バリ島.吉川孝昭のギャラリー内
第9作 男はつらいよ
1972年8月5日封切り
6月28日『松村達雄おいちゃん』名場面集
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「ほら、見な、あんな雲になりてえんだよ…」
松竹をあげての大作となった第8作「寅次郎恋歌」は予想通り大ヒットとなった。ピカデリーの一劇場のロードショウだけでペイし
てしまったという盛況ぶり。第7作の観客動員数を大きく上回り、いよいよ会社としても、スタッフ達にとってもう後戻りができない
ところまで来たのだ。第9作のマドンナには当時すでに大スターだった吉永小百合さんを遂に起用。渥美さんも珍しく吉永さん起用
に自ら大いに乗り気で、スタッフ、キャスト全てが地に足をつけながらも乗りに乗り始めたのがこのあたりである。本編を見ていて
も渥美さんは吉永さんとの共演が実に楽しそうである。吉永小百合がマドンナ!もうこれだけのことで画面が一気に活気付く感じ
がする。事実吉永さんは親との関係に少し問題のある薄幸の美しいお嬢さんを集中力をもって生き生きと演じていた。
また、この作品ではもちろんマドンナに案の定振られるが、第8作でもそうであったようにもうあからさまに振られることはない。寅次
郎は作品を経るごとに、ある意味どんどんかっこよくなっていくのである。第10作にいたっては遂にお千代さんに惚れられてしまう、
というすごい状況になっていく。このあと第18作あたりまで絶好調は続いていく。また、この作品で華やいでいた吉永小百合さんを、
山田監督が放っておくはずもなく第13作「恋やつれ」で同一人物のマドンナ、つまり続篇として再登場してくるのである。役が同一
人物(続篇)のマドンナは浅丘ルリ子さん、後藤久美子さん、そしてこの吉永小百合さんの3人だけである。3人とも強烈な魅力を放
ち、スクリーンに美しい花を咲かせていた。もっとも山田監督が後に語っていたところによると、歌子ちゃんをもう一度(3回目の登場)
させる案がかなり進んでいたようで、大島の養護施設を辞めた歌子ちゃんが寅に再会することになっていたらしい。これは実に、観たか
った話だ!残念…。
この第9作は物語の深さ、構成の力強さでは第8作に及ばないが、若々しい風が映画の
中を吹いていてそれまでの「男はつらいよ」にない「華」がある。そういう意味ではとても観やすく楽しめる作品ともいえる。
また、第8作後に亡くなられた森川信さんにかわり、新しいおいちゃん役を松村達雄さんがこの第9作から演じている。初代のおいちゃん
があまりにもすごいので、松村さんは大変だっただろうと思われる。しかし、おとぼけの森川さんとはまた違った、チャキチャキのキップ
のいい人情味溢れるおいちゃんを見事に演じていた。松村さんもほんと名優だと思う。
物語終盤、さくらがどうしてまた旅に行っちゃうの?って聞いた時、江戸川の土手にねっころがりながら寅次郎が空を指差し言うセリフ
「ほら、見な、あんな雲になりてえんだよ…」 は私の心を代弁してくれる名言だ。
■第9作「柴又慕情」ロケ地解明
全国ロケ地:作品別に整理
今回は「夢」がある。
戦前の頃の貧しい漁村。
五十嵐助監督によると
『越前岬手前の福井市長橋町の海岸』だそうだ。
さくらが浜辺にいて借金取り(吉田義男)たちが押し寄せてきた。という設定。
お金がないので、鍋、布団、漁の網、などを持っていこうとする。
そこへ故郷を捨てて長らく帰ってこなかった寅次郎が戻ってくる。←木枯らし文次郎風に長い楊子をくわえている。
金貸し「なんじゃい、わりゃ!…!おのれは車寅次郎!」
寅「無駄な人殺しはしたくありません。もし、金で済むことでしたら…」
ぽいっと札束を前に放る。
寅「こんなもんで足りますでしょうか?」
金貸し「ええやろ、今日はこれで勘弁してやら。おい、行こう」
子分たち「へい」
博たち「どこのどなたか分かりませんがありがとうございます。」
寅、札束を子供に持たせて、「その坊やに飴玉の一つも買ってやっておくんなせい」
博「もし、旅のお方、今確かに寅次郎さんとか…」
さくら「私には今を去る20年前、ゆくえの知れなくなったたったひとりの兄がおりました。その名を寅次郎と申しましたが、もしやあなた様は
その寅次郎様では…」
寅「よくある名前でございますよ」←ないない
さくら「でも、そのお顔は…」
寅「よくあるツラでござんす。お人違いでございましょう。…先を急ぎますので…」←めったにないよその顔は
さくら追いかけながら「お兄ちゃん!」
泣き崩れる(スローモーション)
とにかく当時流行った『木枯らし紋次郎』を意識した夢なのだ。
本編最初のほう、一軒家の新築を計画しているさくらたちに対して何もしてあげれない寅のふがいなさを結果的
には連想させることとなる夢(この夢では逆に札束を差し出すが)となっている。
夢としてはあまりユニークなものにはなりえていない。
私の寅友であるロケ地めぐりの達人
「さすらいのサラリーマンさんこと寅増さんが
この長橋漁港の地を日本で始めて踏まれている。
グーグルアースや実写画像を見て行くと、ピンポイントで場所がわかる。
ピンクで示した部分がロケが行われた場所。
福井県福井市長橋町18番地-6付近(海岸)
橋のたもとのさくらの家は
長橋町8番地44付近(海岸)でロケ。
夢が終わり、
小さな駅(かなひら駅)の待合室の長椅子から落ちてしまう寅
寅「あっ、痛っ!」
駅員さん、窓の外から「お客さん、乗りますか?出ますよ」大杉侃二朗さん出演!
寅、はっと気づいて、「おぅ、すまねえ、すまねえ」とカバンを持って一両列車に飛び乗る。←単線
駅員の笛。『ピィ―ッ!!』
動き始める列車。見送る駅員 ロングで長めに…
この駅は雰囲気があった。
タイトル 「男はつらいよ 柴又慕情」
口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、
姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。」
♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前の喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪
♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
目方で男が売れるなら こんな苦労も
こんな苦労も掛けまいに 掛けまいに♪
今回のコントは柴又に戻ってきた寅が江戸川の土手で子供の釣竿を借りて振り回す寅が
案の定カップルの女の子の帽子を釣り上げてしまい、
今回はタコ社長が河原でゴルフをしていて寅が割って入ってドタバタ。
とらやの常連が歌の中の喜劇に出てくることは珍しい。
帝釈天の二天門前
さくら「こんにちは」
満男「こんにちは」
御前様が山門の上を見上げている。
さくら「なに見てらっしゃるんですか?」
御前様「燕の巣だよ」
さくら「今年もやっぱり帰ってこないんでしょうね」
御前様「ああ…、この辺も住みにくくなってしまったかな…。もう片付けるか」
さくら、満男の顔を拭きながら
さくら「でも、もし来年帰ってきて自分の巣がなかったら可哀想ですもの…」
御前様「…うん…、あんたらしいこと言うね。」
さくら「え?」ちょっと間をおいて少し照れるさくら
この場面はさくらたちの寅への思いが燕(寅)と巣(とらや)に置き換えられた、
温かい気持ちになれるいいシーンだ。
参道をとらやへ歩いていくさくらと満男。
この第9作は中村はやと君お休みで、沖田康浩君が臨時の満男を務めました。
源ちゃんこと佐藤蛾次郎さんは肋骨をたくさん折った交通事故で第8作は休んだが
この作品からまた復活!し、結果的には最後の48作まで休みなしで出演する。
とらや
今回は『ペプシ』の冷蔵庫←黄色がやたら目立つ。
(ラストでもペプシの車に登と一緒に乗る)
磯乙女50円 茶飯100円 焼き団子50円
アイスクリーム50円 赤飯100円
黄金餅50円 あんみつ100円
さくら、店先にかかっている『貸間有り』の札を見て、不思議に思う。
さくら、昼寝しているおいちゃんに「おいちゃん、、おいちゃん」
おいちゃん「おう、さくら、来たか」←松村おいちゃん初発言
おばちゃんも2階の雑巾がけから降りてきて「おや、来てたの」
さくらに理由問われて
おいちゃん「ホラ、お前達もいよいよ家建てる決心しただろう。
それについちゃ、俺たちも何か応援しなきゃならないし、かといって
金はねえし、だから2階貸してさ、いくらかでもお前達の足し前にしようと。
こういうわけなんだよ」
おばちゃん「不便な部屋だからねえ、いくらも取れないだろうけど、
まあ、畳の一枚、柱の一本にでもなるだろうと、思ってさ」
さくら「そう…、おいちゃんたち、そんな心配してくれてたの…。どうもありがとう」
おいちゃん「何も、そんな礼なんかいうほどのこたあねえんだよ。
本来だったらまとまった金のいくらかをポンと出して、これで
建てな、っと、こう言いてえところなんだけどな」
おばちゃん「金もないくせに格好のいいことばっかり言いたいんだからこの人は。
誰かさんとよく似てるよ」
おいちゃん「なに言ってやがんだい、
しかたねえじゃねえか血続きなんだから寅とは」
おいちゃん、はっとして「おい、そういやさ、そろそろ寅が帰ってくる時分じゃねえか?
…、こらいけねえ、大丈夫かな…」
おばちゃん「だけど、さくらちゃんたちのためにやるんだからさ」
さくら「うん、…実はね、私もそれが心配なのよ…。
お兄ちゃん何と思うかしら」
おいちゃん「寅、怒るかな…」
さくら「だって、もうお前の部屋はないよ−って言ってるようなもんじゃない」
おいちゃん「そうか…」
さくら、それなら第6作の夕子さんはどうなるんだい?
おいちゃん「おまけに魔除けの下に下げちゃったよ。
魔除けじゃなくて寅よけなんだよ。寅さん、こんさい、こんさい」
おばちゃん「なに言ってんのよ、冗談言ってる場合じゃないよ」
そこへタコ社長飛んできて、ゴルフしてたことを寅に見つかった、と言って、
あせっている。ガラじゃないことをからかわれたのだろう。
これでもうすぐ寅がとらやに来ることがみんなにわかってしまう。
おいちゃん、あせって「どうする」
おばちゃん「何が?」
おいちゃん「貸間ありの札よ。え…、どうしようか。おい…」
さくら「とにかくはずしたほうがいいんじゃない。見つかる前に」
一同外を見て『はっ』とする。
寅が前の道にもう来てしまっている。
おいちゃん「あっ!もう来ちまった!」
おばちゃん「知らん顔して!」
寅、いつものように入りにくそう、いったん立ち去って、
また戻ってくる。ニコッと笑って店に入ってくる。
寅「さくら!」といいつつ、
はっ!と気づいて店先に戻って
『貸間有り』の札を見る。
効果音 ドン!よっ!ぺペン!、
ペンペンペンペン!ピ〜ピ〜ピ〜!三味線、尺八
寅、顔をうつむき、出て道に行く。
江戸屋さんの前でションボリ
横にいた源ちゃん、事情がわかって「ヒヒヒ!」と笑う。
蛾次郎さん怪我も治って第9作からまた出演!」
寅、怒って源ちゃんを追いかける。このシーンは
全てパントマイムこういうパントマイムが渥美さんも蛾次郎さんも実に上手い!
おいちゃん「どうしたんだよ、あのバカ!」
みんなで店先に出て行くと戻ってきた寅と「ドーン!」と
ぶつかって、みんなとらやの店の中に倒れこむ。
寅は仁王立ちでブスッ。
寅、また歩いて駅の方へ行く。
さくら追いかけて
さくら「ねえ、お兄ちゃんどうしたのよ?」
←さくら、それはないよ、分かってるくせに。
寅さすがに怒って「てめえの胸に手を当てて考えてみろよ」
さくら「何のこと?」←まだシラを切るさくら」
寅「とぼけるな!あの魔除けの札の下の、
あの札はなんて読むんだ?」
さくら「ああ…あの貸間有りの札のこと?…」
寅「ほう…!あれがあれが貸間有りって読むのか」
さくら「えっ?」
寅「オレにはねー、もうお前の住むところはないよー!って読めたなー。
ふん!どおせオレは歓迎されざる男だよ。
もうちっと落ち着くところをてめえで探さぁ…、達者でな」
さくら「…」
とらや
さくら、とらやに戻って貸間の札を指でくるっと回してしょんぼり入ってくる。
博「兄さん、どうした?」
さくら「怒って行っちゃったわ…」
おいちゃん「どうして止められなかったんだよ」
さくら、ちょっとブスッとして「知らないわよ」
おいちゃんを押しのけて「邪魔よ」と言いながら茶の間の満男の世話をする。
不動産屋を渡り歩いて部屋を探す寅。
どーせ、すぐに旅に出るのにわざわざ部屋を探すかね(^^;)
不動産屋社長「あなたのようなやわらかいご商売の方は…」←青空一夜さん
不動産屋社長、従業員に「ちょっと、浦安かどっかないかねー?」
寅「それはちょっと離れすぎてんじゃねえか?もうちょっと近場でサ…」
寅「日当たりが悪くたって部屋が汚くたっていいし、
裏が工場かなんかでさ、ねえかい?そんな部屋ねえかい」←それじゃ、とらやだよ。
なかなか決まらない寅です。
次の不動産屋
寅「4畳半でも3畳でもいいんだよ。
寝られりゃいいんだからさ、
廊下の隅でもいいよ。
でもオレくらい注文の少ない店子もそうざらにはいないよ」
店主「ごもっともです」←桂伸治さん
寅「なーっ、ま、欲を言やぁさ、親切な女将のひとりもいて、
オレが仕事から帰ったら疲れて帰ってくる。『お帰りなさい。疲れたでしょう』
そんなひと言を言ってくれりゃ十分よ。」
店主「なるほどね」
このあたりから『埴生の宿』のメロディが流れる。←「住みか」がテーマなので
寅「あっ、風呂なくていいよ、オレ銭湯大好きだからね。
『ひとっ風呂浴びてらっしゃいな。
帰ってくるまでに晩御飯作っとくから』
タオル、洗面器、シャボン、
『どーせあんた細かいお金ないんだろ』40円!ポンともらって
『じゃ言ってくるか』『いってらっしゃい』
やがてオレは風呂へ行く。帰って晩御飯になる。
ね!オレはおかずなんてなんだって
いいな。どおせ家賃はたいしたことないんだからさ。
そうねぇ…、おつまみに刺身一皿、煮しめにお吸い物、
卵焼きがあってもいいし、
おひたしなんかもあったらいいな。
お銚子3本くらいそっと飲む。昼間の疲れで、
つい、ウトウトッとなる。ね!女将はそれを見て
『さくら、枕を持てっておやり。ついでに
お腰も揉んでやったらいいんじゃないかい』
さくらってのはその下宿の娘よ」
↑見事な寅の『アリア』だ。(現実無視もここまでいくと気持ちがいい)
店主呆れてものも言えない。
寅「どうしたんだ?その面は?」
店主「どっかねー、他探してみてつかぁーさいよ」
そのまた次の不動産屋(かなりボロい)
寅はもう相当くたびれている。
寅「オレ、くたびれたよ、なんでもいいよ。頼むよ」
店主「と、おっしゃいましてもねー…、あっ、これなんかどうかな?」
←お馴染み、いつもは蓬莱谷 OR 備後屋、佐山俊二さん!
寅「あー、それでいい、それでいい、それでいいよ」
店主「家は古いんですけどね。
そのかわりお値段がぐっとお安くなってるんですよ」
とらや 裏庭
満男遊んでいる。
博「満男、アパート帰ろうか」
満男「いやだよ」
博「いやか…」
とらや 茶の間
博「な、さくら、子供のために庭が欲しいなぁ…」
さくら「そうね」
博「しかし20坪の土地じゃあなぁ…」
おばちゃん、また2階掃除して降りてくる。
博「なんですか、今ごろ」
おばちゃん「うん、不動産屋さんがね、お客さん連れて来てくれるんだって」
博、さくらに「いいのか、兄さんは…」
さくら「しかたないのよ、もともとおいちゃんたちが私たちの
家のために考えてくれたことなのよ。それを訳も聞かずに…
あんまりよ。他に寝る部屋もないわけじゃないんだし」
博「そうか…、そりゃそうだな。でもなるべくいい人が来てくれるといいな」
おばちゃん「堅気の勤め人なんか」
博「公務員なんかいいなあ…」
車が止まる。
おばちゃん「あっ、来たらしいね」
博、満男に「あっ、ブーブーだぞ」
不動産店主「ごめんください。先ほどお電話しました」
おばちゃん「ご苦労さま」
不動産店主「お客様をお連れしました」
寅、車の中で寝ている。起こされて、
寅「あー、みなさん、あっ、こりゃどうもお世話になります、皆さん」
不動産店主「みなさん、いい方ですよ」
寅「あー、そうですか…、へぇ、
…おでんに、茶めし、商いやってるのか。
『や.ら.と.屋』さんね。←とらやを右から読んで(^^;)
寅、不動産屋にむかって
寅「おじさん、オレも以前ね、
こうした家にご厄介になったことあるんだよ」
不動産店主「よく言うよ」
寅「本当だよ、」っていいながら一同を初めてまじまじと見る。
寅「あ〜あ〜!!!
ばかやろう!ここはオレの家だい!」
不動産店主「冗談ばかり言って」
寅「本当だって!!」
不動産店主「またまたまた―!」
寅「いいかげんにしないとぶっ飛ばすぞ!本当に!」
寅、店を出て行こうとする。
さくら、止めながら「お兄ちゃん!」
博「二階を貸すにはいろいろと事情があるんですよ。
とりあえず上がってください」←博、今回のことは自分が係わっているので低姿勢。
さくら、不動産屋を押しのけて、「そうよ、とにかく謝るわ。だから中に入って」
←小柄な佐山俊二さんが邪険にされるのが笑える。
佐山さんはこのような弱々しく邪険に扱われる役が実に上手い!(^^;)
おばちゃん「おまえの好きなおイモ煮てあるから」←ガキ扱い
博「一杯やりながら話聞いてください」
不動産屋「ほんとのことなんですか?」
さくら、きっとなって「私の兄なんです!」←ムキニなるさくらって笑える。
寅「そうか…、みんながそうしてオレに頼むんだな。
だったらいいだろう。上がってやるよ。」
一同安心して「そうして」
みんなで茶の間の方に行く。
不動産屋、にこにこして「話はついたらしいですな」
博「ついたもつかないも私の兄ですから」
不動産「そうなると、私の方の手数料なんですが、
手数料は家賃の1か月分の6000円頂戴いたします」と、にこにこ
博「は?しかし、私の兄なんですから…」
不動産屋「いや、兄であろうとなかろうと、ビジネスですから」
茶の間から寅降りてきて
寅「おい!冗談言うな!オレがオレの家に帰ってきて
どうしておまえに6000円払わなきゃならねえんだ!!」
不動産屋「払えないと。そんなら、出るとこ出ましょ!」
寅「出るとこって面か!この野郎!
出るものが3日も出ねえような面しやがって!帰れ!帰れ!」
不動産屋「何だこの野郎、暴力を振るうのか暴力を!ふん!おい、やるのか!」
寅「なに!てめえ!やるのか!」
博「ちょっと待ってください!お金払いますから、さくら、お金」
寅「さくら!!金なんか払うこたねえ!てめえなんかに
払うくらいならドブに捨てた方がいいや!!」と不動産屋に詰め寄る
博、不動産屋をひょいと抱えてキャッシャーの
カウンターに乗せて非難させる。←佐山さんカウンター上でも絵になる!
佐山さん博にも雑に扱われて面白い!いい味出しているなぁ。
さくら「お兄ちゃん!!」
博「兄さん!」
すったもんだの大騒ぎ
騒ぎが終って…
とらやの茶の間
寅「もとはといえばそっちが悪いんだぞ!えっ」
オレのたった一つの安息の場所をよ、
断りもなしに見ず知らずの他人に
貸し与えて少しばかりの小銭を稼ごうって
そういうきたねえ魂胆だからこういう罰があたるんだよ」
さくら「お兄ちゃん、なんべん言ったらわかるのよ、
私たちのアパートがだんだん狭くなってきたうえに、
家賃は値上げでしょう、そんなことなら
思い切って家建てたらどうだって、
社長さんが20坪ほどの土地を貸してくれたのよ。」
←社長の土地ってどこにあるんだろう。
寅「あーわかってますよ、この際物入りが続くから
大飯食らいのオレの部屋を
そのままにしておくよりは、ちゃーんとした人にお貸しして
月々家賃を頂いたほうが得策でしょう、へっ!!
どーせ役立たずのおいちゃんが考えそうなことだ!」
おいちゃん怒りでワナワナ震える。
寅「オレは部屋を貸したことで文句言ってるんじゃねえんだよ。
ひと言挨拶があってしかるべきだろう。それが常識ってもんですよ!」
さくら「じゃあ、どうすればお兄ちゃんに
相談できるっていうの?」
寅「なにぃ!」
さくら「そんな時、どこへ行ったら
お兄ちゃんに会えるの?」さくらの顔悲しげ…
寅、さくらのこの言葉に何も言えずに黙ってしまう。
博「とにかく、この6000円は僕達で払いますから。この話はその辺でね」
社長「そうそう、この辺でな、収めようじゃないか」
寅「何言ってやがんだい。この野郎!」
社長「なあ、寅さん、お前だって不愉快だろうけど
博さんたちだってあんまりいい気持ちじゃないんだよ。
な!肉親のお前が帰ってきて
金を払わされるんだもんな。
ただでさえ迷惑なのになー!…!!」
←社長 『あちゃ−!』 という梅干顔!
一同 やばいって顔
寅「タコ…、てめえ今何て言ったんだ?オレが帰ったらそんなの迷惑か!!」
社長逃げる、寅首根っこをひっ捕まえる
社長「間違いだ!間違いだ!」
おいちゃん遂に怒って「何が間違いだ!その通りだよ!」
寅振り返って「なんだと!!?」
寅「おいちゃん!今何て言った!!」
おいちゃん「おまえが帰ってくるのは迷惑だよって!!」机をバン!!と叩く。
寅「おいちゃん!」と言いつつ、おいちゃんの体をひっぱる。
寅「よくそういうことが言えるな!
よくそういうことが言えるな!!
あっ、オレは出ていこ、
出て行ってやるよ!へっ!なんだこんなボロ屋が
、家賃が6000円だと!?誰が払えるんでい!」
おいちゃん「悔しかったらてめえで払ってみろ!」
寅怒って「どうしてそういうものの言い方!」
と言いつつ、
おいちゃんをこかし足をグリグリ攻撃する。
この足ぐりぐりはその後も繰り返される。
おばちゃん、博止めに入る
さくら「やめて!!」
博「我慢してください!我慢してください!
今度の責任は僕にあるんです」
寅、博を睨んで「あたりめえだよ!いけないのはおまえたち夫婦だよ!」
さくら、複雑な表情
寅「なにぃ!?家を建てるって!?
ケッ!!10年がとこ早いよ!!」
おばちゃん「そういうこと言って」
寅「そうじゃねえか」
博、寅に何か言い返そうと思うが、思いとどまって
博「いや、そのとおりかもしれません。すいませんでした」
寅「そうだよ!なんだ、あんちゃんは
見なくたってお前たちの家が
どんなだかよく分かるよ。
割り箸みたいな細い柱立ててよ、
安い煎餅みたいな壁をペタペタ貼り付けて中へ
お住みになるんですか?
中へよっこらしょっと座ったらストーンと底が抜ける
んじゃねえかおめえ!
そよ風がふわっと吹いただけで
コロンと転がるような家だよ。
みっともねえことはやめろい!
家なんか建てるなんて
生意気なことやめろ!やめろ!」
←寅言ってることがきついぞ!
博、じっと寅を見つめている。
眼に涙がたまっている。
寅「なんだよ!なんだい!どうしたんだい!」
博「…兄さん、ひどいこと言うな…。
いくら兄さんだってそんな…そんな言い方は…。」
(博の目から涙が頬に落ちる)
寅、戸惑いながら、博をじっと見つめる。
一同無言
さくら「言っていいことと悪いことがあるのよ、
お兄ちゃん。
そりゃ私たちの建てる家はどーせ安普請よ。
そよ風でも吹いたら倒れるかもしれないわ。
庭なんかないのと同じよ。でもね、
私たちの毎日節約して5年間に貯めたお金を元にして、
あとはおいちゃんにお金借りたり、都の住宅資金から
お金借りたり、あちこちいっぱい頭下げて
何度も何度も嫌な思いをしてがんばってるのよ…。
そりゃ悪いことしてお金儲けて大きな家に住んでいる人も
いるかもしれないわ。でもね、私たちが建てる家はまじめに
働いたお金で建てるのよ。
博さんだって自分の家が持てるから嬉しくってしょうがないのよ。
お兄ちゃんは…どうして『さくらがんばれよ』って、
そう言ってくれないのよ…。
(さくら泣く。おばちゃんも泣いてしまう。)
おいちゃん、寅の膝叩いてさくらに謝るように促す。
寅じっと黙って、しばらくして帽子をきちんとゆっくり被り、
かばんを持ち茶の間を出て行く。
店の土間で
寅「おばちゃんよ…」
あばちゃん「うん?」
寅財布から数千円だして、寅「今日の6000円と、
残りは博たちにやってくんな…」とおばちゃんの襟元に二つ折りにして入れる。
おばちゃん「あんた、行っちゃうの?」
寅「おいちゃんを大事にしてくれよ」
おいちゃん「寅、どこへいくんだよ、たいしたことじゃないんだぞ、こんなことは」
戸を閉めて出て行く寅
一同がっくり…
おばちゃんがっくり座り込んで「こんなことにならないようにって一日苦労したのにね…」
社長、「ま、なんだよ…、上を見てもキリがねえし、
下を見て暮らさなきゃいけねえって話よ。な、おばちゃん」
おいちゃん「お前の工場より下があるのか?」
社長の顔みるみる悲しげに変化
社長「ひでえよ!そりゃ…言っていいことと悪いことがあるだろ
…オレの工場だってな、
オレが真面目に働いて建てた工場だよ…あんまりだよ…」
と、社長泣きながら家に帰る。
さくらの言葉と社長の言葉をシンクロさせたギャグ。
どんな真面目なシーンでも絶対ただではすまさない山田監督でした。
おいちゃん、頭抱えて「あ〜〜!!!」と唸る
とぼとぼと京成柴又駅の前を歩く寅の後姿が映し出される。
うら寂しく孤独そうである。
自分の言葉がさくらや博をどれだけ傷つけたかを
今更ながらに想像して悔やんでいる寅でした。
この後舞台は北陸の金沢へ…
歌子ちゃん登場
ヨハン.シュトラウスのワルツ
金沢の武家屋敷後などのお決まりの観光地を
歩く若い3人の娘たち。
長町武家屋敷跡 二の橋近く
この二人高橋基子さんと泉洋子さん。
高橋基子さんは「モコ・ビーバー・オリーブ」のモコさんとして
歌を歌ったり、ラジオのパーソナリティとして一時代を築いた。
泉洋子さんは、確かみなさん知っている「サインはV」では、
立木大和に途中加入した部員「ミリ」役。
凄い努力家なんですがドライな性格でチームの和を乱していた。
マリ「ディスカバージャパンか…どこへ行っても同じね…。家に帰りたくなっちゃった」
↑兼六園の霞ヶ池のほとりの茶店内橋亭(私もよく行った)
楽しみながらもどこか覚めている3人。
兼六園の外でバイをする寅(メノウを売っている)
マリが見ている。みどりが「インチキでしょ」と、とりあわないで行ってしまう。
寅「角は一流デパート白木屋、黒木屋さんで、
紅白粉のお姉さんに、くださいちょうだい、
いただきますと千や二千はくだらない品物ですが、
今日は普段お世話になっております
観光客の皆様へ金沢地元民が特別サービスとして
破格なお値段でお願いしてます。
本来なら無料で差し上げたいのですが、
500円でいかがですか。500円!」
いくらなんでも凄い値段のメノウだ、こりゃ!
夕方遅く疲れた感じで宿に帰る寅。
犀川大橋 付近
旅館 百山
旅館に着く。
仲居「おかえんなさい」
寅「うん…」階段を上がっていく
下から登の声
登「おばちゃん、酒1本つけてくれよ。1級酒だぞ」
寅、階段の上から
「ねえちゃん、そんなもんにさけやるこたぁないよ
、ラムネやってくれや」
登「誰だよ?」
寅「わたくし…」
登「兄貴ー!」
寅「登ー!」
登「会いたかったぜ!」
寅「このやろう!相変わらず足洗えねえのかてめえは!!」笑いながら
仲居廊下を覗く←谷よしのさん登場!今回も仲居役。
登「なにしてたんだよ!?」
寅「オレは相変わらず
地道な暮らしよ!」
寅「イーッ!うそこけー!」
歌子たちの部屋
それぞれにくつろいでいる3人
廊下を挟んだ寅たちの部屋
廊下挟んで騒いでいる寅たち
寅「夜ッピシ大騒ぎするか!」
歌子たちの部屋
歌子たち布団に入っている。
みどり「歌子さんたちと旅行するのもこれが最後か…
結婚して子供生んで…女の人生なんてあっけらかんとしてるわね」
などとしんみりしている3人。
年々旅行も飽きがきている様子。
廊下の向こうでは寅たちが騒いでいて
「チンガラホケキョ-の唄」(渥美さんの持ち歌)が微かに聞こえている。
寅「♪一、二、の三、日が暮れてぇ〜、
ホラ、チンガラホケキョ〜、
デコ坊よ〜、帰ろうよ〜♪」
渥美清 / 関沢新一(作詞) / (不詳)(作曲)
/ 小杉仁三(編曲)
ちなみにこの唄は第2作「続男はつらいよ」でも散歩先生への道で歌っている。
第8作「恋歌」でも貴子さんの子供たちがこの唄を江戸川土手で歌っていた。
歌子「子供の時の旅行なんて楽しかったもんね。
あれは小学校6年時だったかかなー。
多摩川の遊園地に父と母に連れられて行って、
飛行機に乗ったり、メリーゴーランドに
乗ったりしたことがあったのよ。
父が珍しく冗談言って笑ったりしてね…。
(ちょっと思い出し笑いしながら)
家の父っていつも着物でしょ、だからメリーゴーランドに
乗るとき「尻っぱしょり」したの。
そしたらその格好がね「ドジョウすくい」みたいで可笑しくって
可笑しくって…、どうってことない家族旅行だったけど
なんだかとっても楽しかったな…」
マリ「その時は、まだお母さん一緒だったんでしょ?」
歌子「母がいなくなる2年前だったわ…」と
遠い昔を思い出して切なくなっている歌子ちゃんでした。
この短い会話で歌子の複雑で孤独な青春期が窺い知れる。
マリ「幸せって、どういうことなのかなぁ…」
向かいの部屋の寅たち宿の女中と歌って騒ぎまくる。
「幸せなら手を叩こう!ホイホイ!〜♪
幸せなら態度で示そうよホラッみんなでキスしよう!!♪」←ゲテです(^^;)
「ウワ−!!」
仲居の谷よしのさん、
48作中の一番の長ゼリフ
「あのねー、お客さん、もしもし、聞こえる?あのねー、
隣のお人がやかましゅうて寝れんゆうておりますがね。
静かにしてくださいよ。もう遅いですしねー。」
女中帰って少し静かになる。
寅「しかし伏見稲荷の時もよく飲んだなぁ…。」
登「ああ、あんときゃ楽しかったなあ。
朝昼晩ぶっ続けに飲んで二日酔いする暇もねえや。
一週間くらいずーっと酔っ払いっぱなしでさ、
体中がアルコール漬けみたいにブヨブヨになってしまってよ。ああ…、芸者が
『危ないから火のそば寄ったらあかんえ』
なんちゃって!!!ハハハ!!!」
寅「おい、おい、その芸者におまえ惚れてたろう!?」
登「よせよー!」
またドタバタし始める。
あげくに登障子に頭突っ込んで廊下に転がる。 ←凄い音
向かいのマリ「静かにしてください!!」と叫んですぐ引っ込む。
寅、部屋の中から「バカァ!廊下で寝ろ!おまえ、ハハハ!」
翌朝 寅の部屋
仲居の谷よしのさん
「あら、起きたん、」
寅「おう」「あいつどうした?」
仲居「お連れさんは9時の汽車に乗らないかんいうてさっき出て
ったがいね。これあんたに渡してくれちゅうて」と手紙渡す。
これも谷よしのさん比較的長セリフ
『本当はオレ、兄貴と一緒にいたいんだけど、
京都の政吉親父に義理があるので
先に行きます。旅の空から兄貴の幸せを祈っています。
それから早く美人のおかみ
さんをもらってください。期待しています。 舎弟 登 拝 』
寅、静かに宿を去る。
福井
歌子たち永平寺を見学。
土産店 「てらぐち」
ローカル線の線路の上をおどけて歩く歌子たち。
マリ、「花より団子」と言って花を見ている歌子を店に誘う。
歩き疲れて味噌田楽のお店に休憩に入る3人。
京福電鉄 永平寺線 京善駅前
戸枝屋というみそ田楽の店。
この店はほぼ駅舎横と考えて良いと思う。
ペプシの看板目立つ。(今回のスポンサー)味の素、
本日豆腐有りの札、みそでんがくの札。
3人「こんにちは…」「おばさん、ちょっと休ませてぇ…」
「あー疲れたもう歩くのヤダー」とへたへたになっている。
ちょっと向こうで酒を飲んでいる寅
寅も歌子たちも昨夜お互い顔は見ていないので気づかない。
歌子マリとみどりの写真撮る。「チーズ!」
歌子「なによその顔、歯磨きの広告みたい!」と笑う。
マリ「ハイ今度は歌子さん」
歌子「いいわよ。フイルムもったいないから」と照れて後ろずさり、
「あー!」と寅のところへ歌子が尻餅。
寅「あー、こっちはいいよ。
そっちは大丈夫かい?」←上手い!
歌子「どうもすいません」恐縮している。
ちょっと気まずい雰囲気が流れる。←寅の見た目は堅気じゃないからねえ。
寅「旅は楽しいかい?」
3人「ええ…まあ…」
寅「そうかい、それはよかった」
マリ「あのー、おじ様も観光旅行ですか?」
←かっこ見て分からないかな…そんなわけないよ。
寅、ふっと笑って「フフ…、そんな気の利いたもんじゃございません。
あてもねえただの旅人ですよ」
店のおばさん「皆さんどちらからかいね?」
3人「東京です」
店のおばちゃん「そうけぇ。そういうたら旅の人、あんたも生まれは東京やったね」
寅「そうだよ」
店のおばちゃん「うちの娘がね東京の巣鴨に嫁に行ってるがね。なんとかっていう地蔵さんの
そばや言っとったけどね。」
寅「そらぁ、とげ抜き地蔵だろ。ばあさん、オレの在所はね、
そこから西へ下ること3里、
江戸川のほとり、柴又よ。
昔流に言うならば葛飾郡(ごうり)柴又村さ。
三味線ペンペン
絶えて久しく帰らねぇなぁ…」←この前帰ったばっか。
店のおばさん「そんなら親兄弟は今でもおってかねぇ…?」
寅「そんなものも昔はいたねえ…
今はおそらく死に絶えたことだろうぜ…」
←おいちゃんたちを殺しやがったね
三味線ペンペン
店のおばさん「何か深い訳があってかねぇ…?」
寅「ふっ…、そんなもんあるわけねえや
…10年一昔、
二昔、いや…30年も経つかなあ…」
1ヵ月も経ってないぞ ヾ(^^;)
寅「あれからどうなったのか…」
店のおばちゃん気の毒がる。←騙されてるぞー!おばちゃん。
寅、はっと歌子たちのほう向いて
寅「あっ、お嬢さん方、楽しい旅の最中につまらねえ話を聞かせちゃって
すまなかったね」
寅、パンパンと手を叩いておばちゃんを呼びながら
寅「ばあさん、こちらのお嬢さん方に
何か美味しいもののひとつも差し上げてくれねえかい」
歌子「いえ、いいんです、そんな…」
店のおばちゃん「今、田楽焼きますからねえ」
店を出た3人。寅が出てくる。
3人「どうもごちそう様でした」
寅「じゃあ、みんなも道中気をつけてな」
3人「おじ様もお元気で」
寅「みんなも幸せになるんだぜ。じゃ…」
マリ「あ!すいません。記念写真を一枚」
寅「オレか?」
歌子、みどり「あ、そうね。じゃ、向こうに、どうぞ」
寅、戸惑いながらも、ぱっとガラス窓に顔を写してみたりしてて気にしている。
マリ「そこに並んで、…もうちょっとくっついて。ハイ!写すわよ!ハイ、笑ってー」
寅「バタ〜!!」←
出たぁ〜〜十八番!!(^^)
みんな「…!?」
歌子とみどり唖然として寅を見る。
寅「あっ、オレ、バターって言った?
あっ、間違えちゃった!
あれ、チーズなんだよね!ハハハ!」
3人ともふきだして笑い転げる
「バターだって!」
寅も笑いながら
「間違えちゃったよ!可笑しいかい?」
笑いが止まらない3人でした。
ここで一気に打ち解けてこのあとは寅のペース。
ここからは実にテンポがいい!
ヨハン.シュトラウスU世のワルツ『春の声』が鳴り響いて!♪
春の声は第8作「恋歌」でも江戸川土手で遊ぶシーンで出てくる。
バスの中で大はしゃぎの4人。
さっきの「バタ〜」のことで笑っている。
寅「いざ撮るよって言われた時にね、あれ!?
バターだったっけ?チーズだったっけ?でも時間がなかったから
バターッ!!って言っちゃったんだよ」
3人娘ゲラゲラ笑い転げている。
寅「でもよく口大きく開くのはチーズよりバター!!の方が大きく開くよな!」
マリ「そうよね」と言いながら笑いが止まらない。
寅「もっとでかく開くんだったらバンザイ!!って言えばいいんだよ!」
3人「おなかがいたーい」「ああ、おかしい!」っとバスの中ではしゃぐ。
窓の外は越前海岸の荒々しい海。
みんなで東尋坊で
「バターッ!!」って言いながら記念写真。
観音洞でも大はしゃぎ。
いろいろ4人で観光しながら実に楽しそう。
このあたりはテンポよくどんどん4人が動く。
夕方、小さな駅のホームで歌子たちを見送る寅
↑この駅は京福電鉄の「東古市駅」だといわれている。
もしそうだとしたら。
歌子たちは永平寺から越前海岸、の順に観光し、
越前海岸から再び永平寺に近い東古市駅まで戻ったことになる。(^^;)
寅「中入ったほうがいいよ。夕方なって冷えてきたから。」
マリとみどり電車に入る。
歌子「寅さん、どうもありがとう。
ほんと楽しかったわ。
寅さんに会えなかったら
こんどの旅はこんなに楽しくなかったに
違いないわ。会えてよかった。」
寅「そ、そうかい」
歌子、かばんからハンカチに包んだ大きな木の鈴を取り出して
歌子「これ、お礼というほどのもんじゃないんだけれど、
記念に受け取ってちょうだい」←結構デカイ鈴!
寅「え、いや、いけねえよ…」
歌子鈴を渡して「それじゃ、私」と京福電車に乗リ込む。
寅「よぉ、」と、戸惑いながら3人の窓のところまで行く。
みどりとマリに、
寅「それじゃ気をつけて帰るんだよ。
また一生懸命働いて父ちゃん母ちゃん安心させるんだぜ。
それに世の中にゃ、悪い男がいるから騙されないように気をつけてな。」←ちょっと古風
頷く2人。名残惜しそう。
後ろの席の歌子に、寅「あんた、歌子ちゃんって言ったね。」
歌子「ええ」
寅「こんなもんもらってオレもなんかお返ししなきゃいけねえんだけど…」
歌子「いいのよ、そんなこと」
寅、何千円か出して「これ少ねえんだけど、
とっといてくれよ」と歌子の手につかませる。
↑寅っていつもキャッシュなんだよね。こういう場合。リリーも同じ。
ダイレクトなんだな…。堅気は驚くって。
歌子「!?」
寅「なに、どおせ、大した給料もらってねえんだろ。
駅で弁当でも買ってくれよ、なっ」
歌子「そんな」
寅「いいんだよ」 電車動き出す。
歌子戸惑い「寅さん、これ」
寅「いいって、いいって」
歌子たち窓から手を振り「さようなら!ありがとう!お元気で!」
寅「気をつけて帰るんだよー!」
一人残った寅。←少し淋しげ。
寅「行っちまったか…」
おもむろに財布開けて、見て、ほとんど空っぽ。
歌子のくれた鈴を指で振りながら寂しく駅前を歩いていく寅でした。
このときの夕闇迫る何気ない駅前の風景は情緒があって大好きなシーンだ。
歌子、夜中に東京の自宅に戻る。
歌子の自宅
歌子長旅で疲れた感じ。
父親、小説を書いている。ひとことふたこと会話するだけ。
父親、歌子が置いていったお土産を少し触って見ている、がまたすぐにペンを走らせる。
歌子疲れている。
焦げたトーストが留守中の全てを物語っていた。
宮口精二さん、
このあとの「恋やつれ」でも随所に名演技を見せてくれます。
江戸川土手
バックにハーモニカ演奏 『寅さんの子守唄』
江戸川土手に戻ってきた寅。
遠くを眺めながら…
この曲は「寅さんの子守唄」と言って
この昭和47年の4月に発売された曲。
作詞:山田洋次、作曲:山本直純という豪華コンビによるもの。
もちろん歌うのは倍賞千恵子さん。
この歌にはセリフもついていて渥美さんと倍賞さんの掛け合いが
素晴らしいのだ。
寅さんの子守唄
作詞 山田洋次 作曲 山本直純
昭和47年4月10日発売(BS-1521)
寅「さくら!お前元気だったか。
赤ん坊生まれたんだってな。
あれ、それ、赤ん坊か!お前 赤ん坊生んだの!」
さくら「バカね、お兄ちゃん、どこへいってたのよ。
さんざん心配していたのに」
寅「すまねえ。
泣くなよ・・・
ほら 赤ん坊泣いているよ ほら・・・」
ねんねん坊や ねんころり ねんねんねんねこ ねんねして
泣き虫坊やの 見る夢は 四角い顔して ちっちゃい眼
二枚目気取りの 寅さんの 楽しい旅の 夢かしら
寅「おい、なんだかこらあ 赤ん坊にしちゃ
面白い顔してるじゃねえか、誰に似てるの?」
さくら「みんな、お兄ちゃんにそっくりだというけど」
寅「ばかやろう、ふざけんな。オレに似てりゃもっと二枚目よ。
どっかちょっと似てるな?デコ坊、お前俺に似てるの、
かわいそうに、この野郎、この野郎」
さくら「ダメよ、お兄ちゃん 起きちゃうじゃないの」
烏もお家に 帰るのに 小鳥もみんなで 寝てるのに
着たきり雀の 寅さんは トランクひとつの 旅がらす
寅「あーあー、やっぱりてめえの家の畳がいいな。
ゆんべ一晩中夜汽車に乗ってたからよ。
なんだかからだ中が痛くって、痛くってたまんないよ。
三等車の腰掛がかたくって、かたくってよ えー」
さくら「シッ」
夕焼け空に 鐘がなる 今ごろどうして いるかしら
私のお兄ちゃんの 寅さんは 本当は淋しい ひとなのよ
さくら「お兄ちゃん、だめよ、そんなとこに寝ちゃ、
風邪ひくじゃないの しょうがないわねェー」
寅、寝言を言って「グー…」
かばんに歌子ちゃんがくれたあの大きな鈴をつけている。
←かわいい!!
寅「ま、行ってみるか…」
犬の散歩をしてる源ちゃん、寅を見つけて「兄貴〜!!」
それとほぼ同時にあのマリとみどりが土手にいた。
マリ、みどり「寅さーん!!」
みどり「寅さーん、夢見たいだわ!!」
マリ「柴又に来たら、ひょっとして
寅さんに会えるんじゃないかと思ったのよね!」
みどり「だけど、ほんと奇跡みたいだわ!」
マリ「ほんと!」
寅「そうかい。よく来たなぁ」
みどり「だけどいいとこねー!寅さん」
マリ「ねえ、寅さん、30年ぶりに帰ってきたんでしょう?」
寅「…そう。懐かしい」うそこけ(−−;)
2人「そうでしょうねー!」
寅の家を探す3人。
寅「20年ぶりだから、なにもかも変わっちまって…」と超逃げ腰
みどり「そうね、無理ないわね30年ぶりじゃぁーねー」 年数噛み合ってないぞ
寅「ええ…、そういうこと…」
マリ「寅さん!ほら!
あそこにとらやって店があるわ!」
みどり「ほんとうだ!」
寅。びびって「なにかの見間違いじゃぁ…」
寅逃げ腰で「あの…むこうずっと回って…」
2人寅をとらやに引っ張ってくる。
とらや
おいちゃん水虫の薬塗っている。
マリ「とらや、って書いてあるわね。
30年くらいは経っている感じね」←30年にこだわっている(^^;)
みどり「寅さん、寅さん、こっちこっち」
マリ「ねえ、なんか見覚えない?」
寅「そうよな、そう言われてみりゃ、
昔見覚えがあるような…」
中でおいちゃん、おばちゃんポケーっと眺めている。
このコントラストが笑えます。
マリ「ごめんください」
おばちゃん「はい」
マリ「あのー、ちょっとお伺いしますが、
車寅次郎さんって、ご存知じゃないですか?」
おいちゃん「えー、知ってますよ。
私の甥っ子ですからね」
みどりとマリ「あらー!!」と感動している。
マリ「びっくりなさっちゃいけませんよ!
あの人が
その寅次郎さんなんですよ!」
←ビックリしてるのはマリとみどりだけだって ヾ(^^:)
寅、後ろを向いている。
みどり「寅さん、寅さん、
あなたのおじさまよ!
よかったわねえ!」
寅「生きてた!?」
みどり「生きてた」
寅、ストン!とかばんを下に落として手を広げ、
三味線 ぺぺぺペンペンペンペン 笛 ピ〜
寅「ハハ!!それじゃ、おまえはオレのおじき!!
よくまあ、長生きしてくれたなあ〜」
寅、おばちゃんを見て「こちらのご婦人は!?」
おいちゃん「女房だよ!」
寅、大声で「それじゃあんたは私のおば!」
タコ社長とらやに入ってきて
「いよー!寅さん、お帰り!」
寅「そう言うおまえは工場の社長ー!!」
おいちゃん「バカ!!いいかげんにしろ!」
とらやの縁側で座って笑い転げるマリとみどり
寅とさくらが一緒にいる。
歌子ちゃんは茶の間のシーン
ふんだんにあったのに、
マリとみどりは縁側。
やっぱり脇役だけでは
なかなか茶の間のシーンもらえないのかなあ…。
マリ「寅さんって嘘つきねえー」
みどり「ほんと、もう30年も家へ帰らないなんてよく言うわねえ」と笑い転げている。
寅「そらね、言葉のはずみ。もう言いっこなしだよ。あっ、だんごがきましたよ」
おばちゃんが持ってくる。
マリ「でも、歌子ちゃんが聞いたら残念がるわよねえー」
みどり「ほんとうね」
寅「!…どうして?」
みどり「歌子さんたら、
あれから寅さんのことばっかり話してるのよ」
マリ「あの人があんなに笑ったの見たの初めてよねえー」
みどり「ねー」
マリ「時々、ため息なんかついちゃってね。
寅さんに会いたいなぁー、なんて言ってるのよ。」
寅「へぇー、そ、そうかい」嬉しい(^^)
さくら、写真を見ながら「歌子さんって、ね…、この人?」
寅うれしそうに「一番ハジのこの人、この人!」
みどりの結婚の話題が出たあと、寅が
寅「で、あの、もう一人の方はどうなんだい?間近かい?」
マリ「もう一人って?」
寅「ほら、いたじゃねえか、名前、なんていったっけ…」
なんというわざとらしさ(((−−;)
みどり「歌子さん?」
寅「そうそうそう、そんなような名前だった」
みどりとマリ「知ってるくせにねえー」と笑う。
寅「知らない、知らない」
マリ「あの人まだよ」
寅「そう、だけど、恋人くらいいるだろー、なー」
みどり「さあ、どうかしらねえ…」
マリ「歌子さんって引っ込み思案だしねえ。」
みどり「それにね、家庭的にちょっと不幸があたりしてね」
寅「自動車事故か?」
みどり「いえ、そんなんじゃないの」
寅「こっちがひいちゃったんだろ」
みどり「違うんだって、あの、お父さんが小説家でね、」
寅「小説家のお父さんが自動車事故か」
絶対に自動車事故にしたがる寅だった(^^;)
このパターンのギャグは「葛飾立志篇」でもでてきた。
みどり「違うの」
さくら「ちゃんと最後まで聞きなさい」
みどり「あのね、…ちょっと変わった人なのお父さんって」
寅「あ、なるほどね。だいたい小説を書くような人間なんてものはね、
我々と比べると一風変わった人が多いんだよなー」
マリ「それにね、だいぶ前にお母さんが離婚なさってね…」
みどり「うん、そのあとずっとね…」
マリ「歌子さんがお父さんの面倒を見てるんです」
おばちゃん「まあ、大変だねえ、まだ、お若いのにお父さんの世話してるなんてねえ」
寅、歌子の写真見ながら「不幸せ、ねえ…」
夜。とらやの茶の間、
食後の後片付け
タコ社長、歌子ちゃんの写真見ながら「ふーん、このお嬢さんがねえー…どう見たって幸せそうな
美しいお嬢さんにしか思えねえけどなぁ…」
寅、写真取り上げて
寅「そりゃそうだよ。社長、お前に比べりゃみんな幸せだよ。」
社長「そんなもんかい?」
寅「見てみろよ、な、眉と眉との間。これを人相学で印堂という。
ここにちょっと陰りがある。
な、オレは初めてこの子を見た時ピーンと感じたな。
その不幸せさを。
なんとかして救ってやりてぇなあ…。」
さくら、はやくも心配そうな顔。
寅「できりゃ、いい婿さんのひとりも探してやりてぇ、
そういう気持ちになるんだよ。
さくら、ちょっと寅を見る。(^^;)
寅「なんだよ?さくら、そんな心配そうな顔してるけど、
なんか兄ちゃんの言ってること
おかしいか?」
さくら「ううん、おかしくない。そういう気持ちならとても安心よ。」
寅「生意気な、ちっ、ませた口きくんじゃないよ。
お前なんかにいちいち安心してもらわなくたって
アンちゃんちゃんとやってるんだから。」
寅、おばちゃんのほうを見て「よ、おばちゃんよ、誰かいねえかい?」
おばちゃん「あん!?」
寅「あん!?じゃないんだよ。
誰かいい婿さんいないかと言ってるんだよ。
寅、振り向いて「どうなんだい、社長」
社長「いやー、オレとこにね一人いい青年いるよ」
寅「ちっ!社長とこみたいなおめー、
貧乏職工の嫁にできるかい!ほんとに」
寅、おいちゃんにふる。
寅「おいちゃんよ!誰かいねえかい?
心持ちの優しい男がよ」
さくら、もう気づいている。
おいちゃん「優しいねえ…、あっ!1丁目の小唄のお師匠さんなんか…」
寅「ダメだダメだ!!あんな男か女かわからねえ奴。
えっ!心持ちが優しいったってね、やっぱりこう見てくれは何か日に焼けてさ、
どことなく頼もしい男じゃなくちゃ。な!」
おいちゃん「じゃあ、2丁目の風呂屋の倅」
寅「おいちゃん、よくそんなこと平気で言えるな。
あの幸薄い娘を男風呂の見える番台に座らせて平気か?
冗談じゃありませんよ、まったく。」
おいちゃん「それじゃ3丁目に誰か…」
寅、おいちゃんの手をはじいて「誰かって言い草あるかよ。まじめに考えてくれよ!!」
寅「ほら、もっと身近にいるだろうが、…」
おいちゃん、『はっ』として、
遅ればせながらようやく気づく。
寅「普段忘れているけれど名前が出ると、あっ、なんだい、
そんな人がいたよっ、ての。なあ、さくら、えっ、いるでしょう、なあ…」
さくら、「そうねえ、そういえば家にもひとりいたわねえ」
と、しかたなく付き合いで言う(TT)
寅「え?そう、誰、?えっ、誰よ?」
さくら「ほら、いるでしょう」
寅「誰だろ?」にこにこ笑っている。
寅「いやー、考えられないなあ…
い、言ってごらん、
満男?満男ちゃん?」←そんなわけないだろ(^^;)
さくら「私の前にいるでしょう」
寅我慢しきれず「僕でしょ!!」
おいちゃん、だめだこりゃ、という顔。
寅、幸福そうに「はあーっ」
さくら、困ったチャン顔で微笑むしかない。
寅「そんなふうに言われてもなあ、
年が離れているし…、なあ、社長」
社長「年なんか問題ないんじゃない?」←御気楽に言ってしまう社長
おいちゃんとさくら、タコの発言に驚く←もう遅いって。
寅とても幸福そうに社長にすり寄り、
寅「しかし、会社の経営なんか大変なんでしょう。
明朝(みょうちょう)もまた仕事で早いんでしょう?」とゴマをする。
みんな、シーン
寅「はは…さて!今日はお開きにして休みましょう。ね!」
題経寺の鐘『ゴ〜ン』
寅「今夜はなんだか未来の幸せについて
しみじみ考えてみたい気持ちだなあー。」
二階への階段を上りながら
寅「♪いつでも夢を〜、
いつでも夢ェを〜♪」
『ゴ〜ン』
↑吉永小百合さんのヒット曲(橋幸夫さんとのデュエット)
作詞:佐伯孝夫 作曲・編曲:吉田正 昭和37年
その年のレコード大賞。 同名の吉永さん主演の映画もある。
星よりひそかに
雨よりやさしく
あのこは いつも 歌ってる
声が聞こえる
淋しい胸に
涙で 濡れた この胸に
言っているいる
お待ちなさいな
いつでも夢を
いつでも夢を
星よりひそかに
雨よりやさしく
あのこは いつも 歌ってる
博「なにがあったんだ?」
おいちゃん「あーあーいやだいやだ、
また始まったぁー…」と頭抱える。
題経寺の鐘『ゴ〜ン』
翌朝、植木鉢の中身抜けギャグ
を飛ばしたあと、さくらのあとを追って帝釈様にやって来る寅
題経寺 境内
境内で寅さくらに追いついて「もしもし、さくらさん。おい、
10円貸してくれよ、いや、50円でいいよ、いや100円でいいよ」
さくら「何するの?パチンコ?」
寅「こんなところにパチンコあるわけないじゃないか。」
さくら「お兄ちゃん、拝むの?」
寅「お賽銭上げて、オレが万歳三唱するのか。
ホレホレホレホレ」と手を差し出す。
寅「決まってるじゃねえか…おまえの幸せよ。な!」
←うそ!歌子ちゃんとの再会のことしか考えてないぞ!
さくら呆れながらも、ちょっと嬉しい。
とらや
歌子やって来て
歌子「ごめんください」
誰もいない
寅帝釈天から戻りながら
寅「あーあ、たまにお参りしたからいいことあるかな」
いきなりの御利益!!帝釈様ってすごい!!
寅、歌子に気づかずスッと通り過ぎて
寅「おばちゃん!腹すいたい! いらっしゃい!お店にお客さんだよ!」
歌子、後姿の寅に「寅さん」
歌子「あたしよ、歌子です」
歌子のテーマ流れる。
寅「あー!!歌子ちゃん!!」
暖簾外してそのまま持っったまま。
歌子「こんにちは、寅さん。懐かしいわ」
寅「あー!来たの!あー!」
寅、暖簾の棒で机叩いて、「どうぞ、おかけなさい」
歌子「ありがとう。マリちゃんやみどりさんから
寅さんに会った話聞いてね、もう矢も楯もたまらず
に来てしまったの。会いたかったわー」
歌子「それからあの時はお金まで頂いてなんて
お礼いったらいいか。どうもありがとう。」
寅「いいえ…、そんなことあったかなねえ」
極度に緊張している寅。おろおろ
寅「おばちゃーん。さくらぁー!」と呼んでも返事がない。
草団子くちゃくちゃ棒状に練りながら、
寅「あの…あの連中はみんな元気ですか?」
歌子「あ、あの、昨日ここへ来たでしょ?」
寅「そう、昨日ここへ来たんだよね。
昨日から今日までずっと元気かな?」
自分でも何言ってるのか分かっていない状態。
歌子、少し笑いながら「…さあ…」まじめなんだね(^^;)
寅「ああー…、」
歌子「寅さん、汗かいてるわ」とハンカチ差し出す。
寅、「ありますあります」と持っていた暖簾で顔を吹く」
寅「ああー…、どーも季節の変わり目には体の調子が悪くて…」
歌子「大丈夫?」
寅「ええ、大丈夫です。コホッ!コホッ!コホッ!」
★柴又慕情の「予告編」で
この場面の違うバージョンが見れる!マニア必見!!
さくら店に戻ってくる。
寅「さくら!!今来たのか、歌子さん来てたんだぞ!!」
さくら「歌子さん?」
寅「そうだよ!」
さくら、思い出して「あ!まあ!いらっしゃい!」
初対面だが寅からさんざん聞いているのですでに親しい気持ち。
歌子、寅に「さくらさん?」と聞く。
歌子「あの、お兄さんにはいろいろお世話になりました」
さくら「いいえ、きっとご迷惑をおかけしたんでしょう」
歌子「とんでもない、私のほうこそ」
さくら「どうしてこんなところに、お兄ちゃん上がってもらったらいいのに」
寅、にこにこで「ねー、さあ、どうぞ!」
歌子、お土産をさくらに「あのー、これお口に合いますかどうか」
寅「合います、合いますよ!」
寅「そこ、ずーと上がって!」「よし!」
店先で客「おじさん、団子ある?」
寅「団子なんかないよ!帰れ帰れ帰れ!」
←このパターンのギャグは度々使われている。
客「団子屋じゃねえか」とどこか行く。
寅「よし!」
一同茶の間に戻ってきて
さくら、「どうぞ」
歌子「わー、美味しそう」
さくら「今朝とってきたんですよ。新しいのだけが取り柄でね」
歌子「今朝!」
おばちゃん「こんなもんでよければいくらでもありますよ」
さくら「このトマトも今朝とれたのよ裏の畑で」
★とらやは裏の畑を持っていることが、
分かる貴重な発言。
とらやの敷地以外にも土地を持っているのだね(^^)
歌子「これも!」
さくら「これはおばちゃんご自慢のヌカ漬け」
寅「それも、今朝とれた!」
←ようやく軽快にギャグを飛ばすようになった寅でした
さくら「これ兄の手作りのお団子」
おいちゃん「これだけはぜひ!!」
寅「やめときなさい、きたない、きたない!」
博、やって来て「いらっしゃい」
寅「おう!」
さくら「亭主です」
寅「博」
歌子「歌子です。どうも」
博、座ってお膳を見て「おい、オレの焼ナスは?」
←博は「焼きナス命」
さくら「この人ね、焼きナスがあればなにもいらないんです」
と、焼ナスを博に差し出す。
博「鮪の刺身だの、ビフテキだの言いますけど、
正直なところ僕はこいつが一番上手いな」
さくら「安上がりにできてるんですよ。
結局、貧乏暮らしの地が出ちゃうのね」
博「そういうことだな」
寅、ちょっとムスッとして。
寅「さくら、…なんだよおまえ」
さくら「え?」という顔。
寅「食事の最中に痔の話なんか、汚いなあ…」
博「いえいえ!」
さくら「違うわよ!その痔じゃないわよ!」
寅「その痔じゃないって…イボ痔か?」
第14作「子守唄」でも同じギャグを京子さんの来た日に
マドンナの京子さんが提供していた。
さくら「違うったら!いやねー…」と恥ずかしくて困ってしまう。
寅「いやなのはこっちのほうだよ。
兄として恥ずかしいよ。食事中にシモがかった話なんかして」
さくら「…」
歌子、笑いをこらえる。
さくら「わかりました。ごめんなさい」(TT)
寅「ほら、しらけちゃったじゃないか。博、ぼくぼくぼくぼく
ナスばっかり食ってないでなんかこう上品な話題でも提供しろよ」
博「じゃ…、幸せについてとか、愛情問題とか…」
寅「そうそうそう、それ、それちょっとやれ」←そんなこと急にいわれてもできないよね博
おいちゃん「愛情なら、寅が専門だもんなあ!」
寅「え!?」
沈黙
歌子「あのー、私、一度おうかがいしたかったの」
寅「なんですか?」
歌子「こんなことうかがっていいのかな」
寅、照れながら「いいんじゃないですか」(^^;)
歌子「寅さん、どうして
結婚なさらないの?」←出た〜!!
寅「あー…どうしてって…」
歌子「なにか訳でも…?」
寅「あー、そんなことないんだよねー、
どんなふうになってるんだろうねー、
そこらあたりのところは?オレなんてのは?」
さくら、眠ってしまった満男に布団かけた後横をスッと通り過ぎながら
さくら「失恋したんじゃないの?」
寅「そ、そうは言い切れないんじゃきれないんじゃ
ないかなあー。
そらまあね、いろいろ、いろんなことあったからねえー。」
(博笑いをこらえている)
歌子。真面目に「あ、じゃあ…昔の話…」
寅「ええ、もう、そりゃ
昔も昔10年も15年もずーっと。くだらないことです」
歌子「じゃあ、その心の痛手が…」
(博、顔を真っ赤にしてそうとう笑いをこらえている)
寅「いや、そんなことじゃ…、つまり、
こっちがそう言う気持ちじゃないって
ことありますからねえ…」
みんな笑いを我慢。
寅「ね、おいちゃん」
寅「な、さくら」
寅「そうだよね、さくら」(大真面目な顔で)
寅「よ、さくら」
寅「バカヤロー!!何笑ってんだよ!」
博、遂に食べ物を吐く←ひえー!!
全員でヒーヒー笑い転げまくる。歌子も笑う。
柴又駅ホーム
歌子「さんざんご馳走になったうえにこんなお土産までいただいて」
さくら「ほんとに田舎のもてなしで」
歌子「そんなことない。
私あんな美味しいものいただいたの、
あんなに楽しい思いしたの初めてよ。ほんとよ」
さくら「うん、じゃあまた来てね」
寅「そ、またおいでよ」
うなずく歌子
普通上野行きがホームに入ってくる。
ドアが開いて、乗ろうとした歌子の足が止まる。
さくら不思議に思い、「歌子さん?」
歌子、さくらの方を向き、「私…来てよかったわ。本当よ」
さくら「うん」
歌子「ほんとに来てよかったわ」
寅「またおいでよ」
歌子「うん」
ドアが閉まる。
歌子「さよなら」
さくら「さよなら」
歌子窓から顔出して「ありがとう、さよなら」
電車行ってしまう。
歌子のこのような思いつめた行動、発言の背景には
彼女の今までの人生のなかで家庭の温かさというものに
対する飢えが想像できる。
さくらにとっては普通の日常の家庭の団欒が、
歌子にとっては嬉しい体験だったのだろう。
だからこそ、歌子は数日後にまたすぐ寅たちに
会いにやって来ることになる。
寅、さくらに「また来るって」
さくら、ちょっとあきれて「はぁ…」と、ついため息
寅「なんだ?はぁ…って?」
さくら「あ、なんでもない」と言いつつ、寅に違うという意味の手を振る。
寅「なんだ?これは?えー?」とさくらの手を振る真似をする。
さくらと寅ホームを歩いていく。
呆れるさくらの気持ちが垣間見れる
このシーン私は静かだがなかなか面白い。
とらや
さくら、電話に出ている。
さくら「あら、ご丁寧に、そんなに喜んでいただければ、
私も嬉しいわ。…ええ、いますよ。
これから食事なの。声が聞こえるでしょ。」
と、受話器を茶の間の方へ向ける。
茶の間では寅たちが笑って騒いでいる。
歌子「ええ、聞こえるわ、なんだか楽しそうね。
はい、お願いします。あっ、寅さん、
先ほどはありがとう。いいえ、ほんとうに楽しかったわ」
寅「そうかい、そりゃよかった。…うん、今度来た時は
もっとご馳走するからよ。ほんとかい?
ほんとに来るかい?待ってるぜ。きっとだよ」
寅「うん、わかったわかった、
…うん、伝えるよ、じゃあね、うん、さよなら」電話切る。
一同シーン
寅、さくらに「また、来るって」
寅、博に「また来るって」
寅、おばちゃんに「また来るって」
おばちゃん、寅にビールついで上げる。寅、そわそわ
一同シーン。
歌子の家
歌子は恋人の正圀のことで父親と意見が対立する。
父親「結婚したきゃ、結婚しろ。知らん」と立ち去る。
歌子泣いてしまう。
歌子のテーマ
とらやの二階
寅がいつ来るともわからない歌子を待っている。
今日も日が暮れていった。
帝釈天前の夕暮れ風景←貴子さんの経営する『ローク』が見える。
↑どうして貴子さんはとらやを再度訪れないのだろう。
こんなに近くなのに。(徒歩約3分)
これは第10作以降のお千代さんにも言えることだが。
ごく近所に住んでいるのに寅との関係がぶっちぎれている。
まあ、1作1作完結している。ってことでしょうか(^^;)
工場の博たち、給料をもらう。
博、裏からとらやの茶の間に入ってくる。
さくらが目ざとく博の手にもった給料袋を見つける。←さすがさくら抜かりは無い。
さくら「月給」
博「まだ出ないぞ」
さくら「見ちゃった」
博笑いながらさくらに給料袋を渡す。さくら、明細を見る。
博「兄さんは?」
さくら「二階よ」
おばちゃん「あいかわらず、ぶらぶらしてため息ばかりついているんだよ」
おいちゃん「そうなんだよ、ちょうど昨日の今時分だったかな…
オレがここで夕刊読んでいたらな、寅の奴が階段下りてきて、
そこにポンと腰を下ろして、折から暮れ六つの鐘が
ゴ〜ン…と鳴った。その時寅なんて言ったと思う。
『あーぁ…今日も来なかったか…』と、こうさ。
博「歌子さんのことですか?」
おいちゃん「待ってんだよ。見てな。今日もきっとやるよ」
おばちゃん「来るよ」
みんな知らないふり。
寅「…ごはんまだ?」
さくら「あ、ああもうすぐ」
暮れ六つの鐘 『ゴ〜ン』
寅「あーぁ…、今日もとうとう来なかったか…」
はっと一同一斉に寅を見る。
寅、はっ、と我に帰り、さくらに、
寅「オレ、今、独りごと言ったか?」
さくら「あ、…何も」
寅、博に向かっても「博、オレ、何も言わない?」
博「ええ…、何も聞こえませんよ。」
寅「そうか…そりゃよかった…」
そこへお約束のタコ社長がやって来る。寅がいるのが分からない。←くるぞくるぞ!
社長「あー、あ、
今日も彼女は来なかったか!」
社長「あ!!」
とらやの台所のテーブルに倒れそうになって、
大急ぎで逃げる。←どんぶりカタカタ鳴る。
寅、追いかけて社長をとっ捕まえる。
社長「うわー!!助けてぇ〜!!」
ドタバタ向こうでやっている音。
社長「オレ今、何て言った?」
寅「何も言わない何も言わない」といいつつ殴る蹴る。
題経寺(帝釈天)の御前様の仕事場
毎日ぶらぶらしているので御前様に説教されている。
御前様「見ろ、頭の足りない源でも、あーやって働いとる。感心なもんじゃないか」
源ちゃん寅を見ながら庭掃除している。
寅「頭、足りないから働いているんじゃないですか?御前様にだまされて、ハハ…」
御前様「バカ!なんちゅうことを言うか!!」
寅、下を向く。
さくらのアパートの公衆電話
さくら「ほんとに申しわけございません。こんなことで御前様に気を使っていただいて」
御前様「いやいや、あれも少しは反省したようだ。あれも根は素直な男だからな。うん。」←御前様甘い
寅向こうのほうで、源ちゃんの頭にモップを乗せたりして遊んでいる。
さくら「ありがとうございます」
御前様「なーに、寺の掃除だよ。源と一緒にな。真面目にやっとるようだから心配入らん」←やっぱり御前様甘い
と、しゃべっているうちに寅と源ちゃん廊下を「行けー!!」「おうーい!!」とか言って
草履でスス―っと滑って遊びまくっている。
御前様ようやく気づいて「こら!何やっとるか!」
寅、自分の首を切る真似をして、「首だな」って言っている。
源ちゃん、ヒヒヒ、と笑う。
寅、源ちゃんの頭ひっぱたく。←このときの渥美さんなにやら笑っている感じ。
とらやの茶の間
おいちゃん「そうか、とうとう御前様まで怒っちまったか…。もともと無理なんだよ庭掃除なんか。」
←ずーっと、満男の猫のおもちゃをいじっているおいちゃんでした。
博「どうして、本職の行商やらないのかなあ?」
おいちゃん「留守にするのがいやなんだよ。
ほれ、いつ歌子さんが来るか分からないと思っているからさ」
おばちゃん「無理もないよ、いい娘さんだったもの」
博「ほんとに来るのかな?」 おいちゃんおもちゃの猫『ピー』と、鳴らす。
さくら「でも、駅で別れる時来てよかったわ、って
何度も何度も繰り返していたけどね」
おばちゃん「どっか、不幸せそうな娘さんだったわねー」
←おばちゃんやっぱりするどいな。
博「そうでしたね…」
さくら「上手くいくといいわね」
おいちゃん「えっ!!、
歌と寅子さんがかい!?」
一同「え!?」
おいちゃん「いや、寅と歌子さんがかい?」
さくら「違うわよー!歌子さんの悩みが…、
さくら笑いながら何言ってるのよ、おいちゃん、もう!」と笑う。
博、食べているもの胸に詰まらせながら、びっくりしている。
おばちゃん「バカだねー!何言ってるのよー!」
さくら「歌子さんがそんなことありっこないじゃないの!ハハハ」
博「あービックリした」
おいちゃん、ちょっとがっかり。←親ばか(おじばか)
一同笑っている。
寅、店の中に立っている。
おいちゃん、それ見て、ビックリしていじっていたおもちゃの猫『キュッ!』と鳴らす。
さくら「お兄ちゃん…、帰ってたの…」
寅「そうだよ…」
おばちゃん「なにしてるのそんなとこでご飯だよお上がりよ」
寅「…さくら…」
さくら「え…」
寅「2階行ってオレのかばん持っちってくれ」
さくら、小声で「どうして…?」
寅「出て行くのよ。そうだろ。
たったひとりのお兄ちゃん、
たった一人の甥っ子の陰口
きいて、ケタケタケタケタ
笑っているようなそんな
悪魔の棲家
みてえなところへ二度と帰ってこられるかい!」
なんと!!
歌子後ろに立っている。
おいちゃんたちにこにこして会釈して挨拶。
寅は気づいていない。
おいちゃん「どうぞ、せまいところですけど、どうぞお上がりください」
みんなにこにこ。
寅、「お上がりください?
ふざけるなおいちゃん、今更下手に出たって遅いやい」
歌子「ごめんください」
寅「ごめんなさいってあやまりゃ
すむって問題じゃないよ!!」
おいちゃん指差す。
博も指差す。
おばちゃん、顔で向こうをうながす。
寅、ゆっくり振り返って…
歌子「寅さん」
寅、小さな声で「来たのかい」
歌子「突然来てごめんなさいね。
上野まで出たらどうしても
ここへ来たくなって京成電車
乗り換えて来ちゃったの」
寅「そうかい、来たのかい」←なんともいえない優しい表情。
歌子「あの、すみません、
なにかお取り込みのところを…」
一同「いえいえいえ!!」
さくら「別になんでもないんですよね、お兄ちゃん」
寅「そう、みんなでね仲良くお話をしてたんだよな」
歌子「いいんですか?本当におじゃまして…」
おばちゃん「ええ、どうぞどうぞ」
寅「みんな、田舎もんばっかりですけど
心の優しい人ばかりがいるところですからね」
おいちゃん「悪魔の巣窟だもんね」
おいちゃん座布団2枚!!(^^)
おばちゃん『まあ!』って顔
おいちゃん「さあ、どうぞどうぞ」
歌子ちょっとこけそうになる。
みんなで歌子を助ける。そのひょうしで
おいちゃん寅に抱きつく格好になってしまう。
寅超嫌がって「なにやってんだ」
さくら大笑い!
このように寅が怒って再び出て行こうとする時に、
歌子ちゃんがとらやにやって来るパターンは
13作「恋やつれ」でも採用されている。
夕食が終って
寅「なんか面白い話ないかよ、ぱーっと席が明るくなるような。
おいちゃん、得意じゃないか」
おいちゃん「あるある」フフフと思い出し笑い。
寅「なに」
おいちゃん「この間ね、お駒で社長と飲んでいたんだよ。社長の奴が便所の中で『プーッ』
とデカイ屁たれやがったんだよ。フフフ…」
一同聞き入る。
おいちゃん「そしたらなおかみがビックリして、
あら、今の音なんだろう?って言うからさ、ヒヒヒ…
オレがね、ヒヒヒ…、あれは社長の屁だよって言ったら、
『へーッ』だって、ヒヒヒ!」
おばちゃん、肩をパシ!
一同シラー
寅、歌子に「つまんないでしょう…」
寅「おいちゃん…、長生きしろよ…」
さくらは痔の話。おいちゃんは屁の話。
もうちょっと上品な話題はないのかよ、まったく…」
さくら、また痔のこと言われて、驚く
寅「おいさくら、面白い話ないのかよ」
さくら「え?」
寅「ちょっと言ってみろよ」
さくら「じゃあ、お兄ちゃんの失恋の話でもしたら?」
←さくらこの前も「失恋」の話題でからかってたぞ!
寅、さくらの肩つついて
寅「誰がそんなこと言えって言ったんだよ、
おまえ、人が来てるんだよ…」
歌子クスクス笑っている。
おばちゃん「歌子さんなんか失恋したことないでしょ?」
歌子「いいえ、ありますよ」
おばちゃん「あら、」
寅驚いて「え?」
さくら「うんと小さい時でしょ、片思いとか…」
寅頷きながら、手のひらで小さいという意味の背丈の高さを示す。
歌子「いえ、小さかった時もあるしね、大きくなってからも」
おいちゃん「嘘でしょう!あんたみたいな綺麗なお嬢さんが」
歌子「ほんとうです!そのときは父も気に入っていてね、
結婚するところまで…私、何でこんな話しをしてるのかしら」と
恥ずかしがってくすくす笑う
寅ブスーとしている。
さくら「ねえ、よかったらその話聞かせて」
歌子「ある日、その人の家に遊びにいったらね、お庭が広くてね、
垣根に真っ赤なバラが咲いているような家だったんだけどね。
寅、わざとお茶を『ゴー』とすする。
歌子「そしたらその人がね、…恥ずかしいわ、私こんな話…」と照れまくる。
寅、耐えられなくてゴロンと横になってしまう。
さくら「それで、その人が?」
歌子「その人が私にこんなこと言うのよ。
『結婚したら君はバラの手入れだけしてりゃいいんだよ』って」
寅、バタッ!とうつ伏せになってしまう。
歌子「そのとき、私なぜかいやーな気持ちになっちゃってね」
寅、パッと顔だけ起きる。
歌子「何て言えばいいのかな、
バカにされたみたいっていうのかな…。
家に帰って父に話したら、
『そんな奴やめちまえ。』って言うの。
それでそれっきりやめちゃったの」
おいちゃん「そうか、それじゃ失恋じゃなくて、相手の人がふられた」
寅、全身起きて、「そうだよ、そいつがいけないんだよ。その男は悪い男だよ」
歌子「そうかしら、私は自分の方が失恋したみたいな気持ちになっちゃったんだけど」
寅、ブルンブルン首をふる。
さくら「私、よーく分かるわ、今おっしゃったこと」
歌子「そう?」
おばちゃん「そうかねえ…、あたしゃ一度で
いいからそういうこと
言われてみたかったねー」
←出た!おばちゃん分かるよその気持ち。
おいちゃん「なーにを、へへへ…」とバカにする。
おばちゃん「なによ、あんたなんて『おい、来るか』って
そう言ったきりじゃないの。←いいねえ!御両人!
おいちゃんのプロポーズの言葉は『おい来るか』でした!!
おいちゃん「バカ!オレだって相手によったら
それくらいのセリフ吐くよ!
なんだい、バラの花ってツラかい!?」
おばちゃん、ムッとして「じゃ!あんたいったいなによ!」
おいちゃんウヘ―ッて感じですくむ。
みんなクスクス笑っている。
寅「ようよう、よしなよ、人前で喧嘩なんか。
お互いバラの花ってガラか?せいぜい鼻の穴ぐらいじゃねえか」
歌子、さくら、クスクス笑う。
寅「君は一日鼻の穴の掃除をしてれば.いいのか!?
ハハハ!」
みんな大笑い
寅「まいったねー!」と笑う。
歌子笑いながら「あー、面白かった。それじゃ…、私、…そろそろ」
おばちゃん「あら、まだ、いいじゃありませんか」
歌子、実は引き止めてくれて嬉しいのだが、
一応「ええ、でも、もう遅いですから…」と言ってみる。
さくら「あの、よかったら泊まってらっしゃらない?」
寅、小さな声で「そうそう」
さくら「お父さんに叱られるかしら?」
おばちゃん「でもね…お一人じゃね…」
おいちゃん、歌子の微妙な表情でピンと来て「電話してあげればいいんだよ」
さくら、ほっとして「あ、そうね。どう?歌子さん」
歌子「そうね…じゃあ、あの…泊めていただこうかしら」
寅、急に顔が華やいで「よし!」
寅「おばちゃん!布団ひいて布団ひいて!」
歌子「あの、なんか、厚かましいかしら…」
寅「そんなことない!」
寅「さくら、すぐ風呂沸かす!よし!」ニカーと満面の笑みの寅
寅「おばちゃん!はやく2階で布団ひいて!
さくら、風呂沸かす風呂!どんどん立つ!よし!」
歌子「すいません、どうも」
寅「敏速!よし!」
歌子「ごめんね、寅さん」
寅「よし!」
朝日印刷の工員ハーモニカ吹いている。(故郷の空)
作詞 大和田建樹 明冶41年・
作曲 スコットランド民謡
夕空晴れて 秋風吹き
月影落ちて 鈴虫啼く
思えば遠し 故郷の空
ああ我が父母 いかにおわす
とらやの二階
さくら、歌子を案内して「汚いのよ。お兄ちゃんがずっと使っていた部屋だから…」
さくら「これ、」と浴衣を渡す。←白地にエンジ色の葉っぱ模様。
さくら「何か要るものがあったら言ってちょうだいね」
歌子「ありがとう」
さくら、蚊取り線香を取り出す。
歌子「あのね、さくらさん…実はね、私、今日最初からここに泊めていただくつもりで来たのよ」
さくら、うなずきながらマッチに火をつける。
歌子「厚かましくてごめんなさいね」
さくら「うん、いいのよ。私、そんな感じしてたわ…」
さくら、フッとマッチの火を消す。
歌子「そう…」
さくら「なにか、あったの?」
歌子「父と…、ちょっとね…」と泣きそうになる。
どんなに笑っていてもほんとうの歌子の心は
いつも父親との葛藤で悩んでいるのだろう。
ところで素朴な疑問だが歌子ちゃん
せっかくさくらが沸かしたお風呂入ったのかなあ?
髪の毛とか濡れてないし…。
まあいいか、細かいことは(^^;)
寅、階段の下でそわそわ。
さくら、下りてくる。
寅「歌子ちゃん、ちゃんと寝れそうか?」
さくら「この辺とっても静かだからよく寝れそうだって言ってたわ」
寅「明日の朝、何時に起きるって?朝めし遅れちゃまずいぞ」
さくら「明日は日曜日じゃない」
寅「あ、日曜日か…」
さくら「ゆっくり寝かせてあげなきゃだめよ。お天気がよかったらね、
お兄ちゃんに散歩に連れてって欲しいって」
寅「オレに!?」にこーと笑う。
寅「散歩か!よし!」と、裏庭へ行って
寅「労働者諸君!今日も一日ご苦労様でした!
明日はきっとカラットと晴れた日曜日だぞ!!」
おいちゃん「バカだねえ…ほんとに…」
歌子の家の縁側
父親が歌子の置手紙を読み、寂しげに娘のことを思っている。
手紙『どうしてもお父さんが相談に乗ってくださらないのなら
私ひとりで結論をだすより仕方ありません』
江戸川土手
歌子のテーマが美しく流れている。
歌子の置手紙のナレーションと同時に江戸川土手で
白つめ草の花の冠を作って
遊ぶ歌子と歌子の周りをジャレる寅と源ちゃん。
寅、歌子の花冠を見て嬉しそう。
歌子もおどけて寅をからかう。
キラキラ光っている瞳
歌子とても幸せそう。風が吹いている。
源ちゃん逆立ちしておどける。
つかの間の幸せ。
シリーズ屈指の名場面のひとつ
とらや
寅「ただいま!ご苦労様でございました!
おばちゃん、オレ腹すいた。めしだめしだ!」
歌子「寅さん、私、今日さくらさんっちでおよばれだったの」
博、寅にすまなさそう。
歌子「ごめんなさい、遅くなって、すぐ来ます」と二階に上がる。
博、寅に、招待したのは歌子さんだけだと言うと、寅ふくれる。
寅「へっ!芋の煮つけでも食って屁でもたれて寝るか!あーやだやだ」と寝転がる。
源ちゃん、指差しながらクスクス笑っている。
博、源ちゃんに「君、そろそろ鐘をつく時間だぞ」
源ちゃん、はっ!と驚いて、アタフタと帰っていく。
博「最初は、兄さんも招待するつもりだったんです」
寅「いいよ!」
博「ですけど、兄さんが居ちゃ、
歌子さんだって話しづらいこともあるでしょう」
寅「オレが居ちゃ、話づらいって、どういうことだよ!」
博「たとえば、愛情問題なんか…」
寅「愛情の問題でどうしてオレがいねえほうが?……」
寅、はっ、としてクスッと笑い、
「バカ!オレがいないほうがいいなんて、
おまえ、考えすぎだよ!」
と、大いに照れる。↑寅のほうが考えすぎ(^^;)凄い勘違い
歌子戻ってきて「じゃ、寅さん」
寅「あっ、言ってくるかね。どーせ職工ふぜいのところだからね、
ろくな御馳走はないだろうけど、どんどん食ってきなよ」
おばちゃん「あとで、寅ちゃん迎えにやりますからね」
寅「またまたまた!」と、照れながら
寅「じゃ、気をつけてね!」
歌子が行って、
寅「さてと、じゃ、おばちゃん!芋の煮つけでも出してちょうだい!」
おばちゃん、あきれながら「あいよ」
寅「♪星よりひそかに〜」
寺の鐘『ゴ〜ン』
さくらのアパート
食後、歌子と二人で食器片付けながら
さくら「焼き物って言うと、こういうお皿とかお茶碗とか?」
歌子「ええ、なかなか大変な仕事なんだけど、
彼はまだ修行中で一人前じゃないの」
さくら「じゃ、その方と結婚するってことは、
愛知県のそれも窯場のあるような田舎で暮らすことになるわねえ…」←多治見
歌子「ええ、父は彼の将来性がないとか、口のきき方が気に入らないとか
言っているんだけれど、結局私をそばから離したくないのよ」
さくら、メロン持ってくる。
歌子「ごめんなさい、なんだか愚痴こぼしに来たみたいで」
さくら「そんなことないわよ」
博「僕にもひとり暮らしの親父がいますからよく分かりますよ」
歌子「じゃ、お母様は?」
さくら「去年、亡くなったの」
博「しかしなあ、さくら、誰かが傷ついたり、寂しい思いしても、
仕方ないことだってあるよな」
さくら「どういうこと?」
博「うん、仮にだよ、歌子さんがお父さんのために
結婚を諦めたとしても、誰も幸せになるわけじゃないだろ…」
歌子「そりゃそうかもしれないけれど、でも、私の場合は母がいないし、
それに父はとてもひとり暮らしなんか…」
さくら「そういうことができないひとなんでしょう?」
↑子供じゃあるまいし、歌子ちゃんの父親は、いざとなったら
健常者なんだからできるって普通、さくら。
歌子「それができるんならねえ…」←できます。五体満足なら簡単です。
博「そうかなあ、僕はそうは思わないなあ…。あなたができないと
思い込んでるだけじゃないですか?あなたのお父さんは
それに耐えていけるはずですよ大丈夫ですよ」←さすが博、ここ一番ではしっかり言う。
歌子「そうかなぁ…」
さくら「でも、辛いわよねえ…、私のときなんか両親とも
いなかったからそんな苦労なかったけど…」
博「兄さんがいて、反対したじゃないか」
さくら「あんな、お兄ちゃんなんか!」←さくらの可愛い発言
博「でも、あのお兄さんが反対したのが
きっかけみたいなもんなんだよ」
さくら「だって、お兄ちゃん
無茶苦茶言ってただけじゃないの」
博「無茶苦茶言って反対されたからこそ、
僕はカーッとなってプロポーズしたんじゃないか!」
さくら、恥ずかしがって「なに急に言うのよ!」←ちょっと赤くなる
ホントは第1作はそういう物語の運びではなかったが、
博の中ではそういう風に変えてあるのだろう(^^’;)
博「なに、…バカだなあ!つまりさ、今の歌子さんに必要なのは
きっかけみたいなものじゃないかって」←ちょっと赤くなる。
さくら「ああ…、それはそうね」
博「そうだろう」
さくらと歌子「フフフ」と笑いあう。
歌子「私、さくらさんが羨ましいわ…」
さくら「え?なにが?」
歌子「あなたたちからみたら私なんて
意気地がなくって迷ってばかりで…、
なんだかみっともないわねえ…」
さくら「ううん、そんなこと」
博「いいじゃありませんか。
みっともなくたって。
それはあなたが優しい人だからですよ」
↑博、本質をついたいいこと言うなぁ。全48作品の中で
私が博の言葉の中で最も感動したのがこのシーン。
さくら、うなずく。
歌子、ちょっと驚いて下を向く。
博の言葉の意味を受け止め、自分の中で吸収していく歌子。
ここに彼女の非凡さがある。
博「幸せだなあ、あなたのお父さんは」←博の洞察力はたいしたものだ。
歌子、ちょっと照れながら
歌子「そうかしら…」
寅がアパートの階段を上がってくる。
博「しかし考えてみたら歌子さんがこうして、たとえ2、3日でも
家を空けたということは行動を開始したと、いうことですよね」
うなずく歌子
さくら「離れて暮らすのは大変でしょうね。でも…好きなんでしょ?」
歌子、うなずきながら、「好きです」←小さな声だがはっきりと言う。
さくら「それさえ、はっきりしていれば大丈夫よ。ねえ。」
博「ああ。
あなたのような人が
幸せになれないはずありませんよ」
さくら「そうよねえ」
歌子「ありがとう。私今日ほんとにいい話を聞いたわ」
さくらなにげなく台所の窓を開けると寅が立っていて超びっくり!
さくら「あっ!!」
寅「あれ!?なんだい、ここお前の家か、あっ、そーか、ハハハ…」
さくら「なに言ってんの、はやくお入りなさいよ」
寅「ハイハイ」
歌子、気づいて「お迎え?」
寅「よう」と入ってくる。
歌子「じゃ、私、そろそろ…」
博「まだいいじゃありませんか」
寅「あ、もう帰るの?あ、そりゃよかった。
おばちゃんに迎えに行ってくれって言われたんだ」
歌子「どうもすいません」
歌子、さくらたちに向かって「さくらさん、どうもありがとう」
さくら「そう、じや、帰る?」
博「よく考えて、うまくいくことを祈ってますよ」
うなずく歌子。
歌子にとって人生の分岐点となったこの夜のさくらや博との会話は
生涯忘れえぬものとなったに違いない。
寅「なにが?なに?」
さくら「今ね、いろいろとお話したの…」
寅「いろいろと、そうか、そりゃよかった…」
歌子「じゃ寅さん行きましょ」
寅「行きましょ」
ドアがもう一度開いて寅だけ入ってくる。
寅「なんだ?何の話してたんだ?え?」
寅「また、オレの失恋話だろ?
そうに決まってるんだ。そうだろ、え?」
博とさくら「…」
寅「まあ、いいや。後で必ず聞くからな!」ブスッとして帰って行く。
博、ため息をついて
博「またひとつ失恋話が増えるんだな…」
さくら、ちょっと複雑な気持ち。
夜の題経寺(帝釈天)の門
珍しくこのカットはセットで作られている。
実際の題経寺の雰囲気とは若干ずれるが、
かたいことは言わないでおこう。
源ちゃん夜回りでヘルメット被りながらうろうろ。
『葛飾区柴又七』の文字見える。
歌子「寅さんと旅をして楽しかったなぁー…」
寅「バター!かい?あれ、可笑しかったねー、みんな笑って」
歌子「寅さんに会った人はみんな楽しかったって言うんじゃない?」
寅「そーねー、性格はどっちかって言うと明朗なほうだからねー、ハハハ」
歌子「フフフ」 源ちゃん二人を見て、クククと笑っている。
境内に入っていくふたり。
歌子「あの、福井の茶店で寅さんに初めてあった時は
まるで昔の侠客みたいな人だって」
寅「またまたまた、それ言いいっこなし!ね!」
歌子「でもあの時は、こうして柴又でとらやの皆さんとも親しくなるなんて
夢にも思わなかった。何度も言うようだけれど本当に会えててよかったわ。
それだけ辛く淋しい歌子の人生があったということなんだろう。
寅「そうかね」と笑う。
寅「今夜も、さくらたちといろいろ話したんだろう?」
歌子「え?」
源ちゃん、耳をダンボにして聞いている。
寅「何の話?あいつらオレの悪口ばっかり言ってんだ。
まったく、油断も隙もありゃしない」
寅、源ちゃんに向かって石を投げる。 逃げていく源ちゃん。
歌子「違うわ、そんな話しないわ。」
寅「あ、そう?何?どんな話したの?」←凄く何か期待している。(^^;)
自分にとって都合のいいことばかり考える寅でした。
でもそのことが観ていてとても切なくもあります。どうして歌子ちゃんは、
寅が自分のことをひょっとして好きなんじゃないかってちょっとでも考えな
かったんだろう…。年が離れてるって言ったってせいぜい設定的には
17,8歳の差ってとこなのに。まあ、もっとも、この後も年の離れた若い
マドンナたちはみんな寅にはほとんど恋愛感情持ちませんでしたが…(^^;)
やっぱりマドンナも長く人生の悲しみや切なさを味わってきた人でないと寅の
凄さは分からないかも。
歌子「実はねえ…」
寅「え?」もうニコニコ
歌子「結婚の相談をしていたの…」
寅、ハッとして、いよいよ自分のことかと思い、
うれしさを隠しきれない。
寅「誰の?」
歌子「私の…」
寅、感極まって「そんな…」と
うれしくて下を向いてしまう。
歌子、それには気づかず
「父が反対していることもあってね、
長い間、もう5年もの間悩んでいたのよ。
でも今夜、私決心がついたの。
彼と結婚することを」
寅思いもしなかった歌子の言葉に
愕然としながら、ゆっくり顔を上げていく。
寅、声震わせながら「彼って、どこの人…?」
歌子「愛知県の方でね焼き物焼いているの」
←彼の故郷の方は
山口県の津和野(第13作「恋やつれ」)
声震わせて「…じゃあ、オレのような遊び人じゃないんだね」と何度もうなずく。
←寅、自分のこと分かってるんだなあ。
歌子「黙って、一日中泥をこねたりロクロ回したりしているような人だけど、
寅さんに会ったらきっと気に入ってもらえるわ。
彼だって、寅さんが大好きになるに決まっているわ。」
寅「そうかい、そりゃよかった…」下を向く←つらそうな寅
歌子「あのね、寅さん」
寅「ん?」
歌子「私って意志が弱いどっちつかずの中途半端な人間で、
自分でそんなところが嫌でたまらなかったんだけど、
今夜さくらさんたちと話し合っているうちにね、とってもはっきり
決心がついたの。…私結婚しよう。明日の朝の
汽車で彼に会いに行こうって…私が幸せになれたらそれは、
寅さんのお陰よ。もし寅さんに会えなかったら、
私結局ひとりで悩んで諦めちゃったかもしれないのよ」
歌子泣いてしまう。
歌子は確かに寅に会っていなければ
人生を見失っていたかもしれないが、
別の意味で彼女の決意を手伝ったのは
博とさくらだった。特に博の言葉には力があった。
どうして歌子の悩みをマリもみどりも全く知らなかったんだろう。
一緒に何度も泊まりがけの旅行するくらい親しいはずなのに…
歌子「ごめんね。泣いたりして、変ね…嬉しいのに…」
寅「いいよ」とすっと立って「よかったじゃねえか。決心できてよ!」
歌子「寅さん、何見てるの?」 歌子のテーマ
寅「うん?、おー、星よ!
今夜は流れ星の多い晩だぜ」
歌子「あ、流れた!大きかったわ。
今のだったら願い事がかなうかもしれないわね」
寅「今度は、頼んでみてごらん」
歌子夜空を眺める。その歌子の横顔をじっと見つめる寅。
←寅の切ない気持ちが表情に出ていた。
第13作「恋やつれ」でもラスト付近で浴衣を来た歌子が
自宅の庭で花火を見ている後姿を見続ける寅の姿があった。
歌子「あ。また流れた」
源ちゃんもちょっと離れたところで空を見上げている。
江戸川土手
寅とさくらと満男
土手にかばんが置いてある。(旅立つのだろう。)
かばんには失恋した後も歌子ちゃんがくれた
大きな鈴がくくりつけてある。
さくら草むらに座り、寅は寝転がって肘をついている。
さくら「幸せになれそうでよかったわね、歌子さん」
寅「うん」
さくら「いつかの晩言ってたもんね、お兄ちゃん。
いいお婿さん探してやりたいって…。
その通りになりそうね、お兄ちゃん」
寅「うん、そうだよな…」
さくら「…やっぱり寂しいの?」
寅「なんで?どうしてオレが寂しいのよ…」
さくら「じゃぁ…、どうして旅に出ちゃうの?」
寅、ちょっと空の方を見て指を差す。
寅「ほら、見な、
あんな雲になりてえんだよ」
さくら、手をかざして空を見る。
↑何気ないこのシーンのこのセリフが
48作全部の寅の旅立ちの
気持ちを代弁してくれている。
地味だが、このシーンも
シリーズ屈指の名場面の一つだと思う。
寅、小さな声で独り言「またふられたか…」
さくら、ハッとして寅の方を見る。
寅、「え?」と起き上がり「オレ、今なんか言ったか?」
さくら「ううん……なにも」と知らないふりをして下を向く。
さくらもやっぱり切ないのだ。
寅、さくらを見てちょっと安心してうなずく。
土手で一緒に遊ぶ満男。
それから ひと月後 とらや
夏真っ盛り、ちょうどもうすぐお盆のころの とらや
とらやで、おばちゃんがかき氷をギコギコシャカシャカ作っている。
↑こういう時は必ず誰か大事なお客さんがきていることが多い!
おばちゃん、あんまり暑いので白いかき氷を口の中にほり込む。
↑分かる分かる暑いよね。これはなかなかリアルな行為だった。
とらやの茶の間で歌子からの手紙やハガキを読んでいる父親。
おんばちゃん「あの、家内でございます。先ほどは結構なものを頂戴いたしまして…」とかき氷を差し出す。
このあとの作品でもいつもおばちゃんは夏の訪問客にはかき氷を出していた。「子供だましのようなものですが」とか言って。
父親「娘が大変ご厄介になりまして…」
おばちゃん「いえ、とんでもありません。何のお世話もできませんで。でも、あの、お幸せそうで結構でございますね」
満男、さくらに「ママ…」と言っている。
満男は小学生のころは「おかあさん」とか「かあさん」言っていた。
大きくなってからは時々人には「おふくろ」とかも言っていた。
父親「お孫さんですか」
さくら「いえ、あの…私姪ですから。なんだろ?…」←姪の子供ってなんというのだろう?
おいちゃん「あー…何ていうんですかねえ。あの、要するに孫みたいなもんですよ。ハハハ。なあ、満男」
父親「じゃぁ私はこれで」←凄く早いお帰り。あの父親凄い人見知りなんだろう。分かる気もする。(^^;)ゝ
おばちゃん「あら、何をおっしゃいますかあの、今…」とひきとめる。
机に歌子から来た手紙(封筒で3通)と暑中見舞いのハガキ1通が置いてある。
封筒の裏に『愛知県春日井市高蔵寺町…
鈴木歌子(旧高見)と書いてある。←籍を入れたんだね歌子ちゃん。
とらやのこの光景に歌子の手紙のナレーションがかぶさっていく。
歌子のテーマ
『みなさん、暑い夏をいかがお過ごしですか。
私も元気で毎日土をこねたり薪を運んだりしてすごしております。
真似事ながら茶碗などをつくってみたりしているうちに
とても面白くなって夢中になって今は夢中です』
歌子のナレーションが続く
『それにしてもなんという暑さでしょう。
なにしろ1000度近い窯の近くで働くのですから、一日の終わりには
水を浴びたようになって思わず彼と顔を見合わせて笑ってしまうのです。』
江戸川土手をさくらと分かれて歩いて帰る歌子の父親。満男と一緒に見送るさくら。
歌子、近所の窯場の人と挨拶をして仕事場へ帰っていく。手に持たれた紙袋に
アイスキャンディが入っている。オレンジ味の細長いアイスキャンディを夫に見せる歌子。
髭中顔だらけの正圀はロクロを回している。
『ところで寅さんはどうしてるでしょうか?
実はこの前私の留守に訪ねてきたという男の人がどうも寅さんらしいのです。
本当に残念なことをしました。私、とても寅さんに会いたい。
今ごろどうしているでしょうか。相変わらず旅の空でしょうか。
そういえばそろそろ盆踊りの季節ですものね。』
歌子ナレーションの間、干した器を運ぼうとしてちょっとよろけて舌を出す。
正圀は紫色の四角いアイスキャンディ(おそらく葡萄味)をほおばっている。
おいおいさっきのオレンジ色のアイスキャンディ(オレンジ味)はどうしたんだ?
(この夫、正圀があと2年くらいで病に倒れて
亡くなってしまうとは誰が予想しただろうか…)
旅先の寅が木造の古い橋を渡っている。
ミンミン蝉が鳴いて、かなり暑そう。
ふと見ると舎弟の登が野糞をして川で手を洗っている。
寅、笑いながら「おい、兄さんケツちゃんと
拭いたか?ハハハハ!」
登「兄貴!あーはハハハ!兄貴!
こんなところで何してんだい!?」 あ、いてててと、すべる。
寅「野糞してたんだよ何だこの野郎ヨタヨタしやがって、
ろくなもん食っちゃいねえんだろう!」
登「兄貴、そうなんだよちっともいいことなくってさ。ついてねーよ」と再会が嬉しそう。
寅「バカヤロウ」と笑いまくる。
店の看板『共同飼料 ママ 』 『石田水車』 『完全飼料』
そこへペプシの真黄っきのトラックやって来て、急ブレーキ!←よく出てくるペプシ!
寅「危ねえ!気をつけろ!おい!」
寅「あ、ちょうどいいや。そこまで二人面倒見てくれや。頼む、すぐそこだから」
登「頼む、頼む!」
寅「おい、行こ行こ行こ!」
とドアを開けて、トランク後ろの屋根に乗っけて、二人して乗り込む。
二人を乗せたトラックが向こうに走っていく。
正に横を汽車が力強くポーッと走って行く。
おまけ
第8作は怪我で出れなかったがこの作品からは元気に出演している佐藤蛾次郎さん。
この第9作「柴又慕情」の予告編で↓の写真のように寅次郎の格好をしておどけて出ています。
マニア必見です!
製作 ................ 島津清
企画 ................ 高島幸夫 小林俊一
監督 ................ 山田洋次
監督助手 ....... 五十嵐敬司
脚本 ................ 山田洋次 朝間義隆
原作 ................ 山田洋次
撮影 ................ 高羽哲夫
音楽 ................ 山本直純
美術 ................ 佐藤公信
録音 ................ 中村寛
調音 ................ 松本隆司
照明 ................ 青木好文
編集 ................ 石井厳
進行 ................ 玉生久宗
製作主任 ............池田義徳
スチール .............堺謙一
製作宣伝 ............藤谷正雄
協力 ................ ペプシコーラ
出演
車寅次郎 ........... 渥美清
諏訪さくら ....... 倍賞千恵子
歌子 ................ 吉永小百合
車竜造 ................松村達雄
車つね ................三崎千恵子
諏訪博 ................前田吟
諏訪満男 ............沖田康浩.
(社長)梅太郎.....太宰久雄
源公 ................ 佐藤蛾次郎
御前様 ................笠智衆
登 ................ 津坂匡章
みどり ................ 高橋基子
マリ .............. 泉洋子
高見 ................ 宮口精二
不動産屋 .. 青空一夜
不動産屋 .. 桂伸治
不動産屋... 佐山俊二
夢の中の親分 吉田義夫
同子分 ....... 中田昇
車掌 ................ 大杉侃二郎
旅館の仲居 谷よしの
上映時間 107分
動員数 188万9000人
配収 5億1000万円
次の更新は第10作「寅次郎夢枕」です!
(今回の更新は2004年7月1日でした。次回「寅次郎夢枕」はだいたい7月5日頃です)
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