1968年〜69年 フジテレビのドラマ「男はつらいよ」
寅さんサイトの全26話あらすじの保存とバックアップ
『男はつらいよ』のオリジナル版であり、その原点でもある『テレビドラマ男はつらいよ』を独自の鍛えられた健脚で
熱く熱く『追求』されている管理人さんのひたむきなその『姿』にいつも私は感服し、大きな刺激を受けている。
頭で考えるのでなく、ご自分の脚で迷いながらも歩み続け、実際に人と会話し、ご自分の肌で実感し納得した
珠玉の内容をコツコツと積み上げられて来られているのだ。こんなことは誰もができることでは決してない。
また、私が第3作「フーテンの寅」第4作「新.男はつらいよ」をもう一度見直し、そのすばらしさを再認識するきっかけに
なったのもこのサイトを見始めてからだ。また、私の本編で出てくるテレビ版「男はつらいよ」に関するあらゆる記述は
このサイト無しには絶対に書けなかったことばかりだ。
視覚的な資料も独自の物を使われて、文章の一文字一文字、画像一つ一つが
貴重なものばかりで、寅さんファンだけでなく、全ての映画ファン、テレビドラマファン、映像ファンたち必見のサイトだ。
このページは万が一彼のサイトが何らかの理由で閉鎖されてしまった時の最低限のバックアップとしてここに
全26話分のあらすじを下に記載しておくことにする。
第1回(1968年10月3日放送) 脚本:山田洋次、 稲垣浩一(稲垣俊)。 演出:小林俊一。
(さくらの声)
「これは、私の家族全員が写っている ただ一枚の写真である。
この写真を撮って間も無く、母は病気で亡くなり。
それからというものは、何故か 父は仕事の上で失敗が重なり、
私が中学に入った頃、酒の無茶呑みが祟って
体を壊して、 あの世へ行ってしまった」
兄のりゅう一郎は大学を途中で辞めて働いていたが、
私が高校を卒業をした年、
好きな釣りに出かけて時化に遭い、不慮の死を遂げた。
私にはもう1人、寅次郎という兄がいたのだが、上の兄に比べると、同じ兄弟でもこうも違うか思うくらい出来が悪く、
中学の頃から不良の仲間入りをして、家を出たり入ったりしているうちに、何時の間にか寄り付かなくなり、
私が物心つく頃には、もう何処かへ姿を消したきり、未だに現れない。
今思えばオッチョコチョイで、よく私を笑わせた根は優しい兄だったが恐らく何処か異郷の果てで死んでしまったのだろう
家族の無い私の身の上を良く人は同情してくれるけど、私自身は、それ程には思っていない。
母を喪ってから私はこの気の良い叔父と叔母に実の子以上に可愛がられて育って来た。
私の会社は丸の内にある一流のメーカー。
そして同じ会社に恋人もいる…。
…その日、私は幸せだった。
父が生きていて、この話を聴いたら何と言っただろう。やっぱり『しっかりやれ』って言ってくれただろうか。
兄だったら何と言っただろうか。
そんな事を考えながら私は混んだ電車に揺られていた…
葛飾区柴又帝釈天の参道門前の団子屋『とら屋』に18年ものあいだ行方不明だった兄・寅次郎が突然帰ってきた。
妹の さくら は思い描いていた兄と現実の兄とのギャップにショックを受けてしまう。
寅次郎は、故郷への帰還を祝いに来た「その筋」の面々と酔っ払って大騒ぎ。
見境が無くなった寅次郎は、さくら と喧嘩してキャバレーへ。
翌朝、『とら屋』に迷惑を掛けた寅次郎は、別れを告げて旅立つのだが、
その前に、かつての恩師・坪内散歩先生を訪ねる。その娘・冬子と対面した寅次郎は冬子に一目惚れしてしまうのだった
第2回(10月10日放送) 脚本:山田洋次。 演出:小林俊一。
仮病の寅次郎は、冬子に付き添われて救急車で病院に運ばれた。
寅次郎を診察した諏訪博士(すわ ひろし)医師は、盲腸だと診断する。
寅次郎は即入院することになった。
それから1週間、
寅次郎は、とかく沈みがちな病舎の中を飛び回っては人々を笑わせ、
すっかり人気者になっていた。
だが寅次郎の行動は、重症患者にはイイ迷惑で、
悪影響を与えてしまうからと、個室に移される事になった。
さすがの寅次郎も、これには参ってしまい、日毎に元気が無くなっていった。
そんな時に、冬子が櫻を連れて見舞いにやって来た。
それからというもの、有頂天になった寅次郎は、
再び病室を飛び回わり、ついに病院を飛び出してしまうのだった。
寅次郎が退院して数日後の夕暮れのこと。
疲れた足取りで帰宅した櫻は、
つね から 「警察が直ぐ来てくれって…」 と伝言を受ける。
この回で、博士(井川比佐志)と櫻が初対面。 博士は櫻に好意を寄せるようになる。
寅次郎を追って、舎弟・川又登(秋野太作)が初登場、『とら屋』に住み込む。
仮病なのに盲腸手術された寅次郎は、「誤診で盲腸切った」 博士が気に入らない存在になる。
寅さんの盲腸手術について小林監督によると実際のドラマの中では 「ハッキリさせなかったんじゃないかな」 とのこと。
第3回(10月17日放送)脚本:稲垣俊。 演出:小林俊一。
寅次郎は『とら屋』で自由気ままに暮らすようになり、店先で、何やら怪しげな品物を並べて啖呵売を始めるのだった。
そのアオリを受けたのが櫻で、寅次郎にペースを乱され、とうとう入社以来初めて遅刻をしてしまう。
オマケに大宮部長(浜田寅彦)に呼び出されてしまった。
しかし、これは道夫の父・正夫(松本克平)が、普段の櫻を知りたいが為に、
友人の大宮部長に協力して貰って仕組んだ芝居だった。
正夫は櫻に好印象を持ち、話は弾んだ。
櫻は道夫から、正夫が家族同士で会いたがっていると聞かされた。 そして今度の日曜日に、
家族ぐるみでホテルでの食事会に招待されることになった。
櫻は嬉しいのだが、気がかりな事が2つあった。 お互いの家庭環境が違い過ぎることと、もう1つは兄・寅次郎のことだった。
寅次郎は興がのると何をしでかすか解らない無鉄砲さがあるからだ。
約束の日曜日、櫻は寅次郎と連れ立って出かけた。 寅次郎は、竜造・つね・櫻たちの説得が効を奏し、
大人しく礼儀正しかった。
しかし、段々話が弾み、アルコールが入った寅次郎は、
妹の晴れ舞台だからと、懸命に櫻の宣伝を始めてしまい、失言が続出。 道夫の家族に悪い印象を与えてしまう。
『とら屋』に戻った寅次郎は、竜造と つね から責められるが、何故自分が怒られるのか理解出来ない。
ようやく事情を理解した寅次郎は、櫻に詫びを入れるが、櫻の受けたショックは余りにも大きかった。
第4回(10月24日放送)脚本:稲垣俊。 演出:小林俊一。
食事会以来、道夫との仲は停滞気味になり、櫻は元気が無く、心が晴れなかった。道夫の母は、
2人の結婚に消極的になり道夫も櫻との久し振りのデートにも気乗りしない様子で、そそくさと帰ってしまう。
櫻は会社から帰宅しても、あまり口をきこうとせず 「どこかへ旅をしたい」 と漏らす様になった。
責任を感じた寅次郎は 「可愛い妹の為に何とかしなければ」
と思うが名案が浮かばない。
寅次郎の気持ちを察した竜造は
「何か好きなのでも買ってやれば櫻の気も納まるのではないか」と助言する。
「ハワイ旅行に行きたい 」
と言う櫻の願いを聞いた寅次郎は『とら屋』を飛び出していった。
翌日、警察官に連行されて寅次郎が緊張した表情で帰って来た。
みんなが見守る中で寅次朗は懐から100万円を出した。
競馬で大穴を当てて儲けたと言うのだ。
櫻の願い通りに家族みんなでハワイ旅行に行く事になった。
第5回(10月31日放送)脚本:山田洋次。 演出:小林俊一。
寅次郎が計画したハワイ旅行は、旅行会社の破産でダメになってしまった。
櫻は竜造と つね を慰めようと芝居見物に招待する。
責任を感じた寅次郎は留守番を引き受けた。
寅次郎は竜造が大事にしていたウイスキーを飲み始めるとイイ気分になって寝てしまう。
台所の窓ガラスを切る音で目を覚まし、入ってきた泥棒を捕まえると、昔の仲間の山本久太郎(佐山俊二)だった。
寅次郎からウイスキーを進められ最初は恐縮する久太郎だが、酔っ払って気が大きくなって来た。
2人の昔話は大いに盛上り、竜造のウイスキーを飲み干すと、久太郎は場所を変えて飲みに行こうといいだす。
留守番と泥棒は二人で飲みに出かけてしまった。
帰宅した櫻は寅次郎と久太郎の奇妙な関係に戸惑うばかり。
第6回 (11月7日放送) 脚本:山田洋次、 東盛作(森崎東)。 演出:小林俊一。
第六回は、寅次郎の唸る『忠治旅日記』にゾッコン惚れ込んだマクナマラ青年と、寅次郎、櫻の交流が描かれる。
寅次郎がヘンな外人を連れて帰ってきた。
櫻は、兄が連れてくるような外人にロクな者がいないと頭から決め付け、全く問題にしなかった。
それでも高校時代、『英語弁論大会2位』の実績を買われ、通訳を頼まれると櫻は一同の見守る中で喋り出した。
この外人は髭モジャの顔で、服はボロボロ。
名前はマクナマラ(マーティ・キナート)という。
櫻は、この外人がとても好感の持てる青年とわかって仲良くなった。
彼は路上で自分の絵を売ろうとして、ヤクザに絡まれた所を寅次郎に助けられたのだ。
そのうち散歩先生が登に伴われてやってきた。
散歩先生は昔々の英語でマクナマラに話しかけるのだか…。
マクナマラがアメリカに帰国する時がきた。
彼は別れ際、櫻に絵を贈った。
その絵にはマクナマラの想いが込められていた。
第7回 (11月14日放送) 脚本:山根雄一郎。 演出:小林俊一。
寅次郎と登がマクナマラを見送りに行きアメリカ航路の船に密航して2ヶ月が過ぎた。
2人が消息不明になっている間に櫻の身辺には色々な問題が起きていた。
結婚を約束していた道夫との愛も、もはや破局に近づいていた。
道夫は母親(中村美代子)の友人から縁談を持ち込まれると櫻の顔色を伺う始末。
櫻は迷った。そこへ寅次郎と登が、ひょっこりと柴又へ帰ってきた。
その夜、無事帰還を祝って、『とら屋』は大賑わい。
2人を囲んで、竜造と つね らが賑やかに、アメリカの土産話に耳を傾けていた。
しかし道夫との仲に苦しむ櫻は楽しく振舞う事も出来ず、じっと寂しさに耐えていた。
翌日、道夫に会った櫻は彼の優柔不断な態度に嫌気を感じ、2人の間を清算する
覚悟で一人旅に出かけてしまうのだった。
そんな事情をつゆ知らずの寅次郎。
「可愛い妹の為ならば」と
道夫との仲を取り持とうと する。
結局、寅次郎の努力は実らず道夫は母の薦める縁談を選んだ。
櫻は新しい生活を決意する。
第8回 (11月21日放送) 脚本:山田洋次、 稲垣俊。 演出:小林俊一。
最近、町内に女性の下着ばかり盗む変態な泥棒が出没し、女性達を気味悪がらせていた。
そして櫻も被害者になってしまう。
竜造・登・寅次郎は「色気があっていい」と勝手な想像をしてニヤつくが、女性達は不安でならない。
特に、つね は内心穏やかでは無い。近所では登が新参者と言うだけで犯人だと噂が出てるからだ。
寅次郎は舎弟の登が疑われている事を知り、何としても犯人を捕まえようとした。
散歩先生の家に相談しに来た寅次郎、先生の家に有ったリールのついた釣り竿を見て閃いた!!
釣り竿に女性の下着を吊るす『釣り竿作戦』で待つこと4日。
ついに罠にかかった犯人を捕まえた。
かくて寅次郎の大活躍により、登の名誉は守られたのだ。
この美談はタチマチ大きく広まり、フジテレビの『小川宏ショー』に登と共に出演する事になった。
さっそうとスタジオに入って行く寅次郎と登。
番組は最初こそ無難に進んでいたが、勢いづいた寅次郎の喋りは止まらない。
番組司会者・小川宏のリードを無視した寅次郎は、どんどん独走し暴走して行く…。
寅さんが『奥様スタジオ・小川宏ショー』に生出演。
本物の小川宏アナウンサー、露木茂アナウンサー、田代美代子さん、も出演しました。
二つの番組共、同じフジテレビのスタジオ制作ならではの展開でしょう。
小川アナウンサーは『男はつらいよ』以降も、フジテレビのドラマに幾度か顔を出す事があり、話題になりました。
なお、寅さんの美術担当の山本修身さんが担当された『オレたちひょうきん族』の「タケちゃんマン」にも、同じ形で出演されてました。
第9回 (11月28日放送) 脚本:光畑碵郎。 演出:小林俊一。
寅次郎は、すこぶる機嫌が良かった。
何故なら昨夜、夢の中で冬子にプロポーズされたからだ。
この日の夜、寅次郎は境内で女性の下着売り。 啖呵売も冴えて元気いっぱい。
ふと見ると、冬子が微笑みを浮かべてじっと寅次郎を見つめている。
冬子は、ちょいと相談したいことがあると言う。 寅次郎は一瞬、夢にまで見た冬子と自分の結婚話かと胸を躍らせる。
正夢を期待した寅次郎だが、冬子は散歩先生の健康管理の事で相談しに来たのだった。
寅次郎の正夢は、幻と消え去ったが、快く冬子の話しを引き受け、2人は別れた。
ところが、その直後、冬子の悲鳴が響いた。 冬子は、2人組の男に絡まれて連れ去られる寸前だった。
そこへ駈け付けた寅次郎は、2人組を投げ飛ばして冬子を救った。
翌朝、櫻が出勤したあと、『とら屋』に暴力団の若い衆が訪れ、
寅次郎に今夜決着をつけようと呼び出しをかけて来たのだった。
昨日の相手が、暴力団・白浜組の親分の息子と知った寅次郎は、内心ビクビク。
しかし、ここが男の心意気の見せ所。
寅次郎は、竜造と つね に門出を祝ってもらい、白浜組との決闘に向かって行った。ところが、
この決闘は、おかしな方向に展開していく。
第10回 (12月5日放送) 脚本:山田洋次、 森崎東。 演出:小林俊一。
啖呵売が終わって客が帰った後、寅次郎は一人ポツンとしていた坊やを肩車に乗せて鼻歌まじりに歩き出した。
そうしている内に寅次郎は自分が幼い頃、父親の肩車に乗って縁日を見て歩いた事を思い出し、ジーンと胸が熱くなるのだった。
その夜、一杯機嫌の寅次郎は、登と櫻を相手に怪気炎をあげ波乱が多い自分の半生を語り出す。
酒が入ると思い出話も、また一段と熱くなり寅次郎の身の上話は夜遅くまで続く。眠ろうとしても眠れない櫻は仏頂面。
寅次郎宛の速達郵便を手渡すとプイと横を向いてしまうのだった。寅次郎は、速達を読むと急に態度が変わった。
その昔、寅次郎が世話になった『しのめめの銀蔵親分』(杉狂児)が
臨終を前にして寅次郎を男と見込んで頼みが有ると書いてあったのだ。
寅次郎は義理と人情に生きる銀蔵親分との再会を瞼に浮かべ、登を連れて熊本に向かった。
寅次郎は病院で銀蔵親分から昔、芸者に産ませた子を捜して欲しいと頼まれた。
恩ある親分の臨終を前にした寅次郎は親分の願いを叶えてやろうとする。
第11回 (12月12日放送) 脚本:山田洋次。 演出:小林俊一。
冬子は休暇を利用して、散歩先生と 父娘の水入らずの京都旅行をしていた。
散歩先生は一度娘の冬子と二人で旅行したいと思っていただけに念願が叶い、
しかも学生時代の良き思い出が多い京都に来ることが出来て上機嫌だった。
二人が八坂神社の八つ頭を食べに行ったところ、九州に向かったまま消息不明になっていた寅次郎を見つける。
寅次郎は瞑想にふけりながら、八つ頭を食べていた。
寅次郎は、30数年前に生き別れた実の母親(武智杜代子)が京都にいると聞き、会いに来ていたのだ。
母親の居所がわかったが、寅次郎は今の自分の身を考え、会って良いのか躊躇って中々立ち上がれない。
業を煮やした冬子が寅次郎に付いていくことにした。
寅次郎の母親は連れこみ宿の女将だった。 寅次郎は夢まで見た瞼の母との対面するが、
その母親は寅次郎の思い描いていた人では無かった。 落胆する寅次郎に冬子は、かける言葉も見つからない。
2009年8月、当サイト最後の更新で大発表。
武智杜代子さん演じる
寅さんの実の母親の名前は「染子」でした。
巷には数多くの「寅さん研究」と称する出版物がありますが、
この名前に関しても、全く記載されてませんでした。どういうことでしょう。
第12回 (12月19日放送) 脚本:山田洋次、 東盛作(森崎東)。 演出:小林俊一。
櫻の心配を余所にして、
寅次郎は散歩先生と冬子の京都旅行に合流し、
京の街を闊歩しては、夜は夜で祝杯をあげて気勢をあげていた。
寅次郎はその夜、
先生親子に元気付けられて、
酔っぱらって良い気分。
次の日のこと、
散歩先生は冬子とゆっくり
苔寺を歩きたいと言って、
雄二郎の案内を
頑として受け付けない。
冬子は散歩の一徹さには、何かあると直感していた。
冬子の直感通り、散歩先生は三高時代の僚友で、
今はデパートの社長・北小路(野々村潔)と相談し、
彼の息子と料亭で見合いさせようとしていたのだ。
それを聞かされた寅次郎は、
冬子への気持ちをグッと堪えて、黙ってその場を後にした。
寅次郎は、己が冬子に真剣に惚れている事を悟り、
そして失恋の味を知るのだった。
その頃、料亭ではハプニングが起きて、
散歩先生はシドロモドロになっていた。
第13回 (12月26日放送) 脚本:山田洋次、 光畑碵郎。 演出:小林俊一。
歳末の慌しい中、寅次郎は、久し振りに柴又に帰ってきた。
『とら屋』では、年末とあって賀餅の注文が殺到し、竜造 つね を始め、櫻も忙しそうに働いていた。
そんな様子を見た寅次郎は、黙って飛び出した手前、大きな顔をして 「ただいま〜!」 とも言えない。
そこで一計を案じた寅次郎は、何気なくモチつくりの中に入って、そ知らぬ顔で手伝い出した。
寅次郎の掛け声に 「あいよ!」 と呼応していた竜造は、ふと気がつくと、隣に寅次郎がいるのでビックリ。
『とら屋』の前景気にあおられ、久方ぶりに皆の顔を見て嬉しくなった寅次郎は、
遠く九州の果てで、悲しい別れをした舎弟の登のことを思い出す。
寅次郎は、切々と涙ながらに別れた登の事を語りだし、渡世人の厳しさを嘆くのだった。
所が 「アニキ、お帰んなさい」 と言われてビックリ仰天! 別れた筈の登が目の前にいたのだ。
なんと登は一足先に帰って来ており、『とら屋』の出前を手伝っていた。
おかげで寅次郎は、自分の立場がなくなり、機嫌が悪くなった。
そんな悪いタイミングで、博士がやって来た。
博士は、風邪気味の櫻を心配して訪ねて来たのだ。
実は、寅次郎が消息不明の間に、櫻と博士の仲は急接近していた。
櫻が風邪をひいてしまい、博士が診たことで、親しくなっていったのだ。
妹想いの寅次郎は気をもみ始める。 前の道夫とのこともあり、櫻の相手は自分が見つけねばと思いこんでいるからだ。
ただでさえ機嫌の悪い寅次郎は、博士にからんで得意の「口上」で攻めたてるが、博士の反論には敵わない。
第14回 (1969年1月2日放送) 脚本:山田洋次。 演出:小林俊一。
寅次郎たち (寅、さくら、登、おばちゃん、おいちゃん)は新年の挨拶に散歩先生(東野英治郎)の家を訪ねる。
お汁粉を食べながら雑談を続けるが「人生の幸福とは何か」の話題になると会話にも熱がこもるようになって語り始めた……。
第14回に関しては立風書房刊『男はつらいよ3』に台本が収録されてますので短い紹介で留めました。
台本のセリフに物語の前後に関する情報が盛り込まれてました。
@ 寅次郎と櫻は、仲の良い兄妹になっていた。
A 櫻は既に道夫との事を乗り越えていた。
B 博士が櫻に気がある事を竜造、つね も知っていた。
C 登に恋人が出来た。 相手は喫茶店ハワイのウエイトレス。
ブローチをプレゼントしている所を寅次郎に目撃された。
D 京都で寅次郎と散歩先生は女性について随分と話をした。
E おいちゃんと おばちゃん は恋愛結婚。
F おいちゃんは、若かりし頃に蒙古で馬賊になる夢があった。
おばちゃんは、おいちゃんが馬賊になる夢を諦めたのは
自分のせいだと申し訳なく思っている。
ラストシーンにおいて、寅と登との印象的な会話シーンがありましたので再録します。
登 「ね、兄貴、俺、久しぶりに正月らしい正月したけど、やっぱり家庭の味ってのはいいもんだね」
寅 「バカヤロ」
登 「へえ?」
寅 「いいか、ああいうとこにドップリつかっちまうとな、
人間覇気ってものがなくなっちまうんだ、そうなりゃお終いだぞ、
人間、誘惑に負けちゃいけねえ、この道は厳しいんだ。
俺達の渡世の辛れえとこはそこよ、分かるか」
登 「へえ、よく分かります」
寅 「いくか」
シンシンと降る雪の中を、まるで寒空に捨てられた二匹の犬のように二人がもつれながら走ってゆく。
櫻の声 「・・・・・あれは、兄と過ごした初めての、そしてただ一度きりの正月の夜のことでした」
このエピソードの裏話について、山田さんと小林監督との対談から御紹介しましょう。
小林監督 「……延々1ページ半くらい渥美ちゃん1人で喋るホンが確か正月にありましたね」
山田さん 「あれ何回目くらいだっけかなァ」
小林監督 「丁度真ん中くらいですね」
山田さん 「真ん中くらいかなァ」
小林監督 「14回か15回ですね。 45分ドラマで延々一幕でやっちゃう」
山田さん 「1シーンだけっていうねェ。 あの頃は元気だったんだな。 ボクも若かったんだな。
なんか普通の形に飽きちゃって、小林さんや渥美さんがいる所で、
そんな話しを持ちかけたことあるでしょ」
小林監督 「そうです。 ええ」
山田さん 「 『どう、ワンシーンだけっていうの一度やらない!?』 みたいなねえ。
で、勿論その為に俳優は長い台詞を、デーと覚えなきゃいけないし。
渥美さんだったら行ける筈だという。
正月の茶の間で延々と幸福論を展開するという、
考えたら大胆なことをやったものですねえ」
小林監督
「ボクも、とても印象に残ってます」
山田さん 「森川信さんのおいちゃんがねえ 『こんな長い台詞は覚えられねェ』
って、ブウブウ言ったりなんかしてねえ…」
山田さん・小林監督 「(笑)」
山田さん 「それで書き抜きを作って。 楽しかったですねえ…あの仕事は」
第15回 (1月9日放送) 脚本:山田洋次、 森崎東。 演出:小林俊一。
正月に恋愛の話で花が咲いて以来、寅次郎の身辺にも春がやってきた。
啖呵売の帰り道、寅次郎は顔見知りのヘボ易者から数日中に縁談が持ち込まれると占われた。
そう言われて悪い気がしないのが人情。 寅次郎は鼻歌まじりの上機嫌で帰って来た。
すると京都にいる雄二郎から手紙が届いており、内容にビックリ!!
何と見合い写真を送ってきたからだ。寅次郎の見合いの相手はストリッパーだった。
でも寅次郎には冬子がいるので、見合い写真を破り捨ててしまう。
一方、舎弟の登は2・3日前から元気が無く夢遊病か、それとも悩みがある様子。
そんな登を心配した竜造・つね・櫻は寅次郎に相談した。
寅次郎は、登を元気づけようと『狸』に飲みに連れ出した。
そして登の元気の無い原因を聞くと思わず吹き出してしまうのだった。
登は、近所の喫茶店『ハワイ』でウエイトレスをしている愛子(寺田路恵)に熱をあげているのだが芳しくないらしい。
そして思い込むあまりに本当に熱を出して寝込んでしまったのだ。
寅次郎は可愛い舎弟の為ならば「力を貸そう」と乗り出した。
寅次郎は愛子に会い、見舞いに来てくれるように頼む。
当の愛子は寅次郎の気風の良さに惚れて夢中になる。
第16回 (1月16日放送) 脚本:山根優一郎。 演出:小林俊一。
この日の『とら屋』は珍しい事に一切の騒動も無く、平穏無事な一日になりそうだった。
だが、その平穏は、まもなく見事に壊されてしまうのだ。
寅次郎は啖呵売の帰りに馴染みのヘボ易者から声をかけられた。
彼は前に寅次郎の手相を見て以来、彼の人生に興味をいだき、もう一度占ってみたいのだと言う。
そこで寅次郎が見てもらったところ
「驚いちゃいけない。あんたの顔には正しく女難の相が出ているよ」と言われた。
北海道から中村タミ子(市原悦子)という女性が寅次郎を訪ねて『とら屋』にやって来た。
『とら屋』の面々は寅次郎の彼女では無いかと噂する。
そうとは知らずに帰宅した寅次郎を、竜造・つね・櫻が、ただならぬ様子で出迎える。
寅次郎は「女難の相が出ている」と言われた直後なのでビックリ。
寅次郎は、みんなから冷やかされるのでタミ子の事を思い出そうと懸命になるが心当たりが無かった。
それでも「会えばわかるから」と言われコチコチになって2階へ上がって行った。
なんとタミ子は寅次郎が旅先の函館で少しばかり世話をかけた
呑み屋『赤提灯』のタミちゃんのことだった。
しかしタミ子の気をもたせげで真剣な表情を見ると、寅次郎は、
もしや酒の勢いで夫婦の約束を交わしたのではないかという、不安に襲われて来るのだった。
占いのとおり確かに女難の相が当たったのだ。
困った寅次郎は、またヘボ易者の元へ。
そして翌日…。
函館からタミ子を追って、高橋英吉(田中邦衛)という男が、柴又へ向かっていた。
英吉は、『とら屋』に駆込むや否や
「人の女房によくも手を出しやがったな!」と怒鳴り込んできた。
そして大喧嘩が始まった。
もはや『とら屋』は、店を開けられる状態では無くなっていた。
第17回 (1月23日放送) 脚本:光畑碵郎。 演出:小林俊一。
ある朝のこと、寅次郎が目覚めると、見知らぬ子供がそこにいたのでビックリした。
登をおこして聞いてみると、昨夜、酔っ払った寅次郎が連れて来たと言う。
目を覚ました子供は「お父ちゃん、おはよう」と言うから、またビックリ。
この子の名前は、竹千代(松村知毅)という。 事情が掴めない寅次郎は思案に暮れる。
しかも身に覚えの無いわりには竹千代がなついてるので、
『とら屋』の面々は、寅次郎の隠し子だと疑うようになった。
困り果てる寅次郎だが、ひとつ判明した事がある。
それは、酒に酔って、千鳥足で帰った昨夜のことが思い出せないという事だった。
寅次郎は真相を探るべく、昨夜の出来事をたどって歩いた。
そして飲み屋のオヤジの証言を得て驚いた。
寅次郎は「お前の父親になる」と竹千代と約束していたのだ。
第18回 (1月30日放送) 脚本:山田洋次。 演出:小林俊一。
今回は寅と登の受難話。
寅次郎が啖呵売から帰ると、『とら屋』では竜造が つね に激しく責められていた。
アケミ(宮本信子)と言う若い女性からの電話で、竜造の浮気がバレタのだ!
困り果てた竜造は、寅次郎に事情を打ち明けて助けを求めた。
アケミを寅次郎のオナジミさんに仕立て上げ、その場を上手く誤魔化して欲しいと泣きつくのだった。
景気よく引き受けた寅次郎は、登と一緒に一芝居うつ事にした。
そんな時にアケミから 「どうしても相談したい事があるから逢いたい」 と電話が…。
ついにアケミが『とら屋』に乗り込んでくる!
今更、仕組んだ芝居を投げ出すような、みっともない真似も出来ず、寅次郎は竜造の代理人として会う事になった。
その頃、何も知らぬ櫻は、会社を終えて、冬子を『とら屋』に誘っていた。
そして『とら屋』で待ち構えている所へ、櫻が冬子を連れて帰ってきた。
冬子が来た事で困り果てる寅次郎。 だが仕組んだ芝居を投げ出す訳にも行かない。
そして、ついにアケミがやってきた。
第19話 (2月6日放送) 脚本:山田洋次。 演出:小林俊一。
寅次郎は、盲腸の一件から、
博士に対して良い感情を持っていなかった。
その博士に、櫻が誘われて音楽会へ行った事を知るや、
叔父夫婦にヤツ当たりしていた。
所が、櫻が不機嫌な顔をして戻ってきた。
そんな櫻を見て、寅次郎は何故かホッとする。
なんと博士は櫻を誘っておきながら、
演奏会場で高鼾を掻いた挙句、
手術した病人のことを気にして先に帰ってしまったという。
でも博士は櫻にプロポーズをする決心をしたらしい。
だが寅次郎は気に入らない。
「 櫻の相手は俺が見つけてやる! 」
と本気で考えていたのだ。
しかし当の櫻までその気になっている。
複雑な心境だが認めてやる事にした。
櫻は、兄の優しさがとても嬉しかった。
第20話 (2月13日放送) 脚本:山田洋次、 森崎東。 演出:小林俊一。
博士と櫻は婚約し、博士の実家へ挨拶に行くことになった。
寅次郎は「妹の縁談に親代わりのオレが行かなくてどうする」と、貸衣装屋から素晴らしい洋服を借りて来た。
だが寅次郎のそうした好意は、櫻にも博士にも有難迷惑だった。
博士の実家はたいそうな田舎で、純朴な地元の人達の間で寅次郎のハッタリは功を奏し、大人気となった。
そして博士の親類は、寅次郎の素晴らしさに感激し、「元・華族では」と噂する程の大盛況になった。
所が、結婚式が近づいた ある日のこと、大変な問題が持ち上がっていた・・・・。
これまでは博士が出ない回が有ったようなので、出演が判明している回のみクレジットして来ましたが、
以降は全部出演するようなので、レギュラー扱いとして、クレジットを省きました。
博士と櫻は婚約し、博士の実家へ挨拶に行くことになった。
寅次郎は「妹の縁談に親代わりのオレが行かなくてどうする」と、貸衣装屋から素晴らしい洋服を借りて来た。
だが寅次郎のそうした好意は、櫻にも博士にも有難迷惑だった。
博士の実家はたいそうな田舎で、純朴な地元の人達の間で寅次郎のハッタリは功を奏し、大人気となった。
そして博士の親類は、寅次郎の素晴らしさに感激し、「元・華族では」と噂する程の大盛況になった。
所が、結婚式が近づいた ある日のこと、大変な問題が持ち上がっていた・・・・。
第21話 (2月20日放送) 脚本:山根優一郎。 演出:小林俊一。
櫻と博士の結婚式は、いよいよ明日。
寅次郎をはじめ、『とら屋』の面々は商売もそっちのけで支度に大わらわ。
ところが、披露宴で祝辞を述べる顔触れを聞いて、みんなは不安になった。
諏訪家の方は社会的地位の有る人達がばかりが並ぶのに、車家の方は、
いつぞや泥棒に入った久さんをはじめ、なにやら物騒な面々。
おまけに披露宴の最後に、両家代表として寅次郎が挨拶をするという。
寅次郎は散歩先生に台本を書いて貰って、
可愛い妹に肩身の狭い思いをさせまいと、
徹夜で必死になって暗記するのだが…。
そして当日、寅次郎は、
両家を代表して挨拶に立つが、失敗してしまう。
みんなが笑う中、櫻は
「ありがとうお兄ちゃん」 と感謝するのだった。
第22話 (2月27日放送) 脚本:山根優一郎。 演出:小林俊一。
結婚式を終え、竜造と つね は虚脱状態に陥っていた。
寅次郎は 「祝い酒は三日三晩呑むものだ」 と言って、雄二郎と旧友・久さん(佐山俊二)も呼んで陽気に飲み明かす。
そこへ新婚旅行帰りの櫻から電話で、つね は大喜び。 おじ夫婦は、バカ騒ぎの寅次郎に堪忍袋の緒が切れた。
寅次郎は、冬子から
「櫻さんが居なくなった寂しさをお酒で紛らしているのね。本当は一番寂しいのは寅ちゃんじゃないの」 と言われる。
それからの寅次郎は、急に萎らしくなり、食欲も無くなり、酒も呑まなくなった。
心配した つね は、寅次郎も寂しいだろうと、久さんに 「 誰かいい人があれば世話をして欲しい 」 と頼んだ。
ところが、久さんの見つけて来た花嫁候補は、冬子だった。
冬子に呼び出された寅次郎は、自分がプロポーズしたと聞いてビックリするのだった。
実は久さんと雄二郎は、寅次郎の胸の内を代弁すべく、冬子に寅次郎の想いを打ち明けていたのだ。
堪忍袋の緒が切れた寅次郎は暴れ出した。
第23話 (3月6日放送) 脚本:光畑碵郎。 演出:小林俊一。
寅次郎は、散歩先生の家で、
中学時代の同級生・岡村亀雄(塚本信夫)に会った。
岡村は五つの支店を持つ、チェーン・ストアーの社長だが、
寅次郎にかかっては「ドン亀社長」と呼ばれる間柄。
意気投合した2人は、恩師・坪内散歩先生を囲んで
同窓会を開くことになった。
寅次郎は同窓会の幹事になって準備を進める。
やがて、待ちに待った同窓会の日がやって来た。
手伝いに来た櫻と冬子は
腕にヨリをかけて料理を作り、接待につとめた。
だが、散歩先生の自慢の秀才で、
今や外務省勤務の佐藤正範(森幹太)が現れない。
第24話 (3月13日放送) 脚本:山根優一郎。 演出:小林俊一。
寅次郎が路上で反物を啖呵売していると、
サングラスの男が通りかかり、じっと寅次郎を見つめていた。
その男を刑事と勘違いした寅次郎は、一生懸命弁解する。
ところが、この男は、昔、日銀一家の杯を交わした仲間の畠山三太郎(谷幹一)だった。
三太郎は、妻・ツル子(春川ますみ)を連れて、十数年も寅次郎を捜して全国を歩いていたのだ。
寅次郎は三太郎と酒を飲みながら、昔話に花を咲かせる。
実は三太郎は、寅次郎と一緒に旅をするのが目的だった。
そして全国を巡り歩こうと、なったのだが、
その時、寅次郎は、三太郎から、
ある「ボロい金儲け」の話を聞かされるのだった。
一方、竜造は、櫻の結婚式での祝酒の飲み過ぎが原因で、糖尿病が悪化し、博士の病院に入院していた。
その病室では、ある事で、竜造と つね は喧嘩になっていた。
第25話 (3月20日放送) 脚本:山田洋次。 演出:小林俊一。
全国縦断の旅を断念した寅次郎は、朝から夢見が悪かった。
その上、散歩先生が病床にあると聞き、後味も悪い。
そこへ冬子が訪ねて来た。
冬子は、寝たきりの散歩先生が
是非寅次郎と話をしたがっていると伝える。
散歩先生は、寅次郎に養殖物では無い、天然の、しかも近くの大池にいるウナギの蒲焼が食べたいと言う。
大池は工場の排水で汚されて、ウナギがいる訳がない。
困り果てる寅次郎だが、それでも散歩先生の頼みとあって、登と共に、大池へウナギ釣りに向かった。
そして悪戦苦闘の末、ついにウナギを釣上げた。
寅次郎は腕にヨリをかけて蒲焼を作り、
散歩先生の家に持っていった。
だが、時既に遅く、散歩先生は息をひきとっていた。
悲しみに暮れる冬子と寅次郎。
そこへ 一人の男性が現れた…。
その男性は、冬子の恋人で、
バイオリニストの藤村(加藤剛)だった。
藤村を見た寅次郎は、
自分では藤村に太刀打ち出来無いと思い知る。
そして寅次郎は、藤村から春に冬子と結婚すると聞かされた。
悲しみを堪えて寅次郎は散歩先生の葬儀を立派に勤め上げた。
寅次郎は旅立つ決心をする。
最愛の冬子は藤村の元へ嫁ぐ。
櫻は博士に嫁いで自立した。
『とら屋』は間もなく取り壊される。
理解者である散歩先生は、もういない。
もはや寅次郎に帰る所は無いのだ。
第26話 (3月27日放送) 脚本:山田洋次、 森崎東。 演出:小林俊一。
歳末の慌 寅次郎は散歩先生の墓前にいた。「ボロい金儲け」をして一発当てたら、
「立派な墓を建てるからな」と先生に約束するのだった。
一方、『とら屋』では、櫻と博士が訪れていて、冬子の件で、すっかり元気が無くなった寅次郎を心配していた。
そこへ元気に帰宅した寅次郎は、極普通に振舞い、ひっそりと 『とら屋』を出て行った。
そして寅次郎が旅立つ直前に立ち寄ったのが冬子の家だった。
冬子はレコードに針を落とす。
冬子は縁側から訪ねて来た寅次郎に、家にあがるように言うが、寅次郎はそのままだった。
寅次郎は散歩先生が亡くなってから、独り住まいになった冬子の家にあがろうとせずに、縁側で話しを済ませていた。
寅次郎 「結構な音楽ですねえ、お嬢さん、この歌は、なんて歌なんですか」
冬子 「これね ショパンの『別れの曲』というの」
寅次郎 「ショパンでございますか。へえ…別れの曲というと、やっぱり別れと言いますと旅人の歌でござんすかねえ」
冬子 「そうかも知れないわね…」
寅次郎 「へえ…旅人の気持ちなんていうのは世の東西、一緒なんでござんすねえ…」
寅次郎 「すっかり桜の花が咲きましたねえ…土佐の高知辺りはもう葉桜だろうな。
アッシらの家業は花見どきになるとバカに忙しくなりましてねえ。
九州の南の果てから桜の花追っかけて、北へ上がって行くんですよ。
弘前のお城の桜は5月のはじめ。 北海道の桜は5月の上旬。
稚内の桜祭りは6月の声ききますねえ。
もう東京じゃ気の早え蝉が泣き出す頃だ
…考えてみると日本もいささか広ろうござんす。
お嬢さん、新婚旅行に お行きなさるんでしたら北海道が良いなァ…、
6月の北海道はホントよろしゅう御座います」
冬子 「寅ちゃん…」
寅次郎 「ヘエ」
冬子 「ごめんなさい…、 本当にごめんなさい…」
寅次郎 「と、とんでもねえ…お嬢さん、何をおっしゃいますんで…お嬢さんアッシに謝ることなんかありませんよ。
アッシは別に、どォってことないんですからね、ええ、ホントに、ええ」
やがて金魚売りの声が聞こえるようになった頃、冬子の家は取り壊され、『とら屋』は、洒落た喫茶店に改築されていた。
舎弟の登は、その喫茶店のウエイターの職につき、堅気になっていた。
一方、櫻の住む団地には つね が遊びに来ていた。
櫻と つね が寅次郎が いた半年間をとても懐かしく思い出していた時、
チャイムが鳴るので玄関を開けて見たら、深刻な面持ちの雄二郎だった。
櫻と つね は寅次郎の消息を訪ねると、雄二郎は寅次郎の「ボロい金儲け」の御供で、
奄美大島にハブ獲りに行ったと伝える。
雄二郎によると今ハブが高く売れる時期だそうだ。
そして雄二郎は寅次郎がハブに噛まれて死んでしまったと打ち明けるのだった。
「すんません、すんません」
と泣き崩れる雄二郎は、カバンからある物を取り出した。
それは遺骨でも位牌でも無く、寅次郎の帽子だった。
寅次郎が死んだと悟った つね は悲しみにくれる。 だが櫻は信じない。
博士は、櫻を心配し、薬を飲んでから寝るように勧める。
櫻は、寝つけずに天井を見たままだったが、フト気がついて玄関に出ると、寅次郎が訪ねに来ていた。
寅次郎は、左腕が包帯に巻かれているものの、いつもの調子で櫻を冷やかす。
寅次郎「…オメェのね、約束。
赤ん坊の お土産だけは忘れなかったぜ、ホラ。
どうだい、え、もうそろそろ出来るんだろう、オマエ。
3月頃に仕込んだとしてもまだちょっと早いか?
この野郎、へへへへ」
櫻は「なによう…、くだらない事いってないで、はやくあがんなさい…」と声をかけると、寅次郎がいない。
寅次郎は、いつものように♪『喧嘩辰』を歌いながら歩いてる。
驚いた 櫻は、寅次郎の後を追うが、公園の所まで追いかけると、目の前で寅次郎の姿は消えた。
呆然とする櫻。
そして心配して駈け付けた博士。
「お兄ちゃん……死んじゃったのね…」
と呟いて、泣き崩れる櫻。
櫻を励ます博士。
『愚かな兄と賢い妹の物語』は、切なく幕を閉じる。
冬子と寅次郎の別れの場面は、渥美さんのお気に入りだったようで、聞き書きエッセイの中でも再現している。
また同シーンは、後の松竹映画版の第12作『私の寅さん』でも再現されている。
『男はつらいよ』と共に放送開始の『三匹の侍・第六部』と『密会』も同じ日に最終回を放送して、
フジテレビ昭和43年・秋のプログラムは無事に完結した。
だが『男はつらいよ』最終回の放送直後からフジテレビには、寅次郎の生死の確認と、
ドラマの終わらせ方に苦情を訴える電話が殺到。
小林監督とフジテレビ制作部は対応に追われ、他の部署の局員まで対応にあたった。
苦情の中には今からフジテレビに乗り込んで寅次郎の仇をとる!…と
言いだす物騒なものまであったという。
苦情の電話は3日も続き、一時は電話がパンク寸前になった。
小林監督は『寅さん』が視聴者から如何に愛されていたのかを実感したという。
これらの現象は、現在でもフジテレビは勿論のこと、
日本におけるテレビ界全体の伝説として語り継がれている。
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