男はつらいよ/予告篇集
― もうひとつの物語 ―.
No.12
寅次郎春の夢
第24作
もうひとつの「男はつらいよ」 ― 3分間に賭けた映画人たち ―
松竹映画「男はつらいよ」のDVDには実に嬉しい特典が付いている。それは『予告篇』だ。この予告篇は、たかだか2分から3分だが、
なかなか捨てがたい貴重な映像が入っていたりする。例えば撮影ロケが挿入されているもの。倍賞さんのNG場面が挿入されているもの。
本篇では出てこないシーンがたくさん挿入されているもの、等々、興味が尽きないのだ。どのカットも本篇採用のカットとは、微妙に
違うシーンがわざと入れられてあるのが心憎い。どちらかというと本篇と全く同じカットを使っている方が少ないくらいだ。とにかく
この「2分間の作品」を見て、本篇を見ようかどうかお客さんは決めるわけだから編集に携わった人々は常に真剣勝負だったと思う。
それらの方々のセンスと心意気が強く感じられる名作予告篇も何作もある。まさにそれは「編集の勝利」だともいえる。
特に、短いゆえに、たったひとつのシーンのインパクトが本篇以上に強烈に印象に残ったりもする。そこが実に面白い。
一寸の虫にも五分の魂があるのだ。
しかし、一般的には、この『予告篇』たちは、いつも本篇の陰に隠れて日陰者扱いになっている。
そこで本日から私がその『予告篇を』このページで簡単ではあるが全48作品紹介していきたい。
ただでさえ、本篇解説がダラダラ長いのに、予告篇までつきあってられないよ。という方はどうぞ、このページは飛ばしてください。
なお、予告篇の雰囲気を壊さないためにも、あえて本篇の物語の補足をここでは多くは入れない。感覚的に見ていただきたい。
予告篇を見る時点では観客は本篇を知らないからだ。予告篇ゆえどんどんカットが飛んでいくがそれを右脳的に感じていただければ、
と思っている。あくまでも予告篇は「抽象芸術」であり「ジャズ」なのだから。
予告篇はたった2分。構成の妙もさることながら、どの予告篇もキラッと光るカットが一つか二つ入っている。短いゆえにかえってそれが
印象深く燦然と輝くカットとなるのだ。
今回は第24作「寅次郎春の夢」の予告篇である。
さくらは博と恋愛をし、結ばれ、非常に安定した生活を送っている。寅はいつも惚れたハレタの世界の中で生きているが、
さくらはそのような世界とは無縁の中で生きている。しかし、そんなさくらがなんと独身男性に求愛されるのだ。
しかも相手はアメリカ人。この作品の見所は求愛されたさくらが、そのことにショックを受け、戸惑い、そして悩み、
最後は吹っ切れて彼を遠く見送るまでの心の動きだ。マドンナの香川京子さんはもちろん美しい!が、この作品はマイケルと
さくらの絡み、寅とマイケルとの絡みが一番面白い。
もちろん寅は大のアメリカ嫌い。マイケルが下宿していると知って、もう暴れまくるのである。テレビでは放映できるかどうかの
ギリギリの凄い言葉をまくしたて、マイケルを追い出そうとする。しかし、マイケルと寅は実は似たもの同士、いったんウマが
合うと分かり合える部分は多かった。
うらぶれたセールスマンのマイケルとうらぶれた渡世人の寅。凸凹コンビの大喧嘩と絶妙のやり取りをお楽しみください。
おまけの見所は、京都で坂東鶴八郎一座の『蝶々夫人』を観ながら妄想を抱くマイケル。
ピンカートンがマイケルで、蝶々夫人がなんとさくら。倍賞さんの美しい歌声「ある晴れた日に」が見る僕らの胸に染みとおる。
マイケルの妄想とは言え、このシリーズで唯一さくらが博以外の男性に恋をしている場面だ。
なお、坂東鶴八郎一座公演でのマイケルと殿山泰司さんのおまけのミニコントも見もの。
自分の想いをどうしても告白せざるを得ないアメリカ文化と、黙って立ち去る日本文化。マイケルのさくらを想う気持ちは
寅がマドンナを想う気持ちである。
寅の言葉
「ばかだな…あいつも」は心に残る一言だった。
では予告篇どうぞ!
富士山 無音
男(赤)つらいよ(黄)
寅次郎春の夢 予告篇(白) 映倫19965−72
バックは江戸川土手
好評シリーズ第24作
土手に立つ寅
クレジット 渥美 清
いいねえ〜、こういう絵は(^^)
とらや
おばちゃん「こまったねえ」いきなりかよ(^^;)
寅「なんだよオレがアメリカ嫌いだと
都合の悪いことがあるのか」あるある(^^;)
おいちゃん「つ、都合が悪いんだがなあ」悪い悪い(^^;)
寅「だから、なんだよ」
おばちゃん「そのねえ、始めっから話すと
長くなるんだけどねえ」なるなる(^^;)
寅「はあ、くたびれてんだからさあ、長い話はやだよ」
寅「もう人がせっかく帰ってきてさあ、
あ〜あ〜懐かしいなあって気持ちになってんのに、
アメリカの話なんかすぐするだろう。
いや〜な、気持ちになっちゃうんだよ、
オレは本当にアメリカ大嫌いだからね!え!
もう二度とアメリカの話なんかするなよ!まったく」
このへんの二人の掛け合いパントマイムは絶妙。
と暖簾と間違えてマイケルの背広に
手をかけるが、上を見上げて仰天する寅。
そんなわけないだろ寅。吉本新喜劇ギャグだよ(^^;)
クレジット ハーブ.エデルマン
!!!!!!
寅「ワァ〜〜!!!」ゴジラか(^^;)
マイケル「エクスキユーズミー、私マイケルです。」
本編では寅が「私、タイガーです」と応える(^^;)
このあと本編では凄まじい日米決戦の火ぶたが切られる。
おかしな外人 柴又に登場
日本、アメリカ人情すれちがい
めぐみさんの英語塾の前のさくら
さくら「もし、マイコさんが嫌な人だったらとっくに
出てもらってるわよ、」
マイケルを迎え撃つ源ちゃんの重装備がなんとも笑える(^^)
クレジット 倍賞千恵子
寅「ケッ!」
さくら「だけどね、あの人遠いアメリカから
はるばる日本に来たんだけど、
商売が上手く行かなくって」
寅「世の中そんな甘かないよ!お前!」同じ行商人としてはそうなるよな。
さくら「でもねえ、旅館に泊まるお金も無いくて
とっても寂しい思いしてたのよ、
そう言う気持ちってお兄ちゃんだったらよく分かるでしょう?」
寅、聞く耳無し!
とらやにマドンナ現る!
寅「!!!!」寅いきなり目が輝き…
さくらの言うこと全然聞いてない(^^;)
さくら「聞いてるのお兄ちゃん!」
その言葉も聞いてないって┐(-。ー;)┌
寅「いらっしゃい!」
さくら「あら!」
めぐみ「こんばんは」
圭子「先日はどうも」
さくら「いらっしゃい」
寅「お団子ですか?」
圭子「?」
さくら「わたしの兄なんです」
めぐみ「ええ?」
圭子「あら!お兄様!ま」
寅「へへへ、へへ」もう目がハート
「千代のテーマ」が美しく流れる。
想いは柴又に 旅を行く寅次郎
紀州路を歩く寅
東京−和歌山−伊豆
京都三条大橋が映って
和歌山での啖呵バイ 下駄のバイ
寅「戦後日本人の身長は外国人と匹敵する
ぐらいどんどんと伸びております、しかし!
それんに反比例して体力はどんどんどんどん落ちている!
これはなぜかと言うと!つまり!
この下駄を履かなくなった為であります!」
説得力があるようでないような…(^^;)
渥美さんの歌が入って
小舟の中で寅居眠り。
バコ!っとカバンが倒れて、おろおろする寅
新春はなやかに
クレジット 香川京子
クレジット 林 寛子
めぐみたちの家の改築の屋根で寅に
苛められる幼馴染の棟梁シゲルこと犬養弘さん。
お馴染みのキャストがクレジットされる。
新年の夢一杯に
山田洋次監督作品
和歌山のみかん畑を歩く寅
男(赤)つらいよ(黄) 寅次郎春の夢(白)
1980年ますます飛躍する 「男はつらいよ」シリーズ
12月28日(金)当劇場大公開
マイケルの望郷の想いと失恋の哀愁が切なく漂う佳作だ。