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寅次郎な日々

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ご注意) このサイトの文章には物語のネタバレが含まれます。
まだ作品をご覧になっていない方は作品を見終わってからお読みください。



                 

SOSふうてん丸 車船長の最後に見た風景(2007年7月30日)

第25作「男はつらいよ.寅次郎ハイビスカスの花」ダイジェスト版(2007年7月21日)

第24作「男はつらいよ.寅次郎春の夢」ダイジェスト版(2007年7月4日)

再びの『Dr.コト−』 吉岡秀隆さんの声(2007年7月4日)

第23作「男はつらいよ.翔んでる寅次郎」ダイジェスト版(2007年6月15日)

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『寅次郎な日々』バックナンバー





SOSふうてん丸 車船長の最後に見た風景
 
2007年7月30日 寅次郎な日々 その323


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。
  



SOSふうてん丸 車船長の最後に見た風景




第45作「寅次郎の青春」が作られた1992年は、あの長年構想を温めてきた「学校」の脚本が作られた年でもある。
この「学校」の脚本は何度も暗礁に乗り上げながら山田さんと朝間さんで何とか仕上げた力作であった。公開は翌年。

その学校の脚本を書き上げたあと、1ヶ月だけの休養のし、すぐに今度は第45作「寅次郎の青春」に取り掛かるのであった。

この第45作「寅次郎の青春」は僕が好きな風吹ジュンさんがマドンナなのと、満男と泉ちゃんの東京駅での切ない別れが
あるので大好きな作品なのだが、あの山田監督と朝間義隆さんの共著「シナリオをつくる」によると、お二人は
毎回脚本作りの度にするように今回も神楽坂の旅館『和可菜』にこもり、3日ほど進めて、1日休む、というペースで
物語を悪戦苦闘の末、美しい物語をゆっくり紡ぎだしていかれた。


最初に大筋を話しあった際、実はマドンナは、最初は蝶子さんではなく、なんとリリーの話を考えていたらしい。

おおよそのリリーの設定はこうだ。

ある日、リリーがとらやに訪ねてくる。
「忙しいからちょっと寄っただけ」なんて言って、寅は「どうせ苦労してんだろう」って同情したり、お金渡そうとするんだけど、
実は遠くのほうに運転手付のベンツが待っている。そこから物語が始まるって感じだったらしい。
実は彼女はインドネシア人の富豪と結婚し、すぐに未亡人になって、今や横浜の豪邸でたくさんの召使にかしずかれてる
身分だった、という奇想天外な物語。

その結婚相手は生前、もう年寄りだからリリーに体を求めたりはしなかったらしい。
ただ、彼が酔っ払うと、リリーに裸足にならせて彼の故郷の民族音楽に合わせて踊りを踊ってほしいといって、
リリーに踊ってもらっていたそうだ。人生の辛酸を散々舐めてきた彼は地獄を見てきた目をしながら時々過去の
できごとを思い出しているようだった、ということ。
それで、その横浜での暮らしに飽き飽きして、寅のもとへ逃げるように来てしまった…。


しかし、結局その物語は見送られ、まったく違う、宮崎を舞台にした新しい恋の物語となていく。

そして、もうひとつの大きな柱である泉ちゃんと満男の決着をこの作品でつけたいということだったらしい。
その二人が、最後は別れてそれぞれの人生に向かって羽ばたいていくというような…。

その時の物語の核は、満男と泉がなぜ別れるのか。だった。
満男が宮崎で泉と親しくなった青年と大喧嘩になり、その後別れてしまうというような話を考えるが、それでは
嫉妬が原因で別れるので、ちょっと気持ちがさもしくなるのでは…。姑息な手段は使わないようにしようと
お二人とも結論付けていくのだ。そのあとは、しばらくまた霧の中状態…。




                 





一方、寅とマドンナが宮崎で会う、南国の物語と決めた後も、話は二転三転していく。

まず泉ちゃんのママが不景気で店がつぶれたか、恋人に裏切られたかで自殺未遂を
図ってしまうなんてことになっていくのだ。寅がそれを助ける。
でもやっぱりマドンナがまた泉ちゃんのママじゃ新鮮味がない。

で、結局また話し合いの結果新しいマドンナを立てようということになり、当時不思議な雰囲気が
人気を集め始めていた風吹ジュンさんに打診し、忙しい中予定を空けてもらって、出演OKがでたのだ。

このあたりで一時的に決めていたタイトルは「寅次郎の弁解」だったそうだ。


それで、今度はそのマドンナの弟の竜介が自殺未遂をしかけて、寅が助ける、という
話に持っていこうとするのである。

寅は竜介に言う。「あとのことはオレが引き受けるから気兼ねなく死ね」それでまあ、
竜介はシラケてしまい、自殺を思い止まる。


朝間さんは、このようにいろんなことを次から次へ言い出す山田監督の様子をこう書かれている。

こんなふうに山田さんは物語の縁をうろうろとさまよい歩く。
人間の日々の営みの、さまざまな感情から生まれる逸話を探し、それにどういう角度で明かりを当て、
どういうふうに連結すればいいかを求めて。

例えば囲碁や将棋の棋士のように、たくさんの手を読み、充分時間を使ってその手をいろんな角度から
検討するのである。できることなら正々堂々と本手を打って棋譜を進行させたい。鬼手と称される奇襲戦法は、
いかにも派手で人を感心させるかもしれないが、物語の自然な流れをそこないがちなことを、経験で知っている
からだ。しかし、苦しみが多いからいい手が打てるわけではない。第一感で打った手が最上なのに気づかず、
ぐるぐる余計な回り道を辿って、結局振り出しに戻ってくることも多い。

ありきたりのどこにでも転がっていそうな素材が豊かな物語に転生するのは全て語り口のせいなのだと、
山田監督は力説するのである。

大事件はいらない。

日常生活の中で、誰もが体験するさまざまな感情に主眼を置き、挿話を集め、そのひとつひとつを吟味して、
物語の大きな流れに乗せ、登場人物たちを魅力的に飾っていくことこそ、山田さんのシナリオ作業の本領である




結局山田監督が観たフランス映画の『髪結いんぽ亭主』にヒントを得て、徐々にあの本編に近づいていったそうだ。

それでも、まだまだ違う部分がたくさんあって、例えば、最後のほうで竜介が正月にとらや(くるまや)に
訪ねてきて、姉と寅を結婚させようと寅を説得する話もあったらしい。

それとは別に、もうひとつ、寅が正月にもう一度宮崎の油津の蝶子さんの家を
訪ねて、仲良くしようと企むのだけれど、時すでに遅しで、蝶子さんはすでに
結婚して、店を売り払って博多へ行ってしまった後だった…、なんて運びも考えられたようだ。

また、蝶子さんがとらや(くるまや)に訪ねてくる話もあったとか…。

満男と泉ちゃんの東京駅の別れもいろいろな展開が出てきたらしい。

新幹線の扉が閉まった後、満男が「愛してる」って言うんだけれども泉ちゃんには聞こえなくて、
いろいろしゃべるんだけれども聞こえない…。
なんて運びもあったらしい。これは見たかった。なぜダメになったのか?

しかし、こういう脚本作りの裏話を読むと、あらたに何話か物語が増えた錯覚に陥り、
妙に得をした気分になるから不思議だ。


ただ…、この頃になると渥美さんがますます動けなくなってきているので、
山田監督はどうしていいかわからなくなってきてもいる。
そのことが心配で朝間さんにこんなことを言うのだ。

山田「寅と蝶子、どこかに腰を下ろしているとするか。海の見える丘。沖を行く船。
   カモメの鳴き声。寅が鼻歌を歌う。

   ♪あなたと二人で来た丘、港が見える丘…。『なに、その歌』『知らねえかい、【港が見える丘】」
   あなたとかつて二人で来たこの港が見える丘に、今、私は一人で立っている、みたいな歌だったね。
   褪せた花…、色褪せた桜なんだ…。

   なあ、朝間君、寅はもうダメなのかね…。寅はもう美女を口説く元気はないかなあ



朝間「ちょっとなあ…。今度は無理という感じするなあ…。でもせめて、そういう感じで
   がんばってもらいましょうよ


山田「彼女に誘われていいところまでいくんだけれども、結局寅は、なにもできないで、
   ただ、ボヤッっとしてるだけでありました、と、そういうのもあるんだろうね。

   あの『港が見える丘』の歌のよさは、何か静かなんだよなあ。何か黙って一人で立っていた、と。
   天気が良くて、海が青くて。そういう風景を見ていた。何かそういう哀しい情感というかな、
   明るくてきれいで。過去形だから、その恋愛は失恋に終わったであろことがなんとなく想像できる。
   メロディんんかも、軽いリズムのあるメロディで…



なんとも優しく柔らかく、そしてちょっと哀しいやり取りだと思いませんか。

私は当時の渥美さんの体調を考えるとなんだか切なくそして辛く…胸が熱くなってくるのだ。




                 







ところで、この第45作は久しぶりになかなか活力のある『夢』のシーンがあった。
文武両道に秀でた文学博士車寅次郎と甥の満男と伊勢屋の一人娘泉が巻き起こす
駆け落ち騒動だった。


                 





この作品の夢は、実は最初はまったく違った物語だったのだ。

宮崎の青島で居眠りをしている寅にひっかけてタイタニック事故に似た『海難もの』の夢だった。
きちんとシナリオまで!作られていたのだが、結局制作費がかなりかかりそうだということと
その割にはそれに見合うだけの効果や広がりが出そうもないということでボツになったのだ。

せっかくなので「シナリオをつくる」に掲載された幻の寅の夢を、このページで掲載してみよう。






          










ふうてん丸遭難と車船長の最後に見た風景


夜の大海原

嵐の北大西洋。
すさまじい風と雨。
黒雲に覆われた夜空を走る稲妻。
一艘の豪華客船が航行不能になり悲鳴のような汽笛を鳴らし続けている。

SOS、SOS、コチラ ふうてん丸、応答セヨ。

ブリッジの中で右往左往する高級船員たち。
高波が音を立てて窓を洗う。
突然、ブザーが鳴り出す。
古風なスピーカーから緊張した声。
「総員、退避。ただちに右舷デッキのボートに乗り移れ!」
船員たち、慌しく救命具を身につけ、激しい風の吹く表に飛び出していく。
悲しげに鳴り続ける汽笛。



一等航海士「船長はどこだ、船長!」

一等航海士、大声で尋ね、廊下に駆け込む。



廊下


船長車寅次郎というネームプレート。

一等航海士、慌しくドアをノックする。

寅「カム、イン」

落ち着いた声が返ってくる。



船長室


こぢんまりした清潔な船長室の窓際に佇む車寅次郎。

生涯を海で過ごした老船長の目は、苦悩を越え、すでに穏やかな光をたたえている。

その背後に、白い服を着たボーイの源公が脅えた表情で柱に?まっている。


一等航海士顔を出す。

一等航海士「船長、全員ボートに乗り移りました」


船長、ゆっくり振り返る。

寅「よろしい。じゃ、君も行きなさい」

一等航海士「船長もご一緒に」

寅「わしはこの船と運命を共にする。それが船長の役目なのだ」

一等航海士の目に深い感動の色が浮かぶ。

一等航海士「わかりました。それでは私もご一緒に」

キッとその一等航海士を睨みつける船長。

寅「何を言うか、君は全ての乗客の命を守り通す責務があるではないか」

一等航海士「はい!」

寅「行け、船長の命令だ」

一等航海士「そうでありましょうが、船長…」

寅「君は船長の命令が聞けんのか!!」

一等航海士、片腕を上げて涙を吹き払う。

一等航海士「わかりました。―それじゃ船長、これでお別れです」

ドアを開けて出て行く一等航海士を船長が呼び止める。

寅「一等航海士」

一等航海士「はい」

立ち止まる一等航海士。

部屋の隅で成り行きを不安そうに見ていたボーイが、
浮き袋片手にその脇の下をくぐりぬけて廊下に飛び出していく。


寅「もし君が無事日本に辿り着いたなら、
  東京は葛飾柴又帝釈天の参道に僕の実家があるから、
  そこを訪ねて、車寅次郎は立派に船長の責務を果たしました。
  『身はたとえ海の藻屑となり果つるとも、心はいつまでも
  お前たちと一緒だよ』そう伝えてくれ」

一等航海士「はい!」

寅「よし、行け」

片腕で涙を拭いながら部屋を出て行く一等航海士。

最後の長い長い汽笛が途切れ、室内の電灯も消える。

薄暗い室内に立ち尽くし、激しい雨の打ちつける丸窓をじっと見つめ続ける車船長。

ボートに乗り込んだ乗客船員たちの歌う荘厳な賛美歌が、波の音の合間を縫って聞こえてくる。

優しく頷く車船長。

その船長の顔に不思議な明かりがあたる。

船長は訝しげに丸窓を覗く。

激しい雨の向こうに、明るい色がぼんやりと見え、それがだんだんと近づいてくる。


…軒をぬらす雨

傘をさして道を急ぐ人。
やがて一軒の店の表が現れ、そして、その店の奥に談笑の一時を過ごす家族の姿が
見えてくる。

ハッとして窓に顔を寄せる車船長。
何度も手で、窓の曇りを拭う。

店の奥に見えるのは車船長の身内

― さくら、博、満男、おいちゃん、おばちゃん、そして社長たちの姿である。

車船長、懸命にガラス越しに呼びかけるが、外には聞こえない。

その時、満男が店の表を見て変な顔をする。

満男「あれ、おじさんだよ」

驚いて店の表を見る一同。

満男「おじさーん!おじさーん!!」

満男、寅に向かって走ってくる。




             

              イラスト 龍太郎





宮崎 青島の海岸

青島の木陰で転寝をしている寅。

ポンシュウが観光客の忘れ物を知らせてやっているらしい。

ポンシュウ「おじさーんよお、おじさーん、これおじさんのじゃねえのかい?

おじさん「どうもすみません

ポンシュウ「ヘヘへへ、無くしちゃうぞ おい





                




寅「あ〜あ、夢か あーあ


                





ここからは第45作の本編と同じである。


なんか新しい作品を1本見た気分になれて嬉しいから面白い。



終わり。




いかがでしたか。なんだか、第45作「寅次郎の青春」がちょっと見たくなってきませんでしたか?
このように、この物語の見えない陰に、膨大な努力と試行錯誤が隠れているんですね。
本当に優れた映画の脚本は、命がけで作るものなのかもしれません。







予定してました第26作「寅次郎かもめ歌」ダイジェスト版のアップは次回になります。
8月は多忙のため次回はだいたい8月10日頃アップとなります。どうかご了承ください。





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『寅次郎な日々』バックナンバー






第25作「男はつらいよ.寅次郎ハイビスカスの花」ダイジェスト版
 
2007年7月21日 寅次郎な日々 その322


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。
 


渡り鳥たちの見たひと夏の淡い夢


寅とリリーは「寅次郎相合い傘」ではふたりの波長がピッタリ合い、お互いの目を見つめ合うような最高の切ない「恋」をした。
「寅次郎ハイビスカスの花」ではもう一歩踏み込み、共に二人で生き、歩もうとした。
たとえそれが真夏の夢の中の幻想だとしても…。あの南国でのひと夏はふたりとも生涯忘れることはないだろう。

自己の美学の赴くままに奔放に生きる寅やリリーのような渡り鳥にも、ふとしたタイミングで羽根を休め、
「定住の夢」を見るひと時もある。その夢は必ず、ないものねだりの夢。そしてそうすることは渡り鳥である彼らの
気質の中では死を意味する。

沖縄の病院に這うようにたどり着いた寅の声を聞いたリリーは顔が華やぐ、第18作の綾の華やぎを彷彿させる名場面。
寅が来たらいきなり血液がサラサラと流れ出すリリー。寅は「淋しかったんだろ、ひとりぼっちでなあ…、もうオレがついてる
からから大丈夫だ」と励まし、カバンの中から次々と浴衣、川魚の佃煮、トランジスタラジオ,お見舞金、おまけにフンドシまで
出してリリーの『気』を高めていく。どんどん血色が良くなっていくリリー。このあたり二人の掛け合いののテンポは見ていて実に
気持ちがよく見事だった。寅とリリーの相性の良さが鮮やかに見るものを楽しませる。

いつも見舞いに来ては優しくリリーを励ます寅。

「この病気は気持ちの持ち方が大切、生きようと思う心が大切なんだ」

こんな愚かな自分が明らかに必要とされていることが実感できる日々。こうして寅の奮闘が始まる。
寅は毎日リリーの病院に見舞いに行き、冗談を行ったり励ましたり、大活躍。寅が最も生きている時だ。
リリーが退院したあとも、甘く切ない二人の蜜月は続いていったのである。しかし二人はやはり渡り鳥…。

紆余曲折の後、ようやく二人はとらやに戻ってきて、リリーと寅は過ぎ去ったあの夏の夢の日々を回想する。


リリー「私、幸せだった、あの時…」

寅は未だ夢から覚めやらぬ感じでこう呟く。

「リリー…オレと所帯持つか…」

しかし、一足早く夢から覚め、意識が娑婆に戻ったリリーは、
再び大海原に羽ばたく直前にこう呟く。

「私たち夢を見てたのよ、あんまり暑いからさ…」

この物語は、自らの旅人の美学に殉じながらも、ほんのつかの間、まるで子供のママゴトのように、定住を夢見た2羽の
渡り鳥の甘く哀しい物語である。現実の泥を被りたくない寅のわがまま、身勝手、そして心意気。寅の恋愛の行き着くところを、
つまりその限界を描いてしまった作品ともいえよう。


「あーあ…、夢か…
寅がそう呟いた短い言葉に、寅の人生が言い尽くされていた。
彼は夢のように生き、夢のように人に恋をし、そして夢の中で死んでいくのかもしれない。

さくらがラスト近くでそっとつぶやいた言葉、
「夢から覚めたって幸せとは限らないもんね、お兄ちゃんは…。
これが寅という人なのだ。


そして別れの柴又駅ホーム。寅は扉の外から「幸せになれよ」と言う。 微笑むリリー。
リリーの最高の表情。こうして、今回もまた切なく分かれていくのか…、もう二度と寅はリリーに
逢わないのだろうか…、と、観客は悔しい思いで、寅と一緒にその電車を見送るのである。
寅は言う「さて、オレも旅に出るか…」
ああ、もうこれでどこかの町で啖呵バイをしている寅が映って終わりなんだなあ…、
と誰もがそう思ったに違いない。

しかし、山田監督は、私たちに大きなプレゼントをしてくれた。
ラストの田舎のバス停で、なんとリリーに再会するのである。

リリーは聞く、「兄さんこそなにしてんのさこんなところで」

寅「オレはおめえ…リリーの夢を見てたのよ

空は晴れ渡り、彼らの旅はまた始まるのであった。
旅の中にこそ、寅とリリーの本領がある。彼らはやはり根っからの渡り鳥なのだ。
            


@【リリーと再開した博と寅のあやめ騒動』

今回も夢から


なんと、拍子木の音

カン!カン!カン!カン!カンカンカンカンカンカンカンカン! カン!

今回の夢は寅が大江戸を荒らしまわる『鼠小僧寅吉』になる物語。
江戸 御用金蔵に入り込んだ寅は追っ手の目から逃れるためにさくら(おさく)たちの長屋に意を隠すのだった。
そして実はさくらの生き別れになった兄の寅次郎こそがこの鼠小僧寅吉だと分かるのである。



博吉「私どもは葛飾郡は柴又村の出でございます
寅の表情にふと懐しさが浮かぶ。
三味線べべべンベンベン

寅「柴又村…
寅「御新造さん
おさく「はい
寅「お前さん、身内はいなさるんかね?
おさく「はい、たったひとり兄がおりましたが、幼い頃、家を出たきり行方知れず

三味線 ベンベン

寅「それで、その兄さんの名は?
おさく「はい、寅次郎と申します

三味線 ペン、ベンベンベンベンベン

ギョッとする寅。
寅「エエ!

                   

呼子の音が近づいてくる。

ピーーー!ピーー!
寅、はっと顔をあげる。

おさく「鼠小僧さま、もしやあなた様は、私の兄のことを

寅、ふと我に返り、激しく首をふる。
寅「知らねえッ、オラァそんなことはしらねえッ!

じっと寅を見つめるおさく。

博吉「鼠小僧さま、追手が!もうそこまで!ささ!
寅、裏庭の障子をあけ
寅「じゃましたな
おさく「もしやあなたは!?
三味線 ペン 、ペンペンペンペンペンペンペンペンペンペン!
寅「おさく、幸せになァ…
ピーー!ピーー!
前の塀を乗り越え飛び去っていく寅吉。

追っ手たち、博吉の家に入り込んで裏から出て行く。


博吉おさく、あの人は…
おさく「そうよ、あんちゃんよ !
軽快な鼠小僧の音楽が流れて
鼠小僧寅吉、屋根から屋根へとび移って走る
御用だ!御用だ!

寅「さだめ悲しい柴又の、たった一人の妹にせえ(さえ)、
 我が名をあかさねえこのオレがァ、置き土産代わりに名乗ってやらアー!

拍子木 ピキーン!

 
耳の穴かっぽじってよおおおく聞きやああがれええ!

メインテーマが流れる。

私、生まれも育ちも葛飾柴又です。
 帝釈天で産湯をつかい、
 姓は車名は寅次郎、

 人呼んで、鼠小僧寅吉たア!
拍子木 ピキーン!
 オレがぁ!ことよオオ!!


と唾を手にかけて縄を一瞬のうちに小刀で切る。
アータアッ!

御用の役人たちのけぞり転がり下に落ちる。

                

民衆達、やんややんやの大拍手

息をのんで寅の口上を聞いていたおさく、思わず叫ぶ。

おさく「お兄ちゃん!
寅、夢とは言えカッコいい〜!!(>▽<)


                

三味線「ベンベン!
寅、豪快に
寅「フ、フフ、フハハハハハ.ハ.ハ!
歓呼の声をあげる町人たち。

よ、日本一!
鼠小僧 ! 」
大統領 ! 」それってメリケンでっせ!ヾ(--;)





ある古びた土蔵郷倉

村はずれの小さな社の傍の古びた土蔵の中で居眠りしている寅。

表から聞こえてくる呼子の音に目を覚ます。


ピーー!ピーー!

               


窓から顔を出す寅
子供達「ピー、ピーピー、ピー御用だ!御用だ〜
おもちゃのピストルで鳴らしている。
御用だ!御用だ!捕まえろ!御用!御用!
ダーン!待て!
寅、「はああ〜〜〜…」と、あくびをして外に出て行く。


タイトル

男(赤)はつらいよ(黄)寅次郎ハイビスカスの花(白)映倫118131

バックは北軽井沢方面から見た浅間山

口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
   帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
   人呼んでフーテンの寅と発します。


   ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


   ♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら こんな苦労も
   こんな苦労もかけまいに かけまいに♪



小川が流れる田舎の風景の中をのんびり歩く寅。
ピンクのツツジが咲いている村々

軽井沢 白糸の滝

クレジット     リリー  浅丘ルリ子
リリーが帰ってきた…(TT)

                 


白糸の滝売店

信州地酒 『白糸の瀧』

白糸の滝前の茶店、表に置いてある長椅子に腰かけて、カップルがソバを食べている。
疲れた足取りで歩いて来た寅、その長椅子に腰を下ろし、親しげに声をかける。
カップル、気味悪げに片方に寄ってソバを食べ続ける。

店の奥から老婆が声をかけるので、寅、立ち上ったとたん、カップルがバランスを失って
ひっくりかえり体中熱いソバのツユを浴びて悲鳴をあげる。
寅、あやまりながら、手近にあった水道のホースをとり、二人に水をかけてやる。というミニギャグ


めずらしく最後まで柴又が映らないで、茶店の『ところてん』の旗とともに山田監督のクレジット。




柴又 題経寺山門

おばあちゃんとお孫さん山門でお祈りしている。

源ちゃん、掃除サボって居眠り。いいねえ…こういう人生も(^^)

                なぜか心に残るほのぼのとしたシーン
                

さくら自転車で通りかかる。

さくら「源ちゃん!、こんにちはニカっと笑ってトロンとした眼で見送る源ちゃん。


とらや 店


帳場の机に向ってソロバンを入れているおいちゃん。


おばちゃん「はい、ご苦労さま
谷よしのさん、出ました。十八番花売り兼ヨモギ売りの行商おばさん。
おばさん「ありがとうございます。また、あの、お願いいたします。

                

このあと谷よしのさんは、もう一度、沖縄から柴又に戻って行き倒れた寅を板戸に乗せて運んでくるご近所さんとして
再登場する。今回もなかなかしぶといのだ。
               

さくら、机の上のヨモギの香りをかいで、
さくら「はあ〜、いい匂い
おばちゃん「こんなもの昔は江戸川の土手でいくらでもあったのにさあ
さくら「学校の帰り、道草くってこれたくさん摘んで帰って、おばちゃんにお小遣いもらったっけね
おばちゃん「そうそう、あの頃は土手の上にまだ桜並木があってさ、
そうだったのかあ…( ̄ー ̄)
そういえば第38作「知床慕情」のオープニングでも寅は
みちのくの桜を見ながらそんな昔のこと言ってたっけなあ。

さくら「きれいだったわねえ、お花見の時分は
おばちゃん「
う〜ん
見たかったなあ桜並木の土手を歩く幼いさくら。

ちなみに、第29作「あじさいの恋」では、さくらはおばちゃんと、渡し舟に乗って千葉県まで行って
ヨモギを自力で籠一杯に採って来ていた。




小岩付近・駅前の繁華街

リリーが歩いていくではないか!

チラシを配達しに来た博は驚き、その後を追い、声をかける。

博「あの―
リリー、ふと振り返る。
博「リリーさんですね
博、懐しげに語りかける。
博「博です、柴又のとらやの
リリー、目を大きく見開いて、口をあんぐり開けて驚いている。               

リリーの顔が大きくほころび、喜びの色があふれる。

リリー「あんただったの?懐しい、何年振りだろ、さくらさん、元気?
博「ええ」リリー「おじさん、おばさんは?
博「元気ですよ
リリー「そおー、そいで、…ねえ、あの人どうしてる?寅さん
博「相変らずです
リリー「そお〜、じゃ、やっぱり一人もんで、年がら年中旅暮しで、そうなんでしょう。アハハハ…

                

博「ええ
呼び込みの男前通って「ごめんよ

リリ「しようがない男ねえ、いい年してさ、相変らずさくらさんたちに心配かけてんのね。…
 ま、もっとも人のことなんか言えないんだけどさ

博「リリーさん、今でも歌を歌ってるんですか
リリー、うなずく。
リリー「そう、相変らず下手くそな歌。今夜もすぐそこのキャバレーでね
リリー、今でも歌ってるのかァ…( ̄_ ̄ )
博「もし、良かったら、終わってからでも来ませんか。みんな大喜びしますよ
リリー「本当!?うれしい。おばさんの美味しいごちそう食べたいなあ
博「じゃ迎えに来ましょうか
リリー「それが駄目なのよ。今夜自動車で大阪に行くの。その仕事が終わったら今度は九州。…
   私も旅暮しよ。寅さんと同じ


と、博の時計を見て、

リリー「あ、時間だ。じゃ、私。会えてよかったわ、こんな事ってあるのね。みなさんによろしくね
博「今度東京に戻ったらきっと寄って下さい
リリー「うん、そうする
急ぎ足に歩きかけ、リリー、振り返る。
リリー「たまには帰ってくる?寅さん
博「ええ、思い出したように」上手い言い方だねえ(^^)

リリー「リリーが逢いたいって、とっても逢いたいって、そう言ってたって言って

最後にもう一度大きく手を振り、館に入っていく。


リリーは博に、先ず『さくら』のことを聞いた。
さくらとリリーの結びつきの強さを如実に物語る印象的なセリフだった。
そして、『おいちゃんおばちゃん』を聞く。とらやは彼女にとって心の居場所。大事にしたい人々なのだ。

寅はある意味、同じ穴のムジナなので、しんがり。でも、もちろん最愛の人でもあるので、一番長く聞いている。
ほんとうは一番最初に聞きたいのだが、フーテンの引け目で後回しになっているのかもしれない。
でも、最後は寅のことで頭が一杯で、逢いたいと、はっきり言ってもいる。このへんのリリーの
心の機微と動きをとらえるのが山田監督は実に巧い。浅丘さんのキラキラした眼と美しい声がとても印象的だった。


「忘れな草」から7年。「相合い傘」からも、5年の歳月が流れていた。



とらや  茶の間


とらやのみんな、深々とため息をついてリリーのことをいろいろ心配している。
さくらは無理やりでも誘ったらいいのにと言うが…、

さくら「強引に誘ってみればよかったのに
博「でも…人に同情されるのは嫌なんじゃないか、あの人は
おばちゃん「あ〜そうだねえ
おいちゃん、うなずく。
おいちゃん「そこがウチの寅と違うとこだな

なるほどねえ〜…。リリーにはプライドがあるしねえ…
リリーの苦労は、好きでしているいわゆる勝手な苦労だからなあ…(−−)

                

電話のベルが鳴り、リーン リーン
さくら、立上る。
おばちゃん「寅ちゃんだったりして、フフフ
さくら「はい、とらやです。……もしもし、……お兄ちゃん?
おばちゃん「あら
びっくりしている一同。


上州  駅前の安食堂

赤電話に10円を入れ続ける寅

寅はさくらから、博がリリーに久しぶりで出会ったことを知らされる。

寅「
 リリー? 誰だリリーって?……リリー!、ああ、
 レコード歌手の!……うん、あ、博会ったんか、

 へえ〜、え?オレに逢いたがっていたって?ふふん!上手いこと言うなよお前。
 どうせあいつはいい男つかまえて、幸せにやってんだろ。
 …そんなふうじゃないって?じゃどんな…あ!もしもし、あ、切れちゃったか


寅、電話をあきらめ、机に戻ってコップ酒の残りを飲み干し、ふとつぶやく。

寅「リリーかァ……

「誰だリリーって」、って。寅、リリーって言う名前出てんだからすぐ思い出せよな、リリーのことだけは。
さくらの名前出た時に「誰ださくらって」と言わないだろ。縁が深いんだから、頼むよォ〜(−−)


                     
リリーか…
                



東京 小岩  

キャバレー ハリウッド
    リリーが狭いステージで歌っている

リリー「泣けば〜涙のぉー…星空をー
     ああーー、あああ〜…流れくぅるくぅ〜〜る〜〜、あの歌は〜〜
   誰がァ〜歌うかー、東京セレナーデー〜……


                

「忘れな草」や「相合い傘の頃」より、大人の魅力が出て、しっとりと歌っているリリー。



それから、ひと月

江戸川  土手

寅が、久しぶりに江戸川土手に立っている。

                



とらや 店先


店の表に博が仰々しく紙を貼りつけている。
従業員慰労のため本日休業いたします 店主敬自

とらやのみんなで水元公園にあやめ見物に今まさにでかけようとしている。そんな時に限って
寅はノコノコ帰ってきて騒動を起こすのだ。


                 


ドドドド!
おいちゃん「寅帰ってきた!
さくら「え!?
博「おい、どうする?
博「ああ!
おいちゃん「何?
博「アレはまずい!

博、店の表の張り紙をやみくもに外す。
何もソコまで隠さなくても…(^^;)ほんとに気を使わせるねえ〜、寅って。
第12作の『九州旅行騒動』思い出すなあ…(  ̄ー ̄)

さくら「あー!このお弁当、荷物隠さなくちゃ
それじゃあ、メロン騒動の二の舞になるぞ(^^;)
あわてて弁当や水筒をそのへんに隠す。

わっ!おいちゃん、さくらの帽子被っちゃった!
ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ

寅、例のごとく一度わざと通り過ぎて、


郵便屋さん「とらやさん、郵便です
寅、つかつかと近づいてくる。
寅「♪郵便屋さん、 御苦労さん、この家だろ?
郵便屋さん「
ええ、速達なんですけど…
寅「あっそう、オレがもらっとく、どうもありがとう
と封筒を受取り、店に入ってくる。
さくら「
おかえんなさい
寅「おう、さくら、なんだい、速達だよ。はは、お、みんなおそろいじゃないか
みんなで「おかえりなさい
さくら、おいちゃんがさくらの帽子を被っているのに気づいて『帽子、帽子…』と目で合図。
おいちゃん慌てて帽子を取る。

寅「なんだい、こざっぱりしたカッコして、 どっかへ出かけんの?
博「いえ、別に


満男が表から顔を出す。

さく満男「ねえ、早く行こうよ〜満男正直(^^;)
寅「うん??
博「どこ行くんだい?博っていったい…(^^;)
満男「おかえんなさーい満男〜〜気を使うねえ〜(TT)
寅「どうも様子がおかしいな。何かワケあんのか?

                  

社長店にやって来て
寅「おおう、社長、元気か?

社長「元気だよ、元気だけど、まずい時に帰って来たなあ-…決まったな(−−;)
寅「今、何て言った?
社長「いや、別に

寅、おいちゃんの担いだ水筒グイッと引っ張って
おいちゃん「あ。。。
寅「さくら何かい?今じゃ、とらやは こんなもんで客にチャア入れてんのかい
このギャグ笑いました。それ酒が入った水筒です(^^;)

さくら、顔をあげて、寅にあやめ見物のなりゆきを話してやる。
寅、ふてくされて、
寅「ふう〜ん、ほうか…、これからみんなで水元公園出かけようって矢先に、やっかい者が、
 バカ面下げて帰って来たってわけか

バカ面って… ヾ(^^;)
一同、あわてる。
寅「さくら、お前そういう気の使い方をするんだよ
 『あたしたちこれから水元公園に出掛けるのよ、お兄ちゃん留守番してくんない?』
 素直にそう頼まれりゃあ、ああいいよ、行っといで、オレは二階の部屋でちょっとひと休みして、
 おまえたち帰って来たら、お重の残りで一杯やろう じゃないか、気持ちよくお前たちのことを送り出して
 やれるんだよ。そうだろ?満男


 満男に振るか普通(^^;)
満男「ン?、そう…満男漫画読んでて、聞いてません。適当〜(^^;)

                 

寅「オレたちは他人じゃないんだぞ、オレはな、身内だよ、お前達の!

と、ダダをこねだし、止まらない。

しらけてしまう一同。

おいちゃん「もう行くのやめよう、アヤメ、な、さ、さくら

寅「行くなって言ってるんじゃないんだよ、みんなで楽しく行きゃいいじゃねえかァ!!
おいちゃん「こんな気分でアヤメなんか見たって面白くも おかしくもねえや!あ〜あ〜あ〜!
博「まあまあ
おばちゃん「このお弁当、茶の間で食べて、ピクニックに行ったつもりになろう満男、おいで
満男「ちぇっ 満男、もう踏んだり蹴ったり…(^^;)
社長「あ〜あ…
寅「行くなって言ってんじゃねえだろ、行きゃいいじゃねえかよッ!!!

さくら、たまりかねて、叱るように言う。

さくら「行くなって言ってんのと同じことでしょう。何よ、お兄ちゃんこそ、子供がすねた
  みたいなこと言って。私達が気を使ってどうして悪いの。
  『お前達気を使ってくれてどうもありがとう、でもオレが留守番してるからお前たち行っといで』
  って、なぜ優しく言えないのよ


博「やめろよさくら
社長「よくあることだよ。寅さん、上って一杯やろうよ

寅、ムックリ立ち上ると、かばんを片手に持ち、机の上の速達をポイとさくらに投げる。
手紙が下に落ちる。

寅「フン、今夜やっかいになろうと思ったけど、とてもそういう気分じゃねえや

                    

旅に出て行こうとする寅。

もう出て行くのか、わがままやなあ〜 ┐(-。ー;)┌



A【リリーの病気と駆けつける寅の心根】

手紙を拾って表書きに眼をとめたさくら、あわてて呼びとめる。


さくら「お兄ちゃん、これ、お兄ちゃん宛よ

敷居をまたいで立ちどまる寅。
寅「誰がよこしたんだ?
さくら、裏を返して、博にも兄せる。
さくら「リリーさんからよ
寅、さすがにハッとして、
寅「リリー…?
さくらと博、顔を見含わせる。
さくら「何があったんだろう。速達なんかで

さくらが読んでみると、なんとリリーが遠く沖縄で入院して、今にも死にそうだと書かれていたのだ。


さくら「『私、今病気なの、…』」
寅 「え?


                      

さくら 「ええ…『歌うたってる最中に血を吐いて、この病院にかつぎ込まれたの』

ハイビスカスの花のリリーのテーマが静かに流れる。

さくら「『先生は気の持ち方で必ずよくなるってそう言うけど、でも生きてたって
   あんまりいい事なんかないしね。別に未練はないの。ただ一つだけ、
   もう一ぺん寅さんに会いたかった、寅さんの面白い冗談を聞きたかった、それだけが心残りよ』


寅、血相変えている。

寅「さくら…リリー…病気!
さくら「うん
寅「死ぬ間際にオレに会いたいって言ってんだな
さくら「そうね
おいおい、そうね、じゃないよさくら。まだ死なないってば(^^;)

寅「よし!」.

かばんを片手に持ち、脱兎のごとく店から飛び出す寅。あわてて後を追うさくら。

さくら「ちょっと待ってよ!
リリーのその手紙って「それだけが心残りよ」で終わっているのかな?
もう少し何か書いてあるんじゃないかな。終わり方がちょっと唐突。





帝釈天・参道


急ぎ足に駅のほうに行く寅。その後から、手紙を片手にさくらが追う。
リリーの入院先が沖縄だと分かって、とりあえずさくらに連れられて戻ってくる寅。
寅は沖縄にどう行っていいのか分からないで困ってしまう。
 

とらや 店

寅、店に戻りながら

寅「
おい、博よ、あの〜沖縄行くのはあれか、やっぱり沖縄っていうのは
 あの博多まで新幹線で行って、


みんなあたふた。

寅「よオ、何かいい考えねえかい、早く考えろよ
おいちゃん「満男、地図持って来い地図。

みんなでああでもないこうでもないと検討しているが、なかなか早くつく方法を思い浮かばない。


                 

困った困ったと言いながらおろおろ地図を見ている。

おばちゃん「弱ったねえ、そんな遠くの方で病気になっちゃって。
   
    千葉県だったらタクシーで行かれんのに〜

出たあああ!おばちゃん、それ意味ねえ〜〜(^^;)/

社長「早く行きたいんだろう、要するに
寅「え?うん、なんかいい方法あるか?
社長「飛行機で行きゃあいいじゃないか、羽田から。
博「あ、そうか
社長「
三時間もありゃ行けるんじゃない

さくら「いやだ、気がつかなかった、乗ったことないから
さくら〜、第12作で九州に行った時、羽田から大分までみんなで乗ったじゃないか、
しかも帰りも同じように大分から羽田まで乗ってたし…(^^;)忘れんなよな。あの時も大騒ぎだったんだから。


おいちゃん「飛行機なら速いや〜
安心して笑い出す一同へ、寅、憮然と言い放つ

寅「ダメ、 飛行機はダメ 」

さくら「どうして?
社長「恐いのかい?

寅「恐い…恐くない!!!オーバーアクション(^^;)


寅の大声と手の振りにビックリしてのけぞるさくらたち。

寅「恐くないけども、飛行機はいや!ねっ!あの〜何か他に方法はないか
博「他にはありませんよ
さくら「お金だったら私達で何とかしてあげるから
寅「金の間題じゃないの。いやなものはいや!
唖然としている一同。
おいちゃん「
高い所が恐いんだよ、ガキの時分から
社長「プハ!
寅「高いとか低いとかの問題じゃないんだよ、イヤなものはイヤだってつってんの!
さくら「ねえ、そんなこと言ってる場合じゃないのよ、思い切って乗っていったら

                 

寅「ヤだよ!
博「でもね……
寅「ヤだってつってんだよ
博「しかし
寅「乗らないっちったもんは乗らないんだから、乗らないっつーの!

ある意味、あんな鉄の塊が空に浮いて、目的地まで飛ぶわけが無いと、考えてしまう寅の感覚は
生き物として正常ともいえる。私も仕事上毎年何度も乗っているが、やはり怖い。


結局、御前様まで巻き込んで何とか説得し、飛行機に乗ることになったのだが…。



とらや 店



御前様が腰を下ろしている。

御前様「そうですか、無事たちましたか。いや〜天気もいいし、まず、よかった
おいちゃん「たかが飛行機に乗るくらいのことで、御前様にまで御心配おかけしまして。
      困った男でございます

御前様「何をおっしゃる、ゆーなれば人助けなんですから、こら、ほめてやらなきゃいかん
いいこと言うなあ御前様は、寅のことちゃんと分かっているんだなあ。
おいちゃん「いやー恐れ入ります
御前様「時に、あの、リリーさんとかいう人は、
何番目の女性かな?
何番目って…仏に仕える方がそのような過激な…(^^;)

おいちゃん「は、何番目かは忘れましたが…、確か五年か六年前になります
おばちゃん「
キャバレーで歌なんか歌っていた人で、派手な洋服を着て、やせぎすの
御前様「おうおう、あの眼の大きな、外人みたいな顔をした

                  

おばちゃん「ええ、その人
御前様「う〜ん、あれは美人だ!

御前様もそんなことばっか考えてんだね(^^;)

リリーが誰かもイマイチ分からないでお見舞いを渡した御前様っていったい(^^;)

ところが。。。

プロペラがないからいやだというすさまじい理由で急遽ダダをこねだし、
空港の前でゴネル寅だった。

寅「やだ!やだ!だだっこ(^^;)
博「いいですか後ろの方に穴があいてるでしょう、あそこから
 バアーツとガスを吹き出して、それで飛ぶんです

寅「馬鹿野郎!それじゃお前が芋食って
 ケツから屁が出て、それで空飛ぶか?非常識だい!
 そんなこといったってダメだい
凄い理屈(^^;)
博「ナンセンスだなあ…いいですか。
博、あれガスっていうより、熱風だぞ。正確に言ってくれよな。

そこへ、JALのスチュワーデスさんたちの一行が通り過ぎる。

寅「こんにちは…これからお仕事ですかいきなり目がハート(^^;)
スッチー「こんにちは
寅、そのスチュワーデスさんのカバンを持ってやろうとする。
あ〜あ…これだよ! (-。ー;)

                 

おいおい、スチユワーデスさん、寅がカバン持つまでじっと待ってるぞ!NGだけど、まあいいか。

カバンを持ってやりながらそのまま後をついていってしまう寅。
博に向かって来い来いと催促。


ああ〜あ、これだもんなあ、バカバカしい〜。真面目に考えるだけ無駄だね。 

まったく、スチュワーデスがいなければ本当に飛行機に乗らなかったなんて、駄々っ子だねえ〜。
困ったもんだ。リリーが待ってるのに。┐(- ー;)┌





沖縄 那覇空港

南国の強い陽差しを浴びて、
ジャンボジェット機
DC10が轟音と共に着陸する。

JA8530日本航空JAPAN AIR LINES JALDC-10

コミカルな音楽が流れ
二人のスチュワーデスに抱えられるようにして、顔面蒼白な寅がヨタヨタと乗客の最後に下りて来る。


ある意味すごい目立ってるなああ(^^;)

                   


階段から転がり落ちそうになる寅。そのあとも車椅子を使ってバスまで移動。フラフラになりながら
バスに乗っていく寅だった。


国際通りをバスが通っていく。
疲れきり、今にも眠りそうな感じで坐っている寅
寅の乗ったバスが嘉手納基地近くを通る。道路沿いの金網越しに見える広大な基地の飛行場。

このような厳しい超国家的戦略の現実とは無縁な寅。ただひたすらぐったりと眠っている。
ある意味凄い対比である。このあたり山田監督の『眼』を強く感じる。


F-15』米軍戦闘機が嘉手納基地に着陸していく

                  

寅の乗ったバスの真上を巨大な輸送機が轟音を立てて着陸していく。



たがみ病院前』にバスが停る。

那覇市首里石嶺町「たがみ病院(現在のオリブ山病院)」教会が遠くに見える。


                   

速達の手紙が着いてからたった1日でともかく寅はやってきたのだ。凄い!!
運転手に声をかけた寅、一目散にたがみ病院の建物に向って走り出す。


とにかく寅はリリーのために東京から遥か遠く離れた南の島にやって来たのである。その事実がどの言葉よりも重く、
そして嬉しい。寅とリリーの新しい物語が今また始まろうとしている。


たがみ病院  リリーの病室

窓から見えるリリー、眼を閉じている。

廊下から、パタパタと雪駄の音が近づいて来る。

寅の声「リリー! リリー!

リリー「……!!

その声にハッとするリリー。

信じられない顔で息をのんで、その声を聞いているリリー。



リリー「……
                  
                 

寅の声「あ、すいません、看護婦さん、あの、松岡リリーはまだ生きてますか?
看護婦「ええ

寅「生きてますか、あ〜!よかった。あの、部屋、部屋どこでしょう? 
看護婦「こちらです
寅「あ、ここですか、あ、どうも

松岡清子とは聞かないんだね。寅は松岡リリーとしか覚えていないのかもしれない。
それにしても清子と言う名前は一見リリーには合っていないようだが実はリリーの心そのものだ。
ハイビスカスでは「松岡リリー」、第48作で映るレコードのジャケットでは「リリィ松岡」だったけな。

カーテンを開けて寅、顔を出し、入口近くの女性に小声で尋ねる。
寅「
松岡リリーどこにいますか?
向かいのおばあさんとリリーを間違えると言う軽いボケをかました後、寅は
ようやくリリーと対面する。

はっと振り返る寅。
なんともいえない顔で寅を見ているリリー。
その顔を見つめる顔が和らぐ寅。

寅「リリー

                   


リリー「フフ…
あわててその傍に駆け寄る。
寅「何だい…かわいい声(^^)
寅「お前ここにいたのか。あ〜、よかった。ハハ、オレ今、しわくちゃのババアとお前と間違えちゃってよ」
おばあちゃんに聞こえるよ寅 ヾ(-_-;)
リリーフフフ
寅「
お前、昔と一つもかわらねえ。安心したよ
リリー、その細い腕を差し出し、
手を握ろうとする。寅も迷うことなくしっかり両手で握る。


                  

リリー「寅さん…
寅「うん
リリー「来てくれたのね
寅「ああ、お前の手紙見てまっすぐ飛んできたんだけどね、何しろお前、遠いからなあ、
  時間がかかっちゃって、遅くなったけど、勘弁してくれなあ…

リリー、感極まって
リリー「私、うれしいと、泣き出しながら寅にしがみつく。
寅「よしよし、寂しかったんだろう、一人ぼっちでな。もうオレがついてるから大丈夫だ、え。

                


寅「泣くな、おい、泣くんじゃないよ、みっともないから、な、プーッ!

寅も感極まりハンカチを取り出し鼻をかんでしまう。
寅「ヘヘ!
リリー「フフフ
この光景を唖然としてポカ〜ンと眺めている同室のみんな。


寅「あ!、そうだおみやげがあるんだい。うん」
寅、カバンを開けながら

おばちゃんがね、フフ、リリーにさ、この川魚の佃煮を作って、
食わしてやってくれって。へへへへ


リリー「わあ
寅「これ、さくらから、浴衣着ろってよ。
リリー「
……

                


寅「これはね、あのおいちゃんと博がトランジスターラジオだって
リリー「……
うん、え〜っとアハハハ、裏のタコがくれたよ、いくらも入っちゃいねえだろ。え?

『御見舞 朝日印刷』
リリー「は〜、嬉しいなあ、お見舞いもらったの初めて
寅「ああ、そうか、うん、お、まだあるぞえ、これ御前様。御前様もくれたよ
『御見舞 題経寺』

                  


寅「これは何だ、さくらなんでも入れるからなあ、これエプロン…
  あ、オレの
フンドシだ、アハハハ
寅ってフンドシさくらに縫わせるんだよね。第7作参照(^^;)


このようにして寅は瞬く間に、みんなに挨拶をし、看護婦たちとも
仲良くなって行くのであった。
そしてみんなは寅のことをリリーの恋人だと噂しはじめるのだった。


そんなことが嬉しくてたまらないリリー。


リリーはいつまでもたくさんのお土産を胸に抱いていた。

寅はともかくたった一日で飛ぶようにやって来た。
必死で駆けつけてくれた寅の気持ちを、みんなの気持ちを、いつまでも感じ続けたい。
そんなリリーの嬉しさをかみしめる姿がそこにあった。


ちなみにこの寅がリリーに次々とかばんの中からお土産(お見舞い)を出していくパターンは
26年の年月を経て2006年の『Dr.コトー診療所第10話』でコトー先生が星野彩佳さんにしていた。



B【リリーに寄り添う寅の献身、そして退院】

たがみ病院  夕焼け空

カラスが鳴き、蜩がカナカナカナと鳴いている。


赤い夕陽の差し込む病室の一隅で、ベッドに寝たリリーに夕食を食べさせてやっている寅。
枕もとにはお土産のトランジスタラジオがセットしてある。

リリーのテーマがゆったりと流れる。

寅「お、あーん、て、あーん、て
寅「
どうだ、うまいか
リリー「まず〜い
寅「まずい?まずくたってがまんして食わなきゃダメだよ、
 なあ。そうじゃダメなんだほら、もう一サジ。あーんて、そうそうそう。
 な、知念先生が言ってたろ、この病気は心の持ち方が大事なんだ、
 生きようと思うことが大切なんだって。な、

あ、ほれ。おばちゃんの作った佃煮、これ食ってみろこれうまいぞ


っと、箸を口に持っていってやる寅。
寅「うまいだろ?
リリー、箸を持つ寅の手を握って
リリー「おいしい

                   


寅「な、…おし、茶、飲むか
リリー「うん
微笑んで寅を見つめるリリー。

寅「うん

寅、深々とため息をつき、リリーを優しい目で見つめて。



寅「あーあ…、…お前も、沖縄まで来て、病気してよ、…

 どんな苦労したんだ、ん?


リリー「フフ…

何も答えないで、微笑みながら寅の袖を指でいじって遊ぶリリー。

リリー、ふと上を向き、眼を閉じる。


                   


寅「……

寅「あんまり語してると病気にさわるか、なっ

リリー「寅さん         
寅「えー、なんだ?
リリー「こうやって眼つぶって寝てしまうでしょう、
寅「うん
リリー「そして明日の朝眼がさめたら、寅さんがこうやって御飯食べさせてくれたの、
  みんな夢だったりして


寅「バカだねえ、お前。だったら自分の体つねってみろ、痛えから
リリー「じゃ、つねってみて
寅「え?ど、どこらあたりよ?
リリー「どこでもいいから
寅「う〜ん、どういうところつねってみるかなあ、ここか?

                   


リリー「痛い!!
寅「ヘヘへ……痛えだろう、エヘヘヘへ痛えか

一生やってろよ ┐(ーー;)┌

唖然として、ため息をもらす同室者達。だよな(^^;)
寅「あ〜〜、もそろそろ面会時間も終わりか、じゃ、オレもホテルへ帰るか
ホテル…(^^;)
リリー「ホテルに泊るお金なんてもってるの?
寅「病人がそんな心配するこたあねえんだよ。それじゃあ、どなたさんもお休みなさいまし
同室者たち「おやすみんさい〜
寅「おやすみなさい
リリー「おやすみ
寅「お、夢なんか見ねえでぐっすり寝ろよ
リリー「うん
寅「あ、看護婦さん、どうもお世話様です.
 また明日朝早くきますから。え、リリーのこと、ひとつよろしくお願いします

足音を忍ばせて部屋を出て行く寅。

「おまえも、沖縄まできて、病気してよ…、どんな苦労をしたんだ?」
この時のリリーを見つめる寅の目はどこまでも優しかった。
寅を静かに見つめ、何も答えずただ微笑むリリー。
リリーの長い生涯の中でこの日が最も嬉しい日だったことを私は確信している。
「また、明日の朝早く来ますから」と看護婦に伝える寅の声を
聞くリリー、こんな嬉しく心強い言葉が他にあるだろうか



病院から近い、那覇市牧志の古い安宿『ホテル入船』に滞在している寅。



那覇の『新天地市場』
アーケードの前でサンダル、草履のバイをしている寅。
売り声「よってらっしゃいシャツは3枚で千円…3枚で千円…」とても活気がある。

『ハイサイおじさん』が流れている。

『十九の春』が流れている。

                   


寅「さて、沖縄県民のみなさま、毎日お仕事本当に、御苦労さまでございます。
 ね、わたくしは、東京は葛飾柴又からはるばる海を越えて、ジェット機に乗って
 やって参リました。御当地初のお目見えでございます。ねっ!

 御挨拶がわり御名刺がわり、今日はもうけは一切考えない、
 本来ならばこれ全部タダでやっちゃう!ね!しかし、私には
病気の妻がいます、
 私の恋する恋女房、これがいい女だ。


おばちゃんたち「アハハハ…

啖呵バイをしながら寅の手紙がナレーションで流れていく。

寅からの手紙

さくら、飛行機の一件じゃ世話になったな。
無事沖縄について、元気で暮しているから安心しろ



さくらのテーマが流れる。

さて、リリーのことだけどな、オレ本当に来てやってよかったよ…

手紙のナレーションと同時に


たがみ病院・リリーの病室
心配そうに見ている寅。

ギャグ1
医師「ハイ口開けて あーん」知念先生、リリーの口の中を見る。
緒に口をあけて見ている寅。(^^;)

ギャグ2
医師「ハイ、胸開けてえ
つい自分の胸を開ける寅。(^^;)
看護婦
「フフ、寅さん」
知念先生唖然(^^;)


                   


あわてて眼をそらす寅。
その寅をおかしそうに見ているリリー。

寅の手紙続き

看護婦の話じゃ、オレが来るまでは医者の言うことなんか何も聞かないわがままな
病人だったらしいけど、オレが来てからは、すっかり素直になって、この調子じゃもう
大丈夫と医者も太鼓判を押してくれたよ




ある雨の日

リリーの病室

寅の手紙

寅「雨の日も風の日も、オレは病院に通い続けてあいつをなぐさめているよ。
  近頃はよく笑うようになってな、顔色もよくなってきたし、だんだん昔のリリーに戻ってきたよ


リリーのベッドの傍に、八百万のおかみさん(^^;)はじめ同室の女達が集って楽しそうに寅の話を聞いている。
リリーも寅にもたれかかって大きな口を開けて笑っている。


               



ある晴れた日
 リリーの病室

晴れあがった青空、窓の外にまっ赤なハイビスカスの花が咲き乱れている。
しきりにセミが鳴いている。


ベッドに座り、化粧していたリリー、ふと振りかえり、訪ねてきた寅に笑いかける。


みやげの果物と花を持って立っている寅、化粧したリリーの顔にとまどっている。



寅「
何だ。おまえ、おめかしなんかして、どうかしたのか?
リリー「
二枚目が訪ねて来るんだもの
寅「誰が、い、いつ来るの?
リリー「もう来てるよ
同室の人たち「フフフ…
寅「え、ど、どこに?うすうす分かって照れている(^^)
リリー「私の目の前♪
と、自分と寅を指差して、微笑むリリー。


              



寅「バカだなあ、お前。そういうことこと言っちゃいけないよお前、
  堅気の衆が本気にするじゃないか、バカだなあ
ほらあ、ほらあ、へへへへ
と、花を渡してさらに照れる寅。


寅の手紙続き

そういうわけでオレは当分こちらに滞在するが元気でいるから心配するな。
博、おいちゃんおばちゃん達にくれぐれもよろしく言ってくれ。

 沖縄のホテルにて、兄より…





たがみ病院  表

セミがしきりに鳴いている。


寅「
リリー!

裏手の丘のグラウンド
見はらしのいい丘の上に、浴衣を着たリリーが日傘を差し、立って少年野球の練習を見ている。
近くの教会から聞えてくる子供たち
讃美歌の合唱

寅の声「おい!リリー!

リリー、片手を上げながら大声で叫ぶ。

リリー「
寅さん!
寅「
いいのか、お前、こんな表に出たりして、医者に断ったのかよ?
リリー「あのね
寅「うん
リリー「先生がね
寅「うん
リリー「
あと三日たったら退院してもいいって
寅「ほうか〜、よかったなあ
リリー「退院できる〜
寅「そうか!
リリー「フフフ


              





C【渡り鳥の休息、甘い蜜月の日々】

とらや 台所



さくら、封筒の封を切っている。

便箋をひろげて眼を走らせたさくら、大声をあげる。


さくら「あら、リリーさん退院したんだって

                 



おばちゃん本当!
おいちゃんんー、そりゃあ、よかったなあ
口々に喜び合う一同。

さくら「ちょっと読んでみるわね。
おいちゃん「うん

リリーの手紙を読むさくら
『とらやのみなさん、この度は本当に御心配おかけしました。
 おかげで私退院したんです』」


おいちゃん「
あ〜…と喜んでいる。

さくら「
『一時はもうやけくそになって死ぬ覚悟までしたんですけど、
   今はあの頃のことが夢のようです』

おばちゃんどんなにうれしいだろうねえ
さくら「ねえ〜

さくら、読みつづける。

さくら「
『寅さんが本部(もとぶ)の町の海岸に部屋を惜りてくれて、今そこで暮しています』
社長「
療養してるんだな、海岸で
さくら「
空気はきれいで、水は澄んでて、とってもいい所ですって
博「
きれいらしいからなあ、沖縄の海は

さくら「
ええと、毎日新鮮なお魚を食べてぐんぐん元気になってるって。
  『みなさん、本当にありがとうございました。それじゃ、お元気で、さようなら。
  沖縄にて、リリー…』よかったわねえ〜


意訳しないで、ちゃんとリリーの文章でそのまま読んでやれよさくら、
急いでるわけでもないのに…。


おいちゃん「
寅が出掛けて行ったかいがあったというわけだ
おばちゃん「
大変だったねえ〜、あん時は、飛行機に乗るの乗らないのって

第4作でハワイ行く時は飛行機なんかへっちゃらであんなに張り切ってたのにねえ(^^;)


手紙を一枚めくって、さくら、声をあげる。


さくら「
あら、まだ何か書いてある
おばちゃん「うん?

さくら「『追伸。寅さんからくれぐれもよろしくとのことです。
   今夜は泡盛を飲みすぎて、

  
私のそばでひっくりかえって寝ています…』


顔を見合わせる一同。
社長、恐る恐る口を出す。

社長「
そばで寝ているということは、ひょっとすると、同棲しているっていう…
その場の空気が凍りつく(^^;)
まあ普通そう考えるよなあ、二人ともいい大人なんだから。

                     


一同の不安をかき消すように、博が言う。

博「
ま、そういう心配は、後回しにしましょう

青少年じゃあるまいし、四十をとうに過ぎた男と、三十半ばの女がどう住もうと、
『心配』するようなことではないと思うが…





本部の海

初夏の陽を受けて、キラキラ輝く珊瑚礁の浜。 澄みきったエメラルド色の海。

日傘を差したリリーが見守る中、高志がモリを持って海に飛び込んでいく。
水しぶきがリリーにかかって、びっくりする。

リリー「
キャー!!
リリー「あー!魚いた!



夕方  国頭家の前の道

日暮が鳴いている


夕闇迫る国頭家の塀にもたれ、リリーが寅の帰りを待っている。
角を曲がって疲れた寅が現れる。
リリー、大きく手を振る。

リリー「寅さん、おかえり、フフ…

手を上げて応える寅

               



国頭家 庭

寅とリリー仲良く敷地に入ってくる。


寅「
お母さん、ただいま
おばさん「
おかえりー
寅は『お母さん』と言い、リリーは『おばさん』と言う。面白い。

寅「あー、暑いよ暑いよ〜
リリー「御苦労さん。今夜はね、おいしい刺身があるよ
寅「あ、そお!ビール冷えてるかオリオンビール!

                ふたりのなんという笑顔!
               



リリー「もちろんさ
寅「うん
リリー-「汗かいただろ、はい、お風呂行っといで
寅「あいよ
リリーからタオルと石けんを受取り、鼻唄まじりに風呂場に向う寅。
寅「どうだいおまえも入るか おい?
リリー「もう入っちゃったよと笑っている(^^;)
寅「うん


この躍動感!このやり取り、動きのキレ!これぞ寅とリリーの青春だ。
こんな幸せな二人は見たことがない。この時の寅とリリーは紛れもなく共に
同じ一つの人生を歩んでいたのだ。





国頭家  庭

ハイビスカスの花が母屋からもれる明りを浴びている。


三線の音色と唄声


母屋の縁先で沖縄三味線の『三線』をつまびきながら、悲しい唄「
下千鳥(さぎちじゅやー)」を
ゆったりと唄っているお母さん。


リリーの住む離れ

カースビーの刺身を食べてオリオンビールを飲み、
枝豆を食べて、食事を終えた寅、寝転んでウトウトしている。

リリー、つと立って押入れから枕を取出し、寅の頭にあててやる。
寅、眼を覚まし、アクビをしながら体を起す。


               


寅「あ-、すっかり寝ちゃっなあ。もうだいぶ遅いんだろ。そろそろ寝るか
リリー「今、お茶入れるよ。このお土産食べよっ!
ポットのお湯を土瓶にさすリリー。

寅「
うん…あ、お母さん、また歌唄ってらあ
リリー「
死んだ旦那さんがね、大好きだったんだってさ
寅「ふーん。大酒飲みだったんだってなあ、お母さんずいぶん苦労したんだろう、

富子を見つけて、
寅「ご飯すんだか?
富子「うん、すんだ
寅「うん

リリー、湯飲みにお茶を注ぎながら

リリー「さっき御飯作ってたら、富子ちゃんが来てね
寅「可愛いなあ、あの娘なあ

リリー「私に聞きたいことがあるって言うの
寅「分った、レコード歌手になりてたいっつったんだ、お前やめろって言ったろ、この道の苦労はお前が
 一番知ってるからな

リリー「違うよ、そんなことじゃないんだよ
寅「へえ〜

               


リリー「私と寅さんは、夫婦かって聞くの

寅「…!

寅の目を見ているリリー

寅「…それでお前、何ていったのぉ…?

リリー「まだ式はあげてないよって、そう答えた

リリー、ビールの王冠で遊んでいる。

寅、狼狽しながら、
寅「その物の言い方は誤解を招くんじゃないかなあァ〜。もぉ…。遅いから寝ようか
逃げるように立ち上ろうとする寅。

リリー「寅さん…
寅「え?何?
リリー「私、一度聞きたかったんだけど

寅「何を?

リリー「あんた、今までに誰かと所帯持ったことある?


               


リリーの真剣な言い方に、思わずヘドモドする寅

寅「そういう過去はふれない方がいいんじゃねえか、
 お互いにいろいろあるからさ


リリー「私はあるよ、所帯持ったこと

寅「オレ知ってるよ、うん

リリー「寅さん、どうなのさ
               

寅「いいじゃないの、今ぁ

リリー「白状したっていいだろうないないなんにも(^^;)

寅「だから、つまりさ、こっちがいいなあって思っても、
 向うが
良くないなあ〜と思う事があるしさ。
 要するに、いつも振られっぱなしっていうことだよ。
 フフ…、そんなことまでオレに言わせんのか、バカ。さ、もう寝よ


リリー、おかしげに寅を見つめている。

リリー「じゃ、ねえ…

寅「オドオド(^^)

リリー「こうやって女と差し向いで御飯食べるの初めてなの?

寅「そうそう、初めて初めて。
  あ、あの寝る前に薬飲んで寝ろよ、なっ


と、アタフタと出て行く。


なにもかもが寅には初めてのことばかり(^^)
もうこの手の話題、するだけでも寅にとってはドキドキもの。ダメだねえ〜。
           

寅、帰ってきた高志をからかいながら母屋に帰っていく。

しばらく暗い庭に眼をやっていたリリー、
ため息をついて卓縦台の上を片づけはじめる。


                      ……
               



リリーは、寅と人生を共に生きたいことを、それとなく寅に分からせようとするが、
寅は今のままで十分満足そうだ。リリーの言葉をするりするりとかわしてしまう。
リリーは、もっと寅に寄り添いたいのに…。
リリーは今、寅に恋をしているのだ。




翌朝 舟着場

リリー「おばさん、寅さんどこへ行ったか知らない?
おばさん「さっき会っただなあ…。あんまり暑いから、涼しい所探していくって出かけて行きよった
リリー「そう…、なに考えてんだろうね、男なんて…
どうしてもお尻がムズムズして、気ままが出てくるんだね、寅って。



村近くの一本道
セミが煩いくらいに鳴いている。

ギラギラと照りつける強烈な陽差しの下、畑の中の真っ白な道を、アイスキャンディを持った寅が
あえぎあえぎ歩いている。


寅「ひえ〜〜〜、ああ〜、あちい、あちい…

電柱の細〜い影に手を広げ合わせて無理やり入ろうとする寅。

今も語り継がれる伝説の『電柱ギャグ』

寅「
うへぇぇ…もうヘロヘロ

                    うへぇぇ〜
               


寅「
うわーっ、あち
アイスキャンデーを額に当てる。 
寅、ギラつく太陽を恨めしく見て
寅「あーっ、あち、うわあああっ」

寅、涼しい所探してる割には、日陰も無い長い一本道
を歩くなんて自殺行為だよ(^^;)


使い古した乗用車が走って来て寅の傍に停り、中から高志が顔を出す。
寅は高志が海洋博公園で働くことを聞き、冷房の効いている水族館に行くことに。


国営沖縄海洋博覧会記念公園

水族館の中 イルカスタジオ

エミール・ワルトトイフェルの「スケーターワルツ」が流れ始める。

ガラス越しの青い水槽の中でイルカの演技が続く。

寅、ようやく眠りから覚めて、水槽の中のイルカとダイバーの女性に焦点が合う。
ずっと、食い入るように見つめる寅(^^;)

               


微笑みながらその姿を見るダイバーのかおりちゃん。
水槽のガラス越しに、口を開けた寅の顔。


イルカのプールの近く

遥か彼方、青い海の向うに見える伊江島。


見晴しのいい水槽のヘリに腰を下ろしている寅とかおり。


寅「そうかい、はー、じゃあ一応泳いでて楽そうに見えるけど大変なんだ
かおり「そうなんです
寅「へえ、へっへへ、

寅「へえ、こんなんがそんなに可愛いかねえ
かおり「病気した時なんかねえ、淋しがって鳴くのよー
寅「ほお…、そんな時どうすんだい?
かおり「水の中で抱いてやりますっと抱く真似
寅「抱くの?とこれまた抱く真似。
寅「はーあ、うまくやってんなあクロちゃん、へっへへへ

まだ若いかおりをからかい、仲良くなり、すっかり上機嫌の寅だった。

              



本部の海岸の夕焼け


国頭家  庭

寅が鼻唄まじりに帰って来る。

寅「♪私があなたに惚れたのはちょうど十九の春でした-…
風呂場から出て、髪をといでいる富子に声をかける寅。
寅「
富子ちゃん、リリー寝たかな?
富子「
さあ…

離れのリリーの部屋
蚊帳の中でうちわを使っていたリリー、

寅「リリー、寝たか?
リリー「
起きてるよ。どこ行ってたの?
寅「ん、あの…水族館へ行ってきたい。なんだか魚ばっかり泳いでいるだけで、
  面自くもありゃしねえや」
 ほおおお〜( ̄、 ̄)

起き上がろうとするリリー

あ、いいよ、いいよ寝てな寝てな、お前まだ病人だからよ。
 明日病院へ行く日だろう?

リリー「
寅「ん、忘れんなよ、な
母屋の方に去る寅を見送るリリー。
寅「おう、青年高志、ウイスキー飲もうや。な、泡盛あきちゃったんだよ

遠ざかる寅の声を聞きながら、何かを考えているリリー。


美しい…


             

蛙の鳴き声が聞えている。

寅は、リリーのために沖縄に飛んできた。
退院するまでは足しげく毎日通って話をし、励ました。しかし、リリーが元気になってくると、
徐々に寅のフーテンの気質が表に出始める。リリーは、寅との関係を深めたくて
しょうがない。しかし、寅は煮え切らないで、リリーが元気になってきたことをいいことに、
夜まで外でフラフラ遊んでいる。寅はこういう男なのである。

リリーは寅と近くにいるはずなのに、気持ち的は徐々に孤独を感じ始めているのかもしれない。




D【リリーの告白と突然の別れ】


朝 本部の海岸


船陰に座り込んで
寅「あー、あ、あーち、あーち、お母さんよお!

サバニを砂浜に上げながら、

お母さん「はいい!このニュアンスいいねえ(^^)
寅「せがれどこ行ったい?
海洋博のかおりちゃんところへ連れて行ってもらおうとしているんだな、どーせ (ーー;)

お母さん「仕事休んでよおー、リリーさん病院連れて行くと言って出かけたぁ!

寅「へえ〜、そらまた親切だねえ、いやに。
 あーあー、こう朝っぱらから暑くちゃたまんねえなこりゃ、暑い暑い

↑こういうことは変に勘が鋭い(^^;)

フラフラと戻って行く。




高志の車の中、助手席に乗っているリリー

フロント.ガラス越しに米軍の広大な敷地が見える。リリーは、キャンプハンセンの前の通り
金武(きん)の町『新開地』で歌を歌ってまた稼ぎ始めようとしているようだ。


ベトナム戦争時は賑やかであっただろう、米軍兵士相手の歓楽街が、今はすっかりさびれている。

              

リリー「どこも不景気だね。
    もうちょっと先へ行ってくれる。もう一軒心あたりあるから

高志「はい



ドライブ・イン 浜田

米軍のジェット機の騒音

黙々とライスカレーを食る高志に、リリーが自分の皿を差し出す

リリー「これも食べて。…悪かったわねえ、私のために一日引っぱり回して。
    沖縄は暮しやすいって言われて来たんだけど、どこもおんなじねえ…
   疲れた表情でタバコをふかしながら窓の外の海を見ているリリー。

米軍のジェット機の騒音

リリー「今日はどうしてんのかしら、あの男…
高志「寅さんですか?
リリー「そう。どっか商売に行ったのかしらね...
高志、口ごもりながら声をかける。
高志「あのう…、リリーさんは、いずれ、寅さんと結婚するんですか
リリー「え?

顔を伏せる高志
リリー「どうして?
高志「あのう…、こんなこと言って…怒らんで下さい。
  あの人、なんか、リリーさんにはふさわしくないような気がするんです。
  リリーさんには、もっと、頼りがいのある人が…。

リリー
……
高志「
すいません、余計なこと言って…すいません!
じっと高志を見つめていたリリーの眼が、優しくなごむ
リリー「いいのよ。私、とってもうれしいわよ。そんなふうに心配してくれて

              

高志「そ、そうですか…



海洋博記念公園・イルカスタジオ

かおりをまじえて四、五入の若者達が、水槽の中をタワシやホースで掃除している。

かおり「寅さん
寅「よお!ハハ

寅もまあ、マメだねえ〜 ┐('〜`;)┌
従業員「かおりさん、だあれえ?
かおり寅さん
従業員また来たの?」と呆れている。
かおり「うん
寅はこのへんの淡い関係の時はえらいしつこいよ〜。
もっと仲良くなって、親密になるとアタフタと例の如く逃げ出しちゃうけどね(^^)


寅「何だい、今日は休みだって
かおり「
はい
寅「
せっかく来たのによ〜

寅、水槽の底に横たわっているイルカを見つけてびっくりする。
寅「あ!おい、おねえちゃん、大丈夫かい、そんな所に魚まるごとほっぽりだして。
 死んじゃうぞ。ちょっと水入れてやれ、水


かおりの持ってるホースを引き伸ばそうとする寅。
それ水道と繋がってまへんで(^^;)

             

かおり「平気よ。イルカは哺乳類だものヾ(- -;)寅には通用しません

寅「平気たって、あーあ、ロパクパクさせて苦しそうにしてるよおい、干物になっちゃうぞおい!
┐('〜`;)┌これだよまったく


ハハハ!
おかしそうに笑う若者達。
寅「大丈夫か、おい
従業員「大丈夫!



オクマ・ビーチ

沖縄北部オクマリゾート内のビーチ

白い珊瑚礁の海岸の木陰で、イルカ・スタジオの若者達が陽気にエイサーの時の代表的な唄
唐船ドーイをうたっている。
前の踊り手たちから、バトンタッチされた寅とかおりが踊り出す。
寅見よう見まねで雰囲気を作っている。

寅「
難しいなあ〜…こうか? おう、ヨイショ!

              

若者達の掛け声と指笛。




夕暮れ時  国頭家  庭

外の調理場に立って夕食の仕度をしているリリー。
もう、表は暗い。


寅の笑い声に、リリー、ふと顔をあげる。


海岸に通じる道を
寅とかおりが笑いあいながら歩いてくる。

:
寅「ここに今住んでんだよ
かおり
あ、そうですか
寅「んー…オレ今ここに住んでんだよ。じや、かおりちやんは
 毎朝かおりちゃんこの道通ってたわけだ」
かおり「はい、そうです

かおりと別れて手を振り、満足気に庭に入ってくる寅。


リリーの離れの中

卓袱台の上におかずを並べているリリー
寅が顔を出す。
寅「はあー、飯か。はあー、今日は暑かったなあ。…タオルと石けんくれやー
リリー「だあれ、今の女の子?
寅、ギョッとして、焦りながら
寅「え?  ああ、今の、そのへんでちょっと会ってさ、うん、
 冷たい物か何かおごってやったら喜こんでた。まだおぼこ娘だい、へへへ

リリー、笑いながら、
リリー「バカだねえ、何もそんな言いわけすることないじゃないか
とは言いながら複雑な顔

寅「今日病院行ったんだろ、医者何だって?

リリー「大分よくなったって
寅「あ、そうか、そりゃよかった
リリー、石鹸とタオル渡す。
寅「
はい」と受け取る。
リリー「だからね、私、明日っから働くことにした
寅「働くって何すんだ?
リリー「決ってるじゃない、歌うたうのよ、他になんにも出釆ることないもん
とタオルと石けんを出す。
寅「バカだね、お前。そんなことしたら元も子もなくなっちゃうぞぉ」
と座敷に横たわって足を投げ出す寅
寅「
歌をうたうったって酔っぱらったアメリカの兵隊とこで歌うんだろう、よせよせよ。
 それよりお前はね、この庭でさ、花でも眺めてブラブラしてればいいんだよ、涼しくなるまで、な

それ第13作で歌子ちゃんにも言ってたよな(^^;)

リリー「
もうお金ないの、どうやって食べてくの?

              


寅「お前貯金持ってたじゃないか
リリー「もう使っちゃったのよ
リリー、立ち上って棚から郵便貯金通帳を出して見せる
リリー「ほら。この残りはね、どうしようもなくなって内地に帰る時の飛行機代

リリー、住所不定だから『国民健康保険』に入っていないんじゃないかな…。
もしそうだとしたら入院費や薬代であっという間にお金なんかなくなっていっただろうことは想像できる。



寅「オレがなんとかしてやるよ

リリー「嫌だね
寅「どうして
リリー「男に食わしてもらうなんて、私、まっびら
寅「フフフ、水くさいこと言うなよ、お前とオレとの仲じゃねえか

リリー「でも…夫婦じゃないだろ


              


寅「えつ?


              

ギョッとしてリリーを見つめる寅。
リリー、目を伏せがちに…

リリー「あんたと私が夫婦だったら別よ。
   …でも違うでしょう



              


寅、ヘドモドしながら

寅「馬鹿だなあ、お前、お互いに、所帯なんか持つ柄かよ〜。
  真面目な面
して変なこと言うなよお前〜…


              


リリー、悲しげに寅を見つめる。

リリー「……

              


リリー「あんた女の気持なんか 分かんないのね…


              

寅「え、何がよぉ〜


リリーの目が涙で潤んでいる。

寅、言葉を続けようとするが、
リリーの眼に浮かぶ涙に気づき黙り込む。


リリー「
……

寅 「
……

             


長い沈黙の時が流れていく。


             

母屋の方から来た高志が顔を出す。


高志「
リリーさん、病院の薬、忘れてました
救われたように声をかける寅
寅「おう、青年、今日は御苦労さん、
リリー「ありがとう
寅「
あちこち行ったんだって
高志「ええ、寅さん、今日も水族館に行ったんですか
寅「おー、せっかく行ったのに休みでよお、フフ、
 娘達にね、海水浴引っぱり回されてさ、大散財だよ、フフ



リリー不機嫌になって


リリー「結構だねえ。私達が仕事探してあちこち歩いている間に、あんたは
    娘っ子といちゃついてたのか

寅「何言ってんだよお前は〜…
リリー「男なんて身勝手なもんだって言ってんだよ
寅「フン、嫉いてんのか
リリー「…!!
リリー「嫉くほどの男か!そのへんの鏡でてめえの面とっくり見てみなってんだ!

寅「言ったなこの野郎、てめえ!

あっけにとられて二人のやりとりを眺めていた高志、大声で叫ぶ。

高志「寅さん、やめろ!
その声にギョッとする寅。
高志「リリーさんは病気が治ったばかりじゃないか。なんでもっといたわってあげんのだ
寅「てめえリリーに惚れてんな!
リリー「何てこと言うんだよ!寅さん!
高志、寅の肩を掴み
高志「わん話ちけえ!リリーさんはなあ、
  いいかあ、リリーさんは、あんたを愛してるんだぞ!


リリー「愛してなんかいないよ。こんな男!

              

高志「嘘です!
寅「てめえ達出来てやがるな!このヤロウ!

やにわに高志を押し倒す!

高志「やらあ、がんばやあ!
高志も負けじと、寅を押し倒す。


リリー「
やめて、やめて!
もみ合いになっている二人

リリー「やめてよ、寅さん!やめて!!


リリー、とっさに卓撚台を引っくり返す。

              


その音で我にかえり、母屋に駆け去る高志。

荒い息で、シリアスな寅。
こんな顔は珍しい。


リリー「ねえ、私のために来てくれたんじゃなかったの、
    …こんな遠くまで



             

寅「……

寅、無言で外に出て行く。

             
お母さんと富子が庭に出て心配そうに見ている。

あふれ出そうになる涙をこらえているリリー。

畳に落ちた茶碗やその中味を拾う。
お母さんと富子がそっと離れに顔を出す。

リリー、気づいて、

リリー「
おばさん、ごめんね、大きな声出して
お母さん「
あらんあらん、しむさぁ、いえいえそんなことなんでもないよ、
     あんたも、苦労するね…かわいさやぁ…


遠くの方でかすかに、三線を弾きながら
島唄を唄う声が聴こえてくる。


             
       

リリーは、どうしても自分の気持ちを寅に打ち明けたかったのだ。
寅とともに人生を歩む夢をみていることを分かって欲しかった。

後先を考えれば寅とは長続きしないことは分かるはずだが、恋をする彼女には
そのことは見えていない。





翌朝

国頭家  庭

古い琉球瓦に朝陽が差している。
鶏の鳴き声

眠そうに服をこすりながら、母屋から出て来た寅、伸びをした後、離れに寄って来る。

後ろの方で富子が寅の姿を見てなにか言いたげ…

寅「おい、リリー、まだ寝てんのか
母屋の玄関から、富子がその様子を伺っている。
寅「夕べは悪いことしちゃったな、病み上がりのお前に大きな声出させちゃったりしてよ。
  いや、オレの言いてえのはね、せっかくここまで療養したんだから、もう少し辛抱して…、」

ハッとする寅、左右を見渡し、
寅「
おい、リリー!


中はリリーもいない。荷物もない。

卓袱台の上に置手紙の便箋。

ギョッとして急いで手にとり、読む寅。

寅「
寅さんいろいろありがとうわたし内地へ帰りますさようならと早口で読む。

              


寅、庭に出て、
寅「
あ!富ちゃん、リリーどうした!?
散った赤いハイビスカスの花びら…
富子「お兄ちゃんが朝早く飛行場まで送って行った
寅「ちきしょう!

やにわに母屋に上がり、かばんを持ち、表に向って駆け出す寅。
寅「リリー!、ちょっと待て!
富子、あわてて後を追う。



海岸 船着場

走る寅


小さなフェリーに飛び乗る寅。
後から駆けて来た富子、海岸で叫ぶ。

富子「おじさん、どこへ行くのー!?
寅「東京だ!東京東京ー!
富子「その船東京へは行かないわよー!!
富子息を切らしながら呆然と寅を見ている。

寅「おい!ちょっと船長!オレのことな、とっとと、東京へ
 連れてってくれー!よっ!船長東京へな!一直線にひとつつれてってくれよ!


寅「え!?だったらさ、この島、島伝いに、飛び飛びに東京へ連れてってくれダメかよう!
 おい!頼むからさあ!なんとかしてくれよ!


              


本部の町でリリーのそばにいる寅、今も近くにいて、話もするが、自分を親身に想って一生懸命尽くして
くれたあの日々は戻ってはこないのだ。

自分との『想い』の違いに絶望し、沖縄を離れるリリー。寅が近くにいるゆえに感じるすれ違いの孤独に
これ以上耐えられなかったのであろう。


一人取り残された寅が、今度は強烈な孤独に襲われる。まるで初恋に夢中になった青年のようにリリーの後を追う寅、
いくら追いかけても、もうあの日々は帰らないし、あのリリーもここにはいないのだ。失ったものの大きさを体で感じながら、
灼熱の太陽の下で狂わんばかりに叫び、空回りする寅だった。




E【行き倒れた寅とリリーとの喜びの再会】


題経寺・境内


御前様にさくらが報告している。
御前様にしてはちょっと憮然として聞いている。
そばで箒を手に耳を傾けている源公。


さくら「はじめの頃はいろいろ心配してたんですけど、でも、よく考えてみれば、リリーさんのような、
  頭が良くて、しかも苦労した人が一緒になってくれるなら、兄はいちばあーん幸せじゃないか…、
  そんなふうに、近頃は叔父叔母とも話し合ってるんですよ

御前様「なるほど、それも一つの考え方ですかな〜…
あまり納得していない顔の御前様。

              

さくら「御心配かけて申しわけございません
御前様「いやいやと手を合わせる。
さくら「それじゃ…

頭を下げて立ち去るさくら。

御前様「しかし、同棲はいかん!
御前様「いかん!
源ちゃん「へい…」 と訳もわからず頭を下げ、身代わり反省(^^;)        
  


帝釈天・参道

おばちゃんが道に立って駅の方向を眺めている。
参道をみんなが駅に向かって走っていく。


おばちゃん「みんなバラバラ駆けて行くんだよ。ちょっと、どうしたんだい?
近所の店員が走りながら答える。
店員「行き倒れだってさー



とらや  店

おばちゃんとさくら戻ってくる。

おいちゃん「どうなってるんだ、あいつはー?
さくら「ねえ、手紙ぐらいよこせばいいのに
おいちゃん「幸せにやってるなら幸せにやってるってな
おばちゃん「ハブにかまれて死んじゃったんだよ、きっと
テレビ版の最終回を知ってる人にとってはたまらないギャグ(^^)

と言い捨てて台所へ。

近所の店員が寅のカバンを提げて立っている。


さくら「
ん?
おいちゃん「
あのカバン…-

近所のおかみ、帽子と上衣を持ってくる。
おかみ「大変だね…
ギョッとして立上るさくら。
社長「き、た、大変だい、寅さんが行き倒れになってね帰って来たよ!

シリアスな音楽がドーンと流れる。

戸板に乗せられて寅が運ばれてくる。
社長「あっちだあっちだ!

               

先頭向かって右に後のあけみの仲人さん。その後ろに谷よしのさん
谷さん、今作品、オープニングのヨモギ売りに続いて2役目!


さくら「お兄ちゃん!
谷よしのさん「かわいそうに〜!
近所のおかみ「お医者さん呼ばなくっちゃ!」
店員「息してるか!?息?
店員「誰か肛門見てみろ!肛門を!それ以外の方法何ぼでもあるで(^^;)
店員「脈見ろ脈!

しばらくたって…

医者がおいちゃんに説明している。
おいちゃんが、柴又界隈のみんなに説明。


おいちゃん「あのー、並びに栄養失調だということでして、しばらく安静にして滋養のあるものを
       食べればすぐに回復するだろうとなんです、どうもいろいろご心配かけてありがとうございました


近所の人たち、がっかりし、拍子抜けした感じで、
かみさん「たいしたことなかったんだ」とか口々に言って帰っていく。

重大な病気の方がワクワクしてしまうご近所さんたちっていったい…(^^;)

                


汗を拭きながら店党の様子を兄ている社長

社長「どうだい様子は?

さくらと博、仏間から出てきて
博「ジュースをコップ一杯飲んだら少し落ち着いたようです
博「しばらく、じっとしといたほうがいいなさくら

さくら「途切れ途切れに話すからよく分らないんだけど、沖縄から島伝いに鹿児島に来てね、
社長「え!?
さくら「
それから汽車を乗り継いで、ようやく東京に着いたらしいのよ

博「金がなくて、三日三晩飲まず食わずだったらしいですよ
社長「三日三晩!へーえ、それで柴又の町を見たとたん
   安心して、
バタリと、こういうわけか…へええ〜…

そこへ、風呂敷包みを抱えたおばちゃんが汗を拭き拭き帰って来る。

おばちゃん「何か滋養になるもの食べさせた方がいいって言うからさ、特製のうな重作って
       もらってきたんだよ。可哀相にねえ、三日間飲まず食わずでどんなにかお腹空いたろうねえ

と、蓋を開けて確かめるおばちゃん。みんな思わず特性うな重を覗く(^^;)


襖を開けて仏間に入ろうとするのを引きとめる博。
博「おばさん!
おばちゃん「
ん?
博「
ウナギはまずいですよ

おばちゃん「どうして・・?
さくら「空っぽのお腹にそんなもの食べたら腹痛起しちゃうわよ
おばちゃん「あら、そうか

とうな重を卓袱台に置く

そうこうしているうちに寅がうな重を見つける。
おいちゃん「…!!
おいちゃん手で指差す

一同振り返って

はあ!!!

               


寅、いつのまにか、布団に入ったまま、身を乗り出して、割り箸を紙袋から取り出さずに
中身をぴょんぴょん、口に入れている。

効果音  びぽびぽびぽびぽ…
さくらたちやめさせようとする。
さくら「お兄ちゃん!何してんのお兄ちゃん
おばちゃん「ちょいと!およし
寅、さくらの手を振り払って
さくら「キャー!!とひっくり返る。
博「あの…と、うな重を取り上げようとする博の手を口で噛む寅(^^;)
博「イタタタ!!…
さくら「今もうちょっとやわらかいもんあげるから

               

さくら「お兄ちゃん!
博「今すぐはまずいですよ…イタタタ…
さくら「お兄ちゃん、死んじゃうわよそれはないよさくら ヾ(^^;)
倍賞さん、笑っていますね。そりゃそーだ(^^)

                 倍賞さん笑ってます(^^)
              




夕暮れ時  題経寺境内


源ちゃんが撞く鐘の音が夕募の柴又の町に鳴り響く。
近所のおかみさん「まこと!ごはんだよ!帰っといで
子供たち言うこと聞かないで遊んでいる。
近所のおかみさん「ほら!ご飯食べないと、寅さんみたいに行き倒れになっちゃうよ!

さっそく。町のホットな話題を、子供の躾に応用する茶目っ気のあるおかみさん(^^)/


とらや 店

うな重、てんぷら、お寿司、と食いに食って、支払いはおばちゃんがしている(TT)


茶の間


寅「おいちゃんよぉ、ほんとうにすまなかったなあ、散財かけちゃって、三日三晩飲まず食わず
 だからねェ。もう腹減っちゃって、腹減っちゃって


人の金だとよく食べるのは、第18作「寅次郎純情詩集」の別所温泉警察署で実証済み(^^;)

              

おいちゃん「ああ、分ったよ。その話は分ったよ

さくら、寅をさえぎる。

さくら「ねえ、肝心なこと教えて
寅「え?肝心って?

さくらや博は、寅とリリーにいったい何の問題があったのか、聞き出そうとするが…

さくら「それ、いつのこと?
寅「確か十日ぐらい前かな
10日かかってたどり着いたんだね柴又に(^^;)


さくらそれまでは、リリーさんと一緒に暮してたの?
寅「一緒だよ〜!と、寅寝転がる。
一同頭の中に『同棲』の2文字が渦巻いて…シーン

寅、ハッとして、起きて一同を見回す。

寅「なんだい、みんな勘違いするなよ、おい。一緒ったって、リリーはこっちの離れで一人
 寝てたし。オレは母屋の伜の部屋で寝てたんだ。本当だぞ、これは

 
             

おいちゃん「ま、それはそれでいいとしてさ…決め付けました(^^;)

みなさん、寅はもう四十もとうに過ぎたいい大人なんだから
それくらいでびびちゃダメだよ。年がら年中旅暮らしで、なにがおこったって
おかしくない環境にもともといるわけだから、今更ねえ… ┐(-。ー;)┌


さらに、問い詰める博。
  

寅「それから…あ、そうだ、ああ、あいつがね、
 『あたし明日っから仕事をするわよ』て、こう言ったんだね。

 だからオレはさ、


さくらうん

寅「『そんなことをしたら元も子もなくなるから、生活費はオレが
  みるからブラブラ遊んでろ』っとこう言ったんだよ


社長「イキなこと言うねえ〜
博、おいちゃん、社長を睨む。
寅「えー、そらおまえ、オレだって男の端くれよ〜!」

さくら「そしたら、リリーさんが何て言ったの

寅「確かに、こういうこと言ったな、『男の世話になるのはまっぴら』
    

博、感心して

博「リリーさんらしい言い方です

寅「ん……あ、その後ね、

さくら「

寅「
ただし、あなたと夫婦だったら別よ
  あん時あいつ、色っぽい眼つきしたなあ…、…なぜかしら…



             

博とさくら顔を見合わせて驚いている。
             
さくら「どうしたの、そんなこと言われて

寅「え…そりゃオレ照れくせえからよ、
 『お互い世帯なんか持つ柄かい、ヘヘへ』って笑っちゃったよ。そうだよ…。
 そしたら、リリーの奴…


さくら「リリーさんが、どうしかたの


寅「悲しそうな声…してな、

 『
あんたに、女の気持なんて分んないわね

 そんなこと言って涙こぼしてたなあ……

          
 一同 静まり返る。 
           

さくら、静かに言う。


さくら「リリーさんの愛の告白ね…


              

寅、小さく「うん…」と頷く。

はっと寅我に帰り
寅「
おい!

照れくさそうに笑う。


寅「バカなこと言うなよお前、真面目な顔してえ!へっ、満男が聞いてるぞ、おい、エヘヘ

博、真剣な顔で大声を出す。

博「兄さん、笑いごとじゃないんだ。リリーさんがその時どんな気持でいたか、
 分からないんですか


おばちゃん「そうだよ、女にそこまで言わせてさぁ〜!おお!(^^)

社長「おばちゃん、それどういうこと?タコ鈍い(^^;)
博「社長は黙ってて下さい!!

              

おいちゃん座り直す。

おいちゃん「いいか、寅、どこの世界にお前にプロポーズするような女がいるんだ、え、
       そこんとこをよーく考えろ


                         

おばちゃん「そうだよ
さくら「しかも、相手はリリーさんよ。あの人だったら苦労はしてるし、
 お兄ちゃんみたいなわがままな男でもちゃんと面倒をみることが出来る人よ。
 お兄ちゃんが留守の間、私達いつもそのことを話し合ってたのよぉ


千載一遇、一同たたみ掛けるように、ここぞと寅を説得(^^;)


               

寅「それじゃぁ、お前達、オレにどうしろって言うんだよ

博「草の根を分けてでもリリーさんを探し出して、
 『リリー、お前を愛してる、一緒に暮そう』そう言うんですよ


さくら「そうね」と小さく頷く。

こういう時の博の瞬発力は相変わらず機敏だ。博の一途な思い切った発言が寅の心をその気にさせていく。
まあ、プロポーズの表現はもろ博風で気恥かしかったが(^^;)


               

社長「なるほど

寅「しかし、リリーどこにいるか分らないしなあ…
博「きっと会えます、そのうちに
さくら「リリーさんだってお兄ちゃんのこと心配しているはずだもの

寅「…そうだろうか

                   

結局、寅はリリーんぽ気持ちを受け入れる『覚悟』ができておいないのだろう。
みんなに言われてもなかなか実感がわかないようだ。



リリーのテーマが静かに流れる。

タコ社長と寅のくだらない喧嘩を二階から窓の外をボンヤリ見ながら、
兄とリリーの今後のことを想い、 そしてカーテンを閉めるさくらだった。



               

第15作「寅次郎相合い傘」の時もさくらは、兄とリリーの結婚を強く望んでいた。
今回はリリーからのアプローチがあったこともあり、なんとしても…という気持ちになっているはず。
彼女はただひたすら兄に幸せになって欲しいのだろう。その強い想いは盲目的とさえ思うし、怖いくらいである。
会っている時間は少ないがつながりの深い兄妹なのだ。





江戸川土手


さわやかな風が吹きつける土手の上を、ハイビスカスの鉢植え包みを手にしたリリーが歩いて来る。

子供と一緒に虫とり網をふりまわしていた源ちゃん、リリーに気付き、ポカンと見送る。

源ちゃんに手を振るリリー


               



帝釈天 参道


昼前に起きて来ておばちゃんに食事をねだる寅。
すっかり元気いっぱいの様子。

店から出て来て大アクビをしている。
ふあーあー、
備後屋「暑いね〜」
寅「おまえでも暑いかー?おまえでもって…(^^;)


寅、題経寺方面参道を見て驚く。

メインテーマ大きく高鳴って!


頭真っ白で寅を見つめるリリー

              


寅「リリー!」.


              


リリー大声で、

リリー「帰ってたの寅さん!

駆け出すリリー。


寅「ひどいじゃないか、おまえ、オレ一人のことを置いてけぼりにしてよー!

駆け出す寅!


寅に飛び込みしがみつくリリー。


             


リリー「ごめんね、寅さん
寅「ハッ、ハーア、ハーア
リリー「でも、よかった、帰ってて。 まだ沖縄にいたらどうしようと思ってたの」
寅「ハハハハハハ

リリー「
よかったあー


と寅の胸に顔を沈めるリリー。




F【夢の中を生きる寅、運命の告白】


朝目印刷  工場の中


工員達が忙しそうに働いている。

さくら、博を手招き。

博「
何だ?
さくら「大変、リリーさんが来たの
博「へえ!?。兄さんどうしてる?

博手伝ってやれよ寅の正念場だぞ(−−)


さくら「それがねえ、この間の晩のことなんか忘れちゃって、
   バカな話ばっかりしてるのよ。ちょっと顔出してくれる

博「よし



とらや 茶の聞

楽しげにしゃべっている寅とリリー。

リリー「フフフ
寅「ハハハ
博がやって来る。
寅「おう、博、覚えてるか、リリー
リリー、座り直して挨拶する。

リリー「こないだはどうも。いろいろみなさんに御迷惑かけてすいませんでした
博「ああ、元気そうですね
リリー「一時は... もう駄目だと思ってたんですけどね、おかげさまで働けるようになりました
リリー寅の手を取って

リリー「
寅さんは命の恩人よ…
寅「へへ、よせよぉ、照れちゃうよそんなこと言うと。へへ、
おう博、腰落ち着けろよ工場の方はどうでもいいから、え

博、茶の間に上る。
さくら「ね、これいただいたのよ、ハイビスカス
博「ほー、きれいだなあ
寅「沖縄に行きゃ、そんな花どこにだって咲いてんだぞ
せっかくリリーが持ってきたんだからサア…(^^;)
リリー「それも一年中だって
さくら「へーえ

              

博「海がきれいなんでしょう
リリー「そりゃきれい…。
  あ、高志君と言ってね、私達の家にいた息子なんだけどね

寅「あ、おまえに似てるよ、
 ちょっと融通がきかなくて、ね、ハハハ

リリー「フフフ、その子がね、海にもぐって、魚いっくらでも突いてきてくれるの。それを刺身にして食べるの
博「へー
さくら「リリーさん、料理が上手なんですってねぇ
リリー「嘘よぉ、ただ寅さんが喜んで食べてくれるから、 一生懸命作っただけの話。
寅「へへへ
リリー「
一人
で暮らしていると、料理なんか作ることないでしょう。近所の食堂でライスカレーか何か食べたりして
寅「リリーの作った沖縄料理はうまかったよ
リリー「フフ、ゴーヤチャンプール
寅「うん…
さくら「何、それ?
リリー「ニガウリの炒めたの。本当はおいしいのよ
寅「それからよ、ほら、ほら、あの、豚の耳の
リリー「あ、ミミーガの刺身           
寅「んー、あれで泡盛飲むとうまかったなあ、


            

寅「あーあ、
暑い一日が終って、夜になると、
ス―――ッッ…と涼しい風が吹いてなあ…。
遠くで波の音がザワザワザワザワ…



リリー「ほら…、庭に一杯咲いたハイビスカスの花に、
    月の光が差して、いい匂いがして…


寅「ん…。昼間の疲れで、ウトウトしてると…、
お母さんの唄う、沖縄の哀しい唄が聞えて来てなあ


             

リリー、懐かしい『白浜節』を静かに口ずさむ。
まるで自分の気持ちを託すかのように。

リリー「♪我んや白浜ぬ 枯松がやゆら 

リリー「……あたしは白浜の枯れた松の木なのか、
  春になっても花は咲かない…。好きな人と
  どうして一緒になれないのだろうって唄なの


さくら「素敵な唄

リリー「♪春風や吹ちん 花や咲かん 

   二人やままならん 枯木心



            



おいちゃん、電話口で座り、しみじみと聴いている。
うっとりと聴いている一同。

            


リリー、あの日々を思い浮かべ、遠い目をし、

リリー「私、幸せだった、あの時…

            


ひじまくらをしながら、夢を見るようなうっとりとした表情の寅。


寅「リリー、オレと所帯持つか…


           

リリーの動きが止まる。

寅を見つめるリリー。

           

寅を見つめる博。

仰天し、目を見開き、リリーを凝視するさくら。


           


リリーは、寅から目を離さない。

寅は夢心地の目。

リリーの強い視線に気づき、急に我に帰る寅。

           

リリーを見つめるさくら。

寅を見ている博。

寅を見ているリリー。

寅、ムクッと起き上がって、緊張し、箸を持ちながら…、

寅「
オレ、今、何か言ったかな…?

さくらを見る博。

リリーはまだ寅を見つめている。

料理を摘む寅の手が震えている。   

リリー「あ、ハハハハハ、

           

リリー「やあねえ寅さん変な冗談言って、みんな真に受けるわよぉ

リリー「ねえ、さくらさん

さくら「..ええ…
寅も無理して笑いながら、
寅「フハハハ、そう、そうだよそうだよ、この家は堅気の家だからなあ。
リリー「そうよ

           

寅「うん、こりゃまずかったよ、アハハハッ、ハーッ

さくら、どうしていいかわからないで目の力が弱くなっていく。
博、悲痛な顔で寅を見続けるが何もいえない。


           

リリー「私達…夢見てたのよ、きっと。
   ほら、あんまり暑いからさ


と寅に微笑むリリー。

寅「そぉーだよ、夢だ、夢だ、うん

博「そうですね
寅「うん

庭に行く寅を複雑な顔で見ている博。

リリーの目は実は笑っていない。
僅かに、表情が沈むリリー。

目を伏せ、遂に哀しみの色が濃く出てしまうリリー。
さくらはそんなリリーを見続けている。

この局面でさえもまださくらは諦めていないのだ。
と庭に出て行く。


とらや  庭


寅、フラフラと出て来て柱に背中をもたれてたたずむ。


寅「
はあー…。あーあ、夢か……

遠くを見つめ、深いため息をつく寅である。

            


遂に、ここらへんが限界か…(TT)
沖縄で恋に破れた後も寅は今回はがんばった。ギリギリで柴又での敗者復活まで狙った。

しかし…、
ふたりとも未だ若く、生来の渡り鳥としての業は捨て切れていない。ここにいたっても
まだタイミングが熟していないのだろう…。
ふたりのこのやり取りの先をこのあと私たちはなんと15年もの長い間待つことになる。
それは少なくとも私にとっては気の遠くなるような苦しく辛い歳月だった。

私は今回の寅に言ってやりたい。
「とにかく!よくぞリリーに告白した!」と。
あの告白があるかないかで、二人の人生はこの先長い目で見ると違ってくる。
リリーはあの言葉を絶対一生忘れないのだから。
しかし、やっぱり哀しい…。



G【リリーとの別れ…そして最高の大団円。リリーの夢を見てたのよ】


柴又駅  ホーム


日傘をさしたさくらとリリーが座っている。少し離れて腰に手を当て、たたずむ寅。

遠くで聞える電車の警笛。

さくら「せめて晩御飯くらい食べてくれればよかったのに。おばちゃんがっかりしてたわよ
リリー「また今度来る時、ごちそうしてもらうわ

背中でその会語を聞いていた寅、ひょいと振りかえる。

寅「上野から上越線に乗って、どこへ行くんだい?
リリー「水上温泉。その後は…清水トンネルを通って六日町。
    稼がなくちゃしょうがないでしょう、貯金もなくなっちゃったしさ。


うんうんと、うなずいて、むこうを向く寅。

さくら「ねええ、リリーさん

リリー「なあに


            


さくら「さっき、お兄ちゃんが変な冗談言ったでしょう、
   あれ…、少しは本気なのよ
」 

リリー「わかってた…

さくら「
……

リリー「
でも…、ああしか答えようがなくて


さくら、小さく頷きながらリリーを見つめる。


寂しげに笑うリリーの横顔を、そっと見るさくら。
そして…、観念したように「はぁー」と微笑みながら息を吐くさくらだった。

            

寅の耳にふたりの会話は聞こえただろうか…。

電車が近づいてくる。

寅「来たぞぉー
リリー、さくらに

リリー「いろいろありがとう

と立上り、寅の傍に行く。

寅を見つめて、
リリー「それじゃ

           

寅「うん

寅を見つめるリリー。

リリーの視線に耐えれなくて、電車の方を見る寅。


ゆっくりとメインテーマがクラリネットで流れる。

リリー「ね、寅さん
寅「え?
            
リリー「もし旅先で病気になったりつらい目にあったりしたら、
    またこないだみたいに来てくれる?


寅「ああ、どこでも行くよ。沖縄でも北海道でも、
 飛行機に乗って飛んでくよ、ヘヘへ


           


リリー「うれしい、きっとよ
寅「ああ

そのやり取りを微笑みながら見ているさくら。

            

電車が到着し、リリー乗リ込む。

寅の視線に照れて、今度はリリーが電車の来る方を見る。


リリー「さようなら、さくらさん
さくら「元気でね
リリー
うん
さくら「
また来てね
リリーうん

見事なリズム。見事なやり取り。



手を振るリリー。

ドアが閉まる。


手を振る寅とさくら。


寅、ドアの閉まるその刹那、
リリーに近寄り、

            


寅「幸せになれよ

目で頷きながら美しく微笑むリリー。

リリーの最高の表情。

            


さくらの方に向かって手を振るリリー。

警笛が鳴り、電車が動き出す。

あっという間に過ぎ去っていく電車。

厳しい表情で見送る寅。

さくらがポツリとつぶやく。


一さくら「いやねえ、別れって

寅「うん。…さて、オレも旅に出るか

           

もう一つの別れもまた近づいていることに気づき、一層心が切なくなるさくらだった。

                
思わずドアに駆け寄る寅「幸せになれよ」
ドアの向こう、最高の表情で微笑むリリー。

こんな美しいラブシーンは後にも先にも
私はどの映画でも見たことがない。

そしてあんな美しい表情のリリーは他にあるだろうか。



夏空   入道雲

とらや 店

出ました!おばちゃんの人力カキ氷シャカシャカシャカシャカ…


とらや 仏間

けさ袈裟をつけた御前様が座っている。仏壇の周囲には賑やかなお盆の飾り。

御前様「そうですか。沖縄で夢を見たと言ってましたか。なるほど

           

おいちゃん「ま、早い話がふられたんでございますけどね
そうじゃないだろおいちゃん。
博「振られて夢から覚めたかな
おいちゃん「駄目駄目、あいつは夢の見っぱなしだよ
さくら「夢から覚めたからって幸せとは限んないもんね、お兄ちゃんは
さくらしか言えない言葉だねえ( ̄  ̄)

御前様「なるほど。『生きてる間は夢だ』というのは、確かセクスピアアの言葉でしたな一

おいちゃん「恐れ入ります(^^;)

夢から覚めたのは事実だが、今回は、誰もふっていないし、誰もふられていない。
恋はある意味成就しているのだから。
あのふたりの恋はそんじょそこらのヤワな恋じゃない。


社長、手をのばして茶の間のテーブルの絵葉書を手にとり、眺める。

窓の近くにリリーの持ってきたハイビスカスの鉢植えと金魚鉢。
後ろで源ちゃんが
メロン味のカキ氷を食べている。

沖縄本部の国頭高志から
諏訪さくら宛の、美しい海の写真の絵葉書である

第12作『私の寅さん』のりつ子のテーマがゆったりと流れる。


          

高志の手紙


拝啓。この度は御ていねいな贈物をいただき、ありがとうございました。寅さんの御滞在中は
大したおもてなしは出来なかったにもかかわらず、こんなにしていただいて大変恐縮です


沖縄の海岸
まっ白い珊瑚礁の浜。果しなく広がるエメラルドの海。

小さな舟をあやつりながら漁をしている高志。水中に獲物を見つけてザブンと飛び込む。


高志の手紙続き

寅さんとリリーさんがいなくなられて、とても寂しい毎日です。いつも母や妹と
お二人の噂をしております。どうぞよろしくお伝え下さい。高志




群馬県 荷付場 

(群馬県吾妻郡六合村荷付場) 
『草軽交通(くさかるこうつう)バス』&国鉄バス
上荷付場停留所


草軽交通(くさかるこうつう)


坂の途中の小さな待合所。

降るような蝉しぐれ。

寅が暑さにうだっている。

眼を閉じて手にしたウチワで扇いでいる寅。

バスの警笛を聞いてフラフラと.上り、バスに対して片手を上げる。

ミニバス、寅を無視して通り過る。


寅「バスじゃねえのか。うああー、暑い暑い

フラフラとベンチに座り込む。

ミニバスは少し行き過ぎた所で急停車し、中からサングラスをかけ女が下りる。

蝉しぐれ

日傘をひろげて急ぎ足に待合所にやって来る。
眼を閉じていた寅、ウチワをふと落としてしまう。
ある気配に気づき、前を見る。


サングラスをかけた女…


…!! リリーが立っている。


サングラスを上げ、笑うリリー。


まじまじとその顔を見ていた寅、はっと、輝いた表情をとり戻す。ちょっと格好つけて、

寅「どこかでお目にかかった
 お顔ですが、姐さん、どこのどなたです?


          

リリー、ニツコリ笑って答える。
リリー「以前お兄さんにお世話になったことのある女ですよ

寅「はて…? こんないい女をお世話した憶えは…ございませんが


リリー「ございませんか、この薄情者!

          

リリー「ハハハ!
寅「ハハハ!

明るくメインテーマが流れ始める。

寅「何してんだ?、お前、こんなとこで

          

リリー「商売だよ

寅「


リリー「
お兄さんこそ何してんのさ、こんなとこで!


寅「オレはおめえ、リリーの夢を見てたのよ


         

リリー「
フッーキャ!
リリー照れながら寅を肩でつついて大笑い

          
   キャ!
         

リリー「ね、これから草津へ行くんだけどさ、一緒に行かない?
寅「あ、行こ行こ!オレどっか行くとこねえかなって思ってたんだ!行こ行こ行こ!
リリー「おいでおいで!
あ、リリーのサングラス鼻までずれ落ちた(^^)。
寅「フホハハハ!!

リリー、寅を引っぱるようにして、ミニバスに連れて行く。
寅も一緒に笑いながら駆けて行く。

リリー「ちょいと、この人も乗せてあげてー
寅「れはこれはバンドのみなさん、いつもリリーがお世語になっております!どーも!

挨拶をする楽団の若者たち。

草津ナウ.リゾートホテルのミニバス

声をかけながら乗り込む寅。
ミニバス、エンジンをふかして走り出す。
深い緑に覆われた山々。
寅とリリーを乗せたバスがぐんぐん遠ざかって行く。


お〜い、草津は逆の方角だぞォー(^^;)


         

ラストでもう一度最愛のリリーに再会するという、奇跡の演出をしてくださった山田監督。

間違いなくこのシリーズ最高のハッピーエンド。
リリー4部作の中で最後の最後リリーと一緒に終わるのはこの作品だけである。
なぜかこの二人の間には「赤い糸」が見える。ちょっとやそっとでは絶対切れない運命の糸だ。
そして、その鍵を握っているのはやはり『さくら』なのかもしれない。




「寅次郎ハイビスカスの花」本編完全版はこちらから




第26作「寅次郎かもめ歌」ダイジェスト版のアップはだいたい8月1日頃となります。

なお、第48作「寅次郎紅の花」本編完全版(後編)は、7月24日前後となります。



【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら

【寅次郎な日々】全48作品マドンナ制作年度順






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第24作「男はつらいよ.寅次郎春の夢」ダイジェスト版
 
2007年7月11日 寅次郎な日々 その321


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。
 



さすらいのアメリカ野郎 マイケル.ジョーダンの悲しく切ない恋の物語


今作品のマドンナは実はさくらだ。女性としてのさくら。つまりさくらの恋の物語は、もちろん第1作のみであるが、
この第24作はもう一度さくらに恋をする男性が現れるのである。さすらいの旅人マイケル.ジョーダンだ。
彼は慣れない日本でのセールスで身も心もボロボロになった時、とらやの人々に救われ、とりわけ、さくらの
優しい心根に故郷アリゾナの母の面影を見、そして自分にとっての理想の女性をそこに見つけるのだった。

マイケルの心の高ぶりは京都での妄想にも表れる。坂東鶴八郎一座演じるプッチーニの「蝶々夫人」を見ている
最中に愛するさくらを想い幻覚を見る。ピンカートンを自分に見立てて、蝶々夫人をさくらに見立て、再会に感激し、
抱き合うのだ。たとえマイケルの中の夢の妄想シーンといえども山田監督がさくらを博以外の他の男性と女性として
抱擁させたのはこのマイケルだけである。さくらの歌う「ある晴れた日」はおそらく吹き替えなしの倍賞さんの声。

そしてラスト付近で、ついにマイケルは自分の気持ちをさくらに告白する。
さくらは、その場ですぐに断るが、それでも、戸惑い、困惑し、寅に相談する。

さくらからそのことを伝えられた寅は、

寅「アメリカ人はよ、お互いの気持ちを察するって言うのは苦手なんだ。
 ハッキリ口に出して言わなきゃ納得しないんだ。
 オレたちみたいに、想いを胸に秘めてスッと立ち去る…。
 そんな芸当はとてもできやしないんだ。…だから、な、勘弁してやれよ。

と言った後、そっと

寅「バカだな、あいつも…」と独り言のように小さく呟くのである。

まるで寅自身の人生とダブらせるように…。寅には、マイケルの気持ちが痛いほど分かるのだろう。
この「バカだな、あいつも…」は、背後に、毎回実ることない恋を続ける寅の人生も見え隠れする本当に
切なく哀しいセリフだった。恋をする男はいつもどこかぶざまで哀しいのだ。

そして、さくらとの別れ際、寅はマイケルに、さくらに何か言ってやれ、と勧める。
マイケル「さくらさん、…ほんとにごめんなさい
さくら「…いいえ
マイケル「さよなら
さくら「…さよなら
と、マイケルはさくらの手を握り、そして立ち去っていく。
あの握手は、もう生涯会うことはないであろうマイケルの万感の思いのこもった握手だった。
                 
マイケルがアメリカに旅立つ飛行機の中で遥か下を流れる江戸川を見ている。
プッチーニの「ある晴れた日」が美しく流れる中、
さくらは同じ頃、マイケルが乗った飛行機を江戸川土手で座って遠く見送っているのである。

この江戸川土手のさくらの優しい表情は、爽やかで温かい余韻が残る実にいい顔だ。
マイケルが乗ったであろう飛行機を遠くいつまでも見つめるさくら。
さくらに、ある意味執拗に聖なるものを求め続けた山田洋次監督が、はじめてさくらが女性として悩み、戸惑う姿を
表現した広がりのある異色の作品だ。これによって、その後のさくらのキャラクターに膨らみが出たと思う。
そういう意味でも私は、この世間の評価はイマイチの第24作「春の夢」に一目置いているのだが、みなさんは
どうですか?


一方、もちろん寅も恋をするにはするが寅の存在はさくらのお兄様って程度で終わりがちだった。とほほ。
圭子さんは、茶の間での寅の愛情に対する『アリア』に耳を傾け、共感し、深く頷いていたものの。
彼女と寅との絡みは全体的には希薄で、マイケルとさくらの絡みの方に中心が置かれている。

しかし、香川京子さんはどこまでも美しく上品でその存在自体が魅力的。それゆえ、私などは脚本的にもっと彼女と寅との縁を
深くして欲しかったと思っている。私以外でもあの名優、香川京子さんをもっと生かして欲しかったと悔しがった人は多いだろう。
私は昔「東京物語」を見て以来、香川さんの大ファンだ。なんとか彼女と寅のハイライトを作って欲しかった。
いきなり、恋人の博のお兄さんにうりふたつの(^^;)貨物船の船長さんなどが安直にやってきて、おしまいにしてしまわないで、
彼女に寅の恋心をしっかり感じて欲しかった。
最終的に寅に「デイス イズ インポッシブル」と言ってもいいから(^^;)寅の気持ちを一度は心に留めて欲しかったのだ。
あー残念。



@【寅の帰郷とぶどう&虎騒動】

今回も夢から

世界恐慌時のサンフランシスコ
チャイナタウン

FBIに狙われ、ピストルで腕を撃たれた寅がタコが経営するバーに入ってくる。

寅は気が弱くなっていて自分はもうダメだと捨て鉢になって、日本人の女給にある頼みごとをする。
寅「どうせ長くない命だ。お尋ね者の暮らしはもう飽き飽きしたよ…。
 オレの頼みを聞いてくれねえか…。もし、日本へ帰るようなことがあったら、
 ある女にこのお守りを渡してくれねえか…

と、帝釈様のお守りを女に渡す。

寅「兄貴の形見だと言って…
女(さくら)、お守りを見つめている。
寅「お兄ちゃんはどこにいるのと、その女が尋ねたら、遠い遠いアメリカはサンフランシスコというところで
 惨めな生涯を終えたと。しかし、死ぬ間際まであんたの幸せを祈っていたと、そう伝えてくれ

さくら「それで、あんたの名前は?
寅「オレの名前は、姓は車、名は寅次郎…、そして妹の名前は…

さくら「さくら…

                  

寅「さくら。この名前を日本の空に向って、どれほど呼んだことか…、はっ、どうしておまえその名前!?
さくら「
寅「もしやおまえは!
さくら「お兄ちゃん!
寅「さくら!

その時寅を探しにマイケル扮するFBIが入ってきて、威嚇射撃をするが、運悪く天井の扇風機に当たり、それが
頭に落ちて自爆。バカだねえ…(TT)


そこへ超都合よく博が日本往きの船が出ることを知らせに来る(^^;)

船の中で幸せを確信する寅とさくら。

寅「おお!今ひんがしに陽が昇る!朝陽まで私たち兄妹の前途を祝福するようだ!

                  



ここから現実…、紀州の小さな連絡船の中で目がさめる寅。

寅、寝ぼけて
寅「着いたか日本へ最初から日本やろがゞ(^^;)

                  

おばさんたち大笑い。



タイトル

はつらいよ 寅次郎春の夢


口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。


   ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


   ♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら こんな苦労も
   こんな苦労もかけまいに かけまいに♪



懐かしい柴又へまたもや帰ってきた寅。
河川敷ではテニスの練習をしている女性たちや陸上の練習をしている女学生たちがいる。
寅はじろじろ見てしまい、なんとなく「いやらしいわねえ〜」って見られる。
コーチ役はお馴染み今回もコントの帝王、津嘉山正種さん!
何気なく女学生達を見ている寅。

みんな短パンになるため、ジャージを脱ぎ始める。
寅、なんだかいよいよ恥ずかしがってスゴスゴ去っていく。

                  

たった一人の男子学生が短パン履き忘れて、下着のパンツ姿になってみんなに笑われ、
コーチに散々な目に合うというバカコント(^^;)



江戸川土手近く

さくら、『英語塾』の前で自転車を止める。

めぐみ「あ、おはようございます
さくら「こないだはごめんなさいね、満男が日にち間違えちゃって

どうやら満男は近所の英語塾へ通っているらしい。この若い女性が高井めぐみさんと言って
『柴又英会話教室』の先生。

                  





とらや  二階

おばちゃん、もらいものの大量のぶどう(関山ぶどう)を寅の部屋に広げてより分けている。

さくら「わー、いっぱい!
おばちゃん「こんなにたくさん送らなくてもいいのにねえ

そこへ運悪く寅が帰ってくる。

おいちゃんに呼ばれて下りてくるさくら。

なんとさらに運悪く寅も「ぶどう」をお土産に持って帰ってきたのだった。

                  

一同真っ青。

そして休憩をしに二階に上がった寅は座敷中のぶどうの山を見て案の定不機嫌になる。

二階のぶどうを口に含み、下りて来てさくらとおばちゃんに向って『ぷっ』っと皮を吐き出す。
ああ。。。寅って下品(−−;)

                  


そして駄目押しで博がぶどうがびっしり入った箱を抱えて工場からやって来るのだった。

博「さくら、これ社長の奥さんから。おすそわけ

そして寅の土産のぶどうを見つけて

博「なんだ、ここにもぶどうがあるじゃないか、あは、これすっぱくてまずいやつだぞォ、
 誰持ってきたんだ?

さくら「お兄ちゃん…」…(TT)

一同緊張が走る。

ぶどうをきっかけとした寅の不機嫌はこうして夜まで続いていくのだった。


とらや 茶の間 夜

そんな時、英語塾が終わって満男が帰ってきて、英語で寅に挨拶。
戸惑う寅だったが…

満男「お父さんはフアーザー、お母さんはマザー
さくら「じゃあ、おじさんは?
満男「…おじさん?
さくら「うん
満男、しばし考え
満男「おじさんはねぇ、…タイガー(^^;)

                  

満男が英語でシャレたっていうことらしい。

そこへ世界一間の悪い社長が例のごとくやって来て
社長「おばちゃん、夕刊見たかい?がね檻から逃げ出したんだってさ。
   射殺するかどうかでもめてるんだって、オレはね絶対
射殺すべきだと思うんだ!

みんな、それは言わないように身振り手振り(^^;)

博「社長、の話はもうそれくらいで
社長「え?どうして?なんでの話をしちゃいけないの?
おいちゃん寅を指差す。
おばちゃん、ぼそぼそっと
おばちゃん「ウチにもいるでしょ…その言い方なあ…(−−;)
社長「あ、そうか!このウチにもいたな。飛びっきり獰猛なやつが、ハハッハハハハハハハ!!

で、寅は切れて、社長の顔にぶどうをなすりつける。
社長、ぶどう色で顔がめちゃくちゃ。
太宰さん…ごくろうさまです(TT)

                  

寅「タコ、てめえ!
みんなで止める。
さくら「お兄ちゃん!」と止めつつ笑ってます倍賞さん(^^)

                                これは紛れもなく笑っていますよ倍賞さん(^^)
                  

寅「分かった!てめえらの腹の中は!ほんとは心の中でな、獰猛な虎一匹帰ってきたと思ってんだろうが!
 てめえらの注文通り、オレは逃げ出してやらあ!
射殺でもなんでもしやがれ!

さくら、追いかけ

さくら「ちょっと待って!いくらなんでもあんな言い方ってないでしょ!
振り向く寅。

寅のぶどうで汚れた手をエプロンで丁寧に何度も拭いてやるさくらだった。
最後に指輪を直して…。
実に繊細な演出だ。こういうところがこの映画の格。

                  

さくら「今ごろどうしてんのかしら?もうそろそろ帰ってくる頃じゃないかしら…。
   おいちゃんやおばちゃんたちといつもそう言い合っていることくらい知ってるでしょお兄ちゃん


寅、札入れからお金出して、
寅「満男にな、英語の帳面買ってやれ…

                  

そう言って、寅は旅立ってしまったのだった。




A【奇妙な出会いマイケルとらやさん】


紀州路を一人旅する寅。


和歌山市加太港、岩出市根来寺、紀の川市粉河寺を旅する寅。




もうすっかり秋である。

                  



柴又 題経寺山門

マイケル.ジョーダンが御前様に宿(旅館)のことを聞いているが、御前様は全く分からない。


とらや 店

とらやでは、
英語塾のめぐみさんの母親、圭子さんがとらやにやって来て、挨拶をしている。
香川京子さんは美しい…。

                  

そこへ御前様が、高校時代成績がよかったさくらの英語力を当てにしてマイケルを連れて来る。

                  

御前様「この外人が寺へ来てなにか尋ねるんだが、わしにはさっぱり分からんので連れて来ました
さくら「あらー…
御前様「君君、ハロー、このご婦人に話してごらん、ぺらぺらぺらぺら…この身振り手振りが最高(^^)

                  

マイケル「オー!エクスキュウズミー、マム」と言ってこのへんに旅館(an inn)はないかと尋ねるが…。
さくらは高校の英語の授業以来英語は聞いていないので全く分からない様子。
マイケルは英語で『部屋が必要だ』『シャワーが必要だ』『ベッドで寝るんだ』…と言ってジェスチャーをするが、
源ちゃんが笑って一緒にジェスチャーを真似るだけでチンプンカンプン。

                  

そこへそばにいた圭子さんが助け舟。
彼女はアメリカで何年も住んでいたのでめぐみさん同様英語はよく分かるのだ。
御前様「おー!君君、この人にぺらぺら…またもや同じジェスチャー(^^;)

結局このあたりはそんな旅館はないということになり、お金もあまり無く、しょぼくれて駅のほうに行くマイケルに
御前様は日米親善のために、一晩とらやの寅の部屋にこの外人さんを泊めてやってくれとさくらたちに頼むのだった。

                  


さくらたちはOKを出し、感激したマイケルは大喜びでさくらに握手をするのだった。そら嬉しいよね(^^)

マイケルはみんなに「マイケル」と自己紹介したのだが、みんなは「マイコ」さんだと思っている。
どうやらサンプルのビタミン剤をトランクに入れて、薬局と契約を結んでもらおうとセールスしているようであったが、
全然上手く行かず、ほとんど売れないらしい。

食べた後、マイケルに寝てもらおうとみんなで寝る真似をするが、さくらの「スリープ」の時のジェスチャーは
なかなか可愛かった。さくらのこういうシーンに惚れ込んでしまいます(^^)


                           さくらのこの『スリープ』ジェスチャーは可愛い(^^)
                  

しかしかなり背が高いのでいたるところで頭を打ち、階段では寅のようにずっこけ、小さな日本家屋に慣れない
マイケルは、フラフラになってしまうのだった。


それでも、いろいろ二階で布団の世話をしてやるさくらに自分の母親の面影もダブらせて、心が溶けてゆくマイケル。

さくら、マイケルの母親の写真を見る。
さくら「ああ…お母さん…。優しそうな人ね
頷くマイケル。
さくら「それじゃマイコさん
マイケル「どうもありがとう、サ…、サ…
さくら「さ く ら
さくら「おやすみなさい」と正座してお辞儀。
マイケルも同じように
マイケル「オヤスミナサイ」と深深とお辞儀。
さくら「フフフ…

マイケルは心が温かくなり
マイケル「♪Good night Sakura〜. Good night Sakura〜」と早くも目がハートで、
口ずさんで眠りにつくのだった。



紀州路を旅をする寅

寅、和歌山で啖呵バイ。  下駄を売っている。

親指と人差し指の間に鼻緒を突っ込んでグイグイ刺激すると病気にならない、
これは日本人の大発明であります!と力説するのだった。

寅「オレなんかほら、こうやって365日雪駄を履いているからただの一遍も病気をしたことが無い!
嘘ばっか、寅は、今までに盲腸、胃痙攣、便秘、風邪等々枚挙に暇が無い(^^;)

このバイのとき初代『ポンシュウ』が登場する。この時の役者は小島三児さん
彼は新しい男とくっついた奥さんに子供を置いて逃げられたばかりでしょぼくれていた。
関敬六さんが2代目ポンシュウとして活躍しだすのは第29作あたりから。

                  

ちなみに、この紀州路での旅館の女中さんはお馴染み谷よしのさん。
劇中彼女は「葛飾」という住所を読めなかった&柴又という地名を変な名前と言っていた(TT)。

この旅館の寅の部屋には売れ残りの下駄が積まれていたので、
時々は、テキヤの若い衆に頼んでこうして部屋までバイネタを持ちこむこともあるらしい。


一方、マイケルは故郷アリゾナで独り住む母親に手紙を出すのだった。
その内容は、とらやの人々の優しさにふれて自分は我が家にいるようだと、
しばしのあいだでも心が休まる居場所ができたことを喜んでいるのだった。



A【日米対決 寅対マイケル。そしてマドンナとの出会い】

今日も朝から柴又をジョギングをして体を鍛えるマイケル。

とらや 台所

マイケル「社長サン、ハワイユー
社長「ダメダメ、ノーマネー、メニータックス」(^^;)
マイケル「ノーマネー、ヨクワカル
社長「分かる?バンク ゴー」(TT)
マイケル「Good luck」と社長を励ます。

おばちゃんはマイケルにいろいろいたわられてアメリカの男は優しいと、
すっかりマイケル党に入党してしまっている(^^)

おばちゃん「付き合ってみればいい男だよォ、へたな日本人よりましさだそうです(^^)
社長「待てよ…、へたな日本人が一人いたなそういえば
おいちゃんおばちゃん思い出して真っ青。
社長「こういうときに限って帰ってくるんだから、ね。知らないよオレャ、フフフ

案の定、寅がやって来て、前の江戸家のおかみさんと世間話。

社長目をみはって大慌て
社長「いたよ!
おばちゃん「わああ!あ、あんた、ど、どうする

とにかくみんな何事も無かったように振舞う。

しかし、おばちゃんいきなり大ボケ一発
おばちゃん「シットダウンおいおいやばいよ ゞ(^^;)
寅「???

寅は紀州梅干を土産に、柴又のことを忘れがたくすぐに帰ってきたのだった。

おいちゃん、思いきって尋ねる。
おいちゃん「寅、おめえアメリカ好きか?そんな実も蓋も無い言い方 ゞ(^^;)
寅「アメリカ?妙なこと聞くねおいちゃん
おいちゃん「好きだろう?イモの煮っころがしじゃないんだから、無理があるよおいちゃん ゞ(−−;)
寅「…ダイッ嫌い!!ああ…(TT)

みんな呆然…。

寅「オレ、なにが嫌いってね、アメリカほど嫌いなものはない!だろうね(−−)
そのわりにはハワイに行こうとしてたけどね。あそこもアメリカだよ寅。

おばちゃん「でもさ、日本とアメリカは仲良くしなきゃいけないんだろ
寅「誰がそんなこと決めたんだよ!
おばちゃん「さあ、よく知らないけど…知らないよねえそんなこと(^^;)
寅「どうして日本とアメリカが仲良くしなきゃいけないんだ!?いいかあ、
 あの黒船が浦賀の沖へ来て、徳川三百年天下太平の夢が破られて以来!日本人は
 ずーっと不幸せなんだぞ!それもこっちが頼み込んだんじゃないんだ。向こうからいきなり
 来たんだ勝手に。大きな大砲で脅かして、無理やり仲良くしようってんだい、そんなバカな話があるか?

確かに。あの当時全くの不平等条約だったもんね寅。しかし寅って意外に幕末の歴史把握してるんだね。

                  

社長「はあ…、つまりその…寅さんは尊王攘夷のほう…社長言うねえ…なかなか言えないよその言葉(^^;)
寅「あたりめえだよォ!
おいちゃん、おろおろしながら
おいちゃん「いやいや、あのな、たとえそんなことがあったにしても、不幸な過去は水に流してさァ…日本的〜(^^)

寅「流せない、流せませんよ。いままであいつらに日本人がどれほど酷い目にあったかァ、えー、
 
唐人お吉、ジャがタラお春、蝶々夫人、ほら、枚挙にいとまがない、なァ
鋭いのか、ピントがずれてるのかよく分からない寅だねまったく(^^;)

                  

おいちゃんやおばちゃんは、寅になんとか今までの出来事をやんわり話そうとするが、
寅はあまり聴く耳を持たないでイライラしてしまう。

そんな時マイケルが暖簾をくぐって出てきて、寅と鉢合わせ。

寅は上背のあるマイケルのジャケットと暖簾を間違えてくぐろうとする(^^;)
このベタなギャグがなぜか笑えます。

                  

二人近距離で顔を見合わせて

寅「…???
マイケル「…???

                  

寅、我に帰って

寅「わあああああ!!
マイケル「エクスキューズミ-、ワタシマイケルデス。アナタダレデスカ?

寅「ワタシ『タイガー』デス満男だよそれじゃ ゞ(〜〜;)

                  

マイケル「タイガーサン!Glad to meet you」と、握手を求めるが、
寅はびびってひっくり返る。
おばちゃん「だいじょうぶだいじょうぶ取って食やしないよおいおいその表現やめれ ゞ(^^;)
おばちゃん色々説明するが、寅は上の空で呆然…。

マイケルはそのあと仕事に出かけていく。
ちょうどさくらが入って来て
寅はようやく我に帰り

寅「さくら!あれなんだよ!
さくら「あれって?
寅「怪獣、怪獣だよ!誰に断ってこのウチやあんなもの飼ったんだ!
さくら「お兄ちゃん、あの、アメリカ人のこと言ってんの?他に誰がいる(^^;)
寅「おい、誰に貸してもいいよ、オレの部屋は空いてるから、しかしよりによって
  どうしておまえ、
ケダモノじゃねえかありゃ!

                  

寅は出ていこうとする。

みんなで必死でひき止めるとらやご一同。

寅「この店は食い物扱ってんだろ!保健所に届けたのか!?山田監督って…そこまで…(TT)
おいちゃん「保健所にはね、私が届けるってことになってんだ適当〜(^^;)




とらや 店  夜

寅は、源ちゃんに武装させ、マイケルを追い出す作戦に出て、待ち構えている。
寅「まだかアメ公!
源ちゃんヘルメット被って寅の手伝い。

                  

さくら「アメリカ人の中には悪い人だっているだろうけど、マイコさんはそんな人じゃないのよ
と力説するが、寅は全く聞く耳なし。

そんな時、英語塾のめぐみさんと母親の圭子さんがやって来る。

さくら「お兄ちゃん、満男の英語の先生のめぐみさんとお母様
圭子「妹さんにはお世話になっています

                  

寅、いつものパターンで目がハート、たじたじニヤけて
寅「はい、ドウイタマシテ…口が回ってないぞ(−−)

                  

めぐみさん寅に
めぐみ「じゃあ、帰ってきたらおっきなアメリカ人がいたのでびっくりなさったでしょう
寅「え?僕は昔からホラ、アメリカ人は大好きですからァどの口で言うとんじゃ(−−;)
圭子「あら、そうですか隣にいる源ちゃんを見てください。これが寅の気持ちです(^^;)
寅「ええ、ええ
めぐみ「ねえ、付き合ってみると案外親切だしね
寅「なかなかいいヤツですよ、あの芸者
さくら、驚いて
さくら「芸者じゃないの、マイコさん
寅「あ、そう舞妓さんね、うん発想が【舞妓】から抜け出ないんだね(^^;)


マイケルが帰ってきて…
寅「おー!ハローじゃないかァー!おいおい性格破綻者か…ゞ(^^;)

                  

マイケルみんなと挨拶。
寅「遅かったじゃないのハロー
マイケル「おー、タイガーさん、Good see you again
寅「仲良し仲良し
おいちゃん呆れて首を振る。

ところが…。
圭子さんの『ご主人』のことが話題に上ると寅は例のごとくガックリ肩を落とす。
そして彼女たちの帰りがけに、気を取りなおして…、

寅「あのー…ご主人によろしく

圭子「え、ええ…それが…
めぐみ「あの…、パパはアメリカで交通事故で死んだんです
寅とさくら「
めぐみ「もう3年も前のことですけどね…。だから…ママは独身なの

                  


メインテーマが高鳴り

寅「独身…寅って喜びを隠し切れないんだよね(^^;)

                  

寅は気持ちが復活し、やる気満万で送っていくとついて行ったのだった。

この起死回生の大逆転パターンは第8作「寅次郎恋歌」で使われたもの。


さくら、全てが終わった後まだとらやになぜかいる源ちゃんを見て、
さくら「あら、源ちゃん、鐘を撞く時間でしょ
源ちゃん「ああ!」と走っていく。

                  

これは第9作「柴又慕情」で博が源ちゃんに言ったセリフ。今回はさくらが源ちゃんに言った。


おばちゃん、マイケルとにこやかに冗談を交わした後、ポツリ言う。

おばちゃん「正直言って、アメリカ人のほうが好きだよ、あたしゃ…
おいちゃん「まったくだ…

彼らはそのまま、見たまま、思ったままの人だからね。ある意味わかりやすくてフランク。
でもね…、おばちゃん、アメリカ人も実はいろいろな人いるんだよ(^^;)



翌朝 とらや 台所

社長「あ、マイコさん、おはよう
マイケル「社長さん、How are you?
社長「ダメダメ、ノーマネー、腹切りおいおい ゞ(^^;)

寅、荷物部屋から起きてきて
寅「あー、ヤダヤダ、この家は怪獣飼ってたか、ち、象がパン食ったツラしやがって
おまけに朝食までパンとコーシーと言われて、外で盛りそばでも食うと言う寅だった。

昨日の自分のみやげ物の紀州梅干を日本茶と、一緒に食べようとする寅。
マイケルはその様子を興味深く見ている。
寅はいたずら心がムクムクと沸いてきて
梅干を見せていかにも美味しいと思わせるジャエスチャ-をする。
(自分は食べた振りをして分からないようにすぐに吐き出している)

そうとは知らず、マイケル食べる気満々。
寅はスプーンで山盛り3つの梅干をマイケルの口の中に掘りこむ。

                  


寅「あーん、そうそう、美味い
マイケル「うおおおおお!
マイケルは七転八倒の苦しみと強い怒りを寅に感じるのであった。
怒るマイケルをなだめるとらやのみんな。
寅はヘラヘラ笑いながら逃げていく。

                  




寅が行った先はなんと英語塾を開いている圭子さんめぐみさん宅だった。

柴又英会話教室のある圭子さんの家

圭子「あら、寅さん
おいおい、昨日ちょっと会っただけでもう『寅さん』と呼んでいる。寅が送っていく時に
『寅と呼んでください』とかなんとか言ったんだね、きっと。


お茶を勧める圭子さん。
単語を忘れてしまって翻訳の仕事が遅々としてはかどらないで困っている圭子さんだったが、
自分の食べる分は自分で働こうと決意している強い側面を持っているのだった。

                  

寅は、翻訳の仕事の手伝いはできないが塾の増築のことで棟梁の「シゲル」の浮気を脅して、
まじめに工事に取り組ませるという『活躍』も見せるのだった。
シゲルとは中学時代席順を争った中(どちらがビリか)なので気心は知れているワルガキ仲間なのだ。

まあ、もっともその直後に、今でもお前は嫁さんいねえんだろってからかわれてはいたが…。

                  





夜 とらや 茶の間


夜になって相変わらずマイケルの悪口を言う寅に、反撃するさくらやおばちゃんだった。

そんな時、今日もセールスがうまく行かなくて、うなだれて帰ってくるマイケル。

いよいよ沈んでしまっているマイケルにさくらは
さくら「マイコさん、今夜はテンプラよ、テンプラ」と優しく声をかけてあげるのだった。

苦しく辛い時に優しくされて、感極まったマイケルは英語で
『日本の女性はなんて優しいんだ…』と呟き、
ついにさくらを抱きしめ、頬にキスをしてしまう。


                  


さくら「きあああ!

おばちゃん「ああ…!!!!おばちゃん恐怖で真っ青((((((00;)

さくら、目が白黒になっている。

                  

寝転んでいた寅ガバッと起きて、

                  

寅「え!!

おいちゃん「あ…

その場の空気が凍りつく。

マイケルは『ごめんなさい、ついアメリカでの習慣がでてしまって…』と謝るが、
寅は怒ってマイケルにつっかかって行く。

寅「やい!オレの妹に何しやがんだ!!
 これにはれっきとした亭主がいるんだ!てめえ承知の上かこのヤロ!!

マイケルは寅の意味が分からない。
さくら「お兄ちゃん、ちょっと待って!そういう意味じゃないのよ、あれは
寅「うるせえな!てめえ、あんなことされて平気なのか!
 てめえ博の目を盗んでこのヤロ、
不義密通してやがるんだろ!
さくら「バカ!なんてこと言うの!と言いつつ微妙に笑っている倍賞さん(^^)
マイケルも寅の言うことがわからなくていろいろまくしたてる。
寅「バカ!ノッポヤロウ!日本語でしゃべれ日本語で!

                  

そこへめぐみさんが来て通訳してくれるが、
彼女は良かれと思ってそのまんま通訳してしまうのでことはさらにややこしくなる。

めぐみ「あの…顔の四角い目の小さい男が現れて、
   僕の幸せをぶち壊したって彼がそういうふうに言うのよ…


もう完全に日米戦闘状態に入れり…。お互い押し合いへし合いしている。

この戦闘場面、カメラが上から店を撮っている珍しいパターンが見られる。

                  

★寅はカンフーか空手かわからないポーズ。
★マイケルはモハメド.アリばりのボクシングポーズ。



              


みんな止めに入るが二人とも興奮していて聞く耳がない。

博たち工場から止めにやって来て

博「ピースピース!!
社長「ピースって何?
博「平和
社長「ピースピース!

おばちゃん「いいかげんにしてよ!二人とも!
     さくらちゃん見てごらん!泣いてるじゃないの!



めぐみさんもマイケルに、さくらさんが泣いてるじゃないの、と止めさせる。
おろおろするマイケル。独り言のように、寅のことを、いったいあの暴力的な男は
どこの誰なんだと呟く。


                 

どうやらマイケルは寅がさくらの兄だということを知らなかったらしい。
めぐみさんんから彼らが兄妹であることを聞かされて愕然とするマイケル。
罪の意識にさいなまれてしまうのだった。




マイケルは懺悔し、寅に謝り、とらやから出ていこうとする。

マイケル「ミナサン、アリガトウゴザイマシタ、サヨナラ

寅「おい!マイコ」と呼び止めて、

寅から握手の手を差し出す。

寅「オレ悪かったよ
マイケルもほっとして両手で寅の手を握り締め微笑む。

寅、あらためて
寅「これ、オレの妹だい、フフフ。悪かったな

みんな拍手。

                  

社長「よかったよかった!講和条約締結だよ!ハハハ
みんなで盛り上がる。
そして寅は、仲直りの印にマイケルと一杯飲みに行くのだった。
社長とめぐみさんもついて行ってくれて一安心。
めぐみさんは通訳。社長は資金源(^^;)
社長「しょうがねえや、日米友好のためだ、ハロー

ようやく一件落着


一方、マイケルの母親は『日本はハラキリの国だから怖い。早く帰ってくるように』と、
息子のマイケルに帰国を催促する手紙を投函するのだった。

                  




B【マイケルの恋 蝶々夫人に託す想い】

その後マイケルは起死回生を狙って最後に関西でセールスを敢行。

京都市内 四条大橋を歩くマイケル。

関西地方は全国のセールスマンにとって難関不落の土地だと言うことを当然知らない。
で、京都で何度もセールスを続けるマイケルだったが案の定まったく相手にもされない。
         

そんな時、西陣で、大空小百合ちゃんのいる坂東鶴八郎一座の公演の前を通るマイケル。
われらが岡本茉利さん登場!

小百合ちゃんは思いきってマイケルに声をかけてみる。

小百合「ハロー、あのう…ドゥ ユウ ウォント シィー アワー プレイ ?
マイケル「What is it ?
小百合「マダムバタフライ。ユウ ノウ?
マイケル「マダムバタフライ、シュァー
小百合ちゃんは「ミー、バタフライ。ミー、バタフライ!」とアピール。

                  

マイケルは『君がバタフライ!じゃあ君はスターだね』と励ます。
小百合「イエス!!

結局マイケルは、縁があったので、その芝居を見ることに。

小百合ちゃんがマダムバタフライを。坂東鶴八郎がピンカートンを演じている。

                  

ピンカートンが蝶々夫人と別れる場面が演じられている。
1年後に帰ってくるというピンカートンを信じられない蝶々夫人は彼をひき止めようとするが、
彼は本国のアメリカに帰ってしまう。来る日も来る日も夫人は彼の帰りを待ちつづけるのだった。


名曲「ある晴れた日」を歌う小百合ちゃん。

食い入るように蝶々夫人を見ているマイケル。

                  


小百合「♪ある晴れた日、遠い海の彼方に煙が立ち、船がやがては見える…

途中からマイケルの頭の中で小百合ちゃんがさくらに変わり、
ピンカートンが自分になって行く幻覚を見始める。相当この恋の病は重症(TT)



さくらが朗々とある晴れた日を歌う。倍賞さんのすばらしい声を聴ける数少ない場面。



さくら「♪さもいなければぁ、うれーしさにぃ、死ぬかもしれぇーないー、


               


   やがてあの人は傍で呼ぶのよぉー、
   僕の可愛いー、愛しい花よとぉー、ちょうど昔そう呼んだ通りにぃー…。

   その通りだわぁー、きっとそうよぉー、


               


   心配はぁー、しなーいでぇー、

   信じてぇーいるーわー、本当よぉ―




                  


最大に盛り上がる音楽

ピンカートン(マイケル)は蝶々夫人(さくら)を見つけ、
しっかり二人は抱き合うのだった。
幸せそうな二人。



                




しかし、現実は隣の禿げた殿山泰司さんに、抱きつくという最悪の展開だった(TT)
殿山さん「
なにすんねん、それだけはやめてぇ、みっともないやん」と逃げていく。

                            現実はこう↓(TT)
                  

マイケルは自分の幻覚に感極まり「ブラボー!ビューティフル!」と一座に拍手を贈るのだった。

                  


C【口に出して言えない人を愛する気持ちを語る寅のアリア】

柴又 題経寺 山門

寅が今か今かと昼間から圭子さんとめぐみさんを待っている。実は約束は夜(^^;)
御前様は頭がおかしいと言う。
そんなことお構いなしに源ちゃんに鐘を早く撞いて夜にしろと命令している寅。

                  



とらや 茶の間 夜

食事を終え、圭子さんとめぐみさんを交えて歓談しているみんな。

社長は、自分の工場の工員でめぐみさんに人目ぼれしている男がいると勧めるが、寅は反対する。

寅「よしなさいよ。さくらはね、こいつに惚れたお陰で
  一生職工のカカアで貧乏暮らしなんです
実も蓋も無い言い方…

めぐみ「あーら、博さんは素敵よ、ねえ、お母さん
圭子さんも頷いて

                  

圭子「いつもめぐみと話してるんですよ。口数が少なくて、思いやりがあって本当に魅力的だわっねえって…
めぐみ「私、さくらさんが恋した気持ち分かるわ…
博、下を向いて照れている。
寅「へえー、今時はこういう男が流行るのかねえ〜

                  

博「流行りませんよ、参ったな…

そういえば龍野から来たぼたんも博のことを素敵だと言っていた。博はああ見えてもなかなか
女性には人気があるのだ。


圭子「死んだ主人も、博さんみたいに口数の少ないほうでしてね、だからアメリカ人によく誤解されましたわ


どうやらアメリカでは、自分の気持ちをストレートにはっきり伝えないと、『気持ちがない』とみなされるらしい。

めぐみ「この間もマイケルが言ってたの。博さんはね…
さくら「博さんがなんですって?
めぐみ「博さんはさくらさんを本当に愛してるのかなって、そう聞くの
さくら「え…?

                  

おばちゃん「あら?どうしてかしら
圭子「マイケルもアメリカ人だから誤解してるんですよ
めぐみ「私がね、どうしてって聞いたら、夫婦でありながらさくらさんにキスをしたこともないし、
    一度も手を握ったこともない。黙って畳に座って『お茶』って。さくらさんがお茶を持ってっても
    ありがとうの一言も言わない

寅「おまえほんとは愛してないんじゃないかこれを
博、たじたじして
博「そんなことありませんよと、まじめに受け答え。
みんな爆笑。
圭子さんは、夫婦の間であろうが、アメリカ人は言葉に出さないと信じない人々なんだと説明。
おばちゃん「じゃあ、いい年をした夫婦が『アイラブユー』なんて言ってんですか?
圭子「言いますよ
おばちゃん、顔真っ赤になって
おばちゃん「恥ずかしい」と、おいちゃんを見る。
めぐみ「フフ、おばさん、おじさんに言ったことないの?『愛してるわ』って
人見て聞いてよね、めぐみさん。ぞわわだよ…((((^^;)
おばちゃん「そんなこと言うくらいなら死んだほうがましですよ分かる分かる(^^)

                  

みんな大爆笑。
おいちゃん「愛しちゃいないんですよ。ほんとうに
おばちゃん「あら、そりゃこっちのセリフですよぉ〜座布団1枚(^^)
みんな再度大爆笑

圭子「でもね、寅さん
寅「はい、なんですか
圭子「人を愛する気持ちって、簡単に言葉に表せれるようなもんじゃないでしょう

                  

寅「ええ…分かりますよ、その気持ち

みんな静かになる。

寅「たとえ、地球の裏と表に、体は離れ離れになっていたとしても、
  気持ちというもんは通じるもんですよ、お互いに愛し合っていれば
なるほどね…

めぐみ「たとえばどんなふうに?

寅「めぐみちゃん、こんなことなかったかい?

めぐみ「…え?


寅「夜中にふと目を覚ますんだよね。妙な胸騒ぎだ。もしやあの人の身の上に何か…。
 慌てて駆けつける駅。夜汽車、ポーー…、

               


 どうかあの人がご無事でいてくれるように、まんじりともしない一夜(ひとや)。

 やっと駆けつけたその人の枕元。『寅ちゃん、きっと来てくれると思ったわ』
 『しっかりするんだよおまえ』『大丈夫、きっと治ってみせるわ』『よし』…こういう気持ち。ね…。
 これは言葉では言えない…
奇蹟だねそれは…。でもあるかも…。


圭子「そうね…。私も信じるわ、そういうこと…


                  

博「いい話でした
寅「まあね
さくら「それがお兄ちゃんの愛情ね
寅「いやあ…

めぐみ「ねえさくらさん、寅さんその人と結婚したの?
さくら「たとえ話よ、フフ
めぐみ笑いながら
めぐみ「信じちゃった。フフフ

社長「愛してない場合はやっぱりノーってはっきり言うんですかね、アメリカじゃ
めぐみ「うん、そうよ
おいちゃん「嫌い嫌いも好きのうちって言うけど、アメリカじゃ通用しねえのかなあ、アメリカじゃあ…

めぐみ「曖昧なのはいけないの。
   ほら、ボーイフレンドにアイラブユーって言われて、もし嫌だったらね、
   『
This is impossible』って言わなきゃいけないの。

                  

博「impossibleなるほどねえ…

社長「それ、ダメってことか?」impossible=不可能、無理、できない。
めぐみ「そうよimpossible
さくら「impossible
めぐみ「ん、私も言ったことある
みんな爆笑。
圭子「バカね、この子

社長「ねね、寅さん、嫌だろうね、そんなこと言われたら
寅「バカァ、日本の男はそんなこと言わないよ
博「じゃあなんて言うんです

寅「何も言わない。目で言うよまた出たよこのパターン ┐(-。ー;)┌

博「へえー…
第1作で博も、さくらのことで寅に目で言えと指南されていたね。
寅「『お前のことを愛してるよ』

               

  すると目で答えるな『悪いけど、私あんたのこと嫌い』
  するとこっちも目で答えるな…、『わかりました、いつまでもお幸せに…』そのまま
  くるっと背中を向けて黙って去るな。それが日本のやり方よ


おいちゃん「おまえはそればっかりじゃねえかっていうか、それ以前ってことも多い(^^;)
寅怒っておいちゃんにみかん投げまくり。

社長の奥さんの声「お父ちゃん、いいかげんにお風呂入っとくれよぉ
社長怒りながらも
社長「はいはい、アイラブユー!

                  

みんな大爆笑。

第22作「噂の寅次郎」と第23作「翔んでる寅次郎」でもこの奥さんが風呂を催促し、社長がそれに答える
というパターンを使っている。つまりなんと3作品連続で社長の奥さんの声が出てくるのである。
それも同じパターンの『早く風呂入ってよ!』山田監督はよっぽどこのやり取りを気に入ってたんだろうね。


圭子さんたちは、その後、しばしの歓談のあと、
とらやを後にするが、この時カメラはは参道側から店先を撮っているのだ。
これは大変珍しいシーンだ。つまりとらやの店先が江戸家さん側外から見れるのだ。


                  



D【マイケルの告白と寅の失恋 そして…サヨナラの握手】

そんなこんなのある日


とらや 店 雨

京都でのセールスが全くうまくいかず失意のままとらやに舞い戻ってきたびしょ濡れのマイケルの姿があった。

さくら「どうしたの!?
マイケル「ビョウキ…、スーパービョウキ…
さくら「病気!

                  

おばちゃん「まあ、ずぶぬれで
おいちゃん「おい、上に上がって着替えしてもらえ

二階で休みながらとらやに届いた母親からの封書を読むマイケル。
よく届いたな…。

コートを干したりいろいろ世話を焼いてやるさくら。

さくら「なんて書いてあるの?
マイケル「サクラサン…
さくら「はい
マイケル「I‘m going home to America

                  

さくら「going home…
マイケル「はい、そう…
さくら「そう…。関西に行ってもビタミン剤売れなかったのね

外国人がたった一人で、日本語もできずに、飛びこみで薬局に入って、
人の口に入れるビタミン剤が売れるわけが無いし、売ろうとするわけも無い。
常識的にはもう少し大規模な、計画的、組織的な作戦や根回しが必要。
体に入れる食品や医薬品の輸入はみんな警戒するからね。設定自体に無理がある。


で、今更ながら、
マイケルは日本ではがんばったけどimpossibleだった。と嘆くのだった。
さくら「impossible…
マイケル「ハイ
さくら「そう…ダメだったのね
マイケル小さく頷く。

さくら、どう慰めたらいいかわからなくて、
さくら「…あ、…温かいコーヒー入れてくるわ。ホットコーヒー


マイケル「サクラサン

さくら「はい、なに?


マイケル「… I love you 」


                  


さくら「…!!


                  

マイケル「

さくら「im…possible This is impossible
                  
マイケル「Do you love Hiroshi?

さくら「Yes

マイケル「

さくら「I love him. Yes 

                  


奈落のそこに突き落とされるマイケル。

                  


動揺しながら走って階段を下りていくさくら。

自分の軽率さと深い悲しみを押さえきれなくて思いっきり畳を叩いて嘆くマイケル。


社長の声「揺れたぞ?地震か?(^^;)

                  





圭子さんの家

寅は相変わらず圭子さんの家に通っていたが…、
圭子さんの恋人であるタンカーの船乗り柳田さんの出現により、自分の出る幕は無いと悟った寅は
静かに彼女の家を出るのだった。
ちなみにこの柳田さんは博の一番上のお兄さんである毅さん。なぜ???(^^;)


                  


寅はこの時圭子さんに『福寿草』をプレゼントするが、英語では『アドニス.ハンサム二枚目』という意味らしい。

寅曰く「今度は三枚目の花買って来よう」面白くも切ない寅のギャグだった…。

                  




とらや 荷物部屋

とらやに帰ってきて二階で旅支度をする寅。

さくら、二階にやって来て悩みながら寅に何か言いたそう…。

                  

さくら「お兄ちゃん…

寅「マイコ、帰るのかアメリカへ…

さくら「……

寅「どうした?

さくら「あのね、酷いのよ、マイコさんって…、私に……
   『I loe you』ってそう言ったの


                  

寅、さくらのそばに寄って、厳しい顔で
寅「それで、おまえどうしたんだ?

さくら「…いつかの晩、めぐみさんが言ってたように…
   『
impossible』って言ったんだけどね…

                  


寅「そうか、それでいいじゃねえか

                  

寅、またしゃがんでかばんに荷物を詰め込みながら

寅「こないだ圭子さんが言ってたろ、
 アメリカ人 はよ、お互いの気持ちを察し合うことなんてな苦手なんだって、
 はっきり口に出して言わなきゃ納得しねえんだって…。
 オレ達みてえに想いを胸に秘めてスッと立ち去る。
 そんな芸当はとてもできやしねえんだ…。だから勘弁してやれよ、な


                  


涙を溜めながら頷くさくら。

寅立ち上がって

寅「あーあ…、バカだなあいつも…

                  


寅はマイケルの気持ちが痛いほど分かるのだ。
この「バカだなあいつも…」という言葉に託された
マイケルへの共感の想いに私は胸を打たれた。
マイケルは寅であり、寅はマイケルなのだ。

さくら、かばんを持った寅の旅支度を見て
さくら「…!どこ行くの?
寅「んー…、旅よ
さくら「え!?
寅「もうすぐ正月だい。オレたちの稼ぎ時だ
さくらは圭子さんのことが影響していることを今までの経験とカンによって気づく。


とらや 店

店ではおばちゃんが必死でマイケルを止めている。
おばちゃん「さよならはノーよ、ノー。ねえ、もうゆっくり家でしてってちょうだい。ねえ
寅が下りてくる。
おいちゃん「あ、寅、マイコさんもうさよならだってよ
おばちゃん「いいじゃないねー、二,三日ゆっくりしてったってさ
マイケルを気に入っていたおばちゃん、別れが人一倍辛そう(^^;)
マイケル「トラサン」と手を上げる。
寅「そうか、帰るかアメリカへ、マイコも…
マイケル「
寅「よし、オレも一緒に送ってくよ
マイケル「ドウモ。 ミナサンサヨナラアリガトウゴザイマシタ
おばちゃん「そんなこと…

寅「おいちゃん、おばちゃん、オレも今回は長逗留した。ま、このへんでな…
おいちゃん「なんだ、おまえも行っちゃうのか?

                  

おばちゃん「そんなバカな、なにも急に二人で出ていくことないじゃないか。行っちゃいけないよ
おいちゃん「冗談じゃないぞおまえ〜、どっかに通訳いねええかなあ
おばちゃん「おやめよ、ね
さくら、下りてくる。
おいちゃん「あ、さくら、何とかしろよ、二人とも出て行っちゃうって言うんだよ

さくら「ねえ、お兄ちゃん、何かあったの、急に出ていくなんて

寅「マイコよ、さくらに何か言ってやんな、ん


マイケル「サクラサン…

さくら「はい…

マイケル「ホントウニゴメンナサイ」と深くお辞儀。

さくら「…いいえ

マイケル「サヨナラ」と手を差し出す。

さくら、マイケルの手に応え、握手をする。


さくら「…さよなら


万感の想いを込めてさくらの手をヒシッっと握るマイケル。
この作品のまぎれもないクライマックスだった。マイケルの純情が
痛々しいほど感じて取れる悲しく切ないシーンだ。



                  



寅「よし!、それでよし、さ、行こう

マイケルは、僅かに微笑みながら寅と去っていく。
寅歩きながら
寅「一杯飲もう、な

二人を見送るさくら。

おばちゃん「さくらちゃん、なんかあったのかい?
おいちゃん「さくら…
おばちゃん「どうしたんだろ…
おいちゃん「ん…

さくら、悲しみの表情でずっと二人を見送っている。


                  




E【寅の助言に頷くさくら 兄妹の絆】

深夜 上野駅そばの飲み屋

マイケル達が飲んで騒いでる中、寅がさくらに電話している。


さくらのアパート

さくら「もしもし、お金大丈夫なの?え?

大丈夫だと言う寅。

寅「それからな、これは肝心なことだけど、博には黙ってろよ、な

さくら「すぐに返事ができないでいるさくら。

寅「…な!

さくら「…うん、わかった

                  


寅「いいか、切るぞ、いいな。仲良くやるんだぞ

静かに涙ぐむさくら。

この短い電話の中にさくらを思いやる寅の気持ちが一杯詰まっていて
見ている私も切なくなってしまった。
寅に言われなければ、さくらはひょっとして博に打ち明けなければいけないんじゃないかと
悩み続けたことだろう。寅がその迷いを解放してくれたのだ。ここが寅という男の素人じゃないところ。
なかなか言えない言葉だ。人間の深い裏の気持ちまで考えての究極の助言だった。





F【江戸川を見下ろすマイケルと空を見上げるさくら. 二人の過ぎ去りし思い出】

上野駅近く 早朝

寅「おい、マイコよ
マイケル「ハイ
寅「もうここでお別れだ。グッドバイだよ
マイケル「Good bye、ドウモアリガトウ
寅「あばよ!
マイケル「ハイ
京成電鉄上野駅のほうへ歩いていくマイケル。

寅「おい!マイコよ」ともう一度歩み寄り、
寅「しょぼたれるなよ、元気出せ元気
マイケル「All right....
寅「そのうちきっといいことあるから、な。あ、そうだ

と、首のお守りをマイケルにかけてやり、

寅「おまえにこれやるよ、お守りだ、な。これ持ってるとな、
 そのうちきっといい嫁さんが来るから、きっといい嫁さん


と、小指を突き出し微笑む寅。

                  


マイケルは、『これを持ってるとすばらしい女性と
         巡り逢うことができるっていうんだね、そうだろ
』、と寅に言うのだった。


寅「ヘヘ、ま、そういうことだい、へへ
マイケル「ドウモ、ドウモアリガトウ
寅「おまえも幸せになれよ、じゃ
とお互い握手。

マイケル「you too、Good luck
寅「あばよ

遠く離れてからマイケルが叫ぶ。

マイケル「ヘイ、トラサーン!
寅「え?
マイケルは、『それじゃなぜ寅さんは結婚できないのか?』と、その矛盾を聞いていた。

寅は言葉が分からなくて

寅「オッケイ オッケイ!!ハハハハハ!
マイケル「OK!?ハハ」と妙に納得して去っていくのだった。

                  



その後…

マイケルを乗せたアメリカ行きのJALの機体が江戸川上空を飛んでいく。

マイケルはスチュワーデスさんに窓から見える川の名前を聞く。
スチュワーデスさんは『たぶん江戸川だと思います』と答える。

マイケル「エドガワ…、エドガワ…」と懐かしそうに窓を眺めている。


                  


実際の江戸川の俯瞰撮影は小さなセスナ機で行われ、なかなかスリリングで結構冷や汗ものだったそうだ。



蝶々夫人の「ある晴れた日」が静かに流れる。

マイケルの眼下に見えるその江戸川土手には…。

ちょうどその頃さくらが博と満男と一緒にいたのだった。

何も事情を知らないで転げまわって遊ぶ博と満男。


                  


さくらは、草むらに座り、遠く飛び去っていく飛行機を眺めながら、
涼やかな表情でマイケルとの思い出を懐かしむのだった。

第一作以降、さくらを母として、妻としてのみ表現してきた山田監督が
たった一度だけ一人の女性としての目をさくらにさせた美しいシーンだといえる。
そういうこともあって、私はこの第24作のこの江戸川土手に座り、空を見上げている
さくらの表情と窓から江戸川を見、思い出にふけるマイケルの表情が共々大好きなのだ。



Good luck Michael. 



                





E【マイケルからのエアメールと溌剌とした寅の啖呵バイ】

正月 とらや 雪景色

笛太鼓にあわせて獅子舞が店先で舞われている。

ご祝儀を獅子の口に噛ませてやるおばちゃん。

おばちゃん「どうもごくろうさまでした

                  


とらや 台所

めぐみさんがタコ社長の工場の工員たちに混じってスキーに行くのだった。

博「めぐみさん
めぐみ「はい
博「この連中が本気にならないうちにimpossibleってはっきり言ってくださいよ
めぐみ「フフフ

                  

元気に出てゆくめぐみさん達。

テーブルに1枚のエアメール。

遥かアリゾナの田舎からマイケルが年賀状を送ってきたのだ。
さくらがそれをもう一度読んでいる。

                  

マイケルも寅同様、新年のあいさつと昨年の反省をしたためてきたのだった。

マイケルの内容はこうだ。

マイケルの声『思い起こせば恥ずかしきことの数々、

        今は後悔と反省の日々を送っています…。

        私はアリゾナで相変わらず薬売りのセールスマンの日々です。もうけはさっぱりです





アメリカ アリゾナ州 

田舎町のガソリンスタンド

たった2ドル分のガソリンを入れながら、
なんと、
さくらの写真を眺めているマイケル。

おいおいおいおい、いつもらったんだそんな写真(^^;)

                  

ガソリンスタンドの青年「あんたのガールフレンドかい?
マイケル「うん、どうだ美しいだろ
青年「あんたは幸運な男だミスター
マイケル満足顔。

                  

しかし青年は日本のことも日本人のことも知らない。
青年「ジャパニーズ??どこの州だ?それ」
マイケル「おまえ日本知らないの?
青年「しらん
マイケル「学校行ったのか?おまえはアメリカの恥だ!
あとはお互い喧嘩腰で怒鳴り合い(^^;)


マイケルの声『日本での幸せな思い出はいつまでも消えることはありません。
        いつまでも美しく幸せにいてください。

        最後に、あなたの素晴らしきお兄さんとあなたの愛する博さんによろしくお伝え下さい。

        アリゾナより愛をこめて。  マイケル.ジョーダン







西伊豆 静岡県沼津市西浦足保

第16作「葛飾立志編」のラストと同じ港町


縁起物のおたふくと鈴のバイをする寅。

(首からぶらさげていたお守りはマイケルに上げたのでここではしていない)

久しぶりに寅はポンシュウに会うが、ついこの間まで奥さんに逃げられて、しょぼくれていた彼は
今はなんと新しい奥さんをもらい幸せそうに寅に報告するのだった。


なんだかちょっとほっともし、悔しさもある寅だった。

                  

寅「ちきしょう!フフ!正月早々やってられねえや!

 さーもうヤケだ!ねえ!汚わい屋の火事でやけくそだ。
 焼けのやんぱち日焼けのなすび、色が黒くて食いつきたいが
 あたしゃ入れ歯で歯が立たないよときた!亀は千年鶴は万年ともに白髪の
 生えるまでときた、ね!


                  



遠く伊豆の海が映って…。


                  




 




第25作「寅次郎ハイビスカスの花」ダイジェスト版のアップはだいたい7月18日頃となります。

なお、第48作「寅次郎紅の花」本編完全版(後編)は、多忙のためちょっと遅れて7月20日頃となります。



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320

                          
『寅次郎な日々』バックナンバー






再びの『Dr.コト−』 吉岡秀隆さんの声
 
2007年7月4日 寅次郎な日々 その320


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。

日本に帰国し、ハードスケジュールが続いているが、意外に日本は今寒い。富山県八尾町の家の温度計は25度を上回る
ことがない。これは、私にとっては辛いのだ。気温が25度を下回ると体調が悪くなると言う宿業を背負ってしまったゆえに、
日本に長く滞在できないのである。案の定、ここ数日体調を崩してしまい、遠出を控えて、暖かくしている。日本のじめじめした肌寒い
梅雨を経験するのはなんと13年ぶり!なので体がびっくりしたようだ。
で、無理やり時間ができたので、「男はつらいよ」の更新作業をしようと思ったのだが、何を血迷ったかそれは後回しにして
『Dr.コト−』2003、2004、2006を一日かけてもう一度見てしまった。バリ滞在中ずっと思っていたことだったからだ。

私はどうしてこんなにもこの『Dr.コト−』というテレビドラマが好きなのだろうか…。いつも自分の中でずっと自問している。
だいたい民放の連続テレビドラマは昔からほとんど見ない。どれもこれもくだらない質のものが多いからだ。どんなに話題に
なっていても大抵第1話第2話あたりを見て、失望し、止めてしまう。ましてや繰り返してみるに値する連続ドラマなどほとんどない。
NHKのドラマだって録画に値する物はほとんど見当たらない。暇つぶしにはなっても自分の人生とはほとんどシンクロしない。
まあ、全てのドラマの中でしいて歴史に残るものといえばあの膨大な長編ドラマ『北の国から』くらいか。あのドラマの価値は
今後もっと高まっていくのは間違いないだろう。

で、Dr.コト−である。コト−先生こと五島健助は病気であろうが怪我であろうがことごとく治してしまうスーパードクターなのだが、
だからといってそういうヒーロー的な部分が気に入っているわけではない。実際私がこの長い連続ドラマの中で、最も気に入っている
話は、コト−先生がたった一度だけ病気を治せなかった、あの『あきおじ』の物語なのである。この物語の格はあの話の中にある。
あれがコト−先生の原点であり、このスタッフ、キャストたちの原点であり、吉岡秀隆さんの新しい役者人生の原点であり、見ている
私の新たな原点でもある。

人間の生きる実感というのは、病気が治ることとは別のところにあるということを、あんなに静かにあんなに優しく謳いあげたドラマは
他にない。



                 



もちろん名演出の中江功さんをはじめとしたスッタッフたちの気持ちの入れ込み具合が一般のテレビドラマを遥かに超えていることは
誰だって見ていれば分かるのだが、ただそれだけで私がこう何度も見ることはないのである。「男はつらいよ」第48作でリリーの母親役を
演じていた千石規子さんが、このドラマでは毎回重要な役柄である産婆さんの『内つる子さん役』を演じている。彼女の芝居は最高である。
しかしそのような理由だけで、こう何度も繰り返し見はしない。

まずすぐ分かる理由のひとつには、このドラマが亜熱帯の島(ロケは与那国島)のせいもあるだろう。私は30歳で東京の教員生活を辞し、
熱帯のバリ島に暮らしてもう十数年になるが、このような人生がコト−先生に対する共感に繋がっているのは間違いない。
しかし、それだけならほかにもそのような亜熱帯移住ドラマは昔から何本もある。

それでつらつら考えて、今回もう一度ドラマをすべて見なおして、ようやく今、自覚できたことがある。それは吉岡秀隆さんの声だ。
コト−先生が、患者さんや家族の人たちに言う言葉『大丈夫ですよ』をはじめとした全ての言葉の波長がとても良いのである。

私の主治医さんがかつて言った言葉 『治せる病気は必ず治しますが、治せない病気は治せません』
この言葉の持つ意味は実は深い。
あきおじだけでなく、全ての生きる人々にいずれ最後は訪れる宿命なのだ。人はその時までを誰とどこでどう生きるか、ひたすらそこに
人生はかかっている。

だからこそ、決して元の体に戻ることがない彩佳さんのお母さんの手に寄り添うお父さんの手を見て私たちは心底救われるのだ。



                 



そしてそれらの全ての原点に『あきおじ』の話がある。

『命は神様に。病気は先生にだ。』

だから医者は患者の心に寄り添い『大丈夫ですよ』と白魔術をかけてあげることが大事なのである。しかしそれはテクニックの
問題ではない。方法論的、技術的な域をでない言葉は患者は見抜く。患者は敏感になっているので医者の『お仕事』を見抜くのである。
そんな一人一人に気持ちを入れていたら生身の医者の身が持たないのが現実の医療なのは百も千も承知で、それでも私はコト−先生の
持つ言葉の『気』と丁寧な触診に今日も救われ、生きているのだ。自分と真摯に向き合い続けるゆえに深い悲しみを常に抱え、その絶望と
向かい合って、闘い続けてきた者だけが発することができるあの声と言葉。見る人の血流までを変えることができる役者さんは日本の
俳優さんの中では吉岡秀隆さんしかいない。彼はある意味、命を削ってあの言葉を発していることが私には分かる。誰も信じないかも
しれないが、あのような芝居は、ただ一生懸命すればできるものではないのだ。いつも言っているように役者はその時一生懸命頑張れば
人の心を打つ芝居ができるほど甘くはない。絵描きも役者も人生が出るのだ。

もちろん彼は未だ若いゆえに体には影響はないが、心身の限界まで突き詰めているのはわかるのである。だからこそ、彼の言葉を聞いて
私のからだの凝り固まり、錆付いた血液がサラサラ流れ始めるのである。

人はやったことでしか人を変えることはできない。渥美清さんが私の血流をサラサラにしてくれるように、吉岡秀隆さんのその飛びぬけた
センスと感受性、そして孤高の決意と実践が私を救ってくれる。

考えてみればこれほど残酷なことはない。人知れず命を削り、人生に傷を負いながら何かを作らないと受け取る人は人生が変わらないのである。
なんて受け取る人たちというのは傲慢で我侭なのだろうか。しかし、それは古今東西の紛れもない真実であり、人というものの業でもある。
逆に言うと、命を賭けて何かを成し遂げる行為こそがこの世で真に報われるのだとも言える。

自分の命を燃やさずにはいつの時代もこの世界の闇を灯せはしないのだから。




                 




第24作「寅次郎春の夢」ダイジェスト版のアップは帰国後の多忙のため7月11日頃となります。

なお、第48作「寅次郎紅の花」本編完全版(後編)も同じくもう少し遅れて7月15日頃となります。



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第23作「男はつらいよ.翔んでる寅次郎」ダイジェスト版
 

2007年6月22日寅次郎な日々 その319


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


 


もうひとつの幸せを求め彷徨う若者たち     前代未聞寅の仲人始末記


『ふられた後で気がつくんじゃないのか、やっぱり恋をしていたんだと』

これは博がこの作品で言った名言。ひとみさんに惹かれながらも、若い二人の恋の仲人をする寅の奮闘を描いた作品だ。

この作品の一番の見所はなんと言っても寅とさくらがマドンナの仲人を勤めるシーンだ。自分の結婚もできない男が仲人をするまでの
顛末が山あり谷ありで実に面白いのである。工場の中村君の結婚も含め3回も結婚のシーンが出てくる可笑しな作品である。

2年前に制作された「幸福の黄色いハンカチ」で好演した桃井かおりさんが今回もちょっとずれたお嬢さん感覚ながらも
真っ向から人生に挑むひとみ役を爽やかに演じている。

ひとみさんは一度結婚式をした人ともう一度結婚するなんていうとてもユニークな体験をしてしまった人だ。
そしてウエディングドレスのままとらやになだれ込んでくるという、前代未聞の暴挙にも出た最初で最後のマドンナだ。
全マドンナの中で、おいちゃんが面倒見たくないと怒ったのはひとみさんだけ(^^;)
わかるわかるその気持ち。とらやは『お助け駆け込み寺』じゃないんだから。

彼女は親の敷いたレールを無理やり歩むことに動物的本能で超遅ればせながら疑問を感じ、発作的に結婚式を突然抜け出し、
自分の人生をようやく自分自身で模索しはじめるのである。なんとかギリギリで彼女は野生を隠し持っていたのだ。
それでも親の呪縛から逃れることがなかなかできなさそうだったが、寅が防波堤になって、後押しをしてなんとか自分の足で
生きていくことに成功していくのだ。彼女はみたとおり、しゃべったとおりの、絵に描いたような田園調布の甘ちゃんのお嬢さんだが、
彼女の感覚は意外にも死んではいなかった。

ひとみさんは、親の敷いたレールを無理やり歩むことに疑問を感じ、
結婚式を突然抜け出し、自分の人生を遅ればせながら自分自身で模索しはじめるのである。


ひとみ「ママの考えてる幸せとは違う幸せが欲しいの」

今回はひとみさんのこの言葉の意味を考える旅である。

幸せとは何か、を求めて彷徨う一組のか弱き若いカップルの旅を寅が支える第23作でした。



@寅の帰郷と満男の作文

今回も夢から

天才医学博士車寅次郎はひたすら便秘の研究を続けている。
今日も妹のさくらは、柴又のみんなからいじめられ自宅の「柴又医学研究所」に悲しい心で戻ってきた。

柴又中の住人からバカにされ、嫌がられて入るが、便秘の問題が解決する日が近づいている。

ある日

寅「わかった!理論がわかった!博!

                   

博「はい!
寅「このお芋の繊維がテェマァーだ!急がなくちゃ!急がなくちゃ!
さくら「おじさん、今兄はなんとおっしゃいましたか!?
おいちゃん「遂に理論がわかったとおっしゃいました!
おばちゃん「おめでとうございます!おじょうさま!

二階に上がった寅
寅「どうしてこれに気がつかなかったか!?このお芋の繊維と、このひまし油を
  混ぜ合わせれば、そこに、新しい結晶が生まれ、…。なんでこんなことに気がつかなかった今まで…


寅は二つを混ぜ合わせ、溶液が煙を出し始める。

寅「さあ、人類が長い間苦しんでいた便秘から救われるのだ。来るぞオ!

ドカアーン!!

二階大爆発(TT) 

                   

寅が爆発頭になって階段を落ちてくる。

第20作「寅次郎頑張れ!」のワット君と同じパターン。

さくら「お兄ちゃん!
博たち「先生!
寅、目がぐるぐるになりながら

寅「便秘の薬!便秘の薬!便秘の薬!」と手を伸ばす。

                   

日下部医院

寅、病院で転寝。


岡本茉利さんの看護婦さん。

                   

看護婦「車さぁん…、車さぁん、車さん
ビクッと起きる寅。
看護婦「お待ちどうさま、はい、これ便秘のお薬
寅「はああ…」と、受付に行く。
看護婦「食後2錠ずつ、効きすぎたら1錠に減らしてください。今飲みますか?

寅って便秘する時あるんだね。普段は早飯早糞芸のうちを地で行ってるのにね。

飲んで病院を出てすぐもようしてきたらしい(^^;)
寅「あ、あれ??なんだもう効いてきちゃった…
寅すぐ戻って
寅「すいません、ちょっと便所貸して下さ〜い



タイトル 男はつらいよ 翔んでる寅次郎


口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
   帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
   人呼んでフーテンの寅と発します。


   ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


今回は間奏が長く入って、もう一度後半部分を繰り返す。

   
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


今回のミニコントは江戸川土手で、がま口に糸をつけて引っ張り、寅が密かに拾おうとするのをからかう。
怒った寅は必死で追いかけるがいつものとおり次々と人を蹴倒し、倒された人がまた誰かを倒してしまい、
喧嘩を始めると言うパターン。このコントにあの第16作「葛飾立志編」で衝撃の告白をした上条恒彦さんが出演。
彼は第15作、第16作、第19作、の夢にも出演している。


                   


柴又 帝釈天参道

工員たちに胴上げされている工員の中村君。
今日は古沢規子さんと中村君が川千家で結婚式を挙げたのだ。

                   

式が終わってさくらたちがとらやに帰ってくると、満男が作文で三重丸をもらっていた。
作文の出だしはこうだ。

満男「僕のお母さん。僕のお母さんとお父さんは恋愛結婚です

                   

みんな大爆笑。

社長「あんなこと書くようになったかねえ、あの子も

月日の経つのは早いものだと、感慨を深くしている。
さくらと博は結婚してはや十年が経ったようだ。

そんな時、寅が帰ってくる。

寅「なんだい、みんなそんな黒い服着て…誰か死んだのか!?誰だ!?
  おばちゃ…!なんだおばちゃんいるじゃねえか、そこに


おばちゃん「当たり前だよ!あたしゃぴんぴんしてるよ!
このおばちゃんの元気印ポーズ印象的です(^^;)

葬式大好き、葬式命、の寅は、結婚式だと知って、気が抜け、それが工員の結婚式だと
知り、ちょっとバカにしたことを言う。

寅「ケ!職工が結婚するかね、フフ…博とさくらもそうだったんだぞ寅。

社長、その言葉にワナワナ。

博「いいじゃありませんか愛し合って結ばれるんですから
寅「フフフ…凄い凄い凄いねェ〜、へ〜、愛し合って結ばれるか、ケッ!職工が…
バカにしながらもどこかで嫉妬しているんだろうね、寅って。

社長「寅さん、それじゃあ何かい?オレんとこの工員が、人並みに愛し合ったら悪いのか?
寅「おー、よく言いますね。人並みに愛し合えるほどの
  給料出してるんですか、 社長さんとこでは
キツイねえ(TT)

社長、涙目になりワナワナ震える

                   

社長「博さん、こんなこと言ってるよ…うううう涙…(TT)
博、社長をなだめる。

おいちゃん「寅!てめえが結婚できねえからといって、人様の結婚にケチつけるこたねえ!
寅「なんだと!?
おいちゃん「人様の結婚式を見るたびに、オレたちがどんな思いでいるか、おめえ、それ考えたことあるのか!
寅「

おいちゃん「いつになったらおめえが綺麗な嫁さんの手をとって、その入り口から幸せそうに入ってきてくれるかって…、
      何べんそんな夢オレ…、そんな夢…、ウウウ…、まったく、情けねえ…、チキショウ…


                   

おいちゃん向こうへ行ってしまう。
みんなおいちゃんの言葉に黙ってしまうのだった。

寅は、反省し、ちょうどおいちゃんに買ってきた髭剃り後の化粧水を渡すのである。
(実は、後にビンの裏を見た博が整髪料だと分る)




夜 茶の間

すっかり反省し、みんなで仲良くなったとらやの面々だった。

おいちゃん「これありがとう」と、上機嫌。
寅はこの髭剃り化粧水はアメリカ製だという。

一方社長はお中元でもらったイタリア製のワインを持ってきている。

                   

ここで、おばちゃんのボケ
おばちゃん「アメリカだのイタリアだの、まるで外国行ったみたいだねえ〜
おばちゃんだねえ〜(^^)座布団一枚。

化粧水でなく整髪料だと博が分って大笑いした後も
おいちゃん「どっちだって毛が生えてんだ、おんなじようなもんさ。ハハハ座布団一枚(^^)
と、まだまだ上機嫌。やっぱり嬉しいんだね、寅が心に留めていることを知って(^^)

寅は、自分が英語が読めないから、こういう間違いもするはめになったから満男にしっかり勉強しろよと励ますのだ。

その時、みんなは満男の話になって、さくらや博は満男の例の三重丸もらった作文のことを自慢(^^)
早速、作文用紙を持って寅が読んでやることに。
満男「読んじゃダメ!」となぜか言い、取り返そうとするが、みんな相手にしない。

                   

寅「『ぼくのお母さん。ぼくのお母さんとお父さんは恋愛結婚だ。だから、お母さんは
  お父さんのことを『博さん』と呼んでいる』 ん、社長、よく見てるな

社長「たいしたもんだ
照れている博とさくら。
寅「『お父さんはお母さんのことを『おい、さくら』と、ちょっと威張っている』
またまた照れまくる博とさくら。(^^)
社長「ちゃんと見ている
寅「でも本当はお父さんはお母さんをとても大事にしている』いいねえ〜…
おいちゃん「う〜ん、見てるねェ〜
社長「ほんとほんと
おばちゃん「寅ちゃんに帰ってきてもらったねえ、こんなに幸せになれて
おいちゃん「あ〜、よかったよかったぁ
さくら「ね、お兄ちゃん、まだあるんでしょ?
寅「あるある、…『お母さんが、時々悲しい顔をする時がある。それは、おじさんが帰ってきた時だ』
  伯父さんってだれだ?…、 あ、オレか


みんな、少し不安そう(^^;)

満男、そそくさと襖の裏に避難 ((((((^^;)

                   

寅「おじさんの名前は寅さんと言って、お母さんのたった一人のお兄さんだけど、
 …いつも
恋愛ばかりしていて、そのたんびにふられるから、
 
今でもお嫁さんがいない。か…

おいちゃん「うん、ちゃんと見てる座布団一枚(^^;)

社長「それから? 声出して読んでくれよ
さくらも博も真っ青…
寅「近所の人が」と社長を睨む。上手い上手い(^^;)
社長「ほう
寅「『悪口を言うと、お母さんはとても悲しそうな顔をする』
さくら、いたたまれなくなって、作り笑いしながら
さくら「お兄ちゃん、もういいんじゃない?
博「うそばっかり書きやがって、もうやめましょう真実のみ(^^)
寅「いいよ」と博の手を払いのけ読み続ける寅。
寅「『ぼくはおじさんが、はやくお嫁さんをもらって、お母さんを安心させて欲しいと思っている』
寅、不気味にニコニコ笑って一同を見渡し、急にブスッと表情が変わる(((−−;)
みんな、下を向いてしまう。
不気味な静寂(^^;)

その静寂を破るように
社長「子供でもちゃんと見てるんだねえ…あちゃ
ビビル博とさくら。
寅「そう、ちゃーんと見てますよ
みんな、気をそらそうとごはんにしようと立ち上がる。
しかし、寅、しっかり博の腕を掴んで
寅「ちょ、ちょ、この赤い字は誰が書いたの?

博読みながら
博「『とてもよく書けました。ほんとうに困ったおじさんね』音読するなよ博、駄目押し…ゞ(^^;)
寅「そう
博「先生です…

                   

寅「ほーう、じゃなにか満男の教師はこの作文がいいって褒めてるわけか

さくらは話をそらすことに懸命だが、寅はこれはとらやのだと言って、 食い下がる。

さくら「別に恥ってことはないでしょ
寅「だよ!これは絶対なる
おいちゃん「そのとおりだ…
寅「そうだろ、おいちゃん!
おいちゃん「そうだ…、お前はとらやのだ…はあ…
寅も下向いて
寅「はぁぁ…
おいちゃん、その顔見て、情けなく思い

おいちゃん「ばっか…」と嘆く。

                   

寅、ようやく恥の本質が自分のことだと気づいて

寅「え?…ほっ...!!

                   

社長「ハハハ!ご本人がそういってりゃ世話ねえや!ハハハ!バカだね、ハハハ

寅、急に怒りが沸いて来て、イタリアワインを社長の頭にぶっ掛ける((((((^^;)
太宰さんご苦労様です(TT)

                   

寅「このヤロウ!なにがイタリアのワインだ!中小企業の恥さらしめ!
社長「わああああああ!なにしゃがんだ!!

仏間で机にうつ伏せになって泣いている満男。

で、いつものように結局出て行ってしまう寅。

寅、さくらに

寅「満男にな、寅おじさんが悪かったってそう言っとけ…

                   


今回は久しぶりに寅を囲んで幸せな団欒のひと時があったのに残念だった。
そういう意味では見事なコントラストだった(^^;)




Aひとみさんとの出会いと彼女の悩み


北海道を旅する寅。


北海道白老町字虎杖浜の虎杖浜神社でネクタイのバイをする寅。

その後、満男にお土産用の鉛筆を送る寅だった。
ちょっとは反省しているのだ。

そんな中、ひとみさんと支笏湖のそばで出会う。

支笏湖

日本有数のカルデラ湖で、恵庭岳・紋別岳・樽前岳・風不死岳が湖の周辺にそびえている。日本最北の不凍湖、
最も深いところで360m、秋田県田沢湖に次いで2番目であり、日本一の平均深度260mを誇っている。

ひとみさんは車に乗っていきませんかと誘うが、寅は嫁入り前の娘さんが
旅の行きずりの男をそんな気安く誘っちゃいけないよ、と忠告するのだった。

ひとみ「おじさん変わってるのね…
寅「そうかい?

                   


ところがガス欠になったひとみは、親切を装う男に捕まり、
恵庭岳が見える支笏湖の畔まで連れていかれて車の中でスケベなことをされそうになるが、
たまたまそばにいた寅に助けを求め、間一髪救われる。

男「なんだ、あんた!
寅「なんだ兄さん、女口説くんだったらもう少し上手くやったらどうだい?

                   

男は、寅にかかっていこうとするが、
間が抜けていて、チャックに急所をはさんで転げまわる(^^;)

寅「ハハ、どうしたい二枚目
男「あいたたたたあ!!
ひとみ「どうしたの?大丈夫?お人良し(^^)
男「は、ははさんじゃった…ク…、おまえのせいだぞバカヤロウ!あ、血が出ちゃったぁ!(TT)
と、車に逃げ帰り去っていく。

寅「怪我しなかったか?な、オレ言っただろ、女の一人旅はあぶねえから気をつけろって、え

ひとみさんはしばらく寅と一緒に旅をする。

支笏湖クルージングを楽しみながら
寅「お姉ちゃんはウチはどこだ?
ひとみ「東京
寅「ほう、オレも東京だよ、葛飾柴又
ひとみ「私は田園調布
寅「ほう、田園地帯か。おとっちゃん百姓?そうくるか(^^;)
ひとみさん笑いながら、
ひとみ「違うけど、フフ

                   



夜 支笏湖 丸駒温泉旅館

部屋を申し込む寅とひとみさん。

混んでいるので二部屋は無理だと断られるが、
仲居さんがお馴染み谷よしのさん
なんと、その旅館の若旦那があのスケベ男だったのだ。

ひとみ「お姉さん警察どこ!?
仲居さん「なにをするんですか?
ひとみ「署長にあって私全部話してやる、今日あったこと」と怒っている。
寅「言ったほうがいい、言ったほうがいい(^^;)

若旦那、必死で笑顔ふりまいて

                   

若旦那「ちょ、ちょっと待ってください、部屋のほうなんとかしますから!
寅「あんまり予算ないんだけど
若旦那「結構です、いくらでも結構です、ハハ…。ハーイ、松の間と竹の間ご案内よ!」と愛想笑い(TT)

寅たちに弱みを握られた若旦那はこのあとも寅に散々付きまとわれることになる。


寅の部屋

寅「なんか悩み事でもあるのか?一人旅なんかして
ひとみ「私ね、もうすぐ結婚するの…

                   

寅「ああ…、え?なんだい、それじゃ幸せなんじゃねえか!」と酒をついでやる寅。
ひとみさんは、それでも沈んでいる。
寅「なんだか結婚するの嬉しくないみたいだなあ…
ひとみ「だから困ってんのオ…。ほんとはもっと嬉しくなけりゃいけないんだけどね。
    どうしてもそういう気になれないのよね.。。


寅「ひとみちゃん、バチが当たるよ、そんなこと言っちゃ…

と、好きな人と添い遂げなかった昔の男女の悲しい物語をして諭すのだった。

この内容は第22作「噂の寅次郎」のオープニングの夢のアレンジ版。


翌朝

ひとみさんが東京に戻った後もしばらく、若旦那の弱みに付け込んで長逗留する寅。

若旦那「一週間でも十日でもごゆっくりどうぞ、ハハ…あああ…TT)
寅「迷惑かけてんじゃない?フフキーワード(^^)
若旦那「いやややや、そんな、ハハ

                   




B逃げ出したひとみさんと彼女を護る寅


東京 ホテルニューオータニ

確かここでさくらの見合いやったよね。


盛大に邦男とひとみさんの結婚式披露宴が繰り広げされている。
仲人はなんと松村おいちゃん(^^)


                   


しかし、ひとみさんは、この期に及んでも浮かない顔でまだ迷っている。

お色直しの隙をついて、遂にぷっつん切れ、なんと式場を抜け出してしまうひとみさんだった。
タクシーに乗り込んで、挙句の果てに逃げていった先はなんと柴又のとらやだった。

一方、とらやでは


とらや 店

ちょうど折りしも寅が帰ってきて、ひとみさんから来たハガキを読んでいる寅だった。

寅「『寅さんに叱られるかもしれません』か…、オレもちょっと言いすぎたかなあ…。
  こんなに悩むんだったら、いっそうのこと結婚なん諦めちえと、そう言ってやればよかったぁ…
」と沈んでいる寅だった。
さくら「ど、どういう人?
寅「農村地帯の娘さん田園調布だってば ゞ(^^;)

タクシーがとらやの前までやって来る。

寅「オレがもうちょっと早めに帰ってくればなあ…、いろいろと相談に乗ってやれたんだ…
おばちゃん「なんだい、こんな狭いところへタクシーなんか乗り入れて
おばちゃん、この後、ひとみさんのお母さんは大きなキャでラックで乗り入れてきます(^^;)

さくら「お兄ちゃんお客さんよ…
寅、ハガキを何度も読み返して、店先を見ようとしない。

真っ白なウエディングドレスを着たひとみさんが立っている。

さくら呆然&唖然

                   

ひとみ「寅さん…

寅、背中を向けてハガキを読みながら

寅「はいよぉ…。今ねえ、ひとみちゃんからのハガキを読んでいたら、寅…

このギャグは第17作のアレンジ版。

さくら、寅の肩をたたいて、振り向かせようとする。

寅、店先をゆっくり振り返り仰天!

                   

寅立ち上がり

寅「ひとみちゃん!!」と、満面の笑顔
ひとみ「ああ!!よかったぁ〜!!」と走って来、寅に抱きつくひとみさんだった。
ドレスの裾を持って運転手と源ちゃんが一緒に突っ込んできた。(^^:)
運転手おいちゃんと正面衝突(TT)

ひとみのテーマが盛り上がり

ひとみ「よかったぁ〜!!いなかったらどうしようかと思っちゃった!
寅「大丈夫だよ、ほら、オレこの通りいるじゃないか」と、ニッコニコ。
ひとみ「私ね、逃げてきちゃったの、結婚式から
寅「そりゃよかった!」 おいおい、事情知らないだろゞ(^^;)

ひとみ「どうせね、親戚のところ行ったり、友達のところ行ったって連れ戻される
    だけでしょう。色々考えてね、寅さんのところ来ちゃったの、うううう、
    お願い寅さん、ううう、助けてェ!


                   

寅「大丈夫!大丈夫だよ!オレがいるからは誰が来たって指一本だって指させやしねえぞ、
 さくら!はやいとこ二階の一番奥の部屋にかくまってな、誰にも会わせえるんじゃねえぞ!

さくら「さ、こっちいらっしゃい、いいのよ」ととりあえずかくまってやるみんなだったが…。

疲れきって寝てしまっているひとみさん。

さくらがひとみさんから聞いた話によると、まわりがどんどん盛り上がって、
結婚したくないと言い出せないまま当日を迎えてしまったようなのだ。

おいちゃんたちは、無茶な騒動に巻き込まれたくないと家から引取りに来てもらうことに決める。
寅にそのことを伝えるのは博の役目だということに。

                   

さくら「でも…お兄ちゃんの意見もあるだろうし…
おいちゃん「あいつのは意見じゃありません、偏見です座布団二枚(^^;)

おばちゃん「寅ちゃん、どこ行った?
さくら「え…、ショッピングに行くって出かけてったけど…ひとみさん関係なので横文字(^^;)
おいちゃん「ショッピングなんて…あのバカ…またあいつ…
さくら「あら、帰ってきた
寅「ショッピングショッピング」と走って帰ってくる。

ひとみさんのために服から靴からお風呂セットまで何でも買ってきてしまった寅だった。
パンツだけは、自分じゃ買えないからさくらに買ってくれと頼む始末(^^;)
それにしてもさすがにまず着そうにないね、その服上下(^^;)

                   

ひと言けじめをつけて断る役目をおいちゃんから頼まれた博も寅の思い込みと勢いに
圧倒されて結局何も言えないのだった。で、ひとみさんはとらやにしばらく居候することに。

寅と一緒に『ショッピング』について行ってた源ちゃん。御前様は鐘撞きを忘れて遊んでた
源ちゃんを鐘の中に入れて折檻するのだった。

御前様「鐘撞きほったらかしてどこ行ってた!
源ちゃん「あんな、寅さんに嫁さんが来たんや、きれ〜な人や
御前様「なに?御仏に仕える身が嘘などつきおって!
御前様「こんなか入りなさい!」と鐘の中を指差す。
源ちゃん「へえ…ほんまや、嘘やない、ほんまや…」と半泣き(tt)
御前様、思いっきり鐘撞き棒を振る。
源ちゃん「かんにん、かんにんしてェー!!

ゴーン!!

源ちゃん耳押さえながら

源ちゃん「わああああああ!!!!

ゴーンンンンンンン!!!!

源ちゃん「わああああああ!!!!!

そこまでする御前様っていったい…ぞわわわ。仏の道はきびっしい〜(TT)

                   



数日後

とらや仏間

ひとみさんの母親がとらやに来て、彼女を連れて帰ろうと説得するが、
ひとみさんは、これを機会に独りで生きて生きたいと伝えるのだった。



夜 茶の間

ひとみさんは、みんなに迷惑をかけてしまってと反省している。
みんなは落ち込んでいるひとみさんを励まそうとする。

                   

ひとみ「もう、眉書かれたり、口紅塗られてる自分の顔見ながらね、
    私、女って悲しいなって思ったの、もうこれでおしまいって感じなのよ。
    これからすばらしい人生が広がっていくなんてそんな幸せな気分になんかなれないのよォ


さくら「分るわ…、とってもよく分るわ
さくらって博との結婚の時、心の隅にが有ったんだね…。


社長、やって来てすぐに花嫁衣裳の貸衣装の値段のこと言ってしまう。

博「社長、今話してることはね、結婚式は形式でしかない。
  大事なのは結婚する二人の未来ではないかということなんですよ


                   

社長「ほー…ミライねえ…
寅、ぼそぼそっと
寅「おそらくタコには理解できない
ひとみ「フフ…
おいちゃん「いやあ、お話伺うとお嬢さんの気持ちも分るような気がするよォ
ひとみ「おじ様の時代はお見合い?
おいちゃん「いやいやそんな大それたことあんた、ハハハ」と笑いながら否定。

寅「ところが、こちらのおじ様こんなお顔してますけど、れっきとした恋愛

                   

ひとみさん、目が輝いて
ひとみ「恋愛…
寅、社長を指差して

寅「そこいくとこちらのおじ様、こんなお顔してますけど、れっきとしたお見合い。な、フフフ

ひとみ「へ〜…」と笑っている。
さくら「一度お見合いしたっきりで、交際もしなかったんですって…
寅「フフフ
社長「オレたちの時代はそうよ

                   

博「結婚式の日、お嫁さんの顔見たら見合いとは別の人だったんでしょ究極だね(TT)

事情を知っているさくらたち大笑い。

ひとみ「えー!??だよね(^^)

社長「そうなんですよ、オレが会ったのはね、もっと鼻の高い女だったんだよ。
   だから仲人にね、ひょっとしたらあれ別の女じゃないかって聞いたらね、
   見合いの時は妹を出したって、こう言いやがんだよ


みんな「ハハハ

社長「びっくりしたねえ〜!あん時はもう…怒れよ(TT)
ひとみ「ほんとそれ?
おいちゃん「ほんとほんと、フフフ
寅「社長よ、だけどおめえよく逃げ出さなかったじゃねえかよ

社長「そりゃ思ったさ、仲人に借金があったんだからぁだめだこりゃ((((((TT)

                   

さくら「社長さんその頃から借金してたの?フフフ
みんな「ハハハ

裏からおかみさんの声

おかみさん「父ちゃん!早くお風呂入ってよ!グッドタイミング(^^)
社長「はいはい、愛してるよ」と帰っていく。

よかったね社長、とりあえず結果が良好で。

                   

ひとみは二階に上がっていく前に

ひとみ「フフフ、あのねェ寅ちゃん」寅ちゃんって言った(00)
寅「うん」と階段まで飛んでくる。
ひとみ「可笑しいのようちの母ったら
寅「ハハ?
ひとみ「うん。寅さんのことね、私の恋人と間違えてんの、
   フフフ、バカねえ〜、おやすみなさい


                   

寅、ニコニコで
寅「おやすみなさい
寅、勝手に舞い上がる。
寅「フフフ、困っちゃうよなあ、上流階級の人は、妙な誤解をするから、フフフ
一同シラ〜



江戸川土手

ひとみのテーマが流れる。

ひとみ「寅さん、ここで育ったのねえ〜…いい感覚だねえ〜。
寅「ああ、オレがガキのころは、もっといいとこだったィ。今はすっかり変わっちまった
ひとみ「ねえこの川原に座って、好きな人のことなんか想って、
    涙したことなんかやっぱりあった?
うーん、いいねえ〜。
寅「まあ、そんなようなこともあったかな…

ひとみ「ねえ、前から気になってることあるんだけど
寅「なんだい?

ひとみ「どうして結婚しないの?

出た〜〜〜〜((||| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ー ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)

寅「
ひとみ「なんか訳あるの?(^^;)

寅「そうさなあ…ま、オレにもいろいろと触れてもらいたくない過去があるということさ。
  そう言えば分ってもらえるかな…


                   

ひとみ「ん…わかるような気がするわ
寅「そういうこと…
源ちゃん後ろで指差して大笑い。(^^;)

この質問をした人他にもいたなあ…節子さん、歌子さん、京子さん…




C邦男との再会とそれぞれの新たな気持ち


とらや  店

新郎になるはずだった小柳邦男がひとみさんに会いに来たのだ。

寅「誰?
ひとみ「私が結婚しようとした人
寅「はあ……、あんたか感慨深いよね…(^^;)
邦男「「はい小柳です。こんにちは」とお辞儀。
邦男「「お母さんに君の事聞いたもんだから。どうしてるかなあって思って
ひとみ「
邦男「「元気?
寅「はい…」おいおいゞ(^^;)
ひとみ「ありがとう…私は元気

沈黙

                   


ひとみ「ごめんねほんとに
といたたまれなくて二階へ駆けて行く。


邦男「「
みんなどうしていいかわからずおろおろ。
邦男「「それじゃ、失礼します。さよなら」と、お辞儀。

静かにひとみのテーマが流れる。

そんな邦男を追いかけ、失恋を慰めようとする寅だった。

寅「おい!青年!出ました!
邦男「「僕ですか?
寅「元気出せよ元気。話は聞いたよ。辛い気持ちはよく分るよ
邦男「「はい、僕も色々考えることがありました

                   

寅「そうか、それで大きく成長すればいいんだから
邦男「「しかし、失恋するって悲しいことですね
寅「そうだよ。そのことに関してはオレは誰よりも詳しいからね詳しいって… ゞ(^^;)

邦男「「そうですか?
寅「ん、ちょっとコーヒーに見に行くか
邦男「「はい



とらや 夜


その夜、寅はひとみさんに邦男の心を伝えてやるのだった。

寅「しかしあれだよな、そのうちさ、またあの青年に会うようなことがあったら
  もうちょっと優しい言葉かけてやれよ。あんなに惚れてんだから


ひとみさん、意外な表情で

ひとみ「私に?
寅「
ひとみ「フフ…うそよォ〜、私のこと恨んでるはずよ
寅「冗談じゃないよォ、恨むどころか、あの結婚式以来
  毎日あんたのことを考えて暮らしてるらしいぞ、あいつは

ひとみ「……

                   

寅「まあ、いくらあいつが好きだってな、ひとみちゃんのほうが逃げ出したいくらい嫌いなんだから、
  こりゃ仕方がないけどさ。男と女のあいだってもんはそういうもんなんだよ


ひとみ「

寅「いや、ただ一言ね、あんたの気持ちは嬉しいわ。どうもありがとう。そのくらいのこと言ってやんなよ。
  その言葉だけであいつは幸せになれるんだから。恋をする男の気持ちってのは
  そんなもんなんだよひとみちゃん。 …わかるかい


ひとみ「うん…私とっても大事なこと聞いた…
寅「勉強になったでしょ(^^;)
ひとみ「うん
寅「じゃ、おやすみ
ひとみ「おやすみなさい

そのあと心がうわずって階段でこける寅だった。



ある雨の日 題経寺山門前

邦男がひとみさんを待っている。
電話で呼び出したのだ。

                   


喫茶店でひとみは親と離れて自立したいことを伝える。

ひとみ「だから邦男さんとは住んでる世界が違うの。あなたにはお父様が経営する立派な会社が
    あるでしょう。それがあなたにふさわしい未来よ…


邦男「「親父の会社…、こないだ辞めちゃった

ひとみ「……

邦男「「だいたい僕にはインテリアのしごとなんて向いていないしね

ひとみ「……

信じられない顔で邦男を見つめるひとみさん。

                   

ひとみ「私行かなくちゃ…
邦男「「うん
ひとみ「さよなら
邦男「「さよなら




夕方 邦男のアパート

妹の京子ちゃんが来ている。

懐かしいね、戸川京子さん…。第29作「あじさいの恋」でも出演。あの時はスリムになっていた。

                   

京子ちゃんは、うまくいっていない兄の人生を思い、お兄さん可哀想と泣いてしまう。
しかし、邦男はあっけらかんとマイペースである。
お茶を沸かす京子ちゃん。


江戸川土手を邦男のことを考えながら歩くひとみさん。

ひとみのテーマ流れる。

自動車修理工場で働く邦男。
自分の居場所を得た感じで生き生きとしている様子である。

                   

ある日邦男が工場の昼休みにまたとらやにやって来る



とらや 店

寅はウソをついて、二階にいるひとみさんが「会わないって、帰ってくれって」
と言っていると邦男を追い出そうとするが…、

寅「悪いこと言わないよ、おまえ二枚目だしさ、背だって高いんだし、家だって金持ちなんだろ、
  他に女はいくらだって見つかるよ

邦男「「そ、そういう言い方には僕抵抗感じるな」と少し怒る。
寅「テイコウ?あー、おまえさしずめインテリだな
  それじゃ余計女にもてないよあ諦めな
出ました(^^;)

そんな時ひとみさんがとらやに帰ってくる。

ひとみのテーマが流れる。

邦男「「あ!
ひとみ「あら?
邦男、寅を睨む。
寅、シラを切って
寅「あら?ひとみちゃん、二階にいたんじゃないの?不思議だなあああ〜…空耳かな…バレバレ

                   


ひとみ「邦男さんお願い。もう来ないで…」と中に入ってゆく。

邦男「「」ちょっと泣いてしまう。

結局寅は邦男をまたもや慰めるためにまたもや一緒に飲みに行くのだった。

一部始終を聞いていたおばちゃんは「寅が悪いんだよ」とプンプン。



さくらのアパート

さくら「ひょっとしたらね、ひとみさん、あの人が好きになったんじゃないかしら
博「だったらいいじゃないか、案外うまくいくよ、そのうち
さくら「でも可笑しなもんね、結婚しそこなった二人がまた改めて恋愛するなんて
博「可笑しくないよ、つまり新しい生活の中で二人が進歩したということなんだから

                   

さくら「そうね…
博「相も変わらず、ふられてばかりの人もいるけどね

さくら「やっぱり恋してんのかしら、お兄ちゃん

博「ふられた後で気がつくんじゃないか、やっぱり恋をしていたんだと…

博のこのシリーズ屈指の名言の一つ。博の感覚が生きている。

さくら「……



Dもうひとつの幸せを捜し求めるひとみさん


啖呵バイをする寅



ひとみさんの家

母親がくどくどひとみに説教をしている。


ひとみ「ママ…私幸せになりたいの。それがそんなにいけないこと
母親「だから、ママの言うとおりにしていれば、あなたはちゃんと幸せになれたはずなのよ

ひとみ「ママは今、幸せ?

母親「…、なに言い出すの突然。まあ…幸せだわね

ひとみ「それじゃあ、あれだわ、
    あなたが考えている幸せとは違う幸せが欲しいの


母親「……

                   

ひとみさんのこの言葉は胸にしみ心にしみました。
幸せは一つじゃないのである。
人の数だけ幸せがある。


そして母親から邦男が家を出てしまったことを聞き、驚き、悩むひとみさんだった。


夜 邦男のアパート

カップ麺をすする邦男

ドアをノックする音
邦男「「どうぞ
ひとみさんがそこにいた。
驚き、立ち上がる邦男

邦男「「よ、よく分ったねここが…
ひとみ「京子さんに聞いて…
邦男「「あ、あそうか
ひとみ「邦男さん…ごめんね…
邦男「「どうして
ひとみ「私、あなたに酷いことをしたと思ってる
邦男「「フ…そんなことないよ
ひとみ「

                   

邦男「「京子がなんて言ったか知らないけれど、僕は今とっても楽しいんだ。
   毎日いろんなこと考えるし、…もっとも、フフ…ひとみさんのことが一番多いけどね

ひとみ「
邦男「「僕のどこがひとみさんが嫌いだったか。それを直せば好いてくれるようになるのか、
    まあ、そんあことをくよくよ考えるから、やっぱり嫌われてしまうのかな…

ひとみ「

邦男「「もう二度と会ってもらえないかなと思っていたけど、…、ひとつだけ
    後悔してることがあってね、これだけはどうしても言いたくて


ひとみ「どんなこと?

邦男「「つまり…一度も言ったことなかったろ。

   君のこと好きだって



                   


ひとみ「……


                   

ひとみのテーマが流れる。


ひとみさん、立って窓の外を見る。

ひとみ「

邦男「「

ひとみ「ね、キスして…

邦男カップ麺を食べる手が止まる。

驚きひとみを見つめる邦男

立ち上がり、
口を何度もふき、

そしてひとみさんの方を抱いてキスをする。

                   

ひとみ「ネギ食べちゃった、フフ

もう一度ひとみさんを抱き、キスをする邦男。



夜 とらや 店


寅、ようやく仕事から帰ってくる。

さくら「遅かったわね、おかえり
寅「ひとみちゃんは?
さくら「まだなのよ
寅、かばんを開けて、ネックレスを取り出す。
寅「今日はよ、精出して働いたからね、儲かっちゃったい、でこれをね
さくら「私に!?」おいおいゞ(^^;)
寅「バカ!おまえじゃないよ
さくら「ああ、ひとみさんにね

このパターンは第15作「寅次郎相合い傘」で、雨にぬれると、寅が言った時のさくらの
勘違いと一緒。あの時はもちろんリリーがその相手。さくらって…(TT)


寅「どうだい?気に入るかなこれ

さくら「ああ、素敵、喜ぶわよきっと
寅「そうかー、なんせ田園地帯のお嬢さんだろ、安モン買うわけにいかないからよ。オレ張り込んじゃったよ
さくら「そう…、高かったでしょう
寅「高いよー

                   


そんな時、ひとみさんが走って帰ってくる。

ひとみ「ただいま!
寅「どうしたい、遅かったじゃないか、心配してたんだよ

ひとみ「あのね寅さん、フフ

寅「なんだい?

                   


ひとみ「私やっぱり結婚する

寅「…!

ひとみ「いいでしょう?

寅、ちょっと頷き、

寅「いいよ

                   

ひとみ、照れて、二階へ走っていく。

寅「
寅、ひとみさんの走っていったほうをい向き、不可思議な顔で

寅「誰と結婚するんだ?

博「兄さんじゃあ……、ないと思いますけど

寅「…そうだよね(T T)

                   

さくら、小さく頷き、寅を見つめる。

寅「ま…、誰とでもいいと思ってたんだ。…(T T)

ちょっと胸のポケットに仕舞い込んだネックレスを触る寅

博「そうですね…


ひとみさんが、もう一度下りて来て、

ひとみ「言い忘れてたんだけどね、寅さん

寅「なに?

ひとみ「私たちが結婚する時はね、寅さんにお仲人お願いしようって…、
    邦男さんと相談してたの。いいでしょ?


                   

さっき邦男が告白したばかりでもう結婚&お見合いまで話が進んだんだね。
さすがお互い二度目の結婚式(^^;)


寅「い、いいよ

さくら「だめよ、お兄ちゃん奥さんいないし…
ひとみ「あ、そんなの平気よ。だって寅さんが本当に仲人なんですもんね。いいでしょう?

寅「い、いいよ

メインテーマが静かに流れる。

喜び、二階へ上がるひとみさん。

寅は二階の荷物部屋に沈んだ気持ちで上がっていく。

やはりいつものように、すぐに旅に出ようとするが、今回はさくらが止める。

さくら「今ひとみさんに仲人するって約束したばっかりじゃない。だめよ、旅に出たりしちゃ
寅「…まあな…
さくら「ね、結婚式まで家にいて、ね
寅「うーん…

                   

さくら「お兄ちゃんいいわね」と下に下りていく。

寅一人になって
寅「うーん、辛れえとこだな…
博のあの言葉を思い出すね。



E一世一代寅の仲人奮闘記


川千家二階での 結婚祝賀会

結局ひとみさんは、この日まで、とらやの2階にずっと居候していたのだろう。
歴代マドンナの中では結構長く滞在した人だ。



今回は工場の中村君と古沢さんの披露宴もここで行われた。
川千家さん大忙し(^^;)

寅は緊張のあまりトイレに直前にトイレに行ったり、
仲人の言葉を書いた紙を忘れたり大変。

                   
寅の横にはさくらがついている。
司会は博。

博は偉いね。


そして新郎新婦の入場。

                   
                                  


寅、いよいよ仲人の挨拶の時が来たが、いくら探しても、挨拶を書いた虎の巻が見つからない。

で、いつものように、もう居直って、…

                   

寅「いや、ハハハ、驚いたよオレ、いや今までね、袴と羽織でもってさあ、『大』をしたことないんだよなー
一同大笑い。
寅「これがスカートだったら、こうやってこうやってスポット出るだろ
一同またまた大笑い。
寅「羽織はぬれちゃうんだよ、下もね、で、しょうがないからこれ頭のほうへ
  かけてさ、で、ヒモ解いて口にくわえるんだけどね、ウンコしながら
  アクビなんかしたらおっこちゃって、全部ぬれちゃうんだ、ハハハ!

一同「ハハハ!」
さくら「お兄ちゃんやめなさい!

                   

寅「あ〜あ」ニコニコ笑って 寅、扇子をテーブルに打ちつけ

パンパン!

寅「さて!まあ、こんなところで、今回はわたくしの持っておりました虎の巻が、
 ま、ポトンと落ちて、
ウンが着いたというところでめでたしめでたし!

                   

一同「ハハハ!

寅「ま、これを持ちまして、はなはだ簡単ではありますが、
  仲人のご挨拶にかえさせていただきます。へへ


一同笑いながら拍手。


そのころひとみさんの母親が川千家にやって来る。


御前様が詠う、国文学者・本居宣長の詠んだ短歌が聴こえて来る。

御前様「♪敷島の〜大和心を人問わばぁ〜、 朝日に匂う山桜ぁ〜花。
    ♪敷島の〜大和心を人問わばぁ〜、(いよおーお!)朝日にィ〜(はい!)
    匂ィィおおおお〜う〜山桜ぁぁ〜ぁぁバナァァァ!!

う〜ん、御前様って…やっぱり役者ァ〜(^^;)

                   

一同拍手

御前様「一席お粗末でした

母親がやってきたことに気づく新郎新婦。

博「それでは新郎新婦の親族を代表して邦男君の妹さんの京子さんにご挨拶をしていただきます


一同拍手

京子「本当は私の父がご挨拶をしなければいけないんですけど、兄は勘当されているので
   両親とも来ないんです。私も…、行っちゃいけないと父は言いましたが、それは私の自由だと思うんです


                   

寅、深く頷いている。

京子「お兄さんとひとみさんは、一度結婚しておいてまた今度結婚するなんて、ちょっとおかしいみたいだけど、
   私はそう思いません。とっても素敵だなあって思ってます。
   お兄さん、ひとみさん、おめでとう


一同盛大な拍手。

博「仲人よりはるかに立派な挨拶でした座布団一枚(^^)

社長「その通り

寅「そこうるさいよ、黙れ!」とブス

一同「ハハハ!

源ちゃんも大笑い。
玄ちゃんも、色々手伝ったから、出席しているんだね。珍しくネクタイ姿。

                   

隣のひとみさんの母親の顔を見て急に真面目になりおすましをする源ちゃん(^^;)


博「では次に、今日の主役である新郎新婦から挨拶していただきます。
  まずひとみさんからどうぞ


一同拍手



ひとみ「…私は今、邦男さんの幸せについて考えています。
    この前の結婚式の時はもう自分のことしか考えてなかったんです。
    つまり、…あの…、人のことを一生懸命考えるっていうか、
    相手の幸せをほんとうに心から願うっていうか、
    そういう態度が私には一番欠けてたのね


                   

    
そのことを教えてくれたのはここにいる寅さんです。

ひとみのテーマが静かに流れる

    
 いただいたこのネックレスと
    一緒に私寅さんのこと一生忘れない。ありがとう寅さん。
    それから、さくらさんはじめとらやのみなさん
    ほんとうにどうもありがとう。


                   



    
ママ…来てくれてほんとうにどうもありがとう。私、今…しあわせよ


静かに頷き涙する母親。

                   


人はそれぞれ幸せになりたい。
大学生、社会人となっていく満男もそのことを常々考えていた。

しかし、ひとみさんの思う幸せとママの幸せには上記のようにずれがある。
寅が思う幸せとさくらの幸せも本当は、ずれがある。
リリーの幸せと寅の幸せも微妙にずれがある。

それでも人は時としてやはり人を大事に想い、人の幸せを心から願う。人を護りたいと思う。
そこに人の世に少し潤いが生まれ、人の心に血が通う。
ひとみさんは、そのことを寅の優しい気持ちから学ぶ。



博「次に新郎の邦男さんどうぞ


邦男は口下手なので、ギターを持って歌を歌うと言う。

                   


邦男「「♪壊れそうな優しさを僕は抱きしめ

   君のまえではいつも陽気でいたい。

   きらびやかなものに惑わされないで

   どうか僕のとこへやって来ておくれ。


   君は君のために翼を広げて

   信じるものに向かい飛び立つんだ。


   僕にできることは何もないけど、

   とまり木ぐらいなれるだろう…。


   いつまでもいつまでも変わることない

   大切ななにかを見つけてほしい。

   いつまでもいつまでも………大切な何かを…
うううう、うううう

                   

泣いて歌えなくなってしまう邦男だった。

涙が溢れていく京子ちゃん。

                   


ひとみのテーマが流れる。


京子「うううううう…ううううううう…と泣きじゃくる京子ちゃん。

涙を抑えるひとみの母親


邦男さん、ほんとうに人が人を大事に想うということが心に伝わるいい歌だったよ(TT)


寅も泣いてしまい、ハンカチを取り出そうとして、虎の巻を見つける。

寅「さくら、紙あった

さくら「もういいのよ」と泣いている。

                   


ひとみさん、立ち上がって邦男に拍手。

一同も拍手。

寅前に出て

寅「みんなどうも今日はありがとう!ほんとうにみんなありがとう

                   

御前様「よかったー!よかったぞ!よかった!

一同大きな拍手。

泣いてしまう寅。

第1作のさくらと博の結婚式を思い出すね( ̄ー ̄)



F再びの支笏湖湖畔と可笑しなコンビ


夏真っ盛り  とらや

せみの声

風鈴の屋台

スイカを割るおばちゃん。


ひとみの母親が来ている。

母親「ところで、あの子たちちゃんと暮らしているんでございましょうか?
おいちゃん「ええ、共稼ぎでお忙しそうですが、お元気ですよ
母親「じゃあ、時々こちら様には
さくら「ええ、お風呂の帰りにお寄りになって、お団子を食べたりして
おいちゃん「とても仲がよくて、な
さくら「うん

安心する母親。

寅、よかったね。二人は今、幸せだよ。


おばちゃんスイカ持ってきて
おばちゃん「お恥ずかしいようなもんでございますけれど、どうぞお召し上がりおあそばし…ま…あの…
出ましたおばちゃんのあそばせ口調(^^;)

さくら「どうぞ」と微笑みながら差し出す。
母親「どうもおそれいります。あのー…さくら様、今日はお兄様はお出かけでいらっしゃいますか?
どうやら仲人のお礼に来たようだった。

さくら「実は…先月の末から旅に出ておりまして
残念そうな母親
母親「ご旅行先はどちらでございますか?
おいちゃん「ご旅行先はいつも…」(^^;)
さくら「は…暑い時は北の方にでかけるんですけど

おばちゃん、にこやかに微笑みながら、

おばちゃん「贅沢な男でございまして

                   

このおばちゃんの言葉は心に沁みました。味のあるセリフだね。こういう言葉があるから
この映画シリーズは懐が深いんだ。


社長がやって来て母親と挨拶。



寅の暑中見舞いのハガキ

                   


さくらのテーマが流れる。


寅の声「とらや御一同様。
    東京は暑いことだろう。
    涼しい北国の宿でこの便りを書いている。
    ひとみちゃんは元気か。
    なにしろあの頼りねえ二枚目が亭主じゃ、
    ひょっとしてひとみちゃんは不幸せなんじゃねえかなと、
    それを考えると、仲人のオレとしちゃあ、心配で夜も眠れねえ。
    あの娘を、くれぐれもよろしく頼む。

                                 寅次郎  拝





北海道  支笏湖湖畔


寅は、またもや支笏湖に来ている。

そして、例の旅館の若旦那がまたもや軟派に失敗し、横っ面を張り倒されている(TT)

                   

寅「よう、おい
若旦那「あ!ハハハ、また見つかっちゃったですか、ハハハ
寅「あー、そうか、お前の旅館このあたりだな
若旦那「はい
寅「よし、今晩お前んとこにする
若旦那「あのー、今晩団体さんでいっぱいなんですけれども
寅「断る?
若旦那「ほんとです
寅「警察はどこかな?
若旦那「あ、いえ、あのー…、僕の部屋でいいでしょうか?へえ〜、いいところあるんだねこの男(^^)
寅「ハハ、いいよいいよォ、うん
若旦那ほっとしている。
寅「そうか!じゃ、今晩は、お前のとこで色懺悔でも聞くか、ハハハ!
若旦那「いやあ、ハハハ
寅「迷惑かけてんじゃない?合言葉(^^)

                   

若旦那「そんなことないっすよ、ハハハ

メインテーマ大きく高まって

夏の支笏湖がキラキラ輝いて広がっている。


                   





第24作「寅次郎春の夢」ダイジェスト版のアップは帰国時の多忙のため7月初め頃となります。

なお、第48作「寅次郎紅の花」本編完全版も同じく7月初め頃となります。



【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら

【寅次郎な日々】全48作品マドンナ制作年度順






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