渡り鳥たちの見たひと夏の淡い夢
寅とリリーは「寅次郎相合い傘」ではふたりの波長がピッタリ合い、お互いの目を見つめ合うような最高の切ない「恋」をした。
「寅次郎ハイビスカスの花」ではもう一歩踏み込み、共に二人で生き、歩もうとした。
たとえそれが真夏の夢の中の幻想だとしても…。あの南国でのひと夏はふたりとも生涯忘れることはないだろう。
自己の美学の赴くままに奔放に生きる寅やリリーのような渡り鳥にも、ふとしたタイミングで羽根を休め、
「定住の夢」を見るひと時もある。その夢は必ず、ないものねだりの夢。そしてそうすることは渡り鳥である彼らの
気質の中では死を意味する。
沖縄の病院に這うようにたどり着いた寅の声を聞いたリリーは顔が華やぐ、第18作の綾の華やぎを彷彿させる名場面。
寅が来たらいきなり血液がサラサラと流れ出すリリー。寅は「淋しかったんだろ、ひとりぼっちでなあ…、もうオレがついてる
からから大丈夫だ」と励まし、カバンの中から次々と浴衣、川魚の佃煮、トランジスタラジオ,お見舞金、おまけにフンドシまで
出してリリーの『気』を高めていく。どんどん血色が良くなっていくリリー。このあたり二人の掛け合いののテンポは見ていて実に
気持ちがよく見事だった。寅とリリーの相性の良さが鮮やかに見るものを楽しませる。
いつも見舞いに来ては優しくリリーを励ます寅。
「この病気は気持ちの持ち方が大切、生きようと思う心が大切なんだ」
こんな愚かな自分が明らかに必要とされていることが実感できる日々。こうして寅の奮闘が始まる。
寅は毎日リリーの病院に見舞いに行き、冗談を行ったり励ましたり、大活躍。寅が最も生きている時だ。
リリーが退院したあとも、甘く切ない二人の蜜月は続いていったのである。しかし二人はやはり渡り鳥…。
紆余曲折の後、ようやく二人はとらやに戻ってきて、リリーと寅は過ぎ去ったあの夏の夢の日々を回想する。
リリー「私、幸せだった、あの時…」
寅は未だ夢から覚めやらぬ感じでこう呟く。
「リリー…オレと所帯持つか…」
しかし、一足早く夢から覚め、意識が娑婆に戻ったリリーは、
再び大海原に羽ばたく直前にこう呟く。
「私たち夢を見てたのよ、あんまり暑いからさ…」
この物語は、自らの旅人の美学に殉じながらも、ほんのつかの間、まるで子供のママゴトのように、定住を夢見た2羽の
渡り鳥の甘く哀しい物語である。現実の泥を被りたくない寅のわがまま、身勝手、そして心意気。寅の恋愛の行き着くところを、
つまりその限界を描いてしまった作品ともいえよう。
「あーあ…、夢か…」寅がそう呟いた短い言葉に、寅の人生が言い尽くされていた。
彼は夢のように生き、夢のように人に恋をし、そして夢の中で死んでいくのかもしれない。
さくらがラスト近くでそっとつぶやいた言葉、
「夢から覚めたって幸せとは限らないもんね、お兄ちゃんは…。」
これが寅という人なのだ。
そして別れの柴又駅ホーム。寅は扉の外から「幸せになれよ」と言う。 微笑むリリー。
リリーの最高の表情。こうして、今回もまた切なく分かれていくのか…、もう二度と寅はリリーに
逢わないのだろうか…、と、観客は悔しい思いで、寅と一緒にその電車を見送るのである。
寅は言う「さて、オレも旅に出るか…」
ああ、もうこれでどこかの町で啖呵バイをしている寅が映って終わりなんだなあ…、
と誰もがそう思ったに違いない。
しかし、山田監督は、私たちに大きなプレゼントをしてくれた。
ラストの田舎のバス停で、なんとリリーに再会するのである。
リリーは聞く、「兄さんこそなにしてんのさこんなところで」
寅「オレはおめえ…リリーの夢を見てたのよ」
空は晴れ渡り、彼らの旅はまた始まるのであった。
旅の中にこそ、寅とリリーの本領がある。彼らはやはり根っからの渡り鳥なのだ。
@【リリーと再開した博と寅のあやめ騒動』
今回も夢から
なんと、拍子木の音
カン!カン!カン!カン!カンカンカンカンカンカンカンカン! カン!
今回の夢は寅が大江戸を荒らしまわる『鼠小僧寅吉』になる物語。
江戸 御用金蔵に入り込んだ寅は追っ手の目から逃れるためにさくら(おさく)たちの長屋に意を隠すのだった。
そして実はさくらの生き別れになった兄の寅次郎こそがこの鼠小僧寅吉だと分かるのである。
博吉「私どもは葛飾郡は柴又村の出でございます」
寅の表情にふと懐しさが浮かぶ。
三味線べべべンベンベン
寅「柴又村…」
寅「御新造さん」
おさく「はい」
寅「お前さん、身内はいなさるんかね?」
おさく「はい、たったひとり兄がおりましたが、幼い頃、家を出たきり行方知れず」
三味線 ベンベン
寅「それで、その兄さんの名は?」
おさく「はい、寅次郎と申します」
三味線 ペン、ベンベンベンベンベン
ギョッとする寅。
寅「エエ!」
呼子の音が近づいてくる。
ピーーー!ピーー!
寅、はっと顔をあげる。
おさく「鼠小僧さま、もしやあなた様は、私の兄のことを」
寅、ふと我に返り、激しく首をふる。
寅「知らねえッ、オラァそんなことはしらねえッ!」
じっと寅を見つめるおさく。
博吉「鼠小僧さま、追手が!もうそこまで!ささ!」
寅、裏庭の障子をあけ
寅「じゃましたな」
おさく「もしやあなたは!?」
三味線 ペン 、ペンペンペンペンペンペンペンペンペンペン!
寅「おさく、幸せになァ…」
ピーー!ピーー!
前の塀を乗り越え飛び去っていく寅吉。
追っ手たち、博吉の家に入り込んで裏から出て行く。
博吉「おさく、あの人は…」
おさく「そうよ、あんちゃんよ !」
軽快な鼠小僧の音楽が流れて
鼠小僧寅吉、屋根から屋根へとび移って走る
「御用だ!御用だ!」
寅「さだめ悲しい柴又の、たった一人の妹にせえ(さえ)、
我が名をあかさねえこのオレがァ、置き土産代わりに名乗ってやらアー!
拍子木 ピキーン!
耳の穴かっぽじってよおおおく聞きやああがれええ!
メインテーマが流れる。
「私、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、
姓は車名は寅次郎、
人呼んで、鼠小僧寅吉たア!
拍子木 ピキーン!
オレがぁ!ことよオオ!!」
と唾を手にかけて縄を一瞬のうちに小刀で切る。
アータアッ!」
御用の役人たちのけぞり転がり下に落ちる。
民衆達、やんややんやの大拍手
息をのんで寅の口上を聞いていたおさく、思わず叫ぶ。
おさく「お兄ちゃん!」
寅、夢とは言えカッコいい〜!!(>▽<)
三味線「ベンベン!」
寅、豪快に
寅「フ、フフ、フハハハハハ.ハ.ハ!」
歓呼の声をあげる町人たち。
「よ、日本一!」
「鼠小僧 ! 」
「大統領 ! 」それってメリケンでっせ!ヾ(--;)
ある古びた土蔵(郷倉)
村はずれの小さな社の傍の古びた土蔵の中で居眠りしている寅。
表から聞こえてくる呼子の音に目を覚ます。
ピーー!ピーー!
窓から顔を出す寅
子供達「ピー、ピーピー、ピー御用だ!御用だ〜」
おもちゃのピストルで鳴らしている。
「御用だ!御用だ!捕まえろ!御用!御用!」
「ダーン!待て!」
寅、「はああ〜〜〜…」と、あくびをして外に出て行く。
タイトル
男(赤)はつらいよ(黄)寅次郎ハイビスカスの花(白)映倫118131
バックは北軽井沢方面から見た浅間山
口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。
♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪
♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
目方で男が売れるなら こんな苦労も
こんな苦労もかけまいに かけまいに♪
小川が流れる田舎の風景の中をのんびり歩く寅。
ピンクのツツジが咲いている村々
軽井沢 白糸の滝
クレジット リリー 浅丘ルリ子
リリーが帰ってきた…(TT)
白糸の滝売店
信州地酒 『白糸の瀧』
白糸の滝前の茶店、表に置いてある長椅子に腰かけて、カップルがソバを食べている。
疲れた足取りで歩いて来た寅、その長椅子に腰を下ろし、親しげに声をかける。
カップル、気味悪げに片方に寄ってソバを食べ続ける。
店の奥から老婆が声をかけるので、寅、立ち上ったとたん、カップルがバランスを失って
ひっくりかえり体中熱いソバのツユを浴びて悲鳴をあげる。
寅、あやまりながら、手近にあった水道のホースをとり、二人に水をかけてやる。というミニギャグ
めずらしく最後まで柴又が映らないで、茶店の『ところてん』の旗とともに山田監督のクレジット。
柴又 題経寺山門
おばあちゃんとお孫さん山門でお祈りしている。
源ちゃん、掃除サボって居眠り。いいねえ…こういう人生も(^^)
なぜか心に残るほのぼのとしたシーン
さくら自転車で通りかかる。
さくら「源ちゃん!、こんにちは」ニカっと笑ってトロンとした眼で見送る源ちゃん。
とらや 店
帳場の机に向ってソロバンを入れているおいちゃん。
おばちゃん「はい、ご苦労さま」
谷よしのさん、出ました。十八番花売り兼ヨモギ売りの行商おばさん。
おばさん「ありがとうございます。また、あの、お願いいたします。」
このあと谷よしのさんは、もう一度、沖縄から柴又に戻って行き倒れた寅を板戸に乗せて運んでくるご近所さんとして
再登場する。今回もなかなかしぶといのだ。
さくら、机の上のヨモギの香りをかいで、
さくら「はあ〜、いい匂い」
おばちゃん「こんなもの昔は江戸川の土手でいくらでもあったのにさあ」
さくら「学校の帰り、道草くってこれたくさん摘んで帰って、おばちゃんにお小遣いもらったっけね」
おばちゃん「そうそう、あの頃は土手の上にまだ桜並木があってさ、」そうだったのかあ…( ̄ー ̄)
そういえば第38作「知床慕情」のオープニングでも寅は
みちのくの桜を見ながらそんな昔のこと言ってたっけなあ。
さくら「きれいだったわねえ、お花見の時分は」
おばちゃん「う〜ん」
見たかったなあ桜並木の土手を歩く幼いさくら。
ちなみに、第29作「あじさいの恋」では、さくらはおばちゃんと、渡し舟に乗って千葉県まで行って
ヨモギを自力で籠一杯に採って来ていた。
小岩付近・駅前の繁華街
リリーが歩いていくではないか!
チラシを配達しに来た博は驚き、その後を追い、声をかける。
博「あの―」
リリー、ふと振り返る。
博「リリーさんですね」
博、懐しげに語りかける。
博「博です、柴又のとらやの」
リリー、目を大きく見開いて、口をあんぐり開けて驚いている。
リリーの顔が大きくほころび、喜びの色があふれる。
リリー「あんただったの?懐しい、何年振りだろ、さくらさん、元気?」
博「ええ」リリー「おじさん、おばさんは?」
博「元気ですよ」
リリー「そおー、そいで、…ねえ、あの人どうしてる?寅さん」
博「相変らずです」
リリー「そお〜、じゃ、やっぱり一人もんで、年がら年中旅暮しで、そうなんでしょう。アハハハ…」
博「ええ」
呼び込みの男前通って「ごめんよ」
リリ「しようがない男ねえ、いい年してさ、相変らずさくらさんたちに心配かけてんのね。…
ま、もっとも人のことなんか言えないんだけどさ」
博「リリーさん、今でも歌を歌ってるんですか」
リリー、うなずく。
リリー「そう、相変らず下手くそな歌。今夜もすぐそこのキャバレーでね」
リリー、今でも歌ってるのかァ…( ̄_ ̄ )
博「もし、良かったら、終わってからでも来ませんか。みんな大喜びしますよ」
リリー「本当!?うれしい。おばさんの美味しいごちそう食べたいなあ」
博「じゃ迎えに来ましょうか」
リリー「それが駄目なのよ。今夜自動車で大阪に行くの。その仕事が終わったら今度は九州。…
私も旅暮しよ。寅さんと同じ」
と、博の時計を見て、
リリー「あ、時間だ。じゃ、私。会えてよかったわ、こんな事ってあるのね。みなさんによろしくね」
博「今度東京に戻ったらきっと寄って下さい」
リリー「うん、そうする」
急ぎ足に歩きかけ、リリー、振り返る。
リリー「たまには帰ってくる?寅さん」
博「ええ、思い出したように」上手い言い方だねえ(^^)
リリー「リリーが逢いたいって、とっても逢いたいって、そう言ってたって言って」
最後にもう一度大きく手を振り、館に入っていく。
リリーは博に、先ず『さくら』のことを聞いた。
さくらとリリーの結びつきの強さを如実に物語る印象的なセリフだった。
そして、『おいちゃんおばちゃん』を聞く。とらやは彼女にとって心の居場所。大事にしたい人々なのだ。
寅はある意味、同じ穴のムジナなので、しんがり。でも、もちろん最愛の人でもあるので、一番長く聞いている。
ほんとうは一番最初に聞きたいのだが、フーテンの引け目で後回しになっているのかもしれない。
でも、最後は寅のことで頭が一杯で、逢いたいと、はっきり言ってもいる。このへんのリリーの
心の機微と動きをとらえるのが山田監督は実に巧い。浅丘さんのキラキラした眼と美しい声がとても印象的だった。
「忘れな草」から7年。「相合い傘」からも、5年の歳月が流れていた。
とらや 茶の間
とらやのみんな、深々とため息をついてリリーのことをいろいろ心配している。
さくらは無理やりでも誘ったらいいのにと言うが…、
さくら「強引に誘ってみればよかったのに」
博「でも…人に同情されるのは嫌なんじゃないか、あの人は」
おばちゃん「あ〜そうだねえ」
おいちゃん、うなずく。
おいちゃん「そこがウチの寅と違うとこだな」
なるほどねえ〜…。リリーにはプライドがあるしねえ…
リリーの苦労は、好きでしているいわゆる勝手な苦労だからなあ…(−−)
電話のベルが鳴り、リーン リーン
さくら、立上る。
おばちゃん「寅ちゃんだったりして、フフフ」
さくら「はい、とらやです。……もしもし、……お兄ちゃん?」
おばちゃん「あら」
びっくりしている一同。
上州 駅前の安食堂
赤電話に10円を入れ続ける寅
寅はさくらから、博がリリーに久しぶりで出会ったことを知らされる。
寅「 リリー? 誰だリリーって?……リリー!、ああ、
レコード歌手の!……うん、あ、博会ったんか、
へえ〜、え?オレに逢いたがっていたって?ふふん!上手いこと言うなよお前。
どうせあいつはいい男つかまえて、幸せにやってんだろ。
…そんなふうじゃないって?じゃどんな…あ!もしもし、あ、切れちゃったか」
寅、電話をあきらめ、机に戻ってコップ酒の残りを飲み干し、ふとつぶやく。
寅「リリーかァ……」
「誰だリリーって」、って。寅、リリーって言う名前出てんだからすぐ思い出せよな、リリーのことだけは。
さくらの名前出た時に「誰ださくらって」と言わないだろ。縁が深いんだから、頼むよォ〜(−−)
リリーか…
東京 小岩
キャバレー ハリウッド リリーが狭いステージで歌っている
リリー「♪泣けば〜涙のぉー…星空をー
ああーー、あああ〜…流れくぅるくぅ〜〜る〜〜、あの歌は〜〜
誰がァ〜歌うかー、東京セレナーデー〜……」
「忘れな草」や「相合い傘の頃」より、大人の魅力が出て、しっとりと歌っているリリー。
それから、ひと月
江戸川 土手
寅が、久しぶりに江戸川土手に立っている。
とらや 店先
店の表に博が仰々しく紙を貼りつけている。
「従業員慰労のため本日休業いたします 店主敬自」
とらやのみんなで水元公園にあやめ見物に今まさにでかけようとしている。そんな時に限って
寅はノコノコ帰ってきて騒動を起こすのだ。
ドドドド!
おいちゃん「寅帰ってきた!」
さくら「え!?」
博「おい、どうする?」
博「ああ!」
おいちゃん「何?」
博「アレはまずい!」
博、店の表の張り紙をやみくもに外す。
何もソコまで隠さなくても…(^^;)ほんとに気を使わせるねえ〜、寅って。
第12作の『九州旅行騒動』思い出すなあ…(
 ̄ー ̄)
さくら「あー!このお弁当、荷物隠さなくちゃ」
それじゃあ、メロン騒動の二の舞になるぞ(^^;)
あわてて弁当や水筒をそのへんに隠す。
わっ!おいちゃん、さくらの帽子被っちゃった!
ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ
寅、例のごとく一度わざと通り過ぎて、
郵便屋さん「とらやさん、郵便です」
寅、つかつかと近づいてくる。
寅「♪郵便屋さん、 御苦労さん、この家だろ?」
郵便屋さん「ええ、速達なんですけど…」
寅「あっそう、オレがもらっとく、どうもありがとう」
と封筒を受取り、店に入ってくる。
さくら「おかえんなさい」
寅「おう、さくら、なんだい、速達だよ。はは、お、みんなおそろいじゃないか」
みんなで「おかえりなさい」
さくら、おいちゃんがさくらの帽子を被っているのに気づいて『帽子、帽子…』と目で合図。
おいちゃん慌てて帽子を取る。
寅「なんだい、こざっぱりしたカッコして、 どっかへ出かけんの?」
博「いえ、別に」
満男が表から顔を出す。
さく満男「ねえ、早く行こうよ〜」満男正直(^^;)
寅「うん??」
博「どこ行くんだい?」博っていったい…(^^;)
満男「おかえんなさーい」満男〜〜気を使うねえ〜(TT)
寅「どうも様子がおかしいな。何かワケあんのか?」
社長店にやって来て
寅「おおう、社長、元気か?」
社長「元気だよ、元気だけど、まずい時に帰って来たなあ-…」決まったな(−−;)
寅「今、何て言った?」
社長「いや、別に」
寅、おいちゃんの担いだ水筒をグイッと引っ張って、
おいちゃん「あ。。。」
寅「さくら何かい?今じゃ、とらやは こんなもんで客にチャア入れてんのかい」
このギャグ笑いました。それ酒が入った水筒です(^^;)
さくら、顔をあげて、寅にあやめ見物のなりゆきを話してやる。
寅、ふてくされて、
寅「ふう〜ん、ほうか…、これからみんなで水元公園出かけようって矢先に、やっかい者が、
バカ面下げて帰って来たってわけか」
バカ面って… ヾ(^^;)
一同、あわてる。
寅「さくら、お前そういう気の使い方をするんだよ
『あたしたちこれから水元公園に出掛けるのよ、お兄ちゃん留守番してくんない?』
素直にそう頼まれりゃあ、ああいいよ、行っといで、オレは二階の部屋でちょっとひと休みして、
おまえたち帰って来たら、お重の残りで一杯やろう じゃないか、気持ちよくお前たちのことを送り出して
やれるんだよ。そうだろ?満男」
満男に振るか普通(^^;)
満男「ン?、そう…」満男漫画読んでて、聞いてません。適当〜(^^;)
寅「オレたちは他人じゃないんだぞ、オレはな、身内だよ、お前達の!」
と、ダダをこねだし、止まらない。
しらけてしまう一同。
おいちゃん「もう行くのやめよう、アヤメ、な、さ、さくら」
寅「行くなって言ってるんじゃないんだよ、みんなで楽しく行きゃいいじゃねえかァ!!」
おいちゃん「こんな気分でアヤメなんか見たって面白くも おかしくもねえや!あ〜あ〜あ〜!」
博「まあまあ」
おばちゃん「このお弁当、茶の間で食べて、ピクニックに行ったつもりになろう満男、おいで」
満男「ちぇっ」 満男、もう踏んだり蹴ったり…(^^;)
社長「あ〜あ…」
寅「行くなって言ってんじゃねえだろ、行きゃいいじゃねえかよッ!!!」
さくら、たまりかねて、叱るように言う。
さくら「行くなって言ってんのと同じことでしょう。何よ、お兄ちゃんこそ、子供がすねた
みたいなこと言って。私達が気を使ってどうして悪いの。
『お前達気を使ってくれてどうもありがとう、でもオレが留守番してるからお前たち行っといで』
って、なぜ優しく言えないのよ」
博「やめろよさくら」
社長「よくあることだよ。寅さん、上って一杯やろうよ」
寅、ムックリ立ち上ると、かばんを片手に持ち、机の上の速達をポイとさくらに投げる。
手紙が下に落ちる。
寅「フン、今夜やっかいになろうと思ったけど、とてもそういう気分じゃねえや」
旅に出て行こうとする寅。
もう出て行くのか、わがままやなあ〜 ┐(-。ー;)┌
A【リリーの病気と駆けつける寅の心根】
手紙を拾って表書きに眼をとめたさくら、あわてて呼びとめる。
さくら「お兄ちゃん、これ、お兄ちゃん宛よ」
敷居をまたいで立ちどまる寅。
寅「誰がよこしたんだ?」
さくら、裏を返して、博にも兄せる。
さくら「リリーさんからよ」
寅、さすがにハッとして、
寅「リリー…?」
さくらと博、顔を見含わせる。
さくら「何があったんだろう。速達なんかで」
さくらが読んでみると、なんとリリーが遠く沖縄で入院して、今にも死にそうだと書かれていたのだ。
さくら「『私、今病気なの、…』」」
寅 「え?」
さくら 「ええ…『歌うたってる最中に血を吐いて、この病院にかつぎ込まれたの』
ハイビスカスの花のリリーのテーマが静かに流れる。
さくら「『先生は気の持ち方で必ずよくなるってそう言うけど、でも生きてたって
あんまりいい事なんかないしね。別に未練はないの。ただ一つだけ、
もう一ぺん寅さんに会いたかった、寅さんの面白い冗談を聞きたかった、それだけが心残りよ』」
寅、血相変えている。
寅「さくら…リリー…病気!」
さくら「うん」
寅「死ぬ間際にオレに会いたいって言ってんだな」
さくら「そうね」
おいおい、そうね、じゃないよさくら。まだ死なないってば(^^;)
寅「よし!」.
かばんを片手に持ち、脱兎のごとく店から飛び出す寅。あわてて後を追うさくら。
さくら「ちょっと待ってよ!」
リリーのその手紙って「それだけが心残りよ」で終わっているのかな?
もう少し何か書いてあるんじゃないかな。終わり方がちょっと唐突。
帝釈天・参道
急ぎ足に駅のほうに行く寅。その後から、手紙を片手にさくらが追う。
リリーの入院先が沖縄だと分かって、とりあえずさくらに連れられて戻ってくる寅。
寅は沖縄にどう行っていいのか分からないで困ってしまう。
とらや 店
寅、店に戻りながら
寅「おい、博よ、あの〜沖縄行くのはあれか、やっぱり沖縄っていうのは
あの博多まで新幹線で行って、」
みんなあたふた。
寅「よオ、何かいい考えねえかい、早く考えろよ」
おいちゃん「満男、地図持って来い地図。」
みんなでああでもないこうでもないと検討しているが、なかなか早くつく方法を思い浮かばない。
困った困ったと言いながらおろおろ地図を見ている。
おばちゃん「弱ったねえ、そんな遠くの方で病気になっちゃって。
千葉県だったらタクシーで行かれんのに〜」
出たあああ!おばちゃん、それ意味ねえ〜〜(^^;)/
社長「早く行きたいんだろう、要するに」
寅「え?うん、なんかいい方法あるか?」
社長「飛行機で行きゃあいいじゃないか、羽田から。」
博「あ、そうか」
社長「三時間もありゃ行けるんじゃない」
さくら「いやだ、気がつかなかった、乗ったことないから」
さくら〜、第12作で九州に行った時、羽田から大分までみんなで乗ったじゃないか、
しかも帰りも同じように大分から羽田まで乗ってたし…(^^;)忘れんなよな。あの時も大騒ぎだったんだから。
おいちゃん「飛行機なら速いや〜」
安心して笑い出す一同へ、寅、憮然と言い放つ
寅「ダメ、 飛行機はダメ 」
さくら「どうして?」
社長「恐いのかい?」
寅「恐い…恐くない!!!」オーバーアクション(^^;)
寅の大声と手の振りにビックリしてのけぞるさくらたち。
寅「恐くないけども、飛行機はいや!ねっ!あの〜何か他に方法はないか」
博「他にはありませんよ」
さくら「お金だったら私達で何とかしてあげるから」
寅「金の間題じゃないの。いやなものはいや!」
唖然としている一同。
おいちゃん「高い所が恐いんだよ、ガキの時分から」
社長「プハ!」
寅「高いとか低いとかの問題じゃないんだよ、イヤなものはイヤだってつってんの!」
さくら「ねえ、そんなこと言ってる場合じゃないのよ、思い切って乗っていったら」
寅「ヤだよ!」
博「でもね……」
寅「ヤだってつってんだよ
博「しかし」
寅「乗らないっちったもんは乗らないんだから、乗らないっつーの!」
ある意味、あんな鉄の塊が空に浮いて、目的地まで飛ぶわけが無いと、考えてしまう寅の感覚は
生き物として正常ともいえる。私も仕事上毎年何度も乗っているが、やはり怖い。
結局、御前様まで巻き込んで何とか説得し、飛行機に乗ることになったのだが…。
とらや 店
御前様が腰を下ろしている。
御前様「そうですか、無事たちましたか。いや〜天気もいいし、まず、よかった」
おいちゃん「たかが飛行機に乗るくらいのことで、御前様にまで御心配おかけしまして。
困った男でございます」
御前様「何をおっしゃる、ゆーなれば人助けなんですから、こら、ほめてやらなきゃいかん」
いいこと言うなあ御前様は、寅のことちゃんと分かっているんだなあ。
おいちゃん「いやー恐れ入ります」
御前様「時に、あの、リリーさんとかいう人は、何番目の女性かな?」
何番目って…仏に仕える方がそのような過激な…(^^;)
おいちゃん「は、何番目かは忘れましたが…、確か五年か六年前になります」
おばちゃん「キャバレーで歌なんか歌っていた人で、派手な洋服を着て、やせぎすの」
御前様「おうおう、あの眼の大きな、外人みたいな顔をした」
おばちゃん「ええ、その人」
御前様「う〜ん、あれは美人だ!」
御前様もそんなことばっか考えてんだね(^^;)
リリーが誰かもイマイチ分からないでお見舞いを渡した御前様っていったい(^^;)
ところが。。。
プロペラがないからいやだというすさまじい理由で急遽ダダをこねだし、
空港の前でゴネル寅だった。
寅「やだ!やだ!」だだっこ(^^;)
博「いいですか後ろの方に穴があいてるでしょう、あそこから
バアーツとガスを吹き出して、それで飛ぶんです」
寅「馬鹿野郎!それじゃお前が芋食って
ケツから屁が出て、それで空飛ぶか?非常識だい!
そんなこといったってダメだい」凄い理屈(^^;)
博「ナンセンスだなあ…いいですか。」
博、あれガスっていうより、熱風だぞ。正確に言ってくれよな。
そこへ、JALのスチュワーデスさんたちの一行が通り過ぎる。
寅「こんにちは…これからお仕事ですか」いきなり目がハート(^^;)
スッチー「こんにちは」
寅、そのスチュワーデスさんのカバンを持ってやろうとする。
あ〜あ…これだよ! (-。ー;)
おいおい、スチユワーデスさん、寅がカバン持つまでじっと待ってるぞ!NGだけど、まあいいか。
カバンを持ってやりながらそのまま後をついていってしまう寅。
博に向かって来い来いと催促。
ああ〜あ、これだもんなあ、バカバカしい〜。真面目に考えるだけ無駄だね。
まったく、スチュワーデスがいなければ本当に飛行機に乗らなかったなんて、駄々っ子だねえ〜。
困ったもんだ。リリーが待ってるのに。┐(- ー;)┌
沖縄 那覇空港
南国の強い陽差しを浴びて、
ジャンボジェット機DC10が轟音と共に着陸する。
JA8530日本航空JAPAN AIR LINES JAL●DC-10
コミカルな音楽が流れ
二人のスチュワーデスに抱えられるようにして、顔面蒼白な寅がヨタヨタと乗客の最後に下りて来る。
ある意味すごい目立ってるなああ(^^;)
階段から転がり落ちそうになる寅。そのあとも車椅子を使ってバスまで移動。フラフラになりながら
バスに乗っていく寅だった。
国際通りをバスが通っていく。
疲れきり、今にも眠りそうな感じで坐っている寅
寅の乗ったバスが嘉手納基地近くを通る。道路沿いの金網越しに見える広大な基地の飛行場。
このような厳しい超国家的戦略の現実とは無縁な寅。ただひたすらぐったりと眠っている。
ある意味凄い対比である。このあたり山田監督の『眼』を強く感じる。
『F-15』米軍戦闘機が嘉手納基地に着陸していく
寅の乗ったバスの真上を巨大な輸送機が轟音を立てて着陸していく。
『たがみ病院前』にバスが停る。
那覇市首里石嶺町「たがみ病院(現在のオリブ山病院)」教会が遠くに見える。
速達の手紙が着いてからたった1日でともかく寅はやってきたのだ。凄い!!
運転手に声をかけた寅、一目散にたがみ病院の建物に向って走り出す。
とにかく寅はリリーのために東京から遥か遠く離れた南の島にやって来たのである。その事実がどの言葉よりも重く、
そして嬉しい。寅とリリーの新しい物語が今また始まろうとしている。
たがみ病院 リリーの病室
窓から見えるリリー、眼を閉じている。
廊下から、パタパタと雪駄の音が近づいて来る。
寅の声「リリー! リリー!」
リリー「……!!」
その声にハッとするリリー。
信じられない顔で息をのんで、その声を聞いているリリー。
リリー「……」
寅の声「あ、すいません、看護婦さん、あの、松岡リリーはまだ生きてますか?」
看護婦「ええ」
寅「生きてますか、あ〜!よかった。あの、部屋、部屋どこでしょう?」
看護婦「こちらです」
寅「あ、ここですか、あ、どうも」
松岡清子とは聞かないんだね。寅は松岡リリーとしか覚えていないのかもしれない。
それにしても清子と言う名前は一見リリーには合っていないようだが実はリリーの心そのものだ。
ハイビスカスでは「松岡リリー」、第48作で映るレコードのジャケットでは「リリィ松岡」だったけな。
カーテンを開けて寅、顔を出し、入口近くの女性に小声で尋ねる。
寅「松岡リリーどこにいますか?」
向かいのおばあさんとリリーを間違えると言う軽いボケをかました後、寅は
ようやくリリーと対面する。
はっと振り返る寅。
なんともいえない顔で寅を見ているリリー。
その顔を見つめる顔が和らぐ寅。
寅「リリー」
リリー「フフ…」
あわててその傍に駆け寄る。
寅「何だい…」かわいい声(^^)
寅「お前ここにいたのか。あ〜、よかった。ハハ、オレ今、しわくちゃのババアとお前と間違えちゃってよ」
おばあちゃんに聞こえるよ寅 ヾ(-_-;)
リリー「フフフ」
寅「お前、昔と一つもかわらねえ。安心したよ」
リリー、その細い腕を差し出し、
手を握ろうとする。寅も迷うことなくしっかり両手で握る。
リリー「寅さん…」
寅「うん」
リリー「来てくれたのね」
寅「ああ、お前の手紙見てまっすぐ飛んできたんだけどね、何しろお前、遠いからなあ、
時間がかかっちゃって、遅くなったけど、勘弁してくれなあ…」
リリー、感極まって
リリー「私、うれしい」と、泣き出しながら寅にしがみつく。
寅「よしよし、寂しかったんだろう、一人ぼっちでな。もうオレがついてるから大丈夫だ、え。
寅「泣くな、おい、泣くんじゃないよ、みっともないから、な、」プーッ!
寅も感極まりハンカチを取り出し鼻をかんでしまう。
寅「ヘヘ!」
リリー「フフフ」
この光景を唖然としてポカ〜ンと眺めている同室のみんな。
寅「あ!、そうだおみやげがあるんだい。うん」
寅、カバンを開けながら
おばちゃんがね、フフ、リリーにさ、この川魚の佃煮を作って、
食わしてやってくれって。へへへへ」
リリー「わあ」
寅「これ、さくらから、浴衣着ろってよ。
リリー「……」
寅「これはね、あのおいちゃんと博がトランジスターラジオだって」
リリー「……」
うん、え〜っとアハハハ、裏のタコがくれたよ、いくらも入っちゃいねえだろ。え?」
『御見舞 朝日印刷』
リリー「は〜、嬉しいなあ、お見舞いもらったの初めて」
寅「ああ、そうか、うん、お、まだあるぞえ、これ御前様。御前様もくれたよ」
『御見舞 題経寺』
寅「これは何だ、さくらなんでも入れるからなあ、これエプロン…
あ、オレのフンドシだ、アハハハ」
寅ってフンドシさくらに縫わせるんだよね。第7作参照(^^;)
このようにして寅は瞬く間に、みんなに挨拶をし、看護婦たちとも
仲良くなって行くのであった。
そしてみんなは寅のことをリリーの恋人だと噂しはじめるのだった。
そんなことが嬉しくてたまらないリリー。
リリーはいつまでもたくさんのお土産を胸に抱いていた。
寅はともかくたった一日で飛ぶようにやって来た。
必死で駆けつけてくれた寅の気持ちを、みんなの気持ちを、いつまでも感じ続けたい。
そんなリリーの嬉しさをかみしめる姿がそこにあった。
ちなみにこの寅がリリーに次々とかばんの中からお土産(お見舞い)を出していくパターンは
26年の年月を経て2006年の『Dr.コトー診療所第10話』でコトー先生が星野彩佳さんにしていた。
B【リリーに寄り添う寅の献身、そして退院】
たがみ病院 夕焼け空
カラスが鳴き、蜩がカナカナカナと鳴いている。
赤い夕陽の差し込む病室の一隅で、ベッドに寝たリリーに夕食を食べさせてやっている寅。
枕もとにはお土産のトランジスタラジオがセットしてある。
リリーのテーマがゆったりと流れる。
寅「お、あーん、て、あーん、て」
寅「どうだ、うまいか」
リリー「まず〜い」
寅「まずい?まずくたってがまんして食わなきゃダメだよ、
なあ。そうじゃダメなんだほら、もう一サジ。あーんて、そうそうそう。
な、知念先生が言ってたろ、この病気は心の持ち方が大事なんだ、
生きようと思うことが大切なんだって。な、
あ、ほれ。おばちゃんの作った佃煮、これ食ってみろこれうまいぞ」
っと、箸を口に持っていってやる寅。
寅「うまいだろ?」
リリー、箸を持つ寅の手を握って
リリー「おいしい」
寅「な、…おし、茶、飲むか」
リリー「うん」
微笑んで寅を見つめるリリー。
寅「うん」
寅、深々とため息をつき、リリーを優しい目で見つめて。
寅「あーあ…、…お前も、沖縄まで来て、病気してよ、…
どんな苦労したんだ、ん?」
リリー「フフ…」
何も答えないで、微笑みながら寅の袖を指でいじって遊ぶリリー。
リリー、ふと上を向き、眼を閉じる。
寅「……」
寅「あんまり語してると病気にさわるか、なっ」
リリー「寅さん
寅「えー、なんだ?」
リリー「こうやって眼つぶって寝てしまうでしょう、」
寅「うん」
リリー「そして明日の朝眼がさめたら、寅さんがこうやって御飯食べさせてくれたの、
みんな夢だったりして」
寅「バカだねえ、お前。だったら自分の体つねってみろ、痛えから」
リリー「じゃ、つねってみて」
寅「え?ど、どこらあたりよ?」
リリー「どこでもいいから」
寅「う〜ん、どういうところつねってみるかなあ、ここか?」
リリー「痛い!!」
寅「ヘヘへ……痛えだろう、エヘヘヘへ痛えか」
一生やってろよ ┐(ーー;)┌
唖然として、ため息をもらす同室者達。だよな(^^;)
寅「あ〜〜、もそろそろ面会時間も終わりか、じゃ、オレもホテルへ帰るか」
ホテル…(^^;)
リリー「ホテルに泊るお金なんてもってるの?」
寅「病人がそんな心配するこたあねえんだよ。それじゃあ、どなたさんもお休みなさいまし」
同室者たち「おやすみんさい〜」
寅「おやすみなさい」
リリー「おやすみ」
寅「お、夢なんか見ねえでぐっすり寝ろよ」
リリー「うん」
寅「あ、看護婦さん、どうもお世話様です.
また明日朝早くきますから。え、リリーのこと、ひとつよろしくお願いします」
足音を忍ばせて部屋を出て行く寅。
「おまえも、沖縄まできて、病気してよ…、どんな苦労をしたんだ?」
この時のリリーを見つめる寅の目はどこまでも優しかった。
寅を静かに見つめ、何も答えずただ微笑むリリー。
リリーの長い生涯の中でこの日が最も嬉しい日だったことを私は確信している。
「また、明日の朝早く来ますから」と看護婦に伝える寅の声を
聞くリリー、こんな嬉しく心強い言葉が他にあるだろうか
病院から近い、那覇市牧志の古い安宿『ホテル入船』に滞在している寅。
那覇の『新天地市場』アーケードの前でサンダル、草履のバイをしている寅。
売り声「よってらっしゃいシャツは3枚で千円…3枚で千円…」とても活気がある。
『ハイサイおじさん』が流れている。
『十九の春』が流れている。
寅「さて、沖縄県民のみなさま、毎日お仕事本当に、御苦労さまでございます。
ね、わたくしは、東京は葛飾柴又からはるばる海を越えて、ジェット機に乗って
やって参リました。御当地初のお目見えでございます。ねっ!
御挨拶がわり御名刺がわり、今日はもうけは一切考えない、
本来ならばこれ全部タダでやっちゃう!ね!しかし、私には病気の妻がいます、
私の恋する恋女房、これがいい女だ。」
おばちゃんたち「アハハハ…」
啖呵バイをしながら寅の手紙がナレーションで流れていく。
寅からの手紙
「さくら、飛行機の一件じゃ世話になったな。
無事沖縄について、元気で暮しているから安心しろ」
さくらのテーマが流れる。
「さて、リリーのことだけどな、オレ本当に来てやってよかったよ…」
手紙のナレーションと同時に
たがみ病院・リリーの病室
心配そうに見ている寅。
ギャグ1
医師「ハイ口開けて あーん」知念先生、リリーの口の中を見る。
一緒に口をあけて見ている寅。(^^;)
ギャグ2
医師「ハイ、胸開けてえ」
つい自分の胸を開ける寅。(^^;)
看護婦「フフ、寅さん」
知念先生唖然(^^;)
あわてて眼をそらす寅。
その寅をおかしそうに見ているリリー。
寅の手紙続き
「看護婦の話じゃ、オレが来るまでは医者の言うことなんか何も聞かないわがままな
病人だったらしいけど、オレが来てからは、すっかり素直になって、この調子じゃもう
大丈夫と医者も太鼓判を押してくれたよ」
ある雨の日
リリーの病室
寅の手紙
寅「雨の日も風の日も、オレは病院に通い続けてあいつをなぐさめているよ。
近頃はよく笑うようになってな、顔色もよくなってきたし、だんだん昔のリリーに戻ってきたよ」
リリーのベッドの傍に、八百万のおかみさん(^^;)はじめ同室の女達が集って楽しそうに寅の話を聞いている。
リリーも寅にもたれかかって大きな口を開けて笑っている。
ある晴れた日 リリーの病室
晴れあがった青空、窓の外にまっ赤なハイビスカスの花が咲き乱れている。
しきりにセミが鳴いている。
ベッドに座り、化粧していたリリー、ふと振りかえり、訪ねてきた寅に笑いかける。
みやげの果物と花を持って立っている寅、化粧したリリーの顔にとまどっている。
寅「何だ。おまえ、おめかしなんかして、どうかしたのか?」
リリー「二枚目が訪ねて来るんだもの」
寅「誰が、い、いつ来るの?」
リリー「もう来てるよ」
同室の人たち「フフフ…」
寅「え、ど、どこに?」うすうす分かって照れている(^^)
リリー「私の目の前♪」
と、自分と寅を指差して、微笑むリリー。
寅「バカだなあ、お前。そういうことこと言っちゃいけないよお前、
堅気の衆が本気にするじゃないか、バカだなあほらあ、ほらあ、へへへへ」
と、花を渡してさらに照れる寅。
寅の手紙続き
「そういうわけでオレは当分こちらに滞在するが元気でいるから心配するな。
博、おいちゃんおばちゃん達にくれぐれもよろしく言ってくれ。
沖縄のホテルにて、兄より…」
たがみ病院 表
セミがしきりに鳴いている。
寅「リリー!」
裏手の丘のグラウンド
見はらしのいい丘の上に、浴衣を着たリリーが日傘を差し、立って少年野球の練習を見ている。
近くの教会から聞えてくる子供たち讃美歌の合唱。
寅の声「おい!リリー!」
リリー、片手を上げながら大声で叫ぶ。
リリー「寅さん!」
寅「いいのか、お前、こんな表に出たりして、医者に断ったのかよ?」
リリー「あのね」
寅「うん」
リリー「先生がね」
寅「うん」
リリー「あと三日たったら退院してもいいって」
寅「ほうか〜、よかったなあ」
リリー「退院できる〜」
寅「そうか!」
リリー「フフフ」
C【渡り鳥の休息、甘い蜜月の日々】
とらや 台所
さくら、封筒の封を切っている。
便箋をひろげて眼を走らせたさくら、大声をあげる。
さくら「あら、リリーさん退院したんだって」
おばちゃん「本当!」
おいちゃん「んー、そりゃあ、よかったなあ」
口々に喜び合う一同。
さくら「ちょっと読んでみるわね。」
おいちゃん「うん」
リリーの手紙を読むさくら
「『とらやのみなさん、この度は本当に御心配おかけしました。
おかげで私退院したんです』」
おいちゃん「あ〜…」と喜んでいる。
さくら「『一時はもうやけくそになって死ぬ覚悟までしたんですけど、
今はあの頃のことが夢のようです』」
おばちゃん「どんなにうれしいだろうねえ」
さくら「ねえ〜」
さくら、読みつづける。
さくら「『寅さんが本部(もとぶ)の町の海岸に部屋を惜りてくれて、今そこで暮しています』」
社長「療養してるんだな、海岸で」
さくら「空気はきれいで、水は澄んでて、とってもいい所ですって」
博「きれいらしいからなあ、沖縄の海は」
さくら「ええと、毎日新鮮なお魚を食べてぐんぐん元気になってるって。
『みなさん、本当にありがとうございました。それじゃ、お元気で、さようなら。
沖縄にて、リリー…』よかったわねえ〜」
意訳しないで、ちゃんとリリーの文章でそのまま読んでやれよさくら、
急いでるわけでもないのに…。
おいちゃん「寅が出掛けて行ったかいがあったというわけだ」
おばちゃん「大変だったねえ〜、あん時は、飛行機に乗るの乗らないのって」
第4作でハワイ行く時は飛行機なんかへっちゃらであんなに張り切ってたのにねえ(^^;)
手紙を一枚めくって、さくら、声をあげる。
さくら「あら、まだ何か書いてある」
おばちゃん「うん?」
さくら「『追伸。寅さんからくれぐれもよろしくとのことです。
今夜は泡盛を飲みすぎて、
私のそばでひっくりかえって寝ています…』」
顔を見合わせる一同。
社長、恐る恐る口を出す。
社長「そばで寝ているということは、ひょっとすると、同棲しているっていう…」
その場の空気が凍りつく(^^;)
まあ普通そう考えるよなあ、二人ともいい大人なんだから。
一同の不安をかき消すように、博が言う。
博「ま、そういう心配は、後回しにしましょう」
青少年じゃあるまいし、四十をとうに過ぎた男と、三十半ばの女がどう住もうと、
『心配』するようなことではないと思うが…
本部の海
初夏の陽を受けて、キラキラ輝く珊瑚礁の浜。
澄みきったエメラルド色の海。
日傘を差したリリーが見守る中、高志がモリを持って海に飛び込んでいく。
水しぶきがリリーにかかって、びっくりする。
リリー「キャー!!」
リリー「あー!魚いた!」
夕方 国頭家の前の道
日暮が鳴いている
夕闇迫る国頭家の塀にもたれ、リリーが寅の帰りを待っている。
角を曲がって疲れた寅が現れる。
リリー、大きく手を振る。
リリー「寅さん、おかえり、フフ…」
手を上げて応える寅
国頭家 庭
寅とリリー仲良く敷地に入ってくる。
寅「お母さん、ただいま」
おばさん「おかえりー」
寅は『お母さん』と言い、リリーは『おばさん』と言う。面白い。
寅「あー、暑いよ暑いよ〜」
リリー「御苦労さん。今夜はね、おいしい刺身があるよ」
寅「あ、そお!ビール冷えてるか」オリオンビール!
ふたりのなんという笑顔!
リリー「もちろんさ」
寅「うん」
リリー-「汗かいただろ、はい、お風呂行っといで」
寅「あいよ」
リリーからタオルと石けんを受取り、鼻唄まじりに風呂場に向う寅。
寅「どうだいおまえも入るか おい?」
リリー「もう入っちゃったよ」と笑っている(^^;)
寅「うん」
この躍動感!このやり取り、動きのキレ!これぞ寅とリリーの青春だ。
こんな幸せな二人は見たことがない。この時の寅とリリーは紛れもなく共に
同じ一つの人生を歩んでいたのだ。
国頭家 庭
ハイビスカスの花が母屋からもれる明りを浴びている。
三線の音色と唄声
母屋の縁先で沖縄三味線の『三線』をつまびきながら、悲しい唄「下千鳥(さぎちじゅやー)」を
ゆったりと唄っているお母さん。
リリーの住む離れ
カースビーの刺身を食べてオリオンビールを飲み、
枝豆を食べて、食事を終えた寅、寝転んでウトウトしている。
リリー、つと立って押入れから枕を取出し、寅の頭にあててやる。
寅、眼を覚まし、アクビをしながら体を起す。
寅「あ-、すっかり寝ちゃっなあ。もうだいぶ遅いんだろ。そろそろ寝るか」
リリー「今、お茶入れるよ。このお土産食べよっ!」
ポットのお湯を土瓶にさすリリー。
寅「うん…あ、お母さん、また歌唄ってらあ」
リリー「死んだ旦那さんがね、大好きだったんだってさ」
寅「ふーん。大酒飲みだったんだってなあ、お母さんずいぶん苦労したんだろう、」
富子を見つけて、
寅「ご飯すんだか?」
富子「うん、すんだ」
寅「うん」
リリー、湯飲みにお茶を注ぎながら
リリー「さっき御飯作ってたら、富子ちゃんが来てね」
寅「可愛いなあ、あの娘なあ」
リリー「私に聞きたいことがあるって言うの」
寅「分った、レコード歌手になりてたいっつったんだ、お前やめろって言ったろ、この道の苦労はお前が
一番知ってるからな」
リリー「違うよ、そんなことじゃないんだよ」
寅「へえ〜」
リリー「私と寅さんは、夫婦かって聞くの」
寅「…!」
寅の目を見ているリリー
寅「…それでお前、何ていったのぉ…?」
リリー「まだ式はあげてないよって、そう答えた」
リリー、ビールの王冠で遊んでいる。
寅、狼狽しながら、
寅「その物の言い方は誤解を招くんじゃないかなあァ〜。もぉ…。遅いから寝ようか」
逃げるように立ち上ろうとする寅。
リリー「寅さん…」
寅「え?何?」
リリー「私、一度聞きたかったんだけど」
寅「何を?」
リリー「あんた、今までに誰かと所帯持ったことある?」
リリーの真剣な言い方に、思わずヘドモドする寅
寅「そういう過去はふれない方がいいんじゃねえか、
お互いにいろいろあるからさ」
リリー「私はあるよ、所帯持ったこと」
寅「オレ知ってるよ、うん」
リリー「寅さん、どうなのさ」
寅「いいじゃないの、今ぁ」
リリー「白状したっていいだろう」ないないなんにも(^^;)
寅「だから、つまりさ、こっちがいいなあって思っても、
向うが良くないなあ〜と思う事があるしさ。
要するに、いつも振られっぱなしっていうことだよ。
フフ…、そんなことまでオレに言わせんのか、バカ。さ、もう寝よ」
リリー、おかしげに寅を見つめている。
リリー「じゃ、ねえ…」
寅「え」オドオド(^^)
リリー「こうやって女と差し向いで御飯食べるの初めてなの?」
寅「そうそう、初めて初めて。
あ、あの寝る前に薬飲んで寝ろよ、なっ」
と、アタフタと出て行く。
なにもかもが寅には初めてのことばかり(^^)
もうこの手の話題、するだけでも寅にとってはドキドキもの。ダメだねえ〜。
寅、帰ってきた高志をからかいながら母屋に帰っていく。
しばらく暗い庭に眼をやっていたリリー、
ため息をついて卓縦台の上を片づけはじめる。
……
リリーは、寅と人生を共に生きたいことを、それとなく寅に分からせようとするが、
寅は今のままで十分満足そうだ。リリーの言葉をするりするりとかわしてしまう。
リリーは、もっと寅に寄り添いたいのに…。
リリーは今、寅に恋をしているのだ。
翌朝 舟着場
リリー「おばさん、寅さんどこへ行ったか知らない?」
おばさん「さっき会っただなあ…。あんまり暑いから、涼しい所探していくって出かけて行きよった」
リリー「そう…、なに考えてんだろうね、男なんて…」
どうしてもお尻がムズムズして、気ままが出てくるんだね、寅って。
村近くの一本道
セミが煩いくらいに鳴いている。
ギラギラと照りつける強烈な陽差しの下、畑の中の真っ白な道を、アイスキャンディを持った寅が
あえぎあえぎ歩いている。
寅「ひえ〜〜〜、ああ〜、あちい、あちい…」
電柱の細〜い影に手を広げ合わせて無理やり入ろうとする寅。
今も語り継がれる伝説の『電柱ギャグ』
寅「うへぇぇ…」もうヘロヘロ
うへぇぇ〜
寅「うわーっ、あち」
アイスキャンデーを額に当てる。
寅、ギラつく太陽を恨めしく見て
寅「あーっ、あち、うわあああっ」
寅、涼しい所探してる割には、日陰も無い長い一本道
を歩くなんて自殺行為だよ(^^;)
使い古した乗用車が走って来て寅の傍に停り、中から高志が顔を出す。
寅は高志が海洋博公園で働くことを聞き、冷房の効いている水族館に行くことに。
国営沖縄海洋博覧会記念公園
水族館の中 イルカスタジオ
エミール・ワルトトイフェルの「スケーターワルツ」が流れ始める。
ガラス越しの青い水槽の中でイルカの演技が続く。
寅、ようやく眠りから覚めて、水槽の中のイルカとダイバーの女性に焦点が合う。
ずっと、食い入るように見つめる寅(^^;)
微笑みながらその姿を見るダイバーのかおりちゃん。
水槽のガラス越しに、口を開けた寅の顔。
イルカのプールの近く
遥か彼方、青い海の向うに見える伊江島。
見晴しのいい水槽のヘリに腰を下ろしている寅とかおり。
寅「そうかい、はー、じゃあ一応泳いでて楽そうに見えるけど大変なんだ」
かおり「そうなんです」
寅「へえ、へっへへ、」
寅「へえ、こんなんがそんなに可愛いかねえ」
かおり「病気した時なんかねえ、淋しがって鳴くのよー」
寅「ほお…、そんな時どうすんだい?」
かおり「水の中で抱いてやります」っと抱く真似。
寅「抱くの?」とこれまた抱く真似。
寅「はーあ、うまくやってんなあクロちゃん、へっへへへ」
まだ若いかおりをからかい、仲良くなり、すっかり上機嫌の寅だった。
本部の海岸の夕焼け
国頭家 庭
寅が鼻唄まじりに帰って来る。
寅「♪私があなたに惚れたのはちょうど十九の春でした-…」
風呂場から出て、髪をといでいる富子に声をかける寅。
寅「富子ちゃん、リリー寝たかな?」
富子「さあ…」
離れのリリーの部屋
蚊帳の中でうちわを使っていたリリー、
寅「リリー、寝たか?」
リリー「起きてるよ。どこ行ってたの?」
寅「ん、あの…水族館へ行ってきたい。なんだか魚ばっかり泳いでいるだけで、
面自くもありゃしねえや」 ほおおお〜( ̄、 ̄)
起き上がろうとするリリー
あ、いいよ、いいよ寝てな寝てな、お前まだ病人だからよ。
明日病院へ行く日だろう?」
リリー「ん」
寅「ん、忘れんなよ、な」
母屋の方に去る寅を見送るリリー。
寅「おう、青年高志、ウイスキー飲もうや。な、泡盛あきちゃったんだよ」
遠ざかる寅の声を聞きながら、何かを考えているリリー。
美しい…
蛙の鳴き声が聞えている。
寅は、リリーのために沖縄に飛んできた。
退院するまでは足しげく毎日通って話をし、励ました。しかし、リリーが元気になってくると、
徐々に寅のフーテンの気質が表に出始める。リリーは、寅との関係を深めたくて
しょうがない。しかし、寅は煮え切らないで、リリーが元気になってきたことをいいことに、
夜まで外でフラフラ遊んでいる。寅はこういう男なのである。
リリーは寅と近くにいるはずなのに、気持ち的は徐々に孤独を感じ始めているのかもしれない。
D【リリーの告白と突然の別れ】
朝 本部の海岸
船陰に座り込んで
寅「あー、あ、あーち、あーち、お母さんよお!」
サバニを砂浜に上げながら、
お母さん「はいい!」このニュアンスいいねえ(^^)
寅「せがれどこ行ったい?」
海洋博のかおりちゃんところへ連れて行ってもらおうとしているんだな、どーせ (ーー;)
お母さん「仕事休んでよおー、リリーさん病院連れて行くと言って出かけたぁ!」
寅「へえ〜、そらまた親切だねえ、いやに。
あーあー、こう朝っぱらから暑くちゃたまんねえなこりゃ、暑い暑い」
↑こういうことは変に勘が鋭い(^^;)
フラフラと戻って行く。
高志の車の中、助手席に乗っているリリー
フロント.ガラス越しに米軍の広大な敷地が見える。リリーは、キャンプハンセンの前の通り
金武(きん)の町『新開地』で歌を歌ってまた稼ぎ始めようとしているようだ。
ベトナム戦争時は賑やかであっただろう、米軍兵士相手の歓楽街が、今はすっかりさびれている。
リリー「どこも不景気だね。
もうちょっと先へ行ってくれる。もう一軒心あたりあるから」
高志「はい」
ドライブ・イン 浜田
米軍のジェット機の騒音
黙々とライスカレーを食る高志に、リリーが自分の皿を差し出す
リリー「これも食べて。…悪かったわねえ、私のために一日引っぱり回して。
沖縄は暮しやすいって言われて来たんだけど、どこもおんなじねえ…」
疲れた表情でタバコをふかしながら窓の外の海を見ているリリー。
米軍のジェット機の騒音
リリー「今日はどうしてんのかしら、あの男…」
高志「寅さんですか?」
リリー「そう。どっか商売に行ったのかしらね...」
高志、口ごもりながら声をかける。
高志「あのう…、リリーさんは、いずれ、寅さんと結婚するんですか」
リリー「え?」
顔を伏せる高志
リリー「どうして?」
高志「あのう…、こんなこと言って…怒らんで下さい。
あの人、なんか、リリーさんにはふさわしくないような気がするんです。
リリーさんには、もっと、頼りがいのある人が…。
リリー「……」
高志「すいません、余計なこと言って…すいません!」
じっと高志を見つめていたリリーの眼が、優しくなごむ
リリー「いいのよ。私、とってもうれしいわよ。そんなふうに心配してくれて」
高志「そ、そうですか…」
海洋博記念公園・イルカスタジオ
かおりをまじえて四、五入の若者達が、水槽の中をタワシやホースで掃除している。
かおり「寅さん」
寅「よお!ハハ」
寅もまあ、マメだねえ〜 ┐('〜`;)┌
従業員「かおりさん、だあれえ?」
かおり「寅さん」
従業員「また来たの?」と呆れている。
かおり「うん」
寅はこのへんの淡い関係の時はえらいしつこいよ〜。
もっと仲良くなって、親密になるとアタフタと例の如く逃げ出しちゃうけどね(^^)
寅「何だい、今日は休みだって」
かおり「はい」
寅「せっかく来たのによ〜」
寅、水槽の底に横たわっているイルカを見つけてびっくりする。
寅「あ!おい、おねえちゃん、大丈夫かい、そんな所に魚まるごとほっぽりだして。
死んじゃうぞ。ちょっと水入れてやれ、水」
かおりの持ってるホースを引き伸ばそうとする寅。
それ水道と繋がってまへんで(^^;)
かおり「平気よ。イルカは哺乳類だもの」ヾ(- -;)寅には通用しません
寅「平気たって、あーあ、ロパクパクさせて苦しそうにしてるよおい、干物になっちゃうぞおい!」
┐('〜`;)┌これだよまったく
「ハハハ!」
おかしそうに笑う若者達。
寅「大丈夫か、おい」
従業員「大丈夫!」
オクマ・ビーチ
沖縄北部オクマリゾート内のビーチ
白い珊瑚礁の海岸の木陰で、イルカ・スタジオの若者達が陽気にエイサーの時の代表的な唄
『唐船ドーイ』をうたっている。
前の踊り手たちから、バトンタッチされた寅とかおりが踊り出す。
寅見よう見まねで雰囲気を作っている。
寅「難しいなあ〜…こうか? おう、ヨイショ!」
若者達の掛け声と指笛。
夕暮れ時 国頭家 庭
外の調理場に立って夕食の仕度をしているリリー。
もう、表は暗い。
寅の笑い声に、リリー、ふと顔をあげる。
海岸に通じる道を
寅とかおりが笑いあいながら歩いてくる。
:
寅「ここに今住んでんだよ」
かおり「あ、そうですか」
寅「んー…オレ今ここに住んでんだよ。じや、かおりちやんは
毎朝かおりちゃんこの道通ってたわけだ」
かおり「はい、そうです」
かおりと別れて手を振り、満足気に庭に入ってくる寅。
リリーの離れの中
卓袱台の上におかずを並べているリリー
寅が顔を出す。
寅「はあー、飯か。はあー、今日は暑かったなあ。…タオルと石けんくれやー」
リリー「だあれ、今の女の子?」
寅、ギョッとして、焦りながら
寅「え? ああ、今の、そのへんでちょっと会ってさ、うん、
冷たい物か何かおごってやったら喜こんでた。まだおぼこ娘だい、へへへ」
リリー、笑いながら、
リリー「バカだねえ、何もそんな言いわけすることないじゃないか」
とは言いながら複雑な顔
寅「今日病院行ったんだろ、医者何だって?」
リリー「大分よくなったって」
寅「あ、そうか、そりゃよかった」
リリー、石鹸とタオル渡す。
寅「はい」と受け取る。
リリー「だからね、私、明日っから働くことにした」
寅「働くって何すんだ?」
リリー「決ってるじゃない、歌うたうのよ、他になんにも出釆ることないもん」
とタオルと石けんを出す。
寅「バカだね、お前。そんなことしたら元も子もなくなっちゃうぞぉ」
と座敷に横たわって足を投げ出す寅
寅「歌をうたうったって酔っぱらったアメリカの兵隊とこで歌うんだろう、よせよせよ。
それよりお前はね、この庭でさ、花でも眺めてブラブラしてればいいんだよ、涼しくなるまで、な」
それ第13作で歌子ちゃんにも言ってたよな(^^;)
リリー「もうお金ないの、どうやって食べてくの?」
寅「お前貯金持ってたじゃないか」
リリー「もう使っちゃったのよ」
リリー、立ち上って棚から郵便貯金通帳を出して見せる
リリー「ほら。この残りはね、どうしようもなくなって内地に帰る時の飛行機代」
リリー、住所不定だから『国民健康保険』に入っていないんじゃないかな…。
もしそうだとしたら入院費や薬代であっという間にお金なんかなくなっていっただろうことは想像できる。
寅「オレがなんとかしてやるよ」
リリー「嫌だね」
寅「どうして」
リリー「男に食わしてもらうなんて、私、まっびら」
寅「フフフ、水くさいこと言うなよ、お前とオレとの仲じゃねえか」
リリー「でも…夫婦じゃないだろ」
寅「えつ?」
ギョッとしてリリーを見つめる寅。
リリー、目を伏せがちに…
リリー「あんたと私が夫婦だったら別よ。
…でも違うでしょう」
寅、ヘドモドしながら
寅「馬鹿だなあ、お前、お互いに、所帯なんか持つ柄かよ〜。
真面目な面して変なこと言うなよお前〜…」
リリー、悲しげに寅を見つめる。
リリー「……」
リリー「あんた女の気持なんか 分かんないのね…」
寅「え、何がよぉ〜」
リリーの目が涙で潤んでいる。
寅、言葉を続けようとするが、
リリーの眼に浮かぶ涙に気づき黙り込む。
リリー「……」
寅 「……」
長い沈黙の時が流れていく。
母屋の方から来た高志が顔を出す。
高志「リリーさん、病院の薬、忘れてました」
救われたように声をかける寅
寅「おう、青年、今日は御苦労さん、
リリー「ありがとう」
寅「あちこち行ったんだって」
高志「ええ、寅さん、今日も水族館に行ったんですか」
寅「おー、せっかく行ったのに休みでよお、フフ、
娘達にね、海水浴引っぱり回されてさ、大散財だよ、フフ」
リリー不機嫌になって
リリー「結構だねえ。私達が仕事探してあちこち歩いている間に、あんたは
娘っ子といちゃついてたのか」
寅「何言ってんだよお前は〜…」
リリー「男なんて身勝手なもんだって言ってんだよ」
寅「フン、嫉いてんのか」
リリー「…!!」
リリー「嫉くほどの男か!そのへんの鏡でてめえの面とっくり見てみなってんだ!」
寅「言ったなこの野郎、てめえ!」
あっけにとられて二人のやりとりを眺めていた高志、大声で叫ぶ。
高志「寅さん、やめろ!」
その声にギョッとする寅。
高志「リリーさんは病気が治ったばかりじゃないか。なんでもっといたわってあげんのだ」
寅「てめえリリーに惚れてんな!」
リリー「何てこと言うんだよ!寅さん!」
高志、寅の肩を掴み
高志「わん話ちけえ!リリーさんはなあ、
いいかあ、リリーさんは、あんたを愛してるんだぞ!」
リリー「愛してなんかいないよ。こんな男!」
高志「嘘です!」
寅「てめえ達出来てやがるな!このヤロウ!」
やにわに高志を押し倒す!
高志「やらあ、がんばやあ!」
高志も負けじと、寅を押し倒す。
リリー「やめて、やめて!」
もみ合いになっている二人
リリー「やめてよ、寅さん!やめて!!
リリー、とっさに卓撚台を引っくり返す。
その音で我にかえり、母屋に駆け去る高志。
荒い息で、シリアスな寅。
こんな顔は珍しい。
リリー「ねえ、私のために来てくれたんじゃなかったの、
…こんな遠くまで」
寅「……」
寅、無言で外に出て行く。
お母さんと富子が庭に出て心配そうに見ている。
あふれ出そうになる涙をこらえているリリー。
畳に落ちた茶碗やその中味を拾う。
お母さんと富子がそっと離れに顔を出す。
リリー、気づいて、
リリー「おばさん、ごめんね、大きな声出して」
お母さん「あらんあらん、しむさぁ、(いえいえそんなことなんでもないよ、)
あんたも、苦労するね…かわいさやぁ…」
遠くの方でかすかに、三線を弾きながら
島唄を唄う声が聴こえてくる。
リリーは、どうしても自分の気持ちを寅に打ち明けたかったのだ。
寅とともに人生を歩む夢をみていることを分かって欲しかった。
後先を考えれば寅とは長続きしないことは分かるはずだが、恋をする彼女には
そのことは見えていない。
翌朝
国頭家 庭
古い琉球瓦に朝陽が差している。
鶏の鳴き声
眠そうに服をこすりながら、母屋から出て来た寅、伸びをした後、離れに寄って来る。
後ろの方で富子が寅の姿を見てなにか言いたげ…
寅「おい、リリー、まだ寝てんのか」
母屋の玄関から、富子がその様子を伺っている。
寅「夕べは悪いことしちゃったな、病み上がりのお前に大きな声出させちゃったりしてよ。
いや、オレの言いてえのはね、せっかくここまで療養したんだから、もう少し辛抱して…、」
ハッとする寅、左右を見渡し、
寅「おい、リリー!」
中はリリーもいない。荷物もない。
卓袱台の上に置手紙の便箋。
ギョッとして急いで手にとり、読む寅。
寅「寅さんいろいろありがとうわたし内地へ帰りますさようなら」と早口で読む。
寅、庭に出て、
寅「あ!富ちゃん、リリーどうした!?」
散った赤いハイビスカスの花びら…
富子「お兄ちゃんが朝早く飛行場まで送って行った」
寅「ちきしょう!」
やにわに母屋に上がり、かばんを持ち、表に向って駆け出す寅。
寅「リリー!、ちょっと待て!」
富子、あわてて後を追う。
海岸 船着場
走る寅
小さなフェリーに飛び乗る寅。
後から駆けて来た富子、海岸で叫ぶ。
富子「おじさん、どこへ行くのー!?」
寅「東京だ!東京東京ー!」
富子「その船東京へは行かないわよー!!」
富子息を切らしながら呆然と寅を見ている。
寅「おい!ちょっと船長!オレのことな、とっとと、東京へ
連れてってくれー!よっ!船長東京へな!一直線にひとつつれてってくれよ!」
寅「え!?だったらさ、この島、島伝いに、飛び飛びに東京へ連れてってくれダメかよう!
おい!頼むからさあ!なんとかしてくれよ!」
本部の町でリリーのそばにいる寅、今も近くにいて、話もするが、自分を親身に想って一生懸命尽くして
くれたあの日々は戻ってはこないのだ。
自分との『想い』の違いに絶望し、沖縄を離れるリリー。寅が近くにいるゆえに感じるすれ違いの孤独に
これ以上耐えられなかったのであろう。
一人取り残された寅が、今度は強烈な孤独に襲われる。まるで初恋に夢中になった青年のようにリリーの後を追う寅、
いくら追いかけても、もうあの日々は帰らないし、あのリリーもここにはいないのだ。失ったものの大きさを体で感じながら、
灼熱の太陽の下で狂わんばかりに叫び、空回りする寅だった。
E【行き倒れた寅とリリーとの喜びの再会】
題経寺・境内
御前様にさくらが報告している。
御前様にしてはちょっと憮然として聞いている。
そばで箒を手に耳を傾けている源公。
さくら「はじめの頃はいろいろ心配してたんですけど、でも、よく考えてみれば、リリーさんのような、
頭が良くて、しかも苦労した人が一緒になってくれるなら、兄はいちばあーん幸せじゃないか…、
そんなふうに、近頃は叔父叔母とも話し合ってるんですよ」
御前様「なるほど、それも一つの考え方ですかな〜…」
あまり納得していない顔の御前様。
さくら「御心配かけて申しわけございません」
御前様「いやいや」と手を合わせる。
さくら「それじゃ…」
頭を下げて立ち去るさくら。
御前様「しかし、同棲はいかん!」
御前様「いかん!」
源ちゃん「へい…」 と訳もわからず頭を下げ、身代わり反省(^^;)
帝釈天・参道
おばちゃんが道に立って駅の方向を眺めている。
参道をみんなが駅に向かって走っていく。
おばちゃん「みんなバラバラ駆けて行くんだよ。ちょっと、どうしたんだい?」
近所の店員が走りながら答える。
店員「行き倒れだってさー」
とらや 店
おばちゃんとさくら戻ってくる。
おいちゃん「どうなってるんだ、あいつはー?」
さくら「ねえ、手紙ぐらいよこせばいいのに」
おいちゃん「幸せにやってるなら幸せにやってるってな」
おばちゃん「ハブにかまれて死んじゃったんだよ、きっと」
テレビ版の最終回を知ってる人にとってはたまらないギャグ(^^)
と言い捨てて台所へ。
近所の店員が寅のカバンを提げて立っている。
さくら「ん?」
おいちゃん「あのカバン…-」
近所のおかみ、帽子と上衣を持ってくる。
おかみ「大変だね…」
ギョッとして立上るさくら。
社長「き、た、大変だい、寅さんが行き倒れになってね帰って来たよ!」
シリアスな音楽がドーンと流れる。
戸板に乗せられて寅が運ばれてくる。
社長「あっちだあっちだ!」
先頭向かって右に後のあけみの仲人さん。その後ろに谷よしのさん。
谷さん、今作品、オープニングのヨモギ売りに続いて2役目!
さくら「お兄ちゃん!」
谷よしのさん「かわいそうに〜!」
近所のおかみ「お医者さん呼ばなくっちゃ!」
店員「息してるか!?息?」
店員「誰か肛門見てみろ!肛門を!」それ以外の方法何ぼでもあるで(^^;)
店員「脈見ろ脈!」
しばらくたって…
医者がおいちゃんに説明している。
おいちゃんが、柴又界隈のみんなに説明。
おいちゃん「あのー、並びに栄養失調だということでして、しばらく安静にして滋養のあるものを
食べればすぐに回復するだろうとなんです、どうもいろいろご心配かけてありがとうございました」
近所の人たち、がっかりし、拍子抜けした感じで、
かみさん「たいしたことなかったんだ」とか口々に言って帰っていく。
重大な病気の方がワクワクしてしまうご近所さんたちっていったい…(^^;)
汗を拭きながら店党の様子を兄ている社長
社長「どうだい様子は?」
さくらと博、仏間から出てきて
博「ジュースをコップ一杯飲んだら少し落ち着いたようです」
博「しばらく、じっとしといたほうがいいなさくら」
さくら「途切れ途切れに話すからよく分らないんだけど、沖縄から島伝いに鹿児島に来てね、
社長「え!?」
さくら「それから汽車を乗り継いで、ようやく東京に着いたらしいのよ」
博「金がなくて、三日三晩飲まず食わずだったらしいですよ」
社長「三日三晩!へーえ、それで柴又の町を見たとたん
安心して、バタリと、こういうわけか…へええ〜…」
そこへ、風呂敷包みを抱えたおばちゃんが汗を拭き拭き帰って来る。
おばちゃん「何か滋養になるもの食べさせた方がいいって言うからさ、特製のうな重作って
もらってきたんだよ。可哀相にねえ、三日間飲まず食わずでどんなにかお腹空いたろうねえ
と、蓋を開けて確かめるおばちゃん。みんな思わず特性うな重を覗く(^^;)
襖を開けて仏間に入ろうとするのを引きとめる博。
博「おばさん!」
おばちゃん「ん?」
博「ウナギはまずいですよ」
おばちゃん「どうして・・?」
さくら「空っぽのお腹にそんなもの食べたら腹痛起しちゃうわよ」
おばちゃん「あら、そうか」
とうな重を卓袱台に置く
そうこうしているうちに寅がうな重を見つける。
おいちゃん「…!!」
おいちゃん手で指差す
一同振り返って
「はあ!!!」
寅、いつのまにか、布団に入ったまま、身を乗り出して、割り箸を紙袋から取り出さずに
中身をぴょんぴょん、口に入れている。
効果音 びぽびぽびぽびぽ…
さくらたちやめさせようとする。
さくら「お兄ちゃん!何してんのお兄ちゃん」
おばちゃん「ちょいと!およし」
寅、さくらの手を振り払って
さくら「キャー!!」とひっくり返る。
博「あの…」と、うな重を取り上げようとする博の手を口で噛む寅(^^;)
博「イタタタ!!…」
さくら「今もうちょっとやわらかいもんあげるから」
さくら「お兄ちゃん!」
博「今すぐはまずいですよ…イタタタ…」
さくら「お兄ちゃん、死んじゃうわよ」それはないよさくら ヾ(^^;)
倍賞さん、笑っていますね。そりゃそーだ(^^)
倍賞さん笑ってます(^^)
夕暮れ時 題経寺境内
源ちゃんが撞く鐘の音が夕募の柴又の町に鳴り響く。
近所のおかみさん「まこと!ごはんだよ!帰っといで」
子供たち言うこと聞かないで遊んでいる。
近所のおかみさん「ほら!ご飯食べないと、寅さんみたいに行き倒れになっちゃうよ!」
さっそく。町のホットな話題を、子供の躾に応用する茶目っ気のあるおかみさん(^^)/
とらや 店
うな重、てんぷら、お寿司、と食いに食って、支払いはおばちゃんがしている(TT)
茶の間
寅「おいちゃんよぉ、ほんとうにすまなかったなあ、散財かけちゃって、三日三晩飲まず食わず
だからねェ。もう腹減っちゃって、腹減っちゃって」
人の金だとよく食べるのは、第18作「寅次郎純情詩集」の別所温泉警察署で実証済み(^^;)
おいちゃん「ああ、分ったよ。その話は分ったよ」
さくら、寅をさえぎる。
さくら「ねえ、肝心なこと教えて」
寅「え?肝心って?」
さくらや博は、寅とリリーにいったい何の問題があったのか、聞き出そうとするが…
さくら「それ、いつのこと?」
寅「確か十日ぐらい前かな」
10日かかってたどり着いたんだね柴又に(^^;)
さくら「それまでは、リリーさんと一緒に暮してたの?」
寅「一緒だよ〜!」と、寅寝転がる。
一同頭の中に『同棲』の2文字が渦巻いて…シーン
寅、ハッとして、起きて一同を見回す。
寅「なんだい、みんな勘違いするなよ、おい。一緒ったって、リリーはこっちの離れで一人
寝てたし。オレは母屋の伜の部屋で寝てたんだ。本当だぞ、これは」
おいちゃん「ま、それはそれでいいとしてさ…」決め付けました(^^;)
みなさん、寅はもう四十もとうに過ぎたいい大人なんだから
それくらいでびびちゃダメだよ。年がら年中旅暮らしで、なにがおこったって
おかしくない環境にもともといるわけだから、今更ねえ… ┐(-。ー;)┌
さらに、問い詰める博。
寅「それから…あ、そうだ、ああ、あいつがね、
『あたし明日っから仕事をするわよ』て、こう言ったんだね。
だからオレはさ、」
さくら「うん」
寅「『そんなことをしたら元も子もなくなるから、生活費はオレが
みるからブラブラ遊んでろ』っとこう言ったんだよ」
社長「イキなこと言うねえ〜」
博、おいちゃん、社長を睨む。
寅「えー、そらおまえ、オレだって男の端くれよ〜!」
さくら「そしたら、リリーさんが何て言ったの」
寅「確かに、こういうこと言ったな、『男の世話になるのはまっぴら』」
博、感心して
博「リリーさんらしい言い方です」
寅「ん……あ、その後ね、」
さくら「ん」
寅「『ただし、あなたと夫婦だったら別よ』
あん時あいつ、色っぽい眼つきしたなあ…、…なぜかしら…」
博とさくら顔を見合わせて驚いている。
さくら「どうしたの、そんなこと言われて」
寅「え…そりゃオレ照れくせえからよ、
『お互い世帯なんか持つ柄かい、ヘヘへ』って笑っちゃったよ。そうだよ…。
そしたら、リリーの奴…」
さくら「リリーさんが、どうしかたの」
寅「悲しそうな声…してな、
『あんたに、女の気持なんて分んないわね』
そんなこと言って涙こぼしてたなあ……」
一同 静まり返る。
さくら、静かに言う。
さくら「リリーさんの愛の告白ね…」
寅、小さく「うん…」と頷く。
はっと寅我に帰り
寅「おい!」
照れくさそうに笑う。
寅「バカなこと言うなよお前、真面目な顔してえ!へっ、満男が聞いてるぞ、おい、エヘヘ」
博、真剣な顔で大声を出す。
博「兄さん、笑いごとじゃないんだ。リリーさんがその時どんな気持でいたか、
分からないんですか」
おばちゃん「そうだよ、女にそこまで言わせてさぁ〜!」おお!(^^)
社長「おばちゃん、それどういうこと?」タコ鈍い(^^;)
博「社長は黙ってて下さい!!」
おいちゃん座り直す。
おいちゃん「いいか、寅、どこの世界にお前にプロポーズするような女がいるんだ、え、
そこんとこをよーく考えろ」
おばちゃん「そうだよ」
さくら「しかも、相手はリリーさんよ。あの人だったら苦労はしてるし、
お兄ちゃんみたいなわがままな男でもちゃんと面倒をみることが出来る人よ。
お兄ちゃんが留守の間、私達いつもそのことを話し合ってたのよぉ」
千載一遇、一同たたみ掛けるように、ここぞと寅を説得(^^;)
寅「それじゃぁ、お前達、オレにどうしろって言うんだよ」
博「草の根を分けてでもリリーさんを探し出して、
『リリー、お前を愛してる、一緒に暮そう』そう言うんですよ」
さくら「そうね」と小さく頷く。
こういう時の博の瞬発力は相変わらず機敏だ。博の一途な思い切った発言が寅の心をその気にさせていく。
まあ、プロポーズの表現はもろ博風で気恥かしかったが(^^;)
社長「なるほど」
寅「しかし、リリーどこにいるか分らないしなあ…」
博「きっと会えます、そのうちに」
さくら「リリーさんだってお兄ちゃんのこと心配しているはずだもの」
寅「…そうだろうか」
結局、寅はリリーんぽ気持ちを受け入れる『覚悟』ができておいないのだろう。
みんなに言われてもなかなか実感がわかないようだ。
リリーのテーマが静かに流れる。
タコ社長と寅のくだらない喧嘩を二階から窓の外をボンヤリ見ながら、
兄とリリーの今後のことを想い、 そしてカーテンを閉めるさくらだった。
第15作「寅次郎相合い傘」の時もさくらは、兄とリリーの結婚を強く望んでいた。
今回はリリーからのアプローチがあったこともあり、なんとしても…という気持ちになっているはず。
彼女はただひたすら兄に幸せになって欲しいのだろう。その強い想いは盲目的とさえ思うし、怖いくらいである。
会っている時間は少ないがつながりの深い兄妹なのだ。
江戸川土手
さわやかな風が吹きつける土手の上を、ハイビスカスの鉢植え包みを手にしたリリーが歩いて来る。
子供と一緒に虫とり網をふりまわしていた源ちゃん、リリーに気付き、ポカンと見送る。
源ちゃんに手を振るリリー
帝釈天 参道
昼前に起きて来ておばちゃんに食事をねだる寅。
すっかり元気いっぱいの様子。
店から出て来て大アクビをしている。
寅「ふあーあー、」
備後屋「暑いね〜」
寅「おまえでも暑いかー?」おまえでもって…(^^;)
寅、題経寺方面参道を見て驚く。
メインテーマ大きく高鳴って!
頭真っ白で寅を見つめるリリー
寅「リリー!」.
リリー大声で、
リリー「帰ってたの寅さん!」
駆け出すリリー。
寅「ひどいじゃないか、おまえ、オレ一人のことを置いてけぼりにしてよー!」
駆け出す寅!
寅に飛び込みしがみつくリリー。
リリー「ごめんね、寅さん」
寅「ハッ、ハーア、ハーア」
リリー「でも、よかった、帰ってて。 まだ沖縄にいたらどうしようと思ってたの」
寅「ハハハハハハ」
リリー「よかったあー」
と寅の胸に顔を沈めるリリー。
F【夢の中を生きる寅、運命の告白】
朝目印刷 工場の中
工員達が忙しそうに働いている。
さくら、博を手招き。
博「何だ?」
さくら「大変、リリーさんが来たの」
博「へえ!?。兄さんどうしてる?」
博手伝ってやれよ寅の正念場だぞ(−−)
さくら「それがねえ、この間の晩のことなんか忘れちゃって、
バカな話ばっかりしてるのよ。ちょっと顔出してくれる」
博「よし」
とらや 茶の聞
楽しげにしゃべっている寅とリリー。
リリー「フフフ」
寅「ハハハ」
博がやって来る。
寅「おう、博、覚えてるか、リリー」
リリー、座り直して挨拶する。
リリー「こないだはどうも。いろいろみなさんに御迷惑かけてすいませんでした」
博「ああ、元気そうですね」
リリー「一時は... もう駄目だと思ってたんですけどね、おかげさまで働けるようになりました」
リリー寅の手を取って
リリー「寅さんは命の恩人よ…」
寅「へへ、よせよぉ、照れちゃうよそんなこと言うと。へへ、
おう博、腰落ち着けろよ工場の方はどうでもいいから、え」
博、茶の間に上る。
さくら「ね、これいただいたのよ、ハイビスカス」
博「ほー、きれいだなあ」
寅「沖縄に行きゃ、そんな花どこにだって咲いてんだぞ」
せっかくリリーが持ってきたんだからサア…(^^;)
リリー「それも一年中だって」
さくら「へーえ」
博「海がきれいなんでしょう」
リリー「そりゃきれい…。
あ、高志君と言ってね、私達の家にいた息子なんだけどね」
寅「あ、おまえに似てるよ、
ちょっと融通がきかなくて、ね、ハハハ」
リリー「フフフ、その子がね、海にもぐって、魚いっくらでも突いてきてくれるの。それを刺身にして食べるの」
博「へー」
さくら「リリーさん、料理が上手なんですってねぇ」
リリー「嘘よぉ、ただ寅さんが喜んで食べてくれるから、 一生懸命作っただけの話。
寅「へへへ」
リリー「一人で暮らしていると、料理なんか作ることないでしょう。近所の食堂でライスカレーか何か食べたりして」
寅「リリーの作った沖縄料理はうまかったよ」
リリー「フフ、ゴーヤチャンプール」
寅「うん…」
さくら「何、それ?」
リリー「ニガウリの炒めたの。本当はおいしいのよ」
寅「それからよ、ほら、ほら、あの、豚の耳の」
リリー「あ、ミミーガの刺身」
寅「んー、あれで泡盛飲むとうまかったなあ、」
寅「あーあ、
暑い一日が終って、夜になると、
ス―――ッッ…と涼しい風が吹いてなあ…。
遠くで波の音がザワザワザワザワ…」
リリー「ほら…、庭に一杯咲いたハイビスカスの花に、
月の光が差して、いい匂いがして…」
寅「ん…。昼間の疲れで、ウトウトしてると…、
お母さんの唄う、沖縄の哀しい唄が聞えて来てなあ」
リリー、懐かしい『白浜節』を静かに口ずさむ。
まるで自分の気持ちを託すかのように。
リリー「♪我んや白浜ぬ 枯松がやゆら 」
リリー「……あたしは白浜の枯れた松の木なのか、
春になっても花は咲かない…。好きな人と
どうして一緒になれないのだろうって唄なの」
さくら「素敵な唄」
リリー「♪春風や吹ちん 花や咲かん
二人やままならん 枯木心」
おいちゃん、電話口で座り、しみじみと聴いている。
うっとりと聴いている一同。
リリー、あの日々を思い浮かべ、遠い目をし、
リリー「私、幸せだった、あの時…」
ひじまくらをしながら、夢を見るようなうっとりとした表情の寅。
寅「リリー、オレと所帯持つか…」
リリーの動きが止まる。
寅を見つめるリリー。
寅を見つめる博。
仰天し、目を見開き、リリーを凝視するさくら。
リリーは、寅から目を離さない。
寅は夢心地の目。
リリーの強い視線に気づき、急に我に帰る寅。
リリーを見つめるさくら。
寅を見ている博。
寅を見ているリリー。
寅、ムクッと起き上がって、緊張し、箸を持ちながら…、
寅「オレ、今、何か言ったかな…?」
さくらを見る博。
リリーはまだ寅を見つめている。
料理を摘む寅の手が震えている。
リリー「あ、ハハハハハ、」
リリー「やあねえ寅さん変な冗談言って、みんな真に受けるわよぉ」
リリー「ねえ、さくらさん」
さくら「..ええ…」
寅も無理して笑いながら、
寅「フハハハ、そう、そうだよそうだよ、この家は堅気の家だからなあ。
リリー「そうよ」
寅「うん、こりゃまずかったよ、アハハハッ、ハーッ」
さくら、どうしていいかわからないで目の力が弱くなっていく。
博、悲痛な顔で寅を見続けるが何もいえない。
リリー「私達…夢見てたのよ、きっと。
ほら、あんまり暑いからさ」
と寅に微笑むリリー。
寅「そぉーだよ、夢だ、夢だ、うん」
博「そうですね」
寅「うん」
庭に行く寅を複雑な顔で見ている博。
リリーの目は実は笑っていない。
僅かに、表情が沈むリリー。
目を伏せ、遂に哀しみの色が濃く出てしまうリリー。
さくらはそんなリリーを見続けている。
この局面でさえもまださくらは諦めていないのだ。
と庭に出て行く。
とらや 庭
寅、フラフラと出て来て柱に背中をもたれてたたずむ。
寅「はあー…。あーあ、夢か……」
遠くを見つめ、深いため息をつく寅である。
遂に、ここらへんが限界か…(TT)
沖縄で恋に破れた後も寅は今回はがんばった。ギリギリで柴又での敗者復活まで狙った。
しかし…、
ふたりとも未だ若く、生来の渡り鳥としての業は捨て切れていない。ここにいたっても
まだタイミングが熟していないのだろう…。
ふたりのこのやり取りの先をこのあと私たちはなんと15年もの長い間待つことになる。
それは少なくとも私にとっては気の遠くなるような苦しく辛い歳月だった。
私は今回の寅に言ってやりたい。
「とにかく!よくぞリリーに告白した!」と。
あの告白があるかないかで、二人の人生はこの先長い目で見ると違ってくる。
リリーはあの言葉を絶対一生忘れないのだから。
しかし、やっぱり哀しい…。
G【リリーとの別れ…そして最高の大団円。リリーの夢を見てたのよ】
柴又駅 ホーム
日傘をさしたさくらとリリーが座っている。少し離れて腰に手を当て、たたずむ寅。
遠くで聞える電車の警笛。
さくら「せめて晩御飯くらい食べてくれればよかったのに。おばちゃんがっかりしてたわよ」
リリー「また今度来る時、ごちそうしてもらうわ」
背中でその会語を聞いていた寅、ひょいと振りかえる。
寅「上野から上越線に乗って、どこへ行くんだい?」
リリー「水上温泉。その後は…清水トンネルを通って六日町。
稼がなくちゃしょうがないでしょう、貯金もなくなっちゃったしさ。」
うんうんと、うなずいて、むこうを向く寅。
さくら「ねええ、リリーさん」
リリー「なあに」
さくら「さっき、お兄ちゃんが変な冗談言ったでしょう、
あれ…、少しは本気なのよ」
リリー「わかってた…」
さくら「……」
リリー「でも…、ああしか答えようがなくて」
さくら、小さく頷きながらリリーを見つめる。
寂しげに笑うリリーの横顔を、そっと見るさくら。
そして…、観念したように「はぁー」と微笑みながら息を吐くさくらだった。
寅の耳にふたりの会話は聞こえただろうか…。
電車が近づいてくる。
寅「来たぞぉー」
リリー、さくらに
リリー「いろいろありがとう」
と立上り、寅の傍に行く。
寅を見つめて、
リリー「それじゃ」
寅「うん」
寅を見つめるリリー。
リリーの視線に耐えれなくて、電車の方を見る寅。
ゆっくりとメインテーマがクラリネットで流れる。
リリー「ね、寅さん」
寅「え?」
リリー「もし旅先で病気になったりつらい目にあったりしたら、
またこないだみたいに来てくれる?」
寅「ああ、どこでも行くよ。沖縄でも北海道でも、
飛行機に乗って飛んでくよ、ヘヘへ」
リリー「うれしい、きっとよ」
寅「ああ」
そのやり取りを微笑みながら見ているさくら。
電車が到着し、リリー乗リ込む。
寅の視線に照れて、今度はリリーが電車の来る方を見る。
リリー「さようなら、さくらさん」
さくら「元気でね」
リリー「うん」
さくら「また来てね」
リリー「うん」
見事なリズム。見事なやり取り。
手を振るリリー。
ドアが閉まる。
手を振る寅とさくら。
寅、ドアの閉まるその刹那、
リリーに近寄り、
寅「幸せになれよ」
目で頷きながら美しく微笑むリリー。
リリーの最高の表情。
さくらの方に向かって手を振るリリー。
警笛が鳴り、電車が動き出す。
あっという間に過ぎ去っていく電車。
厳しい表情で見送る寅。
さくらがポツリとつぶやく。
一さくら「いやねえ、別れって」
寅「うん。…さて、オレも旅に出るか」
もう一つの別れもまた近づいていることに気づき、一層心が切なくなるさくらだった。
思わずドアに駆け寄る寅「幸せになれよ」
ドアの向こう、最高の表情で微笑むリリー。
こんな美しいラブシーンは後にも先にも
私はどの映画でも見たことがない。
そしてあんな美しい表情のリリーは他にあるだろうか。
夏空 入道雲
とらや 店
出ました!おばちゃんの人力カキ氷シャカシャカシャカシャカ…
とらや 仏間
けさ袈裟をつけた御前様が座っている。仏壇の周囲には賑やかなお盆の飾り。
御前様「そうですか。沖縄で夢を見たと言ってましたか。なるほど」
おいちゃん「ま、早い話がふられたんでございますけどね」
そうじゃないだろおいちゃん。
博「振られて夢から覚めたかな」
おいちゃん「駄目駄目、あいつは夢の見っぱなしだよ」
さくら「夢から覚めたからって幸せとは限んないもんね、お兄ちゃんは」
さくらしか言えない言葉だねえ( ̄  ̄)
御前様「なるほど。『生きてる間は夢だ』というのは、確かセクスピアアの言葉でしたな一」
おいちゃん「恐れ入ります」(^^;)
夢から覚めたのは事実だが、今回は、誰もふっていないし、誰もふられていない。
恋はある意味成就しているのだから。
あのふたりの恋はそんじょそこらのヤワな恋じゃない。
社長、手をのばして茶の間のテーブルの絵葉書を手にとり、眺める。
窓の近くにリリーの持ってきたハイビスカスの鉢植えと金魚鉢。
後ろで源ちゃんがメロン味のカキ氷を食べている。
沖縄本部の国頭高志から諏訪さくら宛の、美しい海の写真の絵葉書である
第12作『私の寅さん』のりつ子のテーマがゆったりと流れる。
高志の手紙
「拝啓。この度は御ていねいな贈物をいただき、ありがとうございました。寅さんの御滞在中は
大したおもてなしは出来なかったにもかかわらず、こんなにしていただいて大変恐縮です」
沖縄の海岸
まっ白い珊瑚礁の浜。果しなく広がるエメラルドの海。
小さな舟をあやつりながら漁をしている高志。水中に獲物を見つけてザブンと飛び込む。
高志の手紙続き
「寅さんとリリーさんがいなくなられて、とても寂しい毎日です。いつも母や妹と
お二人の噂をしております。どうぞよろしくお伝え下さい。高志」
群馬県 荷付場
(群馬県吾妻郡六合村荷付場)
『草軽交通(くさかるこうつう)バス』&国鉄バス
上荷付場停留所
草軽交通(くさかるこうつう)
坂の途中の小さな待合所。
降るような蝉しぐれ。
寅が暑さにうだっている。
眼を閉じて手にしたウチワで扇いでいる寅。
バスの警笛を聞いてフラフラと.上り、バスに対して片手を上げる。
ミニバス、寅を無視して通り過る。
寅「バスじゃねえのか。うああー、暑い暑い」
フラフラとベンチに座り込む。
ミニバスは少し行き過ぎた所で急停車し、中からサングラスをかけ女が下りる。
蝉しぐれ
日傘をひろげて急ぎ足に待合所にやって来る。
眼を閉じていた寅、ウチワをふと落としてしまう。
ある気配に気づき、前を見る。
サングラスをかけた女…
…!! リリーが立っている。
サングラスを上げ、笑うリリー。
まじまじとその顔を見ていた寅、はっと、輝いた表情をとり戻す。ちょっと格好つけて、
寅「どこかでお目にかかった
お顔ですが、姐さん、どこのどなたです?」
リリー、ニツコリ笑って答える。
リリー「以前お兄さんにお世話になったことのある女ですよ」
寅「はて…? こんないい女をお世話した憶えは…ございませんが」
リリー「ございませんか、この薄情者!」
リリー「ハハハ!」
寅「ハハハ!」
明るくメインテーマが流れ始める。
寅「何してんだ?、お前、こんなとこで」
リリー「商売だよ」
寅「え」
リリー「お兄さんこそ何してんのさ、こんなとこで!」
寅「オレはおめえ、リリーの夢を見てたのよ」
リリー「フッーキャ!」
リリー照れながら寅を肩でつついて大笑い
キャ!
リリー「ね、これから草津へ行くんだけどさ、一緒に行かない?」
寅「あ、行こ行こ!オレどっか行くとこねえかなって思ってたんだ!行こ行こ行こ!」
リリー「おいでおいで!」
あ、リリーのサングラス鼻までずれ落ちた(^^)。
寅「フホハハハ!!」
リリー、寅を引っぱるようにして、ミニバスに連れて行く。
寅も一緒に笑いながら駆けて行く。
リリー「ちょいと、この人も乗せてあげてー」
寅「これはこれはバンドのみなさん、いつもリリーがお世語になっております!どーも!
挨拶をする楽団の若者たち。
草津ナウ.リゾートホテルのミニバス
声をかけながら乗り込む寅。
ミニバス、エンジンをふかして走り出す。
深い緑に覆われた山々。
寅とリリーを乗せたバスがぐんぐん遠ざかって行く。
お〜い、草津は逆の方角だぞォー(^^;)
ラストでもう一度最愛のリリーに再会するという、奇跡の演出をしてくださった山田監督。
間違いなくこのシリーズ最高のハッピーエンド。
リリー4部作の中で最後の最後リリーと一緒に終わるのはこの作品だけである。
なぜかこの二人の間には「赤い糸」が見える。ちょっとやそっとでは絶対切れない運命の糸だ。
そして、その鍵を握っているのはやはり『さくら』なのかもしれない。
終
「寅次郎ハイビスカスの花」本編完全版はこちらから
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