まるで自分の気持ちを託すかのように。
リリー「♪我んや白浜ぬ 枯松がやゆら 」
リリー「……あたしは白浜の枯れた松の木なのか、
春になっても花は咲かない…。好きな人と
どうして一緒になれないのだろうって唄なの」
さくら「素敵な唄」
リリー「♪春風や吹ちん 花や咲かん 二人やままならん 枯木心」
おいちゃん、電話口で座り、しみじみと聴いている。
うっとりと聴いている一同。
リリー、あの日々を思い浮かべ、遠い目をし、
リリー「私、幸せだった、あの時…」
ひじでまくらをしながら、
夢を見るようなうっとりとした表情の寅。
寅「リリー、オレと所帯持つか…」
リリーの動きが止まる。
寅を見つめるリリー。
寅を見つめる博。
仰天し、目を見開き、
リリーを凝視するさくら。
リリーは、寅から目を離さない。
寅は夢心地の目。
リリーの強い視線に気づき、
急に我に帰る寅。
リリーを見つめるさくら。
寅を見ている博。
寅を見ているリリー。
寅、ムクッと起き上がって、緊張し、箸を持ちながら…、
寅「オレ、今、何か言ったかな…?」
さくらを見る博。
リリーはまだ寅を見つめている。
料理を摘む寅の手が震えている。
リリー「あ、ハハハハハ、」
リリー「やあねえ寅さん変な冗談言って、みんな真に受けるわよぉ」
リリー「ねえ、さくらさん」
さくら「..ええ…」
寅も無理して笑いながら、
寅「フハハハ、そう、そうだよそうだよ、この家は堅気の家だからなあ。
リリー「そうよ」
寅「うん、こりゃまずかったよ、アハハハッ、ハーッ」
さくら、どうしていいかわからないで
目の力が弱くなっていく。
博、悲痛な顔で寅を見続けるが何もいえない。
リリー「私達…夢見てたのよ、きっと。 ほら、あんまり暑いからさ」
と寅に微笑むリリー。
寅「そぉーだよ、夢だ、夢だ、うん」
博「そうですね」
寅「うん」
庭に行く寅を複雑な顔で見ている博。
リリーの目は実は笑っていない。
僅かに、表情が沈むリリー。
目を伏せ、遂に哀しみの色が濃く出てしまうリリー。
さくらはそんなリリーを見続けている。
とらや 庭
寅、フラフラと出て来て柱に背中をもたれてたたずむ。
寅「はあー…。あーあ、夢か……」
遠くを見つめ、深いため息をつく寅である。
【寅とリリー、大団円。 リリーの夢を見てたのよ】
群馬県 上荷付場停留所
坂の途中の小さな待合所。
降るような蝉しぐれ。
寅が暑さにうだっている。
眼を閉じて手にしたウチワで扇いでいる寅。
あるミニバスが少し行き過ぎた所で急停車し、
中からサングラスをかけ女が下りる。
蝉しぐれ
女は日傘をひろげて急ぎ足に待合所にやって来る。
眼を閉じていた寅、ウチワをふと落としてしまう。
ある気配に気づき、前を見る。
サングラスをかけた女…
…!! リリーが立っている。
サングラスを上げ、笑うリリー。
まじまじとその顔を見ていた寅、
はっと、輝いた表情をとり戻す。
ちょっと格好つけて、
寅「どこかでお目にかかったお顔ですが、
姐さん、どこのどなたです?」
リリー、ニツコリ笑って答える。
リリー「以前お兄さんにお世話になったことのある女ですよ」
寅「はて…? こんないい女をお世話した憶えは…ございませんが」
リリー「ございませんか、この薄情者!」
リリー「ハハハ!」
寅「ハハハ!」
寅「何してんだ?、お前、こんなとこで」
リリー「商売だよ」
寅「え」
リリー「お兄さんこそ何してんのさ、こんなとこで!」
寅「オレはおめえ、リリーの夢を見てたのよ」
リリー「フッーキャ!」
リリー照れながら寅を肩でつついて大笑い
キャ!
リリー「ね、これから草津へ行くんだけどさ、一緒に行かない?」
寅「あ、行こ行こ!オレどっか行くとこねえかなって
思ってたんだ!行こ行こ行こ!」
リリー「おいでおいで!」
寅「フホハハハ!!」
リリー、寅を引っぱるようにして、マイクロバスに連れて行く。
寅も一緒に笑いながら駆けて行く。
以上第25作「寅次郎ハイビスカスの花」の名シーンでした。
と、このように輝かしくも切ない歴史がこの二人にはあるのでした。
満男「へえ〜いろんなとこで巡り逢ってんだなあ、
伯父さんとリリーさんは」
寅「オレとこの女は生まれる前から
運命の不思議な赤い糸に結ばれているんだよ」
寅「なあ、リリー、 フフフ」
微笑みながら見つめ合う二人。
リリー「飲もう寅さん」
寅「あいよ」
いいねえ、この会話(^^)
リリー、ビールをついでやる。
寅「おうおうおう」
リリー「はい」
満男、リリーのコップを前に置いてやる。
リリー「サンキュ」と飲む。
マサオ「できた〜寅さんの好きな落花生の塩茹で」
寅「あ〜ありがとう もうそこで一杯のめや」
リリー、ビールをマサオに注いでやる。
リリー「はい」
寅「な」
リリー「ねえ、満男君。なにかしたい事があったらこの人に頼むといいわよ
なんでもやってくれるから」
満男「だったら、オレ働きたいんだけど なんか仕事ありませんか?
あの、帰りの飛行機代稼がなくちゃいけないんで」
寅「なんだよお前文無しか?情けねえやつだなまったく…」
あんたは生涯文無しだよ(−−;)
浜から三線の音と島唄の声
リリー「あ〜ら、寅さんだってお金が無いから
ここへ来たんでしょう?あたしの事思い出して」
リリー「エヘヘヘへ」
寅「それはそうです、な…ハハ」と観念する。
リリー「師匠が歌ってる。」
浜で島唄『サヨコ』を歌いながら三線を奏でる坪山豊さんや
相方で囃子(ハヤシ)担当、皆吉佐代子さんたち。
坪内豊さん「♪サァ〜ヨ〜コ〜、オトウ(夫)戻すえ〜ハレヤァ〜ニ〜
ハチガテヤ〜ィ(八月ヤ)
皆吉佐代子さん「♪ウマドゥシラドゥ〜」
坪内豊さん「♪ヨハレ ヤァ〜エヌゥ〜(来年)〜」
リリー「何の歌か分かる?寅さん」
寅「恋の歌だろ?決まってるよ」
リリー「男が好きな女に向かって、
お前は亭主がいるだろうけど、
その人と別れて、
オレと結婚してくれ結婚してくれって
繰り返し歌うの」
寅「ふう〜ん・・・女はなんだっつってんだい?」
リリー「あんたにだって奥さんがいるじゃないか、
その人と別れてくれるんなら、
一緒になったっていいわ。
そんな風に答えるの」
寅「ふう〜ん・・」
満男ちょっと疲れた様子。
リリー「満男君眠くなったんでしょう?
つもる話もあるだろうけど、今夜は寝なさい。
マーちゃん案内してあげて。寝巻きも出してあるから」
満男「すみません」
寅、満男へ向こうへ行けと手を振る。
満男「おやすみなさい」
リリー「おやすみ」
奥の部屋(寝室)に案内される満男。
満男「ここで寝んのは…僕と…」
マサオ「寅さんに決まってるだろう?僕の家は隣だから」
このシリーズで初めて寅はとりあえずマドンナと一つ屋根の下に、
何日にも渡って二人っきりで寝ていることがわかった。
寅とリリーの寝室は離れてはいるが、これはとりあえず大きな前進だ。
ハイビスカスの時にはこの状況すらなかった。
と、行ってしまうマサオ。
満男「マーちゃん?マーちゃん?」
マサオ「人のこと気安く、マーちゃんなんて呼ぶな」
満男「あ・・・どうもすいませんでした」
満男「マサオさん」
マサオ「なんだ?」
満男「ちょっと聞きたいことがあるんだけど。
僕の伯父さん、つまり、寅さんと、
あのリリーさんは事実上は夫婦なんでしょうか?
あなたから見て」
マサオ「バカな事言うな! あの美しいリリーさんと、
マサオ「お前のヘンな伯父さんとが夫婦であるもんか!」
と、手で四角い顔を描くマサオ。凄い迫力の顔(^^;)
満男「分かりました、それを聞いて安心しました。
おやすみなさい」
マサオ「バカァ!」と、帰っていく。
浜ではさきほどの坪山豊さんや皆吉佐代子さんたちが
島唄『ムチャ加那節』を演奏し歌う。
満男、寅は二十歳の若者じゃないんだぞ、寅もリリーも、
もう五十を超えた大人だ。安心なんかするなよ。どちらかというと寂しく思えよな。
寝室が離れてるとはいえ、一緒の屋根に寅とリリーは暮らしているのだから、
事実上夫婦になってるほうが、あの二人の歴史を考えるととても自然だ。
もうそういう時期が来ているとも言えるのだ。
翌々日 朝
奄美の満男のテーマが流れる。
さとうきび畑を走るテーラー
追いかける満男
満男「おはうございます」
マサオ「乗れェ」
マサオ「おはよう」
満男「おはようございます」
炎天下の中、サトウキビを刈る満男
満男の手紙
満男の声「お母さん 心配かけてすみませんでした。
夕べの電話で泣きながら叱られて、
僕は反省しています。ただ、お母さんは飛行機代は
送るからすぐ帰れといったけど、
そいこまで僕は甘えたくないのです。
こちらでなんとか仕事を見つけて、働いて、
キップ代をためて、自分の力で帰りたいのです。
会社のほうは専務の温情で休暇扱い
にしてくれたから大丈夫です。」
一般的な会社は無断欠勤がこれだけ長く続いた場合、温情などかけない。
日本の企業はそんな甘くない。これは映画だから穏便に済まされているが、
辞めさせられないまでも、停職、左遷、大幅減給、などの重いペナルティが一般的だ。
夕方、仕事を終えて
水場で汗で汚れた服を洗う満男
このシーン・・
勢里(せり)集落
ということになっているが・・・
実はロケ自体は
沖永良部島
知名町ジッキョヌホー
平成の水百選
ジッキョヌホーの場所は,奄美ではなく
実は沖永良部島の知名町。
島全体が隆起珊瑚礁なため,水資源の確保が困難だった環境のなかで
集落の中心に位置するこの湧水は
生命の源として集落民の生活を支えてきた。
水道が普及した現在も,原型のまま保つことに腐心し,
知名町指定有形文化財,瀬利覚字指定民俗文化財に指定されている。
現在も昔と変わらずに集落のシンボルとして崇拝を受け,
農業用水,洗濯,野菜洗い,子供たちの遊び場など
地域コミュニティの場となっており,
字民の保全活動も定着している。
例年7月,ホーへの感謝をこめたホーマツリも行われ
県外交流にまで発展しているそうだ。
http://www.meisuiyugi.net/archives/50271590.html
再び 奄美 加計呂麻島
ハンモックで寝ている満男
マサオ「おーい満男!満男!乗れィ!」と海に誘ってやる。
珊瑚の海をシュノーケリングする満男
奄美の満男のテーマがずっと流れ続けている。
満男の声「泉ちゃんの事を思うと胸が痛みます。
なんと言うばかな事をしてしまったんだろう、
どんな事をして償えばいいのだろう…、
それを考えない時はありません。
満男の声「伯父さんとリリーさんが
くれぐれもよろしくと言ってました。
僕が柴又に帰る時はもちろん伯父さんを
一緒につれて帰る努力はしてみますが、
あまり自信はありません。」
深刻に反省してる割には女の子と一緒に
シュノーケリングして遊んでいるなあ…。
なんか満男のナレーションと映像がアンバランス…あ〜あ(^^;)
監督の脚本では一緒に案内役で泳いでいるのは
マサオの妹さんとなっている。
満男は寅を一緒に連れて帰る努力をしてみます、としゃあしゃあと
言っているが、リリーと寅はお互い相思相愛なのだ。確かにきっかけは
寅が一文無しになったのでリリーの住んでいる奄美へ転がり込んだの
だろうが、お互い50歳を超えたいい大人が好きあって同じ屋根の下で
暮らしているのだから、余計なお世話だと言える。
金銭的なことを寅がケアしていないという理由だけで大人の恋を邪魔するのは、
あまりにもステレオタイプな考え方で、男女の関係というのは、もっと個性的で
他人には分かりにくいものなのだ。リリーは迷惑で早く出て行って欲しいと心の
どこかで腐れ縁的に思っているなら話は別だが、満男が見てもわかるように
リリーはあきらかに寅といることによって華やいでいる。この場合はそっとして
おくのが大人の行為だと思う。
巨大珊瑚礁の上を女性の案内で泳いで行く満男。
あれ?第44作「寅次郎の告白」では宿の池に落ちて「溺れる!」って言って
もがいていた満男。てっきり泳げないと思っていたよ。
夕陽の中、船を引く満男
満男を見ている寅とリリー。
リリー「がんばれー」
満男の声「それでは、お父さんはじめ、
くるまやのみなさんにくれぐれもよろしく 満男」
柴又 帝釈天参道
七五三で賑わう参道。
なんと…泉ちゃんが真剣な表情で
参道をとらやのほうに歩いている。
とんでもないことをしでかした満男だったが、
まさかあの結婚が流れてしまったとは思ってはいないだろう。
泉ちゃんは怒って柴又まで満男に抗議にやって来たのだろうか、
それとも…。
とらや 店
客「ごちそうさま」
三平「ありがとうございました」
泉ちゃんが店の前にやってくる。
三平ちゃん「いらっしゃい」
かよちゃん「いらっしゃいませ」
泉ちゃん店に入らないで外で立って店の中を覗いている。
三平ちゃんたち「???」
泉「あ、あの…満男さんのお母さんいらっしゃいますか?」
三平「今日はおでかけです。
夕方ごろに戻ってくるって言ってましたけど」
泉「じゃあ、お宅にもいらっしゃらないんですね」
三平「んん…、と、思いますよ。あの、どんなご用ですか?」
泉「あ、いいんです。どうもありがとう」と、題経寺のほうへ去っていく。
三平ちゃん、首をかしげながら…
三平「なあなあなあなあ、今のきれーな人、どっかで会ったことないか?」
かよちゃん、ちょっとブスッとして、
かよ「へえー、おたくあいうのタイプ?」
かよちゃん、三平ちゃんに気があるのかな?
そういえばさくらも第47作でそんなこと言ってたなァ(^^)
三平ちゃん、たじたじしながら
三平「いや、そういう意味じゃないんだよ、
ほら、別にね、オレのタイプじゃないけど…一応美人の…、
あ!せや、思い出した!
あれ、満男さんの彼女や!…ということは、
オレ、工場行って来る。博さんに教えてくるわ!」
と駆けていく。
題経寺 山門
源ちゃん、山門前で落ち葉掃き。
泉ちゃんを見て、ポーっとし、気もそぞろでほうきを動かす(^^;)
そこへ、博が工場から自転車で追いかけてくる。
博「泉ちゃーん!」
振り向く泉ちゃん。
キィー!!
とブレーキをかけて博が止まる。
泉「こんにちは」
博、息を切らしながら、頷く。
博「あの、満男になにか用でも?」
『何か用でも』はないだろ博。
まず泉ちゃんに満男の父親として真摯に謝るべきだろ。
事情はイマイチまだわかってないとしても、
息子がしたことは、満男の電話で取り返しがつかないことだったと
見当はついているのだから。
泉「今、会社に寄ってきたの。
そしたら休暇届出して休んでるとか…」
博「満男は、あの日以来。
つまり君の結婚式があった日以来帰ってこないんだよ」
泉「じゃあ、今どこに?」
博「いったい君の結婚はどうなったの?
まさか、あいつのためにダメになったんじゃ…」
泉「私、満男さんに会いたいの。
どこに行ったら会えるんですか?」
と真剣なまなざしで聞く泉ちゃんだった。
しかし、二十歳を超えて、社会人になっても
相変わらず敬語が使えないんだね、泉ちゃんは(^^;)
博「……」
車のクラクション プップップップー!
博「ちょっと向こうで話そう」と境内のほうへ入っていく。
奄美大島 加計呂麻島 諸鈍の浜
リリーの家 庭
沖縄民謡
リリー、花に水をやっている。
夜に水やるのかい?リリー。 基本的には朝か午前中。よっぽど日中暑かったら夜もOKだが。
リリー「満男君、果物食べたかったら
そのバナナ取っていいよ ちょうど食べごろだから」
満男、もぎとって、
満男「おじさんも食べなよ」
寅「うん」
満男「うん、うまい」
寅「おい、それでどうなったんだよ」
満男「何が?」
寅「夕べの話の続きだよ。お前泉ちゃんの事追っかけて、
岡山県の津山まで行ったんだろ?」
満男「どこまで話したっけ?」
リリー「花嫁行列の邪魔をして、車から引っ張り出されて、
殴られたり、蹴られたりして、
そこまで話したらあんた泣き出しちゃって、
終わりになったんじゃない?」
満男「その後はどうってこと無いですよ、警察に突き出されて、
厳重注意されて、岡山に出て、
レンタカー帰して、居酒屋で酒かっくらって、」
厳重注意で済んだんだね。よくあの高そうなタクシー傷つけなかったね(^^;)
リリー「それから、ここまでどうやって来たの?」
満男「夜中に岡山駅に行ったら、寝台特急が来たんですよ、
ブルートレイン。酔っ払ってるからどこに行くかも分からないで、
そのままぐっすり眠って目が覚めたら桜島が見えたんです。
鹿児島行きだったんですね、その寝台」
リリー「フフフ、まるで寅さんみたいなことやってんじゃないのあんたは」
寅「そうそう ハハハ」
リリー「フフフ」
満男「鹿児島の港でフラフラしてたら奄美大島行きの船が泊まってたんです。
奄美大島か、なんだか良さそうなとこだな〜と思って」
リリー「ふらふら乗っちゃったの?」
満男「はい」
満男「修学旅行の中学生の団体と一緒になってね、
大声で笑ったり、騒いだりしているその子たちを見ながら、
あ〜、オレも、中学の時こんな風に修学旅行に行ったけな、
オレもこんな時代があったんだなそんな事考えると
今の自分が惨めになってつい大声で『うるさい!静かにしろ!』
なんて叫んだりして」
半泣きの満男
寅「鳴きながらバナナ食う事ねえじゃねえかよ。
あ、きったねえな鼻水も一緒に食ってやらっ…あ〜」
リリー「で、その船は名瀬についたのね」
満男「はい 道を歩いてたら知らないおじさんが車に
乗せてくれて何て町でしたっけ?あの、港のある」
リリー「古仁屋でしょ?」
満男「はい」
リリー「そこからこの島に渡る船で私に会ったんだ?」
加計呂間(かけろま)島との間にはさまれた大島海峡を
古仁屋港名物貸切海上タクシー『でいご丸』で
加計呂間島『生間港』まで15分・1500円で渡った満男だった。
満男「はい、こんな所に綺麗な人がいるなあ〜って思いました」
リリー「へへへ、悲しくてもお世辞は忘れないんだ」
と、満男の頬を手で包み込むリリーだった。
満男「僕の話はそれでお終いです」
寅「リリー、まるでガキだよこいつのしてる事は。
ったく えらい事をしてくれたな〜」
リリー「あら?そんなに悪い事なの?満男君のやった事は」
寅「決まってるじゃねえか。
泉ちゃんの、いや、こいつのほれてる娘だけどな。
それが今どんなに今つらい思いをしてるかって事が
こいつにはわからねえんだ」
リリー「へえ〜どんな風につらいの?」
寅「分かってないねお前も古い城下町だよ、
花嫁さんの車にあいつが突っ込んだんだ。
町中噂で持ちきりだよ泉ちゃんも買い物にも出られやしねえや
『ほら、あのお嫁さんよ結婚式の時に東京から変な男が来て
大声でわめいたりして いやらしいわねえ』
舅にはいじめられる、友達は出来ない、夫はとたんに浮気をする実家に
帰りたくたって実の母は再婚しちゃってるんだからな
まったく可哀想になあ」
礼子さん、再婚したんだねえ。お相手は例の津嘉山正種さんでしょうか(^^)
満男「分かってるよ伯父さん、オレだって後悔してるんだよ」
寅「後悔するぐらいだったらどうしてじっと我慢できなかったんだ。
男にはな、耐えなきゃいけない事が一杯有るんだぞ」
満男「……」
寅「泉ちゃん、おめでとう
そうぞお幸せに電報一本ポーンと打っといて、
お前は柴又からはるか津山の空に向かって両手を合わせ、
どうぞ、今日一日いいお天気でありますよう、
無事結婚式が行われますようにと、
それが男ってもんじゃないのか!?」
リリー「バカバカしくって聞いちゃいられないよ」
寅「何だい、どこが気にいらねえんだい」
リリー「それがかっこいいと思ってるんだろ?あんたは。
だけどね、女から見たら滑稽なだけなんだよ」
寅「お前、何が言いたいんだよ、リリーは」
リリー「かっこなんて悪くたっていいから、
男の気持ちをちゃんと伝えて欲しいんだよ女は!」
だいたい男と女の間って言うのは
どこかみっともないもんなんだ。
後で考えてみると、顔から火が出るような
恥ずかしい事だって山ほどあるさ。
だけど愛するっていうのはそういう事なんだろ!?
奇麗事なんかじゃないんだろう?
満男君のやった事は間違ってやなんかいないよ」
寅「ちょっと待てよ、俺が言ってることはな、
男は引き際が肝心だって事を言ってるの。
それが悪いのか?」
リリー「悪いよ、バカにしか見えなよそんなのは。
自分じゃかっこいいつもりだろうけど
要するに卑怯なの。
意気地が無いの、気が小さいの。
体裁ばっかり考えてるエゴイストで
口ほどにもない臆病もんで、
つっ転ばして、グニャチンで
トンチキチンのオタンコナスって言うんだよ!」
リリー「……」
寅を睨み続けるリリー。
寅「……」
寅はただただ唖然…(^^;)
リリー「あ〜面白くない!
マーチャンとこで酒でも飲もう!
満男おいで!」
満男「はい」おどおど…((((^^;)
リリー「おいでっつうの!」
満男「はい…」
リリーは、外へ行ってしまう。
満男「伯父さん、ほっといていいのか?」
寅「腹の立つ事が山ほどあんだろあの女には」
満男「伯父さんという存在も、その一つか…」座布団1枚(^^)
寅「うるさいな、お前も早く飲みに行けよ」
すごすごと、リリーについていく満男。
寅「何言ってんだよ。 存在だと? バッカ」と、独り言…。
リリーの激しい言葉にふくれっ面で知らん顔している寅だったが、
彼女のこの夜の啖呵は、後の寅の行動に少なからず影響を与えていったことは
想像に難くない。寅はどんな時だって愛するマドンナの言葉を密かに自分の
心に通過させて消化していく男なのだ。
ちなみに、リリーの部屋の壁に画家田中一村の作品によく似た大きな絵が飾ってある。
一村にしては少し構成が弱いので、彼の画風を真似て誰かが描いた絵かもしれない。
田中一村は昭和33年、50歳の時に南の島々の自然に魅せられ、
この奄美大島に移り住み、大島紬の工場などで働きながら、衣食住を切り詰め、
不遇とも言える生活の中で奄美を描き続け、昭和52年(1977)、69歳でその生涯を終えた。
極貧の中でも必死で自分の信じる絵(日本画)だけをひたすら描いた本物の絵描きさん。
東京美術学校では東山魁夷と同期。しかし、生前は、反骨精神も災いして、
ほとんど誰にも知られることがなかった。まともな個展も一度たりともしないまま世を去ってしまった。
死後徐々に紹介するメディアが増え、画集や特集が組まれたりしていった。
私が彼の最初の画集『田中一村作品集―NHK日曜美術館「黒潮の画譜」』日本放送出版協会 を
買ったのもちょうどそのころ、確か1985年だった。
2007年の現在ではもう日本中にその名前が知られるようになり、各地での個展は大賑わい。
奄美にはなんと田中一村記念美術館まで建った。
ゴッホの時も思ったが、死後もてはやされるのは名誉なことだが、その名声の100分の一でも
いいから、田中さんが生きている間に少しでも応援者が存在したら彼はあんなに体や眼が弱ることも
なかっただろうし、絵を描く時間ももっと取れただろうし、個展も実現しただろう…。
なんとも皮肉な話だ。それがなんとも悔しい…。
リリーの啖呵の中の
「グニャチン」はインポテンツのことだと思われる。
この映画シリーズでは、第1作の「ペッティング(ペッチング)」とともに
きわどい性的表現の双璧だ^^;
浜辺への夜道
満男、リリーに追いつき、
満男「僕も付き合います」
満男と腕を組み
『島育ち』を口ずさむリリー。
リリー「♪赤い蘇鉄の〜、実も熟れる頃〜
加那も年頃〜、加那も年頃〜 大島育ち〜」
島育ち
昭和37年
有川邦彦作詞・三界稔作曲
歌 田端義夫
赤い蘇鉄(そてつ)の 実も熟れる頃
加那(かな)も年頃 加那も年頃
大島育ち
2.
黒潮(くるしゅ)黒髪(くるかみ) 女身(うなぐみ)ぬかなしゃ
想い真胸に 想い真胸に
織る島紬(つむぎ)
3.
朝は西風 夜(よ)は南風
沖ぬ立神(たちがみゃ) 沖ぬ立神
又 片瀬波
4.
夜業(よなべ)おさおさ 織るおさの音
せめて通わそ せめて通わそ
此の胸添えて
この長いシリーズの中で、さくらや博、おいちゃんおばちゃん、
社長、満男、御前様、マドンナたちがそれぞれ、寅を批評してきた。
ヤクザ、フーテン、甲斐性なし、根気無し、遊び人、等々。
しかし誰一人『卑怯』と言った人はいなかった。『臆病』とも言ったことがなかった。
さくらにいたっては、ギリギリでは、兄は、『こんなダラシナイ自分では役不足だと
悟って身を引いてしまう…』『心優しきそして心弱き人』と…美化してもいる。
もちろんさくらの感覚は一面の真理ではあるのだけれど…。
それでもまだ、初期のころのようにただただブザマにふられているだけなら、どんな
裏があっても所詮は一人相撲なので救われる。
しかし、マドンナの方も寅に恋をしている相思相愛の場合が第10作以降は数多く
生まれるのである。悪く言うとそういう場合、寅は、恋が成就する一歩手前で突如、
立ち止まり、自分に恋心を持ち始めている女性を「自分なんかと一緒になると
不幸だから」と、最後には彼女たちを『捨てる』のである。
『持ち上げて担ぎ上げて相手がその気になったら落とす』のである。
カッコいいこと言ったって結局はギリギリではそういうことになる。
最後に責任を持って女性を大事にしようとしないのなら、最初からマドンナに
気のある行動をしてまとわりつかなければいいのに…。分別のあるべきいい年をして…。
そう、思う人がいても無理はない。
これこそがリリーの言うところの寅の『献身的な心根』の裏に隠された『卑怯』で
『エゴイスティック』な部分なのだ。もちろん寅自身が引き裂かれているのである。
寅のこの引き裂かれた気質のおかげで深く心が傷ついた女性をどんなに少なく
見ても私は二人知っている。高梁の朋子さんと、もう一人はリリーである。
しかし、今回のリリーの啖呵によって満男はようやく寅の表と裏を
ほぼ理解することが出来たし、なによりも私たち観客も寅の全貌を初めて
意識的にきちんとイメージすることが出来たのである。
愛すべき心優しき楽天家の寅。無償の愛に生きる無欲な男。
そしてその陰に潜む『卑怯、体裁主義、エゴイスト、臆病、』の
領域を把握していくと、意外にも、今までより一層寅がいとおしく、
可愛くなってくるから不思議だ。
私はこの啖呵を聞いて以来、寅がますます身近になった。もう、自分の中に
抑圧し、美化し、『隠すべき寅次郎』はなくなったのであるから。
それはおそらく山田監督にとっても同じ心持ちだったに違いない。
後期になり、作品を追うごとに、美化されていったいぶし銀のような寅次郎を、
最後の最後に生々しい業を背負った人間寅次郎に戻してくれた…、
とも言えるだろう。
やっぱり、リリーは寅のことを一番よく知っている。
奄美空港
キィーン…
AMAMI
JAPAN
AIR SYSTEM 日本エアーシステム
泉ちゃんが、遂に奄美大島の飛行場に着いたのだ。
徳永英明さんの『君と僕の声で』の二番が流れる。
ドラマの予感…。
♪繋いだ指から僕の心を伝えてあげる。
バスで加計呂間に行く連絡船の出ている
古仁屋港に向かう泉ちゃん。
何かを思い出している泉ちゃんの目…。
おそらく泉ちゃんの頭を満男との
数々の思い出がよぎっていったのだろう…。
大島海峡
満男が乗ったように泉ちゃんも
古仁屋から水上タクシー『でいご丸』に乗る。
11古仁屋 ISUZU
船員「何見てんや(何見てるんだ?)」
船長「あなう女子ば気になってや〜(あそこにおる娘が気になってな)」 またかよ ヾ(^^;)
船長「まさか自殺たすらんちおもりんば(まさか自殺はせんと思うが)」
船員「あんけらんな女自殺けらんや(あんな別嬪は自殺はせん)」
船長「そらわからんど(そりゃ分からんぞ)けらんか女にはプライドっちゅうもんがあんからや」
船員「じゃ大丈夫だおめえは ハハハハ(じゃあお前の母ちゃんは大丈夫だ)」
船長「バカいいなあ(バカ言え)」
♪言葉にならないほど、
深く愛を感じているから。
大島海峡を渡りながら、
泉ちゃんは、なにを想っていたのだろうか。
♪誰かが声を枯らして走りだせば
あざ笑うものがいる
遠い昔…佐賀の叔母さんの家に、満男が東京から
バイクを飛ばして来てくれたことだろうか…。
それとも…
日田のお父さんに会うために、
一緒に新幹線に飛び乗ってくれたあの日のことだろうか…。
それとも…
鳥取砂丘のてっぺんからコロコロ満男が転がり
二人して再会を喜び合ったことだろうか…。
そして山陰線の中、初めてお互いの気持ちを確かめ合った、
あの手の温もりと、黄色いハンカチのことだろうか…。
そして…
あの涙に濡れた東京駅での最後のキスと、さよなら…だろうか…。
加計呂麻島 徳浜 の浜辺
徳浜海岸
♪だけどお前も本当は心の中で
憂い満ちているなら
君と僕の声で
すべてが全ては生まれるから
泉ちゃんがそこまで来ているとは露知らず、
浜辺で砂に木片で『泉』と、書いている満男だった。
押し寄せる波が文字を消していく…。
そんな時…、
マサオの車で、泉ちゃんを連れて
寅とリリーが浜辺にやって来た。
リリー「あ〜、いたいた、あんな所に」
寅「は〜、いたいたいた!」
座りこんでいる満男を見て不思議がる泉ちゃん。
泉「何しているのかしら?」だよね(^^;)
寅「う〜ん?
蟹と戯れてんじゃねえかな?
泉ちゃんのことを考えながら」
石川啄木の処女歌集『一握の砂』の中の
第一章「我を愛する歌」にある
東海の小島の磯の白砂に
われ泣きぬれて
蟹とたはむる
を、寅は、もじっている。
リリー「早く行ってやんなさいよ。
驚くわよきっと」
寅「泉ちゃんが言いてえなあと思うこと、
言ってやったらいいんだよ。
さ、早く行け」
リリー「ほらほらほら」と、背中を押してやるリリー。
意を決し、歩いていく泉ちゃん。
マサオ大あくび
リリー「ちょっと見ててごらん、面白いから」
軽快なドラムのリズムとともにサブテーマ曲が流れる。
山田監督は映画「モロッコ」を意識している。
ずんずん歩いて満男に近づいてく泉ちゃん。
遂に靴を脱ぐ泉ちゃん。
靴を置いてどんどん満男に近づいていく泉ちゃん。
1930年(昭和5年)に制作された映画『モロッコ』の中の旅芸人アミーが泉ちゃんである。
地の果て、アフリカのモロッコ。
外人部隊の駐屯地を背景にキャバレーの旅芸人アミー(マレーネ.ディートリッヒ)と
若い兵士トム(ゲーリークーパー)、の恋の物語。アミーとトムの人生を賭けた強烈な恋愛劇。
行進の太鼓とラッパが鳴り響く砂漠を、アミーが靴を脱ぎ捨て熱砂の上を裸足で男を追いかける
ラストシーンにアミーの人生をすべてトムに賭けた『強い決意』がにじみ出ていた。
このラストは映画史上に残る名場面である。山田監督はこのモロッコのラストを意識しているのでは
ないだろうか。
微笑んで見つめ合う寅とリリー
もうこのカットだけで胸が熱くなる…。
若い二人の恋の行方を遠くから見守っている。
満男、泉ちゃんが突然目の前に現れて驚いている。
信じられない顔で、呆然と立ち尽くす満男。
リリー「満男君びっくりしてるよ寅さん」
寅「さあ、泉ちゃんがどう出るかだ。
どうするどうする??」
張り詰めた緊張感。
顔が怒っている泉ちゃん。
満男「ハ…」
満男、照れ笑いを思わずするが…、
泉ちゃんのただならぬ気配を感じ、真顔に戻る。
満男「……」
泉ちゃん、満男の前に詰め寄って、
泉「何であんな事したの!?」
泉「どうして!?」
泉ちゃんの圧倒的な勢いに
思わず海の中に退く満男。
寅、遠くで見守りながらも
寅「ああ、何やってんだろうな、
満男は しっかりしろよ!」
感動しているリリー。
泉「黙ってないで何とか言ってよ!」
どうしてなの?
なぜなの?
なぜ!?」
満男「それはね…」
泉「なあに?」
満男「あのね…」
泉「うん」
満男「あの……」
泉「言って!、訳を言って!」
満男「……」
満男「愛してるからだよ!!」
満男「……」
泉「……」
輝いてゆく泉ちゃんの目
喜びに満ちた顔で
泉「もう一回言って!!!」
「もう一回言って!!」という言葉は、
今度は泉ちゃんから満男への愛の告白だね。
よかったなあ〜!満男ォォ(TT)
満男「オレは!泉ちゃんを、
あ…ウワアア!!」
心が動転した満男は後ろにひっくり返ってしまって
海の中に体ごとコケル。
ズボボボ…
あああ…バカ…(TT)
泉「あ!!」
満男「ウア、ゲホゲホ」
海の中に入っていく泉ちゃん。
泉「満男さん!」
満男「ゲー!ゲホゲホ」ホントバカ…(TT)
腕を持って助けてあげる泉ちゃん。
泉「大丈夫!?」
と言いつつ浮いているサンダルを
素早く満男のほうに戻す泉ちゃん。
満男「もう、ダメだ…ゲホゲホォ!」
ようやく立ってサンダルを両手に持ちながら
泉ちゃんに助けられて波打ち際までふらふら歩く満男。
このあたりから、泉ちゃん密かに笑いまくってます(^^)
面白いヨねえ〜この変な吉岡秀隆お兄さんって(^^;)
笑ってますね泉ちゃん(^^)
思いっきり笑ってます泉ちゃん(^^)
泉「満男さん あ!」
もう一度、海にバチャ!と落ちる満男。
満男「ゲハー!!ゲホゲホォ!」
ああああ吉岡秀隆君…渾身のダイビング(TT)
山田監督の厳しい演出(TT)
寅「あ〜あああ、ブザマだねえ、
あの男は ッチ 何とかなんないのかねェ」
リリー「いいじゃないかブザマで、
若いんだもの。私たちとは違うのよ」
感動で、目が潤んで涙を拭いているリリー。
寅、そんなうぶなリリーが愛おしくなり…、
ブザマじゃない粋な熟年の自分たちを見せようと、
意を決して、おおお、なんと!リリーの肩を抱こうとする!。
この長いシリーズの中で寅が冗談でなく冷静な
気持ちで女性を抱こうとした初めての行為だったのだが…。
リリー「そば行ってやろ…」
リリーは、寅のその手に気づかず、スッと
離れて満男たちの場所へ行ってしまう。
あああああ!惜しい!!!(TT)
リリーを抱こうとした自分の手を見つめる寅…。(TT)
寅「……」
マサオがその寅の空振りを目撃しているのに気づき、
伸ばした手のおさめ方に困って、手の体操のふりをする寅。
満男たちのそばに走って駆け寄り、
若い二人に寄り添ってやるリリー。
3人の様子を、じっと見守っている寅。
リリーが満男たちのもとに駆け寄るあの浜辺の
のシーンは、この数年前に作られたアメリカ映画の
名作「ショーシャンクの空に」のあのダイナミックで
広がりのあるラストにも似て、それまでのすべての辛い歴史を
浄化する見事なカタルシスが表現されていたと思う。
つまり満男や泉ちゃんたちにとっても寅やリリーたちに
とっても、そして観ている私たちにとっても、絡まった糸が
見事解けたような、全ての苦悩やジレンマが昇華された
大きな幸福の瞬間だったのだ。
こうして、このシリーズの最大のクライマックスは
ここに極まったのである。
渥美さんの体調も
この浜辺のシーンではずいぶん良くて、時折冗談も
スタッフたちと交わしていたと言う。NHKの『渥美清の伝言』
でも、渥美さんはこの浜辺での撮影だけは表情が明るかった。
諸鈍の浜には
山田監督の書かれた下↓の文章
「寅さんは今」が刻まれている。
「一九九五年の秋、
ぼくたちはこの地で寅さんシリーズ第四八作の
ロケーションをおこなった。
……その翌年、即ち九六年八月、
寅さんこと渥美清さんはこの世を去り、
二七年にわたったこのシリーズは
日本中のファンにおしまれつつ
終りをつげることになった。
しかし、寅さんは居なくなったのではない。
我等が寅さんは、
今も加計呂麻島のあの美しい海岸で、
リリーさんと愛を語らいながら
のんびり暮らしているのだろう――
きっとそのはずだ、とぼくたちは信じている。
一九九七年七月 山田洋次 」
葛飾柴又 とらや 店先
警官自転車でやって来て
警官「こんにちは〜」
源ちゃんや備後屋をはじめ商店街の人々が今か今かと
寅とリリーを待っている。
寅が、怪我や病気もしていないで、ただ帰郷するだけで、ここまで柴又のみんなが
注目するのは、第4作「新男はつらいよ」と第45作「寅次郎の青春」以来のできごと。
あの第4作では寅は100万円を持って凱旋するのであるし、第45作では、一応寅は
足を怪我して松葉杖で柴又に戻ってくる。
しかしこの第48作では、リリーと一緒にただ帰ってくるだけなのである。
それだけのことで、商店街のみんなはなぜか集まってしまっている。
つまり、これは『映画の起承転結』から外れた特別な演出になっている。
ラストを強く意識させられる強烈な『予定調和』『まとめ』である。
映画の緊張感を一見ぶち壊すようなこのような過剰な予定調和も、
もうこれが最後の作品、最後の帰郷だと思えば納得もいくのである。
この作品はそういう長い歳月の果ての帰結点という『最終回的意味合い』
『同窓会的意味合い』を持っている長年のファンのためのプレゼント的な作品でもあるのだ。
そういう意味ではこの作品だけ見た人には到底理解できないシーンが数多くあるのが、
この第48作なのだ。何度も言うがこれは、映画の形を取っているが、長い連続ドラマの
最終回なのだ。最終回だけ観てその意味が分かるはずもない。
少なくともリリーの登場作品を全部見てからこの第48作を見ないと物語さえ掴めないと思う。
ただ…、それにしてもこのような『予定調和』は、若干の緊張の弛緩は否めないところがある。
演出的に、こうせざるを得ないのは、やはり、渥美さんの体の不調が一番の原因なのかも
しれない。
警官「何事ですか?」
三平ちゃん「寅さんが帰ってくるんですよ」
源ちゃん「女連れて」源ちゃん、いつもながら下品(−−;)
警官「あ、そりゃ大変だ」と慌てだす。
みんな「ウハハハ!」
源ちゃん「ガハハハ!」
かよちゃんが、布団を干し終わって、二階に運ぼうとしている。
さくら二階の掃除終わって下りて来る。
さくら「あらららら」
かよちゃん「あ、奥さん、この布団二階でいいんですよね?」
さくら「うん、ありがとう。それはお客さんのだから、こっちの二階よ」
かよちゃん「よいしょっ」と上がっていく。
さくら「あ、お兄ちゃんの布団はむこうの階段から
物置部屋に運んでね〜」
かよちゃん「は〜い」
かよちゃん、ようやく寅のこと覚えてくれたのかな(^^;)
おばちゃん、さくらに、
おばちゃん「ねえ…」
さくら「うん」
おばちゃん「ねえ、でも別々の部屋でいいのかねえ〜?」
さくら「どう言うこと?」
おばちゃん「だって奄美大島では、一つ屋根の下で
暮らしてたんだろう?という事は二人はさ…、」
確かに『たった二人っきりで、
一つ屋根の下で3ヶ月間』という状況は画期的!
さくら「だけど同じ部屋で寝てたかどうか、それは分からないわよ」
おいちゃん「そらそうだ」
さくら「いいじゃない。
家では別々の部屋で。とにかく、正式な夫婦じゃないんだから」
おいちゃん「そのとおりだ。
そこんところはハッキリしとかなきゃいけねっ」
おばちゃん「はあ、は〜…。
固い事しかいえないんだね、この男は」
ほんとほんと。あくまでも『籍』というものにこだわるんだよねえ、
このあたりの人々は…。まあ、そうしなければ地域社会の秩序が
不安定になってしまうのだ。共同幻想を同じくする『社会』というものは
古今東西そういうものだ。
工場のほうから中村君とゆかりさんがやって来る。
ゆかり「さくらさん」
さくら「はい」
ゆかり「寅さんたちまだですか?」
さくら「もうすぐだと思うけど?」
ゆかり「こんにちは〜。満男君も一緒?」
さくら「うん」
さくら「あの子は名古屋で降りて、泉ちゃんを家まで送って行ったらしいの。
今夜中には帰るとは思うけどね」
中村「じゃあ寅さんとリリーさんが手に手を取って、水入らずで」
あんたらがいるから水が入っちゃうよ(−−;)
ゆかり「あ、やったあ〜!」
中村「おもしれえ」
さくら「ちょっと ねえ」
ゆかり「そんな綺麗な人なの?」ゆかりちゃんは知らないよね。
さくら「はー…」
博「参ったなあ〜町中の噂だよ、
兄さんが嫁さん連れて帰ってくるなんて
真顔で話してるやつだっているんだから」
おばちゃん「ええっ…」
博「はァ…」
ゆかり「あ!きたわよ!」
一同「おおお〜!」
三平ちゃん「若奥さん!寅さん帰ってきました!
綺麗な女の人と腕組んでます!」
かよ「ウッソオ!!」と、店先に走っていく。
なんせ、奄美では自ら肩まで抱こうとしたんだから、
腕を組まれるくらい平気になっている寅でした(^^)
御前様がまた『青少年に与える影響が』って怒りそう…(^^;)
社長、庭にやって来て、
社長「お〜い、仕事になんねえぞお!
せめて月給分ぐらい働けよお!」
へえ〜、社長にしては寅の帰郷に興味が薄いんだね。
経営者としての自覚がようやく生まれたのかな。いいことだ(^^)
さくらと博、なんとなく不安そうな顔で店先を見つめている。
かよ「おかえりなさ〜い!」
中村「お久しぶりです〜」
備後屋「道あけて!道あけて」
源ちゃん「邪魔や、邪魔や」
一同「ワア〜パチパチパチ…こんにちは…こんちは」
リリー、挨拶をする中村君に、
リリー「うん、覚えてる。」
さくらとリリー目が合う。
さくら「リリーさん」
さくら、なんとも言えない笑顔。
リリー「さくらさん」
リリー感無量の笑顔。
リリーとさくら、ひしっと抱き合う。
感動して、手でさくらの背を何度も叩くリリー。
さくら「はー…満男が、すっかりお世話になったのね」
博「本当にお世話になりました」
リリー「びっくりしたのよ、大きくなって」
さくら「いつまでも親に手をやかせてね、」
博「まったく!」
寅「そうそう」
おいちゃんおばちゃんもリリーの前に来て、
おばちゃん「まあ、リリーさん」ようやく名前覚えたようだねおばちゃん(^^)
リリー「あら〜」
おばちゃん「このたびはウチの寅までが
とんだご厄介をおかけいたしまして」ガキ扱い(^^;)
おいちゃん「申し訳ございません」
おいちゃん「もおお〜、いい年して人に迷惑ばかりかけやがって!マッタク!」
一同「ガハハハ…」
寅「何が言いてえんだよ」
おばちゃん「だって、リリーさんに送ってきてもらったんだろ?」
おいちゃん「子供みてえに なあ〜」
おいちゃんと同時におばちゃんも
おばちゃん「ねえ〜」息がぴったり(^^)
リリー「違うのよ、おばさん、私が東京に用事があったの。
ほら、こっちに母親がいるからたまには
会ってやろうと思ってね、そのついでよ」
寅「聞いたか。オレはな、お前たち老夫婦が
無事に生きてるかどうか、もし死んでいるような事が
あったら立派な葬式挙げてやろうと思ってやって来たんじゃねえか」
おいちゃん「分かった分かった」」
寅「本来ならばだ、『寅ちゃんすまないねえ、本当に有難うよ』
鼻水すすりながら礼を言わなきゃならないんだ。
それを何だ今の態度は」
リリー「寅さんいい加減にしなさいよ」
寅「言わなきゃわからねえんだ」
リリー「何よ帰ってくる早々」
さくら「とにかく、お兄ちゃん、ねっ 上に上がってほら」
博「お風呂に入ってゆっくりしてください」
おばちゃん「あんたたちの浴衣縫ってあるからね」
リリー「あら、嬉しい」
寅、みんなに後押しされながら暖簾をくぐって台所のほうへ入っていく。
入れ替わりに社長が暖簾をくぐって
社長「いいタマだねえ〜寅は」
寅「タマがどうしたって!?」
博「社長!…(寅に)なんでもありません…」
一同「ハハハ」
おいちゃん、毎度のことで一同に挨拶。
おいちゃん「あ、みなさん本日はどうもお出迎えありがとうございました。
今日のところはこれでお引取り願えますか」
第45作「寅次郎の青春」もこのパターン。
みんな、ぞろぞろ帰って行く。
社長「仕事だ仕事」
警官「ピーッピーーッ」と、交通整理。
おいちゃん「どうもご苦労様でした」
今回のくるまやお品書き
★第48作冷蔵庫のスポンサーは『キリン』
だんご系すべて 400
おでん500
磯乙女 400
あんみつ400
おでん500
あんみつ400
ところてん400
こがね餅 300
赤飯300
茶めし300
ビール300
ジュース200
ラムネ150
もうこの作品が最後だし、
ここでちょこっと過去のめぼしい『お品書き』を
ダイジェストで簡単におさらいしておこう。
★47作「拝啓車寅次郎様」
おでん500円
★45作「寅次郎の青春」
草だんご 小六〇〇円 中八〇〇円 大一〇〇〇円
各種詰合わせいたします。
★43作「寅次郎の休日」
ラムネ200
ジュース200
おでん450
茶めし250
お赤飯200
こがね餅250
くず餅350
草団子350
冷蔵庫はキリン
★第40作「サラダ記念日」
草だんご300円
焼だんご300円
磯乙女300円
茶めし200円
お赤飯200円
こがね餅200円
おでん 400円
くず餅300円
あんみつ300円
ところてん300円
ジュース200円
ラムネ150円
ビール300円
★第38作「知床慕情」
冷蔵庫はサントリービール
草だんご300円
焼だんご300円
磯乙女300円
茶めし200円
お赤飯200円
こがね餅200円
おでん 400円
くず餅300円
あんみつ300円
ところてん300円
ジュース200円
ラムネ150円
ビール300円
★第32作 「口笛を吹く寅次郎」
ところてんは第38作と比べて半額
大福餅 150円
豆大福 150円
お赤飯 200円
ところてん 150円
あんみつ 280円
くず餅 250円
草だんご 150円
焼きだんご 150円
磯乙女 200円
三色だんご 200円
★第29作「あじさいの恋」
草団子 150
大福餅 150
焼き団子 150
豆大福 150
三色団子 200
ところてん 150
磯乙女 200
お赤飯 200
くず餅 250
あんみつ 280
第2作ではあんみつ70円だった…。
13年間で物価は上がり、
とらやのあんみつは4倍に値上がりしている。
★27作「浪花の恋の寅次郎」
お赤飯 200
豆大福150
大福餅150
ところてん150
あんみつ280
三色だんご200
焼きだんご150
草だんご150
くず餅250
磯乙女200
ジュース150
ラムネ150
ミルクコーヒー200
冷蔵庫は『とらや』の文字。
『冷たいビールジュースラムネ』の貼り紙
ちなみに1969年制作の第2作「続男はつらいよ」
ではお品書きは下のようになっている↓
レモン、イチゴ.メロンかき氷50円.
あんみつ70円.クリームソーダ70円.
ソーダー水50.アイスクリーム30円
サイダー50円.クリームあんみつ80円.
12年間で物価は上がり、
つまり飲み物は3倍に値上がり。
あんみつは4倍に値上がりしている。
★第25作 「ハイビスカスの花」
冷蔵庫は『サッポロビール』
お赤飯 200円
豆大福 150円
大福餅 150円
三色だんご200円
焼きだんご150円
草だんご150円
くず餅 250円
磯乙女 200円
ジュース200円
ラムネ150円
ミルクコーヒー200円
★第18作「純情詩集」
草団子 100円
焼き団子 100円
こがねもち 100円
おでん 200円
ところてん 150円
みつまめ 200円
あんみつ 200円
サイダー 100円
ラムネ 100円
ジュース 100円
★17作「夕焼け小焼け」
草団子 100円
焼き団子 100円
こがねもち 100円
おでん 200円
ところてん 150円
みつまめ 200円
あんみつ 200円
サイダー 100円
ラムネ 100円
ジュース 100円
氷
イチゴ 150円
メロン 150円
冷蔵庫の中身 『雪印』
雪印 牛乳 コーヒー味 いちご味
缶ジュース メロン味 グレープ味
ピーチゼリー オレンジゼリー プリン コーヒーゼリー
紙パックのりんご牛乳 イチゴ牛乳 小パック
牛乳パック 500mlパック 1リットルパック
★16作「葛飾立志編」
とらやのお品書きは
「相合い傘」の時と全く同じものを使用。
茶めし 150円
おでん 150円
赤飯 150円
あんみつ 150円
磯おとめ 100円
草だんご 100円
くず餅 100円
こがね餅 70円
焼きだんご 100円
今回も冷蔵庫は『雪印』
今回の今回のスポンサーである
『ブルドッグソース』は、いたる場面で出まくり!(^^;)
★第15作「相合い傘」
茶めし 150円
おでん 150円
赤飯 150円
あんみつ 150円
磯おとめ 100円
草だんご 100円
くず餅 100円
こがね餅 70円
焼きだんご 100円
今回も冷蔵庫は『雪印』
★第14作「寅次郎子守唄」
冷蔵庫はオーソドックスに『雪印』
おでん 150
茶めし 150
赤飯 150
みつまめ 150
あんみつ 150
ところ天 100
磯おとめ 100
草団子 100
くず餅 100
焼き団子 100
草団子は一時120円になったがまた100円に値下げ(^^;)
★第13作「恋やつれ」
冷蔵庫はオーソドックスに『雪印』
赤飯 150円
茶飯 150円
草団子 100円
磯乙女 100円
おでん 150円
くずもち 100円
ところ天 100円
あんみつ 150円
みつまめ 150円
★第12作「私の寅さん」
冷蔵庫も第11作同様オーソドックスに「雪印」
草団子 120円
茶めし 120円
おでん 150円
焼き団子 80円
くず餅 100円
こがね餅 80円
ところ天 100円
磯乙女 80円
あんみつ 120円
みつ豆 120円
コーラ 60円
ジュース 60円
ソーダ水 50円
★11作
とらやの冷蔵庫は「雪印」
茶めし 100円
おでん 100円
コーラ 60円
ジュース 50円
サイダー 50円
一折 300円
★第10作 「夢枕」
茶めしは第38作と比べて半額。
しかし草団子はなぜか第32作のほうが安い。
これはおそらく数が違うのだろう。
コーラ 60円
サイダー 50円
ジュース 50円
団子一折 300円
おでん100円
茶めし100円
焼き団子60円
草団子200円
★第9作「柴又慕情」
磯乙女50円
茶飯100円
焼き団子50円
アイスクリーム50円
赤飯100円
黄金餅50円
あんみつ100円今回は『ペプシ』の冷蔵庫←黄色がやたら目立つ。
(ラストでもペプシの車に登と一緒に乗る)
★第8作「恋歌」
サイダーは第8作の方が第10作より高い。
コーラ60
サイダー60
ジュース50
今回のとらやのお品書き
氷あづき 50
氷いちご40
氷レモン40
氷メロン40
氷ミルク50
コーラ60
サイダー60
ジュース50
冷蔵庫は雪印
★第7作「奮闘編」
焼きだんごは60円
第7作で焼きだんごは上記のように60円に値上がりしたが、
第9作で、なぜかまた50円になった。
今回も第6作に続いて森永の冷蔵庫。(森永マミー)
団子一折500円(違う柱には300円)
ジュース50円
コーラ60円
サイダー50円
焼き団子60円
★第6作「純情篇」
ジュース…50円
サイダー…50円
コーラ…60円
団子一折…300円
(団子はシリーズの後半の方は1000円になっていく。)
冷蔵庫は、今回は『森永』森永マミーの文字も見える。
全48作中雪印が一番多いが、森永やペプシもがんばっている。
★第3作
社長「おばちゃん、客が来るんだ。団子十箱ばかり作っといてくれよ、200円の」
一折小が200円、大が300円。
★第2作ではあんみつ70円。(第13作では第15作と同じ150円)
「値段」がはっきりスクリーンで読み取れる。
レモン、イチゴ.メロンかき氷50円.あんみつ70円.クリームソーダ70円.
ソーダー水50.アイスクリーム30円
サイダー50円.クリームあんみつ80円.
冷蔵庫は「森永」
サイダーやソーダー水などが50円と、当時の普通の値段なのに比べて、
かき氷やあんみつが安め
特にクリームあんみつは80円と凄いお得!これじゃあんまり儲けがないぞ。
当時1969年といえども、もしサイダーが50円だとするならば、甘いものの王者
クリームあんみつは下町の安い店でも120円くらいはしたと思う。
(わたしは当時まだ小学校低学年なので想像)
ちなみに上でも書いたように第13作「恋やつれ」ではあんみつは150円になっていた。
以上簡単なまとめでした。
さて…物語に戻りましょう。
題経寺の鐘 ゴーン
とらや 茶の間 夜
茶の間のテーブルには奄美の焼酎
黒砂糖から作った「里の曙」が置いてある。
黒砂糖から作っても糖分ゼロ!
一同「アハハハハ」
リリー「もう久しぶりでしょう?
わたし胸が一杯になって寅さん!って抱きついたら、
あんた、なんて言ったか覚えてる?」
寅「ああ、朝っから飯食ってなかったんでなあ、
お前の顔見たら、ドォーッと腹減っちゃってさ」
博「ハハハ」
寅「『リリーなんでもいいから食わしてくれ』ってオレこう言っちゃったよ」
リリー「十年ぶりに会った最初のセリフがこうよ」
ハイビスカスの花から数えると、
もう15年の歳月が過ぎているんだよリリー。
一同「アハハ」
さくら「恥ずかしい」
博「アハハハ、それが七月の初めでしょう?
それからズルズルと三ヶ月も居候してたんですか兄さん」
寅「いや、オレはその日のうちにでも帰ろうと思ったよ。
何しろリリーは一人身だからな。
もし変な噂が立っちゃいけないとオレは思ってだけど
リリーお前なんかいったんだよな?」
リリー「今夜は海が荒れるからおよしなさい、
もし万一の事があったらさくらさん達が悲しむわよ」
寅「うん 一夜があける、明日になる。
村の代表って言うのがやってきてね、
『今夜はあんたの歓迎会がやりたい』
これが賑やかな宴会だ。
口の中がカーッと熱くなるような焼酎をさしつさされつしてるうちに
意識不明だよ
一夜があける、明日になる、
今度はこっちがお返ししなくちゃならない
そんな事してるうちにどんどんどんどん年月がたっちゃうとこう言うわけだ」
リリー「ウフフフフ」
博「兄さん、ちゃんとリリーさんに生活費とか払ってたんですか?」
リリー「島暮らしはね、ほとんどお金なんかかかんないの」
社長「へえ〜」
リリー「朝は浜に行って漁師さんから魚もらって
それを焼いて朝ごはんでしょ?」
寅「昼飯はその辺にあるもん食やいいんだから。
こうやってフッフッモグモグ…んまい」
博「嘘だア」
さくら「なあにその辺の物って」
寅「庭に出りゃあさ、マンゴやバナナが一杯生ってんだよ」
さくら「へえ」
寅「うん、もっともバナナつったって、こんなにちっちゃいんだけどね、
これがなかなか美味いんだよな」島バナナっていうんだよね。コクがあるんだ。
リリー「晩ごはんはね、近所の人が持って来てくれるの釣った魚とか、
素潜りで獲れたアワビ、サザエ」
寅「その魚オレがさばいてな、刺身にする。
土地の濃いしょうゆにわさびをピリッときかせて、その刺身を食いながら
リリーと指し迎えで焼酎を飲む 静か〜な波の音だ。
その合間合間に浜辺で歌う島人の唄が聞こえてくる。
なかなかいいもんだぞさくら」
さくら「どんな唄なの」
寅「島唄なんだ 文句がいいな」
博「どう言う歌詞なんですか?」
寅「カナ(加那)ちゃんという美しい娘がおりました」
社長「そんな綺麗かい?あの娘気立てはいいけどさ〜、
顔はひどいよ、おやじに似て」社長…頼むよ…(TT)
おいちゃん「お前誰の話してんだ」
社長「そば屋のカナちゃんの話じゃないの?」
おいちゃん「違うよ、大島の話だよ」
社長「ああ、アンコ椿の大島か」完全にボケが始まっているねこりゃ…┐( ̄∇ ̄;)┌
博「伊豆の大島でしょう?今話してるのは奄美大島」
おばちゃん「昼間ちゃんと話したじゃないか」
社長「ああ、すまんすまん」
寅「口はさむなよタコは!
あれ?何の話してたか忘れちゃったよオレ」
一同「フフフ」
さくら「ほら、カナちゃんとか言う、美しい娘がいたんでしょう?」
寅「そうそうそうそうそう、
その娘があまりにも美しいので、周りの娘が嫉妬しちゃうんだな」
おばちゃん「分かるよ〜、小学校の時にいたの。小間物屋の娘でね、」
ああ…タコ社長と同じレベルのボケを今日もかますおばちゃんでした(T∇T)
さくら「うん」うん、って、さくらおばちゃんを止めないと…ヾ(^^;)
おばちゃん「そりゃあ綺麗な子でねえ〜」
おいうちゃん「お前の話はいいから、寅の話聞け」おいちゃんだけが頼りです(TT)
おばちゃん「うん」
さくら「それで?」
寅「ウン、ある日島の娘達は昆布取りに行かないかと
カナちゃんを誘ったんだ」
さくら「うん」
寅「カナちゃんというのは気立てがいいからな、喜んでついて行った。
娘達はカナちゃんの事を高ーい崖の上へ連れて行ったんだ。
さあそれからどうしたと思う?
後ろから背中をドーン…深ァーい海の底へ沈めてしまったんだ」
おばちゃん「まあ、ひどい」
さくら「伝説よ」(^^;)
伝説だとしても随分酷い話だ(−−)
寅「あ〜、哀れなカナよ。お前はなんと言う可哀そうな娘なのだ。
美しく生まれたのはお前の罪ではないのに、
花の命を失うなんて むごいむごい。
っと、まあ、つまりこういう唄なんだな」
博「そうか、歌に出てくる、カナも年頃と言うのは
その可哀相なカナちゃんの事なんですねえ」
寅「そうそう」
っていうか、博、
『加那』っていうのは奄美の方言で『恋人』『愛しい人』という普通名詞。
あの歌にしてもある特定伝説の女性を指しているというよりも
主人公の若い恋人という感じ。
さくら「ねえ、どんな歌だっけ?」
博「うん?あああ、ほら」
寅「うん」
博「(♪?)加那も年頃ォ〜かあ?」
さくらも口ずさむ。
さくら「♪年頃〜…」
博の歌は相変わらずキーがめちゃくちゃなので
『♪』マークつけれません(TT)
リリーも歌に加わる。
リリー「♪加那も年頃〜、大島育ち〜」
寅「上手い!」
社長「リリーさん!」
みんなで拍手。
照れるリリー。
さくら「いい所みたいねえ、聞けば聞くほど」
リリー「さくらさん、遊びに来て」
さくら「行きたいわア〜」
リリー「さくらさんが来たらね、
ぜひ見せたいものがあるの。
鯨の群れ」
さくら「え〜、鯨?」
リリー「そう、8月になるとね、真っ青な海の遠くに鯨が通るのよ」
さくら「へえ〜」
リリー「長い長い旅をして来たんだろうなあ〜。
親子づれの鯨が泳ぎながらプーッと潮をふくの。
子供の潮は小さい潮、
親のほうはう〜んと高い潮。」
博「雄大だなあ〜」
リリー「そんな景色を見てるうちに、いつの間にか昔の事を思い出したりしてねえ」
さくら「例えばどんな事?」
リリー「フフフ ロクな事じゃないのよ。
借金で苦しんだ事とか、
ドサまわりのキャバレーでさんざんいじめられた事とか、
二度も三度も結婚して別れた事とか。
あ〜あ、私は馬鹿だったなあなんて、
ねえ?寅さん?分かるでしょう?」
『人生の半分はトラブルで、 あとの半分はそれを乗り越えるためにある』
これは名作「八月の鯨」での姉リビーの言葉。
毎年の夏を過ごすためだけに建てられた小さな島の岬のサマーハウスで、
八月になるとやってくる鯨を見に行くのを楽しみにしている老姉妹の物語。
舞台となっているのアメリカのニューイングランド、メイン州の小さな島。
ニューイングランドは四季が豊かな土地。八月には海流に乗って鯨が通る。
山田監督はこの「八月の鯨」を意識しているのではないだろうか…。
リリーって結婚2回じゃないのか?3回なの?
「忘れな草」のお寿司屋さん、遺産を残してくれた「おじいさん」、
…たぶん一番最初、寅とまだ知り合う前に、
結婚もどきのような同棲を誰かとしていたもかもしれない…。
寅「うん、俺も一緒だよ2日も3日も雨に降り込められて、
懐はカラッケツ。かび臭い畳にねっころがって
天井なんかぼんやり眺めてると、いろんな事思い出すなあ〜」
リリー「どんな事?」
寅「宿銭溜めちゃってさ、夜逃げしたり、
警察に捕まってアブラ絞られたり、
二度も三度も結婚して別れたり、…」
リリー「!!!!」
リリー、驚いて寅を叩くふり。
リリー「フフフ!アハハ!一度も結婚なんかした事無いくせに!」
寅「そうだったっけか」
一同「アハハハハ」
リリー「ねえ〜」
リリー「毎晩こんな事言って私のこと笑わせんのよ フフフフ」
柱時計が時刻を打つ。
おばちゃん「アハハハ…あら?笑ってる内にこんな時間になっちゃった」
さくら「リリーさん、疲れたでしょ?そろそろ休んだら?」
おばちゃん「そうね」
寅「そうしな お前は細いからな、
自分じゃ元気なつもりでも疲れるんだよ おばちゃんとかと違って」
一同「アハハハハ」
寅「早いところ寝ろ」
リリー「じゃ、そうさせてもらうわ みなさんお先に」
おいちゃん「はい」
博「おやすみなさい」
社長「おやすみなさい」
リリー「おやすみなさい」
さくら「お二階に布団敷いてあるから」
リリー「どうもありがとう」
リリー階段のところまで来て…、
リリー「寅さんどこで寝るの?」
寅「エエェ…エ? オレどこォ?」
さくら「あ、ああ、お兄ちゃんこっちよ」さくらまでどもらなくたって…(^^;)
寅「…お兄ちゃんこちだって」
と荷物部屋を指差す寅。
リリー「あらあ、私一人?
一緒で良かったのにねえ」
出たア〜!リリーのキツ〜イギャグ(^^;)
寅「そうだよなあ フフフフフヒヒヒヒ」
リリー「おやすみ」
寅「おやすみ」
さくら「おやすみなさい」
リリー「♪加那も年頃大島紬〜」と歌いながら上がって行く。
寅「ダメだなあ、あの女も素人相手に
そんなドギツイ冗談言っちゃいけないよね?フフフ
さくら冗談だからな誤解すんなよ誤解すんな」
博「兄さん」
寅「え?」
博「この辺で真面目に話し合いませんか?」
寅「なんだよ、おっかない顔して」
さくら「お兄ちゃん、ハッキリ言ってちょうだい。
お兄ちゃんとリリーさんは…」
寅「何だよ、オレとリリーがどうしたってんだよ」
博「つまり〜…」
満男が帰ってくる。
満男「ただいま」
寅「おっ!満男、帰ってきたか。うん。泉ちゃん送ってきたのか?」
満男「うん」
社長「よっ お帰り」
寅「よお」
おばちゃん「帰ってきた」
満男「どうも皆さんご心配おかけしました」
さくら「そうよ」
満男「これ、お土産」
寅「まあ、上がれ上がれ上がれ うんうん」
おいちゃん「帰り〜」
おばちゃん「お帰り」
寅「どうだ?乗り物混んでたか〜?」
おばちゃん「お腹減っただろ?
なんか美味しいもんこしらえてあげるからね」甘甘(^^;)
おいちゃん「日焼けして元気そうじゃないか」
寅「おー」
おばちゃん「今お茶入れてあげるからね」
おいちゃん「お茶より酒酒」超甘甘(^^;)
博「ああ、いいんですよいいんですよ
甘やかす事無いんですよ」
さくら、満男が帰ってきて、やっぱり嬉しそう…。
寅「いいんだよ いいんだよ、
お前だってこの年頃の時は大変だったじゃねえかよ」
二階の部屋でくつろいでいるリリー。
下から
社長の声「そうそうそう 満男君ね、
ひどい時は俺の部屋へ来てね、ションベンたれた」うそぉ〜(@@;)
一同の声「アハハハハ」
博の声「そんな事はしませんよ」
社長の声「あったあったハハハハハハ」
リリーは布団にもたれかかり、
今も変わることのない懐かしいとらやの香りに浸り、
この家での数々の楽しい思い出を回想していたに違いない…。
第11作「忘れな草」でも、第15作「相合い傘」でもリリーは
とらやの布団で心地良く寝ていた。
とらやの二階で寝るとやっぱりぐっすり身も心も安まるのだ。
第11作「忘れな草」で布団の糊の匂いが嬉しいリリー 第15作「相合い傘」で寅の心根に喜ぶリリー
東京都八王子市
タクシー 57-13
老人介護施設 青陽園
母親に面会に来たリリー。
リリーの母親「あんた今どこにいるの?」
リリー「おかあちゃん、何度言ったら分かるの?
奄美大島。きれいな海のそば」
母「母親ほったらかしにしてそんな遠いところいっちゃって」
リリー「よく言うよほったらかされたのは娘の私のほうだよ。
好きな男と遊び歩いてロクに家にも帰ってこないで、
私はねえ、中学の時から
お母ちゃんの世話になんかなってないの」
母、ズズッウウと鼻水。
リリー「一年に一度ここへ来てあたしをイジメんだお前は〜ウウ…」
テッシュで母親の鼻をかんでやるリリー。
リリー「おかあちゃん島に来る〜?一緒に暮らしてもいいんだよ?」
空気は綺麗だし、魚は美味しいし、長生きできるよ」
母「嫌だよ。あたしゃ熱いところ嫌いだよ」
リリーは優しいねえ、自分を捨てた母親なんだけれども、
時々はこうやって会いに来てやるんだね。
ひょっとしてこの青陽園の費用もリリーが出しているのかも。
そして、奄美で一緒に暮らそうって言っている。
なかなかできることではないよ。
母親のほうもリリーに遠慮してか、
暑いとこ嫌いなんて見栄をはっている。
第11作では泥沼の関係だったのだがあれから
長い歳月が経ち、リリーが歩み寄ったんだね。
名古屋
泉ちゃんの働いてる大型量販店
泉「あ、私、フフフ ごめんね仕事中今度の土曜日休みが
取れたのだから一日フリーよ。
どうしよう?東京へ行こうか?」
光陽商事
満男「そうだなあ〜。
たまにはこういう事しないか?あの東京と
名古屋の中間地点で会うの例えば浜松とか静岡とかさ」
満男の会社の例の事務おばちゃん、微笑ましく視線を向ける。
二人とも、津山での結婚式ぶち壊し騒動など忘れてしまって
今やもうすっかり結婚直前のアマアマ状態(^^;)
泉「あ、面白いじゃないそれ じゃあ、
静岡にしようかあたし行ったことないし
どこで?何時?」
満男「時間しらべて今夜泉ちゃんの家に電話するよ、
それでいいだろう? うん、じゃあね」
もう満男は極楽浄土に住んでいます(^^)
満男、上司に
満男「銀座のトキワ堂まで行って来ます。
今朝から何度もせかされてるんですよ」
諏訪家 食堂
博が食事の後片付けをしている。
さすが博、家事分担を心得ているね。
さくら「いいわよ、後で洗うから」
博「ああ」
満男が帰ってくる。
博「帰ってきた」
満男「ただ今〜」
さくら「遅かったのね」
満男「うん」
満男「店の前通ったら伯父さんにつかまって付き合わされちゃったよ」
さくら「リリーさんいた?」
満男「いない。今夜は友達の家に泊まるんだって。
そのせいかな、伯父さん機嫌悪いの
散々からまれちゃったよ あ〜あ」
さくら「ねえ、満男」
満男「なあに?」
さくら「本当のところ、
お兄ちゃんとリリーさんの関係はどう言う事なの?
あんた、一緒に暮らしてたんだから分かるでしょう?」
満男「難しい問題ですね。僕はコメントを差し控えます。
何しろ恩人ですから おやすみ」
いつまでも関係関係って、そんなに二人の関係の「形」が気になるのかね。
リリーと寅は相思相愛、お互い一つ屋根の下で暮らしている。
このことでもう十分なのではないのか、さくら。彼らは二十歳の若者じゃないんだよ。
形のディテールにこだわるなよ。彼らは心から愛し合っているんだよ。
リリーは寂しそうだけど、寅は、ギリギリでは体の契りを結べる人生じゃないんだ。
たとえそういうものはなくても成立する深い愛情関係というのがこの世界には
あるんだってことをいい加減納得してやってほしい。
次の日 帝釈天参道
さくら、シリアスな顔で自転車をこいでいる。
さくら「ごめんなさ〜い」
とらや 店
さくらがやって来て、
さくら「あ、お兄ちゃんは?」
かよちゃん「お二階のお部屋です」かよちゃん、今回はバカに言葉使いが丁寧だね(^^)
リリー「ごめんなさい 黙って出かければいいのに、
わざわざ呼び出すような事になって」
さくら、ちょっと焦っている。
この機を逃したら、
また兄とリリーは、離れ離れになってしまうことを、
わかっているのだろう。
さくら「そんなことないわよ。
ねえ、いったい何があったの?お兄ちゃんと」
リリー「喧嘩」
さくら「どうして?」
リリー「大したことないのよ。私、夕べ友達んところに
泊まりに行ったのね。
男か女かってひどくこだわるの寅さんたら。
もちろん女に決まってるけどさ、
まるで浮気でもしたみたいな言い方するから
私腹が立っちゃって、
『私がどこに泊まろうがあんたなんかに関係ないわよ』
そう言ったのよ。
だって ねえ? 夫婦でもないんだし…」
リリー、ちょっと淋しそう…。
さくら「うん、そう。そ、そのとうりよ。
お兄ちゃんが悪いに決まってるわよ」
リリー「機嫌直したところで、
リリーからよろしくってそう言っといて」
リリー「じゃあ、さくらさん、私これで」
さくら「お願い ね、もうちょっとだけ」
と、リリーを押しとどめるさくら。
さくら「ねえ、三平ちゃん、お団子か何か差し上げて」
三平ちゃん「はい」
急いで二階に上がって行くさくら。
二階 荷物部屋
さくら「お兄ちゃん リリーさんは帰るのよ」
寅「知ってるよ」
さくら「こんな所で何してるの、
お兄ちゃんも一緒に行くんじゃないの?」
寅「なんでオレがリリーと一緒に行かなきゃならねえんだよ」
さくら「もお、分からない人ねえ、
リリーさんは本当はお兄ちゃんと
一緒に帰ってほしいんじゃないの」
寅「お前達なにか誤解してんじゃないのか、
オレとリリーはそう言う間柄じゃねえんだよ」
さくら「そう…、は…、誤解なの…。
は…。
今だから言うけどお兄ちゃんと
リリーさんが一緒になってくれるのは
私の夢だったのよ。
お兄ちゃんみたいに
自分勝手でわがままな風来坊に、
もし一緒になってくれる人がいるとすれば、
お兄ちゃんのダメな所よ〜く分かってくれて、
しかも大事にしてくれるとすれば、
それはリリーさんなの、
リリーさんしかいないのよ、そうでしょうお兄ちゃん」
寅「オレがリリーとどうなろうと大きなお世話じゃねえかさ。
お前は満男の心配でもしてろよ」
さくら「分かった」
さくら「じゃ何も言わない」
一階に下りようとするさくら、最後にもう一度
立ち止まって…。
さくら「奄美大島から満男が電話をよこして
お兄ちゃんとリリーさんが一緒に暮らしてるって聞いた時…、
ほんとは私、どんなに
嬉しかったか分からないのよ」
涙が溢れてしまい、階段を駆け下りていくさくら。
さくらが下りて行ったあと、後ろを振り向く寅…。
結果的には…、このカットが、
渥美清さんの人生最後の撮影となった。
NHKの『渥美清の伝言』で放映された、全ての撮影終了後、
渥美さんは、しばらくは、遠くを見つめられており、
その後、自分のかばんにそっと手を置かれたのだった…。
撮影終了直後の渥美さん。かばんにそっと手を置かれた…。
さくら階段を下りてくる。
リリー「どうかしたの?さくらさん」
さくら「うん、あんまり分からない事言うからね、叱ってやったの」
と、言いつつも、涙ぐんでいる。
リリー「ごめんね、私のためにあなた達が兄妹げんかするなんて」
さくら「ううん、いいのよ」
タクシー運転手「くるまやさん」
かよちゃん「はい」
運転手「OK無線だけどよ、いつまで待たせんだよ」
さくら「タクシー呼んでたの?
ごめんなさいすぐ行くから。
じゃあ、リリーさん」
リリーは、さくらの肩に手をやり、名残を惜しむのだった。
三平ちゃんが団子をさくらに渡す。
さくら「あ、これ、お土産」
リリー「ありがとう…。お世話になりました」
とみんなに挨拶。
かよちゃん「気をつけて」
寅、二階から突然下りて来て、
寅「おう、リリー、送っていくよ」
びっくりして、振り向くリリー。
リリー「あらあ…、どういう風の吹き回しだろうね」
寅「どうして素直にありがとうって礼が言えないんだろうな。
可愛げのない女だな」
リリー「悪かったわね。可愛げがなくて」とむくれるリリー。
さくら笑いながら、リリーの背中を押して、
さくら「さあ、早く行きなさい」と満面の笑顔で後押し。
寅、店先まで出て
寅「リリー、行くのか行かねえのか」
と首を振って催促し、向こうに歩き始める。
リリー「ありがとう、さくらさん。
おいちゃんおばちゃんによろしくね」
と手を振って寅を追いかけるリリー。
リリーに向かって手を振る嬉しそうなさくら。
さくら、はっと気づいて
さくら「は、そうだ、三平ちゃん二階に行って
お兄ちゃんのかばん持って来て。早くね!」
三平ちゃん「はい!」
と、言ってあわてて二階へ駆け上がって行く。
やっぱり、さくらの粘りは凄い!
さくらの渾身の説得と涙が
寅とリリーの縁をまたもや深めていったのだ。
リリーと寅、参道に止めてあるタクシーのところまで歩いて来る。
リリー「運転手さん、お待ちどうさま」
イースタン 4028 EK無線 車椅子マークがあるドア。 650円
ドアが開いて、後部座席に荷物を置くリリー。
リリー、寅を見つめる。
寅は、黙って立っている。
リリー「それじゃ、さよなら寅さん…」
寅「……」
リリー「元気でね」
ドアが閉まり、エンジンがかかる。
沈んでいるリリー。
その時である。
反対側の後部座席ドアが開き、
なんと寅が乗り込んで来るではないか。
寅は、リリーの隣に座って腕を組む。
リリー、驚きながらも
りりー「あらあ?寅さんも乗るの?」
寅、正面を向いたまま
寅「か弱い女を一人淋しく、
旅立たせるわけにもいかないだろ」
リリー目が輝いて
リリー「あらあ!嬉しい!」と拍手する。
リリー「運転手さんお願いします!」
運転手「どこまで?」
りりー「JR金町駅」近い(^^;)
運転手、げんなりした声で
運転手「散々待たせて1メーターかよ、
ハイハイ、行きますよォ」運転手さん一言多いよ(^^;)
三平ちゃん、かばんを持って走って追いかけてくるが、
タクシーは気づかずに行ってしまう。
でも心配ご無用!
ここから三平ちゃんは、
弾よりも速い『エイトマン』に早代わり!
走っているタクシーの中で、
リリーは、静かに寅に尋ねる。
リリー「ねえ、寅さん、
どこまで送っていただけるんですか?」
寅「男が女を送るって場合にはな、
その女の玄関まで送るってことよ」
「紅の花」でのリリーのテーマが流れる。
りりーは、信じられない寅の告白にも似た言葉に
心が打ち震えるのだった。
リリー「……!!」
リリー「ほんと?
あたしのウチまで来てくれるの?」
リリー「……」
寅、前を向いたまま座っている。
リリー「運転手さん、」
金町じゃなくて、
私のウチまで行って
そう言って、寅の肩に静かに顔を埋めるリリーだった。
幸せそうなリリー。
寅は反応せず、ひたすら前を向いている。
これが、
生まれて初めて、愛する人に
告白をした男の表情だ。
運転手「私の家じゃ分かんないよ」だよな(^^;)
リリー「私のウチはね
加計呂麻島…」
至福だね…リリー。
初恋の人との恋の成就なんだよね…。
運転手「カケロマ?聞いた事ねえな江戸川区かい?」
やっぱわからんよねえ(^^;)
リリー「違うの、奄美大島
鹿児島県のう〜んと南。 フフ…」
タクシー止まる。
運転手怒って
運転手「降りてくれよこっちは真面目に働いてんだよ。
そっちの冗談に付き合ってられないよ」だよねえ(^^;)
リリー「ごめんね、じゃあ羽田空港まで行って、
だったら文句ないでしょ?」
本当は、あのまま「あ、奄美大島ねいいですよ〜」、なんて言って、
加計呂麻島でOKだしたら、ずいぶん運転手さん儲かるだろうになあ…(^^;)
寅「チップはずむからよ」
運転手「羽田ならいいよ」
おっと犬塚さんがシートベルト締めている時に、
フロントガラスに大きなマイクが見えちゃっている(^^;)
犬塚さんの向かって左の腕あたりの
フロントガラスにスタッフのマイクが!
↓
その隙に先ほど『エイトマン』に早代わりした三平ちゃん、
時速40キロ以上で走っていたタクシーにかばん持ちながら
サンダルはいて追いついて来た。凄い!完全にオリンピックで
マラソン金メダル間違いなし(^^)/
三平ちゃん車のトランクに近づいて、
三平ちゃん「ちょっと待って 開けてください」
かばんを入れて、後部座席の窓に向かって
三平ちゃん「行ってらっしゃい」
リリー「ありがとう」
三平ちゃん「お幸せに〜」
と動き出すタクシーの窓に向かって手を振る三平ちゃんだった。
さすがに時速40キロ以上で何百メートルも走ってきただけあって
三平ちゃんは二人を見送った後しゃがんでしまうのでした(^^;)
リリー、ほんとうによかったね…。
寅のこの発言、
「男が女を送るって場合にはな、
その女の玄関まで送るってことよ」
は、間違いなく一世一代の寅の告白である。
それも夢心地や勢いで言ってしまった発言ではない。
言った後も、瞬き一つせず、寅は前を直視している。
彼は決意している。彼女と人生を共にすることを。
このあとまだまだ紆余曲折はあるだろうが、
寅はある決意と覚悟をこの場面でしたのである。
寅の、あの一言を私は15年間待っていたのだ。
あの一言を聞きたいがために、私は永くこの映画を
見続けてきたのだろう。
そして遂に、山田監督は、観る人が待ち望んでいた
寅の素面の告白を用意してくれた。
あの言葉は私にとって歴史的発言だったのだ。
もうあの場面があれば何も要らない。
私の待ち続けた15年間はこうして報われ、
私の静かで辛い持久戦も終わりを告げたのだった。
この長い長いシリーズで、私が人目も気にせず
泣き続けてしまったのは、
第15作「寅次郎相合い傘」でのリリーを切なく想う
寅のアリアの場面と、この第48作「寅次郎紅の花」での、
寅とリリーが最後に交わすこの会話の場面であった。
私の人生は何かを確実に約束されたのである。
正月
江戸川土手
凧が風を受けて高く揚がっている。
諏訪家
博がリリーからの年賀状のお返しを書いている。
さくらは、焼いたお持ちに海苔を巻いている。
電話 プルルルルルル…プルルルルルル…
さくら「はい諏訪です。あら、泉ちゃんおめでとうございます。」
泉ちゃんの声「今年もよろしくお願いします」
さくら「こちらこそ。今年はきっとお世話になるわ〜」
さくらのこの言葉から考えると、今年の秋ごろ二人は結婚かな。
さくら「今どこにいるの?」
泉ちゃんの声「熱田神宮です」
名古屋市熱田区神宮にある神社。
三種の神器の一つである草薙剣(くさなぎのつるぎ。天叢雲剣)をご神体としている由緒正しい神社。
JR東海道本線「熱田駅」から徒歩8分
さくら「大変な人出でしょう。聞こえるわよにぎやかな声が」
さくら「満男もいるんでしょ?」
泉ちゃんの声「はい、います変わりましょうか?」
満男「いいんだよ、用事なんかねえよ」だよね〜(^^)。
泉ちゃんの声「聞こえましたか〜?」
さくら「聞こえたわよ」
泉ちゃんの声「それじゃ、おばさん、失礼します」
さくら「あ、あなたのお母さんにもよろしくね、
近いうちにお伺いしますからってそう伝えといて」
うーむ、やはり結婚式は近いと見た。
泉ちゃんの声「はい分かりました。さようなら」
さくら「はい、さようなら」
電話を切って…、
さくら「満男たち熱田神宮に居るんだって」
博「ふ〜ん…。
あれ?リリーさんの本当の名前何て言うんだっけ」
さくら「あら?そう言えば聞いたこと無いわ」
さくら、松戸のリリーの寿司屋さんに行った時、
ご亭主が「清子」って言ってたろ。聞いていたくせに。
まあ、苗字は知らないかなあ…。
寅は苗字はちゃんと知っている。
第25作「ハイビスカスの花」で那覇の病院に着いた寅はすぐさま
看護婦さんに「松岡リリー」はいますか?と聞いていたからね。
博「この手紙にもただリリーとしか書いてないんだよ」
さくら「じゃあ、リリーだけで良いんじゃない?きっと有名なのよ島じゃ」
博「そうするか リリー様…っと」
さくら「うん」
博「は〜書いた。
今日はもう客も来ないし何にもする事は無いな
さくら、モチ食ったら映画、見に行くか」
さくら「あ、いいわね、そうしよ」
博「ん」
博「えっと、浅草で何やってんのかな」と、新聞を見る。
一応、下の3つが候補。
スタートレック ジェネレーションズ 1995年12月23日公開
007 ゴールデンアイ 1995年12月16日公開
『男はつらいよ 寅次郎紅の花』 1995年12月23日公開 あ、これは無理か…(^^;)
リリーからの手紙を改めて読むさくら。
リリーの手紙(リリーの声)
あけましておめでとうございます。
みなさんどんなお正月をお過ごしですか。
さて寅さんのことですが、
一週間前、例によってお酒の上でちょっとした口げんか
をした翌朝、置手紙をしていなくなってしまいました。
実際の手紙は下記の部分がナレーションと違う。
『さくらさん、博さんそして満男君明けましておめでとうございます』
『…を残していなくなって』
『あの厄介な男が居なくなって』
さくらと博、映画を観るために玄関から出てくる。
さくら「おめでとう」
近所の子供「おめでとうございます」
少年たちバトミントンしている。
子供「下手やな〜 お前」
リリーの手紙の続き(リリーの声)
あの厄介なひとがいなくなって、
ほっとしたりもしましたが、
こうして独りで手紙を書いていると、
ちょっぴり淋しくもあります。
初春の陽の光を受けてさくらと博が歩いていく。
寅ももう若くはない。これからは奄美に定着したリリーとの縁が
一層深くなっていくであろう。
ひょっとして旅に疲れたら柴又でなく、
時には奄美に戻って行くのかもしれない。
これからは長い長いさくらと博の
たった二人だけの黄昏が始まるのだろう。
そしてこれを見ている私はもうあの二人には会えないのだ。
私は毎作品フーテンの寅に会うためにこのシリーズを見てきたが、
ひょっとして、実はその背後で寡黙に生きるさくらと博に憧れ、
見続けていたのかもしれない。
もう見ることのない最後の彼らの背中が
午後の日差しの中で遠く小さくなっていく。
私は遂に感無量になり、こみ上げてくるものを
抑えることができなかった。
正月 奄美大島
加計呂麻島行きのディゴ丸の中
リリーの手紙の続き(リリーの声)
でもいつか、またひょっこり
帰ってきてくれるかもしれません。
もっとも、その日まで、
私がこの島に暮らし続けちゃってるか
わかりませんけどね」
船長「リリーさん どげんじゃ正月は〜」
リリー「面白くもおかしくも無いねえ一人ぼっちで」
船長「男がおったんじゃあらんかね東京から来た」
リリー「ふられたの」
船長「またそげん冗談言うてあんたがすってってんだろうが ハハハハハ」
照れ笑いをして、海を見るリリー。
リリー「ハハハ」
無線「でいご丸でいご丸ーでいご丸どうぞ」
船長「はいこちらでいご丸どうぞ」
無線「瀬相(せそう)港でお客さん待っています。すぐ行ってくださいどうぞ」ピッ
船長「はい了解すぐいけっど〜」
遠く海の彼方を眺めながら
寅のことを想い、ふと淋しさがよぎるりりー。
しかし、寅は必ず帰ってくる。
今度こそ、そう確信できるリリーだった。
リリーの手紙(リリーの声)
もしかして、この次寅さんに会うのは、
北海道の流氷が浮かぶ港町かもしれません。
寅さんにお会いになったら、
どうかよろしくお伝えくださいね。
奄美の浜辺にて リリー
やはり寅は奄美大島でも正月を待たずに、年末に旅立っていった。
しかし、それでこそ自由人寅とも言える。
リリーは手紙に『訪ねてくれるかも』と書かずに、『帰ってきてくれるかも』と書いていた。
ここにリリーの確信がはっきりうかがえる。
寅はもう自分のもとからは離れないだろう。
また必ず『帰ってくる』
リリーは寅をいつまでも待っているのだ。
それは、さくらが兄を待つ気持ちとは違う。
リリーは共に歩むものとして寅を待つのだ。
あのデイゴ丸から遠く寅を想うリリーの目の力は強く、確信に満ちていた。
寅はリリーにとって初恋の人。
彼女が一目惚れして、それからずっと想い続けている男だ。
リリーは想う。寅さんは、男くさくて、粋で、不良っぽくて、色気があって、照れ屋で、
優しくて、可愛くて、そしてめちゃめちゃに可笑しくて…、そして最愛の人。
リリーのそんな想いは必ず寅に通じる日が来る。
寅とリリーは不思議な赤い糸で結ばれているのだから。
そして…、寅は、いつか…ある晴れた日、奄美に帰ってくる。
彼女は長旅で疲れた寅の顔を見て微笑んでこう言うのだ。
「 おかえり 寅さん 」
【epilogue】
1995 South Hyogo Prefecture Earthquake…
1995年1月17日未明の
『阪神淡路大震災』から1年後
正月 神戸 長田区
瓦礫の中に黄色い菊の花が手向けられている。
神戸市長田区は、火災の被害が甚大で、
地震直後に発生した火災に伴う火災旋風が確認されている
ゴ〜ン、ドチャッチャ、ドチャチャ!ゴ〜ン・・・
菅原市場の前で『長田マダン』を踊る音が聞こえてくる。
本来「マダン」とは、在日コリアンが、自分たちが生きている日本で、
民族の文化や同胞(同じ国の人)に出会える楽しいおまつりを開こうということで
はじめたらしい。今では日本との文化交流の場としての役割も大きい。
本来「マダン」は、庭や広場という意味があり、みんなが集まって踊りや
歌や演劇、祭り、などを行うパフォーマンスの総称。いろんな地区でいろんなマダン
があると言う。
「おめでとうございます」とおばさん同士が挨拶をしている。
厳粛な気持ちで長田区の土を踏む寅。
たった11ヶ月半前、自分自身もこの地で震災に遭ったのだ…。
ゆっくり被災地を歩いていく寅。
『菅原市場 復興祭り』の旗がたなびいている。
新春大売出し
おいしい神戸パン Ishikura bakery
実際に、菅原市場にある『くららべーかりー』から物語をもらっている。
くららべーかりーの石倉さん夫婦も、この時通行人エキストラで出演された。
その後も山田監督と交流を続けられている。
エキストラで出演された石倉さんご夫婦
↓
そして『くららべーかりー』は障害を持った仲間とともに働く
「共働作業所」でもある。
石倉さんは、現在もその活動を続けられている。
おかみさん「あ!寅さんちゃうん!?」
寅「よお!パン屋のおかみさん!」
おかみさん「あ〜やっぱり、ちょっとあんたほら、ほら」
石倉「おお」
寅「おやっさん どうもどうもどうも」
おかみさん「やあ〜懐かしいなあ〜来てくれたん」
寅「懐かしいね〜」
寅「新年明けましておめでとうございます」
石倉「どうもおめでとうございます」
おかみさん「あ、おめでとうございます」
寅「ねえ」
寅「お〜綺麗な店が出来たじゃないか」
おかみさん「ありがとうございます」
寅「う〜ん、よかったよかった」
おかみさん「どうやらここまでな」
石倉「うん」
おかみさん、近くの肉屋のご主人を呼びに行く。
おかみさん「あ、会長さん、会長さん!チョット!会長、会長ォ!!ほら、この人」
町内会長の肉屋のご主人って…、
おっと、大阪新世界の『新世界ホテル』の若旦那!じゃないか(^^)
まじめに働く気になったんかい。お母ちゃん元気か?
会長「わァ、あんたか!
やあ、よう来てくれたなあ、わしらの事忘れんと」
手を拭いて来る肉屋さん。
寅「しばらくしばらく いや、どうも、元気で何よりだよ うん」
会長「いやあ、その節はどうも」
パンチ佐藤さんも自転車でやって来て、
パンチさん「寅さん、久しぶりですね〜」
寅「ハハハ、は〜苦労したんだな〜、ええ。
いや、本当にみなさんご苦労様でした。ねえ」
おかみさん「みんな待ってるわ、寅さん」
寅「ん」
おかみさん「顔出したって」
石倉「いこういこう」
「長田マダン」での民族舞踊が踊り続けられている中
その輪の中に入っていく寅たち。
『神戸からありがとう 今年もがんばります』の大きな看板
メインテーマが大きく高鳴っていく。
長田マダンの音楽
ドンドン、ドンドン、ドンドンチャン!
ドンドン、ドンドン、ドンドンチャン!・・・
臨時の菅原市場周辺のプレハブ住居群が映って…
もし今後、僕らが何か道に迷ったら、
常にこの震災直後のプレハブの風景に戻り、
『初心』を思い出せばいいのかもしれない。
この時、この土地、が出発点。
何かそういうことを思わせてくれる厳粛な風景だった。
渥美さんは、この地を『聖地』と呼んでいたそうだ。
終
出演
渥美清
(車寅次郎)
倍賞千恵子 (諏訪さくら)
浅丘ルリ子 (リリー)
下絛正巳 (車竜造)
三崎千恵子
(車つね)
前田吟 (諏訪博)
太宰久雄 (社長)
佐藤蛾次郎 (源ちゃん)
関敬六 (ポンシュウ)
神戸浩 (政夫)
千石規子 (リリーの母親)
宮川大助 (神戸のパン屋いしくら)
宮川花子 (パン屋の妻)
笹野高史 (新郎の叔父さん)
桜井センリ (駅舎の男)
犬塚弘 (タクシー運転手)
芦屋雁之助 (菅原市場の会長)
佐藤和弘(パンチ佐藤) (自転車の男)
夏木マリ (礼子)
吉岡秀隆 (諏訪満男)
後藤久美子 (泉)
笠智衆
(御前様)
スタッフ
監督 : 山田洋次
製作 : 中川滋弘
原作:山田洋次
プロデューサー:深澤宏
脚本 : 山田洋次 / 朝間義隆
企画 : 小林俊一
撮影 : 高羽哲夫 /長沼六男
音楽 : 山本直純 /山本純ノ介
美術 : 出川三男
編集 : 石井巌
録音 : 鈴木功
スチール :
金田正
助監督 スクリプター: 阿部勉
照明 : 野田正博
公開日 1995年(平成7年)12月23日
上映時間 107分
動員数 170万人
配収
12億円
これで2004年から始まったベスト24作品は
全てアップし、完結しました。3年半の長い歳月でした。
次回からは残りの24作品を制作年度順に、第3作、第4作、第19作、
第20作、第21作、第22作…とアップしていきます。
まずは、活きのいい人間寅次郎を描いた森崎東監督の力作、
第3作「フーテンの寅」の本編完全版をアップいたします。
このあとも多忙が続きますので第1回の更新は
8月16日頃になると思います。