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寅次郎な日々

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まだ作品をご覧になっていない方は作品を見終わってからお読みください。



                 

「風天」の渥美さんと立ちションをする満男(2008年6月24日)

鵜飼を喉のうがいと間違ったさくら(2008年6月17日)

第32作『口笛を吹く寅次郎』ダイジェスト版(2008年6月9日)

若かりし日の谷よしのさん   風の中の牝鶏(2008年6月2日)

取り返しのつかない津嘉山さんの絵(2008年5月23日)

リリー松岡後援会に奔走する寅(2008年5月14日)

男はつらいよ 13年  〜山田洋次の世界〜(2008年5月6日)

ただそこに美しい花がある(2008年4月28日)

第31作「旅と女と寅次郎 ダイジェスト(2008年4月20日)

FLASHアニメ『寅次郎と宇宙鳥獣 Final』(2008年4月15日)

昨日、新たに谷よしのさんを発見!(2008年4月5日)

次もやる気だった松村達雄おいちゃん(2008年4月5日)

空から見る柴又今昔物語(2008年3月28日)

ふみさんに会いに行かない寅(2008年3月24日)

寅のおでこに冷やっこい手を当てるお母さん。(2008年3月18日)

人呼んで『ヤサグレの寅』と発します。(2008年3月12日)

ああ、運命の『打薬窯変三彩碗』騒動 番外篇(2008年3月7日)

『捨てる作業』の果てにある結実(2008年2月29日) 

ぼたんへの愛をさくらに伝える寅(2008年2月20日)

幻の 渥美版 尾崎放哉(2008年2月14日)

SL機関士寅次郎の結婚(2008年2月4日)



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『寅次郎な日々』バックナンバー







「風天」の渥美さんと立ちションをする満男


「花道に降る春雨や音もなく」



2008年6月24日 寅次郎な日々 その364

ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


昨日からこのサイトに訪問してくださる方々がいつもの10倍に増えているので
いろいろ解析システムを見て確かめてみたら、ヤフーさんのニュース(渥美さんの俳句見つかる)のページに参考サイトとして
私のこのサイトを貼り付けてくれていたのだ。どうりで激増したわけだ。前もこういうことが何度かあった。
しかしこういう時に限って無料カウンターが緊急メンテナンス中とやらで昨晩から全く見れなかったので
実は実感としてはよくわからない。(今はようやくカウンター動き始めた)
でもまあ別会社の解析システムのほうで時間ごとの訪問者数はわかるので安心はしている。

渥美さんの俳句のことは、今までも「風天」の俳号でアエラ句会に出席していたことは知っていたし、
俳句も何十点かは知っていた。
昔の「俳句朝日」にもたくさんの渥美さんの句が掲載されたことがある。

しかし今回の発見は膨大だ。ぜひ早く味わいたい。



ちなみに今まで知られている渥美さんの句で私が好きなもの↓


赤とんぼじっとしたまま明日どうする

村の子がくれた林檎ひとつ旅いそぐ

花冷えや我が内(うち)と外(そと)に君の居て

あと少しなのに本閉じる花冷え

ひとり遊びなれし子のシャボン玉

やはらかく浴衣着る女のび熱かな

うつり香の浴衣まるめてそのままに

幼き日紫陽花の家と場所知らず

ベースボール遠く見ている野菊かな

いく春や誰や名前呼ぶように

晩春や下宿のギターつたなくて

初めての煙草覚えし隅田川

閉ざされし茶亭すだれのほつれかな

すだれ打つ夕立聞くや老いし猫

蛍消え髪の匂(にお)いのなかに居る

団扇にてかるく袖打つ仲となり

月ふんで三番目まで歌う帰り道

蒼き月案内子に命やどすよう

大きめの手袋した子の息白く

手袋ぬいであかり暗くする

股ぐらに巻き込む布団眠れぬ夜

年賀だけでしのぶちいママのいる場末

達筆の年賀の友の場所知らず

乱歩讀む窓のガラスに蝸牛

背のびして大声あげて虹を呼ぶ

お遍路が一列に行く虹の中


 

 
今回の読売新聞によると


「さくら幸せにナッテオクレヨ寅次郎」

「雲のゆく萩のこぼれて道祖神」

「ようだい悪くなり
まくらもと」

「秋の野犬ぽつんと日暮れて」



「花道に降る春雨や音もなく」

渥美さんの晩年の背中がなんとなく見えてくるようだ。いいねえ。





話は変わって、ここ数日第19作「寅次郎と殿様」の本編完全版(前半)を進めているが、
時々緊急の用事が何度か入ったりして、なかなかぐぐっとは進まない。
うーんまだ、多忙が続くので7月3日頃になるかなあ…。

で、この「寅次郎な日々」で第19作「寅次郎と殿様」の小ネタをちょろちょろとまた書いておこう(^^;)ゞ



第19作「寅次郎と殿様」の満男は結構ヤンチャだ。
本編では本堂の渡り廊下で源ちゃんとチャンバラごっこをして御前様に叱られるばかりか、
その御前様の頭をなんとおもちゃの刀でパコッと叩いてしまうのである。
このシリーズで御前様にそんな無謀な罰当たりなことしたのは満男だけ(^^;)

これにはさすがのさくらもびっくりしていた。

ところで、このギャグのシーン、実は脚本の決定稿では本編どおりなのであるが、
『第2稿』の時点まで戻ると、まったく違うエピソードになっている。


第2稿をそのまま書き写してみよう↓

さくらが満男のランドセルを題経寺ニ天門の前で見つけるところまでは本編と一緒。



境内から聞こえる太鼓の音と、
子供がお題目(南無妙法蓮華経)を唱える音。

さくらいぶかしげに山門の中を覗き込む。

山門の裏側に満男と源公が立ち、団扇太鼓を叩きながら南無妙法蓮華経を唱えている。

二人の前に怖い顔をした御前様が立っている。

遠巻きにして見物している子供たちニ、三人。


さくら「どうも申しわけありません。またこの子がなにかやったんですか」

御前様「
源と二人で本堂の裏で小便をしてました

さくら「まあ!どうも申しわけありません。満男なんでそんなことするの」

御前様「
近頃だんだん寅に似てきたねえ。
    血続きだからやむを得んが。

    ―満男君は帰ってよろしい


満男、太鼓を放り出し、さくらの傍へ駆け寄る。

さくら「満男、ごめんなさい、って言うの」

「ごめんなさい」と叫びながら駆け出していく満男。

一礼してさくらもあとを追う。


御前様「源!!お前は、あと百回!」

泣きべそをかきながらお題目をまた唱え始める源公。



と、まあ凄いことをする満男なのだ。


これはこれで面白いし、御前様が寅と血続きだからキャラが似てきたと言っているのも笑える。
満男が逃げた後、源ちゃんが残されて半泣きでお題目を唱えるのも見たかった(^^;)

まあ、この脚本が没になったのは、二人で立ちションはさすがにえげつないと思ったのか、
神聖なお題目を「罰」で唱えさせるのは御前様らしくないと思ったのか、真相はよく分からない。

本編で満男が御前様の頭をポカッと叩くのもやはり笑えるので本編でOKである。

それにしても笠さん、ちゃんと中村はやとくんが叩きやすいように
一瞬頭を止めてあげたように見えるのは私だけだろうか(^^;)


            


そういえば第17作「夕焼け小焼け」で御前様が源ちゃんにホースの水かけまくるスーパーギャグがあるが、
あの時の笠さんは、必死で蛾次郎さんに当たるように集中して狙っていた。
私は、何度も蛾次郎さんが撮り直ししなくていいように、笠さんはがんばって一発で決めてあげたのだと思っている。

笠さんは優しいのだ。



            





本編では、さらにもうひとつ二人がとらやに戻った直後に、さっきのことで怒っているさくらに対し、
満男が、後ろで蝶々結びしているさくらのエプロンの紐をスルスルとひっぱって解いてスッと行ってしまうのである。

この悪戯は現場で決めたものなのだろう。決定稿にも書かれていないからだ。
この『必殺エプロン外し』はなかなか面白かった。お母さんへのこういう悪戯ってこの年頃の男の子やるんだよね(^^;)



                




さて、みなさん、
どうして満男はさくらのエプロンを解くような悪戯をしたかおわかりですか?
つまり満男はニタニタしてはいるものの内心ちょっとふてくされているわけです。



ヒントはその直前の参道のシーンにあります↓(^^)


満男「ねえ、アイス買ってよー」

さくら、怒りながら、満男を振り払うようにオーバーアクションで、

さくら「だめだったら!あんたなんか大嫌いよ」




        




チャンチャン。







第19作「寅次郎と殿様」本編完全版前編は生業&充電期間&野暮用が続いているめ
またもや延びて
7月7日ごろアップの予定です。
どうかまたまた気長〜〜にお待ちください。




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『寅次郎な日々』バックナンバー






鵜飼を喉のうがいと間違ったさくら



2008年6月17日 寅次郎な日々 その363


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



ここ数日ようやく第19作「寅次郎と殿様」本編完全版作業をまじめに進めている。
帰国やそのあとの多忙が重なって、なかなか着手することが出来なくて、
我ながら呆れていたのだが、
先送りもこのへんが限界だと観念し、ただ今作業を進めている最中である。

基本的に私にとってこの第19作「寅次郎と殿様」の本編作業はとても楽しい。
なぜならばこの作品がかなり好きだからだ。

弾けていて笑いが多く、話題性もあり、渥美さんがやっぱり元気だ。
実は…ベスト24作品を決める時最後まで入れようかどうか
第40作や第45作と一緒に迷った作品の一つだった。


で、このような本編の作業の前に、私は必ず『脚本第2稿』と『脚本決定稿』の2種類を
じっくり読むことにしているのだが、今回もなかなか面白い発見があった。



ちょっと物語を思い出していただこう。

伊予大洲に旅する寅は馴染みの旅館である肱川(ひじかわ)の畔に立つ伊洲屋旅館に逗留している。

長年の馴染みなのでそこの帳場で番頭さんのようなこともしている寅である。
客からの電話に出た寅は「鵜飼」のことが最初分からないで旅館のおかみに
笑いながら説明されるのである。

本編ではこう↓である。


帳場の電話に出る寅

寅「はいはい、こちら伊洲屋(いずや)旅館でございます。
はいはい、はい京都の玉木さん?」

女将さん「今夜は鵜飼(うがい)に出かけてなさるけんど」

寅「今夜は『うがい』で…でかけてます」


      



電話を切った後、寅は女将にこう言うのである

寅「『うがい』か…。しかし変わってるね、その客は、えー、
 わざわざ『うがい』しに表に出かけて行くなんてさ。
 そこの洗面所の奥でもってガラガラってやればいいじゃねえか、ねえ」

女将さん「その『うがい』じゃのうて、ほら川に舟浮かべて…」



寅曰く「あーあーあー!浦島太郎みたいな格好して、
    アヒルの首にあのゴムテープくっつけてこの引っ張ってるやつか


女将さん「ハハハ!」

寅「
あれだろ

女将さん「ハハハ、アヒルじゃのうて、鵜という鳥ぞな」

寅「あ、鵜って鳥か、あれは

女将さん「
アハハ、アハ!

寅「あ、なるほど、大きな魚飲み込むからつっかえて『ウー!!』って言ってるわけだ」

女将さん「ハハハ」と笑いが止まらない。


      



とまあ、こういうギャグなのだが…。


脚本第2稿の段階では「鵜飼」と「うがい」を間違えるのはなんとさくらなのである。
つまり寅がとらやにいるさくらに伊洲屋旅館から電話するのである。

しかし、さくらが「鵜飼」のことを聞き間違えるのも無理はないのだ。
それは伊予では鵜飼(うかい)のことを「うがい」とも発音するために
余計に混乱してしまうからなのだ。

ちなみに伊予の肱川鵜飼は日本三大鵜飼のひとつ。



脚本第2稿ではこうである↓。



伊洲屋旅館 帳場

寅さくらに電話をかけている。

寅「この間のこと謝っといてくれよ。オレもつまんねえことにこだわってさ」



とらや 店

さくら「いいのよ、そんなこと。気にしてないわよ、誰も。
   ねえ今どこなの?遠い所?オオズ?オオズってどこ?」



伊洲屋旅館 帳場

寅「伊予の大洲だよ、
四国だ、四国。
 いい所だぞ、おまえ。
 宿の前に川が流れててな、
 座敷から鵜飼見ながら一杯やろうってとこさ。
 え?鵜飼だよ、鵜飼」



とらや

さくら「『うがい』?どうしたの、風邪でもひいたの?」



伊洲屋旅館 帳場

寅「バカ!その『うがい』じゃねえんだよ、
ほら、浦島太郎みたいな格好して、アヒル泳がしてるのがあるだろう。
あれよ。―おい、電話代高いから切るぞ。分かった分かったそのうち帰る」

受話器を置いてため息をつく。


寅「まったく物を知らない女だなあ…」

女将「あんた、アヒルじゃのうて、鵜という鳥ぞな」

寅「あ、鵜って鳥か、あれは。
 あ、なるほど、大きな魚飲み込むからつっかえて『ウー!!』って言ってるわけだ」

女将さん「ハハハ!」



そのあといろいろあって―。


夜、殿様の屋敷から再度今度はさくらのアパートに電話している寅。

その時もさくらはまだ分かっていないらしく



さくらのアパート

さくら「何言ってんのか分かんないわよ、『うがい』だの『トノサマ』だのって…」
と、首をかしげているのである。


       



ひょっとしたらさくらは根本的に「鵜飼」を知らないのかもしれない…。

もちろんあんな特殊なもの知らなくたってちっとも恥ずかしくはないのだが、
ちょっと意外だったことも確かだった。

結局、山田監督は現場で試行錯誤の後に、
やはり寅が鵜飼ギャグの『ボケ』を一気に全部引き受けたほうが面白いと思ったのである。

こうして本編ではさくらに鵜飼ギャグでのボケの役は回らなかったというわけだ。

チャンチャン(^^)





第19作「寅次郎と殿様」本編完全版前編は充電期間が続いているめ
またもや遅れて
6月27日ごろです。
どうかまたまた気長〜〜にお待ちください。




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第32作『口笛を吹く寅次郎』ダイジェスト版



2008年6月9日 寅次郎な日々 その362


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
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ヤンチャな寅が帰ってきた  物語の復活            


第18作「寅次郎純情詩集
」を最後に、山田監督はアイデアを出し切り、作品作りに悩み始める。
その後もさすがに地力があるので、「佳作」までは必ずこぎつけるのだが、臨場感の弱い場面や過去の作品の
二番煎じ的なシーンが時として若干目に付くようになってくる。二番煎じは必ず一番煎じに劣る。半年に一度の
制作の連続はやはりなかなかアイデアが醗酵しないのだ。半年に一度というのはやはり厳しいサイクルである。
落語なら繰り返し演じることで深みや味や艶がでてくるが、映画の場合は新鮮味が失われ、劣化していく危険性がある。
(もちろん、これは非常に高いレベルでの作品批評、ないものねだり、であって、第19作以降の作品もほとんどが
すばらしい良さをたっぷり含んだ、品格のある作品たちであることは疑いのないことではある。)


しかし、そんな時、第8作で登場した印象深い備中高梁を再び舞台にすることを思いついたことでインスピレーションが
もう一度こんこんと湧き始めたのである。これは博の父親の故郷であり、博たちの故郷でもある高梁ならではの効果だ。
山田監督自身にとっても、この落ち着いた高梁の町は第8作ロケの時もとても印象深いものがあったらしい。
そして、口の上手い寅が、坊主になり、高梁に滞在する。これはもう面白くならないわけがない。
そして当然ながら高梁に滞在しているので博やさくらと自動的に深い縁もできていくのである。
この絶妙の設定がまず成功のポイント。

第15作「相合い傘」が第11作「忘れな草」の助走を経て、大きく花開いたように、この「口笛を吹く寅次郎」は第8作「恋歌」の
懐かしい思い出をベースに、第22作「噂の寅次郎」でのイメージも手伝って、見事に物語の中身もスケールも広がり、
往年の「相合い傘」や「夕焼け小焼け」のごとく躍動感に溢れ弾んでいくのである。

こうして、第32作「口笛を吹く寅次郎」は山田監督にとって、長いトンネルの後青空がスカッと見えるように
起死回生の傑作となった。


           



ベストカップル 朋子さんと寅


「なんと言いますか…、美しさの中に知性を秘めたと言いますか


これは、朋子さんに遭った後、博がとらやで呟くセリフ。


寅の人生なのかでもなかなかあれだけ華を持った女性はいない。
幼馴染の可憐な千代さん。最愛の人であり旅人であるリリー。
青白き月光の輝きかがりさん。
彼女たちに勝るとも劣らない美しい朋子さん。家族想いで、温かな心が見ている私たちの気持ちを
和らげてくれるようだった。


この「男はつらいよ」の中で、真剣に寅に対する自分の愛情を何らかの形で寅にはっきり伝えたのは、
千代さん、リリー、そしてこの朋子さんだけである。


柴又駅ホームで、悲しみで潤んだ目をした朋子さんが首を横に振った時、寅の決意と覚悟しだいでは
恋が成就する正にその時だったのだが、寅がとった行動は……。

今回のマドンナとの相思相愛の別れは私にとってこのシリーズでもリリーとの別れ同様、最も悲しく、
後にまで想いが残ってしまうものだった。それほどまでにこの二人には「物語
」が存在したのだ。


                   


あらゆるマドンナの中で渥美さんとの相性が浅丘さんに匹敵すると言われる竹下景子さん。
渥美さんは、競演中、ずっと竹下さんのことを「お嬢さん
と呼び、実に仲がよかったそうだ。
実際スクリーンを見ても、竹下さんと渥美さんは最初から最後まで見事に息がピタッ!と合っている。
山田監督もそのことを感じたからこそ、後に竹下さんをもうあと二度もマドンナに起用するのである。
浅丘さんを除いて、三度出演したマドンナはもちろん竹下さんだけである。


         

                     


イラストレーション  龍太郎 


                         




本編 ダイジェスト



@ 墓参りをする寅と朋子さんとの運命の出会い

松竹富士山
今回はいつもと違い、シリアスな音楽。

今回も夢から

夕焼け空の中 寅が故郷柴又を想い浮かべている。

故郷柴又を懐かしく思い帰ってみると、そこには偽者の寅次郎が
すでに存在しており寅がいくらオレはここにいると言っても金縛りにあったように
身体は動かず、苦しみまくるという夢。


              


とらや 
青色の世界

台所  

夢なので若干台所の様子が違う。

さくら「おばちゃん、お兄ちゃんまだ帰ってこない?

おばちゃん「
どうしてんだろうねえ〜、
   私たちがこうして陰膳据えて待ってるっていうのにィ


寅、陰で、その姿を見ている。

おいちゃん「
早くあいつに知らせてやりてえよお〜
おばちゃん「
喜ぶよ、きっと、小さな目を糸のように細くしてさ

と、目が糸になるポーズ。おばちゃん相変わらずお茶目(^^)
             
どうやら、寅の婚礼が決まったようなのである。

タコ社長やって来て
社長「
さくらさん!日取りが決まったよ!と意気揚々。

みんな見合い写真を見ながら、この人だったら寅はきっと喜ぶと
超乗り気になっている。

寅も背後に回ってニコニコで写真を覗く。


             


写真はよくよく見るとな、なんと今回のマドンナ!竹下景子さん!

夢でマドンナが出てくる作品は
意外に少ないが、この第32作も写真だけとは言え、
マドンナが夢に出ているんだねえ〜。
マドンナが夢で出て来るのは第27作「浪花の恋の寅次郎」
第28作「紙風船」第33作「夜霧にむせぶ寅次郎」


             


そこへ現れる偽者の寅。

さくら「お兄ちゃんおかえりなさい!

なんとこれまた本編で登場するレオナルド熊さん!

偽寅「さくら元気だったかい。社長景気はどうだい?

寅、自分じゃない男が寅になっているのを見て
怒りが湧いてくる。


さくら「お兄ちゃん、お嫁さんが決まったのよ

ととらや一同で結婚式の衣装や新婚旅行、ご祝儀の話もして
偽寅を囲んでみんなで盛り上がってしまう。


夢とはいえ、メッチャクチャ段取りがいいね(^^;)


             


結婚を祝う音楽でお馴染み 『結婚行進曲』が流れる。
メンデルスゾーン作曲 『結婚行進曲』1842年作曲

そして花嫁とその父らしき人までがいきなり現れ、とらやの店先に。

いきなりやなあ。夢だから何でもあり(^^;)

おばちゃん「まあ、お綺麗な…
博「
兄さん!あの人がお嫁さんです!
偽寅「
やったー社長!と飛び跳ねて喜ぶ。

偽寅も社長も「ウハハハハ〜!!

写真の方と実物と違いますね〜。
これも夢だからOK??


寅、台所から怒って出てくる。

チクショウ!

しかし、金縛りに会い、動きが止まってしまって。
寅「
おい!!
急に声がゆっくりしか出なくなってしまう。
寅、懸命にそれでも訴える。


寅「おい!おおおい、
 ちがう、ちがううう、
 だまされてるよおお、
 オレが寅、とらじろううだあああ…


いやあ、あるあるそういう金縛りの夢 ヾ( ̄∇ ̄;)


             





岡山付近を走る吉備線 

電車の中


寅、長いすに寝ながらうなされている。

寅「あー、あー…

労働者風の男が寅を起こしている。

なんと夢の中の偽寅のレオナルド熊さん!

熊さん「大将、大将…
寅、はっと目を覚まして
寅「えっ、ふあー!と熊さんを見て、驚き、起き上がる。


             


そりゃ驚くよ。夢の中で見た偽寅だもんなあ(^^;)

熊さん「うなされてたようだなあ…
    悪い夢でも見たんかい?
みたみた(^^;)

寅、我に帰って
寅「ありがとう…」と、言いながらほっとする。

熊さん、自分の座席に戻りながら、自分のおかれている状況を嘆く。
弁当を持ち、大事な一人娘に語りかける。
どうやらいろいろ苦労が重なっているようである。

寅、しみじみ二人をいい顔で見て、頷いている。


寅「娘さんかい?
娘さん歌を歌いながらイスの上で可愛く踊っている。

熊さん、照れながら

熊さん「ああ、はは、これは、オレの命いいねえ〜( ̄ー ̄)

どうやら奥さんに逃げられてしまったようである。
嘆く熊さん。同情する寅。



             

娘「フフフ」

寅「あー、可愛い子だ可愛い子だ
寅、娘さんをあやす

オレンジ色の国鉄吉備線が
秋の吉備路を走っていく。



タイトル

男(赤)はつらいよ(黄) (白)口笛を吹く寅次郎 (白)映倫


             

今回の口上は、この作品以外使われていない。後にも先にもこの作品だけ。

口上『大道三間 軒下三寸
   借り受けましての渡世、
   わたくし、野中の一本杉でござんす』


啖呵バイのことだね。


  
 
♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


   ♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら こんな苦労も
   こんな苦労もかけまいに かけまいに♪




備中国分寺跡の梅林

総社市上林

今回の歌の間のミニコントは備中国分寺跡

備中国分寺跡の梅林で熊さん父娘とおやつを
食べてピクニックをしている寅。

隣の家族のカメラを借りて寅が父娘写真を撮っては
見たものの、映っている様子を見たくて、
熊さんがついついフィルムをビヨーンと引き出して
しまい、
 おいおい ゞ( ̄∇ ̄;)

全てが
パーになって隣の家族の父親と
熊さんが大喧嘩というナンセンスギャグ。

このフィルム引き出し台無しギャグは第19作でも使われた
古典ギャグ。第19作のミニコントの時は津嘉山正種さんが主役。


           



父娘たちと本村のバス停で別れ、
高梁に向かう寅。

高梁川の渡しを使い、懐かしい高梁の町に入っていく寅。




柴又 帝釈天 二天門前



源ちゃんが日蓮宗の寺男のくせに般若心経を唱えている。

自転車で通りかかったさくら、感心して
さくら「あら、源ちゃん。
   門前の小僧、習わぬ経を読む

源ちゃん、さくらにかまわれて嬉しそう。



とらや 店

台所で、博とおいちゃん、おばちゃんが暗い顔。
おばちゃん「さくらちゃん、博さんと社長喧嘩したらしいんだよ
さくら「えー?

博の言うぶんには、社長は古いお得意さんにしがみついている
だけで、足元を見られて赤字の仕事を引き受けているということ。


タコ社長、愛想笑いしながらやってくる。

タコ社長は、博に、なんとかこの仕事だけはやってくれと、頭を下げるが…

博「今まで何べん言われたかなそういう無茶を。
 段取りがみんな無駄だ。

 長期的な展望というものが全く無いんですからねェ

タコ社長は、涙目になりながら、

社長「わかったよ。へッ、どうせオレは無能な経営者だよ。
 止めますよ、止めりゃいいんだろお!
 なにもやりたくてあんな工場やってるんじゃないんだよ、
 みんな叩き売って、借金払った残りは
 退職金としてくれてやるよ!


と仰々しいジェスチャーで泣きながら威嚇

社長「オレは一文無しになって、ウエエ…、カバン提げて
  寅さんみたいに、フーテンして歩くんだよ、ウエエエエン


と、泣きながら工場に戻っていく。


             


一同シーン

おいちゃん「思い出しちゃった、寅のこと…

さくら、下を向きながら微笑む。

そこへ、いつものパターンで寅から電話。
電話 リーン

おばちゃん「はいはい、とらやです。あら!寅ちゃんなの!?


おいちゃん、ステン!と転ぶ。

久しぶりに出ました、おいちゃんのステン転びギャグ。
第14作「子守唄」第17作「夕焼け小焼け」などでステンと思いっきり転んでいました。






備中高梁 

紺屋川のほとり
 紺屋町美観地区

日本の道百選の通り。


第8作にも出てきた白神食料品店の斜め向こうにある
黄色い公衆電話
なんとプッシュホン!寅にしては珍しい。

寅「おう、さくらか、ん?みんな元気でやってるか?
 そうか、うん。

 オレ?オレはあれだよ。あのー、
 備中高梁ってところにいるんだよ。そうよ、博の
 おとっつぁんの故郷だよ。


諏訪一郎(ひょういちろうさんと寅は第8作「恋歌」で、
この高梁の実家で数々の思い出を作った仲なのだ。
「りんどうの花」の話はあまりにも有名。



              第8作のリンドウの花のシーン
             


寅は、備中高梁までやってきたので博のお父さんの墓参りをしようと
思い立ったのだ。

それで今墓の名前をさくらに聞いているというわけだ。


            


この先縁ができる白神食品の
ひろみちゃんが10円玉を笑いながら入れてやる。
そんなこと、このときは二人とも知る由もない。


さくら「もしもし、蓮台寺だって


            


寅「あー、そうそう、思い出した思い出した。
 えー?、いつ帰るかって?
 そうよなあ〜、
 まあ、これから、出雲の方へ出て、米子、鳥取と、
 フラフラと秋の風に吹かれて歩いてるうちにゃ、
 いずれ柴又へ着くでしょう、エヘヘヘへ



さくらが電話を切った後、ちょっと気分が良くなる博だった。
お父さんのことを寅が今でも気にかけてくれたのが嬉しいんだね。



気分一新、
博は工場へ戻って、仕方なく社長の赤字仕事を
開始する。

感謝で一杯、またもや涙でうるうるのの社長。


             





高梁 蓮台寺(本当は薬師院) 墓地

ゆったりとした音楽が流れる。

諏訪家の墓に参っている寅。


寅「はあー…、

 先生、
 しばらくだなあ。

 オレだよ、

 寅だ。


 覚えてるか?


            


水をかけ、ウイスキーをかけ、線香を焚く。

寅「葬式には来れなかったんで、

 今頃やって来た


寅も、ウイスキーをかざし、そして飲む。

寅「オレは元気だよ。

 相変わらずのフーテン暮らしで、
 嫁さんももらえねえけどな。

 これは持って生まれた性分でしょうがねえや
 ヘヘヘ。

 博はちゃんとやってるからな



寅、枯葉を取り除きながら

寅「さくらとも仲良くやってるし、
 なんの心配もいらねえよ


しゃがんで手を合わせ拝む寅。

この静かな墓参りのシーンは
なんとも味わいがあった。

何度見てもいい場面だ。



寅、お寺の水桶の場所に戻って

汽車の音


寅「さあ…って、柴又へでも帰るか…

おいおいおい、さっき電話で、
出雲に出て、米子、鳥取と行く
ってさくらに言ってたんじゃなかったのかい ┐(´-`)┌



はるか下から和尚さんが
ふらふらよろけながら上がってくる。
それを眺めている寅。

法事で飲みすぎてしまったらしい。

朋子「お父さん、大丈夫?

和尚さんは2代目おいちゃんの松村さん!

朋子「
ありゃりゃ!あ!やっぱり酔うとる。はい

と、腕を抱えて上がっていく。

朋子さんの「ありゃ」はこの物語での口癖。
何度も出てくる。柔らかくてとてもいい響きだ(^^)

ヨタヨタ抱えられながらゆっくり上がっていく。

寅、朋子さんを見て、
すぐ眼から
ハートマークが飛び出した。

(o ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄▽ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄o)


             


朋子のテーマが流れる。


風呂敷包みを落としてしまう和尚さん。
朋子、風呂敷包みに気付いて

朋子「あ、どうしよ
寅拾う。
朋子「あ、ど、どうも

と朋子さん手を出すが、
寅はなんと風呂敷包みを渡さないで抱え込む!

朋子「…?だよね(^^;)
寅「わたくし持ちます いきなりかよ ゞ( ̄∇ ̄;)

和尚さん、手すりでゼイゼイになりながら

和尚「お参りかな?
寅「はい、諏訪先生のお墓へ
和尚「おー、諏訪先生のお知りあいかの
朋子「そいじゃあ、遠方から?

竹下景子さん、当時高熱下がったばかりでがんばってらっしゃいます!

             


寅、目からハート乱射(^^;)

寅「はい、…東京から
朋子「あらと、和尚さんを見る。

和尚「おー、そりゃまた遠くから。
  ちょっと、寄っていきんさい、ヘヘヘ
ラッキー!

と、手招きし、上がっていく。

ちなみに諏訪一郎(ひょういちろう)さんの知り合いは
北海道にもたくさんいるだろうね。


和尚「ヘヘヘと上がっていく。
朋子、笑いながら
朋子「どうぞ
寅「は…、でもやっぱり私、急ぎますから…
と、いいつつ目は「おじゃまします!」と言っているぞ ヾ( ̄∇ ̄ ;)
朋子「それでもお茶のいっぱいくらい

寅、一歩下がって
寅「でも…ご迷惑だから
寅、それなら風呂敷渡せよな(−−)
朋子「父もそう言うとります、ね、どうぞ
寅、ニコーっと笑って
寅「そうですか!
朋子「ええ、どうぞ


             


と上がっていく。
寅、俄然元気に溌剌と、
階段を意気揚々と上がりながら
寅「それじゃ、ほんとうに一杯だけ
 いただいて、すぐ失礼しますから
無理無理(^^;)

と、すぐ朋子さんを追い越し、上がっていく。
寅、小声で、振り向きながら


寅「それだけですから、どっちですか?
 いきましょ!はい
とニッコニコ(^^)

スタスタ上がっていく。

たまらんなあ〜、この露骨な態度。
なんの節操もない。
瞬殺的に決まっちゃったんだね。┐(-。ー;)┌





夕闇迫る美しい高梁川

母屋の居間

和尚と寅の笑い声

もう、相当二人とも出来上がっている。
サッポロビール、日本酒がいっぱい。


寅はレントゲンギャグで和尚と朋子さんを笑わせる。

寅「医者が言ったねえ。
 『
きみい、レントゲン撮る時は、
 笑う必要ない
って
 ハハハハハハ!


和尚「ハハハハ!


             


寅「いやだけどね、レントゲンだって、
 あれ、にっこり笑って写した方がいいと思うの。
 だって
明るく撮れるもの、そのほうが

和尚「そりゃそうじゃあ、ハハハ」 おいおいゞ( ̄∇ ̄;)

朋子「ハハハ、そんな…フフ

寅、箸振り回しながらこのあと、第8作「恋歌」での「泣いて〜!」
思い出し、またもや二人を笑わせるのだった。


寅「黒いの着て。その時、私がねえ、
 写真撮る役になっちゃったの。
 で、キャメラ持ってジーッと見た時、
 ついうっかりさ、『はい!笑って』と
 こう言っちゃったんだ



             

和尚「うわハハハハ!
朋子「フフフと我慢し切れなくて笑っている。

この第8作「恋歌」
博の母親の葬式でのエピソードは、
第13作「恋やつれ」で、歌子ちゃんとらや
訪問の時も、茶の間でなんと博がしゃべっていた。
           
       
第8作の記念撮影のシーン              笑って〜!
          


和尚「坊主も笑うたんじゃろその時

寅「これがね、糞食ったような坊主だけどさ、
 ニコーっと笑ったね、金歯出して、ハハハ!!


相変わらず凄い表現(^^;)

でも、ちょっと待てよ…その時の坊主って、
この蓮台寺の和尚さんのことじゃないの?
和尚さんも爆笑してるけど
ひょっとして自分のことだったりして。あちゃ…
( ̄∇ ̄;)



車の音


息子の一道が、帰ってきたのだ。

この一道君は、写真をやりたいのだが、父親は当然寺のあとを継いで欲しいと思っている。
かなり、この親子は険悪な関係に陥っているのだった。


寅、そっと朋子さんの近くに顔を近づけて


寅「親子関係うまくいってないの?
朋子「そうなの」と少し呆れている。
和尚情けない顔をして
和尚「んんん、情けない話しじゃのう、
  あんた。偉そうに仏の道など説いてまわっとるが、実は、ふ…、
  たった一人の…息子すら、よう育てんのじゃ、このわしゃあ、うううう

と情けない顔で泣き、そのあとひっくり返って寝てしまう和尚(^^;)


             


柱時計が時刻を打つ。10回 (10:00pm)

寅「あー、こりゃどうも、なんだかバカっぱなしをしているうちに、
  すっかり長居しちゃって


と、帽子を手で持ち、おいとまのフリをする(^^;)

朋子「あの、よろしかったら、今夜は家にお泊りになりませんか?
寅「いえいえ、これ以上ご迷惑をおかけするなんて、とても
朋子「そのつもりで、もう床も敷いてありますからよっしゃああ!(^^)/
と、ガウンをかけなおしてやる。
寅「え? まんまとやったね寅 v( ̄ー ̄)ノ
寅おどおど。
朋子「広いだけが取り得の家ですけん。どうぞ


と、お銚子を持って台所へ。
寅、かしこまって正座して
寅(無声音)「はあー、…
と、腕時計を見るふり見るふり(^^;)
朋子、振り向いて
朋子「今、熱いのつけますから
あああ、寅いい気になっちゃうよ( ̄∇ ̄;)


             


寅、幸せ一杯の顔をして、
帽子を手遊びしながら
寅「それじゃ、ほんとに一晩だけ
と、至福の声。ニッコニコ(^^)



             





A居座り続ける納所坊主寅の活躍


翌朝 早朝

朝霧が立ち込める高梁川の川辺で
撮影をする一道たち。


シューベルトの「鱒」
この曲は第12作「私の寅さん」でも使われていたね。


             



高梁の町

蓮台寺 母屋

寅が上がり口に、旅支度を整えて座っている。

朋子、気づく。

朋子「
ありゃ、どうしたんです?、こげえなところで
寅、すっと立ち上がって
寅「ゆうべはどうも、遅くまですいませんでした…
朋子「もう帰られるん?
と、少し淋しそう。
寅「
は、お茶一杯のつもりが、泊めてまでいただいて
朋子「あ、ええのよ、そんな遠慮
と、家に上がって、
朋子「今すぐ朝ごはんの支度しますけ、
  せめてごはんだけでも

と、上がり口に朋子さんが座る。
うーん、これが日本文化なのでしょう。
お客さんをもてなす時の作法でしょうか。

寅「はい、そのお気持ちはありがとうございます。
  が、キリがありませんから

朋子「どうしてぇ?


             


寅「はい、朝ごはんをいただいた後に、
 食後のお茶を飲みながら、バカっぱなしを
 しているうちに、すぐお昼です

朋子「ええ…と小さく頷く。
寅「『おそばにしますか?おうどんにしますか?
『そうですねえ、おそばでもいただきましょうか』
そんなことしているうちに、三時のおやつですから。
薄切りの羊羹にお薄をいただいているうちに、今度は夜です。
『もう一杯どうですか?』『いえいえ』、

二杯が三杯、四杯、またこちらへ泊まるようなことになります。
それじゃ
キリがありませんから」
朋子「そこまで考えることはない思いますけど…ないない(^^;)
寅「いや、考えちゃうんですね、性分としてだね(^^;)
朋子「へえ……

この長いギャグは第2作「続男はつらいよ
使ったギャグのアレンジ版。

    


それがいけねえんだよ。
一杯が二杯になり三杯になる。
団子が出るか、また茶を飲むか、
そのうち酒になるじゃねえか。
オレは一杯や二杯じゃすまねえぜ、
気がついた頃にゃ、
お銚子がずらっと並ぶ。
さあ、もう腰がたたねえねえ。
いっそのこと、泊まっていくか、
(寅、大きく手を上げ、)
カラスカーァと鳴いて朝になる。

おはよう!

『またお茶をください!

二杯になる三杯になる。
団子が出るか、酒を頼むよ、どうする?
オレは旅に出れなくなっちまうじゃねえか」


おいちゃん「何もそこまで考えなくていいじゃねえかよ

以上第2作「続男はつらいよ」のシーンでした。



寅「それじゃ、失礼します

朋子「名残り惜しいわ、なんやら…

寅、振り向いて
寅、ちょっと、もじもじして、
寅「とうとうお会いできませんでしたけれど、
  
ご主人にもよろしくどうぞ         

出た!寅のさぐり( ̄∇ ̄;)
必ず既婚か未婚か確かめるんだよな。

第8作「恋歌」でこのパターンが
最初に使われていた。




朋子「ありゃぁ〜…
寅「はい?

朋子のテーマが流れる。

朋子「私…出戻りなんです…と恥ずかしそうに下を向く。

             


寅、センサー全快!!眉がピクッっと動く ( ̄▽ ̄)
微妙〜〜に喜んでいる。
寅「え?

                !!!!!
             


朋子「いっぺん結婚したんですけど、
  事情がありまして…


ともじもじしている。


             


表からタクシーの運転手さん、やってくる。

関敬六さん、今回はポンシュウではなく、
タクシーの運転手さん。

ハンコ屋さんの法事に出れないでゲーゲーゲロを吐いている和尚さん。
朋子さんは困ってしまっておろおろ。


朋子「えええー!今頃そげいなこと、
  あああ、えらいことやなああー
あたふた。
和尚「えらいこっちゃ〜〜」 確かに┐(~ー~;)┌

朋子、顔に手をあて、お手上げ状態。
和尚もゲロ吐いてお手上げ状態(^^;


寅「お嬢さん
朋子、寅を見る。
寅「私が代わって参りましょうおいおい(^^;)
朋子「…あ、あなたがぁ?
寅「はい。私にも責任があります。
 門前の小僧習わぬ経を読む。
 私、お寺の前で育った男ですから。


お寺の前でって…それだけでできるのか?(^^;)

朋子「はあ…
寅「法事の真似事くらいなんとかなります。
 余ってる衣ありませんか
ほんまかいなゞ( ̄∇ ̄;)
朋子「あ…はあ…おいおいそんなことさせるなよ ヾ(^^;)

と、言うわけであっという間に『偽坊主』の出来上がり(^^)


メインテーマがテンポよく流れて


タクシーが高梁の町を走っていく。


後部座席で寅がそれらしく座っている。

すでに坊さん気取り。


寅「あ、運転手さん
運転手「へい
寅「仏様はいくつでなくなられたかな?
すでに完全に役になりきってる。すご…( ̄、 ̄;)


             


運転手「九十二です
寅「ほおおー

紺屋町美観地区の中に入って、昨日寅が電話をかけていた
白神食料品店の前を通って行く。



堤章玉堂印鑑に停まる。

寅、降りてきて

寅「あ、は、代理を務めます納所坊主でございます

ちなみに「納所坊主」とは、寺務所会計・庶務係として
下働きしている僧や見習のお坊さんのこと

ハンコ屋「おお
寅「不慣れな点は、どうぞご容赦願います
ハンコ屋「そんな、かまやせんが、
   ありがてえところを
ちょろっ
   やってくれりゃあそれでええのじゃ。
   上がってちょうでい


第11作「忘れな草」のラストでもおいちゃんが「ありがたいところだけ」
と言っていた。


ハンコ屋「おーい!納所さんみえられたで




蓮台寺 居間

寅のカバンと帽子が映る。

一道「大丈夫かな?あげな人父さんの
  代わりにやってェ。寺で修行したこと
  なんかないんじゃろ?

朋子「だいたいあんたが行かないけんとこよおー。
 なによ、偉そうに文句なんか言うてえ!
 『すいません、僕がお寺を継げばこげな迷惑
 かけずにすんだのに』って、それぐらいのこと言うたらどう?

一道「オレに当たらんでもええがな…

と、言いながら、自分は大学をサボってカメラ旅行の準備をしている。
お金がなくなるまで伯耆大山の紅葉を撮影したいそうだ。

朋子呆れながらも、箪笥の中からサイフを取り出す。
朋子2万円置いて 甘いよ朋子さん…(TT)
朋子「そげいなことばっかりしよって、
  学校のほうはどうするの?



             

朋子「授業はとうにはじまっとるんじゃろ?
一道「
朋子「お寺を継ぐか継がんかいう問題はお父さんと
  あんたの問題じゃけん。二人できちんと話しんさい

一道、頷いて、2万円持っていく。
朋子「お互いに口を利かんでなんでも私に言わせて。
  そういうの卑怯よ

一道「わかっとる


お勝手の戸が開く。

白神食品店のひろみが入ってくる。

ひろみ「お早うございますと、ビール持ってくる。
一道「うっす!

             


一道、依然撮ったひろみの写真を見せる。
一道「これ、できたで
ひろみ「わー、恥ずかしい!こげに大きい写って」と、写真を見ていく。
一道「ニキビ修正しといたほうがよかったかな
山田監督って意地悪(TT)


でも、この二人なんだかしっかり仲がよさそう(^^)
出発直前にひろみちゃんんぽ水着姿の写真見せて
面白がるやんちゃな一道でした。


一道、ひろみのほうに
水着姿のひろみの写真
を見せる。

一道って…( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)

シューベルト「鱒」が流れる。


            


ひろみ、振り向いて、ちらっとその写真見て

ひろみ「あ、私だ!そらそうだ(^^;)
いったいあの写真いつ撮ったんだ??(^^;)

と写真を奪おうとするが、一道は運転席の前においてアクセルを踏む。
ひろみ「ちょっと、一道さん、やだ、やだ、いけんよー!
    ねえ、返して、ねえ!

と言いつつちょっと嬉しそう(^^)
ひろみ「ねえ!いじわるう!
と走り去るワゴン車をの窓をたたく。
ひろみ「えっちいー!!まあまあ(^^;)
ひろみ実に嬉しそう。一道の気持ちを確信したようなもんだものね(^^)




紺屋町(美観地区)

その後自宅の白神食品店て元気に手伝いをするひろみちゃんだった。

寅が法事をしているハンコ屋さんはすぐ橋向こう。


           


なんと、第8作「恋歌」でも同じアングルから撮影がされている。
白神食品店もその近くの店も
12年の年月を経て模様替えをしていた。
右端にハンコの堤章玉堂が見える。

       ↓
            
第8作「恋歌」
           



ハンコ屋の中から

南無大師遍照金剛。。。の声
蓮台寺は真言宗だからね。
一同 「南無大師遍照金剛、  南無大師遍照金剛

寅よくお経が読めたなあ…、っていうか
よくばれなかったなあ…。

だいたい柴又題経寺はご存知日蓮宗、
ここは当然真言宗(^^;)
普通読めんよ。困った〜…。

ま、とにかくお経終わって

寅「よし!
寅、お経の後、座りなおして、手を合わせる。
一同「
ありがとうございますと、お礼 
大杉侃二朗さんと谷よしのさんの姿が見える。
今回は大部屋のみなさん備中高梁の町の方に扮しています。


寅「えー、おばあちゃんは九十二歳の天寿をまっとうしたと
 伺っております。
 本日この七回目の法要に、かくも大勢の関係者が
 集まられるということで、個人の人柄が偲ばれます。


一同、お辞儀

寅「人間この世に生まれて来る時もたっった独り。
 そして、死んでいく時もたっった独りでございます。
 なんと寂しいことではございませんか


急に目を見開いて、手を上げて、

寅「天に軌道があるごとく、
人それぞれに運命の星というもを持っております。
とかく子の干支ォのかたは
終わり晩年が色情的関係においてよくない!

一同ぎょっとする。

未(ひつじ)の女は門にも立たすな。蛇の女は執念深い。
それってバイの口上だよ ヾ(^^;)

一同ポカ〜〜〜ン だよな(^^;)


             


奥様、失礼じゃが、あなた眉と眉の間、
すなわちこの
印堂に陰りがあるそのネタもいつものパターン(^^;)

周りの人たち、彼女の顔をシゲシゲと眺める。

寅「
ということは、ご主人の浮気で
 泣かされている相であります


全くいつもの啖呵バイの易者バージョンそのまんま(^^;)

ハンコ屋のオヤジ、呆然
奥さん、口あんぐり。

寅「ご主人、なかなかの二枚目でございますな
ハンコ屋「は???
寅「あなたと指をさす。
後の男性客「
ズボシやズボシ
一同大笑い。
谷よしのさん笑い爆発。

          
             


ハンコ屋のオヤジ、タジタジして、きょろきょろ
奥さん「和尚さん、お見通しじゃあなあ
一同再度大爆笑。
ハンコ屋「あほ!わしゃ遊びはもうやめとるよ
奥さん「うそ!うそ言いんさい!
寅「あなたがやめてもおなごがほっとかんでしょう
上手いねえ〜(^^)
一同さらにさらに大爆笑

ハンコ屋「無茶言うて…!
こうして、寅は法事の来客を笑わせ煙にまいて、
まんま
と成功するのだった。

             


こうなったら完全に寅のペース(^^;)

しかし、この笑い話の前に、ちょこっと真っ当な
しみじみした話をさわりとして入れるところが
寅が素人じゃないところ。
面白い爆笑ネタを言うだけではないのだ。




蓮台寺

蓮台寺の石段で箒で掃除をしている朋子

タクシーが停まってハンコ屋と寅が出てくる。
ハンコ屋「いやいやいや楽しかったなあ
運転手も笑って出てきた。
寅「お父さん、また頼むよ、ハハハ
二人とも笑って盛り上がっている。上機嫌で帰っていくハンコ屋さん。


それにしても長門勇さんは岡山県出身の俳優さんなので
実にネイティブ!(当たり前)(^^;)


ハンコ屋「いやいや、おかげさんで、ええ法事させてもろたわ。
  この納所さんの法話のありがたいこと、ヘヘヘ



             


朋子「
あーよかったぁー、うまいこといったんじゃねえ〜と安心顔
寅「ええ、まあなんとか

朋子のテーマ

と、二人石段を上がっていく。
朋子上がりながら

朋子「ねえ
寅「
朋子「どないな話しをされたん?
寅「いやあ、口からでまかせですよ確かに(^^;)
朋子「なんか…フフフ、面白そう、ハハハ
寅「ハハハ
朋子「ハハハ」と無邪気に笑う。

その朋子の横顔をまぶしく見ている寅。


             


この瞬間から寅は一目惚れから、
本惚れに移行していったねこりゃ。





B法事で寅と遭遇し苦悩し続けるさくら

柴又参道

川千家の前をさくらと満男が早歩きでとらやに向かっている。


なんと、偶然にも、博のお父さんの法事が備中高梁であるのだ。
今回は大きくなった満男も両親に同行。




とらや  店

さくら「あー、遅くなっちゃって、…!あら

御前様が源ちゃんを連れて見送りに来ている。

おばちゃん「御前様がわざわざお見送りに来て
    くださったんだよ

さくら「まあ、おそれいりますとお辞儀。
おいちゃん「はやいもんだねえ、もう3回忌かあ、ねえ
さくら「うん
おいちゃん「博さん、お兄さんやお姉さんによろしく

お姉さん????
おいおい、博にお姉さんなんか
第8作の母親の葬式の時はいなかったぞ(@@;)


おばちゃん「さくらちゃんも大変だね、末っ子のお嫁さんだからおばちゃん年の功(^^;)

一同 笑いながら納得

と言うことで出発する諏訪家の3人でした。

店先まで出て、見送る一同

おいちゃん「いい天気だ
社長「
楽しい旅だといいねえ
御前様ぱったり、寅と会うたりしてえ…
う〜ん鋭い!
おいちゃん「は…
御前様いや、冗談冗談、ハアア!ハアア!ハアア!

といつもの御前様笑い(^^;)
源ちゃんもいつもの指差しヒヒヒ笑いで去っていく。


             


おばちゃん「まああ、お人が悪い、フフ
おいちゃん「悪い冗談を、フフ…どうも、フフ
社長、大笑い。

御前様のお告げでした(^^;)




高梁  蓮台寺


寅が納所坊主の格好で鼻歌を歌いながら
境内の砂に線模様を描いている。

♪ラララララララッタンタンタンタン、
 ズンチャカチャ、ズンチャ、チャチャ、
 花摘むうう野辺に
 陽はあああ落おおちいいて、
 ペロペロペロぺ、ポンポンポン♪


「誰か故郷を思わざる」

昭和15年(1940年)作詩西條八十、作曲古賀政男
霧島昇の歌でレコード化され、大ヒットした。
           

高梁と言えばあの「誰か故郷を思わざる」だよね。
第8作「恋歌」の博の父親
 諏訪一郎(ひょういちろう
と寅のやり取りの名シーンだ。
今回もやはり寅は同じ歌を口ずさんでいる。



高梁  武家屋敷通り


博の父親の実家の前
父親の実家の門を眺めている長男の毅
向こうの方に特急「やくも」が走っていくのが見える。


            
      

第8作「恋歌」では、同じ線路を蒸気機関車が煙を立てながら
力強く走っていたことを思い出す。
         ↓
                   第8作で寅たちの横を走るSL
           


岡村邸(博の父親の実家に使われた)



ゆったりと音楽が流れる。
毅、門を開けて、痛んだ扉を触っている。

この博の父親の実家は、第8作で博の母親が亡くなった時に
長い時間ロケされていた。岡村邸は広いの敷地面積を持っているので
維持が大変そうである。第32作では土壁などが修復されていた感じ。



      第8作で岡村邸の門の中に入っていくさくら          第8作で酒を買うために外に行く寅
             


父親の世話をしていたと思われる
近所のおばあちゃん道から覗いて


おばあちゃん「ありゃあ、まあ
毅「あ、おばさん、ご無沙汰しております
と道に出て行く。
おばあちゃん「まああまあ、毅さんじゃったあ
と、二人は挨拶を交わしている。


このおばあさんは岡嶋艶子(おかじまつやこ)さん。
彼女は、第29作「あじさいの恋」で加納作次郎の家で
かがりさんと一緒に女中をしていたあのおばあちゃん。


    
油屋旅館

油屋旅館の前身は江戸期の旅籠から始まる。
現在の館は明治期に建築された木造三階建て。



博の兄弟みんなロビーに集まっている。
さくら「満男のがおっきいじゃない
と、いとこ通しで靴の大きさを比べている。
衿子「膝からしたは私のが長いもん
一同  ハハハ
さくら、満男にちょうどのサイズ買ってやれよ(TT)
毅「おー、満男君だったな。よく来たねー
信子「フフ、博ちゃんの小さい時そっくりよ

おおおお!これが幻の博のお姉さん(信子さん)か!
よく見れば第47作の長浜に住む菜穂ちゃんの
お母さん(八木昌子さん)じゃないか(^^;)しかし
なんのために今更お姉さんを増やしたのか?

毅「信子はさくらさんと初めて
 じゃなかったのか?
初めて初めて(^^;)
信子「んー、お母様のお葬式の時会ってるわよォ会ってない会ってない ゞ( ̄∇ ̄;)
毅「ほー…知らないよネエ〜(^^;)
信子「二人ともまだ若かったから、フフフ
毅「衿子は?…
毅の奥さん「あ、この子は始めてよ

衿子「あ、でも私さくらおばさんとは電話で一度…

さくら「あ、またおばさんって言った
 とお茶目に衿子を叩こうとする。

衿子役は、若き日の森口瑤子さん、今とかなり違う雰囲気だね。
確かこれがデビュー作だよね。



             


さくらって「おばさん」という言葉嫌がるんだよね。
第10作「夢枕」でも岡倉先生の教え子たちにおばさんって
言われて怒ってた(^^;)


ちなみに、第8作「恋歌」では、毅の長男さんである
『友泰(ともやす)』君が来ていた。
つまり彼は衿子さんのお兄さんかな。


毅「おばさんは悪いぞ、ハハそう言う意味のおばさんじゃないんだってばヾ(^^;)

でも『叔母』なんだからそれ以外に呼びようはないよな。
いくらなんでも「さくらお姉さん」とは呼べないし(^^;)
「さくらさん」じゃ姪としては若干生意気だし…、
でも「さくらおばさん」とは二度と呼べない雰囲気なので
がんばって「さくらさん」ということになるのでしょうか…。
大変だねえ衿子ちゃん。

今回は修の奥さんもお子さんも来ていないなあ。
第8作の時には一家総出で来てたのに。


みんなで食事が終わって

池の写真を撮る満男

今回は満男は一道と同じくらい写真取りまくり。

長男の毅は、父親の家が懐かしいようである。

毅「僕には懐かしい土地だなあ。 
 暑い夏降るような蝉時雨の中をジンベェを
 着たおじいちゃんに連れられて高梁川に
 泳ぎに行くのがもう嬉しっくって嬉しっくて

信子「さくらさんお生まれは?
さくら「柴又です
信子「じゃあ生まれ故郷にずっとそのまんま?

そのまんまって、そういう人多いってば(^^;)
さくら「ええ、なんだか恥ずかしいみたいフフッ

毅「いやあ、羨ましいですよ、
 僕たち兄弟はみんな故郷が
 ないわけだから
ほんとほんと( ̄ー ̄)

毅「なあ修、…さっき親父の生まれた
 家見に行ってきたんだけど
」」
 あの家処分するのもったいないと思わないか?
 いやあ、オレ、定年になったらここに
 ひっこもうかな〜と思うことがあるんだ。

どうやら毅さんはここに後に住みたいようである。
他の兄妹の相続の権利の問題が浮き彫りになる。
一同に緊張が走る。


修「…ようするに判を押せって
 事なんだね、権利放棄の

毅「いやァ、そこまでは…
修「結局はそこに行きつくよ
 この問題 なあ姉さん?
信子さんは修さんより年上なんだね。
信子「パパに相談しないと分からないけど、
 ウチはそのお金あてにして増築始めちゃったのよ
早すぎるって ヾ(^^;)
修「いいよ、判をついても。ただし…
  オレの相続分買い取ることが条件だ

毅「そんなことができるなら相談などするか!

と泥沼的に大もめになってしまう。が、結局長男の毅さんの意見は
消えて、兄妹みんなで均等に分けることに。


             


毅、観念した様子で、憮然と

毅「わ、分かった!処分するよ…!
 きれ〜に四等分にして分ける。
 そ、そうすれば文句が無いんだ!!(
バン!)

怒って部屋を出て行く。

しかしいつもながら博の兄姉って、言ってることは正しいけど、
なにげに冷たい性格が滲み出ちゃってるね。


毅の気持ちは分からないでもないが、兄弟が多いとそういうことは
難しいかもしれないね。世知辛い世の中だからねえ。
小津安二郎監督の「東京物語」でもちょっとこれに似た世知辛さを
感じてしまう場面があった。
しかし、みんなそれぞれに世帯を持って必死で暮らしていて、その
遺産も人生設計の中に組み込まれていて密かにあてにいるのが
実は本音だと思う。だからここは割り切ってきちんと等分に分けるか、
そうでないのなら毅が分割でもいいから弟妹たちの取り分のお金を
工面し、支払ってやるしか方法はないとも思える。



一同、重苦しい空気のにいる。

電話 チリリリーン!チリリリーン!

博、電話に出る。

博「はい。あ、この度はお世話になります。

坊主に扮した寅が、博だと知りながらいたずらをしている。




蓮台寺 居間


寅が受話器を持っている。
寅「あ〜あ、左様でございますか。
博の声「はい
寅「大変失礼でございますけど、貴方様のお名前は?
博「あの、僕は三男の博ですが


             


寅「三男の博さん。あ、奥様もご一緒に参ります?
博の声「あ、はい、一緒です
寅「あ、そうですか、 いえいえ、はい、
 よろしくどうぞ(
チン・・・)

寅「ヒヒ、奥様はさくらさん。お待ちしております

と、愉快でしょうがない様子で目が三日月。
この性格たまらんなあ…さくら泣くよ… ┐(-。ー;)┌

                   ヒヒヒ、
             




鳥取県江府町御机

雄大な伯耆大山南壁紅葉(こうよう)が見える
シューベルトの鱒が流れる
写真を撮る一道
鳥取県江府町御机



             





高梁 蓮台寺 

満男が高梁の風景写真を撮っている



本堂の中

満男を呼んで

さくら「少しじっとしてられないの?
博「お前、落ち着きが無いぞ、近頃
博、満男の足を叩く。
修「お待たせいたしました。院家様がお見えです
和尚さん、そして後ろに寅がついている。

満男、寅を見る。

満男「…!!!!!!
 そりゃそうだ(^^;)

さくら、後ろに座っているおばあちゃんに気がついて、
後を向いてしまう。



                  満男呆然…(^^;)
             


博もさくらも寅に気づかない。
結局、前を見ていた満男だけが寅を見てしまう。


お経の前にたどたどしく2度鐘を撞く寅。
いかにも不慣れという感じ。

般若理趣経が読経される。

満男つい寅を再度確かめようとして
前につんのめる。


さくら満男を叩いて
さくら「ちゃんと頭下げてなさい
満男、さくらの耳元で
満男「母さん、あの人


             


さくら「どうしたの?
満男「寅伯父さんだよピンポン♪(^^)
さくら振り向いて
さくら「何言ってんのバカな子ね、和尚さんでしょ
信子、落ち着きがない満男をいやがっている。

さくら、一応念のために前のお坊さんを観察。

寅、お経の本をこねくり回している。
博「どうしたんだ?
さくら、お坊さんをまだ観察。
博もつられて見る。


             


寅、経文の紙をパラパラと落としてしまう。
慌てて、つい後を振り向き、さくらと顔を合ってしまう寅。

                     あ…
             


さくら、ガアアアアアーーーン!!!
Σ(|||▽||| )



                  わが目を疑うさくら
             


この世の悪夢をいっぺんに見た顔。
博、口半開きで呆然。



蓮台寺 墓

墓の前でみんな拝んでいる。

満男「どうしておじさんがお坊さんに
 なんかなっちゃったの?
真っ当な質問(^^;)

満男君それはね、マドンナがとびっきり綺麗だからだよ
ただそれ一点だけ(^^)

博「父さんも今それを考えてんだよ
そして母さんもね(^^;)

寅、遠くから
さくらになんとウインクσ( ^ー゜)



             


さくら、怒っている。

なぜか前にいた信子
急にドキッとして(^^;)

信子、さくらに、


信子「ねえねえねえ、あのお坊さん、
  私にウインクしたわよ、いやらしいわねえ
山田演出に座布団一枚。
と、言いつつちょっと嬉しそう((((^^;)


             

さくら「すいませんとついつい頭を下げる(^^;) 山田演出に座布団もう一枚。
信子「あなたがあやまることないでしょう?そりゃそーだ(^^;)
博、さくらに合図、
さくら、気づいて

さくら「あ、そうですね
信子「変な人ね、フフフ

まさか山田監督、このギャグのために
わざわざ博のお姉さんを急遽作ったんじゃ
ないだろうな。ありえるぞこりゃ…。



博、さくらを見て、

博「
顔色が悪いぞ、大丈夫か?
さくら「ええ、お兄ちゃん何か悪いことでも
 してるんじゃないかしら、あんな格好して…

博「いやそんなことないだろう。
 とにかくここに墓参りに来たんだよ。
 それははっきりしている

さくら、ふらふらになりながら
さくら「そうねえ…
        

博「問題はあとで何があったかだなあ…
女性問題女性問題、思い出せよ過去のデータを(^^;)


石段の上から女性の声

朋子「寅さぁん!
さくらと博驚いて上を見る。
さくら&博
 「!!!


                    !!!!!
             


寅「あ、はいはい」 
と鉄のポールをまたぐ寅(^^;)
朋子「
あの、ちょっと、フフフ…
寅「はいと軽快に駆け上がっていく。

朋子笑いながら寅と法事の打ち合わせをして
寅の後を駆けていく。


さくら、下からそれを見て、フラフラと倒れそうになる

博、慌ててさくらをサポートし、
博「しっかりしろ
さくら「はあ……と目が虚ろ。

さくらこのシリーズ最大のピンチ!
おそらくさくらの中で数々の妄想が
渦巻いているのかもしれない(^^;)



             


寺の中  座敷

みんなで食事をしている。
毅、和尚さんのところに挨拶にやってくる。

寅、手を合わせる。
毅「お世話になりました
お銚子を持って
毅「ま、おひとつどうぞ

やっぱり、毅さん、第8作でお母さんの葬式に来た時の
寅の顔を思い出さないんだね。「笑ってェ〜!」事件まで
あったのになあ…。思い出さないんだね。

毅さん、自分の兄妹たちを次々と寅に紹介していく。

第8作ではこの毅の奥さんの名前は「咲江」さんだった。
改名したのか?それとも同じ顔の双子のもう一人と
再婚したのか?んなわけないか(^^;)


寅、手を合わせてお辞儀。

毅「長女の信子といいます
信子、お辞儀。
寅「は、お美しい方でございますな
そんな発言したら、さっきのウインク勘違いされるぞ ヾ(^^;)

毅「次男の修です
修「あ、修です
寅、お辞儀

毅「
末っ子の博です

寅「博さんとおっしゃる、
 おほー!これはこれは


なんだかよく分からないリアクション(^^;)


             


博、顔をこわばらせながら、お辞儀。

満男ポカーン

さくら、下を向きっぱなし、失神寸前…(TT)

毅「そのとなりが妻のさくらです

寅「さ、さくらさん?いちいち反応するなって ヾ(^^;)

寅「おー、ホホホ、遠いところを
 ご苦労さまでございます


おいおい、どうして遠いこと分かるんだよ 
ヾ(^^;)

さくら、額に冷やせをかきながら、かろうじてお辞儀。

さくら、またもや目がくらくらして

さくら「私どうにかなっちゃいそう
さくらがこんな言葉を…(TT)

と、博の方にふらついてしまう。
限界が遂に来たさくらでした(TT)


             


満男、心配そう。
博「ちょ、ちょっと表出よ

博、身を乗り出して毅に、
博「兄さん

あ?

それと同時に寅も反応してしまう。

えー?なんだ?

おいおいおい( ̄□ ̄;)


毅きょろきょろしてしまう。だよね(^^;)

一瞬みんなシーン。

寅「え?????

博、どうしていいか分からなくなって下を向いて
さくらもどうしていいか頭真っちろけ(TT)

博「……


             


さくら「……
寅、はっと気づいて、毅と顔を見合わせてしまう。
寅「…!!
毅「…?????(゜o゜;)
山田演出に座布団2枚(^^)


             


寅、いきなりニカーッと笑って
無理やり話題をそらす。

寅「ハハ、しかしあれでございますねえ、
 何回見ても結構な
お庭でございますね。

無理あるなあ〜(^^;)

そのあと、寅笑いながら、さくらの後を追い、廊下の陰でさくらに追いつく。

さくら、泣きそうな顔で寅のところへやってくる。
全く理解不可能で脳みそショートして頭からバネが
たくさん飛び出して限界を超えている感じ。

寅「ヒヒヒヒヒ!!ヒヒヒヒ!ヒヒヒ、
 おまえたちのことをよ、
 たっぷり驚かしてやろうと思ったけど
 返事したのまずかったな。



             


さくら、後で誰か聞いていないか心配そう。

寅「途中までうまくいったでしょう?
 うまいねと思ったでしょう、
 フフフ、ね、ね、フフ…


あんただけだよ面白がってるの ヾ(-_-;)


さくら、寅を睨んでいる。
寅「怒んなよおまえ〜、んな〜
さくら「さっきから私がどんな気持ちで
 いたかわかんないでしょう


さくらメソメソ(TT)
寅「からかっただけじゃねえかさ〜
さくらメソメソ(TT)
寅「泣くなっての

さくら、真剣な顔で
さくら「ねえお兄ちゃん、正直の答えて頂戴、
   ここのうちの人騙して、なにか悪いこと
   でもしてんじゃないでしょうね

寅にそんな甲斐性はないよさくら ヾ(^^)
寅はバカな男だけれども嘘はつかないから。


寅「ばかやろう、オレはそんなことするわけねえじゃねえか。
 これにはいろいろと深い事情があるんだよォ〜、
 な、あとで話するから


谷よしのさん、法事の手伝いの人役で廊下に出てくる。

これは、あのハンコ屋の法事の時の谷よしのさんなのか
それとも別人役なのか?一人二役か??
この辺の解釈は難しいところ。


谷よしのさん「納所さん、お嬢さんが呼んどられるでな

寅「はい!、ただいま

さくらハンカチで涙を拭き、
ため息をつき、席へ戻っていく。

さくらは寅からまだ何も聞いていないので理解不可能。
しかし、お寺の娘さんの存在が実は関係していることだけは
たぶん今までのデータからはじき出せたはず。





備中高梁駅  


博とさくら沈んでいる。
さくらは長いすに座っている。
満男相変わらず写真取りまくり。


博「ほんとにいいのか?このまま帰ってしまって
さくら「だって無理やり連れて帰る
 わけにはいかないでしょ

まだふられてないから帰らない帰らない(^^;)
博「でもなんだかオレたちまでグル
 なって騙したみたいじゃないかァ

さくら「じゃあどうすればよかったって言うのぉ?
と不満げ。
満男近づいて

満男「こんなとこで喧嘩すんなよー
博「

満男には悪いが、私はこのシリーズで
さくらと博が喧嘩しているシーンがとても好き。
満男のこと、寅のこと、博の独立のことなどなど、
数々の名シーンがある。



遠くから朋子の声
朋子「あ、寅さん、そこ
階段を下りてくる朋子と寅。
朋子「ま、どうも失礼しました
さくらお辞儀。
朋子「妹さんだそうですね


             


朋子「もう、びっくりしてしもうて、
 どうしてはよー言うてくださらなんだ
 言うて寅さんに怒ったんですよ

朋子と寅顔を見合いってフフフ笑い。
さくら「申し訳ありません
さくら「あの、ちゃんとご挨拶しなくちゃ
 いけないと思っていたんですけど、
 なんだかガタガタしてて、時間がなくて


頭がまっちろけで、気力がなくなって…が本音(^^;)

博「ええ…
朋子「こちらこそ、もうお兄様にえろうお世話になりまして。ねえ
と、と寅の方を向いて笑う。とても仲がよさそう。

さくら、お辞儀。

お土産にマツタケを貰う。

さくら「兄がさぞご迷惑かけてるんでしょうね。
  なにしろ、変わりもんですから

朋子「とんでもない、寅さんのお陰で父がどねえ助かっとるか。フフ。
  檀家の方たちがね、寅さんの法話のほうがよっぽどありがたい言うて、
  フフフ、大変な人気なんですよ


博「法話なんかするんですか?兄さん
寅「え?法話なんてもんじゃないよ。
 口からでまかせ、ね!


そうそう啖呵バイの口上しゃべってます(^^;)

朋子、微笑んでいる。



汽車がホームに入ってくる。

特急「やくも
381系国鉄特急




C寅を思い始める朋子さんと、和尚さんの大失敗



柴又 とらや


柱時計が8:00PMを打つ。


さくら「汽車の窓から見てたらね二人仲良く並んでいつまでも
   手をふってんの。私涙が出てきちゃった

おばちゃん「わかるよぉ
おいちゃん「はあ
満男「母さん法事の間中真っ青。
  帰りの新幹線なんか放〜心状態、ねえ

博「うん、
さくら「行かなきゃ良かったわ、
  高梁なんて高いお金かけて


しかしまあ、煩悩の塊のフーテンの寅がお坊さんの真似事を
しているということ自体確かにかなり怖いよね(^^;)

おいちゃん「で、独身なのか?そのお寺の娘さんは?
おっと、まんまの質問(^^;)

博「一度結婚したけど今は別れたたとか
おばちゃん「きれいな人なのかい?
おっと、これまたかなり鋭い質問。
そこが全てのポイント(^^;)


博、少しあらたまって…

博「何といいますか、
 美しさの中に知性を秘めた
 とでも言いますか…


なるほど……博も好みか…( ̄- ̄)

             

おいちゃん「あ〜あああ、だめだそりゃだね(^^;)

さくら「法事とか、いろんな寄り合いとか
   その段取りをね、全部お兄ちゃんがやるんですって

おいちゃん「そんな馬鹿な、あの役立たずが評判がいいだなんて
博「いや、その事なんですけどね、
 僕たちは兄さんの事を
頭からダメな
 人間
だと決めつけてしまってるんじゃないでしょうか
 可能性を見つけて
やると言うのが本当の愛情なんですよ

「見つけてやる」って、中学生の不良を持つ親や先生
みたいなこと言ってるね(^^)


社長「そのとおりだよ

おばちゃん「私たちは寅ちゃんの教育に失敗したのかねえ
おいおい、おばちゃんおばちゃん ゞ( ̄∇ ̄;)
一同「クフフフ
おいちゃん「遅いよ今頃後悔したって


おいちゃんとおばちゃんは実は寅の青年期(15才まで)の
人間形成にはさほど関与していない。20年ぶりの帰郷以降も
ほとんどとらやにいないので教育する暇がない(^^;)
だいたいが大人になってからの寅は人のことに耳を傾けるタマではない。

ちなみに寅はマドンナがらみの仕事の手伝いは
神がかり的な力を発揮するのだ。
第5作の浦安の豆腐屋、第20作の平戸のお土産屋などなど。


それはそうと、社長は今回こそは、倒産かもしれないと気持ちが
沈んでいるのである。元気がない。


おいちゃん「だいぶまいってるなあ
博「今が一番苦しい時期ですからねえ
いつもいつも一番苦しい感じだけどなあ…(^^;)




高梁 蓮台寺

蓮台寺 居間


授業料未払いの通知の紙を一道に見せる朋子。
どうやら一道は、大学の授業料を自分のカメラに全部使ってしまったようだった(TT)
朋子「春休みに渡したはずでぇ、今年の授業料。
  なんで払わんの?何かにつこうたん?

普通は授業料は保護者が銀行振り込みするだろが。
学生に手渡しなんかしないよそんな大金絶対に。

一道「
朋子「あんたの事じゃけえ、悪いことに
 お金を使うたとは思わんよ。
 何か必要なもんがあったんじゃろ?言うてみんさい



            


一道「キャメラ買うたんや

あちょー!!ごくつぶし〜!
Σ(ノ▼ο▼)ノ ~┻━┻ (/o\)



和尚「今何ちゅうた!?だよな(^^;)
朋子「お父さんお願い!一道!謝んなさい!ねッ!
謝っても済まんよ(TT)

で大喧嘩の挙句、一道は大学を辞めて、東京にカメラの修行に
出て行くことに。

朋子「いけん!そげな事いけん!

和尚「朋子は黙ってろ!

   ええか、一道ィ。
   二度とこの家の敷居をまたぐなえッ!



            


一道、涙を流しながら

一道「ほんなら姉さん…オレ、この家出るけん…

自分の部屋へ走っていく。

なんとか一道を許してやってくれと泣きつく朋子に
和尚さんは…



和尚「ええか、いっつでもこう言う時はお前が
 間に入って、それが結局一道を
 甘やかす事になってしまうんじゃ
 それじゃいつまでたってもあいつは
 一人前になれんのじゃ!

和尚さんの言う通りだよ、朋子さん(ーー)

それにしても、一道、一年分の授業料を
カメラ代に全部使うとはたいした度胸だ。
ちょっとあんまりだとも思うが、それほどにも
写真が好きなんだね。さすがにあとで稼いで返せよ。




紺屋町

白神食品店

電話が鳴っている。
電話をとるひろみ



ひろみ「もしもし、あ、あたし。こんにちは、
   ちょうど良かった今配達から
   帰ってきたとこじゃ。フフ、今どこ?
   近くにおるん?駅ィ?
   なあんで駅なんかに。

   ああ?東京!?
   今から東京へ?
   なんでえ〜?
だよなあ(TT)


             



高梁駅改札前の公衆電話


高梁市周辺観光地案内地図


事情を簡単に説明する一道。
いきなりで動揺するひろみちゃん。


一道「あ、そうだ、なんか困った事があったら、
 うちの姉さんか寅さんに相談
 すりゃあええけん、もうゥ、列車が
 入って来た、俺いかにゃいけん、


列車の汽笛 プォ〜ン…




白神食品店

一道の声「もしもし、ひろみ
ひろみ「はい…
一道の声「元気でな、 俺いつか絶対に
   迎えに来るけん さいなら

ひろみ「嫌!!あたしイヤ!行かないで!

電話の受話器から「 もしもし!もしもし!
という
ひろみの叫び声が聞こえるが電車が来たので、
切ってしまう一道。
(
ガチャッ)

改札を急いでくぐっていく一道。



白神食品店前


自宅を出て、泣きながら
走って走って走り続けるひろみ。


悲しく、ひろみのテーマが流れる。


             


佐々木食料品店の近くの
踏切までやって来て電車を見上げ、
必死の思いで一道を目で探すひろみ。


一道が窓から顔を出している。
ひろみ「一道さん!!
一道も同時に気づいて
一道「
ひろみいいいいー!


             


ひろみ「行ったらいけん!行ったらいけん!
  ウウアァ〜〜…!

と泣き崩れ、しゃがみこんでしまうひろみ。


なんか、歌手の太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」と
いう歌を思い出したよ。こういう別れは、地方都市では
たくさんあるんだろうなあ…。ひろみちゃん諦めるな!
杉田かおるさん熱演だね。あの方本当に生真面目だ。






蓮台寺  居間

和尚さん夜の御勤め
般若心経(仏説摩訶般若波羅蜜多心経)

寅が今日の騒動のことを朋子から聞いている。

寅「へえーあの青年が朋子さんの
 止めるのも聞かずに




朋子、夕食を作りながら

朋子「
二人とも興奮して、
  私の言うことなんか耳にはいりゃへんの

朋子、食事を運びながら
朋子「こげえな時、寅さんがおってくれたらと思ったけど
   寅さんは法事に出てておられんでしょう

もう完全に寅に法事は寅にまかせっきりの朋子さん一家でした(^^;)

寅「とうとうやりましたか、あの青年は
朋子「どうなるんじゃろね、この先…
寅「大丈夫、そんな心配するこたあ、
 ありませんよ。男の子はね、
 おやじと喧嘩して家を出るくらいでなきゃ、
 一人前とは言えません

自己弁護(^^;)


朋子「そういうもの?
寅「そういうものです。この私がいい例ですよ
いい例ではないだろう。悪い例だろ(^^)

朋子「寅さんも家出をしたことがあるの?
あるの?なんてもんじゃないです(^^)
寅「はい。恥ずかしながら中学2年の時でした
その原因が恥ずかしい…(^^;)

朋子「やっぱりィ…、生き方の上でお父さんと意見が対立したん?
生き方って…ちゃうちゃう (-_-;)(;-_-)
   
寅「生き方…。フフ、そんな面倒なこと
 じゃありませんよ。えー、私が不良仲間とね、
 ヤツデの植え込みの陰でもって、
 
エンタを吹かして、
 あ、失礼、
モクを吹かしていたわけです
指でタバコを吸うふり、 
『スパッ、スィー、フー!』


とタバコを吸うマネ。上手いね〜。
朋子「ま…フフフ


             


このシリーズで寅はタバコは吸っていない。
タバコを吹かすマネをするのも唯一このシーンだけ。
テレビ版男はつらいよではかなり吸っている。


朋子さん、笑いをこらえている。
寅「ちょうど風向きが悪かったんですなあ
寅、おやじのしゃがみポーズを真似て
寅「便所の中でこうやって糞をしていたオヤジの小窓の
 ところに煙がスーッと入ってきましてね。
朋子「えー?
寅「
オヤジがそれ見て、パーッと飛び出してきました。
朋子「まあ
寅「まあ、怒って、いきなりそばにあった
 薪ざっぱで私の頭を
 ポカーーーン!!

寅、朋子さんに殴るマネ

             


朋子「キャ!ハハハ(*/∇\*)と手で頭を覆ってすくむ。


             


寅「えー
朋子「えー いい合いの手(^^)
寅「頭がパカーッと割れてねおいおいゞ( ̄∇ ̄;)
朋子(無声音)「あらあ…うそうそ(^^;)
寅「血がピューーーっっと吹き出て
おいおいおいゞ( ̄∇ ̄;)


朋子「うわーっこの合いの手いいねえ(^^)
寅「脳みそがどろどろどろと出ちゃった。」
ホラーだよそれじゃ ヾ(- -;)
               
朋子「そ、やだー、フフフ
さすがに朋子嘘だと気づいて
朋子「ハハハハハ
寅「いくら、オヤジだって子供の脳みそ
 出すって言うのはあんまりだよ!!

脳みそ出すって…死にますよそれじゃ(^^;)
朋子「そんな…フフフフフ!と手で顔を隠して笑いが止まらない。
朋子さん、首を振りながら大笑い。
寅「
この野郎と思ってね、オヤジの
 一番大事にしていた『オモト』を

朋子「ええ
寅「ね、その植木鉢をオヤジに
 向かってバカーーーッ!!!



             

とまたまた朋子の方へ投げつける真似。
朋子「キャ!! またまた(*/∇\*)
寅「って投げつけたね!オヤジは怒りやがってね
朋子「ハハハ
寅「出てけえええーー!!
朋子「フフフ
寅「上等だ、それを言っちゃあおしまいよォ!!、
 ガラッ!!と開けてサァーー!!

朋子「はっ、ハ!
寅「家を飛び出して、それっきりですよ

朋子、笑いをこらえながら、
朋子「そいで、フフフ、そいで、フフ、
 そいで寅さんは一人前になったわけ?

寅、手を合わせながら、
寅「そうです。それでになりましたァー
と、にっこり。



             


朋子、笑いと涙が止まらない。
朋子「フフフ、ハハハ、そお、フフフ
救われたね、朋子さん。
寅は白魔術をかけてくれたんだよ(^^)


和尚さん、寅たちのほうにやって来て、
和尚「コホッ、ンン
寅「あ、きたきたきたきた、
 夜のお勤めはもう終わりましたか?

和尚「何をわろうとる?
寅「フフフ……なんか用?
和尚「……
寅「…あ、…一杯やりたいのか?
 いいよ、付き合うよ。


和尚「お染はいけんぞ、お前ばかりもてるからのお
この発言で、寅が和尚とよく出歩いていることや
この町ですでに人気者なことが分かる。
寅「分かった分かった、じゃあ、小春にしよう、ね、
寅「和尚さん、小春のママね、和尚さんに惚れてるよ。
和尚「つべこべ言わずにはよ来い!
寅「嬉しいくせに、本当なんだから      

朋子「お父さん、あんまりおそうなったらいけんよォ
和尚「うるさい
寅「今晩はちょっと荒れますよ
朋子「ごめんなさいね
寅「いえ
もうすっかり高梁の町の住人になっている寅でした。

外に出た寅を呼び止める朋子。
朋子「寅さぁん…

朋子のテーマが静かに流れる。

寅「はいっ、何か?
朋子「こんな時寅さんがおってくれて、
 どんなに助かったか分からない



             


寅「そうすか、そら、よろしゅうございました
と、しみじみ嬉しそうな寅。
和尚「おいっ、はよこい!
寅「はい!はいはい それじゃ、


             


朋子「フフ

寅との楽しい会話を思い出し笑みを浮かべながら、そっと戸を閉める朋子。

自分たちが精神的に最も苦しい時に、
そばに寄り添ってくれて、大丈夫だと励まし、いたわり、
笑わせてくれる寅の底抜けの優しさに心を癒されると同時に、
寅の精神のたくましさ、懐の深さを、心底頼もしく思い、
自分の中に男性として寅を思う気持ちが密かに朋子さんに
芽生え始めたような気がする。
彼女のあの目を見て私はそう思った。



                   




高梁川近くの方谷林公園。

シューベルト 「鱒」が流れる。

この曲、もうすっかりこの若いカップルのテーマ曲になちゃいました。

ひろみが泣いている。

寅「そんなに悲しむこたあねえじゃねえか。
 なにもお前のこと捨てていっちまったわけじゃねえんだからさ

と、いろいろ励ます寅だった。

            

ひろみ、はっと気づいて

ひろみ「は、寅さん
寅「なんだ姉ちゃん
ひろみ「東京には綺麗な女の人がいっぱいおるんじゃろ
寅「…、さあ、どーかなあ…。スー…、
 
女の方にあんまり
 関心がないからオレは…

よくしゃあしゃあと言うよ、まったく ┐(-。ー;)┌
ひろみ「おるわきっと…、そげんな所行ったら、
  きっと一道さん、私のことなんか忘れてしまう。
  …だってあの人、モテルんじゃもん
とまた半泣き(^^;)

ひろみちゃんも一道を追いかけていけばいいなんて、勝手なことを
助言したりもしている。
しかし、ひろみちゃんの家庭はお父さんが病気がちなのだ。

寅「
ん、姉ちゃんが幸せになることだったらさあ、
 父ちゃんだって母ちゃんだって考えてくれるんじゃねえか、
 あとのことはァ…。

 ほら、一道だって、寺の跡継ぎ放り出して
 東京に行っちまったじゃねえか


ひろみ「せえでも…、寅さんは朋子さんと
  
  結婚して跡を継ぐんでしょう?
おおっとお!話はもうそんなところまで!(^^;)
寅「…、え?
ひろみ「私はひとり娘じゃもん

朋子のテーマ流れる。


寅「そういうことはまだ…、
 だ、誰が言ったの?
ハンコ屋ハンコ屋(^^;)

寅、明らかに嬉しそう。


              


ひろみ「みんなそう言うとるけど、違うん?
みんなって…(−−;)

寅「え?…いやあ、そういうことは…
 あんまり大きな声で
 言わない方がいいんじゃないの

たじたじ、そわそわ、うきうき。


ひろみ恐縮して

ひろみ「はい
寅「ね、まだ、確定的なことじゃないから、フフ、はあ〜
確定的って…(^^;)


                


ひろみ「はい

寅、ニッコニコ顔で

寅「なんか美味しいもの食べに行こう、ね。
 なんでも御馳走するから。行きましょ


もう平常心を完全に失っています。






高梁川 川べり


釣りをするハンコ屋とタクシー運転手

ハンコ屋「まあ、倅を追い出して、自分は養子に入る。
   どうやら寅さんの
思い通りにいっとるようじゃの

そんな計画的みたいに…。凄い方向に話が進んでいます。
やっぱ、この二人が高梁中に撒き散らしてるんだね(^^;)



                


タクシー運転手「いや、養子になるちゅうても、寅さん
        ほんもんの坊さんじゃないじゃろが

ハンコ屋「はー、せーじゃが。せーが朋子さんの悩みじゃ、ちゅ話じゃ

悩みって…、朋子さんのことまで自分で
脚色をしてるんだねハンコ屋さん…(^^;)
何度聞いても長門勇さんの岡山弁はいいねえ〜。地元だからね。






蓮台寺


風呂場

和尚が湯船に入っている。
まだ少々ぬるいらしく、
朋子さんが風呂に追加の薪を入れている。

朋子「ひやっ、あちち…
朋子さんフーフー息を吹いている。
和尚湯船に浸かりながら鼻歌

和尚「♪はああなつう〜むうう〜、のお〜べ〜にィ…、
  日はあああ〜、おちいいい〜てええええ。え、

この鼻歌、ちょっと聴いただけでは分からないが、
よおおく聴くと「
誰か故郷を思わざる」だ(^^;)



              



寅、笑いながらひょこひょこやって来る。

朋子と目が合う、


朋子「ありゃちょっと華やぐ朋子。
和尚の入っている湯船を指差しフフフと笑い
寅「しーと口に人指し指をあて
クスクス笑いながら手を火にかざして
朋子の隣にしゃがむ。


朋子無声音で
朋子「お帰りなさいとニッコニコ。


              


このちょっとした二人のしぐさで、
もう相当仲がいいことが見て取れる。

こんなにお互いの心がピッタリ寄り添う
カップルはこのシリーズの中でも珍しい。

二人の背中が彼らの相性を物語っているのだ。




寅薪を持って、笑いながら
寅「だいぶ御酩酊ですね
寅「ああ…、お父さんも辛いんでしょう
朋子「
朋子、寅と顔を見合わせ微笑む。


              


和尚「おい!朋子!
朋子「なあにい?
和尚「お前な、そろそろどこぞへ
   いったらどおない?

手ぬぐいがポチャ〜ンと湯船に落ちる。

和尚「
う〜ん

              


朋子ビックリし、思わず寅の方を見てしまう。



              


そして、すぐ下を向く。



              


朋子「ハ、お父さんこそどうするん?
  私が居らんようになったら

和尚「わしは寅さんと二人でのんびりやっていくわい
朋子、寅を見て、照れながら、微笑み、
また下を向く。


和尚さん、寅といつまでも暮らす気なんだね。
寅のことよっぽど気に入ったんだなあ。


寅「ヘヘへ
朋子「ハ…
寅、ニコニコ笑っている。

和尚「それともお前、寅さんを婿養子
   にでももらうかい?お〜?



朋子、寅をパッと見て、

どぎまぎして目がおろおろ動き、動揺する。


朋子「あっ


              


カシャーン

と薪をくべる時に使う金属棒を下に落とす朋子。

朋子「お父さんそげなこと、…


              


寅、まったく動じず、のように見えるが、
微妙に顔がどぎまぎしている。
になっているのかも(^^;)



和尚「いつかお前言うとったろ
  今度結婚するなら
 もうインテリはこりごりじゃい、言うて、
 いっそ、寅さんみたいな人がええ言うて


朋子、緊張しながら、ちらっと寅を見る。


           


和尚「
 なァ!そげー言うたじゃろ

朋子、居たたまれなくなり、思わず立ち上がる。
ほぼ同時に寅もつられるように立ち上がる。


朋子、下を向き、緊張し…、


           


思い切ってこわごわ寅を見る。


           


朋子のテーマがゆったりと流れる。


朋子、寅と目をしっかり合わせ、

朋子「ハハ は…と照れ笑い。


             


寅のほうは頭まっちろけで、目をパチクリ。
どう対処していいかわからない。


           


朋子、寅の緊張した目に耐えれなくなり、
逃げるように目を伏せ、
寅の横をすり抜け、母屋へ走っていく。


           


サンダルを、母屋に入る手前で脱いでしまい、
靴下で土間を歩き、急いで居間に上がってしまう。


寅が慌てないのは、たぶん今何が起こったのか
頭の中で整理されていないから。

依然として思考停止。

まっちろけっけ(^^;)


ああ、それにしてもこの夜の朋子さんは
いつにも増して美しい…。



           




和尚、何も知らず

和尚「おい、朋子?

寅、我に帰り、
あわててしゃがみ、せっせと薪をくべる。


和尚「居らんのか?

寅「え?と言って、母屋を振り返り、きょろきょろ。

寅「イエ、オリマセンノォと、朋子さんの真似。

笑いました、これは。渥美さん上手すぎ(^^;)

朋子さんがそこにいたら「オリマセンノォ」って言うわけ
ないよな(^^)



               イエ、オリマセンノォ…(^^;)
             


和尚「?!!ちょっとビビって、
 「まさか」と思い、
和尚、ガタッとガラス戸を開け、寅を見て、



寅「
和尚「
もう一度
寅「
和尚「


2度づつ「あ」を言い合うところが
二人とも実に上手いねえ!この二つの「あ」は
渥美さんと松村さんの歴史を感じさせるね。
この二人のかけ引きはただもんじゃないね。



                 あ
             


寅「お背中でもお流ししましょうか?
和尚「あ…、〜いや、結構でございます・・笑いました(^^)
と極めてバツが悪そう(^^;)

寅「あ、そうですか。はい
と小声でぼそぼそつぶやき、立ち去る。

和尚、寅の行くえを恐々見ている。

ようやく、嬉しさを実感してきた寅、
目が宙を舞って、足も宙に浮き、
恍惚とした顔でひらふら去って行く。


寅、平衡感覚を失ってしまって、柱にぶつかり、
そのあと、足を滑らしそうにもなりながら歩き、
朋子さんが入っていった台所を外から覗いて…、
彼女を見たのか、とっさに顔を下げ、

背広の裾を持ってふわふわ歩いていく。
文字通り夢心地  〜〜〜〜(  ̄ー ̄)♪


      
             


寅はこういう時が一番幸せなんだろうね。
恋愛成就一歩手前って位置がいつも
好きなんだよなこの男は。
いつもそこどまり。
でも、それじゃ、相手が可哀想なんだよな…(ーー;)

遠く、第1作「男はつらいよ」で、夜の帝釈天参道を
「喧嘩辰」を口ずさみながら踊っていた寅を思い出した。



ともあれ、この夜の寅は、人生最高のひと時だったのかも。







翌朝 蓮台寺境内

居間


居間で和尚さんが寅の置手紙を読んでいる。

朋子さんは台所仕事している。



私、思[う]ことありまして
故郷にもどります。
今後の身のふりかたにについては、
肉親とそうだんいたします。
どうぞお体を大切(つ)に。 

            寅次郎



                


和尚「そらあ、おられまいなあ…、
  あげなことあっちゃ…

朋子、何かを考えている。

朋子、庭に出てほうきとちりとりを持ってとぼとぼ歩く。



居間では和尚が反省している。

和尚「
まずい事をしたなあ・・・と指についたご飯をなめる。


境内から町を眺め、
昨晩の失敗を悲しみ、
遠く寅に想いを馳せる朋子。


               


なんでまあこうなるのかねえ…。
やっぱり寅って臆病なんだねえ。

普通なら、あのあと二人の仲は進展するはずなのに、
緊張感に耐えられず、寅は今回も逃げてしまったのだ。

寅はいつもあそこまでだ。
相思相愛の緊張感と、待っているであろうリアルで責任の
伴う未来に耐えられないのだ。

しかし、ちょっと待てよ。あの置手紙…。
「今後の身のふりかた」「肉親と相談…」って書いてあったな。
ってことは、朋子さんとの結婚を真剣に身内と相談し、考え、
決意するためにいったん故郷に帰るってこと??

もしそうだとしたら、朋子さんはあの文章の真意は分かって
ないな。





D出家の決意を発表する寅と三日坊主


京成柴又駅


寅が駅から出てくる。無賃乗車なので駅員さんに追いかけられるが、
寅は頭が朋子さんのことでいっぱいで上の空(^^;)


駅員「きっぷきっぷきっぷ人見明さん、ご苦労様です(^^;)


             


寅「いらない、いらない要るよ(^^;)
駅員「いや、あの、こっちがいるんですよ
寅「いらないいらないあんたは要らないんだろうけど(^^;)

ようやく寅からキップを受け取った駅員さん、
切符を見て


駅員「
…! 岡山ァ?!




とらや  店

寅の声「
ハハハ!すっかりご無沙汰しちゃって、ね!え!

おばちゃん「あ…寅ちゃんと、いきなり現れた寅にポカン。

寅さくらの方に手を上げて
寅「よ!さくら!あの時はちょっとおまえのこと
 驚かして悪かったな。え

さくらポカン


             


寅「おいちゃん、年とったよ年を。
 フフフ。元気だよ、元気オレは!
 ハハハ!ハハァ!

と、異様なハイテンションで、
両手で元気印をポーズ!

さくら、かろうじて一緒に微笑む。
寅「
あーあ!は!あ〜、
 パチ!(両手を叩いて)
 とらやか!んー!しばらくだ!
 懐かしいな、何年ぶりだ!?えー!


もう完全に状態。目が宙に飛んでいる。
気が違っている。笑いっぱなし。

完全にあの夜の朋子さんとのことを引きずり、
未来を想像し、舞い上がっている(^^;)

これは何かを決意してるんだね。



さくら「何言ってんの、七月に帰ってきたでしょう?
寅「フハハハ!そうそう、
 あれからもういろんなことが
 あったからねえ。5年も10年も
 たったような気がしちゃったよ。うん、フフフ!

完全に常軌を逸しているね(^^;)


さくら「それで高梁のお寺の仕事はもう済んだの?
寅「ん、うん、一応済んだ済んだ。…え?
さくら「…?
寅「なんでおまえ高梁のお寺のこと知ってんの?

おいおいおい、さっき『あの時は驚かして悪かった』って
さくらに謝ってたばかりじゃないか、頭大丈夫か? ゞ( ̄∇ ̄;)


さくら「あ、私、行ったでしょ、法事の時
寅「あ、はははは、あ、そんなこともあったな
もうすべて心ここにあらず。何を聞いてもうわの空。
反応するだけ無駄無駄 ヾ(-д-;)


おいちゃん「????だよね(^^;)


             


おばちゃん「さくらちゃんにいろいろ聞いて、
   心配してたんだよ

寅「どうもありがとう。…
 実はね…、そのことでもってみんなにぃ…、
 聞いてもらいたいな、と思って帰って
 来たんだけどね、うん、
 スーッ…、えーっと…


自分の世界に入り込んでいる寅。
とりあえず二階に上がって心と身体を休ませることに。

おいちゃん「やっぱりふられたんだな…そうくるか(^^;)
さくら「そうかしらぁ…
おいちゃん「心配かけまいと思って、無理に明るく
   ふるまってんだろう。バッカだなあ…

さくら「
さすがのおいちゃんも今回ばかりは見切れてない。





帝釈天  夜

鐘の音ゴ〜〜〜ン


とらや茶の間

タコ社長が台所に入ってくる。

社長「オレに用事だって?
さくら「相談事があるからね、社長さんにも聞いて欲しいって
  いうのよ。すいませんね、忙しい時に

社長「は、とんでもない。オレのような男でも、役にたつことがあれば嬉しいよ

第28作「紙風船」の時、寅は、
「大事な話があるから身内だけで面合わせたい」
って言って、やって来た社長をわざわざ追い出して、
話を進めたくせに(^^;)



鐘の音 ゴ〜〜〜ン

寅、腕を組んで考えている。
博「じゃ、兄さん、みんな揃いましたから
寅「うんと何度も小刻みに頷く。


            


寅、下を向いて
寅「スィーーー…と決意をし、

寅「実はオレ…、
 余生を
に仕えて過ごしたいと、
 こう考えているんだが…
出たァ〜!(^^)

一同当然意味がよく分からないで寅を見る

寅「みんなはどう思う?
さくら「仏に仕えるというと?
寅「仏前に明かりをともして、朝な夕な、
 お経を唱えて過ごそうというんだ


社長「誰が?
寅「わたくし
社長「あ、ハハハと指をさす。わかるわかる(^^;)


寅に真剣に見つめられて、下を向く社長。

さくら「お兄ちゃん、それ本気で考えてんの?
寅「冗談でそんなことが言えますか
博「早い話が、出家をするってことですか?兄さんが
寅「そうと深く頷く。

おばちゃん、台所で
メソメソ

おばちゃん「いくら失恋したからって、
    なにも坊さんにまでなることないじゃないか


博「そりゃあ、普通の人と違って兄さんは
 20ぺんも30ぺんも失恋したんだから、
 世をはかなむ気持ちにもなるんでしょうけど、
 しかし、出家するなんていくらなんでも
 飛躍しすぎですよ
露骨(^^;)
社長「そう、まだまだ可能性はあるよ。元気出せよ
博「まだ若いんですから

おいちゃん、寅を指差して

おいちゃん「おまえさえその気なら見合いの口はいろいろ
    あるんだぞお


第3作「フーテンの寅」 まれに見つかる(^^;)

第10作「夢枕」参照→見合い相手ほとんど全滅状態(^^;)

第21作「わが道を行く」参照→極まれにはいる(^^;)



おばちゃん「そうだよ、諦めんのはまだは早いよおと、メソメソ

寅、微かに苦笑いしながら

寅「みなさん、なんか誤解なすってらっしゃるんじゃないですか?
  私はべつに結婚することを諦めたりしちゃあいませんよおぉ



              


さくら「…、じゃあ出家なんかすることないじゃないのお〜

寅「だから、諦めちゃいないから、
…出家をしたいと言ってるんですよ


一同「…????だよなあ(^^)
社長、首をかしげながら

社長「分かるかい?
おいちゃん「ぜんぜん分かんねえ…
社長「だってえ、嫁さんもらうことと、坊さんになることは、
  全く反対のことだもんな


さくら「そうね

博「例えばですね、兄さん、
 相手がお寺の一人娘で、
 兄さんがそこに婿養子になる。
 そんなことならともかく…。

 あ…!!!!!
Σ(|||▽||| )


さくら「…!!!!

さくらのほうが博より気づくのが早かった。



                      寅、ニヤリ
                 


寅、うっすら笑って

寅「えー、どうかしたかあ?よく言うよ(~_~;)
博、顔真っ青、「しっまた!」という表情。遅いよ(−−;)
さくら「あ、あ、あのねお兄ちゃん。お坊さんなんて
  そんな簡単になれるもんじゃないのよ



                


博、しきりに頷く。(^^;)

寅も頷いて

寅「うん、そうだよ、だからさ、こうやって
 みんなに相談してるんじゃねえか。
 え?なんかいい手ない?

博、呆れている。
寅「うまく坊さんになるような手がさ。

 社長、おまえ顔広いんだから、
 なんかそういうのないかい?
 いいのがぁ

なあぁ〜るほどね。
社長を呼んだ意味がよぉーく分かったよ(−−;)


社長「坊さんねえ…。医者になるんなら裏口入学ってのが
  あるらしいんだけどな


寅「んー、医者になるよりは
 少し楽なんじゃねえか。
 もう相手死んじゃってんだから
寅上手い!ざぶとん1枚(^^;)


              もう相手は死んじゃってんだから

              


博「兄さん、坊さんは葬式を出すために
 いるんじゃないんですよ
そりゃそうだ(^^;)ゞ
寅「そうかい?
さくら「お経読むだけじゃなくてね、宗教についての深あ〜い
  学問修めなきゃいけないのよ


おいちゃん「第一おめえ、修行しなきゃいけねえんだぞ。
    
  火の中へ入ったり、
    
  ちゃあああー!っとに打たれたり ヾ(^^;)

           
 ちゃあああーっと…
          


と身振り手振り。

おばちゃん「1ヶ月も断食したり、
    できんのかい?そんなことがあ


1ヶ月って…。それじゃあ死んじゃうよ(^^;)



寅「そらあ、オレだって多少のことは
 覚悟してるけどさあ、
 あんまり日にちがかかるってのは
 辛いよお…ねえ、何日くらい
 かかるんだろ、この、ひっくるめて


ひっくるめてって…(^^;)


社長「運転免許だってェ、
  2ヶ月やそこらかかるからなあ
意味無いよそのたとえ(^^;)

と、ハンドル握るまね。

おばちゃん「お花やお茶のお免状だって3年ぐらいかかるよぉ
寅「ちぇ、そこをさあ、
 なんかこうもっとてっとり早くできねえかねえ
 例えば、偉い坊さんに
袖の下を使うとかなんとか…

出たよ出たよ。結局はこういう方法しか
思いつかないんだよな寅って。
不精っていうか、怠け者っていうか┐(-。ー;)┌


そういえば、寅は第26作「かもめ歌」で、すみれちゃんの入試の
時も
袖の下でなんとかしようとしてたなあ(^^;)その時の試験監督の
先生は今回の和尚さん役の松村達雄さん。


            


さくら「バァカなこと言うもんじゃないわよォ!
 お坊さんになるということはね、
 運転免許とるなんてこととわけが
 違うのよォ!、ねえ博さん
と、博にバトンタッチ(^^;)
博「つまり、修行ということは精神的な修養を
 積むということですからねェ。
 2年や3年じゃできませんよ

博、なんとかやめさせたい(^^;)

さくら「
そうよォさくらも必死(^^;)

博、達磨をテレビの上から持ち出して
博「例えば、この達磨禅師は『面壁九年』といって
 9年間考え続けてようやく悟りを開いたんですよ



              


おいちゃん「これずーっと座りっぱなしだから、
   手足が無くなっちゃったってんだろう

っと、手が縮むポーズ(^^;)



              


寅「いやだいやだと小声でビビる。


そういえば、第16作「葛飾立志篇」でも御前様が
寅に達磨禅師のことを語っていた。



博「それから道元禅師という人にいたっては
 悟りを開くまでに30何年かかった
 と、言われています

さくら「へえー
おばちゃん「へえーえ、そんな偉い人が30年も
   かかったんなら寅ちゃんみたいな
   頭の悪い人は50年も100年も
   かかるんじゃないのォ?

博、微妙ぉ〜に笑っている。(^^;)

さくら心底困った顔。

寅「チッ!話になんないよまったく
それはあんたのほうだよ(−−)

さくら、微妙にむっとする。


寅「そんなこと言ってたら
 あの人ババアに
 なっちゃうじゃないか



             


おいちゃんたちその言葉にはっとする。


この瞬間、カメラは寅とおいちゃんだけを映し、
さくらや博を映さない。そのことによって、
かえって静かな緊張感を醸し出させていた。
ここの演出はなかなか巧い!


寅「ったくなあ!ちッ、ま、こういう素人
 相談したのがいけなかったんだ。
 よし!明日御前様に聞いてみよう。
 じゃあ、今晩はこれでお開きということにして、ん!


と、すくっと立ち上がり2階へ行こうとする。

寅「明日の朝5時におきるからね
おばちゃん「5時ぃ?

一同驚き、呆れる。

寅「あ、そうだ、おばちゃん、明日の朝飯な、
おばちゃん「うん
寅「精進にしてくれ、精進に
おばちゃん「え?
寅「肉魚いっさい抜き、簡単でいいだろ、な、
 
味噌汁の身はね、豆腐とワカメ、それから
 
おからの煮付け、それから納豆
 それからまあ、
一夜づけのぉ、お新香
 パリパリの味付け海苔
 そんなもんでいいかな


そんなもんって…(^^;)


             


★ この食事おねだりパターンは第5作「望郷篇」のアレンジ版。

★ 第29作「あじさいの恋」、第42作「ぼくの伯父さん」でもこのアレンジ版がでてくる。

★ 第12作「私の寅さん」では逆に寅が九州から長旅で疲れて帰ってくる
  さくらたちに昼ごはんを作ってやる。



おばちゃん「それだけ全部朝の5時までにつくんのかい?
いいねえ、このリアクション(^^)


              


寅「そうだよ、そらまあ、できればねえ、
たらこの一腹ぐらい欲しいなあ、と思うけども、
そうはいかない、オレは出家する身だったから、
ふむ、じゃ、お休みなさい。

ななむみょうほうれんげきょう…、
なむみょうほうれんげきょう・・・・



寅の唱えているのは「法華経」
高梁の蓮台寺とは宗派が違うんだけどなあ(^^;)



              


寅が二階へ上がった後、


おいちゃん「そうか、まだふられてなかったのか・・・
まだって…(^^;)
博「それどころか、ますますエスカレートして
行ってるって感じだ、な、さくら



さくら頷く。
社長「どうにかなるなら何とかしてやりたいねえ、
  それで寅さんが幸せになれるんならさあ、
  ま、
無理だろうけどね

みんな見切ってるねえ。
確かに実を結ぶのは無理かもしれないが、
それは相手に寅がふられるからじゃないんだよ。
寅が逃げてるんだよ、そのへん分かってる?
社長さん、おいちゃん(−−)

ただ、今回は、一旦は彼女の元を離れたものの、
まだ逃げてないのかもね…。


さくら「どうなるのかしらねえ…


              
         




E一道とひろみの恋の行方 東京編


        
東京 渋谷駅近く  ハチ公前

またまたシューベルトの「鱒」が流れる。

ひろみ、東京の渋谷ハチ公前で、きょろきょろ
おろおろあたふたしたり、ため息をついたりしている。


ひろみちゃんの爆発化粧&ファッションある意味目立ってるね(^^;)

ハチ公前は古典的な待ち合わせ場所だね。
でも分かりやすくていいや(^^)


            ある意味渋谷で目立っているひろみちゃん(^^;)

              

ひろみちゃん、火薬が爆発したような
ヘアーと化粧しているが、彼女なりに
一生懸命工夫したのだろう(^^;)健気だね。




カメラスタジオ

写真家の森山徹さんがモデルを相手に撮影している。


             


係りの人「石橋一道さんって人いますか〜?

って言うことは朋子さんは
『石橋朋子』さんだね。フルネーム決まり!(^^)



電話口で、

一道「もしもし。ひろみ?ごめんー、今どこなん? 
 ああ、そうか、悪かったなあ・・・。

 いや、昼間までに撮影を終える予定
 じゃたんだけど、別の仕事が入ってしもうてなあ。
 オレ抜けられんのじゃ。

 は、こっちから連絡つけられんし
 ・・・さっきからどうしようか思うて


ひろみ「いいの、そんな心配せんで私も
  悪かったんじゃ急に出てきたりして・・・。
  ん?私?
  そうねえ、これから柴又へ行って寅さんの家に
  行ってそいで帰る。また出てくることもあるけん


ひろみちゃん可哀想…(TT)


                






柴又駅  夜

一道、柴又駅につく。

源ちゃんと友人がネクタイをして
DAIDOの自動販売機を叩いてる。

源ちゃんがネクタイをしているのは珍しい。
第13作「恋やつれ」第20作「寅次郎頑張れ」
第23作「翔んでる寅次郎」でも派手なネクタイ姿を披露。


ちなみに第32作での源ちゃんのスーツは、第23作で
ひとみちゃんの披露宴で着ていたものと同じ。



話は戻って…

一道「
すみませんあの、
   とらやさんゆうだんご屋さん
   どこでしょうか?


源ちゃん「参道真っ直ぐ行って右側、古臭い店や
源ちゃん、意地悪(^^;)

一道「は、どうも
友達「汚ねえ店だからよひでええ(TT)
源ちゃん「へへへへ
バンバンと自動販売機を叩く。


               





とらや  台所

さくらが、階段下で、ひろみの
赤い靴
を拭いてあげてる。

博が店を出ようとすると、いきなり一道が出て来て、
ぶつかりそうになる。


一道「僕、高梁でお世話になった一道と言います
初対面の大人には「石橋一道」って言うんだよ(^^;)
さくら「あらあ
博「ああ、蓮台寺の
さくら「はあ
一道「はいとハンカチを取り出す。
一道「こんな時間にお邪魔してすみません
さくら「
一道「あ、あのー・・・僕の友達のひろみが
  今日こちらにお邪魔しなかったでしょうか?

さくら「みえたわよ

早く「家にいる」って言ってやれよ、さくら。


                


一道「は、は、そうですか

一道「夕方までには必ず迎えに
 来る言うて約束したんじゃけど、
 どーしても仕事が終わらんもんで、
 すっかりおそうなってしもうて、


 電話しとうても電話番号わからんし、
 おまけに電車まちごうて
 松戸の方に行ってしもうたりして…、
 とうとう、こんな時間になってしもうたんです


だから、NTTの電話番号案内で聞けってば、
「柴又 とらや」ですぐ分かるって(^^)



一道「それで、ひろみは、何時ごろ帰りましたか?
さくら「家にいるわよ
一道「へェ?
さくら、なんだかじらすねえ(^^;)


              


さくら「フ・・・どうしても帰るっておっしゃったんだけど、
 とっても疲れてるようだったんで、泊まってらっしゃいって
 無理におすすめしてね、

 お母さんにも電話して今さっきお風呂に入って、
 もう床に入ってるころじゃないかしら


ほんと、とらやのみんなって優しいねえ…。
よかったねひろみちゃん。

一道「そうですかぁ!

強引にさくらたちは一道をひろみちゃんが寝ている二階へ
上がるように仕向ける。

さくら「後でみんなで一緒にお茶でも飲みましょ。
  あの、その左側のお部屋、さ


と、さくら、一道の雑誌を持ってやる。

一道「失礼します

一道2階へ上がっていく。

おばちゃん「いい男だねえェ〜あれじゃあ、
      岡山からだって会いに来るよ


来たよ来たよ来たよ、おばちゃん、露骨だねェ… ゞ( ̄∇ ̄;)


                  いい男だねえ…
              


さくら「ばぁかねえ、おばちゃん
おいちゃん「どうする寅おこすか?
さくら「いいのよ
さくら、一道の持っていた雑誌をペラペラめくる。
おばちゃん「そうだよ、あんな無粋な男が
   出てきたらぶち壊しだよ、
   これから
甘あ〜いラブシーン
   始まるって言うのに


おいおいおい、おばちゃん、おばちゃん、
だんだんエスカレートしてるなあ… ゞ( ̄∇ ̄;)


博「ハハハハ言うなあおばさんも
おいちゃん呆れてる。
おばちゃん「ははは

おっと、さくら、なぜか一道の雑誌を、
なんと自分の白い買い物カバンに入れた!博も何も疑問に
思わないでカバンを受け取っている。
なぜ?それって一道の雑誌だぞ。
預かっているだけだとしたら
カバンの横にでも置いてあげればいいのに…。


あ、でも、もし、一道の持っていた雑誌が「写真の雑誌」だった場合、
芸術としてのヌードや水着などが載っているかもしれない。
一道にとっては芸術でも満男や老夫婦にとっては刺激が強い。
そこで、さくらが、何度かペラペラめくってチェックして、
自分のカバンに入れ、博にさっとカバンごと渡した。
と、なんていうことは十分に考えられるな。う〜んさくらの行動は深い(^^)





満男、台所に来て、

満男「ねえねえ、恋人と指を刺す。


                


さくら「そ、

満男「エッ!(* ̄∇ ̄*)

と、超ニヤつきながら、石になって固まる(^^;)


                   エッ!
                


満男、満男、おいおい、
目が三日月になってるぞ ゞ( ̄∇ ̄;)


博、満男を見てちょっと笑っている。
              
吉岡君の、このリアクションは巧かった〜!
さすが笑いの壷を心得てるね。





ニ階の部屋  

雨の音。

ひろみが寝ている。

一道、ひろみを見ている。
そして、ひろみの顔にそっと手を当てようとする。
その気配に気づき、ひろみ目が覚める。


              


ひろみのテーマが流れる。

ひろみの顔が華やぐ。
ひろみ「は・・・
見つめる一道。

ひろみ「もう、フ…来ないか思うた

この言葉、切ないね…(TT)

一道、小さく何度も頷き、
ひろみの手をとる。



            


雷が鳴る。

ゴロゴロゴロオオ・・・

おばちゃん、お茶菓子の作業うわの空で、ニ階を見ている。

おばちゃん「あ、あらとティーバックの箱を手から落とす。
さくら「何そわそわしてんのよ、
おばちゃん「え?あ、いや、何だか落ち着かないんだよ、
    二階に新婚夫婦がいるみたいでさ、

    
ねえ、あんたぁ〜?

と、おいちゃんに甘ぁく同意を求めるおばちゃん。


この前の寅と一緒だよこれじゃ。完璧に舞い上がり、
調子が変なおばちゃん(ーー;)


大きな雷が落ちる。

ゴギュヴガアアン!!

おばちゃん「キャアアアアーーー!!!
と、おいちゃんの首に飛びつく。

Σ(|||▽||| )


           


おいちゃん、
当然思いっきりひっくり返る(TT)


(||| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄0 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)


           


出た!おばちゃんの得意技、
体重を利用した必殺首絞め
『魔性のスリーパー.ホールド!』
またの名を『おばちゃんスペシャル!』


おいちゃん「離せッ、離せッ、気持ち悪いじゃないかっ
ギブアップ負け (_ _,)/~~


気持ち悪いって…、一応夫婦だよ (T▽T)

博たち「ハハハハ!!

おいちゃん、ぜいぜい息をして目がペケ。

博「
アハハハハ!!とまだ笑っている(^^)

さくら「停電!

と、呆れておばちゃんを見ながら、ぜいぜい…(^^;)


おばちゃん、さすがに、
自分のやったことに、自分で大笑い。

三崎さん、マジで笑ってました。
そうだろうねえ〜。
あの二人、NG何回やったのかなあ…(^^;)


しかし、このシリーズの中で、柴又とらや付近って
しょっちゅう雷が落ちるなあ…、
ひょっとして日本で最も雷の落ちる地域なのでは?(^^;)
日本版ゴールデントライアングルか。
いつかみんな戦国時代にタイムスリップするぞ。
おおこわ…(^^;)




とらや ニ階


ひろみのテーマが流れる。

雷の直後なので


ひろみが起き上がって
一道の胸にうずくまっている。


雷 グガァ〜ン、

ひろみ「きゃ、怖い・・・
一道、しっかりと抱いてやる。

一道、ひろみの顔を両手でそっと持ち、

キスをする。



            


窓をぬらして降り続ける雨。

うーん、青春だね ( ̄ ̄)

よかったねひろみちゃん。
一道を死んでも離すんじゃないぞ。


雷の恐怖のリアクションで
おばちゃんとひろみちゃんは同じことをパートナーに
しているのだが、結果がこんなにも違うとは…。
ああ…、おばちゃんの十九の青春は
どこへ行ったんだろう…(TT)
チャンチャン(^^)




F朋子さんのとらや訪問と運命の柴又駅ホーム



江戸川  土手


軽快な音楽
源ちゃんと寅が土手をぶらぶら歩いてる。



とらや店先 

いつになく御前様が怒って説教をしている。

久しぶりに真顔で怒る御前様


            


御前様「ん〜、仏教における修行とは、煩悩を断ち切るための
  命がけの闘いですッ。
  寅のごとき
煩悩が背広を着て
  歩いているような男がどうして修行ができますか!

御前様巧い!座布団1枚(^^)

おいちゃん「ごもっともでございます
御前様「本人のたっての願いゆえ、修行の真似ごとをさせては
   みましたが、
三日で音を上げる始末!

さくら「申し訳ございませんと深々とお辞儀。
おいちゃん「グフッ!三日坊主とは
    この事でございますねえ

おばちゃん「ヘヘへヘ

二人とも一生言ってろよ(−−)
さすがにさくらはギャグに参加せず。



               おいちゃんって…(−−;)
            


御前様「冗談を言ってる場合ですか!

おいちゃんたちビクッ!!
おいちゃん、全部座布団とりあげ(TT)
おいちゃん「ハヒ!ハハーー・・・
御前様「困った人たちだ!
おばちゃん「すみません
御前様「当分寺への出入りを差し止める。
  左様申し伝えなさい!


悪さしたわけではないいのに厳しいね。
お坊さんのことは御前様も譲れない分野なんだろうね。



御前様とらやを出て、駅のほうへ歩く。

帝釈天参道

御前様「困った奴・・!と、まだぶつぶつ(^^;)

朋子、駅のほうから歩いてくる。

御前様、そんな事を言いつつも、
前を歩く朋子に目線が吸い込まれて行く。


朋子、立ち止まり、御前様と静かに挨拶をかわす。


               御前様、ホワァ〜〜**
             


御前様、朋子さんの美しさに瞬殺される。

デヘデヘニタ〜。わかるわかる。煩悩が袈裟を着て歩いてるぞ ヾ(^^;)


               ニタ〜〜
            


ハッとし、

御前様「いかん!
   修行が足りん!ン〜ンン!!


と、頭を手で撫でる。

しかし、あの美しい朋子さんに心を揺り動かされない
お坊さんがいたとしたら、人間味が無さすぎだ。
御前様の感受性の豊かさは私は大好き。






江戸川土手

軽快な音楽 (口笛)

源ちゃん、写真を見て、

源ちゃん「美人やなァ〜!

寅、どうやってその写真を手に入れたんだ??
今時、モノクロ写真ってことは、一道にもらったのか?



          


寅「ン〜

源ちゃん「この人が兄貴に惚れてるんでっか?
寅「まあな

寅ってこういうこと言うんだよね。
ったく、どうしょうもない軽薄さ┐(-。ー;)┌

第10作「夢枕」のラストでも寅は登に、千代さんが
自分に好意を持って、告白までしたことを吹聴していた。

このへんの演出は寅のダメキャラが如実に
出ていて変にリアル。


           


源ちゃん「ほな、結婚するんでっか!?

寅「そうはいかない。その人と一緒になるためには
 どうしても
坊主になる資格を取らなければいけない。
 それは簡単にはできない

源ちゃん「でも兄貴、愛があれば何とかなるんやないか?

源ちゃんどこで覚えてきたんだ、それ(^^;)

寅「それは若者の考えることだ。

 オレぐらいに
分別が分かるようになると
 そうは簡単にはいかない。
 お前たち若者が羨ましいよ、うん…


よく言うよ、まったく ┐(-。ー;)┌


源ちゃん、そっと密かに写真を
自分の腹巻に入れようとする。

おいおい源ちゃん源ちゃん ヽ(´o`;)


寅気づいて、
寅「なん、ちっ
源ちゃん「え? ばれるって ヽ(^^;)
寅「なんだよ
と、写真を、自分の腹巻に戻す。



さくら自転車でやって来る。

さくら「お兄ちゃん!!お兄ちゃん、こんな所にいたのォ?
寅「いい年して大きな声出すんじゃないみっともない
さくら「朋子さんが見えたのよ!
   朋子さんが見えたのよ突然に



             


寅「え?どこに?
さくら「とらやによ、ほら、いつかの弟さんの事が
 心配になって出てきたんですって。

 今日中に岡山に帰らなきゃいけないって言うから、
 早くお兄ちゃん見つけないといけないと思って



             


寅「どけッ、どけッ!
さくら「??
寅「どけッ!

自転車に乗って飛んでいく。
途中子供をひきそうになる。


結構危ない演出だ〜(^^;)

さくら、足で走って追いかける。
可哀想…うううう…ここからじゃ遠いよさくら…(TT)



            


第27作「浪花の恋の寅次郎」のふみさん訪問の時は
寅が江戸川土手にいるのにもかかわらず、
江戸川土手を探さなかったさくら。
今回は朋子さんが時間が無いので江戸川土手を
探しに来たんだね。



しかしまあ、ふみさんも事前のアポ無し、朋子さんもアポ無し、
朋子さんの性格的には絶対にありえないね。



とらや 店


石倉三郎扮する、そば屋、が歌を歌いながら
そばを配達している。

♪夕暮れの雨が降るゥ〜、
矢切のォ〜わたあしい〜…あ!ああああ!

ガガ!ガッチャン!!

通行人女性たちの悲鳴
女性「キャ!
女性「キャーア!!

ザルそばがとらやの前をコロコロ転がってくる。

そば屋の声「あーあ、このそば!高いそばバカ野郎!

寅が飛び込んでくる。

おばちゃん「ありゃ、やだ、なになになに、こっち…

このリズム感、上手いねえ三崎さん!


                ありゃ、やだ、なになになに、こっち…
               


朋子、寅にピントが合って目を見張る。

寅「はあ!!…朋子さん!
と寅にしては珍しく感極まった無声音。
朋子も感極まり、目を輝かせ、そして潤ませながら、
朋子「寅さん


             


寅「よく来たなあ!
朋子「あは!
寅「うん!


             


あの再会時に朋子さんの寅を見る眼は
愛する男性に会いに来ただけの目ではなかった。

あの目は離れて暮らしていたかけがえのない『家族』に
再会した目でもあるのだ。朋子さんにとって寅は、
自分たちが苦しい時、淋しい時共に励ましあった
家族である寅さんなのだ。

だからこの作品はマドンナがすでに寅の運命共同体に
近い存在になっている稀有の物語である。
そこに他の作品にはないこの作品独自の深みと愛着、
そしてその後の深い悲しみがあるのだ。



それにしても、寅、帽子から垂れてるその『そば』、
なんとかしろよ ヾ(−−;)



そば屋、頭にそばをかぶりながら、とらやに走ってきて
怒り心頭で、寅の腕を叩く。


ま、このあと蕎麦屋と取っ組み合いの大喧嘩です(−−;)


寅、蕎麦屋の首を絞め続ける。(^^;)

朋子「あ!寅さん!いけない!
寅、笑いながら
寅「こりゃね、子供のころから慣れてますから、へへ


            


工場のトシオ君やおまわりさんやって来て、
みんなで必死で止める。





とらや  茶の間


朋子さんが笑っている。

朋子「フフフ


             


さくら、笑いながらあの雨の日、おいちゃんは
若い二人にけじめをつけさせるために別々の部屋に
寝させたことを回想しているのだった。

さくら「『同じ部屋に泊めるなんてとんでもない!
  そんなふしだらなこと、オレは絶対許さん!』
  って、フフフ


朋子「フフフ
おばちゃん「えらそうにねー
さくら「ねー
おいちゃん「もうやめろよ、その話はと照れている。
一同「フフフ
朋子「でも、おじさんの時代はそうだったんでしょ?

寅、そっと

寅「それが違う…

朋子「どうして?と微笑んでいる。

寅「この二人はもうできてた
できてたって…(^^;)


一同「えー!?
おいちゃん「バカ!つまんないこと言うんじゃないよ!もう

と、そそくさ、店の方へ行く。

朋子「フフ
寅「へへへ


              


寅「二人でね、浅草で、デートしたんだってさ
朋子「ふうーん
寅「帰り道に雨が降ってきちゃった
朋子「あらあ相変わらずいい合いの手(^^)

寅「駒形橋の袂に親戚のおじさんがあるんです
朋子「うん
おばちゃん、朋子さんにお茶を置く。
寅「そこでまあ、雨宿りをしたわけだね。
 いつまでたっても雨が止まない


おばちゃん「ちょ…、およしよォ〜と、手をふる。

さくら「フフ

寅「『もう、しょうがないからおまえたち
 ここへ泊まっていきなよ』
 『いえ、私たちまだ結婚前だから』

 なんちゃって!
フフフ


                  なんちゃって!
             


朋子、さくら「フフフ
おばちゃん「もう、寅ちゃんたらよしなよ、もう!
寅「笑っちゃう!

おばちゃん恥ずかしがってそそくさ台所へ。

朋子「ねえ、それでどうなった?
朋子さんも好きだねえ〜(^^;)
寅「え、粋なおじさんの計らいでね、若い二人は二階の
 座敷で二人っきりだ。

 雨がザーッっと降って、
 突然ピカピカピカ!ゴロゴロゴロ!

あのおばちゃん、『
キャー怖い!!

と、抱きつくポーズ(^^;)


             


朋子「あ、フフフ!
さくら、ニコニコ笑っている。
寅「あの太った体でもってさ、
カマキリみたいなおじちゃんに、へあああ!!
朋子「キャア
寅「って抱きついちゃったんだよこれがァ
朋子、さくら「ハハハ!フフフ!
朋子、ゲラゲラ笑っている。
見てきたようなことを言う寅でした(^^;)

さくら、台所を振り返って

さくら「おばちゃん、素敵なロマンスね、
 ほんとにその通りなの?

おばちゃん「口から出まかせだよお!ほんとに
    おしゃべりな男だよ



朋子「フフ、ちょっと聞きにくいことじゃけど、
さくら「なあに?
朋子「結局その晩、弟はどの部屋に
  泊めていただいたんですか?

おばちゃん「あたしゃねえ、一緒に寝かせてあげなさい、
    って言ったんですよ。だけどさ、
    あの頑固親父がダメだダメだ
    って言うでしょう、だからね…


で、結局一道は、その夜寅の寝ている物置部屋に一緒に寝かされたのだった。
とらやのみんなが一道のことを思ってくれていることがうれしくて頼もしくて…、
             
朋子しんみりして…


朋子「は…、そんなふうに、弟のことを思うてくれる人が
  東京にいるいうだけで、私…、安心です。
  よろしゅうお願いします

さくら「そんなあらたまってェ



その後、タイミングが合って、
茶の間は朋子と寅だけになる。


朋子「あー、寅さんがウチにおってくれた時には、
   ウチの中どんなに明るかったか知れない

寅「あー、和尚さんそんなに機嫌悪いの?
朋子「うん、一日中いっぺんも口をきかない日だって
 あるんよ。寅さんがウチにおらんようになってから…

寅「ん…、まあ大変なんだな、朋子さんもなあ…

朋子「……

沈黙が続く。

朋子、意を決したように、

朋子「…あのねえ


朋子「

寅「はあー、そうだ、工場行って博呼んでこよう…

このような緊張した空気に耐えられない寅。

朋子、寅のハンテンの袖を掴んで、

朋子「
寅さん


              袖を掴む朋子さん
           


寅、掴まれた袖見て

寅「
へ?

ゆっくり朋子を見つめる。



             掴まれた自分の袖を見る
           


朋子「私そろそろ帰らんと…
寅「も、もうそんな時間?

朋子、時計を見て

朋子「5時の新幹線乗らんと今日中に帰れんの。もう4時でしょう

朋子さん、帰るの早すぎ。
せめて今夜遅くまで寅と話して
夜は宿に(もしくはとらやに)泊まる気持ちで、
腰を落ち着けて欲しいな。


寅「まだなんにも話しちゃいないような気がするけども

あんたおいちゃんとおばちゃんの
ラブロマンスの話しかしてないよ ヾ(^^;)


朋子「私もそうなのと寅にだけ聞こえるように言う。
寅「……緊迫した顔で下を向く。

朋子「ね、…柴又の駅まで送って来て

と早口の無声音で言う。

寅「
……黙って小さく頷く。


            


張り詰めた緊張が漂う。

マドンナとの間に素面でこのような空気があるのはこのシリーズで朋子さんだけ。
このような空気は相当お互いに男女として仲良くないと出てこない。
リリーではこのような空気にはならない。



            



柴又駅  ホーム


さくらと朋子が歩いている。

さくら振り向きながら

さくら「遅いわねお兄ちゃん、
  どこのお店までいったのかしら?


今寅がいないのは、はしゃいでいるというより、
怖気づき、逃げているんだけどなあ…。
         


さくら、改札の方向を探しながら、

さくら「
それにしても…。…あ、来た来た!

寅「あ、間に合った!と走ってくる。

間に合ったはないだろ寅。
朋子さんは駅まで送ってと行ったはずだ。
なに、怖気づいてんだよ、あああ最悪(TT)


さくら「どこまで行ってたのよ
寅走ってきて
寅「和尚さんに食わしてやりたいと
 思って、美味いからさ



朋子「
寅「これお土産
朋子「ありがとう
さくら、後を向いている。
寅「はい、ん…なんだい、
 もうちょっとゆっくりできるんのか
 と、思ったんだオレ。なあ、さくら
と呼びかける。
さくら「そうねえ、
  せっかく東京までいらしたんだから

寅「んん…、見物するとこいっぱいあるんだよねー、
 浅草の観音さまとか、向島の遊園地とか…


意味ねえ〜、そういうことじゃないだろ寅!(TT)



寅「なあ、さくら

さくら「…うん


朋子下を向いて何かを考えている。

朋子「……


            


遠くで電車の警笛


プウー、プウー

朋子、緊迫感を増し、寅に近づき

朋子、寅の袖を掴む。

(とらやの茶の間に続き二回目のアプローチ)。


             


朋子のテーマが静かに流れる。


寅を見て、何かを話そうとする。

寅もとっさに朋子を見る


             


朋子、袖を掴んだまま

朋子「ねえ、寅さん…

と少しさくらから離れて話そうとする。


朋子のテーマ


さくら、気を利かせて、自分から離れて、向こうを向く。


寅、緊張しながらさくらの方を向く。


             



朋子寅に、そっと

朋子「ごめんなさい…

寅「え、…なに、なにが?

朋子「いつかの晩のお風呂場のこと…

寅「な、なんだっけなあ…


朋子「ほらあ


            


寅「あ!あああ!ああ!あのことか

と、わざとらしく今思い出して気づいたふり。


朋子「あの三日ほど前の晩に父がね、
 突然、今度結婚するんやったら
 どげな人がええかって聞いたの



寅、真剣な目で朋子を見ている。


朋子「それでね…、フフ…

と下を向いて戸惑いながら
はにかんでいる。


朋子「それで…

しだいに朋子の顔は悲痛な色を帯びていく。



           


寅、朋子を真剣に見ている。

朋子「私……

と、胸が張り裂けそうな声になっている。



寅、その緊張に耐え切れず、子供のような声で

寅「寅ちゃんみたいな人がいいって
 言っちゃったんでしょ



            



朋子驚き、

半ば放心の顔で、
寅を見つめ…、

朋子、コックリ頷く。

寅「和尚さん、笑ってたろう、フフ

朋子、悲しみの目。

寅「オレだって笑っちゃうよハハハ
と顔は笑っている。



緊張感に耐えられない寅は、
とにかくあの日の出来事を、
冗談の方に持っていこうとしている。



            


寅「なあ、さくら、フフフ


と柱によりかかろうとしてよろける。

さくら、さすがにカンがいいので、
彼らの方を向かないで、下を向いている。


          


寅、もう一度さくらに笑いかけながら

寅「なあ、フフ

さくら、知らない顔をしながらも緊張している。



朋子、悲しげな顔で

朋子「ねえ、寅さん…

寅「


            


踏み切りが鳴り始める。

カンカンカン

朋子「私、…

寅振り向く。

朋子「あの晩父さんの言うたことが、寅さんの
  負担になって、それでいなくなって
  しもうたんじゃないか思うて、
  そのことをお詫びしに来たの


寅「オレがそんなこと
 本気にするわけねえじゃねえか、フフ


朋子、悲しい目をする。

朋子「……

寅、微笑みながら何度も小さく頷く。

朋子、消え入りそうな声で


朋子「そう……


             


朋子「じゃあ、…私の錯覚……


と寅を見つめる。



寅、無理やり微笑んで、

寅「安心したか。ん、フフフ


朋子、悲しみに満ちた潤んだ目で寅を見、


              


首をそっと横に振り


              


そのまま寅を見つめる。



              



笑っていた寅だったが…


寅、朋子の悲しい目を見て

やがて真剣な顔になっていく。




               


寅の言葉に打ちひしがれ…


               


朋子ゆっくり視線を下げ、


               


遂に目を伏せ、絶望の色に変わっていく。


               


ギリギリで「覚悟」をすることのできない寅は
朋子を受け入れることができず、
朋子をひたすら見つめるしかなかった。


電車がホームに入ってくる。


二人の様子がシリアスなので、
さくらは、あせり、



             


さくら、あわてて寅に近づき


さくら「お兄ちゃん
   東京駅まで送ってあげたら?



と、思い切って寅に言う。

寅も、その言葉に頷き、


寅「うん、あの…

朋子「もういいの

寅「……

朋子「話は済んだし…

無理やり笑顔を作って…


朋子「さくらさん、ありがとうございました

さくら、少し微笑む。

             



電車が止まる。



朋子、ドアのところまで行く。

さくら、朋子が乗る直前にお土産を渡して、



さくら「はい、これ。じゃあ、気をつけて

寅「和尚さんによろしくな


              


笛の音 ピー



朋子、何度も小さく頷いて

朋子「はい


これが朋子の最後の言葉。


ドアが閉まり朋子さくらにお辞儀

さくらもお辞儀

朋子、寅に微笑む。

寅「旅の途中でまた寄るからよ


もう寄れないよ……。


朋子ガラス越しに寅の声を聞き、


精一杯頷き、微笑む。


           



寅、動き出した電車に小さく手を上げる。



朋子、小さく挨拶。



ドア越しの朋子の姿が見えなくなる。

電車はスピードをまして、

そして遠くに過ぎ去ってゆく。


            


見送る寅。


背中が淋しい。


電車が通った後、また夕日がホームに射し、
さくらの顔を明るく照らす。



          




しばらく電車を目で追い、やがて下を向き、

一変して絶望の顔になる寅。



           


メインテーマが静かに流れる。


寅、さくらのところまで歩いてきて
止まり、乾いた照れ笑いをしながら

寅「
ヘヘヘ、というお粗末さ…

さくら「……

寅、空を見ながら

寅「さて、…商売の旅に出るかァ…

とホームを歩いていく。

さくら追いかけながら、寅の肩を持って
振り向かせ、



さくら「ねえ、お兄ちゃん

寅「ええ?

さくら「お兄ちゃんと朋子さんの間に
 一体何があったの?教えて


寅「そんなことおまえに教えられるかい。
 それは大人の男と女の秘密ですよ



               

と歩いていく。

さくら、そんな寅を見ている。

                

さくら、寅に追いつくべく
ホームを小走りで駆けて行く。




結局、

覚悟も決意もできない寅は朋子さんをただ、
見つめるしかなかった。これが寅の限界だった。


朋子さんは、寅がいつまで話しても自分の気持ちを
受け入れてくれないことに気づいたのであろう。
だからこそ、東京駅でなく柴又駅で別れたのだ。
とにかく、大事な別れ際にその緊張に耐え切れず、
佃煮を買いに行く男だ。もう、どうしょうもない。

僧侶の修行がどうのこうのというのは実は関係なく、
寅には、結婚生活は無理なのだ。
結婚に憧れ、結婚をすることのシュミレーションは大好き。
見合いも大好き。身近な周りの人間にも本気で吹聴する。
しかし、ギリギリで女性とのリアルな結婚はできない。
女性と二人っきりで一つの屋根に住めないのも同じ理由だ。
ドロドロの艶かしいリアリティが苦手なのだ。
このことでその昔リリーはどれだけ傷ついたか…。

どんなに好きになった女性に対しても、その人のために、
自分の人生を変えられない男、それが車寅次郎なのである。

相手に恋をし、相手も自分を好きになって、ここから先は
責任と覚悟と決意が必要だという決定的な「得恋の瞬間」に、
ようやく、自分の幻想の中でそこまでの過程を楽しんでいた
だけなことに気づき、リアルな未来が見えて怖気づき、
逃げ出すのでる。

それゆえ、寅を愛した女性にはその先に必然としての
失恋という過酷な運命が待ち構えている。


このような、花が開きそうな恋のつぼみを自分の手で
摘み取ってしまう行為を、寅は何度も何度も繰り返し、
寅を好きになった女性を結果的に傷つけてしまっている。
そのことに関して、寅自身が罪悪感に打ちひしがれ、
このような不可思議な恋をその先もう止める、というような
決意を寅は決してしないのだ。その先も相変わらず、
やっぱりこの手の行為を繰り返し続けている。
ここがこの男の最大の美点であり、盲点でもある。

この種の行動を果てしなく繰り返しているという意味では、
寅は、女性に対してある種の病理的な「神経症」を
おそらく持っている。

神経症ゆえ、この欠点は自分だけでは治ることなく、
永遠に繰り返されることとなる。
出口の無い、実ることの無い、堂々巡りの恋を死ぬまで
繰り返してしまうのだ。

しかし、本人はそれを背負って墓場まで持っていく気でいるし、
毎回、やや早めに逃げるせいか、寅に恋をした相手が極端に
人生を誤ってしまうこともなさそうだ。たまに相手が寅に恋心を
抱いていない場合などは、ただ深く寅にお世話になったことを
感謝することも多い。歌子ちゃんなどはその代表例である。

それゆえ、社会的に、寅はこのやっかいな神経症を抱えたまま
生活していっても別段差し支えないとも思われる。

人は誰しも、どこかの分野で多かれ少なかれやっかいな
神経症を持っている。そのために他人や家族や仕事仲間が
迷惑をかけられたり、結構傷ついたりしているのだ。

私に言わせれば、寅の神経症は、巷の人々によく見られる
ようなとてつもないドロドロした大掛かりなものではなく、
ささやかなものである。

だから私は常々寅のこの手の神経症を大いに認めようと
思っている。



とは言っても、さすがに今回の朋子さんは、このシリーズの
中で、最もこの寅の神経症の大きな犠牲になり、
最も深く傷を負った女性になってしまったと言えるだろう。
悲しみの深みに入ってしまったという意味ではリリー以上である。

なぜなら、彼女には寅は最愛の恋人であると同時に、
なによりもすでに彼女のかけがえのない家族でもあったのだから。

恋人としての別れ。

そして家族としての別れ。

彼女の傷はやはり深い。




この長いシリーズの中で、リリーは別枠として、
私が、『寅となんとしても別れてはならない運命的な
出会いをした女性』という感覚を持ったただひとりの人。
それがこの朋子さんだった。

このシリーズがここで止まろうが、完結しようが、
それによって観客が怒ろうが、断じて寅と朋子さんは
あのように別れてはならなかった。
私は、今でもそう思っている。
あの二人の相性はただものではないからだ。


ただひとつの救いは、第48作「紅の花」で満男が
朋子さんのことを奇しくも話題に出した時、
「再婚したよ、とっくの昔に」と、寅が言っていたことだ。

その後、朋子さんが手紙を出したのか、さくらたちが
父親の法事の時に再婚のことを聞いたのかは
わからないが、長い歳月のあと、寅のことは懐かしい
思い出に変わり、今はもう新しい幸せの中にいるのかも
しれない。

でも…、はたしてそうだろうか…。




      






G瀬戸内での再会と風に揺れる洗濯物



正月 江戸川土手

リコー(RICOH)の営業車がさくらの家を出て行く。

さくら家に入っていく。

近所の人「おめでとうございます

さくら「あ、おめでとうー

満男、パソコンの『RICOH SP200』を
操作している。

『SP200』はリコー初のパソコン。(製作は日立製作所)


当時だいたい20万円半ばくらいかな。
おそらくタコ社長は高価なリコーの『オフセット輪転印刷機』を
購入した時、おそらくこのパソコンSP200も
かなり安くでつけてもらったのだろう。

ちなみに『RICOH SP200』は
CPUは8MHzくらい。
メモリーは384KBしかない。


画面の流れ続けていた文字列が止まる。


博「F2だな、F2は『スタート』だね。

満男「F2

画面が切り替わる。

博「
うん、


             


満男「モグタコたたき・・・あ〜でたでた、出たァ〜

この名前笑った(^^)

ようやくゲームソフトが動く。

さらに博がキーボードを指す。

当時はマウスがないんだね(^^)

さくら「へえ〜これがパソコンなの〜テレビみたいね

テレビって…(^^;)モニターがあると
なんでもテレビに見えるんだね。わかるわかる(^^;)


博「有難うございました、
 こんなものいただいてしまって


社長「あ、いやいや、ほんのお礼心だよ

満男「これウチでもらったの?
  工場のもんじゃないの?



           


さくら「社長さんのプレゼントなの
満男「へえー、どうして?

社長「あのね、満男君、博さんが、
  
大事なお父さんの遺産を、みんな投資してくれて、
  おかげでおじさんの工場は
オフセットを買えたんだよ。
  だからァ、パソコンの一台くらい、安いもんなんだよ。

                 
             第33作では「オフセット室」登場
          



社長「だってそうだろ。
  その金が無きゃさ、オレは首くくって
  死んでたかもしれないんだよ。

  今じゃさ、笑い話になるけどさ、
  去年の10月の給料日、
  ウ…、オ、オレ、あん時…クク


と、泣きじゃくる社長。


社長、その気持ちがあるなら
投資した博にちゃんと配当支払えよ。(−−)



               


博凄い勇気だね(^^;)、自分の勤めている会社に
賭けているんだねやっぱり。さくらもよくOK出したな。

遺産を自分たち個人の贅沢に使わないところが
いいねえ〜。それにしても即効で売れたんだね父親の
土地と家屋。

そういえば、この博という人は、第26作で自分が家を
買った時に、貴重な2階の一部屋を快く寅のために
提供した人なのだ。それゆえ、寅がいつ帰ってきても
いいようになっている。博は本当に凄い人だ。


しかし、よくよく考えてみたら、このあとの作品でも、
時々社長は工場の経営が苦しいっていつも嘆いていたので、
博にとってこの投資は、はたして成功だったのだろうか?
下手したら、配当どころか最後まで投資した額すら戻って
こなかったりして…。

たとえ、ある年に利益が上がっても工場が成長を
続けていくためにそのお金をさらに投資せざるを得ない
なんてことも…。だから、いつまでたっても配当に回す余裕は
あまりないかもね。博も朝日印刷には投資による儲けは
期待していないともいえる。半分ボランティアで、無利子で
お金を貸しただけなのかも(^^;)

このあと、社長はオフセットを入れたことによって人手が急に
余ることになってしまう。それゆえ第35作「恋愛塾」では
あの美しく可憐で、なんと写植ができる江上若菜さんを
雇わなかった。あ〜もったいない(^^;)



博「社長、泣くのやめましょうよ
さくら「そうよぉ、まだ松の内なのよ
満男「正月くらい笑ったほうがいいよ
言うねえ満男も(^^;)
社長「わかってるわかってる


ちなみに、あのパソコンは第33作でも登場するが、
やがて出てこなくなり、後に博は新しいタイプの
2代目パソコンを買っている。↓



           第33作でも同じパソコンを使ってグラフを作る満男
            


         その後何年かして博は新しい2代目パソコンを買った。
            


博、ビー
ルの入ったコップを社長の前に置く。



朝日印刷の従業員がやってくる。

中村君、トシオ君、ゆかりちゃん。
中村「おめでとうございます!フフフ
さくら「あ、来た来た


               

博「さあ、朝日印刷の全従業員が集まったぞ!
 今日は盛大にやるか!

社長「やろう!徹底的にやろう!
中村「やりましょやりましょ、おめでとうございます

テーブルには年賀状

寅からの年賀状。

さくらたちへあてたもの。
寅から諏訪家への年賀状は珍しい。
普通はとらや宛に送ることが多い。


              


寅の声「新年おめでとう。

  博君、さくらさん、
  夫婦仲良く暮らしてください。
  満男君、しっかり勉強して、
  立派な人間になってください。
  私もひたすら反省して、
  人に尊敬される人間になろうと思います。

  瀬戸内海にて 車寅次郎





安芸  因島大橋近く。 尾道市   

因島大橋(いんのしまおおはし)は、この映画が作られた1983年に完成。


一福屋食堂


酒とおでん

独りテーブルに座って、
何か考え事をしている寅。

朋子さんのことを思い出しているのだろう。
今回は切ない恋だったからねえ。



          


連絡船の汽笛
ボォ〜〜
汽笛で、ふと我に帰る寅。

寅「
ああ、船が来たねえ…
おばさん「
ああ、そうですねえ
現地の本物の店のおばちゃん。

寅「ここの島に橋が架かるとすると、
 連絡船はどうなっちゃうんだい?

おばさん「もう無いようなってしまうんですが
寅「じゃあ、ますますこの店は寂れちまうなあ・・・
おばさん「そうじゃねえ、寂れてしまうですわねえ


寅、ふと前を見ると

あの備中国分寺の梅林で一緒に遊んだ
熊さんとお嬢ちゃんと、見知らぬ中年の女性が
前の道を連絡船の方へ歩いている。

寅、彼らに気づいて、顔が華やぐ。

寅「かあさん、どうもごちそうさま、うん
おばさん「はい、どうも有難うございました

笑いながら勢いよく店を駆け出していく寅。

寅、走りながら熊さんに呼びかける。

寅「よお!


           


ボォ〜・・

立て看板

完成 本四築橋 因島大橋


ボォ〜・・

寅「やっぱりいつかの!
熊さん「大将〜いや〜その節はお世話になりました、
  いやだ、こんなところで
  お目にかかれるなんてエ〜

寅「うん、ここで働いてんのかい?
熊さん「うん、その橋の工事現場でね〜
寅「あ〜、そうかい、うーん、

寅「それで・・

熊さん「え?アハハハハ・・ひゃ、
  飯場の、炊事場にいた女なんだけどね、
  気が合うっちゅうか、なんちゅうか、おい、挨拶しろ


あきさん「え?

あき竹城さん、恥ずかしそうに、
目をあまり合わさずペコっとお辞儀。

彼女のこの素朴さがなんともいいねえ。

寅「そうかい、そう言うことだったのかい、
 お姉ちゃん、よかったな、
 きれいなお母ちゃんができて、ねえ



                 


あきさん大いに照れる。

熊さん「きれえなんて、そんな・・・

と一緒にてれてる。

ボォ〜・・

寅「お、船呼んでる、船
熊さん「あ、そうだ・・あんたも一緒?
寅「そうそうそう」」

あきさん「あれえ〜〜!!


                


熊さん「あ?何?どうした?

あきさん「洗濯もん取り込むの忘れたよ

この言葉に彼女の正直さと素朴さが滲み出ている。

熊さん「何言ってんだ、そんな事ででかい声出すなよ

寅「アハハハ




熊さんたちの家の庭先

真っ青な空に
子供や熊さんたちの洗濯物が
爽やかにひるがえっている。



                



ボォ〜・・

因島大橋の下を連絡船が通っていく

因島大橋が映って


                



なにか事件や出来事がおこるわけでもなく
全く平凡な日常。昨日と同じ今日がある。

風にゆれる洗濯物。

そこに確かに家族が暮らしている。
そのこと以外に人間の幸福があるはずもない。

この映画は、家族がただ平凡に暮らし、
ご飯を食べ、洗濯をし、子供を育て、
寝かしつけ、洗濯物を干す…。
そのような日常をさりげなく、
そして丁寧に描いている。

いつの日か、子供が家族のもとを離れ、
それぞれの人生を旅するときがきても、
幼き日の、風にゆれる洗濯物の原風景を
心の奥にいだき続けていくのだろう。


      




いつもよりちょっと長めの第32作「口笛を吹く寅次郎」ダイジェスト版でした。



公開日 1983年(昭和58年)12月28日
上映時間 105分
動員数 148万9000人
配収 10億8000万円



第32作「口笛を吹く寅次郎」
本編完全版はこちらです。






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第19作「寅次郎と殿様」本編完全版前編は充電期間が続いているめ
またもや遅れて
6月23日ごろです。
どうかまたまた気長〜〜にお待ちください。




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361

                          
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若かりし日の谷よしのさん   風の中の牝鶏


2008年6月2日 寅次郎な日々 その361


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。




腰の状態も良くなり、屋根直しも蔵の中の絵の移動も記録も全て終わったのに、更新作業が遅れがちになっている。

それは前回同様日本を留守にしている間に発表されたDVD、本、音楽、を吸収し、『充電』しているからである。

日本に帰ってくると、まずやるべきことは展覧会、絵の制作などをこなしてとにかく仕事をすること(生業!)
次に書物やDVDや音楽を身体の中にどんどん吸収させること。
3番目にようやくバリ滞在同様、HPの更新である。

そういうわけで、例年同様バリに戻る9月までは、ちょっと更新が遅れがちになりますが、お許しください。


で、ここ一週間今年も小津作品鑑賞週間を勝手に作り、好きな小津作品を見かえしている。
今回はいつもの作品群プラス自分の持っていない1948年の「風の中の牝鶏」をレンタルし、見た。

この「風の中の牝鶏」は1950年の「宗方姉妹」同様、田中絹代さんのキツイシーンがあるので
なかなか今まで見ようとしなかったのである。
「宗方姉妹」のほうはダメ夫の山村聡さんが奥さんの田中さんを嫉妬してビンタしまくるシーンがキツイ。

今回見た「「風の中の牝鶏」も噂に聞いていた田中さんの凄まじい階段まっさかさま落ちがあるので
そこを見るのが辛くて今の今まで見なかったのであるが、知人の薦めもあって見ることにしたのだ。
全体としてはシンプルな小品ながらなかなかいい格調高い作品だった。もっと早く見ればよかった。


物語はこうである。

終戦直後、妻である田中絹代さんは、小さい一人息子の浩君をかかえ、
まだ復員してこぬ夫の佐野周二さんの帰りを待ちわびているのだが、どんどん先立つものが無くなって行く。

でもなかなか当時就職なんて出来ないから、妻は頼りにしている友達を時折訪ねては、
大事にしていた着物を託し、その筋の人たちに買ってもらうというギリギリの生活をしていた。

で、ある日突然浩君が発熱し、病院にかかる。浩君は急性大腸カタルで大変だったのだが、なんとか回復した。
しかし、入院したり注射されたりで病院の支払いが大変になってしまう。
当時はみんなお金がないから前払い制だったのだ。

彼女はもうお手上げでどうすることも出来なくなった。大事な息子のことなので必死に考えぬいたあげく、
妻は知り合いのつてで、やってはいけない売春を一度だけしてしまった。

その後、しだいに妻は犯したあやまちの大きいことに後悔していくのだが、当時お金を工面する方法としては
他の方法はなかったのだった。

そうしたある日突然夫の佐野周二さんが家に帰ってくる。
そして、夫はつい最近浩君が病気をしたことを知り、当時凄く高い病院の支払いをどうしたかと聞きただす。

妻は、どうしても嘘が言えなくて黙ってしまう。
疑惑を感じた夫に強く問いつめられ、ついに妻は告白してしまうのだった。

その日以来夫は苦しみ悩みもがき、妻に辛く当たる日々が続く。

妻を許してやらねばならないことはわかっているし、周囲からも許してやれと強く言われるが、
夫はどうしても許すことが出来ず投げやりになってしまうのだった。

そしてある日、すがるように繰り返し投げやりにならないで欲しいと懇願する妻をつい突き飛ばしてしまい、
妻は凄まじい勢いで下宿の二階から階段を転がり落ちてしまう。

気絶してしまう妻。

その時、夫はようやく自分はこの妻を愛していること、
自分のこだわりが妻を不幸にしてしまっていることに気づくのだった。

そして全身傷だらけになった彼女を抱きかかえ、
もう二度とその過ちのことは思い出さないようにしよう、未来に向って二人で信じあっていこう
と、決意し、自分も妻に誓う。

嗚咽しながら夫の背中を両手で強く強く抱きしめる妻の腕が彼女の気持ちを表していた。



          



と、まあこういう物語だ。

人生でやり直せないことなどなにもないのだと教えてくれた作品だった。


それにしてもラスト近くでのあの強烈な階段落ちと、その直後の夫の背中に手を回す妻の
異常とまで思えるあの激しく必死な腕はなんだろうか…。

あんな凄まじい抱きしめ方をする女性はどの映画でも見たことがない。

小津さんは、ちょうどシンガポールの捕虜時代を経て、帰ってきて間もないころ。
身体の中に疲労もたまっていただろうし、それゆえに、もう一度新しい風の中で
自分を偽らずやり直したいと言う意識も強かったのだろう。
それゆえあのような激しい過剰とも思えるラストの演出になったのかもしれない。

この作品、世間での評判はそれは酷いものである。
そしてどうやら当の小津さん自身もそれを認めてしまっているようだ。

しかし、私は、この作品にはある種の『息吹』を感じて、皆さんが思うほどそんなに嫌いではない。
何事も自分自身が自分の目で見てみないと分からないものだ。





ところで、息子さんが病気で入院してしまう病院の看護婦さん役で谷よしのさんが登場する。
結構たくさん映っているし、長いセリフもしっかりある。

なによりもこのころの谷さんはお若くて!さわやかな凛々しさがある。
もちろんクレジットもしっかりされていた。

私にとってのお宝をまた探し当てたのだ。



        
左が谷よしのさん、右が田中絹代さん。お二人とも若い!

          




ちなみに谷さんのセリフはこうである。
田中絹代さんに谷さんが入院料の請求を↓の様に話す。


谷さん「あのー、この病院は入院料10日分前納していただくことになっていますから」

田中さん「は?」

谷さん「みなさんにそうしていただいてるんで」

田中さん「は、あのー、のちほど」

谷さん「よかったですね、早く良くなって」

田中さん「はい、おかげさまで」

谷さん「じゃ」

田中さん「どいうもいろいろありがとうございました」




              
左が田中さん、右が谷さん

          


なんだか、ちょいと知られざる谷よしのさんを垣間見た気分になれて嬉しい…(^^)






第19作「寅次郎と殿様」本編完全版前編は充電期間が続いているめ
もうちょっと遅れて6月10日ごろです。
どうか気長〜〜にお待ちください。




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取り返しのつかない津嘉山さんの絵



2008年5月23日 寅次郎な日々 その360


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。




バリ日記にも書いたが、ここ1週間超多忙で何も更新作業ができなかった。

今まで自分が描いた絵の置き場所の引越しで大忙しだったのだ。
たくさんの絵を離れの蔵に入れてあったのだが昨年雨漏りするようになったので
屋根屋さんと一緒に屋根を修理し、その後、蔵の中で絵の大移動をしたわけだ。
大変な数なので疲れきったが、腰はもう完全によくなったので作業ははかどった。

過去一年に雨漏りがあったにもかかわらず、幸い絵が痛んでいると言うようなことは
なかったのがほっとしたところ。



ところで映画「男はつらいよ」シリーズでも絵の受難がなんと3回も出てくる。
そしてもちろん天災でなくすべて人災(^^;)

もちろん寅がらみ(−−;)



★最初はご存知、りつこさんの静物画に寅が筆で絵の具をつけてしまった事件。
 これは、りつこさんは相当怒っていた。



          



 しかしあとでなんだかんだと仲良くなって、寅の顔を描いたデッサンまでもらっていたことが
 ラストで分かる。

 寅はわざわざ阿蘇山の噴火口まであの絵をかばんに入れて持っていったのだろうか…。



★2番目はあの日本画壇の最高峰池ノ内青観の動物戯画スケッチが寅とタコ社長によって
 破かれてしまう受難だ。これはちょろちょろっと描いて万円なので、7万円の被害(TT)
 とはいえ、当の青観は満男に描いてあげただけだし誰も困っていないのでOK(^^)/
 もっともタコ社長はずいぶん傷ついていたが…。




           





実はもうひとつ、描いたばかりの絵が相当めちゃくちゃになってしまう出来事があるのだが
みなさんおわかりでしょうか。



★第22作「噂の寅次郎」のオープニングの歌のシーンで、
江戸川の給水塔を油絵具で描いていた画家さんがいたことを覚えているだろうか。
そう、あのコントの帝王、影の主役。

お名前は津嘉山正種さん。

中期の「男はつらいよ」で、なくてはならない大事な人。

近年でも「踊る大走査線」に出演されたり、
外国映画の吹き替えの声優さんとしても活躍されている。


で、私にとっては津嘉山さんと言えばあの江戸川土手でのミニコントの人だ。
第19作から始まって、20作、21作、22作、24作、26作、27作、
と20作台の作品のオープニングを支えた方だ。



で、第22作でも、いつものように気分よく絵を描いていた津嘉山さんだったが、
絵を見ようとした寅が人に押されてひっくり返って
押し返してたら、津嘉山さんの顔に絵の具がついて滅茶苦茶な騒ぎに…。


           





りつ子さんの場合はおそらく絵が乾いていたので、揮発油で取れるのだが、
この津嘉山さんの絵は描いている最中なのでまったく絵は台無し、
これはもう取り返しがつかない…まったく可哀想だった(TT)

気を取り直して描き直し、うまくいく場合もあるが、その時の感覚が戻らない場合も多い。


江戸川土手で何かする時は、寅がどこにいるかわからないので最新の注意が必要なのだ。
寅はあの土手では数かぞえきれないほどの事件を巻き起こしているのだから(^^;)


同じ画家でもだ第29作「あじさいの恋」のオープニングに出てきた木崎湖畔の画家さんは
寅によって代筆を頼まれ制作を中断はされたものの、災難には遭わずにすんだようだ。
あぶないあぶない(^^;)


               





第19作「寅次郎と殿様」本編完全版前編は多忙が続いたためもうちょっと遅れて6月5日ごろです。
どうか気長〜〜にお待ちください。




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『寅次郎な日々』バックナンバー







リリー松岡後援会に奔走する寅



2008年5月14日 寅次郎な日々 その359


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。




ゴールデンウィーク中はそれはもうお天気続きで、気温も初夏の陽気だったのだが、
その後、越中八尾は急に冷え込んで昼でも15度以上にならない日々が続いていった。
以前書いたことがあるが、私は気温が15度くらいになると身体の機能が弱くなるのだ。
十八年も熱帯雨林での生活が続いたため、体がそのように変化してしまったらしい。
それと、深夜の絵画制作による疲労、睡眠不足とが重なり、腰を痛めてしまった。
体が何日か連続して冷えと疲労が重なると7年ほど前から私はよく腰にくるようになった。
『おまえちょっと休まんかい』という神のお告げだと近年では思って昼間から安静にしている。

昨日から外出禁止でこれを書いている今も部屋で寝ながらキーボードを打っている。
今回の痛み方だとあと最低5日ぐらいは外出しないで横になって安静にしていないといけないだろう。
いすに座るよりもなるべく寝転がっていたほうがいいらしいので、昼間からしかたなく『たそがれ』ている。
二階から町を眺めたりして『たそがれ』ながらまあぼんやり寝転がっているのだ。

ちょうど折りしも、亜熱帯の小島で『たそがれ』をする人々をひたすら静かに撮った映画『めがね』を
ふにゃふにゃ観たりしてのんびりしている。あの『かもめ食堂』の荻上直子さんの作品だ。
『かもめ食堂』の持つ静けさの中の熱さ的部分はこの『めがね』にはないが
腰痛の安静時にはもってこいの実に静かな『たそがれ映画』だった。

しかし、まあ、寝転がっているのでパソコンがスムーズに打てない。

よって、今回の寅ネタはささやかな話でお許し願いたい。





リリー松岡後援会に奔走する寅


寅といえばリリー。
リリーといえば寅である。



            



寅はリリーを女性としてはもちろんのこと愛しているが、
歌手としても真剣に応援している。
そのような寅がリリーの仕事を想う気持ちは第15作「相合傘」でのあのアリアのある一言に
凝縮されている。



リリーの歌は悲しいもんね…


人の心の琴線に触れるリリーの歌に人は涙を流してしまうのである。
歌手リリーに対する最高の褒め言葉だともいえるだろう。





            




そんな寅は、実は第11作「忘れな草」の脚本(当時のキネマ旬報に掲載された第2稿)の中で
なんと
歌手リリーの後援会を作っていたのである。
これは本編ではカットされてしまったが、寅がリリーを女性としてだけでなく、
歌手としても大事に思っていたことがわかるささやかなエピソードである

場面は、とらや茶の間で寅たちがリリーの孤独についいて話し合ったり、
寅は『愛』をたくさん持っているとにぎやかに歓談した翌日の短い30秒ほどの話。




題経寺 境内


御前様が紐でとじた書類を眺めている。

寅と源公がニコニコして立っている。

御前様「
リリー松岡後援会…

寅「今んところ会員は、裏の社長においちゃんに博に源公、それに私です。
  これから追々門前町の連中にもなってもらうつもりでして」

御前様「で、私も会員になるのかね」

寅「いえ、御前様には
会長になっていただきたいです」

と、嬉しそうに頼む。





とまあ、こういうちょっとした脚本だったわけだ。

寅のことだから柴又界隈のほぼ全員を後援会に無理やり入れたのは
想像に難くない(^^;)

しかしいったい後援会このあとどんな活動をしたのだろう?

チャンチャン(〜〜)



             





第19作「寅次郎と殿様」本編完全版前編はちょっと遅れて5月25日ごろです。
どうか気長にお待ちください。




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男はつらいよ 13年  〜山田洋次の世界〜




2008年5月6日 寅次郎な日々 その358


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。





メイキング番組 男はつらいよ 13年  〜山田洋次の世界〜


先日、いろいろお世話になっている東京葛飾区のTさんから、貴重なDVD資料を送っていただいた。
Tさんはお勤めをしながら本来の文筆活動もされている方で、
おまけに16作の礼子さんや35作の若菜さんも野球をした、あの柴又の江戸川河川敷で
休みの日は少年野球のコーチもされている。
書かれたものも読ませていただいたが美しい哀愁が漂う味わい深い文章だった。実に多才な方だ。


で、そのTさんから送られてきたのは第28作「寅次郎紙風船」の時のメイキング映像だった。
Tさんがずいぶん昔録画されたものをVHSからDVD化されたものだ。

「寅次郎紙風船」が封切られた昭和56年末に取材をした日本テレビの小さな番組で、
突っ込んだ新しい切り口は少ないものの、山田監督の演技指導や表情の変化を
丁寧に追いかけていたのと、渥美さんや山田監督のインタビューが簡潔で力強く印象に残った。


せっかくのTさんのご好意を、私一人がほくそ笑んで享受していてもしょうがないのでこのサイトを通して
みなさんにエキスを味わっていただこうと思っている。



完全にくまなくは紹介できないが印象に残った部分を中心におおよそ紹介させていただこうと思う。


それではどうぞ





オープニング


筑後川の畔  久留米水天宮ロケ



山田監督「いいかい?」

遠くでスタッフの声「今から撮りますので、静かに…」

山田監督「よーい…、よぉーーい」


                


山田監督「はい!」


スタッフの声「5」

カチンコ

「カチカチン!」

寅の声「さあ、手にとって見てやってください、ね!あとあとください、ちょうだいはないよ、
    どう!四谷赤坂麹町ちゃらちゃら流れる御茶ノ水粋な姐ちゃん立ちションベン、
    白く咲いたがゆりの花、四角四面は豆腐屋の娘」


                


山田監督、手を叩いて

山田監督「カット!」

スタッフの声「はいもう一回!」


カット変わって

岸本加世子さん演じる愛子がサクラをするカット。

真剣な目の岸本さん。


                


山田監督「はい!」

「カチン!」

寅の声「四百円、どうだ!」

愛子「おじさん!私買った!」

渥美さん「早い、ちょっと早い早い」

と自らNGを出し、岸本さんを制する。

周りの見学者たち「ハハハ フフフ」




カット変わって


山田監督が啖呵バイを引き受けたエキストラの人が
途中で帰っちゃったので困っている。


山田監督「なんだしょうがないな、そんないいかげんな人たちばっかりなんじゃ」

近くの別のおばさんを呼んで

山田監督「じゃあおばさん来て、おばさん」

山田監督独り言のように「ダメだよ、途中で帰ったりしちゃあ」


                


スタッフの声「手前だけ途中で帰らないで、…」



本番直前の渥美さんの表情が映る。


                


山田監督の声「よーい…」

山田監督「はい!」

スタッフ「六!」

「カチン!」


寅「さあ!お手にとって見てやってください、ね!あとあとくださいはないよ、
  どう!四谷赤坂麹町ちゃらちゃら流れる御茶ノ水粋な姐ちゃん立ちションベン、
  白く咲いたがゆりの花、四角四面は豆腐屋の娘色が白くて水臭い…」


                





「男はつらいよ」のメインテーマが大きく流れる。





タイトル クレジット



男はつらいよ 13年

〜山田洋次の世界〜




                






場面は思いっきり変わって






公開初日(昭和56年12月29日)



東京新宿  新宿松竹会館(新宿松竹ピカデリー)


俳優鈴木瑞穂さんのナレーションが流れる。


鈴木瑞穂さんといえばこの映画の前年、
「遥かなる山の呼び声」で健さん演じる田島耕作の実兄役を好演されていた。
実に味のある芝居だった。


ナレーション

男はつらいよ寅次郎紙風船は去年の暮れ、一斉に封切られました。
盆と正月恒例の寅さんシリーズは昭和44年8月、第1作が世に出て以来、今回が28作目、
実に13年になります。主演の渥美清さんらが顔を見せたと今日新宿の初日の入りは、
正月として最高だった去年を10パーセント上回りました。


渥美さん、音無さん、岸本さん、の3人が映画館の前で鏡開きを行おうとしている。



                


ナレーション

全国的な観客動員数は第1作から今なお急上昇を続け、延べにしておよそ5千万人、
国民のほぼニ人に一人が映画館に足を運んだことになります。


台本やポスターが一斉に28作分映し出されていく。
 





若者や親子連れが目立つ観客たち。


そういえばあのころ私自身が20歳くらいだから、
ちょうどこの若者たちの年齢だったのだ。
当時は今と違って、若者もこの映画を観ていた。



                



高校の国語の教科書に載った山田監督の随筆『映画と私』を紹介している。



ナレーション

そして高校の教科書に登場するにおよび、寅さんは今や、名実ともに国民映画となりました。





第1作「男はつらいよ」のオープニングが長い時間映し出される。


ナレーション

映画「男はつらいよ」はフーテンの寅さんが毎回マドンナに恋をしてはふられ、
また旅に出るという、凄く単純な筋書きになっている。
にもかかわらず、このワンパターンのシリーズが、なぜ映画界大不況の70年代を生き残って
いまだに人気を呼んでいるのでしょうか。私たちは、渥美清という稀有のキャラクターの存在を
充分に認めながらも、なお、この13年の重みを、単なる娯楽映画のジャンルを越えた、社会的な
事実として捕らえざるを得なかったのです。


渥美さんの歌が流れ続ける。


                








松竹大船撮影所


渥美さん、山田監督、太宰さん、笠さん、高羽さん、
などが次々とスタジオに入っていく。

笠さんがポケットに手を突っ込みながらとことこ歩いているのがいいね。


                



第28作「寅次郎紙風船」のスタジオ撮影



ナレーション

原作脚本も自ら手がける山田洋次監督の執筆が難航し、ギリギリのスタートとなりました。


リハーサルしているカットはちょうど光枝さんと所帯を持つことをみんなに聞いていく
例のギャグの場面である。このカットは第28作の笑いの中心だった。




                


山田監督「よーい…」

山田監督「はい!」



ブザー 「ブー」

スタッフ「3シーン」



山田監督のプロフィールがナレーションで紹介される。


ナレーション

山田洋次 50歳 東大法学部卒業後、松竹に補欠で入社し、同期の大島渚たちが
華々しくデビューする中、コツコツと脚本を書き続ける。

そして昭和44年、会社の反対を押し切って作った男はつらいよが
爆発的なヒットとなる。


その前にすでにテレビドラマの「男はつらいよ」が
かなり人気が出ていたことはこの番組では紹介されなかった。残念…。


                


寅「こっちは真剣に聞いてんだからな、ちゃんと答えてくれよ

寅はどう言う支度をしたらいいか聞きたいようだ。

さくら「わかったわよお兄ちゃん、じゃあ、いつの日か所帯を持つようになるとして
    私たちはどうすればいいの?」

寅「だからそのためにどんな支度をすればいいかということを
  聞いてるんじゃないか」

おばちゃん「まず、所帯道具をそろえることだろ

寅「そうか…、箸と茶碗ね」


ブッブー  と、ブザー



山田監督、おもむろにスタッフの台本覗きながら「…所帯道具をそろえるだろ…、そうか…」

もう一度自分の中で疑うように小さく、台本のセリフを繰り返す。

山田監督「そうか…」



このへんが山田監督らしい。

もう一度セリフを練っているのだ。



                


スタッフ遠くで「はい、じゃあ行きましょう」


山田監督「よーい!」

山田監督「本番テスト行きます」


スタッフ「テストー」






照明係り  藤田繁夫さん  へのインタビュー


藤田さん「普通のところだったら、一回テストやって、
      本番やって、それでテストやってね、もうそれで本番行くでしょ。
      山田さんて言うのはもう、自分の中のイメージが、こう行かないと、もういつまで経っても
      本番行かないわけなんですよね。だから、朝、9時から始まって、お昼になるまでね、
      ワンカットも行かない時あるんですね…、そういうやっぱりね、はやく、ちょっとねえ…、
      撮ってもらえないかなっていうのはあるんですよね、フフフ」


                


カメラの高羽さんがしゃべっている。

高羽さん「一度座って、また胡坐になったのかしら」

スタッフ「そうです」







大道具の近藤さんにインタビュー


インタビューアー「なんでしょう、山田組といわれるスタッフたちはねェ、
           家族みたいな、結びつき、信頼関係になっているというのは…」


近藤さん「やっぱり…もう、山田さんの人徳じゃないでしょうか…。
      おそらく。もう昔から、10年以上やってますけど、そういうことかな…。
      自然と…、やってやろう、っていう気になるんじゃないですか」



                



所変わって



当時、三重県立 津女子高校 で国語教師をする吉村英夫さんが紹介される。

昨年「男はつらいよの世界」として集大成を出版したことを紹介。


吉村さんは、「男はつらいよ」を生徒たちに見せるが、生徒たちの反応は
概ね否定的であるところが逆にたいへん興味深い。




                


生徒たちの反応

「退廃的なイメージが少しもないのがうそっぽい」
「スリルとサスペンスに欠ける」
「なんとなく現実味に欠ける、いまひとつ」
「あんなんでは世の中渡っていけない」
「なんかさー、できすぎてない人間が」
「あんまり見たない。なんかオジン臭い、フフフ」
「現代には合ってないような感じがする」

吉村さん「じゃあ、どうしてそれがみんなに人気あるんやろ」

「うん、不思議、フフフ」

「温かみのある人やけどさ、なんか、こう…」

人間人間してしてるもん

「うんうん」
「なんか白々しいやん」


吉村さんは「人間人間してるからオレは好きなわけや」と
いろいろな批判にあいながらも突っ走るのである。
いやはや吉村さんらしいきっぱりとした姿勢である(^^;)




山田洋次監督の「幸福の黄色いハンカチ」のクライマックスが映し出される


                


そしてもうひとつ1970年制作「家族」の隠れた名シーンである父親を引き取れなかった
弟役の前田吟さんのやるせない涙を紹介。



吉村さん「弟は福山の駅まで送ってきて、なけなしの1万円札を渡してね、見送るわけだけれど
      そのあとで…前田吟はね、泣くんですよね。密かに泣く…。

      このシーンは私はずいぶん深い意味を持つと思うんだけれども。
      この現代という、管理社会っていうのか、せちがらい世の中ではね、
      前田吟の弟はほんとうは善人なんだけれども、善人がね、善人であることができないほど、
      今、住みづらい世の中になってるわけです。
      だから、追い返してしまった後に涙がある。

      これは山田さんがね、追い返すだけでは終わらない、つまり…
      今の世の中間違ってるんだという認識だけでは終わらずにね、
      しかし、人間はね、涙もあるし、善人は善人なんだという気持ちがあるんですね。
      そこに山田さんの全ての映画に通ずるね、多くの勤労民衆を励ましていく視点を感じる…」



                








場面は、また変わって


福岡県 秋月



                




渥美さんが道を聞いている。

山田監督「よーい」

山田監督「よーい、おばあさん出て」

山田監督「よーい」

山田監督「はい!」


『カチン!」

寅、タバコ屋さんで道を聞いている。

寅「じゃ、こっち、橋渡ってね、どうもありがと」

と、歩いていく。


中のおばあちゃんの声

「中にバンドエイドあるのまだ?」


                







何度かのやり取りがあって、

通行人のおばあちゃんの自然さが撮りたくて急いでいる監督。

山田監督「いくよ!ほら、なんだそれじゃあ、ああ、はやくしてくれよ。
      よーい、…引っ込んで引っ込んで」


                



山田監督「あーほら、ばあちゃん出てきちゃったじゃないか、

       よーい…」


スタッフたち「あー…間に合わない」

山田監督「間に合わない間に合わない、もう一回もう一回」

スタッフの声「もう一回」

山田監督「だめだよ、そんなとこに出てきちゃあ…」






ふたたび 大船撮影所



大船セットでのリハーサルに戻って…


渥美さんが相当アドリブを入れて、倍賞さんを笑わせている。


寅「贅沢は言わない」

おいちゃん「ん」

寅「ただ、風呂桶ね、あれヒノキがいい」

山田監督、下條さんに

山田監督「聞いてて聞いてて、風呂桶のこと」

と、顔を渥美さんのほうに向けることを催促。

おいちゃん「どうして?」


寅「え?プラスチックはいやなんだよあれは」


                


倍賞さんもうかなり笑っている。


                


寅「だってすべっちゃってストーン!となるからさ」

前田吟さんも倍賞さんも顔をストーンに合わせてびっくりさせる。

みんな大笑い。

山田監督も大笑い。

寅「
こないだ蛇口でチ○ポコ打っちゃった!アドリブ(^^;)

みんな爆笑

山田監督も腹を抱えて笑っている。

寅「すりむいちゃったよアドリブ(^^;)

みんな大笑い。


                


寅「そんなことになったら大変だよ、光枝さんに悪いアドリブ(^^;)

みんな超爆笑で笑いが止まらない。

山田監督顔をくしゃくしゃにして笑っている。


                


寅「
飛躍するネエ〜、オレはいいよ。おいちゃんに責任とってもらうからなアドリブ(^^;)

おいちゃん「オレは責任取れネエよ下條おいちゃんもアドリブ(^^;)


                


みんな爆笑。

倍賞さんも三崎さんも

「やだーもう」

「もうやだー」といいつつ笑いが止まらない。



寅「結局みんなが悪いんだ、とらやの人間がアドリブ(^^;)

倍賞さん、うつ伏せになって笑い転げている。


                





小道具の町田さんがインタビューを受けている。


                



町田さん「寅の好物というのが、あのー、サトイモとイカの煮っ転がし
というやつです。これは毎回出てくるんです。

食堂とか何かに頼むと、あのーなんて言うんですか、家庭的な、
とらやらしい料理ができないんですよね。
それでどうしても自分で煮るんですよね。」



                



備後屋でおなじみの、
小道具の露木さんが道具用のかばんから、
おいちゃんおめがねを取り出している。



露木さん「僕らいつも冗談で言うんですけどね、
      監督にいる前で、酔っ払ってバカなまねするな、
      みんな見られてるぞって、フフフ。
      もうやっぱり絶えず観察されてますね。
      お酒飲まないけど、宴会の席では最後まで座ってらっしゃいます」



                






ふたたび

福岡県  秋月



常三郎の家の前



山田監督が、音無さんに演技指導している。


山田監督「『喜ぶわー、きっと』と言って、『喜ぶわ』をはっきり」

音無さん、頷きながら

音無さん「はい」



                


山田監督「『さ、』から」

音無さん「さ、どうぞ、汚いところだけど、喜ぶわーきっと」

山田監督「うん、ん、そこは大事だったんだ。『さあ、汚いとこだけど、喜ぶわー、きっと』と、
寅さんにはっきり言って、(そのあと家の中に入っていくと指示)」



音無さん「はい」

山田監督「つまり、誰も来やしないわけでしょう。一ヶ月も二ヶ月もさ、仲間なんかね」


                


かなりここのカットはこだわっている山田監督。

頷く音無さん


音無さん「さあ、どうぞ、汚いところだけれど、喜ぶわー、きっと。さあ」


                


山田監督「ん、最初の『さあどうぞ、汚いところだけど、喜ぶわァ』これを大事に言うってことね」

音無さん「はい」


山田監督、カメラに戻って、

山田監督「それじゃ、このカット、立ち止まるまでね」



                




音無さんの指が映される。

山田監督「よーい」

山田監督「はい!」

カチン


寅「ほー、やっぱりこの家だったのか」

驚いている光枝さん

光枝さん「まあ…、ほんとに来てくれたのー」と駆け寄る。

寅「ああ、甘木まで来たもんでね、ちょっと足のばしたんだ」


                



芝居を真剣に見つめる山田監督。



スタッフ「はい」



高羽さん「本番」

山田監督「よーい」


高羽さん「あ、マイク出てる」

山田監督「よーい、はい!」

スタッフ「二」

「カチン」


寅「やっぱりこの家か」

驚いている光枝さん


                



光枝さん「まあ…、ほんとに来てくれたのー」と駆け寄る。



寅「ん」


                



真剣に音無さんの芝居を見つめる山田監督


                                



光枝さん「まあ」

寅「甘木まで来たもんでね、ちょっと足のばしたんだ。病院はどこだい?」


光枝さん「今は家にいるんですよ。先週退院して」


感情移入してしだいに表情をほころばせる山田監督


                


寅「ここにいるのか」

光枝さん「ええ」


完全に気持ちが入り込んで、表情が柔らかくなっていく。
監督というより観客の気持ちになっている山田監督。



                



山田監督「はい!」




このあとかなりセリフが入れ替わり、結果的に本編でのこのシーンは、
とてもタメのある鮮やかなシーンに到達していた。


下↓の画像は本編での「喜ぶわー」のセリフシーン


                



このあとの、寅への買い物のため戸を閉めて外へ行く短い一人芝居のシーンで、
音無さんはなんと30数回もやり直しをしたと何かの本の中で語っておられた。





話は飛んで…




渥美さんへのインタビュー


山田監督について


渥美さん「やはりあの…、ぞんざいに放り投げたり、諦めたりしない人ね。
      もういっぺん、このやったことを自分で疑ってみて、
      これだったらもういっぺんこうできるんじゃないか。
      これだったらこうなるんじゃないか…。
      なんべんでも粘れる人ね。ん…、
      それは大変なもんですよ


と、頷いている。


                



山田監督へのインタビュー


この映画への思いを聞かれて


                


山田監督「まあ、簡単な言葉で言えって言えば、
      『人間は誰でもみんな同じように幸せになる権利があるんだ』
      とでも言いましょうかね。

      ま、寅さんの映画にとって言えば
      寅と言う、この無学な無教養な、半失業者、…のような、情けない惨めな人間にもね、
      ちゃんと幸せになっていく権利があるんだし、またそのことに目覚めて欲しい、という願いを
      いつもまあ寅に持っているってことかな。
      それが映画を作る僕の寅さんという映画に寄せる思いだと、考えていますけどね


と、小さく頷く山田監督


                


とらやのセットで一人考え続けている山田監督の横顔が映し出される。


                


ナレーション

山田監督のシナリオに次の一節があります。


かつてその街には善良な市民たちが暮らしていた。
酒屋は酒飲みの健康を案じ、墓堀りは墓穴を掘るたびに泣いた。
彼らは自分の仕事に誇りを持ち、他人の仕事を尊び、
そしてお互いを信じあっていた



現代管理社会が捨ててしまった世界。
まさにその中に、私たちは山田洋次とそのスタッフたちの生きた絆を
見つけたような気がしたのです。


                




みたび 久留米水天宮ロケ


山田監督「よーい本番」

スタッフ「本番行きます」



メインテーマが大きく流れていく。



このメイキング番組のスタッフのクレジットが次々に映し出されていく。



スタッフ「本番行きます!」


山田監督「よーい」


                




                




音楽止まって、



山田監督「はい!!」





                



終わり



どうでしたか、みなさん。
山田監督のインタビューは心に沁み、胸に沁みました。
美しい映像を送ってくださいましたTさん、ありがとうございます。





第19作「寅次郎と殿様」本編完全版前編は5月19日ごろです。
どうか気長にお待ちください。




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ただそこに美しい花がある




2008年4月28日 寅次郎な日々 その357


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チューリップ 風に震えて 家は留守     風天


4月22日に帰国してからようやく時間ができたので更新作業をこうしてしている。

4年ほど前、春に東京に降り立った。
見事な桜を見ることが出来た。

しかし、今年は4月22日に帰国したので、桜も葉桜気味のものをちらほらとしか見れなかった。
でも、少しでも見れたのはラッキーかも。

実は自宅のある富山に4月末に帰るのは10年以上後無沙汰しているのだ。
いつもなら早くて帰国は7月だ。

で、玄関にたどり着くと、道沿いのわずかな土の部分になんとチューリップが咲いているではないか。
赤いチューリップだ。
息子に聞くと、ずいぶん昔、小学校の低学年のころ確かに咲いていた記憶があるとのこと。
私も連れ合いの宮嶋も完全にチューリップがそこに潜んでいることを忘れていた。

私たちが帰らない10年以上もの間、この赤いチューリップは咲いては枯れ、咲いては枯れ、
と、健気に生きていたのだ。
なんだかちょっと可哀想な話だが、嬉しくもある話だ。
もちろん花はただ咲きたくて咲いているのであって人の感情の入り込む余地はそこには何もない。

そして、だからこそ花は限りなく美しい。


小林秀雄さんがかつて書いたように、
美しい花がある。花の美しさというようなものはない、のである。



そう言えば、その昔、平安時代、
菅原道真(845年〜903年)が901年 大宰権帥(だざいのごんのそち)に任ぜられ、
京を発つ際、自宅の紅梅殿に植えてあった梅を見て

『 東風吹かば 匂いおこせよ梅の花 主なしとて 春な忘れそ 』

と詠んだことを思い出した。


チューリップは主のいないこの家で、
春を忘れないで毎年毎年真っ赤な花をひたすら咲かせていたのだ。

私は対面したそのチューリップにはじめて水をやり、その不思議なご縁に感謝した午後だった。


そういえば渥美さんの1975年の俳句にこういうのがあった。

『 チューリップ 風に震えて 家は留守 』

まさに私の家のチューリップを詠んだような句だ。



                   





このチューリップを見ているとなんだか寅の人生を思い出してしまった。

誰に誇るわけでもなく、誰に見せるわけでもなく、ただ淡々と生き、旅を続け、いつしかどこかで
眠るように死んでいく寅。
人はそんな寅を見て哀れだとか不幸だというかもしれないが、
寅は己の道を歩み、旅を続け、いつしか消えていくだけなのだ。それだけの話である。
だからあのチューリップと同じように寅の人生は孤高で、凛としている。


たとえ御前様が寅は仏の化身だと言っても、仏に好かれていると言っても、鼻で笑いながら
「仏に好かれてもこっちはいい迷惑だ」と、言い切る寅。


肩書きを持たず、物や精神に縛られず、囚われず、
時に無様に、そしてまたひょうひょうと旅を続ける寅。

何者でもない男 車寅次郎


そんな寅に惹かれ、彼の旅する背中を追い追い、私はもう何十年もこの生活をやってきた。

私もあのように無欲に生き、淡々と絵を描き、
いつしかまた、あてもない長い長い旅に出たいと思う。



                      

                 







先日のFLASHアニメ『寅次郎と宇宙鳥獣 Final』は YouTube にも貼り付けたそうです。


第19作「寅次郎と殿様」本編完全版前編は5月19日ごろです。
どうか気長にお待ちください。




【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら

【寅次郎な日々】全48作品マドンナ制作年度順









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第31作「旅と女と寅次郎 ダイジェスト



2008年4月20日 寅次郎な日々 その356


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。




     




第31作「旅と女と寅次郎ダイジェスト版



歌の中にこそ輝くはるみさん



               



この作品のマドンナは歌手であり、スターである都はるみさんだ。
彼女の芝居は役者の『間』では無い。このシリーズの中で歌手だった人が芝居もする時がある。
たとえば第33作「夜霧にむせぶ寅次郎」のマドンナ風子を演じた中原理恵さんなどはどちらかというと一時期歌手だった。
しかし風子さんの『間』は役者の間にかなり近いものがあり、違和感なくほかの役者さんと一緒に溶け込んでいた。
しかし都はるみさんは役者になりきれていなかった。

だからあの作品を見るとちょっと見づらいいリズムになってしまっているのだが、
それとは別に、歌手ゆえにはるみさんが歌を歌うシーンも結構ある。
これはさすがだ。聴く人を魅了して離さない才能をいやがうえでも見せつけられる。
その歌の中でも『惚れちゃったんだよ』を歌うはるみさんの声が凄く冴えている。
当時日本一の歌い手のひとりだったことがよくわかる。
それこそ水を得た魚のような歌声と表情の輝きだった。

物語的にも前半の『運動会騒動』はなかなかよくできた喜怒哀楽の物語だったし、はるみさんと別れた後の、
東芝ウォーキー騒動もこれまた、無理なく物語の中に入り込んでしっかり笑わせてもらった。


都はるみさんの出演は、はるみさんのファンでもあった渥美さんの強い希望だったとも聞いているが、
そのせいか、はるみさんと共演している時の渥美さんはなんだかうれしそうだった。


それでは本編ダイジェスト版をどうぞご覧下さい。



                  


@とらや『運動会騒動』と旅立つ寅


寅の夢から

時代劇であるが

劇中舞台劇である。




「天保佐渡一国騒動」

@天保4年(1833)凶作、同7年(1836)大凶作、
同8年(1837)凶作で飢饉(ききん)が各地に蔓延、
一揆や騒動が全国で年に100件以上に達した。
天保8年、大坂大塩平八郎の乱、越後柏崎の生田万(よろず)の乱など内乱に相当する一揆が発生。
佐渡でも、翌年の天保9年(1838)佐渡一国を挙げての大規模な一揆が起こった。


この一揆の首謀者の一人は現羽茂町の善兵衛という義民だが、
この夢では寅(寅吉)がその首謀者になっている。

新たに発見された絵巻物のなかに寅の絵が描かれてあったりするのだが、
この絵巻物がなかなか味がある絵なのだ。最初は本物の絵巻物かと思ったくらい
よくできたものだ。


                  



博のナレーションによると

その首謀者は柴又無宿寅吉という男であることがわかった。
この一揆の後寅吉は幕府の追及の手を逃れて流浪の旅を続けていたが、
望郷の念止み難く、天保8年、生まれ故郷の葛飾郡柴又村に立ち戻ったと
記されている


ここから劇中劇  舞台劇


拍子木がチョーン!と鳴る。


江戸時代 天保年間


とらや 店


タコの十手持ち親分「おおい、何とか言ったらどうなんでい、おら、ああ!
源ちゃん「おおう!

と、博にくってかかっている。

さくらがやってきて親分に謝る。

さくら「親分さん、この人がなにか不始末でも?

タコ「てめえの亭主のような意気地なしは見たことねえや、
   いまさっきも泥棒を一人取り逃がしてしまったとこよ。
   近所付き合いのよしみで十手取らせてものの、こんな役立たずじゃ、
   オレッちの顔がたたねえや。さっさと十手返しやがれ!おい、


下っぴきの源ちゃん、博吉の十手を取ろうとする。

博吉はなんとか源ちゃんに取らせないように格闘する。

懇願するさくら。

タコ「今回のところは見逃してやる、今日明日で手柄をたてなきゃ勘弁できねえぞ

と、笑って帰っていく。

そして店が暗くなったあと、

寅吉が隠れるように帰ってくる。


観客「待ってやした!」
観客「大統領!」
観客「いい男!」

寅吉「おさく…オレだよ
おさく「あんちゃん
おばちゃん「寅吉

寅吉はおさくに佐渡の金山で掘り起こした金塊を、
生活の足しにしろと渡す。

重くて落としてしまうおさく。

寅吉「達者でな」と、出て行こうとする寅吉。

そこへタコと源ちゃんがやって来て、人相書きと「左の眉毛に一つのほくろ!」、と、
言い放って寅吉を取り押さえようとする。

寅吉しまった!という顔で見栄を切る。

観客「目、千両!

格闘の末、寅吉はタコと源ちゃんを刀でやっつける。

観客「寅次郎!」

観客「後家殺し!出た!後家殺し!(^^)


                  

寅吉「キジも鳴かずば撃たれもしめえにィ!無益な殺生しちまったァ

立ち去ろうとしたその時、

博吉の十手が床に落ちる。


はっと気づく寅吉

寅吉「そうか、おめえは…

おさく「あんちゃん、早く逃げて!
寅吉「妹の亭主は岡引…、これもなにかの因縁だァ、
   さあ、おいらにお縄を打ってお手柄にしな


おいちゃんもおばちゃんも寅吉にお縄をかけないで欲しいと懇願。

おいちゃん「いけねえいけねえ!たった一人の甥っ子に縄かけるなんて、
      このオレが許さねえ!


おばちゃん「寅吉を縛るなら、この私を殺してからにしておくれ!


おさくも寅吉をかばうが、寅吉は博吉に手柄をたてさせてやりたくて、

寅吉「この意気地なし!てめえ、それでも!(拍子木タタ!)岡引かァ!!

と、見栄を切り、博吉に無理やり縄をかけさせようとする。


シリアスな音楽がゆっくり流れる。


ベルリオーズ 幻想交響曲 第5楽章〈ワルプルギスの夜の夢〉



博吉「真心赤いこの朱房…、恋女房と血続きの義理の兄貴の手を縛るたァ…、
    御免なすって


寅吉「お縄頂戴いたしやす


と、手に縄をかけさせる。

おさく「おさく、許せ

泣き崩れるおばちゃん。

                  

寅吉「さあだんな、めえりやしょうか

縄をかけられた寅吉におさくは、寅吉のマントをかけてやる。

寅吉「ありがとよ

観客「車!」
観客「寅次郎!」


源ちゃんがむっくり起き上がるが
定吉(満男)にポッカリ柄杓でなぐられ又気絶。  死んでなかったんだね(^^;)


とらやで泣き崩れるさくらや老夫婦。

近所の衆が義民の寅吉が捉えられていくのを見て泣きながら拝んでいる。

あああ、あそこの中に谷よしのさんらしき人が…↓。


                  


                  


新たに谷よしのさん発見でした。



花道を歩く寅吉


寅吉「いつやら雪も降り止んで、綺麗な星空だ!

博吉泣いている。

寅吉「明日はきっと!

観客「車!」


拍子木「キーン」

寅吉「いい天気だぜェー!

観客「日本一!」
観客「日本一!」
観客「大統領!」






現実に戻って…








越後のとある茶店で寝ている寅。




小千谷市  船岡公園

このロケ地が船岡公園だとわかったのは
は、越後で農場(滝沢農園)を営まれておられます
滝沢直紀さんからの詳細なメールによります。

滝沢さんはいろいろなロケ地もめぐられています。

滝沢さんのサイトです。↓
http://www.ac.auone-net.jp/~takizawa/torajiro31.html




チンドン屋さん役の関敬六さんに起こされる。
カバンを枕に寝ていたのだ。

夢から覚めても時代劇風にしゃべってしまう。

寅「お大切な荷物をまっぴら失礼さんでござんす

                  


関さんからは「時代遅れよ」と言われてしまう寅だった。


タイトル  男はつらいよ 旅と女と寅次郎


                  



口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
   帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
   人呼んでフーテンの寅と発します。



   ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


後半は演奏のみで歌は無し。

   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪



江戸川土手に立つ寅。



矢切の渡しを駆け落ちらしき若い二人が渡って行く。

細川たかしさん特別出演。

                  


しかし、うっかり櫓を持たせるのを忘れて、
細川さんたちは右往左往。
止めに来た彼らの身内たちも右往左往。


                  


寅、いつものように知らん顔でそそくさと立ち去っていく。
というミニコント。







本編



帝釈天参道を自転車でやって来るさくら。



とらや 店


さくら、自転車でとらやにやって来る。


店には日生のおばちゃんこと中北千枝子さん

実はこの方、黒澤映画でも出演していたなかなか演技の上手い人。

作品の中でもやっぱり、『日生のおばちゃん』らしき役やってました。



そんな時、寅がフラフラ風に飛ばされながら帰ってくるのだった。



                  



お土産も超軽い【畳イワシ】だ。



                  



そこへ博がやって来て、明日の満男の運動会に見に行ってやれなくなった
と、悩んでいるのだった。

寅「博、おまえ仕事行け、オレが父親代わりになって、満男の運動会に出てやる

と、俄然張りきりだす。



                  



とらや 庭


特にPTAが出る、『パン食い競争』には異常なまでの意欲を見せ、
庭でパンを吊るして練習にいそしむのだった。


                  





とらや 茶の間 夜



夜、満男にそのことを伝えると、満男は微妙な顔をしてしまう。


                  

満男「おじさん…


                  

寅「なんだ?」とニッコニコ。
満男「あのー…、明日忙しいんじゃないの?

寅「安心しな、他の人になくてね、伯父さんに有り余るもの、
それはだよ


これは寅お得意のいつものセリフ(^^)


                  


満男「えっと…、でも、退屈だよ、大人の人には子供の運動会なんて…
と、いかにもやめて欲しそう…(TT)


寅「オレ、大好き、子供の運動会、旅先なんかで子供の運動会にみるとな、
  仕事ホッポリ出して一日中ずーっと見てるの。

  最後の父兄のパン食い競争ってのあるだろ、
  あれなんか我慢しきれなくなって伯父さん飛び出て行っちゃうからねえ〜、ああ。
  ましてや可愛い甥っ子の運動会だ!な、明日の朝、一番目立つとことって、
  力いっぱい伯父さん応援してやるから、
  おまえ一等賞取らなきゃ承知しないぞ!いいな



                  


満男、下を向いてしまう。

さくら、心配そうに

さくら「応援するの?お兄ちゃん…

寅「しますよ!

と言って柴又運道具店で買ってきた赤いホイッスルを思いっきり吹く。

ピ〜〜〜〜〜〜!!!!


                  


みんな耳をふさいで身をかがめる。

                  

寅「フレェ〜〜〜エ!フレェ〜〜〜エ!満男ー!!

タンタンタン!、タンタンタン!
タンタン
タヌキの金玉はぁ〜!、
…ウワー〜〜!!
フレーフレーォ〜ミツオー!!

『金玉』の部分でさくらがビビッテ(^^;)いた

         

バンザーイ!!
と大はしゃぎ(TT)



                  


一同シラ〜

寅「♪うみ〜〜ゆ〜〜かば〜〜〜

博「いいですよ、兄さん僕が行きますから

と、言い出したり、満男がお父さんやお母さんのいない子もいるから
と言って、誰も行かないことにしだしたり、なんとか寅に行かせないように工夫し始める。


寅、不思議がって

寅「ちょっと待てよ、なんだオレは、なにもめんどくさいって言ってるんじゃないんだよ、
  喜んで行ってやるって言ってんだからなにも遠慮するこたあないじゃないか


さくら「遠慮じゃないの、遠慮じゃなくてね…、分かってよお兄ちゃん


                  



寅ブスッとして

寅「満男、おまえ、オレが行くのが迷惑なのか?

おいちゃん、たまりかねて

おいちゃん「少しは満男の気持ちにもなってやれよ
              
寅「あなたには聞いてません!座布団一枚(^^;)


                  


おいちゃん「迷惑なのに決まってるじゃないいか

寅、おいちゃんを睨んで、満男の方も睨みながら、
口の中でブツブツ文句を言っている。(^^)



                  



満男、その視線に耐え切れず下を向いてしまう。

寅は、矛先を博にも向ける。


                  


寅「博、おまえはどんな教育をしてるんだ、息子に、えー、
 忙しい中をやりくりして、面白くも無い運動会に行ってやろうと言ってんだぞ、
 その気持ちがわかんねえのかお前の息子に


寅はとにかくとにかく収まりがつかない。

ついに満男は泣きはじめてしまう。

タコ社長が、なんとか仲裁に入ろうとして、『参観日に娘に来るなって言われた話』をしたが、

寅は、せせら笑って

寅「そりゃあ、当たり前でしょ、みっともないタコ入道みたいなオヤジが学校に来たんじゃ、
  あの鈍感な娘だって自殺したくなるよ


社長「言ったなこのやろ!たとえね、零細企業でもオレは社長だぞ!
  おまえはなんだ文無しのフーテンじゃねえか!



タコ社長が持っている「気くばりのすすめ
(講談社)は鈴木健ニの1982年の大ベストセラー。
単行本332万部、文庫本を含むと400万部以上売れた。

                  


寅、プチっとキレてタコ社長に殴りかかる。
必死で止める博やさくら。


                  

寅「やめたよ!やめたよ!運動会行くのやめりゃあ文句無いんだろ!
 フン!こんなみっともねえ伯父さんが行ったんじゃな、満男が可哀相だからな!


さくら半泣きになりながら
さくら「そんなこと言って無いでしょ
満男、仏間に行って泣いている。
寅は怒って飲みに行ってしまう。

社長ぼそっと
社長「寅さんが悪いわけじゃないんだよな…、じゃあ誰が悪いのかね…
と、帰って行く。




翌日  さくらの家


雨がザーザー降っている。

傘を差した満男が家に戻ってくる。

運動会は中止だったようだ。

                  


公立の小学校なら必ず近々もう一度日を選んで、運動会は開催しますよ、絶対に。

満男はとらやに寄って来たそうだ。

その時寅はもう旅に出ていて、書置きを残していったようだった。

その封筒を見せる満男。

必ず一等賞とれよ。  寅おじさん

そして五百円札。

                  



哀しい顔のさくら。

                  

満男、下を向きながら、

満男「母さん…

さくら「なに?

満男「もし、おじさんから電話がくるようなことがあったら…

さくら「なに…?

満男「ごめんなさと言っといて

さくら、うなずき、満男のカバンに封筒と五百円札を戻してやる。

                  


階段を上がっていく満男

兄のことを考えているさくら。






A越後で知り合ったわけありの女性




越後地 はさ木


この「はさ木」の場所は
越後で農場(滝沢農園)を営まれておられます
滝沢直紀さんからのメールで初めてわかりました新事実です。
最初にも書きましたようにOPの小千谷市船岡公園も教えてくださいました。
滝沢さんは北海道をはじめ、いろいろなロケ地もめぐられています。

滝沢さんのサイトです。↓
http://www.ac.auone-net.jp/~takizawa/torajiro31.html


越後(新潟県西蒲原郡中之口村福島)の『はさ木』。


中之口村打越から中之口村福島方面の金比羅山、護摩堂山方位、で撮影。



   





バックに見えるのは角田山と弥彦山


ビバルディの四季から春第2楽章が流れる。



                  

「はさ木」とは刈り取った稲を乾かすために植えられた木
越後平野にはたくさんある。

  • 和  名: トネリコ(モクセイ科)
  • 別  名: サトトネリコ、タモ
  • 俗  名: タモギ、ハザギ



この場所のピンポイントは【中之口西小学校】のすぐ南。



  雨乞山、弥彦山、多宝山、天神山、と続いて行く。




    







                          

白根凧合戦が映し出される。

                  



新潟市内万代橋

                  

市民ホールの前で啖呵バイをする寅

寅「ヤケのヤンパチ日焼けのナスビ色が黒くて食いつきたいが
  アタシャ入れ歯で歯がたたないよと来た!ね

お客さん「フフフフ」
寅「今日は新潟美人のおそろいだからもう安くしちゃおう

と、言ってコンパクトやセカンドバッグを売っている。


                  


そのころ市民ホールでは「京はるみ」のコンサートがキャンセルされていた。

                  

都はるみさんはデビューする時「京はるみの名前でデビューする予定だったが、
先客がおり、しかたなく「京」ではなく「都」に変えてデビューしたのだった。


おっと、さっき啖呵バイ聞いていたお姉さんも
キャンセルの払い戻しの列に並んでいる。

マネージャー達は、記者達にひた隠しに隠しているが
どうやら京はるみさんは失踪したようなのだ。

この時の新聞記者さんに梅津栄さんがいた。

                  




新潟市内 関新1丁目 ガード近く  食堂


一方そんなこと関係ないし、知る由も無い寅は、
新潟の町外れの食堂で夕飯を食べている。

でました谷よしのさん!

今作品2回目の出演!

                  


食堂のおばちゃんで登場

寅「おばちゃん、この近くに安い宿屋ねえかな

谷さん「近所にはねえなあ…、駅まで行きゃぁ、
    いくらでもビジネスがあるけど…


と言いながらテレビを見ている。

                  

寅「ビジネスか…ビジネスは按配悪いな…、
  
独房にいるみたいで

テレビでは京はるみリサイタルの中止の報道が流れている。



新潟の夜の街に消えていく寅

新潟電鉄」が走ってゆく。

この電車が市電ではなく「新潟電鉄」だとわかったのは
は、越後で農場(滝沢農園)を営まれておられます
滝沢直紀さんからの詳細なメールによります。


このカットいい雰囲気だね。



                  


一方マネージャーや事務所のスタッフたちはてんやわんやで
慌てふためいている。新聞にも実は失踪したのではないかと
書かれている。

                  




越後 出雲崎 良寛堂前



『虫眼鏡』をバイしている寅。

こんな人が少ないところでは売れないだろうに…(^^;)

                  


少女が遊ぶ紙風船を膨らませてやる寅

寅「この町は商売にはむかねえなこりゃ




出雲崎 港


はるみのテーマ流れる

堤防で京はるみが海を眺めている。

                  



寅も近くで漁師船のオヤジ(山谷初男(ヤマヤハツオ)さん)としゃべっている。


山谷初男さんは松竹映画にはなくてはならない人。秋田出身のせいか、東北弁の役が
多い。今回も越後の漁師さん(^^)



寅は、佐渡の金山で金を掘らせてくれないかな、と時代錯誤なことを
言って笑われている。


京はるみさんもクスクス笑っている。

はるみさん、芝居下手やなぁ〜(^^;)


寅振りかえって

寅「お姉さんもおもしれえか、ハハハ

                 

寅「船長、どこ行くんだこの船は?

船長「わしは、佐渡に戻るっちゃ」

寅「佐渡行くの?乗せてってくれ、頼む
と拝むカッコウ。

時間がかかるぞと言う船長に

寅「そらあ、かまわねえよ、オレは暇だったらなあ、
 もう腐るほど持ってるんだ。持ってないのは金だけだい。
 よしそーと決まったら渡りに船だ


はるみ「あの…

寅「ん…?呼んだか?

                  

はるみ「私も乗せてくれないかな」 芝居ちょっと下手(TT)

寅「じゃあ…姉ちゃんも佐渡行こうってのか?

はるみ「うん

                  


と言うことで二人で佐渡へ。

うーん、お忍びとはいえ、京はるみさんが、いきなり、見ず知らずの男と一緒に
こんな漁船に乗るって無理があるなあ…(^^;)


寅「
♪はあ〜〜〜佐渡へええ〜〜〜佐渡へえ〜〜と〜〜」と、

                  


佐渡おけさを機嫌よく歌ってはいたが、最後は船酔いで、
バケツを持って吐いていた寅だった(TT)

はるみ「お兄さん、大丈夫?もう着くわよ

それにしてもはるみさん、もろ京都弁だなあ〜(^^)



はるみのテーマが流れる。



はずれの入り江

矢島と経島にかかる赤
いアーチ橋をくぐって、港へ入ってくる。

                  



たらい舟で漁をする女性の姿

小木に昔から伝わるたらい舟は、
小廻りがきき安定しているので、
女性がサザエやワカメ漁に使っているもの。



寅が船酔いでふらふらになっているので
はるみさんがリードして民宿を探している。

京はるみさん、知り合ったあったばかりの見知らぬダボシャツの中年おじさんと
同じ民宿に泊まるなんて勇気あるね(^^;)


このあたりの作品は寅がいきなり信用されているが、
ちょっと『お約束』のしすぎかも…(^^;)





B二人だけの佐渡の休日



佐渡 宿根木(しゅくねぎ)



佐渡.宿根木[しゅくねぎ] 
重要伝統的建造物群保存地区選定)
江戸時代は廻船基地として栄えた村で、船主や舟大工職人達が住んでいた。
小さな入江に質素な板壁の家が100余軒肩を寄せ合って建っている。
大正期には木羽葺石置屋根の家並が独特の風景をつくっていたと言う。





民宿  吾作

おばあちゃんはあの「阿弥陀堂だより」の名優北林谷栄さん。
上手いなあ…なんともおばあちゃんだよなあ。


夜になって
はるみさんは民宿のおばあちゃんの浴衣を貸してもらって
ほろ酔い気分で飲んでいる。

                  


すっかり寝てしまった寅ははるみさんと酒を酌み交わす。


寅、まじまじとはるみさんを見る寅。

はるみ「なに?

寅「え?…どっかで見た顔だなあ…

はるみ「そう?

寅「

はるみ「…そお?

寅「前オレと会ったことなかった?

はるみ「ううん、会ってない

寅「どこだったかなーしょっちゅう見てた顔…

                   


テレビのモニターを見て…


寅「思い出した!


     
                                    


去年!

                  


岐阜の千日劇場。
あそこの前で

トウモロコシ焼いてたろ?

こうやって、ナッ!焼いてた
このしぐさ、渥美さん天才です!!(^^)


あちょ〜〜〜ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ

                      

                     
はるみ「ううん、焼いてないよ焼いてないよなあ、そら(^^;)

寅「焼いてない?人間違いか…


このギャグはこの作品のメインだ!最高の間合い。
ここははるみさんも上手い!


はるみ「そうよ、どこにでもある顔だもん、フフフ。
    さあ、飲もうお兄さん


寅「あ、申し遅れたけどね、
 オレは車、寅次郎という男だ


はるみ「じゃあ、寅さんね

寅「ん、みんなはそう呼ぶよ

はるみ「あのー…私のことだけどね…

寅「いいよ、わけのありそうな女の一人旅、
  くどくど身の上聞くほど野暮じゃねえよ…


渋い!カッコイイ!殺し文句!大統領!後家殺し!

はるみ「…ありがとう

涼やかに笑って頷く寅


はるみさんは、そんな男気のある寅に、
自分の悩みを打ち明けるのだった。



                      


どうやら…

好きな男の人と別れてしまった悲しみが、
彼女の中に押し寄せてきているのだ。

スターゆえに相談できる相手もいない。

そして気持ちの整理がつかないまま歌を歌えず」、
発作的に失踪してしまったことをとても後悔してしまっているはるみさんだった。



                      



縁側で涼むはるみさん


はるみのテーマが流れる。


はるみ「あら、寅さん蛍よ…

寅「


はるみ「どこって言ったっけ、寅さんの故郷

寅「東京は、葛飾柴又よ

はるみ「時々帰るの?

寅「いやあ、めったなことにゃ…

うそうそ、半年に2度ほど帰ってます。(^^;)


寅「オレも姉さんと同じ家出人だから

はるみさん、寅の袖をつかみながら

はるみ「ねえ、なにがあったの?

寅「え?…へへへ、惚れた女と逃げたのよ」 嘘八百(^^;)


寅「ところもちょうど矢切の渡


はるみ「フフ…♪連れて…逃げてよ、


                  


寅「♪ついて…おーいでーよー

                  

はるみ「♪ゆーぐれーのー…

二人で「♪あめがふるー、矢切の〜渡ィ〜

寅、その歌にはっとする。

はるみ「♪親の心にそむいてまでまでもォ〜

                  

寅聴き惚れている。

寅「上手いなあ歌が…そらそーだ(^^;)

                  


はるみさん照れながら首を振る。

寅「銭取れるよ取ってるよかなり(^^;)

はるみ「そう?どうもありがと

寅「でも、もうちょっと歌ってくんないかな…

はるみ「フフフ

はるみさんは、その直後に眠くなり二階に上がっていく。

悩んで悩んで疲れていたんだね…。


                  


階段で止まって

はるみ「寅さん

寅「ん?

はるみ「明日何時?

寅「何時って、好きな時に起きりゃいいじゃねえか

はるみさん、はっとして、寅の手を握り、

                  

はるみ「そうなのよ、私自由なんだ。どっかいいとこ連れてって明日

寅「わかったよ

はるみさん、階段を上がりながら

はるみ「♪連れて逃げてよ〜

寅「♪連れて逃げてよ〜…か


そのあと、宿のおばあちゃんは寅にはるみちゃんにサインをもらって欲しい
と頼むのだった。

おばあちゃん「今の人、有名な京はるみさんだろ、歌手の…


                  


寅、はっと二階のはるみさんの部屋を見る。


寅「いや違う、いやおばあちゃんあれはな、オレが出雲崎の港で
  めぐり逢ったわけありの女よ、ん、そんな有名人じゃない


とは、言ったものの、そういえば瓜二つだと、思わざるを得ない寅だった。
おばあちゃんの見せた写真を見て、もう一度二階を見上げ、確信していく寅だった。



                  


ちゃぶ台が上からのアングルで映るが、
はるみさん、ほとんど何も食べなかったんだね。




二階


ぐっすり寝入るはるみさんの寝顔。


ようやく訪れた安らかな夜。





翌日


マネージャー達は、
出雲崎から、はるみさんが船で佐渡に向かった情報を手に入れ、佐渡へ向かう。





沢崎鼻灯台付近



佐渡で寅とはるみが遊歩道を歩いていく

はるみさんがキバナカンゾウの花を持って歩いている。

砂山」を歌うはるみさん。

はるみ「♪海はあーらーうーみー、むーこーおーは、さーどーよ、
     すーずめなーけーなーけー、もうーひーはーくーれーる



                  




寅は、京はるみさんだと分かってしまったので、緊張気味に歩いている。

寅「歌うまい

はるみ「フフフ

はるみ「寅さんいつもこんなふうに旅してるの?

寅「おう、風の吹くまま気の向くまま、好きなところへ旅してんのよ、
  ま、銭になんねえのがたまに傷だけどな


はるみ「そんな人生もあるのね…、
  明日は何をするか、明日にならなきゃ
  決まらないなんて…いいだろうな




結局、都はるみさんの芝居に若干の違和感が残るのは、
役者ではないので、『気』が違うというのもあるが、
京都弁と標準語がいつも入り混じっているせいなのかもしれない。
役者は普通どちらかにかたよってしゃべるが、彼女は普段のチャンプル言葉
のまま、芝居をしているので、どこかぎこちなさが残るのだろう。



マネージャー達がようやく追いついてくる。


そうとは知らないで、浜辺で寅とはるみさんが遊んでいる。
                  

ドリーブ作曲   コッペリア より第1幕ワルツ 




こけそうになり寅の胸に抱きつくはるみさん。

                  




佐渡おけさ』を長く歌うはるみさん。

はるみ「♪はあ〜〜ああ〜〜、
    さどーへーえ、さどーへへ〜〜と草木もなーびーくよ」

寅「あありゃありゃありゃせっと



現地の方々も手拍子をとって交じっていく。


聴き惚れながら眺めている寅
               

                  






マネージャー達は、なんとか突き止めるが
ギリギリで漁船船に乗られて行かれてしまう。

木の葉のこさんは遥かなる山の呼び声で好演していた。

藤岡琢也、桜井センリ、木ノ葉のこ、ベンガル、扮する
マネージャーたち、ヘトヘトで目がペケ。


ベンガル君は、はるみさんを追うためにタライ舟に
乗って漕ぎ出すが、くるくるまわってあえなく転覆。

あったりまえ〜〜 ゞ( ̄∇ ̄;)



                  





C別れの時、忘れられぬ面影。



小木の港



小木の港の「山本屋みやげ店」でビールを飲む寅とはるみさん。

人見 明  さんが店のオヤジ。



マネージャー達を見つけるはるみさん。
少し顔が青ざめる。
観念をしたようだ。


寅「さて、これからどうする

はるみ「寅さんは?


寅「そうだな、5時に連絡船が出るから、それで本州行って汽車に
 乗り継いで信州行くか。さもなくば北に上って青森秋田だな、
 これからどこへ行っても若葉が萌えるようだぜ


いいねえ〜(^^;)


はるみ「私も行きたいなあ…

寅「じゃ、そうするか、船が5時に出るからよ、ビール急いで飲んじゃおう

はるみ「寅さん

寅「

はるみ「私ね…


とうつむく。


寅「どうした?はるみちゃんあちゃ〜〜〜(((((><;)


                  


と、つい口がすべってしまう。

はるみさん、驚いて寅を見る。

寅、自分の言ったことに気づいて顔がこわばってしまう。



                  



はるみ「

寅、下を向いてしまう。

沈黙が流れる。


涙の連絡船が流れる。

はるみ「最初から知ってたの?

寅「え?ほら、あの…夕べのばあさんによ、教えられて、
 それまで全然気がつかなかった、あんたみたいな有名な人をよ。
 オレもバカだよ


はるみ「じゃあ、知らないふりしてくれてたのね

寅「うん、まあ、そのほうがいいんじゃないかなと思ってな

はるみ「そう…寅さんていい人だね

寅「


プロダクションの社長やマネージャーたちが追いかけてきて
はるみさんはついに完全に観念する。


                  


人払いをしたはるみさんは、

はるみ「とっても楽しかった寅さん

寅「せめて、あと、2、3日ありゃ、もっともっと楽しい目みせてやれたのにな

はるみ「でもこの旅のこと、私一生忘れないよ

この言葉は、第34作「真実一路」でももう一度出てくる。
ふじ子さんが手紙でそうしたためるのだ。



                  



寅の手を握るはるみさん。

寅、びくっと、手を引きがちになる。

寅、ゆっくり頷く。



                  
                  


はるみさん、行きかけて…



はるみのテーマが流れる。


はるみ「寅さん、行きたくない

寅「オレだって行かせたかねえよ。でもそんなことしたらあんたのことを待ってる大勢の
  ファンが、がっかりするよ…






別れ際に、はるみさんは「エメラルドの指輪」を寅に渡す。

寅「オレ、こんなもん…

はるみ「違うの、私の思い出に…、ね


                  


階段を下りようとするはるみさん。


寅「はるみちゃん

はるみさん振り向いて「なに?


寅「もし、辛くてたまらないようなことがあったら、
 そして俺のような男でも相談相手になれるようなことがあったら
 東京は葛飾柴又帝釈天参道のとらや行きな、

 オレがいなくったって、親切なおいちゃんおばちゃんや、
 妹のさくらが相談に乗ってくれるからな




                  


はるみ「うん、きっとそうする…。

    さよなら



                  



寅、さみしさに打ちひしがれている。


エメラルドの指輪を見つめ続ける寅。


ちいさく


寅「いっちまったか…

とつぶやく。
                 


寅「あれ?オレどうしてここにいるんだ?

よくよく考えてみると寅も5時のフェリーで帰る予定だったのだ。 バカ(^^;)


アタフタ追いかけるが

もう連絡船は出て行ったところだった。


第7作「奮闘編」オープニングのギャグのアレンジだ。


メインテーマ流れる。


埠頭で口に手を当て叫ぶ寅

寅「京はるみ、ガンバレー!



                  



まさにその時汽笛が

ボーー!!


耳を押さえるはるみさん。



               


佐渡汽船カーフェリー


「ギャビー」と叫ぶ主人公の声が汽笛に消されるラストシーン
本編ではここで、汽笛で声がかき消される。
まるで寅は、フランス映画.『望郷』のラストで、
「ギャビー〜〜〜ッ!!」って叫ぶジャンギャバンだ。



                  





                  







D寅の東芝ウォーキー騒動と佐渡の事情説明


柴又  帝釈天参道


さくらがロークの角を曲がり題経寺ニ天門前で御前様と挨拶。


第5作「望郷篇」からすでにオープンしていた
喫茶店ローク最後の姿。


                  




とらや 店


タコ社長に今作品からかわいい秘書さんが登場。

名前はゆかりちゃん。

ゆかり「奥さんが帰りに油揚げ2枚買って来てくださいって

っていう程度の役目(^^;)


                  


このゆかりちゃん、ちょっと前まで大阪の港近くで住んでいた。
ふみさんの弟君と婚約までしていたが、彼が急死してしまって、ショックを受けてしまう。
その後女子大生となって、すっかり明るくなり、京都の加納作次郎の自宅を見学などしていたが、
どういうわけか、この柴又まで流れてきたようだ(^^;)

以上、楽屋落ちでした(^^)

まあしかし、社長苦しい首くくりてえ、なんて嘘だね。秘書なんて必要なわけ無いじゃないか
あの小さな工場に。一年でいくら人件費必要だと思ってんだろね。


松月堂の開店セールでチンドン屋さんが出ている。

『大阪しぐれ』を演奏している。





テレビ局スタジオ  収録

惚れちゃったんだよ」を快活にテンポ良く歌うはるみさん。

この歌はよかったー!
そうとう乗っている感じがでていた。



                  


はるみ「♪ほぉぉ〜〜〜〜〜〜おおお、
   ほれェ…ちゃったんだぁああああんだーよぉー
   意地でェさよなら言っては来たが、ほれェちゃ…たんだよー〜〜〜〜、
   思い切れずに泣いてるバカさぁ、夜汽車で今すぐ会いにゆくぅー〜〜、
   ま〜〜〜〜〜あって、まあっておくれよ、
   こーのお〜〜〜〜れーをー〜〜〜



なにか吹っ切れたみたいで乗りまくっているはるみさんだった。


                  



一方とらやの茶の間では…





とらや  茶の間


タコ社長がテレビで都はるみの『涙の連絡船』を聴いている。


                  



奥さんが時代劇を見ているので、ここまで見に来たのだった。

タコ社長、はるみさんの歌に合わせて


社長「♪今夜も、汽笛が、汽笛が、汽笛が、〜

と、口ずさみみんなの失笑をかっている。



なんと寅、のそっと入ってきて、
土間に立って後ろからテレビを見る。


『ほうき』で社長の顔をのかせようとして。


                  



みんなビックら仰天!

さくら「お兄ちゃん!

寅「しっ!


                  


はるみさんの歌に聴き入る寅。



歌が終わった後、下のようなCMが始まった。
このCM見たことあるんですが思い出せない…。
化粧品だったかなあ…。
知ってる方メールいただければうれしいです(^^;)ゞ


                  



顔はやつれ、意識は朦朧としている


                  


はるみさんのことでかなりダメージがあったようである。

いつものように手紙か電話がなかったか聞く寅だったが、
スターのはるみさんだから来るわけ無いとあきらめ、フラフラ
二階に上がっていく寅だった。

社長「みなさん、たいへんだねえ、
  これから、さあ、失恋するまでたっぷり楽しめるぞ〜〜



怒ったおいちゃん、社長を出入り禁止にする。






翌日  


柴又駅近く  葛飾電器


東芝ウォーキーにはるみさんのカセットを入れてお金も
払わずに持って行ってしまう。


駅前のコサカフルーツがバッチリ映る。


                  



とらやに電話がかかってきて、おいちゃんやおばちゃんが大恥をかくことに。


おばちゃん「あ、葛飾電器さん、何の用?え?寅ちゃんがお店の品物を?
      黙って持ってったぁ?あのね、うちの寅はね、そりゃいい加減な男ですけどね、
      人の道にはずれるようなことはしませんよ!



                  



おいちゃんもそれ聞いていきりたって、おばちゃんと電話変わって

おいちゃん「寅がどうしたってんだ、え、何か証拠でもあるのか


ちょうどその時、東芝ウォーキーではるみさんの歌を聴きながら、
寅が駅の方向から題経寺へフラフラ歩いていく。


あちゃ〜〜〜(^^;)

最高の演出(^^)/


                  




題経寺 境内


寅が境内をはるみさんの歌を聴きながら歩いている。


御前様「おー…、寅、

寅「あ、御前様」とお辞儀&拝む

御前様「耳あてなどして、どうかしたか?

寅「あ、おかげさまで…とまったく聞いていない(^^;)

御前様「
中耳炎にでもなったか?

寅、歌を聴いているので全てうわの空。

寅「ええ、このぶんですと明日はどういう天気になるか適当(^^;)

御前様、手を口に当てて

御前様「なに聞えんのか!?


                  



寅「ごもっともでございますずっと上の空(^^;)

寅、ベンチで歌を聞き続ける。

源ちゃん「兄貴、何聞いてるねん!?」とさくらのバイクの時同様、興味津々。


源ちゃん「ちょっと聴かせて

と寅に擦り寄り、イヤホンを取り上げるが、
『惚れちゃったんだよ』を一心に聴いている寅は、それに気づかず、
いきなり声が聴こえなくなったので、思わずボリュームを最大に上げる。


源ちゃん、爆音が耳の中で暴れまくり髪の毛総立ち、ひっくり返る。


                  



イヤホンが転がって、ようやく寅は源ちゃんの仕業に気づく。

いつもやられっぱなしの源ちゃんが
今回は珍しくほうきを振りかぶって寅にはむかっているのが面白い。



御前様「進歩がない」と、呆れ果てている(^^;)


                  




夕方遅く


とらや  台所


寅がフラフラもどってくる。

あれからず〜〜〜〜っと歌聴きっぱなしで、
完全にその世界に入り込んでいる。


寅「たっぷり聴いた、これで十分だ」と、おいちゃんや満男にウォーキーを返そうとしたが

さくらに叱られる。

さくら「しっかりしてよお兄ちゃん、それは今朝お兄ちゃんが、
   葛飾電器からだまって持ってきちゃったのよ


寅「それじゃまるで泥棒じゃないか、オレがそんなことするかい病気か(−−;)

おばちゃん怒り心頭で

おばちゃん「何言ってんだい!
     そのお陰で私たちはね、大恥かいたんだよ。
     うちの寅に限って泥棒みたいな真似しませんって啖呵きったら、
     あんたほんとにやったんじゃないの


さくら「私飛んでって、謝ってお金払ってきたのよ

寅「あ、そーか…、オレそんなことしちゃったかぁ夢遊病者か ヾ(^^;)

と、みんなに謝る寅だった。


博たちに、その深刻な放心状態の事情を尋ねられ、
ついに寅は、みんなに話し始める寅だった。



                  



寅「ん、それでは、話ましょう…

みんな真剣に聞こうとする。

寅「♪はあ〜〜〜〜、さどーえーえ〜〜〜、おいおいおい ヾ(^^;)

一同びっくり

おいちゃん「なんだいそりゃあ

寅「歌だよォ、こっから始めなきゃ話がわかんないじゃないの

博「わかりました、どうぞ歌ってください

寅、ちらっとみんなを睨みながら

寅「♪はあ〜〜〜〜、さどーーえーえ〜〜〜。

 佐渡へ佐渡へと草木もなびく。
 唄で知られた佐渡島。
 海の向こうに見える小さな港町。
 一人の女が立っていたと思ってくれ。



満男「ねえ誰それ?」 満男 ヾ(^^;)

おいちゃん「きれいな女の人だよ」 おいちゃんまで ヾ(^^;)

おばちゃん「いくつくらいの人だい?」 おばちゃんてば ヾ(^^;)

博「若いに決まってますよ決まってるって…博っていったい(^^;)

おばちゃん「まあ〜… まあって… ヾ(^^;)

寅「…、どうしてそうやって話の腰を折るんだよ、
  それじゃ話が続かねえじゃないかよ



それでまた寅は唄から入る。

寅「♪はあああ〜〜〜…

みんなげっそり

寅「歌もういいか…

さくら「うん、もういい


それで、わけありの女、京はるみさんとの出会いと佐渡へ小船で渡った経緯と
短い蜜月の時間を説明する。もちろん京はるみさんだということは言わない。


寅「しかし、やがてつらい別れが来る。

  小木の港の小さな食堂で…、



と、さくらの手を取り、


寅「あの人はオレの手をしっかりと握り、
  『寅さん、ありがとう。この思い出は一生忘れないわ


エメラルドの指輪をチラチラ見せて、さくらの手の平に乗せてやる。


                  

寅「私の一生の思い出として持っていて

さくらの指を折り曲げ、エメラルドを握らせる。

さくら、その指輪を見て、少なからず驚いている。


                  


寅「さようなら…。
 あの人を乗せてでてゆく連絡船…。

 ボー〜〜〜、

 ♪…汽笛ィーが、汽笛ィーが、
 一人ぼっちで泣い〜てェいー〜〜る〜〜。
 やがて消えてく連絡線…
 話はそれで終わりよ



博たちはどこの誰か聞くが、

寅「聞きたいか
さくら「
どういう人?
寅「
オレも言いたい!でも、その人の名前を言ったら
  おまえたちは『
あ!!』っと驚くかもしれない

一同ビクッ!



寅はグッとこらえてその人に迷惑がかかるからと
断じて言おうとしない。


                  

これ以上ここにいると名前を言いそうになると二階へ上がっていく。


寅は二階へ上がりながら無声音で小さく

寅「はるみちゃ〜んと叫ぶのだった(^^;)


博は、寅の発言を疑っているが、おばちゃんは指輪を見ながら

おばちゃん「でも…、これ、本物じゃないかい?

さくら「まさかー…、本物だったら大変よ、エメラルドだもん

おばちゃん「へえー…」と、シゲシゲ眺めている。


                  



さくら、よくわかるね、エメラルドだって。普通わからんよ。
色だけでわかるってことは、さくらって結構好きなんだね宝石を。

寅の土産としては加納作次郎の茶碗といい勝負の高さ。
普通は宝石の中古は値がかなり下がるが、
京はるみさんが持っていたとなると逆にかなりの値がつくね、たぶん(^^;)


博は寅の聴いていた歌を聴きながら

博「演歌に指輪に佐渡島か…

おいちゃん「三題話だなァ…」






E柴又にやってきたはるみさんと失意の寅。


題経寺 二天門前



源ちゃんが柱を洗いながら『大阪しぐれ』を歌っている。

そこへなんと京はるみさんが、車で道を聞く。


源ちゃん、呆然…。そして光ファイバーに変身!!


                  



なんとはるみさんは寅に会いにとらやにやって来たのだ。



タコ社長呆然&嬉々


おばちゃん、しげしげと本物かどうか観察(^^;)


                  



世紀の大スターが柴又へ来たもんだから、
源ちゃん光ファイバーで情報が伝わりもう町中大騒ぎ。


                  


呼ばれた寅も二階から下りてきてびっくり仰天。

誰にもはるみさんとのことを言わなかったと告げる寅に、
はるみさんは頷く。

                  


みんな店の中まで押し寄せてくるので、
とりあえず二階に非難する寅とはるみさんだった。



寅は、部屋中京はるみさんの写真やポスター、カセットで溢れているのを、
ごまかすために次々に隠していく。いつの間にこんなに集めたんだ??

気づけよな、はるみさん(^^;)


                  



はるみ「今度、東京でリサイタルをすることになったの

と、寅に来て欲しくてチケットを持ってきたのだった。



はるみ「こないだ会ったの

寅「誰に?

はるみ「彼に

寅「え?


                  


はるみ「二人の間のことをきちんとしておくためだったんだけど、
    いろいろ話してるうちにね…、こないだの旅のことや、寅さんのことや…、
    話してるうちに、ふと、もう一度やり直してみようかな…、
    そんな気持ちになってね、お互いに



寅、あああ…(TT)



静かにメインテーマが流れていく。


寅「……



沈黙の時間



                  



はるみ「私こんなこと言いに来たんじゃないの。
    話したの、寅さんが初めてよ



寅「うん、オレは誰にもしゃべらないから大丈夫だよああ…(TT)


当然ながら急に元気のなくなった寅だった。


下の階では、タコ社長がサイン用の色紙をたんまり抱えて

社長「頼むよ、税務署には、はるみちゃんのファンがいっぱいいるんだから

ありえねえ〜!ワイロかよ〜〜((((^^;)



そこへ二階から下りてくるはるみさん。

みんなで大歓迎、大騒ぎ。もう収拾がつかない。



                


はるみさんは、みんなの気持ちを考えて
縁側に立ってみんなに歌を歌うことになった。



恋人との復縁を知った寅は、二階で静かに沈んでいる。


なんと…、あのスターを本気で好きだったんだね…。


                


はるみさんは団子屋さんにちなんで『アンコつばきは恋の花』を歌うことに。

ベタやのう…(^^;)


                  


はるみさんがベタなシャレを言ったのでみんな爆笑。



♪三日遅れの頼りをのーせーてー〜、
船ェーがあああ〜〜〜、ゆううーくー、ゆうううーく、
波浮港ォ〜〜〜、

みんな一心にはるみさんの声に聴き入っている。

「いくらー、好きーでーもー、あなたはァーとおおおーい〜〜、
波のーかーなたへー、いいったきーり、

アーンーコー〜〜〜ォェ、便りーはェー〜〜、
アーンーコー〜〜〜ォェ、便りーはェー〜〜、


                 


聴き入るゆかりちゃんはじめ工員たち。


ゆかりちゃんと中村君に挟まれて聴いているトシオ君は実は、ゆかりちゃんのことが
好きになっていくのだが、そんことがわかるのは第37作「幸福の青い鳥」の中。



                  




はるみさんの歌う横で変に目立つ「手洗いの青い水ダメ」


博とさくら、は茶の間にいて聴いている。

この二人は、結構冷静(^^;)


博「兄さんはどうした?


さくら「…うん


寅、静かに下りて来る


                  



♪アーンーコー〜〜〜ォェ、便りーはェー〜〜、
アアンアンアアンアー、
片ァだーよォォーりー〜〜〜〜!



寅「
お、歌ってるな…


                  


間奏の時、みんな拍手


静かに真顔で見守っている寅。


♪三原ーやまーからー、噴きだーすーけーむーりー、
 北ーへー〜〜、なーびーけェ〜〜ばァ、思い出す〜〜、
 惚れちゃならーなーいー、都のーひーとーにー、
 寄せるおーもーいーがー、灯ともーえーて、
 アーンーコー〜〜〜ォェ、つばきーはェー〜〜、
 アーンーコー〜〜〜ォェ、つばきーはェー〜〜、
 アアンアンアアンアー、
 スウスリィ〜〜なーああきィー〜〜!




そこにはファンの顔でなく、
親密な繋がりを意味する寅の真剣な目の光があった。


                  



そんな真顔な寅を見て、
さくらはドキっとしてとまどってしまう。


                  






F寅の旅立ちとはるみさんのリサイタル


さくらの家 夜 台所



満男「ねえ母さん
さくら「
満男「どうしてあんな有名な人がおじさんなんかに会いに来たの?

そらそーだよな(^^;)


                  


さくら「そーねー…

博「きっと楽しかったんだろ、旅先でおじさんと語り合って

さくら「いったいなにがあったのかしら佐渡島で…

さくら「だって…お兄ちゃんとはるみさんはまるで恋人どうしみたいに…

博「つまり、ああいう立場の人は意外と淋しく暮らしてるってことじゃないのか

さくら「そういうことかもしれないわね…



満男が二階へ上がろうとして、廊下に出た瞬間、
満男の目に玄関に座る寅の背中が映りだす。



救急車の音。

これはとても意外な展開だ。
この演出には見ている私もドキッとした。


                  


満男、台所に顔を出して

満男「父さん、おじさんが来てる

博とさくら「え!?

博、急いで廊下に出て

博「どうしたんですか、こんな時間に

寅「んー、フフフ、脅かしてわるかったな

さくら電気つけて

さくら「とにかく上がったら」と、寅の手を取るが、

                  


寅「いやいやいいんだ、
  オレこれからすぐ旅に出なきゃならねえから、
  ここでいいよ


さくら、しゃがんで

さくら「どうしてまた、突然に…

寅「うん…、だいぶ怠けちまったからな、ヘヘへ、少し稼がなきゃ
  しょうがねえや


さくら「

博「

寅「あ、これ、はるみちゃんにもらったリサイタルの券だけどな、
 七月の末っていうと、旧盆前でオレたち稼ぎ時なんだ。
 まさか、顔出すわけにもいかねえんだ。
 おまえたち二人オレの代わりに行ってくれねえか、な


さくら「でも、…お兄ちゃんに来てほしいんでしょ、はるみさんは…

寅「…ま、しょうがねえや」と立ち上がり出て行こうとする。

博「どうですか、たまにはうちに泊まってみたら?

寅「ありがとう、また今度帰った時に泊めてもらうよ、な

実際第34作「真実一路」で泥酔の寅は最初で最後のさくらの家でお泊りをするのである。


と出て行こうとする寅。

ふと振り返って

寅「さくら

さくら「ん?

寅「はるみちゃんの、リサイタルに行くとしたら、一本でも二本でもいい、
 きれーな花を買って、オレからだと言って届けてやってくんねえか



メインテーマが静かに流れる。



寅「そして、車寅次郎は、どんなに遠い旅の下でも
 はるみさんの幸せを祈っていますと、そう伝えてくれ



さくら、頷く。


寅「満男勉強するんだぞ


廊下の向こうで頷く満男。



出て行く寅。

追いかけるさくらと博。

さくら「お兄ちゃん

初めて映る夜のさくらたちの家の前。


寅立ち止まり、振り返る。


寅「

博「なんですか

寅「この家の払いはもう済んだのか?

博「え…

さくら「まだだいぶ残っている

寅「そうか…、なんか役にたちてえと思うけれども、
  おめえたちも因果だな、こんなヤクザナ兄貴持って…、あばよ


                  



と、立ち去っていく。

それでもまだ追いかけるさくら。

さくら「お兄ちゃん、お金持ってるの?

寅「そこまでおめえに厄介かけねえよ

と歩いていく。


                  


寅、追いかけてこようとするさくらに

寅「いいよ、送って来なくって

と、足早に立ち去っていく。


何も言えず、ただ見送るさくらだった。


                  






静かにフェードアウト



このさくらの家の前での別れはなかなか味のある演出だった。
このあたりが本当のメインかな…今回は。

おめえたちも因果だな、こんなヤクザナ兄貴持って…、あばよ」

は、なぜか心に残る淋しい言葉だった。








真夏 7月末

入道雲  蝉の声




とらや  店

ガリガリがりがりいちごのカキ氷を作るおばちゃん。

この音、夏だねえ〜〜〜(^^)

                  


なんとタコ社長に作ってやっている。

おっと、『日生のおばちゃん』、今日も来ている。


日生のおばちゃん「今日はさくらさんは?

おばちゃん「さくらはね、博さんと二人で京はるみさんのリサイタル行ったんですよ

日生のおばちゃん「そう、いいわねえ


                  


タコ社長は「入場料取れば儲かったのに」と言っておいちゃんの顰蹙を買っていた(^^;)


京はるみさんの話題で盛り上がるとらやの店。






京はるみ  リサイタル  東京

みんな拍手

                  


はるみ「お花ありがとうございました。
    十六歳でデビューして十五年、
    私は夢中で今まで歌い続けてきました。


                  



歌うことが私の幸せだし、
私から歌を取ったら何も残らないと、思っています。

でも時々、ふと、一人の女として私の人生は、ほんとにこれでよかったのかしらと、
迷うこともあります。

                  


今年の五月、そんなつらい気持ちで小さな旅をしました。

そして佐渡島である男性と知り合いました。

その人は私に何も聞こうとしませんでした。

でも、その人の小さな細い目は、私を優しく見つめてくれてました。

面白い冗談を言って、笑わせてもくれました。

名前を寅さん…、と、言いました



博、さくらを見る。

さくら「

さくらの横の席は寅の席


空席のまま…。



                  


今日とってもここにいて欲しかったんですけど、その人の替わりに
綺麗なお花が届きました。

今ごろ、どこにいるのかしら、寅さん…




おんなの海峡」の伴奏が入ってくる。



(作詞 石本美由起  作曲 猪俣公章)


♪別れることは死ぬよりも
 もっと淋しいものなのね

 東京をすてた
 女が一人

 汽車から船へ乗り換えて
 北へなれる 夜の海峡
 雪が舞う


 砕けた恋に  泣けるのか
 雪がふるから 泣けるのか
 …





G北の大地の寅次郎


北海道  羊蹄山の麓、


羊蹄山は蝦夷冨士と呼ばれる名山。

静かに胆振線(いぶり せん)が走っている。

胆振線は、この作品のあと3年後に廃線となってしまった。


京極駅(きょうごくえき)北海道虻田郡京極町


京極駅から出てくる寅



                  




留寿都村

留寿都村役場近くの交差点



羊蹄 夏祭り の準備が行われている。


『おんなの海峡』 続き

♪ふたたび生きて 逢う日はないと
 こころに決めた旅なのに
 みれん深まる 夜の海峡

 わかれ波


花火


寅、テキヤ仲間の「長万部の熊」に挨拶。

寅「おい、よ

熊「よ、寅じゃねえか


                  


出ました佐山俊二さん。

佐山俊二さんのねずみ顔をからかう。

長万部の熊さん、大立ち回りを試みるがみんなに止められ、

足空中ぶらぶら、バタバタ。

これは第9作「柴又慕情」でも博が佐山さんを軽く持ち上げていた
のでこれのバリエーションだ。それにしても佐山さんはこういう役がよく似合う。


寅笑いながら、真面目に怒る熊をからかい続ける。


               






追記 2015年1月

寅さん仲間の新潟の滝沢直紀(寅さんのHPをお持ちです)さんに情報をいただき、
っそれぞれのピンポイント場所を貼り付けました↓




      







遠く羊蹄山が見えて

夏祭りはもうすぐそこまで来ている。




    












                  










この後、タイのバンコクへ寄り、その後日本へ帰国いたします。
しばらくは、多忙が続いてしいまいます。

次の寅次郎な日々は、帰国後になります。
4月26日ごろかな…?

第19作「寅次郎と殿様」本編完全版前編は日本に一時帰国したあとの5月12日ごろです。
どうか気長にお待ちください。




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FLASHアニメ『寅次郎と宇宙鳥獣 Final』




2008年4月15日 寅次郎な日々 その355


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。




ここ数ヶ月、息子はフラッシュアニメに凝っている。
まあ、いずれ美術関系の仕事をするつもりらしいので、なんでもトレーニングである。

私のTOPページ(絵のページの方)のアニメも彼の手によって3月にGIFアニメーションから
Flashアニメーションに変えたばかりだ。

で、今回は彼にしては長い1分間の、『寅と鳥獣が戦うアニメーション』を作っていた。

彼は彼なりに普段忙しいらしく、時間の空いた時を利用して、ちょろちょろと作っていたので、
なんと1ヶ月もかかったようだ。いつもなら速攻で作りあげるのが得意な息子にしては、
変に腰の据わったまじめな作業の日々だったようだ。

昨日、一応出来上がった後、私の音楽CDコレクションの中から、私の大のお気に入りである
19世紀イタリアの作曲家「プッチーニ」を選んでいた。アニメーションのBGMとして使いたいということらしい。

そして、「プッチー二」の中の、唯一の喜劇オペラである「ジャンニ・スキッキ 
Gianni Schicchi
の中、ラウレッタが歌うアリア私のお父さん O mio babbino caro 」を最後は採用していた。


ラウレッタは恋人のリヌッチョと結婚させて欲しいと父親のスキッキに懇願するのだ。
もしそれがかなわないならばアルノ川に身を投げるわと、半分脅しながら迫っていくのである。



O mio babbino caro,          
mi piace,                
e bello bello.                      
Vo'andare in Porta Rossa
a comperar l'anello!          

           
Si, si, ci voglio andare       
E se l'amassi indarno.        
andrei sul Ponte Vecchio,     
ma per buttarmi in Arno      
Mi struggo e mi tormento    
O Dio, vorrei morir         
Babbo, pieta, pieta         




あの世紀の名曲と寅次郎とどう結びつくのか、???という感じで、出来上がったものを見てみると
これがなかなか幻想的な感じで成功している。ちょっとエンディングロールのノリかな…。
さすがに1分間だけあって15〜16ほどのシーンが作ってあり、なかなか本格的なものになっていた。
特にラスト20秒は幻想的で気に入った。

で、私にしては珍しく、この作品はちょっと褒めてやった。初めてかもしれない。(親バカ…(^^;))


いずれにしても、今までの彼の小粒なアニメーションの中では
初めて手ごたえのある作品となったことは間違いないだろう。

せっかくなんで、ここに僭越ながらみなさんに紹介させていただきます。



【注意】

容量がなんと5,5MBもあるらしく、
日本のADSL(ブロードバンド)の方は15秒〜30秒ほど待つそうです(^^;)ゞ
光ファィバーの方は待ち時間はたった10秒程度だそうです。

最初は、ダウンロードが完了していないので、絵とBGMに物凄い不具合や短い繰り返しが
生じるかもしれませんが、
全てダウンロードが完了したらもう一度最初から見てください。普通に見れます。

もし見てくださっている方が、普通の速度のADSLや光ファィバーにもかかわらず、
ラスト付近の↓オレンジの鳥獣が地球を離れるシーンや
最後の映画館で眠っている寅の後姿までダウンロードできない場合は
お手数ですがメールでお知らせ願えれば嬉しいです。
なんせバリ島では日本の環境がわからないもので、トホホ…(^^;)ゞ


ちなみにバリ島の私の通信速度のかなり遅いADSLネット環境では、
この重さ(5,5MB)のフラッシュでは、最後までなかなかダウンロードしづらく、
待ち時間も長いです。2分間も待ちました(TT)

でもなんとか見れます!(^^)




           

FLASHアニメ『寅次郎と宇宙鳥獣 Final』







ただ今帰国準備のため、多忙が続いています。
第31作「旅と女と寅次郎」本編ダイジェスト版は4月18日頃アップ予定です。
第19作「寅次郎と殿様」本編完全版前編は日本に一時帰国したあとの5月10日ごろです。
どうか気長にお待ちください。




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昨日、新たに谷よしのさんを発見!




2008年4月13日 寅次郎な日々 その354


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。





『松竹最後の大部屋女優』と言われ、「男はつらいよ」だけでなく、
代々の大監督の下でちょっとした役に
常に出演されていた谷よしのさん。

山田監督に、宿のおばちゃんと言えばあの人以外思い浮かばない
と、言わしめた谷よしのさん。

彼女が、実はどれだけ芝居が上手いかは
第47作「拝啓車寅次郎様」での琵琶湖湖畔で寅たちが泊まった民宿の「おばあちゃん」の
動きを見ていただければわかると思う。

あの時はほとんどセリフがなかったにもかかわらず見事な田舎の
「おばあちゃん」を演じられていた。


このシリーズのおばあちゃん役といえば、とにもかくにもまず
第31作「旅と女と寅次郎」の佐渡の民宿の
北林谷栄さんがほんと絶品です。
あの「阿弥陀堂だより」の北林さん。
凄くないはずがない。


その次に浮かぶのが、第40作「サラダ記念日」の鈴木光枝さん。
彼女が自分の住処を離れる時のあの哀しみの顔は印象的だった。
「おばあちゃん」って言うにふさわしい優しい芝居でした。


そのまた次に思い浮かぶのは第35作「恋愛塾」、
五島で寅がその臨終を看取った若菜さんのおばあちゃん。
初井言栄榮さんの静かな凛とした静かな芝居にぞくぞくっとした。



番外編は第44作「寅次郎の告白」
鳥取の杉山とく子さん。

杉山さんの存在感は特別で、おばあちゃんなんだけれども
ただではすまない役者魂がスクリーンからにじみ出ていた。
あの人は凄い人だとつくづく思います。
でも…いわゆる「おばあちゃん」…ではないんだな。



で、私的には、やはり「おばあちゃん」だなあ…って
一番しみじみ思うのは第47作「拝啓車寅次郎様」の
谷よしのさんなのだ。


そばにいる主役を絶対に食わないストイックなまでの
『脇』に徹する控えめな芝居に私は完全に魅了され、
山田さん以外の小津さんや木下さんの作品を見ている時でさえ、
谷よしのさんを見つけてはチェックしている今日この頃だ(^^;)ゞ


昔、かなり詳しくこの日記にも書いたが、
谷よしのさんは、今までこのシリーズ48作品中でなんと36作品にも出演されている。
でもクレジットされているのはなんと28作品だけだ。
つまりノンクレジットだけれども出演されている作品が
なんと8作品も!ある。


1作品別人(別役)で2度(3度)登場は6作品もある。



最も多かったのは山田監督お気に入りの
「宿の女中さん役」で、17回も演じられている。
その次に多いのが柴又のご近所さん、行商のおばちゃん、
食堂のおばちゃん、とらやのお客さん、などなど…。


作品の中でチラッと見つけるたびにチェックしてきて、
もうないだろうと数年前から思っていたら、
2007年に第22作「噂の寅次郎」で
和服姿で結婚式に出かける谷よしのさんを発見した。

で、もう、谷よしのさんは全てスミからスミまで調べつくしたと、
勝手に思っていた。


ところが…

たまたま、2日ほど前から、
ひさしぶりに、ずっとさぼっていた本編の『ダイジェスト版』の作業を開始したところ、
第31作「旅と女と寅次郎」の夢のシーン、
あの劇中劇である時代劇のラストで、群衆の中で
谷よしのさんらしき細面の人が一瞬映ったのだ。【画像参照】





     前田吟さんが通るその刹那彼女は暗闇の中で一瞬だけ顔を上げる。

            







夜の道なので、ほとんど誰が誰だかわからない。
ましてや彼女たちは下を向き手を合わせて
佐渡一揆の義民である寅吉を拝んでいるので
顔はほとんどわからない。

しかし、暗闇の中で、ほんの一瞬、
寅吉と博吉(前田吟さん)が通り過ぎるその一瞬
約1秒弱ほど彼女は顔を上げたのに気づいた。


画面をできるだけ明るくしてみた。

面長なところや鼻筋の通ったところが似ている。
                   

           








しかしまだ断定とまでは行かない。
ここは慎重にしなくてはならない、と思い、

そこで大きくキャプチャーしなおし、
シャープを掛け、切り取ってみた。【画像参照】



         
         







いやはや、とても似ている。
かなり本人の可能性があるが、まだ100パーセントではない。
同じく時代劇に出演した谷さんと比べてみたくなった。

頭に乗せているカツラと顔の関係が知りたくなったのだ。

そこで、資料として持ってきたのが、
↑に貼り付けた
第26作「かもめ歌」

この第26作でも時代劇のカツラをかぶっているし、
時期も3年違いと、近いので比較しやすいと思ったからだ。
【画像参照】







    第26作の「かもめ歌」の夢のシーンの谷よしのさん。

          



           谷さんのアップ。

          







そしてこの第31作と第26作を比べてみたら
          
カツラと顔の比率、目鼻立ち、
特に鼻から口にかけての成り立ちがピッタリ一致した。

          ↓



           





これはもう間違いなく新たな谷よしのさんと考えていいと確信した。

もうこのシリーズの中には
知られざる谷さんはないだろうと思い込んでいたのでとても嬉しい気持ちになった。

おそらく今度こそ、
ラストの谷よしのさん発見だと思われる。




ん…、いや…

…まだ奥は深い…。


彼女はまだ潜んでいる気がしてならない…。





谷よしのさん、また、見つけさせていただきました。ありがとうございます。








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次もやる気だった松村達雄おいちゃん




2008年4月5日 寅次郎な日々 その353


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
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松村達雄おいちゃんは、存在感のあった森川おいちゃんに比べ巷での人気はとても地味だ。
しかし私は松村さんのあのチャキチャキな気質が好きだ。
もっと長くおいちゃんを続けてもらいたかったと今までも思っている。

松村さんは第9作「柴又慕情」から第13作「恋やつれ」までたった5作品でのおいちゃんを演じられた。
作品は全て私の好きな作品だ。特に最後の第13作は松村さんの一本気な性格が見事に表れていた。
あの第13作の歌子ちゃん父娘の和解シーンをあれだけテンポ良く、あれだけ情熱を込めて
取りまとめることができるのはあの松村さんしかいなかったと、はっきり思う。
あそこのシーンは森川さんや下條さんじゃ、あの純な熱は出せなかったと思う。
しかし、この作品を最後に、松村さんはおいちゃん役を降りてしまう。




                    





この時の経緯は、巷の本やいろいろな方のインタビューなどによると、
森川さんの急死によって、急遽、おいちゃん役を無理にお願いすることになったのだが、
もとよりいろいろ持病を抱えている松村さんは数作品ならばいいですとおっしゃり、
当初から作品数を限定されて臨まれたということだった。


しかし、先日、知合いの方からいただいた、
平成15年に書かれた三崎千恵子さんの回想録(東京新聞コラム 【この道】)を
読んでいくうちにたまたま松村さんについての思い出の文章が登場した。

そしてそこに、ちょっと驚くようなことが書いてあったのだ。




三崎さんの文章をそのまま書くとこうである↓。



おいちゃん役にまたまた災いが降りかかったのは、第13作終了後でした。
松村おいちゃんになって丸二年が過ぎた頃のことです。


「次は撮らないから」

松竹からそういう話がありました。

「寅さん」映画もはや五年、
お客さんが入るから、また次、又次というように、駆け足で撮り続けてきた五年間でした。
監督もスタッフも役者も、みんな疲れていました。
そんなことで、次回は、少し間を空けようという話になったのです。

「今度やらないっていうから、俺、切るよ」
松村さんはそう言って、盲腸を切ることにしたと、おっしゃっていました。
予定通り、松村さんは手術を決行。

間の悪いことに、その直後「次もやる」と、松竹が急に方針を変えたのです。
おいちゃんは出ずっぱりみたいな役ですから、術後すぐにやれるわけはありません。

松村さんはカンカンになって怒っていらっしゃいました。

こうしておいちゃん役は変更を余儀なくされたのです。




      




と、まあこういう回想録なのだ。

この回想録掲載当時、松村さんはまだご存命だったし、
三崎さんが嘘を書くはずもないので、このことはおそらく事実だろうと思われる。

つまり、松村さんは、なんと次の第14作もやる気満々だったということだ!

もしそうだとしたら、なんとも惜しいことをしたものだ。あのしっとりとした第14作「寅次郎子守唄」を撮り、
そしてそのまた半年後には名作第15作「寅次郎相合い傘」が登場するのだ。
下條おいちゃんはもちろん、真面目で、それでいて人情味のある実にバランスのいいおいちゃんだが、
松村おいちゃんももう少し長く見ていたかったと、思っているのは私だけではあるまい。

なかなか『企業』というのは難しいものだ、現場のスタッフたちのことも考えながらも、
株式会社である以上、やはり利潤を追求しなくてはならない宿命を当然背負ってもいる。

現場の小さな融通の利くリズムと、会社経営の融通の利かないリズムのちょっとしたきしみが、
一人の役者である松村さんや下條さんの運命を変えてしまったということだろうか…。

しかし、それから6年後の第26作「寅次郎かもめ歌」で松村さんは、
このシリーズの最高の彼の当たり役となった葛飾高校定時制の国語教師の役を
見事に演じきられることとなるわけである。
あの役も、いや、あの役こそ、松村さんしか出来ない洒脱でしかも情熱的なキャラクターだった。
あの作品の中で非常に大事な役だったと思う。

私たちは、運命のいたずらによって、とても大きなものを失い、そしてとても大きなものも手に入れたのだ。

『禍福はあざなえる縄の如し』である。





                  







ただ今帰国準備のため、多忙が続いていますので
第4作「新.男はつらいよ」本編完全版の完結編は4月7日〜8日頃です。お待ちください。




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空から見る柴又今昔物語



2008年3月28日 寅次郎な日々 その352



ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
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みなさん、この柴又の航空写真を見てください。

どこかお分かりになられるだろうか?





                        



          ↑これは昭和38年の柴又の航空写真だ。         左が柴又4丁目、そして右が柴又5丁目。



そして平成のまさに今、それぞれの同じ場所は航空写真で下のようになっている。↓




                    




この場所はこの映画のレギュラーの人たちにとって生活そのものの場所だった。


では、このそれぞれの航空写真の場所へ降り立って見よう。ただし、昭和50年代のこの場所だ。↓




          第20作のさくらのアパート                  第26作の引っ越したばかりのさくらの一戸建て

              





皮肉なことにアパートも一戸建ても、昭和38年にはまだないし、平成20年の今も同じくもうない。
当たり前かもしれない。なんせ45年間も経ってしまっているのだ。約半世紀である…。
その間に一体幾人の営みがこの小さな家々でおこなわれたのであろうか。

さくらは一体今何歳なのであろうか。

寅とは8歳から9歳くらいは違うから、寅が第26作の「入学願書」通り昭和15年生まれだとしたら
さくらは昭和23年頃の生まれとなる。
そうなると平成20年の今年、もうすぐ60歳にならんとするのか…。

この左側の写真の倍賞さんは第20作「寅次郎頑張れ!」でのさくらである。
昭和52年だから、29歳くらいのさくらということだ。

実際の倍賞さんは昭和16年生まれだから
もうすでにこの第20作の時は37歳だった。





それで、話は戻って、
左の写真はさくら達が、第1作から第25作「寅次郎ハイビスカス」まで
住み続けたあの【潜水艦アパート】だったのだ(^^)

このアパートは名前を3度変えている。



最初の名前は第4作「新男はつらいよ」で登場する【江戸川荘】


       





2番目の名前は第5作「望郷篇」で登場する【コーポ江戸川】


      




3番目は第20作「寅次郎頑張れ!」から登場する【こいわ荘】


      



このアパートはやはり狭いし、大家さんがうるさいので
第9作「柴又慕情」で引っ越そうとするのだが、
そのことで寅と喧嘩したり、資金不足などがあったのか、
結局は第25作「寅次郎ハイビスカスの花」までこのアパートに住み続けた。

そして、おいちゃんの店を担保に入れて銀行から借りたり、
タコ社長に保証人になってもらったりして長期ローンを組み
ようやく、第26作「寅次郎かもめ歌」から2階建ての家に引っ越したのだ。





一戸建てのほうは、以前も書いたが、

26作「寅次郎かもめ歌」〜40作「寅次郎サラダ記念日」まで。


         




第41作「寅次郎心の旅路」〜42作「ぼくの伯父さん」まで。


          




第43作「寅次郎の休日」〜第45作「寅次郎の青春」まで。


          




第46作「寅次郎の縁談」から〜第48作「寅次郎紅の花」まで、


          
走る博の右に見えるグレーの屋根の白い家
          





と、なんと4つも家がある(^^:)

これまた引越しは一切していないということになっています(^^;)

一般的にさくらの家という時は第26作〜第40作までのあの畑のそばの
青いトタン屋根の茶色い家をみんな思い出すようだ。

あそこは柴又5丁目で、北総鉄道北総線『新柴又駅』から東に
高架沿いに300メートルほど江戸川土手の方向へ歩く。
高架下の遊歩道に取って代わられている。

当時の高架建設のため並んでいた家々も影も形も今は残っていない。
ただ、高架向こうの大きな家だけは昭和38年と同じように今でも建っている。(画像右下の家)





こうして、今、昭和38年の航空写真を見ているといろんなことが見えてくる。
ちょっといくつかを見ていこう。








★下の写真の赤丸はある店を経営していたマドンナが住んでいた場所なのだが、マドンナの名前と
 店の名前がお分かりになられるだろうか。

 もちろん左が昭和38年その店はまだない。右は現在。その店はすでにうなぎ屋さんになっている。


          



上の画像の右下のお寺と境内をよくご覧いただきたい。これは題教寺(帝釈天)である。

もうお分かりになったと思うが、これは題教寺のすぐ北にあったピンク色のテント看板の
『ローク』(↓画像参照)という喫茶店の場所なのだ。
もちろんマドンナは六波羅貴子さん。第8作「寅次郎恋歌」だ。

画像左下はお馴染み帝釈天参道だ。大きなオレンジの屋根は川千家さんだ。
このあたりは、上から見る限り、さくらの一戸建ての場所のようにそんなに激変はしていない。



   
                      
2003年、柴又にて元ローク(今は宮川と言ううなぎやさん)を撮影
       








★下の写真をご覧いただきたい。これは御前様が経営されているある建物である。
 そう、ルンビニー幼稚園だ。左の昭和38年の建物は木造瓦葺だったと思われる。
 まさにあの第4作「新男はつらいよ」のあの木造校舎なのだ。
 第11作「忘れな草」では満男が園児で出演しているがたぶんまだあのまま、一緒だった。


             




                                               2003年春

              










★下の写真は聞くまでもなく、この映画の舞台となった帝釈天参道だが、
  赤丸をした店が、とらやのイメージを膨らませる時の
  モデルとなった『木屋』さんである。昭和38年では当たり前だが
  どの店もほんとうに瓦かトタンの屋根だ。
  現在は、題経寺そばの亀家さんをはじめ、何軒かの店はビルに改築している。





       





       映画の初期の頃は昭和38年の航空写真に近いと思われる。左が第1作で、右が第4作

             


  

        平成に入ってからは現在の柴又に近い感じだ。左が第45作、右が第48作

             




                    2003年春

          











★これは帝釈天こと題経寺の昔と今。

二天門をはじめ、正面に帝釈堂、右に祖師堂(本堂)、釈迦堂(開山堂)、本堂裏手の大客殿など
も同じである。お寺さんというのはあまり変わらないものなのだ。
木々もほとんど同じのような気がする。




                




   第6作では題経寺の上からセスナで俯瞰する映像が流れていた。

        










★これもすぐおわかりとは思う。そうである柴又駅前広場だ。
 赤丸で囲ったのは、シンボルタワーのようなモニュメント。
 そのちょっと前、ちょうど赤丸の線上に黒くあるのがお馴染み車寅次郎の銅像だ。

 昭和38年の頃は小さな店が並んでいたのが今は駅前はビルに変わった。

 柴又駅のホームも改札寄りには屋根が無い。





                         






           2003年の息子と車寅次郎の銅像

         












★そしてこれはどこか分かるだろうか。
 ご存じ『矢切の渡』の柴又の岸辺だ。観光名所なので、こういうのは
 それなりに残されていくのだろう。さほど45年の歳月を感じない。
 ただ、手漕ぎの渡し舟が、近年は忙しい時などはモーターボートに変わったりもしている。


              





           第1作で矢切の渡を渡る寅            第42作で矢切の渡を渡る寅

                      



            2003年 矢切の渡にて 息子と連れ合い

        










最後はおまけである。これは地図を見ただけでは、難しい。

この道は『柴又街道』。駅から歩いて帝釈天参道を横切る木屋さんの手前の大きな道である。
第48作で、タクシーに乗った寅とリリーはこの道を線路に沿って「金町駅」方面、つまり北へ走っていく。
赤い丸の地点でタクシーは止まるのだが、参道からここまでなんとたったの150メートルなのだ。
しかしタクシーは約時速40kmで1分も走る(^^;)OK無線の犬塚さんいったいどこを走ったのだろう?

そして寅の大きなカバンを持ちながら三平ちゃんはなんとあのタクシーに追いつくのである。
凄まじい走りだ。根性日本一!

昭和38年から見ると線路も周りの家々もかなり変わり、大きなマンションやビルが建っている。





                 





         
第48作、 寅の恋が実ったシーン
       






お疲れ様でした〜。  チャンチャン(^^)



これから帰国準備のため、多忙が続きますので
第4作「新.男はつらいよ」本編完全版の完結編は4月5日頃です。お待ちください。




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ふみさんに会いに行かない寅



2008年3月24日 寅次郎な日々 その351



ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。




第27作「浪花の恋の寅次郎」はラストが素晴らしい。

寅とマドンナがラストで再会する物語の中でも、第17作「夕焼け小焼け」第25作「ハイビスカスの花」あたりと比べても
ラストのすがすがしさは全く遜色ない。
ただ、悲しいことにこのラストのふみさんは、もう結婚してしまっているのだ。


ふみさんにとって寅は弟との最後の縁を取り結んでくれた恩人。
寅がいなかったら弟が亡くなったことさえ知らずに過ごしていた。
どん底に突き落とされたあの日、寅はふみさんのそばで慰め続けてくれた。

彼女の生涯で最も悲しい日に寅が寄り添い、一緒にいてくれたのだ。
夫のマコトさんの知らないふみさんの悲しみを寅は分かっている。




            




そんな思い出深い寅が、最後遥か対馬まで自分を訪ねて来てくれたのだ。

自分自身に封印していた寅へのもう一つの気持ちがどっとあふれ出て、
マコトさんがいる前で、寅の胸近くに顔をうずめ泣いてしまうふみさん。


寅への万感の想いを込めたふみさんの最後の涙。




             




寅はそんなふみさんの気持ちをまるで知らないかのようにマコトさんに集中し、微笑みかける。

山田監督の演出の冴えを感じる見事なラストだ。


あの切ない涙に胸が熱くなっているうちに、カメラは俯瞰になり遠く海が映り物語りは終わりを告げる。
なんとも後味のよいエンディングだった。




しかし、当時のキネマ旬報に掲載された第27作の脚本第2稿は、
以前から何度か書いているように決定稿の前段階ゆえに、本編とは異なった展開になっている。
なんと、この第2稿によると、寅は対馬のフミさんの家に行かないのだ!
ということは、あの切ない再会の涙もないのである。





ふみさんがとらやに結婚の報告をし、帰っていったあと、
とらやのニ階で寅はさくらにふみさんのある種の残酷さを言葉にする。

激しく鳴り響く雷、そして雨…。



このあと【第2稿】ではかなり違ってくる↓


時は流れ、夏真っ盛りになるのだが…


まず新世界ホテルのオヤジが借金を取り立てにとらやにやって来ない。
寅の借金踏み倒し成立だ。


そしてなんと、博と満男と源ちゃんが区民プールで泳いでいるカットが入ってくる。




第2稿原文のまま書きましょう。




夏空

青い空にムクムクと入道雲がわき立つ。

賑やかな歓声と水の音


葛飾区民プール


暑い日ざしが白っぽいコンクリートのビルや屋根に照りつけている。

建物に囲まれた手狭な空間を利用したプールで遊ぶ若者や子供たち。

水しぶきが上がり歓声がこだまする。

プールサイドの一隅のピーチパラソルの下で、一休みしている水着の博と満男。
麦藁帽子をかぶったさくら、一隅を指さし笑い出す。


さくら「博さん、ほら」

水泳パンツをはいた源公が、ビキニスタイルのグラマーに見惚れている。

博「源ちゃん、何見てんだ!」

源公さくらに気づき、白い葉を見せる。

さくら「ずいぶんお腹でてるのねえ」

あわてて腹を引っ込める源公。

吹き出すさくら達。

博「満男、また泳ぐか」

二人立ち上がり体操をしながらプールに向かう。


博「あ、そうdふぁ。ふみさんから葉書が来てたから袋の中に入れておいたぞ」

さくら「あら、ほんと」

博と満男、ポチャンと水に飛び込みまた泳ぎだす。

二人を眺めていたさくら、買い物袋から葉書を取り出す。

いつか、寅への置手紙でも見たことのある生真面目な字である。



ふみの手紙

「暑い日が続いておりますが、さくら様はじめみなさまにはお変わりありませんか。
その折は突然お邪魔したのにもかかわらず、優しいおもてなしをいただき、本当にありがとうございました。
対馬の暮らしにもようやく慣れて、元気に寿司屋のおかみさんをつとめております――」





ある寺院


地方で名の知れた大きな寺。

降るような蝉時雨の中に参拝客も少ない伽藍がそびえている。


暑さにうだって居眠りをしている線香売りの男

本道の蔭にに腰を下ろして涼をとっている寅。




ふみさんの手紙

「寅さんは今頃どこにいるでしょうか。懐かしい寅さん―。
こうして手紙を書いていても私の目の前に寅さんの笑顔が大きく浮かんで来るのです」



賑やかな嬌声が聞こえてくる。

ウトウトと居眠りをしていた寅、顔を上げると三、四人の田舎芸者らしい一行がバカ笑いをしながら
本堂の中から出てくる。


寅のそばを通りかかった一行の一人、気易く声をかける。


芸者A「暑いねえ、お兄さん」
寅「お姐さん達芸者さんかい?」
芸者A「おや、分かちゃったか」
寅「さしずめ、京都は祇園の一流どこだな」

キャアキャア笑う一同。

芸者B「温泉芸者だよ」
寅「へーえ、お揃いで信心か」
芸者C「そう、いい旦那みつかるようにってね」
芸者A「お兄さん何してんのさ」
寅「オレも信心よ、いい女に会えるようにってよ。さっそくご利益があったな」

キャッキャと喜ぶ女達。

芸者A「どう、お兄さん、その辺で冷たいビールでも呑まない?」
寅「よおおし、キレイどころに囲まれて精進落としでもやるか!」

うれしそうに歓声を上げる芸者達。

びっくりして目を覚ます線香売りの前を寅を囲んだ芸者達の一団が嬌声をあげながら通り過ぎる。

参拝者もまばらな、暑さでうだるような石段を、ワイワイ騒ぎながら
下っていく寅達の一行。
その向こうに広がる土産物屋や飲食店の屋根瓦が夏の日差しにキラキラと光っている。


終わり




と、まあこういうラストなのである。

こう読んでいくとなんだか第25作「ハイビスカスの花」のラストのリズムに似てなくもない。


ふみさんの住む対馬には行かず、新しい出会いの喜びに興じている寅をカメラは追って行くのだ。

これはこれで、吹っ切れさっぱりした寅がそこにいる。
ある意味過去の思い出を引きずってふみさんの住む対馬に会いに行く寅よりもカッコいいと思う人もいるだろう。

しかし、私は、あの本編のラストこそが好きだ。

ふみさんの寅を思うあの涙がラストで見れなかったとしたら、男女の摩訶不思議な恋の結末を見ること無しに
宙ぶらりんな形で私たち観客は映画館をあとにしなければならなかったであろう。

実際、そのような中途半端ともいえる、見るものにその先をゆだねるような余韻の作品もこのシリーズでは
少なくない。いや、どちらかというとこの第27作のようなハッキリとした作品の方が少ないくらいである。

私は最後まで描ききってくれたほうが好きなタイプなのだ。

そういう意味でも寅のあの対馬行きは私には必要だった。
あの二人の宙に浮いたギクシャクした気持ちを払拭する恋物語のけじめが必要だったのだ。

山田監督もあの第2稿とは違うかたちを模索したのであろう。

前々作、第25作「ハイビスカスの花」も一歩踏み込んだあるけじめをラストでつけてくれる。




                 




しかし、第25作のラストの華やかな大団円が私たちを最高に歓喜させ、深く安堵もさせるのに対して、
この第27作「浪花の恋の寅次郎」のラストは、
短く粋な恋の終わりを、見事に友情に昇華させた男女のやり取りの切なさに涙を流すのである。




                




私たちが、人生の究極の喜びを体験できるのは第25作「ハイビスカスの花」のラストだろう。
そしてそれとはまた別の趣で、この人生のなんともいえない機微を
思い知るのは第27作のラストのほうであることは間違いない。

山田監督の思い切った構想転換は間違っていなかったのだ。








第4作「新.男はつらいよ」本編完全版の完結編は3月31日頃です。お待ちください。




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350

                          
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寅のおでこに冷やっこい手を当てるお母さん。


寅とさくらのお母さんの新事実発見


2008年3月12日 寅次郎な日々 その350

ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
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さくらのお母さんと寅のことで新しい事実がわかった。


つい1ヶ月ほど前にもおばちゃんの発言にそれを見つけたことはこの日記にも書いたばかりだが、

そして、まだないか、もう少し確かな『証し』はないかと、
昨日も懲りずにいろいろ探していた。


あったのだ、またもや新しい事実が。

でも映画の本編じゃない。


当時のキネマ旬報に掲載された★第12作「私の寅さん」の決定稿の前の
脚本第2稿版に、寅とさくらのお母さんのやり取りがなんと具体的に
書かれてあったのだ。



これは今までにもまして嬉しかった。


マドンナのりつ子さんのお兄さんである文彦さんと寅が、
りつ子さんのアトリエに勝手に行って意気投合して、酒飲みながら昔の思い出を
話し合うシーンを覚えていらっしゃる方は多いだろう。

小学校時代に『キリギリス』というあだ名の綺麗な音楽の先生がいて、
『♪柱〜のキーズーはキリギリス〜』
って先生の前で歌って先生を泣かせてしまったっていう思い出だ。

あれはほんととてもいい話で私はあの話には感動したものだ。

あのキリギリス先生の話、脚本第2稿ではなんとまったく出てこない!

あちゃ〜……。


で、そのかわり二人は『銭湯での笑い話』で盛り上がるのだ。



ちょっと下に第2稿通りに書いてみる。↓





寅「お前垢じみた面してんなあ、風呂入ってるのか?近頃」

文彦「オレ、風呂嫌いだからなあ…もうそろそろ半月になるか…」

寅「嫌だねえ、どうりでくさいよ、おまえは。
  風呂屋に行くか?もうそろそろ開くじかんじゃねえか」

文彦「風呂屋か。―そう言うやぁ、よくおまえに風呂屋に連れてってもらったなあ」


寅、むっくり体を起こしながら、


寅「そうそう。今時分行くと風呂屋は誰もいねえ。
  乾いた風呂桶が隅っこにキチンと積み重ねてあってよ、
  そういうのを見るとなんだかもう無性に楽しくなっちゃって、
  ザボーンと風呂に入ってもぐりっこしてよ」

文彦「ほら、熱い方とぬるい方があってその境の板の下が開いててさ」

寅「そうそうおまえあの境の穴に潜れなくてなあ」

文彦「そうそう!」(★↓のイラスト参照してください(^^))

寅「そのうち友達がやって来る、おうまた入るかってんで、また入る。
  出てったり入ったり、ワイワイキャーキャーくだらねえこと言ってるうちに
  時間がたつ、そうすると、ほら、手のここんとこがよ」

文彦「そうそうジジイみたいに皺が出来ちゃって」

寅「もうのぼせちゃって、風呂から上がっても洋服着る元気もねえ、
  素っ裸で板の間にぺタンと座ってしばらくボーっとしたりして。

  家に帰ってもまだなおらねえ、
  飯食う元気もなくボーっとしていると、
  おふくろが『やだよ、この子は、熱でもあるんじゃないかい?』
  なんて冷やっこい手で額にさわったりしてな」


文彦、笑い転げている。


寅「本当におまえも可笑しなヤツだねえ、
  家に帰れば立派な風呂があるっていうのに、
  オレなんかと一緒に銭湯にばっかり行ってたんだからなあ。

  ほら、憶えてるか、
  遊ぶのに飽きちゃってすることなくて、
  お互いにチ○ポコ洗いっこしたじゃねえか、
  真っ赤になっちゃってよ」


文彦、悲鳴を上げて笑っている。


寅「オレ、家に帰っておふくろに見つかっちゃってよ。
 『おまえ、それどうしたんだ?』って言うから、
  風呂屋でデベソのやろうと洗いっこしたんだって言ったら、
 『このバカ!』って、ぶん殴られちゃったりして、ハハハハハ」





と、まあこういう会話なのだ。



このあと本編と同じく、寅がりつ子さんの絵を汚してしまって、大騒ぎになっていく。。


ここで出てくる『おふくろ』とはもちろん菊さんではなく、
この写真に写っているさくらのお母さんのこと。


   
  第1作に写真で登場したさくらのお母さん

          





炊事をしているさくらのお母さんの冷たい手でおでこを触られる寅。

チ○ポコをふざけ洗いしていたのがバレて『このバカ!』って叩かれる寅。
寅はさくらのお母さんにしっかり愛されていたんだと思う。

さくらのお母さんの白いひんやりした手がおでこに当てられた時、
嬉しかったろうな寅は…。

些細なことなんだろうが、寅には大事にしたい思い出なのだ。
だから寅は今でもそのことをああして憶えている。

それにしても、血は繋がっていないのに、
寅をパーンってぶん殴れるほどお母さんとの結びつきは強かったのだ。
お母さんは、夫が浮気で芸者さんに産ませ、捨てられてきたも同然の寅を、
自分の子供たちとわけ隔てなく深い愛情で育てたのかもしれない。

子供には罪は無いのだ。


第12作脚本第2稿に書かれているこのエピソードを読んで、
今私はもうすっかり、寅の幼少期はそんなに悲しくはなかったのだと
確信している。結構幸せな日々も多かったんだなって思う。

結局、この優しいエピソードは、本編では採用されなかったけれども、
寅の『隠された懐かしい思い出』として、
この小さな物語は私の宝物になった。


悲しく淋しい生い立ちと幼少期を送った寅が、
なぜあんなにも真っ正直で人の心を思いやれる心を持ちえたのか、
ずっと私は疑問で、正直説得力の弱さにひっかかってもいたが、
ようやくこの長い長いトンネルから解き放されたと思っている今日この頃だ。




   
テレビドラマ「男はつらいよ」でのさくらのお母さん

           






息子が描いた下のイラスト↓は、
寅が風呂屋で文彦と遊んでいるところらしい。
シンプルな絵だが、寅の楽しんでいる顔と文彦のゆだってる顔の対比が面白い。



    






第4作「新男はつらいよ」本編完全版
完結篇は3月30日頃になると思います。
気長にお待ちください(^^;)ゞ





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人呼んで『ヤサグレの寅』と発します。




2008年3月12日 寅次郎な日々 その349

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『男はつらいよ』の主題歌の2番の歌詞に

『♪どおせおいらはヤクザな兄貴〜』という歌い文句があるように、
香具師である寅はある意味『ヤクザ』の仲間である。
しかし、香具師はいわゆるみんなが思うヤクザではない。

一般の方がヤクザという場合はたいてい『博徒』のことを言う。
賭場を開催し寺銭を稼ぐ人たちである。
寅は博打にはかかわらないので、まあ健全といえば健全だ。

しかし、それこそ土地土地のおあ姉さんおあ兄さん(親分さん)に
ご挨拶しなければ、その土地では商売はさせてもらえないのも厳しい現実だ。

そこで、まず土地の親分さんが出席する月寄り(会合)に出席し、
そこでの廻り面通に参加し、仁義を切るのだ。

このような大きな仁義を切るのは寅は大好きなのだが、登などとのオチャラケた
仁義などは置いといて、
このシリーズでシリアスで大きな仁義を切る真面目なシーンが
出てきたのはたった2回のみ。

第1作の東京月島界隈における『月寄りの廻り面通』のシーンと、
第3作の染子の父親である。坂口清太郎に対して仁義を切るシーンである。



   

第1作では、下のような仁義を寅は切っていた。


わたくし、生まれも育ちも東京葛飾柴又です。
 姓は車、名は寅次郎、
 人呼んで
フーテンの寅と発します。

 皆様ともどもネオン、ジャング高鳴る大東京に
 仮の住居まかりあります。
 不思議な縁持ちましてたったひとりの妹のために
 粉骨砕身、バイに励もうと思っております。

 西に行きましても東に行きましても、とかく土地土地の
 おあにいさん、おあねえさんに御厄介かけがちなる
 若造でござんす。

 以後見苦しき面体お見知りおかれまして、
 恐惶万端引き立って、よろしくお頼み申します。





         







そして、第3作ではこうである。


寅「
私、生まれも育ちも関東、葛飾柴又です。
 渡世上故あって、親、一家持ちません。

 カケダシの身もちまして姓名の儀、
 一々高声に発します仁義失礼さんです。

 姓は車、名は寅次郎、
 人呼んで
フーテンの寅と発します。

 西に行きましても東に行きましてもとかく土地土地の
 おあ兄さんおあ姐さんにご厄介をかけがちたる若僧です。
 以後面体お見しりおかれまして、
 恐惶万端引き立って、よろしく、おたの申します






                





しかし当時、
キネマ旬報に掲載された決定稿の前の脚本第2稿
によると、第1作の仁義はちょっと違ったようである。



そのまま書き記してみると



わたくし、生まれも育ちも東京葛飾柴又です。
帝釈天で産湯を使いました根っからの江戸っ子です。
姓名の儀は車寅次郎、
人呼んで『
ヤサグレの寅』と発します。

故ありまして生まれ故郷を離れ、
久しく高町歩きに明け暮れましたが、
この度、懐かしき生まれ故郷に草鞋を脱ぎ、
皆様ともども同じ東京の空の下、
ネオンきらめき、ジャズ高鳴る都のネグラに、
しばし夢を結ぶことに相成りました。

わたくし、故ありまして一家親分を持ちません、
生まれ故郷とはいえ、浦島太郎同然の今の身の上、
天涯孤独のわたくしを、
たった一人の肉親と慕う妹のために
奮闘努力いたします覚悟にございますれば
新参の身持ちまして来し方、
いちいち高声に発します失礼の儀、何卒お聞き流しの上、
よろしくご鞭撻のほど、この席借りまして伏してお願い奉ります」


と、こう仁義を切っているのである。



ちなみに『やさぐれる』とは、もともと、『すねる、投げやりになる』と言う意味。

「やさ」は「鞘(さや)」の反転で「家」の意味。
「ぐれ」は『外れる』いわゆる「ぐれる」に近いが、もともとは「ぐれる」とは語源が違うが
今は混同され、不良と言う意味と考えてもいいようだ。
で、総合的な意味は『不良で家出すること、またはそのような人』を「ヤサグレ」と言った。

現在では一般的に不良でアウトロー的な生き方をしているとヤサグレと言うようだ。

上の仁義の中で出てきた高町(たかまち)または『高市』、というのは香具師がよく使う隠語で
『祭り』もしくは『祭りでの市』のこと。

なお、時々寅が坂口清太郎や登などと1対1で仁義を切っているが、
これは一般的には『アイツキ仁義を切る』という。





話は戻って、…とまあ、脚本第2稿では、私達が普段呼んでいる、
このなじみ深い『
フーテンの寅』ではなかったのである。

もし第1作でこの脚本第2稿どおり演出されていたとしたら、私達は
寅の通称を今『
ヤサグレの寅』と呼んでいたに違いない。


第3作の『男はつらいよ フーテンの寅』というタイトルも、ひょっとして
第3作『男はつらいよ ヤサグレの寅』だったかもしれない…。






第4作「新男はつらいよ」本編完全版
完結篇は3月20日頃になると思います。
気長にお待ちください(^^;)ゞ





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ああ、運命の『打薬窯変三彩碗』騒動 番外篇 


2008年3月7日 寅次郎な日々 その348


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今日はバリ島は新年だ。バリの人々はこの日を『ニュピ』という。
今日は一日中敷地より外には出れない。バリ島中誰一人として出れないのだ。
持ちろん空港も役所も大使館もすべて閉鎖。
大昔からそういう日なのである。
ということで「寅次郎な日々」を更新する時間が出来たというわけだ。




皆さんご承知の通り、寅はカバン一つ持って、いつも旅暮らし、
財布の中にはたいてい500円札しか入っていないというスーパー貧乏な男だ。

柴又に帰るたびにさくらにいつも、そっと財布の中に
お札を入れてもらっているどうしょうもない奴だ。

しかし、そんな寅も競馬で百万を当てたことがあったが、旅行会社の
社長に持ち逃げされて結局はパー。

それ以降は、競輪で万車券をつかんだこともあったがこれも
最後に欲が出てハズレてパー。

もちろん地道に働くタマではないので、ちょっとバイで稼いでも
すぐに飲んでしまったり過剰におごってしまうのでパー。

しかし、これも御存知のように第29作「あじさいの恋」で人間国宝加納作次郎からもらった
打薬窯変三彩碗』は一応寅の所有となっているので、財産ではある。
作次郎本人が相当気に入っている茶碗なので値打ちも相当のものだと思われる。


寅はなにもわからないままとりあえず、カバンに詰め込んで、丹後の伊根経由で
柴又まで運んできただけ。茶碗には一切興味なし。
博は、一応目にとめて「いい茶碗だなあ…」なんてこと言っていたが、
さくらが寅の土産だと言と、「なんだ…」と急に興味を無くしていた。




            



さくらはこの作品で、陶芸教室に通っていたが、その時
好きなの、加納作次郎の作品が」なんて内容のこと言ってたくせに、
全く興味を示さなかったのがちょっと哀しいところ。

ラスト付近で弟子の近藤が展覧会のために借りに来て、ようやく本物だとわかり、はじめてマジマジと
「これが本物の加納作次郎…」なんて呟きながら鑑賞しているのだ。トホホである。



          




あの茶碗の値打ちがわからなくて灰皿代わりに使っていたタコ社長や
とらやの面々も、ようやくその値打ちをまざまざと知ることなるのである。

おそらくあの三越での展覧会のあと、さくらたちはあの茶碗を大事に箱に入れて
割れない場所に仕舞ったことだろう。


しかしだ。

当時のキネマ旬報に載った脚本(第2稿版)によると、
なんと近藤はラストでとらやに訪ねてこないのである。

それゆえにとらやの面々はこの茶碗の価値を知らないままなのだ。




幻の脚本第2稿によるとこうである。


まず、あの暑い夏のある日さくらがとらやにやって来る。


さくら「ただいま。おばちゃんちょっと見て」

買い物かごから小さな皿を五枚取り出す。

おばちゃん「これ、あんたが焼いたのかい?」

さくら「そうよ」

おばちゃん「へえー上達したもんだねえ」

社長「商売できるよ」

さくら「このお皿、お中元代わりに社長さんに差し上げます。
    プラスチックよりいいでしょう」
さくら太っ腹(^^)

社長「ほんとうかい?ーいやあ、どうもありがとう。
   お客さんように大事にしまっとくよ」



社長、タバコを加納作次郎の茶碗に捨てる。


さくら「あら、その茶碗灰皿にしてるの?」


社長「まずかったかい?」


さくら「
私それとっても気に入ってるのに嫌ねえ…。

    この間は、おばちゃんが猫の飲むミルク入れにしちゃうし



あちゃ〜おばちゃん…(TT)



おばちゃん「そんなに気に入ったんならあんたの家に持っていけばいいだろう」

とらやにあると、確かに危ない(((^^;)



客が来る。

おばちゃん「あ、はい、いらっしゃい」と言って、店に行くおばちゃん。



さくら「
そうしょうかな…そうしろそうしろ(^^;)


社長「
オレはこのさくらさんの皿の方がうんと上だと思うけどね、
   そんなつまんねえ茶碗より





で、脚本ではこのあと、寅から電話がかかってくるのだ。


さくらは『かがりさんから来た手紙』を電話で読んで聞かせてやるのだった。




               





寅の居所は本編では彦根城だが、この脚本第2稿では、
信州ということになっている。

そこでその後、本編同様、啖呵バイの最中に作次郎に合うのだが、
なんと作次郎のお供であの近藤が一緒にいるのだ。

こりゃ、とらやに来ないわけだ。(^^;)

であの本編同様、

寅は「じいさんの影響で瀬戸物なんか売ってるんだけども、ちっとも儲けにならないね」

と言った時、作次郎はこう言うのだ。

加納の花瓶じゃ売れへんなあ

寅、笑いながら「うまいうまい!」



というわけで、あの作次郎作『打薬窯変三彩碗』の価値をとらやの面々は知らないまま
おそらくさくらの家で戸棚か水屋か何かで眠り続けることになるのである。

ああ…人間国宝加納作次郎の名作はこうして埋もれていくのでありました。


それとは別の話だが、
本編では、さくらは「加納作次郎の作品が好きだ」と言いながら
あの茶碗にほとんど興味を示してはいなかったが、この第2稿では、一応
私それとっても気に入ってるのに」と言っているので、
第2稿のほうが、さくらの審美眼の面目は躍如されるのである。よかった…(^^)




しかし、社長がつぶやいたあの言葉…

オレはこのさくらさんの皿の方がうんと上だと思うけどね、
そんなつまんねえ茶碗より



これは、一見社長が見る目がないだけというふうにも取れるが、そういう脚本だろうか…。
この言葉は、山田監督が密かな感覚の「本音」の部分なのかもしれない。


『物の価値』というものは、実はギリギリのところではその当事者達の主観によるところが大きいのだ。
どこの誰が作ったかわからない茶碗より、
社長や家族のためを思って作ってくれたかもしれないさくらの気持ちのこもったお皿にこそ、
作った人と使う人の一期一会の交流があるのだと山田さんは言いたいのかもしれない。



しかし、結局第2稿は改変され、社長のこのなにげに味わい深い言葉も撮影されることはなかった。


ちょっと聞いてみたかったと思いませんか社長のなにげないあのセリフ。







第4作「新男はつらいよ」本編完全版
完結篇は3月20日頃になると思います。
気長にお待ちください(^^;)ゞ





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『捨てる作業』の果てにある結実 



2008年2月29日 寅次郎な日々 その347


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。
  



第46作「寅次郎の縁談」で就職活動に行き詰まり、散々苦しみぬいた満男が、
次の第47作「拝啓車寅次郎様」では小さな不満を持ちながらも靴屋さんの営業を続ける姿が表現されていた。




              





山田監督の盟友である朝間義隆さんは、
当時、満男の設定でアイデアが『揺れた』ことを覚えていらっしゃった。
当時の
月刊シナリオへの寄稿によると、当初「拝啓車寅次郎様」は、
満男の就職の悩みから物語を始める事になっていたらしいのだ。



そして山田監督と朝間さんは散々迷った挙句、

満男は小さな出版社の営業の仕事をしているという案に落ち着いたということ。




              






一軒一軒本屋を回り、名も知れぬ自社の出版物を店主に懇願して店の片隅に置いてもらう。
あるいは講演会やイベント会場に出かけ、関連書物を休息時間などに販売する。

自分の好きな本を作りたいという夢とはおよそ無関係な、過酷な肉体労働に明け暮れて行く満男を想像し、
逸話をいろいろ膨らませていったということだ。

彼は、今日も深夜フラフラで帰ってくる。
会社の車に売れ残りの本を山積みして一日中山梨の学校や組合でセールスをして歩いていたという。

そして柴又の自宅へ帰って、風呂上りに大きなため息をつき、

「母さん、俺、今の会社辞めるよ」

そうボソッと言う。

さくらは顔色を変える。

さくらは、とうとうそれを言い出したか、と嘆くのである。
いつそれを言うか頭とびくびくしていたらしいのだ。


で、そこまで脚本を考えて行って、それで行こうっていう矢先に…、

また山田監督がまた例のごとく考え込み始めたらしいのだ(^^;)
山田監督は頻繁にこれをやる人なのだ。困った〜。

オープニングでいきなりこのシビアな状況が展開されるのは厳しすぎると言うのだ。

「正月に、さあ、寅さんを見るぞと映画館にかけつけてくれた人たちが、
果たしてこんな重苦しい物語を喜んでくれるだろうか」

その後一月ほどお二人は悩み続けた結果、その案を惜しみながらも全て捨てられたそうだ。

「男はつらいよ」の脚本作りは、このようにいつも『捨てる作業』が
中心になって作られていく、ということだそうだ。

私たちの絵の制作もそうだが、ギリギリで、余計なものや不具合を
どんどん削り落として行くという苦しい作業を
思い切ってどれくらいできるかがポイントになることが多い。

何もアイデアが出てこないのもきついが、
これと決めた愛着の出てきたアイデアを壊して、もう一度白紙に戻す事は
実はこの上なくきつい、地獄の作業なのだ。


水面下の修羅場というものはいつの場合もやはり凄まじい。





                 
                 







第4作「新男はつらいよ」本編完全版完結篇は3月中旬になると思います。
気長にお待ちください(^^;)ゞ





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ぼたんへの愛をさくらに伝える寅 


2008年2月20日 寅次郎な日々 その346


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



寅は年がら年中恋をしていることはみなさん御存知だが、
実は肝心の愛の告白はこれまた皆さん超御存知のようにからっきしダメ。

愛なんて口で告白するもんじゃねえっていうのも
寅の美学といえば美学だが、視点を変えるとやはり臆病者ともいえる。

第三者に自分の気持ちを悟られる事は毎度だが、寅の口からマドンナへの愛の気持ちを
本人もしくは誰か第三者に言ってしまうなんてことは寅は滅多にしないのである。

つまり、

寅「さくら、オレ○○さんのことが好きなんだ」なんて野暮なことは言わないのだ。


どちらかというと、煮え切らない寅をかばうように、
さくらのほうから寅についついマドンナへの気持ちを聞いてしまったり、
または、さくらが寅にマドンナの密かな寅への気持ちを代弁してやることが多い。

そういう意味では寅のスタンスはいつも『受身』なのだ。



第17作「夕焼け小焼け」の上野駅食堂でのさくらと寅の会話もそのような典型である。


さくら「お兄ちゃん

寅「ええ。。。

さくら「ぼたんさんね…

寅「ぼたんがどうした…?

さくら「好きなんじゃないかしら、お兄ちゃんのこと…


               


寅、ちょっと下を向き、


               


何かを考える。

しかし、パッと元の表情に戻り


寅「おまえな,そんな顔して冗談言うもんじゃないぞ…


               


さくら「でもね、お兄ちゃん…


寅、背中を見せて歩いていく。




と、まあ、どこまでも照れ屋で粋で、やっぱり臆病な、覚悟を伴わない恋しか出来ない寅なのだ。
恋の成就には人格も地位も資格もいらないが、唯一必要なものが覚悟なのだということを、
この男が思い知る日がいつか来るのだろうか…。


実は、
キネマ旬報に掲載された決定稿以前の第2稿のシナリオでは、面白い内容が書かれている。


なんとこの食堂のシーンの話題の出し手と受け手が逆なのである。

つまり、ぼたんのことを言い出すのはなんと寅の方なのだ。




幻の、キネマ旬報の第2稿シナリオをここに再現してみよう。↓




上野駅 食堂内



立ち上がり出て行こうとする寅。

さくら「今度いつ帰るの

寅「さあ、おてんとうさまに聞いてくれよ

と、行きかけ、思い直して戻って来る。

寅「…おい、あいつな

さくら「あいつって?

寅「ぼたんよ。
  あいつとなら、オレ、所帯持てたんじゃねえかなぁ


さくら、はっとする。


さくら「お兄ちゃん、それ本気で…


寅、フッと照れくさそうに笑う。

寅「バカ、冗談だよ。通じないねえ、お前達には。―あばよ


源公から財布を受け取り、ヒョイとアゴをしゃくって、スタスタと人ごみに消えて行く。


立ちつくしたまま見送るさくら。


発車のベルが鳴り響いている―。



             





と、まあ、幻の第2稿まではこういう脚本だったのである。


あのシャイで粋な寅が、ついさくらにはもらしてしまったぼたんへの愛情の本音。
なかなか切なくも悲しい男寅次郎でもあるのだ。

もっとも、このあとぼたんのいる龍野にもう一度訪ねていくのだから、話の流れとしては、
もちろん本編の通り、さくらがぼたんのことを聞き、寅が笑ってかわす方がくどさがなくていい。
第一、寅のキャラ的には本編の方が自然だ。

しかし、いつものことだが、本音をさくらの前で漏らしてしまう寅の表情もやはり見たかったと思ってしまう
この果てしなき私の宿業は如何ともしがたく、自分で自分を今日ももてあましてしまうのだ。

チャンチャン。








ずーっと本編完全版の更新作業が遅れています。
休息も終わり、ようやくエンジンがかかりました(^^;)
第4作「新.男はつらいよ」本編完全版(前篇)は、たぶん2月25日頃です(((((^^;)
気長〜〜ぁぁぁにお待ちください。



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幻の 渥美版 尾崎放哉   春の山の後ろから煙が出だした


2008年2月14日 寅次郎な日々 その345


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
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渥美さんは車寅次郎に出会えて本当に幸せだったのだろうか。

48本も続いたこの長いシリーズが渥美さんにどのような恩恵を与え、どのような足かせになったのか私は時々考える。

何を演じても観客は『寅さん』を感じ、そして期待もしてしまう。


みなさんが前々からおっしゃるように、もし渥美さんが寅さんをあんなにも長く演じていなかったらいろんな役に
挑戦できたことは想像に難くない。

事実、俳人の尾崎放哉や種田山頭火の役をテレビドラマで演じる話がかなり進んだことがあったようだ。

実際、当時渥美さんは旧友の脚本家の早坂さんと、『尾崎放哉』のNHKドラマのためにはるばる取材旅行までしているのだ。
特に尾崎放哉は同じ結核を患い、人生に苦しんだ者として早坂さんに渥美さんが自ら提案してきたくらいやる気があったということだ。
もう何年も長く寅さんだけを演じてきた渥美さんだったが、この時ばかりは『尾崎放哉』に本気だったようだ。

しかし、NHKの地方局が尾崎放哉のドキュメンタリードラマを先に放送してしまったのだ。
この運命のいたずらにタイミングがずれてしまい、歯車が狂い、この素晴らしい企画は結局流れてしまうのである。

そして、その後の、早坂さんから持ちかけた種田山頭火の話は、今度は渥美さんがタイミングを自らずらしてしまい、
これまた流れてしまったのである。渥美さんにとっては尾崎放哉一本の集中力だったのだろう。


私は、なんとしても渥美さんの演じる尾崎放哉をNHKドラマで見てみたかった。確実に名作になったであろうことは想像できる。
もったいない。実に残念だ。

尾崎放哉のドラマ化ができなくなってしまって数年後、渥美さんはキネマ旬報のインタビューに下のように答えている。

渥美「
これは現役をひいた役者さんが言ったことだけどね。
   『役者って商売ははかないもんなんだ。その場その場で演じてしまったらそれで終わり。
   そのはかなさがまた魅力なんだし、はかないってことは最初からわかってはいるんだが、本当のところやっぱり何かを残したいって
   望んでいるんじゃないか』って…。で『おまえみたいなのを実は望んでいるんだよ』って。
   長い役者生活を送ってきて、自分の人生もほぼ見えてきて、これからの欲も徳ももうそれほど無いって人が、
   言ったんですよ、しみじみとね。
   なるほどそうか、そういうものかもしれないなって思いましたね。
   運とかいろいろあると思うけど、いい作者に会えて、寅に会えたってことは幸せだったんじゃないでしょうかね


それでインタビューの最後に近年の寅次郎のことをこう言っている。

渥美「
寅も、以前には感じなかった、『もののあわれ』を感じてきたということなんです。
    もともと人の痛みはよく分かる男ですから…



渥美さんは、そういうふうには言ってはいるものの、尾崎放哉を演じれなかった無念さは決して消えなかったと思う。

それでも『寅に会えたことは幸せだったんじゃないでしょうか』と言った渥美さんもやはり心の底からの気持ちだった
のだと思う。真実はひとつではないのだ。

心は引き裂かれ、時として融合し、諦観し、最後に昇華されてもいく。



渥美清といえば『拝啓天皇陛下様』のヤマショウこと山田正助。
そして『男はつらいよ』のフーテンの寅こと車寅次郎。

そして、幻の尾崎放哉…。


寅に出会った自分の運命のありがたさを噛み締め、それをあえて受け入れる渥美さん。
そんな渥美さんだからこそ、やはり尾崎放哉を見たかったと思ってしまうのだ。


咳をしても一人

これは漂白を続ける尾崎放哉の最後の孤独であり、旅人車寅次郎の孤独であり、
同じく結核を患った渥美清の孤独であり、
そのさらなる内に潜む田所康雄の絶対的な孤独に行き着くのだ。



        




小豆島で最期を迎えた尾崎放哉の辞世の句は、

春の山の後ろから煙が出だした



渥美さんのAERA句会における最後の句は、

お遍路が一列に行く虹の中


二人ともなんだか気持ちが安らぐ最後の句だった。




              尾崎放哉
                   








家の改築工事がようやく終わり、ただ今休養中です。ずーとサイトの更新作業が遅れています。
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SL機関士寅次郎の結婚


2008年2月4日 寅次郎な日々 その344


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
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SL機関士寅次郎の輝かしき日々


この長いシリーズで寅はついに結婚することはなかった。
って、いまさら書くほどでもないのだが、実は一度だけ結婚している。皆さん御存知ですか。

しかしそれは寅の夢の中のこと。

第13作「寅次郎恋やつれ」で、タコ社長夫妻に伴われて新婦と一緒にとらやに凱旋するのである。



             



しかし、不運にもその時おいちゃんとおばちゃんはすでにはやり病で亡くなっていた。と、まあこういう夢なのだが、
後にも先にも映像で寅が結婚しているのはあの第13作の夢だけなのだ。第32作「口笛を吹く寅次郎」の夢などは、
お嫁さんが来るには来るが、偽者寅次郎に自分の座を奪われてしまうというトホホな夢…(TT)


しかし、実は『キネマ旬報』掲載の第2稿までの脚本を読んでいくと、他の作品の夢で、もう一度寅の結婚するシーンが
あるのだ。

それは第37作「幸福の青い鳥」の冒頭の夢である。

え??どこにそんなシーンあったっけ?と言われる方も多いだろう。

本編に採用された夢では、青い鳥を探して寅やさくらたちが山の奥深く入って行き、遂に青い鳥を捕えたその直後に幸福な桃源郷が
目の前に現れ、新しい住処へ向かうところで、夢の中に現れた電車の車掌に起こされる。という話…、



             



しかし、決定稿の前の不採用に終った第2稿の脚本では「青い鳥探し」とは全く違う『機関士寅の結婚』の夢になっているのだ。



下にその幻の夢を紹介してみよう。





第37作「幸福の青い鳥」冒頭


『寅の夢』



鉄道官舎

夕焼けの空。

軒を接して立ち並ぶ官舎。

路地で遊ぶ子供たち。

遠くに見える給水塔やシグナル、石炭の山。

車庫を出て行くSLの汽笛。

一軒の家の表で人待ち顔に立っている満男、大声を出す。

満男「あ、帰ってきた、伯父さん帰ってきた!」

夕闇迫る坂道を、機関士の寅が同僚と上がってくる。

「ご苦労さん」と声を掛け合い、同僚と別れて我が家に近づく寅。

家の中からさくらと博が飛び出す。

さくら「お兄ちゃん、お帰んなさい」

にこりと笑って手を上げる寅。

博「一日の乗務、ご苦労さまでした」

寅「ありがとう。今日もつつがない運転であった」

うれしそうに顔を見合わせる博とさくら。

寅「どうしたんだ、うれしそうな顔して。何かあったのか」

さくら「お兄ちゃん、とうとうお嫁さんが決まったのよ」

寅「え、俺の嫁さんが」

大きく頷くさくら。

さくら「さ、早く」

寅の手を取り家の中に入る。

家の中

二間ほどの古びた薄暗い室内。

さくらと博に押されるようにして、寅が入ってくる。

寅「さくら、ちょっと待て」

さくら「なあに」

寅「先方は俺のような男でいいと言っているのか」

博「もちろんです。柴又機関区で運転の神様と言われた車さんならうちの嫁にはもったいない位だと、
大変な喜びようで」

寅「そうか、で、嫁さんはどこに」

さくら「もうそこに待ってるのよ」

寅「え」

博、部屋の薄汚れた襖を開ける。

不思議な光に満たされた幻のような部屋が見える。

キラキラと輝く金屏風の前に、付いて座っている花嫁。

そのそばに晴れ着姿の竜造とつね、社長が笑顔で控えている。

呆然としていた寅、ふと我に返る。

寅「おい、俺はこんな格好じゃ…」

博「いいんです。あの人は兄さんの制服姿に憧れたんですから」

さくら「さ、お兄ちゃん」

寅、夢心地でフワフワ花嫁のそばに座る。

竜造、つね、社長たち頭を下げる。

つね「寅ちゃんおめでとう」

社長「よかったなあ」

竜造「今日の日の来る日をどんなにか待っていたことか」

涙を押さえる竜造。

寅「みんな、ありがとう。今日からはもう俺一人の体じゃない、一層安全運転を心がけるからな」

感極まって拍手する博。

さくら、満男、そして出席した一同、拍手を贈る。



感動的な音楽が盛り上がって―。



青空に響く汽笛

たくましく回転するピストン。

SLの運転運転室の窓から首を出すアゴ紐をしめた凛々しい寅の姿。

重い責任を背負い、唇を噛みしめ、前方を凝視するその表情は神々しいばかりである。



夢から現実へ

ディーゼルカーの中

窓にもたれイビキをかいている寅。

「お客さーん、お客さーん」

目をしょぼつかせる寅。

車掌が笑顔で立っている。

車掌「お休み中のところ申し訳ありません。切符を拝見します」


以下略―




と、まあこのような超ハッピーな夢なのだ。

なんともまあ、これでもかというくらいの、最高に幸福な寅の理想の人生を垣間見た思いだ。
映像は無いわけだから、垣間見てはいないのだが、文字だけでも順風満帆な寅の人生を感じてこちらもちょっと
うれしくなるから不思議だ。普段の寅の気質ではありえない堅気の生活だ(^^;)

第13作のほうは、寅が結婚したにもかかわらずおいちゃんおばちゃんはすでに亡くなっていたという悲しい話だが、
第37作の、この幻の夢は寅が100パーセント幸福感に包まれ終るという最高の締めくくりなのだ。
この夢は笑いもないし、ギャグとしての落ちもないが私たちファンが一度は見たかった理想の夢がそこにある。
見果てぬ夢がつかの間実現されたのだ。

実際の寅は風来坊の気質が業のようにまとわり付いているので生涯こんな人生は現実には来ないのだろう…。

ああ。。。しかし、結局はあの夢は不採用だったわけだ。
スクリーンで一度は観たかった。…残念(TT)


それにしても第5作「望郷篇」で汗と油にまみれるSLの釜焚きにひたすら憧れていた寅だったが、
この第37作で遂に夢とはいえ、結婚だけでなく、職業も理想が実現したのは二重に喜ばしいことだ。

寅の、生涯最高の夢だったと言えるだろう。



               



ところで、敷地内の母屋の改築作業がようやくほぼ終わりに近づいたので、私も家族も時間が少し出来はじめた。

そこで、息子が今回の幻の夢のイメージイラストを昨晩描いてくれた↓。

小さな柴又駅を通過するSLに乗る寅。そして奥さんと幼い子供が柴又駅ホームで見送って手を振っているらしい。
もちろん川は江戸川だそうだ。夢だからなんでもありだということ(^^;)
(寅の数少ない幸福なシーンなので絵を大きく貼り付けました)


ああ…こんな日々が寅にもあったらどんなにか幸福だろうに…。
でも、あの男のことだから、すぐに飽きて旅に出るだろうね、たぶん(^^;)





           


           『SL機関士寅次郎の輝かしき日々』  イラスト RYOTARO  06.02.2008




家の改築工事のため、サイトの更新作業が遅れています。
第4作「新.男はつらいよ」本編完全版(前篇)は、たぶん2月15日前後です(^^;)
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