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寅次郎な日々

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まだ作品をご覧になっていない方は作品を見終わってからお読みください。



                 

再び『さくらのお母さん』のこと(2008年1月26日)

第30作「花も嵐も寅次郎」ダイジェスト版(2008年1月16日)

寅次郎の食べた握り飯の味(2008年1月10日)


新年のご挨拶(2008年1月1日)

藤子さんの恋人発覚 堺信吉さん(2007年12月26日)

第29作「寅次郎あじさいの恋」ダイジェスト版(2007年12月6日)

心がひとつになること  静かな名シーン(2007年12月5日)

永久の愛を伝えるその言葉 『海峡』(2007年11月28日)

六代目であり三代目でもある車竜造(2007年11月24日)

第28作「寅次郎紙風船」ダイジェスト版(2007年11月16日)

『あの人に会いたい 〜渥美清〜』(2007年10月11日)



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再び『さくらのお母さん』のこと   おばちゃんの貴重な証言



2007年1月26日 寅次郎な日々 その343


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



私は、もう随分前から『さくらのお母さん』のことが気になってしょうがない。

寅の心根の優しさは、大人になってから養われ始めたものではない。
人というのはそういうふうにできていない。
やはり幼少期に深く愛されて育たないと、自分が大人になってから人に多くの愛を与えられないものなのだ。
もちろん大人になってからのさまざまな人とのふれあいがその心の泉を豊かにしていくことは多々あるが、
やはりそれは幼少期の愛情があってのこと。親でなくても、兄弟でなくても誰かに深く愛された体験が
人の心を優しくし、なによりも強くもする。

私は、寅の場合は優しさの根源は誰だろうといつも考えている。彼はスーパーマンでも神様でも無いので、
誰かに愛され続けなければあの豊穣な人に対する愛情は放出されるはずもないのである。

おいちゃんやおばちゃんは、第1作をはじめ、何作かの作品で寅やさくらの父親である車平造のエピソードを
よく話題に出していたが、さくらのお母さんのエピソードはほとんど話題に出てこない。
父親の平造はもちろん寅を愛してはいたに違いないが、やはり寅の人格形成の大事な部分を
育ませたのはさくらのお母さんだったと思う。

一方、一見本命と思われるおいちゃんおばちゃんたちは、平造やさくらのお母さんが存命中はとらやに
一緒には住んでいないので、時々会ってはいたものの、そんなにも寅の人格形成に大きく影響を与える機会は
無かったとも思う。
だからやっぱり寅の優しさは、育ての母親であるさくらのお母さんの優しさなのだろう。

さくらのあの慈悲深い気質はさくらのお母さんの気質だと確信がある私にとって、やはりさくらのお母さんが
さくらや長男と寅とをわけ隔てなく同じように愛情を持って育てたのではないかと勝手に思い込んでいるのである。

このことがうかがい知れるシーンはほとんど無いが、以前も書いたように、第39作「寅次郎物語」の寅の夢の中で、
父親が寅少年に殴りかかろうとするのを身を挺してさくらのお母さんが止めているシーンがある。
もちろんこれは寅の夢なので、ひょっとして寅の願望がはいっているのかもしれないのだ。微妙なところではあるが、
全く逆の夢は見ないであろうからおそらく本当にあったことなのだろうと思われる。
オレを育ててくれた優しいおふくろ」とその夢の中でもそう言って回想している。夢とはいえこれは重要な発言だ。



           




もう一つは第47作「拝啓車寅次郎様」で、寅が茶の間で鉛筆を満男に売るために
自分の幼少期の母親の思い出を話す場面がある。

鉛筆を売るためのその場限りの作り話とは思えない、しみじみとした情感溢れる語りだったので、
私は、あれは寅の幼少期に本当に存在したさくらのお母さんとの思い出なのではないだろうか…、と思っている。


「おばちゃん、オレはこの鉛筆のことを見るとおふくろのことを思い出して
しょうがないんだ。不器用だったからねオレは。鉛筆も満足に削れなかった。

夜おふくろが削ってくれたんだ。ちょうどこのへんに火鉢があってな、
その前にきちんとおふくろが坐ってさ。白い手で肥後守を持ってスイスイスイスイ
削ってくれるんだ。その削りカスが火鉢の中に入ってプーンといい香りがしてな…。

綺麗に削ってくれたその鉛筆でオレは落書きばっかりして勉強一つもしなかったもんね。
でも、これくらい短くなるとな、そのぶんだけ頭が良くなった気がしたもんだった…」


こんな臨場感のあることを、いきなり満男のためとはいえ、作り話で寅がしみじみみんなに言えるとは
私にはどうしても思えないのだ。

しかし、これもやはりギリギリではこちら側の推測の域を出ない。作り話の可能性も残る。



そして、実は、夢でも推測でもなく、たった一回だけ、おばちゃんの発言で、自分の確かな記憶のもとにさくらのお母さんが
寅のことを大事に思っていたことをうかがわせる言葉があることをつい先日思い出したのだ。


第46作「寅次郎の縁談」で、満男が就職活動の壁に当たって家出してしまった時、たまたま帰ってきた寅は
一週間程度の家出はたいしたことない、自分は16歳の時に家出をして以来20年間も家に帰らなかったんだ。
と自慢げに言うのだが、それに対しておばちゃんがこう怒るのだ。

おばちゃん「
おまえが帰ってこない20年間、
     あんたのおっかさんや私たちがどん〜だけ心配したことか。
     そんなこと考えたこともないだろ、ふん、この親不孝者め



このおばちゃんの発言は『証言』とも言えるほど確信めいていて、疑う余地の無い明確さがある。



今、ハッキリ私は確信できる。


寅は育ての母親に深く愛されていたのだ。





               








第4作「新.男はつらいよ」本編完全版(前篇)たぶん2月10日前後です(^^;)
気長〜〜ぁにお待ちください。



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第30作「花も嵐も寅次郎」ダイジェスト版


2007年1月16日 寅次郎な日々 その342


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


     




引き裂かれる心 恋のキューピットの本音      花も嵐も踏み越える寅次郎



第30作「花も嵐も寅次郎」は華やかである。あのジュリーこと沢田研二さんとあの田中裕子さんが
共演されているのだから凄い。話題性抜群だ。
おふたりがこの共演を境に急激に恋仲になり、不倫になってしまってすったもんだの後で数年後に結婚されたのは
みなさんご承知の通り。なぜジュリーかというと、あのジュリーアンドリュースのファンだったからだとか。
ちなみに私もジュリーアンドリュースが大好きでサウンドオブミュージックは30回は映画館で観た。

それにしても田中裕子さんのあのぞくぞくする不思議な魅力はナンだろう。
私はもし自分が人生でたった一度映画監督をすることができたら、そして主役の女優さんを
起用するとしたら、夏目雅子さんか田中裕子さんしか頭に浮かばない。
そして彼女たちに合わせた物語を私は作るだろう。

このお二人は共にその体の中に二つの相反する魅力を兼ね備えられている。
清楚さと妖艶さである。いかにも清楚という方はたくさんいるし、いかにも男好きする感じの方も
枚挙にいとまがない。しかし、このお二人は見た目は清楚で中性的でさえあるが、心の中に
燃え盛る炎を感じる。押さえきれないような激しい情を感じるのだ。そしてその立ち姿に「華」がある。
CALLING、天性の女優さんだ。私にとって田中裕子さんといえば、この翌年に出演したあの三村晴彦監督の
「天城越え」である。あの映画を見た人は、彼女の中にある怖いくらいの純情と魔性の両方に震えたと思う。
近年でも「いつか読書する日」や「火火」でも静かな生活の奥底に燃え盛る炎を見事に演じられていた。
特に「いつか読書する日」の田中さんは心の奥の奥に誰にも見られないように情念を隠し持つ人を演じていた。
もう彼女以外誰もあの役はできない。いや、彼女のための映画だと言い切っていいと思う。


この第30作でも蛍子さんの友人のゆかりさんが寅に、「ほら、へんな色気があるでしょう、この人」って言っている。
やはり山田監督もその魅力を強く感じていたのだろう。監督はそれから14年後、第49作「寅次郎花へんろ」で、
おそらく寅の最後になるであろうマドンナとして田中さんを再度起用したのだ。
結局それは夢と終わってしまったが…。ああ…しっとりとした魅力の田中裕子さんと渥美さんの絡みを見たかった。
ああ…残念、無念。


さて、今回は、自分の恋愛をひた隠しにして、物語の中盤から三郎青年と蛍子さんを結ばせるためにひたすら奮闘する寅。
山田監督は寅にシラノ.ド.ベルジュラックのごとく、我が想いを隠し、ひたすら若い二人の恋を援護射撃させるのだ。
そして遂に三郎青年は谷津遊園の大観覧車の中で彼女に告白しキスをする。

              

そして、彼らの恋が成就したことを知った寅は、やはり淋しげに旅に出てしまうのだった。


最後に、寅がさくらに言った言葉こそがこの物語の本当のメインである。


寅「さくら…
さくら「なあに
寅「やっぱり二枚目はいいなあ…、ちょっぴり妬けるぜ…

その言葉を聞いて呆然と寅を見つめるさくら。
           
やはり、寅は年の差も考えず、心の奥底で蛍子さんのことが好きだったのだ。

夕暮れ迫る店先でのこのさくらと寅の表情がなんとも切なく美しかった。
この二人の表情がこの映画のメイン。

これがあるからこの映画はやめられない。







今回も夢から


ブルックリンの下町で幅をきかすスケコマシのジュリー、美しいさくらに目をつけるが、
さくらは鼻であしらう。

               

怒るジュリーだったが、

そこへブルックリンの寅が戻ってくる。

               


脚本では『ジゴロの寅』(^^;)

               

ジュリーはナイフを取り出して構えるが…

寅「色男、そんな腰つきでオレが刺せるか
修羅場を数多くくぐってきたその目で睨まれたジュリーは貫禄負けをしてしまう。

ジュリー「悔しいけど、貫禄負けじゃ」とナイフを壁に投げて、逃げていく。

               


ここからなぜかお馴染みSKD松竹歌劇団の「桜咲く国」が歌われ始め
なぜか神父の御前様、やとらやの面々、社長、源ちゃんなどが階段で寅を招いている。
いつのまにか労働者のラフな格好に変身した寅が、みんなの中で笑っている。

脚本ではまばゆいばかりのタキシードに雪駄履き(^^;)


かつて、ブルックリンに平和が蘇った。希望と幸せに満ちた朝の光が今しも燦燦と、
ふりそそごうとしている。



               



夢から覚めて


小さな寺で転寝している寅。

起きてあくびをする寅。
               

そこへおばあちゃんがやって来て、寺の鈴を鳴らそうとするが、上手く鳴らない。
そこで、寅が手伝うのだが、思いっきり振りすぎて鈴がおっこちてしまうというシンプルギャグ。

鈴を背広で隠す姿がおかしい(^^)

               

寅とおばあちゃん二人で大笑い。

寅「神様どうもすみませんでしたと笑いながら逃げていく。

仏様じゃないのかい(^^;)

脚本ではこの鈴落としギャグは無い


               



タイトル

「男はつらいよ 花も嵐も寅次郎



口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
   帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
   人呼んでフーテンの寅と発します。



   ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


   ♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら こんな苦労も
   こんな苦労もかけまいに かけまいに♪




江戸川土手に立つ寅。

またもや帰ってきたのだ。

               


測量士に扮したアパッチけん(中本賢)と光石研のコンビによるミニギャグ。

頼んで測量士の望遠鏡を覗かせてもらって喜ぶ寅。

この二人は第36作「柴又より愛をこめて」でも本編の中で活躍していた。

アパッチさんも光石研さんも立派にこの映画の中期の常連さん。
残念ながら当時はさほどセリフとかもらってない。


第25作「ハイビスカス」ではOPで白糸の滝の近くの茶屋でカップルが蕎麦食べて
長椅子でひっくりかって、寅とコント(^^;)

第26作「かもめ歌」は葛飾高校の定時制の生徒ですみれちゃんと同じクラスの吉田。
松村達雄さんに
「おい吉田!おまえいつも駅の便所で汚いク○の仕方してんじゃないか!?」
ってからかわれてたあのアンちゃん(^^;)


この第30作あたりからアパッチけん(今は中本賢)さんと光石研さんのお笑いコンビ
って形でギャグをかます。第30作OPのコントでは二人で測量技師。
二人で大げんか。
(光石さんは遠くからしか映ってない )

で、ついに第36作「柴又より愛を込めて」ではこの二人かなり目立っている。
この36作ではではセリフかなりもらっていきなり出世。
二人は式根島の真知子先生の教え子役で、同窓会やったり、寅とかなり会話したり、
最後は浜名湖 館山寺港で遊覧船のお客さん誘導係り&船長かなんかをしていた。

アパッチさんはゲン
光石さんはオサム(ポン)



ちょうどこの頃作られた「キネマの天地」でもスタッフ役で2人とも出演。
主役の田中健さんがわがまま言うもんで、みんなで喧嘩。

アパッチさん(今は中本賢さん)は皆さんご存知
あのハマちゃんの隣人の釣り船の人(^^)



       


で、コントに話しを無しを戻すと

向こうの草むらににいちゃつくカップルがいるのである。

もう一人の測量士は、遊んでいる同僚に怒って、測量棒で頭を叩く。

叩かれた男は、逆上し大喧嘩。

一方例のカップルの方も結局大喧嘩している。

寅は、知らん顔で笑いながらいつものようにスタコラ歩いていく。





本編


歌が終って、本編に入ると

なんと参道をいきなり花売りの谷よしのさんが歩いてくるではないか!

谷さん、最初で最後の本編トップランナー!

               

さくら、自転車でとらやにやって来て、おばちゃんに袋包みを見せる。

さくら「おばちゃん、これなんだと思う?わっ!」と広げる。
おばちゃん「あら!松茸!どうしたの!?
さくら「御前様にいただいたの、到来もののおすそ分けですって

みんなで松茸の話題で大騒ぎ&匂いかぎまくり。

社長「あ!松茸!ほんもんだよこれ」と鼻をつけて匂う なにもそこまで… ヾ(^^;)
おばちゃん「鼻をくっつけないでよ汚い

国によっては松茸が採れても、匂いが嫌であまり食べない国民もいる。
私も松茸より、張りのある肉厚なシイタケのほうが香りも味も好きである。

               

社長「いいじゃないか減るもんじゃなし
おいちゃん「減るぞ、そんなに吸ったらおいちゃんっていったい…(^^;)

寅がいたら、一緒に松茸料理が食べられるのに…と淋しそうなおばちゃん。
さくらも「どうしてるんだろ…」と心配している。

谷よしのさん、お彼岸の花売りでとらやの店先に再度登場。

谷さん「お彼岸のお花いかがですか
おばちゃん「あ、買っちゃったわ、さっき
谷さん「あ、じゃまたお願いします

               


その時、前の江戸家の桃枝が派手な服着てやって来る。

渥美さんと仲のいい朝丘雪路さんがチョイ役で出演。

おいちゃんは、結婚と離婚を繰り返す、この江戸家の娘のことを気に入らない様子。


桃枝、店に入って来て

桃枝「あ、そうだ、寅ちゃん!寅ちゃんどうしてんのよー

寅のことを『寅ちゃん』と呼んだのは、
冬子さん、夏子さん、花子ちゃん、千代さん、そして…桃枝さん(^^)。


さくら「ええ、元気だと思いますけど、フフ
桃枝「あいかわらず一人もん?
さくら「ええ、フフ
桃枝「いいわね気楽で私も一人になりたい、フフフ



なんて冗談を言っていると、寅が参道に現れる。

桃枝「寅ちゃーん!!」と両手でバンザイ。

さくらたち「…!!

寅、やって来て

               

寅「あー、おお!おほっほ、なんだ桃枝じゃないか!

桃枝「いやあ!フフフ!今噂してたとこよォー!

と、寅の手を握って馴れ馴れしくじゃれる桃枝。

寅「なんだおまえ、しばらく見ないうちに
 ずいぶん色っぽくなっちゃったじゃねえか、ハハハ


桃枝「調子のいいこと言っちゃって、フフフ

寅「いや、ほんとう、フフフ


社長、台所から覗いて

社長「もう惚れちゃったのかい?早いねェ〜今度は

               


それ聞いて、心配顔のさくら。

で、ふたりが過激にいちゃついているところへ、怒った旦那がやって来て、
桃枝は当然旦那のところへ…。で、ハイさよなら。

社長「もう、ふられちゃったのかぁ、こりゃまた早いねえ〜座布団2枚(^^;)

さくら、これまた心配そう…。

寅、我に帰って入りにくそうに入ってくる。

               

寅「ヘヘへ、亭主がいやがる、まいったよ。
 よ、さくら元気か


さくら、ちょっと沈みながら

さくら「おかえり

おいちゃんは、桃枝といちゃついていた寅が情けなくて内心かなり怒っている。

寅「何か気にいらねえことでもあるのか?」と、ふてくされながらもとりあえず二階へ。

    


夕方   とらや  茶の間


みんなで松茸ご飯を食べようとするが…。

おいちゃんは、昼間の事で機嫌が悪い。

で、寅も連鎖反応で機嫌が悪くなる。

             

そこへ例のごとく社長がやって来る。

社長「いい匂いだねえ、松茸の茶碗蒸し
寅「あー、来た来た、意地の汚いのが、松茸しまっとけ

と、やっぱり機嫌が悪い。

松茸ご飯をかき回しながら

寅「なんだい、松茸なんか入ってないじゃないか」と不満そう。

満男、自分の茶碗に松茸見つけて

満男「これが松茸だね」と一切れ混ぜる。
さくら「そうそう


寅、満男に

寅「あ、いい女!いい女だ子供に言う言葉かよ ヾ(ーー;)

             

満男つい店先を見る。 子供だもんね(^^;)

関係ないおばちゃんや博まで見てしまっている(^^;)

で、素早く満男の松茸を奪い取ってしまう。

満男「あ!ずるい!返してよォー!

寅「卑しいマネするんじゃない!おまえはぁあんたやあんたやヾ(−−;)

さくら「お願いやめてよー
おばちゃん「一人に、一きりずつちゃんと入れたんだから!よく探してごらんよ

おいおいおい、たくさんもらってたじゃないかおばちゃん一人5切れは入るはず。
茶碗に一切れとは究極の少なさですね(TT)


そして怒りが溜まっていたおいちゃんが爆発する。

おいちゃん、めがねを取って

おいちゃん「じゃあ、言わせてもらうけどな、いったいなんだ今日のざまは、
      久しぶりで帰ってきたかと思いや、オレたちに挨拶もしねえで、あの向かいの
      ふしだらな娘といちゃいちゃいちゃ!あれが、いい大人のすることか



寅は幼馴染に挨拶しただけと言うが、おばちゃんもおいちゃんも納得していない。

おばちゃん「挨拶だったらね、文句なんか言わないよ!
寅「なんだよおばちゃんまで
おいちゃん「もっと言え!もっと!(^^;)
おばちゃん「大きな声だして、手を握り合って、おまえのことが忘れられなくてなぁ〜、
     なんて、あたしゃね、恥ずかしくて顔から火が出たよ!
と、そっぽを向く。
寅「ヤボだなあ…、冗談を言ってんの冗談を

博も丸く治めようと寅に賛同するが、あのタコが…(TT)

社長「
冗談か?冗談じゃないだろ。本気で惚れてたんだろ寅さん、へへへ
と、混じりけのない本質をからかいの目で言う憎い社長。

                


で、もちろん二人は大喧嘩。

茶碗蒸しぶちまげ。めちゃくちゃ。

おいちゃん遂に

おいちゃん「寅!出てってくれ!
一同シーン。
さくら、おろおろ。
寅「おいちゃん、出て行けって言うのか、そうか…、
  それを言っちゃあ〜おしまいだよ


おばちゃんメソメソ…

寅、怒って二階へ駆け上がり、下りて来て本当に出ていこうとするが、
意外にもさくらは寅を止めようとしない。


               

寅「さくら、止めるなって言ってんだろ!言って無い言ってない(−−;)
さくら「」下を向いたまま黙っている。

寅、悔しくて、もって帰ってきたお土産を乱暴に茶の間に置いて、
本当に旅立ってしまう。

               

寅が旅立ったあと、そっとお土産を手で持って涙ぐみ、
いつまでも外を見ているのだった。


おいちゃん「さくら、なんで止めねえんだ。おまえが止めてくれると思ったからオレは…

さくら「だって、おいちゃん『出て行け』だなんて言うんだもん、ウウウ…
と手を覆って泣き崩れる。

後悔の念に駆られ、下を向いてしまうおいちゃん。

               






九州  別府 鶴見岳

別府温泉奥の鶴見岳のハングライダー
湯布院の町全体を見下ろす展望台・狭霧台近くの小高い丘から飛び立つ。

ハンググライダーやパラグライダーの競技大会の飛行基地になる鶴見岳。


頂上のハングライダー基地から、空へ向かってハングライダーが飛び立っている。



志高湖 湖畔

下の公園でパンを食べながら、不思議そうにハングライダーを見ている寅。

寅、ハングライダーの人たちに

寅「兄さんよ、寒いのに空飛んで大変だな、フフフ最高のギャグ!座布団2枚!

               





豊後臼杵(うすき)


大林信彦監督の「なごり雪」の舞台


国宝  臼杵磨崖仏

臼杵磨崖仏(うすきまがいぶつ)は、大分県臼杵市深田にある4群60余体の磨崖仏。
「臼杵石仏(うすきせきぶつ)」の名で知られている。
1995年(平成7年)には国宝に指定された(指定対象は59躯)。
磨崖仏としては日本最初、彫刻としては九州初の国宝指定である。


               



満月寺境内にある石塔 日吉塔のそばを一人歩いていく寅。

               


臼杵磨崖仏のすぐ近くにある宝篋印塔(ほうきょういんとう)宝筐印(ホウキョウイン)塔(日吉塔):重要文化財、鎌倉時代後期


宝篋印塔の名は、内部に『宝篋印陀羅尼』を納めたことに由来する。
『宝篋印陀羅尼』とは、一切如来の全身舎利の功徳を集めた呪であって、
四十句からなる。これを誦すれば、地獄の先祖に極楽に至り、百病・貧窮の者も救われるという。





臼杵(うすき) 福良天神




望月

望月バス停でポンシュウに拾われて、車で福良天神へ。

鏡や色紙額、などの道具を売るバイ。


寅「さあ、ねえ、赤い赤いは何見てわたる、
 赤いもの見て迷わぬものは、木仏、金仏、石仏、
 千里旅する汽車でさえ、赤いもの見てちょいと停まるというやつだ。
 さあ!続いた数字がふたっつだ、ふたっつ。
 はい!日光結構東照宮、憎まれ小僧が世にはばかる、ね!
 日揮の弾正はお芝居の上の憎まれ役てなどう!


ポンシュウ「菜っ葉の肥やしで掛け肥ばかりかァ!言うねえポンシュウも(^^)

寅「掛け声ばかりで結構です。結構ね、ケッコウ毛だらけ
  猫灰だらけ、お尻の周りは糞だらけってのはどう、お母さん、ハハハ


               






湯平温泉


街を眺める一本松公園からの撮影


        


花合野川沿いの温泉

湯平温泉に車で来た三郎青年。周りを感慨深げに見ている。

               




中の湯付近


一方、旅行に来て宿を決めかねている蛍子とゆかり


               


蛍子とゆかり、格好良い二枚目の三郎青年が『湯平荘』を尋ねているのを遠くで聞いて、耳がダンボ

ゆかり「決めた湯平荘そのまんまでんなぁ〜(^^;)

二人で、クスクス笑いながら、そっと後を追ってゆく。



湯平荘  (外のロケ白雲荘

部屋の床の間に母親のお骨を置いて、感慨にふけっている。

蛍子たちも、三郎青年の後をつけて泊まりに入ってくる。

そして、それとは別ルートで寅も。


寅「おーい、誰もいないのかー、えー、この家のものは死に絶えたか?

このギャグは、遠く、第5作「望郷篇」でとらやにやって来たさくらがかましたギャグ(^^)


オヤジが出てくる。

寅「お、ホホホ、オヤジ生きてたか、えー、心配してたんだよー、
  この家潰れちゃったんじゃないかと思ってさ。経営者の頭古いから


オヤジ「オレが新婚旅行で来るまでやめるなってのは誰だ

               

寅「へへ、そんなことも言ったっけな
オヤジ「連れてきたのか嫁さん

寅「候補者が多いからな、選ぶのに手間食ってんだようまいうまい(^^)

いいやり取りだねえ〜。


このあと蛍子とゆかりが風呂に入っている超ささやかなサービスシーンが入る。(^^;)


               



で、しばらくして…


三郎青年がオヤジの部屋にやって来て、
自分の母親がこの旅館に勤めていたはずだと聞く。

               


オヤジは母親の『ふみさん』のことを今でもはっきり覚えているらしく、とても懐かしがっていた。

しかし母親のフミさんは病気で先日亡くなってしまったのだった。

オヤジ、三郎青年がふみさんのお骨と一緒に来ていることに驚き、
拝みに行こうとするが、
寅がこの部屋で供養してやろうと提案。

こうなると寅の独壇場だ。
葬式関連の行事には目が無いのだ。


第2作、第5作参照(^^;)


たまたま居合わせた蛍子さんたちも巻き込んで、立派な供養がいとなまれた。

しかし、寅は焼香台の火種の方を抓んでしまい、熱いので放り投げる。
それがたまたま坊さんの襟元に入ってしまい。
坊さんの服をみんなで脱がせる羽目に(TT)



殿山泰司さんのおとぼけとハシャギが笑えるコミカルなシーン。

オヤジ役の内田朝雄さんがまた渋い。

               

翌日、


久大本線の「湯平駅(ゆのひら駅)



『ゆのひら駅』で蛍子たちと一緒に汽車を待つことに。

昨日の火傷のキズを包帯で巻いてくれる蛍子に感謝する寅


蛍子たちはデパートで勤めているらしい。

寅「あれも大変だよな。一日中つったってなくちゃなんねえし、
 客に愛想よくしなきゃなんねえしな


頷く蛍子

寅「あれ見たり、これ見たりして、なかなか決まらない客にさ、
 『ねえ、おばさん、いい加減にしてくんない、
 何着たってあんた似合わないんだからさ』とも言えないしな、こりゃ、ハハハ
((((^^;)

               


ゆかりげらげら笑って大受け。


寅、蛍子さんに

寅「恋人はいねえのか?

蛍子、ゆかりを指差して、

蛍子さん「この人はいる
ゆかり「一匹だけ
寅「へへへ!
寅、蛍子の方を向いて
寅「姉ちゃんは?
蛍子さん「私はもてないもん…
ゆかり「また、そんなこと言ってェ、結構ファンがいるのよ、ほら、
   変な色気があるでしょ、この子



               


寅、まじまじ蛍子さんを眺める。

蛍子さん「どうしてそういうこと言うの〜
ゆかり「理想が高いのよ、私なんかと違って

蛍子さん「そういうんじゃないわよ。好きになった人が理想の人なのなるほどね( ̄ー ̄)

ゆかり「だからそれが理想が高いっていうのよ、フフ

蛍子さん「もう〜

               

寅よくわかんなくて

寅「なんだその、理想っていうの?
ゆかり「理想というのはね、お金持ちで、背が高くて、スマートで、ハンサムで

カメラを二人に向けて『カシャ』

寅「フハハハ、全然オレ当てはまんないや、ハハハと呆れている。

一応自分に照らし合わせてるから厚かましいし、面白い。




杵築 養徳寺


三郎青年がお母さんの供養をしている。

お母さんは 『島田ふみ』さん。  

母親に最後のお別れを言う島田三郎青年。


               



三郎「お母ちゃん…、オレ帰るぞ、お盆にまた来るからな。
   さみしないな、大丈夫やな、生まれたとこへまた帰ってきたんやものな」と涙ぐんでいる。

母一人子一人で寄り添うように生きてきた二人なのだろう。


ブルーバードで帰っていく三郎青年。




志保屋の坂


途中、『志保屋の坂』で観光している蛍子さんに出会う。

向こうに見えるのが『酢屋の坂』

三郎青年車を止めて、ここぞとばかりに蛍子を誘うが、

               



               

なんとゆかりと寅があとからぞろぞろついて来て
三郎青年の思惑はスコーンと外れるのでした(TT)

               



ヨハンシュトラウス二世の 『春の声』が勢いよく流れる。



大分 アフリカンサファリ

動物達を車の中から見てはしゃぐ4人。



広大な安心院高原にある自然動物園115万平方メートルの敷地に70種類、
1300もの動物や鳥達が放し飼いになっており、規模はアジア最大級である。
ジャングルバスが園内を走っており、動物達の自然の姿を観察できる。


               

 

城島後楽園遊園地(城島高原ファミリーパーク)


この映画公開時に1982年 城島高原ファミリーパークに名称変更。
この後、1992年 城島後楽園ゆうえんちに名称変更。全面リニューアル。



ここでも、乗り物に乗ってはしゃぐ4人。

               

で、散々遊んで…夕方。





別府港 ホーバーフェリーのりば

別れを惜しむ4人。

蛍子さんたちは、別府から大分空港まで乗って、飛行機で帰るのだろう。


第12作「私の寅さんでもさくらたちの九州旅行の時もこのホーバーフェリーに乗っていた。
スタッフさんたち好きなんだねえこの乗り物が。


               



湯の平温泉の紙袋を持っているゆかりたち。

寅「じゃ、ほら、行け
ゆかり「ほんとに楽しかった」
頷く寅
ゆかり「三郎さん、運転気をつけてね」
蛍子さん「いろいろありがとう
寅ニコニコで
寅「あばよ

二人、乗り込もうとする。

蛍子、戻ってきて

蛍子さん「寅さん
寅「うん
蛍子さん「東京帰ってきたら教えて、柴又行きたい
寅、ニッコニコ
寅「そうだな、早く行け
蛍子さん「うん

三郎青年、ススッと前に進む。
寅と肩が当たり寅がくるりと回ってしまう。
これは第一作で、さくらの結婚式の時の博と寅のパターン。

蛍子さんを追いかけ

三郎青年「蛍子さん

蛍子さん、振り返り

蛍子さん「はい


               
     


三郎青年「ぼ…ぼくとつきおうてくれませんか…おいおいおいヾ(^^;)


蛍子さん「…急にそんなこと言われても…さよなら…だよねえ(((^^;)


               



去っていくホーバーフェリー


三郎青年「あーあ…行ってしもうた

寅「ハハハ、行ってしまった、ハハハ

三郎青年ブスッとして

三郎青年「なんですか?
寅「おまえ、惚れたな
三郎青年「惚れて悪いんですか

蛍子のテーマが流れる


寅「あれが惚れた相手に言うセリフかよ。
  『ワシとつきおうて下さい』ヶッ!可笑しい、可笑しいよ、おまえ、え、
  それじゃチンピラの押し売りだよそれじゃ


確かに唐突。発作的。あれじゃ女性はまず引いちゃうよ(^^;)


三郎青年、怒って

三郎青年「じゃあ、どう言えばいいんですか?

寅「恋の雰囲気、そっとそばに寄るだろ、ね、
  『お嬢さん、東京へ帰ったらもういっぺん顔が見たな僕…』こう言やいいじゃないか、フフ


               

三郎青年「はあー…、そんなふうに言うんですか…おいおい信じるなよこの男をヾ(−−;)

寅「そうよ。ま、せいぜい苦労しな、な、あばよ

と別れようとするが、寅になんとか恋の相談に乗って欲しい三郎青年は、
車で一緒に帰るように勧めるのだった。
車が苦手な寅は嫌がったが、結局押し切られて同乗して東京へ。




柴又 帝釈天参道


さくらとおばちゃんが紙袋を持って帰ってくる。

大丸デパートのバーゲンセールに行ってきたらしい。

そんな時三郎青年の車が参道に乗り込んできて停まる。

中から寅と三郎青年がフラフラになって降りてくる。

さくら「お兄ちゃん!

へナへナ座り込む寅。

               

寅「なにしろさ、大分県から車に乗りっぱなしだからな、
  飲まず食わずで、うーん、ああ…
  まだ体が揺れてるよ…


三郎青年、寅のカバンを持ちながら、フラフラになって店に入ってくる。

椅子に座りそこねてこけてしまう。

おいちゃん「なんでまた飲まず食わずだったんだ?
寅「フフフ、いや、これがさ、持ってるとふんだんだよね、オレはね
おいちゃん「うん
寅「だからまあ、楽しくあっちこっち見物しながら帰ってこようと思ったら、
  ガソリン代しか残ってねえって言うだろ、チェ


と、言う訳で二人ともフラフラになって二階に眠りに上がって行く。




題経寺  境内


博から寅が運転手つきの車で戻ってきた事を聞いた御前様は独り言で

悪いことでもしたか…、
いやあ…、それほどの頭はないだろ…

これは笑いました(^^)

               




夜 とらや  茶の間

みんなで大笑いしている。

寅は三郎青年を金持ちの息子だと思い、三郎青年は逆に寅を金持ちだと思ったらしい。

三郎青年「お金に困ってるような顔してないし

みんな「ハハハ!

三郎青年「仕事はなんですか、って訊ねたら、『遊び人よ』、そう、答えられたから、
     あ、これはたぶん親の遺産かなんかで、ぶらぶら遊んでる人やないかと思って


みんな「ハハハハ

そして三郎青年は、このようなとらやの雰囲気を羨ましがるのだった。生まれてからずっと母親と二人暮しで
淋しい思いをしてきたらしい。

一方、おばちゃんもおいちゃんも、三郎青年がお骨を持って実家でお祈りをし、法事をしたことを親孝行だと羨ましがる。
寅、なんとなく気まずくなって寝転ぶ寅だった。

ひとしきりおしゃべりしたところで

三郎青年は寅にある質問をする。

               

三郎青年「寅さん、聞いていいですか?
寅「なにを?
三郎青年「…あの、さくらさんとご主人は、つまりどんなふうにして…
寅「ま、ひっついたか、って言うんだろ?
三郎青年「ええ

さくら照れながら

さくら「どうしてそんなこと?
三郎青年「お会いした時から気になって…」わかるわかる(^^)

寅「一目惚れだよ、これがさくらを見てボーっとなっちゃったんだ。そうだろ博
博、照れながら
博「え…そんな」と照れる。
寅「ハハハ



満男「僕知ってるよと三日月目でニヤニヤ。
三郎青年「え…
博「こら黙ってろ
満男三郎青年の横に立って満男

               

満男「父さん、工場の寮にいて、
  その部屋から母さんの部屋が
丸見えだったんだって

ガビ〜ンΣ(|||▽||| )


満男っていったい…(TT)

二人ともタジタジ。

博「こら!
さくら「どうしてそんなこと!言うの!っとにィと柿を投げつけようとするが、

三郎青年を見て躊躇し、柿を持ち替え、手を満男に向かって振る。
 
この見事な演出。上手い!


                  柿を投げつけようとするが
               



                 やめて、持ち変える。
               

寅「毎晩毎晩、寝巻きに着替えているのをね、胸を熱くして見てたんだよおいおいおいヾ(^^;)

さくら「やめなさいよ、バカバカしい、フフ

博「そんなとこ見てやしませんよ

みんな「フフフ





【証拠フィルム】@


博「僕の部屋からさくらさんの部屋の窓が見えるんだ

             



朝…、目を覚まして見ているとね、
                  


あなたがカーテンを開けてあくびをしたり、
布団を片付けたり…。


                      


日曜日なんか楽しそうに歌を歌ったり。

冬の夜、本を読みながら泣いてたり、


                      


…あの…工場に来てから
3年間、毎朝あなたに会えるのが楽しみで、



考えてみれば
それだけが楽しみでこの3年間を…。


                      


さくら「……

                      


と、いうことで、
見えてたんですね〜、やっぱり。そして覗いてたんですね〜、さりげなぁく(^^;)

罪となる事実!




で、物語に戻って


そんなさくらたちのなれそめを聞いて三郎青年は「いいなぁ…
」と、羨ましがる。
寅は三郎青年の恋をみんなにバラそうとするが、三郎青年は恥ずかしがって帰っていく。

帰り際にそっと

三郎青年「それから…例の話ですけど…

寅「あの子だろ」と、小指を出して。

                

寅「まかせしとけよ」と言い。

このことはシークレットにすることをパントマイムで承諾する。

三郎青年「お願いします
寅「うん

三郎青年が帰った後

二階へ上がり、また寝ようとする寅に

さくら「ねえ、お兄ちゃん何の約束をしたの?まかせとけって…

                


寅、二階に上りながら

寅、活動写真の弁士の口調で、

寅「空飛ぶ鳥にもネグラあり

さくら「え?

寅「哀れ母を失った三郎青年の
 運命やいかに。
 そのカギを握る人、
 それは誰あろう車寅次郎先生でありました



さくら二階へ向かって

さくら「ねえ

寅二階で

寅「ねえと言っても、車先生は去っていくのでありました

さくら「どういうことだろ?

                 おばちゃん笑いを我慢してます。
               


ここでおばちゃんが鼻の穴を膨らませて笑いを密かにがまんしている。

博「何か起きるなこれは
おいちゃん「え?」おいちゃん怖がっている(^^;)


上のシーンでおばちゃんが鼻を膨らませて笑いを微妙に我慢しているのは
その直前に渥美さんのアドリブで倍賞さんが思いっきり笑ってしまって
NGを出したからだ。このNGは第30作の予告編集に入っている。

二階で活ベン調の寅の声がまだ聞こえる。


寅の声「『三郎さん、ごめんなさい…。
     わたくしが好きなのは、寅さんなの』ああ、三郎青年よどこへゆく。

     それはあまりにも淋しい人生航路では、あった

寅の声を聞いて、何か考えているさくらだった。


この冗談とも取れる寅のオチャラけたセリフは実は本音。
ここに寅の業があり、寅の喜びもあり、悲しみもある。



上に書いた予告編に挿入されているNGになった場面↓を紹介しましょう。


さくら、上にあがっていった寅に向かって

さくら「ねえ

寅「『ねえ』と言うさくらの声も
 むなしく闇に消えて
 いったのでありました



我慢できなくて、顔がフニュッとなる。

三崎さんもそれを見て顔が崩れる。


                

倍賞さんついに噴出してしまう。

三崎さんも限界を超える


               

笑いながら目が垂れて、口に手を当てる
倍賞さん「ごめんなさ〜い」(^^)

三崎さんも、もう大笑い。


                      「ぷっ!」
                

もう完全にスタッフ全員で大笑い(だと思う) 

 チャンチャン。

                     「ごめんなさ〜い」
                



で、物語に戻って、




都心  大丸デパート 

上司の指導の下、接客の練習をして勤務につく蛍子たち。



               




一方 千葉習志野の谷津遊園内の動物園

チンパンジーの世話をする三郎青年。

谷津遊園も京成電鉄。


               


1925年、千葉県習志野市谷津の早くから海水浴場として賑わっていた谷津海岸の土地を埋め立てて娯楽施設に転用、
京成電鉄谷津遊園として一時代を築いた。

小さな動物園も中にあり、三郎青年はその施設で働いている。
遊園地よりもバラ園が有名。

当時の谷津遊園のプールは『海水プール』

京成電鉄自身の経営悪化と東京ディズニーランドへの経営参画計画により、
遊園地は黒字経営であったがこの作品が公開された1982年12月をもって閉園した。
閉園時の従業員のうち、多くは東京ディズニーランドに異動している。

バラ園は『谷津バラ園』として習志野市が運営している。








夕方  柴又 帝釈天参道

蛍子は先日の大分でのスナップ写真を寅の家族に渡そうと柴又へやって来る。

郵送しないで直接来たのは、ひょっとして寅が帰っているかもという淡い期待があったからだろう。
しかし、相変わらず、アポなし。



とらや  店

あいにく寅は商売に出かけていたが、さくらたちから寅が帰ってきていることを聞いた蛍子は
もう一度来る事を約束してとらやを後にするのだった。


さくら「またいらっしゃいよ、前もって電話しておお!さくら遂にアポの催促。
,
蛍子さん「はい、そうします

               

それを見ていた暇な社長は

社長「いよいよ本命登場だ。えらいことだぞこりゃあ」と工場へ知らせに行くのだった。






千葉 船橋 蛍子さんの自宅


浪人生らしき弟の食事を作る蛍子さん。

蛍子さんが『ぼく』と弟君のことを呼んでいるのがどうも気にかかる。
二十歳近い青年を『僕』と呼ぶ時って、どのような関係なのだろう。
弟君はただの受験生というよりは精神的に問題を抱えているのかもしれない。



ちなみに、行儀の悪い弟君が見ているテレビはなんと山田監督の
吹けば飛ぶよな男だが』のなべおさみさんと佐藤蛾次郎さんのギャグの部分。

蛾次郎さんが女装して、男から金を巻き上げ、サブ役のなべおさみさんと逃げていくシーン。
この作品は『男はつらいよ』とキャラの設定や物語的に似た部分があり、
男はつらいよがこの映画の影響を受けていることは明白である。

               






東京 大丸デパート

蛍子さんが働いている。

お客さんにスカーフを勧めている。

年配のお客さんなので、どちらかというと地味なものでなくあでやかな方が似合うのに、
地味な馴染む方を勧めてしまっている。スカーフは馴染ませると一層老けてしまうのだ。

しかしさすがお客さん。自分で似合う方を選んでいた。
蛍子さんも「そういえばそうですね」と納得。

               



仕事の後

繁華街の蛍子さん馴染みのスナック

寅がビールを飲みながら蛍子さんを待っている。



オフコースの「眠れぬ夜」の演奏がBGMで流れている。



蛍子さんやって来て

蛍子さん「寅さん、会いたかったァ〜
寅「んー、電話して悪かったな
蛍子さん「ううん、嬉しかったァ〜
寅「そうか、ほら…、売り場でよ、オレみたいな男が声かけてね、
  部長や主任に見つかったりすると、
  具合悪いんじゃないかって、いろいろ考えたのよ…


寅は、当初の目的の三郎青年のことを話し始める。

蛍子さん「あの人、どういう人?
寅「そうだなあ…、ま、一言で言えば変わりもんだろうね。
  オレたち
常識人から見れば
」(^^;)

これは第15作「相合い傘でパパのことをリリーに伝える寅のセリフのアレンジ。


蛍子さん「そうだねえ…
寅「うん
蛍子さん「だってェ、妙にすましてるなあ…と思うと、急につきおうてくださいだなんて
     叫んじゃったりするんだもん、フフ

寅「そうそう、フフ、大分で、あの、別れる時な
蛍子さん「うん、フフフ
寅「可笑しかったね、ハハハ
蛍子さん「どういうつもりなんだろ…フフフ、きっとさ、
    つき合っている女の子なんかいっぱいいるだろうにね

寅「あ、それはいないんじゃないのかな。ということは口下手で、内気な方だから

蛍子さん「恋人はいないの?

寅「うん、…恋人はいるな

蛍子さん「あ、そう…

寅「ん。だけど、片想いだけどね

蛍子さん「片想いなの?

寅「


蛍子、興味深々で

蛍子さん「ねえ…どういう人なんだろう?その、片想いされてる人って

寅「知りたいか?

蛍子、ちょっと笑って

蛍子さん「うん…

寅「蛍子ちゃんだよ

蛍子さん、寅を見る。
寅、頷く。

寅「あいつ惚れてるんだよ、あんたに

蛍子さん「…!うそォー!、まーた、そんないい加減なこと言って寅さんはァーと、戸惑っている。

寅「ほんとだよー、な、…ちょっとつき合ってみるか
蛍子さん「
寅「いや、大丈夫大丈夫。あいつはね、いきなり襲ったり、噛み付いたり、
 そういうことはしないからさ。それはオレが保障する。他になんの取り得もないけれども


蛍子さん、小声で

蛍子さん「ダメ…断る…」と下を向く。
寅「どうして?
蛍子さん「だってェ…
寅「嫌いか?

蛍子さん「あんまり二枚目だもの…
出たああああヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ


               


寅「…???

寅、しばし考え

寅「そういうもんかなあ…
蛍子さん「わかるでしょう、そういう気持ちィ〜
寅「ん…」と短く何度か頷く。

蛍子、はっと我に返って

蛍子さん「ね、寅さん、それ言いにきたのわざわざ
寅「いや違うよ、オレ今日は蛍子ちゃんと飲みてえなって思って来たんじゃねえか
蛍子さん「ほんと?
寅「ほんとだよ
蛍子さん「フフ…

で、二人は乾杯して盛り上がる。

               

一方三郎青年はその頃とらやで寅を待っていた。
寅が蛍子さんに自分の気持ちを伝えてくれたかどうか知りたいのだ。

これは第1作での寅を待つ博の気持ちのアレンジ版。





夜更け  とらや


寅、酔っ払って帰ってくる。

参道で、寅の声

寅の声「ああ、三郎青年の運命は、風前のともしびだった…」

三郎青年、立ち上がる。

寅「おお!三郎青年来てたか!
おばちゃん「会ってくれましたか?
寅「誰に?おいおいおいヾ(ーー;)
三郎青年「蛍子さんですよ
寅「おう!会った会った会った!
三郎青年「で…どうでした?

寅「ん、オレ、いつも思うんだけどさ、一日の仕事が終って家路に
 急ぐ娘ってのはいいもんだねえ…。こう、疲れがほんのり体に出ててな、
 髪の毛なんかほつれちゃってさ、
 あら!寅さん会いたかったワー、じゃ再会を祝して、ハイ、カチン!
 あー美味しい…、なんて、あれはイケル口だなあの子は


               

と、どんどん脱線していく寅を三郎青年が制して、

三郎青年「寅さん
寅「え?

三郎青年「すいませんけど、結論だけ言うてもらえますか
寅「じゃあ、言ってやるよ。そのかわり覚悟出来てるな
三郎青年「はい。早く言ってくださいと真剣そのもの。

寅、早口で、
寅「ことわられました

               

三郎青年、目を見開いて、愕然。

寅「諦めなよ、気の毒だけど…
三郎青年「理由はなんですか?
寅「理由?理由聞きたいのか?
三郎青年「はい

寅「おまえがあんまり二枚目だから

三郎青年「…!

三郎青年「寅さん、男は顔ですか?座布団2枚(^^;)

               

寅「そうじゃないの?
三郎青年「そんなバカな!
おばちゃん「なんだかしらないけどおやめよ。
      寅ちゃんに人の顔のことなんか言えるわけないだろ

寅「おばちゃんは黙ってろよ、男通しの話なんだ

三郎青年「寅さん、寅さんは恋をしたことありますか?

おいちゃん、おばちゃんギョッとして振り向く。

寅「おい、こら、おまえ誰に聞いてるんだ、『恋をしたことがありますか』
 よく言うよおまえ。オレから恋を取ってしまったら何が残るんだ。
 三度三度飯を食って屁をこいて糞をたれる機械。つまりは
造糞機だよ。
 な、おいちゃん


おいちゃん、ダメだこりゃのりアクション。

三郎青年、すくっと立ち上がり、

三郎青年「寅さんに頼んだのが間違いでした。さよなら

寅「そうだよ、はじめから自分でくどきゃよかったんだよおまえ。惚れたのはてめえだろ


三郎青年振り返って

三郎青年「それができないから頼んだんじゃないですか。そんなことができるくらいやったら…、
     寅さんと同じように、女の人の前で気楽に話が出来るんやったら、なにも頼んだりは…


               


泣きそうな顔で出て行く三郎青年だった。

寅は、めんどくさがりながらも、なんとかしてやらないととも思うのだった。



数日後


寅に呼ばれて柴又へ向かう蛍子さん。





柴又  とらや

三郎青年は、すでにとらやに来ている。

寅、二階から下りて来て

三郎青年と打ち合わせを始める。

蛍子さんがもうすぐここへやって来るから、
三郎青年はそれとは関係なく偶然とらやに来たことにして、そこから話を進めていくことに。

おばちゃん曰く「早い話が、『騙まし討ちのお見合い』だね。
昔はそういうのよくあったのかな(^^;)

三郎青年「あの…、江戸川へ行ってどんな話しをすればいいんでしょう…
寅「え?疲れるなおまえも、そこまでオレがコーチしなきゃいけないのか
寅「ほら、な、ひろーい景色だろ、土手にタンポポが、ポコ、…ポコ。
  二人で土手に腰掛ける


三郎青年座ろうとする。

寅「ああっとほら気をつけて!犬のウンコがあるじゃないか、こういう上にベタッ!と座ったら
 一環の終わりだぞ、
なんちゅうディテール(^^;)

と、なんだかんだとどうでもいいいことを伝授するんだなこの男は(^^;)

寅「『僕も、あの雲といっしょに知らない国に行ってしまいたい』
 『三郎さん、どうしてそんな寂しいことおっしゃるの?』
 『蛍子さんのいるこの東京に、一緒に住むのが辛いんだ』
 『せめて、遠い北国へでも行ってしまったら、
 この辛さを忘れることができるかもしれない』
 『三郎さん、ほんとのことを教えて』
 『蛍子さん、僕はあなたを愛しています』
 なんてことは間違っても口に出しちゃいけないぞ。
 口で言わない。目で言う
ダメだダメだ┐(-。ー;)┌

それじゃ、第1作の博へのコーチと同じだよ。トホホ(ーー;)


三郎青年「目ですか

寅「そうだよ。蛍子さんのことをジーッと見つめる。
 蛍子さん、僕はほんとうにあなたのことを愛してますと、心で言うんだ

神妙に頷く三郎青年。

               

寅はそこでリハーサル開始

寅「
オレを蛍子さんだと思え。いいな

頷く三郎青年。

               



寅、三郎青年を見つめ

寅「三郎さん…

三郎青年「蛍子さん…

寅「あら…変に上手い寅の声色((((^^;)

三郎青年我慢できなくて噴出してしまう。

寅「
ブァ!なんだコノヤロ、笑いごとじゃないぞ

               

みんな大笑い。


ただし、『脚本』ではこの寅と三郎青年のミニコントはない。



そこへ蛍子さんがやってくる。

みんなに挨拶。

蛍子さん、三郎青年に気づく

蛍子さん「あら…

寅「え?」と振り返る。

三郎青年「こんにちは

蛍子さん「あの…、私、先日はどうも…

三郎青年「…あの…

寅が割り箸の束持ちながらさりげなく三郎青年に寄って来て

寅「僕こそ失礼しました」とささやく。カンニング(^^;)

三郎青年「僕こそ失礼しました」と、にこっと笑顔。

みんな微妙に緊張している。

蛍子さん、思わず笑って

蛍子さん「ハ!…、びっくりした、フフフ

さくら「ねえ

蛍子さん「寅さん何にも言わないんだもん

みんな、とにかくスマイル(^^;)

寅、何を思ったか突然

               

寅「あ、じゃあ、このへんで、若い者通し江戸川へでも散歩に行って…

さくら、寅が予定を飛ばしたので戸惑ってしまう。

寅「違ったかな…なんだったっけさくら」と小声でカンニング。

さくら「三郎さんがどうしてここにいるか説明しなきゃいけないんでしょ

寅「あ、そうか…、こいつなんだけどね、蛍子ちゃんがここへ来ると聞いたらね、
  喜んで来ちまいあがんの、ヘヘへ…あ、違った…ええっと、なだったっけなあ…


さくら、クスクス笑いながら下を向く。

寅「あ、そーだ、偶然だよ!偶然こいつが来ちゃったんでね、
 よくまあ
偶然だなと思って…
 ほんとにびっくりした
偶然だよなあ!

               

蛍子さん、顔が緩み、笑いをこらえている。

寅「こんな偶然あるかしら…

さくら、笑いながら

さくら「お兄ちゃん…もうみんなバレちゃってるわよー、フフフ

蛍子さん、笑っちゃっている。

おいちゃんもクスクス下を向いている。

寅、蛍子さんに向かって

寅「ほんとか?そんなことないと思う…え??

蛍子さん遂に大笑い。

蛍子さん「何が始まったかと思った、フフフハハハ」と笑いが止まらない。

寅「思っちゃった、ハハハ

三郎青年も笑っている。

タコ社長、裏から出て来て

社長「なんだ、賑やかじゃないか

寅「なんだいタコ偶然だな、またこんなとこ出てきて

みんな大爆笑。

郵便屋さん、手紙持ってくる。

寅「よ!郵政省偶然だな、ごくろうさんおいおい ヾ(^^;)

手紙受け取って

寅「おいちゃん!偶然に手紙来たぞほら、ハハハハ

みんな大笑い。



江戸川土手


江戸川土手に座り、話をする三郎青年と蛍子さん。

話が弾まない二人(^^;)

源ちゃんが犬の散歩させながら、背後から見ている。

蛍子さんは三郎青年にどうして私とつき合いたいか聞くが、
三郎青年は要領を得ないでモジモジしてしまう。
あげく、みかんを全部土手下に落としてしまうのだった。


蛍子さん「みかんが…落ちた

三郎青年「蛍子さん!
蛍子さん「はい!

いきなり

三郎青年「あの白い雲と!」と指を指す空

               

蛍子さん「どこ…

源ちゃん、後ろで興味津々で観察。

犬が源ちゃんを引っ張っていく。

ほんのちょと薄く空に浮かんでいる雲(TT)

三郎青年「あ…あれです(^^;)

三郎青年「あの白い雲と一緒に、つまり…旅をどこか…行けたら

蛍子さん「旅行のこと?(^^;)

三郎青年、ちょっと意味が違うって思いながらも

三郎青年「ええ、そう…

蛍子さん「旅行好きなの?

三郎青年「ええ、とてもおいおいおい ヾ(^^;)

蛍子さん「私も好き

寅のシュミレーション、『三郎さん、どうしてそんな寂しいことおっしゃるの?』
は見事に外れました。チャンチャン(^^;)




三郎青年、ほっとして

三郎青年「あ、そう

野球の練習をしている青年たちが三郎青年に落ちたみかんを持ってきてくれる。

最後の一個はキャッチボールのパターンで戻してくれる。

まあ、とにかく結果オーライの三郎青年だった(^^)


この江戸川土手の会話、『脚本』改定稿では二人で、寅のことをしゃべったり、湯平荘での
法事で大笑いした事を回想したりしてしみじみとしたシーンとなっている。




で、年月はみるみる経っていくが…、


その後、三郎青年と蛍子さんの仲はどんどん進展して行ったかというと実はそうでもなかったのだ。

そして家では、両親に結婚の事をいろいろ探られて、寅が恋人じゃないのかとまで探られて困ってしまう蛍子さん。


悩みを抱えてしまっている蛍子さんに寅は電話をかけ、

寅「遊びに来るか?ん、よし!じゃすぐ来い!待ってるから」と誘う。

               

声が沈んでいた蛍子さんのことを心配して、いろいろ気を回す寅。
そして、いてもたってもいられず柴又駅まで迎えに行く寅だった。




柴又駅ホーム

ホームを降りてくる蛍子さん。

寅の声「おい!蛍子ちゃん!

改札の外で手を振る寅。

蛍子のテーマが流れる。

蛍子さん「寅さん!」と走って改札を抜けてくる。

蛍子さん「迎えに来てくれたの?

               

寅「ん、あんまり遅いんで心配になって迎えに来ちゃった
蛍子さん、感極まって寅の腕にしがみついて甘える。
蛍子さん「ありがとう!
寅「みんな待ってるぞ、よく来たな

とらやの面々も大変だねえ、寅の気まぐれにいつも付き合わされて…(^^;)


参道を歩いている御前様と源ちゃん。


腕を組んだ寅と蛍子さんが歩いてくる。

これは第15作「相合い傘」の名場面↓から拝借パターン(^^)

               


寅「あ、御前様、どうもご無沙汰いたしまして…」と、蛍子さんの手を背中に隠す。

御前様、憮然として、

御前様「おまえはどうしておる今、手を握り合っております(((^^;)

寅「はい、毎日深く反省しておりますんなもん、してないしてない ┐(- ー;)┌

寅「源ちゃんお元気ですか」ニッコニコ

源ちゃん、蛍子さんを見ている(^^;)

ススっと手を繋ぎながら、二人の前を通り過ぎていく寅。

               

御前様「なにも反省しとらん。困ったもんだ。あ〜〜〜〜…困った…」と、歩いていく。

源ちゃん、振り向きながら、例のヒヒヒ笑いで受けている。





とらや 茶の間 


食事をしているみんな。


社長「ほらほら、急に工場辞めるって言い出したりして、ハハハ

三郎青年の時と同様またもや博とさくらのなれそめをしゃべってるなこりゃ(^^;)

寅「そうそう!そうだよ、そこの土間に突っ立ってね。
 『さくらさん、どうぞ幸せになってください』


博「そんなこと言いませんよー出た〜、博の嘘 !ちゃんと言いました(^^)

寅「言った言ったよ、おまえんだ(^^)

さくら「やめてよもう、フフフ






【証拠フィルム】A

第1作「男はつらいよ


博「僕は出て行きますけど、さくらさん幸せになってください


さくら「!!

                   


博「さよなら

                   


博、走っていく。


やっぱり言ってますねえ〜博君(^^)





で、物語に戻って、


蛍子さん、笑いながら

蛍子さん「それでどうしたの?

寅「それからね…どうしたんだっけ、
  あ、おまえすぐあとバタバタバタバタ慌てて追いかけてっってね、
  『
博さん!』なんて
  みったねえの〜。(みっともないの〜)
でもこれも本当のこと(^^)

さくら「憎たらしいわね、もう!ねえ

蛍子さん、下を向いて、笑っている。

               

おばちゃん「なんの話だい?

社長「さくらさんと博さんのラブロマンスだよ

今回はさくらと博が話の種になりまくり。

みんな「ははは


さくら「あー、恥ずかしいそらそーだ(^^)

おいちゃん「まあ、当たりめえの顔して一緒に暮らしているけど、
      夫婦にはそれぞれいろんな話があるからねえ


さくらお茶漬け食べてます(^^)

蛍子さん「ね、おじさんとおばさんはどんなことがあったんですか?

おいちゃん「え!いやいや、わしなんか…

               


と逃げていく。

みんな大笑い。


おいちゃんとおばちゃんのラブロマンス『雨の駒形橋物語』は
みなさま第32作「口笛を吹く寅次郎」でゆっくり堪能してください。




食事が終って、縁側で話をする蛍子さんと寅。

縁側には、おばちゃんの漬ける白菜がズラーッと並んでいる。
                                                                                                         

寅「三郎青年と会ってんのか?

蛍子さん「うん」と元気なく頷く。

寅「うまくいってんのか?

蛍子さん「…私ね

寅「うん

蛍子さん「迷ってるの

               

寅「…何が?

蛍子さん「何考えてんのか分かんないの三郎さん…。
    二人でいてもチンパンジーの話しかしないでしょ。
    それもすぐ途切れてしまって…

   喫茶店でお水ばかり飲んで黙って座ってると、私なんかとっても辛くて…、
    もう早く一人になりたいななんて思ったりして…、ほら…


寅「え?

蛍子さん「こんなふうに寅さんとだったら、なんだって話せるでしょ?

寅「

蛍子さん「寅さんだったら何時間一緒にいたって、退屈なんかしないでしょう

退屈しなけりゃいいってもんじゃないだろ(−−)

寅「

蛍子さん「…三郎さんとはそうじゃないのよ…

寅「蛍子ちゃん、分かってやれよ。
 あいつがしゃべれねえってのはな、
 あんたに惚れてるからなんだよ


蛍子さん「

                


メインテーマがゆっくりと流れていく。


寅「今度あの子に会ったらこんな話しよう、あんな話もしよう、そう思ってね、
  家出るんだ。いざその子の前に座ると全部忘れちゃうんだね。
  で、バーカみたいに黙りこくってんだよ。
  そんなてめえの姿が情けなくって、こう…涙がこぼれそうになるんだよ。な。
  女に惚れてる男の気持ちって、そんなもんなんだぞ


                

蛍子さん「わかってる…、わかってんのよ三郎さんの気持ち痛いほど。
    だけど私十九や二十歳の娘じゃないでしょう、結婚ってもっと現実的な問題なの


寅「ん…、なんだかオレよくわかれねえけどさ、
  何がいったい気にいらねえんだ?え?


蛍子さん「だから…、お互いにとって一番大事なことをちゃんと話し合えないで、これから先
    ちゃんとやっていけるのかどうかとっても不安なの


                

寅「それじゃあ…蛍子ちゃん三郎青年のこと嫌いなのか?
おいおいおいおいなんでそうなるんだヾ(ーー;)

蛍子さん「違うのよ…好きなの、好きだから悩んでるんじゃないのォ」と寅に迫っていく。

寅、ブスッとして

蛍子さん「わかってよー

寅「だったら何も悩むことはねえじゃねえかァ、お互いに惚れあってんだったら幸せだろう?
  何も言うことないじゃないか、なあ…違うのかさくら


さくら「そんな簡単なことじゃないのよ、結婚は

寅「

さくら「お兄ちゃんにはわからないわよ経験がないから…

寅、ビクッとして、まごついてしまう。

立場なくして傷つき、怒って二階へ行こうとする。

               



さくら「お兄ちゃん…

寅「ああ…オレにはわかんねえよ、頭悪いからな

おばちゃん「どうしたんだい寅ちゃん

寅「オレにはわかんないんだってよ

と、二階へ上がってしまう。

蛍子さん縁側で涙をためて泣いてしまう。

               

おいちゃん「どうしたんだい…。
     なんの話か知らないけど寅のいうことなんか気にすることありませんよ


おばちゃん「そうだよ、人にお説教できるような立派なことは何一つしてやしないくせに
おばちゃんちょっとずれてるよ。それじゃ寅の悪口言ってるだけ(^^;)

さくら「ごめんなさいね、お役にたてなくて


蛍子さん「寅さんに叱られた…

と、少し照れる。

さくら「迷う時期なのよきっと。ほら、これで一生が決まってしまうっていう、
   ちょっぴり淋しいような気持ちがするでしょ。
   私にも覚えがある


蛍子さん「さくらさんでも?


               

さくら「うん。女は誰でもそうじゃない?おばちゃんどうだった?結婚する時

おばちゃん「あたしゃ見合いだからさ。あんなカマキリみたいな男と一緒になるのかと
      思ったら悲しくって悲しくって泣いてばっかりいたわよ


おいちゃん「バカ、それはこっちの言い分だい

第32作ではおいちゃんとおばちゃんは恋愛結婚したことになっているが、おそらく
見合いから入って恋愛感情が高ぶっていったということなんだろう。


さくらと蛍子さん笑っている。


さくらは、結婚直前に女性が陥りやすい「マリッジブルー」「ウェディングブルー」「エンゲージブルー」
のことを言いたいんだろう。つまり生涯の伴侶がこの男性で本当にいいのか不安…。ということ。
しかし、実は蛍子さんは、そのもう少し手前で悩んでいる。

つまり、三郎青年の本心というか結婚の決意というか、現実の中で将来の自分たちの生活を
真剣に考えているのか、そしてそれ以前にほんとうに自分のことが心底好きなのかどうか、
まずその基本のあたりで悩んでいるのだ。そのへんがさくらの分析の甘いところ。


っていうか、その違いを見定められないのは『脚本』が甘いとも言える。

とりあえず蛍子さんはさくらに話を合わせてもいた。
『不安』という気持ちという点では一緒だからだろう。



しかし、この物語、三郎青年と蛍子さんの恋の進行がほとんど描かれてないな…。
このへんがどうも浅いなあ…。






谷津遊園


チンパンジー舎の外で蛍子さんが待っている。

三郎青年見つけてびっくりする。

ちょっとはにかんで照れる蛍子さん。

この表情がとっても素敵でした。


三郎青年「あー、びっくりしたなあ

蛍子さんのところへ駆け寄って

三郎青年「どうしたのいったい

蛍子さん「今日休みだから、寅さん所へ行ってね、帰りに足伸ばしたの

               

蛍子さんの家は千葉の船橋、習志野の谷津遊園とはそんなに離れていない。

三郎青年「そうか、ちょっと待ってて

三郎青年は大事な話があるらしい。



園内を歩きながら

三郎青年「何度も電話しようと思ったんだけれども、しにくくて…

蛍子さん「どんなこと?

               


三郎青年「蛍子さんも話があるんだろ?それ先に

蛍子さん「三郎さんのほうが先に話してよ

三郎青年「うん…

三郎青年は蛍子さんを大観覧車に案内する。


係りの桜井センリさんが暇そうにしている。

三郎青年「オヤジさん頼む」と拝みこむ。

桜井さん、振り向いて蛍子さんを見る。

桜井さん「めずらしいね、あんたにしちゃ


観覧車のドアを開けて

桜井さん「さあどうぞ

二人入る。

向かい合わせに座った二人に

桜井さん「並んで座りなさいよせっかくだから

三郎青年を蛍子さんの隣に座らせる。

桜井さん「ごゆっくり

この桜井さんの芝居は上手かった。
今でも思い出すたびに、しみじみいい芝居だと思う。



               




ゴンドラの中

三郎青年、真剣な顔して

三郎青年「べべのことなんやけど…

蛍子さん「…え?
               
三郎青年「あ、僕が育ててるメスのチンパンジーの名前

蛍子さん、ちょっと拍子抜けした感じで

蛍子さん「ああ…

三郎青年「近頃なつかなくてね…


下を向いてしまう蛍子さん。

三郎青年「こないだも腕のとこ噛まれたりなんかして

蛍子さん、ちょっと笑って、また動物の話題か…と、淋しそうに

蛍子さん「たいへんね」と言ってあらぬほうを向いてしまう。

三郎青年「訳を考えてみたんやけど…結局…、僕のほうが、愛情を感じなくなってしまったんや

蛍子さん、とりあえず

蛍子さん「ふーん」と適当に頷く。

三郎青年「いつごろからこんなふうになったかというと、
    つまり…、蛍子さんにおうてからなんや



はっとする蛍子さん。

蛍子さん「

               

三郎青年「それまではべべのこと、動物というよりもまるで自分の子供のように思ってたんやけど、
     蛍子さんにおうてからは、もうただの動物でしかないんや…


蛍子さん、三郎青年のほうをゆっくり向く。

三郎青年「だから…

蛍子さん「だから何?

               

と真剣な眼差しになる。

三郎青年遠くを見ながら

三郎青年「結婚してくれないかなぁ…


               


蛍子さん、呆然としてその言葉を聞いている。

蛍子さん「

蛍子のテーマが流れる。

三郎青年「それが僕の用事なんや


蛍子さん「私を…好きなの?


               


三郎青年振り向き、蛍子さんを見つめ、頷く。

蛍子さん「口で言って…

三郎青年、蛍子さんを見つめ


三郎青年「好きや…


               



二人キスをする。



               



高まる蛍子のテーマ



ゆっくり大きく回る大観覧車。




三郎青年の肩に顔をうずめる蛍子さん。

三郎青年「蛍子さんの用事は?

蛍子さん「もういいの

三郎青年「大事なこととちゃう?

蛍子さん「うん。でももういい…

               


蛍子さんの肩を抱きしめる三郎青年。


観覧車がゆっくり回っていく。


バラ園のバラが赤く咲いている。





柴又  とらや  店


蛍子さんからの電話で、二人が結婚の約束をしたことを聞いて、ほっとしているさくら。
二人とも今から家に来るという。蛍子さんは昼に来て、またもう一度来るのだね。

さくら「え、今から家に、どうぞどうぞ。大歓迎よ

さくらは寅に報告しようと二階へ向かって
さくら「お兄ちゃん
寅の声「おう

と言いながら寅がカバンを持って下りてくる。

さくら「どうしたの?カバンなんか持って

寅「んー…、旅に出るのよ

さくらやおばちゃん唖然。

寅「ほら、長く居すぎたからな

おばちゃん「さくらちゃん

さくら、寅に何か言おうとする。

               

寅「さくら、三郎青年のこと慰めてやってくれ。オレの力不足で持って
 蛍子ちゃんとの仲ちょっとうまくいかなかったけども、あいつは二枚目だから、
 そのうちきっといい女がまた…


さくら、笑いながら手を振って

さくら「そうじゃないのよお兄ちゃん

寅もちょっと笑って

寅「ええー…?
さくら「今ね
寅「うん
さくら「蛍子さんから電話があって、あれから二人で会って、いろいろ話して、
   結婚の約束したんだって


寅、表情を少し変え、驚いている様子。

さくら「今二人でそのことを報告にここに来るって、そう言って来たのよ、ねえ

おいちゃんも「うん」と頷く。

寅喜ぶよりもどちらかというと沈んでしまう。

寅「なんだぁ…オレはまたてっきり、三郎青年はふられたのかと思ってたよ

さくら、ちょっと笑いながら

さくら「ええ?

寅「心配することなんかなかったんだオレなんかが…、へえー...な…

と、がっくりしたような様子で、旅に出ようと店を出る寅。


さくら「お兄ちゃん、どこ行くの?ねえ、
   旅に出るのはやめて、待っててあげなくちゃ!二人が来るのを


と、寅の腕を掴むさくら。

寅「三郎青年がめでたく結ばれたとありゃあ、いっそのことオレは用無しじゃねか

               

さくら「そんなこと…

メインテーマが静かに流れ始める。

寅「おまえな、オレに代わって三郎青年におめでとうって言ってやってくれ、な

寅「おいちゃんおばちゃん、達者で暮らせよ

おいちゃん「待ててやれねえのか…

おばちゃん「ねえ…

寅、小さく頷いて

寅「こっちにも商売があるからな




店先に出て

止まる寅。

振り返り


寅「さくら…


さくら「なあに…?


ちょっと薄笑いを浮かべながら、それでも悲しみの目をして

寅「やっぱり、二枚目はいいなあ…。ちょっぴり妬けるぜ


               



さくら、胸を衝かれ、戸惑いながら寅を見る。


               


悲しみの中薄笑いを浮かべる寅。

寅「フフ…

               



と参道を歩いてゆく。


さくら「お兄ちゃん


と、後姿を目で追うさくら。


おいちゃん、ドキッとして、

おいちゃん「おい、今なんて言ったんだあいつ


               



さくら、首を小さく振り兄の背中を追いかけている。


晩秋の風に肩をすくめるさくら。



やっぱり好きだったんだね寅。
どうして相変わらずあんな若い子に惚れてしまうんだろうね、寅って。
人に与えるばかりの人生を歩む寅を見るにつけ悲しくなってくるよ…(TT)





正月 とらや


お客で満員のとらや

新年の挨拶に来ている蛍子さんがも店を手伝っている。

               


三郎青年は動物園なので正月も勤務。

おばちゃん曰く
おばちゃん「がっかりしちゃったよ〜、せっかくいい着物着て待ってんのに

おいちゃん「おまえがいい着物着たってしょうがないじゃないかぁ

おばちゃん「だって会いたいじゃないか、いい男にィ。
      いつもひどいのばっかり見ているからね
」 オイオイオイ、でも座布団2枚 (^^;)

相変わらず二枚目にはめっぽう弱いおばちゃんでした(−−)

社長大笑いしながら

社長「言うねェ、おばちゃんも
おいちゃん「やけ酒だこりゃ
博と社長「ハハハハ」と大笑い。
さくら「なにゲタゲタ笑ってんの、女に働かせといてェ

電話が鳴る。

さくら「はいとらやですー。あらあ、お兄ちゃん?
   おめでとう。うん、元気よ。いまどこ?九州?
   あのね、今蛍子さんが来てるの。ちょっと声だけでも聞かせてあげて。

   蛍子さん、はやくはやく、お兄ちゃん



蛍子さん、驚いて電話を受け取る。

さくら「九州から

必ず最初のロケ地に近いところへ最後も、わざわざ戻るんだよね。
中期以降のお約束事。
このへんは見てみないふりをずっと続けなくてはいけないのかも…(^^;)

蛍子さん「もしもし、寅さん、どうして黙って出て行っちゃったの、
    私、話したいこといっぱいあったのに…どうして…


寅はあなたに惚れてたんだよ、蛍子さん…(TT)

               



蛍子のテーマが静かに流れる。

涙が浮かんでいく蛍子さん。


蛍子さん「…うん…、仲良くやってる


大分 鉄輪温泉


黄色い電話ボックスから電話をしている寅。


寅「ああ、そうかそうか。まあ、これからいろいろあるだろうけどもな、
  なんてたって、お互いに惚れあってることが一番だから




               


蛍子さん「うん、ねえ寅さん、いつ帰ってくるの?私会いたい…


寅が蛍子さんのこと密かに思っていたなんて夢にも思っていないんだろうね(−−)


               


寅「あ、帰る帰る、うん、そのうち帰るから、な、そこに三郎青年はいる…、いないのか。
  ん、じゃあな、オレからってよろしく言ってくれ。
  ん?どうしたおい、泣いてるのか?…あ



電話が切れてしまう。

ポケットを急いで探るが小銭はもう無い。

寅「切れちまったかぁ…」と受話器を下ろし、

寅「まあ、いいや。うまくいってんだから…な…とハンカチで鼻をすする寅。


電話ボックスを出て鉄輪温泉の町を歩いていく寅だった。


               


『ヤング温泉娯楽センター』では大衆演劇のお披露目御挨拶が行われている。


               




大分 鉄輪温泉

日本1位そして世界2位の湧出量を誇る別府市の別府八湯の温泉群。

その中でも最も多く温泉源が集中するのが鉄輪(かんなわ)温泉。

その歴史も古く、鎌倉時代一遍上人が念仏行脚の途、鉄輪の地を訪れ、
猛り狂う地獄地帯を鎮め、湯治場を開いたのが鉄輪温泉の始まりとされている。
 





温泉山 永福時 近く

寅の啖呵バイ  正月の縁起のいい飾り物をバイ

寅「さあ、鉄輪温泉にご滞在のみなさま、新年明けましておめでとうございます。
  ね、おじいちゃん、どお、ほら!こう景気のいいもの!ね!


               


メインテーマが流れ始める。


寅「角は一流デパートで紅白粉つけたおねえちゃんに、
下さいちょうだいでお願いしますと千円や二千円は
くだらない品物。今日はそれだけくださいとはいいません!
どう、四百から参りましょう。ね!
四ッ谷赤坂麹町チャラチャラ流れる御茶ノ水、
粋な姐ちゃん立ちションベン!白く咲いたが梅の花!


湯気の向こうの梅の花がスクリーンに映る。


寅「四角四面は豆腐屋の娘、色は白いが水臭い!ね!


湧出量日本一を誇る鉄輪温泉の湯気があちらこちらで威勢良く立ち込めている。






               




封切り日 1982年12月28日
上映時間 106分
動員数 228万2000人
配収 15億4000万円





第4作「新.男はつらいよ」本編完全版(前篇)2月初旬あたりです。気長〜ぁにお待ちください。



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寅次郎の食べた握り飯の味


2007年1月10日 寅次郎な日々 その341


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。




もうかれこれ台所に住み始めて2週間になる。別に台所が好きなのではない。
12月末から母屋を建て直しているのだ。屋根の痛みが激しくなったのでこの際思い切って部屋を大きくして 全部やり直している。
しかし、実は大してお金が無い。
大工さんたちにだけ任せていては破産してしまう。それで私も宮嶋も息子もいろいろ毎日大工仕事を手伝っている。
今まで17年間バリ島で六棟も七棟も家をデザインし、大工さんに混じって家を建ててきたので『普請』は結構自信がある。
もちろん難しいところは大工さんだが、簡単なパートはどんどん自力でやる。
チリも積もればで、最後は経費がかなり違ってくる。

と、いうことで暗くなるまで今日も土木作業。
屋根や柱は大工さんが作るが、土台や壁は私も手伝えるのだ。絵の制作は大工さんが帰った夕方遅くに描いている。
なかなか両立は難しいが、まあ、あと3週間ほどで完成しそうなのでその間は両方をがんばろうと思う。

絵だけ描いている日々より、なぜか食事が美味いから不思議だ。木を運んだり、土を掘り起こし、運んだり、竹を伐採したり、細く切ったり、
セメントをこねたり…などなど、土木作業というのはしっかり働いたという気持ちになれるので美味いのだ。




そういえば普段は怠け者の車寅次郎もそんなことが一度あった。

元来寅は、おばちゃんの作ってくれた芋の煮っころがしやがんもどきの煮たのが好物だが、食べ物というのは
それを食べたから美味いというものではない。やはり汗を流して腹が減っていないとそれほど美味くないのである。
で、汗を流すのが大嫌いな寅はなかなか美味しい食事に当たらないのである(^^)
まあ、しいて言えば、節子さんの豆腐屋、藤子さんのお土産屋、での手伝いの日々あたりは機嫌よく汗を流していた。

そしてもうひとつ、


第35作「寅次郎恋愛塾」で、長崎の上五島(中通島)で老婆と知り合った寅は彼女の最期を看取るという縁を得る。


「寅さん、じゃったね…。
 あなたにも神様のお恵みがありますように…」

その深夜 老婆は寅に見取られながらロザリオを握り締め天国に召された。



そして、翌日ヒーヒー言いながら、おばあさんの墓を時間をかけてしっかり掘ってやるポンシュウと寅。
久しぶりの汗を流したきつい肉体労働のあと、差し出されたおにぎりや漬物を美味そうに食べる二人。



            



ポンシュウ「うめえなあ!」

寅「働いた後だからな。
  労働者ってのは毎日美味い飯食ってるのかもしれねえな


ポンシュウ「そうだな」

おそらく寅が今まで食した食べ物の中で最も美味いものだったに違いない。



というわけで、私も寅同様、肉体労働のあとは何でも美味いのだ。





屋根までは出来上がった母屋。
絵画制作そっちのけで夕方遅くまで土台作りに励む私を息子がデジカメで撮ってくれた。

             






なお、このような多忙な状況ですので、第30作「花も嵐も寅次郎」のダイジェスト版は
だいたい1月17日ごろの予定です。
第4作「新.男はつらいよ」本編完全版(前篇)2月初旬あたりです。気長〜ぁにお待ちください。



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『寅次郎な日々』バックナンバー      






新年のご挨拶


2007年1月1日 寅次郎な日々 その340


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。





新年あけましておめでとうございます。

皆様にはお変わりなくお過ごしでしょうか。
2007年は思い起こせば更新が遅れます事の数々、
今はただ、後悔と反省の日々を過ごしつつ、

遥か遠く雨降りしきる南の島から皆様の幸せを
お祈りしております。

なお、わたくし事ではありますが、
絵画作品をはじめ、日記、男はつらいよ覚え書ノート
など、相変わらず未だ愚かな内容ではありますが、
私のかけがえのない分身でありますれば、今後とも
くれぐれもお引き立ての程、よろしくお願い申し上げます。


遠き南の島にて

2008年 正月元旦  

吉川孝昭  拝







今日も、男寅次郎はさくらに新年の挨拶を電話で入れたあと、初春の風を受け、旅立って行くのでした。





              
             




そのころとらやのさくらたちは大忙し、いつにもましてこの年の正月はお客さんがいっぱいで、
新年の挨拶に来たマドンナも店を手伝っていました。


さて、この時の若く美しいマドンナは誰でしょう?(^^)

ヒント:上の場面↑で、寅が歩く町が分かれば作品が導き出せます。で、あとは簡単です。


             


              







なお、第30作「花も嵐も寅次郎」のダイジェスト版はだいたい1月10日ごろの予定です。
第4作「新.男はつらいよ」本編完全版(前篇)は1月下旬あたりです。気長にお待ちください。



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『寅次郎な日々』バックナンバー






藤子さんの恋人発覚 堺信吉さん


2007年12月26日 寅次郎な日々 その339


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


第20作「寅次郎頑張れ!」はマドンナの藤子さんが寅の好意に気づかず、ついつい寅に甘えてしまっているのを、
ワット君こと弟の良介がそういうことはよくない。と、たしなめるシーンが印象的だった。

しかし、元の『脚本』は実は全然違うのである。

藤子さんには、東京の療養所で入院暮らしをする『堺信吉』という恋人がいたのだ。 
ことを知っておられますかみなさん。

この脚本はキネマ旬報に掲載されていたものであるから、おそらく決定稿ではなく、途中の改定稿だと思われる。



良介が五島から藤子さんと一緒に柴又へ戻ってくる展開が後半にあるが、実は、藤子さんは、あの上京は、
とらやへのお詫びと挨拶だけでなく、個人的に別の用事があったのだ。
つまり本当は婚約者に2年ぶりに会いに行ったのだった。




改定稿(第2稿あたり)にはこうある↓




東京  療養所


枯葉の落ちるベンチに腰を下ろしている藤子。

病棟に続く道から着物を着た中年の男、堺信吉が急ぎ足にやってくる。

藤子気づいて立ち上がる。

信吉「やあ」

人のよさそうな笑顔を浮かべ、藤子をうながして座らせる。

信吉「びっくりした。突然で」

藤子「私見違えたわ。あんまり元気そうになってるんで」

信吉「この間会った時から5キロ増えたよ」

藤子「そう」

しげしげと信吉の姿を見る。

信吉「君は少し痩せたんじゃないか」

藤子「そうかしら」

ふと笑おうとする藤子の眼から涙があふれる。

慌ててハンカチを取り出す藤子。
その手元をじっと見る信吉。

二人の背中にひとしきり枯葉が散る。



と、まあ、こういうわけです。
あの藤子さんに長年の恋人がいたとはこれは驚きだ。


それゆえ、↓の、とらやでの宴会でも違う展開になっていくのである。



とらや 夜


寅「あ、あ、なんでもいいから乾杯だ。乾杯」

幸子「寅さん」

寅「なんだい?」

幸子「その前にもう一つだけ。良助さんのお姉さんの結婚をお祝いして、乾杯」

ギョっとなる寅。

藤子、顔を真っ赤に染める。

藤子「まあ、良介、あんた話したの?おしゃべりねえ、男のくせに」

頭をかいて幸子をつつく良介。

茫然としているさくらたちとらやの面々。

幸せ亭の主人「ほう、お姉さんが結婚なさるんですか、これはこれは」

藤子、恥ずかしそうに答える。

藤子「いえ、まだハッキリ決まったことじゃ。その人はまだ病院に入ってまして、
   来年の春あたり退院できるんじゃないかと。もしそうなったらということですから。
   ―本当に嫌ねえ、こんなところで。良介のバカ」

さくら、一同を励ますように声をかける。

さくら「ますますおめでたいことになってきたわね。それじゃなにもかも含めて乾杯!」

寅「…」




と、いうわけだ。

脚本はこんなにも違っていたのである。




                 





しかし、この脚本のまま演出してしまうと、藤子さんは、本編よりさらに寅の気持ちに対して鈍感な女性になってしまう。
婚約者がいながら、いい年をした中年の独身男に給料も払わず住み込みで親身に手伝ってもらうなんて非常識だからだ。
それじゃ、まるで浦安の三浦豆腐店の節子さんだ。

そしてマドンナだけではなく、もうひとつ重要な欠落が生じる。

それは良介の洞察力のことだ。

本編では、この最後の宴会の時、良介は姉の藤子をとらやの二階に呼んで、寅のことを利用してはいけない、
寅はお姉さんに惚れているので、結婚を考えないのなら、自分の店を手伝わせてはいけない、と本質的な説教をする。
このシーンは良介の面目躍如なシーンで、第20作で私がとても好きなシーンなのだが、改定稿段階の脚本では
当然このシーンは存在しない。
つまり、脚本では良介は寅の藤子さんを思う気持ちを理解しきれず、平気で寅の目の前で藤子さんの婚約者の
話題をしているのである。

これでは姉弟二人とも感覚が鈍感な人になってしまう。

山田監督は改定稿を書き上げてからそのことに気づき、現場で再考し、良介の感性をより磨かれたものに変え、
彼の感覚の中に魂を吹き入れ、かつ、藤子さんの感覚をより寅に寄り添わせたのであろう。

藤子さんに恋人がいないのであれば、ものごとは微妙になるので、藤子さんの心の片隅に寅が入り込む隙間ができるのである。
実際藤子さんは寅のことを人として信頼を置き、好感を持っていたと思われるので、たとえ寅がふられても、婚約者がいる場合とは
若干意味が違ってくるのだ。また、良介に寅の心の奥を語らせることによって、良介に、恋する大人の男としての資格も与えている。
このようにこのとらやの二階の良介の藤子さんに対する説教は、第20作にとどまらず、このシリーズ全体の奥行きの有無にかかわる
重要な意味を持つのである。



本編をもう一度再現してみよう↓






とらや 二階


良介「お姉ちゃん、寅さんと結婚する気あっとね」

藤子「な、なんば言うとね」

良介「もしお姉ちゃんにその気の無かなら、寅さん平戸に来るの断らないけん」

藤子「あんたの言うとること、さっぱり分からん」

良介「なんでそげんこつわからんかのお!」

藤子「...」

良介「ええかお姉ちゃん。寅さんお姉ちゃんに惚れとるばい」

藤子「...!」





                  





唖然とする藤子


後で怯えるように聞いているさくら。(とても辛そう…)

良介「オレが寅さんやったらなあ、オレが寅さんやったら絶対お姉ちゃんを許さん。
  好きでもないのに好いとる顔されて、うまく利用されとるじゃなかか」

藤子「やめんね!そげん乱暴な口ばきいて...。寅さんはね、あんたの考えてるより
  もっともっと心がきれいか人よ。私にはそれがようわかっとよ」

良介「いくらきれいかてん、寅さん男たい」

藤子「あんた!さくらさんの前で...、そげん口ばきいて...」と泣き崩れている。





                





普通独身の中年男が、親切で人がいいからだけでわざわざ遠い平戸で長い間、そしてこれからも店を手伝うことは有り得ない。
日本中どこを探してもいない。ボランティアにもほどがある。
確かに寅は比較的そのような男女の感情を人に感じさせないようなカラッとした、ある意味中性的なキャラだが、
それにしても限度というものがある。

それゆえこの藤子さんの鈍感さんは普通では考えられないことだが、このシリーズではかつて寅の一人相撲的な
滑稽さや悲劇性を強調するために時々この手の演出はされてもいた。そのことが映画にテンポを与えていたことも
事実だし、そういう展開が寅の特徴だということもわかってはいる。つまり『お決まりごと』なのだろう。
しかし、このシリーズは、この時点で第20作を超え、やはりそのような演出の時期はもう過ぎたのだ。
今や寅は、もう少し報われなければならない。

だからこの第20作で、あえて脚本に大幅にメスを入れ、今まで触れることの無かったマドンナの残酷さに触れ、マドンナに
それを知らしめる展開にしていった。
お決まりごとをぶち破り、それぞれ登場人物たちにもう一度カツを入れ、深みを与えた山田監督のこの決断は正しかったと言える。
これによって第20作は若さあふれる新しい風の向こうにしっかりとした核が存在する奥行きのある作品になり得たのである。

それにしても良介よ、よくぞ言ってくれた。上品で心優しいお姉さんには悪いが、私は胸がスーッとした。
特に上にも書いたとおり、初期の寅はいつもいつも惚れていることすら分かってもらえないであんまりだったからね。
でも藤子さんは、良介にそのことを聞いて愕然として涙を流していたので、自分の心を一瞬にして分析する優れた能力がある人だと
言うことも分かる。このへんのやり取りが第20作の要だ。


なお、第30作「花も嵐も寅次郎」のダイジェスト版はだいたい1月5日ごろの予定です。
第4作「新.男はつらいよ」本編完全版(前篇)は1月中旬あたりです。気長にお待ちください。



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第29作「寅次郎あじさいの恋」ダイジェスト版

2007年12月6日 寅次郎な日々 その338


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。

  


白く輝く月光の世界  ―かがりさんの悲しみと寅の絶望 ― 


寅がその人生の中でそれまでにないある大きな挫折感にさいなまれてしまったのがこの作品である。
それは彼が今までに経験した事の無い辛く悲しい恋だった。
私はこの作品によって、以前から気になっていた寅の性の限界をはじめて垣間見たのだった。

その相手であるかがりさんは、清楚な美しさに溢れた女性。
しかし、彼女は、夫には死に別れ、その後も恋人の陶芸家に裏切られ、失意のどん底に突き落とされてしまうのだ。
そんな悲しい運命のかがりさんのことを寅は気にするようになっていく。失意のまま故郷の丹後、伊根に帰ってしまった
かがりさんを、寅は遠く峠を越え会いに行き、そっとこう言うのである。

「誰を怨むってわけにはいかないんだよなこういうことは。そりゃ、こっちが惚れてる分、向こうもこっちに惚れてくれりゃぁ、
世の中に失恋なんていうのはなくなっちゃうからな。そうはいかないんだよ」  静かに頷くかがりさん。

                 


その夜、かがりさんはわざわざ丹後まで自分に会いに来てくれた心優しい寅に身を任せたくなる。そうでなくても彼女に
とっては、寅が赤い鼻緒の下駄をくれた時から、気になっていた人なのだ。彼女のその夜の変化に寅もさすがに気づく。
緊張感がスクリーンに漂う空前絶後のシリアスな場面である。おちゃらけもしないし、笑わない寅。このシーンはすべて素面である。
夜、彼女が部屋にそっと入ってきても寝たふりをしてやり過ごすしかできない情けない寅。
それでも座って待つかがりさん。遂に動かない寅を諦め、かがりさんはそっと部屋を出て行く。

この作品のかがりさんは、しらふである。お互い独身で、かがりさんを密かに気に入っている寅にとっては
嫌がる理由はほとんどなにもない。住所不定であろうが収入が不安定であろうが、生涯の伴侶としての『決意』と『覚悟』
さえすればいいだけである。一緒に住むということは基本的には『この女性と死ぬまで共に人生を歩もう』という気持ち
だけである。しかし、寅はそれがどうしてもできない…。

このシーンによって寅の限界が以前よりかなり露出してしまったのだ。このような怖気づく安全パイな寅はある意味私に
とってはほっともしたが、心の奥ではやはり切なく哀しくもあった。

今度という今度は寅は大きなダメージを受けたに違いない。柴又にたどり着き寝込んでしまう寅。これはいわゆる
『恋の病』でなく、もっと深い寅の挫折感をともなう絶望のような波が寅を飲み込んでいったのではないだろうか。山田監督は
リリーやふみさんの時にはあやふやで終わらせた女性に対する寅の『性』の問題を、この第29作によってさらに深く追求して
しまったのだった。                 

そして、遂に柴又にまで追いかけてくるかがりさん。私は彼女の消えることのない激しく燃える内なる情念にまたもや
息を呑んでしまった。限界を遥かに通り越してしまった寅。
満男をつれてかがりさんとデートをするというシラケタ行為の奥には、そうでもしないと、この情念の物語
を寅が終わらせることができなくなってしまうと本能的に思ったからであろう。
非常につまらないと言えばつまらないデートだが、それはそれでそういうプラトニックな愛し方があってもいいと実は思っている。

性的なことを抜きにしては愛が語れないというのも、なんだかつまらないし、ロマンチックじゃない。そんなものにこだわり
続けると、時として潤いが無くなり、貧困な感覚だけが残ってしまうからだ。

「私が会いたいなあと思った寅さんは、もっとやさしくて、楽しくて風に吹かれるタンポポの種みたいに自由で気ままで…。
 …あれは旅先の寅さんやったんやねえ。今は家にいるんやもんねえ。あんな優しい人たちに大事にされて…」

このかがりさんの言葉は、第11作「忘れな草」でいみじくもリリーが泣きながら訴えた言葉と重なっていく。

                 


寅はかがりさんと別れた後、電車に乗りながら、かがりさんを受け止める『覚悟』ができない自分に、涙を流してしまうのである。

自信が無いのではない。覚悟がないのだ。

やはりいつもながら結局は寅自身の問題だ。
わがままで風来坊な気質は、死ぬまで寅に付きまとう宿命なのだろう。

幼い満男はそれを見ていた。寅の心の奥の奥を垣間見てしまったのだ。
この時、寅と満男の一生涯の二人だけの糸が繋がる。この瞬間から満男の青春の黎明期がはじまり、
さくらとは別枠で、満男は年を追うごとに個人的に寅の影響を次第に受けていくのである。ある意味、
この作品ほど寅が可哀想に思えた作品は少ない。別れ際に小雨の中を駅の方に駆けていくカラ元気の寅を
今でも忘れられない。

また、物作りの奥義を究めた焼きもの師加納作次郎と寅の一期一会と真剣勝負の会話もこの作品の大きな見所だ。




それでは本編ダイジェストをどうぞ


@京都で作次郎と知り合う寅


松竹富士山
今回も夢から始まる。
昔話風(今昔物語風)

寅のナレーション
 今は昔、信濃の国に貧しい農夫の一家があった。
 朝には星を,夕べには月をいただいて働いたが暮らしはちっとも楽に何ねえ。
 だども一家はこれっぱかりも文句を言わず、毎日懸命に働いておった。
 ある日、一人の旅人がやって来た

今回の夢は『ストップモーション』多用で紙芝居風にしている。

善光寺に行く旅の老人が道に迷って、難儀し、一夜の宿をお願いしにやってきた。
さくらたちは、親切にその老人を一晩泊めてやる。
お年寄りにヒエのご飯を食べさせるわけにはいかないと自分たちはがまんして、
老人にだけお弔いのためにしまっておいた大切な米を炊いて白飯を老人にたべさせてやるのだった。


寅「
ハーフッ、がはッ、美味そうじゃァ
寅が食べようとしたその刹那
・・・クウ・・・
寅「???

寅、さくらたちににこっと笑ってめざしを食べようとすると
クルルル
寅「!?
箸に持っためざしを疑う寅 おいおいちゃうやろが ヽ(´〜`;)
満男の腹「キュルルル
博の腹「グウ!
さくらの腹「グウ・・
満男の腹「キュルルル
寅「!!気づく寅
寅、家族の前に茶碗を差し出して、それぞれの音を確かめる寅。
再度確認(^^;)
博の腹「グウゥ〜
さくらの腹「ギュウ・・・
満男の腹「キュルルゥ
さくらの腹「ギュウゥ

それぞれの音に個性があることがなかなか凝ったところ(^^)
満男のお腹の音は可愛い(^^)

寅が茶碗を3人の前で今度は逆回転でぐるぐる回したら
一斉にグウゥゥゥギュウゥキュルルんなアホな…(^^;)

                


寅「ぼうや、おまえは、今夜の『まま』はもう食べたのか?
満男「いいや、まだ食べとらん正直(^^)
さくら「あ!と満男の口をふさぐ。
、パコ!と満男の頭を叩く。
満男「あ!いて!エエエェ〜ンだよねえ〜、そら泣くよ、本当に食べてないんだから(TT)
さくら、よしよしと満男にフォロー
寅「ああ、いかん、いかん。わしほどの者がとんでんもないことを。
 うん〜・・そうであったのか、お前様方も口にせぬこのままを
 見ず知らずの旅人にありがたや、ありがたや、
 どのようにしてこのお礼を・・・うん!!そうじゃ〜!


なんと、張り替えたばかりの襖に墨で絵を描いていく寅。

博「あ!旅のお方、なにするだ!まったくだ(^^;)
さくら「やめてくだせえ、まあ、張り替えたばかしのふすまに、そんな落書きを!

白飯は食われるわ、落書きはされるわで、二人は泣きねいり(TT)

さて、一夜が開けると
アニメのスズメチュンチュンと部屋の中を飛んでいる。
そして襖に描かれたはずのスズメがいなくなっている。
博「どうしたことだこりゃあ
なんと飛んでいたスズメが襖に戻って絵の中にもう一度納まる!!
さくらと博「はあ〜…!!

ふすまが開き、寅が出てくる。
自動開閉式ふすまで寅が手を離しても動いている!宇宙人か(^^;)
博「へえ!何にも知らねえでとんだ失礼を
と二人ともひれ伏している。
さくら「さぞや名のある絵描き様でごぜえましょうちゃうちゃう、宇宙人宇宙人 ヾ(^^;
なんどもお礼を言って旅立つ老人を見送るさくらたちだった。

この評判を聞いて見物が後をたたず、
夫婦は小さな宿をつくり、『
すずめのお宿』と名をづけて
一生裕福に暮らしたそうな、めでたし、めでたし


                 





タイトル

男(赤)はつらいよ(黄) 寅次郎あじさいの恋 (白)映倫110817

口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
   帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
   人呼んでフーテンの寅と発します。


新緑の信州、木崎湖と残雪の後立山

  ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 
  わかっちゃいるんだ妹よ
  いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
  奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
  今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


おいおい、あのいつもの夢から覚める場面がないぞ。
あれは寅の夢ではないのかな?


ちなみに『脚本』のほうでは、寅は土産物屋の座敷で夢から覚める。ってことになっている。

木崎湖畔でハガキを書いている寅。

今回はミニコントやギャグは無し。

ゆったりと静かにテーマ曲が流れ続けている。


寅「おじさーん、『なつかしい』っていう字、どう描いたっけ?

油絵を描いている画家に尋ねる寅。
寅の希望通り、親切にハガキに直接書いてやる画家。
寅は、ハガキの文面を画家に伝えながら、とらやの面々を語りだす。

寅「このとらやというのはね、オレのおいちゃんとおばちゃんが
  細々とやってるケチな団子屋よ。あー

寅「忙しい時にはね、近場に住んでる姪っ子が手伝いに来るんだ。ん
寅、立ち上がり、

              

寅「これの名前が、さくらと言って、たったひとりのオレの妹だい、うん
画家「ほー、どこなんだ、君のふるさとは…?
寅「えー…、東京は、葛飾柴又…。江戸川のほとりよォ
いいねえ〜!この二人の空気!このおじさん。ただもんじゃないよ。誰だろう…。
ちなみにあの画家役の俳優さんは劇団民藝の名脇役である田口精一さん。

木崎湖の午後の美しい光と涼やかな風

♪奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


白馬三山をバックに清流姫川にかかる大出つり橋
昔、学生時代に3泊くらいで青木湖や木崎湖に友人たちと絵を描きに行った思い出がある。
あのおじさんのように絵を描き、ちょうど映画のような涼しい風も毎日吹いていた。
だから個人的には私にはあのオープニングは懐かしくてたまらない風景なのだ。




柴又 帝釈天参道

新緑の頃
爽やかな風が吹く中、さくらとおばちゃんが摘んだヨモギをたくさん持って歩いてくる。
この風景が大好きだ。なにげないのだけど、さくらたちが柴又に住んでいる臨場感を感じることができる
木崎湖畔の風といい、帝釈天参道の風といい、頬に風を感じられるこの作品のオープニングは個人的には大好きである。


                 


さくら「あら、御前様
御前様「おー、ヨモギ摘みかな
おばさん「いいお天気になりまして
御前様、ニコニコ彼女たちを見送る。
確か三崎さんのインタビューによると、実際に矢切の渡しに乗って二人で千葉県側まで
摘みに行くというロケがされたそうだ。本編ではその映像は採用されず、セリフの中のみで出てくる。
映像で見たかった〜!



とらや  店

社長、葬式の帰りに店先にやって来る。

社長の同業者の親父さんが亡くなったのだが、なんとその会場に妾の子供が二人現れて、
親父さんの跡取りは何にも知らなかったらしく会場は大騒ぎになり葬式はめちゃくちゃだったらしい。

社長「その死んだ親父ってのがやり手やり手だったんだけど、女のほうも相当だった
   らしいんだねえ、泣いてたよせがれ、可哀想に
             
社長「あ、そうだ女狂いで思い出したけど、寅さんどうしてる?わかってないねえ社長は。
おばちゃん「やな人だねえ、何もそんな時に寅ちゃんのことを思い出すことないだろう
おいちゃん「女狂いって言うんじゃないのあいつの場合は。なあさくら
さくら「そうねえ、女狂いはひどいわよ
社長じゃあ、なんて言うんだ?ああ言うの
おいちゃん「つまり、その…、よ…
わっち!ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ

自分でも言ってることが恥ずかしくてポロポロ草団子を箱からこぼすおいちゃん(^^;)
堅物下條さんならではのギャグ。いいねえ〜。でも確かに寅のあれは女狂いとは正反対な行為だ。
独りよがりな恋とも言える。
                     
                    ロポロポロポロ
                 


社長「ク、プップフフ、だって、いい年して、ギャハハ…、ハハハ!
後の床の間に『鯉(こい【恋】)』の掛け軸(^^)
兄のことを思い出し、心配するさくら。
さくら「お兄ちゃん、いつもだったらそろそろ帰ってくるころなんだけどね

そんな時、寅から絵葉書が届く。
満男「わあ!絵葉書〜、誰だあ?『信州にて寅次郎…』  おじさんからだよ
絵葉書の写真 :栂池自然園白馬三山と芽吹きの始まったダケカンバを背景に水芭蕉の群生。
さくら「えー、『懐かしきとらやの皆様、』本当に立派な字だわ
  『お変わりありませんか私こと相も変わらず、浮き草暮らし、
  これから京都の葵祭りに行きます。元気だからご安心ください、
  信州にて寅次郎』


博「残雪の北アルプスから新緑の京都か…。 いいなあ君の兄さんは
ほんとほんと。よくお金が続くよな(^^)

                 




京都  葵祭り

雅(みやび)な雅楽が流れる。

下鴨神社に向かって、ゆったりと牛車や行列が歩んでいく。そのあとは行列は上賀茂神社へ向かう。
京都市左京区下鴨宮河町付近

寅、啖呵バイ 『ピッタリコン』(瞬間接着剤)

ポンシュウ、近くでラムネを売っている。全く売れなくてお手上げ。
ポンシュウに後は任せて、帰っていく。


                 


寅「あ〜
今日はお手上げの寅次郎でした。そりゃそうだ。葵祭りと『ピッタリコン』は合わないよねえ。


賀茂川(鴨川)の流れ。

加納作次郎、賀茂川をゆったりと眺めてる。
立ち上がり、歩こうとすると下駄の緒が切れる。

そこへちょうど寅が前を通りかかり、鼻緒を直してやる。

寅「おい、おいじいさん、どうした?鼻緒切れちゃったか、え?おい、貸してみな…、ほれほれ。
 え、チビた下駄履いているな、おい、え〜?買ってもらえないのか?息子の嫁に、

作次郎「……
寅「
しょうがないな、これ直してやろう、おい、(ピッビィ〜イッと腹巻から出した
手ぬぐいを歯で思いっきり引き裂いて)
なあ、
芝居だったらこういう時、かわいいきれいな娘さんがスッと現れて、
『あら、ご不自由でしょう、あたくしにお手伝いさして下さい』とか言ってな!へへっ、

桃色のハンカチを取り出して、かわいい口元でピッと裂いたりするんだけどよ、

へへっ、このオレじゃどうしようもねえな、


                 


寅「アハハハ、よし!ぺっ(唾つけて)!でも、まあ、じいさんも色気の方も卒業したんだろう、え?
作次郎、ニカァ〜と笑う。

寅「
ヘヘへヘへ…よしと!ほら、出来たよ、足上げてえ!、ん!はいはい、
 はっほっ、おっおっおいっ!はい、出来たよ、ハイ!

と手ぬぐいで足をはたいてやる。
優しいね、粋だね〜、寅の本領だね。これは、隠れた名場面。渥美さんの独壇場。
作次郎「えらい世話になってしもうて、
寅「なあに、困ったときはお互いよ



焼餅(やきもち)の店

上賀茂の『神馬堂
 

寅「
じいさんは若いころは何やってたんだい?
作次郎「わし?
寅「うん
作次郎「わたしは焼物師
寅「ほう、うん、じゃこうした茶碗焼いてたんだ

作次郎頷く。

                 


寅「へ〜えそりゃ大変な仕事だね、ありゃ薪割ったり泥こねたりなァ…、でももう今は楽隠居だ、な
寅は島根の温泉津の絹代さんのところでいろいろ見てきたからね、窯場は。
作次郎「今でも働いてます
作次郎「なんて言ったらええかいな、これ…。
    なかなかええ茶碗がやけんのでな、この年になっても

なかなかこういうふうには言えませんよ。

作次郎は寅を気に入り、ビールでも飲もうと御茶屋に連れて行く。
作次郎「いや、私な、あんたともう少し話がしたいいい言葉だね(^^)



三条鴨川近くのお茶屋さん

もう二人ともそうとう酔っ払っている。
作次郎「土に触ってるうちにィ、自然に形が生まれてくるのや

                 


作次郎「こんな形にしようかあ〜、あんな色にしようか〜ってな事、こりゃ頭で考えているのとは違うんや。
    自然に生まれてくるのを待つのや、ナ、
けどその自然がなかなか難しい…
寅「そう、難しい難しいふらふら泥酔(^^;)
作次郎「こんなええもん作りたいとかな、人に褒められよ〜ッ
    ってあほな事考えてるうちは、はっ!ロクなもんはでけんわ、ん〜

作次郎「作るでない!これ、掘り出すのや!!あー…
作次郎「美しい〜いモンがいてなあ、
    出してくれ〜、はよ出してくれ〜言うて、泣いてんねん…ウン
涙ぐむ作次郎 おいおいゞ( ̄∇ ̄;)
またもや、芸者さんの膝にゆっくりともたれかかり寝てしまう寅。




次の日  朝

大原女の花売り
花いりまへんか〜花いりまへんか〜

加納作次郎 自宅  東山区五条坂

五条坂にある河井寛次郎記念館ロケ

ふすまが開く
寅の服を木箱に入れて持ってきたかがりさん
かがり「おはようございます隣に洗面所がございますから
寅「ふあい…????寝ぼけている(@@;)
寅、大あくびしながら同時に階段箪笥を下りてくる。

寅は、ここが旅館だと思って作次郎の弟子の近藤に千円を払おうとするが、近藤に
「加納先生のお宅」ですと言われてもピンとこないでいる。

近藤「じいさんとは何だ!じいさんとは!
  このお方をなんと心得る!日本を代表する陶芸家
加納作次郎先生ですぞ!無礼者!控えよ!
作次郎は、焼き物作りがとびっきり上手いだけで、別にいわゆる偉いお方というわけではないんだけどねェ(^^;)
作次郎「アッハハハ、おかしな男やろ

                 


寅「面白いなあ 水戸黄門みたい
寅って、ほとんどテレビは見ないのにさすがに水戸黄門は知ってるんだねェ…
寅「へ〜大したもんだ、ねえ
作次郎、ニコニコ
寅「何やって儲けた?おじいちゃん
                 
意外な寅の言葉に唖然とする作次郎。そんなこと言われたことがないのだろう。
寅、座りなおして、
寅「あー…、茶碗焼いただけでこれだけの家は建たねえもんなあ、
んだんだ。こういう時するどいな、寅って…(−−)
寅「なんか陰でこっそり悪いことなんかしちゃって

                 


作次郎「……複雑な顔になる。
寅「ま いいや ねっ いろいろあるからな、お互いに、言いたくねえことは、フッ。
手で膝をパチンさて と
作次郎「ま、ええやないか
寅「あ、また来ら。 おう、番頭さんよ世話になったな。また顔出しするから。じゃあばよ

寅が去った後
作次郎、苦い顔をして
作次郎「キツイこと言いよる

                 


手伝いのお婆さんその言葉聞きながら
婆さん「フ、フフ…ほんまでんなとクスクス笑って行く。お婆さんも言うねえ(^^)
作次郎、ばあさんを睨んで、
作次郎「なにがおかしいんや、あのババア
作次郎さん関西人やねえ、上手いなあこの感覚。

寅の言葉に、何かを感じた作次郎。
有名になるにつれ陶芸の世界のからくり(法外な末端価格)に見て見ぬふりをしてきたことも事実だろう。
清貧を貫いているようにはどう考えても見えないからである。
まあ、作次郎の場合はくれるものはもらっとこやないか的考えなのだろう。
別に悪くは無いが、寅のような感覚の男からは、茶碗一つが少なくても何十万円以上もするなんてことは
考えられないことなのであろう。

茶碗には茶碗の値段がある。というのが寅の感覚なのだ。
物の値段というものはいくら有名でも、ほどほどというものがあってしかるべきなのだ。

私の携わっている絵画の世界もそうだが、知名度がかなり高くなると異常ともいえる高値がついてしまうのが
この手の世界なのである。一生懸命いい茶碗を焼いても一万円の人もあれば同時代ですでに
その数十倍以上の値がつく人もある。茶碗の価値とは必ずしも一致しない。

しかし、作次郎が名も無き寅の言葉を受け止め、何かを感じたとすれば、それは彼の才能である。
多くの有名作家はそんなこと部外者に言われても、なにも感じないばかりか、鼻でせせら笑うだけだろう。

敏感な感受性と問題意識を持てるのはある意味作次郎の優れた能力である。



五条坂 自宅近くの道

豆腐を買って歩いてくるかがりさんと出合う寅。

かがりのテーマが流れる    ギターで

寅「いやね、夕べやりすぎちゃって、へへへ、具合がまた、今度来たときごちそうになるよ、うん、あばよ
寅「あ、えーっと、オレ今何所にいるんだっけ?
かがり「ここは五条坂いう所ですけど

                 


寅「五条、あ、こっちが四条でこっちが七条って事になるわけかはは、京都は道がわかりやすくていいよな じゃ
背広を肩に羽織り、粋に歩いていく寅。

かがりのテーマ、アンダルシア風にジャジャアン!と鳴る。

寅、しばらく歩いて振り向き手を振るが、
かがりさんは立ち去った後。

五月の風…。





夜  旅館 美福

東寺と京都タワーが見えるので七条付近か。


ポンシュウ、売れ残りの下駄を持って2階へ上がってくる。
寅「お疲れさん!
ポンシュウ「
寅「どうだい景気は
ポンシュウ「だめだめ三隣亡。こんなに売れ残っちゃった
と大量の下駄を持ち帰ってくる。

旅館の湯飲みを眺めながら、ぼんやり作次郎やかがりさんのことをふと思い出す寅。

こういうタメのある演出、私は好きです。

                 





A寅のかがりさん通いとかがりさんの失恋

翌日

作次郎仕事場 朝

一階の居間

寅が入ってくる。
昨日のお礼と土産に下駄をみんなに持ってきたらしい。

                 


(寅、少し照れながら)
それから、これ、…あんたに。鼻緒が派手だったら取り替えてくれや、なっ。
それから一番安いの番頭さん、 これ婆さんにやってくれや
どうだい、やっぱりちょっと、派手か?
かがり「いいえ
寅「そうかい、そりゃよかった

寅「おねえさん、くに(故郷)はどこだい
かがり「あ、私 丹後です
寅「おお、丹後縮緬の
寅「へーえいい所だよねえ、たまには帰るの?
かがり「月に一ぺんぐらい
寅「へーえ…。誰がいるんだい?
かがり「母親と…
寅「ほう、高校行ってる弟とか妹とか、生意気盛りの
かがり「私の娘が…ちょっと言いにくそうなかがりさん。
寅「それじゃあ…、ご亭主は?
かがり「五年前病気で…

山田監督ってマドンナの夫よく死なすよなあ…(^^;)
それにしてもかがりさん、全体にちょっと暗い…

寅「あー…、そりゃあ、いけねえ事聞いちまって…
と、頭を下げる。

かがり「ほんならこれ、ちょうだいします

寅「しかし、親子が離れ離れになっていたんじゃ…、寂しいだろうお互いに
かがり「時々電話で話しするから…、ほな、先生呼んできます
寅「あ、いいよいいよ仕事の途中だからさ、

寅は、かがりさんに会いに来たので加納先生のことは、どーでもいいみたい(^^;)


庭に出るかがりさん。

かがりのテーマがしっとりと流れる。

かがりさん、庭に出て、さっきの寅のことを思い出し、下駄を見つめながら、ちょっと微笑む。
寅の気持ちが嬉しいかがりさんでした。
かがりさん笑いましたね。ほっとするよ

                 


一階居間に入ってくる近藤。
近藤は、体よく邪魔な寅を追い出そうとするが、寅はなんだかんだとかがりさんが気になっている。

寅「今日はよ、あんたと話をしに来たんだ。こっちきなよ、こっちきなよ
寅「いまさ、あの、ここを出てったねえちゃんいるだろ、あれここの女中さんなの?
近藤「かがりさんですか?
寅「あ、かがりさんて言うのさりげな〜く聞いている(^^;)
寅「あれ、どういう人?さりげな〜く、さりげな〜く(^^;)
と、いろいろかがりさんのことを近藤から聞きだそうとする寅だった。



その後、作次郎が、かがりさんにつきそわれ寅のところへ入っていくと、
なんと、作次郎の知らない間に寅は、
見学希望の女子大生を部屋の中に入れてキャーキャー大騒ぎしていたのだ。


寅「はい、はい、先生の前にいいかい?ほらほらそら!はい!周り囲んでね!
 にっこり!かわいく!はい、フフ、いきますよオ!

寅、作次郎の表情見て、
寅「ダメだよ先生そんなウンコ食べたみたいな顔してたんじゃさ
出たあ〜!!強烈な寅ギャグ ┐(-。ー;)┌

寅「
ねえ、もうちょっと愛嬌出して!にっこり笑って先生、
歯ァー出して歯ァー出して歯ァー出して!歯ァ出して!ハイィ!よく出来ましたッ!!
作次郎言われたままに笑う。お人好し〜(^^)

                 


かがりさん台所でそれらの様子を見てくすくす笑ってる。

いろいろ、過去がありそうなかがりさんの人生だが、寅が時々訪ねてきて明るさが蘇っていったのかもしれない。
この美しいかがりさんにこの後寅が照準を合わされ『ロックオン』されることになろうとは誰が予測しただろうか。





柴又 とらや 雨


茶の間


さくらが、近所の陶芸教室で絵付し、焼いてきた湯飲み茶碗をみんなに見せている。                   
みんなでさくらの絵付けをなかなかのものだと誉めるのだった。
博「ちょっとした加納作次郎だなあ
出たァ〜〜〜ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ

さくら「あらうれしい、私好きなの加納作次郎
適当〜なんだなこれが。このことは、あとで分かります(^^;)


                   

後にさくらが加納作次郎に実は対して興味のないことがわかるエピソードが1つ。
そして加納作次郎の作品を理解していないことがわかるエピソードも1つあった。

おいちゃん「有名な人か、それ
さくら「うん、人間国宝よ
おいちゃん「ほおー
おばちゃん「高いんだってねえ、そういう人のものは…
相変わらず社長同様、値段が高いことにとても関心があるおばちゃんでした(^^;)

社長「我々はプラスチックで我慢するんだねえ。なんてたってれないからねえ。
 オレとこなんか皿から茶碗までプラスチックだよ。ちょっと味気ないけどねえ、動物園みたい

               
社長の去った後、みんな社長のことを同情する。
一同シーン
さくら「たいへんなのね、社長さんの生活も…

っていうか、そこの部分にこだわっていないだけだよ、社長夫妻は。お金があっても平気で狭い借家住まいの人もいれば、
貧乏なのにローン組んで一軒家建てる人もいる。人の趣味と価値観の問題。

さくらがプラスチックの食器を日々の暮らしで使う時に感じるであろう惨めさの感覚は、おそらく社長夫妻にはないと思われる。
そのかわり、社長は、『工員』でなく『社長』であることにこだわる。
博はそこはさほど必死にはこだわっていない。人それぞれのネックがあるだけだ。


電話  リリリーン

さくら出る

さくら「はい とらやです。あら!お兄ちゃん!?
さくら「今どこにいるの?京都?まだ京都にいるのお?

どうやら電話によると、寅は、京都で長逗留して、茶碗を焼いているらしい。
みんな、なぜ寅が京都で茶碗焼いているのか不思議がっている。

                   

博「ひょっとしたら…、食うに困って窯場で働いてんじゃないのかなあ?京都は窯場が多いから

今までの寅の行動パターンではそうじゃないだろ博。
食うに困ったからって地道な労働なんかする
タマじゃないよ寅は。
寅がひとっ所に気持ちよく長居する時は決まって……ひとつの理由のみ(^^;)


 

京都 作次郎の自宅

昔、内弟子だった、やり手の蒲原が久しぶりに来ている。(出ましたお馴染み津嘉山正種さん!)
いろいろ出世して、作次郎に挨拶に来ている。
実は、彼はかがりさんの恋人だったようだ。しかしこのたび違う女性と結婚すると言い出すのだった。


蒲原「実は今度、美濃に仕事場を作ることにしました。やっぱりいい土が手近にありませんと…
かがりさん、蒲原のジャケットの肩についたゴミをさりげなく取ってやる。
作次郎「んー、そらえらいわ、ん。けど、かかりが大変やで
蒲原「は…。私のところに勉強にきていた娘さんがいまして…。
   名古屋の方なんですけど、その人の実家で、土地を提供してくれるというもんんですから…

作次郎「ふうーん、そら結構な話や…なあ…
蒲原「
作次郎「で…その娘はんと、あんた…との関係は?
蒲原、かがりの方を気にしながらも
蒲原「
え…そのことなんですけど…、その娘さんと…結婚…することに…
作次郎「!……へええ〜…作次郎ワナワナ(((^^;)
かがりさん台所から蒲原を見て唖然。   
作次郎「かがりさん、かがりさん!、ちょっと
かがりさん、蒲原の近くへ
作次郎「
あんた、知ってたんか?今の話
かがり「いいえ…」と小さく首を振る。
作次郎「あんたそれでええのんか?
かがり「…はい。蒲原さんがそれでお幸せにならはるんやったら…、もちろんおいおいヾ(- -;)
蒲原「かがりさんを見つめ続けている。
作次郎「へええェ〜…(▼▼メ)
いよいよプッツン切れそうになってそっぽを向く作次郎。

                   

近藤「あの〜…、か、蒲原さんはかがりさんと、結婚するわけじゃなかったんですか?
   僕はてっきりそう思ってたんです…

蒲原「先生、この問題については、まず、先生のお許しを得て、それから、かがりさんに話そうと思ってました。
  確かに僕は、かがりさんは素敵な人だと思っています。その気持ちは今も変わりありません。
  もちろん結婚について真剣に考えたこともあります。ただ…
いいわけいいわけ(−−)
作次郎「もうええがな、おまえが誰と結婚しようと、おまえの勝手やろブス…
蒲原「
おばあちゃん「かがりはん、お燗ついたえ

かがり「私のことやったら気にせんといて。気持ちようわかってるさかい…なんでそうくるねん(−−;)
蒲原、涙を流しながらも、そそくさと帰っていく。
蒲原「僕、帰ります…ほおおォ…お逃げやすかァァ…(−−)

かがりさん、作次郎に
かがり「ご心配かけてすいませんでしたなんで??

かがりさん深深とお辞儀

作次郎、不機嫌そうに席を立ち、階段箪笥を上がっていく。

本来ご心配かけさせる原因は心変わりした蒲原にあるのでであってかがりさんが謝る筋合いのものではない。
こういうところが逆に作次郎にとってはムシズが走るのだろう。なんでも謝れば丸く収まるもんじゃないのだよかがりさん。

ま、要するに蒲原は自分の陶芸家としての成功への道を選択したわけだ。別にかがりさんが彼の子供を宿しているわけでも
ないし、結納をかわしていたわけでもないので蒲原が責められるべきことでもない。恋人に他に好きな人ができて
かがりさんへの気持ちが冷めたと考えてもそう間違いではないだろう。見ているこっちとしては悔しいが、
男女の問題はあくまでも当人たちの問題なのだ。決して善悪や倫理の問題ではないし、早いもの勝ちでもない。
それでもかがりさんは諦めるのがあまりにも早くちょっと理解不能。




二階の作次郎の部屋

作次郎「何で私に謝らんならんのや、え?これはあんたの事違うか?え!?
    かがりさんが幸せになれるかなれんかという問題と違うんかいな!
    あんたほんんまに蒲原を好きやのか?


                   

かがり「(はい)」と口の動き。
作次郎「それやったら何であの男の首玉にしがみついてでも一緒にならへなんだんや。
    人に気ィば〜っかり使うてるあんたを見ているとな、あたしゃ時々腹立ってくる時があるねん


                   

作次郎「人間というもんはな、ここぞと言う時には全身のエネルギーを込めてぶつかって
    行かんとあかんのや!ああ!命をかけてぶつからんとあかへんねん!
    そ、それがでけへんようなら、とてもやないけどあんた幸せにはなられへんわ!

と怒り心頭してそっぽを向く作次郎。

そもそも野心家で世渡り上手な蒲原と何事も控えめで諦めがちなかがりさんとではいずれは
破綻が来ることは目に見えている。蒲原に今必要なのは実質的に自分をしっかりと後押ししてくれる
パートナーなのだろう。心や気遣いの問題では乗り越えられないものも現実社会にはある。
そういう生き方は確かにあるのだ。特に物作りの人生にはそういうことは実によくあること。
第17作の池ノ内青観と志乃さんもひょっとしてそのような人生の別れだったのかもしれない。


とにかくなにはともあれ、今一番ショックを受けて悲しんでいるのはかがりさん本人だ。作次郎はそのことに
配慮がいっていない。結局は作次郎は自分の気持ちが納まらないだけなのである。




B作次郎の反省と丹後へ行く寅

数日後作次郎の自宅

寅が花を持って作次郎を訪ねるが、
かがりさんは、実家の丹後に帰ってしまった後だった。


                   

おばあちゃん「丹後に帰らはりました
おばあちゃん「もう戻らんやろなあ…
寅「帰ったあ?





国鉄舞鶴線(現在の北近畿タンゴ鉄道(KTR))  

汽車の中

宮津に向って走る汽車に乗って故郷に帰っていくかがりさん。
窓から見える海岸の景色をぼんやり見ているかがりさん。

                   

海岸線を汽車が走っているので舞鶴線を使ったのかもしれない。





作次郎の自宅


寅「ふう〜ん…可愛そうになァ、そうだろう、
 早い話がさ、かがりさんは男にふられたんだよ。
 慰めてやるのが本当じゃないか、なんで叱ったんだよ?

作次郎「う〜ん。ちょっと言いすぎた思って後悔してんねん反省中…(−−;)

                   

寅「チェッ、困ったもんだね年寄りってのは、全然女の気持ちなんてのは分かっちゃいねえんだから
寅は、そろそろ自分は旅に出ることを告げに来たのだ。
作次郎「なんや、あんたも行くのか
寅「うん、ま、気が向いたらまた顔出すからよ、じいさんも、元気出して、いい仕事しろよ、な
近藤「あ、どちらへいらっしゃるんですか
寅「んなことオレにも分からねえや。風の吹くまま気の向くままってやつだよ。
 道の真中でよ、こうやって指にツバキつけるだろ、で、こうやって出すわけだよ。
 ふっと風が吹いてきたなって方へ一緒につられてフワフワフワフワ〜っと行っちゃうわけだ


 いいねえ…。第42作「ぼくの伯父さん」での寿子さんのセリフじゃないが
「私もそんな旅がしたかあ〜」だねえ。もちろん「現実の旅は」は厳しい、侘しい、淋しい、
お金無いの連続でもあるのだが…。

作次郎「その風、丹後の方へ向いて吹かんやろか…
寅「うん?そりゃどう言う意味だい?

                   

作次郎「いや、もし丹後の方に足が向いたら、かがりさんに会うてやってくれへんやろうか
寅「うん、まあ、風に相談して決めるよ、な

作次郎「あ〜、ちょっと
寅「ええ?
作次郎「寅次郎はんにはいろいろ世話になったしあんたに何ぞお礼をと思うててんけどな
作次郎棚から茶碗を取り出す。
寅「いらない、いらない、そんな物はいらないよ
作次郎「これはな、これは私わりに気に入ってる茶碗やねん、
   ま、この茶碗で茶でも飲んで、あてのこと思い出してくれへんか

と、気に入っている『打薬窯変三彩碗』を差し出す。
寅「いいんだよ、じいさん、オレはずっと旅暮らしだろ、
 で、しょっちゅう旅館の茶碗で事足りてるから、なっ

作次郎「いやいやこれは私の心持ちや、な、な、もし
いいねえ「心持ち」なんて言えないよ、なかなか。

                   

寅「まあ、そう言うんだったら、じゃあと手荒く受け取る。
作次郎「
寅「遠慮なくもらうか、な、おし」と軽く受け取る。
作次郎あせって
作次郎「近藤、箱を
寅「箱なんかいらねえ、邪魔になるから
カッコイイねえ寅のこういうセリフ。確かに旅暮らしなもんで…(^^;)

作次郎「けど、割れるといかんよってにな
寅「うん、割れたって大丈夫だよ、オレな商売もんのいい接着剤持ってんだよ、
  これ!瀬戸物だってなんだってピシ―ッと

と、バイネタの瞬間接着剤『ピッタリコン』を取り出す寅。だめだこりゃ(−−;)
寅「あ、そうだこれちょっとわッかいてくっ付けて見ようひえ(00;)
作次郎「いや、やらんでええ!               
寅「え?やらんでいいか?そうか、はあ、よく効くんだよこれ、うん、まあ、もらってか
 こんちゃん、いろいろ世話になったな


この人に高価な茶碗やっても無駄and危険(^^;)

寅が去った後、

近藤「先生!あんな大切な作品やってしまって、
   あれ、神戸の
ビビビビ美術館がカッ..買いたいって言ってた(^^;)
近藤の唾が作次郎の顔を直撃 きちゃない(><)

作次郎「ええがな、ええがな、もう、いずれは割れるもんや焼き物は

                   

さすが焼き物師、加納作次郎だね。焼き物は焼き物以上のものではない、ということを冷静に離れたところで
見れているのだ。物作りに執着する余り、自分の作品を神様のように崇める作家もいるが、焼き物は焼き物。用の美。
茶碗はいつもお茶を入れてこそ茶碗。割れもするし、欠けもする。
生活の中で使って割れるのならそれもよし。ということなのだろう。





丹後半島 

バスが断崖絶壁をクラクションを鳴らしながら走って行く。
丹後海陸交通株式会社

伊根町日出 付近のバス停で降りる寅

機織の音 丹後ちりめんの生地作り
寅「ごめんよ、ここは、あの、かがりさんの…お宅かね?
かがりのおかあさん杉山とく子さん出てきて
おかあさん「はい、そうです
寅「あ、オレは、京都の加納先生のところでかがりさんと知り合った
 ものだけれども、かがりさんいるかね?

おかああさん「それは…わざわざ、こんな遠いところに

出てきたかがり、寅を見て立ち尽くす。
かがり「寅さん…
寅「よお、へへへ…
かがり「なんで?だよな、確かに(^^;)

                  

寅「んー、風に吹かれて、ふらふらしてるうちによ、宮津まできちゃった、ハハ、どうせここまで
 来たんだったら、かがりさんの顔見ようてんで、まあ、ちょっと足伸ばしたってわけよ、
 なんでい、元気そうじゃねええか
うそうそ、来たくて来たんだよ(^^;)

寅、その話無理があるよ(^^;)
かがり、胸に手を当てて
かがり「いやあ、あー、びっくりした
寅「へへ、おどかしちゃって悪かったな、急に思い立ったからよ、んうそうそ、急にじゃないだろ(^^;)
かがり「すいません心配かけて
寅「いやいや、フフ…

かがりのテーマ

背広をひょいっとたくし上げて、粋にすっと座る寅。

こういう何気ない仕草が、実に絵になるのが渥美さんだ。


                  

かもめの鳴き声
静かに光る伊根の海が映る。
寅まくっていた背広の裾をふわっと下に落として…、

                                 

寅「まあ、オレも詳しく聞いたわけじゃねえけどさ、
 あのほら…何とか言う、じいさんの弟子が、
 あんたのことをソデにして、他の女と一緒になったと…、
 つまりこういうわけだろ?


かがりさん、寅を見て、かすかに頷く。

寅「
誰を恨むってわけにはいかなねえんだよね、こういうことは。
いいこと言うなあ…(TT)

                  

寅「そりゃ、こっちが惚れてるぶん、向こうもこっちに惚れてくれりゃあ、
 世の中に失恋なんてのはなくなっちゃうからな、そうはいかないだよ…

              
寅がこれ言うと実感やのう〜(TT)

かがり「寅さん
寅「え?
かがり「もういいの、すんでしもたことは、くよくよ考えへんタチ
   やから。フフ…見かけによらず、フフ…

寅「フフ、漁師の娘だからな
かがり「漁師の家で育ったんやけど、ほんまの親とは
   ちィちゃい時別れて、そんでここにもらわれてきたん

寅「へえ〜…
かがり「生まれたんは若狭のほう

                  

寅「そうか…、かがりさんずいぶん苦労してきたんんだなあ…
かがり「苦労が身について、臆病になってしもたんやねえ、なにごとにつけ。
    先生にそういうて叱られたん。

寅「え?
かがり「
あとのこと考えず、体ごとぶつかっていかなあかん。
    人生には何遍かそういうことが必要やって…

寅「きぇ〜、えらっそうに、調子のいいこと言ってあのじいさん、
  かがりさんにちょっと惚れてるんじゃねえのかい?

かがりさん、驚き
かがり「
あは、あほなこと言うて、フフ
寅「へへ、ほんとだよ、フフ…

遠くで連絡船の汽笛

あれが最終便と聞いて慌てふためく寅。
寅「ちょ、ちょっとおーい!おーい!船頭さああん!船頭さああん!
船頭さんって…ヾ(^^;)          

かがりさん、ちょっと笑っている。
寅、おろおろして困り果てている。
かがりさん、にこやかに
かがり「うちに泊まりはったらどうどす?そないして、ね
そそくさと寅のカバンを持って離れに入っていくかがりさん。
かがり「どうぞ 
かがりさん、ロックオン完了


                

寅、緊張で顔がツッパッている。(〜〜;)
寅はこういう時には変に動物的カンが働くのだ。       
こうして寅の長い長い一夜が始まっていく。
ああ寅次郎青年の運命やいかに…。





C寅の人生で一番長い夜、そして深い絶望

かがりの家  居間

              

和代がおばあちゃんにパジャマを着せてもらっている。
おばあちゃんは、このあと、姪っ子のお産で夜から出かけていくのだった。

和代は隣の部屋で寝ている。


おばあちゃんを迎えに来た車が出て行く音。


二人っきりになて、お銚子を持ってくるかがりさん。お酒を飲みたがる。
寅「結構いけるくちなんじゃねえか
かがり「亭主に死に別れてから覚えたのと酒を飲む。
寅「京都じゃ飲まなかったんだろ
かがりさん飲みながら
かがり「台所でこっそり飲んでた、フフ…と微笑む。
寅「へええ…と意外そうな寅。
かがり「けどおいしないねえ、…一人で飲んでもほんとほんと(−−)

寅「
んん…オレも、旅先の宿で一人で飲む時やあ、こんな徳利二三本ですぐ酔っ払っちまうよ
かがり「それからどうすんの?
寅「んん、ま、すぐごろんと寝ちまうさ。で、次の朝、なんだか枕元の方で
 カラコロカラコロ女の下駄の音が聞こえてなあ…、

 つー、あれ、オレは今どこにいるんだろうな、なんて思ったりして…へへへ

第8作「寅次郎恋歌」での貴子さんとの最後の夜の会話を思い出したよ。
ほとんどあれの焼き直し。


かがり「そういえば、初めておうた時…
寅「…どうした?
かがり「フフフ…姉ちゃんオレどこにいるんだろうなあ…、変な人やなあ…、と思たんよお

と、寅をじっと見つめる。行動が若干大胆になっているかがりさん。
もちろん寅は敏感に察知している。


                

寅「タァ、そんなこと言ったかなあ、ハハハ

かがりさん、寅のほうに少ォし寄り添って
かがり「飲まない?やっぱ積極的(^^)
寅、ちょっと緊張して
寅「

かがりさん、寅に酒を注ぐ。
寅、酒を注ぐかがりさんを見つめる。
寅の目は笑っていない。

緊張が二人の間を走る。


                  
 シリアスな寅の目
               


寅が、大きな理由もなく、このような目でマドンナを見つめるのはシリーズではじめて。
リリーに対してはこういう目はしない。


かがりさんは、相変わらず寅の方にちょっと寄り添うように座り、
下を向いている。京都時代のかがりさんとはかなり違うなあ…。



遠くで船の汽笛。

カメラは上から二人を小さく撮っている。

寅「……
かがり「……

黙ってしまう二人。
こういう緊張はすべてシリーズ初の状況。

               

緊張に耐えれなくて少し眠くなる感じの寅。

緊張の糸をほぐすように

かがり「これ食べて
寅「ああ
と、二人とも苦笑い。

その時、隣の部屋から和代の声。
和代「おかあさん…(^^;)あちょ…

緊張の糸が切れかがりさんも寅もスッと血が引く。

               

かがりさん、小さな声で

かがり「ごめん意味深…(^^;)
立ち上がって、襖を開けて
かがり「まだ起きてるの?はよ寝なさい
和代布団の中から
和代の声「だって暑いんだもの

かがりさん、布団の中に一緒に入って寝かしつけている。

寅、添い寝しているかがりさんを見ている。

布団の中から妖しく見えるかがりさんの脚を見てしまう寅。

このような寅の視線もシリーズ中はじめて。


                 

和代「一緒に寝てェ
かがり(無声音)「すぐ寝るから、はよ寝なさい、ね。お母さんすぐ寝るから…

いろいろ考えて極度に緊張してしまう寅。
遂に立ち上がろうとして、体がこわばり大きな音をたててしまう。
かがりさん、ハッと起き上がって
かがり(無声音)「どうしたの?
寅「急に眠くなっちゃったんで、横にならせてもらうよ
かがり「そう…、お布団…私の部屋にひいてあるけど…
ふたりっきりの時間が突如終わってしまって少し不満そうな表情で部屋に案内するかがりさん。
寅「どうも、酒に弱くなったのか、ちょっと飲むとすぐ眠くなっていけねえや、ハハ…
若干無愛想になるかがりさん。

               

戸を開けて離れに行く寅とかがりさん。


かがりさん、階段から上を指差し、

かがり「二階の奥やから…
寅「あ、この奥、はい…
かがりさん、ちょっとぶっきらぼうに
かがり「お休みなさい」と言い、出て行く。
寅、かがりさんの変化に気づき、情けなくかがりさんの後姿を見る。

四十をかなり過ぎているにも関わらず、女性とのこのような静かな係わり合いさえも
緊張してしまって耐えられない寅。あまりにも逃げるタイミングが早すぎる。
情けないというよりも、悲しみすら感じてしまう。


かがりのテーマが流れる。

二階に上がっていく寅

二階の部屋

ゆっくり布団の敷いてある部屋に入り、敷布団に腰を下ろし、少し考え込みながら
となりの薄暗い和代の勉強部屋を遠く見る寅。


            


遠くで船のエンジン音が聞こえる。
窓の向こうは海。
ゆっくり布団を被って寝る寅。
寅「はァ、あ
と深くため息をつき、天井を虚ろに見る寅。

二人っきりの時間を自ら止めてしまったことを後悔しているのかもしれない。
目はつぶらず、さっきまでのかがりさんとの緊張感のあった空気を思い出している。
二人っきりの部屋で女性と酒を飲むことすらできない寅。どうしていつもこうなんだろう…。


居間で食事の後片付けをするかがりさん。

波打ち際、寄せてはかえす波が月光に白く光っている。

いつまでも寝付かれない寅。
やはり心が静まっていないのであろう。

なにかを今も考えている寅。

やがて…離れの戸が開く。

気づく寅。


              

階段を上がるかがりさん。きしむ階段の音
首を起こして緊張する寅。
カメラはズームで寅の表情を追う。
かがりさんが和代の部屋に入って母屋で寝ている和代のために
ランドセルを取っている音。

思わず寅は寝たふりをする。
かがりさん、寅の寝ている部屋の前で止まり、
かがり「ん……寅さん…
寅、顔を横にして寝たふり。
かがり「もう寝たの?…
和代のランドセルのカバンの鈴が僅かに鳴る。

かがりのテーマが静かに流れる。

静かに襖が開く。
ランドセルの鈴が鳴る。

              

寅をじっと見るかがり。

窓が開いている。
かがり「あ、…開けっ放し…と部屋にそっと入り奥の窓を閉める。
寅の横に座り

かがり(無声音)「電気つけたまま…
寅の顔は目をつぶったままかがりの方を向いている。
かがりさん、スタンドをそっと消そうとする。
寅寝言のように
寅「う、あー寒い…
と寝返りを打ち、かがりから顔を背ける。
かがりさん、少し驚くが、そのままスタンドの灯りを消す。
嘘のイビキをかく寅。
そのまま座り、寅の布団を静かにゆっくり直すかがりさん。


直し終わっても暗闇の中座り続けるかがりさん。

              

嘘のイビキを小さくかき続ける寅。

緊張しながら何かを待つかがりさん。

顔をそむけたまま嘘寝を続ける寅。

時間が経っていく…

嘘寝のまま目を開けようとしない寅に、耐え切れず
腰を上げ立ち上がるかがりさん。

部屋を出て行くかがりさんの白い脚首が明かりに照らされて
妖しく光っている。


              

ゆっくりゆっくり襖を閉めるかがりさん。

鈴の音…

階段のきしむ音

嘘寝を続ける寅
階段を下りていくかがりさんの足音…

目を開ける寅
むくっと上半身を起こし、何かを考える寅。
寅「はあー……とシリアスな顔でため息。

目は遠くを彷徨い、複雑に一連の行動を考えている。

寅にもう少し寄り添いたいかがりさんの深い孤独と性、
そしてそれに応えることができない不甲斐ない自分への絶望。
目はゆっくり下を向いていく。

             

この夜の寅の表情はとてもシリアスで、眼光が鋭い。

かつて第28作「紙風船」で、光枝さんと別れた直後の
彼女を見つめる寅の本気の目。あの時の怖い目に似た
この夜の寅の目。すべてにおいて限界なのだ。

まぎれもなくこれは寅のもう一つの素顔だった。





翌朝  晴れ。 きらきら輝く伊根の海

寅が離れから出てくる。


照れ笑いをかがりさんにおくる寅。
かがりは寅を見ない。
寅「夕べはぐっすり寝ちゃって…、へへ…
この朝、二人は昨日の事をひきずってギクシャクしている。
かがり「今、ごはんの用意してきます
そんなかがりさんの後姿をずっと見つめる寅。蛇口をひねる寅。
もう一度、部屋の中のかがりを見続ける。

この朝のギクシャクから察するに、やはりかがりさんは、寅が昨晩寝たふりをしていたことを女のカンで、
うすうす知っているのは間違いない。そして寅もかがりに見破られていたことをやはりどこかで
気づいているのかもしれない。お互いカンのいい二人なのだ。




伊根の入り江

宮津行きの連絡船が泊まっている。

旅支度を終え、船のそばにたたずむ寅と横にいるかがりさん。
かがりはさん下を向き、メランコリックになっている。

                   笑わない寅
              

かがりさんの横顔をシリアスに見つめる寅。
下を向いて何かを思っているかがりさん。
別れに際して、マドンナに対してのこういうシリアスな寅の顔は他の物語では記憶にない。

出航の合図

かがり「寅さん…
寅「え…?
寅、戻ってかがりの元に近寄る。
かがりさん、寅をすがるように見つめて
かがり「もう、会えないのね…
こんな言葉を言ってしまうなんて、かがりさん、よっぽど嬉しかったんだねえ…、
寅がこんなところまで訪ねてきてくれて。

かがりのテーマが流れる ギター演奏

寅、彼女の目の強さに圧倒されながら、

寅「いや…、ほら…風がな…、風がまた丹後の
 方に吹いてくることもあらあな…


            

かがりさん、うつろな目で首を振る。


            


じっとかがりを見つめる寅。

汽笛の音  プゥー!
動き出す船からかがりを見る寅。

寅を見つめ、そして下を向いてしまうかがりさん。

寅「元気でな!
汽笛 プゥーー!!
船にはためく日章旗

遠ざかる船から寅を見ているかがりさんが小さく見える。


マンドリンによるかがりのテーマ

音楽は静かに高まりそして悲しく伊根の海に響いていく。

真面目な顔で手を振る寅。
遠く小さくなってしまったかがりを見つめる寅。

              

いつまでも寅を見続けるかがり。
汽笛の音
キラキラ光る伊根の海
プォーー!!

              





D寅の恋煩いとかがりさんとの再会

柴又  帝釈天参道

とらや 店

御前様「ごめん
おばちゃん「おや、御前様
御前様「寅が病気になって帰って来たというのはほんとうですか
おばちゃん「まあ、御前様のお耳にまで入ったんですか…
おいちゃん「こりゃどうも…
御前様「意識はあんのかな?(^^;)意識って…。        
おばちゃん「はい…?
おいちゃん「え、いやいや、意識はございます。多少朦朧としておりますが…
御前様「ん、ん、いつだってあれは朦朧としとる
上手い!御前様に座布団一枚(^^;)
うしろの源ちゃんイヒヒ笑い

おいちゃん「おそれいります
おばちゃん「久しぶりに帰ってきたと思ったら、ぱったり寝込んじまって、丸一日なんにも食べてないんですからねえ〜
おいちゃん「医者に見せたんですけど、さっぱり原因がわからねえっていうんですよ
御前様「ほー…、医者にも原因が分からんか?
おばちゃん「はい…

こういう時の寅は例のあれだってば、みなさん、はやく学習してくれよまったく。
町内の人たちの方がよく分かってるよ。

さくら、二階から下りてくる。

おばちゃん「御前様がお見舞いに来てくださったんだよ
さくら「まあー、わざわざおそれいります
御前様「命に別状がなくてなにより命って…(^^;)
おばちゃん「なんか言ってたかい?
さくら「悲しそうな声で、『オレはだめな男だなあ』…なんて
御前様「そんなことは前からわかってます
またまた上手い!御前様に座布団二枚(^^)
             
御前様、お見舞いの品とお見舞金の袋を源ちゃんに出させる。
そしてもう一つ
源ちゃんもすかさず紫の腹巻の中を探る。
源ちゃん「これ…、気持ちだけだが私から
と、なんと!お見舞いの袋を取り出す。ちょっとくしゃくしゃ(^^;)
袋にはちゃんと『お見舞 源吉』と書いてある。
源ちゃんの本名『源吉』と正式に決定!
御前様、自分のお株を源ちゃんに真似され、憮然としている。

そのような些細なことで心を乱しているとは修行が足りませんよ、御前様。
源ちゃんは寅のことを気遣っているのだからむしろ褒めてやらねば(^^)


                   御前様 ブス…
                

一同唖然…
さくら「まあー、源ちゃんまで、どうもありがとう。きっと喜ぶわ
源ちゃん、さくらに感謝され大いに照れる。

参道を歩く御前様と源ちゃん。

柴又7−6
備後屋自転車に乗りながら
備後屋「♪お医者さまでーも、草津のー湯でも、どっこいしょ〜っと
御前様ようやくピンと来て、とらやのほうを振り向く。

ズームになって
御前様「♪惚れた病〜は…こおーら…
御前様大きく頷いて、いまさらながら全てを悟る。
御前様「はー…

備後屋、遠くですでに近所の連中と寅の恋の病の噂かな(^^;)
いちいち歌ってみて気づく御前様ってやっぱり真正直で面白い人。


                



とらや  台所   夕方

おばちゃんが寅のために料理を皿に盛っている。

タコ社長やって来て

社長「ねね、さくらさん、寅さん恋の病だって?
さくら「誰がそんなこと言ったの?
社長「柴又中の評判だよォ、寅さんが病気するのはそれしかないって

柴又のみんな鋭いね。昔の、第6作「純情篇」、第12作「私の寅さん」あたりの時の重〜い恋の病で
柴又の皆さんは完全に学習されたようです。

ちなみに時々寅は本当の病気もする。胃痙攣で入院したり、盲腸で手術したり、便秘で病院行ったり、
行き倒れで意識を失ったり、等々結構大変な人なのだ。救急車には3回も乗っている。


さくら「いやね、身内の心配も知らないで
おばちゃん「さくらちゃん、できたよ、寅ちゃんの注文のごはん
さくら「すいません、わがままばっかり言って

おばちゃん「これでいいんだろ

    
蕗の煮付け白身のお魚
   大根おろし
梅干

                    失恋のメニュー
               

蕗は筍と一緒に炊いてある。大根おろしにはしらすがちりばめてある。

社長「失恋のメニューか…、なるほどね

さくらは、店が忙しいので、満男に失恋メニューを持っていかせる。
満男「え〜〜…としぶしぶ二階へ上がっていく。

おばちゃん、お茶か水がないと喉が詰まるよ。



とらや 二階

薄暗い部屋の中へ入る満男。

寅が目をつぶって布団に入っている。


暗くゆっくりかがりのテーマが流れる。

          
そっと顔を満男に向ける寅。
気味悪がって下へ戻ろうとする満男。

寅「満男…
満男、すぐにまた正座して
満男「はい

かがりのテーマ マンドリンが物悲しく入っていく。

寅「おまえも、いずれ、恋をするんだな…、あーあ…可哀想に…
満男「……
寅、また天上を向き、
寅の頭の中で伊根でのかがりさんの面影が鮮やかに↓蘇っている(^^;)

                 

寅「あーあああ…丹後かあ…
と、両手を胸の上に上げ、布団にバタッっと倒す

                 

満男、恐ろしくなって、部屋を出て、急いで階段を駆け下りてくる。



とらや 台所

満男「あー、気味悪い確かに(^^;)
さくら「どうしたの?
満男「僕の顔をジーっと見てね、『おまえもいつかは恋をするんだろうな、可哀想に』だって

                 

さくら「恋?…
社長「な、絶対恋の病だよ
満男「オレ、恋なんかしないよと居間に上がっていく。
するんだなこれが。とびっきりでっかく長い恋を(^^)
社長、クスクス笑いながら
社長「フフ…、するする、寅さんの血引いてんだもの正解(^^)
みんな嫌がっている。
満男「タンゴか』…だって
さくら「なんのこと、それ?
満男、首をかしげて
満男「知らない
博「お前に向かってタンゴか、って言ったのか?
満男「ううん、こうやって…
と座敷に仰向けに寝転がる満男。
満男「天上向いて、『タンゴかああああ〜…』... だって
上手いねえ吉岡君〜、ホラーだよ…(^^;)


                

さくら「なんだろう?タンゴって…
おいちゃん「だんご、じゃないのか?おいおいゞ( ̄∇ ̄;)
満男「ううん、タンゴって言ったよ
博「端午の節句のタンゴ…そうくるか(^^;)
さくら「アルゼンチンタンゴのタンゴかしら…そうなるよな普通は(^^;)
社長「わかった!ダンスホールの女とできたんだよ!
  一緒に踊ったんだよタンゴ
あ〜あ…(−−;)
おいちゃん「バカア!あいつがダンスなんか踊るわけねえじゃないかんだんだ。
とみんなで大笑い。
おばちゃん「四角い顔でさあそれは関係ない ヾ(^^;)
社長「わかんないよー、オレだって踊ったもん、若い頃はおお!((((^^;)
おばちゃん「ほんとかァーい?
社長「信用しないの?信じない信じない(^^;)


タンゴのメロディが流れる。

社長「♪チャンカチャカァ〜〜ン、
  チャカチャンチャンチャンカチャン〜

アルゼンチンタンゴのつもりで
狂ったようにおばちゃんに抱きつき踊り出すタコ社長。(((((((^^;)


                

おばちゃん「なにすんの!いやだ!もっともだ(TT)
一同大笑い。
おいちゃん「バカバカしい、よせよ〜ハハハ
博、階段の寅に気づきさくらに手で合図。          
おいちゃんもさくらも気づき青ざめる。

寅の足音『タン!!

スクリーンに流れるタンゴの区切りと寅の階段を踏み込む足の音が見事に一致。この編集は見事!
                   
                

一同 シーン

博「おかえりなさい…
さくら「お兄ちゃんなあに?
寅怒りで顔をブスーっとしている。
寅「すこーし静かにしていただけませんか?
 
楽しい会話をなさるのも結構ですが、
 二階に
病人が寝ているということを
 心の隅にとめておいてもらいたい


                

寅、怒りで鼻息がスーハーっと荒い。
おばちゃん「悪かったよ、気がつかないで

怒りながら、寅、階段を這うように上っていく。

おばちゃん(無声音)「
あんたがバカなことするからだよ!ひそひそ
社長(無声音)悪気があってやったわけじゃないよーひそひそ
さくら(やや無声音)「じゃ、社長さんに失礼してごはんにしよひそひそ
博(やや無声音)やっぱり兄さんあれですね、…ひそひそ
おいちゃん(無声音)えー…?ひそひそ
と博の顔に耳を近づける。
博(無声音)「顔色が悪いひそひそ
おいちゃん(やや無声音)「たいしたことねえだろひそひそ

満男、またまた下りて来た寅に気づいて

満男(無声音)「母さん…おじさんがいるよひそひそ

と階段下を指差す。

一同一斉に寅を見る。


寅、腰に手をあて、ジーーっと一同を見ている。
このポーズは笑いました(^^;) 山田監督の冴え。 

             

おばちゃん(やや無声音)「どうかしたのかい?もういいってば(^^;)
寅「静かにしてくれとは言いましたよ。
 しかしそんなひそひそひそ声でしゃべられたんじゃね、
 まるでオレは凶悪犯人じゃないか

おばちゃん「じゃあ、どうすりゃいいんだい?
寅「いつもの通りにしてくれりゃいいんだよ。ただね、その『ハハハハハ!!
  っていうバカ笑い。それを少し押さえてくれって言ってるんだよ


              『ハハハ!!』っていう…
             

さくら「わかったわよ、いつもの通りにするわよ
寅「まったくデリカシーがないんだから…バカ…
と、またまた這うように階段を上がっていく寅。

第11作では『デリカシー』という言葉を知らなかった寅。
この作品ではこの言葉をすっかり自分のものにしている(^^;)



博、寅がもらってきた作次郎の三彩碗を手に持って眺めながら。
博「これいい茶碗だなあ…。へええ、さくらが焼いたのか?

            

さくら「違うわよ、お兄ちゃんのお土産
博「なんだ…と急に興味が失せて後の棚に置く。
おいちゃん「駅前のみやげ物屋かなんかで、買ってきたんじゃないのか?

焼き物にさほど興味があるわけではない博が自分の目と感覚を使って味を持ったのに、
加納作次郎のファンと言っていたさくらは興味なし。さくらも見る眼がない…(TT)


さくら「そういえば、お土産といえばもうひとつ何かくれたわね
さくらみやげ物を開けて驚く。

丹後名手せんべい  弥栄町スイス村

さくら「あ、わかった!
博「なにが?
さくら「丹後ちりめんの丹後よー
おいちゃん「あ、丹後の国かあ
博「
あ、つまり兄さん丹後に行ってたのかァ
おばちゃん「
丹後の国ねえ
社長「
読めた!!
博「
京都から丹後に旅をして…
満男「
丹後ってどこ?
おばちゃん「
ねえ何で丹後なの?
博「
それはですねえ
社長「
さくらさん、海へ行ったんだよ
社長「
ねえ、博さん、相手はねえ
満男「
丹後ってどこ?
博「
黙ってなさい、ちょっと
社長「
丹後美人なんだよ!
おいちゃん「
興奮するなよ

このあたり↑みんな同時に発言して
ガヤガヤワアワア賑やかしです(^^;)

              

社長興奮して「あっ!」転ぶ。
みんなで「あーあーあー!


寅プッツン切れて二階から
寅の声うるせえよ!いいかげんにしろ!だよな(^^;)
と屑篭を放り投げ、篭が階段を転がってくる。
一同屑篭を見る。

シーン…

              

社長「はー驚いた…
さくら「元気になった証拠よ。あんなおっきな声出して
もともと体はどっこも悪くない(^^;)




で、日、寅はおばちゃんと喧嘩してしまう。

とらや 台所

おばちゃん「ひっくひっく、だからね、ヒック、わたしゃ、そう言ってやったんだよ
     『博さんたちは真っ黒になって働いてるのに、あんたは
恋煩いなんかで
     寝込んじまって、バチがあたるよってってね、エエン…ヒック」
と泣いている。

どうやら、おばちゃんの『恋煩い』の一言がきいたらしい。怒り心頭で旅に出るという寅。

             おばちゃんも怒ってますよ〜(^^;)
             

おばちゃん、プンっとアゴを突き出し洗濯物持って向こうへツツツツツ…と行ってしまう。
このおばちゃんの演技最高!

寅「よし、わかった。もうどんなことがあっても、オレはここへは帰ってこないからな
すぐ戻るよ〜〜(^^)
寅「おまえたちのような、心の冷たい人間の住む家には!


店先から声

寅、店の中で外の人を見て呆然と立っている。

さくら出て行かないで立ち尽くす寅を二度ほど不思議に見ている??

友人「ハ、この人ね、丹後から来たんだけど、お宅の誰かと知り合いなんだって、ね
さくら、かがりさんの方を見、そして驚いて寅を見る。
かがりさん、寅のほうを見てゆっくりお辞儀。

             

寅、目を見開きながらスクリーンからはみ出すようにゆっくりお辞儀を返す。
友人「ね、この人?
かがりさん、静かに頷く。
友人、寅に向かって「お宅覚えてる?
寅、腰が抜ける感じでイスに座り込む。
ポヨ〜〜〜ン。
寅「は、はい…そういえば…
ボーゼン…大丈夫か寅 ゞ( ̄∇ ̄;)

おいちゃんおばちゃん台所から怪訝な顔で観察している。

             

寅の一連の不調はすべてこのかがりさんという女性が原因ですよさくら。
友人「かがりが行きたい行きたいって言うもんだから
おばちゃん「かがりさんですか…。 いま、お茶を

かがりさん小さく頷く。
友人「
ちょっと、何緊張してんのよ。
かがり「その節はギクシャク(^^;)
寅「今日(きょう)は…ギクシャク(^^;)
かがり「その節はいろいろとギクシャク(^^;)
寅「こちらこそ本当にギクシャク(^^;)
おばちゃん、おいちゃんに遂にマドンナがやって来たことを知らせる。おいちゃん困った顔。
友人「プ!クク!フハハハ、なんやの、あんた、
  小学生のお見合いじゃあるまいし、ンフフフフ。この人ね


              

友人「京都の有名な陶芸の家で働いてたんですよねえ、名前何つったっけ?

かがり「加納作次ろ…
寅「加納作次郎
同時でした(^^;)          
あっと思い、お互い顔を見合わせて、すぐ下を向いてしまう。
友人「そ、そうそうウフフフフ
さくら「陶芸の勉強してらしたんですか
かがり「いいえ、女中です
さくら「
さくら「お兄ちゃんもそこのお宅に居たの?
寅「いいえ、…。はい…え?…チョットの間と、言ってまた下を向く。この顔、この間。いいなあ(^^;)
              
ところで、加納作次郎と言われても、別段興味を示さないさくらって…。
ほんとうにさくらは加納作次郎のファンなのだろうか。寅の持ってきた三彩碗には眼もくれないし…。
あの雨の日の「あらうれしい、私好きなの加納作次郎」という発言はなんだったんだ〜(TT)


これからかがりは友人と芝居を見に行くと言う。

さくら「
当分いらっしゃるんですか?東京には
かがり「たぶん一週間くらい

この直後突如、かがりが座りながらススッと寅に近づき、
かがりさんの手が寅の手の下に!
なんと『手紙』を寅の手の下に滑り込ませた!


下を向き、
紙を見て、
動揺してかがりさんの方を見る。


                !!!
                  

完全に石になってコチコチに固まっている寅。
寅、頭の中真っ白。
ポペポペポペ、ポポペ〜ポヨヨン〜

急ぎ足でとりあえず行ってしまうかがりさんだった。

かがり「さようなら
おばちゃん「またどうぞ
さくら「とうとう来ちゃったわねえ実感だねえ〜(−−)
おばちゃん「でも、綺麗な人じゃないか
さくら「だから心配なんじゃない

そのころ寅は…

寅、台所でそっと『つけ文』を開く。

ジャァ〜ン!シンバル(^^;)

かがりさんの声と文字
鎌倉のあじさい寺で、日曜の午後一時、待っています

              

寅、夢遊病者のように台所から店に来て。
テーマ曲がコミカルなタッチで流れる。

ズユーン・・・ボヨ〜ン、
テーマ曲
♪ピーピポ、ピピーパポ、〜♪
さくら「どうかしたの?青い顔して…
寅「落ち着けよあんたが落ち着け ヾ(^^;)
さくら「え?と、あとずさり…
寅「鎌倉どっち!?
さくら「鎌倉?
寅「鎌倉どっちィ!?もう頭の中ぐるんぐるん(@@)
おばちゃん「鎌倉…幕府の鎌倉かい?いい味だねえ〜おばちゃん(^^)
そうそう頼朝公の作られた鎌倉幕府の鎌倉だ。
柴又の近く、さくらたちの家の南にあるにある「葛飾区鎌倉町」のことではないよ(^^;)


寅「知らないよそんなこと!
さくら「どうしてそんなこと聞くの?
寅「これに出てる
さくら「何これ?

             

寅「イイノォ!鎌倉どっちなんだよォ!!
大声を出して手紙をさっと隠す寅。
さくらまたまたびっくり (><)


さくらも、みんなも適当にあっちだ、こっちだと答えてしまうので寅は、わけが分からなくなり、
とりあえず、さくらが言った方向、つまり工場の方へ夢遊病者のように歩いていく。

工場でもふらふらの寅、そのままなにがあっても直進…(^^;)

社長「捕まえろ捕まえろ!とうとう頭にきたぞまったく(^^;)

第36作「柴又より愛をこめて」でも恋の病からプッツン切れて、夢遊病者のように式根島に
行こうとした寅に備後屋と麒麟堂が同じこと言ってたね。


             


外の道

洗濯物を頭に引っ掛けて、眼が宙に浮いたまま外の道を歩き続ける寅。
このあたりからコミカルにフィルム早回し。
工場の裏から道にぞろぞろ工員やさくらたちが飛び出してくる。

寅が「鎌倉どっち」と言って夢遊病者のように柴又界隈を彷徨う姿は、滑稽で、観客にとっては大笑いなんだろうが、
私にとっては、どうすることもできない寅の悲しみの人生が露出してやりきれなかった。

鎌倉で「あじさい寺」というと、北鎌倉の明月院。長谷寺。そしてもうひとつ美しい由比ガ浜を望める成就院。
かがりさんはこの、恋が実る成就院を選んだ。っていうか、この物語では「あじさい寺」=「成就院」となっている。





E鎌倉でのデートとかがりさんの孤独

とらや茶の間

おいちゃん、おばちゃん、さくらが疲れた顔で物思いにふけっている。

博二階を見上げて
博「どうだい?兄さんの様子は?
さくら「さっきお医者さんが鎮静剤打ったから今寝てる。
注射嫌いの寅がよく我慢したなあ〜。普通は気絶でもしない限り注射は打たせないはず。
『注射するくらいなら即死を望みます』って第40作「サラダ記念日」で言ってたもんな(^^;)


博「はあー、今日はびっくりしたなあ〜ほんと(^^;)
おいちゃん「病気ぶり返しちゃったんだよ
おばちゃん「あたしゃ怨むよ〜、あの人、かがりさんとか言ったっけ…
博「いやあ、その人に責任はありませんよんだ。
おいちゃん「しかし、きれーな人なんだぞ理由になってないって ヾ(^^;)
博「美しいのはその人の罪じゃありませんからね
またまたでました。博の名言

しかし時としては罪になることもあるんだよ博。
美人はその人の気持ちとは関係なく結果的に残酷になってしまうこともあるんだ。


さくら「実はねえ、さっきそれ問い詰めたら、鎌倉でデートする約束したらしいの
おいちゃん「そんな話ぜんぜんでなかったじゃねえか、二人とも黙ったっきりで
さくら「お兄ちゃん、こっそり手紙受け取ったらしいの。
 それにね、『今度の日曜日鎌倉のあじさい寺って
 とこでお会いしましょう』ってメモがしてあったんだって

おばちゃん「じゃあ、付け文もらっちゃったのかい、寅ちゃんが
博、その表現に思わず笑う。
おいちゃん「あいつが渡すんならわかるけどな

それが一番あり得ないことなんだよ、おいちゃん。
寅にはそういう付け文の甲斐性はない。せいぜい当たり障りのない年賀状くらい。
デートの申し込みなんて死んでも無理。しかし、これが逆に他人の恋を手伝うとなれば、
デートの約束も千代さんとの亀戸天神の時のようにいきなり平気になる。


博「こういうケースは初めてだなあ…どう考えりゃいいのかなんだな( ̄  ̄)

突然、寅、二階からドドドドと下りてきて、

寅「さくら、今日、な、何曜日だ?
さくら「今日?…木曜日よ」        
寅「金曜じゃねえのか?オレ一晩ぐっすりと寝たんだぞおまえ
さくら「なあに言ってんのよおまえ、二時間ほど寝ただけよ〜
あせっている寅は、満男に曜日を聞きまくり…挙句の果てに、
寅「ち…、なんとか日曜がもうちょっと早くくり上がるようにおまえの学校の
  先生に都合してもらえないのか?
おいおい(ーー;)
満男、笑いながら
満男「できるわけないよ〜できたら凄い(^^;)
博「兄さん無理ですよ、地球を早く回すわけにはいかないんですから
わからないってば、寅にそんなの言ったって ゞ( ̄∇ ̄;)
寅「理屈を言うんじゃないよ、大事な時に!
と、満男の頭を思いっきり張り倒すΣ(≧ ≦)
満男こけながら
満男「イテ!!

曜日を早く進ませろ(第14作「子守唄」)とか時間を早めに
進ませろとか、早めに鐘を撞けとか(第24作「寅次郎春の夢」)
寅は時々マドンナがらみのことで地球を早く回そうとする。


そのあと、やって来た社長に失礼な事を言い、社長は、寅に、今日の
寅の言動をなじる。そしてついに二人で大喧嘩。寅の興奮はこうして続いていくのでした。


寅「よーし!この野郎!!

            

と、丸めた新聞をテーブルに叩きつけて
寅「おもしれえ!やったろじゃねえか!ちきしょう!
博「なんだ、鎮静剤効いてないじゃないか
そんなもん時間が過ぎて効果切れてるよ┐(´-`)┌




日曜日 朝  さくらの家

さくら自転車で戻ってくる。
博「どうした、兄さん無事に出かけたか、鎌倉に
さくら、自転車を家のそばに担いでずらしながら
さくら「はー、行くには行ったんだけどねえ…

            


博「どうした?
さくら「いざ、行くという時になったら、私について来いっていうの
ひえ〜〜〜、それじゃ幼稚園児のお出かけだよぉ (≧▼≦;)
さくら「お見合いじゃあるまいし、付き添いなんていやだ、って言ったら、
   『
じゃあ満男ついて来い』だって
おいおい…さくら、まじ…?(゜O゜;)
博「なんだって?で、どうした?
さくら「可哀想にあの子、友達との釣りの約束すっぽかして連れて行かれちゃったわよ。
 プラモデル買ってやるとかなんとか言われてさ


あーあ、どうして満男が連れて行かれるのを黙ってみていたんださくら。
さくらあ〜頼むよ〜。絶対さくらのミスだよこれは(TT)
これじゃ、面白くもなんともないよ。
…ったく自立していない男だね、寅って(−−)


これはやっぱ大人のさくらが悪いね。満男は子供だから伯父さんに説得されれば最後は
言うことを聞いてしまう。満男なんか一緒に連れてって、これじゃもうどーにもならないって
ほんと(
−−)
なによりも、招かれざる者として思われる満男が一番可哀想だよ。

こういうのはがんばって寅は一人で行くか、それとも全く行かないかだと思う。

            



いざ鎌倉

国鉄横須賀線が鎌倉に向かっている。

鎌倉

真言宗大覚寺派普明山法立寺 成就院  (真言宗)
鎌倉三十三観音第21番。

色とりどりのあじさいでいっぱいの階段を登りながら、

寅、階段の途中で座っているかがりさんを遠くから見つける。

マンドリンによる かがりのテーマ

かがりさん立ち上がって微笑む。

寅、その姿を見て緊張する。
寅、手を上げて

寅「よ、だいぶ待たしたんじゃねえか?
と言ったとたんちょっとつまずく
かがりさん、表情が輝き、微笑んで走って下りて来る。

            

寅もそれに答えるように微笑んで駆け上がっていく。

かがり「ごめんなさい、あんなことしてしもうて
寅「え、なに?
かがり「手紙…
寅「あー、フフフ…
かがり「あれ以外に方法がなくて
寅、ちょっと照れながら微笑んでいる。
かがり「でもよかった…、寅さん怒って来てくれないんじゃないかと思ってた」       
寅「オレ?怒ってないよ、大丈夫大丈夫、あー
かがり「そう、フフフ

あの手紙の後、どれだけさくらたちや工員たちが
大変だったか
知る由もないかがりさんでした(^^;)


かがりさん、満男に気づいて

かがり「……
寅「んー?…あー、これ、オレの妹、ほら、このあいだ来た時
 店にいたでしょう、あれの倅だよ、満男って言ってね、フフフ。

 今日オレが鎌倉行くって言ったらさ、どーしてもついて行くって、
 しょうがねえガキだな。
なんでついて来たんだ?こんなとこへ〜


ひでえええ〜おのれええぇ!(▼皿▼メ)
満男、もの凄くふくれて
満男「僕行きたいなんていわないだろー!まったく当然の主張(TT)
寅「口応えするなといったんだ、おじさんにい!理不尽(TT)
満男がこれじゃあんまりにも可哀想。
この状況は満男もかがりさんも涙涙だよ(TT)

寅は第8作「恋歌」でも、第12作「私の寅さん」でも、第14作「子守唄」でもさくらのせいにしてマドンナに
会いに行っている。これは寅の悪い癖。笑いのためのギャグなんだけど、私はこの手のギャグは昔から苦手。


かがりさん、ちょっと淋しげな顔をする。そらそうだろね(−−)

             

背後には遠く青い由比ガ浜が見える。

かがりさん、と満男、お互い挨拶をする。
満男を見てにこっと笑う


黒板礼子さんと
黒板純君


吉岡秀隆さんには実際のご両親以外に、実はあと二組両親がいる。
ご存知『諏訪 博、さくら 』とドラマ『北の国から』の 『黒板 五郎、令子』だ。
で、「男はつらいよ」でも五郎さんや令子さんと共演しているのだ。
この鎌倉のシーンで今年死んだはずのお母さんの黒板令子さんとあじさい寺で、再会している(^^;)
ちなみにお父さんの黒板五郎さんとは第48作「寅次郎紅の花」で奄美大島で再会している。


七里ガ浜と江ノ島の見える134号ぞいのレストランで食事

レストラン

満男赤電話からさくらに電話。満男は不満だらけだ。

さくら「ねえ…今ふたりはどうしてるの?

満男受話器を持ったままテーブルの方を覗いて
満男「さっきから黙って座ってるよ
満男「あんまり口きかないよ
満男「伯父さん僕とばっかりしゃべるし…
満男「ここ?ガーン!豪華なレストラン!海岸の」       

寅たちのテーブル
沈黙が続く二人。

             

かがり「…時間まだ大丈夫?寅さん
寅「え?大丈夫大丈夫、まだ来たばっかりじゃねえかと笑う。

そのあと、支払いの時、満男からお金渡されて、ほっとしている寅。

寅、デートの時くらいまともに金持ってきてくれよ。
ましてや、まえまえから分かってるんだから。
あんなにエキサイトしてたんだからそれくらい頼むよ…(^^;)


江ノ電が江ノ島方向に七里ガ浜沿いを走っている。
そして3人は江ノ島に渡る。

江ノ島神社参道

観光客で賑わう参道
おみやげ物屋さんを覗く満男。
寅「団子買うなよおめえ、え、ウチに売るほどあるんだから
っていうか、売るためにあるんだけど(^^;)

かがりさん、少し淋しそう…(TT)



さくらの家   

満男と電話しながら
さくら「まだ江ノ島にいるんだって。ふたりはお酒飲んでるらしいわよ。ねえ、どうしよう…
博「やっぱりまずかったなあ、満男つけてやるのは。大人なんだぞ、兄さんもかがりさんも。
  甘いんだよ、君が…
んだ(−−)
さくら「一人で帰ってきなさいって言おうかしら…
博「うーん…
さくら「でも、遅くなるし…困ったなあ
さくら、ため息を小さくついて、思案している。


             

夕闇迫る 江ノ島亭
江ノ島随一の眺めを誇る店 江の島亭
遠く茅ケ崎方面が見える。         

ふたりで、海を眺めている。
波の音
蛍の光
寅、かがりさんの悲しそうな顔をそっと見て、店の方を向きなおす。
かがりさんも向きなおす。
かがり「寅さんに会うたら、話したいことが山ほどあると思ってたんやけど…、
     いざ会うてみたらなんにも話されへん…


と涙ぐんでしまうかがりさん。
寅、シリアスな気持ちになって

寅「悪かったな…

               

寅「もし…よかったら、あいつだけ一人先に、帰してもいいんだけども…
おお!寅にとってはとても思い切った発言!寅は寅で今日の自分の中途半端な
会い方に、反省をしているのであろう。


かがりさん、首を横に振って、微笑みながら
かがり「そんなことやないの…。今日寅さん、なんか違う人みたいやから
寅「そうかなあ…、オレはいつもとおんなじつもりだけども

かがり「私が会いたいなあ、と思っていた寅さんは、
   もっと優しくて、楽しくて、風に吹かれる
   タンポポの種みたいに、自由で気ままで…。
   フフフ…、せやけど、
   あれは旅先の寅さんやったんやね

寅は下を向いてしまう。
かがり「今は家にいるんやもんね。
    あんな優しい人たちに大事にされて…

寅、何か言おうとするが、結局何も言えない…

かがりさんの言葉「もっと優しくて…」は、わざわざ鎌倉までやって来た寅に対して
そういう言い方は失礼だと思う…。
緊張してるんだよ寅は。かがりさんにロックオンされていることをあの夜自覚してしまったからね。


             


「あんな優しい人たちに大事にされて…」は第11作「忘れな草」で酒に酔ってとらやを訪ね、
暴れた時のリリーの言葉のアレンジ。孤独なんだねかがりさん…。

かがりさんは夫に先立たれ、最近も失恋したばかりでダメージがきつそうだが、娘や母親と仲むつまじく
暮らしているのでリリーのような絶対的な孤独からは免れている。

江ノ電の音

寅、無言でかがりさんを見る。
かがりさん、少し気を紛らわすように、海の方をもう一度見て、

かがり「もう海が真っ暗やね…
かがり「満男君そろそろ帰らんとお母さん心配しはるわ
寅「ん、そうだな。まだ酒が残ってるから、もうちょっと飲まねえか

テーブルの方に歩いていく寅。

かがりのテーマがゆっくりと流れる。 ギター


寅をぼんやり悲しげに眺める孤独なかがりさん。

この時のかがりさんの表情には胸が痛んだ。

              

キャッシャーのそばにいる江ノ島亭の女店主は谷よしのさん!

寅たち、テーブルについて

寅「お前知らないだろう。このカメな、助けて、海に戻してやるだろう。
 そうするとおまえ、これが引き返してきて恩返しだって竜宮城へ連れてってくれるんだぞ、ねえ〜

と、かがりさんに相槌を求める。
満男「こいつが〜!?
と笑いながら寅の前に亀を突き出す。

             

寅「バカ!噛みつくぞお前!

それは第27作「浪花の恋の寅次郎」における対馬の海岸での寅でしょ。
あの時寅は対馬で浦島太郎の夢を見て、眼が覚めた後、カメを助けて
やったのにそのカメに指を噛まれていた(^^;)
確か、「アイテテテ、噛み付きやがったこの恩知らず」なじっていたっけ。
あの夢では源ちゃんが下画像のようにカメになっていた。
         
    ↓
           

かがり「あのね、満男君、浦島太郎って私の田舎の丹後の人やの
満男「ほんとにいたの浦島太郎って!?
かがり「いたんじゃない?浦島神社ってあるもの、家の近くに
浦嶋神社(宇良神社)のことだね。浦島伝説は結構いろいろな土地に残っている。
寅「へえ〜〜
満男も『へえ〜』って顔している。
かがり「玉手箱かて飾ってあるし玉手箱って… ヾ(^^;)
寅「へえ〜…、おかしいなあ
満男、頷く。
寅「だってあの、竜宮城ってのはさ、水の中にあるわけでしょう?ってことは
  浦島太郎ってのは…、息しなかったのかな、ずっと鼻詰まってたのかな、これ??

お話しだってば
ゞ( ̄∇ ̄;)
満男真面目に聞いている(^^;)

            

満男「だってしゃべったり、ごちそう食べたり、してたんでしょう?
寅「潜りが上手かったのかなおいおい ゞ(^^;)
かがり「フフ…
寅「それにしても大変だね、ずっと犬っかきしてるなんてね、くたびれちゃう
まじめに想像してるんだね寅って(^^;)
満男「ハハハ
かがり「フフフ、ね、そういえば可笑しいね
一同 笑っている。

谷よしのさん扮する江ノ島亭の女主人が近づいて来て、
女主人「すいません、もう看板なんですけどー…

            

谷さん、今回は若干垢抜けた店主さん。
やっぱりあの江ノ島の江ノ島亭だからねえ(^^)


女主人「1680円ですめちゃ安!




F満男が見た寅の涙…そして旅立つ寅

とらや 夜

寅たちを待つ一同
柱時計が8回時を打つ 8時PM
おばちゃん時計を見上げて
おばちゃん「おそいねえ、寅ちゃんたち
遥か鎌倉まで遠出して夜の8時は遅いかぁ??
普通10時くらいになったら「遅い」って言うんだよ。


博「満男が一緒だからなあ…、
 ふたりだけだったら、泊まってくることもあるだろうけど…
ないない(^^;)
おいちゃん「寅がそんなことできるわけねえじゃねえか、フ
やっぱりおいちゃん見切ってるねえ( ̄― ̄)

おばちゃん「そうだよ、そんな甲斐性がありゃ、とっくに身をかためてるよんだ。
ほっとしていいのやら悲しんでいいのやら…(TT)


電話が鳴る

リーン、リーン

さくら「満男だわ

さくら「もしもし満男!!え!?…、あら、ごめんなさい、かがりさん?

あちゃ〜…ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ        

さくら「兄ですか…?いえ、まだ帰りませんけど、一緒じゃないんですか?
  で…、今どちらに?東京駅?


東京駅 ホーム  黄色電話
雑音が飛び交っているホーム。かがりさんがいろいろ話している。

かがり「…はい、今からなら最後の大阪行きに間に合います。
   私…、寅さんに、とても迷惑かけたような気がします。
   くれぐれもお詫びしとおいてください…。

   (新幹線の出発のベルが鳴り続けている)
   それじゃあの、ベルが鳴ってますので、…はい、それじゃ


受話器を置いて、急いで駆けて行くかがりさん。

             



とらや  電話口

さくら「お兄ちゃんとはとっくに別れたんだって…
博「……
さくら、考え込んでいる。
さくら………
おばちゃん「
あー、じゃあなにしてんだろう?

一同考え込んでいる。


遠くで寅の声

寅入ってきて、
寅「おう、すっかり遅くなっちゃって、心配かけたな

             

あまりさくらのほうを見ない寅、重い空気。
さくら「おかえりなさい
満男「ただいま

とらや 台所

おばちゃん「お酒飲んでたのかい?
寅「うん、駅前でな、景気づけに一杯やってた。な、満男

満男、軽く頷く。

寅、すぐ階段を上がっていく。

さくら、満男の様子に気づき、覗き込みながら、
さくら「どうしたの?満男。ん?
と、さくらは満男の顎を手でそっと持ち上げる。
さくら「なに悲しそうな顔してるの?…
満男「おじさんと喧嘩したのか?
満男、首を振る。
さくら「じゃあなに?

満男「おねえさんと別れたあと、
  おじさん電車の中で涙こぼしてたの…


さくら「……

博、二階を見て考えている。
満男「言っちゃいけない、って言ったけどね…
さくら「……
満男「それでこれ買ってくれたんだとプラモデルの箱を見せる。

さくら、悲しげな顔で何かを考えている。

           

雷が鳴り出す。

それにしても今回の吉岡秀隆君は大きな役だった。
なかなか難しいデリケートな役割を見事にこなしていた。
あの「はるかなる山の呼び声」を思い出してしまった。


間が悪いタコ社長、鼻歌を歌いながら台所へやってくる。

社長「どうした?寅さん帰って来たか?
おばちゃん、手でダメだし。
博「帰ってきましたよ
社長「クク…、上手くいったのかね?それとも失恋しちゃったかな?わからんかね…(ーー)         

二階から寅が下りてくる。

カバンを持っている。           

さくら「お兄ちゃん、どこ行くの?
寅「これから旅にでるのよ。
 そろそろ暑くなるからな。涼しい風の吹く北国へ旅に出ようと思って…。
 山形、秋田、津軽…、夏祭りももうすぐだ。
 みんな達者でな。満男、今日はありがと


            

さすがの社長も何かを感じ静かになる。

すっと、店の方へ出て行く寅。

追いかけるさくら。
雷が鳴る。

とらや 店の出口

さくら「お兄ちゃん、あのね
寅「あ、そうだ。明日か、明後日ごろ…、
 あの、例のかがりさんから電話があるかもしれねえんんだ。
 そしたら、おいらは旅に出たと伝えてくれねえか、な


            

と出て行こうとする。          
さくら「そのことだけど、…さっき、かがりさんから電話があったの
寅「電話があった?
さくら「東京駅からだけどね。今夜の新幹線で帰るって…。
  お兄ちゃんにお詫びしてくださいって、そんなふうに言ってたけど


メインテーマが静かに流れる。

寅「そうか…、帰っちまったのか
と、出て行く寅。
さくら「ねえ、お兄ちゃん
寅、振り返って
寅「なんだ?

さくら「ほんとはかがりさん…、
  お兄ちゃんを好きだったんじゃないの?


             

寅「……、あんな美人で、しかも賢い人が、
 オレみたいなヤクザの能無しの男をおめえ、
 どうこう思うわけねえじゃねえか。
 おまえ、頭おかしいんじゃねんのかあ


             

と、すっと背中を向け道に出る。

寅「お、パラパラっとやってきやがったな、
  よおし、ひとっ走りだァ
          

と、背広を首まで覆い、走っていく。
寅のカラ元気、悲しいねえ…(TT)

さくら、道まで出て、小さく
さくら「お兄ちゃん…

             

みんな外を見ている。
さくら、強く雨が降ってきた空を見上げる。
しだいに本降りになっていく雨。

このさくらと寅の会話は物語のメインのひとつとも言える重要なカットだが、それでは、なぜさくらは、
かがりさんが寅のことを本気で好きだったんじゃないかと思えたのだろうか…?
わざわざ丹後から出てきて、とらやで緊張し、付け文(デートの約束)をしたからか?
それとも電話でかがりさんと話してピンとくるものがあったのか?

そもそもさくらとかがりさんはほんの数分しか会っていない。
さくらは臨場感を持ってかがりさんという人をほとんど体験していないのである。


実は、第17作「夕焼け小焼け」の時もさくらは上野の食堂で寅に今回と同じことを言うが、
あの物語ではぼたんとさくらは数日間一緒に住んでぼたんの気持ちも苦労も辛さも切実に分り、
最後寅の気持ちに感動するぼたんの号泣を横で見て、かつ、別れ際のぼたんのセリフ「寅さん、好きな人おるん?」で、
さくらなりの確信があったことは見ている私たちにもひしひしと伝わってきた。
それゆえ第17作のさくらの言葉「ぼたんさん、お兄ちゃんのこと好きなんじゃないかしら」は、さくらの心からの
実感として私たちの心に染み入るのである。
このあたりの必然性の有無はもちろん作品の『質』にも深く影響している。

さくらとかがりさんの物語がほとんどない今回は、さくらのこのシーンの洞察力は、一般の人の域を出ておらず、
さくらのオリジナリティが弱い。
まあ、積極的なかがりさんの行動を常識的に判断しての発言だと考えると別段無理はない発言なのだが、
「物語」と言うものは、無理がなければそれだけでいいというものではない。そのへんが難しいところ。

ほんとうは、かがりさんの気持ちは、寅以外では、鎌倉で何時間か一緒に過ごした満男の方がまだ臨場感を持って
少し分かっていたのではないかな…。


満男が寅の涙を見てしまったその時、満男の少年前期が終わり、
ひとつ大人に近づいたのだと思う。恋というものの辛さ切なさを垣間見た
満男は、その10年後、自分の切実な恋の中で同じ意味を持つ涙を
流すことになる。




Gかがりさんの手紙と作次郎との再会

盛夏 入道雲 蝉の声

とらや 台所

氷を割っているおばちゃん。
夏だねえ〜。家庭用冷蔵庫の四角い氷じゃないところがとらやさん。涼しげ。

とらや 店

作次郎の弟子である近藤が京都から『打薬窯変三彩碗』を借りに来ている。

近藤「この秋、加納先生の作品展が三越で催されることになりまして、
  その際、車さんご所有の『
打薬窯変三彩碗』をぜひっとも、展示したいと、
  主催者側からの希望なので、なんとか期間中、拝借願えればと、存じまして

このシリーズはデパートと言えば三越。、個展も買い物も三越。
みんなそんな名前言われてもなんのことやら、パッパラパ〜〜(^^;)
近藤、さくらの方を見て
近藤「いかがでしょう?
さくら「と、申しますと…つまりぃ…
近藤「ですから車さんご所有の『打薬窯変三彩碗』を作品展のために、拝借したいと
おばちゃん「車さんと言いますとォー…??だよな(^^;)
おばちゃんにとって寅は「寅」「寅ちゃん」「寅さん」だけ。「車さん」ではないのだ。
近藤「もちろん、車寅次郎さんですよそらそうだ(^^;)
おいちゃん「アレがなにをご所有なんで???
おばちゃん「なんですか?その『サンサイなんとか』ての??なんとかって…(^^;)
近藤「んん…と呆れている。
さくら「ひょっとしたら…顔真っ青、口は輪ゴム ( ̄o ̄;)
近藤「は?
さくら「お兄ちゃんが京都から持ってきたお茶碗のことじゃないかしら…
おばちゃん、マゴマゴして
おばちゃん「満男知らない?適当〜(^^;)
と、とりあえず近場の満男にふる。
満男、平〜然と
満男「社長さんが灰皿に使ってるよだって(^^;)
おばちゃん「へー!!
さくら「へええー!!!

           

さくら「あー!
近藤「どこ!

台所へ飛び込もうとして勢い余って、暖簾も一緒に取り外してしまう。
ε=ε=ε=ε=(◎◎;)

           

そのまた勢いでテーブルに暖簾と体をぶつけ、テーブルの茶碗がくるくる回り、下に…
近藤「あっ、あああああー!!!Σ(|||▽||| )

と茶碗に向かってダイビング!!
さくら「大丈夫ですか?(゜〇゜;)
近藤「大丈夫でした…
何度見たって完全に割れてるタイミングだってば、ありえねえ〜(^^;)
さくら「
はあああ…

さくら、目の色を変えて近藤からそお〜っと茶碗を両手で受け取り、近藤のことなどかまわず、
恐る恐る茶の間のテーブルに置く。


            

さくら「いやーねー、なんにも気がつかないで
さくら、あらためてシゲシゲと三彩碗を見つめ
さくら「へえ〜、これが本物の加納作次郎なのぉー…へええー…
と今更ながらに変に感心している。(^^;)

さくら、名前で(左脳で)見るなってば、今までずーっと茶の間に置いてありましたよ。
博以外は全く誰も興味持ってなかったけど…。


社長「何があったんだよ?だよな(^^;)
近藤、社長にいきりたって
近藤「あなた、なんてことするんですか!あの、灰皿にタバコを捨てるなんて、あ、間違えた。あの茶碗に!
近藤と社長が大喧嘩(^^;)

みんな止めに入って、大騒ぎ。
スクリーンから声が聞こえなくなり…

『さくらのテーマ』がゆったりと流れて

テーブルの上に満男の夏休みの宿題と
一緒に封筒に入ったかがりさんの手紙。

車寅次郎様


            

かがりさんの文章

かがりさんの声で

寅さん、この間はごめんなさい。
私はとても恥ずかしいことを

してしまいましたけど、寅さんならきっと
許してくださると思います。


今は夏休みで、私も機織の合間に、
手伝いに駆り出され、忙しい毎日です。



丹後 伊根の漁港

民宿の手伝いに出かけるかがりさん。
漁港でも楽しくきびきびと働いている。

           

母も娘も元気で手伝ってくれています。

寅さんは今どこかしら?
相変わらず旅の空かしら。
丹後の方には向いてませんか?


今度、寅さんがきたら、
この間のような間に合わせではなく、
美味しい魚の料理を腕を振るっておなか一杯
食べさせてあげたいと思います。

寅さんの楽しい話を聞きながら…


海の方を見て寅を思い出しているかがりさん。

かがりさんの最後の海を眺めるこの表情を見てなんだかほっとしたよ。

           


寅との別れ方が辛そうだったので心配してしまったが、かがりさんが以前
言っていたように、
見かけによらず、すんでしもたことは、くよくよ考えない気質なのだろう。


時が経ち、彼女は寅との思い出を
緩やかに昇華することができたのだ。


そのような彼女の横顔、 そのような夏の風だった。






滋賀県 彦根城 近く

埋木舎(うもれぎのや)』のそば
旧池田屋敷長屋門から加納作次郎が出てくる。


遠くで寅の啖呵バイ


作次郎目ざとく気づく。
寅の声「お父さんお父さんちょっとこっち来て
寅が瀬戸物売っているのが見える。
作次郎「……」 目が懐かしさで溢れている。

              

付き人を先に行かせて、
作次郎寅の方へ歩いていく。

表門橋の脇

寅「
聞いて驚くな人間国宝加納作次郎の作品だ嘘八百(^^;)
客たち「ほ〜〜〜見りゃ分かるだろうに、嘘嘘(^^;)
寅「デパートでお願いしたら10万や5万はくだらない品物だが、
  今日は私、それだけくださいとは言わない。
  旅先で
金に忙しい。ね!よし!こうなったら、2万!…、1万5千円、
  あ〜〜!やけくそ、1万でどうだ!


人間国宝加納作次郎の作品は残念ながらそんなに
安くはないだろう。デパートで5万では買えないよ、さすがに。

「金に忙しい」とはなかなかいいねえ。

そっと見ていた作次郎、後の方から
作次郎「買うた!お茶目(^^)
寅「おお!お父さんいい買い物をし……あれ?
作次郎「1万円は高おうないか?もう一声

               

「買った」の声の後に、
しつこく値切るのは関西人やねえ〜。こういうことは違反(^^;)


寅、笑いながら
寅「ハハハハ…、ッハハ参ったなあ…ッハハハ!
と照れまくる。
寅「ハッハハハ、、おばちゃん、商売終わり、今日は商売終わり、ね、
 知り合いと会ったから、どうもありがとう、どうも、ハハハ。


 …じいさん、
 冷たいビールでも飲むか?


作次郎二カーッと笑って
作次郎「ええなあ、
寅「うん
寅、扇子扇いで、歩きながら
寅「なんだってまたじいさん、またこんなとこにいるんだよ?

               

作次郎「あんたの影響でな」
寅「うん
作次郎「風のままに、旅行をしてるんや、フフ
寅「ヘヘヘ、オレもじいさんの影響でね、
  瀬戸物なんか商いしてるだけど、さっぱり売れねえな

カメラは彦根城月見台から佐和口多聞櫓と馬屋、を映していく。
そして彦根の町と遠く湖東三山のある山々、その向こうに遠く鈴鹿山脈を映し出ししていく。

                


加納作次郎は寅の生き様に影響を受け、もう一度柔らかな自分を作ろうと、
風のままに旅に出たのだった。

あの歳で人に影響を受けることを怖れない人間国宝加納作次郎。
さすがだね。いまだに現役の匂いバシバシだ。

ふたりは冷たいビールを飲みながら、かがりさんのことを話すのだろうか。
そして酔った作次郎はまたいつかのように焼き物のことを話すのだろうか(^^;)





第29作「寅次郎あじさいの恋」本編完全版は、こちらです。





第3作「フーテンの寅」本編完全版第2回目更新は12月16頃の予定です。
気長〜〜〜にお待ちください。 
ヾ(−−;)ちょっと遅れすぎとちゃいまっか。

なお、第30作「花も嵐も寅次郎」のダイジェスト版はだいたい12月13日ごろの予定です。



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『寅次郎な日々』バックナンバー           





心がひとつになること  静かな名シーン


2007年12月5日 寅次郎な日々 その337


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


本日、第29作「寅次郎あじさいの恋」をアップしようと思った矢先に、
急ぎアップしようと思い立ったことが他に出来たので、急遽さきほど制作し、そちらを今、優先しアップします。

そのこととは…

現在バリに住んでいるが、いろいろな方との縁あって、オリンピック野球アジア予選の
一昨日の日本対韓国と昨日の日本対台湾を幸運にもバリ島で見ることが出来た。

2試合ともなんとも緊迫した試合だった。2試合ともこれぞ日本野球という試合運び。
ありきたりな言葉だが文字通りチームがきれいに一つの結晶となっていた。なんだかしみじみうらやましく思った。
いい年をした酸いも苦いも知っているプロ中のプロがそうなっているのである。

2年前、WBCの時にも感じたことだが、シビレる試合とはこういうことを言うのだ。

MVPは間違いなく選手全員だろう。

適当に人当たりよく言っているわけではない。私は試合を何度も見た。ベンチで応援していた選手もコーチも、
コーチャーズボックスでゲキを飛ばしていた選手も、みんな見事に一つの気持ちになっていた。
遂に一度もグラウンドに出なかった和田や長谷部もだ。

いみじくも解説の東尾さんが言っていたように、星野監督の胴上げの時、誰もテレビカメラの方に向かってバンザイを
していなかった光景がなんともすばらしかった。全員が背中を向け輪の中の星野監督に集中し胴上げしているのである。



                  



MVPは阿部がもらっていたが、それはその通り、タイミングさえ合えば絶対にヒットにする技とキレとセンスは超プロ級だ。
しかし私なら、陰のMVPはやはり上原だ。そして優秀選手は、もちろん完璧な阿部をはじめとして、緊張のスクイズを見事決めたサブロー。
見事なチーム掌握と気迫の三塁へのスライディングを見せた宮本。ここぞと言う時の頼れる新井、稲葉。鉄壁の二遊間西岡と川崎。
粘りに粘って最小失点で抑えた若き先発投手陣たち、同じく必死で追続を断ち切った中継ぎ陣たち…特にあの韓国戦での8回、
岩瀬が投じた最後の内角ギリギリストレートは長く語り継がれるだろう。彼の精神力の強さを垣間見た瞬間だった。
…などなど、それこそ活躍した選手達は枚挙に暇がない。

今回の上原はまさしく完璧だった。あの上原が最後に控えてくれている。それだけでみんなどんなに心強かったか。
体のリズム、ひじ、手首、指の使い方、完全に完成されている。すばらしい制球力。
マウンドでの完璧な自己コントロール。絶妙のフォークボールのコントロール。そしてなによりも国際試合連続22試合無敗の貫禄。

WBCでのあの韓国戦の上原の神々しい存在感は私の記憶に今でも生々しく残っているが、今回もう〜んと唸ってしまった。
特に宿敵韓国戦はたった一点差で最後に登板。よほどの大投手でもこれだけの緊張した場面ではすんなりは終らせる事が出来ないものだ。
そんな中、彼は完璧だった。

そして今大会で私がリプレイでなんども見てしまった場面がある。意外にもそれはゲームの中の決定的な場面ではなかった。

最後の台湾戦で、9回上原が、ブルペンからマウンドに向かう直前、ブルペンで一緒にいたピッチャーたちは、最後に汗を拭き、帽子をかぶる
上原を囲む。

上原はそんな彼ら一人一人の思いを受け止め、彼らと『グータッチ』を交わし、最後にブルペンキャッチャーを務めてくれた矢野捕手とも
交わし、一人マウンドへ歩いていくのだった。

彼らの熱い思いが全て上原に託されて彼はマウンドに上がっていったのだ。

あの映像に私は胸が熱くなり、思わず涙が潤んでしまった。






上原浩治と川上憲伸

                   



上原浩治と涌井秀章

                   



上原浩治と小林宏之

                  



上原浩治と岩瀬仁紀

                 



上原浩治と長谷部康平

                



上原浩治と矢野輝弘

                




私が見たかったのは、もちろん勝って歓喜に沸く日本チームの姿だが、実は本当に見たかったのは、
みんながひとつのことのためにひたむきにまとまっている姿そのものだったのかもしれない。
この映像を見た時、私は心底彼らを誇りに思った。素晴らしいチームだ。来年夏に彼らに再び会える。
全員怪我無くオリンピックのグラウンドに立って欲しい。



それでは、静かでなにげないあの名シーンをアニメでどうぞご覧下さい。



                










第29作「寅次郎あじさいの恋」ダイジェストは12月7日頃アップの予定です。
第3作「フーテンの寅」本編完全版第2回目更新は12月20頃の予定です。
気長〜〜〜にお待ちください。 
ヾ(−−;)ちょっと遅れすぎとちゃいまっか。





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『寅次郎な日々』バックナンバー






永久の愛を伝えるその言葉   『海峡』 


2007年11月28日 寅次郎な日々 その336


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。




ここ一週間でNHKのテレビドラマ「海峡」(全三話)を見た。


2008年1月14日(月)BShi で再放送があります。


このドラマは戦争直後から昭和50年までの日本人女性と韓国人男性の海峡を越えた愛と生の軌跡だ。
歴史ドラマの要素もあるが、そちらの方に気持ちをおいてみると、若干粗が見える。
だからこれはやはり純愛ドラマだ。

とにかく、あの脚本の名匠ジェームス三木さんの書き下ろしドラマだと聞いて三話全部しっかり見た。
眞島秀和さんの凛とした気品に驚くと同時に、芝居が下手で名高い美しい長谷川京子さんの意外にも
清らかな芝居にも見入ってしまった。

ただ、このような歴史的な大きな流れの話を三話にまとめることは難しく、若干上っ面をなぞる感じにはなっていて、
それゆえに世間での評判はイマイチだ。

しかし、私は意見が違う。

ラストでの二人の言葉を聞き胸が締め付けられるようだった。
そう…見てよかったと心から思えるドラマだったのだ。


昔から愛を伝える言葉は星の数ほどあるが、このドラマのラストにヒロインが発する愛の言葉は私の胸を打った。
そこだけで見る価値があるドラマだと思っている。

ひとつ見るに値する言葉と映像がある。それだけで十分なのだ。

そこで、巷の悪評を払いのけ、かわしながら、その愛の言葉までの道のりを簡単にたどって行きたい。



吉江朋子:釜山生まれの釜山育ちの日本人、日本にはほとんど知っている人がいない。
       両親が不幸にして終戦直前に亡くなってしまう。朝鮮でも日本でも生きる場所がない。


木戸俊二: (パク.チュニン 朴俊仁. 吉江俊二):朝鮮人でありながら日本兵として召集され、
        日本の憲兵に配属される。
        スパイ容疑が常にかかっていることもあり、彼もまた朝鮮でも日本でも
        朋子同様生きる場所がない。





物語の最初にラストシーンが出てきて、

そして最後にもう一度ラストシーンが出てくる。






物語

1945年、終戦を迎えた朝鮮半島釜山。

吉江朋子と、木戸俊二は憲兵と被疑者として出会った。
数々の出来事の末、二人は朋子の働く釜山の叔父の進藤の会社で再会し、
しだいにお互いに好意を持つようになる。
両親を相次いで失い、独りぼっちになった朋子を木戸は気遣い、両親の遺骨を郊外のお寺まで
取りに行きたいと願う朋子にチマチョゴリを着せ、日本人は行くことの許されない
北行きの列車に木戸は飛び乗る。



                     




淋しく残された両親の二つの遺骨を抱え、「死にたい
とつぶやく朋子を木戸は
「生きろ」と肩を抱いて勇気付けたのだった。

木戸に想いを寄せる朋子は、帰りの汽車の中で日本へは一緒に引き揚げてほしいと呟く。



その時、木戸は朋子に、自分は実は朝鮮人だと告げるのだ。

本当の名前は朴俊仁。朋子はショックで言葉も出ない。
数日後、学生時代の親友清美に誘われ引揚の期日が決まった朋子に、
朴はこの地に残って自分と結婚してくれと遂に告げる。
朋子は心が引き裂かれて、祖国日本を捨てられないと泣きながら拒む。

そして引揚船に乗り込む朋子。
その時朴はブローチを渡す。そのブローチには「かささぎ」が彫られてあり、
自分はかささぎになってあなたに会いに行くと告げたのだ。


こうして釜山生まれの朋子は、初めて祖国の地を踏んだのだが、山口の親戚をたらいまわしにされ、ひとりぼっちになる。
どこにも行き場のなくなった朋子は仕方なく釜山時代の会社社長であった岡山の進藤の居候先へ向かう。
その家でもやっかいもの扱いをされ、孤独に耐え、懸命に働く朋子だったが、
思い出すのは優しかった朴の事ばかりだった。

そんな時、なんと朴が進藤を訪ねて岡山までやって来た。ようやく再会し、喜びあう朋子と朴。



                     




朴は進藤の私的財産である託された証券や金を運んで来たが、進藤はその少なさに朴をなじる。
席を立ち、帰ろうとする朴は、思わず叫んで追ってくる朋子の手を取り、汽車に乗ったのだ。


そして一緒に朝鮮に帰ろうと促すのだった。


遂に朴と朝鮮に渡ることを決意をする朋子。
釜山港へ向かう帰国船の朝鮮人に混じる二人。つかの間の安らぎの時間だった。、



                     



着いた港で朴が捕まり投獄されてしまう。
憲兵時代の手腕でなんとか難を逃れ、母親の住む実家へ向かう。



朴の母親は驚き、二人を歓迎し、この地でみんなで暮らしていけるのではないか
と二人が思ったのもつかの間、


朴の母親は、日本人である朋子はこの国では暮らしていけないし、息子も裏切り者と
なってしまうから、愛し合っているならお前が日本人になれと息子に告げ、日本に戻れと言う。

朋子は、朴が日本に行くことは彼にとって苦しみしかないと思いつめ、

朋子「あなたまで不幸にしたくありません

朴はそんな朋子を見つめ

朴「一緒に不幸になろう。君と二人ならどんな苦しみにも耐えられる。。それが私の幸せなんだ

と、朋子と一緒に人生を歩むことを決意し、抱きしめる。




「一緒に不幸になろう」 この言葉には心底唸りました。




                     



二人は、母親と涙ながらに別れ、再び小さな漁船で名前を隠して日本を目指す。




(この母親役の方の存在感は只者じゃなかった。時間が有れば彼女をもっと前面に出せたと思う。)



                     



なんとか、密入国した二人は、京都で軍隊時代の先輩だった朝鮮人伊藤を訪ね、二階を間借りし、
朴は朋子の苗字の『吉江』を名乗って『吉江俊二』として新しい生活を始める。闇市に精進揚げの屋台を
出しささやかな幸せを求める。
形だけだが、結婚記念写真を撮ったり、指輪を朋子にプレゼントしたり、小さな蜜月の日々は続いた。



                   



しかし、俊二が朝鮮人であることや密入国者であることはどうしても隠しきれないことであった。


そしてある日刑事が来て、俊二を逮捕し、連れて行ってしまう。

朋子は、俊二に面会し、俊二は必ず君の元に戻ってくる。だから京都を離れるな、と言い残し、
朝鮮へ強制送還されていく。



                     




港で俊二の乗った船を追いかけて泣き崩れる朋子だった。



                     




その後、俊二を案じて朋子は日本で情報集めに奔走するが彼の行方はわからずじまい。
翌年、朋子は朝鮮時代の職場で世話になった上司の市岡に乞われ、
京都の伊藤の家を出、ひとり労働組合の事務員として働き始める。
そこで市岡と懇意の新聞記者、野中と知り合う。
野中は朋子に好意をいだきながらも俊二の行方を一緒に探し続けるのだった。

何通も何通も手紙を出してもまったく返事がこない。

強制送還の後、俊二はどうやら母の家には戻っていないという。

それでも返事が返ってこない手紙を朋子は書き続けるのだ。


そんな中、朋子は夢を見続ける。

俊二が脱獄し、かささぎになって海を渡ってきたのだ。
朋子は夢である事を承知で、それでもここに居て欲しいと叫ぶのだった。


                 


遂に思い詰めた朋子は無謀にも釜山に渡ろうと密航を企てあえなく逮捕される。
そんな朋子の身柄を博多の警察までまでわざわざ引き取りに来たのは野中だった。

野中に深い優しさを感じながらも、未だに俊二を忘れられない朋子だったが、野中はそれでも
朋子に思い切って結婚を申し込むのだった。



                     



しかし、朋子は応じられなく、とまどってしまう。
しかし野中は何年でも待つと優しく告げる。






そして月日が流れ…

もう、これが最後だと自分に言い聞かせ、朋子は、
もう一度俊二に

「半年、半年待ってあなたからの返事がなければ他の人と結婚します

 と言う内容の手紙を慶州の実家に出す。


やがて運の悪い事に返事の来ぬまま朝鮮戦争が勃発した。


朋子は全てを断ち切る決心をし、ずっと待ち続けてくれている子連れの野中との結婚を決意する。
しかし、姑の偏見や連れ子との軋轢は長く続き、朋子は精神的につらくなっていく。


そんな時、京都の伊藤から電話があり、俊二の近況がようやくわかったと言う。
貿易会社を設立し、そこの共同経営の若い女性と結婚もしたらしい。

悲しみにくれて川原で京都時代に撮った結婚写真を焼く朋子だった。



                     




しかし、あのかささぎのブローチだけはどうしても捨てる事が出来なかったのだった。



                     




そして、姑に野中との結婚前に俊二と一緒に生活していた事が分かってしまってからは、
朝鮮人に偏見を持つ姑によってますます朋子は露骨に辛く当たられていくのだった。


月日が流れ

そんな姑も寝たきりの病気になり、朋子は、献身的な介護を続けていく。
それでも、最後まで姑の偏見は消えることはなかった。



そしてまた、めくるめく月日は流れ…。

姑もこの世を去り、子供は独立した。


俊二が強制送還されてから二十八年目の昭和50年三月を迎えようとしていた。


朋子は五十一歳の春を迎えた。




ある日、野中は一枚の手紙を持ち帰ってくる。

それは韓国にいる俊二が朋子に届けてもらうように友人に託した手紙だった。



手紙の裏に『 朴 俊仁 』の文字


突然の俊二からの便りに動揺を隠し切れない朋子。


                     




それでも無理に、
自分は読みたくないので開けて読んでくれと無理に言うのだった。

野中が開けて読んでみると

いろいろな事があった後、向こうで知り合った女性と貿易会社を立ち上げ、そして後に彼女と
結婚し、事業は大きく成功したのだが、
なんと現在は末期の肝臓ガンで是が非でも朋子に会いたがっているというのだ。

不治の病と聞いて呆然とする朋子。

それでも


朋子「行きません


野中「二度と会えんのやんで」


朋子「
奥さんがいるのに非常識じゃありませんか私は人妻です」とうろたえる朋子に

野中は「そういう問題と違うやろ
とはっきりと行くように諭すのだった。


                     




一晩中考えている朋子。



自分の二十八年間の想いを整理するために朋子は、韓国に渡ることを決意する。

どうして俊二は自分に連絡をくれなかったのかどうしても知りたかったのだ。



翌朝、朋子は野中に釜山に行かせて欲しいと願い出る。


朋子「他にもたくさん聞きたいことがありますから





野中、そっと朋子を後ろから抱いて


野中「その代わりちゃんと帰ってこなあかんで


朋子微笑んで

朋子「当たり前でしょ


野中の大きな包容力と深い理解が朋子を救っていくのだった。





玄界灘


海峡を渡る船のデッキで朋子は、あの写真を焼いた日、
どうしても捨てられなかったかささぎのブローチを握り締めるのだった。



                     



釜山港



玄界灘を渡り、船で着いた釜山港には、俊二の妻が運転手とともに迎えに来ていた。

車の中で朋子は、俊二が結婚したのはたった十三年前で、それまで頑なに独身を通していたことを
妻から聞いて複雑な思いにかられるのだった。






そしてついに俊二の家に入り、病に侵された俊二に会う時が来た。


『朴俊仁』の表札


家の中の花瓶にはさくらの花が。



そして二階の俊二の部屋への階段を上がる朋子。


階段の上で待っている俊二。





二十八年目の再会だった。



感無量になり朋子を見つめる俊二。


ただただ俊二を見つめる朋子。              


俊二の体は長く立っていることもできなほど、病に侵されていた。



俊二「よく来てくれましたね



朋子「はい



                



俊二「海は荒れませんでしたか

朋子「
いいえ、とっても穏やかでした

俊二「それはよかった…

息も絶え絶えに椅子に座る俊二

俊二「あなたもどうぞ

朋子「はい


突然激しく慟哭する俊二。


俊二「信じられない、あなたに会えたなんて…ううう



そばに寄りハンカチで涙を拭いてあげる朋子。


俊二「ありがとう



                     




俊二「なによりもご主人に、野中さんにお礼を言わなければなりません

朋子「私も感謝しています。主人は快く送り出してくれました

俊二「そうでしたか


その後ベッドに横になりながら、俊二は

俊二「あなたは昔とちっとも変わらない

朋子「だいぶ年をとりました

俊二「幸せに暮らしてますか

朋子「はい、とっても

俊二「お子さんは

朋子「先妻の子ですけどひとり

俊二「私は二人です。どちらも女の子ですが、結婚が遅かったものですから
   まだ12歳と9歳です


朋子「奥様からうかがいました。ずっと独身でいらっしゃったって…

俊二「本当に人生はいろいろだと思います。でも、その幕切れ近くに、
   あなたに会うことができました。願いが叶ったのだから、もう思い残す
   ことはありません




                     




朋子「…ほんとうは私、どうして二十何年も連絡をくれなかったのか、
   恨みつらみを言うつもりで、釜山へ来ました。でももういいです。
   あなたにも、それから若いけれどすばらしい奥様にもお会いできて
   胸のモヤモヤがすっかり消えました


朋子「でも、この歳になっても、時おりあの頃の私が蘇ってくるんですよ


と、かささぎのブローチを俊二に見せる。

俊二はそのブローチを驚きとともに見て、懐かしさでいっぱいになる。


俊二「あー…


朋子「今まで生きてこられたのは、このかささぎのブローチの
   おかげだと思っています



あの終戦の年の回想シーンが流れる。


朋子「いつかきっと、私たちの間に橋を架けてくれるだろうって…、何度も何度も
   ぎゅっと握りしめて願いをかけてきました。でも握りしめました。
   もう…開放してやらないと……可哀想です…
」と涙がこぼれていく。


朋子の心が胸に沁み込み、切なくて悲しい俊二だった。


話が一段落して、その日、朋子が俊二の家を出るとき、奥さんは


奥さん「迷惑かと思いますが、明日の朝、十時に車をホテルに向かわせますので


朋子

奥さん主人が、朋子さんをご案内したいところがあると申しておりまして

朋子わかりました。十時ですね

奥さん「はい」

その時、二人の娘さんが学校から帰ってきて、朋子に挨拶をする。



車が発車し、

自動車の後部座席からから奥さんと二人の幼い娘さんを見つめる朋子。
複雑な感情が沸いてくるのを朋子は抑えることができなかった。



                     



彼女たちのあの姿は本当は自分の姿だったかもしれないのだ…。





翌朝


俊二は玄界灘が見える岬に朋子さんを案内する。


朋子は、俊二の車椅子を押してやり、俊二が歩く時も支えるように
一緒に寄り添って歩くのだった。

俊二日本と韓国を繋ぐ、この海峡を韓国ではヒョネタンと言うんですよ。
   日本では玄界灘ですが韓国人にとってはこの海を越えると外国に行くことになります。



朋子外国…



俊二はあのいつもかぶっていたかつての帽子を被る。



                     





帽子を見つめる朋子。



数々の思い出が蘇るのだった。





        
         





俊二この海を私たちは何度私たちは何度渡ったんでしょう…
   泣く泣く見送ったこともありました。


朋子そうでしたね…


俊二海の上にはないもないのに、地図を見ると線が引いてある。
   私たちの半島もそうです。南北に分断され、無常にも離散をしいられ、
   引き裂かれた家族がたくさんいます。

   海の上に引かれたその見えない線のために、私は何度犯罪者にされたか…

   思い出すたびに心は乱れます




朋子


俊二二十七年前、強制送還された私は、米軍の取調べを受けて
   投獄されました。

   半年ぶりに釈放されて、またすぐ日本へ密航しようと
   企てて逮捕されました。今度はスパイ容疑で2年間の獄中生活です。
   日本軍の憲兵だった過去が、その容疑の根拠でした




朋子



朋子比べようもありませんが、私も密航しようとして、博多で捕まりました



                     




俊二は朋子を見つめて


俊二この国へ…?



朋子……はい



朋子は海を見ながら頷くのだった。



俊二そぉー…でしたか…と感慨を深くしている。


俊二ようやく解放されて、慶州(キョンジュ)の家に帰ると、
   母は重い病気でほとんど起きられない状態でした



朋子、俊二を見つめる。


俊二あとでわかったことですが
   母はあなたからの手紙を私には見せずに、日本へ送り返していたんです



朋子…やはり


俊二私は母を責める気持ちにはなりませんでした。

   同じ立場になれば当然そうするだろうし、それが親なのだと分かったからです



朋子さん、静かに頷く。


俊二少しずつ、私の気持ちは変わりました


京都時代の美しい思い出や悲しい別れが次々に映し出される。



俊二日本へ渡っても、かえってあなたを不幸にするだけではないか…。
   愛がすべてだと思っていたが、それで解決できることは少ないのではないか…



静かに目を潤ませながら頷く朋子。




                     




俊二まもなく、あの朝鮮戦争です。


   私は、韓国軍の兵士として、最前線に送られました。

   残酷な戦争でした。

   同じ民族が二つに分かれて殺しあうのですから。

   よおやく戦争が終わり故郷に帰ると母が亡くなってました。

   そして目にしたのは、

   誰かと結婚するというあなたからの手紙でした




朋子そんな事情もわからずに…出した手紙でした


俊二そのあと、夢だった貿易の仕事で、会社を作り、ただがむしゃらに働きました。

   フ…、たぶん…肝臓は働きすぎが原因だと思います



朋子会社は、奥さんと一緒に始められたそうですね

俊二は…彼女が話しましたか

静かに頷く朋子さん。

俊二結婚は、ずいぶん待たせてしまいましたが…、
    私にとっては本当にすばらしい伴侶なんですよ



わずかに微笑む朋子さん。




朋子寒くありませんか?


俊二大丈夫…。

   …でも、そろそろ行きましょうか…



淋しそうにそう言う俊二だった。



静かに頷き、俊二を支える朋子さん。


ゆるやかに歩き始めた二人。






少し止まって



朋子「私…、今、会いに来て本当によかったと思っています




                     





俊二「



朋子「ずいぶん迷いましたが、

    
来て本当によかった…




俊二微笑んで



俊二「嬉しい話です



朋子「主人が許してくれましたから








俊二、朋子のほうを向いて微笑みながら





俊二「ご主人を、愛してる?




                     





朋子、微笑みながら




朋子「ええ、…とっても




                     



俊二「うんと微笑んで何度も頷きながら




俊二「それはよかった…



と、横を向く。




その時、俊二の顔が曇り、

うつむき、

深い悲しみが混ざる。






朋子の顔からも微笑が消える。

そして何かを想っている。







さだまさしさんの歌 『かささぎ』が

静かに流れはじめる。




                     









朋子「お願いがあります…








俊二「なんでしょう…







朋子、俊二を間近で見つめる。





                     








朋子の目が見る見る潤んでいく…。





                     








声を震わせ…









朋子「もう……

  私の夢には………

  出てこないで







                     






ハッとして、


朋子を見つめる俊二




                  





目にいっぱい涙をため

俊二を強く見つめる朋子。






                     






俊二は感動で目が潤みながら、震えている。




                     





それでも微笑んで





俊二「……わかりました。

  そうします
」  






   と頷く。


                     






何度も頷く朋子の目から


涙が次々に零れ落ちていく。







                     





朋子「




                     






朋子「ありがとう




                     




俊二、震えながら

首を何度もふり

愛しい気持ちを込め、


この人生の最後の全てをかけて

朋子を見つめ






俊二「いいえ








                     








さだまさしさんの歌『かささぎ』が流れ続ける。








画面が止まって。








                     









テロップ


この半年後 朴俊仁パク.チュニンは他界した。



三年後に同じ肝臓がんで野中武敏が死去。



野中朋子は、今も 健在である。





ふたりの映像が海に吸い込まれ小さくなっていく。





エンディングロール

キャスト、スタッフのクレジット。そして数々の回想シーンとともに
さだまさしさんの「かささぎ」の歌が流れ続ける。







終わり







ドラマ挿入歌  さだまさし 作詞作曲 歌 


「かささぎ」


生きることは すれ違うことだと解っていたけれど

夢の多くは叶わないものだと気づいていたけれど


空を韓紅花(からくれない)に染めて

沈む夕日見つめ泣いた懐かしいあの日

星空には かささぎが精一杯羽をひろげ


織り姫と彦星の海峡に橋を架けた

あの日あの橋を渡れたなら

あなたの場所へ辿り着けただろうか


憧れて 憧れて 憧れた あなたを想いながら

諦めて 諦めた あの 時の流れに
 


生きることは 水のように流されてゆくことか

風のように 空に抗って吹き抜けることか

今は思い出の抽き出しに 音もなく納めた愛しい埋み火

星空には かささぎが精一杯羽をひろげ

織り姫と彦星の海峡に橋を架けた

けれどあなたと私のためには

舞い降りてくれなかったね かささぎ



切なくて 切なくて 切なくて空を見上げながら

愛しくて 愛しくて 愛しくて今も胸が痛む

憧れて 憧れて 憧れた あなたを想いながら

諦めて 諦めた あの 時の流れに








朋子は、毎晩俊二の夢を見ていた。

再婚する前も
再婚したした後も
ずっと二十八年間見続けていたのだ。




あの一言。

朋子「もう…私の夢には…出てこないで」



そしてあの一言

俊二「…わかりました。…そうします」


やはり…俊二もまた朋子の夢を彼女以上に
二十八年間もの間見続けていたのだった…。



彼女のあの一言、彼のあの一言は、その日一日の彼らの言葉ではなく、
彼らの二十八年のすべての歳月を託し凝縮した
かぎりなく切なく悲しく美しい一言だった。


逆風の中で私はあえてはっきり言いたい。


私はテレビドラマであんな素敵なラブシーンをもう何年も見たことがなかったと。






第29作「寅次郎あじさいの恋」ダイジェスト版のアップは12月2日ごろになります。
第3作「フーテンの寅」本編完全版第2回目更新は12月初中頃になります。
気長〜〜〜〜にお待ちください。








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335

                          
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六代目であり三代目でもある車竜造




2007年11月24日 寅次郎な日々 その335


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



ここ一週間ばかりパソコンのスクリーンセーバーに『男はつらいよ』の本編が入っている。
普通スクリーンセーバーと言えば静止画か簡単な繰り返し動画が定番なのだが、息子が気まぐれに
『男はつらいよ』全48作を入れてしまった。
つまりマウスやキーボードを10分ほどいじらなかったら、突然映画「男はつらいよ」の本編が全48作分始まるという、
空恐ろしいスクリーンセーバーなのだ。ぴょえ〜〜〜(((((^^;)

で、時々スクリーンセーバーが勝手に動き出す。深夜に絵を描いているときなど、突然部屋の中から「男はつらいよ」が
始まりだし、渥美さんや倍賞さんの声が聞こえてくるのだ。あわててマウスを動かしたり、逆に画面に見入ってしまったり、
まあ、結構楽しんでいる。

昨日もそうだった。突然、誰も使っていないパソコンから渥美さんの声が流れてきた。
どうやら第44作「寅次郎の告白」をスクリーンセーバーは映し出しているようだった。

私は、その時映画とは全く関係の無い美術関係の本を読んでいたのだが、やっぱり習性というのはおそろしいもので、
ついつい映画の内容を聞いてしまうのだ。

で、おばちゃんのこういう声が聞こえてきた。


おばちゃん「三代続いたこの店の跡取りが…、ああ、うう…情けない…


                     ううう…情けない
                 



私は、寅が三平ちゃんをさそって啖呵バイのサクラをやれって言う例のギャグのシーンだな、なんて
思いながらなにげなく耳で聞いていたら、そのおばちゃんの言葉にふと疑問が沸いてきた。


え??なんだって三代続いただって??
といまさらながらその発言に驚いた。

だってあの天下にとどろくテレビ番組『ふるさとの川 ― 江戸川 ― 』(第6作)で、
ナレーションの方がとらやを取材した時のもようをこう言っていた。



『今も門前町には江戸庶民の味覚を楽しませた
お団子屋さんが軒を並べています。


江戸時代から続いて
六代目だという車竜造さんは
団子も若い人たちにそっぽを向かれてしまってと、
悲しそうに語っていました。』




                 



おばちゃんは三代続いたって言ってるし、テレビのナレーションは江戸時代から続いて六代目だって行ってるし、
いったいどっちが正しいんだ???。

ってあらためて迷ってしまう今日この頃だ。

おばちゃん、年とってもうろくしたのかな?
テレビの取材時はおいちゃんとおばちゃんでしっかり受け答えしていたと思われるので、
やっぱり『とらや』は江戸時代から六代続いているんだろう。

しかし、いくらおばちゃんでも六代を三代とは決して言い間違えないだろう。


ではなぜ、おばちゃんは「三代続いたこの店」といったのか?



実は、この柴又には『本家とらや』があって、本家は江戸時代から脈々と続いていた。
この今の店はその分家で、おいちゃんで三代目。もちろん二代目は寅の父親の平造さん。
一方の本家は、ある代でその家の子供たちが誰一人継がなかったので店をやめてしまって、
三代前から『暖簾分け』して始めたこの分家の店だけが残ったのではないだろうか。

つまり本家の分も入れるとおいちゃんは、『とらや』一門の六代目店主だが、
おばちゃんが言うように『この店』に限って言うとまだ三代目なのである。

寅に限って言えば、寅は江戸時代から続いている『とらや』一門の七代目店主であり、
暖簾分けし、分家したあとのこの店の四代目店主なのである。




あ、寅は、まったくそういうの分かりませんよ。

なんせ創業が『奈良時代』だとふみさんにうそぶいたり、『鎌倉時代』だとりん子さんに
のたまわったりめちゃくちゃです(^^;)



以上、もちろんこれは他愛もない私の推測なのは言うまでも無い。

まあ、山田監督のこのような気まぐれのためにいつもあたふたのファンたちなのです。

ちゃんちゃん(^^)





第29作「寅次郎あじさいの恋」ダイジェスト版のアップは11月30日ごろになります。
第3作「フーテンの寅」本編完全版第2回目更新は12月初旬頃になります。
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第28作「寅次郎紙風船」ダイジェスト版


2007年11月16日 寅次郎な日々 その334


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



          


寅を本気にさせた『笛の音の人』

実は、私は、第28作「寅次郎紙風船」のマドンナである倉富光枝さんこそ、寅とお似合いの人だと密かに思っている。
カラスの常こと倉富常三郎テキヤの女房であった光枝さんは寅の苦労も淋しさも分かってやれる数少ないマドンナなのだ。

もちろんリリーも同じように寅の悲しみが分かる人生を送っている。

いくら寅がマドンナに優しくしても、所詮は棲む世界が違うっていうのがこのシリーズのいつものパターンなのだが、
リリーや、光枝さんは寅と同じ裏街道をゆくマドンナなのである。早く言えば堅気じゃないのだ。

寅を好きになった美しいマドンナはいろいろいるが、本当に寅と結婚したとしたらとじっくり考えると、
どのマドンナも実は長く続かないような気がするのだ。寅のフーテン気質が悪いのだが、こればっかりは仕方ない。

リリーはもちろん最愛の女性だから、くっついたり離れたりしながらも一生を共に暮らすことは
何とか想像できる。縁が誰よりも深い。

そしてもう一人、リリー以外に最強の女性がいるとしたら、あの笛の音の人。倉富光枝さんだ。

★テキヤの女房。それも青春時代はリリーや寅と同じ不良娘。ここは意外に大事。
★カラスの常こと常三郎はかなりの博打極道だったので、寅くらいの極道なんてまったくへのカッパ。
そんな世の中の酸いも甘いも全て噛みしめて味わってきた光枝さんなら、寅とはうまくいく。
なによりも寅と同じ仕事をしていたので、結婚してからも二人して仕事が出来る。それゆえすれ違いが無い。


問題は一つだけ。


たった数ヶ月前に常三郎を亡くしたばかりの光枝さんが、果たして寅に対して密かな恋心が
あったかどうか、この一点にかかっている。

しかしこれは果てしなく微妙なのだ。詳しくは本編で。

前にも書いたが、あの柴又駅前での別れ際のあの彼女の目、そして表情がどうも見る度に気になってしまう。


                  


そして最後に光枝さんの背中を見つめる寅の目。あの目は他のどのマドンナにも見せたことの無い、
怖いくらいの迫力を秘めた力のある目だった。あれは寅が一番浮ついていない時の目。
現実的なことをリアルに考えている、一番本気の時に見せる強い目だ。


                  


山田監督はどう言う気持ちであの光枝さんの表情、そして、あの寅の最後の目を演出されたのだろうか。
どうしても本音を聞いてみたい…。



ところで、第28作「寅次郎紙風船
」は、光枝さん以外にもう一人魅力的な女性が登場する。
18歳の家出娘の愛子だ。
彼女のキャラは凄い。すさまじいと言ってもいいだろう(^^;)

とにかく寅と一緒に相部屋で寝ようとするのだから。前代未聞である。寅とのやりとりがもう絶妙である。笑いが止まらない。

寅もタジタジ。寅の前で足をバタバタさせもう暴れ放題だ。

テキヤの商売も結構上手。サクラもバッチリこなす。
船越パパやリリーも顔負けの名サクラだった。
常三郎のことで落ち込んだ寅を笑いで元気にさせるのも愛子なのだ。


                   


そんな無敵の愛子も、実は淋しい心を持っている。家では誰も相手をしてくれないのだ。
頼りの腹違いの兄は遠洋漁業でずっといない。
その遠洋漁業の腹違いの兄貴がとらやに愛子を連れ戻しにきて店で大喧嘩。

ラストで寅は愛子に会いに行く。

兄貴の遠洋漁業の出港に立会い、
寅「酒もするなー!博打もするなー!可愛い妹が待ってるぞー!
愛子「ハハハ!
愛子「兄ちゃーん!、お兄ちーゃん!!」と笑いながらも別れの涙を流す愛子。


愛子はさくらで、さくらは愛子なのだ。


                   

そして、もうひとつ私にとって第28作「紙風船」と言えば忘れられないシーンがある。
カラスの常こと恒三郎が寝床の壁に貼ってあったあの北原白秋の「帰去来」の詩。

山田監督のお父上が亡くなられた時、自宅の寝室の壁に寝床から見れるようにあの白秋の詩が貼ってあったらしい。
山田監督はお父様の望郷の念を感じ、涙を流されたそうだ。
白秋もまた、死の前年にこの詩を作り、故郷の柳川に思いを馳せたのだった。

この作品には山田監督のそのような想いが託されている切ない作品でもあるのだ。

帰去来

山門は我が産土、
雲騰る南風のまほら、
飛ばまし、今一度。

筑紫よかく呼ばへば、
恋ほしよ潮の落差、
火照沁む夕日の潟。

盲ふるに、早やもこの眼、
見ざらむ、また葦かび、
籠飼や水かげろふ。

帰らなむ、いざ鵲、
かの空や櫨のたむろ、
待つらむぞ今一度。

故郷やそのかの子ら、
皆老いて遠きに、

何ぞ寄る童ごころ。





それでは本編をご覧下さい。



@【はじめて同窓会に参加する寅】



寅の夢から


テレビである女優さんがぺらぺら早口でしゃべりながら料理番組をしている。

【問題】中級
この女優さんはこの「男はつらいよ」シリーズのある作品でマドンナの友人を演じていた方です。
さて第何作に出演されていたなんと言う名前の方かお分かりでしょうか?(^^)

ヒント:この方は実はこの作品を入れるとこのシリーズ3作品に出演されているんです。前の2作品は同じ人の役です。
    まあ、もっとも2作品目はセリフ無しでした。


TBSラジオの「ザ.パンチ・パンチ・パンチで『お相手はあなたの モコ ○○ ○子 でした』って言いながら、
ラジオのパーソナリティなどで活躍されていたそうです。

                   

そこへ車寅次郎医学博士のノーベル賞受賞の知らせが字幕で流れる。


車総合病院

手術後忙しそうに廊下を歩く車教授。

車教授「
なんだこの騒ぎは?
さくら「お兄様、ノーベル賞受賞おめでとうございます
一同「おめでとうございます」
車教授「なんだそんなことか…
マスコミが群がってきて、取材攻め。
岸本加世子さん演じる看護婦さんが今後のスケジュールを言い渡す。

                   

看護婦「先生、これからの予定ですが、記者会見の後、スェーデン大使館で授賞式の打ち合わせ。
    続いて総理官邸で祝賀晩餐会。そのあとNHKのテレビ録画。そして加世子の子猫の館で岸本加世子さんと…


超ハードスケジュールで忙しそうな車教授だった。

そこへ昔の恋人が子供の命を助けてほしいと泣きついて来たのだ。

今回のマドンナの音無美紀子さんが早くも夢に登場!
これは、前作第27作でマドンナの松坂慶子さんが登場したのと同じパターンだ。
しかし、このパターンも第29作以降は採用されなくなったので、第27作と第28作の
夢は今となっては貴重なものとなったのだ。

音無さん「
車先生!お願いします!この子の命を!

タコと源ちゃんは彼女を蹴散らそうとするが、
車教授は…

車教授「あなたは…
音無さん「寅次郎さん…、お久しぶりでございます」と深々とお辞儀。

                   

車教授は彼女を見ながらはるか昔二人がまだ若かりし日のことを思い浮かべるのだった。

カメラは珍しく、寅の顔をゆっくりズームにして行く。


セピア色のスクリーン。

軽井沢の別荘地
学生服の寅。


愛染かつら」の主題歌「旅の夜風」が流れる
作詞:西條八十 作曲:万城目正.

花も嵐も 踏み越えて
行くが男の 生きる途
泣いてくれるな ほろほろ鳥よ
月の比叡を 独り行く

音無さん「
お願い、わかってちょうだい」と泣いている。
寅「
音無さん「私が結婚しないと、パパの病院が倒産してしまうのよ…
寅「それじゃ君は、僕よりパパの病院のほうが大事なんだね
音無さんハンカチ顔を押さえて泣きながら
音無さん「寅次郎さん、どうしてわかってくださらないの…ううう
寅「わからない。そんなバカなことは僕にはわからない

                   

もう一度寅を見つめて

音無さん「さようなら」と駆けていってしまう。
音無さん、立ち止まって
音無さん「立派なお医者様になってちょうだいね…ううううう
寅、振り返り、彼女の後姿を追っている。


で、現在に戻って

車教授「大丈夫、この子の命はきっと私が救います
音無さん「ありがとうございます」と泣きながらお辞儀。

車教授「博君、すぐ手術の用意をおいおい何の病気かもわからないうちにヾ(^^;)

博「そんなバカな、これからノーベル賞の記者会見が…

車教授「バカもん!この子の命と、ノーベル賞とどっちが大事か、
    そんなこともわからんのか君たちは!もう!


大勢の医者や看護婦たちが一斉に壁に手をあて、ミュージカル風に勢ぞろいで恐縮している(^^;)

                   

一同深々と頭を下げる。


手術が始まる

なぜかナイフとフォークを持った車教授は、
体内にあるとんかつを汗をかきかき切りはじめる(^^;)

                   

…と、言うばかばかしい夢(^^;)



夢から覚めて


福岡 久留米 鳥栖(とす)駅

食堂「東京屋」で夢から覚める。


安食堂『東京屋

タタミのある食堂

とんかつ定食を食べた後に転寝をしている。(ここで夢と繋がっているわけだね(^^;))

                   

女店員に起こされて勘定をして出て行く。
とんかつ定食とお銚子で490円はいくらなんでも安すぎる(^^;)

外ではサンドイッチマンが「新装開店パチンコノーベル」の看板を掲げて歩いている。

寅が歩いていく。

「東京屋」を出て、鳥栖駅のほうへ歩いていく寅。

サンドイッチマンに何か話しかけている。

                                     現在の『鳥栖駅』 当時とさほど変わっていない。

                



小さな北九州の田舎町である。



タイトル

男(赤)はつらいよ(黄)寅次郎紙風船(白)映倫118637


江戸川土手

寅がまたも故郷柴又に帰ってきた。

江戸川土手を歩く寅。


口上わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
   帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
   人呼んでフーテンの寅と発します


   
♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


   ♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら こんな苦労も
   こんな苦労もかけまいに かけまいに♪



今回のミニコントは、河原を歩いている寅が空き缶を踏んで滑ってしまい、
怒ってそれを投げたら、カップルにあたり、怒るカップル。
運の悪いことにその直後にも飛んできたサッカーボールを蹴った寅が痛がって同じカップルの
間に倒れ込んでしまい、またもやカップルは怒ってしまう


                   

寅がサッカーーボールを蹴るのは第2作「続男はつらいよ」でも見られる。


帝釈天参道をさくらがとらやに向かっている。



とらや 店

とらやの店内に『おはぎ』の貼り紙。

その、おはぎをとらやで食べているタコ社長。
タコ社長の同級生の工場が倒産したらしい。
その工場で作っていた大量に売れ残った偽物のコンピューターゲーム機で遊んでいる満男


さくら「まあ、珍しい、社長さんがおはぎなんか食べて

社長「ははは、毒だとは分かってんだけどね

社長は、このような倒産後の売れ残り品は駅前で寅のような者が売り歩くのだと語る。

おいちゃんはため息をつきながら

おいちゃん「こんなおもちゃひとつにも悲しい話がいっぱいあるんだ…

おばちゃん「そういえばどうしてるかねえ、寅ちゃん
社長「どっかの田舎町でこんなおもちゃでも売ってんじゃないか

下を向いて兄のことを静かに想うさくら。

おいちゃんは寅に来た柴又小学校の同窓会の知らせをさくらと相談している。


そこへいつものように決まり悪そうに古新聞回収の軽トラックに隠れながら
やってくる寅の姿があった。

車が行ってしまって隠れるところがなくなりおろおろする寅。

さくら、笑いながら

さくら「お兄ちゃん
さくら「よお
おばちゃん「寅ちゃん
寅「おう、みなさんお揃いで

                   

みんなで挨拶。

寅は満男にお土産を買ってきてやったとニコニコ顔。

満男に背を向けながら紙風船を膨らます。

振り返って

寅「これいいだろ!ほら」と、紙風船を満男に渡す。

満男「なにこれ??と不可思議な様子( ̄ー ̄?)

寅「え?…

さくら、超敏感に察知して

さくら「紙風船よ
おばちゃんもすぐさまフォロー
おばちゃん「きれいねおばちゃんGJ(^^;)
さくら「ほら、こうやって遊ぶのよと紙風船を手のひらでつついて遊ぶ(^^;)

さくら、気を使うね〜。

寅、微妙ォ〜に機嫌が悪くなっている。

社長「薬屋の広告入りか、安く上げたな、寅さん、ハハハ」と、
寅の肩をポンと叩いて笑いながら出て行く。

むかついて振り返える寅。

おばちゃん「ほっときよ、あんな男の言うことは

寅、そうとうむかついている。

おいちゃん「こういうのをほんとのおもちゃって言うんだよと気を使って紙風船を両手で持つ。


さくら「そうねとチラッと気を使って寅のほうを見る(^^;)

それでも機嫌がよくならないので

おいちゃん「懐かしいなあ〜」と手でついて遊び始める ああ…おいちゃん…(T▽T)
おばちゃん「楽しいねえ〜おばちゃん…(T▽T)

さくらとおいちゃん、ついにダメ押しの
ラリーを始める。

満男「そんだけ?
とポツリきつい言葉(^^;)

ラリーをしながらすばやく満男の頭を軽く叩くおいちゃん。
もの凄い
離れ業!

                           おいちゃんの手に注目!
                   

おいちゃんにタッチされ、頭に手をやる満男

さくらは、なんと、おいちゃんとラリーをしながら寅にしゃべる。 

                   

さくら「お兄ちゃん、お茶にする?
これまた離れ業!難度E

おばちゃん「それともお腹すいてるかい?

さくらとおいちゃんのラリーはなんと9回も続く。

                   


これはリハーサルがんばっただろうなあ…。
ちなみに脚本(決定稿ではなく改定稿)にはこの長いラリーはない。
現場で反射的に決めたのだろう。

倍賞さんの表情がなんとも可愛い( ̄▽ ̄)



寅「いや、いいです、わたくしこれで失礼しますその言い方なァ(^^;)

おばちゃん「何言ってんだよォ、今帰ってきたばっかりじゃないか

と、寅のかばんを押さえる。

さくらたち、ラリーを中断して

さくら「

寅はぶつぶつ言うが、さくらはなんとか引きとめようとする。
しかたなく、話を他にふるためにさっき話題にしていた柴又小学校の同窓会のことを寅に伝えるのだった。

さくら「あ、そうだ。同窓会があるのよ
おいちゃん「そうそう
寅「同窓会?

おいちゃんから渡された同窓会の案内状を読んで、少し機嫌が直る寅だった。

さくらは満男に寅は柴又小学校の先輩だって話をする。

おばちゃん「ちゃあんと卒業したんだもんね褒め言葉になってない ヾ(^^;)

寅、しみじみと、

寅「そうだよおばちゃん、オレあの六年生の終わりのときはがんばったからなあ〜
一同うなずく。
寅「大変だったから、うーん
寅「満男、おまえもちゃんと勉強しないと卒業できないぞ
さくら「そうよ、遊んでばっかりいて
寅「遊んでばっかりいるんだろこれは
さくら「フフフ

満男、ふくれて

満男「誰だって卒業できるんだよ、小学校はあちょー、座布団一枚(^^)
寅「なに?なんだおまえ」とぶつぶつ。

すかさずおいちゃんがフォロー

おいちゃん「そうじゃないんだ満男、そりゃな、普通の人間ならば卒業できるのが
     当たり前だけども、このおじさんがこの頭で卒業するのは並大抵の努力じゃなかったんだ。
     それを考えなくちゃ
とせつせつと教える(TT)

                   

おいちゃんの言葉全くフォローになってません ヾ(^^;)

寅「そうだよ、バカ寅気づけよ ヾ(−−;)

さくら「満男、がんばんなくちゃさくらまで ヾ(^^;)
おいちゃん「

寅「もう、噛んで含めて言ってやらなきゃ分からないんだから、まわりのまともな人間は
  くたびれちゃう、


しきりに頷くおいちゃん.。ずっと気を使うね〜(^^;)

ふてくされて風船を両手に挟んでぺっちゃんこにしてしまう満男。


ようやく機嫌よく二階で一休みする寅。

そうは言ったものの、立派な堅気の集まる同窓会にフーテン暮らしの寅が出席することの危うさを
感じてしまうおいちゃんとさくらでもあった。




川甚 玄関

柳と茂が同窓会会場の『川甚』にやって来るが
受付で寅のことを二人して嫌がっている。


受付名簿見て
柳「車寅次郎ー、いたいた!
すみ子「フフ、あの不良にはずいぶんいじめられてたわよねー

                   

茂「んー
柳「まさか来るんじゃないだろうな?
安男「いや、来ないでしょ
茂「ほら、今でも行商やってんだろ
安男「そう
茂「家にいたためしがねえんだから
柳「そんならいいけどな。オレはあいつの四角い顔思い出すだけでも
不愉快になるんだよ

一同「ハハハ」
茂、安男(東八郎)に向かって
茂「おまえなんかいじめられたクチだろう
安男「ん、あいつの顔見るの嫌でよ、オレはずいぶん学校休んだよ
そこまでいくと、笑えないいじめ問題だね(−−;)

柳「もしあいつ来たら今日オレ帰るからね


柳は第12作「私の寅さん」に登場するあの柳文彦と同じ設定のように一見見えるが
寅に会いたがっていないし、寅がやって来たら帰るとまで言っているので、別人だと
思われる。第12作の柳文彦なら寅に会いたがるはずだからだ。

同じ柳だし、同じ前田武彦さんだが、人物は似て非なるものだと考えて良いだろう。

だいたい柳文彦のあだ名が第12作では『
デベソ』なのに対して、この第28作では
かわうそ』になっている。山田監督は同じ前田武彦さんなので柳にしてしまったのだが
実は別人なのだ。だからこそ「車寅次郎ー、いたいた!」なんて何十年も会っていない
設定になっているのだ。実にややこしい…、柳ではなく、別の名前にしたら混乱しないのに
なんて思ってしまう。
『かわうそ』とはご存知の方々も多いと思うが前田武彦さんの本来のあだ名である。
ちなみに、脚本では柳のあだ名は「ひょうたん」になっていた。

茂は、同じく第24作「春の夢」で登場する大工の棟梁の茂だと思われる。これは第24作でも
寅にいろいろいじめられていたので、こちらの方は同一人物だと考えていいと思う。

なぜこうもくどくど書くかと言えば、私はあの第12作のお人好しの文彦が好きなのだ。
それゆえ、あの物語の思い出を崩したくないのだ。


で、物語に戻ろう。

とにかく寅が来ないことを祈っている彼らの元に、寅がノコノコやってくるのである。

寅「ヒヒヒ、いたいた。おい、御一統さん。茂
茂「よう
寅「棟梁、どうした、は、相変わらず材料ごまかして儲けてるか」 やばいよヾ(^^;)
茂「バカヤロウ、なに
寅「ヘヘへ、お!お!」と柳の方を見て
寅「かわうそ!カハハハ!かわうそ!オレだよオレだよ寅だよ寅だよ忘れたかおい
と柳やすみ子をからかった後、安男に向かって
寅「シラミ、シラミ猿。なんだおまえ生意気に背広なんか着やがって。
  へえ〜、まだシラミいるか?
凄いあだ名だねえ(^^;)
安男「もうそんあいないよフフ
寅「ヘヘへ

                   


と、こういう調子で会場の中へ入っていくのだが、その先がどうなっていくかは
だいたいの想像はできるのである。

案の定寅は、みんなにさけられ、煙たがられ、淋しい思いをし、
最後、安男に付き添われてとらやにぐでんぐでんになって
戻ってくるのだった。



とらや 店   深夜


さくらや博が止める中、寅ベロベロ口調になりながら安男相手にくだをまく。

仕事をしに、家に戻ろうとする安男を止めて

寅「今夜は夜通し飲むんだ!安男!おまえここにいろ!

安男「家に帰ってアイロンかけなくっちゃいけないんだよ
寅「いいんだよそんなもんかけなくたって!
安男「そうはいかないんだ明日の午前中届けるって約束してんだから
博「兄さん、お店の仕事は大事ですから
さくら「どうぞもう
寅「店なんかどうなったっていいんだよおまえ。へへへ白鵬舎だ?チッ、そんなおまえケチな店の一軒や二軒
 潰れたって世間は痛くも痒くもなんともないよ!ねー!潰しちゃえ


それを聞いておとなしい安男も遂に切れる。

安男「しかしなあ、寅ちゃん、今の言い方はちょっとひどいんじゃないか
寅「なんだおまえ、文句あんのかおめえ
さくら「ごめんなさいね
博「酔ってますから
安男「いや、いいんです。ちょっと言わせてください!
一同緊張が走る。
安男「そらな、オレの店はよ、間口二間のケチな店だよ。大型のチェーン店が出るたんびに
  売り上げが落ちて何べんも店をたたもうと思ったんだよ。
  でもな、そのたんびに、女房や娘が「父ちゃん、頑張ろう。オヤジから受け継いだこの店を
  なんとか守っていこう。そんなふうに言ってくれてな…。歯を食いしばって、沈みかけた船を
  操るように今日までやって来たんだよ


                   

寅「おまえ、いい、酒飲め今夜はよ」とベロンベロン
安男、寅の手を振り払い、立ち上がって
安男「終わりまで黙って聞け!!
寅「
安男「お前今なんて言った?俺の店が潰れても世間様は痛くも痒くもねえだと!?
   いいか、オレにだってな、お得意はいるんだお得意は!オレの洗ったシーツ出なくちゃ困る。
   オレがアイロンかけたワイシャツじゃなくちゃいやだ。そういう人がね、何人もいるんだよ!
   商売ってのはな、そういうもんなんだ。団子屋さんだっておんなじでしょ


おいちゃん、茶の間から

おいちゃん「そうですともそうですとも

安男「そのへんの気持ちがお前みたいなヤクザな男にわかってたまるか

寅「
格好は酔いながらも安男の言う事が染み入っているようないないような寅。

安男「どうも…失礼しました
さくら「すいませんでした」と深くお辞儀

安男に言われた事を聞いていないようなふりをして、博を酒に誘うが、さくらも博も
聞かないふりをして帰っていくのだった。


一人残った寅は電話の横の上がり口で横になってそのままごろ寝をしてしまう。

なんだかみんなに煙たがられて淋しげな寅の寝顔だった。
身から出た錆とはいえ、寅は孤独なのだ。

                   


そばに転がる紙風船…。




A【傷心の寅と愛子との出会い】


翌朝  さくらの家   


柴又5丁目38−4

さくらとおばちゃんが電話している。

寅は早朝に旅に出てしまったらしい。

さくら「え?もう出てっちゃったの?いつ?
おばちゃん「私が目覚ました時にはもういなかったんだよ。ゆんべ掛けてやった毛布きちんとたたんでさ
さくら「そう…」と淋しい寅の心を考えている。
おばちゃんの声「もしもし…もしもし
さくら「はい
おばちゃん「今も話してたんだけどね…、同窓会できっと…、惨めな思いをしたんだよ…。
       可哀想に…行かせなきゃよかったね。そんなとこ…

さくら「しかたないわよ、済んじゃったことだものと、自分に言い聞かせるように…。

                   

電話を切り、外に出て空を見上げるさくらだった。





大分県日田市

大字夜明久大本線  夜明駅 

上り線のプラットホーム
を歩いて行く寅


                   


久大本線(きゅうだいほんせん)は、福岡県久留米市の久留米駅から
大分県大分市の大分駅に至る九州旅客鉄道(JR九州)の鉄道路線。

光岡(光岡)

筑後大石


筑後川橋梁 久大本線



筑後川の鉄橋を列車が走っていく。

夜明ー筑後大石間

それとは逆方向に下の
沈下橋を歩いていく寅。




筑後川のほとり 杷木町  原鶴温泉

同じく筑後川のほとりの杷木町でコンピューターゲームをバイする寅。


寅の名(迷)言 
電気のことを英語で持ってコンピューターって言う!

                   



筑後川 夜  駅前旅館 夜明


売れ残りのバイネタを手帳に書き記している寅。

普段は見られない貴重なシーンである。こういう地道な事もしているんだね。

寅「サブロク…、サブロクサブロク…ああああ
」と計算がなかなか進まない(^^;)

そこへ女将さんの
杉山とく子さんが登場

相部屋をお願いするのだ。それも娘さんだという。

                   

入ってきた娘(愛子)は最初寅を警戒しているが…。

愛子「はじめに断っとくけど、おんなじ部屋に寝たって、私とおじさんとは関係ないんですからね、
   口利かないでほしいの。それに私見かけよりガード固いんだから

ときつい目で寅を睨む愛子。

寅「あーあー、あ、なるほどね、じゃあお姉ちゃんは男に酷い目にあったんだ」と笑っている。
愛子「黙っててって言ってるでしょ!私今落ち込んでんの
寅「フフフ、分かった。しかしな、姉ちゃん。この広い世の中で星の数ほど男と女がいる中で、
 あんたとオレが同じ部屋で一夜を送るってのも何かの縁なんだ。お互いに名前だけでも名乗ろうじゃないか、
 な。オレはね、東京は葛飾柴又の生まれで、車寅次郎。人呼んでフーテンの寅って言うんだ。よろしく頼むよ


                   


愛子「…、あの…
寅「なんだ?
愛子「どうしてフーテンって言うの?

寅「故郷を捨てた男だからよ…」と横を向く。渋い!(^^)

愛子「ということは、奥さんとか子供とも別れたっていうわけ?

寅「フッ…、そんな面倒なものは最初っからいやしねえよ渋い!(^^)

酒のコップを静かにお膳に置く寅。

愛子、寅を観察しながら

愛子「第一印象のイメージとずいぶん違っちゃったな
愛子擦り寄ってきて
愛子「ねえ、どうしてフーテンになっちゃったの?仕事に失敗しちゃったから?

寅、ちょっとうるさがる。

                   

愛子かまわずにしゃべり続ける。

愛子「失恋!?( ▽|||)
寅、露骨に嫌がっている(^^;)

愛子「家庭の事情?

寅「あ、あの、お互いにさ、そういう過去にはあんまり触れない方がいいんじゃないか

愛子「そう!私もそういう考え方。人の事ぐじゃぐじゃ聞きたがる人間なんてだいっ嫌いそれはあんただよ ヾ(-_-;)
寅、辟易している。
愛子「関係ないじゃないねえ、何しようと何考えようと
寅、適当にうなずく。

愛子、またもやにじり寄ってきて

愛子「でも…面白いタイプね、おじさんって…」とマジかでジロジロ見つめる。
寅、タジタジとなって
寅「そうか

愛子「何考えてんの?今

寅「姉ちゃんと同じことだよ

愛子「…!やらしい!

寅「…?
愛子「…!!え…?
愛子、急に笑い出して
愛子「いやあ、ヒャハハハハ!!ちがーうよー!!ハハハハハハ!!
と寅を押したり、座敷を転げまわったり自分でうけまくる愛子だった。

寅困ってしまって

寅「よお!おばさーん!ちょっと来てくれよ〜!

愛子「私や〜だー!ハハッハハハハハハ!!!

                   

と足をバタバタさせて大笑い。

寅「静かにしてくれよおい。あ〜あ、またぐら出しちゃって。うわあああああ…

結局寅は、愛子のやんちゃ攻撃をさけるために密かに下の居間で寝てしまうのだった。


この一連の「お前と同じことだよ」というギャグは、
あの第6作「純情篇」で夕子さんが風呂へ入っている時の
森川おいちゃんと寅の会話のアレンジ版であることは言うまでも無い。




翌日 

浮羽郡 田主丸町(たぬしまるまち)


浄土宗法林寺門前 門柱そば



寅「姉ちゃんよ、母ちゃんがおめえ男作ったからって、そのたんびに家出してたら
  いくら家出したってたりねえじゃねえか、そうだろ。父ちゃんいなくなったから
  淋しいんだよ。母ちゃんだって女だからな

愛子「母ちゃんもう五十だよ
寅「五十だってまだ若いじゃねえか。他に兄妹いねえのか
愛子「ん、腹違いの兄ちゃんいるんだけどね、マグロ船乗っててさ、南洋の方行ってるからね、
半年に一回くらいしか帰ってこないの

寅「半年にいっぺんか
愛子「うん。いい人だけどね」とお菓子をポリポリ食べている。
寅「じゃ、そのあんちゃん、どっか南洋の空の下で可愛い妹の事心配してるかもしれねえぞ
愛子、ちいさくうなずく。
寅「え、そうだろ
愛子、下を向きながらもちょっと嬉しい顔をしている。
寅「さて…、行くか」と立ち上がり、歩き始める。

                   


松川ドライ田主丸店が見える。

寅は愛子の家がある静岡の焼津に帰るように何度も諭すが、
愛子は「寅さんと一緒にいくんだもん」と甘え、
寅にくっついて離れようとしない。



月読神社

こうして寅は、愛子と月読神社の鳥居の前を通って田主丸駅の方へ歩いて行くのだった。



B【光枝さんとの出会いと常の頼み】


久留米


久留米水天宮
の縁日


JR久留米駅から徒歩で約15分、筑後川の河畔にある久留米水天宮。

御祭神は天之御中主神(あまのみなかぬしのかみ)、
安徳天皇(あんとくてんのう)、建礼門院(けんれいもんいん)、二位の尼(にいのあま)の四柱。
安徳天皇が没した土地といわれ、後にここに祭られたのである。

この水天宮は全国水天宮の総本社でもある。
また、子供の守護神としても有名であり、子供を参拝させる人々も多い。



愛子は寅のバイのサクラを演じて、結構売れている。

                   

そんな時、向かいのほうでたこ焼きの屋台を出している、色っぽい女性に気づき、気にする寅だった。

途中、寅が昼ごはんを食べている時、その女性がなんと寅に近づいて来たのである。


光枝さん「
これどうぞ…」と寅に漬物が入ったタッパーを渡す。

                   

寅「
光枝さん「私が漬けたんだけど」とフタを開ける。
寅「ありがとう。こりゃうまそうだ
光枝「あの…柴又の寅さんでしょ?
寅「ああ…。姐さんは?
光枝さん「私、常三郎の女房で光枝と言います」と微笑みながら下を向く。
寅「常三郎…、ああ、あ、カラスの常
光枝さん「はい
寅「ああ、そうかァ
光枝さん「フフ
寅「フフ、あんたが。へええ
光枝さん「はい」(無声音)
寅「いやあ、常のヤツにはね、いつもあんたのノロケ聞かされてたんだよ

                   


光枝さん「フフフ」とにこやかに照れる。
寅「ああ、そうかい
光枝「いつもお世話なってます
寅「んん…ヘヘへ。で…なんだい、常のヤツは女房に働かして昼間っから酒飲んでんのか?フフフ
光枝さん「フフフ、それがね…、病気なんですよ…
寅「病気?
光枝さん「ええ
寅「…悪いのか?
光枝さん「ええ…、もう三ヶ月になるんだけどね、病院に入って

寅、遠くを見て思い出すように

寅「…ヤツに会ったのはいつだったけなあ…。あ、今年の春か
光枝さん「いつも寅さんのこと話してるんですよ、家で。フフフ、だから初めての気がしなくて

寅「そうかいフフフ。オレ…見舞いに行くよ
光枝「すいません
寅「うん
光枝「もしそうしてくれたら喜ぶと思うけど
寅「ああ
光枝さん立ち上がって、
光枝さん「それじゃあ」とお辞儀をする
寅「ああ
走って行く光枝さん。
寅、呼び止めて
寅「あ、姐さん。ヤツのクニ(故郷)はどこだっけ
光枝さん「秋月です。福岡県の
寅、頷きながら

寅「ああ、そうだ。秋月って言ったっけな
光枝さん頷いて、
光枝さん「それじゃ」とお辞儀をして走っていく。

愛子が目を三日月にしてにやけながら走ってくる。

愛子「寅さ〜ん、雰囲気あるねあの人ねェ。サラリーマンの女房じゃああはいかないよな、フフ
と寅の腕に甘える愛子。
寅「うるせえな、おまえは…、ほらほら客が来てる、客だ」と追い立てる寅。

光枝さんのくれた漬物をひとつ口に入れる寅。




朝倉町 菱野

三連水車

後方は筑後川の堤防。



久留米水天宮でのバイを終え、数日後
寅と愛子は、福岡県 朝倉市 三連水車横のわら束の上に座っている。
寅は何か考え事をしていえるようだ。


稲が刈られたばかりの頃なので水車は止まっている。


筑後川の流れを受ける堀川にかかる朝倉の水車群には、
菱野三連水車を始め、三島・久重の二連水車2基がある


物悲しい光枝のテーマが流れる。


愛子柿を食べながら

愛子「ねえ、寅さん、何考えてんの?


寅「おまえとおんなじことだよまたも出ました同じパターン(^^;)

                   

愛子「じゃ、いつかお祭りで会った女性の事?
寅、ちょっとうろたえて
寅「そんなことじゃないよ」と横を向く。
愛子は寅の変化を見逃さずに、顔を覗き込みながら
愛子「あ、ハハ、赤くなった、ピッタシでしょう。ねえ、私の勘は鋭いんだから
寅「
愛子「でもさ、ねえ、あの人人妻でしょ?不倫の恋じゃない、そういうのは
寅、呆れて
寅「うるさいんだよおまえは、少し黙ってろ」と言って、また「ハァ〜…」とため息をつくのだった。




福岡県 甘木市  秋月

野鳥川にかかる優しげな
秋月眼鏡橋をお見舞いを持ってゆっくり渡っていく寅。

                   

家老宮崎織部が長崎の石工を雇い文化7年(1810年)に築造させた石橋。
この橋は我国唯一の御影石(花崗岩)造りの石橋であり県指定有形文化財になっている。


秋月は筑前の小京都 風情があるねえ。。。

野鳥川沿いの小道、古びた家々が続き、なんとも言えぬ静かな趣がある。
そんな一軒が倉富常三郎の家である。


秋月 今小路 野鳥川のほとり

『倉富常三郎』の表札を見ている寅。

ガラッと引き戸が開いて光枝さんが出てくる。


驚く光枝さん

寅「よお

光枝さん「あら
寅「やっぱりこの家だったのか
光枝さん「まあー。ほんとに来てくれたのー

寅「うん

                   

光枝さん「まあー
寅「甘木まで来たんでね、ちょっと足伸ばしたよ、うん
寅「病院はどこだい?
光枝さん「今、家にいるんですよ。先週退院して
寅「え!?家にいるのか!あー、そりゃよかった
光枝さん「喜ぶはー、きっと。さ、どうぞ、汚いとこだけど、さ、どうぞ

入っていく寅。

光枝さんの声「あんたー!ちょっとあんた!」と、はずんだ声。

常三郎が布団に入ったまま上半身を起こしてにこやかに笑っている。

常三郎「驚いたやろね、田舎町で
                 
寅「うん。しかし、博打場はねえし、飲み屋はねえし、病人にはもってこいなんじゃねえか、へへへ
光枝さん「お菓子がなんもないから買うてくる
常三郎「バカかん、寅がお菓子んごたるもん食うか、酒たい
寅「いいっていいって、姐さん、なにもいらねえよ
光枝さん「すぐ戻りますから
光枝さんは寅に出す菓子とお酒を買いに行く。

引き戸を開けて買い物に出かける光枝さん。

このなにげない引き戸を開けるシーンに、山田監督は自然さを要求し、音無さんは、
なかなか上手くいかず、それこそ何十回もNGを出したそうだ。
山田監督の静かなる執念の演出がこういうところにもある。。


                   


常三郎、布団の隅からタバコを取り出す。

それを見て笑っている寅。

常三郎、タバコをくわえながら

常三郎「あのおなご、やかましかもんね。まるで医者のまわしもんのごたある

寅「博多の料理屋で仲居やってたんだってな
常三郎「誰に聞いたと?
寅「んー、…あの、小倉のケン坊よ
常三郎「あいつと張りおうたんじゃ。金ばつこうたもんね。あのおなごにゃァ

寅「ヘッ、へへ、いくら使っても惜しくはねえさ、あの女房なら
タバコに火をつける常三郎。
寅「気立てはいいし、色っぽいし、おめえにはもったいねえや」と立ち上がり庭を見る。

にやけながら美味そうにタバコを吸う常三郎。

                   

灰を薬のビンにいれる仕草。

小沢昭一さんのこのあたりの芝居は絶品だった。

常三郎「
寅「んー…
常三郎「おまえに頼みがあっとじゃ
寅「なんだい、なんでも言えや」と、常三郎の横に座る。
常三郎「おまえまだひとりもんやったな
寅「おおう
常三郎「万一の話たい。
   万一オレが死んだらくさ、あいつば女房にしてやってくれんと



                   


寅「フフフ、気の弱いこと言うなよおまえ。えー、おめえ、退院したばっかりじゃないかよ
常三郎「だけん、万一ち言うとるじゃなかか。な。頼む。約束ばしちくれ」と頭を下げる常三郎。
戸惑う寅。
常三郎「あいつが、オレが死んだ後にさ、知らん男に抱かれるかち思うと、夜でんオチオチ眠られんとよ
寅「情けない男だなあ〜…
寅、笑いながら、落ち着いた表情で
寅「分かった。約束するよ。その代わりお前死んだ後も未練たらしく化けてでてきたりすんなよ
常三郎「そら、出てくるかもしれんばい
寅「ハハハ、苦労が多いな、若いカミさん持つと

常三郎が横になった後、なにげなく壁を見渡していく寅。

ふと向こうの壁になにかの拓本が貼り付けてある。

                   


そこには北原白秋の『帰去来』の詩が貼ってあったのだ。


帰去来

山門は我が産土、
雲騰る南風のまほら、
飛ばまし、今一度。

筑紫よかく呼ばへば、
恋ほしよ潮の落差、
火照沁む夕日の潟。

盲ふるに、早やもこの眼、
見ざらむ、また葦かび、
籠飼や水かげろふ。

帰らなむ、いざ鵲、
かの空や櫨のたむろ、
待つらむぞ今一度。



山門柳河は私の生まれ育った故郷、

雲は湧き、南風がここちよく吹く

まほろばの地だ。

ああ、最後に今一度、

あの地へ飛んで帰りたい。


筑紫よ、

この名をよべば、干満の差が激しい、

炎のような夕映えの有明の海を思い浮かべるのだ。

私の目は冒され、水辺の葦や、籠飼や、そして水かげろうも、

もう見ることはできない。


それでもいい。 帰りたい。

鵲が空に舞い、そして櫨の木が待っているあの地へ。

故郷やそのころ一緒に遊んだ子らたちも老いてしまった。

長い歳月故郷に帰らず、疎遠のままであったのに、

子供のようにこんなに思いを馳せるのはどうしたわけであろうか。
 




                   

白秋も山田監督のお父様も、望郷の念は年々募るばかりだったのだろう。
常三郎の故郷を愛する気持ちは地球の果てで故郷を想う私には痛いほどわかる。

白秋はこの詩を発表して翌年この世を去る。






C【光枝さんの涙、そして寅の帰郷と改悛】




杉の馬場

秋月城跡

市立秋月中学校

夕方、寅は常三郎の家を後にし、光枝さんと静かに秋月の町を歩いていく。

第17作「夕焼け小焼け」の龍野でのテーマ曲が流れる。


                   


寅「まあ、なんか困ったことがあったら、オレの家へ手紙よこせよ。オレは時々連絡してるから。な
光枝さん「どうもありがとう
寅「うん

                   

寅、ちょっと立ち止まって、
寅「体だけは大事にしろよ
光枝さん「うん
寅「なに、常のやつだって病気が治りゃ、一生懸命働いて、あんたのこと楽にさせるよ。
 あいつは芯からあんたに惚れてるから。フフフ

光枝さん「フフフ



本覚寺近く

野鳥川にかかる小さな橋のたもとで


寅「さ、もうこの辺でいいよ。あんまり長いとあいつまたやきもち妬くから、フフ
光枝さん「じゃあこれ、つまんないもんなんだけど」とお土産を渡す。
寅「あ、そうかい
光枝さん「今日はほんと嬉しかった。寅さんが来てくれて
寅「うん
光枝「それじゃ

寅、歩きかける。

戻っていく光枝さん。


しかしすぐ、光枝さんは歩いていた足を止めて、少し、躊躇し、走って戻ってくる。

それに気づき、光枝さんを見る寅。

光枝さん「寅さん、ほんとは…私だけの秘密にしておこうと思ったんだけどね

寅「なんだい

光枝さん「実はね…

光枝さん、寅を見つめて

光枝さん「うちの亭主、もう長くないの

寅、厳しい目で光枝さんを見る。


                   

光枝さん「今度退院したのもね、病院が見放したからなの。あんまり帰りたい帰りたいって言うもんだから。
      医者が好きなようにさえてやんなさいって、そう言って…


寅、ゆっくりしゃがんで

寅「で、…いつまで

                   

光枝さん「たぶん…、今月いっぱいは無理だろうって…

寅「

光枝さん「傍目にはそうは見えないのにねえ…。寅さんは、亭主に会いに来てくれた最後の友達よ

と、見る見る涙が潤んでくる光枝さん。

                   

頭を下げながら

光枝さん「ありがとう」と言って泣きながら小走りで来た道を戻っていく。

光枝のテーマが悲しげに流れる。

                   

山寺の鐘  ゴーン

小さくなっていく背中からいつまでも小さくすすり泣く声が聞こえる。

ただ呆然と光枝さんの背中を見て立ち尽くし続ける寅だった。






夜 浜辺の 商人宿  沖吉  沖端漁港


窓を見て常三郎の事を考え、光枝さんのことを考えている寅。


                   

元気の無い寅に、愛子はお茶を入れてやる。

愛子は宿で留守番している間、宿の主人に連れられて『ムツゴロウ』釣りを見に行ったそうだ。

愛子「へんな顔した魚ムツゴロウって。あのね目の玉がこんなでかくって、それでアゴが四角くて
寅「じゃ、オレのツラに、姉ちゃんの目ん玉つけたようなもんじゃないか
愛子「ハハハハ!うまいうまいうまい

                   


落ち込んでいるのを察して、

愛子「何考えてんの今?

寅「人の一生についてよ

愛子「ブヒャククク」と噴出している。
寅「なんだよ可笑しいか?
愛子、大笑いしながら
愛子「柄じゃないわよ、ムツゴロウが眠ってるような顔して、ハハハ!座布団一枚(^^)
寅「フフフフフフ

そこへ女中の谷よしのさんが顔を出す。

谷さん「お客さん、お食事こっちでよかですか?
愛子「よかです

                   

思わず少し笑う女中さん。
寅「ヘヘへ

寅少し吹っ切れた顔をして、
寅「姉ちゃん今夜は飲むか
愛子はそれを聞いて大喜び。下へ降りて言って「ウイスキーボルトで」とベタなギャグを飛ばしていた。



そして翌朝

愛子を残して寅は故郷に旅立って行ってしまったのだった。

愛子のテーマが流れる中、置手紙を読む愛子

いろいろ世話になったな。
お前のおかげで楽しい旅だったけど、
いつまでも続けるわけにはいかねえ。
おまえは焼津に帰れ。
俺も故郷に帰る。
あばよ。

愛子殿  寅次郎



もういない寅を追って、外に出てワーワー泣き喚く愛子だった。






東京  江戸川 

ハゼ釣りをする博と満男



釣れたが最後に逃がしてしまう博。
大笑いの満男と周りの人たち。

こういうロケも珍しい。

                   



貴子さんの喫茶店ロークの前を曲がって帝釈天参道に入っていく博と満男。
まだまだこの頃はローク健在!

途中で満男がダボハゼと源ちゃんを同一視してからかう(^^;)。

                   

二人がとらやに帰ってくると



とらや  店



さくら「ねえ、お兄ちゃん帰ってきてるの
博「へえ、元気か

お、いきなり寅が帰った後からの設定か。これはちょっと珍しいパターンだ。

さくら「それが変なのよ様子が

みんなに気を使い真人間になった寅が仏壇でお祈りをしていた。

寅、正座して、博に向かって

寅「ありがとう。いつもさくらがお世話になっています」と深々と頭を下げる。

                   

おばちゃんは「寅ちゃんが真人間になってくれたんだよともろ信じきっている(^^;)

寅「旅先の明け暮れに、この悪い頭でいろいろ考える事があってな…、
  うかつにもこの歳になって初めて気が付いたが、
  今までどれだけお前達の犠牲の上に生きてきたか、
  さくらにとってはヤクザな兄貴、この車家にとっては大きな恥


ものすごォーく正しい分析だ( ̄ー ̄)


おいちゃん「もういいもういいよ
さくら「いいのよお兄ちゃん、今までどおりで

寅「よくない!びっくりするさくら。
寅「おまえがそうやって甘やかすから、お兄ちゃんはまともな往生ができないんだ

この場合の『往生』は、仏の世界に行く道筋…とでもいう意味なのだろう。

                   

このように、寅は常三郎の事がきっかけで人生を考え直そうとしているのである。





D【笛の音の物語と愛子の訪問】


とらや 茶の間  夜


人の世のはかなさについて話をするみんな。


寅「わかんねえもんだな、人の命なんてものは。
  はやい話がよ、このオレが今晩ぐっすり寝て、

  明日の朝、パチッて目を覚ましたら死んでるかもしれないからな…


満男いわく「死んでたら目を覚まさないよだそうです(^^;)座布団二枚。


結局常三郎はそのあと亡くなってしまい、葬式を出したそうだ。

この場面で、博やさくらは、常三郎は寅の同業だから
健康保険も入っていないだろうから病院の支払いも大変だったろうなんて言っているが、
この話から察すると、寅自身も健康保険には普段入っていないのだろう。
寅も、もし病気になったらみんなに迷惑をかけることになると言って反省している。



 【問題】中級
 しかし、そんなフーテンの寅も、実は一生涯『保険』なるものと完全無縁というわけではなかったのだ。
 実は、ほんの一定期間だけ、寅はなんと『保険』に入っていたことがある。
 このシリーズのある作品で、寅が保険に入ることを第三者がしっかり説明しているシーンがあるのだが、
 みなさんお分かりになりますか(^^)

 ヒント:寅にはこの保険のことは知らされてません。



おいちゃん「でもな…、死んでいったものはまだいいさ。
      残された方はもっと辛いんだよ…


このおいちゃんの発言の意味は果てしなく深く、どこまでもせつない。

さくら「ほんと…気の毒ね、その奥さん…

みんな考え込んでしまっている。

社長「いくつくらいの人だい?
寅「三十を、二つ三つ出たところか…
おばちゃん「あら、まだ若いんだねえ
社長、さくらにそっと
社長「美人だな、きっと

一同、社長を睨む。

                   


遠くでチャルメラの音

寅「村のはずれに古い石の橋があってな、そこまでオレのことを送ってきてくれて、
 それじゃと別れの挨拶をした後、あの人は言ったよ。
 『うちの人は、もう長くは無いのよ。寅さんが見舞いに来てくれた最後の友達よ。
 どうもありがとう』あふれる涙を抑えて帰って行ったよ


                   

寅「淋しい後姿だったなあァ…。そろそろ日も暮れかけて遠く山寺の鐘がゴーンゴーン

寅「その時…

光枝のテーマ曲が淋しく流れる。


寅「ふとオレの耳に聴こえてきた悲しい笛の音


                   


博「笛…?

みんな不思議そうに寅を見る。

寅「と、思ったのは錯覚で、実はその人の泣き声だったんだよ

深く何度もうなずく博

寅「人気の無い田舎道をとぼとぼ歩きながら、声を上げて泣いていたんだなあ…、
  あいつのかみさんは…


みんな深く感じいっている。

おいちゃん「笛の音か…

おばちゃん「悲しい話だねえ…

寅「いい女が泣くと笛の音に聴こえるんだなあ…

皆深く頷く。

寅「おばちゃんが泣くと夜鳴きソバのチャルメラに聴こえるんだな

みんな大爆笑。

おばちゃん、ふてくされている。

社長「上手い上手い!ハハハ!

寅「♪タララーララ、タラララララァ〜〜

おばちゃん「そんな言い方ってないだろ!おばちゃん泣きだしそう(^^;)
さくら「ごめんおばちゃん
おばちゃん「ひどいよ、うええええん」と泣き出す。
さくら「おばちゃん、冗談よ、そんな
おばちゃん泣きながら寅を睨んで
おばちゃん「あんたなんか病気になったって看病なんかしてやんないから!!

皆なだめている。

ちょうどチャルメラの音がなり、おばちゃんの泣き声と見事に重なる(^^;)

チャルメラ ♪チャララーララ、チャラララララァ〜〜

おばちゃん「ううううええ、うえええええ〜〜んあ〜あ…┐(-。ー;)┌

これぞ必殺チャルメラ泣き。山田監督渾身の演出です

                   

さくら「なにも泣くことないじゃないの

おばちゃん泣きながらさくらをはねのける。

おばちゃん「うわああああええええ


そんな時、店に女性がやってくる。


寅がよく見ると、なんと立っているのは愛子なのである。


寅「
あ、あれえ!

かまわず、そばで泣き続けるおばちゃん(^^;)

寅「うるさいんだ!ちょ!と、おばちゃんを叱る(^^;)

ぴたりと止まるおばちゃんの泣き声(^^;)

愛子「寅さん〜!

寅「愛子ー!!

と、座っている満男の頭を蹴散らして勢い良く店に走っていく寅。
吉岡君ご苦労様(TT)

泣きながら寅に抱きつく愛子。

愛子「うえええええんひどいじゃないうええええんおいてけぼりにしてええええん
寅「追っかけてきたのかァ

                   

一同目がテン。& お口ポカン 唖然 ( ̄0 ̄;)

おばちゃんも泣くのやめて目が点( ・ ・ )


                   


さくら「だあれこの人?

寅「ほら、愛子ちゃんと言って、オレが九州で…わからんてそれじゃ ゞ(^^;)

さくら「今話してた、旦那さんが亡くなったとかの?おいおいちゃうって ゞ(^^;)

寅「うん…うん…って、ちゃうちゃう ゞ(^^;)

さくら「どうもご愁傷さまでしたと、深々とお辞儀(^^;)
でました!久しぶりのさくらのボケ。可愛い〜\(^o^)/


寅で口ごもってもごもご
寅「これから苦労しちゃうよずーっとおまえ…おいおいおいおい ゞ(^^;)

倍賞さん、おいちゃんたちのほうを見ながら微妙に笑いをこらえている。

                          微妙に笑いをこらえている倍賞さん。
                   


寅、ハッと気づいて

寅「違うよ!バカ!その人とォー


普通絶対間違わんって、ほんとにもう ヾ(^^;)

愛子「誰?その人じゃないって
寅「いやあ…例のやつだよ、おまえと口ごもる。
愛子「あ…、例の!とニヤつきながら寅の胸を手ではたく(^^)
寅、タジタジとなりながら
寅「バカだなおまえと、照れ隠しにさくらの腕をはたく(^^;)

さくら「いやだ〜

愛子をよく見ろよ。三十過ぎの苦労人に見えるか?さくら ヾ(^^)


で、寅はお腹をすかせた愛子のために夜鳴きソバをさくらに買いに行かせる。

この時、なんと、参道を上から見た珍しいセットが映る。

江戸家さんの隣の隣になんと壁があり、自販機が並んでいる。
それじゃ参道に車が通れませんよスッタフさん(^^;)↓


                   





翌日  朝日印刷の工場内 


朝日印刷におやつを届けに来る愛子。

人懐っこいのでみんなに可愛がられている。

                   



そんな時、

腹違いの兄貴がもの凄い荒っぽい運転をして山門につっこんでくる。

源ちゃん、車にひかれそうになってカンカン(−−)



とらや 店

百人前の刺身が作れる冷凍マグロを担いで愛子を連れ戻しにやって来たのだ。
マグロの巨大さと兄貴の荒っぽさに、みんな怖くて逃げてしまう。


                   


高校を辞めて家出したいいわけをぶつぶつ言う愛子に兄貴はキレてどなりつけるのだった。

                   

兄貴「コノヤロ!わからなきゃこうだ!」と拳骨をだそうとするがおいちゃんが必死で止める。

おいちゃん「あー!君君!暴力は、ぼう。。。あああああ!!

兄貴にひょいと持ち上げられ、店の端まで追いやられるおいちゃんだった。ああ…(TT)
下條さんご苦労様です(TT)


                   

それでも悪態をついて抵抗し、泣きじゃくる愛子。

兄貴「愛子、なんでオレの気持ちをわからないんだよ!ええ!

泣きじゃくりながら愛子が叫ぶ。

愛子「ううううう、だああってえええ、うううう、家にいないっけじゃあにいいい、いつもおおおお

                   


愛子の言葉を聞いて淋しさがようやく実感できた兄貴だった。


泣くだけ泣いて、愛子は兄貴の車に乗って帰っていったのだった。

なんだかんだ言っても繋がりの深い兄妹なのだ。





E【東京での再会と寅の妄想】


その後、とらやに寅宛のハガキが届く。

文京区本郷 章文館


光枝さんからのハガキ

拝啓 早いもので主人が死んでもう一ヶ月近くになります。寅さんお変わりありませんか。
私は今、本郷の旅館で働いております。落ち着いたらお礼に伺いたいと思っているます。
とりあえず ご連絡まで 光枝 


さくら「問題の人ねそうそう、問題の人だよ(^^)

おいちゃん「いよいよ来たな。えらいことだぞ、こりゃァそうそう、来た来た(^^)

森川おいちゃんなら「しらねえよ、オレは…」って言うところだ。


                   


そこへ寅が帰ってきて

さくら、読んでないふりをして、寅にハガキを知らせる。

さくら「お兄ちゃん、ハガキ来てるわさくらも役者だねえ〜ん(^^;)
寅「誰から
さくら「倉富光枝さんって…
寅「うわっち!!っと、物すごいスピードでそのハガキを奪い取る。

寅、一気に小声で音読。

さくらをキッと睨んで、

寅「おまえ読んでないな!?

                   

さくら「よ、読んでないうそ(^^;)

寅「ちょっと行って来る!と、すぐさま走り去っていくのだった。

まあしかし、こういう時は、行動が異常に早いね┐(~ー~;)┌

さくらもおいちゃんも唖然。




本郷 

章文館までの坂道胸突坂を歩いていく寅


文京ふるさと歴史館の本郷界隈史跡マップ胸突坂のページには
↓のように書かれている。

この胸突坂を含め、区内には胸突坂と呼ばれる坂道が3ヶ所あります。
その一つ、西片2丁目と白山1丁目の間にある胸突坂については、
「坂路急峻なり、因て此名を得」(『新撰東京名所図会』)とあり、
もう一つ関口2丁目と目白台1丁目の間にある胸突坂については、
「あまりに坂之けはしくて胸をつくばかりなれば名付といふ」(『御府内備考』)とあります。
本郷5丁目にある、こちらの胸突坂も、
他の2つの胸突坂同様に急な傾斜の坂道です。
坂名もやはり、その急な傾斜に由来するものでしょう。




私は大学受験のとき、この胸突坂途中の老舗旅館『章文館』に半月もお世話になった。
青春の懐かしい思い出が一杯詰まった旅館だ。




ちょうどこの映画が公開される前年に泊まった時の『章文館』玄関前、
写真向かって左が映画で映っていた本館玄関前。『本館』は結構縦に長く大きいものだった。
右の植木が映っているあたりから上が『新館』.

私たちは新館の方に泊まって、食事は本館の方で大勢の人たちと一緒に食べていた。
後ろの細い木の電柱と外に出ている屋根付き木の門が映画と同じ。
つまり道を挟んで両方に『章文館』は、建っていた。私が泊まっていた10日間は受験生はもちろんのこと、
この映画でも映っていたようにスポーツ系の学生さんの団体が大勢泊まっていた。
だからあれは本当に日常でよく見た光景だった。

ちなみに、私は白いセーターを着た方。その右隣の青年は土佐から来た受験生。
お互い同じ大学を受験したので別れる時に記念撮影をしたのだ。
とても懐かしい思い出だ。

小さい『新館』のビルは今も健在!しかし営業はしてなさそう…。
今はもう持ち主が違うのかもしれない。




        




         




寅の向こうに見える
前に植木がある茶色のビルが新館↓
道を挟んで右が光枝さんが働いていた本館。
新館の手前に小さな民家(これは章文館の持ち主の家の一部かも)が一軒あり、
その前に↑に映っている例の
木の電柱や民家の木の門(ドア)がある。
そこで寅と光枝さんは僅かな時間話をするのだ。

そしてあの民家は今も健在!↑(写真参照)


     




    




現在の『章文館』新館は道を挟んで左の2つの
赤丸。あの茶色いビルは健在。
道を挟んで右の
赤丸(本館)はもう今は『ラファミユ菊坂』というマンション。
青丸は光枝さんと寅がしばし話をした場所。

    




章文館本館跡。本館は無くなって、今はラ.ファミユ菊坂』というマンション。
写真一番左手前端あたりが本館の玄関があった場所。

    





やはりなんと言っても
このマンションの道を挟んで正面に今でも奇跡的に残っている
あの民家の木門(ドア)!が感動的、
もう一度掲載↓
↑↓の青丸部分。さすがに木の電柱はコンクリートに変わっていた。

        



坂の下から見るとこうなる↓
青丸が光枝さんと寅が話していた場所。『木の門』がこの位置からも見える。
赤丸左側が新館その隣の日本家屋(今の本郷倶楽部)から入っっていった。
赤丸
右側が本館だった場所。

この坂をほんの少し上がったら右側に「鳳明館」という老舗旅館がある。

    










       



    向こうの2本舗電柱と道の左側の塀やマンホールが今も同じ。
    マンションの上手端にかつてのお勝手口があったことが分かる↓↑
    ドアと出てくる光枝さんを貼りつけてみました。

     





貼りつけました「地図」の中の赤丸がお勝手口、水色丸が本館玄関、
ピンク色丸が光枝さんと寅が立ち話をしていた場所。
緑色丸が新館、そしてその上手に今は三国ハイツと一軒家、
そしてそのまた上手の黄色丸が鳳明館です。
鳳明館の位置は当時とたぶん…変わらないとは思う。








                   




文京区本郷5−10ー5


章文館 本館

引き戸を開けて寅が入ってくる。

掃除機をかける音

お客さん役で関敬六さんが出演。

寅「ごめんください…。ごめんください

関さん「お姐さん、お客さんだよ

光枝さんの声「はーい

廊下に出て、驚く光枝さん。

光枝さん「寅さん

寅「よお、フフフ
光枝さん「来てくれたの
寅「ああ、ハガキもらったから来たよ
寅「…、ん、忙しいんだったらまた出直してもいいぜ
光枝「あ、ちょっと待てて
寅「うん

光枝さん外で待つ寅の元へ走ってくる。

光枝さん「びっくりしたこんな早く来てくれるなんて
寅「フフ、大変だったろう、葬式やなんかで
光枝さん「形ばっかり、簡単に済ませたから
光枝さん「あの…、こんなとこで変なんだけどね…。これとっといて、
亭主の形見
」と寅の胸に押し付ける。
寅「なんだい
光枝さん「財布。とっても大事にしてたの
寅、袋から出して、稲妻の中の龍の絵が描かれてある財布を見る。
寅「これ見て、あいつのことを思い出すよ

                   

光枝さん、ため息をつきながら
光枝さん「ろくな思い出なんて無いけどね…
二人して「フフフ」と笑う。


ちなみに途中までの脚本(改定稿)では、この形見の財布のカットはない。


旅館の同僚が2階で窓をふきながらこちらをチラッと見ている。
それを見た寅。人生の玄人らしく、何かを察知して…


寅「なにか辛れえことないのか?
光枝さん「大丈夫、仲居みたいな仕事は前にもやってたから

                   

寅「しかしィ…、看病疲れで、疲れたからだ無理して病気になってももともこもねえからな。
  もしよかったら、オレの家へ来てブラブラしてねえかい。
  汚ねえところだけど、気の張らねえ連中ばっかりだから


光枝さん「どうもありがとう…、そんなふうに言ってくれるの、寅さんだけよ」と涙ぐんでいる。

                   







光枝のテーマが悲しげに流れる。

寅「もうそろそろ行った方がいいんじゃねえか
寅「今度休みいつだい
光枝さん「15日
寅「あ、じゃその日来いよ。ごちそうするから
光枝さん「フフ、どうもありがとう」とお礼を言って戻っていく。
寅「きっと来いよ
光枝さん「うん」と振り向く。
光枝さん「それじゃ
寅「体大事にな

光枝さん、振り向いてうなずく。


本当に短い時間だったが、光枝さんにとって、寅の訪問は心が休まる唯一の時間だったに
違いない。光枝さんが東京に戻ってきたのも、もともとの地元ということも
あるかもしれないが、ひょっとして、その地に寅が住んでいる。ということも
きっかけの一つだったのかもしれない。だから自分の住所をハガキで知らせたのだろう。
光枝さんの本当に数少ない心のよりどころが寅なのかもしれない。






とらや 茶の間 夜


寅の重大発表があるらしい。

鍵をかけさせ、遊びに来た社長をも追い出し、
マネキ猫の視線にも警戒し、寅は秘密の発表を行う。


寅「ほんとうに、ここだけの話だけどな
さくら「うん
寅「オレ、所帯持つかもしれない

一同、ギョっとして目が点になり、沈黙が流れる。

                   

そして次の一瞬にみんな次々に早口でわわわわと質問し始める。

さくら「え、いつ?
博「誰とですか?
おいちゃん「どこで
おばちゃん「今年中に?
博「相手は?
さくら「あの近いうちに
おいちゃん「東京か?
おばちゃん「来年ですか?

博「我々の知ってる人ですか?
おいちゃん「いくつくらい?
満男「ショタイってなあに??
さくら満男に「ちょっと黙ってなさい」

これ↑を一瞬のうちにみんなでしゃべってました(^^;)
それを黙って聞いている寅の背中が笑える(^^)



                   


寅「よー!バラバラにそうやって聞いて答えられるか?聖徳太子(^^)

で、博がいろいろ聞く。
(これは第13作「恋やつれ」の絹代さんとの結婚問題の時と同じパターン)



博「誰ですか相手は?
寅「今、名前は言えない。いずれそのうちわかるでしょう

博「いつ頃ですか、所帯を持つとすれば
寅「来年の春…くらい。んー…、なんだかんだと二、三年…、五年なっちゃう。十年かなあ…。
  結局は所帯持たないかもしれないなあ…


一同、がっくりして、ガヤガヤしゃべり始める。

寅、怒って

寅「こっちは真剣に聞いてんだからな、ちゃんと答えてくれよ
寅はどう言う支度をしたらいいか聞きたいようだ。

おばちゃん「まず、所帯道具をそろえることじゃないかなんて適当ォに言っちゃうもんだから、

寅「そ、そう箸と茶碗ね。それと湯のみ茶碗もふたっつ。ちっちゃいのとおっきいの
いきなり、ディテールから入っていく寅だった(^^;)

                   

おばちゃん「お鍋だっているよおいおいおばちゃんヾ(^^;)
満男「電気釜古風な言い方知ってるんだね満男(^^)

寅「あ、おしゃもじおいおいおいおいヾ(−−;)
寅「包丁とまな板なんだかなあ…((−−;))

博、あきれて下を向いてしまう。

寅「あと、とろろいもなんかの時は、スリコギもいるしね凄まじいディテール(((^^;)

博「そういうものは、僕たちがお祝いに贈りますから
寅「ありがとう(^^;)
博「もっと本質的なところに目をつけてください

寅「本質的って?本質…、はっ!!住むところか!?ダメだこりゃ(__;)

おいちゃん「そりゃいいよ。二階貸してやるから
寅「おいちゃん、すまねえな」と、ニッコニコ

寅「じゃ、適当なところが見つかるまで、ま、二階にいるとして、ん、そうだ、
  二階に
便所が無いんだよおいちゃん
おいちゃん「え?
寅「そこの階段下りて庭突っ切って行くよりしょうがないだろ。
  オレだったらおいちゃんの盆栽の脇にしちゃうけどさ、
  まさか
光枝さんをあんなとこでやらせるわけにはいかねえもんな

出たァ〜〜〜〜〜!!ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄)ノ

一同光枝さんの名前がでたのでドキッとして、ひそひそ話をしている。

                   

寅「おいちゃん

おいちゃん「え?
寅「二階に便所作ろや、な
おいちゃん「うんうん」と、とりあえず頷いてやる。
寅「で、ついでだからさ、風呂も作っちゃおうよ
おいちゃん「え?
寅「贅沢は言わない。ね。ただし、風呂桶はこれヒノキにしてもらいたいんだ
おいちゃん「どうして?」おいちゃんまじめに反応している(^^;)

寅「だってプラスチックのあれいけないよ、
  あれ
ツルツルすべってストーン!!っとこうなるんだから

                   

寅の身振り手振りに引っ張られて、博もストーン!!
のところで上を向いて「
おう!」って言ってました(^^;)


寅「いっそうのこと台所も別にするかとことん話が『本質』からずれていきます(^^;)

おばちゃん「なんで?

寅「だっておばちゃんとこでさァ、芋の煮っ転がしかなんか煮てる隣でうちのヤツが、
  牛肉のステーキやってるんじゃちょっとまずいんじゃないかなァー。
  だからさ、ひとつ屋根の下で、暮らしは別々と。
  その代わり夕めしが終ったらここへ集まって楽しい会話のやり取り。ね。
  『あらもうこんな時間かしら。そろそろ休もうかしら』『そうだな』『そうおし』
  老夫婦はヨタヨタと己のネグラヘ、
  若夫婦はいそいそと二階へ!』
この妄想どこまでいくんだよヾ(ーー )

と、土間に下りた、寅、『あ』『こう』と人の動きをシュミレーション(^^;)

寅「あ、おいちゃん、出入り口も二つ作んないとダメだよ。
  だって裏のタコがずかずかずかずか入ってきたら
  雰囲気壊れちゃうもん。いいだろ作ってェ
もうなんでも言ってください(−−;)

おいちゃん「ああ、いいよいいよ。好きなようにやれよおいちゃんももう投げやり(TT)

寅「そうか、それで話が決まった。さくら飯にしようか

話に付き合うだけバカバカしいねこりゃ…┐(-。ー;)┌

                   


みんな呆れてヘトヘトになってしまっている。

一人元気になって機嫌よく社長を呼びに行く寅。

寅はお調子者で夢見がちな男。こういう時が寅の一番幸せな時。、
でも、あまりにも現実と言ってることがかけ離れていて、可哀想にも思えてくる。





翌日

題経寺 境内

枯葉を掃いて集めている御前様に寅が質問をする。


寅「
あのー…、亭主に死に別れた女房が、他の男と再婚する場合に、
  やはり一周忌まで待つべきでしょうか?
  それとも三回忌まで我慢しなきゃならないもんなのでしょうか。
  えー…、その辺のところはあの、お経にはなんと書いてありますか?



御前様「お経にはそういうことは書いてない。がァ、私の考えでは
寅「ええ、御前様の考えで結構です

御前様「真に貞淑なる妻であれば、他の男らとは再婚などせず、
    
一生仏に仕えて、亡き夫を供養するのが道だと思う
なにもそこまで… ゞ( ̄∇ ̄;)

寅「
お疲れ様でしたと呆れてすぐに立ち去る。

御前様「ナンマンダブツ、ナンマンダブツおいおい、御前様は『南無妙法蓮華経』でしょ(^^;)


                   


寅「だめだあれ、ずれてるよずれてるよ
と、自分のずれてるの棚に上げて帰っていく。


源ちゃん、興味津々でニヤつきながら寅に寄って来て、

源ちゃん「
間男でんな兄貴と寅を指差す。

寅「間男?

寅怒って


寅「真面目に仏に仕えろ!

と、源ちゃんが持っていた銀杏の枯れ葉が
たっぷり入ったみかん箱を頭からザバーァ!!!っとかぶせる。

ぴょえええええ〜〜〜〜〜Σ(|||▽||| )


                   

源ちゃん頭からズボッっとみかん箱かぶってロボットのように右往左往。
ようやく箱を放り投げるが頭中銀杏だらけ。
首すじの中にも入って、じゃっじゃっっと取り出している
口にも入って「ぺっぺ(^^;)

蛾次郎さんお疲れ様です。
リハーサル無しで一発決めだったことをお祈りいたします(^^;)



寅、知らん顔で機嫌よく帰っていく。


その昼に寅は、なんと就職試験を受けに入ったのだった。

おいちゃんに借りたネクタイとワイシャツに雪駄履きの奇妙な姿で ゞ( ̄∇ ̄;)





とらや  茶の間  夜 

寅が帰ってくる。

寅「博、就職試験受けてきた

さくら「えー!!

博「就職試験!兄さんが!

博たちにとっては、会社に就職=堅気って言う図式は強固。
サラリーマンの共同幻想なんだねえ。


寅「いやあ、オレは大事な事を忘れてたよ。
 所帯を持つためには定職を持たなきゃいけなかったんだ

博「それはその通りですけど

一生懸命新聞や雑誌で調べて、営業(セールス)募集の『日の丸物産』に決めたそうだ。

博「セールスですか
寅「な、セールスだったら、オレ専門だから

面接でその社長と気があって面白い話で散々笑わせてきたなんて言っている。
なんだか妙に自信満々の寅だった。


                   


寅「二三日内に手紙で知らせるってさ。あの手の会社はだいたい採用するんだよ。その後が大変
 正社員になるかは本人の努力次第、うん


寅「さあて、あ、名刺作っとくかな、オレの。まっちかくなヤツを。
 博、社長工場か?


とかなり乗り気になっている。


博が、しみじみつぶやく。

博「いったいどんな人なんだろうなあ…、
 兄さんをここまでの気持ちにさせた人は…


ほんとつくづくそう思うよ(−−)





F【光枝さんのとらや訪問。そして別れ】


柴又駅  駅前


光枝さんがとらやの方へ歩いていく。



とらや 店

光枝さん「ごめんください


                   


おばちゃん「お団子ですか?

光枝さん「いえ、私…倉富光枝と申しますが、寅さんという方がこちらに

光枝さんって寅の本名知らないのかね。寅に出したハガキに書いていたよな寅の本名。
ここは「車寅次郎さんという方がこちらに」が自然のような気もする。
光枝さんの堅気じゃない側面を出させたかったのかもしれないが、
初対面の人にあだ名で聞く人はいませんよ。


おばちゃん「あら、あなたが…
このパターンは前作第27作のふみさんがとらやに訪ねて来た時のパターンだ。

光枝「お世話になってます」と、お辞儀。

おばちゃん「いーえ、こちらこそなんか意味深な言葉(^^;)

おばちゃん「まあ、そうですか、どうしましょう。はっ!寅ちゃん!
      あ、そうだ。寅、お寺行くって行ってたから。私、今呼んで参りますからね、
      あ、そうそう、待っててくださいな、すぐ来ますから


と、妙に興奮して、そわそわするおばちゃん。わかるわかるその気持ち(^^;)


題経寺へ飛んでいくおばちゃん。

待っている光枝さん。


満男「ただいまァー
光枝さん「おかえり
満男「
光枝さん「君、寅さんの親戚?
満男「そう
光枝さん「ふーん
満男「僕のダメ伯父さん
光枝さん「フフフ、フフ


私は、なにげない満男と光枝さんのこの会話が大好きだ。
第42作のタイトルを強烈に予感させる(私にとっての)静かな名シーンだ。


                   


参道に出て寅を待つ光枝さん。
遠くから走ってくる寅を見つけた光枝さん。



顔が華やぐ。

                   


メインテーマ流れて


寅が参道を走ってくる。

寅「よおお!来たのか!

                   

気づいた光枝さんが手をふる。

おばちゃんが後ろからヒーヒー走ってくる。

                   

寅「ああ、よかった、朝から待ってたんだぞ、おい

光枝さん「ごめんね、遅くなってとても嬉しそうな光枝さん。

寅「うん


                   

光枝さん「突然団体が入って忙しかったんだけど、無理して来ちゃった
寅「そうか!よかった、早く入れ入れ、はい

この参道での再会は、あきらかに第25作「ハイビスカスの花」のアレンジだ。
ハイビスカスでは今作品の光枝さんが寅で、今作品の寅がリリーだった。


寅「邪魔なんだお前

と自転車を止めて覗いている備後屋を押し倒す(^^;)

ガシャーン


おばちゃん「あ、だいじょうぶ?の、わけないだろ ヾ(−−;)





とらや  茶の間  午後

光枝さんのために作られた昼ごはんが終って、お茶を飲むみんな。

寅は、なんだか照れくさくって、土間や店を行ったり来たりしている。

さくら「お兄ちゃんなにしてるのようろうろ。落ち着かないわよこっちへいらっしゃい

寅ニカーと笑って
寅「今行くよそっちへ」と言いながらも、店の方へ逃げていってしまう。
おいちゃん「照れくさいんだよ、きれいな人が来てるから、フフ
寅、チラッと戻ってきて
寅「そんなことないよー、フフ」と言い、すぐまた引っ込む。

                   

みんなでクスクス笑っている。

おばちゃん「寅ちゃんのおかげで
     たくさん
きれいな人に会えますよ、私達は

出ました!おばちゃんの長年の本音!ヾ(^^;)

                   

おいちゃん、おばちゃんのキュっと肩を掴む。

さくら「おばちゃん、なに言い出すのほんとにね(^^;)
おいちゃん「フフフ
おばちゃん「え?…フフフ

光枝さん「もてるんでしょ、寅さんってうわっ(^^;)

おいちゃん、笑いながら
おいちゃん「とんでもない

おばちゃん「ふられてばっかり
とひそひそ小声。

寅は、最初はふられていたが、ここ八年ほどは敵前逃亡も多し(^^;)

                   

さくら「フフフ」と笑いながらりんごをむいている。

寅、また顔を出して

寅「カハハハ!!…、またオレの噂してんだろ、フフフ
さくら「違う違うフフフ

このあたりの渥美さんは実に上手い。

                   

みんなでクスクス笑っている。

寅「ほんとに、泊まっていけねえのかい?
おいちゃん「おや、お帰りになるんですか?
さくら「今日は忙しい日で、六時には帰るって、旅館の女将さんに
    約束してきたんだって


みんな残念がる。

寅「まあ、仕事じゃ仕方ねえやな。…それ、ちゃんと食べたか?美味かったかい?
光枝さん「お腹いっぱい。私幸せよ

寅、それを聞いて満ち足りた顔をして

寅「…そうか…。まあ…亭主の看病で苦労したもんな
寅、ちょっと照れながら
寅「あの…、余ったのそれ、折に入れてやったらいいんだ。さくら
さくら「
寅「折あったっけな

なんて、あいかわらずうろうろ照れている。

光枝さん、ニコニコ。

光枝さん「いい人ですね、寅さんって

おいちゃん「まあ、嘘がつけないというか、
     単純と言うか、それだけのことですよ、フフフ


おいちゃん嬉しそう(^^)いいシーンです。

                   

光枝さん、タバコを取り出しながら
光枝さん「亭主の兄弟分っていう人に随分会ったけど、
     いませんよ、寅さんみたいな人


光枝さん「中には嫌な人もいたりしてね
さくら、マッチを「はい」って渡してやる。
光枝さん「あ、すいません
さくら「やっぱり…、ご主人もお兄ちゃんのような仕事?
光枝さん「ほんとにヤクザな男。酒飲んで、博打好きで。…バチが当たったんでしょきっと
さくら「あら、そんなこと
光枝さん「寅さんが良く知ってるわ。ねえ寅さんうちの亭主道楽もんだったね
寅「うん…まあな…フフ

みんな寅に上がって話をしろと勧めているが、
寅は社長の工場に名刺の代金を払いに行ってしまうのだった。



光枝さん、しみじみとつぶやく。

光枝さん「いいですねえェ、寅さんは。
   こんな身内の人たちがいて…


とタバコを吸う光枝さん。

さくら「光枝さん、ご家族は?
光枝さん「私…、わけがあって…、両親の顔はほとんど覚えていないんです
さくら「…あら…
光枝さん「親戚の家をいろいろたらい回しされているうちに、だんだん反抗的になって…、
     つまりほら、フフ、…不良だったんですよ。

                   

でも、だんだん年取ってきて、『これじゃいけない。私も人並みに家庭持たなくちゃ』
一生懸命そう思って結婚した相手がヤクザもんっていうお粗末



さくら「光枝さんの人生を想うさくらだった。

人の世の辛酸を舐めてきた光枝さん。
この言葉のその向こうに見えない悲しみがある。




                   


光枝さん、タバコの火を消し、時計を見上げて

光枝さん「あらいけない、もう帰らなくっちゃ


と光枝さんは帰ることに。

みんなに丁寧にお礼を言いながらお辞儀する光枝さん。

寅「あのォ、ほんとにさ、正月になったら遊びに来いよ、な
光枝さん「うん

                   

寅は送っていくことに。

光枝さん「いいのよ
寅、光枝さんの腕を持って
寅「大丈夫大丈夫





柴又駅前の道

駅の方に向かう二人。

クリスマスもかねた歳末大売出しの音楽が流れる。ジングルベル

コサカフルーツ
十字堂

三河屋

寅「まあ、元気出してやれや。
 オレは当分ここで暮らして、あんたのことを気にしているからよ

こういうこと言われると嬉しいよね。

光枝さん「うん。どうもありがとう

                   

光枝さん、ちょっとためらいながら

光枝さん「…ねえ

寅「なんだい
光枝さん「寅さんが、見舞いに来てくれた時…、家の亭主変なこと言わなかった?

寅「…!ええ、え、え、なんだっけ?」とドギマギしてしまう寅。

光枝さん「息を引き取る三日か四日前なんだけどね、私にこんなこと言うんだよ。
     『もしオレが死んだら、寅の女房になれ』って…、
     寅さんにもそう話してあるからって…


                   

寅「ああ…あのことか…
光枝さん「
寅「
光枝さん「寅さん、約束したの?本気で

寅「ん…ほら、病人の言うことだからよォ…、ま、適当に相槌打ってたのよ

光枝さん「ほんとう?

寅「ああ…、ほんとだよ

光枝のテーマが静かに流れる

光枝さん、小さく頷いて、


光枝さん「じゃあよかった…。寅さんが本気でそんなこと約束するはずないわね。
     ごめんね、失礼なこと言っちゃって。
     …私も腹が立ったけどね。
     まるで…犬か猫でも人にくれてやるような口きいちゃってさ…


寅「そりゃそうだよな…

光枝さん「ほんとに、最後までバカだったね、あの男…と淋しそうに下を向いて言う。

寅「ほんとうにバカだよなあ…と自分に言い聞かすように強調する寅だった。


光枝さん、ちょっと躊躇しながら下を向いたままで

光枝さん「安心した。寅さんの気持ち聞いて


                   


寅「オレは…別にそんなこと気にしちゃいねえから

光枝さん、どこか淋しげに小さく頷く。


                   


寅の方を見て、微笑み


光枝さん「じゃ、さよなら


                   

寅「うん、気をつけてな

光枝さん「うん


歩いていく光枝さん。



光枝さんの背中を厳しい目で追いかける寅。




光枝さんのことが好きなのだ。




                   



その顔に夕方の柔らかな日差しが当たっている。


光枝さん、もう一度振り向き。

光枝さん「正月は、どこで稼ぐの?

寅「そうだな、寒いとこは苦手だから、伊豆か、駿河あたりか…

                   

光枝さん「そう…。しっかり稼いでねェ光枝さんしか言えない言葉だね。

寅、軽く頷き

寅「ああ

そして駅に歩いていく淋しい光枝さんの肩をいつまでも見ている寅だった。


                   


そしてやがて下を向いて、

寅もとらやの方へ歩き出すのだった。



                   


光枝さんのあの淋しげな顔はなんなんだろうか。
常三郎が亡くなって一ヶ月ちょっとしかたたないこの時期に、
寅に対して男性として好意を持っているとは考えにくい。

寅が自分の夫とそんなバカげた約束をしたとは考えたくない光枝さんはそのことを確かめ、
そして寅がただ病人のために相槌を打ってやっただけだと知ると、心からホッともするのだ。

しかしあのなにか淋しげな、何か言いたげな表情は…。
女性の心理の奥は誰も計り知る事はできない時がある。
特に男女の関係とは摩訶不思議なものである。

ちなみに最初の脚本段階では、このシーンの光枝さんは、誤解が解けてほっとした、という感じに
書かれていて、本編のような複雑な表情や目の動きなどの心理描写は書かれていない。

この本編の演出は、現場でもう一度熟考した山田監督が、光枝さんの心を
寅によりいっそう寄り添わせたかった結果だと言えるだろう。
山田監督は、女性の摩訶不思議な性を表現したのである。





とらや 店

静かに寅が帰ってくる。

皆年の暮れで忙しそうだ。

さくら「おかえんなさい
おばちゃん「言い人だねェ、寅ちゃん。
      今みんなで噂してたんだよ。気立てはよさそうだし、苦労はしているし


寅「そうかい、そりゃよかったな」と元気が無い。

やがてカバンを持って寅が降りてくる。

旅に出るというのだ。

                   

さくら「どうしたのいったい?
寅「旅に出るんだよ
さくら「だ、だって…
寅「おばちゃん、体気をつけてな
おばちゃん「ちょっとお待ちよ。あんた、今度はちゃんと仕事について、所帯もつつもりじゃなかったのかい?

寅「ふん、ま、そんな夢を見たこともあったっけ」と外へ向かう。

さくら、もう一度押しとどめて。
さくら「お兄ちゃん、今何かあったんじゃない?光枝さんと
寅、平然と
寅「いや別になにもありゃしねえよ。おまえ、博によろしくな

と、出て行く寅。

そこへ郵便屋さんが速達を届けに来る。

さくら「お兄ちゃん!これ、お兄ちゃん宛よ
寅、振り返り、戻る。
寅「誰からだ
さくら「日の丸物産株式会社
おいちゃん「寅が試験受けた会社じゃないか!
さくら、目を輝かせて
さくら「ほら、ちゃんと通知来たじゃないの
おいちゃんも目を輝かせて
おいちゃん「いいチャンスだぞ!おまえの人生を変える」と寅を指差す。
おばちゃん「そうだよ
寅「せっかくだから封切ってみるか」と顔が明るくなる。
みんなニコニコ頷く。


さくら「光枝さんとの間になにがあったか知らないけど、一ヶ月でも二ヶ月でも働いてみたら
   あの会社で。ね!!そしたらまた、新しい世界が開けるかもしれないじゃない。ねえおいちゃん!


おいちゃんが封を開け、中身を読んでいる。

                   

「うん…」とよどんだ返事をするおいちゃん。
さくら「どうしたの?
おいちゃん「
寅「なんて書いたんだ?出社はいつだ?
おいちゃん「見えねえんだよ、メガネが無いから…
おばちゃん、元気よく手紙を奪って、
おばちゃん「しょうがないね、ちょっと貸してごらんよ。『このたびは、当社の就職…』私も見えない…
さくら、おばちゃんから通知を奪って
さくら「なにやってんのよ…
と通知を読むさくら。

さくら「………」何も言えないで黙っている。

                   

寅、じっとさくらを見つめて

寅「おまえも目悪くなったのか?

                   

さくら、ちょっと無理に微笑んで

さくら「ごめん…不採用だって…

寅「

                   

寅「フフフ、ハハハ」と笑い出す。

メインテーマがゆっくり流れる。

寅「こらあ、とんだ三枚目だ。へへへへ

                   


さくら「

寅「さて、この寒空に、また旅に出るかァ」と、店先へ歩いていく。

寅「フ!そこが渡世人のつれえところよ、ハハハ!」と去っていく。


                   


さくら「お兄ちゃん!」といつまでも寅の背中を見ているさくら。


                   

泣いてしまうおばちゃん。

悔しくて、辛くて、会社の通知書をビリビリに破いて丸め、
土間に捨ててしまうおいちゃんだった。



                   


第26作「かもめ歌」での定時制高校入学願書の時も、
このたびの就職試験の時も、『社会』というものは
寅のような人間を決して受け入れようとしない。
寅にいくら気持ちがあっても、気持ちや決意や人柄だけでは
この現代社会は決して門戸を開いてはくれないのだ。
これは人間社会の本質の一端が見えるシビアなシーンだった。






G【光枝さんの正月とらや訪問と寅の年賀】


正月 とらや 茶の間


光枝さんが正月のご挨拶に来ている。

みんなで寅の噂をしてている。



さくら「たまには家で一緒にお雑煮食べればいいのにねえ

結局、映画版では寅は48作中一度も正月を過ごす事は無かった。
ちなみに、テレビ版では、寅は正月をとらやで過ごし、人間の幸せについて語り合っている。


光枝さん「でもこの商売はお正月がかきいれ時だから
こういうこと言えるのは光枝さんだねえ(−−)

さくら「そうね…

光枝さん「今ごろ…、どこかのお宮の人ごみの中で…、
    寅さん、大きな声張り上げてるんだわ、きっと


この言葉を聞くたびに、光枝さんと寅はお似合いの夫婦になれたんじゃないかって思うのだ。
寅の人生を深く知っている光枝さんだった。


さくら「ハチマキ絞めてねさくら啖呵バイ一度も見たことないだろ(^^;)

                   


 【問題】スーパー上級
 ちなみに、さくらが寅の啖呵バイを見るチャンスがあったとしたら、寅がたった一回だけ
 『柴又駅前』で源ちゃんと一緒にバイをした時があったから、その時に見にいけたとは思う。
 なんせ柴又駅前はとらやから歩いて5分だからね。
 さて、その、寅の柴又駅前でのバイがあるのは第何作かみなさん分かりますか?
 もしこれがどこからの情報も得ず自力で分かっている人は超スーパー寅さんマニアです(^^)



二人して「フフフ

さくらの髪型可愛い〜(^^)



社長やって来る。

社長「ああ〜、じゃあこの方が例のォ…、へえー…
光枝さん「よろしくお願いいたします」とお辞儀。
社長「よろしくお願いします」とお辞儀。

社長「笛の音の方」と笛吹くポーズ  ((((おっとっと(^^;)

博頷く

                   

満男社長に微妙にお年玉催促のポーズ


光枝さん、エプロンを取り出す。

さくら「…?あら、どうしたの?
光枝さん「お手伝い
さくら「いいのよォ!そんなこと

                   

光枝さん「商売は慣れてんのよ。上手よ呼び込みなんか

光枝さん、店に下りてお客さんに

光枝さん「
毎度ありがとうございます。いらっしゃいませ
表に出て
光枝さん「いらっしゃいませェー!お団子いかがですかァー!
     柴又名物草団子。はいいらっしゃい!おいしいお団子いかがですか!

     柴又名物草団子!とらやのお団子いかがですか!

                   

みんな彼女の仕事振りを惚れ惚れ眺めている。

特に最後まで興味深く見ている吉岡君の表情が実にいい。
彼のこの感性は天才的だ。


こんな上手な呼び込みこのシリーズで聞いたことない。感動してしまった。
音無しさんはほんとうに上手だ。キリッとして口跡が良くて、しびれました。
この呼び込みに遭遇したなら誰だって食べてみようって思うね。
ああ…やっぱり光枝さんは、寅とお似合いだ。



寅からの年賀状が流れ始める。

メインテーマ(第1作のテーマ)

寅の声「新年おめでとう。
   昨年中はご迷惑をかけました。
   思い起こせば恥ずかしきことの数々
   今はひたすら反省の日々を過ごしております。
   今年が、とらや一家にとって良き年でありますように。
   はるか、駿河の国から祈っております。

   正月元旦  とらや御一同様   車寅次郎 拝


                   




H【焼津での愛子との再会】


焼津港


                   


八代亜紀の『もう一度会いたい』が流れている。

♪恨むことさえ、できない女のほつれ髪〜、咲いて散る 赤い花 〜…

愛子が今まさに出航する兄貴のまぐろ漁船を見送りに来ている。

愛子「手紙受け取ったら返事書くんだよォー!!

愛子「兄ちゃーん!」と、手を振っている。

背後から愛子の肩を叩く手が…

愛子振り向いて

                   

愛子「寅さーん!どうしてェー!!?」と、大きな目を見開いている。
寅「おめえがな、真面目にやってるかどうか心配だから見に来たんだわ、ハハハ
愛子「わ、ハハハ、ウソー!うわああ」と、寅に抱きつく愛子。

                   

この愛子の緑の花柄ハンテンは第24作で、さくらが着ていたもの。
第26作ではすみれちゃんが着ていたもの。第34作ではなんと寅が着て、
第37作では満男の部屋にかけてあった。流れ流れのハンテンなのである。


寅「なんだ、あの船にアンちゃんのってんだろう、どれだ?
愛子「あのね、黄色いハチマキした二枚目の男の人いるでしょほら!

愛子「兄ちゃーん!!この人が寅さんよー!!

デッキの柵にまたがって力いっぱい叫んでいる兄貴。

寅「おーーい!!まぐろいっぱい獲って来いよォー!!、

  金が儲かっても外国の女なんか買うなーァ!!
((((((^^:)

                   

まわりのみんな大爆笑。

寅、手を振りながら

寅「酒もやるなよ〜!博打もするなあ!可愛い妹が待ってるぞー!!
愛子「タハハハ!!

                   



愛子「お兄ちゃーん!!」と、力いっぱい手を振り続ける。



愛子の目から涙が…。


そんな愛子を見て兄妹の強い結びつきを感じるとともに、


                   


なんだか自分も、柴又で待つさくらのことをしみじみ思い出す寅だった。



愛子はさくらで、さくらは愛子なのだ。



                




どこまでも青い空、光る海。


正月  海は快晴である。






                   






ようやく第28作「寅次郎紙風船」ダイジェスト版 をアップしました。

第29作「寅次郎あじさいの恋」ダイジェスト版のアップは11月25日ごろになります。
第3作「フーテンの寅」本編完全版第2回目更新は11月末頃になります。
気長〜〜〜〜にお待ちください。







333

                          
『寅次郎な日々』バックナンバー





『あの人に会いたい 〜渥美清〜』


2007年10月11日 寅次郎な日々 その333


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



ここ数年の渥美さん関係で、最も感動したテレビ番組が
先日放送されたNHKアーカイブス『あの人に会いたい 〜渥美清〜 
』だ。

この番組はたった10分。

過剰な演出は無し。


渥美さんをみなさんがある程度知っているという前提で、
よけいなものをいっさい入れずに、はぶけるだけはぶいて、
エキスだけをスッと入れる。


『珠玉』という言葉は、この番組にこそふさわしいと思う。


こういうところがNHKの奥深い懐だ。





今回の日本滞在の最後のサイトアップとして、この番組を
敬意と感謝をこめてもれなく紹介してみます。




それではお楽しみください。






宇宙の銀河が映る。



            



冨田勲さんのあの美しいテーマ曲が流れる。


NHKアーカイブス



『あの人に会いたい




            



NHK映像ファイル
#151




テロップ『一九七九年(昭和54年)渥美さん五十一歳、のニュース映像』



このあたりは第23作『翔んでる寅次郎』の際の取材



大船撮影所でのとらやセット





渥美さん「『私、生まれも育ちも葛飾 柴又です』…。

   そんなこと言っているうちに
   とうとう10年経ってしまいました





            





後ろでリハーサルに向けて準備を整えるスタッフたちの声が聞こえてくる。

下條さんや太宰さんの姿も向こうに映っている。



渥美さん「このかばんも、
   このお守りも、
   この指輪も、
   そして「とらや」のウチも全部10年。


      
光陰矢のごとしです




            





『男はつらいよ』のメインテーマが流れる。






画面は柴又ロケでの渥美さんに切り替わる。


おなじみ高木屋さんから渥美さんが出てくる。





テロップ 『俳優 渥美清 1996年(平成八年)六十八歳没』






            





ロケを見に来た人々に握手を求められている渥美さん。

とても元気そうないい顔である。



語り:NHKアナウンサー 兼清麻美さん




語り「『フーテンの寅さん』こと渥美清。

  映画「男はつらいよ」全48作。

  一人の俳優がこれほど長く主役を演じたシリーズは、
  他にありませんでした








画面が切り替わって



松竹大船撮影所  とらやセット  店



聞き手 NHKアナウンサー 黒田あゆみさん


渥美さんにインタビュー。


テロップ『一九九四年(平成六年)六十六歳の時の映像』


渥美さんは腕を組んでいる。


黒田さん「当初から、その…シリーズは
   これほど続くと思われましたでしょうか?




            



渥美さん「いえいえぜんぜん。
    一本だけ…のつもりでしたから



黒田さん「はぁ… それが二十…六年ですか…



渥美さん「ん… そうですね…、
   何とも言葉では説明のしようがないですね。

   最初1本だけ…やろうということですから。
   知らぬ間にこう・・・
   時が流れていった、っていうことが、正直なとっかな





            




黒田さん「新作はどこでどのようにご覧になられますか?



渥美さん「…そうですね、たいがい、あのォ...
    新宿とか、池袋とか、浅草とか、
    そういうこう、あの、大勢、人が集まる場所で、
    あのォ…
    お客さんの後ろの中に紛れ込んで見るように、してます
 



黒田さん「変装なさったりして?


渥美さん「いえいえ、いえ、ただ普通に帽子被って、え、


黒田さん「はぁ…」(無声音)



渥美さん、ニコニコ笑いながら


渥美さん「変装というのはいいですね、フフフフ



黒田さん「申しわけございません、フフフ



渥美さん「怪人二十面相デース。
   フフハハハハハハ
と、珍しく大いにうけている(^^)




            




黒田さん「フフフ、申し訳ございません。
    でもすぐ皆さんにわかってしまうと思いまして…




渥美さん「変装したってなにしたって、
   わかっちゃうんですよ、ぼくの顔は。
   変に変装しないほうがいいんですね。ええ。




黒田さん「はぁ…」(無声音)



渥美さん「変装するとね、よけい際立っちゃうんですよ。フフフ

とニッコニコの笑顔(^^)



黒田さん「フフフ






軽快なテンポの曲が流れて


昭和初期の上野駅前のモノクロフィルム映像が流れる。



語り「渥美清は、一九二八年 昭和三年に、東京上野車坂で生まれました



テロップ『昭和三年上野 車坂生まれ』




            




渥美さんの小学校時代の顔が映し出されて



語り「子供のころの夢は、船乗りになって世界を旅することでした




            





昭和八年から九年頃の人々で大変賑わう浅草六区が映し出される。


テロップ『昭和8年〜9年ころの浅草六区


            




語り「落語や演劇が大好きで、浅草によく出かけました




そのまま渥美さんのインタビューの声がかぶさって行く。




第48作『紅の花』のロケ地でのインタビュー撮影場所



海岸での渥美さん。


テロップ『一九九五年(平成七年)六十七歳の時の映像




渥美さん「寄席でね
   『線香花火』という題なんだけどね。

   パチパチパチパチパチって言って
   最後にシュー…って
   ぽとんと落ちて終わりになるっていう、
   ただそれだけをやるおじさんがいたけども、






             




     「
毎回見るたんびに それやってるんだけどね、

   なんか…、

   おもしろくなくて

   つたなくて 

   哀れで 

   切なくって 

   また観たいんだよね





          




    
 ・・・・フフ、線香花火の、その師匠。う〜ん




     「
やっぱりぃ… なんかそういう・・・ものを、
    小ちゃいころからこう…横丁の寄席、とかそんなとこで…、
   下町のガキが見てきたっていうところに……、
   なんかそういうものが、どっかに
   植え…植え付けられたっていうか・・・





この言葉がラストでのナレーションに繋がっていく…。



ゆったりとしたピアノ曲が流れる。



昭和二十四年の上野駅前の人でごった返すモノクロフィルムが流れる。


テロップ『上野駅前(昭和24年)




語り「渥美は十七歳で終戦を迎えます。

  当時、荒くれ者の無法地帯と言われた上野界隈で、
  露天商をしたり、酒や賭場通いにあけくれました。

  役者になったのは、知り合いの一座で
  幕引きの手伝いをしたのがきっかけでした。




            




そのころの若々しい渥美さんのモノクロ全身写真が
下から顔に向って映し出される。




第48作「紅の花」での加計呂麻島の海岸インタビュー


テロップ『一九九五年(平成七年)六十七歳の時の映像』


蝉がしきりに鳴いている。



渥美さん「ちょっと舞台のそでにいたら、ふっと背中を押されて、
   『おもしろいから出ろよ出ろよ』とポンと出されちゃって…、
   なんか・・・
   最初に出たというのが初舞台って感じだったかな。





           



    
んで、ニ、三、そんなことやっているうちに、あの…、
   引っ込んだあと『わー』って・・・客席が…笑っているんでね、
   みんなも『どうしたんだ、どうしたんだ
って・・・
   『どうしたんじゃない、おまえが面白いから
   みんな笑ってんだよ』って言われてね。

   あー、そ、そんなこともあるもんかな、
   というのが最初の、なんか記憶だったなぁ…。





その口調、山田監督さんの影響だね(^^)





当時の浅草フランス座のモノクロ写真が映し出される。


語り「その後、ストリップ劇場などでコントを演じて人気者になります。
  昭和二十八年には、当時浅草一と言われたフランス座に招かれました。
  折りしもテレビが始まり、渥美の人気は全国に広がりました





             





テレビ番組『夢であいましょう』〜百年一昔〜より

がモノクロで映し出される。


テロップ『一九六五年(昭和四十年)三十七歳の時の映像




赤穂浪士のメインテーマが流れる。

吉田澤右衛門に扮した渥美さんがのそのそっと真ん中にやって来て、




渥美さん「日本の若者よ、よく聞け。
   決して戦争は格好のいいものではない。
   やれば必ずやり返される。

   若者、切腹すっか?…では





             





と、去っていく。


直後にみんなで「ダハハハ」とずっこける。






画面が変わって、『夢であいましょう』の最終回



テロップ 『一九六六年(昭和四十一年)三十八歳の時の映像


渥美さんが歌を歌ってる。


渥美さん「♪男臭くぅ〜、乾いた涙、
   ほろ苦い恋の、思い出ェ〜、…





            






歌とかぶさるように、
ゆっくりとしたテンポで
「男はつらいよ」のメインテーマが流れ出す。




第1作「男はつらいよ」のポスターが映し出される。




            





語り「山田洋次監督の映画『男はつらいよ』は
  昭和四十四年、渥美清四十一歳の時に生まれました




一九七九年(昭和54年)渥美さん五十一歳の時のニュース映像に戻る。


テロップ『一九七九年(昭和54年)渥美さん五十一歳の時のニュース映像』


帝釈天参道でロケの準備をしているスタッフの中、渥美さんが歩いてくる。

とらやの横の金子屋(せんべい屋さん)の方に
ニコニコ顔で挨拶をする渥美さん。



渥美さん「どうもお疲れ様です。 暑いですね毎日、ええ





            




語り「女性にはからきし弱く、人情に厚い、
 寅さんの自由な生き方は庶民の心を掴みました




参道で観光客の方たちにサインをしている渥美さん。

サインを貰ってはしゃぐ観光客。



サインが終わってすぐさま寅次郎になりきる渥美さん。




            




山田監督「いくよ



場面変わって

大船撮影所のとらやセットでのリハーサル。





            






これは第23作『翔んでる寅次郎』で、
工場の中村君の結婚式の後、寅がとらやに帰ってきて、
一騒動を起こす場面。




工場の職工の結婚をバカにする寅においちゃんが怒るのである。



カチンコが鳴り、


下條さん「寅!てめが結婚できねえからって、
   人様の結婚にケチつけることはねえ!




寅「なにい!?




下條さん「人様の結婚式を見るたびに、
   オレたちがどんな思いでいるか、
   おめえ、それ考えたことあるのか!?





            




社長「あるわけねえよ




そのセリフに思わず笑ってしまう山田監督。


山田監督「タハハハ、フフフ


みんなも倍賞さんも笑っている。







柴又、帝釈天参道ロケが再び映し出されて




ひとみさんに結婚式から逃げられた新郎である小柳邦男を演じる
布施あきらさんのもとへ渥美さんが走っていくシーンをカメラが捕らえている。




           







その映像にかぶるように黒田さんのインタビューが聞こえてくる。


最初の「とらや」でのインタビューが映し出される。


テロップ『一九九四年(平成六年)六十六歳の時の映像』



黒田さん「ずっと何作も見ているうちに、
   だんだん渥美さんと寅さんが
   同じ人格 同じ人物なのではないかと
   いうふうに錯覚してしまうんですけれども





渥美さん「うん。そう思ってくださるからきっと
    続けて見てくださっているんでしょうね。ええ。

    そういったものはやっぱりどこかで、
    大切にしなきゃいけないんじゃないかな





            




黒田さん「寅さん、のようになれたらいいなっというふうに
   思われた時っておありですか?





渥美さん「そうですね、こんなふうにして、生きていけたら
   いちばん…幸せですね。




     
ところが やはり・・・
    そうじゃないんですね。

    やっぱり、社会人としての規制みたいなものもあるし
    煩わしい人とのつきあいみたいなものもあるだろうし、

    だからほんとうにかばんひとつもってふらあっと・・・




            



     
チョウチョかトンボのように こうふらぁっといつも、

    自分の好きな所へこう出かけていって、




            



     
生涯終われるんだったら、

    末は野たれ死んでもいいんじゃないですかねぇ…。




                


     
村の子供が、なんか
    小さなほこらのところに

    『なんか、どっかのおじちゃんが丸くなって寝ているよ』


    
 『あ、昨日そういえば、何か、道ばたで売ってたおじさんだね』

    で、そばに寄ってみると、もう、冷たくなってる、というような、ね

    そんなふうなこう、終わりかたができたらいちばん
    ・・・いいんじゃないかなぁ〜。




            



     
なかなか でもそれはたいへんな事ですけどもね。

    ええ、




            




     
そんなふうにしてこう、…

    何も自分を・・・『縛るもの』っていうか、
    そういうものがなくて、

    こう・・・いけたらいいなぁって…、


    あの映画を見てくださっている男の方で、
    ずいぶんそう思っている人がいるんじゃないでしょうか。





            




     
(そう言いつつ何度も頷く渥美さん)



     
やってる僕がそう思っているぐらいですから。
  
    フフフ…・・・フフフ・・・






            










第48作のロケ地 神戸市長田区での渥美さんが映し出される。




            




空き地で『長田マダン』が演奏され、人々が集まっている。




語り「平成七年、阪神大震災にみまわれた神戸で、
  シリーズ最後の撮影がおこなわれました





            






山田監督「ハイ!!




テロップ 神戸市長田区



渥美さんが歩いていく姿を、レールを使って撮影しているスタッフたち。




語り「この時、渥美はがんに侵されていました




スタッフ「歩いて歩いて」


山田監督「本番!よーい…、ハイ!!



パンチ佐藤さんの声

佐藤さん「久しぶりですねえ〜!どうも




            





佐藤さんを見つけにこやかに笑う渥美さん。


周囲は見学者で黒だかりの山。



石倉さんのベーカリーの本家『クララベーカリー』のお二人もNHKのカメラに映っていた



テロップ 『一九九五(平成七年) 亡くなる前年の映像』




語り「渥美は周囲に病を漏らすことなく

  『寅さん』を演じきりました












冨田勲さんの「あの人に会いたい」のテーマ曲が
ゆったりと流れ始める。






初夏の江戸川土手が映し出される。




冒頭で出てきた第23作『翔んでる寅次郎』制作当時の渥美さんだ。



小鳥のさえずりが聞こえる。



にこやかに、そしてちょっとはみかみながら、




渥美さん「寅次郎はこれからまた、

   あてもない旅に出ます。




            



     
どっか遠い旅の空で、

    またお会いしましょう。




            





      
(顔の前に手を縦に突き出して、失敬をする)




      
ごめんなすって




            







   背中を向け、

  そして、すぐさまもう一度振り返り

  照れくさそうに笑う。





            






   そして

  上着を肩にバサッとかけながら


  遠く歩いていくのだった。



            







のびやかに大きく流れ続けるテーマ曲。






            










語り「永遠の旅人

  渥美清



  切なくて また観たい、


  その姿が胸に残ります









            








エンディング





テーマ曲が大きく流れる中、

もう一度あのインタビューが映し出されて…、









渥美さん「チョウチョかトンボのようにこうふらぁっといつも、

   自分の好きな所へこう出かけていって、

   生涯終われるんだったら、


   末は野たれ死んでも

   いいんじゃないですかねぇ…






            









宇宙の銀河が映り






テロップ  俳優  渥美   清  1928−1996




            









NHK映像ファイル  『あの人に会いたい』  終





            







渥美さん、長い間ありがとうございました。


そしてNHKさん、こんな美しい番組を作ってくださってありがとうございました。










このあと、タイのバンコクへ10月17日に出発し、バリへは、10月末に戻ります。
みなさま、お元気で、10月末にまたお会いいたしましょう。

第28作「寅次郎紙風船」ダイジェスト版のアップはバリに戻った後の11初旬頃になります。







【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら

【寅次郎な日々】全48作品マドンナ制作年度順




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