バリ島.吉川孝昭のギャラリー内
第4作 ・男はつらいよ
1970年2月27日封切り
懐かしい柴又の風の中で華やぐ人々 正調『男はつらいよ』の世界
昨年2007年夏に久しぶりに田宮二郎主演の1978年にフジテレビで放送された『白い巨塔』(全31回)全作品をDVDで見た。
田宮さんの鬼気迫る本物の芝居に圧倒されると同時に演出に携わった人々の鋭敏な感覚にも脱帽してしまった。
あんなドラマは二度と制作出来ないだろうと今でもそう思う。完全にスタッフもキャストも仕事の域を超えたステージまで
到達してしまっている作品だ。襟を正して見ないといけないドラマ。そういう域にあるドラマなんてそうそうはない。
そのスタッフの一番中心におられ、この作品をリードし、コントロールし、プロデュースし、大活躍だったたのが、
この『新男はつらいよ』を監督された小林俊一さんなのである。
それにしても田宮二郎さんの集中力には呆然となった。迫真の演技を遥かに越えた彼の心の叫びだったようにも思える。
ちなみに田宮二郎さんといえば私はいつも加藤登紀子さんが歌っていたこの歌を思い出す。
白い花なら 百合の花 人は情けと 男だて
恋をするなら 命がけ 酒は大関 こころいき。
赤い花なら はまなすの 友と語らん ふるさとを
生まれたからには どんとやれ 酒は大関 こころいき
あのCMの中の田宮さんはまるで車寅次郎のように初心な心で女性に接していた。あんな役者さんはちょっといない。
さて、田宮さんの白い巨塔からさかのぼること10年前、同じくフジテレビであるドラマが大きな人気を博した。
それがテレビドラマの『男はつらいよ』である。(脚本は山田洋次さん)もちろん小林監督の世紀の代表作になった。
『僕たちの好きな白い巨塔』というディープなサイトのインタビューで、小林さんはこの二つのヒット作品について、
「白い巨塔」の財前五郎と「男はつらいよ」の車寅次郎は両方とも、自分の分身みたいな気がする。
2人はまったく両極端なんだけど、よく考えるとどっちも同じなのだ、と仰られていた。
『人間っていうのはみんな両極端なものを持っているのであって、悪人になったり善人になったり、やさしくなったりいじわるになったり、
まじめになったりいいかげんになったり、それを振り子の幅みたいにどんどん片方の端っこにふっていけば、車寅次郎になるし、
その逆にふっていけば、財前五郎になる。寅さんみたいに自由になりたいと思うこともあるし、でも、仕事をやるときは財前みたいに
一生懸命やりたいって思うこともある』そのように語られていた。
小林さんは、渥美さんとは「おもろい夫婦」でのプロデュースからはじまり、テレビドラマの「男はつらいよ」で渥美さんとの間に
満開の花を咲かせたが、今回、思い出深いあの『車寅次郎』をもう一度、今度は大きなスクリーンで演出する機会を得たのだ。
1970年当時、山田監督はといえば、他の映画制作で手が空かないのと同時に渥美さんとの演出面での摩擦などがあり、
前作の第3作に続き、今回も脚本の共同脚本執筆に留まるのみである。森崎東監督はすでに第3作制作の真っ最中で
体は2つはない。そこで次なる監督は上に記したようにテレビ版「男はつらいよ」に演出やプロデューサーとして
深く携わってこられた小林俊一監督になんとかお願いすることとなった。この第4作は松竹が無理して早く作らせたお陰で
なんと1ヵ月半で作らざるを得ないはめになったのである。
そのようなご自分の分身のようなテレビドラマの車寅次郎を、映画で急遽演出することとなったことはある意味たいへんなことだし、
やっかいな難仕事ではあれども、ある意味チャンスでもあったとも言える。
つまりここにきてテレビドラマで展開していたあの正調「男はつらいよ」を制作するチャンスにめぐり会ったともいえるのだ。
それがたとえ、制作費や製作日数に大きな制限があったとしても、やはりこれはチャンスと言えると思う。
それこそ、小林さんが上で仰ったように財前五郎のように一生懸命仕事をがんばれるまさにその時が来たのだ。
手を伸ばせば届く息づかい 懐かしい柴又の風と匂い
制約の関係でこの作品にはほとんどロケらしいロケが出てこない。しかしそのぶん柴又参道がたっぷり出てくる。
ロケが無いのはつまらないとおっしゃる人も多いとは思うが、私にとっては風吹く柴又参道がたくさん映し出されるこの作品は
とても嬉しく貴重なもので、古き良き庶民の町、柴又をしっとりと窺い知ることができる数少ない作品なのである。
また、登場する人々も佐山俊二さん扮する蓬莱屋、二見忠男さん扮する弁天屋この二人は絶品である。あんな味が出せる役者さんは
そうはいない。彼らの存在自体が柴又の風情なのである。そしてそれらを囲むように谷よしのさんたち柴又の御一統さんたちが
実にいい顔でスクリーンを駆けずり回っている。全48作中、こんなに柴又風情がしみじみ描かれた作品は無い。
第3作『フーテンの寅』と比べて演出が柔らかく自然体で落ち着いている。人々のセリフに力みが無いのはさすが小林さんである。
第3作には寅次郎のリアルな皮膚呼吸が聴こえてきたが、この第4作には柴又という町のリアルな息づかいが感じられるのである。
山田監督作品と比べてギクシャクした部分や未醗酵な部分は若干あれども、伸ばせば手が届く臨場感のある風と匂いがそこにはある。
これはなにものにも代えがたい魅力なのだ。
そういう意味ではこの映画シリーズのオリジナルである『テレビ版男はつらいよ』のあの独自の雰囲気を最も強く醸し出しているのが
この第4作とも言えよう。またエピソード的にも抱腹絶倒のハワイ旅行騒動やその後の泥棒騒動など、テレビ版の名場面のアレンジが
多く採用されている。この前半部分がメインと言ってもいいほどテンポのいい展開である。
ところでこの作品で、初めてマドンナがとらやに長く下宿することになる。マドンナがとらやに下宿すると物語りに幅ができるのである。
このパターンは後に第6作、第16作等々で使われていくこととなる。やはり、マドンナがとらやの家族になると物語は俄然面白くなるのだ。
それにしてもこの作品のマドンナ春子先生を演じた栗原小巻さんは当時24歳!若い若い。第7作の花子ちゃん(当時20歳)はもちろん
だんとつ一番若いが、春子先生はこのシリーズで2番目に若いマドンナなのだ。なんせ第26作のすみれちゃん(25歳)や第19作鞠子さん(25歳)より
春子先生は若いのだ!ああ、寅との絡みがもう少し濃ければ…、このへんがやはり恋の物語としてはもったいない。
森川信さんの懐
この第4作の中で森川信さんが劇中劇を寅に向かって演じるシーンがあるが、この『婦系図』の長い一人芝居は必見だ。
森川さんが只者じゃない事がよく分かる。森川おいちゃんの芝居の中でも特筆の名シーンだ。一緒にいる渥美さんの芝居が
小さく見えるほど圧巻だった。
第4作は全体に森川さんが実によく動いている。森川さんの回と言っても過言ではないだろう。後半のメインはマドンナでなく実はこの
『森川おいちゃんのアリア』である。
また、この作品では、第1作で寅と登が住んでいたあの『幻の部屋』も見ることが出来るのだ。
その二階に上がった右側の部屋に春子先生が下宿するのである。
この後この右側の部屋は完全に茶色の戸板で封鎖されて、階段を上がって左の部屋のみが
使われ、結局、最後の48作まで開くことはなかった。
それにしてもこの2階部屋の下を考えるとちょっと構造的に無理があることが分かるのだが、それはまた本編後半で。
■第4作「新男はつらいよ」全ロケ地解明
全国ロケ地:作品別に整理
それでは本編完全版をどうぞ
松竹富士山
この時のバックミュージックは、第3作で使われたもの。
この曲は第5作でも使われる。
早春の山梨県の道志村 (山梨県南都留郡道志村)
白い梅の花が咲いている。
郵便局の赤いスクーターが走ってくる。
寅のナレーションが流れる。
寅「梅の花が咲いております。
どっからともなく聞こえてくる谷川のせせらぎの音も
なにか春近きを思わせる今日この頃でございます。
旅から旅へのしがない渡世の私どもは、
粋がってオーバーも着ずに歩いちゃおりますが
ほんとうのところ、あの春を待ちわびて鳴く小鳥のように
暖かい日差しの射す季節を恋焦がれているんでございます」
俳優座の大御所、村瀬幸子さん演じるおばあちゃんが営む峠茶屋
この店(峠の茶屋)のあり方がなんともいいんだよな。
昔ネパールのヒマラヤに行った時、茶店がこんな感じだったよ。
郵便局員さんの真っ赤なスクーター、峠茶屋に止まる。
このスクーター欲しい(^^;)
郵便局員さん「ばあちゃん!ばあちゃん、郵便やでー」
と、中に入っていく。
おばあちゃん「どこからや?」
郵便局員さん「名古屋のヨシオさんからやな」
おばあちゃん「んん」と、頷いてはがきを受け取る。
おばあちゃん「あんた、すまんけど、読んでくれんかいな」
郵便局員さん「んー?」
おばあちゃん「めがねつぶしてしもうてな、読めへんのや」
めがねつぶしても買わないところが昔の人らしくていいねえ(^^)
郵便局員さん「面倒やな」と言って読んであげる。
郵便屋さん「いいかい。読むで。
『拝啓おばあちゃん、元気ですか。僕も元気で働いています。
はやいもんで名古屋に就職してもう一年になります。少し貯金が出来たので、おばあちゃんに
前から欲しがっていた電気アンカを買って送ります。お母さんに使い方をよく聞いて火傷をしたり
しないよう大事に使ってください。
ヨシ子やスミ子によろしく。敬具』」
おばあちゃん、泣いている。
寅、店の中でその手紙の内容を聞いて静かな感銘を受けている。
郵便局員さん「おばあちゃん、ええ孫持って幸せやな、フフフ」
微笑みながらうなずくおばあちゃん。
おばあちゃん「おおきに」
郵便局員さん「じゃあ」
おばあちゃん、郵便局員さんに休憩していくように勧めるが、
郵便局員さん、笑いながら遠慮していく。
細かい演出だ(^^)
町のお孫さんから心のこもったはがきが届く峠の茶屋。
団子と甘酒で体を休憩していた寅は、望郷の念に駆られる。
寅の声「私の故郷にも、血を分けた妹と叔父夫婦が、
私のことを案じながら暮らしております。
毎年、春が近付くたびに、
出来ることなら暖けえちゃんちゃんこの一枚も買って帰って、
喜ばしてやりてえと思うのでございますがね。
それがなかなか、思うに任せぬ辛さでございます。」
で、このあと、その恩返しの銭のために競馬に手を出すはめになる寅だった…。
バスが来たので支払って出て行こうとする寅。
貼り紙
舌代
峠団子 六十円
甘酒 六十円
おでん 一皿 七十円
あべ川 八十円
あったかい牛乳 三十円
寅「お、来たな。ばあさん、ごちそうさん。
じゃあ勘定はここへ置くぜ」
団子と甘酒で120円。なんと寅が出したお札は
500円でも千円でもなく、あの板垣退助さんの肖像の百円札!
百円札の支払停止日は昭和49.8.1この作品の4年後。
おばあちゃん、あわてて
おばあちゃん「あ、あああ…」
寅「釣りはいらねえよ。ばあさん、
おまえさんの可愛いお孫さんが送ってくれた電気アンカの
電気代の足しにでもしてくれたら嬉しいぜ、あばよ」
と格好つけて外へ出て行くが
おばあちゃん「あ、あの」と百円札を見せながら追いかける。
寅「いいんだ、いいんだって」
おばあちゃん「あの、お客さん、団子と甘酒で百二十円やけど」それでも安い!
寅「え…二十円?」
おばあちゃん「ええ」
寅「あ、たんないの。あ…足りたのかと思ってた」
と財布から小銭を取り出す寅。
そういえば、第43作「寅次郎の休日」で、
小島三児さんの店で酒飲んで煮しめ食べて、
指を5本(500円)出されたので、「安いな」って言って、
なんと50円だけ置いていったことあったなあ…。
あの時も「釣りはいらねェ」ってほざいてた(^^;)
寅「こまけえのばっかり、はい…どうも」
おばあちゃん「おおきに」
バスが来ている。
大宇宙博の広告 富士急ハイランド
寅「あばよ」
車掌さん「峠茶屋でございます」
なんともいいバス停の名前だね〜(^^)こんなバス停の近くに住んでみたいよ。
急いでバスに乗る寅。
寅の声「全くの話、銭があれば、銭さえあれば、
私は今すぐにでも土産を買い込んで
故郷へ帰りたいのでございます」
乗ってすぐこけてしまう寅。
あわてて百円札を車掌さんに渡し、乗客にカバンをほうり投げる。
乗客「あいて!!いてー」
近くの乗客を巻き込みながら、寅、窓から顔を出して、
女性客「いや!いてて」
男性客、赤い帽子を落とされて
男性客「ああああ!」
すぐバス止めて、拾えよ ヾ(^^;)
寅「おい、ばあさんよ、余生達者で暮らせよ。
なあ、お孫さんによろしく言ってくれい、
うん、ばあさん元気で暮らすんだぜ。
オレも元気で生きていくからよ、
ハハハ達者でな、あばよォ!」
窓から顔を引っ込められずに苦しんでいる男女の乗客たち。
それを止めようとしている若者の顔に帽子が当たり続ける。
ブリジストン(BS)タイヤの広告看板
寅「さよなら、あばよォー!ばあちゃん、元気でなー!」
手を振るおばあちゃん。
寅、ようやく窓から顔を引っ込めて
寅「あばよ、さよなら…か、へへ」
自分しか見えないヤツとは、このような男を言うのだね。
乗客の赤い帽子どうするんだ…(−−;)
寅の声「さようでございます、
私の故郷と申しますのは、
東京、葛飾の柴又なのでございます。」
タイトル 新.男はつらいよ
「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、
姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。」
春まだ遠い柴又 江戸川土手が映る。
矢切の渡しが映り、川漁師さんが映り、
江戸川土手が映り、その下の茶店が映り、
帝釈さまが映り、参道のせんべいやさんが映っていく。
今回だけ歌詞がテレビ版から続く正調『男はつらいよ』の3番の歌詞
「どうせおいらは、底抜けバケツ〜」の歌が唄われる。
このあたりもとても貴重。
♪どうせオイラは底抜けバケツ、分かっちゃいるんだ妹よ
入れたつもりがすとんのポンで、何もせぬより未だ悪い。
それでも男の夢だけは、何で忘れて、
何で忘れているものか、いるものか♪
このあとはメロディだけが流れていく。
柴又題経寺、帝釈天参道が涼やかに映り、下町の風が吹いている。
このオープニングの江戸川土手風景は、
第一作のオープニングと同じ店の同じ位置からのアングルが使われている。
↓
第1作で登場した店と土手への階段↓
題経寺の人々の罪穢れを洗い清めて下さる浄行菩薩なども紹介。
信者の方々が汚れを落としてお祈りをする。
ありがたい線香の煙を体につけているのは第3作でも登場した
川千家のご主人だと思う。
第40作「サラダ記念日」でも真知子さんたちがここでありがたい煙を
体にかけていた。
境内の端に『ルンビニー幼稚園』の標識。
帝釈天参道の店
塩せんべい 亀屋
そして最後にとらやが映って、
『監督 小林俊一』
とらや 店
『本家 とらや老舗』の看板
このあたりではまだ二階建てながら、看板のところまでは二階部屋がきていない。
↓
十作台の作品では下のように総二階作りになっている。
る ↓
カメラは真上から店内を撮っている。
登がJALのハワイ旅行のポスターを広げている。
JAPAN AIR LINES
HONOLULU
おいちゃん「そら行きたいよ。オレだってね、
死ぬまでには一度外国の土地を踏んでみてェやな。
でもねえ、おめえ…、いくら安上がりだって
30万もの金を出せるわけないよ〜」
一人30万円か…当時は高いねえ〜。
当時はまだドルに対して円が360円にわざと抑えられていた時代だからね。
おばちゃん「ハワイどころか、大島だって連れてってくれないんだからね、
このけちんぼはぁ、フフフ」
おいちゃん「ヘヘへ何言ってんだいヘヘへ」
登「じゃ誰かこの商店街で行きそうな人ありませんかねえ」
柴又界隈で営業したって無理 ヽ(´〜`;)
さくら「無理よ登君、来年はおいちゃんが
商店会の幹事だって言うからその時に来たら」
登「来年ですか、随分先だなあ…、今年にしませんか」
おいちゃん「ハハ、だってついこないだ修善寺行ったばかりだぜ」
登「じゃどうでしょう、今年の秋、紅葉の日光見物なんてのは…」
おいちゃん手を振りながら笑っている。
さくら「ちょっと登君、随分商売が板に付いてきたじゃない」
登「いやだな、冷やさないでくださいよ」
みんな大笑い。
登「じゃあ、ポスター置いておきますから、店にでも貼って置いてください」
団子屋さんにハワイのポスター貼って何になるんだい登君(^^;)
おいちゃん「ああ、いいよ、うん」
おばちゃん「じゃあ、またおいで」
登「へい」
登帰っていく。
おばちゃん「あの子もよく堅気になったね、どっか違うんだね、寅さんとは」
おばちゃん甘いよ、第5作や第9作の中の登見てみなってヾ(^^;)
でも第33作でようやく盛岡で堅気になってたけどね。
おいちゃん「ああ」
登は第3作には登場しなかったので久しぶりの感があるね。
第1作、第2作、第4作、第5作、第9作、第10作、第33作で登場。
おばちゃん、茶の間に上がりながら、満男をさわって、歌うように…
おばちゃん「違うんだとさ、寅.ち.ゃ.ん」 おいおい満男だろヾ(^^;)
さくら「寅ちゃんじゃないの『満男』」
おばちゃん「あ、また間違えた。ハハハハ」
さくら「満男はもっと色男だもんねえ〜」
ああ…さくら実もフタもいない…(TT)
さくら土間に下りて
さくら「さあ、お父ちゃんとこいってこようか」と工場へ行く。
仕事の邪魔になるだけだと思うんだけれど…(^^;)
おいちゃん「まったくどうしてるかね、寅のバカは…」
寅のこと思い出すときに愛情を込めて
『バカ』ってつけるおいちゃんっていいねえ〜(^^)
そこへタコ社長が旅行から帰ってくる。
なぜか、題経寺の方向から帰ってくる。普通は逆。
だいたい、社長が一人で旅行するか?
おいちゃん「どうだった旅行は?」
社長「それがね、びっくりしちゃったよ」
おいちゃん「どうして?」
社長「寅さんに会ったんだよ」
おばちゃん「えー…?」
おいちゃん「寅にい〜…?どこでェ?」
社長「名古屋で。水いっぱいくれ」
おばちゃん「あ、あいよ」
おいちゃん「へー、名古屋でなにしてたあのバカ」
またバカってつけるよ(^^)
おばちゃん「叩き売りでもしてたのかい?」
社長「いやいやいや」と言いつつ水を一気に飲む。
社長「ぷはっ!実はね、競馬場にいたんだ」
おばちゃん「競馬場?」
頷く社長。
名古屋 名古屋競馬場
花火と音楽
パッドックで動き回る馬達。
タコ社長黄色いメガネをかけて新聞読んでいる。
寅を見つけ、驚いて駆け寄る社長
社長「は!寅さん!」
寅、社長の方を見ないで
寅「うるせえ!黙ってろい!」と馬に集中している。
拝む形で
寅「頼むよ」と、帽子を浮かせ、祈るしぐさで自分の気持ちを伝える。
なんせおいちゃんたちへの孝行がかかってるからね(^^;)
今度は両手をからめて、念入りに祈るしぐさ(^^;)
寅「はー…」凄い気迫(^^;)
とらや 店
おいちゃん「なんだいそりゃ?」
社長「馬に頼んだって言うんだがね」
おばちゃん「何を?」
社長「一着になってくれよって」なんという無謀な…(((−−;)
おいちゃん「何を言いやがるんだい、冗談だろ」
社長「いやあ本人は大真面目さ、
『一寸の虫にも五分の魂と言うくらい、
ましてや相手は四足だ。
人間の気持ちが通じねえわけないだろう』なんてね」
おいちゃん「バカだねまったく」
おばちゃん「その馬それで強いのかい?」
社長「いや、それがねえ、どうしょうもない馬さー。
ワゴンタイガーっていうんだけどね。
ま、人間でいやあ50歳くらいのジジイ馬さ。
無印もいいとこ、まず絶対来ないということ請け合いの駄馬さァ」
名古屋 地方競馬の『名古屋競馬場』
右回り ダートだけなので名古屋競馬場。
印度カレールー
場外で、おでんを食べながら
『ワゴンタイガー』を揶揄する社長に寅は憤慨する。
寅「なにい、ジジイ馬だああ?」と社長の首根っこをつかむ寅。
寅「おい、ワゴンタイガーの悪口言いやがると承知しねえぞ!
いいか、ワゴンタイガー、
日本流に言やあどういうことになるんでえ、
ワゴンは車、タイガーは寅、
早く言やあ車寅次郎じゃねえか。
そうだろう、同姓同名だい、
ちょいと他人とは思えないぜェ」
社長「むちゃくちゃだよそんなー、
同姓同名だからって
気持ちが通じるわけねえだろ」
寅「あれ、バカヤロ!馬だって人間だって
同じ真っ赤な血が流れてるんだい。
貧乏人が全財産はたきだしてよ。
命を懸けて頼みやあわかってくれるんだ!」
おいおい、命はかけてないだろがヾ(^^;)
社長「どうだかねえ」とバカにしている。
寅「あれ?てめえワゴンタイガー信用しねえのか。
あいつはオレの言うことにちゃんと返事したんだぜ」
社長目を丸くして
社長「返事!」
寅「あたりめえよー。
馬は嘘つかねえからな。
オレは馬をジーーーっと見て…頼んだんだ。
馬は大きく頷いたぜェ。つぶらな瞳でよー。
へへーたのむぜー!」
パドックの5番の馬が大きく映る。
串カツ どて焼き 一本 30円
とらや 店
おいちゃん「バカだねえ…、
どこまでバカなんだろうねえ」
もう『バカ』どんどん連発(^^;)
おばちゃん「で、…結局損しちゃったのかい」
社長「いやね、それが驚くじゃねえか」
おばちゃん「え…?」
名古屋 名古屋競馬場
レースが佳境に入っている。
最終直線で各馬ラストスパート。
なんと一着に入る『ワゴンタイガー』
社長「来たよ来たよ!
寅さん来たんだよ!大穴だよ!
おい!しっかりせえ!
おい!しっかりするんだよ!
ほんとに来たんだよ!
ワゴンタイガーが!」
寅、心臓が飛び出るほど緊張し、頭ぐるぐるで
寅「あ…あったりめえだい、べらぼうめ」((((@@;))))
とらや 店
社長「一万八千円の大穴よ!
ヤロウね特券ぶちこんでるからしめて十八万よ!」
1枚100円で1種類のみの場合『投票券』と言い。
それを1000円単位にまとめた場合「特券(とっけん)」と言う。
寅の場合は単勝を10枚分と言う意味の1000円の馬券を買ったのである。
で、いわゆる万馬券がでたのだ。
ちなみに、過去に出た万馬券の最高額は、
2005年10月22日の東京競馬の3連単でなんと1846万9120円。
こうなると万馬券ではなく一千万馬券となる。
おばちゃん「十八万!!?」
おいちゃん「おい、そそそ、その金どうしたい?」
おいちゃん、もうビビっている(^^;)
名古屋 名古屋競馬場
シュトラウス2世 ポルカの「狩りにて」
寅「オレは今日ツイてる。
ツキは逃がしちゃいけねえ。それが渡世人というものよ」
社長「おい、待ってくれ、それだけはやめてくれ。
ここはね、その金持っておとなしく柴又へ。ね、さ、」
と、寅をひぱって行こうとするが
寅「おう、これはオレの銭だ。
オレの銭をどう使おうと勝手じゃねえか。
いやだったら一足先に帰ってくれ」
社長「と、寅さん、ああ」とそれでも止めようとするが寅は社長を振り払う。
社長「あー、あいててて」
警備員の人2人が、ずっと見ているのはなぜ?
撮影キャストを保護しているのかな…。
寅「あばよ!タコ」と場内に走って戻っていく。
とらや 店
『次の庚申は三月五日です』の貼り紙。
社長「ああなったらね、半分キチガイみたいなもんだからねェ、
いくら止めたって無駄だよ」
このあたりの映像はかなり劣化していて、保存状態が悪い。
おばちゃん「じゃあ、寅さんそのあと…」
社長「決まってるよ、パーだよ。
あと3レースもあったからね。
あの勢いじゃあ18万、1レースですっちまったんじゃねえのかな」
おばちゃん「はー…」
社長「人間ねえ、ああいうところに行くようになったら終わりだね。
つける薬がねえよ、まったくの話が」
おいちゃん「まったくだなあ…」
社長「そーよ、ハハハハ、ハハハハ」
おいちゃん「ところでおまえさんは何しにいってたんだい?」ほんと(ーー;)
おばちゃん「あ、そうだ」
社長「…」と下を向く。
ちょっと間があって…
社長「あ、コロッと忘れてた…」とそろそろっと工場へ歩いていく社長.
この逃げ方は第3作での見合い騒動の時の社長と同じ逃げ口上。
振り向いて照れ笑いしながら
社長「フフ…家へ帰らなくっちゃ」とアタフタ。
おいちゃん、ため息をついて
おいちゃん「はあー…18万パーだとさ…。いやだいやだ」
おばちゃん「はあー…」
おいちゃん「オレ、頭痛くなっちゃったなもう…」
今回の冷蔵庫は『森永』
黄色い色の冷蔵庫
森永マミー
江戸川土手
メインテーマが軽快に流れる。
タクシーが江戸川土手を走っている。
オレンジと黄色
ナンバー 95-32 名古屋タクシー タクシー番号126
寅が後部座席の窓から身を乗り出して
土手の風を受けている。
源ちゃんの背中が見える。
寅「おう!源の字、相変わらずだなこのヤロ!」
源ちゃん走ってきて、タクシーに追いつく。
源ちゃん「兄貴ィー!どこへ行ってたんだよォ!」
まだまだ東京弁&ジャイアンツの野球帽(^^;)
第1作でも同じ野球帽。
(ちなみに源ちゃんは第5作からいきなり大阪弁になる)
寅「名古屋よォ」
源ちゃん「名古屋?」
寅「名古屋からタクシーぶっ飛ばしてきたのよ」
源ちゃん「名古屋だい!名古屋のタクシーだぞーィ!」
と、意味無くわめいている(^^;)
おかもちを担ぎ、自転車に乗った弁天屋の横をタクシーと源ちゃんが通っていく。
源ちゃん、弁天屋の自転車の後ろに乗りながら
源ちゃん「寅の兄貴が帰ってきたんだぞ!」
弁天屋、なんと仕事の『おかもち』をほうり投げて
弁天屋「おう!そーら、それ行くぞおら!」
それほどまでに、寅が帰って来たことが面白いのか。
それともタクシーで帰ってきたことに何か大きな期待を寄せているのか…。
この弁天屋のとっぴな行動も不可思議。でもなんとなく分かる気もする。
それにしても、この二見忠男さんは懐かしい人だ。
私が幼い頃、怪獣ブースカや仮面の忍者赤影でもよく拝見したお顔である。
また私が大好きだったテレビドラマ「雑居時代」でも編集長役で出演されていた。
源ちゃん「それー!」
柴又七丁目の電柱
源ちゃん「名古屋だーい!名古屋のタクシーだぞーい!」
と、意味不明の言葉を言いながらすぐ後ろを追いかけていく。
源ちゃん、今回は題経寺のハンテン着ていたので、
とりあえず、寺男してるんだね。
第3作では完全にとらやの店員をしていた(^^)
後に喫茶店ロークができるコーナーを題経寺山門の方へ曲がる。
シャッターが下りている右の方が後にロークが出来る店。↓
これは、第1作の予告編の画像。
寅たちの後ろにある古い店だったのだが、たった1年で、第4作では↑上のように建てかえられている。
↓
横を歩く蓬莱屋に声をかける寅。
寅「よお!蓬莱屋どうした?相変わらずバカか?」
今や古典となりました、このセリフ。
出ました、参道の顔、佐山俊二さん。
佐山俊二さんってそんなにたくさんご近所役で出ているわけではないのだが
あの風貌と軽さがなんとも柴又の雰囲気なのだ。
第9作「柴又慕情」での不動産屋役も忘れがたい。
寅との大喧嘩は今でも語り草だ。
蓬莱屋「寅さん!何でい寅さん、
名古屋から帰ってきたのかい、え!」とタクシーを追いかける。
源ちゃん「名古屋だ名古屋だーい!
兄貴がタクシーで帰って来たぞー、
兄貴だぞー兄貴が帰って来たぞーい!」
蓬莱屋「寅さんだ寅さんだ」
そんなにこの第4作では寅って待望の人なのか…。
いつもはどちらかというと邪険にされてるのに
まだ競馬で大当たりの報告を聞く前から
みんな予感めいたものを感じているのかもしれないね(^^;)
柴又界隈の人々急にタクシーを見てざわめきだす。
タクシーに群がるご近所さん達。
谷よしのさんも向こうの方に立っている。
弁天屋と源ちゃんタクシーを追い抜いて
とらやに一目散に自転車を漕いでゆく。
とらや 店
女店員の友ちゃんが雑誌を読んでいる。
この友ちゃんは、この第4作でも健在。
第1作は別の女性だが、第2作から彼女。
こんなに頻繁にスクリーンに映っているのに
女優さんの名前がわからない。
どなたか御存知の方いませんか?困った〜(TT)
そこへ自転車で弁天屋と源ちゃんが滑り込んでくる。
蓬莱屋も大慌てで駆け込んでくる。
蓬莱屋「とらやさん、大変だ、とらやさん。
寅さんが帰って来た。寅さんが帰って来た、寅さんが!」
居間で寝ていたおいちゃん、びっくりして起き出す。
蓬莱屋「とらやさん、寝ている場合じゃないよおめえ、
寅さんがね、名古屋からタクシーで帰って来たんだよ」
弁天屋「なんでもね、競馬で大穴あてたらしくて」
弁天屋さん、いつ聞いたんだい?
あなたたち自転車でタクシーを追い抜いたので寅とそこまで話す時間は
源ちゃんも弁天屋もなかったはず。無理があるぞこの早耳(^^;)
まあ、寅から誰かが聞いて、みんなに叫んだんだろうね。
それにしても佐山さんと二見さんのコンビはいいねえ〜(^^)
これぞ柴又御一統さんだ。
タクシー到着。
源ちゃん「来ました来ました!」
おもむろにタクシーが止まり、寅がゆっくり出てくる。
みんな寅を取り囲んで興味津々。
貼り紙 『次の庚申は三月五日』
寅「おう、へへ。なんだい、へへー、
いつ来てもこ汚い店だな、おい」
みんな「ハハハ」
源ちゃん、友ちゃんに寅の大量のお土産を渡す。
冒頭のナレーションの願いどおり、土産を買い込んでいるのが面白い。
谷よしのさんここからアップでしっかり登場。
源ちゃん「兄貴、あの、運ちゃんがタクシー代払ってくれって」
寅「おう、いくらだ」
源ちゃん「2万9千円」
名古屋からタクシーで2万9千円!つい安いと感じてしまう。
寅「おう、乗り物は安いな」と言いつつ。
札束がぎっしり入った財布をパン!と叩いて、源ちゃんに軽くほって
寅「勘定してけや」
源ちゃん中身見て
源ちゃん「うえええ!」とおののいて財布を落としてしまう。
寅の後ろで谷よしのさんたち驚いてお口ポカン。
店中緊張が走る
寅「ガタガタするなよおめえ!」
と、源ちゃんを小突く寅。
源ちゃん「あ、運転手さん」
運転手「はい」
おいちゃんおばちゃん、唖然としている。
寅「いよォ、おばちゃん元気かい。
おう、おいちゃんも達者でいたか。
ん、よかったよかった」
蓬莱屋「よ、寅さん、いったいいくら儲けたんだい?」
寅「なあに、たいしたこたあねえさ」
源ちゃん、財布のおおよその中身をみんなにひそひそ伝えている。
寅「この寅ちゃんにちょいと芽が出たと思ってくんな」
蓬莱屋「十万くらいか!?」
寅「へへへ」と笑う。
弁天屋「二、二十万??」と既にこの時点でびびっている(^^;)
寅「へへへ」
蓬莱屋「も、もっと多いのかい」あんたらも遊び人だねえ(^^)
寅「なァに、いつも手ぶらで
故郷に帰ってくる寅ちゃんがよ、
ほんの手土産代わりに、
年寄り夫婦をどっかへお連れする、
まあそのぐれえのはした金だと思ってくんな…」
この男は、このシリーズで、
最初から最後まで自分のために余分にお金を沢山稼ごうと
思ったことはついに一度もなかったね。
お金に対して、ほんとうに無欲な男なんだよな、寅って。
蓬莱屋「へえェ〜、とらやさん、すげえじゃねえかよ。あ、あのどこ行く、
あ、熱海かい。それとも湯河原かい」
弁天屋「思い切って、別府か雲仙あたりどうだね、ね、寅さん」
寅「別府?」
弁天屋「ん」
寅「おー、それもいいかもしれねえな、
どうだい、二人そろって行ってみるか、
一月か半年ほどよ」大きく出たね(^^;)
第12作「私の寅さん」でおいちゃんたちは遂に九州に行くのだが、
この時はそんなこと知るヨシもない。
そして、実は寅自身もこの作品のラストで
あの近くを汽車で旅しているのだから面白い。
おいちゃん「お、おい、ちょっと待ってくれよ、寅さん、おめえ正気か」
寅「あたりめえよ、それともなにか、
お二人でもうちょい遠っぱしりしてえか?」
おばちゃん「あのね、寅さん…」
寅「ん?」
蓬莱屋「どうだい、いっそうのこと
おめえハワイにでも連れてってもらっちゃ」
と、貼ってあるポスターを指差す。
一同「ハハハハワイはいくらなんでも」と笑っている。
谷さんど真ん中で映っています。
谷さんの横の背の高い男性は、
後に第33作でタコ社長の娘あけみの仲人をしたご近所さん。
第4作の大きな特色のひとつとして、
この柴又界隈の人々の寅との融合がある。
他の作品では柴又界隈の人々は
どこかフーテンの寅に対して冷ややかな部分が
あるが、この作品では結構馴染んでいる。
彼らはなにはともあれ寅を受け入れているのである。
とらやのロゴマークが谷よしのさんの後ろに見える、
江戸時代から続いておいちゃんで6代目だそうだから
江戸時代からあのマークなんだね。
寅「おう、蓬莱の」
蓬莱屋「え」
寅「百万もありゃハワイ行けるか?」
蓬莱屋「そりゃ、百万もありゃ三、四人は楽に行けるな」
30万円×3人=90万円 +小遣い
寅「ハワイ結構、結構毛だらけ猫灰だらけ、
お尻の周りは糞だらけってな、
おいちゃん、おばちゃん、
ハワイに行こうじゃないか。決定!」
おいちゃん、おばちゃん目が点で口半開き。
寅「なんだい?どうかしたか?」
ほけ〜〜〜〜
蓬莱屋「よ、よ。一体どのくらいもうけたんだい」
寅「知りてえか」
弁天屋「知りたいねえ」
寅「よ、見せてやろうじゃねえか、このオレが肌身離さず……」
寅、あせって腹巻全部伸ばして財布を捜すが見つからない。
小銭がちゃらちゃら落ちる。
寅「すみません、(金がない)アレ、ちょっとそこら辺に…」とおろおろ。
源ちゃん「兄貴:…・」と、預かっていた財布をおどおど渡す。
寅「馬鹿野郎!なんでてめえが持てるんだい!」と源ちゃんを叩く。
あんたが渡したんだろが ヾ(−−;)
源ちゃん「だって…あの…」だよなあ(TT)
寅、おいちゃんたちを見て、にこやかに
寅「おい、いいか、このフーテンの寅が、
血の続きのあるおいちゃんとおばちゃんに
恩返しをしてえと思ってな。神仏に願かけて、
五と六と七、買ったレースがツキにツイてどうだい、
これだけの銭。へへ、目回すなよ、
おばちやん、立ったままションベン洩らすなよ。
(財布をポン!と叩いて)
ざっと百万両だ!」
おいちゃんに一万円の札束が入った財布をひょいと投げる。
一同、気をのまれて眺めている。
おいちゃん、札束を取り出し
おいちゃん「ほんとだ…」
一同一段とガヤガヤ驚いている。
ちなみに、第41作「心の旅路」でも寅は万車券を取ったものの、
最後に一気に賭けてスッテンテンになったらしい(^^;)
寅「へへへ、おう源の字」
源ちゃん「へ」
寅「店閉めろい、今日はオレのおごりで前祝いだ。
パーっと派手に無礼講といこうじゃねえか」
一同ドッと歓声をあげる。
みんな大喜び。
蓬莱屋「ジャンジャン飲もうじゃないか、なあ!」
常連の谷よしのさん、そして大塚君代さんもいる。
初期のころは大塚君代さんも時々使われていた。
蓬莱屋あんた遊び人だねえ(−−)
みなさんそれぞれのお店はどうなさったんですか?
この作品では蓬莱屋をはじめ、
芝又参道の御一統さんもかなりの遊び人たち(^^;)
当時はまだドルに対して円が360円にわざと
抑えられていた時代だからね。
この対ドル固定相場制に基づく金為替本位制は、
1971年のニクソン・ショックにより終結し、
1973年には変動相場制に移行したが、この作品の
1970年時点ではまだ固定相場制で360円。
それゆえ、当時はハワイ旅行は夢だったんだね。
ロート製薬提供のアップダウンクイズでも
10問正解して『夢のハワイ』へ行きましょう!って言ってたもの。
それにしても3人で100万円は高いなあ…。
今の100万円とは価値が全然違うからね。
1970年の物価は現在の3分の一以下だから。
今で言うと300万円で旅行するってことになる。
現在のスタンダードなハワイ旅行のツアーは
寅たちのように5日間でホテル食事込みで
JALのエコノミークラスを使って平均一人15万円くらいかな…。
3人で45万円ほどか。
寅は今回は人生最初で最後の大もうけだったのだが、
その後この大もうけ記録を塗り替えたのが
第29作「あじさいの恋」で加納作次郎がくれた
打薬窯変三菜碗(うちぐすりようへんさんさいわん)』と
第31作「旅と女と寅次郎」の京はるみがくれたエメラルド指輪。
もっともこれはその後も換金をしていないはずなので
宝の持ち腐れだと思う(^^;)
寅は今回以外でも、もう一度、ギャンブルで大もうけするのだが、
皆さん御存知ですか。
第41作「寅次郎心の旅路」で、なぜか寅は数年前にパスポートを
とらやにすでに預けていたが、
あの時の理由が、競輪で『万車券』をとって、ハワイ旅行を企んだのだ。
これじゃこの第4作と同じパターン。
もっとも第41作では、旅行の前にもう一度元金を倍にしようと
欲を出して全部パーになったとか…。トホホな話である。
冒頭の解説にも書いたが、
この競馬大穴ぼろ儲けとハワイ騒動はテレビ版の「男はつらいよ」
の物語からの拝借アレンジ版である。
第2作同様この第4作もテレビ版の影響が濃い作品である。
夜 とらや 店
『本日臨時休業』の貼り紙
参道の人たちがやんやと騒いでいる。
人の金で酒を飲んで…。
しかも止めに入るべきご婦人たちまで…。
なんて節操の無い人たちなんでしょうか(^^;)
一升ビンを2本追加しに戻ってきた男が戸をあけて入ってくる。
中から盛大な宴会の歌声が聞こえる
みんなで『酋長の娘』を歌っている
「♪私のラバ(LOVER)さん〜、酋長のォムスメエーイーロは黒いが南洋じゃぁ美人〜」
私のラバさん 酋長の娘 色は黒いが 南洋じゃ美人
赤道直下 マーシャル群島 ヤシの木陰で テクテク踊る
踊れ踊れ どぶろくのんで 明日は嬉しい 首の祭り
踊れ踊れ 踊らぬものに 誰がお嫁に 行くものか
きのう浜でみた 酋長の娘 きょうはバナナの 木陰でねむる
私のラバさん 酋長の娘 色は黒いが 南洋じゃ美人
この歌は、ミクロネシア諸島にある現在のパラオ共和国で、
本当に大酋長の娘さんと結婚した杉山隼人氏をモデルにしたものであるといわれている。
この歌は第17作「夕焼け小焼け」で龍野で桜井センリさんが振り付けつきで歌った歌。
松竹映画「オレは田舎のプレスリー」でも、「男はつらいよ」と同じ役の
岡本茉莉さん演じる大空小百合ちゃんがこの歌と踊りを披露していた。
第17作での桜井センリさんの「私の〜ラバーさーん…」
とらや 茶の間
さくら、博が来ている。
おいちゃん「何だか悪い夢見てるような気がしてしょうがねえんだよ」
おばちゃん「競馬でバカ当りしちゃったんで、
少し頭がおかしくなったんじゃないかい」
おばちゃんのキツイ発言にちょっと驚くさくら。
博「もともと余り正常じゃないんですからねえ」
おっと…、博はこういう軽口は普通は言わない。
こういう発言はおいちゃんの十八番。
おばちゃんをさらに上回る意外な博の発言に
目を白黒させて驚くさくら。
だよね。ちょっと言わないよ博は(^^;)
このあたりのとらやでバカ騒ぎ&おいちゃんたちシラケパターンは
第3作にも出てきたメリハリ。この辺の展開はよく似ている。
ちなみにこの第4作の予告編ではこのドンチャン騒ぎの最中寅がおいちゃんたちやさくらたち
も巻き込んで騒いでいるのが映る(下の画像)。結局本編では使われなかったシーンだ。
↓
翌日 江戸川土手
土手の上にバイクを停めたタコ社長が釣人と大声でしゃべっている。
釣人「へえー!、百万円か-、たいしたことやったなあ」
社長「やってくれたのはいいけどさ、
おかげでうちの工員共、勤労意欲をたくしちまってね、
全然働かねえんだよ、えらい迷惑よォ」
工員諸君、君達の汗水たらして働いた貴重なお金と
寅の博打で稼いだあぶく銭じゃ、
『銭の色』が違うんだよ。わかるかい。(−−)
帝釈天参道
蓬莱屋が無気力になってこぼしている。
蓬莱屋「まったく真面目に働くのが嫌んなちゃったよー。
あくせくかせいでよ、倅を大学にやって、ハワイどころか、えー、
いまだに親のスネかじってんだ」
とらや 茶の間
おばちゃん、泣きだしそうな顔で電話をしている。
おばちゃん「もう町中の評判でね、
会う人会う人よかったねえだの、
おめでとう.だの、いつ出かけるんだいだの、
あたしゃ返事に困っちまうんだよ…
ん、おいちゃんかい、熱出して寝てるよォ」
ストーブついてます。
電話の向こうで布団に包まっているおいちゃんの姿が妙に可笑しい。
これだけで、あそこに森川さんが寝てると思うだけで
もう笑わせるのが森川さんのキャラなのだ。
布団の中を想像すると笑いがこみ上げてしまう。
さ<らのアパート(今回は『江戸川荘』)
廊下にピンクの公衆電話がある。
貼り紙
『ご使用の方へ〜 江戸川荘管理人』
おっと、今回第4作は『江戸川荘』
ちなみに第5作では『コーポ江戸川』
後に『こいわ荘』になる。
さくら、電話に出ている。
さくら「お兄ちゃんは?お兄ちゃんはどうしたの?
ええ!?切符買いに行った。
おばちゃん、切符ったって駅で買えやしないわよ。
ええ?登君の名刺・…・・
登君のとこへ行ったの!?」
さくら、声をつい荒げてしまう。
若干いやな予感、するどい(((^^;)
登の旅行代理店
場末の小さなみすぼらしい事務所って感じ。
パチンコ屋の『軍艦マーチ』が聞こえてくる。
寅「まぁ、こっちは外国旅行ははじめてだからよ、
何分よろしくたのむぜ、おい」
登「木当に、よござんしたね、兄貴、
一体何でもうけたんですか?
まさか競馬や競輸じゃないだろうね」★図星〜!★(^^)/
寅「冗談い言うなよお前、
オレがそんなケチな貧乏人のバクチに手エ出すかい、
やせてもかれてもこちとら渡世人の端くれよ!」
どの口で言うとんねん…(−−;)
杜長「本当に、登君がこんな立派な方と知り合いとは存じませんで」
出ました浜村純さん。
登「あの、特別に勉強してもらえるそうですから」
寅「あ、そうかい、ま、よろしく杜長たのむよ、な。
登、銭払っとけ」
と、部厚い財布をポイと投げる。
社長の目の色が変わる。こいつ…(ーー)
目の色の変化を演じきる変に上手い浜村純さん(^^)
登、中身を見てオドオド、生唾を飲み込む。
あんたらお金見たこと無いのか ヾ(^^;)
寅、わざと、知らん顔ですましている。
さくらのアパー卜 夜
博、遅いタ食後の茶を飲んでいる。
さくら「払っちゃったお金はもう戻らないんだしさ、
こうなったらクヨクヨするのはやめて
スッパリその気になったほうがいいんじゃない」
博「おじさん達、どう言ってた?」
さくら「もうヤケクソだなんて言ってたけど、
そうと決土れば結構楽しいんじゃない、
明日あたり買物に行くか、なんて相談してたから」
結構ハワイ行く気になってきたんだね、おいちゃんたち(^^)
博「そうか……そうだろうな」
この作品のアパートは、
後のアパートと雰囲気がかなり違っている。
おっと、さくらたちのアパートのこのテレビはとらやにあったテレビだ。
と、いうことはさくらたちも同じメーカー同じ型の
テレビを買ったんだろうね(^^)
しかし、ちょっと無理があるなあ…ミスかなあ…(^^;)
とらやのテレビ さくらのアパートのテレビ
博、ゴロンと横になる。
博「ああ、ああ、ハワイか…」
この博が旅に思いを馳せて、ゴロっと横になるシーンは、忘れな草のピアノ騒動の直後にも
アレンジして演出されている。あの時博の口から出たのはハワイでなく、北海道だった。
帝釈天参道
出発当日
御前様が急ぎ足にとらやに来る。
とらや 店
蓬莱屋、社長、源ちゃん、博、はじめ七、八人の近所の人達が
白の背広の下にアロハシャッを着込んだ寅をとりかこんで
娠やかに酒を欽んでいる。
旗を持っているご近所さん。
『ハワイ旅行おめでとう。 寅さん、気をつけて いってらっしゃい』
日本酒に『祝 ハワイ旅行』の、のし。
寅「じゃ、オレは元気で行ってくるからな-、ん、パーっとやってくれ」
御前様が入って来る。今回第4作はずっとメガネをかけている。
源ちゃん「御前様です!」
一同、立ち上がって口々に挨拶する。
一同「おはようございます」
御前様「おはよう、みなさん、朝早くからご苦労さん」
寅「どうも、御前様、このたびは、
わざわざお見送りくださいましてありがとうございます」
御前様「おめでとう、幸い天気もよくて何よりだ」
寅、ニコニコ笑いながら胸の日の丸をさりげなく見せびらかしている。
凄いセンスだね。日の丸を胸につけるなんて…(((^^;)
御前様、餞別とお守りを渡して、
御前様「えー…少しだが餞別と旅行安全のお札だ。
ま、気は心だ、鞄の隅っこにでも入れてくれ」
寅「いえいえ、何をおっしゃいますか、それでは遠慮なく。
おう博、ちょうだいしたぜ」
御前様、寅の足元に眼をとめる。
御前様「なにか、お前、草履ばきでハワイに行くのか」
一同、ドッと笑う。
御前様は第1作の奈良ホテルの玄関前での発言でも分かるように、
寅の草履ばきがいつも気に障られるようだ。
寅「あ、これですか、へへ!今もね、その話をみんなでここでしてね、
ドォッと笑ったばかりなんで」
一同大笑い。
寅「雪駄つうものはね、日本古来の履物だ。
あっしはこれをはいてね、バリだってロンドンだって平気で行きますよ」
日本古来が好きなら、じゃあ羽織袴で草履を履けば?(−−)
御前様「ふむ、ま、とにかく余り日本人の恥になるようなことはせんようにな」
寅「恥だなんて言われちゃうと、こっちは弱いなおい」
一同、再びドッと笑う。
寅「おう!おいちゃん、おばちゃん、おいでおいで、御前様が見えたぜ」
さくら「はいはい、ただいま」
さくらの声がして、一同注視の中を奥の部屋より、
新調の旅行服にJALのかばんをさげたおいちゃんと
ミニスカートに大きなストールのおばちゃんが
さくらにつきそわれるようにしてみんなの前に現われる。
ジャ〜〜ン!!
ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ
最初で最後のおばちゃんのちょっぴりミニスカート。
後ろで満男を抱っこしている谷よしのさん。
満男と谷さんの絡みがあるのは、
この長いシリーズでこのシーンだけ。
一同「いやあー」とどよめく。
弁天屋「いよオ……まるで総理ご夫妻だね」
一同、はやし、手を叩く。
おいちゃん「(照れて)いやぁ皆さん、どうもどうも。
お、、御前様、朝早々とどうも」
(みんなでパスポート作ったんだね)
★寅は胸に日の丸。しかしハキモノは雪駄。
★おばちゃんはなんとミニスカートに紫の帽子。長ぁーいストール。
★おいちゃんはJALの大きなカバンななめがけ。
ふたりでお辞儀。
御前様「どうかね、少しは英語を話せるようになったかね」
おばちゃん「えーッ、だめ、だめ、あたしゃね、
一切向うへ行ったら口をきかないことに決めました」
と、ハイテンションで答える。
一同、ドッと笑う。
寅「おぼちゃんはよ、ホエア イズ トイレット、
ってこれだけ覚えてりゃいいんだよ」
一同又笑う。
おいちゃん「オレはギブ ミィ ウイスキーだな」
寅「ちげえねえ」
一同又笑う。
さくら笑いながら
さくら「お兄ちゃんは?」
寅「決まってるじゃねえか、アイ ラブ ユー よ」
一同、大爆笑!
座布団2枚(^^)。
でも、日本語でさえ誰にも言ったこと無いくせに。
おばちゃんも寅も、いつ買ったんだあんな服(^^;)
おいちゃんもおばちゃんも、
いつの間にかもうすっかりノリノリになっているね。
もうかなり加速度がついてる感じ。
寅、楽しくてしょうがないって感じ。
今から『飛行機』乗るのに何の抵抗も無いのだ。
第25作「ハイビスカスの花」ではなにがななんでも乗りたくないって
ポールにしがみついて嫌がってたのに、このころはまったくアレルギーなし!?
御前様「ま、気をつけてね。私も死ぬまでに一度、
そのハワイに行きたかったが、
私の分まで楽しんで来てくれ」
おいちゃん「へえへえ」
博「さア兄さん、そろそろ時間が」
寅「オゥ、源の字、車見て来てくれ」
源ちゃん「へえ!」
源ちゃん、入口の所から声をかける。
源ちゃん「来ました来ました!」
寅「大丈夫か、おぼちゃん、え、
なんだか竹馬はいているみたいだなおい」ハイヒール?(^^;)
一同、ゾロゾロ立ち上がり、表へ出てゆく。
寅「おっと、カバンだ」と戻る。
谷よしのさん、寅にカバンを渡してやる。
寅「おう、ありがとよ」
突然!いきなり後ろから小声で
登「兄貴兄貴」
寅、ふり返ると登が真っ青な顔で裏から入ってくる。
寅「あれ、この野郎お前どこから入って来たんだ」
登「ちょっと、ちょっと、ちょっと」と、
寅を強引に引っばって庭のほうへゆく。
寅「なんだ、お前……?」
登の顔は今にも泣き出しそうである。
寅「オゥ、何だよ、え、社長はどうしたい、
羽田の飛行場で侍ってるのか?」
登「兄貴、それがね:…」
泣き出しそうな登の声に寅、ハッとする。
ぱっと登の袖をつかんで
寅「お前、何かあったな…、一体どうしたんでい」と声が真剣。
登「申し訳ないことにたっちゃったんですよ。
社長が兄責の金をもって逃げちゃったらしいんだよ」
ガビーン!!(||| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)
寅、愕然として
寅「逃げた…-?」
登「昨日から姿を見せないんで、
念のために航空会杜に電話してみたら、
全然、金を払い込んでないんだよ!」
寅「で、どうしたらいいんだよ!」と、登のむなぐらをつかむ寅。
登「すみません、まさか杜長がそんな悪いことをするなんて」
寅「バカヤロー」と登の頭をぶんなぐる。
店のほうから蓬莱屋がくる。
蓬莱屋「よう、よう寅さん、タクシーが待ってるよ」
寅「お、そうか、うん、すぐ行くすぐ行く」と、とりつくろう寅。
蓬莱屋「お、おう」と参道へ。
登.「兄貴…どうする?」
寅、胸ぐらをつかんで、
寅「ど、どうするって、こっちで言いてえことだい。
どうするんでい!バカヤロ!」
再び登をブンなぐる。
登、「うへえええ」と半分泣き出す。
今度は、博が店のほうからやって来る。
博「兄さん、荷物を積み込みました、おじさんたちも待ってますよ」
寅「あ、そうか、ありがとう。
じゃ、これ持ってってくれ」と、カバンを渡す寅。
博「はい」
博、泣いている登の様子をみて、
博「どうしたんですか?」
寅「いやこれか、へへへ、
オレとの別れが悲しいなんて泣きやがって、
へへ、泣き虫野郎、フフフ」
博、笑う。
博「そうですか、あ、ぼくも羽田まで一緒に行ぎますよ」
寅「…!あんた行くの?」
博「いけないんですか?」
寅「いや、いいよ、ありがと、ん、フフ…」
寅「泣くなよ、登、すぐ帰ってくるんだから、な」
と言いながら、博に愛想笑いの寅。
寅「フフフ…」と言いながらも、微妙な顔で登を睨む寅だった。
半泣きの登。
当時のお金で100万円、現在のお金で300万円がパー…(TT)
とらや前 帝釈天参道
車を囲んで人々がわいわい言っている。
電柱に 『毛呂質店』
旗に『ハワイ旅行おめでとう寅さん、気をつけて』
おばちゃん「じゃあさくらちゃん、あとよろしくねェ」
さくら「ええ、大丈夫よ」
谷よしのさん、横でニコニコ。
寅と博が店から出てくる。
個人タクシー
博「どうも皆さんお待ちどおさま」
社長「早く早く」
博「さ、兄さん早く」
御前様「気を付けて…ん」
寅「どうも、お待たせいたしました。
本日は朝早々とお見送りくださいましてありがとうございます。
車寅次郎以下三名、ただ今よりハワイヘむけて
出発させていただきます」
一同、ドッと抽手する。
さくら「お兄ちゃん、おじちゃんとおぼちゃんの面倒をちゃんとみてね」
このようにさくらも寅も、時々おいちゃんのことを「おいちゃん」じゃなくて「おじちゃん」と
言う時がある。
寅「大丈夫だよ、まかしとけ!」
御前様「では……梅太郎さん、万才三唱といこう」
おお!この作品では御前様が社長の事を『梅太郎さん』と呼んでいる。
それにしても、御前様もバンザイさせるなんてお茶目だねえ〜(^^)
寅「い、いや…」と、戸惑う寅。
社長「え、では、とらやさんご一行バンザーイ!!」
一同、バンザイ、バンザイと叫ぶ。
戸惑っていた寅も、遂にヤケクソになって酔ぶ。
寅「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!へへへ…」
ああ…寅って…(TT)
羽田空港
禁煙 NO SMOKING
寅たちが乗るべきはずであった大型ジェット旅客機が轟音をあげて飛び立ってゆく。
おいちゃんとおばちゃんがそれを淋しく見ている。
寅「『三人は無事出発いたしました。
ご町内の皆様には、くれぐれもよろしく申してました』と、こう言っとけよ」
博「それで後どうするんです」
寅「オレがなんとかうまいことやるよ、さ、帰れ帰れ帰れ」
博「そうですか、僕先に帰ります、じゃ」
帰っていく博。
『森永キャラメル』のベンチ
おいちゃんとおばちゃん、寒そうにベンチに座る。
おばちゃん竹馬ヒールが足に合わないようだ。足痛そう(^^;)
おいちゃん「寅さん、オレ達はどうすんだよ、え?」
おばちゃん「うううう、寒いよォ、あたしゃ風邪を引きそうだよォ、イタタ…」と痛い足をもむ。
おいちゃんおばちゃんブルブル震えている。
寅「まアそう言うなよォ、
こっちもいろいろ考えてんだからよ、
まア落ち着いて景色でも見ろよ、な。
大したもんだぜ日本の飛行場もよ」
空しいねえ…(TT)
三人ともちょっと絶望的になっている。
ああ…そして悲しいねえ〜(TT)
帝釈天・参道 夜
人通りの絶えた参道を、
寅とすっかり疲れきった様子のおいちゃんおばちゃんの三人が
あたりをうかがうようにしてやってくる。
名代 大和家 天ぷら
大和家さんの前でおいちゃん物音を立ててしまう。
ガチャ。。。。
寅「しッ!おいちゃん」無声音(^^;)
おっと、大和家さんの明かりがつく。(((((^^;)
ビビルおいちゃん。
咄嗟に犬のなき声を真似る寅。
寅「ワォ〜〜ワン」
おいちゃんもつられて
おいちゃん「ワオオーン、ワオオーン、ウオオ…」
森川おいちゃん上手すぎ(^^;)
それにしてもおばちゃん、
ストールを帽子に巻いてほお被りしてる姿は、トホホだね(^^;)
大和家さん犬だと思い、明かりを消す。
大和家さんって意外と単純(^^;)
いつまでも真似しているおいちゃん(^^;)
寅「いつまでやってんだよ」
と、三人ともそっととらやの店に入っていく。
とらや 真っ暗
そっとと鍵をはずし、戸を開けて無言で三人が入ってくる。
寅、もう一度戸を閉め、鍵をかけ、カーテンを閉じる。
寅「(小声で)おい、誰にも見られなかったろうな」
おいちゃん「ああ、大丈夫だろ」
おいちゃん「おい、つね、明かりをつけろよ」
おばちゃん「あいよ」
寅「おばちゃん、駄目だよ、明かりをつけちゃ」
おばちゃん「なんで?」
寅「なんでってわからないのかい、
オレ達は留守ってことになっているんじゃねえか」
おいちゃん「そうか…、明かりもつけられねえんだ…」
おばちゃん「寅さん」
寅「え?」
おばちゃん「食べ物はどうするんだよ」
寅「食べ物ってお前、米ぐらいあるだろ」
おばちゃん「そりゃ少し残ってるけどさ、おかずは何もないよ」
おいおい、そんなことわかってるんだったら
羽田からもどる時に食べてくるか、買ってこいよな(−−;)
寅「ぜいたく言うんじゃねえよこの野郎、
塩ぱあっとふりまいて食やあいいじゃねえかよ」
その時、表の戸をトントンたたく音がする。
三人、ハッとして顔を見合わせ、中に逃げていく。
博超小声で
博「僕ですよ、博です、もう帰ってるんでしょ」
寅たちほっとして
戸を開ける。
博が入ってくる。
すぐにさっとカーテンを閉めて警戒する寅。
博、緊張のため息
博「はぁー…」
寅「誰にも見つからなかったろうな?」
博「ええ」
と、たんに椅子につまずき大きな音を立てる。
一同、ハッとする。
寅、博のお尻を叩いて
寅「静かにしてくださいよ」無声音(^^;)
博「すみません」無声音(^^;)
おばちゃん「博さん、さくらちゃんはもう知ってるの?」
博「いえ、まだ言ってないんです。
あんまり心配だったもので、ぼくだけ様子を見に来たんですよ」
倍賞さん、ほんとはスケジュールの都合で来れないのかも…(^^;)
寅、大きく頷き、博の肩を叩き、
寅「えらいぞ、頼むぜ、
どんなことがあったってさくらの奴には内緒だぞ、な。
まず、敵を欺くには味方からって言うからな」
博「で、これからどうするんですか」
寅「簡単よおめえ、四日ばかりこの家へ隠れてるのよ、
な、そして五日目にどっかの八百屋行ってパィナップルでも買って、
近所の衆に、ただいま帰りましたと挨拶すりゃそれでいいんだよ」
博「パイナップルはいいけど、もしハワイの話を聞かれたらどうします?」
寅「簡単だよおめえ、『お水が合いませんでした』とこう言やあいいんだ。
むこう着いたらすぐピーッと下痢しちゃってね、
ホテルから一歩も出なかったとそう言やあいいんだから」
博「うまくいきますかねェ…」いくわけないって ヾ(^^;)
おいちゃん「そうだろ、オレァ自信ねえと言ってるんだよ」
寅「グチこぼすんじゃないよお前、小便して早く寝ろよ」
と、言いつつ寅つまづく。
寅「あっ痛ッ…イテテテ…静かにしろよ」 あんただよヾ(−−;)
寅つまづいた拍子に、おいちゃんの帽子を踏んづけてしまう。
おいちゃん、悲しげにペチャンコになった帽子を見ている。
寅、笑いながら、帽子を指差して笑っている。
寅、無声音で
寅「ヒヒヒ、つぶれちゃった、ヒヒヒ」
おいちゃん、腹立てて、
手で思いっきり帽子を突いて膨らまし、
パフっと頭にかぶってしまう。
こういうしぐさは森川おいちゃんの独壇場です(^^)
寅おいちゃんを指差して
寅「ヒヒヒヒヒ」
とらや 表 翌日
『従業員慰安のため、勝手ながら金曜日まで
休業致させていただきます。店主敬白』
と書いた貼り紙
蓬莱屋、社長、それに近所の人が、前でしゃべっている。
蓬莱屋「今頃ハワイの海岸でのんびりとこの日光浴やってるよ」
社長「いや、むこうじゃ今は夜じゃないか」
蓬莱屋「そうか、じゃ、ヤシの木陰で美人に囲まれちゃってよ、
フラダンスかなんかやってるな」
一同「ハハハ」
見知らぬ男(財津一郎)がゆっくりと四人のそばを通ってゆく。
弁天屋「あたしゃね、あちらはまだ夜が
明けたばかりじゃないかと思いますがね」
蓬莱屋「それじゃとらやさんはおかみさんと一緒に
ダブルベッドの上でよ、
この、コーヒーかなんか飲んでるよきっと」
一同大笑い。
このシーンなぜか私は大好きだ。
柴又の風情を強く感じるいい雰囲気だ。
そこへ、ルンビニー幼稚園の春子先生が
子供たちと一緒に歩いてくる。
春子のテーマが流れる。
春子「列を乱さないで:…」
町の人「ご苦労さんでございます」
蓬莱屋「あ、お帰りですか、先生」
社長「お帰りですか」
春子「ええ、さ、…どうも」
にっこり会釈をして通りすぎるのを
一同鼻の下を長くして見送る。
とらや 店
ここで、カメラはとらやのカーテンの隙間から外の視点になっている。
つまり寅の視点だ。
案の定、寅とおいちゃんが重なるようにして
戸のすき間から表をのぞいている。
寅「あ、あの人は誰だ?」
おいちゃん「あ、新しく来た幼稚園の先生だよ」
寅「美人だなァ…」
とカメラが寅の表情をズーム(^^;)
おいちゃん「だろう、綺麗だろう」
寅はマドンナに一目ぼれの時にはあのように口に出して「美人だなあ」なんて
説明的で野暮なこと人前で絶対言わない。
そういうところは繊細なので、一人心の中でポーッとなるのだ。
ここは脚本と演出がちょっと荒い。
とらや 茶の間 夜
紫の粋なハンテンを着て
寝転びながらテレビを見ている寅。
テレビの画面・長門勇さんが活躍する時代劇が映っている
これは、なんていう時代劇なのか?
長門勇さんが目立っているので
1964年の『道場破り』かな…。
それとも同時期の『いも侍 蟹右衛門』『いも侍 抜打ち御免』
『続道場破り 問答無用』あたりかな…?
長門さんの着物的には『いも侍』あたりか…?↓
(槍ではないので『三匹の侍』『新三匹の侍』ではないような気がする。)
どなたかこの時代劇ドラマが何か分かる方
お手数ですがメールお願いいたします(^^;)
暗い部屋の中でごろ寝しながら
寅が音を消してテレビを見ているのである。
寅「声の出ないテレピはさっぱりわけが分からねえな」と消す。
そらそうだ(^^;)
となりの部屋では戦争中の灯火管制のような電燈の下で
おいちゃんとおばちゃんがが博の持って来た折詰ののり巻を食べている。
おいちゃん「(小声で)何だか戦争中を思い出すなア」
おばちゃん「さくらちゃんには何て言って出て来たんだい」
博「友達のところへ行くって…、しかし毎日同じことは言えませんからねえ…」
おいちゃん「変に誤解されても困るしな」
博「じゃ、ぼくそろそろ帰ります」
おばちゃん「あ、そう、すまないねえ」
博「明日また何かおいしそうな物、買って来ます、じゃ」
寅「…!!!?」
立ち上がって寅のいる部屋を通って帰りかけるのを寅が止める。
博「何ですか」
寅「静かにしろい」
博、緊張する。
表の戸のほうからガタガタという音がする。
寅、小声で
寅「おばちゃん、明かりを消せよ」
おばちゃん「え?」
寅「明かりを消せってんだい」
おばちゃん、あわてて電灯を消す。
一同、裏口のほうをのぞく。
サスペンス調の音楽
月の光を背からあびているために
裏のガラス戸のむこうに人の影がくっきり浮かび出ている。
男ばガラスを切ろうとして、戸をガタガタいわせてしまう。
家の中の四人、じっと耳をすましている。
男はようやくガラスを『ガチャン』っと切り落とし、
手を内側に入れ、鍵をあけるのに成功する。
朝、とらやの噂を後ろで聞いていたあの財津一郎さんである(^^;)
財津さんは、第2作で寅と同じ病室の盲腸の患者を演じ、
寅に散々腹を踏まれていた。
寒かったらしく赤々とついているストーブへ走り寄る。
ストーブがついてる事の不思議に気づけよな(^^;)
しばらくしてようやく不思議がる泥棒。
その瞬間!
寅「このヤロウ!!」と、
寅と博は泥棒におどりかかり、
寅が押さえつけ、博が背中を殴りつける。
あっという間にとりおさえてその辺のひもで手をしばりあげる。
寅「縛れ縛れ、縛っちめえ!、おばちゃん、明かりをつけろ」
おばちゃん、電灯をつげる。
泥棒「ちくしょう…」
寅「うるせえ!このヤロウ、こすっからいツラしやがって!」
と、また殴る。
泥棒「アイテテ!…もういいじゃないですか、
無抵抗なのにそんなにひっぱたくのは卑きょうもんですよ」
寅「生意気なこと言うなこのヤロ!」とまたひっぱたく寅。
泥棒「あ、痛ア!」
おいちゃん電気掃除機の棒持っている。
とらやに『電機掃除機』ってあるんだねえ〜(^^)
おばちゃんはほうき。
鋤博「兄さん、もうそのへんで。
おい!あんた本当に泥捧か!?」なんか変な質問(^^;)
泥棒「はい」声が上ずっている。
寅「なにが『はい』だ、この野郎とぼけやがっててめえ!
しらばっくれやがって」
と頭をパーン!とまた叩く。これで叩いたの3回目(^^;)
おいちゃん「おい寅、かまわねえから早く警察を呼んじゃえよ」
おばちゃん「は、そ、そのほうがいいよ」
泥棒泣きそうになりながら
泥棒「ちよっと待ってください、お願いですかんべんしてください、ごめなさい、
もう二度としません。本当の出来心なんですよ、警察だげはかんべんしてください、
病気の女房とね、子供が二人待ってるんですよ」
あまりにも古典的な嘘(^^;)
寅、またもや頭を引っぱたいて また叩いた、4回目(^^;)
寅「いい加減にしろこのヤロウ!
そんな見えすいた嘘にだまされるオレ達だと思ったら大違いだ、てめえ、
しっかり押さえていろ、
今俺が一一〇番に電話してやるチキショウ」
と、電話口でダイヤルを回そうとして
寅「…博、一一〇番てのは何番だっけ?」
古典ギャグ。寅頭マッチロ(^^;)
博「へ…??あ… イチ イチ ゼロ です」
博も一瞬??頭マッチロ(^^;)
寅「よし」と、ダイヤルを回す寅。
泥捧をとり押さえていた博、ハッと気づき、寅の肩をいきなり叩いて
博「ちょっと、兄さん!」
寅「何でい」
博「警察に屈ける以上、
僕達がここにいることは分かってしまいます。
覚悟してくださいよ」
寅「え…ああああ!」
おばちゃん「そんなこと、もう、どうでもいいから早く!」
おいちゃん「そうだよ、そうだよ!」
寅「いや!そうはいかねえ…」と、受話器を下ろす寅。
寅、立ち上がり
寅「そうかア…、そらあまずいなそいつは、チクショウ…」
寅、また泥棒の頬をひっぱたいて 5回目(^^;)
寅「このヤロウ!てめえもなんだ、
よりによってこんな時に泥棒に入りやがったんだ。
このタコ!」
と、またもや頬をひっぱたく。6回目(^^;)
まだ何も盗っていないのに何度も殴られまくる泥棒(TT)
泥棒「もういいでしょう、
何もしてないのに
そんなにひっぱたくことはないじゃないですかァ」
確かに叩かれすぎ(^^;)
寅「てめえは泥棒なのに
どうしてそんな生意気いうんだ!」
と顔を手でつかんで、またもや頬をひっぱたく。 7回目(TT)
泥棒大声で
泥棒「人殺しぃー!!」
寅、驚いて必死に泥棒の口の中にタオルを詰め込む。
興奮した泥棒、タオルと一緒に寅の指まで噛む。
寅「あ痛痛、噛んだ噛んだ噛んだ噛んだ噛んだ……」バカ(TT)
必死で指を引っこ抜いて、肘が引き戸に当たり
寅「あ痛痛…、痛えな!この!」
と、またもや連続でひっぱたく寅。8回目(TT)
博「兄さん!」
あわてて泥棒の口を押さえる。
博「ね、もうこうなったら何もかもあきらめて警察に届けましょう」
寅「届けましょう〜?じゃなにか今までの苦心が水の泡じゃねえか」
おいちゃん「寅さんよ、こりゃ長続きしねえぞ、オレもうクタクタだよ」
寅「そうかい、それじゃおいちゃんは、
町内の笑いものにされてもそれでいいってのか」
おいちゃん「もうあきらめたア」
おばちゃん「そうだよ、博さん早く110番を呼びなよ」
寅「待てよ、待てって言ってるだろう!」またもや泥棒を殴る。9回目(TT)
寅「待てって言ってるんじゃねえか、このヤロウ!」
と、またまたまた泥棒を殴る寅10回目((TT)
泥棒、アタフタビビっている
寅「おいちゃんはね、笑いものになってもかまわねえって言うけどよ、
本当に笑われるのは誰か知ってるかい。
そりゃあね、おいちゃんには世間は同情的だよ、
本当の三枚目になるのはこのオレさ、
そこらへんのとこを分かってくれよ、そうだろう博、え〜」
泥棒事情を興味深々で聞き入っている。
博「じゃ、どうしましょう?」
寅「逃がすのよ」
おいちゃん「逃がす?」
おいちゃん「大丈夫かい?」
おいちゃん「また泥棒するんじゃねえかなあ、オレは知らねえぞォ」
寅「もう二度とこの家にゃ入らねえよ、
そういうもんだよ。
おい、こそ泥、お前釈放してやるからな、ありがてェだろう。早く行け」
寅、縄を解いてやる。
泥棒、黙ってしぼられたところなどをもんでいる。
寅「こら、そうと決まったら目障りだよ、とっとと消えて亡くなれ!」
と、頭を突き飛ばす。11回目((TT)
ところが…
泥棒、出て行くどころか、
なんと、ゆっくりと土間から茶の間に逆戻りし、
ストーブにあたりはじめる。
おいちゃんおばちゃん「うえええ、ひえ〜」と逃げる。
寅「何だお前、出ロ…」
泥棒、ストーブの前から一歩も動こうとしない。
寅「あれ?このヤロてめえなにか文句あんのか!」
泥棒「出て行こうと行くまいとあたしの勝手だろう」あちゃ〜(><;)
寅「なに!?」
泥棒「まだなんにもしてないのに
縛られて蹴られたり叩かれたり挙句の果てに
出て行けはひどいですよ」
みんな唖然 「…」
泥棒「一番電車まで置いてもらおうかな。
こんな寒い夜中に表に叩き出されるぐらいなら
留置所にでも入れられたほうがよっぽどましだったなァ」
寅、カッとして
寅「このヤロウ、チキショウ」
と、泥棒を叩き、首をひっつかみ、店の隅に連れていく。…12回目(TT)
おばちゃんたちもほうきで背中を叩く。
余り役に立ってないけど一生懸命(^^;)
寅、泥棒を店まで追いやり。
寅「足元見やがったな」
泥棒「見られて悪い足元でもあんのかい」
上手い!座布団2枚(^^;)
寅、泥棒の胸元をつかんで
寅「てめえはよっぼどの悪(あく)だな」
泥棒「へへ、余り善人じゃ勤まらねえな」うまい!…って言ってる場合か(−−)
寅「いくらだ?」おいおいおいヾ(^^;)
泥棒「へ?」
寅「いくら欲しいんだよ?」
泥棒「は…」
そっと…指一本出す。
寅、同じように指一本出して、同じポーズをし(^^;)、
『バカ!』と無声音で、きつく泥棒の指をきつく叩く。…13回目(((TT)
寅、腹巻の中をさぐって…。
寅、仕方なく千円札をそっと出す。
博も神妙に見ている。
千円札をつまらなそうに眺めて、納得しない顔の泥棒。
寅「チッ!」
今度はなんと一万円札を出す。
泥棒、早業で一万円札をわしづかみにし、ポケットにしまいこむ。
泥棒「おじさん、草履ください」生意気(−−)
泥棒「そういうことなら
もっと早く言ってもらったらよかったんですよ。
ねえ、兄さん」と、寅に擦り寄る泥棒。
寅「のぼせるな!この!」と頭を引っぱたく ああ…14回目(TT)
博、戸を開ける。
寅「てめえみてえな奴はとっとと消えてなくなれコノヤロめ!」
寅、突き飛ばすように表へ送り出しす。
おいちゃんおばちゃんも草履を外に投げ捨てる(^^;)
すぐ戸を閉め、カーテンを閉める寅。
と、一息つく。
寅「ったくヤロウ…手数かけさせやがって」と、知らん顔で手を叩く。
博「兄さん……どうして、お金をやったんですかァ!!」
と、小声ながらも怒っている博。
おいちゃん「そうだよおめえ、なにも泥棒に入って来た奴に
金払うこたアねえじゃねえか!」落語だよこれじゃ┐(-。ー;)┌
おばちゃん「本当だよ」
博「そうですよ!」
寅、ヤケッパチ気味に小声で怒鳴る。
寅「ガタガタ言うな、
うるせえ、このヤロウ!
こっちだってよっぼど辛えんだ!
…チキショウ!!」
みんな小声だからイマイチ何を言っても
迫力が無いところが笑える。
悔しくて辛くて目をひんむいている寅。
帝釈天・参道 深夜
伏目がちに歩く泥棒。
川千家さんの前で
微笑をうかべてポケットから一万円札をひっぱり出し、
街灯の明かりで透かしを確かめ、
泥棒「フフフ」と薄ら笑い。
その時
向うからパトロールの巡査がゆっくりと歩いて来る。
泥棒、一瞬ドギマギする。
巡査「おい、君、何をしてるんだ!?」
巡査、その様子をいぶかしんで急ぎ足に近づいて来る。
泥棒、危機を感じ、うしろにかけ出す。
新巡査「こら!待てっ!待てェー!!待てェー!!」
しんと静まり返った参道に巡査の声が響き渡る。
とらやのみんなその声を中で聞いてギョッとする。
巡査「おーい泥棒だァー!!」
一目散に走る泥棒。ちょうどとらやの前で捕まる泥棒。
とらや 店
寅たち、一部始終を耳をダンボで聞いている。
寅「あいつ何で逃げたりしやがるんだ?」ほんと(^^;)
みんなも「????」
帝釈天・参道
近所の店の戸があちこち開いて
寝間着姿の住民達がとび出して来る。
巡査「静かにしろ!」と、泥棒を取り押さえる。
みんな「おーい、泥棒だってよー」
とらやの表で巡査に腕を捉えられた泥棒、必死に弁解している。
泥棒「す、すいませーん、何も悪いことなんかしてないんですよ」
巡査「悪いことしてない奴が何で逃げるんだ!!」
泥棒「そ、それが…自分でもどうして逃げだしたんだか…、おかしいなア-」
あんたが普段泥棒だからだよ ヾ(^^;)
巡査「いいかげんにしろ、さっき持ってたのは金だろう」
泥棒「ああ、あの金はこのとらやさんでもらったんですよ」
巡査「見えすいた嘘をつくな!とらやさんは留守だ」
泥棒「いいえ旦那…、いますよ」
そばで聞いていた蓬莱屋、口を出す。
蓬索屋「バカ、とらやさん一家はな、皆ハワイ行ってんだ!」
とらやの店の中で、ヒヤヒヤしながら騒動を聞いている寅。
泥棒の声「で、でもね、四人ちゃんといるんですよ、
間違いありませんよ」
とらや 店
ああ…絶望的な状況に…
寅、絶望的な顔で後ろずさりをして行く。
帝釈天参道
蓬薬屋「お巡りさん、こいつね、早くブタ箱にブッ込んだほうがいいよ」
泥棒「本当ですよ、私、会ったんですよ、四人いましたよ」
巡査「四人?」
泥棒「ええ、御主人らしい年とった夫婦と、若い人が一人と、
もう一人はなんというか、こう…四角い顔した、眼のチッチャな人」
蓬薬屋「ん、少し馬鹿みてえな?」
おいおいおいヾ(^^;)でもこのセリフ大笑いしました(^^;)ゞ
泥棒「え、そうそうそう」そうそうって…ヾ(^^;)
家の中の寅、蓬莱屋の言葉聞いて
『コノヤロ』と相当むかついている。
弁天屋「寅さんだよ」
見物人達、顔を見合わせる。
泥棒「そうそう、寅さん寅さんてみんな言ってましたよ」
みんな「えー??」
巡査、入口に立って戸を叩く。
巡査「こっち来い!」
泥棒「いやあ」
巡査「来い!ほら!」
巡査「とらやさん、誰かいるんですか!」
泥棒「中の人、開けてくださいよー!.開けてくださいよ」
泥棒が引くとすんなりガラス戸が開く。
みんな「おー…???」
とらや 店内
巡査入ってくる。
薄暗い中、人の気配。
巡査「あれ??」
蓬莱屋「電気つけよう」
電気がつき、店内が明るくなる。
寅は、全てを諦め、悟りの境地で
腕組んで柱にもたれかかっている(^^;)
他の三人は背中を向け小さくちぢこまって下を向いている。
一同唖然…。
近所の人たちも、谷よしのさんも、みんな唖然。。。。
泥棒、ほっとして巡査を見る。
弁天屋「とらやさん…」
寅とおいちゃん仕方なくニコニコー!っと…
笑って見せる(TT)
寅「ハハ…これはこれはどうも皆さん、
…夜分遅く、お役目ご苦労さんですね」
と、極めて穏やかにおしゃべり(^^;)
おいちゃんも愛想笑いでお辞儀。
この森川おいちゃんのお愛想笑い最高です(^^)
蓬粟屋「ちょ、ちょ、ちよっと……何だい、
ハワイに行ったんじゃなかったのかい?え?」
おいちゃん「へヘヘ、ま、それがね…、
え…いろいろとさ、フヒヒャハハハハ」
この森川おいちゃんの『間』いいねえ〜(^^;)
泥棒「旦那、私の言う通りでしよう、
ちゃんといるんですよ四人。私は嘘をつきませんよォ。
嘘つきは泥棒のはじまりですからね。
(寅に向って)兄さん、さっきはどうも」
しかし馴れ馴れしいねこいつ(−−)
寅ニコニコ笑いながら
寅「どうもどうも…本当にこのたびは
お世話さまになりましたね、ヘヘへ」
と泥棒に近づいていく。
泥棒「いいえ」
寅「あなたにね、泥棒に入ってもらったおかげでね…、
とんだ迷惑をこうむったんだこのヤロウ!!」
と思いっきり頭を殴る寅。あああ…15回目(((TT)
泥棒「あいたーッ!」
寅、すかさず自分の一万円札を
泥棒のポケットから抜き取る。
この辺がさすがなところ。動きが速い。
早業で泥棒のポケットからお札を二機取る寅
泥棒「あ、痛あ、泥棒ー!泥棒!」
それはあんただって ヾ(^^;)
寅「泥棒!?」
泥棒小声で「泥棒…」
寅にらむ。
泥棒ビビる。
寅、怒り狂って
寅「よくてめえ、
泥棒なんて言いやがったなこのヤロウ!!」
と頭を殴りまくる。16回目&17回目(TT)
みんな寅を必死で止める。
蓬莱屋「やめなさい、落ち着いて落ち着いて」
寅、泥棒を指差して「このヤロウオレのことを!」
寅、ハッと蓬莱屋を見て
寅「あー!!てめえさっきオレのことを!
コノヤロ悪口言って!」
と、蓬莱屋の頭を力いっぱい2回殴る。
みんなで、大騒ぎ。
巡査遂にホイッスルを吹き、止めようとする。
ピーピー!!ピー!!
みんなに羽交い絞めに合いながらわめき散らしている寅。
寅「コノヤロー!!」
結局、全部バレテしまったね。
でも町の人々を騙し続けるよりも、
心が晴れてよかったんだとは思う。
悪いのは寅たちじゃないんだから。
帝釈天参道 夜が少し明ける
まだあたりは暗い。
遠く夜明けを告げる鶏の声。
牛乳配達の青年が走っている。
とらやの中から突如聞こえる時ならぬ
喧嘩の大声に聞き耳をたてる青年。
とらや 店
寅の声「今更どうのこうの言ったってどうしようもねえだろう。
つまるところ泥棒の野郎が悪いんだからよ、
今度会ったら足腰立たねえように
ブチのめしてやるからさ、
それで文句はねえだろ」
全く方向違いなこと言ってるよそれじゃ┐(-。ー;)┌
おばちゃん「泥棒なんか入らなくたってね、
バレてたよこんなこと!」
まあ、バレたろうねたぶん(^^;)
寅「なにを!?」
おいちゃん「そうよ、こんな嘘がうまくつけるわけがねえや」
寅「じゃなにか、オレのやり方に文句あるっていうのか、おい」
,
博「まあまあ、とにかく悪いのは
持ち逃げした旅行社なんだ、災難と諦めてね」
おいちゃん「だからねえ、やつが持ち逃げした事が
分かった時になんで正直にそれを言わねえかと!
オレはそれ言ってんだよ」
つね「そうだよ」
寅「あの時そんなことが言えるかよ」と、バンバンテーブルを叩く。
寅「立場ってものがあるだろう、
もしおいちゃんがオレだったら同じことをするよ!」
普通しないってヾ(^^;)
おいちゃん「冗談じゃねえ、オレなら正直に言うよ」
寅「言えるかいバカヤロー!!」
博「やめてくださいよもう、そろそろ夜が明けるんですよォ」
おばちゃん「ともかく、もともとハワイヘ行くなんてのが
無茶だったんだよ。
熱海ぐらいで我慢しときゃ、
こんな情けない思いしなくて済んだんだい」
熱海って…そういう問題じゃ… ヾ(^^;)
おいちゃん「そ、そうだとも、
オラハナッから乗らなかったんだ」
お、おいちゃん、それはないよ…。
諸悪の根源は持ち逃げした男なんだけどなあ…(TT)
おばちゃん「あたしだってさァ…」
それじゃあ、寅が可哀相だよお二人さん(TT)
寅、ぐぐっと、口惜しがって、
寅「おいちゃん、
よくまあそんなことが言えるなおい。
あんなうれしがって
英語なんか勉強しやがって、
年甲斐もなくアロハシャツなんか
買い込みやがってよ!」
おいちゃんアロハシャツ買ったんだ…。寅とお揃いか(^^;)
おいちゃん「おう、みんなな、おめえの顔立てるためにやってんだい、
仕方なくやったんだよ」
英語の勉強とアロハシャツは寅とは関係ないだろう(^^;)
寅、悔しくて半泣きになって
寅「チクシヨウメ…だったら、
オレいってえどうしたらよかったんだよ!
ええ、オレが百万両かせいだのが悪かったのか!」
おいちゃん「スッパリ言わしてもらやその通りよ。
悪銭身につかずと言ってな、
しょせんこんな赤っ恥かくのがおちなんだ」
悪銭とまで言い放ったかおいちゃんよ(▼▼)
寅、コップを床に叩きつげ、
立ち上がる。目に涙がにじみながら
寅「赤っ恥?よくも言いやがったな。
赤っ恥とはなんでい!
オレはよ、おいちゃんやおばちゃん達に
いいメを見さしてやろうと思ってよ、
馬にまで頼み込んたんだぞ!」
もちろん、おいちゃんたちは、山梨県の道志村での、
寅の決意を知らない。
寅はおいちゃんたちに孝行がしたかっただけなのだ。
博、その寅の背中をおさえる。
博「兄さん、それが違うんだ。
誰も兄さんにいいメに会わしてもらうことなんか
期待してやしない。
もし兄さんにその気持があったら、
早く堅気になって嫁さんをもらって、
他人に迷惑をかけない暮らしをして欲しい、
それが一番の恩返しなんだ」
博、それを言っちゃあおしめえよ(TT)
寅「なにい!てめえオレのことをガキ扱いにするのか」
おいちゃん「ガキより世話がやけるんだ!!」酷い…(TT)
寅「言ったな、糞爺イ!」
博「兄さん!」と止めるが、寅は払いのけて
寅「てめえのためによ、
神さまに願かけて、三日三晩好きな酒も絶って
一世一代の大バクチを打ってよ、
もうけた銭のどこが悪いんだ!」
博打なので説得力がイマイチ…(ーー;)
おいちゃん「バクチの銭なんか欲かねえんだ!!」
寅「このヤロウ!」
殴りかかろうとする寅を止める博。
博「やめろ!!」
寅「止めるな!」
おばちゃん「やめとくれー!!!
うわああああああ」
おばちゃんのチャルメラ泣き(TT)
(チャルメラ泣きの詳しい内容は第28作に書いてあります)
おばちゃん、ヒステリックになって叫び泣き出す。
みんな、動きが止まる。
第15作「相合い傘」のメロン騒動と同じく
おばちゃんのヒステリー泣きによって
みんな動きが止まるのだった。
寅、スッと茶の間に上がり…泣きながら
メインテーマがゆるやかに流れる。
寅「チキショウ…昨日から…
人…人一倍つらい思いしてたのは
このオレじゃねえか。ク……チクショウ!」
と、貼り付けてあるハワイのポスターを破り捨てる。
茶の問の隅に掛けてあつた背広を着る寅。
そしてしゃがんで…
寅「オレが謝りゃいいんだろ…、悪かったよ、
…オレァもう二度と
この家の敷居は、またがねえからな」
かばんを持ち、おばちゃんの旅行帽かぶって出て行こうとする。
ベタなギャグです(^^;)
博「兄さん」
寅「アバヨ」
博「兄さん…」
寅「とめるなってつうのよ…」
博、帽子に気づいて
博「帽子…」
寅「なんだよ!」とおばちゃんの帽子をつかむ。
自分でつかんだ帽子を見て、ハッとし、後ろにポイと投げる。
なんと下はアロハシャツ&自分の帽子を
かぶらないまま出て行く。
帽子をかぶらないで旅立つのはこの作品だけ。
(このあと旅先でいつもと同じ中折れ帽を店屋で見つけるのだろうか)
おばちゃん「ちょ、ちょっと…あんた、い、いいのかい…」
おばちゃんオロオロしている。
おいちゃん、片手で涙をふいて酒をあおる。
おいちゃんは寅の気持ちはわかっている。
わかっていてもつい出てしまう愚痴と説教。
気づいたらつい怒鳴って喧嘩してしまっていた。
江戸川土手
第1作の冬子のテーマが流れる。
暖かい陽ざしを浴びて
土手でしゃがんでいるでいるさくらとおばちゃん。
さくら、ひさしぶり〜(^^)
おばちゃん、溜息まじりに言う。
おばちゃん「悪い夢見てたんだよ、さくらちゃん、
そうでも思わなくちゃ何だか後味が悪くてね」
ほんと、誰も悪くないのにみんな不幸になっちゃたんだよね。
さくら、おばちゃんの頭に目をやり
さくら「おばちゃん、また白髪が増えてきたね」
おばちゃん「あたり前さ、寅さんか帰ってくると増えるんだよ。
困った人だね、本当に。
…競馬なんかやらなきゃあよかったんだよ」
さくら「お兄ちゃん.…馬に頼んだんだって?」
おばちゃん「そうだってさ、笑っちゃうよォ」
おばちゃんニコニコ笑っている。
やっぱり競馬とはいえ、自分の欲でなく、おばちゃんたちのために
懸命に祈ってくれたのはうれしかったんだろうね。
このおばちゃんのなんともいえない微笑みに
見ている私たちは救われたのである。
おばちゃん「そしたらね、馬が返事して
一着になってくれたなんて
真顔でいうんだからね。
おかしな人だよ、あんたの兄貴は…」
おばちゃん、寅の優しさが分かっているんだね。
さくら、うるうる泣いている。
おばちゃん、さくらに気づいて、
おばちゃん「どうしたんだい?さくらちゃん」
何か答えようとするがついに嗚咽が出てくる。
さくら「何だか…お兄ちゃんが可哀想で」
とハンカチで顔を覆って泣きじゃくる。
おばちゃん「……」
河原からドッと起こる子供達の歓声。
さくらたちの背中に早春の風がやわらかく吹いている。
寅がどんなにおいちゃんたちに孝行したかったか
さくらにはよく分かるのだった。
寅のおいちゃんやおばちゃんを想う気持ちは
誰よりも純粋なのだ。
あんな心の真っ白な男はいない。
寅は、百万円なんかどうでもいいから、
ほんの少しでもおいちゃんたちに
感謝されてみたかったろうに…。
江戸川付近
一ヶ月後
江戸川に雨が静かに降っている
あたりはもやにかすみ、漁業の網も淋しげに濡れている。
その中を江戸川だげが白く光って、ゆるやかに流れている。
とらや 店
おばちゃん、週刊誌を見ている。(ちょっと芝居下手(^^;))
友ちゃん編み物をしている(芝居上手(^^))
おいちゃん、帰りてくる。
おばちゃん「あ、お帰んなさい」
'
女店員「お帰んなさい」お、友ちゃん久しぶりのセリフ。
おいちゃん「一雨ごとに暖かくなってくるなあ…」
と空を見上げる。
おいちゃん、奥へ行く。
おいちゃん「一雨ごとに暖かくなってくるなあ…」
おばちゃん「もうそろそろ春ですねェ」
おいちゃん「ああ…」
あ、友ちゃんポイって御菓子食べた(^^)
おばちゃん「…寅さんどうしているかねェ…」これは上手い!(^^)
おいちゃん「寅か…当分は帰って来れねえだろう、あの馬鹿-…」
題経寺・山門
お参りの人の姿はほとんど見えない山門のところで
雨やどりをしている寅が空を見あげている。
空は晴れているが、雨が降っている(^^;)
狐の嫁入り??(^^;)
そこへ源公がなぜか昔のミノ(蓑)、笠を付けてやって来る。何時代や(((^^;)
源公からミノ、笠をとり上げる。
寅「おう」
と、とらやに向かう。
とらや 店
おばちゃん、また同じように週刊誌を読み、
友ちゃん、編み物をする。
店の前を寅が雨にうたれながらツーツと通りすぎて行く。
三味線、がテンテンテンと鳴り響く。
店に出ていたおばちゃん、ハッとして、
つね;茶の間のほうに向かって
おばちゃん「ちよっと…、あんたあんたー!
寅さん帰って来たよ!」
おいちゃん「えっ、寅が」
茶の間のほうから出て来るおいちゃん。
おいちゃん「どこに、いねえじゃねえか」
おばちゃん「ほら…ほら…」
三味線が♪ペペペンペペペンペペペンペペンペン
店の前で、うろうろ知らん顔をしている寅。
おいちゃん「ん」
おばちゃん「何の真似だろう」
おいちゃん「入りにくいんだろう、
オレたちが見ているとテレくさくで入れないんじゃないか」
おばちゃん「気がねしなくたっていいのにね、
呼びに行ってやろうかしら、雨にぬれて可哀想だから」
おいちゃん「いや、ちょっと、ちょっと待てよ、それじゃ、
あいつカッコつかねえよ、俺たちがな、気がつかない
振りをしてりゃいいんだ、
表のほうを見ねえようにしてりゃきっと入って来るよ、友ちゃん
向うへ行ってな、さ、早く」
友ちゃん「はい、はいはい」と向こうに走って行く。
この第4作においてはじめて
この女店員さんのニックネームが『ともちゃん』だと分かる。
第46作の女店員さん、カヨちゃんと比べて扱いがあっさりしすぎている。
、スクリーンに頻繁に写っている割には名前さえイマイチ分からないのだ。
ここに来てようやく友ちゃんという名前が分かったのだ。
漢字の「友」は脚本によりました。
おばちゃん「何だかバカバカしいねえ」ほんとにねえ(^^;)
おいちゃん、柱に頭をくっつけ下を見ている。
このような店に入りにくい寅のことを思って芝居がかった出迎えをしようとするギャグは、
この後に、第7作、第8作でも演出される。この第4作はとりあえず成功するが、
第7作と、第8作はわざとらしさが寅にバレテしまい、ますます気まずくなるのである。
三味線 ペペペンペペペン
おいちゃん「来たか…」
おばちゃん「まだまだ」
おいちゃん「来たか…」
おばちゃん「まだ」
三味線の調子が速くなってくる。
寅、スススっと後ろ向きのまま入ってくる。
笠を取って、
寅「んん!んんん!」と、咳払い。
ちらっと振り向いて
寅「ホオホホ!」ともう一度咳をする。
おいちゃん、ビクッとしている。
寅、蓑を乗ってもう一度
寅「ホオーォ!!」と、声を裏返す。
拍子木 チョ―ン
寅「おばちゃん、オレだい、寅次郎だ。
ご無沙汰したなあ」と、頭を下げる。
おばちゃん、初めて気がついたようにわざとらしく
おばちゃん「あら、寅さん、まあびっくりした、いつ入って来たんだい。
全然気がつかなかったよ、あんた、寅さんだよ!」
と、くさい芝居をするおばちゃん。
おいちゃん「ええっ、」と、超わざとらしく驚き(^^;)
おいちゃん「寅さん!?」
振り向き
おいちゃん「やああ、寅さん、お帰りお帰り」
と、にっこにこで椅子に座る。
寅「おいちゃん、おばちゃん、
暫く見ねえうちに、ずい分年とっちまったなァ…」
おいちゃん「バカ、あれからまだ一月しかたってねえよ」
この「あれからまだ一月しかたってない」というギャグは
第18作「純情詩集」でも、ちょっとアレンジされたものが使われる。
寅「あ、そうか」
おいちゃん「んん」
寅「どうもハワイヘも連れてってやれず、とんだ迷惑ばかりかけちまった」
おいちゃん「もういいもういい、すんじまったことだい」
寅「かんべんしてくんな」と頭を下げる。
おばちゃん「もういいんだったら。
それより寅さん、ぬれてるよ、奥で着替えたら」
寅「ありがとうよ。断っとくが、今度もそうオレは長居はできねえんだ」
おばちゃん「また、そんなことを言って」
寅「そうだ、夕方まで、二階で寝かせてもらうかな、
それまでには背広も乾くだろう」
おいちゃんとおばちゃん、
困ったように「はっと」顔を見合わせる。
おいちゃんお口ポカン(^^;)
寅、二階への階段に向かいながら、
寅「六時頃起こしてくれよ、長い旅続けたんで疲れちまった」
慌ててその後にくっつき
おいちゃん「おいおい、寅さんよ…」
寅「ん?」
おばちゃん「ちょっと困んだけど」
寅「何が?」階段の途中で止まる寅。
おばちゃん「二階じゃなくたっていいだろう、寝るの」
寅、怪訝な顔をし、上を見上げる。
おいちゃんとおばちゃん、おろおろ顔。
寅「何だい?オレが二階へ行ったら
何か具合の悪いことでもあるのかい」
おばちゃん「それがねえ…」
寅「何だい、言いてえことがあんだったら
はっきり言ってもらおうじゃねえか」
おいちゃん「実はな、寅さん、
あの部屋、今、人に貸してあるんだよ」
寅「ええ〜!!?? 貸しちゃったァァ?」
このリアクション笑えます(^^;)
ギョッとして二階を見る。
とらや 二階の窓 雨
ポタポタと落おる雨だれ。
春子先生の洗濯物が干してある。
外から建物を見る限り、部屋のもう一つ道よりにも
小さな部屋があるような気がするがどうだろう。
とらや 階段下
寅、顔を伏せ、力なく階段に腰を下ろしてしまう。
寅「そうかい…、もうオレの部屋もなくなっちまったのかい」
おいちゃん「いやね、御前様の口ききなんだよ、
断わる訳にもいかねえしさ、分かってくれよ」
おばちゃん、チラッと寅の様子をうかがっている。
寅「甘めえ男だなあ、オレも。
遠い旅の空でよう、つらい時、悲しい時、故郷のことを思ってよ、
『オレにゃあどんな時でも帰るところがある、
やさしく迎えてくれる人が待っている』
それを心の張りにしていたのによ。
そうかオレには帰るところもないんだね」
と、鼻をすする寅。
おいちゃん「寅さん、大げさだよ、
下だっていくらでも寝るところがあるじゃないかよう、寅さん」
おばちゃん「寅さん…」
この作品の段階では2階の荷物部屋は
まだないって事になっているんだね。
もちろん、第1作ででてきたさくらの部屋も
無いってことになっている。
寅、立ち上がり、失意の元で店のほうへ出てゆく。
寅「止めねえでくれ、オレは出てゆく、雨の中」
いつものようにこの男は芝居かかるねえ…。
寅「さくらたちによろしくな。
寅次郎兄ちゃんは、
けえるところもなくよォ、雨に打たれて
淋しく出て行ったって伝えてくんな…」
と、箕と笠をつけて出て行こうとする。
寅「あばよぅ」
おいちゃん「寅さん、殺生だよ、そりゃ」
おばちゃん「ねえー…」
白い傘がそれに被さるようにスクリーンに映る。
おばちゃん「あ、お帰りなさい」
寅、笠をそっと下げて、春子先生を見る。
白い傘をすぼめて、春子先生が
春子「ただいま」と微笑む。
春子のテーマが流れる。
きょとんと春子先生を見つめる寅。
春子先生、ちょっと下を向いて、寅のことを誰だろうと思っている。
おいちゃん「先生、これがいつもお話ししている甥の寅次郎です」
春子「まあ」
黄色いスカーフをとって、キチンとお辞儀する。
春子「宇佐美春子です」
寅はそのまま口半開きで、固まっている(^^;)
春子「すみません、寅次郎さん、
今私がいるお都屋、
あなたのお部屋だったんですってね。
帰っていらしたとしたら…申し訳ないわね」
寅、ポカンとして
寅「……」
寅、呆然としている。
春子「ご迷惑じゃないかしら」人によるみたいです、はい(^^;)
と、おいちゃんたちを見る。
おいちゃん「いいえ…」
春子「本当にごめんなさいね」
寅、つばを飲み込み、蓑を肩から取って、
寅、まりたくうわずった声で。
寅「いえいえ…」
春子先生、会釈して二階へ。
もちろん寅は、出て行きませんよ〜(^^)
とらや 茶の間
座敷で寅は春子先生を前に超ご機嫌である。
二人で朗らかに笑っている。
寅「ハハハハ、いや本当、
….おばちゃん、おばちゃん、」
寅、電話口まではって来て、
寅「なにしてるんだいそこで〜、勤労意欲がないね君は、
僕達はお茶飲んでるんでしょう、
お茶菓子持ってらっしゃいよ。
あ、団子じゃダメだぞ。
このおばちゃんはね、お茶菓子っていうと
団子より他知らないんです、へへ、
自分の団子鼻見てろってんの、カハハハ!!」
春子先生もつられてふき出す。
寅「とにかくね、面白い夫婦ですから、フフフ」
おばちゃん、悪口を言われてふくれている(^^;)
おいちゃん「知らねえよオレァ…」
森川おいちゃん目をつぶって、十八番ダメだこりゃの顔(^^;)
寅「エヘへハハハハ!!」
おいちゃん、首を振っている。
帝釈天 参道
しっとりとした風情ある参道
とらや 庭
寅、源ちゃんを助手に板囲いを作っている。
金槌で釘を打つ寅。
そうとは知らずに、のんびり休日にギターを弾き、
ハーモニカを吹いている共栄印刷の工員たち。
曲はあのさくらの結婚式にも演奏した『スイカの名産地』
高田三九三訳詞・アメリカ民謡
ともだちができた すいかの名産地
なかよしこよし すいかの名産地
すいかの名産地 すてきなところよ
きれいなあの娘(こ)の晴れ姿 すいかの名産地
五月のある日 すいかの名産地
結婚式をあげよう すいかの名産地
すいかの名産地 すてきなところよ
きれいなあの娘の晴れ姿 すいかの名産地
とんもろこしの花婿(むこ) すいかの名産地
小麦の花嫁 すいかの名産地
すいかの名産地 すてきなところよ
きれいなあの娘の晴れ姿 すいかの名産地
源ちゃん、板塀を寅の頭にぶち当ててしまう。
寅「イタ…ツツ」
トタン壁に『共栄印刷』の文字。
第1作から第4作まではこの名前。
第5作からは『朝日印刷』となる。
とらや 2階 上がって右側の部屋
ここが春子先生の部屋
鏡を見ながら身支度をする部屋。
■ さてここでとらやの二階についての長い考察 ■
この部屋は第1作で寅と登が使ったきりで、第4作で春子先生が
再度使ってからは、最後の第48作まで遂に誰も使う事はなかった。
実はとらやの2階部屋は私の憧れである。
一度は寅の部屋に下宿してみたい。でもまあ、朝っぱらからガタガタガタガタ裏の工場がうるさいし、
トイレが下にしかないし、水周りも無い。大体寅が帰ってきたら一悶着やりあわないといけない。
それは私が男だからだ。第10作の岡倉先生や第20作のワット君や第24作のマイケルのように
追い出されがちになるのである。
これが、絶世の美人だったら第4作の春子先生、第6作の夕子さん、第16作の礼子さん、などなど
いとも簡単にOKが出る(^^;)
もともと寅の部屋は長い間さくらがずっと使っていた。
第1作ではまださくらは独身なのであの部屋に
住んでいる。寅が20年ぶりに帰ってきても、同じ。
では寅は例の店から入る荷物部屋に寝たかといえば
実はそうではないのだ。
なんと、さくらと同じ階段を使って2階に上がってすぐ右!に曲がってすぐの部屋に寝るのである。
そう、あの階段の上には右にも部屋があったのである。
後にしばらく同居する登もこの右の部屋を使っていた。
さくらが使っている部屋と階段を挟んで右側にも登が寝ている部屋がある
この登たちが使っていた部屋はこの第4作で今春子先生が使っている。
登の時と窓のあり方などがかなり違っているが、設定的には同じ部屋だろう。
ただ、この部屋の真下は、風呂場なのだが、ちょっと上下の面積の関係がうまく合わない、
2階の強度的にちょっと不安定な作りになってしまう。震度5弱程度で崩壊するかもしれない(^^;)
また春子さんと恋人が部屋の前の廊下で話す場面では、カメラは庭から見ているアングルになるが、
この時、彼女の部屋のさらに参道寄り(団子製造部屋及び店の真上)にまだ部屋があることが分かる。
ちなみに、その後登や春子先生が使っていたこの台所の階段を上がって右の部屋は幻の部屋となり、
障子はいつも見えるが、入り口へ行くための庭に面した廊下は階段のところで茶色の仕切りでかたく
閉ざされたまま、第5作以降、第48作まで使われる事は二度となかっのである。
この茶色い仕切りはこの2階のほかの場所にも存在する。廊下を何らかの理由で仕切ってあるのだ。
昔、芸者さんたちがお客さんとそれぞれ上がりこんだという歴史があるので、それぞれ別の階段を
使わなくてはならないようにしているのかもしれない。柴又界隈の店ではこういうことはよくあるらしい。
いつもの茶色い仕切りが無く、部屋の前の廊下が見える。 この登と寅の部屋からは裏の工場の屋根が見える。左の壁には窓がない
春子の部屋の中。左にガラス窓がある。おばちゃんは左側からやってくる。 部屋からは真正面にに工場の寮が見える。
この初期の作品群の部屋の間取りに関しては、このように1作1作違っている。不確定の時期なのだ。
庭から見上げると春子先生の部屋はこうなる↓。なんと参道よりにまだ部屋がある!ことが分かる(画像左端)
寅がいつも使っている部屋とマドンナが逗留する時寅が寝る荷物部屋とは、
庭に面した廊下続きなのは言うまでもない。
第11作「寅次郎忘れ草」ではリリーが泊まった夜、隣の荷物部屋で壁越しに会話もしている。
しかし、この二階の2つの部屋は上に書いたように実際には
茶色のついたてで固く仕切られている(但し開け外しはできる)。
そのことがはっきりわかる映像はほとんど出てこないが、
数少ない映像が,第39作「寅次郎物語」や第46作「拝啓車寅次郎様」
のなかで映る。特に第39作では全貌がしっかり見える。↓コレは非常に貴重な映像である。
(なお、一説によるとプライバシーのためにこの二つの部屋の間に
もう一つごく小さな細い物置部屋もあるのでは…、という人もいる)
この映像は貴重である。寅の部屋と隣の寅が時々寝泊りする荷物部屋に仕切り戸があることがこれで分かる
また、登や春子先生が寝泊りしていたあの部屋の廊下を閉じる茶色い仕切りは、
いろんな作品でチラチラ映る。
ここでは第20作「寅次郎頑張れ!」と第39作「寅次郎物語」で映る茶色いついたてと
部屋の障子の画像を紹介する。↓
階段を上がって右側に茶色の仕切りが見える。階段の途中に障子も見える
さくらの後ろの方にも階段を上がって右にある仕切り戸が見える
また、この第20作ではなんと、幻の登と春子先生の部屋のさらに向こう参道よりに茶色の仕切り戸が
あるではないか!
これこそ、あの春子先生の部屋を庭から見た映像に映っていた参道寄りの部屋に違いない!
参道寄りにもうひとつ部屋があることを完全に暗示しているのである。コレを見つけたときにはさすがに
驚いたが、よくよく考えると総2階建てだとすると店の上に部屋があるのは当たり前で、
そこに行くための廊下の仕切りなのであろう。ちょうど団子製造部屋の真上当たりになると思う。
あの茶色の仕切り戸の真下は団子製造室!
そして実はとらやの店の真上にも部屋があることがわかる映像がもうひとつある。十作代以降の作品で
しばしば映るとらやの屋根に取り付けてある看板の映像である。(茶色のトタン屋根の方がとらやである)
この手の映像は中期ではしばしば使われる
この第4作ではまだ総二階造りではない
これを見るととらやがやっぱり完全な総2階作りだということがわかる。しっかり作ってある。
しかし、この店の真上の2部屋の中は、遂に一度も物語の中で出てくることも、
語られる事すらなかったのである。
(ちなみにごく初期のこの第4作では上のように完全な総2階作りの映像ではない)
これこそ正に幻の部屋なのだ。
で、結局結論としては、ごく小さな物置部屋はともかく、
二階で、人が住める住居部屋としては5部屋あることが分かる。
@寅のいつもの部屋(独身時代のさくらの部屋)【真下は茶の間】
A寅が時々使う荷物部屋【真下は仏間】
B登と春子先生が使っていた階段上がって右側の部屋【真下は風呂】
C店の真上参道沿いの団子製造部屋寄りの部屋【真下は団子製造部屋と店】
D店の真上参道沿いのお客さん用座敷寄りの部屋【真下は店】
結局このように全部で最低でも5部屋もとらやの2階住居部屋は存在することになる。
映像で見ることができたのは3部屋だ。そして第5作以降はずっといつもの
2部屋のみ映画では使われることになる。
脱線が長くなってしまった。
さて…話は戻って―
とらや 店
春子先生、出かけようと階段から降りてくる。
おばちゃん「おや、先生、お出かけですか」
春子「ええ、ちょっと・・…夕方までには帰って来ますから」
おばちゃん「いってらっしゃい」
寅、顔を出すむ
寅「おばちゃんよ、クギ…・・あ!」
寅「先生、もうお出かけですか」.
春子「ええ、じゃ、行って来ます」
おばちゃん「行ってらっしゃい」
寅「私そこまで…送り…う!イテテテテテ」
と春子先生を追いかけ、
板が通路に挟まるギャグかまして
寅「ちよっと待ってください!
今送って行きますから……」
店先でちょっと止まり。
(思い止まり)
寅「あ、先生、あのう…
道々気を付けていらしてください。
世間には悪い男が多うございますから」
春子先生、笑って
春子「フフ…フフフ、はい」と出かけていく。
寅、ちょっと、照れながら、手を振って
寅「いってらっしゃい!」
寅、ふと、源ちゃんのほうを見てはっとする。
蛾次郎さんと渥美さんのパントマイム
源ちゃん、寅を指差して、無声音で大口開けてせせら笑い。
寅、指をポキポキ鳴らして、にこにこ笑いながらもどって来て…
源ちゃんと寅、パントマイムで大笑い。
お互い体をつつきながらニッコニコ。
寅、源チャンの肩に手を置きながら、おもむろに
アンコをヘラで源チャンの顔に塗りたくる。
寅、無声音で「ヒヒヒヒ」
ああああ…蛾次郎さん、リハーサル何回…(TT)
工場の寮の窓から
アメリカ民謡『スイカの名産地』の1番が聞こえてくる。
ハーモニカとギター演奏付き
♪ともだちができた すいかの名産地〜…、
なかよしこよし すいかの名産地〜
トタンの壁にペンキで
共栄印刷
禁煙
TEL (657)7530
工員が買い物袋を抱えて、とらやの二階を気にしながら
階段を上がってくる。
工員A「おい、見えるか?」
工員B「残念でした、さっき出かけちゃったよぉ」
工員A「なんだ…」
あんたたちっていったい こらこらヾ( ̄_ ̄
i)
その時、突然大きな板塀が立てかけられ窓をさえぎる。
工員A「あああ!!!なんだこれ!?おい!」
工員B「寅さん!なにすんだよ」
工員B「何すんだよ!」
寅、下から
寅「何する?見りゃ分かるだろ低脳、
こっちの二階見えないようにしてんだよ」
金槌で釘を打とうとする寅。
寅「おう、源、しっかり持ってろよ」
源ちゃん「は、はい」
トントントン
工員Bの声「何にも見えなくなっちゃうじゃないですかァ」
工員C「日が当たんなくなっちゃうよ」
工員B「ひどいなあ〜」
工員A「ちょっとー!憲法違反だよ!!」
憲法第25条:
すべて国民は、健康で文化的な
最低限度の生活を営む権利を有する。
日照権
憲法25条で保証された国民すべてが
健康で文化的な生活を営むための権利に基づいた、
太陽の光を享受する権利。
隣地に建築物等が建設されることによる日照権の侵害は、
あきらかに受忍限度を超えたものについては
建築の差止めや損害賠償請求を行うことができる。
この第4作公開から1年後の1972年(昭和47年)6月27日に最高裁で
「日照権は法的に保護するに値する」という判決が下された。
この日以来、日照権が確立し、法的な保護が与えられるようになっていく。
そもそも、日照権とは憲法25条が保護する健康で文化的な生活を営むために
太陽の光を享受する権利とされていて、
建築基準法56条の2では、一定の高さの建築物を建築する際に近隣住民の日照権を
侵害しないように規制をもうけている。
レストラン
ベートーヴェン・弦楽四重奏曲 第9番第2楽章(ラズモフスキー第3番)
がゆったりと流れている。
弦楽四重奏曲第9番ハ長調Op.59-3は1806年作曲された。
ベートーヴェンはラズモフスキー伯爵の依頼によって弦楽四重奏曲の依頼を受けた。
そのようにして作曲された3曲の弦楽四重奏曲はラズモフスキー四重奏曲としてOp.59として出版された。
これはその3曲目に当たるのでラズモフスキー第3番と呼ばれる。
吉田「どうかね、春子ちゃん、僕が手をついて頼んでもダメかね。
糖尿という病気はね、それ自体で命取りになることはないんだが、
他の病気を併発した場合は非常に危険なんだ。
君のお父さんの現状は決して楽観出来ないんだ。
もし君のお父さんに…」
春子先生、その言葉をさえぎるように、
春子「おじさま、
私、お父さんといわれても困るんです。おじさまにとって
は古い友達でようけど、何度も言うように
私にとっては顔も憶えてない他人としか…」
吉田「でもね父親には違いないんだよ」
春子「…」
吉田「会ってやってくれないかなァ。あんなに会いたがってるんだ。
このままあいつを死なせるのは、何としてもね」
春子先生、真剣に考えている。
ウエーター、伝票を持ってくる。
吉田、それにサインをする。
とらや 茶の間 夜
食卓の上に貧Lいけれど心のこもった夕食の仕度がととのえられている。
寅とおいちゃんが坐っている。
女店員の友ちゃんが帰って行く。
女店員「じゃ、お先に失礼」ます」
おばちゃん「ご苦労さん…」
おばちゃんが台所のほうから味噌汁の鍋を持って入って来る。
寅、イカリングの穴を覗いている。
生卵の殻の上にイカリングを乗せて
オブジェを作っている寅。(^^;)
おいちゃん「つね、今日はずいぶんと豪勢じゃないか」
おばちゃん「ちエっとオゴッちゃったんだよ、
たまにはこれくらいのことをしないとね」
寅「ちぇ、二人とも言うことが貧しいねえ、
これだから貧乏人は悲しいってんだよ」
アジの干物の焼いたのをつまんでみせる。
これが料理といえる代物かよ。ひどいねえ〜
おばちゃん「いやだったら食べなくたっていいんだよ」
寅「ちぇ、はい、まんま、まんま」
と、茶碗を差し出す寅。
春子先生が二階から降りてくる。
寅「お、春子先生、さ、いらっしゃい」
春子「まあ、おいしそう、今夜はごちそうね、寅さん」
と肴いながら坐る。
寅「そう、ええ、ええ、このおばちゃんは
昔から料理作るのがとても上手で、ねえ、おばちゃん」
どの口で言うとんじゃヾ(ーー )
春子「おじさん、これ今月の下宿代」
と、封筒を差し出す。
おいちゃん「どうもすみません」
寅、パッと手をのばして
横からその封筒を取り上げ、ふっ!と中味をふくらまし、
しっかり金額を見る。
おいちゃん「おい、何するんだ」
寅「へ〜…、こりゃあ驚き桃の木山淑の木、
ブリキにタヌキに蓄音機だ、
ねえ、おいちヤん、春子先生から下宿代をお取りかい」
おなじみ「つけたし言葉」
驚き桃の木山椒の木 ブリキにタヌキに洗濯機
猪木にえのきにケンタッキー やってこいこい大巨神!っていうのもある。
おいちゃん「そりゃあたりまえよ」
春子「あの、とっても安くしてくだすっ.てるのよ」
寅、にっこり笑いながらもシビアに、
寅「そうですか、先生は黙っててください」
寅「よくあんな部屋で下宿代をとれるね、それは常識外れてるよ、
それともそんなにアコギな人問だったのかい、おいちゃんは」
おいちゃん「アコギ〜!そういう訳じゃねえよ」
寅「いいかい、
あんなうす汚ねえ物置みてえな部屋。
オレだから我慢してロハで住んでやったんだよ。
こうやって他人様の春子先生が
お住みになるというんだから
「どうもありがとうございます」と、おいちゃんのほうで
お金を差しあげるというのが常識のあるやり方じゃねえのかい」
寅が使っているロハとは「無料」「タダ」を意味する言葉で
大正時代から昭和初期にかけて流行った若者言葉。
「タダ」と読む漢字に『只』があるが、この漢字の上下を分解してロハと読んだ
おいちゃん「無茶苦茶だよ」
寅「ま、春子先生、これを受けとる訳には参りません、
どうぞおさめなすって」
と封筒を春子に押しつける。
春子「困るわ、そんな」
寅「いいからいいから」
そこへ裏からタコ社長が入ってくる。
社長「今晩は・…:寅さん、ちょっと」かなり怒った形相で寅を睨んでいる。
寅は、ちょうどイカリングを食べようとしている。
寅「何だいこの野郎、人のめし時に」
社長「ちょっと話があるんだ、裏庭に来てくれ!」
寅「何だいこのタコ、
人がイカ食おうとしているのに!ちっ」
と、イカリングを元の皿にほおり投げて、
寅「ちょっとタコが呼んでますから行って来ます」
寅、ちょっと春子に会釈して出ていく。
春子「あのこれ……」
その隙に春子先生、そっと封筒をおばちゃんにに渡す。
おばちゃん「そうですか、じゃ、どうも…」
庭のほうから大声.が聞こえる。
とらや 庭
例の目隠板塀のことで
寅とタコ社長、それに工員達がやり合っている。
社長「とにかくな、人権間題だからな!」
工員たち「そうだよ!!」
寅「人権だかジジャンケンだか知らねえげどな、
オレのやる方法に不服があるんだったらよ、
とっとと広いとこへ越してもらおうじゃねえか、え、このタコ」
社長「言やがったな!、よし、それじゃな、
出るところへ出よシじゃねえか」
と、ボクシングの格好で身構える社長。
第9作「柴又慕情」でもこの「出るとこでようじゃねえか」が出てくる。
この時の発言者は佐山俊二さん。
寅「オウ?、なんだ、ケイサツか、
警察沙汰にすんのか、おう!警察結構、結構毛だら
けタコ糞だらけだこの野郎!」
この場合は、民事訴訟だから裁判所だねとりあえず。
社長「ヤ!ヤロゥ--!」
寅「何だ、やんのかてめえ!」
と、社長につかみかかる寅。
止めに入る工員たち。
春子先生が顔出す。
春子「寅次郎さん!」
寅「はい」と「寅なで声」。
春子「あの…-もし、私のお部屋に関係したことでしたら、
どうぞそんな喧嘩なんかなさらないで。
私、ちっとも気にしてませんから…ね」
寅「いえ、喧嘩なんかしてませんよ、
ぼく達は冗談が好ぎでね」
梅太郎、ポカンとしている。
寅「杜長とぼくは大の仲よしねえ杜長。
またほらあんた冗談が好きだ、面自いんだ、杜長は
……タコ……タコタコ揚がれって・・-・さア、
ご飯食べましょう、ご飯にしまLよう、さア行きましょう、ね」
第6作「純情編」でも寅は「タコタコ揚がれって」っていうギャグをかまして
博を勇気付けていた。
訳のわからぬ春子を
押すようにして茶の間へ戻ってゆく。
口をあけて呆然と見送る社長達。
板塀のこと解決してないぞ社長さん(−−;)
帝釈天・参道 朝
アコーディオンによる春子のテーマが流れる。
春らしい陽ざしが当たっている。
出勤を急ぐ人達、二、三人。
とらや 店
おいちゃん、表の戸を開けている。
出勤姿の春子先生が奥から出て来る。
春子「いって参ります」
おいちゃん「いってらっしやい」
寅、仏間から出てくる。
この作品で寅はどこで寝ていることになってるんだろう?
二階の荷物部屋の存在はこの作品ではないことになっているようだ。
仏間はおいちゃんとおばちゃんが寝ている。
と、いうことは茶の間で寝ているのか?
春子「行って参ります」
おいちゃん「はい、行ってらっしゃい」
寅もその後を迫ってヤカン持つおばちゃんと
ぶつかりながら表へ出て行く。
寅「アチチ、熱いな〜」
おばちゃん「何やってんだよ〜」
おいちゃん「おい、寅、寅さん、こんな早くどこへ行くんだ」
寅、再び店にもどって来て、
寅「(恐い顔で)おいちゃんよ、」
おいちゃん「え」
寅「 オレがいねえ留守に、春子さんから
下宿代取るようなアコギな真似はしねえだろうな?」
おいちゃん、思わず
おいちゃん「うんうん」 この『間」…森川さん最高(^^)/
寅「そうか…、だったらいいよ、ん!…」
急に態度変わって
寅「行って来まァーす」
と題経寺のほうへ行く。
おいちゃん、あきれ顔で見送る。
おいちゃん「何いってやんで、
てめえだって、下宿代ビタ一文だって入れたことがあるかってんだ」
おいちゃん、ハッと気づいて
おばちゃん「ん」
おいちゃん「おい、つね、今、『行って来きます!』って言ったな、
どこへ行きやがるんだろう、あのバカ」
「行って来ます!」
おばちゃん「あ」
二人でお口ポカン(^^;)
寅のルンビニー通いがこうして始まるのでした。
ルンビニー幼稚園の前
園長である御前様が門のところに立って、
にこやかに園児たちを迎えている。
春子「おはようございます」
御前様「おはようございます」
春子「園長先生にご挨拶しましょ」
園児たちは口々に「おはよう。こざいます」と園内に入っていく。
御前様「はい、おはよう」
寅もにこにこ笑って、
寅「おはよう・・」と手を上げて園内に入ろうとする。
御前様、寅の肩をつかんで
御前様「おいこら、寅、どこへ行くんだ」
寅「あっちー」と園内を指さす。
御前様「だめだ、だめだ、用のないものは入っちゃいかん」
寅「でも行きたいの、先生〜!」
今回の寅は、なんの理由付けもなく、いっしょにいたいからと言う理由で
このようにマドンナにつきまとっている。
普段の寅なら、なにがしらかの用事を見つけてマドンナにデリケートに
近づくのだ。
それは寅なりに、マドンナにしつこいと嫌われないためなのだが、
この作品ではそのようなデリケートさを寅に与えていない。
どちらかというと最初に『滑稽な寅』ありきで
話が作られているカットがこの作品では多い。
本当は寅はもう少しデリケートなんだが…。
結果的に見る人がつい笑ってしまうことが大事なのであって、
意識して笑わせようとしてしまうとどうしても物語がギクシャクするものだ。
どんどん入ってゆく。
御前様「寅!」
御前様の息が白い。まだまだ寒いんだね。
とらや 店
蓬莱屋が来ていて
おいちゃんやおばちゃんを相手に話をしている。
蓬莱屋「オレはびっくりしちゃってね『寅さん何てるのって聞いたんだよ」
おいちゃん「うん」
蓬莱屋「そしたら『見りゃわかるだろ、お遊戯よ』と、こう言ってね」
おいちゃん「うん」
蓬莱屋「子供たちと一緒になって一生懸命
『♪メダカノガッコーハ』なんて踊ってんの」
佐山俊二さんのあの手振り身振りは笑えるなァ…。
あの人なんか妙に面白いね
おいちゃん「へえー…」
蓬莱屋「で、お遊戯が終わったら、今度はお歌の時問よ、
なんっちて、教室へ入って行った」
おいちゃん「はあ〜」と腕を組む。
おばちゃん「ま、呆れた…」
脚本には蓬莱屋とおいちゃんの次の言葉がある。
蓬莱屋「何かい、寅さんは学校もろくろく出てないんだろうから、
また幼稚園から勉強しなおそうっていうのかい」
おいちゃん「下らねえこと言うなよ、バカパカしい」
本編では、↑は必要が無いと削られたのであろう。賢明だと思う。
表から寅がスキップでもどってくる。
寅「♪はーるがきーたっ、はーるがきーたっ
どーこーにーきた〜〜〜」
と、歌いながら店に入って来る寅。
頭には折り紙で作ったカブトを乗せている。
寅「おばちゃん、ごはんまだ?
ボク、お弁当持ってかないでおなか空いちゃった」
そしてまたスキップで踊りながら
寅「♪はーるがきーたっ、はーるがきーたっ
どーこーにーきた〜〜〜」
と歌いながら奥のほうへ行く。
あきれ返る三人は寅を呆然と見送る。
おいちゃん「ふっ、どこに来たもねえもんだ、
てめえの頭の中に来たんじゃねえのか」
どうもこういう短絡的な寅のはしゃぎ方は、Stereotypeっていうか、
逆にある意味不自然だと思う。
上にも書いたが、寅っていう男はもっと照れを知っている。
だからルンビニー幼稚園で、周囲の目を意識せず、
うさぎの乗り物を直してやるようなことはいかにも寅らしいとは思う。
どこかで大義名分を気にするのが寅なのである。
都心の総合病院
シリアスな音楽が流れる。
病院・廊下
広々とした廊下の一隅の個室の前に家族らしき人々が数人立っている。
医師の吉田、沈うつな表惜で出て来る。
吉田医師の部屋
吉田、入って来て椅子に腰をおろし、
ショックを隠しきれないで未だ呆然としている。
ルンビニー幼稚園
庭で子供達が先生達と一緒に遊戯をしている。
校庭にオルガンを出して演奏している先生もいる。
子供たち「♪めーだーかーのがっこうはー、
かーわーのーなかー、だーれがせいとか…」
遊戯を指導していた春子先生に事務員が声をかける。
事務負「春子先生、お電話です」
春子「はい」
吉田医師の部屋
吉田、受話器を耳にあてている。
吉田「もしもし、春子ちゃん……吉田です。
実はね、…突然だが、今さっき-…宇佐美が息を引き取りました」
幼稚園・事務室
あまりにもショックで顔がこわばり、
何も返事できない春子先生。
子供たちのお遊戯のオルガンが流れている。
このコントラストは上手い。
庭の子供達、大声で騒いでいる。
吉田医師の部屋
吉田も黙って受話器を耳にあてている。
その受話器から徴かに幼稚園のふん囲気、子供達の歌声が聞こえている。
幼稚園・事務室
春子先生、尚も黙っているが、ようやく口をひらく。
春子「……分かりました…わざわざどうも」
吉田医師の都屋
吉田「いえいえ…葬式の日取りなどはいずれまた追って…うん、
それからね、春子ちゃん、あなたも気を落とさ放いように、
そして冥福を祈ってやってください。お父さんはね…、
お父さんは罪の報いを受けましたよ、十分なくらいね」
幼稚園・事務室
春子、しぼらく黙っている。
春子「・…-はい」
受話器を置く。
脚本ではこのあと次のシーン↓がある。
病室
たくさんの花や見舞いの口醐に飾られた立派な個室。
そのベヅドの上に不帰の客となった春子の父が横たわっている。
心なしか、その青白い表清に、死も洗いながすことの出来なかった苦悩のあとがある。
かけつけた親族達の挨拶をうげている妻とその子供たち。
悲しみというより、何か事務的なにおいのするささやきのゆきかう中に、
春子の父は眠りについているのである。
結局、このきついカットは、採用されることはなかった。
題経寺・境内
うつむきかげんに境内を歩いて来る春子先生。
そのうしろから御前様が声をかける。
御前様「今お帰りかな」
春子「はい」
御前様「じゃご一緒に。…顔色がすぐれんようだが、何か」
春子「いいえ、別に」
と笑顔でかわす春子先生。
御前様「今日は寅の父の命日だからお経を一つあげてやろうと思ってね」
春子「寅さんの…そうですか……」
とらや 茶の間
そんな、春子先生の悲しみも、御前様の言葉も知らず、
寅は茶の間で鼻毛を抜いている。
実に上手いコントラスト。
鏡のそばに、吸い殻と灰皿がある。
このシリーズで寅はタバコを吸わないが、このシーンは微妙である。
畳に直接置いてあるところを見ると、寅が吸ったと言えなくもない。
まあ、でもおいちゃんかな。
題経寺ニ天門
御前様と春子先生肩を並べて二天門を出てくる。
御前様「寅の父親というのはね、なかなかの遊び人でねェ。
かみさんや子供たちは随分と苦労させられたもんだ。
子供達と言っても…、寅は何というか、腹違いでェ、
はっきり言えば私生児のような形で生まれたようなもので、
まあ、可哀想な生い立ちですな、あれも…」
このシーンは寅の悲しみの根本が分かる意味のあるシーンだ。
この先この映画シリーズを見続ける私たちは御前様のこの言葉を
引きずっていくのだ。
これと同じシチュエーションが第7作「奮闘篇」の中にある。
この時は御前様は自分の娘の冬子さんに寅の生い立ちを話すのだが、
春子先生とは打って変わって、ほとんど冬子さんは驚いていない。
心が動いていないようだ。マドンナの生い立ちによってこんなにも
心のあり方が違うのかと愕然となったことを今でも覚えている。
寅の悲しい生い立ちに心を痛めた散歩先生の娘さんの夏子さんとは
えらい違いだ。マドンナとは憧れと同時に慈愛の心が必要なのだ。
夏子さんこそ寅の永遠のマドンナなのだ。
春子、深刻な趣でうなずきながら歩いてゆく。
とらや 茶の間
寅、足を伸ばして耳垢をかいている。
おいちゃん「おい、つね、欄前様が春子先生とア.べックでやってくるぜ」
寅、敏感に反応し、ガバと立ち上がる。
とらや 店
寅、ドタパタと出て来る。
寅「おいちゃん、本当かよ、それ」
と、店先までおばちゃんやトモちゃんを押しのけて飛び出していく。
おいちゃん「ああ、何だか伸良さそうに肩並べてさ」
寅「畜生、いい年しやが-って」ただ歩いてるだけだって ヾ(^^;)
おいちゃん「やもめが長かったからな、あの御前様も」そこまで言うか(^^;)
おばちゃん「いいかげんにしないかバカ」
そこへ御前様と春子が入って来る。
おいちゃん「あ、これはこれは御前様、いらっしゃいまし」
コロっと変わる態度、役者やのう(^^;)
春子「ただいま」
御前様「はい、こんにちは」
おばちゃん「いらっしゃいませ」
トモちゃん「いらっしゃいませ」
寅、おいちゃんを退かせて、前に立ち、
寅「御前様」
御前様「ん?」
寅「今日は、春子先生とデートですか、
草団子の一つも食おうってんで、
なかなかスミにおけない人、ヒヒヒヒ」
衛前様「バカ、今日はお前のオヤジの命日だ」
寅「へ??」
おいちゃんたちはハッと顔を見合わせる。
おばちゃん、あわてて奥のほうへ行く。
おいちゃんたちすっかり忘れていたらしいが、これは安直なありえない設定。
おいちゃんやおばちゃんは平造さんの命日を忘れるような人ではない。
人間は忘れることと忘れないことがある。
親友や知合いの命日は忘れても、縁が深かった兄の命日は忘れない。
ましてや実の娘であるさくらが忘れて、
とらやに来てもいないのが気になるところ。
自分の兄の店を運命的に継いだおいちゃん。
この店は兄の平造さんが持っていた店なのだ。
命日を忘れるはずはない。
これはうっかりして忘れることではないのだ。
忘れてはいけないのでなく、縁が深くて忘れられないはずである。
第11作ではきちんとみんなで27回忌を行っていた。
それにしても法事の時期がこの作品では春先。第11作「忘れな草」では
初夏。どっちなんだ命日は(^^;)
寅「おいちゃん、今日親父の命日だったのか」
おいちゃん「そうなんだよ、オレァ、コロッと忘れてたんだよ」
御前様「じゃ、上がらせていただこうかな」
おいちゃん「御前様、どうもすみません、今すぐ仕度をします」
御前様「竜造さん、寅の父親というのはつまりあんたの兄さんだな」
間接的に厳しいことを言う御前様(^^;)
おいちゃん「へへ、そういう訳で、どうも面目もありません」
大人の対応をして入るが
それほど反省してるとも思えないおいちゃん。
おばちゃんが仏間から呼ぶ。
おばちゃん「ちょっと:仏壇の扉があかないんだよ、ちょっと来てよ」
おいちゃん「チェッ、しエうがないな本当に」
おいちゃん愛想笑いを御前様に振りまきながら慌てて部屋を出ていく。
とらや 仏間
おばちゃん「あれ、開かないんだよ」
おいちゃん「いいんだよ、俺がやるからさ、
座布団持って来い、座布団。
へえ、どうもすみませんー」
と力いっぱい仏壇の外の戸を開け、
中の戸も開けたとたん、なんとネズミがとび出す。
おいちゃん「うわああああ!ネズミ!」
ねずみ「チュチュィチュ」
つおばちゃん「キャアアアア!!」とひっくり返る。
おいちゃんもひっくり返る。
春子先生も慌ててとび上がり、
思わず寅に抱きついてしまう。
あれって、玩具じゃなくて
本物のねずみ使っている感じだなあ…。
↓
「青雲」の線香
寅、冷静にねずみの行方を追っている。
春子先生、ずっと寅にしがみついたまま(^^;)
ようやく、少し冷静になり、
寅に抱きついていたことに気づく春子先生
超至近距離で顔を向け合う寅と春子先生。
恥ずかしい気持ちと照れる気持ちが入り混じり、
下を向いてしまう春子先生。
寅も我に返り思わず、ニカッと笑った後に…
なんとなく柄にもなく
照れて下を向いて恥ずかしがるのだった。
このような寅とマドンナ至近距離遭遇は、
第2作「続男はつらいよ」でも、
散歩先生の家で夏子さんと寅で一緒に散歩先生に
毛布を掛けてやる時、夏子さんと顔が近づいて
ドキドキしてしまう寅がいた。
夏子さんはそれに気づかず微笑んでいたっけなあ…。
↓
まあ、どちらにしても寅の至福ここに極まるだね(^^)
おいちゃん「ああ、おどろいた。
畜生め、まあ、真夜中にゴトゴトしてやがると思ったら
こいつだよ、お前、ほんとにまあ…」
御前様「竜造さん」
おいちゃん「へい」
御前様「あんた方少し信仰がたりんようだな」と、不機嫌。
おいちゃん「へい、まことに相すみません、どうも」
おばちゃん「どうも」
と二人ともお辞儀。
寅「おいちゃんよう、ひでえじゃねえかよー、」
おいちゃん「うん」
寅「 自分の実の兄貴の命日忘れることがあるかよ」おいおい ヾ(ーー;)
おいちゃん「すまねえすまねえ、何しろ忙しいもんだからついオレも…」
寅「わかりゃいいんだ」
おいちゃん「何言ってやがんだおめえ、お前の実のオヤジだぞ」
寅「…!…そうにも当たるな」
おいちゃん「オレはね、いつもお前にかわってね…」
御前様「もうよい、早くお燈明を」
おいちゃん「へいへい。 つね、マッチマッチ」
座布団に坐り、合掌する御前様。
おいちゃん「あれえ??」
ふと、仏壇の一隅から封筒を取り出す。
おいちゃん、中を見て
おいちゃん「あ!こんなところにへそくり隠してやがる」
慌てて手をのぱして取るおばちゃん。
おばちゃん「お返しよ!私んだよ!」
おいちゃん「こら、ちょ…」
取り返そうとするおいちゃん。
おばちゃん「私んだよ、私んだよ」
封筒を奪い合いしている二人。
寅「何ガタガタ」てんだよ。と春子先生と笑っている寅。
おいちゃん「うるせえ、どうも近頃金が足りねえ足りねえと思ってたらおめえ…
. あ、こんなたくさん」
御前様「こら、いいかげんにせんか」
平蔵さんの命日は忘れることはないと思うが、
こういうへそくりはおばちゃんはいかにもしそうだ。
こういう笑いならOKだ。命日忘れるのは脚本的にはNG。
おいちゃん「へい」
後ろでおいちゃんを指さして笑っている寅。
御前様「寅、お前さっきから何がおかしい、
誰の命日だと思ってるのか」
寅、指した指を、ぐるぐる回しながら(^^;)
寅「はい、父のであります」
御前様「ん」
春子先生、さっきから下を向いて
吹き出しそうになるのをこらえている。
御前様はお経を開いて読む前に唱えるお経である
開経偈(かいきょうげ)を読まれる。
この短いお経は各宗派で広く用いられている。
御前様「無上甚深微妙の法は、
百千万劫にも逢い遇ううこと難し、
我れ今、見聞し受持することを得たり、
願わくは如来真実の義を解したてまつらん」
あまりにも深く妙なる教えは、
無限の時をへてもめぐりあうことはむずかしい。
今、わたくしはお経を見、
仏の教えを聞き、拝受することができました。
どうか仏の真実の教えを理解させてください。
無上甚深微妙法(むーじょうじんじんみみょうのほう)
百千万劫難遭遇(ひゃくせんまんごうなんそうぐう)
我今見聞得受持(がーこんけんもんとくじゅーじー)
願解如来真実義(がんげーにょーらいしんじつぎー)
お経が始まっても、相変わらずおいちゃんとおばちゃんは、
へそくりの奪い合いを密かにゴソゴソしている。
懲りない人たちだねえ┐('〜`;)┌
そんな二人を見て見て寅は可笑しくて、
春子先生のほうを向いて笑いあう、
春子先生もクスクス笑っている。
笑いながらも、表情がこわばり…
春子のテーマが美しく流れる
その笑い顔は、悲しみの表情になり
耐えていた心の堰が切れ、
みるみる涙があふれ出ていく。
しだいに体が震え、泣き声が嗚咽となり、
手で口を押さえてしまう春子先生。
寅は驚き、何があったのか理解できないでいる。
心配になった寅は、おいちゃんに教え、
二人で春子先生を見ながら呆然としてしまう。
寅「……」
春子先生、ハンカチを出し、顔をおおったまま急いで立ち上がり、
座敷を下り、土間から二階へ上がっていく。
寅、オロオロと立ち上がり、後を追おうとするのを
御前様が制する。
御前様「寅!」
御前様を振り返り見る寅。
寅「…」
見事な演出だ。
栗原小巻さんの集中力と初々しい演技。
とらや 二階 春子の部屋
春子先生、自分の部屋に入り
机の前に座って、遂に激しく泣き伏してしまう。
バー 夜
工負達がよく出かげる近所の、パー
チャイコフスキー 『白鳥の湖』 が流れる
一隅で寅と樽、工員たちが深刻な顔で酒を欽んでいる。
どうやら春子先生の事情が分かったようである。
誰に聞いたんであろうか?
春子先生が、おいちゃんたちに法事の後で、泣いたことを
お詫びした時に、そのわけを言ったのかもしれない。
博「何とか傷ついた春子先生を慰めてやる方法を考えなくちゃ…ね…」
どうも今回も第3作同様、前田吟さんの芝居が固いなあ…。
いや、って言うよりも『作っている』感じだ。
前田さんは山田監督のもとでは自然体の芝居になっていて
持ち味が出ている。森崎さんの時も前田さんの芝居は単調だった。
相性というものがあるのかもしれない。
その点、渥美さんも森川さんも自分の味や間は演出によって
変わることはない。微動だにしない。芝居の緩急を心得ている。
このへんがお二人の凄いところ。
寅「そうよ、オレァそれ言ってんだよ、
てめえ達、男はな、くしゃくしてる時には酒かっくらったり、
バクチこいたりすりゃいいんだよ。えー…、
そういう時、若い娘ってのはどんなことしたらいいんだ?」
バクチはあんたでしょヾ(^^;)
博「そうですねェ…まあ、僕なら」
寅「うん、おまえなら…?」
博「休みの日にどっか景色の.いい、きれいな湖に連れてって
…、ボートを浮かべるとか」
すげェ趣味だな博(((^^;)
だから『白鳥の湖』が流れているのか、
なるほど洒落ってわけだな…(^^;)
寅「ん…きれいな湖、 ボートか」
博「気持ちのいい音楽なんかもいいなァ…」
寅「気持ちのいい音楽ね」
博「夜、眠られない時のためには、
なにかこう悲しい恋の小説を送るとか…。
まあ、そんなとこですね」
ひゃあ、すんごい感覚だなあ博って…((((^^;)
寅「なるほどな、潮にボート浮かべて…
美しい音楽で、悲しい小説か…」
不吉な予感( ̄∇ ̄;)
水元公園
出ました、かつての冬子さんとのデート場所。
第1作での冬子さんとのデート
寅と春子先生 二人で橋を歩いている。
工員たちがなんと2隻のボートに乗りながら
ギターとハーモニカで『世界はふたりのために』を歌っている。
「♪愛、あなたとふーたり、
花、あなたと、ふーたり、
恋、あなたとふーたり、
夢、あなたとふーたり、
ボートから、紙の垂れ幕で「腹減っためし食わせろ」
寅と春子先生ボートに乗る
♪ふーたりのためー(パヤッ、パヤッ)
せーかいはあるのー(パヤッ、パヤッ)
ふーたりーのためーせーかいはあるのー
春子、顔を上げると反対のほうから来たボートに、
サングラスなどで変装した工員ABCが乗って
歌いながら通りすぎてゆく。
紙に『腹へった飯食わせろ』と書いてある。
この歌といい、演出といい、ここまでくるとベタを通り越して
超前衛コメディと言っていいだろう。
かえって今見ると物凄く新鮮だから面白い。
寅の性格を熟知している工員たちは、あの紙を
前もって書いたんだね。用意がいいね。
♪海 あなたと見つめ
丘 あなたと登る
まだなにか悲しげな春子先生、
さすがに不審がるが、集中力が無いので
チラと祝線を送っただけでふたたび水面に眼を落としてしまうのだった。
あ〜残念、春子先生の心は沈んだまま…
それにしても、映画とはいえ、
春子先生、もう少し不審がってほしい(^^;)
分からんわけないって。
ある意味そうとう異常な状況なんだから。
世界は二人のために
歌 佐良直美
作詩 山上路夫 作曲 佐藤 勝
昭和42年
愛 あなたと二人
花 あなたと二人
恋 あなたと二人
夢 あなたと二人
*)二人のため 世界はあるの
二人のため 世界はあるの
空 あなたとあおぐ
道 あなたと歩く
海 あなたと見つめ
丘 あなたと登る
*)繰り返し
なぜ あなたと居るの
いつ あなたと会うの
どこ あなたと行くの
いま あなたとわたし
昭和42年に佐良直美さんのデビュー曲として発売され、
120万枚という大ヒットとなり、
秋には新人ではやくもリサイタルをひらき同年のレコード大賞新人賞を受賞
とらや 茶の間 夜
寅、おいちゃんとと二人で酒を飲んでいる。
おばちゃんは、店でマメのスジを取っている。
寅「なあ、おいちゃんよ」
おいちゃん「ん、何だい」
寅「何か、こう、悲しい恋愛小説なんて知らねえかな」
おいちゃん「何イ、悲しい恋愛小説?」
寅「ああ…アハハハ、そうかそうか、
ごめんごめん、おいちゃんにそんなこと聞いたって
ムリだよ、な。
おいちゃんが悲しい恋愛小説なんか読む訳ねえよ」
おいちゃん「バカ野郎、オレだって若え頃はねェ、
小説読んで涙をポロリとこぼしたことがあるんだよ」
寅「ほう、そんな悲しい恋愛小説なんてあるのかい」
おいちゃん「あるねえ…」と正座をしなおす(^^;)
おいちゃん「思い出すだけで涙の出そうな奴があるよ」
寅「はあー…、そりゃまたどんなんだい?…」
おいちゃん「婦系図」おんなけいず
寅「へえー、そりゃどういう筋なんだい」
おいちゃん「聞きてえかい?」
寅「ああ!」
このへん、二人の呼吸はピッタリ合っている。
言葉を切り出すため、
キュッとコップの酒を飲むおいちゃん。
最高の『間』
いい脚本と演出だねえ。
とらや 春子先生の部屋
春子、机に向かって手紙を書いている。
宛名は男名である。
仙台市東ニ番町八三
河北タイムス社
会沢隆夫 様
おばちゃん二階に上がってきて
おばちゃん「ごめんなさい先生」
と、おばちゃん、笑いをこらえている。
春子「はい」
おばちゃん障子をあけると手招きする。
おばちゃん「ちょっと下へ降りてらっしゃいよ」
春子「なあに?」
笑いをこらえきれなくなって
おばちゃん「とにかくおかしいんだからフフフ…
早く早くちょっと降りてらっしゃいよ」
春子「???」
とらや 階段下
おばちゃん、春子を連れ、足音を忍ぼせて降りて来る。
ガラス越しに見える茶の間。
そこでおいちゃんが寅を相手に婦系図を大熱演して見せている。
第4作の名場面が始まる。
名優・森川信演じるおいちゃんの一人芝居が
聞ける貴重なシーンである。
意外に博識なおいちゃんの一面を知ることが出来る
珍しいシーンでもある。
とらや 茶の間
泉鏡花の婦系図は「切れるの別れるのって、そんな事は、芸者の時に云うふものよ。」という
セリフを吐く新派の「湯島の白梅」の芝居で有名。本来物語は恋愛と復習劇のニ筋だ。
特に後半の早瀬の復讐が見ものなのだが、前半の恋愛劇が芝居で人気が出たため、
泉鏡花は、大正3年にはお蔦、早瀬の別れの場面だけを脚色しているくらいだ。
一般的にはこの恋愛部分を言うことが多い。
その恋愛物語はこうである。
若きドイツ語学者、早瀬主税(ちから)は、恩師の独文学者、酒井俊蔵(真砂町の先生)に
かくれて柳橋の芸者お蔦と所帯を持ったことが露見する。
酒井は十三年前静岡の焼跡から連れて来て育て上げた愛弟子主税と兄妹同様の
一人娘妙子を行く末は添わせたいと考えていた。そして酒井は自分の過去の同じような
苦い経験を反省し、ここは鬼になってでも早瀬の将来のために別れさせようと決断する。
「俺を棄てるか女を棄てるか!」と迫る酒井。
義理と愛情の間に立った早瀬主税はお蔦を湯島の境内に連れ出し別れてくれと
頼むのだった。その言葉に驚ろいたお蔦もそれが酒井の厳命とあっては返す言葉もなかった。
主税は仕事の為静岡へ行き一人残されたお蔦も日夜早瀬を想うあまり病の床に伏す様になった。
二人の仲を裂いた酒井はかつて芸者との間に子までなしながら学問のため女を捨てた身であり
お蔦の心情を察し断腸の思いだった。
同じ頃早瀬も運悪く、高熱によって静岡の河野病院に入院していた
重態になったお蔦の病床を見舞った酒井は彼女の真心をようやく深く知り、
『お蔦、早瀬が来た。ここにいる』と励ましながら息を引きとって行く彼女を見守るのだった。
酒井に早瀬との仲を許されたお蔦は、
その酒井の腕の中で「先生が会ってもいいって、嬉しいねぇ!」と早瀬が遂に来てくれたと思い込み、
こときれていったのだ。
おそらくおいちゃんは相当リアルな視覚的な記憶があるようなので、小説だけではなく、新派劇を観たか、
映画化も何度かされているからそれを観たのかも。特に1962年の市川雷蔵主演の映画は特に流行った
のでそれで覚えたのかもしれない。
このシーン↓三味線がなぜか鳴り続けている。
おいちゃん「この酒井俊蔵を夫と思え、
早瀬主税(ちから)と思って
したいことをしろ!
念仏も(阿)弥陀もいらん、
一心に男の名を唱えろ!
早瀬と唱えて胸を抱けぇ!
お蔦ァ!
早瀬が来たァ!
ここにいるぞおお!」
寅「うん」と涙ぐみながらおいちゃんを凝視。
おいちゃん「お蔦はな、目がもう見えねえやな」
寅「はあ…」と涙。
おいちゃん「意識は朦朧としている。
細い手でしっかりと
真砂町の先生(酒井)の
襟を掴んでこう言うんだ。
『ねえ、苦しい…、口移しに薬飲ませて…」
寅「ん…それでどうしたい」もうかなり涙
おいちゃん「真砂町の先生(酒井)はな、
言われるままに水薬を口に含んで」
寅、感激して
寅「ほぉ〜ぉ…」
おいちゃん「口移しにお蔦の口へ、トクトクトクと…」
寅、頷いて
寅「それで…」涙
おいちゃん「お蔦は、もう、うっとりと
仰向けになってな。
寅「ん」
これが最後の一番いいセリフだ!」
寅「うん」
おいちゃん「早瀬さん!!」と、寅の背広の襟を掴む。
寅「…はい」女言葉で(^^)。
おいちゃん「『真砂町の先生が、
会ってもいいって…、
嬉しい〜ねえぇ…』」
早瀬さん! はい
嬉しいねえ〜…
おいちゃん「さすがの先生もここで、
ハラハラハラと男泣きだ!」
おいちゃん机をバン!
バン!
寅、涙でぐしょぐしょ。
寅「おいちゃん、
あんまり泣かせねえでくれよ、ううう…」
おいちゃんメガネをはずして
おいちゃん「ううう…」
寅「そんなに悲しくっちゃ
早瀬君だって泣いちゃうよな、ううううう」
寅、おいちゃんの手ぬぐいで
泣きながら鼻ブーッっとをかむ。
三味線が次第に早く大きく鳴り響いていく。
『ペンペンペンペンペンペンペンペン』
おいちゃんも、その手ぬぐいで涙を拭く。
わわわ…鼻水がおいちゃんの顔について(^^;)
おいちゃん「うううう…???…ううううう」森川さん名人芸(^^)
寅はおいちゃんの袖でさらに涙を拭く。
二人でおいおい泣いてしまう。
おばちゃんと春子先生遂に我慢できなくて笑い転げる。
拍子木の「カキン!!」と同時に
バタンという大きな音。
寅とおいちゃん「???」
春子とおばちゃん「フフフハハハハハハ」
見られてた事が分かり、青ざめる寅とおいちゃん。
春子「フフフ、ごめんなさい、笑ったりして、フフフフ」
と、まだ思いっきり笑っている(^^;)
春子「つい、なんだか、
はぁ、ほんとごめんなさい、フフフフ!」
と、やっぱり笑い転げながら、
おばちゃんの背中を叩く春子先生(^^;)
階段を上がっていく。
笑い続けているおばちゃん。
メインテーマ曲が大きく流れていく。
寅「先生笑ったな…」
おいちゃん「ああ…」
寅「フヒヒヒ」
おいちゃん「ハハハ!」
寅「先生久しぶりに笑ったな!」
おいちゃん「まったくだな!おい!ハハハ!」
二人で「ハハハハ!!!」
寅「いやー!笑った笑った!!
ハハハハ!!」
勢い余っておいちゃんを押し倒して行く。
おいちゃんもそのまま笑っている。
寅、喜び勇んで庭に出て
寅「おーい労働者諸君!
今夜はオレのおごりだ!
大いに飲もう!
早く出て来い、野郎ども!!
ハハハ!!」
帝釈天 参道
夜の参道をはしゃぎまくる寅と工員達。
柴又屋、立花屋、あさだ屋が並んでいるのが映し出される
貴重なシーン。もちろんとらやは『柴又屋』の位置。
春子先生は笑い転げていたが、
私にとっておいちゃんの【婦系図】は、
胸にこみ上げて来るものがあった。
おいちゃんの演技はそれほどにも抜群だった。
笑わないで感動してしました。上手い!森川さん!
ところで、
先日、三崎千恵子さんが平成15年に
東京新聞に書かれたコラム『この道』を知合いの方から
送っていただいたのだが、
それを読んでいくと、
ちょうどこの『婦系図」のシーンが出てきた。
三崎さんによると、なんと最初は湯島の境内で主税が
お蔦に別れ話を言い、それに対してお蔦が言葉を返す
あの有名なシーンが入る予定だったとか。
で、そのシーンは、なんとおばちゃんが
長いアリアを言う台本だったらしい。
それで三崎さんが監督さんに
「これじゃダメです。お父ちゃんの方がいいです。
お父ちゃんは絶対上手いです」
と、森川さんを推したのだそうだ。
そして、あのお蔦臨終のシーンが生まれるのである。
三崎さんの森川さんへの厚く深い信頼と尊敬が
垣間見れるとてもいい話だと思った。
さて、物語にもどろう。
その日以来、今までより一層、
幼稚園児に混じって賑やかしく遊びまくる寅があった。
黒ウサギの乗り物を直そうとしてひっくり返ってしまう寅。
戸惑う春子先生
笑っている園児たち。
江戸川土手
メインテーマ引き続き鳴り響く。
園児たちが春子先生に引率されながら
かぶとをかぶってスキップしている。
その一番うしろに寅もかぶとをかぶりながら
スキップをしている。
かぶとには『寅』と赤文字で書かれている。
神奈川 川崎大師
縁日の中、寅が易のバイ。
寅が運勢判断の本を売っている。
寅「天に軌道があるごとく、人はそれぞれ自分の
運命というものを持りております、
とかく羊の女は角に立たすなというが、
もしそんなこと言っているんだとしたら、
貴女方娘さん一生お嫁に行けない、な、そうだろう」
見物の娘たち笑う。
娘達「フフフ」
寅「ウプフじゃないよ、
こうやって、ポカンと口を開いて
私の話を聞いているということはだ、
今日一目デートをする恋人がいないということだね、
まあ、私の話を聞きなさい。
しかし、人間一寸先の運命は誰にも予測が出来ない、
私の話が終わる、貴方が帰ろうとする、はっと
出会った眉目秀麗の男の子が生涯の伴侶になるかもしれないよ。
人は見かけによらぬもの、
どこから見ても女に絶対にもてそうもない男だって、
杜事が終わる、家路につく、がらっと格子を開けたら、
あれっと思うような美人が待っている。
お帰りなさい。なんてことがあるかもしれない。
へへ、いやあるんだな…、んん…」
江戸川 河川敷
春子先生園児にめだかの学校の歌と振り付けを教えている。
子供たち「♪めだかーの、がっこうは〜、
かーわーのーなかぁ〜、
そーっとのぞいてみてごらん、
そーっとのぞいてみてごらん」
恋人の会沢がやって来る。俳優は横内正さん。
おっと、ここに寅はいないんだね。 ほっ…(-。−;)
春子先生、手をかざしながら彼の姿に気づく。
会沢青年片手をあげる。
いかにもの二枚目やなあ〜〜(^^;)
横内正さんは『テレビ版男はつらいよ』ではなんと
さくらの最初の恋人である鎌倉道夫役!
別れちゃうけどね〜〜^^;
映画版第1作でさくらと見合いした広川太一郎さんは
同じ苗字の「鎌倉さん」┐(´-`)┌
TVではさくらの別れた恋人だった^^
春子先生、何か嬉しいような、
安心したような穏やかな表情。
ギリギリでは心の支えなんだね。
とらや 店
工場の工員たち、昼休みでくつろいでいる。
友ちゃん、みんなにお茶をついでやっている。
友ちゃん人気あるね(^^)
源ちゃん「大変だ、大変だー!」
と、走って来て、店の前でコケル源ちゃん。
工員たち「ああ!!」
源吉「たいへんだよ!」
工員A「なんだよ、大きな声だして」
源ちゃん「春子先生の恋人が来たんだよ-」
博「ええ!!恋人?」声、裏返っている(^^;)
一同、患わずふり返る。
おばちゃん出て釆て、
おばちゃん「またいいかげんなこと言って、
何かの間違いだろう」
源ちゃん「そ、そんなことないよ、
二人伸長く並んでね、今、
こっちへやって来るんだよ」
おばちゃん「え?」
源ちゃん、店先まで出て
源ちゃん「あ、来たよ!!」
春子先生に案内されてとらやに入って来た金沢隆夫。
工員達、知らぬ顔で団子を食べ出す。
春子「ただいま」
おばちゃん「お掃りなさい」
春子「会沢さん、どうぞ」
隆夫「こんにちは」
おばちゃん「いらっしゃい、フフフ」
春子「おばさん、お友達の会沢さん。
(会沢に)この店のおかみさん、
とっても親切にしていただいてるのよ」
会沢「初めまして、よろしく」
おばちゃん「こちらこそ、
いつもいつもお世話になっております、どうも」とお辞儀。
春子「ね、私の部屋、上がってみる?散らかってるけど」
会沢「うん」
おばちゃん「どうそ、どうぞ、先生、あの、あとでお茶持って行きますから」
春子「どうぞおかまいなく」
隆夫「失礼します」
おばちゃん「さ、どうぞ」
博や工員たち、動揺しながら階段の方を見る。
おばちゃん、大急ぎで茶の間の障子をあけ、
中にいるおいちゃんと客の弁天屋に声をかける。
おばちゃん「ちょっと!」
おいちゃん「見てたよ、やっぱりいたんだなーあ、立派な男じゃねえか」
おばちゃん「どうする?」
おいちゃん「どうするたってお前…」
3人とも階段の上を見る。
とらや 二階
会沢、珍しげに窓から外を眺めている。
隆夫「しかし、よかった」
春子「なにが?」
会沢「とっても明るそうな顔してるじゃないか」
春子「そう…」
会沢「とうしてかな」
春子「さぁ…分からないけど…-
私、前、より少し素直になったかも知れない」
隆夫「うん……」
と、春子先生を見て、うれしい顔をする会沢。
二人して微笑みながら窓から外を見る。
帝釈天 参道
寅が春子への土産のつもりらしい毒々しい色の人形を手にして
『メダカの学校』を歌いながらスキップでやって来て
蓬莱屋に声をかけ、頭をこずく。
寅「♪めーだーかーの学校は〜、
よう、蓬莱屋、相変わらずバカか
かーわーのーなかぁ〜〜」知らないよオリャ〜(−−;)
頭を小突かれた蓬莱屋
蓬莱屋「ふーん??」
この蓬莱屋をからかうシーンの映像は、
そのまま第6作「純情詩集」の予告篇の中でも使われていた。
↓
とらや 店
藩ち着かぬ表憶のおいちゃん、おばちゃん、
それに博はじめ工員達もオ目オロしている。
工員A「寅さん帰ってきたら、えれえことになちゃうぞ」
工員たち「そうだよなあ〜」
おばちゃん「ね、もうすぐ寅さんが帰って来るかも知れないよ」
博「おじさん、どうしましょう」
おいちゃん「どうしようたって、おい、源ちゃん、
そこで見張ってろよ、
源ちゃん「へ」と店先へ。
なんとか上の二人が出で行くまで
なんとか寅のヤツをな」
源ちゃん「あ!!兄貴が帰って来たぞ!」
一同、総立ちになる、
おばちゃん「博さん、何とか中に入れないようにしておくれよ」
博「中に入れないったって、…」
おいちゃん「だから言わねえこっちゃねえんだ、
オレはもう…」と頭を抱える。
弁天屋、指で会沢の靴を指さしながら、
弁天慶「おかみさん、とにかくクツを隠してよ、このクツ」
みんな「早く早く早く」
おばちゃん、あわてふためいて
会沢のクツを思わずエプロンの中に隠す。
寅の歌う声が近づいてくる。
寅「♪めーだーかーの学校はー、
よ!中小企業の労働者の諸君、
ささやかな憩いのひと時ごくろうさん!」
寅、くるっと一回転して
寅「♪かーわーのー中〜…春子さんは?」
春子先生の靴を見て、
寅「あ、いたいたいたいた」
と、お土産の人形を抱えて階段を上がっていく。
おいちゃん「寅さん、寅さん、寅さんよ」と、追いかけるが聞く耳持たず。
博「兄さん話が!」
寅「ん?春子先生、これお土産…あとであとで、な」
と、歌を歌いながら上がっていく。
みんな「あの、あのあの…」
寅「♪めーだーかーの学校は〜かわーのーなーかー〜〜」
一同、階段の上を見上げる。
一拍あって…
寅「…あ!!」...Σ(|||▽||| )
と、同時に転げ落ちてくるお土産の人形。 ああ…(TT)
一同「うわわ」と、ゾッとする。
もう一度階段の上をおろおろ見上げる一同。
階段の上で後ずさりする寅の足元が見える。
おいちゃん「オリャ…知らねえよ、オレャ…」
と、どこかへ逃げようとするおいちゃん。
おばちゃん「どこへ行くんだよ、あんた」
おいちゃん「ちょ、ちょっとその辺まで」
おばちゃん「ダメだよ、逃げようったってずるいよ」
工員AB青ざめながらそそくさと工場へもどる。
博も必死で工場の方へ向かいかける。
おいちゃん「オイ、お前どこへ行くんだい」
と、博の腕を放さない。
博「そろそろ仕事の時間が…」
おいちゃん「逃げる、逃げるなんてダメだよ、
お前、もうちょっとここにいてくれなきゃ」
工員たち、おいちゃんと博の隙間をくぐって工場へ逃げていく。
紛れ込むように弁天屋も行こうとするが…
おいちゃん「おい、弁天屋、お前オレと話があるんだろ、え」
弁天屋「いや、ま、また」
博「おじさん、悪いけど」と、工場に行こうとする博。
おいちゃん、必死で再度博の腕を掴み、
おいちゃん「おい、俺と一緒におめえいてくれよ、おい…」
おばちゃん「博さん、頼むよ」と、おばちゃんも博を行かせない。
まさにその時寅が放心状態で下りて来る。
おいちゃん気づいて「あああああ…」
一同、震え上がって、そこから動けなくなっている。
目がうつろな寅は、
夢遊病者のように足が宙に浮いている。
ようやく一同に気づきをゆっくり見渡し、
ニカーッと笑う。恐い(−−;)
おいちゃん、それでもしばらくは笑い返せなくて口をポカンと
開けたまま。
おばちゃんと博も恐怖の表情。
で、一拍あって、
ようやく引きつりながらも笑い返す。
森川さんマジ凄いなあ…名人芸です。
工員たちや源ちゃん、弁天屋、トモちゃんも
みんな無理やりニコーっとする。
こら、工員A君、笑っとらんでその顔は…、
ひきつってる(TT)
一同、暫くとりあえずニコーっとしている。(^^;)
寅もまた、ニコー(((((^^;)
おいちゃん「あの、お、今、お客さん…来ていたろ」ニコー(^^;)
寅「いたよ」ニコー(((^^:)
おいちゃん「ふんふんふん、ち、よっと前にいらっしゃったんだ」
寅「そうかい」
おいちゃん「うん」
寅「よかった」
おいちゃん「うん、へへへ、うん」
寅、ゆっくり人形を拾い、おいちゃんのほうに進む。
おいちゃんビビッテ後ずさり。
寅、スッとおばちゃんの隠しているクツに目をやり、
手で持ち上げる寅。
湯のみ茶碗が置いてある机の上にドカッとおく
こわ〜〜〜〜((((((;−−)
一同唖然…
人形をおいちゃんに渡して
またニコーっと笑う寅。
おいちゃんもニコー…
さっき工場へ逃げた工員たちも庭から恐る恐る眺めている。
そこへいつものように間の悪いタコ社長が騒々しくやって来る
★★ハイ!来ましたよ〜!、
お約束の人が(^^;)★★
ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ
社長「なんだなんだ、もう休み時間は終わったんだぞ」
寅が笑顔で立っているのを見て
社長「よう!、寅さんこいつらに聞いたよ、
近頃は春子先生とうまくやっているんだってな。
こないだも水元公園でさ、
アベックでボート漕いでたって言うじゃないか、
この色男〜〜!!」
と、寅の胸を突付く。
寅、ニッコニコ(TT)
寅、大笑いしながら
社長の顔を両手でこする。
ああああああ((((((_ _;)
突如豹変して
寅「このヤロウ!!!(バシッ!!)」
と、思いっきり社長の頭をぶん殴る。
社長「いてえ、何すんだ、この!!」
と反撃しようとする社長。
みんな必死で二人を引き離す。
博「杜長!まあおこらないで、
今ちょっと兄さんには事情があって……」
そうそう、凄い事情(^^;)
寅、いきなり振りほどいて表へかけ出して行く。
おいちゃん「寅さん!、寅さんよ!」
社長「ああ、痛ェ…、どうしたんだよ、一体全体」
一同、それにかまわず、
極度の無酸素状態&金縛りから解き放たれ、
とにかく今はホッと生きた心地で、溜息をつく。
ヘナヘナとしゃがんでいくおいちゃん。
帝釈天参道 深夜
通りは全く無い。
犬が吠えている。
とらや 風呂場
このように風呂場の脱衣場がスクリーンに映るのは珍しい。
春子先生がお風呂上りに、髪の毛を梳かしている。
仏間には夫婦の蒲団がすでに敷いてある。
おばちゃん、
寅が持ってきた人形をぼんやりなでている。
おいちゃんも布団の上で上半身起きて、
寅のことを考えている。
春子先生やって来て、
春子「おばさん、」
おばちゃん「はい」
春子「これどうもありがとう(乳液を返す)」
おばちゃん「はいはい・・」
春子「(心配そうに)寅さん、
まだお帰りにならないの?」
おいちゃん「なーに、どこかで酒でもくらっているんでしょ。
ご心配にはおよびませんよ」
春子「………」
おばちゃん「先生、大丈夫ですよ、よくあることなんですから」
と、おばちゃんも笑顔。
春子「そうですか…」
春子先生、食卓の上に置いてある
寅の土産の人形に気づき、手でとって、
春子「あ〜ら、変わったお人形さんねェ〜」
と、お茶目に、ほっぺたを膨らませて、
顔まねをする春子先生。
このシーンは私は好きだ。
あの人形は寅なんだろう。
寅の悲しい気持ちが、春子先生の
ユーモアによって救われるような、増幅されるような、
不思議な気持ちになる。
春子「フフフ」と、お膳に戻し、
春子「じゃ、おやすみなさい」
おばちゃん「おやすみ」
おいちゃん「おやすみ」
春子先生「おやすみなさい」
ここだけ、小津さんの映画みたい(^^)
二階へ上がってゆく春子先生。
おばちゃん「ね、あたしもやっぱり心配だよ」.
おいちゃん「帰って来てからひと荒れあるかな」
おばちゃん「そうだねエ... 」
おいちゃん「へたすりゃ、一つや二つぶんなぐられる覚悟を
しておかなきゃいけねえな」
おばちゃん「いやだよ、ね、
やっぱりさくらちゃんのアパートに
泊まりに行こうかしら」
おいちゃん「おそいよ、もう」
その時、表の戸のあく音がする。
おいちゃん「おい、アイツだぜ、で、で、で電気、早く早く」
おいちゃん速攻で襖を閉めて、蒲団へもぐり込む。
おばちゃんん、電灯を消す。
おいちゃん「(ささやき声で)とにかくな、寝たふりをしとけよ」
とらや 店
寅、酔っ払っているのでふらつきながら
ゆっくりとを閉めカーテンを閉める。
店の真中に立ちどまってしばらく何か考え、
階段のほうに歩いて行き、
灯りのついている二階を見上げる。
ここの場面は、脚本では、
『二階へ上がり始める』となっていて、
より積極的な行動に出ている。
二階からさしていた灯りがフッと消える。
そして脚本では、
『寅、階段に足をかけたまま、動かなくなる』と、なっている。
脚本では階段に足をかけていたのだ、寅は。
本編では
暗闇の中、寅はそれでも二階を見上げ続け…
やがて、ゆっくり顔を二階から視線をそらし…
下を向いてしまう。
最後のギリギリの愛情が
ゆっくり諦めの心に変わっていく静かな時間だった。
美しい演出...。
とらや 仏間
真っ暗な部屋
おばちゃん「何してるんだろ」と無声音でささやく。
おいちゃん「しッ、しー」
その時、障子がそっと開き、茶の間からの灯りがさしこむ。
さくらのテーマ流れる
寅「…何だよー…、
すっかり年とっちまいやがって
おいちゃん、おばちゃんよー、
毎度のことながら、また笑いものになっちまったい、
…オレァ旅に出るぜ。
寅の目に涙がにじんでいる。
なア、今度もまた、何ひとつ恩返しらしいことは
してやれなかったなぁ…、
そのうち必ず、必ずいい目見させてやるからよ。
勘弁してくれよ、身体だけは大事にしてな、
二人仲良く長生きしてくれよ……。
(思い出したように)
ああ…、
春子先生によろしくな、あばよ」
涙をふきながら障子をそっとしめ、
部屋の隅のトランクを手にもって店に下りていく。
入口の戸をあけて表へ出ようとするが、
寒い風に身を震わせ、
一瞬出るのをためらう。
寅「はあーッ」と震えている。
やるせなさが感じられるなんともいい演出だ。
仏間
おいちゃん「もう出てっちまったか」
おばちゃん、起き上がって障子をあけ、
店の方をちょっとのぞき、
おばちゃん「いっちまったようだよー」
おいちゃんも起き上がり、
おいちゃん「行ったか、やれやれ:…・
汗かいちゃったなア…、
襖があいた時には一体何をやらかすかと思って、
ゾッとしちゃったよ」
おばちゃん「何言ってるんだよ、
あたしゃ、かわいそうになっちまって
涙が出そうになったよ」
おいちゃん「寝たまねなどしてないで
引きとめてやればよかったかなぁ…」
おばちゃん「私もそう思ったけどさア、
私達が目あいてると知ったら、寅さんカッコっかないだろ」
おいちゃん「それよなぁ、オレもそこを考えてたんだよ」
とらや 店
薄暗い片隅で坐り込んで、
出てゆこうか、それともやめようかと
考えていた寅の耳に二人
の話し声が聞こえて来る。
おばちゃんの声「でもいいのかね、ほっといて」
おいちゃんの声「うん、しかしな、毎日ここにいて
春子先生と顔をあわせるのも辛えだろうしな」
おばちゃんの声「本気で惚れてたんかねえ」
寅、立ちあ,がる。
とらや 座敷
おいちゃん「あたりまえだよお前、
馬鹿だねあいつはまったく」
その時、ガタッと戸の閉まる音。
二人、ギョッとする。
おいちゃん「おい」
と、驚くおいちゃん。
おばちゃん「まだ、いたのかね」
二人、おそるおそる店のほうを見る。
戸が開けっ放しで、風によってカーテンが揺れている。
寅が今の今まで
そこにいたことを気づき、
愕然とし、
一点を見つめ続けるおいちゃん。
切なくてどうしていいかわからないで
そっとおいちゃんを見るおばちゃん。
デリケートな心の動きを追った見事な演出、
そして森川信さんの見事な芝居だ。
クラリネットによる
メインテーマがゆっくりと流れていく。
あわてて出て行ったのだろう、
カチカチカチと音を立てて
自転車の車輪が今も回り続けている。
カチカチカチ…
この自転車とカーテンのアップの描写は、
この第4作でももっとも、切なく心に残るシーン。
小林俊一監督は、このような丁寧なしっとり感が
あるから好きだ。
メインテーマゆっくりと流れ続けている。
帝釈天 参道
春とはいえ冷たい風が吹く夜の道、
人通りも絶え、静まり返った参道を一人寅がゆく。
プラスチックのさくら
ゆっくり題経寺のほうへ歩いてゆく寅。
帝釈天 参道
とらや 二階の春子の部屋
春子先生の安らかな寝顔。
その横顔に、月光が柔らかく射している。
寅、ふと立ち止まり悲しげに
もう一度うしろをふり返る。
そしてまた襟を立て、
春子先生を想い、涙をこぼす寅。
背中を向け淋しく去っていく。
この立ち去る寅の後姿は余韻が残って何度も観てしまう。
山田監督もこのような叙情感のあるラストを
演出することを得意とするが、
小林監督の静かで落ち着きのある
演出もまた、気持ちが落ち着く。
ちなみに、この作品でも、
第5作でも、寅は夜中にもかかわらず
柴又駅には行かないで、題経寺の方へ行く。
江戸川土手はもうかなり暗く、
国鉄金町駅まで徒歩は危ないと思うのだが…。
月日は流れ 五月
題経寺の新緑
とらや 庭
五月初旬
工場の二階の窓から工員のハーモニカによる
スコットランド民謡「Comin' thro' the Rye」が流れる。
日本語名「ライ麦畑で出逢ったら」
作詞は「蛍の光」で有名なロバート.バーンズ(Robert
Burns/1759-96)
日本にも明治期に入ってきて風紀上、歌詞を全く変えて「故郷の空」で日本中に広まった。
戦後は元の詞を結構忠実にそのまま訳した「誰かと誰かが」が流行る。
私の世代では、そのまたアレンジ版のドリフタ-ズによる「8時だよ全員集合!」での替え歌も
子供の頃流行った。
庭の桜はもうすっかり新緑になっている。
縁先に腰を下ろしている登。
何かの職人に弟子入りしたらしく、
黒足袋に雪駄、会杜名入りのハンテンなど着ている。
登の近くでおいちゃんは盆栽をいじりながら
寅の噂話にうち興じているのだ。
(笑いながら)
おいちゃん「惚れたって無駄だってことは
ハナっから分かってるくせに
どうしてトコトンまでいっちゃうのかねあいつは…」
どうしてハナから無駄なんだろう…。
このラストが縁側パターンは、
後に第8作「恋歌」でも貴子さんを交えて演出される。
登、笑いながら
登「そんなきれいな人でしたか、その先生ってのは」
おいちゃん「もう、そりゃちょっとしたもんだったな、
あの先生がとらやにいるとね、
まさしく『はきだめに鶴』
だな、なあ、かあちゃん」
この場合、おばちゃんも『はきだめ』の一員...ああ...(TT)
おばちゃん「自分だって相当いかれてたくせに」
おいちゃん「へ、妬いてやんの婆ア」
おばちゃん「バッカバカしい、妬くほどの面かねェ、ハハハ」
このおばちゃんのセリフは、後に第25作「ハイビスカスの花」で
リーリーが寅に怒って言うセリフ「妬くほどの男か!鏡でてめェのツラ見てみろ」
おいちゃん「イアハハハ、ま、そこだよな、
オレなんざテメエの面考えて
すぐころっと諦めちゃうけど、
そのへん寅の奴は馬鹿なんだなア」
おばちゃん「なあに、程度の違いなんじゃないのかい、男なんて」
おいちゃん「ナアハハハ」
さすがおばちゃん、なかなか鋭い。
でも寅の場合はあまりにも極端だ。
沈んでいる登。
おばちゃん、かしわ餅の乗った皿を差し出して、
おばちゃん「さ、登…あれ?」
おばちゃん、笑いながらふと登の顔を見ていぶかしむ。
登、涙をいっぱいため、うつむいている。
おばちゃん「どうしたんだい、登ちゃん」
工員の吹くComin' thro' the Rye「故郷の空」が
ずっと流れ続けている。
登「…みんなオレが悪いんですよ…-
オレがあんなへまな旅行杜に勤めちまったもんだから
兄貴は、兄貴はオレのために、エエエエエ……」
こぶしを顔にあて、泣きじゃくり始める登
おいちゃん「オイ、泣くこたないないさ…
何もお前だけが悪いんじゃないんだからよ」
おばちゃん「そうだよ、寅さんだって、
そんなこともう気にしてやいないよ」
このシーンのアフレコ、映像では
かしわ餅をおいちゃんに勧められて食べ始める登なのだが、
セリフ的には↑のようにおいちゃんと
おばちゃんが親身に慰めている
ことになっている。でもそんなに変でもないから不思議だ。
仏間のお膳に置かれている、寅の人形。
これは第1作のラストで使った技法。
思い出のおもちゃが手前にあり、在りし日の寅を思い出すやり方。
第1作では奈良で買った『ピンクのバルーン鹿』
九州 大分
由布岳 大分県由布市湯布院町川北
長因寺がある風景
勇壮な由布岳のふもとを走る久大線
ポオオオーッっと汽笛を鳴らして
もうもうと煙を吐きながら蒸気機関車が疾走する。
見事な映像、ロケハン部隊の勝利!
車内で寅の【泥棒騒動】の話に耳を傾けている大勢の乗客たち。
この第4作はかなりの低予算で作られているゆえに、
おそらく渥美さんたちは九州のロケはしていないはず。
大船撮影所から日帰りで行けるSLの動く路線は大井川鉄道だ。
おそらく静岡の大井川鉄道で車内ロケを行ったと私は思っている。
寅「その泥棒はよ、
オレたちが待ってるってことも知らないでよ、
鼻歌か何か歌いながらね、
そ〜っと開けて入ってきやがんの」
客たち「う〜ん、ん」
寅「ねえ?そうするとよ、
誰もいねえはずの部屋ん中に
おめえ、ストーブがぽ〜っとついてんだよ。
そこんところは泥棒の野郎おっちょこちょいだからよ、
北風にピューっと吹かれて
フー寒いなんて言ってやったのがね、
ストーブがついてたもんだからスーっとそば行ってよ、
『こりゃいい』なんてあたってやんの!」
一同「ガハハ!」
タコ社長の奥さんの水木涼子さん登場!
柴又の八百満のおかみさんも登場!
寅「うわ〜あったけえ。…なぁ〜んてね。
野郎言ってるうちにハッと気がついたんだよ。
どうして留守の家に
こんなストーブがついてんのか、ね。
ハッと気がついて逃げようとした、
この時遅く、この時早く、
野郎の襟をぱっと捕まえて、
頭ボカボカボカとぶん殴ってやったんだ。
こりゃまた根性のねえ泥棒でねえ、
『どうか命ばかりはお助けください』と、こう言うんだよ。
『なにをぬかしやがるんだよこのやろう!
警察に突き出してやる』
メインテーマがテンポよく大きく流れていく。
車掌も思わず寅の話にひきこまれる。
オレが110番へ電話しようとすると、
弟がよ『兄さんしばらくお待ちなさい、
警察へ連絡する、警察が来るわ、
ここに私たちが隠れてるのがわかっちゃいます』
これ言われて、オレは大弱りよ。
しょうがねえんでね。
なけなしの1万円札を泥棒にやって
『どうぞお帰りください』と、頼んだんだオレは!ハハハハ!」
一同「ガハハハハ!!」みんな大爆笑
寅の最後のオチは、即座に分かるって言うより、
聞いているほうに一瞬の考える『間』があるオチだ。
タコ社長の奥さんの水木涼子さんも寅の隣で大笑い。
この笑いの直前の一瞬の『間』があったのは水木さんだけ。
他の大部屋さんと比べて水木さんがダントツ一番上手い。
こういうタメがある演技が出来るところはさすがだ。
↓
オチの瞬間他の人たちはすぐ笑ってしまっているが隣の水木さんだけはまだ笑っていない。
0,5秒後、オチが理解できて水木さんの顔が爆発的に緩み大笑いし始める。これが『リアリティ』というものだ
テーマ曲大きく広がり高まっていく。
なぜか大分県でなく、最後のこのシーンは
熊本県芦北町田浦町
疾走する鹿児島本線 蒸気機関車
現在この区間は第三セクターの肥薩おれんじ鉄道
それにしてもなぜ、わざわざこのラストだけ
大分と逆の熊本県の風景を採用したのだろうか!?
不可思議だ・・・・
ところで
つい最近まで、このラストシーンは別府温泉の入り口付近だと勝手に思い込んでいたのだが・・・
私のサイトをご覧くださっているY.Sさんからのご指摘で、このラストシーンが別府付近ではなく
別の場所だとわかったのだ。
しかしY.Sさんもどこだろう・・・と、本当のロケ地は分からなかったのだが、
私の長年の寅友のちびとらさんが昨年到達されていた!
そして2020年4月30日
昨夜、SNSで詳細な場所を教えてくださったのです。
この疾走する機関車と賑やかな車内の会話がたまりません。
私は第4作のこのラストの緩急を見たいばかりにこの作品を見る時が多いのだ。
春子先生の部屋をそっと見上げ、移りゆく寅の表情。
回る自転車の車輪と風に揺れるカーテンの描写とおいちゃんのあの表情。
参道をひとりひっそりと去っていく寅の背中。
そしてラストのダイナミックなはじけるような笑い。
このラスト8分はなんともメリハリのある名場面の連続だった。
パワフルという意味では第3作の「フーテンの寅」が数段パワフルだが、
この第4作のラスト8分にはしっとりとした『大人の品格』がある。
小林監督の懐と経験の結実がまさにそこにあるのだ。
山田監督との違いをあえて言うなら、
小林監督には、山田監督に密かに内在する引き裂かれた精神が無い。
それゆえシンプルだが、そのまなざしは温かく、懐は深い。
第4作は、透明な優しい風がいつもスクリーンに吹いていた。
人が息づく町とはこういう町のことを言うのだ。
第4作を見た後、今日も少しだけ素直になれる自分がいる。
終
渥美清 | 車寅次郎 | |
倍賞千恵子 | 諏訪さくら | |
栗原小巻 | 春子先生 | |
森川信 | 車竜造 | |
三崎千恵子 | 車つね | |
前田吟 | 諏訪博 | |
財津一郎 | 泥棒 | |
佐山俊二 | 蓬莱屋 | |
二見忠男 | 弁天屋 | |
横内正 | 会沢隆夫 | |
津坂匡章 | 登 | |
佐藤蛾次郎 | 源吉 | |
太宰久雄 | 社長 | |
笠智衆 | 御前様 | |
浜村純 | 旅行会社社長 |
|
三島雅夫 | 吉田医師 | |
スタッフ | ||
監督 | 小林俊一 | |
製作 | 斎藤次男 | |
原作 | 山田洋次 | |
脚本 | 山田洋次 | |
宮崎晃 | ||
企画 | 高島幸夫 | |
撮影 | 高羽哲夫 | |
音楽 | 山本直純 | |
美術 | 宇野耕司 | |
編集 | 石井巌 | |
録音 | 小尾幸魚 | |
スクリプター | 久保哲男 | |
照明 | 青木好文 |
公開日 1970年(昭和45年)2月27日
上映時間 92分
動員数 48万5000人
配収 1億3000万円
今回で第4作「新.男はつらいよ」は完結いたしました。
次回は、いよいよ中期のザッツ.エンターテイメント、
第19作「寅次郎と殿様」前編です。
更新は、日本に帰国した後の5月初め頃となります。
お楽しみに。
男はつらいよのトップへ戻る
一番最初のページ「バリ島.吉川孝昭のギャラリー」へ戻る