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寅次郎な日々

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ご注意) このサイトの文章には物語のネタバレが含まれます。
まだ作品をご覧になっていない方は作品を見終わってからお読みください。



                 

第18作「男はつらいよ.純情詩集」ダイジェスト版(2007年5月14日)

第17作「男はつらいよ.夕焼け小焼け」ダイジェスト版(2007年5月8日)

第16作「男はつらいよ.葛飾立志篇」ダイジェスト版(2007年5月3日)


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313

                          
『寅次郎な日々』バックナンバー          





第18作「男はつらいよ.純情詩集」ダイジェスト版
 

2007年5月14日寅次郎な日々 その313


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



禁じ手に懸けた寅次郎の究極の愛情   


無償の献身とは    山田監督、一世一代の『禁じ手』


第18作「純情詩集」はマドンナが亡くなってしまう、という悲劇が待っている。むろんこれは他の山田映画の特徴から行けば
『禁じ手』といえるかもしれない。昨今のドラマや映画はこれでもかとばかりに主人公やその恋人、家族などが若くして死んでしまう。
人というものは不安定な「自我」をいつも抱え込んでいるので、人の死というものに敏感である。死の恐怖と言うものが人間に宿り続け
ている以上、この手のピリカラ物語は今後も流行り続けるであろう。ある意味とても安直で、短絡的な手法ともいえる。しかし、
この「純情詩集」はそのような安直なドラマとは正反対にある物語になっている。マドンナの悲劇や絶望を過剰に表現せず、寅の心の動きや
さくらの心の動きに重点を置き、絶望の中でさえ、ユーモアを忘れず、豊かな想像力を持ち、人の気持ちに寄り添うことの意味を表現して
いるのである。そのことがもっとも明らかにされるのが、マドンナが庭先で人間の死すべき運命を嘆いた時、それに対して寅が示した究極の
あのユーモアであり、とらやの団欒で綾の仕事をみんなで話し合う、あの未来に向けての想像力である。

人間は必ず死ぬのだ。おいちゃんおばちゃんも、寅もさくらも、満男でさえも…。問題はそのことばかりに過剰に反応するのではなく、
周りの人たちがいかに寄り添ってそれまでの日々を共に生きていくか、ということなのだろう。もうひたすらそれだけである。

寅は、もちろん綾との出会いの部分は惚れたハレタだが、次第に、綾に対して共に生きてゆく姿勢に変化していく。それは寅の表情を
見ていると分かる。寅はもうただただ綾を幸せにしたいのだろう。人が人を大事に想うこと。これこそが寅の無償の献身に繋がっていき、
その行為こそが彼の優れた才能の開花の瞬間ともいえる。



さくらの気持ち、寅の気持ち       想像力ということ

さくらは雅子から綾の命がもう長くないことを伝えられる。さくらは頻繁に綾の家に出かける寅を後押ししていく。
こういう時のさくらの行動は思いっきりがいい。もうここからは寅がどうのこうのというよりも、さくらと寅が綾さんに寄り添おうと
して行く。そしてそのことが最も大きくクローズアップされるシーンが寅とさくらで芋の煮っ転がしを作るシーンであり、もう一つは
綾さん亡き後、別れの柴又駅ホームでの寅とさくらの会話である。私は人が人を想うことがこんなにも美しくそして哀しいもの
なのかと、このときばかりは愕然としてしまった。

寅は綾さんが亡くなってしまった後も、まるで未来が待っているかのように彼女の将来の仕事のことを考えてしたのだった。
寅の数々の人を想う行為の中でこんな切ない想像は後にも先にもこのシーンを置いて他にない。寅の想像力の豊かさと類稀なる
才能を思い知らされたシーンだった。



別所温泉での再会、そして朝もやの中の別れ

この作品の中で、もうひとつ忘れられないのはあの第8作「寅次郎恋歌」で印象深い一期一会があった、坂東鶴八郎一座との
再会と交流、そして別れである。特に彼らとの宴会のシーンと翌朝のしみじみとした別れのシーンが秀逸だ。
寅は見栄を張ってお金も無いのに彼らに宴席を設けてやるが、あの心意気が旅役者たちにとって、どれだけ励みになるか。
この後も彼らにとって車寅次郎は人生を賭けて応援してくれる大事な人になっていったのだろう。



@【寅の帰郷と家庭訪問騒動】

今回も夢から

アルジェリアの港町のカスバ。場末の酒場が映る

兄の行方を捜して日本からはるばる北アフリカのアルジェリアまでやって来たさくら。場末のカスバにたどり着き、兄の居場所を
知っているらしい男を聞き出しアラビアのトランスのところへ来たのだ。

さくら「アラビアのトランスとおっしゃるのはあなたですか?
トランス「昔はそう呼ばれたこともあった…。今は夢も希望も失って酒と女にあけくれる日々だ
トランス「ご用件は?
さくら「実は人を探しております。20年前に祖国を捨てて、放浪の旅に出ましたが、人づてに、北アフリカで見かけたと
   聞きまして、カイロからアレキサンドリア、カサブランカと長い旅をしてまいりました
と泣いてしまう。
トランス「その人の名前は?
さくら「車寅次郎と申します
トランス「…!!
汽笛 ボォ〜〜〜!!
トランス「あなたは、その男の…
さくら「妹でございます。名前をさくらと申します
トランス「…!!トランス、少しうろたえる。
暗い音楽が流れる。

              

トランス「オレはその寅次郎の…友達だった…
音楽大きくなって
さくら「え?…じゃあ、…今どこに!
トランス「娘さん、寅次郎は…気の毒だがもうこの世の人ではない
さくら「…!!
トランス「いい奴だったぁ…、アレキサンドリアの星と慕われ、強きをくじき、
弱気を助け、多くの貧乏人に慕われ死んでいった…


後ろから追ってきた刑事がトランスを見つけて叫ぶ。
すぐさまピストルを向けて撃とうとする。
さくら「
シバマタ…!!
トランス「しまった!!洒落(^^)
刑事撃つ。
トランスも同時に2発撃つ。
刑事と源ちゃん撃たれる。
トランスも,わき腹あたりを押さえている。撃たれたのだ。
さくら「もしや、あなたは!?
トランス「違う!!、オレはケチな人殺しをして、刑事に追われているヤクザもんだ
さくら「うそよ!お兄ちゃんでしょ!と泣きじゃくっている。
シューマンの「トロイメライ」が流れる。
トランス「…違う!!とむせび泣きながら…
トランス「お前の兄さんはな…、アレキサンドリアの星と謳われた英雄なんだ

 C’est elegans, d’urban エレガンスなダーバン
昔、ダーバンのコートの宣伝でアランドロンが言った名セリフ(^^)

               

トランス、さくらを見つめ、すばやく立ち去っていく。
さくら「お兄ちゃん!!」と
泣きながら呼び止めるがトランスは振り向かず消えていく。
空しく響く汽笛ブォ〜〜〜〜!!!




信州  上田地方 上田電鉄別所線鉄道付近

床屋で寅が髭を剃られようとしている。

まだ、夢を見ている寅。

アツアツのタオルを持ってくる店主。
寅「はっ!アチ!アチ!アチ、アチィ〜!あー熱い!備後屋でおなじみのスタッフの露木さんが床屋の店主に扮している。
店主「どうもすいません
寅「ほォー
店主「うあ!あちち!あち!やっぱり熱かった

子供「お兄ィーちゃん
信州 上田電鉄別所線の駅が映る。
子供「お兄ィーちゃん!昼ごはんだよー。お兄ィーちゃん!もお〜…お兄ィーちゃぁーん!



タイトル (赤)はつらいよ(黄)寅次郎純情詩集(白)映倫18923

口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。


今作品も第17作「夕焼け小焼け」同様いつもの歌の2番の代わりに、
歌の3番が挿入されている。私はこの3番の歌詞が大好きだ。


   ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 
   わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 
   偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


  
♪あても無いのにあるよな素振り 
  それじゃあ行くぜと風の中
  止めに来るかとあと振り返りゃ 
  誰も来ないで汽車が来る

  男の人生一人旅 泣くな嘆くな
  泣くな嘆くな影法師 影法師♪


テレビ局(映画)が、ドラマの撮影を江戸川の土手で行っている。
女優と男優が一緒に歩いて、それを移動板レールの上に設置したカメラが追う。
レフをかざすスタッフ。
しかし、そこへ例のごとく、寅の邪魔が入る。
無造作に置かれた寅のカバンにカメラが正面衝突。カメラは倒れ、一緒に乗っていた監督も台から落ちる。

            

寅、知らんふり。
野次馬たち、笑ってる。監督、激怒して、寅を追っ払う。というミニコント




柴又 帝釈天参道

パーマアイリスがとらやの斜め前に見える!お千代さんの店だ。どうしているかな…。

とらや 店先

さくら「満男の先生がね、今日家庭訪問なの

満男の担任の若い美人の産休教師が過程訪問に来るという日、運の悪い事になんと寅がとらやに帰ってくる。
博もさくらも寅が先生と鉢合わせして何か変な言動をするのではないかと心配し、ハラハラしている。
で、もちろん案の定鉢合わせ(^^;)。



雅子「あたし柴又小学校の柳生と申します
寅振り向いて
寅「柴又小学校の柳…

雅子のテーマが流れる。

一同、唖然…

全ては始まり、全ては終わった…(-_-;)
さくら「あ、先生、お待ちしておりました
寅「あー満男の先生か!は〜どうもいつもお世話様になりまして
さくら「私の兄です
雅子「ああ、じゃあ、満男君の伯父さまですか
寅「いいえ、そんな伯父さまだなんて。

            

座敷に上がってもらったのはいいが、しつこく寅もついてくる。せっかく博やさくらがいろいろ話そうとしても、
すぐにちゃちゃを入れる寅だった。おいちゃんおばちゃんは見かねて何とか追い払おうとするが、
若い美人な雅子先生に目がハートで離れようとしない。

あ〜〜〜…もうだめだね。ロックオンされちゃった┐(-。ー;)┌

雅子先生、満男のことで、みんなに質問。
雅子「お友達は多いほうですか?
寅「おお、友達は多い!
雅子「どんなお友達かしら担任なのに先生は知らないのか?

寅「まあ、いろんなのがいるえねえ、まず、伊賀のシンベイ、こいつは博打が好きでしたちょいちょいヾ(^^;)
と言いながら、サイコロを振る手つき。
ちなみに私の生まれも伊賀上野。
寅「でも、女房もらったらぷつっ…と噂聞かなくなったなあ、あれ堅気になったんじゃねえかなあ…
寅「あ、それとコナツのジョウジ、これはね、オカマ(((^^;)
  夕方の四時ごろなるとね、こうタワシみたいにヒゲがダァ〜っとはえてさ、笑っちゃう面白い奴なんだ、笑っちゃう
もっとまともな奴いないのかよ(−−;)
第38作「知床慕情」でもヘンなやつと知り合いだった。ちょん髷結ってるやつ。

             

結局寅は、博たちにほとんどしゃべらせないで、自分がしゃしゃり出て時間ばかりが過ぎていく。

雅子「フフ…伯父様も大変ですね先生もこの場の空気読めよ(−−)
寅「いやあ
結局何にも大事な事を話さないまま雅子先生は帰ってしまう。

厳しいようだが雅子先生が本当は空気を読まないといけない。博たちは明らかに何かを先生と真剣に話したがっている。
学校を出たての臨時産休講師も経験豊富なベテラン先生も満男にはたったひとりの担任の先生だから自覚が必要なのである。

雅子「じゃ、みなさん失礼致します
一同頭を下げる
寅「あ、先生、僕、そのへんまでお送りいたします。これだよなあ┐(-。ー;)┌
雅子「いえ、そんなあ
寅「いや、ヘンな奴が出てくるといけないんで、さ、行きましょうそれはあんただよヽ(´〜`; )

寅たちが行ってしまったあと、博は珍しくワナワナ震えて怒る。
博「いくら兄さんでも、今の態度は許せないよ

              

さくら「え?
博「必ず決着をつけるからな!今夜!
おいちゃん「…!!

博のこの態度にさくら、もおいちゃんも、おろおろしてしまっている。
寅は博の大事にしている心のエリアに侵入してしまったようだ。





とらや 茶の間

博とらやに戻って来る。


寅、店先で茶の間を見ては、行ったりきたりしている
茶の間に戻ってきた寅は、何とか寅は昼間のことを水に流してもらおうと思い、みんなにそれなりに気を使うが
博の静かな怒りは収まらない。それを察してみんなもダンマリを決め込む。寅はなんとかごまかそうとするが
みんなの怒りは根深い。


寅「あ!がんもどき、お芋かあ、俺の好きなものばかりだ。おばちゃん気使って作ってくれたんだねぇ
一同ず〜っと完全無視
寅、いっこうに気持ちを許してくれない一同を見渡しムスッっとする。
ひたすら押し黙って食べている博を睨む。
寅「なんだい!みんなつん黙りやがって、オレに何か言いてえ文句でもあんのか!?
さくら、チラッと博を見て
さくら「 久しぶりに帰ってきたお兄ちゃんに、こんなことほんとうに言いたくないんだけどね。
   今日の昼間のお兄ちゃんの態度はなあに?

寅「オレがなんかしたっていうのか!?
さくらは、遂に昼間の寅の勝手な態度を怒る。
何を言われても自分は悪くないと反省の色が無い寅。


              

寅「博なんだ、てめえ、オレに文句あるのか!
おいちゃん「親切にしたかったらな、黙って引っ込んでりゃいいんだ!
おばちゃん「そうだよ!あれが男の先生だったら、おまえなんか鼻もひっかけやしないだろ!もちろん(^^)
と言いつつ、おっとォ!おばちゃん箸で芋を刺して一口でパクリ!!
おばちゃん、何回リハーサルしたんだろう。おなかの中芋だらけだとか…(^^;)

博何か言いたげ。
おいちゃん「言いたかないけどな、お前満男のことなんかどうだっていいんだ。
      あの先生の前でいい格好したかっただけじゃねえか!

寅「なにい!?
博「 なにが教育だよ、ばかばかしい!(▼皿▼メ)
さくら、蒼ざめる。
寅「 てめえ!婿の癖に生意気なこといいやがって!このやろう!と博をぶっとばす。
おいちゃんたちは寅を真剣に怒る。
博「みんなの言ってる事が図星なんで、それで腹を立ててるんだ、そうでしょう
寅「
なんだてめえ!このヤロウ!

さくら、間に入って、
さくら「博さん、お兄ちゃんだってもう分かってるんだから。お兄ちゃん…、分かったでしょう
またもや寅をすぐ甘やかすさくらでした。
博「僕にも言わせてくれよ!たまには!
博「そらあ、僕は職工です。大学にもいけませんでした。そんな僕が、満男にどれほど夢を託しているか!
  そんなこと、子供も持ったことのない兄さんに分かってたまるか!


                

重く長い沈黙が流れる…
おいちゃん「…博さん、あんたの言うとおりだ。寅、博さんに謝んなさい
おばちゃん「そうだよ、あやまんなよ
さくら「お兄ちゃん、お願いよさくら「お願いよ」という言い方で謝らせるなよな(−−)
                 
そして、出て行く寅。

おばちゃん「さくらちゃん、いいのかい?
さくら店先まで追いかけて
さくら「お兄ちゃん、バカねえ、お腹すいてるんでしょう?
寅「さくら、あの女先生に会って、満男君の伯父ちゃんはどうしましたって聞かれたらな、うちのものと喧嘩して
  家を出ました、今頃は遠い旅の空で、すきっ腹抱えてたった一人の甥っ子の幸せを祈ってますってそう言え」

寅「あばよ」と出て行く。
寅の背中を見ているさくら。そして下を向く。

                

博の気持ちも分かるが、自分のかなわぬ夢を人に託すと、託された人が苦しむことがよくある。人には人の分というものもあり
色というものもある。その人の道というものもある。自分が過去に出来たからこの子もできるだろう、はよくないし、逆に、
自分は過去にできなかったが環境が整っているこの子はできるだろう、もよくない。人は完全に人それぞれだ。



A【信州での坂東鶴八郎一座との再会】

晩秋の信濃路

田園を淋しく歩く寅
美しいBGMが流れる。
前山寺の山門でアンパンを食べる寅

信州の鎌倉』と言われる上田市塩田平。寅の背中の向こうに見えるのは知る人ぞ知る有名な未完の三重の塔。
この前山寺(曹洞宗)はその塩田平きっての古刹。この寺は、信州の鎌倉「塩田平」の独鈷山に近く、塩田平を一望する高台に建つ。
このすぐ前に私の好きな『信濃デッサン館』がある。それゆえ、私もこのエリアのロケ地は巡ったたことがある。               

                


信州 塩田平の神社

寅の啖呵バイ  入浴用品
花火  お神楽が舞われている。

夕暮れ時家に帰る子供たち
夕焼けの塩田平を歩いていく寅
ススキの穂が風に揺れる。
桃源郷のような風景…

                



国立東京第二病院
 
柳生綾さんが退院してタクシーで柴又へ向かう。


柴又 柳生家

綾「ありがとう雅子、さ、早くこれを…ああ、帰ってきた!婆や!婆や、婆や〜!帰ってきたわよ!
ばあや「お嬢様!
綾「こんなに元気になったわ!もー大丈夫よ
ばあや「神のお恵みですよ、うう」と泣く。そう…クリスチャンなんだねえ…
綾「バカねえ、泣いたりして、峰先生がね太鼓判押してくだすったの、もう二度と病院には戻ってこなくていいって、
  だから私、これからはずっとここで暮らすのよ。もうこれからずっと!

ばあや「ああ、良かったですえねえああ…と二人して泣きじゃくる。




一方、信州の寅

上田電鉄別所線が塩田平を走る
稲刈り後の田んぼが黄金色にキラキラ光っている。
上田電鉄別所線が信州上田と信州の鎌倉と呼ばれる塩田平を走り抜ける。別所温泉までを結ぶ全長11.6Kmの可愛い鉄道。

電車の中で赤ん坊をかまう寅

                


別所温泉に電車が着く。BESSHO ONSEN STATION

坂東鶴八郎一座公演のポスターが見える。 遠くから太鼓の音
拍子木 カンカンカン、カンカンカンカンカンカン、カン!
とざいとおおおーざいいいいぃ…。
太鼓 ドドドオン!!
谷村昌彦さん上手い!谷村さんは森川信さんの出弟子筋の人。

小百合ちゃん、寅を見つけて、
小百合「先生!…車先生!
寅「よお、お前さんいつか甲州で

第8作「寅次郎恋歌」で四国は高知の雨の日に出会い、一期一会のひとときがあり、ラスト、秋の甲州路で、
寅と一座は再会。物語はここで終わるが、おそらくそのあと寅と一座の人々は楽しいひとときを過ごしたに違いない。

小百合「はい、大空小百合でございます、その節はありがとうございました。
寅「いやあ〜達者でよかった、あの〜座長やってたお父っつあんどうしてる?

               

小百合「はい、丈夫で勤めさせていただいております

そして彼らのことが懐かしい寅は、酒を包んで、芝居を見に行ってやるのだった。

芝居小屋の中  舞台『不如帰』 クライマックス

武夫(座長)が舞台に出てくる。
観客拍手。

武夫「先生!浪子の命は!?
医者、悲しく首を横に振る。
アコーディオンの美しい音色、哀愁を帯びながらも盛り上がる
武夫「ハ!武夫、すべてを諦めた顔で泣く。
武夫「クハハ!ァァハハハハハ…上手いぁ〜!この悲しい笑い。
浪子の近くに寄って、手袋を外し、浪子の頬に触れながら
武夫「よく眠っているなァ〜…
掛け声 お若い! 大和屋! 
浪子「あなた!
掛け声「 御両人!
浪子「武夫さん
武夫「僕は帰ってきたよォ
浪子「はァ〜嬉しいぃぃ…人間は…なぜ死ぬんでしょねえ…、
  あたくし、千年も万年も、生きぃたいわァ…

掛け声「小百合
武夫「何を言うんだ浪さん、君の病気はァかならずゥウ治る、いや!治してみせるぅ、このぼぉくぅが…

                

掛け声 日本一!
掛け声 大統領! 
掛け声 大和屋!
掛け声 小百合!

芝居が終わって、観客に座長は寅を紹介するのだった。
座長「芝居の途中でございますが、皆様に、お知らせいたします、本日の客席には、昔から私どものごひいきの、
   わざわざ東京から駆けつけてくださいました
車寅次郎先生です!

お客たち拍手。
舞台に向かって手を振る寅




夜 いづみ屋

夜になって、坂東鶴八郎一座を自分お部屋に呼び、酒や肴を振舞う寅だった。
応援しているんだねえ。お金も無いのに大丈夫だろうか。

一同「ありがとうございますと深々とお辞儀。
寅「礼の言われるほどのことはしちゃいないよ、ささ、こっちこっちへ座って、ささ、はい

座長「常日頃、座員一同には、いつ、どこでどういうお方が御覧になってるか分からない、少しでも手を抜けば、
  必ずそのお方の目にとまり、笑いものになる、芝居は常に真剣勝負であらねばならない、こう申し聞かしておりましたが、
  今日は、はからずも、車先生のようなお方に御覧をいただき、座員一同、励みになりました!ありがとうございました!

一同「ありがとうございました
座長さん、さすがだねえ。芝居が本当に好きな人の言葉だね。感服しました。

                

寅「……
少し、照れながら聞いている寅
寅「いや…いや、まあまあ、さ!固い挨拶は抜きにして!さ!こっち来てパッと飲んで、ささ、ね
一同、笑う。
女中が銚子を運び込む。
谷よしのさん登場!
寅「あ、どうも姐さん、ありがとう、さあ、どんどんどんどん回して。あの、いい酒もって来たね、
女中「はい、分かってます
寅「安い酒はダメだよ、役者衆舌がおごってるから

宴会が始まる。  二階からドッと拍手と笑い声。
盛り上がっているようす。

座はすっかり盛り上がり、酒に酔った座員が滑稽な余興を演じている。
上機嫌で拍手をしている寅。
大杉侃二朗さんの十八番『お掃除芸』
一同「♪ほら、おそうじ おそうじ おそおじだ、
谷よしのさんも一緒に見て大笑い。
一同「♪ほら、あ、おそうじだ!
一同「ハハハ
一同「ほら、おそうじおそうじおそうじだ!
                      
                

一同「ほら、おそうじだ
寅「おい、座長!おもしろい!おもしれえな
一同大爆笑「
ハハハ
こうなると笑いは止むことはない。




翌早朝
 

坂東鶴八郎一座がトラックに乗って旅立とうとしている。
小百合「
先生。車先生! 」
寅、目を覚ます。障子を開けて、寅が寝起きの顔を出す。
旅役者の一行を乗せたトラックが停まっていて、小百合ちゃんが大声で挨拶する。
小百合「いろいろとありがとうございました。これで失礼します
小百合ちゃん、さっと手を向こうに差し出す。
トラックの荷台に乗っている座員たち。
寅「よオー
座長「先生、昨日はお世話になりました

座員一同「ありがとうございました!

                       

座長「
お元気で、失礼します
トラックのクラクション プープーッ
座長「ご馳走になりました
座員「お達者にーっ
荷台の上で頭を下げる一同の姿を見ながら、寅の胸に熱い感慨が湧く。
一期一会とはこのようなことを言うのだろう。なんともさわやかな別れだ。


寅「
お-い!
小百合「
はーい
一同「はい!
寅「しっかりやれよお!またいつか、日本のどっかできっと会おうな!
小百合「
はい!
座員一同「はい!
小百合「ありがとうございました。勉強します!
一同「さようなら、さようなら
と言いながら、その姿が消えて行く。

そして、このような無茶な出費を伴う応援と見栄の後始末は必ず堅気のさくらが泣き泣きするはめになる。

宿の女中さんに主人を呼んでくれるように言う寅。お金が全然足らないようだ(−−;)



B【無銭飲食騒動と引き取りに行くさくら】

とらや 店

電話のベルが鳴る。
電話に出たおばちゃんは驚愕…。
とんでもないことがおこったのだ。

表から入って来たさくらに声をかける。

おばちゃん「さくらちゃん、たいへんだよ。寅ちゃんがね、無銭飲食で捕まっちゃったんだよ
びっくりして起き上がるおいちゃん。
さくらどこで?
おばちゃんベッショ!
さくらベッショってどこ?
おばちゃん知らないよ!出た〜(^^;)/
さくら、慌てて受話器を受げ取る。
さくらもしもし、電話替わりました。私、車寅次郎の妹ですが兄が何か…はい、はい…

               

暗く不吉な音楽が流れる。
呆然とその様子を見ているおいちゃんとおばちゃん。



信州、上田電鉄別所線・車内

窓外に、深まり行く秋の景色がゆっくりと流れて行く。下を向いて考えごとをしているさくら。


別所警察署前

配達率が警察署の前へ着き、さくらが降りる。

さくら「
ご親切に、ほんとうにありがとうございました
さくらあのう、私、東京から参りました諏訪と申しますが、兄の車寅次郎のことで……
渡辺、気さくな表憶で答える。
渡辺「ああ、妹さんですか、どうもご苦労さまです。(奥に向かって)、おい、寅さんどうしたっけ?
巡査「今、風呂に行ってます
渡辺「あ、風呂か。風呂に行ってますから、もうすぐ帰りますよ。まあ、どうぞ
いろいろ示談で済みそうだとさくらに言ってあげる渡辺さん。
渡辺「ええと……あ、これだ。金額は一応こういうことに
さくら「はい金額を見て「こんなに…」と言う顔をするさくら
渡辺「それからですね、これは、お兄さんが警察の弁当は口にあわたいと、こう言われるんで、店から取り寄せたんですが、
  寿司、うな重、
それからザルソバ、これは一応規則ですからそちらで払っていただきたいんですが
寅ってうなぎ嫌いだったはずなんだけどなあ…。どう言う気持ちでこんな贅沢な注文するんだろうね(−−)
さくら「はい、勿論です
さくら「コーヒー、八杯…?
渡辺「(慌てて)あ、それはですね、我々署員に、いえ、勿総固くお断わりしたんですがどうし
 てもご馳走してやると、こう言われるんで。どうも申し訳ありませんでした

寅っていったい…。こういう見栄のお金もさくらに払わせる。いやはやもう理解できません(^^;)
さくら「いいえ
さくら、呆れ返っているところへ、頭に手拭をのせた寅が、巡査の監視付きで戻って来る。
寅「アハハハあー、いい湯だったなア、えー?これで冷たいビールの一杯でもいけぱ申し分ないげどよ、
 警察ホテルじゃそうもいかないや、アハハハハ。(さくらに気づいて)よオ、さくら、来たか早かったたア

この1年後に作られた「幸福の黄色いハンカチ」で、渥美さんが「ナベさん」と呼ばれている渡辺係長の
役を北海道でしていた。もちろんこの第18作での名前を意識しているのは間違いない。山田監督ならしそうな事だ。
寅「へ〜、いい雰囲気の警察でしょう、え?あと、二、三日泊まって行こうと思ってたんだよ、オレ

                 

さくら「
何言ってんのよ、私心配で飛んで来たのよ
さくらの怒った顔に、寅、ようやくシュンとなる。
さくら「もお…




別所温泉駅

寅、大きく伸びをして、
寅「あ-、いいねえシャバはのびのびして

さくら、怒って駅の方へ…
寅「なんだい、怒ってんのか、おい、さくら、さくらさん、
満男のお母さま、諏訪博の奥さん、よ

怒るだろそら、こんな遠くまで引き取りにこさせて、大金を支払って…┐(-。ー;)┌

さくら、駅の入り口でこけそうになる。
寅「おらおらおら(^^;)
さくら、プンプンして、駅の構内を歩いて行く。



C【綾さんと寅、運命の再会】

帝釈天.参道

とらや 茶の間

おばちゃん「
うちじゃね、無銭飲食の甥が帰って来んですよ!と、憮然としているおばちゃん。
おいちゃん「敷居を一歩もまたがせるな怒りは収まらない。
博「それはあんまりですよ
おいちゃん「いいか博さん、ウチはね商売やってるんだよ、ん、んな、無銭飲食ってのは一番恥ずかしい
     犯罪だ、泥棒のほうがよっぽどマシだ!
泥棒も恥かしいよ(^^;)
博「犯罪じゃありませんよ、示談ですんだんですから無理があるぞ(^^;)
おいちゃん「似たようたもんじゃないか!それは言える(^^;)


さくらがげっそり疲れた様子で帰ってくる。
さくら「ただいま不機嫌な顔で、茶の間の上り口に腰をおろす…。
博「兄さんどうした
.さくら「今、来るわよ
寅がノコノコ入って来ておいちゃんに声をかけるが、おいちゃんキレて、
たまりかねて大声を出す。
おいちゃん「
寅、お前な無銭…
博「ちょっと待って、…。兄さん、謝るべきじゃないんですか、みんな、どれほど心配したか分からないんですよ
寅「そうなんだよ。オレも今度は悪かったなア、と思って、あやまろうと思って今帰って来たんだよ、ほら、今度のは、
 金のことでもってみんなに迷惑かけちゃったから、ねっ

おいちゃん「今度ばかりじゃねえや!この間のことだってあるじゃねえか!おいちゃん怒りまくり
寅「うん、…?え?この間のことって何だっけ
おばちゃん「満男の先生のことだよ!
寅「
ああ、女先生な、悪かった、 なにしろあの時はオレも若かったから (ー_ー;)若かったって… 
社長「フフ、
博「プーッと、博もタコ社長もつい笑ってしまう。
脚本ではみんな笑っていない

おいちゃん「
何が若かっただバカァッ!ありゃ先月のことだァァァ〜
おいちゃんもうセリフ言いながら笑っています。そりゃ笑うよねえ〜、あの顔であれ言われたら、分かる分かる(^^;)

                        
笑ってしまうおいちゃん
                    

寅「
あ、そうか
おばちゃん「情けないねぇ!、もうォォ〜!と、三崎さん泣きながらもやっぱり笑いをこらえ気味(^^;)
(実は必死で口を噛み、笑いをこらえる)
さくら「あのね、お兄ちゃんはほんとに若くないのよ、そりゃいくつになっても、女の人を好きになったってかまわないわ、
  でもね、あの先生はお兄ちゃんの娘ぐらいの歳なのよ、お兄ちゃんがまともに結婚してたら
  あの先生ぐらいの女の子がいてもおかしくないのよ


                    
博「
そうですよ
寅「そうか、なるほどな
さくら「仮によ、あの先生にきれーなお母さんがいたとして、その人をお兄ちゃんが
   好きになったとしたら、私たち
誰も文句なんか言わないわ、お兄ちゃんはそれぐらいの歳なのよ
社長「
そう
寅「そうか…、あの先生のおっ母さんねぇ〜
さくら「
そうよ
寅「ん…歳恰好になんのか…オレもそろそろ考えなくっちゃなア

と、一人うなずいているところへ、またもや雅子先生が現われる。
そしてなんと雅子先生のお母さんが登場するのだった。

寅、フラフラと雅子先生について行きかけるのを、博が呼びとめる。
博「さっきさくらが言ったこと、憶えてますね!
寅「憶えている、億えている。今、言われたばっかりだもんな、
  お母さんだったらいいんだ、お母さんどまり…分かってんだ、ちゃんと

雅子が再び姿を現わし、母親に呼びかける。
雅子「お母様、こっちよ
さくら「!!
寅「!!!お母さん…
出った〜〜〜〜 ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ

雅子「
母も一緒に来ているんですよ
寅「は は……洒落…(^^)

                            は は…
                    

蒼ざめる一同
入口に、雅子の母、綾が姿を現わす。
美しく気品のある姿ながら、どこか未だ病気を思わせる青い肌の色、
そしてそのあどげない瞳はキラキラして懐かしさでいっぱいのようす。

綾、懐しそうにつぶやく。

綾のテーマがゆったりと響いていく。

綾「
まあ、懐しいわあ〜

                    

一同唖然…

とりあえずさくら丁寧に挨拶。

綾「
いいえ、先日この子がとらやさんに伺ったという話を聞きまして、もう懐しくて懐しくて、
今日は散歩がてらに足をのばしましたの。…どなたか私を憶えてらっしゃるかしら


おばちゃん「あのう…、柳生様のぉ…お嬢様でいらっしゃいますか?
綾「あら、おかみさん!?
おばちゃん「はい、まあ、これはこれは。ご病気だとは伺っておりましたが
綾「先月退院しましたの、三年ぶりに
おばちゃん「年も〜…」
さくら、開いた口がふさがらない状態が続いている(^^;)
また目がハートになっている寅にを見てどうしていいか分からないようす。
綾「…あの時分…、こんな可愛らしいお嬢ちゃんがいらしたけど-・…と、手で子供の背丈を示す。
おいちゃん「そら、多分、この子じゃないかと思いますが…ハハと、さくらを紹介する。
綾「やっぱり。そうじゃないかと思ってたのよ。まあ、こんなに大きくなって!
  それじゃね、あなたにお兄様がいらしたでしょう、ほら、
眼が小っちゃくて面白い顔をした
ある意味、人に対して凄い表現。世間知らずだね(^^;)
私がこのお店の前通るといつも後くっついて来て、『やい、出目金』なんて大声出したり、ヴァイオリン
のケースにいたずらをして私を困らせたの。あの
お坊ちゃん、お元気〜?
寅、そっと、静かな声で…
寅「ここにおります…ィヒッこれはまさしくチャップリンだね。
綾「あらっ、 まあ、 あなたぁぁ〜!?。
寅、ビックリしてタジタジ

綾「まあ、そういえば、同じ顔。まあ、懐しいわあ・…
大きな眼をうるませて、しげしげと寅を見つめる。
綾…さすがに時の流れを感じ、
綾「ねえ、あれから…もう三十年もたったのね…
綾さんはおばちゃんのことをおかみさんだといっているが、当時さくらのお母さんがおかみさんだったはず??
30年前ならまだ、さくらのお母さんは生きていてたぶん店番してた。また、寅のお兄さんのことは覚えていないのか?

最後に雅子先生団子を買って帰ろうとする
綾「ありがとう。お嬢ちゃん坊ちゃんも。あら、坊ちゃんじゃ失礼よね、お名前は?
『お嬢ちゃん』の名前も聴いてやってね綾さん(^^;)
寅「…とらじろう、でと無声音で言う(^^;)。
その言い方なあ…、童心に戻ってしまったんだね。
綾「は?」と聞き取れない
寅「…とらじろうで」ともう一度。ひょんと首を伸ばして可愛く言う。

            
    とらじろうです。
            

寅「……てれてれ顔
綾「寅次郎さん、お暇な時には家にも遊びにいらしてくださいね。この娘が学校へ行った後は私一人ぼ
  っちで、まァ、淋しくって淋しくって困ってるんですの。
そいじゃあ、みなさん、ご機嫌よう
雅子「さようなら
寅「お送ります!寅ニコニコ。さくらに「お母さんなら応援する」と許可済み!
出て行く綾と雅子について、寅、フワフワと出て行く。
果然としている一同。
さくら、目がうつろ…。まだショックから立ち直っていない…。
あ〜…おそらくさくらの人生最大の失言。


                      
さくら生涯最大の失言…
              

おばちゃん「
さくらちゃん、えらいこと言っちゃったね、寅ちゃんに
さくら「だって……
社長「あ、そうだ博物館に行かなきゃ、文化の日文化の日と、いち早く逃げ出す杜長。
さくら「、参ったなぁ…、フゥ……
ほんと、参った参った…(^^;)


題経寺・境内


御前様に退院の挨拶を終えて帰る綾さんたち後を寅がついていく。
綾「寅さぁ〜ん
寅「はいはい
御前様、「」と言う声を聞いて、ドキリ!

参道を歩いている短い間にもう「寅さん」という呼び名になっている。綾さんって結構適応が早いみたいだ。
               




D【柳生家にお呼ばれされた寅の回想アリア】

とらや 茶の間

おいちゃん「まあ一種の政略結婚だろうなァ、破産寸前の柳生家を助けるために
     あのお母さんは戦争成金と結婚させられんだから

博「で、その人が柳生先生のお父さんなんですね
おいちゃん「そういう訳さ、…ありゃ確かあの娘さんが生まれてすぐ病気になって、そのまま離婚させられ
      たんじゃないかなあ

博「不幸せな人なんですねえ
おいちゃん「昔から言うだろう美人薄命って
社長「しかしなな、寅さんがポーとなるのが分かるよ。その昔ー俺も胸をこがしたもんだよ、さくらちゃん
 おっ、告白 ( ̄◇ ̄)

さくら「柳生先生のお母さんに…?
社長「あの人がね、スラッとしたセーラー服姿で、手にヴアィオリンケースを持って
  歩いていく姿を工場の窓から眺めながら、どんだけ胸をときめかしたことか
ほお〜〜(^^)
おばちゃん「プッ!!おばちゃんに結構うけている(^^)
社長「職工だったからね、当時はさ、
さくら「うん
社長「チキショウ!オレも一生懸命働いて、出世したその暁にはあんな人を嫁さんに
貰うんだと、何べん心に言い聞かした事か!

さくら「へえ
おいちゃん「その努力の甲斐があって大会杜の杜長になったじゃねえか一本〜!(^^)/
一同「ハハハ



寅が機嫌よく帰ってくる

寅、幸せそうな表情でニコニコしている。
おばちゃん「ご飯食べちゃったよ
寅「あ、いいよ、いいよ、オレ済ましてきたから
おばちゃん「あ、ま、お上がりよ
博「一杯やったんですか
寅「そう、フランスのワインを、少々
博「フランス…?.
よくよく聞いてみると、寅は柳生綾さんの家で、なんと夕飯をご馳走になっていたのだ。
さくら... 唖然 and ガックリ ( ̄0 ̄;)
おいちゃん「はー〜…まさかお前失礼な食い方したんじゃねえだろうな〜
寅「と、いうと?
おばちゃん「グチャグチャ音たてたり、こぼしたり、箸でお芋を突っついてワーッと口の中に放り込んだり
こらこら、その食べ方はついこの前おばちゃんがしてたやろが ゞ( ̄∇ ̄;)
寅「フフフフフ…おばちゃん、あなた想像が貧しいねえ〜、自分の家で絶えず
 お芋を食してるからと言って、世間の人みんなが芋を食ってると思ったらあなた違いですよ

おばちゃん「悪かったね
博「じゃ。どんな食事だったんですか?
寅、坐り直し、思い返すように、 

寅のアリアが始まる…

寅「まア、例えば外国映画に出て来るような机と椅子のある食堂だなあ〜こっちの窓際には、大きな花瓶があって、
 そこに花がいっぱいだよ、
こっちの壁にはキリストとその弟子がご飯を食べてる、
 知ってるかあの絵、『最後の晩酌
…これで終りだと言っているんだよ。うん (^^;)

               
晩酌!
           


博「最後の晩餐とおいちゃんにそっと言う。

二人は静かに手を合わして口の中でなんかボソ、ボソ、ボソ、ボソ、言ってたなア…、(^^;)
そして、アーメン、
とりあえず感心する一同
寅「白身の焼魚少々、上等なお吸物、酢の物に香の物、案外と質素だぞ、さくら
さくら「そおお?
寅「ただし、器が違う、おばちゃんちみたい夜店で買って来た五枚百円の瀬戸物とはワケが違う、
めちゃ安!おばちゃん餌食、ブスッ…
うん、これは時代物のいい〜器だから、その底のほうにご飯がほんの少し、ねっ!
白魚のような指でそのお茶碗を持ってさ、右手に象牙の箸だよ、
それをこうやっていただくの、ほっ…って、
いやだったってこの箸がここにンとあたるでしょう、
チンチロリ〜ン
おちょぼ口のを前歯でたくあんをポリポリポリポリ…
チンチロリ〜〜ン
ポリポリポリポリ…
秋の虫が泣くようだもの…う〜〜〜ん(落語『たらちね』からの借用だ

聴き入っている一同。
うっとりと話を続げる寅。
ショパン夜想曲作品9-2変ホ長調がゆったりと流れる

寅「それで食事が終わる。
食後の果物。西洋音楽を聞いて、お茶の時間
やがて僕は帰らなきゃならない、立ちあがって挨拶する。
『あら、寅さんもうお帰り?』

『はい、家で、さくら達が案じておりますから』
『そう、でも寅さんに来ていただいて、
ほんとうに楽しいお夕食でしたわ。
ねえ、雅子』
『ほんとうね、お母さま』
『それでは、おやすみなさい』『寅さん、また、きっと来てくださいね
娘がいない時の私はほんとうに一人きりで寂しいんですもの』『分かっています』

親子に送られて表に出る。

降るような星空だよ……

          
       降るような星空だよ
            


あ〜あ…
…さくら、

さくら「うん?
寅「明目もまた行ってみていいかな?

さくら、その静かな声に逆に圧倒され
さくら「
ウンン…そうね、あんまりご迷惑にならない…程度にね
完全に寅のペースにはまっているね、さくら( ̄ー ̄; )

寅、ポンと膝を叩き、
寅「よしィ!、そうと決まったら明日にそなえてぐっすり寝るとします。じゃあみなさん、お休みなさい

土問に降り、『虫の声』の歌をうたいながら階段を上がって行く。
寅の声「♪あれ、マツ虫が鳴いている〜チンチロリンのポォリポリかぁ〜---


しばらく声も出ない一同。
おばちゃん「さくらちゃん、またあんなこと言っちゃって駄目じゃないか
と、さくらを睨む。
さくら「だってしょうがないじゃないの、他になんて言えばいいの?
さくらにしてみれば満男の担任の先生の家だからいつもよりちょっと心配かも…(^^;)




E【綾さんの幸せなひととき】】

柳生家・庭

綾のテーマがゆっくりと明るく流れる

題経寺を抜け出してきた源ちゃんが竹ぼうきを手にし、落葉をはいている。
陽ざしが暖かく差し込む縁側に神妙に腰を下ろしている寅。その傍で、綾が紅茶を入れている。


寅と綾さん、いろいろな話をして盛り上がっている。綾さんに大学のこと聞かれて…

寅「エヘへ、え〜…、学校の方ではさんざん行け行けって勧めてくれたんですけどもね、あの〜両親を早くから
 なくしたもんですから、あの、あたくしがさくらの親代わりになって、さくらの面倒を見ていたもので、つい

嘘八百!どの口で言うてるんや ヾ(-_-;)
綾「そ〜、苦労なさったのねえ、寅さんも
えええ〜〜!?信じるか〜??( ̄O ̄;)
寅「ええ、まあ、言ってみれば、妹の犠牲になった、というんでしょうか、今はもうその苦労も忘れて
 生意気な事ばっかり言っておりますけども
地獄で舌抜かれるでぇ (▼▼メ)

砂糖のスプーンを手にし、綾が砂糖の分量を尋ねる。
綾「あなた、おいくつ?
寅「え?ええ……自分でも驚いちゃってるんですけど四十ともう・・・
寅「

寅「あ、砂糖ですか!え、は…歳かと思っちゃった
このギャグは第20作「寅次郎頑張れ!」でも採用され、ワット君がボケをかましていた。


           
       


綾「 ?… 

綾、プッと吹き出し、たちまち大笑いする。寅も照れまくってエヘヘと笑う

さくらが、御前様の使いでりんごを持ってやってくる。寅と鉢合わせ。

寅「ああ!何だ、お前、ここに
さくら「あら!?
綾「今ね、寅さんとあなたの話をしてたの
さくら「あら、お兄ちゃん何言ったの?
寅「何も言ってない何も言ってない、
嘘八百さくらを落としまくってました。(^^;)

源ちゃんネタの冗談を本気にして、驚いたり笑ったり、綾さんはとても楽しそうだった。

そして何年ぶりかで訪れたささやかな平安と幸福…。



とらや
  茶の間

風呂帰りの社長、タオルを頭にのせて、ビールを飲んでいる。

社長「とにかくね、何とか手を打たなきゃいけねえよなあ。なにしろね、風呂屋の中が寅さんの噂でもちきり
  なんだから。『
そりゃ娘のほうに惚れてんのよ』とか、『いや、おっ母さんのほうだよ』とか、中にはいつ振られるか
  賭けしてる奴までいる騒ぎさ。俺はほら、寅さんの身内みてえなもんだろう、…どんな顔してりゃいいか
  もう困っちゃったよぉ〜


おいちゃん「は〜参ったなあ




柳生家・庭

寅と源ちゃん、庭から入ってくる。

婆や「お嬢様、恋人が来ましたよ

寅「よしなよ、具合悪いよ、そんなこと言っちゃテレまくり(^^;)
婆や「じゃ、何て言えばいいんだい?
寅「え?
ばあや「旦那様とでも言うのかい?その超刺激的な言葉に照れまくる寅(^^)

奥から外出姿の綾が、晴れやかな表情で出て来る。

綾「おはよう、寅さん。よかったわねえ、今日はいいお天気で。ほら、テルテル坊主をさげておいたの

寅「よかったですなあ!

綾「さ、寅さん、参りましょう
三人ウキウキ庭を出て行く。



葛飾区立 柴又第二小学校  校門

満男の通う小学校でもあり、寅の母校でもある(第28作)。ということで、寅は満男の先輩らしい。
一年生の教室  実際の学校の教室でロケ

後ろの入口が開き、PTAの用事で来たさくらが寅のお詫びがてら顔を出す。

雅子、振り返る。
さくら「こんにちは

雅子「あらぁ!


さくら雅子先生の作業を手伝う。壁に自分で貼った絵を見てギ目ツとするさくら
さくら「あら、嫌だわ、これ満男の絵ね
四角い顔をした寅のポートレート。

              


その下に、「
ぼくのおじさん」と書いてある。
この名前は第42作「ぼくの伯父さん」のタイトルに繋がっていく。




水元公園

綾のテーマが美しく流れる。

公園を歩く三人


晩秋の透き通った空気が感じられる美しい午後である。


池の近くで近くで敷物を広げて、源ちゃん、寅に命じられて、リュックの中からいろいろ出す。

源ちゃん小さなテーブルとイス、座布団、湯のみなどなど、を取り出し、綾にすすめる。
寅、チリや埃が綾にかからないように背広で防御。
うれしそうに座布団に腰を下ろす綾。


幸福な綾の時間

ベンチに敷物をひろげ、お茶を作ろうとする綾。

電気ストーブを取り出す源ちゃん。
源ちゃん、電気コードを取り出L、ソケットを持って考え込み、クスクス笑い出す。
源ちゃんに知らされて、寅も恥かしがってゲラゲラ笑い出す。
古典ギャグですね。

               




F【綾さんの病状とさくらの苦悩】

再び 柴又第二小学校 一年の教室

雅子とさくら、子供の椅子に腰を下ろし、談笑している,

さくら「先生もたいへんねえ。時々噂してるのよ、あれだけのお屋敷、維持して行くだけでもたいへんだろうって

雅子「放ったらかしよ、だってとっくに人手に渡ってるんだもの
さくら「あら、あのお家が?
雅子「私、拝むようにしてね、母の命あるうちだけは住まわせてくださいって頼んでるの
さくら、よくわからないという顔をする。


さくら「……命のあるうち…?


雅子「うん

雅子、しばらくうつむいて考えているが、ポツリと言う。

雅子「母はね、…もう、永くないのよ…

唖然と雅子を見つめるさくら

雅子「退院する時、お医者様に、もう好きなようにさせてあげなさいって、言われたの…。
雅子「そんなふうに見えないでしょう・…?
さくら「見えないわよ、ちっとも

雅子「私も信じられないの。 だから、この間も先生と喧嘩しちゃったのよ。
   だってねえ、…奇跡っていうことだってあるんですもの


雅子「…そうでしょう?

         
      

あまりのことに呆然としているさくら、気持ちが混乱している。
               
さくら「
……
         
ふたり、黙ってうつむいている。
さくら「ちっとも知らなかった…

綾も雅子もあの日寅に出会えたのは神の導きだったのだろう。

人生には出会わなくてはならない出会いというものがある。わけ知り顔で引き裂いてはならない関係もある。
他人が口をはさむ余地のないのっぴきならない縁というものは確かに存在するのだ。
そこには硬直化し、形骸化した常識などというものが入り込む余地は微塵もないのである。




G【綾さんのお店をみんなで考える優しい夜】

夕暮れの 帝釈天 参道


もの思いに沈んださくらと雅子が、肩を並べて歩いている。

雅子「ごめんなさいね。私、あんなこと言うべきじゃなかったわと反省している。
さくら「……



とらや 茶の間

なんと茶の間から綾の声が聞こえる。
綾「雅子、フフ、ここよ、ここ !
茶の間から、綾が手を振っている綾。
ニコニコしている寅たち。

雅子「あら嫌だ

             

お邪魔だから帰ろうと催促する雅子先生だったが…
綾「うん?ああ、それが…ねえ〜フフフ…

実はみんなで今晩は夕飯を一緒に食べようということになったらしいのだ。
雅子も恐縮しながらもしょうがなく一緒にお呼ばれすることになる。




とらや 茶の間


そしてみんなで食事の直前。
綾と雅子、両手を組み、眼を閉じてお祈りをしている。

寅「一応、早く!」とお祈りを強制(^^;)
なぜか全員が祈りの体制(^^;)
おいちゃんたち、とりあえずやみくも&適当に手を合わせる。

寅は何度かすでに経験してるはずなんだけどなあ…。
柳生家でも箸と茶碗で拝んでいたのかな?
綾と雅子、すぐに眼を開けるが、綾は一同のようすに気づき、慌てて再び眼を閉じる。

寅「ん…ん!
と咳払いし、寅、箸と茶碗持ちながら片目の薄目で状況を見て、そのかっこうやめれヾ(^ ^;)

            

未だお祈りをしている綾と雅子
さくらや博もちょっと目を開けるが
寅「まだだよ!と、無声音で叱る。
一同またお祈り。これじゃ夜が明けるよヾ(- -;)

御覧のみなさんの予想通り、間の悪いタコ杜長、大声を張り上げ頭を押さえながら登場〜。
社長「???…。どうかしたの」と小声
おばちゃん「シィー
杜長、慌てて眼を閉じ、手をすり合わせ。
社長「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経

あちょ〜〜〜 ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ

一心にお題目を唱える。
社長、それじゃ悪霊払いの儀式だよ ヾ(- -;)
この超スーパーギャグにとらや一同、思わず吹き出す。綾と雅子も笑ってしまう。

              

寅「タコ、キリスト教だよ、い、今はお前!
社長「え、どうして?誰か死んだの?無声音(^^;)
駄目押し2連発(^^;)
一同、たまらず吹き出して大笑い(^^)

一同ハハハハハ!!
おばちゃん全体重をか細いさくらにぶつけながら大笑い(^^;)



「とらや」茶の間

食後の菓子にダンゴを食べる綾

綾さん、お茶を飲みなから。
綾「ああ、おいしい。このおダンゴ
綾「娘の頃ね、雅子、私このおダンゴが食べたくてしようがないんだけど、おばあさまが許して
 くださらないでしょう、だからねえやに頼んで こっそり買って来てもらって、女中部屋で隠れて
 食べるの。それがおいしくてねえ

寅「オレもやったよ、二階のフトン部屋に隠れてさ
綾「何を食べたの
寅「ピッタリ、戸をしめてね、タバコ、もくもく吸って
一同大笑い。
今ではすっかり禁煙している寅でした(^^)ちなみにテレビ版では禁煙していない。
寅がネコの毛を剃ってイタチみたいにしちゃったことを暴露して一同またまた大笑い


このあと、雅子先生は綾さんが世間知らずで、ピントがずれた事ばかり言うと茶の間で笑いの種にしてしまうが
綾さんはそのことを恥ずかしいことだと思っていて、劣等感にさいなまれているのだった。


ねえ、さくらさん、私ね、あなたがたが、うらやましくてしかたがないの、
 だって、みなさんが、一人一人が自分の力で生きていらっしゃるでしょう…。私は、この歳になるまで
 自分の力で一円だって稼いだことがないの

雅子、綾の表情を見ている。

しんみりする一同。

博「じゃあ、これからやれば、 いいじゃないですか
こういう時は、やっぱり博だねえ!信念の人だからね。博のこのような反射神経と瞬発力が私は気に入っている。
綾「え?
さくら「そうですよ。もうすぐ何だって出来るようになりますよ、働くことだって、お金を稼ぐ事だって

                


綾「私が…、私にそんなことが出来るかしら
寅「出来るんだから、やれば出来るんだから、な、出来る…
博「出来ますよ!
寅「ほら
綾「そうかしら
綾「で、私どんな仕事をやればいい?
寅「どんな仕事すればいい?

どうしても、顔が沈んでしまうさくら

綾「私、体に自信がないから力仕事は、ちょっと…そらそうだ(^^;)

みんないろいろ考えあぐねている。

社長「
この近所に小さいお店を開くなんていうのはどうだい?
綾、思わずうれしそうに声をあげる。
綾「あら、お店
寅「
社長、お前いいところ、気がついたな
一同もホッとして、ニコニコする。
おいちゃん「なあ〜るほどねェ

おばちゃん「お店はいいわね〜とおばちゃんも参加
雅子「お母様、どんなお店にする
綾「そうねえ、何屋さんがいいかしら〜、ねェ、寅さん〜


寅「え?えーっと、まず団子屋駄目、これ儲からないから。おいおい(^^;)
綾「あらそお?
寅「あと、それから、魚屋とか八百屋とか、匂いがしたり重い物持ったりするのこれも駄目、な、…あとはな…
さくら、ちょっと焦って…
さくら「じゃ、オモチャ屋さんは?
綾「あら、オモチャ屋さんいいわね
おいちゃん「こういうのはどうです?文房具屋さんおいちゃんいい味(^^)
綾「それもいいわね
寅「ダメだダメだ
綾「どうして?
寅「ハナをたらしたガキがですよ、汚い手に百円玉にぎって、『おばちゃん、おくれー』なんて、そんな店が出来ますか。
 ダメでしょう、ね、もっと他に店ないかよ、えっ?

寅って文房具屋に何か恨みでも ヾ(^^;)
博「どんな店がいいんですか
寅「だから例えばさ、ひっそりとした裏通り、ね、しゃれた構えの小じんまりしとた店、
  お湯がこうチンチンチンチン沸いていて、

              

火鉢の傍で読書にふけってると、忘れた頃にポツリ…ポツリと客が来る。
これがみんな上品な懐豊かな女の客ばかり、何やら楽しい話をしているうちに、いつのまにか
スッ…と品物が売れている。
タ方豆腐屋のラッパが鳴る頃は店を閉めて、

雅子ふと、我に帰っている。

土曜日曜祝祭日、勿論休みです、

それで程良くこうお金の儲かるそんなような店ないかいオイ!え〜?


雅子複雑な顔になってしまう。
綾「フフフ、そんなのあるかしらねえ〜
一同、笑い出す。
博「その店で一体なにを売るんですか
寅「それをお前、考えろってんだよ
一同「フフフ
綾のテーマ 深く静かに響き渡っていく
そんな話を聞きながら、どうしても眼を伏せる雅子。未来を朗らかに話し合う人たちに、雅子はどうしても、
心が沈んでいくのだった…。


               

そんな雅子を見て、いたたまれなくなったさくらは立ち上がって台所の方に行く。


おばちゃん「ねえねえ、ぴったしのがあるよ、宝石屋さんなんかどうかしら
いかにもおばちゃんらしいゴ〜ジャスな発想。 第20作の夢参照(^^;)
寅「そら、うまい考えだな
社長「ダメダメ、柴又でさあ、ダイヤモンド◆☆.。.:*・゜買う客いるかい?甘い甘い、ハハハ
ワイワイ笑う一同。
彼らの笑い声が意識から遠ざかり雅子とさくらは人知れず哀しみの中にいる。

寅「よおし、じゃいっそ印刷屋やろ、印刷屋
社長「うまいうまい!
おいちゃん「そりゃいい!儲かりますよ、印刷屋は
おばちゃん、手を横に振って大笑い

一同大笑い 「ハハハ!

大勢の笑い声の向こうで、ひとり、台所で炊事をしながら、流しの傍に立って、涙をぬぐうさくらの横顔。
それでもどこかで、奇跡を信じたい…


                



H【最後の日々。綾さんの問いかけと寅の答え】

江戸川土手

さくらが土手から自転車で急いでこいでくる。

とらや 茶の間

おばちゃん「おや、早いんだね
さくら「おはよう足早に茶の間に上がっていく。

さくら「あのね、
寅「うん
さくら「今、柳生先生から電話があって、学校からだけどね、お母様が、具合が悪いんだって
寅「え!?
さくら「ほんとうは病院に行かなくちゃいけないんだけど、どうしても嫌だって…言うこと聞かないんだって。
   それでね、柳生先生が、お兄ちゃんの言うことなら多分聞くだろうから、お兄ちゃんの口からそう言って欲しいって

寅「じゃあ、オレ、行ったほうがいいか?
さくら「うん、そうして
寅「うん」「よし…

寅、箸を捨て、帽子を手に取って土間に下り、表に駈け出そうとする。しかし、寅、また戻ってきて
寅「おい、オレ、ここんとこさ、柳生さんのお屋敷に、ちょくちょく出入りしているだろ、近所のおしゃべり
 連中が何だかんだと噂しているんじゃねえかと思うんだよ、オレはいいけどさァ…


さくら、寅の言葉をさえぎり、強い口調で言う。
さくら「何言ってんの、人の噂なんかどうだっていいじゃない、大威張りで行ってらっしゃい
さくらの、適確な判断力と綾への強い気持ち。

             

さくらは、ここ一番で、一歩前に踏み込む行動を取る。第15作「寅次郎相合い傘」のリリーへの直訴、
そしてこの第18作「寅次郎純情詩集」の寅への後押しが特に圧巻である。私はこのさくらの気持ちに泣けてしまった。


寅「そうだな、よし!うれしそうな顔で飛び出して行く。

その様子を見ていたおばちゃん、呆れ顔で言う。
おばちゃん「いいのかい、あんな思い切ったこと言っちゃって知らないよぉ…
さくら「いいのよ

             

ひとり、考え込むさくら。
さくらは、おばちゃんには、綾の事情は言っていない。誰にも、博にさえもこのことを言わない。これがさくらなのだ。
『さくらは言わない』 このことがこの作品に高い品格を与えている。彼女はひとりで耐えているのだ。




柳生家・庭

綾、やって来た寅の声を聞いて、待っていたように顔が明るくなる。
綾「!…
寅、息を切らしながら、庭先に駈け込む。
綾「ああ、フフ…
寅「あ、なんだ起きてたんですか。どうです、具合は。いや、今、お嬢さんから電話で、あの、急に具合が
 悪くなったからね、病院に行くようにすすめてくれって、そう言われて来たんですけれども

綾、徴笑を浮かべる。
綾「大丈夫よ、何でもないの。あの子が少し大げさなだけよぉ
寅「そうですか…
綾「うん
寅「はー、よかった…縁側に坐り、ハンカチで汗を拭う。

勘の鋭い綾はうすうす、自分の命のことを感づいているのであろう。この懐かしい家を離れることを恐れている。


綾が寅に向かって微笑む。
寅もニコッと微笑み返す。

そして安心したかのように下を向く。

                 

とても静かな、そして大事な時間が過ぎていく。
小鳥が鳴いている。
遠くで列車の汽笛

綾、寂しそうに、ポツリと言う。
綾「あー、もう秋も終りねえ……
寅「え、そうですねえ。花が枯れて、木の葉も散って、一日一日、日が短くなって……
綾「夕方お寺の鐘がゴォ〜ンと鳴ると、なんだか無性に寂しくなて来て、
  フフ、こんな嫌な季節は早く過ぎてくれないかなっ、て思うのよ


綾の第2テーマ が哀しく切なく流れていく。


寅「すぐ過ぎますよ。もうちょっとの辛抱ですよ。三月になれば、すみれ、タンポポ、れんげ草、
 パーッと咲いて、一日一日暖かくなって、桜の蕾がふくらむ頃には、もう春ですからね


綾、寅の言葉にほんの少し微笑んで 

綾「…江戸川に雲雀が鳴く頃になると、

 川辺にあやめが一面に咲くのねえ…



             

少女だった頃の遠い春の日を思い出すような優しい綾の目…

寅  「その頃には奥さんの病気もすっかりよくなって、お嬢さんやおばちゃんやさくらたちと同じように
    元気で働くことができますよ


寅「よし!と立ち上がって竹ぼうきをハンカチでポンポンと叩き、で庭の枯葉を掃きはじめる。

綾「寅さん
寅「はい!

綾、静かに背中を椅子にもたれかけさせて…

綾「人間は…、なぜ死ぬんでしょうね

             

綾「……

寅「人間……?

寅「う〜ん、そうねえ…、まア、なんて言うかな、まア、結局ぅ…あれじゃないですかね…、あの、こう、
 人間が、い
までも生きていると、
あのー、こう、丘の上がね、人間ばっかりになっちゃうんで、うじゃうじゃうじゃうじゃ、
 メンセキ
が決まっているから
で、みんなでもって、こうやって、満員になって押しくら饅頭しているうちに、ほら足の置く場所も
 なくなっちゃって、
で、隅っこにいるヤツが『お前、どけよ!』なんてって言われると、アーアーアーなんつって海の中へ、
 ボチャン!と落っこって
そいでアップ、アップして助けてくれ!助けてくれ!なんつってねェ、死んじゃうんです。
 
まあ結局、そういうことになってんじゃないですかね、昔から、うん、まあ、深く考えない方がいいですよ、それ以上は

             

綾「フフフ
綾、ずっと笑い続けている。
綾「フフフ アハハハ、可笑しいわ、寅さんてフフフ、アハハハ…
寅「そうですか、フフ…可笑しいですか
綾「可笑しいわよ、フフ
寅「へへへへそうですかね、フフフ

安心したように照れ笑いしながら、庭を刷き続ける寅。


なぜ人間は死ぬのか…。この問いに寅は面白おかしく自然界の摂理をしゃべり、綾を笑わせながらも結局こう締めくくる。
「深く考えないほうがいいですよ、それ以上は」この言葉は、一見この問いから逃げているようではあるが、
もっともこの問いの答えとしては真っ当だとも思う。

人は時として死というものを頭で考える。それでよけいに全体を見ることができなくなる。
人はみな一人残らず必ず死を迎える。ほんの少し遅いか早いかだけである。

綾は言う。
…江戸川に雲雀が鳴く頃になると川辺にあやめが一面に咲くのねえ…
この想像力こそが生きるという臨場感であり、人が死ぬ一秒前までこの想像力の輝きは続く。
寅の面白い冗談に笑い続ける綾。このひと時こそが彼女の人生であり、生きるということだと思う。
死を考えるのではなく、生を感じることを通じて、今を生きることだ。

死というのはそもそもそれ自体完結していて、それはすでに決して病でもなく苦痛でもない。
日々の中でどんな僅かなことであっても、人が生きる喜びを感じたとしたら、それでもう十分生きるに値する生である。
そしてそうこうしているうちにいつか勝手に死ぬだけのことなのだ。
死と言うものは「結果」であって決して「頭で考えること」ではない。



I【走り、奮闘する寅、そして天国へ召された綾さん】

さくらのアパート 夜

さくら、電話に出ている。
綾さんの様子が良くないらしい。
さくら「ええ、ええ、まあ〜…いえ、お宅から帰って来てから、とても元気だって、
  兄がそう言ってたもんですから、安心してたんですけど、そうですかぁ…。……いいえ、
  何のお役にも立たなくて、どうぞお大事に。…それじゃ失礼します


博「柳生先生のお母さん、悪いのか?
さくら「うん、熱が引かないんだって
博「今の風邪は、たちが悪いからなぁ〜

博にも言わず、じっと耐えているさくら。さくらの背中は悲しみで壊れそうだった。



翌日

寅、啖呵バイ
  文京区  根津神社 境内
鯨クジラ尺の物差しを売っている。
永六輔さん扮する警察官、巡回に来て、法律で当時売ってはいけないクジラ尺を寅が売っているので不信顔。


柴又駅

バイの後、果物の包みを下げた寅が改札口から出て来る。



柳生家 庭

寅、入って来て、ガラス戸越しに申の様子を伺い,そっと開ける。
寅「お母さんの具合、どうですか?
雅子、寅の傍に坐り、寂しげに、
雅子「うん…、あんまりよくなくてねえ、私、今日学校休んじゃった
寅「え…寅の顔が、すっと蒼ざめる。
寅「…そうですか…と、沈んでいく。
雅子「お見舞いに来てくださったの?
寅「ええ…あ、これつまらねえもんですけどもと、果物を渡す。
雅子「どうもありがとう。
寅「
あのう…、オレにも何かお役に立つことないかねえ。オレ、何でもするから寅、真剣な表情。
雅子、ふと微笑んで、あのね、ゆうべねぇ、
寅「
うん
雅子「
何か…食べたいものないって聞いたら、いつかとらやさんで食べたおイモの煮っころがしがとっても美味しかったって…
イモの煮たのッ ! よし!

雅子「寅さん ! 」
雅子のとめる間もなく、寅は風のように走っていくのだった。

             

雅子が言うや否や必死で駆け出していった寅。こんな懸命な寅は見たことがない。
こんなに人を想うことがつらく切ないなんて、思っても見なかったのかもしれない…。
寅も雅子も、そしてさくらも、綾のことだけを考えている。綾は今、彼らにとても大事に想われている。
そのこと以上に価値のあることはこの世界にはないと思いたい。




とらや 店

八百屋で買ったイモの袋を肩にかついだ寅が、ドドドドっと店に飛び込む。

寅「おばちゃん!
おばちゃん「え?
寅「イモ煮てくれ!イモ煮てくれ!!!これ、
さくら、奥から飛び出して来る。
さくら「お兄ちゃん、どうしたの、一体


台所

さくらが急いで芋を洗っている。
寅「早くしてくれよちょっと、早くよお!
さくら「分かったわよ。でも、おイモ煮るのは時間かかるから
寅「そんなこと言わねえでさ、パァっとやってくれパァっと!
さくら「なるべく早くやるから、落ち着いてそこに坐っててよ。
寅「うん…
さくら「う〜ん、もう、こんなにたくさん買って来ちゃって
寅「おい、さくら大丈夫だよな、え?あの奥さんに万が一なんてことあるわけ無いよな、大丈夫だよな。

             

さくら「うん
寅「え?そんなことあるわけないよ、昨日会った時だって元気でちゃんとアレしてたんだから。え?
  ちょっと気分が悪くなっただけだよ、うん、このイモ食や元気になっちゃうよ。なっ、さくら


さくら、頷きながら
さくら「そっ、大丈夫よ、心配しなくとも
寅「そうだよな。大丈夫だよと、寅、茶の間にとりあえず上がる。

そうは言っても、自分も心配で、つい寅の方を見てしまったさくら。
ふたりとも、起こっている現実に耐えられないのだ。

寅、心が波立って、落ち着かない。正座して、とりあえず、そこにあるフキンでお膳を意味無く拭く。
どうしていいかわからずそれを見ているおいちゃん。

寅「おい、もう出来た?おい、うん?
さくら、泣き出しそうな声で、
さくら「お兄ちゃん、これから洗って皮むいて、それからお湯沸かして…
寅「そんなこと言ってる暇ないんだよ、お前!
さくら「お願いだから、もう少し落ち着いてよと自分自身も泣きたい気持ちを押さえながらイモを洗うさくら。

源ちゃん「兄貴と源ちゃんの声が店の方からする。
さくら、泣きながら、声のほうを振り返る。
寅「ん?
台所に飛び込んで来た源ちゃん、(走ってきたのかもしれない)
源ちゃん「今、お屋敷の前通ったらな…
源ちゃん、下を向き、言うのをためらっている…
寅「なんだ、…早く言えよ!
源ちゃん「あの、車がぎょうさん集まって…、人が出たり入ったりして……なんやろな…
寅「…お…おい…呆然として、言葉が出ない寅。
さくら「お兄ちゃん、
寅「うん?
さくら「とにかく行かなくちゃ
茶の間に大急ぎで上がっていくさくら。

               

さくら「おばちゃん、私ちょっと出かけ…出かけてくるから満男のご飯願いね
おばちゃんも、事情が薄々わかって声を震わせて
おばちゃん「…ああ



柳生家 玄関

家の中があわただしい。

開け放した玄関に、寅とさくらが姿を現わす。
親戚の人々が廊下を行ったり来たりしている。玄関にそっと入る寅とさくら。

牧師、廊下を歩いてくる。
土間に降りて、靴を履く牧師。
雅子、玄関に正座して
雅子「どうもありがとうございました
一礼して出て行く牧師。

               

雅子、寅とさくらのほうを見る。
さくら、何か言おうとするが言葉が出ない。
雅子、少し微笑み…
雅子「来てくださったの」        
寅「
呆然とたたずみ、ただうなずく寅
        
雅予「寅さん、お母さまね、今さっき、天国に召されたのよ

                

雅子、悲しみを堪えきれずに下を向く。
寅「……じっと下を向いたままの寅。
上がり口の端に坐り、涙を流している婆や
婆や「どうして、私なんかが長生きして、お嬢様のようなかたが……代われるもんなら……ウッウッ、ウウウ

                 

教会

教会の中 祭壇に棺が置かれ、花が飾られている。
白い花に囲まれた、美しい綾の写真。
オルガンが鳴り、讃美歌がはじまる。

雅子と婆やの姿があり、賛美歌を歌っている。婆やは悲しみで嗚咽してしまう。
雅子は婆やの肩をそっと支える。


列の後ろの方で歌を歌っているさくら。その横で、じっと下を向き表情を硬くして悲しみをこらえている寅。
さくら、悲しみでもう歌えない…。
御前様やおいちゃん、おばちゃんの姿もある。

                 



J【綾さんの想いと嗚咽する雅子先生】】

柳生家・庭(タ方)

冬の薄日の中引越しの作業で忙しそうな雅子。
縁側にポツンと置いてある在りし日の綾が愛用していた簾椅子。
雅子、散らばった本を縛りながらふと眼を縁先にやる。
雅子「あら
寅が庭先に立っている。
雅子「寅さん!
雅子「よく来てくださったわ。さ、どうぞ
寅「いえ、私は、ここでと縁側に腰を下ろす。

産休教師が終わり、東京を離れて新潟の小さな分校で働くことになった雅子先生。
綾の最後の日々、寅が母親のことをどう思ってくれていたか聞くのだった。


綾のテーマ曲が美しく流れる。

その横顔に眼をやっている雅子。何かを言おうとしている眼。
長い沈黙が流れる。
雅子「……
雅子「あのね、寅さん…
寅「へい
綾の第2テーマが静かに哀しげに流れていく。

雅子「とっても聞きにくいことなんだけど…、寅さん、お母様のこと愛してくれてた?

寅、はっと驚き、雅子の顔を見て
寅「え…
寅「そ、そんな、じょ、冗談じゃねえやオレが、……緊張で下を向いてしまっている寅。
雅子「違う?
寅「ち、違いますと、下を向いたまま。
雅子、下を向き、そしてもう一度寅を見つめ


雅子「でも、お母さまはそう思ってたわよ、きっとと言って、下を向く。

寅、驚いてもう一度ハッと雅子を見続ける。

               

雅子
最後の床についてた時もね、寅さんに会える日が来ることだけを楽しみにしてたのよ。
   意識がなくなりかけた時、私、耳元で…、『お母さま早く良くなって寅さんに会いに
   行きましょうね』そう言ったら、お母さまは、うれしそうな顔をしてコックリうなずいたわ。


   誰にも愛されたことのない寂しい生涯だったけど、でもその最後に、たとえ一月でも寅さんていう人が
   傍にいて…くれて、お母さまはどんなに幸せだったか、私にはよく分かるの…ウウウウ…
と泣き崩れる。

               

雅子「ウウウ…ウッウッ…
感極まって顔を覆って号泣する雅子。
言葉もなく、雅子を見、そしてまた下を向く寅だった。

                

綾は毎日寅が来てくれるのを待っていた。寅と話すことだけが生きる糧であり、救いであったのだ。
人生の最後のひと時が、その人の人生の最も高揚期だったということは人生では起こりえるのだと知らされた日々でもあった。

マドンナが寅をこんなにも待ち焦がれ、寅の方もこんなにも濃密にマドンナに寄り添ったのは、この作品の綾さんと
第25作「ハイビスカスの花」のリリーだけだ。

綾さんは幸せだった。



K【寅の豊かな想像力と別れのプラットホーム】

京成柴又駅
 

柴又駅 プラットホーム
寅とさくらが静かに立っている。
商店街から聞こえるジングルベルのメロディ。
下りのホームにネンネコバンテンで子供を背負った若い母親が立っている。

寅、その姿に眼をやりながら、ポツリと言う。
寅「なあ、さくら、人の一生なんてはかないもんだなあ
さくら「……
寅「みんなでとらやの茶の間に集まって…、ワイワイ騒ぎながら飯食ったの、ついこの間だものな…
さくら「そうだったわねえ…
結婚式の披露宴の帰りだと思われる若い女性達の華やぐ姿。
赤ん坊も女性たちも綾の運命とは対照的な存在。未来へ向かっての生命の輝きを感じさせる光景だ。
二人、あの日のことを想い出すように、ボンヤリ遠くへ眼をやる。

さくら「あん時、柳生先生のお母さん、とっても楽しそうだったわねえ…。
   みんなで一生懸命、お母さんの店は何屋さんがいいか考えたりして

寅「そうそう、俺、あの時からずうっと考えてたんだよ
さくら、寅の方を向く。
寅「いい店あったぞー
さくら「何屋さん?
寅「花屋よ

                

さくら「花屋さん…
寅「いいだろう。え、あの奥さんが花の中に坐っていたら、似合うぞ
さくら「そうね、…とってもいい考えね
寅「その…なんだ、仕込みだとか
さくら「うん
寅「配達だとか
さくら「うん
寅「掃除とか、そういうことはみんなオレがやるんだよ。うん
さくら「
寅「で、あの奥さんはただそこに坐ってりゃいいんだ。それでこう花束を作って、
 で、お客さんに、どうもありがとうございましたと言って渡してくれればいいんだよ

さくら、の目に涙が潤む。
寅「この店は流行るぞおまえ!とさくらに微笑む寅
さくらを見て、ふと、我に帰って…

                 

寅「まあ…、もしこのことが本当になっていたとしたら、オレも渡世人家業、プッツリ
 足洗ってよ、そんときこそ、おまえが言うように、あのとらやでゆっくり正月過ごすことができたんだよなあ…

さくら、寅を見つめ、
さくら「お兄ちゃん、そんなこと考えてたの…、私ちっとも知らなかった-…・

                 

と目を潤ませ、下を向く。
ピーーっと上り電車が近づいてくる。

さくら「あのお母さんに…その話聞かせてあげたかったわね…ウウウ…
と言いながらさくらの目から涙が溢れていく。
寅「お墓参りの時にでも話するさ
さくら「うん

寅「じゃあ、オレ行くぞ
この一言が兄妹の絆の深さ。
メインテーマがゆったり流れていく。
さくら、泣きながらドアの所へ行く。

電車が着き、ドアが開く。
寅、乗り込みながら、
寅「みんなに体大事にするようにって言うんだぞ
さくら「お兄ちゃんも、体に気をつけてね

                 

寅「他に取柄はねえげどよ、 こっちは体たけは大丈夫だから、フフ
ドア、が閉まる。ドアの向こうで、「あばよ」と笑いながら手を上げる寅。
電車を、手を振って見送るさくら。

電車が過ぎ去った後、夕日がさくらの顔を赤く照らす。

                 

さくらの目からまた涙が…

小さくなっていく電車
ハンカチで涙を拭きながら戻っていくさくら。
残されるものの孤独を背負うさくらだった。


綾の亡き後も、綾の面影は寅に宿り、寅は今でも綾の幸せを考え続けている。
なんて豊かな想像力であろうか。全ての社会的な地位も身分も何もかもを持ち得ない愚かな寅。

『何者でもない寅』

目に見えるものや、人が気づく社会的なものを全て放棄し、目に見えない豊穣な想像力を密やかに育ててきた寅。
そして、その想像力を全て人に与えるために生きている男。
日々の無意味な喧騒の中でそんなこと、誰も気づくわけないし、分かろうともしないが、さくらだけはいつも焦点が合っている。
さくらは綾のその最後の日々に幸せがあったことを確信している。



L【雅子先生からのハガキと寅との再会】

正月

とらや 店
参道は濫れるような人の波
綾さんの家の婆やとお孫さんが現れる。
青年「婆ちゃん、とらやさん、ここだよ!

                 

さくら「おばあちゃん!!
ばあや「あー、くたびれた

茶の間

さくら「おいちゃん、ちょっと、柳生先生の所のおばあちゃん
ばあや「は〜あ、皆さん、こんにちは
篭造「いやあ、これはこれは
おばちゃん「ま〜おばちゃん、よくいらっしゃいました
さくら「本当にね〜
婆や「今日孫が帝釈様へ連れてってやるって言うもんで
さくら「まァ〜、お孫さん、
おばちゃん「まあ、ごりっぱな
おいちゃん「おー
孫「かなわねえなァ…はじめまして。こ…婆ちゃんがいろいろお世話になりましたそうで、ありがとうございます

机の上の、年賀状の束に混じって、雅子先生からの葉書が置いてある。

雅子の手紙

拝啓、みなさま、よいお年をお迎えのことと思います。
 昨年は本当にお世話になりました。
 とらやのみなさんの、優しいお心遣いを思い出すたびに、
 今でも胸が温まる様な気がします


                 

潟 六日町 清水分校

雪深い小さな小学校の校庭で、雅子先生がスキーの板を付けて、よろよろ笑いながら歩いている。


雅子の手紙続き

六日町に来てまだ日は浅く、西も東も分かりませんが、
毎日元気一杯に働いておりますから御安心下さい。

ところで、寅さんはどうしてますか、お正月も旅先ですか。
お会いしたいと思います。
こんな田舎に、ひょっとして寅さんが
来てくれたりしたら、どんなにうれしいかと思います



ぬかるみのあとを、雪駄でなく長靴をはいて
難儀しながら、なんと!カバンを下げた寅がやって来る。


寅を見つけ、顔が大きく華やぐ雅子先生

                    

雅子「寅さん !!
寅「…!!
寅「よお!うん!アハハハ!
雅子「まあ、どうして…
寅「うん


雅子「寅さん、はーはー、夢じゃないかしら!
寅「はぁ〜!すごい所にいるねえ、先生
雅子「そう
寅「うん、すぐ近くだからって言われて歩いたら、まあ〜〜遠いこと遠いこと、アハハハ…

メインテーマが静かに流れ始める。

雅子「ハハハ!
寅もう目がペケ、ヘナヘナ(^^)
雅子「そう、ほら、みのる君、みんなで、カバン持って!大丈夫?寒かったでしょう?
その手を抱えるようにして歩き出す雅子。
寅「
いや、今一生懸命に歩いたらねー、暑くなっちゃったー、ハハハ!
寅「おっおお寅こけてしまう。
子供達「ハハハ!
雅子「助けてあげて

メインテーマ盛り上がっていく。

子供達、寅の腕を助け、かばって声を上げる。
子供達「ヨイショ、ヨイショ、ヨイショ、ヨイショ、ヨイショ

子供達が寅を助けながら、校舎まで歩いていく。
寅や雅子の悲しみが子供達の歓声と、深い自然の中で静かに浄化されていく。
明日は何かいいことありそうな…。

                 

なんとも爽やかな二人の表情。二人とも同じ深い悲しみを乗り越えて来たのだ。

そして今も残るその面影を抱いてこの先も生きていかねばならないこの二人は、それゆえ運命共同体
としての絆の深さを持ち続けていくのであろう。

ただただ、人とともに寄り添い生きてゆく。これが、寅の愛情の行き着くところのひとつの姿なのだろう。

故人は生き残った人の魂に宿り2度目の人生を新しく始める。綾を慕う寅や雅子や婆やの中に彼らの生の終わる
その日まで綾は生き続ける。
愛を与える、という宿命を甘受して、ひたすら孤独の中で旅をし、人に出会い、人を愛し続ける寅のその真骨頂が、
その究極の姿が、この作品の中にこそある。

正にその名の通り「寅次郎純情詩集」だ。




第18作「寅次郎純情詩集」【本編完全版】はこちら


 
第18作「男はつらいよ.純情詩集」ダイジェスト版を本日5月14日にアップしました。
第19作「男はつらいよ.寅次郎と殿様」ダイジェスト版はだいたい5月19日頃にアップいたします。



【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら

【寅次郎な日々】全48作品マドンナ制作年度順






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第17作「男はつらいよ.夕焼け小焼け」ダイジェスト版
 

2007年5月8日寅次郎な日々 その312


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



我が心の『寅次郎夕焼け小焼け』  ― 私の人生を支えたもの ―


スマートで弾けた脚本と演出、安定感抜群の109分。これぞエンターテイメント!


「夕焼け小焼け」は、今までに私がこのシリーズで最もたくさんの回数を見た映画である。そのほんとうの理由は自分でも
よく分からないのだが映画というものが持っている全ての面白みが偏ることなく絶妙のバランスで詰め込まれているからかもしれない。
私にとっての作品としての評価という意味では、第1作や第8作、第15作のほうが高いのだがこの第17作はなぜか見た後に満腹感を
感じられるのだ。物語の振幅が大きいからかもかもしれない。また、この頃になると、脚本や演出がこなれてきてスマートでギクシャク
しないものになっているので、そのような、ゆったりとした安定感が心地よいのかもしれない。総合的な完成度が高い気品のある作品と
言ってもよいと思う。

とにかく実に「見易い映画」「楽しめる映画」なのである。第1作「男はつらいよ」を見ていると、楽しめるというよりは、あまりにも懐かしく、
美しく、そして初々しい荒削りな魅力に溢れている。第8作「寅次郎恋歌」も楽しめると言う言葉は似合わない。人生の奥深さと、
人間の世の哀しさ、旅の孤独、が見事に描かれた長編大作だ。それゆえに立て続けに見るときついものがある。
第15作「寅次郎相合い傘」は美しく切ない、ふたりの恋の物語で、心が震える最高傑作だ。楽しい場面もたくさんあるし、
「放浪者の栄光」の物語でもあるが、やはり「切ない恋の物語」でもある。それに対して、この第17作「夕焼け小焼け」はとにかくすんなり
安心して楽しめるのだ。つぎつぎに物語が展開していってあれよあれよという間にクライマックスへ。そして最後に感動が待っている。
落ち込んだ時、この作品を見たら元気が出る。悲しくて仕方がない時この作品を見ると、明日も生きていこうと、そう思えるのである。

とにかく笑える。とにかくはなやぐ。それでいてなんともいえない気品と重みがある。そしてなんといっても最後に感動する。起承転結。
絶妙の安定感がそこにある。「物語」がそこにしっかり存在するのだ。

この「夕焼け小焼け」を見るたびに思うことは、ここにいたって本当にこのシリーズは熟してきたな。ということである。泥臭さがもうかなり
消え、スマートになってきている。だから安心して違和感なく見ることができるのである。気持ちが苦しい時はあまり泥臭いパワフルな
ものもダメだし、あまり軽く予定調和的に作ったものもダメなのだ。「若々しく輝きながらもスマートな成熟がもう始まっている」という
なんともいえない頼り甲斐のある気持ちよさと壮年前期の品格が「夕焼け小焼け」にはあるのだ。


岡田嘉子さんと宇野重吉さん  

この映画には宇野重吉さんの初恋の人、志乃役で往年のスター、岡田嘉子さんが出演している。彼女の体から出るあのオーラは
いったいなんだろう。人の歩めない道をあえて歩んで来たものだけが持ちうる優しくも強い眼光。凛とした姿かたち。今日の今日まで
いろんな役者さんの演技を見てきたがあのようなオーラは、あとにも先にもあの龍野での岡田嘉子さんだけだった。青観役をみごとに
演じきった宇野さんとともに心底感服した。そして、その宇野さん扮する青観がラスト付近で目を細めてふと呟くあの言葉
「そう…寅次郎君は旅か…」も忘れられないセリフだ。この一言でこのシリーズのイメージをすべて言い表していた。見事な姿かたちだった。
また、龍野での寺尾聡さんとの親子共演も印象深い。

いずれにしても宇野重吉と岡田嘉子というふたりの優れた感覚の人間によって演じられた龍野のあの静かな夜の会話は、この作品に
最高の気品を与えているばかりでなく、あのシーンの存在が、この長いシリーズ全体のイメージをも高めているほどの強烈なインパクトを
持っていた。「夕焼け小焼け」の奥深い懐がここにあるのだ。


突きつけられる庶民の無力さと切なさ、…そして優しさ    ― 救われるということ ―

この長いシリーズではいわゆる「悪者」というような人物はほとんど出てこない。みんなどこかしら人間臭さを残した憎めない連中ばかりだ。
しかしこの第17作にはこのシリーズで唯一といっていい「悪い奴」が登場する。
ぼたんの虎の子の200万円を騙し取った鬼頭という男だ。そのことでとらやの面々はずいぶん親身になって手伝おうとするが、
すったもんだの果て、結局泣き寝入りという厳しい結末が待っている。どんなにさくらたちの心が清らかでも、どんなにタコ社長が
奮闘しても、寅が怒って怒鳴り込もうとしても、どうすることもできない厳しい現実がそこにはあったのだ。この金銭的損害と悪者征伐に
関してはこの作品は容赦なく救いを遮断させている。現実の社会はこのような不条理な出来事や悪意に満ちた事件で溢れているからだ。

この時の寅は本当に心底怒る。マドンナのためにこんなに本気になって怒った寅はこの17作をおいて他に無い。その心にぼたんは救われ
号泣するのである。人は、最後の最後はお金でなく人の心に救われる。綺麗ごとでなくほんとうにそうなのだ。人生で涙が枯れ尽くすまで、
とことんまで辛酸をなめた人ならそれはみんな実感として知っていることだ。

この作品はほんとうに無力で惨めながらも励まし合いながら寄り添いながら生きていく人の世の切なさと温もり、そして気高さをラストで
謳いあげて終わっていく。こんな美しく、ほろ苦く、そしてリアルな感動に打ち震えるラストはこのシリーズでもめったにない。
第2作「続男はつらいよ」のラスト、第8作「寅次郎恋歌」のラスト。第25作「寅次郎ハイビスカスの花」のラスト。そしてこの第17作「寅次郎
夕焼け小焼け」のラストが全48作の中で私の選ぶ感動のラストシーンベスト4だ。

この作品の翌年にいよいよ「幸福の黄色いハンカチ」が完成する。


@【寅の帰郷と入学式騒動】

今回も夢から
『白鯨』と『ジョーズ』とをかけあわせもじっている夢。
どんよりとした深い海
不気味なBGM寅のナレーション
寅「この広い海のどこかにあいつがいる。平和な海水浴場を一瞬にして地獄へと化した
 あの憎い…人食いザメが!どこかにいる。
港を出てすでに1週間。車船長の顔にあせりの色も深い。
寅「憎い人食いザメ。
なぜかボートのポールになぜか『とらやの店の旗』(^^;)
おいちゃん、おばちゃん、そしてさくらの息子満男を飲みこみさらには三日前、かの原公の下半身(しもはんしん)を
食いちぎった悪魔のような奴。
うわわっ、山田監督の演出とは思えない〜(><;)蛾次郎さん、ごくろうさんです(^^)
タコ社長と博は同船しなかったようだな。助かったな…(^^)
さくら、嗚咽

寅「
さあ、出て来い人食いザメ!このオレと一騎討ちだ。どこにいるんだ人食いザメ!
そんな時またもや悲劇が、たった一人生き残ったさくらもサメに食い殺されてしまうのだ(TT)
さくら「!!
寅「さくら!
さくらの足だけ寅の手に残る。
うわわわー!山田監督
〜っ!ΣΣ(|||▽||| ) )))
山田監督に一体何が…何を思ってここまで…(^^;)
その時、竿がきしむ「ギギギ…」サメが針にかかる。リールがどんどん引きずり込まれる。
寅「だはっ!ぐ…くっチッ…グ、グゥ!ちきしょう!出て来い人食いザメ!フゥ!!!

           

サメガォー!!!と大口を開けて襲ってくる。おいおい、猛獣じゃないんだから、サメはそんな声出さないよ ヾ(^^;)
寅「
ウワァー!!ワァ!!ウワァ!!アァー…!お陀仏(TT)       


とある田舎の漁港

夢を見てうなされている寅。釣りをしているらしい。
寅、ちょっと目がさめる。
子供A「おっちゃん!ひいとるで関西地方かな?
寅「おっとようやく起きて、「よしよしよし」と竿を上げる寅。
子供B「や、ちっちゃいな
寅「あーこんな小ちゃいのと、あくびをしながら針からはずそうとする寅
                
            

寅「はわわ…あたたたっ!噛みつきやがった
寅「ちょっと!これっ。気をつけろ!夢との落差で大笑い(^^)



タイトル

(赤)はつらいよ(黄)寅次郎夕焼小焼け(白)映倫18752

バックの映像はお馴染み江戸川土手、そして一面の白つめ草。

口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。


今作品はいつもの歌の2番の代わりに、歌の3番が挿入されている。私はこの3番の歌詞が大好きだ。

  ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
  いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
  奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
  今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


  
♪あても無いのにあるよな素振り それじゃあ行くぜと風の中
  止めに来るかとあと振り返りゃ 誰も来ないで汽車が来る
  男の人生一人旅 泣くな嘆くな
  泣くな嘆くな影法師 影法師♪



江戸川土手

寅が子供たちのチャンバラに入りこみ、勢い余って一方的に勝つ。それに怒った大人が文句を言い、あげくの果てに大喧嘩。
寅はチャンバラが大好き第15作「相合い傘」でも題経寺の境内で大暴れ。
近くにいた統一劇場の人たちが気づいて止めに入るが、巻き込まれて、大乱闘。警察官も巻き込んでめちゃくちゃ。

              


とらや

テーブルに尾頭付きのタイや赤飯などが炊いてある。 
紙に『
入学 おめでとう、 満男くん
なんと今日は満男の入学式!
みんなで年月の経つのは早いものだねえ、としみじみしている。

そんな時、寅が帰ってくる。

入学式帰りの母子たちを見て寅が店先の参道で
指折り勘定して、…パン!と膝を叩いて店に入ってくる。
寅「あ!とおばちゃんを指差して渥美さんのこの一連のリズムいいねえ〜!上手い!
寅「あのー、ひょっとしたら満男は小学校…じゃねえのか?
おばちゃん「うん、そうだよ
寅「そうか…やっぱり満男はもう小学生か月日がたつのは早いもんだなァ…
満男に祝い金を差し出そうと祝儀袋に名前を書く寅。
おいちゃん、サ―ッと満面の笑顔に変化(^^)
タコ社長も感激。

おばちゃん「とらちゃんどうもありがとう。ちゃんと覚えてくれてたんだねえ、さくらちゃんが聞いたらどんなに喜ぶかうるうる。

社長「あっ!あ、帰ってきた
さくら「ただいま
はっと寅に気づいて
さくら「
お兄ちゃん!

              

しかし、さくらが元気が無い。寅が事情を聞いてみると、満男が先生に寅の甥っ子だということで
みんなの前で紹介された時に、子供も親も笑っていたのがショックだったらしいのだ。


さくら「入学式が終わって教室に入ってそれぞれの席に着いてね先生が一人一人の名前呼び上げるでしょう
さくら「そいで満男の所にきたらね、先生が『諏訪満男君』って言って、満男の顔ちょっと見て、
   『あら、君、寅さんの甥御さんね』ってそう言ったら、みんながドーッと笑ったの

社長「カハハハハハ!こういうところが微妙に身内じゃないんだよなあ…社長って(−−)
寅「その受持ちはなんて名前なんだ
さくら「名前…聞いてどうするの?
寅「校長の所行って掛け合ってやるんだ!受け持ちかえろって!冗談じゃねえ、そんな教師がいるから
  ロクな日本人ができねえんだ!ふざけやがって!名前言え!はやく!

さくら「先生はちっとも悪くないわよ。ただ『寅さんの甥御さん?』って聞いただけなんだもん
それは違うぞさくら。まず、軽率な先生が悪い。
おばちゃん「そうだよ!笑ったほうが悪いんだよ違うおばちゃん、先生の配慮が足らない。
寅「笑ったのはガキどもか!親か!
さくら「両方よみんなであたしの方見て笑ったわ
怒った寅は、そんな学校転向させろと息巻くが、さくらは…
さくら「お兄ちゃん、みんなだって悪気が合って笑ったんじゃないのよ
寅「バカヤロウ!悪気があるからみんな笑うんじゃないか!

ある意味寅の感覚も分かる。先生もなぜわざわざ満男の時に限って自分が直接面識も無いし、実は噂でしか知らない、
偉人でもなんでもない寅の名前を出したのか。その先生の深層心理を考えると、いろいろ問題点が出てくる。

社長、ニヤニヤ笑いつづけている。
社長「でもさ、例えば先生が『諏訪満男さん、あら総理大臣の甥御さん?』こう言って誰かが笑うか?笑わねえだろ?ところが、
    『あら、あなた寅さんの甥御さん?』こう言うとさ、みんなつい、笑っちゃうんだよ!カハハハハ!!

社長「いや、笑われる方が悪いよな
寅「そうそう、悪い悪いこの野郎!と社長に墨を塗りたくる。あちゃ〜太宰さん今回も…(_< ;)

              

もうメチャクチャな大喧嘩(TT)
おばちゃん「もう!今日は満男の入学式なのよ!バカ!ウエエエエー…ェー…クゥ〜ズズッ」と
おばちゃん必殺チャルメラ泣き
寅、少し我に帰る。
寅「おいちゃん!おめえも悔しかねえか!
おいちゃん「悔しいよ!、そりゃオレだって悔しいよ!しかしな、寅、落ちついて考えてみろ、
      みんなが笑うってことはだよ、今までお前が笑われるようなことをしてきたからなんだ。
      だから悪いのはお前だ。そこんとこをよーく考えて


寅「オレがなにしたってんだよ!オレ今帰ってきたばっかりじゃねえか!そうだろおばちゃん、えっ?
そしたら満男の入学式だって言うからさ、せめて伯父貴の真似事でもしてみてえって思って
祝儀袋もらって中に金入れて渡そうと思って待ってたんじゃねえか!
それがどうしてこういう事になっちゃうんだよ!え!一体オレが何悪い事したって言うんだよ!

寅はいつも体裁が悪い事はよくしてきたが、悪いことはしていない。昔も今も。

                

寅「タァーッ!ったく、くそ面白くも何ともねえや!まったく!!おりゃあ、どっか行って飲んでやらあ!と飛び出していく。、
やっぱり今回もおいちゃんついつい寅に愚痴ってしまった。何かあるたびに寅はおいちゃんに説教される。
これは寅にとってはつらいことだ。無条件で寅を迎い入れることの難しさを感じざるを得ない。


テーマ曲が悲しげに流れる。

満男、冷静に祝儀袋の中身を偵察!さすが(^^)
寅が書いた「祝 寅」の文字が悲しい…
                

源ちゃん題経寺の鐘を打つ。ゴォ〜ゥン…
夜 とらや 茶の間
とらやのみんなは昼間、寅につらく当たったことを反省し合っている。
電話 リリリーン リリリーン!
上野の飲み屋の赤電話で寅が電話をしている。
さくらは、昼間のことはみんな言いすぎたと反省している事を寅に告げる。
さくら「博さんもね、今ここにいるんだけど、…言ってたわよ。『総理大臣がえらくてお兄ちゃんがえらくない
   なんて誰が決めたんだって同じ人間じゃないか』って、だからお願い、ねっ帰ってきて

さくら「おばちゃんが今言ってるわ。おいしいお芋の煮っころがしと何?がんもどきの煮たの作っておくからって。
だからお願い帰ってきてお兄ちゃん出ました寅の2大好物が揃い踏み!!
だから…て、食いもんで釣ってどうするさくら。寅はガキか(^^;)

で、結局寅はみんなに心配されて上機嫌になる。やっぱり、なんだかんだ言っても、みんなの待つとらやに帰りたいものね。
電話の後、引き続き、気分よく酒を飲む寅。その店で画家の池ノ内青観と出会うのだ。飲み食いの支払いができない青観を、
見かねて助けてやる寅だったが、助けついでになんととらやまで深夜連れてきてしまうのだった。




A【我がまま放題のニ階のジジイ】

出ました寅の2大好物が揃い踏み!!

深夜 とらや  ドンドンドン!
おばちゃん「おそかったねえあんた、さんざん待ってたんだよ
寅「ああ、そう、とっつあん!さんざん待ったってよ!待ってたってよ! エンコラショと!ああ、アハハハハ!
  あ〜あ、おう、おばちゃんこの爺ィ無一文で
泊まるところないからね。今晩家にとめてやってくれやナッ!

               

おいちゃん「どうなってんだこらあ!
おばちゃん「ちょっと寅ちゃん
で、怒りながらも、しかたなく泊めてやる優しいおいちゃんでした。



翌日  とらや

とらや二階

工場の音がうるさいと文句を言う青観
おばちゃん贅沢言うんじゃないよ!よそのうちへ来て。お風呂場で顔洗いな。その間にね、朝のご飯作っといてあげるから
青観「その前に茶をもらいたい梅干を添えてな
おばちゃん「ええっ?
青観「あ、それから風呂だ、うんううん、風呂は沸いとるか
おばちゃん「まあまったく!

一階に下りて来るおばちゃん。

おばちゃん「あのクソジジイ!糞をしない爺はいない(^^)
おいちゃん「何だい、どうした
おばちゃん「お腹すかして帰すのも可哀想だと思ってね、朝ご飯の支度してやるって言ったらね、その前に風呂に入りたいだって!
おいちゃん「風呂!
おばちゃん「どうする!?一応迷うところがおばちゃんお人好し(^^)
おいちゃん「どうするったってお前そんなもん沸かすことなんかねえ!

                

社長「よしッ!オレが言ってやるよ!なんだふざけやがって

とらや二階
社長二階に上がってきて
社長「あのね!言いたくもないけどね…!!
青観「プ〜ゥゥゥゥ〜〜!プゥン!くっさい屁(^^;)
うわわっ (**;)=))))))))
宇野さん、最後のン!」でお尻をプルルンと震わせるところが名人芸。奥が深い(^^;)。


青観一階へ下りてきて茶の間に上がり。

青観「風呂は沸いたか?
おばちゃん「今言って今沸くわけないでしょ!

                   新聞逆さまだぞ(^^;)
                

青観「じゃ、急いで沸かせ偉そうだな(−−)
おばちゃん「分かったよ、沸かすよ!おばちゃん優しい(^^)
おいちゃん、怒って新聞読むフリして知らん顔。
新聞が逆さまだよ、おいちゃん
ヾ(^^;)
青観「は、おはよ。
おいちゃん「怒り心頭!店のほうへ下りる。(▼▼メ)
おいちゃん「ドタタッ!と転ぶおいちゃん(^^;)
青観「危ないよ
出た!第14作に次ぐ、久しぶりの下條おいちゃんの転びギャグ!
起き上がって、怒りながら店ではたきを使ってほこりをはらってる。
パタパタパパッタ
やって来たさくら、おいちゃんのはたき姿を見て、
さくら「
あら、どうしたの珍しく働いてんのね1本〜!技あり(^^)

茶の間でドデェっとしている青観を見て、さくらも博も????
可哀想に結局風呂を沸かすはめになるおばちゃん(TT)


お大師さんの縁日
源ちゃん「兄貴、寝てばっかりやったら商売なりまへんがな
寅「フッ!ハーッ〜フエイ…。二日酔いは頭痛ェや、なあ…、大師の縁日だからって無理に来ることはなかったよ。



夕闇迫る 柴又 とらや 

寅が帰ってきている。

博「あの目つきは普通じゃないな。妙に鋭いと言うか…
社長「そうそう
おいちゃん「犯人の目だなありゃあ犯人って…(^^;)
おばちゃん「ひょっとしたらスリかなんかの親分じゃないかい全国指名手配で逃げ回ってんだよきっと
寅「ま、いいからいいからさ、それでどうしたい
さくら「あたしが買い物から帰ってきたらね、『君枕出してくれないか』ってそう言ってね、座敷で寝てグーグー寝ちゃったの
寅「ほほほほほー!やるねえジイさん、ええ、それでどうした
さくら「5時ごろだったかしらノコノコ起きてきて、またあたし捕まえて『君、ここは一体どこだい』…こうよ
倍賞さん、青観の口真似笑える(^^)渥美さんも笑っている(〜〜)              
寅「てめえのいる所もわかんないの
さくら「ちょっとおかしいんじゃない(^^;)
おばちゃん手でクルクルパーする(^^;)
博「で、何て答えたんだい
さくら「うん、『葛飾柴又の帝釈天の参道ですよ』ってそう言ったら
   『ほお。じゃあうなぎが美味いところだ夕食はうなぎいいな』だって

社長「カハーッ!ひどいもんだねえ!唾が博まで届く(^^;)
さくら「おいちゃんに叱られちゃったの。ねっ

― おいちゃんのアリア ―

おいちゃん「だから言ってやったんだよ。うなぎなんてモンはな、我々額に汗して働いてる人間たちが

              

     月に一度か二月に一度、なんかこう…おめでたいことでもあった時に
     『さっ、今日は一つうなぎでも食べようか』って大騒ぎして食うモンなんだ

      『お前さんみたいに一日中何んにもしねえで
     ゴロゴロゴロゴロしてる人間がうなぎなんか食ったらバチがあたるぞっ!』
     そう言ったらな、あのオヤジ、
     『オ、それもそうだな』立ち上がってプゥ〜っと出てっちまった。ンッ!それっきりだい…


              

下條おいちゃんの見事な『アリア』でした。

さくら「お礼も言わないのよ
博「お世話になりましたとか、ありがとうございましたとか…
さくら「ううん
おばちゃん「なんにもただプイっと出ていっただけ
社長「泥棒だよ泥棒!とみんなで怒りでプンプン。
しかし、寅は、どおせ家では若夫婦に除け者扱いの身分だろうからそれはそれでいい功徳をしてやったのだと言うのだった。

寅「夜中にふと目がさめる。隣で持ってせがれ夫婦の寝物語。そりゃ聞きたくなくたって聞こえてきちゃうもの、ええっ
  『ねえパパ、あたし今日友達と会ったの。うらやましかったわあ!お舅さん死んだんだって』

おいちゃんドキ!

          
  『うちのおじいちゃんいつまで生きてんのかしら嫌になっちゃう!』
  『でもなあママそんな事言ったってお前脳溢血かになってヨイヨイなって
  おしめか何かあてがっていつまでも垂れ流しになってたらかえって困っちゃうじゃないか』


               

  『そりゃそうねえ、うちのおじいちゃんもポックリ行くとは限らないし』
  『アーア…、パパ、寝ましょうか』『うん、そうしよう』『スタンド消して』うん、プチュ(^^;)            
  これは地獄ですよ!年寄りにとって!
 
 ええ?せめて一日このうちから逃げ出して意地悪な嫁のいないところでぐっすり寝てみたい。
  この気持ちはよぉーく分かるなあ。
  タコ
お前人事じゃないぞ。お前だってすぐアーなっちゃうよ。お前んところのあのできの悪い息子がだ、
  お前の将来どれだけ優しくしてくれると思ってる。ええ?甘いよ


第6作「純情篇」を見ているかぎりは長男、長女、次男、次女の計4人の子供がいる。
シリーズ後半で出てきたのは長女の「あけみ」のみ。あとの3人は
話題にすら出てこない。


一同、納得している。
           

柱時計が7時の時報を打つ

青観、酔って、歌いながら店先から入ってくる。
青観「♪幼い〜わたしが〜、ときたあ!むーねこーがあ〜し〜、てかあ
青観「酒飲んだら家かえるのが面倒になって。また世話になるからな
タコ社長の頭を手の平で触ってグリグリ(^^;)
青観「おかみさん夕飯はいらんよ。うなぎ食ってきたからガハハハーッ!!
青観「♪しぇんしぇーい、しぇんしぇーい、オレは待ってるぜー、だと這うように階段を上がっていく青観
一同 ポカァーン(^^;)
寅だけ、面白がってニヤニヤ笑っている。

寅「あ、誰か来た、はいはいなんでしょう、はいはいなんでしょう?

               

魚甚「あの魚甚ですが今のオジさんの勘定お願いしたいんですが請求書をおばちゃんさくらに渡す。
   さくら、金額見て、ちょっとびっくり。
おいちゃん畜生!もう我慢できねえと立ち上がろうとする。
寅「、いいからやー、おいちゃん今日のとこはオレが代わって払っておくからさ、ね
おばちゃん「だってあんた
寅「いいよ明日オレからよく言っとくから、兄さん、どうもご苦労さん。ちょっとかしてみな…
  えっなん…おほほ、うなぎと酒でもって600円か勉強したな

さくら「6千円よ…
寅「そうだよ…!…??
さくら「6千円
寅「ウソだいお前・・・・請求書もう一度見て、焦って百円下に落としてコロコロ…コインを目で追う寅。とほほだね寅(^^;)



B【チョロチョロっと描いて7万円騒動と寅の旅立ち】


翌日  とらや二階

寅「別にここを出て行けって言ってるんじゃないんだよお前が一文無しの年寄りだってことはみんな承知してるんだから、
いや、今までどおり泊めてもやるし、飯も食わしてやるけどもさよその店いってこうやってうなぎなんか食ってきてね、
その勘定をこの家の者に払わしたりしちゃいけないんだよ。遠慮ってもんがあるだろう。
宿屋じゃないんだから

青観「!!…宿屋じゃない?なんだここ宿屋じゃないのか
見りゃ分かりそうなもんだ。草団子って旗に書いてあるのになあ。(^^;)
寅あきれ返る。こんな汚い家が宿屋のわけが無いだろと笑っている。
青観「そうか…、宿屋じゃなかったのかとモンペを穿く青観。



とらや 二階

なんとか、お礼をすぐに払おうと、苦肉の策を考え出す青観。満男のらくがき帳に真剣な表情で、神経を集中させ、
『宝珠』を描き、サインを入れる。
それを寅に渡す。

寅「なんだいこれ?玉ねぎか?
青観「いや、玉ねぎじゃない。これは宝珠と言ってな、縁起物だ
寅「ふーん!

                

これを神田の大雅堂に持っていってくれと頼む青観。

青観「いや、決してこれはそう言う性質のものじゃないんだから、無駄足はさせない。たのむよ…なっ、このとおり

青観さん、すでに売れることを確信してしまっている。これって自分の名前(名声)で、人が買うことを想定しているってことだ。
つまりよく言われる耳(名前、肩書き)で買うパターン。それは絵を描く人としては退廃だ。絵というものを愛していない行為。
かりにも日本画の最高峰と言われるような本物の画人なのであるならば、自分の名声を利用して、耳で買わせるようなことを
せず、こういう場合は、絵とは関係無しに、足を使って、一般の方々と同じように、自分が自宅に帰って、かかった費用を多くもなく
少なくもなく封筒に入れて礼状と粗品と一緒にとらやに届けさせるのが筋だと思う。まあ、映画だから面白くするためには
水戸黄門的ギャップが必要なのでしょう。


神田  神保町

大雅堂 

寅、店内に入ってからも恥ずかしがって見せるかどうかオドオド迷っている様子。
店主、ちょっと気になって寅に訳を聞く。それでとりあえず見せろとせがみ、見てみる店主。

店主「フフフフフ…青観…。人もあろうに青観の名を騙るとは。いいかね、青観とは日本画の最高峰だよ。
 
それも色紙の類を一切描かないので有名な先生だ!贋物を描くならあんた…フフフ、それくらいのことを知ってないと…」
店主「…待てよ…おかしいな…これは…、…あんた、これどどどこで?上手い!

                この表情が出来る人は大滝さんだけ。
                


寅、恥ずかしがって絵を店主から奪い返そうとする。
店主、寅の手をスッとかわして、絵を持ったまますっと奥に。
店主「吉田、ちょっと
吉田さん、青観のサインを確認。真筆と断定。
この店はこの目の利く吉田さんで持ってるなこりゃ。こういう人って意外に少ない。この点も彼を雇っている店主は商売上手。
店主「あんたこれ売るんだね?いくら?え?いくら?
おいおい、そんな焦っちゃって、買いたがってるのバレてるぞ、ご主人さん ヾ( ̄o ̄;)
寅「そうねえ、いくらって…寅はあくまでも無欲。
店主「断っておくけどそんな高い金は出せないよ、落書きのようなもんなんだから。いくら?早く言いなさい
『早く言いなさいって』、いよいよバレてるよ (^^;)
寅「それじゃあ電車賃使ってきたことだし…指を一本もちろん千円
店主「そりゃ高い。いくらなんでもそんな高い金出せないよ
寅「負けるよオ、オレもちょっと高いんじゃなえかなと思ったんだ
店主「これでどうだ?これなら買うと手をパーで5本
寅「半分か…?五百円
店主「じゃ、もう一本色つけようこれだな、これ、これで決まったな、いういだろうもう一本
寅「まー、まーしょうがねえな六百円
六百円で手を打つ寅の感覚もある意味、世俗を超越していて凄い(^^;)
店主「吉田、6万円の領収書いて!店主さんいやに必死だね ( ̄  ̄ )
寅「おじさん、今何て言った?6万円!?と、目を白黒

                      6万円!?
               

店主「気に入らないか?えっ?よし、じゃあもう一本色つけよう、
あ、寅ラッキー、店主の妙な早とちりで1万円得しちゃったよ(^^)
手で7本の指立てて
店主「これで決まり、吉田7万円だ、7万円

この店主の焦りようから考えて10万円でも買ったね。寅は相場がよく分からないのでこうなってしまったが…。
粘りまくれば15万円でも買ったかもしれない。


画用紙に落書き程度だとしても、色紙の類を一切書かない日本画の巨匠、青観の絵は熱烈なコレクターの中では
名声と希少価値のダブルで、高値がつく。ましてや、落書きのわりには
『サイン』がしてあるので、信用度は高い。
このサインの有無が大事。青観もそこのところはしっかり押さえてサインしていた。それゆえ耳で買う人もいるだろう。
そうなると当時の物価でさえ市場で競り合うと末端価格は最低30万円以上はするだろう。このオヤジはかなり儲けたね。



柴又参道を走る寅

とらや 

寅「さくらッ!さくらっ!ちょっとこいさくら、お前驚くなよ。
驚いてるのはあんただよ(−−;)
ピラピラピラっと札束を目の前でちらつかせる。それじゃ犯罪者の行為だよ(^^;)。
                   
               

さくら「お兄ちゃん、すぐ返してらっしゃい!だめよそんな何してもいいけど悪い事だけはしないで!
悪いことだけはしないで、ってさくらァ〜(^^;)

でも、そうなるよな。寅のこの超妖しい行動見たら誰だってね…。とは言うものの、
さくらの先入観も相当のもの。盗んだって決め付けてるもんなあ(ーー;)

寅「バカ野郎!オレの話をしまいまで聞けって言うんだよ、いいか、この金はな2階のじいさんが
 あのちょろちょろって描いた絵あるだろあれもってったら7万円で売れちゃったんだよ、お前

さくら「嘘よ!信じないだろうね(^^;)
寅「お前は信じないだろうけど落ち着けって。いいか、あのじいさんはな日本でも有名な絵描きなんだってんだよ、
名前はね……あれ?堀の内じゃねえやい…池ノ内

さくら「青観?
寅「そうそうそう!その青観だよ!
さくら「あらー、どっかでみた顔だと思ったら…、そうよ、池ノ内青観
寅「なんだ、おまえ知ってんの!?
さくら「うん、写真でよく見るわよ。あらぁ…、あの人…
寅「さくらぁ!、おまえ、もう暮らしの心配なんかするこたあないよ、え!博のヤツは裏の工場辞めさせちまえ!
  おいちゃん、おまえも団子なんか作るの止めろ!
明日からな、面白楽しくホカホカホカホカ暮らすんだよ。え!
 蒲焼だろうとてんぷらだろうと食いたいもんどんどん食っちゃうだ!」
そこで食い気にいくか(^^;)
 それでもし金が無くなったら、
2階のジジイの尻引っ叩いてね、ちょろちょろと描かせりゃ7万円だよ、フヘヘヘ!ヒヒヒ!

 と飛び跳ねて喜んでいる。
凄い発想だね〜、それじゃ爺さん猿回しの猿だよ。┐(-。ー;)┌

青観がつい、やってしまった軽率な行為が、このように、ただでさえ低い寅の労働意欲をますます低下させるのだ。

しかし時すでに遅く、青観は2時間も前に帰ってしまっていた。

寅「バカやロー!!何で帰したんだよー!!

表に飛び出て
寅「7万円!露骨…。金額言いながら走っていくなよな(^^;)
あっち向いて、向こう向いて、
寅「おい!おい!と、走っていく。
さくら「池ノ内青観… さくら呆然



夜 青観の屋敷

表札 池ノ内 寓  『寓』とは昔の風流な家などで使われた言い方。隠遁して暮らす家とでも言うような意味。
引き戸を開けて青観が戻ってくる
今作品も、岡本茉利さんがお手伝いさん役で登場!!

青観「二晩も家を空けて、大変失礼しましたと二階へ上がっていく
妻「うーん、またそんな格好でぇ。何処行ってらっしたの?
黙って上がっていく
青観さん、家ではかなり居心地悪そう…

                


われらのアイドル岡本茉利さん、このシリーズ登場作品一覧!

 寅次郎恋歌………鮮烈なデビュー!大空小百合
 葛飾立志篇………ラストでの西伊豆の連絡船ガイドさん
 寅次郎夕焼け小焼け……… 池ノ内青観家のお手伝いさん
 寅次郎純情詩集………夢の中でカスバの女性&大空小百合
 寅次郎と殿様………大洲での料理屋の店員(出前)ほんの一瞬だけ
 寅次郎頑張れ!………夢でとらやのお手伝いさん&大空小百合
 寅次郎わが道をゆく………留吉の元彼女(春子)「あんた何くれた!?」
 翔んでる寅次郎………寅に便秘薬を渡した看護婦さん
 寅次郎春の夢 ………大空小百合 「ミーバタフライ!ミーバタフライ!」




とらや

雑誌のグラビアを見ているさくらたち    青観の特集 『日本画壇の孤高  池ノ内青観 』
さくら「どうしてウチなんかに泊まったんだろう?そんな偉い芸術家が…
みんな、ああいう人はいろいろ人には言えない事情があるのだろうと推測している。
おばちゃん「そんな偉い人に、私もなんて口きいちゃったんだろうねえー、今思い出しても顔から火が出るよ…
みんな口々に酷いことを言ってしまったとか、子守させちゃったとか反省の気持ちを言い合う。
絵が上手に描けるというだけで別に人間的に偉いわけではないんだが…。『そんな偉い人でも、
あんなふうに人に迷惑を平気でかけるんだねえ』って言うふうに考えられないのが悲しいところ。


寅「おばちゃんいけないんだよ!あのじいさんをもっと親切に扱ってやったらこの家が気に入って
一生ここにいようって言ったかもしれないんだよそしたら一枚
ちょろちょろって描いて7万円じゃないかよ

もう寅って、そればっか(^^;)

社長「はあ……俺も働くのやになっちゃった、そうだろう?あのじいさんちょこちょこっと描いて七万円。
   そんだけの金を稼ぐにはオレたちはどんだけ働かなきゃなんねえか

分かる分かる社長の気持ち(- -)しかし、指で丸作るのちょっと下品…。
おいちゃん「しょうがねえやそりゃ生まれた星が違うんだからなるほどね。おいちゃん年の功だね。
社長「そうかねえ社長、なんだか悔しそう…。

満男「お母さん、描いてもらったの
さくら「あ!上手な絵ね、誰に描いてもらったの? 気づけよな、さくらヽ( ̄▽ ̄;)
満男「おじいちゃん

                 

さくら「えっ?2階に居たおじいちゃん!
満男「うん

社長「ちょ、ちょっと見せて
寅「おっ!なにすんだよと社長の絵を取り上げる。
社長「見たっていいだろうと寅がもっている絵を取り返そうとする。

社長「
あっと絵が真っ二つ!(><;)
さくら「あらっ
寅「お前がやったんだぞ
これでいつものように二人は大喧嘩。
社長「わかったよ弁償すりゃいいんだろう
寅「ケーッ!よく言うよ、お前これいくらだと思ってんだい?7万円だぞ!お前弁償出来んのか!
社長「馬鹿にしやがって工場を売ってでも払ってやるよ!オーバーやの〜(^^;)
寅「工場?どこにあんだい?あれが工場か?よく見ろお前、あれが七万円で売れるのか!
  ただでもらったっていらねえやい!!この野郎!

と社長の首を無理やり手で工場に向けるあんまりだよ、その言い方は (-_-;)

                 

さくら「お兄ちゃん謝んなさい、謝んなさいってば
社長「コンチキショウ!コンチキショウ・・コンチキショウ!!と泣きながら絵をちぎってバラバラに破いてる。

社長にしてみたら真面目にコツコツ働いて7万円稼いでいるのに、こんな紙に落書きしただけで7万円もらえることが、
人を小馬鹿にしているようで許せないんだろう。ああいう絵の売り方は絶対しちゃいけませんよ、青観さん(−−)


寅、帽子を被り、カバンを持って土間に出る
さくら「何処へ行くの?ねえ

                 

寅「この家で揉め事があるときは いつも悪いのはこのオレだよでもなあ、さくら、オレはいつもこう思って帰って来るんだ。
今度帰ったら、今度帰ったらきっとみんなと仲良くらそうって、あんちゃんいつもそう思って…
表に出て行ってしまう。
さくら「お兄ちゃん…
さくら、表に出て、
さくらお兄ちゃーん
いつまでも寅の背中を追っている。

ちなみに、あの絵は破いていなくてもこの前のようには7万円ですぐに売れないと思う。
なぜならば青観のサインがしていないからだ。絵を売る場合サインは大事。



C【播州龍野での再会とぼたんとの出会い】


青観の屋敷 玄関

さくらが青観の絵を売って手に入れた7万円を返しにわざわざ家までやって来て、奥さんに渡す。
青観はどうやら播州龍野に仕事で出かけているらしい。


こういうところが、さくらは実にきちんとしている。全額すぐに返すなんてなかなかできないよ。
人はお金にはギリギリでは弱いからね。


                




播州 龍野

しっとりとした昔ながらの情緒が残る町。その田舎道を旅を歩いている寅。なんと青観を乗せた車が偶然、やって来る。
相変わらず天文学的確立の偶然、ありえねえ〜(^^;)

寅「おじさん…あっ、おじさんなんて言っちゃいけなえんだ、あんた有名な人なんだってね、日本でも
青観「へへ、その節は世話になったね

               

寅を乗せた車は出発するが、なんと課長を置き忘れていた
課長、置いてけぼりをくらって、後ろから寅のカバン持ちながら走って追いかけてくる。(><;)
桜井センリさんって、こういう役って実に似合う!いつもは柴又参道の麒麟堂の主人なんかやってる。
桜井さんのはまり役はこの課長役と第20作の神父さん役!
前の座席に寺尾聡さん、後ろの座席に宇野重吉さん。実現した親子共演。



龍野市役所

龍野市役所の市長室 応接間
どうやら青観は事前に龍野市から絵を描くことをお願いされているらしい。

市長「龍野の市長でございます、ご苦労様でございます。
寅「あ、こりゃ市長さん、ご丁寧なご挨拶どうもうちの年寄りがお世話様になりまして
おいおい、いつから青観の身内になったんだ。お陰で市長たちはすっかり誤解しました(^^;)
市長「…!い、いや、とんでもない
寅「なにしろ頑固もんですからね。どちらに行きましてもご迷惑ばかりおかけいたしましてへへへ適当〜 ┐(~ー~;)┌



梅玉旅館  立派な伝統のある店構え

宴会の準備が出来、芸者さんたちも集まっている。
最初に龍野市長が長々と演説をしている。
寅、あくび。青観も嫌がっている。青観は先に失礼するから寅に後は任せるって言ってしまう。
寅「ち、こんなとこ来るんじゃなかったなあ…オレ
市長まだ長々としゃべっている。
超暇そうに料理をもて遊んでいる寅
寅、サトイモを畳に転がらせてしまう。
コロコロ… あちょ(( ̄ ̄0 ̄ ̄;))
芸者のぼたん気づいて笑っている。

                

寅も、ぼたんに気づいて「二カッ!」と照れ笑い。
箸でサトイモを刺そうとするが、失敗して
コロコロ…(|||_|||)ガビ〜〜ン
座敷の真ん中まで転がる。
寅、そ〜っと真ん中まで歩いてサトイモを追いかける。((((((((((; ̄ー ̄)_/…。。。。
市長、それ見て、プレッシャーを感じてる。
みんな、市長の演説聞かないでサトイモの行方をひたすら注目。( ;→_→)
追いかけまくりようやく箸で刺す寅。

                     ジィ――…
               

市長、寅に翻弄されて、タジタジ…、言葉が出てこない。(^^;)
照れながら戻り、笑いながらぼたんに見せる寅。
それでもまだ続く市長の演説(__;)

寅、ぼたんに三味線を弾く真似。あくび。眠くてヨダレを出す真似。
寅、遂に市長を見て怒って手でぺケ。

ぼたん声を出さずに大笑い。

宴会  三味線と太鼓と踊りで大いに盛り上がっている。
一段落して 深夜 ほとんどの客が帰って寅とぼたんと係長と課長とが残っている。
桜井センリさん扮する課長は昔先祖が足軽。係りの脇田が殿様だったらしい(^^;)

ぼたん「♪とけて流れりゃ
寅「♪みーなおーなじ!パン!パカパパンパ
二人で「♪ン、パン!パカパパンパ

              

ぼたん「キャハハ

寅、課長に歌をしつこく要求。
寅「ちょ、ちょっと、ちょっと歌って…なっちょ、ちょっと
課長、遂に観念して。手拍子を自分でとりながら
課長「オホン…♪とぉけてなあがれりゃみぃぃなお〜〜なじぃ〜……?朗々と歌う(^^;)

一瞬の空白ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ
ぼたん「プー!!キャハハハ、アハハハハ!ヒー!ハハハハ!
寅もぼたんの方向いて笑っている。
係の脇田ふき出して転げ廻る
脇田「プー!!カハッ!カハハ!ガハッ!ゴホン、ゴホホ…
課長いい味出してるね〜(^^)明日からどうなることやら…。



梅玉旅館

自室で眠りこけている寅だが、青観が市内見物をさぼったので、寅にその役が回ってきてしまったのだ。
車は山崎街道や揖保川の向こうに見える鶏籠山の近くを通り走っている。
寅、無理やり車に乗せられっため、ほとんど眠っている状態(^^;)
課長「私どもとしてはですね、この鶏籠山をぜひ、青観先生に描いていただきたいと希望しておりますが、
結局車が龍野公園に止まった時は、3人とも完全に居眠り(^^;)昨晩あれだけ騒げばそうなるよね。

              



蕎麦屋(揖保そうめん屋)  

3人でそうめんを食べている

おそらく龍野名産の『揖保そうめん』だ。
私の親も大阪なので揖保そうめんは、しょっちゅう食べた記憶がある。

課長「こんなとこで何でございますが、他でもございません。大先生に描いていただく絵のお礼ちゅうか、
   お値段ちゅうか、どれくらいの予算を見とけばよろしいのでしょうか。財政部長もえろう心配しておりますさかいに

寅は正直に落書きでさえ7万円だと言うと、ビックリしてしまう課長さん。
課長さん、追い討ちをかけるようだけど、寅が言った7万円は絵を中間業者に売る時の裏の値段。末端価格は簡単な
落書きでさえ20〜30万円ほどになるだろう。

課長「ご存知のように地方財政はきわめて困窮しておりまして…もちろん…市といたしましても…

寅、ぼたんに気づいて
寅「おほい、ぼたん!
ぼたん「いやー、寅さん!今ごはん?
三味線で『ぼたんのテーマ』が流れる。
寅「うん、来い来い、こっち来て食え、こっち来て食え、え、おいおい
ぼたん、課長に、「どーも」と笑顔
寅とぼたん、顔を見合わせて、同時にカハハハ!と大笑い。
昨日の宴会を思い出したんだろう。おそらく課長のあの歌(^^;)
ぼたん「もういや!アハハハハ!ねー、ハハハ!」と笑い転げている。
寅「ハハハ」とぼたんを見て笑い、脇田を見て笑う。
課長、下見てシュン…。

              

                       

D【志乃さんと青観運命の再会。そして人生の二つの後悔】

龍野の古い家並みが続く道

青観が歩いている。自分の母校の小学校を見ている。
藩主脇坂公の屋敷がそのままカトリック教会になっている。

志乃の自宅 

古い趣のある屋敷の中を覗きこんで、玄関に入っていく青観。

青観「ごめんください
お手伝いさん(弟子)はーい
お手伝いさん玄関に座ってお辞儀
な、なんと彼女は、第7作のマドンナ、花子ちゃんを演じた榊原るみさん!!ノンクレジットで友情出演!!

青観「
お志乃さん、ご在宅ですか
お手伝いさん「はい
青観「池ノ内と申しますが
お手伝いさん「はい

             


お手伝いさん「先生、池ノ内様とおっしゃる方がみえてますけど」。
志乃「はい

この、戸惑いのない「はい」は、まるで青観が訪ねて来ることがうすうす予感できていたようだった。
この志乃さんは何十年も青観に会っていないにもかかわらず、青観の気持ちが見えているのかもしれない。
私は、この「はい」に青観と志乃さんの運命的な繋がりの深さを感じ、彼女の隠された情念をも感じてしまった。


しばらくして、志乃さんが現れる。

顔が華やいで、懐かしさを隠しきれない志乃。
志乃、上がり口に座る。
青観「わかりますか…

                

志乃「和夫さんでしょう?
青観「ええ
青観の本名は「和夫」なんだ…。
志乃「お見えになっとることは聞いとりました。どうぞ
青観「あ、じゃ…

なるほど…、青観がなぜ今更故郷龍野にやって来たのか、本当の訳がわかった気がする。

やがて時間が経ち…

夕陽に照らされて美しく流れる揖保川と鶏籠山   赤とんぼのメロディがゆったりと流れる。
しっとりと落ち着いた龍野の夕暮れ時、芸者さんが古い町並の中をお座敷に急いでいく。



一方こちらは
梅玉旅館 座敷

寅「ハハハ!
芸者たち、課長を囃したてている。宴会芸をいやがる課長。この課長には実は十八番の芸がある。
ぼたん「あかんあかん、課長さん踊らなあかん
課長「ぼたん、笑うな今日はと用意をしに隣の部屋へ。
おいおい、宴会芸なんだから、笑わせてなんぼだよ。課長さん ヽ(´〜`;

ぼたん、芸者さんたちが戻ってきたのに気づいて、
ぼたん「あ!待ってました色男!
寅「よお、待ってました!

拍手
三味線が入る。

課長「♪あたしの〜ラバさ〜ん〜両手の人差し指を頬に…
びょえ〜〜〜〜!!!
\((( ̄( ̄( ̄▽ ̄;) ̄) ̄)))
 ♪酋長の娘ェー
寅もゲラゲラ笑っている。

 ♪色は黒いがァ…
顔を前後にカクカク桜井センリさんていったい…ヽ((T▽T;)
脇田、後ろ振り向いて噴出す。
ぼたん「アハハハ!!
寅「歌えっ!もう一回やれよ!歌おう歌おう

一同「♪あたしのラバさん〜酋長の娘ェー色は黒いがァ…みんな大笑い

              




志乃の自宅

あれから、随分長い時間が経っていた。
お茶の用意をしている志乃。

青観「僕の絵をたまには見ますか
志乃「へえ、去年京都で個展をなさいました時、観に行きました
お茶を出す。
青観「…そうですか
青観確かあの中にも、あなたを描いた絵があったはずだが…
志乃「へえ、気がついておりました下を向いて、少し頬を赤らめ照れる。
青観「……

青観は、志乃さんを想いながら1枚の絵を描いたのだ。もう何十年も会っていなくても、その想いは絵に託されている。
これ以上の愛の告白はあるだろうか。その絵を見れば、絵描きがどのような思いで、その絵を描いたかが分かる。
志乃さんは、その絵を京都で見た時、きっと救われた思いがしたのではないだろうか。

どこからか、琴の音が聴こえてくる。
庭を眺めながら…
青観「…静かだな

                

志乃「でもねえ、あんまり静かなんも、一人暮らしには寂しゅうて、フフ…志乃さんは独りを通してきたんだ…
青観「お志乃さんと志乃の方へ座りなおす。
志乃「
青観「申し訳ない…と、頭を下げる。
志乃「どないして?
青観「僕は、あなたの人生に責任がある
志乃、少し微笑んで
志乃「和夫さん、昔とちっとも変わらしまへんな、その言い方
青観「いや、しかし…僕は後悔してるんだ
その言葉に対し、僅かに志乃の目の力がきつくなる。

志乃「…じゃあ、仮にですよ、あなたがもう一つの生き方をなすっとったら、
   ちっとも後悔しなかったと言きれますか?

                

青観「……
                
志乃「私、このごろよく思うの、人生には後悔はつきものなんじゃなかしらって、
   あーすりゃよかったなあ、という後悔と、
   もう一つは…、…どうしてあんなことしてしまったんだろう…、という後悔…


青観を静かに見つめる志乃
青観「……
下を向いて、涙を潤ませている青観。
ふたり、だまって庭を見る。

志乃、もう一度青観をそっと見つめ、場をずらし、横でお茶の用意をする。

青観は黙って庭を見ている。
静かに流れていく時間

ふたりには、いったいどのような青春の物語があったのだろうか、青観の一元的な人生の考え方を瞬時に見抜き、
相対的に言い換えて彼の迷いを救った志乃。しかし、それは青観の人生の業をも同時に言い当ててしまう、諸刃の剣でもあった。
ある意味優しさと厳しさが同居した、彼女の人生を全て統合したエネルギーの強い言葉だった。彼女は結婚をせず、静かに故郷で
暮らしている…。
彼女は自分の人生に腹をくくっている。背筋がピンと伸びているのだ。青観は彼女のその生きざまに、
心底救われた夜だったのかもしれない。しかし…、彼女はほんとうに自分の人生に迷いがないのだろうか…。
ともあれ、私は、第17作のこの志乃さんの言葉によって蘇生し、この十数年間を生き延びてきた気がする。

役者はその演技に生き様が出る。これは私の確信だが、そのことを見事に私の目の前に突きつけてくれたのが
第15作「相合い傘」の時の寅のアリアを語る渥美さんの姿かたちであり、そしてこの第17作「夕焼け小焼け」で人生の
二つの後悔を語る岡田さんのあのお姿だ。
役者とは、この世界の成り立ちをその姿そのもので語ることが出来る芸術家なのだといまさらながらに思い知らされた。




E【青観を見送る志乃さんの後姿】


翌朝、梅玉旅館前

課長「すんません急いでください、あまり時間がないさかいに

ぼたん「寅さぁーーぁ〜〜〜あん!!走ってお土産を渡しに来るくるぼたん。凄い服(^^;)
三味線 ぺぺぺぺぺぺ、ペポペポペポ

               
車に乗った寅。
寅、ぼたんを眩しく見つめ…。
寅「
おう、ぼたん
ぼたん「うん!?
寅「いずれそのうち所帯持とうなよく言うよ(^^;)
ぼたん「ぷふふっ!ほんま?
寅「おお
ぼたん「嘘でも嬉しいわァ!
寅「そうかい、エヘヘヘ…
ぼたん「フフ!ウフフフフ、あてにせんと待っとっからねーと、豪快に車を追いかけ両手を降り続ける。
寅「あ!あばよ―ッ!

車が道を曲がる。
寅「なかなかキップのいい子だねえ、え?課長さん
課長「はいー、あれが龍野芸者の代表です課長さんいいこと言うねえ(^^)
寅「はあ〜なるほどねえ

車はスピードを出して走っていく。

青観、前方を見て顔色が変わる。           

志乃さんが見送りに道に出ている。             

志乃さんは車が通り過ぎる瞬間に後部座席の青観を見る。
志乃さんを見つめたまま小さく頭をさげる。

なんとも穏やかないい顔。

              


志乃さんはひたすら青観を見つめながら頭を下げる。
見る見る志乃の姿が遠ざかっていく。
もう見えなくなるその刹那 志乃さんは、手をそっと上げ、小さくふる。

まるで青春の日の少女のように…


            


スピードを出して走る車の窓から小さくなっていく志乃さんの姿をいつまでも見つめ続ける青観。

遠く離れて行く車をいつまでも背伸びをして見送る志乃さん。

志乃さんはいったい何時間あの場所で青観を待っていたのであろうか…。



こんなひそやかで美しく昇華された愛の交流のシーンはこのシリーズで、この場面を置いて他にない。
昨晩、あんなに気丈夫に青観に自分の人生観を語った志乃さん。
しかし、それでも、もう一目、もう一目でいいから彼のあの姿を、彼のあの表情を、あの目を、
胸に焼き付けたかったのであろう。もう2度と会うことはない二人なのかもしれない。
青春の哀しい思い出が長い歳月を経た後にほんの一瞬彼女の前に蘇り、初夏の風とともに過ぎ去っていった。
志乃さんにとって、昨日と今朝の出来事は一生の出来事だったのかもしれない。

彼女の人生もいつの日か終わり、青観の人生も終わりを告げる。
それでも彼が渾身の想いで彼女を描いた絵は残る。
青春の想いの全てを込めて描いたその絵は何百年も残っていくのだ。
このことにこのふたりの救いがあると思いたい。

そのことは、人生の全てを絵に賭けてしまった孤独な青観の生きた確かな証であり、
そこに絵を描く業を持った人間としての冥利がある。

             


F【ぼたんのとらや訪問と賑やかな夜】


柴又 題経寺

龍野から帰った寅は、龍野の栄光の日々を回想してはぼんやり過ごしているようだった。
とらやのみんなはそんな寅の扱いに戸惑っているようだった。

さくら「一日中ボンン〜ヤリしてるんです。帰ってきて2、3日は旅の疲れでも
 出たんだろうって大して気にもしていなかったんですけど、
 来る日もくる日もそうなんですよォ
グチグチグチ(^^;)

御前様「いかん、いかん
御前様十八番のセリフは「いかん」と「こまった〜」

さくら「あたしが心配しているのはひょっとしたらその芸者さんの誰かを好きになったんじゃないかって…
御前様「芸者かぁ…いかん




とらや 茶の間
                       
おばちゃん「寅ちゃん、寅ちゃん、ご飯だよ

おいちゃん「へえ、へ、また龍野の話聞かされんのか
社長「よっぽどいい思いしたんだろうな龍野じゃ …あーできたできたカップめんを食う。
龍野との対比に見事に一役買っているタコ社長でした(^^;)

寅「あ、あーあ、ん…
おばちゃん「とらちゃん、おからが美味しく出来たからね、たくさん食べておくれ
寅「へえ、え、おからってのはウサギの餌じゃなかったの?(ノ_< ;)うわっ、寅、凄いこと言うね、そりゃないよ。
おばちゃん「まあ、ひどい!あんたが好きだと思って一生懸命(▼ ▼メ)
寅はおからが好きだということを発見!

寅「へへへへ…ごめん、ごめん!あー知らない間に贅沢が身に着いちゃって、そうここは龍野じゃなかったっけ
寅、ちょっと頬杖を付いて…遠くを見つめて思い出すように、
寅「あーあ…、しかし龍野じゃなあ…

            



寅のアリア

三味線  ペンペンペン…と鳴り始める。
寅「夕飯前にひとっぷろ浴びる.糊のきいた浴衣姿で座敷に戻る。
 食膳には瀬戸内海の新鮮な魚の生き作りだよ。ねえ小鉢に向こう付け、蓋のものに椀のもの。
 このへんに茶碗蒸が出てたり出なかったり。
酒は灘の生一本だよ。
 品のいい中年の女性が、『先生、今晩どないしはります?』
 『うーん
ん…、もうバカ騒ぎは飽きたねえ…2、3人呼んでもらおうか
 『はい、承知しました。』パンパン…(手を打つ)
 これからどうする?社長

      
社長「知らねえよ…冷たくカップめんをズズーッ。この対比なあ…(^^;)

寅「バカ野郎!ちゃんと人の言うこと聞けよおまえ、こっちは一生懸命話てんのに。いいか
  じゃあ、もういっぺん話してやらァ。
聞きたくないって (^^;)
  姐さんがポンポーンと手を打つ。


                                   

襖がスッと開いて年のころなら二十七、八。綺麗えぇーな芸者。
三つ指を突いて、ちょっとしゃがれっ声でね


ぼたん「こんにちはと、なんと店先でぼたんの声
                          
寅「よお、ぼたん、お前なんかあったね。めっぽう綺麗…??」

三味線 ペンペンペンペンペンペンペンペン!!!
天井をキョロキョロ見渡す。そんなとこにいないよ(^^;)
これまたもの凄い天文学的偶然(^^;)
寅「いま、誰かがなんか言ったか?

ぼたん「寅さん!!
         

とらや御一同さん、店に来たぼたんを見る。

寅「……!!はあっ!」

              

寅「はああっ!
寅「あははは!はッ!!ぼたァ〜ん!
と、店の方へ走っていく寅。
スクリーン左から右へ走り抜ける寅が面白い。
      
おいちゃんたちポカンと店の方を見ている。
三味線軽快に ぼたんのテーマ
ぼたん「あーよかった!」
寅「うん!とぼたんの肩をしっかり掴む。((゜O゜;)オオ!
ぼたん「せっかく来ておらへんかったらどないしようかと思ってたんよ
電話でアポ取れよなアポ。事前によ(^^;)

寅「オラァちゃんといるよ、おまえ、へへへ…。そうか、 ところでなんだ今日は                        
ぼたん「あ、ご挨拶ややわあ、私と所帯持つって約束したやないの
寅「あ!、そうか、オレそのこところっと忘れてたよ頭カキカキ (;⌒▽⌒)ゞ
ぼたん「他に好きな人でも出来たんやろう!この薄情モン!!
ぼたんも堅気の店でよく言うよほんと。みんな本気にするぞ(^^;)

寅の袖をツネるぼたん
寅「いていていていて…痛いなぁ〜もお、ヘヘヘ

              

寅は、リリーともよくこの手の駆け引きをする。玄人には通用しても堅気にはちょっとドギマギする会話。
社長「てえへんだ!
完全に真に受けて工場へ知らせに行く。こりゃ社長忙しくなるぞ〜(−−;)
ビビッてまごまごしているおいちゃん、おばちゃんたちに向かって
寅「おい、なにそんな所でぼけっと見てんだよ!え?こっちきてあいさつしねえかい、えっ?
  オレが
深く言い交わした仲のぼたんだよく言うよ〜(^^;)
ぼたん「あ、フフフ。おじゃまします、ぼたんです、どうぞよろしゅう
おいちゃん「こちらこそペコドギドキ(^^;)
おばちゃん「あ、は、はじめましてペコドギマギ(^^;)
寅「なにをフガフガフガフガ言ってんだよ、まったくぅ

さくら、満男と一緒に帰ってくる。
寅「おっ、さくら、帰ってきたか、いつかオレ話したろ、ぼたんだよ
さくら「え〜〜!?
ぼたん「いややわあ、寅さん、」と寅を手で押して
ぼたん「独りもんなんてうそばっかし言うて、こんなかわいらしい奥さんがいてはるやないの
見りゃ分かるだろうに、普通間違わんって(^^;
さくら、驚いてお口ポカン (〇゜;)

              

博や工員たちドドッと店にやってきて、
博「兄さん…まさか…冗談じゃないでしょうね博やの〜〜〜(^^;)
満男、ニコニコ笑ってる。
寅「何が?
博「この方と所帯を持つっていうことあちゃ(ノ_< ;)
ぼたん「嘘嘘!そんなこと言うたら奥さんに申し訳ございません空気読めよ、ぼたん(^^;)
寅「奥さんじゃないって!!こいつはね、こいつの…
さくら小声でぼたんに
さくら「あの、私の兄なんです…

工員たち入ってきて「寅さん!!おめでとうございます!早く赤ちゃん産んでください!
寅、切れて
寅「うるせえ!!テメエらとっとと工場行って働け職工!!
出た〜〜〜!!決めセリフ\(( ̄▽ ̄;))/

それにしても、ぼたんはなぜ訪ねてきたのか?こりゃ、なんだかひと騒動ありそうだ。



とらや 茶の間

一同大笑い

ぼたん「ごめんなさい、私があかんの、変な冗談言うたりして
寅「いや、謝ることなんかないんだよォ〜、この洒落の通じない連中とさ、明け暮れ一緒にいるオレの気苦労も分かるだろう

さくら「洒落だなんて〜くそまじめ(^^;)
博、笑いながらも
博「兄さん、言っていい冗談と、悪い冗談があるんですよ超くそまじめ(^^;)
さくら「ねえ
ぼたん、下を向いて笑っている。
寅「博、おまえもクソ真面目な顔してそういうこと言うんじゃないよォ、何が楽しくて生きてんだい、えー、
ぼたん、ニコニコ
寅「この二人は夫婦だからね、夜なんかどんな話してんの?退屈じゃないかおまえ
ぼたん「悪いわ、こんなえー旦那さんつかまえて」と寅を押す。
ぼたん「ね、さくらさん、お幸せやろ
さくら、笑いながら博を見る。

寅「何だおまえ、こんな男好きなの?」と、ぼたんに。
博「いや〜…とさくらの顔色を伺って苦笑い(^^;)
ぼたん「ステキやわあ、誠実で思いやりがあって
博「そ、そんなことありませんよ…照れ照れ(^^;)
寅、目を細めて、しげしげと博を眺めている。(^^;)
博、照れ続けている。
さくら、クスクス笑っている。
ぼたん「さ、おひとついかが?と、博に酒をお酌するぼたん。

博「はあ…
と言いながら
チラッとさくらを見る(^^;)

寅、博を見て、ニヤついて
寅「赤くなってる…
博、一層緊張する。

一同ハハハ
ぼたん「ウチの妹にもこないな人と一緒にさせてあげたいわァー
さくら、博をからかうような目で見ながら笑っている。
おいちゃん「妹さんがいらっしゃるんですかー」とぼたんに酒を注ぐ。
ぼたん「へえ、大学に通ってる弟と3人で暮らしてます
さくら「ご両親は?
ぼたん「私が中学の時死にましてんとお酒を飲む。
一同ハッとする。
ぼたん「それで、芸者になってしもたん、フフフ
一同、頷く

ぼたん、博を見ながら
ぼたん「そやなかったら、私かて、こないな真面目な人と今ごろは幸せになっとーわよォーとそのあと寅を見る。

                    ↓ さくらの表情に注目!
                  

寅「おまえだったら3日で飽きちゃうよ。こりゃ、退屈な男だからねえ〜
博「そんなことありませんよ
一同  シ〜〜〜ン
寅「!…寅、唖然…(- -;)
ぼたん「

博、また気を使ってさくらをチラッと見てしまう。                                                  
さくら、博の発言に敏感に反応して
さくら「あら、それどういう意味〜!?と笑う。

48作中さくらが、博に、冗談ぽく、ちょっとだけやきもちを焼くシーンがここ。
もっとも第14作の時も綺麗な看護婦さんに会えなくなると、寂しがっていた博の背中を、手でバシッと叩く場面はあった。

一同 大爆笑

博、タジタジ
博「そう言う意味じゃないんですよ

社長、満男と一緒にやって来て、
社長「ぼたんちゃんいる?

寅「何だ?タコ
社長「いや〜今ね、工員たちと宴会やってんだけどさ、え、ちょっと、顔出してくんねえかな
で、気のいいぼたんはokを出し、寅とぼたんで工場の寮にワイワイ遊びに行く。
この日は何の問題も無い賑やかな夜だったのだが…。

           



G【ぼたんの貸した200万円の顛末】


翌日 上野二丁目界隈

たんが鬼頭の店を探してあちこち歓楽街を歩いてる

            

寅のバイ  
なんと最初で最後の
柴又駅前でのバイ!近すぎ〜!
おもちゃのバイ。
駅前の『コサカ・フルーツ』が映った!



一方、上野の喫茶店でのぼたん。

ぼたん、疲れた表情で、座ってメニューを
虚ろに眺めてタバコを吸っている。
タバコを吸うんだねぼたんは。

タバコを吸うシーンがあるマドンナは、リリー、光枝さん、風子、泉ちゃんのママである礼子さん、そしてこのぼたん。



夕闇迫る柴又 帝釈天参道

高木屋の前を疲れた表情でぼたんが通っていく。

とらや 茶の間

ぼたんが帰ってきたようである。疲れた表情のぼたんに寅が尋ねる。

寅「なんだ、あっちゃこっちゃってどこ行ってたの?
ぼたん「え、…お金のこと
寅「なーんだ、んな、困ってんだったら早く言えよと腹巻からサイフを出す。
露骨やの〜。(^^;)
寅「
いくらだ?と指を舌で濡らして数えようとする
ぼたん「二百万円…

一同シーン                    
寅「????
寅、首をかしげてサイフの中をもう一度確認
わかんないだねえ寅には、二百万円という金額のイメージが…(^^;)
第4作で取ったワゴンタイガーの万馬券100万円を思い出せよ寅。あの2倍だよ(^^)

ちょっと考えて、下を向いてしまう。
さくら「そんなに借りてどうするの?
ぼたん「借りるんやないの、人に貸したん…
ぴょえ〜〜〜〜!!!( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)

社長「ほー」とつい声を出してしまう。社長は銭金の事は異常に敏感だもんなあ(^^;)
一同、ぼたんをまじまじと見てしまう。
ぼたん「2年程前にな、ええ儲け話がある言うて、お客さんに言われて、つい、貸してしもたら、それっきりになってしもて…
社長、すぐにわかった様子で、下を向く。
ぼたんも最初、甘いお金儲け話に判断力が鈍ってしまってちょっと軽率だったんだね。このへんが、ちょっと哀しいところ。

                  

その後、鬼頭に電話するためとらやの電話を借りるぼたん。

茶の間の方で、小声で
寅「おい、さくら、おまえ、二百万円って見たことあるか?
さくら、苦笑いしながら
さくら「あるわけないでしょ
寅「二百万円って言うとさ、下から積んだら富士山の高さくらいまでいっちゃうのかな、高さ、
だからワゴンタイガーの時100万円が自分の腹巻の札入れに入っていただろが。思い出せよ。
博「1万円札200枚だから、こんなもんでしょ…指で数センチ(^^;)
寅「こんなもん?お前見たことあんの?
そういう問題か?
博「ありませんけど
寅「ないのに何で分かるんだよお前子供かあんたは(^^;)
と博を小突く。
さくら「シーッ

鬼頭に食い下がるように話しをしているぼたんだったが…、遂に気持ちが切れてしまう。
ぼたん「嘘や!嘘!あんた嘘言うて私を騙して!
    一文無しが、なんでゴルフなんかできるんですか!!もしもし…もしもし!!


重苦しい空気が流れる。
一同、下を向いて黙っている

静かに流れるぼたんのテーマ                       

電話を切ったぼたん、
無理に笑い顔をしてテーブルにつく。


ぼたん「ごめんなさい、おっきい声だしてしもて
さくら「悪い人なの?さくら、そのまんまな発言(^^;)。
ぼたん「フフ…私みたいな目におうた人たくさんおるんや、フ…

さくら、頷く

ぼたん「幽霊会社作って、大勢の人からお金集めて、その会社倒産させて…、フフ、ドロンしたわけ。
  
 今日行ったとこかて上野の大きいキャバレーやし、その他にもバーとか中華料理店持ってて、
   そいでいて会社が潰れたから一文無しや言うの。フフ…そんなあほな話ってある!? 

寅「……

みんな、どう言っていいか分からなくて下を向くばかり
寅、ずっと恐い顔で下を向いている。
ぼたん「はあー、ごめんなさい!お食事んとこ…。は、寅さん!気分変えてパッと飲もか!と無理やり笑う。
寅「うん、と小さく頷く
ぼたん「フフ、私ちょっと着替えてくるわと立ち上がって2階へ上がって行く。

さくら、寅の顔を見て、どうしていいか分からなくて沈んでいる。

おばちゃん「世の中には酷い男がいるもんだねえ
おいちゃん「わけありだと思ってたよ…
社長「今、思い出したんだけどね、オレの友達にね、そういうのにひっかかったヤツがいるよ

                 

寅、ドン!と机を叩いて、立ち上がり、
寅「
オレ行ってくる!
さくら「どこへ?…
寅「決まってるじゃねえか、そいつのとこよ!
博「ちょ、ちょっと待ってください
と、止めて
博「行ってどうするんですか!?
寅「簡単だよ!横っ面ふたつみっつぶっ飛ばしてやら!チクショウ
社長「そりゃいかん、そんなことしちゃいかん
博「いいですか、いいですか、敵はそうとうしたたかですよ。引っ叩いたりしたら、相手の思うツボですよ
寅「じゃ!警察へ突き出そうじゃねえか!え!出るとこ出て、法の裁きで裁いてもらうんだよ!!
さくら「お兄ちゃん…
寅「そうすりゃ、200万円。ぼたんのとこポーンと帰ってくらあ!
おいちゃんもいきり立って、
おいちゃん「そ、そ、警察がいい!警察!
おばちゃん「警察に電話しよう!110番!
博「ちょっと待ってくださいよ〜!!…そう簡単にはいかないんですよと寅に静かに話す。
寅「どうして簡単にいかねえんだ!!?
さくら「
寅「いいかあ!若い芸者が血の滲むような思いで騙し取りやがって、てめえはでかい家に住んでだ、
 ゴルフかなんかやりやがって!それでも金は返さない、こんな筋が通らない話ってあるか!
 法律ってもんがあるだろう法律ってもんが!!

社長「いや、その法律ってヤツがクセモンなんでね、寅さんは素人で何にもわかんないだろうけどさ

おいちゃん「な、寅、お前の気持ちはよ〜く分かるけどさ、しかしなあ、こりゃあ、銭金のことだ、な、
       ここは一つそう言う事によくなれてる誰かに頼んで…そうだ、社長がいい、社長に頼もう、さくら


                                        

さくら「ああ、そうねえ、お兄ちゃん、そうして、それが一番いいわ
博「事は複雑だからなあ兄さんのように純粋で気持ちがまっすぐな人にはちょっと…
寅「分かってるよ!早い話がバカで手が早いって言いてえんだろ!
博「いえいえいえ、そんな…図星 ヾ(^^;)
おいちゃんも、必死で手で否定のポーズ(^^;)
社長「寅さん、できるだけやってみるから、なっ偉いね社長、すぐさま引き受けるなんて。
さくら「お願いします
おいちゃん「それでな、社長じゃどうにもならなくなった時に、いよいよお前が出て行くと、なっ寅、これでどうだい?
   おいちゃんも気使うね(^^;)
寅「よしっ社長、お前、明日の晩方までにな、200万円耳そろえてもってこいよ!
 もし持ってこなかったら、タダじゃすまさねえねえぞ!

社長「わかったよ…社長、凄い役仰せつかったねえ。こりゃたいへんだぞ ヾ(- -;)

ぼたんが下りて来て、心機一転気分を変えて、みんなで盛り上がっている。                    
社長、工場へ戻りながら
社長「えらい役引き受けちゃったなあこりゃあ
分かる分かる、社長。おいちゃんや寅は理解できないかもしれないけど
がんばればできることと、できないことがこの世にはあるんだよね…。


 


翌日 赤坂

坂の上の住宅街

ぼたんと社長の前を外車が横切る
。『新坂』を上っていくぼたんと社長。
高級マンション前
社長「は〜、本当にこんなところに住んでるのかい?
しかし、ぼたんが『藤村』と名前を名乗ると、マンションの受付で面会を断られてしまう。敵は相当したたか。



江戸川土手

ぼたんのことが気がかりで焦っている寅
源ちゃん「兄貴〜!おみくじ引いてきましたで
寅「よし!
寅「凶!?なんだいこりゃあ!金運なし貸した金は返らず…バカヤロウ!よりによってどうしてこんなもん引いてくんだよ
あちゃ〜〜〜!!! (((><;)
源ちゃん「わい正直に引いてきたんやけどんだんだ。不精だね、寅も。自分で引けよなおみくじくらい(^^;)
寅「だから手前は気がきかねえってんだよ!お前の頭にこれ、結んでやるからなァこの野郎!と髪の毛におみくじをくくりつける。
松の枝か源ちゃんは ヾ(-_-;)
源ちゃん「あっいたた!イテー
蛾次郎さん、このあと題経寺でさらに水難の試練が待ってます…(^^;)

とらやのみんなもぼたんのことが気になってしょうがない様子。

                          蛾次郎さん…(TT)

                  



赤坂 繁華街

中華レストラン「天津飯店」
へとへとになって歩きつかれた二人の前にようやく現れる鬼頭。

鬼頭「で、ご用件は?何がご用件はだ!(▼▼メ)
ぼたん「・・・!!!
社長が持っている封筒から「債券」を取り出し、鬼頭の前に突きつける。

ぼたん「
ちょっと…これ返してください!

                 

鬼頭「この会社つぶれたんだよ、だから私は一文無しだ、うそじゃない、調べてもらっていいよ
ぼたん「そうかてあんた!こんな大きい店持って、大きいマンションにすんでんやないのッ!
鬼頭「店は弟のだし、家は家内の物だよ、私の物なんかなんにもない。まあ会社がつぶれてあんたには
   気の毒な事をしたがねえ。私だって被害者なんだよ。電話でも言ったようにね、あんたが私を
   信用して金を出した。…それが間違いだとしか言いようがないねえ…
(▼▼メ)このヤロよくもしゃあしゃあと!!
ぼたん「ー!!くっと口を鬼頭を睨み、口をかみしめる。鬼頭、ぼたんを冷ややかに見ている。
ライターでタバコに火を点けながら、
鬼頭「ふー…、社長さん、どうでしょうなあ、事情はそういうことですがねえ
社長「私も経営者の端くれですから大体事情は飲み込めます。
   しかしねえ、ぼたんさんが二百万の金をどんな思いをして貯めたか。それをなくしたことがどんなにつらい事か。
   そこんところを一つ十分考えてやってくれませんか。あなたには財産はない。百歩譲ってそれは認めましょう!
   しかし、貴方の奥さんはかなりの財産をお持ちでしょう?百万や二百万のお金を融通する事が今のあなたには
   全く出来ないとはどーしても思えないないんです。

鬼頭「女房や弟がいくら財産を持とうとあなた方には関係ないでしょう
▼▼メ)このヤロどこまでシラを切るんだ!!
ぼたん「…私、裁判所に訴えたる!
鬼頭「あーどうぞどうぞ
ぼたん「…!!
鬼頭「私もねこんな所でごちゃごちゃ話されるよりそのほうがよっぽどいいんだ(▼▼メ)この〜〜!!
客や従業員がこちらを向く。
ぼたん「あまりの悔しさに呆然と鬼頭を見ているぼたん。




とらや

待ちきれなくてイライラしている寅。待つように諭すさくら。
寅「ったくタコの野郎どこウロウロしてやがんだ、この野郎
客「お団子おいくら 谷よしのさん登場!
寅「二百万円!世界一高い団子だよそれじゃ(^^;)
客「……!????
客「おいくらですか?
おばちゃん「五百万円ですΣ(|||▽||| )がぴょ〜ん!!
寅が出した団子一皿世界一の記録(二百万円)を、たった5秒で塗り替えたおばちゃん(^^;)最高!
さくら「!!! ( ̄◇ ̄;)と目を白黒
おばちゃん「
あ!いえ!あの、五百円です。
谷よしのさん、団子一皿で破産するとこだったね。暴力バー、ならぬ暴力団子屋だと思ったんでは??(^^)




題経寺

山門の下を歩いてる寅。

寅が門を抜けたとたんに御前様が撒いている水がかかってくる!
寅「御前様だって勘弁できねえよ、二百万円だ、弁償二百万円それじゃチンピラのカツアゲだよ寅 ヾ(-_-;)
御前様「え?
寅「二百万円もう何が何でも二百万円(^^;)
                   
源ちゃん、参道から走ってきて
源ちゃん「兄貴ー!!と参道を走ってくる。
寅、はっと見る。
源ちゃんタコと芸者帰ってきたで」ビニールのジュースを飲んでいる。他に言いようないのか源ちゃん(^^;)
寅「!!

寅「どうだった?
源ちゃん「パーとちゃうか、タコと芸者泣いてたさかい
寅、顔色が変わり
寅「どけっ!と走っていく。
源ちゃんよろける。
源ちゃん「ああ!
といいながら思いっきり御前様のホースの水にかかる。
御前様、ホースをどけようとしない!
またもや蛾次郎さんって…(TT)
                  
                 

NGを出すと蛾次郎さんが何度もぬれて可哀想なので、笠さん、必死で狙いをつけてました(^^)



H【寅の怒りとぼたんの号泣】


とらや

寅が走って帰ってくる。
社長寅さん!
そのまま土間から茶の間に押しかける

社長「申し訳ない!!この通りだ!頭を下げる。
寅「だから言ったじゃないかよッ!この野郎!どうせこういうことになると思ったんだい!畜生!
と、社長に掴みかかる寅。さくら、引き離して
さくら「お兄ちゃん!やめなさい!社長さんだって一生懸命やってくれたんだから
社長「寅さん、殴れよ、俺を殴って気がすむなら殴れよ
寅「よおし、てめえ殴ってやろうじゃねえか!
ぼたん「ちょっと寅さんお願い!ねっ!やめて、ねっ!寅さんお願い!と必死で止める。

                 

寅、さくらに向かって
寅「
大体お前がな!あんちゃんのこと、行くななんて止めるからこういう事になるんだい!なんでこんな役立たずやったんだ
さくら「じゃあ、お兄ちゃん、自分が行ったら何とかなったって言うの?
   お兄ちゃん、本気で社長さんより役の立つ人間と思ってるの?

さくらしか言えない言葉だねえ……。社長は親身になって、一生懸命やってくれてたぞ寅
全部法律の網の目をくぐってやっていることなので裁判でもボタンは勝てない可能性が高いことを説明。
社長「法律じゃそういうことになってるんだよ
ぼたん「そやから、出るところに出よの一点張りよ。裁判に持ち込んでも絶対負けんこと知っとんのね
社長「知ってる 知ってる
さくら「だってあなたが一生懸命ためたお金じゃないのさくら…悔しいけどそういう次元じゃないんだよ(ーー;)
ぼたん、首を振る。
ぼたん「そんなこと通用する相手やないの。 …鬼や
おばちゃん「まあ……なんてひどい
おいちゃん「そいつだけじゃねえ、そう言うのはいっぱいいるんだよ。頭のいいやつはな、
      そうやって、貧乏人を足蹴にやって、法律の網の目をくぐって手前だけ上手い汁吸ってやがんだ!なあ社長

ほんとほんと(−−)
思いつめた目で何かを考えている寅
社長「俺もそれを言いてえんだよ

                 

寅、スクッと立つ。
おいちゃん「どうした?

寅、階段を駆け上がって行く。

さくら「
どうしたのお兄ちゃん

寅、下りてきて

寅「いいか、さくら、明日の朝、車寅次郎はあんたの兄さんかと訪ねるかも知れねえ。そしたらおまえは、
  確かにそういう兄はおりましたが8年前にきっぱり縁を切りました。今は兄でもなけりゃ妹でもありません。
  そう言うんだぞ。そうしねえと、満男が犯罪人の甥になっちまうからなあ…いいな!

さくら「お兄ちゃん、何のことだかさっぱりわかんないわ
寅「おいちゃん、おばちゃん、長い間世話になったなあ。オレは行くぜ
おいちゃん「ど、どこへ行くんだ!?
寅「決まってるじゃないか!ぼたんをひどい目にあわした男の所だ!ヤロウ、二度と表歩けねえようにしてやる!
  裁判所が向こうの肩持つんだったら、オレが代わりにやっつけてやる!

言っていることとやろうとしていることは、社会的にはメチャクチャかもしれないが、私には筋が通っていると思えた。
最後はぼたんの気持ちにどう答えてやるかだ。どう人の気持ちに寄り添えるかだ。

結果や冷静な分析の問題でなく、人としての気持ちの問題だ。そこに最後人は救われるのだ。

寅、ふと、優しい顔になってぼたんを見つめ
寅「ぼたん、きっと仇はとってやるからなあばよ!と出て行く。

                 

さくら「お兄ちゃん
おばちゃん「どうする!?ねえ
さくら「だって、行く先も聞かないでどこ行くつもりだろうあちゃ(><;)
おばちゃん「あら、本当だ、バカだねえ ほんとに…┐(-。ー;)┌


帝釈天参道
寅スッタスッタと行くが、途中で行く先を聞かなかった事に気がつき、ツッと止まる
寅、『しまった』という表情でとらやの方を振り返る。



とらや

おいちゃん「ほっとけよ、また戻ってくるさ。…
おいちゃん、ぼたんを見てはっとする。

泣いているぼたん
             
さくらも気がつく。
さくら「
ごめんなさいね、騒々しくって
ぼたん、首を振る。
おいちゃん「バカな男でねえ…
ぼたん、もう一度首を強く振る。

ぼたんのテーマが静かにゆっくりと流れる

ぼたん「さくらさん
さくら「ん…
ぼたん「私…幸せや…。とっても幸せ…。
     もう二百万円なんかいらん…。はう…うう…ううう
     私……、生まれてはじめてや…、男の人のあんな気持ち知ったん。

    さくらさん、…

                 

    うっ…
    …私、嬉しい!
    うっ、ううう…ぐううう…

            
寅の気持ちに打たれ泣きじゃくるぼたん。

                

ぼたんの号泣に圧倒され、どうしていいかわからないさくら。そして、また深く考え込んでしまう。

                

おいちゃんもまた、泣きじゃくるぼたんを呆然と見ながら
どうすることもできず辛い気持ちに沈んでいくのだった…。

号泣するぼたんのまわりで、なすすべもなくただただ考え込むさくらたち。
一緒に涙を流す社長。

                


人は結局、最後の最後はお金ではなく、人の心に救われる。ぼたんは二百万円を失ったが、社長の深い情けを感じ、
寅の強い気持ちに打たれ、人の世の機微の深さを垣間見る事が出来たのだろう。
こんなちっぽけな自分のために体を張って闘おうとしてくれる男がここにいる。そのことにぼたんは心底救われ、
至福の涙を流すのだった。
ぼたんの騙されたお金は戻らないし、悪者も法的に処罰されないことは見ていてとても悔しく辛いが、
一緒に、汗を流してくれた社長、共に悩み考えてくれたとらやの人々、そしてなによりも、一歩踏み込んで、体を張って闘おうと
してくれた寅の心によってぼたんの辛く悔しい心は感動へと昇華されていったのだろう。

この一連の場面は無力な庶民の姿を赤裸々に浮き彫りにすると同時に、それでもいたわりあい、寄り添い、励ましあって
生きていく人の世の温もりと気高さを見事に謳いあげている出色の名場面だ。

私はこのぼたんの涙を忘れない。

                
帝釈天参道
寅を追いかけ走って参道を追いかけるさくら。
さくら「源ちゃん、お兄ちゃん見なかった?
源ちゃん「今のバス乗って行きました
さくら「どこへ?
源ちゃん「さあ…
さくら「バカねえ、どこへ行く気なんだろう?



I【青観への依頼と寅の再びの旅立ち】

池内青観邸  

青観玄関に出てきて
青観「いやあ、ハハッしばらくだなあ上がれよ
寅「おりゃあ、ここでいいや
青観「
ええ
寅「あのー先生にちょっと頼みがあってきたんだけども聞いてくれるかなあ
青観「何だい?

                

寅「絵を描いてくんねえかなあ絵!それもあの、こないだんみたいんじゃなくてねえ、こういう、
 でっかい紙に、あのいや、色使ったりしたりしてさ、あの丁寧に描いたやつを。

 あ、あ…つうことはさあ、こないだ龍野行った時に、あの、ぼたんって芸者がいたろ?先生忘れちゃったかなあ、
 こいつがね、大事に貯めた金をさ、悪い奴に騙し取られちゃったんだよお
 困っちゃってなあ、なんとか助けてやろうと思ったけどさあ、俺には何んにもしてやれねえもんなあ

青観、頷いている
それでね、先生に一発絵を描いてもらって、これ叩き売っちゃう!
青観「うん?
寅「この前チョロチョロっと描いたやつだって7万円だからな、こんなでっかい絵でもってよお丁寧に
 描くんだから、これ高く売れるよ、オレそれぼたんに持たして帰してやりてえんだ、な、
 先生
チョロチョロっと描いてきてくれ、なっ、オレここでちょっと待ってるから
青観「いやあ
寅「ここで待ってる。
青観「そいつは出来ないよ、気の毒だが
寅「そんな事言うなよ先生、なっ?
青観「僕が絵を描くという事は、こりゃね、こりゃ僕の仕事なんだ、金を稼ぐためのもんじゃない、うん
寅「そんな固いこと言わないでさあ
青観「金が要るんだったらはっきり言いなさい、少しなら何とかするよ
寅「いや、そう言う分けにはいかねえよ
青観「うん?
寅「だって俺はゆすりたかりじゃねえんだからさ。現金で受け取るっててわけには行かないでしょう、ねえ頼むよ、ねっ、
  チョロチョロっと描いてよ、チョロチョロっとさ
青観「う〜ん、君ねえ、絵描きが絵を描くってことは真剣勝負なんだよ、チョロチョロっとかけるか
寅「何言ってるんだい家きた時チョロチョロっと描いたじゃないか!
青観「いや、あれは…
寅「右から左に七万円だよいい商売だなあと思ったよ、絵を描いて金稼いで何が悪いんだ?
 
高い金でもってうっぱらうからこういうどでかい屋敷に住んでんだろう!?
青観「うっぱらうとは何だ?僕はいっぺんだって今まで自分の絵をうっぱらったことはないよ結果的にはあるだろが(−−)

                
         
青観「いいか、え?僕の絵が売れるという事は…
寅「描かないのか!!
青観「…断る

寅「結構だよ!結構けだらけ猫灰だらけだい!チキショウ!これだけ言っておくけどな初めて上野の焼き鳥屋で
  会った時にこんな大金持ちだとは思わなかったよ!

  ヘン!いずれ身寄り便りのねえ宿無しの爺さんだと思って可哀想だと思って
  一晩泊めてやろうと思ってオレのうちに連れて行ったんじゃなか!

  もしあのままずっといてえって言うんだったら、多少迷惑を辛抱しても1ヶ月でも2ヶ月でも泊めてやってもいいと
  オレャ思ったんだ!…本当にそう思ったんだい!


寅「それをなんだよ!働き者の芸者が、大事に貯めた金騙し取られて、悲しい思いしているって言うのにてめえ
  これっポッチも同情してねえじゃねえか!
てめえみたいな奴こっちから付き合い断らい!二度と手前の面なんざ
  見たかねえよ!
邪魔したな!この野郎!
                   
寅が去った後も動かず何かを思っている青観
奥さん「だあれ?おおきな声出して、やあね
しょぼしょぼと2階へ上がっていく青観
                      

結局寅はとらやで啖呵を切ったものの、場所も知らなかったせいもあって鬼頭の家に怒鳴り込みに行く方向にはいかず、
青観に絵を頼みに行ってしまった。悪く言うと、「チョロチョロっと色を付けた絵を描いてもらってぼたんに持たせたい」と
いう安易な発想は結果オーライの逃げのやり方といえなくもない。こういうやり方は本来の寅の気質どおり、
実に彼らしい行動だが、さっきぼたんに言ったカッコいい発言の流れからするとお粗末だとも言えなくもない。
そして、それほどまでにぼたんのことをなんとかしてやりたかったのだろう。


しかし、それとは別に寅の最後の青観に対する啖呵は、めちゃくちゃな理屈とは言え、よくよく考えると、
青観が分かっていても見て見ぬふりをしてきた画壇世界の裏の仕組みとからくりを寅が、暴いてしまったともいえる。

実際、純粋に絵一筋に歩む絵馬鹿ではあのような高級住宅街の邸宅には住めないし、日本最高峰なんていう権威も
備わらないものである。これは、絵だけに限らずどの分野でも同じだとは思う。

寅はあの上野の焼き鳥屋の夜。青観の心に寄り添い、人として面倒をみたのだ。この夜、青観は寅に寄り添う前に
自分の絵のことだけを思ってしまった。絵を生涯の仕事とした人間としては当然のことだが寅にはそれは関係ない。
寅の人生は人と共に歩む人生なのだ。




とらや

龍野に帰ろうとしてタクシーを呼んだぼたん。みんなにお世話になったお礼の挨拶する。

ぼたん「いろいろありがとうございました、このご恩は一生忘れません
おばちゃん「まあ、なにをそんな
ぼたん「寅さんに会えんで本当に残念やけど
おいちゃん「どこいったんだいあのバカ本当に

ぼたん「さくらさん
さくら「何?
ぼたん「あのなあ、寅さん好きな人おるん?
さくら「…あ、いや
ぼたん「おるんやろ
さくら「

                

ぼたん「フッ、その人に私からよろしゅう言うといて、フッ、ク〜!
さくら「あの…
ぼたん「ほな、さいなら

とタクシーに乗り込み帰っていくぼたん。

電話が鳴る

おばちゃん「はいはい、とらやです。ええッ!寅ちゃんかい!?ちょっと!さくらちゃん!
さくら「さようなら〜…え?
おばちゃん「ちょ、リボンちゃん!ぼたんちゃん呼んで!でた〜〜!!(^^)/
リリーの時もメリーさん、ジュリーさんって言ってたぞ 横文字カタカナに弱いおばちゃんでした。
おばちゃん「寅ちゃんからよ!
さくら「もう間に合わないわよ!
おいちゃん「運転手さん!運転手さん!
おばちゃん「ぼたんさーん!
寅、受話器から声「もしもし!おばちゃん!もしもしーっ!



上野駅 広小路口 

さくらと源ちゃん寅の待つ食堂を探している

上野駅構内 食堂
ひとり、ラーメンをすすっている寅
さくら食堂に入ってくる。
さくら「お兄ちゃん
寅「おう、さくらこんな遅く悪かったな、あ、源公一緒に来てくれたのかそりゃよかった
さくら「ぼたんさんくれぐれもよろしく言ってたわよ
寅「うん、今ごろは汽車の中かか…
さくら「泊まってくようにさんざん勧めたんだけどね、どうしても今日中に帰るって明日からまた、仕事なんだって…
寅「ん…芸者家業も楽じゃないよな

さくら「ねえ、いったいどこいってたの?
寅「どこ行ってたっていいじゃねえかよ。どーせ、ろくなとこじゃねえや
しかも当たり前ながら青観に断られてしまい、どうしょうもない絶望感が今寅の心を支配している。
寅「さ、汽車の時間だ。うちのもんによろしく言ってくれよ、な。
  満男にな、先生の言う事よく聞いて、勉強しろって言うんだぞ、ん

さくら「今度いつ帰るの?
寅「うん…そうだな、まあ、お天道様にでも聞いてくれよ

さくら、立って

さくら「お兄ちゃん
寅「ええ。。。
さくら「ぼたんさんね…
寅「ぼたんがどうしたの…?

さくら「好きなんじゃないかしら、お兄ちゃんのこと…
                 
寅、ちょっと下を向き、何かを考える。
しかし、パッと元の表情に戻り

                 

寅「おまえな,そんな顔して冗談言うもんじゃないぞ…
さくら「でもね、お兄ちゃん…

寅、背中を見せて歩いていく。
源ちゃんからサイフを受け取り、何か一言告げて出て行く
さくら、目で寅の後姿を追い、そして、やるせない思いで…やがて下を向く。

                 



J【遠く寅の旅の空を想い憧れる青観】


入道雲 蝉しぐれ 夏真っ盛り

とらや
お馴染みおばちゃんのカキ氷姿!シャカシャカシャカシャカ
おいちゃん、さくらに背中にお灸をしてもらっている。


青観が店先に立っている。
さくら、青観を見て、びっくりする。
さくら「おいちゃん…
おいちゃん「え?
さくら「あ…
おばちゃん「あのー…
青観「青観です
おばちゃん「あ、そうそう、青観先生…。あら、どうしましょ
おいちゃん「これはこれは、
さくら「どうも、その節は大変失礼いたしましたとお辞儀。
おいちゃん「ちっとも存じませんでしたもんですからと深々とお辞儀。
おばちゃん「お許しくださいましと3人とも深々とお辞儀(^^;)
どちらかというと恐縮し、礼をしなくてはならないのは青観のほうなんだけどなあ…。分かってますか青観さん(^^;)
                     

青観「いやいや…
青観「あの、寅次郎君いますか…
おいちゃん「あのバカがまた失礼なことでも…?
さくらも心配そうな顔
おばちゃん「ろくな教育も受けておりませんのでどうぞお許しくださいましおばちゃん、なにもそこまで…ヾ(-_-;)
また3人で深々とお辞儀(^^;)それじゃ、水戸黄門だって…。ヾ(^o^;)
                   
青観「いや、そんなこっちゃないんだが…
青観「留守ですか…?
おいちゃん「へえ
さくら「実は先月末旅にでまして、それっきり…
遠くを見るような目で
青観「そうか…
青観「寅次郎君は旅か…
羨ましいような懐かしいような青観の表情。

                 

そして、少し寂しくもある…。
青観じゃ、失礼。と店を出て行く


                 

柴又参道

さくら、青観を追う

セット撮影では2メートルの距離だったはずが、参道ロケに切り替わった時点で10メートルに!
さくら追いつくのに大変。
さくら「先生
さくら「龍野では兄が大変ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした
青観「えー、いやいや、かえって助かりましたよ
さくら「そんな
青観「フフ…
青観「あなたでしたか、いつぞや金を返しにみえたのは
さくら「はい、その節はほんとに失礼致しました
青観、感慨深げに笑っている。
さくらのあのお金を返しに行った行為は立派だった。当たり前のことを当たり前のように粛々と行うことの
なんと難しい事か。青観の奥さん、ちょっとはさくらを見習えよな(^^;)


さくら「あの…、わざわざお越しいただいて…どんなご用だったんでしょうか
青観「…んん…、ま、歩きながら話しましょ…

                 

青観「江戸川はどっちかな…?と質問。
さくら、題経寺の方を手で指して
さくら「こっちです
青観「あ…
青観、右の方を指差して
青観「こっちがか…青観さんそっちは厳密に言うと南東ですよ。
さくら「いえ、こっちです。」とを指す。さくらそっちは厳密に言うと北北西だぞ。どっちかと言うとだよ。ヾ(^^;)
さくら「
ですから東京はこっちですと、後ろを指差す。それは大体合っている。

ちなみに、この面白いやり取りは、その昔、小津安二郎監督が映画「晩春」の中で演出したパターンだ。
山田監督は覚えていたんだね。

青観が呟いた「そう…寅次郎君は旅か…」はこのシリーズの全てを一言で言いあらわした見事な言葉だった。
宇野重吉さんのなんともいえない、あの遠くを見つめる目は、この映画を見ている私たちの目でもある。
定住者は放浪者に憧れ、放浪者は定住者に憧れる。しかし、定住者は放浪者の孤独を知らないし、
放浪者は定住者の倦怠を知らない。両者は永遠に交わることはないのである。
青観は江戸川はどっちだとさくらに聞いた。このことはラストでの寅の発言に絡む実に上手い伏線になっている。


K【龍野への再訪と青観の心持に打たれる寅】

播州 龍野

あのしっとりとした龍野のテーマ曲が流れている。
揖保川で遊ぶ子供たち 後ろに鶏籠山が見える。
揖保川に架かる大橋を寅が暑そうに歩いていく。
橋でアイスキャンディー屋
寅、ちょっと戻って
寅「1本くんねえかい
キャンデー屋、チョコレート味のアイスキャンディーを渡す。
寅、耳の裏と帽子の間に挟んだ100円玉を取り出し、スッと渡して、キャンディーを受け取り、釣りは要らないっていう仕草
寅「美味い」って呟いてさっとカバンを持ち歩いていく。                     
こういう時の寅って、実にカッコいい。さりげない仕草が堂に入っている。渥美さんしかできない見事な立ち振る舞いだった。

ぼたんの家の路地

ひぐらしがカナカナと鳴いているなか、ぼたんの家の路地にたどり着く寅。
ちょうど、折りしも、ぼたんが下駄を川の水で洗いに外に出たところに出くわす。
そっと忍び寄り、後からぼたんの背中を指で軽く突付く。
振り返るぼたん
ぼたん「
遠くで『金魚〜え〜、金魚〜』
寅、あらぬほうを見て、知らん顔。そのあと、ぼたんを見て、手で敬礼
寅「オス!
ぼたん「いや〜…、寅さんやないの…
寅「ニカッ」と笑う
三味線が ペンペンペンペンペンペンペンペン
ぼたん、上から下まで見て、
ぼたん「なんでえ…?と感動している。
寅「決まってるじゃねえかよ。おまえさんと所帯を持とうと思ってやって来たんだよ。イッヒヒヒ

               

ぼたん、大きく表情が動き                    
ぼたん「ちょっと!ちょっと入って!
寅「…!!なんだよ、なん…
ぼたん「いいから、ちょっと、はよ!!と、手をひぱって家の中へ連れて行く。

ぼたんの家の中
寅「なんだ、あいた!
ダダダダ!っと廊下を走って部屋に入る
寅「なんだよおい、え?
ぼたん「…!!見て!!分かる!?
ぼたんのテーマが流れて
ぼたん「青観先生の絵や!」                     
壁に掛かった額装された真っ赤なぼたんの花の本画
寅「……!!
ぼたん「ついこないだ送ってくれたんよ

                   

ぼたん「私、びっくりしてしもうて、添えてあった手紙にはな…、
    龍野でいろいろお世話になったから、君に上げると、それしか書いてへんのんよ

釘付けになってじっと絵を見ている寅。
ぼたん「でね、私市長にこの絵を見せたん、そしたら市長さんもびっくりしはって、
    200万円だすからこの絵を譲ってくれ言わはったん。
    
けど私譲らへん!絶対譲らへん!1000万円積まれても譲らへん!一生宝もんにするんや!けどなんで…??
                     
寅「ぼたん!
ぼたん、振り返って「??
寅「ちょっと来い!と家を飛び出す。
細い路地をめちゃくちゃに走る寅
寅「ぼたん!ぼたんよお!!
ぼたん「なんや、どないしたん!?
ようやくぼたん追いついて
寅「おい!東京どっちだ!東京ォ!
ぼたん「えー、こっちやろか?
寅「こっち、こっちか?
ぼたん「あ、ちょっと待って…こっちや、
寅「え、なんだ
ぼたん「あ、ちゃうちゃう、え〜〜っとやっぱりこっちや!と手をパン!と打つ。
寅「こっちかと静かに頭を下げる。
ぼたん、寅の前を歩いて
ぼたん「寅さんどないしたん???
寅「人の前に立つなよ!とぼたんを払いのける。
ぼたんよろけて ァ…、ほんまにもう…
寅、醤油の樽に上り、
パンパン!と、かしわ手を打って、両手を合わせハイ…」と目をつぶる。

                     

カナカナカナカナカナカナ…
寅「先生…、勘弁してくれよ。オレがいつか言ったことは悪かった…、 水に流してくれ…、この通りだ…
と頭をもう一度下げて両手を合わせる。
テーマ曲ゆっくり盛り上がっていく。
寅「先生、ありがとう。ほんとうにありがとう
                     
                     

ぼたん「ちょっとちょっと、東京はこっちやったねと指差す。
従業員役でスタッフの露木さんが出演(後の備後屋)
従業員A「東京?こっちやろ?と逆の方向を指差す。(^^;)
ぼたん「え!?
従業員A「なあ、東京こっちやな
従業員B「そや、こっちや
カメラ、道とそのまわりの町をゆっくり俯瞰していく。
ぼたん「寅さん寅さん!東京こっちやて!
寅「おめえ、こっちだって…
従業員C「おい、東京はこっちやで」とまた、今度は逆の方角を指差す。
寅「おめえたちからかってるんじゃねえのか!!え!と駆け寄る。
寅と従業員たちのドタバタが俯瞰映像でどんどん小さくなっていく
カメラ、古い蔵のある町並全体と揖保川を写していく
今、龍野は夏真盛りである。
音楽最高潮に達し、『終』の字幕

                     

青観は絵を描いた。

絵描きにとって絵を描くことは仕事だと言って、寅の頼みをにべもなく断った青観。
絵を描くというのはある意味とてもエゴイスティックな行為だ。寅は、そのことを瞬時に見破り、啖呵を切る。
やがて、時が流れ、青観は寅のその言葉を心で受け止め、「絵描き」としてでなく「人間」として寅に答えたのであろう。

絵を描くなんて行為は最後のギリギリでは人にとって2次的な行為である。
最後は人は人に寄り添い、
人と共に歩むのである。青観は最後の最後に寅の気持ちを新たな気持ちで受け止めたのであろう。
そしてその
気持ちを知った寅もまた、新たな気持ちで東京に向かって手を合わせ、青観の心意気に感謝したのだった。

寅が龍野で遠く東京を想って祈っている正にその時、青観はさくらと共に江戸川の風に吹かれ、遠く寅次郎を
想っていたのではないだろうか。なんだかふとそんな気がするのである。



                     





第17作「寅次郎夕焼け小焼け」【本編完全版】はこちら


 
第17作「男はつらいよ.夕焼け小焼け」ダイジェスト版を本日5月8日にアップしました。
第18作「男はつらいよ.純情詩集」ダイジェスト版はだいたい5月11日頃にアップいたします。



【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら

【寅次郎な日々】全48作品マドンナ制作年度順






寅次郎な日々 カテゴリー別バックナンバー
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第16作「男はつらいよ.葛飾立志篇」ダイジェスト版
 

2007年5月3日寅次郎な日々 その311


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



叙情性と笑いのハーモニー    通が薦める 正調『男はつらいよ』の代表格 


「男はつらいよ」という映画は、面白くエネルギッシュな部分がメインを占める映画であるが、もう一方でなんともいえないしっとりと
落ち着いた品の有る映画でもある。この後者の要素を中心に置いた作品はおおむね冬に封切られたものが多い。特に十作台の作品に
傑作が多い。その中でも「葛飾立志篇」は、最初から最後まで叙情性が豊かで心が潤う。そしてそれ以上に大いに笑わせてくれるのが
この作品である。つまり、実に緩急のバランスが取れているのだ。
序盤からから「西部劇の夢」でしっとりと心を潤し、直後にワクワクハラハラし、いきなり本編の「お父さんなのね」のくだりで爆笑の渦である。
とくにおばちゃんのリアクションが出色。そしてお雪さんの話に人生を感じ、寒河江の風景に美しい日本を見る。
そして後半の学問を志すくだりの面白さと言ったら絶品である。田所教授との絡みもユーモアたっぷりで飽きさせない。

このへんの作品では第15作「相合い傘」と第17作「夕焼け小焼け」は人気があるが、なかなかどうして、この第16作も作品としての
格調では全く負けていない。その地味で落ち着いた趣ゆえにこのシリーズを知り尽くしている熱烈なファンたちからは絶大な支持を
勝ち得ているのだ。そういう意味では『味のあるしっとりとした通好みの作品』とも言えよう。

そして、この第16作は、なによりもマドンナの礼子さんがとらやに下宿するのでマドンナとの縁もそうとう深い。これこそが
正調「男はつらいよ」なのだ。礼子さん自体は、寅に対してだけに限らず恋愛という感情とはかけ離れた人生に身をおきたいと思っている
学究肌の人だったことは「恋の物語」としては若干淡白だったかもしれないがマドンナの交流の幅が寅だけにとどまらず、とらやの
人たちにも深く及ぶことは、マドンナ下宿パターンの大きな魅力である。その点においても「男はつらいよ」の息の長いファンたちには
この作品はこたえられない魅力になっているのだ。

救われるということの重み ― 忘れ得ぬ記憶 .幸せを願い続けた16年 ―

もうひとつ、この「葛飾立志篇」は数あるこのシリーズの中でも私にとって格別の思いを持って見るシーンが存在する。
それは寅が十数年にわたって思い続けた女性が登場する場面だ。寅はリリーや歌子だけを例外として、その他の女性たちとは
ほぼ、一期一会の関係にある。ひとつの物語が終わった後もその人に何年もの間思いを馳せるなんて芸当はしないのが寅だ。
しかし、この「葛飾立志篇」でリリー以外に、もう一人、なんと十数年もの間、そのマドンナの幸せを願い続けたという事実がわかる。

その人の名は雪さん。寅がまだ、20年ぶりに柴又へ帰還する前の話だ。彼はその頃山形県の寒河江という町を無一文で
彷徨っていた。何をやっても上手く行かない日々が続き、もうどうしようもなくなっていたどん底の時代に雪さんに出会ったのだ。
寒さで震え、ハラペコの寅にどんぶりいっぱいの飯と湯気のたった豚汁とお新香をそっと出してくれたのだった。
「困っている時はお互い様ですからね」と言ってくれたその真心に寅は救われ、無我夢中でかき込みながらぽろぽろと涙を
こぼしてしまう。

いろいろなファンの人たちがこのシリーズのマドンナの話をしたり書いたりしているが、この雪さんの話題に触れられることは
ほとんどない。実際に雪さん本人がスクリーンに登場するわけでなく、娘の最上順子の話と、寅のアリアでの回想だけで
登場してくる人物だからだ。しかし、私にはいつもこのお雪さんが頭の隅から離れない。寅の琴線に深く触れ、心の中に深く入り
込んだマドンナはリリー以外では、このお雪さんではないだろうか。そうでないと、十数年に渡って毎年手紙とお金を送り続けること
などしないだろう。よっぽど寅は彼女に助けられたあの日のことが忘れられなかったのだろう。私にはその気持ちがわかる。
自分のどん底時代に助けてくれた人は生涯忘れないものだ。

「その名の通り、雪のような白い肌のそりゃぁきれいな人だった。」

そう言った時の寅のなんとも穏やかな顔は私の知っている渥美さんの表情の中でもとびっきりの透明感があった。
あの表情を見たくて今日も「葛飾立志篇」を見る。





@【順子ちゃんの訪問と雪さんの死】

今回も夢から

西部、テキサスの荒野を馬に乗ったガンマン『タイガーキッド』が走って来る。
酒場の中  歌と演奏が始まる
カッコよく背中を向けてチェリー登場!振り返りながら『さくらのバラード』の替え歌を歌い始める。
チェリ〜〜〜!!カッコいい〜 (≧∇≦)
チェリー「♪テキサスに風が吹くぅ〜駅馬車も今日は休み
    兄の〜いない西部〜の町…


           

  WANTED $10000 TIGER KID

チェリー「
♪どこへ行ってしまったの〜今ごろ何してるの…
   いつも〜、みんな…待っているのよ…
♪そこは晴れているかしら
   それとも冷たい雨かしら…遠く一人旅に出た私の〜…おにいちゃーん…


悪者ボスが人殺しタイガーキッドの娘だとからかい、チェリーは悔しい思いをしている。
実は、真犯人はこの悪者ボスなのだ。
悪者はいつもの吉田義夫さん!

その時、一人の男がバーに入って来た。
ボスの顔色が真っ青になる。
客「タイガーキッドだ…
タイガー、カウンターに手を置き、無言。
タバコをくわえたタイガー。

お〜!渥美さんがタバコを吸っている珍しい場面!!(ふり)

タイガー、カウンターから歩き、ボスと対峙する。
タイガー「お前にもチャンスをやる。抜きたい時に抜け
ボス「
ボス、拳銃をすばやく抜いて撃つ!
タイガーほぼ同時に身をかわしている。普通弾の方が速いって(^^;)
ボス、次々に連射
タイガー、すばやく狙いを定めてボスを撃つ。
ボス倒れる。

タイガー、チェリーを見つめる。

          

チェリー、少し怯えながら、タイガーの方を見る。
チェリー「お兄ちゃん…
タイガーも歩み寄る。
チェリー「きっと会えると思ってたわ。生きてさえいればきっと会える、そう思ってつらい旅をしてきたのよ。
    さあ、帰りましょう。懐かしい
バージニアへ。おいちゃんもおばちゃんも髪を真っ白にして待ってるのよ
タイガー「お前さんの探しているその男は何年も前に牢屋で死んだよ。たった一人の妹の身を案じながら…

チェリー、呆然としながら

チェリー「うそよ…。うそ!私がお兄ちゃんの、
その
特徴のある四角い顔を忘れるわけがないじゃない!倍賞さんのセリフにしては露骨(^^;)
タイガー「他人のそらまめ他人の空似だよ ヾ(- -;)
チェリー「じゃあ、あなたはいったい誰だって言うの?
タイガー「親もねえ、兄妹もねえ、人殺しのお尋ね者よ!と言うやいなや
素早く振り向いて2階の生き残りの手下を撃つ!!

強い!タイガーは百戦錬磨と見た。勝つための全てを知り尽くしている。

ドアを開ける時、立ち止まり、独り言のように
タイガー「バージニアか…
残されたチェリー号泣しながら
チェリー「お兄ちゃんの嘘つき!と、仲間の女給の胸で泣きじゃくる。
第14作「子守唄」の江戸川合唱団だった方々がいっぱい出演してました。
統一劇場の人たちお疲れ様〜!(^^)

タイガー、馬にまたがり、再び荒野へ立ち去っていく。
孤独やの〜、タイガー…( ̄  ̄)


どこかの田舎道


荷馬車 
風車

                

荷馬車で夢を見ている寅
いい寝顔だ。
馬をひいているおじさんが民謡を歌っている

寅「ふぁ〜…、あ!と伸び。

カバンが転がり落ちる。カバンを拾い後を追いかける寅



タイトル

江戸川をバックにして。

男(赤)はつらいよ(黄)葛飾立志篇(白) 映倫18673

口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。



   ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


   ♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら こんな苦労も
   こんな苦労もかけまいに かけまいに♪



久しぶりに柴又へ帰ってきて、江戸川土手を草むらをゆっくり歩く寅。

野球のボールが飛んできて、カバンで避ける寅。跳ね返って草むらの人に当たる。
女の人しかいないと思って、気楽に謝っていた寅。ドデカイ男が出てきて、寅タジタジというギャグ。
題経寺の石に蝋石で寅の似顔絵のらくがき『トラのバカ



帝釈天参道

順子「ごめんぐださい
さくら「はい
順子「あのーすいませんあのこちらに寅次郎さんって人おりませんでしょうか?
おばちゃん「寅ちゃん?
順子「はい
おばちゃん「あの、今ちょっといないんだけど
順子「いつ帰りますか?
おばちゃん「さあ…旅へで出るもんだからねいつ帰ってくるかちょっと…

さくら「あなたどこから来たの?
順子「山形県の寒河江です。ちょうど修学旅行で出てきたもんですから

この娘さん、山形県寒河江の最上順子さんといい、どうも寅が毎年正月に彼女の母親に手紙を
送っていたようだ。

これは、そうとうだ。寅が何年にも渡って手紙を出し続けるなんて普通絶対無い。かなりの縁だね。

順子「そしてその中に娘さんの学費の足しにって必ずお金が入ってるんです
さくらお金?
順子「ええ
おいちゃん「そいつは人違いなんじゃねえかあいつが金なんか送るわけねえもん
おばちゃん「そうだねえ
さくら「失礼だけどお金はたくさん?
順子「いいえ、大抵五百円ですけど…
おばちゃん「やっぱり寅ちゃんかねえ…(^^)上手い!
おいちゃん「うんーおいちゃんも『500円』で納得(^^;)

              

寅、店先でとらやの中を覗いている。

さくら、寅に気づく。
さくら、嬉しそうな顔。

順子、じっと寅を見つめている。
寅、順子を見ながら、突然『はっ』とする。
さくら「お兄ちゃん、この子ね、…
寅「ちょっと、待て…、ちょと待てよぉ…
と、順子の顔を見て何か思い出している。

順子「あの、私
寅「あ!ちょちょ待て…、思い出すよ…ちょと待てな…
沈黙
寅、はっとして
寅「あー…、お雪さんだ

順子のテーマ(雪のテーマ)が流れる。

順子「お父さんなの?…
寅、にこっと笑いながら、つい頷くその直後、我に帰り、怪訝な顔をする寅

一同 呆然と寅を見ながら体が動かない ( ̄。 ̄;)。

順子、感極まって、涙ぐんでいる。

おばちゃん、客なんかほったらかしで寅を見て真っ青になっている

さくら「ねえ!今何て言った!?お父さんって言ったの?
順子「今この人が言った、雪、は私の母なんです。
さくら、口を開けて驚く。(|||▽ )

寅、びびりながらたどたどしく

寅「オレは、知らないな……オレは…( ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄;
おいちゃん、目を見開きワナワナ…
おばちゃん「はうーっ!!!…ちょ…ちょっと ヽ( ̄Д ̄ヽ)
っと手を押さえながら小走りでおいちゃんの所へ駆け寄る。

寅「オレは知らないな…
おばちゃん「なんてことだい!…と慄く。おばちゃん、頭の中ほぼ仕上がりました( ̄  ̄) 
おいちゃん「落ち着け!みんな落ち着け!おいちゃんが一番落ち着け  (- -;)

寅、おばちゃんに

寅「いや…落ち着きなよ…落ち着きなよ
さくら「ね、お兄ちゃん、正直にありのままを言うのよさくらのこの言い方もなぜか笑える(^^;)
と順子の方を見ながら傍らに座って
さくら「お雪さんという人を知ったのはいつなの?
寅「え?そりゃ16、7年…
おいちゃん「お嬢ちゃんいくつだ?
順子「十七です…
おばちゃん「間違いない…!!おばちゃん完全に決めました(^^;)/
寅、上を向いて数を勘定している(^^;)
おいちゃん「おまえ、おぼえがあんだろ!?
寅「おぼえって?なに?
おばちゃん「悪い男だよ!とぼけたりして!おばちゃん、何があっても考えが変わりません (~ヘ~;)
寅「何言ってんだよ…??

さくら「ちょっと、おばちゃん黙っててよ。お兄ちゃんとそのお雪との間柄は
   子供ができてもおかしくない間柄だったの?

寅「
…?間柄だったのか??おいおい ヾ(^^;)
おばちゃん「あー!じれったい!おばちゃん、潜在意識で願望が入っているぞ。(^^;)
                      
             

おいちゃん「お前お雪さんとできてたんだろ!!
寅「バカヤロウ!!なんて事言うんだい!バン!
寅「おりゃあ指一本ふれたことねえや!
おいちゃん「指一本ふれねえでなんで子供ができるんだ!受胎告知か。
おいちゃんも、ついに決め付けました ゞ( ̄∇ ̄;)
寅「だからおかしいって言ってるんだよ!おりゃあ忘れもしねえ
  お雪さんはないつだって
赤ん坊をちゃんと背中に負ぶって手を真っ赤にして働いてた人なんだぞ
さくら「赤ん坊がいたの?
寅「そうだよ、可愛い女の子がひとりいたよ
さくら「なんで早くそのことを言わないの!じゃその赤ん坊がこの子よさくら、生地獄から生還 (´▽`)

寅「…あの時の赤ん坊か!どうりで、お雪さんそっくりだ
おいちゃん「こいつは馬鹿だけど嘘をつかねえ男だから
これはおいちゃんの名言。なかなか言えないよこういう言葉。

順子「あの…おじさん…、母は去年…死にました

と言って下を向く順子ちゃん。

寅「……順子を見つめる寅

             

寅、なんとかしてやりたくて、なんでもいいからごちそうを食べさせようと奮闘努力する。
何にもできないが、何とかしてやりたい寅の優しい気持ちが、痛いほど伝わる温かいシーンだ。
こういう時の寅は一番生き生きしている。

さくら「待っててねご馳走来るから待っててね。食べてらっしゃい
順子「はいどうも



夕方、江戸川土手

順子たち帰っていく。
順子「お世話になりました
さくら「また、遊びにきてね

財布の中からお札を何枚か取り出す。
寅、順子に「これな、帰りの汽車の中で、友達とキャラメルでも買って食べな
順子「いやー、あの、でも…」と恐縮する。
寅「いいっていいって
順子「こんなたくさん、あの…私…
さくら、駆け寄って、
さくら「もらっときなさい、兄はお金持ちなんだから、
さくら名言だよそれって。さすがだね( ̄ー ̄)

             

寅「がんばるんだぞ!」と叫ぶ
順子、手を振りながら
順子「はーい!寅とさくら、手を振る。
寅、ちょっとさくらを見て、順子の生活を心配する表情。




A【初恋の人、雪さんの思い出。そして旅立つ寅】

とらや 茶の間

みんなで集まっている。
博「山形県か…、美人の産地ですね
おばちゃん「かわいい娘だったねえ

社長「ねえ、寅さん、ちょっとぉ、話してくれよ、どんな具合だったんだい、その人とは
寅、柱にもたれかかって、思い出している表情。

寅「うん…。
 オレが始めてお雪さんに会ったのは…
 忘れもしねえ、雪の降ってる晩だった…

社長「なるほど…

雪のテーマ(順子のテーマ)が流れる。

寅「おらあ、寒河江(さがえ)という町を無一文で歩いていたんだ。
  もう何をやってもうまくいかねえ時でなあ…


              

おばちゃん「へえぇ……

寅「腹はすいてくるし、手足は凍えてくるし、もう矢も盾もたまらなくなって、
 …駅前の食堂に飛び込んだんだ。
そこがお雪さんの店よ


おばちゃん、頷く

寅「背中にちっちゃな赤ん坊しょって働いていたっけ。

寅「オレは手に持ってるカバンと腕時計を出して…、
 『これでなんか食わしてくれぃ』ってそう言ったんだ。



 
そうしたらお雪さんが…、
 『いいんですよ、困っている時は、お互いですからね』

 …どんぶりに山盛りの飯と、湯気の立った豚汁と、お新香を
 そっと置いてってくれたっけ…。



 
オレはもう…無我夢中でその飯をかき込んでるうちに……、

 
なんだかポロポロポロポロポロポロ…涙がこぼれて仕方がなかったよ。

その時オレには…あのお雪さんが観音様に見えたよ。

その名の通り、雪のように白い肌の、そらあきれいな人だったぁ…

              この時の渥美さんの遠くを見つめる目は印象的だった
              

社長「観音様だよなあ…その人はと目を潤ませている。
おいちゃん「んん」と深く頷く。
おばちゃん「ん…

一同 深く感じている。


人は一生の中で精根尽き果て、倒れることが何度かある。寅じゃないけれど、『もう、何をやってもうまくいかない時』と
いうのは確かにあるのだ。そんな時、ふと、凍えている自分の手を包み込むように抱き起こしてくれた人がいたとすれば
ほんとうにどれだけ嬉しいものだろう。そしてこの人のことを一生忘れないでいたい。そう思う。これは、味わった人しか
分からない。寅が雪さんを『観音様』と表現した気持ちは私にはよく分かる。愛情を与えることだけを人生の中で
まるで『修行』のように背負わされている寅だが、この、雪の夜の出来事は、幼き日に夢に見た母の手の温もり
だったのかもしれない。この寅のアリア
の中でのみ語られる雪さんではあるが、だからこそ私には想像力を刺激されて
いつまでも心に残るのである。


電車の警笛

寅「ん…、まあな…。それが人の道ってもんだろう
おいちゃん、何度も頷く。

しかし、そのあと、順子ちゃんの父親が寅でなくてよかったよかったと言ってしまうから、寅は怒ってしまう。
タコ社長と大喧嘩。

さくら「お兄ちゃん!
博「やめてください!社長も〜!
さくら「せっかく16年前のきれいな思い出話をしているじゃない。ねえ〜

おいちゃん「でもなあ…、その16年間を、こいつはぁ、惚れちゃあふられ、惚れちゃあふられ
あ〜あ、おいちゃん関係ないこと言っちゃった。それとこれとは別問題だよ。それじゃ寅が可哀想。
おばちゃん「飽きもせずねおばちゃんまで…
寅「好きでふられてるんじゃねえよぉ!
おいちゃん「寅、よーく考えてみろ。まともに結婚してたら今ごろあれくらいの娘がいてもおかしくない年頃なんだぞ
またまた、話が愚痴っぽくなってきたぞ、おいちゃん。

おばちゃん「あんな可愛い孫がいたらねえ…
とおいちゃんの方を向いてつぶやく。

寅「冗談言っちゃいけないよー、お二人さんの子種の無いのをこっちのせいにされてたまるかい!!
凄いなこの一言…。凄まじい…。 )゜0゜( こんなキツイ啖呵、シリーズ中ダントツ一番だ…。
おいちゃん「もういっぺん言ってみろ!!と寅を指さす。
社長「今のはよくないぞ!!と指をさす。
何も怒ったりしないで、寅を見ているおばちゃんが可哀想…

               


さくら「謝んなさい
さくら「お兄ちゃんよくないわよ。ねえ、よくないわよ
博「兄さん!
寅「てめえ!このやろう!!
寅「おいちゃん、オレだってそう思わねえことはねえよ。あんな可愛い子がオレの娘だったらなっって…
寅、カバンと帽子持って
寅「でも、しょうがないじゃないか!

メインテーマが流れる。

寅、みやげ物を投げるようにさくらに渡して出て行く。
さくら、追いかける。
さくら「お兄ちゃん
寅、店から出て行こうとして
さくら、腕を掴む。
寅「やめろよ
さくら「お兄ちゃん

さくら、自分の財布開けてお札を取り出して…
さくら「お金ないんでしょ…
そうだった…。夕方江戸川土手で、順子ちゃんに全財産あげてしまったもんな…

              

さくら「また帰ってきてね」と寅を見る。
寅、さくらを見て、おいちゃんたちを見て出て行く。
さくら、寅の背中を目で追って、

そして下を向く。

いつも、心のどこかで、おいちゃんも、おばちゃんもヤクザなフーテンである寅のことを心配し、時には
不満に思っている。そして、なにか事あるたびにそれを、つい表に出してしまい、そのことで常々負い目を
感じている寅を結果的に追い詰めてしまうことがある。心から愛すればこその執着であり、忠告なのだが、
そこに人間関係の悲劇が生まれもするのだろう。

あのドタバタの騒ぎの中でも寅の財布にお金がないことを決して忘れないさくら。
兄妹の絆とはほんといいものだ、とつくづく思った。


B【寒河江での寅の発心】


山形県 かみのやま温泉  遠く彼方に蔵王の山並み
突き当たりに「湯の上観音」が納められている
最上三十三観音 第十番札所観音寺への石段が見える。


観音寺境内
観音堂近くで啖呵バイをする寅


この時の寅のバイの場所は、どの書物もサイトも「湯殿山神社」などと書いてあるが
実は上記のように『かみのやま温泉の観音寺(湯の上観音)』である。
詳しい事は【第16作葛飾立志篇本編完全版】で書いていますのでご覧下さい。



とらや   茶の間

おいちゃん「ほら、こないだ話した御前様の親戚の方が
さくら「ええ、2階を借りたいとかいう…

御前様「今までいた所が自動車がうるさくて勉強ができないと言うんでね
さくら「ええ
御前様「それじゃ私のとこへ来なさいと言うたんだが…、線香の匂いが大嫌い
     などと、生意気なことを言いやがって


おばちゃんと礼子さん笑って階段を下りてくる。

おばちゃん「あの、先ほどお話しました、姪のさくらです
礼子「あー、どうも。筧礼子です。このたびはご無理なお願いを申しまして」と座敷に座って頭を下げる。
さくら「あ、いいえ。あんなお部屋でお役に立つんなら
礼子「あ、とんでもない。とってもいいお部屋よおじさま

             

礼子「あの、ほんとに置いていただいてよろしいんですか?
おいちゃん「あの…、変なのがもう一匹…
御前様「あ!!トラがいたか!発音が「虎」ですよ(^^;)
御前様、普通気づきますよ、もっとず〜っと前の段階で(^^;)
礼子「あら…飼ってらっしゃるの!?そんなわけないだろが礼子さん!ヾ( ̄o ̄;)
御前様「うん…うん、って...(^^;)
さくら「あの…わたくしの兄なんですけど…
礼子「あ、そう〜!
さくら「でも、めったに帰ってこないんです
おばちゃん「そうねえ、ついこないだ帰ったばかりだし…
おいちゃん「でも…突然帰ってくることだってあるぞ最初に気づけよ。
そういう時にこそ、寅はひょこっと帰ってくるんだなあ。

おばちゃん「困ったねえほんとにねえ…最初に気づいてね(−−)
礼子、御前様に「どういう方なの?
御前様「ま、会えばわかる…
さすが御前様、名言!うん、会えば分かる!
しかし、困ったなあ…御前様、気づくのが遅すぎですよ。



最上川 大江町の渡し舟

寅を乗せて舟がゆく。

寅、お雪さんとの思い出に耽りながら舟に揺られている。美しい秋景色
遠くに見える雪をいただいた山々。
雪(順子)のテーマが静かに流れる。
墓地から遠く彼方に見える寒河江川と蔵王の山並み
お雪さんの墓に菊の花を差し、線香を立てている。下を向いていろいろ思い出に耽っている寅。

慈恩寺の和尚、寅がお雪さんの墓参りに来たと聞いて、墓にやってくる。
和尚「失礼だが、お雪さんのお身内の方かな…

              

和尚「久しぶりにお経をあげようかね…手を合わせて慈恩寺の前の道をふたり歩きながら、

和尚「お雪さんは騙されたんでしょうなぁ。いや、土地の者じゃない。東京から来てなにか商売のようなものを
   やってる男でした。
少しばかり容子がいいのを鼻にかけて、いろいろと女出入りの噂の絶えない男だった。
   お雪さんも随分尽くしたようだったが、男にしてみりゃ所詮遊びごと。お雪さんに子供ができたのを
   知って、慌てて行方をくらました。ま、そんなことでした。


寅「お雪さんは、その後もその男の子とをずーっと想って暮らしたんでしょうかね?

和尚「いやいや、あの人は利口な人だから、年をとるにつれてだんだん分かってきたようです。よく寺に来て話してました。
  私に少しでも学問があれば、男の不実を見抜けたものを、学問がないばかりに一生の悔いを残してしまった。

  …可哀想な人でした。


慈恩寺、『華蔵院』石段の下で別れる。

寅「和尚さん、
和尚振り返る

              

寅「私には、お雪さんの気持ちがよーく分かります
和尚「さようかな
寅「はい。私も学問ないから…今まで悲しいことや、辛い思いをどれだけしたか分かりません。
  ほんとうに、私のようにバカな男はどうしようもないですよ
和尚「いや、それは違う。 己の愚かしさに気がついた人間は愚かとは言いません
和尚、寅を指差し、
和尚「あなたは、もう利口な人だ。
   己を知る。これが何よりも大事なことです。己を知ってこそ、他人も知り、
   世界も知ることができるというわけです。
   あなたも学問なさるといい。四十の手習いと言ってな。学問を始めるのに早い遅いはない。ね。
    『子曰く、朝に道を聞けば夕に死すとも可なり
    和尚寅を拝んで、また石段を上がってゆく。

寅「
和尚さん
和尚、振り返る。
寅「今のお言葉、もういっぺん聞かせていただけませんでしょうか
和尚子曰く、朝に道を聞けば夕に死すとも可なり
和尚「物事の道理を知るということができればいつ死んでも構わない。学問の道はそれほど遠く…
  険しいというわけです

その姿が小さく消えてゆく。
寅「……

              

静かに去っていく寅。




C【礼子さんに学問の道を説く寅】



とらや 電話口

さくら「お兄ちゃん!?、うん、元気よぉー
さくら、座りながら
さくら「どうしてるのよぉ〜、こないだのこと、みんな気にしてるのよぉ。え?学問?誰がするの?
   え?お兄ちゃんが??
ん…そりゃとってもいいことだけど…。
   今どこにいるの?東京!?東京のどこ!?
柴又ぁ!?

斜め向かいの席に礼子が座って本を読んでいる。
寅、礼子を見るでもなく見ている。

寅「姉ちゃんは、本が好きかい?寅、頷きながら、
寅「読みつけないからだな。初めは誰でもみんなそうなんだよく言うよ〜寅、読んだことないくせに┐(-。ー;)┌
礼子、少し、微笑む
寅「勉強のつもりで読んでみると、だんだん面白くなってくるよ漫画しか読んだことないのに、まったくねえ〜 ('〜`;)

               

寅「そう、しかし、同じ年頃の同僚が流行歌手の噂なんかしてキャアキャア騒いでいるのに、
 こうやって難しい本を読んで勉強してるんだ。偉いなあ。。。
と頷く。

寅「こちらにコーヒーのお変わり差し上げてと、ウエイトレスに注文。

礼子「いえ、私、そんな…
寅「コーシーに払うお金があるんだったら、そのお金で本を買ってください。
相変わらずカッコつけるね寅って、しょうがないね(^^;)



二人、帝釈天参道を歩きながら

寅「ねえちゃんはなんのために勉強してるんだい?
礼子「さあ…
寅「考えて見たことあねえかい?
礼子「そうですね…つまり……

寅「己を知るためよ

礼子、表情が、明るくなって
礼子「そうねー!ほんとにそうだわ

              

とらや

さくら、おいちゃん、おばちゃん、で呆然とその様子を見ている。
礼子「ただいま
さくら「今の人ね、それがねえ、私の兄なんです
礼子「え!?
さくら、道へ出て、寅が戻ってくるのを見て笑っている。

寅、戻ってきて
寅「もしもし、さくら、オレ、通り過ぎちゃったよ。ハハ、ハ気づくのが遅いよ(−−)

              

礼子、驚いて「
寅「ねえちゃん、あんた勘違いしてんじゃねえか。ここ、オレんちだよ。
さくら「違うのおにいちゃん
おばちゃん「違うの寅ちゃんおばちゃん真似っこ(^^)
オレさ、今、キッチャテンでね、このねえちゃんに話しかけられてな寅の方からしつこく話かけたんだろが(^^;)
寅にはこういう悪いくせがある。自分は落ち度がないって言うニュアンスで他人に伝えてしまうのだ。

さくら、おばちゃん同時に
さくら「あのね、2階に下宿してらっしゃるの
礼子「まあ!お兄様!?
寅「はい!無声音で(^^;)
礼子「まあ、どうも失礼しました。ちっとも存じませんで
寅、ニカーッ!!っと笑う。

礼子さん、丁寧にお礼を言ってニ階へあ上がっていく。


寅、後を目でずっと追っている。
寅、もう完全に「できあがっている」様子。
さくら「お兄ちゃん...さくら、もうすでに覚っている顔(-_-;)
寅、フフ…とにやついて
お兄様だってよ…

ついに始まりました。。。
ニカッと笑って、表に出て行く。



D【何のために学問をするか。茶の間談義】


とらや 茶の間

寅「コウコ学??コウコ学ってなんだい?親孝行の学問か?
さくら「孝行じゃないの
寅「え?
さくら「考古
寅「コウコ
さくら「うん、つまり古い時代の学問よ
あげ足をとらせてもらうと、『古い時代を研究する学問』が正しい。

寅「古いって言うとあれか、カチカチ山とか桃太郎の、そういうことのこと?寅って頭の中幼児か(^^;)

             

博「違いますよ、何千年も前の昔のことを、地面をほじくり返して調べるんですよ
寅「あー、よく昔の金持ちが埋めたっていう千両箱を、え?あの人、女のくせにそんなことやってんの?
おいちゃんも同じように聞いている(^^;)この件に関してはおいちゃんも同じレベル。
さくら「そうじゃないのよ
寅「なんだよぉ〜
さくら「大昔の人が、使ったね、こういうお茶碗のかけらとか石のやじりとか、そういうもの探すのよ
さくらやじりのポーズ!(^^)

おいちゃんも分からないので、ず〜っと聞いている。
寅「そんなもん探してどうするんだい?
さくら「研究するのよ
寅「研究してなにになんだよ?それが
見事に本質的な質問!素朴な疑問が、時として物事の本質に迫ることがある、という見本(^^)
さくら「知らないわよ、そこまでと、素っ気ない。
さくら、そこのところが最も大事なんだよ!そこを考えていかないと。寅のためにも、さくら自身のためにも。
寅「なんだよ
おばちゃん「わかんない男だねえ〜、そういやって偉い学者の先生たちがいろいろ研究してくださってるからこそ
       私たちがこうやって
平和に暮らしていられんじゃないの
平和って…(^^;)
身振り手振りで説得
おばちゃんそれじゃ思考停止パターンだよ(^^;)
やみくもに自分の思い込みに寅を引きずり込もうとするおばちゃん。相変わらず権威に弱い(^^;)。

寅「へええーっ、おっしゃいますねえ!それじゃなんですかおばちゃんは、日々平和にお暮らしですか?
なるほど、そっちに持ってくるか(^^;)
おいちゃん「あー、平和だよおいちゃん、おばちゃんに助け舟(^^)
寅「ほほ〜
おいちゃん「おまえがいなきゃなでた〜!(>▽<)
寅「オレがいなきゃって!どうして!


礼子が降りてくる

寅、にこっと笑って


寅「
おや、なんですか?(^^;)豹変する寅。

礼子「フフ...、失礼します。今月のお部屋代ですけど、
おばちゃん「わざわざと恐縮。
礼子「お兄様がいらっしゃると賑やかですね
賑やかを超えて、いつもひと騒動です(^^;)
一同照れる
礼子「何の話?
博「兄さんにね、学問はなんのためにするか、って質問されて困ってたところなんです

さすが博、さくらじゃ、対処しきれない寅の質問の本質を把握している。
こういう問題意識が持てるかどうかで、人生をより深く掘り下げられるかどうか決まってくる。


礼子「あらあ
しっかり反応できている。さすが礼子さん。
寅「いやあ、くだらない話ですよ
礼子「私もね、お昼、お兄様に『あなたは何のために勉強してるのですか』って聞かれて、はっとしちゃったの
さくら「いやだわ〜
おばちゃん、台所で、「は〜」ってため息。
博「はー、凄いことを言うな、兄さんは
博は寅のその言葉をしっかり受け止めて考えている。もちろん、寅は所詮、慈恩寺の和尚さんの受け売りだから、
その質問の意味すらよく分かっていないのかもしれないが。そこが可笑しくも哀しい…( ̄  ̄)
寅「そうかな...
礼子「でもね、それは私にとっては、あなたは何のために生きてるのかっていうのと同じことでしょ
さくら「で、なんておっしゃったの?
礼子「私、返事に困って考えてたの...
さくら、頷く
礼子「そしたらお兄様がスパーっとおっしゃったのよ。 『己を知るためでしょ』って...。私、あっ!っと思ったわ

             

寅「いや...そんなふうに言われても...と照れまくる。
礼子さん、寅は半分以上受け売りなんだよ(^^;)

タコ社長の歌声
社長「♪わたしバカよねぇー!、とくりゃあ!オバカさんよねえー!!!
寅「は〜、無教育な声ですねえ露骨に嫌がる。

おいちゃん「寅、その、己を知るってのはいったいどういうことだい?
おいちゃん鋭い質問!
寅「えー、だ、だからよぉ、と言いつつ、博に向かって
寅「おい、博、おまえちょっとおいちゃんに分かり易く説明してやれ、え
いつものように博に助け舟を求める寅 ┐(~ー~;)┌
博「難しい質問だなあ...
寅「だから分かり易くさ、
博「つまり、自分はなぜこの世に生きてるのか
寅「
おいちゃん「うん
博「つまり、人間存在の根本について考えるっていうか...
寅「根本についてか..んん...正しいかもしれないな...

            

社長「そんなこと考えてなにか役にたつのかい?
博「もちろんですよ!そういうことを考えない人間は、本能のままに生きてしまうってのか、早い話が、
  お金儲けのためにだけ一生を送ってしまったりするんですからねえ


一同、頷く。

寅「いやだねえ〜〜
おいちゃん、深く頷く。
社長「それで、悪いのかい?確かに社長はそうだよなあ〜 ┐(-。ー;)┌
一同、苦笑
寅、ムスッとして
寅「ダメな男だなあ〜、いいか、社長、え、
しい、のたまわは、あした道を聞こうと思ったらゆんべに死んじまった。
って、いうくらいのもんだぞ

 
ヽ(  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ∇  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ; )ノ????
一同????
社長「なんだそれ!?
寅「なんだ、わかんないのか?つまりだ、明日行くから明日聞けばいいと思って
 いたところがほら、ゆんべ死んじゃった。って

凄んごい解釈(^^;) ついにボロが出たよ〜〜!
寅、慈照寺の和尚さんのいうことちゃんと聞いてなかったのかい?

さくらも博もようやく何を言ってるのかわかる。

おばちゃん「どうして、死んじゃったの?おばちゃんヾ(^o^;)
寅「交通事故だよ!わ!!(>▽<;)
おばちゃん「まあ!おばちゃん …ヾ(- -;)
博たち笑いをこらえている。
おばちゃん「気の毒にねえ〜いいねえ〜おばちゃんって(^^)とらやの良心だよ。
礼子、おばちゃんを見ながら笑いをこらえている。
社長「レこの間、凄いの見ちゃったよ、四ツ木の交差点でね、
  出会い頭に『バーン!!』って、かあ!もう!
血だらけ!
こうなるともう笑うしかないです(^^;)

寅「うるさいなタコは黙ってろおまえは!
さくら「それじゃ、お兄ちゃんは、つまりー、己を知るために勉強したいの?
寅、腕を組んで「そうなんだよ...
寅「オレは、この年になるまで、なにひとつ己について考えて見たことはなかったんだ。本当に、恥かしいよ
博「これから兄さんは、考えるんですか
寅、真顔で「ああ、バッチリ!考えるよ
礼子「大事よ、考えるって。ほら、『人間は考える葦だ』って言うでしょ
寅「え...?誰がそんなこと言ったの?
礼子「西洋の偉い哲学者
寅「へえー、偉い人は足で考えるのかい。オレは頭で考えるのかとばかり思ってたよ
おばちゃん「頭でしょう〜???またまた、おばちゃん …ヾ(- -;)
おいちゃんも社長も、おばちゃんと同意見らしい(^^;)
寅「頭だろおまえー
博「笑いながら「違いますよ。ほら、川っぷちによく生えてる葦。もののたとえですよ
寅、パン!と手をたたき
寅「あ!その葦か!?なんだ、オレはまたこの足で考えるのかと思っちゃった
寅、自分の足をもってペチペチたたく。(^^;)
寅「なあ!ハハハ
おいちゃん「オレも思ったよ おいちゃん …ヾ(- -;)
寅「え!笑い事じゃないぞタコ!だとしたらおめえ、タコなんか一番頭がいいわけだよ。8本あるんだから足が!
一同大笑い。
言われた当のタコ社長も大笑い(^^;)

               

おばちゃん「ほんとだ!ハハハ!
寅「ねえ!と礼子に向かって笑う。
礼子「じゃあムカデなんてもっと頭がいい、何てことになるわね
礼子さんも言うねえ〜(^^;)
寅「オレなんかたった2本だからね足が。それだっていっぱい飲んだら絡まって転んじゃうからさ!
社長「ほんとほんと!ハハハ!
寅「いや古いくず毛糸じゃないけどもさ、あっちこっち全部絡まっちゃってね。
  こっちからまっちゃったからこっち一生懸命取ろうとしているうちにさ、こっち固結びになっちゃうじゃない?えっ
一同「ハハハハハ!

               

寅「
この固結びがなかなか取れないんだヨッ!なんて言ってるうちにこっちが関節炎になって、
 あ〜リュウマチで痛いなあって、一生懸命あっちこっち汗かいて全部とって、ほっとして、
 あ〜もうほどく心配ないなんて、一生おわっちゃいやがんの


\((( ̄( ̄( ̄▽ ̄) ̄) ̄)))/

 寅ワールド全開〜!!

一同「アハハハハ!
寅、礼子が大笑いしているのを見てとても幸福顔。

寅「ハハハハ…あ〜笑ったねしかしね、う〜んま、旅をして疲れたし、そろそろこの辺で
  お開きにして寝かしてもらおうか




E【メガネをかけた寅とお勉強計画】


とらや 茶の間


寅、どてら姿で昼間に荷物部屋から起きてきて
寅「あ〜あ〜、あー!!よく寝たよく寝たー、んー、
朝飯食って、ごろっと横になったら、またぐっすり寝ちゃったぁ〜

おいちゃん、呆れ顔で寅を見ている。
おいちゃん「おまえ今日から心入れ替えて学問するんじゃなかったのか?
寅「う〜んそんなような予定だったなあやっぱりやる気なし(-_-;)


轟巡査「ごめんください住民調査に上がりました
おばちゃん「あ、
轟巡査「お宅は車竜造さんにつねさんですね

おばちゃんにいろいろ家族構成を尋ねる轟巡査さん。
轟巡査「では現在3人ですね
おばちゃん「あ、大事な人忘れてました2階に下宿人がいるんですけど…
轟巡査「お名前は?
おばちゃん「筧礼子(かけいれいこ)と
おばちゃん「大学の研究室に行ってるんですけど
轟巡査「大学の研究室?アア!よく存じております
おばちゃん、轟巡査の手を見切る!!
轟巡査「あのご聡明そうなご婦人

轟巡査「いつぞや、私がパトロールをしておりましたら、向こうからあの方が歩いていらっしゃいましたメガネをかけて
    少しうつむきかげんで…
わたくしが『こんにちは』と声をかけましたら、 あの方ははっとして、
    『
あら、ごめんなさい、気がつかなくて、つい考え事をしていたものですから』と、こうです。学問をした方は違うなあ…。と、
    思いました。以上、4人ですね


さくらのアパート

電話が鳴る。

さくら「はい、諏訪です。あー、おばちゃん、何よ。…お兄ちゃんと喧嘩した?どうして?


とらや

電話口でおばちゃんがまくし立てている。
おばちゃん「あのね、学問する人はみんなメガネかけてるかい?そうだろう、かけてない人だっているだろう?
   …そりゃあねえ、
色眼鏡はオシャレな人がかけたりするけどさぁー、
ほんとにわかんない男なんだよ〜!

柴又商店街 メガネ、時計宝石店
自動ドアが開いて、寅が店から出てくる。
ニコニコ笑って、メガネを意識して触っている。わずかに下を向いてすまして歩いていく。


帝釈天参道

寅がメガネをかけたまま本を抱えて歩いている。轟巡査とすれ違う
 轟巡査「あ、さきほどはどうも
寅「あ、ごめんなさい、つい、気がつきませんでした。考え事をしていたもんですから…
た〜っ!その声。これだもんなあ┐(-。ー;)┌
と、メガネを触りながら、そそと去っていく寅。

              

轟巡査、思わずギョッと振り返り、ハレホレハレという感じで、自転車ごと転ぶ。(^^;)



題経寺 境内

御前様「おー、寅じゃないか
寅「あ、…これは御前様、つい気がつきませんで、考え事をしていましたこればっか(^^;)
御前様「ほー、考え事をしていた、おまえが
寅「はい
御前様「何を考えていたんだね?
寅「己について考えていましたまたまたこればっか(−−;)
御前様「ほーについて
寅「はい

御前様「久しぶりに茶でも飲みながらゆっくり話をしよう
源ちゃん大笑い
御前様「昔中国に…
寅「はい…
御前様「達磨禅師という…お坊さんがいてな…
寅「だるまジェンシという…だるまジェンシ!!笠さんの訛りを上手く真似する渥美さん(^^;)
と源ちゃんを思いっきり蹴飛ばす (*ー"ー)ノ☆)゜ロ゜)ノ  
源ちゃん「アタ!
                 「だるまジンシ!!」
              

とらや 台所の土間

豆腐屋さんのラッパ  パ〜〜〜プゥ〜〜
おいちゃん「そうか…それじゃあ今ごろ町中の噂だなあ
八百満のおかみさんが噂を撒き散らし、タコと源ちゃんが仕上げる。まさか轟巡査さんも…。

おばちゃん「メガネをかけりゃ利口に見えるってもんでもないのにねえ
さくら「でも本人はそのつもりよ

寅には「行動する」ことといえば、そんなことしか思いつかないのだ。
まさか、本当に学問するわけにはいかないだろうし…(^^;)



題経寺 境内


夕暮れ  題経寺の鐘「ゴーン」
子供たち境内の石にチョークでらくがきしている。
子供B「、オレ寅さんのメガネ描いてる
子供B「今までに1回も聞いたことたことない。生まれて始めて見た
子供A。「トラのバアア…カ はぁ〜(−−;)
つくづく寅って『柴又の名物男』なんだなあ〜。


茶の間

博「いいですか、勉強して目が悪くなって、その結果、メガネをかけるんですよ。
 メガネをかけたからといってね、勉強したことにはなりませんよぉ
正論(−−)

             

寅「気分だって言ってんの、気分から入るんだからさ、ねー!、新しい褌をすれば
 体中だってキリッ!とするじゃないかぁ

博「今は、褌の話をしてるんじゃありませんよ、メガネの話をしてるんですよ
寅と博『フンドシ派rとパンツ派で争う(^^;)
おいちゃん「…見ろ、さくら泣いてるじゃないか…

さくら「いいのよ、もう、お兄ちゃんの言うことなんか信用しないから
寅「どうしておまえ、そういうこと言うんだよ。オレ、真剣なんだよおまえ、それでわざわざ
  こうやって帰ってきたんだから」

おいちゃん「なにを勉強したいんだ?
寅「だから、夕べちゃんと話したじゃないか!己を知る学問をしたいってェもうここまでくれば合言葉だね(^^;)
おいちゃん「だから、どういう勉強をするんだよー?
寅「それが分からないから、メガネをとりあえずかけてみたんでしょ?
さくら、「じゃ、メガネかけて一日中ふらふらしてればいいじゃないでしょと、そっぽを向く。
寅「メガネはやめたの!目からはずしたの!!
博が家庭教師をすると言うと寅はなにげに嫌がる。
さくら「だから、ね、勉強なんてやめちゃいなさい
寅「勉強はするの!ただ、先生があんたの夫じゃ、いやだっ…て言ってるの。失礼だけど、ね
キツイな寅、デリカシーがないぞ (ー ー )
博、傷ついてまた下を向く。
寅「こう、話を聞いてて、やさしく分かりやすく、ね、はっと気がついたら、このへんに学問が
  しみこんじゃってるような
がさあ…。
いないもんかしら

とにこーっと笑っている。
だんだん、ボロが見えてきた。博も、なんとなく目的が分かってきて
ばかばかしい顔で苦笑い。




礼子さんの声
礼子「ただいま
寅、待ってました!("▽"*)、と言う感じでにこっ!と笑う。
一同「おかえりなさい
礼子「遅くなってすみません
礼子「あのー…、さくらさん
さくら「はい
寅「はい」 おいおい、あんたは『寅さん』(^^;)

礼子「今ね、叔父に呼ばれて題経寺に行って来たんだけど…、寅さん、勉強したいんですって?
寅「えへへ…
さくら「なんだかバカげてるんですけどねえ…」と笑ってしまう。
おばちゃん「ほんとにねえ…
礼子「それでねえ、叔父が、寅さん一人で勉強するのは大変だから、私に教えて
  あげなさいって言うの

御前様ってほんとうに優しい…。こういうことはなかなかできないよ。なんせ、生徒が寅だからね。

『待ってました!』(@∇@*)と言わんばかりに、寅、いきなり正座をして、身構える。
一同沈黙(TT)

さくら「でも、そんな、礼子さんご迷惑よ凄い迷惑かも…。
おばちゃん「そうですよ
礼子「そんなことないわ、私でお役に立つことがあれば喜んで。優しいね礼子さん。(TT)
礼子「それに私、社会科の教員免許持ってるから、歴史くらいだったらご一緒に勉強できると思うの
その手の免許、寅の前ではなんの役にも立たないけどね(^^;)
寅「は〜〜、ボク、歴史好きだなニコニコ
博「そうだな、歴史なんかいいなあ〜博、ちゃうって、寅の目的はそこにないんだってば ヽ(´〜`;
寅「いいね!ニコニコ
はぁ〜〜〜。意味ねえ…  ┐(-。ー;)┌

              

さくら「どうする…。お兄ちゃんお願いする?あ〜、これで決まりました!(−−;)
寅「うん、そうね、妹のおまえがそんなに言うんだったら、引き受けるか?
また、寅の悪いくせが出た。人を出しに使って、自分がいい子になるんだよな。
特に、ほとんどさくらが犠牲者(TT)

一同、動揺している
おばちゃん「厚かましい…
おいちゃん「ほんとに、よろしいんですか?
礼子「水曜日なんかどうですか?
寅「へ?」と言って、キョロキョロし、メガネをかけて
寅「おいちゃん
おいちゃん「え…・
寅「オレ、あの、水曜日はどういうふうになってた??
とぺらぺらおいちゃんの帳簿をめくる。
おいちゃん「どういうふうって…このおいちゃんの反応笑える(^^)
博「帳簿なんか見たってェー」と、取り上げる。
さくら「お兄ちゃん、いつだって暇じゃないさくら、ビシッ!
おいちゃん「フフフ
博、寅のメガネをはずす。
さくら「そちらに合わせますから
おいちゃん「よろしくお願いいたします

さくら、にこっとしながらも、ちょと不安げ。

寅「よし、オレもいよいよここに学びのペンを持つかあ〜

裏の工場に向かって歩いていって
寅「おい、労働者諸君!君らもハンマーを捨て、ペンを取れ!聞こえているのか!
みんな印刷工だからハンマー持ってないぞ(^^;)
一同、唖然。(TT)  



F【脱線のお勉強タイム】


帝釈天参道

轟巡査「あー、奥さん!
轟巡査、外に飛び出し、さくらに向かって
さくら「はい
轟巡査「さきほど、お聞きしたのですが、寅さんが今日から勉強をおはじめになるとか
さくら「あら、そんなこと誰から…と、照れてしまう。
轟巡査「実にすばらしいことです、あのお年で。この物語は私に勇気と希望を与えてくれました
あとで、失意と絶望にかわらなきゃいいけど…(^^;)
轟巡査「これは、ささやかながら、私の感謝の印ですノート一束を買い物籠に突っ込む。
さくら「困りますそんな



とらや

すでに、いろいろな祝いの品物が届いている。
おいちゃん、色紙を見ながら
おいちゃん
よわったなあ
おばちゃん「御前様からね、お祝いにって万年筆とそれからありがたいお言葉
と言って色紙を指差す。

              

博、パンを食べながら
博「し、のたまわく…
おばちゃん「それからね、これ、八百満のおかみさんからの果物
おいちゃん「なんだかあれだな、できの悪いせがれが小学校に入学する時のような気分だな
博「ハハ!ハハハ」
さくら「お兄ちゃん、どこへ行ったの?
おばちゃん「江戸川の方へね、お勉強前のお散歩だって

さくら、情けなそうな顔

一同「はー...

江戸川土手
寅「はー勉強か〜、まいったなあ〜
本当は、心よりしたくないんだねえ勉強。寒河江での反省は、その時は本物だったんだが、
やぱり、長続きしないんだね…。


              
 
源ちゃん「ずらかって金町のハワイでも行きまひょか(^^;)
寅と源ちゃんって、普段どこ行ってんだ??
寅「バカ野郎そんなのできるかい。礼子先生オレに勉強教えてくれるって言ってんじゃねえか。
そんなことしたらあの人の顔つぶすことになるだろ




とらや 夜

社長が威勢のいい声で「
どうした!?勉強は始まったか?
おばちゃん「シーッ!今やってんのよ
社長「やってる?実に嬉しそう。好きだねえ社長も(^^;)
社長「張り切って行ったか?

さくら「それがね大変なのよ。いざ勉強の時間になったらね。
『独身女性の部屋に一人で入ったら悪いんじゃねえか

社長「ウハハハッ!
さくら「『さくらお前も来いって』、私、しょうがないから一緒についていったわよ苦労するね(^^;)
さくら「さてと…お茶の時間( ̄- ̄;)いたれりつくせり
おいちゃん「えー、何時までつ続くかなあとおばちゃんと笑いあう。
社長「続くよ、失恋するまではな。プーッ!!フフフヒヒヒ…
おばちゃん、まあ、と睨む。



とらや 2階  礼子の部屋

礼子が寅に教えている。
さくら、お茶のお盆を持ちながら、そっと覗く。
鉢巻して、ひたすら我慢して聞いている寅。(^^;)
邪馬台国の話をしている礼子さん。
礼子「寅さん邪馬台国って知ってるでしょ?
寅「忘れちゃったのかもしれないね
 いいリアクションだね(^^)
礼子「う〜ん、弥生時代の終わりつまり3世紀頃に日本にあったといわれる幻の国のことなの

さくらお茶とケーキを持ってくる。
寅きょろきょろ下を向いている。限界が近づいているようす。
礼子さん大和朝廷の話をする。

礼子「日本の国の始まりだって言うの寅、ハッと反応
寅「あ…、国の始まり知ってる!大和の国
礼子「そ!その大和の国と喜ぶ。
寅、ようやく接点を見つけて、目が輝く。 ε=(´▽`)

寅「島の始まりは淡路島
礼子「え?
寅「泥棒の始まり石川の五右衛門
助平の始まり小平の義雄
礼子「ああ…なんか聞いたような名前ね
礼子さん、聞いたような名前って…小平義雄って歴史上の人物じゃなくて
戦争直後の大量殺人犯の名前だよ(−−;)


寅「ねっ、二!仁木の弾正お芝居の上での憎まれ役、知ってる!?
礼子「さあ知らない
寅「先代萩に出てくる敵役
礼子「はあ
寅「三!三三六歩(法)で引け目が無い。(産)三で死んだか三島のおせん
  おせんばかりが女子じゃないよ。かの有名な
小野小町が京都の極楽寺坂の門前で
  三日三晩飲まず食わずで死んだのが三十三!!

礼子「は…なあにそれ
寅「これね
寅「縁日で俺たちが使う口上
礼子「ああそうなの
寅「まだあるよ。四谷赤坂麹町、チャラチャラ流れる御茶ノ水、粋な姐ちゃん立ちションベン!…ア…!

              

礼子「ウフフフフ…
寅「エヘへ面白い?
礼子「うん、面白いウフフ…
寅「もっと教えてやろうか?
礼子「フフ・・教えて…ハハハ
あ〜〜、ここからは完全に寅が主導権を握って笑わせまくるっていう感じ。礼子さん、もう寅ワールドに入っちゃった。(^^;)

勉強が終わって、笑いながら二人が下りて来る。

さくら「大変だったでしょう
礼子「寅さんにいろいろ教えていただいちゃって
社長「ホ〜
礼子「ねっ先生っ!
寅、ミカンでお手玉して遊びながら、二カーッ!!と笑って
寅「いいえ
さくら「フフ…何教えたのお兄ちゃん?
寅「フフ…学問ですよねっ、校長先生

              

礼子「フフフ…
さくら「ねっ何?ねっ何?
メインテーマテンポよく流れて
礼子「もう脱線のしっぱなしで、フフフ!!
寅「ヘヘへ!!!と笑いながらみかんのお手玉。
礼子、さくらに耳打ち「あのね、フフフ、……って言うの、フフフ!
社長、礼子の話を聞いてウハハハ!
さくら「お兄ちゃん!フフ…
礼子、笑い転げている


縄文遺跡の発掘現場
田所と礼子たちグループが歩いている
田所、土器の破片をとって「縄文中期の終末だね
礼子「そお
田所「張り出し部分にがあるのは埼玉県でも掘った
礼子が土器を刷毛で拭いている。



G【順子ちゃんからの手紙と家族写真】

帝釈天参道 雨が降っている

順子のテーマ、ピアノで優しく、静かに流れていく。

とらや

茶の間への上がり口で順子からの手紙を読む寅とさくら。

封筒の裏の住所を寅が見ている。
さくらは、手紙を読んでいる。


順子手紙「寅さんお元気ですか…。こないだお墓参りに行ったら和尚さんに寅さんがお見えになった事を聞き
      ビックリしました。お会いできなかった事が残念です。

      和尚さんは寅さんが学問をする心の持ち主だととても褒めてました。
      私も寅さんに負けずに勉強しなくてはと思います。

            

     母が死んでから経済的な問題で苦労する事もありますけど親戚や先生それに友達に応援して
     もらっています。ご安心ください




山形  寒河江

順子のテーマ、バイオリンによってテンポよく流れていく。
順子、晩秋の空気の中、自転車にのって友達と挨拶
順子「おはよ

             

柴又に来た、例の仲良し友達3人と挨拶。
あの柴又での友人3人がそのまま出演している。

順子手紙「それからお願いが一つあります。 寅さんと家族の皆さんの写真を送ってください。
      こないだご親切にしていただいた皆さんのことがとても忘れられないのです。
      いつかもう一度お会いしたいと思います


みんなで縁側で写真を撮ろうとしている。
タコ社長、満男に写真に写る心得を言っている。
寅がそっと、メガネをかけてしまい、気づいたさくらが、はずそうとし、ドタバタの間に
シャッターが下り、社長嘆く。

社長「アーもう !! 何やってんだよ!


この集合写真の場面はほのぼのとして実にいいシーンだ。

             

順子「寅さん…、今度山形県の方へ来た時は、きっと私の所へきてください。
   そして私の母が若かった頃の話を聞かして下さい。きっときっとですよ。
   それでは寒さに向かって皆様お体をどうか大切に。さようなら

寒河江の 順子の家
雪の蔵王が見える自分の部屋
一生懸命英語の勉強をしている順子。
かわいいハンテン

            

この帝釈天の雨の風景から順子の手紙の終わりまでの2分間のささやかな物語が私は大好きだ。
このようなシーンが作れるのは山田監督だけだ。雨上がりのきらきら輝く水の玉のような澄んだ2分間だった。

私も、順子ちゃん同様、寅の口から、雪さんの若いころの話を、長い間じっくりと聞きたい。寅が16年間手紙を
出し続けた雪さんのことをもっと知りたいと切に思う。
お雪さんの話は、『男はつらいよ.番外編』として、成り立つくらいの
物語が裏に隠されている気がする。これは私の動物的カン。
寅の人生を変えてしまうくらいのささやかだが温かいふれあいが
いろいろあったのだと思う。



H【田所教授に愛の問題を指南する寅】

柴又 帝釈天参道
田所教授あたりを見渡す

店先に田所教授が立っている。

なんだこりゃ。おいおい!ようおじさん、フフ。どうしたいいまどき珍しいかっこしてるじゃねえか。
  
えっ、シベリアからの引き揚げ者か
シベリヤって…いつのこっちゃ(^^;)

              

田所教授みんなにルンペンだと思われ辟易(^^;)ゝ

寅「身寄りは無いのかい?
田所「うん…身寄りは無い。一人もんだい
寅「うーん…う〜んなるほどなあ
さくらやってきて「???
おばちゃん「気の毒な人なんだよ(^^;)
寅「一人もんでな、誰も身寄りが無くて道路工事やってんだって
おばちゃん「かわいそうに
さくら「ま〜あ
寅「う〜ん
寅「おじさん、あんた腹空いてんじゃないのか
田所「う〜んまあ空いてはいるが
寅「そうだろう、おばちゃんなんかちょっと作って食わしてやれや
おばちゃん「冷たいご飯しかないけど
寅「何でもいい何でもいいなんかちょっと食わしてやれ
さくら「おじさん家になんか用なの?
田所「へーえ〜、まいったなあ…」

礼子「ただいま
田所「お〜う
礼子「あーら先生!まあよくいらしたわねえ
寅「先生??
田所、礼子に説明するよう促す。
礼子「あ、あの、ご紹介するわ、いや、さくらさん、いつもお話しているでしょ。私の素敵な先生
さくら「本当?ポカン
田所「マイッタァ〜!
礼子、ポカン?

             

茶の間

一同「アハハハハ…
さくら「腹減ってるから飯食わしてやれって
礼子「いいのよ先生が悪いのよ、そんな格好してくるから
田所「家で着替えてくりゃよかったか葬式用の背広
寅「プハハ!
礼子「それしか持ってないの

田所教授団子を見て「おー、これは美味そうだな〜、ぴっぽっぽっとタバコの火を移す。
寅「ようよっ、先生よオレさっきから気になってたんだけどな。ちょっとタバコの吸いすぎじゃねえか

さくら「そうねえ
おばちゃん「本当によくお吸いになりますねええ、お体に毒ですよ
寅「なあ〜

田所「五年程前に一度やめたんですよ。そしたらね、一時間も経たないうちに
   呼吸困難になりましてねえ、病院に担ぎ込まれました

さくら「あらあ〜
礼子「フフフ…
田所教授タバコを吸って吐いて、即座にみたらし団子を送り込む!

寅「礼子さん相当かわってるねこちら
礼子「変わってる変わってる
田所「うーん美味い
寅「は〜、よよ、おい!ちょっとその…団子食うのと、タバコ吸う別々にしたらどうだい?行動をさ、え?
  そのうち間違えて、
タバコ食って団子吸っちゃうぞ
さくら「本当にね

見た目は変だが何でも知っている物知り教授だった。遂には啖呵バイの口上まで知ってるので
寅はほとほと感心してしまう。

寅「知ってるねえ〜!
寅「あ〜あ〜、しかしよお、こんな物知りの先生がいい年して嫁さんもいねえんだろうなあ
それは関係ないよ寅。あんたもずっとお独りだろ、寅(^^;)
おいちゃん「バカッ!いろいろとお考えがあってのことだよ
寅「お考えが?
田所「いや、僕が結婚をしない理由はそのー…
礼子「先生は独身主義なのよ
寅「独身主義?
田所「いやちがう、そうじゃないよ。つまり…つまりなんですよ。
   
愛の問題。男と女の愛情の問題は…実に難しくて…
   まだ
、け、研究し…し尽くしておらんのですよ

            


寅「研究しちゃうのかい?もっと簡単な事だろう
田所「簡単?

寅「常識だよー!
田所「じゃあ君、説明してみろ!

寅「いいかい? あーいい女だなあ…、と思う、
 
その次には、話がしたいなあ…、 と思う、ね。
 その次には もうちょっと長くそばにいたいなあ…、


            

 と思う。そのうちこう、なんか気分が柔らか〜くなってさ、
 あーもうこの人を幸せにしたいなあ…と思う、
 
            
 
 もう、この人のためだったら命なんかいらない、
 もうオレ死んじゃってもいい!
  そう思う、それが愛ってもんじゃないかい?


田所「……なるほどねえ…

             

田所「君は僕の師だよ!!
寅「なんだいって?
田所「先生ってことさ
寅「先生?そんなのおかしいや…ねえ
田所感極まって、涙が…
田所「……」 
おいちゃんたち心配そうに見る
寅「どうしたの
田所、感激で目が潤んでいる。
田所「ズーッ…
涙ぐむ
寅「どうしたの?
田所「ズーッ…
礼子のテーマが優しく流れる。

寅と田所教授は立場は全く違えど共通点がある。それは人間を見る目に偏見がなく水平だということ。
そして、美しいもの、純粋なるものに強いロマンと憧れを持っているということだ。
寅の言葉に感動し、涙を滲ませる田所教授。それほどまでにも礼子さんにたいして想いがつのっているのだろう。
今、田所教授も寅も正にその言葉の当事者そのものなのだ。
 


江戸川土手 夕方   

礼子のテーマが優しく流れる中。
田所と礼子が歩いてくる。
礼子、田所のリュックを直している。
田所「あー分かってる分かってる。どうもありがとう!

礼子「先生ー!
田所教授のところに駆け寄る礼子。
礼子「わざわざ、こんなところまで来て、なにか御用だったんじゃないんですか?
田所「んー…、用と言えば用だが、たいしたこっちゃない!

            


田所「
つまり、要するに、この僕は、寅さんの弟子だと!こういういうことだ。師によろしく!!
といって、手をあげて、颯爽と、そしてひょうひょうと立ち去る。
田所教授、歩きながら、手を振ってヴェルディの歌劇『リゴレット』第三幕の「女心の歌」を歌い出す。

田所「♪風の中の、羽根のように、いつも変わる、女心、涙流し、笑顔浮かべ

この場面で流れている礼子のテーマもこのシリーズの名曲である。
この頃の山本直純さんはまこと冴えていた。


この田所教授はちょっと孤独そうだった。しかし、自分の信じた道を歩んでいる人の
持っている孤高の輝きのようなものが表現されていて、見ていてああいう生き様もいいなと思った。
小林桂樹さんのキップのいい演技が光っていた。



I【野球対抗戦 朝日タコーズVS考古学チーム】

江戸川土手 野球広場

朝日印刷チーム』対『考古学チーム

バッター、タコ社長
ピッチャー、田所教授、守備に気合を入れて呼びかける。


社長「ドンマイ、ドンマイ、まかせといてェ〜!意味わかんねえ(^^;)

             

さくらたちベンチで口々に応援

プラカード(看板)に
gogo” 野球は朝日タコーズ印刷は朝日印刷 』 
なんでコマーシャルが入っているんだ!?スタッフ悪乗り?

かたや考古学チーム
看板は若干小さくて地味『
必勝 考古学チーム


みんな「先生〜!がんばって〜!!
後ろにスコアボードがあり、源ちゃんが点数を書いている。
礼子も
セカンド守備ではしゃいでいる。


さくらたち、大喜び。
寅も機嫌がいい。ニコニコ


なんとアンパイヤは轟巡査
仕事はどうした?今日は非番か


朝日印刷も考古学チームもなんかめちゃくちゃ。
みんな野球を知らないで平気で野球をやっている(^^)

ベンチでさくら「だめだなあ〜、社長さん
たぶんさくらもルールを知らないでぼやいている。
寅「なあにやってやがんだ、なあ
こう言ってはいるがもちろん、寅は野球そのものに
全く興味もなにもないと思う(^^;)


さくら「ああ〜

             


谷よしのさんや八百満のおかみさんたち、だめだな〜

寅「なあ、さくら、正月早々よ、寒い風に吹かれて 商売するのも楽じゃねえからな〜
さくら「だから?
寅「うん、今年はいっそうのこと、とらやで…店の手伝いでもしてるか!
さくら「そうしなさいよ!お兄ちゃん!それがいいわ〜!!
さくら、目を爛々と輝かせてもうニコニコ。
やっぱり、寅がいるを正月一度くらいは味わいたいよね、さくら。
もう25年くらい味わっていないからなあ…(^^)


寅「へへ、…そうするか!
さくら、目を輝かせて頷く。
寅「なっ
二人とも至福の時。
この短い会話のシーンは、野球の開放感と、ふたりの幸福感の両方に満ち溢れていた。
さくらのヘルメット姿が可愛い〜!

              

さくらにとって、正月に寅がとらやに居てくれるのは夢なのだ。
幼いころに離れ離れになってしまったさくらと寅。新しいハレの日を一度くらいは
一緒に迎えたいと思うのは当たり前のことなのだろう。




とらや

本日臨時休業の紙

田所「ご指名を受けまして!朝日印刷チームの優勝を祝い!
我らが考古学チームの復讐を誓って!ベートーベン作曲!『ゾラン.ジンク』

どうでもいいが、社長のチームが勝ったみたいだ(^^)


寅「お!さすがインテリ!

社長「ゲイジュツ ゲイジュツ」と皆を静かにさせる。田所「せ〜の〜
田所「♪ヤーレン、ソーラン、ソーランソーランソーランソーラン

              

一同 爆笑
一同「ハイハイ!
田所「♪ニシン来たかとカモメに問えば〜、あたしゃ立つ鳥、え、波に聞け、チョィ!
  ♪ヤサ、エン、エンヤ〜、サーアのどっこいしょ、
みんなで「あー、どっこいしょお〜!どっこいしょ!!



J【田所教授の求愛に悩む礼子さん】


田所教授の自宅付近。夜

田所の部屋


田所歌いながらベットに転がる。
礼子「相変わらず、汚いのね」と部屋を見る。
田所寝転がりながら
田所教授「筧君!ありがとう…
礼子「先生…、大丈夫?

田所「あ!そうだ、ちょっと!ちょちょっと待ってくれ!
田所、なんとか起き上がって、テーブルの上の手紙を取る。
田所「…これと、手紙を渡す。
礼子「なあに?これ?
田所「いいから!いいから!

と押すように礼子を部屋の外に追いやる。
田所「お休み、どうもありがとう!と押しまくって、ドアを閉める。

田所、ベットにひっくりかえる。
礼子、表の引き戸を閉めて出て行く。

礼子、明るい街灯の下でさきほどの封筒を開ける。

礼子のテーマが美しく流れる

原稿用紙に書かれた詩が出てくる。

ひとり静かにもの思いにふける時
私はこれまでの生活を思い浮かべる
あゝ どんなにか多くを求めて
失敗を重ねて来たことか
苦い経験 無駄に費やした時間ばかりが思い出され
私の胸は悲しみに閉ざされ
涙が溢れてくる

だがそのような時
君のことを想えば

おゝ 愛する君よ
私の心は慰められ
悲しみは消えてしまうのだ

礼子 君


田所

この詩の文字は山田監督の直筆だと言われている。

美しく格調の高い詩だ。一生に一度の自分の想いをこの短い詩に託した田所。
このような手紙を貰って嬉しくない女性はこの世にひとりもいないと断言できる。

          


礼子のテーマが流れる中
悩みながら江戸川土手を歩く礼子さん。



       

とらや 茶の間

礼子「ただいま
一同「おかえりなさい

礼子「…寅さん
寅「はい
礼子「悪いけど、今日ちょっと都合が悪いの….2,3日延ばしてもらっていいかしら?
寅「いや…、オレの方はいいけど…うん」と頷く。
礼子「じゃ、すいません

礼子さん元気なく階段を上っていく。

一同「…」
おいちゃん「何だか元気が無いな
寅「な、なんなんだ?どうした、なんなんだ?
さくら「どっか、具合でも悪いんじゃないかしら?

ふてくされ、すねる寅。



翌日 金町すずらん通り

歳末福引大売出し 12/6→12/29
寅、バイをしている。 
なんと黒の詰襟学生服姿!早稲田の角帽?

筆箱(黒、赤)、三菱鉛筆、ノートなどを売っている。

寅「大都会の片隅に、コツコツと勉学に勤しむ私たち苦学生に取りまして片時も忘れられないのはふるさとのことで
ございます。上と下の瞼をやんわり閉じますと、思い起こすのはふるさとに残してきた優しいお母さんの顔。
学生手帳を胸からチラチラ取り出して(^^;)
全くよく言うよ。40をとうに過ぎてるのに…┐('〜`;)┌

            


柴又参道 

年の暮れで賑わっている。
お土産を買ってとらやに急ぐ寅

とらや

暮れで餅の製造と注文で大忙しの様子。

寅、戻ってきて
寅「よお!みんな働いてるね!暮れらしくていいな!
職人「あ、おかえりなさい
寅「おう、礼子さんいるか?
さくら「いるわよ
寅「商売して、儲かったんでよ。元気つけてもらおうと思って買ってきたよ。

            


2階に上がって来た寅

寅「礼子先生
礼子「寅さん?どうぞ
寅「あ、勉強中、お邪魔だけど、これ、食べてもらおうと思って
礼子「あら、なあに、それ?
寅「ん、ハチミツと果物だけどね、ここんとこ元気ねえようだから
 これ食って精つけてもらおうと思って。じゃ!

礼子「寅さん…
寅、立ち去ろうとして
寅「え?
礼子「私…元気が無いように見えた?
寅「んん…、なんかこう…熱があるんじゃねえのかなあ?
礼子「…、寅さんに言っちゃおうかな…
寅「なに?
礼子「
寅「なんでも言ってごらんよ
礼子「実はね…、私ね…、結婚申し込まれたの…

寅「…ええ?…
信じられないような顔で口をモゴモゴさせる。

礼子のテーマ、静かにクラリネットで流れる。

礼子「私、今まで結婚のことなど考えたことが無かったの。ずっと考古学の勉強を、わき目もふらず歩いてきて、
  それで十分満足だったし、これからも一生続けていくことになんの疑問も持ってなかったんだけれども、
  それが、いざ結婚ってことがおきてみると、根本からぐらついてしまって、なぜこうかしら、私が女だからかしら…、
  それとも…私がだめな人間なのかな…
  メガネをはずして礼子「私…なんでこんなことになってしまったのかしら…



             

両手で顔を覆って、泣いてしまう。
寅「オレにゃあ難しいことはよく分からないけどね、あんた幸せになってくれりゃあいいと思っているよ

いい言葉だね…。

             

礼子「うん、ありがとう」とハンカチで目を押さえる

生涯の仕事の事と結婚が両立しないとは、本当は思えない。そんな事言い出したら、学問を研究している
女性は結婚できなくなってしまう、問題は「結婚」の形態にあると思う。この場合夫婦ともに考古学を研究して
いるわけだから、お互いに十分理解できるはず、いわゆる夫の世話をやく「奥さん」にならずに共同生活者である
「パートナー」になればいい。一緒に同居しているパートナーだと思えば、案外上手く行くとは思うんだが…。

もちろん、それ以前に田所博士を礼子さんが好きかどうかが一番重要な要素だということは間違いない。


寅、果物の包みをそっと持つ。
寅「じゃ、オレ、これで



K【旅立つ寅と追いかけるさくら】


さくら、寅の部屋に上がる

荷物部屋で、カバンに服を詰めている寅
さくらその様子を見て驚く

寅、さくらに気づいて、

寅「みんな忙しいのに手伝わなくて悪いけどよ、オレ、旅行くよ

             

さくら、座って
さくら「なにがあったの?
寅「礼子さん、結婚するんだってよ…
さくら、驚いて
さくら「誰と?
寅「さあ…
寅「あの人が結婚すんだから、オレたちが口もきけねえような頭のいい秀才じゃねえかな
さくら「
寅「これ、礼子さんに返してくれ」と本を渡す。『日本の歴史.国のはじまり
寅「どうもありがとう、って
さくら「お兄ちゃん、礼子さんの口から聞いたの結婚のこと?
寅「あまりめえだよ。あの人はずっとそのことで悩んでたんだよ…
さくら「悩んでたって、どんなふうに?
寅「そのことなんだけどよ
さくら「うん
寅「あの人は、オレにいろいろ説明してくれたんだけど、何だかオレにはさっぱりわからねえんだ〜。
こっちに学問があったらなあ…上手い答えをしてやれたんだけど…。学問がないってことは悔しいよ!

そんなの学問とぜんぜん関係ないよ寅。

             

寅「なんかしてやろうとしたって、どうしょうもないもんな〜
さくら「そんなことないわ
寅、ノートを丸めて外を見ている
さくら「学問なんかできなくたって、いくらだってしてあげることはあるわ。
寅「ないよ!とノートをさくらに渡す。
寅「俺のできることはハチミツと果物でも買っていくのが関の山だい…
それで十分だと思うんだけどなあ…。



とらや一階の電話口

礼子「もしもし〜
田所「筧君
田所「いつぞやの晩はどうも失礼
礼子「いえお手紙どうもありがとうございました
田所「ああ
礼子「わたし、先生のお気持ちを聞いてとても嬉しくて

            

田所「いや、そんなことはどうでもいい。僕はは君にむしろ、とんでもないことをしてしてしまったんでないかと…ただ、
   僕のあのーへたくそな詩は僕の気持ちを

礼子「ええ
田所「正直に
礼子「ええ、あのーお気持ちは良くわかります。あたしあの晩から一生懸命考えました
田所「ううん、それで?
礼子「先生
田所「うん
礼子「すいません

礼子のテーマ曲が流れる

田所「つまり…ダメなんだな
礼子「あ、はい…
田所「じゃあ、僕のプロポーズを受け入れられないっちゅう…
礼子「どうもすいません
田所「いやあ、いや、いいんだよ、君があやまることはないよ、いや、
   あやまるのは僕のほうだい……。つらい思いをさせてすまなかったな

礼子「いいえ
田所「いや、もともと常識を欠いたことなんだからこんな事だったらなーあんな手紙書くんじゃなかった
   いや、いやしかし、それじゃあ僕の気持ちはすまないしいや、言うことが矛盾してるなだから僕はね

礼子「ええ、先生の言うことはよく分かりますでも、今お店がとても忙しいものですから
田所「ああ、そうか、悪かった悪かった、またいつかの機会に電話を切る。
田所「ズーッ。。。。旅にでも行くかァ…

田所教授の発言「つらい思いさせてすまなかったな…」は心に染み入った。この人は、人の気持ちがわかる人だ。
本当に礼子さんを心から愛しているのがこのいたわりの言葉にあらわれていた。



さくら「礼子さん

礼子「はい?
さくら「お兄ちゃん旅に出るんですって
礼子「ええ?
寅が上から下りてくる
礼子「寅さん旅に?
寅「うーん、俺たちの家業はね暮れから正月にかけてかき入れだから
★さくら、おいちゃん、に『ふられた』と目で微妙に合図
寅「ああ、勉強が中途半端で残念だけど、オレ旅先でまた一所懸命勉強するから
★さくら、おばちゃん、に『ふられた』と目で微妙に合図
礼子「でもどうしてそんなに突然
寅「ううん、言おう言おうと思ってたんだけどな、
とさくらに目を配る。
さくら返事をする。

このあたりの目だけで物語らせるさくらの演出は山田監督ならではの世界。実に味わい深い。

テーマ曲が流れる

               

寅「博のやつによろしくな
礼子「寅さん、一体どこへ行くの?
寅「うん…南のほうだな北国はどうも寒くっていけねえよ,何しろこっちは着たきりスズメだからハハハ….
  いいよいいよいよ、送んなくていい送んないくて。
  ああ、あのーほら、なんつたっけ髭達磨の面白い先生、奴さんとねいっぺんサシで飲みてえと思ったんだけど
 ・・ま、よろしく言ってよ。
礼子先生、お勉強どうもありがとう
寅「あばよすっと出て行く。

いつも寅って、旅に出る時の去り際が鮮やか。こういう演出がこの映画の凄み。

礼子「ねえ、寅さん一体どうしたのかしら
さくら「いつもこうなのあんまり、気にしないで私達は慣れっこだけど
礼子「だけどね、さっきお話した時はこれっポッチも言ってなかったのよ

礼子さんも、さすがにカンがいい。自分に原因があることを察知している。

               

さくら「本当に気にしないでね、兄は独り者でしょう、まもなく結婚する人のそばにいたんじゃ
  迷惑になると思ったんじゃないかしら。兄ってそういうところがあるのよ


礼子「どうしてそんなこと…そんなことちっともないのに、だいちね、あたし、結婚しないの。
  それはその問題で悩んではいたけど、やめたの


さくら「本当?
おいちゃん「バカだなあいつ、カン違いしやがったんだ
礼子「ええ?
おばちゃん「さくらちゃん、今からでも間に合うんじゃないかい?早く行って
おいちゃん「おい、行って!
参道を駅に向かって走りに走るさくら。
第1作で博を追いかけ、走りに走ったさくらを思い出す。

さくら「バカねもう

駅の改札にたどり着くが、ちょうど電車が行ってしまったところ。
向こうから轟巡査が帰ってくる

巡査「あ、今お兄様をお見送りしたところです。なにかご用で?
さくら「いえ、いいんです…。ちょっと忘れ物をでも、いいんです

さくら、いつまでも、諦めきれないで改札でたたずんでいる。
源ちゃん「あの、いきまひょか
頷くさくら。
ふたり、とぼとぼと参道に向かう。

なにげない残されたこの二人の後姿も、寂しいさくらの心を思うと印象深いものがある。
旅立つ人の寂しさよりも、残された人の寂しさはそれは辛いものだ。

               



L【寅からのハガキと意外な珍道中】

正月 帝釈天参道

               

巡査「あ、明けましておめでとうございますと、敬礼。
さくら「今年もどうぞよろしくお願いします

博「毎年正月になるとね今年こそは兄さんの相手を見つけなきゃって話になるんですよ
おいちゃん「う〜んそんなこと言いながらもう、何年になるかなあさくら
おばちゃん「そうそう、田所先生もお一人でしたね、お正月どうしていらっしゃるかしら
礼子「さあ、なんだか、旅行に出かけたとか
おばちゃん「あら、うちにでもいらして下さればいいのに
社長「そうだ、今年は寅さんのほう諦めて、あの博士先生の方の嫁さん探さなくっちゃ、なあ、おばちゃん
おばちゃん「あんな偉い人のお嫁さんこの近所なんかにいやしないよ、ね、礼子さん
礼子「あ、…
社長「そうかなあタバコ屋のお花さんどうだい?あの人高等教育受けてるぞ
おばちゃん「ダメだよお花さん面食いだから
おいちゃん「どうしてどうしてあの先生だって捨てたもんじゃないぞねえ
社長「なあ
博「髭そってね
社長「ちゃんと背広着替えてな
博「風呂に入って」 ヾ(ーー )ォィオイオイ
おばちゃん「歯磨いてね」 ( ̄△ ̄;)言いたい放題
さくら「失礼よねえ、礼子さん
礼子、首を振って笑う。おいちゃんが田所のヘビースモーカーぶりを社長に言っている

寅の年賀状を見る礼子


               

明けましておめでとうございます。
礼子先生にはその後お変わりなくお過ごしでしょうか。
旧年中は思い起こせば恥かしき事の数々、
今はただ、後悔と反省の日々を過ごしつつ
遥か遠い旅の空から貴女(あなた)様の幸せをお祈りしております。

末筆ながら、私の愚かなる妹さくらをはじめ、
無教育なとらやの家族一同のことをくれぐれも
お引き立ての程、よろしくお願い申し上げます。
旅先にて

車 寅次郎





西伊豆・ 静岡 沼津市西浦付近
(三津浜と大瀬崎の中間にある西浦地区)

寅と田所教授が旅をしている。

寅「おーい、もうちょっとゆっくり歩けよォ、もう、先を急ぐ旅じゃねえんだからさァ、
  年寄りは年寄りらしくのんびり歩いたらどうなんだい


              

田所「君と歩いていると、僕は休んでばかりいないといかん
寅「チッ
田所「少し、体の鍛えようが足りんのじゃないのか?ぼくより10も若いんだろう!
寅「また、お説教か?そこが大学教授の悪い癖なんだよ。だから、女に振られるんだぞ、おまえ
田所「その話は言うなって言ってんだろうと、おろおろ。

寅「赤くなりやがった。ハハハハ、よう!誰なんだい、教えてくれよ、タバコ屋のババアか?
田所「そんなんじゃねえ!
田所「オレの愛した人はベアトリーチェのごとく、麗しく、賢く、気立てのいい人だ
寅「だから誰なんだよ教えてくれよ
田所「それは言えん!
寅「誰なんだってさァ〜
田所「うるさい!
寅「そんな、お怒りにならないでお兄さまと田所の肩に手を乗せ女言葉でじゃれる寅
田所「ええい!」と振りほどいて速歩きで船着場へ。

寅「お髭のお兄さま、わたし好きよ!と追いかけていく。
田所小走りになって逃げる。
振袖姿の娘さんたちそれを聞いて笑っている。

この二人は、凸凹コンビ。実にウマが合う感じ。楽しい旅が待っている気がする。

船着場
船の観光案内嬢さん、が叫んでいる。

あの大空小百合ちゃんを演じている岡本茉莉さん!
私は、この人の大ファン!


寅次郎の夢のシーンでも何度も登場する
本編でもちょっとした役でちょくちょく出てくる。

大空小百合役や夢のシーン以外でも
青観のお手伝いさん役、
看護婦さん役、
留吉の元彼女役、
船の観光案内嬢役、
出前を運ぶ店員役、
などなどである。


ゆっくりメインテーマが流れて
案内嬢さん「船が出ますよ〜!お乗りになるんですかぁー?

             

田所「あーい、乗るぞおー!
寅「ハハハ、先生!おーう!
寅乗り込みながら
寅「おう、ネエちゃん、乗ってくよ
案内嬢さん「はい、どうぞ
船の汽笛「プォ〜〜ッ」

『初荷』
霊峰 富士山がくっきり見える。手前は愛鷹山

シリーズ中もっとも大きく美しく富士山が見えるのがこのシーン。
第8作「恋歌」のラストの富士山と共に忘れがたい富士の姿だ。


トントントン…


メインテーマが大きく流れていく。

船、旋回したあと、まっすぐそびえたつ真白き霊峰富士に向かって進んでいく。

正月元旦快晴である


              


誇り高き孤高と自由。
たとえその先にどんな惨めな行く末が待っているとしても、寅は覚悟している。
それは田所教授も同じ。わが道を行くのである。
この作品のラストが爽やかなのは、富士山の美しさだけではない。
あの向こうに新しい一期一会の出会いが待っているからなのだ。





第16作「葛飾立志篇」【本編完全版】はこちら



 
第16作「男はつらいよ.葛飾立志篇」ダイジェスト版を本日5月3日にアップしました。
第17作「男はつらいよ.寅次郎夕焼け小焼け」ダイジェスト版はだいたい5月6日頃にアップいたします。



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【寅次郎な日々】全48作品マドンナ制作年度順






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