ふみさんの涙のわけを辿る長い旅
浜田ふみさんは、いわゆる素人ではない。ぼたん同様、水商売系に関わって生業をたてている。
そんなふみさんも,根が堅気のせいか、素の時は、質素な堅気に見えるのである。ちょうどおばあさんの墓参りに
故郷に帰ってきた時、フーテンの車寅次郎と瀬戸内の小島で出会う。そして大阪で再会し、ふたりともつかの間の恋を
花開かせていく物語である。
ふみさんは瀬戸内の小島で寅と話をしながらとても優しい目をして寅を見つめる。彼女は寅の名を聞き、
寅も彼女の名を聞く。そしてそのあとふみさんが日傘を持ちながら寅を見送るシーンがあるが、ゆったりと長く、
どこまでも寅を見送っている。この長いシーンはとてもふたりの波長が合っているのである。あれは運命的な
出会いをした女性の輝きだったと私は思うのだ。
まるで網走の波止場での寅とリリーの出会いのようだった。
多くを語らなくても分かり合えるものをお互いが持っている。
なにも大きなエピソードがなくても、ほとんど会っている時間が短くても、人は運命の出逢いをする。
この見事なフィット感は、リリー以外にはお千代さん、光枝さん、朋子さんくらいである。ぼたんの時とは若干ズレがある。
寅は初対面の日ぼたんには恋まで行かなかったが、ふみさんとはごく短い時間の中で男女の出会いになっている。
つまり、寅はリリー同様運命の出逢いをしてしまったのだ。
そしてこれまたリリーの時と同じで、だからと言ってベタベタその小島に滞在しないところがいつものよくある寅とは
違う『本物の恋』の証拠なのだ。
ここが普通の男女と真逆なところ。もう一度の運命のいたずら、運命の赤い糸に賭けるのだ。寅の『本気』というのは
やはりつくづく粋だと思った。
そして大阪で二人は再会し、いろいろな物語を育んでいく。そして例の如く寅は逃げる。
それでもふみさんは、自分の青春の最後を賭けて、もう一度寅に会いに来る。
他の男性に好かれ、その人と結婚を決意した後も、なんとしても今一度寅に会いたかった。
しかし、実際は寅もふみさんに恋をしていたので、結果的に結婚報告のような形になり寅は深く傷ついてしまうのだった。
ふみさんはそのことには気づかないままとらやを後にする。
自分は、好きだった寅に、結婚の報告という隠れ蓑を使って最後の別れを言いに来たのだとしたら、それはあまりにも切ない。
そして、ラスト。
ふみさんは、この物語の最後に対馬まではるばる会いに来た寅を強く見つめ涙を見せる。
普通に考えると弟を一緒に親身になって探してくれ、励まし、寄り添ってくれた恩人の寅が遠くこんなところまで会いに
来てくれたことに対する感動の涙だと思うのだが、私にはやはりそれだけではないような気がしているのである。
@寅の帰郷と社長の苦悩
今回も夢から
浦島太郎のハミングが聴こえてくる。
寅が浦島太郎になっている(^^;)
寅のナレーション
「昔々、浦島寅次郎は、助けた亀に連れられて竜宮城を訪れ、
夢のように楽しい日々を過ごしたのでありました」
SKDの皆様ごくろうさまです(^^)
タコ社長がタコのぬいぐるみをかぶっている。 そのまんまギャグ(^^;)
源ちゃん亀もいる。 彼が浦島寅次郎に陸で助けられたのだろう。
寅「楽しさのあまり、思わぬ長居をいたしました。故郷葛飾柴又村では、わたくしの肉親が
帰りを待って案じております。乙姫様、これでおいとまいたします」
乙姫様「どうしても、行っておしまいになるの?」
この作品はマドンナが夢に出演!28作、33作などもマドンナが夢に登場。
タコも泣いている。(^^;)太宰さんご苦労様です(TT)
寅「別れの悲しみは私とて同じこと」
乙姫様「初めてお会いしたその日からいつかその日が来るのを覚悟しておりました。
もはや、お引止めはいたしません。これ、亀吉」
乙姫様「思い出のよすがに玉手箱を…」
と、お決まりの『玉手箱』を渡すのだった。
柴又村 海岸
寅のナレーション
「乙姫様に玉手箱をいただいた浦島寅次郎は、再び亀の背に乗って故郷に帰ってまいりましたが…。
なんと驚いたことに、あの懐かしい柴又村は跡形もなく荒れ果てた野原があるのみでした」
一軒の貧しい民家を見つけ、
寅「ものをお尋ねいたします。このあたりにとらやという団子屋はありませんでしたでしょうか」
さくらの孫「寅の方を振り向く。」
寅「さくら…さくら!オレだよ!」
さくらの孫「「あなたはどなたですか?」
寅「なにを言ってんだ、おまえの兄さんだよ!」
さくらの孫「いいえ、私には兄なんかおりませんけど」
夫「誰だ?この男は?」
さくらの孫「私のあんちゃんだって言うのよ」
夫「頭おかしいんじゃねえか?」
源ちゃん亀、干した魚介類を食べている。演出が細かい!(^^;)
寅「博!博だろ?オレだ、寅次郎だよ」
さくらの孫「そういえば…、おばあちゃんのお兄さんにそんな名前の人がいたわ…」
寅「その寅次郎はオレだよ!」
夫「バカこくでねえ!その人だったら50年前に神隠しにあっただ、
今生きてたら80の老人だべ。こたら奴にかかずりあってねえでさ、めしだめしだ!」
戸をバシッ!と閉めてしまう。
尺八の哀しい音色が流れる。
寅のナレーション
「竜宮城で過ごした、夢のような数日が実は十数年の長い年月であった
浦島寅次郎は、悲しみのあまり、さめざめと泣くのでありました」
おいおい50年前だから『十数年』じゃなくて『数十年』だろうが??
寅「乙姫様…、私は心の底よりあなたのことをお慕い申しておりました」
寅、手に持っている玉手箱を見て
寅「あ、そうだ…、この玉手箱には、いったい何が入っているのだ?」
寅次郎、紐を解いてフタを開ける。
ピョ、ヨヨ〜〜〜ン!
白い煙がモアモアモア。。。。と立ち昇る。
寅「ややああ…」
一緒に横にいた源ちゃん亀、煙をかぶって
源ちゃん亀「ゴッホゴホゴホッホ…」
源ちゃん亀、手で煙を扇ぐ。頭もアゴ髭も真っ白になり、老亀に変わってしまう。
ビビッテ寅を睨む源ちゃん亀。
源ちゃん亀「あれ…??ウエエエエエ」おっと、意外な展開!!(( ̄ ̄0 ̄ ̄;))
寅「あああ!…」
源ちゃん亀「助けてくれえ…、お前の代わりにオジンなってしもたんじゃああ、
助けてくれ…タスケ…」
鬼気迫る顔。演技とは思えないリアリティ
蛾次郎さん…、あまりにも凄すぎ…プロ中のプロ(_ _;)
長崎県 対馬 和多都美(わだつみ)神社 (海神神社)
長崎県対馬市豊玉町
ベンチでうなされている寅。
寅「ウ…、ウァ…」
寅がなぜかいきなりすでに遥か海の向こう対馬にいる!?
まだオープニングだぞぉ!いきなりラストの場所になるなよぉ…。
起きる寅
寅「あー、…夢か…はあ…」
海辺で子供たちが亀で遊んでいる。
寅「こら!坊主!駄目だよそんな、弱いものいじめしちゃあ、そんな、可哀相に
まだ子供の亀じゃないか」
寅はお金を上げて子供たちから亀を買い取ってやる。
寅「あいたたた!あいっ!
噛み付きやがったこの恩知らず!
あいたあ!あいたたあ!あいたあ!チキショウ!」
乙姫様との出会いを狙ったのだろうが
現実は厳しいねえ寅(^^;)
なんとかふり解いて亀を飛ばす寅でした。
タイトル
いつもより少しゆっくりめの音楽
男(赤)はつらいよ(黄)浪花の寅次郎(白)映倫110451
口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。
♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪
♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
目方で男が売れるなら こんな苦労も
こんな苦労もかけまいに かけまいに♪
江戸川土手を歩く寅。
サイクリングの3人連れのコント。
もちろん、この作品でもコントの帝王津嘉山正種さんが大活躍。
ちょっとした誤解から三角関係になってしまい、失恋した方の男が自転車で江戸川に自ら突っ込み、
あとの二人の男女も助けようとして3人とも川に落ちる。
寅はそれを見ながらなにか叫んでいる。
題経寺 山門
スズキのスクーターが止まっている。
荷台に買い物かごとマスカット色のヘルメット。
源ちゃん「バイクや…」
源ちゃん、スクーターに興味持っていじりまくっている。
境内でさくら御前様に挨拶して別れる。
さくら「こんにちは」
と言いながら玄海ツツジとお重の空を前のカゴに入れる。
源ちゃん「これ、買うたん?」
さくら「うん、ウチが遠くなったからねえ」第26作から引っ越したんだよね。
と、さくらノーヘルメット!でエンジンかけて参道を走っていった。
家からとらやまでヘルメット被らないつもりか!?
青山巡査に止められるぞ!注意一秒怪我一生。
源ちゃん「えーなあー…」
マジで源ちゃん羨ましそう…。
もう乗りたくてしょうがないって顔(^^;)
とらや 店
おばちゃん「ほら、社長、きれいでしょう」さくらがもらって来た玄海ツツジを見せる。
社長「春も秋もねえよこっちは、へえぇ…」
どうやら社長の工場は今度ばかりはいよいよ危ないらしい。
みんなで励ますが、社長はかなり滅入っている。
そんな時、寅が上機嫌で帰ってくるのだ。
寅、クスクス笑いながら、社長を手招き。
社長「なんだよ、なにが可笑しいんだよ」
寅「オレなあ、こないだおまえの夢見たよ」
社長「へえ〜、たまにはオレのこと思い出してくれんのかい?」
寅「オレがな、竜宮城にいったんだ」
寅「おー、そしたらね、そこにタコがいるの。なぜか!
社長、お前なんだよそのタコが。オレビックリしちゃってさあ
あれえ!社長何でこんな所にいるんだよ、
お前、裏の工場潰れちゃったのかってオレそういったらさ、
いや、お前がさ、その目から涙ポロポロこぼしてねえオレに
真っ黒なスミをブァッと吹っかけやがんじゃないの、
オレ目ぇさましてもさ、おかしくっておかしくっていつまでも一人で笑ってたよ、うん。
お前本当に裏の工場潰れちゃったんじゃないのか、おい。え?」
社長、かなりムカついて、寅と喧嘩してしまう。
社長「こっちはな、毎晩首くくる夢見てんだぞ!
それをなんだ!竜宮城で乙姫様にあった夢なんか見やがって!」
毎晩首くくってちゃ、いくら夢でも大変だぞ、凄い夢の連続だ(^^;)
いつもの喧嘩と言うより、社長はどことなくやはり元気がない。
しょぼくれて金策に出かけていったのだった。
寅「なんだい、人がせっかく帰ってきたって言うのによくそ面白くもねえ、ほれ」とお土産を渡す。
寅、ちょっと、社長のことが気になって、考えている。
社長がトボトボ参道を歩いていく。背中が哀しい…。
工場 夕方
夜になっても帰ってこない社長にみんな心配している。
博「こないだ、不渡り手形をつかまされて…、ま、額はたいしたことないんだけど、
だいぶ参ってたんだァ…」
不渡り手形つかまされると、人間不信にもなるから2重のダメージなんだよなあ(−−;)
さくら「…」
おばちゃん「その矢先に、寅ちゃんにあんなこと言われたんじゃ、涙もこぼしたくなるよね、可哀相に」
博「何て言ったんですか?兄さん」
おばちゃん「竜宮城の乙姫様に会いに行ったら社長とおんなじ顔したタコが
踊りを踊ってる夢を見たんだって」
博「ふー、困ったもんだなあ」
まあ、夢ですからねえ(^^;)
おいちゃん「たったひとつの言葉が、人間を死に追いやることだってあるんだからなあ」おいおい ヾ(^^;)
寅は、それを聞いて、社長が自殺したんじゃないかと思い、外へ飛び出していく。
そして源ちゃんを引き連れて必死で江戸川一帯を探し始めるのだった。
寅「社長はやまるなよ!」
源ちゃん「社長さん!」
寅「社長ー!、あ、源公おまえな、矢切の渡しで向こう岸渡り、対岸をずっと下って、
東京湾で落ち合おう!早く行け!」
叫びながら江戸川を下流に向って行く二人だった。
とらや 茶の間
満男がおいちゃんの腰揉んでいる。
吉岡秀隆君初登場!
おいちゃん「何時だ?」
満男、上を見て
満男「11時」
で、結局この後、社長は一杯飲んで帰ってきたのだ。先払いのいい仕事を
もらったので気分よく酔っていたらしい。
そうとは知らず、寅は社長を探したが見つからないので戻ってきたのだった。
社長が横にいるにもかかわらず、社長を心配する寅。社長が横にいるので、
拍子抜けしてしまって呆然とする寅だった。
さくら「お金の目安がついたからね、一安心してお酒飲んでたんだって」
おばちゃん「電話もしないで」
社長「友達が誘ってくれたんだよ、くよくよしないで酒でも飲もうって」
社長、含み笑いして
社長「ふ…、それがな、寅さん、気分のいいバーでな、オレ、もてちゃった、フフヘヘへ」
寅、いきなりタコ社長の鼻に手の平をこすり付けてグリグリする。
社長「あいた、あいたた、いててててえ!!」
さくら「お兄ちゃん、やめて!」
博「兄さん!やめてくださいよ」
と止めにはいる。
寅「なんだこのやろ!酒なんか飲みやがって!」
社長「オレが酒飲んで悪いか!?」
寅「あたりめえだ!てめえら江戸川の水でも飲んでろ!」
社長「なんだと!クッ!!」
っと寅に掴みかかる社長。
一同 「あああ!」
寅、上がり口に座って
寅「オレはてっきり、社長は、江戸川に身を投げて、土座衛門になったもんだと思ってな、
あの江戸川をどんどんどんどん月明かりをたよりに下っていったんだい、篠崎水門まで行くと、
社長、おまえとおんなじ姿の白いもんがポッカリ浮かんでるんだ」
社長「え?」
寅「オラ、竹竿でもってな、つっついてみたんだ」と、竹竿で突っつく仕草。
寅「そしたらおめえ、腹にガスの溜まった子豚の死骸だったの」
一同 聞き入っている。
寅「それから今井押切、どんどん下がって江戸川大橋だ」
列車の警笛 ピ〜〜〜ッ!
寅「あそこまで行くと、川幅がグーっと広くなるんだ。
向こう岸の浦安の灯が心細くチラホラチラホラ見えるんだ…。
暗ーい川の面を見ていると、『そうだ、この底の方で今頃社長は…、
ポッ!ポッ!…
ボラの餌になってるのかなあと思うと、なんだかオレは悲しい気持ちになってなあ。
『社長ー!社長さあああん!』
グスン、お前の名前を呼んでるうちに涙が
ポロポロポロポロとこぼれてきてなあ…、グスン…。
『そうだ!オレの言葉のせいで社長は死んだんだ!』」
寅、くるっと逆向いて、手を合わせて、
寅「『だったらオレも死のう!南無阿弥陀仏、
寅、題経寺の檀家だから『南無妙法蓮華経』だろ(^^;)
江戸川へ身を投げようとする
このオレを、源公が袖をつかまえて、
『兄貴!早まっちゃいけねえ!』
『いいからてめえ離せ!』
『早まっちゃいけねえ!』
『いいからてめえ離せ!』
『くっくっくくくくくく……』」
おばちゃん、身を乗り出して
おばちゃん「それでどうなった!?」 おいおい講談じゃないんだから ヾ(ーー )
寅「ドボーン!とそのままオレゃな、……」
寅、我に帰って、
寅「んっは…、そうなったらオレはここにいねえんだな」
おばちゃん「ほんとだ、はあー、よかった…」ととりあえず安心(^^;)
メインテーマがゆっくり流れる。
寅「ほんとに、無事でよかった…」
と、2階にゆっくり上がっていく。
寅「はああ…はああ…」
社長「迷惑かけちゃったなあ今日は。 いや、オレが飲みたいって
言ったんじゃないんだよ、友達がさそってさ」
おいちゃん「分かった分かったくどいよお前は」
この一連の騒動は先ほども書いたように第22作「噂の寅次郎」の社長の酒飲み騒動を
かなり再現、もしくは模写したと言ってもいいだろう。結構物語の運びが似ている。お暇な時に
両方をじっくり比べて見てください(^^)
次の日 さくらの家の前
結局寅は、なんだか、間が悪いのと、社長が羨ましくなって出て行ったのだった。
おばちゃんとさくらとの電話で
おばちゃんの声「うん、考えてみたらねえ、寅ちゃんが旅先で行方不明になったって
誰も心配してくれる人なんかいないもんねえそれを思ったらなんだか哀れになっちゃってねえ…。
あ、はいはい、お客さんだから、また後でね」
さくら「うん」
この翌朝のふたりの電話のシーンもやはり
第22作のアレンジ版だ。第22作では寅は布団をきちんとたたんで
『書き置き』をして出て行った。このあたりは山田監督も苦しい日々が続いていると
見ていいかもしれない。
Aふみさんとの運命の出会いと再会
瀬戸内海
寅が小さな連絡船に乗っている。
広島県 大崎下島 豊町
遠くから寅の啖呵バイの声が聞こえる
寅「心斎橋から天王寺の一流のデパートで…」と大阪ネタも取り入れている。
おばさんたち、ゲラゲラ笑っている。
豊浜町・小野浦
寅、見晴らしのいいところで一人アンパン食べている。
雪印牛乳も飲んでいる。
この場面、映画『故郷』の松下さん思い出した。
あの時、松下さんも、一人で海の見える丘でパンを食べて『浜千鳥』を歌いだすのだ…。
ふみがお墓への階段を登っているのを発見する寅。
目がいきなりハート気味な寅(^^;)
寅、会釈。
ふみも軽く会釈。
あまりの美しさに寅、つまづきそうになる。
寅「お身内の方ですか」
ふみ「はい」
寅「旅のものですが、通りすがったのも何かのご縁、お線香の
一本でも上げさせてくれますか」
ふみ「はい、ありがとうございます」
寅「南無阿弥陀仏…こんなお美しいおかみさんを残して、
先立たれたご主人は、さぞかしお心残りだったでしょうねえ…お気の毒です」
すげえ、決め付け(^^;)宗派も決めつけ(^^;)
寅ってもしふみさんが美人じゃなかったら間違いなく素通りしてただろうね。
ふみ「ふふ、」
寅「え?何か?」
ふみ「うち、主人はいません、これはね、おばあちゃん」
寅「あ、おばあちゃん!…おばあちゃん、南無阿弥陀仏…」
ふみ「ふ、ウフフ・・・」
野球をしている少年たちの横を通る二人。
ふみ「両親とは訳があって小さいときに分かれたんです。
だからウチはおばあちゃんに育てられたの」
寅「へえ〜じゃあ、あんたそのおばあちゃんと
一緒に暮らしていたのか」
ふみ「ううん、ウチは大阪で働いてるの、
だからおばあちゃんに何べんも大阪で一緒に暮らそうってゆうたんだけど、
どうしてもこの島を離れるのは嫌だゆうて、」
松阪慶子さん、大阪弁ちょっと苦手そう(^^;)
寅「そうだろうなあ年寄りにとっちゃ自分の生まれ育ったところが
一番いいんだろうな、この島いいところだしね」
細い坂を下りながら
寅「大阪で何やってんの?工場勤めだろ。」
ふみ「ううん」
寅「うそだい…じゃあOL」
この時にはさすがにもう第1作のようにBG(ビジネスガール)とは言わないようだ。
寅「え?あ!郵便局、郵便局勤めてる…」
照れて首を振るふみ。
船着場
寅「当分はまだこの島にいるかい?」
ふみ「おってもしょうがないよ、初七日もすんだし、2、3日うちにはまた大阪にもどんなきゃ」
寅「大阪に戻るか…」
ふみ「お兄さんこれからどうするの?」
寅「う〜ん?へへっ、風の吹くまま気の向くままよ!」
ふみ「自由でいいねえ、魚みたいに…」
と、水面を泳ぐ魚を見るふみ。
船長「船出しますよ」
寅「おう、」
寅「じゃあな」
と背中を向けて去っていく寅。
ふみ「お兄さん、」
と駆け寄るふみ。
寅「え?」
ふみ「名前なんて言うの?」
寅「あ、そうそう、オレな、
東京は葛飾柴又の車寅次郎って言うんだ。人は寅と呼ぶよ」
ふみ「寅さんね」
寅「そう、えへへへ、
…娘さん、
あんたの名前なんて言うんだい?」
ふみのテーマがギター演奏で美しく流れる。
ふみ「浜田ふみ」
寅、口の中でそっと「ふみ」と言ってみて…
寅「おお、じゃ、おふみさんか」
ふみ「フフ…」
寅「ああ…」と納得。
寅、うんうんと頷いて、
寅「じゃぁな」
寅を見つめるふみ。
光がまぶしい…
寅「幸せにやれよ、なッ」
一見普通の会話だが、この一連の船着場での
やり取りは、普通の娘さんじゃ絶対できない粋な会話だ。
船がゆっくり離れていく。
ふみのテーマが流れ続ける。
寅は何度か手を振るが、ふみさんは微笑んで寅を見つめながら歩くだけで
なかなか手は振らない。この胆の据わりかたはただ者じゃない。震えがくるほど素敵だ。
このシーンでふみさんがただの娘さんじゃないことが分かる。
静かだが、凄い演出だ。私はこの演出に心底感動した。
見事な玄人どうしの粋な別れのシーンだ。
そして、しだいに姿が遠ざかり寅が3度目の手を振ったのに
に応えて、ふみも日傘を振りだす。
そして今度はふみが日傘をずっと振り続ける。
今度はそれに小さく手を振り、応える寅。
そうやって、その姿が小さくなっても二人とも手を振り続けるのだった。
一期一会と言う言葉があるが、この港での短い会話と別れのシーンは、一見何ごとも
ないように見えるが、正に一期一会のしなやかなカッコいい粋なやり取りだった。
私はこの時のふみさんがとても好きだ。ただ清楚で美しいだけでなく、やはりどこか人生の
修羅場をくぐって来た落ち着きと貫禄が漂っているのだ。
アニメーション:龍太郎
大阪市 浪速区
通天閣そば 新世界
賑わう通天閣南本通り入り口付近
新世界ホテル
オヤジさん、『朝帰り』の言い訳を母親にわざとらしくしている。
初音礼子さんさすが!
大阪の『おかん』を見事に表現してました。
なかなかこの真似はできませんよ(´ー`)
おっさん「あんたの育てようが悪いネン」出た!真実(^^;)
おかみさん、掃除機かけながら、ムカッ!(▼▼メ)
松鶴師匠いい味出てます。
2階の寅の部屋
オヤジ「寅やん、お目覚めでっかー。」
寅「あ、はあ〜〜」
オヤジ「すんまへん、これ、お願いしまっさ
なんせ、ウチのおかん、あのクソババがうるそうてなあ、
ウチは一応前払いって言うことになってるやろ?
寅やんには一日分しかもろうてへんしな。」請求書を渡す。
このオヤジ、人のせいにするタイプだな┐(-。ー;)┌
寅「う〜ん、オレが来て一週間になんのか」
オヤジ「は〜早いもんでんな〜月日の経つのは、
つい昨日の事みたいにおもうてたけど」
寅「う〜ん、オレはもう一ヶ月ぐらいたったかと思ってたよ、まだ一週間か…、
へえ〜、月日の経つのは遅いもんだなあ」
このパターンは第14作「寅次郎子守唄」で、京子さんたちのコーラスに参加する日を待ち望んでいる寅と、
手形に追い立てられているタコ社長との月日の感じ方が真逆だと言うことでおこる喧嘩シーンに使われていた。
オヤジ「そらまあ、東京と大阪の考え方の違いはあるわなあ、ほな、たのんまっせえ」
オヤジ、下りていく。
寅「はあ〜、」(紙クチャクチャとまるめて)おりょ(@@;)
寅「よいしょ!」
(コロコロ…ポヨョョ〜ン)」アチョー(><;)
屋根を転がり、トユにポトン。
随分貯めはりましたね(^^;)
『浪花の恋の寅次郎.新世界オリジナルマップ』↓
大阪石切神社 参道
石切参道商店街
店の呼び込みの声
「どうぞお入り、休んでお帰り、おうどんなっと、丼もんなっと…」
大阪商人の布売りのバイ
隣で寅が『水中花』の啖呵バイ
寅、隣の布屋を横目で見ながら
寅「あー、あー、おい、ちょ、ちょっと、見て、ね。見るだけはタダだからさ、
ちょっと寄って見てってよ、ねえ、どう、おばちゃーん、
ちょっと寄ってこうてんかあ〜、
やすうしとくでえ〜、おばちゃーん、
こうてんかあ、どや、ぼうや、えーー、」
寅もギャグで大阪弁使うんだねえ(^^;)
寅、ため息を深くついて
寅「あーあ、大阪はだめだなあこらあ、東京に帰るか…」
大阪で物を売るのはそら難しいよ。無理無理。世界で一番難しいぞ(^^;)
バイネタ 『水中花』
今回のマドンナ松坂慶子さんにちなんで愛の『水中花』
はす向かいの
干支占い(運勢)の露天
芸者役の、かしまし娘さんたち。
ここで「待ち人来る」の占いを引く芸者さんのふみ。ズバリ寅が真正面にいたもんだから驚いて…
ふみ「いやーうれし、待ち人今すぐ逢えるて!」
ふみ、ふと、寅と目が合う。
ふみ、はっとして、近づいてくる。
ふみ「兄さん…いつかの!?」
寅、頷きながら、
寅「おふみさん、って言ったな」
メインテーマが軽快に流れる。
ふみ、タタタと駆け寄り、手を握り、
ふみ「寅さんやね、確か!」
寅「そうよ」
ふみ「うわああ!」
寅「ヘヘへ」
ふみ寅の手を持って振る。
ふみ「いや!ねえ、お姐さん、占い当たったわ!うち、この人に
会いたい会いたい思てたんよー!」
と、手をグイっと引っ張って歩いていく。
ふみ「まるで夢見たい!」
寅「ほんとだなあ」と、寅も興奮ぎみ。
ふみ「いやあ嬉しいー!!」
寅「フフフ」
石切参道商店街
ある茶店
寅たち4人が、ビールを飲んでいる。
みんなで大笑い。ふみは寅とのなれそめをお姐さんたちに話すのだった。
一同「キャー!!」
芸者A「よう言うわー!」
芸者B大笑いしながら芸者Aをペチ!
芸者B「そやけど、ほんとに、お宅さん綺麗な言葉ですなあ〜、
もううちさっきからうっとりして聞いてましてんでええ。
やっぱり男はんは東京弁やなああ〜」
芸者A「そらあ、東おとこに京おんなって言うさかいなあ〜」
寅「大阪の女もなかなかいいぜえ」よう言うわ(−−;)
みんなで街に繰り出すことになって、
ふみ、立って、勘定を払いに行く。
寅「おーっとっと、おふみちゃん、それはいけねえよ。これで勘定してくんな」
と、札入れをさっとなにげに渡す寅。
出ましたお馴染み『財布ギャグ』(^^)/
ふみ「いやあ」
寅「いいから、持ってきな」
ふみ「へえ、おおきに」
寅「ん」
芸者A「うわああ、カッコええわああ」カッコだけカッコだけ ゞ( ̄∇ ̄;)
寅「フフフ」中身確かめろよな寅(−−)
ふみ、レジまで行って
ふみ「すんまへん、なんぼ?」
店員「へえ、おおきに、4千300円です」
ふみ、寅の財布の中身見て、あ、っという顔をして、すぐに
ふみ「へえ」
と、言いながら、自分の財布を出して、1万円を渡す。
店主「へえ、1万円お預かりします」
ふみ、自分の赤い財布を一旦ハンドバックの中に入れる。
寅の蛇革の札入れをしっかり出して両手で見ている。
この人間の機微。演出がいいですね。
座敷では芸者たちが寅に
「どうもごちそう様です」
寅「いいえ、とんでもない」
店員「ありがとうございました、5千700円のお返しです」
ふみ、胸元に、寅の札入れを差し込んで、
お釣りを手で受け取り、もう一度自分の財布を取り出しておつりを
そっと自分の財布に入れる。
寅のメンツを壊さないように、そしてお姐さんたちにも
わからないようにしているんだね。 ほんと決めの細かい演出だ。
寅はノーテンキだね。
普通分かるよ、おおよその自分の所持金くらい(^^;)
第21作「寅次郎わが道をゆく」でも、あの留吉にも
こんなことやって、やっぱり留吉が自腹切っていた(TT)
大阪 新世界
夜の通天閣の遠景が映る。
お馴染み『日立ルームエアコン』のネオン
星影のワルツが流れる。
新世界市場の看板
新世界ホテル
松鶴師匠扮する、遊び人のおっさんがボケェっと座っている。
このおっさん、いつもこのロビーで寝てんのかいな?
寅、酔っぱらって星影のワルツを歌いながら帰ってくる。
ガラス戸が開いて、
ふみが走って入ってくる。
ふみ、寅の肩にかけていた背広をすっと脱がせる。
なるほどね…(−−)
寅、上がって、
寅「どうだい、ちょっと汚い部屋だけど、上がっていくか?」
ふみ「姐さんたちが、タクシーで待ってるから」
寅「そうか、じゃ、引きとめねえ」
ふみ「あ、そや!これ、お財布!」
と戻ってくる。
見送りに言ったオヤジも一緒に戻ってくる(^^;)
寅「おおお、そうか、ん、なんでい、こんなもんで足りたのか?」
ここまで自分の持ち金に無頓着だとスガスガしいよ(^^)
今日の分ぜ〜んぶ、ふみさんが出したんだね、
間違いないよ、4人分高くついたなあ…(TT)
ふみ「へえ、じゅうぶん」
寅「うん」
と言いながら札入れの中から数千円を出す。
オヤジも中身を覗いている。
寅「あ、おふみちゃん、ちょっと」とお金を手渡す。
ふみ「何これ?」
寅「少ないけどタクシー代の足しにしてくれ」
あ〜これだもんなあ(^^;)
ただ、大阪人で、こういうことやる人少ないですね。
笑福亭松鶴師匠扮する『おっさん』驚いて
口の中で「うわ…」
ふみ、寅の札入れをぶん取って、手渡されたお金を、挿む。
そして、すぐに寅に戻す。
ふみ「寅さん、うちは芸者やさかい、お客はんからチップもらうことぐらいあるわよ。
ほんでも寅さんはお客やないの、友達よ。
友達どうしでチップなんておかしいんと違う?」
寅もオヤジもうなずいて
寅「そりゃそうだ」
ふみ「二度とこんなことしたら、もうつき合わんから」
寅「わかったよ、おいらが悪かった」
ふみ、少し照れて、下を向き、
ふみ「ほな…お休み」
マンドリンの静かな曲が流れる。
入り口の戸のところで止まり、優しく笑って
ふみ「今日は、楽しかった」
寅「そうかい」
ふみ、頷きながら、戸を閉める。
寅、軽く手を上げて別れる。
寅「はあー」
オヤジ、いつまでもボーっとふみの後姿を見送っている。
完全に2人とも目がハート×100 (* ̄▽ ̄*)( ̄▽ ̄*)
通天閣のネオンを背景に、
寅の手紙のナレーションが聞こえる。
寅の手紙のナレーション
「さくら、元気か。オレは今大阪で暮らしている。
Bふみさんの弟を探す寅と意外な結末
東京 葛飾柴又 雨
とらや 台所
みんなで寅の手紙を読んでいる。
寅の手紙のナレーション
「住み着いてみりゃ、大阪はいいところだ。
人情は厚いし、食べ物は美味い。
この土地はオレの性に合っているらしい」ほんまかいな(^^;)
おいちゃん、さくらに手紙を渡す。
さくら「はあー、ねー、ずっと大阪にいたのよ」
おいちゃん「大阪と寅か…、
あんまり相性よくねえみたいだけどなあ」んだんだ(^^;)
おばちゃん「いつか大阪なんかだいっ嫌いだって
言ってたよお、『おまへん』だとか『そやさかい』
なんて言葉聞くとジンマシンがでるって」
さくら「関西の料理は薄味で食べた気がしないなんてね」
とは言うものの、それまでも、第1作奈良、 第2作京都、第3作三重、第8作岡山、第17作兵庫、
第24作和歌山、…等々けっこうな割合で『関西圏』で活動している寅です(^^;)
おばちゃん、頷く。
おいちゃん「その寅がなんで大阪をそんなに気にいったんだい??」
★おばちゃん、はっと気づいて、さくらの腕を持つ Σ( ̄ロ ̄|||)
★さくらもほぼ同時に気づいている (; ̄▽ ̄)
★おいちゃんも、ほぼ同時にあっと気づく (* ̄○ ̄)
みなさん、さすが『寅プロ』。今までのデーターが、
走馬灯のように頭を駆け巡って、全てを理解されました(^^;)
立っているタコ社長得意げに、
社長「言っていいかい?」
おいちゃん「は?」と見上げる。
おばちゃんとさくらも見上げる。
社長「原因はオレに言わせりゃ簡単だよ、ほらあ、あ…」
おいちゃん「言ううう〜〜なって!!分かってんだから」そうそう(^^;)
ほらあ…
社長「ち、…さて、銀行行ってくるか、雨の中を」
と言って、ヘルメットを被って、カッパを着て店の前に行く。
おばちゃん「それからなんて書いてあったんだっけ」
さくら「ん、『オレが今いるところは、東京で言えば、浅草みたいな賑やかなところだ、
とても便利だが、いつまでもホテル住まいは高くつくので、そのうち安い下宿を見つけるつもりだ』」
社長、ヘルメットをつけて、バイクに乗り
社長「浪花の恋か、いいなあ、ちくしょー」っと走っていく。
寅の手紙のナレーション
「明日は弁当持ってお寺参りに行く。朝早いから今日はこれで寝る。
おいちゃん、おばちゃん、裏のタコにもよろしく言ってくれ、
兄より」
さくら封筒の中に手紙をしまう。
いつものことながらちょっと心配してしまうさくらだった。
ふみのテーマが軽快に流れる。
奈良 生駒山中腹
寅とふみ、「宝山寺駅」で下車、
寅「これ登るのか!?うわあ〜」坂道もっと嫌いな寅(^^)
ふみ、笑いながら、寅の背中を持つ。
石段を上りながら、フーフー言っている二人。
ふみ「いや、こんな山の上に大昔どうやってお寺建てたんやろ」
ふみのほうがフーフー言っている(^^;)
寅「オレの故郷にだってこういうお寺あるよ。帝釈天」
ふみ、寅の腕を組んで、登っていく。
寅「これより小さいけどな、その参道にさ、店がずーっと並んでて
団子屋があるんだよ。その中の一番古い団子屋がオレの家だ」
ふみ「いやあ、そんな古いん…」
寅「ああ」
ふみ「ふうん、いつ頃建てたん?」
寅「あーあれはね、奈良時代かな、きっと」
このパターンは第38作「知床慕情」でも出てくる。その時はりん子さんに鎌倉時代だって言ってた。
『弁慶が団子食ってる写真あるよ』って言ってたらしい。茶の間にその時の証拠写真が飾ってあった(^^;)
ふみ「…?」
寅「そこに古びた夫婦がいるんだけど、
あの二人も奈良時代からいるんじゃねえかな、きっと」ひでえ(^^;)
ふみ「ふふふ、また嘘言うてぇ」そらそうだ(^^)
家族連れの女性がふみを呼び止める。
女性「すみません奥さん」
ふみ「はい?や、うち?」
嬉しそうなふみ。
男性「お宅はお子さんまだですか」
ふみ「はい、まだです」ふみさん、『ごっこ』してます(^^;)
カシャ
寅、そのセリフ聞きながら照れまくり。
普通は、寅とふみのカップルは玄人通しに見えて、
『夫婦』には見えないけどなあ…(^^;)
宝山寺 境内
絵馬堂
絵馬に二人とも何か書いている。
『妹さくらとその一家がしあわせになりますように。 寅次郎 』
ふみ「へえ、寅さん妹おんの?」
寅「うん、さっき話した団子屋で働いてんだよ」
たぶん給料はもらってないと思うけどね。現金は貰わないけど、
料理を食べさせたり、銀行の担保に土地を預けてやったり、持ちつ持たれつだね。
ふみ「ねえ、妹って可愛い?」
寅「べーつにぃ〜、
何だか姑みたいに文句ばっかり言ってるよ、ヘヘへ」
寅「ふみちゃん、何書いたんだい」
ふみ「ん?寅さんにええお嫁さんが来ますようにって」
寅「うそだ〜ぇ、うそだよー、そんなこと書くわけないよ、フフ、
でも、ちょ、ちょっと見せてやってくれる?」
ふみ「あかん、いや、いやー」と隠そうとする
寅「ちょっと、見せてよ」と、さっと取ってしまう。
寅「ハハハ」
寅、絵馬を眺め、はっとする。
『弟が幸せになりますように。 ふみ』
ゴーン
寅「弟がいたの?」
ふみ「うん」
寅「へー、両親が早く亡くなって、おばあちゃんがこの間死んで、
一人っきりになったってそう言ってたじゃねえか」
ふみ「母さんが家を出る時、ちいちゃい弟連れてったんよ」
ふみ、絵馬を棚に奉納しながら、
ふみ「まだ、五つか六つやったけどねえ…昔のことよ」
いろんな事情が複雑に重なっていそうだね…。
参道の食堂
で、結局、寅は生き別れになってしまった弟に会いに行くようにふみさんに強くすすめるのだった。
それでも怖気づくふみさん。自分の職業や、弟が自分を覚えていなかった時の辛さを想像してしまうのだった。
寅「どうして会わねえんだ」
ふみ「おうたってしょうないやない。
こっちは懐かしいとおもたかって弟はうちの顔なんかろくに覚えてへんのよ、
おまけに芸者なんかしてるんやもんね、嫌な顔されるのがおちよ」
ふみ、ちょっと淋しそうに笑って、ビールを持って
ふみ「はい」と注ごうとする。
寅、真剣な顔になって
寅「いや、ちょ、ちょ、ちょっと待てよ」
メインテーマがゆっくり流れる。
寅「五つか六つの時に別れたんだろ」
ふみ「うん」
寅「じゃあ、覚えてるよ、弟は忘れやしないよ。よーく覚えてるよ。
毎晩抱いて寝てくれた姉ちゃんのことをさぁ。
オレだってガキの時分にウチ出て長い間フーテン暮らししてたよ、
だけど、片時だって肉親のことは忘れなかったよ。
会ってやれよ。こんな広い世の中にたった二人っきりの
姉弟じゃねえか、会いたくねえわけはねえよ、な」
ふみ、考えている。
寅「オレ、一緒に行ってやるよ」
腕時計を見て
寅「まだ昼だから」
ふみ「え?今日?」
寅「あたりめえだよ、思い立ったらすぐ行こう!はやく!ほら!」
第2作「続男はつらいよ」のあの時の散歩先生と同じ。
散歩先生は京都で寅に産みの母親に会うことを
強く勧めた。この気持ちを寅はしっかり受け継ぎ、今、ふみさんに伝えている。
寅もさくらに20年間会わなかった苦い過去があるのだ。
道路 「神戸、九条方面」
タクシーが大阪港に向かって走っていく。
大阪市港区波除6丁目付近
山下運輸の大きなトラックがゆっくり走っている。
『安治川大橋』近くの倉庫群の道を走るタクシー。
このシーンで5秒ほどバックミラーに白いキャップを被った
山田監督の顔が映りつづける。お宝映像
↓
第18作「寅次郎純情詩集」で、柴又駅での電車のガラス窓に映る
山田監督とともに、このバックミラーの山田監督は印象深い
運転手「あ、あっこですわ。あの大きい倉庫、山下運輸や、
もう、ごっちゃごちゃしたとこやなあ、んまあー」
山下運輸株式会社
寅、頭下げて
寅「あのー、水上英男という男おりませんでしょうか?」
主任さん、ドキッとして、
主任「えー…、水上君?」
主任さんに案内されて二階へ上がっていった二人は…
2階事務所
寅「どうしたい?あ、そうか、英男君はもうこの会社辞めちゃって、いないんだろ?ね」
主任「いいえ、そうじゃないんですわ…」
寅「んん」
主任「あの、実はですねえ…」
一同沈黙
主任「まあまあどうぞおかけください」
3人とも座る。
主任「お姉さん」
ふみ「はい」
主任「水上君は…、もうこの世にいないんです」
寅とふみ「……」
主任「つい最近なんです、えー、先月の…あれ何日やった?」
吉田「二十四日や、給料日の前」
主任「急に、こう胸が苦しいちゅうてね、ここで休んでる時に言われたんです。
それで、車に乗せて、市立病院に連れてったんです。
えーっと、冠動脈…」
吉田「心不全」
主任「そう言う心臓の病気でね、すぐに手術せないかん、ちゅうて、ようさーんその血液もいる
ちゅうんでね、会社の大方の連中みな集めまして、病院へ詰めたんですけどんね。
大変難しい手術で…、結局…そのままちゅうことなりました…」
ふみ「……」
ふみ、ただ呆然と主任を見ている。
主任「あの…、手術室に入られる前に、みんなでぇ、『がんばれよー』ちゅて言いましたら、
『ありがとう、ありがとう』ちゅて、ひとりひとりに丁寧に礼をゆうて…、
それが最後の言葉でした。
いやぁ…なんと申し上げていいやら、お姉さんがおいでやったんですかあ…、
水上君生きてましたら喜んだろうにねえ…」
主任、部屋の角に置いてある遺影を指して
主任「…ああ、あれが英男くんです。口数の少ない、いい男でしたぁ」
英男君の遺影と一輪のピンクのバラの花
緑の帽子『MINAKAMI』
遺影を見つめるふみ
従業員のみんな2階へ上がって来る。
吉田「おい、おいちょっと!おい!」
従業員「え?」
吉田「この女の人な、英男の姉さんや」
主任「こちらがご主人」
寅「いや…、ちょいとした身内だ」
主任「あ、どうも…」と恐縮。
ふみ、急に身を乗り出して
ふみ「なんでウチにゆうてくれなかったんです?なんで!?
ウチの弟やのに、
なんでウチに一言ゆうてくれなかったんです!?」
寅「おふみちゃん、そりゃしかたがねえんだよ、な、
ここにいる人たちゃ、誰も姉さんがいるなんてこと
知らなかったんだから…そうだろ、な。」
ふみ「……」
主任「私たちの調べが足らんかったんです」
寅「葬式はどうしたんだ?
主任「一日会社休みにして、
私たちの手でさせていただきました
この部屋片付けて祭壇こさえて、
見かけは、貧しくとも心のこもった
お葬式やったと思っております」
寅もふみも下を向いている。
主任「お骨は若狭からお見えの叔母さんちゅうかたが
持って行かはりました」
ふみ、泣きながら立ち上がり窓のほうへ行く。
リリーのテーマ(11作、15作)の
アレンジバージョンが流れる。
外を見ながら
涙がとめどもなくこぼれ落ちるふみ。
安治川河口を小さな遊覧船が走っていく。
手を振る子供。
寅、立ち上がり
寅「どうもみなさん、英男が大変お世話になりました。
ありがとうございました」
と、深々とお辞儀をする。
従業員一同恐縮してお辞儀。
寅、もう一度深々とお辞儀。
従業員たちも、もう一度深々とお辞儀。
安治川大橋の橋向こう。
此花区春日出一丁目 英男君のアパート『松風荘』
寅とふみが座敷に座っている。
ふみ、壁に貼ってある絵を見つめている。
『一本の傘を差すお姉さんとと子供の絵』だろうか。
英男君の心がこの絵に表されているのかもしれない。
もしそうだとしたら、英男君の大事にしていた
心の中をふみさんは垣間見ることができたの
かもしれない。
アパートの前に自転車が止まり、
若い女性がこちらにやって来る。
信子「おばちゃん、こんにちは」
アパートのおばちゃん洗濯物干しながら
おばちゃん「元気になったかぁ!?」
↑このアパートのおばちゃんの「元気なったかァ!?」
という言葉の波長は、とても心地よいものだった。
浪花の人情の懐をひしひしと感じました。
信子「うん」
寅、下でのやり取りを窓から覗いている。
信子、階段を急いで上がってくる。
信子、息を切らして入り口に立つ。
吉田「仕事、大丈夫やったかな、抜け出して」
信子「うん」
吉田「そうか、入り」
信子、ふみを見てちょこっとお辞儀。
ふみ、信子をみてちょこっとお辞儀。
信子、流しでコップに水を入れて飲む。
吉田「英男君の友達で信子ちゃんって言いますねん、
この近所で働いてるもんやさかい、今ちょっと、電話しましたんや」
吉田「信ちゃん、この方が英男君のお姉さんや。…で、こちらがご主人」
吉田君、「ご主人」じゃないよ。事務所での会話覚えてろよな ゞ( ̄∇ ̄;)
寅、びくっとして
寅「いや、オレはちょいとした身内よ」
吉田「あ、そや、親戚の方や」
信子、座って
信子「こんにちは」とお辞儀。
ふみもお辞儀。
寅、信子の前にかがんで
寅「お姉ちゃん、もしかしたら恋人だったんじゃねえか?」
信子「少し、微笑んで下を向く」
吉田「実は…、この秋に結婚する約束しとったんですわ」
寅、小さく頷いて、
寅「……、それじゃあんたが
一番悲しい思いしちゃったなあ」
信子「あんまり急やったから、どないしていいかわからんと、泣いてばっかりいました」
寅、小さく頷く。
ふみ「…どうもありがとう。
いろいろお世話になったんやね、きっと」
信子、少し微笑んで、
信子「あ。…いいえ、」
信子「あ、吉田さんお茶も入れんで」
吉田「そやな、あ、急須あったかな?」
信子、立ち上がって、
信子「ウチがする」
お茶の缶開けて、
信子「あー、お茶ッ葉が無いわ。下のおばちゃんにもろてくるわ」
吉田「そやな」
と急いで、外に出ようとして、ドアのところで止まる信子。
ふみのほう、振り向いて
信子「ウチ、英男さんから聞いてました、お姉さんのこと」
ふみ「え…」と驚き、
ふみ、身を乗り出して
ふみ「…なんて言うてた?」
信子「お母さんみたに、懐かしい人や、…
とっても会いたがってました」
目を潤ませて外へ出て行く信子。
信子の姿を目で追いかけるふみ。
第16作(お雪さん)順子のテーマが緩やかに流れる。
階段の上で遂に泣いてしまう信子。
ふみ「寅さん」
寅「ん?」
ふみ「お茶飲んだら帰ろ…、ウチ辛い、この部屋にいるの」
寅「そうだなそうするか」
ふみ「今晩大事な座敷もあるし」
寅「なんだい、今夜ぐらい休めねえのか?」
ふみ「休めんの…、ウチ、芸者やさかいな」
英男君の町、オリジナルマップ(龍太郎作)
英男君は信子ちゃんにはお姉さんのことを話していたのだ。
自分を毎晩抱いて寝てくれたお母さんのように温かく懐かしい人。
会いたい会いたいと思い続けてきた十数年だったのであろう。
職場の名前を知っているふみさんは、踏ん切りさえつけば会いに
行くことができたはずだが、弟の人生の邪魔をしたくないばかりに、
今日の今日まで会いにいけなかった。自分のようなものが会うと
かえって迷惑なのではないかと思っていたのだ。
勇気を出して、もっと早くに会いに行けば話もできたし、
英男君の運命も変わったかもしれない。
悔やんでも悔やみきれないやるせなさがふみの心に残っていった。
ふみは遂に本当にこの世の中で一人ぼっちになってしまったのだ。
Cふみさんの涙と戸惑う寅
夜 みなみ 道頓堀界隈
グリコの大きなネオン
道頓堀 から心斎橋筋
『宗右衛門町通り』
ふみが難波方面から道頓堀の橋を渡って
心斎橋筋から宗右衛門町通りを歩いていく。
板前さんの格好をした誠、道に出てきて
誠「ふみさん!」
ふみ「こんばんは」
誠「何べんも電話したんだ。相談があって」
ふみ「ごめんねー、朝から出かけてたんよ、また今度」
誠「うん」
ふみの誠さんに対する対応はごく普通。
この時の短いやり取りの感触では決して『恋人』ではない。
ふみ、老舗の料亭に入っていく。
料亭座敷
ふみ、悲しみの限界が来て席を立つ。
ふみ、廊下に出て、走っていく。
芸者A「ちょっと、ちょっとあんた、どこ行くの?」
ふみ「お姐さん、すんまへんウチ気分悪いさかい帰らしてもらいます」
と拝むようにお辞儀をし、小走りで帰ってしまう。
廊下で料亭の女将と会い、
ふみ「お母さん、すいません」]
女将「どないしたん?」
女将「ちょっと、蝶子はん?」と、追いかけて行く。
第45作のマドンナ「蝶子さん」の名前が
すでにここで使われていた。
遠くで三味線の音。
通天閣の夜景 深夜
新世界ホテル 寅の部屋
ドアが開いて
オヤジ「寅やん…寅やん!」
寅、布団を被っている。
寅「なんだ、こんな夜中にうるせえな!」
オヤジ「起きてえな、寅やん。あの子が来てるがな、
ほれ、いつかの芸妓はん」
寅スクッと起きて
寅「おふみちゃんか?」
オヤジ、頷いて
オヤジ「えらい酒に酔っぱらってはるでえ」
ふみ部屋に入ってきて
ふみ「は〜、…お父さん、お酒くれへん?」
オヤジ「へぇへぇ、ただいま…」
ふみ「今日はいろいろありがとう寅さん…」
寅「い、いや、いいんだいいんだ、な」
寅、自分が飲んだお銚子を片付けだす。
ふみ「せっかく弟と会えると思って楽しみに行ったのにねえ、
あんなことになってしもうて…」
寅「もう、その話はいいよ、な。辛くなるばっかりだい。
それよりよ、酒でも飲んでパッと陽気になろう、な」
寅、いくらなんでも陽気にはなれないだろう、さすがに。
ふみ「けどねえ、うち安心したの。
ヒデは身寄り頼りもなくて、一人で寂しゅう暮らしてたんやにかと思てたんやけどね。
ぎょうさん仲間の人がおってくれて、みんなで心配してくれて、
それに恋人までおったんやもんね」
と、寅の手を掴んで納得しようとするふみ。
寅「そうだよ。あんな可愛い子に惚れられてよ」
ふみ「うん」
寅「弟はほんとに幸せもんだったんだよ、な、そう思いな」
と、ふみの手を彼女のひざに置く。
ふみ「でもあの子可哀想やねえ…、
恋人に死なれて…、これからどないするんやろ…」
寅「いや、おふみちゃん、そりゃあ心配いらないよ」
ふみ「なんでぇ?」
寅「そら、今は悲しいだろうけどさ、ね、
月日が経ちゃあ、どんどん忘れていくもんなんだよ」
ふみ「……」
寅「忘れるってのは、ほんとうにいいことだなぁ…」
この言葉、心にズーンと沁み入るなあ〜( ̄ー ̄)
ふみ「………」
寅「一年か二年か経ちゃ、あの娘もきっと
新しい恋人ができて幸せになれるよ」
ふみ「…せやろか…、忘れられるやろか…」
寅「忘れられるよぉ!体験したオレが言ってるんだから
間違いありゃしないよ」
寅、ニカっと笑う。
ふみも同時に
ふみ「フフフ」
ふみ、寅の手を握り、
ふみ「寅さんも体験者?」
寅「いや、オレ、ほら、頭悪いから、すぐ忘れちゃうんだよ!へヘヘヘ、エ〜エッ」
ふみ、吹き出しそうになって、大笑い。
寅は半年に一度ほど連続体験してきました。そうとう忘れ方が激しいですね(^^;)
寅「酒が遅いな」
と、ドアのところまで行って、ドアを開け
寅「おーい、おっちゃん、酒まだか?」
オヤジ下から声
オヤジ「へーイ、ただいま」
ふみ、暑いので窓の方へ行って窓を開け腰掛ける。
ふみ「今夜は暑い」
寅「んー?あー、明日はひと雨来るか」
ふみ「星が出てるよ」と指差す。
寅「ん、じゃあ天気になるだろう」適当やなあ(^^;)
ふみ「ひとーつ、ふたーつ、みっつ」と、星を数える。
ふみ「♪わかれ〜るこぉぉ〜と〜は、辛い〜け〜ど〜、
しかたぁ〜がぁないんんだ、君の……」
ふみ「……」
ふみの目にみるみる涙が溜まる。
ふみ「うち泣きたい…」
寅「ぇ…」
ふみ「寅さん泣いてもええ?」
寅「え…」
と、小さく驚く寅。
『リリーのテーマ』のアレンジバージョンが流れる。
ふみ、寅の胸にもたれかかり、そして膝に頭を乗せ、
うつ伏せで号泣する。
ふみ「なんで、なんで、
めぐり逢わせ、悪いんやろか、うちは…、
ウウウ、ウウウ!」
寅「……」
寅「…泣きな、な、いくらでも気のすむまで泣いたらいいんだよ、な」
ふみ「ウウウ、ウッ、ウ…」と泣き続ける。
オヤジドアを開けて
オヤジ「お待っとうはん、
あいにく冷蔵庫の中が、…!!」
オヤジ二人の様子見て仰天(^^;)
オヤジ「うわあぁ、すいません、何も見てまへん」見てないと言えない言葉だね(^^;)
と、目をつぶりながら後ろずさりでドアを閉める。
階段を踏み外す音
オヤジ「うああああああ!」ドタドタタ!(_ _;)
一階のロビー
下まで転げ落ちて、片一方の
スリッパだけ後から落ちてくる。
オヤジ「痛あ!あーいたあ!は」
オヤジ、おでこを擦りむいて、手の指に血がつく。
血に気づいて
オヤジ「は!血ぃや!!お母ちゃん!血ぃ出てるわ!!血ぃ!」
こりゃあきまへん┐('〜`;)┌
おかみさんやって来る。
オヤジ「血ぃ出てんねや、ほれ、ほれ」
典型的な大阪のアホボンオヤジ ( ̄o  ̄;)
芦屋雁之助さん超十八番!上手すぎ!
2階の寅の部屋
ふみが、寅の膝で寝かかっている。
かなりきつそうに寝返りを打つ。
寅「おい、大丈夫か?」
ふみ、寝言のように
ふみ「寅さぁん、ウチねむい、今夜ここに泊めてぇ…」
と、つぶやく。
メインテーマがゆっくり静かに流れる。
寅「え…、あ、いいよ、こんなうす汚いとこでよかったら
ぐっすり寝たらいいよ」
ふみ「おおきに」
寅、ふみの頭が重い。
かなり我慢するが限界が来る。
ふみの体越しに座布団を枕代わりに
取ろうとする、
寅の体がふみに触れて、
ふみ「なあにぃ?」
寅、ビビッて、やめ、
机の向こうにある座布団に手が掛かる。
寅、その座布団を諦め、
後ろにある座布団を引っ張り出して
膝の代わりに、ふみの頭に座布団を乗せてやる。
ふみ、少し意識が蘇って
ふみ「寅さん…」
寅「え?ここにいるよ。大丈夫だよ」
膝の痛みで足を引きずりながら、布団の場所まで行き、
掛け布団を取ってきて、ふみに掛け布団をそっとかけてやる。
寅、窓を閉めて、
電気を消す。
ふみ、もう一度寝言のように
ふみ「寅さん…」
寅そっと外に出て行く。
ふみ、寝言
ふみ「は〜…」
1階の台所
寅、台所に入ってきて、酒を持ち、コップに注ぐ。
寅「今夜…、おまえの布団で寝るからな…」
オヤジ、寅の方を向き
オヤジ「…?」
寅「おまえ、おっかさんのオッパイでも握って寝ろ」
握ってって…(^^;)
オヤジ「なーんで自分の部屋で寝えへんねん?」
寅「あの子が寝てるのよ」酒を飲む
オヤジ「へええ……、あんたはワテの部屋で…」
寅、黙って酒を飲み、おかずを食べている。
オヤジ、寅を見て
オヤジ「へええ…」
と首をかしげて出て行く。
新世界 夜明け近く
新世界市場のそばの空
新世界ホテル1階ロビー
ふみが、階段をそっと降りて外へ出て行く。
寅の部屋
寅が置き手紙を読んでいる。
ふみの置手紙 広告の裏に書いてある。
『夕べはごめんなさい。
ウチがこの部屋に泊まるのが迷惑だったら
そう言ってくれればタクシー拾って帰ったのに。
これからどうして生きていくかひとりで考えていきます。
寅さん、お幸せに。
さようなら ふみ 』
窓を見る寅
ふと、立ち上がって、ドアを開け
階段上からかがんで下を見て、
寅「おっさん!」
オヤジ「へえー」
寅「引き揚げるから、勘定してくれ」
あー、また逃げるのかい寅…。
ふみさんは人の中で揉まれて来た大阪みなみの
売れっ子芸者さん。
その彼女が悲しみの底にいるとは言え、深夜寅の
部屋にやって来て、泊めて欲しいと言う。全てを覚悟して、
能動的に寅のところへ行ったはず。
だからこそ、「私がこの部屋に泊まるのが迷惑だったらそう
言ってくれれば…」と、置手紙を書いたのである。
寅は、この夜のふみさんの気持ちをやはりギリギリでは
受け入れることができなかったと言えよう。
結局寅は、この期に及んでも、逃げの行動しかできない
のである。この行動を、寅の優しさ、と捉えることもできる。
ふみさんの人生に責任が取れそうもない寅が、理性を持って
部屋を後にした、と考えても良いのかもしれない。
ましてや、あの夜、ふみさんは弟のことで参っていたから、
なおさら、そっとしてあげたかったのであろう。
しかし、ふみさんの気持ち的には肩透かしを食った淋しさ、
つまり、寅に自分が思われていなかったと分かった落胆は
とても辛いものであったろうことは想像に難くない。
もちろん、それはふみさんの誤解で、寅はふみさんに
惚れてはいたが、例によってプラトニックなものなので、
時としてそのことに女性は傷つき、寅を誤解する。
通天閣本通りを歩く二人
オヤジ「そやけど、もし寅やんがおらんように
なった後でもしあの子が訪ねてきたら、わてどない言うたらええねん」
寅「訪ねちゃこねえよ」
オヤジ「そんなことはわからへんがな」
寅「いや、来ねえ!もし来たとしたら、そのときゃ、
あの男は東京へ帰ったとそう言ってくれれりゃいいんだ」
オヤジ「なんでやねん、なんでそない逃げるようにして帰らないかんねん」
寅「男ってものはな、引き際が肝心よ…」
オヤジ「わかりまへんなあ、そない格好ばっかりつけてたら
おなごはんはものにならんでぇ、そら、ちょっとぐらい
格好悪うても、アホやなあと言われても、とことん
付きまとって地獄の底まで追っかけてぐらいの根性が
なかったらあきまへん、この道は」
寅、地下道への道の前で止まり、
寅「ありがとうよ、いいこと教えてくれて」と、にっこり笑う。
寅、もろ口だけ。ほとんど聞く耳持たなかったりして(^^;)
両者の『恋愛感』には養老孟司さんが言うところの
『バカの壁』がそびえ立っていて、交わることはないようだ。
オヤジからかばん受け取って、少し歩く。
寅「じゃあおっさん」
オヤジ「もうお別れか…」
寅「世話になったな」
と、階段を下りてゆく。
オヤジ、寅の背中を名残惜しげに追っている。
寅、振り返って
寅「あ、勘定の残りは必ず送るからな」
うそばっかり、どうせまたさくらが…(−−;)
オヤジ「大阪に来たらまた顔出してや」
寅、踊り場で、もう一度振り返って、
寅「かあちゃんと仲良くやれよ」と言ってすっと消える。
オヤジ、独り言をつぶやく
オヤジ「あーあ、淋しなるなあ、あの男がおらんようになると」
ほんとほんと(−−)
ちなみに、第39作「寅次郎物語」では天王寺駅前まで秀吉と来ながら、
目と鼻の先のこの縁の深い「新世界ホテル」に宿泊しようとしないのは何故だろう?
見ず知らずの宿に泊まっていた。
もっともそのころはもうすでに潰れて倒産していた可能性はあるが(^^;)
新世界ホテルのオヤジの助言とは、ある意味正反対の寅の生き様。
女性を大事にし、引き際を考える寅。それは一見男の美学に見える
かも分からないが、第48作「寅次郎紅の花」でリリーが啖呵を切る
ように、実は寅のこの手の行動は、寅に気がある女性にとっては
決してカッコいいわけではなく、臆病でエゴイスティックな行動でしか
過ぎないとも言える。
しかし、『覚悟』というものを持てない風来坊の寅は、こういうふうにしか
生きれない人間なのである。
私たちにとっては歯がゆいが、いい悪いの問題では決してないとも思う。
そのような風のように生きている寅だからこそ与えることができる幸せの
かたちがあるのだろう。
寅には寅の独特の人生がある。ただそれだけだ。
寅は常に美しい幻影を追いかける哀しいロマンチストだと
言ってもいいと思う。
私はそんな寅が好きだ。
D恋やつれの寅とみんなの心配
柴又帝釈天 参道
源ちゃん、エレファントマンの格好で遊びながらとらやに向かう。
おばちゃん「もう梅雨も上がんのかしら」
さくら「九州や対馬の方ではもう梅雨は上がったって言ってたわ」
おばちゃん「ふーん、ほんと」
さくら「ハイ、ご苦労様」
源ちゃん「なんぼでっしゃろ」
さくら「え?」
源ちゃん「なんぼですか?」
さくら、はっとして
さくら「あ、あああ、お金のことね。8千円」
さくら「源ちゃん大阪弁だから分かりにくくて」
おばちゃん「こっち来てから随分になるのに、
いつまでも抜けないんだね源ちゃんの訛りは」
大阪弁は『訛り』とは言わない。
大阪は西の都であるからこれはこれで、『訛り』といわれると嫌がる人が多い。
大阪の人にとっては大阪が日本の中心だからだ。
東京の人には意外にそういう中心意識はない。
さくら、1万円渡されて
さくら「へ、おおきに」とお茶目に首を傾けるさくら。
おばちゃん「フフフ」
さくらお釣り取りに行く。
おいちゃん出てきて
おいちゃん「大阪といやあ、寅の奴どうしてるかなあ…」
おばちゃん「ほんとだ、随分になるねえ、
いつか手紙が来てっから」
あの幸福そうな手紙がとらや着いた頃にはすでに寅はふみさんと
別れているのだ。うそのような本当の話。宝山寺へのお参りの
前の晩にさくらたちへ手紙を書き、宝山寺参りの当日、ふみさんは
弟の会社へ行き、その夜に寅の部屋に来る。そして翌昼には寅は
新世界を後にするのだ。早い早い。
おばちゃんの発言から考えると、梅雨がもうそろそろ明けるって言ってたし、
2週間くらい経っているのかもしれない。
東京へ帰る汽車賃捻出するためにどこかでバイをしていたのかも。
さくら「下宿探すなんて言ってたけど、どうなったのかしら?」
おいちゃん「あいつがひとっところにそう長くいるわけねえけどなあ」と、タバコ取り出す。
おいちゃんはいつも寅の本質をよく見てるよなあ。
源ちゃん、ビクッとして駅の方角を
振り向いてシゲシゲ見る。
さくら、源ちゃんを見て「???」
源ちゃん「兄貴!」
さくら、その源ちゃんの声を聞いて道に飛び出す。
さくら「おかえんなさい、お兄ちゃん」
おいちゃん「いやあ」
おばちゃん「おかえり」
おいちゃん「よく帰ったな」
寅、ニコニコ、と笑いながらもちょっと『気』が違う。
さくらとおばちゃんを左右に見ながら
寅「どや、みんな変わりあらへんか?」
大阪弁のイントネーションボロボロ(^^;)
さくら「え??」
おいちゃん「????」
メインテーマがポヨヨ〜〜〜ンと流れる。
寅「どないしたんやさくら?」
さくら「ん…、元気よ」
寅「おばん、神経痛のほうどないや?」
そういえば前作第26作では寅はおいちゃんの神経痛のことを心配していたので、
どうやら夫婦そろって神経痛のようだ。
おばちゃん「ん!んん、なんとかね」
寅「さよか」
寅深くため息をついて
寅「あーあ、しんど!…、ふあああ」
さくら「どうしたの?」
寅「長旅で疲れてしもうた…」
おばちゃん「じゃ、ちょっと2階で休んだらどうだい?」
さくら「そうね、お布団引いてあげる」
寅「ほんならそうしてもらいまっさ」
さくら、寅のお土産を見ている。
寅「あ」
とお土産手に持って
寅「おじん、これな、大阪の『おこぶさん』やで、食べてんか」
と台所へ
おいちゃん「おおきに」およよ(@@;)
さくら、おいちゃんの言葉を聞いてびっくり。
寅とさくら2階へ上がっていく。
おばちゃん「なんだか様子がおかしいねえ…旅の疲れかしら」
おいちゃん「いやー!それだけじゃねえぞお」
客、店先で、「おだんご下さい」
おばちゃん「はい、おいでやす」出たアア!おばちゃんの得意業
おいちゃん「!!」
おいちゃん、そんなおどろかんでもよろし。
あんたもさっき「おおきに」てゆうてましがな ヾ(^^;)
柴又 夕暮れ
題経寺の鐘
とらや 茶の間
寅は後ろをむいたまま、ボケ〜〜〜。
博が心配そうに見ている。
ゴ〜〜〜〜ン
寅「フンーン、四天王寺の鐘の音かァ…」
おいちゃん「四天王寺…?」
博「大阪にあるんじゃないですか」
さくら「ほんとうに食べないのね」
と、味噌汁を片付けだす。
おばちゃん「少し食べると元気になるのに、
せっかくお芋も煮たのに…」
さくら「味が辛すぎるんだっておばちゃん」
博「大阪暮らしが長くて薄味になれちゃったんでしょう」
おばちゃん「じゃあ、玉子でも焼こうかァ?ね」
と、芋を冷蔵庫に入れる。
おばちゃん、ラップかけないと味が落ちるよ(^^;)
寅「いいよいいよ、おふみちゃん、…ありがとう」
一同、ビックリ!
おばちゃん小さな声でさくらに
おばちゃん「おふみちゃんって…」手には卵。
みんなどう言っていいか分からない。
タコ社長入って来る。
さくら「ほらあ、下宿に移るかもしれないって
書いてたじゃない、どうだったの、そのことは?」
寅「ああ、それは…、おふみちゃんが
そうしたほうがいいって言ってくれたんだ…」
さくら「へえ…、お、おふみさん、…が、そう言ったの?」さくら上手い!(^^;)
寅「うん、芸者は金で苦労してるからなあ…」
さくら「そうね」知らないのに知ってるふり(^^;)
博「きれいな人でしたか?」
寅、僅かに顔が緩み、微妙にニタつく。
はあ〜…ダメだこりゃε〜( ̄、 ̄;)
社長「誰のことだい?」
おばちゃん「おふみさんって人」
社長「誰だいおふみさんって?」
さくら「芸者さん」
社長「どこの!?」
おいちゃん「なんにも知らないんだから黙ってろよ!おまえは」
この話の腰を折っていく社長のパターンは
第13作「寅次郎恋やつれ」の温泉津の話題で
使われていた。
博「気にしないで下さい兄さん」
寅「いい女か?って聞いてるのか?」
博「ええ…」
寅「フ…。もしここへスゥーっと
現われたらな、タコは腰抜かすよ」
さくら「へぇぇー、そんなにきれいなの?」
寅「抜けるような白い肌。
それが嬉しい時なんかパーッと
桜色に染まるんだよ。
寅「悲しい時は透き通るような青白い色。
黒いほつれ毛がふたすじみすじ、
寅「黒い瞳に涙を一杯貯めて、
『寅さん、ウチ、
あんたの膝で泣いてもえええ?』」
一同「…!!!!
寅「はああぁー…」
一同、下を向いている。
寅「可哀想だったなあ…、
あん時のおふみさんは…。」
満男興味津々でニコニコ。
さくら「で、…どうなったの?」
寅「……」
博「兄さんがいろいろと力になって上げたんでしょ?」
寅「気持ちだけはあるんだ」
さくら頷く。
寅「でも、いくら気持ちだけあったって、
何してやりゃあいいのかわからねえんだよ。
金はねえしなあ…、ましてや、頭でも良けりゃァ、
何か気の利いた言葉のひとつも
かけてやれるものを…、それもできやしねえ」
寅、腹巻から、例の広告の裏に書いたふみさんの
書き置きの紙を取り出し、広げる。
大事に腹巻にしまってあったんだね(^^;)
寅「そんなおいらにあいそをつかして、あの子は行っちまったのさ…」
みんな、紙の文字を眼で追っている。
寅「『これからどうして生きていくのか、
一人で考えていきます。
寅さん、お幸せに…』
フ、そう行ってね…」
柱時計 ボーンボーンボーン…
寅「まあ、いまさらそんなこと言ったって、…
こら愚痴になるだけだからさ、ね、
今夜はこのあたりでお開きってことにしょうか」
さくら「…そうね」
寅「うん」
寅「ごちそうさん」食べてないよ(^^;)
さくら「はい、お粗末様」
博「はい」
寅「でも、考えてみりゃァ、
オレは幸せもんだよなあ、
こうやって温かい家族に
迎えられてよ。おいちゃん、おおきに」と深々と礼。
おいちゃん「とんでもない」
寅「お茶の間のみなさん、おやすみやす」(^^;)
おやすみやす
一同口々に「おやすみなさい」
寅「はあー、しんど」
と階段を上がっていく。
一同沈黙。
博「ま、…ふられたことには間違いないな」
ふられたんじゃないんだけどね(^^;)
この頃は、たいていふられるんじゃなくて、逃げてるんですわ。
社長「へ!?じゃあ今回は
お目にかかれないの?美人に?」
博「そういうことですね。」
意識を変えて
博「満男、帰るぞ」
社長がっくりして立ち上がり
社長「なーんだい、つまんないの」
寅の恋愛はタコの娯楽ですからね(^^)
満男「『おやすみやす』って大阪弁でしょ」
博「そうだぞ」
江戸川土手
寅と源ちゃんが川面を見ている。
寅「源公」
源ちゃん「へえ」
寅「おまえ、大阪生まれだったな」
源ちゃん「へえ」
寅「お袋の顔覚えてんのか?」
源ちゃん「覚えてへん。おかんワイのこと産んで、すぐ男と逃げたさかい」
寅「そうか…、悲しいこと思い出させちゃって悪かったなあ…」
寅、土手に体を寄りかからせて
寅「はあ…」
源ちゃん、スッと立って、昔のことを思い出したのか、悔しい顔をし、涙ぐむ。
そのあと源ちゃん転んでギャグになる。
寅、雪駄を叩いて、
寅「バカ野郎」
しんみりさせて、ストンとこかす。
相変わらずただじゃすまない山田演出でした(^^;)
謎の男源ちゃんの生い立ちの物語が少し垣間見れたシーンだった。
Eふみさんの訪問と衝撃の事実
題経寺山門前
題経寺山門前で水をまいている御前様。
さくら、スクーター乗ってきて、前で止まり、
さくら「こんにちは」
出た!マスカット色のヘルメット!ヽ(*⌒∇⌒*)ノ
御前様「あー、どうかな、寅の具合は?」
さくら「おかげさまで、なんとか」
御前様「やはり旅の疲れかな?」
さくら「ええ、それもありますけど、どちらかと言うと、精神的なこと…、
いーえ!精神なんてほどのことじゃないですけど」
御前様「ほー…、やはり大阪の芸者に失恋したのがこたえたのかな」
さくら「あら、御前様そんなことまでご存知だったんですか?」
御前様「それぐらいのことが分からないで題経寺の住職が務まりますか」
さくら「恐れ入ります」
ホースの水をまきながら、
御前様「ハアーァ!、ハアーァ!、ハアーァ!、ハアーァ!」
このシリーズ一番の御前様笑い(^^)
隠密源ちゃんか隠密タコ社長のどちらかが知らせたんだな。
さくら「フフフフ…」
さくらこれは笑うしかないね。やっぱり可笑しいよ(^^)
とまたマスカット色のヘルメットを着ける。
かわいい〜♪(^^)
帝釈天参道
ふみが柴又駅からやって来る。
うなぎの『たなかや』の前、横断歩道を渡って歩いていく。
とらや 台所
おばちゃんが忙しいそうに草だんごを詰めている。
谷よしのさん登場!!
谷さん「まだああ?」
おばちゃん「すいません、お待たせして、今すぐできますから」
食べていた客「おいくらですか?」 大人2人、子供2人。
おばちゃん「はいはい、えーっと…、
♪おでん〜とお、茶飯ーぃと、ジュースで1750円になります」
歌うようなテンポでリズムをつけるおばちゃん。年季の入った演出です(^^)
谷さん「まだですかあ?」イラチの谷さん(^^;)
おばちゃん「はいただいま!」と谷さんに駆け寄る。
大忙しのおばちゃん、
ふみ「ごめんください」
ふみさん、やって来ました大阪からアポ無しで。
どのマドンナにも言えることだけどアポ無しで来ちゃって、もし寅がいなかったらどうするの?
隆子さん、葉子さん、典子さんのように「寅不在時の訪問」になっちゃう時もある。
ふみ「あのー、こちらとらやさんですね?」
おばちゃん「はいそうですけど」
ふみ「寅さんいてはりますでしょうか?」
おばちゃん、びっくりして
おばちゃん「あ、はい、いてはりますけど…、
あの、さっき散歩に行くといって出かけましたが」
普通は寅は旅に出かけてるからまず、いないよ。
ほんとラッキーな人だ。
社長、台所からのれんを上げて見ている。
ふみ「いやああ、そうですかあ!
うち、浜田ふみと申します。
大阪で寅さんに大変お世話になりましてえ」
おばちゃん「はああああ!あの芸者さん!?」
いきなり言いますおばちゃん(^^;)
ふみ「はい!」
おばちゃん「あら、ごめんなさい悪いこと言っちゃって…」と反省。
ふみ「いいええ!」
おばちゃん「あの、寅、もうおっつけ戻ってくるでしょうから、
とにかくおかけになって、さあ、どうぞ、どうぞ」
と、イスを勧める。
社長「遂に来たね!ベッピンが、
大変だぞこれは!博さんに教えてやろ」
と、まずは工場に知らせに行く。
社長ひまだねえええ〜 ┐(-。ー;)┌
電車の音
客「ごめんください〜」
ふみ、すぐに機転を利かせて、立ち上がり、
自分の荷物をよけ、店員に早変わり。
ふみ「おいでやす、なにしましょ?」
野球帰りの関敬六チームが笑いながら入って来る。
敬六さん「あー、美人だなあ!」言うかいきなり(−−;)
友人「またまたーハハハ」
敬六さん「姉さん、ここの店員さん?」
ふみ「へえ、そうです」
敬六「まず、ビールにしょうか」
ふみ「へえ」
テキパキと接客するふみ。さすが百戦錬磨である。
裏から博を連れて社長が戻ってくる。
社長「ほら、あの人あの人」
博、暖簾の下から見ている。
おばちゃんを押しのけて見ようとする社長に
おばちゃん「ちょっとー、見物に来たのかい?工場暇なの?そんなにあんたんとこ」
工員たちも全員押し寄せてくる。
社長、裏へ追い払いながら
社長「なんだい、今忙しいんだよ、よおお、暇じゃないんだから…」
あんたはどうなんだ ヾ(−−)
そこへ、さくら、やって来て、ビックリ(@@)
さくら「!!????」
????
さくら、台所に来て、
さくら「おばちゃん」
おばちゃん「あ、さくらちゃん」
さくら「誰?あの人?」
おばちゃん「あのね、大阪の芸者さん」
さくら「じゃあ、お兄ちゃんの?」
社長「そうよ、恋人よ」
と、小指を突き出す。下品だねえ〜相変わらず(−−;)
ふみ台所に戻ってくる。
ふみ「おばさん、おでん2つと
磯乙女ところてん、とりあえず」
おっと赤飯は!?忘れてる??
ふみまた店に行こうとする。
おばちゃん「あ、あの!寅の妹の」
ふみ「やー、さくらさん」
寅の絵馬に書いてあったもんね(^^)
さくら「はい、はじめまして」とお辞儀。
ふみもお辞儀。
おばちゃん「あの、これは、夫の博です」とタコ社長を紹介(@@;)
社長も、そのまま挨拶 ちゃうちゃう ヾ(ーー )
ふみ「ひゃー、はじめま…」
おいおい、ふみさん、タコ見て分からんか??ゞ( ̄∇ ̄;)
博、横から
博「違います、僕です」そらそうだε〜( ̄、 ̄;)
ふみ「!!」
一同 爆笑
ふみ「フフフ」
さくら「手伝ってもらってたのー?」
おばちゃん「だって私しかいないんだもん」
夜 工場の2階
いつも思うんだがこの朝日印刷の看板だれが見るんだろう?
位置的に、道に面していないのでとらやの住人しか見ないのでは?
工員たち、みんなでふみさんを覗いている。
ふみが店を手伝ってくれたお礼をみんなで言い合って、ふみは恐縮している。
おばちゃん「ほらこれ、おみやげ」
さくら「対馬からよ」
博「対馬って九州の向こうの?」
さくら「知り合いの方がいらっしゃるんですって」
満男「ここでしょ?対馬って」
ふみ「そう」
とらやの家の話になって、
ふみ「え、アハ、あれいつだったかしら寅さんがこの家の事とっても古いって言うから
ウチがいつごろ建てたん?って聞いたら」
さくら「うん、お兄ちゃん何て言った?」
ふみ「奈良時代だって」
おばちゃん「え〜?」
博「アハハ」
おいちゃん「いい加減な男だな」
おばちゃん「口からでまかせに言うんだから」
満男「本当!?」満男って…(^^;)
博「違うよバカだなあ」
さくら「ちょっとちょっとお兄ちゃん帰って来た」
寅「♪別れ〜にぃ星影のワルツを歌おうかァ〜おーい、
源公!お前二日酔いで鐘を撞くの忘れたら
承知しねえぞ!この野郎、たのむぞ」
おいちゃん「ビックリするぞあいつ」
さくら「ねえ、ちょっと隠れてたら」
出たアアア!さくらあああ、お茶目!!
\(o ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄▽ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄o)/
第46作「寅次郎の縁談」でも葉子さんを隠れさせて、
満男を驚かせていたが、あれもたぶんさくらの提案。こういうところが最高にいいね、さくらって。
ふみ「え?」
さくらのこのお茶目な顔見てください(^^)
博「それがいい」博まで(^^;)
さくら「そこの後ろ」
博「そこの陰陰」
ふみ「え」
おいちゃんたち手でもっと襖の端の陰に隠れさせ、
みんなお膳を整え、ふみが座っていたところを寅の席とする。
ハンドバックをお膳の下に隠したり大変(^^;)
寅「とらやの貧しき皆さん本日はご苦労様でした」
おばちゃん「はは、ご機嫌だねえ、待ってたのよ、ご飯食べないで」
寅「源公がよ、どうしても奢るって言うからね。あいつの顔立てて、一杯飲んでたんだよ」
源ちゃん、自分の生い立ちのことでちょっと
気にかけてくれた寅の気持ちが嬉しかったのかもしれないね。
あ〜あ、と座りながら、帽子を満男の頭に乗っける。
みんなにやにや
満男、ちょっと後ろを振り向く
寅、満男につられて、ちょっと振り向く。
寅「ん???」
何もいないので、元に戻って
寅「フフフ」
寅「なんだ、なんか楽しい事でもあったか?」
さくら「んん、別にいつものとおりよ」
と博の方を見て微妙に笑う。
寅「んー、いつものとおりの貧しい夕食が終わったわけだ」
さくら「うん」
寅「そうですか」
寅「なっ」
後ろからパッとふみが寅の目を手で隠す。
さくらたち声を出さずに笑う。
寅「ほらー!暑いんだから
そういうことするんじゃないんだよ満男!」
と、ふみの両手を持ちながら、
寅「まったくお前は不精だね、
そこへぶっ座ったままどうして後ろへ来て…??」
満男、ひじをお膳に着きながら寅を見ている。
寅、自分が持ったふみの手を見て
寅「???」
???
手を離して、満男の手を見て、
後ろのおいちゃんを見て、
親指で勘定し、
満男、おばちゃん、さくら、博、と
指で勘定し、
最後自分を勘定し、
指で、ペケマークを作り、びびる。
寅「誰かしら????」無声音(^^;)
さくら「いい人」 同じく無声音(^^)
寅「いい人????ヒヒヒヒ!」
寅「だれ…?」
と、振り返りざまにふみが顔を目の前に出す。
寅「は!!!!」
と寅お尻ごと飛ぶ。
ふみのテーマが流れる。
寅「な、なんだい!おふみちゃん来てたのかァ!」
さくら、大笑いして下を向いている。
ふみ「寅さん!しばらくゥー!!」
一同「ヤダもう!ハハハハ!!」
寅「いつ?いつ来たんだ?」
さくら「お昼過ぎよ」
ふみ「すっかりごちそうになってたんよー」
寅「なんでオレに知らせなかったんだよー」
さくら「だってどこ行ってたかわからないじゃない」
寅「バカヤろう!オレはずっと土手に行ってたよおめえ」
第32作「口笛を吹く寅次郎」では、さくらは江戸川土手に
いる寅に自転車で知らせに行っていた。今回は店が
大忙しでそんな余裕無しってことかな。
博、笑いながら
博「まあまあ、会えたんだからいいじゃありませんか」
おいちゃん、笑いながら後ろから肩を叩いて、
おいちゃん「怒るなよそんなにおまえ、フフ」
一同「フフフ」
寅「何しにきたんだい…フフ」
ふみ、おどけて
ふみ「寅さんに会いに来たんよー」
寅大いに照れまくって
寅「へへ、うそだよお〜、フフ、そんなことあるわけねえよ」くねくね(^^)
ふみ、寅を見つめながら微笑んでいる。
寅「あ、そうだ、金持ちの客に付いて、東京見物に来たんだろ」
ふみ「フフ…」と笑いながら首をふる。
さくら、台所から
さくら「お兄ちゃん、ふみさんはね、芸者さんやめたんですって」
寅「やめた??」
ふみ、静かに頷く。
寅、真面目な顔になって
寅「そうか…」
ふみ「あれからいろいろ考えてね」
寅「そのほうがいいよ、
お前芸者には向いてないもんな」
ふみ「そ、それでねぇ…」
と、下を向く。
ふみ「大阪、引き払うことにしたの」
寅「わかった!就職で東京に来たんだろ」
ふみ「……」
寅「大丈夫だよ!おふみちゃんだったらぜったいどこだって通用するんだから」
寅、乗り乗りで
寅「あ、博!おまえな、早速仕事の心配してやれ」
ふみ、寅を見て何か言いたげ。
寅「あ、おまえのみすぼらしい工場じゃだめだぞ!もっと立派なビルヂングのOLでなきゃ、な」
ふみ「……」
寅「おばちゃん、とりあえず2階に居てもらおうじゃないか。オレはこっちの
物置部屋でいいから、うん」
こういう時の寅は人生で最も至福の時間。
おばちゃん「ああ、私たちはよおござんすよ」とにこにこ顔。
さくら戸惑いながら
さくら「ふみさん、本当に東京で暮らすの?」
ふみ、静かに首を振る。
ふみ「…いいえ」と下を向く
寅「…!?」
寅「じゃあ、どこへ住むんだい?」
ふみ「反対のほう…、対馬…」
寅「つしま…?どこなんだそりゃ?」
満男、地図を指差しながら、
満男「長崎県だよ、玄界灘と朝鮮海峡の間にある島、ほら…」
寅、地図を覗き込んで
寅「……」
おいちゃん、自分の席に戻ってくる。
おいちゃん「なんでそんな遠いとこ行くんですか?」
さくら「ねえ」
博「対馬に仕事でも?」
ふみ、首を振る。
さくら「たとえば、お店持つとか…」
おばちゃん「ねえ」
ふみ「ええ」と小さく言って
ふみ「実はウチ…」
おいちゃん「ほう」
さくら「うん」
みんな注目
ふみ「結婚するんです」
一同凍る。
寅、真剣な目でふみとは違うほうを向く。
満男は寅を見ている。
寅を見る満男
博、おばちゃん、おいちゃん、
さくらもみんな寅を見ている。
沈黙が続く
博、我に帰って
博「満男!向こうで勉強してなさい!」
おいちゃん、満男の頭を押して、
あっちいってろと合図。
満男「いてえなあ」
とふてくされて、仏間に行き、座りながら
満男「ケッコンするんです」と物真似(@@;)
おいちゃん、カッ!と怒った顔(^^;)
ここで満男にこのギャグを言わせるとは、凄い切れ味。
肉を切らして骨を断つ山田演出の醍醐味。
吉岡秀隆君、初出演で相当な演技してます(^^)
ケッコンするんです
ふみ、なぜか言いにくそうに
ふみ「対馬から大阪に、板前の修業に来ている人がいてね、
今度島に帰って小さなお寿司屋さん開くことになったんです。
ふみ「その人、前からウチのこと思うててくれて、
…ウチみたいな女でも奥さんにしてくれるって、
そない言うんよ寅さん。」
寅「え……」と我に帰る。
さくら、寅を見て「……」
寅「…ん」
ふみ「でもねえ…、長い間芸者してたから
朝早く起きて掃除したり、水仕事したり、
そんな事できる自信さっぱりないんだけどね」
寅「大丈夫だよ、おまえだったら
きっといいおかみさんになれるよ。
料理の味付けだって美味かったじゃないか。
関西風のよ」
さくら「そうよ、今日ねお店の仕事手伝って
もらったんだけどね、私たちよりよっぽど
お客さんの扱いが上手なのよ、お兄ちゃん」
おばちゃん「そうそう」
寅「へえ、そうかい、そりゃよかったなあ」
おばちゃん「あんたみたいなお嫁さんが来てくれたら、
ウチなんか大助かりですよお」
寅「ほんとにそうだよ、フフ…」
ふみ「どうもありがとう」
博「あのー、いい方なんでしょう?相手の人も」
寅「決まってるよ!おまえそんな…」
ふみ「もう…真面目なだけでね…、
冗談一つ言わない男、寅さんみたいに楽しい人やないの」
と、寅のほうを見るふみ。
寅「な、へへへ、楽しいって…」
おいちゃん「楽しけりゃいいってもんじゃありませんよ男は」
寅「そらそうだ」きっぱり(TT)
博「大事なことは、人生を力強く生きることです。
兄さんみたいな人は、それがないんですよ」
ひでええ…そこまで言い切るなよな博(−−;)
寅「ん、ないない」
ふみ、苦笑い。
寅、消え入りそうな声で
寅「あるもんか…」(TT)
一同シーン。
ふみ、寅の顔を見て、気を使う。
いくら、ふみさんを勇気付けようとした発言とはいえ、
おいちゃんの言葉はまだいいとして、博の発言はキツ過ぎ。
そういう博はそんなことを言い切れるくらい立派なのか、
みんな似たり寄ったりじゃないのか?
さくら「ふみさん、おめでとう」
寅「いいえ」
と言ってしまって下を向く。もうあからさまに落ち込んでいる。
おばちゃん「よかったですねえ」
ふみ、少し緊張している。
もう、露骨に下を向いている寅。
寅も、そんなに露骨にショックが隠せないんだったら、
ここぞという時に逃げるなよな。
いくらでもチャンスはあったのに、と声を大にして
言い続けたい。やはりもともと心が二つに
引き裂かれてるんだね。
ふみ、寅の方を向いてちょっと心配そう
とりあえず、しょうがないのでふみさんのためにみんなで乾杯。
電話 リリリーンリリリーン
さくら、ふみさんにコップ渡して、電話口へ
ふみさんの婚約者のマコトから電話。
さくら「マコトさんって方」
寅小声でさくらに
寅「マコトさん…」
ふみ「ア…、ごめんなさい」と恐縮
そろそろっと立ち上がり電話の方へ。
一同気まずい空気
満男、身を乗り出してニヤつきながら
満男「マコトさんて誰?」
満男も好きだねえ。伯父さんの血かね〜(^^;)
博「うるさい!むこうで勉強してろ!」
ふみ、電話口で
ふみ「はい、もう宿に戻ったん?
ウチもそろそろ失礼するから…大丈夫
道分かる…ウチこっちでごちそうなったから、
なんかそっちで食べてて」
ふみさん、まことさんにとらやの
電話番号を教えたんだ。ふーん…(−−)
寅、スクッと立ち上がって不機嫌に、庭の方へ歩いていく。
限界なんだね…(−−)
さくら、寅の背中を追い、庭の方を見る。
雷が鳴っている。
とらや前 参道
大雨 雷
赤いタクシーが停まっている。
ふみ「じゃ、失礼します」
後部座席に急いで乗ったふみ。
窓を開けて
遠く、寅を見て
ふみ「寅さん、さいなら」
一同寅を見る。
寅、ちょっとみんなの目を気にして
寅「元気でな…」
その後も博の方をチラッと元気なく見る寅
ふみ「みなさん、さいなら」
みんなそれぞれ挨拶をするが…
みんなの心は寅のことで精一杯。
博、すぐに寅の方を見るが、
寅はもう2階に行ってしまっている。
おばちゃん「やれやれ、行っちゃった」わかるわかる(−−)
さくら「お兄ちゃんは?」
博「2階上がってった」
おいちゃん「今夜は可哀想だったな、見ちゃおれなかったよ、オレは…」
とらや 2階
さくら、寅の部屋へ上がってくる。
寅は暗い部屋のなかで黙って座っている。
さくら「凄い雨ねえ…」
寅、黙って窓の方を見ている。
さくら「ふみさん、よかったね、タクシー捕まえられて」
寅「わざわざ来ることはなかったんだよ、こんなとこまで…」
さくら「どうして?」
寅「ハガキ一本出しゃすむことじゃねえか」
メインテーマがゆっくり流れる。
さくら「そんなこと言っちゃ可哀想よ、わざわざそれを言いに来た
ふみさんの気持ちにもなってごらんなさい」
さくら、ふみさんのその『気持ち』ってどんな気持ちなんだ?
事情を知らないさくらに分かるはずないよ…。
寅「こっちの気持ちにもなってくれって言うんだよ。
こんな惨めな気分にさせられてよ…」
さくら「…はあ…お兄ちゃん…
よっぽど好きだったのね、あの人が…」
雨の音…。
雷が鳴り、寅の横顔が光る。
下を向き小さくため息をつく寅。
このシーンは、第15作「寅次郎相合い傘」の雷雨のとらや2階に
状況設定が非常に似ている。あきらかにあの作品を意識しているのは
間違いない。しかし、似ているが、似て非なるものとはこのことだと思った。
さくらの発言と寅の発言が噛み合ってないのだ。
二人は違うことを言っている。
さくらの言葉「わざわざそれを言いに来たふみさんの気持ち」ってどんな
気持ちなのか、私はさくらの説明を聞きたい。
まあとにかく、大阪のふみさんととらやのふみさんは
どうも噛み合わせが悪すぎるのである。
この一連のふみさんの行動は大きく分けて
以下の4つのパターンに大別できる。
@ふみさんは寅が彼女に惚れていることを知らずにいる。
そして自分は寅のことを友人、恩人としてとても感謝している
だけだとしたら…。
(感情的には歌子ちゃん、絹代さんのパターン)
ふみさんが寅のことをもともと友人、恩人としか全く思っていなくて、
お世話になったお礼と結婚の報告を兼ねてニコニコとらやに
やってきたのだったらさくらの言うことは間違っている。
要するに初期の頃に多かった寅の一人相撲ですむ話だ。
豆腐屋の節ちゃん、歌子ちゃん、などが寅の気持ちを知らずに結婚の
報告を嬉しそうにしている。歌子ちゃんのようにただ単に嬉し涙を流しながら
「寅さんは恩人よ!」の世界だ。
さくらが言うような「わざわざそれを言いに来た」のでなく、恩人の寅に
喜んで報告をしに来たことになる。だから「ふみさんの気持ちになってやる」
必要はないはず。ふみさんは苦渋の選択をしたわけではないのだから。
Aふみさんは寅が彼女に惚れているのを知っていて、
かつ、自分は寅に友人恩人以上の気持ちは
持っていないとしたら…。(感情的には夕子さんやりつ子さんのパターン)
もし、ふみさんが寅の気持ちを知っていたとしたら、
そして自分は恋愛感情がなく、友人、恩人としか思っていなかったと
したらこれは残酷なことを承知でやってしまっていることになる。
そしてこれならさくらのあの言葉「わざわざそれを言いに来た
ふみさんの気持ちになってごらんなさい」は意味が通る!
寅が傷つくであろうことを承知で、お世話になったけじめのために
来てしまっているのだから。ある意味ふみさんは針のムシロ状態である。
さくらはふみさんがこの心の状態でとらやに来ただと思ったのだろうか?
とらやでのふみさんの演出的にはこのAのようにも感じられる。
しかしそれではあの大阪の夜はなんだったのか?
自分がとても弟のことでお世話になったからといって、
寅の気持ちを知っているくせに、自分がいい人だと自分で思いたいだけの
ために、それはそれ、恩は恩と切り離してとらやまでお礼の挨拶に来ることは、
一見恩を忘れぬいい人のように見えるが、本当はその行為は完全な
自己満足の世界で、そこには寅の心を本当に思いやる気持ちがない。
そんなものけじめでもなんでもない。そっと離れて、時間が少したってから
それこそ丁寧な手紙を心を込めて出す方が寅は傷つかない。
もしこのAのパターンだとするとさくらはなぜ「そんなこと言っちゃ可哀想よ」
って言ったのか?可哀想なのは寅じゃないのか?
Bふみさんはかつては寅にほんの一時期恋愛感情があった。
寅にその気がないと思った彼女は、しばらくはショックだったが、
しかし、今は心がマコトさんの方にしっかり傾いている。
寅への気持ちは、今はもうほとんど友人、恩人に変化して
来ているとしたら…。(蝶子さんなど)
もし、ふみさんは寅のことをかつて好きだったが、
寅は自分のことを友人としか思っていなかったと、
誤解して、自分の想いを振り切り、その後マコトさんとのことを
考え始めた時に寅への恋愛感情は消えていって、
今は寅のことを友人、恩人だとしか思っていないのなら、
彼女のとらや訪問の辻褄は合う。
自分がとらやに訪ねていっても寅は自分のことを仲の良い友人としか
考えていないので、傷つかないだろうし、喜んでくれるくらいだ。と考える。
このパターンなら一歩踏み込んで結婚の報告をしても、逆に寅は喜んで
くれる、と考えるのが普通だろう。自分は結婚しようと思うほどに、もう
すっかり立ち直っているので安心してちょうだい。ってことになる。あの
夜自分をふった寅へ、元気になったところをみせつけてやりたい女性の
意地のようなものもあるのかもしれない。
しかし、それではなぜ「結婚するんです」という時の一連のふみさんの
表情が若干こわばっているのか?あの緊張感はどのような気持ちから
来ているのか?なぜ言いにくそうに言うのか?
寅は自分のことを女性としては好きではないに違いないと思っているなら、
どうして寅に気を使うような言い方をするのか?
だいたい普通、恋愛感情がなくなった場合は、もう少し明るく
「結婚するんです」って言うだろう。表情がちょっとこわばることもなくなる。
あの夜のことがあったにもかかわらず、それでもふみさんはやみくもな
自信で、寅が自分のことをまだ惚れていると思っているなら、そしてふみさん
の方はすっかり恋愛感情は消えてしまったとしたらBとAを合体したような
精神状態になる。
しかし、さくらの「わざわざそれを言いに来た…」がこのパターンだと
しっくりこない。でもそんなに合わなくもないか。
Cふみさんは表面的には寅への恋愛感情が消えたと思っている。
だからこそマコトさんとの結婚を決意した。
しかし心の隅に恋愛感情がまだ残っていて、
そのことと恩人であることが混ざり合い、行動がギクシャクし、
一貫性が保てなくなっている。
いわゆる心(表層意識と潜在意識)がどこかで引き裂かれている
状態だとしたら…。(第48作の泉ちゃんなど)
もし、まだ今でも寅のことをどこかで忘れられないのだとしたら、
どうして結婚のことをとらや一同の前で言ってしまうのか、
ギリギリでまだ迷っているなら普通は第48作で泉ちゃんが満男に
取った態度のように二人っきりの時にそれとなく気持ちを確かめようと
するのではないのだろうか。
あれは完全に結婚を決めてから、とらやに来ていると私は断定できる。
これは間違いない。そうだとすると、やはりこの物語の冒頭に書いたように、
そうとう表の心では寅への想いをすでに整理して、友人、恩人として思おうと
している自分がいる。自分自身も、その心が自分の全てだと思い込んでいる
のだが、心の底の片隅にまだ、ほんの少し忘れられない面影が澱のように
残っていて、その心が結婚報告とお礼という形を取って、会いに来させた、
ということになる。自分はもう大丈夫!と思いたいし、人にもアピールしたい
ので、マコトさんにも寅との思い出を隠さず話をし、とらやの電話番号も教えた。
なにももう隠す必要はないのだと自分に言い聞かせるように…。
しかし、それでもいざ、結婚の話をする時にはどうしても心が
微妙に出てしまい、若干こわばってしまうのかもしれない。
もし、そうだとしたら、ふみさんも、寅も、マコトさんも可哀想だ。
特にふみさんの精神が引き裂かれてしまっている。
これならさくらのあの「わざわざそれを言いに来たふみさんの
気持ちにもなってごらんなさい」はぴったり辻褄が合う。
しかしもしそうだとしたらふみさんの心は悲しい…。
私はこのCが正解だと長年思っている。
しかし…、しかしだ。もう一度あの結婚のことを話そうとするふみさんや
話した後のふみさんの態度を見てみると、
顔がこわばってはいるが、結構冷静で、意外に迷いはない。
第48作での本当の心を抑えていた泉ちゃんの複雑な顔とは
演出的には『全く異質のもの』に見えてしまう。どう見ても寅を試している
ようには見えないし、寅に結婚なんかやめろよ、と、言って欲しそうにも
到底思えないし、見えない。
もし、まだ、気持ちがあるのに、そんな『余裕のあるふり』をしているのだと
したら、このふみさんの気持ちの奥底は暗い嵐が吹いていることに
なってしまう。これは演出的にもかなり複雑だ。山田監督の気質的に
そこまでの複雑さは嫌うと思う。
私はすでに最初に意見を書いたように、対馬でのラストの涙を考えると
Cではないかと思っているのだが、ほんとうは
以上のようにまだはっきりとは分からないのである。
ほんとうにCなのだろうか…?
しつこいようだが、あの「結婚するんです」と言った時のこわばりながらも
迷いの無い姿はなんなのだろうか?黙りながらもあの『余裕』は
なんなのだろうか?まあ、泉ちゃんが満男を想う心より、ふみさんが
寅を想う心の方が想い方が浅かった、と言ってしまえば
それで解決するという人も多いかもしれない。
リリーと寅のような出会いではなかったと。
要するに『ちょっとある時惚れたこともあったんだけどね、今はすっかり
仲のいい友達』って感じ??(^^;)
泉ちゃんと満男にはいろいろな歴史があるといえばある。
つまりBなのだけどほんのちょっとCが混じっている。
だからこわばる。でももうほとんどBなので、それなりの余裕がある。
まあ結局のところこんな感じでとらえる人が圧倒的に多いかもしれない。
でも…それじゃ、ラストの涙は…?
今までの感謝と遠路はるばるの感動の気持ちが大部分の涙??
第18作の雅子先生だったらあの純情詩集のラストの笑顔は100パーセント
まじりっけなしの感謝と感動なんだけどなあ…。
やっぱりふみさんはそこは違うと思いたいし…たぶん違うし…。
で、結論としては、
★ふみさんの場合はまだちょっとCなのだけれどBの要素も
日々のマコトさんを交えた生活の中でどんどん芽生えて来ている。その現在進行形の時にマコト
さんの都合で一緒に東京にやって来て、ふみさんはとらやに来ちゃったってことかな。
以上、これが現在の私の結論である。
明日はまた違う気持ちかもしれない。
番外篇として、私の友人はこう言った。
『女性というものは時として「不可解、不可思議、意味不明」な行動を
取る生き物だからこういうことがおこるのだと…。後で思い出してもどうして
あんなことしたのか分からないらしい…』
これもある意味正解かな…?。つまり意味不明。
さらにもうひとつ、超番外編
別の友人のこれまた説得力のある発言。
『大阪にいるときは物語的に華やぐので二人ともルンルン恋人気分!
マドンナも寅の部屋に深夜来てもたれかかってドキドキ気分!
でも、マドンナにはもういっちょう恒例のとらや訪問もして欲しい〜!
で、ちょっとくらい辻褄が合わなくても、全部入れて盛り上がっちゃおう!!
つまり「ルンルン」「ドキドキ」「とらやでナゴナゴ」を無条件で押し込んだ
っていう脚本だった。物語上の必然性はとことんまでは考えていない。
つまり、『あれはあれ、それはそれ、これはこれ』(^^;)』
この制作側の気持ちを垣間見たような意見もそれなりに説得力が
ちょっとはあるなあ…。
Fふみさんを訪ねる寅と彼女の涙
夏真っ盛り 入道雲 蝉の声
とらや 店の中
おばちゃんが例のごとくかき氷をガシャガシャ回している。
新世界ホテルのオヤジが来ている。
さくら「お待たせしました、ちょうど入っておりますから
お調べになってください」
やっぱりさくらが払う羽目に…(TT)
オヤジ「いいえ、とんでもない。あ、ほな、領収書」
オヤジは相変わらず自分の母親のせいにして、自分はいい子に収まっている。
オヤジ「それに比べたらこちらのお方は実際ええお方ばっかりで、
寅やンからねえ、毎日のように聞いとりましてん。
おいちゃんおばちゃん確かさくらさん」
さくら「はい」
オヤジ「あ、まだ知ってます。裏の工場の社長はん、
あだ名がタコやそうで、タコそっくりのお方がいてはるそうでんなあ」
おいちゃん「そこにおります」
オヤジ「ハハ…」振り返って、飛びのく
オヤジ「どうもして礼いたしましたほんまに」
ペコペコ
社長「ほんとに失礼だ!!
風鈴屋の屋台が通る。
茶の間ではおばちゃんが
ふみさんからの手紙を見ている。
金魚蜂 金魚
ふみのテーマ ギター演奏でしっとりと流れる。
ふみの声
「暑い日が続いていますが、
さくら様はじめ皆様にはお変わりありませんか。
その折は突然おじゃましたのにもかかわらず、
優しい御もてなしをいただき、
ほんとうにありがとうございました。
長崎県 対馬
遠望
長崎県対馬市厳原(いずはら)町
厳原 (いずはら)
ふみの声
「対馬の暮らしにもようやく慣れて、
元気に寿司屋のおかみさんを務めています」
寿し処 海八
ふみの声
「住み着いてみれば人情は細やかで、
風景は美しく、どことなく故郷の島にも似て、
親しみのわく土地です」
ふみ「おかえり」
マコト「今日はええ魚やでえ」
ふみの声
「ところで寅さんは今どちらでしょうか。
あいかわらず、旅の暮らしでしょうか。
もし電話でもされることがあったら、
どうか、どうかふみが元気にしておりますと、
お伝えくださいませ。お願いいたします。
ご主人様によろしく。
さくら 様 ふみ」
ふみ、車の中の真鯛を持って、喜んでいる。
ふみ「ひゃーほんまおっきいわ〜」
とあわび貝を見ている。
マコト店の中で電話
マコト「ちょっと待って、今聞いてくるわ」
マコト外に出てきて
マコト「ふみ、」
ふみ「ん?」
マコト「おふくろから電話でなあ」
ふみ「ふん」
マコト「家のほうにあんた訪ねてお客さんが来てるがな」
ふみ「お客さん?」
マコト「ん」
ふみ「は、誰やろな?」
マコト「車さんちゅう人やて」
ふみ、驚いて
ふみ「車さん!?」
マコト「ああ、だれやァ、知ってる人かァ?」
ふみ「寅さんよ!ほら、いつも話してる寅さんよ!」
と店の中に走っていく。
マコト、ポカ〜〜ン
ふみを乗せたワゴン車、急いで実家へ向かう。
ふみのテーマがテンポよく流れている。
海沿いの道を
赤い万関橋を渡る。
長崎県対馬市峰町 青梅
青海(おうみ)の里
走って走って実家に着く。
車のドアを開け、ふみが満面の笑顔で飛び出す。
ふみ「寅さん!」
寅、門に座ってバテている。
ふみを見て、笑顔が戻って
寅「よお!元気そうだなあ!」
ふみ「わあー、来てくれたのー!こんなとこまでえ!」
寅「遠いとこだなあ、おい、えー、船着場からずっと歩いてきちゃったよ、ハハハ、」
頷いて微笑んでいるふみ
メインテーマ静かに流れ始める。
寅「まあ、暑いの暑くねえの」
ふみ「うん」
寅「死にそうだよ、半分死んじゃったよ、もう」
ふみ、感動しながら笑っている。
寅「ハハハ」
ふみ「フフ…」
ふみこみ上げてくるものがある。
ふみ「よく来てくれた…」
寅を見つめてみるみる涙が潤んで
全ての思い出が蘇り、
寅を見つめ…
泣きながら下を向く。
寅「うん、ん」
ふみ、寅に寄り添って泣き続けている。
寅、立っているマコトを見て
寅「よお」
マコト、お辞儀をする。
寅「あ、ご主人だね、
マコト「はっ」
寅「あの、マコトさんとか…」
と立ち上がる。
寅「ね」
とふみに。
ふみ、寅から離れ、今度はマコトに寄り添う。
寅「私、車寅次郎と申します…」
マコト「いや、挨拶は後で、『上がってもらって』、さ、どうぞ!」
とカバンと背広を持ち寅を早速案内するマコト。
マコト「とりあえず奥に、どうぞ!」
寅、笑いながら中に入ろうとして、足をつまずいてこけそうになる。
寅「アイタ!アイタタ」
ふみも一緒にこけそうになって
ふみ「キャ〜、フフフ」
人で笑いながら母屋に入っていく姿が小さく映り
青海(おうみ)の里の遠望が映って
ふみにとって寅は弟との最後の縁を取り結んでくれた恩人。
寅がいなかったら弟が亡くなったことさえ知らずに過ごしていた。
どん底に突き落とされたあの日、寅はふみのそばで慰め続けてくれた。
彼女の生涯で最も悲しい日に寅が寄り添い、一緒にいた。
そんな思い出深い寅が遥か対馬まで自分を訪ねて来てくれたのだ。
自分自身に封印していた寅へのもう一つの気持ちがどっとあふれ出て、
マコトがいる前で、寅の胸近くに顔をうずめ泣いてしまうふみ。
寅への万感の想いを込めたふみの最後の涙。
寅はそんなふみの気持ちをまるで知らないかのように
マコトに集中し、微笑みかける。
寅「よう!」
寅「あ、ご主人だね」
マコト「はっ」
寅「あの、…確かマコトさんとか…」
寅とマコトのコミュ二ケーションが始まって、ふみは我に帰り、
立ち上がってマコトの腕を掴む。
このあと寅はしばしマコトやふみと歓談し、懐かしみ、励ましあい、
夕方の船で帰っていったのかもしれない。
ふみは、もう、あのような目も、あのような涙も、そして、もう寅に身を
寄り添うこともなく、爽やかに、またいつの日か東京での再会を誓って
船に乗って行く寅をマコトと一緒にいつまでも見送ったに違いない。
ふみのあの涙は、青春の最後の涙だったのかもしれない。
終
第27作「浪花の恋の寅次郎」【本編完全版】はこちらから
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実は、『喧嘩辰』は、テレビ版「男はつらいよ」で、すでに第1話から
寅は歌っている。
映画版第1作で寅がさくらと20年目に再会した後、とらやの庭で
オシッコしながら「人生の並木道」歌うが、あそこでテレビ版から持って来て
アレンジしてあるのだがテレビ版ではあそこで「喧嘩辰」の1番を丸々歌うのだ。
またテレビ版最終話(第26話)のクライマックスでも「喧嘩辰」を歌っている。
さくらが、深夜、寅の幻覚を見て、裸足で寅を追いかけて外に走っていくのだが、
その場面でも寅は「喧嘩辰」を歌ってスッと消えていくのだ。これはなんとも悲しいシーンだった。
つまり、テレビ版は『喧嘩辰』に始まり、『喧嘩辰』に終っている。
テレビ版での寅の歌=「喧嘩辰」だったわけだ。
先日ようやく手に入った『テレビ版最終話の完全脚本』をさきほど
読み返してみたところ、ちゃんとテレビ版の脚本にも
「喧嘩辰」を歌っているセリフが書かれていたのだ。
つまり、あのテレビドラマの時点で
もうすっかりスタッフたちの間では『寅=喧嘩辰』になっていたということだ。
そうなってくると、映画の第1作で、途中までなぜ「知りたくないの」
を歌わせようとしたのか…ますます分からなくなってくるのだ。
まあ、いろんなことがわかるということは、
時にはややこしいことでもあるかもしれないが、
実に面白いことが多いのだ。