バリ島.吉川孝昭のギャラリー内
第18作 男はつらいよ
1976年12月25日封切り
禁じ手に懸けた寅次郎の究極の愛情
下の2枚の顔写真を見ていただきたい。
これはこの作品「寅次郎純情詩集」のラストシーンの写真である。
新潟の山間部の雪深い小さな分校に転任した雅子のもとに最後寅が訪ねていく。その再会の瞬間の二人の表情である。
これは惚れた男女の再会の表情などではない。彼らの眼に、なにかもっと根源的な、懐かしい運命的なものを感じるのである。
この二人は人生の中で、共通の深い体験をしてきた。それはとても哀しい日々であり、限りなく愛しい日々でもあったと思う。
そうでないとこの眼は出来ない。
その深い体験を今からゆっくり私も辿っていくことになる。この旅は少々つらいものになるが、そのような旅を通してしか分からないことが
人生にはあることも確かなのだ。そしてそのつらい旅の中に寅の愛情の本質が潜んでいるのであるならば、それを掘り起さねば
ならないとも思う。そしてラストにこんな美しい二人の顔が待っているのだと思えば、この哀しい旅を巡る意味は大いにある。
二人のこの表情を見ていると、これこそが長い長いこのシリーズのひとつの象徴なのだと思える。そして、ここに私が長く求め続けている
もののひとつの答えがあるような気がしてならない。
無償の献身とは 山田監督、一世一代の『禁じ手』
第18作「純情詩集」はマドンナが亡くなってしまう、という悲劇が待っている。むろんこれは他の山田映画の特徴から行けば
『禁じ手』といえるかもしれない。昨今のドラマや映画はこれでもかとばかりに主人公やその恋人、家族などが若くして死んでしまう。
人というものは不安定な「自我」をいつも抱え込んでいるので、人の死というものに敏感である。死の恐怖と言うものが人間に宿り続け
ている以上、この手のピリカラ物語は今後も流行り続けるであろう。ある意味とても安直で、短絡的な手法ともいえる。しかし、
この「純情詩集」はそのような安直なドラマとは正反対にある物語になっている。マドンナの悲劇や絶望を過剰に表現せず、寅の心の動きや
さくらの心の動きに重点を置き、絶望の中でさえ、ユーモアを忘れず、豊かな想像力を持ち、人の気持ちに寄り添うことの意味を表現して
いるのである。そのことがもっとも明らかにされるのが、マドンナが庭先で人間の死すべき運命を嘆いた時、それに対して寅が示した究極の
あのユーモアであり、とらやの団欒で綾の仕事をみんなで話し合う、あの未来に向けての想像力である。
人間は必ず死ぬのだ。おいちゃんおばちゃんも、寅もさくらも、満男でさえも…。問題はそのことばかりに過剰に反応するのではなく、
周りの人たちがいかに寄り添ってそれまでの日々を共に生きていくか、ということなのだろう。もうひたすらそれだけである。
寅は、もちろん綾との出会いの部分は惚れたハレタだが、次第に、綾に対して共に生きてゆく姿勢に変化していく。それは寅の表情を
見ていると分かる。寅はもうただただ綾を幸せにしたいのだろう。人が人を大事に想うこと。これこそが寅の無償の献身に繋がっていき、
その行為こそが彼の優れた才能の開花の瞬間ともいえる。
さくらの気持ち、寅の気持ち 想像力ということ
さくらは雅子から綾の命がもう長くないことを伝えられる。さくらは頻繁に綾の家に出かける寅を後押ししていく。
こういう時のさくらの行動は思いっきりがいい。もうここからは寅がどうのこうのというよりも、さくらと寅が綾さんに寄り添おうと
して行く。そしてそのことが最も大きくクローズアップされるシーンが寅とさくらで芋の煮っ転がしを作るシーンであり、もう一つは
綾さん亡き後、別れの柴又駅ホームでの寅とさくらの会話である。私は人が人を想うことがこんなにも美しくそして哀しいもの
なのかと、このときばかりは愕然としてしまった。
寅は綾さんが亡くなってしまった後も、まるで未来が待っているかのように彼女の将来の仕事のことを考えてしたのだった。
寅の数々の人を想う行為の中でこんな切ない想像は後にも先にもこのシーンを置いて他にない。寅の想像力の豊かさと類稀なる
才能を思い知らされたシーンだった。
あの会話の背後で微かに聞こえていた歳末のジングルベルの音がいやに心に沁みた。
別所温泉での再会、そして朝もやの中の別れ
この作品の中で、もうひとつ忘れられないのはあの第8作「寅次郎恋歌」で印象深い一期一会があった、坂東鶴八郎一座との
再会と交流、そして別れである。特に彼らとの宴会のシーンと翌朝のしみじみとした別れのシーンが秀逸だ。
寅は見栄を張ってお金も無いのに彼らに宴席を設けてやるが、あの心意気が旅役者たちにとって、どれだけ励みになるか。
この後も彼らにとって車寅次郎は人生を賭けて応援してくれる大事な人になっていったのだろう。それと、もう何度も書いたが
あの宴会の中で出てくるお掃除芸は必見もの。大杉侃二朗さんの懐の深さが垣間見れる、隠れ名シーンだ。
寅の渋さが光る夢の決定版 アラビアのトランス。
この第18作の北アフリカのカスバを舞台に繰り広げられる男の孤独がシリアスに描かれている本格派の『夢』である。
このシリーズの夢には2種類あって、「ナンセンスゲラゲラ夢」と「本格派の渋い夢」だ。
第15作、第16作、そしてこの第18作の夢が私の考えるシリーズ「本格派の渋い夢」ベスト3だ。とにかく寅がかっこいい。
さくらもかっこいい。ここでも岡本茉利さんが出演。
■第18作「寅次純情詩集」全ロケ地解明
全国寅さんロケ地:作品別に整理
今回も夢から
松竹富士山
アルジェリアの港町のカスバ
字幕: 夜霧に濡れる北アフリカの港町
場末の酒場が映る
字幕: 喧騒の中にも物哀しさをたたえた居酒屋の一隅
岡本茉莉さん扮する現地の少女がなにか人に尋ねている。
岡本さん結構似合っている(^^)
字幕 無国籍の悲しい宿命ゆえ、
放浪の旅を続ける男の淋しい後姿があった―。
少女、後ろに旅行者のような女の人と
共に酒場の中を歩いている。
汽笛 低く ボォ〜〜〜〜
フランス語で
少女「旦那さん、女の人があなたに会いたいと…」
フランス語で
トランス「女なんかに用はない」
少女「ええ、でもはるばる日本から来た方です」
とさくらの方を向く少女
トランス「え?ジャポン!?」
少女「あちらの方です」と手で指し示す。
この手で指し示す仕草は、後に別所温泉で別れの挨拶を
するあの大空小百合ちゃんに繋がる。
少女にチップをやるさくら
少女「ありがとう」
さくら「エクスクゼ.モア…」
とフランス語でしゃべろうとするさくら
トランス、指を前に出して
トランス「日本語でどうぞ」
さくら、顔がほころんで
さくら「日本語がお分かりですか」
トランス「少々」
カッコイイ〜〜!!(*^o^*)
さくら、喜んで安心した表情でイスに腰掛ける。
さくら「アラビアのトランスとおっしゃるのはあなたですか?」
トランス「昔はそう呼ばれたこともあった…。今は夢も希望も失って
酒と女にあけくれる日々だ」
女がからかう
トランス「向こうへ行け!」カッコいい!
トランス「ご用件は?」
さくら「実は人を探しております。20年前に祖国を捨てて、
放浪の旅に出ましたが、人づてに、北アフリカで見かけたと
聞きまして、カイロからアレキサンドリア、カサブランカと
長い旅をしてまいりました」と泣いてしまう。
トランス「その人の名前は?」
さくら「車寅次郎と申します」
トランス「…!!」
汽笛 ボォ〜〜〜!!
トランス「あなたは、その男の…」
さくら「妹でございます。名前をさくらと申します」
トランス「…!!」
トランス、少しうろたえる。
暗い音楽が流れる。
トランス「オレはその寅次郎の…友達だった…」
音楽大きくなって
さくら「え?…じゃあ、…今どこに!」
トランス「娘さん、寅次郎は…気の毒だが
もうこの世の人ではない」
さくら「…!!」
トランス「いい奴だったぁ…、アレキサンドリアの星と
慕われ、強きをくじき、弱気を助け、多くの貧乏人に
慕われ死んでいった…」
さくら下を向いて泣き始める。
後ろが騒がしい。
不穏な空気
トランス気づいて振り返り、立ち上がる。
トランス「いいかい、気を落とさないように…、
道中気をつけて国へ帰るんだよ」
刑事「 VOICI !」と写真を見せ、ぴゅるるると前に飛ばす。
刑事「トラジロウ!シバマタ!」
っと言うやいなやピストルを向けて撃とうとする。
さくら「シバマタ…!!」
トランス「しまった!!」洒落(^^)
刑事撃つ。
トランスも同時に2発撃つ。
刑事と源ちゃん撃たれる。
女たち「キャアー!!」
源ちゃん「トラジロー!」と唸って倒れる。
現地の警察タコ社長「ケッコウケダラケ〜!!」
それは日本語やて ヾ(ーー; )
タコ笛を吹く ピ〜!!ピ〜!!と仲間を呼びに行く。
トランスも,
わき腹あたりを押さえている。撃たれたのだ。
さくら「もしや、あなたは!?」
トランス「違う!!、オレはケチな人殺しをして、
刑事に追われているヤクザもんだ」
さくら「うそよ!お兄ちゃんでしょ!」と泣きじゃくっている。
シューマンの「トロイメライ」が流れる。
トランス「…違う!!」とむせび泣きながら…
トランス「お前の兄さんはな…、
アレキサンドリアの星と謳われた英雄なんだ」
ガクッ、と体が揺れて、何とか踏ん張って
「 C’est elegans, d’urban 」エレガンスなダーバン
昔、ダーバンのコートの宣伝でアランドロンが言った名セリフ(^^)
トランス、さくらを見つめ、すばやく立ち去っていく。
さくら「お兄ちゃん!!」と
泣きながら呼び止めるがトランスは振り向かず消えていく。
寅のあの「…違う!!」のセリフはしびれました。渋い!
大きく流れるトロイメライ
空しく響く汽笛
ブォ〜〜〜〜!!!
R.Schumannは、メンデルスゾーン、ショパン、リスト等とほぼ同年齢の前期ロマン派を
代表する作曲家の一人。教養が深く、意識的な『ロマン主義者』を自覚した音楽家。
同じく広い教養を持っていたメンデルスゾーンと通じ合うところがあり、彼らは生涯親友.。
「トロイメライ」は1838に発表された「子供の情景」というピアノ小曲集の中の1曲。
後にシューマン自身が述べているように「大人の回想であり、むしろ年取った人のためのもの」
各曲には題名が付されているが、直接の描写ではなく文学的なイメージに近いもの。
信州
上田地方 上田電鉄別所線 『中塩田駅』 裏手
床屋『フジタ』で寅が髭を剃られようとしている。
まだ、夢を見ている寅。
アツアツのタオルを持ってくる店主。
寅「はっ!アチ!アチ!アチ、
アチィ〜!あー熱い!」
店主「どうもすいません」
寅「ほォー」
店主「うあ!あちち!あち!やっぱり熱かった」
ラジオ「大陸性の高気圧が…九州地方をおおっています…日本側の地方は…」
備後屋でおなじみのスタッフの
露木さんが床屋の店主に扮している。
妹「お兄ィーちゃん」
店主「表だよ、おもて」
信州 上田電鉄別所線 中塩田駅舎が映る。
雰囲気あるねえ、あの電車モハ5250 丸窓電車(^^)
妹「お兄ィーちゃん!」
寅、チラッと妹の方をみる。
「昼ごはんだよー。
お兄ィーちゃん!
もお〜…お兄ィーちゃぁーん!」
電車が動きはじめる。
2010年7月 加筆事項↓
やはり写真で見る【中塩田駅舎】の裏の構造は
この第18作のあの駅舎の裏と一緒だった!
壁から突き出たひさしの下のトタンや灰色の物入れもまだ健在。↓
映画のアップ↓
その後...月日は流れ、ひさしの下のトタンは取り壊され、蔦が絡んできた頃。
この床屋さん、看板は「フジタ」と読める。今はもうないのかもしれない↓
ちなみに中塩田駅舎の表側は↓のようになっている。
別所温泉駅と同じくかっこいい。大正10年の建築。
2つの駅舎はおそらく時期に建られたと思われる。
2つともマンサード屋根の様式だ。
中塩田駅舎↓
別所温泉駅舎↓
で、現在は別所温泉駅舎同様、ついに中塩田駅舎補修&化粧直しされて綺麗になっている↓
しかし、本音は補修される前にあの風雪にさらされた駅舎をスケッチしたかった!!
ああ…無理だあ〜、そこまでの往復交通費が無かった……ガクッ 〇| ̄|_
補修に対していろいろ思うところはあるがあのまま放置され、どんどん崩れていくよりずっとよかった。
以上、
第18作「純情詩集」オープニングの駅舎判明!
上田鉄道別所線 中塩田駅
2010年7月30日 寅次郎な日々 その449より。
タイトル 男(赤)はつらいよ(黄)寅次郎純情詩集(白)映倫18923
クレジット 車 寅次郎 渥美 清
口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。
今作品も第17作「夕焼け小焼け」同様いつもの歌の2番の代わりに、
歌の3番が挿入されている。私はこの3番の歌詞が大好きだ。
♪どおせおいらはヤクザな兄貴
わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前の喜ぶような
偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪
♪あても無いのにあるよな素振り
それじゃあ行くぜと風の中
止めに来るかとあと振り返りゃ
誰も来ないで汽車が来る
男の人生一人旅 泣くな嘆くな
泣くな嘆くな影法師 影法師♪
テレビ局(映画)が、ドラマの撮影を
江戸川の土手で行っている。
女優と男優が一緒に歩いて、
それを移動板レールの上に設置したカメラが追う。
レフをかざすスタッフ。
しかし、そこへ例のごとく、寅の邪魔が入って、NG。
怒る演出監督。助手に文句を言いながらもう一回撮影をする。
寅、撮影を見ながら持ってるカバンをカメラの通るレールにおいてしまう。
さらに、寅自身もレールの上に立っている。
それに気がつかないスタッフたちは、撮影を始める。
男優が少し何か言って、女優が男優を平手打ち。
その時、寅、少しびっくり。(^^;)
女優、そのまま泣きながら走り去る。
それを追うカメラ。レールの上を移動車のカメラがどんどん行く。
寅とカバンにカメラが正面衝突。カメラは倒れ、一緒に乗っていた
監督も台から落ちる。
寅、知らんふり。
野次馬たち、笑ってる。
監督、激怒して、寅を追っ払う。
というミニコント
柴又 帝釈天参道
パーマアイリスがとらやの斜め前に見える!
お千代さんの店だ。どうしているかな…。
とらや 店先
さくらがとらやの前に水を打っている。
赤いアイリスの屋根。とらやの斜め前
柴又駅方面の参道を見ているさくら。
さくら「遅いわねえ」
おばちゃん「本当だねえ」
社長「誰か来んのかい?」
さくら「うん、満男の先生がね、今日家庭訪問なの」
社長「ほおお」
さくら「本当は私のアパートに来ていただかなくちゃ
いけないんだけど、狭くてごちゃごちゃしているでしょう」
おばちゃん「いいじゃないの、ここはあんたのうちみたいなもんだよ」
おいちゃん「あれ?満男の先生お産で休んでんじゃないのか?」
さくら「そうよ、だから今日見える先生はね、その間の
臨時の先生。そういうの産休講師って言うの」
社長「へえ」
おいちゃん「じゃ、学校出た手の若い先生か」
さくら「うん、まだ大学生みたいなきれいな人、ね、満男」
おい、こんなこと満男に同意を求めてどうする。
満男「うん」うんって(^^;)
社長「おー!若くて美人か」
銀行はどうしたんだ社長。ヾ(ーー )
おいちゃん「わはー」と呆れる。
博、やって来て
博「さくら、先生まだか」
さくら「まだなのよ」
博「社長、銀行に行くんじゃなかったんですか」
社長「ん、美人の先生が来るって言うもんだからね、
ちょいと拝見していこうと想ってさ」
博「なんですか、いい年をして、
やめてくださいよ子供の前で」
おいちゃん「早く銀行いけェ!」
さくら、笑ってる…。
社長「おい、今寅さんが帰ってきたら
どういうことになるかね?」
ああ!遂にこのセリフが…(^^;)
さくらたち、心からの恐怖におびえた顔
社長「美人の先生が来る、寅さんが現れる」
コリャ来るね(−−)
おいちゃん「悪い冗談よせよお前」
おばちゃん「本当だよ脅かさないでよ」
社長「アハハハハ!エヘヘヘへ…
おかみさーん、いい天気だねえ」
江戸屋のおかみさん、寅をこの時すでに探知!?
社長も見つける。
社長、おいちゃんの所にすっとんでくる。
これで何が起こったかが全て分かるから面白い(^^;)
おばちゃん「どうしたの?」
社長「帰ってきたよ!」
おばちゃん「え?何?」
博「困ったなあ」
おばちゃん「落ち着いてる場合じゃないよ!」
社長「相手はね、先生だからね、
寅さんに惚れたら、これは大問題だよ!」 NGかな?。
社長、それって『寅さんに』、じゃなくて『寅さんが』、かもね。
確かにマドンナが寅さんに惚れたらそりゃ凄く大問題だよヾ(^^;)
あ、だからこれでいいんだ…。OKです!(^^)
おいちゃん「だだ、だから」
おばちゃん「どうする?」
おいちゃん「どどどど、どうしろっていうんだよ」おいちゃん(^^;)
社長「追っ払うんだよ!」
さくら「どうやって」
社長「心を鬼にしてさ!なんか、
キツイこと言うんだよ!
じれってえな!オレに任せろ!」
この時の回避方法はただ一つ。
さくらが参道まで出て行って、寅をいち早くとらやに引き込む。
その間に博が先生を参道の端で待つ。そのまま彼らのアパートに案内する。
寅はおいちゃんたちにまかせてさくらが満男とすぐにアパートに行く。
ある意味寅を怒らせるのは社長の十八番なんだが…(^^;)
おばちゃん「来ちゃったよ」
社長「よおし!」
この手のとらやに寅が帰ってくるシーンで
ここまで歓迎されていない寅も珍しい。
マドンナが2階に下宿している時はしょうがないとしても、
それ以外では、第25作「ハイビスカスの花」の
「水元公園アヤメ見物騒動」と双璧。
ま、事情が事情なんだけどね(−−)
寅と目が合う社長。
寅、ニコッと笑う。
寅「へへ、社長」と愛想がいい。
社長「寅さんお帰り。懐かしいなあ」
だめだこりゃ(;´д`)ノ
博、社長を見て、全てを覚る。
寅「達者かい」
社長「ありがとうよ」
寅「どうだい、裏の工場の景気は?」
社長「それが、相変わらず不景気でな〜」
寅「ふううん」
雅子「こんにちは」
寅「おばちゃん、お客さんだよ、おだんごでしょ」
さくら、気づく
雅子「いえ、あたし柴又小学校の柳生と申します」
寅振り向いて
寅「柴又小学校の柳…」
雅子のテーマが流れる。
寅、後ずさりしてカバンが机の上で倒れる。
さくら、店先まで走っていく。
一同、唖然…
全ては始まり、全ては終わった…(-_-;)
さくら「あ、先生、お待ちしておりました」
この時、参道の道を通り過ぎるヘルメット(安全第一の黄色)を被った二人組みが
なぜか次のカットでいきなりいなくなっている。
寅「あー満男の先生か!
は〜どうもいつも
お世話様になりまして」
さくら「私の兄です」
雅子「ああ、じゃあ、満男君の伯父さまですか」
寅「いいえ、そんな伯父さまだなんて。
寅「おい、博、
お前満男の父なんだろかりそめにも!」
かりそめって…(^^;)
寅「ちょっと、こっち来てご挨拶しなさい、ほらっ!はやく」
博「ち、父親です、いつも、せが、倅が」
寅「本当にお前、ブザマだねえ、
挨拶も出来ないんだねえ、
いいや、どけどけどけ、
おばちゃん、ちょっとお茶入れて、お茶
どうぞこちらへおあがりください。ささ、ささ、どうぞどうぞ、
じゃまじゃま、タコ道開けろ道、さ、お上がりください」
さくら、博「どうぞ」
あ〜〜〜…もうだめだね。ロックオンされちゃった┐(-。ー;)┌
雅子「満男君、こんにちは、」
寅「おばちゃん、お団子いっぱい持ってきてやれ頼むよ!」
社長「えらいことになったぞ、帰ってきて早々」
とバイクで走っていく。
社長「お、高木屋さん、新車(スバル)買ったねえ」
おそらくこのシリーズで「高木屋」さんの名前がセリフで入った
最初で最後のシーンかな…。高木屋さん、分かってるかな?
とらや 茶の間
博「ハッキリ言って、今日の教育のあり方に僕は疑問があるんです」
寅「疑問はあるな」てきとう〜〜 ヾ(^^;)
雅子「本当にいまの子供はかわいそうだと思います」
寅「かわいそうですよ全く」おいおい ヾ(^^;)
さくら「おちこぼれって言うんですか?」
雅子「ええ」
さくら「子供一人一人の個性が大事にされないって
ことがとっても恐いですわねえ」
寅「あーこわいこわい」オウムがえしか…ヾ(−−;)
寅、それじゃ『チョイナチョイナ』的合いの手状態だよ(^^;)
雅子「ですから、閉鎖的になっているって言うか、
仲間と一緒に遊ぶ事が出来ないんですね」
寅「閉鎖的、あ、そりゃいけないな、うん」
だから、それじゃ、合いの手だってば(^^;)
雅子「お友達は多いほうですか?」
寅「おお、友達は多い!」
寅が無駄話をしている時もさくら、なぜか笑ってる。
そんな場合じゃないとは思うんだが…。
真剣な表情の博とは対照的。
雅子「どんなお友達かしら」
担任なのに先生は知らないのか?
寅「まあ、いろんなのがいるえねえ、
まず、伊賀のシンベイ、
こいつは博打が好きでした」ちょいちょいヾ(^^;)
と言いながら、サイコロを振る手つき。
ちなみに私の生まれも伊賀上野。
寅「でも、女房もらったらぷつっ…と噂聞かなくなったなあ、
あれ堅気になったんじゃねえかなあ…、
あ、それとコナツのジョウジ、
これはね、オカマ。(((^^;)
夕方の四時ごろなるとね、
こうタワシみたいにヒゲが
ダァ〜っとはえてさ、
笑っちゃう面白い奴なんだ、笑っちゃう」
もっとまともな奴いないのかよ(−−;)
さくら「お兄ちゃんのことじゃないの、満男のこと」
寅「え?」
寅、普通分かれよな。そんなもん(^^;)
さくら「満男の事」
寅「あ、そうか満男の友達か
満男の友達いたじゃないか頭でっかい奴」
頭でっかい奴って…(^^;)
おばちゃん「寅ちゃん、向こうにお茶が入ってるから」
寅「今、大事な話しているんだろう、うるさいなあ、
ちょい、ちょい、いってなさいよ、あー、むこういって。
まったく教養の無い女ですからねえ、
こういうとこに口出しして、ささ、
どうぞおせんべい、あの胡麻の。
おい、博!お前何黙っているんだよ、
こういう時にどんどんどんどんお願いしないかよ、
せっかく先生忙しい時にこうやって来て下さって
いるんだからあ」
博「好き嫌いが大変多いんですけど、
ちゃんと給食食べてますか?」
寅「食いもんのことなんかどうだっていいじゃないか
今は満男の将来これからどうするかってことを
言っているんだろう、
医者にするか、弁護士にするか、ええ?」
寅っていったい…(^^;)
第12作「私の寅さん」でも満男をりつ子さんの家に連れて行って
芸術家になれるかどうかを聞いていた。結局満男って、
寅にとってマドンナに会う餌なのかい?(ーー;)
医者にするか、弁護士にするか
さくら、この時も笑う。
寅「父親はたかだか職工止まりですからねえ、
せめて倅だけでも一流大学に入れて
やりたいと、まあ、これは伯父としての
心づもりなんですけれども」
この発言、相当きつい。雅子先生も気にしているし、
さくらは博を見て下を向くし、博は何もいえない。
このあたり相変わらずだね寅って(−−;)
自分のことは完全に棚に上げているし。とほほ…。
寅「やっぱり高望みですかねえ」
おいちゃん「寅さん」おいちゃん寅のこと「さん」づけ。よそゆきの言葉(^^;)
おいちゃん、手招き
寅「あとォ!!」
おいちゃん「いやいや、ちょっとあの、
仕事の事で相談があるんだけど」
寅「アト!って言ってんの!」
さくら「ねえ、行ってあげたら?」
寅「今先生と大事な話しているんじゃないか!」
博「しかし、おじさんの用事も大事じゃないのかな」
寅「お前たちはそうやって満男の事を
ほったらかして平気なのか?えー。
だからお前たち両親にね満男の教育は
任せられないってそういってるんだよ…
なにしろたったひとりの甥っ子ですからねえ、
いろいろと心配で」
満男が隣にやってくる。
寅、満男の頭をなぜる。
雅子「フフ…伯父様も大変ですね」
先生空気読めよ(−−)
寅「いやあ」
厳しいようだが雅子先生が本当は空気を読まないといけない。博たちは
明らかに何かを先生と真剣に話したがっている。家庭訪問というのは
意外にその子供の背景がわかって担任には貴重な資料となる。
この場合、寅は悪気は全くないし、少しは寅を交えて楽しく話をする包容力は
先生としてもちろん必要だとは思うが、非常に限られた時間なのでそれも限度がある。
寅はさっきから身内の言うことを一切受け入れず、ペースを乱しているのは
一目瞭然。こういう時、寅は先生の言うことだけは聞くだろう。ここがポイント。
したがって、先生はニコニコ笑って受身になっていないで、ハッキリと「ここからは
ご両親と少しだけ話をさせていただけますか」って権限を行使して言わないとダメ。
それでも寅が居座って動かないようなら、これはもう事故なのでしょうがないが…。
満男のためにわざわざ限られた時間を使っていい年をした大人が集まっているのだから、
その辺は時としては先生自らがペースを積極的に作っていかないと井戸端の娯楽
だけで終わってしまう。
学校を出たての臨時産休講師も経験豊富なベテラン先生も満男にはたったひとりの
担任の先生だから、この職業はなかなか難しいのである。
悪気はないんだけどねえ〜(^^;)
おばちゃん「ダメかい?」
おいちゃん「根が生えたように動きやしないあのバカ」
寅「ウハハハ」
おばちゃん「こまったねえ、あれじゃさくらちゃんたち話が
出来やしないじゃないか」
おいちゃん「 チキショウ、覚えてろ」
客「お団子下さい」
おばちゃん「あ、いらっしゃい」
雅子「それじゃ私」
さくら「そうですかそれじゃあ」
寅「おばちゃん!お帰りだよ!」
おいちゃん「こりゃこりゃ、どうもどうも」
雅子「どうもおじゃましました」
一同「いえいえ」
寅「どういたしまして、なんのお構いもしませんで
どうぞ、あの、これに懲りず、またちょくちょくいらしてくださいよ」
雅子「伯父様はここにお住まいですか?」
寅「ええ、私はずーっとお住まいですよ、な博、
おい!なにぼけっとしてんだよ、じゃ、先生に
ご挨拶して、ほら」
博「本日はどうもありがとうございました」
さくら「どうもよろしくお願いいたします」
雅子「じゃ、満男君、さようなら」
満男「さようなら」
寅「さようなら」
雅子「じゃ、みなさん失礼致します」
一同頭を下げる
寅「失礼致します」
博「どうも」
寅「あ、先生、僕、そのへんまでお送りいたします。」
これだよなあ┐(-。ー;)┌
雅子「いえ、そんなあ」
寅「いや、ヘンな奴が出てくるといけないんで、さ、行きましょう」
それはあんただよヽ(´〜`; )
寅「 今度のあのー父兄会ってのは…」
寅、行き間違える。
寅「あ、こっち来ちゃった、こっちですか」
寅「今度の父兄寄り合いの日っていうのは
いつ頃になりますか?」
雅子「PTAですか?」
寅「PTAです。」
雅子「あ、えーっと来月の…」
博「いくら兄さんでも、今の態度は許せないよ!」
さくら「え?」
博「必ず決着をつけるからな!今夜!」
おいちゃん「…!!」
博のこの態度にさくら、もおいちゃんも、おろおろしてしまっている。
寅は博の大事にしている心のエリアに侵入してしまったようだ。
帝釈天参道
寅と雅子、題経寺の方へ歩いていく。
寅「よう越後屋、
相変わらずバカかおまえ」
相変わらず凄い挨拶だねえ〜(^^;)
雅子「フフフ」
寅「ったく、ろくな奴いませんからねえ。
子供の教育には悪いところですよ」
雅子「あら、いいところですよ、古いお寺があって、
広々とした江戸川の川原があって、子供たちは幸せよ…」
寅「先生のお家はやっぱり山の手ですか?
麻布だとか田園調布だとか」
雅子「いいえ、すぐそこ。ほら、あそこに
送電線が見えるでしょ。あの下」
寅「 あんな近かったんですか」
雅子「どうもありがとうございました」
寅「あ、お家に近くまでお送りいたします」
雅子「あ、いいんですよ」
寅「どうぞ」
源ちゃんはしごの上で見ている。
夕闇迫る柴又
サイレン
朝日印刷 印刷工場内
お疲れさん
社長「ごくろうさんごくろうさん」
工員「お疲れ様」
工員「金貸して」
工員「バカ」
博「お疲れさん」
社長みんなに「やー、お疲れさん」
とらや 茶の間
博とらやに戻って来る。
さくら「お帰りなさい」
おばちゃん「お疲れ様」
博「兄さん帰ったか?」
さくら「ん、表にいる」
博「え…」
寅、店先で茶の間を見ては、行ったりきたりしている
おいちゃん「入りにくくてウロウロしてんだ」
おばちゃん「自分でも分かってんだね、悪いことしたって」
豆腐屋 パアープゥ〜〜〜
さくら「満男、ご飯よ」
満男やってくる
さくら「さあ、食べましょ」
博「いただきます」
おばちゃん「おなかすいてんだろうね」
さくら「いいのよ、知らん顔してて」
江戸屋のおかみさんが「はい」って回覧板持ってくる。
寅「あ、回覧板、どうも。親父さん相変わらず飲んでる?」
おかみ「やってるよ」
寅「そう、肝臓大事にね」
おかみ「ありがと」
寅「不用品交換バザーか…」
と、歩いてきて
寅「おばちゃん、うちには不用品ないのォ?」
寅「あ、みんな晩御飯食べてんのか、そうかぁ〜」
さくら「いただきます」
寅、座って
寅「あ、そうだ、これさくらぁ〜、開けてみんなで
食べりゃよかったのにさ、これを。これ…これ…
辛くて美味しいのに…、ね、これ食べて、たべ…」媚媚(^^;)
と、わさび漬をくるくるお膳の上で振り回す。
一応気を使っているみたい(^^;)
一同完全無視
脚本ではフルーツを買ってきている。
寅「あ!がんもどき、お芋かあ、
俺の好きなものばかりだ。
おばちゃん気使って作ってくれたんだねぇ、
じゃあいただくか…」
とちゃわんとお椀表向ける。
おいちゃん「醤油ないか?」
寅「醤油…」と探すふり。
さくらが寅の土産のけて醤油を渡す。
寅「箸は…」
一同またまた完全無視
寅、一同を見渡しムスッっとする。
ひたすら押し黙って食べている博を睨む。
怒って
寅「なんだい!みんなつん黙りやがって、
オレに何か言いてえ文句でもあんのか!?」
さくら、チラッと博を見て
さくら「 久しぶりに帰ってきたお兄ちゃんに、
こんなことほんとうに言いたくないんだけどね。
今日の昼間のお兄ちゃんの態度はなあに?」
寅「オレがなんかしたっていうのか!?」
さくら「何かしたかじゃないわよ!胸に手を
あてて考えて見なさい。
私たちは満男のことで柳生先生といろいろ
相談したかったのよ。
それをお兄ちゃんがずうずうしく割り込んでくだらない
おしゃべりばっかりするから、なにひとつ大事な話
なんかできなかったじゃないの。
おまけによせばいいのに、送ってったりたりして。
どうせばかなことばかりしゃべってたんでしょう。
私考えただけで顔が赤くなるわ」
寅「 おい、オレはなあ、おまえたち口下手な人間に
なり代わってだ、あの女先生と満男の
教育について語りあったんじゃねえか、それを
なんだいこのやろう!くだらねえ話とは。
お前達は人の親切に対してそういうものの
言い方しかできないのか!」
博「へえ、あれが親切ですかねぇ」
さくら、ちょっとドキリ…
寅「なにい!博なんだ、てめえ、オレに文句あるのか!」
おいちゃん「親切にしたかったらな、
黙って引っ込んでりゃいいんだ!」
おばちゃん「そうだよ!あれが男の先生だったら、
おまえなんか鼻もひっかけやしないだろ!」
と言いつつ、おっとォ!おばちゃん
箸で芋を刺して一口でパクリ!!
もう一度スロービデオで見てみましょう(^^)
↓
おばちゃん、何回リハーサルしたんだろう。
おなかの中芋だらけだとか…(^^;)
三崎さんご苦労様です。さすが演技の懐が深い。
こういう大胆なおばちゃん大好きだ。
食事シーンの最高傑作です(^^)
寅「かぁ、やらしい口の利き方するねえ、
不潔だよおまえさんは」と、おばちゃんを指差す。
おいちゃん「てめえこそ不潔だ」
寅「何でオレが不潔なんだよ!」
博何か言いたげ。
おいちゃん「言いたかないけどな、お前満男のこと
なんかどうだっていいんだ。
あの先生の前でいい格好したかっただけじゃねえか!」
寅「なにい!?」
博「 なにが教育だよ、ばかばかしい!」(▼皿▼メ)
さくら、蒼ざめる。
寅「 てめえ!婿の癖に生意気な
こといいやがって!このやろう!」
とぶっとばす。
博、押し倒され、ご飯も散らばる。
さくら「なにすんの!お兄ちゃん」
寅「 なんだこのヤロウ!」
おばちゃん、満男の顔に手をやって喧嘩を隠す。
おいちゃん「寅!おまえそれでも満男のおじさんか!」
博、散らばったご飯を拾いながら
博「みんなの言ってる事が図星なんで、
それで腹を立ててるんだ、そうでしょう」
寅「なんだてめえ!このヤロウ!」
さくら、間に入って、
さくら「博さん、お兄ちゃんだってもう分かってるんだから。
お兄ちゃん…、分かったでしょう」
またもや寅をすぐ甘やかすさくらでした。
寅、横を向いている。
博「僕にも言わせてくれよ!たまには!
博「そらあ、僕は職工です。
大学にもいけませんでした。
そんな僕が、満男にどれほど夢を託しているか!
そんなこと、子供も持ったことのない兄さんに
分かってたまるか!」
寅「…」
さくら「…」
おばちゃん、満男の顔に手をやって喧嘩を隠し続ける。
重い沈黙が流れる…
おいちゃん「…博さん、あんたの言うとおりだ。
寅、博さんに謝んなさい」
おばちゃん「そうだよ、あやまんなよ」
さくら「お兄ちゃん、お願いよ」
さくら「お願いよ」という言い方で謝らせるなよな(−−)
出て行く寅。
おばちゃん「さくらちゃん、いいのかい?」
さくら店先まで追いかけて
さくら「お兄ちゃん、バカねえ、お腹すいてるんでしょう?」
寅「さくら、あの女先生に会って、満男君の伯父ちゃんは
どうしましたって聞かれたらな、
うちのものと喧嘩して家を出ました、今頃は遠い旅の
空で、すきっ腹抱えてたった一人の甥っ子の
幸せを祈ってますってそう言え」
寅「あばよ」と出て行く。
寅の背中を見ているさくら。
そして下を向く。
第46作『寅次郎の縁談』で
就職活動に次々に落ちてしまった満男が号泣しながら博とさくらに
「父さんは僕に押し付けたんだ!」
「僕は父さんの身代わりに大学へ行ったんだ!」
「母さんが、『お父さんは大学に行けなくて悔しい思いをしたから、あなたが
代わりに行ってちょうだい』っていうから仕方なく行ったんだ!」
って真剣にくってかかるこのシリーズ最大級のシリアスな場面が
あるが正にその火種はこの頃にすでにあったのかもしれない。
博の気持ちも分かるが、自分のかなわぬ夢を人に託すと、
託された人が苦しむことがよくある。人には人の分というものもあり
色というものもある。その人の道というものもある。
自分が過去に出来たからこの子もできるだろう、はよくないし、逆に、
自分は過去にできなかったが環境が整っているこの子はできるだろう、
もよくない。人は完全に人それぞれだ。
だいたい博は、この時点でまだ30歳ちょっとくらいのはず。自分自身の
将来もまだ未知数で、実はいろいろ軌道修正して変えることは出来るはずである。
やれない理由は金銭面、時間面など、それこそ山ほどあるだろうが、本当は障害を
乗り越えて実行するほどの強い必然性がないから、やれない理由を引っ張り出して
きてお茶を濁している場合も多い。
やる人はやるのである。やらない人はやらない。それだけのことだ。
そして、それは断じて『良い悪い』の問題ではない。これは趣味の問題だ。
軌道修正をしなくても、現在の状態で満足している部分、生きがいを見つけている
部分があるならそれでいい。いや、そのほうが絶対いい。
それはそれで素晴らしい人生だと思う。人生いたるところに青山有りだからだ。
ただ、もしそうだとするならば、子供にむやみに夢を託す必要はないだろう。
おそらく博の場合はどちらの要素も混ざり、どっちつかずになっているのかもしれない。
私も私の周りも含めて世の人々はだいたいこんなもんである。混ざるのだ。
しかし最後は、人はどんなに辛くてもリアリティを持って
自分の足で歩かなくてはならないことも自明である。
柴又 満男の小学校『柴又小学校』
正式名称は『葛飾区立柴又第二小学校』
映画では「金町3丁目44−1」
場所的には江戸川土手が校庭から見える
ロケは『葛飾区立金町小学校』で行われたと思われる。
校庭での体育の時間
雅子「はい、ちゃんと並んで、どうしたのみんな、
満男君、次、君の番でしょう、ほら、ね、はいっ!
よーい、構えて、よーい…ピッ!」
おっ!満男が久しぶりにアップ!
中村はやとくん忘れな草のほっぺに口紅の時以来か。
小学生一同「がんばれぇ〜〜」
雅子「もっと手を振って、そうそう、もっと大きくもっと強く!そう!」
とらや 台所
社長「そうかい、博さんそんなに怒ったかい」
おいちゃん「ま、寅が悪いんだから、仕方ないんだけどなあ」
おばちゃん「でもねえ、あんな綺麗な先生だもの、
惚れるなって言ったってねえ…」
客「こんにちは」
おばちゃん「あ、いらっしゃい」
社長「ま、過ぎた事はしょうがないじゃないか。
今頃どっか旅先でさ、風に吹かれながら反省してるよきっと」
おいちゃん「ふーん…」
晩秋の信濃路を淋しく歩く寅
美しいBGMが流れる。
前山寺の山門でアンパンを食べる寅
『信州の鎌倉』と言われる上田市塩田平。
寅の背中の向こうに見えるのは知る人ぞ知る有名な未完の三重の塔。
この前山寺(曹洞宗)はその塩田平きっての古刹。
この寺は、信州の鎌倉「塩田平」の独鈷山に近く、塩田平を一望する高台に建つ。
鎌倉時代塩田北条氏の居城塩田城の鬼門にあたる。
このすぐ前に私の好きな『信濃デッサン館』がある。
それゆえ、私もこの前山寺は行ったことがある。
信州 塩田平の『塩野入神社』
上田電鉄別所線舞田駅から北へ500メートル歩いて30分ほど。
この『塩野入神社』は私の敬愛する
熱烈な「男はつらいよ」ファンである三重県在住のK.Nさんが、
電話での聞き込みと現地塩田平での調査によって悪戦苦闘の末、
神社の名前を発見されたものだ。
K.Nさんはかつて、『 2008年7月16日 寅次郎な日々 その367 』で、
愛媛県 興居島(ごごしま)での啖呵バイの場所をやはり現地調査や
見事電話での聞き取りで突き止められた凄い人なのだ。
『塩野入神社』発見での詳しい経緯は7月4日にアップした『 寅次郎な日々406 』をご覧ください。
http://www.yoshikawatakaaki.com/lang-jap/otokono-to.htm#tora
K. Nさんが撮られた塩野入神社 赤い鳥居の写真この向こうで寅はバイをしていた
花火
雨ごいの祭り「岳(たけ)の幟(のぼり)」の一幕
獅子舞(三頭獅子)が舞われている。
寅の啖呵バイ 入浴用品
寅「さあ、!ご通行中のおばあちゃんにお母ちゃんに
お父ちゃん、どう!お風呂の道具だ、ね!、
まず入浴が健康の始まりというくらいだから、ね、
おかあちゃん、まず買ってください、どう!
これひとつあれ一つ何ていうんじゃない!
ワンセットまとめて買うって人がいたら
安くしちゃいます、どう!
まず物の始まりが一ならば
大和の国、島の始まりは淡路島とくら!
ねえ!続いた数字が2だよ!どう!
兄さんはよってらっしゃいは吉原のカブ、
仁吉が通る東海道、ねえ!
憎まれ小僧にならないように、どう、
これ買ってってちょうだいよはい!曲がった数字が三つ!
三三六歩で引け目がない産で死んだが
三島のおせん、ばかりが女子じゃないよ!
なっ!四谷赤坂麹町、チャラチャラ流れる御茶ノ水
イキな姐ちゃん立ちションベン!」
この時地元の人たちが見ているのだが、実にいい顔の方たちばかり。
そのような時代だったんだなあ…
実にいい顔の地元の方たち
上記のこととは別に、読売新聞長野版にも
この神社のロケが2008年に載っていた。
ちなみに2008年4月12日付けの読売新聞長野版の記事は↓のように書いてあった。
はざかけが並ぶ晩秋の田園。その向こうには、赤い鳥居と大きなのぼり旗、秋祭りに集まった人々の
にぎやかな様子が映る。
獅子舞にお囃子(はやし)が調子を合わせる中、声を張り上げ“バイ”をする寅さん――。
ロケ地は、上田市の別所温泉駅から北東に約2キロ、産土神(うぶすながみ)を祭る「塩野入神社」。
田んぼに囲まれた木々の中に、小さな社がひっそりとたたずむ。立派な寺社が並ぶ別所温泉だが、
第18作「寅次郎純情詩集」(1976年)では、寂れたイメージを求めた山田洋次監督が、わざわざ探し出したという。
住民100人ほどが参加したわずか1分ほどのシーンで再現されたのは、
地元に500年以上伝わる雨ごいの祭り「岳(たけ)の幟(のぼり)」の一幕だ。
伝統の「三頭獅子」が舞われ、祭りに花を添える。
この時、獅子舞を演じたのは、若手住民で作る「岳の会」の会員。「三頭獅子」は、
後継者不足で存続が危ぶまれ、ロケの少し前に、地元の小福田正喜さん(73)らが保存会を発足させたばかりだった。
今、会員は20人を超え、全国で公演を行うまでになった。
「獅子舞を踊れる若手がどんどん育った。伝統を守れたことが私の誇り」と小福田さん。
スクリーンで、わずかに描かれただけの小さな祭りにも、地域の歴史と、人々の熱い思いが込められていた。
(2008年4月12日 読売新聞)
夕暮れ時家に帰る子供たち
ゆったりとしたBGM
夕焼けの塩田平を歩いていく寅
ススキの穂が風に揺れる。
桃源郷のような風景…
東京
国立東京第二病院
タクシー イースタン 44−20 品川55 初乗り280円
綾が退院して柴又へ向かう。
柴又 柳生家
現在はこんな感じ↓
私の住むマンションからたった1分でここに着く。
つまり私のマンションの斜め向かいの家の一部なのだ。
この家の敷地はそれはもう広く・・・誰がこんな大きな敷地を管理しているんだろうか、と不思議に思っている。
綾「ありがとう雅子、さ、早くこれを…
ああ、帰ってきた!
婆や!婆や、婆や〜!帰ってきたわよ!」
ばあや「お嬢様!」
綾「こんなに元気になったわ!もー大丈夫よ」
でました!癖のある婆やをやらせたら、この人の右に
出るもの無し!の浦辺粂子さんだ。この人は上手い!
ばあや「神のお恵みですよ、うう」と泣く。
そう…クリスチャンなんだねえ…
綾「バカねえ、泣いたりして、峰先生がね太鼓判押してくだすったの、
もう二度と病院には戻ってこなくていいって、だから私、
これからはずっとここで暮らすのよ。もうこれからずっと!」
ばあや「ああ、良かったですえねえああ…」と二人して泣きじゃくる。
雅子「あ、すいんません、あとボストンが
一つですね、婆や、泣いてないで手伝って」
ばあや「はい」
一方、信州の寅
上田電鉄別所線が塩田平を走る
稲刈り後の田んぼが黄金色にキラキラ光っている。
上田電鉄別所線が信州上田と信州の鎌倉と呼ばれる
塩田平を走り抜ける。別所温泉までを結ぶ全長11.6Kmの可愛い鉄道。
絵になるねえ…日本の秋だなあ…
追記 2014年 7月7日
この映画シリーズがお好きな別所温泉付近にご縁があるelmasatoさんからの情報で、
このシーンの正確な場所がわかりました。
撮影場所は上田電鉄別所線、舞田駅を出て別所温泉方向すぐの南側の田園です。
elmasatoさんが添付して送ってくださった地図↓黒丸のあたり
elmasatoさんがご自分で現地で撮られ、添付して送ってくださった写真。↓
本編と比べると どんぴしゃ!↓
elmasatoさんありがとうございましたm(_ _)m
電車の中で赤ん坊をかまう寅
別所温泉に電車が着く。
BESSHO ONSEN STATION
カネモト味噌 カネモト醤油
別所温泉 ありがとうございました
坂東鶴八郎一(座) 長谷川(伸) 徳富蘆(花) 他歌謡ショー 北向観音堂 徳富蘆花
不如帰…割引料金…坂東鶴八郎一座公演
寅が、別所温泉の町の中に入っていく。
坂東鶴八郎一座公演のポスターが見える。
遠くから太鼓の音
みやげもの屋 ますや 前
座員(坂東文次郎)の口上
拍子木 カンカンカン、
カンカンカンカンカンカン、カン!
『とざいとおおおーざいいいいぃ…。
太鼓 ドドドオン!!
常日頃御ひ(し)いきの皆様には、
心より、御礼申し上げます。
太鼓 ドドン、ドンドンドンドン!!
さて、当一座も、本日を持ちまして
いよいよ千秋楽を迎えますれば、
外題も改めまして、長谷川伸先生の
名作、沓掛時次郎、
みやげ物「ますや」は現在休業中。
谷村昌彦さんの当たり役
座員「どうぞよろしく あ〜ら、女将さん…」
大空小百合「よろしくお願いいたします、
どうぞ、お待ちしております」
また!当一座の花形、大空小百合の当たり役、
明治の文豪徳富蘆花先生の傑作、不如帰、
そのほか歌謡曲、お色気コントなど、
にぃぎぃやかに相そろえ、ご機嫌を取り結びますれば、
ご町内の皆様、観光客の皆様、
なぁにとぞお誘いあわせの上
ご高覧のほどおん願い奉りまするぅ。
…とざい東おおー…』
谷村昌彦さん上手い!
当一座の花形、大空小百合の当たり役
「お色気コント」ってやっぱり小百合ちゃんが中心で
なにかやらされるのかなあ…、ちょっと可哀想…。
第37作「幸福の青い鳥」で小百合ちゃん(志穂美悦子)は当時を
回想して「歌も歌った」「私、トンボもきれるよ」って自慢していたが、
「不景気な時はストリップみたいなことまでやらされた…」とも
嘆いていた…。こういう旅芸人の世界は、奇麗事だけでは
すまないのかもしれない。
軽トラックに『御当地参上 坂東鶴八郎一座公演』と書いてある。
小百合「先生!…車先生!」
寅「よお、お前さんいつか甲州で」
第8作「寅次郎恋歌」で四国は高知の雨の日に出会い、
一期一会のひとときがあり、ラスト、秋の甲州路で、
寅と一座は再会。物語はここで終わるが、おそらくこのあと寅と
一座の人々は楽しいひとときを過ごしたに違いない。
小百合「はい、大空小百合でございます、
その節はありがとうございました。」
厄除け/開運
交通安全
北向観世音
寅「いやあ〜達者でよかった、
あの〜座長やってたお父っつあんどうしてる?」
小百合「はい、丈夫で勤めさせていただいております」
寅「あ〜そりゃよかった、うん、あの、
みんなによろしく言ってくれや、うん」
小百合「はい」
寅「オレよ、必ず観に行くからよ、」
大空小百合「はい、ありがとうございます」といってビラを寅に渡す。
大空小百合「お待ちしております」
寅「はいよ」
座員「小百合ちゃん、お知り合い?」
小百合「うん、車先生よ」
座員「あー、どうも」とお辞儀
座員「そういや、いつか甲州でお会いしたことがあるかしらねえ」
寅、いつまでも懐かしそうに見ている。
座員「…外題も改めまして…」
垂幕 北陸新幹線 上田駅を実現しよう
『不如帰』
『不如帰』は徳富蘆花作の小説で、明治31〜32年にかけて、
兄の徳富蘇峰の主宰する「国民新聞」紙上に発表(完結)された。
海軍少尉川島武男の出征中に肺結核を理由に
姑に離縁される妻、浪子をめぐる悲劇を描く。
モデル小説あるいは明治の家庭小説でもある。
作者の徳富蘆花は、1868(明治元年)年熊本県水俣の富豪の生まれ、
1886年、新島襄率いる同志社大学に入学するも、その後退学した。
1889(明治22)年に上京して、兄の民友社に勤め、
1900(明治33)年に単行本として、民友社より刊行されて、
当時のベストセラーとなった。
『沓掛時次郎』
一宿一飯の「渡世の義理」でおきぬの夫の三蔵を切る時次郎。
その三蔵の頼みでおきぬと太郎吉を守る時次郎。
徐々におきぬと太郎吉に愛情が沸き、それを押える時次郎の美しさ。
おきぬの為のお金を工面するために、嫌になったやくざの出入りに
でかける時次郎。その時次郎の帰りを待ちつつ、その間におきぬは世を去る。
「一本刀土俵入り」「瞼の母」と共に長谷川伸の三大戯曲と誉れの高い「沓掛時次郎」
長谷川伸の数ある股旅物のなかでも最も完成度の高い名作である。
北向観世音前
座員「はーい、いらっしゃいいらっしゃいー、今日は千秋楽だよー、
さあーいらっしゃいませぇ〜…さあ悲劇の不如帰!
武夫と浪子の物語。涙無くては見られないと言うものだよォ〜」
寅も、酒を差し出している。
芝居小屋の中 舞台『不如帰』 クライマックス
医者「心配ない…すぐ治るよ、あぁ、浪子さん、
静ぅかにお休みなさい。それでは行こうか、」
看護婦「はい」
浪子「先生…」
医者「ううん?」
浪子「武夫さんは、本当に…帰っていらっしゃるかしら…」
医者「ハゥ…!大丈夫だよ!この私が連絡をしておいたから!
医者「今日か!明日には
かなぁらず、
かえぇぇッッッてェ、くぅる…」( ̄_ ̄ i)すご…
谷村昌彦さん、これは「芸」ですね。ここまで来ると(^^;)
かなぁらずゥかえぇぇッッッてェ、くる
波音が効果音として入っている。
浪子「そお…早く、会いたいわァ」
医者「ハァ…!」
泣いている観客
武夫(座長)が舞台に出てくる。
観客拍手。
武夫「先生!浪子の命は!?」
医者、悲しく首を横に振る。
アコーディオンの美しい音色、
哀愁を帯びながらも盛り上がる
武夫「ハ!」
医者、泣きながら帰っていく。
武夫、敬礼する。
武夫、すべてを諦めた顔で泣く。
武夫「クハハ!ァァ…
武夫「ハッハハハハハ…」
上手いなぁ〜!この悲しい笑い。
浪子の近くに寄って、手袋を外し、浪子の頬に触れながら
武夫「よく眠っているなァ〜…」
掛け声「 お若い! 大和屋!」
浪子「あなた!」
掛け声「 御両人!」
浪子「武夫さん」
武夫「僕は帰ってきたよォ」
浪子「はァ〜嬉しいぃぃ…人間は…
なぜ死ぬんでしょぉねえ…、
あたくし、千年も万年も、生きぃたいわァ…」
掛け声「小百合」
武夫「何を言うんだ浪さん、
君の病気はァかならずゥウ治る、いや!
治してみせるぅ、このぼぉくぅが…」
掛け声 日本一!
掛け声 大統領!
掛け声 大和屋!
掛け声 小百合!
ふたり、さっと「気」が変わり、
武夫役の座長が帽子をとって舞台の前に進む。
座長にスポットライトが当たる。
座長「ありがとうございます、ありがとうございます」
掛け声「ご苦労様!」
掛け声「よかったぞ〜!」
小百合ちゃんの胸に札束
いろいろなおひねりや贈り物が
飛んだり差し出されたりする。
そうそうこういう場合物量作戦ででかいもの
くれたりするんだよな。別所温泉の人々も
手馴れたものだ。
小百合ちゃん、胸元に千円札の束を入れる。
お札を首にかけたり、お札の飾り物をタスキに
したりもする。今回は胸元にピラピラと見せていた。
それにしても別所温泉なんていうローカルなところなのに、
「掛け声」が実に上手い。座員がやっぱりさくらやってるのかな?
座長「芝居の途中でございますが、
皆様に、お知らせいたします、
本日の客席には、昔から私どものごひいきの、
わざわざ東京から駆けつけてくださいました
車寅次郎先生です!」
って紹介されても普通は車って誰やねん?ってことに
なるのだが、そうならないところがこのようなローカルな
場のいいところ。
スポットライトが寅に当たる。
お客たち拍手。
舞台に向かって手を振る寅
寅も持ち上げられたもんだ。
彼の人生でこんなこと滅多にない。
なんだか嬉しいね寅
一同「ありがとうございます。ありがとうございます」
夜 いづみ屋
旅館の看板 でんわ (三八)三〇三〇 いづみ屋 内湯
ロケでは、当時あった土産物屋兼宿泊所『三楽』さんを借りて、
『いづみ屋』という旅館に変えたそうだ。
坂東鶴八郎と座員たちが寅の部屋に入ってくる。
一同正座してお辞儀
座長「失礼致します」
座員 「おつかれさまでございます」
小百合「お邪魔致します。ありがとうございました」
寅「あ!よく来てくれたね、
ささ、ささこっちへ入って入って」
座長「先生、本日は私どもの
つたない芸を御覧下さいまして、
まことにありがとうございます」
座員(坂東文次郎)「その節は結構なものをちょうだいいたしまして!
ありがとうございます!」
一同「ありがとうございます」と深々とお辞儀。
寅「礼の言われるほどのことはしちゃいないよ、ささ、
こっちこっちへ座って、ささ、はい」
座員たちそわそわ
座長「常日頃、座員一同には、いつ、どこでどういうお方が
御覧になってるか分からない、
少しでも手を抜けば、必ずそのお方の目にとまり、
笑いものになる、芝居は常に真剣勝負であらねばならない、
こう申し聞かしておりましたが、
今日は、はからずも、車先生のようなお方に御覧をいただき、
座員一同、励みになりました!
ありがとうございました!」
一同「ありがとうございました」
座長さん、さすがだねえ。芝居が本当に
好きな人の言葉だね。感服しました。
寅「……」
少し、照れながら聞いている寅
「……」
寅「いや…いや、まあまあ、さ!固い挨拶は抜きにして!
さ!こっち来てパッと飲んで、ささ、ね」
座長「小百合、お傍に」
小百合「はい」
寅「あんた、よかったねえ」
と、谷村昌彦さんの医者の演技を褒める。
こういうところの気配りは
寅はとても上手い。苦労してるからねえ。
あんたよかったねえ
寅「ささ、飲んで飲んでみんな」
小百合「どうぞ」と、寅にお酌をする。
寅「あ〜こらこらどうも、はいどうも、どうも、
…お〜娘さんなかなか美人になったねえ」
小百合「は、」
座長「恐れ入ります。子供の頃に母親をなくしまして
男手ひとつで育てましたので、ロクにしつ
けも行き届きません」
寅「あ〜あ…、おっ母さん亡くしてたのかい。」
小百合「はい」
寅「あ〜それは、気の毒だったたなあ、うーん、
おっ母さんもきっと、美人だったろうねえ」
小百合「はい。でも、私は父親似だと言われます」うまい(^^;)
寅「ほほほ」
座長「こ、これ、またそんなことを」
一同、笑う。
寅「でもねえ、座長あんたなかなか2枚目だよ」
座長「へえ」
寅「あたしゃ舞台見てねえ、あんまりいい男なんで
惚れ惚れしちゃったよ」
一同「爆笑」
座長「おからかいを」
一同、また笑う。
第37作「幸福の青い鳥」で寅は小百合ちゃんに、座長のことを、
「ほんとに立派な人だった。、いくら酔っ払ってもするのは芝居の話ばっかり
オレはそんなおとっさんが好きだったなあ…」
と回想している。
この坂東鶴八郎の晩年は娘小百合ともども大変だったのだが、その話は
またその時に。
女中が銚子を運び込む。
谷よしのさん登場!
寅「あ、どうも姐さん、ありがとう、さあ、
どんどんどんどん回して。あの、
いい酒もって来たね、」
女中「はい、分かってます」
寅「安い酒はダメだよ、役者衆舌がおごってるから」
座長「いやいや、恐れ入ります、」
座員「あたし、ビールいただきましょうか…」
座員一同うれしそうに盃を持ち、ビールの栓をぬく。
いづみや旅館・一階
ロケでは、当時あった土産物屋『三楽』さんを借りて、
『いづみ屋』という旅館に変えたそうだ。
二階からドッと拍手と笑い声。
盛り上がっているようす。
座はすっかり盛り上がり、
酒に酔った座員が滑稽な余興を演じている。
上機嫌で拍手をしている寅。
廊下からのぞき込む相客達。
大杉侃二朗さんの十八番『お掃除芸』
一同「♪ほら、おそうじ おそうじ おそおじだ、
谷よしのさんも一緒に見て大笑い。
一同「♪ほら、あ、おそうじだ!」
ソワソワ
一同大「ハハハ」
一同「♪ほら、おそうじおそうじおそうじだ!」
ソワソワ
一同「♪ほら、おそうじだ」
本に気づく
あ…
坐って本を読み出す。
ふむふむ
寅「おい、座長!おもしろい!おもしれえな」
一同大爆笑「ハハハ」
♪ほら、おそうじおそうじおそうじだ!
♪ほら、おそうじだ!
おしっこに行きたくなってそわそわもじもじ…(^^;)
一同「ハハハ!!」
場が笑いで渦巻いている。
もじもじ
♪ほら、おそうじおそうじおそうじだ!
他の部屋の客も廊下で大笑い。
もじもじ…
♪ほぅら、おそうじだ!
また、箒ではきだす
♪はぁら、おそうじだ!
こうなると笑いは止むことはない。
翌早朝
看板 アサヒホテル カネボウ化粧品 …ヒカメラ堂 上松屋 たけや たばこ
看板 柏屋旅館
旅館からたち昇る湯煙。
眠りこけてる寅
小百合「先生。車先生! 」
寅、目を覚ます。
障子を開けて、寅が寝起きの顔を出す。
旅役者の一行を乗せたトラックが停まっていて、
小百合が大声で挨拶する。
小百合「いろいろとありがとうございました。
これで失礼します」
小百合、さっと手を向こうに差し出す。
トラックの荷台に乗っている座員たち。
寅「よオー」
座長「先生、昨日はお世話になりました」
座員一同「ありがとうございました!」
荷台には子供が2人乗っている。
座長「お元気で、失礼します」
トラックのクラクション プープーッ
座長「ご馳走になりました」
座員「お達者にーっ」
荷台の上で頭を下げる一同の姿を見ながら、
寅の胸に熱い感慨が湧く。
一期一会とはこのようなことを言うのだろう。
なんともさわやかな別れだ。
寅「お-い!」
小百合「はーい」
一同「はい!」
寅「しっかりやれよお!
またいつか、日本のどっかで
きっと会おうな!」
小百合「はい!」
座員一同「はい!」
小百合「ありがとうございました。勉強します!」
一同、口々に、
一同「さようなら、さようなら」
と言いながら、その姿が消えて行く。
別れの淋しさの余韻を
静かにかみしめている表情の寅、
いろんな旅芸人たちの悲哀を、今までの人生の中で
見てきたであろう寅。
貧しくとも、自分の信じた道を歩んでいる彼らを見て、
寅もまた勇気が沸いてくるのであろう。
彼らに対し、強い思い入れがあるのも、寅も一座も放浪者の自由さと
淋しさ辛さ、そして脆さを持つ同じ種類の人間だからかもしれない。
なによりもあの座長の一途さと芝居にかける情熱、
そして寅に対してのあの律儀さは寅にはとても魅力的なのだろう。
寅のこの行為はもちろん見栄が多分に入ってはいるが、寅は寅で
「ごひいき」として、何かしてやりたくなったのだ。
同じ旅に生きる者として、明日も何とか生きていける心の支えを
作ってやりたくなったのかもしれない。
そして、このような無茶な応援と見栄の後始末は
必ず堅気のさくらが泣き泣きするはめになる。
いづみ旅館・寅の部屋
窓際から戻ると、
女中がお茶を注いでいる。
ふっと、リアルな現実に意識が戻る寅
女中「おはようございます」
寅「あ、おはよう。夕べはお姐さん遅くまで
ご苦労さんだったね」
女中「いいえ。恐れ入ります、お勘定ぉー」
と書付けを差し出す。
寅「はいはい、あー。これゆうべの宴会の分も
一緒になってんのね」
女中「はい」
寅「あっそ、んー、はいっ!。分かりました。
じゃーあの姐さん、すまないげど下に行ってね、
あの、ご主人にちょっとお話がって言ってくれる?」
と優しく言う。
女中「あ、」
寅「すまないね」
女中さん去る。
寅、「は〜…」と目を上にむいて溜息を吐く。
とらや
枕を出して昼寝をしているおいちゃん。
茶秩台にもたれて屠眠りをしているおばちゃん。
電話のベルが鳴る。
おばちゃん、眠そうに受話器を取り上げる。
おばちゃん「はい、はいはい、ン、はいはい、
とらやでございますけどー…え、別所警察署?……
はい、あのぉ、車寅次郎は、あの確かに
うちの甥でございますけど……はい……
エェーー!!!!!はい!あの、それで……
あ、あのちょっとお待ちくださいまし」
表から入って来たさくらに声をかける。
おばちゃん「さくらちゃん、たいへんだよ。
寅ちゃんがね、無銭飲食で捕まっちゃったんだよ」
びっくりして起き上がるおいちゃん。
さくら「どこで?」
おばちゃん「ベッショ!」
さくら「ベッショってどこ?」
おばちゃん「知らないよ!」出た〜(^^;)/
さくら、慌てて受話器を受げ取る。
さくら「もしもし、電話替わりました。私、
車寅次郎の妹ですが兄が何か…はい、はい…」
暗く不吉な音楽が流れる。
呆然とその様子を見ているおいちゃんとおばちゃん。
信州、上田電鉄別所線・車内
窓外に、深まり行く秋の景色がゆっくりと流れて行く。
下を向いて考えごとをしているさくら。
さくらの後ろの丸い窓が可愛い。
別所温泉駅
数人の乗客と降りて来たさくら、
駅前のおみやげ屋前の配達係員に声をかげる。
さくら「あの、ちょっと、うかがいますが」
配達人「はい」
さくら「警察署はどっちの方でしょう」
別所警察署前
(当時の別所村役場を利用してロケ)
現在は建物変わって「別所温泉センター」
地元にお住まいの大の寅さんファンの『チャコさん』のお話では、
実際は別所温泉にはなんと派出所しかないそうだ(^^;)
道向こうのうなぎの「三友軒」は今も健在
古びた木造の建物。
配達率が警察署の前へ着き、さくらが降りる。
さくら「ご親切に、ほんとうにありがとうございました」
配達人「いいえ」
たて看板
家事防犯青少年の問題でお悩みの方はお気軽に御相談くださいまた防犯ベル
の取り付けの相談…取り扱っております。
張り紙 飲む人も飲ませる人も許せない
さくら「あのう、私、東京から参りました諏訪
と申しますが、兄の車寅次郎のことで……」
渡辺、気さくな表憶で答える。
渡辺「ああ、妹さんですか、どうもご苦労さまです。
(奥に向かって)、おい、寅さんどうしたっけ?」
。
巡査「今、風呂に行ってます」
渡辺「あ、風呂か。風呂に行ってますから、
もうすぐ帰りますよ。まあ、どうぞ」
さくら「はい」
さくら、あっけにとられた表情で、
すすめられた椅子に坐る。
時計は2時25分
さくら「本当にいろいろとご迷惑ををおかけしました」
渡辺「いやいや。さ。宿のほうも、払ってくれりゃ、
それでいいっちゅうすぃ、あえて事件にすることは
ないと判断しましてね、」
さくら「は」
渡辺「ただ、お兄さんの身柄については一応逃亡を防ぐ
という意味で警察に泊まってもらった訳ですが。
あ、そうだ、―おい、いづみ屋に電話してくれ。
渡辺、メモを探しながら、
渡辺「ええと……あ、これだ。
金額は一応こういうことに。」
さくら「はい」金額を見て「こんなに…」と言う顔をするさくら
渡辺「それからですね、これは、お兄さん
が警察の弁当は口にあわたいと、
こう言われるんで、店から取り寄せたんですが、
寿司、うな重、それからザルソバ、
これは一応規則ですからそちらで払って
いただきたいんですが」
寅ってうなぎ嫌いだったはずなんだけどなあ…。
どう言う気持ちでこんな贅沢な注文するんだろうね(−−)
さくら「はい、勿論です」
部下の和泉屋への電話 「もしもし、あ、ご主人?警察ですけどもね、
どうも…が見えたから、うん、じゃ。」
さくら、渡されたメモを見る。
さくら「コーヒー、八杯…?」
渡辺「(慌てて)あ、それはですね、我々署員に、
いえ、勿総固くお断わりしたんですがどうし
てもご馳走してやると、こう言われるんで。
どうも申し訳ありませんでした」
寅っていったい…。こういう見栄のお金もさくらに払わせる。
いやはやもう理解できません(^^;)
さくら「いいえ」
さくら、呆れ返っているところへ、頭に手拭をのせた寅が、
巡査の監視付きで戻って来る。
寅「アハハハあー、いい湯だったなア、えー?
これで冷たいビールの一杯でもいけぱ申し分ないげどよ、
警察ホテルじゃそうもいかないや、アハハハハ。
(さくらに気づいて)よオ、さくら、来たか早
かったたア。え?そうか、ナベさん、」
この1年後に作られた「幸福の黄色いハンカチ」で、
渥美さんが「ナベさん」と呼ばれている渡辺係長の
役を北海道でしていた。もちろんこの第18作での名前を
意識しているのは間違いない。山田監督ならしそうな事だ。
渡辺「あ?」
寅「シャボンとこれ、どうもありがとう。あのな、」
渡辺「あ」
寅「あのな、こう、美顔水か何かないかい、ひげ剃りあとの。」
渡辺「あるよ。取ってきてやる」
気軽に立ち上がり、奥へ行く。
寅「へ〜、いい雰囲気の警察でしょう、え?あと、
二、三日泊まって行こうと思ってたんだよ、オレ」
さくら「何言ってんのよ、私心配で飛んで来たのよ」
さくらの怒った顔に、寅、ようやくシュンとなる。
電話が鳴る「はいはい」
さくら「もお…」
別所温泉駅
パトカーが来て停まり、渡辺と寅、さくらが降りる。
さくら「ほんとうにいろいろとお世話になりました」
渡辺「いやいや、今度はご家族同伴で、
ぜひ当温泉にお出かけください。」
おいおい、無銭飲食だから、恥かしくてもうこないよゞ( ̄∇ ̄;)
さくら「ありがとうございます」
渡辺「寅さん、寂しくなるねえ、あんたがいなくなると」
長くいてどうする(−−;)
寅「うん、東京に来たらよ、家に寄りなよ。
なっ、恩返しするから」
来ないよ、無銭飲食なんだかから…(^^;)
渡辺「せいがァ。ハハハ、それじゃ、気をつけて」
さくら「はい、ありがとうございました」
敬礼して、車に乗り込む。
寅「ナベさんよ、署長によろしく言ってくれや」
パトカー、エンジンの音を立てて去る。
寅、大きく伸びをして、
寅「あ-、いいねえシャバはのびのびして」
さくら、怒って駅の方へ…
寅「 なんだい、怒ってんのか、
おい、さくら、さくらさん、
満男のお母さま、
諏訪博の奥さん、よオ」
怒るだろそら、こんな遠くまで
引き取りにこさせて、大金を支払って…┐(-。ー;)┌
さくら、駅の入り口でこけそうになる。
寅「おらおらおら」(^^;)
おらおらおら…
さくら、プンプンして、駅の構内を歩いて行く。
可愛い(^^)
帝釈天.参道
人通りの多い文化の日の午後。
あちこちの家の軒に日の丸の旗が立っている。
「とらや」・茶の間
客の子供「あ〜うめっ」
台所でダンゴを箱につめているおばちゃん。
茶の問にムッツリした表情で
坐っているおいちゃんと博。
裏庭から杜長が赤いシャツにベレー帽を
かぶって照れくさそうなようすで現われる。
社長「おばちゃん、今日は文化の日だから、
娘連れて博物館にでも行こうと思ってさ」あけみのことだね。
社長ベレー帽被ってるよ。形から入るタイプなんだね(^^;)
おばちゃん「よかったね、うちじゃね、
無銭飲食の甥が帰って来んですよ!」
つっげんどんに言い捨てて店に出ていくおばちゃん。
社長「へえ、寅さん帰って来るの」
博「ええ、それでどんなふうにして兄さんを
迎えたらいいのか話し合ってるところ
なんですけどね」
おいちゃん「どんなふうもヘチマもあるか、
敷居を一歩もまたがせるな」
博「それはあんまりですよ」
おいちゃん「いいか博さん、ウチはね商売やってるんだよ、
ん、んな、無銭飲食ってのは一番恥ずかしい
犯罪だ、泥棒のほうがよっぽどマシだ!」泥棒も恥かしいよ(^^;)
博「犯罪じゃありませんよ、示談ですんだんですから」無理があるぞ(^^;)
おいちゃん「似たようたもんじゃないか!」それは言える(^^;)
社長「ま、ま、ま、そう興奮しないで」
おいちゃん「タコは黙ってろ、なんだチンドン屋みたいな
恰好しやがって」的確なたとえ(−−)
博、諭すように語りかける。
博「おじさんの気持は分かりますけどね、
兄さんにも言い分があるんじゃないのかなあか、それ
にこの間だって、せっかく帰って来たのに僕が言いすぎて
追い返たようなもんでしたからね、
今度またそれじゃ、あまり可哀想ですよ」
社長「そうだよ、わざわざ迎えに行ったさくらさんの
立場だって考えてやんたきゃ」
おいちゃん「ああ分かった、分かった、
じゃお前たちの勝手にしろ!」
と、怒って、思わずガクッと手をつく。
第17作のコケルギャグに続く同じミニギャグ(^^;)
おいちゃん、ガクッと手を畳につく
博「どこへ行くんですか」
おいちゃん「顔見たくもねえから、どっかへ行ってくる」
と、足音荒く店の表に出て行きかけ、
入って来たさくらとバッタリ顔を合わせる。
おいちゃん「あ、」
さくら「ただいま」
不機嫌な顔で、茶の間の上り口に腰をおろす…。
おばちゃん「お帰り、ご苦労さま」
さくら「満男は…」
博「お寺へ行ってる」
博「兄さんどうした」
.さくら「今、来るわよ」
寅がノコノコ入って来て
おいちゃんに声をかける。
寅「おいちゃん」
へらへらしておいちゃんの肩に手をかけようとする。
おいちゃん「…・!」
ムツとして逃げるように避ける、おいちゃん。
離れたところに坐ってムスッ!
寅「よオ、社長」
ポスター
七五三 お赤飯 千歳飴 ご注文承ります。
社長「お帰り」
寅「どうしたい、めかしこんで」
社長「え、今日は文化の日だからね」
おいちゃん、たまりかねて大声を出す。
おいちゃん「お前は黙ってろ!寅、お前な無銭…」
博「ちょっと待って、兄さん、謝るべきじゃないんですか、
みんな、どれほど心配したか分からないんですよ」
寅「そうなんだよ。オレも今度は悪かったなア、
と思って、あやまろうと思って今帰って
来たんだよ、ほら、今度のは、金のことで
もってみんなに迷惑かけちゃったから、ねっ」
博「いい…、」
寅「オレ、働いて、返すから」うそうそ(^^;)
博「いいんですよ、それはただね、
二度と今度のような事だけは-・・」博、手ぬるいって…ヾ(- -;)
寅「そうなんだよ、分かってる」
おいちゃん「今度ばかりじゃねえや!
この間のこと
だってあるじゃねえか!」
おいちゃん怒りまくり
寅「うん、…?え?
この間のことって何だっけ」
おばちゃん「満男の先生のことだよ!」
寅「ああ、女先生な、悪かった、
なにしろあの時は
オレも若かったから」
(ー_ー;)若かったって…
オレも若かったから…
社長「フフ、」
博「プーッ」
と、博もタコ社長もつい笑ってしまう。
(脚本ではみんな笑っていない)
おいちゃん「何が若かっただバカァッ!
ありゃ先月のことだァァァ〜」
おいちゃんもうセリフ言いながら笑っています。
そりゃ笑うよねえ〜、あの顔であれ言われたら、
分かる分かる(^^;)
笑ってしまうおいちゃん
寅「あ、そうか」
おばちゃん「情けないねぇ!、もうォォ〜!」
と、三崎さん泣きながらもやっぱり笑いをこらえ気味(^^;)
(実は必死で口を噛み、笑いをこらえる)
さくらは笑わない
さくら「あのね、お兄ちゃんはほんとに若くないのよ、
そりゃいくつになっても、女の人を好きに
なったってかまわないわ、
さくら「でもね、あの先生はお兄ちゃんの娘ぐらいの
歳なのよ、お兄ちゃんがまともに結婚してたら
あの先生ぐらいの女の子がいてもおかしくないのよ」
博「そうですよ」
寅「そうか、なるほどな」
さくら「仮によ、
あの先生にきれーなお母さんが
いたとして、その人をお兄ちゃんが
好きになったとしたら、
私たち誰も文句なんか言わないわ、
お兄ちゃんはそれぐらいの歳なのよ」
きれーなお母さんがいたとして…
社長「そう」
寅「そうか…、あの先生のおっ母さんねぇ〜」
さくら「そうよ」
寅「ん…歳恰好になんのか…
オレもそろそろ考えなくっちゃなア」
と、一人うなずいているところへ、
雅子が現われる。
雅子「こんにちは〜」
さくら「あら、先生」
ギョッとする寅。
雅子「ちょっとおダンゴ買いに。あら、満男君の伯父さま」
雅子「まあ、帰っていらしたの」
寅「帰ってらしたの」おいおい(^^;)
さくら、ギョっとして寅を見る。
雅子「そう、あ、みなさん、こんにちは」
博「こんにちは」
おいちゃん「いいお天気で」
おばちゃん「いらっしゃいませ」
雅子「いつぞやはどうもー…ちょっと失礼」
と、今来た方へ戻る。
さくら「あの」
寅「どこ行くの…」
寅、フラフラとついて行きかけるのを、
博が呼びとめる。
博「兄さん!」
寅「うん?」
博「さっきさくらが言ったこと、
憶えてますね」
寅「憶えている、億えている。
今、言われたばっかりだもんな、
お母さんだったらいいんだ、
お母さんどまり…
分かってんだ、ちゃんと」
お母さんだったらいいんだ
雅子が再び姿を現わし、母親に呼びかける。
雅子「お母様、こっちよ」
さくら「!!」
寅「!!!お母さん…」
出った〜〜〜〜 ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ
雅子「母も一緒に来ているんですよ」
寅「は は……」洒落…(^^)
は は…
蒼ざめる一同
入口に、雅子の母、綾が姿を現わす。
美しく気品のある姿ながら、
どこか未だ病気を思わせる青い肌の色、
そしてそのあどげない瞳はキラキラして
懐かしさでいっぱいのようす。
綾、懐しそうにつぶやく。
綾のテーマがゆったりと響いていく。
綾「まあ、懐しいわあ〜」
一同唖然…
雅.子「ほら、この間お話した満男君のお母様」
さくら「あ、先生にはいつもお世話になっております」
と着てたコートを取ってお辞儀をする。
綾「いいえ、先日この子がとらやさんに伺ったという話を
聞きまして、もう懐しくて懐しくて、今日は散歩がてらに
足をのばしましたの。
…どなたか私を憶えてらっしゃるかしら」
おいちゃん、おばちゃん、あたふたと出て来る。
おばちゃん「あのう…、柳生様のぉ…
お嬢様でいらっしゃいますか?」
綾「あら、おかみさん!?」
おばちゃん「はい、まあ、これはこれは。
ご病気だとは伺っておりましたが」
綾「先月退院しましたの、三年ぶりに」
おばちゃん「三ん年も〜…」
さくら、呆然としながら、寅をチラッと見る。
…
あら、まア、
じゃ柳生先生は柳生様のお嬢さまのお嬢さまで
いらっしゃいましたか」
綾子「(笑って)はい、お嬢さまのお嬢さまなんです」
おばちゃん「あらぁ…」
さくら、開いた口がふさがらない状態が続いている(^^;)
おいちゃん「やあ〜ちっとも存じませんで、
あの、で、お体のほうはもう」
綾「ええ、お陰さまで、まあ、こうやってお散歩出来るまでに、
でも、まあこの店、ちっとも変わりませんのねえ。
私、女学生の頃、よくおダンゴ買いに来たんですのよ。
あ、そうそう、おダンゴくださいなー、」
また、寅をみて、目がハートになっている寅に、
どうしていいか分からないようす。
おばちゃん「あ、はいはい」
おいちゃん「ありがとうございます」
綾「…あの時分…、こんな可愛らしい
お嬢ちゃんがいらしたけど-・…」と、手で子供の背丈を示す。
おいちゃん「そら、多分、この子じゃないかと思いますが…ハハ」
と、さくらを紹介する。
綾「やっぱり。そうじゃないかと思ってたのよ。まあ、
こんなに大きくなって!」
それじゃね、あなたにお兄様がいらしたでしょう、
ほら、眼が小っちゃくて面白い顔をした。
ある意味、人に対して凄い表現。世間知らずだね(^^;)
目が小っちゃくて
私がこのお店の前通るといつも後くっついて来て、
『やい、出目金』なんて大声出したり、ヴァイオリン
のケースにいたずらをして私を困らせたの。
あのお坊ちゃん、お元気〜?」
さくら「ええ…」
綾「もうすっかりご立派になっていらっしゃるん
でしょうねえ。今、どちらにお住まいなの?」
さくら「あ、あのう…」
寅、そっと、静かな声で…
寅「ここにおります…ィヒッ」
ここにおります
これはまさしくチャップリンだね。
イヒッ…
綾「!」
寅「……」
綾、寅をまじまじと見つめ、大声をあげる。
綾「あらっ、 まあ、 あなたぁぁ〜!?。」
寅、ビックリしてタジタジ
綾「まあ、そういえば、
同じ顔。まあ、懐しいわあ・…」
大きな眼をうるませて、しげしげと寅を見つめる。
綾…さすがに時の流れを感じ、
綾「ねえ、あれから…もう三十年もたったのね…」
綾「あ、どっかいっちゃった…」
雅子のハンカチを使い、眼にあてる綾。
雅子、ニコニコ笑いながら、
雅子「また泣く。(さくらに)まるで子供なんですよ、
江戸川を見ちゃ泣き、帝釈天にお参りしちゃ泣き」
綾「だってしようがないじゃない、
涙が出て来ちゃうんですもの、ねえ、アハ」
寅、ジ〜〜〜ッと綾を見続けている。
さくら「だって、三年も入院してらしたんですものねえ」
雅子「その前もずうっと寝たきりでしたの。
だからほんとうの箱入娘。さ、お母様、とらや
さんにも来たし、もう、満足したでしたでしょう。
そろそろ帰りましょう」
綾「もう帰るの」
雅子「タ方になると冷えるのよ」
と、手にしたショールを掛げてやる。
寅も手伝う。
さくら「でも、お茶の一杯くらい」
雅子「ありがとう.こざいます。でも、
お医様にきつく言われてますから。
じゃ、みなさん、どうも」
おばちゃん「あのー」とおばちゃん、お団子を持ってくる。
雅子代金を払う
おばちゃんいいんですと言うが
雅子きちんと払う。
綾「突然で失礼いたしました」
さくら「またどうぞ、ご気分のいい時にお寄りくださいませ」
綾「ありがとう。お嬢ちゃんも坊ちゃんも、あら、
坊ちゃんじゃ失礼よね、お名前は?」
『お嬢ちゃん』の名前も聴いてやってね(^^;)
寅「…とらじろう、でぇす…」
と無声音で言う(^^;)。
その言い方なあ…、童心に戻ってしまったんだね。
とらじろうです…
綾「は?」と聞き取れない。
寅「…とらじろうでぇす…」ともう一度。
ひょんと首を伸ばして可愛く言う。
とらじろうです。
寅「……」
てれてれ顔
綾「寅次郎さん、お暇な時には家にも遊びに
いらしてくださいね。この娘が学校へ行った後は私一人ぼ
っちで、まァ、淋しくって淋しくって困ってるんですの」
綾「そいじゃあ、みなさん、ご機嫌よう」
雅子「さようなら」
寅「お送ります!」寅ニコニコ
寅強気、さくらから許可済み!(^^)
綾「あら!まあ、うれしいわ」
雅子「お母様、厚かましいわよ」と綾に注意。
ぺプシの黄色い自販機
出て行く綾と雅子について、寅、フワフワと出て行く。
果然としている一同。
さくら、目がうつろ…。まだショックから立ち直っていない…。
あ〜…おそらくさくらの人生最大の失言。
さくら生涯最大の失言…
おばちゃん「さくらちゃん、
えらいこと言っちゃったね、
寅ちゃんに」
さくら「だって……」
社長「あ、そうだ博物館に行かなきゃ、
文化の日文化の日」
と、いち早く逃げ出す杜長。
フラフラと椅子に腰をおろすさくら、
溜息まじりに思わずつぶやく。
さくら「はあ、参ったなぁ…、フゥ……」
ほんと、参った参った…(^^;)
参ったなあ…
まあ、本当のこと言って、さくらがそんなに呆然とする必要はない。
寅がマドンナに惚れること自体は、本来さくらが悩むことではない。
今までの経験からしても、寅がつきまとったお陰で、人生を誤ってしまった
マドンナや、とても迷惑がっていたマドンナは実はほとんどいない。
どちらかというと、寅に好意さえ持ち、寅との一期一会がマドンナの人生に
大きな影響を与え、みんな本当に幸せそうだった。
結局さくらやとらやの面々が危惧するのは、
時として見せる寅の常識を逸した過度な行動それ自体なのであろう。つまり、
もしさくらたちなら絶対にやらないような行動を寅がマドンナに対して取るのだ。
たとえば図々しくお邪魔したり、何度も家に遊びに行ったり…、たとえ結果的に
マドンナが歓迎していても、さくらやとらやの面々がしそうにない行動は
他人がどう思おうが、いや、たとえマドンナがどんなに寅の言動を喜んで
いても、さくらたちにとってはやはりいつまでも「恥かしい」行為なのである。
人はどこまでも自分が築き上げてきた価値観の外には出れないのかもしれない。
しかし、時としてごく稀にマドンナに対してさくらの気持ちが寅の感覚と一致する
奇跡が生まれる。それが今回の物語である。
題経寺・境内
山門の脇で、御前様が落葉を燃やしている。
綾の声「御前様」
御前様、振り返る。
御前様「おお、綾さん」
山門を入った所に、綾と雅子が立っている。
綾「まあ、先日はわざわざお見舞いをありがとうございました」
御前様「いやいや、お体はいかがかな」
綾「はい、ま、お陰さまで」
御前様「雅子さんもたいへんだねえ、
学校の先生とお母さんの看病で」
雅子「当分お嫁に行けそうもありません」
御前様「大丈夫、あなたならもうよりどりみどりだ」
綾「よろしくお願いいたします。…じゃ、私」
御前様「そう、お大事にな」
綾「はい」
と山門を出て行く。
綾「寅さぁ〜ん」
寅「はいはい」
綾「お待ちどおさま
寅「いいえ」
御前様、「寅」と言う声を聞いて、ドキリ!
参道を歩いている短い間にもう「寅さん」という呼び名になっている。
綾さんって結構適応が早いみたいだ。
綾「ね、お待たせしちゃって、ごめんなさいね、」
寅「はい、はい」
綾「じゃ、行きましょ。…あら、あの方…」と源ちゃんを見る。
寅「いや、友人と申しましょうか」舎弟だろ(^^;)
遠く寅を見て睨んでいる。
綾「お若いの?」するどい質問(^^;)
寅「ええ、それが…謎なんです」確かに源ちゃんの歳は謎だ。(^^;)
一応第2作「続男はつらいよ」で源ちゃんが寅の易のバイを
手伝った時に「昭和25年(生まれ)です」って言っている。
、
綾「あらあ〜、いやだ、フフフ」
と山門を出て行く。
綾たちと肩を並べて歩いて行く寅の姿を御前様と源ちゃんが見ている。
いかん!
映画には無いが、この後、脚本には
次↓のようなギャグが入っている。
御前様「いかん、こりゃいかん」
とつぶやいて山門の中へ。
その傍で見送っていた源公も思わずつぶやく。
源ちゃん「いかん、こりゃいかん」
とても面白いのだが、現場ではこの脚本はカットされてる。
とらや 茶の間
卓献台の上に寅の食事が布巾をかぶってのっている。
台所で片づけものをしているおばちゃん
さくらは一人浮かぬ顔で、
満男の体操服に名札をつけている。
こういうところの演出のきめ細かさがいいねえ。
おいちゃん「まあ一種の政略結婚だろうなァ、
破産寸前の柳生家を助けるために
あのお母さんは戦争成金と結婚させられんだから」
博「戦争成金ねえ、いたんでしょうね、そういうのが」
おいちゃん「あ〜いたいた」
おばちゃん「そういうのが、終戦後はこんどは進駐軍と
グルになって悪いことばっかりしたんだよ」
博「で、その人が柳生先生のお父さんなんですね」
おいちゃん「そういう訳さ、…ありゃ確かあの娘さんが
生まれてすぐ病気になって、そのまま離婚させられ
たんじゃないかなあ」とみかんをむく
博「不幸せな人なんですねえ」
おいちゃん「昔から言うだろう美人薄命って」
さっきから沈み込んでいるさくらに気づく。
おいちゃん「さくらどうした、元気出せよ」
博「君の責任じゃないさ、今日のことは」
おいちゃん「そう、運命だよ運命…」
たかだか、寅がマドンナに惚れたくらいで、
みんなまるで強盗にでも会ったかのようだ(^^;)
さくら、苦笑しながら、
さくら「はぁ…、分かってるわよ、でもさー」
別に悪いことしてるわけじゃないんだって…さくら ヽ(^^;)
裏庭から杜長が入ってくる。
社長「こんばんは、」
おばちゃん「あらおかえり」
社長「上野で買って来た」と、みやげものを渡す。
おばちゃん「あら、どうもすいませんね」
おいちゃん「めずらしいな、おまえ」
博「どうでした博物館は?」
社長「いやもう人だらけで、何見てんだか分かりゃしねえよ、
そんなことより寅さんどうした、まだ帰って来ねえのか」
おばちゃん「あら、もう8時だ、何してんだろう」
博「素面で帰るのも照れくさくて、
そのへんで一杯やってんじゃ、ないですか」あまいあまい ヽ(´〜`;)
おばちゃん「まあ、おかけよ」
杜長、腰を下ろしながら、
社長「しかしなな、寅さんがポーツとなるのが
分かるよ。その昔ー俺も胸をこがした
もんだよ、さくらちゃん」
おっ、告白 ( ̄◇ ̄)
さくら「柳生先生のお母さんに…?」
おばちゃん「あら初耳だ」
博「へー」
社長「笑うなよ」
さくら「うん」
社長「あの人がね、スラッとしたセーラー服姿で、
手にヴアィオリンケースを持って
歩いていく姿を工場の窓から眺めながら、
どんだけ胸をときめかしたことか」ほお〜〜(^^)
おばちゃん「プッ!!」おばちゃんに結構うけている(^^)
社長「職工だったからね、当時はさ、」
さくら「うん」
社長「チキショウ!オレも一生懸命働いて、
出世したその暁にはあんな人を嫁さんに
貰うんだと、何べん心に言い聞かした事か!」
さくら「へえ」
おいちゃん「その努力の甲斐があって
大会杜の杜長になったじゃねえか」一本〜!(^^)/
一同「ハハハ」
寅が機嫌よく帰ってくる
社長「お帰んなさい」
寅、幸せそうな表情でニコニコしている。
おばちゃん「ご飯食べちゃったよ」
寅「あ、いいよ、いいよ、オレ済ましてきたから」
おばちゃん「あ、ま、お上がりよ」
寅「ありがとう」
と、茶の問に上がりニコニコしている。
顔を見合わせる一同。
寅「あー」
博「一杯やったんですか」
寅「そう、フランスのワインを、少々」
博「フランス…?.」
おいちゃん「どこで飲んたんだ、そんなもん」
寅「柳生さんのお屋敷」
一同、びっくりする。
さくら「じゃ、あのお宅でご馳走になったの!?」
寅「そうよ」
おばちゃん「まア、あきれた」
さくら「遠慮しなきゃだめじゃないの〜、
家の者が心配してます、とか何とか言ってー」
寅「言いましたよ、そんなことは」
さくら「そしたら何とおっしゃったの?」
寅「奥さまも、ご一緒にどうぞと、こうおっしゃった」
顔を見合わせる一同。
博「で、兄さんはそんなものいませんと答えたんですか?」
寅「真実をまげて伝える
わけにはいかないでしょう」
確かに永遠の真実だなあ〜〜(^^;)
さくら... 唖然 and ガックリ ( ̄0 ̄;)
おいちゃん「はー〜…まさかお前失礼な食い方したんじゃねえだろうな〜」
寅「と、いうと?」
おばちゃん「グチャグチャ音たてたり、こぼしたり、
箸でお芋を突っついてワーッと
口の中に放り込んだり」
こらこら、それってついこの前おばちゃんがしてた
行為そのまんまやろが ゞ( ̄∇ ̄;)
寅「フフフフフ…」
寅「おばちゃん、あなた想像が貧しいねえ〜、自分の家で絶えず
お芋を食してるからと言って、世間の人みんなが
芋を食ってると思ったらあなた違いですよお〜」
おばちゃん「悪かったね」
博「じゃ。どんな食事だったんですか?」
寅「え?」
寅、坐り直し、思い返すように、
寅のアリアが始まる…
寅「まア、例えば外国映画に出て来るような
机と椅子のある食堂だなあ〜」
こっちの窓際には、大きな花瓶があって、
そこに花がいっぱいだよ、
こっちの壁にはキリストとその弟子が
ご飯を食べてる、
知ってるかあの絵、『最後の晩酌』
…これで終りだと言っているんだよ。うん (^^;)
晩酌!
博「最後の晩餐」とおいちゃんにそっと言う。
おいちゃん博にそう言われても「ふうん」って
言う感じでよく分かっていない(^^;)
おいちゃん題経寺の檀家、日蓮宗だもんね〜。
二人は静かに手を合わして口の中で
なんかボソ、ボソ、ボソ、ボソ、言ってたなア…、(^^;)
そして、アーメン、
ボソボソボソ
パッと眼を開いて、
『寅さん、
さア、どうぞ、召し上がれ、』
これから食事が始まるんだよ、お前、
とりあえず感心する一同
さくら「ふ〜ん」
おいちゃん「それじゃ、キリスト教か」
さくら「そうね」
社長「おかずなんだ、おかず!
ビフテキかトンカツか!?」と乗り出してくる。
寅「フン!杜長、いいかい、
上流杜会の人は、そういう油ぎった
ギトギトしたものは食べない」
社長「へえ」
寅「そ、食べない…」
寅「白身の焼魚少々、上等なお吸物、
酢の物に香の物、案外と質素だぞ、さくら」
さくら「そおお?」
寅「ただし、器が違う、
おばちゃんちみたい夜店で買って来た
五枚百円の瀬戸物とはワケが違う、
めちゃ安!おばちゃん餌食、ブスッ…
うん、これは時代物のいい〜器だから、
その底のほうにご飯がほんの少し、ねっ!
白魚のような指でそのお茶碗を持ってさ、
右手に象牙の箸だよ、
白魚のような指で
それをこうやっていただくの、ほっ…って、
ほつ…って
いやだったってこの箸が
ここにポンとあたるでしょう、
チンチロリ〜ン
チンチロリ〜ン
おちょぼ口のを前歯で
たくあんをポリポリポリポリ…
ポリポリポリポリ
チンチロリ〜〜ン
チンチロリ〜〜ン
ポリポリポリポリ…
ポリポリポリポリ
秋の虫が泣くようだもの…う〜〜〜ん
秋の虫が鳴くようだもの
おばちゃんも寅に合わせて顔を
動かしているのが面白い(^^)
聴き入っている一同。
うっとりと話を続げる寅。
ショパン夜想曲作品9-2変ホ長調がゆったりと流れる
寅「それで食事が終わる。
食後の果物。
西洋音楽を聞いて、お茶の時間
やがて僕は帰らなきゃならない、
立ちあがって挨拶する。
『あら、寅さんもうお帰り?』
寅さんもうお帰り?
『はい、家で、さくら達が案じておりますから』
『そう、でも寅さんに来ていただいて、
ほんとうに楽しいお夕食でしたわ。
ねえ、雅子』
ねえ、雅子
『ほんとうね、お母さま』
ほんとうね、お母さま
『それでは、おやすみなさい』
『寅さん、また、きっと来てくださいね。
娘がいない時の私はほんとうに
一人きりで寂しいんですもの』
『分かっています』
親子に送られて表に出る。
降るような星空だよ……
降るような星空だよ
あ〜あ…
…さくら、」
さくら「うん?」
寅「明目もまた行ってみていいかな?」
行ってみていいかなあ?
さくら、その静かな声に逆に圧倒され
さくら「ウンン…そうね、あんまりご迷惑に
ならない…程度にね」
完全に寅のペースにはまっているね、さくら( ̄ー ̄;
)
寅、ポンと膝を叩き、
寅「よしィ!、
そうと決まったら明日にそなえて
ぐっすり寝るとします。
じゃあみなさん、お休みなさい」
博「おやすみなさい」
寅「え、はー、ええ〜えっ」
土問に降り、『虫の声』の歌をうたいながら階段を上がって行く。
寅の声「♪あぁれ、マツ虫が鳴いているう〜
チンチロリンのポォリポリかぁ〜---」
石焼芋売りの声
焼いも〜〜〜焼いも
しばらく声も出ない一同。
おばちゃん「さくらちゃん、またあんなこと
言っちゃって駄目じゃないか」と、さくらを睨む。
さくら「だってしょうがないじゃないの、
他になんて言えばいいの?」
さくらにしてみれば満男の担任の先生の家だからいつもより
ちょっと心配かも…(^^;)
博「まま、この際、うちわもめは止めましょうよ」
社長「そうそう!この難局をのりこえるために
みんなで一致団結しなくちゃ、じゃ、お休み、」タコ適当やなあ〜(−−;)
題経寺の鐘 ゴ〜〜ン
難局って…まずあんたの工場の難局乗り切れよな…(ーー;)
おいちゃん「はあ〜」
博「おい、帰ろうか満男、そろそろ帰るぞ」
さくら「帰るわよ」
帰り仕度にかかる二人。
ポンヤリ考え込んでる竜造、おばちゃん、
ショパン 夜想曲 作品9-2 変ホ長調
ショパンのノクターンの中では最も有名で世界中で親しまれている曲。
寅が回想するこの場面にはピッタリの曲。
私にはショパンのノクターンならやはり作品9-1 変ロ短調が好き。
文部省唱歌 虫の声
「あれマツムシが鳴いているチンチロ チンチロ チンチロリン
あれスズムシも鳴きだした リンリン リンリン リーンリン
秋の夜長を鳴き通す ああおもしろい虫の声」
寅のアリアの中の「チンチロリ〜ン、ポリポリポリポリ」は
落語『たらちね』からの借用だ。
言葉使いがバカ丁寧なことだけが欠点のお嫁さんをもらった男の喜劇を語ったもの。
『かみさんは象牙の箸に小さい茶碗だからチンチロリン、
俺のは大振りの茶碗で太い箸だからガッチャガチャだよ。
メシの喰い方だって違わぁな。かみさんは上品にサクサクとこうだ。
俺はってぇと豪快にザクザクだ。沢庵もかみさんはポリポリ、
俺はバリバリだ。チンチロリンのガッチャガッチャ、サクサクのザクザク、
ポリポリのバリバリ。』
お後がよろしいようで…(^^;)
翌日 題経寺・山門
風呂敷包みを手にした御前様が
キヨロキ買口しながら出て来る。
御前様「源〜!源〜!」
自転車でさくらがやって来る。
さくら「こんにちは」
御前様「やあ、土手のほうで源を見かけなかったかな」
さくら「いないんですか?」
御前様「うん、使いに出そうと思ったんだが」
さくら「あ、私が行きましょうか」
御前様「いや、とんでもない。
どこへ行ったのかなあ、あいつは〜」 ↓
柳生家・庭
綾のテーマがゆっくりと明るく流れる
竹ぼうきを手にした源ちゃんが落葉をはいている。
陽ざしが暖かく差し込む縁側に神妙に腰を下ろしている寅。
その傍で、綾が紅茶を入れている。
フランスの紅茶会社。フォーション( fauchon)の紅茶の缶が見える。
綾「そう、じゃ、さくらさんのご主人は
印刷工場で働いていらっしゃるの」
寅「いえ〜働いていらっしゃるっなんて、ほど給料貰っちゃ
いませんよ、まあ、どうにかこうにか親子三人で、
まあ食ってるてありさまですから」
綾「でも、真面目そうで、いい方じゃないの」
寅「ええ、まあ、それだけが取り柄のようなもんですからねえ、
ほんとは、わたくし、さくらの奴はちゃんとした大学出の男んとこへ
に嫁にやろうと思ってましたが、どうしようもありません」
自分を棚に上げてよく言うよ(−−)
綾「でも、好きな方と一緒に
なれたんですもの、それが一番よ」
この綾さんの言葉には実感がこもっている。
寅「ええ、まあ、あいつも…頭は悪くないんですねえ。」
「で、寅さんばどこの大学お出になったの」
そんなこと聞くかねえ〜、全く(−−)
寅、ヘドモドしてしまう、
源ちゃんクスクス笑いながら前を通る。
寅「またまた、そんな、へっへっ、
おい!働け!お前も手ェ休めてないで」と照れる。
綾「あは〜」
寅「エヘへ、え〜…、学校の方ではさんざん行け行けって
勧めてくれたんですけどもね、あの〜両親を早くから
なくしたもんですから、あの、あたくしがさくらの親代わり
になって、さくらの面倒を見ていたもので、つい」
嘘八百!どの口で言うてるんや ヾ(-_-;)
綾「そ〜、苦労なさったのねえ、寅さんも」
えええ〜〜!?信じるか〜??( ̄O ̄;)
寅「ええ、まあ、言ってみれば、妹の犠牲になった、
というんでしょうか、今はもうその苦労も忘れて
生意気な事ばっかり言っておりますけども」
地獄で舌抜かれるでぇ ヾ(▼▼メ)
綾「いいえそんなことないわ、」
寅「ええ」
綾「心の中じゃきっと感謝していらっしゃるわよ」
こころのなかで心配してハラハラしております(^^;)
寅「そうでしょうか」
綾「そうよ」
砂糖のスプーンを手にし、綾が砂糖の分量を尋ねる。
綾「あなた、おいくつ?」
寅「え?ええ……自分でも驚いちゃってるんですけど
四十ともう・・・」
寅「…」
寅「あ、砂糖ですか!え、は…歳かと思っちゃった」
このギャグは第20作「寅次郎頑張れ!」でも採用され、ワット君がボケをかましていた。
綾「 ?… 」
綾、プッと吹き出し、たちまち大笑いする。
寅も照れまくってエヘヘと笑う。
綾「アハ…アハハハ!いやねえ、寅さん、
砂糖がスプーンからこぼれて
あら、大変」
廓下から、婆やが顔を出す。
婆や「お嬢様、御前様のお使いですよ」
綾「あら、何でしょう」
風呂敷包みを手にしたさくらが現われる。
寅「ああ!何だ、お前、ここに」
さくら「あら!?」
籏「まあ、いらつしゃい」
さくら、手をつき、挨拶する。
さくら「どうも、兄がいつも図々しく
お邪魔いたしましまして、本当に」
婆や、座蒲団をすすめる。
綾「いいえ、とんでもない、
来てくだすってほんとうにうれしいのよ」
さくら「恐れ入ります」
さくら「これ、御前様からです。御到来物ですって」
綾「まあ、すいません」
婆や、鼻をクンクンさせて…
婆や「何だリンゴか」 あちゃ〜〜(ノ_< ;)
浦辺粂子さん、こういうことさせれば名人!
なんだりんごか…
綾「ん!ばあや!フフ、ねえ、」
寅「ヘヘへ」
さくら、膝をすすめながら、庭の源ちゃんを見てちょっと驚く。
綾「今ね、寅さんとあなたの話をしてたの」
さくら「あら、お兄ちゃん何言ったの?」
寅「何も言ってない何も言ってない、
嘘八百さくらを落としまくってました。(^^;)
寅、ごまかして源ちゃんに声をかげる。
おい、源、お前、掃除終わったか?」
源ちゃん「へい」
寅「よし、じゃ次なドプ掃除あそこサッ!」
綾「あら、ちょっと一服なすったら、」
寅「あ、いい、いいんです、いいんです、え」
綾「だってさっきから働き通しじゃないの、あの方…」
寅「いいんです、いいんです、もし、
お使いになるんでしたら
ずっとこちらに置いときますから、え、
で、朝と晩こういったものに
何か残り飯に汁かけて
ちょっとくれてやってください、
そしたら三ヶ月くらい持ちます。」ポチか(^^;)
眼を丸くしている綾。
源ちゃんも、文句一つ言わず、よく寅の言うこと聞くよなあ、
それが不思議だよ全く(^^;)
綾「あ、だって」
寅「もしそれでもあのお気にかかるようでしたら
煮干の二、三匹投げて
やってください
え、それで結構です。」
それじゃあ完全に猫の餌だよ。(−−;)
綾「まあ…-」
さくら「冗談ですよ、冗談。
お兄ちゃん、いい加減にしなさい!」
寅「えへへへ」
と、寅をにらみつける。
綾「あら、冗談なの…?」いくらなんでも当たり前(^^;)
寅「え」
綾「あら!あら!あ〜びっくりしたァ〜あはははは」
寅「へへへへへ」
綾「私、本当だと思った、はははは、ウフフフ…」
普通さすがに本気にしないって、… ヽ(´〜`;
綾、ほんとうに楽しそう…そして何年ぶりかで
訪れたささやかな平安と幸福…。
照れかくしに笑う寅
題経寺・鐘楼(タ方)
夕焼け空に鳥の鳴き声。
御前様がゆっくりと鐘をつく。
ゴ〜〜ン!!
源ちゃん後で怒られるぞ〜…((( ̄◇ ̄;))))
第23作「翔んでる寅次郎」の御前様の拷問参照
御前様「…げーん!」
とらや 茶の間
風呂帰りの社長、タオルを頭にのせて、ビールを飲んでいる。
社長「とにかくね、何とか手を打たなきゃいけねえよなあ。
なにしろね、風呂屋の中が寅さんの噂でもちきり
なんだから。『そりゃ娘のほうに惚れてんのよ』とか、
『いや、おっ母さんのほうだよ』とか、中にはいつ振られるか
賭けしてる奴までいる騒ぎさ。俺はほら、寅さんの身内
みてえなもんだろう、…どんな顔してりゃいいか
もう困っちゃったよぉ〜」
どうして「手を打たなきゃいけない」んだろうか?人様の家に毎日のように
お邪魔しているので、もし自分なら迷惑気味かなという想像は仕方ないし、
世間的に目立って滑稽なのはわかるが、それは別に昔から彼の行動全て
においてある意味滑稽さはついて回っていたし、「手を打たなくては…」という
ようなものではない。それ以上に何が悪いのか私にはわからない。綾は独身で、
病気がちで、さほどすることもなく家で淋しく過ごしているというのに…。
状況を考えると彼女が迷惑がっていないことは遠巻きに見ていても鈍感でない
限り少しはわかるはず。人々の好奇の目や噂なんていつものことだからさせて
おけばいいのに…。なんて思ってしまう。
寅は直情的でバカかもしれないが、いい年をした中年独身男性として
中年独身女性の元へ通っているのだから、相手が迷惑でない限りなんらかの
相互理解がとれているわけだからこれでいいのだと思う。
綾は寅と会えることがほんとうに嬉しいのだ…。
だいたい、社長、本当は噂を楽しんでるね(^^)
第14作「子守唄」でも第15作「相合い傘」でも柴又界隈に
なんだかんだと心配する振りして噂流してたもんなあ〜。
それはそうと社長の家、確か風呂有ったはず。
銭湯行くなんて家風呂壊れちゃったのかな??
おかみさんと喧嘩してお湯抜かれたとか?(^^;)
おいちゃん「は〜参ったなあ」
お風呂の戸を開けて、寝巻姿のおばちゃんが出て来る。
おばちゃんが風呂から出てくるなんて珍しいシーンだ。
春子先生や夕子さんもちょっとそういうシーンあったなあ…。
花子ちゃんやすみれちゃんは風呂の中も放映してた(^^;)
おばちゃん「何の話だい?」
おいちゃん「寅のことさ。柴又中知らねえ奴はいねえってよ」
おばちゃん「困ったねえ〜」
そうそう、困ったり、恥かしがったり、おろおろしていればいいのであって、
決して『手を打つ』ことではないと思う。
社長「ま、他に大した話題のないせいもあるけどさ、
日本シリーズも終わったことだし」
とピーナッツをぽりぽり。
ちなみに1976年(昭和51年)日本シリーズは阪急対巨人
4勝3敗で阪急の2年連続2回目の優勝。
巨人は3連敗のあと3連勝し、白熱したシリーズだった。最優秀選手は福本豊
源ちゃんは巨人ファン(第1作でキャップを被っていた)
題経寺・境内
御前様、境内を見回し、声を張りあげる。
御前様「源!源ん!」
もう御前様今回は源ちゃん探しっぱなし(TT)
寅が参道をノコノコやって来る。
御前様「あ、寅、」
寅「へい」
寅「源を知らんかな、源」
寅「え、ええ、あっああ!源!
あ、右に行きました、ああ、右行きました」
隠れている源ちゃん。
御前様「源!源!」
御前様がうしろを向いた隙に、
山門の陰から大きなリュックを背負った
源ちゃんが飛び出し、寅、御前様に
向かって合掌すると一目散に駈け出す.
柳生家・庭
寅と源ちゃん、庭から入ってくる。
寅「チンチロチンチロリン…よよお、婆ちゃん、いいお天気だねえ」
婆や、奥の部屋に向かって声を張りあげる。
婆や「お嬢様、恋人が来ましたよ」
寅「よしなよ、具合悪いよ、そんなこと言っちゃ」テレまくり(^^;)
婆や「じゃ、何て言えばいいんだい?」
寅「え?」
ばあや「旦那様とでも言うのかい?」
寅、至福だねえ〜(^^)
寅「カァ!参っちゃうなあお婆ちゃんには、
あのこれでさ、イモでも買って食べてよ」
と懐から財布を取り出し、五百円札をつまみ出して渡す。
婆や「いつもすまないねえ」
婆やが完全に一枚上手。手の平で転がされている
寅でした(^^;)
源ちゃんクスクス笑っている。
寅「へへ…なんだお前」
寅、アタフタ。
奥から外出姿の綾が、晴れやかな表情で出て来る。
綾「おはよう、寅さん。よかったわねえ、
今日はいいお天気で。ほら、テルテル坊主を
さげておいたの」
と軒にぶら下ったテルテル坊主を指さす。(古風〜)
寅「よかったですなあ!」
綾「さ、寅さん、参りましょう」
草履を履きやすいように並べてあげる源ちゃん。
優しいね(^^)
寅「参りましよう」
綾、履物をはき、庭に降りる。
源ちゃんの親切に気づいて
綾「あらすみません」
綾「じゃあ、婆や、行ってまいります」
婆や「寅さん、お嬢様を頼んだよ」
寅「はいよ ! 」
婆や「あんまり長く歩いちゃ駄目ですよ-」
三人たちまち庭を出て行く。
葛飾区立 柴又第二小学校 校門
満男の通う小学校でもあり、寅の母校でもある(第28作)。
ということで、寅は満男の先輩らしい。
第28作「紙風船」で、おばちゃん曰く「ちゃあんと卒業したんだもんね」
満男曰く「小学校は誰でも卒業できるんだよ」(^^;)
放課後、どこかの教室からフォスター作曲「故郷の人々」の
コーラスの練習が聞こえている。
「♪想い出の流れの彼方に〜…」
音楽の先生「え〜、ほとんど同じメロディですね、……歌いましょうね〜!」
「♪な〜つかしの、は〜ら〜から〜、い〜まも住めり〜」
「♪こ〜の身にも慕わし〜、我がふるさと〜」
故郷の人々
思い出の流れの
かなたに
なつかしのはらから
今もすめり
行く山川を越え
さすらう
このみにもしたわし
わがふるさと
遠近(おちこち)さすらい
嘆きつつ
わが心わびしや
家を離れ
1851年、故郷の人々はフォスター25歳の時の曲「スワニー河」として有名。
アメリカの作曲家、スティーブン・コリンズ・フォスター(1826年〜1864年)。
フォスターは、アメリカ独立のちょうど50年後の1826年7月4日、ピッツバーグ生まれ。
フォスターの37年間の短い生涯に多くの名曲を世に出した。
一年生の教室
実際の学校の教室でロケ
『じゃっくとまめの木』
『よく考える』の紙
石や粘土細工が置いてある。
テレビも置いてある。
子供達のいない教室で、雅子が一人、壁に
子供達の描いた絵を貼っている。
後ろの入口が開き、さくらが顔を出す。
雅子、振り返る。
さくら「こんにちは」
雅子「あらぁ!」
さくら「PTAの役員会があったの。今、その帰り」
さくらは早くもPTAの役員してるんだ。こういう役は、専業主婦が
中心となって任されるので、さくらも引き受けざるを得なかったのであろう。
雅子「ご苦労さま。どうぞ」
さくら、教室に入る。
雅子「すぐ終わりますから」
さくら「一度お会いしてお詫びしなくちゃ
いけないと思ってたのよ」
雅子「何を?」
さくら「兄のこと。毎日のようにお邪魔して
迷惑してらっしゃると思って」
雅子「とんでもない、私のほうがお礼を
言わなきゃいげないくらいよ。
母が慰めていただいて、とんなに助かってるか」
さくら「でもね、ほんとうは困ってらっしゃるんでしょう」
雅子「いいえ」
さくら「なにしろ、あのとおりの人間だから。
…あ、手伝いましょうか」
雅予「すいません」
さくら「これそこへ並べて行けばいいのね」
さくら、絵を壁に貼りつける
さくら、他の絵と間隔が違うぞ!
もっとよく見てやれよ(^^;)
雅子「今日はね、ピクニックに連れて行って
くださるっていうんで、朝からもう大騒ぎ」
さくら「まあ、そんなことしてお体大丈夫なんですか。
はんとに常識がないんだから」
さくらの常識とは…なんぞや(−−)
壁に自分で貼った絵を見てギ目ツとするさくら
さくら「あら、嫌だわ、これ満男の絵ね」
四角い顔をした寅のポートレート。
その下に、「ぼくのおじさん」と書いてある。
この名前は第42作「ぼくの伯父さん」のタイトルに繋がっていく。
水元公園
綾のテーマが美しく流れる。
公園を歩く三人
水を飲む源ちゃん
晩秋の透き通った空気が感じられる美しい午後である。
舟で釣りをする人
散歩する人たち
犬が来て吠えられ逃げる寅。
池の近くで近くで敷物を広げて、
源ちゃん、寅に命じられて、リュックの中からいろいろ出す。
源ちゃん小さなテーブルとイス、座布団、湯のみなどなど、
を取り出し、綾にすすめる。
寅、チリや埃が綾にかからないように背広で防御。
うれしそうに座布団に腰を下ろす綾。
綾の口の動きから 「まあ、テーブルまで」と言っている。
まあ、テーブルまで
幸福な綾の時間
ベンチに敷物をひろげ、お茶を作ろうとする綾。
電気ストーブを取り出す源ちゃん。
源ちゃん、電気コードを取り出L、ソケットを持って
考え込み、クスクス笑い出す。
源ちゃんに知らされて、寅も恥かしがってゲラゲラ笑い出す。
古典ギャグですね。
再び 柴又第二小学校 一年の教室
雅子とさくら、子供の椅子に腰を下ろし、談笑している,
さきほどのコーラスが聞こえている
さくら「嘘よ〜!私のために大学へ
行くのあきらめたなんて、そんなの嘘よ」
雅子「違うの?」
さくら「違うわよ.いやね,フフフ、私が小学校の時
家を出てしまってね、
二十年も帰らなかったのよ。
雅子「あら」
さくら「苦労したのはこっちよぉ〜」
普通、担任の先生と子供の父母はは親しくなっても、ほぼ例外なく
両方一応敬語使い合う。さっきまで敬語でいきなり今は
常語ってのはありえない。でも親しい雰囲気が伝わってこれでいいのかも。
雅子「私もなんだか変だと思ったのよねえ〜」
さくら「どーせ、そんなことだろうと思ったわよ、ほんとに〜、フフフ」
上の雅子のセリフとかぶさるようにさくらの上のセリフが入る。
二人、ひとしきり笑う。
後ろの黒板に貼った絵がもう一度きれいな間隔に並べ替えられている。
雅子先生はちょっと詰めすぎだし、さくらは離し過ぎだったものな(^^)
雅子「でも、ああいうお兄さんが
一緒にいたら楽しいでしょうねえ」甘いねえ(^^;)
さくら「冗談じゃないわよ、今度は何やらかすか、
朝から晩まで心配のし通し」
雅子「でも、私達から見れば、あんな妹思いの
お兄さんていないわよ。
私なんか、兄弟がいないでしょう」
寅の、どの発言で妹思いと思ったんだろうか?
まさか、あの家庭訪問で「妹思い」と思ったのだろうか?
いろいろ寅が柳生家でさくらの話題をするからだろうか?
さくら「うん」
雅子「親戚付き合いもほとんど
なくなっちゃったし、それは伯父とか伯母は
いますけどね、冷たいものよ」
さくら「先生もたいへんなのねえ。
時々噂してるのよ、あれだけのお屋敷、
維持して行くだけでもたいへんだろうって」
雅子「放ったらかしよ、だってとっくに人手に渡ってるんだもの」
さくら「あら、あのお家が?」
雅子「私、拝むようにしてね、
母の命あるうちだけは
住まわせてくださいって頼んでるの」
さくら、よくわからないという顔をする。
さくら「……命のあるうち…?」
雅子「うん」
雅子、しばらくうつむいて考えているが、ポツリと言う。
雅子「母はね、…もう、永くないのよ…」
唖然と雅子を見つめるさくら
雅子「退院する時、お医者様に、もう好きなようにさせて
あげなさいって、言われたの…。
雅子「そんなふうに見えないでしょう・…?」
さくら「見えないわよ、ちっとも」
雅子「私も信じられないの。
だから、
この間も先生と喧嘩しちゃったのよ。
だってねえ、…
奇跡っていうことだってあるんですもの」
雅子「…そうでしょう?」
あまりのことに呆然としているさくら、
眼を潤ませて、気持ちが混乱している。
さくら「……」
ふたり、黙ってうつむいている。
さくら「ちっとも知らなかった…」
遠くの教室で明るいさきほどのコーラスがまた聞こえてくる。
「♪思い出の流れの彼方に〜懐かしの同胞〜」
さくらが「お母さんならいい」と口を滑らせたばかりに、
寅は堂々と柳生家に足しげく通い続けた。今となっては
そのことは綾にとっては幸運なことだったのであろう。
さくらは、綾の状況を知らなかったことにショックを受けるが、
それは当たり前である。まともな人間なら誰だってショックを
受ける。
それでは、雅子はどうして、綾の命が残り少ないことをさくらに
話してしまったのだろうか。
さくらたちと仲良くなり、自分の心にしまっていた辛く重い事実を、
たった独りで心に封じ込めることに疲れ、親しい人に聞いて欲しくて
つい打ち明けてしまったのであろうか。
それもあるだろう。
それともうひとつ、寅と綾との蜜月をこのまま続けさせてやりたいと
いう気持ちがそうさせたとも言えないだろうか。常識からいくと、さくらは
恐縮して、いずれ寅の柳生家通いを止めさせるかもしれない。もし雅子が
逆の立場だったら寅を説得してそうするだろう。だからこそ、真実を打ち
明けて、綾が心底寅との日々の語らいを楽しみにしていることをさくらに
わかって欲しかったのかもしれない。
しかし、実のところ、それでは、そんな重い事実を突然知らされたさくらは
かなり悩んでしまうことになる。それでも雅子は、それを承知で、ギリギリで
綾の救済を選んだのかもしれない。綾をバックアップして欲しいのだ。
人が重い事実を他者に打ち明けると言うことは、心が晴れるという以外にも
そういう要素が必ず入るものである。
綾も雅子もあの日寅に出会えたのは神の導きだったのだろう。
人生には出会わなくてはならない出会いというものがある。
わけ知り顔で引き裂いてはならない関係もある。
他人が口をはさむ余地のないのっぴきならない縁と
いうものは確かに存在するのだ。
そこには硬直化し、形骸化した常識などというものが
入り込む余地は微塵もないのである。
夕暮れの 帝釈天 参道
もの思いに沈んださくらと雅子が、肩を並べて歩いている。
えびす家の角を曲がる。
豆腐屋がラッパを吹きながら過ぎていく。
パ〜〜プ〜〜〜パ〜〜プ〜〜〜
雅子「ごめんなさいね。私、あんなこと
言うべきじゃなかったわ」
静かに首を振るさくら。
塾から帰る子供達が大声で挨拶する。
子供達「先生、さようなら〜」
雅子「さようならア」
とらや
近所の人雅子に「こんばんは」
さくら「あの、お茶でも飲んでらっしゃらない?」
雅子「ありがとう。でも、母,が待ってますから」
その時、茶の間から綾の声が聞こえる。
綾「雅子、フフ、ここよ、ここ ! 」
茶の間から、綾が手を振っている綾。
ニコニコしている寅たち。
雅子「あら嫌だ」
雅子店の中に入る。
綾「今日は水元公園に連れて行って
いただいたの。楽しかったわぁ」
雅子「よかったわねえ。
寅さん、どうもありがとうございました」
寅「いいえ、とんでもない、さあ、さ、どうぞお上がりください」
おいちゃん「さ、さ」
雅子「ええ、でも、…お母様、もう失礼しなきゃ」
綾「うん?ああ、それが…ねえ〜フフフ…」
救いを求めるように寅を見る。
おいちゃん「アハハハ、いえね、いつも寅がご馳走に
ばかりなっていますから、たまにはとらやの
田舎料理でも召しあがっていただこうかと、
その話が今決まって、エヘへ…」
寅「で、雅子先生のこと迎えにいこうとしていたら…」
綾「そしたら、ちょうどあなたが来たのよ、フフフ」
さくら、微笑みながらも、少し何かを考えている表情…
寅「うまくいっちゃった、ハハハ」
寅「じゃ、上がってもらうでしょ?」」
おいちゃん「あ!もちろん、さ、どうぞどうぞ」
寅、土間に下りて、おばちゃんに
寅「さー、おばちゃん、急いでくれよ、急いでよ、
え!あとはなにか買い物ないか、買い物。」.
おばちゃん「ないない」イモをむいている。
寅「忘れ物ないね!」
おばちゃん「ないよ」
寅「えーっとひとり、ふたり、さんにん、よにん、
と、頭数、満男を入れて9人な、」
おばちゃん「そう」
寅「よしっ!あっ!!そうだ、そこだ」
と庭の方にに飛び出す。
バケツ蹴ってしまって カンコロコロ
おいちゃん「はりきっちゃって」
雅子、綾に
雅子「しょうがないわねえ」
綾「だって、みなさんがそうおっしゃって
くださるんですから。ねえ、おじさん」
造「はは、ご迷惑でしようけど、ここはひとつ、
ここは寅の顔を立ててやってください」
おばちゃん「立看板みたいな
四角い顔ですけどね」
うひょ!おばちゃんギャグ(^^)/
綾、大声で笑い出す。
綾「プフフフ!おかしなおかみさん、アハハハ…」
雅子も少し笑顔。
さくらは仏間で笑いながらも少し複雑な表情
題経寺の鐘が鳴る。ゴ〜ン!!ゴ〜〜ン!!
本当は、源ちゃんも今回は招待してやって欲しいね。
がんばって手伝ったんだから。
とらや 茶の間
おばちゃん、台所から裏の工場に向かって。
おばちゃん「社長さん始まりますよ」
社長「ちょっと待ってくれ、いま電話なんだよ」と、遠くから声
寅「よオ、おばちゃんよ、もういいよタコはタコは!
かまわないで食っちやお、食っちやお」
綾「まあ、大変なご馳走ねえ」
おいちゃん「いやいや、ほんの田舎料理でどうも」
寅「病院の給食よりはちょっとましでしょうけどね」
綾「あら、あなたひどいこと言うわねえ」
雅子「そうよ、おばさん達が一生懸命作ってくださったのに、」
綾「ねえ、ほら、このお芋の美味しそうなこと!」
雅子「ねえ〜」
満男はどこへいったんだろうか?
とりあえず仏間にはいない。
博、寅にビール注ぐ。
二人に叱られて悦に入っている寅。
寅「ヘヘへ」
おばちゃん「まあ、ほんとにお狭いところで、
お恥ずかしい」
と言いながら席につく。
綾「いいえ〜」
おいちゃん「何にもございませんが、さ、どうぞ」
寅「どうぞ、」
博「いただきます」
寅「え、おあがりください…、こりゃねえ、カラッとした奴を…」
とてんぷらに手を出してハッとする。
綾と雅子、両手を組み、眼を閉じてお祈りをしている。
寅、あ!という感じで、
覗き込んでいるおいちゃんたちに
寅「一応、早く!」
早く!
っと、いらついててんぷらをテーブルに放り出す。
ガチャン!!
てんぷらが…(TT)
全員が祈りの体制。
おいちゃんたち、とりあえずやみくもに手を合わせる。
★おいちゃんは、仏教の手の合わせ方(^^;)
★おばちゃんと博は 指の組み方が三三七拍子か(^^;)
★寅は箸と茶碗持って、…新興宗教??(- −;)
寅は何度かすでに経験してるはずなんだけどなあ…。
柳生家でも箸と茶碗で拝んでいたのかな?
綾と雅子、すぐに眼を開けるが、
綾は一同のようすに気づき、
割り箸を割ろうとしている雅子に
雅子に目で合図をし、慌てて再び眼を閉じる。
寅「ん…ん!」
と咳払いし、寅、箸と茶碗持ちながら
片目の薄目で状況を見て、そのかっこうやめれヾ(^ ^;)
未だお祈りをしている綾と雅子
さくらや博もちょっと目を開けるが
寅「まだだよ!」と、無声音で叱る。
一同またお祈り。これじゃ夜が明けるよヾ(- -;)
御覧のみなさんの予想通り、間の悪いタコ杜長、
大声を張り上げ頭を押さえながら登場〜。
社長「あー参った参った、また明日税務署
行かなくちゃならねえ…」
そんな夕方遅くに税務署から電話ってことはないだろ。
社長、ビックリ仰天アププのプー(^^;)
口をあんぐりしたまま呆然…
あんぐり
寅「かあ!タコー!」小声で叫ぶ。
社長「どうかしたの」と小声
おばちゃん「シィーツ」
杜長、慌てて眼を閉じ、手をすり合わせ。
社長「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、
南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」
あちょ〜〜〜 ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ
一心にお題目を唱える。
社長、それじゃ悪霊払いの儀式だよ ヾ(- -;)
この超スーパーギャグにとらや一同、思わず吹き出す。
綾と雅子も笑ってしまう。
寅「タコ、キリスト教だよ、い、今はお前!」
社長「え、どうして?
誰か死んだの?」無声音(^^;)
駄目押し2連発(^^;)
一同、たまらず吹き出して大笑い(^^)
一同「ハハハハハ!!」
おばちゃん全体重をか細いさくらに
ぶつけながら大笑い(^^;)
さくら「ちょっとおばちゃん」とさくらも笑っている。
綾「アハハ!ああ、くるしい〜、アハハハハ」
なぜかタコ社長の照れ笑い声も響いていた。
社長あんたが笑ってどうする ヾ(- -;)
とらや 庭
朝日印刷の寄宿舎の窓で、工員が月を眺めながら
ハーモニカでスコットランド民謡「Comin' thro'
the Rye」
日本では「故郷の空」で有名。…を吹いている。
「とらや」茶の間
食後の菓子にダンゴを食べる綾。
綾、茶を飲みなから。
綾「ああ、おいしい。このおダンゴ」
寅「あー、そうですか、お、それじゃ、おいおかわり、おかわり」
雅子、「あ、寅さん、もう結構」
寅「そうですか」
雅子「うん」
綾「娘の頃ね、雅子、私このおダンゴが食べたくて
しようがないんだけど、おばあさまが許して
くださらないでしょう、だからねえやに頼んで
こっそり買って来てもらって、女中部屋で隠れて
食べるの。それがおいしくてねえ」
寅「オレもやったよ、二階のフトン部屋に隠れてさ」
綾「何を食べたの」
寅「ピッタリ、戸をしめてね、タバコ、もくもく吸って」
今ではすっかり禁煙している寅でした(^^)
ちなみにテレビ版では禁煙していない。
一同大笑い
博「馬鹿だな、兄さん」
おいちゃん「いやーしかしなんでも隠れて
やるってことは面白いもんですよ」
おいちゃんも何か?ヘソクリでも(^^;)
寅「そ!隠れるの面白い!」
綾「そうねー、大人の恋愛小説をこっそり読んだり」
寅「オレなんか隣のネコ、つれて来てね、毛、全部、
剃っちゃったら、イタチみたいになっちゃった」スゲェ!
綾たち「ハハハ!!」
それ隠れてやってないだろ? どーせ。
全部剃られるまで縛られてた猫って(TT)
注意: 良い子の皆さんは真似しないように(^^;)
一同 またまた大笑い
綾「楽しかったわ、娘の頃は」
寅「ええ」
綾「 …考えてみると、
あれからずうっと楽しいことなんか
なかったみたいよ、寅さん」
雅子「……」
寅「そうですねえ、僕も、考えてみれば、
あの時以来何一つ楽しいことは
なかったような気がします」
あの時って、猫をイタチにした時か?嘘コケ(−−)
綾「あら、寅さんでも」
寅「ええ…そうですとも」 適当やなあ〜(−−;)
一同、クスクス笑い出す。
寅「何笑ってんだよ、馬鹿野郎」と博に言う。
社長「竜造さん、あの頃は
団子一皿いくらでしたっけ?」
おいちゃん「さあ、三十銭かそこらじゃないか」戦中かな…
社長「三十銭…!」
一同、溜息をつく。
雅子「ねえ、お母様、今、
このおダンゴいくらだと思う?」
綾、緊張して…。
綾「…-そうねえ、今は物価が
上がってるから、六十円ぐらいかしら」
一同、プッと吹き出す。
綾「違うの?」
寅「商売にならねえな!」
1971年の「奮闘篇」ではとらやの焼団子が60円だった。この作品から僅か5年前のことだ。
物価は上がっているが、そんなにすごい的外れでもない。開きが2倍弱だ。
ちなみにとらやの草団子の値段はどうなっていったかというと、
第12作「私の寅さん」では草団子は120円に値上がりしている。
第13作「恋やつれ」では草団子は今度は値下げして100円になった。
第14作「寅次郎子守唄」でも草団子は100円のまま。
第15作「寅次郎相合い傘」でも草団子は100円のまま。
第16作「葛飾立志篇」でも草団子は100円のまま。
第17作「夕焼け小焼け」でも草団子は100円のまま。
ちなみに今回第18作「純情詩集」の冷蔵庫は『雪印』
お品書きの値段は第17作と同じ。
草団子 100円
焼き団子 100円
こがねもち 100円
おでん 200円
ところてん 150円
みつまめ 200円
あんみつ 200円
サイダー 100円
ラムネ 100円
ジュース 100円
近年はこのように草団子は100円をなんとかキープしている。
話を戻して
雅子「ね、このとおりなのよ。ほんとうに世間知らず
なんだから、いつかなんかね、私がお給料袋から
一万円札出したら、『あら、雅子、あなた一万円も
お給料いただいてるの』だって」
一同、また笑う
綾、下を向いてしまう。
1976年当時、産休講師の1ヶ月の給料は、持ち時間によっても変わるが、
8〜10万円ほどか?1万円とはさすがに綾さん、ちょっと極端かもしれない(^^;)
さくら、満男が仏間で机にうつ伏せに寝たので、
毛布をかけに仏間に行く。
満男は夕飯時にいなかったがいつご飯を食べたんだろう。
このシーンは中村君じゃないのかもしれない。
雅子「この間なんか、もっとひどかったのよ。
月末お金がなくなっちゃってね、クリーニング屋さん
の支払いどうしようなんて言ったら、
『あら、じゃ、銀行に行って貸していただいたら』だって」
一同、また笑う。
一緒に笑っていた寅、ふと我に帰って、
寅「なんだい、何がおかしいんだい。
銀行ってのは金貸す所じゃあねえかァ」
まあそう言うキャッシングシステムも無くはない。
杜長、溜息をつき首を振る。
社長「浮世離れしてるよ、まったく」
あんたは浮世にベッタリだもんなあ社長 ヽ(´〜`;
)
…たく
雅子「ほんとうに世の中のこと何も知らないんだから、
まるで子供みたいなのよ」
綾「雅子ォ〜」
雅子「あのね、この間だってね」
雅子さん、当初のとらやへの遠慮はどこかへ吹っ飛んで、
今やお母さんよりはしゃいで長居している。
どうやら、とらやの魔力にどっぷりはまったようだ。
とらやは、いったん入ると居心地が変に良くてなかなか
出れない(^^;)このようにしてみんな『とらや依存症』に
なっていく…。
綾、たまりかねたように口をはさむ。
綾「よしてよ!」
雅子「どうして」
綾「あなたはそうやって、いつも私の
世間知らずを笑いものにするけど、
いい歳をして物の値段もロクに知らないことを
私がどんなに恥ずかしいと思ってるか、
あなた考えたことがないの」
綾、みんなに対し、恥ずかしいそうにする。
雅子「……」
さくら、綾をかばう。
さくら「でも、ずうっとお体が悪かったんだから
仕方ありませんわ。…ねえ、おいちゃん」
おいちゃん「そうですよ、朝から晩まで銭勘定に
追われる暮らしなんて嫌なもんですよ」
おいちゃん、さすが年の功だね。実感がある。
タコ社長はこの時さらに大きく頷いている(^^;)
ただ、銭勘定に追われることと、ものの値段を
知らない事は微妙に別問題かも…。
社長「奥様はお幸せなんですよ、」
おっ、社長、初恋の人にはじめて直接話しをした!
おばちゃん「そうですよ」
一般には「奥様」と呼ぶんだね。大昔に離婚して、
ずっと独身でいるのに…。
「綾さん」とは言わないのか…。
午後八時の時計が鳴る。
綾「そうかしら、…私が幸せかしら」
綾の表情に哀しみが浮かんでくる。
雅子、もさくらも下を向いて考えてしまう。
「ねえ、さくらさん、
私ね、あなたがたが、うらやましくてしかたがないの、
だって、みなさんが、一人一人が自分の力で生きて
いらっしゃるでしょう…。私は、この歳になるまで
自分の力で一円だって稼いだことがないの」
雅子、綾の表情を見ている。
しんみりする一同。
博「じゃあ、これからやれば、
いいじゃないですか」
こういう時は、やっぱり博だねえ!信念の人だからね。
博のこのような反射神経と瞬発力が私は気に入っている。
綾「え?」
さくら「そうですよ。もうすぐ何だって
出来るようになりますよ、
働くことだって、
お金を稼ぐ事だって」
さくらは、嘘をつこうとしてはいない。
ひとつの祈りにも似たさくらの『気』が入った言霊なのだ。
さくらは自分の言葉によって綾の運命を変えようとしている。
無意識に綾の気持ちを柔らかく開放させて免疫力を高めて
いるのだろう。さくらは寅同様そのような人の運命を変える
才能がある。これは優しさであると同時に能力である。
綾「私が…、私にそんなことが出来るかしら」
寅「出来るんだから、やれば出来るんだから、な、出来る…」
博「出来ますよ!」
寅「ほら」
綾「そうかしら」
綾「で、私どんな仕事をやればいい?」
寅「どんな仕事すればいい?」
綾「……」
寅「どんな仕事すればいい?」つい綾の口真似でおろおろ博に聞く。
博「そうですね…」
寅「うん」
どうしても、顔が沈んでしまうさくら
綾「私、体に自信がないから力仕事は、ちょっと…」
そらそうだ(^^;)
寅「そうそうそう…-。それと、ほら、満員電車で
通勤するの、あれ具合悪いな、体に悪いから、な。
あと、あのゴミゴミゴミゴミしてね、空気の悪いところ
ダメだ、湿ったところもダメ、
日がスーっと当たってて、でこう、なんかのんびり仕事が
出来るような、そんな所は考えつかない?無いか?」
博「そうですねェ……」
寅「そこなんだよね」
社長「ねえ、ねえ」
寅「え?」
綾、心配そうに返事を待っている。
社長「あのね、」
寅「何?」
社長「この近所に小さいお店を
開くなんていうのはどうだい?」
綾、思わずうれしそうに声をあげる。
綾「あら、お店」
寅「社長、お前いいところ、気がついたな」
一同もホッとして、ニコニコする。
おいちゃん「なあ〜るほどねェ」
おばちゃん「お店はいいわね〜」とおばちゃんも参加
雅子「お母様、どんなお店にする」
綾「そうねえ、何屋さんがいいかしら〜、ねェ、寅さん〜」
寅「え?えーっと、まず団子屋駄目、
これ儲からないから。」おいおい(^^;)
綾「あらそお?」
寅「あと、それから、魚屋とか八百屋とか、
匂いがしたり重い物持ったりするの
これも駄目、な、…あとはな…」
さくら、ちょっと焦って…
さくら「じゃ、オモチャ屋さんは?」
綾「あら、オモチャ屋さんいいわね」
おいちゃん「こういうのはどうです?文房具屋さん」
おいちゃんいい味(^^)
綾「それもいいわね」
寅「ダメだダメだ」
綾「どうして?」
寅「ハナをたらしたガキがですよ、汚い手に百円玉にぎって、
『おばちゃん、おくれー』なんて、そんな店が出来ますか。
ダメでしょう、ね、もっと他に店ないかよ、えっ?」
寅って文房具屋に何か恨みでも ヾ(^^;)
おばちゃんおくれー
博「どんな店がいいんですか」
寅「だから例えばさ、
ひっそりとした裏通り、ね、
しゃれた構えの小じんまりしとた店、
お湯がこうチンチンチンチン沸いていて、
火鉢の傍で読書にふけってると、
忘れた頃にポツリ…ポツリと客が来る。
ポツリ、ポツリと
これがみんな上品な懐豊かな女の客ばかり、
何やら楽しい話をしているうちに、いつのまにか
スッ…と品物が売れている。
タ方豆腐屋のラッパが鳴る頃は店を閉めて、
雅子ふと、我に帰っている。
土曜日曜祝祭日、勿論休みです、
それで程良くこうお金の儲かるそんなような
店ないかいオイ!え〜?」
雅子複雑な顔になってしまう。
綾「フフフ、そんなのあるかしらねえ〜」
一同、笑い出す。
博「その店で一体なにを売るんですか」
寅「それをお前、考えろってんだよ」
一同「フフフ」
綾のテーマ 深く静かに響き渡っていく
そんな話を聞きながら、どうしても眼を伏せる雅子。
未来を朗らかに話し合う人たちに、雅子はどうしても、
心が沈んでいくのだった…。
そんな雅子を見て、いたたまれなくなったさくらは
立ち上がって台所の方に行く。
おばちゃん「ねえねえ、ぴったしのがあるよ、
宝石屋さんなんかどうかしら」
いかにもおばちゃんらしいゴ〜ジャスな発想。 第20作の夢参照(^^;)
寅「そら、うまい考えだな」
社長「ダメダメ、柴又でさあ、
ダイヤモンド◆☆.。.:*・゜
買う客いるかい?甘い甘い、ハハハ」
ワイワイ笑う一同。
彼らの笑い声が意識から遠ざかり
雅子とさくらは人知れず哀しみの中にいる。
寅「よおし、じゃいっそ
印刷屋やろ、印刷屋」
社長「うまいうまい!」
おいちゃん「そりゃいい!
儲かりますよ、印刷屋は」
おばちゃん、手を横に振って大笑い。
一同大笑い 「ハハハ!」
大勢の笑い声の向こうで、
ひとり、台所で炊事をしながら、
流しの傍に立って、涙をぬぐうさくらの横顔。
それでもどこかで、奇跡を信じたい…
遠くで笑い声
江戸川土手
関係者以外の車輌通行禁止の看板
遠くで救急車の音
さくらが土手から自転車で急いでこいでくる。
とらや 茶の間
寅、遅い朝食を食べている。
客の相手をしているおばちゃん。
さくらが急ぎ足で入って来る。
おばちゃん「おや、早いんだね」
さくら「おはよう」足早に茶の間に上がっていく。
さくら「お兄ちゃん、今ご飯?」
寅「うん?うん、今日は巣鴨の縁日だからな、ひとッ稼ぎしなきゃ。
ちょっと、これおまんまこれ、よそってくれ」
巣鴨のとげぬき地蔵は第1作でも出てくる。
(ちなみに私は5年間、この地区で中学校の教師をしていた。)
さくら「あのね、」
寅「うん」
さくら「今、柳生先生から
電話があって、学校からだけどね、
お母様が、具合が悪いんだって」
寅「え!?」
寅、箸をとめ、緊張する。
さくら、ジャーを開け、寅のおかわりのご飯をよそいながら、
さくら「ほんとうは病院に行かなくちゃいけないんだけど、
どうしても嫌だって…言うこと聞かないんだって。
それでね、柳生先生が、お兄ちゃんの言うことなら
多分聞くだろうから、お兄ちゃんの口からそう言って
欲しいって」
寅「じゃあ、オレ、行ったほうがいいか?」
さくら「うん、そうして」
寅「うん」「よし…」
寅、箸を捨て、帽子を手に取って
土間に下り、表に駈け出そうとする。
寅、また戻ってきて
寅「おい、オレ、ここんとこさ、柳生さんのお屋敷に、
ちょくちょく出入りしているだろ、近所のおしゃべり
連中が何だかんだと噂しているんじゃねえかと
思うんだよ、オレはいいけどさァ…」
さくら、寅の言葉をさえぎり、強い口調で言う。
さくら「何言ってんの、人の噂なんか
どうだっていいじゃない、
大威張りで行ってらっしゃい」
さくらの、適確な判断力と綾への強い気持ち。
さくらは、ここ一番で、一歩前に踏み込む行動を取る。
第15作「寅次郎相合い傘」のリリーへの直訴、そして
この第18作「寅次郎純情詩集」の寅への後押しが特に圧巻である。
私はこのさくらの気持ちに泣けてしまった。
寅「そうだな、よし!」
うれしそうな顔で飛び出して行く。
その様子を見ていたおばちゃん、呆れ顔で言う。
おばちゃん「いいのかい、あんな思い切ったこと
言っちゃって知らないよぉ…」
さくら「いいのよ」
ひとり、考え込むさくら。
さくらは、おばちゃんには、綾の事情は言っていない。
誰にも、博にさえもこのことを言わない。これがさくらなのだ。
『さくらは言わない』 このことがこの作品に高い品格を与えている。
彼女はひとりで耐えているのだ。
柳生家・庭
綾、陽のあたる縁側の藤椅子に、ショールを肩にかけて
坐っている。玄関のほうから寅の大声が聞こえて来る。
寅「おい、お婆ちゃん、あのー、
奥さんの具合、どうかねー、庭のほうに回るよ」
綾「!…」
綾、寅の声を聞いて、
待っていたように顔が明るくなる。
寅、息を切らしながら、庭先に駈け込む。
綾「ああ、フフ…」
寅「あ、なんだ起きてたんですか。どうです、具合は。
いや、今、お嬢さんから電話で、あの、急に具合が
悪くなったからね、病院に行くようにすすめて
くれって、そう言われて来たんですけれども」
綾、徴笑を浮かべる。
綾「大丈夫よ、何でもないの。
あの子が少し大げさなだけよぉ」
寅「そうですか…」
綾「うん」
綾「うん ほら、顔色だって悪くないでしょ」
と頬に手を当て、あえて寅になんでもないと示す綾。
寅に、自分は元気そうだと思って欲しいのだ。
寅「そう言やそうねえ。なんだ、あー驚いた、
あわてて駈けて来たんで、ハアハア言っちゃった」
寅「はー、よかった…」
縁側に坐り、ハンカチで汗を拭う。
勘の鋭い綾はうすうす、自分の命のことを
感づいているのであろう。
この懐かしい家を離れることを恐れている。
婆や、お盆を持って入って来る。
婆や「お嬢さま、お薬」
綾「はい、どうもありがとう」
婆や「寅さん、庭が落葉だらげになっちゃったんだけど、
またあの坊やよこしておくれよ」源ちゃん年齢不詳(^^;)
寅「いいよ、午後にでもつれてくるよ」
婆や「ほんとうに可愛い子だねえ」と奥へ行く。
綾が寅に向かって微笑む。
寅もニコッと微笑み返す。
そして安心したかのように下を向く。
とても静かな、
そして大事な時間が過ぎていく。
小鳥が鳴いている。
遠くで列車の汽笛
綾、寂しそうに、ポツリと言う。
綾「あー、もう秋も終りねえ……」
寅「え、そうですねえ。花が枯れて、
木の葉も散って、一日一日、
日が短くなって……」
綾「夕方お寺の鐘がゴォ〜ンと鳴ると、
なんだか無性に寂しくなって来て、
フフ、こんな嫌な季節は早く過ぎて
くれないかなっ、て思うのよ」
綾の第2テーマ が哀しく切なく流れていく。
寅「すぐ過ぎますよ。もうちょっとの辛抱ですよ。
三月になれば、
すみれ、タンポポ、れんげ草、
パーッと咲いて、一日一日暖かくなって、
桜の蕾がふくらむ頃には、もう春ですからね」
綾、寅の言葉にほんの少し微笑んで
綾「…江戸川に雲雀が鳴く頃になると、
川辺にあやめが一面に咲くのねえ…」
少女だった頃の遠い春の日を思い出すような
優しい綾の目…
寅 「その頃には奥さんの病気もすっかりよくなって、
お嬢さんやおばちゃんやさくらたちと同じように
元気で働くことができますよ」
寅「よし!」と立ち上がって竹ぼうきをハンカチでポンポンと叩き、
で庭の枯葉を掃きはじめる。
綾「寅さん」
寅「はい!」
綾、静かに背中を椅子にもたれかけさせて…
綾「人間は…、なぜ死ぬんでしょうね…」
綾「……」
寅「人間……?」
寅「う〜ん、そうねえ…、
まア、なんて言うかな、
まア、結局ぅ…あれじゃないですかね…、
あの、こう、
人間が、いつまでも生きていると、
あのー、こう、丘の上がね、人間ばっかりに
なっちゃうんで、うじゃうじゃうじゃうじゃ、
メンセキが決まっているから、
で、みんなでもって、こうやって、満員になって
押しくら饅頭しているうちに、ほら足の置く場所も
なくなっちゃって、で、隅っこにいるヤツが
『お前、どけよ!』なんてって言われると、
アーアーアーなんつって
海の中へ、ボチャン!と落っこって
そいでアップ、アップして
助けてくれ!助けてくれ!なんつってねェ、
死んじゃうんです。
まあ結局、そういうことに
なってんじゃないですかね、昔から、
うん、
まあ、深く考えない方が
いいですよ、それ以上は」
綾「フフフ」
綾、ずっと笑い続けている。
綾「フフフ アハハハ、可笑しいわ、寅さんて
フフフ、アハハハ…」
寅「そうですか、フフ…可笑しいですか」
綾「可笑しいわよ、フフ」
寅「へへへへそうですかね、フフフ」
綾「フフフ…」
寅「あーへっ、んん…」と
安心したように照れ笑いしながら、庭を刷き続ける寅。
なぜ人間は死ぬのか…。この問いに寅は面白おかしく
自然界の摂理をしゃべり、綾を笑わせながらも結局こう締めくくる。
「深く考えないほうがいいですよ、それ以上は」
この言葉は、一見この問いから逃げているようではあるが、
もっともこの問いの答えとしては真っ当だとも思う。
人は時として死というものを頭で考える。
それでよけいに全体を見ることができなくなる。
人はみな一人残らず必ず死を迎える。
ほんの少し遅いか早いかだけである。
綾は言う
「…江戸川に雲雀が鳴く頃になると、川辺にあやめが一面に咲くのねえ…」
この想像力こそが生きるという臨場感であり、人が死ぬ一秒前まで
この想像力の輝きは続く。寅の面白い冗談に笑い続ける綾。
このひと時こそが彼女の人生であり、生きるということだと思う。
死を考えるのではなく、生を感じることを通じて、今を生きることだ。
死というのはそもそもそれ自体完結していて、それはすでに
決して病でもなく苦痛でもない。
日々の中でどんな僅かなことであっても、人が生きる喜びを感じたとしたら、
それでもう十分生きるに値する生である。
そしてそうこうしているうちにいつか勝手に死ぬだけのことなのだ。
死と言うものは「結果」であって決して「頭で考えること」ではない。
さくらのアパート 夜
さくら、電話に出ている。
博、年賀状にハンコを押している。
さくら「ええ、ええ、まあ〜…いえ、
お宅から帰って来てから、とても元気だって、
兄がそう言ってたもんですから、安心して
たんですけど、そうですかぁ…。……いいえ、
何のお役にも立たなくて、どうぞお大事に。
…それじゃ失礼します」
すぐ近くを、警笛を鳴らしながら 列車が通過して行く。
さくら、受話器を置き、コタツに戻る。
ラジオ「…大陸の高気圧が東に張り出しで、西日本方面をおおう見込みですが、
このため、日本海側では曇りで…北海道では雪になるでしょう…東北地方の太平洋側でも…」
博「柳生先生のお母さん、悪いのか?」
さくら「うん、熱が引かないんだって」
博「今の風邪は、たちが悪いからなぁ〜」
と年賀状にハンコを押し続ける博
博「ちょっ、黙ってろ、ダメだよ、満男はね、
こっち、はい、ここに押しなさい、
先生に出すんでしょう、はいはい、これこれ」
満男にイモ判を押させる。
満男のイモ判、馬鹿デカイ!!
博は風邪だと思っている。
博にも言わず、じっと耐えているさくら。
さくらの背中は悲しみで壊れそうだった。
翌日
寅、啖呵バイ
文京区 根津神社 境内
鯨クジラ尺の物差しを売っている。
寅「長い長いは、なに見て分かる、ね、
長いもの見て、迷わぬものは、
木仏、金仏、石仏、千里を走る
汽車でさえ、長いもの見てチョイと止まると
言うやつ。
さあ!角は一流テバート、赤木屋、黒木屋、
白木屋さんで、紅白粉つけたおねえちゃんに、
下さいちょうだいっと言っても、売っていないのが、
この日本古来のクジラ尺だ、さ、手に取って見て
ちょうだい、ね。
お母さん、お父さん、あなたがたが住んでいる、
あのお家だって、建てる時は大工さんが
こういう物を使う、ね」
永六輔さん扮する警察官、巡回に来て、法律で
当時売ってはいけないクジラ尺を寅が売っている
ので不信顔。
寅「あ、お巡りさん、どうもご苦労さまです、
そうそう、あなたが、おめしになっている、
このお洋服ね、これを作るにも職人さん、
これがなげれば出来ない、ともかく、日本の職人さん、
これがなきゃ始まらない。
警官、首をかしげながらも、
寅の口調に圧倒されて、去っていく。
物の始まりが一ならば、国の始まりは大和の国、ね、
島の始まりは淡路島、泥棒の始まりが、
石川の五右衛門ならば、バクチ打の始まりが熊坂の長範、
と言うくらいだよ、さア、どう、はい!手に取って見てやって-」
永六輔さんはその昔、曲尺、鯨尺の販売を禁止した計量法に反対して自ら尺貫法を使用し警察に
自首するデモンストレーションや、曲尺、鯨尺の密造密売、コンサートを開催した。日本文化が
途絶えてしまうのを恐れたからだ。しかたなく計量行政審議会が曲尺・鯨尺の製造販売を許可させて
いったらしい。この作品の時点ではその過渡期で、永さんは、あえて警官に扮し、寅が販売しているのを
注意しないで去っていく。
この啖呵バイの設定もある意味、山田監督が永さんの意見に興味を持ち、実現したと思われる。
その後、永さんの影響やいろいろ世論もあって徐々に尺貫法の使用は黙認されるようになり、
今に至っている。
柴又駅
果物の包みを下げた寅が
改札口から出て来る。
秋季全国 火災予防運動実施中
十一月二十六日〜十二月二日京成電鉄
広告 白山メガネ
街頭スピーカー: …オーバーは、柴又3丁目、電鉄前の、みなもとホープの木綿…
柳生家 庭
寅、入って来て、ガラス戸越しに申の様子を伺い,
そっと開ける。
寅「こんにちは」
寅「寅です。ごめんください」
廊下から雅子が顔を出す。
寅「あ、お嬢さん」
雅子「あ !」
寅「お母さんの具合、どうですか?」
雅子、寅の傍に坐り、寂しげに、
雅子「うん…、あんまりよくなくてねえ、
私、今日学校休んじゃった」
寅「え…」
寅の顔が、すっと蒼ざめる。
寅「ぁ…そうですか…」
と、沈んでいく。
雅子「お見舞いに来てくださったの?」
寅「ええ…あ、これつまらねえもんですけども」
と、果物を渡す。
雅子「どうもありがとう。」
寅「いいえ」
今、注射うって寝てるの」
「は…そうですか、まア、くれぐれも
よろしくおっしゃってください」
雅子「ごめんなさい、わざわざ来てくださったのに」
寅「いいえ」
寅「あのう…、オレにも
何かお役に立つことないかねえ」
雅子「そうねえ…」
雅子、しばらく考えている。
寅「どんなことでもいいよ。オレ、何でもするから」
寅、真剣な表情
雅子、ふと微笑んで、
子「あのね、ゆうべねぇ、」
寅「うん」
何か…食べたいものないって聞いたら、
いつかとらやさんで食べたおイモの煮っころがしが
とっても美味しかったって……」
寅「イモの煮たのッ ! よし!」
雅子「寅さん ! 」
雅子のとめる間もなく、
寅は風のように走っていくのだった。
雅子が言うや否や必死で駆け出していった寅。
こんな懸命な寅は見たことがない。
こんなに人を想うことがつらく切ないなんて、
思っても見なかったのかもしれない…。
寅も雅子も、そしてさくらも、綾のことだけを考えている。
綾は今、彼らにとても大事に想われている。
そのこと以上に価値のあることはこの世界にはない
と思いたい。
柴又商店街 八百屋
寅、八百屋を見つけてものす.こい勢いで駈け込む。
寅「あ〜イモあったぁ〜、よ、
おかみさんよ!イモくれ、イモ!!」
おかみ「... 」
唖然としている買物客
とらや 店
おばちゃん「…矢切の渡し行ってらっしゃいましたか?」客の応対をしている。
女性客「行ってません」(^^;)
イモの袋を肩にかついだ寅が、
ドドドドっと店に飛び込む。
寅「おばちゃん!」
おばちゃん「え?」
寅「イモ煮てくれ!イモ煮てくれ!これ、」
おいちゃん「なんだよお前、やぶからぼうに!」
寅「いいから、おばちゃん、ちょっと来いって!」
と言いながら、おばちゃんの手を引っ張り込もうとする寅。
おばちゃん「なによっ!、今、お客さんじゃないのよ!」
寅「お客さんなんかいいんだよ!
もう…忙しいんだから、ちょっと事情があって
店早く閉めますから、ちょっと出て行ってください」
と、客に一礼して、追い出しにかかる。
芋煮るために店じまいはできないよ。それは…(^^;)
客、間に受けて立ち上がろうとする。
おばちゃん「いいんですよ、いいんですよ、すみません」と止める。
おいちゃん「寅!」
さくら、奥から飛び出して来る。
さくら「お兄ちゃん、どうしたの、一体」
寅「あ、さくら、あの…雅子先生のお母さんがな、
急に具合悪くなったんだってよ。それで、
とらやで煮たイモを食いたいって、
ゆうべ言ったんだって、
オレそれ聞いたから、八百屋行って、イ、イモ…
おばちゃん、何してんだよォ!今ちょっと急いで
これ!」
おばちゃん「あ」と言って、オロオロ…
寅「これやってくれよ早く」
さくら「お兄ちゃん、私がやるわ」
と、急いでイモの袋を持つさくら
ずっしり重い。床に落としそうになりながら、台所まで持っていく。
寅「え?お前…重たい…あ」
台所
寅「早くしてくれよちょっと、早くよお!」
さくら「分かったわよ。でも、おイモ煮るのは時間かかるから」
寅「そんなこと言わねえでさ、パァっとやってくれパァっと!」
パアっとって言ってもなあ…圧力鍋あれば時間短縮かな…(−−;)
寅「早くやろうと思えばできるだろ?」
さくら「なるべく早くやるから、落ち着いてそこに坐っててよ。」
寅「うん…」
さくら「う〜ん、もう、こんなにたくさん買って来ちゃって」
イモ1コ土間に転がり、寅拾う。
寅「え〜?」
と流しにイモをあける、
寅、さくらの後を歩きながら、
寅「おい、さくら大丈夫だよな、
え?あの奥さんに万が一なんて
ことあるわけ無いよな、大丈夫だよな。」
さくら「うん」
寅「え?そんなことあるわけないよ、
昨日会った時だって元気でちゃんと
アレしてたんだから。え?ちょっと
気分が悪くなっただけだよ、うん、
このイモ食や元気になっちゃうよ。
なっ、さくら」
さくら、頷きながら
さくら「そっ、大丈夫よ、心配しなくとも」
寅「そうだよな。大丈夫だよ」
と、寅、茶の間にとりあえず上がる。
そうは言っても、自分も心配で、
つい寅の方を見てしまったさくら。
ふたりとも、起こっている現実に耐えられないのだ。
寅、心が波立って、落ち着かない。
正座して
とりあえず、そこにあるフキンでお膳を意味無く拭く。
どうしていいかわからずそれを見ているおいちゃん。
すぐ台所にまた下りて。
寅「おい、もう出来た?おい、うん?」
さくら、泣き出しそうな声で、
さくら「お兄ちゃん、これから洗って皮むいて、
それからお湯沸かして…」
寅「そんなこと言ってる暇ないんだよ、お前!」
さくら「お願いだから、もう少し落ち着いてよ」
と自分自身も泣きたい気持ちを押さえながらイモを洗うさくら。
源ちゃん「兄貴イー」と源ちゃんの声が店の方からする。
さくら、泣きながら、声のほうを振り返る。
寅「ん?」
台所に飛び込んで来た源ちゃん、(走ってきたのかもしれない)
源ちゃん「今、お屋敷の前通ったらな…」
源ちゃん、下を向き、言うのをためらっている…
寅「なんだ、…早く言えよ!」
源ちゃん「あの、車がぎょうさん集まって…、
人が出たり入ったりして……なんやろな…」
寅「…お…おい…」
呆然として、言葉が出ない寅。
さくら「お兄ちゃん、」
寅「うん?」
さくら「とにかく行かなくちゃ」
茶の間に大急ぎで上がっていくさくら。
さくら「おばちゃん、私ちょっと出かけッ…出かけて
くるから満男のご飯願いね」
おばちゃんも、事情が薄々わかって声を震わせて
おばちゃん「…ああ」
柳生家 玄関
家の中があわただしい。
来客「お願いしましたよ、参道に突き当たって3軒目ぐらいですからね」
来客「お願いしますよ」
来客「はい」と走って出て行く。
開け放した玄関に、寅とさくらが姿を現わす。
親戚の人々が廊下を行ったり来たりしている。
玄関にそっと入る寅とさくら。
牧師、廊下を歩いてくる。
土間に降りて、靴を履く牧師。
雅子、玄関に正座して
雅子「どうもありがとうございました」
一礼して出て行く牧師。
雅子、寅とさくらのほうを見る。
さくら、何か言おうとするが言葉が出ない。
雅子、少し微笑み…
雅子「来てくださったの」
寅「ん…」
呆然とたたずみ、ただうなずく寅
雅予「寅さん、お母さまね、
今さっき、天国に召されたのよ」
雅子、悲しみを堪えきれずに下を向く。
寅「……」
親戚の誰かが雅子を呼ぶ。
「雅子さん、…ちょっと」
雅子「はい」
雅子「ごめんなさい」
立ち上がり、奥に去る。
じっと下を向いたままの寅
上がり口の端に坐り、涙を流している婆や
婆や「どうして、私なんかが長生きして、
お嬢様のようなかたが……
代われるもんなら……ウッウッ、ウウウ」
寅が雅子と会って芋の煮っ転がしの話をしていた時、綾は薬を飲んで寝ていた。
まだ決定的な危篤ではない。
あのあとおそらくたった30〜40分。すでに綾は亡くなり、牧師はすでにお祈りを済まし、
親戚も集まり…なぜこんなにはやく事が進んだのか…?
時間の経過がよく分からない。
寅の周りだけ時空が微妙にずれているのである。
なにか全てが夢,幻じゃないだろうか…と、思いたい。
教会
葛飾区金町付近の教会
教会の中
祭壇に棺が置かれ、花が飾られている。
白い花に囲まれた、美しい綾の写真。
オルガンが鳴り、讃美歌がはじまる。
雅子と婆やの姿があり、賛美歌を歌っている。
婆やは悲しみで嗚咽してしまう。
雅子は婆やの肩をそっと支える。
列の後ろの方で歌を歌っているさくら。
その横で、じっと下を向き表情を硬くして
悲しみをこらえている寅。
さくら、悲しみでもう歌えない…。
御前様やおいちゃん、おばちゃんの姿もある。
賛美歌 320番
「♪ 主よ、みもとに 近づかん
のぼる道は十字架に
ありともなど 悲しむべき
主よ みもとに 近づかん
柴又第二小学校 廊下
人気のない廊下にチャイムが鳴っている
産休を終えた担任の先生と雅子が肩を並べてやって来る。
この先生役の方は統一劇場の役者さん。
この頃の統一劇場出演の時はもちろんのこと、
第35作「寅次郎恋愛塾」や第39作「寅次郎物語」でも
ソロで出演されていた。
先生「で、後始末はもうすっかりいいの?」
雅子「ええ、借金だらけだったんでゴタゴタましたけど、
でも家がなくなってさっぱりしましたわ」
先生「そう…大きなお屋敷だったんでしょう、たいへんだったわねえ」
教室から満男達四、五人の生徒が飛び出して来る。
子供たち「先生〜!!」
先生「あら〜!!」
子供たち「先生、赤ちゃん生まれた?」
先生「生まれたわよー」
子供たち「先生お帰りなさいー」
先生「ただいまー」
と言いながら、教室に入って行く。
ワァーツと歓声が湧く。
先生「みなさん、おはようー」
子供達「おはよう.こざいまーす」
と大声の返事が返る。
先生「お腹小さくなってスマートになったでしょう!」
子供達「ハハハハ」←演出笑い(^^;)
雅子、教室の入り口で見ている。
柳生家・庭(タ方)
冬の薄日の中引越しの作業で忙しそうな雅子。
縁側にポツンと置いてある
在りし日の綾が愛用していた簾椅子。
雅子、散らばった本を縛りながらふと眼を縁先にやる。
雅子「あら」
寅が庭先に立っている。
雅子「寅さん!」
雅子「よく来てくださったわ。さ、どうぞ」
寅「いえ、私は、ここで」
雅子「でも」
寅「いいえ、ほんとに」
と縁側に腰を下ろす。
雅子、座蒲団をすすめ、自分も坐る。
雅子「今夜にでも伺わなきゃと思ってたんですよ」
寅「お婆ちゃんは?」
雅子「息子さんの所に行きました。
もうお孫さんが一人前なんですって」
寅「そうですか…」
雅子「一人になったら何か急に寂しくなって、
早く引っ越ししようと思って片づけてるんだけど、なかなかね〜」
寅「なにか遠くのほうにいらっしゃるとか」
雅子「ええ、新潟県の小さな村に。
ほんとうは東京の小学校にいられれば
一番いいんだけれど、なかなかそうも行かなくて。
でも、私、雪が大好きだから楽しみにしてるの」
寅「そりゃよかったですね」
綾のテーマ曲が美しく流れる。
寅「さくらに聞いたんですけど、お嬢さんは、
お母さんの命が永くねえってことを、
ずっと前から知ってたんですってねえ」
雅子「ええ」
寅「何で早く言わないんだと、あいつに怒ったんですけど、
ほんとに私は…、何も知らねえからバカばっかり
言って…、どんなにお嬢さんに悲しい思いをさせたかと、
それを思うと、いてもたってもいられねえ気持に
なりましてねえ…」
雅子「そんなことないのよ。寅さんが来て、
楽しい話をしてくださって、私達、とっても
うれしかったの。ほんとうよ、嘘じゃないのよ」
寅「そうですかねえ…。でも、知ってれば、もう少し
何かしてやれることがあったんじゃねえかと…、
そう思うんですけどねえ…」
うなだれ、考え込んでいる寅。
その横顔に眼をやっている雅子。
何かを言おうとしている眼。
長い沈黙が流れる。
雅子、頭の手拭を取って、…
雅子「……」
雅子「あのね、寅さん…」
寅「へい」
綾の第2テーマが静かに哀しげに流れていく。
雅子「とっても聞きにくいことなんだけど…、
寅さん、お母様のこと愛してくれてた?」
寅、はっと驚き、雅子の顔を見て
寅「え…」
寅「そ、そんな、じょ、冗談じゃねえやオレが、……」
緊張で下を向いてしまっている寅。
雅子「違う?」
寅「ち、違います」
と、下を向いたまま。
雅子、下を向き、
そしてもう一度寅を見つめ
雅子「でも、お母さまはそう思ってたわよ、きっと」
と言って、下を向く。
寅、驚いてもう一度ハッと雅子を見続ける。
雅子「最後の床についてた時もね、寅さんに
会える日が来ることだけを楽しみにしてたのよ。
意識がなくなりかけた時、私、耳元で…、
『お母さま早く良くなって寅さんに会いに
行きましょうね』そう言ったら、お母さまは、
うれしそうな顔をしてコックリうなずいたわ。
誰にも愛されたことのない寂しい生涯だったけど、
でもその最後に、たとえ一月でも寅さんていう人が
傍にいて…くれて、お母さまはどんなに幸せだったか、
私にはよく分かるの…ウウウウ…」
雅子「ウウウ…ウッウッ…」
感極まって顔を覆って号泣する雅子。
言葉もなく、雅子を見、
そしてまた下を向く寅だった。
綾は毎日寅が来てくれるのを待っていた。
寅と話すことだけが生きる糧であり、救いであったのだ。
人生の最後のひと時が、その人の人生の最も高揚期
だったということは人生では起こりえるのだと知らされた
日々でもあった。
マドンナが寅をこんなにも待ち焦がれ、寅の方も
こんなにもマドンナに寄り添ったのは、この作品の綾と
第25作「ハイビスカスの花」のリリーだけだ。
綾は幸せだった。
京成柴又駅
高い空を渡り鳥が飛んでいく。
電車が出て行き、客がゾロゾロと改札口に向かう。
柴又駅 プラットホーム
寅とさくらが静かに立っている。
さくらは寅のカバンを持ってやってる。
ニッカウヰスキーG&G の大きな看板
高橋靴店 月星靴 ライオンクリーム 柴又駅参道
商店街から聞こえるジングルベルのメロディ。
下りのホームにネンネコバンテンで
子供を背負った若い母親が立っている。
寅、その姿に眼をやりながら、ポツリと言う。
寅「なあ、さくら、人の一生なんて
はかないもんだなあ」
さくら「……」
寅「みんなでとらやの茶の間に集まって…、
ワイワイ騒ぎながら飯食ったの、
ついこの間だものな…」
さくら「そうだったわねえ…」
結婚式の披露宴の帰りだと思われる
若い女性達の華やぐ姿。
赤ん坊も女性たちも綾の運命とは対照的な存在。
未来へ向かっての生命の輝きを感じさせる光景だ。
二人、あの日のことを想い出すように、
ボンヤリ遠くへ眼をやる。
さくら「あん時、柳生先生のお母さん、
とっても楽しそうだったわねえ…。
みんなで一生懸命、お母さんの店は
何屋さんがいいか考えたりして」
寅「そうそう、俺、あの時からずうっと
考えてたんだよ」
さくら、寅の方を向く。
寅「いい店あったぞー」
さくら「何屋さん?」
カバンを下に置く。
寅「花屋よ」
さくら「花屋さん…」
寅「いいだろう。え、あの奥さんが花の中に
坐っていたら、似合うぞ」
さくら「そうね、…とってもいい考えね」
寅「その…なんだ、仕込みだとか」
さくら「うん」
寅「配達だとか」
さくら「うん」
寅「掃除とか、そういうことは
みんなオレがやるんだよ。うん」
さくら「…」
寅「で、あの奥さんはただそこに坐ってりゃいいんだ。
それでこう花束を作って、
で、お客さんに、どうもありがとうございました
と言って渡してくれればいいんだよ」
さくら、の目に涙が潤む。
寅「この店は流行るぞおまえ!」とさくらに微笑む寅
さくらを見て、ふと、我に帰って…
寅「まあ…、もしこのことが本当になって
いたとしたら、オレも渡世人家業、プッツリ
足洗ってよ、そんときこそ、おまえが言うように、
あのとらやでゆっくり正月過ごすことが
できたんだよなあ…」
さくら、寅を見つめ、
さくら「お兄ちゃん、そんなこと考えてたの…、
私ちっとも知らなかった-…・」
と目を潤ませ、下を向く。
ピーーっと上り電車が近づいてくる。
さくら「あのお母さんに…その話聞かせて
あげたかったわね…ウウウ…」
と言いながらさくらの目から涙が溢れていく。
寅「お墓参りの時にでも話するさ」
さくら「うん」
寅「じゃあ、オレ行くぞ」
この一言が兄妹の絆の深さ。
じゃあ、オレ行くぞ
メインテーマがゆったり流れていく。
さくら、泣きながらドアの所へ行く。
電車が着き、ドアが開く。
寅、乗り込みながら、
寅「みんなに体大事にするようにって言うんだぞ」
さくら「お兄ちゃんも、体に気をつけてね」
寅「他に取柄はねえげどよ、
こっちは体たけは大丈夫だから、フフ」
ドア、が閉まる。
ドアの向こうで、「あばよ」と
笑いながら手を上げる寅。
手を振るさくら。
頷くさくら。
過ぎ去る電車を、手を振って見送る。
電車が過ぎ去った後、
夕日がさくらの顔を赤く照らす。
さくらの目からまた涙が…
小さくなっていく電車
ハンカチで涙を拭きながら戻っていくさくら。
残されるものの孤独を背負うさくらだった。
ドアが閉まったあと山田監督たちスタッフが笑顔で見守っているのが、
電車のドアにキャメラと一緒に映っていた。ある意味貴重な映像だ。
ドアがホームに入ってきたその瞬間、
片開き1枚ドアから両開き2枚ドアにサッと変わっていることも見逃してはならない。
このパターンは第38作中盤の寅の旅立ち時と同じ。
この逆もある。
両開きがやってきて、入ったら片開きというのは第25作のリリーとの別れ。
綾の亡き後も、綾の面影は寅に宿り、寅は今でも
綾の幸せを考え続けている。
なんて豊かな想像力であろうか。
全ての社会的な地位も身分も何もかもを持ち得ない愚かな寅。
『何者でもない寅』
目に見えるものや、人が気づく社会的なものを全て放棄し、
目に見えない豊穣な想像力を密やかに育ててきた寅。
そして、その想像力を全て人に与えるために生きている男。
日々の無意味な喧騒の中でそんなこと、誰も気づくわけないし、
分かろうともしないが、さくらだけはいつも焦点が合っている。
さくらは綾のその最後の日々に幸せがあったことを確信している。
正月
とらや 店
参道は濫れるような人の波
さくら「1,700円いただきます。
はい、ありがとうございました」
お、さくら、いつもの正月より、凝った髪型。
おばちゃん「ありがとうございました」
婆やとお孫さんが現れる。
青年「婆ちゃん、とらやさん、ここだよ!」
客「おでんふたつちょうだーい」
さくら「は〜い、おばちゃん、おでん二つね」
おばちゃん「はいよー」
さくら「いらっしゃいませ」
婆やのハンドバッグ、ふた開けっ放し。
お孫さん気づいて
孫「ばあちゃん!」
孫「サイフ大丈夫け!?」
ばあや「あ?」
中を覗いて
婆や「あ〜…あるある」
孫「ん!ボケッとしてたら…」
さくら、大声をあげる
さくら「おばあちゃん!!」
ばあや「あー、くたびれた」
おばちゃん「まあ、まあ〜・・・」
さくら「ごめんなさいね」さくら客にあたってしまう。
茶の間
博と新年の挨拶を交わしている社長。
社長「旧年中はいろいろとお世話様になりました、
来年もお一つよろしくお願いもうしあげます」
さくらが大声をあげて駈け込む。
さくら「おいちゃん、ちょっと、
柳生先生の所のおばあちゃん」
おいちゃん「え?」
孫に連れられて現われる婆や。
ばあや「は〜あ、皆さん、こんにちは」
篭造「いやあ、これはこれは」
おばちゃん「ま〜おばちゃん、よくいらっしゃいました」
さくら「本当にね〜」
婆や「今日孫が帝釈様へ連れてってやるって言うもんで」
さくら「まァ〜、お孫さん、」
おばちゃん「まあ、ごりっぱな」
おいちゃん「おー」
孫「かなわねえなァ…はじめまして。
こ…婆ちゃんがいろいろお世話に
なりましたそうで、ありがとうございます」
お孫さん、すんごいネクタイ(^^;)
おいちゃん「とんでもありません」
さくら「さ、どうぞ」
おばちゃん「あ、さ、さどうぞどうぞ」
博「どちらからですか」
孫「はい、土浦から車で来たんだけど、
もう、道が混んでて混んでて。」
おいちゃん「あ、こちら裏の会社の社長さん」
婆や「あ〜お偉い方で」婆や2枚くらいうわて(^^;)
おいちゃん「これはね、娘の婿です」
おいちゃん、言いたいよねえ〜、娘って。
わかるなあ、その気持ち。娘って言って
いいんじゃないかな。これからもずっと。
机の上の、年賀状の束に混じって、
雅子からの葉書が置いてある。
雅子の手紙
「拝啓、みなさま、よいお年をお迎えのことと思います。
昨年は本当にお世話になりました。
とらやのみなさんの、優しいお心遣いを思い出すたびに、
今でも胸が温まる様な気がします」
新潟 六日町(実は塩沢町) 清水分校
追記: この分校は実は六日町ではなく隣接する南側の『塩沢町』の学校だった。
塩沢町立清水分校(第二上田小学校 清水分校)
雪深い小さな小学校の校庭で、
雅子がスキーの板を付けて、よろよろ笑いながら歩いている。
雅子の手紙続き
「六日町に来てまだ日は浅く、
西も東も分かりませんが、
毎日元気一杯に働いておりますから御安心下さい。
ところで、寅さんはどうしてますか、
お正月も旅先ですか。
お会いしたいと思います。
こんな田舎に、ひょっとして寅さんが
来てくれたりしたら、どんなにうれしいかと思います」
実際のハガキではこの後に「みなさまの御健康をお祈りいたしております」と
いう内容の文章で終わっている。
ぬかるみのあとを、雪駄でなく長靴をはいて
難儀しながら、カバンを下げた寅がやって来る。
寅を見つけ、
顔が大きく華やぐ雅子
雅子「寅さん !!」
寅「…!!」
寅「よお!うん!」
寅「アハハハ!」
雅子「まあ、どうして…」
寅「うん」
雪の中雅子は寅に向かって駆けて来る。
何度も滑って
雅子「あ!」
寅の元へたどり着く。
雅子、寅に飛び込んでくる。
寅も受け止める。
寅「おう」
雅子「はっ、よいしょ」
寅「よいしょ」
雅子「寅さん、はーはあー、夢じゃないかしら!」
寅「はぁ〜!すごい所にいるねえ、先生」
雅子「そう」
寅「うん、すぐ近くだからって言われて歩いたら、
まあ〜〜遠いこと遠いこと、アハハハ…」
メインテーマが静かに流れ始める。
雅子「ハハハ!」
寅「あー、もう、フンガラだよオレ!」
雅子「アハハハッ!」
寅もう目がペケ、ヘナヘナ(^^)
雅子「そう、ほら、みのる君、
みんなで、カバン持って!」
雅子「大丈夫?寒かったでしょう?」
その手を抱えるようにして歩き出す雅子。
寅「いや、今一生懸命に歩いたらねー、
暑くなっちゃったー、ハハハ!」
雅子「ハハハ!」
雅子「ハイ、かばん、重いわよ」
寅「おっおお」
寅こけてしまう。
子供達「ハハハ!」
雅子「助けてあげて」
メインテーマ盛り上がっていく。
子供達、寅の腕を助け、かばって声を上げる。
子供達「ヨイショ、ヨイショ、ヨイショ、ヨイショ、ヨイショ」
子供達が寅を助けながら、校舎まで歩いていく。
寅や雅子の悲しみが子供達の歓声と、
深い自然の中で静かに浄化されていく。
明日は何かいいことありそうな…。
なんとも爽やかな二人の表情。
二人とも同じ深い悲しみを乗り越えて来たのだ。
そして今も残るその面影を抱いてこの先も生きて
いかねばならないこの二人は、それゆえ運命共同体
としての絆の深さを持ち続けていくのであろう。
今回は、私にとってつらい旅であった。とりわけ
アップしていて哀しく、どうにも前に進めなかったシーンは、
綾が死の前日に呟く少女時代のあの春の回想だった。
何日も、書けず、ただただDVDを見ている日々があった。
「…江戸川に雲雀が鳴く頃になると、
川辺にあやめが一面に咲くのねえ…」
綾の人生で最も楽しかったであろう少女時代を遠く見つめる
あの静かな眼はこのシリーズでどのマドンナがみせた眼よりも
優しく、麗しく、そしてあまりにも哀しかった。
ただただ、人とともに寄り添い生きてゆく。
これが、寅の愛情の行き着くところのひとつの
姿なのだろう。
故人は生き残った人の魂に宿り2度目の人生を新しく始める。
綾を慕う寅や雅子や婆やの中に彼らの生の終わる
その日まで綾は生き続ける。
あのとらやでの団欒、枯葉舞う庭先での歓談、
水元公園でのひと時、そして最後の日々が寅の心には
今も残っている。寅はこれからはいつでも綾と語り合う
ことができる。寅の心の中であの童女のような美しい目と
声で彼女は「寅さん」と呼びかけるのだろう。
愛を与える、という宿命を甘受して、ひたすら孤独の中で
旅をし、人に出会い、人を愛し続ける寅のその真骨頂が、
その究極の姿が、この作品の中にこそある。
正にその名の通り「寅次郎純情詩集」だ。
ついに本編では使われることのなかった綾さんの江戸川土手シーン
終
出演
渥美清 (車寅次郎)
倍賞千恵子 (諏訪さくら)
京マチ子 (柳生綾)
檀ふみ (柳生雅子)
下絛正巳 (車竜造)
三崎千恵子 (車つね)
前田吟 (諏訪博)
中村はやと (諏訪満男)
太宰久雄 (タコ社長)
佐藤蛾次郎 (源公)
吉田義夫 (座長)
岡本茉利 (大空小百合)
梅津栄 (渡辺巡査)
谷村昌彦 (座員)
浦辺粂子 (婆や)
赤塚真人 (婆やの孫)
笠智衆 (御前様)
大杉侃二郎 (座員)
谷よしの (女中)
志馬琢哉
城戸卓
笠井一彦
羽生昭彦
長谷川英敏
木村賢治
統一劇場
スタッフ
監督: 山田洋次
製作: 名島徹
企画: 高島幸夫 、小林俊一
原作: 山田洋次
脚本: 山田洋次 朝間義隆
撮影: 高羽哲夫
美術: 出川三男
編集: 石井巌
録音 : 中村寛 松本隆司
照明: 青木好文
スクリプター: 長谷川宗平
音楽: 山本直純
助監督: 五十嵐敬司
製作進行 : 玉生久宗
制作補 : 峰順一
公開日 1976年(昭和51年)12月25日
上映時間 103分
動員数 172万6000人
配収 10億1000万円
これで第18作「純情詩集」は完結しました。
次回は第25作「寅次郎ハイビスカスの花」です。
全48作中、私にとって最も印象に残るラストシーンがある
のがこの第25作。初めて映画館で寅さんを見たのもこの作品。
そして、私を「男はつらいよ依存症」に誘ったのもこの作品。
第19作以降第48作までの後半の作品群で、私が唯一動かしがたい
『珠玉のベスト9』に入れたのがこの第25作。
寅とリリーの恋がさらに大きく花開く中期の大傑作です。
どうぞ、お楽しみに。
次回、第1回目の更新は2月11日頃です。